自分のスマホがNSOのPegasusスパイウェアにやられたか知りたい人はこのツールを使おう

米国時間7月17日、国際的なニュース配信コンソーシアムが、メキシコやモロッコ、アラブ首長国連邦などの独裁的政府が、NSO Groupが開発したスパイウェアを使って、ジャーナリストや活動家、政治家、企業の役員など、強硬な批判勢力に対してハッキング行為を行ったと報じた。

監視対象になったと思われる5万人の電話番号を、パリの非営利ジャーナリズム団体Forbidden StoriesAmnesty International(アムネスティインターナショナル)が入手し、Washington PostThe Guardianなどと共有した。被害者の電話機数十台を分析した結果、それらがNSOのスパイウェアPegassusに侵されたことがわかった。そのスパイウェアは個人の電話機のすべてのデータにアクセスできる。報道は、NSO Groupが堅固にガードしている政府顧客についても明らかにしている。たとえばEUの一員であるHungaryは、基本的人権の一部として監視からのプライバシーの保護があるはずだが、NSOの顧客として名を連ねている。

報道は、NSOのデバイスレベルの侵入的な監視の対象になった者の人数を初めて明かしている。これまでの報道は、被害者の数を数百名または1000名以上としていた。

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NSO Groupは、これらの報道に厳しく反論している。NSOは長年、顧客のターゲットが誰であるかも知らないと述べていた。米国時間7月19日のTechCrunch宛の声明でも、同じことを繰り返している。

アムネスティの調査は、その結果をトロント大学のCitizen Labがレビューしている。その発見によると、NSOは被害者にリンクを送り、それを開けば電話機に感染する。またiPhoneのソフトウェアの脆弱性を悪用して無言で侵入する「ゼロクリック攻撃」というものもある。Citizen LabのBill Marczak(ビル・マルザック)氏によると、NSOのゼロクリックが悪さをするのは、iOSの最新バージョンであるiOS 14.6の上だという。

アムネスティの研究者たちは、詳細な調査報告とともに、電話機がPegasusuのターゲットにされたかを調べるツールキットを発表した。

そのMobile Verification Toolkit(MVT)とよばれるツールキットは、iPhoneとAndroidの両方で使えるが、動作はやや異なる。アムネスティによると、侵入の痕跡が見つかるのはiPhoneの方がAndroidより多いため、発見もiPhoneの方が容易になっている。MVTはまずユーザーにiPhone全体のバックアップ(ジェイルブレイクしている場合には完全なシステムダンプ)を取らせ、NSOがPegasusを送り込むために使っていることがあらかじめわかっている、侵犯の痕跡情報(indicators of compromise、IOCs)をフィードする。例えばテキストメッセージやメールでNSOのインフラストラクチャのドメインネームを送ることもある。iPhoneの暗号化バックアップがあるなら、全体の新しいコピーを作らなくてもMVTにそのバックアップを解読させてもよい。

MVTのツールキットの端末出力。iPhoneとAndroidのバックアップファイルをスキャンして侵入のIOCを探す(画像クレジット:TechCrunch)

ツールキットはコマンドラインなので、洗練されたUXではないし、端末の使い方の知識が多少必要だ。10分ほど使ってみたが、iPhoneのフレッシュなバックアップを作るつもりならさらに1時間はかかるだろう。そのツールキットに電話機をスキャンさせてPegasusの兆候を見つけるつもりなら、GitHubにあるアムネスティのIOCsをフィードする。IOCファイルがアップデートされたら、ダウンロードしてアップデート版を使おう。

作業を始めたら、ツールキットはあなたのiPhoneのバックアップファイルをスキャンして、侵入の証拠を探す。その処理に1〜2分かかり、その後、フォルダに吐き出す複数のファイルが、スキャンの結果だ。ツールキットが侵犯の可能性を見つけたら、出力ファイルがそういっている。私の場合は「detection」が1つあったが、それは偽陽性だったので、アムネスティの研究者たちにひと言告げてからIOCsから削除した。アップデートしたIOCsで再スキャンすると、侵入の兆候は返されなかった。

Androidの汚染を見つけるのは難しいため、MVTはもっと簡単な方法として、Androidデバイスのバックアップ中にリンクのテキストを探す。それがNSOのドメインだったら怪しい。また、デバイス上に悪質なアプリケーションがインストールされていないかも、スキャンして調べる。

このツールキットは、コマンドラインツールの常として、使い方は簡単だが、オープンソースなのでいずれ誰かがユーザーインタフェイスを作るだろう。プロジェクトの詳しいドキュメンテーションがあるので、私だけでなく多くの人が助かると思う。

チップスを安全に送りたい人はSignalやWhatsAppで+1 646-755-8849まで。ファイルやドキュメントは、SecureDropで送ることができる。詳しくはここで

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カテゴリー:セキュリティ
タグ:スパイウェアNSO Groupハッキング人権個人情報プライバシーiPhoneAndroidスマートフォン

画像クレジット:TechCrunch/PhotoMosh

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)

コラム】消費者の同意を取り付けるためだけのプライバシー通知をやめませんか?

編集部注:本稿の著者Leif-Nissen Lundbæk(レイフ-ニッセン・ルンドベック)氏は、Xaynの共同設立者兼CEO。専門はプライバシー保護を目的としたAIだ。

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「プライバシー」は誰もが気にする言葉であり、大手テック企業でさえもこの問題に取り組んでいる。最近では、Apple(アップル)がiOS バージョン14.5の要(かなめ)として「App Tracking Transparency(アプリのトラッキングの透明性)」というユーザーのプライバシー保護機能を導入した。2021年の初めには、同社CEOのTim Cook(ティム・クック)氏が、プライバシーについて気候危機と同等に言及し、21世紀の最重要課題の1つとしている。

Appleの対応は、正しい方向への強い働きかけであり、強力なメッセージとなっているが、これで十分なのだろうか?表面上は、消費者はアプリによる追跡方法について通知を受け、希望すれば追跡を制限したりオフにしたりすることを選択できる、ということになる。ソ連の風刺作家イリフ=ペトロフの言葉を借りれば「溺れる者を救う方法は、溺れる者自身が知っている」(風刺小説『12の椅子』の「溺れる者は、自分が救え」をもじったセリフ)とでもなるだろうか、歴史的に見ても、あまり良い結果を生む仕組みとはいえない。

今日、ネット上の消費者は、大量に表示されるプライバシーポリシー、Cookieのポップアップ、ウェブやアプリのさまざまなトラッキング許可に、まさしく溺れている。新しい規制はプライバシーの開示に関する同意の収集義務を増やすだけで、これには多くの企業が喜んで応じている。そして企業は情報管理の負担を消費者に押し付けている。消費者側は、大量の情報に1つ1つ目を通すことは合理的、経済的、主観的な観点から割に合わないので、これを盲目的に受け入れるしかない。責任を背負わされた消費者を救う選択肢はただ1つ……プライバシー通知を廃止することだ。

通知は見過ごされている

調査によれば、ネット上の消費者は往々にして「よくある」通知に悩まされている。ネットユーザーの大多数は、ウェブサイトに「プライバシー通知」または「プライバシーポリシー」という文書があれば、その企業は自分の個人情報を収集、分析、または第三者と共有しないはずだと期待している。同時に、大多数の消費者は、トラッキングやプライバシーを無視した広告のターゲットにされることに深刻な懸念を抱いている。

オンラインビジネスやプラットフォームの多くは、消費者に理解してもらうためではなく、消費者の同意を取り付けるために、プライバシーに関する通知やその他のデータの開示を行っている。

プライバシーの二重苦のようなものだ。消費者はプラットフォームを利用するために、プライバシーに関する通知を受け入れる必要がある。同意すると、トラッキングやプライバシーを無視した広告を許可することになる。同意する前にプライバシーポリシーを事細かに読めば、貴重な時間を無駄にすることになり、面倒で苛立たしい。Facebookのプライバシーポリシーが、ドイツの哲学者イマヌエル・カントの「純粋理性批判」のように難読なものだとしたら、それは問題だ。結局のところ、プライバシーに関する通知を拒否するという選択肢は形式的なものに過ぎず、プライバシーポリシーに同意しなければ、プラットフォームにアクセスできない。

このようなプライバシー通知にはどのような意味があるのか?企業にとっては、データ処理を正当化するという意味がある。一般的に、今のようなプライバシー通知は弁護士が弁護士のために作成した文書であり、実際のユーザーの利益は完全に無視されている。このような文言は誰も読まないとわかっているので、意図的に難解な文章にしたり、あらゆる種類のくだらない文章、あるいはおもしろおかしく本音を書き込んだりしている企業もある。

通知の中でユーザーの不滅の魂と永遠の命の権利を主張した企業もあった。一方、消費者にとっては、プライバシー通知への同意を押し付けられるのは面倒なもので、データの安全性について誤った認識を抱かせることにもつながる。

万が一、プライバシーに関する通知があまりにも不愉快なもので、消費者が別のプラットフォームに移動することがあっても、本当の解決策にはならないことが多い。ネット上ではデータの収益化が主流のビジネスモデルとなっていて、個人情報は最終的に同じ大手テック企業に流れる。たとえ消費者が直接的には彼らのプラットフォームを利用していなくても、代替のプラットフォームの多くは、プラグイン、ボタン、Cookieなどで大手テック企業とつながっているのだ。抵抗しても無駄なのだろうか。

旧態依然の規制の枠組み

もし企業が、誰も読まないような不透明なプライバシー通知を意図的に作成しているとして、立法者や規制当局が介入したら、消費者のデータプライバシーを改善することができるだろうか?うまくいったケースは歴史的にも見当たらない。デジタル化が進む前の時代でも、法律家は契約前に多くの情報を開示する義務があり、消費者はアパートを借りたり、車を買ったり、銀行口座を開いたり、住宅ローンを組んだりする際に、大量の書類に記入する必要があった。

特にデジタルの分野では、法律は後手に回り、技術の発展に大きく後れをとっている。EUでは、Google設立から20年、Facebook設立から10年を経て、包括的な法律である「EU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、GDPR)」を制定したが、いまだに横行するデータ収集行為を抑制できていない。これは、より大きな問題の一部にすぎない。今日の政治家や議員はインターネットを理解していないのだ。インターネットの仕組みを知らないのに、どうやって規制するというのか。

米国やヨーロッパの議員の多くは、ハイテク企業がどのように運営され、ユーザーデータでどのように収益を上げているのかを理解していない、あるいは(さまざまな理由で)理解していないふりをしている。議員たちは、自分たちで問題に取り組むのではなく、企業に「明確で理解しやすい」言葉でユーザーに直接通知するよう要求している。これは自由放任主義という名の無責任だ。

このような姿勢のせいで、私たちは、オンラインデータのプライバシー、プロファイリング、デジタル個人情報の盗難といった21世紀の課題に、古代ローマの法論理である「同意」を用いて戦うことを強いられている。ローマ法を非難するわけではないが、マルクス・アウレリウスにはiTunesのプライバシーポリシーを完全に読む必要はなかった。

オンラインビジネスや主要なプラットフォームでのプライバシーに関する通知やその他のデータの開示は、消費者にわかりやすく説明するのではなく、同意を得ることを目的としている。そうすることで、データフローを維持し、プライバシーに関する形ばかりの姿勢を示す機会があったときには、すばらしいアピールができる。とはいえ、消費者はこのでっち上げに気づきつつある。そろそろ変化が必要だ。

企業に真っ当な姿勢を求める声

ここまで、消費者がすべての「法律用語」を理解することは困難であり、理解したとしてもどうしようもないことを説明してきた。また、立法者にはテクノロジーを適切に規制するための知識やモチベーションが足りていないことも指摘した。ネットユーザーの多くが不満と苛立ちを表している今、デジタル企業は自らが行動を起こすべきだ。データプライバシーが21世紀の最大の課題の1つであるならば、一致団結した行動が必要だ。世界中の国々が二酸化炭素の排出量を減らすことを約束したように、企業も団結して消費者のプライバシーを守ることを約束しなければならない。

そこで、大小すべてのテック企業にお願いしたい。プライバシー通知の因習を捨てて欲しい。潜在的な法的請求から自社を守り、ユーザーの個人情報を収集し続けることを目的として、ほとんどの消費者が理解できない文章を書かないで欲しい。消費者に向けた、誰もが理解できるプライバシー通知を書いて欲しい。

文章だけでなく、行動も大切だ。個人データの収集や処理に依存しない製品を開発しよう。個人データの収集や処理に頼らない製品を開発し、インターネットのオープンソースやプロトコルのルーツに立ち返り、大手テック企業や広告主ではなく、自社のコミュニティに価値を提供しよう。これは可能であり、収益性があり、やりがいもある責務である。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラムプライバシー通知透明性

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(文:Leif-Nissen Lundbæk、翻訳:Dragonfly)

物議を醸すWhatsAppのポリシー変更、今度はEUの消費者法違反の疑いで

Facebookは、WhatsAppのユーザーにポリシーのアップデートを5月15日まで受け入れなければアプリが使えなくなるなど、議論の多い利用規約変更を認めるよう強制していることで、EUの消費者保護法の複数の違反で告訴されている。

EUの消費者保護総括部局であるBureau Européen des Unions de Consommateurs(BEUC、欧州消費者機構)は現地時間7月12日、その8つの会員組織とともに、欧州委員会(EC)と、ヨーロッパの消費者保護機関のネットワークに訴追状を提出したと発表した

同機関のプレスリリースでは「この訴追状は、WhatsAppのポリシーのアップデートを受け入れるようユーザーに迫る、度重なる、執拗で強圧的な通知に対する初めての対応である」と述べられている。

「通知の内容と性質、タイミング、頻度はユーザーをいわれなき圧力の下に置き、彼らの選択の自由を毀損している。したがってそれらは、EUの不公正な商習慣に関する指示に違反している」。

最初に表示されるWhatsAppの新しいポリシーを受け入れる必要性に関する通知は、何度も繰り返されるため、サービスの利用を妨害することになると告げたが、後に同社はその厳しい締め切りを撤回した

それでも同アプリは、アップデートの受け入れを迫ってユーザーを困らせ続けた。受け入れない、というオプションはなく、ユーザーはそのプロンプトを閉じることはできるが、再度、再々度のポップアップを停止することはできない。

BEUCの訴追状は、次のように続いている。「さらに本訴追状は新しい利用規約の不透明性と、WhatsAppが、変更の性質を平易にわかりやすく説明できていないことを強調している。WhatsAppの変更が自分のプライバシーに何をもたらすのかを、消費者が明確に理解することが不可能であり、特に自分の個人データがFacebookやその他の企業の手に渡ることに関し記述が不明確である。このような曖昧さがEUの消費者法への違反を招いているのであり、企業は本来この法に従って、明確で透明な契約条項と商業的コミュニケーションを提示しなければならない」。

同機関が指摘しているのは、WhatsAppのポリシーのアップデートが依然としてヨーロッパのプライバシー規制当局から精査されていることだ。それ(まだ捜査中であること)が、同機関の主張によると、ポリシーをユーザーに押し付けるFacebookの強引なやり方が極めて不適切である理由の1つだ。

この消費者法に基づく訴追状は、BEUCが関与しているもう1つのプライバシー問題、EUのデータ保護当局(DPAs)が捜査しているものとは別だが、彼らに対しても捜査を早めるよう促している。「私たちはヨーロッパの消費者当局のネットワークとデータ保護当局のネットワークの両者に対して、これらの問題に関する密接な協力を促したい」。

BEUCは、WhatsAppのサービス規約に対する懸念を詳述した報告書を作成し、そこでは特に、新しいポリシーの「不透明性」を強く攻撃している。

WhatsAppは未だに、削除した部分と追加した部分に関して極めて曖昧である。結局のところ、何が新しくて何が修正されたのかをユーザーが明確に理解することは、ほとんど不可能である。新しいポリシーのこのような不透明性は、EUの不公正な契約規約に関する指示(Unfair Contract Terms Directive、UCTD)の5条に違反し、またEUの不公正な商習慣に関する指示(Unfair Commercial Practices Directive、UCPD)の5条と6条に照らして、それは誤解を招き不公正な慣行である。

WhatsAppの広報担当者はこのような消費者訴追状に対するコメントとして、次のように述べた。

BEUCの行為は、弊社のサービス規約のアップデートの目的と効果に対する誤解に基づいています。弊社の最近のアップデートは、WhatsApp上の企業に多くの人がメッセージングする際のオプションを説明しており、弊社のデータの集め方と使い方に関するさらなる透明性を提供するものです。このアップデートは、弊社のデータをFacebookと共有する能力を拡張するものではなく、世界のどこにいても、ユーザーが友だちや家族とやり取りするメッセージのプライバシーには何ら影響が及ぶものではありません。このアップデートをBEUCに説明し、多く人にとっての意味を明らかにする機会を歓迎したい。

BEUCの訴追状に対するコメントを欧州委員会(EC)に対しても求めたので、得られ次第この記事をアップデートしよう。

【更新】ECの職員は、次のように述べている。

本日、EUの消費者権への複数の侵犯によりWhatsAppに対して訴追状を提出したヨーロッパ消費者機関(BEUC)からの、警報を受け取りました。

欧州委員会はBEUCと各国の消費者機関から数週間後に提出されるすべての要素を細心に検討し、この件に関するさらなる捜査の必要性と、その結果としての共同消費者保護(Consumer Protection Cooperation、CPC)の規制が予見しているような協調行為の可能性を評価します。

協調行為はCPCのネットワークが定期的に行なうもので、その目的はこの単一市場において消費者の権利を一貫して強制していくことです。

私たちは、すべての企業が、EUではEUのデータ保護のルールに適合するサービスを提供することを期待しています。

GDPRの下では、ルールの監督と強制は各国のデータ保護当局が担当します。そして必要な協力はEuropean Data Protection Boardから提供されます。

欧州委員会は、この問題を密接に追尾していきます。

このWhatsAppポリシーアップデート問題は、以前からEUとヨーロッパ各国が着目しているため、今回の苦情提出は最新の反感表明にすぎない。例えば1月にはイタリアでプライバシーに関する警告が出され、その後の5月にドイツで緊急措置が取られた。それはハンブルグのデータ保護当局が、WhatsAppのユーザーデータの処理を禁じたことがきっかけだ。

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2021年初めには、EUでFacebookのデータ規制を指揮しているアイルランドのデータ保護委員会が、サービス規約の変更は当地域のユーザーに影響を及ぼさないとするFacebookの確約を了承したような雰囲気があった。

しかし、ドイツのデータ保護当局は不満だった。そしてハンブルグはGDPRの緊急時対応を持ち出し、それはアイルランドという一地域の問題ではなく、国をまたぐ訴えであり懸念であると主張した。

そういう緊急措置は期限が3カ月だ。そこでEuropean Data Protection Board(EDPB)は本日、緊急措置に関するハンブルグのデータ保護当局のリクエストを総会で議論すると確認した。総会での決定によっては、ハンブルグのデータ保護当局の介入が、今後も長続きすることになる。

一方では、ヨーロッパの規制当局が力を合わせてプラットフォームの強大な力に対抗しよう、という気運も芽生えている。たとえば各国の競争促進当局とプライバシー規制当局は共同で仕事をしていこうとしている。つまり国によって法律が異なっていても、独禁やデータ保護の専門知識や能力は個々のサイロに封じ込められるべきではない、という考え方だ。個々にサイロ状態であれば、リスクが行政の執行を邪魔し、インターネットのユーザーにとって衝突し相矛盾する結果を生むだろう。

強力なプラットフォームを鎖につなぐだけでなく、そのパワーを規制するために力を合わせるという考え方は、大西洋の両岸で理解されつつある。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ニューヨーク市で生体情報プライバシー法が発効、データの販売・共有を禁止

収集した顧客の生体情報データで企業が行えることを制限する生体情報プライバシーの新条例がニューヨーク市で発効した。

米国時間7月9日から、生体情報を収集している企業は(最も一般的な手法は顔認証と指紋だ)データがどのように収集されているかを説明する通知とサインを、顧客が気づくようドアに表示することが求められる。この条例は、いくつか挙げると小売、店舗、レストラン、劇場など、幅広い業種の企業に適用される。また収集した生体情報を販売・共有したり、そうした情報で益を得たりすることも禁じている。

この取り組みは、生体情報データがどのように収集・使用されているのかに関して、ニューヨーク居住者、そして毎年ニューヨーク市を訪れる何百万という人を保護するものだ。一方で、差別的で往々にして機能していないと批評家が批判するテクノロジーの使用を企業に思いとどまらせる。

条例に違反した企業は厳しい罰則に直面するが、違反をすばやく正せば罰金を回避できる。

法律というのは決して完全ではないもので、こうした法律も同様だ。というのも、今回の法律は警察を含む政府機関には適用されないからだ。条例がカバーする企業の中で対象外となるのは、たとえば指紋認証で出退社する従業員だ。また、何をもって生体情報とするかについては、対象範囲を拡大したり狭めたりするという問題に直面することが考えられる。

似たような生体情報プライバシー法は2020年にオレゴン州ポートランドが制定しており、ニューヨークはポートランドに続く最新の例となる。しかしニューヨークの法律は、他の都市の強力な生体認証プライバシー法には及ばない。

イリノイ州は、同意なしでの生体データの使用を訴える権利を住民に保障する法律「Biometric Information Privacy Act」を導入している。許可を得ずに写真に写っているユーザーをタグするために顔認証を使っていたFacebookは2021年、イリノイ州の住民が2015年に起こした集団訴訟で6億5000万ドル(約716億円)を払って和解した。

ニューヨーク拠点のSurveillance Technology Oversight ProjectのエグゼクティブディレクターAlbert Fox Cahn(アルベルト・フォックス・カーン)氏は今回の法律について、ニューヨーカーがどのように地元の企業に追跡されているのかを知ることができるようになるたための「重要なステップ」だと述べた。

「偽の顔認証マッチングは、ニューヨーク市警察がRite AidやTargetへと歩いているあなたに職務質問することにつながるかもしれません」とカーン氏はTechCrunchに語った。同氏はまた、他の都市がすでにそうしたように、ニューヨークが顔認証などのシステムを非合法化することでさらに規制すべきだとも話した。

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タグ:ニューヨーク生体情報プライバシー顔認証

画像クレジット:Leo Patrizi / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Nariko Mizoguchi

Evernoteの名前が反政府調査ロビーグループのウェブサイトから静かに消えていた

2013年、いわゆるPRISMプログラムの下、テック企業8社がユーザーのデータを米国国家安全保障局(NSA)に渡していたことを糾弾された。NSAの告発者であるEdward Snowden(エドワード・スノーデン)氏がリークした政府の高度機密書類によって明るみに出た。その6カ月後、そのテック企業らはReform Government Surveillance(政府による情報収集の改革)という名前の同盟を結成。名前が示すように、政府調査に関する法律の改訂を立法者に働きかけるのが目的だ。

狙いは単純だった。立法者に対し、標的となる脅威の監視方法を制限し、米国人の個人データを底引き網的に収集するのではなく、企業に大局的状況を提供し、ユーザーデータ提出に関する一種の秘密命令について、企業が透明性を保てるよう要求することだ。

Reform Government Surveillance(RGS)の創立メンバーはApple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Google(グーグル)、LinkedIn(リンクトイン)、Microsoft(マイクロソフト)、Twitter(ツイッター)、Yahoo(ヤフー)、およびAOL(エーオーエル、後のVerizon MediaでTechCrunchの親会社[今のところ])の8社で、後にAmazon(アマゾン)、Dropbox(ドロップボックス)、Evernote(エバーノート)、Snap(スナップ)、およびZoom(ズーム)がメンバーに加わった。

ところが2019年6月のある日、EvernoteがRGSウェブサイトから説明もなく消えた。さらに奇妙なのは、そのことに2年間誰も気づかなかったことで、Evernote自身でさえ知らなかった。

「当社のロゴがReform Government Surveillanceウェブサイトから削除されていたことは知りませんでした」とEvernoteの広報担当者がTechCrunchのコメント要求に答えて語った。「私たちは今もメンバーです」。

Evernoteは2014年10月に同盟に参加した。PRISMが最初に世間にさらされてから1年半後のことだが、この会社はリークされたスノーデン文書に名前が載ったことがなかった。それでもEvernoteは強力な仲間として、RGSによる行政調査法改訂の要求活動はリークされたNSA文書に名前が載った企業以外からも支持を得ていることを示した。EvernoteはRGSの一員であること、および「政府による個人の監視と個人情報のアクセスを規制する慣行と法律を整備する」努力を支持していることを最新の透明性レポートでも表明している。このことからもRGSウェブサイトから名前が消えた謎はいっそう深まった。

TechCrunchは他のRGSメンバー企業にも、Evernoteが削除された理由を知っているかどうか尋ねたが、返信がなかったかコメントを拒んだか、思い当たらないかのいずれかだった。あるRGSメンバー企業の広報担当者は、さほど驚いていない。なぜなら企業が「業界団体を出入りする」のはよくあることだからと語った。

Reform Government Surveillance同盟のウェブサイト。Amazon、Apple、Dropbox、Facebook、Google、Microsoft、Snap、Twitter、Verizon Media、およびZoomのロゴが並んでいるが同じくメンバーであるEvernoteはない(画像クレジット:TechCrunch)

たしかにそうかもしれない。企業はいずれ自分のビジネスに役立つかもしれないロビー活動によく参加する。政府による情報収集は、シリコンバレーのビッグネームが一致して大義を支持している稀な難問だ。実際、テック企業の中には自社ユーザーに対する政府調査の増加を公かつ積極的に擁護しているところもある。なぜなら自分たちの使っているサービスにプライバシー強化を要求しているのはユーザー自身だからだ。

結局Evernoteが消えた理由は驚くほど穏やかなものだった。

「Evernoteは長年のメンバーですが、過去数年はあまり活動していなかったため、ウェブサイトから削除しました」とRGSの代理を務めているワシントンDCのロビー業者であるMonument Advocacy(モニュメント・アドボカシー)がメールで説明した。「貴社の質問は当組織内に新たな会話を生むきっかけになりました。今後ともお付き合いのほどよろしくお願いいたします」。

MonumentはRGSの設立初期に調査法改訂のロビー活動を行うために雇われて以来、ずっとこの件に関わっている。OpenSecrets(オープンシークレット)の調査によると、同社は2014年以来これまでに220万ドル(約2億4000万円)をロビー活動に費やしている。具体的には、愛国者法、外国諜報活動偵察法(FISA)など議会で検討中の法案を変更するよう議員に働きかけているが、結果はまちまちだ。RGSは、愛国者法に基づくNSAの情報収集を縮小する米国自由法案を支持したが、NSAに米国外在住外国人の情報を収集する権利を与えるFISA第702条に対する反対運動は失敗した。702条は2018年に再承認され6年延長された。

2020年RGSはほとんど活動がなく、大西洋横断データフローの重要性に関する声明を1件発行しただけだった。米国EU間のデータ移動は、テック企業が懸念する最新の重要問題であり、現地当局が監視できないヨーロッパのユーザーはサービスから削除される恐れがある。

声明には「RGS加盟企業は自社サービスを利用している人々のプライバシーを守り、個人データを保護することを約束します」と書かれ、Amazon、Apple、Dropbox、Facebook、Google、Microsoft、Snap、Twitter、Verizon Media、およびZoomのロゴが入っているがEvernoteの名前はない。

同盟の力はメンバーの力そのものであり、ウェブサイトからEvernoteを削除したが今でもメンバーである、というのは結束した企業共同体が高らかに発信するメッセージではない。そもそもテック大企業たちの間で最近見られるものではないが。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Evernote透明性Reform Government Surveillance / RGSプライバシー個人情報NSA

画像クレジット:Frederick Florin / AFP / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】プログラマティック広告における広告詐欺と消費者プライバシー乱用との戦い方

編集部注:本稿の著者Jalal Nasir(ジャラール・ナセル)氏は、広告詐欺調査とマーケティング・コンプライアンスの国際プラットフォームであるPixalate(ピクサレート)のファウンダー兼CEO。以前はAmazonの詐欺防止およびリスク管理チームで初期のエンジニアの1人として働き、アドテックや企業プライバシーテクノロジーの構築でさまざまな製品を指揮した。

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プログラマティック広告(運用型広告)は、急成長中の大規模に広がりつつある2000億ドル(約22兆1135億円)の世界市場であり、Connected TV(CTV、スマートテレビ)が最近の加速要因となっている。しかし残念ながら、そこには詐欺と消費者プライバシーの乱用が蔓延し、CTV、モバイルをはじめとする新興メディアで特にその傾向が強い。

全世界における広告詐欺による損害は2020年350億ドル(約3兆8700億円)を超え、2025年には500億ドル(約5兆5287億円)に達するとWorld Federation of Advertisers(WFA、世界広告主連盟)は推測している。WFAによると、広告詐欺は「麻薬取引に次ぐ第2位の組織犯罪の収入源」だが、広告詐欺対策のための万能戦略はない。

モバイルやCTVにおけるビデオ広告を活用し、信頼できる広告効果測定を行うために、経営者は自分たちが、ボットではなく、顧客にリーチ(到達)することで事業目標を達成すべきであり、同時に最新の規制と法律を遵守する必要がある。

ビジネスリーダーが自らの評判と広告費用を守るための重要なステップがいくつかある。

  • 高度なツールを利用して、自社の広告費が餌食となっている広告詐欺のタイプを突き止める。
  • 予算を「質対リーチ」の観点から分析する。詐欺師たちは広告主の「歴史的なリーチへの強迫観念」につけ込んでいる。
  • 「プライバシーの時代」が到来したことを認識する。ビジネスリーダーはルールを守り、広告市場における自社ブランドのイメージを守らなくてはならない。

スマートテレビとモバイルアプリ広告のさまざまなタイプの広告詐欺を知り、自らの広告費を守る

貴重な広告費が不正なトラフィックに浪費される方法にはさまざまなタイプがあることを知っておく必要がある。現在米国世帯の78%がプロバイダーCTV広告を通じてリーチ可能となっている中、広告詐欺比率は2020年第4四半期に24%という高い数字を維持している。「なりすまし」(別のパブリッシャーのふりをする)や偽サイト、偽アプリなどの伝統的な広告詐欺攻撃は、CTVデバイスファームなどの高度な手法に取って代わられつつある。

広告詐欺が自分の広告費を蝕んでいることを知るのは第一歩だが、ビジネスリーダーはさまざまな策略を理解して、正しい方策を正しいタイミングで実行できるようにする必要がある。

質というレンズを通してリーチを見る

歴史的に、広告測定の標準的手法はリーチ(到達度)に焦点を当ててきた。しかし今や、トラフィックの質と結び付いていないリーチは「バニティメトリクス(虚栄心の指標)」でしかない。

質を無視してリーチを求めることは、広告詐欺に格好の機会を与える。偽トラフィックを生んで「リーチ」の幻想を作りだすやり方は、多くの広告詐欺の主要な方法であり、CTV詐欺の中にはボットを使って1日当り6億5000万回の入札を捏造するものもある、とThe Drumが伝えている。

実際の売上に結びつかない高インプレッション数と異常なプライシング(競争相手と比べて)は、トラフィック品質問題の有力な前兆だ。

CTVエコシステムの成長につれて高騰するプレミアム価格のために、広告主はバーゲンを探したくなる衝動に駆られるかもしれない。しかし、XUMOとPhiloをはじめとする大手ストリーミングTVプロバイダーは広告主に対し、うますぎる価格は詐欺行為の証かもしれない、と警告している。疑わしいデータを見たらトラフィックの出どころを確かめ、問いただす努力をすべきだ。

広告業界自身も、広告詐欺を阻止するためのツールをビジネスオーナーに提供することで応戦している。業界ではMedia Rating Council、Interactive Advertising Bureau、Trustworthy Accountability Groupなどの作業部会や監視機関が、特定のプラットフォームやサプライヤーを認定することで広告詐欺と戦っている。これらの組織は、詐欺行為に対処するための業界標準やプログラムも定期的に公開している。たとえばAds.txtというイニシアティブは広告主が合法的な第三者から広告枠を買う手助けをすることを目的としている。すべてのビジネスオーナーは、認定済みプラットフォームや新たなプログラムや標準を利用することで、広告詐欺の最新トレンドを掌握すべきだ。

ビジネスリーダーはブランドの安全とコンプライアンスを優先すべきだ

ブランドは広告品質の複雑な世界を安全に巡航することに加えて、付き合っているパブリッシャーがブランドにとって安全であり最新の消費者プライバシー・コンプライアンス法を遵守しているかどうかを検討すべきだ。

Pixalate(ピクサレート)の2021年予測によると、Apple App Store(アップル・アップストア)アプリの22%、Google Play Store(グーグル・プレイ・ストア)アプリの9%が、プライバシーポリシーを持たないプログラマティック広告を配信している。これが重要なのは、消費者データが広告詐欺策略の一部で悪用されたケースがすでに報告されているからだ。そしてGoogle Play Storeアプリの70%は、Googleが「dangerous permissions(危険な許可)」と呼ぶ要素を1つ以上含んでいて、これは2020年に5%増えた数字だ。また、プログラマティック広告を配信しているアプリのうち、Apple App Storeアプリの80%、Google Play Storeアプリの66%が、ユーザーの中に12歳以下の子どもを含んでいることから、COPPA(児童オンラインプライバシー保護法)遵守も視野に入ってくる。

ブランドの安全性に関してビジネスリーダーやブランドが知っておくべきことがいくつかある。最も重要なのは、あるブランドとって何が「安全」なのかはそのブランドのみに基づくということだ。黄金律は存在せず、なぜならブランドごとにビジョンもミッションもゴールも異なるからだ。ブランド安全性は主観的である。しかし、成功には不可欠である。

広告詐欺、ブランド安全性、およびデータコンプライアンスは常に進化を続けているので、リーダーは数値を追いかけ、市場の変化に遅れをとらず正しいパートナーに投資することで、最も影響力と効果のあるコンテンツに、ボットではなく、消費者が関わってくれるよう力を尽くさなくてはならない。

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タグ:コラム広告スマートテレビ詐欺プライバシー個人情報コンプライアンス

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(文:Jalal Nasir、翻訳:Nob Takahashi / facebook

45カ国と契約を結ぶNSOのスパイウェアによるハッキングと現実世界における暴力の関連性がマッピングで明らかに

NSO Group(NSOグループ)が開発したスパイウェア「Pegasus(ペガサス)」によって携帯電話がハッキングされたジャーナリスト、活動家、人権擁護者などの既知のターゲットすべてを、初めて研究者がマッピングで表してみせた。

ロンドン大学ゴールドスミス校の人権侵害を調査する学術ユニット「Forensic Architecture(フォレンジック・アーキテクチャー)」は、人権団体から提出された数十の報告書を精査し、オープンソースの調査を実施。数十人の被害者本人にインタビューを行った結果、デバイスの感染状況を含む1000以上のデータを明らかにした。これらのデータは、NSOの顧客である各国政府が行ったデジタル監視と、被害者が実際に受けている脅迫、いやがらせ、暴力との関係やパターンを示している。

研究者たちは、これらのデータを独自のプラットフォームにマッピングすることで、Pegasusを使って被害者をスパイする国家が、そのネットワーク内の他の被害者をターゲットにすることもあり、さらにターゲットとされた人物だけでなく、その家族、友人、同僚も、攻撃、逮捕、偽情報キャンペーンの被害にどれだけ巻き込まれているかを示すことができた。

1000件を超えるデータは、各国政府によるPegasusの使用状況の一部に過ぎないが、このプロジェクトが目的としているのは、スパイウェアメーカーのNSOが極力表に出さないようにしている同社の世界的な活動に関するデータとツールを、研究者や調査員に提供することである。

イスラエルに拠点を置くNSOグループが開発したスパイウェアのPegasusは、その顧客である政府機関が被監視者の端末に、個人情報や位置情報を含めてほぼ自由にアクセスできるようにするものだ。NSOグループは、これまで何度も顧客名の公表を拒否してきたが、少なくとも45カ国で政府機関と契約を結んでいると報じられている。その中には、ルワンダ、イスラエル、バーレーン、サウジアラビア、メキシコ、アラブ首長国連邦など、人権侵害が指摘されている国の他、スペインなどの西欧諸国も含まれている。

今回の調査を担当したForensic Architectureの研究員であるShourideh Molavi(ショウリデ・モラビ)氏は「私たちの住むデジタル領域が、人権侵害の新たなフロンティアとなっており、そこで行われる国家による監視と脅迫が、現実空間における物理的な暴力を引き起こしていることが、調査結果から明らかになりました」と述べている。

このプラットフォームでは、政府の最も率直な批判者を標的としたキャンペーンから、どのようにして被害者がスパイウェアと物理的暴力の両方の標的となったかを、視覚的なタイムラインで示している。

モントリオールに亡命中のサウジアラビア人ビデオブロガーで活動家のOmar Abdulaziz(オマル・アブドゥルアジズ)氏は、2018年にマルウェアのPegasusによって自分のスマートフォンをハッキングされた。それはサウジの使者がアブドゥルアジズ氏に王国に戻るよう説得した直後のことだった。その数週間後、サウジアラビアに住む彼の兄弟2人が逮捕され、彼の友人たちも拘束された。

アブドゥルアジズ氏は、サウジアラビアの事実上の支配者であるMohammed bin Salman(ムハンマド・ビン・サルマン)皇太子が殺害を承認したWashington Post(ワシントン・ポスト紙)のジャーナリストでありJamal Khashoggi(ジャマル・カショギ)氏の親友であり、彼のTwitter(ツイッター)アカウントに関する情報も「国家が支援する」実行者に盗まれた。後にその犯人は、Twitterに勤務していたサウジアラビアのスパイであることが判明した。Yahoo! News(ヤフー・ニュース)が先週報じたところによると、この盗まれたデータには、アブドゥルアジズ氏の電話番号も含まれており、それを利用してサウジアラビアは彼の携帯電話に侵入し、カショギ氏とのメッセージをリアルタイムで読み取っていたという。

オマル・アブドゥルアジズ氏は、国家によるデジタル監視の被害者として知られる数十人のうちの1人だ。青色の点はデジタル的な侵入を、赤色の点は嫌がらせや暴力などの物理的な出来事を示す。(画像クレジット:Forensic Architecture)

メキシコ人ジャーナリストのCarmen Aristegui(カルメン・アリステギ)氏も、被害者として知られる1人で、2015年から2016年にかけて、メキシコである可能性が高いPegasusの顧客政府によって、携帯電話が何度もハッキングされていた。トロント大学のCitizen Lab(シチズン・ラボ)によると、彼女の息子で当時未成年だったEmilio(エミリオ)氏も、米国に住んでいる間に携帯電話が狙われていたという。アリステギ氏とその息子、そして彼女の同僚に対するデジタル侵入の時系列を見ると、彼女らがメキシコのEnrique Peña Nieto(エンリケ・ペーニャ・ニエト)大統領(当時)の汚職を暴露した後、ハッキング活動が激化したことがわかる。

「このマルウェアは、カメラやマイクなど、私たちの生活と不可分な機器を作動させることができます」と、このプロジェクトに協力したジャーナリストで映画監督の Laura Poitras(ローラ・ポイトラス)氏によるインタビューで、アリステギ氏は述べている。携帯電話を狙われた息子について、アリステギ氏は次のように語った。「ただ学校に通うだけの生活をしている子どもが狙われるということは、国家がいかに我々が対抗し得ない侵害を行うことができるかを物語っています」。なお、NSOは米国内の携帯電話を標的にしていないと繰り返し主張しているが、Pegasusと同様のPhantom(ファントム)と呼ばれる技術を、米国の子会社であるWestbridge Technologies(ウェストブリッジ・テクノロジーズ)を通じて提供している。

「国家が、あるいは誰かが、このような『デジタル暴力』のシステムを使うことで、ジャーナリズムの責務に途方も無いダメージを与えることができます」と、アリステギ氏はいう。「結局はそれがジャーナリストに大きな痛手を与え、社会が情報を維持する権利に影響を及ぼすことになるのです」。

タイムラインは、カルメン・アリステギ氏とその家族、同僚がデジタルで狙われた時(青)と、オフィスへの侵入、脅迫、デマ情報キャンペーン(赤)の発生が絡み合っていることを示している。(画像クレジット:Forensic Architecture)

このプラットフォームは、NSOグループの企業構造に関するAmnesty International(アムネスティ・インターナショナル)による最近の調査結果にも基づいている。この調査では、NSOのスパイウェアが、その顧客や活動を隠すために、複雑な企業ネットワークを利用して、国家や政府に拡散していったことを明らかにした。Forensic Architectureのプラットフォームは、2015年にNSOが設立されて以来の民間投資の痕跡を追っている。このような民間資本が、イスラエルの輸出規制によって、通常は制限されているはずの政府へのスパイウェアの販売を、NSOに「可能にさせた可能性がある」という。

NSOグループのスパイウェアであるPegasusは、イスラエルの軍産複合体による他の製品と同様、現在進行中のイスラエルによる占領下で開発された武器として考え、取り扱う必要がある。Forensic ArchitectureのディレクターであるEyal Weizman(エヤル・ワイツマン)氏は「世界中で人権侵害を可能にするために輸出されているのを見ると失望します」と語っている。

このプラットフォームが起ち上げられたのは、NSOが先週、最初のいわゆる透明性報告書を発表した直後のことだった。この報告書は、人権擁護団体や安全保障研究者から、意味のある詳細が何もないと批判されていた。アムネスティ・インターナショナルは、この報告書は「営業用パンフレットのようだ」と述べている。

NSOグループは声明の中で、実際に見ていない研究についてはコメントできないとしながらも「不正使用についての信憑性のある申し立てはすべて調査し、NSOは調査結果に基づいて適切な措置を取る」と主張している。

NSOグループは、同社の技術を「米国内でのサイバー監視に使用することはできないし、これまで米国の電話番号を持つ電話機にアクセスできる技術を与えられた顧客はいない」と主張し、政府系顧客の名前を明かすことは拒否した。

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タグ:スパイウェアNSO Groupハッキング人権暴力個人情報プライバシー

画像クレジット:Forensic Architecture / supplied

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米政府による顧客データ要求の3分の1が秘密保持命令をともなう、マイクロソフト幹部が乱用に警鐘

Microsoft(マイクロソフト)の顧客セキュリティ責任者によると、同社が受ける顧客データに関する政府の要求のうち3分の1が、令状の対象者に捜査内容を開示できない秘密保持条項付きで発行されているという。

この数字は、トランプ政権下の米司法省がニューヨークタイムズ紙、ワシントンポスト紙、CNNの記者に機密情報が漏洩した事件の調査の一環として、通話記録や電子メール記録を秘密裏に入手しようとしたことを受け議員たちが立法措置を検討している中、米国時間6月30日の下院司法委員会に先立って行われたMicrosoftのTom Burt(トム・バート)氏による証言で明らかにされた。

バート氏は、このような秘密保持命令は「残念ながらありふれたものになっている」と述べ、Microsoftは「法的または事実的に意味のある分析に基づかない形式的な秘密保持命令」を定期的に受け取っていると語った。

バート氏は証言の中で、2016年以降、Microsoftは毎年2400~3500件、1日に7~10件の秘密保持命令を受け取っていたと述べた。同社は透明性レポートの中で、2020年、米国当局から1万1200件近くの法的命令を受けたと述べている。

一方、米国の裁判所が10年前の2010年に承認した秘密保持条項付き令状の数は全体で2395件であり、バート氏によると、これは過去5年間のいずれかの期間においても、Microsoft1社が1年に受けた秘密保持命令の数よりも少ないという。

「これは、クラウドサービスプロバイダーの1社であるMicrosoftが受けた要求にすぎません。この数字を、データを保持または処理するすべてのテクノロジー企業に掛け合わせれば、政府による秘密監視の乱用の範囲がわかるかもしれません」とバート氏は証言している。「私たちは、秘密保持命令を無理な基準でしか得られないように提案しているわけではありません。意味のある基準であることを求めているだけです」。

秘密保持命令をめぐる論争の多くは、ここ数週間でApple(アップル)、Google(グーグル)、Microsoftに出された秘密保持命令が失効し、トランプ政権下の司法省がデータをホストするハイテク企業にデータを要求することで記録を極秘に入手しようとしていたことを、各社が報道機関に開示できるようになったことに端を発している。

バイデン米大統領は、ジャーナリストの電話や電子メールの記録の収集を中止することを約束するとともに、機密保持に関する条項を一部削除した。しかし議員たちは、この政策を法制化するには法改正が必要であると指摘するだろう。

バート氏は、Microsoftは「秘密保持命令の乱用を防ぐために、できる限りのことをする」と述べている。ソフトウェアとクラウドの巨人は、2016年にも秘密保持命令の合憲性を問うために司法省を提訴した。

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タグ:アメリカマイクロソフトプライバシー透明性

画像クレジット:Jeenah Moon / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Aya Nakazato)

プライバシー重視ブラウザ「Brave」、非追跡型検索エンジンのベータ版をリリース

プライバシー重視のブラウザBraveは、数カ月間独自の検索エンジンのテスト(予約リストに登録されている[ブラウザ名がBraveだけに]勇敢な早期採用者による新興の代替インターネット検索ブラウザの品質検査)を行ってきたが、今回、Brave Searchというツールのグローバルベータ版のリリースを発表した。

Braveの非追跡型検索エンジン(独自のインデックス上に構築されており、Google検索のような監視テック製品に代わるプライバシー重視をうたっている)に興味のあるユーザーは、Braveのデスクトップ版およびモバイル版のブラウザを介して入手できる。他のブラウザでsearch.brave.comにアクセスしても入手できる。つまり、Braveブラウザに乗り換えなくても、Braveの検索エンジンを使用できる。

Brave SearchはBraveブラウザのユーザーが選択できる複数の検索オプション(Google検索エンジンを含む)の1つとして提供されているが、Braveによると、2021年後半にはBraveブラウザのデフォルトの検索エンジンにする予定だという。

3月の記事に書いたとおり、BraveはCliqz(欧州の非追跡型検索ブラウザで2020年5月に閉鎖された)に在籍していた開発者と同社のテクノロジーを買収によって取得し、彼らが開発していたTailcatと呼ばれるテクノロジーを基盤として、Brave独自の検索エンジンを作り上げた。

現在ベータのBrave Searchは、現時点で、10万人を超える早期リリース版ユーザーによってテストされたという。同社はこのマーケティング動画を作成し、Brave SearchをGoogle検索エンジンとChromeの組み合わせの代替オプションとして使用できる「すべてを含むパッケージ」であるとうたっている。

Braveの月間アクティブユーザー数は、(3月時点では2500万人だったが)最近3200万人を超えた。これには、同社のフラグシップ製品であるプライバシー重視のブラウザだけでなく、ニュースリーダー(Brave News)やFirewall+VPNサービスなど広範な製品スイートのユーザーも含まれる。

Braveは、プライバシーを重視するユーザーのコミュニティにリーチしたいと考えている企業向けに、プライバシー保護型のBrave Adsも提供している。

監視べースのビジネスモデルに対する一般市民の認識が高まるにつれ、プライバシー重視の消費者テックが何年にも渡ってその勢いを増し続けている。特定のプライバシー重視製品に注力してビジネス展開をはじめ、完全な製品スイート(ブラウザ、検索エンジン、電子メールなど)を形成するに至った企業も少なくない。こうした企業では、すべての製品を非追跡型という1つのカテゴリに属するものとして提供している。

Brave以外にも、DuckDuckGo(ダックダックゴー)は、非追跡型検索エンジンだけでなく、トラッカーブロッカーや受信箱プロテクターツールといった製品を提供しており、全体で7000万人~1億人のユーザーを獲得したと思われる。また、Proton(プロトン)はE2E暗号化メールサービスProtonMailだけでなく、クラウドカレンダーやファイルストレージ、VPNといったサービスも提供している。プロトンは最近、全世界で5000万人を超えるユーザーを獲得した。

もちろん、Apple(アップル)も例外ではない。AppleはGoogleと競合するテック大手でアドテック複合企業でもあり、ユーザーに高品質のプライバシーを約束することでハードウェアと各種サービスの売上を伸ばしている(アップルによると、2021年始めの時点で、iOSのユーザーは全世界で10億人を超えており、Apple製デバイスの台数は16億5000万台以上に達しているという)。

要するに、消費者向けプライバシーテクノロジー市場は成長しているということだ。

それでも、そのAppleでさえGoogle検索との競争は避けている。これは、Googleという巨大検索企業からユーザーを横取りしようと試みることがあまりに大きな挑戦であることを示しているのだろう(とはいえ、Appleは、Google検索エンジンのiOS端末への事前ロードを許可する代わりにGoogleから巨額の支払いを引き出している。これによってAppleは巨額の収益を得ているものの、自ら唱えている広範なプライバシー重視、ユーザー重視の約束と矛盾しており、問題を複雑にしている)。

対照的にDuckDuckGoは長年、非追跡型検索の第一線に位置しており、2014年以降黒字化を実現している。同社はもちろんAppleのような巨額の利益を出しているわけではないが、投資家がプライバシー重視検索の成長に目をつける中、最近、例外的に巨額の外部資金を調達している。

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商業的な情報詮索プログラムから人個人情報を保護するという市民の欲求が拡大しているその他の兆候として、Facebook所有のWhatsAppに代わるエンド・ツー・エンド暗号化アプリの急増がある。例えばSignalは、2021年前半、広告大手であるFacebookがWhatsAppのサービス利用規約の一方的な変更を発表した後、ダンロード数が急増した。

本格的なユーザープライバシーの約束に期待を寄せる思い入れの強いユーザーのコミュニティを構築してきた有望な企業は、プライバシーへの関心が高まるたびにその波に乗る絶好の位置につけているといえる。さらには、消費者向け製品スイートを抱き合わせ販売することで、個々の製品の有用性を高めることもできる。Braveが検索に手を出す絶好のタイミングだと確信したのもそのためだ。

BraveのCEO兼共同創業者Brendan Eich(ブレンダン・アイク)氏は、今回の発表のコメントで次のように語っている。「Brave Searchは業界で最もプライバシーを重視した、なおかつ独立系の検索エンジンであり、ユーザーがテック大手の代替エンジンに求めるコントロールと信頼をもたらします。ユーザーを追跡しプロファイルを作成する古い検索エンジンや、その後に登場した独自のインデックスを持たない、古いエンジンの外観を変えただけのような検索エンジンと違って、Brave Searchはコミュニティの力を活用したインデックスで関連性の高い結果を出す新しい方法を提供すると同時に、プライバシーも保証します。数百万という人たちが監視型経済を信頼できなくなり、自身のデータを自身で管理できるソリューションを積極的に探している中、Brave Searchは今市場にある明らかな空白を埋めることができます」。

Braveは、同社の検索エンジンにライバル企業(小規模のライバルも含む)との差別化を図る機能が多数用意されていることを売りにしている。その1つが独自の検索インデックスであり、このおかげで他の検索プロバイダーに依存しないエンジンとなっている。

独自の検索インデックスがなぜそれほど重要になるのだろうか。この質問をBraveの検索最高責任者Josep M. Pujol(ジョセフ・M・プホール)氏にぶつけてみた。「検閲とバイアスが組み込まれる動機は、故意であれ、無意識であれ(こちらのほうが対処は困難ですが)たくさんあります。検索と人々がウエブにアクセスする方法の問題は、それがモノカルチャーである(ごく少数の企業に席巻されている)点です。誰もが、この状態は非常に効率的であると同時に非常に危険であることを認識しています。モノカルチャーでは、一度病害が発生するとすべての作物が駄目になる可能性があります。現在のこの状況は障害に対する耐性がなく、ユーザーでさえそのことに気づき始めています。我々にはもっと選択肢が必要です。これは、GoogleやBingを置き換えるという意味ではなく、それらの代替案を提示するという意味です。選択肢が増えれば自由度が上がり、抑制と均衡を備えた本当の競争を回復できます。

「選択肢は独立性があって初めて可能となります。というのは、もし当社が独自の検索インデックスを持っていなかったら、当社のエンジンはGoogleやBingの上に一枚皮を被せただけのものになり、ユーザーの問い合わせに対する結果もほとんど、あるいはまったく変わりません。某検索エンジンのように独自の検索インデックスを持たないエンジンを提供すると、一見選択肢が増えたように見えますが、中身は大手2社と何ら変わらないのです。コストはかかりますが、独自の検索インデックスを構築することによってのみ、真の選択肢を提供できます。そして、それはBrave Searchユーザーに限らずすべてのユーザーに利益をもたらします」。

ただし、現時点では、Braveは他の検索プロバイダーの機能に依存している部分があることを指摘しておきたい。これは、特定のクエリーや画像検索などの領域で(Braveによると、例えばMicrosoft所有のBingの結果を利用しているという)、十分に関連性の高い検索結果が得られるようにするためだ。

また、検索結果の改善と精緻化にコミュニティからの匿名のコントリビューションも利用しており、検索インデックスに関して広範な透明性という謳い文句に沿った製品にしようとしている(検索インデックスでは、結果にバイアスを生じさせる秘密の手法やアルゴリズムを使用しないという。これを実現するために、まもなくコミュニティによってキュレーションされるオープンなランキングモデルを提供して多様性を確保し、アルゴリズムによるバイアスとあからさまな検閲を防ぐという)。

透明性を上げるもう1つの手段として、Braveは、ユーザーの問い合わせが独自インデックスによって処理された割合を報告するとしており、これを「業界初の検索独立性指標」と称して宣伝している。つまり、同社独自の検索インデックスだけで得た結果の割合を表示するというものだ。

「当社はユーザープロファイルを構築しないため、この指標はユーザーのブラウザを使用してプライバシーを重視して作成されます」とBraveはプレスリリースに記している。「ユーザーはこの集計指標をチェックすることで検索結果の独立性を確認し、検索結果の作成に当社独自のインデックスが使用された程度を知ることができます。あるいは、当社独自のインデックスがまだ構築中であるためにロングテール結果の作成にサードパーティのインデックスが使用されたかどうかも確認できます」。

また同社は、Brave Searchは「通常、大半の問い合わせに答えることができ、それは高い独立性指標に反映されている」ことも付け加えた。とはいえ、たとえば画像検索を実行すると、独立性指標が頭打ちになるのがわかる(ただしBraveは、これによってユーザーの追跡が行われることはないことを確認している)。

透明性はBraveにとって重要な原則であり、 Brave Searchによるすべての検索を対象にグローバルな独立性指標も開発する予定で、これを公開することで当社が完全な独立性に向けて進んでいることを示すつもりです」。

Braveの検索結果に表示される「独立性指標」の例(画像クレジット:Brave)

収益化に関しては、まもなく、広告なしの有償バージョンと広告付きの無償バージョン(「完全な匿名」検索は保証される)の両バージョンを提供する予定だという。ただし、早期ベータ版では広告スイッチをオフにする予定はないと明言している。

「広告なしの有料検索と広告付きの無料検索の両方に各種オプションを提供する予定です」と同氏はいう。「それができたら、Braveのユーザー広告ですでに行っているように、BATで広告収入をユーザーと共有するプライバシー重視の広告を検索にも持ち込みたいと思っています」。

Brave Search検索エンジンは使用するがBraveブラウザーは使用しないユーザーには、コンテキスト広告が表示される。

「BraveブラウザーによるBrave Searchでは、オプトイン広告における強力なプライバシー保護を保証するのが標準であり、当社の支持するブランド価値です」とプホール氏は付け加え、検索のユーザーとブラウザのユーザーは同じタイプの広告ターゲティングの対象となる可能性が高いことを確認した。

まもなくリリースされる広告なしバージョンの検索エンジンの価格設定について同氏は次のように答えた。「リリース日と価格については未定ですが、広告なしの検索はお求めやすい価格にする予定です。検索と情報へのアクセスはすべての人が公正な条件で利用できる必要があると当社は考えているからです」。

最近、欧州で興味深い展開があり、Googleは、反トラスト規制当局からの圧力を受けて、Androidプラットフォームの域内ユーザーに表示される選択画面における「載りたけりゃ金を払え」式のオークションモデルを見限って、多くのライバル企業と自社ブランドのGoogle検索が掲載されたリストからデフォルトの検索エンジンを選択できるようにすることに同意した。この動きによって欧州のAndroidユーザーが選択できる代替検索エンジンの数は増えるはずだ。そうなれば、Googleの検索市場シェアが少しずつ減少する可能性がある。

関連記事:グーグルがEUの圧力を受けAndroid検索エンジンの選択画面オークションを廃止、無料化へ

Braveは以前、Googleの有償オークション形式には参加しないと語っていたが、新しいモデルが「本当に無料で参加できる」なら、今後参加する可能性はあるという。

「Googleが参加無料にするというのは、たくさんの前例があることを考えるとにわかには信じがたいのですが、このモデルが本当に参加無料で、各種契約や機密保持契約を交わす必要もないのなら、参加する可能性はあります」と同氏はいう。「結局、Brave Searchは使いたいすべての人にオープンな製品です。どのプラットフォームでもBrave Searchを選択できるよう積極的に取り組んでいきたいと考えています」。

「欧州各国にはローカライズ済みの各種ブラウザがすでに存在しているため、見込みのあるユーザーにリーチできるすべてのメディアでクラス最高のプライバシーをマーケティングすることで、Braveブラウザのシェア拡大のみに頼らず、Brave Searchの市場シェア拡大を図っていきたいと考えています」と同氏は付け加えた。

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画像クレジット:Westend61 / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

グーグルのトラッキングクッキーのサポート終了は英国の競争規制当局が同意しない限り実現しない

大きな決定だ。Google(グーグル)がサードパーティークッキーのサポート終了に向けて動く中、英国の競争規制当局はこれを阻止できるサイドブレーキを手にする模様だ。Cookieは現在オンライン上のターゲティング広告に使用されているテクノロジーで、進行中の廃止計画によって競争に悪影響が及ぶとされている。

今回の出来事は、Google独自の「プライバシーサンドボックス」について、2021年初めに競争・市場庁(CMA)が行った調査を受けてのものだ。

規制当局は、GoogleがChrome(クローム)上でサポートしているCookieを削除しようとした場合に、少なくとも60日間この動きを停止するよう命じる権限を持つことになる。そのためには、規制当局はGoogleが提示した法的拘束力のあるいくつかの契約に同意する必要があるが、当局は現地時間6月11日、契約に応じる意思を示す通知を発表した。

また、Googleにトラッキングクッキーの廃止を停止するよう命じた段階で状況が思わしくない場合、競争・市場庁は全面的な調査を再開することもできるという。

その上、競争に悪影響を及ぼさない形でGoogleの「プライバシーサンドバッグ」テクノロジーに移行することはできないと規制当局が判断した場合、規制当局はこの広範なテクノロジーの移行を全面的にブロックする権限も有する。しかし、競争・市場庁は本日の発表で、競争に関するこの計画の懸念点はGoogleが提示した一連の契約によって暫定的に解消されたとの見方を示している。

現在は協議委員会が設けられ、業界が同意するかどうかのフィードバックを7月8日まで受け付けている。

競争・市場庁のAndrea Coscelli(アンドレア・コシェリ)主席常任委員は、声明で次のようにコメントしている。

Googleをはじめとする巨大なテクノロジー企業の台頭により、世界各国の競合規制当局は新しいアプローチを必要とする新たな課題に直面している。

そのため、競争・市場庁は世界をけん引して強大なテクノロジー企業と連携し、消費者の利益のためにこれら企業の行動を方向づけ、競争を保護する取り組みを進めている。

Googleから受け取った契約に同意した場合、これらの契約には法的拘束力が生じるため、デジタル市場での競争を促進し、ユーザーのプライバシーを保護しながら、広告を通じてオンライン上のパブリッシャーが売上を確保する権利を保護する助けとなるだろう。

Googleが契約内容を概説したブログ記事には「Consultation and collaboration(話し合いとコラボレーション)」「No data advantage for Google advertising products(Googleの広告製品にデータのアドバンテージはなし)」、そして「No self-preferencing(自社に対するひいきはなし)」という3つの大筋の副見出しが並んでいる。この記事の中で、Googleは競争・市場庁が契約に同意した場合はこれを「世界中で適用する」としており、英国の介入を顕著に示すことになる。

英国のEU離脱によって生じた少々意外な変化の1つは、世界のデジタル広告の規則に関して英国が主な決定を下す立場となった点だろう(欧州連合も大手プラットフォームの運営に関する新しい規則の制定に動いているが、プライバシーサンドボックスに対する競争・市場庁の介入に匹敵するほどの動きは、まだ欧州連合本部からは見られていない)。

Googleが英国の競争介入を世界的に適用するとした決定は、非常に興味深いものだ。もしかすると、競争・市場庁を世界の模範のように見せることで、当庁に提示内容を承諾してもらおうというごますり的な要素もあるのかもしれない。

同時に、ビジネスが求めるのは運営の確実さだ。Googleが(そこそこ)大きな英国市場で認められる規則を最終的にまとめられるのであれば、英国内の監督機関と共同で規則を策定し、それを世界中に展開する形となるため、これは将来他の規制当局が強制措置を取るような事態を回避する近道となる可能性がある。

そのため、Googleは今回の件について、アドテック事業をポストCookieの未来へ移行させる上での、よりスムーズな道のりと捉えているのかもしれない。もちろん、全面的な停止を命じられる事態を避けたいという思いもあるだろう(いや、どうだろうか?どちらの結果でも、Googleにはプラスとなるだろう)。

さらに広く見れば、テンポの速い英国の規制当局と連携することは、Googleにとって政治的なこう着状態やリスクを回避するための戦略とも考えられる。実際、他の市場ではデジタル規制に関する議論でこのような事態が見られているからだ(特に本拠地の米国では、巨大なテクノロジー企業を解体しようとする声が大きくなっている他、実際にGoogleは現在独占禁止法に基づく調査複数受けている)。

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Googleが求めているのは、規制当局の認可を受けた「準拠」のハンコをもらい、自社が築いた広告の帝国を解体する必要はないと証拠で示すことなのかもしれない(あるいは、プライバシー重視の変更を行ってはいけないと規制当局から命令を受けることかもしれない)。

Googleが提示した契約からは、巨大テクノロジー企業の力に立ち向かおうと最もスピーディーに動いた規制当局が、世界中のウェブユーザーに適用される基準と条件の定義づけを支援する立場となることが如実に表れている。少なくとも、より極端な介入が巨大テクノロジーになされない限りはそうだろう。

プライバシーサンドボックスとは

プライバシーサンドボックスは、(ユーザーのプライバシー面で最悪という見方の多い)現行の広告トラッキング手法を代替インフラストラクチャに置き換えるものとして提案されたインターロッキング技術の集合体だ。Googleはこれについて、個人のプライバシー保護の観点ではるかにすぐれていながら、アドテック業界やパブリッシング業界が(Google曰く、今までとほぼ同じように)ウェブユーザーのコーホート(オンラインで閲覧するコンテンツに基づいて「似た興味関心のボックス」別に分類)ごとにターゲティング広告を表示させることで、収益を生み出せるインフラストラクチャだという。

関連記事:グーグルはCookieに代わるターゲット方式による広告収入はほぼ変わらないと主張するもプライバシー面は不透明

本提案(これには、Googleが提案する、協調機械学習により生成されたコーホートに基づいた新しい広告IDのFLoCや、Turtledoveを拡張したGoogleの新しい広告提供テクノロジー、Fledgeなどが含まれている)の完全な詳細は、まだ確定されていない。

とはいえ、Googleは2020年1月の時点で、2年以内にサードパーティークッキーのサポートを終了するつもりであることを発表しているため、この厳しいタイムフレームが反対の声を呼び寄せたと思われる。アドテック業界や(いくつかの)パブリッシャーからは、業界レベルの広告ターゲティングが失われると広告の収益に甚大な被害が及ぶおそれがあるとして抵抗の声が上がっている。

競争・市場庁は、Googleが考案した新しいインフラストラクチャへの移行はGoogleの市場権力を増大させるものにすぎないと苦情が上がったことを踏まえ、Googleが計画しているトラッキングクッキーの廃止について調査を開始した。これらの苦情では、サードパーティーが広告ターゲティング用にインターネットユーザーを追跡できないようサードパーティーを締め出しておきながら、Googleは(消費者ウェブサービスを独占しているため)膨大なファーストパーティーデータにアクセスでき、オンラインでのユーザーの挙動を高レベルで把握できるという点が指摘された。

競争・市場庁が本日発表した通知書のエグゼクティブサマリーには、規制当局による適切な監督がない場合、プライバシーサンドボックスが以下の影響を生じさせる可能性があると懸念が示されている。

  • サードパーティーに対してユーザートラッキングに関連する機能を制限しながらもGoogle側の機能を保持することで、広告インベントリを提供する市場、さらには広告テクノロジーサービスを提供する市場の競争をゆがめる。
  • Google独自の広告製品やサービス、さらにはGoogleが所有および運用する広告インベントリをひいきすることで、競争をゆがめる。
  • 個人データをターゲティングや広告提供の目的でどのように用いるかという点で、クロームウェブの各ユーザーが幅広く選択する権利を拒否することで、Googleが持つ明らかに独占的な地位を不当に利用することを容認する。

一方、インターネットユーザーへの広告トラッキングやターゲティングに対するプライバシー面での懸念から、Googleは間違いなくクローム(当たり前だが、ウェブブラウザの市場シェアを独占している)を一新するよう圧力を受けている。他のウェブブラウザが何年もの間トラッカーをブロックするなどしてユーザーをオンライン監視の目から保護する取り組みを自発的にしていることも、この圧力の理由だ。

ウェブユーザーは、不快な広告を非常に嫌がる。彼らがこぞって広告ブロッカーを使うのもそのためだ。データにまつわる数えきれないほどの大スキャンダルも、プライバシーやセキュリティに関する認知度を高めてきた。その上、ヨーロッパをはじめとする国では、ここ数年の間にデジタルプライバシー規制が強化されたり、新たに導入されたりしている。つまり、広告事業がオンラインで行うアクションの「許容ライン」が変わってきているということだ。

しかし、ここでの主な問題は、プライバシーと競争規制がどのように互いに作用(あるいは衝突)するかという点だ。考えが足りず、切れ味の鈍い状態で競争介入が行われた場合、ウェブユーザーのプライバシー侵害を根本的に固定化させてしまうリスクはその顕著な例である。つまり、オンラインプライバシー規制の実施が緩やかな場合、インターネットユーザーに対して同意のない過剰な広告トラッキングやターゲティングを行う事業が利益を拡大する事態を許容することになり、本来の目的が失われてしまうということである。

禁止令発令の権力を振りかざす競争規制当局と、緩やかなプライバシー規制の実施というコンビネーションは、ウェブユーザーの権利を保護する上で理想的とは言えないだろう。

一方、この状況を楽観視するには注意が必要だ。

先月、競争・市場庁と英国個人情報保護監督機関(ICO)は共同声明を発表し、デジタル市場における競争とデータの保護の重要性について述べたが、ここで競争・市場庁によるGoogleプライバシーサンドボックスの調査が、きめ細かな共同作業を必要とするケースの好例として取り上げられているのだ。

共同声明の内容はこうだ。「競争・市場庁と英国個人情報保護監督機関は、Googleやその他の市場参入者と連携してGoogleの提案に関する共通理解を醸成するとともに、提案の詳細が明らかになる過程でプライバシーと競争に関する懸念を払拭できるよう徹底的に取り組む」。

英国個人情報保護監督機関が過去に権利を踏みにじるアドテックに対して実施した措置は、はっきりいうと存在しない。当機関がアドテック業界のロビー活動に対して規制の不履行を選ぶ傾向にあることを踏まえると、英国のプライバシーおよび競争を監督する規制当局が「共同作業」すると述べた事実は、ほんの小さな楽観的要素も打ち消す力があるだろう。

(対して競争・市場庁は英国のEU離脱後に今までより大きな調査権限を手にして以来、デジタル領域に関して非常に積極的に取り組んでいる。ここ数年の間にデジタル広告市場の競争実態が明らかになってきたこともあり、当庁が有する知識は膨大だ。また、当庁は競争重視の制度を監督する新たな機関の立ち上げも進めており、英国はこの機関を通じて大手テック企業の行動を制限する意思を明言している)

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Googleが同意した契約とは

競争・市場庁はGoogleがプライバシーサンドボックスについて「大規模かつ幅広い」契約を提示したとし、その一部として以下を開示している。

  • 競争のゆがみ、またクロームユーザーにとって不公平な規約の強制を回避する形で提案を策定し、実施する義務を負う。目標を確実に達成するため、これには提案の策定時に競争・市場庁と英国個人情報保護監督機関を関与させる義務が含まれる。
  • Googleが提案内容の実施を進める際には、その方法と時期、さらには評価の基準を公表することでGoogleの透明性を向上させる。これには、代替テクノロジーの有効性に関する試験結果を一般に開示する義務が含まれる。
  • サードパーティークッキーの削除後、Googleがデジタル広告の目的で使用または組み合わせる個人のユーザーデータの範囲を大幅に制限する。
  • Googleがサードパーティークッキーの代替となるテクノロジーを設計および運用する上で、競合他社に対し、自社の広告およびアドテック事業に有利になるような不公平な取り扱いをしてはならない。
  • Googleがサードパーティークッキーの削除に着手する際には、着手前の少なくとも60日間を休止期間とする。これは、顕著な懸念事項をGoogleが解消できなかった場合に競争・市場庁が調査を再開し、競争への悪影響を回避すべく、必要であればあらゆる暫定措置を課す機会を確保するためである。

Googleはこのようにも述べている。「この過程で、私たちは競争・市場庁や業界とオープンかつ建設的で継続的な対話を続けていきます。その一環として、競争・市場庁および広範なエコシステムに対し、プライバシーサンドボックス案の開発に関するタイムライン、変更、および試験について積極的に情報を共有し、今まで行ってきた透明性確保のアプローチを踏襲していきます」。

Googleの声明はこのように続く。「競争・市場庁が英国個人情報保護監督機関から直接意見を取り入れる過程で、Googleは競争・市場庁と協力し、新しい提案に関する懸念事項を解消するとともに、試験に用いる評価基準を共同で策定していきます」。

Googleの契約は、競争に直接関連する複数の領域を網羅している。自社へのひいきや、差別撤廃、さらにはサードパーティーと比較して自社のアドバンテージになる可能性のある特定のソースからはユーザーデータを組み合わせないといった規定だ。

一方、競争に関する検討事項の中にはプライバシーも明示的に織り込まれており、競争・市場庁はこれらの契約によって(私たち側に)以下が実現されると述べている。

Googleの提案を計画、実施、および評価する際に考慮に入れる基準を策定する。これは、プライバシーサンドボックス案に関する以下の影響を含めた基準とする。データ保護の原則と照らし合わせた際のプライバシー保護の実態とコンプライアンス。デジタル広告における競争と、とりわけGoogleとその他の市場参入者との競争のゆがみが生じるリスク。パブリッシャーが広告インベントリから収益を生み出す可能性。ユーザーエクスペリエンスとユーザーデータの使用に関する管理権。

英国個人情報保護監督機関の報道官はまた、競争・市場庁の介入を受けてGoogleから受け取った契約のうち、最初に受け取ったものの1つが「プライバシーおよびデータの保護に注力したもの」だったとしきりに述べている。

声明の中で、データ規制当局は次のように補足している。

私たちが受け取った契約は、プライバシーサンドボックス案の評価に際する重要な節目と言える。これらの契約からわかるのは、デジタル市場における消費者の権利を最もよい形で守るには競争とプライバシーの両分野を合わせて考慮する必要があるということだ。

競争・市場庁との最近の共同声明で概説したように、私たちは消費者のデータを合法的かつ責任を持って使用し、デジタルイノベーションと競争を促進することが消費者の利益になると確信している。私たちは引き続き競争・市場庁との建設的かつ密接な関係を強化し、提案を評価する過程で消費者の権益を確実に保護していく。

競争・市場庁の調査に関するこの進展は大小さまざまな疑問を呼んでいるが、そのほとんどは将来の主要ウェブインフラストラクチャについて、またGoogleと英国の規制機関との間でまとめられた変更事項が、世界中のインターネットユーザーにどのような影響を及ぼすのかという疑問だ。

ここでのカギとなる問題は、1つの巨大テクノロジー企業が消費者向けデジタルサービスとアドテックの両業界を複占していることで生じた市場権力の不均衡を修正する上で、監督機関との「共同策定」が本当に最適な方法なのかという点である。

また別の人は、Googleと消費者向けテクノロジーとGoogleのアドテックを解体する他権力乱用を修正する方法はない、それ以外の方法は非常に何もしないのと同じだ、というだろう。

例えばGoogleは、実施前の議論や微調整がいくらあったとしても、結局は変更事項の提案そのものを統括する立場にある。結局船を操縦しているのはGoogleのため、オープンウェブに関してこのような管理モデルを導入するのは許容できないと考える人は山ほど存在している。

しかし競争・市場庁は、せめて今のところはGoogleに全面的に任せたいようだ。

と同時に、注目すべきなのは英国政府と競争・市場庁がより広範な競争重視制度を打ち出そうと動いていることだ。これはGoogleやその他の巨大プラットフォームの今後の運営方法について、より大規模な調査の実施につながるかもしれない。さらなる調査の発生は、まず確実だろう。

とはいえ、今のところGoogleは英国の規制当局と協力状態にあることに喜んでいるようだ。Googleが思いのままに(あるいはしかたなく)細かな変更を重ね、監督機関の気を紛らわせることができるのなら、事業解体を命じられる(実際、競争・市場庁は以前解体に関する意見を募集している)よりも、Googleははるかに安心して状況を見渡せるだろう。

私たちは、Googleに対しプライバシーサンドボックス契約に関するいくつかの質問を提出した(更新:以下にいくつかの回答を記載)。

英国インターネット広告局(IAB)のCEOであるJon Mew(ジョン・ミュー)氏は、進展を受けて発表した声明の中で次のように述べている。

インターネット広告局は、サードパーティークッキーの段階廃止について、広告で賄われるウェブを根本的に改善する機会だと以前から明白に述べてきたため、今回一般的なユーザーIDソリューションすべてが遵守すべきと考える明確な原則を策定した。私は、プライバシーサンドボックスに関する競争・市場庁の調査、加えて競争に与えかねない影響の懸念事項を対処するためのGoogleの契約は、この過程において重要かつ価値のある動きと考える。

これらの契約により、幅広い業界がGoogleの提案について、競争とプライバシーの両面での方針を考慮に入れ、競争・市場庁による規制監督を経て策定されているとの確信を得ることができる。サードパーティークッキーの段階廃止はデジタル広告業界が経験してきた変化の中で最も重大なものであり、この分野における計画が適切な精査を受けるべきなのは当然である。

より広範囲な質問

私たちの質問を受け、Googleからいくつかの追加の背景情報を得ることができた。これらの補足では、Googleはプライバシーサンドボックスのいかなる「共同設計」の提案も拒否すること、そしてこの契約はあくまで競争・市場庁による監督と当庁との連携に関するものだとしている。とはいえ、これはGoogleの屁理屈に過ぎないかもしれない。

Googleはまた、提示した(設計および試験に関する)契約にはプライバシーサンドボックスで提案されているすべてのテクノロジーが記載されていることを認めている。つまり、これは明らかにトラッキングクッキーに限定された契約ではなく、それを置き換える(あるいは置き換えない)すべてのテクノロジーに適用されるということだ。

さらに、Googleはこの契約が正式に合意に至った場合、英国の競争・市場庁に対する契約を世界的に適用すると認めている。

競争・市場庁がトラッキングクッキーを廃止してはいけないと命令した場合、代替案はあるのか、あるいはそうした命令はそのままプライバシーサンドボックスの死を意味するのかという質問に対しては、Googleは明言を避けた。

しかしながら、Googleはプライバシーに関するユーザーの期待に応えなければウェブを危険にさらしてしまうと確信していること、そしてプライバシーサンドボックスプロジェクトの進行に向けて全力で取り組んでいくことを約束した他、競争・市場庁との連携が、移行計画に関する業界の懸念を和らげる助けとなることを願うと述べている。

また、競争・市場庁の議論の結果を待って作業を中断するのではなく、今後もプロジェクトの進行を続けていくとしている。

ただし、規制当局による介入によってプライバシーサンドボックスの本来の実装タイムラインに(遅延などの)変更が生じているかという質問に対しては、回答が拒否された。

プライバシーサンドボックスの管理モデルについて、またGoogleがウェブインフラストラクチャのこれほど核となる部分を再設計するのは公平かどうかという質問については、Googleはワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)などのフォーラムを通じ、業界と連携して進めていると主張した。

しかし、ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアムグループには、Googleの決定に影響を及ぼす力はない。そのため、実際にはGoogleがオンライン業界全体に適用される大規模な再設計を一方的に進めていながら「見せかけのコラボレーション」を行っているのではないかという懸念が一部で上がっているのだ。そして、英国の規制当局を提案の議論に引き込み、アウトリーチを広げる目的で連携を進めていながらも、提案と決定権を持っているのは結局のところGoogleである。

管理面については、独立した立場にあるプライバシーおよびサイバーセキュリティ研究員・コンサルタントのLukasz Olejnik(ルカス・オレイニク)博士(プライバシー保護システムの管理についての著書あり)からTechCrunchに次のような所見が寄せられた。「Googleは確かに最善を尽くしてコラボレーションを進め、さまざまな関係者からの意見を聞こうとしているようだ。例えば、ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアムグループの会場ではこのような場面が見られている。プライバシーサンドボックスに関する管理モデルがあるのかどうか、現時点でははっきりとは分からないが、私には存在しないように思われる。ここでの問題点は、契約の細かな点だ」。

「問題なのは、実装された変更や修正に関して同意する際のプロセスがなければならないという点だ。ふさわしい提案が出されたとして、それが本当に実装される保証はあるだろうか。また、提案に関する今後の維持管理や開発がどうなるのかも不透明だ。これを正当化していいのだろうか」。

「当然、Googleは自社のみが一方的に決定を下せるとは主張しない。その真偽についても、おそらく議論したくはないだろう。私が提案するのは、ユーザーやパブリッシャー、ユーザーエージェント、広告主、そしてプライバシーに関する専門家および研究員といった関係者から意見を受け付けたり、それを代表したりする準公式の管理構造だ。プライバシーを保護する広告システムの導入は今回が初めての試みとなるため、将来にも対応できるシステムにすることが重要だろう」。

他にも、TechCrunchはGoogleに対し、プライバシーサンドボックス案の広告配信について、そして提案されたアーキテクチャがどのようにユーザーのプライバシーを保護すると確信しているかについて伺った。

Googleからは詳しい回答は得られなかったが、トラッキングクッキーを使用した現行のシステム(個人レベルでのターゲティング)と比べ、タートルダヴ案ではプライバシー保護を強化できるとの示唆があった。タートルダヴでは、広告主が1つまたは複数の興味関心グループに基づいて広告を配信し、興味関心グループをユーザーのその他の情報とは組み合わせない仕組みとなっている。

また、この提案で述べられたフレッジはタートルダヴを基盤としており、信頼できるサードパーティーサーバーを導入することで、ブラウザ内に情報を保管することへの懸念に対応するとしている。

Googleは、プライバシーサンドボックスに関して競争・市場庁と協力する過程で、両方のテクノロジー提案の開発および試験についても積極的に連携していくとし、この過程で競争規制当局が英国個人情報保護監督機関から直接意見を取り入れることを補足した。つまり、繰り返しになるが、英国の規制当局は変更案が議論される際にはテーブルの最前列を確保できるということだ。

その上で、提示した契約が市場を安心させる大きな一歩であるとの確信が述べられている。

この「コラボレーション」がプライバシーサンドボックスの「競争重視」の面を促進しながらもユーザーのプライバシーを悪化させることになるのか、今後に注目だ。

そうなれば、競争・市場庁と英国個人情報保護監督機関が主張する(「プライバシーと競争に関する懸念を払拭」するための)共同作業は大きな失敗となってしまう。とはいえ、壮絶なロビー活動を行うアドテックの影響力を前に、ユーザーの権利が今までことごとくプライバシー規制当局に無視されてきたのは事実だ。

それでも、競争規制当局をこの議論に引き入れようとしていることから、アドテック企業は少なくとも主要な問題においては規制当局による措置を実行に移すかもしれない。ヨーロッパの他の地域では、プライバシーの侵害は競争の問題ともみなされている。どのような結末を望むのか、決定には注意が必要だ。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:GoogleCookieイギリス競争・市場庁 / CMA広告プライバシー

画像クレジット:Tekke / Flickr under a CC BY-ND 2.0 license.

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

全米で失業保険用に導入された顔認識システムが申請を次々拒否、本人確認できず数カ月受給できない人も

全米で失業保険用に導入された顔認識システムが申請を次々拒否、本人確認できず数カ月受給できない人も

imaginima via Getty Images

米国では失業保険を不正受給しようとする詐欺行為を防止用に申請者が本人かどうかを確認するための顔認識システムを導入しています。ところが、この技術が本人を正しく認識できないケースが発生しており、失業手当の支給を拒否された人々からは不満の声があがっています。AIによる顔認識技術は、一般的に女性や有色人種を見分ける能力が白人男性に比べると劣ると言われています。

問題のケースでは、失業手当を申請した人がID.meにおける顔認識で本人確認ができなかったために手続きを保留され、問題解消のためにID.meにコンタクトを取ろうとしても数日~数週間も待たされたりしているとのこと。

SNSではID.meへの不満や苦情の投稿が数多く見受けられます。カリフォルニア州では昨年の大晦日、すでに失業手当を受け取っていた140万人のアカウントが突然無効化される現象が発生。再度ID.meで顔認識を通さなければ手当を受給できなくなりました。この手続きにも数週間待たされる人が相次ぎ、その間生活費のやりくりを強いられました。このような問題は各地で起こっており、コロラド、フロリダ、ノースカロライナ、ペンシルバニア、アリゾナ州でもID.me導入前は問題なく手当を受給できていた人が、ID.meに顔認識で弾かれ、長くて数か月も手当を受け取れない状態に置かれた例が報告されています。

ViceメディアのテクノロジーニュースサイトMotherboardはID.meのCEOブレイク・ホール氏への取材で、ホール氏がID.meの技術は「99.9%の有効性」があると述べたと伝えています。ホール氏によると、ID.meの顔認識は大量の顔写真サンプルから調べたい顔を探すのではなく、運転免許証などに表示される顔写真との比較を行うようになっているとのこと。また肌の色はこの顔認識には影響しないとのことです。

そのため、ホール氏は「顔認証の失敗は技術の問題ではなく、例えば、申請に使う写真の顔が一部見切れているような写真を使って認識に失敗している」と主張「ID.meで本人確認ができなかった対象者はいません」とまで述べています。

しかし実際に認識が通らなかった人にとっては、この説明は納得いくものではないでしょう。ある人は指示されたとおりに手続きをしたものの、認証拒否が3度も続き、何の説明もなくシステムから閉め出されてしまったと訴えています。どうしたものかと思いID.meのサポートチャットにコンタクトを取るも返答はなく、州の担当者に問い合わせてもID.meに確認せよの一点張りで3週間も放置されました。そして堪忍袋の緒が切れてSNSでID.meへの不満をぶちまけたところ、すぐに先方から連絡が来て数日後に身元確認が通ったと、この人は述べています。

Motherboardによると、ホール氏はID.meのシステムを売り込むため、米国の失業手当の不正受給の額を例に挙げて宣伝しています。しかしホール氏の言うその額は、この2月には1000億ドルと言っていたのが、その数週後には2000億ドルと述べられ、翌月には3000億ドルと主張するようになっていたとのこと。Axiosによる最新の報告では4000億ドルものお金が失業手当詐欺的に受給されているとID.meが述べていると伝えています。ホール氏はこの数値の変化について「データポイントが増えたためだ」と説明しています。しかし、この主張のどれに対しても、額をどうやって算出したかについては返答していません。

米労働省の報告では、2020年3月から10月の間に、不正の可能性がある失業手当の不正受給で摘発した額はを56億ドルとされています。より最近のデータでは損失額が実際にはもっと大きいことが示唆されていますが、省は 「数百億ドル」と見積もっています。

ID.meのテクノロジーで何が起こっているにせよ、この事件は、連邦政府と州政府が顔認識を制限したいと望んでいる理由のひとつを浮き彫りにしているようです。プライバシーやセキュリティに問題がなくとも、また「99.9%の精度」とうたわれるシステムであっても、多くの人々が本来得られるはずのサービスを拒否される可能性があるということです。本当に99.9%の精度でこれならば、特に市民の生活に関わる手続きを行うシステムには、今後はさらに高い精度を導入前に求めなくてはならなくなりそうです。

(Source:MotherboardEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:顔認証 / 顔認識(用語)生体認証 / バイオメトリクス / 生体情報(用語)プライバシー(用語)

プライバシー重視を追い風に快進撃中の検索エンジン「DuckDuckGo」がブラウザとしても使えるデスクトップアプリ開発

テクノロジーとプライバシーの保護をめぐる話題が沸騰を続けている。そこで、ユーザーを追跡しないことでかねてから評価の高い検索エンジンのDuckDuckGo(DDG)がこのほど、2020年末に既存および新たな投資家の混成グループから、主に「二次的投資」で1億ドル(約110億円)あまりのバランスシートの底上げを達成したことを明らかにした。

同社のブログで名が挙がっている投資家はOmers Ventures、Thrive、GP Bullhound、Impact America Fund、そしてWhatsAppの創業者Brian Acton(ブライアン・アクトン)氏、「world wide web」を発明したTim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏、VCでダイバーシティの活動家Freada Kapor Klein(フレーダ・ケイパー・クライン)氏、そして起業家のMitch Kapor(ミッチ・ケイパー)氏などだ。そうそうたる顔ぶれである。

DuckDuckGoによると、二次的投資であることによって、初期の社員や投資家の一部がその財務状態を強化するとともに、株式の一部を現金化できた。

しかし同社はこうも言っている。すなわち2014年以降ずっと利益が出ている同社は「繁昌」しており、1億ドル以上の年商を各年に報告している。したがって今同社は、外部投資家の鍋で煮られ続ける必要がない。

同社の最後のVCからの調達は2018年で、それは、Omers Venturesからしつこく迫られた1000万ドル(約11億円)のラウンドだった。Omersは、今そのい金があれば目標とする成長、とりわけ国際化を達成できる、と口説いた。

DDGには、他にも発表すべき数値がある。同社によると、そのアプリは過去12カ月で5000万回以上ダウンロードされた。それまでのすべての年を合わせたよりも多い。

また月間の検索トラフィックは55%増加し、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど一部の国ではモバイルの検索エンジンのナンバー2の地位を獲得した(StatCounter/Wikipediaによる)。

上のデータは「我々はユーザーを追跡しないのでその数を挙げることはできないが、マーケットシェアの推計とダウンロード数および各国のアンケート調査などによるとDuckDuckGoのユーザーは7000万から1億と思われる」、と言っている。

ヨーロッパでは、GoogleのAndroid選択画面の変更が迫っている。そこでは、規制当局からの強制により、Googleは同社のOSが動くモバイルデバイスのユーザーに、彼らがデフォルトの検索エンジンを設定するとき競合他社の製品も提示しなければならない。これによってDuckDuckGoの各地での運は、大吉に向かうと思われる。

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Googleは、他の検索エンジン企業が、自分がAndroidの選択画面に表示される権利をオークションへの入札で買うという悪習をやめる予定だから、プライバシーなど独自の価値命題を持つライバルで、しかもDuckDuckGoのようにブランド知名度もある企業には、Googleのマーケットシェアを奪うチャンスだ。

DuckDuckGoはブログで、ヨーロッパやその他の地域でマーケティング活動を強化すると確約している。

そのブログ記事は「また弊社の好調なビジネスは弊社に、今すぐにでも使える、オンラインのプライバシーのためのシンプルなソリューションがあることを多くの人びとに伝えるためのリソースを与えている。2021年5月は弊社は、全米の屋外広告やラジオ、テレビなどの広告を駆使し、175の大都市圏でこのことを宣伝してきた。ヨーロッパや世界中のその他の国にも、この努力を広げていきたい」と述べている。

……なのでDDGの二次資金の多くの部分が、同社のグロースマーケティングに投じられるだろう。同社は今、オンラインのプライバシーや、ユーザー追跡、そして長年のデータスキャンダルを背景とする、まるで自分のことが知られているかのような気持ち悪い広告に対する人びとの関心が盛り上がっている今を、好機として利用したいのだ。

Appleが最近iOSユーザーにサードパーティのアプリ追跡とそれを無効にする方法を教えるようになったことも、これらの問題への一般大衆の気がかりを高めている。Appleは下の例のような、Apple自身の良く出来た広告によって、人びとの関心を惹こうとしている。

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シンプルで説得力のあるマーケティングメッセージでプライバシーを語ることは容易ではない、と言っても過言ではないだろう。それを考えると今のプライバシー技術は使いやすさとアクセシビリティーの両方でかなり進歩した、と言ってよい。

というわけでDuckDuckGoのビジネスは確かに、ウェブの進化における現在の重大局面にぴったりはまっているようにも見える。同社のブログは「シンプルなプライバシー保護を言い表す代名詞のようなものになりたい」と言っている。ということは、もはや対象はニッチではなく全世界だ。

「あまりにも長く、オンラインのプライバシーに関する議論は懐疑論者たちが支配してきた。もちろんプライバシーは気になるが、でも彼らには何もできないと。今こそ、この悪質な定説を葬り去るべきだ」、とDDGのブログは言っている。

プライバシー追究歴13年のこのベテラン企業には、今後の製品の計画もいろいろある。

同社はすでに2018年に追跡ブロックを検索エンジンに導入したが、今後の計画では、もっと総合的なプライバシー保護機能「何でもありのプライバシー集大成」を展開したい。そこには検索とは一見無縁なメール用の保護ツールもあり、数週間後にベータでローンチできる。そしてそれは「新しい受信トレイを作らなくてもプライバシーを強化できる」そうだ。

ブログ記事はさらに続く。「この夏の終わりごろには、アプリのトラッカーブロックがAndroidデバイスでベータで使えるようになる。ユーザーはアプリトラッカーをブロックできるようになり、自分のデバイスの楽屋裏で起きていることへの透明性が増す。そして年内には、今のモバイルアプリの完全に新しいデスクトップバージョンをリリースする。それはメインのブラウザーとしても使えるもので、我々のシンプルでシームレスな総合的プライバシー機能により、弊社のプロダクトのビジョンである『シンプルになったプライバシー』を現実にしたい」。

それは、今私たちが目にしているプライバシー技術の、もう1つのトレンドだ。検索エンジンなら検索エンジンという特定の一種類のツールで、注意深く、信頼を損なわないようにして堅固な評判を構築してきた者が、ユーザーの成長とともに、さまざまなアプリを取り揃え、完全に総合的なプライバシー保護システムを提供していく。

たとえばメールアプリのProtonMailはプライバシー企業Protonに姿を変えて、エンド・ツー・エンドの暗号化メールだけでなく、クラウドストレージやカレンダー、それにVPNまで揃えて、それらすべてが同社のプライバシー重視の傘の下に整然と収まっている。

プライバシー技術は今後ますます開発が加速度的に進み、これまでのついでの技術からメインストリームの技術へと変貌を遂げるだろう。

関連記事:プライバシー重視の検索エンジン「DuckDuckGo」、カナダの年金基金VCから1000万ドルを調達

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:DuckDuckGoアプリプライバシー検索エンジン

画像クレジット:Frank Vassen/Flickr CC BY 2.0のライセンスによる

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

米上院議員が「データ保護局」新設を提案、米国人のデータを取り戻せ

民主党のKirsten Gillibrand(カーステン・ギリブランド)上院議員は、テック企業が自分の庭で行う自由な侵入行為から米国人を守るべく、新たな連邦政府機関を設立する法案を再提出した

ギリブランド議員(民主党・ニューヨーク州)は2020年、データ保護法を提案した。プライバシーおよび既存政府機関が十分に対応できないことがわかっているテック企業に関する法的措置を講じるための法案だ。

「米国はプライバシーとデータ保護のための新しいアプローチを必要としています。そして議会は、人命より利益を重んじる民間企業から米国人を守る有効な解決策を見つける努力をする義務があります」とジリブランド議員は言った。

改定された法案は「データ保護局」の新設を約束した主旨を維持しており、オハイオ州のSherrod Brown(シェロッド・ブラウン)民主党上院議員との共同提案で、いくつかの修正が加えられた。

現在進行中のあらゆるテック企業反トラスト規制を巡る議論の精神を受け、2021年バージョンの同法案は、大手テック企業によるデータ収集業者の関わる合併や、5万人以上のユーザーデータの移動をともなうその他の取引を審査する権限をデータ保護局に与えようとしている。

他に「データの正義を前進させる」公民権機関の設立や、アルゴリズム、バイオメトリック・データの利用、子どもなど立場の弱い人々からデータを収集するなどの高リスクなデータ利用行為を、同局が審査、処罰できる権利が追加されている。

ギリブランド議員は、最新技術に対応した規制改革を「極めて重要」と述べており、それは彼女だけではない。2021年に民主党と共和党はほとんど一致点を見つけていないが、数多くの超党派反トラスト法案は、テック業界で最強の諸企業を抑制することがいかに重要であり、さもなくば止めようがなくなることを、ようやく議会が認識したことを示している。

データ保護法は、一連の新テック法案のような超党派の支持を受けていないが、史上最高値のビッグテックとの戦いへの関心の高さから、多くの支持を得られる可能性がある。テック業界を標的にした法案が数多く進められ中、超党派の支持を増やすことなく本法案が前進することは考えにくいが、だからといってこの考えが考慮に値しないわけではない。

議会で検討中の他の提案と同じく、本法案はFTC(連邦取引委員会)がビッグテック企業の不品行に対して意味のある罰を与えていないことを認識している。ギリブランド議員の構想では、データ保護局はFTCにできなかった規制強化を実現できるという。別の法案では、FTCに新たな強制力を与えられたり、吠えるだけでなく噛み付くための資金を注入して強化しようとしている。

連邦政府機関の使える道具を現代風に変えるだけでは十分でないかもしれない。テック業界のデータ巨人たちが10年以上をかけて異常増殖させたものを削減するのは容易ではない。これらの会社をここまで裕福にした米国人データの備蓄は、すでに野に放なたれているのだからなおさらだ。

強力なテック企業の持つそのデータを規制する戦に特化した新たな政府機関は、欧州独自の強力なデータ保護法とこれまで米国に欠けていた連邦規制のギャップを埋めるかもしれない。しかし、何かが起きるまでは、シリコンバレーのデータ亡者たちが熱心にその権力の真空を埋めようとするだろう。

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タグ:プライバシーデータ保護アメリカ民主党独占禁止法

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Nob Takahashi / facebook

欧州人権裁判所は「大規模なデジタル通信の傍受には有効なプライバシー保護手段が必要」と強調

欧州人権裁判所(ECHR)の最高院は、デジタル通信の大量傍受が人権法(プライバシーと表現の自由に対する個人の権利を規定)に抵触することを本質的には認定せず、欧州の監視反対運動家たちに打撃を与えた。

ただし、現地時間5月25日に下された大法廷判決は、判事がいうところの「エンド・ツー・エンドの保護手段」を備えた上でこうした侵入的諜報権限を運用する必要性について強調している。

そのような措置を講じていない欧州各国政府は、欧州人権条約の下、こうした法令を法的な異議申し立てに一層さらしていくことになるだろう。

大法廷判決はまた、2000年捜査権限規制法(通称RIPA)に基づく英国の歴史的な監視体制が、必要な保護手段を欠いていたため違法であったとする判断を下した。

裁判所は「エンド・ツー・エンド」の保護手段の内容について次のように説明している。「大量傍受を行う権限は、プロセスの各段階において、講じるべき措置の必要性と比例性の評価を伴わなければならない」「大量傍受は、運用の対象と範囲が定義される最初の段階で、独立した承認を受けるべきである」「運用は、監督および独立した『事後』検証の対象とすべきである」。

大法廷判決は、RIPAの時代の中で英国で運用されてきた大量傍受体制に、いくつかの欠陥があることを明らかにした。大量傍受は行政機関から独立した組織ではなく国務大臣によって承認されていたこと、捜査令状の申請に通信の種類を定義する検索語のカテゴリを含めなくてよいとされていたこと、個人に関連する検索語(メールアドレスなどの特定の識別子)の使用について事前の内部承認が不要であったことなどだ。

裁判所はさらに、機密の報道資料に対する十分な保護が含まれていなかったことを理由に、英国の大量傍受体制が第10条(表現の自由)を侵害したと判断した。

通信サービスプロバイダーから通信データを取得するために使用された当該体制は「法に従っていなかったため」、第8条(プライバシーおよび家族、生活 / 通信に対する権利)と第10条に違反するとしている。

一方、裁判所は、英国が外国政府や諜報機関に情報提供を要請できるようにしている当該体制が、濫用を防止し、英国当局がこうした要請を国内法や条約に基づく義務を回避する目的で利用していないことを保証するという点では、十分な保護手段を有していることを認めた。

「現代社会において国家が直面している多数の脅威のために、大量傍受体制を運用すること自体は条約に違反していないと判断した」と裁判所はプレスリリースで付言した。

RIPA体制は後に、英国の調査権限法(IPA:Investigatory Powers Act)に置き換わり、大量傍受権限が明確に法制化されている(ただし監視の層の主張が盛り込まれている)。

IPAは、数多くの人権問題にも直面してきた。2018年、政府は英国高等裁判所から、人権法と相容れないとされてきた法律の一部を改正するよう命じられた。

今回の大法廷判決は、RIPAの他、いくつかの法的な異議申し立てにも関連している。ECHRが一斉に聴取を行うことになった、NSAの内部告発者Edward Snowden(エドワード・スノーデン)氏による2013年の大規模監視暴露を受けて、ジャーナリストやプライバシー活動家、デジタル権利活動家が英国の大規模監視体制に対して提起したものだ。

2018年に行われた同様の裁定で、下級審は英国の体制のいくつかの側面が人権法に違反すると判断した。過半数の投票により、英国の大量傍受体制は不十分な監視(選別者とフィルタリング、検査のために傍受された通信の調査と選択、関連通信データの選択の管理における不適切な保護措置など)のために第8条に違反するとした。

人権活動家らはこれに続き、大法廷への付託を要請し、確保した。大法廷は今回、そのときの見解を採択したことになる。

通信事業者から通信データを取得する制度について、第8条違反があったことを全会一致で認定した。

しかし、12票対5票で、英国の体制が外国政府や諜報機関に対して傍受された資料を要求したことについては、第8条に違反していないと判断した。

別の全会一致の投票においては、大量傍受体制と、通信サービスプロバイダーから通信データを取得するための体制の両方に関して、第10条の違反があったと大法廷は認めている。

しかし、繰り返しになるが、12票対5票で、外国政府や諜報機関に傍受された資料を要求したことについては第10条に違反していないと裁定したのである。

今回の問題の当事者の一員であるプライバシー擁護団体Big Brother Watchは、声明の中でこの判決について「英国の大量傍受行為が何十年にもわたって違法であったことが明確に確認され」、スノーデン氏の内部告発の正当性が示されたと述べている。

同団体はまた、Pinto de Alburquerque(ピント・デ・アルバーカーキ)判事による異議を唱える意見も強調した。

対象を定めない大量傍受を認めることは、欧州における犯罪防止や捜査、情報収集に対する我々の見方を根本的に変えてしまうことになります。特定できる容疑者を標的にすることから始まり、すべての人を潜在的な容疑者として扱い、そのデータを保存、分析、プロファイリングすることになりかねません【略】こうした基盤の上に築かれた社会は、民主社会というよりは警察国家に近いものです。これは、欧州人権の創立者たちが1950年に条約に署名したときに欧州に求めていたものとは、対極に位置します。

Big Brother Watchでディレクターを務めるSilkie Carlo(シルキー・カルロ)氏は、判決についてさらに次のように述べている。「大規模監視は、保護を装いながら民主主義に損害を与えるものであり、裁判所がそれを認めたことについて歓迎します。ある判事が述べたように、私たちは欧州の電子的な『ビッグブラザー』の中で暮らす大きな危険にさらされています。英国の監視体制が違法であったという判決を支持しますが、裁判所がより明確な制限と保護措置を定める機会を逸したことは、リスクが依然として存在し、現実的であることを意味するものです」。

「私たちは、侵害的な大規模監視活動の終結に向けて、議会から裁判所に至るまで、プライバシーを保護するための取り組みを継続します」と同氏は言い添えた。

この件の別の当事者であるPrivacy Internationalは、大法廷はECHRの2018年の判決よりもさらに踏み込んで「新たな、より強力な保護手段を設けるとともに、大量傍受には事前の独立した、あるいは司法による承認が必要であるとする新たな要件を追加している」と述べ、判決の結果を前向きに解釈する姿勢を示した。

同団体は声明で「承認は意味のある厳格なものでなければならず、適切な『エンド・ツー・エンドの保護手段』が存在することを確かめる必要があります」と付け加えた。

また、Open Rights GroupのエグゼクティブディレクターJim Killock(ジム・キルロック)氏は、公開コメントで次のように語った。「2013年に私たちがBig Brother WatchとConstanze Kurzとともに法廷に持ち込んだ時点で、英国政府の法的枠組みは脆弱で不適切であったことを裁判所は示しています。裁判所は、将来の大量傍受体制を評価するための明確な基準を定めていますが、大量傍受が濫用されないようにするためには、将来的にこれらをより厳しい判断基準に展開していく必要があると考えています」。

「裁判所が述べているように、大量傍受の権限は巨大な力であり、事実上秘密主義的で、制御するのは容易ではありません。技術的な機能性が深まりを続けている一方で、今日の大量傍受が十分に保護されているとは到底考えにくいです。GCHQは、テクノロジープラットフォームと生データを米国と共有し続けています」とキルロック氏は続け、判決を「長期的な道のりにおける1つの重要なステップ」と評した。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

米最高裁がLinkedInのスクレイピング禁止訴訟の再審問を指示

最高裁判所は、LinkedIn(リンクトイン)に対し、ライバル会社がユーザーの公開プロフィールから個人情報をスクレイピングするのを止めさせるチャンスを再び与えた。LinkedInが違法であるべきだと主張するスクレイピング行為が禁止されれば、インターネット研究者やアーカイビストには予期しない影響を与える可能性がある。

LinkedInは2019年、CFAA(コンピューター犯罪取締法)は企業がインターネットで公にアクセス可能なデータをスクレイピングすることを禁止しないとする連邦第9巡回区控訴裁判所の裁定によって、Hiq Labsを訴えた裁判に敗訴した。

Microsoft(マイクロソフト)傘下のソーシャルネットワークは、同社のユーザープロフィールの大量スクレイピングは、許可なくコンピューターをアクセスすることを禁止しているコンピューター犯罪取締法に違反していると主張した。

公開データを使って従業員の減少を分析するHiq Labsは、LinkedInに有利な裁決は「インターネットのオープンなアクセスに深刻な影響を与えるものであり、30年前にCFAAを制定した時に議会が意図したはずのない結果だ」と主張した(Hiq LabsはFacebookからも訴えられた。当時同社はFacebookとInstagramだけでなく、Amazon、Twitter、YouTubeもスクレイピングしていた)。

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最高裁判所はこの件を扱わず、最新の裁定を踏まえて再度審問するよう控訴裁判所に命じた。裁定は、使用を許可されたコンピューター上のデータを不適切にアクセスした場合はCFAAに違反することがないとした。

一時CFAAは、テクノロジーや法律の書籍で「最悪の法律」と批判され、時代遅れで曖昧な文言が現在のインターネットのスピードに追いついていないと長年言われてきた。

ジャーナリストやアーキビストは、古いサイトや閉鎖されるサイトのアーカイブコピーを保存する方法として、公開データのスクレイピングを長年行っている。しかし、それ以外のスクレイピング事例はプライバシーと市民の自由を巡って怒りと懸念の火をつけた。2019年に、あるセキュリティ研究者は数百万件のVenmo取り引きをスクレイピングした。Venmoはデフォルトでデータをプライベートに設定していなかった。賛否の分かれる顔認識スタートアップClearview Alは、許可を得ることなく300億枚以上のプロフィール写真をスクレイピングしたと言っている。

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タグ:LinkedIn裁判スクレイピングMicrosoftCFAAプライバシー

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Nob Takahashi / facebook

アップルがWWDCでひっそり発表した7つのセキュリティ新機能

Apple(アップル)は、米国時間6月7日に行われた世界開発者会議(WWDC)の基調講演で、セキュリティとプライバシーに関する取り組みを大々的に紹介した。それは、デバイス内だけでSiriの音声認識を行えるようになったことから、どのアプリケーションがいつ自分のデータを収集しているのかをこれまで以上に簡単に確認できるiOSのプライバシーレポートまで、多岐にわたる。

2時間(!)にも及んだMemoji(ミー文字)だらけの基調講演では、セキュリティに関する話題が多く取り上げられたが、WWDCの開発者向けセッションでは、セキュリティとプライバシーに焦点を当てたいくつかの新機能がひっそりと紹介された。その中から最も興味深く、そして重要なものをいくつか振り返ってみよう。

iCloud キーチェーンによるパスワード不要ログイン

アップルはパスワードの廃止に向けて最も進んだ取り組みを行っているテック企業の1つだ。「Move beyond passwords」と題した開発者セッションでは、WebAuthnとFace IDやTouch IDを利用したパスワード不要の認証方法となる「Passkeys in iCloud Keychain」のプレビューが公開された。

iOS 15とmacOS Montereyに搭載される予定のこの機能を使えば、ユーザーはアカウントの作成時やウェブ、アプリでパスワードを設定する必要がなくなる。代わりに、ログイン時にはユーザー名を選択し、Face IDまたはTouch IDを使って本人であることを確認するだけだ。Passkeyはキーチェーンに保存され、iCloudを使ってアップル製デバイス間で同期されるので、パスワードを覚えておく必要も、ハードウェア認証キーを持ち歩く必要もない。

アップルの認証体験担当エンジニアであるGarrett Davidson(ギャレット・デビッドソン)氏は「ワンタップでサインインできるため、現在のほとんどすべての一般的な認証手段よりも簡単で速く、しかも安全です」と述べている。

ただし、今すぐにこの機能がiPhoneやMacで利用できるようになるわけではなさそうだ。アップルによると、この機能はまだ開発の「初期段階」であり、現在はデフォルトで無効になっている。しかし、アップルのこの動きは、忘れがちで、複数のサービスで再利用されることが多く、そして結局はフィッシング攻撃を受けることになるパスワードをなくそうという機運の高まりを示している。

Microsoft(マイクロソフト)は以前よりWindows 10をパスワード不要にする計画を発表しており、Google(グーグル)も最近「いつかパスワードをまったく必要としない未来」を目指して取り組んでいることを認めている。

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macOSのマイクロフォンインジケーター

macOSには、マイクがオンになっているかどうかを示す新しいインジケータが加わる(画像クレジット:Apple)

iOS 14の導入以来、iPhoneユーザーは、どのアプリケーションがマイクにアクセスしているかを、ステータスバーの緑またはオレンジのドットで確認できるようになった。この機能がデスクトップでも利用できるようになる。

macOS Montereyでは、どのアプリケーションがMacのマイクにアクセスしているかを、コントロールセンターで確認できるようになると、MacRumorsが報じている。この機能は、カメラが使用されている時にMacのウェブカムの横で点灯するハードウェアベースの緑色のランプを補完するものだ。

セキュアペースト

「メールのプライバシー保護」から「プライバシーレポート」まで、多数のプライバシー保護ツールが搭載されるiOS 15には、クリップボードのデータを他のアプリケーションから保護するための「Secure paste(セキュアペースト)」という機能も新たに搭載される。

この機能では、ユーザーがあるアプリから別のアプリにコンテンツをペーストする際、2つ目のアプリはペーストが完了するまでクリップボード上の情報にアクセスすることができない。アプリがクリップボードのデータを取得すると通知しても、それを防ぐための手段が何もなかったiOS 14と比べると、大幅に改善されている。

アップルは次のように説明している。「『セキュアペースト』では、デベロッパはユーザーがコピーした内容にアクセスすることなしに、ユーザーが別のアプリケーションからデベロッパのアプリケーションにペーストするまで中身を見られないようにできます。デベロッパが『セキュアペースト』を使うと、ユーザーは『セキュアペースト』から通知されることなくペーストできるようになり、ユーザーに安心感を提供することができます」。

些細なことにように聞こえるかもしれないが、この機能は2020年明るみに出た大きなプライバシー問題を受けて導入されることになった。2020年3月、セキュリティ研究者は、TikTok(ティックトック)など数十の人気iOSアプリが、ユーザーの同意なしにユーザーのクリップボードを「盗み見」し、非常にセンシティブなデータにアクセスしている可能性があることを明らかにした。

Apple Cardの「Advanced Fraud Protection(高度な不正防止機能)」

決済詐欺は新型コロナウイルスの影響でこれまで以上に蔓延しており、アップルはこれを何とかしようとしている。9to5Macが最初に報じたように、同社はApple CardのユーザがWalletアプリで新しいカード番号を生成できる機能「Advanced Fraud Protection」のプレビューを公開した。

この機能は、iOS 15の最初の開発者ベータ版には含まれていないため、詳細は不明だが、アップルの説明によると、Advanced Fraud Protectionを使えば、オンラインで買い物する際に、ユーザーが新しいセキュリティコード(チェックアウト時に入力する3桁の数字)を生成できるようになるようだ。

現時点では「Advanced Fraud Protectionにより、Apple Cardのユーザーは、定期的に変更されるセキュリティコードを持つことができ、オンラインでのカード番号の取引をさらに安全なものにすることができます」と、簡単に説明されているだけなので、我々はアップルにさらに詳しい情報を求めているところだ。

SiriでApple Watchのロック解除が可能に

新型コロナウイルスの影響によりマスクを着用する機会が増加したことから、アップルはiOS 14.5で、Apple Watchを使ってiPhoneのロックを解除できる機能を導入した。これによってユーザーはマスクを着用したままでも、Face IDの代わりにApple Watchを使って、iPhoneのロック解除やApple Payの支払い認証が可能になった。

iOS 15ではこの機能の適用範囲が拡大し、Apple WatchからSiriにリクエストして、電話の設定を変更したりメッセージを読み上げたりするのと同じ様に、iPhoneのロック解除ができるようになる。今のところ、ユーザーはiPhoneのロックを解除するためには、PINやパスワードを入力するか、Face IDを使う必要がある。

「マスクなどの障害物でFace IDが顔を認識できない際には、Apple Watchとの安全な接続を使用して、Siriにリクエストしたり、iPhoneのロックを解除することが可能です。Apple Watchはパスコードが設定されていて、ロックが解除されており、手首につけてiPhoneの近くにある必要があります」と、アップルは説明している。

関連記事:アップルがiCloudをアップデート、プライバシー機能を追加した「iCloud+」発表

OSのバージョンアップとは独立したセキュリティアップデート

iOS 15にすぐにアップグレードしたくないiPhoneユーザーにもセキュリティアップデートを確実に提供するため、アップルは機能面のアップデートとセキュリティアップデートを分離させることにした。

2021年後半にiOS 15がリリースされると、ユーザーは最新バージョンのiOSにアップデートするか、iOS 14のままで最新のセキュリティ修正プログラムだけをインストールするかを選択できるようになる。

「iOSは『設定』アプリから、2種類のソフトウェア・アップデートの仕様を選択できるようになります」と、アップルは説明している(MacRumorsより)。「最新バージョンのiOS 15がリリースされたらすぐにアップデートして、最新の機能と最も完全なセキュリティアップデートを利用することができます。また、iOS 14を使い続けても、次のメジャーバージョンにアップグレードする準備ができるまで、重要なセキュリティアップデートを受けることができます」。

これは、以前よりAndroidユーザーに毎月セキュリティパッチを提供してきたGoogle(グーグル)にアップルが倣った形だ。

Macで「すべてのコンテンツと設定を消去」が可能に

これまでMacを初期化するには、macOSがインストールされているデバイスを完全に消去してから、macOSを再インストールしなければならない手間のかかる作業だった。ありがたいことに、それが変わる。アップルは、iPhoneやiPadには長年導入されてきた「すべてのコンテンツと設定を消去する」オプションを、macOS Montereyにも採用する。

このオプションを使えば、ワンクリックでMacを工場出荷状態に戻すことができる。「システム環境設定では、現在インストールされているオペレーティングシステムを維持したまま、すべてのユーザーデータとユーザーがインストールしたアプリケーションをシステムから消去するオプションが提供されます」と、アップルは述べている。「Apple SiliconまたはT2チップを搭載したMacシステムでは、ストレージが常に暗号化されているため、暗号化キーを破壊することでシステムを瞬時にかつ安全に『消去』することが可能です」とのこと。つまり、macOS Montereyでも、この機能が使えるのは「Apple SiliconまたはT2チップを搭載したMac」に限るようだ。

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カテゴリー:セキュリティ
タグ:AppleWWDCWWDC2021プライバシーmacOS 12iOS 15

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(文:Carly Page、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

TikTokが米国ユーザーの「顔写真や声紋」を含む生体情報の収集を表明

米国時間6月2日水曜日に発表されたTikTok(ティックトック)の米国におけるプライバシーポリシーの変更では、同社のソーシャルビデオアプリがユーザーのコンテンツから「生体識別子および生体情報を収集する場合がある」という項目が新たに追加された。これには「フェイスプリント(顔写真)やボイスプリント(声紋)」などが含まれると説明されている。TikTokにコメントを求めたところ、製品開発におけるどのような理由でユーザーから自動的に収集する情報に生体情報を加える必要が生じたのかは確認できなかった。しかし、そういったデータ収集活動を始める場合には、ユーザーに同意を求めると述べている。

生体情報収集の詳細については、同ポリシーの「自動的に収集する情報」の下に新たに追加された「画像および音声情報」セクションの項目として記述されている。

これは、TikTokのプライバシーポリシーの中で、アプリがユーザーから収集するデータの種類を列挙している部分であり、すでにかなり広範囲にわたっている。

新しいセクションの最初の部分では、TikTokがユーザーのコンテンツに含まれる画像や音声に関する情報を収集する場合があるとし「ユーザーコンテンツに含まれる物体や風景の識別、顔や体の特徴と属性の画像内の有無や位置、音声の特徴、テキスト化した会話内容など」と説明している。

気味が悪いと思うかもしれないが、他のソーシャルネットワークでは、アクセシビリティ(例えば、Instagramの写真の中に何が写っているかを説明する機能)の強化やターゲティング広告のために、アップロードされた画像の物体認識を行っている。また、AR(拡張現実)効果の演出のためには、人物や風景の位置を認識する必要があり、TikTokの自動キャプションは話し言葉をテキスト化することで実現している。

関連記事:TikTokが耳が悪い人のための自動キャプション機能導入、まずは英語と日本語で

また、このポリシーでは、新たなデータ収集は「映像の特殊効果、コンテンツモデレーション、人口統計学的分類、コンテンツや広告のリコメンデーション、個人を特定しないその他の処理」を可能にするためとも述べている。

新しい項目の中でも特に気になるのは、生体情報の収集計画の部分だ。

そこには次のように書かれている。

当社は、お客様のユーザーコンテンツから、フェイスプリントやボイスプリントなど、米国の法律で定義されている生体識別子および生体情報を収集することがあります。法律で要求される場合、当社は、そのような収集を行う前に、お客様に必要な許可を求めます。

この声明自体は、連邦法、州法、またはその両方を対象としているのかどうかを明確にしていないため、曖昧なものとなっている。また、他の項目と同様に、TikTokがなぜこのデータを必要とするのか説明しておらず「フェイスプリント」や「ボイスプリント」という言葉の定義さえもない。加えて、どのようにしてユーザーから「必要な許可」を得るのか、同意を得るプロセスは州法や連邦法を参考にするのかについても言及はない。

これは憂慮すべきことだ。というのも、現在のところ、生体認証情報プライバシー法を制定しているのはイリノイ州、ワシントン州、カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州など、ほんのひと握りの州にすぎないからだ。TikTokが「法律で要求される場合」にのみ同意を求めるのであれば、他の州のユーザーはデータ収集について知らされる必要がないということになりかねない。

TikTokの広報担当者は、生体情報の収集における同社の計画や、現在または将来の製品にどのように関わるかについて、詳細は明らかにしていない。

「透明性に対する継続的なコミットメントの一環として、当社が収集する可能性のある情報をより明確にするために、今回プライバシーポリシーを更新した」と同担当者は述べる。

そして、同社のデータセキュリティへの取り組みに関する記事、最新の透明性レポート、アプリ上でのプライバシーの選択についての理解を深めることを目的として最近立ち上げたプライバシーとセキュリティのページを紹介した。

画像クレジット:NOAH SEELAM/AFP via Getty Images

今回の生体情報に関する開示は、TikTokが一部の米国ユーザーの信頼回復に取り組んでいる時期と重なる。

Trump(トランプ)政権時、連邦政府は、TikTokが中国企業に所有されていることから国家安全保障上の脅威であるとして、米国内での運営を全面的に禁止しようとした。TikTokは、この禁止令への対抗として、TikTokの米国ユーザーのデータは、米国内のデータセンターとシンガポールにのみ保存していることを公表した。

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同社はまた、北京を拠点とするByteDance(バイトダンス)が所有しているにもかかわらず、TikTokのユーザーデータを中国政府と共有したことも、コンテンツを検閲したこともないと述べている。また、頼まれても絶対にしないとしている。

TikTokの禁止令は当初、裁判所で却下されたものの、連邦政府はその判決を不服として控訴した。しかし、Biden(バイデン)大統領が就任すると、同政権はトランプ政権の措置を再検討するため、控訴プロセスを保留した。そして、6月4日現在、バイデン大統領は、監視技術に関連する中国企業への米国の投資を制限する大統領令に署名しているが、同政権のTikTokに対する立場は不明のままだ。

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しかし、今回の生体情報収集に関する新たな開示は、ソーシャルメディアアプリがイリノイ州の生体認証情報プライバシー法に違反したとして、2020年5月に提起されたTikTokに対する集団訴訟における9200万ドル(約100億円)の和解を受けたものであることは注目に値する。この集団訴訟は、TikTokがユーザーの同意なしに個人情報や生体情報を収集・共有したことをめぐる、同社に対する20件以上の個別訴訟とも併合されていた。具体的には、特殊効果を狙ったフェイスフィルター技術への使用に関するものだ。

そういった状況のため、TikTokの法務部門は、アプリによる個人の生体情報収集に係る条項を追加することで、将来の訴訟に対する予防策を手早く講じたかったのかもしれない。

今回の開示は、米国向けのプライバシーポリシーにのみ追加されたものだ。EUなど他の市場では、より厳しいデータ保護法やプライバシー保護法があることも忘れてはならない。

この新しいセクションは、TikTokのプライバシーポリシーの広範な更新の一部であり、他にも旧版のタイプミスの修正から、セクションの改訂や新規追加まで、大小さまざまな変更が加えられている。しかし、これらの調整や変更のほとんどは、簡単に説明できる。例えば、TikTokのeコマースへの意欲を明確に示す新しいセクションや、ターゲティング広告に関するApple(アップル)の「App Tracking Transparency(アプリのトラッキングの透明性)」に対応する調整などが挙げられる。

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大局的に見れば、TikTokは、たとえ生体情報がなくても、ユーザーやコンテンツ、デバイスに関するデータをふんだんに持っている。

例えば、TikTokのポリシーには、ユーザーのデバイスに関する情報を自動的に収集するとすでに記載されている。その情報には、SIMカード・IPアドレス・GPSに基づく位置データ、TikTok自体の利用状況、ユーザーが作成・アップロードしたすべてのコンテンツ、アプリから送信したメッセージのデータ、アップロードしたコンテンツのメタデータ、クッキー、デバイス上のアプリやファイル名、バッテリーの状態、さらにはキーストロークのパターンやリズムなどが含まれている。

これは、ユーザーが登録したり、TikTokに連絡したり、コンテンツをアップロードしたりしたときに送られる「ユーザーが提供することを選択した情報」とは別だ。この場合、TikTokは、ユーザーの登録情報(ユーザー名、年齢、言語など)、プロフィール情報(名前、写真、ソーシャルメディアアカウント)、プラットフォーム上でユーザーが作成したすべてのコンテンツ、電話やソーシャルネットワークの連絡先、支払い情報、加えてデバイスのクリップボードにあるテキスト、画像、動画を収集する(Apple iOS 14の警告機能により、TikTokや他のアプリがiOSのクリップボードのコンテンツにアクセスしていることが発覚したことはご記憶にあるだろう。今回のポリシーでは、TikTokは「ユーザーの許可を得て」クリップボードのデータを「収集する場合がある」としている)。

プライバシーポリシーの内容自体は、一部のTikTokユーザーにとっては、すぐに気がかりになるものではなく、むしろ、バグだらけのロールアウトに関心が集まった。

一部のユーザーは、プライバシーポリシーの更新を知らせるポップアップメッセージが表示されたものの、そのページを読もうとしても読めなかったと報告している。また、ポップアップが繰り返し表示されるという報告もあった。この問題は全ユーザーに共通ではないようだ。TechCrunchによるテストでは、このポップアップに関する問題は発生しなかった。

【追加レポート】Zack Whittaker(ザック・ウィッタカー)

カテゴリー:ネットサービス
タグ:TikTok生体情報アメリカSNS個人情報プライバシーフェイスプリントボイスプリント透明性中国

画像クレジット:SOPA Images / Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

デジタルIDへ独自の道を歩む欧州、危ぶまれる実現性

欧州連合は、デジタル政策に関する最新の意欲的な取り組みの1つとして「信頼できる安全な欧州のe-ID(デジタルID)」のフレームワークの構築を提案した。これは、すべての市民、居住者、企業が公共サービスや商業サービスを利用する際に、EU内のどこからでも自分の身分を証明するために、公的なデジタルIDをより簡単に使用できるようにしたいとして、現地時間6月3日に発表された。

EUには、すでに電子認証システムに関する規則(eIDAS)があり、2014年に発効している。しかし、今回のe-IDに関する欧州委員会の提案の意図は、e-IDを展開することでeIDASの限界や不十分な点(普及率の低さやモバイルサポートの不足など)に対処することにある。

また、e-IDフレームワークにデジタルウォレットを組み込むことも目指している。つまり、ユーザーはモバイル機器にウォレットアプリをダウンロードして電子文書を保存し、銀行口座の開設やローンの申し込みなど、ID確認が必要な特定の取引で、電子文書を選択的に共有できるようにするものだ。その他の機能(電子署名など)も、こういったe-IDデジタルウォレットによってサポートされることを想定している。

欧州委員会は、e-IDに統合すれば便利になると考えられる他の例として、レンタカーやホテルへのチェックインなどを挙げている。また、EUの議員らは、市民が地方税の申告をしたりEU内の大学へ入学したりする場合の利便性を挙げ、各国のデジタルIDの認証に完全な相互運用性を持たせることを提案している。

一部のEU加盟国では、すでに国の電子IDを提供しているが、国境をまたぐ相互運用性には問題がある。欧州委員会によると、全加盟国の主要な公共サービスプロバイダーのうち、国境を越えた認証を許可している電子IDシステムは、わずか14%だが、そういった認証は増加しているという。

全EUで利用可能な「e-ID」は、理論的には、欧州の人々が自国以外で旅行したり生活したりする際に、本人確認を含めて商業的サービスや公的サービスへのアクセスが容易になり、EU全体にわたって単一市場としてのデジタル活動を促進する。

EUの議員らは、もし全欧州の公的デジタルIDについて統一的なフレームワークを作ることができれば、そこにデジタルパズルの戦略的なピースを「手に入れる」機会があると考えているようだ。消費者に(少なくとも一部の状況で必要な)物理的な公的IDや、特定のサービスの利用で必要な書類を持ち歩かずに済む、より便利な新しい手段を提供するだけではない。商業的なデジタルIDシステムでは提供できないであろう、自分のデータのどの部分を誰が見るかをユーザーが完全にコントロールできる「信頼された安全な」IDシステムというハイレベルな確約を提供しようとしている。欧州委員会は同日の発表で、それを「欧州の選択」と称している。

もちろん、すでにいくつかの大手テック企業は、自社のサービスにアクセスするための認証情報を使ってサードパーティのデジタルサービスにもサインインできる機能をユーザーに提供している。しかし、ほとんどの場合、ユーザーは、認証情報を管理するデータマイニングの大手プラットフォーム企業に個人情報を送る新たなルートを開くことになり、Facebook(フェイスブック)などは、そのユーザーのインターネット上の行動について知っていることをさらに具体的に把握することになる。

欧州委員会のステートメントでは「欧州の新しいデジタルIDウォレットによって、欧州のすべての人々が、個人的なIDを使用したり、個人データを不必要に共有したりすることなく、オンラインサービスにアクセスできるようになる。このソリューションでは、自分が共有するデータを完全に自分でコントロールできる」と、提案するe-IDフレームワークのビジョンを述べている。

同委員会はまた、このシステムが「信頼できる安全なIDサービス」に関連した誓約に基づく「広範な新サービス」の提供を支援することによって、欧州企業に大きな利益をもたらす可能性があることを示唆している。また、デジタルサービスに対する欧州市民の信頼を高めることは、欧州委員会がデジタル政策に取り組む際の重要な柱であり、オンラインサービスの普及率を高めるためには不可欠な方策だと主張する。

しかし、このe-ID構想を「意欲的」といったのは、実現性に対する危惧を、リスペクトを込めて表現したものだ。

まず、普及という厄介な問題がある。つまり、欧州の人々に(A)e-IDが知れ渡り(B)実際に使ってもらうためには(C)e-IDをサポートする十分なプラットフォームを用意し(D)強固な安全性を確保した上で、必要とされる機能を持つウォレットを開発するプロバイダーの参加も必要だ。それに加え、恐らく(E)ウェブブラウザーに、e-IDを統合させ効率よくアクセスできるよう、説得または強要する必要もあるだろう。

別の方法、つまりブラウザーのUIに組み込まれない場合は、普及に向けた他のステップがより面倒になることは間違いない。

しかし、委員会のプレスリリースは、そういった詳細にはほとんど触れておらず、次のようにしか書かれていない。「非常に大規模なプラットフォームでは、ユーザーの要求に応じて欧州のデジタルIDウォレットの使用を受け入れることが求められる」。

それにもかかわらず、提案は全体として「ウェブサイト認証のための適格証明書」の議論に費やされている。これはサービスの信頼性を確保するためであり、eIDASで採用されたアプローチを拡張したものだ。e-IDでは、ウェブサイトの運営者に認証を与えることでユーザーの信頼性をさらに高めようと、委員会が、熱心に取り入れようとしている(提案では、ウェブサイトが認証を受けることは任意としているが)。

この提案の要点は、必要とされる信頼を得るために、ウェブブラウザがそういった証明書をサポートし、表示する必要があるということだ。つまり、このEUの要求に対応するために、サードパーティは、既存のウェブインフラストラクチャとの相互運用性確保のために非常に微妙な作業が必要となる(すでに複数のブラウザメーカーがこの作業に重大な懸念を表明しているようだ)。

セキュリティとプライバシーの研究者であるLukasz Olejnik(ルーカス・オレイニク)博士は「この規制は、ウェブブラウザに新たなタイプの『信頼証明書』の受け入れを強いる可能性がある」と、委員会の提案に関するTechCrunchとの対話で述べている。そして次のように語る。

「この方式では、ウェブブラウザがそういった証明書を尊重し、何らかの方法で表示するようにウェブブラウザのユーザーインターフェイスを変更するという要件がともなう。このようなものが実際に信頼を向上させるかどうかは疑問だ。もしこれが『フェイクニュース』と戦うための仕組みだとしたら、厄介な問題だ。一方で、ウェブブラウザのベンダーが、セキュリティとプライバシーのモデルの修正を求められれば、これは新たな前例となる」。

欧州委員会のe-ID構想が投じるもう1つの大きな疑問は、想定されている認証済みデジタルIDウォレットが、ユーザーデータをどのように保存し、最も重要なことだが、どのように保護するのかということだ。初期段階である現時点では、この点について、決定すべきことが数多くある。

例えば、この規制の備考には、加盟国は「革新的なソリューションを管理された安全な環境でテストするための共同サンドボックスを設定し、特にソリューションの機能性、個人データの保護、セキュリティ、相互運用性を向上させ、テクニカルリファレンスや法的要件の将来の更新を通知する」ことが奨励される、という記述がある。

また、さまざまなアプローチが検討されているようだ。備考11では、デジタルウォレットへのアクセスに生体認証を使用することが議論されている(同時に、十分なセキュリティ確保の必要性に加え、権利に対する潜在的なリスクについても言及されている)。

欧州のデジタルIDウォレットでは、認証に使用される個人データについて、そのデータがローカルに保存されているか、クラウドベースのソリューションに保存されているかにかかわらず、さまざまなリスクレベルを考慮して、最高レベルのセキュリティを確保する必要がある。バイオメトリクスを用いた認証は、特に他の認証要素と組み合わせて使用すると、高いレベルの信頼性を確保できる識別方法の1つだ。バイオメトリクスは個人の固有の特性を表すため、バイオメトリクスを使用する処理については、人の権利と自由に及ぼす恐れのあるリスクに対応し、規則2016/679に準拠する組織的なセキュリティ対策が必要となる。

つまるところ、統一された(そして求心力のある)欧州のe-IDという欧州委員会の高尚で壮大なアイデアの根幹には、安全で信頼できる欧州のデジタルIDというビジョンを実現するために解決すべき複雑な要件が山積している。そして、ほとんどのウェブ利用者に無視されたり利用されなかったりといったことだけではなく、高度な技術的要件や、困難(広範な普及の実現が求められていることなど)が立ちふさがっていることは明らかだ。

成功を阻むものは、確かに手強いようだ。

それでもなお、議員らは、パンデミックによってデジタルサービスの導入が加速したことを受け、eIDASの欠点に対処し「EU全域で効果的かつユーザーフレンドリーなデジタルサービスを提供する」という目標の達成が急務であると主張し、努力を続けている。

同日の規制案に加え、議員らは加盟国に対して「2022年9月までに共通のツールボックスを構築し、必要な準備作業を直ちに開始すること」を求める提言を発表した。そして、2022年10月に、合意されたツールボックスを公開し、その後(合意された技術的フレームワークに基づく)パイロットプロジェクトを開始することを目標としている。

同委員会は「このツールボックスには、技術的なアーキテクチャー、標準規格、ベストプラクティスのためのガイドラインが含まれる必要がある」と付け加えているが、厄介な問題をいくつも抱えていることには触れていない。

それでもなお委員会は、2030年までにEU市民の80%がe-IDソリューションを使用することを目指すと書いているが、全面的な展開までのタイムフレームとして約10年の歳月を見込んでいることは、この課題の大きさを如実に表している。

さらに長い目で見れば、EUはデジタル主権を獲得して、外資系大手テック企業に踊らされないようにしたいと考えている。そして「EUブランド」として自律的に運営される欧州のデジタルIDは、この戦略的目標に確実に合致するものだ。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:EUヨーロッパデジタルIDプライバシー

画像クレジット:Yuichiro Chino / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

秘密計算エンジン「QuickMPC」を手がける名大・名工大発スタートアップAcompanyが2億円調達

秘密計算エンジン「QuickMPC」を手がける名大・名工大スタートアップAcompanyが2億円調達

秘密計算エンジン「QuickMPC」を開発するAcompany(アカンパニー)は5月14日、プレシリーズAラウンドにおいて、総額2億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、リードインベスターのANRIとBeyond Next Venturesの2社、またDG Daiwa Ventures、epiST Ventures。調達した資金は、プロダクト開発、秘密計算アルゴリズムの研究開発および採用・組織体制の強化への投資を予定している。

秘密計算とは、従来の暗号手法が抱えていた欠点を克服した次世代の暗号(秘匿)技術だ。従来の暗号化手法はデータの活用時にローデータ(生データ、非暗号化データ)に戻さなければならないが、秘密計算ではデータの活用時(分析や機械学習モデルの作成といったシーン)も暗号化(秘匿)したまま安全にデータを扱うことが可能となる。

そのため、データのプライバシー保護とデータ流通の両立に期待の大きいものの、これまでのところ研究開発段階に留まっているケースが多いのが現状という。

これを受けAcompanyは、2020年10月リリースのQuickMPCとともに、国内有数の秘密計算テクノロジー企業として、デジタルマーケテイング、医療などのデータ活用時のプライバシー保護が重要である領域へ秘密計算の実用化を推進してきた。今回の資金調達は、これら取り組みを通じて期待されるニーズに応えるべく実施したものとしている。

またAcompanyは、秘密計算を中心とした、プライバシーテックに関連した情報発信およびイベント開催を行うコミュニティ「秘密計算コンソーシアム」を立ち上げ、同コミュニティメンバーの募集を開始した。応募は「『秘密計算コンソーシアム』メンバー募集ページ」より行える。

同コミュニティでは、個人情報保護法の改正を始めとしたデータ活用とプライバシー保護が相反している現状に対応すべく、法令遵守したデータ活用やプライバシー保護テクノロジーの勉強会や情報発信を行う。

Acompanyは、「データを価値に進化させる。」というミッションのもと、プライバシー情報や機密情報などの活用が難しいデータに対し秘密計算技術を軸に、プライバシー保護とデータ活用の両立を実現する名古屋大学および名古屋工業大学発スタートアップ。主に、QuickMPCの提供を軸に、プライバシー保護及びセキュリティに関するソリューションを展開している。

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カテゴリー:セキュリティ
タグ:Acompany暗号化(用語)名古屋大学(組織)名古屋工業大学(組織)秘密計算(用語)プライバシー(用語)資金調達(用語)日本(国・地域)

様々なデジタルID管理を一元化管理可能なクラウドサービス「dAuth」を手がけるシビラが約3億円調達

様々なデジタルID管理を一元化管理可能なクラウドサービス「dAuth」を手がけるシビラが約3億円の資金調達

シンプルで安全なクラウド型デバイス認証プラットフォーム「dAuth」(ディーオース)を提供するシビラは、プレシリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による約3億円の資金調達を発表した。引受先は、電通グループ、セレス、アイル。

dAuthは、DID(分散ID。Decentralized IDentity)、W3C Verifiable Credentials(検証可能な資格情報・個人情報)、FIDO2(WebAuthn)などのデジタルID管理を一元化するIDaaS(アイデンティティー・アズ・ア・サービス)。

外部の管理者を介さずに個人が自身のアイデンティティ情報を管理できる自己主権型IDに対応したアプリケーションを、ブロックチェーンの専門知識のない開発者でも構築でき、専門知識のないエンドユーザーに提供できるようにするものだ。OpenID Connectに準拠して設計・実装されているため、任意のプログラミング言語やOSSライブラリーを利用してアプリケーションに組み込める。

たとえば、既存のシステム認証を、認証デバイスとOTP(ワンタイム・パスワード)を使う二要素認証に切り替えることができる。ユーザー認証サービスではないため「既存システムを他サービスよりも圧倒的に少ない改修で連携」でき、「ユーザーという概念がないため、さまざまなシーンで認証デバイスを利用」できるという。クライアントアプリケーションのユーザー情報を外部に保存する必要がないため、安全性も高いとしている。

調達した資金は、電通グループとの新規事業開拓とIDaaS事業促進に向けられる。なかでも電通との協業では、自己主権型IDのインフラ構築、NFTをはじめとしたブロックチェーン上のデジタルアセットとマネタイズ、そして「活動実績のデジタルID化」「活動を楽しくするコミュニティー形成の促進」「金銭的報酬以外のことも含むさまざまなインセンティブの提供」などをプログラマブルに行う価値還元インフラの構築が挙げられている。

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カテゴリー:ブロックチェーン
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