セキュリティライブラリーwolfSSLが耐量子計算機暗号(PQC)に対応、組み込み機器で通信が可能に

セキュリティライブラリーwolfSSLが耐量子計算機暗号(PQC)に対応、組み込み機器で耐量子計算機暗号による通信が可能に

米国ワシントン州を拠点に組み込みシステム向けに軽量なセキュリティライブラリーを提供するwolfSSLは3月16日、主力製品の組み込みシステム向けセキュリティライブラリー「wolfSSL」が耐量子計算機暗号(PQC。耐量子暗号、ポスト量子暗号とも。Post-quantum cryptography)に対応したことを発表した。これにより、wolfSSLライブラリーを組み込んだ製品は、インターネットセキュリティーの標準プロトコル「TLS」上で、アプリケーションに変更を加えることなく、ポスト量子暗号による通信が可能になる。

現在、米国標準技術局(NIST)では、本格的な量子コンピューターの時代を見据えた耐量子計算機暗号の国際標準化を進めている。その候補として最終的に絞り込まれた技術のアルゴリズムを、オープンソースソフトウェア(OSS)プロジェクト「Open Quantum Safe」(OQS)が「liboqs」ライブラリーとして提供しており、wolfSSLはこれを実装し、組み込みシステムで利用できるようにしたということだ。

すでに、現在提供されている最新バージョン「wolfSSL 5.2.0」で耐量子計算機暗号に対応している。TLSで試すサンプルプログラムとその使用法の説明は、「wolfSSLのポスト量子暗号対応」で公開している。

放射線科のITを根本から再構築するNinesのAIアルゴリズムをSirona Medicalが買収

デジタル放射線科のための「OS(オペレーティングシステム)」を開発しているSirona Medical(シロナメディカル)は、米食品医薬品局(FDA)が認可した分析およびトリアージのアルゴリズムの開発元Nines(ナインズ)を買収した。この買収は、AIを使った放射線技術がやや不安定な時期に行われた。しかし、Sironaはこの動きによって「臨床ワークフローにAIを導入するためには、物事を一から作り直す必要がある」という同社の考えが証明されることに賭けている。

SironaとNinesがどの部分で一緒になってうまくいくのかを理解するには、放射線治療の背後にあるITをレイヤーケーキに見立てて考えるといい。そのケーキの最初の層は、医療画像データベースでできている。2つ目の層は、閲覧や報告のソフトウェアなど、放射線科医が日常的に接するソフトウェアだ。3つ目の層は、これらの画像のパターンを検索したり、医師の意思決定を支援したりするAIアルゴリズムで構成されている。

Sironaの主力製品であるRadOSは、この下の2層をまとめ、その上にAIアルゴリズムを重ねられるようにすることを目指していて、NinesのAIはの下の2層で大きな進歩を遂げた。

Ninesは、実際に医師の意思決定をサポートできるとするアルゴリズムを作り出した。そのうちの1つは、科学者が肺の結節(異常な増殖)の大きさを測定し、呼吸器疾患の発見に役立てるというアルゴリズムだ。もう1つのアルゴリズムは、脳のCT画像を分析し、頭蓋内出血や腫瘤の兆候を検出するものだ。医師が患者をトリアージするのを支えることを目的としている(両アルゴリズムともFDAの510(k)認可を取得している)。

RadOSプラットフォーム(画像クレジット:Sirona Medical)

今回の買収は、臨床医のワークフローにアルゴリズムを真に統合するためには、第1層と第2層を統合する必要があるからだとSirona MedicalのCEO、Cameron Andrews(キャメロン・アンドリュース)氏はTechCrunchに語った。RadOSは、その問題を解決する準備ができているという。

ヘルスケア分野におけるAIは、最近混迷を極めている。一方で、1月にIBM Watson Healthがスピンオフし、AI放射線科の楽観論者に打撃を与えた。しかし、熱意は冷めていない。同じ月に米国最大の外来画像診断プロバイダーであるRadnet(ラドネット)は、がん、肺疾患、神経変性のAI画像解析に投資する2社を買収した。

そして、誰もが触れない点がある。それは、期待されるAI放射線科革命は、まだ到来していないということだ。米放射線学会の会員約1400人を対象に2021年に行われた調査で、現在臨床でAIを使用している放射線科医はわずか30%であることが明らかになった。AIを使用していない人の20%は、5年以内の新AIツール購入を計画していた。

Sironaの主張は、放射線科でのAI活用を阻んできた問題は、業界のレガシー技術に深く食い込んでいるというものだ。前述の「層」はすべて一緒に機能するように設計されていない。

臨床支援アルゴリズムを追加する前でさえ、放射線科医はすでに3つか4つの異なるソフトウェアで作業している、とアンドリュース氏は話す。そして、AI機能を採用した新しいソフトウェアを追加しようとすると、それらのソフトウェアにさらに別のものを追加しなければならない。「Radiology Artificial Intelligence」のあるレビュー論文によると、堅牢なAIソフトウェアは、個々のワークステーションにベンダー固有のソフトウェアをインストールする必要があるとのことだ。このプロセスは、新しい技術を採用する際に複雑さをさらにもたらすことになる、と同論文は指摘している。

「私たちは、基礎となる放射線科ITスタック自体、そしてより広範な基礎となるイメージングITスタックは、放射線科医が抱えるタスクと、サードパーティのAIおよびソフトウェアベンダーが今後10年間に要求するタスクの両方を根本的に処理できないと認識しました」とアンドリュース氏は述べた。

そう考えると、SironaがNinesを買収したことで、それらのトップ層のアルゴリズムがRadOSに統一されることになる。それは医師にとって、実際にどのような意味を持つのだろうか。注釈付き画像からレポートへのシームレスな移行が可能になる、ということだ。肺結節をクリックし、Ninesのアルゴリズムで測定し、さらにクリックすれば、その測定値をレポートに反映させることができる。

「これは、とてもシンプルです。しかし、それにもかかわらず「実現不可能でした」とアンドリュース氏はいう。

RadOsのプラットフォームを利用したメモ帳アプリケーション

「AIやコンピュータビジョンは、ピクセルと言葉を関連付ける能力であり、自然言語処理は、言葉をピクセルそのものに関連付ける能力です」と同氏は説明する。「報告書を作成するためのソフトウェアと画像を見るためのソフトウェアが機能的に分離しているため、このような双方向の接続を今日実現することはできません。そして、それらはアルゴリズムから完全に分離されているのです」。

SironaはNinesの臨床データパイプライン、FDA認可の2つのアルゴリズム、機械学習エンジン、放射線科ワークフロー管理・分析ツールのみを買収した。興味深いことに、同社はNines AIの遠隔放射線の部門を買収していない。Ninesはリモートで働く放射線科医も雇用しており、その専門知識を病院やクリニックに提供している。

Sironaは「放射線科サービス事業を行っていない」ため、遠隔放射線部門はSironaになじまなかったと、アンドリュース氏は話した。しかし、同氏買収の詳細を明らかにするのは却下した。

今回の買収の発端は、投資家の重複と相互のつながりにある。8VCは両社に出資していて、SironaはNinesの投資家であるAccel Partnersとつながりがある。Sironaはこれまでに6250万ドル(約72億円)を調達している。

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】ソーシャルメディアは科学と「根本的に対立」している可能性がある

米国時間2月11日に発行されたScience(サイエンス)に掲載された特別論説が、現在の形式のソーシャルメディアは、事実や道理を提示したり広めたりする目的には根本的に適していないのではないかと論じている。論説は、現在はアルゴリズムが主導権を握っており、システムの優先順位は残念ながら逆になっていると主張している。

ウィスコンシン大学マディソン校のDominique Brossard(ドミニク・ブロサール)氏とDietram Scheufele(ディートラム・ショイフル)氏は、その鋭い(そして無料で読むことができる)意見の中で、科学者が必要とするものとソーシャルメディアプラットフォームが提供するものとの間の基本的な断絶について説得力のある説明を行っている。

彼らは「科学的な議論のルールや、証拠の体系的、客観的、透明な評価は、ほとんどのオンライン空間における議論の実態と根本的に対立している」と述べる。「ユーザーの怒りや意見の相違を収益化するように設計されたソーシャルメディアプラットフォームを、懐疑的な人々を説得するために用いる(たとえば気候変動やワクチンは確立した科学領域では議論の余地はないということ)ことが、生産的な手段であるかどうかには疑問が残る」。

科学者によるコミュニケーションの効果を減少させるソーシャルメディアの最も基本的な特性は、広汎な分類ならびに推奨エンジンの存在だ。これにより、ブロサール氏とショイフル氏が「homophilic self-sorting(同一傾向自己分類)」と呼ぶものが生みだされる。つまり、あるコンテンツを見せられる人は、すでにそのコンテンツに馴染んでいる人なのだ。言い換えるなら、彼らは聖歌隊に向かって説教しているのだ。

「科学に好意的で好奇心旺盛なフォロワーを、科学者のTwitter(ツイッター)フィードやYouTube(ユーチューブ)チャンネルに連れてくるのと同じ営利目的のアルゴリズムツールが、一方では最も緊急に科学を必要としている人たちから、科学者をますます遠ざけることになるだろう」と彼らは書いている。ここには、明らかな解決策は存在しない「その原因は、科学情報のエコロジーにおけるパワーバランスの地殻変動にある。ソーシャルメディアプラットフォームとその基盤となるアルゴリズムは、急速に拡大する情報の流れをふるいにかけようとする受け手の能力を上回り、その過程で感情的・認知的な弱点を利用するようにデザインされている。このような事態になっても不思議はない」。

Scienceの編集長であるH. Holden Thorp(H・ホールデン・ソープ)氏はいう「だがそれはFacebook(フェイスブック)にとって収益化の良い手段なのです」。

このテーマで論説も書いているソープ氏は、私に対して、最近の科学者とソーシャルメディアの関わり方には、少なくとも2つの明確な問題があると話してくれた。

「その1つは、特にTwitterでは、科学者たちがそれを使って、詳しく議論したり、アイデアを公然と広めたり、支持したり、撃墜したりするのが好きだということです。これらはかつて、科学者たちが黒板を囲んだり、会議をしている時にやっていたことです」と彼はいう。「こうしたことはパンデミック以前から行われていましたが、今ではそのようなやりとりが行われる主要な手段となっています。その問題点は、もちろん、今や永久的な記録が残るようになっているということです。そして、通常の科学の検討過程では当然破棄されるような、一度は提出されたものの間違っていることが判明した仮説のいくつかが、私たちのやっていることを台無しにしようとしている人々によって選ばれてしまうのです」。

そして「2つ目は、素朴すぎるアルゴリズムです。特にFacebookのアルゴリズムは、意見の相違や意見の相違を広める非公式な投稿に非常に高い評価を与えています。たとえば『私の叔父はマスクをして教会に行ったが、新型コロナウイルスに感染した』というような情報も、拡散すれば権威ある情報に勝るものとして扱われることになるでしょう」と彼は続けた。

ブロサール氏とショイフル氏が指摘するように、このような状況が重なると、科学者は「明らかに不利な立場に置かれる【略】わかりやすい結論よりも、専門的な規範や倫理的立場から信頼性のある累積的な証拠を優先する、公開討論における少数派のようなものだ」。

関連記事:ソーシャルメディアCEO3人が米下院公聴会で反ワクチン誤情報アカウントを削除するか聞かれ言葉を濁す

残念ながら、科学的な面では誰もができることではない。間違いなく、システムに参加すればするほど、自分の周りのサイロを強化することになる。私たちはあきらめるべきだと主張する者はいないものの、問題は科学コミュニティが、ソーシャルメディア上で偽情報の行商人たちよりも発信力が弱いことだけではないということを認識する必要がある。

ソープ氏は、これは数十年前から続く反事実主義的な傾向と政治化の最新局面に過ぎないと認めていいる。

「人々は、これが非常に単純なことであることを認識せずに、少し感情的になっている傾向があると思います。たとえば政党は同じ立場を取ることはないでしょう、すると片方が科学的に厳格な場合、もう1つは科学に反する立場をとることになります」と彼は説明する。彼は、民主党が科学の側に立つことが多いのは確かだが、遺伝子組み換え作物や原子力では反対側に立ったこともあると指摘した。重要なのは、誰が何に賛成しているかではなく、2つの政党が反対の意見を唱えることで自らを定義していることだ。

「これは、科学に賛成するよりも、科学に反対する方が政治的に有利だということに気づいた政党の振る舞いなのです」と彼はいう。「なので科学者がただ『メッセージが伝わらない』と言っているのは呑気な態度なのです、彼らが直面しているのは、今やFacebookの力を背景にした政治マシーンなのですから」。

ブロサール氏とショイフル氏は、最後の論点として、Deep Blue(ディープ・ブルー)によるGarry Kasparov(ガルリ・カスパロフ)氏の敗北を示した。その敗北後、スーパーコンピュータを出し抜くための特別なトレーニングを追求するひとはおらず、カスパロフ氏のプレイが不十分だと非難するひともいなかった。そのショックが去った後、我々はチェスだけでなく、コンピューティングとアルゴリズムの可能性においても新しい局面を迎えたことは誰の目にも明らかだった(少し前に、カスパロフ氏自身も私に対して、その見解が進化したことを語ってくれた)。

「科学者にも同じ理解が求められている」と彼らは書いている。「公共の場における議論に、事実と証拠を用いた情報を持ち込む新しい時代であり、良い方向に変化しているものもあるのだ」。

画像クレジット:erhui1979 / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:sako)

31万名超が参加登録する競技プロのAtCoder、実践を想定したプログラミング検定「アルゴリズム実技検定」実施日程を発表

競技プロのAtCoder、1からプログラムを作成する能力を問う「アルゴリズム実技検定」実施日程を発表

競技プログラミング(競プロ)コンテストサイト「AtCoder」などを手がけるAtCoderは1月28日、「アルゴリズム実技検定」の2022年実施日程を発表した。受験費用は、一般8800円/人(税込)。30名以上の団体受験の場合は7040円/人(税込)。100名以上の団体受験は6160円/人(税込)。

アルゴリズム実技検定は、「アルゴリズムをデザインし、コーディングする能力」、つまり1からプログラムを作成する能力を問う、実践を想定したプログラミング検定。「知識型ではない」「受験者が得意なプログラミング言語を選べる」「アルゴリズム設計力・実装力を図る」という3点の特徴により、これまで定量的な把握が難しかったプログラミング能力を評価することが可能という。

同検定は、自宅や職場からオンラインで受験でき、期間内ならいつでも好きな時間に受験できる(試験時間は試験開始から5時間)。受験を希望する者は、「アルゴリズム実技検定ページ」から申し込む。

なお、第10回試験から受験期間を約3カ月間に延長し、年間を通じていつでも受験できるように変更している。

2022年の実施日程(すべてオンラインで受験可能。試験時間は受験開始から5時間の予定)

  • 第10回:2022年3月5日13:00〜6月3日23:59
  • 第11回:2022年6月4日13:00〜9月2日23:59
  • 第12回:2022年9月3日13:00〜2022年12月2日23:59
  • 第13回:2022年12月3日13:00〜2023年3月3日23:59

またアルゴリズム実技検定では、15問(1問目=9点/2~3問目=8点/4~6問目=7点/7~15問目=6点。100点満点)の問題が出題され、獲得した点数に応じ5段階でランクが認定される(認定証が発行される)。ランクは、エントリー(25~39点)、初級(40~59点)、中級(60~79点)、上級(80~89点)、エキスパート(90~100点)。競技プロのAtCoder、1からプログラムを作成する能力を問う「アルゴリズム実技検定」実施日程を発表競技プロのAtCoder、1からプログラムを作成する能力を問う「アルゴリズム実技検定」実施日程を発表

求められるスキル水準

  • エントリー:標準入出力や、整数型、文字列型の扱い、forやifなどのループや条件分岐といったプログラミングにおける基本的なロジックについて、問題に合わせて適切に組み合わせる能力が問われる
  • 初級:エントリー要件に加え、多次元配列やリスト構造などを用いた、複雑性の高く、コーナーケースも多く含まれる、実装の難しいプログラムを組む能力が要求される。
    また、四則演算や簡単なデータの持ち方の工夫、ソートなどで解決可能な計算量を改善する能力も問われれる
  • 中級:初級の要件に加え、深さ優先探索や幅優先探索などを用いた複雑な全探索や、動的計画法や貪欲法・二分探索といった、高度な計算量の改善を要求する能力が問われる。例えばグラフアルゴリズムでは、最短経路問題や最小全域木などの有名な問題に対するアルゴリズム設計力・実装力が必要となる。
    また、確率や組み合わせを数理的に計算する能力も求められる。単に知識を問う問題ではなく、それらのアルゴリズムを正しく適用できるかが問われる
  • 上級:中級の要件に加え、出題される典型アルゴリズムが増加し、複雑性が増加した問題への対応力が問われる。動的計画法や貪欲法においても、単純に適用できるような問題ではなく、さらに工夫が必要な問題でのアルゴリズム設計力・実装力が必要。例えばグラフアルゴリズムでは、最小共通祖先や最大流問題や最小費用流問題などのより高度な問題に対して、適切にアルゴリズムを設計・実装する能力が問われる
  • エキスパート:出題されるアルゴリズムは上級と同様。アルゴリズムの適用難易度が高い問題への対応力が問われる

AtCoderは、日本最大級の競技プログラミングコンテストサイト「AtCoder」を運営。31万4070名(うち日本人は16万7537名)が参加登録し、毎週開催される定期コンテストには約1万1000名以上が挑戦するという。

その他にも、高度IT人材採用・育成事業として、コンテスト参加者の成績を8段階にランク付けした「AtCoderランク」を利用する転職・求職支援サービス「AtCoderJobs」や、IT人材のプログラミングスキルを可視化できる検定「アルゴリズム実技検定(PAST)」といったサービスを展開している。

Instagramに新着順フィードが帰ってきた

Instagram(インスタグラム)は2021年12月に約束したとおり、時系列(新着順)フィードを復活させた。

米国時間1月5日のツイートで、InstagramのトップAdam Mosseri(アダム・モセリ)氏は、同プラットフォームのメインフィード体験の動作に大きな変更を加え、ユーザーが3種類のフィードを選べるようになったことを発表した。新たな2つのオプション、「Favorites(お気に入り)」と「Following(フォロー中)」ではコンテンツが時系列に並べられ、第3のオプション「Home(ホーム)」では現在と同じアルゴリズムによって並べられる。

モセリ氏は、時系列ではないホームフィードは、時間とともにおすすめがどんどん増えていき、すでに知っている人のコンテンツをフォローするよりも、新しい発見のためのハブのような役割をすると語っている。Favoritesは、少人数の友達や家族の近況をすべて読むのに便利で、それ以外のフォロー中の人の投稿はFollowingビューで読むことがてきる。

この変更はすでに公開済みで、今後数週間のうちに全ユーザーに反映される予定だ。時系列フィードオプションの最終バージョンは2022年前半に提供する計画だとモセリ氏はいう。Facebeook(フェイスブック)やInstagramが通常行っている数多くの限定された実験とは異なり、今回の変更はアプリ体験に広く実装される。

Instagramユーザーは長年時系列フィードに慣れ親しんできたが、会社は2016年にアルゴリズムフィードに切り替えた。これは同アプリを次の金の卵と考えていた親会社のFacebook(現在はMeta)の意向を受けたものだった。アルゴリズムフィードにすることで、Instagramは意欲的に広告を撒き散らすことが可能になり、アプリの原点である時系列の写真シェア空間から遠ざけた。

時は進んで2022年、会社が時系列フィードを再登場させたのはユーザーを喜ばせるためだけではない。もしそうであれば2016年にユーザーの反発が起きた時、すぐに戻していただろう。時系列フィードを復活させたInstagramの決断は、同アプリを使う全員にとっての勝利だが、Metaがアプリをユーザーにとって安全でよりよいものにするための常識的な変更を行うのは、 マスコミの悪評や漠然とした規制による圧力がかかってからであるという悪習の新たな事例となった。

米国の立法者たちは、ソーシャルメディアの危険性に注目し、提案された規制によってプラットフォーム各社はユーザーの選択肢を増やし、アルゴリズムがコンテンツをランクづけする方法の透明性を高めることを強いられている。

Protecting Americans from Dangerous Algorithms Act(危険なアルゴリズムから米国民を守る法令)という法案では、プラットフォームはユーザーがアルゴリズムによる推奨を無効にできるスイッチを追加することが要求されている。

「透明性と説明責任を強化すべきであると私たちは信じ、もっとコントロールできるべきであると信じています」とモセリ氏は2021年12月に行われた彼にとって生涯初の議会公聴会で語った。「来年公開できることを願っている時系列フィードの開発に現在取り組んでいるのはそのためです」。

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画像クレジット:LIONEL BONAVENTURE / Contributor / Getty Images

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Nob Takahashi / facebook

米FTCが大手テックのアルゴリズムによる差別と商業的監視に対する規則を検討中

連邦取引委員会(FTC)が、ユーザーを侵害的に追跡したり他の者にそれをさせているデジタルプラットフォームを対象とする規則の検討に備えているようだ。「Trade Regulation Rule on Commercial Surveillance(商業的監視行為に対する規制規則)」は、まだ極めて初期的段階だが、FTCの新委員長Lina Khan(リナ・カーン)氏による最初の大手テクノロジー企業に対する大型規制になるかもしれない。

現在のところ、大統領府総務部の予算概要書に載っているだけだが、FTCが今後の規制の可能性について情報を伝えたことを意味している。リストによると、規則は「粗略なセキュリティ慣行を阻止し、プライバシーの濫用を制限し、アルゴリズムによる意思決定が不法な差別に結果しないようにする」とある。規則の一般公開された草案はまだないし、まだ構想段階の可能性もある。

FTCの広報担当者は「FTCには、その権能のすべてを駆使して有害な商業的監視行為と戦い、米国人のプライバシーを保護する用意がある」というコメントをくれたが、それ以上の話はない。

Brian Schatz(ブライアン・シャーツ)上院議員はこの文書への関心を示し、これに(尚早ながら)取り組んだ機関を褒め称えた。「カーン委員長とその機関が一歩を踏み出し、差別的なアルゴリズムを使っている企業を取り締まろうとしていることは喜ばしい。それは、私たちが絶対に取り組まなければならない課題だ」とシャーツ氏はいう。

本規則の策定はFTC基本法18条の「非公正または欺瞞的な行為や慣行の規制」に準じるものになるだろう。それは、FTCがいろいろな要件や禁忌を定めようとするときの、権限の拠り所となる条文だ。

規則は、ソーシャルメディア企業やインターネットプロバイダーといったあらゆるものの侵食から消費者を守ろうとするさまざまな試みの中でも、特に廃案になったBroadband Privacy Act(ブロードバンドプライバシー法)の系統になるのだろう。

もちろんFTCが規則を無から発明することは不可能であり、いくら規則を作っても、産業の新旧交替や現業界の変化によって、正しい理由で作られた規則が迂回されることも多い。

例えばヨーグルトのラベルに無脂肪とあるのに検査で脂肪が見つかったら、それは当然、虚偽の表示だ。しかし、ソーシャルメディア企業が例によって「あなたのデータはあなたに所有権があります」などといっても、それをダウンロードできなかったり、売ることも、プラットフォームから完全に削除することもできなかったら、それは虚偽の表示だろうか?FTCが規則とガイダンスを改訂して、そういう行為を含めないかぎり、虚偽にはならないだろう。

また「不法な差別」は、アルゴリズムに不正な構成のデータが供給されたことによって、宗教や人種や医療の状態などの保護を要する状況に基づいて、人びとの特定の集団が厚遇されたり非遇されたりする場合にも起きうる。現時点では、人を審査するアルゴリズムに公式の要件はほとんどないのに、データやそのソースは企業秘密であったり、公表や問い合わせから遮蔽されていることも少なくない。FTCの規則はこれを、任意ではなく要件にできるだろう。

そのような取り組みを議会や大統領府などが支えることもあり、カーン氏は、テクノロジー大手に介入する暗黙の権威をホワイトハウスから認められている。大統領府の法務アドバイザーに過ぎなかった彼女が急に国の行政機関のトップになったのも、このような規則制定に対する暗黙の支持があったからだ。

ただし現時点では、FTCのまばたきのようなサインにすぎないが、予算概要書に載っているため2022年に優先扱いになる可能性はある。中間選挙なので、現政権はその力を誇示しなければならない。ただしテクノロジー大手に対する攻撃は現存する数少ない超党派努力の1つであるため、かなりの数の政治プラットフォームがこの話題を取り上げるだろう。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Instagramトップ、2022年初めに時系列順のフィードオプションを復活させ提供と発言

Instagram(インスタグラム)が時系列順のフィードを復活させる。これは、同アプリを使用している若者への害について開催される上院パネルの前に、InstagramトップのAdam Mosseri(アダム・モセリ)氏が行った証言の中で明らかになった。消費者が「アルゴリズムに操作される」ことなくInstagramアプリを使用できるべきだと考えるかと質問されたモセリ氏は、ユーザーに対して時系列順フィードのオプションを提供することを支持すると語った。そして実際、同社は現在そのオプションを開発している最中だと付け加えた。

「透明性を高めることや説明責任を増やせることが良いことだと信じていますし、より細かいコントロールができることも良いことだと信じています。それが、2022年に提供する予定の時系列順フィードのバージョンに取り組んでいる理由なのです」とモセリ氏はいう。

この面での同社の計画の詳細を求められたモセリ氏は、Instagramがこの数年間、ユーザーが自分の体験をより細かく制御できるようにするためのさまざまな方法を試してきたと答えた。同社が公にテストしたアイデアの1つは「Favorits(お気に入り)」というもので、これはユーザーが自分のフィードのトップに表示したいアカウントを選択できるようにするものだ。モセリ氏によると、同社が取り組んできたもう1つのアイデアが、Instagramの時系列順バージョンだ。

この時系列順のオプションがいつ一般に公開されるかについてモセリ氏は「今すぐ具体的な提供月をお伝えできれば良いのですが、現時点での目標は来年の第1四半期です」と述べた。

2016年にInstagramが、アルゴリズムによるフィードに切り替えた決定は、物議を醸すこととになった。フィルタリングされたフィードそのものは、エンゲージメントメトリックを改善することから、当時のソーシャルメディア全体で標準になりつつあったが、多くのユーザーはその変更に不満を持っていた。Instagramは、新しいフィードがリリースされてから数年にわたり続いたユーザーの反発によって、アルゴリズムフィードに最近の投稿も追加することに同意さえするようになった。

2020年には、同社が「Latest Posts(最新の投稿)」機能の内部プロトタイプを構築していることが発見された。これにより、ユーザーはアプリの特別なセクションを通して最近の投稿を見ることができたが、それはFacebookが現在ニュースフィードのオプションとして提供しているもののような、完全な時系列順フィードへの回帰ではなかった。またこの機能は、Instagramのグローバルユーザーベースに公開されることもなかった。

現在モセリ氏は、ユーザーが本当に時系列順フィードオプションをもう一度手に入れることができることを約束している。しかし、ユーザーをアプリに引き付け続けるという点でアルゴリズムフィードがもたらす利点を考えると、Instagramがこれをデフォルト設定またはわかりやすい選択肢とする可能性はほとんどないだろう。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Sarah Perez、翻訳:sako)

ZOZO研究所のマーケティング施策論文がAI分野の国際会議NeurIPS 2021で採択、 ZOZOTOWN実データとソフト実装公開

ZOZO研究所のマーケティング施策論文がAI分野の国際会議「NeurIPS 2021」で採択、 ZOZOTOWN実データとソフト実装公開

ZOZOグループの新規事業開発などを行うZOZO NEXTは12月2日、同社の研究機関ZOZO研究所の所員らが執筆したマーケティング施策に関する論文が、機械学習分野の国際会議「NeurIPS 2021」(12月6日から14日にかけてオンライン開催)の投稿論文を扱う一部門「Datasets and Benchmarks Track」で採択されたことを発表した。タイトルは「再現可能かつ実データに基づいたオフ方策評価に向けた大規模データセットとソフトウェアの構築」。NeurIPSは、ICML、ICLRなどと並ぶ、機械学習の分野で権威あるトップカンファレンスの1つ。

この論文は、ZOZO研究所研究員の松谷恵氏、コーネル大学に在学する齋藤優太氏、粟飯原俊介氏、イェール大学助教授の成田悠輔氏の共著。研究所では、深層学習などのAI技術を研究しているが、その一環として、ZOZOTOWNにおけるマーケティング施策の意志決定に活用するアルゴリズムの評価と検証を効果的・効率的に行うための研究に着手し、その手法の提案に至った。

これまでは、新しく開発した意志決定アルゴリズムを評価するには、実際のサービス環境に実装し、ユーザーの反応を見ることが必要だった。しかしそれには、膨大な実装コストが必要なことに加えて、動作実績のある既存アルゴリズムとの入れ替えなどによりユーザー体験が悪化するという課題がある。

これに対して、実サービス環境に実装しない形でアルゴリズムの性能を予測できる手法として、蓄積されたデータセットを利用する「オフ方策評価」が研究されてきたが、実用性の高いオープンなデータセットが存在していないために、研究は進んでいなかった。

そこで同研究所は、ZOZOTOWNで実際の推薦アルゴリズムで取得された2600万件の推薦データからなる大規模実データ「Open Bandit Dataset」と、その実装基盤となる独自開発のソフトウェア「Open Bandit Pipeline」を、論文発表にともないオープンソースとして公開することにした。これらを使うことで、他の研究機関でもオフ方策評価や意志決定アルゴリズムの性能評価が行えるようになる。

論文で提案された手法は、ZOZOTOWNのマーケティング施策にも実際に導入され、クリック率や購買率の向上に貢献しているとのことだ。

超党派グループがソーシャルメディアの推奨アルゴリズムを制限する法案を提出

下院の超党派グループが、ユーザーのオンライン体験を方向づけるアルゴリズムの使用について、ユーザーがもっと制御できるようにする法案を提出した。このフィルター・バブル透明性法案が通過すれば、Meta(メタ)などの会社は、 “input-transparent”(入力透明性)アルゴリズムと呼ばれる推奨にユーザー・データを使用しないバージョンのプラットフォームを提供しなければならなくなる。

同法案は、「不透明」な推奨アルゴリズムを禁止するものではないが、ユーザーがその機能をオフにできるスイッチをつけることを要求している。さらに、推奨アルゴリズムを使い続けるプラットフォームは、その推奨がユーザーの個人データから生まれた推論に基づいていることを告知しなければならない。告知は一回限りでよいが、「明快で目に付きやすい方法」で伝える必要がある、と提案に書かれている。

法案を提起したのは、下院議員のKen Buck(ケン・バック)氏(共和党・コロラド州)、David Cicilline(デビッド・シシリン)氏(民主党・ロードアイランド州)、Lori Trahan(ロリ・トラハン)氏(民主党・マサチューセッツ州)、およびBurgess Owens(バーゲス・オーエンス)氏(共和党・ユタ州)の4名だ。これは、上院議員のJohn Thune(ジョン・スーン)氏(共和党・サウスダコタ州)とRichard Blumenthal(リチャード・ブルメンタル)氏(民主党・コネチカット州)が今年6月に提出した法案のコンパニオン法案だ。「消費者は、ユーザー固有データに基づく秘密アルゴリズムによって操作されることなくインターネット・プラットフォームを利用できる選択肢を持つべきです」と、本法案を最初に報じたニュース機関、Axios(アクシオス)にバック氏は語った。

議員らは、ソーシャルメディアの巨人たちがユーザーの取り込みを強化するために推奨アルゴリズムを使っていることを頻繁に批判してきたが、これまでにアルゴリズムの使用を抑制する法的措置はほとんど取られていなかった。1月6日の米国議会議事堂襲撃事件を受け、民主党議員30名以上からなるグループが、Meta(メタ/当時の名称はFacebook[フェイスブック])、Twitter(ツイッター)、およびYouTube(ユーチューブ)に対し、推奨エンジンに本質的変更を加えるよう要求したが、結局は脅威となるような規制措置には至らなかった。今回のフィルター・バブル透明性法案は、下院、上院の超党派支持を得ているものの、成立するかどうかは不明だ。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Igor Bonifacic(イゴール・ボニファシック)氏はEngadgetの編集協力者。

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画像クレジット:POOL New / reuters / Getty Images

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(文:Igor Bonifacic、翻訳:Nob Takahashi / facebook

Facebookアプリの元責任者が内部告発者の議会証言に対して同社を擁護

米国時間10月19日の午後、WSJ Tech Liveイベントで、元FacebookアプリのトップでCEOのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏の直属だったFidji Simo(フィジー・シモ)氏が、自分が以前在籍していたソーシャルネットワークを擁護した。Instacartの新CEOになった同氏は、イベントでフードデリバリーの未来について述べたが、質問では、最近のFacebookの内部告発者の議会での証言と、それが喚起した社会的関心についても尋ねられた。

関連記事:グローサリー配達のInstacartが新CEOにフェイスブック幹部のシモ氏を指名

シモ氏によると、Facebookが多くの人の生活に与える影響を考えるとセキュリティは重要だが、Facebookが批判を鎮めるために十分なことをやっていないのが心配だ、という。Facebookは世界最大のソーシャルネットワークとして複雑な問題に取り組んでいるにもかかわらず、まだ十分でない、と。

シモ氏は自分が最近離れたFacebookを擁護し「Facebookは、ユーザーの安全のために大金を投じている。また自らの社会的影響についても、業界屈指の詳細な調査研究を行っています。心配なのは、多くの人が『イエス』か『ノー』かの答えを求めることです。実際のところ、この問題は多くのニュアンスを含んでいます」と述べている

内部告発者のFrances Haugen(フランセス・ハウゲン)氏によると、ユーザーのエンゲージメントを優先するFacebookのアルゴリズムにより、人間よりも利益が重視されているという。シモ氏が警告するのは、問題がこれまで説明されてきたようにAかBか、人間か利益かといった、単純な二分法ではないということだ。シモ氏の説明によると、Facebookが行ってきた調査研究に基づいて成し遂げるべき変化は、何かのダイヤルを回して、突然、魔法のように問題が消滅するものではない。なぜならFacebookは基本的に、人間性の反映そのものであるからだ。

画像クレジット:Instacart

シモ氏によると、むしろFacebookの本当の問題は、Facebookが何かを変えるたびに、社会に重要な影響が及ぶことと、その在り方だ。そのためFacebookはついでに何かが起こってしまったではなく、Facebookの事業で問題が起こりそうな部分を判断し、そこをを事前に改善することが重要だ。

「トレードオフがあるときは、それは通常、2種類の社会的インパクト間のトレードオフだ」とシモ氏はいう。

彼女が挙げるかなり単純な調整の例は、ユーザーを怒らせるような投稿を事前に判断して、その種の投稿をあまり見せないようにすることだ。

ハウゲン氏が上院で証言したのは、Facebookのアルゴリズムがエンゲージメントを奨励するようになっていることだ。「いいね!」などのインタラクティブなアクションの多い投稿はより広く拡散され、ユーザーのニュースフィードで上位に表示される。しかしハウゲン氏によると、エンゲージメントが「いいね!」やポジティブなリアクションだけでなく、クリックベイトや人を怒らせるような投稿でも起こるため、アルゴリズムはそれらも優先してしまう。その結果、虚偽情報や悪質で暴力的なコンテンツなど、激しいリアクションを喚起するポストが広まる。

しかしながら、Facebook上の怒りはダイヤルを回して音量を下げるように簡単に減らすことはできない。もしそんなことをしたら、別のタイプの社会的インパクトが生じるだろうとシモ氏はいう

シモ氏によれば、そもそも大きな社会運動は怒りがつくり出すため、企業は多くの人の行動を左右するようなインパクトをどうやって変えるのか、という問題を抱えてしまう。

(しかしWSJの記事によると、そのような状況ではなかった。むしろアルゴリズムの加工によって個人の感情的なポストがプロたちの知的なコンテンツより優先されるようになると、発行者や政党などは怒りやセンセーショナリズムに迎合するポストを発表するようになる。記事によると、この問題を修復せよという提案に対しザッカーバーグしは抵抗している)

シモ氏によると「怒り」の問題はほんの一例にすぎない。「実際には、どんな問題でも常に別のタイプの社会的インパクトとのトレードオフになります。そんな状況に、長くいたためわかりますが、それは『社会にとって良いこと』vs.『Facebookにとって良くて利益になること』という単純な問題ではありません。実際の議論は常に、異なる種類の社会的インパクト同士の間にあります。それは私企業にとって非常に扱いづらい議論です」。

「だからFacebookは公的規制を求めているのだ」とハウゲン氏はいう。

「この部分でFacebookが長年規制を求めてきたのも意外ではない。立場を異にする複数の社会的インパクトがあるとき、私企業はどちらか一方の主張を味方することはできない。行司役を担うのは、政府がふさわしい」とシモ氏はいう。

最近増えているエビデンスによれば、Facebookの事業が社会に負の影響を与えていることはFacebook自身も社内調査などで理解している。そんな中でシモ氏は、Facebookを辞めたことを、Facebook内で起きていることが理由だとはしなかった。

むしろシモ氏は「Facebookにいた10年はあまり勉強しませんでした。Instacartへの移籍は、Facebook以外のいろいろなことを学べる良いチャンスだからです」という。

画像クレジット:Porzycki/NurPhoto/Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Facebookアプリの元責任者が内部告発者の議会証言に対して同社を擁護

米国時間10月19日の午後、WSJ Tech Liveイベントで、元FacebookアプリのトップでCEOのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏の直属だったFidji Simo(フィジー・シモ)氏が、自分が以前在籍していたソーシャルネットワークを擁護した。Instacartの新CEOになった同氏は、イベントでフードデリバリーの未来について述べたが、質問では、最近のFacebookの内部告発者の議会での証言と、それが喚起した社会的関心についても尋ねられた。

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シモ氏によると、Facebookが多くの人の生活に与える影響を考えるとセキュリティは重要だが、Facebookが批判を鎮めるために十分なことをやっていないのが心配だ、という。Facebookは世界最大のソーシャルネットワークとして複雑な問題に取り組んでいるにもかかわらず、まだ十分でない、と。

シモ氏は自分が最近離れたFacebookを擁護し「Facebookは、ユーザーの安全のために大金を投じている。また自らの社会的影響についても、業界屈指の詳細な調査研究を行っています。心配なのは、多くの人が『イエス』か『ノー』かの答えを求めることです。実際のところ、この問題は多くのニュアンスを含んでいます」と述べている

内部告発者のFrances Haugen(フランセス・ハウゲン)氏によると、ユーザーのエンゲージメントを優先するFacebookのアルゴリズムにより、人間よりも利益が重視されているという。シモ氏が警告するのは、問題がこれまで説明されてきたようにAかBか、人間か利益かといった、単純な二分法ではないということだ。シモ氏の説明によると、Facebookが行ってきた調査研究に基づいて成し遂げるべき変化は、何かのダイヤルを回して、突然、魔法のように問題が消滅するものではない。なぜならFacebookは基本的に、人間性の反映そのものであるからだ。

画像クレジット:Instacart

シモ氏によると、むしろFacebookの本当の問題は、Facebookが何かを変えるたびに、社会に重要な影響が及ぶことと、その在り方だ。そのためFacebookはついでに何かが起こってしまったではなく、Facebookの事業で問題が起こりそうな部分を判断し、そこをを事前に改善することが重要だ。

「トレードオフがあるときは、それは通常、2種類の社会的インパクト間のトレードオフだ」とシモ氏はいう。

彼女が挙げるかなり単純な調整の例は、ユーザーを怒らせるような投稿を事前に判断して、その種の投稿をあまり見せないようにすることだ。

ハウゲン氏が上院で証言したのは、Facebookのアルゴリズムがエンゲージメントを奨励するようになっていることだ。「いいね!」などのインタラクティブなアクションの多い投稿はより広く拡散され、ユーザーのニュースフィードで上位に表示される。しかしハウゲン氏によると、エンゲージメントが「いいね!」やポジティブなリアクションだけでなく、クリックベイトや人を怒らせるような投稿でも起こるため、アルゴリズムはそれらも優先してしまう。その結果、虚偽情報や悪質で暴力的なコンテンツなど、激しいリアクションを喚起するポストが広まる。

しかしながら、Facebook上の怒りはダイヤルを回して音量を下げるように簡単に減らすことはできない。もしそんなことをしたら、別のタイプの社会的インパクトが生じるだろうとシモ氏はいう

シモ氏によれば、そもそも大きな社会運動は怒りがつくり出すため、企業は多くの人の行動を左右するようなインパクトをどうやって変えるのか、という問題を抱えてしまう。

(しかしWSJの記事によると、そのような状況ではなかった。むしろアルゴリズムの加工によって個人の感情的なポストがプロたちの知的なコンテンツより優先されるようになると、発行者や政党などは怒りやセンセーショナリズムに迎合するポストを発表するようになる。記事によると、この問題を修復せよという提案に対しザッカーバーグしは抵抗している)

シモ氏によると「怒り」の問題はほんの一例にすぎない。「実際には、どんな問題でも常に別のタイプの社会的インパクトとのトレードオフになります。そんな状況に、長くいたためわかりますが、それは『社会にとって良いこと』vs.『Facebookにとって良くて利益になること』という単純な問題ではありません。実際の議論は常に、異なる種類の社会的インパクト同士の間にあります。それは私企業にとって非常に扱いづらい議論です」。

「だからFacebookは公的規制を求めているのだ」とハウゲン氏はいう。

「この部分でFacebookが長年規制を求めてきたのも意外ではない。立場を異にする複数の社会的インパクトがあるとき、私企業はどちらか一方の主張を味方することはできない。行司役を担うのは、政府がふさわしい」とシモ氏はいう。

最近増えているエビデンスによれば、Facebookの事業が社会に負の影響を与えていることはFacebook自身も社内調査などで理解している。そんな中でシモ氏は、Facebookを辞めたことを、Facebook内で起きていることが理由だとはしなかった。

むしろシモ氏は「Facebookにいた10年はあまり勉強しませんでした。Instacartへの移籍は、Facebook以外のいろいろなことを学べる良いチャンスだからです」という。

画像クレジット:Porzycki/NurPhoto/Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Facebookアプリの元責任者が内部告発者の議会証言に対して同社を擁護

米国時間10月19日の午後、WSJ Tech Liveイベントで、元FacebookアプリのトップでCEOのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏の直属だったFidji Simo(フィジー・シモ)氏が、自分が以前在籍していたソーシャルネットワークを擁護した。Instacartの新CEOになった同氏は、イベントでフードデリバリーの未来について述べたが、質問では、最近のFacebookの内部告発者の議会での証言と、それが喚起した社会的関心についても尋ねられた。

関連記事:グローサリー配達のInstacartが新CEOにフェイスブック幹部のシモ氏を指名

シモ氏によると、Facebookが多くの人の生活に与える影響を考えるとセキュリティは重要だが、Facebookが批判を鎮めるために十分なことをやっていないのが心配だ、という。Facebookは世界最大のソーシャルネットワークとして複雑な問題に取り組んでいるにもかかわらず、まだ十分でない、と。

シモ氏は自分が最近離れたFacebookを擁護し「Facebookは、ユーザーの安全のために大金を投じている。また自らの社会的影響についても、業界屈指の詳細な調査研究を行っています。心配なのは、多くの人が『イエス』か『ノー』かの答えを求めることです。実際のところ、この問題は多くのニュアンスを含んでいます」と述べている

内部告発者のFrances Haugen(フランセス・ハウゲン)氏によると、ユーザーのエンゲージメントを優先するFacebookのアルゴリズムにより、人間よりも利益が重視されているという。シモ氏が警告するのは、問題がこれまで説明されてきたようにAかBか、人間か利益かといった、単純な二分法ではないということだ。シモ氏の説明によると、Facebookが行ってきた調査研究に基づいて成し遂げるべき変化は、何かのダイヤルを回して、突然、魔法のように問題が消滅するものではない。なぜならFacebookは基本的に、人間性の反映そのものであるからだ。

画像クレジット:Instacart

シモ氏によると、むしろFacebookの本当の問題は、Facebookが何かを変えるたびに、社会に重要な影響が及ぶことと、その在り方だ。そのためFacebookはついでに何かが起こってしまったではなく、Facebookの事業で問題が起こりそうな部分を判断し、そこをを事前に改善することが重要だ。

「トレードオフがあるときは、それは通常、2種類の社会的インパクト間のトレードオフだ」とシモ氏はいう。

彼女が挙げるかなり単純な調整の例は、ユーザーを怒らせるような投稿を事前に判断して、その種の投稿をあまり見せないようにすることだ。

ハウゲン氏が上院で証言したのは、Facebookのアルゴリズムがエンゲージメントを奨励するようになっていることだ。「いいね!」などのインタラクティブなアクションの多い投稿はより広く拡散され、ユーザーのニュースフィードで上位に表示される。しかしハウゲン氏によると、エンゲージメントが「いいね!」やポジティブなリアクションだけでなく、クリックベイトや人を怒らせるような投稿でも起こるため、アルゴリズムはそれらも優先してしまう。その結果、虚偽情報や悪質で暴力的なコンテンツなど、激しいリアクションを喚起するポストが広まる。

しかしながら、Facebook上の怒りはダイヤルを回して音量を下げるように簡単に減らすことはできない。もしそんなことをしたら、別のタイプの社会的インパクトが生じるだろうとシモ氏はいう

シモ氏によれば、そもそも大きな社会運動は怒りがつくり出すため、企業は多くの人の行動を左右するようなインパクトをどうやって変えるのか、という問題を抱えてしまう。

(しかしWSJの記事によると、そのような状況ではなかった。むしろアルゴリズムの加工によって個人の感情的なポストがプロたちの知的なコンテンツより優先されるようになると、発行者や政党などは怒りやセンセーショナリズムに迎合するポストを発表するようになる。記事によると、この問題を修復せよという提案に対しザッカーバーグしは抵抗している)

シモ氏によると「怒り」の問題はほんの一例にすぎない。「実際には、どんな問題でも常に別のタイプの社会的インパクトとのトレードオフになります。そんな状況に、長くいたためわかりますが、それは『社会にとって良いこと』vs.『Facebookにとって良くて利益になること』という単純な問題ではありません。実際の議論は常に、異なる種類の社会的インパクト同士の間にあります。それは私企業にとって非常に扱いづらい議論です」。

「だからFacebookは公的規制を求めているのだ」とハウゲン氏はいう。

「この部分でFacebookが長年規制を求めてきたのも意外ではない。立場を異にする複数の社会的インパクトがあるとき、私企業はどちらか一方の主張を味方することはできない。行司役を担うのは、政府がふさわしい」とシモ氏はいう。

最近増えているエビデンスによれば、Facebookの事業が社会に負の影響を与えていることはFacebook自身も社内調査などで理解している。そんな中でシモ氏は、Facebookを辞めたことを、Facebook内で起きていることが理由だとはしなかった。

むしろシモ氏は「Facebookにいた10年はあまり勉強しませんでした。Instacartへの移籍は、Facebook以外のいろいろなことを学べる良いチャンスだからです」という。

画像クレジット:Porzycki/NurPhoto/Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Hiroshi Iwatani)

現場に「使える」AI・アルゴリズムを提供するALGO ARTISがシリーズAエクステンション完了、合計調達額5.28億円に

現場に「使える」AI・アルゴリズムを提供するALGO ARTISがシリーズAエクステンション完了、合計調達額5.28億円に

AI(アルゴリズム)のコンサルティングおよびソリューションを提供するALGO ARTISは9月30日、2021年7月に続くシリーズAエクステンションラウンドにおいて、第三者割当増資による資金調達を2021年9月に完了したと発表した。新たな引受先は、東京大学エッジキャピタルパートナーズをリードインベスター、K4 Ventures、みやこキャピタル。シリーズAラウンドにおける合計調達額は5億2800万円となった。調達した資金は、エンジニアといった人材の獲得費用にあて、プロダクト開発を促進し主要事業の成長をさらに加速させる。

ALGO ARTISは「社会基盤の最適化」というミッションを掲げ、コンサルティング・デザイン・システムの力を活用して優れた最適化AI(アルゴリズム)を現場に導入し、継続的に価値を提供することを目指す事業を展開している。

プラントやロジスティクスのスケジュール管理をはじめとする幅広い社会基盤の管理業務を対象としており、現場で継続的に利用されるよう、入念なヒアリングとコンサルティングを経てアルゴリズム・デザイン・機能を設計・実装している。また、実装の過程ではプロトタイプを提供し実際に利用してもらうことで、机上では把握できない課題を抽出し、改善を繰り返すことでスムーズな現場への導入を実現しているとのこと。

現場に「使える」AI・アルゴリズムを提供するALGO ARTISが4.28億円のシリーズA調達

コンサルティング・デザイン・システムの力で現場に「使える」AI・アルゴリズムを提供するALGO ARTISが4.28億円調達

AI(アルゴリズム)のコンサルティングおよびソリューションを提供するALGO ARTISは9月15日、シリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による総額4億2800万円の資金調達を2021年7月に完了したと発表した。引受先は、リードインベスターの東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、ディー・エヌ・エー(DeNA)。また、2021年9月にシリーズ A ラウンドのエクステンションラウンドを実施予定としている。

調達した資金は、エンジニアなどの人材の獲得費用にあてプロダクト開発を促進し、主要事業の成長をより一層加速する。

ALGO ARTISは「社会基盤の最適化」というミッションの下、現場に「使える」AI(アルゴリズム)を提供するために、コンサルティング・デザイン・システムの力を駆使して優れた最適化AI(アルゴリズム)を開発し、継続的に価値を提供することを目指し事業を展開している。

プラントやロジスティクスのスケジュール管理をはじめ幅広い社会基盤の管理業務を対象とし、現場で継続的に利用されるために、入念なヒアリングとコンサルティングを経てアルゴリズム・デザイン・機能を設計・実装。また、実装の過程ではプロトタイプを提供し、実際に利用してもらうことで、机上では把握できない課題を抽出し、改善を繰り返すことでスムーズな現場導入を実現しているという。

ALGO ARTISの前身事業は、DeNAにおいて本格的にAIを活用した事業が2016年から検討開始され、複数の新規事業を手がける中で生まれたという。2019年にはDeNA内でエネルギー事業推進室が立ち上がり、インフラ系企業と、最適化に関する複数のプロジェクトを推進してきた。

2021年7月に、より積極的かつ継続的な投資による事業の成長を実現させるために、DeNAの後押しもあり現代表の永田健太郎氏が中心となる形で外部より資金調達を行い、同事業をスピンオフ。ALGO ARTISを設立した。現在は、DeNAの持分法適用会社として引き続き連携を取りながら、AI(アルゴリズム)を活用した最適化ソリューションの提供事業を展開している。

N予備校が量子計算入門を9月15日19時開講、高校生以上からすべての者が量子コンピューターのアルゴリズムを無料で学べる

N予備校が「量子計算入門」を9月15日19時開講、高校生以上からすべての者が量子コンピューターのアルゴリズムを無料で学べる

ドワンゴは9月8日、教材・生授業・Q&Aをスマートフォンに最適化したオールインワン学習アプリ「N予備校」(Android版iOS版)において、「量子計算入門」を2021年9月15日に開講すると発表した。料金は無料。講師は、社会人のための数学教室「すうがくぶんか」の内場崇之氏。また監修を電気通信大学教授の西野哲朗氏が行っている。

受講の際は、N予備校にログイン後、ホームのサイドメニューの課外授業欄から
「数理科学」→「量子計算入門」→「量子計算入門」の順に選択する。

「量子計算入門」の特徴

  • 数学的側面を重視:量子コンピューターに関心があるものの、数学的な部分にハードルを感じて取り組めなかった人のために、生放送での授業や補講を通じ、数学的側面について、必要な部分を基礎的なところから丁寧に解説する。難しいものは具体的な例を挙げることで親しみを持てるようにするなど、数学に苦手意識がある人にも取り組めるような構成を採用
  • トピックを基本的な部分に限定:量子コンピューターについては多くの話題がある中で、代表的な話題に絞って基本的なトピックを解説
  • 電気通信大学の西野哲朗先生が監修:日本における量子コンピューター研究の先駆者の1人である西野哲朗教授が監修。また、生放送授業の初回と最終回には、特別ゲストとして登壇する

「量子計算入門」の授業スケジュール(授業は各回とも19時開始)

  • 初回特別講義(9月15日)
  • :「量子計算入門」ガイダンス(特別ゲスト:西野哲朗先生)
  • 第1講(9月22日): 量子ビットとは?
  • 第2講(9月29日):量子ゲートとは?その1
  • 第3講(10月6日):量子ゲートとは?その2
  • 第4講(10月13日):量子回路で足し算しよう
  • 第5講(10月20日):量子計算のテクニック(量子フーリエ変換)
  • 第6講(10月27日):15を素因数分解してみよう!その1
  • 第7講(11月10日):15を素因数分解してみよう!その2
  • 第8講(11月17日):量子機械学習に親しみを持とう
  • 第9講(11月24日):量子アニーリングとは?
  • 第10講(12月1日):量子アニーリングを使って最適化をしてみよう!
  • 最終回特別講義(12月8日):今後の展開について(特別ゲスト:西野哲朗先生)

従来のコンピューターでは計算量が多く解くことが難しかった問題を、短時間で解けるようになる可能性を秘めた次世代コンピュータとして、量子コンピュータの開発が世界各国で進んでいる。

量子コンピューターは、その計算原理に「量子力学」で扱われる微小な領域での物理現象を利用しており、現在のコンピューターの情報の最小単位である「ビット」とは異なる「量子ビット」と呼ばれる新しい情報単位を使って計算している。

2019年のGoogleの研究チームによる実証実験では、53量子ビットの量子コンピューターが用いられ、現在も実用化に向けたさまざまな取り組みが多くの企業や研究機関によって進行している。今回の「量子計算入門」では、このような量子コンピューターが実行するアルゴリズムの入門的な部分を、高校生でも取り組めるような形で提供する。

N予備校は、ドワンゴが独自開発した、授業、教材(問題集・参考書)、Q&Aシステムが1つになった学習アプリ。学費(料金)は、クレジットカード・キャリア決済の場合月額1100円(税込)。

インターネットを活用することで、いつでもどこでも学習を進めることが可能。ライブ配信の生授業では、コメント機能を使って挙手や質問が行えるなど双方向の参加型授業を受けることができる。またアーカイブされた映像授業では、ノートを取る時に一時停止したり、わからなかった所は何度も見返すことができたりと、自分のペースで学べるとしている。また大学受験の授業では、実力派予備校講師陣、プログラミングでは、現役エンジニアが講師を務めるという。

【インタビュー】デロイトトーマツのテクニカル・ディレクターが語る「データは客観的」の嘘

DXを語る上で無視できないデータ活用。業界を超えて先進企業が取り組んでいるが、Deloitte Tohmatsu(デロイト トーマツ)でテクニカル・ディレクターを務めるIvana Bartoletti(イヴァナ・バートレッティ)氏は「盲目的なデータ活用は課題解決につながりません」と警鐘を鳴らす。データはどう使われるべきなのか。現在のデータ活用方法にどのような問題があるのか。同氏が詳しく語った。

本記事はB’AIグローバル・フォーラム主催「Power, Politics, & AI:Building a Better Future
の講演をもとに編集・再構成したものである。

「データは客観的」なのか?

近年、DXの必要性が叫ばれ、データとAIの活用を進めようとする機運が高まるばかりだ。AIの機械学習により病気の症状が表出する以前に病気を発見するなど、前向きなデータ活用が拡大している。しかしバートレッティ氏は危機感を覚える。

「多くの人が『データは客観的なものだ』と思っています。だからこそ、意思決定や法整備にデータを活用すべきだという声が上がります。しかし、それではうまくいかないのです」と同氏は話す。

データを読み込んだAIが意思決定に活用されることで、結果として差別が再生産されることがあるからだ。

例えば、銀行などの金融機関が既存のデータをAIに学習させ、顧客の信用を予測させるとしよう。すると、男性の方が女性よりも高い信用があると結論され、その金融機関は男性に有利な方針を採用することがあり得る。なぜなら、これまでビジネス活動の重要ポジションの多くは男性により占有され、それにより女性の収入は男性の収入よりも一般的に少なかったからだ。同様の問題は人種の異なる者の間でも起きるだろう。

バートレッティ氏は「データの問題は、実は政治的な問題なのです」と指摘する。

差別をするのはアルゴリズムか、人間か

こうした議論を聞くと「差別的な結果が出てしまうのはアルゴリズムの問題だから、アルゴリズムを改善すれば良い」と考える人もいるかもしれない。

しかし、バートレッティ氏は「アルゴリズムは差別をしません。差別をもたらすのはシステムを作る人間です」と断言する。

ここで同氏は1つの例を挙げた。大きな都市の中心に1つの会社がある。この会社のCEOが自分の側近を社員の中から選ぼうと考えた。CEOはソフトウェアを使って自分の条件に合う社員を検索した。CEOは自分が午前7時に出勤するので、同じ時間に出勤する社員に絞り込んだ。

これだけでは「午前7時に出勤する社員」というのが検索の条件であるように見える。しかし、実際にはそうではない。

「朝早くに都市の中心の会社に出社できるのはどんな人でしょう?街中にアパートを借りる財力がある若い男性社員でしょうか?あるいは2人の子どもがいる郊外在住の女性社員でしょうか?この場合は若い男性社員でしょう」と同氏はCEOが気づいていない隠れた条件を説明する。その上で「重要なのは、差別やステレオタイプ、バイアスを自動化してしまうシステムに注意を払うことです」と話す。

データで未来は予測できるのか?

「AIは『客観的な』データを摂取することで答えを導き出すと思われています。しかし、客観的なデータ、中立的なデータなどというものは存在しません」とバートレッティ氏はいう。

なぜなら、データというものは「現在」という瞬間の写真でしかないからだ。つまり、データはこれまで積み重ねられてきたあらゆる差別や不平等が「今」どうなっているかということを見せるだけだ。こうした「今」や「今まで」をAIに取り込ませ、未来を予測しようとすれば、今現在起きている問題や差別を自動化し、継続させることしかできない。

「既存のデータで未来を予測することは、今、弱い立場にいる人々を抑圧することにつながります。AIの機械学習は今までのデータをもとにパターンを見つけ出し、方針を決定します。これは未来のあるべき姿を創造することとは異なります」とバートレッティ氏。

同氏はまた「システムは選択されるもので、自然とでき上がるものではありません。先程の金融機関の男女の信用の例で言えば、『データを活用する金融機関が女性に大きな信用を置く』というような状況は自然ともたらされることはないのです」という。

ダイバーシティを取り入れたデータ活用、AI活用に向けて

では、どうすれば前向きに、既存の差別構造を持ち込まずにデータやAIを活用できるのだろうか。

バートレッティ氏は「今、データ活用に関わる決定の場にいる女性の数は多くありません。女性などのマイノリティが意思決定の場にいなければ『これは問題ですよ』という人がいないということです。組織はデータ活用やアルゴリズムに関して公平・公正でなければなりません」と答える。

しかし、これには大きな課題が立ちはだかる。男性が多数派の意思決定の場に女性などのマイノリティを増やすということは、意思決定の場に今いる人々からすれば、自分の特権を手放すことを意味するからだ。既存の意思決定者たちが得るものもなく特権を手放すことは考えにくい。彼らがマイノリティの意思決定の参加を加速させることで得る利益はあるのだろうか。

バートレッティ氏は「彼らには2つの利益があります」という。

1つは自社の評判確保による利益の確保だ。データ活用の場、意思決定の場にマイノリティが参加していなければ、その事実が自社の評判を下げる。評判が下がれば、顧客が自社の商品やサービスを利用しなくなり、経済的な損失になるというのだ。そのため、自身の特権を手放してでも、意思決定の場にマイノリティを呼ぶことで、評判と利益を守る必要がある。

もう1つは人材確保だ。同氏は「IT企業に勤める人々は、テクノロジーを使って社会的に正しいことをしようと思っています。最近では、自社の方針が倫理的でない場合に、デモなどの行動に出る人たちもいます。つまり、優秀な人材に自社に居続けてもらうために、企業は倫理的でなければならないのです」と話す。

IT企業だけではない。例えば建設業界のエンジニア採用にAIを使う場合、これまでのデータをもとに良い人材を探すことになる。エンジニアには男性が多いため、AIは「良い人材=男性」という図式を踏襲してしまう。実際の能力ではなく、性別によって人材が選別されてしまうのだ。意思決定の場に女性が居れば、どのデータをどのように使うのか、良い人材の定義は何かなどを設定し、より適切なデータ活用をできるようになり、より良い人材を確保できる。

最後にバートレッティ氏は「データは万能、テクノロジーは万能と思わないでください。『適切なデータセットとは何か』という問いは政治的なものです。AIを有意義に使うためには、哲学者、歴史家など、多様なバックグラウンドの人材が必要です。『データ活用はすばらしい』かもしれませんが、誰にとって都合が良いのか考えてください。知らないうちに『自分にとって都合が良い』『男性にとって都合が良い』になっているかもしれませんよ」と語った。

【インタビュー】数学者が紐解く偽情報の世界

偽情報に誤報、インフォテイメントにalgowars(アルゴワーズ)。メディアの未来をめぐるここ数十年間の議論に意味があるとすれば、少なくとも言語には刺激的な痕跡を残したということだろう。個人の心理的状態や神経学的な問題から、民主主義社会についてのさまざまな懸念まで、ソーシャルメディアが我々の社会にもたらす影響に関するあらゆる非難と恐怖がここ何年もの間、世間を渦巻いている。最近Joseph Bernstein(ジョセフ・バーンスタイン)氏が語った通り「群衆の知恵」から「偽情報」へのシフトというのは確かに急激なものだったと言えるだろう。

そもそも偽情報とは何なのか。それは存在するのか、存在するとしたらそれはどこにあるのか、どうすればそれが偽情報だとわかるのか。お気に入りのプラットフォームのアルゴリズムが私たちの注意を引きつけようと必死に見せてくる広告に対して我々は警戒すべきなのか?Noah Giansiracusa(ノア・ジアンシラクサ)氏がこのテーマに興味を持ったのは、まさにこのよう入り組んだ数学的および社会科学的な疑問からだった。

ボストンにあるベントレー大学の教授であるジアンシラクサ氏は、代数幾何学などの数学を専門としているが、計算幾何学と最高裁を結びつけるなど、社会的なトピックを数学的なレンズを通して見ることにも興味を持っていた。最近では「How Algorithms Create and Prevent Fake News(アルゴリズムがフェイクニュースを生み、防ぐ仕組み)」という本を出版。著書では今日のメディアをめぐる課題と、テクノロジーがそれらの傾向をどのように悪化させたり改善したりしているかを探求している。

先日筆者はTwitter Spaceでジアンシラクサ氏をお招きしたのだが、何とも儚いTwitterではこのトークを後から簡単に聴くことができないため、読者諸君と後世のためにも会話の中で最も興味深い部分を抜き出してみることにした。

このインタビューはわかりやすくするために編集、短縮されている。

ダニー・クライトン:フェイクニュースを研究し、この本を書こうと思った理由を教えてください。

ノア・ジアンシラクサ:フェイクニュースについては社会学や政治学の分野で非常に興味深い議論がなされています。一方でテック系サイドではMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が「AIがすべての問題を解決してくれる」などと言っています。このギャップを埋めるのは少し難しいのではないかと感じました。

ソーシャルメディア上の誤報について、バイデン大統領が「誤報が人を殺している」と言ったのを耳にしたことがあるでしょう。このように、アルゴリズムの側面を理解するのが難しい政治家たちはこのようなことを話しているのです。一方、コンピューターサイエンスの専門家らは細部にまで精通しています。私は筋金入りのコンピューターサイエンスの専門家ではないので、その中間にいると言えるでしょう。ですから一歩下がって全体像を把握することが私には比較的簡単にできると思っています。

それに何と言っても、物事が混乱していて、数学がそれほどきれいではない社会との相互作用をもっと探究したいと思ったのです。

クライトン:数学のバックグラウンドを持つあなたが、多くの人がさまざまな角度から執筆しているこの難しい分野に足を踏み入れています。この分野では人々は何を正しく理解しているのでしょうか。また、人々が見落としているものとは何でしょうか。

ジアンシラクサ:すばらしいジャーナリズムがたくさんあります。多くのジャーナリストがかなり専門的な内容を扱うことができていることに驚かされました。しかし、おそらく間違っているわけではないのですが、1つだけ気になったことがあります。学術論文が発表されたり、GoogleやFacebookなどのハイテク企業が何かを発表したりするときに、ジャーナリストたちはそれを引用して説明しようとするのですが、実際に本当に見て理解しようとすることを少し恐れているように見えました。その能力がないのではなく、むしろ恐怖を感じているのだと思いました。

私が数学の教師として大いに学んだことですが、人々は間違ったことを言ったり、間違えたりすることをとても恐れています。これは技術的なことを書かなければならないジャーナリストも同じで、間違ったことを言いたくないのです。だからFacebookのプレスリリースを引用したり、専門家の言葉を引用したりする方が簡単なのでしょう。

数学が純粋に楽しく美しい理由の1つは、間違いなどを気にせずアイデアを試してみて、それがどこにつながっていくのかを体験することで、さまざまな相互作用を見ることができるということです。論文を書いたり講演をしたりするときには、詳細をチェックします。しかし数学のほとんどは、アイデアがどのように相互作用するかを見極めながら探求していく、この創造的なプロセスなのです。私は数学者としての訓練を受けてきたので、間違いを犯すことや非常に正確であることを気にかけていると思うかもしれませんが、実はそれはとは逆の効果があるのです。

それから、これらのアルゴリズムの多くは見た目ほど複雑ではありません。私が実際に実行しているわけではありませんし、プログラムを組むのは難しいでしょう。しかし、全体像を見ると最近のアルゴリズムのほとんどはディープラーニングに基づいています。つまりニューラルネットワークがあり、それがどんなアーキテクチャを使っているかは外部の人間として私にはどうでもよく、本当に重要なのは予測因子は何なのかということです。要するにこの機械学習アルゴリズムに与える変数は何か、そして何を出力しようとしているのか?誰にでも理解できることです。

クライトン:アルゴリズムを分析する上での大きな課題の1つは透明性の低さです。問題解決に取り組む学者コミュニティの純粋数学の世界などとは異なり、これらの企業の多くは、データや分析結果を広く社会に提供することについて実際には非常に否定的です。

ジアンシラクサ:外部からでは、推測できることには限界があるように感じます。

YouTubeの推薦アルゴリズムが人々を過激派の陰謀論に送り込むかどうかを学者チームが調べようとしていましたが、これは良い例です。これが非常に難しいのは、推薦アルゴリズムにはディープラーニングが使われており、検索履歴や統計学、視聴した他の動画や視聴時間など、何百もの予測因子に基づいているためです。あなたとあなたの経験に合わせて高度にカスタマイズされているので、私が見つけた研究ではすべてシークレットモードが使用されていました。

検索履歴や情報を一切持たないユーザーが動画にアクセスし、最初におすすめされた動画をクリックし、またその次の動画をクリックする。そのようにしていけばアルゴリズムが人をどこへ連れて行くのかを確認することができるでしょう。しかしこれは履歴のある実際のユーザーとはまったく異なる体験ですし、とても難しいことです。外部からYouTubeのアルゴリズムを探る良い方法は誰も見つけられていないと思います。

正直なところ、私が考える唯一の方法は、大勢のボランティアを募り、その人たちのコンピューターにトラッカーを取り付けて「インターネットを普段通り閲覧して、見ている動画を教えてください」と頼む昔ながらの研究方法です。このように、ほとんどすべてと言っていいほど多くのアルゴリズムが個人のデータに大きく依存しているという事実を乗り越えるというのはとても困難なことです。私たちはまだどのように分析したら良いのか分かっていないのです。

データを持っていないために問題を抱えているのは、私やその他の外部の人間だけではありません。アルゴリズムを構築した企業内の人間も、そのアルゴリズムがどのように機能するのか理論上はわかってはいても、実際にどのように動作するのかまでは知らないのです。まるでフランケンシュタインの怪物のように、作ったはいいがどう動くかわからないわけです。ですから本当の意味でデータを研究するには、そのデータを持っている内部の人間が、時間とリソースを割いて研究するしかないと思います。

クライトン:誤報に対する評価やプラットフォーム上のエンゲージメントの判断には多くの指標が用いられています。あなたの数学的なバックグラウンドからすると、こういった指標は強固なものだと思いますか?

ジアンシラクサ:人々は誤った情報を暴こうとします。しかし、その過程でコメントしたり、リツイートしたり、シェアしたりすることがあり、それもエンゲージメントとしてカウントされます。エンゲージメントの測定では、ポジティブなものをきちんと把握しているのか、それともただすべてのエンゲージメントを見ているのか?すべて1つにまとめられてしまうでしょう。

これは学術研究においても同様です。被引用率は研究がどれだけ成功したものかを示す普遍的な指標です。例えばウェイクフィールドの自閉症とワクチンに関する論文は、まったくインチキなのにも関わらず大量に引用されていました。その多くは本当に正しいと思って引用している人たちですが、その他の多くはこの論文を否定している科学者たちです。しかし引用は引用です。つまり、すべてが成功の指標としてカウントされてしまうのです。

そのためエンゲージメントについても、それと似たようなことが起きているのだと思います。私がコメントに「それ、やばいな」と投稿した場合、アルゴリズムは私がそれを支持しているかどうかをどうやって知ることができるでしょう。AIの言語処理を使って試すこともできるかもしれませんが、そのためには大変な労力が必要です。

クライトン:最後に、GPT-3や合成メディア、フェイクニュースに関する懸念について少しお話したいと思います。AIボットが偽情報でメディアを圧倒するのではないかという懸念がありますが、私たちはどれくらい怖がるべきなのか、または恐れる必要はないのか、あなたの意見を教えてください。

ジアンシラクサ:私の本は体験から生まれたものなので、公平性を保ちながら人々に情報を提供して、彼らが自分で判断できるようにしたいと思いました。そのような議論を省いて、両方の立場の人に話してもらおうと思ったのです。私はニュースフィードのアルゴリズムや認識アルゴリズムは有害なものを増幅させ、社会に悪影響を与えると思います。しかしフェイクニュースを制限するためにアルゴリズムを生産的にうまく使っているすばらしい進歩もたくさんあります。

AIがすべてを解決し、真実を伝えて確認し、誤った情報を検出してそれを取り消すことができるアルゴリズムを手に入れることができるというテクノユートピア主義の人々がいます。わずかな進歩はありますが、そんなものは実現しないでしょうし、完全に成功することもありません。常に人間に頼る必要があるのです。一方で、もう1つの問題は不合理な恐怖心です。アルゴリズムが非常に強力で人間を滅ぼすという、誇張されたAIのディストピアがあります。

2018年にディープフェイクがニュースになり、GPT-3が数年前にリリースされた際「やばい、これではフェイクニュースの問題が深刻化して、何が真実かを理解するのがずっと難しくなってしまう」という恐怖が世間を取り巻きました。しかし数年経った今、多少難しくなったと言えるものの、予想していたほどではありません。主な問題は何よりも心理的、経済的なものなのです。

GPT-3の創造者らはアルゴリズムを紹介した研究論文を発表していますが、その中で、あるテキストを貼り付けて記事へと展開させ、ボランティアに評価してもらいどれがアルゴリズムで生成された記事で、どれが人間が生成した記事かを推測してもらうというテストを行いました。その結果、50%に近い精度が得られたと報告されています。すばらしくもあり、恐ろしいことでもありますね。

しかしよく見ると、この場合は単に1行の見出しを1段落の文章に展開させたに過ぎません。もしThe Atlantic誌やNew Yorker誌のような長文の記事を書こうとすると、矛盾が生じ、意味をなさなくなるかもしれません。この論文の著者はこのことには触れておらず、ただ実験をして「見て、こんなにも上手くいったよ」と言っただけのことです。

説得力があるように見えますし、なかなかの記事を作ることは可能です。しかしフェイクニュースや誤報などについて言えば、なぜGPT-3がさほど影響力がなかったかというと、結局のところそれはフェイクニュースがほとんどクズ同然だからです。書き方も下手で、質が低く、安っぽくてインスタントなものだからです。16歳の甥っ子にお金を払えば、数分で大量のフェイクニュース記事を作ることができるでしょう。

数学のおかげでこういったことを理解できるというよりも、数学では主に懐疑的になることが重要だから理解できるのかもしれません。だからこういったことに疑問を持ち、少し懐疑的になったら良いのです。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

中国政府が推奨アルゴリズムの厳格な管理を提案、アリババとテンセントの株価わずかに下落

中国は、世界最大の人口を擁する市場である同国において、地元のインターネットサービスが持つ影響力にさらに歯止めをかけようとしている。ここ数カ月の間に拡大した一連の規制強化に続き、同国は中国時間8月27日、企業がユーザーにレコメンデーションを提示するために実行するアルゴリズムを規制するガイドライン案を発表した。

中国サイバースペース管理局(CAC)は、27日に発表した30項目のガイドライン案の中で、企業が「中毒や大量消費を助長する」アルゴリズムを展開し、国家安全保障を危険にさらしたり、公共秩序を乱したりすることを禁止することを提案している。

習近平国家主席が議長を務める中央指導部に直属するインターネット監視当局のガイドラインによると、サービス各社はビジネス倫理と公平性の原則を遵守しなければならず、そのアルゴリズムが偽のユーザーアカウントの作成やその他の誤った印象を与えるために使用されてはならないとある。同監視局は、新ガイドラインに対する一般からのフィードバックを1カ月間(9月26日まで)受け付けるとしている。

また、このガイドラインでは、アルゴリズムのレコメンデーションを簡単にオフにできる機能をユーザーに提供することを提案している。世論に影響を与えたり、市民を動員する力を持つアルゴリズム提供者は、CACの承認を得る必要がある。

27日の提案は、同国政府が消費者データの扱い方や国内での独占的な立場を理由に、企業を標的とする傾向がますます強まっている中で行われた。

2021年初め、政府が支援する中国消費者協会は、現地のインターネット企業がユーザーを購入やプロモーションに「追い込み」、プライバシー権を蝕んでいると指摘した。

中国政府による最近のデータセキュリティの取り締まりや家庭教師サービスに対する規制強化は、投資家を不安に陥れ、数千億ドル(数十兆円)の損失につながった。

今回のガイドラインは、ByteDance(バイトダンス)、Alibaba Group(アリババグループ)、Tencent(テンセント)、Didi(ディディ、滴滴出行)など、独自アルゴリズムを基盤としてサービスを構築している企業を対象としているようだ。このニュースを受けて、AlibabaとTencentの株価はわずかに下落した。

近年、米国やインドをはじめとする数カ国の政府が、これらの大手テック企業のアルゴリズムがどのように機能しているかをより明確にし、悪用を防ぐためのチェック体制を整えようと試みてきたが、成果はほとんど上がっていない

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(文:Manish Singh、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】SEO担当者はGoogleアルゴリズムアップデートに慌てる必要はない

編集部 注:本稿の著者Eli Schwartz(イーライ・シュワルツ)氏は、10年以上にわたりB2BおよびB2Cの大手企業で働いてきた経験を持つ、SEOの専門家でありコンサルタント。

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Googleのアルゴリズムアップデートの噂が流れるたびに、SEOコミュニティは大パニックに陥る。皆数字が分析されるまで息をひそめ、アルゴリズム・アップデートを(願わくば)無傷で乗り切ったときには、安堵のため息がもれる。

アップデートが公開され、特にGoogleによる承認があった場合には、Googleが何を変えたのか、新しいパラダイムで勝つにはどうすればいいのかを分析しようとする記事や専門家の分析が相次ぐ。

私はこの悩みはまったくの杞憂だと思う。

Googleアルゴリズムは、あたかも研究室で作られたようなある種の神秘的な秘密のレシピであり、不思議な全知の魔法使いの気まぐれでサイトを盗んだり、サイトに報酬を与えたりするかのように思われている。この時代遅れのスキーマにおけるすべてのSEOとウェブマスターの目標は、この魔法使いを騙して、すべてのアップデートの勝者になることだ。

この考えは、Googleアルゴリズムのアップデートで何が起こるのかに関する根本的な誤解、そしてGoogleに対する根本的な誤解に根ざしている。実際のところ、アルゴリズムは私たちの敵ではない。アルゴリズムは、より良い、より正確なユーザーエクスペリエンスを実現するために設計されているのだ。ここでは、アルゴリズムとの関係を再構築するためのいくつかの視点を紹介する。

Googleは力になろうとしているだけ

まず確認したいのは、Googleは、あくまでも手助けをしようとしているということだ。Googleは、検索する人に快適で高品質なユーザー体験を提供したいと考えている。それ以上でもそれ以下でもない。Googleは魔法使いではないし、そのシステムは恣意的にサイトを奪ったり、報酬を与えたりするためのものでもない。

それを念頭に置いて続けたい。

Googleのアルゴリズムは、大規模で複雑なソフトウェアプログラムであり、実際のシナリオに基づいて常に更新される必要がある。そうしないと、まったくの恣意的なものになってしまうからだ。ソフトウェアのバグが報告されて修正されるように、検索エンジンは何が機能していないかを発見し、解決策を生み出さなければならない。

Googleのアップデートは、他のソフトウェア企業と同様に、自社の製品やサービスを大きく飛躍させるものだ。ただし、Googleの場合は、単なる製品アップデートではなく「メジャーアルゴリズムアップデート」と呼ばれている。

これで、Googleのアルゴリズムアップデートとは何かという知識が身についたことだろう。慌てる必要がないというのはありがたいことではないだろうか?

検索トラフィックが減少しても、必ずしも不利になるとは限らない

大規模なアルゴリズムアップデート後にサイトの検索トラフィックが減少したとしても、それがサイト全体を対象としたものであることはほとんどない。通常、1つのURL群の検索順位が下がっても、他のページは改善されていることが多いようだ。

改善されたページを確認するには、Google Search Consoleを深く掘り下げて、どのURLでトラフィックが減少し、どのURLで増加したかを調べる必要がある。アップデート後にサイトが急激に落ち込むことは確かにあるが、それは通常、そのサイトで勝者よりも敗者が多かったためだ。

トラフィックが減少したとしても、それはアルゴリズムがサイトを懲らしめたからではないことは間違いない。

多くの場合、実際のトラフィックは減少しておらず、クリックに結びついていないインプレッションが減少しただけの可能性がある。最近のアップデートで、Googleは強調スニペットを掲載していたサイトの検索結果を削除した。その結果、インプレッション数は大幅に減少したが、クリック数はほとんど変わらなかった。アップデート後にサイトが勝った、あるいは負けたと決めつけるのではなく、詳細なデータを集めて研究し、より明確な情報を得るようにしたい。

Googleを見習い、優れたユーザー体験を重視する

ユーザーへの高品質ですばらしい体験の提供に注力しているウェブサイトは、アルゴリズムのアップデートを恐れる必要はない。むしろ、アップデートは優れた結果を出すために必要な原動力となることもある。怖がる必要があるのは、ユーザー体験の質が低いために、そもそも検索で上位に表示されるべきではなかったウェブサイトだけだ。

ウェブサイトがユーザーに優れた体験を提供しているのであれば、アップデートによって質の低いサイトが淘汰されるため、アップデートが実際に味方に付いてくれる可能性が高い。

ユーザー体験の質を重視していれば、アルゴリズムの更新でトラフィックが減少するページもあるだろうが、ほとんどの場合、全体としてトラフィックが増加するのが普通だ。何が変化したのかという詳細なデータを調べれば、ウェブサイトはアルゴリズムの更新によって苦境に陥ったり、影響を受けたりすることもなく、特定のURLだけが影響を受けるという見解が裏付けられるだろう。

アップデートは検索エンジンにとっての現実

Googleはアルゴリズムを継続的に更新していくであろうし、そうするべきだ。Googleの一番の目的は、ユーザーを満足させ、維持し続けることができる進化したプロダクトを提供することなのだ。

Googleがアルゴリズムを放置すれば、抜け道を利用したスパマーに蹂躙されるリスクがあることを考えてみて欲しい。スパム的な検索結果を多く提供する検索機能は、AOL、Excite、Yahoo、その他の検索エンジンのように、機能的にもはや存在しないものとなってしまうだろう。Googleは、アルゴリズムを更新することで、関連性を維持しているのだ。

アップデートは検索という行為の一部なのだ。

アルゴリズムではなく、ユーザーを追いかける

オーガニック検索に依存しているすべてのウェブサイトは、必ず変化するアルゴリズムを追いかけるのではなく、もっと重要なところ、つまりユーザー体験に焦点を当てるべきだと私は考える。

ユーザーは、結局のところ検索における顧客だ。サイトがユーザーに貢献していれば、検索体験を保護するために設計されたアルゴリズムの更新に対する免疫がつくだろう。アルゴリズムにおける魔法使いは存在しない。存在するのは、サイトに最適なプロセス、手順、行動を適用する方法を見出したSEOマスターだけだ。

アルゴリズムやアップデートの目的はただ1つ、ユーザーが求めるものを正確に見つけられるようにすることだけだ。サイトがユーザーの役に立っていれば、何も恐れることはない。

【編集部注】この記事は「Product-Led SEO:The Why Behind Building Your Organic Growth Strategy」(製品中心のSEO オーガニック検索における成長戦略を築く際の根拠)からの抜粋となる。

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(文:Eli Schwartz、翻訳:Dragonfly)

アルゴリズムを利用して賃貸住宅の特定や管理を支援し大家の頭痛を解消するKnox Financialが10.8億円調達

賃貸物件を所有して収入を得る方法を表す「受動的所得」という言葉は、誰もが知っているだろう。受動的に収入が得られたらいいなと思う米国人は多いが、大家になるための手続きは恐ろしいほどに厄介で複雑なものだ。

つまり、土地を売った途端に地価が上がって、売ったことを後悔する人がどれほど多いことか、という話だ。

すでに大家であっても、不動産管理の複雑さには押し潰されそうになる。

アルゴリズムを利用したプラットフォームで賃貸住宅の特定や管理を支援するボストンのスタートアップKnox Financial(ノックス・ファイナンシャル)は、1000万ドル(約10億8000万円)のシリーズA投資を調達し、目標をさらに拡大した。ボストンを拠点とするG20 Venturesがこのラウンドを主導し、Greycroft、Pillar VC、2LVC、Gaingelsなどが参加している。

この投資により、2018年創設以来のKnoxの合計調達額は1470万ドル(約16億円)となった。同社は2020年1月、Greycroft主導によるシード投資ラウンドで300万ドル(約3億2500万円)を調達している。

Knoxの共同創設者でCEOのDavid Friedman(デイビッド・フリードマン)氏は、スタートアップ初心者ではない。同氏は2004年、不動産会社や代理店のための総合マーケティングプラットフォームとオンラインマーケティングサービスBoston Logic(ボストン・ロジック)を創設している。2016年、フリードマン氏は、現在はPropertybase(プロパティーベース)と呼ばれるその会社を、非公開の価格でProvidence Equity(プロビデンス・エクイティー)に売却した。

Knoxは2019年5月にプラットフォームをローンチしている。その目標は、今住んでいる家から退去して投資不動産に変更しようと決意した住宅の所有者に「完全にお任せ」の移行を提供することだ。また、賃貸物件の管理をより簡単に効率的にする手助けもするという。

2020年初めのシード投資ラウンドでは、同社の事業はボストンに限られ、プラットフォーム上の物件は50件しかなかった。現在では7つの州に展開され「数百件」の投資不動産がプラットフォーム上にあり、1億ドル(約108億円)を超えるポートフォリオを監督している。

では、どんな仕組みなのだろうか?物件がKnoxのFrictionless Ownership Platform(フリクションレス・オーナーシップ・プラットフォーム)に登録されると、この物件の財務、税金、保険、賃貸と法務、賃借人と土地建物の管理、銀行口座管理と請求書の支払いといった処理を自動化し監督する。

Knoxではまた、その物件から長期的に得られる投資収益率を計算する、賃貸料と予測のモデルも開発した。

画像クレジット:Knox Financial

「投資家のための大幅な節約を行い、ほぼ確実にポートフォリオの収益性を高めます」とフリードマン氏はいう。「大きな家に引っ越す人がいれば、私たちはその物件を信じられないほどのROI発生器、つまり収入源に生まれ変わらせます」。

同社の収益モデルは単純だ。

「賃貸料が1ドル、このシステムを通過するごとに、私たちは10セントもらいます」とフリードマン氏はTechCrunchに話した。私たちは、顧客の状況に合わせて利益を調整します。賃貸料がまったく入らないときは、私たちも売上げはありません」。

Knoxでは、今回の新しい資金でサービス対象地域を広げ、もっと多くの人たちに知ってもらおう計画している。

G20 Venturesの共同創設者でパートナーのBob Hower(ボブ・ハワー)氏は、大学を卒業して数週間後に、母親の援助でボロ家を購入したことを話してくれた。改修を終えた1週間後に、彼はその家を売りに出した。それから5カ月の間、市場が軟調になるにつれて価格を次第に下げざるを得なくなり、とうとうわずかな儲けで売却してしまった。

「あの家は、今では私が出資した数倍の値がついています」とハワー氏は振り返る。「今思うと、敗因は、そもそも家を売ろうと決めてしまったことにあります」。

その経験からハワー氏は、Knoxのビジネスモデルにある、彼がいうところの「思考の明確さ」を大切にするようになった。

「Knoxが数十年前にあれば、大学卒業後に買ったあのボロ家を、今でも持っていたはずです」と彼はいう。「Betterment(ベターメント)などの投資プラットフォームは、いくつものアドバイスと最適化のための作業を、シングルサインオンの簡単なサービスに凝縮しています。Knoxは、この手のモデルを住宅不動産投資に持ち込んだ、最初の企業なのです」。

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画像クレジット:Nanette Hoogslag / Getty Images

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:金井哲夫)