NFTやDeFiにとっても逆風?米国のステーブルコイン規制の最新情勢と論点整理

NFTやDeFiにとっても逆風?米国のステーブルコイン規制の最新情勢と論点整理

編集部注:この原稿は千野剛司氏による寄稿である。千野氏は、暗号資産交換業者(取引所)Kraken(クラーケン)の日本法人クラーケン・ジャパン(関東財務局長第00022号)の代表を務めている。Krakenは、米国において2011年に設立された老舗にあたり、Bitcoin(ビットコイン)を対象とした信用取引(レバレッジ取引)を提供した最初の取引所のひとつとしても知られる。

今や220兆円を超える市場に成長した暗号資産ですが、2022年、業界全体を揺るがしかねない問題として注目されているのが、ステーブルコインに関する規制です。ステーブルコインに対して厳しい規制がかけられれば、最近ブームとなっているNFT(ノン・ファンジブル・トークン)やDeFi(分散型金融)にとっても逆風になるという見方もあります。

本稿では、クラーケンの本社がある米国におけるステーブルコイン規制の最新情勢と論点の整理を行います。

そもそもステーブルコインとは?

ステーブルコインは、暗号資産エコシステムにおける潤滑油的な存在です。ビットコイン(Bitcoin)のような資産性はありませんが、機関投資家が暗号資産取引を行うときに入れる担保であったり、NFTやDeFiといった新たなサービスにおける決済や担保手段として使われています。

代表的なステーブルコインは、米ドルと連動するUSDT(テザー)とUSDC(USDコイン)です。ブロックチェーンデータ企業CoinMetricsによりますと、ステーブルコイン市場は1400億ドル(約21兆円)。そのうちUSDTとUSDCは90%近いシェアを持っています。

NFTやDeFiにとっても逆風?米国のステーブルコイン規制の最新情勢と論点整理

ステーブルコインの市場規模

「銀行並み」の規制

2021年から米国ではステーブルコインに対する規制の必要性を訴える声が多く聞かれるようになりました。例えば、米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長は、2021年9月、ステーブルコインについて「ポーカーのチップのようなもの」と独特の表現でリスクに警鐘を鳴らしました

そして2021年11月、大統領直下の金融市場ワーキンググループ(PWG)がステーブルコインに関するレポートを公開してから、規制をめぐって雲行きが怪しくなりました。PWGのレポートは、米議会議員に対してステーブルコインの発行体を「銀行のような機関」として規制する法律を通すように提案しました。その中で特に注目されているのが、保険加入金融機関(IDI)のみにステーブルコインの発行を許可するという部分です。

2022年2月、PWGレポートの主な執筆者である財務省の幹部が、上院の公聴会で、ステーブルコイン発行体に対する銀行並みの規制案に関して、柔軟に対応すべきであると発言し、これまでのスタンスから軟化したといわれていますが、詳細は明らかになっていません。

暗号資産業界の反応

2021年11月のPWGレポート公開後、米国の暗号資産関連の業界団体ブロックチェーン協会(Blockchain Association)は、すぐにPWGレポートの分析レポートを公表しました。同協会は、ステーブルコインの流動性の向上や担保となる資産の証明といった観点から規制を歓迎する一方、ステーブルコイン発行体を保険加入金融機関として規制することには明確に反対しました。理由として、数多くのステーブルコインがある中で特定のステーブルコインを規制面で優遇することになること、大手銀行などが競争上の優位性を持ってしまうことを挙げています。

「そのような規制はイノベーションを窒息させて、新しいステーブルコインプロジェクトが米国に来なくなり、現在のフィンテック企業に対する規制の流れと逆行することになるだろう」

この他、PWCによる規制案は「ステーブルコイン発行体に必要不可欠な活動をするすべてのエンティティ」も規制の対象としていますが、同協会は、この定義はあいまいであり、「マイナーやソフトウェア開発者」も含まれてしまうのではないかと懸念しています。

クラーケンは、ステーブルコイン規制の動向を注視しています。グローバル市場でUSDT、USDC、DAI、PAXGという4つの主要ステーブルコインを取り扱っており、ステーブルコインの暗号資産市場における役割の大切さを実感しています。ブロックチェーン協会同様に、「古いルール」を新しい市場に無理矢理導入するといったような拙速な対応はするべきではなく、まずはステーブルコインついて正しく理解することが先決と考えています。

また、米国以外で英国やEUでもステーブルコインの規制が検討されていますが、国ごとに異なるルールと基準が設けられる「つぎはぎの規制」を避けるため、国際的な協調関係の強化が重要になるとクラーケンは考えています。

2021年末から日本でもステーブルコインの発行体に対する規制について議論があり、2022年の通常国会に資金決済法改正案の提出を目指すと報じられ、2022年3月に入り実際に提出されました。ただ、米国をはじめ世界各国では規制当局と業界側の対話が続いている状態であり、日本でもステーブルコインの発行体や暗号資産交換業を含む様々なステークホルダーの意見を取り入れて議論を続ける必要があると考えています。

画像クレジット:Tezos on Unsplash
CoinMetrics

イーサリアム互換ブロックチェーン構築クラウドなどを手がけるG.U.テクノロジーズがプレシリーズAで2.6億円の追加調達

イーサリアム(Ethereum)互換ブロックチェーン構築クラウドサービスなどを手がけるG.U.テクノロジーズは3月8日、プレシリーズAとして第三者割当増資による2億6000万円の追加調達を実施し、総額3億6100万円の資金調達を完了したと発表した。

引受先は、Coral Capitalと自然キャピタル。調達した資金は、NFTなどWeb3種の領域、エンタープライズ・ブロックチェーン領域、ステープルコインなどフィンテック領域におけるソリューション提供へ向けた開発強化にあてる。

G.U.テクノロジーズは、金融やフィンテックのバックグラウンドを持つ稲葉大明氏と、ウェブブラウザーLunascape創始者の近藤秀和氏が、親会社G.U.Labsで進めていたブロックチェーン研究の成果を元に、2020年10月にスピンアウトする形で設立したスタートアップ。

同社は、独自のイーサリアム互換Layer2ブロックチェーンを構築できるソリューション「G.U.Blockchain Cloud」、DApps対応のイーサリアム用ウォレット「Lunascape Wallet Extension」を提供。Lunascape Wallet Extensionは、Google Chrome拡張機能として利用する。また、ブロックチェーン関連の情報サイト「G.U.net」も運営している。

DApps対応のイーサリアム用ウォレット「Lunascape Wallet Extension」

DApps対応のイーサリアム用ウォレット「Lunascape Wallet Extension」

今後は、エンタープライズ向けのイーサリアム互換Layer2コンソーシアム・ブロックチェーンの運営をはじめ、Web3時代を見据えたステーブルコイン、DeFi、NFTを含む様々な実証実験を提携企業と進める。また、顧客のブロックチェーンビジネスを支援するためのインフラやツール提供、コンサルティングや開発支援を強化していく予定。

米国政府はドル支配を維持するためにステーブルコインを受け入れなければならない

TechCrunch Global Affairs Projectとは、ますます複雑に絡み合うテクノロジー分野と世界政治の関係性を検証するためのプロジェクトである。

繁栄しているWeb3業界に懐疑的な人々は、さまざまな理由でWeb3を攻撃している。ワシントンで反響を呼んでいる批判の1つは、デジタル通貨は米国の現行の通貨制度、ひいては米ドル自体をも弱体化させ得るというものだ。

しかし、デジタル資産が伝統的な金融サービスを破壊したことは否定できないとしても、それらは決してドルの敵ではない。実際、デジタル資産の一種であるステーブルコインは、世界的な米ドルの支配を強固にするポテンシャルを有している。しかし、米国がステーブルコインのポテンシャルに乗じようとするなら、政策立案者や規制当局は規制に対して慎重なアプローチを取らなければならない。

ステーブルコインは、長期にわたって安定した価格を維持するように設計されたデジタル資産である。他のデジタル資産とは異なり、価格は多くの場合、米ドルなどのフィアット通貨に連動している。Facebookが2年前に独自の「Libra(リブラ)」ステーブルコインを立ち上げようとして以来、ステーブルコインも実質的に進化してきた(あまり評判の良くなかったこのプロジェクトは後にブランド名を「Diem(ディエム)」に変更した)。

Facebookは当初、Libraを単なる1つの通貨ではなく、フィアット通貨や証券で構成されたバスケットに連動させる新しい通貨として設計した。政策立案者らはLibraを世界中で批判し、世界の金融安定を脅かし、データのプライバシーを悪用し、金融政策を弱体化させる可能性があると指摘した。Donald Trumpドナルド・トランプ)前大統領は、Libraは「存続性も信頼性もほとんどない」とし、アメリカで「唯一の真の通貨」はドルだと述べた。

現在に早送りすると、ステーブルコインはドルと特別な関係にあるため、ドル支配を脅かすのではなく拡大する可能性がある。しかし、その可能性は、十分な米国の政策立案者がステーブルコインの有望性を理解し、イノベーションを阻害するのではなく促進する合理的な規制を通過させることによって初めて実現される。

ステーブルコインの指数関数的成長

ステーブルコインの市場は2019年12月の50億ドル(約5739億円)から、2021年12月には1580億ドル(約18兆1350億円)を超えるまでに成長している。

この成長の理由の1つは、現在の金融テクノロジーに対するステーブルコイン固有の優位性にある。例えば、ステーブルコインは、取引コストがほとんど、あるいはまったくかからずに、世界中の誰にでも瞬時に転送することができる。

ステーブルコインのインパクトの具体的な例として、移住労働者による使用を考えてみよう。一般的に、労働者は伝統的な金融機関を通じて母国に送金する。このプロセスには数週間を要し、平均して従業員の給与の7%に相当する送金手数料や変換手数料がかかる。一方、ステーブルコインを使えば、移住労働者は賃金をほぼ無料で即座に母国へ送ることが可能になる。

ステーブルコインは米ドルの需要を増加させる

主要なステーブルコインはすべて米ドル建てであるため、世界中で指数関数的に採用されていることから、米ドルによる支配を拡大する重要なオポチュニティが米国にもたらされている。一方、Circle(サークル)のような主要なステーブルコイン発行体は、米ドルと短期米国債で準備金を保有している。これにより、米ドルの需要が増加し、世界中のバイヤーがドルを入手しやすくなる。これらの発展は、米国がこの新テクノロジーに対する消費者の関心を利用するのに他のどの国よりも有利な立場にあることを示している。

ステーブルコイン市場では、ネットワーク効果により米ドルが裏付けとなったステーブルコインの既存の人気が高まっていることから、米ドルに対する過大な需要が維持される可能性が高い。これは特に、政府がハードカレンシーへの国民のアクセスを制限しているアルゼンチンのように、米ドルに対する需要が満たされていない国で当てはまる。

米国にとって何が問題なのか?

そのポテンシャルにもかかわらず、十分に練られていない規制は、海外でこの業界が隆盛する中、米国のステーブルコインセクターをつぶしかねない。ブロックチェーン企業の規制が明確ではないことから、米国の創業者たちはすでに、シンガポールやポルトガル、ケイマン諸島など、より明確かつ / またはより寛容な規制が適用される法域に事業を移すことを余儀なくされている。顕著な例として、米国で最も有名な投資顧問会社の1つであるFidelity Investments(フィデリティー・インベストメンツ)は、規制当局が米国で同様のオファーを認可していないことを受けて、カナダでBitcoin(ビットコイン)ETFをローンチしている。

さらに、最近可決されたインフラ法案には、非現実的なデジタル資産税の報告義務が含まれており、このままではブロックチェーン企業がオフショアに移転する傾向が強まることになる。政策立案者は、超党派の「Keep Innovation In America Act(米国のイノベーションを維持するための法案)」などを通じて、これらの要件を修正しようとすることでこの脅威に対応しているが、時機を逸している可能性がある。

特にステーブルコインについては、政策立案者は分裂している。ステーブルコインに関する最近の上院銀行委員会の公聴会は厳しい論調だった。上院議員らはLibraへの懸念の多くを挙げ、各種のステーブルコインに対する理解や関心の欠如を示した。一方、超党派の議会委員会は2021年12月初旬の重要な公聴会でステーブルコインへの熱意を示し、オブザーバーを驚かせた。同様に驚きをもって受け止められたのが、米連邦準備制度理事会のJerome Powell(ジェローム・パウエル)議長が同月に述べた「ステーブルコインは、適切に規制されれば、金融システムの有用で効率的な消費者サービスの一部になり得る」というコメントだった。

米国でステーブルコインのイノベーションを維持するためには、政策立案者や規制当局はイノベーションを阻害しない明確なガードレールを業界に提供する必要がある。規制は、分散型積立金のようなイノベーションを通じて成長する可能性を制限することなく、安定性と透明性を確保すべきである。

政策立案者は、米国と競合できない国に対してステーブルコインがもたらし得る負の外部性についても考慮に入れる必要がある。ステーブルコインは、独裁的で腐敗した政府を市民が無力化するのに役立つ一方で、弱い通貨を持つ友好国の通貨統制を同様に弱体化させる可能性がある。

もし米国が、意図的に、あるいは不注意にステーブルコイン発行体を追い払うなら、オフショア産業と外国政府は喜んで市場シェアを奪うだろう。

外国の発行体はすでに、ユーロやカナダドルなど他の通貨でステーブルコインをローンチしている。米ドル建てのステーブルコインの需要は今後も続くだろうが、米国の不合理な規制が業界をオフショアに追いやった場合、米国は米ドルの準備金と透明性に関する要件を設定するための影響力を失うことになるだろう。

中国、南アフリカ、韓国、スエーデンなどは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)として知られる各国の中央銀行が支援するステーブルコインを試験的に導入することで、米国よりも積極的に安定コインの開発と促進に取り組んでいる。CBDCが消費者の間で普及するかどうかは定かではないが、特にプライバシーへの懸念から、現在米国が享受しているステーブルコインの支配を侵食する可能性がある。

世界的な通貨競争がここにあり、急速に拡大している。それを受け入れない国は取り残されるであろう。米国も例外ではない。

編集部注:本稿の執筆者Connor Spelliscy(コナース・ペリスシー)氏は、政策とガバナンスに焦点を当てたブロックチェーン研究者。DAO Research Collectiveを設立し、米国とカナダでブロックチェーン擁護団体を共同設立した。

画像クレジット:dem10 / Getty Images

原文へ

(文:Connor Spelliscy、翻訳:Dragonfly)

フェイスブックが「Diem」資産売却でステーブルコインの野望を断念

WSJの報道によると、ブロックチェーンベースの決済システムに取り組む企業のコンソーシアムであるDiem Association(ディエム協会)が、技術資産をSilvergate Capital(シルバーゲート・キャピタル)に2億ドル(約230億7000万円)で売却することになったという。かつてFacebook(フェイスブック)として知られていたMeta(メタ)は、同協会の創設メンバーの1つだ。Diem(ディエム)は、Facebookが暗号資産に対して行った最も野心的な賭けの象徴だった。

Bloombergも米国時間1月25日、Metaがプロジェクトの背後にいる投資家らに資本を還元する方法として、Diemの資産を売却することに取り組んでいると報じていた。

Facebookは2019年に、もともとLibra(リブラ)と呼ばれていたこの暗号プロジェクトを発表した。それ以来、Diem AssociationとFacebookはともに何度も目標を縮小してきた。当初Libraは、フィアット通貨や証券の通貨バスケットと結びついたまったく新しい通貨になるはずだった。

Libra Association(リブラ協会)は当初から、規制当局や中央銀行からの強い反対にあった。多くの人は、Libraがソブリン通貨と競合し、マクロ経済に深刻な影響を与えると考えていた。シャドーバンキングやインフレを引き起こし、金融政策から逃れる手段になると考えられていたのである。

そこでLibra Associationは、より現実的なステーブルコインのあり方に方向転換することにした。新しい通貨を一から作るのではなく、単一通貨のステーブルコインを複数発行することにしたのである。例えば、1 LibraUSDは、常に1米ドルの価値を持つことになっていた。同じことがLibraGBPやLibraEURなどにも当てはまる。

しかし、その計画は再び変更された。Libra AssociationはDiem Associationとなり、Facebookは暗号資産ウォレット「Novi(ノビ)」のパイロット版を発表した。Noviは、協会のブロックチェーン(Diemネットワーク)上の協会のステーブルコイン(Diem)を使用する代わりに、通貨としてUSDP(Pax Dollar)を使用している。このステーブルコインはPaxos(パクソス)が発行し、Coinbase(コインベース)がカストディを担当している。

関連記事:Facebookの暗号通貨プロジェクトLibraがDiemに名称変更

数カ月前には、Metaの暗号資産に関するあらゆるプロジェクトを主導していたDavid Marcus(デビッド・マーカス)氏も同社を去っている。WSJによると、Diemの暗号資産はまだローンチされていないが、Silvergate Capitalは同社の口座にある現金を担保にステーブルコインの一部を発行する予定だったという。

Diem Associationの資産の売却が成立すれば、Metaと同協会のパートナーたちはいくらかの資金を取り戻し、Silvergate CapitalはDiemプロジェクトをつかさどる唯一の企業となる。

現在Diem Associationに関わっている企業には、Anchorage、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、a16z)、Checkout.com、Coinbase、Iliad、Spotify(スポティファイ)、Uber(ウーバー)、Union Square Venturesなどがある。

画像クレジット:TechCrunch

原文へ

(文:Romain Dillet、翻訳:Aya Nakazato)

暗号資産でB2B決済の高速化、手数料の抑制も目指すPaysailが4.4億円調達

企業は、材料費から外注費に至る主要なコストの多くを、請求書に基づき支払っている。依然として大多数の企業は、国境を越える支払いの際、銀行振込やクレジットカードを基盤とするソリューションに依存している。完了するまでに通常2~5日かかる、この国境を越える支払いは、世界で130兆ドル(約1京5000兆円)の市場を形成している

法人向け決済のスタートアップであるPaysail(ペイセイル)が、シード資金を調達した。同社は、国境を越える決済のプロセスを5秒未満に短縮するツールを開発する。同社のソリューションはステーブルコインを活用している。ステーブルコインについて同社は「商品または法定通貨にペッグ(連動)し、価格が安定するよう設計された暗号資産」と説明している。

Paysailによると、請求書の支払いにステーブルコインを使うことで、第三者の仲介を排除し、企業の取引手数料を削減することもできるという。Paysailの共同創業者であるNicole Alonso(ニコル・アロンソ)氏はTechCrunchのインタビューに対し、従来の銀行インフラを前提として決済を効率化するこの分野の他のスタートアップは、速くて安い決済手段を提供する点で限界に達していると語った。仲介業者が課す手数料が原因であり、特に定期的に決済が発生しない国同士の間ではそうだという。

Paysailの共同創業者であるニコル・アロンソ氏とLiam Brennan-Burke(リアム・ブレナン・バーク)氏(画像クレジット:Paysail)

「例えば米国・カナダ間の決済を大幅に安く、早くする大きな進歩がありました。しかし、米国からアフリカの国々への送金はまだ本当に難しく、法外な手数料がかかることもあります」とアロンソ氏は話す。

国境を越える決済にBill.comのようなレガシーシステムを使う場合のコストには通常、仲介業者が請求する取引手数料と為替手数料が含まれる。これに対し、Paysailによる送金では、ブロックチェーン上で取引を検証するためにかかる「ガソリン代」だけがかかり、現在のところ1セントの10分の1以下だとアロンソ氏はいう。

Paysailは現在、米ドル価格に連動するCeloのCUSDステーブルコインを使用して決済を行うが、将来同社が成長していけば、各国の不換通貨を裏付けとする他のステーブルコインにも拡大する予定だ。また、事業の収益を上げるために0.9%程度の取引手数料を検討している。アロンソ氏は、取引手数料が各企業の取引量に応じた段階的な設定となる可能性があり、価格面で「非暗号資産の既存の競合他社を大幅に下回る」ことが理想だと述べた。

同社は米国1月13日、Uncork Capitalがリードし、Tribe Capital、Pear VC、Mischief Capitalが参加した、400万ドル(約4億4800万円)のシードラウンドを発表した。このラウンドには、Google Payの事業開発・戦略責任者であるNik Milanović(ニック・ミラノビッチ)氏と、Eburyの創業者でCEOのJuan Manuel Fernández Lobato(フアン・マヌエル・フェルナンデス・ロバト)氏もエンジェル投資家として参加した。

Paysailの現在のユーザーは「少数」の企業で構成され、そのほとんどはすでに暗号資産で取引しているか、この分野に精通していると、共同創業者であるLiam Brennan-Burke(リアム・ブレナン・バーク)氏はTechCrunchに語った。同社は、暗号資産を使用したことのない顧客にも拡大する前に、暗号資産の利用に慣れている顧客向けのソリューションを微調整したいと考えていると同氏は付け加えた。

アロンソ氏とブレナン・バーク氏は2021年、クレアモント・マッケナ大学の学生として出会い、その後Paysailを立ち上げた。現在、Paysailの正社員は彼らのみだ。今回の資金をもとに、フルタイムのエンジニアリングチーム、法律顧問、そして最終的には営業チームを雇用する計画だ。

Paysailは、既存の暗号資産ウォレットを持たないユーザーが、サードパーティのウォレットプロバイダを通じ、同社のプラットフォームで取引を開始できるような技術を構築している。同社がユーザーに代わってノンカストディアルウォレットを用意する。ブレナン・バーク氏によると、最終的にはこの機能をプラットフォームに導入したり新機能を追加したりして、ユーザーが、保有するステーブルコインからPaysailウォレット内で利回りが得られるようにすることを目指している。ナイジェリアのように、現地通貨の下落が大きなリスクとなる国では、企業は変動の少ない通貨にペッグされたステーブルコインで資産を保有し、好きなときに現地通貨に移すことを好むかもしれないと、同氏は付け加えた。

ブレナン・バーク氏は「このプラットフォームの最終的な目標は、暗号資産決済を、暗号資産の経験がない企業や個人にとって、本当に消化しやすく、また使いやすくし、比較的やさしいものにすることです」と語った。

画像クレジット:Olena Poliakevych / Getty Images

原文へ

(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Nariko Mizoguchi

WhatsApp、米国の一部ユーザーにNovi送金機能提供開始

10月にMetaとなったFacebookが、同社の暗号資産のウォレットNoviの小規模なパイロットテストを、米国とグアテマラで行った。それ以降テスターたちは、お互いの間の個人的な決済をそのサービスでできるようになっている。そして今回、同社は米国の少数の人たちがWhatsAppの中でNoviによる決済の送受をできるようになると発表した。

この展開は意外なものではない。Noviの共同創業者のDavid Marcus(デビット・マークス)氏は以前、MetaはNoviの決済を同社のすべての子会社、すなわちFacebookとInstagramとWhatsAppに展開すると語った。WhatsAppの場合は、送金はメッセージを送ることと同じぐらい簡単で、送金のためにアプリケーションを出る必要もない。手数料が発生しない単純な送金方法でもある。まずユーザーは、WhatsAppの中に送金相手の連絡先を見つけ、テキストバーの中の、Androidならクリップのアイコン、iOSなら+のアイコンをタップし、Paymentをセレクトして、Noviのアカウントへの入り方のインストラクションに従う。

NoviのトップであるStephane Kasriel(ステファン・カスリエル)氏がTwitterで次のように述べている。「家族などへの送金に関する話をWhatsAppでしているという話をよく聞きます。Noviならそれが安全かつ無料で瞬時に行えます。決済がチャットの中に、直接表示されるのです」。

Facebookは長年にわたり、同社のデジタルウォレットと、同社がサポートする予定だった暗号資産Diem(以前はLibra)をときどきちらつかせてきた。しかし世界中の規制当局から反発にあったため、Diem Associationは方針を変え、そしてNoviは最終的に米ドルに支えられたPax Dollar(USDP)と呼ばれるステーブルコインを使うことになった。「1USDP=1米ドル」である。Noviを使うとき暗号資産を買う必要はなく、それは単純に、ステーブルコインを手段とする送金行為にすぎない。WhatsAppの上でNoviを使ってUSDPを送ることはまだその可利用性が極端に限られているが、カスリエル氏によると、その体験に関するユーザーからのフィードバックがあり次第、利用域をもっと拡張するという。

編集者注:本記事の初出はEngadget。執筆者のMariella MoonはEngadgetのアソシエイト・エディター。

画像クレジット:Meta

原文へ

(文:Mariella Moon、翻訳:Hiroshi Iwatani)

メガバンク3行など参加のデジタル通貨フォーラムが「プログラムを書き込める」円建てデジタル通貨DCJPY(仮称)概要公開

メガバンク3行など参加のデジタル通貨フォーラムが「プログラムを書き込める」円建てデジタル通貨「DCJPY」(仮称)概要公開

Matteo Colombo via Getty Images

メガバンク3行やNTT・KDDIら通信企業、JR東日本、関西電力、ヤマトホールディングスなど国内74の企業および団体が参加する「デジタル通貨フォーラム」が、ブロックチェーン技術を使った日本円連動型デジタル通貨「DCJPY」(ディーシージェイピーワイ。仮称)の概要(ホワイトペーパー)を公開しました。

デジタル通貨フォーラムは「民間預金との競合といった問題を回避することができ、また、これにより民間主導のイノベーションを促し、コスト削減や効率化に貢献できる」とそのメリットを説明しています。一方でBitcoinやEthereumなどのいわゆる暗号通貨が銀行との関連を持たない独立した「暗号資産」であるのに対し、DCJPYは民間銀行が発行する「デジタルな通貨」だという点には注意が必要です。

具体的には、DCJPYは「預金(つまり銀行の債務)という形をとることで円建てでの価値を安定化し、共通領域を通じた相互運用性の確保、付加価値領域を通じたさまざまなニーズへの対応」を実現することを想定しているとのこと。共通領域とは、デジタル通貨DCJPYの発行や償却といったやりとりが行われる領域のこと。各銀行は現実の預金口座にひも付けられた共通領域口座を用意し、預金口座から処理に必要な金額を引き落として、共通領域の口座に入金します。そして共通領域内にある他の顧客の口座へと送金処理を行うことで決済処理を完了します。

一方、付加価値領域とは「決済と物流・商流等とのリンクや、モノやサービスと資金との同時受け渡しなど」といったニーズに対応するためにカスタマイズした「プログラムの書き込みを可能とする」領域と説明されます。たとえば企業が特定のサービスのために専用の送金プラットフォームを用意でき、ユーザーは付加価値領域上の口座で取り引きを行います。付加価値領域口座は共通領域の口座と対応しており、実際には付加価値領域で送金の指図が発行されると、それに同期して共通領域でDCJPYによる送金が処理される格好になるとのことです。そのため「付加領域における移転の記録は、共通領域内に存在する付加領域用口座のDCJPYの移転を行うための指図の記録」を意味することになります。

と、ここまで力を振り絞って難解な説明を読んでいただいた読者の方々には感謝しかありませんが、とりあえず、このデジタル通貨がすぐにもわれわれの日常生活での買い物などに関わってくるかといえば、そうでもなさそうです。

DCJPYはどちらかといえば企業間、銀行間の決済をよりスムーズかつ円滑化、低コスト化するためのシステムと言えます。年度内に概念実証実験を開始し、早ければ2022年度のうちにも実用化と伝えられているものの、その実証実験は、まずは電力取引などを対象に行うとされています。

ただ将来のDCJPYの利用シーンとしては、産業流通における決済から、電子マネー連携、地域通貨への活用、サプライチェーンでの活用、エンタメ領域との連携などといったアイデアが出ているとのことなので、いずれはわれわれ一般市民にも関わりが増えてくるかもしれません。

ちなみにDCJPYは民間銀行が発行するデジタル通貨ではあるものの、フォーラムのオブザーバーには金融庁、総務省、財務省、経済産業省、そして日本銀行が参加しています。

また日本銀行は2020年10月9日付の中央銀行デジタル通貨(CDBC)の取り組みに関する公表資料において「CDBC発行の計画はないが、今後のさまざまな環境変化に的確に対応できるようしっかり準備しておくことが重要」とし、その上で「一般利用型CBDCを発行する場合、中央銀行と民間部門による決済システムの二層構造(「間接型」発行形態)を維持することが適当」と述べていました。さらに「システム的な実験環境を構築しCBDCの基本機能を検証する」概念実証実験についても「2021年度の早い時期の開始を目指す」としています。メガバンク3行など参加のデジタル通貨フォーラムが「プログラムを書き込める」円建てデジタル通貨「DCJPY」(仮称)概要公開

(Source:DCJPY(仮称)ホワイトペーパーデジタル通貨フォーラムプログレスレポート。Coverage:日本銀行Engadget日本版より転載)

フェイスブックが暗号資産ウォレット「Novi」の試験運用を米国とグアテマラで開始

Facebook(フェイスブック)が「Novi(ノヴィ)」と名づけた暗号資産ウォレットの小規模な試験運用を開始した。現時点では、米国とグアテマラの限られた人々のみが、Noviにサインアップして、使い始めることができる。

Facebookは、Diem(ディエム)協会の創設メンバーだ。しかし今のところ、Noviでは同協会のブロックチェーン(Diemネットワーク)上にある同協会のステーブルコイン(Diem)を活用するのではなく、代わりにFacebookはPaxos(パクソス)やCoinbase(コインベース)と提携。これによってユーザーは、Paxosの米ドルステーブルコイン「USDP」を送ったり受け取ったりでき、これらの暗号資産はCoinbaseが管理(カストディ)することになる。しかし、これはあくまでも中間段階であり、Facebookはいずれ、USDPをDiemに置き換えることを計画しているという。

Facebookは当初、暗号資産プロジェクトに対して大きな計画を立てていた。同社は「Libra Association(リブラ協会)」と呼ばれる暗号資産の運営コンソーシアムを設立し、これに参加する企業とと協力して、不換紙幣や国債のバスケットに連動するまったく新しいデジタル通貨「Libra(リブラ)」を発行する計画だった。本来であればLibraは、単一の現実世界の通貨ではなく、複数の通貨を混ぜ合わせたものがベースになるはずだった。

しかし、Facebookは多くの中央銀行から強い反対を受けることになった。彼らは、Libraが一部の国で準主権的な通貨になることを恐れたのだ。協会は2020年、その野心を抑えて、単一通貨のステーブルコインに注力することを発表した。

ステーブルコインとは、時間の経過によって変動することがない固定の価値を持つ暗号資産のことだ。例えば、Libra Associationが「LibraUSD」を発行するならば、1LibraUSDは常に1米ドルと同じ価値を持つことになる。

数カ月後、Libra Associationは再びいくつかの変更を発表、LibraはDiemに名称が変わり、協会名も「Diem Association(ディエム協会)」になった。同様に、Facebookのウォレットプロジェクトも
「Calibra(カリブラ)」からNoviにブランドが変更された。しかし、DiemもNoviも、まだ準備は整っていなかった。

関連記事
Facebookの暗号通貨プロジェクトLibraがDiemに名称変更
FacebookはLibraウォレットのCalibraをNoviに改名し独立させようとしている
暗号資産のPaxosがステーブルコインをPAXからUSDPに名称変更

そして今、FacebookはNoviの試験を実際の一部ユーザーを使って始めようとしている。同社はまず、米国とグアテマラ間の送金に焦点を合わせることにした。送金したいNoviユーザーは、Noviアプリをダウンロードしてアカウントを作成し、デビットカードなどの支払い方法を使ってNoviに入金する。

入金された米ドルは、手数料なしでUSDPに変換される。Paxosが発行するUSDPは米ドルステーブルコインで、以前はパックスダラー(PAX)と呼ばれていたが、Paxosは最近、USDPにブランド名を変更した。

USDPはその価値を確保するために、現金および現金同等物によって担保されている。Noviユーザーの資金は、Coinbase Custody(コインベース・カストディ)によって管理される。つまり、CoinbaseがNoviのユーザーのためにUSDPの資金を保管するということだ。

Noviユーザーは、他のNoviユーザーにUSDPを送ることができる。繰り返しになるが、送金にかかる手数料は必要ない。しかし、お店での支払いや家賃の支払いにNoviを使うことはできない。そのためにユーザーは、現金の必要な場所では、Noviの残高を引き出したり、銀行口座に残高を送金したりできる。

しかし、NoviはUSDPをグアテマラ・ケツァルに変換する際に手数料がかかるかどうかについては言及していない。米ドルステーブルコインのUSDPをグアテマラの通貨単位に両替するには、為替レートを選択しなければならず、それにはスプレッド、流動性、その他のさまざまな変数が関わってくるからだ。

また、Noviは展開したいと考えるすべての市場で、フィアット / クリプトのオンランプおよびオフランプ(法定通貨と暗号資産の交換サービスを提供する場)を設けなければならない。

Facebookによれば、これはNoviの始まりに過ぎないという。それは第一に、まずはグアテマラと米国(アラスカ、ネバダ、ニューヨーク、米領ヴァージン諸島を除く)の一部のユーザーにのみ試験的に提供されるということ。そして第二に、FacebookとDiem Associationは、いずれ独自の暗号資産を立ち上げる計画を諦めていないということだ。

「我々のDiemに対するサポートに変更はなく、Diemが規制当局の承認を得て発行できるようになれば、NoviにDiemを導入して運用を開始するつもりであることを明確にしておきたい。私たちは相互運用性を重視しており、きちんと行いたいと考えています」と、NoviプロジェクトのリーダーであるDavid Marcus(デヴィッド・マーカス)氏はTwitterで述べている。

Facebookが暗号資産Libraの発行計画を発表したのは、2019年6月のこと。それ以降、暗号資産のエコシステムは大きく変化した。特に、いくつかのステーブルコインが信じられないほどの人気を博しており、Tether(テザー)とUSD Coin(USDコイン)の流通量は現在、合わせて1000億ドル(約11兆5000億円)を超えている。そんな中で、Diemが既存のステーブルコインに追いつき、新たなユースケースを開拓できるかどうか、興味深いことになりそうだ。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

原文へ

(文:Romain Dillet、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

曖昧だから良い? 米国の暗号資産規制がイノベーションを取りこぼさないワケ

曖昧だから良い? 米国の暗号資産規制がイノベーションを取りこぼさないワケ

Photo by Jon Sailer on Unsplash

編集部注:この原稿は千野剛司氏による寄稿である。千野氏は、暗号資産交換業者(取引所)Kraken(クラーケン)の日本法人クラーケン・ジャパン(関東財務局長第00022号)の代表を務めている。Krakenは、米国において2011年に設立された老舗にあたり、Bitcoin(ビットコイン)を対象とした信用取引(レバレッジ取引)を提供した最初の取引所のひとつとしても知られる。

暗号資産取引所に上場するコインの数は日本の数倍。機関投資家や上場企業による積極的なBitcoin(ビットコイン)投資で今年の強気相場を牽引する。「コンテンツ大国」であるはずの日本よりも先に、アーティストやミュージシャン、スポーツ選手、セレブがデジタルアート販売やバーチャルリアリティ(仮想現実)のインフラ整備を目的としてNFT(ノン・ファンジブル・トークン)のブームを作る。そして、著名電気自動車メーカーCEOが有名なテレビ番組に出演して柴犬がトレードマークの「Dogecoin」(ドージコイン)について語る……。

上記は、2021年に入って米国の暗号資産業界が成し遂げたアチーブメント(実績)の一部です。5月はBitcoinをはじめ暗号資産マーケットは大幅に調整しましたが、米国市場に悲観ムードはあまり見られない印象です。「投機」や「ハッキング」といったネガティブなイメージから脱却できない日本とは雲泥の差で、暗号資産に対する温度差は激しいのは明らかだと思います。

一体なぜなのでしょうか?

もちろん様々な理由が考えられますが、その1つには、暗号資産を含めて新たなイノベーションに対する規制について、日米間で考え方に大きな違いがあるからと考えています。

日本は暗号資産大国だった

驚くことに実は、数年前まで日本は暗号資産のメッカでした。

Bitcoin創設者(または創設グループ)の名前がSatoshi Nakamoto(サトシ・ナカモト)であることに関係しているかどうかは定かではありませんが、Bitcoinの開発者や熱狂的なサポーターが国内外から東京に集まっていました。ニューヨーク・タイムズの記者であるナサニエル・ポッパー氏が2009年~2014年にかけて世界中のBitcoin関係者に直接取材して書いたルポタージュ「デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語」(ISBN:978-4-532-17601-3)では、東京が重要な舞台として登場します。ハッキング事件が起きるまで世界一のBitcoin取引高を誇った取引所Mt.Gox(マウントゴックス)は、東京に拠点を持っていました。実際、2018年頃までは、円建てのBitcoin取引高が全体の50%以上を占めていました。

何を隠そうクラーケンCEOであるJesse Powell(ジェシー・パウエル)も日本に魅了された1人です。当時、ハッキングを受けたMt.Goxを支援するために、たびたび東京を訪れました。

しかし、現在、東京は暗号資産のメッカとはとてもいえなくなってしましました。シェアの半分以上を占めていた円建てのBitcoin取引高は、7%未満まで落ち込みました。Bitcoin投資だけではありません。DeFi(分散型金融)やNFTブーム、ステーブルコインの台頭といった暗号資産の技術が基盤となるイノベーションについていけず、米国から大きく出遅れてしまっています。

イノベーションを定義できるのか? 日米規制の違い

突然ですが、読者の皆さんは、暗号資産やブロックチェーンの領域にかかわらず、今後、どのようなイノベーションが出現して世の中を変えていくのか完璧に予想することができますか?

どんな著名な起業家や経済学者、歴史学者であっても、答えは「NO」だと思います。また、最先端の研究に携わっている人でも、自分の分野以外のイノベーションを予測することは不可能でしょう。

それにもかかわらず、法律でイノベーションの形を厳格に定義して、基本的には、「その定義に合うイノベーションだけを認める」「定義に合わないものは認めない」といった杓子定規な運用をしている国があります。日本です。

消費者保護・マネロン対策の面では評価されている日本の規制

暗号資産の分野に関していえば、日本では、2017年の4月に資金決済法が改正され、暗号資産が法的に定義され、暗号資産を取り扱う事業者は仮想通貨交換業(現在は暗号資産交換業)としての登録が義務付けられました。この暗号資産規制は、日本が世界に先駆けて導入したものであり、導入当初は、事業者に金融機関並みの投資家保護やマネーロンダリング(マネロン)対策(AML)、テロ資金供与対策(CFT)などを求めたことが暗号資産市場に制度的な安定性を与えるものだと、おおむね好意的に評価されていました。

ただし、2014年のMt.Gox事件以降も、日本では2018年のコインチェック事件をはじめとして、巨額暗号資産の流出事件が相次ぎました。そしてこうした事件が起こる度に当局は事業者に対する規制を強化しており、現行の規制水準は、セキュリティに関するものを中心に一部金融機関の水準を上回っているのではないかと思います。

日本の法律と規制は、イノベーションを進めるという観点からは難点が多い

一方で、現状の規制では、暗号資産の商品性や技術的特殊性がほとんど考慮されていないなど課題が多いのも事実です。具体的には、日本では資金決済法で暗号資産の定義がきっちりと決められているため、定義に当てはまらない場合は、たとえイノベーションとして世界を変えるほどのプロダクトであっても、いくら海外で暗号資産として流通していても、日本国内ではそれが認められません。「やって良いこと」を毎回事前に決めてしまう日本の法律と規制は、イノベーションを進めるという観点からは難点が多いのではないかと感じています。

米国では、必要最低限の事項をリトマス試験紙のように判定し、最初から法令でがちがちに縛ることはしない

対照的に米国では、法律は「原則(プリンシプル)ベース」です。新しいイノベーションに基づくサービスが出てきた時、「すでに存在するサービスに該当しないか?」「犯罪に使われないか?」「詐欺ではないか?」「マネーロンダリングに使われないか?」など、必要最低限の事項をリトマス試験紙のように判定し、最初から法令でがちがちに縛ることはしない、というのが基本スタンスです。

例えば、2013年に米連邦捜査局(FBI)はBitcoinを使った決済を導入していたインターネット上の闇サイト「Silk Road」(シルクロード)の創業者を麻薬取引や詐欺、マネロンなどの罪で逮捕・起訴しました。また2019年、ニューヨーク州南部地方検察局は、北朝鮮で開催されたカンファレンスに参加して暗号資産に関する知識を提供したとしてEthereum Foundation(イーサリアム財団)の関係者を逮捕しました。

米国では、上記のように要所要所で取り締まるべきところは厳格に取り締まっていますが、基本的に、個別具体的なプロダクトやサービスレベルでは原理原則を守る限りは見守る方針があるようです。逆に言えば、企業やスタートアップは原理原則を守りながら新たなイノベーションにチャレンジすることが可能となっていると思います。

さらに米国では国レベルでも規制当局の数が多いこともあり、暗号資産の定義はバラバラです。米証券取引委員会(SEC)は「証券」、米商品先物取引委員会(CFTC)は「コモディティ」、米内国歳入庁(IRS)は「財産」と独自に定義づけをしています。現在の暗号資産はいまだ黎明期にあり、暗号資産というイノベーションが今後どのように進化していくのか、その全貌が把握できない中では、この曖昧さや統一感のなさが逆に柔軟性につながっているのではないかと感じています。

イノベーションを取り込む議論を!

暗号資産のイノベーションは、日進月歩ならぬ「秒進分歩」で進んでいます。日本国外では、DeFi(分散型金融)やステーブルコインといった既存金融サービスをブロックチェーン上で実装する動きが活発化しています。

DeFiの例としては、暗号資産の貸借取引(暗号資産を貸出して報酬を得る取引)のプラットフォームがあります。ここでは、暗号資産を貸出して報酬を得たい人と暗号資産を借入れたい人のマッチングばかりか、貸出・借入と報酬の授受も自動化されています。伝統的な金融では、証券会社、短資会社、証券金融会社、証券取引所といったプレイヤーが複雑に絡み合って成立している貸借取引の世界をプログラム上で実現し、さらに仕組みの改善を恒常的に行っている点は、私のような証券業界に長くいた人間からすると驚きに値します。

ステーブルコインは、法定通貨などを裏付けとして、ブロックチェーン上で発行されるもので、日本円や米ドルといった既存の法定通貨にペッグするように設計されています。こうしたステーブルコインの代表例には、テザー(USDT)やUSDC(USDコイン)があり、暗号資産市場で国際取引を行う際に、銀行を用いた国際送金の代替として活発に利用されています。銀行の国際送金は、資金の到着まで数日必要であり、手数料も高額ですが、ステーブルコインはこうした課題をブロックチェーン上で解決しています。

日本の暗号資産に関する法令が立法当時にどこまでイノベーションを意識していたか定かではありませんが、DeFiやステーブルコインの例を出すまでもなく、暗号資産におけるイノベーションは今後も加速度的に進化していくでしょう。

イノベーション、技術革新には不可逆性があります。つまり、一度誕生したら、過去にさかのぼって消すことはできず、それとうまく付き合っていくほかないのです。この点を念頭におくと、日本の暗号資産に関する法令・規制がイノベーションを取り込むという観点において、投資家の利益になっているか、国際競争上不利な状況になっていないか、法的により柔軟な対応は可能かどうかなどなど、議論を進めていく必要があるのではないかと感じています。

関連記事
【コラム】3億円のNFTを買っても著作権は手に入らない
NFTゲーム開発のdouble jump.tokyoと日本発のブロックチェーン「Plasm Network」のStakeが提携発表
スクエニがNFTシール「資産性ミリオンアーサー」ティザーサイト公開、LINE Blockchain採用しLINEが二次流通市場を構築
米財務省が暗号資産の報告義務を提示、富裕層の税逃れ対策を強化
イーロン・マスク氏がビットコインでのテスラ車購入停止を指示、ツイート後ビットコインは下落中
今さら聞けないNFT:「コンテンツ大国」日本のクリエイターが真剣になる理由
NFTアート:何が価値の源泉なのか? 新たな投資スタイルへの道を歩むNFT
NFTはアーティストとミュージシャンだけでなくマネーロンダリングの分野でも注目を浴びる
double jump.tokyoとセガがNFTのグローバル展開で提携、ゲーム発売当時のビジュアルアートやBGMなどデジタル資産化
NFTトレカゲーム「NBA Top Shot」のDapper Labsはマイケル・ジョーダンやハリウッドに支援され評価額2879億円に
ザ・ウィークエンドがNFTオークションで未発表曲とアート作品販売を予告
TwitterのCEOが約3億円でサービス初ツイートを売ったツイートNFTマーケットプレイス「Valuables」とは
バイデン政権はいかに仮想通貨規制に取り組むのか
ここ数週間で爆発的な人気のNFTのマーケットプレイスOpenSeaがA16Zから約25億円調達
BeepleのNFT作品が75億円で落札、アート界に変革の兆し
テスラが約1578億円相当のビットコインを購入、将来的に仮想通貨での支払いも検討
「日本から世界で勝負する」国産ブロックチェーンPlasm NetworkがBinanceらから2.5億円調達
イーサリアムの従業員が北朝鮮の制裁逃れに協力したとして逮捕
金融庁がコインチェックへの立入検査、CAMPFIREなどみなし仮想通貨交換業者15社にも報告徴求命令
【更新】仮想通貨取引所「コインチェック」、約580億円相当の仮想通貨の流出を発表
Mt. Goxの管財人が失われたbitcoinに対する請求の調査を終了…結果発表はもうすぐ
仮想通貨とブロックチェーンで政策提言、日本ブロックチェーン協会を旗揚げ
FBI、悪名高いオンライン闇市場Silk Roadの所有者を逮捕、サイトを閉鎖―麻薬、殺し屋募集など容疑続々
Bitcoin自体が悪なのか–関係者が語ったMt.Goxの輪郭

タグ:暗号資産 / 仮想通貨(用語)Ethereum / イーサリアム(製品・サービス)Elon Musk / イーロン・マスク(人物)NFT / 非代替性トークン / クリプトアート(用語)金融庁クラーケン / Kraken(企業・サービス)コインチェック(企業・サービス)Jesse Powell / ジェシー・パウエル(人物)ステーブルコイン(用語)テロ資金供与対策 / CFTDeFi / 分散型金融(用語)Dogecoin(用語)Bitcoin / ビットコイン(用語)ブロックチェーン(用語)Mt.Gox(企業)マネーロンダリング防止 / AML日本(国・地域)

すべてのSPACが純粋なゴミというわけじゃない

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。

準備OK?ここではお金の話、スタートアップの話、IPOの噂話などをお伝えする。

みなさんこんにちは。先週は短い1週間だったが(米国は5月31日月曜日が祝日だった)、ここ数日のうちに扱ったニュースの多さにかなり参っている。そこで、一旦立ち止まって、愚痴をこぼしつつ、ちょっとした気休めにSPAC(特別買収目的会社)の話をしよう。

ただし、米国時間6月6日の月曜日にはBabylon Health(バビロン・ヘルス)のSPACについて掘り下げる予定だが、今回はSPACの投資家向けプレゼンテーションの分析をするわけではない。今回はその代わりに、SoFi(ソーファイ)とBarkBox(バークボックス)の白紙小切手取引(SPACのこと)について話したい。

両社とも、しばらく前に公開が行われた後、先週から取引が開始された。ものごとは順調に進んだのだろうか? SoFiの公開企業としての最初の動きについてCNBCは以下のように書いている。

Social Finance(ソーシャル・ファイナンス)の略称を名前としたSoFi(ソーファイ)が、ベンチャーキャピタル投資家のChamath Palihapitiya(チャマス・パリハピティヤ)氏が所有する白紙小切手会社(SPAC)のSocial Capital Hedosophia Corp Vと合併して上場した。株価は12%以上上昇し、22.65ドル(約2478円)で終了した。

これはSoFiにとっての勝利であるばかりでなく、ここ数カ月やや翳りの見えるSPACへの投資で、いくぶん苦戦しているチャマス・パリハピティヤ)氏にとっても良い結果だ。もちろん、SPACによる公開はすべて投機的なものだが、一部の一般投資家は企業のファンダメンタルズよりもパリハピティヤ氏の評判の方を重視していたようだ。そもそも他に何ができるだろう。

BarkBoxも、Barrons(バロンズ)が報じたように、SPAC統合が完了した後先週取引を開始したときには、まったく問題がなかった。

BarkBox(ティッカー:BARK)の株価は水曜日(米国時間5月2日)には約7.5%上昇し、午後には12ドル(約1313円)前後で取引された。これにより、同社の市場価値は24億ドル(約2627億円)近くになった。

その後、BarkBoxの株価はやや下落したが、SPAC当初の価格を下回ることなく推移している。これは、設立が発表されたときよりも市場の状況が変化していることを考えると、勝利と言えるだろう。

1週間に2つの良い結果が出たことは、SPACの世界そのものや、市場にいる白紙小切手(SPAC)側やスタートアップ側の無数のプレイヤーにとって朗報だ。もちろん、今回の2つの確たる結果がトレンドを生み出すわけではないが、着実に収益を上げている企業にとっては、SPACルートは世間が噂するほどには穴だらけの道ではないということは明らかだ。

暗号資産への賭け

SPACが基本的には胡散臭いと思っているのなら、白紙小切手(SPAC)ブームと暗号資産の組み合わせについて話を聞いて欲しい。以下にお話ししよう。

今週、暗号資産に特化しステーブルコインを特に好むCircle(サークル)が4億4千万ドル(約481億4000万円)を調達した。USDC(USD Coin)というステーブルコインで知られる同社にとって、これは多額の資金であり、SPACのIPOを検討しているとも言われている。

ところでステーブルコインとは何だろう?それは法定通貨と連動している暗号資産(仮想通貨)だ。ご想像の通り、USDCの場合には米ドルと連動している。ステーブルコインは、暗号資産の世界の中での有用な法定通貨代替物で、非常に人気があることがわかっている。

CircleのUSDCは、228億ドル(約2兆4950億円)相当が流通しており、CoinMarketCapのデータによれば、1日の取引額は数十億ドル(数千億円)だという。悪くない!しかし、この会社が一体どのようにして魅力的な粗利益率の下に莫大な収益を上げているのかは、あなたの謙虚なるしもべである私にとってそれほど明確ではない。これは、一度に5億ドル(約547億円)近い民間資金を確保した会社には、当然明確化が期待されることだ。

だから、今度ばかりは、SPACをして欲しい。もちろん莫大な数字の中身を早く見たい、という好奇心からだ。

成長は?

先日Ron Miller(ロン・ミラー)記者と私は、いくつかの公開企業の決算報告書を調査した。その結果、一部の企業では、ご自慢のデジタルトランスフォーメーションの加速本当に実現していることがわかった。

先週のニュースには、その議論の続きがあった。例えば、Zoom(ズーム)の業績は、私たちの仮説を裏づけるものだった。その2022年第1四半期の売上高は、2021年第1四半期と比較して191%増加した。それはまさに目を見張る好成績だ。

その一方で、Dropbox(ドロップボックス)とBox(ボックス)は、先週外部の投資家から新たな圧力を受けた。かつて非公開市場の寵児であった2社は、成長の壁にぶつかり、そのために攻撃を受けている。「成長かさもなくば死を」は、単なるスタートアップ向けの助言ではない。それは、ソフトウェア企業が自らの運命を握り続けるために必要なことなのだ。

カテゴリー:フィンテック
タグ:The TechCrunch ExchangeSPAC暗号資産ステーブルコイン

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)