米国では毎年、約1000万匹のペットが行方不明になっており、そのうちの数百万匹は施設で保護されているが、認識票やマイクロチップがないために飼い主と再会できない場合がある。新しいモバイルアプリ「Shadow(シャドウ)」は、その中でもとりわけ愛犬とはぐれてしまった飼い主を助けるため、ボランティアネットワークとAI技術の組み合わせを活用して、この問題に取り組むことを目指している。
このスタートアップ企業は、米国中の動物保護施設や救助団体と協力して、現在収容している犬の写真を収集し、これにTwitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)などのソーシャルメディアプラットフォームから収集した写真で補完する。
Shadowによれば、行方不明になった犬の写真と、近くの保護施設やウェブから収集した写真を照らし合わせるために、AI技術を使用しているという(Shadowの競合であるFindapetは、これが真実ではないと主張。Shadowのアプリが手動の一致判定システムに依存していることは明らかだと述べている。Shadowはコメントを求められている)。
画像クレジット:Shadow
一致する写真が見つからない場合、Shadowは、その犬がいつどこで行方不明になったかに基づいてプログラムで検索半径を設定し、犬の飼い主が次のステップとして取ることができる他のアクションを提案する。
技術的なマッチングプロセスが可能性のある一致を逃した場合に備えて、アプリには保護施設からすべての写真を直接表示したり、他のShadow ユーザーと協力して、たとえば近所に「迷い犬」のチラシを貼るようなクラウドソーシング活動を支援することなどが含まれる。
このアプリでは、ボランティアのネットワークを頼りにしており、ボランティアの人々が保護施設の写真を確認したり、行方不明の犬を探すために使われているソーシャルメディアサイトで犬の写真を拡散したりといった活動を行ってくれる。犬の飼い主はアプリ内で謝礼をアピールすることもでき、捜索に協力してくれる人のモチベーションを高めることができる。
現在では、Shadowに協力するボランティアユーザーの数は3万人を超えるまでに成長しており、また、ASPCA(アメリカ動物虐待防止協会)、ニューヨークとロサンゼルスのアニマルケアセンター、ダラスのシェルターシステムなどの団体と提携している。
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Shadowは無料で利用できるが、マッチングに成功して犬が見つかったときに仮想チップという仕組みで利益を得ている。また、ユーザーには10ドル(約1040円)でInstagram広告をアプリ内で購入する機能も提供している。これはShadowが広告のビジュアル素材を提供し、広告購入プロセスと配置プロセスを飼い主に代わって管理する。
かつてZocdoc(ゾックドック)を創設したCyrus Massoumi(サイラス・マスーミ)氏によって設立されたこのスタートアップは、数年前からステルスモードのような状態で活動を続け、現在では地元ニューヨークをだけでなく、全米20州76郡で犬探しサービスを提供している。
またマスーミ氏がZocdocから退社した際の状況が、複雑だったことには触れておくべきだろう。2015年11月の取締役会中に、マスーミ氏の共同創業者とCFOが彼を会社から追い出すための陰謀を画策したと、マスーミ氏は詐欺を主張し、裁判を起こしたのだ。訴訟では、当時のZocdoc内部における争いが詳細に述べ立てられた。ニューヨーク最高裁判所の判事は最近、この訴訟を棄却している。この棄却により判決が確定したわけではないが、現在のところ新たな訴訟は提起されていない(追記:判決では、法律上この訴訟はニューヨークではなく、デラウェア州に提出する必要があるとして却下された。マスーミ氏のコメントによれば、同氏は再提訴を計画しているという)。
これに先立ち、Zocdocは若い男性従業員がそこで働く女性に不適切な発言をすることでストレスを与える、いわゆる「bro culture(ブロカルチャー)」を発達させたと、Business Insider(ビジネスインサイダー)から非難されていた。これは、#MeToo運動が大きく台頭する前のことで、それ以来、企業が職場でこれらの問題にどのように対処するかに影響を与えてきた。
マスーミ氏は、この記事の内容に書かれているとおりだったという主張に異を唱えている。同社には当時300人の営業担当者がいたが、同氏は不適切な行為をした人がいたかもしれないことに同意する一方で、それらの行為に対する同社の対応は適切に処理されていたと考えている。
「この疑惑はZocdocで完全に調査され、価値がないことが判明しました」と、マスーミ氏はTechCrunchに語り、Zocdocは同氏がCEOだった間、繰り返し「最高の職場」として認識されていたと付け加えた(マスーミ氏が疑惑をかけられたことはないが、最終的にはCEOに責任があるということになる)。
現在のShadowは、異なる体質であることを主張している。チームは12人で、製品とエンジニアリングチームの3分の2は女性だ。Zocdocの投資家の中には、マスーミ氏を再び支援するために戻ってきた人もいる。
このスタートアップ企業には、Founders Fund(ファウンダーズファンド)、マスーミ氏とIndiegogo(インディーゴーゴー)の創業者Slava Rubin(スラヴァ・ルービン)氏のファンドであるHumbition(ハンビション)、Lux Capital(ラックス・キャピタル)、firstminute Capital(ファーストミニット・キャピタル)などのエンジェルが資金を提供している。
Zocdocの複雑な歴史をよそに、Shadowが行っている現在の仕事は、多くの人々が気にしている問題を解決している。何百万人ものペットの飼い主が、場所の問題からいつまでも動物を飼うことができなくなり、ペットを保護施設で安楽死させている。一方で、迷子ペット探しのメッセージをソーシャルメディア上で配布する現在のシステムは、それらの投稿の多くが見られているとは考えにくい。特に多くの人が集まるSNSには、それだけ大量の「ペットを探しています」という投稿が溢れているからだ。
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Shadowは2018年に、地元のニューヨーク地域で活動を開始した。その最初の年、600匹の犬を飼い主と再会させた。次の年には2000匹、3年目には5000匹の犬を再会させた。現在では1万頭近くの犬が飼い主と再会を果たしている。
それらの半分以上は、新型コロナウイルス感染症が流行し始めてから行方不明になった犬たちだ。新たにペットを飼い始めた人が増え、ペットと外で過ごす時間が増える間に犬とはぐれてしまったのだ。
マスーミ氏は、友人の愛犬シャドウ(この犬の名前が会社名の由来となった)が行方不明になった時に、Shadowを起ち上げる着想を得たと語る。この友人は、誤った手掛かりを辿ったり、彼を助けようとする人々とつながりを持ったりしながら、愛犬を見つけるのに1カ月以上かかったという。
「こんなことが世界では年に1億回くらい起きているのだろうなと私は思いました。ペットを愛する人々にとって、家族の一員がいなくなったのと同じことです」と、マスーミ氏は説明した。「これは私がすでに医療の分野で解決してきた問題と似ているように思えました。人々は医者に会いたがっていて、医者も患者に会いたがっているのに、両者を結びつける中心的な方法がないだけです」と、彼はいう。
もっと広範囲で、人々が実際に関心を持っている問題を解決するためにテクノロジーが有効に活用できないかと彼は考えた。
「誰もがやっているようなことに人間性を注入するようなテクノロジーがもっと必要だと思います。それが私たちがやっていることの核心だと思います」と、マスーミ氏は語る。
ShadowのアプリはiOSとAndroidで無料でダウンロードできる。
画像クレジット:Shadow
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(翻訳:TechCrunch Japan)