アーティストに大きなチャンスをもたらすはずだったWeb3、蔓延する作品の盗難や肖像権の侵害で評価に傷

Jillian C. York(ジリアン・C・ヨーク)氏はNFT(非代替性トークン)にはなりたくなかった。

ベルリン在住の作家で活動家ヨーク氏は、電子フロンティア財団のInternational Freedom of Expression(言論の自由を守り促進することを目的とするNGO)でも中核を担っている。どういうわけか、彼女の名前はいわゆるCypherpunk(サイファーパンク)の1人としてウィキペディアにも掲載されている。Cypherpunkはセキュリティ、暗号技術、プライバシーを推奨する活動家だ。ヨーク氏はこの3つを支持してるが、それらを自身の最も重要な関心事としたことはない。

「もちろん、ウィキペディアのリストから自分を削除することはできません。ですが私は、暗号技術を支持してはいますが、自分をCypherpunkだと思ったことはありません」と同氏はいう。同氏はウィキペディアの編集ルールを尊重しているため、自身が参加したくもないグループに強制的に参加させられてしまったわけだ。

ところが、2021年のクリスマスイブに、ウィキペディアに掲載されているヨーク氏と多数のセキュリティ賛同者およびCypherpunkたちがトークンマーケットOpenSea(オープンシー)にNFTとして登場したのだ。これらのトークンには、そのCypherpunkの想像画が含まれている。ヨーク氏のトレーディングカードには、回路や指紋とおぼしき背景から彼女の署名のトレードマークである坊主頭がちらっとのぞいている。またヨーク氏は、自分が参加したくないもう1つのグループにも属してしまっている。自分のアートや作品を盗まれてNFTを作成されてしまった人たちのグループだ。同氏は激怒している。理由は2つある。1つは、クリエイターが使用した写真は著作権保護されており、実は彼女の資産ではなかったこと。

もう1つは、名前のスペルが間違っていたことだ。

トレーディングカードはプロの写真家が撮影した写真をもとにしたもので、Jillion Yorkという名前が入っていた。また、こうしたNFTコレクションには、ヨーク氏と同氏の仲間たちに加えて、セキュリティ界隈ではすでに忘れ去られたRichard Stallman(リチャード・ストールマン)やJacob Appelbaum(ジェイコブ・アッペルバウム)などの名前もあった。トレーディングカードに描かれたヨーク氏と数人の人たちは、そうした人たちと一切関わりたくないという考えだった。

「私はこうしたものを一切認めていませんし、削除して欲しいと思っています」とヨーク氏は12月26日にツイートしている。他の多くの支持者や被害者も同様のコメントを寄せている。OpenSeaとNFTクリエーターの間で何度もやり取りが行われた末、ItsBlockchain(イッツブロックチェイン)という会社が要求に応え、すべてのNFTを削除した。

分散化資産を破壊するために中央の管理会社にアクセスする必要があるという現実を多くの人達が皮肉だと感じている。

「まったくばかげているし、疲れます。Web3のデジタル資産という新たな領域では、他人のアイデンティティーをその人の許可なくトークン化し、取引可能な商品として営利目的で販売できるというのですから」とNew Republic(ニュー・リパブリック)の編集者Jacob Silverman(ジェイコブ・シルバーマン)は書いている

ヨーク氏の試練は始まるのとほぼ同時に終わった。NFTのクリエーターHitesh Malviya(ヒテシュ・マルビヤ)氏がヨーク氏や他の被害者たちと連絡を取り、NFT画像を取り下げることに同意したのだ。数日後、これらの画像は削除され、代わりにMedium(ミディアム)の投稿が掲載された。この投稿でマルビヤ氏は次のように述べている。「我々のチームは暗号技術に関する若者達のコミュニティに、Cypherpunkという存在が、今日までにブロックチェーンテクノロジーの発展において果たした重要な役割について知ってほしかったのです」。

「残念ながら、多くのCypherpunkたちがこの考えに反対し、どのような形であれ参加を拒否しました。ですから我々はすべてのCypherpunkたちに、彼らに無許可でNFTを作成したことを謝罪しました」と同氏は説明した。

筆者がNFTについて、また個人の写真と情報、とりわけ他人のアートを金もうけに使うことができると思った理由を尋ねると、マルビヤ氏は不機嫌そうに次のように語った。

「我々はNFTにおける肖像権保護法については認識していませんでした。市場は規制されていないからです」と同氏は直接のメッセージで語った。「我々は3カ月間、人手と時間をかけて教育用のシリーズとこのNFTコレクションを作成しました。今回のことはいい教訓になりました。質問の答えになっていれば幸いです。コメントは以上です」。

今回の事態とそれに関するさまざまなコメントは、拡大しつつも混乱を招いているWeb3の一側面を表している。すべてのものが許可を必要としないなら、誰かの肖像、アート、データを使う際に許可を必要とするのは一体どのような場合だろうか?何より、Tシャツのデザインから裸体まで、何でもNFTに変えようとする輩に歯止めをかけるにはどうすればよいのだろうか?

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残念ながら、ヨーク氏のようなケースは決して今始まったことではなく、クリエーターを一攫千金狙いのNFTクリエーターから守ることを目的とするまったく新しい産業とツールチェーンが作成されている。

2021年4月、NFTを使った別の大規模な窃盗事件が発生した。アーティストQing Han(ここではQuinni[クイニー])の作品が盗まれ、ヨーク氏のケースと同じプラットフォーム、OpenSeaに再投稿されたのだ。クイニーは健康と慢性病に対する芸術的な見方でファンから愛されていたが、2020年2月にがんで亡くなった。クイニーの死後も、彼女の兄と仲間のアーティストZe Han(ツェ・ハン)氏がクイニーのソーシャルメディアアカウントを維持し、彼女の作品を投稿した。

1年後、泥棒たちがクイニーの作品を匿名で投稿した。ファンからの激しい抗議の後、作品はOpenSeaを含むさまざまなNFTをサイトから取り下げられ、表面上はすべての作品がブロックチェーンから削除された。クイニーの兄はこの件の後、NFTサイトへの参加を拒否している。

「今回の件では、クイニーのアート作品が無許可で販売されていたことを確認のため申し上げておきます」とハン氏はTwitterに書いている。「クイニーのアートが販売されている合法的な場所はありません」(これは今後変わるかもしれないが)。

今回の件で、多くのクリエーターたちがNFTに関して教訓を学んだ。デベロッパーたちは暗号資産にまったく興味のない多くのクリエーター向けにたくさんのツールを作成した。こうしたツールは、彼らが盗まれたアートに気づけるように、窃盗が発生していることを強調するTwitterのフィードをポップアップ表示する

オンライン共有コミュニティDeviantArt(デヴィアントアート)のある重要人物は、大規模なアート盗難に詳しい。

「当社はこのプラットフォーム上で5億点を超えるアートをホスティングしています」とDeviantArtのCMOであるLiat Karpel Gurwicz(カーペル・ガーイッジュ)氏はいう。「当社は何年にも渡って、盗難事件を扱ってきました。別に今始まったことではありません。実際の規制がかけられる前から、オンラインアートコミュニティとして、盗難には常に対処してきました」。

最近同社はブロックチェーン上のユーザーアートを検索するボットを開発した。このボットは、OpenSeaなどの人気のNFTサイトに掲載されているアートを、登録済みユーザーの画像と比較する。また、機械学習を使用して、DeviantArtのサーバーにすでに投稿されているアートに似たアートを見つける。さらには、アーティストにOpenSeaやその他のプロバイダーへの連絡方法を表示することで、削除プロセスも簡素化する。

DeviantArtのCOOであるMoti Levy(モティ・レビー)氏によると、このシステムはまだ、正規所有者によって投稿されたアートと窃盗犯によって投稿されたアートを識別しないという。

「ほぼ完全に一致するアートを見つけた場合は、ユーザーに最新情報を伝えます」と同氏はいう。「そのアートが、そのユーザーのNFTである場合もあります。誰が作成したのかはわかりません」。

このDeviantArt Protect(デヴィアントアートプロテクト)というツールは成功しつつある。すでに8万件の著作権侵害ケースを見つけており、2021年11月から12月半ばまでに送信された通知は4倍増となっている。DeviantArtは、NFTクリエーターたちがすべてのアートをまとめて盗むことができないようにボット対策ツールも追加した。

皮肉にも、NFTを販売している分散化市場は1つまたは2つのプロバイダーの周りに集約され始めている。最も人気のあるプロバイダーOpenSeaでは、ヨーク氏やクイニーのようなケースに専念する完全削除チームを設置した。

DeviantArtは、2022年1月初めの3億ドル(約346億円)のラウンドの後、評価額が130億ドル(約1兆5592億円)に達し、軌道に乗った。同社はNFT市場では並外れた最大のプレイヤーで、アクティブユーザー数は推計126万人、NFTの数は8000万点を超える。DappRadar(ダップレーダー)によると、DeviantArtで過去30日間に行われた取引の総額は32億7000万ドル(約3776億7000万円)、取引件数は2億3300万件に達する。ライバル会社Rarible(ラリブル)の同期間の取引総額は1492万ドル(約17億2000万円)だった。

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OpenSeaはエコシステムにおける自社の立場をオープンにしており、アーティストからの取り下げ要求にもできる限り迅速に対応していると主張している。

「他人のパブリシティー権を侵害するNFTを販売するのは、当社のポリシーに反しています」とOpenSeaの広報担当者はいう。「当社は、肖像権の侵害であるという通知を受けた場合にアカウントを停止したり使用禁止にするなど、こうした違法行為に対して定期的に複数の方法で対応してきました」。

興味深いことに、OpenSeaはディープフェイクについても断固たる措置を取っているようだ。同社はディープフェイクを同意なしの私的画像(NCII、non-consensual intimate imagery)と呼んでいる。この問題はまだ広く表面化していないが、インフルエンサーやメディア界のスターにとっては有害なものになる可能性がある。

「当社はNCIIに対しては一切容認しない方針で対処しています」と同社はいう。「NCIIまたはその類の画像(ある人物に故意に似せて修正された画像も含む)を使用したNFTは禁止しています。またそうした作品を投稿したアカウントは迅速に使用禁止にしています。当社は顧客サポート、信頼性、安全性、サイト保全性を維持するための取り組みを積極的に拡充し、コミュニティとクリエーターを保護し支援できるように迅速に対応しています」。

しかし、こうしたOpenSeaの取り組みに対し、多くのアーティストたちは満足していない。アーティストたちの多くは、自分たちの作品や仲間の作品がNFTプラットフォーム上で盗まれる事態になる前から、NFTに対して懐疑的だった。多くのユーザーたちが依然としてOpenSea上に自分たちの作品を見つけており、これに対して公に苦情を申し立てると、OpenSeaなどのプラットフォームの正式な窓口担当者と称するサポート詐欺師たちが押し寄せてくるという。

こうした混乱のため、DeviantArtのレビー氏によると、同社はNFTを探索してはいるものの提供するのは断っているという。実際、同氏はユーザーはNFTを欲しがっているとは思わないと考えている。

「長期的には、Web3は興味深いですし可能性もあると思いますが、アーティストを保護し支持するようなもっと良い方法で展開すべきです。アーティストを危険にさらすような方法には絶対に賛成できません」。

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(文:John Biggs、翻訳:Dragonfly)

インド、暗号資産とNFTの所得に対する30%の課税案を発表

インドは、この世界第2位のインターネット市場において、暗号資産を法定通貨として認める方向で動いており、2023年までにデジタル通貨を立ち上げ、暗号通資産とNFTに課税する計画を現地時間2月1日に発表した。

Nirmala Sitharaman(ニルマラ・シタラマン)財務相は、仮想資産の譲渡による所得には30%の課税を行うと2月1日に発表した。このような暗号取引の詳細を把握するために、彼女はまた、仮想資産の購入に関連する支払いについて1%の源泉徴収控除を提案した。

「このような所得を計算する際には、取得原価を除き、支出や手当に関する控除は認められないものとします。さらに、デジタル資産の譲渡による損失は、他の所得と相殺することはできません。仮想デジタル資産の贈与も、受取人の手元で課税されることが提案されています」とニューデリーで最も注目すべきテクノロジーとビジネスに焦点を当てた連邦予算の1つで彼女は述べている。

この提案は、インドにおける規制の不確実性にもかかわらず暗号資産とNFTの購入が急速に進出しているタイミングで行われた。

Binance(バイナンス)傘下のWazirX(ワジールX)は2021年12月、同社のプラットフォームにおける年間取引量が2021年に430億ドル(約4兆9400億円)を超え、2020年から「1735%」の成長率になったと発表した。

暗号トークンの人気の高まりは、この分野で革新を目指すスタートアップ企業群の出現にもつながっている。しかし、彼らの積極的なマーケティングキャンペーンには多くの人々が眉をひそめている

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Andreessen Horowitz(アンドレセン・ホロウィッツ)は2021年、暗号資産取引所CoinSwitch Kuber(コインスイッチ・クーバー)を支援することで、インドで初めての投資を実施した。

「これらの取引の規模と頻度から、特定の税制を規定することが不可欠になっています」と彼女は述べている。

インドの中央銀行も、次の会計年度にデジタル通貨を導入する予定だという。同国の中央銀行は、国内で数カ月間、多くの対照試験を通じてCBDC(中央銀行発行デジタル通貨)をテストし、銀行・金融システムへの影響を検証してきた。

「中央銀行デジタル通貨の導入は、デジタル経済に大きな弾みをつけるでしょう。また、デジタル通貨は、より効率的で安価な通貨管理システムにつながるでしょう」と述べた。ニューデリーはプレスノートの中で、その中央銀行発行デジタル通貨は紙幣として扱われると述べている。

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インドの隣国である中国は2022年1月初め、中国人民銀行がCBDCの試験の一環として、1億6000万ドル(約183億4300万円)以上に相当するデジタル人民元の取引を300万件以上処理したと発表した(中国は、記憶に新しいところでは、2021年、国内のすべての個人の暗号関連取引を違法とするレッテルを貼ったこともある)。

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インドの今日の提案は、ニューデリーが暗号資産にどう取り組むつもりなのか、起業家、ベンチャーキャピタル、そして一般市民の間にやや混乱を生じさせた。

暗号関連の取引に税制を導入することで、ニューデリーはこのような仮想資産を法定通貨として認めるか、あるいは、ある投資家が声に出して疑問に思ったように「すべての行動から自分たちの肉を奪う」かのどちらかだと思われる。

ツイートで、野党議会党のスポークスパーソンRandeep Singh Surjewala(ランディープ・シン・スルジェワラ)氏は「財務大臣、国民に教えてください。暗号資産に課税することになるため、暗号資産法案を提出しなくても、暗号資産は今や合法なのでしょうか?その規制当局についてはどうでしょうか?暗号取引所の規制はどうなっているのでしょうか?投資家保護はどうなっているのでしょうか?」と訪ねた。

更新:ニューデリーは、現在「規制のための情報収集を行っている」と明らかにした

「しかし、今回の最大の進展は、暗号の課税に関する明確化でした。これにより、求められてきたように、インドの暗号エコシステムがより認知されるようになります。また、この開発によって銀行が曖昧さを取り除き、暗号業界に金融サービスを提供できるようになることを期待しています。「総じて、これは我々にとって良いニュースです。細かい部分を理解するためには、予算の詳細を見ていく必要があります」。とWazirX(ワジールX)のCEOであるNischal Shetty(ニシャル・シェッティ)氏は声明で述べている。

「税制が明確になったことは歓迎すべきことです。全体として、政府がイノベーションの方向に進むという進歩的なスタンスをとっていることがわかり、大きな安堵感を覚えます。税制を導入することで、政府はこの業界を大いに正当化することになります。これまで不安から傍観していた大多数の人たち、特に法人が暗号に参加できるようになります」。

ニューデリーはまた、国の農村部におけるインターネットとデジタル銀行の普及範囲を拡大することを約束した。

その他、注目すべき発表がいくつかある。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Akihito Mizukoshi)

【コラム】暗号資産の処理量に応じた課金モデルは再考の時期にきている

処理量に応じた課金モデルは、常に、暗号資産の世界においてほとんど疑う余地のない主要技術であった。デジタル資産が登場して以来、投資家、開発者、マニアたちは、実際に購入したトークンの価格に加えて処理料(採掘手数料)を支払ってきた。

2021年4月、Bitcoin(ビットコイン)の平均送金手数料がこれまでで最高の59ドル(約6800円)に達した。平均取引料は2017年12月に52ドル(約6000円)にまで跳ね上がり最高値に達したが、今回はそれを超えた形だ。そして、Eithereum(イーサリアム)とそのガス手数料も跳ね上がった。2021年、イーサリアムのブロックチェーンでは、多くの暗号資産ネットワークがイーサリアムを離れ、競合ブロックチェーンSolana(ソラーナ)など、よりサステナブルな選択肢に移行した。

いうまでもなく、暗号資産への投資はますます高価になっている。現在、暗号資産エコシステムに参加している大半の人たちが暗号資産の法外なコストと使用ケースに腹を立ている。とりわけ、ビットコインとイーサリアムのネットワークの手数料は高過ぎる。

にもかかわらず、マニアと投機家たちは、この現状をお金に革命を起こすはずの技術に関わることにともなう厄介なトレードオフとして受け入れ、歯を食いしばって耐えている。

しかし、大多数の人が熱意を失い、お金の取引と移動を行う別の方法を追求したらどうなるだろう。実際すでに、Binance Smart Chain(バイナンススマートチェーン)などの「集中化」サービスが、低い料金設定を引っ提げて、イーサリアムなどの分散システムに取って代わり始めている。

真の分散化暗号資産エコシステムを実現するという夢はどうなってしまうのだろう。取引料金という観点から考えると、分散化ネットワークが集中化ネットワークと競争するのは本当に不可能なのだろうか。

市場経済型アプローチを採用する時期がきている

現時点では、現在上場しているすべての暗号資産とブロックチェーンのネットワーク経済では、利用価値ベースの価格設定ニーズを無視している。つまり、ブロックチェーン上での取引料金が、顧客の考えるその取引の実用価値と一致していない。

言い換えると、取引料金の範囲は利用者が考えているニーズによっても、市場勢力図によっても決まらない。実際「処理量に応じた課金」モデルは取引に課される料金に上限がないため、利用者にとってほとんど利点がない。料金が取引しようとしている価値の大部分を占めるようになったら、そのようなネットワークを使って取引するのは非効率的かつ非現実的だ。

多くの人たちは、こうしたネットワークはユーザーに与えられる実用価値から利益を得ていると思っている(あるいはそうあって欲しいと思っている)が、実際には「処理量に応じた課金」モデルは暗号資産のマイナー(採掘者)または通貨保有者など、ネットワークの利害関係者にのみ利益をもたらし、ユーザーには何の利益ももたらさない。

例えばビットコインでは、承認済み暗号資産取引のブロックを完成させた報酬はマイナーに支払われ、すべての料金はマイナーに分配される。こうした取引が処理される際の「ブロックサイズ」は人為的に小さい状態に維持されており、マイナーはこれまでこのブロックサイズを増やすことを拒否してきた。

その代わり、取引をブロックに含めるためにより高い料金を要求し続けている。YChart(ワイチャート)によると、ビットコインのマイナーの1日あたりの平均収入は約4700万ドル(約54億2000万円)で、2021年初めの2900万ドル(約33億4000万円)から62%も上昇している。

暗号資産取引を長期的に持続可能にするには、そろそろ実用価値ベースの料金設定を導入して暗号資産取引をユーザーに利益をもたらすものにするべきだ。デジタル資産の世界はもはや通常の市場経済型アプローチ、つまり利用者が王様となる方式を採用すべき時が来ている。

高額な取引料金は暗号資産ネットワーク拡大の妨げとなる

最終的にはマニアとアーリーアダプターたちの気持ちは覚めてしまうだろう。そうなったら「処理量に応じた課金」モデルで運営されるこれらのネットワークの使用ケースは、利用者が高額な料金を支払うことをいとわない取引(頻度の低い高額決済)のみに縮小してしまう可能性が非常に高い。

これが現実になってしまうと、高価値の使用ケースが安く値切られてネットワーク利害関係者にとっての価値が失われ、同時に、低価値だが大量にある使用ケースによって得られるネットワークの収益も失われることになるだろう。

筆者はこの差し迫ったシナリオを実用性の不適正価格設定と呼んでいる。このシナリオは、ネットワーク利害関係者(すなわちマイナー、マスターノード所有者、通貨保有者)に報酬を与えるために「処理量に応じた課金」のみに依存している暗号資産ネットワークにとって避けられない運命だ。実用性の不適正価格設定が行われると、新規利用者数が増大しているときでもネットワークの収益と採用が低下する。

最終的には、利用者からの信頼が薄れ、結果としてブランド資産価値が失われることになる。これはメディアの否定的な報道によってあおられることになるだろう(実際今、法外な手数料に関連して、暗号資産最大手2社が否定的に報道されている)。

ネットワーク収益モデルの根本的な見直しを行い同意を得ることを強制でもされない限り、大手暗号資産ネットワークがこの問題をエレガントかつ効率的な方法で解決できるかどうかはまだわからない。

ネットワークの収益維持には代替ビジネスモデルが鍵

最善のシナリオは、細事にこだわり大事を逸するのを避けることだが、まったく新しいネットワーク収益モデルを採用することが解決策となる可能性はある。暗号資産における実用価値ベースの価格設定モデルがユーザーに最も利益をもたらす代替モデルであることは間違いない。このモデルなら低料金または手数料ゼロの取引を実現することも可能だ。

これを実現するには、すべての利害関係者を取り込んだ運営を介して価格設定を行うことで、ブロックチェーン内外の双方の利害関係者が価格設定パラメーターに発言権を持てるようにする必要がある。

例として、オープンな代表投票を使用した手数料ゼロの暗号資産ネットワークNano(ナノ)がある。ナノでは票がノード間で共有および中継され、集計されて、オンラインの投票加重と比較される。ブロックが十分な数の票を受け取って定足数に達したことをノードが確認すると、そのブロックは1分以内に確認される。

ナノネットワークでは、ノードに直接的な金銭的動機がないため、急速に集中化に向かう動きが排除され、長期的な分散化トレンドに向かうことになるが、参加者の利他主義が失われたときこのモデルがどのようなスケールのかという問題は未解決のままだ。

「処理量に応じた課金」モデルを回避する方法を探しているもう1つの例としてKoinos(コイノス)がある。コイノスの目的は「mana(マナ)」と呼ばれるシステムを介して、ブロックチェーン上で消費者市場向けのユーザー体験を実現することだ。ビデオゲームに登場するマナを操作するようなイメージだ。

ネットワーク上の個々のトークンには一定量のマナに割り当てられる。データが事前ロードされているモバイルデバイスを購入するのと同じだ。この「燃料」はユーザーがネットワークリソースを使うと消費される。このようにして、手数料ゼロの取引によって流動性のあるトークン所有者が増えていく。

このアプローチはhold-to-play(使用料に応じて保有する)方式と呼ぶこともできるだろう。つまり、ユーザーがトークンを流動性のある状態に維持することで、利益を生むアクティビティにトークンを参加させないようにするというものだ。トークンに割り当てられたマナが少しでも消費されると、そのトークンは一定期間ロックされる。これはリアルタイムの金銭的費用の代わりに機会費用を発生させて無価値の取引を実行する動機を失わせる役目を果たす。このように、マナの手数料メカニズムは、明示的な取引手数料を請求するよりもダイナミックで拡張性の高いものになっている。

ユーザーの満足度に基づくモデルに従うネットワークは他にもいくつか出現しているが、大手の暗号資産がこのモデルを採用するかどうかはまだ分からない。

大手暗号資産の拡張性問題は依然として未解決

現在のところ大手暗号資産は、ユーザーの利他主義と強い関心によって実際的な価値を維持しており「取引料に応じて支払う」という既存の枠組みを取り払って考える必要には迫られていない。しかし、時が経過し、パフォーマンスおよび代替手段との競争力の低下が指摘されるようになるにつれて、ネットワークは処理量に応じた課金モデルを考え直し、ユーザーだけでなくネットワーク自体にも有益な解決策を見つける必要がある。

どのような企業でも、製品の価値と重要性を判断するのは顧客である。現在、暗号資産各社は、この考え方を自分たちは固守する必要はないという錯覚に陥っている。しかし、やがてこのような姿勢を改める必要が出てくる。

暗号資産プロジェクトが長期的に存続するには、集中型サービスに匹敵する分散型ネットワーク上でユーザーに真の価値を提供するしかない。

既存の暗号資産エコシステムはユーザーも利害関係者であるという事実を認識し適応する必要がある。ネットワークのビジネスモデルによって、対象となるすべての使用ケースに適切な価格設定が行われるようにし、ネットワークの収益を十分に獲得および分配して、プロジェクトを投資家たちにとって魅力的なものにすることが必要不可欠だ。

編集部注:本稿の執筆者Andreiko Kerdemelidis(アンドレイコ・ケルデメリディス)氏はKuvaのCTO兼共同設立者。

画像クレジット:gremlin / Getty Images

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(文:Andreiko Kerdemelidis、翻訳:Dragonfly)

【コラム】DAOはメディアに革命をもたらすのか、それとも金持ちの遊び場を作るだけだろうか?

2021年11月に、ConstitutionDAOという何千人もの暗号資産ファンを擁する仮想フラッシュモブが、米国憲法の初版の1つを購入するために約4500万ドル(約51億8000万円)をクラウドファンディングした。オークションには敗れたが、彼らはすでに、ニュースレター会社MorningBrewが配布した絵文字入りのスウェットシャツのラインを立ち上げていた。

ソーシャルメディアに無数のミームを氾濫させ、クラウドファンドへの参加を呼びかけたこの動きは、今やベンチャーキャピタル界で大流行している自立型分散組織(DAO、Decentralized Autonomous Organization)の一例にすぎない。Bitcoin Core(ビットコイン・コア)のようなオープンソースプロジェクトと同様に、DAOプロジェクトには自発的な参加者と受動的なフォロワーの両方が含まれており、その多くは有償のコアコントリビューターによって管理されている。コントリビューターに報酬を支払うためにどのように資金が集められるかは、プロジェクトによって大きく異なる。

他にも、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)が支援するFriends with Benefits(FWB)など、複数のDAOプロジェクトが6億ドル(約692億円)を超える資産を運用している。DJやイベントコーディネーターの経験を持つFWBのリードオーガナイザーAlex Zhang(アレックス・ザング)氏は、2021年5月に収益性の高いDAOを統括しており、同クラブでは現在、奨学金プログラムを設けて四半期ごとに最大40人の奨学生を受け入れているという。このプログラムは最長3年間の資金提供を受けている(それ以外の場合はフルメンバーとして約8000ドル[約92万円]を要する)。

人々は、アイデアが即座に資金調達につながるか、立ち消えとなるかを確認する目的で自発的にDAOを開始することも多く、また暗号資産に関する試みを行うためのよりソーシャルな方法を含む、さまざまなネットワーキングの機会のためにDAOに参加することもある。ここで話を戻すと、これらのDAOの多くは、基本的に暗号資産を利用するメディア企業である。DAOと、The Informationのような(フィアットの)サブスクリプションファンドによる組織の間には、重複する部分も数多くあるが、主な違いは、FWBがジャーナリズムのイベントではなくパーティーを開くことだ。

手短にいえば、FWBは投資家の友人たちのグループで、2020年9月に資金をプールし、自分たちのクラブに入ってトークンを買いたいと望むEthereum(イーサリアム)ファンを募ったものだ。その後、マイアミ、パリ、ニューヨーク、ロサンゼルスでトークン保有者のための独占パーティーを開いた。ザング氏によると、FWBには現在、2000人の正会員に加えて、より安価な読み取り専用または地域限定のメンバーシップを持つ少数のファン集団が含まれているという。

「ZINE(個人やグループで制作する出版物)のようなマルチメディア資産を作成する編集・コンテンツチームを組織し、他の形式のコンテンツにも確実に移行しています。近々ラジオ局を立ち上げ、さまざまなDJをブックする予定です」とザング氏は語る。「私たちはサブスクリプション料金モデルから資産保有に移行しつつあります」。

特に有名なDAOとしては、ジャーナリストのDaisy Alioto(デイジー・アリオト)氏とKyle Chayka(カイル・チェイカ)氏が創設したニュースレターDAOプロジェクトDirt、Uniswap(ユニスワップ)のようなツールのユーザーのための暗号資産取引DAO、さらにFWBやPleasrDAOなどの暗号資産ソーシャルクラブが挙げられる。PleasrDAOのようなアートに特化したDAOは、JPEGからレアなアルバムまでのあらゆるものを含むアートコレクション収集のために数百万ドル(数億円)を集め、分配している。

PleasrDAOの共同創設者であり、2014年のEthereumトークンの最初の販売に参加したJamis Johnson(ジャミス・ジョンソン)氏は、次のように述べている。「DAOの会員総数は74人です。他のDAOと同様に、絶え間ない浮き沈みがあります。フルタイムの従業員として専任のオペレーターが在籍しており、約5人ほどになると思います。主なコミュニケーション手段はTelegram(テレグラム)です」。

これまでのところDAO参加者のほとんどは、さまざまなDAOにわたり、Ethereumの共同創設者Joe Lubin(ジョー・ルービン)氏のポートフォリオに属するMetaMask(メタマスク)、Gitcoin(ギトコイン)、Gnosis(グノーシス)、Infura(インフラ)といった企業に依存している。特にMetaMaskは現在、月間アクティブユーザー1000万人を擁しているという。また、Gitcoin DAOは6億4300万ドル(約741億円)を超える資産を持つと推定されている。

GitHubがスポンサーとなった調査によると、2021年時点で、DAO参加者422人のうち33%がFWBのようなDAOから月に1000〜3000ドル(約11万5000~約34万6000円)を受け取っている。回答者は主に、2020年以前からEthereumプロジェクトに深く関わっていた若い男性だった。現在のDAO参加者のほとんどが富裕層の暗号資産ファンだとしても、それはこのムーブメントのより広範なゴールではない。

FWBの投資家であり、The New York Times(ニューヨーク・タイムズ)がSubstack(サブスタック)やPatreon(パトレオン)、暗号ブログプラットフォームMirror(ミラー)といったクリエイターエコノミー企業の背後にいる「It Girl」投資家と呼ぶLi Jin(リー・ジン)氏の言葉を借りれば、DAOの目指すところは「暗号資産への新規参入者のためのフロントドア」になることだ。

その一方で、一部の機関はすでにDAOを受け入れており、ビジネスを行っている。ConstitutionDAOはSotheby’s(サザビーズ)に入札し、PleasrDAOは希少なWu-Tang Clan(ウー・タン・クラン)のアルバムをUnited States Department of Justice(米国司法省)から直接購入した。ワイオミング州は2022年に入り、DAOを州として初めて独自の法制度として認めている。ただし、申請手続きはまだ難しく、制約が課される可能性もある。

DAO MastersとFWBのメンバーであり、環境に焦点を当てたEcoDAOの創設者であるDavid Phelps(デイヴィッド・フェルプス)氏は、現時点で少なくともDAOムーブメントにより、人々の慈善活動への寄付が促されていると述べている。実際、このスペースには、奨学金プログラムやさまざまな慈善活動への数百万ドル(数億円)の寄付があふれている。

「ドルのエコトークンをリリースすれば、私たちはすべて問題なく支払いを受けることができるでしょう」とフェルプス氏は語り、自らのDAOの試みに言及した。先住民の土地改革と熱帯雨林の再生のための慈善事業に、これまでのところ3万7000ドル(約427万円)余りが集まっている。「ですが当面の目標は、アーティストたちが互いに支え合い、生涯にわたって収入を得られるような持続可能なエコノミーを作ることです」。

参加するには費用がかかり、困難がともなうかもしれないが、DAOムーブメントはすでに「ステータスを寄付に結びつけ、人々にパーティーの支払いを促し、意義のある大義にお金を再配分する」ことで価値を高めることを促進していると同氏は付け加えた。

しかし、このきらびやかな部屋の中の象は、Ethereumのベテランであっても、これらの数百万ドル規模の暗号資産クラブのメンバーがどのように税金を支払うかを誰も認識していないことを意味する。DAOムーブメントに関わっている中産階級の参加者たちの多くは、彼らが数千ドル(約数十万円)もの税金をため込んでいることに気づいていない。

「私たちは多くの請負業者や開発者、DAOのために働いている人々が税金申告の要件を知らないのを目の当たりにしてきました」と、Gordon Law(ゴードン・ロー)の税理士Andrew Gordon(アンドリュー・ゴードン)氏は話す。「通常、こうした事業者は1099(米国税庁の個人事業主向けの申請書)を発行する必要があります。社会保障番号なしでどうやって発行するのでしょうか?1099を提出しないと罰則が科せられます」。

さらにゴードン氏は、こうしたDAOの多くはフリーランスのコントリビューターやオペレーターに、ドルやその他の通貨ではなく独自のメンバーシップトークンで支払っていると付け加えた。これはトークンの「公正な市場価値を決定する責任は納税者に帰する」ことを意味する、とゴードン氏。DAOが自動的にNFT(非代替性トークン)をメンバーに贈与する場合、これは納税義務についての疑問を提起するかもしれない。2022年の納税シーズンが到来したとき、これらのデジタル資産の価格が急落すると、一部のDAOコントリビューターは支払い能力を超える税金を支払う義務を負う可能性がある。

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    FWB Paris party(画像クレジット:Alex Zhang)
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    FWB Paris party(画像クレジット:Alex Zhang)
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    FWB Paris party(画像クレジット:Alex Zhang)

「受け取った暗号資産が、受け取った時点での公正な市場価値に基づいて課税されることを知らなかった人から、電話がかかってくることがよくあります」とゴードン氏は続ける。「NFTとの関係でさらに複雑化する点は、評価の問題【略】最低価格と平均市場価格のどちらがその価値になるのでしょうか」。

すでに多くの若者たち、前述のDAOに参加する余裕がない人たちが、これらの試みを模して独自のものをローンチしている。Shannon Li(シャノン・リー)氏のケースもそうだ。

同氏は2018年に大学を卒業した後、パンデミックの初期には嫌だった仕事を辞め、それ以来コーディングのブートキャンプに参加している。現在独自のDAOを作っているが、それは人気の高いDAOの会費を払う余裕がなく、自分が応募した無料のオポチュニティにも反応がなかったからだ。こうして同氏は、トークンなしで開始することで、法的リスクを巧みに軽減することに成功した。

「DAOの最大の懸念は、実際には合法性と弁護士費用です」とリー氏は言い、DAOトークンの中には証券として規制されるものもあるかもしれないと指摘した。「このことは、トークンの販売が流通市場で行われるサービスではなく、サービス・フォー・サービスのDAOを作成したいと思う大きな理由です」。

リー氏は、女性のための暗号資産教育コンテンツに焦点を当てた80人で構成されるDiscord(ディスコード)サーバー、WEKrypto DAOを立ち上げた。最終的には、DAOにトークンゲートのグループチャットとNFTのイベントチケットを導入する計画だ。今のところ、ブートストラップ段階では「暗号資産についてもっと学び、他の人たちも利用できるように公開し、願わくば共有学習のジャーニー上で関係を築いていく」ことに注力している。

このムーブメントが、ルービン氏やVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏のようなEthereumの創設者たちによって育まれ、サポートされた企業を超えて成長するにつれて、DAOのエコシステムがどのようになるかはまだわからない。(すでに一部の人たちは、Bitcoin[ビットコイン]やSolana[ソラナ]のようなブロックチェーンを使いながら、同様のDAOのコンセプトを実装し始めている。)明るい面としては、FWBやIndex CoopのようなDAOにより、このムーブメントの多様性を改善するための多くの取り組みが始まっていることだ。

「私たちのコミュニティは、参加できなかったアーティストやクリエイター、その他の人たちに報いるために、1万8000のトークンを使ったフェローシッププログラムを立ち上げました」とザング氏はFWBについて語っている。「私たちは、普遍的な基本的資産の所有権を提供しています。この世界で何かを創造しているのであれば、その価値の一部を手に入れることができるはずです」。

今日でも、DAOたちが使っているツールは実験的なものだという見方が依然として大勢を占めている。Awesome People Ventures(オーサム・ピープル・ベンチャーズ)の創設者で、PartyDAOを含む複数のDAOのメンバーであるJulia Lipton(ジュリア・リプトン) 氏は、広く使われているGnosis Safe(グノーシス・セーフ)ウォレットに数百万ドル相当のデジタル資産を保有することは依然として「リスクを感じ」、DAO実験の技術面を完成させるには「途方もない時間」を要することが多いと述べている。技術的な問題に加えて、中間層のユーザーにとっては取引手数料が法外に高い場合もあるという。

「先は長いです。税金や規制だけでなく、DAO全般に関しても、未知のものが山ほどあります。コミュニティの所有権という概念については、まだ完全には解明されていません。私たちはこれらのプロジェクトをすべてA/Bテストし、公の場で実験を行ってきました」とリプトン氏は語る。

リプトン氏がDAO Mastersの設立に協力したのはそのためである。何十万ドル(何千万円)もの資金をクラウドファンディングして、新規参入者がDAOに関わるオポチュニティ、スキル、リスクについて学べるように支援した。

「私が最も情熱を注いでいることの1つは、価値の創造が価値の帰属と分配に結びつくことです。うすればより公正で公平なシステムを作ることができるでしょうか?」とリプトン氏はいう。

最終的には、DAOムーブメントの主要なインサイトは、他の方法では難解なメタバースに属しているという感覚に対して、人々がどれだけのお金を払おうとしているかということかもしれない。DAOのメンバーは、受動的なオーディエンスではなく、トライブ(同じ志を持つ人々の集まり)である。そのため、彼らは自分たちが代表されていると感じるメディアや体験に対して(お金か労働力のどちらかで)喜んで支払う。

あらゆる暗号資産トレンドと同様に、この帰属意識は金持ちになるという希望によって増幅される。DAOの参加者の中には、表立ったコメントは控えたものの、参加者自身のスタートアップやDAOに投資する可能性のある投資家とネットワークを作りたいと考えてDAOに参加していることを強調する向きもあった。

それは、Andreessen Horowitzの投資家ネットワークで埋め尽くされたDAOに所属することの魅力の一部だ。ジン氏は自身もこの巨大ファームの出身であり「(FWBの創設者である)Trevor McFedries(トレヴァー・マクフェドリーズ)氏とは何年来の友人」であると語っている。またザング氏は、マクフェドリーズ氏がFWBに招かれるずっと前から個人的な友人だったという。DAOのメンバーは、彼らの友人を定期的に高額な雇用や投資のオポチュニティに招待する。これらの暗号クラブに参加することは、いくつかの点で、アイビーリーグの友愛会に匹敵する。

一方、FWBの投資家であるジン氏は、Twitter(ツイッター)やポッドキャストで、クリエイターがより直接的にユニバーサルベーシックインカム(UBI)の恩恵を受けられるようになることへの期待を率直に語っている。ニュースレターのDirt(ダート)やForefront(フォアフロント)のライターたちのプログラムのようなDAOのその他の実験は、DAOの将来の可能性を垣間見せてくれる。それは、お互いのベンチャー支援によるグループチャットに投資している裕福な友人たちだけにとどまらない。

Forefrontのライターへの支払い能力は1稿当たり400ドル(約4万6200円)ほどで、数百人のトークン保有者を抱えるコミュニティの成長に支えられているが、目につくものではない。税金の問題やEthereumの取引手数料を考慮しても、その価格は一部の主要な従来型の小売店が最近ライターに支払っている額と変わらない。DAOのアドボケートたちが、より公平で分散化されたメディアのエコシステムを目指していると信じていることは明らかだ。コンプライアンスモデルが出現して初めて、リスクと責任がこれらのネットワークにどのように分散されるかが明らかになる。

「DAOは潜在的に、労働市場が機能する新しい方法と新たな経済的インセンティブを解き放ちます」とリプトン氏は語る。「コミュニティのトークンが長期的にどうなるかはまだ結論が出ていませんが、コミュニティの所有権という概念は残るでしょう」。

情報開示・著者はKomorebi CollectiveDes Femmes DAOの2つのDAOプロジェクトの創設メンバーである。

画像クレジット:Andrii Yalanskyi / Getty Images

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(文:Leigh Cuen、翻訳:Dragonfly)

ゲーム内NFTの生成を専門に行う企業BreederDAOにa16zなどが出資

分散型の「Web3」企業が、中央集権的な従来の企業と比べてどれほど違うか、あるいは違わないかを、テクノロジー界の巨人たちが議論している間に、同じ投資家からの支援を含め、互いに結びついた企業のエコシステムが、急速に出現しつつある。

2021年の夏、Andreessen Horowitz(a16z)は、Yield Guild Games(イールド・ギルド・ゲームズYGG)という会社に投資した。この会社はブロックチェーンを使ったゲーム内のNFT(非代替性トークン)に投資し、それを使う人に貸し出して、その人がプレイすることで収益を得るというものだ。このようなゲームの中でも特に急成長しているのが「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」だ。このゲームでプレイヤーは仮想生物を繁殖させて戦わせ、最終的にうまく戦うことができれば、適切な値段で売ることができる。

a16zは10月までに、Axieの開発会社であるSky Mavis(スカイ・メイビス)への大規模な投資を主導した。現在は、さらに別の構成要素にも資金を提供している。BreederDAO(ブリーダーDAO)という企業だ。同社は、Axie Infinity を含むブロックチェーンベースのゲームや仮想世界で使用されるデジタルアセットの「専門製作業者」として、数カ月前にフィリピンで設立された。

YGGの初期アドバイザー1人を含む若い創業者たちによって設立されたこの社員23名の会社は、a16zとDelphi Digital(デルファイ・デジタル)が共同で行ったトークンセールで、1000万ドル(約11億4000万円)のシリーズA資金を調達した。これにはHashed(ハッシュド)、com2us(コムツーアス)、Morningstar Ventures(モーニングスター・ベンチャーズ)、Mechanism Capital(メカニズム・キャピタル)、Sfermion(スフェルミオン)、The LAO(ザ・ラオ)、Emfarsis(エンファーシス)なども参加した。

なぜ、デジタル資産を作成することだけに特化した企業に資金を提供するのか。それは、まるで工場のラインで働く装置のようなものではないか?a16zゼネラルパートナーで、このような取り組みの多くを主導しているArianna Simpson(アリアナ・シンプソン)氏によると、その理由は単純で、NFTの需要が供給を上回り始めているからだという。「これらのゲームをプレイすることへの関心があまりにも高く、ゲームをプレイするために必要なAxiesやその他のエンドゲームアセットが実際に不足しているのです」。

ゲームメーカーは、ユーザーをゲームに夢中にさせておくために十分な流動性を確保するため、YGGをはじめとするいわゆるPlay-to-earn(プレイして稼ぐ)ギルドのようなサードパーティ企業との協力に前向きであることがすでに証明されている。これらの企業は、NFTのゲーム内資産を購入し、それらをプレイヤーに貸し出して収益を共有する。

今やこれらのギルドは、貸し出す資産をより多く、早急に必要とするようになっている。そのため、BreederDAOのような会社が誕生し、YGGをはじめとするReady Player DAO(レディ・プレイヤーDAO)、Earn Guild(アーン・ギルド)などの同じような企業が、この若い会社の顧客として契約しているのだ(YGGはBreederDAOの株式も所有している)。

シンプソン氏と彼女のパートナーは、より多くの顧客がすぐに列を作るだろうと確信している。a16zのデータによると、YGGやEarn Guildのような企業は、2021年5億3200万ドル(約608億円)の資金を集めた。しかし、これらの企業が資産を貸し出しているプレイヤーは、Axie Infinityに集まった約300万人のデイリーアクティブユーザーの2%にも満たないため、まだまだ成長の余地があると考えられる(BreederDAOのサイトによれば、同社は2025年までに5000のPlay-to-earnグループと協力することを目標としている。その時点ででそれだけ多くのグループが存在していると仮定しているわけだ)。

ブロックチェーンゲームで単純にNFT自体を増やすことを妨げる技術的な制限というものは、どうやら存在しないようだ。むしろ、Sky Mavisのような企業は、NFTを生成するためのエンジンを作ったものの、必ずしも事業としてその点に必要以上に注力したいとは考えていないと、シンプソン氏はいう。また、経済的にメリットがある限り、縄張り意識というものもない(例えば、Axie Infinityをプレイする人が増えれば増えるほど、そのゲームのトークンの価値は上がる)。

シンプソン氏は、このプロセス全体をサプライチェーンのように考えるべきだと言っている。「必ずしも1つの会社が最後から最後まですべてを生産するのではなく、サプライチェーンのさまざまな部分でさまざまな会社が、製品を完全に完成させるということです」。

現時点で、このサプライチェーンにおけるBreederDAOの担当は「Axie Infinity」をはじめ「Crabada(クラバダ)」「Pegaxy(ペガシー)」などのplay-to-earnブロックチェーンゲーム用のNFTを製作することだ。

工場のように、BreederDAOはこれらのNFTをあらかじめ設定された価格で販売しているが、これは時間の経過とともにレベニューシェア型契約に発展する可能性がある。「細分化は、今やっていることではありません」とシンプソン氏はいうが「将来的には」「誰にもわかりません」と付け加えた。

BreederDAOを率いるのは、フィリピン人の共同創業者であるRenz Chong(レンツ・チョン)氏、Jeth Ang(ジェス・アン)氏、Nicolo Odulio(ニコロ・オデュリオ)氏だ。

チョン氏は元経営コンサルタント、アン氏はフィリピンで数多くの企業を設立してきた。元商業パイロットのオデュリオ氏は、BreederDAOが自社内に擁するスマートコントラクトの専門家であり、Binance Smart Chain(バイナンススマートチェーン)やEthereum(イーサリアム)を含む複数のチェーンで暗号資産プロジェクトや分散型アプリを構築した経験があるという。

シンプソン氏をはじめとする投資家はすべて、BreederDAOのトークンが一般公開される前に投資を行っている。これはトークンが公開される前にチームを強化し、トークンが公開されたときに万全の態勢を整えるためだ。このシンジケートの参加者は、それぞれの投資額に応じた数のトークンを手にすることになる。

BreederDAOは、以前にも非公開のシード資金調達を実施している。このラウンドに参加したYGGの他、Infinity Ventures Crypto(インフィニティ・ベンチャーズ・クリプト)、Ascensive Assets(アセンシブ・アセッツ)、Bitscale Capital(ビットスケール・キャピタル)、FireX(ファイヤーエックス)、Mentha Partners(メンサ・パートナーズ)、Not3Lau Capital(ノットスリーラウ・キャピタル)などが支援者として名を連ねていた。

画像クレジット:Ralf Hiemisch / Getty Images

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(文:Connie Loizos、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】インフレヘッジとしてのビットコインの力を再考、金持ちはより金持ちに

七面鳥からガソリン、衣類、1ドルショップに至るまで、人間の活動のほとんどすべての手段がインフレの不安に見舞われてきた。世界的にインフレ率の上昇が購買計画と支出を混乱させている。

このインフレの猛威に直面して、フィアット通貨の減価を懸念する消費者や金融機関はヘッジの代替策を模索してきた。Bitcoin(ビットコイン)をはじめとする多くの暗号資産が現時の対策として選ばれており、こうした状況は、米証券取引委員会が暗号資産を投資可能な資産クラスとして受け入れる気運を後押ししている。

ビットコインは年初来のリターンが高く、金のわずか4%に対して130%を超える上昇率を示し、伝統的なヘッジを凌駕している。さらに、機関採用の増加毎週の流入額に裏付けられるデジタル資産への継続的なアペタイト、メディアでの露出の広がりは、疲弊した投資家の間のビットコイン擁護論を強固にしている。

これらがビッグマネーに基づいてなされているのであれば、賢明な動きであろう。しかし、ビットコインに対抗するヘッジという展望には個人投資家も興味を抱くかもしれない一方で、個人の金融リスクを軽減する上でのビットコインの有効性については、一定の根強い疑問が依然として残存する。

誤算されている期待

インフレヘッジとしてのビットコインの進行中の議論は、この通貨がしばしば市場の動揺と変動に影響されやすいという事実を前に置く必要がある。ビットコインの価値は2017年12月に80%超、2020年3月に50%、さらに2021年5月には53%急落している。

ビットコインが長期的にユーザーリターンを向上し、ボラティリティを低減する能力があるかどうかはまだ証明されていない。金のような伝統的なヘッジは、1970年代の米国の例をとっても、持続的な高インフレ時に購買力を維持するのに効果があることが実証されているが、ビットコインについてはまだその検証がなされていない。こうしたリスクの増大によって、時として通貨に影響を与える急激な短期的変動にリターンがさらされることになる。

ビットコインが有効なヘッジ手段だと判断するのは時期尚早である

ビットコインが限られた供給を意図している事実を踏まえ、伝統的なフィアット通貨と比較して減価から守られていると推定し、それを根拠にしてビットコインの支持を唱える向きも多い。これは理論的には理に適っているのだが、ビットコインの価格は外部の影響を受けやすいことが示されている。ビットコインの「クジラ(大口保有者)」は大量に売買して価格を操作する能力で知られており、ビットコインはマネーサプライルールだけではなく、投機勢力によっても支配され得るのである。

もう1つの重要な考慮事項は、規制である。ビットコインやその他の暗号資産は、依然として規制当局、そして法域間で実に多様性に富む法律に翻弄されている。反競争的な法律や近視眼的な規制によって、基盤となる技術の採用が著しく妨げられ、資産価格がさらに下落する可能性もある。ビットコインを有効なヘッジ手段と判断するのは時期尚早であるといえよう。

富裕層への迎合

この論争の背景と対照をなして、別の顕著な傾向がその勢いを牽引している。ビットコインの人気が高まる中、それは一部の裕福な個人や企業を含む消費者の間で、この通貨の採用と機関化を促進し続けている。

最近の調査によると、英国のファイナンシャルアドバイザーの72%がクライアントに暗号資産投資の要領を授けており、半数近くが暗号資産は無相関資産としてポートフォリオを多様化するために利用できると考えている。

また、技術的に進歩的であることで知られる、億万長者のウォール街の投資家Paul Tudor(ポール・チューダー)氏、Twitter(ツイッター)の元CEOであるJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏、Winklevoss(ウィンクルボス)氏兄弟、Mike Novogratz(マイケル・ノヴォグラッツ)氏など、潤沢な個人からのビットコイン支持も相当数存在する。Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)やMorgan Stanley(モルガン・スタンレー)といった有力企業でさえ、ビットコインに有望な資産としての関心を示している。

この勢いが続けば、ビットコインの不名誉なボラティリティは、より多くの富裕層や機関がこの通貨を保持するようになるにつれて、徐々に消滅していくであろう。皮肉なことに、ネットワーク上の価値のこのような増加は富の集中につながり、上流の排他的な1%の影響の下で、ビットコインが何のために作られたかのアンチテーゼとなる可能性がある。

財政思想の古典的な流派に従えば、このことは実質的に個人投資家をより大きなリスクにさらすことになるであろう。機関による売買は、クジラが行うような市場操作に似ていると考えられる。

中核的なエートスとの逆行

ビットコインの人気の高まりは、間違いなくそれを所有する人々を増やすであろうし、最大の富の保有者たちが(例によって)その大部分を手にすることになると主張することもできるであろう。

ビットコインをはじめとする暗号資産サークルにおける、超富裕層の個人や企業に向かう影響力の注目すべき転換は、ビットコインのホワイトペーパーがピア・ツー・ピアの電子現金システムを説明したときに基盤としていたエートスそのものに逆行する。

暗号資産の基本的な理論的根拠には、パーミッションレスで、任意の機関による検閲や統制に耐性がある必要性が含まれている。

今、前記の1%が暗号資産市場のパイのより大きな部分を得ようとしており、伝統的で影響力の弱い個人投資家ができない方法で、短期的にこれらの資産の価格を押し上げている。

この動きは間違いなく少数の者をより裕福にするであろうが、市場を1%の意のままにしかねないという議論すべき論点が存在しており、ビットコインの意図したビジョンと相反することになるであろう。

編集部注:本稿の執筆者Kay Khemani(ケイ・ケマニ)氏は、Spectre.aiのマネージングディレクター。

画像クレジット:Boris SV / Getty Images

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(文:Kay Khemani、翻訳:Dragonfly)

Twitter Blue利用者はNFTをプロフィール写真として使用可能に

米国時間1月20日、Twitter(ツイッター)はユーザーが自分のNFT(非代替性トークン)を見せびらかす仕組みを新たに導入した。NFTはブロックチェーンに保管されたデジタル資産を証明する仕組みだ。同社はNFT Profile Pictures(NFTプロフィール写真)を、iOSのTwitter Blue(ツイッターブルー)サブスクライバーに向けて、同サービスのLabs(ラボ)機能を使って公開する。プロフィール写真にNFTを載せられるのはiOSユーザーだけだが、新しい六角形のプロフィール写真はプラッフォームによらずTwitterユーザー全員に表示される。

サブスクリプションサービスのTwitter Blueはまだ全世界には公開されていないため、NFT Profile Picturesを利用できるのは、同サービスが早期提供されている米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの各国に限られる。

Twitterは以前からNFTへのより本格的な対応計画を示唆しており、プラッフォーム上でちょっとした話題になっていた。多くの暗号化マニアたちは、すでにプロフィール写真に自分のNFTを使っているが、Twitterはユーザーの暗号ウォレットや所有権を証明する正式な手段を提供していなかった。

画像クレジット:Twitter

2021年9月、おびただしい数のアップデートを提供する中で、Twitterは同社のNFT計画を初めて紹介した。当時Twitterは、認証によっていかにクリエーターたちが自分の作品をTwitter上でよりよく展示できるようになるかを強調し、彼らがコレクションを陳列できる方法を検討していると話した。

関連記事:ツイッター「ビットコインのチップ」「NFTの認証」「スペースの録音」、クリエイター向けファンド」など新機能ラッシュ再開

「Twitterは、人々が気にかけていることについて語り合う場所であり、しばしばそこは暗号資産やNFTを初めて体験する場所になります」と広報担当者が発表を伝えるメールでTechCrunchに話した。「私たちは今、人々がNFTをアイデンティティと自己表現の一形態として、さらには繁栄するコミュニティやますます活発化するTwitterでの会話に参加するための手段として使っている人ところを見ています」。

Twitter Blueサブスクライバーがこの機能を利用するには、今までと同じようにプロフィール写真の変更画面へ行く。すると写真の代わりにNFTを選べる新しいオプションが表示される。そこで自分の暗号ウォレットをつなぐ。

開始当初は、Coinbase Wallet(コインベース・ウォレット)、Rainbow(レインボー)、MetaMask(メタマスク)、Ledger Live(レジャー・ライブ)、Argent(アージェント)、およびTrust Wallet(トラスト・ウォレット)がサポートされる。認証が済んだら、自分が見せたいNFTを選ぶ。Twitterによると、現在NFT Profile Picturesでは、Ethereum(ERC-721またはERC-1155トークン)で発行(mint)されたJPEGおよびPNGのNFTを使用できる。

登録されると、そのNFTを見たTwitterユーザーは、プロフィール写真をタップすることでその作品やコレクション、その来歴などを詳しく知ることができる。例えばプロジェクトやコレクションがOpenSea(オープンシー)やその他のサードパーティー・マーケットプレイスで検証されているかどうかがわかる。

今回の公開は、プラットフォームに分散化テクノロジーを導入することへのTwitterの関心の高まりを受けたもので、これまでにも同社は、Bitcoin(ビットコイン)のチップ機能をサポートしたり、暗号化エンジニアリングの責任者に Tess Rinearson(テス・リニアソン)氏を最近採用するなどの動きをみせてきた。また同社は2021年、自身でNFTを発行する実験も行い、そこでは無料でNFTを配布した。

関連記事:ツイッターがNFTを作り始めたらしい、140点のNFTをユーザーに1日限り無料で配布

非サブスクライバーにもいずれこの機能を提供するのかどうか、会社はまだ決定していないが、Twitter Blueユーザーからのフィードバックを見て、いずれ新たな情報を提供するつもりだと話した。

編集部注:OpenSeaの間の悪いダウンのために、Twitterの新機能導入が混乱した可能性がある。

画像クレジット:Twitter

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nob Takahashi / facebook

北朝鮮が2021年にハッキングした暗号資産は約455億円相当(大量破壊兵器にも利用の疑い)

ブロックチェーン分析会社Chainalysisの報告書によると、北朝鮮のハッカーたちは2021年、暗号資産プラットフォームに少なくとも7件の攻撃を仕掛け、約4億ドル(約455億円)相当のデジタル資産を盗み取っていたという。

「2020年から2021年にかけ、北朝鮮が関係したハッキングは4件から7件に急増し、抜き取った総額は40%増えた」と報告書は述べている。

これらの攻撃は、主に投資会社や集中型取引所を標的にしていた。

報告書によると、ハッカーたちは、フィッシング詐欺、脆弱性をつくコード、マルウェア、高度なソーシャルエンジニアリングなどの複雑な手法を駆使して、インターネットに接続された標的組織の「ホットウォレット」から資産を抜き出し、北朝鮮が管理するアドレスに移していた。

「北朝鮮はいったん資産を握ると、それを隠ぺいして現金化するための慎重なロンダリング(資金洗浄)プロセスを開始した」と報告書は説明している。

2021年に標的となった資金は、イーサリアムが58%、ビットコインが20%を占め、残りの22%はERC-20トークンやアルトコインからだった。

また同報告書は、国連安保理の報告を引用して、北朝鮮はハッキングにより盗み出した資金を使い大量破壊兵器(WMD)や弾道ミサイル関連の開発計画を進めているとしている。

分析レポートによると「Lazarus Group(ラザラス・グループ)」と呼ばれるハッカー集団による攻撃だった可能性が高いとのこと。同グループは、北朝鮮の主要な情報機関、朝鮮人民軍偵察総局(RGB)に所属するとみられている。Lazarus Groupは、これまでにもランサムウェア「WannaCry(ワナクライ)」を使った攻撃や、Sony Pictures Entertainment (ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)へのサイバー攻撃に関わった疑いがもたれている。

北朝鮮が盗んだ資金の65%以上は、ミキサー(何千ものアドレスからデジタル資産をプールしてスクランブルをかけるソフトウェアツール)を使ってロンダリングされたという。

また、北朝鮮は、2017年から2021年までの49件のハッキングで得た、1億7000万ドル(約194億円)相当とみられるロンダリングされていない暗号資産も保有している。

「ハッカーたちがなぜこれらの資金を放置しているのかは不明ですが、事件に対する法執行機関の関心が薄れ、監視されずに現金化できるようになることを期待しているのかもしれません。理由が何であれ、北朝鮮がこれらの資金を保有している期間の長さは興味深い点です。自暴自棄で性急な行動ではなく、慎重な計画であることを示唆しているからです」と報告書は述べている。

画像クレジット:RobertAx / Getty Images

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】マイニング業界の転換で訪れる、暗号資産のグリーンな夜明け

気候変動は現代における主要な問題だ。政策立案者から個人まで、誰もが持続可能性とグリーンな行動が社会に浸透するために自らの役割を全うする責任を持っている。

事実、米国から中国まで世界中の政府が気候変動に積極的に取り組んでおり、最近行われた2021年国連気候変動会議、COP26は、 パリ協定の目標に向けた気候変動対策の推進力となっている。

企業もまた大きな責任を負うべく前進を続けており、今や多くの投資家が、財務実績だけでは成功の指標に足り得ないと考え始めている。ESG(環境・社会・ガバナンス)指標、即ち負の外部性(negative externalities)が、社会に役立つ事業活動の真の価値を決めるためにいっそう考慮されるようになった。

その中で、金融インフラを再活性化させるプロセスがますます注目を集めている。Bitcoin(ビットコイン)をはじめとするデジタル資産は、ESG基準をどの程度満たしているのだろうか?この疑問は暗号資産の利用がいっそう幅広い層に行き渡るにつれ、これまでになく重要になってきている。米国では複数のBitcoin先物ETF(上場投資信託)が取引されおり、機関投資家の関与も最高水準に達し、 Standard Chartered(スタンダードチャータード)、 State Street(ステート・ストリート)、Citibank(シティバンク)をはじめとする多くの世界最大級の金融機関が、静かにこの分野で準備を進めている。

規制の明確化も世界でさまざまな人々の参加を可能にし、それぞれのデジタル資産戦略を加速させている。EUの広範囲にわたるMarket in Crypto-assets(暗号資産市場、MiCA)規制フレームワークは、欧州議会で法制化手続きが進められている。一方米国でも、Gary Gensler(ゲイリー・ジェンスラー)氏率いる証券取引委員会が、ステーブルコインと分散型金融(DeFi)のためのフレームワークを明確化する意志を表明している。

デジタル資産が真に主流となり、全世界の投資家のポートフォリオで地位を固めるためには、各国政府と企業が従うべきものと同じ厳格なESG基準の対象にならなくてはいけない。業界が徐々にこの要件を受け入れ、高まる受け入れに呼応して環境自主規制のプロセスを強化していることは特筆すべきだろう。

Bitcoin Mining Council(ビットコイン・マイニング協議会)などの組織は、報告基準を高めることで業界の透明性向上に取り組んでいる。多くの暗号資産ネイティブ組織も、Crypto Climate Accord(暗号資産気候協定)に参加して、暗号資産関連活動にともなう電力消費の2030年までの排出量実質ゼロを誓約している。

しかし、こうしたあらゆる活動にとって、おそらくデジタル資産のエネルギー効率化における唯一最大の貢献は、業界の制御がまったく届かないところで決定されている。2021年5月、中国国務院は暗号資産のマイニングおよび取引を全面的に禁止した。かつて全世界Bitcoinマイニングハッシュレートの44%を占めていた暗号マイニング(採掘)の世界拠点でのこの決定は、採掘者の他の司法権の下への大量脱出を呼び起こした。

これはBitcoinマイニング業界のエネルギー効率化にとって極めて大きな意味をもつ動きだ。電力の石炭依存が高い中国経済を離れ、再生可能なエネルギー形態の多い他の地域へ移動することを意味しているからだ。

北米はこの動きの大きな受益者であり、マイニングハッシュレートの米国シェアは、 4月の17%から8月は35%へと上昇した。カナダのマイニングハッシュレート、9.5%を加えて、今や北米は世界供給の50%近くを占め、全世界マイニングハッシュレートを支配している。

米国のエネルギー生産は全州に分散しているが、この転換はBitcoinマイニングの持続可能性にとって朗報だ。米国は再生可能エネルギーが豊富であることに加えて、大規模なマイニング会社は薄利な業界で競争しており、主要な変動コストはエネルギーであることから、インセンティブは最安値のエネルギー源に移行することであり、その大部分が再生可能エネルギーだという事実がある。

たとえばニューヨーク州はBitcoinハッシュレートで最大級のシェアをもつ州の1つであり、Foundry USAのデータによると、州内エネルギー生成の3分の1が再生可能資源によるものだ。同じくBitcoinマイニングハッシュレートで高いシェアをもつテキサス州も再生可能エネルギー生産の割合を高めており、2019年には電力の20%が風力によるものだった。

さらに、Bitcoinマイニング業界には、電力網にまだつながっていない孤立した再生可能エネルギー源を使用することにインセンティブを与えるという独自の仕組みがある。再生可能エネルギー生成の収益化手段となることで、Bitcoinマイニングが再生可能エネルギー構築をいっそう加速する可能性を秘めている。

こうした再生可能エネルギー源への転換は、反対派に対して、Bitcoinを含むデジタル資産業界全体が持続可能性の精神と一致しながら成功できることを示し始めている。ただしそのような変遷はただちに起きるものではなく、大規模のマイニング事業が新たな地域で再構築するためには長い時間がかかるだろう。

つまるところ、暗号資産の提供する価値がそのエネルギー消費に見合っていることを世に知らしめられるかどうかは、デジタル資産サービスプロバイダーにかかっている。2021年だけでも、デジタル資産の炭素排出量削減は大きな進展を見せており、今後も暗号資産が持続可能性の旅を続けていけば、企業や機関投資家の参入も後に続くだろう。

編集部注:本稿の執筆者Seamus Donoghue(シーマス・ドノヒュー)氏は METACO(メタコ)の戦略的アライアンス担当副社長。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Seamus Donoghue、翻訳:Nob Takahashi / facebook

デジタル証券の第二取引市場を目指す投資プラットフォームRepublicが171億円超を追加調達

スタートアップの世界では、デジタル資産が米国証券取引委員会にとって、いつ有価証券と見なされるか否かについて、山ほど不満が募っている。

多くの人々が規制の暗雲を感じる分野で、創業5年のニューヨーク拠点の投資プラットフォームであるRepublic (リパブリック)が機会を伺っている。多くの企業が特定のデジタル資産と距離を置くべきかどうか悩んでいる中、Republic(CEOのKendrick Ngyueyn[ケンドリック・グエン]氏はGoodwin Procterでの証券訴訟が最初の仕事だった)は「compliant tokenization(規則に準拠したトークン化)」とグエン氏が呼ぶものの第1人者になることを創業時から目指してきた。

そして今同社は、すでに構築したデジタル「証券」の購入と再販のためのコンプライアンスを重視したマーケットプレイスを拡大する大きな野望をほのめかしている。

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グエン氏は先週TechCrunchとの電話で「米国内の主要な取引所でデジタル証券トークンを扱っているところはありません」と語った。つまり、製品やサービスに利用できるユーティリティトークンではなく、その価値が不動産のような外部の取引可能な資産に連動しているトークンのことだ。

扱わない理由の1つは、SECが、Ripple Labs(リップル・ラブズ)が開発した暗号資産であるXRPを、(通貨ではなく)Coinbaseなどの取引所が販売していない「証券」とみなしていることを極めて明確に示したからだ。

グエン氏は、Republicは「有能で良いカスタマーサービスを提供し、米国で証券とデジタル証券の第二の活発な市場を可能にする」取引所があれば「今すぐ提携する」意志があると語った。しかし、そんな取引所は存在しないため「あと1年ソリューションが見つからなければ、Republicはデジタル証券の二次的取引所に投資するか関連会社を通じて直接設立するつもりだ」と語った。

これはRepublicが運営している中で最も野心的なサービスであり、100万人以上のユーザーを集め、大規模な資金調達も行っている。

本日、米国時間10月20日、同社は1億5000万ドル(約171億円)のシリーズBラウンドをValor Equity Partnersのリードで完了したことを発表した。これは2021年3月に発表したGalaxy Interactive、Motley Fool Ventures、HOF Capital、Tribe Capital、およびCoinFundらが参加した3600万ドル(約41億円)のシリーズAラウンドに続くものだ(なお、これらの既存投資家は今回も参加し、Pillar VC、Brevan Howard、Golden Tree、およびAtreidesが新たに加わった)。

現在Republicの従業員は200名で、最新ラウンドの前に、新株発行で5000万ドル(約57億円)以上を、トークンの販売で2000万ドル(約23億円)以上を調達している。

会社はさまざまな調整に忙しく動いている。Republicはすでにいくつかの事業部門からなっており、10ドル(約1140円)から始められる人気の個人投資プラットフォームや、10億ドル(約1141億円)近い資産を管理し、認定投資家をふるいにかけてスタートアップに紹介する民間資本部門から、技術、財務、流通、およびトークン化サービスを提供するブロックチェーンコンサルタント部門まである。

さらにRepubliには、現在スタートアップや暗号資産プロジェクトに資金を配分するクローズドエンド型投資ファンドが2件ある他、Republic Realm(リパブリック・レルム)の名前で運用しているメタバース(仮想空間)とNFT(非代替性トークン)に特化したデジタル投資部門もある。

Republicがどうやってすべてをコントロールしているのかを聞かれたグエン氏は「異なるプラットフォームがあるとは考えていません」として、関心事や預金残高に関わらずあらゆる人にサービスを提供できる会社と考えていると語った。「もし億万長者がRepublicにやっきてきて、100ドル投資するのに時間を使うより10万ドルを配分したいというなら、我々はその機会を提供します。もしあなたが20歳で、20ドルをビデオゲームか不動産か女性起業家に投資したいなら、そのための機会もあります」。

目指しているのは「全人口」の要求に応えることだと彼は述べ、Republicなら培った技術力を駆使して成功できると強く思っている。そこにはある基本理念がある。それは「DeFiとNFTを含めほとんどのトークンは証券である」というRepublicの強い信念だ。その結果「私たちはRepublicのやっていることのすべて、触れるものすべてをなんらかの証券として扱い、米国証券法の既存の枠組みに適合させています」と彼は言った。

他の投資プラットフォームがSECに抵抗したいのならもちろんそれは彼らの権利です。Republicとしては「自分たちの仕事をするために新しいルールや規制を求めません。私たちのやり方は既存の法律、強固な法的根拠に基づいています」。

画像クレジット:Kendrick Nguyen / Republic

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nob Takahashi / facebook