バイオバンクの保存血液からiPS細胞の樹立に成功、15万人分の血液が今後の研究に貢献

東北大学東北メディカル・メガバンク機構京都大学iPS細胞研究所は4月11日、東北メディカル・メガバンク(TMM)計画に参加した住民の保存血液からiPS細胞を樹立することに成功したと発表した。これにより、TMMのバイオバンクに保存されている約15万人分の血液細胞から必要に応じてiPS細胞を樹立できる可能性が出てきた。

TMM計画とは、東北大学東北メディカル・メガバンク機構と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構により2013年に開始された取り組み。協力に同意した宮城県と岩手県の住民約15万人以上から提供された生体試料(血液や尿など)や、健康に関わる様々な情報を保管するバイオバンクだ。

東北大学東北メディカル・メガバンク機構は京都大学iPS細胞研究所と2016年に共同研究を開始。そして2018年10月に参加者のうち6人分の血液細胞からiPS細胞を樹立することに成功した。

今回の成果により、TMMのバイオバンクに登録されている遺伝情報などをもとに細胞を選択してiPS細胞を樹立し、それらを分化(iPSから別の細胞を作製)することで、細胞や組織の機能に対する遺伝子型の影響を解析することが可能になる。この研究が進めば、それぞれの患者の遺伝的背景などに応じて最適な治療を行う「個別化医療」の進展に貢献できるすることが可能だという。

MITが「サイバー農業」でバジルの風味を最適化

窓際に置いたプランターにバジルの種をまいて、定期的に水をやりながら育てていた日々は終わりを告げた。機械学習によって最適化された水耕栽培が、より強烈な風味を備えた優れた作物を作るようになった今では、これまでのやり方にはもはや意味がないことなのだ。バジルソースの未来がここにある。

とはいえ、なにもソースを改良したいという願望からこの研究が行われたわけではない。これはMITのメディアラボとテキサス大学オースティン校による、農業の改善と自動化の両者を理解することを目的とした研究の成果である。

PLOS ONEが米国時間43日に発表したこの研究では、与えられたゴールを達成するための栽培環境を発見し、栽培戦略を実践できるかどうかが、研究のテーマだった。今回与えられたゴールは、より強い風味をもったバジルの栽培である。

そのような作業には、変えるべき膨大なパラメータが存在している。土壌の種類、植物の特性、散水の頻度と量、照明などだ。そして測定可能な結果、すなわちこの場合は風味を放つ分子の濃度が得られる。これは、機械学習モデルにうまく適合できることを意味している。さまざまな入力から、どれが最良の出力を生成するかについての予測を下すことができるからだ。

MITのセレブ・ハーパー(Caleb Harper)氏は、ニュースリリースの中で以下のように説明している。「私たちは、植物が出会う経験、その表現型、遭遇する一連のストレス、そして遺伝子を取り込み、それらをデジタイズして植物と環境の相互作用を理解できるような、ネットワーク化されたツールを開発したいと本気で思っているのです」。これらの相互作用を理解すればするほど、植物のライフサイクルをより良く設計できるようになる。そのことによって、おそらく収量は増加し、風味は改善し、そして無駄が削減されるはずだ。

今回の研究では、チームは、風味の濃度を高めることを目的として、植物が受ける光の種類と露光時間の、分析と切り替えに限定した機械学習モデルを用意した。

最初の9株の植物は、バジルが一般的に好むと思われる従来の知識を用いた手作業の露光計画に従って栽培が行われた。栽培された植物は収穫・分析された。次に単純なモデルを使用して、最初のラウンドの結果を考慮に入れ、類似はしているもののわずかに調整された露光計画が作成された。そして3回目にはデータからより洗練されたモデルが作成され、環境への変更を推奨する追加の機能も与えられた。

研究者たちが驚いたことに、このモデルは非常に極端な対策を推奨した。すなわち植物に対してUVライトを24時間休むことなく照射せよというものだ。

おわかりのように、当然これはバジルが野生で生育する方法ではないし、日光が昼も夜も力強く注ぎ続ける場所もめったに存在しない。その意味で白夜が存在する北極と南極は魅力的な生態系だが、風味豊かなハーブとスパイスの産地としては知られていない。

にもかかわらず、ライトを照射しっぱなしにするという「レシピ」は実行された(なんといっても実験だったので)、そして驚くべきことに、このことによって風味に関わる分子が大幅に増加したのである。その量は実験対照植物の倍になった。

「このやり方以外で、これを発見することはできなかったでしょう」と語るのは論文の共著者であるジョン・デ・ラ・パラ(John de la Parra)氏だ。「南極に居るのでない限り、実世界で24時間の光照射を行うことはできません。それを発見するためには人工的な状況が必要でした」。

とはいえ、より風味豊かなバジルは歓迎すべき結果だが、ここでのポイントはそこではない。チームは、この方法で優れたデータが得られ、使用したプラットフォームとソフトウェアが検証されたことをより喜んでいる。

「この論文は、多くのことに応用するための第一歩として読んでいただくこともできますし、これまで開発してきたツールの力をご披露するものでもあるのです」とデ・ラ・パラ氏は語った。「私たちが開発したようなシステムを使うことで、 収集できる知識の量を遥かに素早く増やすことができるのです」。

もし私たちがこの先世界を養おうとするなら、それは黄金色に波打つ穀物。すなわち旧来の農業手法によって、成し遂げられるわけではない。一貫生産、水耕栽培、そしてコンピュータによる最適化。21世紀の食料生産を支えるためにはこれらすべての進歩が必要とされる。

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(翻訳:sako)

WHOがようやく乗り出すヒト遺伝子編集に関するルール作り

米国時間3月19日、WHO(世界保健機関)は新しい諮問委員会の最初の会議を閉会した。人間の遺伝子編集に対する世界的な統制と監督基準を作成するために設立されたものだ。

その委員会は、昨年12月に急遽招集された。昨年、中国の科学者が、CRISPR技術を使って2つの胚の遺伝子を組み換えたことを明らかにしたことを受けたものだ。その研究の目的は、さまざまな形状のHIV(AIDSを発症させる)ウイルスが細胞に感染する際に重大な役割を果たすCCR5遺伝子を除去することだった。

深圳に本拠を置く遺伝学者He Jiankui氏が、結果を公表するやいなや、その研究は中国の内外を問わず、世界中から非難された。

同氏は今、その研究を行った大学敷地内の複合施設内に軟禁されているという。中国政府は、彼の研究が違法であると宣言するために、遅ればせながら行動に出た形だ。

(関連記事:中国当局、世界初の遺伝子操作ベビーを違法と認定

そしてWHOも、ようやくその技術の使用を規制するための最初の一歩を踏み出した。

「遺伝子編集は、著しい治療効果を示すものですが、倫理的にも医学的にも、いくつかのリスクを抱えています」と、WHO事務局長のTedros Adhanom Ghebreyesus博士は、その声明の中で述べている。

WHOの専門家委員会は、ヒトの遺伝子編集に関する研究を統制するために取るべき最初のステップについて、2日間に渡って徹底的に討議した。そこには、臨床応用に取り組むのは無責任である、という基本合意が含まれている。

また委員会では、ヒトゲノムの編集に関して行われているすべての研究を一元的に登録する仕組みを作ることを、WHOに提言している。進行中のすべての研究を1つのデータベースで管理するというものだ。

「この委員会は、この新しい技術に取り組むすべての人々にとって不可欠なツールとガイダンスを策定し、人間の健康に対する最大の利益と最小のリスクを確実なものとします」と、WHOのチーフサイエンティストであるSoumya Swaminathan博士は、声明の中で述べた。

画像クレジット:VICTOR DE SCHWANBERG

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

培養肉による食品革命を甲殻類のエビに広げるShiok Meats

自然由来のたんぱく質や肉に代わる人工的な食材は今、消費者の関心が高まり、その企業には何億ドルという資金が殺到している。しかしビーフやチキンを培養する企業は多くても、シーフードの人工製品に関心を向けている企業はほとんどない。

Shiok Meatsは、この状況を変えようとしている。同社はシード前の資金をAIM PartnersやBoom Capital、Ryan Bethencourtなどから調達し、来週はY Combinatorの仲間たちに加わってプレゼンを行う。

共同創業者ーのSandhya Sriram氏とKa Yi Ling氏はともに、シンガポール政府の科学技術研究局にいた幹細胞研究家で、居心地のいい政府のポストを完全に捨てて起業という高速レーンに乗ることにした。

二人が定めた目標は、食料品店の冷凍コーナーに収まっているエビの代替品を作ることだ。ついでに、スープに入れるエビ団子用に最初からみじん切り状のエビも作りたい。

シーフードのの全地球的な市場規模は巨大だが、とくにアジアと東南アジアは甲殻類が頻繁に食される。国連食糧農業機関の2015年の調査によると、中国の消費者だけでも360万トンの甲殻類を消費している。

しかし、エビの養殖の現状は、かなり汚いビジネスだ。その業界は劣悪な労働条件と不衛生な養殖池と環境破壊をこれまで頻繁に批判されている。AP通信社の特ダネ記事は、タイのシーフード業界に存在する現代の奴隷制を暴露した。

「最初にエビを選んだのはカニやロブスターに比べて扱いやすいからだ」とShriram氏は述べるが、今後は高級な甲殻類にも挑戦するつもりだ。

今は、もっぱらエビが対象だ。初期のテストはうまくいったし、製品のキログラム単価は5000ドル程度に抑えられる見込みだ。

5000ドルは高いと思われるかもしれないが、でも今製品開発が進んでいる培養ビーフに比べると相当お安いのだ。

「培養肉や人工肉に比べると、うちの人工エビは安い。あちらさんはどれも、数十万ドルというキログラム単価だから」とLing氏は言う。

同社は、3年から5年後には市販にこぎつけたいと考えている。最初は、アジア太平洋地域の消費者がターゲットだ。

具体的には、まず本国市場であるシンガポール、次は香港とインド、そして最終的にはオーストラリアでも売りたい、という。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

蠅テックのムスカが新経営陣発表、元三井物産の安藤氏、元ゴールドマン・サックスの小高氏が加わる

ムスカは3月7日、新たに経営陣に加わった2名を発表した。取締役/暫定COOとして元三井物産の安藤正英氏が1月30日付けで就任、取締役就任候補者として元ゴールドマン・サックス証券のパートナーだった小高功嗣氏を招聘した。小高氏は、3月開催の株主総会で選任予定。両名が経営陣に加わることで、グローバル展開における事業戦略と大型資金調達を加速させるとのこと。

ムスカは超抜イエバエを利用し、超短期間で有機廃棄物の肥料化・飼料化する技術を持つ

同社は、福岡県を拠点とする2016年設立のスタートアップ(研究拠点は宮崎県児湯郡都農町)。旧ソ連の研究を買い取って引き継ぎ、45年超1100世代におよぶ選別交配を重ねたイエバエを使って、生ゴミや糞尿などの有機廃棄物を約1週間で肥料・飼料化するテクノロジーを有する。2018年11月にTechCrunch Japanが開催したTechCrunch Tokyo 2018の「スタートアップバトル」で、エントリーした100社超の頂点である最優秀賞に輝いた企業でもある。

取締役/暫定COOの安藤正英氏

取締役/暫定COOの安藤氏は、三井物産で事業会社経営、事業戦略、プロジェクトマネージメントなどに関わり、ファイナンス、M&A、営業、人事総務などの実務にも従事した経験のある人物。その後、アナダルコペトロ リアム社でモザンビーク天然ガス開発プロジェクトのファイナンス部門統括マネージング・ ディレクターに就任。文科省主導の官民協働プロジェクトを経て、2018年11月29日にムスカに入社した。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院にて経営学修士(MBA)を取得している。

取締役に就任予定の小高功嗣氏

小高氏は、1987年に弁護士となり佐藤・津田法律事務所に入所。1990年8月、ゴールドマン・サッ クス証券会社に入社し、1998年11月にマネージング・ディレクターに就任。そして、2006年11月にパートナーに。2009年11月に西村あさひ法律事務所に入所した後、2011年に小高功嗣法律事務所を開業した。現在、LINE社外取締役、Apollo Management Japan代表、ケネディクス社外取締役、FiNC Technologies社外取締役、FUNDBOOK社外取締役を兼任している。シカゴ大学ロー・スクール修士を取得。

ムスカ代表取締役会長の串間充崇氏

3月1日に丸紅との提携を発表したばかりのムスカだが、今後も国内外の企業との戦略的パートナーシップの提携を進めていくという。今回、海外事業や大型の資金調達を手がけた経験のある人材が経営陣に加わることで、ムスカの世界戦略に向けたスピードが加速するのは間違いないだろう。なお同社は、2019年中にPoC(Proof of Concept、概念検証実験)ラボ、そしてパイロットプラントの建設を予定している。

骨髄移植で2人目のHIV治療成功例、遺伝子療法に新たな期待

HIVの患者が完治したと最初に診断されてから12年経って2人目の完治例が出たことが判明した。New York Timesの記事によれば、AIDSの原因となるHIVの治療には1人目の例に似た治療が施され、完治が確認されたという。この治療の詳細は明日、Natureで発表される。.

ニューヨーク・タイムズのインタビューに答えた専門家によれば、「HIVは治療可能と確認されたが、新治療が広く普及して成果を挙げるようになるには依然としていくつかの大きなハードルが残っている」という。

詳細な論文は今週シアトルで開催されるConference on Retroviruses and Opportunistic Infections(レトロウイルスと日和見感染症カンファレンス)で発表される。

今回成功した治療は骨髄移植に伴うものだった。ただし骨髄移植はガンの治療のためで、HIV治療が当初の目的ではなかった。

骨髄移植にはさまざまなリスクと副作用があるため、ただちにHIVの治療方法として用いられるようになるとは考えられていない。現在、HIV感染に対してはウィルスの活動を抑制するのに効果のある各種の薬剤が投与されている。しかし研究者は免疫機能を失った細胞を正常な細胞に置き換えることでHIVを治療する可能性が確認されたと考えている。

オランダのユトレヒト大学医療センターのAnnemarie Wensing博士はインタビューに答えて「根本的な治療が夢ではないことが確認できたことに勇気づけられます」と述べた。

Wensing博士は幹細胞移植によるHIV治療の可能性を研究するヨローッパの専門家チームの共同リーダーだ。

論文の発表に先立って、アメリカのAIDS研究組織、AMFARの支援を受けるIciStemが今回成功した治療の概要を紹介している。

これによれば、12年前に今回と同じカンファレンスでドイツの医療チームが白血病治療のために骨髄移植に伴ってHIVの治療が成功したことを発表していた。

以降、いくつかの医療グループがこの治療を繰り返したが、ほとんど、あるいはまったく効果をあげることができないでいた。つまり患者はガンで死亡したり、抗ウィルス剤の投与を止めるとウィルスの活動が再開された。

この治療法のもっとも重要な点はCCR5と呼ばれるタンパク質の一種だ。HIVが免疫機能を司る白血球T細胞に入り込むためにCCR5を利用することが知られている。このタンパク質には変異体が存在し、ウィルスがT細胞に取り付くことをブロックする。このタンパク質を持つ人々はある種のHIVに対する耐性が高い。

しかし骨髄移植による治療では最初の患者は危うく死亡するところだった。そこでそうした危険なしにHIVの完治、つまり抗ウィルス剤の投与を止めた後でもHIVの活動が再現しないような効果を得ることが大きな課題となった。

今回の患者は血液のガンであるホジキンリンパ腫の治療の一環として骨髄移植を受けた。この際、ドナーの骨髄がCCR5変異型だったため、患者のT細胞がHIVウィルスに対する耐性を獲得したものとみられる。なお患者は免疫抑制薬の投与も受けていた。

患者は2017年に抗ウィルス剤の投与を中止したが、その後HIVウィルスの再発現は見られず治療は成功した判断された。

ただし完治といっても「抗ウィルス剤の投与を止めた後もウィルスの活動が見られない」ということであり、将来にわたって確実にこれが続くという保証は今のところない。患者は引き続き各種のテストを受けており、医療チームは再発の兆候がないか慎重に見守っている。

最近、CCR5タンパク質を利用してHIV対策に役立てようとした例はこれが唯一ではない。中国の南方科技大の賀建奎(He Jiankui)副教授はDNA改変ベビーを誕生させたものの、現在は監禁状態に置かれている。賀博士はこの際、CCR5を変異させて(おそらくは)HIV耐性も高めていた。

もちろん遺伝子操作を行って女児を誕生させるのは時期尚早であるだけでなく手続きにも問題があり、厳しい国際的非難を浴びた。しかし企業の研究者はHIVを治療するために遺伝子改変テクノロジーを利用しようとしていることも事実だ。

ニューヨーク・タイムズはCCR5を利用した治療はAIDS患者のほぼ半分に発見される特定の種類(マクロファージ指向)のHIVウィルスにのみ効果があると指摘している。これ以外のHIVウィルスは免疫細胞に入り込むために別のタンパク質を利用している。X4と呼ばれるタイプのHIVウィルスはCXCR4タンパク質を使っているということだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ナノ粒子を注射することで赤外線を「見る」ことができるようになる

誰でも、自分たちの視覚システムに割り当てられている波長の外側の世界をみることに憧れている。ということで、いつものことではあるが、実験用マウスたちが賢い科学者たちの助けを借りて、その世界への一番乗りを果たした。光を調整する特殊なナノ粒子をマウスの網膜に注入することで、そのマウスが突然明瞭に近赤外光を知覚することができるようになったのだ。つまり私たちにもそうしたことが可能だということを示唆している。まあ、目に針を突き刺すことを気にしなければの話だが。

この進歩には、中国の科学技術大学の研究者たちが「眼内注射可能な光受容体結合アップコンバージョンナノ粒子」と呼んでいる分子が使われている。実際にはその名前ほど複雑なものではない。いや、実際のところはかなり複雑な代物だ。

人間の目は、約430から770ナノメートルの間の波長の光しか見ることができない。それより短いものは紫外線(UV)、長いものは赤外線(IR)である。赤外線は目に見えないが、十分な量があれば、赤外線が伝える熱を感知することができる。すべての物体が赤外線を発しているが、温かいものほどより多くの赤外線を発する。これが暗視ゴーグルの基礎となっている。

しかし赤外線は私たちの知覚能力から外れているものの、私たちが知覚できる赤色のすぐ隣に、近赤外線(NIR)という名で知られる帯域がある。もしそのNIRを、ある種の光学トリックで波長を短い側にシフトすることができたらどうだろうか?考えてみれば、ある種の光やエネルギーを他の種類のものに変換することなら、私たちはいつでもやっている。

実際、研究者たちは、必要な仕掛けを既に別の目的で発明済だったことがわかった。その仕掛けとは光遺伝学的トリガーに必要な分子であり、赤外線を吸収し可視光を発することができる(便利なことに、赤外線は多くの組織を貫通することができる)ものである。

ナノ粒子は視細胞(杆体および錐体)に結合し、それらの表面を覆って検知可能な波長を変化させる。

研究者らが「ナノアンテナ」と呼ぶこれらの物質は、生体適合性があり、私たちの網膜内にある光受容細胞(視細胞)へタンパク質を介して結合することができる。通常は緑色の光を検出する細胞を、近赤外線(900〜1000nm)を吸収してそれよりも波長が500nm短い光を出力する分子でコーティングするとどうなるだろう?そうすることで、その細胞は赤外線を、緑色の陰影ならびに強度として見ることができるようになる。

ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像

これこそが、チームがこれらの分子をマウスの目に注入したときに起きたことである(そのような網膜下注射はすでに人間でも、目に問題を抱えた患者に対して行われている)。動物は様々な状況で即座にNIRを感知することができた。IRのビームが瞳孔を収縮させただけでなく、 報酬を示すIRで投射されたパターンがマウスたちによって確実に感知された。これは一般的な知覚ではなく、波長による詳細な知覚であることを示している。

これは映画などで見られるカラフルな「ヒートビジョン」とは異なるものであることに注意して欲しい。暗視ゴーグルは電子センサーを使用して可視範囲外の入射光線の増幅と分類を行い、興味深いノイズの多い虹色の画像を生成するものだ。それに対して今回のものは、冷たいものに比べて、温かいものを同じ色で少しばかり明るく(そしてより緑色ががったものとして)見ることに似ている。さらには、テレビの赤外線リモコンが発する小さな光のパターンを見ることさえできるだろう。

この分子はまた、細胞の壊死や刺激といった、網膜への深刻な問題を引き起こすことはないように見える。そして注射を受けたマウスたちは10週間経ってもまだIRを見ることができていた。

チームは彼らの調査結果の重要性を以下のように説明している:

注入されたナノアンテナが、自然の可視光による視野を妨げなかったことに注意することが重要である。可視光と近赤外光のパターンを同時に検出できる能力は、遺伝的改変や大型の外部デバイスの必要なしに、生来の可視スペクトルを拡大することで、哺乳類の視覚性能の向上が可能であることを意味する。この手法には、現在使用されている光電子デバイスを上回る利点がいくつかある。例えば外部からのエネルギー供給が不要なことや、通常の人間の活動と両立するということだ。

言い換えれば、これは現在の人間の能力をはるかに超えて、人間の視覚を拡張するための簡単で、安全で、そして可逆的な方法であり得るということだ。しかもバッテリー不要なのだ。気まぐれでやってみるようなものではないが、軍隊が興味を持つということは想像できる。もちろん、さらに多くの研究とテストを行う必要があるものの、これはナノテクの特に有望な応用の1つだろう。

本研究は、米国時間の2月28日にCell誌に掲載された

画像クレジット: University of Science and Technology

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(翻訳:sako)

超抜イエバエで世界のタンパク質危機を解決するムスカ、創業者が秘める熱い想い

ムスカは、2018年11月にTechCrunch Japanが開催したTechCrunch Tokyo 2018の「スタートアップバトル」で最優秀賞に輝いたスタートアップだ。スタートアップバトルは同イベントの目玉の1つで、設立3年未満、ローンチ1年未満の製品やサービスを持つスタートアップが競うピッチイベント。昨年も100社超がエントリーし、書類選考でファイナリスト20社を選出。そして、TechCrunch Tokyo 2018の初日のファーストラウンドで6社に絞り込まれ、2日のファイナルラウンドで最優秀賞が決まった。

TC Tokyoの最優秀賞に輝いたあともムスカは、2019年1月にデロイト トーマツ ベンチャーサポートと野村證券が開催した「Morning Pitch Special Edition 2019」でオーディエンス賞を獲得。そして、2月にICCパートナーズが開催した「ICCサミット FUKUOKA 2019 」の「REALTECH CATAPULT」で優勝した。そのほか各種メディアに何度も掲載されたので、知っている読者も多いことだろう。

怒濤の勢いで成長している感のあるムスカ。同社の現在、過去、未来について会長の串間充崇氏に話を聞いた。

ムスカ代表取締役会長の串間充崇氏

イエバエを使った肥料・飼料の生産システム

TechCrunch読者にはもうおなじみかもしれないが、まずはムスカという会社を紹介しておこう。同社は、イエバエを利用した肥料・飼料の生産プラントを手がける、2016年12月に設立されたスタートアップ。ネットサービスが全盛のスタートアップ業界では珍しい存在で、歴代スタートアップバトルの最優秀賞企業の中でもかなり異色だ。ムスカ(MUSCA)という社名は、イエバエの学名である「Musca domestica」が由来。

同社は会社設立後に事業計画の作成や各種研究調査などを経て、2018年7月から本格的な資金調達を開始。2019年には第1号となるテストプラントを建設する予定となっている。TechCrunch Tokyoなどの各種ピッチイベントには、会社設立時に広報責任者としてムスカに参画し、のちに暫定CEOとなった流郷綾乃氏の登壇が多いが、ムスカ設立前からイエバエを使った飼料・肥料の拡販システムを考案・研究してきたのが串間氏だ。

ムスカ暫定CEOの流郷綾乃氏

具体的には、ソ連が45年の歳月をかけて研究してきた1100世代以上の交配を続けたイエバエを使った肥料・飼料の生産システムを開発。通常は早くても1カ月以上はかかるとされる生ゴミや糞尿の肥料化を、サラブレッド化したイエバエの幼虫を使うことで1週間で処理できるのが特徴だ。さらに羽化する前に捕獲・乾燥させることで、幼虫が動物性タンパク質の飼料に変わるという。

爆発的な人口増加によって2025〜30年ごろに訪れる肉や魚などの動物性タンパク質の枯渇、いわゆるタンパク質危機を、ムスカは独自のイエバエ循環システムによって解決しようとしているのだ。

サラブレッド化したイエバエによって、生ゴミや糞尿を約1週間で肥料化できる

設計技師から商社に転身

なぜ串間氏はイエバエの事業を始めたのだろうか。それは20年ほど前に遡る。串間氏は20代前半のころ、電力会社で設計技師をしていた。すでに家庭もあったのだが、たまたまテレビで見たニュース番組で知ったロシアの科学、宇宙、軍事の技術の技術に強い関心を持ったという。この技術を利用した事業を広めたいという想いから、夫婦ともども電力会社を退職して串間氏の故郷でもある宮崎県に戻ることになる。

そしてその宮崎県で、ロシアの技術を買い取って企業に紹介するという事業を営んでいたフィールドという商社に転職。この会社の社長だった小林一年氏は、ソ連崩壊後のロシアに出向き、研究開発費も給料も出ない状態の研究機関などから有望な技術を買い取って国内の企業に紹介するという事業を手がけていた。科学者の口コミから小林氏の存在がロシアに広まり、さまざまな技術の売買が始まったという。実際に1000件ぐらいの技術を扱ったそうだ。

串間氏は「最も尊敬している起業家は?」という問いに対して、真っ先に「小林氏」の名を挙げ、「彼に衝撃を受けて人生の道筋が決まりました」と答えてくれた。ちなみに最も影響を受けた書籍という問いにも、小林氏が執筆した、イエバエがフィールド社にやってきたときの歴史秘話「寒い国(ロシア)から授かった知恵―ジオ・サイクル・ファーム」(ごま書房刊)を挙げてくれた。

ポテンシャルの高さを実感し、イエバエ事業を分離独立

その後、串間氏は先代社長が会社を畳む際に人脈やノウハウなどを継承して2006年にアビオスという法人を設立。そして、フィールド、アビオスが取得、培ってきたイエバエの技術だけを2016年に事業として分離独立したのが現在のムスカとなる。

串間氏によると「先代社長は完全循環型の町作りを目指していて、その枠組みの中でイエバエの技術に注目していました」とのこと。当時は、自分が使うものとして繁殖させるのみで、現在のムスカが計画している拡販などは想定していなかったそうだ。のちにイエバエのポテンシャルの高さを実感し、大学との共同研究で安全性の確認などを進めていったという。

串間氏によると「イエバエの生命力は強いため、実験プラントのある温暖な宮崎県だけでなく、北海道などの寒冷地などでもプラントを建設できる」とのこと。現在では、日本国内だけでなく米国やEUでも販売できるレベルに達しているそうだ。

狙うはナスダック上場

2018年7月ごろから資金調達を始めたムスカ。会社の規模は現在、経営陣、研究員、インターンを合わせて15名ほど。人手はまったく足りていないないそうで、最重要ポイントを「ムスカのビジョンに共感してもらえる人」としてを人材を募集している。

2019年中に着工を予定しているというパイロットプラントにかかる費用は10億円程度だそうだが、現在のところ調達は順調に進んでいるという。またその前に、パイロットプラント建設に向けた概念検証実験(Proof of Concept)としてPoCラボを建設することも決まっている。同社の主な調達先は、個人投資家とムスカとの協業によって事業の幅が広がる企業が中心のこと。現時点では国内での上場ではなく、ナスダック(NASDAQ)への上場を考えているため、ほかのスタートアップとは資金調達の方法が異なる。

自分にとってイエバエは「人類を救うテクノロジー」だという。昆虫の力はまだまだ積極的に使われていないが、必ず人類の役に立てると確信している。人類の救う手段だと思っている」と串間氏。そしてムスカとしては、「とりあえず私たちのプラントを世界中に普及させること、そしてそれで世界の食糧危機を解消すること、それに向かって突き進んでいく」と力強く語ってくれた。

血液検査を数分に短縮するバイオテックAIスタートアップSight Diagnosticsが278万ドルを獲得

イスラエルの医療機器スタートアップSight Diagnosticsは、AI技術による高速な血液検査技術に278万ドル(約3億0700万円)のシリーズC投資ラウンドを獲得した。

同社はOLOと呼ばれるデスクトップ型装置を開発した。患者の血液をそのまま垂らしたカートリッジを手で挿入すだけで、解析が行われるというものだ。

この新規資金は、同じくイスラエルに拠点を置くベンチャーキャピタルLongliv Venturesと、多国籍コングロマリットCK Hutchison Groupのメンバーからもたらされた。

Sight Diagnosticsによれば、とくにに技術的、商業的拡大を支援するシリーズC投資を求めていたと言う。この分野のCK Hutchison Groupのポートフォリオには、ヨーロッパとアジアの1万4500件以上にのぼる健康、美容関連企業が含まれており、Sight DiagnosticsのOLO血液検査装置の市場開拓ルートは確保された形だ。

このラウンドに含まれるの他の戦略的投資家には、医療系慈善事業家でNicklaus Children’s Health Care Foundation(ニクラウス子ども医療基金)の理事でもあるJack Nicklaus2世、医療系インパクト投資家Steven Esrick、そして匿名の「大手医療機器メーカー」も含まれている。

Sight Diagnosticsはさらに、この装置を「世界の主要市場」に送り込むための戦略的パートナーも探していると話していた。

共同創設者でCEOのYossi Pollakは、声明の中でこう話している。「私たちは、次世代の診断によってすべての人の健康を増進させるという私たちの社命を心から信じてくれる、そしてとりわけ重要なこととして、金銭的支援を超えた大きな価値を与えてくれる個人または団体を探しました。すでに私たちはヨーロッパ全域での手応えを感じていますが、世界の主要市場でOLOを展開してくれる戦略的パートナーも増やしたいと考えています」

同社はまた、今年中に「ヨーロッパのいくつもの国」で、消費者が実際にOLOを利用できるようになることを期待しているという。

シリーズCには、OurCrowd、Go Capital、New Alliance Capitalといった投資会社も参加している。2011年に創設されたばかりのこの医療技術系スタートアップは、昨年にシリーズAとシリーズBを獲得したばかりなのだが、今日までに500万ドル(約5億5525万円)以上を集めた。

「私たちはヨーロッパの、とくにイギリスとイタリアの有望な顧客の協力を得て試験を行ってきました」と、共同創設者Danny LevnerはTechCrunchに話してくれた。「ヨーロッパは、パイロット試験、つまり大手顧客の所有する施設で現実的な条件のもとで行った細かい臨床評価が、市場の受け入れにつながる土地です。こうすることで、ユーザーはこの装置ならではの性能を体験でき、それが大量の初注文につながり、やがては広く普及することになります」

この資金は、アメリカの規制をクリアしてOLOの認可の得るために、米食品医薬品局(FDA)で実施中の一連の審査を通すための活動にも使われている。現在は、規制当局に資料を送り審査を待っている状態だと、Levnerは話していた。

「2018年12月、アメリカの3つの臨床現場での試験を完了し、今月末にFDAにデータを送ることになっています。私たちの望みは、510(k)FDA申請を行い、CLIA(臨床検査改善修正法)認証を受けた研究室での使用を可能にして、続けてCLIA免除手続きによって、すべての診療所で使えるようにすることです。私たちはアメリカでの試験結果に大変に満足しています。1年以内に510(k)FDA申請が通ると期待しています」と彼は話した。

「現在調達した資金を元に、まずイギリス、イタリア、北欧諸国を皮切りに、ヨーロッパ市場での商品化にフォーカスしてゆきます」と彼は言う。「アメリカでは、腫瘍学と小児科に新しい市場を探しているところです」

投資は、OLOで対応できる血液検査の範囲を広げるための研究開発にも使われる。

以前、彼らはTechCrunchに、その装置を、血液検査のポートフォリを管理できるプラットフォームに発展させたいと語っていた。血液検査を重ねることで、「個別の医院の検証」を経て、個人の結果が蓄積されるというものだ。

最初のテスト用OLOでは完全血球算定(CBC)が行われ、機械学習とコンピュータービジョン技術を使って、患者の指先から採取した1滴の血液の高解像度写真のデジタル化と解析が装置内で実行される。

それは、静脈血を採取して遠くの検査施設で解析を行うという今の方法に取って代わるものだ。OLOによるCBCは、ほんの数分で完了すると宣伝されている。OLOなら専門家でなくても簡単に実行できるという。血液検査は、専門機関に外注し、解析結果を数日間待つというのが現状だ。

研究開発の側では、Levnerは、OLOで白血病や鎌状赤血球貧血などの血液の疾患の診断を行うといった「膨大な可能性」を感じているという。

「指先から血液を少量だけ採るという低侵襲な検査方法のため、新生児スクリーニングにもOLOが使える可能性があります」と彼は言う。「そのため、次なる喫緊のステップは、新生児スクリーニングのための検査手順とアルゴリズムを確立させることです」

Lenverが私たちに話したことによると、パイロット試験では「オペレーターと患者の高い満足度」も認識できたという。「この試験で際立っていたのは、OLOの指先から血液を少量だけ採取する方法が好評だったことです」と彼は話す。

ひとつ注意すべき点として、Sight Diagnosticsがまだ、OLOの臨床試験に関する論文審査の結果を発表していないことがある。昨年7月、論文審査のある雑誌での論文掲載が保留されていることを、彼らはTechCrunchに伝えている。

「審査を経た論文の出版に関して、私たちはイスラエルでの臨床試験の結果と、アメリカで終了したばかりの臨床試験結果を組み合わせて、より確実な内容にしようと決めました」というのが現在の同社の話だ。「アメリカのFDAの認可を得てから、論文に集中しようと考えています」

[原文]
(翻訳:金井哲夫)

米DARPA、傷負戦士のためにスマート包帯を研究中

戦場ほど迅速で効果的な医療が重要な現場はない。DARPA(米国国防高等研究事業局)は、インテリジェント包帯を始めとする患者の要求を予測して自動的に処置するシステムを使って状況を改善しようと考えている。

通常の切り傷や擦り傷は、ちょっと保護してやるだけで、あとは人間の驚異的な免疫システムが引き受けてくれる。しかし兵士ははるかに深い傷を負うだけでなくその複雑な環境は治癒の妨げになるだけでなく予期せぬ結果を呼ぶ。

DARPAの組織再生のための生体電子工学プログラム(BETR)は、新たな治療方法と装置を開発し、「創傷の状況を細かくに追跡し、治癒過程をリアルタイムで刺激することにより組織の修復と再生を最適化する」。

「創傷は生体現象であり、細胞と組織が連携して修復を試みるにつれ条件が急速に変化する」とBETRのプログラム・マネジャー、Paul SheehanがDARPAのニュースリリースに書いた。「理想的な治療は、創傷状態の変化を感知して治療介入することで正確かつ迅速な治癒を促すことだ。たとえば、免疫反応の調節、創傷が必要とする細胞型の動員、治癒を早める幹細胞の分化などへの介入が考えられる」

どんな治療が行われるかは想像に難くない。スマートウォッチはいくつもの生体信号を監視する機能を持ち、すでにユーザーに不整脈などの警告を与えている。スマート包帯は、光学的、生化学的、生体電子的、機械的を問わず得られる信号は何でも使って患者を監視し、適切な治療を推奨し、あるいは自動的に調節する。

簡単な例を挙げると、特定の化学的信号によって創傷がある種のバクテリアに感染していること包帯が検知したとする。システムは処方を待つことなく適切な抗生物質を適切な分量投与し必要な時点で中止する。あるいは、スマート包帯がせん断応力を検知したあと心拍の上昇を検知すると、患者が移動されて痛みを感じていることがわかる。そこで鎮痛剤を投与する。もちろん、これらの情報はすべて介護者に引き継がれる。

このシステムにはある程度人工知能が必要だが、適用範囲はごく限られている。しかし生体信号にノイズが多いときには機械学習が強力なツールとなってデータ識別に活躍するだろう。

BETRは4年間のプログラムでDARPAはその間にこの分野にイノベーションを起こし、治療結果を著しく改善する「クローズドループの適応システム」を作りたいと考えている。このほかにも、戦闘中に重傷を負った多くの兵士が必要とする人工装具のオッセオインテグレーション手術に対応したシステムも求められている。

こうしたテクノロジーが普及することを期待したいが、慌ててはいけない。これはまだ大部分が理論上の話だ。しかし、さまざまな要素がつながって十分間に合うことも考えられる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

中国当局、世界初の遺伝子操作ベビーを違法と認定

中国政府は、世界初の遺伝子操作ベビーの誕生に成功したと主張して科学界を震撼させたHe Jiankui(賀建奎)の研究を、「個人的名声と利益」を求めた違法行為であると宣言した。捜査当局はHeの発表後の11月から開始した調査の予備段階を完了し、同研究者の法律違反を「厳重に」罰する方針であると発表した。月曜日(米国時間1/21)に中国の公式報道機関、Xinhua(新華社通信)が報じた

Heは深圳の南方科技大学で、遺伝子操作技術CRISPRを研究するチームを率いて、2016年中頃からガンなどの病気治療を試みてきた。本件をきっかけに地元および海外の投資家らが支援する同教授自身のバイオ技術スタートアップも大きく注目された。

捜査の結果Heは、倫理承認を捏造し、2017年3月から2018年11月の期間に臨床試験に協力するカップル8組を募集したことが明らかになった。実験の結果妊娠が2例、うち1例では双子が誕生し、もう1例の胎児はまだ生まれていない。5組のカップルは受精に至らず、1組は実験から離脱した。

Heのプロジェクトは世界中の科学者の間で激しく非難された。CRISPRは現在でも危険なほど非倫理的であり、重大な遺伝子損傷を起こす可能性がある。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

米粒よりも小さい体内センサーを開発するIota Biosciences、1500万ドルを調達

フィットネストラッカーや心拍モニターは素晴らしいものだ。しかし、もし体内の活動状況を知りたければ、その方法というのはたやすいものではない。Iota Biosciencesは、体内にほぼ永久的にとどまって検知した情報をワイヤレスで送る、長さがミリメートル単位のセンサーでそうした状況を変えたいと考えている。そして1500万ドルのシリーズAがそれをサポートする。

共同設立者のJose CarmenaとMichel Maharbizはカリフォルニア大学バークレー校で微小電極の改善に取り組み、そこでの研究でこのチームは生まれた。Iotaのデバイスは、神経や筋肉の組織をモニターして刺激するための医学実験に活用される。たとえば、微小電極を脳内に置くことで発作の初期サインを感知したり、心臓近くに置くと心組織のリズムを正しく測定するのに役立つかもしれない。

名称にはマイクロとあるが、実際にはさほど小さくない。もちろん、そうしたものは往々にして大きなマシーンに接続しているか、バッテリーパックで動くかで、合併症などの問題もあり体内に数週間もしくは数カ月とどまっていられることはほとんどない。

他の部門でどのようにやってきたかを考慮したとき、Carmena とMaharbizは小型化、製造技術、電力の効率化でもっといいものができるはず、と考えた。

最初のアイデアは、無線周波数による給電で脳内を自由に動く小さなものだった、とCarmenaは言う。しかし彼らは基本的な問題にぶちあたった。無線周波数は長い周波のために受信するために大きなアンテナを必要とする、ということだ。血液中を泳ぎ回ることが想定されたデバイスにとって、ずいぶん大きなアンテナとなりそうだった。

「全てがダメになったとき、ミーティングがあった。というのも、我々は必要とするものから100倍以上離れていた。しかしそこになかったのは物理学だった」と回想する。「そうだ、それだ!」。

しばらくしてMaharbizは“eureka”の瞬間を手にした。「奇妙に聞こえるかもしれないが、駐車場で思いついた。すべてのことがつながった」。

彼が思いついたのは超音波だった。

音速で充電する

おそらくあなたは診断装置としての超音波に馴染みがあるだろう。妊娠中の体内の様子をイメージ化するものとして、あるいは対象物の近くにくると“ピンっ”と鳴って知らせるツールとしてだ。最近、この重要な技術にかなり注目が集まっていて、科学技術者たちが超音波の新たな応用方法を発見している。

実際、ポータブル超音波の会社はラゴスで開催されたTechCrunchのバトルフィールドで優勝した。

しかしながら、Iotaのアプローチは従来の使い方とはほぼ関係がない。放射される波長をとらえるためにはそれに応じたアンテナを要するという原則をご存知だろう。超音波はミクロン(100万分の1メートル)の波長を有する。

だから、とらえることは可能で、しかもかなり効率的にとらえることができる。つまり、超音波アンテナは、接続したデバイスに給電するのに十分な波長を簡単にとらえることができることを意味する。

それだけでなく、画像での使用で想像がつくかもしれないが、超音波は体を透過する。RFを含む多くの放射線が、人体の多くを占める塩水に吸収される。

「しかし超音波ではそうならない」とMaharbizは話す。「あなたは単にゼリーで、超音波はあなたを透過する」。

このアドバンテージを生かすためにつくったデバイスは極めてシンプルで、しかも信じられないくらい小さい。片面は圧電性クリスタルと呼ばれるもので、力をーこの場合では、超音波だがー電気に変換する。小さなチップの真ん中、そしてエッジ周りには電極が走っている。

デバイスはかなり小さく、神経や筋繊維に取り付けることができる。デバイスを超音波のビームで起動すると、電極間に電圧が発生し、この微小電流には組織の電気活性が作用する。これらのわずかな変化は文字通り超音波パルスがいかに跳ね返ってくるかを表していて、リーダーはそうした変化から電気生理学的な電圧を得ることができる。

基本的に、彼らが送る波長がデバイスを給電し、神経や筋肉が何をしているかによってわずかに変わった状態で跳ね返ってくる。絶えずパルスを送ることで、システムは正確なモニターデータを絶えまなく集め、これにはまったく出血を伴わない(これは体内でデモンストレーションされている)。

外からの影響を受けにくく、埋め込んでも安全な容れ物に入っていて、これらの超小型“微片”は1つだけでも、12個でもインストールできる。そして心組織のモニターから、人工補綴のコントロールまで全てをこなすことができる。また、これらは電圧を届けることが可能なことから、おそらく治療目的での使用も可能だ。

はっきりさせておくと、これらの使用は脳の内側ではできない。この技術が中枢神経系でうまく作用しないという明確な理由はないものの、その場合おそらくもっと小型である必要があり、実験もかなり複雑なものになるだろう。最初の応用は全て末梢神経システムで行われる見込みだ。

とにかく、実際に行うためには、FDAの承認を得なければならない。

長い医療技術の道のり

想像できるかもしれないが、こうしたものは発明してすぐにあちこちにインプラントできるという類のものではない。インプラント、特に電子タイプは実験的な治療であっても、使用する前にかなり精密な検査を経なければならない。

Iotaにとっては幸運なことに、彼らのデバイスは、たとえば無線を活用したデータコネクションと5年持続する電池を搭載しているペースメーカーよりも多くのアドバンテージを持っている。一つには、唯一のトランスミッションは超音波であり、何十年もの研究でその使用の安全性は証明されている。

「FDAは、超音波を人体に使用する際の平均・ピークのパワーの上限を設定しているが、我々のものはそうした制限にあるような周波数やパワーを使用していない。これはまったく異なるものだ」とMaharbizは説明する。「エキゾティックな物質やテクニックも使っていない。コンスタントに低いレベルの超音波が続く限り、この小さな物体は本当に何もしない」。

投薬のポートやポンプ、ステント、ペースメーカーのような、よく使用されるデバイスと違って、“取り付け”は簡単でリバーシブルだ。

腹腔鏡でもできるし、小さな切開ででもできる、とCarmenaは言う。「もし取り出さなければならなくなったときは、取り出しは可能だし、出血もかなり少ない。小さくて安全なので体内にとどめておくこともできる」と話した。

Iotaの考えでは満点だが、テストは急いではいけない。彼らのデバイスの基礎は2013年に築かれたが、開発チームは技術を実験室の外に持ち出せるポイントにまで進歩させるのに多くの時間をさいた。

人体での実験を提案するところまで持ってくるのに、Iotaは1500万ドルの資金を調達した;このラウンドはHorizons Ventures、Astellas、Bold Capital Partners、Ironfire and Shandaが主導した(ラウンドは5月に実施されたが、このほど発表されたばかりだ)。

このAラウンドでIotaは、現在のプロトタイプから、その先のポイントにコマを進めることができるはずだ。おそらく18カ月以内に、製造準備ができたバージョンをFDAに提示するーその時点では、その後見込まれている実験を行うために、さらなる資金調達が必要となる。

しかしそれが医療技術の世界であり、全ての投資家はそのことを知っている。この技術は多くの分野でかなり革命的なものとなるかもしれない。しかし、まずはこのデバイスは一つの医療目的(Iotaはすでに決めているが、今のところ公開できない)で承認を受ける必要がある。

確かに長い道のりにはなるが、最終的には空想科学小説から抜け出ることが約束されている。あなたの体の中を駆け回る、超小型で超音波で動く装置を手にするようになるまでには数年かかるかもしれないが、しかし未来は確実にやってくる。

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(翻訳:Mizoguchi)

中国が米国のバイオテクノロジーの未来に資金を供給している

【編集部注】著者のArman TabatabaiはTechCrunchのコンサルタント

中国のVCは、中国最大の健康問題を解決するために、米国のスタートアップに何十億ドルもの投資を行っている

シリコンバレーは健康ブームの只中にいて、それは「東洋」医学によって推進されている。

米国の医療投資に関しては、今年は過去最高の年となったが、北京と上海の投資家たちは、米国のライフサイエンス企業やバイオテクノロジー企業にとって徐々に最大の取引相手となっている。実際、Pitchbookによれば、今年中国のVCは、中国内で行うよりも多い、300を超える投資を米国のライフサイエンス企業やバイオテック企業に対して行っている。メリーランド州に本拠を置く、炎症や自己免疫疾患の治療法を探るViela Bio社の場合は、中国の3社が主導したシリーズAで、2億5000万ドルの調達が行われた。

中国の食欲旺盛な新規資金は、中国国内にも流れ込んでいる。中国の医療スタートアップにとってもビジネスは活況を呈しており、今年はこれまでにないベンチャー投資の年になりそうだ。100社以上の企業が40億ドル以上の投資を受けている。

中国の投資家たちが、その戦略をライフサイエンスならびにバイオテックへとシフトするにつれて、中国は未来の世界の主要な健康機関に対して、大きな影響を及ぼす医療投資のリーダーの地位を、確かに獲得しつつある。

中国のVCたちは健全なリターンを求める

私たちは直接触れるものや、楽しませてくれるものについて語ることが大好きだ。そしてまた、9桁(1億ドル)の小切手がしばしば中国を出入りする様子をみることができるために、私たちはTencentやAlibabaなどに支援された、インターネット大企業やゲームリーダー、そして最新のメディアプラットフォームに目を奪われがちだ。

しかし、もしお金の流れを追っているならば、中国のトップベンチャーファームたちが、その関心を国内の不十分な医療システムに向けて来ていることは明らかだ。

中国の戦略転換における明確なリーダーの1つがSequoia Capital Chinaだ。同社は、今年だけでも複数の数十億ドルレベルのIPOに関わった(その1その2その3)最も著名なベンチャーファームである。

歴史的にみると、かつてのSequoiaは医療分野にあまり関心を持ってこなかった医療分野は、同社の最も小さな投資カテゴリーの1つであり、2015年から2016年にかけてはわずかに3件の医療関連の取引に参加しただけである。投資金額全体に占める割合は4%に過ぎない。

しかし最近は、ライフサイエンスがSequoiaを魅了していると、同社の広報担当者は語っている。Sequoiaは、2017年には6つの医療関連取引に参加し、2018年は既に14件に参加している。同社は現在、中国で最も活発な医療投資家のとしての位置に立っていて、医療分野そのものは、2番めに大きな投資領域になった。最近では、ライフサイエンスやバイオテクノロジー企業が、投資活動のほぼ30%を占めるようになっている。

Pitchbook、Crunchbase、およびSEC Edgarから集計された、2015-18年の医療関連投資データ

現在の中国の医療の中で、変革を必要とする領域が不足することはない。そして中国のVCたちによって、幅広い戦略が採用されている。インフルエンザへのアプローチを行う投資家たちがいる一方、高血圧糖尿病、および他の慢性疾患のための革新的治療法に焦点を当てている投資家たちもいるという具合だ。

例えば、Chinese Journal of Cancerによれば、 2015年には世界の肺がん診断の36%が中国で下されたが、中国国内でのがんの生存率は世界平均よりも17%低い。Sequoiaはその視点を中国の高いがん罹患率と低い生存率に向けていて、過去2年の投資のおよそ70%が、がんの検出と治療に焦点を当てたものになっている。

この動きの一部は、上海に本社を置き、革新的な免疫療法がん治療法を開発しているJW Therapeutics社に対して行われた、9000万ドルのシリーズA投資などによっても促進されている。同社は、中国のVCが国際的な経験と世界で学んだことを用いて、どのように国内の医療スタートアップを育てようとしているのかを示す典型例である。

米国のJuno Therapeuticsと中国のWuXi AppTecによるジョイントベンチャーとして設立されたJWは、Junosのがん免疫療法薬のトップ開発者としての経験と、医薬品の研究開発と開発サイクルのすべての側面に力を注ぎ、世界をリードする契約研究機関の一つとしてのWuXiの知見が、結集したものだ。

特にJWは、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)技術を用いた細胞ベースの免疫療法の、次世代がん治療に焦点を当てている(おっと失礼…!)健康情報サイトWebMDの熱心な読者や、背景医学知識が高校1年の化学レベルで止まってしまっている私たちのために言い添えておくならば、CAR-Tは基本的に体自身の免疫システムを利用して、攻撃対象のがん細胞を探す。

過去に現れたバイオテクノロジースタートアップたちは、しばしば動物の体内で作製された遺伝子改変抗体を使用していた。その抗体は効果的に「警察官」として行動し、悪性細胞の活動を止めたり静かにさせるために、「悪い奴」特定して取り付く。CAR-Tはその代わりに、身体のネイティブな免疫細胞を改変し、悪い奴直接攻撃して殺すようにするのだ。

中国のVCたちは、革新的なライフサイエンスやバイオテクノロジーのスタートアップに幅広く投資している(写真提供:Eugeneonline、Getty Images)

中国の新しい医療リーダーたちの国際的および学際的な系統は、組織自体にだけでなく、そうしたシーンを運営している側にも適用される。

JWの舵取りの位置に座るのはJames Liである。このJWの共同創業者兼CEOは、これまでの人生の中で、世界最大のバイオ医薬品会社(AmgenやMerckなど)の、中国内での展開の責任者の地位に就いていたこともある。またLiはかつて、シリコンバレーの有名投資家のKleiner Perkinsと、パートナーを組んでいたこともあった。

JWは知見と専門知識を取り入れることによって得られる利益を体現している。そして同国の賢明な資本がますます海外へと流れる中で、医療の未来を牽引する企業を見定める活動と言うことができるだろう。

GVとFounders Fundが、シリコンバレーの競争力を保つことを狙う

中国の有力ベンチャーキャピタルによる多額の投資にもかかわらず、シリコンバレーは米国の医療分野での投資を倍増させている。(AFP PHOTO / POOL / JASON LEE)

医療における革新は国境を超えている。残念なことに、病気と死は普遍的なもので、ある国で行われた画期的な発見が、世界中の命を救うことが可能である。

中国のライフサイエンス産業ブームは、高い評価額を残し国境を越えた投資や、中国の輸入規制は改善されてきた。

こうして、中国のベンチャーファームたちは、徐々に海外のイノベーションを探すようになって来ている。革新的な技術を提供できるより成熟した米国企業や、アジアに持ち帰ることができるより進んたプロセスに対して投資することで、拡大の機会を狙っている。

4月には、また別の中国の有力VCであるQiming Venture Partnersが、米国の早期段階医療に焦点を当てた1億2000万ドルのファンドを設立した。Qimingは医療スペースへの参加を拡大しており、2017-18年の間には24社に投資している。

この分野に飛び込んできた新しいVCたちは、(中国からの投資と同時に、米国の医療分野への投資額を倍増させてきた)ベイエリアの有力な投資家たちを恐れさせてはいない。

米国で最も影響力のあるVCのパートナーディレクトリには、元医師や医療に通じたVCたちが徐々に増えている。そのため最高の医療ベンチャーを発見したり、米国内でのベンチャー資金の流れにより大きな影響を与えることができる。

そのリストの一番上に載るのが、GV(旧Google Ventures)のゼネラルパートナーであるKrishna Yeshwantである。彼こそが同社の医療業界への積極的な参入を率いている人物だ。

TechCrunch Disrupt NY 2017のKrishna Yeshwant(GV)

医師でもあるYeshwantの関心は、リアルタイムの患者ケアへの洞察から、がんや神経変性疾患のための抗体と治療技術などの、多くの医学領域に広がっている。

PitchbookとCrunchbaseのデータによれば、Krishnaは過去2年間における、GVの最も活発なパートナーであり、総額10億ドル以上の投資に参加している。

Yeshwantその他の努力によって、医療業界はGoogleのベンチャーキャピタル部門にとって最も重要な投資分野の1つになり、2015年には投資額の15%だったのに比べて、2017年には約30%を占めている。

医療投資に対するGVの接近は、新しい方向を切り拓いたが、ライフサイエンスもまた同社のDNAの一部なのだ。他の多くの有名なシリコンバレーValley投資家と同様に、GVの創設者であるBill Marisも、長い間医療スタートアップに情熱を傾けていた。2016年にGVを去った後、Marisはバイオテクノロジー、ヘルスケア、ライフサイエンスに特化した自身のファンドSection32を立ち上げた

同じように、ライフサイエンスと医療投資は、Founders Fundのような大手米国ファンドの重要事項として取り上げられてきた。Founders Fundは少なくとも2015年以降、その提供資金のうちの25%以上をこの分野に一貫して割り当てて来ている。

とはいえ、この潮流は変化する可能性がある。対米外国投資委員会(CFIUS)によって最近行われた監視の強化は、米国の医療領域に対する中国の資本流入に対して、厳しい影響を及ぼす可能性があるのだ。

その拡大された権限の下でCFIUSは、バイオテックの研究開発を含む、27の重要な産業リストに分類される技術に関係し、生産、設計、テストに対して海外の事業者が関わるあらゆる投資と取引に関して、レビューを行う(そして阻止する可能性もある)。

拡張されたルールの真の意味は、CFIUSがどれほど積極的に、どのくらいの頻度で、その力を行使するかによって異なってくる。しかし、長いレビュープロセスと規制によるブロックの恐れは、中国の投資家の負担を大幅に増大させ、中国の資金流入を効果的に差し止める可能性がある。

CFIUSの動向がどうであれ、米国の医療市場における中国の積極的なプレゼンスは、シリコンバレーの主流となることを押し留めてはいない。中国の医療革新への取り組みは、中国の医療システムの厳しい崩壊と政府の後押しを受けた投資環境の改善によって、ますます強くなっている。

VCたちは悲惨な医療システムをターゲットにしている

中国の医療分野における欠陥は、歴史的にみると厄介な結果へとつながっている。現在、政府は支援政策を通じた投資のテコ入れをしている。(写真 Alexander Tessmer / EyeEm、Getty Imagesより)

彼らは成功したスタートアップたちが、解決を必要とする本当の問題を特定していると語る。非効率による傷害、悪い結果、そして消費者の複合した欲求不満など、中国の医療産業は問題を山積させている

一部の富裕層以外の市民は、混雑し人手不足にあえぐ都市部の中心の病院へ、大変な思いをして長距離を通うことを強いられている。受付エリアは名ばかりで、あらゆる空き場所はあっという間に、心配し、具合が悪く、恐れでへたり込む多くの人たちで埋め尽くされる。待ち時間は長く、数日に及ぶこともある。

そして患者がやっと診察受けられる段になっても、多くの場合には、過労か経験の浅いスタッフの診察を受けることになり、後に続く果てしない患者の列を相手にするために出入りを急かされる。

かつては、患者への診断が下されても、治療の方法は限られそしてあまり効果がなかった。なぜならば輸入に関する法律と、価格の問題により、世界的に認可されている薬が手に入らなかったからだ。

想像できるように、診察と治療が不十分であると、結果的に問題が生じる。世界銀行からの最近の報告書によると、心臓病、脳卒中、糖尿病、そして慢性肺疾患は中国の死因の80%を占めている。

不正行為、誤魔化し、不誠実な問題の繰り返しが、人びとの積み重なる不満を増幅させている。

ワクチンの誤った取扱によって病気が広がった過去の事件にも関わらず、中国のワクチン危機は今年の始めにある限界点に達した。25万人もの子供たちが、効果がない虚偽の狂犬病予防接種を行われていたことが発覚した。そして検査官がそれを何ヶ月も前に発見しながら見て見ぬふりをしていた事実も発覚したのだ。

医療に対する大衆の信用を破壊することは、深刻で、潜在的に不安定な影響を生み出す。また、中国の保健医療インフラの、ほぼすべての面に非効率性が浸透しているため、そこには大きな変化の機会がある。

これらの問題に対応して、中国政府は、医療革新の追求に重点を置いた。そのためには、医療スタートアップたちの成功のチャンスを引き上げると共に、投資家たちのコストとリスクを削減する政策を展開した。

数十億ドルの公的投資がライフサイエンス分野に流れ込み、特許研究助成金、そしてジェネリック医薬品の承認プロセスが容易になり、中国におけるライフサイエンスやバイオテクノロジー企業の設立が、より簡単になった。

中国のベンチャーキャピタリストたちにとっては、財政的インセンティブと高い成長を遂げる地方の医療セクターに加えて、薬物輸入法の緩和が、海外のイノベーションを通じて、中国の医療システムを改善する機会を拓いた。

世界的なヘルスケアへの関心が高まることで流動性も改善した。さらに、香港証券取引所が最近、まだ収益を上げていないバイオテクノロジー企業の上場を許可する変更を発表した

中国の主要機関で実施された変更は、効果的に中国の健康分野投資家たちに、より幅広い機会、より速い企業成長、より速い流動性、そして確実性の向上を、より低いコストで達成させた。

しかしながら、中国の医療システムの構造的および規制上の変化は、より多くの成長を伴った、より多くの医療スタートアップにつながったが、必ずしも質を向上させたわけではなかった。

米国と西側の投資家たちは、北京の同業者たちのような国境を越えるアプローチをとってはいない。業界の人びとと話してみたところ、中国のシステムのいい加減さやその他の理由によって、多くの米国投資家たちは海外のライフサイエンス企業に投資することに、疲れてしまったという。

そしてシリコンバレーが同様に、米国の強力な大学システムから生み出されるスタートアップに焦点を当てることで、バブル的評価が懸念され始めている。

しかし、世界中で何十億ドルもの投資を行う中国は、その国内の医療システムにあいた大きな穴を塞ぎ、自身を国際医療イノベーションの次世代リーダとして確立することを決意しているのだ。

[原文へ]
(翻訳:sako)

ボストンエリアのスタートアップが、ニューヨークのベンチャー企業の数を追い抜く勢いに

【編集部注:著者のはTechCrunchの寄稿者である】

ボストンは、米国で2番目に大きいスタートアップ資金調達の中心地としての、旧来の地位を回復した。

ニューヨークの年間ベンチャー投資総額の後塵を、何年にも渡って拝し続けたマサチューセッツ州が、2018年に遂にリードを奪い返したのだ。ボストンのメトロエリアへの今年のベンチャー投資額は、これまでのところ52億ドルとなり、ここ数年のうちでも最も高い年間合計額になる予想が出されている。

現時点でのマサチューセッツ州の年初来の数字は、ニューヨーク市全体の数字よりも約15%高いものだ。このことは、今年ボストンのバイオテック重視のベンチャーを、これまでのところ、国内の様々な場所に比べて、シリコンバレーに次ぐ第2の地位に押し上げた。また、ニューイングランドのVCたちにとって、最新の数字は、地元の起業家たちの優れた才能についての、すでによく知られた観察を裏付けるものだ。

「ボストンはしばしば、『元』スタートアップの街だね、と片付けられてしなうことが多いのです。しかも、成功はしばしば見過ごされてしまい、サンフランシスコのそれほど成功はしていないけれど目立つ企業たちと同じような注意を引くことはありません」こうCrunchbase Newsに語るのは、ボストンのベンチャーファームであるOpenViewのパートナーであるBlake Bartlettだ。彼は、Amazonが10億ドルで買収したばかりのオンライン処方薬サービスのPillPackや、昨年10月に公開され現在株式総額が47億ドルになった中古車市場のCarGurusなどを、地元の成功例として挙げた。

また、ニューイングランドの猛烈な嵐の中で、地元のスタートアップたちの金庫の中には、新たな資金が積み上げられている。下記のグラフでは、報告されたラウンド数とともに、2012年以降の資金調達総額をみることができる。

競争が気になる向きに配慮して、過去5年分のボストンのスタートアップエコシステムとニューヨークの比較も示した。

資金を調達しているのは誰か?

ボストンが今年成功している理由は何だろう?単一の原因を突き止めることは不可能だ。ニューイングランドのスタートアップシーンは広大で、バイオテック、企業向けソフトウェア、AI、コンピューターアプリケーション、その他の分野に対して、とても豊富な専門知識を抱えている。

ただそのなかでも、最も多くを占めるのがバイオテックだということを指摘しないわけにはいかない。今年はこれまでのところ、バイオテックとヘルスケアがニューイングランドにおける投資資金の大部分を占めている。だがもちろん地元の投資家たちは驚いてはいない。

「ボストンはこれまでもずっとバイオテック世界の中心でした」と語るのはボストンとシリコンバレーに本拠を置くVCであるCRVのパートナーであるDylan Morrisだ。そのことによってボストンはこの分野において近年、資金調達とエグジットのブームの中核を担う拠点となっている。そこでは病気の診断と治療に対してより計算的な手法を使う方向に長期的な投資が移行しつつある。

さらに、MITの故郷であるこの街が、いわゆるディープテクノロジー(真に複雑なテクノロジーを使って真に難しい問題を解くこと)に関して、高い評価を得ていることは言うまでもない。それは巨額の資金調達ラウンドにも反映されている。

例えば、ボストンに拠点を置く企業の中で2018年に最大規模の資金調達を行ったModerna Therapeutics(mRNAベースの製薬会社)は、2回のラウンドで6億2500万ドルを調達した。Moderna以外には、巨額ラウンドが向けられたディープテクノロジーを持つ他の企業たちとしては、癌治療のためにT細胞の操作に焦点を当てたTCR2や、民生用ブロードバンド向けの世界初のミリ波バンドを使うアクティブフェーズドアレイ技術を開発するStarry(ボストンとニューヨークに拠点を置く)などがある。

他の分野にもいくつかの巨額ラウンドが見られる。例えばエンタープライズソフトウェアや、3Dプリント、そしてアパレルにさえそうした動きが見られるのだ。

ボストンはまたこうした超大規模資金調達ラウンドの恩恵を受けている。1億ドル以上を調達した多くのラウンドは、ベンチャー資金調達ランキングにおける都市の地位の上昇を助けた。これまでのところ、今年は少なくとも15社のマサチューセッツ州の企業がその規模の調達を成し遂げている。これは2017年には12社に過ぎなかった。

エグジットも行われている

ボストンの企業たちは、今年も活発なペースで、そしてしばしばそれなりの金額で、公開したり買収されたりしている。

Crunchbaseのデータによれば、今年少なくとも7つのメトロエリアのスタートアップが、1億ドル以上の公開価格で買収された。もっとも高値がついたのはオンライン処方薬サービスのPillPackだ。2番目に大きな案件は、S&P Globalに5億5500万ドルで売却された、大金融機関向けのアナリシスを提供するKenshoだった。

IPOも巨大だ。今年はこれまでに合計17社のベンチャーキャピタルによる支援を受けた企業が公開を行った。このうち15社がライフサイエンス系スタートアップだ。最大のものは、赤血球治療の開発を行うRubius Therapeuticsであり、それに続くのがサイバーセキュリティプロバイダーのCarbon Blackだ。

一方、過去数年間に公開された多くの地元企業は、公開以来その価値を大いに高めて来ている。Bartlettは、オンライン小売業者のWayfair(時価総額100億ドル)、マーケティングプラットフォームハブスポットHubSpot(時価総額48億ドル)、そして企業向けソフトウェアプロバイダーのDemandware(28億でSalesforceに売却)などを例として挙げた。

ニューイングランドが熱い(hot)

マサチューセッツ州で4月の極寒を体験した記憶を持つ私が、「ボストンが暑い(hot)」などというフレーズを口にするなんて新鮮過ぎる心持ちだ。しかし、天気の話は脇に置き、スタートアップの資金調達だけに話を絞れば、確かにボストンの風景には気温上昇が見えてきている。

もちろん、ボストンだけに限った話ではない。今年は超巨大なベンチャーファンドが、エリア全体に急増している。Morrisは南方向数時間の位置にある最大のライバルに対しても強気だ:「ニューヨークとボストンはお互いを嫌い合うのが大好きなのです。しかし、ニューヨークは素晴らしいこともやっています」と、バイオテックスタートアップのエコシステムを活性化するための努力を指摘した。

それでも現段階では、2018年はスタートアップにとってはボストンの年になりつつあると言ってしまっても間違いはないだろう。

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(翻訳:sako)

ハイテク企業が公開に足踏みをする一方で、バイオテックのIPOは上向き

収益と売上予想に基いて投資の判断を行う人びとにとっては、バイオテックのIPOは魅力的なものではない。新しい市場参入者たちは、基本的に利益を挙げないどころか、その大部分は売上さえ立っていないのだ。株式公開は多くの場合、治験に向けての費用捻出のために行われるが、その先さらに何年にわたって赤字が続く。

Crunchbase Newsを含むベンチャーキャピタルニュースが、バイオテック企業のIPOに対して大きな扱いをしない理由の1つが、そうしたパターンによるものなのだろう。まあ、有名なインターネット企業が取引初日に躍進するところを見たり、思わぬ不調に沈むところを面白がる方が楽しいのだから仕方がない。

しかし、ハイテク企業へ固執する余り、私たちは大局を見逃している。実際には、ハイテク企業よりも、バイオテックとヘルスケアのスタートアップIPOの方がずっと多いのだ。例えば今年の第2四半期には、米国でベンチャー支援を受けたバイオテックとヘルスケア企業の少なくとも16社が株式を公開した。これに比べるとハイテクスタートアップの公開は11社に過ぎない。Crunchbaseのデータによれば、過去4年間のうち3年間で、バイオテック企業の公募件数はハイテク企業のIPO件数を上回っていた。

以下に述べる分析では、バイオテック公募のペースのスピードに追いついて、状況を評価し、いくつかの注目株に光を当ててみたいと思う。

バイオテックはハイテクを上回っている

上で述べたように米国のバイオIPOは、ほとんどの年でハイテク公募の件数を上回っている。しかしながら、総額としてみたときにはバイオ企業たちの調達額は少ない。この理由の一部は、最大規模のハイテクIPOは、最大規模のバイオIPOよりもはるかに大きいことが多いからだ。下のグラフでは、過去4年間の2つのセクターを比較している。

世界的レベルでは、これらの数字はさらに大きい。Crunchbaseのデータを使用して、過去4年間にわたって世界中でVCが支援したバイオテックおよびヘルスケアIPOのグラフも下にまとめてみた。私たちは2018年を半年過ぎたばかりだが、バイオテックとヘルスIPOは既に過去3年のどの年よりも多額の資金を調達している。

基本が動かして、サイクルが増幅させている

スタートアップに関連するすべてのサイクルが上昇傾向にあることは明らかである。VCの景気は良く、後期ステージの規模は大きくなり、そしてIPOとM&Aの動きも盛り上がっている。

それがバイオIPOにとってどのような意味を持つのだろうか?公募のペースと規模の上昇は、主に強気な市場状況の結果なのだろうか?あるいは、現在のIPO候補者たちが、過去の候補者たちよりもより魅力的なのだろうか?

私たちは、最高のパフォーマンスを誇るバイオテック投資家の1人でありARCH Venture Partnersの共同創業者でもあるBob Nelsenに話を聞いた。彼によれば、現在の状況は「基本が動かして、サイクルが増幅させている」ちょっとしたIPOブームなのだ。

スタートアップの技術革新のペースが過去よりも速いため、より多くの企業が市場に歓迎されるIPOを行っている。Nelsonはこれを「ついに本質的なデータ駆動型のイノベーションへとたどり着いた、バイオテックにおける過去30年間の投資と技術革新の成果だ」と述べている。それは、より多くの治療技術、疾患修飾治療(disease-modifying therapies)、そして予防技術につながるものだ。

しかし私たちはまた、バイオテックのマーケットサイクルの強気の局面にも助けられている。それは、違う状況下ではおそらく未公開のままにとどまっていたであろう企業たちを、公開へと促している。そしてまた、既にIPOへ向けて準備を進めていたスタートアップたちに対しても、より大きな結果を提供している。

大きな成果を挙げたIPOの最新の例は、遺伝的に改造された赤血球を用いて薬品を開発するRubius Therapeuticsだ。今週、この創業5年の会社は、20億ドル以上の初期評価額の下に、2018年最大のバイオ公募となる2億4100万ドルを調達した。このマサチューセッツ州ケンブリッジの企業は、これまでに約2億5000万ドルの資金を調達しているが、まだ治験の前段階だ。

今年は既に、相当規模の複数の公募が行われている。例えば製薬会社のEidos TherapeuticsHomology Medicinesは、最近それぞれ8億ドルの評価額を付け、一方Tricidaは12億ドルの評価額を付けている。(2018年の、世界的なバイオならびにヘルス企業公募の一覧についてはこちらを参照)。

派生市場のパフォーマンスに関しては、上昇も下落も見られたが、いくつかの大きな上昇もみられた。昨年バイオテックは、米国証券取引所で最もパフォーマンスの良いIPOたちを先導した。Renaissance Capitalによれば、6つのトップスポットのうち4つをバイオ系が占めた。それらを牽引したのは製薬会社のAnaptysBioArgenxUroGen、そして農業バイオテックスタートアップのCalyxtである。

そしてこれから

概して楽観的なバイオVCたちは、既に始まっているバイオIPOの増加に対して、複数の理由を挙げている。

Nelsonは、大手の製薬会社やバイオテック企業内の、社内イノベーションのペースの遅さを原因として指摘する。競争力を維持し、新製品のパイプラインを構築するために、大手企業たちは徐々に、スタートアップや公開後間もない企業の買収をする必要に迫られている。

また、ヘルスケアスタートアップのために用意された大量の新規資金もある。2017年の米国では、ヘルスケアにフォーカスするベンチャーキャピタリストたちが91億ドルの資金調達を行った。Silicon Valley Bankによれば、この数字は2016年に比べて26%増加している。

単一のファンドを通して、ハイテクとライフサイエンスの両者へ投資を行うベンチャーファームからも、より多くの資金が流れ込んでいる。こうしたVCのリストには、投資にすぐに使える手元資金を持つPolaris PartnersFounders FundKleiner Perkins、そしてSequoia Capitalなどが含まれている。

それでもNelsonは、IPOの強気市場の奥底では、公募の質の平均が下落傾向にあることを認めている。とはいえ、彼は以前のサイクルでも同様の屈折点は経験しており、「サイクルの同じ地点を比べると、その質は著しく良い」と述べている。

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(翻訳:sako)

Image Credits: Li-Anne Dias

この高速「ナノクレーン」で分子組み立てラインを構成することができる

これまでのナノ工場は、あまりうまく行っていなかった。全ての小さな働き手たちが、同期して素早く動くことに問題があったのだ。しかし、物事をスムーズに実行することならドイツ人にお任せだ!採用されたのは、最新式の「電気」技術の適用だ。

DNAから形成された極小のナノスケール機械が、小さなものを大量に加工するための未来を見せてくれるかもしれない。しかし半マイクロメーターほどの長さの小さな腕のような、単純で再利用可能な機械を操作することは、人間のスケールではとても困難だ。このサイズでは信号を伝えるための配線は不可能だし、もしその腕を2番めの腕で動かしたい場合には、その腕はどうやって動かせば良いのだろう?

これまでは化学的信号の利用が行われていた、特定の溶液でナノボットを洗い、その向きを変えたり、掴むための先端を閉じたり、その他の動作を行うのだ。しかし、これは遅くて不正確な動作だ。

ミュンヘン工科大学(TUM)の研究者たちは、分子スケールで機械を制御する、この状況を改善する手段を検討していた。彼らが検討しているのが「ナノクレーン」だ。これは基盤から突き出た400ナノメートル長のカスタムDNAで、柔軟な塩基から構成されている。またあらゆる方向に回転することができる。これは小さなロボットの指のようなものだが、髪の毛(または塩基ペア)を割いたものではない。

Friedrich Simmelと彼のチームが発見した、もしくはより正確に言えば、その可能性を認識したのは、DNA分子が(よってこれらのナノクレーンが)負の電荷を帯びているということだった。よって理論的には、それらは電場に反応して動く筈だ。それこそが、彼らの行ったことだ。

彼らは小さな蛍光色素分子をクレーンの先端に付けて、リアルタイムでそれが何をしているのかを見ることができるようにした。そして周りの電場を慎重に変化させ、クレーンがどのように動作するかを観察したのだ。

素晴らしいことに、クレーンは計画どおりに動き、左右に移動したり、円形に回転したりした。研究者らによれば、これらの動きは、化学物質を使用していたときの、10万倍の速度で行われているということだ。

ナノクレーンの運動範囲の顕微鏡画像。青と赤は選択された停止点を示している。

「私たちは生化学的なナノマシンから、DNA構造と電場との相互作用によるマシンに完全に切り替えようと考えました」と、TUMのニュースリリースでSimmelは語った。「この実験で、分子機械を電気的に動かすことができることが実証されました。私たちはいまや動作をミリセカンドのスケールで行うことができますが、これはこれまでの生化学的アプローチに比べて10万倍速いことになります」。

そして電場がエネルギーを供給するので、この動作を使って他の分子を押すことができる ―― もっともこちらの方はまだ実証されていない。

しかし、これらの小さなマシンが大量に(それらにとっては)広大な場所で働いている所を想像することは難しくない。Simmelが述べるように、複雑なプロセスの中で分子同士を近付けたり遠ざけたり、あるいは「組立ラインのような」ものに沿って何かを作り上げたりことができる。

チームの研究成果は、憧れのサイエンスのカバーストーリーとして取り上げられた (多くの偉大な研究たちも、振り返ってみればそうした扱いを受けてきた)。

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(翻訳:sako)

たった1滴の血液で128通りの血液検査ができるGenalyteが3600万ドルを調達

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Theranosに似た血液検査デバイスを開発するGenalyteは本日、Khosla VenturesとRedmile Groupがリード投資家を務めたラウンドで3600万ドルを調達したことを発表した。

サンディエゴを拠点とする同社は、たった一滴の血液で128通りの血液検査を行うことができるラボ・オン・チップデバイスを開発する企業だ。同社はこれをMaverick Detection Platformと呼び、1回のテストにかかる時間は15分以下だ。

Genalyteが自社で開発するシリコンチップにはフォトニック結晶を利用した共振センサーが多数搭載されており、これを利用することでリウマチなどの病気の検診をすることができる。現在申請中のFDAの認可を受けることができれば、このテクノロジーを外来患者にも利用することも可能だ。

これまでにGenalyteはInstitutional Review Boardの許可の元、一滴の血液で実施できる同社の血液検査と、従来の血液検査の正確性を比較することを目的とした臨床実験を実施している。今回調達資金も追加の臨床実験を実施するための費用に充てる予定で、それにより規制機関からの認可を受けるための準備を整える構えだ。

Genalyte CEOのCary Gunnによれば、これまでの臨床実験ではポジティブな結果が生まれており、同社のテクノロジーを次のフェーズに進めるための準備は整ったと話している。この臨床実験の結果は11月12日に開催されたAmerican College of Reumatology(ACR)でも発表されている。

Genalyteのテクノロジーはすでに製薬業界で商用利用されているものだが、Gunnは同デバイスをもっと「患者に近いところ」で利用できるようにしたいと考えている。つまり、外来の患者を研究室に送り出し、検査の結果が出るまでに何日もかかるというようなものではなく、診察室で1滴の血液を採取するだけで、その数分後には血液検査の結果が出ているというような形だ。

この計画は、TheranosがWalgreensと業務提携をした当初のビジネスプランに近い。ユーザーが午前中にWalgreensの店舗の中に設置されたTheranosの研究室に行って少量の血液を採取すれば、午後にはその結果をアプリで見ることができるというものだ。

しかし、そのプランに対する業界からの目は懐疑的だった。特にTheranosに対しては。Gunnによれば、GenalyteはTheranosの失敗から学び、何度も臨床実験を重ね、プロダクトの有効性を確実なものにしてから消費者に提供していく予定だという。同社はすでに臨床実験の成果を学術雑誌を通して発表している。ここがTheranosとの違いだ。さらに、Genalyteの創業者は医学のバックグラウンドを持ち、創業当初から積極的に医学界から人材を登用してきた。これもTheranosは怠ってきた。

「業界関係者はデータを見たがります。彼らが見たいのは実際に臨床実験を行っている姿とその結果です。それが彼らとの関わり方であり、それには時間がかかります」とGunnは語る。「メディアにはこの業界がつまらないものに写ってしまうかもしれませんね」。

問題の渦中にあるTheranosを血液検査のブレークスルーを成し遂げられる唯一の企業だと信じる者もいる。しかし、それを成し遂げる可能性が高いのはGenalyteなどの企業だ。

「血液検査は大きく変化しようとしている業界であり、Genalyteはその変化の主唱者です。彼らは血液検査のあり方だけでなく、精密医療のあり方を変えようとしているのです」と語るのは、Khosla Venturesを率いるVinod Khoslaだ。「検査結果をタイムリーかつ正確に提供するために、厳格な科学的プロセスにコミットし続ける彼らとのパートナーシップを深めることができたことを、私たちは誇りに思います」。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

バイオテック系スタートアップのZymergenがソフトバンクなどから1億3000万ドルを調達

photography by Albert Law : www.porkbellystudio.com

遺伝子組み換え微生物から新種の原料を開発するベイエリア出身のZymergenが、シリーズBでソフトバンクなどから1億3000万ドルを調達した。

この会社をご存知ない方のために説明すると、Zymergenは遺伝子を組み替えた微生物を活用して新種の原料を開発する企業だ。前回のラウンドで調達した資金では、微生物の大量生産を実現するためロボットの導入を大規模に進めていた。今回調達した資金では大規模な人員増強とビッグネーム企業との提携などを進め、さらなる規模の拡大を狙うとしている。

TechCrunchとのインタビューのなかでCEOのJohn Hoffmanは、「今回のラウンドによって人材の強化が可能になるだけでなく、さらなる顧客の獲得や長期的な視点に基づいた投資もできるようになります」と語っている。

提携予定の企業名こそ明らかにしなかったものの、それらの企業はすべてFortune 500にリストアップされているとHoffmanは話している。今後Zymergenが目指すのは、より質の高い酵母株の開発だ。これによって新種の食品やフレグランスを創りだすことが可能になるだけでなく、分子特性が限定された新しい原料を顧客企業に供給することで、製品をより安価でかつ素早く製造することが可能になる。

「私たちは実績のあるプラットフォームを構築してきました。大規模で歴史のあるFortune 500のビジネスを、大いに向上させるプラットフォームです。具体的には、売り上げが6億ドルのビジネスがあった場合、その利益率を3倍から5倍にまで伸ばすことが可能なのです」とHoffmanは語る。「Fortune 500の企業はその点にとても関心があります」。

この分野は、バイオロジーの最先端に存在する奇妙で新しい世界だ。科学者たちがマシーンや微生物を活用して次に何を生み出すのか誰にも予測できない。しかし、この分野に取り組むのはZymergenだけではない。Ginkgo BioworksやNovozymesもまた、微生物を活用することで素晴らしい原料を生み出している企業だ。ボストンを拠点とするGinkgoはより小規模のスタートアップでありながら、Zymergenが調達した金額と同規模の1億5400万ドルを調達している。Novozymesは収益10億ドルの巨大企業だ。

いずれにせよ、この新しい分野に目を輝かせるベンチャー企業や通信企業、金融機関が存在するのは事実だ。

今回のラウンドでリード投資家を務めたのはSofbankで、他にもDCVC、True Ventures、AME Cloud Ventures、DFJ、Innovation Endeavors、Obvious Venutures、Two Sigmaといった既存投資家たちが出資に参加している。また、Iconiq Capital、Prelude Ventures、Tao Capital Partnersも今回から新たに出資者の一員となった。

ソフトバンクは元LinkedInのDeep Nisharをチームに加えることをすでに決定している。彼に加え、合衆国エネルギー省とNobel laureateでキャリアを積んだDr. Steven Chuもソフトバングに加わる予定だ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

RNA配列決定に革新をもたらすバイオテックのAmaryllis

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遺伝情報を読み取り記録することは、世界中のどのバイオテック企業においてもその根幹をなす技術だ。よって、その技術が改善すれば、その産業そのものがアップグレードするといってもいいだろう。Amaryllis NucleicsはRNAから遺伝子を転写する技術を飛躍的に向上させることでバイオテック産業の技術革新を目指している。

ところで、今回の話を始める前に断っておかなければならないことは、この話は普通Disruptのステージで披露されるような、所謂テクノロジーとして定義されるものの範疇には入らないということだ。同社の商売道具は試薬とピペットであり、プログラミングと製品を扱っているわけではない。しかし誰かがバイオそのものをバイオテックに注入する必要があり、馴染みのある半導体チップとソフトウェアの場合と同様に、バイオテックを支える分子機構そのものをアップデートすることは大変重要なことなのだ。

Amaryllisを創設したのは二人のPhDを持つ科学者Brad TownsleyとMike Covingtonで、この分野で何年も研究をする間、RNAから遺伝情報を得るのにかかる時間と費用に常に不満を持っていた。もし、高校の生物で習ったことがうろ覚えになっているのなら、RNAというのは細胞のデータ格納所(DNA)と生産施設(リボソーム)を媒介するものだ。

「我々がUCデービスにいた時、RNAシーケンスを大量にこなしていました。あまりに多かったので全部やり切るだけのお金がなかったし、しかも時間がかかりすぎました」と、Covingtonは言った。「だから、我々は結局RNAを機械で読めるようにする新しいプロトコールを作ってしまったのです。そうしたら、そのプロトコールはこれまでのキットより安くて速くなっただけでなく、ずっと正確に読めるようになったのです」

もし、研究者が不満を溜めることで科学が進歩するなら、科学はとっくの昔に進歩しているだろう。しかし現実はそんなに甘くない。幸い、多くの興味深い発見があったおかげでこの新しいテクニックが見つかったが、それは多かれ少なかれかれ偶然の賜物だ。

彼らは既存のRNAシーケンスのプロトコールを整備しているうちに、奇妙なデータに気づいた。「Mikeは情報科学のバックグランドを持っていたので、その現象の背後にあるメカニズムに探りを入れることが出来たのです。その現象の最適化を繰り返すうちに大変うまく動くものを見つけることができました」と、Townsleyは言った。

ここで言っているのは、ちょっとした効率アップといったものではなく、他のテクニックと比べて半分から10分の1のレベルでの時間の短縮と、同規模のコストの削減だ。

こんないいテクニックを自分たちだけのものにしておくのは勿体ない、と彼らは考えた。

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「始めたきっかけは、単に作業を簡単にしたかっただけなんです」と、Covingtonは言った。「会社を興そうとは考えもしませんでした」

「実際のところ、最初は全く自己の利益は眼中になかったのですが、そのうち、これは良い機会かもしれないと思いついたのです」と、Townsleyは付け加えた。「しかし、実際に自分で商品化することは、発見を世に出す上で最良の方法でもあるのです。新しいテクノロジーは、たとえ良いものでもその多くは大学の技術移転部門で朽ち果てています。その技術を活用してもらうには、誰かがあなたの持つまさにその技術を探しており、その人がたまたまその技術がリストされたカタログを眺めていることを願うしかないからです」

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彼らはIndieBioアクセラレーターに参加し少しばかりの資金を得た。その資金と新規の「物質の組成」のカテゴリーの特許により、彼らは発明をキット化し、研究者や大学、民間企業に発送することができた。キットの説明書通りにするだけでRNAの転写は粛々と進み、他のキットよりも速く正確に結果が得られる。

Amaryllisでは仕事の受託も行っているが、得られるデータ量は膨大で、何百ギガにも及ぶため、データファイルをホストするよりデータドライブを直接発送する方が便利なことがしばしばだ。このサービス自体がスケーラブルでないのは彼らも認めるところだが、顧客との関係を築く役には立ちそうだ。もし常連の顧客が何人かできれば、評判も加速的に広まるだろう。

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キットの販売と自ら行う受託サービスにより、Amaryllisは現在の生産レベルのみでも月10万ドル余りのビジネスを行っている。しかし、ほとんどアカデミアのバックグラウンドしかないたった2人だけの従業員が仕事に当たっており、同社は会社としては極めて初期の段階にある。実際、Covingtonがウェブ・アプリのセットアップをしたものの、サービス全体をカバーするには程遠い状況である。

最終的には、彼らはこのキット販売をそれ自体で持続的なビジネスにしたいと考えており、その製造を完全に外部に委託するつもりだ。現在、セールス、マーケティング、サポートやその他作業をしてくれる人がいないので、彼らにはまずスタッフが必要だ。

「ロボットはあるのですが」と、Townsleyは言った。「そして、ここはUCバークレーに近いので、インターンの配属を数人分申請してきました」

究極的には資金が必要になるということを彼らは認めた。

「資金調達を考えています、もし一緒に働いてくれるスタッフを直ちに雇わなければ成長はとても遅いものとなるでしょう。10人分の仕事をたった2人でこなしているのが現状です。我々に関しては、キットのことはすべて忘れて新しい製品の開発に集中する方が理にかなっているでしょう」と、Covingtonは言った。「何人かテクニシャンを雇い入れてセールス専門の人員を雇用することでビジネスの規模を大きくしたいですね」

Amaryllisは会社としては最初期の段階にあるが、その製品は既存の物を超越している。バイオテック企業で何10億もの資金と収益を集めるとすれば、それは人気商品であり、その開発に偶然の発見が絡むとなれば、これは極めて稀なケースだ。今から1年後に彼ら自らが、ピペット片手に実験していることはないだろう。

 

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(翻訳:Tsubouchi)

Florence Healthcareが170万ドルを調達、臨床情報のクラウド化を目指す

2016-07-27-2

アトランタを拠点とするスタートアップのFlorence Healthcareは、シードラウンドで170万ドルを調達し、製薬会社や病院などの治験実施施設に務める研究者が、クラウド上で臨床試験に関する情報を共有できるような環境をつくろうとしている。

最終的には、関係者が互いに情報を交換するだけでなく、アメリカ食品医薬品局(FDA)とも情報共有を行うことで、患者が切望している治療法を市場に届けるのにかかる時間を短縮できるかもしれないと、Florence Healthcareの設立者兼CEOのRyan Jonesは語った。

これまでホワイトボードや紙の上で行われていたプロセスをデジタル化することで、製薬業界が時間とお金を節約することにも繋がる可能性がある。

「毎年、製薬業界では100億ドルもの資金が、治験実施施設の訪問や、FDAに提出するための書類をまとめたりスキャンしたりする目的で使われています」とJonesは話した。

Florence Healthcareは、紙で情報の記録や回覧を行い、患者をオフラインで処置しながらカルテや研究レポートをまとめることに慣れている研究者が、違和感なく利用できるようなソフトの開発に努めていた。

さらにJonesによれば、最近のバイオテック界でのブレイクスルーによって、新薬の効能や安全性に関する臨床試験を行う、研究機関や「治験実施施設」の業務量が大幅に増加していた。

2014年のFlorence Healthcare設立以前、JonesはPubgetと呼ばれるコンテンツ検索ベンチャーの社長を務めており、同社は2012年にCopyright Clearance Center Inc.によって買収された。Pubgetのおかげで、大手製薬企業は、数ある情報の中でも600以上の医療機関から発表された研究論文にアクセスできるようになった。

Florence Healthcare CEO Ryan Jones

Florence Healthcare CEOのRyan Jones

Bee PartnersがFlorence Healthcareのシードラウンドにおけるリードインベスターとなり、Bessemer Venture Partnersや、ダートマス大学の卒業生から成るGreen Dのファンドのほか、Fitbitの技術部門のヴァイスプレジデントであるWill Crawfordがラウンドに参加した。

Bee Partnersの共同設立者兼CEOのMichael Berolzheimerは、Florence Healthcareが良いタイミングで市場に参入したと語っていた。

というのも、FDAの規制により、2017年の5月までに各社は臨床試験の情報を紙ではなくデジタルで管理・申請しなければならないのだ。

Berolzheimerは、Florence Healthcareが今回の調達資金を、Florence eBinder Suiteと呼ばれる「統合垂直型ワークフローシステム」の採用数を増やし、同システムが、事務担当者から臨床試験のリーダーまで利用する人全員にとって簡単なものであり続けるような開発を行うために使うべきだと語った。

さらに彼は、「長期的に見れば、Florence Healthcareは、製薬業界のバリューチェーン上に存在する全ての人に対して、新たなデータやサービスの供給方法をみつけることができるかもしれません。彼らは、FDAや新薬開発のさらに上流工程をサポートできる可能性を備えています」と話した。

Florence Healthcareのユーザーには既に、カリフォルニア大学サンフランシスコ校Mt. SinaiやSloan KetteringのPCCTC Cancer Research Centerなど、医薬品や医療機器の開発者に人気の機関が名を連ねている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter