Matt de Silvaが Thiel Capital でヘッジファンドのマネジャーとして働いていた2013年の秋、彼の父が脳腫瘍、それも侵攻性の多形性膠芽腫を患っていることを知った。
この種類の腫瘍の治療方法は限られている。de Silvaの父親は、化学療法と放射線治療を行ったとしても余命が3ヶ月から6ヶ月しかないと宣告された。この種の腫瘍を患う人の時間は15ヶ月程しか残されていない。
de Silvaはその事実に打ちのめされたが、父により良い治療を見つけることを決意した。他の治療法について調べる中で、彼は1つのアイディアに辿り着いた。それは侵攻性の腫瘍に対抗するために、既に認可されている医薬品の分子構造の組み合わせを活用することだった。
「調査する中で、多くの医師と患者がこのアプローチに対して前向きであることが分かったのですが、それを行うには充分なデータがありませんでした。」と彼は言った。
このことはde Silvaを後押しした。彼は、親友で医学部準備教育課程の学生のPete Quinzioと組み、YCの出資を受け、Notable Labsを立ち上げた。Notable Labsは、脳腫瘍患者に対し、それぞれに適した検査を行うことでアメリカ食品医薬品局が承認している化合物の最適な組み合わせを導きだす。これはすぐに医師によって処方することができる。
通常、このようなアイディアがスケールすることは難しい。開発には膨大な時間と費用がかかり、データも充分に揃えるにはそれなりの期間が必要だ。新しい医薬品が手に入れられるようになるまで、平均で29億ドルの費用と12年もの期間を要する。そこまでできたとしても、その間に腫瘍が変異し、その医薬品が効果的でなくなることもある。
Notable Labsは、研究室での運頼みの実験や時間を削減する為に、別のYCの出資を受けるAtomwiseの予測分析手法を使用する。そしてカスタマイズされた装置で、短い時間に何千もの組み合わせの医薬品を検証することを可能にした。
調査する中で、多くの医師と患者がこのアプローチに対して前向きであることが分かったのですが、それを行うには充分なデータがありませんでした。
— Notable Labs 共同ファウンダー、Matt de Silva
2014年の8月、Notable LabsはFounders Fund、First Round Capitalと、Steve Caseが率いる非営利組織のAccelerate Brain Cancer Cureから出資を受けた。Notable Labsは研究者を初めてUCSFから迎え、サンフランシスコのSOMA地区にあるオフィスビルの一階のシェア研究所を借りて活動している。
de Silvaは、シェア研究所内で彼らが借りているデスクスペースやシェア研究所の自由に使用できる高額な設備を紹介して回った。その後、彼らが研究に使用している保存室へと行き、Pythonで走るカスタマイズされた機械の説明をした。
一人の研究者が青いゴム手袋をはめ、ガラスで区切られた実験エリア内でシャーレに乗せた腫瘍細胞を扱っている所だった。de Silvaは、部屋の隅に置かれた保冷庫から赤い溶液で満たされた透明な箱を取り出した。その箱は、ちょうどサンドイッチを入れるタッパー程度の大きさだった。
「液体の中に小さな浮遊物があるのが見えますか?これは、父の腫瘍の細胞です。」と彼は説明した。
de Silvaは脳腫瘍の細胞とそれらの変異した細胞は検証に適していると言う。「これらは、一定のスピード、それも早いスピードで3次元のスフェロイドを形成し、実際の腫瘍をシミュレートします。」と彼は言う。
各種の変異した細胞でも検証を行うことができ、Notable Labsの方法を用いれば、無数にある医薬品の組み合わせを、その場でそれぞれの患者に則したものにアップデートすることができる。
de Silvaは、今度はたくさんの小さな四角に区切られた黒い容器を取り出すと、それぞれの四角の窪みに液体と細胞を入れると説明した。細胞は容器の下の方に沈み、様々なテストが行われる特別な機械へと入れられる。窪みの中には、それぞれ別の組み合わせの化合物が入れられ、どれが腫瘍に対して効果があったかを検証する。医薬品の効果、安全性、腫瘍の抑制といった点から優先すべき医薬品を導きだす。その情報は患者の医師の判断の為に伝えられる。
現在Notable Labsの研究対象は、脳腫瘍の治療に焦点が当てられている。それにはいくつか理由があるが、de Silvaにとって最も重要なことは、脳腫瘍の患者は治療方法の選択肢が乏しいことを解決するということだ。
残念ながらNotable Labsが、de Silvaの父親の病を治す最適な組み合わせの医薬品を見つけるには時間が足りなかった。彼の父が脳腫瘍に屈したのは、一週間半前のことで、それは脳腫瘍の診断を受けてからちょうど15ヶ月のことだった。
父を亡くしてまだ日も浅いが、それでも始まったばかりのスタートアップを前に進められる理由についてde Silvaに聞いた。彼は、父のような脳腫瘍を患う人により良い治療を届けたいという思いが今まで以上に強くなったと答え、その声には固い決意が感じられた。
「父のおかげでNotable Labsがあります。」と彼は言った。
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(翻訳:Nozomi Okuma / facebook)