農薬業界に革新を、日本発農薬スタートアップのアグロデザイン・スタジオが1億円を調達へ

アグロデザイン・スタジオ代表取締役社長の西ヶ谷有輝氏(左から2番目)と投資家陣

「これまでなかなかイノベーションが起きてこなかった農薬業界において、自分たちがその源流になりたい」——そう話すのは農薬×創薬領域に特化して研究開発を行うアグロデザイン・スタジオで代表取締役社長を務める西ヶ谷有輝氏だ。

医薬業界で創薬に取り組むスタートアップについては耳にすることがあれど、農薬業界では珍しい。

西ヶ谷氏によると医薬の場合は新薬の約60%がスタートアップ由来とも言われ、新興企業がリスクを取って研究開発したものを大手製薬企業が買収やライセンス購入によって引き継ぐ一連のエコシステムが確立されている。一方で農薬はまだまだ大手企業が自社開発をするケースがほとんど。海外でもこの領域のスタートアップはごくわずかだという。

アグロデザイン・スタジオが目指しているのはまさに医薬モデルを農薬産業にも取り入れ、新しい農薬を社会に届けていくこと。そしてそれをビジネスとしてしっかりと成立させ、継続していくことだ。

同社は1月16日、その取り組みを加速させるべくリアルテックファンド、インキュベイトファンドから資金調達を実施したことを明らかにした。すでに締切済みのセカンドクローズも含め、社名非公開の銀⾏系ファンドを加えた3社よりシードラウンドで総額1億円を調達する。

鍵は「酵素データ」、独自手法で毒性リスクの低い農薬実現へ

近年は農薬が人や環境に与える悪影響が大きなトピックとなっている。たとえばグリホサート系除草剤(発がん性の疑い)やネオニコチノイド系殺虫剤(ミツバチの大量死の疑い)など、世界市場で数千億円規模のベストセラー農薬を“発売禁止”にする国が広がってきた。

一方で無農薬有機栽培は収穫量が低下するため、国内の0.2%の農地でしか行われていないのが現状。アグロデザイン・スタジオでは「99.8%の農地で使われる農薬をより安全なものに」をビジョンに掲げ、多くの栽培で使われる農薬をより安全なものにしていくことを目指している。

同社は東京大学や農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)で新規農薬の研究開発を行っていた西ヶ谷氏が2018年3月に立ち上げた農薬スタートアップ。従来の製薬方法をアップデートすることにより、独自の方法で新しい農薬の開発に取り組む。

一部の国で発売禁止になった農薬は発売から十数年〜数十年経過したものも多く、その開発方法には改良の余地があるというのが西ヶ谷氏の見解だ。従来は候補となる化合物を標的害虫にふりかけ、効果のあったものを抽出する「ぶっかけ探索法」で開発されることが多かった。このやり方ではなぜ効いたのかはわからなくても、とにかく効果があればOKとするスタイルだったそうだ。

もちろん安全試験などはきちんと実施しているものの、これだけでは必ずしも人に害がないかはわからず、いずれ発売禁止となった農薬と同じ道をたどる可能性もある。だからこそ「ある種“運任せ”な製薬方法から、理論的なデザイン(IT創薬)へと変換する必要がある」と西ヶ谷氏は話す。

「これまで農薬は典型的な製造業だったが、これを情報産業に変えていくことが重要だ。実際に医薬系の企業は“ものを売るのではなくそれに付随したデータを扱う”情報産業として自分たちを位置付けている。農薬においても同様の変革が必要。そのためには創薬のコンセプトから変えていかなければならない」(西ヶ谷氏)

アグロデザイン・スタジオの薬剤デザインでは「酵素データ」が鍵を握る。たとえば殺虫剤を作る場合、害虫は殺したいがミツバチのような益虫や人間には害を与えたくない。そこで同社では「害虫だけが持っている酵素を見つけ出し、酵素のバイオデータを取得。それを基にコンピュータを用いながら特定の酵素の働きを止める薬剤を作る」アプローチを取っている。

西ヶ谷氏いわく「従来の製薬手法が散弾銃のようなものであれば、(自社の手法は)スナイパーが1点を狙い撃ちするようなイメージ」。害虫にだけ効く殺虫剤を作れることになる。

この創薬方法(In silico 創薬)はデータを取れることが前提。医薬品業界ではかなり発展している方法だが、これまで農薬業界ではそのためのデータがなかなか取得できなかった。詳しくは後述するがアグロデザイン・スタジオではこのデータを取得する工程に注力している。

現在アグロデザイン・スタジオでは殺虫剤を含めて6つのパイプラインの開発を進めている。殺虫剤と並んで研究開発の進捗が良いのが、2018年に同社が東大IPC起業支援プログラムに採択された際にも少し紹介した「硝化抑制剤」だ。

硝化抑制剤とはその名の通り硝化菌を殺菌する薬剤のこと。硝化菌は農地に撒かれた肥料を食べてしまうだけでなく、その排泄物が地球環境を汚染してしまう。そのためこの菌を対峙する硝化抑制剤は撒けば撒くほど環境保全に繋がるという特徴を持つ。

ただしトップクラスのシェアを誇る既製品の1つが、大量に撒いた結果として残留農薬の問題に繋がりニュージーランドで使用禁止になってしまった例もある。アグロデザイン・スタジオではこの問題をクリアするために少量でも強力な効果を持つ硝化抑制剤を研究中。西ヶ谷氏の話では「(使用禁止になったものと比べ)4万倍の殺菌効果がある」ものを開発しているそうだ。

もちろん強力な薬剤は一歩間違えれば人体にも悪影響を及ぼす恐れもあるが、同社では硝化菌のみが持つ酵素にだけピンポイントで効く薬剤をデザインすることで毒性リスクを抑えている。実際に開発に成功すれば、収穫量アップと環境負荷削減を両立できる可能性があり、SDGsの観点でも貢献度が高いという。

医薬モデルを農薬産業にも取り入れ事業推進

アグロデザイン・スタジオではこのような手法で複数の農薬の研究開発を行なっているが、西ヶ谷氏によるとそもそも創薬系のスタートアップには大きく2つのパターンがある。1つは薬を作る技術を提供する「技術系(創薬支援型)」の企業。そしてもう1つがゼロから薬を作る「創薬パイプライン系」の企業で、アグロデザイン・スタジオは後者に該当する。

ゼロから薬を作るタイプの企業にとっては「必ずしも技術的な面が優位性に繋がるのではなく、酵素のデータをいかに内部で持っているか。データを取るところに長けているかが重要」(西ヶ谷氏)になり、そこが同社の強みだ。

データを取る部分は特許を取得するような技術ではなく“ノウハウ”に近いそう。特定の研究室が脈々と受け継いできたような類のもので、そもそも専門のコミュニティに入れないと得るのが難しい。西ヶ谷氏自身が17年の酵素研究のキャリアがあり、この領域に精通していることも大きいという。

一方で取得したデータを解析する手法はパイプラインごとに開発して、それぞれ特許申請をする考え。個々で特許を取るのはもちろん労力がかかるが、そうすることで独自の手法を強固なものにしていく考えだ。

「自分たちは技術開発ではなくサイエンスに投資をしている。サイエンスとは法則を見つけることであり、(アグロデザイン・スタジオにとっては)データを取る工程。そこが大きな特徴であり、他社がなかなか真似できない強みでもある」(西ヶ谷氏)

確かなノウハウを持つ研究室などでは同じアプローチを実現できる可能性もあるが、アカデミアの研究者が必ずしもビジネスに関心があったり、知財に精通しているわけではない。西ヶ谷氏は「ビジネスに理解のある研究者のチームが、それを踏まえた方法でデータを取得していること」をポイントに挙げていた。

その反面、自分たちが注力していない部分では研究室や大手農薬会社と積極的にタッグを組む。冒頭でも触れた医薬業界のモデルと同じだ。

前段階となる基礎研究においてはアカデミアの研究者らと共同研究を実施し、新しい農薬に繋がる”タネ“を見つけて会社で引き受ける。中には今まで農薬をやっていなかったが「もしかしたら農薬のタネになるんじゃないかと心の中に留めていた」研究者もいるそうで、ゼロから一緒に研究するケースもあるという。

また農薬は「1剤当たり100億円以上の研究開発費と10年以上の歳月がかかる」とされているように、実際に世に出すまでに膨大なコストと時間が必要だ。アグロデザイン・スタジオではアカデミアの基礎研究をライセンスインした後、自社でキモとなるPoCの確立と知財の取得を行い、農薬会社にライセンスアウトする形を取っている。

要は自分たちは有効成分を作ることに集中し、登録用試験や製造・販売は知見と予算のある農薬会社にバトンタッチする構造だ。

「実際に薬剤を作るとなると、国によって環境や温度が異なるため国ごとにローカライズが必要になりハードルが高い。一方で成分に関しては共通したものが使えるので、1つの原体を作ればグローバルで展開できるチャンスもある。(ライセンスアウト先としては)国内だけでなく海外の農薬会社も視野に入れている」(西ヶ谷氏)

アグロデザイン・スタジオのパイプライン。時間を要するので参入障壁自体は低くないものの、技術革新が進んでいない領域で参入企業も多くないのでチャンスは十分にあるという

繰り返しになるが農薬を世に出すまでは複数回・複数年に渡る試験などをクリアしていくことが必須であり、長期戦・体力勝負となる領域だ。アグロデザイン・スタジオではこれまで研究開発はもちろん、スタートアップのビジネスとしても成立するようにビジネスモデルのブラッシュアップなども行ってきた。

昨年9月に開催されたインキュベイトキャンプでは総合で2位にもランクインしたが、今回の資金調達においてもコアとなる創薬メソッドだけでなく、ビジネスモデルも一定の評価を得たという。

調達した資金は人材採用の強化や研究開発へ投資をしていく計画。進行中のパイプラインの中では殺虫剤と硝化抑制剤のライセンスアウト・販売を最初に見込んでいて(2023年のライセンスアウトが目標)、それに向けた農薬候補剤の改良や温室試験、安全性試験などの取り組みを加速させる。

「乗り越えなければいけない壁はいくつもあるが、1つ目のライセンスアウト事例をいかに作るかが大きな関門。これを実現できれば農薬業界でもこのビジネスモデルが成り立つことを実証できるし、技術的な面も含めて新しい道を示すことができる。農薬業界においてGenentechのようなスタートアップの先駆けとなる存在を目指していきたい」(西ヶ谷氏)

1kg弱のポータブル腹部切開ロボ開発のVirtual Incisionが約22億円調達

これまでの数年間、外科手術はロボティクスのもっとも活発で投入される資金も多い分野だった。そのブームには、Intuitive(イントゥーイティブ)のような企業の大成功も少なからず貢献している。ここで取り上げるVirtual Incision(バーチャル・インスィジョン)も2006年の創業以来、着実に資金調達を重ねてきた。

米国時間1月8日、ネブラスカ州リンカーンの同社はその最新の資金調達ラウンドを発表した。その2000万ドル(約21億8400万円)のシリーズBで、同社のこれまでの調達総額5100万ドル(約55億6800万円)になる。今回のラウンドはBluestem Capitalがリードし、PrairieGold Venture PartnersとGenesis Innovation Groupが参加した。

Virtual Incisionの主力製品であるMIRA(Miniaturized in Vivo Robotic Assistant、生体内用の小型ロボットアシスタント)は重さが1kg弱で、手術による傷を最小限に抑えた腹部外科手術を可能にする。その最大の価値命題は、これまでの巨大な外科用ロボットと違って、比較的ポータブルであることだ。

社長でCEOのJohn Murphy(ジョン・マーフィー)氏はプレスリリースで「外科手術用ロボットMIRAは、最小限の侵襲性しかない手術過程が患者に大きな福利をもたらすことを深く理解したうえで設計しました。Virtual Incisionのポータブルで安価な腹部用ロボットは、その福利をさらに多くの患者にもたらすものと信じています。すでに計画されているMIRAのIDEに基づく臨床試験が、弊社の次の重要なステップでにいなります」と語る。今回のラウンドは、その機器治験に向けての準備を支えるだろう。資金はまた、本製品の商用化努力にも使われる予定だ。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

空き時間や余剰在庫を有効活用できるマケプレ運営のタイムバンクが総額39.5億円を調達

タイムバンクは1月8日、総額39.5億円の資金調達を実施することを発表した。第三者割当増資による調達で、引受先はLINE Ventures、ジャフコ、インキュベイトファンドなど。今回が同社初の外部からの資金調達となる。調達した資金は、認知度アップを目的として広告や事業者の開拓に投下される。

同社は、空き時間や余剰在庫を利用者に安価に提供するマーケットプレイスを運営する、2018年8月設立のスタートアップ。当初は専門家の空き時間を販売するスキルシェアサービスとして展開していたが、現在では店舗や施設などの時間貸しや飲食店やアパレル店などの余剰在庫を安価に手に入れらるマーケットプレイスを目指している。タイムバンクのサービスをテレビCMで知った読者も多いと思われるが、飲食店や各種販売店の製品や宿泊代などを、日程や条件付きで通常よりも少し安価で購入できる「ワケあり」オンラインショップに近い印象だ。

2019年11月末時点でタイムバンクを利用しているユーザーはIDベースで150万人。直近6カ月間で1000万円以上の売上を達成した事業者は30社を超え、中には5000万円以上を売り上げる事業者も複数存在するという。現在は一部の事業者に限定して情報を掲載しているが、今後は広くオンライン上から商品やサービスを掲載できるオープンなプラットフォームとして解放していく予定とのこと。

AIトラベルサービス「atta」運営元が約3億円を調達、国内と東南アジアでのマーケ/PR強化へ

ビッグデータとAIを使った旅行アプリ「atta」(あった)を運営するatta は総額約3億円の資金調達を発表した。第三者割当増資による調達で、引受先は以下のとおり。同社は2018年3月にWithTravelとして設立されたトラベル関連事業を開発・運営するスタートアップ。

写真に向かって左から、社外監査役の杉浦 元氏(エリオス)、CDOの鄭 信雨氏、取締役兼CTOの兼平嵩之氏、代表取締役兼CEOの春山佳久氏、CAO大沢 慎氏、社外取締役の深山和彦氏(グローバル・ブレイン)

  • サンエイト インベストメント(サンエイト・PS1号投資事業組合)
  • 御室工房(サンエイトOK組合)
  • 三生キャピタル(三生6号投資事業有限責任組合)
  • 名古屋テレビ・ベンチャーズ
  • マイナビ
  • 三菱UFJキャピタル(三菱UFJキャピタル7号投資事業有限責任組合)
  • 三井不動産/グローバル・ブレイン(31VENTURES Global Innovation Fund 1号)

今回調達した資金は、エンジニア採用のほか、日本と東南アジアでのマーケティングやPR活動に投下される。なお同社は2019年3月にシンガポール100%子会社の現地法人を設立済みだ。事業会社として引受先に加わっているマイナビでは、同社のトラベル情報事業部とattaの連携も視野に入れているという。

関連記事:簡単な質問に答えるだけで旅先をリコメンド、WithTravelがグローバル・ブレインから2億円調達

複数SaaSを繋ぎ定型業務を自動化、“プログラミング不要”のiPaaS「Anyflow」が約2.2億円を調達

プログラミングなしで複数のSaaSを繋ぎ合わせ、業務を効率化できる「Anyflow」。同サービスを展開するAnyflowは1月8日、グローバル・ブレイン、グロービス・キャピタル・パートナーズ、Coral Capitalより約2.2億円を調達したことを明らかにした。

同社は昨年9月にCoral Capitalから2000万円を調達していて、今回はそれに続くプレシリーズAラウンドという位置付け。調達した資金を用いて組織体制を強化し、対応SaaSの拡充などプロダクト開発を加速させる計画だ。なお今回のラウンドを含めると同社の累計調達額は2.6億円となった。

9月にも紹介した通り、Anyflowは複数のSaaSをAPI接続によってつなぎ合わせることで定型業務の自動化を実現するクラウドネイティブiPaaS(integration Platform as a Service)だ。

たとえばSlackにコマンドを打ち込むと勤怠管理サービスに勤怠情報が自動で打刻される仕組みを作ったり、クラウドサインで締結した書類のPDFをGoogle DriveやDropboxなどに保存して自動でバックアップをとったり複数のSaaSにまたがる作業をAnyflowに「ワークフロー」として登録しておくことで、その都度手を動かす手間がなくなる。

Anyflowで代表取締役CEOを務める坂本蓮氏によると大きな特徴は「国内のローカルSaaSに対応していて、なおかつプログラミングレス(ノーコード)」であること。日本国内でこそiPaaSを手がけるプレイヤーの数は限られているものの、グローバルで見ればZapierMulesoftを含めこの領域のプロダクトも多い。ただし海外のiPaaSは日本のSaaSに対応していなかったり、日本語のサポートを受け付けていなかったりするので、そこにニーズがあるという。

現在はkintoneやChatwork、クラウドサイン、freeeなど数種類の国内SaaSに対応済み。SalesforceやSlackといった海外の主要SaaSも含め約10種類のサービスを連携させることが可能だ。

また一口にiPaaSと言っても、エンジニア向けのものもあればビジネスサイドのメンバーをターゲットにしたものもあり、用途や想定しているユーザー層も各サービスで異なる。

Anyflowの場合は「『エンジニアがやっていることを民主化する』ような形で、コードを書けない人でも簡単に作業を自動化できる仕組みがあれば便利ではないか」という考えから生まれたこともあり、ビジネス職のメンバーが自身で作業を自動化できることを重視。APIに関する知識やプログラミングスキルがなくてもiPaaSの恩恵を受けられる仕組みを作った。

同サービスはクローズドでのPoC期間を経て10月にベータ版をローンチし、現在までに約10社へ導入されている(トライアル含む)。ITスタートアップだけでなくメガベンチャーでの活用も始まっているそうだが、中には海外のiPaaSとAnyflowを併用している企業もあるとのこと。やはり国内SaaSへの対応や、ビジネスサイドのメンバーでも使いこなせる設計には需要があり「1社の中でも複数のiPaaSが導入される可能性があることは意外な発見だった」と坂本氏も話していた。

また“定型業務やワークフローを自動化する”という観点ではiPaaSはRPAにも近しいが、前回の記事でも詳しく触れた通り、それぞれの特徴や得意分野が異なるため「完全にリプレイスするというよりは(用途に応じて)使い分けられていく」というのが坂本氏の見解だ。

RPAはレガシーなシステムを対象とする場合には使いやすい反面、SaaSのように頻繁にアップデートがあるプロダクトには必ずしも向いていない(ロボットが都度止まってしまうようなケースがある)。そのためすでに社内でRPAツールを導入している企業からAnyflowを併用したいという問い合わせもあるという。

Anyflowは昨年「Incubate Camp 12th」や「B Dash Camp 2019 Fall」で優勝するなど界隈で注目を集めた影響もあり、9月からこれまでで約200件の問い合わせがあったそう。ただ現時点では各顧客に対して担当者が細かく現状や要望をヒアリングするなど比較的ハイタッチな運用をしていて、実際に活用まで至っている企業はその中のごく一部だ。

今はプロダクトマーケットフィット(PMF)を図っている段階のため、顧客と密に連携しながらプロダクトを作り込んでいるが、徐々にビジネスサイドの体制を強化しながらセールスにも力を入れていく計画。ある程度セルフサーブ(ユーザーが自発的にプロダクトを試しながら理解を深めて使いこなしていく形)で成長していけるように、チュートリアルなども含めた使い勝手のアップデートも進める。

9月にはクラウドサインと連携。国内SaaSへの対応は順次進めていく計画だという

直近の注力ポイントは連携SaaSの拡大とレシピ数の拡充。今後はSmartHRやSansanなどもカバーしていく予定だ。

「主にプロダクトの開発強化に投資をしてまずはPMFを目指していく。1番のメインは対応SaaSを増やすことだが、複数のSaaSに対応していても『それらを連携させることで、どんなことができるのか』がわからなければ始まらない。レシピとして具体的なユースケースをどんどん貯めていくことで、ユーザーが素早く簡単に業務効率化を実現できる体験を作っていきたい」(坂本氏)

新生FiNCが約50億円を調達、食事画像解析機能の強化とAI関連特許権取得も発表

FiNC Technologiesは1月6日、約50億円の資金調達を発表した。第三者割当増資による調達だが、引き受け先は非公開。創業からの累計調達額は150億円強になる。なお、同社は同日午前中に南野充則氏が代表取締役兼CEOに就任し、創業者で代表取締役兼CEOだった溝口勇児氏が非常勤取締役となる新体制を発表したばかり。

同社は今回の資金調達により、ヘルスケア/フィットネスアプリ「FiNC」をはじめとした各種サービスで利用しているAI(人工知能)の開発や新規事業の拡大、さらにマーケティングの強化に焦点を当てるとのこと。

資金調達に併せて「食事画像解析」のお大幅アップデートとAI関連特許権の取得も発表された。食事画像解析機能は、AIやディープラーニングを活用して、食事の画像を識別してカロリーや三大栄養素(炭水化物・タンパク質・脂質)を計算する機能。今回のアップデートにより「画像解析」できる食事の種類(カテゴリー)を増やしたほか、より精度の高いカロリー計算や食事の画像解析ができるようになったとのこと。ちなみにこれまでFiNCアプリ上では500万枚超の食事画像の投稿があったとのことで、これらすべてがデータ解析に活用されている。
 
AI関連特許権ついては、食事記録に関連する「メニュー選択」(特許第6486540号)や「食事投稿の評価」(特許第6075905号)をはじめとした「食事画像認識機能」関連の特許を取得。ほかにも国内外において累計60件の特許権を取得している。

そのほか、テレビ朝日で月〜木曜日の0時45分〜0時50分の深夜帯に「フィンク1分フィット」という番組を開始することも発表された。初回放送にはタレントのおのののかがゲスト出演する。

VRプラットフォーム運営のクラスターがKDDIやテレ朝から総額8.3億円を調達

VRを活用したイベントプラットフォーム「cluster」を運営するクラスターは1月6日、総額8.3億円の資金調達を発表した。第三者割当増資による調達で、引き受け先はKDDI(KDDI Open Innovation Fund 3号)、テレビ朝日ホールディングス、Wright Flyer Live Entertainment(WFLE)、三井不動産/グローバル・ブレイン(31VENTURES Global Innovation Fund 1号)、個人投資家となってる。また、テレビ朝日とWFLEの2社との業務提携も明らかにした。WFLEは、バーチャルアーティスト(バーチャルYouTuber)に特化したライブエンターテインメント事業を展開する2018年4月設立の企業。バーチャルアーティスト専用ライブ視聴・配信アプリ「REALITY」を開発・配布しているほか、バーチャルアーティスト専用スタジオ「REALITY Studio」を所有している。

clusterは、インターネット経由で音楽ライブ、カンファレンスなどのイベントを開催できるVRアプリ。VRデバイスのOculus Rift、HTC VIVE、HTC VIVE Proのほか、MacやWindowsマシンで利用・視聴できる。数千人と同時接続可能なのが特徴で、これまで開催した多数の有料イベントに大勢の観客が集まるなど人気のプラットフォームとなっている。今後テレビ朝日とは、バーチャルイベント事業や映像配信事業などで協力し、コンテンツの企画・開発を検討していくという。WFLEとは、REALITYのサービス上で作成したアバターをclusterで簡単に利用できる機能を共同開発する予定だ。

今回の注目はやはりテレビ朝日との業務提供だろう。すでにテレビ局では、関東、関西のキー局を中心に放送の一部でバーチャルなキャラクターを使った情報番組やバラエティ番組が放映されている。しかし、今回テレビ朝日がバーチャルアーティストのプロモーションや演出に長けたクラスターを組むことで、同局はもちろん、資本参加しているAbemaTVで、アナウンサーやキャスターのキャラクターに左右されない、天気予報やストレートニュースなどでもバーチャルアーティストが活躍するかもしれない。

「運動療法を軸としたCRM」でリハビリ×IT業界変革へ、理学療法士ら創業のリハサクが1.1億円を調達

リハサクのメンバーと投資家陣。前列左が創業者で代表取締役の近藤慎也氏、右が共同創業者でCOOの石井大河氏

整形外科や接骨院向けのリハビリ支援SaaS「リハサク」を開発するリハサクは12月23日、ANRI、DNX Ventures、マネックスベンチャーズを引受先とする第三者割当増資により総額1.1億円を調達したことを明らかにした。

同社にとっては4月にアプリコット・ベンチャーズから資金調達を実施して以来となる外部調達で、今回はプレシリーズAラウンドという位置付け。カスタマーサクセスの向上や機能追加に向けて人材採用を強化する方針だという。

患者ごとにカスタマイズした運動メニューを30秒で作成

リハサクが手がけているのは整形外科や接骨院、整体向けの「運動療法」を軸としたCRMサービスだ。現在は患者が自宅で実施する“運動メニュー”を最短30秒ほどで作成できるシステムを施設に提供。これによってリハビリにまつわる施設側と患者側双方の課題解決を目指している。

リハサク共同創業者でCOOの石井大河氏によると、リハビリにおける患者の大きなペインは「(提供される情報が少なくて)わからないこと」と「治らないこと」にあるそう。特に「治らない」については、自宅での運動が病院などで受けるリハビリと同等の効果を期待できることが複数の文献等で立証されていることもあり、どれだけ効果的な自主トレを実施できるかが大きなポイントになるという。

ただ多くの施設が運動療法を上手く取り入れられているかというと、必ずしもそうではないようだ。たとえばリハサクが調査を実施したある診療所では約80%の患者が施設から言われた頻度・回数で運動をしていなかった。その理由を掘り下げると「自分でやった場合は効果が低そう」「運動内容を忘れてしまった」など、セラピスト(理学療法士や柔道整復師)が適切な情報を提供できておらず、患者の理解度が不足していることがわかった。

施設側も複数の患者をかわるがわる診察しているため、1人1人に対して自宅運動の重要性や具体的な運動メニューを丁寧に説明するほどの時間を確保することは難しい。結果的に口頭での説明に終わってしまい、患者側に十分に伝わらないことも多いという。

その状況を変えるのがリハサクだ。同サービスには現在エビデンスに基づいた約400種類の運動メニューがデータベースとして登録されている。各メニューには具体的なやり方を解説する動画コンテンツがついていて、手持ちのスマホなどで閲覧することが可能。セラピストがやることは、ダッシュボード上で患者ごとに適切なメニューを組み合わせて送信するだけだ。

患者はセラピストから送られてきた“自分用にカスタマイズされた”メニューリストを、動画を見ながら実施していけばOK。自宅での運動状況はスマホからワンタップで記録することができ、セラピストはそれを基に従来ブラックボックス化していた患者の自主トレの様子をモニタリングしていく。

患者にメニューを提案する際は診断名や症状、運動の内容などから該当するものを検索し、複数のメニューを組み合わせていく。すでにパッケージとして出来上がっているものがいくつも登録されているので、それを活用すれば1人分のメニューが30秒から数分で完成するのが特徴だ。

動画で具体的な方法が示されているため患者側はポイントを把握しやすく、セラピスト側も紙ベースで1から各患者ごとにメニューを用意して説明する負担がない。運動メニューは印刷して紙の資料として提供することもできるので、スマホを持っていない患者でも使えるという。

施設側のダッシュボード。あらかじめ登録されている運動メニューから個々の患者に合わせてカスタマイズしながら提案する。従来は把握するのが難しかった痛みの推移や自主トレの頻度もダッシュボード上で簡単にチェックできる

患者側の画面。スマホで動画を見ながら自分用に作られたメニューをこなしていけばOK。「口頭で説明されたけど忘れてしまった」「人によって言うことがバラバラ」といった問題とは無縁だ

運動療法を軸としたCRMで患者と施設の課題解決目指す

リハサクは2018年5月の設立。創業者で代表取締役を務める近藤慎也氏は、起業前に8年間に渡って理学療法士として船橋整形外科に勤めていた経験を持つ人物だ。同社には近藤氏を含めて2名の理学療法士が在籍していて、コンテンツにはもちろんプロダクト全体にも彼らの現場での経験や知見が活かされている。

「自分が働いていた病院ではセカンドオピニオンやサードオピニオンで他の病院では治らない患者さんを診る機会が多く、きちんと運動について教わったことがないという声をよく聞いていた。そこでどんな医療機関でも運動指導をしっかりと受けられる環境を作りたいという思いで立ち上げたのがきっかけ。最初は主に整形外科向けとして始めたが、接骨院からも十分に運動指導ができていないということで問い合わせをもらい、徐々に顧客層が広がってきた」(近藤氏)

2018年10月にプロダクトをローンチして約1年。現在は整形外科や接骨院など口コミや紹介を中心に数十店舗で活用が進む。

リハサクはBtoBtoC型のSaaSプロダクトで、患者には直接課金をせず施設から月額の利用料を得る構造になっている。まずは「自宅での運動指導」という領域からスタートしているが、ゆくゆくは運動療法を軸としたCRMとして、集客や顧客単価の向上、業務効率化、サービスの標準化に繋がる機能をどんどん追加していく計画だ。

背景には上述してきたリハビリに関する課題に加えて、施設を取り巻く環境の変化がある。石井氏の話では整形外科、接骨院、整体を合わせると店舗数は現在10万軒を超えているそう。今後もその数は増加すると言われている一方で、保険点数の見直しや療養費の減少などの影響から、保険収入頼みではなく自費サービスで収益をあげられる体制を作れなければ経営が難しくなる時代を迎えつつある。

今まで運動療法を十分に取り入れられてなかった施設や、そもそも何もできていなかった施設にとってリハサクは売上アップのためのツールにもなり得る。

通院時のリハビリだけでなく自宅での運動も含めてサポートできる仕組みが作れれば患者にとってもメリットは大きいし、顧客単価の向上も期待できるだろう。実際にリハサク導入後、自費ベースの運動指導単価が2倍に向上した接骨院の例もあるという。

「(CRMという性質上)施設側を向いてはいるが、あくまで患者さんを幸せにするために、患者さんが欲しがっている情報やサービスに基づいた形のCRMとして広げていきたい」(近藤氏)

「整形外科や接骨院が厳しい環境に立たされている中で、質の高いサービスを実現することで単価をあげて収益性を高めたり、業務を効率化できるようなサポートをしていく。施設が運動療法を届けることを応援していけば、結果的に患者さんの体が良くなることにも繋がる。今回の資金調達も受けて、ゲームチェンジャーとしてこの業界をより良い方向に変えていくようなチャレンジをしていきたい」(石井氏)

遺品整理をオンラインで一括依頼、「オコマリ」運営が約1億円を資金調達

衣替えや年末の大掃除ぐらいなら「何とか休日にやっつけてしまおう」と思える人でも、遺品整理や引っ越しに伴う不要品の廃棄となると、自分たちだけで片づけるのは、やや荷が重いと感じることだろう。それが働く単身者や共働き世帯なら、なおのことだ。こうした作業を代行してくれる業者は、インターネットで探すこともできるが、最終的には電話で連絡を取らなければならなかったり、見積もりのために立ち会いを求められたりして時間を取られ、料金を提示されても、それが適切な価格なのか分からないことも多い。

こうしたイケてない状況を変えようとしているのが、暮らしの困りごとをオンライン経由で一括解決できるサービス「オコマリ」だ。オコマリを運営するmodecas(モードキャス)は12月17日、デジタルベースキャピタルファインドスターグループSkyland Ventures、田中智也氏(ユニクエスト創業者、ナッシュ代表取締役)ほか複数名のエンジェル投資家を引受先とする第三者割当増資と、融資による資金調達実施を発表した。融資も合わせた今回の調達金額の総額は約1億円になるという。

写真右からデジタルベースキャピタル代表パートナーの桜井駿氏、modecas代表取締役社長の齊藤祐輔氏、Skyland Ventures Corporate Manager / modecas CFOの垣屋美智子氏

間取りで料金固定、遺品整理・不要品回収サービス「オコマリ」

modecasは2015年6月の創業。同社がオコマリの前身となるサービス「遺品整理.com」を始めたのは2017年2月のことだ。その後、遺品整理に限らず、生活の困りごとをテクノロジーで解決するサービスとして、名称をオコマリに変更し、2019年7月にリニューアルを行った。

現在オコマリで提供するのは、遺品整理や退去清掃、不要品回収などのサービスだ。間取り別に定額で料金が決まっていて、見積もりのための下見は不要。料金には運送費や家具・リサイクル家電の処分、簡単な清掃などが含まれており、金庫や物置、ピアノなどの特殊な処分品がなければ追加料金は発生しない。

この領域には従来から、業者を横串で検索してリストアップするポータルサイト的な位置付けの事業者はある。ただ、ユーザーがいざ業者とやり取りしようとすると、昔ながらの電話やFAXのまま。見積もりのための下見や業者との料金交渉、サービス内容の確認といった煩雑なプロセスも残っている。オコマリでは、自社でサービス提供業者と提携しており、オンラインでユーザーと提携業者とのマッチングを完結。ユーザーには最初に定額で料金を提示して、契約、サービス実行とアフターフォローまでを一気通貫で対応する(条件が複雑な場合などは、事前に見積もりを依頼することもできる)。

modecas代表取締役の齊藤祐輔氏は「実は課題を解決したいのはユーザーだけではなく、業者も悩みを抱えている」と語る。「清掃や不用品回収業者の多くは、スモールビジネスでやっている。人手不足で顧客管理に手が回らなかったり、問い合わせ対応がままならなかったりするほか、閑散期にはアイドルタイムが発生している。オコマリがその部分に対応することで、業者もよいサービスを原価を抑えて提供することができ、ユーザーも安く安心してサービスを受けることができる」(齊藤氏)

ポータルサイトのサービスではサイト運営者は値付けをせず、業者が顧客に直接、価格を提示する。しかし「実は業者も原価計算をきちんとやっていないことが多い」と齊藤氏はいう。「我々は問い合わせの受付をはじめとした裏の仕組みを担当しながら原価計算も行い、業者と『この値段でやってください』と調整している。単なるマッチングではなく、個々の業者が1社では対応しきれない限界の部分をまとめることで、安さと安心できるサービス提供を両立する」(齊藤氏)

ユーザーにとっては各提携業者ではなく、オコマリに作業を依頼しているという見え方になる。オコマリはバーチャルな業者として、ユーザーとの接点を担うわけだ。こうしたサービス提供の立ち位置や、ニーズを取りまとめて、業者のアイドルタイムを活用してマッチングしていく手法は、ネット印刷のラクスルなどと似ているかもしれない。

業者支援サービスや法人向けサービス提供も視野に

オコマリでは、サービス開始から累計2000件を超える依頼を解決してきたという。調達により、コールセンターの採用強化とCRM導入を行い、さらなる受注数の拡大を図る。また現在は150社ほどの提携業者の数と種類も拡大。2020年1月からは植木の伐採サービス、4月からは害虫駆除サービスにも対応する予定だという。こうした体制整備により、2020年6月期までの1年間で合計5000件の受注を目指す。

オコマリ事業の拡大と並行して、今後、自社プロダクトの開発と業者向けのコンサルティングサービス展開も計画していると齊藤氏はいう。メールさえ浸透していないという業者に向けて、法人向けの業務支援サービスも提供していくことで、「オコマリで提供するサービスの質のコントロール、向上にもつながる」と齊藤氏は話している。

将来的には、住まいと生活の困りごとに隣接する領域にも進出したいと齊藤氏。具体的には不動産やヘルスケア領域を対象として挙げている。実際、遺品整理や不用品廃棄、清掃といった業務は、不動産売買・管理とも密接に関連する分野だ。

齊藤氏は、米国のオフィス管理サービスプラットフォーム、Edenに注目しているという。2019年11月にグローバル・ブレインによる出資も発表されたEdenは、オフィス向けに清掃やITサポート、事務用品サプライなどのサービスを提供する事業者だ。

齊藤氏は「提携業者との連携により、既に全国区でオコマリのサービス提供ができている。今後さらに提携先を増やして、法人向けにもさまざまなサービスを展開していきたい」と話している。

SaaS事業に必須の“カスタマーサクセス”を支援する「HiCustomer」が1.5億円の資金調達

前列右から2番目がHiCustomer代表取締役の鈴木大貴氏

SaaS企業向けのカスタマーサクセス管理ツール「HiCustomer(ハイカスタマー)」を開発し提供するHiCustomerは12月11日、プレシリーズAラウンドで、既存株主3社からのフォローオンにより総額1.5億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は以下のとおり。

  • アーキタイプベンチャーズ
  • Coral Capital(500 Startups Japan)
  • BEENEXT

HiCustomerは2018年7月にも6000万円の調達を発表している。同社は調達した資金をもとに、開発体制を強化する。

カスタマーサクセス:カスタマーサクセスとは、顧客の潜在的な悩みに対し積極的にアプローチし、解決すること。顧客からの問い合わせを待つ受動的なカスタマーサポートとは異なり、能動的に対応を行うのが特徴だ。顧客によるサービスの継続的利用が不可欠なサブスクリプションモデルにとって、カスタマーサクセスは特に重要だと言える。

カスタマーサクセスを管理するためのHiCustomerは、解約やアップセルの兆候を自動で検知し通知した上で、担当者が「今、何をするべきか」を教えてくれる。顧客の「利用状況」、「コミュニケーション履歴」、「売上」、「契約」などに関する情報を管理することで、対策がどのような結果をもたらしたのか、分析ができる。ゆえに、対策は再現性のあるものとなり、カスタマーサクセスチームの生産性向上に繋がる。

なぜカスタマーサクセスは盛り上がりを見せているのか

HiCustomer代表取締役の鈴木大貴氏は「ここ1、2年でカスタマーサクセスが盛り上がってきた」と断言する。その根拠として、「カスタマーサクセス担当者を採用する企業の増加」、「Wantedlyにおける『カスタマーサクセス』という募集職種の追加」などを挙げた。カスタマーサクセス関連のイベントも数多く開催されており、情報共有や議論も盛んに行われている。

そして鈴木氏は、SaaSビジネスを展開する企業において、Lifetime Value(LTV:顧客生涯価値)を高める上でのカスタマーサクセスの重要性、そしてカスタマーサクセスの精度の高さが競合優位性に繋がることが自明化してきた、と説明。SaaSには「良いと思ったものをすぐに試すことができるメリットがある一方、直ぐ解約できるという側面もある。常に解約の危険にさらされている」(鈴木氏)からだ。

「(SaaSのビジネスモデルでは)顧客に選んでもらってからがLTVの長い道のり。顧客の獲得にかけたコストと同等ないしはそれ以上の労力により、顧客に価値を提供し続けていくということが、自分たちの売り上げ、利益の源泉になっている。LTV換算で考えると、導入後の行程に労力をかけていくということは自明。もちろんプロダクトは良くないといけないが、そのプロダクトを上手く活用できないといけないし、プロダクトから価値を引き出し続けなければならない。カスタマーサクセスがちゃんと出来ているか否かで企業のLTVに差が出てくる。それが自明になってきており、より多くの企業がカスタマーサクセスに取り組むようになってきた」(鈴木氏)

売上継続率を上げるプロダクトとしてのHiCustomer

「カスタマーサクセス担当は多くの顧客を抱えているため、どうしても機会損失が生まれてしまうのが現状だ。退会しそうな顧客も、アップセルできそうな顧客も、どこかに潜んでいる。そのような顧客が全く見えない状況だと、一律に全員にメールを打ったとしても、大きな効果は見込めない。自分にできる最大限で確率の高い顧客にアプローチしたほうが、チャーンも減るし、アップセルも作れる」(鈴木氏)

2018年12月のプロダクトの正式ローンチから早1年。鈴木氏は「カスタマーサクセス管理ツールではあるが、最近、我々が狙うべきだと考えるようになってきたのが、SaaSにおけるNet Revenue Retention(NRR:売上継続率)を上げるプロダクトとしての打ち出し方」と話す。

「NRRは既存の顧客がプロダクトのファンになってくれているか、カスタマーサクセスがちゃんとできているかを示すKPI。アメリカのSaaSの上場企業だと、IRのレポートにおいて、ベンチマークの数値として、NRRが何パーセントというのをアピールしている」(鈴木氏)

例えば、SlackのNRRは約140パーセント。

「(SlackのNRRに関して)新規顧客からの売り上げが増えなかったとしても、既存顧客からの売り上げだけで140パーセント成長している状態を表す。それがあるとSaaSの会社は凄く早く成長するし、利益体質になる。カスタマーサクセスはここ1、2年で『顧客の成功のために頑張る』といった具合に国内でも盛り上がってきているが、本質は、活動を通じてSaaSプロダクトのビジネスの成長にどのように貢献するか、といった部分が非常に大事。我々はHiCustomerをカスタマーサクセス担当者ができることを増やし、業務効率を上げることで、SaaSプロダクトのNRRを上げることに貢献するようなプロダクトとしていきたい」(鈴木氏)

調達した資金でProduct Market Fit到達へ

鈴木氏は、「我々にはまだProduct Market Fit(PMF)に至っているという感覚はない。調達した資金をもとに開発の人員を採用することに投下することによって、早期にPMFを達成したい」と説明。同社は今回調達した資金でHiCustomerに新機能を追加していく予定だ。

今のところ、主な導入企業としては以下の6社が紹介されている。

  • Hamee(ネクストエンジン)
  • 弁護士ドットコム(CloudSign)
  • グッドパッチ(Prott)
  • Wovn Technologies(Wovn.io)
  • ROXX(agent bank、back check)
  • スタディプラス(Studyplus for School)

スタディプラスのケースでは、HiCustomerの導入により、Studyplus for Schoolの月次解約率を2%から0.1%へ削減することに成功したそうだ。

鈴木氏いわく、この1年はHiCustomerにとって「導入企業の幅が当初想定していたより広い」と気付いた1年だった。同社は今後も引き続き、更なる導入企業の獲得を目指す。

「大手企業で、SaaS事業を展開して実は持っていたり、新規で作るというケースが増えているため、『カスタマーサクセスを仕組み化しなければならない』というニーズで導入いただくことが増えている。そして、億単位の資金調達をしているSaaSの成長中のスタートアップからは、一定の認知度を獲得できている」(鈴木氏)

きっかけは漁師である祖父の死、ITで海難事故から大事な家族を守るnanoFreaksが資金調達

IoTデバイスなどを活用して海難事故から漁師を守る「Yobimori」を開発中のnanoFreaksは12月10日、複数の投資家より資金調達を実施したことを明らかにした。具体的な金額は非公開だが関係者の話によると数千万円規模の調達とみられる。

今回nanoFreaksに出資した主な投資家は以下の通り。同社では調達した資金を活用してプロダクトの開発を進め、まずは2020年内を目処にベータ版ローンチを目指していく。

  • Sapporo Founders Fund
  • D2 Garage
  • Yosemite LLC
  • 岩佐琢磨氏(Cerevo創業者 / 現Shiftall代表取締役CEO)
  • 松岡 剛志氏(元ミクシィ取締役CTO / 現レクター代表取締役)

nanoFreaksが解決しようとしているのは、漁師が海中へ転落してしまった際の救助に関する課題だ。漁師はその性質上、常に海難事故の危険と隣り合わせであり、実際に海上での事故による死亡者が後を絶たない。特に沿岸漁業の漁師には危険が伴い、漁船からの海中転落者死亡率は60%を超えるという。

背景にあるのは事故認知の難しさだ。沿岸漁業の漁師は一人で漁を行うことが多く、いざ事故に遭ってしまった際に当事者からSOSを発信する手段も乏しい。その結果周囲がすばやく事故に気づくことが困難で、約40%が事故認知までに2時間以上も要しているのが現状なのだそう。

nanoFreaks代表取締役の千葉佳祐氏の話では、実際に関係者へのヒアリングを重ねると認知までに数時間かかるのは珍しいことではなく、時間がかかると12時間経過してしまうケースもあるという。

これは事故開始から転落した漁師を発見するまでに要した時間ではなく、あくまで事故に気づいて救助がスタートするまでの時間だ。要は「事故が起きてしまっても救助がすぐに始まらない」のが課題であり、千葉氏らは開発中のYobimoriを通じて救助開始までにかかる時間を「数分」に短縮しようとチャレンジしている。

Yobimoriはすぐに救助が呼べるおまもり型のIoTデバイスと、救助を効率化するアプリによって構成されるサービスだ。漁師が海に転落した際にIoTデバイスを起動すると、アプリをインストールしている関係者に通知が届く仕組みになっている。

漁師は出港する際にIoTデバイスを体に装着。デバイスは緊急時でも簡単に起動できる設計になっていて、起動後は即座に近くの船や家族、海上保安庁などへSOS信号が送信され事故当事者の位置情報が共有される。さらにアプリを通じて救助従事者に事故当事者の漂流予測や救助状況などを可視化した情報を提供されることで、救助活動をサポートする機能も計画しているという。

「緊急時にすぐ助けを呼べる手段が普及していないので、これまでは帰りが遅いことを家族が心配して初めて事故に気づくようなことも多かった。また事故時のデータも正確なものが取得しづらく、遅れて通報があっても救助従事者がいつ、どこで事故が起きたのかを把握するのが難しい。Yobimoriにはそういった課題を解決できる機能を取り入れていく」(千葉氏)

ビジネスモデルとしてはデバイスの販売費で売上を作るのではなく、アプリをセットにして毎月、固定の利用料を得る構造。現時点では漁業協同組合に一括で導入してもらい、人数に応じて具体的な料金が決まる仕組みを考えているそうだ。

開発中のYobimoriのプロトタイプ

きっかけは漁師である祖父の死

nanoFreaksは2019年8月に設立した福岡発のスタートアップ。代表の千葉氏は現在九州大学の大学院を休学してプロダクト開発に取り組んでいる。

大学院で九大に進学したが、漁業が盛んな北海道紋別市の出身。実は千葉氏には漁師だった祖父を海難事故で亡くした経験がある。事故自体は自身が生まれる前の出来事だったそうだが、その事実を家族から聞いたり、事故後に祖母や母が生活に苦労したこともあって、海難事故の救助を効率化する事業を立ち上げた。

nanoFreaks CTOの成田浩規氏(写真左)、代表取締役の千葉佳祐氏(写真右)

ビジネスとして見た場合にどれくらいのマーケット規模があるかはさておき、命に関わる重要な課題であることは明らかであり、海難事故に対する何かしらの解決策がすでに出てきていてもおかしくないが、千葉氏の話では今のところこれといって普及しているものはないそうだ。

「個人的には業界の文化的な側面も関係しているのではないかと思う。もともと漁師は危険を伴う職業で、何かあったら死んでしまってもおかしくないと考えられている。IT化が進んでいない領域ということもあり、この現状をどうにかしようと具体的に動き出せる人があまりいなかったのではないか」(千葉氏)

当然ながらYobimoriはプロダクト完成後、実際に漁師に日々装着してもらって初めてその効果が出るものだ。使いやすい設計にすることはもちろん、普及させていくためには導入時のハードルを超えるものにしなければならない。千葉氏はそのためのポイントとして「家族など周りの人を巻き込んだサービス設計にすること」を挙げる。

「漁師本人もそうだが、実はそれと同じくらい家族や周囲の人の課題感も強い。いつ死んでしまってもおかしくない場所に毎日送り出すわけで、心配や不安もある。(漁師だけでなく)周囲の人の不安も解消できるサービスを目指したい。ゆくゆくは家族の人からプレゼントされるような存在になれるのが理想だ」(千葉氏)

現在はYobimoriの課題感や構想に対して共感してくれる組合も出てきているそうで、まずはその人たちにヒアリングをしつつ課題解決に繋がるプロダクトを作っていく方針。エリアを絞ってベータ版をリリースした後、ユーザーの動向なども見ながらアップデートを加えた全国版を提供する予定だという。

実際に漁師の方にプロトタイプを試してもらっている様子

リスクをシェアする「P2P保険」本格展開へ、ITで保険業を変えるjustInCaseが約10億円調達

テクノロジーを活用した保険サービスを開発するjustInCase及びjustInCaseTechnologiesは12月9日、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により総額で約10億円を調達したことを明らかにした。

今回はjustInCaseにとってシリーズAラウンドという位置付け。調達した資金を用いて、2020年に開始予定であるP2P型の「わりかん保険」を含む新商品の開発、保険APIなどを活用した他社との取り組み強化などに向けた人材採用やインフラ構築を進めていく計画だ。

なお本ラウンドに参加した投資家は以下の通り。グロービス・キャピタル・パートナーズら3社は2018年6月に発表された前回ラウンドからのフォローオン投資となる。

  • 伊藤忠商事
  • グローバル・ブレイン
  • ディー・エヌ・エー
  • 新生企業投資
  • SBIインベストメント
  • グロービス・キャピタル・パートナーズ(既存投資家)
  • Coral Capital(旧500 Startups Japan / 既存投資家)
  • LINE Ventures(既存投資家)

保険APIで事業拡張、P2P保険のサンドボックス認定も取得

TechCrunch Tokyo 2017卒業生でもあるjustInCaseは、保険数理コンサルティング会社Milliman出身の畑加寿也氏(現CEO)らが2016年に設立したインシュアテック(保険テック)スタートアップ。業界の知見とテクノロジーを組み合わせることで、これまでになかった新たな保険体験を提供しようというのが同社の取り組みだ。

昨年6月に関東財務局から少額短期保険業者として登録を受けた後、7月に開業。それまでテスト的に展開していたスマホ保険をアップデートする形で「ジャストインケース」をローンチしている。

このサービスではスマホの画面割れや故障、水濡れ、盗難紛失を月々356円からの保険料で補償する。アプリから約90秒で保険に加入できる手軽さに加え、独自の「安全スコア」によってスマホを丁寧に扱うほど保険料が安くなる仕組みが特徴。ジャイロセンサーなどから得られたデータを基にユーザーがどれほど丁寧にスマホを扱っているかをスコアとして算出し、スコアが高ければ更新後の保険料を割り引く。

このスマホ保険の展開に加え、今年7月に設立したjustInCaseTechnologiesを通じた事業もスタート。8月からは第一生命の開発したWebアプリ「Snap Insurance」に保険APIを提供し、アプリから1日単位で加入できるケガ保険の販売を始めている(第一生命が保険代理店としてjustInCaseの保険商品を提供)。

また7月にはjustInCaseが以前から構想として掲げていたP2P保険に関しても大きな進展があった。このモデルを取り入れた「わりかん保険」について「規制のサンドボックス制度」の認定を取得し、がん保険の領域にて正式展開できることになったのだ。

P2P保険は友人や同じ保険に関心のあるユーザーがグループを形成し、みんなで保険料を拠出しあうタイプの保険のこと。保険金の請求が行われた場合にはグループ内でプールされた保険料から保険金を支払う。ユーザー同士がリスクをシェアし、もしものことが起きた際には支え合う「シェアリングエコノミーの概念を取り入れた保険」という捉え方もできるだろう。

justInCaseが準備中のわりかん保険は“あと払い”型であることが1つの特徴。毎月、契約者全体の保険金の合計金額を算出し、契約者数で割った金額に管理費を加えたものが各ユーザーのあと払い保険料となる。

たとえば「2019年11月の保険金の合計金額が100万円、契約者数が1万人、管理費が30%」の場合、1人あたりの保険料は100万円÷1万人x1.3 =130円となり、この金額が12月分として事後請求される。ユーザーにとっては既存のがん保険よりも価格が安いことがメリットだ。

なお年齢によってもがんになるリスクは異なるため、ユーザーグループは年齢などの条件を基にサービス上で自動的に作られる仕様を考えているそう。わりかん保険料には上限金額が設定されているため、各ユーザーは一定金額以上を負担する心配はない。

アリババグループの「相互宝」は約1年で加入者1億人超え

日本ではまだ馴染みの薄いP2P保険だが、グローバルではインシュアテックの中でもホットな領域の1つとなっていてプレイヤーも増えてきている。

4月にソフトバンクグループらから3億ドルを調達した「Lemonade」やドイツの「Friendsurance」などが世界的にもよく知られているほか、近年は特に中国でP2P保険のサービスが盛り上がっている状況。アリババグループのアント・フィナンシャルが手がける「相互宝」は2018年10月のローンチ以降急ピッチでユーザーを獲得し、上海証券報の報道によると加入者が先月1億人を超えた。また畑氏の話ではテンセントが出資する「水滴互助」も8000万人以上のユーザー基盤を持つという。

この中には事前にグループ内で保険料をプールしておき、余ったお金をユーザーへキャッシュバックしたり最初に選択した団体へ寄付するタイプのものもあれば、相互宝やわりかん保険のように必要な金額だけを後で徴収するタイプのものもある。その他にも各サービスごとに細かな違いはあれど、畑氏いわくP2P保険に共通するもっとも重要なポイントは「透明性」だ。

「余ったお金を保険会社が全て手にするのではなく、透明性を持った上でユーザーに返還したり寄付をする、もしくは事後的に必要な分だけを徴収する。これまでは透明性の少なさが保険の課題でもあった。ユーザーにとっては何となく難しくて(保険会社が)どれだけ儲かってるのかも見えづらかった部分をクリアにしていくのがP2P保険のポイントだ」(畑氏)

P2P保険サービスはビジネスモデルの構造上、ユーザーと保険会社の利害が一致する点も大きい。従来の保険会社は保険金の支払を抑えるほど自社の利益が増えるため、ユーザーと敵対的な関係性になりがちだった。一方P2P保険の場合は保険料の一部を管理費として受け取る形が基本。特にあと払いタイプの場合は保険金が支払われる際に初めて事業者が収益を得られるため、両者が同じ方向を向きやすい。

以前も紹介した通り、P2P保険の仕組みは開業前から畑氏が熱望していた仕組みだった。当初はスマホ保険にこのモデルを導入することを目指していたが、同様の保険スキームは国内で実例がなくすぐに実装することが難しかったために断念。「保険業法の適用除外規定」に該当する範囲内でユーザー数や期間を限定してテスト的に提供するに止まっていた。

「何とかして絶対に実現したいと思っていた時に相互宝がでてきて、見た瞬間ヤバイなと。毎月1000万人ぐらいずつ加入者が増えるというすごいスピード感と、革新的なスキームに衝撃を受けた。これを日本でやるとしたら自分たちしかいないし、誰よりも先がけてやらなければとの思いでサンドボックスを申請した」(畑氏)

がん保険から国内におけるP2P保険モデルの確立目指す

justInCaseとしては2020年の前半を目処にわりかん保険のリリースを計画している。がん保険でしっかりとP2P保険のモデルを実証できれば、ゆくゆくはこの仕組みを他の保険にも広げていく方針。将来的には「わりかん保険」を1つのカテゴリーとして確立させることも目指す。

「(ユーザーとリスクをシェアする構造上)P2P保険はある程度の人数の母集団が見込めれば、カスタマイズした保険商品を作れる。従来はリスクが高すぎて企画段階で頓挫してものや、高いリスクを正当化するために保険料が非常に高額になり販売が難しかったようなものなども含め、新しいマーケットを開拓するような挑戦をしていきたい」(畑氏)

そういった数年先の展開を見据えた上でも今回のラウンドはとても大きな意味をもつという。同社の事業の広げ方は自分たちでどんどんユニークな保険商品を開発し、それをパートナーとなる各事業会社の協力も得ながらエンドユーザーに届けていくというもの。現時点で公開できる事業連携の話などはないとのことだが、ファミリーマートや保険の窓口など強力なオフラインチャネルを保有する伊藤忠商事を筆頭に各社との連携も視野には入っているだろう。

また資本関係はないものの、第一生命とは保険APIを活用した事業上の取り組みを始めているほか、先日にはライフネット生命保険と業務提携を締結するなど保険会社との連携も進めている。中には少額短期保険という枠組みでは実現できないサービスもあるため、その領域はjustInCaseTechnologiesを通じたAPIの提供や保険料計算アルゴリズムの提供という形で、既存の事業者と一緒にアップデートを図っていくという。

Showcase Gigがドコモと資本業務提携「d払い」ミニアプリとの連携でモバイルオーダーの浸透目指す

モバイルオーダープラットフォーム「O:der(オーダー)」を提供するShowcase Gig(ショーケース・ギグ)は12月5日、NTTドコモとの資本業務提携を発表した。ドコモは、Showcase Gigから10億円の第三者割当増資の引受、およびShowcase Gig既存株主から株式譲受を実施する。

Showcase Gigが提供するO:derの特徴は、顧客にとってはスマホから事前に注文し決済することで、飲食店などで並ばずに商品を受け取れること。店舗側はレジスタッフを削減し、より効率の良いオペレーションを運用することが可能だ。

Showcase Gig代表取締役の新田剛史氏は当日開催された会見で、無人コンビニのAmazon Go、中国のコーヒーチェーンスタートアップLuckin Coffee、そして同社が開発に関わっている、サントリーによるモバイルオーダーでカスタマイズコーヒーを注文できる「TOUCH-AND-GO COFFEE」など、「新しい店舗」が次々と世界中で誕生してきており、「これらに共通するのはOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)というキーワードだ」と話した。

Showcase Gigはこれまでに、JR東日本グループJR九州グループJR西日本グループとの資本業務提携を締結し、モバイルオーダープラットフォームの導入を進めてきたが、本日発表されたドコモとの資本業務提携では、「国内最大規模のOMOプラットフォームの創出」を目指す。

具体的には、Showcase Gigのモバイルオーダープラットフォームをドコモの「d払い」のミニアプリプラットフォームと連携し、両社が抱える加盟店を中心に、OMOソリューションを提供していく。ドコモは11月28日より「d払い ミニアプリ」の提供を開始。同日よりJapanTaxiに、12月10日からはドコモ・バイクシェアに対応しており、2019年度内にはローソン、そして吉野家でも利用が可能となる。吉野家を「第1弾」とし、今後もモバイルオーダーが可能なミニアプリを増やしていく予定だ。

ドコモの執行役員でプラットフォームビジネス推進部長の前田義晃氏は、「単純に決済を提供するというだけの戦争になってきている気もするが、そうではなく、決済から始まる周辺のソリューションの提供や、消費者に対する価値提供を充実させていく中で、キャッシュレスが普及していくと我々は考えている」と話した。同社は前述の国内最大規模のOMOプラットフォームの創出に加え、実店舗向けソリューション提供体制の構築、そしてデータ活用によるOMOプロダクトの開発を資本業務提携の目的としている。

両社は、2020年度中に1万店舗へモバイルオーダープラットフォームを導入することを目標としている。2020年1月にはミニアプリ開発支援の提供開始、春にはモバイルオーダー対応の吉野家のミニアプリをリリース、夏以降にはモバイルオーダー対応ミニアプリ第2弾、そして各種OMOプロダクトを随時リリースしていく予定だ。

Sun Asteriskが初の外部資金調達で日本のIT人材不足解消に踏み切る、農林中央金庫から約10億円

左から、Sun Asterisk取締役の平井誠人氏、取締役の梅田琢也氏、代表取締役CEO小林泰平氏、取締役の服部裕輔氏

スタートアップの成長支援や企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援、IT人材の育成などを手がけるSun Asterisk(サンアスタリスク)は12月4日、農林中央金庫を引受先とする第三者割当増資により、約10億円の資金調達を実施したことを発表。2020年の年初にラウンドをクローズし、金融機関および事業会社などから合計で約20億円を調達する予定だ。

このラウンドはSun Asteriskにとって、初の外部からの資金調達となる。「各引受先企業との業務提携を進めている」とのことだが、その件に関しての詳細はまだ明らかにされていない。

農林中央金庫は「Sun Asteriskは、幅広い企業に対する新たな価値創造のサポートを行っており、農林水産業を含めた日本の産業界の発展に大きく貢献していく企業であることから、投資を決めました。新たな取り組みにおける直接投資の初号案件として、金融面のサポートにとどまらず、ともに事業成長を目指していきたいと考えています」とコメント。

Sun Asterisk代表取締役CEOの小林泰平氏は「昨今、海外VCや機関投資家による日本の未上場企業への投資などが増えて来ていますが、市場運用資産60兆円を超える農林中央金庫によるSun Asteriskへの投資が、国内機関投資家のスタートアップへの投資を加速させ、資金調達の多様化が進むと良いなと思っています」と述べている。

2013年頃から産学連携における教育事業を通じてグローバルなIT人材を育成してきたSun Asteriskは、日本におけるIT人材の恒常的な不足の早急な解消を目指し、外部資金調達という手段に踏み切った。

FramgiaはSun Asteriskに

Sun Asteriskは2012年に創業。今年の3月には社名をFramgia(フランジア)からSun Asteriskへと変更。Sun Asterisk代表取締役CEOの小林泰平氏は、社名変更を行なった今年こそが、同社にとっての「第二創業期」だったと話す。

「もう、前の会社の面影がない。(Sun Asteriskは)本当の意味でのデカい会社で、クリエイティブなことをやりたい集団が、国籍関係なく集まっている。今は、『フロム・アジア(Framgiaの社名の由来)』ではなく、より大きな枠組みで考えている。『“アジアから”新しいサービスを生み出していこう』、ではない。『世界に対して』が当たり前になってきた」(小林氏)

そんなSun Asteriskが第二創業期である2019年を締めくくるニュースとして発表したのが、初の外部からの資金調達。小林氏は、その道を選んだのは「Sun Asteriskという会社になり、自分たちがやりたい事を改めて見つめ直した」結果だと言う。

「Framgiaは周りからも『急成長(企業)』と言われていた。5年で1000人、6年で1300人といった具合に成長してきた。外部資金の調達は一切なしで、自分たちで売り上げたところから出た利益でやってきた。それは良い事で、事業もすごく順調だ。このまま自分たちの手金でやっていくこともできるし、今後、市況が悪くなったとしても、僕らのビジネスモデルだとそこまで影響されることはないと思っている。だが、自分たちがやりたいことを見つめ直した時に、やっぱり、より大きな社会課題にしっかり立ち向かっていきたいと考えた」(小林氏)

外部資金調達に踏み切りIT人材不足の解消を目指す

今回調達した資金で、Sun Asteriskはテクノロジー人材の育成プログラムを拡大させる予定だ。同社は現在、ベトナムにて3大学の約1500名に同プログラムを提供しており、今後は「多国展開」を含む事業拡大を図る。資金はクリエイティブスタジオの中長期的な成長基盤の強化、そしてアクセラレーション事業であるスタートアップスタジオによる、各国のスタートアップの創出にも使われる。結果として、「DXソリューションの継続的かつ拡大的な提供」を目指す。要するに、大企業からスタートアップまで、幅広い規模の会社の高度IT人材不足を、海外で育てた人材で満たしていくというスキームを、資金調達によりより加速させていく、ということだ。

「僕たちがやっている教育事業では、海外のトップ大学と提携をして、5年間かけて、日本語と実践的なITを教えていく。『日本に行きたい』という人たちがまだいる。それら(日本語とIT)を教えて、彼らが日本で就職する支援まで行うという事業が凄く上手くいっているおかげで、色んな国の色んな大学から、『うちでもやってほしい』と、引き合いがある。そんなに上手くいっている産学連携の取り組みは聞いたことがない」(小林氏)

とは言うものの、小林氏は、前述の教育事業には多大なコストがかかるため、現在のスポンサーモデルでは勢いのあるスケールは見込めないと説明。そして、数年で同社が育てているようなグローバル人材は「日本を向かなくなる」恐れがあると言う。「ベンチャーなどは別だが、一部のITを除き、大きい企業は、外国人に対するリテラシーが低すぎる傾向にある。日本においても様々な努力が行われているが、労働環境やグローバル人材を受け入れる体制におけるネガティブな要素をなくしていかなければ、彼らは来たくなくなってしまう。日本は英語が通用しない国。英語が喋れる他の国に目を向けられてしまう」と同氏は話す。

だが、小林氏は、今のところは「日本に来たいと言ってくれている、トップクラスに優秀なグローバルで優秀な人材がいる。先人が築いてきた日本というブランドがまだ生きている」と加えた。2030年には日本国内のIT人材が約79万人不足すると予測されているが、Sun Asteriskがこの問題の解決に貢献するためには、スタートアップのような急速な成長が必要だと同社は考えている。

「今、一気に踏み込んでやらないと、この日本のIT人材不足の問題は絶対に解決できない。僕たちに期待されているのは、人と技術の安定供給。かつ、サブスクリプション型で安定稼働ができるというところが大事。Jカーブを描くなら今しかない」(小林氏)

ホバーバイク開発のA.L.I. Technologiesが23.1億円を調達

エアモビリティ、演算力シェアリング、ドローン・AIなどの事業を手掛けるA.L.I. Technologiesは11月28日、23.1億円の資金調達を発表した。第三者割当増資によるもので、主な引き受け先は以下のとおり。株主構成は、西部ガスやふくおかフィナンシャル、JR西日本イノベーションズ、千葉銀行、山梨中央銀行など、東京以外に拠点を持つ事業会社やCVCからの出資が目立つ。

  • SGインキュベート第1号投資事業有限責任組合(西部ガスグループ/SGインキュベート組成)
  • FFGベンチャー投資事業有限責任組合第1号(ふくおかフィナンシャルグループ組成)
  • MSIVC2018V投資事業有限責任組合(三井住友海上キャピタル組成)
  • オプトベンチャーズ2号投資事業有限責任組合(オプトベンチャーズ)
  • JR西日本イノベーションズ
  • トラスト・テック
  • 京セラ
  • サファイア第一号投資事業有限責任組合(サファイア・キャピタル)
  • 新生ベンチャーパートナーズ1号投資事業有限責任組合(新生企業投資組成)
  • テックアクセル1号投資事業有限責任組合(テックアクセルベンチャーズ組成)
  • 日本アジアグループ
  • ひまわりG4号投資事業有限責任組合(ちばぎんキャピタル組成)
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同社では今回の資金調達を、同社が手掛けるホバーバイク(地上から浮いて走る1人乗りバイク)の「XTURISMO LIMITED EDITION」の開発と販売促進、産業用ドローンの開発や操縦士提供サービスの事業成長、演算力のクラウドシェアリングサービス「Bullet Render Farm」の追加開発やマーケティングに投下するとのこと。なおホバーバイクについては、2023年をメドに販売予定の量産機の研究開発などにも投資していくとのこと。

気になるLIMITED EDITIONの販売受付ついては、販売代理店のグランムーヴジャパンが担当する。価格はさまざな条件によって決定するとして非公開。なおLIMITED EDITIONは日本国内の公道では走行できないため自動車免許など不要だ。主に私有地などでの利用に限られる。

一方、今後販売予定の量産機については、中型自動二輪車免許の既存ルールに当てはまるよう国土交通省や警察庁から要件について指導を受けながら、公道ナンバー取得に向けて協議中とのこと。同社としては、安全性の観点からドローンの教習(同社認定のカリキュラムを学習)が必要になると考えているとのこと。

顧客体験プラットフォーム「KARTE」のプレイドがGoogleから資金調達

顧客体験(CX)プラットフォーム「KARTE」を提供するプレイドは11月27日、Googleから資金調達を実施したことを発表した。調達金額は非公開だが、関係者からの情報によれば数億~十数億円とみられる。

KARTEはウェブサイトやアプリを利用するユーザーの行動をリアルタイムに解析。ユーザーを「データ」でなく「人」として分析し、個々に合った顧客体験を提供するためのコミュニケーションプラットフォームだ。プレイドでは2015年3月にKARTEを正式ローンチ。ECのほか、人材や不動産、金融などの業種でも導入されていて、現在の年間流通解析金額は1兆円超だという。

プレイドは、2018年12月にGoogle CloudがSaaSパートナーを支援するプログラム「Google Cloud SaaS イニシアチブ」への参加企業として、日本では初の認定を受けた企業の1社でもある。今回の資金調達に加え、プレイドではKARTEへのGoogle Cloudの機械学習やAI技術の統合でもGoogleと協業していくとのこと。より高機能で拡張性の高い、安全なクラウドプラットフォームを企業に提供することで、エンドユーザーのパーソナライズと顧客体験の向上を目指すとしている。また、両社は日本のクラウド市場拡大に向けても協業していく予定だという。

プレイド代表取締役CEOの倉橋健太氏は、「今回のGoogleからの出資をきっかけに、両社がより踏み込んだ多面的かつ戦略的なパートナーシップが始まります。より良いCX/顧客体験の創出と、プロダクトのパフォーマンス強化、そして圧倒的な事業成長に向け、共に取り組めることを楽しみにしております」とコメントしている。

プレイドの創業は2011年10月。これまで、2014年にフェムトグロースキャピタルなどから約1.5億円を調達、2015年にFidelity Growth Partners Japan(現Eight Roads Ventures Japan)とフェムトグロースキャピタルから約5億円を調達。2018年4月にはフェムトパートナーズ、Eight Roads Ventures Japanと三井物産、三井住友海上キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタル、三菱UFJキャピタルなどを引受先とする第三者割当増資と、みずほ銀行などからの借入れにより、総額約27億円の資金調達を実施している。

電話、FAX、メールの受発注をクラウドに集約「CONNECT」運営のハイドアウトクラブが1.2億円調達

ハイドアウトクラブは11月22日、9⽉に1億2000万円の資⾦調達を実施したことを公表した。第三者割当増資による資金調達で、リード投資家のGMO VenturePartnersと既存株主のジェネシア・ベンチャーズが引受先となる。

同社はクラウド型の受発注システム「CONNECT」を開発・提供している2015年6月設立のスタートアップ。同社はこれまで、1日1杯に限って渋谷・新宿エリアを中心とする提携バーでウェルカムドリンクが無料で飲める会員制ドリンクアプリ「HIDEOUT CLUB」を開発・提供していたことから、飲食店と仕入先の受発注が依然としてアナログで、主な連絡手段がFAXや電話という問題を身近に聞いていたそうだ。

関連記事:会員制ドリンクアプリ「HIDEOUT CLUB」が3000万円調達、SaaS型の店舗支援機能も

飲食店の従業員は店舗のFAXやPCから発注書を送信しなければならず、仕入先は多数の飲食店からさまざまな発注書が送信されてくるため紛失のリスクがある。しかも、アルコール類、魚介類、肉類、野菜類、冷凍食品、備品などで発注先が異なり、発注書もさまざま。このような飲食店と仕入先のペインを解決するためにCONNECTの開発に着手したという。

CONNECTはウェブサービスなので、いつでもどこでも発注が可能だ。飲食店をはじめとする小売店の従業員は、閉店後も店舗に留まる必要がなく帰宅時に時分のスマホやPCを使って電車内や自宅で発注作業が行える。もちろん発注履歴は記録されているのですぐに参照可能だ。最大の特徴は、発注書の送信方法を仕入先の環境に応じて柔軟に変更できる点。CONNECTを導入済みの仕入先の場合は、リアルタイムに発注書を受け取れるほか、納品書や出荷伝票の自動作成が可能になる。FAXやメールでの発注しか受け付けていない仕入先に発注する場合は、CONNECTがテータを生成・送信してくれる。電話発注の場合のみ従来と同様の手間はかかるものの、もちろん通話した時間や発注内容は記録されているので重複発注などのミスは防げる。

CONNECTはすでに90万点の商品の受発注に対応しており、飲食店だけでなくアパレルやメガネ店などさまざまな小売店で利用可能とのこと。

同社は今回の資⾦調達により、AIによる商材の需要予測、⾳声解析による⾳声発注などの機能開発を進め、CONNECTのサービスを拡充していくという。具体的には、スマートスピーカーと連動した受発注などを検討しているそうだ。受注から出荷、請求までの業務を⼀気通貫で管理できるシステムを構築するのが同社の狙いだ。

デバイス側で学習・予測が完結できるエッジAI開発のエイシングが3億円を調達

エイシング代表取締役CEO 出澤純一氏

エッジデバイス組み込み型のAIアルゴリズム「ディープ・バイナリー・ツリー(以下DBT)」を提供するエイシングは11月20日、約3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。第三者割当増資の引受先は三井住友海上キャピタル株式会社が運営するMSIVC2018V投資事業有限責任組合。2016年12月設立のエイシングは、2017年にも約2億円を調達しており、今回の調達により、累計調達金額は約5億円となる。

エイシングが開発・提供するDBTは、産業用ロボットやスマートフォン、コンピュータを搭載したクルマなどのエッジデバイスに組み込んで利用する「エッジAI」だ。画像認識などで知られる従来のディープラーニングをはじめとしたAIは、容量が大きく、クラウド側で情報処理が行われることが多い。これに対し、エッジAIは導入機器側にエンベッドして情報処理を実行し、学習と予測を完結して行う。このため、クラウドサーバーとエッジの通信による遅延が回避でき、高速なデータ処理が可能だ。

特に産業ロボット、自動運転車など、エッジデバイス上でのリアルタイムかつ高精度な制御が求められる領域では、エッジAI実装へのニーズが高まっているという。こうした背景を踏まえ、エイシングではエッジ側でリアルタイムに自律学習・予測が可能な独自のAIアルゴリズムDBTを開発・提供している。

DBTの特徴は高精度、軽量でオンライン学習ができる点だ。現在、エイシングではマイクロ秒単位での高速動作が特徴の「DBT-HT(High Speed)」と、精度を向上させた高精度型の「DBT-HQ(High Quality)」の2種をリリース。速度重視、精度重視とユーザーニーズに応じて、ソリューションを提供している。

エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏によれば「既存アルゴリズムのDBTに加えて、新しいアルゴリズムの発明も行っており、エッジ側で逐次的にリアルタイムで学習して予測制御を行うエッジAI技術『AI in Real-time(AiiR)』として、プロダクト群を展開していく」とのこと。

エイシングでは、一時は金融工学への応用なども検討していたが、現在は、強みである機械工学の領域での開発に集中している、と出澤氏。オムロンやデンソー、JR東日本といった大手企業ともPoC実施、共同開発を進めているそうだ。技術レベルの向上により、セキュアで、データ的に軽量な実装も実現してきているという。

実証実験済みのユースケースでは、トンネルなどの掘削に使われるシールドマシンの制御において、熟練工の指示に代えて、リアルタイムでのフィードバックと予測制御をエッジAIが行うことで、掘削効率と精度の向上を図っている例や、プログラムに記述しきるのは難しいクレーンの制御を、ディープラーニングによる画像解析との組み合わせにより、エッジ側でリアルタイムに学習しながら動作に反映することで実現する、といった例などがある。

また現状ではシミュレーター上での再現だが、クルマのスリップを事前予測して、制御側にアラートするという例もあるそうだ。従来のセンシングではスリップをしてからいかに早く戻れるか、という制御を行っているのだが、エイシングのエッジAIはスリップをする状況を事前に学習させておくことで、「このままの速度、ハンドル操作では何ミリ秒後に滑る」という情報を制御側に教えて、スリップを回避することができるという。

クルマの制御ではタイヤの摩耗や気温、路面温度などの環境が大きく影響するが、全てをセンシングするわけにはいかず、条件ごとの制御をやり切るのが難しいという事情もある。そこをエイシングのエッジAIでは、センシングが簡単な加速度センサーと車速計、ステアリングの角度だけを参照して学習することができ、さらに積載量、人数による変化も追加で学習して補正し続けることも可能だという。

出澤氏はさらに「工場の機械などで、経年劣化による変化を反映して制御することや、モーターなど製品の微妙な個体差を補正すること、スマートウォッチなどのウェアラブル端末で生体情報の個人差を補正するといった、リアルタイムで学習しながら補正して出力をする、個体差補正についてはエイシングのエッジAIしかできない部分だ」と述べている。

今回の調達資金により、エイシングではDBTをはじめとするエッジAI技術、AiiRの研究開発の強化と、顧客のシステムへの実装までを技術的にカバーする体制づくりを図る。

出澤氏は「顧客からのヒアリングを重視することで、課題・ゴールを明確にしてPoCを実施してきた。現在はパートナーとしての共同開発まで進んでいるところ。今後、この技術のライセンス提供を目指している」と話しており、既に数社へのライセンス提供は見込めそうだという。また、中長期的には、DBT以外のプロダクトも含めたデバイス側AIの市場獲得を図っているとのことで、「3〜5年のタームでグローバルにも展開していき、工業製品AIのデファクトスタンダードを目指したい」と語っている。

スマートニュースが総額100億円調達、米国事業を加速

スマートニュースは11月19日、8月5日に公表した31億円と合わせて総額100億円の資金調達を発表した。調達方法は、日本郵政キャピタルおよびACA Investmentsをリード投資家とした第三者割当増資で、グロービス・キャピタル・パートナーズ 、電通、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムなどが引受先として名を連ねる。

“出店ニーズDB”でテナントと店舗物件の最適なマッチングを実現する「テナンタ」が6000万円を調達

店舗物件を探しているテナントと物件を保有する不動産会社をマッチングする「テナンタ」開発元のテナンタは11月13日、Coral Capitalなどを引受先としたコンバーティブルエクイティにより総額6000万円を調達したことを明らかにした。

テナンタはテクノロジーの活用によって「店舗物件探し」に関する課題の解決を目指すBtoBの不動産プラットフォームだ。

特徴は物件を探しているユーザー(テナント)が希望条件をテナンタ上に登録しておけば、該当する物件を提案してもらえること。既存のポータルサイトなどは多くの場合「サイト上に掲載されている店舗物件の中から、テナントが自社にあったものを自分で探す仕組み」になっているが、テナンタではこの構造を変えることでテナントと不動産会社双方に新しい価値を提供する。

テナンタ代表取締役の小原憲太郎氏によると、店舗物件探しにおいては「良い物件ほど表に流通する前に決まってしまう」ことが多く、ほとんどのテナントが良い物件になかなか巡り会えないという課題を抱えているそう。募集中の店舗物件をまとめたサイトなどはあるものの、質の高い物件は人づてで決まるため、最終的には不動産会社とネットワークがあるかどうか次第になるのだという。

特に中小企業や創業間もないベンチャーであれば、不動産会社から認知されていなければ良い物件にアプローチすることはかなり難しい。とはいえ、どの不動産会社にどんな物件が入るかはわからないため、ネットワークを作るにしてもどうやってアプローチすべきか頭を悩ませてしまうのが現状だ。

一方で不動産会社側もまた、物件に合ったテナントがどこにいるかわからずその相手を探すのに苦労している。上述したように従来のサイトなどでは「不動産会社側が物件を登録してからテナントのアプローチを待つ」というのが基本で、誰がどんな物件を探しているのかがほとんど可視化されていなかった。

自社と繋がりのある顧客の中で物件にマッチする企業があれば問題ないが、該当者がいなければ自分たちの経験や勘を頼りに目ぼしい会社のサイトなどから出店状況や募集情報などを調べ、地道に顧客リストを作っていかなければならない。

テナンタの場合は「最初にテナント側が探している物件の情報を登録する」という従来とは逆のアプローチをとることで、「テナントの出店ニーズ」をデータベースをして可視化している点がポイント。不動産会社は物件の条件に合いそうな顧客を検索して自分たちから提案できるようになり、テナントも上手くいけばネットワークに頼らずとも良質な物件を獲得するチャンスを得られるようになる。

テナント側が入力する希望条件例

流れとしては、テナント側のユーザーが出店したいエリア、坪数、坪単価、出店希望時期などの条件をテナンタ上に登録。不動産会社はこれらの項目をベースにテナントを絞り込むことができ、マッチしそうな相手に対しては個別に物件を提案していく。

不動産会社の視点では「営業支援ツール」的な側面をもっていて、小原氏の話ではリーシング(物件に借り手がつくようにサポートする業務)がすごく楽になったという声が多いとのこと。膨大な時間がかかっていたリーシングを効率化できることに加え、これまで見逃していた“実は筋の良い顧客”の存在に気づけるようになるのがメリットだ。

「『自力でやった場合には2件しか候補が見つからなかったのに、テナンタを使うことで候補が8件まで増えた』といったような例があるように、リーシングの部分で価値を感じてもらえている。この業務は頭の中にデータを叩き込んでいないとできないので住宅などに比べても新卒が活躍しづらい領域だったが、テナンタを活用することで『新卒がリーシングの戦力になった』という声も頂いている」(小原氏)

不動産会社の視点ではテナントのニーズを集めたデータベースという位置付け。細かい条件に合わせてテナントを簡単に検索・絞り込むことが可能だ

テナンタは今年6月から東京・神奈川エリア限定のベータ版として運営。現在は約5000件のブランドが掲載されている状況だ(主体的に登録している正会員のテナントのほか、web上の情報を基にテナンタ側でリストアップしている企業も含む)。

今の所は無料で提供しているが、ゆくゆくは不動産会社側に対して営業支援SaaSのような形で定額制のサービスとしてマネタイズすることを考えているそう。そのほかテナント側の有料オプションなども検討していくようだ。

まずは今回調達した資金を活用して人材採用とプロダクトのアップデートを進める方針。不動産会社向けに物件と相性が良いテナントをレコメンドする機能などを取り入れていくほか、スマホ対応の強化やアプリ化も視野に入れつつプロダクト開発に力を入れていくという。

テナンタのメンバーと投資家陣