音楽SNSアプリ「nana」が600万ダウンロード達成、Androidで有料プランが追加されるなど大幅アップデートも

音楽のセッションやコラボレーションを楽しめるSNSアプリ「nana」を提供するnana musicは4月11日、アプリダウンロード数が600万を突破したことを発表した。また同日、アプリの大幅なアップデートを行い、Android版でも有料版プラン「nanaプレミアム」が利用できるようになったほか、iOS版とのインターフェースの共通化や機能追加などが行われた。

nanaは、スマホのマイクで歌や楽器の演奏を録音して投稿すると、投稿された音楽に別のユーザーが重ね録りでき、音を通してつながることができるSNSアプリ。投稿に「拍手」やコメントを付けることもできる。合唱やバンドセッションのほか、声まねや朗読、声劇などの投稿もあり、音を通じたコミュニケーションが世界中のユーザーに楽しまれているようだ。

nana musicによれば、人気アーティストや、マイクロソフトのAI「りんな」とのコラボ企画、プレゼント企画などのイベント実施の効果もあって、ダウンロード数は安定して増加しているという。2012年8月のリリース以降、2017年10月にはダウンロード数500万を達成。現在、600万ダウンロードを超え、累計楽曲再生数は22.8億回以上となった。

有料のnanaプレミアムは、2016年10月からiOS版でスタートし、今回Android版にも対応。料金は月額580円だ。ロボっぽい「ケロケロ」声になるエフェクトなど5種類のエフェクトや、広告の非表示機能などが利用できる。

アップデートでは、Android版のインターフェースがiOS版とほぼ同じになったほか、iOS版で有料だったDoublerエフェクトを無料化。これまでに投稿したサウンドの傾向などから「おすすめ伴奏」を自動的に表示する機能の追加や、各種画面デザインの改善なども行われた。

nana musicは2013年3月の設立(サービスは法人登記前にスタート)。2017年1月にはDMM.comが株式を取得し、子会社化している

エンジニアも使うAIプログラミング学習サイト「Aidemy」が1万ユーザー突破、有料プランも開始

自然言語処理、データクレンジング、Pandasを用いたデータ処理——これらはAIプログラミングを学べる「Aidemy」で、実際に提供されているコースの一例だ。

開発元のアイデミーは4月10日、同サービスの会員登録数が3月末に1万人を突破したことを明らかにした。Aidemyのリリースは2017年12月の下旬で、リリースからは約100日。本日より有料会員プランを開始するほか、新講座「異常検知入門」の提供も始める。

プログラミング学習サービスと言えば、これまでTechCrunchでも紹介してきた「Progate」や「TechAcademy」のように、初心者からでも始めやすいものが多かったように思う。一方のAidemyはというと、Python入門のようなコースも用意されているものの、より専門的な内容が多い。

実際アイデミー代表取締役CEOの石川聡彦氏によると「利用者の7割を占める社会人のうち、7割は理系学部出身者」なのだという。もともと2017年の9月に、AIプラグラミングに特化したオンライン家庭教師サービスをリリース。これは約2ヶ月間、ビデオチャットやテキストチャットで講師からフィードバックを受けながら、集中的にプログラミングスキルを学ぶというものだ。

「当初は文系の人でもわかりやすく学べるというテーマでやっていたが、実際にサービスを始めると受講者の8割近くがエンジニアだった。サービスを提供する中でこの分野はエンジニアにニーズがあると気づき、現在提供しているAidemyはエンジニア向けに開発している」(石川氏)

現在はAI関連の技術を中心に15のコースを提供している。理論よりも実践を重視し、実際にコードを書きながら学んでいくスタイルが特徴。学習は全てブラウザ上で完結するため、特別な環境の用意は一切必要ない。特にITエンジニアのユーザーが多く、機械エンジニア、ケミカルエンジニアと続く。ほとんどが業務にAIを活用する目的で受講しているのだそうだ。

これまでは無料でサービスを提供していたが、本日から有料会員プランをスタート。Python入門、機械学習入門、ディープラーニング基礎の3コースは引き続き無料で受講でき、それ以外のコースは有料となる。

受講方法は各コースごとの買い切り型と、月額定額のサブスクリプション型(チケット制)。単体では1コースだいたい2000~3000円のものが多いそうで、サブスクリプションの場合は若干安く受講できるという。

Aidemyでは当初AIに特化していたが、Twitterで「Pythonによるブロックチェーン実装」講座のニーズを探ってみたところ大きな反響があり正式にサービス化。引き続きAI関連のコースを充実させながらも、たとえば量子コンピュータなど先端技術を学べるサービスを目指すという。

また個人向けには夏頃を目処に海外版のリリースを予定しているほか、法人向けのビジネスにも着手する。企業の研修コンテンツとしてAidemyを提供する「Aidemy Business」は6月リリース予定だが、すでにディップへの導入が決まった。

その先の展開としてプログラミングスキルを学んだ人材の転職支援や、企業がAIやブロックチェーンを活用したシステムを開発する際のサポートも事業として行っていく方針。

「『社会と技術の距離を縮めていこう』というのをひとつの目標にしている。プログラミング学習サービスを通じて技術を知ってもらう部分はもちろん、先端技術に関わる分野に関して人材紹介や開発支援までやっていきたいという思いがある」(石川氏)

アイデミーは2014年の創業。当時、東京大学の学生だった石川氏が立ち上げた。デリバリーサービスやポイントカードアプリ、キュレーションメディアなど複数の事業にチャレンジするも失敗。3年目はシステム制作やデータ解析など、受託事業をやっていたという。同時期に大学に復学、機械学習応用系の研究に携わったことなどもあり、現在の事業を始めた。

同社は2017年の6月にSkyland Venturesとファクトリアル代表取締役社長の金田喜人氏から、同年11月に東京大学エッジキャピタル、ペロリ創業者の中川綾太郎氏、クラウドワークス取締役副社長COOの成田修造氏からそれぞれ資金調達を実施。累計で約1700万円を集めている。

LINE対抗のチャットアプリ「+メッセージ」、3キャリアが5月9日配信

eng-logo-2015NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの3キャリアは4月10日、共同で記者会見を開催。3キャリア共通のメッセージングサービス「+メッセージ」を発表しました。

5月9日にAndroid版を提供予定、iOS版は「準備ができ次第提供」としています。

電話番号だけで画像や動画・スタンプも送受信

「+メッセージ」は、電話番号だけで画像・動画・スタンプ等をやりとりできるサービス。

携帯3キャリア間のユーザーであれば、文字数を気にすることなく、携帯電話番号宛にチャット形式でメッセージや写真、動画を送受信可能。LINEのような専用スタンプやグループチャット、音声メッセージ、位置情報、添付ファイルの送受信(最大100MB)などの機能も備えます。

従来のSMSの場合、やりとりできるのは全角70文字のテキストと絵文字に限られていました。「+メッセージ」はSMSの大幅拡張版という位置づけで、GSMAで世界的に標準化されているRCS(Rich Communication Services)にも準拠しています。利用料金はパケット通信料のみ。

既読機能はON/OFFが可能。連絡先の横に「+」アイコンがないユーザーとは従来のSMSでのやりとりとなる。

LINEに比べた優位性「IDを使うサービスより安全」

LINEへの対抗意図についてNTTドコモの藤間氏は『対抗というよりは、SMSの正当進化』と、表面上は否定しつつも、他社のメッセージアプリと比べた優位性について次のように語ります。

「(+メッセージは)現在のSMSと同様に、IDやパスワードの登録不要で電話番号だけで簡単にやりとりできます。電話番号はIDのように簡単に登録して得られるものではありません。本人確認をし、契約することで初めて交付されます。したがって、なりすましのリスクが低く、安心してメッセージをやりとりできます。連絡先のデータ、これをサーバーに保存することもありません」(藤間氏)

「連絡先をサーバーにアップロードしない」などの安心感を訴求するNTTドコモ スマートライフ推進部 コミュニケーションサービス担当部長の藤間良樹氏

格安SIMへの対応も検討、法人展開も

5月9日のサービス開始時点で「+メッセージ」を利用できるのはドコモ・au・ソフトバンクの3キャリアのみ。各社夏モデル以降のAndroidスマートフォンに同アプリをプリインストールするほか、Google Play、およびApp Storeにて同アプリを配信します。なお、相手方に「+メッセージ」アプリがインストールされていない場合、従来のSMSでの送受信となります。

なお、格安SIM(MVNO)やサブブランド(UQmobileやワイモバイル)には非対応。格安SIMを排除する意図はなく、業者からの要望を聞きながら、オープンに対応を検討するとしています。

将来的には、「企業からユーザーにお知らせや各種手続きなどを案内する」といった、企業対個人のやりとりにも対応する総合的なコミュニケーションプラットフォームに拡張予定としています。

Engadget 日本版からの転載。

急増が続く国内の仮想通貨取引量、17年度は証拠金・信用・先物取引で56兆円超え

コインチェックのNEM流出騒動やマネックスによるコインチェックの買収を始め、2018年に入ってからも「仮想通貨」業界の話題は絶えない。直近では内部管理態勢の不備などを原因とした、事業者への行政処分も続いた。

このような状況も踏まえ金融庁では「仮想通貨交換業等に関する研究会」を設置し、仮想通貨交換業等に関する問題について制度的な対応を検討すると3月に発表。そして本日、その第1回目が都内で開催された。

本稿では公開されている説明資料のうち、日本仮想通貨交換業協会が発表した「仮想通貨取引についての現状報告」より国内の取引状況について一部紹介する。

証拠金・信用・先物取引が約2兆円から56兆へ急増

資料では国内17社における取引状況がまとめらている。内訳としてはBITOCEANとbitFlyerを除く(bitFlyerについては、預かり資産額の分布、顧客の入出金状況、スプレッドの状況のデータに関しては含まれていない)仮想通貨交換業者14社と、コインチェック、バイクリメンツ、CAMPFIREのみなし業者3社だ。

ここ4年ほどの取引状況についてはグラフをみると一目でわかるように、昨年1年間の伸びが凄まじい。実際は1年毎にかなりのペースで取引量が増大しているが、2017年度(平成29年)は現物取引が12兆円(18.39%)、証拠金・信用・先物取引は56兆円(81.61%)を超えた。

なお約56兆円の97.44%は証拠金取引が占める。これは一定額の証拠金を担保にして売買すること仕組みで、仮想通貨FXと呼ばれるものだ。なお通貨ごとにみると現時点ではビットコインが圧倒的な存在感を放っている。

取引の中心層は20代から40代

国内でアクティブに仮想通貨取引を行っているのはどの世代なのか。現物取引の場合は20代から40代が中心で、その世代が全体の約85%を占める。証拠金・信用・先物取引では20代から40代に加えて、50代の割合も高い。

預かり資産の分布をみると10万円未満が77%を占め、100万円未満の利用者まで含めると全体の95%ほどになることがわかる。

17年度の入出金は2兆円近くに

仮想通貨取引に対しては、ここ2年ほどで流入する資金が増加。特に2017年12月は単月で入金額が1兆円を超えている。2018年に入って入金額が減少、2月には出金額が入金額を上回ったが今のところ顕著な出金超とはなっていない。

マネーフォワード、ソフトウェアテストのSHIFTと共同で新サービス――IT業界の資金繰り改善めざす

マネーフォワードのグループ子会社で、企業間後払い決済サービスを提供するMF KESSAIは4月16日、ソフトウェアの品質保証を手がけるSHIFTと業務提携を結び、IT企業向けの債権買い取りサービス「SHIFT KESSAI」を開始すると発表した。

写真左より、MF KESSAI代表取締役の冨山直道氏、SHIFT代表取締役の丹下大氏、マネーフォワード代表取締役の辻庸介氏

MF KESSAIはこれまで、マネーフォワードグループがもつ財務データと取引データをもとに、企業の与信審査、請求書発行、代金回収などの決済業務を一括して代行する企業間の後払い決済サービスを展開してきた。2017年6月のサービスリリース以降、現在までに数百社程度の利用実績があるという。これまで“請求業務と回収リスクからの解放“という価値を提供してきたMF KESSAIは今後、ソフトウェアの品質保証を手がけるSHIFTと手を組み、新たに“早期入金によるキャッシュフロー改善”という新しい価値を提供する。

MF KESSAIが業務提携を結ぶSHIFTは、2005年の創業以来ソフトウェアの品質保証サービスを提供してきた。同社には、クライアントやパートナー企業を含む約2000社分のIT企業の実績データ、開発案件、エンジニアの実績データなどが蓄積されているという。SHIFT KESSAIでは、そのSHIFTがもつデータとマネーフォワードの財務データを組み合わせることで、財務与信に加えてIT企業の開発力の与信も実施。債権買い取りに必要な与信モデルを構築する。そして、ユーザー企業の売掛債権を買い取り、そこから手数料(3〜9%)を引いた金額を通常より早いタイミングで入金する。ユーザー企業は、この早期入金サービスを利用することで人件費などが発生する以前にキャッシュを手元に用意することができる。

SHIFT代表取締役の丹下大氏は、「案件を受注してから例えば6ヶ月後に入金されるとしても、それ以前に人件費などのコストを支払う必要がある。それによって資金繰りが難しくなってしまうが、IT企業は担保に入れる資産がないことが多く、銀行などから融資を受けることも難しい」と、中小のIT企業が抱える資金繰りの難しさについて話す。

新サービスのSHIFT KESSAIは2018年5月より提供開始される予定だ。MF KESSAI代表取締役の冨山直道氏は、「MF KESSAIでは今後、各業界や産業のプラットフォーマーと協業することで、MF KESSAIのサービスを幅広いユーザーに提供していく」と今後の展望について語った。特に、物流、広告制作・運用、人材派遣、農業、漁業などの分野での協業を進めていくという。

ITで建設業界の「人」と「お金」の課題解決へ、ローカルワークスが住友林業などから約2.1億円を調達

建設・リフォーム業界の課題解決に向けて複数のサービスを展開するローカルワークス。同社は4月10日、日本ベンチャーキャピタル住友林業SMBCベンチャーキャピタルオークファンを割当先とする第三者割当増資により、総額約2.1億円を調達したことを明らかにした。

ローカルワークスは2014年2月の創業。2015年9月にCOENT VENTURE PARTNERSから約4000万円を、2016年7月に日本ベンチャーキャピタルとニッセイキャピタルから約1億円を調達。今回の調達により同社の資本金は3.6億円になるという。

ローカルワークスではリフォーム・修理事業者の価格比較サービス「リフォマ」、建設事業者同士のマッチングサービス「Local Works Search」、施工業者向けの決済代行サービス「Local Works Payment」という3つのサービスを手がける。

これらのサービスを通じて、施工業者の稼働状況や信頼性、施工単価、取引実績といった情報をデータベースに集積。建設業界の2大課題である「人手不足」と「中小零細施工店が抱える資金繰り問題」の解決を目指している。

2016年2月にリリースしたリフォマには約1000店の施工店が加盟。リフォームや修繕依頼をしたいユーザーは、エリアやメニューから該当する施工店を比較し見積もりが可能。リフォマは双方をマッチングする役割を果たす。

ローカルワークス代表取締役の清水勇介氏によると「テクノロジーとアイデアで建築業界の非効率を変える」というテーマで事業を開始。約2年間リフォマを展開する中で業者とのネットワークも徐々に構築してきた。その過程で事業者間のマッチングや、決済のニーズを強く感じ、Local Works SearchやLocal Works Paymentに着手したという。

もともと清水氏はリフォーム関連のベンチャー企業で副社長として事業に携わってきた人物。現場での経験から建設業界が抱える課題を解決したいという思いがあったそうだ。

「特にこの業界は小規模の事業者が多い一方で、一件あたりの単価は大きくなりがち。報酬の未払いや支払いの遅延が原因で連鎖倒産が起こることもある。また4次受けや5次受けのように何社も介在するケースが多く、発注の内容があいまいだとトラブルも発生する。それを解決するためには、決済代行やバックオフィス部分のサポートが必要だ」(清水氏)

Local Works Paymentではローカルワークスが施工元請け事業者と下請け事業者に間に入り決済を代行する。報酬の未払いや遅延を防ぐほか、工事瑕疵保証をパック化して提供。2017年10月より取引顧客を限定した上で運営したところ、11月半ばまでで数千万円の利用申込実績もあったという。

同サービスは人手不足を解消するLocal Works Searchとともに、現在クローズドで展開中。正式なリリースは9月ごろを予定している。

これから同社が目指していくのは施工会社のデータベースの構築と、それを活用したサービスの展開だ。たとえばLocal Works Paymentを通じて蓄積される取引データや決済データ、信用情報。このデータを基に「建設業界に特化したレンディングサービス」などFinTechサービスの開発を考えているという。

今回のラウンドにはVCやIT系の事業会社に加えて、業界大手の住友林業が株主に加わった。今後は住友林業とも協業しながら、業界の課題解決に取り組む意向だ。

「建設業界は52兆円の規模があるといわれる大きな市場だが、まだまだテクノロジーの活用が進んでいない。その点では住友林業のような業界を代表する企業にも出資をしてもらい、一緒にチャレンジをしていけるのは大きい。先方からも『従来整備されてこなかったデータベースで、いろいろな展開ができる』と期待してもらっている。すでに顧客の紹介など連携は進めているが、今後もデータベースの活用や事業上の連携も深めつつ、業界の課題解決に取り組みたい」(清水氏)

Slackだと流れていく情報をチーム内に蓄積できる「Stock」が正式公開、ベータ版は2200社が利用

チーム内で価値のある情報を、ビジネスチャットのような感覚でサクサク残していけるような場所——。2017年9月のベータ版リリース時、TechCrunchでは「Stock」をそのように紹介した。

LINEのようなツールが日常的なコミュニケーションの形を変えように、近年Slackやチャットワークといったビジネスチャットツールが業務上のコミュニケーションの形を変えつつある。ただビジネスチャットでは様々な会話がテンポよく進むため、あとから情報を見返したいと思った場合に苦労するという一面も。

Stockはまさにこのような課題を解決する手段として生まれた情報共有サービスだ。ベータ版公開から約半年が経った本日、ついに正式公開となった。

同サービスの主な機能は「チームの情報ストック」と「タスク管理」の2つだ。最初にクライアント名や会議の議事録など、テーマごとにフォルダを作成。各フォルダ内に関連するトピックのノートを作成し、チームメンバーで情報を書き足していく。ノートにはテキストだけでなく画像やファイルもアップロード可能だ。

また各ノートにはタスク管理機能やチャット機能を搭載している。たとえばミーティングやブレストでは次回までのタスクが設定されることも多い。Stockに保存しておけば議事録と一括で確認できるほか、必要に応じてチャットで質問やフィードバックもできる。

ベータ版は当初無料で提供し、2018年2月から有料プランをスタート。開発元のリンクライブで代表取締役社長を務める澤村大輔氏によると、これまでに2200社が導入しているという。

「もともとITに詳しくない人でも使えるようなサービスを意識して作ったこともあり、学習塾や、税理士事務所、内装工事の会社や病院など使われている業界は幅広い。従業員が数万人規模の企業などにも導入が進んでいるが、基本的には20〜30人の部署ごと、チームごとから利用されるケースがほとんどだ」(澤村氏)

澤村氏の話ではこの半年の間で、誤って削除してしまったノートの復元機能やメールの自動転送機能をなど、ユーザーからのフィードバックを基にプロダクトの改良を重ねてきたそう。ただ一方で「どのくらいニーズがあるか、有料でも使ってくれるユーザーがどれだけいるか」という懸念点もあったという。

たしかに無料のツールも含め、チームの情報共有に使えるサービスはすでに多数存在する。無料なら使うけどお金を払うのは抵抗がある、と考えるユーザーも一定数はいるだろう。

Stockの有料プランを導入している企業の数は非公開とのことだが、「(有料課金も含めて)仕組みとしてうまく回り始め、当初検証したかったことも検証できたため正式公開に踏み切った」(澤村氏)という。

今後は海外展開やエンタープライズ向けの機能など、ユーザーの数や層の拡大を見据えてプロダクトを作り込んでいく方針。機能を絞ったシンプルな設計が特徴なだけに、表側はわかりやすいインターフェースを維持しつつ、ユーザーの要望に応じてカスタマイズできるような仕様を目指すという。

「Slackも外部サービスと連携させることで、さまざまなことができるようになる。Stockでもたとえば細かい通知の設定など含めて、ボタンをオンにするだけでオプションが広がるような、カスタマイズ性の高いサービスにしていきたい。共同作業をもっとしやすくなる方向へ、プロダクトを骨太にしていく」(澤村氏)

 

月額3980円から使えるVR制作システム「スペースリー」が1億円を調達、VR×AIの研究開発ラボも開設

360度VRコンテンツの制作編集サービス「スペースリー」を運営するスペースリーは4月9日、Draper Nexus 、Archetype VenturesDBJキャピタル、事業会社を引受先とする第三者割当増資により、総額約1億円を調達したことを明らかにした。

スペースリーが手がけているのは、VRコンテンツの制作編集をシンプルにするクラウドサービスだ。ユーザーは市販の360°カメラで撮影した画像をクラウド上にアップロード。キャプションの追加などちょっとした編集を加えるだけで、気軽にVRコンテンツを制作できる。

特徴はブラウザベースに特化していて、作るのも見るのもデバイスを問わないこと。PCやタブレット、スマホから同じように制作・閲覧することができ、サイトに埋め込んだりURLを共有したりと使い勝手がいいのがウリだ。

ビジネスモデルは月額課金制のいわゆるSaaS型。保存できる画像の上限数や機能などに応じて3つのプラン(無料、3980円のBASICプラン、12980円のPROプラン)がある。スペースリー代表取締役社長の森田博和氏によるとPROプランの利用者が多いそうだ。

2016年11月のリリース以降、不動産業界を中心に650以上の事業者が活用。ユーザーの多くは「問い合わ数や成約率の向上」や「業務効率化」の目的でスペースリーを導入している。

「不動産賃貸の場合では(サイト上にコンテンツを埋め込んでおくことで)オンラインからの問い合わせ率が2倍になったという事例や、成約率が4割から6割に上がった事例もでてきている。また内見が減ることで業務効率化に繋がるため、それを見込んで導入に至るケースも多い」(森田氏)

主な利用シーンはWebサイトに埋め込むほか、オフラインでの接客時など。スペースリーでは不動産内見などの営業や、イベントでのプロモーション時に使える小型のVRグラス「カセット」も提供している。

蓄積した空間データを解析して、デジタルアセットに

これまでスペースリーでは不動産物件管理の基幹システムや、ハウスメーカーなどに利用されている3D CADシステムとの連携を推進。合わせて東京都防災事業への採択、旅行業界への導入など、不動産以外への展開も進めてきた。

森田氏によると、この「他システムとの連携」がユーザーの使い勝手にも大きく影響するらしく、今後の強化ポイントのひとつだという。

「ユーザーの反応も含めて実感したのが『業務上でVRが独立して使われるケースは少ない』ということ。あくまで既存の業務の一部分や、成約にいたるまでのひとつの導線として使われていることがほとんどだ。それを踏まえると、普段使っているシステムと連携していた方が使い勝手がいい。ここをどれだけ進められるかが事業上のポイントになる」(森田氏)

不動産の場合であれば、上述した物件管理の基幹システムや3D CADシステムとの連携がまさにその一例だ。API連携の形で、すでに顧客が使っているサービスとシームレスに繋がる世界観を目指していくという。

合わせてスペースリーでは蓄積されてきた「データの活用」にも取り組む。資金調達を機にデータ分析や画像解析など、VR分野におけるAIの実用化を推進する施設としてSpacely Lab(スペースリーラボ)を設立した。

「約1年半ほどサービスを提供してきた中で、かなりのデータが貯まってきた。特に重要なのがコンテンツを閲覧しているユーザーの行動データだ。これを解析することで『よく見られているコンテンツの改善案を提示』したり、『適切なタイミングでメッセージをレコメンド』したりといった、効果的なアクションを提案できるようになる」(森田氏)

もともと森田氏は航空宇宙工学を学んだ後、経済産業省に入省。アメリカでMBAを取得して起業したというユニークな経歴の持ち主。現代アートのオンラインレンタルサービス「clubFm」に次いで立ち上げたのが、現在の主力サービスであるスペースリーだ(旧 3D Stylee)。

発想の原点にあるのは「空間をアーカイブすることで、それ自体がデジタルアセットになりえる」ということ。今後は蓄積された空間データを活かしながら「より多くの利用事業者が効果を実感できる360度VRのサービス」を目指していく。

スペースリーのメンバーと投資家陣。写真中央が代表取締役の森田博和氏

3Dモデル技術や顔認識システム開発のサイトセンシング、ニッセイキャピタルから1億円を調達

計測技術をベースに、顔認識システムなど複数の事業を展開するサイトセンシング。同社は4月6日、ニッセイキャピタルを引受先とする第三者割当増資により1億円を調達したことを明らかにした。

サイトセンシングは2012年6月の創業。同年10月に産業技術総合研究所技術移転ベンチャーの称号を与えられ、本格的に事業展開を始めた。

もともと企業が持っていた顔認識の技術を産総研が継承、それを事業化する形でスタート。現在は計測技術を核として、顔認識システム「Face Grapher」のほか、自律航法測位システム「PDRplus」や3Dモデル作成サービスを開発している。

Face GrapherではWebカメラで撮影した映像から顔を検出。性別や見た目年齢のほか、笑顔度合いを判定する。デジタルサイネージの効果測定や来店者の満足度計測などが主な活用シーンだ。

人や物の移動を自動で計測し可視化できるPDRplusも、Face Grapherと同じくリアルな空間におけるデータを取得、分析できるサービス。自律型センサに基づいて基準点からの相対移動を計測する技術を活用しているため、GPSの利用できない環境でも測位が可能。消費者や現場の従業員の行動を分析することで、マーケティングや業務改善に活用できる。

サイトセンシングによると、3Dモデル事業と自律航法事業について利用者からの支持が集まったこともあり、今回の資金調達を実施。事業の拡大に向けてより力を入れていく方針だ。

同社は今後の展開について「三次元モデル事業はモデル作成業務の生産性の大幅な向上・自動化を進め、高品質なデジタルモデルを大量且つスピーディーに提供可能な体制を構築いたします。また、自律航法事業は、計測システムの大規模化に加え、更なる付加価値向上を目指して行く計画です」としている。

メルカリ子会社ソウゾウで代表交代—— 新任は元ザワットの原田氏、旧代表の松本氏はメルペイに専念

メルカリは4月6日、100%子会社であるソウゾウの代表交代について明らかにした。4月1日付けで以前から同社の執行役員を務めていた原田大作氏が代表取締役に就任。旧代表の松本龍祐氏は同日付でメルペイの取締役CPO(Chief Product Officer)に就任したという。

新代表の原田大作氏

ソウゾウの新代表となる原田氏は、C2Cサービス「Wishscope」やフリマアプリ「スマオク」を展開していたザワットの創業者だ。2017年2月に同社をメルカリに売却した後、同年3月にソウゾウへ入社。ブランド査定付きフリマアプリ「メルカリ メゾンズ」の事業責任者を担ってきた。

一方の松本氏は写真加工アプリ「DECOPIC」を手がけたコミュニティファクトリーの創業者。2012年に同社をヤフーに売却したのち、ヤフーのアプリ開発室本部長などを務めた。2015年3月にヤフーを退職後、同年5月にメルカリに参画。9月にソウゾウを設立したタイミングで代表取締役社長に就任し、先日終了の発表があった「メルカリ アッテ」を始め複数の新規事業に携わってきた。

松本氏は2017年11月からメルペイの取締役を兼務していたが、今後はCPOとしてメルペイに専念するという。

旧代表の松本龍祐氏。TechCrunchでは以前、松本氏の「HARD THINGS」についても紹介している

メルカリでは代表交代について「新規事業の立ち上げ経験豊富な原田がソウゾウの代表になることにより、ソウゾウはこれまで以上に新規事業の創出へ注力してまいります」としている。

 

グリーが「バーチャルYouTuber」市場に参入、100億円規模の投資でゲームやメディアに続く第3の柱へ

ここ数年で急速に認知度が広がり、2017年には流行語大賞にもノミネートされた「YouTuber(ユーチューバー)」。特に昨今ではモーションキャプチャー技術を活用して3DCGキャラクターが動画を配信する「バーチャルYouTuber」がトレンドだ。

チャンネル登録者が170万人を超える「キズナアイ」や、昨年12月のチャンネル開設からわずか4ヶ月ほどで60万人の登録者を獲得した「輝夜月(カグヤルナ)」を筆頭に、話題になるアカウントが続々と生まれている。

そんな伸び盛りのバーチャルYouTuber市場への参入を発表したのがグリーだ。同社は4月5日、バーチャルYouTuber特化型のライブエンターテインメント事業を担う100%出資の新会社「Wright Flyer Live Entertainment」を4月13日に設立することを明らかにした。

グリーではゲーム事業、メディア事業に続く第3の柱として同事業を立ち上げる。代表取締役にはグリー取締役 上級執行役員の荒木英士氏が就任。まずは第1弾として、バーチャルYouTuberを発掘・育成・マネジメントし、動画番組の企画から配信までを行うプロダクション事業に取り組むという。

今後1〜2年でバーチャルYouTuberの発掘・育成、プロモーション、共同事業化、関連企業への投資などに100億円規模の資金を投入する予定。日本国内だけでなくグローバルで事業を展開する。

一般社団法人日本動画協会が発行する「アニメ産業レポート2017」によると、アニメ市場は2016年に初めて2兆円台を突破。海外市場での売り上げが急速に拡大しているという。スマホの普及などの影響で動画配信市場も盛り上がりを見せている中で、バーチャルYouTuberの人気も高まってきた。

グリーではこれまでSNS「GREE」やゲーム事業、VR事業を通じてノウハウを蓄積。大手IPホルダー、原作者、声優事務所などとも関係性を構築してきた。これらの強みを生かしながら、今後はクリエイターや関連スタートアップへの投資、関連サービスの開発、収録・配信スタジオの開設なども展開。バーチャルYouTuber市場の拡大を目指すという。

 

KDDIが5G時代に向けて200億円規模の新ファンド、ソラコムら3社と「投資プログラム」でタッグ

KDDIは4月5日、独立系VCのグローバル・ブレインと共同で新ファンド「KDDI Open Innovation Fund 3号」を設立したことを明らかにした。5G時代におけるKDDIグループとの事業シナジーを見据え、有望なベンチャー企業への出資を加速させる方針だ。

同ファンドではAI、IoT、ビッグデータなど5G時代に重要性が高まる分野のスタートアップに対して、今後5年間で約200億円の投資を行う予定(運用総額は1号、2号ファンドの50億円から拡大)。

特徴的なのはグループ会社が持つネットワークや知見を活用した「投資プログラム」という枠組みを設けていること。まずはAI、IoT、データマーケティングの分野において、ソラコムなど3社とタッグを組み、スタートアップの発掘や事業共創を目指す。4月5日時点で設定されている投資プログラムは次の通り。

  • ARISE analytics AI Fund Program
  • SORACOM IoT Fund Program
  • Supership DataMarketing Fund Program

投資プログラムは今後追加される可能性があるほか、投資の判断自体はファンド運営者であるグローバル・ブレインが行う。

なおKDDIは本日ファンドの設立と合わせて、今夏に5G時代のビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」を虎ノ門に開設することも発表している。

アップル新宿は4月7日オープン。来店者には特別なプレゼントも

eng-logo-2015アップルは4月7日、新宿に国内四年ぶりの直営ストアをオープンします。

プレス向けのプレオープンイベントの様子をお伝えします。

Apple 新宿の場所は、新宿東口のマルイ本館一階。

場所やストアについては、開店発表の記事をごらんください。

アップル新宿は、4月7日朝10時にグランドオープン。来店者には、先着順で特別なプレゼントも用意しているとのこと。

Engadget 日本版からの転載(同紙は本稿を更新中)。

匿名チャットアプリ「NYAGO」が一時停止を発表、公開1週間で1万ユーザー突破も課題を痛感

“一晩限り”のエモい会話が楽しめる匿名チャットアプリ――3月28日に公開された「NYAGO」をTechCrunchではそのように紹介した。そんなNYAGOだが、開始1週間というタイミングでサービスを一時的に停止するようだ。

開発元のUNDEFINEDは4月5日、NYAGOのユーザー数が1万人を突破したことと同時に、サービスを一時停止することを明らかにした。本日11時を持って「チャットの送受信」「App Storeでの配信」「ユーザーページの表示」をストップする。

NYAGOはチャットを受ける側のユーザーがTwitterやLINE、InstagramでURLをシェアすることから始まるコミュニケーションサービス。チャットを送る側のみが匿名となり、このあたりは「Peing -質問箱-」や「Sarahah」とも似ている。ただしチャット形式で会話を続けられる点、毎朝6時にチャットが消える点はNYAGOならではの特徴だ。

Twitterのタイムライン上でチャット募集のURLを見かける機会が増えてきていたこともあり、開始1週間でのサービス停止は正直驚いた。

停止に至った背景についてUNDEFINEDでは「多くのユーザー様にNYAGOを使っていただく中で、『コミュニケーション』のあり方、及び可能性を日々強く感じておりました。その中で、NYAGOはまだまだ不完全なサービス・プロダクトであるという事実を痛感しました」と説明。具体的にはアプリやウェブのバグ・不具合、対応プラットフォームの少なさ、コミュニケーションプラットフォームとしてのサービス設計の不足などが理由となったという。

同社代表取締役の若月佑樹氏からもコメントをもらうことができたが「自分たちが作りたいのは『コミュニケーションのハードルを下げる』というプラットフォームで、(コミュニケーションプラットフォームとしては)まったくもって役割を果たせていないと認識している」ということだった。

NYAGOの停止は一時的なもので、今後改良をした後に再度公開する方針。「ご利用いただいていた方には大変ご迷惑をおかけして、申し訳なく思っております。ですが、コミュニケーションプラットフォームとしてのNYAGOをリリースいたしますので、その時をお待ちいただきたいです」(若月氏)

「成長しない企業の人材流出は当たり前」成長企業の人材戦略、新規事業取り入れの心得を聞く——TC School #13

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型のイベント「TechCrunch School」では、2017年3月から5回にわたり、人材領域を軸に講演やパネルディスカッションを開催してきた。その第5弾となるイベント「TechCrunch School #13 HR Tech最前線(5) presented by エン・ジャパン」が3月22日に行われた。

今回はこれまでの「HR Tech最前線」シリーズの集大成として、これまでのイベントを振り返りつつ、成長企業の人材戦略、そしてエンジニアの採用・教育・評価について識者に話を聞くパネルディスカッションが実施された。このイベントの模様を前編・後編に分けてお伝えしよう。

登壇者は、グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officerの高宮慎一氏とプロダクト・エンジニアリングアドバイザー(フリーランスコンサルタント)の及川卓也氏、そしてエン・ジャパン 執行役員の寺田輝之氏。モデレーターはTechCrunch Japan 副編集長の岩本有平が務めた。

高宮氏は、ベンチャーキャピタルとしてスタートアップに投資をしながら、社外役員として従業員が数人規模のアーリーステージから上場するところまで経営に参画している。そこで経営者と週1回ぐらいのペースで議論をするそうだが、議題の半分以上は組織に関することだと話す。

「成功の特効薬や万能の解のようなものはないけれども、失敗パターンや考え方のフレームワークなどはある」(高宮氏)

及川氏は外資系コンピューター企業から米Microsoft、Googleを経て、スタートアップであるIncrementsに1年半ほど勤務した後、現在はフリーランスとしてスタートアップを中心とした企業の支援を行っている。「技術アドバイザー」「プロダクト戦略の策定・実施・グロース」「エンジニアリングの組織作り」の3つのメニューで活動しているという及川氏も、「3番目の組織づくりの話が圧倒的に多い」と話す。

「プロダクト戦略を考え、技術を駆使してモノを作るのは結局人なので、組織の話を別には語れないことが多い。逆に組織さえしっかりしていれば、企業は成長し続ける力があると思っている」(及川氏)

寺田氏は、2002年エン・ジャパンが50人弱のスタートアップだったころに入社し、インターネット黎明期からその成長とともに、求人サイトをはじめとするサービスやプロダクトを作ってきた。現在はクラウド採用ツール「engage(エンゲージ)」やオンライン適性分析「タレントアナリティクス」、面接前に利用できる「ビデオインタビュー」機能などを提供している。

これまで約1年にわたり「HR Tech最前線」シリーズの全イベントに登壇してきた寺田氏は今回、HR Techサービス提供者であり、スタートアップ成長期の経験者でもある立場から、半ばモデレーター的な役割で話を進めていくこととなった。

イベント前半では、スタートアップの人材戦略に精通する高宮氏を中心に、成長企業の組織・人事戦略、そして成熟企業が新規事業を取り入れるための心得などについて話を聞いた。

スタートアップのビジョン・カルチャーと人材の適合度の見極め方

パネルディスカッションではまず、高宮氏が2017年9月に登壇したTC School #11のキーノート講演「成長企業の組織・人事戦略/5つのあるあると要諦」を振り返った。講演の詳細についてはイベントレポートをご覧いただければと思うが、その概要は以下の5つにまとめられる。

あるある1. 傭兵による組織崩壊
《対策》成長企業における採用は、スキルだけでなく、ビジョン・カルチャー適合度でも妥協してはいけない。

あるある2. 一貫性のない処遇で不平不満が蔓延
《対策》早期から評価制度と報酬テーブルを用意して運用することが大事。目標達成と人材育成の仕組みとしても活用する。

あるある3. ストックオプション(SO)の場当たり的な乱発
《対策》あらかじめSO付与の目的(思想)と割合を明確にする。その上で付与のルールを作成し、それに基づき運用する。

あるある4. エースの突然の退職
《対策》事業の成長に合わせ、組織の成長を先回りして設計。その中で個人のキャリアゴール、キャリアパスとのすり合わせを行う。

あるある5. 必要機能の未充足
《対策》既存の人材に合わせて組織を設計するのではなく、事業を成功させるために必要な機能ありきで、理想とする組織を設計すべし。

採用時に「ビジョン・カルチャー適合度をどう見極めていくか」という点については、寺田氏から「そもそも、自分たちのカルチャーを言語化できている企業はあまり多くない。その上で新しく採用していく人を、どう見極めていけばよいのか」という問いかけがあった。

グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一氏

高宮氏は「確かに難しい。会社が大きくなったら当然、ビジョンやカルチャー、価値観を言語化するという話は出てくるが、ベンチャーでメンバーが4〜5人しかいないのに『言語化しましょう』と経営合宿などでやるところはあまりないし、やるだけ時間がもったいない」としながら、適合度を見極めるための対応についてこのように話している。

「(小さな組織では)空気感、ノリみたいなものは結構あると思う。まずは夜と週末だけでもいいので『インターンでおいでよ』といった感じで巻き込んで、社員と一緒になった中で相性を確認するというようなことは、大事なのではないか」(高宮氏)

高宮氏は「面接だけでビジョンやカルチャー、共感度を測るというのは相当難しい。やはり何かを一緒にするというのが、すごく大事なんじゃないか」と考えを述べた。

では何を一緒にやればよいのか。高宮氏は「最低限でも飲みに行く。あるいは趣味を一緒にやるのでもいい。例えば釣りに行っちゃうとか、バーベキューとかでもいいし、そういうアンオフィシャルな場で人を見るのもいいんじゃないか」と話す。

プロダクト・エンジニアリングアドバイザー 及川卓也氏

一方、及川氏は「仕事をしてもらうのが一番」と言う。「マッチングというのは、一方的に企業が候補者を選ぶものと考えがちだが、実は逆も非常に大事。候補者のほうからも、将来どうなるかわからないリスクの高い会社に入るにあたって、自分が本当にその会社に合うかどうかを見る。要は(両者の)お見合いだ。それを本当に確認するためには、仕事をするのが一番いい」(及川氏)

「一緒に働くというのは難しい面もあるが、今は兼業を認める会社も増えてきているし、内緒で来てもいいという人もいるかもしれない。そういう人に『夜でもいいし週末でもいい、もし有給が取れるんだったら1日来てもらえるとうれしいんだけど』と言って、一緒に(仕事を)やっちゃうのがいいと思う」(及川氏)

そこで寺田氏が「(そういう形で)一緒に仕事をやろうとしたときに、どんな仕事を頼めばいいのか悩む」と言うと、及川氏は「エンジニアの場合は比較的それは楽。もちろんコードベースに慣れるまでの時間などもあるので、短期間でどこまでできるかというのは現実的にはあるが」と答え、WordPressのホスティングを行っているAutomattic社の採用プロセスについて紹介してくれた。

エン・ジャパン寺田輝之氏

「Automatticはオフィスがなく、全員がリモートワークしていることで有名だ。彼らは実際の採用プロセスの中に『一緒に仕事をする』というのを入れていて、2週間ぐらいの時間をかけて採用を行う。もし可能ならば、そういう風にガッツリ仕事を切り出して、やってもらうというのがいいと思う」(及川氏)

また「日本では、働きながら転職をする人が圧倒的に多い。その中でうまくカルチャーフィットを見極めながら、一緒に仕事をできるようなポイントはあるか」との問いには「どうにかして時間を作ってもらうしかないかと。一緒に仕事をするのはなかなかハードルが高い面も実際にはあると思うので、一番最初は飲みに行くのでも、ミーティングに参加してもらうのでもよいので」と及川氏は答えている。

「ある人の例で、ある会社の経営者からいきなりLinkedIn経由で『あなたの書いていたブログが面白いから、一度ランチで話を聞かせてくれ』とメッセージが来たので会いに行った。そこで彼らの新規事業のアイデアを聞かせてもらったので意見を言ったら『悪いんだけど夜に行っている定例のミーティングに、可能な範囲で出てくれないか』ということになった。それをしばらく続けていたのだが、結局面白くなって転職してしまった、というのがある。もっとも経営者はそうなることを見越して声をかけたようだけれども」(及川氏)

スタートアップ界隈では、Twitter経由で声をかけて、インターンなどを募集するという話も聞くことがある。これについては、高宮氏は創業初期の採用での活用については懐疑的だ。

「創業最初期の段階では、インターンレベルの人を入れて管理コストがかかる状態にするのではなくて、むしろ一騎当千の人を先に入れて、その人に統制してもらえるようにした方がいい。(Twitterなどで採用対象の)母集団を増やしてパイプラインを広げるというよりは、知っている人を一本釣りしにいくのがよいのではないか。インターンなどはそのキーマンを採用できた後の方が効率的なのでは」(高宮氏)

ただし高宮氏は「数を打って取りに行くというよりは、ピンポイントでスナイプ的に行くべき」と言いつつも、ブランドもなく報酬があまり払えないベンチャーでは、正式採用に至るまでの確率は低いかもしれない、として「ポートフォリオではないが、必要な機能の人材を同じ機能につき複数の候補を挙げて、全員と話をしていくようにするのがいいだろう」と述べている。

高宮氏は及川氏の話にも触れ、「本当に採用が上手な人は、なし崩し的に人を巻き込むのがうまい。取りあえず飲みに行こう、遊びに行こうというところから、気が付くと仕事が振られている。しかも『ベンチャーに入ったらこういう世界だよ』と事前に期待値を調整するかのごとく、(仕事を)まるっと無茶振りする。それでも引き受けてくれて仕事ができる、セルフスターター的な人のほうがベンチャー向きではあるので、そうすることである意味、ふるいにかけるような効果もある」と話していた。

始めからストックオプション交渉が激しい人の採用は要注意

続いて話題となったのは、ストックオプション(SO)発行に関する話だ。前の高宮氏の講演でも「SOの場当たり的な乱発は避け、付与の目的を明確にすべき」という課題が挙げられていたが、そのあたりの生々しい事例を具体的に高宮氏に聞いた。

高宮氏は、SOに限らず、金銭的なインセンティブについて、採用時にネゴる人がいる、という話は散見されると話す。

「大きくなったベンチャーや大企業から来る人だと、ベース(給与)のところでギャップがあるというのは確か。一定程度条件を下げてくれなければ、創業期のスタートアップにはさすがに払いきれない。だからその代わりに、キャピタルゲインをちゃんと取ってもらうことで補填する、というのがいいと思う」(高宮氏)

ただし「経歴はピカピカだけど、採用の入口でものすごくSOについて交渉をしてくる人は、黄色信号。よくよく、その人についてデューデリして(調査して)みた方がいい。お金で来る人は、お金で去るリスクがある」と高宮氏は続ける。

また「給与を上げられない時に、代わりにSOをばらまくのも危険」として高宮氏は別の例も挙げた。

「日本の資本市場では、上場した後に投資家が気にならないオプションの量は、だいたい10%から15%と業界慣習的に言われている。そんな中、早いタイミングでSOを10%もバラまいてしまうと、その後上場に向けてCFOを採用したい、でもオプションの実弾はない、となってしまう。その状況で年収1000万円クラスの人に、『700万円でCFOとして来てほしい、でもSOはない』と言ってもそれは難しい話だとなってしまう」(高宮氏)

成熟企業は「成熟企業ならではの面白さ」でエンジニアを獲得すべし

その後は、会場からの質問を受けて「成熟企業での採用」についての話題へと移った。質問は「事業が成長しているときには優秀なエンジニアがどんどん入ってくるが、減衰フェーズになるとエンジニアの応募が減り、選考に来てもらっても採用競争で負けてしまう。成長が頭打ちになった成熟企業で優秀なエンジニアを獲得するためにはどうすればいいか」というものだ。

高宮氏は「“エンジニア”との質問だが、“優秀なマーケター”“優秀なCFO”など、他の企業の優秀な人と置き換えてもよいかと思う。先ほどの報酬やインセンティブの話とも絡むが、仕事をするときに何をインセンティブとして設計するかという話だ」と答える。

「給与、ボーナス、SOといった金銭的なインセンティブと、自己実現、やりがい、社会貢献といった金銭以外のインセンティブに分けて考えたときに、事業が成長している企業では、すごく分かりやすくエキサイティングな魅力がある。一方、事業がまだ初期で勢いがなく、採用しづらいときには、単純にPL的な業績や売上、シェアを超えて、数字ではないところで『我々のやっている事業は意義がある』『魅力的な組織だ』というような、ビジョンやカルチャーで引っ張るというのがひとつの方法だ」(高宮氏)

もうひとつ高宮氏が挙げたのは、新規事業の采配を任せることでインセンティブとする方法だ。「そもそも仮に上場を目指す企業や上場しても成長を目指す企業なら、既存事業が成熟化してしまったら新しい事業を作って伸ばさなければいけない。『こういう新規事業を考えている。こういうチャレンジをしてみないか。ここはまるっと任せるから』といった形で、自己実現の部分を刺激してあげるというような、非金銭系の報酬を前面に打ち出していくというやり方はある」(高宮氏)

及川氏からは「エンジニアの感じる面白さは人それぞれ違う。今の成熟した事業、サービスにおいて、どういう点が面白いかということを考え、それを訴求するようにすれば、そこに合った人を集められるのではないか」との回答があった。

「エンジニアからすると、0でなく1から作ってくれというのでも難易度はメチャクチャ高い。でも、安定稼働させるというのも、それはそれですごく大変なことだ。一番最初のユーザー数は0。そこからスケールさせることを考えていくのは面白いけれども、逆に育たない可能性もある。既にある程度成熟していて、100万人のユーザーがいるものをちゃんと安定稼働させるというのも、それはそれで面白いと思う人もいる」(及川氏)

成長しない企業の人材流出は当たり前。濃淡をつけてリテンションを

ここで寺田氏から高宮氏に「成熟企業では新しく人を採用する理由、来てもらう理由も作りにくいと思う。改めて来るためのモチベーションも上がりにくいだろう。高宮氏の話にもあった『機能ベースでの組織設計』をもう一度やり直すこともあると思う。そういうとき、どう臨めばよいのか」との問いかけがあった。

高宮氏は「組織というのは結局は、事業の成長と会社が達成しようとしているビジョンを実現するための“HOW”だ。だから『組織を変える(という目的の)ために組織を変える』というのは本質的ではない。例えば『そもそも再成長をしなければならない』とか『再成長をするためには、どういう事業が必要なのか』といった検討がまずあって、その実現のためにハコとしての組織をどうあるべき姿にするか、ということになる。だから、その時の事業戦略次第かと思う。ケース・バイ・ケースではないか」と話した。

「極端に言えば『今のメンバーでもう一回がんばろう!おう!』みたいな話もあれば、今いるメンバーではモチベーションもちょっと微妙だし、新しい事業をやらせてもケーパビリティにミスマッチがあるから、入れ替えをしていかなければならない、という話も両方あり得る」(高宮氏)

人の入れ替わりについては及川氏も「成熟しちゃってたら、人が逃げていくのは仕方がない」と話す。

「今は成熟している企業も(創業期から成長期には)成長のために人を奪ってきているわけで、成熟してしまったら自分たちの人材が流出してしまうというのはやむを得ない。高宮氏が言うように、もう一度事業を成長軌道に乗せるのか、新規事業を成長させていくのかのどちらかだと思う」(及川氏)

「Googleはいまだに、すごい勢いで成長をしているとは思うのだが、あのGoogleでさえ『もう成熟している』と思うエンジニアが流出してしまって、シリコンバレーの新たなスタートアップに行ってしまうということがたくさん起きている。そういうものだと考えて、常に成長させていくしかない」と及川氏は、かつて所属していたGoogleを例に説明を続けた。

「Googleは、イノベーションの自転車操業をやっている会社だ。新しいイノベーションをどんどん導入していっている。これはもちろん、自分たちの会社の成長を考えてのことだが、同時にそれでエンジニアも引き留めている。例えば『あるサービスの開発に長年関わっていて、そろそろ新しいことをやりたい』というエンジニアに、『お前、ライフサイエンスをやらないか』とGoogle Xを立ち上げたり、『(Googleの持株会社である)Alphabetの下にはこういうところのポジションもあるよ』と見せたりしたら、確かに『今と同じぐらい面白いことができるところへ社内で異動できる』となるわけだ。そうしたことで、できるだけ人材の流出を食い止めているという側面もある。Googleは特殊かもしれないが、特殊と思わずに、すべての企業は同じように人材を惹き付ける努力をしなければいけない」(及川氏)

及川氏はさらに「0を1にする、1を10にする、10を100にする、というそれぞれのフェーズで、人材は違う人が必要だと言われるが、エンジニアは特にそれが顕著だ」ともうひとつ別の観点から、エンジニアの流出について説明をしてくれた。

「例えば、ある大企業でインフラを一通り先輩と一緒に作ったが、その後は運用だからつまらない、とスタートアップに移った人がいるとする。その人は自分の能力で0からインフラを設計できる。AWSにするかGCPにするかの選択から、今どの技術を使うべきかのリスク判断まですべて行って、設計が終わってしまったら、後は基本、安定運用を目指すことになる。そうなればその人が再び『もうつまらない』と思ってしまうことはおかしくない。また『新しく0から作るところへ行きたい』となるのはやむを得ない」(及川氏)

高宮氏はファイナンス、経営者の目線でドライに見たときの人材流出について「成熟し、成長性が鈍化して収益が悪化したとき、平均値で言えば、固定費が下がるということは必ずしも嫌な話ではない。人を減らして収益性をもう一度担保し、キャッシュカウ(金のなる木)化しようというのは、組織の話を抜きにして、純粋に業績(改善)としてみれば当たり前のことだ」と話す。

そうした状況での「人材のリテンション」について、高宮氏は話を続ける。「人事の生々しい側面では『辞めてほしい人には辞めてもらって固定費を下げたいけど、エースには辞めてほしくない。残ってほしい人には残ってほしい』という話が出ることがある。経営的な観点からは、平均値とか総固定費で考えがちだが、そこは濃淡を付けて、リテンションしたい人にフォーカスしてリテンションすべき」(高宮氏)

「えこひいきに見えるかもしれないが、本当に辞めてもらいたくない人にだけは、ハイタッチなケアをすることも経営者としては必要。人事としても社長をツールとしてうまく使ってエースを引き留めるということも、やってもいいんじゃないか。例えば引き止めておきたいエースには社長との食事をセットするなど」と高宮氏は述べた。

スタートアップのカルチャー転換、新規・既存事業の両立について

高宮氏から及川氏には、こんな質問があった。「スタートアップ初期のエンジニアは一騎当千で、フルスタックで何でも知っていて、新しいものを作るのがエンジニアとしてもチャレンジングで楽しい、といった人が来る。で、そういう人がエンジニアとしてかっこいい、というカルチャーができがちだ。しかし、そこからスケールしていくと、安定稼働してサービスを落とさない、スケーラブルである、といったような、ちゃんと組織的・サラリーマン的にやるという点が重視されはじめて、カルチャーもがらっと変わらざるを得ない。また人も変わっていく。そういうときに、カルチャーの転換はどのように行えばよいのか?」

及川氏は「ひとつは、カルチャーを変える方がよいのか、というところもある。カルチャーを変えない、ということは、先ほど話した成長事業を常に考えていくということにもつながるし、イノベーションの自転車操業的なものを自分たちの企業で取り入れるかどうか、ということでもある」としつつ「でも、変える、というときには明確にメッセージを出した方がいい」と答えている。

「『クオリティーよりむしろスピードを重視します』とか『ユーザーはこういう人たちしか考えていません』というところから、『我々はマスに向けてやります』というところへ変わるときには、ハッキリと打ち出した方がいい。そうじゃないと、絶対にミスマッチが生じる。で(新しいカルチャーを)『それはそれで面白い』と思う人もたくさんいるはずだが、『やはり0から1の立ち上げがやりたい』という人もいる。そういう人には『0→1はもうない』と言ってあげた方が私はよいと思う」(及川氏)

及川氏の話を受けて、高宮氏は「経営者は二兎を追いがちだ」と言い、取り入れた新規事業と既存事業と両立について、さらに及川氏に問いかける。

「成長性は鈍っているけれどチャリンチャリンとキャッシュが入ってくる、キャッシュカウ化した既存事業の一方で、次なる成長性は新規事業で狙っていく、となると『新規事業のほうが偉い』みたいな空気になりやすい。すると既存事業のほうでは『カネ稼いでるのはこっちなのに、カネを使う割にあいつらばかりチヤホヤされる』といった社内派閥のようなものが生まれることがある。そこを両立するための組織とはどういうものか。特にエンジニアの場合、エンジニアの指向によって組織を完璧に分けるべきか、融和させるべきか?」(高宮氏)

及川氏も「新規事業に限らず、ひとつの事業でも運用側と新規開発側とか、あるいは既存の機能をグロースさせるやり方と完全に新規機能を作るやり方というところでも、後者の方がセクシーで楽しい感じがするので、そちらの方にみんな憧れる。でも、そういうものはまだ全然お金を稼いでいなくて『大事なのはグロースさせることですよ』みたいな話になる」と認める。

そして「実はこれはどこでも“あるある”な話。この時に重要なのは、エンジニアの異動をどういうポリシーで行うかだ。やっぱりみんなが『新規開発をやりたい』となったときに、全員の希望は通らないことが多いわけで。そこにあるルールを設けて、それができるだけ公平・中立なものにしておくことが大切」と語る。

外から来た人材と新規事業の立ち上げを成功させるには

もうひとつ、会場からの質問が取り上げられた。質問は創業70年ほどの企業の2代目社長の方からのもの。「既存事業は古参に任せつつ、(必要な)ケイパビリティーが異なる新規事業の立ち上げを別会社で、新たな経営チームで行いたい。その際、ナンバー2クラスを人材紹介経由で中途採用したいが、どのようにジャッジすべきか悩んでいる。良い手法があれば教えてほしい」ということだ。

高宮氏は、このように答えている。「基本的には自分の右腕、左腕となり、新規事業に対してカルチャーもケイパビリティーもフィットする人を集めることになると思う。一方で先ほどの話ではないが、『キャッシュカウ化して稼いでいるのは誰だと思ってるんだ』と古参の人たちは言うに決まっている。この2代目の方はトップとしてナンバー2の人たちを守ってあげないと、あっという間に古参に抵抗勢力化されてしまうだろう。そういう点で、(別会社に)ハコを分けたというのは大正解だと思う」(高宮氏)

また寺田氏は、自身も新規事業立ち上げを行ってきた経験から「外から連れてきた人に任せた、というのは失敗しやすい」と話す。「既存の人が情報提供してくれない、共有してくれないという風になって、だいたい、つぶされてしまう。うちも外から傭兵のように連れてきてやってみたことがあるが、やはり難しい。既存の領域もありながら、外からいきなりリソースも持ってくるというのは、うまく行きづらい」(寺田氏)

そんな中でも成功するのは、2つのパターンだと寺田氏は言う。「ひとつは外から人を調達するなら、その人がやりたいことが明確になっていること。それに対して資金がいくら必要なのか、どんな協力が必要なのかというのを全部聞いて、それに完全にコミットしてやらせる。そして金は出すけど口は出しちゃダメ。そういう状況の元で、覚悟を決めてやるのがいい」(寺田氏)

もうひとつは既存事業で一番力を持っている人と新事業を立ち上げることだ、と寺田氏は続ける。「自分が稼いだリソースを新しい方に使えるという状況をうまく作ってあげて、既存事業の人員も連れてこられるしお金も使える、という風にしないと、なかなか難しい」(寺田氏)

高宮氏も既存組織をうまく使う方法として「組織にはオフィシャルなレポートライン、公式なコミュニケーションラインとは別に、人間関係ベースの非公式なラインが絶対にある。それこそ創業期から支えた番頭さんとか、すごく人間力の高い部長さんみたいな人は非公式にルートをたくさん持っているはず。そうした、社内で尊敬されていて、いろんな人に非公式に協力を取り付けられるような人とペアを組ませてあげるのは手だ」と述べていた。

レポート後編では、昨年7月のイベントに続いて2度目の登壇となる及川氏を中心に、エンジニア人材の採用、教育、評価について話を聞いた、イベントの後半部分をお伝えする予定だ。公開まで少しお待ちいただきたい。

LINEで転職「LINEキャリア」今夏公開へ、エン・ジャパンと新会社設立

LINEとエン・ジャパンは4月5日、転職求人情報サービス「LINEキャリア」の提供に向けて共同で新会社「LENSA」を設立することを明らかにした。

設立は4月16日の予定で、出資比率はエン・ジャパンが51%、LINEが49%。代表取締役社長にはエン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏、代表取締役会長にはLINE取締役CSMOの舛田淳氏が就任する。資本金は2億円だ。

エン・ジャパンでは現在「エン転職」「ミドルの転職」「AMBI」といった複数の転職情報サービスを展開している。LENSAではこれらの求人情報と、国内月間利用者数が7300万人を超えるLINEのユーザー基盤を活かし「これまでにない求人企業と求職者のマッチングを創出するサービス」を目指す。新サービスLINEキャリアは今夏公開の予定。

本件について、LINE代表取締役社長CEOの出澤剛氏は「このたびのエン・ジャパンとの合弁会社設立により、“転職”という人々の人生における重要な機会に携わるサービスを展開できることは、LINEのスマートポータルの成長へとつながると考えており、大変嬉しく思います。『LINE』のプラットフォーム力を活かしながら、これまでにはない新たな価値を提供できる、魅力ある転職サービスの実現に向け、両社で尽力してまいります」とコメントしている。

LINEはこれまでもパーソルキャリア(旧インテリジェンス)との合弁会社AUBEを通じて、アルバイト求人情報サービス「LINEバイト」を展開してきた。

LINEバイトでは全国約20万件のアルバイト求人情報にLINEアプリ上からアクセス可能。採用までのコミュニケーションをLINEでできる点や、採用担当者からオファーを送れる点が特徴で、サービス開始3年となる2018年2月時点でユーザーは1200万人を超える。4月2日には出資比率の変更し、AUBEがLINEの連結子会社になったことを発表。サービスの成長・事業拡大をさらに加速させるとしていた。

今後はアルバイトはLINEバイト、転職はLINEキャリアといった形で、仕事選びもLINE上で済ませるという人が増えていくのかもしれない。

耳をふさがないイヤホン「ambie sound earcuffs」にワイヤレス版が登場——WiL・ソニー設立ベンチャーから

ベンチャーキャピタルのWiLソニービデオ&サウンドプロダクツが立ち上げたスタートアップ、ambie(アンビー)がファーストプロダクトとして、耳をふさがずに音楽を楽しめるイヤホン「ambie sound earcuffs(アンビー サウンドイヤカフ)」を世に出したのは、昨年2月のこと。それから約1年たった4月5日、今度はBluetooth対応の「wireless earcuffs(ワイヤレスイヤカフ)」が発売されることになった。

前作のサウンドイヤカフは、耳に挟んで装着するタイプのイヤホンで、耳穴をふさがないため周囲の音を聞くことができ、会話することもできるというもの。実は私も使っているが、オフィスで音楽を聴いていても人の話を無視しないで済むし、散歩などのときに車や自転車の接近にも気づくことができるので、重宝している。

新製品のワイヤレスイヤカフは、有線モデルの前作の特徴はそのままに、無線化した首かけタイプだ。

首かけ部分の再生ボタンを長押しすることで、Bluetooth接続したスマートフォンのGoogleアプリやSiriが起動でき、ランニングや料理中でスマホ操作が難しいシーンでも使いやすいように設計されている。一度の充電で連続6時間まで音楽再生が可能。耳への負担が少ないため、長時間使っても疲れにくくなっている。

カラーは全6色。価格は1万2000円(税抜)で、明日4月5日午前0時からambieのオンラインサイトで販売開始される。また、e☆イヤホン、タワーレコード、蔦屋家電、蔦屋書店、ビームスでも取り扱うという。

新製品発売にあたり、ambieディレクターの三原良太氏は「1号機では『ながら聴き』の特徴を正確に伝えるため、また、新規事業としてのリスクを下げるため、あえて有線のみの販売を進めてきた。発売以降たくさんの要望をいただけたおかげで、設立約1年の小さなベンチャーという体制ながら、Bluetoothに接続対応した新製品の開発を進めることができた」とコメントしている。

ambieは2017年1月の設立。資本金は3億円で、出資比率はWiLが67%、ソニービデオ&サウンドプロダクツが33%。「人と音の、関わり方を変えていく」を理念に掲げ、オーディオ製品やデジタルコンテンツの企画、開発、製造、販売を行っている。

WiFi自動接続アプリのタウンWiFiが2.5億円を資金調達、電通・国際航業との提携でマーケティングツール開発へ

接続可能な無料の公衆WiFiを探して自動で接続・認証してくれる「タウンWiFi」は、スマホの通信量を削減して、通信キャリアの速度制限を気にせずにネットが利用できるようになるアプリだ。

2016年5月にリリースされ、2016年11月に開催されたイベント「TechCrunch Tokyo 2016」のスタートアップバトルでは審査員特別賞を受賞したこのWiFi自動接続アプリは、2018年4月現在、ダウンロード数が250万以上となった。現在、国内外200万以上のWiFiスポットにログインが可能で、日本以外では、韓国、アメリカ、台湾、香港、マカオでサービスを展開している。

アプリを運営するタウンWiFiは4月4日、総額2.5億円の資金調達実施を発表した。第三者割当増資はセプテーニ・ホールディングス電通日本アジアグループベクトル、千葉功太郎氏などを引受先として行われた。そして既存株主のインキュベイトファンドからも新たに追加増資を受けている。

同社は資金調達と同時に、電通および日本アジアグループ傘下の国際航業とそれぞれ業務提携契約を締結した。提携により、WiFiオーナーのマネタイズを実現するマーケティングツール開発に取り組んでいく。

タウンWiFi代表取締役の荻田剛大氏は「世界中のWiFiに自動的につながるサービスを目指そうとしたときに、ネックとなるのが、小売店などのオーナーがWiFi設置への意欲が湧かないこと。月額1000円、1500円と通信費もかかり、『インバウンド需要で集客ができる』などと言われても、設置効果に実感がないのが実情だ。そこで、WiFiを活用したマーケティングツールを用意して、店舗への集客の仕組みを作ろうと考えた。その仕組みづくりのパートナーとして、今回2社との提携に至った」と提携の目的について説明する。

電通には、位置情報を活用した広告プラットフォームに、WiFiでの端末の接続履歴など、タウンWiFiが収集する情報を提供して連携。ユーザーが小売店などに来店したときの接続状況を検知し、来店頻度などによるセグメントで広告を配信できるようなサービスを開発し、より効率的な集客につなげていく。

国際航業は、地理情報データを使った出店コンサルティングや、ポスティングチラシなど広告の配布プランの支援などを行っているが、今までは静的な情報を元にサービスを提供してきた。提携により、ユーザーの現在位置での分布や移動経路など、タウンWiFiがリアルタイムで集計する動的なユーザー情報に基づき、小売店向けの新しい商圏分析などのマーケティングツールを共同で開発していく。

調達資金は、ユーザー獲得のためのマーケティングに使うと荻田氏は話している。ユーザーの行動データを増やすことで、WiFiオーナーがよりWiFiを使ったマーケティングをやりやすくして、WiFi設置数を増やし、日本のWiFi環境をさらに良くしたいとの考えだ。

また、これまで接続可能なWiFiを拡大する際、一つ一つ人力で調査していたWiFiの情報収集と解析をAIで実現するシステム「WiFi認証AI」の開発も加速する。

荻田氏は「我々は通信サービスだと考えている。WiFiをアグリゲートして、世界中のどこでもネットが使える環境を実現したい」と語る。

タウンWiFiでは近々、世界30カ国のWiFiサービスに対応する予定だということだ。荻田氏は「現地のユーザーもネットが使えて、旅行者も現地SIMがなくてもWiFiでネットを利用できる、というようなグローバル通信サービスを目指す」として、「その実現には、WiFiを設置してもらうためのモチベーションを上げる仕組みが必要。他の国でも、WiFiオーナーの集客につながるマーケティングツールは提供していくつもりだ」と話している。

Cerevo子会社をパナソニックが買収、岩佐社長「1歩ミライの生活実現へ挑む」

eng-logo-2015Cerevoは、ハードウェアのアジャイル生産を手がける新子会社「Shiftall」(シフトール)を設立。その全株式をパナソニックに売却しました。

Shiftallの代表取締役CEOには、Cerevo前社長の岩佐琢磨氏が就任。「Cerevoの持つ開発・製造ノウハウを活用し、新たにハードウェアを開発・製造・販売する新会社」としていて、パナソニック傘下で引き続きIoTデバイスの開発・製造に取り組むとのこと。なお、岩佐琢磨氏はもともとパナソニックの出身。今回の社長就任で、古巣であるパナソニックに舞い戻った形です。

一方、Cerevoの新たな代表取締役には青木和律氏が就任。同氏は大手重工業メーカーでHVAC(産業用冷凍設備及び大規模空調システム)の開発に従事。2008年に独立し、「DMM.MAKE AKIBA」でハードウェアスタートアップのプロダクトローンチに携わった経歴をもちます。

新体制となったCerevoでは、既存製品のサポートに加え、新規製品の企画・開発も継続。また、これまで培ってきたIoT家電への技術、リソース、ノウハウなどをスタートアップ企業に提供するとのこと。さらに、自社ブランドのハードウェア開発にとどまらず、共同開発・製造業務へも重点を置き、パートナー企業の事業価値を高めるべく協業するとしています。

Engadget 日本版からの転載。

“3D彫刻タワー”で振り返るインターネットの歴史、ヤフーが1474件のトピックを3DCG化

年表を見ながらインターネット業界の主要なトピックを振り返ってみると、いろいろな発見があっておもしろい。

たとえば動画配信サービス「Hulu.com」のスタート、「Twitter」の日本語版公開、「Evernote」の一般公開、「App Store」の開始、「Airbnb」の設立、「Dropbox」の正式サービス開始、「Google Chrome」のリリース ——これらはすべて今から約10年前の2008年に起こった出来事だ。

実はこの情報、ヤフーが本日公開した「インターネットの歴史 History of The Internet」からピックアップしたもの。同コンテンツではインターネットに関する1474件のトピックを全て3DCG化して、“3D彫刻タワー”で表現している。

3DCGで作られた彫刻は、それぞれのトピックにまつわる人物や事柄がモチーフ。スマートフォンやPCで上下にスクロール(ドラッグ)して360度回転させながら鑑賞できるほか、彫刻をタップ(クリック)することで詳細を閲覧できる。

もともとはYahoo! JAPANのサービス開始20周年を記念して、2016年4月に「History of the Internet ~インターネットの歴史~」を公開。デザイン変更も加えながら今回が3回目となる。なお2016年版2017年版については今でも見ることができるので、デザインの違いも含めて見比べてみるのもおもしろいだろう。

ちなみに2005年におきた出来事のひとつとして「TechCrunchの開始」も紹介されている。