DNAを利用してクモの糸を合成、新繊維を目指すBolt Threads

TechchCrunchは、繊維合成のスタートアップ、Bolt ThreadsのR&Dラボを訪問して、タンパク質からクモの糸を合成するテクノロジーを取材してきた。この繊維はケブラー素材よりはるかに強く、絹糸の特性を備え、自然分解するためアパレルにも他の産業用途にも大きな可能性を秘めている。

我々は2017年に同社がシリーズDで1億ドルの資金を調達したことを報じた。その後、研究は大きく前進したようだ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校で学位を取得した共同創業者でCEOのDan Widmaier(ダン・ウィドマイアー)博士は「現在主流の石油ベースの合成繊維は自然に分解しないためさまざまな問題を引き起こしている。自然素材はこの点で優れているが利用できる量に制限があった」と会社設立の動機を語った。

ウィドマイヤー博士によれば、同社のテクノロジーは自然素材と同じ特性の物質を商用利用できるようキロ単位で合成するものだという。博士は大学でクモの糸の研究を行い、優れた特性に感銘を受けたという。カリフォルニア大学バークレー校でタンパク質合成によりクモの糸を合成するテクノロジーを研究していた、共同創業者で最高科学責任者のDavid Breslauer(デビッド・ブレスラウアー)博士と知り合ったことでBoltが創立された。

ブレスラウアー博士によれば、クモの糸のDNAを解析し、同様の物質を生み出すDNAをイースト菌に移植することで新しい繊維の原料が得られるのだという。ブレスラウアー博士は「大麦からイーストでビールを作るのと同じだ。ただし我々のプロダクトはビールではなくスパイダー・シルクだ」と説明する。クモの巣をささえる糸は引張エネルギーベースで、ケブラー素材の7倍の強度があるという。

Boltでは、一般消費者向け製品としてスパイダー・シルクが広く使えるようにするために、大手繊維企業と協力して開発を継続中だ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

【以上】

食べられるバーコードを開発するTruTagが約8億円調達

TruTag Technologies(トゥルータグ・テクノロジーズ)は、微小な「食べられる」バーコードを開発している。医薬品、食品、電子たばこなどの製品認証に使う。同社はPangaea VenturesとHappiness CapitalがリードしたシリーズCで750万ドル(約8億円)を調達した。資金はテクノロジーの商業化と新しいソリューションの開発に使う。

以前のラウンドと合わせてTruTagの調達総額は2500万ドル(約27億円)になった。クライアントの1つであるPwCは、TruTagのテクノロジーをFood Trust Platformで利用している。Food Trust PlatformはPwCが運営するオーストラリアから輸出する牛肉の品質保証プログラムだ。

TruTag粒子の高倍率画像。1つ1つが食べられる「チップ」で、それぞれが製品の認証に使われる

TruTagsと名付けれれた同社の小さなバーコードは、ナノポーラスシリカを使っている。米食品医薬品局(FDA)から一般に安全と認められている「GRAS「通知があった素材だ。製品またはパッケージに直接印字して供給および物流チェーンを通じて追跡できる。

TruTagはハイパースペクトルイメージングテクノロジーを使用しており、ほかのイメージング方法よりもはるかに多くの波長を処理でき、画像からより正確で詳細なデータを収集できる。バーコードをスキャンすると、製品の製造場所、ロット番号、正規代理店、安全な使用方法に関する情報が得られる。

バージニア大学で材料工学の博士号を取得したTruTagのCEOであるMichael Bartholomeusz(マイケル・バーソロメス)氏はTechCrunchに対し、同社の成長機会がある業界としてブラックマーケットやグレーマーケットで偽造製品が出回る医薬品、栄養補助食品、大麻を挙げた。

TruTagsのテクノロジーのコンセプト写真

「TruTagsの材料はFDA承認済みの錠剤の賦形剤(医薬品の成形の向上に使われる添加剤)だ。医薬品と食品はグローバルな偽造問題の非常に大きな部分を占めている。TruTagのソリューションの特徴である独自の食用性が弊社の重点領域だ」とバーソロメス氏は説明した。

この技術で、例えば電子たばこシステムをロックし、本物のポッドでのみ動作するようにして、市場での偽造ポッドの数を減らすことができる。バーソロメス氏は、TruTagsがCBD(大麻の有効成分)の市場にも近々進出すると述べた。

製品に直接印字が可能であること、口に入れられること、1〜5秒で認証できることがTruTagsがほかの方法とは異なる点だ。バーソロメス氏は、他社の品質保証技術には特殊な記号、インク、ホログラムが含まれているが、これらの製品の多くには高品質のプリンターを必要としたり、消費者の認識能力に依存するという欠点があると指摘する。

先端材料技術へ投資するPangeaのテクノロジーディレクターであるMatthew Cohen(マシュー・コーエン)氏は「PangeaはTruTagとの提携を通して、チームと製品ポートフォリオの拡大に貢献できることをうれしく思う。TruTagの食用バーコード技術は、消費者の信頼を高め、究極的には命を救うのに役立つと考えている。TruTagは、説得力のある高度な材料と材料プロセスの革新によって、増加する薬物の偽造問題などに対処し、世界をより良くしていく」と述べた。

画像クレジット:Brian Pieters / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

英国のバイオテックスタートアップMogrifyが革新的な細胞療法を市場投入へ

再生医療などの分野で、革新的な細胞療法開発の体系化を進めている英国ケンブリッジに拠点を置くバイオテック系スタートアップであるMogrify(モグリファイ)が、1600万ドル(約17億4000万円)という最初のシリーズA投資を決めた。

Ahren Innovation Capital(アーレン・イノベーション・キャピタル)、Parkwalk (パークウォーク)、24Haymarket(トゥエンティーフォー・ヘイマーケット)による今回の投資に先立ち、2月には400万ドル(約4億3500万円)のシード投資を受けており、今日までの合計で2000万ドル(約21億7400万円)の資金を調達している。

Mogrifyのアプローチを簡単に説明すると、大量のゲノムデータを分析し、成熟細胞を、幹細胞の状態にリセットすることなく、ある細胞種から別の細胞種に転換させるのに必要な特定のエネルギーの変化を識別するというものだ。多種多様な治療使用事例に応用できる可能性が非常に大きい。

私たちがMogrifyで行おうとしているのは、そのプロセスを体系化して、これが元の細胞、これが目標とする細胞、これがそれぞれのネットワークの違い。そしてこれが、成熟細胞を別の成熟細胞に幹細胞ステージに戻すことなく転換させなければならない治療介入点である可能性が最も高い場所だとわかるようにすることです」とCEOで投資者のDarrin Disley(ダリン・ディズリー)博士は話す。

博士によると、今のところ15回試して15個の細胞転換に成功しているという。Mogrifyの事業は3つの大きな柱で構成されている。細胞療法のための内部プログラム開発(現在開発中の細胞療法には、増殖軟骨移植の強化、眼損傷の非侵襲性治療法、そして血液疾患の治療が含まれる)。また、免疫療法に使用する細胞の普遍的な供給源の開発も行っている。ディズリー博士によると、それは疾患を食うものとして働くそうだ。

もうひとつの柱は、投機的な知的財産の開発だ。「私たちは特定の細胞の転換を核とし、治療範囲をごく短時間で特定できる立場にいます。テクノロジーの体系的な性質のため、それら細胞の周囲には知的財産が急速に発生し、知的財産の領域が築かれていきます」と彼は言う。提携関係は3番目の柱だ。同社は開発や標的細胞療法の市場投入を他社と共同で行っている。ディズリー博士は、すでにいくつかの提携が決まっているが、まだ社名は公表できないと話している。

Mogrifyはゲノミクスにおけるこの10年間分の研究結果を基礎にしているが、特にFantom 5と呼ばれる国際的な研究活動で得られたデータセットに依存している。その創設者は、優先的にデータセットが利用できることになっている。

「私たちは、その膨大なFantomデータセットからスタートしました。これが基盤です。背景と言ってもいいでしょう。それは米国の2つの都市、シカゴとニューヨークに例えられます。元になる細胞があり、目標となる細胞がある。そして、それぞれのネットワークの背景データ(すべての建物、すべての超高層ビル)をすべて手にしているとします。この2つを比較すれば、その遺伝子発現の差異を識別できます。従って、どの要素がそれらの遺伝子の大きな配列を調整しているのかを特定できます。そうして2つの差異の特定が開始できるのです」とディズリー氏は説明している。

「そして私たちは、その膨大なデータセットにDNAタンパクとタンパク質間相互作用を追加しました。それにより、すべてのデータを重ねて見ることができます。さらにその上に、新しい次世代シークエンスデータとエピジェネティクスのデータを重ねました。そうして、膨大なデータセットが出来上がりました。それは、あらゆる細胞種のネットワークマップを手に入れたことと同じです。これを使えば、細胞の状態を転換させるのに、何回どのような介入が必要かがわかります。しかもシステマチックに。ひとつだけが提示されるのではありません。ランキングが示されます。数百件になることもあります。重複することもあります。なので、例えばひとつの気に入ったものを試してみて、思ったようにいかなかったときは、最初に戻って別のものを選んで試すことができます。もしその要素に知的財産権の問題が関連しているときは、そのネットワークは忘れて別のルートを使用します。そして、ひとたび標的の細胞に辿り着けたなら、そしてそれが調整を必要としていたなら、実際にシークエンスを変更して、最初の状態に戻して再出発ができます。そしてまた、この最適化プロセスを実行します。すると、結果として特許が得られます。物質特許を構成する小さな分子のようなものですが、それが癒しになります。目的が達成できなくても、細胞の構成要素は得られるのです」。

概念から出発して、新しい細胞療法を発見し、市場に送り出すまでに要する時間は、ディズリー博士の話から察するに4年から7年程度のようだ。「GMPに準拠した製造工程の基礎となる細胞種を特定できれば、治療指標に従って調整が行えるようになり、細胞療法を開発し、5年以内には市場に送り出せます」と彼は話す。「小さな細胞が市場で本格的な治療に使われるようになるまで、10年、15年、20年もの時間を要した時代とは違います。患者を治療する際、ほかに治療法がない場合はフェーズ2に進み、安全性および有効性の研究を行います。彼らの疾病という点では、すでに実際の治療が始まっています。もし適切に行えれば、早めの認証が得られます。それがダメでも条件付きの認証が得られます。なのでフェーズ3(試験)に移行する必要すらありません」。

「私たちは人工知能は一切使っていません」と彼は、偏りのないアプローチで使用するのが最も望ましいと主張する巨大で極端なデータ領域の中の企業に投資した経験から強調した。「私が思うに、AIはまだその道を探っている段階です」と彼は続けた。

「本質的にそれは、わずかな量のデータから答えを導き出そうとするものですが、学習に使用したデータ以上の答は出せません。しかもAIの危険な部分は、あなたが認識して欲しいものを認識するように教育されるところにあります。AIは、自分が何を知っているかを知らないのです。このような膨大な細胞ネットワークのデータなどを生成し続けるなら、それと組み合わせることで、機械学習やAIの側面を取り入れてもいいでしょう。しかし、そのデータを持たないAIでは、Mogrifyは決して成り立ちません。データはどうしても必要です。そしてそのデータは非常に複雑であり無数の組み合わせが発生します。それらの遺伝子の規則という面だけでも2000種類の転写因子があります。しかもそれらはネットワーク上でタンパク質間相互作用のために関わり合いを持ちます。そこにはエピジェネティクスの面もあり、後に細胞の微生物叢の効果も加わります。したがって、細胞の表現型に影響を及ぼす可能性のある要素が無数に生み出されるのです。なので、AIを使う際には少々注意が必要です。システムの中で十分な信頼が得られるようになれば、最適化のためのツールとして活用できるでしょう」と語る。

シリーズA投資で得た資金は、Mogrifyの経営の強化と社員の増員に使われる予定だ。これには、業界からの上級管理職や専門家のスカウトも含まれる。また、治療法開発計画の予算にも回される。ディズリー博士によれば、その一環として、Jane Osbourn(ジェーン・オズボーン)博士を会長に迎え入れることが決まっているという。

「私たちは、大手製薬会社から細胞療法の経験を持つ人材を数多く招くつもりです。同時に、製造と配送の経験を持つ人たちも招きます。私たちは、単なる技術系企業では終わりません」と彼は言う。「すでに私たちは大変に大きな力を持っています。技術と早期の創薬のサイドではすでに35名が働いていますが、さらに30名を増員する予定です。しかし、製品を市場に送り出すために、大手製薬会社、細胞療法開発、製造での経験を持つ人間を今後も増やしていきます」。

シリーズAの資金の使い道として、提携先探しも大きな柱になっている。「私たちは、適切な戦略パートナーを探しています。提携関係の中で複数のプログラムが行えるような戦略パートナーと出会いたいと思っています」と彼は言い足した。「そして、細胞転換で特定の問題を抱えている領域との一連の戦略的な取引を重ねます。必要ならば、これらはターンキー契約にできます。それでも私たちは、最前線に立ち、道標となり、特許がありますが、その数は多くありません」。

現在は、今後2年から2年半までの間の十分な資金があるものの、シリーズAをオープンにしたまま、これから12カ月の間にラウンドを最大で1600万ドル(約17億4000万円)まで拡大させることも可能だ。

「興味を示してくれる投資家が大勢います」とディズリー博士は私たちに語った。「今回のラウンドでは、私たちは実際にオープンにはしませんでした。内部の投資者と以前一緒に仕事をしていたとく親しい人たち、そして列を作っていた投資家たちから資金を調達した際には、そうしていました。そのため私たちは、今後12カ月間で額を増やしたくなったときに増やせるようにオープンのままにしています。これがもしシリーズAなら、最大でさらに1600万ドルを調達できたでしょうが、私たちは先に進むことを決めました。できるだけ早く成長して、より大きなシリーズBを目指します」。

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(翻訳:金井哲夫)

昆虫食で食料危機の解決を目指すスタートアップのまとめ「昆虫食カオスマップ2019」が公開

クリエイティブエージェンシーのワンパクは10月10日、昆虫食に関する情報を発信するウェブマガジン「BUGS GROOVE」を創刊し、食料危機に取り組む世界のスタートアップをまとめた「昆虫食カオスマップ2019」を公開した。

このカオスマップでは、TechCrunch Japan読者にはおなじみのイエバエを利用した肥料や飼料の生産プラントを手がけるMUSCA(ムスカ)や、シルクフードの開発や販売を行うEllie(エリー)、米スタートアップでコオロギ粉末を使用したプロテインバー製造のExo(エクソ)などが紹介されている。

BUGS GROOVEは「日本のみならず世界の昆虫食に携わる人達の取り組み、そこに込められた発想や情熱、昆虫食の“今”を発信すると共に、昆虫食の認知や共感を広げ、“未来への可能性”を探っていきたい」と考えているウェブマガジンだという。

ムスリム少数民族に対する人権侵犯に加担した8つの中国企業が米商務省の禁止リストに載る

SenseTimeやMegviiなど、中国のテクノロジー企業8社が、ウイグル族など中国の少数民族に対する人権侵犯に加担しているとして、合衆国政府のエンティティリストに載せられた。米商務省の発表によると、これらの企業を含む、多くが中国政府の政府機関である28の組織は、新絳(シンジャン)ウイグル自治区における「ウイグル族やカザフ人などムスリムの少数民族に対する弾圧や不法拘禁、ハイテクによる監視などの実施に」関与している。

国連によると、新絳地区のムスリム住民の最大12人に1人、すなわちおよそ100万人が抑留所に拘置され、強制労働や拷問の対象になっている。

エンティティリストに載った企業は、米国のサプライヤーから製品を購入するためには新たに許可証を申請しなければならない。しかし承認を得るのは困難で、実質的には米企業とのビジネスを禁じられた形になる。今年始めにエンティティリストに載ったファーウェイの創業者でCEOのRen Zhengfei(レン・ツェンフェイ、任正非)氏は、そのほかの財務的影響に加え、同社は300億ドルを失うことになると述べた

米国時間10月7日にエンティティリストに置かれた政府機関は、新絳ウイグル自治区人民政府公安局とその関連機関だ。テクノロジー企業はビデオ監視メーカーDahua TechnologyとHikvision、AIのYitu、Megvii、SenseTime、およびiFlyTek、デジタル鑑識企業Meiya PicoとYixin Technology Companyだ。

時価総額が世界最大のAIスタートアップSense Timeは、中国政府に国の監視システムのためのソフトウェアを供給した。そのシステムは、CCTVカメラや警官が装着するスマートグラスなどから成る。

Face++のメーカーMegviiとYitu Technologyはともに、顔認識技術に特化し、監視社会的な大量監視システムで使用するソフトウェアに関して中国政府と協働した。The New York Timesによると、Hikvisionは 少数民族を見つけるシステムを作ったが、昨年それを徐々に廃棄し始めた。

Human Rights Watchの2017年の報告書によると、音声認識技術のiFlyTekは新絳省の警察局に声紋技術を供給した。それは、大量監視のためのバイオメトリクスデータベースの構築に使われた。

ブラックリストに載ったことの影響の大きさは、各社の米企業との関わりの深浅にもよるが、しかし貿易戦争以降、米国の技術への依存を減らし始めた中国企業が多い。例えば、鑑識技術のMeiya Picoは中国の国営誌Chinese Securities Journalで、売上の大半は国内企業向けであり、海外は1%に満たない、と言っている。

TechCrunchは8社にコメントを求めたところ、Hikvisionのスポークスパーソンは声明で次のように述べた。「Hikvisionは本日の米政府の決定に強力に反対する。その決定は世界中で人権を改善しようとするグローバル企業の取り組みを妨害するであろう。セキュリティ産業のグローバルなリーダーであるHikvisionは人権を尊重し、米国と世界の人民を真剣に保護すべき責任を担う。Hikvisionは過去12か月政府職員たちと関わってきたがそれは、会社に関する誤解を解消し、彼らの懸念に応えるためであった」。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

米司法省が民間の遺伝データを捜査に使用する際の指針案を発表

米司法省は、民間のDNA分析サービスの遺伝情報を法執行機関が捜査に利用する際の留意点をまとめた暫定的な指針を発表した。

「凶悪犯罪の起訴は司法省の優先事項だ。理由はいくつもあるが、公共の安全を確保し、被害者とその家族に正義と事件の終息をもたらす点は挙げなければならない」とJeffrey A. Rosen(ジェフリー・A・ローゼン)司法長官代行が声明で「加害者を特定できなければ我々は任務を完遂できない。法医・遺伝系図学(遺伝データに基づく家系図情報を犯罪捜査や裁判などで証拠として使う可能性を究明する学問)により、以前は不可能だった問題が解決できるようになった。だが捜査技術の進歩をプライバシーや市民の自由に優先してはならない。求められるバランスをどう取るべきか。その指針を示すため暫定的な方針を発表した」と述べた。

司法省の指針が明確にした最も重要な点は、家系図分析サービスによって判明した遺伝的関連のみに基づいて容疑者を逮捕すべきではないということだ。

遺伝情報を使用して容疑者が特定された場合、捜査で入手したサンプルをFBIの統合DNAインデックスシステム(CODIS)にアップロードされている法医学プロファイルと照合しなけれならない。

司法省によると民間サービスの遺伝子情報が使用できるケースは限られる。未解決の暴力犯罪または性犯罪でDNAが加害者のものであると捜査官が判断する場合、または他殺と疑われる被害者の遺体がすでに発見されている場合だ。

法執行機関が「公共の安全または国家安全保障に対する実質的かつ継続的な脅威」がある犯罪を捜査している場合、検察官は凶悪犯罪以外にも遺伝子系図データの使用を許可する権限をもつ。

司法省によると、民間サービスの遺伝情報を利用する前に、捜査官がFBIの内部システムを検索し、指定された検査官(DLO)が捜査で入手したサンプルを精査する。

「サンプルが単一の出所からのものか、混合物から推定したものかをDLOが判断する」。一般の遺伝子記録と比較する前に「サンプルの量、品質、劣化の程度、混合状態なども評価する」。

新指針のもとで法執行機関が利用できる民間遺伝子データベースの範囲は制限される。運営会社がユーザーに対し、法執行機関による犯罪捜査や遺体の特定にデータが使用される可能性があることを明示的に通知したデータベースに限られる。捜査のために遺伝情報が収集される場合、捜査官は家系図サービスのユーザーから別途同意を得る必要がある(同意によって捜査が妨げられるおそれがある場合を除く)。

新指針の策定は、今年に入って複数のDNA検査サービスが顧客との間の通知や同意なしに犯罪捜査を行う法執行機関にデータを開放したことが明るみに出たことを受けた動きだ。

特に話題になったのは家系図分析サービスのFamilyTreeDNAで、数百万人の遺伝子記録を顧客に通知せずに法執行機関に公開すると決めた。今年1月、BuzzFeedが最初に報じた。

法執行機関が犯罪解決の証拠としてに遺伝子情報に頼るのは今に始まったわけではない。警察は2018年4月、オンラインのDNA・家系図データベースから収集したDNAを証拠として使い、「ゴールデン・ステート・キラー」とみられる男性を逮捕した。犯罪解決のために民間の遺伝子情報が使用された最初の例となった。

FamilyTreeDNAの判断に抗議が相次いだため注目が集まった。民間の遺伝子検査会社に関する規制や、ユーザーが同意した場合の遺伝子情報の使用方法に関する規制がほとんどないことがわかったからだ。

「事実上の国家DNAデータベースに近づいている」と、生命倫理と刑事司法が専門のボルチモア大学の助教授であるNatalie Ram(ナタリー・ラム)氏は当時BuzzFeed Newsに語った。「我々は遺伝的関係を選べないし断ち切ることもできない。我々が自らの意思でできることは何もない」。

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(翻訳:Mizoguchi)

テクノロジーとしての生物学が100兆円規模の産業を再編する

現在、私たちは、2つの大きな危機に直面している。ひとつは地球の健康、もうひとつは私たち自身の健康だ。国連によれば、2050年には世界人口は97億人に達し、人類史上もっとも多くの天然資源を消費するようになると言われている。資源の消費量は、すでに10年から12年ごとに2倍に増えている。それに加えて、地球温暖化という難題がある。人の健康の面では、20歳未満の若者の20%が肥満であり、心臓血管病による死亡率は31%。がん患者は人口増加の2倍の速度で増えている。

だが幸いなことに、生物学とテクノロジーが、人の体だけでなく地球の治療法も確立しようとしている。同時に、テクノロジーとしての生物学の黄金時代と私が確信するものが到来し、その勢いに乗って無数の産業が刷新される。健康科学系のアクセラレーター IndieBio(インディーバイオ)の創設者Arvind Gupta(アルビンド・グプタ)氏は、先日Mediumに寄稿してこう主張した。「地球と人類の双子の災難」は100兆ドル規模の好機を創出すると。

これをどうやって好機に変えるかを説明する前に、この分野の歴史を簡単に振り返ってみよう。生物学は、もちろん、元からあった技術だ。私たちは、生命の積み木をあれこれ組み替えてきた。先祖たちは植物やハーブを薬として、またニームの枝を歯磨きペーストに利用したり、トウモロコシなどの植物を栽培してきた。そうした技術は何千年にもわたり受け継がれている。現代のバイオテック産業が初めて開花したのは、1970年代から1980年代になってからのことだ。

1972年、Robert A. Swanson(ロバート・A・スワンソン)氏はGenentech(ジェネンテック)を共同創設し、バイオテックの誕生に道を拓いた。ジェネンテックはその後、遺伝子組み換え分野のパイオニアとなった。研究室での画期的なDNAシークエンシングを成功させたジェネンテックは、1982年に糖尿病患者のためのヒトのインスリンの合成を可能とし、1985年にホルモン欠乏症で苦しむ子どもたちのための成長ホルモンの生成も可能にした。

黎明期にこの分野を牽引した企業には、 Applied Molecular Genetics(アプライド・モレキュラー・ジェネティクス、現・アムジェン)がある。1989年、慢性腎不全患者のためのヒトエリスロポエチン製剤の初の認証を取り、後にHIV患者の貧血治療にも使われるようになった。昨年、売上高237億5000万ドル(約2兆5800億円)を誇るこの企業がもっとも多く売った薬は、化学療法を受けているがん患者の感染予防に使われるニューラスタと、慢性関節リウマチの治療薬エンブレルだった。

そうした初期の技術を基盤として、今の革新的な研究が行われている。中でも大きな期待を集めているのが、CRISPR-Cas9というゲノム編集技術だ。CRISPRでは、研究者たちが分子のハサミと呼ぶ道具を使い、生きた人間のDNAを切断し、損傷部分を削除したり修復したりできる。ゲノムに変更を加えるため、その個人だけに効果があった従来方法とは異なり、修正されたDNAは遺伝する。この技術を使えば、根絶とまではいかなくとも、がんの進行を遅らせることができる。また、鎌状赤血球症、嚢胞性線維症、血友病、心臓病の予防も可能だ。

中国で世界初のゲノム編集された赤ちゃんが生まれて論争になったように、デザイナーベイビーを作り出すといった懸念もあるが、それは私たちの肉体を守ってくれる。私たちの子供も子孫たちも守ることができる。CRISPR分野を牽引するMammoth Biosciences(マンモス・バイオサイエンシズ)の共同創設者であるJennifer Doudna(ジェニファー・ダウドナ)氏は、CRISPRの力を使って疾患検出を民主化するという使命を掲げている。正確で安価なテスト方法によって、研究室ではなく診療現場での疾患検出を可能にするというものだ。

その他、DNAシークエンシング、細胞工学、バイオプリンティングなどの技術は、動物に由来しないタンパク質、ジェットエンジン用のバイオ燃料、鉄より軽くて強い素材、コンピューター用の記憶装置などの開発につながる。その結果、この分野で頑張るスタートアップは、まったく新しい産業を創造し、古いものを打ち壊して、私が信じる場所へと私たちを導いてくれる。それは、技術としての生物学の黄金時代だ。

成功している企業に、未来のタンパク質を標榜するBeyond Meat(ビヨンド・ミート)がある。植物由来の肉製品で、地球的人口を支えるタンパク質の問題に対処する一方で、牛の問題にも取り組んでいる(牛は土地や水を消費し、腸内ガスはオゾン層を破壊する。言うまでもなく、牛を食べることに罪悪感を覚える人もいる)。この企業の活動は、世界の2700億ドル(約29兆円)規模の食肉産業の破壊をもたらす。

New Culture(ニューカルチャー)の起業家たちも、牛の問題に取り組んでいる。彼らは、工学的に作り出した酵母を使って、牛乳を使わずにチーズを作っている。大豆やナッツから作られる一般的なビーガン用チーズとは違い、本物と同じ味だと称賛されている。

テクノロジーとしての生物学は命を救い、1兆ドル規模の産業を再編する

もうひとつ、破壊される場所は私たちの家庭だ。スタートアップのLingrove(リングローブ)は、亜麻の繊維とバイオエポキシ樹脂で私たちの樹木への依存度と、それに伴う森林伐採を減らそうとしている。同社はEkoa TP(エコアTP)という製品で、建設市場を目指しつつ、800億ドル(約8兆7000万円)規模のインテリア市場を狙っている。この分野の別のプレイヤーにbioMASON(バイオメゾン)がある。コンクリートの製造では、大量の二酸化炭素が大気中に放出される。しかしこの企業は、レンガや建築素材は、従来の加熱や発破といった工程を用いずに、砂から育てることが可能だと証明した。砂に微生物を混ぜることで、サンゴが形成されるときと同じようなプロセスが始まるという。

そして輸送の問題もある。もっとも多く温室効果ガスを排出する分野だ。Amyris(アミリス)は、遺伝子工学で作り出した酵母(つまり砂糖)を環境に優しいガソリンやジェット燃料に変換することで、化石燃料を使わない輸送を目指している。

それだけではない。テクノロジーとしての生物学の物語は、まだまだたくさんある。キノコを革に替えるMycoWorks(マイコワークス)、分子からウィスキーを作るEndless West(エンドレス・ウェスト)、バクテリアでシルクを作るBolt Threads(ボルト・スレッズ)など、革新的な企業がいろいろなことをしている。数gのDNAにデータセンター1つぶんの情報を保存する研究も進められている(マイクロソフトが行っている)。ニューロンからコンピューターを作ろうと考えている企業もある(エアバスが出資している)。

このテクノロジーとしての生物学の黄金時代が、どこへ私たちを導くのか、どれだけの新製品が登場して、どれだけの産業が破壊されてしまうのか、または創出されるのかは誰にもわからない。しかし、1兆ドル規模の市場は再編される運命にある。そして、私たちがより長く健康に生きられる、より健全な惑星が作られることだろう。

【開示情報】ジェネンテックとアムジェンは、1970年代と1980年代にメイフィールドからの出資を受けていた。現在は、マンモス・バイオサイエンシズが出資を受けている。

【編集部注】著者のNavin Chaddha(ナビン・チャダー)は、消費者向け、医療向けIT、企業向けIT関連のアーリーステージの企業に投資するMayfield(メイフィールド)の代表。現在の運用資産は18億ドル(約1950億円)。

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(翻訳:金井哲夫)

バイオテック分野のアクセラレーターPetriが米ボストンで始動

バイオテクノロジーやヘルスケア、材料科学、製造業の分野で新しいイノベーションの柱になりつつある中、米国のリサーチハブの1つであるボストンで、新技術の商業化段階にある企業を支援するアクセラレーターのPetri(ペトリ)が活動を開始した。

ボストン拠点のベンチャーキャピタルのPillar支援の下、Petriは3年間で1500万ドル(約16億円)の資金拠出枠を持っており、企業が食品、ヘルスケア、工業用化学物質、新素材の分野にバイオテクノロジーを応用し、さらに製品を市場に投入するのを支援する。

「潮目が変わりつつある。バイオテクノロジーが人間の健康に関わる分野に影響を及ぼすだけではなく、食品、農業、化学物質、素材にも影響を与えるようになる」とPetriの共同創業者であるTony Kulesa(トニー・クレサ)氏は言う。「我々が触れるものはすべてバイオロジー(生物学)の要素を持っている」。

Pillarはすでに、ボストンを拠点とする大学で研究された新しいバイオテクノロジーを活用する複数の会社に投資している。ボストン拠点の大学には、ボストン大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などが含まれる。

Pillarの投資先であるAsimov,ioは、最終的に産業用の新しいゲノムを設計するという目標を掲げており、ボストン大学とMITの卒業生が共同で創業した。計算生物学のためのテクノロジーの実現に取り組んでいるPathAiも、共同創業者の一人がMITの卒業生だ。また、ハーバード大学のGeorge Church(ジョージ・チャーチ)氏は、ヘルスケアと製造業における最先端の遺伝子工学応用で多くのバイオテクノロジー企業の発展を手助けしてきた。

クレサ氏はMITで講師として7年間過ごし、彼の言葉を借りれば、エンジニアリングが生物学をどのように変えてきたかを目の当たりにした。「はっきりわかったのは、MITのテクノロジーを世の中に出していく必要があるということだ」。

Petriにマネージングディレクターとして加入したシリアルアントレプレナーのBrian Baynes(ブライアン・べインズ)氏は次の4社スタートアップを創業した。動物栄養のスタートアップであるMidori Health、マイクロバイオーム(生物内に存在する微生物・細菌群)をコントロールすることでヘルスケアに役立てるKaleido Biosciences、タンパク質工学および合成生物学の会社であるCelexion、合成生物学ツールキットを開発販売する会社でGinkgo Bioworksに売却されたCodon Devices。

クレサ氏とべインズ氏は、アクセラレータープログラムの参加企業が増えてきたら、1つのコホート(プログラムに同時期に参加するグループ)に10〜20社の企業を入れること考えている。プログラムに参加すると、少なくとも25万0000ドル(約2700万円)の出資が受けられ、またPetriにあるラボスペースとオフィススペースも利用できる。

さらに参加企業には、Ginkgo Bioworks(Petriと同じビルに入っている)などの企業、Petriが確保した著名なアドバイザー、Petriの「共同創業者」と呼ばれるライフサイエンス業界の経営者などとのパートナーシップの可能性もある。

共同創業者全体でPetriの数十%の株式を保有している。共同創業者の中には以下のメンバーがいる。Ginkgo BioworksのReshma Shetty(リシュマ・シェティ)氏、Twist BioscienceのEmily Leproust(エミリー・ルプルスト)氏、Exact SciencesおよびCytycに在籍していたことがあるStan Lapidus(スタン・ラピダス)氏、Insitroの共同創業者兼最高経営責任者であるDaphne Koller(ダフニー・コーラー)氏、Asimovの創業者であるAlec Nielsen(アレック・ニールセン)氏、研究者からはMITのChris Voigt(クリス・ボイト)氏、ハーバードのビース研究所からPam Silver(パム・シルバー)氏とGeorge Church(ジョージ・チャーチ)氏だ。

遺伝子組み換え生物は、食物から燃料、化学まで、幅広く利用されている。遺伝子組み換え大豆製品を使用するImpossible Foodsなどの企業は、代替タンパク質の開発・販売のために数億ドルを調達した。遺伝子組み換え生物を使った化学物質の製造業者であるSolugenは、数千万ドルを調達して独自技術を商品化した。また、Ginkgo Bioworksは5億ドル(約540億円)近くを調達し、生物学をビジネスに応用しようとしている。

「エンジニアリングの考え方が生物学にも及び、この分野に関心を持つ起業家の数は劇的に増加した」と、Pillarの創設パートナーであるJamie Goldstein(ジェイミー・ゴールドスタイン)氏は説明する。「従来のバイオテクノロジーとは異なり、この分野におけるアイデアは実証する前に数千万ドルまたは数億ドルといった巨額の資金を必要としないため、幅広い資金調達方法を検討することができる」。

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(翻訳:Mizoguchi)

農業を根本から考え直すCooks Ventureが約13億円を調達

「あなたは、あなたが食べているものが食べている存在です」と、Blue Apron(ブルー・エイプロン)の元COOで、現Cooks Venture(クックス・ベンチャー)の共同創設者およびCEOのMatthew Wadiak(マシュー・ワディアク)氏は言う。

このほど1200万ドル(約12億8000万円)の投資を獲得したCooks Ventureは、現在の穀物の栽培、家畜の給餌、そして究極的には地球環境を保全する方法を考え直そうとしている。彼らの戦略は三段仕込みだ。

まずCooks Ventureは、小規模の農家と契約し、自社の知的資産を応用して環境再生力のある農法を実践する。それは同時に、自社のおよそ320ヘクタールの農場でも行う。そこでは、土壌を守り、地中に二酸化炭素隔離ができる作物の選定も行う。さらに、地中の二酸化炭素量、養分、その他の生物学的用要因を測定し、生物の多様性を高め、害虫の数を減らす。第一線の気候学者たちも、世界中の農場でこれを実践すれば気候変動は逆転すると信じていると、同社は話している。

しかし、製品としての環境再生型農法はCooks Ventureが目指すものの、ほんのひと切れでしかない。結局、Cooks Ventureは畑で何を作るのか?答はニワトリの餌だ。ただし、ずっと昔から使われてきた餌とはわけが違う。

Cooks Ventureのニワトリの餌は、同社のニワトリ専用に作られるものだ。それは、何世代にもわたって選別された、最高に健康な消化器官を持ち自由に外に出られる今では珍しいニワトリだ。簡単に言えば、10年以上かけて遺伝系列を隔離して作られた「エアルーム・チキン」(Heirloom chicken、先祖伝来のニワトリという意味)だ。このニワトリは暑さにも強い。同社がこれを国際展開しようという段階になったときに、異常に暑い地域でも育てられるということだ。

このニワトリは、さまざまな餌に対応できる。通常の養鶏場で使われている餌よりも、食物繊維やタンパク質が多いものが食べられるので、オメガ3脂肪酸の量が多く、味もいいとワディアク氏は言う。さらにCooks Ventureは事業規模を拡大し、処理工場の拡張にも成功したため、週に最大で70万羽のニワトリを出荷できるようになった。

同社の主要な収益モデルが鶏肉の販売であることは明白だ。現在、FreshDirect(フレッシュダイレクト)とGolden Gate Meat Company(ゴールデン・ゲート・ミート・カンパニー)と提携しており、その他多くの提携小売店も近々発表されることになっている。また同時に、同社のウェブサイトでも並行して販売する。

だが今回の投資金は、収益モデルの上流と下流の構築にも役立てられる。Cooks Ventureは農家と手を組み、環境再生型農法を実践するほかに、この環境再生型農法を利用して単位面積あたりの作物のカロリー量を高める、従って収益が増える方法も教えることにしている。それに伴う知的資産、つまりどの作物を育てるべきか、農場に残すべき樹木や池はどれか、どのように輪作するかといった知識が、彼らの貴重な製品となる。

下流では、Cooks Ventureは同社の遺伝系統の増産に興味のある世界中の養鶏農家や企業と手を組みたいと考えている。

これにより同社は環境再生型農法に特化した初の垂直統合型農業企業となる。

ワディアク氏によると同社の最大の挑戦は、人々に環境再生型農法技術を教え、昔ながらの非経済的で環境にも悪い農業システムから方向転換させることだという。

「米国の農業の97%は穀物であり、その作物のほとんどが家畜の餌になっています」とワディアク氏は言う。「この国の家畜給餌システムに対処して、そのシステムに関する政治的な虚偽を正すためにロビー活動を行わなければ、食糧システムを変革し環境再生農法を確立することは大変に困難になります」

さらに彼は、米国の農家は全有権者の2%であるのに対して、数十億ドルがロビー活動に使われ、トウモロコシと大豆の補助金拡大に賛成するよう国会議員に働きかけていると話していた。

今回の1200万ドル(約1億2871万円)は、AMERRA Capital Management(アメラ・キャピタル・マネージメント)の投資によるものだ。

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(翻訳:金井哲夫)

タイソン・ベンチャーズが植物原料エビのニュー・ウェーブ・フーズに出資

Tyson Foods(タイソン・フーズ)がシーフードの事業に乗り出している。同社のベンチャーキャピタル部門を通じてTysonは植物ベースのエビ代替品を作っている米国サンフランシスコ拠点のNew Wave Foods(ニュー・ウェーブ・フーズ)に出資した。

海洋生物学者のDominique Barnes(ドミニク・バーンズ)氏と、カーネギーメロン大学で生物医工学を学んだテクノロジー責任者Michelle Wolf(ミッチェル・ウルフ)氏によって設立された同社は、長らく消費財を担当してきたMary McGovern(マリー・マクガヴァン)氏が舵取りしている。

消費者がタンパク質源として牛肉を避ける傾向があるいま、シーフードマーケットには数十億ドルのチャンスがある。そしていくつかのスタートアップが植物由来のものや、従来のシーフードに代わる栽培されたタンパク質代替品を手がけている。

実際、Shiok Meats(シオック・ミーツ)は養殖の貝類に取って代わる、ラボで培養した代替品の開発を進めている。

Tysonにとって今回の出資は競争が激しくなっている肉代替品マーケットへの最新の取り組みとなる。

同社はまた株式公開前のBeyond Meatの投資家でもあった。そして、培養肉メーカーのMemphis Meatsにも出資している。

「我々は、急成長している植物由来タンパク質のマーケットへの今回の投資に興奮している」とTyson Venturesの会長であるAmy Tu(エイミー・トゥ)氏は発表文で述べた。「我々は引き続きディスラプティブなプロダクトや、増加をたどっている世界の人口に対応できるようにする我々のコアな事業に関連する最先端のテクノロジーを持つ企業を探し出し、投資することにフォーカスする」。

New Wave Foodsは共同創業者のウルフ氏のもとに食品サイエンティストや、学者、シェフで構成される選りすぐりの開発チームを抱え、海藻と植物性タンパク質によるエビ代替品を開発した。この代替品には肉やシーフードにもある8つのアミノ酸が含まれる。同社はまた、このエビ代替品はカロリーや塩分が本物のエビより低く、コレステロールゼロでアレルゲンも含まないとしている。

「我々のプロダクトはおいしく、あらゆるレシピで本物のエビの代わりに使うことができる」とマクガヴァン氏は発表文で述べた。「シェフや食品サービス事業者は、代替品に対する消費者の増大する需要に応えつつ素晴らしいメニューを展開することができる」。

Tysonはすでに、Raised & Rootedブランドのもとに今年初めに立ち上げた代替タンパク質プロダクトのラインアップを展開している。

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(翻訳:Mizoguchi)

伊藤忠が米国のリサイクル会社TerraCycleと提携、持続可能なリサイクルビジネス参入へ

伊藤忠商事は9月6日、米国のリサイクル業者であるTerraCycle(テラ・サイクル)との資本・業務提携を発表。伊藤忠がリサイクルビジネスに本格参入することを表明した。

TerraCycleは、米国で2001年に2人の大学生が有機肥料の会社として立ち上げたことに始まる。大学のカフェテリアから出る食べ残しをミミズに与えてミミズの堆肥を作り、それを溶かして有機肥料を製造する事業を展開していた。しかし、設立当初は資金が限られていたため、肥料を入れて売る容器を調達できず、ゴミ箱から回収した炭酸飲料のペットボトルを使ったのが、リサイクル事業を始めるキッカケになった。

現在同社は、リサイクル困難な資源を回収し、さまざまな製品に再生する技術を擁する。大手消費財メーカー、小売業者、都市、施設などと連携することで、使用済みのおむつ、たばこの吸い殻、製品の空き容器、パッケージといった従来は埋立地に置くか焼却所で処分するしかなかったモノを回収・リサイクルする事業を米国や日本を含む21カ国で展開している。

具体的なリサイクル事例は国内でも進められている。日本法人であるテラサイクルジャパンは、オートバックスセブンとP&Gと組んで、使用済みの自動車用消臭芳香剤を反射板キーホルダーにリサイクルする活動を行っているほか、3Mのスポンジロクシタンの容器などを回収するプログラムもある。

最近では、スターバックス・コーヒーが2020年までにストローをプラスチック製から紙製に切り替える動きを見せるなど、処分に手間とコストのかかるプラスチックゴミを出さない取り組みも欧米を中心に進んでいる。伊藤忠商事は今回の提携により、TerraCycleが持つリサイクル技術やネットワークを活用して、日本やアジアにおけるリサイクル事業の展開を推進していく。

関連記事:TerraCycle introduces speakers made of candy wrappers, chip bags

農作物への化学物質の影響を低減するバイオ農薬開発のTerrameraが48億円超を調達

農業から化学物質の使用を減らすためにバイオ農薬(生物由来の農薬)や種子処理剤を開発・販売しているカナダのTerramera(テラメラ)がこのほど、4500万ドル(約48億円)の資金を調達した。

この投資ラウンドをリードしたのは戦略的投資家Ospraie Ag Science(オスプライAgサイエンス)、Terrameraのこれまでの投資家であるSeed2Growth Venturesだ。

モンサントの役員だったCarl Casale(カール・カサーレ)氏が率いるOspraie Ag Scienceは、生物農薬や有機農法のための製品のメーカー企業を支援している。Terrameraのほかには、Marrone BioInnovations(マッローネ・バイオイノベーションズ)やAgrospheres(アグロスフェレス)なども同社の支援企業だ。

バンクーバーに本社を置くTerrameraは最初、植物のニーム(Neem、インドセンダン)を使用する農薬を大手スーパーマーケットのTargetなど北米の小売企業で売って注目を浴びた。その製品は、トコジラミやダニなど家庭の害虫やカビがターゲットだ。

同社は今、新製品のActigate(アクティゲート)に注力している。そして今回の資金で研究開発と営業マーケティングの能力を上げたいとしている。

同社の創業者でCEOのKarn Manhas(カーン・マンハス)は声明で「弊社は、世界中の農業における合成化学物質の使用量を、Actigateによって2030年までに80%減らしたいと考えている」と述べている。

同社によるとActigateは、生物農薬と従来からの化学農薬の両方の効果を上げるので農業における化学物質の使用を減らせるという。

Ospraie Agのカサーレ氏は「TerrameraのActigateプラットホームはパラダイムシフトを起こし、生物的殺虫剤の効果を上げて化学製剤に対する競争力を高める。その新しい価値を作り出す機会はとても大きく、またコストと無駄と環境被害を減らしながら従来的なやり方に大きなインパクトを与える」と語る。

この投資の数カ月前にTerrameraは、種子処理剤の技術で多くの特許を持つExosect(エグゾセクト)を買収した

Exosectのパテントポートフォリオには、有機的および化学的な種子処理剤のデリバリを改善するための合成物質が多く含まれており、これがTerrameraの技術開発に大きく進歩させるものと思われる。

買収時にマンハス氏は「この知財を獲得したことによって新たな機会が開け、Terrameraの特許であるActigateの目標性能技術(Targeted Performance technology、特定の害虫だけにしか害を与えないこと)が補完される。その知財ポートフォリオは、安全でより効果的な植物保護製品の開発力を高め、世界の誰にでも入手可能で汚染のない食品を作るというわが社のビジョンを実現可能にする」と語る。

関連記事:Cooks Venture picks up $12 million to rethink agriculture from the ground up[再生可能農業の普及に取り組むCooks Venture、未訳)

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

さまざまな菌類に新種の機能性たんぱく質を作らせるスタートアップ

Y Combinatorの最新の卒業生Shiru(シル)は、食品の技術革命における前衛になろうとしている一連の企業集団の仲間だ。

同社を創業したJasmin Hume(ジャスミン・ヒューム)氏はこれまで、純植物性マヨネーズで有名な元Hampton Creek(ハンプトン・クリーク)、現在はJustの食品化学のディレクターだった。Shiruという社名は、食肉を意味する中国語のshi rouの同音字だ。ヒューム氏はJustで他のチームメンバーとともに多様な植物の組成を調べ、それらに含まれるたんぱく質(プロテイン)やその他の化学物質を識別し分類するという仕事をしていた。

一方Shiruは、計算生物学により、食品産業が求めるさまざまな目的に合った、それぞれ理想的なたんぱく質を見つけるというサービスを提供する。

食品産業のさまざま目的とは、具体的にはいろいろな食品添加物のことだ。求める食品添加物の性質や機能を最も良く満たすたんぱく質をShiruは見つけようとしている。彼らが求める性質とは、粘性のアップ、可溶性、泡の安定性、乳化作用、結合性などだ。

ある意味でShiruのアプローチは、Geltorの初期の製品開発ロードマップに似ている。SOSVIndieBioが支援していたGeltorは、機能性たんぱく質の生産を目指していた。Geltorはこれまで1800万ドルを調達し、そこで方向性を変えて食品ではなく美容産業および化粧品産業のためのたんぱく質をターゲットにした。Geltorが捨てた分野をShiruが拾ったというかたちになる。

起業したばかりのShiruにまだ製品はないが、同社が追究している科学は最近ますます理解が広まっている。ヒューム氏によると、同社は今後何種類かの遺伝子組み換えによる食品原料の開発を目指しているそうだ。その対象となる生物と彼らが作り出す食品原料とは、イースト菌やまだ名前を公表できないバクテリア、そして菌類などが作り出すたんぱく質だ。

ヒューム氏は「分子設計と機械学習を利用して既存のものよりも機能性の高いたんぱく質を見つける。求めるたんぱく質の性質は自然からヒントを得ている」と語る。

Shiruの創業までのヒューム氏の道のりには、血筋の良さが表れている。Justの前に彼女は、材料化学の博士号をニューヨーク大学で取得した。さらにその後彼女は、ニューヨークの最先端テクノロジー系投資企業であるLux Capitalで長期のサマー・アソシエイト(夏期特別インターン)を務めた。

今後の計画としては、今年後半に最初のたんぱく質のパイロット生産、そして少量の継続的生産を2020年内に開始する。同社はこれまでY Combinator以前には外部資本を導入していない。しかし現在は調達の過程にあるそうだ。

画像クレジット: Shiru

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

バイオテック研究者はVCに縛られない大自然での起業を目指す

シリコンバレーの神話は、会社創設者を英雄視する物語がほとんどだ。しかし歴史的に見て、バイオ系企業を起業した科学者が率先して代表になる例は極めて少ない。

新薬の開発は時間を要し、リスキーで費用もかかる。大きな臨床的失敗は当たり前のことだ。そのため、バイオでは非常に高度な専門の知識と経験が求められる。しかし同時に、改変細胞、遺伝子治療、デジタル治療といった新医療の飛躍的進歩により、その価値を生み出す潜在力は、これまでになく大きくなっている。

こうした革新的医療には、会社創設者、会社の設立、事業そのもののまったく新しいモデルが付随している。そこでは、科学者、起業家、そして投資家が、それぞれバイオ系企業をどのように立ち上げるべきかを再考し再発明する必要がある。

過去においては、バイオテック向けのベンチャー投資会社が、専門知識、バイナリーオプションのリスク、独自の「会社創設」モデルによる桁外れの機会の組み合わせを調整していた。このモデルにも、もちろん科学者でもある創業者(サイエンティフィックファウンダー)はいるのだが、実質的に出資し会社を作るのはベンチャー投資会社だ。つまり、科学の進歩といまだ満たされていない医療上の需要とのマッチング、知的財産のライセンシング、アーリーステージのCEOなど重要な役割を果たすパートナーや経験豊富な経営チームの手配など何から何までを、ビジョンの実現のために引き受ける。

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これは、拘束状態で生まれ育てられるスタートアップと言うこともできる。早い時期に手厚い世話や食事を与えることで、確実に大きく育つようにする。ここでは、サイエンティフィック・ファウンダーは、経験豊富な「新薬ハンター」として患者のベッドの脇で機材を操り新たな発見を追求しつつ、助言者としての役割を担うことが多い(通常は大学での本業を続け、新しい知識を身につけ新発見を探る)。

このモデルの最大の目的は、非常に挑戦的な大仕事のリスクを低減させるために適切な専門家をテーブルに着かせることにある。新薬の作り方を生まれつい知っている人間など、1人もいないからだ。

しかし、このモデルを進化させたエコシステムは、それ自体が進化している。計算生物学や生体工学といった新しい分野は、生物学、工学、コンピューター科学を専門とする創設者という新種を生み出した。当然の流れとして、そうした人たちはすでに、専門家としてこの生まれたばかりの分野を牽引している。そうした進歩が、業界に改革をもたらし、注文生産への強い依存態勢から新薬開発を解放する。そこでは、1つの新薬の成功と失敗から得た細かい知識が次の薬のために蓄積され、工学と同じく何度でもやり直しがきく、組み立てブロック式のアプローチが実現する。

遺伝子治療を例にとってみよう。ある病気の患者の特定の細胞に遺伝子を届ける方法を習得すれば、別の病気の患者の別の細胞に別の遺伝子を届けることは格段に簡単になる。つまり、革新的な治療法という恩恵であることに留まらず、新しいビジネスモデルにも可能性が開けるということだ。業界全体にこの遺伝子デリバリー能力を提供できたとしたら、どうだろう。GaaS(Gene-delivery As A Service、サービスとしての遺伝子デリバリー)だ。

創設者はアイデアさえあればいい。それをテストするための費用も変化している。実験を開始するために、まずは完全な研究室を作らなければならない時代は終わった。AWSが技術系企業の創設までの時間を短縮し簡便化したのと同じように、共有研究スペースやウェットラボアクセラレーターのようなイノベーションが、バイオ系スタートアップの旅立ちに必要な資金と時間を大幅に削減した。今では、創設チーム(そして投資家)が早い時期に確信を得られる「キラー実験」が、100万ドル単位ではなく、数千ドル単位で可能になった。

これらはすべてサイエンティフィックファウンダーが行えるようになり、彼らには、会社設立を代行するベンチャー投資家に依存することなく、自力でバイオ系企業を創設するという選択肢が手に入った。すでに、そうしている企業は多い。そのような創設者が立ち上げた新世代のバイオ系企業は、野生児と言ってもいい。現実には楽ではない。周りはジャングルだ。そのため、失敗を繰り返し、素早く学び、本能を磨き、生き残るための技を身につける必要がある。だがその代わりに、改革の力を秘めた工学ベースのバイオプラットフォームにより、生き残った子どもたちはライオンにまで成長できる。

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今日のバイオ系スタートアップには、どちらがよいのだろう。あらゆるリスクと報酬が待つ大自然の中に生まれるか、拘束されて育つか。

「拘束下で育つ」モデルでは、確実性と安全性が約束される。ベンチャー投資家が作ったバイオ系企業は、すぐにでも蓄えと信頼を得ることができる。創設資金は基本的に保証されている。名だたる科学者、企業家、顧問を魅了し、革新的で身軽な態勢、潤沢な資金と広範なサポートネットワークがバランス良く揃ったに環境で彼らをおびき寄せる。私は、そうした企業の初期の役員になれて大変に幸運だった。業界の権威といっしょに仕事ができて、国際クラスのバイオ系企業の作り方に精通した彼らに学べる機会に恵まれた。その複雑な構成要素となる基礎から応用分野におよぶ研究、臨床研究を一から学ぶことができた。ただし、それらには代償がある。

ベンチャー投資家には大きな負担となるため、サイエンティフィックファウンダーの取りぶんは、通常はとても小さい。創設者でCEOになった人間ですら所有権は5%止まりだ。こうした企業には、メディアの注目を集める5000万ドル(約52億6000万円)以上の投資が行われるが、資本は小出しにされる。つまり、予定の目標を達成するごとに施されるのだ。しかし、物事は予定通りに進まないものだ。小出しにされる資本は、セイフティーネットというわけなのだが、目標を達成できなければ、そのネットに体を絡め取られてしまう。

一方、大自然に生まれた場合は、安全性と自由の駆け引きとなる。代わりに会社を作ってくれる人はいない。自分が責任者となり、自分でリスクを負う。私は新卒生となって、ハーバード大学の遺伝子学者のGeorge Church(ジョージ・チャーチ)氏と共同で会社を設立した。自力での起業だ。資金繰りは潤沢どころか飢餓状態だ。しかし、新しいことに挑戦できる自由があり、ヘビメタの野生児オジー・オズボーンの塩基配列を読み取るといった(非)管理実験も行えた。

それはゲノム学革命の開拓時代であり、初代のバイオテック企業の多くがその実験を模倣した。どれも、ベンチャー投資家からの搾取はされていない。それらの企業はみな、闘志溢れる企業家と科学者CEOが作り上げたものだ。たとえば有機化学者でVertex Pharmaceuticalsの創設者であるJoshua Boger(ジョシュア・ボガー)氏は、1989年から新薬開発の新しい方法を実現しようと研究を開始した。それがBarry Werth(バリー・ワース)氏の著書「The Billion-Dollar Molecule」とその続編「The Antidote」に、失敗や不安の末のスリル満点の栄光の物語として取り上げられた。結果として彼の努力は、HIV、C型肝炎、嚢胞性線維症の治療法につながっている。

今日、私たちはバック・トゥー・ザ・フューチャーの時期に来ている。業界は次第に、この新種の科学者企業家によって前に推し進められるようになった。体外診断の会社GeneWEAVEのDiego Rey(ディエゴ・レイ)氏と、臨床研究所のCounsylのRamji Srinivasan(ラムジ・スリニバッサン)氏は、病気の診断方法の変革に尽力し、それぞれの会社を大手ライバル企業にみごとに売却した。

Y CombinatorやIndieBioといった人気のアクセラレーターは、こうした創設者表現型に勢いづけられたバイオ系企業で満ちあふれている。Y Combinatorで最初のバイオ系企業で今はユニコーン企業となったGinkgo Bioworksは、Jason Kelly(ジェイソン・ケリー)氏とMITの生体工学部のクラスメート3人、そして元MIT教授で合成生物学のレジェンドであるTom Knight(トム・ナイト)氏とで設立された。この会社は、業界を広範囲にわたって崩壊させるためのプログラム生物学の革新的な方法を開発しているが、「バイオテックのバークシャー」と彼らが名付けた革新的な複合企業ビジネスモデルの先駆けともなっている。

Ginkgoと同じように、Alec Nielsen(アレク・ニールセン)氏とRaja Srinivas(ラジャ・スリニバス)氏はスタートアップAsimovを設立した。MITで生体工学の博士号を取得した直後から、遺伝子回路で細胞をプログラムするという野心的な研究を行っている。そして、ボガーと同様に、機械学習で知られるスタンフォード大学教授であるDaphne Koller(ダフネ・コラー)氏も、Instiroの創設者でCEOとして新薬開発の改革に取り組んでいる。

薬の作り方と同じく、会社の作り方を生まれつき知っている人間はいない。しかし、この新しい世界では、これらの技術を持つ創設者たちは、それぞれの分野での深い専門性を備えているため、経験豊富な会社経営者よりもアイデアの迷路をうまく歩く能力がある。工学ベースのプラットフォームは、前代未聞の生産性を発揮するまったく新しいアプリケーション、新たな革新の機会、画期的なビジネスモデル、バイオ系企業の新しい作り方を生み出す可能性を秘めている。月並みなシナリオは、もう過去のものだ。

自分の会社を興そうとする創設者は、それでも、企業設立のための面倒な仕事の準備や手伝いをしてくれる投資家が必要だ。しかしそれは、支援、指導、ネットワークへのアクセスを通しての話だ。ここで紹介した新世代の創設者のように、今のバイオ系投資家も、新しい約束を再考(そして再評価)しつつ、得がたい先人の知恵に感謝する必要がある。言い換えれば、バイオ系投資家も学際的になれということだ。さらに、異なる種類のリスクに慣れることも大切だ。つまり、新しい成長途中の分野で、実績のない創設者を支援することだ。そして会社創設者として荒野でチャンスを掴もうと考えるあなたは、自分のことを理解し、信頼し、支援し、そして何より一緒に大きな夢を見てくれる投資家を探すことだ。

【編集部注】著者のホーヘイ・コンデイはAndreessen Horowitzの無限責任パートナー。生物学、コンピューター科学、工学が交わる分野の投資を担当している。

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(翻訳:金井哲夫)

3Dプリント臓器の商用化まであと数歩

生きた細胞を使った血管組織のプリントに成功したことで、3Dプリント組織の開発が加速され、最終的には、わずかな細胞のサンプルから臓器が作れる可能性が見えてきた。

先月末、Prellis Biologicsは、870万ドル(約9億1800万円)の資金調達と、3Dプリントによる臓器の製造に向けた複数の目覚ましい進展を発表した。数多くの大学の研究をベースにしたこの取り組みを、同社は「ボリュメトリック・バイオ」と呼んでいるが、今年の初めには独自の大きな進歩を公表している。

Prellisの新たな成功は、血管組織構造体を研究機関に販売する商用化までのタイムラインをスピードアップさせるものだ。そしてそれは、血管付きの植皮、インシュリンを生成する細胞、人工透析を必要とする患者本人の組織から作った血管シャントへの展望も開けたと、Prellisの共同創設者でCEOのメラニー・マシュー(Melanie Matheu)氏はインタビューの中で話していた。

患者本人の細胞から作る血管シャントは、その方法を成功に導く可能性を高めるとマシューは言う。「そのシャントが失敗すれば、選択肢の幅が限定されてしまいます。胸にポートを付けるしかありません」。Prellisが提案する治療法は、人々の生活の質を高め腎臓移植を待つ人たちの時間を延長できるとマシューは話す。

数カ月前、ライス大学のJordan Miller(ジョーダン・ミラー)氏とワシントン大学のKelly Stevens(ケリー・スティーブンス)氏の2人のバイオエンジニアは、ワシントン大学、ローワン大学、デザイン会社のNevbous Systemの協力を得て、人の肺の機能を模倣する気嚢のモデルを公開した。このモデルは、周囲の血管に酸素を送ることができ、人体に備わってる身体経路を模倣する血管ネットワークを構築できる。

「置換が可能な、実際に機能する組織を作る上での最大の障害は、密集した組織に栄養素を届ける複雑な血管をプリントする技術がないことでした」と、ライス大学のBrown工学研究科准教授のミラーは、声明の中で述べていた。「さらに、私たちの臓器には、実際に独立した血管ネットワークが存在します。肺の気道と血管、肝臓の胆管と血管などがそうです。こうした組織に深く入り込んだネットワークは、物理的にも生化学的にも絡み合い、その構造自体が組織の機能と密接に関わり合っています。我々のモデルは、直接的な完全な方法で多血管化に挑戦できる初のバイオプリント技術です」。

ミラーは、ボリュメトリック・バイオと呼ばれる研究の商用化を目的としたスタートアップを立ち上げた。研究者たちは、オープンソースのライセンスで発見結果を自由に利用できるが、バイオプリンターや素材、試薬などを販売することでこの技術の商用化も目指している。

ミラーのチームが開発している技術は、液体の特定の部分だけが硬化し、残りの部分は流してしまえるよう、光に反応する光反応化学物質を使用している。問題は、こうした化学物質は多くが発がん性であることだ。そこでミラーたちは、伝統的な光反応化学物質に代わるものを、意外なところで発見した。スーパーマーケットだ。

彼らは食品用の着色料が使えると推測し、ミラーはスーパーマーケットへ出かけ、クッキーなどによく使われる着色料を購入したと、Scientific Americanの記事に書かれていた。

「私たちは喜んで奇声を上げました。そのアイデアが気絶するほどシンプルだったからです。それはすぐさま、劇的に複雑な構造体の製作を可能にしてくれました」と彼は記事の中で述べている。

Prellisは、独自の大きな一歩を踏み出した。今回の発見とともに同社は、同社製の血管の足場(スキャッフォールド)を使って、実験動物への腫瘍の移植に成功したことを発表した。この試験がターゲットとする市場は、新しい治療法の効果を人の治験の前に動物実験で実証する創薬だ。

生きた細胞とヒドロゲルを組み合わせたプリントによる構造体は、動物の細胞増殖の足場(スキャッフォールド)を提供するように作られている。スタンフォード大学と共同で進めてきた研究で、Prellisは、わずか20万個の細胞を使って、動物に完全に腫瘍を移植できるようになった。同社によると、通常の腫瘍移植で必要になる細胞の数よりもずっと少ないとのことだ。

同社はこうも強調している。8週間で、彼らは透明な構造体の中に最大50ミクロンの分岐した血管を発見したのだが、これは、その動物の血管系が、その循環器系にスキャッフォールドを受け入れたことを意味するという。

Prellisは実際に、彼らの3Dプリント生物学の研究結果である血管のスキャッフォールドを、研究者向けに製作して販売すると宣伝している。カリフォルニア大学サンフランシスコ校、ジョンズ・ホプキンズ大学、カリフォルニア大学アーバイン校、Memorial Sloan Ketteringがんセンターを含む大学や製薬会社では、標準化された組織の構造体を使った試験方法を研究している(治験には重要なものだ)。

創薬への応用だけでも数十億ドル単位の市場になると、マシューは言う。しかし、同社が最終的に目指しているのは、完全に移植可能な3Dプリントによる臓器だ。まずは腎臓から始める。今年末までには、大型動物を使った移植実験を予定している。

「これまでも今後も一環して私の目標は、人のドナーから臓器を調達した場合とコストを同等にすることです」とマシューは言う。

マシューは、より多くの仕事を熟す必要がある将来を見越して、薬物療法と臓器開発に適した細胞が入手できるサプライチェーンを目指している。

そのため現在の新製品のロードマップは、血管のスキャッフォールドに始まり、血管付きの植皮、インシュリンを生成できる細胞、そして人工透析患者のための血管のシャントへと連続している。

「再生医療は、この数十年感で大きく進歩してきました。しかし、完全な臓器を作るためには、血管系のような、もっと高次元の構造体を構築する必要があります」と、Khosla Venturesの社長アレックス・モーガン博士(Alex Morgan)は声明の中で述べている。「Prellisの光学技術は、そのような大きな組織の塊に必要なスキャッフォールドを提供してくれます。今回の投資で私たちは、最終的には実際に機能する肺葉や、さらには腎臓の生産への取り組みを支援しています。それは、世界中の膨大な需要に応えるものです」

関連記事:移植可能な臓器を3Dプリントできる日は意外に早く来る(未訳)

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(翻訳:金井哲夫)

土壌中のマイクロバイオームを分析して農家の生産性向上を目指すBiome Makersが4億円超を調達

農業は持続可能性の大きな問題に直面している。世界の人口は増え続けていて食糧の需要も増加しているが、それに伴い森林破壊や農薬、それに温室効果ガスの原因とされる一部の肥料の使用が増える危険性もある。農耕は炭素隔離の源でもあるが、でもどうやってそれを保護するのか?また、過剰耕作によって農地の質が劣化している。そして、これだけの問題を抱えながらも農業は他の産業に比べて、長年技術開発が遅れている。

農業と技術といえば、農作物に今起きていることを正しく理解するためには「マイクロバイオーム」(Microbiome)に注目することも重要だ。マイクロバイオームは、一定の微生物相(特定の環境に生息する微生物の総称)の中にある遺伝物質の全体のことだ。例えば、ここでは農耕という圏域内にある微生物の全集合が問題になる。通常マイクロバイオームといえば人間の腸内細菌を指すことが多いが、ここでは農場という圏域内の細菌だ。

土壌の中には何百万種類もの微生物がいて、そのどれもが作物の健康に対し重要な役割を演じている。だから、土壌中の微生物は重要な「バイオマーカー」(生体指標)だと言われる。したがって土壌中の微生物を理解することから、重要なアクションに結びつくデータが得られる。

米国時間8月2日、土壌中の生態系を高度なデータサイエンスと人工知能を使って分析し、農家にデータに基づく知見と行動指針を与えるテクノロジー企業であるBiome Makersが、Seaya VenturesとJME Venturesがリードするラウンドにより400万ドル(約4億2600億円)を調達した。このラウンドにはロンドンのVC LocalGlobeも参加している。同社は調達した資金を、今後の米国やヨーロッパ、中南米などへの進出と、対象作種の多様化、および農作物の評価システムの開発に当てられる。

同社を創ったCEOのAdrián Ferrero(アドリアン・フェレロ)氏とCSOのAlberto Acedo(アルバート・アセド)氏は、前にデジタルヘルスケアのスタートアップで成功し、優秀な科学者でもある。今回は同社の二度目の資金調達ラウンドだったが、前回も国際的な投資家グループから200万ドル(約2億1300億円)を調達している。その中にはDNA配列機器のトップメーカーであるIllumina(イルミナ)のVC部門Illumina Acceleratorと、米辱の指導的投資管理企業のViking Global Investorsがいた。

Indigo AgやConcentric、Pivot Bio、Marrone Bio Innovationsなども同様の技術で微生物の同定を行っているが、Biome Makersは「オープンなデジタルサービスで農家対象のポータルでもあるところは自分たちが唯一だ」と主張している。それはあくまでも微生物学的情報を民主化して、農家が日々の農業の実践に生かせるようにするためだ。

とくに土壌に関してはこれまで、土壌の物理的化学的分析を行う企業が多く、Biome Makersのようにマイクロバイオームに着目する分析企業はあまりメジャーではなかった。しかし同社の説では、それこそが土壌を見ていくための新しい方法であり、これまで農業の実践のために利用されてこなかった重要な情報を提供できるという。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

ガン診断に特化して医師を助けるGoogleのSMILY

ガンの発見と診断は、それで生計を立てている医療専門家にとってさえ複雑で難しいプロセスである。Googleの研究者たちが開発した新しいツールは、不審なまたは既知の癌性細胞に対する画像検索を提供することによって、このプロセスを改善することができるかもしれない。だがそれは、単純なマッチングアルゴリズム以上のものだ。

多くの場合診断プロセスの一環として行われることは、顕微鏡下で組織サンプルを検査して、ガンの特定の形態を示している可能性のある、特徴的な兆候または形状を探すことだ。ガンも体も全て異なっているので、これは長くて骨の折れるプロセスになる可能性がある。そしてデータを検査する人間は患者の細胞を見るだけではなく、それをデータベース中の(場合によっては書籍に印刷された)既知のガン組織とも見比べなければならない。

これまで何年もの間十分に実証されてきたように、類似の画像をお互いに照合することは、機械学習エージェントにとても適した仕事である。それは、1枚の画像を投入すると視覚的に類似のものを発見してくれる、Googleの画像検索を実現しているものと同じ技術だ。そして、この技術は医療プロセスを自動化するためにも使用されており、コンピューターシステムは自身が認識するように訓練されたパターンまたは特徴を有する、X線またはMRI画像上の領域を強調することができる。

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これらは十分役立つものだが、ガンの病理学の複雑さは2つのサンプルの単純な比較を許してくれない。例えば1つは膵臓から、もう1つは肺から取られたサンプルの場合、視覚的には類似していたとしても2つの状況は完全に異なっている可能性がある。経験豊富な医師の「直感」は機械に置き換えられるべきものではなく、医師もまた自分が置き換えられてしまうかもと悩む必要はない。

こうした可能性と限界の両方に気が付いたGoogleの研究チームは、SMILY(Similar Medical Images Like Yours)というシステムを開発した。これは特に組織検査とガン検査のために重点的に拡張された画像検索システムの1種である。

利用者は、患者からの新しいサンプルをシステムに投入する。染色された組織の切片が広げられた、大きな高精細度のスライド画像だ(この方法は標準化されており、長い間使用されている。そうでなければどうやって2つのサンプルを比較すればいいだろう?)。

smilygif

サンプルがツールに投入されたら、医師は通常行うように、それを拡大したり上下左右に眺め回すことができる。興味がそそられるセクションを見つけたら、医師はその周りにボックスを描くことができる。するとSMILYは画像マッチングの魔法を行い、そのボックスの内側の画像をCancer Genome Atlas(タグ付けられ匿名化された膨大なデータベース)全体のデータと比較することができる。

サイドバーに似たような領域が表示され、ユーザーはそれらを簡単に精査することができる。そうした用途に対して、それは役立っている。しかし、SMILYを開発している間に研究者たちは、医者たちが本当に必要としていたものは、もっとはるかに粒度の粗いレベルの情報を得られるようになることだということに気が付いた。全体的な視覚的類似性が唯一の重要なものではないのだ。四角の中のある特徴や、ある種の比率、もしくは細胞のタイプなどが、利用者が探しているものだったりするのだ。

研究者たちが書いているように、

ユーザーが探しているものを実際に見つけるためには、ケースバイケースで検索結果をたどり、絞り込む機能が必要だった。この繰り返し検索の絞り込みの必要性は、医師がしばしば行う「繰り返し診断」を実行する方法に基づいている。すなわち仮説を立て、その仮説を検証するためのデータを収集し、対立する仮説の探索を行い、そして以前の仮説の再検討または再検証を繰り返し行うやりかたである。SMILYが実際のユーザーの真のニーズを満たすためには、ユーザーとの対話に別のアプローチをサポートする必要があることが明らかとなった。

この目的のために、チームはユーザーが興味のあること、つまりシステムが返すべき結果の種類をより厳密に指定できるようにする、拡張ツールを追加した。

まず第1に、ユーザーは彼らが関心のある領域内で1つの形状を選択することができ、システムはそれだけに焦点を合わせて、おそらく気を散らすだけの他の特徴を無視する。

第2に、ユーザーは検索結果の中から有望と思われるものを選択することができ、システムはそれにより近い(ただし最初の照会とはあまり密接に結びついていない)ものを返す。これにより、ユーザーは細胞の複雑な特徴を掘り下げて行くことが可能となり、上で研究者が述べていた「繰り返し」プロセスを行うことができる。

改良点

そして第3に、システムは、融合腺や腫瘍前駆細胞などのような一定の特徴が検索結果に存在する場合に、それを理解できるように訓練された。これらは検索に含めることも除外することもできる。したがって、それがあれやこれやの特徴に関連していないと確信している場合には、それらのサンプルを対象から外すことができる。

病理学者を使ったツールの試用の結果は有望なものだった。医師たちは、そのツールに素早く適応し、公式機能を使うだけでなく、結果を検証したり、ある特徴がありふれたものなのか、それとも実際に厄介なものなのかに関する直感が正しいか否かを確かめるために、問い合わせ領域の形を変えたりしていた。「このツールは、診断の正確さを損なうことなく、従来のもののインターフェースよりも好まれていた」と研究者らは論文に記載している。

これは良いスタートだが、明らかにまだ実験段階に過ぎない。診断に使用されるプロセスは慎重に監視され、吟味されている。人びとの命が依存している流れを、ただ好き勝手に新しいツールを持ち込んで、変えてしまうことはできない。むしろ、これは「専門家の意思決定のための、人間とMLの未来の協調システム」に向けての明るいスタートに過ぎない。いつの日か病院や研究センターのサービスとして組み込まれることだろう。

以下で、SMILYについて説明した論文と、医師向けにSMILYを詳細に説明した論文を読むことができる。これらの論文はもともと今年はじめにグラスゴーで開催されたCHI 2019で発表されたものだ。

画像クレジット: Google

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(翻訳:sako)

イーロン・マスクのNeuralinkは来年から人間の脳とのより高速な入出力を始める

イーロン・マスク氏の主導によって2017年に創業されたスタートアップのNeuralinkは(ニューラリンク)は、「糸」に関わるテクノロジーを開発している。この糸は、現在行われている脳=コンピューターインターフェイスに比べて、周囲の脳組織への影響が圧倒的に少ない形で埋め込むことができると言われている。「ほとんどの人は気付いていませんが、チップを使ってそれを解決することができるのです」とキックオフの場でマスク氏は語った。そこでは会社が解決したいと思っている、脳の不具合や問題について語られた。

マスク氏はまた、Neuralinkが長期的に目指すのは「人工知能との一種の共生関係を達成する」方法を見出すことだとも語った。「これは必ず受け入れなければならないというものではありません」と彼は付け加えた。「これはもし希望するならば選択できる、といった種類のものです」。

とはいえ、現在のところその目的は医学的なものであり、Neuralinkの作製したあたかも「ミシンのように」動作して糸を埋め込むロボットを使うことが計画されている。この糸は信じられないほど細く(人間の最も細い髪の毛の3分の1ほどである直径4〜6マイクロメートル)、人間の脳組織深く埋められて、そこで非常に大量のデータの読み書きを行うことができるようになる。

こうしたことはとても信じられないと思われるし、ある意味それはまだまだ難しいことなのだ。Neuralinkの科学者たちはNew York Times(NYT)紙に対して月曜日に行ったブリーフィングの中で、どのような意味にせよ商用サービスが提供できるようになるまでには、まだまだ「長い道のり」を進む必要があると語った。同紙によれば、沈黙を破って、彼らが現在行っていることに関して語った理由は、よりオープンに公開された場で働くことができるようになるためだ、そうすることでもちろん、より多くの大学や研究コミュニティとの連携が必要な活動がしやすくなる。

ニューラルリンク1

Neuralinkの共同創業者で社長であるマックス・ホダック(Max Hodak)氏はNYTに対して、Neuralinkの技術は、理論的には比較的すぐに利用できるようになるだろうと楽観視していると語っている。たとえば義肢利用して手足を失ったひとが運動機能を取り戻すとか、視覚や聴覚そしてその他の知覚欠損などを取り戻すといったことだ。同社は、来年のなるべく早い時期に、実際に人間を対象とした試験を開始することを望んでいる。実際、その中にはスタンフォード大学やその他の研究機関の脳神経外科医たちとの協力の可能性も含まれている。

「Neuralinkの現在の技術では、超薄型の糸を挿入するために対象の頭蓋骨に実際にドリルを使って穴をあける必要があるが、将来の計画ではドリルの代わりにレーザーを使用して、はるかに負担は少なく基本的に患者に感じられることないほど細い穴を開ける手法に移行していくだろう」とホダック氏はNYTに語っている。こうした説明に即したものが、比較的若いこの会社によって、来年人間に対して行えるかどうかはいささか疑わしいが、それでもNeuralinkは今週同社のテクノロジーを実験室のラットに対して実証してみせた。その結果は、データ転送という意味では現行のシステムの性能を上回るレベルのものだった。Bloomberg(ブルームバーグ)によれば、ラットからのデータは頭につけられたUSB-Cポートから収集され、現行の最善のセンサーに比べて10倍の性能が得られたという。

現行の脳=コンピューター接続手法に対するNeurlalinkの先進性としては、使われる「糸」の薄さと柔軟性も挙げられる。しかし寿命に対する懸念を表明する科学者もいる。時間が経つにつれてプラスチックに損傷を与え劣化させてしまう、塩分を含んだ液体に満たされた脳に対してさらされることなるからだ。また、脳に埋め込まれた複数の電極が脳の外部のチップと無線で通信できるようになる計画もある。このことで、余計なケーブルなどの接続も不要なため、これまでにない動きの自由度を確保しながら、リアルタイムのモニタリングを行うことが可能になるだろう。

この試みの資金の大半を援助し、自らCEOとして働くイーロン・マスク氏は、これまで同社が調達した1億5800万ドル(約171億円)のうち、1億ドル(約108億円)はマスク氏から調達したものだ(残りはSpace X社)。現在のところ90人の従業員を雇用しているが、そのそっけないウェブサイトを見る限り今でも積極的に採用を行っているようだ(現在は本日のライブ映像へのリンクと、基本的に求人情報だけが出ている)。実際イーロン・マスク氏は、米国時間7月17日の発表の冒頭で、本当のところこのイベントの主な目的は、新しい才能を採用することであるとも述べていた。

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(翻訳:sako)

イーロン・マスクが脳直結インターフェイス「Neuralink」をプレゼン

イーロン・マスク氏のステルス・スタートアップの1つがいよいよ表舞台に登場する。米国時間7月16日午後8時(日本時間7月17日正午)に 同社のサイトからビデオストリーミングによるプレゼンが公開される予定だ。2017年に創立されたNeuralink(ニューラリンク)のテクノロジーについて詳しく知ることができるはずだ。

NeuralinkはBCI(脳コントロールインターフェイス)を開発しており、マスク氏の遠大なテクノロジーのビジョンの重要な一環を占める。BCIは人間によるコンピュータのコントロールを改善し、AIがもたらす危険性を大きく減少させルのに役立つという。

そこでこれまでにNeuralinkについて分かっていることを振り返ってみよう。創立当初の目的は(少なくともその後1年程度は)脳に直結するインターフェイスをてんかんなど大脳に起因する慢性疾患の症状の軽減に役立てることだった。この研究の過程で「超広帯域の脳-マシン・インターフェイス」によって人間の脳とコンピュータを直結するテクノロジーが開発されたという。ともあれNewralink自身が公開している情報はこれだけだ。

Wait But Whyにサイトの共同ファウンダーであるTim Urban(ティム・アーバン)氏が発表した記事がNeuralinkが解決を目指す課題に関する最初の詳しい解説だった。私も同じ日にスタートアップの背景と目的を分析する記事を書いた。要約すれば、Neuralinkの使命は宇宙植民計画などマスク氏のほかのベンチャーと同様「人類の存続を脅かす危機」とマスク氏が呼ぶものを避けるための努力といっていいだろう。

Neuralinkの目的は当初の医療テクノロジーという領域をはるかに超えて拡大した。Wait But Whyによれば、医療のような現実の応用からスタートしたのは、コンセプトを実験する上で規制当局を納得させるのに便利だったからだったらしい。マスク氏の最終目的はコミュニケーションにおける「圧縮」過程を取り除くことだというのがTim Urban氏の説明だ。マスク氏によれば、例えば人間がコンピュータと対話するとき、内心の考えをキーボードで打ったり、マウスを操作したりして伝える。このとき、実際の考えは大幅な圧縮を受けている。Neuralinkは情報の圧縮と伸張の過程を取り除く。これにより人間とコンピュータの対話をロスレスで広帯域の直接コミュニケーションに変え、容易化、高速化を実現する。

このテクノロジーが人類の存続を脅かす危機を避けることに関係するというのはこういうわけだ。マスク氏によれば、人類は今後も否応なくAIの発達にさらされ、次第にコンピュータの処理能力が人間を圧倒するようになる。高度なAIを搭載したロボットが世界の支配者になるというドゥームズデー・シナリオを避けるためには、人間が脳を直接コンピュータに接続することでコントロール能力を格段に高めるようにする他ないというのがマスク氏の考えだ。

2年前にはこの最後の目標にはそのまま受け取るのが難しい部分も含まれていた。しかし今日、Neralinkがどこまで達成できたのか、目標設定に変更はあったかのなどについて報告を聞くことできる。Neuralink.comからストリーミングがもうすぐ開始される(日本時間で本日正午)。

画像:DAVID MCNEW / AFP / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

植物由来の代替豚肉をアジア市場向けに開発するPhuture Foods

今週我々は香港のアクセラレーターであるBrincの有力スタートアップ数社と会った。デモンストレーションの大部分はハードウェア製品で、長年Brincの中心をなしている。しかし、このところ食品に特化したスタートアップが増えつつあり、Phuture Foodsは注目株のひとつだ。

Beyond MeatやImpossible Foodsといった米国企業が主として牛肉を模倣しているのに対して、このマレーシアのスタートアップは、植物由来の代替豚肉を先駆けて開発している。豚肉は、同社の初期ターゲット地域でもあるアジア市場で特に需要が高い。数カ月以内に香港で販売を開始し、その後シンガポールにも進出する予定だ。

この製品は小麦、シイタケ、緑豆などさまざまな植物を使用して豚肉の味と食感を模倣している。同社は香港拠点のエンジェル投資家から支援を受けており、ネット通販からスタートして、約5カ月後に地域のスーパーマーケットに展開する。

Phutureの主な特徴はサステナビリティー(持続可能性)で、中国を始めとする人口増加に悩んでいる地域では特に重要な問題になりつつある。価格面では実際の豚肉製品よりも安くすることを目指しており、倫理的、環境的な問題が最優先ではない消費者に対するアピールポイントになるに違いない。

この食品はハラール認証済みであり、マレーシアとシンガポールでは重要な特徴だ。同社はユダヤ教戒律に基づくコーシャ認証の取得や、鶏肉、羊肉の代替品なども検討している。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook