ダイヤモンドの「NV中心」による温度計測に成功、高空間分解能で高感度な温度センサーに応用できる可能性を発見

ダイヤモンドの「NV中心」による温度計測に成功、高空間分解能で高感度な温度センサーに応用できる可能性を発見

研究に用いた実験装置の概略。左下図は、ダイヤモンド結晶中の窒素-空孔(NV)中心の原子構造を示す

筑波大学(長谷宗明教授)と北陸先端科学技術大学院大学(安東秀准教授)からなる研究グループは3月9日、ダイヤモンドの結晶に作られる格子欠陥を用い、非線形光学効果に基づいた、高空間分解能かつ高感度な温度センサーが実現可能であることを発見したと発表した。ナノメートルの超高速時間領域での量子センシングの実現につながるという。

非接触型の温度センサーには、おもに量子センサーが使われている。なかでもダイヤモンドの中に不純物として含まれる窒素(N)と、その隣にできる炭素原子の抜け穴(V)が対になった「NV中心」の、周辺の温度や磁場を敏感に検知して量子状態が変化する特性を活かした非接触型量子センサーは、高い空間分解能と感度が求められる細胞内計測やデバイス評価装置のセンサーなどへの応用が期待されている。

研究グループは、NV中心を人工的に作りダイヤモンド結晶の対称性を壊すことで、2次の非線形効果であり、入射光に対して2倍の周波数の光を放出する第二高調波発生(SHG)が発現することを以前に突き止めていた。今回の研究では、それを踏まえ、NV中心を含むダイヤモンドに赤外域の超短パルスレーザーを照射し、SHGおよび、3倍の周波数の光を放出する第三高調波発生(THG)の発光強度の温度依存性を調べ、非線形光学効果に基づく温度センサーの可能性を探った。

その結果、NV中心を含むダイヤモンドのSHGから得られる温度センサーとしての感度は、高純度ダイヤモンドのTHGから得られるものの3倍以上も大きいことがわかり、新しい温度センシング技術開発の可能性が示された。

今後は、ここで得られた技術を深め、ナノスケールで超高速時間領域(時空間極限領域)での量子センシングの研究を進めるという。研究グループは、ダイヤモンドのNV中心から引き出される非線形光学効果が、電場や温度のセンシングに幅広く応用できることを示してゆくと話している。

トマトが熟れる際の遺伝子発現を深層学習で予測、遺伝子編集で果実のデザインも可能に

トマトが熟れる際の遺伝子発現を深層学習で予測、遺伝子編集で果実のデザインも可能に

岡山大学は3月8日、AIを使ってトマトが熟れるときに重要となる遺伝子の働きを予測する技術を開発したと発表した。また、「説明可能なAI」(XAI。Explainable AI)と呼ばれる技術を用いてAIの判断の根拠を探ることで、重要なDNA配列の特定も可能にした。その配列を編集すれば、果実の特徴に関する緻密なデザインも可能になると期待される。

果実の色や甘さや香りなどは、数万にもおよぶ遺伝子発現(遺伝子の働き)の組み合わせによって決まる。遺伝子発現は、プロモーターと呼ばれる領域に転写因子というタンパク質が結合して調整されているが、プロモーターのDNA配列には複数のパターンがあり、遺伝子発現は転写因子の複雑な組み合わせによって変化する。そのため、全ゲノム配列の情報がわかっていても、予測はきわめて難しいという。

そこで、岡山大学学術研究院環境生命科学学域(赤木剛士研究教授、増田佳苗氏、桒田恵理子氏)、農業・食品産業技術総合研究機構筑波大学大学院生命環境系九州大学大学院システム情報科学研究院からなる共同研究グループは、深層学習を用いた遺伝子発現の予測と、そこで重要となるDNA配列の特定を試みた。まずは、分子生物学で標準的に使われるモデル植物シロイヌナズナの、転写因子が結合するDNA配列情報のデータベースをAIに学習させ、3万4000以上あるトマトの全遺伝子のプロモーターの転写因子が結合するポイントを予測させた。次に、トマトが熟れる過程の全遺伝子発現パターンを学習させることで、遺伝子発現の増減を予測するAIモデルを構築することができた。

さらに、「説明可能なAI」を用いて、そのモデルで「AIが判断した理由を可視化」することで、予測した遺伝子発現の鍵となるDNA配列を「1塩基レベル」で明らかにする技術を開発した。このDNA配列を改変した遺伝子をトマトに導入すると、AIによる予測と同じ結果が得られた。つまり、トマトのゲノム情報の複雑な仕組みをAIが正確に読み解いたことになる。

この技術は、トマトの食べごろの予測に限らず、果実の色、形、おいしさ、香りなど、様々な特徴に関する遺伝子の発現予測にも応用できるという。また、予測した遺伝子の発現に重要なDNA配列を特定する技術を使えば、遺伝子編集により最適な遺伝子発現パターンを人工的に作り出して、自由に果実のデザインができるようになるとも研究グループは話している。

ロボットの発話に「重み」を加えるとイライラするユーザーに許しの気持ちが芽生える

AIやロボットの発話に「重み」を加えるとイライラするユーザーに許しの気持ちが芽生える

筑波大学は3月1日、ロボットやAIが話すときに、ユーザーの手に「重み」を伝えることで話相手に与える影響を調査した。その結果、ユーザーがロボットに対して感じる真剣さの度合いが有意に高まることが確認され、イライラした感情た抑制される効果も認められたと明らかにした

ロボットやAIの話し方は平坦で、メッセージ内容について感情や意図が伝わりにくい。そこで、人と人のコミュニケーションを仲介する社会的仲介ロボットを研究する筑波大学システム情報系知能機能工学域の田中文英准教授らは、会話に合わせて内部の重りを動かして、ユーザーの手に運動を伝える小型ロボットを開発した。手に持って使用する小さなロボットに、250gのタングステンの重りをいろいろな軌道や速度で2次元運動させられる機構を内蔵し、会話の内容に合わせて重りが動くようにした。


AIやロボットの発話に「重み」を加えるとイライラするユーザーに許しの気持ちが芽生える
研究グループは、このロボットを用いて、筑波大学校内で募集した94人の成人を対象に実験を行った。対話シナリオは、社会心理学の既存研究にもとづいて設計された、ユーザーが怒りやフラストレーションを感じる場面、具体的には、待ち合わせに友人が遅刻してくる場面が使われた。ロボットは、友人からの連絡メッセージを伝えるとき、重りが動く場合と動かない場合の両方を被験者に体験してもらい、その効果を聞き取った。

それによると、重りが動くと、ユーザーはロボットに対して感じる真剣さの度合いが有意に高まることがわかった。そして、ユーザーの怒りの度合いが平均で23%抑制された。また。加害者に報復しようとする思いである「報復的動機づけ」と、加害者を避けようとする思いである「回避的動機づけ」の両方も有意に抑えられた。これらは、他人を許す思いに大きく関わるとされている。このことから、「ユーザーが他人に対して感じる許しの気持ちを促進する可能性」が示唆されたという。

研究グループは、この研究を含め提案している社会的仲介ロボットは「人と人の間に立ち、人と人の関係をより良い形にしていくための仲介を行う能力を備えたもの」だと話している。

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Craig Sybert on Unsplash

萌芽的トピックは少人数による継続的論文発表によって創出―筑波大学が萌芽的トピック創出のプロセスを数量的に解析

萌芽的トピックとノーベル賞級のインパクトのあるトピック―筑波大学が萌芽的トピック創出のプロセスを数量的に解析

研究テーマには、独創的で意外性のある芽生え期の研究である「萌芽的」と呼ばれるものがある。筑波大学(大庭良介 准教授)では、そうした萌芽的トピックの創出の特徴と、研究者の関わり方について、過去半世紀にわたって数量的に解析を行った。その結果、萌芽的トピックとノーベル賞級のインパクトのあるトピックとでは、創出のプロセスが違うことがわかった

今日、世界では数多くの萌芽的研究が発表されるものの、大きく発展するものはごく一部であり、残りは期待された成果を得られずに消えている。これに関して筑波大学は、「萌芽的トピックを把握し、その萌芽する原理を理解することは、科学技術の発展促進に不可欠」と考えた。そこで、生命科学と医学の分野で最大規模を誇るアメリカの文献検索エンジン「PubMed」で検索可能な、この半世紀間に出版された3000万件の論文を対象に、「萌芽的トピックを同定する独自の方法」を用いて解析を行った。

それにより判明したのは、「既存の萌芽的トピックが新たな萌芽的トピックの創出を促す」のが大半であるのに対して、ノーベル賞級の影響力を持つ萌芽的トピックは「それとは異なるプロセスで創出される割合が高い」ということだった。萌芽的トピックを持つ論文は、比較的少人数のチームによって発表されるが、事前に関連トピックの継続的論文発表が行われており、そこで重要性を増している。それに対して、ノーベル賞級トピックは、さらに少人数のチームが、事前の関連論文の発表などがなく突然発表される傾向が強い。このことから、萌芽的トピック創出には、過去の業績を見ることが研究費投資の評価指標として有効であるが、ノーベル賞級研究成果の創出には有効でないことがわかった。

萌芽的トピック創出後の研究者の関わりについては、1990年代半ばまでは、創出された萌芽的トピックが別の研究者の参入により発展していたのに対して、2000年以降は、それを発表した研究者自身が継続的に研究している傾向が見られた。その理由は、トピック外の研究者が参入しにくい障壁が生じているか、他の研究者には魅力のないものになっていることが考えられるという。近年、1つの研究結果を出すのに必要な人的金銭的な資源は増加を続けているものの、それに見合う成果は得られず、投資に対して期待したリターンが得られていない。この研究は「その原因の一端を表している」とのことだ。

生命科学と医学の分野では、実験設備は人員に多大な資金がかかるため、資金獲得が研究の成否に結びついている。しかし、研究費の大きさが本当に萌芽的トピックやノーベル賞級トピックの創出と発展に貢献しているのか、今後は、その投資のあり方について探索を進めるという。

地球温暖化が進み気温が4度上昇すると、「大気の川」による「経験したことのない大雨」が春には約3倍に増えると判明

地球温暖化が進み気温が4度上昇すると、「大気の川」による「経験したことのない大雨」が春には約3倍に増えることが判明筑波大学は1月18日、熱帯から中緯度へと大規模な水蒸気が川のように流れ込む現象「大気の川」(atmospheric river)と東アジアでの豪雨との関係を、気象庁気象研究所との共同研究で明らかにした(筑波大学生命環境系 釜江陽一助教、気象庁気象研究所 川瀬宏明主任研究官)。気温が4度上昇すると、大気の川によって生じる「経験したことのない大雨」は、春には約3倍に増えるという。

北米西岸や欧州では、大気の川が豪雨を引き起こすことはわかっていたが、それ以外の地域で大気の川が生じるメカニズムや、地球温暖化が進行したときの活動の変化に関する理解は進んでいなかった。これまでに研究グループは、東アジアにおける過去60年間の日々の大気の川の振る舞いを調査し、降雨強度のデータとの比較を行い、その発生頻度と強度を明らかにした。また、大気大循環モデルを用いた大規模アンサンブル実験で、地球温暖化が進行すると、大気の川がより頻繁に東アジアを通過するようになることも突き止めていた。

東アジアを通過する「大気の川」の例。2021年4月3日21時に北日本に接近した温帯低気圧(等値線)に伴って、大量の水蒸気が流れ込む(色と矢印)「大気の川」(赤線の範囲)が通過した際の様子

東アジアを通過する「大気の川」の例。2021年4月3日21時に北日本に接近した温帯低気圧(等値線)に伴って、大量の水蒸気が流れ込む(色と矢印)「大気の川」(赤線の範囲)が通過した際の様子

これらの成果を踏まえ、研究グループは、東アジアを対象とした高解像度(水平解像度20km)の地域気候モデルを用いた解析により、大気の川たもたらす豪雨の特性が、地球温暖化によってどう変化するかを調査した。その結果、現在よりも気温が摂氏4度上昇すると、豪雨の発生頻度が、春には約3.1倍、夏には約2.4倍に増えることがわかった。

水平解像度20kmの地域気候モデルを用いた、春季におけるシミュレーション結果例。地球温暖化時に豪雨に相当する強い雨の頻度が増え(左図)、そのうちの大部分が「大気の川」によってもたらされる(右図)

水平解像度20kmの地域気候モデルを用いた、春季におけるシミュレーション結果例。地球温暖化時に豪雨に相当する強い雨の頻度が増え(左図)、そのうちの大部分が「大気の川」によってもたらされる(右図)

大気の川は、標高の高い山地の南西斜面にぶつかり強い雨を降らせる。その際の降雨強度を検証すると、気温が4度上昇した地球温暖化時に発生する豪雨のうち、春は77%、夏は46%が大気の川によって生じるものであることもわかった。北アルプスの上空を通過する水蒸気の流れは、地球温暖化時には「経験したことのない大雨」を振らせるが、その大部分が大気の川の通過によるものとなる。特に台風の接近が少ない春においては、「経験したことのない大雨」のうち大気の川によるものの割合は89%にのぼるという。

この研究により、地球温暖化にともない「経験したことのない大雨」が増えることが予測され、そこに大気の川が重要な役割を果たすことが、世界で初めて解明された。大気の川がもたらす降水特性について、また台風や線状降水帯との相互作用について解明を進めることで、豪雨災害の予測の精度を向上させ、対策に役立てることができるということだ。

画像クレジット:Clay LeConey on Unsplash

物質・材料研究機構と筑波大学、新製法によるダイヤモンド電界効果トランジスターで高い移動度とノーマリオフ動作を実証

新製法によるダイヤモンド電界効果トランジスターで高い移動度とノーマリオフ動作を実証

(a)今回の研究で作製したダイヤモンド電界効果トランジスターの構造。正孔の密度と移動度を正確に評価するために、ゲート電圧をかけながらホール(Hall)効果の測定が可能な構造にした。(b)ダイヤモンド表面を水素プラズマにさらして水素終端化したあと、大気にさらさずArで満たされたグローブボックスに搬入し、その中で劈開(へきかい。鉱物などが特定方向に沿って割れること)した六方晶窒化ホウ素単結晶薄片を貼り付けることで、アクセプターとして働く大気由来の吸着物を低減した

物質・材料研究機構 (NIMS) と筑波大学は1月18日、新しい設計指針に基づいて作製されたダイヤモンド電解効果トランジスターで、高い正孔移動度とノーマリオフ動作を実証したことを発表した。低損失の電力変換や高速情報通信に資する素子の実現につながるという。

ダイヤモンドは、バンドギャップが広い炭化シリコン(SiC)や窒化ガリウム(GaN)と比べても、さらにバンドギャップが広いワイドバンドギャップ半導体としての特性に優れている。そのため、電力を制御するパワーエレクトロニクスや情報通信などにおいて、高電圧・高温・高速・低損失で動作する素子の材料になりえる。だが、これまで研究されてきた、表面の炭素が水素と結合した水素終端ダイヤモンドを使った電解効果トランジスターでは、移動度(電流を担う正孔の動きやすさ)が本来の1/10から1/100に低下するといった問題があった。

そこで研究グループは、これまで使われてきたアルミナなどの酸化物に代えて六方晶窒化ホウ素をゲート絶縁体に使い、水素終端ダイヤモンドの表面を大気にさらさない新しい製造方法を用い、オン状態での移動度が従来の5倍以上という高性能なトランジスターを開発。同時に、安全性の面から重要となるノーマリーオフ動作(ゲートに電圧がかからないときは電流が流れない)も実現された。これまでのダイヤモンド電解効果トランジスターでは、逆のノーマリーオンの状態が示されおり、特にパワーエレクトロニクスにおいては、安全性に問題があった。

さらに、これまで水素終端ダイヤモンドで電気伝導性を生じさせるために不可欠とされていながらトランジスターの性能を制限していた「アクセプター」が不要であることも判明した。

移動度が高くなれば、抵抗を下げて損失を低減できるため、素子の高速化と小型化が実現する。この技術を応用すれば、電気自動車やドローンなどで利用できる低損失で小型の電力変換装置や、携帯電話基地局や人工衛星などで利用できる高出力高周波増幅器などの実現が期待されるという。

筑波大学と神戸大学、世界で初めて1万個以上の原子を含むナノ物質の超高速光応答シミュレーションを「富岳」とOSSで実現

筑波大学と神戸大学、世界で初めて1万個以上の原子を含むナノ物質の超高速光応答シミュレーションを「富岳」とOSSで実現

光と物質の相互作用のイメージ。多数の原子からなる物質(SiO2)の表面に、パルス光が入射し、光のエネルギーが表面の電子やイオンに移行する様子を表している

筑波大学と神戸大学は、スーパーコンピューター「富岳」とオープンソースソフトウェア(OSS)「SALMON」(サーモン)を用い、1万3632個の原子を含むナノ物質の光応答、つまり光と物質の相互作用の第1原理計算に成功したと発表した。1万個を超える原子を含む物質では、世界で初めてとなる。

これは、筑波大学計算科学研究センター神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻からなる研究グループによる、物質に光を照射したときの光科学現象を解明するための研究だ。物質に光をあてると、振動する光の電磁場により、物質中の電子とイオンが揺すぶられる。この電子とイオンの運動が光の伝搬に影響し、光の屈折や反射を生む。このときの、光の電磁場、電子、イオンの運動は、物質科学の第1原理計算法という、物質に含まれる原子の数や種類から量子力学に基づいて電子の状態や物質の構造を調べる方法によって正確に知ることができるのだが、それにはスーパーコンピューターの力が必要となる。

また光と物質の相互作用では、様々な物理法則が関わっているため、光の伝搬、電子とイオンの運動は、それぞれ異なる方程式を用いて計算しなければならない。そこで研究グループは、同グループが開発した、これらの方程式を同時に解き進めることができるSALMONを使用した。富岳では全体の1/6にあたる2万7648ノードを使用したが、この計算のために高度なチューニングを施した。

このシミュレーションでは、厚さ6nm(ナノメートル)のアモルファス状のガラス(SiO2)に、非常に強くて短いパルス光を垂直に照射した。すると、ガラスは不透明になり、光の吸収が起きたことが認められた。また反射波や透過波では、入射光の振動数の数倍から数十倍の振動数を持つ高次高調波の発生も確認された。このことから、パルス光で起きる超高速、非線形現象を計算科学によって「実験の状況そのままにシミュレーション可能」であることが確かめられたという。

ここで使われたSALMONは、光科学実験を「丸ごと計算機の中でシミュレーションする数値実験室の役割」を果たすという。実際の実験では測定が難しいミクロな空間での電子やイオンの運動がもたらす現象の解明に役立つとのことだ。今後は、SALMONが世界標準のソフトウェアとして広く利用されることを目指すと研究グループは話している。

 

睡眠計測サービスの筑波大学発S’UIMINがシリーズBファーストクローズで5億円調達、サービス拡大や新規デバイス開発

睡眠状態を可視化するサービス「InSomnograf」(インソムノグラフ)を提供する「S’UIMIN」は12月20日、シリーズBラウンドのファーストクローズにおいて、総額5億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、長瀬産業と帝国通信工業。累計調達額は約14億円となった。

調達した資金は、健康診断や人間ドックにおけるオプションサービスの拡大、新規デバイスの開発、電極量産のための資金、ビッグデータビジネスに向けての基盤構築などにあてる予定。

InSomnograは「InSomnia」(不眠症)と「Graf」(可視化)を合成した造語。サービス内容は、脳波を測定する独自ウェラブルデバイスから得られた情報をクラウド上のAIで解析し、睡眠状態を高精度で可視化するというもの。サービス利用者はPCやスマートフォンを通じ、その日の睡眠の「経過図」や「簡易評価」を即時的に確認できる。複数晩の計測後に作成するウィークリーレポートも、オンラインで確認可能。

2017年10月設立のS’UIMINは、筑波大学の「国際統合睡眠医科学研究機構」を母体とするスタートアップ。「世界中の睡眠に悩む人々にとっての希望の光となる」をビジョンに、睡眠障害へのあるべき予防・診断・治療の実現を通して、睡眠をキーワードとした健康寿命の延伸を実現を目指し、人類社会に貢献するとしている。

東北大学、ISS日本実験棟「きぼう」に31日間滞在したネズミから宇宙で血圧や骨の厚みが変化する仕組みを解明

東北大学、ISS日本実験棟「きぼう」に31日間滞在したネズミから宇宙で血圧や骨の厚みが変化する仕組みを解明

東北大学は11月17日、国際宇宙ステーション(ISS)に1カ月滞在したマウスを解析し、宇宙旅行の際には、腎臓が中心となって血圧や骨の厚さなどを変化させることを発見した。また1カ月の宇宙旅行では血中の脂質が増え、腎臓で余った脂質の代謝や排泄に関わる遺伝子が活性化していることもわかった。

東北大学大学院医学系研究科の鈴木教郎准教授と山本雅之教授らの研究グループは、JAXA筑波大学と共同でこの実験を実施した。同グループは、ISS日本実験棟「きぼう」に31日間滞在した12匹のマウスの腎臓を解析したところ、血圧と骨量の調整に関わる遺伝子群の発現量が変化していることを突き止めた。また、血液中の脂質が増加していて、腎臓で脂質代謝に関係する遺伝子の発現が増加していることもわかった。

地上では、重力に逆らって姿勢を保ったり血液を体中に押し出す必要があるが、それらを必要としない微小重力環境では、体の基礎的なエネルギー消費量が低下する。これまで、宇宙では重力の変化により、血圧と骨の厚さに変化が起きることはわかっていたが、その仕組みは明らかになっていなかった。今回の研究で、そこに腎臓の遺伝子群が関わっていることが判明したわけだ。

この結果から、宇宙旅行の際には、腎臓の健康状態を確認したり、薬剤などで腎臓の機能を調整するなどの腎臓の管理が重要になるとことが示された。今回得られたデータは、東北メディカル・メガバンク機構とJAXAが共同で整備する公開データベースに登録され、世界中の研究者がアクセスできるようになっている。

筑波大学が「富岳」全システムを使い宇宙ニュートリノの数値シミュレーションに成功、ゴードン・ベル賞の最終候補に選出

筑波⼤学計算科学研究センターは10月28日、宇宙大規模構造におけるニュートリノの運動に関する大規模数値シミュレーションを、ブラソフシミュレーションというまったく新しい手法を用いて、理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」上で成功させたことを発表し、その動画も公開した。この研究論文は、米国計算機学会(ACM。Association for Computing Machinery)のゴードン・ベル賞の最終候補(ファイナリスト)に選出されている。

これは、筑波大学、京都大学、東京大学、理化学研究所の共同による研究。宇宙の銀河の分布を示す宇宙大規模構造は、何も存在しない「ボイド」と、銀河が多く集まる領域が泡の集まりのような形で構成されている。この数値シミュレーションでは、その宇宙大規模構造の中のニュートリノとダークマターの運動が計算された。数十年も前から、N体シミュレーションに代表される粒子シミュレーションと呼ばれる手法での計算は試されてきたが、人工的な数値ノイズが入るなどの問題が解決できずにいた。そこで研究グループは、数値シミュレーションコードを開発し、数値ノイズの影響を受けない、「多数の粒子の集団的振る舞いを記述するブラソフ方程式を直接数値的に解く手法」であるブラソフシミュレーションを採用した。

ダークマターの空間分布。1 h-1 Mpcは約466万光年。

ニュートリノの空間分布。

ただし、この手法は計算量や必要なメモリーの量が膨大になるため、なかなか実現できなかったのだが、⽂部科学省の「富岳」全系規模⼤規模計算実施公募に採択されたことで、「富岳」の全システムが使えることとなった(通常、利用者には「富岳」の性能の一部が割り当てられる)。研究グループは、「ブラソフ方程式の数値解法としては、これまでになく高精度で、かつ演算量の少ないアルゴリズム」を開発し、「富岳」のプロセッサーに合わせてプログラムの実装を全面的に見直すことで、理論ピーク性能の15%という実行性能を達成。さらに「計算ノード間のネットワーク構成に合わせた並列化」により最大96%という高い並列化効率を達成した。その結果、「富岳」の全システムの93%にあたる14万7456ノードを用い、最大で約400兆個のメッシュを使ったシミュレーションに成功した。中国のスーパーコンピューター「天河⼆号」(Tianhe-2)で行われた過去最大の数値シミュレーションと同等の数値シミュレーションが、約1/10の時間で実行できたことになる。

この研究により、ブラソフシミュレーションの大規模な数値シミュレーションが、スーパーコンピューターによって高い並列化効率で実行できることが示された。このことから、核融合プラズマや宇宙の磁気プラズマの振る舞いの研究にも、この手法が適用できるとのことだ。

クモの糸を上回る強度のあるミノムシの糸と導電性高分子を組み合わせた複合繊維材料を筑波大学が開発

クモの糸を上回る強度のあるミノムシの糸と導電性高分子を組み合わせた複合繊維材料を筑波大学が開発

筑波大学数理物質系の後藤博正准教授を中心とする研究チームは10月22日、ミノムシの糸と導電性高分子ポリアニリンを組み合わせ、両方の特徴を併せ持つ複合繊維の合成に成功したことを発表した。クモの糸を上回る強度のあるミノムシの糸にポリアニリンをコーティングすることで、ポリアニリンと同等の導電性や磁性のほか、光ファイバーのような特性があることもわかった。

ミノムシの糸は、弾性率、破断強度、機械的強のすべてにおいて、従来最強とされてきたクモの糸を上回る天然のシルク繊維であることが、近年、知られるようになった。一方、導電性高分子ポリアニリンは、原料が安価で合成も簡単なことから電池の電極や導電性インクなどに使われている。研究チームは、この2つの素材を組み合わせることで、それぞれの特徴以外に、ポリアニリン自体には備わっていない光学的な特徴も併せ持つ繊維材料を作ろうと試みた。

ミノムシの糸を水に浸し、水中でポリアニリンを合成すると、その過程でミノムシの糸にポリアニリンが吸着してコーティングされる。そうして作られた繊維を調べたところ、ポリアニリンと同等の電気導電性が示されたが、繊維の縦方向に異方性も認められた。また、この繊維で電気化学トランジスターを作って電圧をかけたところ、電極間の電流が大きくなった。繊維型トランジスターとしての応用の可能性が見えた。繊維の断面中心から緑色レーザーを照射したところ、光ファイバーのように、レーザー光が繊維に沿って進むこともわかった。さらに、導電性高分子に特徴的なパウリの常磁性(温度変化によらず一定の磁化率を示す)が確認された。

クモの糸を上回る強度のあるミノムシの糸と導電性高分子を組み合わせた複合繊維材料を筑波大学が開発

今後は、この導電性複合繊維で布やケーブルを作る予定だという。そこから、十分な力学的強度と導電性や静電防止機能を持つシートやワイヤーの開発が期待される。また、細い分子ケーブルに活用すれば、神経をモデルにした信号伝達の可能性もあるとのことだ。

筑波大学発の宇宙領域スタートアップ「ワープスペース」が資金調達、累計調達額が約10億円に

筑波大学発の宇宙領域スタートアップ「ワープスペース」が資金調達、累計調達額が約10億円に

筑波大学発の宇宙領域スタートアップ「ワープスペース」は10月6日、シリーズAラウンドのファイナルクローズとなる、第三者割当増資による資金調達を発表した。引受先は、SBI 4&5投資事業有限責任組合(SBIインベストメント)、みずほ成長支援第4号投資事業有限責任組合(みずほキャピタル)など。創業からの資金調達総額は約10億円となった。

今回の資金調達をもって、民間として世界初となる商用光通信衛星であるとともに、世界初の衛星間光通信ネットワークサービス「WarpHub InterSat」を構成する最初の光通信衛星「WARP-02」の開発を加速させる。また、今回みずほキャピタルの運営するVCからの出資により、ワープスペースの株主に3大メガバンクすべての系列ファンドが揃うことになった。

筑波大学発の宇宙領域スタートアップ「ワープスペース」が資金調達、累計調達額が約10億円に

ワープスペースの「WarpHub InterSat」小型光中継衛星群(イメージ)

2016年設立のワープスペースは、前身の大学衛星プロジェクトを含め、これまで2機の通信衛星を打ち上げている。宇宙や人工衛星に関する高い専門性に加え、JAXAをはじめとする研究機関とのパートナーシップ、つくば研究学園都市が保有する豊富な実験・試験設備などを強みに、WarpHub InterSatの実現を目指している。

2023年の実現を目指すWarpHub Intersatは、世界初となる小型光中継衛星による衛星間の光通信ネットワークサービス。地上から500~800キロの低軌道では地球観測などを行う人工衛星の数が爆発的に増えており、WarpHub Intersatによって地上とこれら衛星との間での常時高速通信が可能になり、より多くの観測・センシングデータをリアルタイムに近い形で取得・利用できるようになるという。

筑波大学発スタートアップFullDepthが地域で産業用水中ドローン(ROV)を共有し港湾施設点検に役立てる実証実験に参加

筑波大学発スタートアップFullDepthが地域で産業用水中ドローン(ROV)を共有し港湾施設点検に役立てる実証実験に参加

産業用水中ドローン(ROV。遠隔操作型無人潜水機)の開発を行う筑波大学発のスタートアップFullDepth(フルデプス)は9月21日、国土交通省の「海の次世代モビリティ利活用に関する実証事業」にて産業用水中ドローン「DiveUnit300」(ダイブユニット300)が採択され、機器の提供とROV使用に関する技術的指導を行うと発表した。

日本の沿岸地域や離島地域では、水産業・海上輸送・洋上風力発電・海洋観光など海洋利用が進んでいる反面、それを支える人材が高齢化・過疎化などにより不足し、施設・インフラの老朽化や環境劣化への対応が困難になっているという。そこで国土交通省は、小型無人ボート(ASV)、自律型無人潜水機(AUV)、ROVなど「海の次世代モビリティ」の技術活用と各地域への実装を目指した実証実験を行う。この事業の2021年度(令和3年度)公募でDiveUnit300が採択された。

採択事業名は「ローカルシェアモデルによるROVを用いた港湾施設点検の実用化実験」。ローカルシェア、つまり地域の企業や団体がROVなどの機材などを共有する形で、港湾施設点検を行うというものだ。DiveUnit300は、潜水士の点検業務の一部である目視検査と写真撮影を担う。この作業を実用化し、標準化することが狙いだ。

この実証実験は、静岡県清水市の清水港で行われる。9月27日のキックオフミーティングで始まり、ROVの操作研修に続き、10月上旬から実験が行われる。12月中旬に評価が行われ、2022年3月に結果報告会が開かれる予定。

DiveUnit300は、7基の推進器を備え、水深300mまで潜行可能。有線操作は3.7mmという細い光ケーブルで行われるので、水中の抵抗を受けにくく、機動力と安定性が保たれる。コンパクトにパッキングできるので持ち運びも楽に行える。またオプションとして、水中視界が悪い状況でも調査が行える「マルチナロービームソナー」、自己位置を把握できる「USBL音響測位装置」、濁った水中の映像を補正する「画像鮮明化装置」などが用意されている。

 

「日本版StartX」目指す東大1stROUNDが東京工業大など4大学共催の国内初インキュベーションプログラムに

スタンフォード大学の卒業生が運営するStartXをご存知だろうか。これまで700社以上のスタートアップを生み出したこの非営利アクセラレータプログラムは、同大学出身者からなる強力なスタートアップエコシステムの形成に寄与している。

このStartXの「日本版」を目指し誕生した、東京大学協創プラットフォーム(東大IPC)主催のインキュベーションプログラム「1stROUND」は、新たに筑波大学、東京医科歯科大学、東京工業大学の参画を発表。国内初の4大学共催のインキュベーションプログラムとして始動する。

「株を取得しない」インキュベーションプログラム

1stROUNDは、ベンチャー起業を目指す上記4大学の学生や卒業生を主な対象として、最大1000万円の資金援助と事業開発環境を6カ月間提供するインキュベーションプログラムだ。その目標は、設立後間もないベンチャーの「最初の資金調達(ファーストラウンド)」の達成までをサポートするということ。実際に、1stROUNDの採択企業34社のうち90%が、VCからの資金調達に成功しているという。

1stROUNDの大きな特徴は、最大1000万円の資金提供をするにも関わらず「株を取得しない」ということだろう。これは、採択したベンチャーが後に大成功を収めることになったとしても、1stROUONDとしては直接的な利益を享受しないことを意味する。また同プログラムには、パートナー企業としてトヨタ自動車、日本生命、三井不動産など業界を代表する大企業が名を連ねているが、これらの企業も「無償」で同プログラムに資金を提供している。

画像クレジット:東大IPC

一見したところ「1stROUNDには投資家として参加するインセンティブがないのでは」と考えてしまうが、東大IPCやパートナー企業にも大きなメリットが存在する。それをわかりやすく示す例が、2020年4月に設立されたアーバンエックステクノロジーズだ。スマートフォンカメラを活用して道路の損傷箇所を検知するシステムを開発していた同社は、1stROUNDに応募して採択された企業の1社である。

当時、創業約5カ月にすぎなかったアーバンエックスに起こったことは、1stROUNDのパートナー企業である三井住友海上火災保険との戦略的提携だった。日本最大級の損害保険会社である同社は「ドラレコ型保険」を展開しており、約300万台のドライブレコーダーを保有する。これにアーバンエックスのAI画像分析技術を搭載することで、ドラレコ付き自動車が日本全国の道路を点検できるようになった。同プログラムを創設した水本尚宏氏は「1stROUNDのネットワークがなければ、まず実現し得なかったことだと思います」と話す。

その後、アーバンエックスはVCからの資金調達を成功させるが、そのリード投資家となったのは東大IPCの「AOI(アオイ)1号ファンド」だった。同ファンドは、1stROUNDと同じく水本氏が2020年に設立し、パートナーとして運営している。つまり、1stROUNDでは採択したベンチャーの株を取得することはないものの、のちにAOIファンドで出資を行い株を取得することができるので、東大IPCとしても将来的に利益を確保することが可能になる。

1stROUNDで支援を受けるベンチャーは、無償での資金提供に加えて大企業とのネットワーク支援を受けられる。一方でパートナー企業は「誰の手にもついていない」ベンチャー企業の情報収集や、戦略的提携の可能性がある。そして、東大IPCにとっても後のファンド投資につながる可能性がある。1stROUNDは、三者にとってメリットがある見事な仕組みといえるだろう。

画像クレジット:東大IPC

AOI 1号ファンドは240億円超に増資

これまで主に東大の学生や卒業生などを対象として運営してきた1stROUNDは、今後東京工業大学・筑波大学・東京医科歯科大学を含めた4大学に門戸を広げる。また、企業の一事業や部門を新法人として独立させる「カーブアウト」を主に扱うAOIファンドも、設立時の28億円から241億円への増資を発表し、さらに勢いに乗りそうだ。

1stROUND、AOIファンドの運営を行う水本氏はこう語る。「私達は『ファンドとしてきちんとリターンを出す』ことを目指しています。当たり前と思われるかもしれませんが、上から『儲からない案件をやれ』と言われがちな官民ファンドは、この基本的な部分が緩みがちなのです。しかし私は、1stROUNDのプレシードや、AOIファンドのカーブアウトといった、一般的に難しいとされる分野で成果を出したい。『こういう投資が儲かる』ことを証明し、民間VCや企業が参入してきた結果、エコシステムが大きくなると思うからです。私たちが民間VCと同じくらい、もしくはそれ以上にきちんと儲けることが、ゆくゆくは日本のためになると信じています」。

成功事例に乏しい分野にあえて挑戦し、国益に資することを目標とする東大IPC。数年後、ここから世界を驚かせるベンチャーがいったい何社出てくるか、楽しみだ。

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