【コラム】私たちはソーシャル+の世界を構築しようとしているが、それをどのようにモデレートできるだろうか

ソーシャルはもはやFacebookで行われていることに留まらない。使用するすべてのアプリで行うことに相当する。Venmo(ベンモ)、Strava(ストラバ)、Duolingo(デュオリンゴ)、さらにはSephora(セフォラ)での体験を思い浮かべてみて欲しい。

ソーシャルコンポーネントをアプリやサービスに実装する「ソーシャル+企業」として知られる企業が、ユーザーとのつながりを確立し、インタラクションを実現するという強みを背景に、繁栄を続けている。

Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)のD’Arcy Coolican(ダーシー・クーリカン)氏は、ソーシャル+企業の魅力について次のように記している

(ソーシャル+は)ビデオゲームから音楽、ワークアウトに至るまで、あらゆる分野でコミュニティを見つけるのに役立ちます。ソーシャル+は、喜びを刺激するような実用性が、人間の本質的なつながりと思慮深く統合されているときに生じます。その力は強力です。なぜなら、究極的には、正統的かつポジティブな形でお互いにつながる方法が多ければ多いほど、より良いものになるからです。

ソーシャル+はまもなく私たちの生活のあらゆる側面に浸透し、数カ月後には猛烈な勢いで加速することが予想される。実用性を維持するアダプションが進み、すべての企業がソーシャル企業となることを、筆者は保証したい。これはとてもエキサイティングであるが、そうなるのは私たちが適切な構想を整えている場合に限られる。過去にソーシャルの支配力を私たちは目の当たりにしてきたが、その方向に向かわない限り、すばらしいものが創出されるだろう。

ソーシャルを生み出すアプリが正当なモデレーションの実践に信仰を見出さず、正しいテクノロジーとプロセスを最初から確実に構築するために必要なリソースへの投資を行わなければ、今日のユーザー体験にみられる目覚ましいほどの付加的なものが、まさに悪夢のようなものになりかねない。

Facebookからの学び

Facebookは、初代のソーシャルパイオニアとして社会の機能を再定義したが、そうすることで、いくつかの非常に痛ましい教訓に耐えることになった。注目すべきは、個人、グループ、組織に至る19億3000万人のデイリーアクティブユーザーからの投稿を監視しながら、同時に抑圧することなくコミュニティの意識を醸成し、プラットフォームアダプション、エンゲージメント、利益を促進するという重荷を背負わなければならないことだ。ソーシャル+企業は、少なくとも短期的には、この種の量を目にすることはなさそうだが、同じ問題に対処しなければならず、それが起こることを予見できない言い訳はもはや存在しない。

Facebookがモデレートに失敗したいくつかの領域を見てみよう。

  • 急成長する中で不適切なユーザー行動を見過ごしてしまう:Facebookの初期の頃、プラットフォームモデレーションは、ユーザー主導の無料スペースとみなされていたところでは必要ないと考えられていた。この会社は単なるつながりのパイプだった。Facebookは、効果的に管理するには遅すぎるという状況になるまで、ユーザーに害が及ぶ可能性を認識していなかった。最先端のソフトウェア、そして1万5000人の従業員が70言語にわたるコンテンツのレビューに専念しているワークフォースをもってしても、コンテンツモデレーションは依然として大きな問題であり、企業ユーザー、広告費、膨大な評判資本を犠牲にしている。
  • 言葉の壁の過小評価:私たちはオンラインサービスやネットワークを通じてますますグローバル化する社会に住んでいるが、議会に提出された文書によると、偽情報を特定するために割り当てられたFacebookのグローバル予算の87%が米国に充てられていた。世界のその他の地域でのモデレーションプラクティスにわずか13%しか充当されていないことになるが、北米ユーザーはデイリーユーザーの10%に過ぎないのである。Facebookはこの問題に対処するために、言語に極めて微妙な差異がある市場にAIベースのコンテンツモデレーション用ソフトウェアを適用しようとしたが、うまく機能しなかった。Facebook最大の市場(3億5000万人のユーザーを抱えるインド)では、言語不足に起因して、誤情報や暴力扇動が急増している。北アフリカや中東の多様な方言の場合はさらに深刻である。結果として、人間によるコンテンツレビューと自動化されたコンテンツレビューの両方においてヘイトスピーチが蔓延するのを誤って許容してしまい、一方で、一見テロ活動を助長しているように思われる無害な投稿が削除されるという事態に陥っている。
  • 政治的になる:米国のディープフェイクや偽情報キャンペーンにおいて武器化されてきた最も明確な言葉は正常化されているが、Facebookがそのサービス規約に照らして合法的に削除したりフラグを立てたりする投稿は、表現の権利が侵害され、自分の声が抑圧されていると感じているユーザーの怒りを招いている。これは、新しい法的手続きの断片と連動して、重大な市民の反発を引き起こした。つい最近の2021年12月1日、政治的信条に基づいてコンテンツが削除された場合に州住民がFacebookを訴えて損害賠償を求めることを可能にするテキサス州法の施行を、連邦判事が阻止した。政治的候補者、ニュースサイト、ユーザーを検閲した責任をFacebookに負わせようとしたフロリダ州の同様の法律も却下された。しかし、これらの試みは、人々が自分たちの好まない、あるいは時間の経過とともに自分たちに対抗するように変化していると感じるコンテンツモデレーションのプラクティスに、いかに憤慨しているかを示している。
  • 禁止コンテンツをどうするかの判断:コンテンツが削除された場合、そのコンテンツはどうなるかという問題や、好ましくないコンテンツを引き渡したり、違法行為の可能性について当局に警告したりする倫理的責任が企業にあるかどうかという問題もある。例えば、検察は現在、抗議者が銃撃された暴力事件に関与したグループ、ニューメキシコ州市民警備隊のメンバーを特定するのに役立つデータをFacebookに渡すよう要求している。Facebookは、禁止されていた同グループの記録は削除したため、どうすることもできないと主張している。誰が何を所有しているのか、プライバシーに対する合理的な期待は何か、企業はコンテンツを放棄できるのかという点で、法執行機関とソーシャル企業の間で緊張が高まり続けている。

これらの問題はすべて、アプリやサービスにソーシャルコンポーネントを組み込むことを計画している企業によって、慎重に検討されるべきである。

次世代のソーシャルアプリ

ソーシャルエンゲージメントは、セールスやアダプションなど多くの側面で重要な要素となっているが、人間には欠点もあることを忘れてはならない。トロール、スパム、ポルノ、フィッシング、金銭詐欺は、ブラウザやショッピングカートと同程度にインターネットの一部となっている。それらによってコミュニティが一掃され、破壊される可能性もある。

考えてみて欲しい。Facebookとその開発者、モデレーター、AIテクノロジーの部隊が悪戦苦闘しているなら、モデレーションとコミュニティガイドラインを初めから優先しない場合、どのようなことが起こるだろうか?

企業は、特にサービスがグローバル化するにつれて、企業とともに拡張できるモデレーション機能を構築するか、堅牢なソリューションを提供する企業と提携する必要がある。これはいくら強調してもしすぎることはない。プラットフォームの長期的な成功と存続性、そしてソーシャル+ムーブメントの未来にとって、それは基本的な要素である。

しかし、モデレーションツールがその役割を果たすためには、企業はコミュニティのために明確に定義された行動規範を作成しなければならない。それはグレーゾーンを最小化し、その意図をすべてのユーザーが理解できるように明確かつ簡潔に書かれたものであることが求められる。

透明性は必須である。不適切な行為をどのように扱うのか、投稿を削除したりユーザーをブロックしたりするプロセスはどのようになっているか、という観点で構造を整備することも企業は求められる。いつまでアカウントがロックアウトされ続けるのか?ユーザーは訴えることができるのか?

そして企業は、最初から一貫性を持ってこれらのルールを適用しなければならないという大きな試練が課せられる。インスタンスの間に曖昧さや対照があると、その企業は損失を被ることになる。

組織はまた、好ましくないコンテンツに関して、倫理的責任に対する姿勢を明確にしなければならない。ユーザーのプライバシーとコンテンツをどのように管理するのかについて、特に法執行機関が関心を持つ可能性があるものに留意しながら、企業は自主的に決定しておく必要がある。これは厄介な問題であるが、ソーシャル企業が不正に関与しないようにするための方策は、企業のプライバシーに関する姿勢を明確に示すことであり、そこに背を向けて、問題が発生した場合にのみそれを持ち出すようなやり方は避けるべきである。

フィンテックからヘルスケア、フードデリバリーまで、あらゆるアプリにソーシャルモデルが組み込まれ、私たちのデジタル生活をより魅力的で楽しいものにしている。同時に、企業がユーザーや顧客とのコミュニケーションのまったく新しい方法を開拓するとき、間違いは避けられないものでもある。

今重要となるのは、ソーシャル+企業がFacebookのような先駆者から学び、より安全で協力的なオンライン世界を作り出すことである。そこで求められることは、ある程度の先見性とコミットメントに他ならない。

編集部注:本稿の執筆者John S.Kim(ジョン・S・キム)氏は、モバイルアプリ内にチャット、音声、ビデオ体験を埋め込む大手APIプロバイダーのSendbirdのCEO。

画像クレジット:Artur Debat / Getty Images

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(文:John S. Kim、翻訳:Dragonfly)

マーケットプレイスの階層、レベル3支配とは?

【編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説する ポッドキャスト「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、D2C企業の話、マーケットプレイスの作り方、最新テックニュースの解説をしている記事やポッドキャストもやってます。まだ購読されてない方はチェックしてみてください!

はじめに

今回も引き続き、Sarah Tavel(@sarahtavel)さんから許可をいただき、「Hierarchy of Marketplaces Level 3」を翻訳させていただきました。前回を読まれてない方はこちら(レベル1レベル2)から読めます。

レベル3の「支配」とは?

レベル1とレベル2は何か1つのことにフォーカスが必要だった。

レベル1:Minimum Viable Happiness(実用最小限の満足・喜び)の達成
レベル2:市場が自分のマーケットプレイスに傾けさせる

レベル3に入るタイミングでは、コホートのパフォーマンスがどんどん強くなっていて、徐々に競合・代替品からあなたのサービスへ移行し始めている。ただ、ここで満足するのは早い。

ノルウェーのコングロマリットであるSchibsted(シプステッド)が自社で持っている複数のマーケットプレイス企業を分析したところ、1つの地域・カテゴリーのマーケットプレイス市場では、1位と2位の差が圧倒的だったことがわかった。

そして1位になるだけでは足りない。2位との差が大きいほど、無駄に投資しなくてよく、より多くのバリューを取り込める。

結局一つの市場やカテゴリで競合に勝つだけだと足りない。勝ち取る各都市やカテゴリ自体が新たなティッピングループを作り上がる。例えば1つの地域で1位になると、そこで黒字化して、その利益分をほかの地域に投資できて、そのほかの地域が後々改善されて1位になるという拡大サイクルが生まれる。さらに、1つの地域やカテゴリーを勝ち取れるとVCからの出資も受けやすくなり、その出資を拡大戦略に使える。

そのため、レベル3に入ると市場全体の支配へ走り始めなければいけない。ここでの「支配」とは、三つの戦略がある。

  1. もともとスタートした市場・カテゴリーで圧倒的に1位になること
  2. スタートした市場から縦展開して、買手側の課題・ユースケースを広げる
  3. レベル1とレベル2での学び・プレーブックを活用して横展開する

すべての戦略を同時にする必要はない。3つの戦略をどうバランスするかは競合との兼ね合いによって変わる。レベル3はさまざまなトレードオフを行って支配できるチャンスを最大限上げるためのものである。そして勝ったと思っても、その後に競合が勝ち抜くこともある。常に競合と自社の立ち位置を把握しなければいけない。

競合がいないマーケットの拡大戦略

競合がいない市場であれば、どれだけ先に市場を取れるかが勝負。

ただ、最初は焦らずに、レベル1とレベル2をクリアするのが大事。ゆっくりでもちゃんとレベル1とレベル2をクリアできれば、その後は加速する。

地域別のマーケットプレイスであれば、出来るだけ多くの地域でティッピングループを回し始め、そこからの利益を使って新しいユースケースを作り行くことを考えよう。

Uber、Airbnb、Etsyはまさに買手側のユースケースと利用頻度を上げることにフォーカスした。Uberの場合は、もともとプレミアムタクシーだったのが、Uber Xで一般のタクシーと競合になり、その後はUber Poolで公共交通機関と競合サービスを作り、ラグジュアリー層からマス化して手頃なサービスへ拡大。Airbnbでは、ベッドやマットレスだけを用意していたのを、サービス展開してホテルと競合になる家やアパートなども対応、そして国際マーケットにさらなるユースケースと利用頻度を増やした。Etsyは、手作りからなんでもありのプラットフォームになってしまったため、逆に苦しんだ。

この拡大戦略で重要なのは、自社のブランドミッションと伴っていないとダメなことと、買手側から見てブレてないことを気をつけなければいけない。UberはコアなSKUを拡大しているものの、すべて交通手段として一貫している。Etsyは拡大戦略を失敗した事例だ。

IPO直前にEtsyは恐らく数字(GMV)を追いかけるために手作りの物以外もサプライ側に載せるのを許した。結果として、WIRED記事によると買手側は手作りの物か大量生産した物を見ているのかが分からなかった。さらに手作りしているクリエイターの多くは以上に安い価格の大量生産グッズと競争をしなければいけないことに怒り、Etsyへの信頼性と満足度が売手側と買手側の両サイドで下がった。

Etsyは自社のミスに気づき、サプライ側を整理して、信頼性と満足度の低下を止められた。ただ、この一例でわかるのはいくら大手ブランドでも、満足度ではなくGMVを追ってしまうと潰れてしまう危険性があること。

競合がいるマーケットの拡大戦略

競合がいる時は、まず自分のマーケットプレイスに次に大きいサービスより2倍以上の大きさであるかを確認するべき。もし2倍以上でなければ、まだ勝ち取れてない場所やカテゴリーで切るか、勝てるところによりフォーカスするかが大事。まず勝てるところ圧倒的な差をつけて、そこからの利益を使って徐々に拡大するべき。

2倍以上の大きさであれば、競合がいないときの拡大戦略と似た様に、ユースケースを広げていくのがベスト。もちろんそのまま勝っているところはリードを保てる様にして、地域別のマーケットプレイスであれば、新しい地域へ展開するべき。

勝ったと思っても、どのタイミングで新しい競合が勝ち抜くかがわからない。

HomeAwayは、バケーション用の家のレンタル業界ではトッププレーヤーだった。Airbnbが市場に入り込んだ時も拡大をせず、そのおかげでHomeAwayのユーザーはAirbnbのより幅広いユースケースに対応できるサプライサイドに満足して、HomeAwayから離れていった。

Grubhubは自社でデリバリーしているレストランだけターゲットしていた。Postmates、DoorDash、Uber Eatsなどではよりレストランのセレクションを対応していたため、Grubhubを使う時の満足度を超えられた。

GOATのアイデア自体が創業者がeBayで買った靴が偽物だった時に考えた物だった。GOATは信頼性(本物の確証)を売りにしてeBayの平均満足度を超えられた。

こちらスティーブ・ジョブズのインタビュー動画でこのコンセプトと似たことを話している。結局、ユーザーの満足度を上げて会社を成功させたのがプロダクトだったのに、大きい会社になってしまうとプロダクトではなく、営業・マーケティング重視になってしまう。そうすると新しいプレーヤーが入り込んで大手を潰しに行けるチャンスが出てくる。

マーケットプレイスの階層、レベル2ティッピングとは

【編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説する ポッドキャスト「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、D2C企業の話、マーケットプレイスの作り方、最新テックニュースの解説をしている記事やポッドキャストもやってます。まだ購読されてない方はチェックしてみてください!

はじめに

今回も引き続き、Sarah Tavel(@sarahtavel)さんから許可をいただき、「Hierarchy of Marketplace Level 2」を翻訳させていただきました。前回を読まれてない方はこちらから読めます。

レベル2のティッピングとは?

前回の記事「マーケットプレイスの階層、レベル1キックスタートとは?」では、マーケットプレイスの最も重要なこと、最も長続きできて勝ち筋を作れる方法ははGMVではなく満足度を向上させることを解説しました。

これはマーケットプレイスを作るうえでグロースに専念しないということではないが、そのグロースは満足度を向上させるためのグロースではなければならない。今回のレベル2はまさにその話を解説します。

レベル1での目標がトランザクションをキックスタートさせて「Minimum Viable Happiness」を(実用最小限の満足度)達成することだった。レベル2の「ティッピング」ではその満足度をさらに上げて、市場が自社のマーケットプレイスに傾き始めるぐらい競合・代替品より良いものを提供するのが目標。

「ティッピング」とは、ネットワーク効果が作動し始める瞬間で、新しい満足度レベルになるタイミング。「ティッピング」状態になるとグロースするのが急に楽になり始める。既存コホートのリテンション数字が上がり、各ユーザーからの平均トランザクション数も増える。新規の売手・買手は広告チャネルではなく、オーガニックで入り始める。

これは競合と比べてどれほど市場に入り込めたかによって達成する(ある程度の規模がないとネットワーク効果が生まれないので)。このタイミングでグロースにフォーカスするべき。

レベル1ではスケールしないことをやるべきだったのが、レベル2ではスケール方法を考えるタイミング。

これはやるには売手と買手のマッチングをどんどん良くする継続的、そしてスケール出来るグロース戦略が必要となる。そのグロース戦略とは「ティッピングループ」、いわゆるシステマチックに勢いをつけてくれるループを探して、最大化すること。

このループとは2つの種類がある。

  1. グロースループ:既存の売手と買手を活用してユーザー獲得コストを下げるもの
  2. 満足度ループ:サプライ側の仕分け機能であり、より売手が良い買手を探しやすくするもの

注意したいのは、すべての市場はこのティッピングポイントに至らないこと。傾かないハードルを6つほど後ほど説明する。

グロースループ事例

グロースループは既存の売手と買手を活用してユーザー獲得コストを下げるもの。

Uber

  1. ドライバーが運転を楽しむ
  2. ステップ2:友達をリファーラルする
  3. ステップ3:新規ドライバー獲得

Hipcamp

  1. Hipcamperで予約する
  2. 友達を予約に招待する
  3. 新規ユーザー獲得

満足度ループ事例

Uber Eats

  1. ユーザーがレストランを検索
  2. より早いデリバリー時間のレストランが高くランキングされ、より多くのユーザーから注文を受ける
  3. ユーザーはより早くデリバリーを受ける
  4. ユーザーは体験に満足して、離脱しない

Airbnb

  1. ユーザーがホストの家に泊まる
  2. ユーザーがレビューを書く
  3. レビューの応じてホスト側の評価が変わる(上がる・下がる)
  4. より多くのユーザーがより評価が高いホストとマッチングされ、より良い体験に繋がる

満足度ループは非常に重要で便利。マーケットプレイスに残したい、デマンド側の体験を良くしようとしているサプライサイドをより高く評価する仕組み。そして買手にとってはより良いマッチングに繋がり、最終的には満足度向上と買手側のリテンションにも影響する。

ループを見つけて最大化するのがマーケットプレイスの役割

マーケットプレイスを作っている企業の仕事はこのループを見つけ出して、早いスピードで回すことです。Uberのグロースループを見ると、お金(リファラル)でより早く回すようにした。

Airbnbではホストへ「スーパーホスト」バッジを作ることによって、「評価」ループをより早く回せた。

  1. ホストが実績を積む
  2. ホストが「スーパーホスト」バッジを獲得
  3. より高いコンバージョン率を得られて、ユーザーはより良い体験を

Airbnbの「スーパーホスト」バッジは、もともとはホストがきちんと認められている感覚をもたらせるために作ったものだった。そして、同時に「良いホスト」とは何か定義付けた。これを実行したおかげでグロースループを加速させる3つの効果があった。

まずはAirbnb上での期待値コントロールができた。ホストとしてはゲストの体験を良くするための行動や評価ポイントがわかった。次にバッジを獲得したホストはちゃんとしたバリューを得られているので、そのバッジをなくしたくなく、離脱しなくなる。このように差をつけることによってリテンションを向上させる仕組みを作った。そして最後に、旅行者側はレビューをいっぱい読まなくてもいいホストの区別がしやすくなり、それでサービス全体の満足度が上がる。

ループを加速させるためにはトランザクションの摩擦を減らし、流動性を上げなければいけない。これはマーケットプレイスをやっている以上、常に流動性を向上させる方法を探さなければいけない。以下いくつかの事例を紹介を紹介する。

サプライ側

  • オンボーディングの難しさ
  • 在庫の管理の難しさ
  • キャッシュコンバージョンサイクル
  • トランザクションフィーは正しいのか?

デマンド側

  • 取引・マッチする難しさ
  • 検索がコンバージョン率、もしくは検索から結果ゼロの割合
  • エラー率(サプライヤーから反応がない、もしくは期待外れの回答)
  • 求めてた結果を得られて、満足しているのか?

トランザクションフィーに関しては、以下事例を見るのがいいだろう(元データはBill Gurleyさんの記事)。

引用:Reforge

その他、下図でなんとなくマーケットプレイスの種類によっての平均トランザクションフィーをJackson Square VenturesのJosh Breinlingerさんがまとめている。

そして、マーケットプレイスの流動性についてもっと知りたい場合は以下のTwitterスレッドを参照してほしい。

ティッピングのハードル

すべての市場がティッピング対象とはならない。本記事ではティッピングをしにくくする6つの要素をまとめておく。

まずは競合。競合がいるとループだけで市場を傾けさせるのは難しい。マーケットプレイスのデザインを改善し続けて、満足度の向上を少しずつ上げる様にしよう。その中、UberとLyftみたいにお金で解決できるかもしれないが、お金は競合も同じ様に使えるので気をつけるべき。出来るだけ継続的に活用できるものを選ぼう。

競合を避けるためにDoorDashは田舎や郊外を選んだ。マーケットプレイスを作る上では競合がいないニッチな市場を選ぶのも立派な作戦だろう。

そして長期的に考えるのが重要。最初から高いフィーを要求するのは短期的にいいかもしれないが、より競合が入りたくなる要素にも繋がる。

マーケットプレイスの両サイドが断片化されてなく、片方でも数名や数社に力や権利が集まっていると、その人や会社にかなり頼らなければいけない。そのため、彼らに自社マーケットプレイスに入り込んでコミットしてもらえない可能性がある。これは旅行系のマーケットプレイスを見るとわかりやすい。旅行系マーケットプレイスのほとんどは断片化されているホテル業界からマネタイズして、断片化されてない航空会社からお金をとっていないのはこの理由。

マーケットプレイスはバランスが大事。サプライサイド、デマンドサイド、両方の満足度を常に気をつけなければいけない。片方でも見失うと、一気にすべてが崩壊する可能性がある。

Grouponが良い事例だ。サプライサイドのレストランが期待していたユーザーからのリピート率が思った以上に低かったため離脱するレストランが多かった。同じく、ClassPassもサプライサイドの理想的な在庫数を見つけるまでは似たような問題を抱えていた。

マーケットプレイスはレギュレーション(規制)や法律をうまく活用して成長できるとともに、逆に成長を止めることもできる。加速させた事例としてはAirbnbの初期はホテルとして認識されなかったため、宿泊税を負わなかった。逆にUberやLyftでは今年話題になったギグエコノミー法「AB5」の影響で成長が止まる可能性がある。なお、AB5について詳しく知りたい読者は、以前ポッドキャストで解説したのでチェックしてほしい。

Airbnbだと各ユーザー(買手)は違う好みがあるため、サプライサイドを増やすことによって買手側の満足度を増やせる。逆にMechanical Turkみたいなマーケットプレイスだと各サプライが似ているため、他のマーケットプレイスが同じ満足度レベルを作る障壁はそこまで高くない。

結局、マーケットプレイスを数々見たBill Gurley(ビル・ガーリー)さんの考えとしては、マーケットプレスで最終的に一番大事なのはデマンド側の集められるか。サプライ側は初期に必要だったりするが、意外と集まりやすいケースが多い。短期的にはサプライ、長期的にはデマンドが重要。デマンド・買手側をコントロールできないと、ただの送客ツールにプロダクトデザインにしかならない。

使われる頻度が低いマーケットプレイスは特にここを気にしなければいけない。ZocDocは数千人の医者を集められたが、デマンドサイドと関係性を作れなかったため、市場を彼らの方向に傾けられなかった。

次回記事はレベル3の「支配」するため、いわゆる「勝つ」ための最後のステップとなります。

クラウド需要の急増が突きつけるグリーンエネルギーの課題

このロックダウン期間中に、膨大な数の人が仕事でビデオ会議を行っている。しかし、燃料を使う通勤手段をデジタルコネクティビティで置き換えると、個人が2時間のビデオ会議で使用するエネルギーは、4マイル(約6.4km)電車に乗る場合に使う燃料よりも大きなものになる。これに加えて、数百万人の学生が、徒歩ではなくインターネットを使って教室に「通って」いる。

一方、デジタル空間の他の領域では、科学者たちが研究を加速するためにアルゴリズムを猛烈な勢いで展開している。にもかかわらず、ひとつの人工知能アプリケーションのパターン学習フェーズが消費するエネルギーは、1万台の自動車が1日で消費するものを上回る可能性があるのだ。

社会のエネルギー使用を変化させるこの壮大な「実験」は、少なくとも間接的には、ある高レベルの事実セットで見ることができる。4月の第1週までに、米国のガソリン使用量は30%減少したが、全体的な電力需要の現象は7%未満だった。この動きは、実際のところ将来の基本的な傾向を示している。移動用燃料の使用量は最終的には回復するだろうが、真の経済成長は電気を燃料として使うデジタル未来に結びついている。

今回の新型コロナウイルス(COVID-19)危機は、経済が最後に崩壊した2008年のような「大昔」のインターネットと比べて、2020年のインターネットがどれほど洗練され、堅牢であるかを浮き彫りにしている。もし当時、全国でロックダウンが行われていたとしたら、現在在宅勤務している数千万人のほとんどが、解雇された約2000万人の集団に加わっていただろう。また当時だったら、何千万人もの学生や生徒が自宅で学習することも、大学や学校にとって現実的なものではなかった。

アナリストたちは、あらゆる手段での在宅勤務によるインターネットトラフィックの大幅な増加を様々な場所で発表している。デジタルトラフィックを使った手法は、オンライン食料品からビデオゲーム、そして映画のストリーミングまで、あらゆるものに対して急増している。これまでのところ、システムはすべてを適切に処理しており、クラウドは継続的に利用可能で、散発的な問題が発生する程度だ。

新型コロナウイルス危機に際してのクラウドの役割は、ワンクリックのテレビ会議やビデオチャットだけではない。遠隔医療がついに現実のものになった。例えば、症状を自己診断するためのアプリや、X線診断を強化したり、接触者追跡を支援するAIツールがどんどん登場している。また、クラウドを利用することで、研究者は臨床情報の「データレイク」を迅速に作成し、治療法やワクチンを探求するために展開されている現代のスーパーコンピュータの天文学的な能力を活用できるようになった。

AIとクラウドの未来は、新しい治療法のための超迅速な臨床試験はもちろんのこと、実用的な家庭診断や便利なVRベースの遠隔医療とともに、上記のようなことをたくさんもたらしてくれるだろう。そして、ここに述べたことは、医療の一部ではない残り80%の経済で、クラウドが何を可能にするかについてはまだ何も述べていないのだ。

これらの新機能がもたらしてくれるすべての興奮のために、クラウドコンピューティングの背後にある基盤システムは、エネルギーの需要を増やし続けている。エネルギーを節約するどころか、私たちのAIを利用した作業環境では、これまで以上に多くのエネルギーが使用されている。これは、テクノロジー業界が今後数年間で迅速に評価および検討する必要がある課題なのだ。

新しい情報インフラストラクチャ

クラウドは重要なインフラストラクチャである。これにより、多くの優先順位が再構成される。ほんの数カ月前には、ハイテク業界の大企業たちは、エネルギー使用量の削減と運用のための「グリーン」エネルギーの推進についての誓約の公言に対して、お互いに肩を並べていた。もちろん、そうした問題は引き続き重要だ。しかし、信頼性と回復性、つまりシステムの可用性(availability)が今や最優先事項となった。

2020年3月、国際エネルギー機関(IEA)の専務理事であるFatih Birol(ファティ・ビロル)氏は、風力発電と太陽光発電の将来について、外交的な控えめな言葉で次のように語っている。「今日、私たちは、デジタル技術への依存度がさらに高まっている社会を目の当たりにしています」そのことは「政策立案者が極端な状況下での柔軟性のある資源の潜在的な可用性を慎重に評価する必要性を強調しています」。新型コロナウイルスの危機に続くだろう経済的に困難な時代には、「可用性」を確保するために社会が支払わなければならないコストがはるかに重要なものになるだろう。

太陽光および風力技術で 高信頼性の電気を提供することは、依然として法外に高価なものだ。太陽光、風力発電が「グリッドパリティ」(既存電力コストと同等もしくはそれ以下になること)になっていると主張する人びとは、現実を見ていない。データによれば、風力発電や太陽光発電のシェアが米国よりもはるかに高い欧州では、送電網のキロワット時(kWh)のコスト全体が約200~300%高くなっていることがわかる。注目すべきは、消費者の大きな負担を横目に、テック企業を含む大規模な産業用電力需要家は、一般的にグリッド平均からの大幅な割引を受けているということだ。

やや単純化していうならば、大手ハイテク企業がスマートフォンにデータを流すための電気代への支払いが少なくて済むように、各消費者が家庭の電力供給に対して多くのお金を払っていることを意味する(私たちは、今回の危機後の世界で、市民がこの非対称性に対してどれほど寛容であるかを見届けることになるだろう)。

そのような多くの現実は、実際には、クラウドのエネルギー動向が個人的な移動と反比例するという事実によって隠されている。個人的な移動を考えると、消費者は自分の車のガソリンタンクを満たすときに、エネルギーの90%が費やされる場所を、文字通り自分の目で見ている。しかし「接続された」スマートフォンに関していえば、エネルギー消費の99%は遠隔地にあるクラウドの、広大なしかしほとんど目に見えないインフラの中に隠されているのだ。

こうした方面に詳しくない人のために説明すると、クラウドを駆動する貪欲なデジタルエンジンは、人の目に触れない何の変哲もない多数の倉庫規模のデータセンターの中に格納されている。そこには膨大な数の冷蔵庫サイズのラックが立ち並び、そこに置かれたシリコンのマシン群が、私たちのアプリケーションを実行し爆発的に増えるデータを処理している。多くのデジタルの専門家でさえ、そうしたラックのひとつひとつ毎年50台のテスラよりも多くの電力を消費していると知ると驚く。さらにこうしたデータセンターは、グラスファイバーで構成された約10億マイル(約16億km)の情報ハイウェイと、400万基の携帯基地局が作り上げる、さらに巨大な目には見えない仮想ハイウェイシステムを通して、データを送受信する(電力消費のさらに激しいハードウェアを備えた)市場と接続されているのだ。

このようにして、数十年前には存在しなかった、グローバルな情報インフラストラクチャは、ネットワークやデータセンターから驚くほどエネルギーを大量に消費する製造プロセスに至るまで、すべての構成要素を数え上げるなら、現在では年間約2000テラワット時(TWh)の電力を使用するシステムにまで成長したのだ。これは、全世界の500万台の電気自動車すべてが、毎年使用する電力の100倍以上の量だ。

これを個人レベルの話にするなら、個別のスマートフォンが年間で使用する平均電力は、典型的な家庭用冷蔵庫が使用するエネルギーよりも大きいことを意味している。そして、このような見積もりはすべて、数年前の情勢に基づいたものだ。

よりデジタル化される未来は、必然的により多くのエネルギーを使用するだろう

一部のアナリストは、近年デジタルトラフィックは急増しているものの、効率性の向上により、データ中心のエネルギー使用量の伸びは鈍化しているか、あるいは横ばいになっていると主張している。しかし、そのような主張は、拮抗する事実に直面している状況だ。2016年以降、ハードウェア建物 に対するデータセンターの支出が劇的に増えてしているが、そこにはハードウェアの電力密度の大幅な増加も伴っている。

近年、デジタルエネルギーの需要の伸びが鈍化したかどうかとは関係なく、クラウドの急速な拡大が進んでいる。クラウドのエネルギー需要がそれに比例して増加するかどうかは、データの使用量がどれだけ速く増加するか、そしてクラウドの用途に特に大きく依存する。エネルギー需要の大幅な増加は、クラウドの中心的な運用指標 、すなわち可用性を満たすための、エンジニアリングと経済的な課題をはるかに難しいものにする。

過去5年間でその前の10年間全部よりも、広い面積のデータセンターが 建設された。「ハイパースケール」データセンターと呼ばれる新しいカテゴリさえも生まれている。それぞれが100万平方フィート(約9万3000平方メートル)を超える、マシンで満たされた建物のことだ。これらを、1世紀前の不動産用語である「超高層ビルの夜明け」と同じものだと考えて欲しい。しかし、現在の世界には、エンパイアステートビルディング並の大きさの超高層ビルは50棟未満しかないが、地球上には既に約500カ所ほどのハイパースケールデータセンターがある。そして後者は合計すると、6000棟を超える超高層ビルに相当するエネルギーを必要としている。

クラウドトラフィックの成長を推進しているものが何かを推測する必要はない。このリストのトップを占める要因はAI、より多くの動画、特にデータを多用するバーチャルリアリティ(VR)、そしてネットワークの「エッジ」に置かれたマイクロデータセンターの拡大だ。

最近まで、AIに関するほとんどのニュースは、従来の仕事を奪う可能性の側面に焦点を当てたものが多かった。だが真実は、AIは生産性向上を推進するツールの最新版に過ぎない。こうしたツールは、生産性の向上が歴史の中で常に行ったきたことを再現することになる。つまり雇用を拡大し、より多くの人びとのためにより多くの富を生み出すのだ。新型コロナウイルス感染症からの復活の過程では、より多くの雇用や富の生産が必要とされる。だが、それについて話すのはまた別の機会にしよう。現時点では、個人の健康分析やドラッグデリバリーから医学研究や就職活動に至るまで、あらゆる分野の中にAIが果たす役割があることは既に明らかだ。おそらくAIは、最終的には「善い」ものと見なされるようになるだろう。

だがエネルギーに関していえば、AIはデータを大量に使い、電力を大量に消費するシリコンを使用している。そして世界は膨大な数のそのようなAIチップを使用したがっている。一般に、機械学習に費やされる計算能力は、数カ月ごとに倍増している、これはムーアの法則の一種のハイパーバージョンだ。例えば、Facebookは2019年にデータセンターの電力使用量が毎年倍増する主な理由としてAIを挙げている。

近い将来、数週間のロックダウンの最中に、小さな平面スクリーンでのビデオ会議の欠陥を経験した消費者たちが、VRを使ったビデオの時代への準備が整っていることにも期待しなければならないだろう。VRでは画像密度は最大1000倍までに増加し、データトラフィックが約20倍に増加する。進み方は断続的だったが、技術的には準備ができており程なくやってくる高速5Gネットワークは、そうした増加するピクセルを処理する能力を備えている。ただし繰り返しておく必要があるが、すべてのビットは電子であるため、バーチャルリアリティの増加は現在の予測よりも多くの電力需要につながることを意味している。

これに加えて、顧客の近く( エッジ )にマイクロデータセンターを構築する最近の傾向が挙げられる。会議やゲーム用のVR、自動運転車、自動化された製造業、あるいはスマート病院や診断システムなどの「スマート」な物理インフラなどのリアルタイムアプリケーションに、遠隔地のデータセンターからAI駆動のインテリジェンスを届けるには、光の速度は遅すぎるのだ(ヘルスケアにおけるデジタルとエネルギーの密度自身は、既に高く上昇している。病院の単位面積あたりのエネルギー消費量は、他の商業ビルの5倍程度に達しているのだ)。

エッジデータセンターは、この先10年も経たないうちに、10万メガワット(MW)の電力需要を積み上げると予想されている。別の見方をすれば、これはカリフォルニア州全体の電力網の電力容量をはるかに超えている。これらもまた、近年のエネルギー予測のロードマップには載せられていなかったものだ。

デジタルエネルギーの優先順位は変わるのか?

これは関連する質問へとつながる。ポストコロナウイルス時代のクラウド企業は、支出をエネルギー免罪符へと集中させ続けるのだろうか、それとも可用性へと集中させるようになるのだろうか? この場合の免罪符とは、自社施設に対する直接給電以外の場所(海外を含む)に対する、風力、太陽光発電への企業投資のことを指している。それらの遠隔地での投資は、実際には自社の施設に電力を供給していないにもかかわらず、自分たちの施設がグリーン電力であると主張するために「クレジット」されている。

グリーンエネルギーを求める企業が、従来の電力グリッドから物理的に切断して、独自のローカル風力、太陽光発電を構築することを妨げるものは何もない。ただし、それを行って24時間年中無休の可用性を確保することで、施設の電力コストは約400%押し上げられることになる。

購入された免罪符としての電力の現状に関しては、世界の情報インフラは既に世界中の太陽光発電所と風力発電所を合わせた発電量よりも、多くの電力を消費しているということを知っておくと役立つ。したがって、テクノロジー企業にとって(誰にとってもだが)、デジタルエネルギーの使用をすべて相殺するための「クレジット」として購入できる十分な風力、太陽光エネルギーは、もはや地球上に存在しないのだ。

デジタルエネルギーの傾向を研究しているひと握りの研究者は、今後10年間でクラウドによるエネルギー使用量が少なくとも300%増加する可能性があると予測していたが、それは今回の世界的なパンデミックの前のことだ。一方、国際エネルギー機関(IEA)は、その期間における世界の再生可能電力は「単に」倍増するものと予測している。その予測もまた、新型コロナウイルス以前の経済状況下で行われたものだ。現在IEAは、不況がコスト高なグリーンプランへの財政意欲を減らすことを心配している

だが電気を作り出す技術の課題や議論がどうであれ、情報インフラの運営者にとっての優先順位は、ますます必然的に、可用性を重視するものへと移っていくだろう。それは、クラウドが私たちの経済的な健康にますます密接に結びつくようになってきただけでなく、心と体の健康にも関係を持つようになってきたからだ。

そうした可用性の重視が引き起こす変化は、パンデミックと前例のないシャットダウンからの経済の回復の先に、何がくるかについて(グリーンエネルギーへの自らの取り組みが活発になるという意味で)私たちを楽観的にしてくれるはずだ。Microsoft(マイクロソフト)が、新型コロナウイルス以前に出したエネルギーマニフェストの中で、「人類の繁栄を進めることは……エネルギーの賢い利用と表裏一体である」と述べていたことを評価しよう(このマニフェストの中でマイクロソフトはグリーンエネルギーへの大規模な取り組みを表明している)。私たちのクラウドを中心とする21世紀型インフラストラクチャもこれと同じだ。そして、良い結果へとつながるだろう。

【編集部注】著者のMark Mills(マーク・ミルズ)氏は書籍「Digital Cathedrals: The Information Infrastructure Era」(デジタル大聖堂:情報インフラストラクチャ時代)」の著者であり、Manhattan Instituteのシニアフェロー、ノースウェスタン大学のMcCormick School of Engineeringのファカルティフェロー、並びにエネルギーテックのベンチャーファンドであるのCottonwood Venture Partnersのパートナーである。

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(翻訳:sako)

ソフトウェアと複雑性との戦い

オーストラリアの山火事、人工知能、ゴーン逃亡、Google、スレイマニ殺害、スターリンク、トランプ大統領、TikTokなど。世界はそこら中から溶岩が噴出する火山地帯のように思える。思いがけない突発的な事態もあれば、密かに関連あるものごともある。故・ホーキング博士が複雑さの世紀と呼んだのは理論物理学の状況だったが、テクノロジー、社会、地政学その他にも広く当てはまる。

そこでこう言い換えてもいい。我々は複雑さをどのようにして測るのか?マサチューセッツ工科大学のセス・ロイド教授は論文で「最近、世界は複雑さを増してしているが、複雑さを測る方法はさらに急速に複雑化している」と述べている。ロイド教授は複雑さの計量にあたって直面する困難さを定義、創造、組織という3つのカテゴリーに分類した。この3つの物差しを利用して社会やテクノロジーの複雑さがどうなっているのか眺めてみると、あらゆる側面で複雑さが増大していることがわかる。

ともかく複雑さというのは我々の敵だ。誰でもいいから専門家に尋ねてみるといい。セキュリティ専門家とかスティーブ・ジョブズの霊魂とかもいいかもしれない。複雑な問題に対する解決は常に短期的であり、長期的にはさらに大きい複雑さを作り出している場合がほとんどだ。しかし人間の理解力には限界があるから、問題の複雑さがある程度以上になると業を煮やして単純化を図る。その結果致命的な判断ミスを犯す危険が高まる。

また具合が悪いことに重大な意思決定をする立場の人間は複雑さ、つまり物事の微妙なニュアンスにまったく無頓着であることが多い。 逆に言えば、このとことが複雑さがますます増大する原因かもしれない。たとえば民主主義という概念はシンプルだが、実行には極めて複雑さな手続きが必要だ。投票ひとつ考えても選挙人登録、政党予備選挙、運動資金調達から始まって恣意的選挙区変更や投票用紙パンチ機の不正操作に至るまでさまざまな要素を考えねばならない。1回の投票のたびに数百とまでいわずとも数十の要因を慎重に検討する有権者がいるだろうか?そんな手間をかけることはほとんど場合あり得ない。意図しても難しいが、普通の有権者は意図もしないだろう。

複雑性の理論は豊かな可能性を秘めた分野だが、現実に我々が世界の複雑さに立ち向かおうとするとき手助けになるものかどうかは不明だ。我々は複雑な問題に直面するとそこそこの程度に近似したモデルを作って満足する。こうしたモデルを利用することはときに危険をもたらす。「誰もがプログラミングを学ぶ必要がある」「ソフトウェアというものは毎回正確に同じ結果を出す」「デモクラシーとは人間の善意に支えられているている」など。もちろんこうしたステロタイプはある程度まで役立つがとても正確とはいえない。

少なくともソフトウェアエンジニアリングでは複雑さが重大な問題であることは認識されている。我々はコードを書く必要なしにある機能が達成できるようにすれば称賛する。機能を単純化し、ステートレスにし、副作用を追放し、古臭く使いにくいAPIを追放しても同様だ。こうして少しでも複雑さを開発プロセスから排除するのは素晴らしいことだとされる。複雑さは「負の遺産」であり、理屈の上ではいつかは解決されるべき課題だと考えている。

故・ジョン・アーリ教授は「グローバル化とは抽象化すればそれぞれの特性に適合したグローバルなシステムが世界各地で協調的に開発、導入されるプロセスであるだろう。しかしこうしたシステムがどのようなものになるかは予測不可能で非可逆的だ。こうしたシステムは最終的な解や秩序をもたらすことができない。過剰なシステム化はむしろ無秩序を増大させている」と述べている。ソフトウェアの現状がまさにこのとおりだというのは面白い。「こうしたシステム」に「インターネット」「ブラウザ」「OS」「機械学習」といったコンセプトを代入してみれば状況が類似していることは明らかだ。

なるほどソフトウェアは複雑なものごとを単純化するにあたって人間が取り得る最良の手段の1つではあるだろう。そのためソフトウェアはあっという間に世界に普及した。ソフトウェアは政治、感情、文化に対して比較的中立だ(あくまで「比較的」だが)。ソフトウェアのパフォーマンスはある程度まで客観的であり、単純化の成果を測るのに適している。ともあれソフトウェアの世界では誰もが単純化に向かうべきインセンティブを持っている。

つまり開発環境であれツールであれプロダクトであれソフトウェアを単純化できるなら、世界を理解できる程度の単純化するモデルを構築するというやり方にも少しは望みがあるということだろう。逆にそれができないなら、現実の把握はいっそう遠くなり、予測できない事態に出くわす「ブラックスワン」現象が頻発する世界に生きることになる。この点で楽観すべきなのか悲観すべきなのかわからない。ことは複雑すぎて私の理解の限界を超えている。

画像:Mark Skipper/Flickr CC 2.0

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

 

D2Cは喜びとシンプルさを届ける

D2Cは複雑な製品カテゴリに向いている

画像クレジット: adamkaz (opens in a new window)/ Getty Images

ホリデーシーズンが近づくと、空気が張り詰めてくるのを感じる。どうすれば素敵なギフトを選び出すことができるだろう?ありがたいことに、バスソルトから植物、さらには有機肥料に至るまで、D2C(直接販売)に属する、多くの楽しいカテゴリーが存在している。

かつてニューヨーク市に本拠を置くVC会社が私たちに尋ねた。「消費者への直販ルートで発売される製品が非常に増えていますね。それらを追跡なさっているのは結構なことです。ところで、どのセグメントがD2Cにつながりやすいかを教えていただくことは可能でしょうか?」と。まあ言い換えれば、彼らは私たちに超能力者になれと要求しているようなものだ。

私たちは超能力者ではないが、その質問を見過ごすわけにはいかない。ブランドをD2Cに移行できる理由はたくさんある。Amazonのすべてのカテゴリをアンバンドルして、それぞれをD2Cに移行させることは可能だろう。それをただ行っているブランドは複数あるが、だからといってAmazonはすべての答を探せる場所ではない。

植物と肥料の例を見てみよう。私はこのホリデーシーズンに植物を贈りたいのだが、2つの問題がある。まずは友人の好みがわからないので、どの植物を選ぶべきか分からないのだ。そして2つ目は、適切な植物を選べたとしても、相手がそれをちゃんと育て続けられるかどうかがわからないのだ。

普通、人が植物の購入を考えるのは、素敵なシダやイチジクに心を奪われながら目覚めたときではない、むしろ朝の珈琲をすすりながら空っぽのバルコニーを眺めたときに、ちょっとした緑があるといいなと思ったときだ。人びとが買うのは植物ではない。良い眺めを買っているのだ。そして鉢植えのヤシの木は、見るひとに好ましい感情をよび起こす媒体なのだ。

しかし、もし彼が植物の世話をすることができない場合はどうなるだろう?その代わりに本当に素晴らしいローソクとかを買うべきだろうか?オンラインの植物ストアであるRootedは、必要な光の量や植物に水をやる必要がある頻度などの基準をつかって、商品を分類している。そのおかげで、私は「実質的に、ほぼすべての条件に適応できる」Tim(サンセベリア、英語ではsnake plantとも)を発見することができた。

製品の中には複雑なものがある。どの2つの植物もみな違っていて、どの2つの植物バイヤーもまた同じではない。それは複雑なのだ。苗床に足を踏み入れて、植物を自分で選び、添えられた指示を読むことはできるが、それでもそれをきちんと育てる責任はあなた側にあるのだ。

RootedやBloomscapeといった企業は、あなたが「気分」を買っていることを知っているので、彼らは購入後の不協和音を回避する手助けをしてくれる。彼らは、適切な植物を選択することから始まる顧客重視の製品体験を提供し、ユーザーを教育するための入門キットを提供する。これらはすべて、慎重にデザインされたフレンドリーな教育コンテンツを通じて提供される継続的なポジティブフィードバックループの中に含まれているのだ。

ブランドはD2Cに移行することで、購買体験をパーソナライズすることができ、顧客の喜びと使い勝手を最適化でき、正しいやり方で教育し、そして最終的に、顧客が求めていた気分を手にすることができるように導けるのだ。

このアプローチは、複雑であると考えられているあらゆるカテゴリで機能する。それが、コーヒー、ワイン、栄養補助食品、あるいは植物のいずれであっても、そうした製品は顧客に合わせて調整する必要がある複雑な体験であり、教育プロセスが非常に大切なものなのだ。それを正しく行うことができるブランドは、D2Cに移行することで、顧客に適切な体験を得てもらうことができるのだ。

普通人々は、変化に抵抗するものだが、彼らは自分たちをバージョンアップしてくれるブランドは愛してくれるのだ。未知に対する恐れと、間違った決定は、購入後の不協和音を招く。悪いブランドが不協和音を呼び込むのに対して、良いブランドはこの恐れを弱める。それがいいものになるか悪いものになるかは、入門体験、直感的なデザイン、コンテンツ、オンラインサポート、顧客レビュー、そしてアフターサービス体験よって決まる。

電力を蓄えるバッテリーのように、ブランドは感情的な状態、プラスとマイナスを蓄える。Comcast(米国のケーブルTV会社)との間で消費者が行う相互作用は、Apple Storeへの訪問とは異なる感情を引き起こす。

例えば、快適な履物を製作するには複雑なエンジニアリングが必要だ。ウォーキング、サイクリング、ランニング向けのユニークなタイプがあるが、どれがあなたに合っているかをどのように判断すればいいだろうか?今年リリースされたアプリであるNike Fitは、AIを使用して、顧客が自分の足に最適にフィットするものを見つける手助けする。

「5人のうち3人は、間違ったサイズの靴を履いている可能性が高いのです」と同社は声明で述べている。「長さと幅は、靴を快適にフィットさせるために十分なデータを提供していません。私たちが知っているようなサイズ決めは、複雑な問題を大幅に単純化しているのです」。AIは、右足が左足よりも大きいときにはそれを告げ、最高のスニーカーを推奨してくれる。なんて気持ちが良いんだ!NikeがD2Cチャンネルに倍賭けを行うことにしたのも不思議ではない。

最終的に結果を出せているのは、顧客の問題を認識して解決しているブランドである。 eコマースとD2Cは、まさにそれを行うための媒体なのだ。優れたブランドは、複雑な製品にシンプルさをもたらし、魔法のようになじみのあるものにしてくれる、優れた体験デザインを提供するのだ。

【編集部注】著者のAshwin Ramasamy(アシュウィン・ラマサミー)はPipeCandyの共同創業者である。PipeCandyは、eコマースおよびD2C企業に関する洞察と予測を、アルゴリズムによって生成して提供している。彼の会社は、投資家、銀行、ハイテク企業、政府などが、世界のeコマースの状況を理解することを助けている。@Ashwinizer

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(翻訳:sako)

YouTubeインフルエンサーのスポンサーになるための正しい方法

私が主宰するマーケティングエージェンシーであるBellCurve.comには、2カ月に一度優秀なグロースマーケターたちが集まって、彼らの最も有効な成長戦術を共有し、それらをGrowth Reportと題する記事にまとめている。

これは最新のグロースマーケティング戦術に触れる良い機会であり、しかも他に類のない機会だ。

弊社のコミュニティには600社のスタートアップと、それら後期段階企業の成長担当副社長たちが集まっている。内300社はYCを卒業したスタートアップ。また、Medium、Docker、Invision、Intuit、Pinterest、Discord、Webflow、Lambda School、Perfect Keto、Typeform、Modern Fertility、Segment、Udemy、Puma、Cameo、Ritualなど著名スタートアップのシニアマーケターも参加している。

私たちのこのコミュニティには、Demand CurveのマーケティングウェビナーSlackグループ、弊社のマーケティング教育訓練事業などから参加できる。過去のGrowth Reportの例は、これこれ、そしてこれなどだ。

では、そろそろ本題に入ろう。

YouTubeのインフルエンサーを費用効率よくスポンサーする方法

Rune(LinkedIn)のBjarke Felboの考察を、許可を得てわずかに編集した。

  • インフルエンサーは、サブスクライバー(YouTubeの場合はチャンネル登録者)の数に比例する報酬を期待することが多い。しかしコンバージョン(実買率)はビュー(視聴数)に比例している。だからビューが多くてサブスクライバーの少ないインフルエンサーをつかまえよう
  • 最良の結果が得られる広告は、インフルエンサーのビデオの冒頭30〜60秒のスポットである
  • そのインフルエンサーのビデオがよく見られる曜日や時間帯をよく把握し、いい曜日のいい時間帯にポストされるビデオにはボーナスを出してもいい
  • 同じインフルエンサーに同じ広告を繰り返しても、あまり効果がない。間隔を数か月空けても同じだ。オーディエンスがすでに飽和している

2019年にもなってSEOのためにリンクビルディングはどれだけ重要か?

Growth MachineNat Eliasonより。許可を得てDemand Curveがわずかに編集した。

  • リンクは今でも重要だが、その重要性は着実に減少している。Googleはコンテンツのクオリティーを重視するようになっており、ますますそっちに注力している
  • 最近のGoogleは、騙されないよう用心している。トップドメインやリンクビルディングは往々にして騙しの手口だ。コンテンツのクオリティーは騙しが効かない。良いコンテンツはフェイクできない
  • メジャーな権威あるブログの外で、高品質なコンテンツが、リンクビルディングをせずに急速に伸びている。彼らは、正しいキーワードの選択に力を注ぐ。他と競合せず、まあまあの量のビューを稼げるキーワードを選ぶ。検索者の関心を満足させる有益なコンテンツを書く努力をしている
  • しかしそれでも、タイムラインが厳しいときはリンクビルディングでスピードアップができる。3〜4か月経ってもランクが上がらないようなとき、リンクビルディングが有効なことがある

グロースマスタークラスが開講する

今日から、高度なグロースマスタークラスが始まる。どれも無料だ。

これらはどれも、短くて速効性のある高度なウェビナーだ。退屈なイントロはない。私たちがこれまでに作った最良のコンテンツの一部だ。無料だから見逃すと損だ。

登録はここでdemandcurve.com/webinars

Twitterの使われていないアカウントを横取りするにはどうするか?

AtomsのAndrew Ettingerの考察より。許可を得てわずかに編集した。

誰かが、あなたのブランド名をTwitterのハンドルとして使っている。でもそのアカウントはもう使われていない。どうやってそれにアクセスするか?

  1. あなたが取り戻したいアカウントと交換するための広告アカウントを既存の適当なハンドルで作る
  2. twitter.com/en/help(Twitterのヘルプ)へ行く
  3. 「Account issues」(アカウントの問題) →「Claim an inactive username」(使われていないユーザー名を取得する)をクリックする
  4. その正当な理由を申し立てる

そして、Twitterの広告アカウントのマネージャーがあなたの訴えを重視してくれるよう願う(訴えに#を付ける)。

必ずうまくいく保証はない。そのハンドルを取得できるチャンスは、Twitterの社員がその申し立てを真剣に取り上げてくれることにかかっている。

なお、Demand CurveのAsher King Abramsonがリードするグロースマーケティングセッションでは、ライブのオーディエンスの前で彼があなたのランディングページとFacebook/Instagramの広告をボロクソに批判し、以下の諸点につき、その実効性を脱構築する。(1)伝えたいことが伝わっているか、(2)ついついクリックしてみたくなるほどそそられる表現になっているか。

10月に米国サンフランシスコで開催されるDisruptに参加して、彼にボロクソに言われてみたい人は、ec_editors@techcrunch.comに申し込むべし。

【編集部注】著者のJulian Shapiro(ジュリアン・シャピロ)氏は、マーケティングのプロを育てるグロウスマーケティングエージェンシーBellCurve.comの創業者だ。彼はJulian.comにも書いている。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

建設テックへ興味を示す投資家の勢いが増している

この著者による他の記事:Austin in January: Cash rich and maturing

建設産業は、最もセクシーな産業とは言えないが、注目すべきは、この業界は2018年に注目を集めただけではなく、投資家たちから多くの資金を引き寄せたことだ。

歴史的に見た場合、この数兆ドル規模の産業セクターは、新しい技術の採用には時間がかかっていた。これは業者たちが、プロジェクト管理に対して全く互換性のない様々なシステムや、家を建設するための旧来の手法、そしてスマートではない材料などに頼っていたためである。

しかし、スタートアップたちの波が、このセクターの中の機会を利用しようと押し寄せている。プロセスの合理化と効率性の向上を目的とした、ソフトウェアソリューションを開発する企業の数は、ますます増えてきている。プレハブ建設は、その世界の革新によって進化してきたし、3Dプリント技術は家を数日で作り上げることができる

投資家たちも注目している。Crunchbaseのデータによれば、米国を拠点とする建設テックスタートアップの調達額は、2017年の7億3100万ドルに比べて、324%増加した31億ドル近くになっている。2018年の数字は印象的なものだが、昨年は大きなラウンドがいくつか行われたために、結果が歪められていることに注意しておくことが重要だ。Menlo Parkに拠点を置くKaterraは、昨年1月のシリーズDラウンドで、1社だけで8億6500万ドルを調達している。これにはSoftBank Vision FundRiverPark VenturesFour Score Capitalが参加している。そして、スマートガラス会社Viewは、11月に11億ドルのシリーズHを終了している。また、クラウドベースの施工管理アプリケーションの(ユニコーン)プロバイダーであるProcoreは、12月にTiger Global Managementから、シリーズHラウンドで、7500万ドルを調達した

最初に挙げた2つの大きなラウンドがなければ、建設セクターが2018年に調達したのは11億3500万ドルだけとなる。これは2017年の調達額にくらべると、55%増加という控えめな数字となる。

業界はM&Aに注目し続けている。大規模なソフトウェア会社は、自社内で車輪の再発明をしようとするよりも、この分野の企業を買収する方が理にかなっていると考え始めている。例えば、昨年の第4四半期に、3次元デザインソフトウェアのプロバイダであるAutodeskは、この分野のクラウドベースの2つのソフトウェアスタートアップを買収する計画を発表した:PlanGridは8億7500万ドル、BuildingConnectedは2億7500万ドルで買収する計画だ。上場ソフトウェア開発企業Trinbleは、昨年7月に施工管理ソフトウェアスタートアップのViewpointを、12億ドルで買収した。

Greylock PartnersのパートナーであるJerry Chenは、この分野に対して強気であり、2019年にはより多くの資金調達と買収が見込まれると予想している。彼の会社は、サンフランシスコに本拠を置くRhumbixに投資した。この会社はその建設作業者たちのためにデザインされたモバイルプラットフォームを成長させるために、2860万ドルを調達した。顧客とユーザーの観点からみて同社にとっては「記録的な年」になった、とChenは語っている。

「2018年は建設テック業界の変革点でした」と、ChenはCrunchbase Newsに語った。「大規模なベンチャー投資と、老舗企業による戦略的M&Aが続いています…そして、2019年には他の大手エンタープライズソフトウェア会社たちが、建設業界に対して、より多くの投資を始めるところを目にすることになるでしょう」。

シカゴに拠点を置く建設テック、IngeniousIOの創業者であるNick Carterは、こうした大きな数字にもかかわらず、真のスタートアップの成長という意味ではまだ先は長いと考えている。その理由の一部は、ある1つのことに由来している:この分野に対してテック創業者や投資家たちが自信を持っていないからだ。

「この分野を理解できている人は多くはありません」と彼は言う。「学習曲線は厳しいものです。企業たちは何百年もの間同じやりかたで建物を建設してきましたが、誰もがその複雑さを理解しているわけではありません」。

また建設業の世界に無秩序な部分が多いという事実も要因の一つだと、Carterは考えている。

「市場の純粋な規模大きさのおかげで、最終的にはお金が建設セクターへと流れ込むことでしょう」と彼はCrunchbase Newsに語った。「そこにはお金があります。あらゆる方向からこの分野に参入しようとしているVCがいますが、彼らは適切な機会を探しているのです。この分野には、たくさんのスタートアップがいるわけではありません」。

建設もまた景気の周期に敏感なビジネスであり、一般的には潜在的な景気後退は投資家を一時的に思いとどまらせるのではないかと、考えなければならない。しかしCarterにとってみれば、景気後退は彼の会社が構築しようとしているような製品の必要性を、さらに生み出すだけである。IngeniousIOのプラットフォームは、人工知能を使用して、Carterが「統合データ駆動アプローチ」と表現する手法を取り込み、建設プロジェクトのプロセスを再定義する。

「予算が厳しいほど、私たちのような会社がより良い仕事をすることができるのです」と彼は言う。「世の中の企業は、管理、拡張、導入に多大なサポートを必要とする、古いアプリケーションの無駄な部分を、この先抱えることはしないでしょう」。

建設業界は、他のようにTwitterで話題になるようなセクターではないかもしれないが、新しい機会を求めて参入しようとしている投資家たちにとって、とてつもない大きさと可能性を秘めている場所なのだ。

画像クレジット: Bill Oxford (opens in a new window)/ Getty Images

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(翻訳:sako)

「米国AI構想」に本当に必要なもの

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(翻訳:sako)

ルーターの再発明を狙うAmazonの野心

Amazonがメッシュルーター企業のEeroを買収した。これは急速に進化するスマートホーム市場における、様々な手札を入手できる賢い動きだ。すべてのルーターがEchoではいけない理由はないだろう、同様にすべてのEchoがルーターではいけない理由もない。この2つを統合することによって、厳しい競争に向けての、強力な相乗効果と大きな影響力を得ることができる。

Amazonが、そのデバイスを家庭の各部屋に置くことを狙っていることは、誰でも知っている。もちろん玄関先にも。同社はコネクテッドカメラのBlinkや玄関チャイムRingといった会社を買収した。そしてもちろんその流れの中で、コネクテッドACプラグから電子レンジに至る無数の新しいデバイスを発表してきた。

これらすべての機器は相互に、そしてインターネットとも、無線で接続している。でも何を経由して?おそらくはソファの裏に置かれた、7桁のモデル番号と実用本位の外見を持つ、NetgearやLinksysのルーターを介してだろう。この隣接領域は、次の拡大のための明確なターゲットだ。

しかしAmazonは、何年も前にBasicガジェットとしてこの領域に参入することができた筈だ。なぜそうしなかったのだろうか?なぜならAmazonは、その製品が現在市場にあるものを遥かに凌ぐものでなければならことを知っていたからだ。単に信号が強いとか、作りが丈夫だというだけでなく、全く新しいカテゴリの商品へと生まれ変わらせることが必要だと考えていたのだ。

ルーターはいまだに「装置」のまま取り残されている家庭用デバイスの1つだ。現在ルーターを、基本的なワイヤレス接続以外の目的で使用する人はほとんどいない。情報ビットはケーブルを通って行き来し、目に見えないまま自動的に、適切なデバイスに中継される。カスタマイズや改良について考える余地はほとんどないデバイスなのだ。

Appleは、高価で最終的には生産中止となったAirport(日本ではAirMac)製品で、この領域に早い段階で参入した。この製品には、たとえば簡単なバックアップといった付加的な目的が与えられていた。さらに机の下ではなく上に置いても良いデザインも施されていたのだ。しかし、目立たないワイヤレスルーターが、「装置」の状態を脱して進歩を始めたのはごく最近のことだ。それを実現したのはEeroのような会社だが、それを現実的にしたのはAmazonなのだ。

需要を生み出し、そして供給する

多くの家庭で、1台のWi-Fiルーターでは不十分であることが明らかになった。2階のベッドルームと車庫の作業場所に適切な信号を送るためには、2もしくは3台のルーターが必要なのだ。

ほんの数年前までは、ワイヤレス接続を必要とするデバイスがはるかに少なかったために、こうした必要はなかった。しかし今では、もし信号が玄関先に届かなければ、スマートロックは郵便配達人の映像を送ることができないし、もし車庫に届かなければ客人のためにガレージドアを開けることができない。そしてもし2階に届かなければ子供たちはテレビを視るのに階下に降りて来なければならない ―― そんなことには耐えられない。

信号を中継する複数デバイスのメッシュシステムは自然な解決策であり、他の状況では長年使用されてきているものだ。Eeroは、Sonosのように、高級品ではあるものの、消費者向けの製品を生み出した最初のメーカーだった。

ほどなくGoogleも、OnHubとその周辺機器を使ってこの分野に参入したが、どちらの会社もこの分野でまだ本当に成功しているようには見えない。身の回りでメッシュルータシステムを使用している人を何人知っているだろうか?とても少ないだろう。賭けても良いが、普通のルーターの売上に比べたら無いようなものである。

メッシネットワーキングが必要となるような状況と複雑さに対して、現実の市場がまだ十分に成熟していなかったことが明らかになった。だがAmazonがこの状況を解決することになるだろう。なぜならそのメッシュルーターが、Echo、Echo Dot、あるいはEcho Showといったものになるからだ。これら全てのデバイスは既に家庭内の複数の部屋に置かれていて、次のアップデートではメッシュプロトコルの一種を搭載する可能性は高い。

高品質のルーターには、その機能を果たすための特徴とハードウェアが備わっていることが求められるため、将来どのように機能するのかを正確に予測することは困難である。これらの機能をEcho製品に追加することは、簡単なことではない。しかしEcho Hubやそれに似た、ケーブルモデムに直結し、通常のルーター機能を果たしつつ、魅力的な多目的Alexaガジェットとして振る舞うデバイスの出現は大いに期待できるはずだ(さすがにケーブルモデムの機能を果たすことにはならないだろう)。

それだけでも既に、通常の気難しいルーターからの大きなステップアップだ。しかし、Amazonにとってのお楽しみはまだ始まったばかりなのだ。

プラットフォームプレイ

Appleは、そのエコシステムの中で強力な相乗効果を生み出している、その中でも最強なのがiMessageだ。これこそが私が現在iPhoneを使っている唯一の理由なのだ。もしAndroidにiMessageが搭載されたら、私は明日にでも切り替えてしまうだろう。だがそんなことは起こりそうもない。だから私はiPhoneのままだ。一方Googleは、検索と広告(可能な限り避けたいものだ)に強みを持っている。他にも色々ある。

Amazonはもちろんオンライン小売の首根っこを押さえているが、Alexaプラットフォームを搭載したいメーカーには、事実上オープンに提供するという賢明なステップを踏み出していることを思えば、同社がAmazonによって満たされたスマートホームを実現したいと渇望していることは明らかである。世界中からゴミのようなAlexa搭載機器が押し寄せてくることになったが、中には優れたものもある。だがとにかくそれらは、デバイスを出荷しているのだ。

さて、この先どんなデバイスでも、今後出荷されるEcho-Eeroハイブリッド機器と共に機能することになるだろう。いずれにせよ、そのハイブリッド機器は、ある意味で完全に普通のルーターとして機能することだろう。しかしAmazonは、そのインターフェイスの上に、特にAlexaや他のAmazonデバイス向けの、別のレイヤーを追加するはずだ。インターフェイスがいかにシンプルになるか、スマートホームデバイスをいかに簡単に接続し設定することができるようになるかを想像して欲しい ―― もちろんAmazonで購入した機器に限られた話ではあるが。

もちろん、非Alexa赤ちゃんカメラは動作はするだろう、だがApple iMessageの青と緑のメッセージバブルの巧みな違いのように(iMessageの中では、緑で表示されているのはSMS/MMSメッセージ、青で表示されているのはAppleのiMessageプロトコルでやり取りされていることを意味する)、きちんと動作はするものの、あるデバイス上で何かが欠けていることが、明確に示されることになるだろう。たぶんAmazonカメラからの明るいカスタムアイコンやライブビューの代わりに、灰色の一般的なデバイス画像が表示されたりすることになるのだ。特にAmazonが補助金付きの価格で競争相手を阻もうとしているときには、そうしたささいなことが消費者の気持ちを動かすのだ。

これはネットワークの拡張にも当てはまることに注意して欲しい。その他のAmazonデバイス(Dotやその仲間)がハブと上手く協働して機能するだけでなく、範囲拡張装置としても働き、ファイル転送や、インターフォン、ビデオ放映などの他のタスクを実行するだろう。Amazonが家庭内にプライベートイントラネットを出現させるのだ。

スマートデバイスの豊富なデータ相互作用は、すぐに重要な情報チャネルになるだろう。どのくらいの電力が使用されているのか?家には、いつ何人の人間が居るのか?どんなポッドキャストが、いつ、そして誰によって聴かれているのか?そのUPS配達が、実際に玄関先に来たのはいつか?Amazonはこのようなデータをすでに豊富に手に入れているが、メッシュネットワークを構築することで、さらに広いアクセスが可能になり、実質的に様々なルールを設定することが可能になる。これは、サービスや広告を提供したり、ユーザーのニーズを率先して満たすための、非常に大きなインターフェイス領域である。

のぞき見は容易ではない(そして賢明でもない)

一言触れておいた方が良いことは、Amazonがユーザーが利用中のルーターのインターネットトラフィックの中を、のぞき見る可能性についてである。これについては良い知らせと悪い知らせがある。

良いニュースは、それは技術的に非常に難しいだけでなく、そのレベルでのぞき見をすることは全く賢明ではないということだ。まず第一に、ルータを通過する重要なトラフィックは暗号化される。とにかく、それはAmazonにとってそれほど得があるものではない。あなたに関する重要なデータは、あなたがAmazonとやり取りしたことによって生成されている:閲覧したアイテム、閲覧した番組、などなど。ランダムにブラウジングデータを横取りしても、ほとんど利益がなく、厄介なことにしかならない。

買収が発表された直後に、Eeroはこの質問に直接簡潔に答えている。

おそらく最終的には収益化のための様々な努力はすることだろう。だがそれは取るに足らないことである。

次に悪いニュースだ。Amazonにトラフィックを見せたくないだろうか?残念だ!いまやインターネット(サービス)の大部分はAWS上で動作しているのだ!もしAmazonが本当にその気になったら、おそらくそれはあらゆる種類の悪いことをすることができるだろう。だがそれも、馬鹿げた自己破壊行為だろう。

自由競争の世界

次に起こるのは軍拡競争だ。まあAmazonはすでに勝っているかもしれないのだが。Googleは挑戦したが、一度痛い目にあったせいで二度目は臆病になっているのかもしれない。スマートホーム
におけるプレゼンスもそれほど大きくはない。それほど多くの収益が期待できないので、Appleはルーターの勝負からは降りてしまった。もし誰かがAppleのHomepod(酷い名前だ)をAmazonのルーターで利用しても気にしないということだ。

HuaweiとNetgearはすでにAlexa搭載ルーターを製造しているが、Amazonができるような高度な統合レベルを提供することはできない。Amazonが自社ブランドのデバイス用に、まだ多くの興味深い機能を隠していることは間違いない。

ルーター市場に参入している、Linksys、TP-Link、Asus、その他のOEMたちは、これをまずは、おもちゃのようなものだと無視するだろう。とはいえ彼らはその仕様と実用性を研究して価格と性能で上回り、Amazonがあまり勢力を伸ばせないようにしていくだろう…それが将来的に成長しないことを願いながら。

面白い競争がみられるかもしれない場所は、プライバシーの観点を気にする方向だろう。広告を有利に進めるためにプライバシーが侵害されるかもしれないという恐れは拭い切れない(Amazonが、そのようなやり方でデバイスを使用することはほとんどないと信じてはいるものの)。そして、とにかく堅牢な広告ブロックなどの機能が他にも考えられる、たとえば、Mozillaがバックアップするオープンソースのルーターであれば、そのようなものになるかもしれない。

しかし、先進的ではあるが経営的に楽ではないスタートアップを買収することによって、市場で先行しようとする可能性は高い。Amazonは他社が解析をしている間にも、素早く参入し拡大することができるだろう。

在庫がある間はEerosの特売を期待しよう、そしてEchoブランドの新しい一連のメッシュデバイスが登場する。後方互換性があり、セットアップが圧倒的に簡単で、そしてなにより競争的な価格で。今こそ時は満ち、そして変革の場所は居間である。Amazonの攻め手は激しく、単なる装置としてのルーターを終わらせる動きとなるだろう。

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(翻訳:sako)

2028年までに医療は、医師が主導し、患者が主役で、視覚技術を活用したものになる

視覚による評価はヘルスケアにとって重要である。たとえば医者が「あー」と言っているあなたの喉を覗き込んでいる場合でも、あるいは脳のMRI画像を見ている場合でも。X線が1895年に発明されて以来、医用イメージングは臨床医が体内を覗き込み評価することを可能にする、多くの形態に進化してきた。視覚センサー、コンピュータビジョン、および計算パワーに関わる最近の進歩は、(X線やMRIのような)従来のビジュアルテクノロジーに対する新しい革新の波をもたらしているし、ゲノミクスのような全く新しい医療領域を生み出している。

今後10年間で、ヘルスケアのワークフローは、収集された個人データとコンピュータビジョンと共に、大部分がデジタル化され、人工知能を使った精密ケアのための自動データ分析が利用されるようになる。ヘルスケア全体で使われるデジタルデータの多くは視覚的なものであり、それらを取り込んで分析する技術がビジュアルテクノロジーである。

これらのビジュアルテクノロジーは、診断から治療、継続的ケア、そして予防へとつながる患者の旅すべてに関係している。そこでは、画像、ビデオ、熱画像、X線、超音波、 MRI、CTスキャン、3Dなどの任意のビジュアルデータが、分析され、処理され、フィルタリングされて、そして管理される。コンピュータビジョンと人工知能が、その旅の中核である。

画像診断装置の小型化、病気の初期段階での検出を狙う次世代イメージング、遠隔医療という3つの強力なトレンドが、今後十年間で、ヘルスケア改善をビジュアルテクノロジーで改善する手法を生み出しつつある。

コンピュータビジョンとAIを伴ってハードウエアが小型化されることで、診断イメージングをモバイル化することができる

医療用イメージングは、イノベーションに対して腰が重い、既存の大企業たちに支配されている。ほとんどのイメージングデバイス(例:MRI装置)は、1980年代からそれほど変わっておらず、いまだに大きな制限を抱えている:

  • 複雑なワークフロー:操作の専門家を必要とし、互換性も限られている、大きくて高価な機械であること。

  • 患者に対する厳しい要求:身動きせずに横たわることや、息を止めること(小児科や高齢の患者などの場合に問題となる)。

  • 高価なソリューション:使えるのが大病院や画像処理機関に限られてしまう。

しかし、視覚センサーとAIアルゴリズムにおける技術革新は進んでいる。「現代の医療用イメージングはパラダイムシフトの真っ只中です。大型で慎重に調整された機械から、柔軟で自己修正可能で、複数のセンサーを備えたデバイスに変わりつつあるのです」と語るのはニューヨーク大学メディカルスクールの放射線学科のDaniel K. Sodickson博士である。

MRIの手袋型検出装置は、動く指のイメージをキャプチャすることができることが示された。©NYU Langone Health

ビジュアルデータの取得は、小型で使いやすいデバイスを利用して行われるようになり、イメージングを放射線科の施設の中から、手術室、薬局、そして居間へと移すことができる。

小型のセンサーとコンピュータビジョンに対応したイメージキャプチャは、次のような特性を持った超小型の機器として再デザインされることになる:

  • より簡単なイメージングプロセス:より速いワークフローとより低いコスト。

  • 専門知識要件の緩和:複雑さが軽減されることによって、イメージングを放射線科の施設から患者のいる場所へと移動させることができる。

  • 体内投入カメラによるライブイメージング:こうしたイノベーションには胃液を使った体内投入カメラへの電力供給、化学的検出のための細菌の利用、その他幅広い実現方法が考えられる。

ハーバード大学メディカルスクールMGH/Martinos Centerの、Matthew Rosen博士は、次のように述べている「人間の知覚学習のニューラルネットワークベースの実装を使用すると、低コストのイメージングハードウェアが可能となり、既存のテクノロジーの高速化および改善が可能になります」。

ボストンのバイオメディカルイメージングMartinos CenterセンターのMatthew Rosenとその同僚たちは、MRIを解放したいと考えている。(©Matthew Rosen)

次世代シーケンシング、表現型検査および分子イメージングは、症状が現れる前に病気を診断する

DNAのシーケンシングを行うゲノミクスは2015年以降、年間成長率200%で伸びている。これは光信号を使ってDNAを読み取る次世代シーケンシング(NGS:Next Generation Sequencing)によって推進されている。例えば私たちLDVのポートフォリオに含まれている企業であるGeniachipなどがそうしたことを行っている(同社はRocheに買収された)。こうしたテクニックは、ゲノミクスが実務家のための主流のツールになることを助けている。そして2028年までには、キャリアスクリーニングを日常的な患者ケアの一部として行うことができるようになることが期待されている。

血液、尿、または唾液を使って腫瘍のDNAまたはRNAを検査する、リキッドバイオプシーは、早期がんスクリーニングの主要な役割を果たす段階にさしかかろうとしている。例えばGRAIL社は、NGSとディープラーニングを使って、病変が特定される前に、循環している腫瘍DNAを検出するがん血液テストのために、10億ドルを調達した

遺伝子と環境の相互作用によって生み出された、観察可能な形質(表現型)の分析を行うフェノミクスも、早期の疾病検出に寄与している。表現型は生理的に表現されていて、ほとんどの場合、イメージングつかって検出ならびに分析をする必要がある。

次世代表現型検査(NGP:Next Generation Phenotyping)は、コンピュータービジョンとディープラーニングを利用して、生理的データを分析し、特定の表現型のパターンを理解し、それらのパターンを遺伝子と関連付ける。たとえば、FDNAのFace2Geneテクノロジーは、患者の顔の画像を使用して、90%以上の精度で300〜400の障害を識別することができる。(手、足、耳、目の画像またはビデオなどの)追加のデータにより、NGPはこれまでになく幅広い範囲の障害を早期に検出することができる。

分子イメージングは、DNAナノテクプローブを使用して、細胞内の化学物質を定量的に可視化する手法だ。このことによって病気の化学的特徴を測定することが可能になる。このアプローチは、アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患の早期発見を可能にする。

従来型の診察室での診療を、遠隔診療が追い越す

2028年までには、実際の診療所に行くよりも、電話やコンピュータを介して、スクリーン上で医師を訪問するのが一般的になるだろう。

遠隔医療により、開業医たちに、よりアクセスしやすくなり、よりコミュニケーションしやすくなる。このことは、患者毎の全てデジタル化された訪問時の健康記録を生み出し、移動のコストや特定の医療専門家の地域格差を減らすことになるだろう。例は、シリアの戦争で負傷した190万人のために提供された遠隔医療サービスだ。

遠隔医療を救急車に統合することで、脳卒中患者は2倍の速さで治療を受けられるようになった。医師たちは、リアルタイムに彼らの同僚や専門家を呼び込むようになるだろう。

スクリーニング技術は遠隔医療に統合されるため、それは単に医者をビデオで呼び出すだけにとどまらない。リモートカメラを介して、バイタルを事前にスクリーニングすることによって、より効率的になり健康上のメリットを得られることも期待できる。

「遠隔医療におけるビジュアルテクノロジーの最大のチャンスは、特定のユースケースを解決する場合にあります。脈拍、血圧、あるいは目の問題を検出しているのかどうかにかかわらず、ビジュアルテクノロジーはデータ収集の鍵となります」と語るのはTeldoc healthのJeff Nadlerだ。

遠隔患者モニタリング(RPM)は、遠隔医療の成長および全体的なケアの個人化に対する主要な要素となるだろう。私たちがApple Watchで経験しているように、RPMデバイスは、日常の健康やライフスタイルの要素を考慮に入れた、医療上の決定を下すために使用される、リアルタイム患者データの主要な情報源になるだろう。こうした個人データは患者自身が収集し所有していて、医師に提供される。

ビジュアルテクノロジーは、次の10年にわたって、ヘルスケアの変革を推進する

ビジュアルテクノロジーはパーソナライズされたヘルスケアの未来に深い影響を与える。そして世界中の人びとの健康を改善することだろう。そこにはユニークな投資機会があることを示している。私たちLDV Capitalは、BCC Research、CBInsights、Frost & Sullivan、McKinsey、WiredそしてIEEE Spectrumなどに掲載された100以上の研究論文をレビューし、私たちの2018 LDV Capital Insightsレポートとしてまとめた。このレポートは、ヘルスケアを改善する力を発揮するセクターに光を当てているが、その判断は各セクター内のテクノロジの変革的な性質や、予測される成長およびビジネスチャンスに基づいて下されている。

診断、治療、そして継続的なケアや予防にまたがる視覚技術への、多くの投資機会が存在しており、それは世界中の人々をより健康にするのに役立つことだろう。

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(翻訳:sako)

安物のIoT機器は、たとえゴミ箱に叩き込んだあとでも持ち主を裏切り続ける

格安のスマート電球やセキュリティカメラを購入したときの最悪のリスクは、セットアップに手間がかかるとか、設定できることが少ないことだと考えるかもしれない。しかし、こうした雑なガジェットがセキュリティリスクであるのは、プラグインされている間だけではない。ゴミ箱の中にあるときさえ、あなたのネットワークを危険にさらすかもしれないのだ。

こうした、いわゆるIoTガジェットは小さくてかなり単純なものだが、それでもあらゆる目的と用途のために用いることのできる、本格的なコンピューターなのだ。それほど多くのことをする必要はないかも知れないが、機器が利用者のプライベート情報を暗号化しないまま世界にばらまいたり、アクセスしてきたものにルート権限を渡したりしないように。よくある基本的な予防策は講じておく必要がある。

Limited Resultsが(Hack a Dayを介して)調査を行った低コスト「スマート」電球の場合には、問題はそれらが接続されている間に行うことではなく、それらがその小さな頭脳の中に保存している情報と、その保存方法だった。

彼らがテストしたすべての電球は、内部のチップに保存されている情報を保護することに対するセキュリティを、まったく持っていないことが証明された。回路基板を露出させた後、数本のリード線を接続したところ、どのデバイスもそのブートデータを出力したあと、コマンド待機状態になった。

データは例外なく全く暗号化されていなかったが、そうしたものの中にはデバイスが接続されていたネットワークへのワイヤレスパスワードなども含まれていた。1つのデバイスなどは、RSAの秘密鍵も公開していた、この秘密鍵はデバイスが(更新や、ユーザーデータのクラウドへのアップロードなどのために)接続するサーバーへの、セキュアな接続を確立するために使われるものだ。こうした情報が、この電球をゴミ箱から拾い上げたり、屋外の設備から盗んだり、あるいは中古品として買った人なら、手に入るのだ。

「真面目な話、IoTデバイスの9割はセキュリティを考慮せずに開発されています。これは惨事以外の何物でもありません」とLimited Resultsはメールに書いている。「私の調査は、LIFX、XIAOMI、TUYA、およびWIZの4つの異なるデバイスをターゲットにしています(まだ全ての結果は発表されていない)。同じデバイス、同じ脆弱性、そして時にはまったく同じコードさえもが中に入っています」。

現在、これらのデバイスに上で公開されている特定の情報は、それ自体ではそれほど有害ではないものの、もし誰かがその気になれば、複数の方法でそれを活用することができる。ここで注目すべき重要な点は、こうしたデバイスに注がれた注意の全くの欠如である。コードに対してだけではなく、構造に対する注意も欠如しているのだ。そうした商品は、安全性も、セキュリティも、そして寿命さえ考慮していない市販のワイヤレスボードに、単に簡単なケースをとりつけただけなのだ。そしてこの種のことは、決してスマート電球に限定されるものではない。

こうしたデバイスは皆、AlexaやGoogle Home、もしくはその他の標準規格をサポートしていることを誇らしげに主張している。こうした主張は、ユーザーに対してこれらのデバイスが、何らかの形で認定され、検査され、あるいは何らかの基本規格に合格しているという誤った認識を与える可能性がある。

実際は、それらのすべての機器が、本質的に全くセキュリティを持たないことに加えて、中にはその(導電性の)金属ケースと基盤の間を絶縁しているものが、粘着性の適当な紙に過ぎないものもあった。このようなものを使っていては、漏電火事や少なくとも短絡事故が起きるのを待っているようなものだ。

他の種類の電子機器でも同様だが、ある機器が他の機器よりもはるかに安価であるのは、そうなるだけの理由が常にあるのだ。だが、安物のCDプレーヤーの場合には、最悪でも曲がスキップしたりディスクに傷が付くくらいだ。だが、安物のベビーモニター、安物のスマートコンセント、そして安物のインターネット接続ドアロックの場合には、そんな程度の被害では済まない。

私は別に、世の中のスマートガジェット全てに関して、プレミアムバージョンだけを買う必要があると言いたいわけではない。消費者たちが、そうした(いい加減に作られた)デバイスをインストールすることで、どのようなリスクに晒されることになるかに自覚的であるべきだと言いたいのだ。

あなた自身のリスクを限定したい場合に、簡単にできる手段のひとつは、スマートホームデバイスなどを、サブネットやゲストネットの上に隔離してしまうことである。自分のデバイスと、もちろんルーターが、パスワードで保護されていることを確認しよう。そしてパスワードを定期的に変更するなどの常識的な手段を講じよう。

画像クレジット: Limited Results

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(翻訳:sako)

スマートフォンはますます面白くなろうとしているが、成長を維持できるほど十分に面白いだろうか?

売上が停滞する中、折り畳み可能携帯と5Gは救世主となれるのか?

スマートフォンの売上は落ちている 。2018年には、世界の出荷台数は3%減少した。長く待たれてきた5Gの到来によって、その数字が再びに上向きになることも期待できるものの、IDCの予想によれば、仮にそうだとしても成長は1桁台の低いものに留まりそうだ。

わずかな例外を除いて、各携帯電話メーカーは様々な影響によって、停滞の痛みを感じ始めている。中国では経済成長が鈍化しており、国際的には、買い替え需要サイクルの長期化や、高価格化が進み、迫り来る貿易戦争による関税も課される。

しかし多くの消費者たちにとっては、結局気になることはシンプルな1つの点だけなのだ。それは買い替えに値するほど十分に魅力的なものなのか。現在のほとんどの携帯電話は、既に十分に優れたものであるために、製造業者たちはそれらを、毎年あるいは2年に一回買い替えさせるための、説得力のある理由の捻出に苦しんでいる。だが前述の多くの外部要因とは異なり、この問題は電話メーカー自身が実際に何かを行うことができる部分だ。

もちろん、今年こそがその変化の年なのかもしれない。長年のマイナーアップグレードや、古びたコンセプトデザイン、そして収益の減少によって追い詰められて、携帯電話メーカーたちは強気の攻めに出ている。2019年になって1ヶ月も経たないうちに、今年はスマートフォンにとって近年稀に見る革新の年になりそうな勢いだ。

Samsung、Huawei、Xiaomi、そしてRoyoleは、みな折り畳み式の携帯電話に取り組んでおり、おそらくMotorolaもその一群に、新しいRazrで加わろうとしている。一方Googleは、Androidへのアップデートを行うことで、新しい流行である折り畳み式に対応することを約束している。そして5G携帯電話も、今年から少しずつ始まる予定だ。

そして今週は、MeizuVivoが、それぞれ業界の動向(ワイヤレス充電、Bluetoothヘッドフォンなど)に沿う形で、ポートを全く持っていないハンドセットを発表した。そして、それが何かはまだわからないが、このLGの新製品がある

全てが素晴らしいとも、そしてヒットが保証されているとも限らないが、Mobile World Congressを1ヶ月後に控えて、2019年は既に、興味深いデバイスやコンセプトの年だと言っても過言ではなさそうだ。売り上げが伸び悩んでいるため、各企業は目立つように奮闘を続けている ―― HTCでさえもExodus Oneを使ってブロックチェーン携帯に取り組んでいる。

これら全てが、私の仕事をより面白くしてくれる筈だ。しかし、こうした斬新なコンセプトが、本当に成長を助けてくれるのだろうか?折り畳み型は既に混沌とした様相を示している。たとえば長年期待されてきた折り畳み型スクリーンを、最初に現実のものにした会社として注目をあびるために、方針転換をしたRoyoleについてみてみよう。作られた製品は最終的に、ある種望まれていたものにはなった。しかしながら、 Xiaomiが垣間見せた三連折り畳み式のようなデバイスが、この世界の可能性に対するさらなる期待を高めてくれた。

一方5Gは、それ自身の長引いた誇大宣伝サイクルで苦労することになりそうだ。業界に注意を向けている人なら、その最終的な可能性について、何年もの間聞かされている。主流メディアは、その間の話題を、CESでの展示や、携帯電話メーカーやキャリアなどからの口約束でつないできた。

しかし、キャリアはすでに5Gの定義に多くの暗雲を投げかけてきた。例えばAT&Tの5G Evolutionを見てみると良いだろう。キャリアはそれを「5Gへの道への第一歩」と呼んでいるが、実のところそれは高性能化したLTEなのだ。それはキャリア間の分断をもたらし、既に曖昧になっている技術のための水をさらに濁ったものにしてしまう。年末までには多くの5Gデバイスが市場に出回ることになるだろう。しかし使っているキャリアによって自分の街がカバーされるかどうかは全く別の問題だ。

価格も大きな要因になるだろう。これまでOnePlusのような企業が、安価な携帯電話がどれだけ素晴らしいものかを示してきたが、一方高級機の価格は上がり続けている。SamsungとAppleのモデルは現在、1000ドル前後から価格が始まるのが普通になっている。そして折り畳み型の平均価格は1500ドルを超えるものになると思われる。そのような価格では、お金を惜しみなくつぎ込めるアーリーアダプター以外の人たちを引き寄せるのは難しくなってしまう。本当の主流への採用のためには、より低い価格と、製品を純然たる目新しさ以上に真に使いやすい機能セットが備わっていることが大切だ。

モバイル業界は岐路に立っている。それは成熟し、一部の市場では飽和している。この世界はまだ活力を失わないのか、それとも家電製品の次のヒット作を待ちながら停滞が続くのか。2019年はこの先のスマートフォンの運命を決定する重要な年になるだろう。

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(翻訳:sako)

史上最年少の女性下院議員はミームの使い手

Alexandria Ocasio-Cortezはインターネットカルチャーに精通し、評論家たちが彼女に「大人になれ」と要求してもネットを使うことを恐れたりしない

ミーム(Meme)は、政治文化の新しい用語であり、それを無視することには危険を伴う。リベラル派はこのことを、先の大統領選挙運動の後半に、 オルタナ右翼たちが、白人至上主義者たちのイデオロギーを支持するバイラルジョーク、ハッシュタグ、およびイメージなどを、プロパガンダツールとしていかに器用に使いこなすことができたかに気付き、痛みと共に学習したのだ。この現象は、しばしばリツイートを通じて、ドナルド・トランプから拡散された(大統領のTwitterアカウント@realDonaldTrumpは、間違いなく最高行政機関によるミームファームだ)。進歩主義者たちは自分たちのミームで反撃しようとしたものの、政敵たちによる”cuck”(「腰抜け」といった意味の罵倒語)といった新しい語彙や、コミックキャラクターであるPepe the Frogの利用(そのオルタナ右翼による不正利用が、作者であるMatt Furieと出版社によって非難された)のような影響力を生み出すことはできなかった。

しかし、左派はようやくミーム文化を取り戻す方法を得たようだ。それも4chanやRedditの匿名の書き込みに由来するもではなく、キャピトルヒル(米国会議事堂)から来るものだ:下院議員Alexandria Ocasio-Cortez(アレキサンドリア・オカシオ=コルテス)のソーシャルメディアアカウントがその発信源である(彼女はしばしばAOCという名前で参照される。これは彼女のTwitterハンドルでもある)。彼女はインターネットカルチャーに精通しているだけでなく、Ocasio-Cortezはそれを積極的に活用しようとしている。たとえ評論家たちが、国会議員として選ばれた史上最年少の女性である彼女のことを、“little girl”(お嬢ちゃん)と呼んだり、彼女の所属する民主党に対して「若者のような振る舞いは止めるべきだ」とAaron SorkinがCNNのインタビューで口走ったように、とにかく軽く扱おうとしてもその勢いは止まらない。

Ocasio-Cortezのツイートは、インターネットとゲームカルチャーの知識を、課税や所得格差、化石燃料による汚染、そしてトランスジェンダーといった真面目な課題と織り交ぜたものだ。一方彼女のInstagramとStoriesの投稿は、フォロワーたちに対して国会の舞台裏を伝えるものである。彼女は重要な政策に関する議論を促し、特に限界税率の場合には、Mitch McConnell(共和党の大物議員)をミーム(#wheresMitch)に変えさらにC-Span(ケーブルテレビの政治チャンネル)上の動画は話題になり拡散された

まだ議会に宣誓して1ヶ月も経たない Ocasio-Cortezの、政治的文脈への影響は既に明らかなものとなっている。このことは、先の週末に一層強調された。まずOcasio-Cortezが、 彼女の提出した(年1000万ドルを超える収入を得るものに70%の課税を行うという)税率の提案に対する(共和党民主党を問わない支持層からの)人気の高さに、“All your base (are) belong to us”(みなが私たちの味方です)とツイートしたことだ(”All Your Base Are Belong to Us”の元々の意味は、敵に対して「全ての基地を制圧したので投降せよ」というもの、一種の勝利宣言)。このミーム自体は「古典的」とみなされるほど、昔から使われ続けてきたことだが、彼女がそれを使うことによって大きな話題となった

そして日曜日には、Ocasio-Cortezは、YouTuberであるHbomberguy(Harry Brewisという名前でも知られている)のDonkey Kong 64のTwitchに参加した。これはトランスジェンダーの若者の支援グループであるMermaidsのための募金イベントであり、彼女から支援も表明された。Ocasio-Cortezは、トランスジェンダーの人々に対する差別について語り「経済的な枠組みの中でこれらの問題について話すことは重要ですが、差別が経済的困難の主な理由であるという事実を忘れてはいけません」と述べた(なお番組中で彼女はNintendo 64について「おそらく最も素晴らしいシステム」だとも述べている)。

ニューヨークのクイーンズ第14地区およびブロンクス選出議員であるOcasio-Cortezは、ミーム文化を皮肉るやり方にも深い理解を示していて、そうした反発する手合いさえも参加者として引き込むのだ。こうした手腕は、自分自身の物語と視点を手に入れたいと思っている公人なら誰しも、手に入れなければならないものだ。そして民主党側はこれを理解しているようだ、なぜなら彼らは彼女に対してソーシャルメディアについてのトレーニングセッションを主催してくれるように頼んだのだ。

彼女を批判するものは、Ocasio-Cortezの影響力の強さは、その若さと外見によるものだと言う。それはもちろんOcasio-Cortezが意識して対応し続けてきた要素だ。しかし、彼女はそうした批判でさえも、彼女のためにどのように使うべきかを見出した。Ocasio-Cortezの偽のヌードセルフィーが、右翼系ニュースサイトDaily Caller上に再投稿されのは、ミーム文化(と彼女の外見)を彼女に刃向かわせようという試みだった。だが彼女はそれを、女性リーダーに対するミソジニー(女性蔑視)問題に関する議論として昇華した。

TwitterユーザーのAnonymousQ1776が、高校時代の彼女のダンスビデオを投稿することで、Ocasio-Cortezを「どうしようもない馬鹿者」と印象付けようとした試みは、逆に彼女が普通の高校生であることを示しているだけだという反論を集めた。Freedom of the Press財団の特別プロジェクトディレクターであるParker Higginsがツイートしているように、”The Breakfast Club”のシーンに触発されたこのビデオ自体は(比較的)初期のインターネットミームの一例であり、それ自身が著作権法とフェアユースの権利に関する議論(と訴訟)を引き起こした。ご想像どおり、そのツイートがきっかけになって、AOC Dancing to Every Song(AOCがどんな曲でも踊るよ)ミームが誕生している。

しかし、Ocasio-Cortezのメッセージは、彼女の政治的反対者に対するものだけではない。それらはまた、 ここ数年徐々に権利を奪われ恐怖を感じてきた人たちに対して、国家の問題は根深いものの、知恵やときには皮肉なユーモアを使ってアプローチできるというシグナルを発しているのだ。

彼女が議員に就任した1週間後、ハイテク投資家Vinod Khoslaはさりげなく彼女の信用を損なう発言を行った「彼女の基本的な経済学、実際の人間と技術に対する理解」に対する疑念を表明したのだ。これは、 Intel International Science and Engineering Fair(高校生のための研究コンペティション)の微生物学部門で第2位を獲得し、ボストン大学で国際関係および経済学の学位を取得した人について語るには、とても奇妙な発言だ。

「ミームが得意であること」は、高校生のための最も権威ある研究コンペティション(過去の受賞者の中にはノーベル賞や国立科学賞を受賞している者もいる)の1つを受賞した彼女の経歴の中では、それほど輝いているようには見えないかもしれないが、少なくともOcasio-Cortezがテクノロジー(と実際の人間)を、彼女の批判者たち(Ocasio-Cortezに対して「若いお馬鹿さんではなくて、大人になれ」と忠告するKhosla、Sorkin、そしてPiers Morganたち)が、追いつけないレベルで理解していることを示している。

Ocasio-Cortezは、ソーシャルメディア、特にTwitterを介して言説をコントロールすることができるため、 トランプ大統領とよく比較されてきた。しかし、別のミームを引用するなら、トランプは混沌とした悪であり、衝動のおもむくままに行動し、たとえ弱い人びとの生活に深く影響を与えたとしても、コントロールができないように見える。Ocasio-Cortezの政治的影響がD&Dアラインメント(ゲームのキャラクタを沈着-混沌、善-悪の二次元のマトリクスで表現したもの)のどこに当てはまるのかを正確に決めるのは時期尚早かもしれないが、それが「混沌」以外のどこかに当てはまることは間違いない。

画像クレジット: John Lamparski (opens in a new window)/ Getty Images

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(翻訳:sako)

AI市場は急成長中だが正確な数字を知るのは難しい

[この記事はCrunchbase Newsの編集者、ジャーナリストのHolden Pageの執筆]

テクノロジー業界の関係者なら誰でも人工知能がホットな話題だと知っているだろう。人間の仕事がどんどん取って替わられるという主張もあれば、逆に能力が誇張されているという懐疑論も聞かれる。AIは新たな軍拡競争をもたらしているという警告も出ている。

しかしCrunch Baseの関心範囲はもっと狭いが、もっと明確だ。この分野におけるスタートアップへの投資額はどれほどか? 投資者は誰か? 現在のトレンドと長期的見通しは?

まずAIスタートアップに対する総投資額について検討することにしよう。AIというバズワードをテコにスタートアップには巨額の金が流れている。投資は対前年比で大きくアップしている。ただし、われわれには正確な成長率はつかめなかった。

2018年にCrunchbaseにに次のような大型投資ラウンドが記録されている。

  • SenseTime:顔認識テクノロジーに優れた中国のスタートアップがシリーズDで10億ドルを調達。CrunchbaseによればAI分野では2018年最大のラウンドだった。さらに驚くべきことに、この会社は1年間に3回のラウンドを実施し、総額22億ドルを集めていることだ。百聞は一見に如かずというが、一顔は10億ドルになるらしい。
  • UBTech Robotics:これも中国のロボット・スタートアップで、シリーズCで8億2000万ドルを調達している。しかしUBTechのウェブサイトを眺めた限りではAI分野のイノベーターというより高級おもちゃメーカーのようだ。
  • Zymergen:シリコンバレーのバイオテック・スタートアップでFortune 500級大企業向けに遺伝子組み換え微生物を提供している。Crunchbaseによれば同社はシリーズCで4億ドルを調達。

普通ならここでグラフとAI市場の外用を400語で載せるところだが、注意深い読者ならすでにお気づきのように問題は「AI市場」にある。どこからどこまでがAIなのか?

たとえば、Zymergenだ。CrunchbaseのタグにはたしかにAIが含まれている。CrunchBase Insightsの記事を引用しているBloomberg,も同意見だしかしZymergenはAI企業だろうか?

しかしZymergen自身のウェブサイトではそうではない。なるほど、AIに関連した機械学習によるオートメーションというバズワードは用いられている。しかしもし私が自由に分類していいならZymergernはバイオテック企業だ。

CB Insightsは2018年1年間ででAI投資は72%アップしたとしている。しかしCrunchbaseだと38%の伸びだ。

つまりAI関連の非公開企業への投資が増加していることは間違いない。しかし、以上の数字を見れば明らかだが、AIスタートアップとしてで定義される範囲についてはコンセンサスが全くない。l

しかし驚くにはあたらない。専門家もどこまでがAIか現在も激しく議論している。ここには動物や植物の分類学のような整然とした体系は存在しない。ty.

AI企業だと必要以上に強調するスタートアップが多いのではないかと密かに疑っている。EWSのAIサービスをバックエンドのどこかに使っているだけでAIスタートアップと名乗っていいのか? 私に言わせれば、ノーだ。しかしCrunchbaseのデータによればそう自称するスタートアップは非常に多い。

定義の問題が出てきたついでに言えば、そもそもテクノロジー企業の範囲も問題だ。食材宅配サービスのBlue Apronの場合、 上場直後に10ドル近い高値をつけた後続落し、現在は1.4ドル台だ。われわれのAlex Wilhelmが分析したとおり、IPO前の株主の評価と市場の投資家の評価は大きく異なる結果となっている。

現在AIスタートアップに強い追い風が吹いているのは間違いない。しかし正確な数字となると不明だ。個々の投資の詳細がつかみにくいという点よりも、AIが意味する範囲にコンセンサスがない点がいちばん大きな問題だと思う。

画像:Paper Boat Creative (opens in a new window) / Getty Images

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滑川海彦@Facebook Google+

Appleよ、これほどまでに機種変を遅らせたことをお詫びしたい

Apple今夜(米国時間1月2日夜)悪いニュースを発表した 。実際のところ、Appleは、11月に出した四半期決算報告書の予想を下回るだろうという悪いニュースを発表しながら、しばらくのあいだ株式の時間外取引を停止しなければならなかった。その発表で、Appleはアジア、特に中国の売り上げの不調を原因だとしたが、その不調の原因の一部は私に向けることもできるのではないかと思う。

ご存知の通り、私もその問題の一部だったのだ。良い方向に考えれば、今週私は遂に私のiPhoneをアップグレードした。私は3年以上前の古いiPhone 6を使っていた。それはバッテリ寿命のせいで不機嫌になり、充電ケーブルは色々注意深く扱わないと上手く動作してくれなかった。携帯電話はテーブルの上に平らに置かれていなければならず、コードに軽く触れたり、よそ見をしたりするとしばしば接続されていない状態になった。

私は数ヶ月の間アップグレードを考えてはいたが、率直に言えば新しい電話に1000ドルを払うという考えが私の気持ちをげんなりさせていたし、なにより私の忠実な6は、ずいぶん昔に一括払い済みだったのだ。その活力の最後の1ビットまで絞り尽くすつもりだったのに、ああ全く!

結局、古い電話に対する大いなる欲求不満を抱えていたところを、200ドル分のクレジットを提供するという手で絡み取られ、電話を替えることになった。元日である昨日、私は最も近いApple Storeに向かい、ついにAppleの期待に応えた。

私は古い6を買い替えたが、だがそのやりかたは、おそらく無数に重ねられる傷の1つとして、Appleを死に近付けるようなものだったかもしれない。告白すると、私はもっと高価なXSを買おうと思って店に入ったのだが、結局もっと安価なXRを手にして店を出たのだ。私は2台の電話機を見比べたが、256GBの記憶容量を持つ電話に1000ドルを超える支出をすることは正当化できなかった。私は6よりも長いバッテリ寿命、優れたディスプレイとカメラを求めていたのだが、XRがそれを与えてくれたからだ。もちろん、さらに優れた電話機を手に入れることはできたが、結局のところ、私にとってはXRで十分で、これまで使っていたものに比べれば大幅なアップグレードだったのだ。

明らかに、世界中の多くの人びとが同様の考えを持っていて、そのことが他のことにつながり、あっという間に株式取引の一時停止と悪いニュースがやってきたのだ。この記事を書いている時点で株価が7パーセント以上下がっている(日本版翻訳時点では一時9%以上下げている)。

なので、大変申し訳ないがAppleよ、新しい携帯電話のコストという点を考えたときには、ある転換点があるように思える。これらの機器が私たちの生活に欠かせないものになっていることと同時に、世界中の多くの消費者たちにとって、新しい携帯電話に1000ドル以上を支払うことを正当化することは本当に困難なことなのだ。Appleはそれを認める必要がある。

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(翻訳:sako)

サイバー情報漏洩は2019年に多発する

この著者による他の記事:

注目を集めるようなサイバー情報漏洩のニュースは、珍しいことにここ数ヶ月数が減っている。しかし最近では、Marriott International/Starwoodが長年にわたり、最大5億人に達する個人情報を盗まれていたことが発覚した。これに匹敵するのはYahooに対して行われた2013年と2014年の攻撃ぐらいである。

これは2019年のハッキング状況が悪化する前兆なのだろうか。

その答えは間違いないイエスだ。疑いようもなく、サイバー情報漏洩は、長年にわたり世界経済の巨大な悩みのタネだった。しかし、継続的に改良され続けるマルウェアが、より多くの分野でより積極的に展開されるために、新しい年にはそれらがさらに蔓延することが予想される。

さらに、各企業が、効率性を高め、コストを削減し、データ駆動型ビジネスを構築するために、デジタル化を追求するにつれて、結果としてサイバー攻撃の「標的」として浮上することになる。デジタルエコノミーが拡大するにつれて、自然と脅威の可能性も広がることになる。そして状況を悪化させているのは、ハッカーや他の悪者たちが自分たちの邪悪な行いを拡大しようとするときに、機械学習とAIを使用していることだ。

悪用されるAI駆動チャットボット、サービスとしての犯罪ソフトウェア(crimeware-as-a-service:CaaS)の大幅な増加、データの武器化の加速、ランサムウェアの再増殖、および国家規模のサイバー攻撃の大幅な増加などに注目して欲しい。また、いわゆるクリプトジャックと呼ばれる攻撃も増加している。これは目立たずより狡猾に利益を上げる手段である。疑うことを知らない犠牲者からウエブサイト上のスクリプトを使って計算リソースを奪う侵襲的な手法なのだ。

それから、特定の開発者たちを狙ったソフトウェア破壊行為や、ソフトウェアアップデートサプライチェーンへの攻撃なども大幅に増加するだろう。

以下に、最も心配される脅威をいくつか挙げることにしよう:

AI駆動チャットボットの出現。新年には、サイバー犯罪者やブラックハットハッカーたちが、ソーシャルエンジニアリングを用いて被害者たちを、リンクのクリック、ファイルのダウンロード、あるいは個人情報のシェアに導く、悪意のあるチャットボットを作成してくるだろう。ハイジャックされたチャットボットは、被害者を正当なリンクではなく、不正なリンクへと容易に導くことだろう。攻撃者はまた、正当なWebサイトのWebアプリケーションの欠陥を悪用して、悪質なチャットボットを無害だったサイトに挿入する可能性がある。

地下経済の新たな要素であるCaaS(サービスとしての犯罪ソフトウェア)による、都市への攻撃。敵は、とりわけデータの整合性を攻撃する新しいツールを利用して、強制的にハードウェア交換をせざる得なくなるようにして、コンピュータを使い物にならなくする。テロリスト関連のグループが主犯となる可能性が高い。

国家による攻撃の大幅な増加。ロシアは、より大きな目的の一環として標的型サイバーアクションを利用する、リーダーであり続けてきた。例えば、今年の初めにFBIは、ロシアの継続的攻撃者であるSofacyグループが、世界中のホームオフィスルーターやストレージに接続されたネットワークを遠隔操作するために、ウィルス感染を行ったことを暴露した。セキュリティの貧弱な何十億ものIoTデバイスに助けられて、同様のシナリオの遂行を狙う他の国家にも注目して欲しい。

データの武器化が増大。すでに大きな問題だが、技術大手によるユーザーのセキュリティとプライバシー強化にもかかわらず、それらがさらに悪化することは確実だ。マイナス面とプラス面のバランスを考えることで、何千万人ものWebユーザーたちが、果たしてインターネットからどれほどの利益を得ているのかと真剣に疑問視し始めている。

たとえば、個人データと「プライベートな」通信を利用して、毎年数十億ドルの利益を生み出していることを隠さないFacebookのことを考えてみよう。ユーザーは、興味あるものやブランドに対して積極的に「いいね!」を行い、個人情報を差し出している。このことによって、Facebookはユーザーベースのより完全なイメージ ―― 広告主にとっての金脈 ―― を提供することが可能になる。

さらに悪いことに、今年初めにFacebookは「感情的な伝染」実験を通して、ユーザーの気分を操作しようとした。これはユーザーたちに、その仲間たちに向かってその感情に影響を与えさせた。すなわちデータの武器化である。

ランサムウェアの再燃。WannaCryの流行と、それに続いた何件かの、知名度の高い被害者をターゲットとした攻撃によって、ランサムウェアは2017年のシーンに爆発的に広がった。FBIによると、米国でのランサムウェアに対するトータルの支払い額はここ数年で10億ドルを超えている。ここ数ヶ月は、ランサムウェアの有名な犠牲者はほとんどいなかったが、2019年にはこの問題の激しい揺り戻しが起きる可能性が高い。ランサムウェアは波状攻撃であり、次の攻撃も必須だ。

ソフトウェア開発プロセスの破壊とソフトウェアアップデートサプライチェーンへの攻撃の増加。ソフトウェア開発に関して言えば、マルウェアはすでに一部のオープンソースソフトウェアライブラリで見つかっている。一方、ソフトウェアアップデートサプライチェーンへの攻撃は、ソフトウェアベンダーのアップデートパッケージを侵害する。顧客がアップデートをダウンロードしてインストールすると、知らないうちにシステムにマルウェアを導入してしまう。Symantecによると、2016年には実質的な攻撃がなかったにも関わらず、2017年には毎月平均1回の攻撃があった。この傾向は2018年も続き、来年はさらに悪化するだろう。

衛星へのより多くのサイバー攻撃。6月にSymantecは、地理マッピングとイメージングに携わる東南アジアの通信会社の衛星通信を、無名のグループがターゲットにすることに成功したと発表した。Symantecはまた、防衛関連契約業者の衛星に対する、中国国内からの攻撃も報告している。

それとは別に、8月に開催されたブラックハットの情報セキュリティ会議では、インターネットに接続するために、船舶、飛行機、そして軍隊によって使われている衛星通信は、ハッカーによる攻撃に対して脆弱であることが示された。最悪のシナリオでは、ハッカーが衛星アンテナをいわば電子レンジのように動作する武器に変えることができる「サイバーフィジカル攻撃」を実行する可能性があると、その研究は述べている。

幸いなことに、2019年のサイバー概況は完全に厳しいばかりのものでもない。

サイバーセキュリティの側面では、パスワードのみのアクセスは放棄されて、多要素認証がすべてのオンラインビジネスの標準になると信じている専門家の数が増えている。さらに、多くの州では、欧州の厳格な「一般データ保護規則」(GDPR:General Data Protection Legislation)に準拠した規則の適用が予定されている。そのうちの1つ、カリフォルニア州では、2020年以降、データ漏洩が起きた際に消費者が会社を訴訟するのを容易にする法律を、すでに可決している。

結局のところ、個人、企業、政府機関は、サイバーセキュリティの状態を改善するために、できることは全て行う必要がある。そのことによって情報漏洩を根絶することはできないが、ある程度の回避を行ったり、被害を軽減する可能性を高めたりすることはできるのだ。

画像クレジット: vertigo3d

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(翻訳:sako)

2018年、ようやく我々はスクリーンタイムを真剣にとらえ始めた

今年初め、私がCatherine Priceによる“How to Break Up With Your Phone”のカバーを見たのは、iPhoneを使ってAmazon上で新作をブラウズしていたときだった。私はそれをKindleにダウンロードした。というのも、私は純粋にスマホ使用時間を減らしたかったからだ。しかしそれはまた、スマホと決別することについて書かれた本をスマホで読むのはおかしいと考えたからだ(バカでしょ、わかってる)。しかしながら何章か読むうちに、私はPriceがお勧めしているスクリーンタイム追跡アプリMomentをダウンロードするべきだと考えた。そしてこの本を印刷された本として再購入した。

“How to Break Up With Your Phone”の初めの部分で、Priceは読者にDavid Greenfieldによって作成されたSmartphone Compulsion Testを受けるよう呼びかけている。David Greenfieldはコネチカット大学で精神医学の教授を務めていて、Center for Internet and Technology Addiction(インターネット・テクノロジー中毒のためのセンター)も立ち上げた。テストには15の質問があり、しかし私は最初の5問を答えるだけで壁にぶち当たった。公にするのはためらわれるのだが、屈辱にもかなりのハイスコアで、私はスマホ使用を短くすることに真剣に向き合うことを決めた。

Priceの本の中でも、“Putting the Dope in Dopamine” という章が私が最も共感するものだった。彼女は「電話やほとんどのアプリは、我々が十分に使用したときでも“流れを止めること”がないように故意的にデザインされているーこれが、ふとしたことから簡単に度を過ぎてしまう理由だ。あるレベルで我々は、自分たちがしていることはひどい気分にさせている、と気づく。しかし、使用を止める代わりに、我々の脳は解決策はより多くのドーパミンを模索することだと決めつける。そして我々は再びスマホをチェックする。そしてまたチェックする。その繰り返しだ。

ひどい、というのはまさしく私が感じていたことだ。私が最初にiPhoneを購入したのは2011年のことだ(その前にはiPod touchを持っていた)。それは、私が朝まず一番に見るものであり、夜最後に見るものでもあった。それは、仕事の状況を確かめるため、と言うこともできるが、実際には自動的なものだった。もし、頻繁にスマホに注意をひきつけられていなかったら過去8年間に自分が何を成し得ただろうと考えると不安な気持ちになる。また、脳のフィードバックループがどうなっていたかとも思う。砂糖が好みを変えてどんどん甘いものが欲しくなるというふうに、私は増えるばかりのスマホ使用が、本当の喜びや満足というものを感じる能力を失わせてしまうのではないかと憂慮した。

Priceの本は2月に出版された。テック企業が最終的に長すぎるスクリーンタイムについて責任がある(少なくとも、言葉だけでなく何かしら行動を伴う対策をすべき)と認識し始めたと思われる今年初めのことだ。iOS 12でスクリーンタイムが導入されたのに加えて、AndroidのデジタルウェルビーイングツールFacebookInstagram、そしてYouTubeもユーザーが何時間そのサービスやアプリを利用したか追跡できる機能を立ち上げた。

今年初め、Apple株を保有する有力な投資家もまた、Appleに対し同社のデバイスが子どもにどのような影響を及ぼしているかに関心を払うよう要求した。Appleへの書簡で、ヘッジファンドJana Partnersとカリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)は「オリジナルクリエイターの多くが公にしているように、iPhoneとiPadがデフォルトゲートウェイとしているソーシャルメディアサイトとアプリは通常、中毒になるよう、そして可能な限り時間を潰すようにデザインされている」とし、さらに「子どもの親にこうした問題に対処するよう尋ねるのは非現実的で、満足するような長期的ビジネス戦略とはいえない」と書いている。

累積する研究データ

そして11月、ペンシルベニア州立大学の研究者は重要な新レポートを発表した。このレポートは青年期層におけるソーシャルメディアの使用と鬱を関連づけている。心理学者Melissa Huntが率いたこの実験研究では、大学が貸与したiPhoneを手にした143人の学生を3週間にわたってモニターした。学生は2つのグループに分けられた:1つのグループはFacebookやSnapchat、Instagramといったソーシャルメディアの利用時間を1日あたり10分に制限するよう指示された(彼らのiPhone使用状況はiOSバッテリー使用をチェックすることで確認された)。もう一つのグループは普段と同じようにソーシャルメディアの利用を続けた。研究の初め、まずは鬱、不安、社会的サポート、他の問題を測る標準的なテストが行われ、それぞれのグループは実験期間を通してテストによる評価を受けた。

専門誌Social and Clinical Psychologyに発表された結果は驚くべきものだった。研究者らは「使用を制限されたグループは、もう一つのグループに比べ、3週間にわたって孤独感や気分の落ち込みの大幅な減少を示した」と書いている。

ソーシャルメディアの使用を完全に制限されたわけではなかったにもかかわらず、コントロールされたグループは恩恵を受けた。「どちらのグループも、最初に行なった評価テストでみられた心配や不安について著しい低減がみられ、これは自己監視の高まりの効果を意味している」と研究はまとめられている。「我々の研究でわかったことは、1日30分ソーシャルメディアの使用を減らすことで健康面で明らかな改善につながる、ということだ」。

今年発表された他の学術研究でも、スマホやモバイルアプリがユーザーの心身の健康に著しい害を及ぼすという、いくつもの証拠を示している。

プリンストン大学、ダートマス大学、テキサス大学オースティン校、そしてスタンフォード大学の研究者らは、写真やビデオ撮影を含むスマホの使用が記憶の形成能力を低減させているという研究結果を専門誌Journal of Experimental Social Psychologyに発表した。また他の研究は、スマホをベッドルームから遠ざけることや、仕事中に机からも遠ざけるよう注意喚起している。トレド大学の視覚研究者は、デジタルデバイスが発するブルーライトが網膜で分子レベルの変化を引き起こし、黄斑変性を加速させる可能性があるとしている。

だから過去12カ月、私はスクリーンタイムを減らすのに、十分すぎるほどのモチベーションを持っていた。実際、私は携帯でニュースをチェックするたびに、スマホ使用にかかる危険についてのヘッドラインを目にしていた。私は、自身の累計スクリーンタイムを追跡するため、そしてそのスクリーンタイムがアプリごとにどうなっているのかを追跡するのにMomentの使用を開始した。私はMoment内のコース2つ、“Phone Bootcamp”と“Bored and Brilliant”を使った。また、このアプリで毎日のスマホ使用時間制限を設け、その日それまでにどれくらいの時間をスマホに費やしているかを通知する“小さなリマインダー”をオンにした。そして“Force Me Off When I’m Over” (制限を超えた時は強制終了する)機能も使った。この機能は、その日の制限を超えたときにスマホをオフにするというもので、基本的にあなたを悩ますものとなる。

最初、私はなんとかスクリーンタイムを半分にすることができた。Priceの本に書かれていたような、注意力が持続するようになるなどメリットのいくつかは出来すぎた話だと考えていた。しかし私は、スマホ使用を制限し始めてわずか1週間後に自分の集中力が実際かなり改善しているのに気づいた。私は長文の記事をよく読み、テレビ番組をいくつか観て、幼子のためのセーター編みを終わらせた。さらに重要なのは、自分の時間の費やし方について1日の終わりに感じていたしつこい感覚が消えたことだ。なので私は、それ以降、クリックベイトややり直しのレッスンなどで自分の人生を浪費していない、という心地よい認識の中で幸せな時間を過ごした。

冗談だ。

数週間もすると、私のスクリーンタイムは増え始めた。最初に私はMomentの“Force Me Off”機能をオフにした。なぜなら私のアパートは電話線をひいておらず、夫からのテキストメッセージをチェックできるようにする必要があったからだ。小さなリマインダーは継続していたが、徐々に無視するのが簡単になった。特に考えもなくInstagramやRedditをスクロールしさえし、私は自分の人生のいい時間の誤った使い方をしているという、実存主義の恐怖を感じた。スクリーンタイムを制限するのはなぜ難しいのだろう。

スマホをやめる方法を知っていたらよかったのに

私はMomentのCEO、Tim Kendallに識見を求めて尋ねることに決めた。UIデザイナーでありiOSデベロッパーのKevin Holeshによって2014年に設立されたMomentはつい最近、Androidバージョンも立ち上げた。スクリーンタイムを減らすためのForestFreedomSpaceOff the GridAntiSocialApp Detoxなどを含むこの分野で、Momentは最も名の通ったものの一つだ。

Kendallは、私に悩んでいるのはあなただけではないと告げた。Momentはユーザー700万人を抱えていて、「過去4年、平均スマホ使用時間は毎年増えている」と彼は語る。全データをみることで、MomentのチームはMomentのツールやコースがユーザーのスクリーンタイムを減らすのに効果があることを把握している。しかし、多くの場合で、スクリーンタイムが増え始める。新たな機能でその問題に対処するのが、来年のMomentのゴールの一つだ。

「我々は、こうしたカテゴリーに入る人々をいかにして手助けするか模索するため、R&Dにかなりの時間を費やしている。彼らはPhone Bootcampを実践し、いい結果を得て、メリットを実感する。しかしどうやってそれを維持するかを理解できないのだ」とKendallは話す。Momentはすでに新しいコースを定期的にリリースしていて(最近のテーマは睡眠、集中する期間、家族の時間だ)、最近では購読制の提供も始めた。

「習慣と長く続いた行動を変えるのは本当に難しい」とKendallは言う。Kendallは以前Pinterestの代表を務め、Facebookでは収益化を担当するディレクターだった。しかし彼は楽観的だ。「これは扱いやすい問題だ。人々は実行できる。成果はかなり大きいと考えている。我々はこれらのコースを継続し、人々を手助けするために多くの異なる方法の開拓も行なっている」。

ヘッジファンドJana Partnersとカリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)は手紙の中で、特に重要な問題は絶えずデバイスにアクセスできるティーンエイジャーと若年成人で構成される第一世代がいかに過度なスマホ使用で影響を受けているかだ、と述べている。Kendallはティーンエイジャーの自殺率が過去20年間で劇的に増えたと指摘し、ペンシルベニア州立大学の研究にみられるように、スクリーンタイムと鬱の関連性はすでに何年にもわたって取り上げられている。

しかし希望はある。Kendallは、スマホ使用時間を減らすために毎日のエクササイズを提供するMomentのコーチ機能が特にミレニアル世代で有効のようだ、と話す。この世代は、病的にスマホから離れられない場合が多い。「20代、30代というのはコーチを取り込むのにさほど苦労はしないようで、それゆえに40代、50代よりもスマホ使用を減らしている」と話す。

Kendallは、Momentがスマホ使用について「使用するか、しないか」と位置付けているわけではないと強調する。そのかわり、彼は人々がソーシャルメディアのような脳にとってのジャンクフードとなるものを、オンライン語学コースや瞑想アプリのようなものに置き換えるべきと考えている。「慎重なスマホの使用は、手にするものの中で最も素晴らしいことの一つだと本当に考えている」と話す。

私は、自身のスマホ使用のほとんどを制限し、Kindleのようなアプリにかえようと試みたが、最もいい解決策は自分自身の気が散らないようオフラインの選択肢を探すことだった。たとえば、私は新しい編み物とかぎ針編みのテクニックを試みた。これは、スマホをもちながらこうしたことはできないからだ(ポッドキャストやオーディオブックは聞いたが)。また、これはスマホを離れた時間を触覚ではかることにもなる。というのも、スクリーンタイムをカットするこの時間は編み物で完成させる列の数に関係するからだ。特定のアプリの使用を制限するために、私はiOSのスクリーンタイムに頼った。しかしながら、“Ignore Limit(制限を無視する)”をタップするのは本当にたやすく、私はMomentの機能に頼り続けている。

いくつかのサードパーティのスクリーンタイム追跡アプリデベロッパーは最近、Appleのより精密な調査対象となっていることを認識しているが、KendallはScreen Timeの運用開始はMomentの事業やサインアップにさほど影響していない、と述べている。Androidバージョンの立ち上げではまた、新たなマーケットを切り開いている(Androidでは、タイマーをセットしている間は特定のアプリにのみアクセスできるなど、iOSでは展開できていない新機能を加えることができた)。

iOSのScreen Timeの短期的な影響は「ニュートラルだが、長期的には有用だと考えている」とKendallは話す。「長期的には注意を喚起するのに役立つ。ダイエットの例になぞらえていうと、Appleは素晴らしいカロリー計算機とスケールを作った。しかし、残念ながら彼らは栄養のガイドラインや摂生方法を提供していない。もし行動の経済学者に話をする機会があれば、数字は人々のモチベーションにはつながらないことがわかる」。

罰を与えるのも、少なくとも長期的にはうまくいかない。なので、Momentでは“同情的な声”手法をとっている、とKendallは語る。「これは我々のブランドや会社、気風の一部だ。もしユーザーが我々のプロダクトを使用した時に審査されていると感じれば、我々がユーザーの役に立つとは思えない。ユーザーは自分たちがケアされ、そしてサポートされていると感じる必要があり、そして彼らはゴールは完璧さではなくゆるやかな変化だということも知っている」。

多くのスマホユーザーがおそらく私と同じような状況にあるだろう:スクリーンタイムによってアラームが鳴り、無駄にした時間について不機嫌になり、しかしまたデバイスを手放すことはとても難しいと感じている。我々は注意をそらしたり、ソーシャルメディアの「いいね」で興奮したりすためだけにスマホを使っているわけではない。仕事を管理したり、友達と連絡を取り合ったり、予定を立てたり、本を読んだり、レシピを調べたり、面白い場所を探したりするのにスマホを使う。私はこれまで何回もYondrのバッグ購入や、夫に私のスマホを隠すようにお願いしたりすることを考えた。しかし、それらが究極的な解決策にはならないことを知っている。

安っぽく聞こえるかもしれないが、変革の勢いは内側から出てこなければならない。大量の学術論文、スクリーンタイムアプリ、分析どれもそれにとって代わることはできない。

私が自分自身に言い聞かせていることは、デベロッパーが我々ユーザーに行動を改めることを強制するような方法を見つけるか、モバイルコミュニケーションにおいて大きなパラダイムシフトが起きるかしなければ、私のスマホとの関係性は堂々巡りだろう、ということだ。時々私は自分のスマホ使用についてハッピーになり、それから堕落し、そして別のMomentのコースをとるか、新たなスクリーンタイムアプリを試して、願わくば元の軌道に戻る。しかしながら、2018年、スクリーンタイムはようやく、是が非でも急を要するものだと認識されるところとなった(そしてその間私は、親指で#knittersofinstagramとタイプするだけの代わりに、実際にいくつかの編み物を完成させた)。

イメージクレジット: Ocipalla/ Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

Juulはいかにして人びとを電子タバコの煙に巻いて、380億ドルもの価値を生み出したのか

中毒性のあるプロダクトデザインの秘訣

Juulはタバコではない。それよりずっと手軽なものだ。以下に説明する悪魔的に巧みな製品デザインによって、このスタートアップは人がニコチンの虜になる障壁を大幅に引き下げた。Juulはタバコを一服する道に立ちふさがる、あらゆる障壁を解体したのだ。

その結果は、先週行われたマルボロ(タバコの銘柄)の製造者であるAltriaからの128億ドルの投資を受けて、新しい評価額が380億ドルになったことや、爆発的に広がるティーンエージャーやその他の世代の間での、電子タバコ習慣の広がりとして現れている。ゲームはゲームを知る。この場合Altriaのゲームとはニコチン中毒である。AltriaはJuulの戦術に一歩先行されたことをよく認識していたために、自身の時価総額の10分の1以上の資金を、現金でスタートアップに投資することによって、自身の地位を守ろうとしているのだ。

Juulは、人びとを明らかに危険性のある本物の喫煙習慣から、より健康的だと考えられている電子タバコへと切り替える手助けをできると主張している。しかし実際には、その小さなアルミニウム製のデバイスは、これまで何も吸っていなかった人びとが電子タバコを吸うようになることを助けている…その中にはやがて実際のタバコの喫煙を始める者も出てくるだろう。ある研究では、これを通してタバコを始める人のほうが、タバコを止める人よりも多いことが示されている。その報告によれば、2015年には2070人の喫煙成人が電子タバコのおかげで実際の喫煙を止めているが、その一方で電子タバコを使ったティーンや若者のうちの16万8000人が日常で本物のタバコ喫煙を始めたと推定している。

写真:Gabby Jones / Bloomberg via Getty Images

Juulはどれほどの速さで全国に広まったのだろうか?調査会社のNielsenによれば、昨年9月に米国電子タバコ市場の27%を占めていたJuulは、現在75%のシェアを占めていると言う。それからの1年で、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は過去30日間に電子タバコを利用した高校生の割合が75パーセント増加したと言う。それは10代の中の300万人、あるいは全高校生のおよそ20%に相当する数だ。CNBCによれば、2018年のJuulの収益は約15億ドルになりそうだ。

健康への影響はさておき、Juulは生涯続く悪習慣を身に付けることを途轍もなく容易にする。親たち、規制当局、そして潜在的電子タバコ利用候補者たちは、この先Juulの誘惑を抑えたいという希望を持っているならば、なぜJuulがこれほど成功したのかを理解する必要がある。

共有可能性

初めてタバコを試すのは大変だ。熱と煙で喉が焼ける。味は不快で圧倒的だ。匂いが吸うものの指と服を覆い、喫煙者としてマークされる。タバコを無駄にしないように、丸々1本を吸い切らせる圧力を感じる。たとえ友人のタバコを試そうとしているときでも、まずは1本に火を点ける必要がある。そして、より大型の最新型の電子タバコ(温度や味をカスタマイズできる)とは違い、Juulは吸う者を間抜けな電子タバコ中毒者には見せないという特徴がある。

Juulは喉にとって普通のタバコよりもはるかに優しい。味はより穏やかで、それも様々な風味で隠すことができる。蒸気はそれほど迅速にあなたを染め上げたりしない。バーで友人のJuulを一吸いさせて貰うことも可能だし、吸い始めた後でも気にすることなくいつでも中断することができる。エレガントで分離可能な形状は、利用者をヘビーな電子タバコユーザーには見せることがない。とてもカジュアルだ。それでも、公共の場における、利用者の仕草や人びとが吐き出す「煙」は、「それって何?ちょっと試してもいい?」という質問を引き出すのには十分だ。デバイスの普及に拍車をかけたニコチン供給機を、メディアで持ち上げた、JuulのミームとInstagram Storiesについて書かれた記事も、沢山存在している。

そしておそらくとても狡猾なのは、電子タバコはより健康に見える点だ。生まれてからずっと続いている禁煙広告とタバコの害を訴えるラベルは、私たちの脳髄に危険性を深く埋め込んでいる。だが、少量の蒸気がどれほどの害をおよぼし与えうるのだろうか?まあ、蒸気中のニコチンや他の化学物質は、血管の柔軟性を損ない、動脈硬化を促し、血圧と心拍数を増し、そして肺胞マクロファージに対して有毒であることによって肺を傷つける。たとえタバコほど悪くないとしても、それでも蒸気を吸うことは危険だ。そしてそれは必ずしも人に禁煙をさせる力があるわけでははない。

ある研究によれば、電子タバコを吸い始めた喫煙者のうち、実際にタバコを1年後に止めた者はわずかに10%だった。一度もタバコを吸ったことがなかった私の友人は、今では毎日1パックのJuulを消費していると私に語る。誰かが彼に、ナイトクラブで、一服試してみるように勧めたのだ。すぐに彼は他人にJuulをねだるようになった。やがて自分でそれを買い、それから決して振り返らないままだ。彼はこれまでパーティでずっとタバコの煙に囲まれていたが、決して自分でそれに手を出すことはなかった。Juulは抵抗する力をやすやすと奪ったのだ。

隠蔽可能性

タバコに火をつける行為は、多くの場所で禁止されている目立つ行為だ。これに対してJuulからちびちびと吸い込む行為はそれほどのものではない。

紙巻タバコはしばしば室内で喫煙することを禁じられている。それを隠すのは至難の業だし、下手をすると追い出されてしまうことになる。吸い始めるためにはライターを手に持って火を扱う必要がある。それらはポケットの中で潰れたり湿ったりするかもしれない。先端が燃えているために狭い場所では手に負えないものとなり、先端の火や落ちる灰はカーペットにダメージを与え、汚してしまうかもしれない。紙巻きタバコを吸うのは、どうしても紙巻きタバコを吸いたいからだ。

公的機関は、いまだにJuulsや他の電子タバコをどう扱うべきかを決めかねている。喫煙を禁止している多くの場所は、電子タバコに対する明示的な禁止を行っていない。匂いの少ない蒸気と、あまり目立たない動きによって、それを隠すのは実際簡単である。飛行機でも、知らん顔をして試して、もし咎められても規則を知らなかったのだと言うかもしれない。金属製のスティックは壊れにくい。誰も焦がすことはない。灰皿も不要だし、上着やソファに穴をあけるようなドジを踏むこともない。

バッテリーが充電されている限り、余計な道具は不要だ。そしてライターのようなもので誰かの注意を引くこともない。バッテリーの寿命を普通の喫煙者は心配することはないが、ヘビージューラー(heavy Juuler)にとっては主要な関心事だ。だがいまやJuulをいつでも使えるようにするために大きな携帯充電器を持ち歩いている人たちがいることを私は知っている。しかし、助け合いネットワーク現象も生まれつつある。iPhoneのコードと同じように、Juulsは他のユーザーからバッテリースティックや充電器を借りることができるくらい一般的になりつつある。

そして、多くも少なくも、好きなだけ何服でもできるために、Juulを無意識のうちにいつでも使うことになる。机の前で、ダンスフロアの上で、運転しながら、そしてベッドの中でさえ。友人の姪と甥は、クラスの10代の同級生たちが、袖口に隠しながらJuulを吸うところを見たと言う。数学の授業中に本物のタバコを吸うほど厚かましい子供はいないだろうに。

配布可能性

ジレットは素晴らしいカミソリとカミソリ刃のビジネスモデルを開拓した。時々割り引かれるカミソリ本体を買う、すると高価な専用カミソリ刃を買い続けなければならない。Dollar Shave Clubは、消耗品のカミソリ刃を自宅に届けるサブスクリプションモデルを提供することで、この戦略をレベルアップした。Juulはこの両者を、物理的に中毒性のある製品と組み合わせているのだ。

タバコを一箱吸い終わったならば、喫煙を止めることができるかもしれない。何も残っていないからだ。しかしJuulの場合には電子タバコパックを吸い終わったとしても、35ドルのバッテリーパックが後に残される。先行投資を回収するためだと、パックを買い続けさせて、Juulエコシステムに利用者を留めようとする誤った考えが存在している。

写真:Scott Olson/Getty Images

タバコと比較した場合の、Juulの唯一の普及阻害要素は、まだどこにでもあるわけではないということだ。タバコを売っている店舗にも、まだ取り扱っていない場所もある。しかし、ますます多くの店がそれらを扱い始めていて、Altriaの後押しによってそれは広まって行くことだろう。そしてJuulは「自動発送」オプションを提供している。これは4パックで16ドルの商品から2ドルを割引してくれるオプションで、こうなると自分で購入することを考える必要すらなくなるのだ。止めるきっかけを得られるだろうか?まあ、パックは次々に手に入るのだから、それをただ使って行くことになるのだろう。規制によるものか、イノベーション不足なのかは知らないが、私は従来のタバコのサブスクリプション配送オプションを見つけることはできなかった。

そして、JuulsやJuulパックを違法に購入したい未成年者たちにとっては、その小さなサイズは密かに購入したり、転売したりすることを容易にする。最近放送されたサウスパークのエピソードでは、小学4年生の複数の競合するシンジケートが、Juulパックをさらに幼い子どもたちに売っていた。

恥ずべき振る舞い

Juulの共同創業者James Monseesは、San Jose Mercury Newsに対して次のように語っている「最初の段階は、その価値を証明して、タバコを時代遅れにする製品を生み出すことです」。だが、彼は決してJuulはニコチンを時代遅れにしたり、中毒者の数を減らしたいとは言っていないことに注意して欲しい。

Juulの共同創業者James Monsees

もしJuulが本当に中毒との闘いを気にかけているのなら、ニコチンから利用者を引き離すための処方を提供するだろう。だが同社は、人が止めることを助けるような、低用量あるいは無用量のパックを販売してはいない。米国では、5%と3%のニコチンバージョンしか販売していないのだ。イスラエルのような最大用量に対する法的規制のある国に対しては、1.7%のパックを製造しているが、それを米国内で販売することは拒否している。最大のタバコ会社のうちの1社から120億ドル以上を調達したことを思うと、そのミッションステートメントも虚しく響く。

Juulは死のスティックビジネスに他ならないが、AppleやFacebookが得意とするような、プロダクトデザインと口コミの力で支えられているのだ。

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(翻訳:sako)

インターネット上の民族国家:インターネット民族国家を成立させるための要件は、デジタル遊牧民か、ブロックチェーンか?

インターネットは一種のコミュニティであることは間違いないが、民族国家になることは可能なのだろうか? 私は、そのことについて、今年一年、あれこれじっくり考えてきた。というのも、デジタル遊牧民が勃興し、ブロックチェーンコミュニティの一部に、深く根付いたリバタリアン的な精神が目立つようになってきたからだ。同じように感じているのが私一人ではないのは確かだ。何週間か前にNorwest Venture PartnersのMatt Howardにインタビューしたとき、彼はUberがIPOするときには、「民族国家」の状態に達することができる数少ない企業の1つであると(自ら)述べていた。

明らかに、インターネットは、同じような考えを持つ人々の、数多くの多様なコミュニティにとって母体となる存在だ。しかしどうすれば、そうしたコミュニティは、異質なものの集まりから民族国家にまで変容できるのだろうか?

この疑問は、1983年に出版された『Imagined Communities(日本語版:『想像の共同体』)』を思い出させる。それは、これまでに出版された社会科学を扱った本の中で、もっとも賞賛された(そして論争をまき起こした)ものだ。当然ながら、それはもっとも頻繁に引用されてきた。Google Scholarによれば、ほとんど9万3000件に近い引用があったとされている。

著者のBenedict Andersonは、政治学者および歴史学者であり、ナショナリズムはどこから来るのかという単純な疑問について熟考している。我々は、すべての戦友に直接会ったこともなく、これからも会うことはないだろうに、どうして旗のようなシンボルによって他人と連帯することができるのか? なぜ、すべての国は自分たちを「特別」だと考えているのか。どこからどう見ても、(国家元首、人種、国旗、その他含めて)みんな同じに見えるのに。そして、民族国家というものは、どうしてこんなに最近になって発明されたのか?

Andersonの答えは、その本のタイトルに示されている。人々は、自分たちのコミュニティと、それが擁する価値観や人間を想像することができれば、国家を形成することになる。そして、その仮想的な共同体のメンバーと、そうでない人々を隔てる境界(物理的にも認知的にも)を画定することができるのだ。

しかし、コミュニティを想像するには、そのコミュニティを結束させるためのメディアが必要となる。印刷機の発明は必須だったが、国家の勃興には、その地域特有のメディアの発展が不可欠だとAndersonは言う。たとえば、カトリック教会のラテン語に対するフランス語のようなものである。辞書編集者は、情報を収集して辞書やシソーラスを出版し、印刷機は、資本主義による指図の圧力を受けながら、多くの本が詰まった本棚を生み出した。それらの本には、ほんの数十年前には認識の中に「存在」すらしなった人々の物語や神話が記述されていた。

民族国家自体は、スペインとポルトガルの帝国が衰退した後、南米で最初に発生した。Andersonは、それらの国家がどこに起源を持つのか、社会学的見地から論じている。そうした国家の官僚、弁護士、専門家といった地方のエリートの間の頻繁な情報の流布と、彼らの元の帝国の首都には戻れなくなったという状況もあって、大西洋の反対側にいる人達よりも互いに多くの共通点を持つことに気付いた人々のコミュニティが生まれた。

世界中の他のコミュニティが、それぞれ世界の中でユニークな位置にあることを理解し始めるにつれて、豊富な書籍や新聞の印刷文化を通じて、彼らはこれらの初期の民族国家モデルを取り入れることになる。我々は、収束する進化を見ているのではなく、世界中で実施されている、国家を組織するための1つのモデルのクローンを見ている、というわけだ。

実際のところ、これがこの200ページをわずかに超える、ときおり誇張はあるとしても、非常に読みやすい、薄めの本の論旨の心臓部なのだ。それらのページの中には、他にも数多くの本質的な指摘と熟考が散りばめられている。それらを完全に把握するためには、古本を手に入れて読み込んでみるのがいちばんだ。

とはいえ、私の目的としては、Andersonの論点が、インターネットの民族国家にもうまく適用できるかどうか、ということに興味が向く。確かに、インターネット自体が主権的な存在であるという概念は、それが発明されてたときからずっと指摘されてきた(もしまだなら、John Perry Barlowが書いた声明文を読んでみるといい)。

インターネットは、一連の想像上のコミュニティに過ぎないのではないか? subredditsは、文字通り、民族国家の種子なのではないだろうか? Andersonが印刷機や「印刷資本主義」について触れるたびに、私は「press」という言葉をWordPressに置き換え、印刷資本主義を、広告、あるいは監視資本主義に置き換えずにはいられない。我々は、数世紀前に最初の民族国家を生み出したのと同じメディア革命を経験しているのではないだろうか?

そうかもしれないが、それは過度に単純化し過ぎた比較であり、こうした民族国家の重要な起源のいくつかを見逃してしまうものだ。

写真はGetty Imagesにあるmetamorworksによるもの

重要な問題の1つは、民族国家は時間軸上の断裂ではなく、むしろ既存の権力構造と連続するものであるということ。この点に関して、Andersonの説は確固たるものだ。南米では、民族国家は植民地統治から生まれた。権力を失うことを恐れたエリート達が、芽生え始めた民族国家を利用して彼らの利益を守ったのだ(Andersonはこれを「官僚的ナショナリズム」と呼んでいる)。アンダーソンは、このパターンをあちこちに見出している。それは植民地時代の政府に限ったものではなく、中世後期の封建体制にも見ることができる。

そうした目でインターネットを見直してみると、エリートに相当するのは誰だろうか? おそらく、それ自体が本質的に帝国であり、「民族国家」の状態にある会社、GoolgeやFacebook(そしてUber)がそうだろう。私としては、それほどの類似性はないようにも思えるが。

しかし、さらに大きな問題もある。Andersonの世界では、言語が、民族国家がその市民を1つの想像上のコミュニティに結びつけておくための決定的な手段であるとされている。フランス語のないフランス、英語のないイギリスを想像するのは難しい。我々が我々のコミュニティを連想するためのシンボルは、そのコミュニティのシンボルそのものであり、それこそがコミュニティに対する不可欠なフィードバックループを形成し、差別化を強化する自己参照にほかならない。

だとすれば、ちっぽけなsubredditなどは、潜在的な民族国家としては除外されることになるだろう。しかし、それはまた別の問題を提起する。プログラマーはどうなのか、ということだ。

たとえば私がPythonでコードを書く際には、その言語を使い、その言語でコミュニケーションを取り(信じてもらえないかもしれないが)、その言語の選択による価値観を共有するグループの人たちとつながることになる。実のところ、ソフトウェアエンジニアは、プログラミング言語の選択を自分のアイデンティティと強く結びつける傾向がある。「Pythonの開発者」や「Goのプログラマー」であると言う方が、「アメリカ人」や「中国人」というよりも、その人のことをよく表すということもまったく納得できる。

そのことをブロックチェーンに注意深く接続することを考えれば、がぜん興味がわいてくるだろう。自律的に「富」を分配できる技術という意味での話だ。そこには、忽然としてソフトウェアエンジニアの想像上のコミュニティが浮かび上がってくる。そこで彼らは自分たちの利益にかなう官僚制度を作り出すことのできる独自の「言語」を話し、彼らすべてを(インターネットを通して)結びつけるメディアを手にしている。少なくともAndersonによるレシピに従えば、材料はすべて揃っているのだ。

私はこの方向に深く分け入るつもりはないが、Andersonの説に驚くのは、彼が人々の物理的な凝集について、ほとんど議論していない点だ。物理的な境界線を想像することは、コミュニティにとって非常に重要であり、各国における地図の発達は、歴史的な発展過程に見られる共通のパターンとなっている。しかし地図は、本質的に単なるシンボルであり、「この場所は我々のものだ」ということを想起させるものではあるが、それ以上のものではない。

実際、民族国家はいつも国境を逸脱する。アメリカ人は、全世界的な課税は普通のことだと思っている。フランスは、国民議会に海外地域の代表の議席を確保している。それによって、かつての帝国すべてに属していたフランス国民が投票して、その国の立法府の代表を選出することを可能にしているのだ。そして、先日カナダでHuaweiのCFOが逮捕されたことを聞き及んだ人は、今日の「司法権」には物理的な国境はほとんどないことを思い知らされることになる。

インターネットやその住人が民族国家になることを妨げる障壁は、物理的なものではなく認知的なものだろう。単にコミュニティを想像するだけでなく、それを最優先のコミュニティとして想像する必要がある。人々が、現実世界の国家に対する忠誠心や愛国心よりも、そうしたデジタルコミュニティへの忠義を優先させるようになったとき、私たちはインターネット民族国家を目にすることになるだろう。そうしたコミュニティには、すでにいち早く信奉者となった人たちがいて、まさにそのように行動している。残る問題は、それ以外の支持者も力を合わせて、想像の(サイバー)空間を創造しようとするかどうかである。

画像クレジット:iLexx/Getty Images

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(翻訳:Fumihiko Shibata)