先日の記事はご覧になっただろうか。Instagramには1億3000万もの利用者がいるのだそうだ。
Instagramは、その利用者を失おうとしているのではなかろうか。Instagram Videoの導入は、映画「プリティ・ウーマン」風に言って逃した魚は大きいという結末に繋がりそうな気もしている。
Instagramというのは、他のどのソーシャルネットワークと比較しても「消費」傾向の強いサービスだ。「写真を撮る」ためのサービスだと思っている人も多いだろうが、「撮る」人よりも、それを「見る」人の方がはるかに多い。
利用者がどの程度の割合で写真を撮り、そしてどのくらいの人が写真を見ているのかという、正確な統計データが公表されたことはない。先日リリースされたデータから、その割合を伺うことができる。これまでに登録された写真の数は60億枚だとのことだった。サービスを開始して3年少々に過ぎないことも考えれば、これは相当に大きな数字だということができる。
しかし、Instagramは既に1億3000万の月間アクティブユーザーを抱えるサービスでもある。これらの利用者の中には数百枚ないし数千枚の写真を公開した人もいるだろう。一方で数枚程度しか公開していない人もいて、個人ごとにばらつきがあるのは当然の話だ。それは理解しつつも強引に平均をとってみると、利用者毎の平均投稿写真数は46枚ということになる。
但し、Instagramのアナウンスによれば、写真に対して付される「いいね」の数は1日あたり10億件にものぼるそうだ。これを利用者当たりの数字になおすと、月間230回「いいね」を付けていることになる。
先にも書いたように、数千枚の写真を投稿する人もいれば、ごくわずかしか投稿しない人もいる。昔からInstagramを使っている人もいれば、つい最近になって使い始めたという人もいるだろう。目にする写真のすべてに「いいね」を付けている人もいれば、なかなか「いいね」しない人もいるだろう。しかしいずれにせよ、投稿する写真の枚数よりも、閲覧ないし「いいね」する枚数の方が遥かに多いことは間違いない。
そして、これこそInstagram利用方法の本道であると思うのだ。すなわち、いろいろと写真を見て回って、気に入れば「いいね」をクリックしてみるというスタイルだ。そういう楽しさこそ、多くの人がInstagramに求めているものだと思うのだ。日々の中で、ちょっとした時間に味わう幸せのひとときといった具合だ。新機能の導入は、多くの人の楽しみを奪い去ってしまうことになったと思う。
サービスを開始して3年、内部にはビデオをやりたいという声もあったようだが、写真に専念してやってきた。
そもそもInstagramは、モバイルフォンの低機能カメラで撮影した無様な写真をなるべく綺麗な見せかけでシェアしてみようというものだった。そして大ヒットとなった。以来、モバイルカメラの性能も向上し、そして撮影が一般的となって、撮影者の技術も向上していった。そこに見えてきたのが「ビデオ」という新しいフロンティアだ。
Instagramとしては、写真のケースと同様に、市場がホットなうちに参入を果たしたいという考えだ。ロークオリティなビデオにエフェクトや手ブレ防止を施して、簡単に共有できるようにしようというわけだ。大ヒット間違いなしと考える人もいる。
しかしここで改めて考えて欲しいのが、Instagramは作成ツールとして人気を集めているわけではないということだ。フィルタで加工したり、おしゃれなスタンプをつけて公開できる写真共有サービスはたくさんある。しかしそのいずれも1億3000万もの利用者を獲得してはいないのだ。大量の写真がストリームに流れてくることもない。Camera+やLineを使って写真の加工を行うことができる。しかしInstagramと同じような楽しさを感じることができるだろうか。できないと応える人が多いと思う。
Instagramには、写真を閲覧していくときにこそ感じる大いなる楽しみがあった。しかし今回のビデオ機能の追加により、自らの魅力を大いに減じてしまうことになるのではないかと思うのだ。
魅力を減じてしまうだろうと考える理由のうち、いくつかは対処可能なものだ。たとえば組み込まれてしまったバグなどはなくすこともできる。たとえば、ネットワークの状態がよくないときにInstagramにVideo(たとえばVinstagramなんて呼び方はどうだろう?)があると、読み込む前にスクロールしていくことになるだろう。しかしそのようなとき、ビデオの読み込みが完了すると、そのビデオが既に画面上に表示されていないにも関わらず、音声付きで再生されてしまうのだ。
そうした問題がないにしても、しかし動画がより大きなデータ量を必要とすることには違いない。確かに現在は、多くの人のAndroidないしiOSデバイスはLTE接続を利用していることだろう。しかしもっと遅い速度でネットワークに繋いでいる人もいる。また、どうにも速度の遅いWiFi環境を利用する場合もある。常に快適な通信環境を利用できる保証など、どこにもないのだ。
これまでのInstagramなら、表示するのが写真だけに限られていたために、ネットワーク環境が問題になることも少なかった。
公衆回線もWiFiも、ともに利用できない状況でもない限り、ストリームに流れる写真を眺めて楽しむことができた。ときにアップロード出来ないことはあったかもしれないが、それでも「いいね」をクリックするようなことまでできなくなるということはなかった。
しかしビデオ機能導入により、閲覧して楽しむのにも時間がかかるようになってしまった。個人的にはLTE環境でiPhone 5を使っているが、それでも時間がかかりすぎるようなことが何度もあった。そのような場合、場所を変えてネットワークの様子を見るとか、あるいはWiFiに切り替えるというようなことをしたりはしない。単純にInstagramを終了してしまう。
Instagramは写真の投稿も閲覧も簡単に行えることがウリのひとつだったはずだ。しかしVinstagramになって、少々ハードルが上がってしまったように思う。
問題はネットワーク接続絡みのもののみではない。コンテンツについても問題だ。言うまでもないことだが、Instagramに投稿される写真の全てが美しい、面白い、興味深いものであるわけはない。しかしトリミングやフィルタのおかげで、まずまず見られるものに仕上がっていることが多い。
また、写真というのは慣れてくればそこそこに撮れるようになることもある。根気強く狙えば、まさにベストと言える瞬間をカメラに収めることができたりもする。最初はうまく撮れなくても、何度か撮ってみるうちに、なかなかのものが撮れることがある。そんなときには、うまく撮れたものだけを公開すれば良いわけだ。
しかしビデオとなるとそうもいかない。最大で15秒もの間、魅力的なシーンを映しださなければならないのだ。確かにInstagramにはCinemaと呼ばれる仕組みが有り、手振れを補正してはくれる。また13種類のフィルタも搭載されている。しかしそれでも「どうしようもない」レベルのビデオになってしまいがちだ。
Instagramの投稿者たちが、人の注目しそうなものではなく、つまらないものばかり撮っているにしても平気だ。つまらない食事、コーヒー、ビール、ペット、飛行機の窓からの風景、ときには自分の足ばかり写している人もいる。そうした写真や、道端の鳩などの写真が表示されれば、どんどんスクロールしていけば良いのだ。ただ、隅の方にビデオであることを示すアイコンが表示されると、つい待ってみたくなるのが人情だと思う。何か面白いVinstagramが表示されるのではないかと期待してしまうのだ。
しかしその期待が満たされることはほとんどない。
人々は新しいInstavids(こんな呼び方も良いかもしれない)の魅力を引き出そうといろいろと試してみているところだ。それで今のところはつまらないものばかりが流れているということもできよう。かくいう自分自身もつまらない動画を流している。これまでに2本の動画を流したが、今は後悔している。申し訳なかった。
おそらくは練習を重ねて、上手なビデオを撮ることができる人も増えてくるのだろう。これまで同様に食べ物撮りを練習して、そこそこのクオリティのものが流れてくることになるのだろうと思う。
しかしもしそうなっても、個人的にはInstagramを起動するのに躊躇ってしまうようになると思うのだ。無駄な時間がかかってしまうことになるからだ。
Instagramはそもそも時間を消費するアプリケーションだ。開いてみるのはレストランでオーダーが届くのを待っている時間だったり、トイレでしゃがんでいるときだったり、あるいはちょっとした休憩時間であることが多い。ここに読み込みにも閲覧にも時間のかかるビデオがやってきたわけだ。15秒などさほど長い時間ではなかろうという人もいるだろう。しかし写真を見るのには0.5秒もかからない。いろいろな意味で長い時間を必要とするようになり、Instagramはもはや「隙間時間」に利用できるアプリケーションではなくなってしまった感じだ。
覚悟を持って時間をつぎ込むアプリケーションになってしまったと思うのだ。
Instagram Videoが全く下らないというつもりはない。TwitterのVineも非常な人気を集めている。Facebookは、ソーシャル部門で人後に落ちるつもりはないようで、今や「ソーシャル」にビデオも含まれる状況とはなっている。したがって、Vineの人気をみたからにせよ、あるいは以前から計画していたからにせよ、ビデオサービスを始めること自体は良いと思うのだ。
但し、Instagramには1億3000万もの利用者がいる。しかしうまくいっているものに手を加えるなという言葉もある。Instagramの提供するエクスペリエンスに手を入れてしまうのは非常にリスキーなことだと思う。ただ、対処のしようはある。
たとえば、勝手に名付けているだけだが「フィルターストリーム」を導入してはどうだろう。ストリームに流れてくるものを、写真だけ、Vinstagramだけ、あるいは両方というように設定できるようにするのだ。世の中にはDivvyのように写真関係のストリームをアグリゲートするアプリケーションがある。自分が見たいフィードを自分自身で選ぶことができるものだ。Instagram自身が、そうした仕組みを導入して悪いわけがない。
そうした仕組みが導入されるまで、少なくとも個人的にはInstagramの閲覧頻度を下げることになるだろう。これまでInstagram上で交流してきたみなさん。こちらからの「いいね」が減っても気を悪くしないようにお願いしたい。
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(翻訳:Maeda, H)