5万件の画像タグ手打ちからファッションAI開発へ——ニューロープが5000万円を資金調達

2014年設立のニューロープは、ファッションに特化した人工知能によるサービスを展開する、ファッション×AIのスタートアップだ。同社は3月5日、Reality Accelerator大和企業投資、都築国際育英財団を引受先とした第三者割当増資等により、約5000万円を調達したことを明らかにした。

写真右から大和企業投資 仙石翔氏、Reality Accelerator 郡裕一氏、ニューロープ代表取締役 酒井聡氏とニューロープのメンバー

ニューロープは創業後、モデルやインスタグラマー約300人と提携して、コーディネートスナップを紹介するメディア「#CBK(カブキ)」をリリースした。“モデル着用アイテムに似たアイテムが買えるメディア”という点では、2017年10月にスタートトゥデイの傘下に入ったVASILYが提供する「SNAP by IQON」(2017年3月公開)と同様だが、カブキでは当初、写真に付けるアイテムタグを、なんと全て人力で入力していたそうだ。タグ付けしたリアルなスナップのデータは5万件にも及ぶという。

その後、登録されたデータを元にして、2015年10月からディープラーニングを活用したAI開発に着手。2017年4月、ファッションに特化した人工知能をリリースした。

ファッションとAIとは実は相性がよいらしく、スタートアップによるプロダクトもいろいろ出ている。先述したSNAP by IQONもインスタグラマーのコーディネートに似たアイテムを、ディープラーニングによる画像解析で探し出して購入できるサービスだし、SENSY(旧カラフル・ボード)も人工知能がスタイリングを提案するアプリやサービスを提供している。

こうした競合サービスが多い状況について、ニューロープ代表取締役の酒井聡氏は「僕たちは2014年にガチでデータを集めるところから始めて、1年半の開発期間を経てAIをリリースした。そこは自信を持っている」と話している。

ニューロープが開発した人工知能は、機能で大きく2種類に分けられる。ひとつはファッションスナップを自動解析する「#CBK scnnr(カブキスキャナー)」。一般向けには、LINEにスナップを送信すると解析結果を教えてくれる「ファッションおじさん」として公開されている。

もうひとつはコーディネート提案AIだ。ファッションアイテムに対して、コーデすると合うアイテムを数秒で提案してくれる。カブキスキャナーの画像解析機能と併用すれば、着合わせをリコメンドすることもできる。こちらも、LINEにスナップを投稿するとコーディネートを提案してくれる「人工知能ショップ店員Mika」が公開されている。

ニューロープではこれらの人工知能をAPIとして提供し、事業を展開している。ファッションECのマガシークには、画像検索レコメンド機能を提供。マガシークのアプリで画像データを読み込むと、販売アイテムの中から写真に近いものを検索できる。オークションサービスのモバオクが運営するウェブマガジン「M/Mag」(スマートフォン版のみ)でも、掲載記事のコーデからモバオクに出品されている類似アイテムを買うことが可能になっている。

またSTYLICTIONが運営するファッションメディア「itSnapマガジン」にもAIを提供。掲載記事のスナップを解析してタグ付けを行い、複数のコマースサイトの類似アイテムをまとめて表示し、アイテムが購入されるとメディアにフィーが入る仕組みとなっている。

このほかにも「百貨店などのデジタルサイネージの前で衣装合わせをすると、コーディネート提案が表示されるといった使い方や、SNS上にある『#コーデ』タグがついた画像を分析することで、トレンド予測を行う、というような事業も検討している」と酒井氏は話している。

AIを導入する企業が増え、ニューロープのサービスも引き合いが多くなっていると酒井氏は言う。今回の調達資金の使途について、酒井氏は「API提供だけではなく、企業からの要望にも対応しているので、アプリケーションの開発にどうしてもエンジニアのリソースが取られがち。エンジニア採用にも投資し、既存AIの強化や新規AI開発など、AI自体の強化開発を進めたい」と述べていた。

音楽の使用権を販売できるマーケットプレイス「Audiostock」が2.6億円調達、ラインナップは約9万点

音楽著作権プラットフォーム「Audiostock(オーディオストック)」を運営するクレオフーガは3月2日、スペースシャワーネットワーク日本ベンチャーキャピタル広島ベンチャーキャピタルFFGベンチャービジネスパートナーズトマト銀行港京共創科技投資(HBCC Investment)を引受先とする第三者割当増資を実施した。調達金額は2億6000万円だ。

写真販売サービスの「Snapmart」をはじめ、クリエイターたちが従来とは異なる方法で収入を得られるサービスが近年増えてきている。Audiostockはその“音楽版”と言えるようなサービスかもしれない。

Audiostockは、クリエイターが自身で作った楽曲や効果音などの使用権を、動画製作会社など他のユーザーに対して音楽の使用権を販売できるマーケットプレイスだ。現在、同サービス上には約9万点の音楽使用権が販売されていて、クリエイターは売り上げに応じた印税を受け取ることができる。

音楽を使用する側のユーザーは、サービス上で購入手続きを行うだけで音楽の使用権を取得できる。著作権管理団体等への申請など各種手続きを簡素化できることなどがメリットだ。

先ほど述べたように、Audiostockでクリエイターの楽曲を購入するユーザーの1人として考えられるのは、その楽曲を使用した動画を制作するクリエイターたちだ。最近では、すっかり将来なりたい職業ランキング上位をキープするようになった「YouTuber」たちをはじめ、法人や個人問わず、さまざまな人々が動画コンテンツを制作・公開するという世の中になった。

インターネットの普及などに伴い知的財産権が侵害される被害が増えていることは事実だけれど、法により定められた方法で音楽を利用したいと考えているユーザーにとって、Audiostockを利用することによる手続きの簡素化は大きなメリットとなりうるだろう。

クレオフーガは今回調達した資金を利用して、マーケティング活動やプロダクト開発体制の強化に取り組むとしている。また、機械学習、ブロックチェーン、AI作曲等の先端技術の研究会を創設し、それらの技術を利用した新事業の創出も目指すという。

クレオフーガは2007年10月の設立。Audiostockを開発する以前から、音楽投稿サービスの「クレオフーガ」などを手がけてきた。同サービスのユーザー数は約2万人だという。また、2016年11月には、写真や動画素材のマーケットプレイス「PIXTA」を運営するピクスタとの資本業務提携を結んでいる(記事中に紹介したSnapmartも現在はピクスタ傘下だ)。記事執筆時点における同社の資本金は、3億355万円だ(資本準備金含む)。

YouTuberプロダクションのVAZが21の投資家から総額約11.5億円を調達、就職支援サービスの拡大へ

インフルエンサーマーケティング事業や複数のメディア事業を展開するVAZは、2017年6月から2018年3月までの期間において、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により総額11億5200万円を調達したことを明らかにした。

同社にとってはシリーズCラウンドという位置付けで、合計21の投資家(事業会社、VC、個人)が参加している(投資家陣のリストは末尾に記載)。

VAZは2015年7月の創業。チャンネル登録者数が240万人を超えるヒカル氏、同じく190万人を超える禁断ボーイズなど人気YouTuberを中心に、約70人のインフルエンサーを抱えるプロダクションとなっている。昨年8月にはヒカル氏らのVALU騒動もあったが、自粛期間を経て11月に復帰した。

同社では所属するインフルエンサーのネットワークを活用したマーケティング事業やエンタメ事業を展開。並行して中卒、高卒、専門卒、大学中退などの非大卒を主な対象とした就職支援サービス「バズキャリア」(2017年6月公開)にも取り組む。

バズキャリアは各ユーザーに専属のキャリアカウンセラーが付き、チャットベースのやりとりを通じて就労支援を行うサービス。インフルエンサーの力も上手く活用して、ターゲット層へのリーチを拡大。今回調達資金を元に、事業のさらなる成長を目指すという。

以下、今回VAZのシリーズCラウンドに参加した21の投資家陣だ。

  • コロプラネクスト(既存投資家)
  • ホリプロ(既存投資家)
  • 読売テレビエンタープライズ(既存投資家)
  • 共同ピーアール
  • ドワンゴ
  • フリークアウト・ホールディングス
  • フロンティアエージェント
  • PERSOL INNOVATION FUND
  • オプトベンチャーズ
  • みずほキャピタル
  • Skyland Ventures
  • GCM
  • 恵島良太郎氏
  • 大湯俊介氏
  • 久保直之氏
  • 玄君先氏
  • 田口茂樹氏
  • 田中陽加満氏
  • 宮地俊充氏
  • 非公開の事業会社1社、個人投資家1名

7つの質問に答えるとオススメ保険を教えてくれるロボアドバイザー「Donuts」が5000万円調達

ロボット保険アドバイザー「Donuts(ドーナツ)」を開発するSasuke Financial Labは3月2日、Klab venture PartnersGlobal Catalyst Partners Japanマネックスベンチャーズを引受先とする第三者割当増資を実施した。調達金額は5000万円だ。また、同社はこれに併せてDonutsの事前登録の開始も発表した。サービスローンチは今年4月を予定している。

Donutsは、ユーザーが7つの質問に答えていくだけで自分に適した保険商品をレコメンドしてくれるWebアプリだ。質問されるのは「お金を遺したい人はいるか」、「貯蓄はいくらか」などの簡単なもので、保険に関する深い知識がなくても自分に適した保険商品にたどり着ける仕組みになっている。

個人的にすごく好感を持てたのが、ロボアドバイザーであるDonutsならではの“正直さ”だ。取材でサービスを見せてもらったとき、少し意地悪をして、7つすべての質問に「(資金を遺したい人は)いない」などのネガティブな答えを返してみた。するとDonutsは、「あなたにオススメする保険はない」と言い切った。

人間の営業員の場合、話している相手に対して「あなたには保険は必要ないのでお帰りください」と言うのは難しい。それには大人の事情もあるから仕方がないことは分かるけれど、ユーザー目線で言えば、必要ないならないと言い切ってもらいたいのが本音だ。

記事執筆時点において、Donutsが提携する保険会社はアフラックの1社のみだ。同社はアフラックに加えて3社の保険会社と提携に向けた準備を進めている最中で、4月に予定されているサービスリリース時点では、これら4社が提供する20〜30の保険商品を取り扱う予定だとしている。

保険はまだまだ対面が主流

日頃からテクノロジーに慣れ親しんだTechCrunch Japan読者の中には、「今の時代、インターネットで選んだ保険に加入するなんて常識」と思う人も多いだろう。だが、どうも世間はそうじゃないらしい。

生命保険文化センターの調査(2015年)によれば、2010年から2015年のあいだに民間保険に加入した調査対象者のなかで、インターネットを含む「通信販売」を加入チャネルとして選んだのは全体の5.6%だったという。この通信販売にはテレビや雑誌なども含まれているから、純粋にインターネットで保険に加入した人だけに限ればわずか2.2%という結果だ。

この結果は、保険販売の現場ではいまだに対面営業が主流だという現状を表していて、Donutsには分が悪い結果のようにも見える。

でも、もう1つ面白い数字がある。同じ調査のなかで、保険の情報収集にテレビやネット、雑誌などの「人を介さないチャネル」を使ったと答えた人は全体の16.2%だったのだ。つまり、インターネットを含む人を介さない方法で情報収集しているにもかかわらず、結果的には対面営業で保険を加入した人はいる。

2つ目のアンケート調査は複数回答が可能なタイプなので単純には計算できないが、それを承知で計算すると、インターネットで調べたものの、結局は対面営業で保険に加入した人が全体の10%ほどはいるのではないかと推測できる。

この中には、やはりネットだけで保険に加入するのは不安だと感じ、結局は対面営業を選んだという人もいるだろう。実際、前回調査と比べると通信販売を選んだ人の割合は3%ほど低下している。形の見えない金融商品だからこそ、できれば人の力を借りたいという人が多いのは十分に理解できる。

しかしその一方で、自分で保険について調べてみたものの、結局どの商品が自分に適しているのかよく分からずにさじを投げてしまったという人もいるはずだ。だから、本当に分かりやすい方法で自分に適した保険を示してくれるWebサービスやアプリがあるとすれば、そこには一定のニーズがあると僕は思う。取り扱う保険商品のラインナップが少ないなど、Donutsにはまだ超えなければいけないハードルはあるけれど、彼らがそんなニーズを掴める可能性は大いにあるだろう。

1センチ単位でサイズを指定できる家具ブランド「Yourniture.」が3000万円調達

1センチ単位でサイズの指定ができるオーダーメイド家具ブランド「Yourniture.(ユアニチャー)」を提供するユアニチャーは3月2日、ジェネシア・ベンチャーズを引受先とする第三者割当増資を実施した。調達金額は3000万円だ。

引っ越しをしたことがある人なら分かると思うが、家具選びは楽しい反面、とても面倒くさい。その時にしか使わないであろうメジャーをわざわざ買い、測ったサイズを書いたメモを手に量販店に行く。でも、置きたいスペースにぴったりとはまる家具がないので肩を落として家路につく。

そんな人はオーダーメイド家具を注文できるYourniture.を試してみても良いかもしれない。同サービスでは、家具のサイズや色を自分好みにカスタマイズして注文可能だ。サイズは1センチ単位で指定でき、カラーも全11種類の中から選ぶことができる。

リリース時点でYourniture.が提供するのは「SIMPLE BOX」という木製の収納ボックスのみだが、同社は今後、扉つきの収納や机などのラインナップも増やしていく予定だ。その際には、扉の有無や足の数などのデザインも変更可能になるという。指定できるサイズの幅も大きい。今年中にラインナップに加わる予定の木製シェルフの場合、横幅が240〜30センチ、高さが120センチ〜60センチの間で自由に指定できる。

Yourniture.代表取締役CTOの堀江光氏は、同サービスのカスタマイズシステムについてこう話す

「Yourniture.のシステムは『ある対象を因数分解しておき、本体をカスタマイズしたことによる影響を、それぞれのパーツに反映させる』もの。どんな家具でも、分解すれば個別のパーツに分かれる。(同システムでは、)本体に何かしらの変更を加えることで、各パーツの加工内容(工程)にどのような変化があるかを自動で算出する。そのため、家具の種類や形状に関わらず、どんなものでもカスタマイズが可能だ」(堀江氏)

Yourniture.第一弾の商品「SIMPLE BOX」

Yourniture.のようなカスタマイズを前提とするサービスの場合、どこまでカスタマイズ性を持たせるのかという点が悩みどころだと思う。大抵の消費者は、店頭に並ぶ商品をみて好みのもの見つけることはできるが、「じゃあ今から好きな家具デザインして」と言われると困ってしまうのと同じだ。その点、Yourniture.ではユーザーの用途(文庫本を入れるなど)に併せて適切なサイズを提案し、ユーザーはそれを基準にして細かなところをカスタマイズできるようになっている。

また、そのようなオーダーメイド家具を「量販店と同等の価格で」購入可能だと言うのがYourniture.の特徴だ。ちなみに、各辺30cmの正方形型としてサイズを設定し、カラーを白にしたボックスの場合、価格は3219円だった。

それを可能にしたコスト削減施策として同社は3つの要素を挙げている。

1つ目は、従来は職人が行っていたという家具のサイズの計測、色やデザインの指定を顧客自身がオンラインで行えるようにすることで、それを基にした価格の算出を自動化したこと。2つ目に、ユーザーが入力した変数をもとに生産工場に送る「製造指示書」作成の自動化。そして最後に、自社が製造した製品を自社のECサイトで販売するD2Cのモデルにより、不要なコストを削減したことを挙げている。

Yourniture.代表取締役の峯浦望氏は、これらの3つの施策により「家具製造のコストを約50%削減できた」と語る。ここには挙げられていないが、製造を人件費の安いインドネシアの提携工場で行っていることも1つの要因ではあるだろう。

量販店と同等の価格を実現したとするユアニチャーだが、時間の短縮についてはまだ試行錯誤が必要だと峯浦氏は話す。実際、構造がシンプルな「SIMPLE BOX」でも、注文してから自宅に届くまで5週間ほどの時間がかかる。

「良いものを作るときには、時間とお金がかかるという考え方を変えたい。“お金”については実現できたが、“時間”についてはまだまだ。ユーザーが指定したサイズなどの情報が直接ロボットに入力され、そのまま製造が始まるようにするなど、自動化の余地はまだある」と峯浦氏は語る。

写真左より、ユアニチャー代表取締役CTOの堀江光氏(工学博士)と、同CEOの峯浦望氏

買取価格比較サイト「ヒカカク!」や「Peing-質問箱」提供のジラフが7000万円を調達

買取価格比較サイト「ヒカカク!」や匿名質問サービス「Peing – 質問箱(ペイング)」などを提供するジラフは3月1日、アドウェイズと梶原大輔氏および匿名の個人投資家を引受先とした第三者割当増資により、約7000万円を調達したことを明らかにした。

合わせて個人投資家として参加している梶原大輔氏が同社の技術顧問になることも発表している(梶原氏はヤフーを経てグリーに入社後、執行役員に就任。インフラストラクチャ本部長や開発本部長を歴任した人物)。

今回の調達はジラフが2017年11月に実施したシリーズBの追加増資という形で、調達金額は総額で約5億円となる。シリーズBでジラフに出資した投資家陣は以下の通りだ。

  • アイ・マーキュリーキャピタル
  • アドウェイズ
  • アドベンチャー
  • 梶原大輔氏
  • グリー
  • 佐々木俊介氏
  • ドリームインキュベータ
  • メルカリ
  • ベンチャーユナイテッド
  • その他個人投資家1名

アドウェイズ、ドリームインキュベータ、佐々木俊介氏はシリーズAに続いて2度目の出資となる。

なおジラフは2017年8月に「CASH」運営のバンクから数百万円規模の資金調達をしているほか、同年3月に1.3億円を、2015年10月にも複数の投資家から4120万円を調達している。

これまでTechCrunch Japanでも紹介してきたように、ジラフでは2014年9月にリリースしたヒカカク!を始め、修理価格比較サイトの「最安修理ドットコム」や中古スマホに特化したフリマサイト「スマホのマーケット」、スマホの即時買取サービス「スママDASH」などリユース領域で複数のサービスを展開してきた。

昨年12月には匿名質問サービスのPeingを買収。累計120万アカウントを突破し、2018年2月にはスマホアプリの提供も始めている。

ジラフでは今回の調達を踏まえて引き続き各事業の成長を目指す方針。加えて同社代表取締役社長の麻生輝明氏によると、現時点で詳しい内容は非公開だが「直近で即時買取の横展開を考えている」とのこと。

これまでもひとつのプロダクトに固執するのではなく、機会があれば積極的に新規事業にチャレンジしてきたジラフ。近いうちにまた新たなサービスが生まれるのかもしれない。

“商品サンプリング”の概念を変えるリアル版アドテク「aircatalog」、提供元が資金調達

街を歩いていると、女性に化粧品の試供品のようなものを配っている人の姿を見かけることがある。残念ながら僕自身はターゲット層ではないのか、無愛想に見えるのかティッシュくらいしか受け取ったことがないのだけれど。いわゆる「商品サンプリング」とよばれるものだ。

このサンプリングという仕組みには、まだまだ改善できる余地が残されている。今回紹介する「aircatalog(エアカタログ)」は、テクノロジーを活用することでサンプリングが抱える課題の解決を目指すサービスだ。

同サービスを提供するキャトルは2月28日、ハックベンチャーズ名古屋テレビ・ベンチャーズ、元スカイプジャパン代表取締役で現ATOMICOパートナーの岩田真一氏らを引受先とした第三者割当増資により、総額5250万円を調達したことを明らかにした。

合わせてアドテクノロジー開発やインターネットマーケティング支援を行うフルスピードと戦略的業務提携契約を締結したことも発表。デジタル広告と商品サンプリングを組み合わせた体験誘導型プロモーション「AD OFFICE(アドオフィス)」を3月から開始するという。

サンプリング商品と配布場所をマッチングするリアル版DSP

aircatalogはサンプリング商品を持つメーカーと、配布場所となる施設をマッチングするサービスだ。

化粧品や健康食品などを配りたいメーカーの担当者は、aircatalog上で年齢や性別、職業などターゲットの情報を登録する。一方で商品を配布したいホテルやフィットネスジムといった施設も同様に、サービス上に普段訪れる顧客の属性を入力。

これらのデータによる最適なマッチングを通じて、効果的なサンプリングの仕組みを実現するのがaircatalogの目的だ。

流れとしては登録したデータを基に、施設側へマッチしそうな商品がレコメンドされる。施設側の担当者は自分たちで配布したい商品を選び申請。メーカー側が承認した場合にはマッチング成立、商品が施設へ届きサンプリングが開始する。

「サンプリングの概念を変えたいという思いが強い。従来の仕組みでは、いわゆる『商品のばらまき』が発生したり、そもそもきちんと配られたのかがメーカー側からわかりづらかったりといろいろな課題があった。『先が見えない』という声も聞いたことがあり、(メーカーからは)あまりイメージが良くなかった」(キャトル代表取締役の横町享之氏)

横町氏の話では、街中でサンプリング商品をもらった女性の8~9割は試供品を捨てているそう。その一方で、まずは試供品を使って良かったら購入するという女性も多いという(これは同社が限定的な人数を対象に行った調査結果のため、あくまで参考程度ではあるが)。

このギャップを埋めることで、つまりサンプリングのミスマッチをなくし「商品体験をして欲しい人、したい人にきちんと商品が届く仕組み」を構築することで、サンプリングの可能性はもっと広がるのではないか。そんな思いから生まれたのがaircatalogだ。

それならばメーカーと商品を試したい個人を直接つないでしまう方が効率的なんじゃないだろうか、そう思って聞いてみると「個人を直接マッチングすると『サンプルゲッター』と呼ばれる、実際に商品を買う気はないけど試供品だけ試したい人たちが群がってきてしまう。最近では集めてきた試供品をフリマサイトなどで売る人もでてきているほど」(横町氏)だという。

この「サンプルゲッター問題」をなくすためにも、直接個人へ商品を送るのではなく、施設を間に挟むのがポイントなのだそうだ。

顧客の満足度向上や社員の福利厚生に活用

サービスのリリースは2017年7月。まだ開始から半年ほどではあるが、すでに15000の施設・店舗が配布先として登録。マッチングの数も増えてきているという。

たとえば美容家電メーカーとホテルの事例だ。両社がタッグを組み、ホテルの宿泊客が人気美顔器を体験できるレディースプランを設計。メーカーとしては使って欲しい層のユーザーに美顔器を試してもらうことができ、ホテルとしても宿泊客の満足度向上に活かせる。

「施設側の担当者も、サンプリングと聞くと面倒なイメージを持つ人が多い。ただ新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の満足度を上げる目的でも活用できる『販促ツール』ならば、積極的に試したいという声がほとんど。それが結果的にメーカーの要望を満たすことにも繋がる」(横町氏)

ユニークなものだと、新聞配達所や一般企業が施設としてメーカーとマッチングが生まれている。たとえば主婦層に商品を試してもらいたい飲料メーカーと新聞配達所をマッチング。メーカーが自分たちでリーチするのが難しい層に対してアプローチする手段となる。

企業の場合も同様だ。ビジネスマンをターゲットにしたコーヒーやビール、エナジードリングを企業に試供品として提供する。企業側にとっては無料の福利厚生ツールとして活用できるため、評判も良いという。

顧客の満足度向上や社員の福利厚生に活用

企業向けにサンプリング商品を提供するという点に関しては、より一歩進んだプラン「AD OFFICE(アドオフィス)」を3月から始める予定だ。

これはIPアドレスを活用して特定の企業にディスプレイ広告を配信(オフィスターゲティング)する技術を持つ、フルスピードとタッグを組んで行うもの。サンプリング商品を提供した企業に対して、その商品のディスプレイ広告を配信することで商品の認知や購買を訴求する。

対象となる企業の社員からすると、今しがた飲んでいたコーヒーの広告がピンポイントで表示されるようなものだから、少しビックリするかもしれない。とはいえ従来のサンプリングの仕組みではできなかった新しい取り組みだ。

キャトル代表取締役の横町享之氏

横町氏は美容師としてキャリアをスタートした後、ぐるなびやアイスタイルで広告に携わり、2014年に起業したというユニークな経歴の持ち主。

前職でサンプリングに関わることもあり、その際にさまざまな課題に直面したことがaircatalogにつながっているそうだ。

テクノロジーによって日々進化し続けているデジタル広告のように「リアルプロモーションももっと科学的にやれる部分や、可視化できる部分は多い。『リアルDSP』のような形で、サンプリングももっと進化できる」と横町氏は話す。

同社では今回調達した資金を元に組織体制を強化。施設データベースの拡充やマッチングアルゴリズムの改善などを通じて、サービスの拡大を目指すという。

AuroraがシリーズAで9000万ドルを調達、2人の有力メンバーを取締役会に迎える

自動運転車のスタートアップであるAuroraは、Greylock PartnersとIndex Venturesが参加したシリーズAラウンドで、9000万ドルを調達した。新しい資金調達により利用可能な現金が増え、若いスタートアップはより迅速に拡大することが可能になるだろう。しかしAuroraのCEOであるChris Urmsonは私に対して、この取引で最も重要な点は、Auroraが2人の有力メンバーを取締役会に迎えることができたことだと語った。

Auroraの取締役会に新しく参加するのは、GreylockのReid Hoffman(LinkedInの創業者)と、かつてCiscoのルーティング事業を担当していたIndexのMike Volpiである。UrmsonはHoffmanを「シリコンバレーの偉大な人物のひとり」と呼び、シリコンバレーのハイテク企業たちがビジネスを構築する際に、すべての人びとの幸福を念頭に置くことを確実なものにさせてきた、その人柄と評判を挙げた。Urmsonはまた、企業を長期的に成長させて行く際の、彼の戦略的かつ思慮深いアプローチを重要な要素として挙げている。

またUrmsonはVolpiについては、CisicoがIPルーティング事業を構築していく際の彼の業績を引用し、その圧倒的な実務経験と、ハードウェアとソフトウェアを扱う会社を経営する能力について言及した。そしてやはり長期的な意味で彼を取締役会に迎える意味は大きいと述べた。

資金調達以外の話題に関しては、Urmsonはスタートアップのパートナーシップ(フォルクスワーゲン、Hyundai、そしてBytonとのもの)が皆着実に進展していると語ったが、その内容に関しては詳細も状況も明かすことはなかった。これらのパートナーシップと新しい取締役会のメンバーや投資家たちの間には、Urmsonと彼のチームが自動運転に対して、より多くの進歩を遂げる能力が十分だという多大な自信があるようだ。

[原文へ]
(翻訳:sako)

55万DLを突破したコスメの口コミアプリ「LIPS」が5.5億円調達、すでにタイアップ広告などにも着手

コスメのコミュニティアプリ「LIPS(リップス)」を運営するAppBrew(アップブリュー)は2月28日、GunosyグリーANRIおよび個人投資家らを引受先とした第三者割当増資を実施した。調達額は5億5000万円だ。

LIPSはユーザーが投稿したコスメ商品の口コミを閲覧できるコミュニティアプリ。他のユーザーをフォローできたり、口コミにコメントできたりといったSNSに近い使用感が特徴だ。アプリを通してコスメ商品を購入することもできるが、その場合はAmazonなど他のECサイトに遷移する。

LIPSのダウンロード数は、リリースから9ヶ月目にあたる2017年10月に30万件を突破し、翌年の2018年2月には55万ダウンロードを記録するなど、順調に成長を重ねているようだ。

AppBrewはプレスリリースのなかで、「(アプリの)急成長の背景には、若い世代を中心に購買の意思決定が『人ベース』に変化していることがあげられる。特に、若い女性にとっては、属性の近いユーザーやインフルエンサーから発信される情報が大きな影響力を持っており、購買行動を大きく左右している」と述べる。

LIPSのターゲットとなる世代は比較的早い時期からスマホに慣れ親しんだ世代。LINEなどメッセンジャーアプリの登場で友人らとこれまで以上に頻繁な意見交換ができるようになり、InstagramなどSNSの登場でインフルエンサーや有名人との距離が近くなった世界に慣れ親しんだ人たちだ。

「『コスメ選び』の文脈における口コミの価値が最大限に発揮されるよう、日々企画・開発を進めていく」と述べるAppBrewは、今回調達した資金を、アプリの開発、人材採用、マーケティング費用などに充てるという。また、同社は2018年よりタイアップ広告とサンプリングサービスの販売も開始している。現在、すでに10社以上の導入実績があるということだが、今後もパートナー企業の募集を続け、販路を拡大していく方針だ。

AppBrewは2016年2月の創業。2017年10月には今回のラウンドにも参加したANRIなどから7600万円を調達している。

企業情報DBを提供するBaseconnectが「NewsPicks」、「SPEEDA」のユーザベースと資本業務提携

企業情報データベース「BaseconnectLIST(以下、LIST)」などを提供するBaseconnectは2月27日、ソーシャル経済ニュースの「NewsPicks」や経済情報の検索プラットフォーム「SPEEDA」などを提供するユーザベースと資本業務提携を締結した。同社は本提携の一環としてユーザベースから第三者割当増資を実施し、総額4000万円を調達している。

写真左よりユーザベースグループのFOCAS/JVR代表取締役の佐久間衡氏、Baseconnect代表取締役の國重侑輝氏

法人向け営業を行う企業にとって、“見込み客リスト”の作成というのは避けては通れない作業の1つだ。LISTはそのような企業に対し、営業先となる企業の情報をクラウド型のデータベースとして提供する。企業データを約20項目の検索条件(従業員数、売上規模など)で絞り込み、それを見込み客リストとして出力することが可能だ。

また、企業の既存顧客のデータをサービスに取り込むことで、それらの企業と潜在的な顧客企業との類似点を数値化。その数値に応じて成約率の高い企業を自動でリコメンドするという機能も、LISTならではの特徴だ。

Beseconnectは2017年12月にLISTのベータ版を公開。代表取締役の國重侑輝氏によれば、事前登録があった150社のうち70社が現在でも同サービスを利用しているという。

Baseconnectは今回の資本業務提携により、ユーザベースが提供するSPEEDAやBtoBマーケティングエンジンの「FORCAS」向けにLISTに蓄積された企業データを提供する。それに加え、企業データの開発と研究も共同で行う。

ユーザベースグループのジャパンベンチャーリサーチ、およびFOCASで代表取締役を務める佐久間衡氏は、「國重氏は、構造化された企業データについて深い知見とオペレーション構築力を持つ。この資本業務提携を通じた、共同でのデータ開発・研究により、ユーザベースグループのサービスが大きく進化することを確信している」とコメントしている。

このデータの“共同開発”という言葉は、「企業情報データ作成の知見やノウハウの提供」(國重氏)という程度のものということだが、これから早いペースでデータ数を増加させようとしているBaseconnectにとって、この提携は大きな意味をもつ。國重氏は、「まず当面の目標となるのは、本社ベースで100万社の企業のデータ化。現在はまだ13万社だ。残りの約90万社のデータ化を年内には終えたい」と語る。

先に述べたが、LISTのベータ版で事前登録をした企業のうち約半数の70社はサービスに残る一方で、半数以上はサービスから離脱してしまっている。“カバーする企業数の少なさ”がその大きな理由の1つではないだろうか。そのため、LISTが今後どれだけ早くデータ化する企業を増やせるかが今後の鍵となりそうだ。

Baseconnectは2017年1月の創業。2017年12月にはジェネシア・ベンチャーズなどから1億円を調達している。

AIを駆使したOCRツールやチャットボットを開発するシナモンが資金調達

人工知能を利用した文書読み取りエンジンなどを開発するシナモンは2月26日、MTパートナーズ、マネックスグループのマネックスエジソンベクトルRPAホールディングス、および島田亨氏ら複数の個人投資家を引受先とした第三者割当増資を実施した。また、これまで既存株主(名称非公開)が所有していた同社株がD4Vへと譲渡されたことにより、D4Vがシナモンの投資家に加わったことも併せて明らかとなった。

シナモンはOCRツールの「Flax Scanner」やチャットボットの「Scuro Bot」など、自然言語処理を中心とした人工知能関連技術を駆使するスタートアップだ。

同社が主力プロダクトと呼ぶFlax Scannerは、さまざまなビジネス文書から情報を抜き出してデータベース化するためのOCRツール。PDF、Wordファイル、印字・手書きの紙文書などさまざまなフォーマットに対応しており、手書き文字の読み込み精度は95〜98%(本番導入後の実績値)と高い。

Flax Scannerは金融や保険業界を中心に導入されている。導入社数は非公開だが、「数社」程度だという(シナモン COOの家田佳明氏)。また、選択式の会話ではなく、自然言語による会話に対応したScuro Botは、企業の問い合わせ対応や面接時間の設定などの用途で導入されているようだ。

シナモンは今回の資金調達をもとに、AIプロダクトの基盤技術およびUIの強化、組織体制の強化などに注力する。今後の展開について同社は、「『ホワイトカラーの業務効率化』をテーマに、AIプラットフォームとしてのさらなる基盤を築き、業務改善を推進する様々なプロダクトの開発に取り組む。また、シナモンのプロダクトの提供を拡大するパートナー企業と協同することで、より多くの顧客へサービス提供を推進していく」と述べている。

代表取締役の平野未来氏は、東京大学大学院に在学中、携帯電話向けのアプリ開発プラットフォーム「Colors」などの開発で知られるネイキッドテクノロジーを創業。平野氏は2011年に同社をmixiに売却後、2016年10月にシナモンを創業したシリアルアントレプレナーだ。

「全国タクシー」のJapanTaxiが未来創生ファンドから10.5億円を資金調達、累計調達額は91.5億円に

タクシーアプリ「全国タクシー」を運営するJapanTaxiは2月26日、スパークス・グループが運営する未来創生ファンドを引受先とする第三者割当増資により、10.5億円の資金調達を実施すると発表した。

JapanTaxiは、タクシー会社・日本交通の傘下でタクシーアプリをはじめとするモビリティ分野のソフトウェア、ハードウェアを開発するITベンチャーだ。2011年よりタクシー配車アプリの全国タクシーを提供開始。2017年12月には累計400万ダウンロードを突破した。車両登録数は全国のタクシー車両の約4分の1となる約6万台で、タクシー配車アプリとしては国内トップのシェアを誇る。

JapanTaxiは2017年6月に未来創生ファンドから5億円を調達。その後10月にタクシー会社2社から総額1億円、今年の2月8日にはトヨタ自動車から約75億円の出資合意を発表しており、今回の調達金額を合わせると、累計金額は91.5億円となる。ちなみにトヨタ自動車は未来創生ファンドにも出資している。

これまでの調達についてJapanTaxiでは「少子高齢化が進み、さらに重要性が高まる『移動』の課題を解決するとともに、『移動』に伴い発生するデータの利活用により、日本のモビリティ革命を実現し、社会インフラの進歩に貢献していく」と述べている。

また全国タクシーアプリについては今後、操作性の向上や配車時間の短縮、新機能の追加などで、2020年までに配車可能タクシー台数を9万台(全国のタクシー台数の約4割)、累計アプリダウンロード数を1600万を目指すという。

タクシー配車サービス関連では、ソフトバンクが中国の滴滴出行(DiDi)と、日本のタクシー事業者向けサービスにおいて協業することを2月9日に発表。ソフトバンクと滴滴はUberへの投資も行っており、そのUberは、日本のタクシー会社では第一交通産業と提携すべく、協議・検討を進めているところだ。

またソニーも日本でタクシー会社6社との連携により、AIを使った配車サービスを始めることを2月20日に発表している。こちらに参画するのはグリーンキャブ、国際自動車、寿交通、大和自動車交通、チェッカーキャブ無線、日の丸交通の各社で、合計すると都内では最大規模の1万台の車両をかかえている。

日本初の薬事承認を目指す「治療アプリ」のキュア・アップが15億円を資金調達

従来の薬事法が2014年に改正され、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」となってから、診断や治療を目的としたプログラムが単体で医療機器として申請されるようになり、ヘルステック分野で注目を集めている。

キュア・アップが疾患治療用プログラム医療機器として研究開発するのは、スマートフォンで使える「治療アプリ」。同社は2月26日、既存株主のBeyond Next Ventures慶應イノベーション・イニシアティブに加え、新たに伊藤忠商事伊藤忠テクノロジーベンチャーズCYBERDYNE第一生命保険三菱UFJキャピタルいわぎん事業創造キャピタル、セゾン・ベンチャーズ(クレディセゾンのコーポレートベンチャーキャピタル)、ちばぎんキャピタルみずほキャピタルを引受先とする総額約15億円の第三者割当増資を実施すると発表した。

キュア・アップは医師でもある代表の佐竹晃太氏が、2014年7月に設立したヘルステックのスタートアップ。医薬品や旧来の治療方法ではなく、患者の身近にあるスマホアプリを病気の治療に取り入れる、治療アプリとして開発している。

現状、通院と通院の間に医療機関が患者と接点を持ち、フォローを行うことは難しい。キュア・アップではスマホを利用することで、これまで介入の難しかった患者の意識・習慣や、あらゆる場所・時間帯における患者の生活にアプリを通して接点ができ、それぞれの状態に応じた、パーソナライズドされたフォローを行う仕組みを構築してきた。

現在は、医療機関向けのニコチン依存症治療用アプリ「CureApp禁煙」の治験を実施中。同じく医療機関向けの非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療用アプリ「CureApp脂肪肝」も臨床試験が進行中だ。

さらに医療機関向け治療アプリ開発で蓄積した知見を基に、法人向けの健康増進プログラム「ascure(アスキュア)禁煙プログラム」の提供も、2017年4月より開始している。東証一部企業を中心に、健康経営を意識する企業での導入が進んでいるという。

キュア・アップでは、今回の調達資金をもとに、治験中のCureApp禁煙について日本初の薬事承認・保険償還を目指すほか、その他の疾患について治療アプリの研究開発を進める。また、法人向け健康増進プログラムについても、提供中の禁煙プログラムに加え、生活習慣病やメンタルヘルス対策分野へも順次展開していく予定。さらに、ヘルステック分野で日本発のモバイルソリューションとして、海外進出も準備しているということだ。

キュア・アップはこれまでに、2015年10月にBeyond Next Venturesから1億円を調達2017年2月にBeyond Next Ventures、慶應イノベーション・イニシアティブ、SBIインベストメントから3.8億円を調達している。

「就活相談のるので、偉くなったらビール1杯ご馳走して下さい」――OB・OG訪問サービス「Matcher」が資金調達

OB・OG訪問を行いたい学生と社会人をつなげるサービス「Matcher」を提供するMatcherは2月20日、DGインキュベーションクルーズベンチャーズベンチャーユナイテッド、およびユーザーローカル代表取締役の伊藤将雄氏のほか個人投資家1名を引受先とする第三者割当増資を実施した。調達金額は5300万円だ。

Matcherのメンバー。写真左より2番目が代表取締役の西川晃平氏

自分と同じ大学を卒業した社会人の先輩から、仕事の内容や社内の雰囲気を聞くOB・OG訪問。Matcherはそのプロセスを簡単にするだけなく、ボランティア精神で成り立つOB・OG訪問にギブアンドテイクの仕組みを加えたサービスだ。

学生がOB・OG訪問をしようとする場合、大学のキャリアセンターに行き、卒業生の個人情報が記載された紙の台帳を頼りにアポイントメントを取っていくという流れが一般的だ。ただ、この従来のシステムには2つの問題がある。

1つは、紙の台帳なので情報の更新頻度が低いことだ。例えば、記載されている電話番号が現在使われていなかったり、肝心の訪問相手がすでに転職してしまっていることもある。

2つ目の問題は、その紙の台帳には卒業生のデータしか記載されていないという点だ。大学が自校の卒業生の個人情報しか集められないのは当然といえば当然ではある。でも考えてみれば、それはOB・OG訪問という既存のシステムが抱える問題なのであって、学生にとっては訪問相手が母校の卒業生であるかどうかはあまり重要ではないのかもしれない。

訪問相手がたまたま人事の決定権を持っていて、いわゆる“コネ”が期待できるというのは極めて特殊なケースだと思うし、結局のところ、まずは会社の中の人と会って話しを聞くことこそが学生たちの目的ではないだろうか。

OB・OG訪問時に感じた不満が創業のきっかけ

Matcher代表取締役の西川晃平氏も、これらの問題を身を持って体感した学生の1人だった。就活生だった当時、西川氏は大手広告代理店への就職を志望していた。そこで西川氏はOB・OG訪問を行うためにキャリアセンターを訪れた。

西川氏がキャリアセンターで渡された紙の台帳をめくってみると、彼が志望する企業に勤めている先輩はたったの2人しかいなかった。仕方なくその2人に連絡をとってみたが、連絡先の情報が古いためか、結局彼らから連絡が返ってくることはなかったという。

この経験がきっかけで後にMatcherを創業した西川氏は、同サービスを通してこの2つの問題を解決しようとした。まず、WebサービスのMatcherは紙の台帳と比較して情報の新鮮度は高くなる。また、Matcherは特に出身校ごとに縛りを設けていないため、学生は自分の大学の出身者以外にもアプローチすることが可能だ。

ギブアンドテイクの仕組みを取り入れる

ただ、ここで1つ疑問が生まれる。Matcherに登録する社会人ユーザーのモチベーションとは何だろうか。

母校の後輩と面談する通常のOB・OG訪問の場合、社会人側のモチベーションは恐らく、自分の後輩だから面倒をみてあげたいという美徳と、彼らにちょっとだけ先輩風を吹かしたいという欲のどちらかだ(僕だったら後者)。でも、出身大学に縛りを設けていないMatcherではそのモチベーションが働くことはない。

そのため、Matcherでは社会人ユーザーがプロフィール欄に「就職相談にのるので、〇〇してくれませんか?」というコメントを載せることができる仕組みになっている。ギブアンドテイクの仕組みを取り入れて、社会人ユーザーのモチベーションを増やそうという試みだ。

そういったお願いには「インターンにチャレンジしませんか?」といった採用目的のものもあれば、「将来偉くなったらビール1杯ご馳走してくれませんか?」といったユニークなお願いもあるそうだ。

もちろん、社会人ユーザーのなかには人事部に所属していて、学生発掘の目的のためにMatcherを利用している人もいる。ただ、その割合は全体の30%ほどで、残りの70%はボランティア目的の登録だという。

また、社会人ユーザーを増やす試みは、このギブアンドテイクの仕組みだけではない。西川氏は“未来の社会人ユーザー”となり得る学生ユーザーの満足度を高めることが重要だという。

「現在、就職をした学生ユーザーがそのまま社会人ユーザーとしてサービスに残る率は20%ほど。学生ユーザー時のマッチング回数が高ければ高いほど、その“転換率”も高くなるという傾向がある」と西川氏は話す。当面はこの転換率を30%まで高めることが目標だという。

西川氏によれば、現在Matcherに登録する学生ユーザーは2万4000人で、一方の社会人ユーザー数は6000人だという。その6000人が所属する企業の合計数は2000社だ。

ダイレクト・リクルーティング機能でマネタイズ

MatcherはこうしたOB・OG訪問サービスを無料で開放する一方、企業向けの「スカウト機能」でマネタイズを図っている。これは、企業がMatcherに登録する学生ユーザーを直接スカウトできる機能で、利用料金は1面談あたり1万円〜だ。現時点での導入企業数は約100社で、新卒採用予定のITベンチャー企業がその大半を占めるという。

今回のラウンドで5300万円を調達したMatcherは今後、ユーザー体験向上のためのサービス開発、営業・運用サポート体制の拡充を行うほか、マネタイズの軸を増やすための新規事業および新機能の開発に注力していくという。

Matcherは2015年11月の創業。2017年1月には金額非公開の資金調達ラウンドを実施している

「金曜の夜はDAUが3倍」、完全審査制マッチングアプリ『イヴイヴ』が1.1億円調達

恋人探しのマッチングアプリ「イヴイヴ」を提供するMarketDriveは2月21日、名称非公開の法人1社と個人2名の既存投資家計3名を引受先とする第三者割当増資を実施した。調達金額は1億1000万円だ。

海外生まれの「Tinder」、エウレカが提供する「Pairs」、サイバーエージェントグループの「タップル誕生」、ネットマーケティングの「Omiai」など、ここ数年でマッチングアプリが以前にも増して市民権を得てきたように思う。

MarketDriveの「イヴイヴ」もそんなマッチングアプリの1つだ。同サービスは、人の目による審査を通過してはじめてアプリが利用できるという「完全審査制」を特徴としており、特に女性ユーザー向けに“安心・安全”というメリットを打ち出している。また、ユーザーが任意で本人確認書類を提出することにより、プロフィール欄に「本人確認済み」を表すマークをつけ、マッチ率アップを促すなどの施策も行っている。

イヴイヴならではの独自の機能もある。Market Drive代表取締役の伊藤太氏は、「恋愛は2人でやるものではなく、第三者と相談しながら進めるものだ」と話していて、その言葉を反映するような“サポーター機能”というものがある。これは、アプリ内に常駐するキャラクターにチャットで恋愛相談ができるという機能。チャット対応はMarket Drive社員が5名体制で行っているそうだ。「マッチして初めての会話では何を話せばいいの?」だとか、「マッチ率を上げるには?」などの質問があるという。

実はマッチングアプリには“ゴールデンタイム”とも言える時間帯がある。それは金曜日の夜だ。そこに特化した機能もある。イヴイヴでは毎週金曜日の21〜24時限定で、今すぐにトークできる人だけを探せる「プチ恋機能」を用意している。なんと、プチ恋機能の時間帯は通常と比べ、DAUベースで2〜3倍のトラフィックがあるという。「プチ恋の時間帯にトラフィックの集中でサーバーがダウンした」(伊藤氏)なんていうエピソードもある。華金、恐るべし。

イヴイヴのダウンロード数は現時点で約30万ダウンロード。ユーザーの性別の比率は女性が35%、男性が65%だという。Market Driveは今回調達した資金を利用して、自社で運営するYouTubeチャンネルを中心としたプロモーションの強化を行うとしている。

Market Driveの創業は2016年7月。2017年12月の1億6000万円に続き、今回のラウンドが同社にとって4度目の外部調達となる。累計調達金額は3億7000万円だ。

なお、Market Driveは、これまでに行った計4回の資金調達ラウンドにおけるバリュエーションを今回の取材ですべて開示した。

  • 2016年8月の第1回ラウンド: Post Money Valuation = 3億円で3000万円調達
  • 2017年4月の第2回ラウンド: Pre Money Valuation = 8億円で6400万円調達
  • 2017年12月の第3回ラウンド: Pre Money Valuation = 18億円で1億6500万円調達
  • 2018年2月の第4回ラウンド: pre Money Valuation = 40億円で1億1000万円調達

スタートアップが過去のラウンドにまでさかのぼってバリュエーションを開示することは非常にめずらしい。なお、同社はこれらすべてのラウンドにおいて、ベンチャーファイナンスで利用されることが多い優先株式ではなく、普通株式を発行することで資金を調達しているという。

「若き研究者よ、今こそ立ち上がれ」社員1人のバイオベンチャーJiksak、ALSなくす挑戦へ1.9億円を調達

「患者さんの本や研究をきっかけに、ALSという病気が想像以上に辛い病気だと知った。発症原因についていくつか仮説はあるものの、正しいものがつかめていない状況で治療方法も見つかっていない。自分の研究をこの病気の解決に繋げられないかと考えた」—— Jiksak Bioengineering代表取締役CEOの川田治良氏は、ALSをなくすチャレンジを始めたきっかけをそのように話す。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は進行とともに随意筋のコントロールを失っていく病気。意識がはっきりしているのに、手足を動かしたり声を出したりできなくなってしまう。数年前にソーシャルメディアで大きな話題を集めた「アイス・バケツ・チャレンジ」で、ALSを知った人も多いのではないだろうか。

この難病を「独自の細胞培養技術」を通じてなくそうとしているのが、Jiksak Bioengineeringだ。同社は2月21日、ベンチャーキャピタルのANRI、大原薬品工業、エッセンシャルファーマ、メディフューチャーを引受先とした第三者割当増資と助成金を合わせて、総額1.9億円を調達したことを明らかにした。

今後は組織体制を強化し、これまで研究開発を重ねてきた製品を実際に販売するフェーズに入っていくという。

人体と同じような神経組織を作製し、試験の成功確度をあげる

同社が取り組むのは「人工的に人体と同じような神経組織を作製することで、ALSなどの治療薬を見つけ出す」ということだ。ポイントとなるのは、いかに体内に近い環境を試験官の中につくりだせるか。それが試験の成功確度をあげることにも直接つながる。

同社ではマイクロ流体デバイスの仕組みと、iPS細胞をもとに三次元構造を有する細胞組織(Nerve Organoid / ナーブオルガノイド)を形成。それを数センチ程度のマイクロチップに詰め込んで販売する。これはOrgan on a chip(日本語では人工臓器チップと訳されるそう)とよばれる技術で、アメリカでは非常に注目を集めているそうだ。

では実際のところJiksak Bioengineeringの技術は従来と何が違うのか。最大の特徴は「細胞核と軸索(体の導線のような役割を果たすもの)をわけて培養できる」ことにあるという。

川田氏によると、そもそも体内の運動神経は軸索が伸びて束になっているそう。この状態に近いシチュエーションを作りだすための「軸索を長く伸ばして、束ねる技術」が同社独自のものだ。

これはJiksak Bioengineeringが作る細胞組織の写真で、中央の黒い部分が細胞核、そしてそこからにょろっとでているのが軸索だ。一般的な技術で作られたものではこの2つがここまで明確に区分できず「ミックスされている」状態なのだそう。混ざってしまっている状態では軸索部分だけを切り出して、分析や実験をすることができなかった。

「(軸索だけを切り出すことができれば)軸索の中にだけ存在するものを評価できるようになる。たとえば健常者とALS患者のiPS細胞からオルガノイドを作った際に、軸索を切り出すことで『軸索の中で何か悪いことが起きているのかどうか』を確認できる」(川田氏)

川田氏によると、実はALSやパーキンソン病に関する論文の中には「軸索の中で問題が起きているのではないか」と主張しているものも多いそう。Jiksakの技術ならば、この仮説に対してきちんとアプローチができるようになる。

このように人体に近い環境を作れることで2つのメリットがあるという。1つは試験の成功確度があがること。そしてもう1つは基礎研究の段階から、人体に近い組織で実験ができるようになることだ。

従来の試験方法では、バイオ細胞→動物→治験(人間)という対象順に研究を行う。ただ川田氏によると「人間と動物、人間とバイオ細胞は全然違うもののため、人間とは異なる2つの環境で条件をクリアしたとしても(最終的に)うまくいかないケースも多い」そう。Jiksakのオルガノイドはこのプロセス自体も変えられうるという。

自分みたいなやつでも、スタートアップできる

せっかくなので川田氏のことも少し紹介しておきたい。同氏は東大の生産技術研究所でマイクロ流体デバイスを用いた細胞培養や、iPS細胞の研究に従事。博士課程でハーバード大学に行ったのち、帰国後は再び東大に戻った。

もちろんそのまま大学で研究を続けるという選択肢もあったのだろうが「この技術を確立して少しでも早く産業界に展開したい」という気持ちが強かったそう。研究の傍ら、外部の人と合う中でANRIの鮫島昌弘氏と出会い、出資を受けられる目処が立った。同時期にNEDOSUI採択案件(研究開発型ベンチャー支援事業)にも選出。ある意味「東大のポストを捨てる」ような形で、2017年2月に起業した。

2018年2月に鮫島氏が社外取締役に就任したが、今でも社員は川田氏1人だけ。今回の資金調達も研究開発と並行して「周りからは相当ディスられながらも1人でやった」(川田氏)そうだ。

「大学で研究することももちろん価値があることだけれど(その研究を事業として)社会に生かしていくくことも大切。ポスドク(博士後研究員)の中には、今後自分の研究をどう進めていくか悩んでいる人も多い。今はアカデミアの領域以外にもチャレンジできる場所があり、自分みたいな人間でも起業して資金調達をしながら事業を進めていける環境だ。起業という選択肢があってもいいし、博士号をとったような人材が(ビジネスの現場に)でてくると、日本のバイオベンチャーもさらに盛り上がる」(川田氏)

創業時に川田氏が使っていたラボ。当時はFabcafeの一室でやっていたという。ちなみにこの部屋は鮫島氏が見つけてきたもの。「彼との二人三脚は弊社の根幹だった」(川田氏)

たとえばアメリカでは著名なVCであるAndreessen Horowitzが人工臓器チップの可能性について言及するなど、この分野に注目する投資家も多い。累計で5900万ドルを集めているEmulateのようなスタートアップも生まれている。

一方で日本はバイオベンチャーが少ないため(川田氏は起業家自体がそもそも少ないという)、そこに投資をするVCも限られている。資金調達を進める中で、専門知識がある事業会社の担当者の反応が良い一方、VCの反応がイマイチなどギャップに苦しんだこともあったそうだ。

それでも1人で必要な軍資金を集めた川田氏。これまでは研究開発がメインだったが、今後はいよいよ次のフェーズに入っていくという。

まず開発したチップを製薬企業や大学の研究者などに販売をしていく(チップを単体で売るのではなく、細胞を入れた状態で販売)ほか、製薬企業とは個別に共同研究契約を提携。各企業のニーズに合わせてオーダーメイドのような形で技術・製品を提供していく方針だ。

また現時点で詳細は明かせないということだが、軸索束を使った再生医療製品の開発にも取り組むという。

「これからは人材採用も進めて組織体制を強化しつつ、販売するチップを大量に生産できる『神経工場』のようなものを作る。チップの販売や共同研究、自社での再生医療製品の開発も合わせて、ALSをはじめとする難病をなくすチャレンジを続けていきたい」(川田氏)

ウェブやスポーツデータを解析するグラッドキューブが1.5億円を調達、NTTグループとの連携も

ウェブ解析ツールやスポーツデータ解析サービスを提供するグラッドキューブは2月20日、モバイル・インターネットキャピタル(MIC)およびNTTドコモ・ベンチャーズを引受先とした第三者割当増資を実施し、総額1.5億円を調達したことを明らかにした。

グラッドキューブは2007年の設立。創業当初からリスティング広告の運用など、インターネット広告代理業を営んできた。そのデジタルマーケティングの経験を生かして2015年、サイト解析ツール「SiTest」をリリースした。

SiTestはA/Bテストツールとして誕生し、企業のウェブ担当者の課題を受け、機能を増強してきた。従来、ヒートマップ解析やショッピングカート分析など、サイトを分析するためのツールは各種あったが、ツールごとに契約し、画面もバラバラだった。ウェブ担当者はそれぞれの操作をイチから覚えなければならない。また、Google Analyticsや各種ツールでバラバラに表示される結果をまとめて、レポートを作成する手間もかかる。ヒートマップなどの画像を整理してExcelやPowerPointファイルにまとめるだけでも、相当の時間がかかっていた。

SiTestでは、こうしたウェブの分析機能をオールインワンで提供。さらにAIを搭載することで、レポートを自動作成する機能も追加された。また、ヒートマップが自動的に、アドバイス付きでダウンロードできるスマートレポートも提供している。

グラッドキューブ代表取締役CEOの金島弘樹氏によれば、SiTestは現在、30万サイトで採用されている。アジアではトップクラスの導入数となっているそうだ。

こうして広告運用に加え、サイト解析やサイトの最適化サービスを提供していく中で、グラッドキューブではメディアの最適化についても相談を受けるようになった。広告価値やブランディングの向上につなげるため広告配置の改善を行い、月間100万PVだったサイトを1年で1億PVに上げた例もあるという。

金島氏はこのころ「広告運用だけではいずれ、機械学習に置き換えられてしまうだろう」と考えていた。そこで、これらメディアの最適化でつかんだ知見を基に、メディア分野への進出を図った。「テーマとしては美容健康か、スポーツを検討していた」(金島氏)とのことだが、選択したジャンルはスポーツだった。

金島氏がスポーツメディアへの進出を選んだ理由のひとつが、市場規模だ。「スポーツ関連市場はGDPの3%の需要を占めると言われている。2012年時点では、スタジアム・アリーナとスポーツ用品販売などで約5兆円規模だった。それがオリンピックイヤーから5年後の2025年には、IoT活用やスポーツツーリズムなどの周辺産業も含めると、15兆円規模になると期待されている」(金島氏)

また、米国ではスポーツに関するアプリの普及も進み、データ解析サービスやスポーツニュースなどのメディアの勢いも盛んだが、日本では5年ほど遅れて、ようやくデータ解析が使われるようになってきた段階で、まだ発展の余地が大きい。金島氏は、広告運用やサイト解析で得た情報を生かして、2016年9月、スポーツ解析メディアの「SPAIA(スパイア)」をローンチした。

さらに金島氏は、SPAIAについて「今後、スポーツツーリズム、アスリートのセカンドキャリア支援、マーケットプレイス、アカデミックスポーツ、スポーツゲームなどにも利用を広げ、スポーツ解析の分野でのプラットフォーマーを目指す」と話している。

「金銭以上の価値が調達で得られると考える」

金島氏は「実はSiTestをリリースした2015年ごろから、連携できるVCを探していた」と言う。「その際に、単に投資だけでなく、事業主体があるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)と連携したかった。これはグラッドキューブが提供する事業の価値を向上したかったから。これまでは折り合いが付くVCがなかなか見つからなかったが、今回はよい連携ができると期待している」(金島氏)

グラッドキューブは、広告運用事業を設立当初から続けていることは、先にも触れた。Google Premier Partner Awardsなどの各賞を受賞してきた実績も持っている。一方、今回の出資元であるNTTドコモ・ベンチャーズが属するNTTグループでも、解析システムやメディアの運用を行い、広告にも力を入れている。

金島氏は「今回の出資では、グラッドキューブの広告の質にも着目してもらっている。今後、広告、サイト解析、サイト最適化の部分でノウハウを共有していきたい。SiTestを活用し、媒体ごとに配信精度を高める仕掛けや、解析ツールの共同開発なども行っていければ」と話している。

広告解析の分野では「MICやNTTドコモ・ベンチャーズの既存投資先とのアライアンスも確度が高い、と評価されている」と金島氏は言う。

また、スポーツ解析メディアのSPAIAは、モバイルからの利用割合が85%を占め、さらに増加傾向にあるという。「スポーツメディアでは『DAZN(ダゾーン)』などもスマートデバイス対応が進んでいる。MICとの連携により、SPAIAもスマホシフトを狙っていく」(金島氏)

SPAIAについては「NTTドコモが提供するメディアとの間でも、データ解析と記事品質の向上の両事業でシナジーがある」と金島氏は考えている。「SPAIAのトラフィック、ユーザー数は伸びていて、手応えがある。広告掲載の依頼も増えて、影響力が出てきた。これはコンテンツの権利処理をきちんと行うなど、王道でメディア事業をやっていることへの評価と捉えている。今回の調達も踏まえて、次のステップへ行く時だ」(金島氏)

グラッドキューブでは、SPAIAでの記事配信体制の強化も検討しているようだ。「当初キュレーションでコンテンツを用意していた部分もあったが、現在は解析データなどを使って記事を制作し、独自配信する体制を整えつつある。例えば野球なら試合のリアルタイム速報で、AIを使って配球予想を出すコンテンツがあるが、その予測精度をより高める、といったこともやりたい。NTTドコモが運営するdメニューに記事を提供することや、独自配信も考えている」と金島氏は話している。「連携できること(の種類や内容)を考えると、金銭以上の価値が調達で得られると考えている」(金島氏)

写真中央:グラッドキューブ代表取締役 CEO 金島弘樹氏

ITで教育業界に“なめらかな”イノベーションを、デジタル問題集「ATLS」提供元が億単位の調達

中高生向けのタブレット端末用学習サービス「ATLS(アトラス)」を提供するforEst(フォレスト)は2月20日、グロービス・キャピタル・パートナーズらを引受先とした第三者割当増資による資金調達を実施したことを明らかにした。金額は非公開だが、関係者の話では億単位の調達だという。

同社では今回調達した資金をもとに開発人材の採用など組織体制を強化し、対応科目の拡張をはじめとしたプロダクトの改良を進める。合わせてこれまでは教育機関専売品として提供していたATLSの一般公開を、本日より開始した。

学習サポート機能を搭載した「おせっかいな」問題集

学校で使っているおなじみの問題集がデジタル化されることで、いくつかスマートな機能がついたもの。多少強引だが、ATLSを端的に説明するとそんなところだろうか。

同サービスには何冊もの教科書や問題集が登録されていて(現在は数学のみ対応)、Kindleのように必要なものを1冊ずつ購入する。並んでいるのは出版社が保有するコンテンツをデジタル化したもののみ。それによって一定の質が担保されているのが特徴だ。

これだけだと単なる電子書籍なのだけど、ATLSには紙の問題集にはない機能がいくつか搭載されている。これを読んでいる大人の方は、しばし中高生時代を振り返りながら読み進めていただくのがいいかもしれない。

まず過去に取り組んだ問題や学習量などのログを蓄積できる「学習履歴」機能だ。各問題集の閲覧ページにはストップウォッチが設定されていて、「いつ、どこで、どの問題を、どくくらいの時間かけて」取り組んでのか可視化できる。

その履歴を活用することで、過去に学習した問題を定期的にレコメンドする「復習支援」機能、間違えやすそうな問題をレコメンドする「挑戦問題」機能を実現。間違えっぱなしで放置しているような問題も抽出してくれる。苦手な単元や理解があいまいな分野は、ついつい後回しにしてしまいがち。そこをATLSが気を利かせて、つついてくれるというわけだ(ATLSのコンセプトは、おせっかいな問題集だ)。

また僕自身が学生時代を振り返ってみて1番便利だなと思ったのが、解いた問題に類似するものを“教材横断”で検索できる「類似問題検索機能」。別の問題集から似た問題を探してくるのは、以外と大変だったりする。シンプルな機能だけれど、デジタル化することによる大きなメリットだろう。

おなじみの教材、従来の学習法。ポイントはなじみやすさ

「ATLSではタブレットに表示された問題を見ながら、紙とペンを使って学習する。大切にしているのは完全に新しい概念を持ち込むのではなく、中高生にとってなじみのあるものを残すこと。これまで使用していたテキスト、紙とペンを使ったこれまで通りの学習方法に、ICTによる個々に合わせたサポート(アダプティブラーニング)を加えることで学習を効率化する」——forEst代表取締役CEOの後藤匠氏はATLSの思想についてそう話す。

教育業界の人たちも新しいテクノロジーに興味はあるだろうが、それまで上手くいっていたスタイルを大きく変えるのはリスクが大きい。実際「保守的な側面もある」(後藤氏)そうだ。だからこそ、実際に使ってもらうためには従来の仕組みになじむような設計が必要になる。後藤氏いわく「なめらかなイノベーション」が求められているという。

これはATLSを使って学習する生徒だけではなく、導入する学校の教師に対しても同様だ。

ATLSには教員の宿題管理事務を効率化する側面も持つ。管理ツールを介して、PCやスマホから宿題を配信。生徒はATLS上で問題を解き、その結果は自動で集計される。問題を解いたノートをカメラアプリで撮影してもらえば、個々の生徒がどのように問題を解いたのか、そのプロセスまでわかる。

教員の平均勤務時間の長さは日本の社会問題のひとつだ。ATLSでは従来から大きく手順を変えることなく、宿題用のプリントの印刷や回収、分析にかかる負担を削減する。生徒の傾向を分析することで、授業に反映することもできるだろう。

10ヶ月で50校以上へ導入が決定

学校向けにATLSを有償で販売し始めたのは2017年の4月から。トライアルも含めると、10ヶ月で50校以上に導入が決まっている。

「学校に営業に行った際や、実際に使ってみてもらった際も『これまでとあまり変わらないので、わかりやすい。使いやすい』という反応が多い」(後藤氏)

ビジネスモデルもシンプルで、問題集が購入された際のレベニューシェア(販売代金の一部がATLSの売り上げとなり、残りが出版社に支払われる)のみ。学校の導入費用は無料だ。後藤氏によると、まずはタブレット端末を使った学習に慣れてもらうために導入のハードルを下げることを最優先しているという。

forEstでは本日より新たな取り組みとしてATLSを一般公開し、導入校以外の生徒でもタブレットから教材を購入できる環境を整えた。今後も生徒向けのプレミアム機能など新たな展開はありえるかもしれないが、学校向けにがっつりビジネスをすることは今のところ考えていないそうだ。

一方でコンテンツを提供する側の出版社については、現在6社と提携。出版社にとってもATLSは新しいチャネルになりうるし、参考書内の問題に対するユーザーの取り組み動向などをレポートにすることで従来は把握できなかったデータも提供できる。

ただ以前は導入実績がないことがネックとなり出版社の開拓には苦戦したそう。前述のとおり現在ATLSで扱っている教科は数学のみで、物理と化学については準備が進んでいる段階。今後は英語など科目数の拡大や、対象となる年齢層の拡大(現在は一部の中高一貫校を除き、高校生向けの教材を扱う)を目指す方針のため、提携出版社数をどこまで増やせるかが鍵を握りそうだ。

「業界のICT化が進むとともに教材のデジタル化も求められてきたが、学習者が使いやすいものが整備されているとはいえないのが現状。質の高い教材を持つ出版社がデジタル市場に参入しやすいプラットフォームを作ることで、約1750億円の規模と言われる中高生向けの教育市場を変えていきたい」(後藤氏)

forEstの創業は2012年。当時東工大の大学院に通っていた後藤氏が学生ベンチャーとしてスタートしたのが始まりだ。後藤氏自身が大学で教育や雇用のシステムを変えることに強い関心を持ち、受験生時代に類似問題を探すのに苦労した経験もあったことから、アダプティブラーニング(個々の生徒に合わせた学習内容を提供する仕組み)の領域で起業したという。

forEstのメンバー。右から3人目が代表取締役CEOの後藤匠氏

2ステップでマーケ用チャットボット作成、「chatbook」がSalesforceと資本業務提携

チャットボットによるマーケティングオートメーションサービス「chatbook」を提供するチャットブックは2月19日、Salesforce VenturesイーストベンチャーズYJキャピタルを引受先とする第三者割当増資を実施した。調達金額は非公開だが、数千万円規模と見られる。

chatbookは、マーケティング用のチャットボットをプログラミングの知識なしでも簡単に作成できるサービスだ。必要なのは2ステップだけ。あらかじめ用意されたテンプレートを選べばボットが完成する。Facebookと連携したデータによってマーケティングに活用でき、その後のフォローアップにも対応。ユーザーへの情報提供やアンケート機能も備える。

今回の調達ラウンドで米Salesforce.com(以下、Salesforce)との資本的な関係を築いたことは、チャットブックにとって大きな意味をもつ。同社はこの資本業務提携により、2018年上旬頃からSalesforceのSFAサービスである「Salesforce Sales Cloud」とchatbookの連携を始めるとしている。すでに幅広い顧客基盤をもつSalesforceと手を組むことにより、chatbookの普及促進を目指す。

chatbookは本日より正式にサービスを開始。個人利用は無料だ。法人利用では10日間のトライアル期間を設け、その後は月額6万円〜の料金で利用できる。これまでは招待制で提供されてきたchatbookだが、現在のユーザー企業数は数十社だという。バイトルを運営するディップや、石川県加賀市の観光事業などの自治体などにも利用されている。

同社は今回調達した資金を利用して営業体制を強化するほか、今後は「一つのチャットボットでFacebookメッセンジャーボットとウェブボットを作れるサービスを展開する予定で、そのための人材採用やデータ解析を手がける開発人員も強化する」(チャットブック代表取締役の小島舞子氏)としている。

チャットブックは2016年9月の創業で、TechCrunch Tokyo 2016のスタートアップバトルにも出場している(創業当時の社名はヘクトだった)。また、同社は既存投資家のYJキャピタルとEast Venturesが運営するアクセラレータプログラム「コードリパブリック」の卒業生でもある。今回のラウンドは、同プログラムへの参加時に調達した約700万円に続く、2度目の外部調達となる。

自宅の家電をスマート化する「Nature Remo」、開発元が1億円を調達、今後はエアコンの電力使用最適化も

家電をインターネットに接続することで“スマート化”できるIoTプロダクト「Nature Remo」。同製品の開発元であるNatureは2月19日、大和企業投資を引受先とする第三者割当増資により1億円を調達したことを明らかにした。

同社は代表取締役の塩出晴海氏がハーバード大学のMBA課程在籍中に立ち上げた、ハーバード大発ベンチャーだ。2016年5月にクラウドファンディングサイトKickstarterでNature Remoを発表。その後MakuakeやIndiegogoでもプロジェクトを開設し、総額2000万円以上を集めた。

2017年8月にも一度紹介したが、Nature Remoの特徴は普段使用している家電製品をスマートにできること。WiFiや赤外線の送受信機能に加えて、人感、温度、湿度、照度などのセンサーを備えている。

スマートフォンアプリとのペアリングおよびWiFi設定、リモコンの学習(Nature Remoに向けて赤外線リモコンを発信し、信号を認識させる)といった設定をすれば、アプリ経由でリモコンの操作が可能になる。帰宅前にアプリで室内の温度を確認してエアコンの電源を入れたり、出先で消し忘れたテレビを消すなんてことが可能。スマートフォンのGPSを使って、特定エリアに入る・出るタイミングで家電の電源を操作するといったこともできる。

また、強力なのが「IFTTT」を経由したスマートスピーカーとの連携だ。IFTTTはさまざまなウェブサービス同士を繋げることができるサービス。このIFTTTを利用することで、例えばスマートスピーカーの「Google Home」や「Amazon Echo」など(厳密にはこれらのスピーカーで利用できるAIアシスタント)を経由してNature Remoの機能を利用することができる。

設定には一手間かかるが、例えば「OK Google、暖房を付けて」とGoogle Homeに話しかければ、普通の家電(赤外線リモコンで操作するという意味で)だってスピーカーを通じて操作することが可能になる。2018年に入ってからAPIも公開。Nature Remoを使った様々なサービスの構築もできるようになった。

クラウドファンディングサイトだけでなく、2017年10月からは正式発売を開始。ただスマートスピーカーの日本上陸と重なったこともあり、塩出氏によると「直近まではバックオーダーがたまり、品薄状態になっていた」という。

現在はそれにあわせて家電量販店(ビックカメラ、コジマ)やAmazonでの販売も開始。今回調達した資金をもとに、開発・製造体制を強化し、プロダクトの改良を進める。

今後は「インターネットとセンサー技術を活用しエネルギーを自給自足できる未来をつくる」というビジョンのもと、まずはエアコンのIoT化により電力使用の最適化を目指す方針。昨年に続き関西電力とのバーチャルパワープラントの実証事業に参画し、電力関連事業でのアライアンスの実現に向けて取り組むという。