電動スクールバス群を世界最大級のバーチャル発電所にするZūm、目標は最大1ギガワットを送電網に戻す

Zūmは学区と家族のために生徒輸送サービスを提供しているスタートアップだ。同社は、自社が運行してする電動スクールバスを使って、一番必要とされているとき、電力を送電網に戻す仕組みを考えている。

同社はエネルギー管理・配給ソフトウェアを提供しているAutoGrid(オートグリッド)と提携して、Zūmの電動スクールバス群団を世界最大級のバーチャル発電所に変えようとしている、と同社の声明に書かれている。Zūmの最終目標は、1ギガワットのエネルギーを送電網に戻す能力を備えることだと会社はいう。LED電球1億1000万個あるいは30万世帯に必要な電力量だ。しかしZūmはそれに必要なバス1万台のゴールにはまだ程遠い。現在同社の保有するバスのうち電動車はわずか10%で、これは供給不足のためだとCEO兼共同ファウンダーのRitu Narayan(リツ・ナラヤン)氏がTechCrunchに話した。

「スクールバスは最も最大の車輪つきバッテリーです」とナラヤン氏は言った。「興味深いのは、夜間や夏季といった電力需要のピーク時にはバスがあまり利用されていないことです。だから私たちの大きな目標は、昼間にバスを運行することだけではないのです」。

この提携の適用範囲は、スクールバス群の創造的な他目的利用にとどまらず、電気自動車産業全体に広がりつつある。EV(電気自動車)保有者が増える中、Zūmなどの会社はますます困窮してる送電網におけるギブ・アンド・テイクの必要性を認識している。今週、電動モペッドのスタートアップ、Revel(レベル)がGridRewards(グリッドリワーズ)との提携を発表した。GridRewardsはAutoGridと同様のサービスを提供するアプリで、電動モペッドの充電スケジュールを調整することで必要な時に送電網に電力を戻すことができる。

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電動スクールバスはこの種のエネルギー・シェアリングにかつてなく大きな機会を提供する。バイデン政権は電動スクールバスに250億ドル(約2兆7500億円)投資する計画を提案した。現在50万台以上の黄色いスクールバスが毎日2700万人以上の生徒たちを運んでいる。

両社は、Zūmが206台のスクールバスを運行するサンフランシスコと70台運行しているオークランド統一学区で提携事業を開始する、とナラヤン氏は言った。Zūmは全国に事業を展開する野望も持っている。すでにカリフォルニア州の複数の学区とシアトル、シカゴ、ダラスと交渉中で、次はワシントンDCを狙っている。

「通学輸送のEV化は、地域が大気の質や生徒と地域住民のための環境衛生を改善する上で極めて重要な役割を果たします」と同氏は声明で語った。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:Zūm電気自動車バス電力

画像クレジット:Zūm

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nob Takahashi / facebook

消防隊がARヘッドセットで火災現場の作業状況を共有するQwake Technologiesのシステム

新技術の構築が難しい分野の中でも、消防は特に困難なものの1つだ。煙と熱はすぐに機器を損傷し、火災による障害はあらゆる種類の無線通信を妨害し、ソフトウェアを使用不可能にする。技術的観点からに見て、火災への対応方法を大きく変えたテクノロジーはほとんどない。

サンフランシスコ拠点のスタートアップQwake Technologies(クウェイク・テクノロジーズ)は、拡張現実(AR)ヘッドセットのC-THRUを使って消火活動をアップグレードしようとしている。消防士が着用するそのデバイスは、周囲をスキャンして得られた重要な環境データをクラウドにアップロードすることで、全消防隊員が現場の作業状況を共有できる。ゴールは、状況認識を改善して消防隊員の作業効率を高め、かつ負傷者や犠牲者を最小限にすることだ。

2015年に設立された同社は、今週約550万ドル(約6億円)の資金調達を終えたばかりだ。CEOのSam Cossman(サム・コスマン)氏は筆頭出資者の名前を明らかにせず、条件規定書の機密条項が理由だと述べた。同氏はその戦略的投資家が上場企業であり、Qwakeが初めての投資先であると説明した。

(通常私はこの種の詳細情報が不明な資金調達案件は無視するのだが、最近DisasterTech(ディザスターテック / 災害テクノロジー)で頭がいっぱいの私としては書かないわけにいかない)

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Qwakeは最近大型の政府契約を勝ち取り、2021年後半に製品展開の拡大を目指している。2020年同社は国土安全保障省と140万ドル(約1億5000万円)の契約を締結し、4月にはRSA社とともに米国空軍と提携を結んだ。さらに同社は少額のエンジェル資金を調達した他、Verizon(ベライゾン)の5G First Responder Lab(初期対応者研究プロジェクト)に初期コホートとして参加している(情報開示:TechCrunchは「まだ」Verizonが所有している)。

Qwakeを、John Long(ジョン・ロング)氏、Omer Haciomroglu(オマー・ハショムログル)氏とともに創業したコスマン氏は「火」、その中でも火山に関心を持っている。同氏は長年、探検映像作家・イノベーターとして、カルデラを探索し、視聴者と人道的対応と科学のギャップを橋渡ししようとしてきた。

「これまで私は、地球化学と火山に焦点を当てて数多く活動してきました」と彼は言った。「多くのプロジェクトが火山噴火の予測に焦点を当てたもので、センサーネットワークや自然界のさまざまな現象に注目することで、火山の脅威にさらされている地域住民の安全を守ることに役立てています」。

ニカラグアのあるプロジェクトで、彼のチームは活火山の煙の中で突然道に迷った。そこでは「厚くて濃厚な超高熱火山ガスが私たちの正しい移動を妨げていました」とコスマン氏は言った。そんな状況の中での移動を支援するテクノロジーを作りたかった同氏は、自社製品を消防隊員に利用してもらう方法を考えた。そして「『この人たちは、厳しい環境の中で何が見えるか、どうやって早く決断を下すのかをわかっている』ということを知りました」。

彼は落胆したが、同時に新たなビジョンを手に入れた。そのテクノロジーを自分で作ることだ。そうやってQwakeは生まれた。「私は誰よりも、間違いなく消費者よりもこれを必要としている人たちが手に入れる手段をもたないことに怒りを覚えました。それはまったく可能なことなのにです」と彼は言った。「しかし、それはSFの中だけで語られていたことだったので、私はこれを現実にするために過去6年間を捧げてきました」。

この種のプロダクトを作るには、ハードウェアエンジニアリングから神経科学、消火、プロダクトデザインなどさまざまな能力が必要だ。「まずこのプロトイプを作っていじることから始めました。すると消防コミュニティから非常に興味深い反響があったのです」とコスマン氏は言った。

Qwakeは消防士がヘルメットに装着して周囲のデータを集めるIoT製品を提供している(画像クレジット:Qwake Technologies)

当時Qwakeは消防士を誰も知らなかったので、ファウンダーたちが顧客訪問を行ったところ、センサーとカメラは初期対応者が本当に必要なものではないことがわかった。代わりに、欲しかったのは現場作業の透明性だった。入力データを増やすだけでなく、すべてのノイズを集め、合成し、現場で今起きていることや次に何をするべきかの正確な情報を彼らに伝えるシステムだ。

最終的に、Qwakeは完全のソリューションを作り上げた。消防士のヘルメットに装着するIoTデバイスと、入ってくるセンサーデータを処理してチーム全員から同時にやって来る情報を同期するタブレットベースのアプリケーションからなるシステムだ。そしてクラウドがすべてを結びつける。

これまでにカリフォルニア州メンロパークとマサチューセッツ州ボストンの消防署がモデルケースになっている。新たな資金を得て、チームはプロトタイプの段階を進め、2021年中の一般公開に向けてスケール可能な製造の準備をして販売領域を広げるつもりだ。

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タグ:Qwake Technologies火災拡張現実気候テック資金調達

画像クレジット:Qwake Technologies

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nob Takahashi / facebook

レアメタル溶媒抽出技術エマルションフローで都市鉱山リサイクルを目指すエマルションフローテクノロジーズが資金調達

「都市鉱山」レアメタルのリサイクル技術「エマルションフロー」活用した事業化を目指すエマルションフローテクノロジーズが8000万円調達

日本原子力開発機構(原子力機構)発のレアメタルリサイクルベンチャー「エマルションフローテクノロジーズ」(EFT)は7月14日、シードラウンドにおいて、第三者割当増資による8000万円の資金調達を発表した。引受先は、リアルテックホールディングスが運営するリアルテックファンド。エマルションフローとは、原子力機構で開発されたレアメタルのリサイクル関連技術のこと。EFTは、この技術を事業化するため、6社目となる原子力機構発ベンチャー企業に認定された。

「都市鉱山」レアメタルのリサイクル技術「エマルションフロー」活用した事業化を目指すエマルションフローテクノロジーズが8000万円調達

いわゆる「都市鉱山」に眠るレアメタルの回収は大きな社会的課題となっているが、レアメタルのリサイクルには溶媒抽出という水と油を混合させて行う技術が用いられている。現在使われているミキサーセトラーという方式は、混ぜて、静かに置いて、分離するという3工程を必要とするもので、大型装置で時間をかけて行わなければならず、排水に油が混入するなど環境負荷の問題もある。

それに対して新しいエマルションフローは「送液のみ」のみの1工程で済む。この方式により、生産性は10倍(1/10にダウンサイジング)、ランニングコストは1/5、精製純度は99.99%以上となり、分離困難だった元素(レアアースなど)の精製、作業環境の改善、油と水の分離能力の向上による排水のクリーン化が実現した。原子力機構の研究室で偶然発見された「水と油が細かくよく混ざりながらもきれいに分離する」という現象にヒントを得て、この革新的な溶媒抽出法であるエマルションフローが開発されたとのことだ。

「都市鉱山」レアメタルのリサイクル技術「エマルションフロー」活用した事業化を目指すエマルションフローテクノロジーズが8000万円調達

EFTのレアメタルリサイクル事業では、エマルションフロー技術を用いることで、リチウムイオン電池などに含まれるレアメタルを低コストで高純度に回収する技術を確立し、「都市鉱山」から回収したレアメタルをハイテク産業に直接再利用できる「水平リサイクル」の実現を目指すという。

今回の資金調達でEFTは、第5世代のエマルションフロー装置のスケールアップ、レアメタルリサイクル事業とトータルサポート事業の推進を行う。

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スマートリモコンのNatureが7.5億円調達し電気小売事業強化、クックパッド宇野雄氏がデザインアドバイザー就任

Natureが7.5億円の資金調達、クックパッドの宇野雄氏がデザインアドバイザーに就任

スマートリモコンと電気小売事業を組み合わせるなど「デジタル電力革命」を目指すNature(ネイチャー)は7月14日、第三者割当増資により7億5000万円の資金調達を完了したと発表した。引受先は、環境エネルギー投資と大和企業投資。さらに、クックパッドのデザイン戦略本部長でありUIデザイナーの宇野雄氏をアドバイザーに迎え入れた。

スマートリモコン「Nature Remo」シリーズを開発販売するNatureは、2021年3月に「Natureスマート電気」を立ち上げ電気小売事業に参入した。Natureスマート電気の契約者はNature Remoと連動させることで、電力需給ピーク時にエアコンの温度を自動調整して節電を行うことができる。

今回調達した資金は、電力小売事業拡販のための組織、販売体制、マーケティ ングの強化と、「次なる軸」とNatureが定める、家庭用太陽光発電、エコキュート、蓄電池、EVなどのエネルギーを一括管理して住宅のエネルギー自給自足を目指す「Behind The Meter」(ビハインド・ザ・メーター)事業の基盤構築に使われる。

クックパッドの宇野雄氏は、「はじめてのUIデザイン 」を執筆するなど、UI(ユーザーインターフェイス)デザインの第一人者として、「もっとテクノロジーと人間の生活をなめらかにつなげるはずだ」と日々考えているという。「『自然との共生をテクノロジーでドライブする』というミッ ションをもつNature社は非常に魅力的な存在であり、このミッションの実現をお手伝いできることが今か ら楽しみでなりません」と話している。

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電力小売「Natureスマート電気」が「テクノロジーでラクラク節電キャンペーン」で夏の電力不足解消を支援

電力小売「Natureスマート電気」が「テクノロジーでラクラク節電キャンペーン」で夏の電力不足解消を支援

Nature(ネイチャー)は7月13日、2021年夏に見込まれる電力不足の解消を目指し、「Natureスマート電気」契約者を対象とした「テクノロジーでラクラク節電キャンペーン」の開始を発表した。節電量に応じて特典がもらえるプログラムだ。

キャンペーン期間は7月13日から9月30日まで。「Natureスマート電気」の「フラットプラン」と「ハイブリッドプラン(夏季)」の契約者が対象。対象エリアは、7月13日からは東京電力エリアと関西電力エリア、8月2日からは北海道電力エリア、東北電力エリア、中部電力エリア、中国電力エリア、四国電力エリア、北陸電力エリア、九州電力エリアとなる。

キャンペーン期間中に「Natureスマート電気」の「マイページ」で申し込むと、Natureが予測した電力需給がひっ迫する時間帯が前日にメールで知らされる。その時間内に節電をするとポイントが貯まるという内容だ。節電量1kWh(キロワット時)につき10ポイント獲得となり、1ポイント1円換算でキャンペーン終了後にAmazonギフト券と交換できる。その他、特に頑張った人には協賛企業のIoT製品が賞品として贈られる。

協賛企業

Natureが展開する電気小売事業「Natureスマート電気」は、Natureのスマートリモコン「Nature Remo」と連動して、電力需給ひっ迫時に自動的にエアコンの温度を調節して節電を行う「Nature Smart Eco Mode」が特徴。現在、「Natureスマート電気」と契約すると、新規加入者特典として「Nature Remo 3」が無料でプレゼントされるキャンペーンも実施している(7月31日まで)。

「在宅時間の増加により消費電力量が増えている今、テクノロジーを活用しストレスなく節電に参加して、電力不足の解消にご協力いただけたら」とNatureでは話している。

「テクノロジーでラクラク節電キャンペーン」概要

  • キャンペーンページテクノロジーでラクラク節電キャンペーン
  • キャンペーン期間:2021月7月13日〜9月30日
  • 対象プラン:フラットプラン、ハイブリッドプラン(夏季)
  • 対象エリア(2021年7月13日~):東京電力エリア、関西電力エリア
  • 対象エリア(2021年8月2日〜):北海道電力エリア、東北電力エリア、中部電力エリア、中国電力エリア、四国電力エリア、北陸電力エリア、九州電力エリア
  • 参加方法:キャンペーン期間中に、Natureスマート電気のマイページから参加申し込みを行う
  • キャンペーン内容:Natureの基準で電力の需給がひっ迫する時間帯を予測し、前日中にメールで参加者へお知らせ。当該時間帯に電力の使用を抑制することで、節電ポイントが貯まる
  • 特典1「節電ポイント」:節電ポイントとして、節電量1kWhにつき10ポイントが貯まる。節電ポイントは、1ポイント=1円相当として本キャンペーン終了後にAmazonギフト券へ交換できる
  • 特典2「特別表彰」:参加者のうち、特に節電に貢献した方の中から抽選で、話題のIoT製品をプレゼント。「ガツガツ節電賞」「コツコツ節電賞」を用意しており、各賞ごとに基準を満たした参加者が対象となっている

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【コラム】核融合に投資すべき理由

編集部注:本稿の著者Albert Wenger(アルバート・ウェンガー)氏はUnion Square Venturesのマネージング・パートナー。

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デジタルテクノロジーは過去に類を見ない広がりと規模で市場構造を破壊してきた。今、また1つイノベーションの波が訪れている、それは世界経済の脱炭素化だ。

各国政府は未だに気候変動危機と正面から戦うために必要な信念に欠けているが、全体的方向性ははっきりしている。欧州における炭素の価格は、1トンあたり10ドル(約1100円)以下から50ドル(約5500円)以上へと高騰している。Shell(シェル石油)はオランダ裁判所で厳しい審判を下された。2021年初めにテキサス州で起きた大規模停電は、既存のエネルギー供給が高度工業国においてさえ脆弱であることを露見させた。脱炭素化を現実にするためには、信頼できるクリーンな発電技術の開発、配備への投資が緊急の課題である。

先見の明のある投資家はこれを理解している。Bloomberg(ブルームバーグ)によると、2020年に低炭素テクノロジーへの国際投資は5000億ドル(約55兆350億円)に達した。再生可能エネルギーがそのうち3000億ドル(約33兆210億円)を占め、運輸の電化(1400億ドル、約15兆4110億円)と暖房(500億ドル、約5兆5040億円)が続いている。

しかし、まだゴールにはほど遠い。International Energy Agency(国際エネルギー機関)によると、2021年の全世界CO2排出量は、2020年水準を15億トン上回る見込みだ。そして全世界エネルギー消費の80%は 未だに石炭、石油、ガスからなっている。

我々が飛躍的革新の可能性を持つ新技術を支援し続けなくてはならない理由はそこにある。中でも期待されているのが核融合だ。核融合は恒星を光らせる原動力となるプロセスであり、人類にとって最もクリーンなエネルギー源になる可能性を有している。我々はすでに、核融合エネルギーを間接的に利用している、ソーラーエネルギーとして。核融合炉ができれば、天候に左右されない「常時稼働」バージョンを手に入れることができる。

しかし、まだその方法もわからない核融合になぜ投資するのか。第1に、これは二者択一の提案ではない。再生可能エネルギー設備を築くのと同時に新たなエネルギー生産方法に投資することができる。なぜなら後者は、少なくとも開発の初期段階では、比較的少額の費用しか必要としないからだ。米国政府の最新計画では、今後10年間に自動車輸送の電化に1740億ドル(約19億1530億円)を投入する予定なので、核融合発電所の建設に20億円投資することは実行可能と思われる。

第2に、我々は今これまで以上の電気が必要になりつつある。無炭素エネルギー源の国際需要は2050年までに3倍になると予測されている。都市化の増加、産業プロセスの電化、生物多様性の損失、新興市場におけるエネルギー消費の増加などによる。

第3に、必要な支援技術の飛躍的な発展がある。核融合の磁場封じ込め方式に使用される超電導磁石は価格が大きく低下し、慣性封じ込め核融合のためのレーザーははるかに強力になり、材料科学の躍進によってナノ構造ターゲットが利用できるようになることで、低エネルギー中性子燃料 PB11などのまったく新しい核融合のアプローチが可能になる。

幸い、多数の世界レベルのチームが起業家精神を発揮して核融合の開発、製造に取り組んでいる。現在世界で少なくとも25のスタートアップが核融合を目標に掲げ、広範囲のテクノロジーを駆使して問題にアプローチしている。Crunchbaseによると、2020年に全世界で民間核融合企業に投資された金額は約10億ドル(約1100億円)に上る。

成功した核融合の利点は無限に近い。クリーンエネルギー生成市場には1兆ドル(約110兆円)規模の可能性がある。Materials Research Societyは、増加する世界エネルギー需要を満たすために2030年から2050年までに26 TV(テラワット=10億キロワット)の一次エネルギー容量が必要になると推計している。1 TWの発電能力があれば3000億ドルの収益を生み、2030~2050年の市場シェアの15%は年間収益1兆ドルに相当する。

ここでは枠を捉えるシュートがたくさん必要であり、Susan Danziger(スーザン・ダンジガー)氏と私がすでに3社の核融合スタートアップに個人投資しているのはそのためだ(米国のZap EnergyとAvalanche、およびドイツのMarvel Fusion)

しかし私たちを動機付けている主な理由は経済的利点の可能性ではない。人類の歴史の軌跡に消えることのない違いを残すチャンスがあるからだ。過去数十年間に起業家や投資家が蓄積してきた巨大な富のごくわずかな部分をここる投資することで、核融合が成功する可能性は飛躍的に高まる。それは、ベンチャー資金と政府からさらに多くの出資を得られることにつながる。

今こそ、一致団結して脱炭素化に向かう時だ。そして核融合の画期的可能性への投資はその取り組みの一部になるべきだ。

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タグ:コラム脱炭素気候変動核融合

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(文:Albert Wenger、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】エネルギーエコシステムは不安定な未来に適応する「エネルギーインターネット」の実現に向かうべきだ

編集部注:本稿の著者Brian Ryan(ブライアン・ライアン)は、多国籍エネルギー企業National Gridのイノベーションおよび投資部門であるNational Grid Partnersのイノベーション担当バイスプレジデント。

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National Grid Partnersのイノベーション担当バイスプレジデントとして、私はNational Gridの現在の事業に有益なだけでなく、独立した事業になる可能性を秘めたイニシアティブの開発を担っている。だから私は、エネルギー産業の未来について確かな見解を持っている。

しかし、私は未来を映し出す水晶玉は持っていない。持つ人はいないだろう。イノベーションポートフォリオを適切に管理する職務において、私の仕事はすべてを挙げて1つに投じるというものではない。有限の資産を複数のバスケットに最適に配分し、最大の集合的アップサイドを実現するものだ。

別の言い方をすれば、世界や地域のトレンドは「次なる潮流(Next Big Thing)」が単一ではないことを明白に示している。それよりも、エネルギーサプライチェーン全体にわたるオープンイノベーションの推進と要素の統合が、未来に大きく関わっている。このようなオープンエネルギーエコシステムがあって初めて、エネルギー産業が直面する極めて不安定な(予測できないとさえいう人もいるかもしれない)市場状況に適応することができる。

このオープンでイノベーションを可能にするアプローチを「エネルギーインターネット」と捉え、それが今日のエネルギーセクターで最も重要なオポチュニティであると私は確信している。

インターネットアナロジー

エネルギーインターネットのコンセプトが有用だと思う理由はここにある。デジタルインターネット(ここで使用する用語にはその構成要素であるすべてのハードウェア、ソフトウェア、標準が含まれる)が登場する以前は、メインフレーム、PC、データベース、デスクトップアプリケーション、プライベートネットワークなど、複数のテクノロジーがサイロ化されていた。

しかし、デジタルインターネットの進化にともない、これらのサイロの壁は取り払われた。メインフレーム、コモディティハードウェア、クラウド内の仮想マシンなど、デジタルサービスのバックエンドにある任意のプラットフォームを利用できるようになった。

デジタルペイロードは、速度、セキュリティ、キャパシティ、コストの最適な組み合わせを選択して、世界中のあらゆる顧客、サプライヤー、パートナーと接続するネットワーク間で転送できる。ペイロードにはデータ、音声、動画があり、エンドポイントとしてデスクトップブラウザ、スマートフォン、IoTセンサ、セキュリティカメラ、小売店のキオスクなどが挙げられる。

この種々さまざまな物がうまく組み合わされた(mix-and-match)インターネットは、オープンなデジタルサプライチェーンを生み出し、オンラインイノベーションにおける画期的なブームを牽引した。起業家や投資家は、サプライチェーン全体のどこにいても特定のバリュープロポジションに集中することができ、サプライチェーン自体を継続的に見直す必要はない。

エネルギーセクターも同じ方向に向かうべきである。サーバープラットフォームのように、さまざまな世代のモダリティを扱えることが重要だ。データネットワークと同等にアクセス可能な送電網が必要であり、あらゆる消費エンドポイントに柔軟にエネルギーを供給できることが求められる。テクノロジー業界と同様に、こうしたエンドポイントでもイノベーションを促進する必要がある。

デジタルインターネットが、優れたアプリの構築や洗練されたスマートフォンの設計など市場に貢献するあらゆる場面でイノベーションに恩恵をもたらすように、エネルギーインターネットも、エネルギーサプライチェーン全体でより優れた機会を提供する。

5Dの未来

ではエネルギーインターネットとはどのようなものだろうか。まずデジタル化、分散化、脱炭素化という既存のモデルから始めて、さらに先を見据えた見解を示したいと思う。

デジタル化(Digitalization):イノベーションは需要、供給、効率、トレンド、イベントに関する情報に依存する。こうしたデータは正確性、完全性、適時性、共有性を備えていなければならない。IoE、オープンエネルギー、そしていわゆる「スマートグリッド」のようなデジタル化の取り組みは、エネルギー供給の物理、ロジスティクス、経済性を継続的に改善するために必要な洞察をイノベーターに提供する。

分散化(Decentralization):インターネットが世界を変えた理由の1つとして、集中管理された少数のデータセンターからコンピューティング力を取り出し、適切な場所に分散させたことが挙げられる。エネルギーインターネットも同じように機能するだろう。デジタル化は、オープンエネルギーサプライチェーンに資産を統合することで、分散化を促進する。しかし分散化は既存の資産の統合にとどまらず、必要な場所に新しい資産を広げることにもつながる。

脱炭素化(Decarbonization):脱炭素化はもちろんこの運用における核心だ。徹底したエネルギー活用を通じてあらゆる場所でエネルギー需要を満たす分散型インフラの上に構築される、よりグリーンなサプライチェーンを推進しなければならない。市場はそれを求めており、規制当局も要請している。したがって、エネルギーインターネットは単なる投資機会ではなく、実存的な必須事項である。

民主化(Democratization):インターネットに関連するイノベーションの多くは、テクノロジーを物理的に分散させることに加えて、テクノロジーを人口統計学的に民主化したという事実から生まれた。民主化とは、力(この場合は文字通り)を人々の手に委ねることである。エネルギー業界の課題に取り組む頭脳と手腕を大幅に拡充することは、イノベーションを加速し、市場のダイナミクスに対応する能力を高めるだろう。

多様性(Diversity):先に述べたように、未来を映す水晶玉を持つ人はいない。したがって、大規模なイノベーションに投資する際には、リスクを低減し、リターンを最適化するためだけでなく、可能性を高めるための戦略として多様化が必要となる。つまり、もしエネルギーインターネット(あるいは用語を選ぶならグリッド2.0)により、エネルギーサプライチェーンのすべての要素の協働が必要になると真に信じるのであれば、相互運用性と統合を促進するために、これらの要素にまたがるイノベーションイニシアティブを多様化しなければならない。

デジタルインターネットはまさにそのようにして構築された。標準化団体は重要な役割を果たしたが、標準化とその実装を主導したのはMicrosoftやCisco、さらにはトップVCたちであり、こうした業界プレイヤーがサプライチェーン全体の統合を推進することで、エコシステムの成功が実現した。

エネルギーインターネットでも同じアプローチを取る必要がある。そのための力と影響力を持つものは、個々の要素の改善とともに、エネルギーサプライチェーン全体にわたる統合の積極的な推進を支援すべきである。この目的を達成するために、National Gridは2020年、NextGrid Allianceという新しい業界団体を立ち上げた。この団体には、世界中の60を超える電力会社から上級幹部が参加している。

また、エネルギーエコシステムにおける思考の多様化も不可欠であると私たちは考えている。National Gridは、エネルギー産業に携わる女性とSTEMプログラムの学部に占める女性の割合が著しく低いことに警鐘を鳴らしてきた。その一方で、Deloitteの調査では、多様性に富むチームは革新性が20%高いことが示されている。NGPに在籍する私のチームの60%以上は女性であり、その視野の広さは、National Gridが全社的なイノベーションへの取り組みについて強力な洞察を得るのに大きく貢献している。

予測を超える多くの勝利

エネルギーインターネットのコンセプトは、抽象的な未来の理想というものではない。それがどのように市場を変えるのか、具体的な例を私たちはすでに目にしている。

グリーントランスナショナリズム:エネルギーインターネットは、デジタルインターネットと同じようにグローバルに展開しつつある。例えば英国は現在、ノルウェーとデンマークから風力発電による電力供給を受けている。国境を越えて分散化されたエネルギー供給を活用するこうした取り組みは、各国経済に大きな利益をもたらし、エネルギーのアービトラージに向けた新たな機会を創出するものだ。

EV充電モデル:電気を送り出すのはガソリンをくみ上げるようなものではないし、そうあるべきでもない。スマート計測および高速充電エンドポイント設計におけるイノベーションの適切な組み合わせにより、オフィスビルや住宅地などの自動車と利便性が同等の価値を持つ場所において、エネルギーインターネットが新たな機会を生み出すだろう。

災害緩和:テキサスで起きた最近の出来事は、エネルギーインターネットが存在しないことによる弊害を浮き彫りにした。責務を負う公益事業および政府機関は、インフラストラクチャのトラブルシューティングと地域社会の保護をより効果的に行うために、デジタル化と相互運用性を積極的に取り込む必要がある。

ここに挙げたものは、オープンでany-to-any型のエネルギーインターネットがイノベーションを促進し、競争を活性化し、大きな勝利を生み出すという、限りない進展のほんの一部にすぎない。その大きな勝利が何であるかを正確に予測することは誰にもできないが、確実に多く存在し、すべてに恩恵をもたらすだろう。

だからこそ、未来を映し出す水晶玉はなくても、私たちはデジタル化、分散化、脱炭素化、民主化、多様性にコミットすべきである。そうすることで、エネルギーインターネットを協働して構築し、公平で、経済的で、クリーンなエネルギーの未来を実現するのである。

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(文:Brian Ryan、翻訳:Dragonfly)

災害地域で高速通信回線を確保するための移動基地局車「THOR」をベライゾンが発表

世界各地を襲う猛烈な暑さが、世界中で災害の数、規模、複雑さを加速させている。この数週間だけで、米国の太平洋岸北西部では、記録的な暑さのために数百人もの死者が出ており、今後もさらなる猛暑が予想されている。

熱波、山火事、ハリケーン、台風をはじめとするさまざまな気象災害は、エネルギー事業や通信事業などのインフラ事業者に大きな難題をもたらしている。これらの事業者は、人類がこれまでに経験したことのないような厳しい環境の中でも、顧客のために稼働率を可能な限り100%に近づけなければならない。

そのために、Verizon(ベライゾン、念の為に書き添えておくと、同社は今のところ、TechCrunchの最上位の親会社だ)は米国時間7月6日「Tactical Humanitarian Operations Response(戦術的人道主義活動対応)」のために作られた「THOR(トール)」と呼ばれる車両の最初のデモ機を発表した。Ford(フォード)の「F650」ピックアップトラックの車台をベースに設計されたTHORは、5G Ultra Wideband(超広帯域無線通信)や衛星アップリンクなどの無線技術を用いて、最前線の緊急対応要員や市民に、機動性と耐障害性に優れた通信回線を提供することを目的としている。

ベライゾンのTHORは、5Gや衛星アップリンクなどの無線技術を展開し、最前線のレスポンダーに通信回線を迅速に提供することができる(画像クレジット:Verizon)

ベライゾンは、国防総省のNavalX(ネーヴァルエックス)およびSoCal Tech Bridge(南カリフォルニア・テック・ブリッジ)と共同でプロトタイプを開発し、先週サンディエゴの北に位置するMarine Corps Air Station Miramar(海兵隊ミラマー空軍基地)で公開した。

THORは、無線通信に加えて、さまざまなドローン機能を展開できる可能性も備えている。例えば、捜索・救助活動のためにドローンを配備したり、時間とともに拡大する山火事の状況を把握して消防士を支援したりすることができるだろう。

数週間前にもご紹介したように、ベライゾン、AT&T、T-Mobile(Tモバイル)などの通信事業者は、モバイルワイヤレス機器の迅速な設置から、AT&TのLTE基地局として機能する飛行船「FirstNet One」のような斬新なソリューションまで、さまざまなレジリエンス(災害復旧力)施策への支出を増やしている。

政府、民間企業、保険会社、そして個人が、世界的に激化する自然災害に直面し、対応を求められる中「DisasterTech(災害テクノロジー)」は規模を問わず多くの投資家や企業から注目を集めている。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Hirokazu Kusakabe)a

アプリで集めたデータで「生物予報」という新たな社会インフラを、京大発の「バイオーム」が描く未来

地球温暖化が進行し、豪雨や猛暑などのリスクがさらに高まることが予想されている昨今、環境保全に向けて「自然環境のデジタル化」を進めているのが、京都大学発のスタートアップであるバイオームだ。同社は開発した「いきものコレクションアプリ『Biome(バイオーム)』」で取得したデータを基に、分布状況など生物の今後を予測する天気予報ならぬ「生物予報」として、新たな社会インフラになる狙いもあるという。生物予報で害虫被害などに対して事前に対策を打てるようにしていく考えだ。

代表の藤木庄五郎氏は、学生時代に熱帯のボルネオ島で2年以上キャンプ生活をしながら、原生林の調査を行ってきた。現地で取得したデータから生物多様性を定量化するアルゴリズムの開発に成功し、その成果から2017年3月に京都大学大学院博士号(農学)を取得。同年5月にバイオームを立ち上げた。

藤木氏は環境保全活動などによって利益を生む仕組みを作ることができれば、環境課題の解決を促進できると考えている。その仕組み作りの第一歩となるのが、同社が開発したアプリとなる。藤木氏に話を聞いた。

いきものコレクションアプリ「バイオーム」

バイオームアプリは、スマホから写真を投稿すれば、独自の名前判定AIにより、日本国内に生息するほぼすべての動植物(約9万2800種)を判別できる。AndroidiOSに対応し、無料でダウンロード可能だ。

正式リリースから2年以上が経った2021年6月時点で、延べ約27万ダウンロード、アプリ内の投稿数は142万件を超えた。8000件を超える投稿しているユーザーもいるという。

アプリは、画像を基にディープラーニングで学習させた見た目の情報で生き物の名前を判定しているが、もう1つ仕組みがある。投稿画像の位置情報と日時といったメタ情報も学習させている点だ。

「例えば、蝶は世界で約2万種いますが『東京の代々木公園で4月に撮影できる蝶』といった場合、10種類程度に絞り込むことができます。位置情報と日時を組み合わせていることが、私たちの特徴的な技術になります」と藤木氏は説明する。

国内にいる動植物約9万2800種の教師画像を個々の種ごとに大量に用意しなくてもとも、位置情報や日時のメタ情報を組み込むことで、精度の高い判定を行えるようにしている。

さらに、ユーザーがアプリで投稿するたび、生き物が「いつ、どこで、どのような」活動をしているかなど、これまで取得しづらかったリアルタイムデータが集まるのだ。

「バイオームはただ名前判定を行うアプリではありません。位置情報と日時で、分布状況などの情報も扱います。これらのデータを私たちが解析し、必要な人に適切なカタチで届け、保全活動などに紐づけていくことが、重要な役割でもあります」と藤木氏は語った。

データの提供先は産学官で多くの事例があるが、環境省との連携も進んでいる。温暖化による生き物への影響を調査するため、アプリを活用。2020年11月、温暖化の影響で生息分布が北へ移動しているような生き物や、開花時期が早まった植物などを、全国のユーザーに投稿してもらうキャンペーンを実施した。バイオームが集まったデータを解析し、同省に提供している。2021年夏からも同様のキャンペーンを実施する予定だ。

新たな「社会インフラ」を目指して

「今後は環境保全がさまざまな領域で重要な課題となっていきます」と藤木氏はみる。国内でもSDGsに取り組む動きが注目され、国内外でESG投資が増えている現状もある。

ただ、これまで生物多様性などの統一された評価方法はほとんど確立されておらず、行政や企業、団体などが手探りで環境保全に取り組んでいるというのが現状だという。

「生物分布データ」の不足が、原因の1つだと藤木氏は考えている。データが不足していれば、具体的な環境保護に関する活動やビジネスも曖昧なものになってしまう。

この問題に対し、アプリによって自然環境や生物多様性についてのデータを集めていくことで、バイオームは自然環境のデジタル化を進めていく。その上で、バイオームがビジネスプラットフォームを構築。生物多様性・環境の保全活動や、サステナブルなビジネスモデルの創出などのサポートをしていく考えだ。

さらにアプリを使って生物に関するビッグデータを蓄積していくことで、藤木氏は「生物の現状をリアルタイムで把握することはもちろん、生物の将来予想となる『生物予報』を可能にしていきたいと考えています」と話した。

藤木氏によると、生物予報は「ある地域で害虫がこの1週間で増加するため、農家は対策を講じてください」といったことも可能になるという。実現すれば、農家はもちろん、食品生産業界や化粧品業界など、農家から原材料調達している企業にとっても、生物予報は有益なものになる。

「生き物の現状がわかり、予測ができることはとても重要です。天気予報のような『生物予報』というサービスが、これからの社会インフラとして役立つはず。この仕組みを確実に作り上げることで、生物多様性、あるいは環境保全に関するビジネスを行う上で、なくてはならない社会インフラになっていきたいと考えています」と藤木氏は展望を語った。

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タグ:バイオームアプリ日本生物多様性SDGs

「カーボンKPI」でウェブサイトのカーボンフットプリントを測定するRyte

Ryteの創業者チーム

故郷であるこの惑星に我々が及ぼす影響についての意識が高まり、あらゆることに対してCO2の影響が測定されるようになっている。例えば、つい最近までストリーミングのNetflixが測定可能な影響を環境に与えているとは誰も思わなかっただろう。しかしインターネットの相当な部分をウェブサイトやストリーミングサービスが占めると考えると、何らかの影響はあるはずだ。

その影響を測定する方法を確立した新しいサービスが登場し、スケールするための資金を調達した。

RyteはWebsite User Experience Platformを構築する資金として、非公開だった2021年前半のラウンドで850万ユーロ(約11億2000万円)を調達した。このラウンドはミュンヘンのBayern KapitalとロンドンのOctopus Investmentsが主導した。

Ryteは「Ryte Website Carbon KPI」を発表した。同社は、これにより2023年までに全ウェブサイトの5%をカーボンニュートラルにできるとしている。

Ryteは、データサイエンティストや環境の専門家と協力してウェブサイトが二酸化炭素に関して及ぼしている影響を正確に測定できる機能を開発したと説明している。カーボントランジションのシンクタンクであるThe Shift Projectによると、我々のガジェット、インターネット、そしてこれらを支えるシステムのカーボンフットプリントは、世界の温室効果ガス排出量のおよそ3.7%を占めるという。しかもこの数値は、特にコロナ禍以降のデジタル化社会の影響で急速に上昇しつつある。

Ryteにはデータサイエンティストで気候科学と地球温暖化に関する博士号を持つKatharina Meraner(カタリナ・メラナー)氏が関わっている。またClimatePartnerの協力も得てこの新しいサービスを開始する。

RyteのCEOであるAndy Bruckschloegl(アンディ・ブラックシュルグル)氏は次のように述べている。「現在、アクティブなウェブサイトは1億8900万あります。我々はアクティブなウェブサイトの5%、950万サイトが、我々のプラットフォームと強力なパートナー、ソーシャルメディアの活動などを通じて2023年末までに排出ガス実質ゼロになることを目指しています。残された時間は刻々と減っていきますが、ウェブサイトをカーボンニュートラルにすることは他の産業やプロセスに比べればずっと簡単です」。

Ryteはニカラグアのサンホセで実施されている緑化プロジェクトにも協力しており、Ryteの顧客は気候証明書を購入することにより排出ガスをオフセットすることができる。

Ryteによれば、独自のアルゴリズムを用いてウェブサイト全体のコード、ページサイズの平均、チャネルごとの月間トラフィックを測定し、そのサイトのCO2を計算するという。

似たようなサービスは確かにあるが、他のサービスはアドホックでプラットフォームと結びついていない。Googleを検索すればWebsitecarbonEcosistantなどのサイト、そして学術論文が簡単に見つかる。しかし筆者が知る限りでは、これらのスタートアップはこうしたサービスをプラットフォームに組み込んでいるわけではない。

ClimatePartnerの共同CEOであるTristan A. Foerster(トリスタン・A・フォステル)氏は「Ryteとの協力は、情報テクノロジーが気候変動にどう貢献するかについての認知度を高め、同時に今後を変えるツールを提供することになるでしょう。業界をリードするRyteの二酸化炭素計算機能によって、多くのウェブサイトの運営者が自分たちのカーボンフットプリントを理解し、やむを得ない排出ガスをオフセットすれば、結果として包括的な気候変動対策における戦略の基盤となるでしょう」とコメントした。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Kaori Koyama)

個人で使えるモジュール状の炭素回収デバイスをHoly Grailが開発・試験中、巨大プラントの時代は終わる

2年前にカリフォルニア州マウンテンビューで生まれたHoly Grailの創業者たちは、炭素の回収という特大サイズの問題をミクロな技術で解決しようとしている。

これは、発電所や工業施設などの大規模な集中排出源から二酸化炭素を回収することを目的とした米国内外の数十のプロジェクトとは異なるものだ。Holy Grailの共同設立者であるNuno Pereira(ヌーノ・ペレイラ)氏は、このアプローチによってコストが削減され、許可や資金調達の必要性がなくなるとTechCrunchに語っている。

Holy Grailの前途には長い開発と試験の段階が待っているが、その考え方は著名な投資家とシリコンバレーの創業者たちの関心とお金を捉えた。Holy Grailは最近270万ドル(約3億円)のシード資金をLowerCarbon CapitalとGoat Capital、Stripeの創業者Patrick Collison(パトリック・コリソン)氏、Charlie Songhurst(チャーリー・ソングハースト)氏、Cruiseの共同創業者Kyle Vogt(カイル・フォークト)氏、Songkickの共同創業者Ian Hogarth(イアン・ホガース)氏、Starlight Ventures、および35 Venturesから調達した。従来の投資家であるDeep Science VenturesとY Combinator、そしてCruiseが買収した自動運転車のVoyageの共同創業者であるOliver Cameron(オリバー・キャメロン)氏らも投資に参加している。

ペレイラ氏によると、その炭素回収デバイスはまだプロトタイプで、サイズや稼働時間など、多くの具体的な問題がまだ残っているという。空気から低コストで二酸化炭素を分離することは、難解なものだ。同社はその技術の特許を出願中であり、使用している素材をはじめ、あまり細部を話せないようだ。しかしそれでもペレイラ氏は、炭素回収に関するこれまでとはまったく異なるアプローチの技術だ、と強調している。

「現在の技術は複雑すぎるものです。基本的に、温度や圧力を利用して炭素を回収するためコンプレッサーや煆焼炉など多くの設備機器を必要とします」とペレイラ氏はいう。従来の技術はポンプや極低温空気分離器などの部品、さらに大量の水とエネルギーなどさまざまな要素がある。対してペレイラ氏たちが使用するのは、二酸化炭素を固定する化学反応を制御するための電気だ。同氏によると、Holy Grailのデバイスはコスト低減を達成するためにスケールメリットに依存しないという。また、モジュール構造なので、積み重ねたり顧客の要件に応じて構成ができる。

ペレイラ氏が「scrubbers(スクラバー)」と呼ぶそのデバイスは、二酸化炭素の変換(二酸化炭素を燃料に変換すること)ではなく、二酸化炭素を「そのまま」取り出す。説明によると、まだ最終製品の姿は未定ではあるが、Holy Grailのユニットがいっぱいになったら同社が回収するようになるとのこと。ただし、炭素がその後どうなるかは未定だ。

同社は、まずカーボンクレジットの販売を開始する。その際、同社のデバイスを炭素削減プロジェクトとして利用する。最終目標はスクラバーを商業利用する顧客に販売し、将来的には個人にも販売する。そうHoly Grailは、あなたにも自分用の炭素回収装置を買って欲しいのだ。そして、家の裏庭に置いて欲しい。とはいえ、そこまでの道のりはまだ相当長いようだ。

「もはや、私たちはメガトン級のプラントを作ってプロジェクト管理をするという規模では物事を考えません。スクラバーは、消費者プロダクトを作るときと同じような組み立てラインで生産します」とペレイラ氏は語る。

同氏によると、大気中の二酸化炭素量を減らすという大きな問題は、「あまりにも大きな問題」であるため複数のアプローチで解決に取り組むことが必要だという。

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タグ:Holy Grail二酸化炭素資金調達

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hiroshi Iwatani)

廃ペットボトルをバクテリアでバニラ香料「バニリン」に変換、英エディンバラ大学が実証実験に成功

廃ペットボトルをバクテリアでバニラ香料「バニリン」に変換、英エディンバラ大学が実証実験に成功

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エディンバラ大学の研究者たちは、深刻化するプラスチック汚染の問題に取り組むため、われわれ凡人には思いもよらない斬新な発想による解決策を編み出しました。それは、廃プラスチックをバクテリアによってバニラ風味の元になるバニリンと呼ばれる成分に変えてしまおうというものです。

近年の研究ではバクテリアがプラスチックの分解を手助けすることがわかってきています。たとえば日本では2016年、ゴミ集積場に存在する細菌類からペットボトルの材質(ポリエチレンテレフタレート:PET)のエステル結合を、カルボキシ基と水酸基とに加水分解する能力を持つ酵素が発見されています。また香港理工大学の研究者は、粘着性のバクテリアバイオフィルムを使用して海洋などに散らばるマイクロプラスチックを捕捉する方法を研究しています。

そして、エディンバラ大学の研究者らはやはり研究室で人工的に作り出したバクテリアを使い、ペットボトルを素早く分解するだけでなく、バニラの香りの成分であるバニリンに変換できることを実証したとのこと。この変換が大量に行えるようになれば、プラスチック廃棄物をなくし、製品や材料を使い続けることを目的とした循環型経済を促進できることも考えられます。また合成生物学の分野にもプラスの影響を与えるとレポートで述べました。

ペットボトルは毎年毎年約5000万トンが廃棄されていると言われます。研究チームは、PETを触媒で分解して回収したテレフタル酸(TA)を処理するために大腸菌を用い、反応を起こす環境を微調整することで、TAの79%をバニリンに変換することができたと報告しています。

バニリンは、バニラビーンズから抽出される主な化学成分で、食品の香り付けにとどまらず化粧品や洗浄剤、除草剤、消泡剤といった幅広い用途に使いみちがあります。バニリンは2018年には世界全体で3万7000トンが使用されました。もし、廃ペットボトルからのバニリン産生が大規模化できれば、それを用いてつくる製品群の新たな供給源になる可能性も考えられます。

エディンバラ大学はこの研究が「生物学的システムによって廃プラスチックを貴重な産業用化学物質にアップサイクルした初めての例」だと述べ、持続可能性を高め循環型経済の実現に非常に大きな意味を持つとしました。研究チームは今回の結果が、バニリンの生産量を工業的に必要なレベルにまで高めるためのさらなる研究の基礎になると述べています。

ちなみにバニリンは現在、天然のバニラビーンズから取れる量を需要が大きく上回っているため、化学的に合成されたものが多く使用されています。上にも述べましたが、今回の研究がいずれ実用化されれば廃ペットボトルの削減と循環型経済の実現に役立つかもしれません。

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さくらインターネットが石狩データセンターの主要電力をLNG発電に変更、年間CO2排出量の約24%にあたる約4800トン削減

さくらインターネットが石狩データセンターの主要電力をLNG発電に変更、年間CO2排出量の約24%にあたる約4800トンを削減

クラウドコンピューティングサービスのさくらインターネットは6月21日、北海道石狩市・石狩データセンターの電力調達先について、LNG(液化天然ガス)火力発電を主体とする電力会社に6月より変更したと発表した。これにより、石狩データセンターの二酸化炭素(CO2)年間排出量を約4800トン削減できるという。

サーバー室面積5000平方m2以上、ラック単位の電力供給量が6kVA(キロボルトアンペア)以上の大規模データセンター、いわゆる「ハイパースケールデータセンター」は、IDC Japanが2021年5月に発表した調査報告によると、2021年から2025年までの日本国内での平均成長率は、床面積ベースで28.8%になると予測されている。またハイパースケールデータセンターは消費電力も大きく、「電力キャパシティベース」での年間平均成長率は面積ベースよりも高い37.2%と見積もられている。そのため、ハイパースケールデータセンターにはサステナブルな対応が求められている。

さくらインターネットの石狩データセンターは、2011年の開所以来、北海道の冷涼な気候を活かした外気による冷却や排熱利用など、サステナビリティーに積極的に取り組んできた。その影響で、都市型データセンターと比較して約6割まで電力量を削減しているという。今回、LNG火力発電に切り替えることで、二酸化炭素排出量は、従来の24%にあたる4800トンが削減可能となる。「『やりたいこと』を『できる』に変える」との企業理念の下、今後もサステナブルなデータセンター運営を通じて社会のDXを支えてゆくと、同社は話している。

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商業赤外線衛星で政府機関より細かい地表温度データを収集・分析するHydrosat、地球の危機に関するデータ提供を目指す

地表温度データをモニタリングするだけで、その地表エリアに関する多くの情報を学ぶことができる。Hydrosatの共同創業者兼CEOであるPieter Fossel(ピーテル・フォッセル)氏は、TechCrunchにこう説明してくれた。「例えば、作物畑にストレスがかかっている場合、植物自体のストレスの徴候より前に、地面の温度が上昇しているはずです」。今回、新たに500万ドル(約5億5000万円)のシード資金を獲得したことで、同氏はHydrosat初の地表面温度アナリティクス製品を顧客に提供したいと考えている。

今回のシードラウンドは、Cultivation Capitalが新たに立ち上げたGeospatial Technologies Fundが主導し、Freeflow Ventures、Yield Lab、Expon Capital、Techstars、Industrious Ventures、Synovia Capital、そしてミシガン大学が参加した。

2017年末に設立されたこの地理空間データ分析スタートアップは、熱赤外センサーを搭載した衛星を使って地表温度データを収集する予定だ。地表温度は農業データ以外にも、山火事のリスクや水ストレス、干ばつなどの情報を提供できる。フォッセル氏のように、気候変動がすでに地球に力を及ぼし始めていると考えるなら、これらはすべて重要な変数だ。

地上温度のデータはNASAや欧州宇宙機関(ESA)などのレガシー機関で収集されているが、あまり高い頻度では収集されておらず、時には特定の場所の地表温度が16日に1回程度しか読み取られないこともあり、高い解像度でもない。Hydrosatは、このような既存のデータギャップを埋めたいと考えている。同社はマルチスペクトル赤外線カメラを使って他の帯域のデータも収集しているが、主なバリュープロポジションはサーマルデータだ。

最初の衛星は、2022年後半にSpaceX(スペースX)のFalcon 9(ファルコン9)ロケットでLoft Orbitalと組み地球低軌道に向かう予定だ。このミッションは、約1年前に心臓発作で他界したHydrosatの前CEOであるJakob van Zyl(ヤコブ・ファン・ジル)氏にちなんで名付けられた。衛星打ち上げというと華やかさが増すようだが、フォッセル氏は同社が「コンテンツ企業であり、データ企業であることが第一」と強調している。

「当社はまた、地表面温度製品の上に、作物の収穫量予測、干ばつ検知、灌漑管理などを目的としたアプリケーションを開発しています。なぜなら、これらはすべて基本的に水ストレスが原因であり、ここで挙げたアプリケーションはすべて、基本的に当社のコア製品である地表面温度データによって実現されるからです」と同氏は語った。

Hydrosatの最初の顧客は、ESAとの契約や、米国空軍および国防総省との3つのSBIR(中小企業技術革新研究プログラム)契約など政府機関だった。しかし今回の資金調達により、同社は製品を商業顧客に提供することが可能になる。商業顧客には、農業関連企業や保険会社、さらには地表データの収集に加えて分析を行いたいと検討している企業などが考えられる。

「(Hydrosatは)おそらく、我々が注力している農業分野からスタートしますが、業界を超えて広がっていく可能性があります。というのも、気温は、環境、水、ストレス、食糧など、当社が対象としている分野以外でもさまざまな活動のシグナルだからです」とフォッセル氏は説明する。「気温は経済活動のシグナルでもあります。防衛やセキュリティの観点からも、温度には多くの優れた使用例があります」とも。

将来的には、Hydrosat社はグローバルなモニタリングを可能にするために、16機の衛星を打ち上げる予定だ。しかし、これはあくまでも中期的な計画だとフォッセル氏はいう。長期的な計画としては、さらに衛星を打ち上げたり、データを充実させるためにバンドを追加したり、分析レイヤーを構築することが考えられる。「その先にあるのは、干ばつ、食糧安全保障、水ストレス、山火事、防衛・安全保障などへの応用を可能にする基盤データを提供することです」と同氏は付け加えた。

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カテゴリー:宇宙
タグ:Hydrosat人工衛星地表温度資金調達農業自然災害SpaceX

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Aya Nakazato)

太陽光を凝縮し1000度以上の状態を生み出すHeliogen、水素の無炭素生成にも応用

太陽の光は偉大なるエネルギー源だが、卵が焼けるほど熱いことは滅多にないし、鋼鉄を溶かすなんて、なおさら難しい。そこでHeliogenは、ハイテクを駆使する凝縮ソーラー技術で、そんな状態を変えようとしている。同社はこのほど1億ドル(約111億円)ほどの資金を調達して、温度が摂氏1000度に達する太陽炉を作り、協力企業の鉱山や精錬所でテストしようとしている。

TechCrunchは2019年の同社のデビュー時にHeliogenを取り上げたことがあり、その記事の細部は、今でも同社における技術の中核部だ。たくさんの鏡の集合をコンピュータービジョンの技術を使って細やかにコントロールすることで、それらは太陽光を反射、凝集して摂氏1000度以上の温度になる。これまで存在したソーラーコンセントレーターの2倍近い能力だ。創業者のBill Gross(ビル・グロス)氏は当時「殺人光線のようなものだ」と説明した。

この温度であれば、鉱業や精錬業など、いろいろな用途で化石燃料やその他のレガシーシステムに代わることができる。Heliogenのコンセントレーターを使うと、日中は太陽光を利用し、夜だけ別の熱源を使えばよい。燃料費を節約できるだけでなく、グリーンな未来に近づく。

この2つのゴールがあるため現在、電力や都市ガスなどの公共事業や大手鉱業企業、製鉄企業などが同社の投資家になっている。HeliogenはPrime Movers Labのリードで2500万ドル(約27億7000万円)のA-2を調達したが、もうすぐもっと大きな8300万ドル(約91億8000万円)の、彼らの用語でいう「橋を延長するラウンド」が控えている。それには鉱山業のArcelorMittalやEdison International、Ocgrow Ventures、A.T. Gekkoなどが参加する。

資金は、Heliogenが「Sunlight Refinery(太陽光の精錬)」と呼ぶ技術開発の継続と、実用規模での現場稼働展開に使われる。同社は「設計とコストの改良を常時行い、効率アップと費用低減を図っている」と声明で述べている。

パイロットサイトの1つが、近くカリフォルニア州ボロンに作られる。そこにはRio Tintoのホウ砂採掘場があり、正規工程の一環としてHeliogenが使われると2021年3月の合意書にある。もう1つのArcelorMittalとの合意書では「いくつかの同社製鉄工場でHeliogenの製品のポテンシャルを評価する」となっている。それらの場所は、米国、MENA(中東北アフリカ)、アジア太平洋地区が計画されている。

鉱業や精錬所以外では、この技術は炭素排出量ゼロで水素を生成することにも利用できる。次世代の燃料供給のための実際に機能する水素インフラストラクチャーの構築に向けて、大きな一歩になるだろう。というのも、現在の水素技術では化石燃料への依存をゼロにできないからだ。それに、無料かつ無炭素で得られる高熱は、その他の産業の工程にとっても有利だろう。

「我々は最も炭素集約度の高い人間活動に取り組むプロジェクトを増やし、地球上のすべての人のためにエネルギーの価格と排出量を下げるという目標に向けて取り組むための資源を与えられています」と、グロス氏はラウンドを発表するリリースで述べた。「私たちの使命を追求し、ポスト炭素経済の実現を可能にする世界的な技術を提供することを可能にしてくれた投資家に感謝します」。

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タグ:Heliogen太陽光水素炭素排出量資金調達

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

希少生物が戻り農作物も育つ日本初の「植生回復」も実現する太陽光発電所の生態系リデザイン事業開始

1922年に創業、間もなく100年目を迎える再生エネルギー事業のETSホールディングスと、京都大学発のベンチャーであるサンリット・シードリングスは、国内初となる太陽光発電所の敷地における生態系リデザイン事業を開始、6月16日にその発表会を行った。

経済産業省資源エネルギー庁は2050年カーボンニュートラルを目指すにあたり、省エネルギー、再生可能エネルギー、脱炭素への取り組みを掲げており、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギー導入拡大は必要不可欠なものとされている。

今回のETSホールディングスとサンリット・シードリングスによる事業は、その太陽光発電所を増やして再生エネルギーによる発電量を支えるだけでなく、そのために「緑の砂漠」と化した土地を希少生物の生息地に転換させ、さらに発電所敷地内で農作物栽培を行うことによる収益性の向上、地表を覆うことでの土砂流出を抑えることなどを目指すというものだ。

再生可能エネルギー増加と森林保全を両立

太陽光発電所の建設では、山林や農地、大規模未使用地などの土地が利用されるが、以前より樹林地の伐採や土地の造成などによる地形や地質、動植物や生態系への影響が指摘されている。特に30年後、50年後、100年後に稼働終了となる太陽光発電所跡地の扱い、生態系を維持した状態での原状回復、理想的な自然への回帰方法については、事業者および開発の許認可権を持つ自治体にもノウハウが備わっておらず、適切な対応に着手できていないという。そのため本事業では、太陽光発電所の設計から、稼働が終了した土地を、理想的な姿で自然に戻すための生態系・土壌作りまでフォローしていく。

分担としては、ETSホールディングスが太陽光発電所設備の設計・施工・管理運営を、サンリット・シードリングスが太陽光発電所周辺の土壌解析、太陽光発電の発電効率を維持した状態での生態系の管理方法やデザイン、評価を行う。これにより、太陽光発電を行いながら、発電所敷地内での生物多様性の保全や希少動植物の育成などに寄与する未来の生態系構築を目指す。

生物多様性のある理想状態からバックキャスト

理想の生態系については、土地ごとの理想状態からバックキャストし、微生物や菌の管理を設計。土壌設計、防災などの観点からも、土地関連の指標化とその改善を目指す。人間視点からの利便性なのか、生来の生態系視点からの保全性なのか「理想」は主体によって揺らぐこともある。サンリット・シードリングス創業者で、京都大学で准教授を務める東樹宏和氏は「草木が生い茂り日照環境が偏っている、一部の生物が極度に繁殖している、それにより土砂災害が起こりやすくなっているなど、誰にとってもよくない状態にある山林からまず着手したい」と語る。また同社代表取締役CEOの小野曜氏も「最適状況については自治体などと意思疎通しながら設計を進めたい」という。

自治体にはすでに山林管理義務が課せられるようになっているというが、ただ伐採するだけではコストがかさむばかりで、対応に悩むところもあるという。そのため発電による収益化含め、まずは困っている自治体と小規模な発電所設立をする形で連携していく。あわせて、すでに土壌にいる菌を調べDNA解析し、菌株コレクション化していった後、地域由来の菌をベースに木の根を強化して、土砂災害を防いで防災につなげる狙いもある。既存の発電所改善にも取り組んでいくが、今後は提携事業者や自治体を増やして対象先拡大を検討している。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:太陽光発電ETSホールディングスサンリット・シードリングス再生可能エネルギー日本

バッテリーリサイクルRedwood Materialsが拡大の一環としてテスラギガファクトリーの近くに拠点設置

Tesla(テスラ)の元CTOであるJB Straubel(JB・ストラウベル)氏が創業した、バッテリーリサイクルのスタートアップのRedwood Materials(レッドウッド・マテリアルズ)が、Panasonic(パナソニック)がテスラと共同で運営するネバダ州スパークスのギガファクトリーの近くに、100エーカー(約40万平方メートル)の土地を購入した。これは電気自動車の普及を促進し、国内のバッテリーリサイクルとサプライチェーンの取り組みを強化しようとするバイデン政権の方針に沿った拡大計画の一環だ。

米国時間6月15日、同社はネバダ州カーソンシティにある既存の15万平方フィート(約1万4000平方メートル)の施設もまた、約4倍の広さになると発表した。Redwoodは、カーソン市のリサイクル施設にさらに40万平方フィート(約3万7000平方メートル)を追加し、年末までに稼働させる予定だ。

また、成長計画の一環として、Redwoodは数百人の従業員を雇用する。Amazon(アマゾン)の支援を受けている同社では、現在130名の従業員が働いており、今後2年間で500名以上の雇用増を見込んでいる。

Redwoodは、米国サプライチェーンの強化に触れたバイデン政権の発足100日レビューと、リチウムベースのバッテリーの国内サプライチェーンを改善する計画を記した米国エネルギー省の文書の発表を受けて、今回の事業拡大を発表した。

米国エネルギー省のJennifer M. Granholm(ジェニファー・M・グランホルム)長官は米国時間6月15日に声明を発表し「米国は、23兆ドル(約2530兆円)規模の世界的なクリーンエネルギー経済の恩恵を最大限に享受するために、国内のサプライチェーンと製造業界を再建する明確なチャンスを前にしています」と述べている。そして「このような民間企業の投資は、私たちが減速してはいけないということを示すものです。このAmerican Jobs Plan(アメリカン・ジョブズ・プラン)は、自動車用バッテリーや蓄電設備のような技術の革新と需要を呼び起こし、すべての人にクリーンエネルギー関連の雇用を創出することで、米国企業に大きなチャンスをもたらすでしょう」と語る。

2017年に創業したRedwood Materialsは、循環型のサプライチェーンを作ろうとしている。同社はB2B戦略をとっていて、バッテリウーセルを製造する際に出るスクラップや、携帯電話のバッテリー、ノートパソコン、電動工具、 モバイルバッテリー、スクーター、電動バイクなどの家電製品をリサイクルしている。そのためにRedwoodは、家電メーカーやパナソニックなどの電池セルメーカーからスクラップを回収している。そして、これらの廃棄物を処理して、通常は自然から採掘されるコバルト、ニッケル、リチウムなどの素材を抽出し、パナソニックなどの顧客に再供給している。最終的には、バッテリーのコストを削減し、採掘の必要性を相対的に減らすクローズドループシステムの構築を目指しているのだ。

Redwood Materialsは多くの顧客を抱えているが、パナソニック、アマゾン、テネシー州のAESC Envision(AESEエンビジョン)と仕事をしていることだけを公にしている。

同社によるとニッケル、コバルト、リチウム、銅などの元素を電池から約95〜98%回収しているという。現在、年間3ギガワット時相当のスクラップを受け取っているが、これは自動車約4万5000台分に相当するという。

関連記事:アマゾンとパナソニックが注目するバッテリーリサイクルスタートアップRedwood Materials

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タグ:Redwood Materialsバッテリー工場リサイクルTesla

画像クレジット:Redwood Materials

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:sako)

テクノロジーと災害対応の未来4「トレーニング・メンタルヘルス・クラウドソーシング、人を中心に考えた災害対応スタートアップ」

災害がすべて人災というわけではないが、災害に対応するのはいつも人間である。対応する緊急事態の規模が小さいとしても、さまざまなスキルと専門性が必要となる。防災計画や災害後の復旧時に必要となるスキルを除いたとしても、必要なスキルや専門性は多岐にわたる。ほとんどの人にとって割に合う仕事ではないし、ストレスからくる精神的な影響が数十年にわたって続くこともある。それでも、この終わりなき戦いへと多くの人が立ち向かい続けるのは、最も必要とされているときに人を助けるという、この仕事の究極の使命があるからこそだろう。

テクノロジーと災害対応の未来に関するこのシリーズでは、3回にわたってテクノロジーを中心に取り上げてきた。具体的には、新製品の販売サイクルモノのインターネット(IoT)が全面的に普及することによるデータの急増データをどこにでも拡散できる接続性について考えた。一方で、それに関わる人たちという側面についてはあまり触れてこなかった。つまり、災害に実際に対応する人たち、そうした人たちが直面している課題、およびそうした課題をテクノロジーで解決する方法といった点だ。

そこで、シリーズ4回目で最終回となるこの記事では、災害対応時に人とテクノロジーが交差する4つの分野(トレーニングと開発、メンタルヘルス、クラウドソーシングによる災害対応、非常に複雑な緊急事態が発生する可能性)と、この市場の今後の可能性を取り上げる。

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災害に対応するためのトレーニング

大半の分野では、トレーニングに対して線形的なアプローチをとる。ソフトウェアのエンジニアになるには、コンピューターサイエンス理論を学び、プログラミングの実践練習をすればよい(個人差はあるが)。医師になるには、学部のカリキュラムに加えて生物学や化学を履修し、医学部で本格的な解剖学などのクラスを2年間みっちりこなしてから、臨床研修ローテーション、研修医、必要に応じて研究職などを経験する。

では、緊急事態に対応する要員をトレーニングするには、どうすればよいか。

緊急電話対応オペレーター、EMT(緊急医療チーム)、救急救命士、緊急時計画策定者、さらには現場で災害対応を行う緊急救助隊員などが任務を適切に実行するために必要なスキルは数え切れない。ハードスキルに含まれるような、緊急隊員派遣用ソフトウェアの使い方や災害現場からの動画のアップロード方法に関する知識だけでなく、正確に意思を伝達する能力、冷静さ、高い敏捷性、臨機応変な対応と一貫性のバランスといったソフトスキルも極めて重要だ。一貫性がないという要素も非常に重要である。1つとして同じような災害は発生しないので、情報を入手することが難しく、極度のプレッシャーがかかる状況でも、これらのスキルを直感的に組み合わせて発揮する必要がある。

こうしたニーズに応えるのが「EdTech」と呼ばれるサービスだ。しかも、EdTechが役立つのは緊急事態の対応時だけではない。

コミュニケーションには、チーム内で意思の疎通を図ることに加えて、さまざまな地域でコミュニケーションを取ることも含まれる。RAND Corporation(ランド・コーポレーション)の社会科学者Aaron Clark-Ginsberg(アーロン・クラークギンズバーグ)氏は「このようなスキルは、ほとんどがソーシャルスキルです。さまざまな背景の人たちと、文化的にも社会的にも適切な方法でやり取りできるスキルです」と説明する。同氏によると、緊急時管理の分野ではこの問題に対する関心が近年高まっており「我々が必要としているスキルとは、災害発生現場に存在しているコミュニティとやり取りするためのもの」だという。

ここ数年のテック業界でも見られることだが、異文化とコミュニケーションを図るスキルは乏しい。経験を積むことでこのようなスキルを習得することは可能だが、共感するスキルや理解力を育むために、ソフトウェアを使ったトレーニングは可能だろうか。あらゆる条件下でコミュニケーションを効果的に取る方法について、緊急時対応要員(に限らずあらゆる人たち)を教育するために、効果的で良い方法を開発できないか。スタートアップにとっては、この問いに挑むことが大きなビジネスチャンスとなる。

緊急時対応は、キャリアパスとしても十分に成長している。「この分野の歴史は大変興味深く、今や専門性が高まっており、さまざまな認定資格も用意されている」とクラークギンズバーグ氏はいう。こうした職業化によって「緊急時対応が標準化されたため、さまざまな資格を取得することで、習得したスキルと知識の範囲が明確になる」という。認定資格を取得すると特定のスキルを証明することになるが、全体的な評価にはならい。そのため、新しいスタートアップにとっては、より良い評価を行う機会を提供するビジネスチャンスとなる。

誰にでも経験があることだが、緊急時対応要員は何度も繰り返して作業することで慣れてしまっているため、新しいスキルの習得がさらに困難でなる。緊急時データ管理プラットフォームRapidSOS(ラピッド・エス・オー・エス)のMichael Martin(マイケル・マーチン)氏によると、緊急電話対応オペレーターは作業を体で覚えてしまっているため「新しいシステムに切り替えるのはリスクが高い」という。インターフェイスがどんなにお粗末な既存ソフトウェアでも、新しいソフトウェアに変更すると個別対応が遅くなるだけでなく、エラーが発生する危険性も高まる。ラピッド・エス・オー・エスが年間25000時間のトレーニングやサポート、インテグレーションを提供している理由もそこにある。スタッフのトレーニングやソフトウェアの切り替えに関連するサービスの需要は依然として非常に高く、個別に提供されていることが多い。

このようなニッチ市場は別として、この分野では教育の抜本的な見直しが全面的に必要である。私の同僚のNatasha Mascarenhas(ナターシャ・マスカレーナス)は先に、Duolingo EC-1(デュオリンゴ・イー・シー・ワン)というアプリに関する記事を公開した。このアプリは、第2外国語の学習に関心がある学生がゲーム感覚で参加できるように設計されており、非常に魅力的なサービスである。初期対応救助員が取り組めるような、このようなトレーニングシステムはない。

Art delaCruz(アート・デラクルーズ)氏は、災害発生時の救助隊員を志望する退役軍人のチームを構成している非営利団体Team Rubicon(チーム・ルビコン)のCOO兼社長である。同氏の組織はこの問題について、これまでより多くの時間を割いて考えるようになったという。「災害復旧に不可欠な要素は、教育に加えて情報にアクセスできることです。我々は、このギャップを埋めていけるように取り組みます。(学習管理システムよりも)シンプルに情報を提示する方法を考えています」と同氏は説明し、定期的に新しい知識を提供すると同時に既存の考え方もテストする「フラッシュカードのような短期集中型の訓練」が救助隊員には必要だとする。

また、ベストプラクティスを世界中に急いで拡大する必要もある。Tom Cotter(トム・コッター)氏は、被災地や貧困地域の医療従事者をバックアップする非営利団体Project Hope(プロジェクト・ホープ)の緊急時対応準備担当ディレクターを務めるが、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況では「さまざまな教育が(まず初期段階に)必要でした。臨床レベルで大きな情報格差があり、情報をコミュニティ全体に伝える方法を教える必要がありました」と話す。プロジェクト・ホープはBrown University(ブラウン大学のWatson Institute(ワトソン研究所)と、パワーポイント形式の対話型カリキュラムを開発した。このカリキュラムにより、最終的に新型ウイルスについて10万人の医療従事者を教育するために使用されたという。

利用できるさまざまなEdTech製品について考えると、1つ特殊なことに気づく。製品の対象が非常に狭いことだ。アプリには言語学習用、数学学習用、読み書き能力開発用などがある。医学生に人気のAnki(アンキ)などのフラッシュカードアプリ、よりインタラクティブなアプローチとしてLabster for science experiments(科学実験用ラブスター)Sketchy for learning anatomy(解剖学の学習用スケッチー)などもある。

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しかし、シリコンバレーで提供されているさまざまな短期集中トレーニングでも、本物の新入隊員訓練プログラムのような方法で学生を根本から訓練するようなEdTech企業は存在しない。ハードスキルを習得しながら、ストレスに対処するスキル、急速に変化する環境に対応するために必要な適応性、共感を持ってコミュニケーションを図るスキルも習得できるプログラムを提供するスタートアップは、いまだかつて存在したことがない。

こういう訓練は、ソフトウェアでは不可能なのかもしれない。あるいは、教育に対する考え方に革新を起こす気概をもって、全力で取り組む創業者がまだ現れていないのかもしれない。必要とされているのは、次世代の緊急時対応管理プロフェッショナルの教育、また最前線の作業員と同じくらい民間企業でストレスに対処するための教育、すばやく決断する必要があるすべての社員の教育を抜本的に変える方法である。

公的安全企業Responder Corp(レスポンダー・コープ)の社長兼共同創業者Bryce Stirton(ブライス・スタートン)氏が考えているのは、まさにその点だ。「私が個人的に気にいっている分野は、VRによるトレーニング空間です」と同氏はいう。消火活動などの「大きなストレスがかかる現場の環境を再現するのは非常に難しい」が、新しいテクノロジーを使えば「トレーニングで心拍数の上昇を体験することができる」。同氏は「VRの世界は大きなインパクトを与えることができる」と結論づける。

災害後の癒やし

トラウマという点では、緊急時対応の現場ほど大きなトラウマに直面する分野はあまりない。緊急時の現場では、想像し得る最悪の悲惨な光景に、作業員は直面せざるを得ない。死と破壊は当たり前だが、忘れられがちなのが、初期対応救助員がしばしば経験する、自分ではどうしてよいか分からない状況だ。例えば家族を救助できないため、最後の慰めの言葉をいうしかない緊急電話対応オペレーターや、現場に到着したものの必要な機器がないため、対応できない救急救命士などだ。

心的外傷後ストレスは、初期対応救助員が直面する精神異常として、おそらく最もよく知られた一般的なものだが、精神面に現れる異常はそれだけではない。こうした異常を改善し、場合によっては治療するサービスは投資対象となる急成長分野で、多くのスタートアップや投資家が事業を拡大している。

例えばRisk & Return(リスク&リターン)は、メンタルヘルスおよび社員の一般的なパフォーマンス改善に取り組む企業に特化したベンチャー企業だ。私が先に書いた同社の紹介記事で、代表取締役社長Jeff Eggers(ジェフ・エガーズ)氏は次のように語っている。「私はこの種のテクノロジーが気に入っています。というのは、現場の初期対応救助員に役立つだけでなく、コミュニティにもメリットがあるからです」。

リスク&リターンのポートフォリオ企業から、このカテゴリーで異なる成長経路をたどった2社を紹介しよう。まず、Alto Neuroscience(アルト・ニューロサイエンス)を紹介する。この会社は、Stanford(スタンフォード)大学で神経科学者および精神科医として学際的研究を行っているAmit Etkin(アミット・エトキン)氏によって創業された。水面下で活動してきたスタートアップで、脳波データに基づいて心的外傷後ストレスやその他の症状を治療する臨床治療法を新たに開発している。治療法に注力しているため、治験や規制当局による承認はおそらく数年先になると思われるが、これはイノベーションの最先端を行く研究である。

2つ目の会社は、アプリを使って患者のメンタルヘルスを改善するソフトウェアスタートアップNeuroFlow(ニューロフロー)だ。この会社のツールは、継続してアンケートやテストを実施し、開業医との協力を得ることで、精神面の健康をよりアクティブに監視し、最も複雑なケースでも症状や再発を特定する。ニューロフローのツールはどちらかというと臨床に近いが、近年はHeadspace(ヘッドスペース)Calm(カーム)などのメンタルウェルネス関連のスタートアップも頭角を現している。

治療法やソフトウェア以外の分野では、メンタルヘルスの最前線としてサイケデリックスのようなまったく新しい分野もある。これは、筆者が2021年始め、2020年の投資対象の上位5つとして挙げたトレンドの1つであり、この考えは今も変わっていない。また、サイケデリックスを重視した患者管理臨床プラットフォームであるOsmind(オスミンド)というスタートアップについても記事を掲載している

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リスク&リターン社はサイケデリックス分野に投資していないが、同社の取締役会長で9/11 Commission(米国同時多発テロ事件に関する調査委員会)の前共同議長、およびネブラスカ州知事と上院議員も務めたBob Kerrey(ボブ・ケリー)氏は「政府機関がサイケデリックス分野に投資するのは難しいですが、民間企業であれば簡単に投資できます」という。

EdTech同様、メンタルヘルス系スタートアップは最初は初期対応救助員のコミュニティをターゲットにしているものの、対象を限定しているわけではない。心的外傷後ストレスやその他のメンタルヘルス疾患は、世界中で多くの人を悩ませる症状であり、あるコミュニティで効果があった治療法を別のコミュニティにも幅広く適用できる可能性は大いにある。市場規模は非常に大きく、大勢の人たちの生活が大幅に改善される可能性を秘めている。

話を進める前に、興味深い分野をもう1つ挙げておきたい。それは、治療に大きな影響を及ぼすコミュニティの構築だ。初期対応救助員や退役軍人たちは、現役時に使命感や仲間意識を感じることができるが、再就職後や社会復帰前の回復期には、そうした感覚が欠落してしまうことが多い。チーム・ルビコンのデラクルーズ氏によると、退役軍人を被災地の救援活動に参加させる目的の1つは、彼らがアイデンティティを取り戻し、コミュニティとの関わりを取り戻してもらうことであり、国に奉仕したこうした人たちはとても貴重な人材であると指摘する。患者ごとに1つの治療法を見つけるだけでは十分ではない。大抵の場合、目をさまざまな人たちに向けて、精神面の健康を損なう要因を確認する必要がある。

そのような人たちが目的を見つけるのを支援するのは、スタートアップが簡単に解決できる問題ではないかもしれないが、多くの人にとって重要な問題であることは間違いない。ソーシャルネットワークの評価がどん底まで落ちた今、この分野に新しいアプローチが次々と芽生えている。

クラウドソーシングによる災害対応

近年、テクノロジーの世界では分散化が主流となっている。TechCrunchの記事でブロックチェーンという単語に言及しただけで、トイレの染みに関する最新のNFTに関するPRメールが少なくとも50通は届く。さまざまな情報が混在していることは明らかだが、災害対応の分野でも分散化が役立つ。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが証明したものがあるとすれば、それはインターネットの強みだ。インターネットには、データを収集して、データを検証し、ダッシュボードを構築して、複雑な情報を分かりやすく効果的に視覚化し、専門家と一般向けに配信できるという強みがある。このようなサービスは、世界中の人たちが自宅でくつろいでいる時に開発しており、問題が発生したときに対応できる腕を持つユーザーをクラウド上で迅速に集めることができることを実証している。

Columbia(コロンビア)大学の地球研究所国立防災センターのプロジェクト統括責任者Jonathan Sury(ジョナサン・シュリー)氏は「新型コロナウイルスは、我々の想像をはるかに上回る最悪の事態をもたらした」と話す。しかし、オンラインで共同作業するさまざまな方法を利用できるようになったことについては「大変ワクワクしているし、実践的で非常に役に立っている」と指摘する。

ランドのクラークギンズバーグ氏は、この状況を「災害管理の次世代フロンティア」と呼んでいる。同氏は「テクノロジーを使って災害管理や災害対応に参加できる人数を増やせるなら」、災害に効果的に対応する革新的な方法を確立できるだろうと語る。「プロの現場作業員の形式的な体制が強化されることで人命が救われ、リソースを節約できているものの、一般人の緊急時対応要員を活用する方法については、まだまだ取り組むべき余地が残されています」と主張する。

クラウドソーシングによるさまざまな取り組みを支えているツールの多くは、災害対応を目的としていない。シュリー氏は、リモートで活動する一般人の初期対応救助員が使用しているツールの例として、Tableau(タブロー)とデータ視覚化ツールプラットフォームFlourish(フローリッシュ)を挙げる。表形式データを扱う極めて堅牢なツールはあるが、危機発生時に必要となるデータのマッピングを処理するツールの開発はまだ初期段階だ。筆者が2021年初めに紹介したUnfolded.ai(アンフォールデッド・アイ)は、ブラウザ上で動作するスケーラブルな地理空間分析ツールの構築に取り組んでいる。他にもさまざまなツールが開発途上だ。

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新型コロナに苦しむ人を救う開発者の卵が作ったDevelop for Goodが学生と非営利団体を繋ぐ

多くの場合、コーディネーターをまとめるにはさまざまな方法がある。筆者が2020年注目したDevelop for Good(デベロップ・フォー・グッド)という非営利団体は、野心のあるコンピューターサイエンス専攻の学生と、パンデミックで人手が不足している非営利団体および政府機関のソフトウェアプロジェクトやデータプロジェクトと結びつけることを目的としている。こうしたコーディネーターが非営利団体の場合もあれば、Twitter(ツイッター)のアクティブなユーザーの場合もある。分散的な方法でさまざまな取り組みを調整しながら、プロの初期対応救助員や公的機関と関わり合う方法については、試験的な取り組みが続いている。

分散化と言えば、災害対応や危機対応にブロックチェーンが役立つことさえある。ブロックチェーンを証拠の収集や本人確認に使用できる場合がある。たとえば今週始め、TechCrunchの寄稿者Leigh Cuen(リー・クエン)氏は、Leda Health(レダ・ヘルス)が開発した家庭内性的暴行の証拠収集キットについて詳しく報告している。このキットではブロックチェーンを使用して、サンプルが収集された正確な時刻を確認できる。

クラウドソーシングと分散化を利用する方法には他にもいろいろな可能性があるが、そうしたプロジェクトの多くは、災害管理自体とはまったく異なるさまざまな応用事例がある。これらのツールは実際の問題を解決するだけでなく、災害自体とはほとんど無縁だが他者を助ける活動に参加することには熱心な人たちのために、本物のコミュニティを作ることも可能だ。

未曾有の災害に備える

スタートアップに関して筆者が紹介した3つの市場(トレーニングの質の向上、メンタルヘルスの向上、クラウドソーシングによる(データ関連の)コラボレーションツールの向上)は、創業者にとって価値があるだけでなく、ユーザーの生活の質を向上させることができるため、極めて魅力的な市場となっている。

Charles Perrow(チャールズ・ペロー)氏は著書「Normal Accidents(普通の事故)」の中で、複雑さと癒着度が高まる現代の技術システムにおいては、災害が確実に発生するであろうと述べている。さらに、温暖化と毎年発生する災害の大きさ、頻度、異変性を考えると、人類はこれまでに対応したことがないまったく新しい形の緊急災害に直面する可能性が高い。最近では、テキサスの大寒波で送電網が弱体化し、数時間にわたって州全体が停電する事態となり、一部の地域では数日間続いた。

クラークギンズバーグ氏は「我々が目にしているこうしたリスクは、単なる典型的な山火事のようなものではありません。通常の災害であれば対応体制も整っており、容易に準備して危機を管理できます。よく発生する災害管理にはノウハウがあります。しかし最近では、これまでに経験したことがないような緊急事態が発生することが多くなっており、そうした事態に対応する体制を構築するのに苦戦しています。パンデミックはまさにそうした例の1つです」と説明する。

同氏はこうした問題を「境界線を越えたリスク管理」と呼んでいる。つまり、役所、専門性、社会性、行動や手段といった境界を越えた災害のことだ。「こうした災害に対応するには、敏捷性、迅速に行動する能力、お役所体制にとらわれずに作業する力が必要となります。これは大きな問題です」。

災害とその対応に必要となる個々の問題に対しては解決策を立てられるようになってきたものの、こうした緊急事態によって表面化する体系的な取り組みが無視されている現状を見逃すことはできない。最大の効果をあげる画期的な方法で人材を迅速に集めると同時に、ニーズに応える最善のツールを柔軟かつすぐに提供する方法を考える時期にきている。スタートアップ企業がこの問題を解決するというより、利用可能な情報を用いて斬新な災害対応を構築するという考え方が必要だろう。

Natural Resources Defense Council(天然資源保護協議会)の政策アナリストAmanda Levin(アマンダ・レヴィン)氏は次のように語っている。「温室効果ガスを削減したとしても、地球温暖化から受ける圧力と影響は極めて大きいものがあります。温室効果ガスの排出をゼロにしたとしても、その影響は続きます」。筆者がインタビューした政府関係者の1人は匿名を条件に、災害対応について「常に何か物足りない結果に終わっています」と語った。問題は難しくなる一方だ。人類は自分たちが作り上げてしまったこの試練に対応するために、今よりはるかに優れたツールを必要としている。それは、今後100年間の厳しい時代の課題であると同時に、試練を克服するチャンスでもある。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:気候テック自然災害気候変動アメリカメンタルヘルストレーニングクラウドソーシング

画像クレジット:Philip Pacheco/Bloomberg / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

有機太陽電池をプリント、周囲の光をエネルギーに変えるDracula Technologiesの技術

コウモリの形をした光発電モジュール(画像クレジット:Dracula Technologies)

IoTデバイスの増加し多くの人の仕事がより便利になっているが、それにはコストがかかる。国連は、2021年に世界で発生する電子廃棄物の量が5220万トンに達すると予想しているが、そのかなりの部分が使用済みバッテリーだ。

フランスのスタートアップ企業で、現在、Computexにバーチャル出展しているDracula Technologiesは、インクジェットプリントによる有機太陽電池(OPV)の技術を提供したいと考えている。LAYER(Light As Your Energetic Response)」と名づけられた同社のOPVモジュールは、自然光や人工光を利用して室内で動作し、低消費電力の室内機器に使用することができる。OPVモジュールは、シリコンではなくプリントされているため、形状をカスタマイズすることが可能で、多くのバッテリーと違いレアアースや重金属を使用していない。また、多くのバッテリーとは違い、レアアースや重金属を使用せず、炭素ベースの材料で作られている。

環境への配慮に加えて、LAYERは経済性にも優れており、バッテリーと比べて総所有コストを4分の1に抑えることができるという。

Dracula Technologiesは現在、日本の半導体メーカーであるルネサスエレクトロニクスと英国のAND Technology Research(ANDtr)との提携を含め、メーカーと協力して、BLEでモバイルアプリにメッセージを送れる自己発電型のバッテリーレスIoTデバイスを開発している。

Dracula Technologiesは2011年に創業されたが、その前はフランスの原子力・代替エネルギー庁(CEA)との協同プロジェクトに関わっていた。CEOのBrice Cruchon(ブライス・クルション)氏がその技術の商用性を見抜き、6年の研究開発を経て、ディープテクノロジーのスタートアップを育成するHello Tomorrowの事業からLAYERを開発した。

これまでDracula Technologiesは総額440万ユーロ(約5億9000万円)の資金を調達しており、その中には2016年のエンジェル投資家たちによるパイロット育成事業からの200万ドル(約2億2000万円)と、2020年MGI DigitalとISRA Cardsから調達した240万ドル(約2億6000万円)が含まれる。これらの資金によりDracula Technologiesは、まだ工業化以前の段階で同社の光発電モジュールを増産することができた。2024年には工業化に移行して、年産数百万モジュールの生産規模を目指している。

デジタル印刷と印刷仕上げ工程のMGI Digitalと、免許証やギフトカード、ポイントカードなどの高品質電子カードを作っているISRA Cardsが、Dracula Technologiesの工業化を支えるパートナーだ。同社はSolar Impulse Foundationの#1000 Solutionsに、同社が育成する大規模な実装の可能なグリーンエネルギーソリューションとして選ばれている。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:Dracula Technologiesフランス太陽光発電IoT有機太陽電池 / OPV

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(文:Catherine Shu、翻訳:Hiroshi Iwatani)

牧場経営者のCO2排出量削減を支援、家畜用の新しい環境アセスメントサービス

持続可能な畜産 / 農業において、測定作業は、食糧システムを炭素排出源から炭素吸収源へと転換するプロセスの、最初のそして時には最も困難なステップだ。

そこで、農業を中心とした食糧システムに科学的に注力するDSMと、持続可能性のためのデータ分析を行うコンサルティング会社Blonk(ブロンク)が共同開発したのがSustell(サステル)だ。これは、牧場主が自らの農場経営の持続可能性を理解し、改善するための、ソフトウェアと実践的なサービスを組み合わせたものだ。

持続可能で再生可能な農業の定義は統一されていいないが、通常、土壌中の炭素をより多く回収するための土地管理方法の工夫、より環境に優しい家畜飼料の使用、トラクターなどの農機具による化石燃料使用量の削減など、さまざまな変更が行われる。目標は、温室効果ガスの約14.5%にあたる、畜産業から排出される7.1ギガトンのCO2を削減することだ。

DSMのサステナビリティ&ビジネスソリューション担当副社長のDavid Nickell(デビッド・ニッケル)氏は「動物生産の状況を個々の農場レベルまで正確に把握することが強く求められています」という。「もちろん個々の農場の状況は極めて異なっています。そして、実際の農場のデータを使用して、その農場の正確な姿を把握できるシステムが必要なのです」。

このシステムは気候変動、資源利用、水不足、流出、オゾン層破壊など、19種類のカテゴリーについて、対象の農場の活動が環境に与える影響を分析する。農家は飼料の成分や使用量、糞尿の管理方法、動物の死亡率、電力システムなどのインフラ、輸送ロジスティックス、ガス浄化装置や余熱循環システムなどの緩和技術などの、日々のオペレーションに関するデータを提供するが、場合によってはそれらはソフトウェアにパッケージングされる。

そして、Blonkの環境フットプリント技術は農場のライフサイクルアセスメントを作成する。これは、家畜の飼育開始から農場のゲートを出るまでの環境影響を分析するものである。DSMとBlonkは、鶏、豚、乳製品や卵の生産など、ほとんどの陸上の農場家畜用にSustellモジュールを作成しており、今後は牛や水産養殖にも拡大していく予定だ。

Blonk Consultants(ブロンク・コンサルタンツ)ならびにBlonk Sustainability Tools(ブロンク・サステナビリティ・ツールス)のCEOであるHans Blonk(ハンス・ブロンク)氏は「本当に重要なのは、これまで開発されてきた方法論や基準の流れの上に乗せることができたことです」と語る。

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Blonkは、国連食糧農業機関や欧州委員会などの農業環境基準を1つにまとめ、そのソフトウェアが有用で実用的な洞察を得るために必要な、基礎データの膨大なライブラリを作成した。

「現在のお客さまは、ご自身が何をしているのかを理解したいと思っていらっしゃいます」とニッケル氏はいう。「ご自身のベースライン(フットプリント)を理解し、それをランク付けしたいと考えていらっしゃるのです。何が良くて、何が良くないのかを理解なさりたいということです。お客さまは、国や業界のベンチマークなど、他のベンチマークと比較して自分たちがどのような評価を受けているのかを知りたがっていらっしゃいます」。

Sustellソフトウェアによって農場の排出量が明らかになると、農家は改善すべき点を特定し、DSMは排出量を削減する方法の実施を支援します。これにより、顧客にエンド・ツー・エンドのサービスを提供し、地球に良い影響を与えることができるのだ。

「実践的な介入によって、変化を起こすことができます」とニッケル氏はいう。「私たちは、家畜製品生産のフットプリントを削減する技術に投資してきました。サービスの内容は測定であり、それを変化を生み出すソリューションと結びつけることです。これこそが、この切実な変化を実現するための完全なソリューションなのです」。

しかし、Sustellがその変化を生み出すためには、広く採用され、競合他社との間で学びを共有する必要がある。現在のDSMや、ある意味では資本主義のシステムは、それに対応できるようには作られていない。

ニッケル氏によれば、DSMはまず、Sustellを大手総合畜産会社に持ち込むことに焦点を当てている。これは、革新的な新しい環境技術が、資金や資源のある大手農業コングロマリットや協同組合に採用されて、小規模な家族経営の農場は取り残されてしまうという普遍的な課題となる。しかし、ニッケル氏は、Sustellを小規模な農場にも対応できるようにしたいと考えている。

2つ目の問題は、データの共有だ。ニッケル氏は、Sustellがデータのプライバシーや所有権に関する規則を遵守することを明確に述べているが(これは通常良いことだ)、実際、本当に意味のある環境変化を起こすためには、透明性が重要だ。競合他社同士は、その排出量削減のための最良の方法を、皆が採用して地球を救うために共有する必要があるが、多くの企業はデータを強く囲い込んでいる。

「データ共有は、時間の経過とともに進んでいくと思います」とニッケル氏はいう。「まだその段階には達していないのです。おそらく、より多くのお客様がフットプリントとその報告についての透明性を高められることで、そうしたレベルになるのかもしれません」。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:農業畜産二酸化炭素持続可能性カーボンフットプリント

画像クレジット:NitiChuysakul Photography / Getty Images
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(文:Jesse Klein、翻訳:sako)