Impossible Foodsの植物肉がウォルマートで販売を開始、植物肉ソーセージの流通も拡大

Impossible Foodsによると、同社が開発した植物由来の人工肉製品を米国時間7月30日から米国最大のスーパーマーケットであるWalmart(ウォルマート)で買えるようになる。ウォルマートをはじめ、全米各地の小売企業との契約で同社の物理的な供給地域はこれまでの50倍になった。

今後Impossible Foodsの製品は、全米2000店あまりのWalmart SupercentersとNeighborhood Marketsで買えるようになる。さらに、動物の筋組織から作ったFrankenmeat(フランケンミート)については同社のウェブサイトやモバイルアプリでも購入可能だ。

さらにまた同社は、ソーセージ代替品であるImpossible Sausageの流通網の拡大も発表した。ほんの数カ月前にCESで発表されたこのソーセージは、いまでは2万2000軒以上のレストランで使われ、食品流通業者経由を合わせると米国内の採用レストランの数はもっと多い。同社は店舗や商品、サービスの評価サービスであるYelpと協力して、このクラウドソーシングな格付けサービスで上位になったレストランのメニューにもソーセージを載せてもらった。

同社はまた、D2Cのeコマースサイトでインフルエンサーマーケティングを展開し、米国の大陸部分からの75ドル以上の注文は送料無料としている。

さらに、同社の最近のアップデートとウォルマート進出の機会をとらえて、これまでの食肉業界に差をつけようとしている。同社の主張によると、その製造施設は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けておらず、食肉処理場がウイルスの深刻な被害地になったこと(The Guardian記事)と対照的である。

画像クレジット:Impossible Foods

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

【書評】フードテックの新しい教科書「フードテック革命」

サンフランシスコ在住日本人テクノロジー投資家のパイオニアの一人でScrum Ventures(スクラムベンチャーズ)のパートナーを務める外村仁氏が監修・執筆した「フードテック革命」が日経BPから出版された。

フード市場は巨大だ。2015年の日本市場は83兆円だったというが、これはIT産業のざっと3倍にもなる。同書のカバーにもあるように世界では700兆円の市場だという。最近TechCrunchでもバイオテックを利用して植物性原料から肉を培養するスタートアップには1社100億円規模の投資が集まっていることを報じている。

同書ではフードテックの現状、仕組み、有望な分野、企業化のノウハウなどを具体例で詳しく解説している。また三ツ星シェフの米村肇氏から味の素の西村社長まで日本のフードビジネスを代表するキーパーソン多数にロングインタビューしている。フードテック分野で新しいビジネスをスタートさせるために最適な教科書となっている。それだけにカバーされている分野が広くボリュームもあるが、まずは興味がある部分から読めばいいだろう。

iPhoneに「新しいものは何もない」

ロックフェラーセンター(画像:wikimedia

1980年代後半、日本は半導体産業で米国を抜いて世界一のシェアとなり、膨大な貿易黒字を溜め込んだ。これを背景に大手不動産会社がニューヨークのロックフェラーセンターを買収したことがある。クリスマスツリーとスケートリンクがメディアにたびたび登場し米国のシンボルの1つともなっている施設だっただけに日本に対する反感も高まった。

しかしバブル崩壊で運営会社は倒産し、後にこれという結果は残っていない。半導体産業も世界市場から脱落し、現在では韓国にはるかに遅れを取る状態だ。自他ともに「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と考えた時代の記憶さえ薄らいでいる。

同じパターンがさらにその後、デバイス分野でも繰り返された。2007年にスティーブ・ジョブズがiPhoneをリリースしたとき外村氏は「前の夜から並んで発売初日に買い、その日から私の生活は一変した」という。ところが当時の日本のメーカーのエンジニアの多くは「新しいものは何もない」と酷評し関心を示さなかった。こうして携帯電話でも日本メーカーは軒並み退場することになった。「新しいものの塊」だったiPhoneを見て何も感じなかったとは信じがたいが、これは個人の鈍感さというより成功体験がいかに人間の視野を歪めるかという例なのだろう。

2000年代ならGoogle、2010年代ならFacebookに代表される米国のテクノロジー・スタートアップは短期間に大成功を収め、そこで巨額の資金を得た多数の起業家がフード分野に参入した。これが米国の食のハイテク化の流れを作っている。ここでもまたスマートフォンのときと同様、成功体験に安住したままでいれば日本の食の将来も危機的だ。

日本の食をさらに前進させるには?

もちろん今のところは日本の食の平均的レベルは米国より高い。日本で発見されたグルタミン酸、イノシン酸などに代表される味覚は「ウマミ」とそのまま日本語で呼ばれている。日本式のパン粉も「パンコ」だ。米国でハンバーガーやフライドチキンなどのファーストフードが大産業となったのは(移民が故国の料理を出す店を別にすると)米国の外食店の平均的水準が低かったからだったと思う。

米国の外食のコストパフォーマンスは悪く、日本では980円でもけっこう食べられるが、米国ですこしまともな外食をしようとすれば30ドル(3300円)覚悟する必要がある。生徒が学校に持っていく昼食の弁当の代表が「ピーナッツバターとジャムのサンドイッチ」だったり、大の大人の昼食が「りんご1個」だったりするのは日本では信じられない。出張の週末にサンフランシスコからヨセミテに足を伸ばしたことがあるが、途中の田舎町で入ったレストランがあまりに不味くファーストフードにするのだったと後悔したことがある。

しかしスーパーマーケットのチェーンが巨大化すると個人商店はよほど立地に恵まれていないかぎり太刀打ちできなくなった。高度経済成長以前の日本では食材は八百屋、肉屋、魚屋などの個人商店で買うのが普通だった。しかし自動車がなくてはどこにも行けない地方都市では個人商店は壊滅状態だ。

米国発祥のファーストフード・チェーンはロジスティクスからスタッフの訓練まで完全にマニュアル化して巨大ビジネスに成長した。こうなるとスモールビジネスが圧倒されるというパターンが繰返される。

2018年のSKSでスピーチする外村氏(画像:Umihiko Namekawa)

こうした状況を「なんとかしなければならない」と考えた外村氏はコンサルティング企業のシグマクシスと協力して2017年からSKS(スマートキッチンサミット)の日本開催にこぎつけた。本書を執筆した田中宏隆、岡田亜希子、瀬川明秀の各氏はシグマクシスのコンサルタントで、多数の具体例や統計は長期間にわたってSKSカンファレンスを企画、運営してきた中で蓄積されたものだ。

重要なのはパッション

「では何をなすべきか」で重要なものとして外村氏は「パッション」を挙げているが、これはなるほどと思う。外村氏の食に対するパッションはたいへんなものがある。デバイスから食材まで「米国にはここまであるのか」と驚くような例がFacebookなどのソーシャルネットワークにも披瀝されている。また米国製低温調理ヒーターから日本製の煙を出さない電気ロースターまですべてまず自分で買ってとことん使いこなしている。

いかにフードテックが有望な市場だろうとパッションなしにビジネス計算だけで参入しても結局は消費者のハート・アンド・マインドを捉えることはできないだろう。この本でいちばん重要なのは全編に流れる外村氏の危機意識とパッションではないかと思う。

ウミトロンが水産養殖向けに高解像度海洋データ提供サービスを開始、比較分析やスマホチェックも可能に

Umitoron Puls

IoT機器などを駆使して養殖産業のディスラプトを推進しているシンガポール拠点のウミトロン(UMITRON)は7月28日、ウェブ上で海洋環境データを可視化する「UMITRON PULSE」(ウミトロンパルス)の提供を開始した。衛星リモートセンシング技術を活用し、世界中のさまざまなエリアの海洋データを高解像度で日次確認できるようになる。

魚介類や海藻類の養殖事業者とって海の状態を知ることは非常に重要で、給餌や採苗、出荷の時期などに大きな影響を与える。同社によると高解像度の海洋データを取得できることで、生育に適した状態の把握や有害なプランクトン繁殖などのリスクなどを回避できるとのこと。

  1. California wave height

  2. Umitoron Puls

  3. Umitoron Puls

  4. Umitoron Puls

  5. Umitoron Puls

具体的にUMITRON PULSEでは、海水温、塩分、溶存酸素、クロロフィル濃度、波高の海洋データを提供。高解像度データなので、画面内で拡大・縮小することで、局所的なデータと広範囲データを容易に確認できるのが特徴だ。当日の海洋データはもちろん、48時間以内の海洋環境変化を予測する機能も提供する。近日中には、海洋環境データ種類の増加、各種データの毎時更新、過去の海洋データとの比較分析機能も実装される。モバイル版アプリも目下開発中とのこと。

現在、前述の5種類の当日付けの海洋データを閲覧できる無料プランを用意しており、誰でも登録・利用できる。そのほかの機能使いたい場合は、月額プランに加入する必要がある。

チリ拠点の植物由来肉・乳製品メーカーThe Not Companyの企業価値が260億円超に

中南米最大の植物由来代替肉・乳製品メーカーであるThe Not Company(ザ・ノット・カンパニー/NotCo)が8500万ドル(約9億円)の調達ラウンドをまもなく完了し企業価値は2億5000万ドル(約264億円)となった。

この最新調達ラウンドは、チリ・サンティアゴ拠点の同社による数多くの成功に続くものだ。NotCoが国際舞台に立って(The Ringer記事)から2年間、同社はマヨネーズ製品に始まり、牛乳、アイスクリーム、ハンバーガーへと市場を拡大してきた。代替鶏肉などの製品も計画されている、と同社に詳しい人たちは言っている。

関連記事:高栄養価の代替食品でチリから革命を起こすNot Company

NotCoは、チリ、アルゼンチン、および中南米最大の市場であるブラジルでいくつかの製品をすでに販売しているほか、Burger Kingと同社チェーンの植物性ハンバーガーのサプライヤーとして超大型契約を結んだ。このBurger Kingとの契約は、NotCoのたんばく質製法が成功した証だ。NotCoは1店舗1日あたり48個のハンバーガーを販売する契約で、これは店舗あたり販売数でImpossible Foodsを上回る(未訳記事)と情報筋は語る。

NotCoはアルゼンチンとチリの食料品店でもハンバーガーを販売している。同社はまだ黒字転換できていないが、2021年12月には黒字、さらにはキャッシュフローもプラスになる可能性があると言う。

NotCoの共同創業者のKarim Pichara氏、Matias Muchnick氏、Pablo Zamora氏(画像クレジット:The Not Company

売上だけでなく新製品の多様化でも成長を見せていることから、投資家の注目が集まるのは当然だろう。

同社の最新ラウンドでは「消費者ブランドに特化した未公開株式投資会社であるL Catterton PartnersとBiz Stone(ビズ・ストーン)氏が支援するFuture Positiveが出資した可能性が高い」と情報源は語る。NotCoの既存の投資家は、Amazon創業者のJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏の私的投資会社であるBezos Expeditions、ロンドン拠点の CPG(消費者向けパッケージ製品)投資会社、The Craftoryほか、IndieBio、SOS Venturesなど。

Crunchbaseによると動物性タンパク質の代替食品は、ベンチャー投資家にとって巨大(かつ今も成長中)の分野だ。今月Perfect Dayは、最新の調達ラウンドで2度目となる1億6000万ドル(約170億円)の資金を獲得し、総調達額は3億6150万ドル(約382億円)になった。。また、Perfect Dayは消費者向け食料品会社のUrgent Companyも設立した(未訳記事)。

一方、大手食料品チェーンは植物由来メニューの実験を続けると共に、動物の培養による細胞ベースの代替肉にも手を広げている。KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)は最近、Beyond Meatの代替鶏肉’の実験を拡大し、モスクワで培養肉の実験を行うことを発表した。

一連の動きは、消費者の嗜好の変化、植物由来食品への関心の高まり、動物農業(畜産)の世界気候に与える深刻な影響などが認められたことの証でもある。

ウェブサイトのClimateNexusによると、動物農業は人工温室効果ガス排出における化石燃料に次ぐ第2位の原因だ(国際連合食糧農業機関PDF)。さらに、森林破壊、水質・大気汚染、生物多様性喪失の主要因(国際連合食糧農業機関PDF)でもある。.

年間700億頭の動物が、人間の食用に育成されており、地球の耕作・居住可能面積の1/3を占め、世界の淡水資源の16%を消費している。世界の食料における肉の消費を減らすことは、温室効果ガス排出減少に極めて大きな影響を与える可能性がある。もし米国人が牛肉を植物由来の代替肉に置き換えた場合、二酸化炭素排出量が1911ポンド減少するという試算もある。

関連記事:食品の未来に取り組むKFC、ロシアの3Dプリント肉から米国の人工肉まで

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

D2C 3.0を象徴するカウンターカルチャーが生んだ新興シリアルブランド「OffLimits」

【編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説するPodcast「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、D2C企業の話や最新テックニュースの解説をしているポッドキャストもやってます。最近はインスタグラムで新しいスタートアップやブランドを紹介しているので、ご興味ある方はチェックしてみてください!

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シリアルのスタートアップはいくつかあるのですが、最近ローンチされたOFFLIMITS( @eatofflimits )というブランドを紹介したいと思います! プロダクト OFFLIMITSは、7月9日に発売されたばかりの新しいシリアルブランド。サイトにいくと、「BREAK THE RULES starting with breakfast」というコピーが。 このシリアルを作ったエミリー・エリー・ゼミラーさん(@emilyelysemiller)は、世界で“Breackfast Club”というツアーを開催している人気フードライター・料理コンサルタント。 フレーバーは、ダッシュとゾンビの2種類。ダッシュは、米国の有名サードウェーブコーヒーの @intelligentsiacoffeeとカカオを使った元気が出そうなフレーバー。ゾンビは、バニラやアダプトゲンなどリラックス効果のあるフレーバーだそう。2箱セットで約2,500円。1回きりと月額のサブスクリプションでも頼めます 今までシリアルのマスコットには女性のキャラクターはいなかったそう。OFF LIMITSのマスコットは、ケロッグのトニー・ザ・タイガーのようなマッチョで自信に満ちたキャラクターとはかけ離れていて、共感が持てる現代に合わせたリアルで正直な大人のシリアルという感じです。フレーバーごとにマスコットがいて、不安やうつのような感情を表していて、人間味を表しているそう。 ブランディング ブランディングとデザインは、@pentagramdesign と @studionumberone が担当。面白いのが、サイト上にバーチャルギャラリーがあるんです 。カウンターカルチャーと多様性を大事にしているOFF LIMITSは、ギャラリーと通して、アーティストを支援しています。内訳も公開していて、半分はアーティストに、35%はWide Rainbowという非営利団体へ、残りは発送と印刷代に。OFF LIMITS上で購入することで、サイト内ポイントがもらえ、シリアルへの購入とブランド向上に繋げています。更にポイントが貯まると、集めるとカッコいいおもちゃが貰えます!ローンチイベントでも展示会とポップアップを混ぜた形で行っているの面白いですよね ビジネス @npr の記事によると、コールドシリアルとホットシリアル(オートミール等)の市場は200億ドルを超える産業であり、今後の成長が見込まれている。アナリストいわく、シリアルブランドは懐かしいものが多くより現代的なマスコットが重要であり、健康的なものであることが重要とのこと。まさに新しいシリアルブランドが生まれている背景です。 資金調達も通常のVCからではなく、PentagramやStudio Number Oneなどパートナーから調達しています。 思ったこと 「ブレックファーストフードは朝だけに限定されるべきではない」とエミリーさん。好きなときに食べて!というシリアルのメッセージやマスコットのジェンダーについては考えたこともなかったので、新鮮でとても好感を持ちました…!また、シリアルは簡単で習慣化しやすい食べ物で、1日3食のうち1食がシリアルという人も米国だと多いと思います。その中でリプレイスができるととても大きな市場だなあと思いました。食べてみたいですね Written by @mikikusano

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はじめに

米国ではD2C業界がどんどん進化していく中、新しいブランドが毎日のようにローンチされています。その中でもOff Topicが気になったのはシリアルブランド「OffLimits」。OffLimitsは直近でのD2C企業のローンチの中ではかなりうまくできているほうだと思い、OffLimitsの創業者やブランディング、プロダクト、サイト、ミッションなどを調べたところ、いままさに出てきているD2C 3.0世代のブランドを象徴する要素がかなり組み込まれているのがわかりました。

今回は、直接OffLimitsのチームと話す機会があったので、このD2C 3.0世代でブランドを立ち上げるための秘策とこのブランドがそこにどう当てはまり、なぜ成功できる可能性があるのかを解説していきたいと思います。

大人向けシリアルブランド「OffLimits」とは?

OffLimitsは、7月9日に発売されたばかりの新しいシリアルブランド。創業者のEmily Ely Semiller(エミリー・エリー・ゼミラー)さんは大人向けのシリアルを作り「疲れている時」と「集中したい時」に分けて2つの味を出している。

米国では多くのシリアルブランドが長年続いて、さらに最近ではMagic SpoonCatalina Crunchなどシリアルブランドが立ち上がっていく中、OffLimitsの何が魅力的なのか?それはOffLimitsがD2C企業として、初期プロダクトのポジショニング、ブランディング、デザイン、サイト作り、Founder-Market-Fit、そしてマーケティングがうまく出来ている、D2C 3.0世代を象徴するブランドに見えるから。

そんなOffLimitsをスタートしたのが「朝ごはん」(Breakfast)のエキスパートであるエミリー・エリー・ゼミラーさんだ。

創業者の「Breakfast」のエキスパート エミリーさん

Emily Ely Semiller

引用:OffLimits

BREAKFAST: The Cookbook」の著者でもあり、世界で「Breakfast Club」というツアーを開催している人気フードライター兼料理コンサルタントでもあるエミリーさんは、正真正銘の朝ごはんのプロ。そんなエミリーさんがわざわざ自分の朝ごはんの定番料理であるシリアルブランドを自ら作った理由は2つある。

まず、エミリーさんの幼少期では母親がヘルシーなシリアルしか出さなかった。多くの子供向けの米国のシリアルブランドの商品は大量に砂糖が入っているため、子供の健康を考えてグラノーラやKixしか出さなかったのだ。ただ、エミリーさんの祖母はコーンフロスティなど甘いシリアルを食べさせてくれた。エミリーさんとしては、彼女の母親が認めるヘルシーなシリアルをもっと子供向けのブランドっぽく楽しくできないかと考えた。

Emily Ely Semiller

引用:OffLimits

そして、2つ目の理由は多くのシリアルのマスコットキャラは男性であること。例えば人気シリアルブランドのケロッグのキャラクターであるRice Krispiesの妖精キャラ、トニー・ザ・タイガー、Lucky Charmsのレプラコーン、Count Chocula、Trixのウサギなどを見ると全員男性キャラだ。

WBCK

引用:WBCK

エミリーさんから見ると、既存のシリアルブランドは過去の人種差別、性差別、そしてアンヘルシーなものが受け入れられていたシステムで生まれて、そのシステムを強調するものなため、自分でイチからブランドを作らなければいけないと強い思いを抱いている。

この強い意思とバックグランドが初期ローンチの成功につながっている。それはなぜかと言うと、今現在のD2C業界の進化を見ると、エミリーさんとOffLimitsは0から1への理想的な要素を満たしている。

Founder-Market-FitのD2C 3.0世代

今までD2C業界の流れを見ると、3つのフェーズに分けられる。

  • D2C 1.0:カタログ企業がオンライン化
  • D2C 2.0:デジタルファーストの新ブランド
  • D2C 3.0:デジタルネイティブのバーチカルブランド

D2C1.0世代はカタログで商品を売ってたブランドがオンライン化した。D2C 2.0が今となっては有名なD2CブランドのCasper、Allbirds、Everlane、Warby Parkerなどがデジタル上で新しいブランドを立ち上げて、初期はオンラインで伸びたブランド。D2C 2.0はタイミングとしてFacebook広告の単価が安かったため、特に自分の業界を知り尽くしていなくても広告で成長出来て、その影響で何十億円と資金調達も出来たブランド。

今ではD2C 2.0の時代が終わり、D2C 3.0世代が出てきている。今だと消費者は無数のブランドから選び、無数のコンテンツを毎日見るようになった。そのため、単純に広告だけで伸びるのは不可能になっている時代。D2C 3.0世代のブランドが立ち上げから約10億円までの売上に成長するために最も必要な要素とはFounder-Market-Fit。

NFX

引用:NFX

Founder-Market-Fitとは、ブランドを立ち上げる創業者がどれだけその市場と自社プロダクトのエキスパートであり、どれだけブランドを自体化しているかを表すもの。このFounder-Market-Fitに成功しているD2C 3.0ブランド事例はアルコールブランドのHaus。以前にTechCrunch JapanでHausの説明があったとおり、Haus創業者はアルコールD2Cを作るのにぴったりな人たちである。

Hausは、Helena Price Hambrecht氏とWoody Hambrecht氏の夫婦コンビで運営されている。Helena氏はシリコンバレーで身を立て、Airbnb、Dropbox、Facebook、Fitbit、Instagramといった消費者と直接向き合う企業のブランド開発を行ってきた。一方Woody氏は、若いころから正真正銘の「大酒飲み」で、ワインを醸造し、夫婦が暮らすカリフォルニア州ソノマ郡の農場で約27ヘクタールのワイン用ブドウの畑を管理している。Hausの本社もそこに置かれている(TechCrunch Japanより引用)

今では消費者は商品を買うときに創業ストーリーを気にする人が多い。どう言う理由で創業者が立ち上げて、それに共感ができるのか?消費者は納得できるブランドにお金を払う時代になっている。見た目だけで判断してなく、環境に優しいのか、ヘルシーなのか、創業者がどう言う思いで立ち上げたのかを消費者が気にする理由は、そのブランドを着る・食べる・使うことによって、ブランドのバリューを消費者が自分のバリューとして受け入れていることになるから。そのため、ブランドは単純に自分のバリューを吐き出すだけではなく、自社の意思を持ちながら、その意思を果たして消費者が共感・納得してくれるかを見なければいけない。

OffLimitsはD2C 3.0のオンラインなおかつバーチカルブランドの要素を満たしている。朝ごはんのエキスパートであるエミリーさんだからこそ信頼できるプロダクトブランドが出来上がっている。

その中でも、OffLimitsのプロダクトが今までのシリアルでは見たことない形でポジショニングしている。これこそ、デザイン・ブランディングとエミリーさんの知見を組み合わせて作られた商品に違いない。

「ジョブ理論」とキャラクター設定からのマーケティング

ジョブ理論とは、『イノベーションのジレンマ』で有名なクレイトン・クリステンセン氏が考えたフレームワーク。Jobs-to-be-done(JTBD)、簡単にいうと、ユーザーが製品を「雇用する(hire)」(すなわち、利用する)とき、彼らはそれを具体的な「ジョブ(job)」のために(すなわち、特定の成果を得るために)利用している、という考え方にもとづくフレームワークのことである。例えば、Instagram創業者はこのジョブ理論を使って初期プロダクトやストーリーズ機能を作った(note記事)。

このジョブ理論はOffLimitsとどう関係するのか?今までのシリアルブランドを見ると、美味しさやヘルシーさを強調するのが普通だった。OffLimitsもそう言うコピーもサイト内で入れているが、他のシリアルブランドと違って、ユーザーの特定のジョブ・課題をOffLimitsプロダクト・キャラクターで解決しようとしている。

最初のジョブ・課題は、「元気な自分の気持ちを保つ、もしくはそれ以上に元気にさせてくれる」シリアルを求めているユーザーに対してDASH(ダッシュ)フレーバーを用意。

OffLimits

引用:OffLimits

ダッシュはオーガニックな材料を使ったシリアルと一緒に米国の有名サードウェーブコーヒーのIntelligentsiaの挽きコーヒーでコーティングをしたシリアル。そんなダッシュは動きの早い、エネルギッシュな雌ウサギキャラ。

OffLimits

引用:OffLimits

そしてもう1つのプロダクトはゾンビ。ゾンビは想像どおり、寝るのが好きでまろやかな人向けのシリアル。

OffLimits

引用:OffLimits

ゾンビは、バニラやアダプトゲンなどリラックス効果のあるフレーバー。色合いもゾンビをイメージできるグリーンにしている。キャラクターは何度寝を繰り返す、犬の散歩好きなゾンビ。

OffLimits

引用:OffLimits

このように、ある特定の気持ちに応じてプロダクトとキャラクターを作ったシリアルブランドは過去にいない。ただ、ユーザーとしては共感しやすい気持ちなので、どのタイミングでどのプロダクトを食べるかが明確でわかりやすい。

OffLimitsはShepard Faireyさんが運営するStudio Number Oneを採用して、キャラクターデザインをしてもらった。このキャラクターが一緒にいるとブランドの意味をより強調し、エミリーさんとしてはメンタルヘルス問題についても語っていると発言している。

OffLimits

引用:OffLimits

逆にキャラクターは個別でも活躍できる。それぞれ違うキャラクターを持っているため、実はOffLimitsは自社のInstagramアカウント以外に、各キャラクター専用のアカウントも持っている。

これはD2CブランドのRecessが、各フレーバーに性格を持たせて、あるInstagram投稿でお互いチャットしていたことと似ている。

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the cans are still adjusting

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そして、このマーケティングが効いたのか、ローンチしたばかりなのにOffLimitsのZombieが好きなシリアルキャラクターを決める第4回Cereal Bowlで優勝!

遊び心のあるどこか懐かしいキャラクターとリアルな世界を生きる大人がうまく融合しているブランドアイデンティティーはどこかアニメーション映画「ロジャーラビット」や「スペース・ジャム」を思い出させる。

OffLimitsでは、キャラクターが本物のシリアルを食べていたり、逆に食べている人の写真にキャラクターの顔を乗せていたり面白い投稿が多い。リアルプロダクトのInstagramの投稿は、ほぼ写真をベースとしてある投稿してあることが多く、OffLimitsのように写真とキャラクターがちょうどよく融合できてる。キャラクターと写真のトーンが絶妙にあっていて、違和感がない。

カウンターカルチャー精神から生まれたプロダクト名

そもそもOffLimitsの名前自体はエミリーさんがシリアルブランドを立ち上げた二つの理由を埋め込まれている。まず、エミリーさんのように子供のころに甘いシリアルが食べることが許されなかった、いわゆるOff Limits=禁止だったことを表している。

そして、あえて禁止と言う言葉を使っているのは、名前が「禁止」と言う意味なのに食べても良い矛盾を作りたかったから。それによってエミリーさんの遊び心な性格が明らかになる。さらに、今の存在するシステムを壊したく、カウンターカルチャーを応援していることを見せたかったから。エミリーさんからすると、「Nothing is OffLimits!」(禁止なものは存在しない!)、そして朝ごはんでしかシリアルを食べないと言う概念も捨てて欲しい。彼女が言うには「Break the rules, starting from breakfast」(朝ごはんからルールを破ろう)。

OffLimitsサイト

引用:OffLimitsサイト

そしてロゴのデザインとブランディングを担当した有名デザインエージェンシーのPentagramは、男の子が腕を伸ばして瓶に入ったクッキーを取ろうとしている写真を見て、ロゴを思いついた。それでPentagramチームはOffLimitsの二つ目の「f」を少しあげて、子供が届きにくい場所に何かを置いて、「禁止」と言う言葉をビジュアルでも表現するようにした。

OffLimitsサイト

引用:OffLimitsサイト

ブランドを立ち上げた原点を守りながら、子供と大人が楽しめる遊び心をロゴだけではなく、サイトデザインでも取り入れている。

遊び心を忘れないサイトデザインとUX

OffLimitsのホームページに行くと明るい色合いとグルグル回っているキャラクターに遭遇する。そして、スクロールしても、別ページに訪れてもこの「遊び心」を細かく表現するようにしている。これはゆっくりと回るシリアルだったり、「カートに入れる」ボタンを押すとさりげなく誰かがシリアルを食べている音が流れることや、最近のD2C企業のLPではよく見かける、ボタンを押すときにマウスカーソルのデザインが変わるデザイン。

OffLimitsサイト

引用:OffLimitsサイト

上記GIFではDashを購入する時のマウスカーソルだが、Zombieを購入するときにはマウスカーソルの形だけではなく、色も変わる。さらに、各プロダクトページに行くと、DashとZombieとチャット出来る画面が出てくる。実際にチャットしてみると、決まった回答しか帰ってこないが、これもユーザーがより楽しくサイトとエンゲージ出来るように構成されている面白い機能。

OffLimitsサイト

引用:OffLimitsサイト

実際にZombieと「会話」すると、Dashと同じく自己紹介とプロダクトの紹介をして、DMするようにお願いしてくるが、言葉遣いやトーンがZombieの性格と合わせて変えている。

OffLimitsサイト

引用:OffLimitsサイト

各ページのコピーの書き方、フォント、フォントの大きさ、GIF・動画の使い方がどれだけ細かく考えられているのかが見ているだけで分かる。これは計算して「遊び心」をユーザーに感じさせようとしている。

何故遊び心を持つのが大事かと言うと、OffLimitsは大人に子供の時のシリアル体験を思い出させたいから。それはノスタルジアと非常に強い感情を感じさせることによって、よりユーザーがOffLimitsのブランドと共感し、好きになるきっかけ作り。OffLimitsは美味しくヘルシーなシリアルブランドであり、忙しい時やまろやかになりたいときに食べるもので、実際に食べると子供の頃シリアルを楽しく食べてたのを思い返せるブランドとなる。

そして、この遊び心とノスタルジアをより強調させる仕組みをさらにOffLimitsは考えた。

ノスタルジーなシリアル好きにはたまらない「おもちゃ」

アメリカに住んでいる子供であれば、シリアルの体験の一つの重要ポイントはシリアルについてくる景品やおもちゃ。昔から子供が好きそうなバッジ、時計、おもちゃなどをシリアルの箱の中に入れて、場合によってはコラボアイテムも出すことがある。昔だとジャクソン5のレコードをシリアルの箱の裏に付けたり、2015年にはスターウォーズの映画「フォースの覚醒」のプロモーションとしてシリアルの箱裏を切り取るとポスターになるように仕掛けた

OffLimitsもシリアルでおもちゃをもらう興奮と満足度をもう一度味わせるためにおもちゃを開発している。

OffLimitsサイト

引用:OffLimitsサイト

まず、ユーザーがOffLimitsのシリアルを買う際に「チケット」をもらえる。購入額に応じて、無料でもらえるチケットが変わり、そのチケットを景品と交換するシステムになっている。

OffLimitsサイト

引用:OffLimitsサイト

このチケットのデザインと景品とチケット数を交換するシステムはどのアメリカ人も理解している仕組みである。これは、子供の時に遊びに行ったアーケードでまさに行われる現象。アーケードでゲームをプレーして、活躍した分多くチケットをもらい、そのチケットを使って帰り際に景品と交換する。

Trip Advisor

引用:Trip Adviser

アーケードと同じように、OffLimitsでは余ったチケットは次回の購入に使えるようにしているのと、別途おもちゃだけ欲しい場合も購入できるようにしている。今はピン、ペン、そしてスプレー缶しかないが、今後は帽子、時計、マグカップ、Tシャツが出てくるかもしれない。

Pentagram

引用:Pentagram

これでOffLimitsのブランドを好きになったユーザーからさらにマネタイズができるようになる。これだけデザインやブランディングに凝ったOffLimitsはローンチ前のマーケティングもかなり上手く行った。

SNSを最大限に活用したマーケティング

OffLimitsはローンチ前からSNSを上手く活用していた。例えばTwitterでは、まず知らない人がシリアルについて質問したりコメントした時に、GIFで返信して、エンゲージメントを少しずつ増やしていった。

そして次にTwitterとInstagramで他社のシリアルを食べている人の写真に自社のシリアルやキャラクターの名前をメンションし始めた。

 

そして、TwitterとInstagramでボヤけた商品の写真をアップし、次の日により見えやすい写真、そして最後に商品のローンチと合わせて画像を公開するマーケティングも行った。これは期待値を上げる良い作戦。

そして、今ではIntelligentsiaとのコラボもOffLimitsのブランドっぽく、さらにInstagramフレンドリーな色合いと動画のペースでプロモーションを行っている。

ブランドを応援したくなる、社会的ビジネス

OffLimitsブランドと強くつながっていて、ユーザーがブランドをより好きになる理由はOffLimitsの社会的貢献をしたい姿勢。そもそもデザインに拘っているOffLimitsからすると、アートを作るアーティストが欠かせない存在。Breakfast Club時代からエミリーさんは色んなローカルのアーティストと仕事をしていた。そんな中、コロナの影響でアーティストの収入源となるアートギャラリーが多く閉じたため、OffLimitsのキャラクターデザインを手掛けたStudio Number Oneと提携してデジタルアートギャラリーを作った。

引用:OffLimitsサイト

支援の内訳も公開していて、売上の50%はアーティストに、35%はWide Rainbowという低所得地域にある学校のアートプログラムを支援する非営利団体へ、そして15%は配送と印刷代に。

OffLimits

引用:OffLimitsサイト

実際にOffLimitsのローンチイベントもギャラリーで開催した。

パタゴニアやAllbirdsが環境に優しい世界を作りたいように、強いブランド、いわゆるカルト的なブランドを作るにはプロダクト以上のことをブランドと結びつけなければいけない。OffLimitsは自社ブランドのコアとなるアートとアーティストをサポートしているからこそ、シリアル以上の会社として見られる可能性が高い。

果たしてOffLimits成功するのか?

Off TopicのInstagram投稿でも記載している通り、NPRの記事によるとコールドシリアルとホットシリアル(オートミール等)の市場は200億ドルを超える産業であり、今後の成長が見込まれている。アナリスト曰く、シリアルブランドは懐かしいものが多くより現代的なマスコットが重要であり、健康的なものであることが重要とのこと。まさに新しいシリアルブランドが生まれている背景です。

OffLimitsまだローンチしたばかりなので、実際に成功するかはわからないが、初期フェーズでは成功する要素を持っている。ブランドを立ち上げる理由とバックグラウンドを持っている創業者、デジタルネイティブなコミュニケーションとマーケティング、人を喜ばせてノスタルジアとパワフルな感情をもたらす細かいデザインとクリエイティブ、そしてそのクリエイティブを支えるアーティストを支援したい社会的ミッション。唯一まだ見えてないD2C 3.0で必要な要素はユーザーとファンを引き寄せる熱いコミュニティー(GlossierのInto the Gloss)とユニットエコノミクス、いわゆるキャッシュフローがどう回っているのか。逆に、初期からペイバック期間が短く、キャッシュフローサイクルを管理しながらオンライン・オフラインのオーガニックなユーザー獲得チャネルを作れると、長期的に見てシリアル業界ではかなり強いプレーヤー、そしてタイムレスなブランドになり得る可能性がある。

今後もOffLimitsやD2C 3.0トレンドを追いながら、リテール業界がどう変わるのか、次世代リテール・コマースの進化を解説していきたい。

引用

https://www.designweek.co.uk/issues/7-july-13-july-2020/astrid-stavro-offlimits-branding/
https://www.vogue.com/article/offlimits-cereal-breakfast-emily-miller
https://www.creativereview.co.uk/brand-adult-spin-cereal/
https://www.npr.org/2020/07/10/889653205/offlimits-cereal-brand-launches-with-female-mascot
https://www.forbes.com/sites/melissakravitz/2020/07/07/offlimits-cereal-emily-elyse-miller-breakfast/#7285e48542a8
https://www.itsnicethat.com/news/pentagram-astrid-stavro-off-limits-shepard-fairey-graphic-design-090720
https://www.pentagram.com/work/offlimits/story

細胞培養で作られた研究室育ちの豚バラとベーコンをHigher Steaksが初公開

細胞培養肉ビジネスにおいて、何が商品化の号令となるかという問いに、新興培養肉企業であるHigher Steaks(ハイヤー・ステーキス)が出した答えは、最初の製品サンプルをなんとか作り上げることだった。同社の場合それは、研究室で細胞を培養して作られたベーコンのスライスと豚バラ肉だ。

英国のケンブリッジで自己資金による運営を続けるHigher Steaksは、このサンプルを示したことで、数多ある巨額投資を受けたずっと大きな企業と台頭に張り合える地位に一気に躍り出た。

「商品化までには、まだまだやるべきことが数多くあります」とHigher Steaksの最高責任者であるBenjamina Bollag(ベンジャミナ・ボーラグ)氏は話す。「しかし、培養細胞を50パーセント使用した豚バラ製品と、研究室で細胞素材から培養した肉70パーセントを含むベーコン製品を提示できたことは、この業界に大きな意味をもたらしたはずです」。

Higher Steaksのベーコンと豚バラ肉の残りの材料は、植物由来のタンパク質と脂肪とデンプンを混ぜ合わせたもので、これが細胞素材のつなぎになっている。商品化までの第一段階に漕ぎ着けるために、Higher Steaksは、匿名のシェフの専門知識を借りて、培養肉を本物の豚バラ肉とベーコンの味に近づける調合法を編み出した。

Higher Steaksの研究開発責任者ラス・ヘレン・ファラム氏(左)と、最高責任者のベンジャミナ・ボーラグ氏(右)。画像クレジット:Higher Steaks

現段階では、この試験品はHigher Steaksが将来何をするかというより、今何ができるかを示すためのものだとボーラグ氏はいう。

「これが将来の足場材料になります」とボーラグ氏。「これは私たちの肉に何ができるのか、私たちが今何をしているのかをはっきりと示すものです。将来、それが私たちの足場材料となります」。

Tantti Laboratories(タンティ・ラボラトリーズ、台湾創新材料会社)、Matrix Meats(メイトリックス・ミーツ)、 Prellis Biologics(プレリス・バイオロジックス)など数多くの企業が、同様にバイオ素材を使ったナノスケールの足場材料を開発している。それは、筋肉の繊維組織に相当する培養構造体の骨組として利用できる。

Higher Steaks、Memphis Meats(メンフィス・ミーツ)、Aleph Farms(アレフ・ファームズ)、Meatable(ミータブル)、Integriculture(インテグリカルチャー)、Mosa Meat(モサ・ミート)、Supermeat(スーパーミート)といった企業は、その製品を商業展開するにあたりTantiiやMatrixなどの企業の力を借りる必要があるのだが、動物の細胞を育てるために必要な細胞培養のコストを下げるためには、その他にThermo Fisher(サーモ・フィッシャー)、Future Fields(フューチャー・フィールズ)、Merck(メルク)といった企業の技術にも頼らざるを得ない。

2014年以降、世界全体で30社あまりの細胞ベースの食肉スタートアップが起業し、1兆4000億ドル(約150兆円)規模の市場の一角を狙っている。

その一方で、2019年にはアフリカ豚熱ウイルスの流行により中国では全飼育数の40パーセントにあたる豚が失われたとされ、供給量が減少しているにも関わらず、豚肉の需要は高まり続けている。

「私たちの使命は、消費者が味を我慢することなく、健康的で持続可能な肉を供給することにあります」とボーラグ氏は語っている。「世界初の培養豚バラ肉とベーコンの製造は、世界中で供給不足になっている豚肉の需要に、新技術で対応が可能であることの証明になります」。

巨額の資本金を有する企業と競合することを想定してHigher Steaksは、現在、その技術の商品化を手助けしてくれる業界内のパートナーを探している。

競争力を高めるためにHigher Steaksは先日、PredictImmune(プレディクトインミューン)の元最高技術責任者であるJames Clark(ジェイムズ・クラーク)博士を招いた。

「私はずっと以前から、科学と食糧生産のミックスである培養肉に強い興味を抱いていました。2013年に私はMark Post(マーク・ポスト)氏が開発した25万ポンド(約3400万円)という世界初の培養肉でハンバーガーを調理するBBCのテレビ番組を見ました」とクラーク氏。「私は2020年の初め、Higher Steaksから声を掛けられ、何よりもその科学技術と、同社の創設者ベンジャミナ・ボーラグ氏の情熱とエネルギーに魅了されて入社したくなりました。Higher Steaksには、培養肉分野に改革を引き起こす技術があると私は確信しています。私は今のキャリアステージに達して、挑戦を求めていたのです」。

培養肉製造工程をスケールアップする目的でHigher Steaksに採用されたクラーク氏は、バイオテクノロジーと製薬分野のアーリーステージや上場企業で製品開発を指揮してきた経歴を持つ。

「ジェイムズ・クラーク博士がチームに加わったことで、Higher Steaksは大変な優位性を得ました」と、研究開発責任者のRuth Helen Faram(ラス・ヘレン・ファラム)博士は話す。「培養豚バラ肉もベーコンも、これまで一度も実際に提供されたことがありません。ウシ血清を使わない豚の培養筋肉を70パーセント含むプロトタイプの開発に世界で初めて成功したのがHigher Steaksです」。

だが、Higher Steaksの豚バラ肉やベーコンが店の棚に並んだりレストランで食べられるようになるのは、まだ先のことなので期待し過ぎないようにとボーラグ氏は釘を刺す。「今はまだ値段が1キログラムあたり数千ポンドという段階です」。

同社は2020年の末に、大規模な試食イベントを計画している。

画像クレジット:cookbookman Flickr under a CC BY 2.0 license

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(翻訳:金井哲夫)

細胞培養スタートアップのインテグリカルチャーがエビ細胞培養肉の研究開発を開始、シンガポール企業とタッグ

培養肉 細胞培養 細胞農業 インテグリカルチャー Shiok Meats

細胞培養スタートアップのインテグリカルチャーは7月20日、シンガポールのShiok Meats Pte. Ltd.(Shiok Meats)とともにエビ細胞培養肉の共同研究を開始すると発表した。

インテグリカルチャーの食品グレード培養液と汎用大規模細胞培養技術「CulNet System」は、これまでに牛と家禽の細胞における有効性を確認済み。同共同研究では、これらを新たに甲殻類の細胞にも拡張し、長期的にはエビの細胞培養肉を安価で大規模に製造することを目指す。

細胞培養肉の原料である培養液は、タンパク質・糖質・脂肪・ビタミン・ミネラル・血清成分からなり、特に血清成分の低価格化が培養肉の実用化において鍵となるという。同研究ではCulNet Systemの技術をベースに、血清成分を添加せずにエビの細胞を大量培養する技術を開発。Shiok Meatsは、この培養技術を活用し製造される培養エビ肉を2022年頃商品化することを目指す。

また同研究は、2020年5月開始のCulNet Systemにおいて、個別企業の細胞培養商用化をサポートする「CulNetパイプライン」ソリューションにおいて運用する。

インテグリカルチャーは、細胞農業(細胞培養)が普及する世界の実現に向けて、その低価格化・大規模化の技術開発を行うスタートアップ企業。

従来の細胞培養方法で純肉を生産するには、100gで数百万円のコストがかかっていたという。そこで同社では、食品材料を用いた培養液とCulNet Systemとともに、細胞培養のコストを大幅に下げる技術を開発した。

CulNet Systemは、汎用性の高い細胞培養プラットフォーム技術で、動物体内の細胞間相互作用を模した環境を擬似的に構築する装置となっているという。同技術は、理論的にはあらゆる動物細胞を大規模・安価に培養可能で、培養肉をはじめコスメから食材まで様々な用途での活用を想定している。

すでにラボスケールでは、管理された制御装置下で種々の細胞を自動培養し、高コストの一因であった血清成分の作出を実現している(国内外で特許取得済み)。血清成分の内製化実現により、従来の細胞培養が高コストとなる主因の牛胎児血清や成長因子を使わずに済み、細胞培養の大幅なコストダウンを実現した。

CulNetパイプラインは、CulNet Systemを用いて、個々の企業が希望する動物種の細胞を使い、細胞農業商用化をサポートするソリューション。

Shiok Meatsは、幹細胞の研究者Dr. Sandhya Sriram(CEO。写真右)とDr. Ka Yi Ling(CTO。写真左)が共同設立した、シンガポールおよび東南アジアで初の細胞農業企業。同社は、動物ではなく細胞から食肉を製造することで、クリーンで上質で健康的な魚介類や食肉を提供することをミッションとしており、エビ・カニ・ロブスターなど甲殻類の細胞培養肉に取り組んでいる。

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KFC(ケンタッキーフライドチキン)は、食品の未来に関わる実験を果敢に進めている。その活動はロシアの企業である3D Bioprinting Solutions(3Dバイオプリンティング・ソリューションズ)とのパートナーシップによる鶏培養細胞の利用や、Beyond Fried Chicken(ビヨンド・フライド・チキン)のパイロットプロジェクトを南カリフォルニアに拡大するため、植物材料を利用した鶏肉の代替品を製造することまでをも含んでいる。

KFCの声明によれば(KFCサイト)、ロシアの3D Bioprintingには衣用の粉とスパイスを提供して、製造された肉がKFCの味にマッチするかどうかが試される。同社が言うように、現在市場では、動物細胞から複雑な製品を作成できる利用可能な方法は、他に存在しない。

「当初は医学の世界で広く認められた3Dバイオプリンティング技術が、現在では肉などの食品の生産で人気を集め始めています」と語るのは、3D Bioprinting Solutionsの共同創業者でありマネージングパートナーであるYusef Khesuani(ユセフ・ケスアニ)氏だ。「将来的には、このような技術の急速な発展により、3Dプリントされた肉製品をより身近なものにすることができるでしょう、私たちは、KFCとの協力の結果として生み出された技術が、細胞ベース肉製品の市場の登場を加速することを期待しています」。

画像クレジット:Beyond Meat

本拠地により近い米国では、KFCは最近実施されたBeyond Fried Chicken実験の拡大に際して、植物由来の人工肉業者である上場企業のBeyond Meat(ビヨンド・ミート)と協力している。

KFCは、アトランタ、ナッシュビル、シャーロットで広く成功した限定的なトライアルを継続し、ロサンゼルスのBeyond Meat本社近くの南カリフォルニアのより大きな市場に現在目を向けている。

KFCによれば米国時間7月20日以降、ロサンゼルス、オレンジカウンティ、サンディエゴ地域の50店舗で、在庫が なくなるまでBeyond Fried Chickenを販売する予定だ。

ロシアのパートナーが使用する3Dバイオプリンティングプロセスとは異なり、Beyond Meatは植物ベースの材料のみを使用して、人工鶏肉を製造している。

Beyond Fried Chickenは、昨年アトランタで初めて市場に登場し、今年の初めに南部のその他の地域でも販売された。同社によれば、このメニューは、最初はアトランタで1日限りのテスト販売が行われたが、5時間以内に完売したという。

「以前もお話したことですが、多くの類似品が登場したにも関わらず、ケンタッキーフライドチキンのフレーバーはBeyond Fried Chickenが登場するまで決して再現されることはなかったのです」というのは米国KFCの最高マーケティング責任者であるAndrea Zahumensky(アンドレア・ザフメンスキー)氏だ。「この製品が東海岸で好まれることはわかりました、そこで私たちは西海岸でどのような感想が出るかを知るために、限定的な先行販売で試してみることにしたのです」。

Beyond Fried Chickenナゲットは、6ピースまたは12ピースのアラカルトとして、またはサイドメニューとMサイズドリンクの付くセットの一部として、税別6.99ドル(約748円)から提供される。

一方、KFCのロシアプロジェクトは、実験室で作られた鶏肉による世界初のチキンナゲットを作ることを目標としており、今秋にはモスクワで発売する予定だ。

各種レポートによれば、実験室で培養された肉が普及することで、気候変動に大きな影響が及ぶ可能性がある。同社は、細胞から肉を作ることで、肉の生産に伴うエネルギー消費を半減させ、温室効果ガスの排出を減らしながら、土地利用を劇的に削減できる可能性を示す統計を引用している。

「人工肉製品は、私たちの『未来のレストラン』コンセプトの開発における次のステップなのです」と声明で語るのは、KFC Russia & CISのゼネラルマネージャーであるRaisa Polyakova(ライサ・ポリアコワ)氏だ。「鶏肉製品を製造するための、3Dバイオプリンティングテクノロジーのテストに対する私たちの実験は、迫り来る地球規模のいくつもの問題への対処にも役立ちます。私たちはその技術の開発に貢献できるこをうれしく思っていますし、ロシアの多くの人々、そして可能であれば世界中人々がそれを手に入れることができるように、取り組みを行っているのです」。
トップ画像クレジット: KFC

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(翻訳:sako)

NASDAQ上場廃止が決まった中国Luckin Coffeeのチャールズ・ルー会長が解任

経営難に陥っている北京のコーヒーチェーンLuckin Coffee(ラッキン・コーヒー)の共同創設者で会長(現在は元会長)であるCharles Zengyao Lu(チャールズ・ゼンギャオ・ルー)氏が退任した。Luckinは米国時間7月13日に、同社の共同創設者で取締役でもありCEO代理を務めていたJinyi Guo(ジニー・ゴー)氏が、新たな会長兼CEOに任命されたことをSECへの提出書類で明らかにしている(Luckin Coffeeリリース)。

13日のSECへの提出書類によると、Luckin Coffeeはルー氏、David Hui Li(デイビッド・ホイ・リー)氏、Erhai Liu(エルハイ・リュー)氏、Sean Shao(ショーン・シャオ)氏という4人の取締役が取締役会を去って、2人の新しい独立取締役が任命されたとしている。今回新たに加わったのは、China University of Political Science and Lawのビジネススクールの副学部長であるJie Yang(ジー・ヤン)氏と、法律事務所のOrrick Herrington and Sutcliffeのパートナーで、El Paso Corporationのバイスプレジデント兼中国担当カントリーマネージャーを務めていたYing Zeng(イン・ゼン)氏だ。

同社の開示は、ルー氏がLuckin Coffeeの支配権守ろうとしていた数週間の争いの後に行われた。7月初めにLuckin Coffeeの取締役がルー氏を会長から解任しようとしたが、取締役会で十分な議決権を得られなかった(South China Morning Post記事)。

ルー氏を更迭する提案は6月26日に行われたもので、内部調査の結果、Luckin Coffeeの2019年の純収益が約21億2000万元(約325億円)も水増しされていたこと、取引の捏造が2019年4月から始まっており、ルー氏や元最高執行責任者のJenny Zhiya Qian(ジェニー・ジヤ・チェン)氏、その他数名の従業員が虚偽の報告に参加していたことが判明したためだ。

Luckin Coffeeは2020年6月にNASDAQが同社の上場廃止を決定したことを明かしており、同社が5月に米国で6億5100万ドル(約698億円)の株式を公開した後、不正行為の疑いで株価が急落していた。

関連記事:中国Luckin Coffeeが不正申し立てを受け入れNASDAQ上場廃止へ

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

人工肉のNuggsがSimulateにリブランド、資金とCTOを得てチキンナゲット代替品のみから製品ライン拡大へ

シリアルアントレプレナーでソーシャルメディアアプリ「Monkey」の共同創業者(THE NEW YORKER記事)であるBen Pasternak(ベン・パステルナーク)氏が創業した人工肉企業のNuggsが、410万ドル(約4億4000万円)を調達した。また社名を変更し新たなCTOを迎えて、チキンナゲット以外の製品に手を広げようとしている。

Simulateという社名に変更したこの企業は、スパイシーナゲット、チキンバーガー製品、そしてゆくゆくはホットドッグを発売する予定だ。肉を食べたいという消費者の衝動を変えるために競争の激烈な業界で目標を広げ、それにふさわしいブランドに変更する必要があった。

1年ちょっと前にパステルナーク氏がチキンナゲットの代替品を消費者に届け始めて以来、約450トンのナゲットを販売した。7月13日の週に、Simulateの冷凍ナゲットはカリフォルニアの約30店舗のGelson’s Marketに登場する。同社は今後数カ月のうちにチキンパティを、第4四半期にはホットドッグ代替品のDOGGSを発売する計画だ。

同社は6月にナゲットを新しくし、それに合わせてパステルナーク氏はリブランドを開始した。

新しくなった同社に、Lerer Hippeau、AgFunder、Reddit共同創業者のAlexis Ohanian(アレクシス・オハニアン)氏、ホールフーズのCEOだったWalter Robb(ウォルター・ロブ)氏、モデルのJasmine Tookes(ジャスミン・トゥークス)氏が新たに投資した。さらにパステルナーク氏は、新しいCTOを迎えた。

ダノンのリサーチ&イノベーション担当シニアディレクターだったThierry Saint-Denis(ティエリー・サン=ドニ)氏をCTOに迎えたのは、同社にとっては素晴らしいやり方だ。Nuggsという企業は、急成長する人工肉市場を獲得しようとするやり手の創業者と冷凍食品大手のマーケティング活動のように見えていた。新たにCTOになったサン=ドニ氏は10億ドル(約1070億円)近くを売り上げた食品開発者で、機能性成分、プロバイオティクス、酵素に関連する少なくとも14の特許を持つ人物だ。

新しいエグゼクティブを迎えて、McCain Foods、Rainfall Ventures、Maven Ventures、NOMO Ventures、MTV創業者のBob Pittman(ボブ・ピットマン)氏、Casper創業者のNeil Parikh(ニール・パリク)氏といった新規および既存の投資家たちにとっては、これまでよりもやや技術面の充実した企業を支援することになった。

Nuggsがこの1年間、製品ラインを改善してこなかったということではない。パステルナーク氏は製品をイテレーションで開発する同社のアプローチを誇示しており、さまざまな製法を試して「リリースノート」に記している。

このようなソフトウェアドリブンのアプローチによって、サブスクリプションサービスのような販売のオプションも生まれるかもしれないとパステルナーク氏は述べた。「コアなコミュニティの人々は新しいバージョンを買うのに夢中だ。我々は間もなくサブスクリプションのベータテストのようなことを始めようとしている」。

画像:Simulate

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(翻訳:Kaori Koyama)

ジャックフルーツで人工肉を作るシンガポール拠点のKaranaが1.8億円調達

シンガポールでは植物ベースの代替肉への需要が増しているようだ。事実、Beyond Meat(ビヨンド・ミート)、Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)、Quorn(クォーン)といった企業の製品への関心度は、このパンデミックの間にも上昇している。その理由には「消費者が健康重視の選択をするようになったことがある」とシンガポールの大手新聞であるThe Straits Time(ザ・ストレーツ・タイムズ)は書いている。そしていま、この市場に新規参入者が登場した。シンガポールに本社を置くKarana(カラナ)は、米国時間7月9日、シード投資として170万ドル(約1億8000万円)を調達し、最初の製品の発売計画を発表した。ジャックフルーツを原料とする豚肉の代替品が今年中に発売される。

Karanaのシードラウンドには、Quorn Foods(クォーン・フーズ)を2015年に買収したMonde Nissin Group(モンド・ニッシン・グループ)のCEOであるHenry Soesanto(ヘンリー・ソエサント)氏、アグテックの投資企業Big Idea VenturesとGermi8、そして、食品と清涼飲料水の業界で豊かな経験を持つ香港の起業家でエンジェル投資家のKevin Poon(ケビン・プーン)氏とGerald Li(ジェラルド・リー)氏が参加している。Karanaによれば、このラウンドにはさらに、名前は未公開ながらアジアを拠点とするFMCG(日用消費財)の大手卸売り業者も含まれているという。

Karanaは、ジャックフルーツを、すでにそれが代替肉として定着しているスリランカから仕入れている。Karanaの処理技術によって、豚の挽肉や細切れ肉の食感がうまく再現されており、餃子、肉まん、バインミーといったレシピに簡単に使える。

2018年、Dan Riegler(ダン・リーグラー)氏とBlair Crichton(ブレア・クライトン)氏によって創設されたKaranaは、有機栽培のジャックフルーツを、独自の機械的技術によってポークの代替肉に加工する。同社によれば、化学処理は一切行っていないという。この代替ポークは、今年中にレストラン向けに出荷される。小売店に並ぶのは来年からだ。

リーグラー氏とクライトン氏は、Karanaがジャックフルーツを使う理由は、「天然の肉に似た食感」のみならず、環境に優しい作物だからだとTechCrunchに電子メールで話してくれた。通常これは、間作物として(またはほかの作物と同じ畑で同時に)栽培され、収穫量は多く、水をあまり必要としない。だが、現在収穫されているジャックフルーツのおよそ60パーセントは廃棄されていると彼らは言う。「将来、商品化される余地が十分にあります。つまり、農家の新たな収入源になるということです」。

Karanaの創業者が手始めにポークを選んだのは、それがアジアで最も多く消費されている肉だからだ。今回のシード投資は新製品の研究開発に使われる。また同社は、アジアの戦略的パートナーとの話し合いも進めているという。将来Karanaの製品には、アジアで生産される他の作物を使った別の代替肉も加わる予定だ。

「Karanaは、完全な植物由来肉のメーカーです。私たちの目標は、自然が私たちに与えてくれるものを利用し、その驚くほどに多様な生物食材を最大限に活かしておいしい製品を作ることです。将来、ポーク以外の代替肉の製造を可能にするその他の地産作物を使った製品も発売します」と彼らは話す。「そこが、全般的に加工された農産物製品に依存している他社との最大の違いです」。

画像クレジット:Karana

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(翻訳:金井哲夫)

Beyond Meatの代替肉バーガーが中国アリババのスーパーに登場

Beyond Meat(ビヨンド・ミート)の商品が中国のスーパーマーケットの棚に登場する。同社は4月、Starbucks(スターバックス)の植物ベースのメニューへの供給で中国マーケットに参入した。それから数週間して、Beyond MeatはYum China(ヤム・チャイナ)帝国下のKFC、Taco Bell、そしてPizza Hutの店舗にも進出した。

肉消費量が世界一の中国では植物ベースのタンパク質に対する需要が増大している。植物ベースの代替肉を含め、中国の「動物肉フリー」市場は2018年に100億ドル(約1兆1000億円)以下だったのが、2023年までにおおよそ120億ドル(約1兆3000億円)になる、とEuromonitorは予測した。

Nasdaq(ナスダック)に上場する食品大手Beyond Meatはいま、同社を代表する商品Beyond Burgers(ビヨンド・バーガー)をAlibaba(アリババ)のスーパーチェーン、Freshippo(中国語では「Hema」)で展開しようとしている。Freshippoの30分配達サービスは、人々が店舗での買い物を避けた新型コロナウイルスパンデミック中に注文が急増した。

Beyond Meatとのタイアップでは、中国の1級都市と2級都市にあるFreshippoの200店舗超の顧客に動物肉フリーのバーガーを提供する見込みだ。まずは上海の50店舗で提供を始め、9月に取り扱い店舗を拡大する。

「小売が中国での我々の成功の鍵を握っている。中国マーケット参入から数カ月で初期のマイルストーンを達成できたことを嬉しく思う」とBeyond Meat創業者兼CEOのEthan Brown(イーサン・ブラウン)氏は声明で述べた。

植物ベースの肉は中国では長い歴史を持つ。幅広い都市部のライフスタイルとして登場する以前に、仏教徒の間で食されてきた。健康問題が注目されるようになり、中国政府は2016年に肉の消費を減らすように市民に呼び掛けた。中流階級の都市居住者は気候変動への対応としても人工肉製品をとるようになっている。

「国際ブランド、地元ブランドにかかわらず、中国の消費者は植物ベースの製品の第1世代を目にしているだけだ。購入は前向きな実験者にほぼ限定される」と中国のフードテック業界を専門とするベンチャーキャピタルファームBits x Bitesの創業者兼マネージングディレクターのMatilda Ho(マチルダ・ホー)氏はTechCrunchに述べた。「中国の1人あたりの植物ベースのタンパク質の消費は世界で最も多い」

「大衆消費者向けに展開したり、アーリーアダプターのリビート購入を引きつけるには、食感やフレーバー、こうしたプロダクトを中国の食事にいかに合うようにするか、かなり改善する余地がある。健康意識の高いフレキシタリアン(植物性食品を中心にしながらも肉や魚も食べる人のこと)やベジタリアンにアピールするには、よく食べられている豆腐や精進料理の肉代替品との比較で栄養価を改善する必要もある」とホー氏は付け加えた。

人工肉マーケットはすでに競争が激しい。中国企業のQishan Foods(斎善食品)は1993年から展開している。香港のOmniPork(オムニポーク) Alpha Foods(アルファ・フーズ)も中国で素早く人気を獲得した。まだ若いスタートアップZhenmeat(ゼンミート)は積極的に資金調達を模索していて、「中国の味」を承知しているとうたう。

一方、Beyond Meatの米国でのライバル、Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)は、同社の遺伝子組換えの大豆成分が健康を気遣う中国人の間で不安要素になる可能性があり、マーケット開拓は難航するかもしれない。

画像クレジット: Beyond Meat

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(翻訳:Mizoguchi

中国Luckin Coffeeの取締役会が会長追放の動き

息つく暇もない時がある。

中国に本拠を置くコーヒーチェーンとデリバリーのLuckin Coffee(ラッキンコーヒー)は6月26日朝、米取引所ナスダック上場維持の戦いをやめると発表後SEC(証券取引委員会)への提出書類で陸正耀(Lu Zhengyao)会長の辞任を要求したと表明した。

また別のSECへの提出書類で、同会長がSean Shao(ショーン・シャオ)独立取締役の解任を要求したと発表した。7月5日日曜日開催の臨時株主総会における株主投票で決議される。

すごい事になった。

事態は醜さを増している。Luckinは最近数カ月間の株価急落を引き起こした3億ドル(約320億円)の不正会計暴露の余波からの挽回を図っている。シャオ氏は、取締役会による不正会計の独立調査を主導してきた。

さて株主総会ではLuckinの株主(まだ株主はいるのだ)がどの取締役を再選または解任するか決める。コーポレートガバナンスがコントロールを失っているこの極端なケースで誰が選ばれるのか予断を許さない。

株主は、複数の現任取締役に加え、2名の独立取締役の新任についても投票する。候補者はZeng Ying(ゼン・イン)氏とYang Jie(ヤン・ジエ)氏で、それぞれビジネスおよび法務の分野で長い経験を有する。

以前から臨時株主総会が開催されることはわかっていた。ここに至り同社は態度を硬化し、投票を経て7月2日までに会長を追放しようとしている。臨時株主総会予定日の3日前だ。

正直、現時点では何が起こるかわからない。だが筆者が言えることは、Luckinの株価は米国26日金曜日に54%下落で終了し、時価総額はわずか数億ドル(数百億円)だということだ。ピーク時は120億ドル(約1兆3000億円)以上だった。誰が勝っても、手にするのは空の杯だ。

画像クレジット:FRED DUFOUR/AFP / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

中国Luckin Coffeeが不正申し立てを受け入れNASDAQ上場廃止へ

Luckin Coffee(ラッキンコーヒー)は、現代史で最も急成長したスタートアップの1社であり、2019年にIPOする見込みが最も高い会社の1つだった。だが数億ドル(数百億円)の不正の可能性があると同社が開示した今、旅は終わりの始まりの様相を見せている。

同社は米国6月26日にSECに提出した声明で、NASDAQ(ナスダック総合指数)による上場廃止の決定に異議を唱えることはないと表明した。中国に本拠を置くコーヒーチェーンである同社は、市場から退出させたいという意向を示す通知を証券取引所からここ数週間で2通受け取っていた。売買は6月29日火曜日の朝には正式に停止される。つまり、少なくとも当面は同社株が売買される最後の日は6月28日月曜日となる。

Luckinの物語は非常に刺激的だった。同社は創業わずか2年のスタートアップで、コーヒー「ショップ」を立ち上げ、世界中で存在感をもつStarbucks(スターバックス)よりも速くコーヒーを届けていた。Starbucksは中国に進出して20年以上、消費者に対し伝統的なお茶文化からの転換を働きかけてきたが、中国全域でLuckinに追い抜かれた。

その成長が昨年のデビューの際、ウォールストリートから大きな関心を集めた。目まぐるしい成長により同社の株価は急上昇した。ただ1つ問題があった。成長は明らかに現実からほとんどかけ離れていた。

同社の取締役会は今年4月、3億ドル(約320億円)の帳簿上の不正行為の調査を始め、関連会社が大量のコーヒーを購入したと見せかけ、売り上げを水増ししたことを発見した。この戦術により売上高と売上数量を増やし、会社の利益率を良く見せた(真面目な話、対価をもらって何も提供しないというのは非常に利益率の高いビジネスだ)。もちろん、これが10-Kフォーム(年次報告書)に記載され、SEC(証券取引委員会)に提出されれば不正となる。

これが消費者による同社アプリのダウンロード急増(未訳記事)を引き起こした。会社がつぶれる前に、クーポンやその他の景品を実際にコーヒーと交換しようと大挙して押し寄せたためだ。

上場廃止が差し迫った今、米国および世界中で会計基準の質が大きく懸念されている(未訳記事)。公開会社会計監視委員会を通じてではあるが、米国が中国で会社の帳簿記録を実際に検証する能力には限界がある(PCAOB記事)。EYのような監査人の検証にもかかわらず、Luckinのような不正スキャンダルが繰り返し発生してきた。EYはLuckinの監査人を務める(ウォールストリート・ジャーナル記事)。

議会は現在、現地の会社資料にアクセスできる法律制定に取り組んでいる(ウォールストリート・ジャーナル記事)。米国の市場にとっての不名誉を挽回するためだ。

しかし今週騒ぎになったのはLuckinの不正だけではない。ドイツのフィンテック決済会社であるWirecard(ワイヤーカード)は今週、ミュンヘンの裁判所で破産を正式に発表した。債権者からの数十億ドル(数千億円)の融資は凍結される可能性が高い。ドイツのイノベーションシーンにとっては大きな挫折となった。Wirecardは、ドイツのトップ企業で構成するDax 30インデックスの中では珍しいスタートアップだった。

Luckinに関しては、さらに多くのドラマが展開中のようだ。銀行は、会社とその会長の陸正耀(Lu Zhengyao)氏から資金を回収しようとしている(ウォールストリート・ジャーナル記事)。たぶん同社は将来、もっと多くの幸運(Luckin)に恵まれるだろう。

画像クレジット:Victor J. Blue/Bloomberg / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

IPOを延期した米フードデリバリー大手のDoorDash、シリーズHで約430億円の資金調達を認める

DoorDash(ドアダッシュ)はシリーズHの資金調達ラウンドで、約4億ドル(約430億円)を調達したことを認めた。

米国時間6月18日、資金調達後のDoorDashの評価額が160億ドル(約1兆7000億円)で、約4億ドルのラウンドを予定している(Axios記事)と報じた。DoorDashはTechCrunchに対して、評価額が160億ドルをわずかに下回っていることを明らかにした。今回のラウンドは予想されていたが、取引の最終的な評価額は以前の報道から10億ドル(約1100億円)高くなった。

米国の人気フードデリバリー企業であるDoorDashは、2019年後半に130億ドル(約1兆4000億円)近くの評価額をつけた巨大なシリーズGを含め、これまで積極的に資金調達を進めてきた。同社によると、「T. Rowe Price Associatesの助言による投資家やファンド、アカウント」として説明されている新たな投資家であるDurable Capital PartnersとFidelityが、今回のラウンドを主導した。

DoorDashが個人投資家からさらに資金を調達したことは、2020年においては思いがけない動きだ。同社は今年に入って株式公開を非公開で申請(未訳記事)していたが、計画は新型コロナウイルス(COVID-19)と、それに続く経済不安のために延期された。DoorDashは資本不足というわけではないが、個人投資家からIPO規模の資金を調達することはブランドだけではなく、同社の事業の性質上不可欠だ。

国内のフードデリバリー大手となるDoorDashは、UberのUber Eats、Postmatesのデリバリーサービス、Grubhub-Just Eat Takeawayのハイブリッドサービスと争っている。このような競争の激しい市場は、高い資本要件が要求される。

DoorDashが実際に資金を調達する必要があったのか、また上場を延期する必要があったのかははっきりしない。Vroomのような他の企業は、コアビジネスの収益性が低いようにみえたにもかかわらず、株式公開に踏み切った。もしかすると、DoorDashも近々株式を公開するかもしれない。しかし、新しい資金を使って株式公開を延期した場合、市場はDoorDashをどのように評価するだろうか?

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

安定志向だった私が共同創業者に、ヘルスケア×フードテックの可能性

D2Cベビーフード「the kindest」の販売・製造、ヘルスケアに特化した創作レストラン「 西麻布」の運営を手掛けているMiL自分らしい人生を食から実現するをミッションに2018年、夫婦の杉岡侑也氏、杉岡千草氏、シェフの3名で創業したフードテック企業だ。

the kindest20194月の販売開始以降、20203月末までに販売実績14万食を突破し、累計約3.3億円の資金調達を実施。現在、新商品の開発も進んでいる。保育士兼介護士のキャリアを経て経営の世界に飛び込んだ杉岡千草氏に、フードテックで起業した経緯や夫婦経営のメリットについて話を聞いた。

介護・保育現場から見えてきた「食の課題」

杉岡千草氏は幼稚園教諭・保育士資格・介護福祉士・食育アドバイザーなど複数の資格を保持。保育士兼介護士として7年弱、障害を持つ子供の世話に携わってきた。

「起業のきっかけは、障害を持つ子供のいる家庭に食事による健康課題が多くあること。例えば、知的障がいがあり白い食べ物しか口にできなかったり、脳に障がいがあり運動することができず栄養バランスが崩れてしまっている子がいるんです。さらに、そのような子供に食生活を合わせている家庭は、家族もきちんと栄養を摂れていないことも課題になっていました。

「この状況を改善できないか」と考えていたときに友人に誘われて参加した料理教室で、油や砂糖などの調味料を一切使用せず野菜本来の素材だけで調理する料理法に出合いました」。

食品添加物を使わず無添加の素材にこだわった食事を提供できれば、障がいのある子供だけでなく、家族も心身ともに健康を手に入れられるのでは。そう考え、同じく食に興味を持っていた夫の杉岡侑也氏とシェフとともに起業。ヘルスケアに特化したレストランをオープンすることに。

夫婦経営は「お互いの作業量が見えるので精神的なフォローをしやすい」

夫の杉岡侑也氏は20代ながら2社の起業経験がある。経営の先輩としての頼もしさはあるが、仕事とプライベートとの線引きがあいまいになることに不安はなかったのだろうか。

「私は安定志向で起業するタイプではなかったんです。でも彼の行動力と決断力があればなんとかなるかもしれないと思い、一緒に創業する道を選びました。お互いに収入がわかっているのでヘソクリではできないけれど(笑)、どれくらい忙しいか目に見えてわかるので、精神的なケアがしやすいのは夫婦経営で良かった点ですね。

それに彼自身、上下関係を作りたくないという考えなので、夫婦ではなく「1メンバーとして言い合える関係を築いています。彼の思想や常に一緒にいる環境も相まって、事業に関する意思決定スピードは速いように感じます。昔も家族で商売をしてる時代があったので、今の時代に夫婦経営や家族経営があっても不思議ではないと思います

レストランで提供していたメニューをもとにベビーフードを開発

まずは自分たちの技術を認めてもらうための「体験できる場」として、ヘルスケア創作レストラン「倭 西麻布」を2018年にオープン。

「メニューにもこだわりたかったので、開発に時間を要しました。野菜・魚・肉、それぞれで調理法を変えたりと、どのようにおいしさと健康を両立させるかをシェフと趣向を凝らす日々。起業準備からクラウドファンディングで開業資金を募るまでに1年くらいかかりました」。

レストランが軌道に乗り始めた2018年末、メニューとして出していたにんじんのピューレを食べたお客様から「子供のにんじん嫌いが治った」という声を聞き、ベビーフードとしてプロダクト開発することに。

the kindestは、小児科医、管理栄養士、シェフ監修のもと、子供が取りづらい鉄分や亜鉛、ビタミンDなどの栄養素が入ったベビーフード。

そのまま食べることも、アレンジすることも可能。味は23種類あり、「にんじんのピューレ」「シラスと白いんげんの和え物」「鶏ささみと野菜のあんかけ」などバリエーションが多く月齢に合わせていたりと、飽きないようにしているのもポイントだ。サブスクリクション型でも販売しており、金額は月11980円で20食。販売実数は20203月末時点で14万食を突破している。

「ユーザー獲得はマス向けに展開しており、フォロワー12000人のインスタグラムと登録者約8000人のLINE@がメイン。さらにテレビや雑誌などでありがたいことに露出が増え、『孫に送りたい』というおじいちゃん・おばあちゃん層からのギフトニーズも増えています」。

一家に1つ、MiLの商品が食卓に

518日には初の子供向けおやつであるソフトクッキーの販売も開始。今後の事業展開を聞いた。

「『倭 西麻布』は現在、新型コロナウイルス感染拡大による自粛で予約人数を減らしたり、デリバリーやテイクアウトがメイン(2020611日現在)。店舗経営とプロダクト開発の両立が理想ですが、今は後者に力を入れています。

商品ラインはベビーフードとおやつがメインですが、今後は1歳以降のお子さま向けやこれからママになる人に向けた商品も開発していきたい。家庭に1つはMiLの商品があるという世界を目指しています」。

全国のベーカリーをD2C化する群馬拠点のパンフォーユーが九州パン市場に参入、アジア圏も狙う

群馬県を拠点とするパンフォーユーは6月9日、福岡県を拠点とするベンチャーキャピタルであるGxPertnersからの資金調達を発表した。第三者割当増資による調達で調達額は非公開。

今回の資本提携により、GxPertnersがGP(無限責任組合員)を務めるファンド(九州オープンイノベーション1号投資事業有限責任組合)のLP(有限責任組合員)をはじめとする九州地域の事業会社との連携を進め、同地域での事業拡大を目指す。さらにアジア圏で日本のパンの需要拡大を見越し、九州地区の流通の利用を検討しつつ海外展開も計画している。

パンフォーユーは、独自のパン冷凍技術と物流網を持つ2017年1月設立のスタートアップ。月額3996円で全国各地のベーカリーから月1回パンが届く個人向けのパン宅配サービス「パンスク」、月替わりで最大8種類を届けてくれる企業の福利厚生を利用した法人向けパンサービス「オフィス・パンスク」、小ロットから冷凍パンを発注できるOEMプラットフォーム「パンフォーユーBiz」などの事業を手掛けている。

一般社団法人日本食品分析センターの検査によると、同社のパン冷凍技術は焼成のあとに1日常温で置いたパンよりも品質が高いことが実証されているとのこと。ベーカリー側は、冷凍庫を用意して同社の技術使ってパンを冷凍すれば、品質を保ったまま全国の消費者に届けることが可能になる。現在25店のベーカリーと提携しており、2020年中に47都道府県の各地域で営業しているベーカリーとの提携を目指す。

フードロスを減らすApeelがシンガポール政府やケイティー・ペリーから約270億円調達

食品廃棄と新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによるグローバルな食品サプライチェーンが圧迫が世界中の大きな関心事になっているが、カリフォルニア州の海辺の街、サンタバーバラの小さなスタートアップが、2億5000万ドル(約270億円)を調達して、その解決法を提供することになった。

Apeel Sciences (アピール・サイエンセズ)というその企業は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成金10万ドル(約1070万円)からスタートし、この8年間で成長を続けてきた。それが、トーク番組司会者であるOprah Winfrey(オプラ・ウィンフリー)氏や歌手のKaty Perry(ケイティー・ペリー)氏といった著名人を始め、シンガポールが所有する投資会社Sovereign Wealth Fund(ソブリン・ウェルス・ファンド)などの大手投資会社の支援を受け、今では10億ドル(約1070億円)規模の世界的企業となった。

こうした投資家や有名人を投資に導いたのは、Apeelが開発した食品を新鮮な状態で長期間、店の棚に陳列できるテクノロジーだ。これにより食品廃棄が減り、(気持ちとして抵抗はあるだろうが)店舗にもっと多くの野菜を仕入れさせることができる。

少なくともそれがこの8年間、Apeel Sciencesの創設者で最高責任者のJames Rogers(ジェームズ・ロジャーズ)氏が主張してきたことだ。これにより同社はトータルでおよそ3億6000万ドル(約390億円)の投資を集め、Upfront Ventures、S2G Ventures、Andreessen Horowitz、Powerplant Venturesといった投資会社を引き寄せてきた。

「(フード)システムの負荷は限界を超えています」とロジャーズ氏。「私たちはApeelの仕事を、フードシステムを築き、地球上のあと20億人ほどの人たちの体重を支えることだと考えています」。

ロジャーズ氏は、Apeelの主要製品となるこのテクノロジーの開発を、カリフォルニア大学サンタバーバラ校で博士号取得を目指していたときに開始している。初めて会社を興すことになる彼にひらめきが降りてきたのは、インターンとして働いていたローレンス・リバーモア研究所からの帰り道だった。

カリフォルニアの穀倉地帯をしばらく車で走っていたロジャーズ氏は、現在の食糧供給ネットワークは食糧生産能力が低いわけではなく、収穫した場所と供給する場所との間で発生する食品の劣化と廃棄に問題があるのではないかと気がついた。

かつて農業生産者は、作物を枯らす病害虫を防ぐための農薬に、保存方法としての使い捨てプラスティック包装や化学薬品処理に依存してきたが、それがまた別の深刻な環境問題の原因になっている。

「もう近道はありません。使い捨てのプラスティックも農薬も、それぞれの役割を終えました」とロジャーズ氏はいう。ロジャーズ氏は、今こそApeelの食糧保存テクノロジーがその役割を担うときだと考える。

ロジャーズ氏によれば、新たにApeelの金庫に入った資金すべて投じて事業の拡大を開始しアフリカ、中央アメリカ、南アメリカの大手農業系企業や生産者と連携するという。「店の棚に52週間、供給を維持するためには、北半球と南半球とで事業を行う必要があります」とロジャーズ氏は話している。

その壮大な目標に比べると、取り扱う生産物はアボカド、アスパラガス、レモン、ライムと限定的だが、同社のうたい文句とロジャーズ氏の展望は、もっとずっと広大だ。「オレンジが知っていることをキュウリに教えてやれば、プラスティックで包まなくてもよくなります」とロジャーズ氏。「その廃棄物を減らすだけで、膨大な経済的価値が世に現れるのです」。

現在のところ、この事業を進めるためには、今まさに出番を待っている経済的価値について小売業者にわかってもらう必要がある。

具体的にはApeelのテクノロジーを試してみようと同意した企業には、すべての野菜が届き、そこから各地に出荷されるサプライチェーンのバックエンドにApeelの処理システムを設置することになるとロジャーズ氏は話す。

Apeelのシステムは、1回運転するだけで10トンの食品を1時間で処理できるという。2020年は、現在までに果物200万個をコーティング処理する予定になっていると同社は話している。

Apeel Sciencesは、すでにアメリカとヨーロッパの食品小売業者で食品処理を行っている。平均してApeelを利用している業者はシュリンクラップの使用量が50%減り、売り上げは5〜10%増加、店内のマーケティングキャンペーンと組み合わせて販売することで、売り上げが2%ずつ増大していると同社はいう。

「食品廃棄は、食糧システムの中の人たち全員に課せられた目に見えない税金です。世界の食品廃棄をなくせば、年間2兆6000億ドル(約280兆円)が浮き生産者、流通業者、小売り業者、消費者そしてこの地球のための、よりよいフードエコシシテムを構築できます」とロジャーズ氏は声明の中で述べている。「私たちはともにこの業界に時間を取り戻し、食糧廃棄危機や食品業界を苦しめる数々の問題に対処して参ります」。

画像クレジット:Valeriya Tikhonova / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

代替食材はもういらない。アジア系姉妹が本格アジア料理の「スターター」を販売

米国に移民してきた人たちにとって、代替品には複雑な思いがあったり、有り難く感じたり、またはしばしばその両方であったりもする。だからこそ、 Vanessa(バネッサ)とKim(キム)のPham(ファム)姉妹は、Omsom(オムソム)を立ち上げた。家で本格アジア料理を作るための「スターター」セットを販売するシードステージの食品スタートアップだ。スターターには、ソース、スパイス、香料が含まれ、これを買えば30分以内に料理が仕上がると2人の共同創設者は話している。

「私たちアジア系米国人は、メディアや文化の中で大きな声で主張できるようになってきましたが、それに比べて、食料品店のエスニック食材コーナーへ行くと、アジアの味がどれほど他のものに置き換えられているかかがよくわかります」とバネッサは私に話した。

エスニック食材コーナーの存在そのものがアメリカに根付く「他者化」の文化の表れだとする批判を呼んでいる。コンサルティング企業 Bain & Company(ベイン・アンド・カンパニー)に勤めていたバネッサと、Frontline Ventures(フロントライン・ベンチャーズ)やDorm Room Fund NYC(ドーム・ルーム・ファンド・ニューヨークシティー)といったベンチャー投資企業に勤めていたキムにとってそれは、姉妹でOmsomを設立しようと決意させるのに十分な理由となった。

「エスニック食材コーナーは、めちゃくちゃ遅れています」とバネッサ。「風味は薄められていて、そもそもブランディングもデザインもステレオタイプ的です。ひとつの料理を煮詰めて惨めなビン1本に詰め込むなんてこと、できますか?」。

エスニック食材コーナーは国際コーナーと呼ばれることもあるが、大抵、永遠に使い切らないタイ風ペーストが置かれている。少し先に進むと、電子レンジで温めるパッケージに入った脂肪分過多のバターチキンがある。そして瓶詰め食材の棚には、世界でもっとも多様な料理が「カレーソース」という名前でひとつの瓶に押し込まれている。

食料品店に並ぶ代替食品の進歩は悲しいほど遅れているが、創設者姉妹はそれを変えられると楽観している。そのブランド名(ベトナム語で「利かん坊」)に秘められた味付けから現時点の資本化テーブルに至るまで、Omsomもまた、語られるべき移民文化の物語のひとつだ。これが彼女たちの話だ。

Omsomは、金額は未公開ながらプレシード資金を元手に、本日創業した。このアーリーステージのスタートアップのオーナーシップグループは、Girls Who Code(ガールズ・フー・コード)の創設者Reshma Saujani(レシュマ・ソウジャニ)氏、Better Food Ventures(ベター・フード・ベンチャーズ)のパートナーBrita Rosenheim(ブリタ・ローゼンハイム)氏など、半数が有色人種の女性で占められている。また、従来型ではないニッチな分野を目指す起業家に特化した投資会社Unpopular Ventures(アンポピュラー・ベンチャーズ)の創設者でありパートナーのPeter Livingston(ピーター・リビングストン)氏も出資している。

リビングストン氏は、Omsomが今までにないカテゴリーをカバーする企業であることから、実際にはまったく「フードテックの投資家」ではないにも関わらず投資したと話している。

「産業としてのベンチャー投資は、大変に同族的で、小さな地域に固まり、自分に近い人に投資したがり、同じテーマを持つ少数に投資する傾向があります」とリビングストン氏。「歴史的に、エスニックフードに必要な食材は、ほとんどベンチャー投資のカテゴリーにはなく、そこに私は好機の匂いを感じました」。

サウジャニ氏は、自身の投資を「彼女たちと、ほとんど見向きもされなかった市場のための製品への賭け」と語り、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響でレストランが店を閉じ、人々は家で料理せざるを得なくなった現状を踏まえて「今の状況が、食糧棚の常備品への消費者の食欲をますます高めています」と話している。

お袋の味

「母親の食材」で本格的な料理を再現するのは容易なことではない。そこでファム姉妹は食材探しと料理人との協力に重点き、レシピの研究開発に1年間を費やした。

姉妹は、3組のシェフとチームを組んだ。Madame Vo(マダム・ボー)のJimmy Ly(ジミー・リー)氏、Jeepney(ジープニー)のNicole Ponseca(ニコル・ポンセカ)氏、Fish Cheeks(フィッシュ・チークス)のChat(チャット)とOhm(オーム)のSuansilphong(スアンシルフォン)兄弟だ。彼らは、売り上げに応じて段階的にロイヤリティーを受け取る。

「私たちは、材料の90%はアジア固有の食材であり、アジアから直接仕入れることに決めています」とバネッサ氏。「正式な唐辛子を手に入れるためだけにも全力を尽くしました」。

正統であることの他にも、ファム姉妹には克服しなければならない誤解があった。それは、みんな大好きな中華風オレンジチキンやクリームたっぷりバターチキンのように、米国人の好みに合わせた外国料理の脂っこくてジャンクなイメージだ。

各国の文化の代表とされがちなこれらの人気料理は、たとえばインド文化を受け継ぐ移民家族が毎日食べているであろう料理よりも数段不健康にできていることが多い。Omsomはそこを、保存料もブドウ糖果糖液糖も使わずに1年間保存可能な料理を提供することでひっくり返そうとしている。それは「自然食品チェーン店に並んでもおかしくない、健康に気を遣いたいユーザーに受け入れられる」ものだ。

今、ファム姉妹に残る課題は、このパンデミックの最中に妥協のない料理を約束どおり配達する手段の確保だけだ。人々が家に閉じ込められ、いろいろな料理を試したいと考えている社会の様子を、彼女たちは嬉しい変化だと見ている。

「私たちは、ほとんど白人ばかりのボストン南部の郊外で育ったため、私たちの食事のことを少し恥ずかしく思ってました」とキム・ファム氏は話す。「しかし、有色人種の女性として自己を確立しようと努力し始めたとき、自分のアイデンティティーへの関わりの第一段階として食事を使うことにしたのです」。

「家から離れて、いつものとおりベトナム語を使わずにいましたが、私は食事に意識が向くようになりました」と彼女。「たった1杯のフォーにでもです」。

キム(左)とバネッサ(右)のファム姉妹

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(翻訳:金井哲夫)

「置き社食」サービスに進化した「OFFICE DE YASAI」が総額4億円を調達

オフィス向けの置き野菜サービス「OFFICE DE YASAI」を運営するKOMPEITOは5月14日、第三者割当増資と融資を合わせて総額約4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。出資元はニッセイ・キャピタル、iSGSインベストメントワークス、静岡キャピタル、広島ベンチャーキャピタルと日本政策金融公庫の各社だ。今回の調達は、2017年3月発表の総額1.5億円の資金調達に続くものとなる。

KOMPEITOが2014年から提供するOFFICE DE YASAIは、冷蔵庫設置型のオフィスの置き野菜サービスだ。従業員への福利厚生や健康経営の一環として、2020年5月現在、累計1500拠点以上に導入されている。野菜中心の冷蔵庫設置型プラン「オフィスでやさい」に加え、2018年7月からは、冷凍庫設置型の置き惣菜プラン「オフィスでごはん」も提供する。

今回の資金調達により、KOMPEITOではサービスのCS機能、人員強化と商品・サービスの強化を行うとしている。また物流や商品など、これまで手がけてきた事業アセットを活用した新規事業も推進するという。

商品・サービス強化の一環としては、サラダやフルーツが中心だった冷蔵庫設置型のオフィスでやさいプランに惣菜を取り入れたリニューアルを行い、“置き野菜”から“置き社食”サービスに進化した。1日の中でも需要が高いランチ時間帯に、より昼食として利用しやすいよう、肉や魚を中心とした惣菜メニューをラインアップとして加える。

「オフィスでやさい」プランの惣菜メニュー例(盛り付けはイメージ)

食事になる惣菜やご飯に加え、サンドイッチなどもそろえる予定。オフィスに設置した冷蔵庫へ届ける。従業員は商品を1個100円からの価格で、昼食時だけでなく、朝や残業中などの好きな時間に購入することができる。

新型コロナウイルスの感染拡大で、在宅勤務を導入する企業も増える中、KOMPEITOでは4月23日から、個人宅向けにサラダのサブスクサービス「OUCHI DE YASAI(おうちでやさい)」もスタートした。

「OUCHI DE YASAI」のサラダごはんメニュー例

5種類のメニューが3カ月ごとに入れ替わるサラダごはん2個が毎週1回届く「サラダプラン」は通常価格6000円/月から、サラダごはんとカットフルーツ、味付きたまご各2個のセットが毎週1回届く「バランスプラン」は通常価格8000円/月からとなっている。現在は東京都と神奈川県の一部エリアへの配達に限られるが、牛乳宅配店などとの提携で物流シェアリングすることで、エリアを順次拡大していく予定だ。

また、KOMPEITOでは4月16日から、物流業界と病院、クリニック、介護施設を対象に、OFFICE DE YASAIの初期導入費用5万円を無料、月額利用料を導入初月から3カ月間半額とするキャンペーンも実施している。5月末の申し込み分までがキャンペーン適用となる。

KOMPEITO代表取締役CEOの渡邉瞬氏は今回の調達にあたり、「サービス開始から6年、前回の資金調達から約3年、紆余曲折あったが1500を超えるオフィスに導入させてもらい、約5倍の成長をすることができた。調達を通してOFFICE DE YASAI事業の更なる拡大のためにCS・サービス強化に注力していく。また地銀系VCに加わっていただき、地方進出や商品仕入れ面での連携を期待している」とコメント。「加えて『おうちでやさい』など、今まで築き上げて来たオフィスチャネル、ラストワンマイル物流、商品企画・仕入れのアセットを生かして事業開発にもチャレンジしていく」と述べている。

また、新型コロナウイルス感染症の影響については「オフィス向け食の福利厚生サービスなので、影響は受けているが、自分たちが社会に対して価値提供できることを考え、今できることを全力で取り組んでいきたい」と渡邉氏はコメントしている。