「1年後の月間流通額400億円を目指す」連続起業家・木村新司氏が語った個人間決済の未来

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2016年11月17~18日に開催されたイベント「TechCrunch Tokyo 2016」。初日のセッションには、AnyPay代表取締役の木村新司氏が登壇した。オンライン決済サービスを開発するAnyPayは2016年6月の設立。9月にはサービスを正式ローンチした。モデレーターはTechCrunch Japan編集部 副編集長の岩本有平が務めた。

木村氏と言えば、これまでに数回のイグジットを経験している連続起業家であり、個人投資家としても約20社に投資をする人物。そんな同氏がなぜ多くのプレイヤーが存在する決済の領域で起業をしたのだろうか。

シンガポールで感じた日本の決済の課題

木村氏が決済に挑戦することを決めたのは2つの理由がある。1つは、2014年から木村氏が拠点を移しているシンガポールで、日本と異なる決済事情を見たことだ。シンガポールの生活では、当たり前のようにオンライン決済サービスが利用できる。移動にはUberやタクシーを利用し、ランチにはfodpandaDeliverooUberEATSなどのデリバリーサービスを利用している。また普段の買い物にはRed MartLAZADAなどのショッピングサービスを使っているのだが、それらすべてのサービスで、Apple PayPayPalでの支払いができる。その際、わざわざ新たにアカウントを作成する必要すらないのだ。「日本ではようやくApple Payが始まりましたが、ずっと海外とのギャップを感じていました。これが立ち上げの1つ目の理由です」(木村氏)

また2つ目の理由として、「Webでもお金を払えることを知った人が増えたこと」を挙げる。メルカリやラクマなどのフリマアプリの流行を契機として、都心はもちろん、地方のユーザーすらも、「ウェブでお金を払う」という体験をし始めた。これによって、お金を払うことが簡単にできることに気づいた人が多いと感じる一方で、サービスの外では個人間のお金のやり取りができないことに疑問を感じていたという。「個人間のお金のやり取りがもっとできてもいいと思うんです。それができないのはおかしいなと思って。今やったほうがいいと考えるようになりました」(木村氏)

「個人と個人の間での決済が重要である理由」

ウェブでお金を支払う体験に抵抗がない人が増えたと言っても、決済市場にはすでに多くのプレーヤーがいる。国内ではコイニーの「Coineyペイジ」やBASEの「PAY.JP」がスターとアップとして先行しているほか、海外でもでも先ほど例にも挙げたApple PayやPayPal、木村氏が度々口にするPayPal傘下の「Venmo」などがある。

木村氏はそれぞれのサービスにはそれぞれのポジショニングがあるとした上で、AnyPayは「近くにいる個人間の決済にポジション」を取ることを意識していると語る。

「これまでのサービスは、個人間決済と言っても、遠くの人と遠くの人のための決済が多い。我々は近くの人同士でも使える、現金でやりとりされているものを置き換えることが目的」「コミュニケーションはスマホでオンラインになったのに、お金はオンラインではやりとりができない。本来お金とコミュニケーションとは密接な関係がある。例えば買い物や食事、友達との金銭の授受もコミュニケーションと繋がっている。そんなコミュニケーションの中でも使えるようにしたい」(木村氏)とのことで、あくまでもCtoCを中心とした個人間、しかも日常生活で触れあえる距離にいる友人や家族のような、小さいコミュニティで利用されるサービスを目指していることを強調した。

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AnyPayはバイラルで成長、「サービスの決済」が中心

AnyPayのローンチ後の展開に話が移ると、順調に成長を遂げていると語る。「滑り出しは好調で、最初の想定を超えた数値を出しています。決済ビジネスは小さい顧客獲得が重要なので、広告費を出してユーザーを獲得し続けるようなものではなく、バイラルで獲得していくものです。バイラルでの獲得が順調なので、安心しています」(木村氏)

さらに、AnyPayの現在の利用方法、用途についてもこう語る。「現在は物販、サービス、チケットという形で利用方法を提示していますが、これまで個人の決済システムが持てなかったこともあって、『サービス』での利用が大きいです。例えば個人で英会話教室を受けていて、料金を支払いたいのに現金がない。そんなときにATMでお金を下ろす必要もなく、決済をすることができるのです」とし、サービスでの決済利用が多いことを紹介した。

今後は利用方法として多いものに注目して、ユーザーが利用しやすい「目的」を作っていくという。今後の利用方法を見て、多く利用されている、課題の大きい問題を切り出していくとのことだ。

「paymoはユーザーの目的をサポートする決済アプリ」

また木村氏は今回のセッションで「paymo(ペイモ)」という新サービスを立ち上げることを発表した。「AnyPay」はブラウザで利用可能なオンライン決済サービスだが、paymoはアプリサービス。決済のみにフォーカスをして開発を行っているAnyPayと比べて、「個人で使えるシチュエーション・目的」を明確にし、無意識に利用しやすいサービスにすると語る。

paymoでは、個人間のお金のやり取りを、サービスECの切り口を通して簡単にしていくという。例えば、「ココナラ」や「TimeTicket」ではサービスを“チケット”として扱っているように、売るものをわかりやすくする)しかし、あくまでも決済が軸になるという点は変わらない。「paymoはメディアではなく、決済サービスです。なので、ユーザーはサービスの中で出会うのではなく、いつものコミュニケーション、いつもの出会い、そこで必要となる決済をpaymoで行うというモデルです。サービス内で出会いを求めるメディアとはそこが違います」(木村氏)

なおAnyPayでは、1月19日にpaymoの詳細をあきらかにするとしている。

「個人が無駄に信用を消費する社会をなくす」

今後は国内でのサービス展開はもちろん、海外の展開も視野に入れているというが「まずは東南アジアが中心」だという。さらに、個人間決済に未来については「やはり、個人でお金を送れるようにしたい。個人同士でお金のやり取りをするとき、オフラインの繋がりでも、オンラインで支払うことが出来る世界を目指す」と語った。加えて、日本ではあまり普及していないデビットカードとスマートフォンの連携についても視野に入れていると語った。

AnyPayはプレーヤーの多い決済市場で、独自のポジショニングを築き上げ、日本の決済を変えることはできるのか。同社は2017年には社員数100人、月間流通額は400億円を目指す。

「リスクを恐れてはダメ、とにかくチャレンジすべき」 Gusto共同創業者が語った事業成長の秘訣

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2016年11月17日から18日にかけて、東京・渋谷で開催されたTechCrunch Tokyo 2016。18日の午後には、給与支払い業務を始めとするクラウドベースの人事サービス「Gusto」を手がけるGusto共同創業者でCTOのEdward Kim(エドワード・キム、以下キム)氏を迎え、5000万ドル(52億円)を調達するまでの道のり、そして起業家へのアドバイスを語った。

「Why not me? (オレにだって)」という気持ちで起業の道へ

ドイツの自動車メーカー「フォルクスワーゲン」の研究所で、エレクトリカルエンジニアリングのエンジニアとしてキャリアをスタートさせたキム氏。順調にエンジニアのキャリアを積んでいた彼が、起業を志すようになったのは2007年。Y Combinatorが主催しているStartup Schoolに参加したことがきっかけだ。

同世代の起業家が事業をセルアウト(売却)して、数億円という大金を手にする。そんな姿を見て、「Why not me ? 」——自分にだってできるかもしれない——と考えるようになったという。

その1年後、2008年にキム氏はWiFiデジタルフォトフレームを製造・販売するスタートアップ「Picwing」を立ち上げる。ガレージの中で一つひとつ手作りでWiFiデジタルフォトフレームを作っていたのだが、途中でキム氏はハードウェアの難しさを痛感することになる。

「ハードウェアのスタートアップは物理的に大変。資本もないので、製造ラインをつくることもできない。この事業を続けていくことは難しいと思いました」(キム氏)

また経済環境の悪化もPicwingにとって大きな壁となった。2008年はリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発した“リーマンショック”が起きた年。資金繰りも上手くいかず、事業は立ち行かなくなってしまう。そんなキム氏に追い打ちをかけるかのように、トラブルが発生した。

ガレージでWiFiデジタルフォトフレームを組み立てているとき、工作機械のドリルを落とし、腕に穴が空いてしまった。すぐさま病院に運ばれ、手術を受けることができたのだが、キム氏はこの出来事を契機に、事業のピボットを決意したという。

ハードウェアの難しさを知ったキム氏は、Picwingの事業をWiFiデジタルフォトフレームから撮影した写真を紙にプリントし、毎月2回指定された宛先に写真を送ってくれるサブスクリプションサービスに転換した。

PCやモバイル向けのアプリから写真をドラッグ&ドロップするか、特定のメールアドレスへ写真を添付して送るだけという簡単な設計が、「孫の写真を祖父母に送りたい」という30〜40代の男女に大ヒット。ハードウェアを諦め、ソフトウェアの開発に注力していった結果、成功を手にすることができたのだ。会社が急成長していく中、経営者としてキム氏は様々な悩みに直面したが、そんなときに役立ったのがY Combinatorのメンターの教えだった。

「定期的にパートナーと会えるのが、Y Combinatorの良さだと思います。会社が大きくなっていくと、様々な問題が発生するのですが、メンタリング中にメンターの人から『いい問題があることを有り難いと思え』と言ってもらえたんです。成長する中で発生する悩みは、いい悩みだから、悩まなくていいと。これはすごく自分の助けになりました」(キム氏)

そして2011年、キム氏は100万ドル弱でPicwingの事業を売却した。

TechCrunch Japan編集長の西村賢(左)とGusto共同創業者でCTOのEdward Kim氏(右)

モデレーターを務めたTechCrunch Japan編集長の西村賢(左)とGusto共同創業者でCTOのEdward Kim氏(右)

お金はたくさん入ってきたけど、退屈になってしまった

起業から3年後、キム氏は経営者として初めてエグジットを経験したわけだが、彼の挑戦は止まらない。Androidアプリの開発に興味を持ったキム氏は、2度目の起業に挑戦することを決めた。立ち上げた事業は、クラウド上で複数のAndroid実機を使ったテストができるサービス「HandsetCloud.com」だ。

当時、iOSに遅れをとっていたAndroid。ディベロッパーを対象とした、Androidアプリのテストサービスは市場的にも求められているものということはキム氏自身も感じとっていた。開発者だったこともあり、サービスの立ち上げにそれほど時間はかからなかった。

ユーザーの反応を確かめるべく、早速HandsetCloud.comを公開してみると、多くのディベロッパーをサービスを使ってくれて、見る見るうちに事業は成長。あっという間に年間100万ドル(1.1億円)の売上を上げるほどの規模になった。

しかし、キム氏は自分のやっていることに違和感を覚え始める。

「多くの人たちにHandsetCloud.comを使ってもらえて、お金はたくさん入ってきたんですけど、退屈だなと思いました。これをずっと続けても、先が見えているなと」(キム氏)

そう思ったキム氏は、事業の売却を決意。具体的な金額は明示されなかったが、200〜300万ドル程度で事業を売却。2度目のエグジットを経験することになった。

旧来の給与支払いサービスは高くて、使いづらい

2社の売却を経験したキム氏が、次に目をつけたのが給与支払い業務だった。アメリカに個人経営の中小企業がたくさんあるのだが、その多くが給与の支払いに関して問題を抱えていた。そこを解決すべく、キム氏が2011年に立ち上げたのがGusto(当時はZenPayroll)だ。

もちろん、Gustoが登場するまでにも給与支払いの業務をウェブで一元管理できるようにするサービスはいくつかあったが、そのどれもが利用料金が高く、中小企業にとっては使いづらいものだった。そんな状況を踏まえ、Gustoは中小企業が気軽に使えるよう、利用料金を低く設定。

「アメリカのは50もの州があるので、それだけ多くのビジネスチャンスがある。ただ、いきなり全ての州に対応するのではなく、カリフォルニアからサービスを開始し、少しずつ利用可能な州を増やしていきました」(キム氏)

Gustoは利用企業数の増加に合わせるかのように、サービスも拡大。最初は給与支払いのみだったが、休暇申請や401K、保険業務にも対応するようになっていった。こうしてGustoの創業から4年後、5000万ドル(52億円)を調達するユニコーン企業となった。

2度のエグジットを経験し、3社目はユニコーン企業となったキム氏から、イベントの最後、起業を志す人たちに向けてメッセージが送られた。

「何かアイデアがある、夢がある、世の中にないものを提供していきたいと思っているなら、リスクをとることを恐れずにチャレンジしてほしい。もし失敗したら、どこかの社員になればいいだけ。やってみなければ分からないことは世の中にたくさんある」(キム氏)

そして、スタートアップを成功させるための秘訣も語ってくれた。

「スタートアップの成功指標は、強い決意をもった創業者がいるか否か。事業を創っていく過程で、もちろんツラいこともあるし、もうダメだと思うこともある。ただ、創業者が強い決意を持っていれば、周りの環境がどうであれ必ず前に進んでいってくれるはずです」(キム氏)

既存事業の成長は、未来に価値を生み出さない——Y Combinatorユニス氏

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2016年11月17日〜18日にかけて渋谷ヒカリエで開催された「TechCrunch Tokyo 2016」の2日目朝、「シリコンバレーの最前線ー増える大企業との提携・買収」と題したセッションが行われた。シリコンバレーを語るのに欠かせない著名アクセラレーター・Y CombinatorのパートナーのQasar Younis(キャサー・ユニス)氏と、Scrum Venturesゼネラル・パートナーの宮田拓弥氏が登壇した。

Y Combinatorは2005年に設立されたシリコンバレーのアクセラレーターで、スタートアップに投資を行い、3カ月のプログラムを通じて、様々な支援を行っている。最終日にはDEMO DAYが開催され、他の投資家へプレゼンし、資金調達を行っている。プログラムの卒業生には、Airbnb、Dropboxなど世界的に活躍するスタートアップがいくつもある。ユニス氏自身も起業家で、顧客と店主を結び、店に対しフィードバックメッセージを送信できるサービス「TalkBin」を2010年にGoogleに売却した経験があり、またY Combinatorのプログラムにも2011年に参加するなど、起業家のバックグラウンドを持つ。

一方、Scrum Venturesは2013年に設立された、サンフランシスコを拠点をおくベンチャーキャピタル。幅広い分野のスタートアップ50社以上に投資し、またアメリカのスタートアップのアジア進出の支援も行っている。宮田氏も元起業家で、日本とアメリカでエグジットを経験しており、自分に似た著名人を教えてくれるサービス「顔ちぇき!」を提供するジェイマジックの創業者で、その後2009年にモバイルファクトリーへ売却している。

この元起業家であり、現在はシリコンバレーを代表する投資家が、シリコンバレーの動向と〜について語った。

基準は「エンジニアリングのタレントがあるところ」

Scrum Venturesゼネラル・パートナーの宮田拓弥氏(左)とY CombinatorのパートナーのQasar Younis(キャサー・ユニス)氏(右)

Scrum Venturesゼネラル・パートナーの宮田拓弥氏(左)とY CombinatorのパートナーのQasar Younis(キャサー・ユニス)氏(右)

Y Combinatorは前述の通り、多くの成功したスタートアップを生み出している。今やシリコンバレーに限らず、全世界のスタートアップが応募しており、その応募数は6000〜7000に及ぶという。その中から約500社へインタビューを行い、約100社がプログラムに参加でき、「ファンディングは10分で決めている」という。

ここ2〜3年で、更に参加するスタートアップの多様化が進んでいるように感じられる。応募は全世界から受け付けており、実際に国やバックグラウンドは関係なく、またテクノロジー企業だけでもないが、ユニス氏は選考基準について、「エンジニアリングのタレントがあるところ」と述べた。また「YCモデルを他の地域で展開しないのか?」という宮田氏の質問に対しては、「中国、インドでは考えているが、エコシステムが異なるので、現地にオフィスを構えてやる必要がある」と話した。

現在、Y Combinatorのメンバーはパートナー(編集注:VCにおけるパートナーとは、投資担当者を指す)が18人、スタッフが20人。ユニス氏自身は、2013年からY Combinatorでスタートアップへ関わり、2014年に正式にパートナーに就任しているが、この時期に組織が強化され、メンバーが増えたという。ユニス氏自身が「私たちもスタートアップだ」と話していた。

内部組織を強化しながら、更にスタートアップエコシステム構築を進めるY Combinatorが、2015年7月に発表した「YC Fellowship」についての話題を宮田氏が投げかけた。TechCrunchの読者であればご存知かもしれないが、YC Fellowshipとは、8週間のプログラムでまだプロダクトがないスタートアップに対して、助成金(株式を取得せずに提供される)を与えるもの。従来プログラムとの違いは、対象がアイデア段階のスタートアップであること、プログラム期間が短いこと、助成金があること、またシリコンバレーへの移住が必須でないことが挙げられる。

ユニス氏はYC Fellowship開始の背景を、「昔に比べて、Y Combinatorに入るのも難しくなってきたことと、入る前から起業家が成長できる場を作ること」と話す。幅を広げるという意味で、規模は年間200社程度を想定しており、リモートで支援、教育を行うという。インターラクティブにしていきたいと言いながらも、規模が大きいだけに、難しさは見える。なお通常でもパートナー1人あたり、15社程度を担当しているという。

既存事業の成長は、未来に価値を生み出さない

近年、日本で注目されている大手企業とスタートアップの連携について、シリコンバレーに目を向けると、同じように大き動きがいくつもある。自動運転システム開発を手がけるCruiseのGMによる買収、ライドシェアの通勤バンを運営するChariot(宮田氏のScrum Venturesの投資先でもある)のフォードによる買収などが挙げられる。

これら大手企業による買収の中でもとくに自動車領域が活発であると宮田氏は述べ、ユニス氏は「ソフトウェア、機械学習が自動車業界に必要とされ、(ハードに強い)大企業による買収が行われた。自動車業界は10〜20年で大きな変化が起きる」と話した。ちなみにユニス氏のキャリアは、自動車業界出身で、GMやBoschでプロダクトマネージャーも経験している。また、他の業界についても、今後スタートアップの持つ技術が必要となり、今日自動車業界で多く見られた買収・連携の動きは現れるとユニス氏は話した。

スタートアップが持っているものとは何だろうか。予算や人員で考えると、当然ながら大企業が強いのだ。この点について、「従業員と起業家は異なる。いかに利益をあげるのか(=従業員の役割)というのはイノベーション(=起業家の役割)ではない。」と言い、「Googleは検索サイトに始まり、その後は様々な事業を展開をしているが、ほとんどが買収によるものだ。これをGoogleの終わりと批判する人もいるが、イノベーションを会社(大企業)のなかで行うことは難しい」と話す。その理由として、「新しい会社にはレガシーなどなく、5000人よりも20〜30人が勝る」とユニス氏は述べた。

では、大企業はどのように動くべきかという宮田氏の問いかけに対し、ユニス氏は続けてGoogleを例に挙げながら、「キャッシュフローを戦略的に使っていくべき」と言い、資金を既存事業の成長にあてることは、未来に価値を生み出さないと話した。営利企業である以上、利益を出すことは大前提であり、当然ながら、利益は重要でないと言っているわけではないが、イノベーションが最も尊敬される、まだにシリコンバレーの考えのように思われる。ユニス氏のメッセージは、半分は失敗覚悟ででも、戦略的に買収を進めるべきだというものだ。

起業家をヒーローとして扱うべき

最後にユニス氏はメッセージとして二つ述べた。一つは、スタートアップを産み出していく全体へのメッセージとして、「エコシステムの中で起業家をヒーローとして扱うべきだ。大企業の経営者がヒーローなのではない」と話した。もう一つは、今日日本でも度々話題にあがる働き方について、「長時間オフィスにいることが生産的でないと気づくべきだ。1日4〜5時間のほうが生産的という調査もある」と話していた。

成功と失敗は「紙一重」ではない——投資家が語ったスタートアップの“光と影”

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スタートアップ、起業、ベンチャー――最新テクノロジーと親和性の高いウェブメディアだけでなく、最近ではテレビなどでも成功事例が華々しく取り上げられるようになったが、そんな成功の裏には失敗もある。光と影、表裏一体なのだ。とはいえ、その結果に至る要因を探ると、紙一重ではないことが見えてくる。

2016年11月17日から18日に東京・渋谷で開催された「TechCrunch TOKYO 2016」のプログラム「投資家から見たスタートアップの『光と影』」では、グロービス・キャピタル・パートナーズCOOの今野穣氏とiSGSインベストメントワークス代表取締役の五嶋一人氏がパネルディスカッションを行った。

「資本施策」「人事・労務」「パートナー」「学生起業」「イグジット」「投資家」の6つの側面に、“光”を当てられた影。見えてきた「起業家たちの心がけるべきこと」とはなんだったのだろうか。

不確実性を恐れるな。シェア、バリュエーション、事業計画は綿密に

最初のテーマに選ばれたのは「資本施策」。なにが良くてなにがいけないのか、陥りやすい罠とはなにかを今野氏、五嶋氏が投資家という立場で語った。

iSGSインベストメントワークス代表取締役の五嶋一人氏

iSGSインベストメントワークス代表取締役の五嶋一人氏

「資金供給プレーヤーは増えているため、調達できる金額は上がってきている」と今野氏。「とはいえ、ステージに合った金額で集めていかないと、次のラウンドでの調達が難しくなる」という。

「例えば、コンセプトの段階で期待値の高さから、数十億円の時価総額で投資家が投資をしても、時間の経過とともに期待値に実績が追いついてくるかどうかが次第に明らかになってくると、次のファイナンスで身動きが取れなくなります他方、早期の段階で非常に多くの割合の株式を外部に希薄化してしまい、それ以上の希薄化を防ぐために、事業計画と資本政策やバリューエーションの相関性を説明できないプレゼンテーションを聞くと、『ああ、こういう資本政策をしてしまうリテラシーの持ち主なんだな』と考え、その経営者は見切られてしまいます」 (今野氏)

五嶋氏も「スタートアップは、不確実性があって当然。でも、『将来へのビジョン』が抜けていてはダメ。資本政策と事業計画をバラバラに考えている起業家をかなりの頻度で見るが、『シェア』『バリュエーション』『事業計画(KPI)』を連動させ三位一体として考え、パワーポイントで1枚のグラフにまとめられる程度の計画性必要じゃないでしょうか。そうすれば不確実性に対応した、そのときどきに合った資本施策を検討できます」と補足した。

学生のうちに起業したほうが成功する?

「人生のできるだけ早いうちに起業という経験をしておいたほうがいい」との風潮がある昨今。果たして、デメリットはないのだろうか。

「孫正義氏やマーク・ザッカーバーグ氏などの例もあるので、いいも悪いもない、と思っています」と語り始めた五嶋氏。「とはいえ、投資案件としては『キツい』場合がほとんどです。体感的に成功する確率が低いから。そもそもビジネスモデルが『人材』か『イベント』多いというのも、投資を難しくしている要因のひとつです。加えて、上下関係をうまくコントロールできない、という問題であったり、個人のビジネス能力ではなく友情をベースにして仲間を集めてしまう、といった『学生起業あるある』な問題で、事業が崩壊しやすい。少なくとも私自身は、『若いうちにどんどんやったほうがいい』と焚き付ける立場ではないかなぁと思っています」と持論を展開した。

モデレーターを務めたTechCrunch Japan副編集長の岩本有平が「『金をやるから起業しろおじさん』もいましたよね」と挟むと、「サポートするのであれば、最後までサポートしてあげて欲しいですよね」と五嶋氏は付け加えた。

今野氏は、昔と比べ、資金調達のことも含め情報を比較的容易に得られるこの時代にあって「『こういう事業計画で起業するんですけど、どうやりましょうか』という“勝つ”ための相談なら乗る。でも、起業しようかな、どうしようかな、と悩んでいるのであればやめたほうがいい」と活を入れた。

さらに、「今はどうしようか悩んでいるけれど、将来起業したいというのであれば、まだ従業員規模が数十人で、経営者と経営判断を間近に見られるスタートアップ企業にジョインしてみれば?」と勧める。理由は「起業家の経営手腕や苦悩を見られるから。社会人経験のないところからいきなりはじめるより、実例を目の当たりにしておいたほうが、自分が同じような壁にぶち当たった際、『ああ、これか』と納得できるようになる」と説明。加えて、「起業して失敗したとしても、うまく失敗してほしい。クローズの仕方が上手であれば、2回目、3回目が必ずあるので、そこは諦めないでほしい」と会場内で起業しようとしている若者たちにエールを送った。

……ときれいにまとまるはずだったのだが、岩本から「学生起業の失敗で一番最悪のパターンは?」と聞かれた両氏はそれぞれ「行方不明」「仲間割れ」と即答。会場には笑いが起こっていたが、最悪パターンにだけはならないようにしよう、と心に誓った人もきっといただろう。

世の中の優秀な人材の99%は大企業に、残り1%を見逃すな

話は「人事」と「労務」に。採用関連で相談を受けることも多いというモデレーターに対し、「はっきり言ってしまえば、『スタートアップには新卒でも中途採用でも、優秀な人は来ないという前提で採用活動をする必要があります」と五嶋氏。その理由を聞かれると「実際に大学時代から優秀な人まず大企業に就職しているでしょう?」と質問で返し、会場をうならせた。

とはいえ、次のようにも補足した。「現実として、日本では優秀な人材のほとんどは大企業を目指し、大企業に入社し、大企業から出てきません。でも、ごくまれにそうではない人材もいる。優秀な人の中の1%くらいでしょう。変人ともいえます。そういう人材を見極めて、絶対に逃さないことがスタートアップの採用には大事」(五嶋氏)

今野氏は「スタートアップでは、スーパーマンのような人を想定したあらゆるスキルを盛り込んだ募集要項を記載することが多い。でもそんな人はいない」と、採用がうまくいかない原因を一刀両断。その解決法として「ひとりひとりのジョブディスクリプションを明確にして、募集要項に反映させること」を挙げた。そして、次のような注意点も加えた。「創業当初は創業者の持つアントレプレナーシップが必要かもしれませんが、人材募集をしている、ということはステージがもはや組織化のフェーズに進んでいるんです。それにもかかわらず、社長がオペレーションに関わる前提で現場レベルの人を採用し過ぎると社長のキャパシティがボトルネックになり、むしろ企業の伸びは失われます。そして、その段階に来たのであれば、社長はオペレーションに携わるのをやめましょう。それも成長を止める一因になるからです」(今野氏)

グロービス・キャピタル・パートナーズCOOの今野穣氏

グロービス・キャピタル・パートナーズCOOの今野穣氏

労務に関しては、「多くのことで周りの目が『あそこはスタートアップだから』と温かい目で見てくれるかもしれないが、法律はスタートアップも大企業も関係ないので、法律をしっかり学び、労務マネジメントの知識を持ってほしい」と五嶋氏。今野氏も「レイヤーが3つ(編集注:経営者、マネージャー、現場の3レイヤーで、経営者が直接全ての業務を把握できない規模になってからということ)ほどの規模になった際、見ていないところで“何かが”生じがちなので、時間を捻出して対策を講じておくといいですね」とアドバイスした。

「目指せないM&A」より計画を立てて最善を尽くす

「イグジット関連で『こういう考えは改めたほうがいい』ということについて」話題が変わると、「IPOの目的のひとつは資金調達。一般的に資金調達した場合は事業に投資したりM&Aをしたり将来の成長に当てますよね。上場時の事業計画と資金調達後の資金使途の整合性をきちんと取る必要があるのではないか」と今野氏。「上場したときにたかだか数億程度の営業利益では、将来のための投資をするとすぐ吹っ飛んでしまう規模だから、マーケットデビュー時のストーリー作りは大事」と続けた。

五嶋氏はそれを補完して「成長の絵が全く描けていない中で、創業者のイグジットのための『上場ゴール』を目指す人もおり、僕からはそれをいいとか悪いとかは判断しません。市場の投資家が決めることですから。ただ、上場後に『やっぱり業績を下方修正します』というような事態が最近頻発していることは、正直違和感を感じますが、業績が計画に届かないのは、ある意味仕方ない、それは結果ですから。でも「市場との対話」は?「は? と問いたいですね。業績計画を含む市場との対話、事業の成長、本当に最善を尽くしきったたかどうか、それが問われるのではないかと思います。市場を軽視し、成長への志がない上場を『上場ゴール』と呼ぶのです」と語った。

また、M&Aに関して今野氏は「IPOのセカンドオプションとして考えるのはやめたほうがいい。市場環境や競争環境の変化によって、その事業のサステナビリティや産業のライフサイクルが変わったりするから」と語り、五嶋氏は「M&Aは相手あってのもの。『芸能人のだれそれさんと結婚することを目指します!』と言うのと『Googleに買ってもらうことを目指します!』と言うのはなんら違いがなく、数十億円規模のM&Aになると買い手も限定的で、現実として能動的に目指せるものではない。能動的に目標にできるのは先ずIPO」とバッサリ切り捨てたが、「M&Aによるイグジットを検討する局面が訪れた時には、みんながハッピーになれるようにはこだわってほしい」と応援する言葉も添えていた。

互いに対するリスペクトが成功の鍵

5つめのテーマは「パートナー」。特に大企業が新規事業としてスタートアップと組む場合を前提に「べき・べからず」が論じられた。

今野氏は「大企業のオープンイノベーションの流れを掴んで成功にこぎつけるスタートアップは、大企業側のキーマンと繋がっている。その見極めが重要。それから、大企業のもつデータやアセットを最適化するテクノロジーを持っているスタートアップは、複数の大手企業からのそれぞれ受託案件をこなすような事業計画を立てていることがあるが、その時点ではそれで良いとしても、大企業側からすれば、あるタイミングから自分たちのデータなりを出すのであれば資本も入れたいと思うはず。将来的に上場したいという思いを持つ起業家は、ではその場面になったらどうするのか、という踏ん切りを付ける時が必要になるでしょうね」と2つの注意事項を挙げた。

「期待値コントロールを失敗させない」と語るのは五嶋氏だ。「大企業からは『全面的にバックアップしますよ、ふんわり』、スタートアップからは『なんでもやります、ふんわり』では具体的ではない。到達すべき数値目標、撤退ラインをはっきりさせていない場合が多いので、それぞれの役割分担をはっきりさせ、期待値コントロールをしっかりする必要がある」と説明。

さらに重要なこととして「根底のところで大企業の中の人とスタートアップの人はお互いに尊敬しあっていない」とズバリ。「お互いに尊敬の念を持たないと絶対に成功しないので、いいところを探し合って学び合ってほしい」とアドバイスした。

耳の痛いことを言う投資家を大切に

資金調達という面でのパートナーを語る上で、避けられないのは「投資家」についてだろう。最後に、組むことによって失敗してしまう、あるいは成功できる相手=投資家について2人に考えを聞いた。

五嶋氏はこれまでの経験から「お金を使うだけ使って売り上げが立たず、資金が足りなくなってしまうのは、シードの時期しっかりとした事業計画とこれに連動する資本政策・バリュエーションを詰めていないから」と警告。「最初に事業計画が無理なものかどうかを見極めない投資家、見たことのない桁のお金を手にして浮かれてしまう起業家、その両方に問題がある。よく確認もせずにお金をくれるより、『ここはどうなっているのか』『こうするべきなのではないか』と耳が痛くなるようなことを言ってくれる、相談に乗ってくれる投資家を大切にしてほしい」とアドバイスした。

そして、シード時期の起業家に投資をしていない今野氏からの次のようなリクエストでトークセッションは締められた。

「シードの段階で相談に来てください。『ここではこのようなバリュエーションで集めたほうがいい』など具体的でストレートな話ができるのは、利害関係のない間だけですから。できるだけ早いステージのうちにみなさんとお会いしたいですね」(今野氏)

失敗しても死ぬことはない、重要なのはその業界の成長ーーさくらインターネット田中氏

さくらインターネット創業者で代表取締役社長の田中邦裕氏

11月16日〜17日にかけて渋谷ヒカリエで開催されたスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」。1日目の午前、「駆け抜けたネット黎明期、さくらの創業物語」と題したセッションには、さくらインターネット創業者で代表取締役社長の田中邦裕氏が登壇した。

さくらインターネットは1996年に事業をスタートし、1998年に法人化している。レンタルサーバーを中心とするデータセンター事業を手がけ、まさにインターネット黎明期からインフラ支えてきた企業だ。また最近では、通信環境とデータの保存や処理システムを一体型で提供するIoTのプラットフォーム「さくらのIoT Platform β」などIoT領域での取り組みも積極的に行い注目されている。

そんな同社のはじまりは、学生ベンチャー。「学内回線を使用して、サーバーを立ち上げていたが、学校に知られてしまい、サーバーを撤去しないといけないことになったことがきっかけ」だと田中氏は語る。当時はまだ「データセンター」というものは無く、地元のプロバイダーに労働力を提供し、場所を借りるというバーター契約ではじまったそうだ。創業当初は月額1000円という価格設定をするも、単価が安いためになかなか売上げに繋がらず、地元プロバイダーから施してもうらうお金だけで事業を続けているという状況が半年ほど続いたという。

田中氏は「起業は2種類あると思う」と続ける。起業したいと考えて実行する人と、手段としてせざるを得ないという人。田中氏の場合は後者で、サーバーの運用を続けるために、サービスを立ち上げたという経緯だ。京都府舞鶴市で事業を営んできたが、1998年に大阪に移転。多くの投資家に出会ったことが転機となり、株式会社化に至った。

その後2005年にマザーズ上場に至るまで、サービスや組織が拡大するに伴って、さまざまな問題が起こったという。当時の状況について田中氏は「技術やお客様に喜んでもらえるサービスを生み出そうというよりも、上場することが目的となり、社風が変わってしまった」と振り返る。最終的に田中氏は一度社長の座を退いている。さくらインターネットからの退社までを考えたが、ネットバブルの崩壊の影響もあって経営危機に面することになり、エンジニアとして会社に関わり続けた。スタートアップ企業の従業員数が増えることで会社に変化が起こる「成長痛」はよく聞く話だが、同社も例外ではなかった。

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ネット黎明期からインフラを提供する老舗企業だったさくらインターネットだが、インターネットの盛り上がりとともに、競合となるサービスも現れてきた。レンタルサーバーの価格競争は、誰もが感じられるスピードで加速してきた。「うちが2000円でやっていたものを月額数百円で提供するというものも出ていた。また一方で『Web 2.0』の波が来ていて、専用サーバの需要が増えていた」と話す。

つまり、個人ユーザーをロングテールで獲得しようとすると価格を下げることになるが、価格を下げても大きく市場が広がる確信を持てなかったのだそう。価格破壊が起こる中で、同社は法人向けに専用サーバーに注力していた。「最近のレンタルサーバーの平均単価は500円程度で、また破壊的イノベーションが起きるのではと危機感は持っている。市場開拓をするか、ARPPUを上げるかのどちらかを迫られていて、折り返し地点にきているなと感じる」と、今日の状況について話した。

また今日の動きでいうと、2011年に稼働を開始した石狩データセンターがある。投資額としてはかなり大きいものだが、FS(フィジビリティスタディ:事業の実現性を調査すること)を行ったところ、明らかに東京よりもいい環境だったという。

大きな投資を行ったが、IR資料を見ると売上は上昇傾向にある。サービス別ではクラウド事業が大きい。田中氏は、「クラウドの時代が来る」と目論んでいたわけではないという。ここで先行投資について、「やったらいいと思うんですよ。失敗しても死ぬことはないくらいの感覚をつかむのは。実際失敗するのは怖いですし、時間がかかりましたが。重要なのはその業界が成長しているかどうか。『クラウドが来る』とは読めなくとも、コンピューターは今の1億倍、1兆倍になることは多くの人が感じているはず」と田中氏は話した。

また田中氏は、スタートアップでも大企業でも何かと話題の多い働き方の話題についても言及した。「考えが変わったんですけど、あまり仕事だけで人生を楽しめないのは勿体ないなと思うんですよね。適度に働いて、やり甲斐を探す方が健全な気がする」(田中氏)。同社ではここ数年で多くの人材を採用したこともあり、有給休暇や定時に縛られないような制度を導入。兼業も認めるなど、新たな取り組みを進めているそうだ。

これまでの起業、経営を振り返り、田中氏は「15〜20年前は、良いサービスを作っていたら売れる、なぜこのサービスを知らない人がいるのかくらいに思っていたが、違うなと。謙虚にいきたい」と言い、またさくらインターネットの経営は大前提だとした上で「起業には何度でも挑戦したい」と話した。

サイバー藤田氏「無理な黒字化は事業がおかしくなる」ーー大型投資での成長を狙うAbemaTVのこれから

サイバーエージェント代表取締役の藤田晋氏

11月17日、18日に東京・渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。17日の最終セッションには、サイバーエージェント代表取締役の藤田晋氏が登壇した。藤田氏は4月11日の本開局(サービス正式ローンチ)からわずか半年で1000万ダウンロードを突破するなど、快進撃を続けるインターネットテレビ局「AbemaTV」について、サービス開始から今後の展開までを語った。聞き手はTechCrunch Japan副編集長・岩本有平が務めた。

若年層の取り込みに成功。わずか半年で1000万ダウンロードを突破

サイバーエージェントとテレビ朝日がタッグを組んで展開しているインターネットテレビ局AbemaTV。オリジナルの生放送コンテンツや、ニュース、音楽、スポーツ、アニメなど約30チャンネル(2016年12月現在)が全て無料で楽しめる。

4月11日の本開局から、約半年で1000万ダウンロードを突破。順調に成長を続けている。その状況について、藤田氏はこう口にする。

「予想を上回るスピードで1000万ダウンロードを突破することができましたが、そもそもスマートフォンでテレビ番組を観る視聴習慣が整っていない中、フライング気味にスタートしたサービス。なので長期戦になると思っています。そういう意味では何とかなるだろうと楽観的な一方で、予断を許さないとも思っています」(藤田氏)

「長期戦になる」という言葉どおり、藤田氏は2017年、AbemaTVに年間200億円を先行投資すると発表。予算のほとんどをコンテンツ制作と広告に充てるという。

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驚異的なスピードでユーザー数を増やしているAbemaTV。その内訳を見てみると、10代〜20代の若年層がほとんど。“若者のテレビ離れ”が叫ばれて久しいが、スマートフォンに最適化された動画コンテンツを配信することで若年層の取り込みに成功しているのだ。

「もともと狙っていたのが、テレビを見なくなった若年層だったので、この結果は狙い通りです。テレビを見なくなった層が何をしているかというと、スマートフォンを覗き込んでいるので、スマートフォン上にコンテンツを送り込めばいい、と思いました」(藤田氏)

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なぜテレビで勝負することにしたのか?

2016年を「動画元年」と位置づけ、AbemaTVの本開局に踏み切った藤田氏。だが「Hulu」や「Netflix」といった定額制動画配信サービスや、「YouTube」のような動画配信プラットフォームではなく、なぜテレビで勝負しようと思ったのだろうか?

「最初はテレビ型にするかどうかを決めず、動画事業に参入することだけを決めていたのですが、自分の中でAppleのiTunesが伸び悩んでいたことが決定打となりました。好きな音楽を好きなときに聴けるiTunesの仕組みは個人的にすごく良かったのですが、好きなもの以外を見つけるのが面倒くさいんですよね。受け身で音楽が聴けるストリーミングサービス『AWA』を始めたとき、やっぱり人は受け身で探す方が楽なんだと痛感しました。数ある映像が並んでいても、自分で選んで再生するというのは結構億劫なもの。受け身のサービスの方が人は楽なんじゃないかという前提に立って、テレビ型にすることを決めました」(藤田氏)

“受け身”というように、AbemaTVは暇があったら開く状態を目指している。例えば、1チャンネル目にニュースを持ってきて新鮮な情報を提供していることを打ち出したり、会員登録をなくしたり、とにかくユーザビリティの向上に注力しているそうだ。

「簡単で使いやすくすることで手が癖になり、アプリを立ち上げてくれるかもしれない。FacebookやTwitterといったコミュニティサービスに勝てるとは思っていませんが、SNSを見尽くして、やることがなくなったときに見てもらえるメディアであればいいと思っています」(藤田氏)

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Netflixの日本上陸がAbemaTVの立ち上げの契機に

もちろん、テレビである以上、使いやすいだけでなくコンテンツも面白くなければユーザーに観てもらえない。その点、AbemaTVはテレビ朝日と提携することでクオリティの高い番組が作れているといってもいい。

堀江貴文氏がフジテレビを買収する、三木谷浩史氏がTBSを買収する騒動があった10年前には想像できなかったかもしれないが、テレビとネットの関係性は劇的に変化している“今”だからこそ、サイバーエージェントとテレビ朝日の提携が実現したという。

「昔から通信と放送は融合すると言われ続けていましたが、まだスマホも登場していなかったので実感値が全くなかった。だからこそ、コンテンツは独占してこそ価値があるものだと思われていましたし、テレビ以外のデバイスに映すのはもってのほかだった。そんな状況を大きく変えたのがNetflixの日本上陸。ワールドワイドで収益を上げ、膨大な制作資金をかけてドラマを作っている会社が日本に来るということで、各テレビ局が対応を迫られることになった。この出来事がAbemaTVが生まれるきっかけにもなりました」(藤田氏)

 

Netflixの上陸だけでなく、Apple TVやChromecastといった端末も登場してきた。テレビは今後どうしていくのかを、たまたまテレビ朝日の審議委員会で話していた(藤田氏はテレビ朝日の番組審議委員を務めていた)こともあり、テレビ朝日側に立って出した答えがサイバーエージェントとテレビ朝日の提携だったそうだ。

まさにNetflixの日本上陸がAbemaTVを立ち上げる契機になったと言えるが、運営していく中で自社でコンテンツを作っていく考えはなかったのだろうか?

「自社でコンテンツを作れるのではないか、という考えも頭をよぎりました。例えば映画の買い付けや放映権の取得などお金を出せば何とかなりそうかなと思ったのですが、それは大きな間違いでした。テレビ局と組むことが必須だったんです。主要な映像コンテンツは基本的に全てテレビ局に集まっていますし、映像制作のクオリティがすごく高い。よく視聴率がとれる番組は制作会社が作っていると思われがちなんですけど、それは全然違う。クリエイティブディレクションをやっているのはテレビ局の人たちなので、彼らと組む以外、道はなかったと思います」(藤田氏)

無理に黒字化しようとすると事業がおかしくなる

様々な動画サービスが立ち上がっていることもあり、今後、テレビ局がネット企業と手を組むなど、AbemaTVの競合が出てくる可能性は十分に考えられる。その点、藤田氏はどう考えているのだろうか?

「AbemaTVは世界的にも見たことがないサービス形態になったのですが、有り無しがまだ分からない。もちろん、有りだと思い込んでやっているんですけど、マスメディアに出来るかは全くの未知数。こんな状態で競合は出てきてほしくないのが本音ですが、テレビ朝日が社を挙げて全面的に協力してくれている。こんな奇跡的な状況の会社はそうそう無いと思っているので、競合は来ないんじゃないかなと思っています」(藤田氏)

先ほど、「テレビ局の協力が必須だった」と述べていたように、テレビに進出する時にテレビ局の協力、ネットに進出するときはネット企業の協力が必須だという。だからこそ、同じような形でサービスを立ち上げてくる可能性は少ないと考えているようだ。

約半年で1000万ダウンロードを突破したAbemaTVの今後の展開について、「いつまでに黒字化する、いつまでに◯◯ユーザーを獲得するといったことは絶対に言いません。無理に黒字化させようとすると事業がおかしくなるので」と前置きをした上で次のように語った。

「これからAndroid TV、Apple TVにも対応していきますが、Amazon Fire TVなどを使った視聴体験が思った以上に素晴らしいので、そこのマーケティングは強化していく予定です。あと、年明けにはバックグラウンド再生と縦画面でも開けるようにして、より気軽に使えるようにしていきます。コンテンツ面ではニュースに力を入れていき、大事なニュースがあったらAbemaTVをつける習慣を作っていくことを考えています」(藤田氏)

ドラクエ風Google Mapがアイデアの種——Niantic野村氏が語る「ポケモンGO」誕生秘話

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11月17日から18日にかけて、渋谷ヒカリエで開催したTechCrunch Tokyo 2016。17日のキーノートセッションには、世界中のテック業界を話題をさらってきたスマートフォンアプリ「ポケモンGO」を手がけるNiantic(ナイアンティック)のゲームディレクター、野村達雄氏が登壇した。

2016年7月のリリース以降(日本は7月22日)、わずか3カ月で世界1億ダウンロードを突破するなど、数々のギネス記録を打ち立ててきた「ポケモンGO」。日本国内においては、1万人以上がレアポケモンを求めて宮城県石巻市に訪れたというニュースも記憶に新しい。世界中で一大ムーブメントを巻き起こしているゲームアプリはどのようにして生まれたのか? 野村氏はポケモンGOの誕生秘話、そしてこれからのARの可能性について語った。

ドラクエがポケモンGOを生み出すきっかけに

ドラクエ風のGoogle マップと野村氏

ドラクエ風のGoogle マップとNiantic(ナイアンティック)のゲームディレクター、野村達雄氏

2012年4月1日、皆さんはGoogle Mapがファミリーコンピュータ版のゲーム「ドラゴンクエスト」のようなビジュアルになったのを覚えているだろうか? Googleの伝統行事ともいえる”エイプリールフールネタ”として開発されたのだが、実はこの企画は野村氏が仕掛けたものだ。

2011年にGoogleへ入社し、Android版「Google Map」の開発に従事していた野村氏。2012年のエイプリールフールネタとして世界中を沸かせたアイデアは、あるときふと頭の中に浮かんできたものだという。

「大学時代にFPGA(集積回路の一種)を使ってファミコンを作るなど、レトロなゲームが好きなこともあって、Google Mapをファミコン版のドラクエ風にしたら面白いのではないかと思ったんです」(野村氏)

アイデアを思いついた野村氏は、すぐさまプロトタイプの作成に着手。Google Mapの画像を見て、青い部分には水の画像、緑の部分には木の画像を当てはめたプログラムを書き、わずか2時間ほどでプロトタイプを完成させた。

「新しいことにチャンレンジするにあたって、文章で『◯◯をやりたい』と書くよりも、デモを1つ作るだけで説得力が増す。アイデアがあるときはデモを作って見せるのが大切だと思います」(野村氏)

実際にデモをチームメンバーに見せたところ、反応は上々。エイプリールフールに間に合わせるべく、急ピッチで開発を進めていった。

実際に公開したドラクエ風のGoogle Mapは人気のキャラクターをたくさん置くなどディテールにこだわったことに加え、「Google Mapがファミコンに対応する」というエイプリールフールらしいジョークも組み合わせることで、ユーザーからは大好評。企画は大成功を収めた。

そして、この経験は以降のエイプリールフール企画にも生きてくる。

2014年のエイプリールフール企画「ポケモンチャレンジ」

「ドラクエ風のGoogle Mapがあまりに評判で、周りから『次の年は何やるの?』とたくさん聞かれて、少しアイデアに困りましたね。色々考えて、2013年のエイプリールフールはGoogle Mapを宝の地図に見立てて、宝を探すという企画をやりました。その次の年からは『もうやらないぞ……』と思っていたのですが、ポケモンがGoogle Mapにいたら面白いと思いついてしまって。『これは面白いことができそうだ』と思ったので、また2時間くらいでデモを作ってみました」(野村氏)

作ったデモは、Google Map上にピカチュウを登場させ、モンスターボールでゲットできるというもの。ドラゴンクエストの時と同じようにチームメンバーに見せたところ、Google Mapに実装し、「ポケモンチャレンジ」の名称でエイプリールフールに公開することになった。

「ポケモンマスター」の名刺

「ポケモンマスター」の名刺

「ゲーム自体をデバイスの中に閉じたままにするのではなく、外へと広げていく。その最初の挑戦がポケモンチャレンジだったのかもしれません」(野村氏)

150匹のポケモンを捕まえた人にはポケモンマスターの名刺を送るというジョークを交えたエイプリールフールの企画は、またしても大きな反響を呼んだ。

GoogleからNianticへ

そのポケモンチャレンジに魅せられ、誰よりも可能性を感じたのが、NianticのCEO John Hanke(ジョン・ハンケ)氏だった。ハンケ氏はGoogle Earthの前身サービスである、3Dデジタルマップ作成サービス「Keyhole(キーホール)」をGoogleへ売却。その後、Googleの社内スタートアップとしてNiantic(当時はNiantic Labs)を立ち上げた。

動画でメッセージを送ったNianticのCEOのジョン・ハンケ氏(右)と川島優志氏(左)

動画でメッセージを送ったNianticのCEOのジョン・ハンケ氏(右)と川島優志氏(左)

ミッションは「adventures on foot with others」。人々を外に連れ出し、何か新しい発見をさせたり、友人・知人とコミュニケーションさせたりすることを目的としたスタートアップだ。

「人々を外に連れ出す方法はいくつかあると思うのですが、彼が考えたのはゲーム。子供が家から離れずにゲームをしているのを見て、『外でできるゲームを作れば、人は外に出ていくんじゃないか』と思ったそうです」(野村氏)

その考えのもと、既存の枠組みには捉われないゲームの開発に着手。そうしてリリースされたのが、拡張現実(AR)を利用した位置情報ゲーム「Ingress(イングレス)」だ。現実世界と連動し、世界各地に存在する「ポータル」を取り合っていくというシンプルな仕組みがユーザーにヒット。全世界200カ国以上でローンチされ、1500万ダウンロードを突破している。そのIngressとポケモンチャレンジがコラボしたら、もっと面白いことができるんじゃないかとハンケ氏は考えたそうだ。

そこで1人目の日本人社員としてNianticにジョインしていた川島優志氏を経由して、野村氏に連絡が届く。野村氏はその話を聞いた瞬間、「これは面白いことができる」と確信したという。

「僕は物心ついたときからポケモンがそばにあった“ポケモン世代”なのですが、誰もが一度は、『サトシになって、カスミと一緒に冒険できたら……(編集部注:サトシ、カスミはアニメ版ポケモンの登場人物)』と妄想したことがあると思うんです。だから、ハンケの話を聞いた瞬間、『これは自分が子供の頃に欲しかったものだ」と思いました」(野村氏)

すぐさま、野村氏はポケモンのIP(知的財産権)を所有する「株式会社ポケモン(The Pokémon Company)」に足を運んだ。CEOの石原恒和氏にNianticとIngressの説明をして以降、石原氏はIngressに大ハマり。当時のレベルの上限にあっという間に到達してしまったという。

Niantic、ポケモンの双方がIngressとポケモンチャレンジの融合に大きな可能性を感じたこともあり、ポケモンGOのプロジェクトがスタート。そのタイミングで、野村氏はGoogleからNianticへと転職した。

Nianticが大事にする指標 ーー 4.5ビリオンキロメートル

こうして2016年7月にリリースされた、ポケモンGO。その後の快進撃は知っての通り。ポケモントレーナーとなってポケモンを探して、捕まえる。子供の頃、誰もが抱いた理想が現実となったこともあり、瞬く間に大ヒットを記録した。驚異的な勢いでダウンロード数を伸ばしているポケモンGOだが、Nianticは別の指標を大事にしているという。

「普通のゲームであれば、ダウンロード数やレベニューを大事にすると思うのですが、Nianticは”プレイヤーが歩いた距離”を何より大切にしています。ローンチ後の移動距離を合計すると、4.5ビリオン(45億)キロメートル。大体、地球から冥王星までの距離です。それくらい膨大な距離をポケモントレーナー達が歩いてくれているんです」(野村氏)

“人を外に連れ出す”というミッションを掲げているからこそ、「移動距離」を何よりも大切な指標にしている。そして、その指標は人々の健康にも良い影響を与えているという。スタンフォード大学とMicrosoftが実施した調査結果によると、ポケモンGOを続けることで41.4日寿命が延びるデータも出ているそうだ。

また、NianticはポケモンGOやIngressを「Real world game」と定義。デバイスの枠を越え、現実世界にも影響を与えるゲームと考えている。実際、オーストラリアでは3000〜4000人ほどが集まるイベントが開催されたり、日本でも宮城県とコラボしたイベント『Explore Miyagi」が開催され、1万人以上が石巻市に足を運んでいる。

人々の生活習慣すらも大きく変えた、ポケモンGO。キーノートセッションの最後、野村氏はARに対する、自身の見解を述べた。

「カメラを通して3Dオブジェクトが見えるものを“AR”と考えている人が多いのですが、それはあくまでARの一部。人が外に出て、これまで何となく通り過ぎていた道に新しい情報を付加すること。それが広い意味でのARだと思っています。もし、ARを活用したサービスの立ち上げを考えている人は、『ARはテクノロジーの一種』という考えを捨てて、現実世界にどのような情報を付加していけるか、を考えた方がいいと思います」(野村氏)

空いた時間に「草ベンチャー」、ビズリーチ流・創業メンバーの集め方

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「事業を始めたいが、仲間が見つからない」「ベンチャーは面白そうだが、生活基盤は崩せない」――多くの起業家や創業メンバーなど、スタートアップに関わる人たちにありがちな悩みだ。

11月17日、18日に東京・渋谷で行われた「TechCrunch Tokyo 2016」ファイヤーサイドチャット「いかに仲間を集めて起業するか、『草ベンチャー』という選択肢」の中で、ビズリーチ代表取締役社長・南壮一郎氏がその解決策と、そこにたどり着くまでのいきさつを語った。

金融会社を退職→プレハブ小屋でフットサルコートの管理人

南氏が代表取締役を務めるビズリーチは、日本初の有料会員制転職サイトとして2009年に始動。その後もレコメンド型転職サイト「キャリアトレック」、地図で仕事が探せるアプリ「スタンバイ」、クラウド型採用管理ツール「HRMOS(ハーモス)」などを提供する。着々と事業を拡大し、創業7年で従業員数は700名を超えた。

大学卒業後は外資系金融会社に入社、その後は東北楽天ゴールデンイーグルスの球団創業に参加し、2009年に起業。まさに“華々しい”といった言葉が似合う経歴だが、起業に至るまでは決して順風満帆ではなかったという。

「社会人4年目、日韓ワールドカップの試合を観戦しにスタジアムに行きました。そこで鳥肌が立ち、涙が出るほどの感動を味わった。それがきっかけで『いつかはスポーツに関係した仕事につきたい』と強く考えるようになったんです。2002年のことでした」

それから南氏は、当時在籍していた金融関連の会社を退職し、スポーツの仕事探しを始める。携帯電話に登録していた300人に電話をかけ、東京・世田谷区にあるフットサルコートの管理人という働き口を見つけた。フットサルコート近くのプレハブ小屋で、学生相手にフットサルのシューズを貸したり、ドリンクを売るのが主な仕事だった。

自身が描く「スポーツの仕事」と現状の間に大きな隔たりを感じる中、新しいプロ野球球団「楽天イーグルス」が誕生するというニュースを目にした南氏。「ゼロからプロスポーツの球団を作る瞬間に立ち会えるなんてあることではない」と感じ応募した。一つの事業が地元を変え、時代を変え、地域に大いに貢献するさまを目の当たりにした。

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ようやく手にした、理想の「スポーツの仕事」。にもかかわらず、わずか3年で離れ、起業することになる。その背景には、楽天野球団・現オーナーの三木谷浩史氏や、当時の社長だった島田亨氏の言葉があったと、南氏は振り返る。

「『自分たちはゼロから球団を作った。ゼロからやるのは別のことでもできるぞ』と言われたんです。それが入社2年目のことで、そのときに『3年目に辞めて、楽天イーグルスで味わったような、新しい事業で地元の景色や仕組みを変えられるようなことをしよう』と決心したんです」

「これからの革新的事業にITは欠かせない」と直感した南氏は当時、起業だけでなく、企業で新規事業をやることも視野に入れて転職活動もしていた。そこで、1カ月間に27人のヘッドハンターを通じて、IT関連の企業をリサーチ。その結果、27人全員から違う仕事を紹介されたことに戸惑いを覚えたという。

「ヘッドハンターに相談すればするだけ、『一番ピッタリの仕事』といって異なる提案をいただく。ヘッドハンターの数だけ自分の選択肢が増えていくんです。野球のドラフトのように、多くの可能性の中から自分にピッタリの職を見つける方法はないのだろうか、と考えました」

そんな中、ビジネスインテリジェンスの研修で米国に2週間滞在中にリクルーティングサービスとしての『LinkedIn』の存在を知った南氏。「これなら転職活動の不便さを解消できる」と感じ、帰国後にビズリーチを立ち上げることになる。

草野球をするように起業する

LinkedInでは、自分のポートフォリオや職歴などを誰もが閲覧できるSNSの形式を取る。しかし南氏が新規事業立ち上げに向け奔走していた2008年の日本ではそこまで自分をネット上にさらけ出すというのが一般的ではなかったため、ビズリーチでは採用したい企業だけが見られる形を取ったという。

次に必要なのは仲間だった。それまでの金融機関や球団での営業経験を活かしてエンジニアたちに当たってみたが、なかなか見つからない。新しいことをやりたいと考えている人が潜在しているはずなのにアクセスしようがない。また、たとえ見つけられたとしても、成功するかどうかわからない事業にフルコミットしてくれるかが不安だった。

そうして、社会人の「草野球」のように、本業以外の空いた時間、平日夜や週末だけベンチャーの活動を行う「草ベンチャー」が生まれたのだ。

2009年、草ベンチャーとして仲間を集めて始めたビズリーチ事業。南氏は「オープンから1年以内に1億円以上の資金調達ができなければ解散!」と活動目標を設定。そしてその後、軌道に乗ることになったのは知られるところである。

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「面白くてインパクトのあること、世の中を変えるような仕組みを作っていくことを短い期間内にたくさんやっていきたい」という南氏は、ビズリーチをベンチャー事業として立ち上げながら“お得に贅沢体験”ができるECサイト『LUXA(ルクサ)』事業を並行して“草ベンチャー”として開始。4年半で250人規模にまで成長し、先ごろKDDI株式会社の連結子会社となった。

「大企業が新規事業を立ち上げる際にも、草ベンチャーを活用できる」と南氏。そして「社内では難しいのであれば、外部でやってもいい」と提案した。

「平日の夜や週末、特にすることがないから飲んでいる、ということもあるでしょう。1年間、そのかわりとして草ベンチャーに携わればいい。何かを得ようとするなら何かを捨てる、トレードオフですよね。そして、かかわっているベンチャーがうまくいくようであればジョインすればいいのではないでしょうか」

大人のインターンシップのすすめ

草ベンチャーは仲間を集めたいと思っているベンチャー企業にも、ベンチャーにかかわってみたいと考えている“潜在的起業家”にも便利な仕組みだが、誘う側が明確にしていなければならないこともある。それは「要件定義」だ。「それを明確にして、期限を決める。そうすれば仲間も集めやすいし、貢献具合もわかりやすい」と南氏は説明する。

最後に会場へのメッセージを求められた南氏は次のような言葉で締めくくった。

「100%、フルコミットする必要もないと思うんです。実際に成功するかはわからないんですし。今やっている仕事を捨ててまで起業できる人はなかなかいない。でも心のどこかでやってみたいと思っている。もしくは起業したいけど自分にはアイデアがない。そんな人に向いているのが草ベンチャー。いわば“大人のインターンシップ”ですよね。参加したいのであれば、“理由なんていらない”、積極的に参加しましょうよ。新規事業を通じて世の中を変えていくという体験は素晴らしく、草ベンチャーという形のお手伝いでも十分味わえるのですから」

メルカリ創業者の山田進太郎氏、日米5500万DLの躍進をTechCrunch Tokyoで語る

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11月17日、18日に、東京・渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。18日のキーノート・セッションでは、フリマアプリ「メルカリ」創業者でCEOの山田進太郎氏に、日米5500万ダウンロードを達成したメルカリの海外展開の取り組み、プロダクトへの姿勢について語ってもらった。聞き手はTechCrunch Japan編集長・西村賢。

躍進するメルカリの海外展開

今年3月に84億円の大型資金調達を果たし、未上場ながら評価額はビリオン(10億ドル)超、日本発のユニコーン企業として注目を集めるメルカリ。この週、11月15日にメルカリでは決算公告を発表していた。既に2015年末時点で黒字化、2016年3月時点で月間の流通総額100億円以上を達成していたメルカリ。2016年6月期の決算では、売上高は122億5600万円と前期の約3倍となり、営業利益は32億8600万円で、2013年創業から4期にして黒字化、大きな話題となった。

発表された決算の数字の中でも興味深いのは、90%を超える高い粗利率。山田氏は「原価のほとんどが人件費」と言う。「日本で300人ぐらいの人員がいて、海外でも結構増えています。」(山田氏)

山田氏はしかし、この超優良な決算公告の数字を「まだ日本単体で、海外や子会社の数字は含まれていない。(世界)全体として見たらまだまだ投資している(モードだ)」と控えめに評価する。「国内でも伸びしろはあるが、次の桁を変えるには海外へ出て行かなければいけない。開発リソースは9割、米国に割いている。最悪、日本を落としてでも、米国市場を取っていく」(山田氏)

なぜ米国にこだわるのか。タイや台湾などは、日本と文化的にも親和性が高いし、インドネシアであれば多くの人口を狙っていけるが、東南アジアではいけないのか。この質問に「米国市場は大きい。ミッションである”世界的なマーケットプレイスを創る”ためには、米国でサービスが使われていないといけない」と山田氏は話す。

「個人的には、世界のいろんな人にサービスを便利に使ってもらうことで、大きく言えば人類への貢献ができるんじゃないかと考えている。そのために会社を作ったんだし、そこ(世界へのサービス展開)をやっていく」(山田氏)

「実は最初(に起業した時)から、(世界への展開に対する)意識はあった」という山田氏は、ウノウのZyngaへの売却と、Zynga Japanへの参加についても「グローバルなインパクトを出すことができると考えたから。Facebookで強かったZyngaはユーザーが全世界に3億人以上いて魅力があった」と言う。

今年だけでも84億円の調達を実施し、株式市場への上場も視野に入っているはずのメルカリだが、これまでのところ、上場は選択していない。海外展開に当たって、海外市場への上場などは検討しているのだろうか。「いろんなオプションを探っているところだ。いつIPOするかも含めて、まだ何も決まっていない。会社が大きくなっていけば、社会責任を果たすこと、社会の公器になることは必要だと思うけれども、まだタイミングではないですね」(山田氏)

そのタイミングとは。山田氏は「米国でのサービスは伸びているが、もっともっと成功しなければ。米欧で成功できれば、いろんな国で継続的に成功していく方法論が確立するのでは、と思っている。今のところ、どうやって米国で成功するかに集中している。その後、日米欧3拠点でどうやって開発していくのか、コミュニケーションをどう取っていくのか、多拠点での事業の進め方も考えなければならない。まだ、事業計画を出して(ワールドワイドで)継続的に成長していくという段階ではない」と堅実に事業を進めていく考えを示す。

プロダクトの差別化は少しずつの改善の積み重ね

アプリケーションとしてのメルカリは、2016年8月時点で、日本で3500万ダウンロードを達成している。メルカリの日本での今後の見通しについて、山田氏は「減速の予見はない。流通額も伸びている」と話す。「PC時代やガラケー時代に比べると、スマホ時代はユーザーが多い。LINEなんかもMAU(月間アクティブユーザー数)が国内で6000万ぐらいある。一家に1台だったPCと比べると、ひとり1台に普及していることが大きい」(山田氏)

米国でも、2000万ダウンロードを2016年9月に達成。ダウンロード数の推移を見ると、この夏、急速に伸びていることが見て取れる。

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「この伸びは、CMなど特別なプロモーションを打ったわけではなくて、インスタグラマーやSnapchatユーザーが“メルカリはいいよ”と投稿を始めて、そこから招待コード制度で拡散したことが理由。App StoreやGoogle Playのランキングに載ったことで、さらに加速した」(山田氏)

現在の米国の状況については「一時よりは落ち着いたが、ベースが上がっている感じ。招待コードキャンペーンは続けている。インフルエンサーにお金をかけるプロモーションは行っていない。ただ、あらゆる機能改善を米国にフォーカスして、1年ぐらい続けてやってきていて、それが広がる下地となった」と山田氏は話している。

この施策が当たった!というものはなく、少しずつの積み重ねが、米国でのDL数増に功を奏したと言う山田氏。「GoogleでもSnapchatでも、エンジニア中心の小さなチームが無数にあって、それぞれが改善を続けている。Facebookで動画が急にきれいに見えるようになったりしたのも、そうした結果。みんな、ちょっとずつそういう改善を続けて、Facebookの場合なら友だちが増えたり投稿が増えたりしていって、今や誰も追いつけないくらいの機能とユーザー数になっている。メルカリにとっても、1%の改善をどれだけ繰り返せるか、ということをやり続けることが強みになっている」(山田氏)

開発には現在100人ぐらいが関わっているが、役割を固定せず、流動性を大きくしている、と言う山田氏。「A/Bテストができる基盤は作ってあるので、各チームの中で自由に『こういうことしたら、いいんじゃない?』と(機能の調整を)やってます」(山田氏)

「Facebookなんかだと、少しずつ違う機能や見た目が部分的に反映された、何万というABテストが(同時に)走っている。メルカリでも数十本は走ってる。米国版ではテストが特に多い。(米国版の機能で)日本だと受け入れられるかどうか、というものは日本でもテストしているので、パターンは膨大にある」(山田氏)

アプリの機能以外のサービス面でも、米国ではトライアルが続いている。手数料の導入はサービス面での大きな変更だ。「米国でも新規の出品者に10%の手数料を導入したところ。まだ結果は分からない。来週からは出品者全体で手数料を始めるので、勝負どころになります」(山田氏)

山田氏は、米国でも日本でも、今までのウェブサービスの普及パターンと違う動きが見えると言う。「LINEなどもそうかもしれないが、日本だと、ユーザー数でいえば東京は多いんだけれども、地方ユーザーでも若くて子どものいるお母さんみたいな層から火が付いた。米国の場合もこれまでは東西海岸の都市部が普及の中心だった。それがメルカリでは、カリフォルニアは確かにユーザー数は一番多いけれども、その後はテキサス、フロリダと続いていって、普通の人が使っている印象。両海岸から広がっているのは今までと同じだが、広がるスピードが早くなっている。スマホ時代になって、時間×量という意味では、地方に住んでいる可処分時間が多い人がサービスを使うようになった。ユーザー数と時間・量の全体で見たときに、総時間では都市も地方も同じになっているのではないか」(山田氏)

メルカリ特有の“文化”について

「取り置き」「○○さん専用ページ」「確認用ページ」……。メルカリにはアプリ独自で、利用規約やシステムとは連動していないユーザーによる“私設ルール”がたくさんある。これらの“メルカリ文化”ともいうべきルールについても、山田氏に聞いてみた。

photo03「本来はシステムや機能で解決すべきだとは思います。Twitterの返信で使われている“@”なんかも、元々はユーザーが勝手に使い始めた運用をシステムで取り入れた例。ユーザーの使われ方によって、機能を取り入れられるのが良いとは思う。メルカリでもやりたいんですが、優先順位の問題で取り入れられていないですね。米国にフォーカスして(開発を)やっているので、日本でやったらいいな、ということがなかなかできていない。それは申し訳ないけど、これから要望に応えていく部分もあるので……」(山田氏)

日本だけにフォーカスした機能は、ローカライズが進みすぎるので避けたい、とも山田氏は言う。「バランスを取っていかなければ。シンプルで誰が見ても使える、というものをユニバーサルに作っていきます。会社全体、経営陣として、全世界に必要な機能は議論(して検討)する。それが日本ローカルな機能なら、優先順位は低くなる」(山田氏)

またeBayなどのオークションサービスでは価格が安定しているのに対し、メルカリでは出品物の価格のばらつきが大きく、状態もさまざまだ。このことについては「オークションでは、モノに適正な値段を付けるというところがある。でも(メルカリの場合は)価格だけじゃない。同じ物でもコンビニはスーパーより高く売っているけれども、それはその分便利という価値がある、ということ。メルカリならすぐに買える、店にないものがある、という購入者の感情と、自分はいらないから誰かに使ってもらいたい、という出品者の感情をうまくつなげている。中には、タダでもいいから、もったいないから使ってほしいという出品もある。その気持ちに経済的価値があるんです」と山田氏は話す。

山田氏は、ポイントの存在も購入行動に影響を及ぼしていると見る。「アマゾンより高い出品もあるのに、なんで売れるのかというと、ユーザーが別の出品で売上を持っていて、ポイントなんかを使う感覚なのではないか。売上を引き出してアマゾンで買えばいいんだけど、それだと手間と時間がかかるので、利便性を取っているのではないかと思う」(山田氏)

メルカリの日本での利用の伸びについては、こうも話している。「昔は日本でも道ばたでモノを売るような世界があったし、新興国では今でもまだそういう売買のシーンがある。それが単純にオンラインで仕組み化されたことで、復活してきているということではないか」(山田氏)

メルカリでは、企業ではなく個人ユーザー同士によるCtoCのフリマにこだわっている。運営側が常に見てくれていて、ヤフオクなどと比べると気を遣ってくれている感じ、安心感がユーザーにあるのではないだろうか。だがここへ来て、業者ではないかと思われるユーザーも出てきているようにも見える。ユーザーのサポートやケアについて、山田氏はどう考えているのか。

「メルカリはできる限り、自由な場であってほしい。(先日Twitterなどで話題になった)お子さんが仮面ライダーカードを買うために、お母さんが子どもの拾ってきたドングリをメルカリに出品したケースのように、何でもやり取りしてもらえれば、と思う。規制していたら、ドングリみたいな新しいものは生まれないです」(山田氏)

一方で取引のトラブルや、悪い出品者・購入者に当たったというケースもある、と山田氏は続ける。「そこでメルカリに問い合わせをすれば、解決してくれる、という安心感があれば、場が健全に保たれる。商品が送られてこなかった、という時でも、すぐにお金を返してくれた、となれば、『今回はたまたま悪い取引に当たっただけで、メルカリ自体はいいところだ』と思ってくれるでしょう」(山田氏)

「こういう出費は5年先、10年先を考えたら回収できる」と山田氏。「長期的に使ってくれて、何十年も続いていけるサービスにしたいと思って、そういうカスタマーサポートをやってます。今はエンジニアとカスタマーサポートにお金をかけている」(山田氏)

日本発ユニコーン企業の先駆者として

日本人メジャーリーガーとして活躍し、イチローや松井秀喜のメジャーリーグ入りに先鞭をつけた、投手・野茂英雄。彼を例えに、山田氏に米国での躍進と、後進への思いについて聞いたところ、その返事は意外なほど慎ましいものだった。

「誰かが(アメリカへ)行って通用すると分かれば、フォロワーが出る。先駆者がいれば後も変わっていくと思っているので、何とかして成功したいとは思っている。だが、そこまで余裕があるわけじゃないんです。自分たちが何とかしなければ、という危機感は社内にも強い。2000万ダウンロードで順風満帆、人材も潤沢で完成されているように見えるかもしれないけれども、実際は大変。日本のプロダクトも改善は足りないし、相当の危機感がある」(山田氏)

好調決算についても「日本単体での数字で、それもアメリカへの投資に使っているわけだし、まだまだ」とさらなる成長を追求する姿勢だ。

さらに競合に関する質問では「プロダクトで勝つしかないので、競合という視点はないんです。プロモーションなどでお金をかけることはできるが、結局いかにいいものにし続けられるかが大事」と山田氏は語る。そのプロモーションについては、メルカリではTV CMに大きく費用を投下しているという。「米国でもCMのテストを行っている。まだ結果は分からないが、分析を続けて、あらゆるチャレンジをしている」(山田氏)

最後に、起業家志望の方に向けて、山田氏からメッセージを伺った。「僕も必死でやっているところだけれど。海外へ出て、何かを作って、便利に使ってもらうことはとても価値があること。一緒に頑張っていきましょう」と山田氏。学生起業を目指す人にはこう語った。「僕が1990年代後半の楽天に内定して働いていた頃は、毎月のように人が増えていて高揚感があった。それが起業家としての原体験にもなっていて、そのころの雰囲気をメルカリでいかに再現するかが指標にもなっている。だから伸び盛りの会社に一度行ってみるのもいいと思う。ただ、やりたいことがもうハッキリしているなら、早くやればいいと思うよ」(山田氏)

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実世界測定スタートアップPlacemeter代表が語る、創業ストーリーと国外で事業を伸ばす秘訣

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Webサイトやアプリの世界では自社のページに訪れた人数を数え、属性や行動を分析し、より高い成果を獲得するために最適化するという一連のプロセスは当たり前のように行われてきた。

ここ数年、センサーが取得できるデータの精度が向上しディープラーニングに代表される画像認識技術が進歩したことで、道路や広場、施設内など「実世界」での出来事を定量化するプレイヤーが世に出始めている。

店内に設置された監視カメラのデータを元に店舗オペレーションを分析、最適化できるスタートアップとして日本ではAbejaが有名だが、11月17〜18日に東京・渋谷で開催された「TechCrunch Tokyo 2016」ではリアルタイムの映像解析技術を持つNY拠点のスタートアップ、PlacemeterのCEO Alexandre Winter氏が登壇し現状を語った。

きっかけはうんざりするハンバーガー屋の待ち行列

「世界で1番美味しいと評判のNYのハンバーガー屋に初めて行ったとき、1時間以上行列で待たされてヘトヘトになりました。ようやく入れた店内でWebカメラを見つけたとき、コンピュータビジョンの技術で待ち時間を予想できるのではないかと思ったのです」とAlex氏はPlacemeterの原型となったアイディアを語る。

創業したスタートアップのイグジット経験を持つAlex氏だが、その後シードアクセラレータであるTechstarsに参加し急速に事業を伸ばす。「軽い気持ちで応募したら受かってしまいました。アクセラレーターに参加する必要はないと思っていたのですが、初日に言われた『ここで過ごす3ヶ月間は2年分の仕事に相当する』という言葉が実際にその通りで、劇的に会社を変えることができました」。

アジャイルな都市開発計画

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今では街中の監視カメラや自前のセンサーデバイスが取得したデータで屋内外の人数をカウントし性別を特定したり、人間だけでなく車両やバイクの動線を分析することで、企業向けのビジネスに留まらず都市計画にもサービスが活用されているという。パリで行われている都市計画プロジェクト「The Paris Smart City 2020」では広場の再開発を行うためPlacemeterで人々の動線データ取得・分析を行っている。

「都市計画では一回建てると長い期間変えることはできません。パリでは有名な7つの広場の再開発を行っています。1つの広場では従来の方法で施策を立てて実行しましたが、結果的に利便性が向上せず市民からのクレームが多かったと聞いています。そのためナシオン広場はアジャイル型の全く新しい開発プロセスを導入したのです」。19台のカメラを広場に設置し、どの程度人の行き来がある場所なのかを測定。実験的にフェンスを立てて人や車の流れを変えるパターンを複数試し、最適な動線になるよう広場の設計を行っているという。

国外で成功する事業開発の勘所と日本市場の魅力

日本で法人向けのビジネスを行う場合、導入実績をセールストークに次の案件を獲得していくケースが一般的な手法だが、それは海外でも変わらないようだ。「新しい市場では最初の案件をまず勝ち取る。そしてそれをレファレンスとしてさらに拡大することが重要です」。Alex氏によると、特にアメリカで事業を行う場合はとりわけ人からの紹介が重要だという。

Placemeterは新しい国に参入する場合、技術的なチューニングはもちろん、システムのインテグレーションを行う現地のパートナーと共同で事業を行う場合が多い。日本市場は過小評価されることが多いが、日本を入り口にすることでアジアに展開できることを考えると魅力的な市場であるという。日本は2020年に向けたオリンピックに向けた観光含めた多額の投資を行っており、施策を効果測定する手段としてぜひ自社の技術を活用して欲しいと語った。

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巨額買収、eスポーツの加速──ゲーム実況動画コミュニティの今後をTwitchディレクターに聞く

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11月17日、18日に、東京・渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。17日の午後にはTwitchからAPACディレクターのRaiford Cockfield III(レイフォード・コックフィールド、以下レイ)氏を迎え、ゲームのライブストリーミングサービス、Twitchの創業からAmazonによる1000億円の巨額買収に至る道のり、ビデオゲームを競技化したeスポーツの勃興、日本やアジアでのサービス展開などについて、語ってもらった。聞き手は元TechCrunchのライターで、日本のゲーム産業のコンサルタントとして活躍する、Kantan Games CEOのSerkan Toto(セルカン・トト)氏。

創業からAmazonによる巨額買収、そして現在

バンカーとして自身の経歴をスタートさせたレイ氏は、香港でプライベート・エクイティに関わり、その後、事業に参画。コミュニティに役立つ仕事がしたい、との思いから、Twitchへやってきた。そのTwitchの生い立ちは、2007年にスタートした24時間ライブ配信サイト、Justin.tvにさかのぼる。

photo02「リアルのアーケード(ゲームセンター)って、いろいろな人とプレイを見せあったり感想を言ったりする、コミュニティだったでしょう? ビデオゲームって、元々ソーシャルなものだったんだ。だから、それがライブ配信サイトであるJustin.tvにも現れ始めたんだ」(レイ氏)

2011年、Justin.tvからゲームカテゴリーを切り出して誕生した、Twitch.tv。現在、PCのブラウザでもスマホのアプリでもゲーム動画のライブストリーミングが楽しめ、お気に入りの配信ユーザーをフォローして、チャットでコミュニケーションが取れる、ゲームユーザーの一大コミュニティとなっている。

Twitchが重視しているのは、Justin.tvから受け継がれたライブキャスティングの部分なのか、それともビデオゲームなのか。レイ氏は「どちらも重視している」と質問に答える。「ビデオキャスティングの分野では、Amazon、YouTube、Netflixに続く、第4の勢力を目指している。だから接続と回線スピードの質を上げたくてAWS(Amazon Web Services)を利用しているし、Amazonの買収も受けたんだ」(レイ氏)

2014年5月時点では、TwitchはGoogleによる買収を受けると目されていた。だが8月にふたを開けてみれば、Googleではなく、Amazonが1000億円での買収を完了させていた。なぜGoogleは選ばれず、Amazonが買い手となったのだろうか。レイ氏は「Amazonとは、顧客第一の思想が共通していた。それにTwitchの独立性を担保してくれたので、Amazonを選んだんだ」と振り返る。

「実は買収の2年半前から話はあった。Twitchとしてはスケーリングしたい、バックエンドも整えたいと考えていたから、インフラは大事だった。そこをAmazonが対応してくれた」(レイ氏)

超巨大IT企業による巨額の買収ということで気になる、事業への干渉などはなかったのだろうか。「干渉はない。TwitchのDNAはしっかり残されている。変わったことといえば、規模がワールドワイドに広がったことと、社員が何百人にも増えたことかな」(レイ氏)

その“TwitchのDNA”とは一体どういうものなのだろう。「まずはコミュニティありき、コミュニティが一番(大事)ということだね。それから絵文字なんかもDNAかな。アジアでは特に絵文字は大事なんだ」と言うレイ氏は、Twitchがいかにコミュニティを重視しているかについて、「コミュニティによって、事業のロードマップが決まるし、ミッションが決まる」と話している。

「今は(ゲームの)ジャンルは全てにフォーカスしている。それから、(音楽やイラストなどの創作活動を実況する)クリエイティブカテゴリも大切にしている。アジアの場合は、インタラクションを失いたくないという思いも強い。コミュニティとインタラクションが肝だ」(レイ氏)
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加速するeスポーツと日本、アジアでのTwitchの展開

今や一大ジャンルとなったゲーム実況動画。だが何時間も視聴に費やすユーザーがいることを、不思議がる人もいるのでは?と尋ねられたレイ氏はこう答える。「サッカー観戦と一緒だよ。興味がある分野の映像なら、何時間でも見るよね? ゲーム動画を見る動機は、プレイを体験したい、もしくはプレイスキルを学びたい、っていうところから。それって、サッカーと同じだよね」(レイ氏)

そして、まさにサッカーと同様に、ハイレベルのプレイヤーによるビデオゲームの対戦を、競技として楽しみ、観戦し、プロも誕生しているのがeスポーツの世界だ。何千万という規模のアカウントと何千万ドルもの金額が動き、加速するeスポーツについて、レイ氏はこう話す。

「今、eスポーツのアクティブユーザーは1日100万以上。トーナメント数も多くなっている。アジアなら大規模なイベントとして成立する。日本ではまだそれほど大きな動きではないが、それは成長の機会がまだまだある、ということだ」(レイ氏)

他の面でも、Twitchのアジアのユーザーへの期待は高い。「ワールドワイドでは、1ユーザーが1日当たりTwitchで費やす時間は106分。アジアだとそれが300分以上にもなる。コミュニティからのエンゲージメントも高い。ユーザー層はミレニアル世代が中心だ」(レイ氏)

Twitchの売上の大半は、気に入った配信者のチャンネルを月額4.99ドルでサポートする「スポンサー登録」(サブスクリプション)と広告だという。「日本なら(単にスポンサーになった配信者のチャンネルの広告が消えるだけじゃなくて)配信者を“応援”する機能なんかがあるといいかもしれないね」(レイ氏)

日本での展開も具体化に入ったTwitch。レイ氏は東京オフィスと日本での成長について、こう話す。「2017年の成長にフォーカスして、スタッフを採用し、まだリモートで仕事をしているけれどもオフィスも構えるし、コミュニティも作る。また韓国、東南アジアの一部も攻めていくつもりだ」(レイ氏)

コミュニティファーストで、コミュニティからロードマップが決まると話していたレイ氏。日本でのコミュニティについても「2016年は、日本ではデータの収集と言語ローカライズをやってきた。これから、外資のサービスだと気づかれないぐらいのサービスを提供していきたい」と意気込む。

日本の場合、ゲーム実況動画のプラットフォームとしては競合にYouTubeとニコニコ動画がある。ニコニコ動画は既にミレニアル世代のユーザーも多く抱えている。そんな中、Twitchはどのように日本でサービスを広げていくつもりなのか。「Twitchは大手企業からの関心も高いし、そもそもコミュニティ第一主義を採っているのでコミュニティは大切にするけど、競合の存在とかはサービス拡大には関係ないんだ。それにeスポーツの分野は、まだまだ伸びるしね」(レイ氏)

また、モバイルに関しては「ウェブサービスもアプリも、プラットフォームとしては総合的に対応しているつもり。でも特にアジアではモバイルは重要。ロードマップもモバイル中心で考えている」とレイ氏は話してくれた

最後に日本のゲームファンに向けて、レイ氏はこう語った。「Twitchを生活の一部、ゲームスキルの向上やキャリアアップにつなげてもらえるとうれしい。日本のみんなにもぜひ、この体験を共有してほしいな」(レイ氏)

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トップシェアであるからこそ、プラットフォームになり得る──LINE舛田氏が語ったグローバル戦略

LINE取締役CSMOの舛田淳氏

LINE取締役CSMOの舛田淳氏

11月17日から18日にかけて開催されたスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」。ここでは2日目のセッション「日米同時上場のLINE、その次の挑戦」の様子をレポートする。このセッションに登壇したLINE取締役CSMOの舛田淳氏は、米TechCrunch記者のHaje Jan Kampsとの質疑を通じてLINEのグローバル戦略について熱く語った。

まずLINEと他のメッセンジャーアプリの違いについて。舛田氏によれば、LINEは日常的なコミュニケーションに徹底的にこだわってきたという。「日常生活で会ったことのある、プライベートな関係。そんな人達を友だちリストに並べて、その中だけでコミュニケーションを取る。そんなリアルグラフに徹底的にこだわったのが開発当初のLINEの差別化のポイント」(舛田氏)

ユーザー数の伸びに意味はない

LINEは、日本や台湾・タイ・インドネシアなどアジア圏を中心に、2016年9月末時点で2億2000万人のMAU(月間アクティブユーザー数)を抱えている。一方で2016年6月末に比べるとほぼ横ばいと、ここにきて伸び悩んでいるのも事実だ。舛田氏は、グローバル全体のユーザー数の伸びについて、本質的な意味はないと切り捨てる。

「LINEが誕生した2011年から2013年頃まで、我々は『どこまでいけるんだろう』と考えていた。日本発のサービスが海を超え、アジアや欧州でどんどん普及していった。ユーザー数が毎週伸びていくなかで、世界中に足を運んで、現地のパートナーと手を結び、現地のコンテンツを調達してきた」

「ただある時、全体としてのユーザー数の伸びに本質的な意味はないことに気づいた。毎週毎週ユーザーは増えるが、全体的にユーザーが増えることには意味がない。これ(MAU)が3億になっても4億になっても5億になっても、我々の思い描いているLINEというサービスを成功させるためには、意味がないとわかった」

トップシェアである必要がある

米TechCrunch記者のHaje Jan Kamps

米TechCrunch記者のHaje Jan Kamps

「我々のサービスは、その国々においてトップシェアでなければならない。トップシェアであるからこそ、プラットフォームとなり、その先の事業がうまれる。当時を振り返ると、LINEは多くの国で使われていたが、シェアが3位・4位という国が山ほど出てきた。短期的な投資家の観点では、例えば我々がバイアウトを考えていた場合では、ある種の評価がされるのかもしれない。ただ、私達は私達のサービスを戦略的に成長させていきたいという思いがあり、戦略を切り替えた」

「もちろんグーグルやFacebookのように、世界中で使われるサービスもある。しかし、全てがグローバルなサービスになってはいない。日本のApp Storeのランキングを見ても、決してグローバルプレイヤーだけが並んでいるわけでもない。グローバルプレイヤーが勝っていないケースはたくさんある。LINEはまさにその中の1つ」

「ネクストグローバル」はローカルに

「それぞれの国やローカルエリアによって、ユーザーのニーズは違う。(世界で)画一的なサービスを提供しようというのが、少し前のインターネットの形。ローカルから始まってグローバルになったが、『ネクストグローバル』はローカルになった。そこで文化がきちんと意識されて、慣習に合ったユーザーの行動パターンが求められている。そこにうまく最適化したところが、ユーザーを掴むのだと思う」

「我々のグローバル戦略というのは、きちんと1個1個、日本をやって台湾をやってタイをやって、次はインドネシアだと。アジアのマーケットが我々の挑戦すべきフィールドで、そこを押さえることに今は注力している。つまり(各国の)ローカルのユーザーに愛していただくことが、我々の成長に繋がる、結果としてグローバルにチャレンジできるという考え方。2014年後半から4か国に焦点を絞り、アジアフォーカスとして戦略を動かしている」

「(日本できちんとしたポジションがあるから海外に出ていきやすいというのは)あまり関係ないと思う。日本で考えたことをそのままやるというスタンスでは決して無い。日本で作ったものは当然あるが、やはり現地のスタッフが最前線でその国の人達と触れ合い、そこで生まれるアイデアを吸収して、そこで事業を行う。我々の考え方は、その国その国で最も愛されるサービスを作ることだ」

プラットフォーム化に先行してチャレンジしてきた

インドネシアはLINEがフォーカスする地域の1つだ。しかし、BlackBerry Messengerが同国のメッセンジャーアプリのシェア1位を獲得。LINEは2位と後塵を拝している。その点について舛田氏はこう語る。

「インドネシアではBlackBerry Messengerが強い。これはメッセンジャー業界のミステリーだ。とはいえ、ユーザーの属性を見てみると、若いユーザーはBlackBerryではないものをアクティブに使っている。それがLINEだ。そこではニュースが読めたり、ゲームも楽しめる。メッセンジャーだけでなく、メッセンジャーをアクティブにするためのコンテンツやサービスがあったりする」

「バラバラなサービスではなく、例えばニュースを読もうとすると、メッセンジャーを必ず通過する。LINEが持っているメッセンジャーのユーザー体験、それによって我々はインドネシアに注力するのが遅かったにもかかわらず、シェアを2位にまで伸ばすことができた」

「今はスマートフォンを1人1台持ち始めているし、アプリケーションも使われている。ただ調査によれば、スマートフォンで日常的に使われているアプリは10個もない。これは世界中で同じ。世に出ている90%以上のアプリはゾンビ化していて、作っても使われない」

「その代わりにメッセンジャーがそのプラットフォームになってきている。今までOSが担っていたサービスのプラットフォームを担っていたが、今やメッセンジャーが最もユーザーを集めるゲートウェイになり、擬似的なOSとして振る舞い始めている。WeChatもFacebook Messengerもやろうとしている、メッセンジャーの可能性。そこへLINEは先行してチャレンジしてきた」

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VRとARはいずれ統合してMRに──オピニオンリーダーが語るVRの今と未来

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11月17日、18日に、渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。17日のTech Trendセッションには、VR界のオピニオンリーダーで、VR関連スタートアップへの投資を行う米VCのThe Venture Reality Fund(以下VR Fund)ジェネラル・パートナーのTipatat Chennavasin(ティパタット・チェーンナワーシン)氏が登壇した。ティパタット氏は、これまでに1500以上のVR/ARスタートアップを見てきており、14のVR/ARスタートアップに投資、世界中のVRインキュベーターやアクセラレーターでメンターとして支援を行う、VRのエキスパートだ。

『THE BRAVE NEW VIRTUAL WORLD〜Investing in the future of reality(すばらしき‘バーチャル’新世界〜リアリティの未来への投資)』と題されたセッションで、ティパタット氏は、VR/AR業界で起こっている近年の変化と現況、そして近い将来予想される動きについて語ってくれた。

VRとは何か──まずは体験してみてほしい

ティパタット氏は「VRで体験できていることが、ARでも実現できるようになり、VRとARはいずれ統合されて、MR(Mixed Reality)となる。VRとARが私たちの生活を永遠に変えてしまうだろう」と話し始めた。

TechCrunch Tokyo 2016では、最先端のVRが体験できる「VRゾーン」で7社による展示も行われていた。出展内容のほとんどを知っていた、というティパタット氏は、映画『マトリックス』の登場人物・モーフィアスのセリフになぞらえて、「バーチャルリアリティとは何かを知るには、VRを体験することだ。この機会にぜひ、まずは体験していってほしい」と会場に呼びかけた。

ティパタット氏は「身の回り全体にスクリーンが常にある世界がいずれ来る」と言う。「完璧なVR体験とは何か。より多くの感覚を回りの環境に浸透させることだ。視覚、聴覚、自分の動きの感覚があれば“そこにいる感じ”は実現できる。それを実現するハードウェアとして、ディスプレイとスピーカーとセンサーがあり、3次元移動×回転のジェスチャー・コントローラーがある」(ティパタット氏)

VRを説明する分かりやすい例として、ティパタット氏は2Dと3D、そしてVRを比較。「2Dディスプレイと比べれば、3Dシネマの技術では立体感のある映像は見られるが、まだ完全な3Dとは言いがたい。周りの環境全体がディスプレイ化して、からだを取り囲んでいるような体験が得られるのがVRだ」(ティパタット氏)

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ではなぜ今、VRなのか

“VRブーム”の要因をティパタット氏はこう説明する。「ひとつはハードウェアの価格が下がったこと。スマートフォンの普及で身の回り中にスクリーンとセンサーがある状況が生まれた。次に、インタラクティブ・コンテンツの充実。3Dゲームが主流となって、制作ツールの機能が向上し、アーティストや開発者も増えている。それからメディア・コンテンツの発展。Go Proなどの撮影機材の普及でジャーナリストやハリウッド・メディアがコンテンツ制作に参入し、エコシステムができあがった」(ティパタット氏)

またティパタット氏は、VRにつきものだった“シミュレーター酔い”の課題がほぼ解消されたことも、VRの浸透に貢献していると言う。「VRヘッドセットの進化により、技術的な問題は解消している。かつて『ポケモン』のアニメ放映で、激しく点滅するフラッシュ光によって体調を悪くする人が出て問題になったが、原因が分かって、あのようなコンテンツを作る者はいなくなった。それと同じで、VRコンテンツによる酔いは、作り手によって意図されたものでもなければ、VRの前提(としてどうしても外せないもの)でもない。ただし、ヘッドセットのデザインの問題はまだ残っている」(ティパタット氏)

VR業界の現況

それでは、普及へのお膳立てが整ったVR業界は、現在どのような状況なのだろうか。まずはハードウェアでの参入企業をティパタット氏に紹介してもらった。Facebook率いるOculusGear VRのSamsung、PSVRのソニー、Viveを提供するHTCといった、VRヘッドセットのメーカーをはじめ、Google、Microsoft、Appleといった巨大IT企業、そしてPCやスマホ、CPU、GPUメーカーなど、そうそうたる顔ぶれがそろう。

さらに最近はNew York Times、ABC News、Huffington Post、LIFE、Disneyなどのメディア企業の参入も進む。ティパタット氏によれば「メディアのVR業界参入は、将来のコンテンツへの投資として考えられている」という。

VR市場も年々拡大している。「2020年のワールドワイドでのVR市場規模は、404億ドルになると予測されている」というティパタット氏。米国では過去2年で40億ドルが投資されており、VR Fundも参加するVirtual Reality Venture Capital Alliance(VRVCA)で120億ドルの投資が確定。ほかOculusが5億ドル、IMAXが5000万ドルをコンテンツへ投資しており、2020年に最小でも146億ドルの市場規模となると推定されるそうだ。

VRコンテンツや関連商品・サービスは実際に、どのように提供されているのだろうか。ティパタット氏はまず、オンラインゲーム・プラットフォームのSteamの例を紹介。Steamに関する情報を提供するSteam Spyのデータによれば、Steam Storeでは、13万2000点のVive関連商品が扱われている。これは中国を除いた数字だ。Steamでは、VRのみのタイトルで2400万ドルの収入があり、インストール件数は500万。VRコンテンツのトップタイトルには、ゲームだけでなくユーティリティーアプリやIKEAのシミュレーターなども含まれている。

次にティパタット氏が紹介してくれたのは、360度動画の台頭だ。360度動画はYouTubeでもFacebookでも急激にユーザー数を伸ばし、YouTubeで10億ユーザー、Facebookでは17億ユーザーが閲覧しているという。全画面動画は、再生ディスプレイがデスクトップ、スマホのティルト、そしてGear VRなどのモバイルVR機器へと広がったことで、多くの閲覧者を獲得した。

そして、ロケーション・ベースド・エンターテインメントの流行である。ロケーション・ベースド・エンターテインメントとは、装置や設備が備わっていて場所が固定された、VR体験ができるエンターテイメント施設。ティパタット氏によると、日本でも見かけるようになったVRカフェは、中国では既に2000軒あるそうだ。VRゲームセンターも世界各地で開設されている。またIMAXは、6カ所でVRシアターの開設を予定。さまざまなジェットコースターが楽しめる米国のテーマパーク、Six FlagsとCedar Pointでは、VRローラーコースターが導入されている。

これらのVR業界の動向を、最後にティパタット氏作成の全体図で確認。3Dデータ入力のインフラ部分を担うプレイヤーから、ヘッドセットメーカー、コンテンツ制作のためのカメラ、ツール、プラットフォームの提供者、そしてコンテンツ提供者までが俯瞰して紹介された。
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さまざまなVRコンテンツとVRアプリ

ここからは、VRコンテンツのさまざまなカテゴリを少し詳細に、ティパタット氏が紹介してくれた。まずはゲームから。「PSVRでの人気ゲームはシューティングやアクションもあるが、実はジョブシミュレーションなども強い。それから、ナラティブ(物語)エンターテインメントも人気がある」(ティパタット氏)

「コンテンツとしては、先ほども紹介した、テーマパーク、ゲームセンター、カフェといった場所固定のVRエンターテイメント施設、そしてスポーツの分野もある。スポーツでは観戦や、エクストリーム・スポーツを体験するものが人気だ。中国では、スポーツ観戦会場に人が入りきれないような試合もあって、こうしたVRコンテンツのニーズは高い。コンサート、ライブのコンテンツもよく利用されている」(ティパタット氏)

ティパタット氏がこれから特に注目しているコンテンツカテゴリは、教育とのこと。「それから旅行コンテンツも面白いね。旅行したい街をゴジラの視点で歩き回ることもできるだろう。そして報道コンテンツも。シリアなどの危険な戦地をVRで体感すれば、ものの感じ方が変わると思う。New York Timesの360度動画コンテンツは毎日更新されているね」(ティパタット氏)

コンテンツに続いて、各種VRアプリが紹介された。「企業向けアプリでは、デザイン、3Dデータ体感ができるシミュレーターのほか、トレーニング用アプリも出ていて、採掘や重機操作など、すぐに実体験するのが難しい業務で使われている。MicrosoftがVRに投資するのは、こうした動きがあるからだ」(ティパタット氏)

医療分野のアプリは、手術のトレーニングなどに使われるほか、高所・閉所恐怖症などの治療にも利用されているという。「私は、自分の高所恐怖症をVRの治療アプリで克服したんだ。片目だけの視力が弱い患者が、9カ月のトレーニングで症状を改善したという例もある」(ティパタット氏)

「ソーシャル分野のアプリでは、リアルタイムで遠隔地とのコミュニケーションができることに可能性がある。Facebookのマーク・ザッカーバーグも、VRによるソーシャル体験についてコメントしているし、この分野は伸びるだろう」(ティパタット氏)

そして、VRコンテンツも含めた3Dコンテンツを制作するのに必要なのが、クリエイティブアプリだ。ティパタット氏は「(VRによる)完璧な3D環境があれば、インプットをVRで行うことが可能だ。これはコンテンツ制作に応用できる。Mindshowなどはその例だ」と言う。「VRを使えば、3Dコンテンツはより短期間で、より少額で制作できるようになるだろう」(ティパタット氏)

VR業界のこれから

このように、いま盛り上がるVR/AR業界で、今後のチャンスはどういったところにあるのか。

「現在のVRデバイスは、かつてのモトローラ製のブロックのように大きな携帯電話のようなもの。電話がiPhoneへと変わっていったように、VRデバイスも変わっていかなければならない」とティパタット氏は言う。「そのために必要なものは何か。早いスピードと大きなデータ容量を支える回線などのインフラ技術、VRネイティブなメディアや、毎日触れる機会があるVRアプリ、そしてコンテンツ制作の敷居を下げること。さらに、テクノロジー分野でもコンテンツ分野でも新しい投資家が必要だ」(ティパタット氏)

「今後、物質世界の体験とVRでの体験は重なっていく。ARはVRに比べて3年遅れで、開発キットがこれから登場する、といったところ。だが、VRでの開発の知見が生きるだろう」と今後のVR/AR界の展望についてティパタット氏は語る。「だから、VR/ARにどんどん投資しようではないか。そして一緒にVR/ARの未来を作りましょう!」(ティパタット氏)

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産みの苦しみと楽しさを語る―、CTO Nightは木曜夜、集え日本のCTOたち!

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すでにお伝えしているように、いよいよ明後日17日木曜日の夜にTechCrunch Tokyo 2016のイベント内で「CTO Night」を開催する。まだオーディエンスとしての参加申し込みは間に合うので、もう1度イベントについてご案内したい(登壇者の募集は締め切っている)。

TechCrunch Tokyo 2016 CTO Nightは登壇者も参加者も基本CTOばかりという無料イベントで、比較的新しいスタートアップ企業10社から10人のCTOたちが登壇する。技術的観点からビジネスや経営にいかにコミットしてきたかというピッチを披露して讃え合う場で、経験豊富なCTO審査員によって、今年最高に輝いていたCTOに対して「CTO・オブ・ザ・イヤー2016」の称号をお贈りする。

2015年の様子はこちらの記事で詳しくお伝えしている。去年の各発表を紹介する小見出しを並べると、以下の通り。

・「書いたことがなかった」Pythonベースの決済サービスを立ち上げ―BASEの藤川真一CTO
・「Qiitaを良くする」ことに注力―Incrementsの高橋侑久CTO
・Webの力でものづくりを加速―フォトシンス (Akerun) 本間和弘CTO
・2人CTO体制のメリット―トランスリミット 松下雅和CTO
・技術的チャレンジが会社の強み―Vasily (iQON) 今村雅幸CTO
・チームもアーキテクチャも疎結合で非同期―ソラコム安川健太CTO
・「ゴール駆動開発」を提唱―airCloset 辻亮佑CTO
・紙という強敵と戦う―トレタ増井雄一郎CTO

テーマとして多いのは、駆け出したばかりの組織におけるスキルアップや、アウトプット品質向上の方法論だ。

2015年のCTO・オブ・ザ・イヤーに輝いたソラコムCTOの安川健太氏は、「チームもシステムも疎結合で非同期」というもの。ソラコムではチームは1日1回30分の全体進行のシェアをするが、それ以外はSlackで連携しつつ非同期で動くのだという。それを可能にするにはシステムの各モジュールの相互依存を下げるマイクロサービスによる「疎結合」がカギだった。

例年CTO Nightの司会も務めていて思うのは、組織面でも技術的方法論の面でも、スタートアップ企業というのは新しい領域を切り開いている感じがあるなということだ。良く言えば過去に縛られずに「あるべき論」が堂々とできるということ。逆に、参考にすべき基準や経験豊富な人がいなかったりする中で、自分たちのアイデンティティを模索するということもあるだろう。

スタートアップ企業というのは、まっさらな状態からプロダクトや組織、文化を作っていくもの。そこで働くCTOたちは過去の失敗経験から「今度こそ」と理想とするものを追い求めたり、逆に何もかも初めての中で試行錯誤したりしていることが毎年発表からうかがえる。

システムや組織には強い「慣性」が働くので創業10年ともなると、時代の要請や技術トレンドに合わない部分が出てきたりする。そうした違和感を覚えている中堅企業のCTOや、大手エンジニアリーダー層たちにも是非、最新のスタートアップ各社の取り組みについて聞きに来てほしいと思う。CTO Nightへの観客としての参加は無料。CTOか、それに準じる役職者であれば誰でも歓迎だ(一般参加チケットを申し込んでいる方はCTO Nightにもご参加いただけます)。

今年登壇するスタートアップ企業と審査員は以下の通り。

プレイド(ウェブ接客プラットフォーム「KARTE」) 関連記事
クフ(クラウド労務管理「SmartHR」) 関連記事
Repro(アプリ解析・マーケティング「Repro」) 関連記事
・One Tap BUY(スマホ証券「One Tap BUY」) 関連記事
フロムスクラッチ(次世代マーケティングプラットフォーム「B→Dash」) 関連記事
カラフル・ボード(ファッション人工知能アプリ「SENSY」) 関連記事
BONX(ウェアラブルトランシーバー「BONX」) 関連記事
チカク(スマホ・テレビ遠隔連携コミュニケーションIoT「まごチャンネル」) 関連記事
フューチャースタンダード(遠隔カメラ画像処理プラットフォーム「SCORER」) 関連記事
ウェルスナビ(個人向け資産運用管理サービス「WealthNavi」) 関連記事

【CTO・オブ・ザ・イヤー2016審査員】
藤本真樹氏(グリー株式会社 取締役 執行役員常務 最高技術責任者)
安武弘晃氏(元楽天CTO / カーディナル合同会社)
松尾康博氏(アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 ソリューションアーキテクト)
白井英氏(株式会社サイバーエージェント SGE統括室CTO)
和田修一氏(元nanapi CTO)
藤門千明(ヤフージャパンCTO)

CTO Night参加登録は、こちらから

【イベント名称】TechCrunch Tokyo CTO Night 2016 powered by AWS
【日時】TechCrunch Tokyo 2016初日の11月17日木曜日の夜19時30分スタート(90〜100分)
【コンテスト】登壇CTOによる1人7分の発表+3分のQAセッションを10社行い、審査を経て「CTO・オブ・ザ・イヤー 2016」を選出する
【審査基準】技術によるビジネスへの貢献度(独自性、先進性、業界へのインフルエンス、組織運営についても評価対象)
【審査】CTOオブ・ザ・イヤー実行委員会・審査員による
【企画・協力】アマゾン ウェブ サービス ジャパン
【運営】TechCrunch Japan / AOLオンライン・ジャパン
【チケット】無料(参加登録ページ
【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp

TC Tokyoセッション変更のお知らせ:Prismaに代わってPlacemeter CEOが登壇

楽しみにしていた来場者予定の皆さまにお詫びしなければならない。9月に告知していたTechCrunch Tokyo 2016のゲストスピーカー、Prismaの共同ファウンダー兼CEOのAlexey Moiseenkov氏の来日の都合がつかなくなり、17日午前に予定していたセッションをキャンセルしなければならなくなった。

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PlacemeterのCEOで連続起業家のAlexandre Winter氏

代わりに、画像処理技術を使って「実世界コンバージョン率を導き出す」とうたうPlacemeterのCEOで連続起業家のAlexandre Winter氏にご登壇いただくこととなったのでお知らせしたい。

2012年にニューヨークを拠点に創業したPlacemeterは道路・歩道・店舗などの混雑や通行状況をリアルタイムの映像解析で行うクラウドベースのサービスだ。映像は街や店舗に設置するIPカメラで撮影するが、1台90ドルのPlacemeter提供の専用カメラを使うと、画像解析はカメラ内で行うためプライバシーの懸念にも対処している。

今のところPlacemeterの利用用途は商業用途と都市設計の2つがあるようだ。商業地区での店舗出店場所の選定のための基礎データや、ディスプレイの最適化によるコンバージョン率の向上(ウィンドウショッピングから、より多くの人が実際の購買に至るようにする)などだ。

自治体による都市設計だと、例えば先日Placemeterはシスコと組んでパリにおける都市設計の基礎データ収集を行ったという。これは「The Paris Smart City 2020」と名付けらた2014年から2020年にかけて1億ユーロ(約1160億円)の予算をかけて行う都市設計プロジェクトで、パリをエネルギー効率の良い都市に作り変えるのだという趣旨のもとにオープンイノベーションのディスカッション・プラットフォームまで用意して市民を巻き込んだ議論をしている。こうしたとき議論の基礎となるデータとして、人や自動車が区別できるだけは足りないので、Placemeterの画像解析エンジンは歩行者、自転車、オートバイ、自動車、大型車が区別できるように改善されていて、今後は区別できるオブジェクトの種類も15とか20に増やしていく計画だという。例えば、日本に多いスクーターだとか小型トラックなども認識するニーズだ。画像処理では、単にオブジェクトを認識するだけでなく、道路のどこを通っているかも分かるそうで、こうした分解能力の高さはコンピューターによる画像処理ならではという。

今回登壇するAlex自身はもともとはフランス国立情報学自動制御研究所の研究者で、Airbus Defenceで誘導ミサイルの画像処理の専門家として働いていた経験もある。その後、画像処理のスタートアップ企業LTU technologiesをフランスで起業し、これを米国市場でグロース。後に日本企業へ売却している。自分のことを画像処理を専門とするコンピューター科学者であるする一方、ビジネスや起業に情熱を持っている起業家と認識しているという。米著名アクセラレーターのTechstarsでは2014年からメンターも務めている。Alexは画像処理でPhDを取得しているほか、9つの特許を持つ。

ちょっと興味深いのは、Placemeterがシード調達をした2013年頃には、今とだいぶ違う方向性を模索していたこと。2013年に参加していたTechstarsのデモデイでPlacemeterは、将来人々は出かける前に天気予報を見るかのように商業施設や道路の混雑予想を見てから出かけるようになる、と言ってWazeに似たアプリとビジネスモデルを構想していたようだ。

経験を積んだ連続起業家でも「ピボット」と呼ばれる軌道修正をしながらプロダクト・マーケットフィットを模索していることが分かる話だと思う。Alexには、技術シーズと起業家マインドを持つ人たちが持つべき柔軟さやビズデブの重要性についても語ってもらえたらと考えている。ちなみに、これまでPlacemeterは4回のラウンドで784万ドル(約8.3億円)を資金調達している。

TC Tokyoバトル卒業の起業家たちが、再び17、18日に渋谷ヒカリエにやってくる

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17日、18日に迫ったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」だが、この年次イベントは今年で6回目となる。毎年プロダクトをローンチしたばかりか、TechCrunch Tokyoの場でプロダクトをローンチするスタートアップ企業が多数登壇するので、すでに「TCバトル卒業生」は82社。TechCrunch Japanで把握しているだけで5社のエグジットと、310億円を超える累計資金調達額となっている。

そのTechCrunch Tokyoでデビューしたスタートアップ企業たちは、どうしているのか? エグジット、閉鎖、シリーズA、シリーズBとステージはさまざまだが、多くのスタートアップは素早く、力強く、前進を続けている。新機能リリースや業務提携の発表、ユーザーベース拡大など全部をTechCrunch Japanでお伝えしきれないほどだ。

そうした驀進するスタートアップ企業の起業家たちに、再びTechCrunch Tokyoのステージに戻ってきてもらって、過去1年とか2年のアップデートをまとめてお聞きするコーナーとして「プロダクト・アップデート」という形のセッションを予定している。これまでもスタートアップバトル開始前にやっていただくことはあったのだが、今年はここを拡大して、初日、2日目とも多くの起業家にご登壇いただけることとなった。忙しいスタートアップのCEO業務の合間をぬって登壇してくれる起業家の皆さんには、プロダクトの最新情報や市場動向について語っていただこうと考えている。

登壇予定の起業家は、

・クラウド会計「Freee」の佐々木大輔氏
・UI/UX改善プラットフォーム「Kaizen Platform」の須藤憲司氏
・最速で覚えられる英単語アプリ「mikan」の宇佐美峻氏
・スマートロック「Akerun」を提供するPhotosynthの河瀬航大氏
・労務クラウド「SmartHR」の宮田昇始氏
・スマホ証券「One Tap BUY」の林和人氏
・ウェアラブル・トランシーバー「BONX」の宮坂貴大氏
・ロボアドバイザー「WealthNavi」の柴山和久氏
・回路を印刷するプリンテッド・エレクトロニクス「AgIC」の清水信哉氏
・家計簿・会計クラウド「Money Forward」の瀧俊雄氏

の10名だ。各分野のトレンドにキャッチアップする意味でも、ぜひ会場に足を運んで彼らの生の声に触れていただければと思う。

TechCrunch Tokyo、展示ブースとミニセッションステージ「TC Lounge」のご紹介

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年に1回開催しているスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」がいよいよ来週に迫っている。ここ数週間でプログラムの案内をしてきたが、この記事ではメインセッションが行われるホールAの隣、ホールBの「TC Lounge」についてご紹介したい。

渋谷ヒカリエ9階の会場入口を入って正面にあるのがホールAだ。ここでは午前9時よりメインのセッションを行う。ホールBは入口を左に進み、展示ブースが並ぶ通路の少し先にある会場だ。

TechCrunch Tokyo 2016会場案内図

TechCrunch Tokyo 2016会場案内図

今年はこの会場を「TC Lounge」と名付け、今年のスタートアップバトルのファイナリストの展示スペースとした。スタートアップバトルを見て気になるプロダクトやサービスを見つけたのなら、ぜひ「TC Lounge」まで足を運んでチェックしてみてほしい。

また「TC Lounge」のホール奥には、ミニセッションを行うステージを設置している。ここではホールAで登壇したゲストを迎え、カジュアルな雰囲気のQ&Aセッションを行う予定でいる。また、バトル出場スタートアップ以外の展示ブースやVRゾーンでの出展企業を迎えたインタビューセッションも行うので立ち寄ってもらえればと思う。

TC Loungeで開催するミニセッションのスケジュールは以下の通りだ。

初日TC Lounge スケジュール(11月17日 木曜日)

13:50-14:20 展示ブース紹介
14:40-15:00 Tipatat Chennavasin氏(The Venture Reality Fund, General Partner)
16:50-17:10 Raiford Cockfield III氏(Twitch.tv APACディレクター)

2日目TC Lounge スケジュール(11月18日 金曜日)

9:50-10:10 Qasar Younis氏 (Y Combinator COO )
宮田拓弥氏(Scrum Ventures ゼネラル・パートナー)
11:30-11:50 山田進太郎氏(メルカリ、ファウンダー・CEO)
14:10-14:30 展示ブース紹介
15:00-15:20 Edward Kim氏(Gusto共同創業者・CTO)

 

TechCrunch Tokyo 2016では「TC Lounge」以外にも昨年のバトルファイナリストや創業3年未満のスタートアップ総勢60社以上が出展する予定だ。ホールAとホールBのホワイエには、最新のVR技術を体感できる「VRゾーン」も用意しているので楽しみにしてほしい。

echCrunch TokyoのVRゾーンで7つの展示、ビジネスの種を見つけよう

11月17日、18日と約1週間後に迫ったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」において、ぜひ訪れて欲しいのがVRゾーンの展示だ。

HTC Viveのデモ。何もない空間にいるように見えるが、当人はディスプレーに表j8位されている仮想世界にいる(写真は東京ゲームショウ2016の展示)

HTC Viveのデモ。何もない空間にいるように見えるが、当人は上のディスプレーに表示されている仮想世界にいる(写真は東京ゲームショウ2016の展示)

2016年といえば、「VR元年」と呼ばれている年だ。2015年にOculus Riftを手がけるOculus VRが20億ドル(2000億円)で買収された北米はもちろん、コロプラ、グリー、gumiをはじめ国内でもVR業界に積極的に投資している企業が次々と現れている。英投資銀行のDigi-Capitalによれば、いまだに投資額はクオーター単位で右肩上がりになっている。

VRの何がそんなに人々を熱狂させるのか。かぶると映像につつまれて、その中に入った気分になる。CGに触ったり、バーチャル空間を歩いたりできる──。トレンドに敏感なTechCrunch読者なら、そうした言葉を聞いたことがあるかもしれない。現在のVRが置かれた環境を、インターネットやスマートフォンの黎明期と似ていると見る向きもある。

いろいろなメディアがVRの面白さを取り上げるものの、残念ながらその本質は、いくらネットに上がっている記事を読んだり、動画を見てもまったく伝わらない。VR業界では、「百見は一体験にしかず」という言葉がある。その価値を知るためには自分でかぶって体験するしかないのだ。

TechCrunch Tokyo 2016では、VRゾーンを特設して7つの展示を行う予定だ。ぜひ現地で体験してみて、ビジネスのアイデアを得てほしい。

VRゾーン出展社(順不同)
*1日3回、整理券を発行予定です

ドスパラ(株式会社サードウェーブデジノス)
HTC Viveを使ったグリーンバック合成のデモを展示予定。

STEEL COMBAT(株式会社コロプラ)
早期からVRコンテンツ開発に取り組むコロプラより、Oculus Rift向けVR格闘ゲームの「STEEL COMBAT」を展示。

VR CRUISE(株式会社エジェ)
横浜DeNAベイスターズをはじめ、国内で数多くの360度VRコンテンツを手がける同社。Gear VR向けに360度動画の配信プラットフォーム「VR CRUISE」を展示予定。

FOVE 0(FOVE, Inc.)
独自の視線追従機能を備えたVRヘッドマウントディスプレーを展示。3種類のコンテンツを体験できる。

IDEALENS K2(株式会社クリーク・アンド・リバー社)
ケーブルなしで、すぐにVRを体験できるという一体型VRヘッドマウントディスプレー「IDEALENS K2」を展示。

InstaVR(InstaVR株式会社)
不動産の下見や観光案内などに使えるVRアプリ作成クラウドツール。3500社の採用実績あり。

HoloEyes(HoloEyes株式会社)
医療画像データを活用して、人間の体をVR空間で見てコミュニケーションできるというツールを開発。

大型新ファンドの組成、エンジェルの活躍、セレブ投資の加速——投資環境の変化をTechCrunch Tokyoで学ぶ

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いよいよ開催まで1週間弱となったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」だが、まだご紹介できていなかったセッションをここで紹介しよう。

1日目、11月17日の午後には、「変化するスタートアップ投資、その最新動向」と題したパネルディスカッションが開催される。スタートアップ企業の動きが活発になるのと同時に、ベンチャーキャピタルによる投資も増えてきたのがここ数年のスタートアップエコシステムのトレンドだった。だが最近ではそのトレンドにも変化が起きているという。

1つ例を挙げるならば、国内のスタートアップ投資額は増加しているのに、一方で資金調達を実施している企業数は減少している。つまり「集まるところには集まっている」が、資金を集められないスタートアップには厳しい状況になりつつあるということ。ジャパンベンチャーリサーチが9月に発表したところによると、2016年上半期の資金調達額は928億円で、これは2015年の約56%。今後順調に推移すれば2015年を上回る予想だ。だが一方で、資金調達を行った企業数は2014年1071社、2015年946社と減少傾向。2016年上半期は、調達金額不明なものを含めても373社(調達金額判明のみは275社)なのだそうだ。

ほかにも独立系VC、金融系VC、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)に加えて、大学系VCも大きなファンドを組成しており、成長に時間のかかる技術系スタートアップにもVCマネーが回り始めた。さらにはここ数年でイグジットした起業家が、エンジェル投資家としてスタートアップに対して投資を積極的に行うようにもなっている。このセッションでは、そういったスタートアップ投資の変化やトレンドについて、3人の登壇者から話を伺う予定だ。

インキュベイトファンド 代表パートナーの村田祐介氏は、ベンチャーキャピタリストとして投資を行う傍ら、業界の調査を実施しており、JVCA(一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会)などを通じてそのレポートを発表している。またコーチ・ユナイテッド ファウンダーの有安伸宏氏は、自社をクックパッドに売却して以降、エンジェル投資家として積極的に投資を進めている。2人には日本のスタートアップ投資をそれぞれの立場から語ってもらう予定だ。

さらにKSK Angel Fund パートナーの中西武士氏も登壇する。KSK Angel Fundは日本代表でもあるプロサッカー選手・本田圭佑氏が手がけるファンドで、中西氏はそのパートナーとして活躍している(と同時に、Honda Estilo USAでサッカースクールビジネスを展開している)人物だ。海外ではセレブリティによる投資が盛んだがその実情、そしてなによりも、本田氏が投資活動をはじめた思いなどを聞いていきたいと思う。

TechCrunch Tokyo 2016「スタートアップバトル」登場チームはこの20社だ

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いよいよ10日後に迫ってきた「TechCrunch Tokyo 2016」。その目玉企画の1つが、創業3年以内で、今年プロダクトをローンチしたスタートアップがプレゼンで競い合う「スタートアップバトル」だ。

今年は114社がエントリーし、書類審査で20社を選抜。TechCrunch Tokyo 2016では、この20社が参加する「ファーストラウンド」を11月17日に、ファーストラウンドを勝ち抜いた6社で優勝を競う「ファイナルラウンド」を11月18日に開催する。「市場性」「独自性」「将来性」の3点で審査を行い、最優秀プロダクトを決める。

本稿では、書類選考を通過した20社のプロダクトを登壇順にお伝えする。あわせて、書類選考、ファーストラウンド、ファイナルラウンドの審査員もご紹介したい。

スタートアップバトルファイナリスト(登壇順)

TeamHub(株式会社Link Sports)
スポーツチーム向けのコミュニケーションツール

isaax(株式会社XSHELL)
IoT向けの開発プラットフォームサービス

タウンWiFi(株式会社タウンWiFi)
公衆の無料Wi-Fiに自動で接続してくれるアプリ

Newsdeck(株式会社Spectee)
現場の映像をリアルタイムに配信する報道機関向けサービス

AdSpacee(株式会社アドスペイシー)
広告スペースの提供者と広告主をマッチングするサービス

WARP OS(ADAWARP ROBOTICS)
VR遠隔操作で生活を代行する、身代わりロボット用システム

Folio collection(株式会社FOLIO)
リスク許容度に応じた分散投資を自動化する資産運用サービス

Quippy(株式会社Rich Table)
Instagramを活用したレストラン検索

Hacarus(株式会社ハカルス)
スマートフォンを使った食事記録アプリ

Refcome(株式会社Combinator)
社員の紹介による「リファラル採用」を活性化するサービス

電玉(株式会社電玉)
ネット対戦も可能なIoTけん玉

Mobingi SaaS(モビンギ株式会社)
クラウドアプリの開発・運用を自動化するサービス

Smooz(アスツール株式会社)
AIで検索予測を行うモバイルタブブラウザ

Diggle(タシナレッジ株式会社)
企業の予算管理と資金シミュレーション業務を支援するサービス

SCOUTER(株式会社SCOUTER)
転職希望者を企業に紹介することで報酬をもらえるソーシャルヘッドハンティングサービス

シェアのり(株式会社シェアのり)
個人間で車を貸し借りできるカーシェアリングサービス

summon(MOSOMafia)
美容師や整体師など“手に職”を持つ人向けのインスタントECサイト作成サービス

小児科オンライン(株式会社Kids Public)
小児科に特化した遠隔医療相談サービス

chatbook.ai(株式会社ヘクト)
AIでユーザーと対話するチャットボットを開発できるツール

AI Travel(株式会社AIトラベル)
ユーザーが指定した条件をもとにAIが最適なホテル・交通手段を調べ、予約・決済できるサービス

書類審査員

今野穣氏(グロービス・キャピタル・パートナーズ/パートナー、Chief Operating Officer)
澤山陽平氏(500 Startups Japan/マネージングパートナー)
有安伸宏氏(コーチ・ユナイテッド/ファウンダー)
松山太河氏(East Ventures/共同代表パートナー)
西田隆一氏(B Dash Ventures/シニア・インベストメント・マネージャー)
西村賢(TechCrunch Japan編集長)

ファーストラウンド審査員

大山健司氏(日本アイ・ビー・エム、IBM BlueHub Lead事業開発担当)
倉林陽氏(Draper Nexus/マネージングディレクター)
佐俣アンリ氏(ANRI/General Partner)
奈良弘之氏(JETRO/知的財産・イノベーション部イノベーション促進課長)
西田隆一氏(B Dash Ventures/シニア・インベストメント・マネージャー)
野口功一氏(PwC Japan/グローバルイノベーションファクトリー パートナー)
畑浩史氏(アマゾン ウェブ サービス ジャパン/事業開発部 Startup担当マネージャー)
丸山聡氏(ベンチャーユナイテッド/ベンチャーキャピタリスト)
山岸広太郎氏(慶應イノベーション・イニシアティブ/代表取締役社長)
和田圭祐氏(インキュベイトファンド/代表パートナー)

ファイナルラウンド審査員

赤坂優氏(エウレカ/共同創業者)
川田尚吾氏(ディー・エヌ・エー/顧問)
木村新司氏(AnyPay/代表取締役)
国光宏尚氏(gumi/代表取締役)
西村賢(TechCrunch Japan編集長)
松本大氏(マネックスグループ/代表執行役社長CEO)
宮田拓弥氏(Scrum Ventures/ゼネラルパートナー)

※審査員はすべて五十音順