英会話カフェサービスを展開するLanCul(ランカル)は7月8日、京都に拠点を持つ栖峰投資ワークスが運用するイノベーションディスカバリー1号ファンドとエンジェル投資家を引受先とした第三者割当増資、および三井住友銀行からの借入により、総額約1.2億円の資金調達を完了したことを明らかにした。今回の調達は、2018年9月に発表した約5600万円の調達に続くものとなる。
コロナ禍でオンライン化が進んだLanCul
LanCulは2013年2月創業。カフェやバーと英会話を組み合わせた、いわゆる「英会話カフェ」サービスを展開する。直営店の下北沢以外では、現在、東京近郊で20店舗のカフェ・バーと提携し、空席をシェアする形で“英会話を楽しむ空間・コミュティ”を提供している。
サービスは、グループトークの「CONNECT」、マンツーマンの「MY CONNECT」とイベント参加型の「HANGOUT」の3種類。中核サービスのCONNECTでは、「メイト」と呼ばれる海外出身のスタッフとの会話を少人数グループで、各店舗またはオンラインで楽しめる。
CONNECTの料金体系は、いつでも通い放題のプランで月額1万9980円、平日夕方のみ通い放題のプランが月額1万2980円、平日午後のみ、または土日祝日のみ通い放題のプランでは、それぞれ月額9980円(いずれも税抜価格)。このほかに月4回・月2回利用可能なプランと、単発で1セッション(50分)だけ利用できるプランがある。月額制の通い放題各プランでは、規定の日時の範囲内であれば、何回でも、何時間でも利用が可能だ。
オンラインでのセッション機能は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて4月1日から始まったものだ。LanCul代表取締役CEOの阪野思遠氏は「オンラインとオフラインの両方を、シームレスに体験できるようにした。通い放題も、オンラインとオフラインのどちらでも実現できるようになっている」と話している。
LanCulでは専用アプリまたはブラウザのマイページで、話したいメイトと場所・時間からセッションを選択して予約するのだが、オンラインセッションについても、店舗のセッションと同じ感覚でワンタップで予約が可能。この機能は、ビデオ通話の部分にはZoomを利用し、2週間で開発したという。来月からは、現在空いているセッション・メイトをリアルタイムで選択して、すぐに参加できるアップデートも予定しているそうだ。
今回、オンラインセッションを加えるために、アプリ・マイページのインターフェイスを改善したことで、「これまでLanCulが課題としていたことも、あわせて解決できた」と阪野氏はいう。「ユーザーは、全21店舗プラス、オンラインまで選べるとなると、何を選べばいいか選択肢が多すぎて迷ってしまう。そこで選択の流れをサジェストできるように、各ユーザーがフォローしているメイトや、よく行く場所を優先して表示できるようにした」(阪野氏)
以前から阪野氏は「コミュニティの濃さによる安心感がLanCulの特長」と話しているのだが、今回のUI/UX改善のメリットについても「よく知ったメイトやメンバーがいることで、ホーム感が生まれて、通うのがおっくうにならない」ことだと語っている。
調達でコミュニティの強化をさらに重視
コミュニティ重視という面では、2018年11月から提供されている、国際交流イベントの「HANGOUT」がある。カフェを飛び出して、メイトとアクティビティや文化を体験できる少人数のイベントだ。以前はカラオケやピクニックなどのイベントが行われていたが、外出自粛や緊急事態宣言の発令を受けて、現在はメイトが企画する異文化体験をオンラインで楽しむ形式で提供されるようになっている。
HANGOUTイベントのオンライン化を試みたLanCulでは、オンライン飲み会などを開催。これも「評判が良かった」と阪野氏はいう。
「コロナの影響もあるが、情緒的なつながりが僕らのサービスには求められている。利便性だけでなく、コミュニティ、居場所としてLanCulを使ってもらいたい。以前から、カフェには営業時間があるので、終了後にメンバーが『もうちょっと話したいね』ということでラーメンを食べに行くとか、自然発生的に場所を変えて話を続けることはあった」(阪野氏)
資金調達によって、こうしたコミュニティの機能を強化したいと話す阪野氏。そこで、これまで月額2980円の追加料金が必要だったHANGOUTを、CONNECTなどで月額通い放題プランを利用するマンスリーメンバーには、8月から無償で開放する予定だという。「当初はオプションサービスとしてHANGOUTを立ち上げたけれども、お金を取るものとしてではなく付加価値としてアドオンすることで、コミュニティとしての英語サービス、英会話が実現できるのではないかと思っている」(阪野氏)
前回調達時の取材で、中国出身の阪野氏は自身の経験から「カルチャーを受け入れて好きになること、知りたいと思う気持ちができたことで、友人もできるようになり、言葉もわかるようになった」「コミュニケーションの濃さ、モチベーションの高さが外国語を身に付けるには重要」と話している。
今回も「英会話で継続が大事というのはみんな分かっている。ただ、それをどう達成するかの方法論や環境がないだけ。そこで僕らが自然とモチベーションが上がるような環境を作れば、結果的に普通に勉強していたときよりも上達する、というのがLanCulのコンセプトのひとつ」と阪野氏は語る。
調達資金の使途として、阪野氏はさらに「データサイエンス、リコメンドのアルゴリズムの強化も図る」と話している。
阪野氏はLanCulがユーザーに喜ばれている点を次のように説明する。「英会話スクールで1人の講師に10回教わるとなると、新しい発見がなく、飽きてしまう。一方、講師と都度マッチングする英会話サービスは、10人の講師に1回ずつ、5人の講師に2回ずつといった形で当たることで、新たな発見はあるが、毎回はじめから自己紹介するようなもので、コミュニケーションが積み上がらない。LanCulでは、3人に3回ずつ当たるような位置づけで、複数のメイトやメンバーと複数回のコミュニケーションができるところが特徴になっている」(阪野氏)
その裏側で蓄積しているのがユーザーの行動データだと阪野氏は言う。「今までも、コミュニティに溶け込んだ人ほど、上達のハシゴを急速に登れていた。データとアルゴリズムで、この人ならこのメイト、この場所、このメンバーがおすすめという、リコメンドを強化していきたい」(阪野氏)
またエリア拡大にも投資していくと阪野氏。「オンライン化は進めたが、オフラインだからできることもある。対面の臨場感や、飲み物などを飲みながらリラックスして話せる環境はオフラインならではのもの」(阪野氏)
現在は東京・神奈川の21店舗でサービスを展開するLanCul。アパレルブランドJOURNAL STANDARDなどを展開するベイクルーズ運営のJ.S. BURGERS CAFEなどとも提携しており、「提携により関東のネットワークはこれからも広げていく」と阪野氏はいう。
「新型コロナの影響で、緊急事態宣言が解除された後も、飲食店は苦しい状況が続いている。純飲食の危うさは今回浮き彫りになり、店舗はコンテンツを求めているところ。LanCulはお店にコミュニティを根付かせるコンテンツになる。提携によって、店舗も我々もメリットを得ることができる」(阪野氏)
英会話以外でも好奇心を満たすサービスの展開図る
写真前列左端:LanCul代表取締役CEOの阪野思遠氏
「LanCulは『Language(言語)』と『Culture(文化)』を軸にしている」として、阪野氏は今後のLanCulの展開について、こう述べている。
「英語だけでなく、ほかの言語、さらには習い事や自己実現もサポートし、言語もそれ以外の領域もカバーしていきたい。データは蓄積しているので、次にユーザーが何をしたいかも分かってくるはず。コミュニティから生まれるつながりから、チャレンジを支援することで、自分らしさ、生き方を見つけるサポートをしたい」(阪野氏)
これは教育のトレンドでもある、と阪野氏。「IQからEQヘ、知能から感情へという教育の動きは、生産性から生き方の豊かさへの変化でもある。これからのデータ時代はさらに好奇心を尺度にした、CQになるだろう。好奇心が満たされるサービスを英会話の切り口からほかへも展開していきたい」(阪野氏)
また、これまでアプローチがあまりできていなかった無料登録ユーザーに対しても、アプローチしていくと阪野氏は言う。「ロイヤルティの高いユーザー中心に施策を打ってきたけれども、1.5万人いる無料ユーザーにもオウンドメディアやYouTubeなどのメディアを使って、新しい価値観を発信していきたい。ゴリゴリにサービスを利用していない人の生活にも変化を起こせたら」(阪野氏)
前回調達時から、マネジメントチームも成長し、組織も強くなったと語る阪野氏。エンジニアもチームの3分の1を占めるまでに人数を増やしているという。新型コロナの影響で、オンライン化が進んだことについてはポジティブに捉えている阪野氏は、「もともとオンラインの構想はあったけれども、コロナで踏み切れた。ほかに手がけることもなかったので、リソースをかえって集中でき、数週間でオンライン機能の追加もできた」と話している。
「今回は東日本大震災のときと違い、メイトは帰りたくても帰れない状況だが、一方でオンライン化が進んだことで、これまでにワーキングホリデーの期限やビザの関係で帰国したメイトともつながれるようになった。仲良くなったメイトとは、オンラインでの対話のハードルも低いし、今後、海外へユーザーが出かけられるようになった時には、現地でつながることもできる。これは我々が目指す世界に近い」(阪野氏)