リファラル採用のMyRefer、パーソル独立後3.6億円の調達ーー「つながりで日本のはたらくをアップデートする」

左から、MyRefer代表取締役社長CEOの鈴木貴史氏、USEN-NEXT HOLDINGS代表取締役社長CEOの宇野康秀氏

リファラル採用に特化したHRテックサービス「MyRefer」を提供するMyReferは8月6日、グリーベンチャーズ、パーソルホールディングス、宇野康秀氏などを引受先とする総額3億6000万円の第三者割当増資を実施したと発表した。

同社はパーソルグループの新規事業創出プログラム「0to1」発の事業。成長をより一層加速化させること、そしてパーソル全体のオープンイノベーションを更に強化していく試みとして8月1日に法人化した。同プログラム初の独立法人化案件だというだけでなく、1998年設立のサイバージェント以来のインテリジェンス(現パーソル)発のスピンアウトベンチャーとなった。インテリジェンス創業者で現在はUSEN-NEXT HOLDINGSの代表取締役社長CEOを務める宇野氏はこの動きを「非常に嬉しく感じている」とコメントしている。

「創業の頃から人と組織を元気にするインフラサービスとしてやっていた。個人的にやりたいことは、ベンチャーがチャンスを得て巣立っていくこと。大企業を脅かすような存在に進化していくことを支援したい」(宇野氏)

また、同氏は「(独立元企業にとっては)自社で抱えきれない事業もある」「独立したからと言って1が0になるわけではない」とも話している。

「自社で育てたサービスが独立してしまうと損失が多く見えるが、自社内で成長した上で独立を目指す優秀な人が増えることはメリットだと思う。逆に、サイバーはインテの中にいたら今のようにはなっていない可能性もある。独立したことでブランディング形成できるという面もある」(宇野氏)

一方、パーソルホールディングス取締役副社長COO高橋広敏氏は「パーソルグループにおいてもオープンイノベーションやインキュベーションを積極推進しており、MyReferのさらなる事業成長を支援していく」とコメントしている。

MyReferはリファラル採用を中途採用のみならず新卒、アルバイト採用でも利用が可能にするクラウドサービスだ。リファラル採用とは社員に人材を紹介・推薦してもらう採用手法のこと。社員の個人的な繋がりを活用し、より企業にマッチした人材を獲得することが可能となる。

人事担当者はMyReferを導入後、社員にマイページを配布。社員はマイページで求人情報を確認し、SNS上の友人にシェア。推薦コメントを人事担当者に送信。お誘いが届いた友人は興味があればMyReferに登録して応募する。社員の活動状況を全て可視化するアナリティクス機能により、人事担当者は社員の紹介活動や候補者応募状況、求人別の紹介状況を確認することができる。

iPhoneとAndroidに対応したアプリを使うことで社員はワンクリックで求人を紹介することが可能。同アプリでは「社内の活動状況がランキングで可視化されるのでログインしたくなる」との声もあり、社員が楽しく自発的に自社の紹介活動を行える。また、社員は活動状況によってはギフトを受け取ることも可能だ。

「エージェントとか求人広告のような職務経歴書などを用いたハード面でのマッチングではなく、人と人との繋がりによるレファランスを活用する。新卒、中途とアルバイト領域の全ての採用を人と人との繋がりによる就職・転職でディスラプトしていきたい」とMyRefer代表取締役社長CEOの鈴木貴史氏は語った。従来の履歴書や経歴書をベースとしたマッチング手法では、個人のポテンシャルを最大限活かせず、企業も外部エージェントに依存した採用に終始しがちだという。一方、MyReferは企業に対して社員の繋がりを活用したインフラを提供するので、持続可能な採用力強化を可能としている。

MyReferは日本で最も利用されているリファラル採用サービスで、2015年9月のサービス正式リリースから30カ月で370社が利用、利用社員数は10万にもおよぶ。利用企業には2018年1月の段階でUSEN-NEXT HOLDINGSやファーストリテイリング、日産自動車などが挙げられていた。

鈴木氏は調達した資金で新機能の開発や採用、マーケティングを強化していくという。退職した社員の再雇用やアルバイトからの正社員登用も含めた社内移動を可能にし、採用側が自社のニュースなどを求職者に発信できるような仕組みを構築したいと意気込んでいた。

手書き文字認識率99.91%のAI-OCRで紙業務を効率化するAI insideが5.3億円を調達

AIを活用したOCRツールによって書類のデータ化の効率をあげるAI inside。同社は8月3日、東京大学エッジキャピタル、日本郵政キャピタル、三菱UFJキャピタルを引受先とした第三者割当増資により総額約5.3億円を調達したことを明らかにした。

今回調達した資金を基に組織体制を強化し、コアとなるテクノロジーの研究開発を進めるほか、OCRサービス以外のAIを活用したプロダクトも含め事業拡大を目指していくという。

金融法人など約120社が使うAI OCRサービス

AI insideは設立当初から文字認識のAIの開発に着手し、手書き帳票のAI OCRサービスを展開してきた。2017年リリースの「DX Suite」では、高精度かつセキュアに書類のデータ化を遂行する3つのアプリケーションを提供。これによって企業がこれまで手作業で行なっていた紙業務の大幅な効率化を支援している。

7月末時点で銀行や保険会社などの金融法人を中心に、大日本印刷やパソナ、レオパレス21など121社がアクティブユーザーとしてDX Suiteを活用。AI inside代表取締役社長CEOの渡久地択氏の話では、この半年ほどでユーザー企業数が約6倍に増えたそうだ。

利用シーンの一例をあげると金融機関での住宅ローンや口座振替依頼書のほか、注文書を含む申込書系の書類のデータ化など。従来3人でやっていた業務にDX Suiteを取り入れることで2人体制でカバーできるようになった、といったものが典型的な効果だが、一部導入企業では受発注業務を完全にオートメーションしている例もある。

渡久地氏によるとDX Suiteの特徴は軸となる文字認識AIの精度と、実際に業務に組み込む際の使い勝手の良さにあるという。

同社の文字認識AIでは漢字第一、第二水準にひらがな、カタカナを加えた約6300文字を平均99.91%の認識率で読み取る。この認識率の高さを支えているのが、同社が研究開発を進めてきた「推論アルゴリズム」「学習アルゴリズム」「データ生成アルゴリズム」という3つのアルゴリズムだ。

推論アルゴリズムにおいては通常の文字認識技術と言われるようなゾーンだけでなく、一般物体認識や音声認識で使われるアルゴリズムを応用。たとえば「自動運転でどこに人がいるのかを見分ける技術」を用いて「帳票のどこに文字が書いているか」を認識したり、長文を読み取る際に音声認識のアルゴリズムを活用したりしているのだという。

渡久地氏がポイントにあげるのが「教師データ自体をAIが作り出すデータ生成アルゴリズム」だ。普通にやっていては手書きの学習データを集めるのが大変だが、AI insideでは手書き風の画像をAIが生成する仕組みを構築。これによって膨大な教師データを用意することができ、高い文字認識率の実現にも繋がった。

これらの技術によって単に手書き文字を読めるというだけでなく、本来は読み取る必要がない文字や点線を対象外にするなど、ちょっとした機転が利くのもDX Suiteのウリだ。

業務フローに取り入れやすい仕組みを構築

また渡久地氏が「業務フローに取り入れることができなければ、実際に使ってもらえない」と話すように、DX Suiteでは認識率以外の点にもこだわっている。

OCRサービスでは誰でも使えるように、クリックだけでOCRの設定からワークフローの設定までが完結。読み取ったデータのチェックもボタンひとつでサクサク進む。

業務で使うことを考えると欠かせないセキュリティについても、すでに3つの技術特許を取得(同社では文字認識技術など現在6つの特許を取得済み)。大手金融機関が導入を検討する際にはここがひとつのポイントになるそうだ。

合わせて複数種類の帳票がある場合に、ごちゃ混ぜの状態でスキャンしても機械的に仕分けてくれるツールや、アクセス権限を管理できるツールも開発。これらを従量課金制で月額10万円から利用できるクラウド版、金融法人の導入が多いセキュリティ面に強みを持つハイブリッド版、オンプレミス版という複数の方式で提供している。

OCRツールを軸にAIで企業の課題解決を

AI insideは2015年8月の設立。代表の渡久地氏は過去にグルメサイトの売却経験や事業譲渡の経験を持つ起業家。AIにはかつてから関心を持っていたそうで、10年以上に渡って継続的に研究開発に取り組んできたという。

「生産年齢人口が今後減っていく中で、AIを活用することによって生産性を向上できる領域、特に社会に大きなインパクトをもたらす領域について検討した結果、文字認識という所に行き当たった。OCRツール自体はずっと前からあるものだが、精度や業務フローとの兼ね合いがネックになり、なかなか導入が進んでこなかった領域。規模問わず困っている企業も多く、効率化できれば嬉しい部分でもある」(渡久地氏)

AI insideにとってVCから本格的に資金調達をするのは今回が初めてとなるが、これまでもアクサ生命保険や第一生命保険、大日本印刷、レオパレス21などと資本業務提携を締結。大日本印刷とはBPO分野へのAIの導入、レオパレス21とはAI活用の賃料査定システムの開発など、OCRツールを皮切りにその他の分野でもAIを用いた取り組みを強化してきた。

今後も当面はDX Suiteを事業の軸に据え、非定型の書類への対応(現在一部のみ対応している)などさらなる機能改善を進める方針。事業の横展開についても「あまり脇道にはそれず、OCRに対してフィードバックが得られるような分野や、OCRによって取得したデータの活用がスムーズにいくような分野などが中心になる」(渡久地氏)という。

光造形3DプリンターのFormlabsが新たな資金調達ラウンドでユニコーンの仲間入り

光の力で樹脂を硬化するユニークな3Dプリンターで脚光を浴びたFormlabsが、ユニコーンになった。マサチューセッツに本社を置く同社はこのほど、1500万ドルの新たな資金調達を行った。これにより同社の調達総額は1億ドルになり、またハードウェアスタートアップにしては珍しく、評価額が10億ドルを超えた。その最新の資金調達は4月の3000万ドルの後続投資で、New Enterprise Associatesがリードした。

3Dプリンティング業界の現状から見ると、このマイルストーンは二重の意味で印象深い。3Dプリントは、最初に長年の誇大な期待があり、そしてバブルがはじけ、競争が激化した。しかし2012年にほそぼそとKickstarterで生まれたFormlabsは、デスクトップサイズの業務用3Dプリンターで最初から明確な差別化を図った。

その技術はたちまち、ハードウェアのプロトタイプを作っている連中に歓迎された。彼らは以前から、MakerBotなどでおなじみのプラスチック沈積型3Dプリンターよりも精細な3Dプリント技術を求めていた。近年同社は、デスクトップの製造技術をさらに強化し、同社の既存の技術と共に、製造業のための3Dプリントという、需要のきわめて多い世界に売り込みをかけている。

今回の資金調達と並行してFormlabsは、GEの元CEO Jeff Immeltを取締役会に迎えた。

Immeltはプレスリリースでこう述べている: “同社の重要な成熟期にFormlabsで仕事ができることは、きわめて喜ばしい。チームはこれまで傑出した進歩を示し、デスクトップ3Dプリンターの中では最良の製品を作り、エンジニアリングやヘルスケア、製造業などきわめて多様な業界で成功を収めている。同社は2011年の創業以来、競合他社を大きく抜き去り、3Dプリンティングにおけるリーダーになっている。今後さらに多くの業界から採用が増え、技術も前進していく中で、私は同社の次のフェーズを支援していきたい”。

Formlabsは現在、北米、ヨーロッパ、およびアジアに500名の社員を抱えている。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

人の声から感情を解析するAI開発のEmpathが総額3億2000万円を資金調達

音声から感情を解析する人工知能を開発するEmpath(エンパス)は、SXキャピタルSBIインベストメントの2社が運営する各ファンドから7月31日、総額3億2000万円の資金調達を完了した。

Empathが開発するのは、音声のスピード、ピッチ、トーンなど物理的な特徴量から、気分の状態を独自アルゴリズムで判定するプログラム。数万人の音声データベースをもとに、喜怒哀楽や気分の浮き沈みを判定する。プログラムは開発者が利用できるよう、Empath APIとして提供。TechCrunchでも過去にApple Watch用アプリ「EmoWatch」に組み込まれたAPIとして、この技術を紹介したことがある。

EmpathのAIは言語に依存せずに感情解析が可能なことから、現在世界50カ国、約1000社に利用されているという。活用分野はメンタルヘルス対策やマーケティングなどさまざま。奈良先端科学技術大学院大学との共同研究やNTTドコモとの被災地支援事業で採用されたほか、ロボティックスやコールセンターなど幅広い分野で使われているそうだ。

Empathは、スマートメディカルのICTセルフケア事業部門としてスタートし、2017年11月にスマートメディカルの子会社として独立した企業。ルクセンブルクで開かれる世界的なイベントITC Spring 2018で開催されたスタートアップピッチでは日本企業として初めて優勝するなど、海外のピッチコンテストで複数の優勝経験を持つ。

同社は今回の資金調達により、Empath AIの機能拡充と、Empathの感情解析を利用した新しいコールセンターAIの開発に取り組む。また感情コンピューティング領域の人材獲得にも投資していくという。

動画にクリック可能なタグを埋め込み行動促す、インタラクティブ動画のMILが資金調達

インタラクティブ動画の編集ツール「MIL(ミル)」を提供するMILは8月1日、Reality Acceleratorとクリエーティブエージェンシーのトリクルから5000万円を調達したと発表した。同社は日本政策金融公庫から3000万円の借り入れも行なっており、それを含めた調達総額は8000万円となる。

MILが提供するのは、動画のなかに映る人物やモノにタグをつけることでインタラクティブ性をもたせた動画を編集するためのツールだ。ユーザーは動画上に配置されたボタンなどをクリックすることで、例えば動画に映るモノの商品ページに飛ぶことなどが可能になる。

同業他社の編集ツールには広告代理店をメインユーザーとして捉えているものが多いが、MILは例えばスタートアップなどの一般企業でも簡単に使えるようなUI/UXを追求し、価格についてもスタートアップ用プランであれば月額1万円からと安く設定しているという。ユースケースとしては、自社で制作した採用動画にインタラクティブ性を持たせて採用ページに誘導したり、その動画に映る社員をクリックすることで“社員インタビュー”動画を重ねて再生するなどが考えられるだろう。

僕が個人的に面白いと思ったのがこの動画。採用を目的として作成した動画なのだけれど、古き良き時代のアドベンチャーゲームのようなちょっとしたゲーム性も持たせている。ユーザーに3つの選択肢を与え、その答えによってその後の動画が変化する。これを見て、だれか全編動画で制作した本格アドベンチャーゲームを作ってくれないかなと期待してしまった。

インタラクティブ動画がもつメリットについて、MIL代表取締役の光岡敦氏は、「現状では動画広告を通して取れるデータが少なく、それが実際に売上に繋がっているのかが分かりづらいという課題がある。商品ページに遷移させる、クーポンを発行するなど、ユーザーの行動を促すことができるインタラクティブ動画では、売上向上を目的とした動画運用がしやすい」と話す。

2017年12月にリリースのMILはこれまでに150社を超える企業に導入されている。同社は今回調達した資金を利用して、MILの機能拡張や自社アドネットワークによる配信の強化など、重点分野への投資を行うとしている。

ITで21世紀を代表するビールをつくる——元Tech in Asia日本編集長が創業したBest Beer Japanが1500万円調達

「ITで21世紀を代表するビールをつくる」。“ビール好き?”と書かれたTシャツを着たその男性は、創業したばかりの会社について、そう説明を始めた。彼の名はPeter Rothenberg。今年の初めまでTech in Asia日本編集長を務めていた人物だ。

Rothenberg氏が2018年5月に設立したBest Beer Japanは7月31日、エンジェルラウンドで1500万円の資金調達を実施した。調達には、家入一真氏と梶谷亮介氏が6月に設立したベンチャー投資ファンドNOW、谷家衛氏(ライフネット生命やお金のデザイン、CAMPFIREなどの創業に携わってきた)、Forbes JAPAN CEO/編集長でD4V Founder/CEOの髙野真氏が率いるMTパートナーズ、AppBroadCastを創業し、KDDIグループのmedibaへ株式譲渡した小原聖誉氏が代表を務めるStartPoint、グーグル日本法人で広告事業立ち上げに携わった小川淳氏ら、15のファンドやVC、企業、個人投資家が名を連ねる。

「直近の1年はまず、日本のクラフトビールの流通をよくすることと、20本という小ロットから注文できるオーダーメイドのクラフトビールづくりに取り組む」と話すRothenberg氏。ビールカンパニー設立にまつわる背景と「21世紀を代表するビールづくり」までの今後の構想について、彼に聞いた。

「今ここで起業しなければ5年後後悔する」

Rothenberg氏はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の出身。学生時代に国際基督教大学の交換留学プログラムで来日したことをきっかけに、大学卒業後に再度日本へ。2010年から2012年の2年間、群馬県嬬恋村の小学校で外国語指導助手(ALT)職に就いていた。

2011年からはチャット型の英語学習サービス「Eigooo!」をスタート。2013年には法人化して翌2014年アプリをリリースした。このアプリはAppStoreでベスト新着アプリにも選ばれている。

その後、Rothenberg氏はEigooo事業を2015年に譲渡。2014年から2016年まではデジタルハリウッド大学大学院に在籍しながら、浅草で人力車の車夫としても働いていた(Rothenberg氏は車夫を体験したことで「お客さんを観察する眼、営業力が鍛えられた」と話している)。

デジタルハリウッド大学大学院を2016年に首席で卒業したRothenberg氏は、Tech in Asiaの日本編集長・コミュニティーヘッドに就任。イベントチケットの売上を50%アップするなどの実績を残した後、2018年にBest Beer Japanを創業した。

日本のビール製造業は、最近でこそ地ビール、クラフトビールブームでさまざまな小規模メーカーのビールが飲めるようになってきているが、大手5社が99%以上の量のビール系飲料を生産する寡占状態だ。Rothenberg氏がなぜ、これまでの経歴とは一見無関係に思えるビールの会社を今、日本で立ち上げたのか。率直な疑問をぶつけてみた。

Rothenberg氏は「もちろん第一にはビールが好きだということ。そして妻もビールが好きだということ」と言う。「以前起業したEigoooには、妻は興味がなかった。でもビールの事業なら、妻も応援してくれる。これはスタートアップでは大事なこと」(Rothenberg氏)。スタートアップあるあるの“妻ブロック”がビール事業なら発動しないらしい。

「そしてもうひとつ」とRothenberg氏は続けた。「日本のビールを取り巻く市場環境がこれまでになく、よい条件だからだ。今が起業するならベストタイミング。ここで起業しなければ、5年後にきっと後悔すると思った」

Rothenberg氏によれば、日本のクラフトビール市場は2010年から2015年の間に売上ベースで10.5%の成長率で「今後もっと加速すると思う」という。「今の日本の状況は米国の2004年ごろのクラフトビール市場の動向と似ている。その後の米国市場の伸びと同じ成長が米国の数年遅れで日本に来ると考えれば、2018年から2022年の5年では19.2%の成長率、売上規模では1000億円を超えるのではないか」

また「ビール類の酒税が変わることも追い風になる」とRothenberg氏は考えている。現在ビール類は麦芽の使用比率や原料により、ビール、発泡酒、第3のビールの3種類に分けられて別々の税率が適用されている。350ml缶で比較すると、ビールは77円、発泡酒は47円、第3のビールでは28円が税金だ。これが2020年から2026年にかけて、段階的にいずれも55円に一本化していくことになっている。

これまでの税制では、ビールの原料として認められていない、たとえば柑橘類のフレーバーなどが入ったフレーバードビールは“ビール”と認められなかった。そうなると職人がいくら「この味がよい」と思って作ったクラフトビールも発泡酒扱いになってしまう。一方税制のおかげで発泡酒は“安いビール”というイメージが付いている。

現状では、小ロットで材料にもこだわって利益が出るようにクラフトビールを作れば、値段はある程度高くなる。だが消費者にしてみれば「発泡酒なのに高い」と受け止められてしまう。税制が変わることで、「職人が作りたいものが作れない、という状況から解放されるはずだ」Rothenberg氏はそう話している。

最強のクラフトビールづくりは物流改革から

さて、冒頭でRothenberg氏の言葉を紹介したとおり、Best Beer Japanは「ITで21世紀を代表するビールをつくる」ビール製造所になることを目指している。もちろん立ち上げたばかりの小さなビールカンパニーが一挙にそこにたどり着くことは不可能だ。Rothenberg氏はそれを実現するためのロードマップを次のように考えている。

現時点で日本のクラフトビール製造業者は約350社ほどあるが、従業員10人未満の企業が7割、売上規模1億円未満が6割を占め、リソースが不足しているところが多い。そうした環境のもとで、Rothenberg氏はまずは「クラフトビールが売れるための仕組みが知りたい」と話す。

前述したとおりクラフトビールの売り上げは伸びているが、業界の課題として「大量生産ができないこと」「送料が高いこと」は否めない。送料の高さは発注ロットが小さく、1度に送る量が少ないことに起因する。

「クラフトビールの送料は原価の2割から3割を占める。発注側のビアバーなど飲食店にとってみれば、原価率を販売価格の3割ぐらいに抑えたいところを、送料の高さが値段を底上げして45%ぐらいの原価率になってしまう。クラフトビールの需要を上げるためには値段を下げなければいけない。そのためにはITの力を使って物流を効率よくするのが、一番早い」(Rothenberg氏)

クラフトビール物流改革の切り口としてRothenberg氏が考えているのが、樽(ケグ)の回収サービスだ。Best Beer Japanの第1弾プロダクトともなるこのサービスは、現状、個々の飲食店から各メーカーへ個別に宅配便などを使って返送しているビア樽を代わりに回収して倉庫にため、Best Beer Japanがまとめて一気にメーカーへ返却するというもの。樽回収サービスは来月にはスタートさせたい、とRothenberg氏は言う。

「樽は容器自体が1本1万円で、メーカーにとっては貴重な資源。また戻ってこなければ次の出荷もできない。でもその管理はExcelや紙ベースで行われているところがほとんど。樽回収を行いつつ、効率化を図るために管理システムを開発する。そのために回収トラックにはエンジニアにも同行してもらい、効率の悪いところを探してシステム化していくつもりだ」(Rothenberg氏)

飲食店から樽を返却してもらうには報奨も必要だが、Rothenberg氏は「物流を効率化することで報奨も出せるようになる」と考えている。

酒販免許の関係から、最初はメーカーへ返却する空の樽の回収からスタートするが、その後はメーカーから飲食店への配送も検討。また、メーカーにとって大きな出費となる樽容器をシェアできるサービスにもつなげていく考えだという。「現行でも樽は特にブランドごとにカスタマイズされているわけではない。それなら同じ樽でもかまわないのではないか」ということらしい。

また、ウェブアプリから苦味やホップの量などをカスタマイズして、自分だけのビールを作れるサービスも、プロトタイプを9月末までに始めたいとRothenberg氏は言う。このサービスは、20本単位の小ロットでオーダーメイドビールが注文できるというもの。当初は、小さなクラフトビールメーカーで稼働していない空きタンクを借りて醸造を行う予定だそうだ。

 

樽回収サービスとオーダーメイドビールサービスの提供を通じて、Rothenberg氏は「売れるビール」を知るためのデータを集めたいと考えている。

Rothenberg氏は、クラフトビール市場の伸びにより「ビール関連のインフラ事業も一緒に伸びる」と考えている。

クラフトビール製造業はリソース不足、と先にも述べたが、レストラン向け販路は大手メーカーの協賛の競争が激しい分野。体力のないメーカーでもサーバーや備品などの提供に付き合えなければ、銘柄を切り替えてもらえないという悩みがある。

東京商工リサーチの調査によれば、そうした中、地ビールメーカーの間では「今後伸びが見込まれる販売先」としてネット通販も期待されているらしい。そうした意識の変化に伴い、「もう少しIT化したほうがよいのではないかと、各メーカーが思い始めている」とRothenberg氏は話す。そこを見据えて「ビールのサブスクリプションサービスも試したい」というのがRothenberg氏の次のプランだ。

「ZOZOTOWNのクラフトビール版」と彼は表現したけれども、物流、オーダーメイドビール、サブスクリプションサービスの提供を通じて「実際にどんなビールをみんなが飲んでいるのか」「実はどんなビールが飲みたいのか」、データを蓄積して、データをもとに最強のビールを開発する、というのがRothenberg氏のもくろみである。

ビールで自分だけの人生を生きる人を応援したい

国内でブランドを確立した後は海外展開も視野に入れ、最後は「工場から流通まで、ビール製造を完全に自動化する」ことまで検討しているRothenberg氏。すべての構想を実現するには20年かかると見込んでいる。

「通常スタートアップには、10年以内にエグジットか株式上場を目指すことが求められる。今回の資金調達では、この20年戦略に賛同してくれた株主に参加してもらえた」(Rothenberg氏)

イギリスで急成長している(かつ個性的な味とかなりやんちゃなブランディングで有名な)クラフトビール会社のBrewdogは創業10年で年平均68.44%(直近7年)のROIを出している。Rothenberg氏は「Brewdogのように成長するにはどうすればいいのか? そう考えたときに、経営に強い株主も欲しかった」と明かした。

2度目の起業となるRothenberg氏。「スタートアップには、やはりつらさはある」と述べ、「起業からの経緯も、できるだけ透明化して見せたい。そうすることが、ほかの起業家や起業したい人にも力になれば」とも語っている。

「『これもビールなのか!?』という体験を広めたい。自分だけに合うビールを見つけてもらいたい。それは『こういう生き方もあるんだ』ということにつながる。人生を自分で切り開いた、野茂英雄投手やイーロン・マスク、初めて月に降り立ったニール・アームストロング船長のような、自分だけの人生をつくる人を応援したい。そのためにはビールは最強のツールだ」(Rothenberg氏)

写真左から:Best Beer Japn CEOのPeter Rothenberg氏、共同創業者でChief Beer OfficerのEldad Bribrom(Dede)氏

証券ビジネスをプラットフォーム化するFinatextがKDDIなどから60億円を調達

金融サービス開発やビッグデータ解析、証券サービス提供を行うFinTechスタートアップのFinatextが7月30日、KDDIジャフコ未来創生ファンドを引受先とした総額60億円の資金調達を実施したことが明らかになった。

Finatextは今年1月に子会社スマートプラスを通して証券業に参入することを発表。委託手数料0円のコミュニティ型株取引アプリ「STREAM」を提供している。またブローカレッジ、証券取引の執行機能をプラットフォーム化する「BaaS(Brokerage as a Service)」という考え方に基づき、証券ビジネスを効率化し、多様な証券サービスを低コスト・短期間で構築できる環境を展開している。

今回調達した資金はスマートプラスの財務基盤強化に充てられる。顧客のニーズに合わせたさまざまな証券サービスを提携パートナーと協力して提供し、5年以内に「ミレニアル世代向け証券会社No.1」となることを目指すという。

またFinatextは増資を機にKDDIと業務提携契約も締結。Finatextの持つUI/UXデザインやサービス構築力を生かし、「au WALLET」をはじめとしたKDDIグループ企業の金融・決済分野を中心に、スマートフォンアプリを通じてユーザーごとにあったライフデザイン提案を行う予定だ。

また、KDDIが持つ3900万人超の顧客基盤や豊富なデータ、KDDI子会社ARISE analyticsが持つデータ利活用ノウハウと、FinatextのAI/ビッグデータ解析技術を掛け合わせ、FinTech領域で新たな事業を生み出すことも検討していくという。

Finatextは2013年12月創業。2017年5月にジャフコから14億2500万円の資金調達を実施している。

同社は株式市場の予想アプリ「あすかぶ!」や仮想通貨を使ったFXの予想アプリ「かるFX」といったコンシューマー向けの投資アプリを手がけてきた。また、2016年4月からは日本アイ・ビー・エムと共同でロボアドバイザーのエンジンを金融機関に提供するビジネスも行う。

2016年8月にはナウキャストを買収し、機関投資家向けビッグデータ解析サービスを展開。2018年から子会社スマートプラスで証券業、証券ビジネスプラットフォーム事業を行っている。

TechCrunch Japanでは今回の資金調達について、Finatext代表取締役の林良太氏に取材を行い、調達の意図や今後の事業展開などについて詳しい話を聞く予定だ。

Preferred Networksが中外製薬と東京エレクトロンから9億円を調達、深層学習技術を用いた共同研究へ

深層学習技術、機械学習技術の研究開発を行うPreferred Networks(PFN)。これまでもトヨタやファナックを始めとした大企業から出資を受け、各業界の課題解決に向けて共同研究を進めてきたこのAIスタートアップが、また新たな企業とパートナーシップを組むようだ。

同社は7月26日、中外製薬と東京エレクトロンから総額で約9億円を調達することを明らかにした。内訳は中外製薬から約7億円、東京エレクトロンの子会社から約2億円。2018年8月に出資を受けることで合意したという。

調達した資金を基にPFNでは組織体制や財務基盤の強化、計算環境の拡充を進める計画。また中外製薬とは医薬品研究の分野において、東京エレクトロンとは半導体製造分野において深層学習技術(ディープラーニング)を用いた共同研究に取り組む。

PFNは2014年3月の設立。これまでも何度か紹介しているが、代表取締役社長の西川徹氏が2006年に立ち上げたPreferred Infrastructure(PFI)からスピンオフする形で始まったスタートアップだ。

2017年10月にトヨタから約105億円の資金調達を実施した際には話題となったが、それ以前にも日本電信電話(NTT)やファナックから出資を受けているほか、直近では2017年12月に博報堂DYホールディングス、日立製作所、みずほ銀行、三井物産にファナックを加えた5社から20億円を超える資金を集めている

PFNではこれまで「交通システム」「製造業」「バイオヘルスケア」という3つのドメインを重点事業領域として設定。トヨタやファナック、日立、国立がん研究センターなどと各分野の研究開発を進めてきた。具体的には自動運転やコネクテッドカーに関する技術、ロボティクスや工作機械への応用、医用画像の解析や血液によるガンの早期診断技術といったものだ。

今回出資を受けた2社とも同様に事業面での連携を進めていく方針。東京エレクトロンとは半導体製造分野で最適化・自動化などをテーマに深層学習技術を用いた共同研究をすでに開始している。

中外製薬とも革新的な医薬品・サービスをはじめとする新たな価値創出を目的とした包括的パートナーシップ契約を締結。深層学習技術を活用して医薬品研究開発の解決を目指すとともに、より探索的な取り組みも含めて複数の共同プロジェクトに取り組む方針だ。

ウェアラブル端末なしでも動きを計測、元テスラ日本法人代表が手がけるUpliftが約1.3億円調達

写真中央がUplift Labs CEOで、元テスラ日本法人代表の樺山資正氏

米国に拠点をおくAIスタートアップのUplift Labsは7月25日、ソフトバンクグループでAI特化型のインキュベーションを行うディープコア、スパークス・グループが運営する未来創生ファンド、および複数のエンジェル投資家などから総額120万ドル(約1億3000万円)を調達したと発表した。これが同社にとって初の外部調達となる。

Uplift Labs(以下、Uplift)は、米国パロアルトに本社をおくAIスタートアップ。同社を率いるのは日本人CEOの樺山資正氏だ。同社は現在、ステルスでプロダクトの開発を進めており、その全貌はまだ明らかになっていない。ただ、樺山氏の話によれば、同社はセンサーとしてウェアラブル端末を使用せずに人間の動きを解析できるような運動解析ツールの開発を進めているという。同プロダクトを利用することで、運動フォームの改善やけが防止のためのアドバイスをリアルタイムに受けることが可能になる。

「ウェアラブル端末では計測できる領域がランニングや水泳に限られるが、Upliftではウェイトリフティングなども含め、さまざまな運動に適応できることが強みだ」と樺山氏は話す。

同社はまず、このプロダクトを米国のフィットネスクラブやプロスポーツチームに月額課金のSaaSとして販売する予定だという。

Upliftの創業メンバーは3人。CEOの樺山氏は以前テスラの日本法人社長を務めており、モデルSが日本に進出する際に同社の陣頭指揮をとっていた人物だ。CTOのジョナサン・ウィルス氏は以前、画像認識技術に強みをもつスタートアップのLumificを創業し、2016年に同社をGoProに売却したシリアルアントレプレナー。そして、チーフ・サイエンティストのラフル・ラジャン氏は、カーネギーメロン大学で機械学習の博士号を取得している。

創業の経緯について、樺山氏は「私とCTOのジョナサンには年をとった両親がいて、介護を必要としない健康な人生を送るために、もっと早くから運動をしておけばよかったという話をよく聞く。人間がテクノロジーに合わせるのではなく、人間がストレスを感じない形で、テクノロジーが人間に合わせて機能するという世界をつくることで、運動効果を最大限にあげられる仕組みを構築したかった」と話す。そこから生まれたのが、ウェアラブル端末を使用しない運動計測技術のアイデアだった。

Upliftは2018年末までに、複数のパートナー企業とともに製品やサービスの提供を始める計画で、サービスの全貌についてもその時に明らかにする予定だとしている。

チャット小説アプリのtaskeyが1.5億円を調達ーー「21世紀、最も読まれる物語を生み出す」

チャットを見る感覚で小説が読めるアプリ「Peep」を提供するtaskeyは7月25日、Global Catalyst Partners Japan、グッドスマイルカンパニー、サイバーエージェント・ベンチャーズ、コルク、BASE Partners Fund、三井住友海上キャピタルなどから総額1.5億円を調達したと発表した。調達した資金をもとに、peepの新たなコンテンツ制作・プロモーションを加速させるという。

「21世紀、最も読まれる物語を生み出す」ことをミッションとしている同社のアプリ、peepは、チャット型UIを使用することで、スマホを使う特に若い世代にとって読みやすい形でコンテンツを提供している。画面をタッチするごとにセリフが出てくるので、ストーリーを目で追うのが非常に簡単だ。僕もかつては文学少年だったが、今の時代、なにも縦読みにこだわる必要はないのだな、と痛感させられた。

同社の強みについて、代表取締役CEO大石弘務氏は、自身が経営者としてだけでなく作家としても活動していることだと答えた。大石氏の腕は、2017年に沖縄国際映画祭で募集が行われた「原作開発プロジェクト」にて、Amazonプライムドラマの原作小説である「エスカレーターボーイ」で大賞を受賞しているほどだ。

peepの掲載作品数は約700作品、掲載話数は約1500話。これらは大石氏や契約作家によるオリジナルコンテンツだ。ユーザー投稿型のチャット小説アプリが主流な中、大石氏が作家として作品の目利きを出来る点が他社・他サービスにはない強みだ。

同アプリは2018年7月4日の時点でApp Storeの国内チャット小説アプリにおいて課金売上第1位を獲得している。また、2018年5月に新たな取り組みとして漫画をチャット小説化した「タップコミック」の提供を開始しており、コルク提供の漫画「ドラゴン桜」のタップコミック版は提供開始当初よりユーザーから高い評価を得ているという。

taskeyは2014年の創業。2015年2月に小説投稿SNS「taskey」のブラウザβ版をリリースした同社がpeepのサービス提供を開始したのは2017年12月からだ。

peepの開発について、大石氏は「taskeyを通じて知り合った作家さんのコンテンツでマネタイズできないかとずっと考えていて、出会ったのがチャット小説というインターフェイスだった」と語った。

また、「縦書きで書かれている小説っていつまで読み続けられるんだろう、と思っていた」と説明した上で、チャット小説であれば「若い世代にもテキストのコンテンツでちゃんと届けられると実感した」と話した。

同社は設立当初から海外展開を目指していたという。taskeyでは小説を投稿したり、投稿された作品を読んだり、という小説投稿サイト的な機能に加えて、作品をユーザーが自ら翻訳して公開するという機能がある。だが、「小説の翻訳をするのはハードルが高かった」と大石氏は語った。

だが、チャット小説は小説と違い、「1つ1つのセリフが短いので、機械翻訳でも意味が理解できる程度の翻訳ができる」という。

今回調達した資金をもとに、同社は今後、チャット小説の提供のみならず、イラスト・動画を使った新たなコンテンツ制作に注力する。大石氏は新たにインハウスの編集者を採用し、ノウハウを伝授することにも積極的だ。さらに、日本のみならず、peepの海外への展開も予定しているという。

大石氏はpeepのコンテンツを「年内には海外に出そうと思っている」と述べていた。

“物置き版Airbnb”の「モノオク」がANRIから数千万円を調達、トランクルームのリプレイス目指す

荷物を預けたい人と、空いたスペースを活用して荷物を預かりたい人をマッチングする物置きのシェアリングサービス「モノオク」。同サービスを運営するモノオクは7月25日、ベンチャーキャピタルのANRIを引受先とする第三者割当増資により数千万円を調達したことを明らかにした。

同社では今回調達した資金により開発人材を中心に組織体制を強化するとともに、モノオクを通じて荷物を預けることのできるスペース数の拡大を目指す方針。また双方のユーザーの利便性向上に向けてモノオクが荷物の中継地の役割を担う「モノオクハブ」の準備も進めていくという。

空きスペースを活用した物置きのシェアリングエコノミー

冒頭でも説明した通り、モノオクは個人間で荷物を預けることのできるシェアリングエコノミー型のサービスだ。Airbnbを知っている人であれば、”物置き版のAirbnb”と言った方がすぐにピンとくるかもしれない。

モノオクに登録することができるのは部屋の一角にある押し入れやクローゼット、使っていない倉庫や空き部屋を始めとした個人が保有しているスペース。ホストと呼ばれる荷物の預かり手となるユーザーは、これらの空きスペースを活用して荷物を預かることで収益をあげることができる。

一方で荷物を預けるユーザー側の視点に立つと、モノオクは物置きのシェアサービスという打ち出し方をしているように、家具や家電などダンボールに収まらないような大型の荷物でも預けられることが特徴だ。

モノオク代表取締役の阿部祐一氏いわく「トランクルームやコンテナをリプレイスするようなもの」であり、従来のトランクルームに比べて低価格で荷物を預けられる点がウリ。相場感としては都心部だと一畳のスペースが1ヶ月7000円ほどになるそうで、敷金や礼金といった初期費用も不要だ(トランクルームの場合は同じエリアだと1〜1.5万円かかるスペースも多く、かつ初期費用が別で加算されるようなものもあるという)。

これまでもTechCrunchでは荷物を預けられるサービスをいくつか紹介してきたけれど、例えばコインロッカーを代替する「ecbo cloak」とは預ける荷物のタイプや期間の点で大きく異なる。専用のボックスに荷物を詰めて送るだけのクラウド収納サービス「サマリーポケット」は一見近しいようにも思えるが、実際の利用シーンは違ってきそうだ。

サマリーポケットの場合はクラウド収納サービスという表現をしているように、預けた荷物を1点ずつ管理したり取り出したりすることができる。一方のモノオクは上述した通り物置きだ。荷物を頻繁に取り出したり、預けたものをクラウドで逐一管理したりといった使い方にはマッチしない。

阿部氏によると、今のところユーザーのニーズとしては「引越し時などに2〜3ヶ月間だけ荷物を預けるパターン」と「倉庫代わりに長期間保管するパターン」の2つが多いそう。前者の場合は家具一式や家電、後者の場合は書類やレジャー用品などが中心になるという。

もっと簡単に預けられる場所に向けて「モノオクハブ」構想も

モノオクはもともとLibtownという社名で2015年4月にスタート。過去に阿部氏が家電の置き場所に困っている知人から相談を受けて、数日間荷物を預かったことがモノオクを開発するきっかけとなった。

ベータ版の開発、テスト期間を経て2017年3月に正式リリース。当初は短期間の利用も想定していたものの、ユーザーの要望を受けて9月には1ヶ月以上の中期〜長期利用にも幅を広げ、それ以降は長期利用を軸としたサービスとして拡大してきた。

4月には社名をモノオクに変更するとともに、料金の見積もり機能などサービスのリニューアルを実施。メディアに取り上げられたことも重なって、特に空きスペースを運用したいホストユーザーが増加。現在掲載されている預かり場所は1000箇所を超えているという。

モノオクは預かり料金の20%が手数料となるビジネスモデル。そのため「どれだけ成約数を増やせるか」が成長の鍵となる。阿部氏によると今回の調達も踏まえて、今後1年を目標に預かり場所の数を1万箇所まで増やしていくことを目指すとともに、成約率を上げるための改善に力を入れていく計画だ。

その一つが近々実装を予定している「モノオクハブ」という機能だという。

「モノオクでは値段の相談やスケジュールなど、メッセージ機能を通じた個人間でのやりとりが必要になる。そのためホスト側の返信がなかったりスピードが遅かったりすると機会損失を生むことになり、それが課題にもなっていた。今後はユーザーから預けたいというリクエストがあった時点で”運営が一時的に荷物の中継地の役割”を担い、さらにユーザーの利便性を上げていきたい」(阿部氏)

モノオク代表取締役の阿部祐一氏

VALUが千葉功太郎氏から4500万円を調達、SNSを軸に継続的な関係性を築けるプラットフォームへ

個人個人が自分の価値を「模擬株式(VA)」として発行し、他のユーザーと取引できる斬新なサービスーー「VALU」をそのように紹介したのは、ベータ版がローンチされた翌日の2017年6月1日のこと。

ローンチ直後からインフルエンサーを始め続々とユーザーが集まり話題を呼んだ一方で、運営側が想定していた以上に投機的な使い方がされ、人気YouTuberの株式の大量売却騒動など問題も発生していた。

それ以降は誤解を招くとして「株式のように」という文言を削除。売却できるVA数を制限したり、短期的な売買ができない仕組みを取り入れたりなどルール作りを急ピッチで進めるとともに、社内の体制整備に力を入れてきたという。

そのVALUは7月24日、個人投資家の千葉功太郎氏から4500万円を調達したことを明らかにした。今回調達した資金を基にプロダクトの開発体制を強化する方針。現在iOSアプリの開発も進行中で、使い勝手を改善させながらさらなるグロースを目指す。

なお同社は昨年にも千葉氏から資金を調達をしているほか、過去にクリエイティブエージェンシーのPARTYや堀江貴文氏からも出資を受けている。

改めてVALUについて説明しておくと、同サービスは各ユーザーが自身のVAを発行し、売り出すことを通じて支援者(VALUER)を集めることのできるプラットフォームだ。VAの取引にはビットコインを用いる。VAには優待を設定することも可能。現在のユーザー数は約10万人、そのうち約2万人がVAを発行している。

ローンチ時には投機目的のユーザーが多かったが、それから約1年が立ちユーザー層にも少し変化があるようだ。現在は仮想通貨が好きな人や純粋に誰かを応援したいという人が利用者の中心。VAの発行者に関しても当初はインフルエンサーの存在が際立っていたが、今は色々な分野のクリエイターが増えてきている。

この1年で変わったのはVALUの中だけではない。「評価経済」や「信用経済」といったキーワードが徐々に浸透し始め、「タイムバンク」など個人の価値や信用に着目したサービスが台頭してきた(コミュニティやグループの価値に着目したサービスも同様に)。

その中でVALUの軸になっているのは、SNSをベースとしてVAの発行者と支援者が継続的な関係性を築けること。

「ファンクラブ会員権にも近いと思っている。(タイムラインを通じて)ユーザーに対して独自の情報を公開したり、その中で相互のコミュニケーションを楽しんだり、そういった空間を目指したい。イメージとしてはFacebookとTwitterの中間のようなコミュニティ。友達でもなくフォロワーでもなく、自分を応援してくれる特別なファンがついて、その人達と関係性を築ける場所にしていきたい」(小川氏)

小川氏の話を聞いているとオンラインサロンないし、「pixivFANBOX」のようなプラットフォームとかにも方向性としては近いのかなとも思ったけど、そことの違いは支援の仕方がポイントになるようだ。

具体的には上述したようなサービスは月額○○円のようなサブスクリプション型。VAを購入して(保有して)支援をするVALUとは形式が異なり、それによって発行者や支援者の捉え方や使い方も変わってくるという。

小川氏によると、徐々にVALUならではの新しい使い方も生まれているそう。例えばあるフリーランスのイラストレーターは、自身のコミュニティで出会ったアーティストのCDジャケットのデザインを担当。その報酬をお互いのVAを持ち合うことで支払う、といったことがあったのだとか。

今後もVALUでは軸となっているSNSの機能を中心にプロダクトを改善していく計画。冒頭で触れたアプリの開発も含め、今以上に発行者による情報公開や支援者とのコミュニケーションが取りやすいプラットフォームを目指していくという。

訪日外国人観光客と飲食店をつなぐオンラインサービス「日本美食」が農林中金などから10.1億円調達

訪日外国人観光客に特化した飲食・旅行のオンラインサービス「日本美食」を運営する日本美食は7月23日、農林中央金庫(以下農林中金)および複数の個人投資家らを引受先として、総額10億1000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

日本美食は「和食や日本のお酒を楽しみたい」というインバウンド観光客と、訪日客をより多く迎えたい飲食店とをつなぐオンラインサービス。「お店やサービスを探せない」「予約ができない」「決済ができない」といった訪日客の悩みと、「店を見つけてもらえない」「言葉や決済に対応できない」といった店側の集客・接客に関する課題を解決するために、日本の飲食店を紹介するメディア(広告)機能、4言語対応の予約・注文機能、店頭でのスマホ決済機能を備えたアプリを提供する。

スマホのQRコード決済では、アリペイをはじめとする14種類の決済ブランドに対応。中国のほか、世界44カ国の訪日観光客に利用されているという。また、飲食店側も初期費用不要で成果報酬型の手数料でサービスを利用できることから、多くの飲食店に導入が広がっているとのことだ。

日本美食は2015年12月の設立。2017年6月には1.3億円を資金調達している。

今回の農林中金からの資金調達は、日本の農林水産業の高付加価値化、国際競争力強化を支援するために2016年に設定された500億円規模の「F&A(Food & Agri)成長産業化出資枠」によるもので、インバウンドに関するものとしては初の投資案件となる。

同社は今回の農林中金による増資を機に、日本美食のサービスを農林中金と協業で地方にも広く展開し、訪日観光客と飲食店や農泊ツアーの旅行事業者などの受け入れ側双方の課題解決を目指す。サービスを通じて訪日観光客による国産農水産物の消費拡大と地域活性化に貢献していく、としている。

ディズニーも出資する“MRお化け屋敷”運営のTYFFON、東急レクとタッグで国内出店加速へ

花火大会、海水浴、夏祭り——。夏といえば色々なイベントが多いシーズンだけど、僕個人としてはこの季節に無性に行きたくなるのがお化け屋敷だ。

今はそのお化け屋敷さえも“IT化”する時代。約1年前に紹介したTYFFON(ティフォン)が開発するMRホラーアトラクション「Magic-Reality: Corridor(コリドール)」は、まさにAR/VR/MR時代のお化け屋敷といえるだろう。

そんなコリドールなどが楽しめる施設「TYFFONIUM(ティフォニウム)」を2017年10月よりダイバーシティ東京内で展開しているTYFFON。同社は7月19日、東急レクリエーションと資本業務提携を締結し、国内でTYFFONIUMの出店を加速させることを明らかにした。

第1弾として、今秋に東急レクリエーション直営の「TYFFONIUM 渋谷店」のオープンを予定。同社によると今回の提携は「双方の強みを活かした店舗出店の取り組みが主幹となり、資本提携は提携を強固にするための補助的な位置付け」とのことで、調達額は数千万円規模になるという。

TYFFONについては前回の記事で詳しく紹介しているが、2011年11月の創業。2014年にディズニーのアクセラレーターの第1回プログラムに選ばれ、同社から出資を受けているほか、2017年にはインキュベイトファンドとアカツキが運営するファンドから100万ドルの資金調達を実施している。

現在同社が展開するTYFFONIUMで体験できるコリドールは、現実世界と仮想世界を融合させたMR(Mixed Reality)技術を活用するホラーアトラクション。周りから見れば体験者はカメラの付いたヘッドマウントディスプレイを装着して同じ所をぐるぐる回っているだけなのだけど、実際は巨大な化け物が襲ってきたり、ゾンビに遭遇したりといった恐怖体験をしているわけだ。

2017年12月からは独自の床振動システムを追加。僕もこの機能が追加された後に体験してみたのだけど、絶妙なタイミングで急に床が揺れるので何度もヒヤッとしたことを覚えている。

4月には新アトラクション「Magic-Reality: FLUCTUS(フラクタス)」を公開。こちらは最大5名で楽しめる、船上を舞台とした異世界ファンタジーとのこと。ホラー系が苦手だけどMRアトラクションを体験してみたいという人には良さそうだ。

TYFFONによるとTYFFONIUMの来場者数が認知度の拡大とともに右肩上がりで伸長。累計の来場者数は1万人を突破し、店舗単体での収益化を実現するに至っているという。

今回の提携は冒頭でも触れた通り「東急レクリエーションが持つエンターテインメント空間の運営力と、弊社が持つ次世代VRエンターテインメントコンテンツの創造力を掛け合わせることで、TYFFONIUMをより魅力的かつ身近なものにしていく」(TYFFON担当者)のが狙い。

今後は渋谷店のオープンを皮切りに、国内外で新店舗の展開を計画しているほか、ザッパラスと協同開発をしている「タロットVR:ボヤージュ・オブ・レヴリ 〜幻想の旅〜」(VR占いコンテンツ)など新コンテンツも順次リリースしていく予定だ。

ウェアラブル会話デバイス開発のBONXがリコーから4.5億円を調達、音声ビッグデータの活用も

独自のイヤホン型ウェアラブルデバイスとアプリを連動させたコミュニケーションサービス「BONX」を提供するBONX。同社は7月17日、リコーと資本業務提携を締結したことを発表した。

今後リコーの顧客接点力などを活用してBONXのサービスを拡大させていくほか、両社のサービス間の連携を深めていく方針。また会話ビッグデータの活用にも取り組む。

なおBONXではリコーに対し約4.5億円の第三者割当増資を実施したことも合わせて発表している。

BONXについてはこれまでも何度か紹介しているが、片耳に装着する専用デバイス「BONX Grip」とスマホアプリを組み合わせて使う会話サービス。スマホとBluetoothを接続しておけば、携帯電波の入るところであれば、遠距離や悪天候でも相手と会話ができる。

人の声だけを高精度で検知し、機械学習により周囲の騒音環境に合わせて音声を自動的に最適化する発話検知機能や、誰かの電波状況が悪化しそうなときは音声で通知し、接続が切れても自動的に再接続処理を行う機能などを搭載。

もともと創業者の宮坂貴大氏の「スノーボード中に仲間と話したい」という思いから生まれたプロダクト。激しい向かい風の中でもクリアな会話ができるようにノイズキャンセリング機能も備えているので少々劣悪な環境であっても対応できる。

2017年12月からはビジネス用のコミュニケーションツール「BONX for BUSINESS」も提供を開始。30人までの音声グループコミュニケーションをスムーズに実現できることを特徴に、総合商社や物流企業、小売企業などで活用が進んでいるようだ。

冒頭でも少し触れた通り、今後BONXのソリューションをリコーの顧客接点力やサポート力を活かして拡販するほか、インタラクティブホワイトボードなどのリコー製エッジデバイスにBONXの技術やソリューションを組み込み、企業の働き方改革への取り組みを支援する計画。

また蓄積された音声コミュニケーションデータを用いて職場環境のモニタリングや効率化に活かすなど、会話ビッグデータの活用にも力を入れていくという。

なおBONXは2014年の創業。2018年2月に発表していたシリーズAラウンドでは慶應イノベーション・イニシアティブなどから総額4.5億円を調達。それ以前にも助成金や融資、VCからの出資などにより総額約3億円を集めている。

ブロックチェーン・アプリ開発ツールのTECHFUNDが1.2億円を調達、起業家への技術支援を加速

写真右からTECHFUND代表取締役の川原ぴいすけ氏、共同代表の松山雄太氏

スタートアップや起業家の技術的支援を行うTECHFUNDは7月17日、野村ホールディングスのコーポレート・ベンチャーキャピタルファンド、ユナイテッド、インフォテリア、西川潔氏、竹内秀行氏、そのほか数名の個人投資家を引受先とする1億円の第三者割当増資、ならびに西武信用金庫と日本政策金融公庫からの2000万円の融資により、総額1.2億円の資金調達を実施したと発表した。

同社は2018年6月21日に、ブロックチェーン・アプリケーションの開発を支援するサービス「ACCEL BaaS」β版をリリース。今回の増資をもとに、同サービスの開発を加速させるという。

ACCEL BaaSの強みは簡単にブロックチェーン・アプリケーションを開発できること。APIを呼び出してブロックチェーン・アプリケーションの開発に必要となる基本機能を実装することが可能だ。特定のプログラミング言語に依存しないため、ウェブだけでなくIoTや基幹システムなど多様なケースへの導入が想定されているという。

同サービスは頻繁に使われるスマートコントラクトをテンプレート化、そして設定をGUI化することで、Solidityなどのプロトコル固有の開発言語に習熟せずに、一般的なブロックチェーン機能を提供できるように設計されている。

また、各種ブロックチェーンのプロトコル間で互換性を担保。サービス開発の検証におけるプロトコル間のスイッチングコストを低減し、本番稼働までスピーディに移行できる。現在はEthereumのみの対応だが、NEOやLISKなど各種ブロックチェーンに順次対応していく予定だ。

代表取締役の松山雄太氏は「ブロックチェーンで何かをやろうと思った時に、実際にサービス化出来ないとうケースが非常に多い」と開発理由について説明。

共同代表の川原ぴいすけ氏は「僕たちのサービスを使うと、簡単なDapps(分散型アプリケーション)が5分くらいで作れたりする。そういった意味で、ブロックチェーン・アプリのケース・スタディーを爆発的に量産させたい。そうすることによって、イノベーションの波を作っていく、というところに寄与したい」と語った。

TECHFUNDは2014年10月9日に設立。お金の代わりに技術を投資することによってスタートアップを支援する技術投資ファンド(同社いわく世界初)として活動を開始した。これまで250チーム以上のメンタリング及びデューデリジェンスに携わり、6社への技術投資を実行したという。

だが、いわゆるコンサルティング・サービスを提供してきた同社がプロダクトをリリースするのは今回のACCEL BaaSが初めてだ。川原氏は「そういった意味では大きな転換期だ」と話した。

松山氏によると、これにより「より多くのスタートアップを支援できる」という。「色んなところに拠点を持つ、もしくは拠点がないスタートアップが多くなってきている」と説明し、「私たちがスタートアップを支援するには、物理的な支援よりも今回のツールのような間接的な形による支援が一番良いと思った」と述べた。

とは言え、ACCEL BaaSもリリースしてからまだ1ヶ月ほどしか経っていない。同社は調達した資金を「プロダクトの開発であったり、マーケティングに使用していく」という。

その上で、川原氏は「目指すべきところは ICOプラットフォームの創造。まずはDapps、ブロックチェーン界隈の市場をつくっていく必要がある」と語った。

「今回、インフォテリアというBCCC(Blockchain Collaborative Consortium、ブロックチェーン推進協会)を主導しているような株主にも参画していただいた。力を借りながら、“ブロックチェーンは必要だ”という市場を作るというのが、直近でやるべき事だと思っている」(川原氏)

国産の生地と縫製技術を繋ぎ世界で戦える製品を、D2Cブランド「Foo Tokyo」が5000万円を調達

パジャマやナイトウェアなどリラックスタイムに使用する商品を扱うD2C(Direct to Consumer)ブランド「Foo Tokyo(フー トウキョウ)」。同ブランドを展開するNext Brandersは7月17日、5月からスタートしたECサイトをリニューアルオープンしたこと、および複数の投資家を引受先とした第三者割当増資と融資により総額5000万円を調達したことを明らかにした。

今回Next Brandersに出資したのは独立系VCのANRI、個人投資家の有安伸宏氏、ヘイ株式会社代表取締役社長の佐藤裕介氏。調達した資金は組織体制の強化、スキンケアやバスグッズなど商品の拡充、会員限定イベントなど各種マーケティング活動に用いるという。

熟練の技術を生かした心地いい製品をD2Cモデルで

Foo Tokyoは冒頭でも紹介した通り、「リラックスタイム」という時間帯にフォーカスしてオリジナルの製品を企画・制作し、自社のチャネルで販売しているD2Cブランドだ。

タオルの名産地として知られる愛媛県今治市発の「渡辺パイル」や、オリジルナルのストールが有名な静岡県掛川市発の「福田織物」を始め、世界的ブランドも愛用する国内の織物工場や熟練の技術を持つ縫製工場などと連携。

厳選した生地と高い技術を用いて作った「肌へのストレスを徹底的に排除した最高峰の心地良い製品」がウリだ。

Next Branders代表取締役社長の桑原真明氏によると、Foo Tokyoの特徴は「世界的ブランドと同クラスの製品を作れる」こと。確かにFoo Tokyoの製品を見ていると数千円台後半〜数万円台が多く、ガウンについては高いものだと15万円近くになる。

製造時には工場の空き時間を活用。自社で店舗を持たず、余分な在庫や広告費、人件費を抑えることなどによって「(世界的ブランドでは)約100万円などで売られてるいるような高品質なものを、十数万円で提供できる」環境を構築している。

5月のスタートから日が浅いため売上規模はまだ小さいというが、ミシュラン5つ星を獲得している京都の高級旅館にオリジナル商品の導入が決まっているほか、地上波CM撮影への衣装提供や大手百貨店での出店問い合わせもきているそう。7月20日からは表参道で3日間ショールームを開催する予定だ。

また本日リニューアルしたECサイトでは、自分の体のサイズと好みの生地(4種類)に合わせたガウンのカスタムオーダーも開始。これによってより個々に合った商品の提供を目指すという。

日本の生地と技術を用いて、世界で戦えるブランドを

「日本の生地や縫製技術を集結した製品で、世界で戦えるブランドを作りたい」——桑原氏が起業して自身でブランドを立ち上げた背景には、そのような思いがあるようだ。

もともと学生時代からアートやクリエイティブに関心があり、アパレル企業でのアルバイトやファッションショーに携わったこともあったという桑原氏。大学院卒業後に入社したメリルリンチ日本証券を経て、2017年12月にNext Brandersを設立した。

ファッション領域の中でリラックスタイムに軸を決めたのは「自分自身が仕事中心の日々を過ごしていた前職時代に、リラックスを渇望していた」(桑原氏)から。当時の自分と同じように疲れを癒したい人たちに対して、安らげる時間を提供することがFoo Tokyoの目標。ブランド名のFoo(ふぅ)も安らぎの一息の象徴からきているのだという。

「(寝るときなど)リラックスタイムこそ良いものを使いたいというニーズは一定数ある。またパジャマやナイトウェアのブランド自体はたくさんあるが、素材や技術など日本のものづくりの良さを発揮できているブランドとなれば、そこまで多くはない。日本発で本当に質の高いものを提供していきたい」(桑原氏)

写真左からNext Branders代表取締役社長の桑原真明氏、同社CISO 社外取締役の松宮大輝氏

Foo Tokyoではリラックスタイムに使用する商品という軸で、今後はコスメやシーツなどアパレル製品以外の開発にも取り組む計画。

また同ブランドでは会員登録をすると生地サンプルのついたパンフレットを郵送してもらえるのだけど、中長期的な構想としてはECサイトに蓄積されたデータなども活用しながら、各ユーザーに合った生地を用いた商品の企画やレコメンドの仕組みなども検討しているようだ。

「ECサイトのネックの一つが生地。実際に触ってみないと細かな肌触りの違いはわからない。人それぞれ気持ちいいと感じる生地は異なるので、Foo Tokyoにくれば常に自分にとって気持ちいいと思える商品が揃っている、見つかるという世界観を実現したい」(桑原氏)

CG業界に特化したマッチングプラットフォーム目指す「CGクラウド」

CGクリエイター向けに3DCG作品投稿サイト「CGクラウド」を提供するTANOsim(タノシム)は7月17日、同サイトをギャラリーサイトとしてフルリニューアルしたと発表。CG業界に特化したマッチングプラットフォームを目指し、さらに機能追加を図っていく。

TANOsimは2016年12月の設立。同社代表取締役社長の森本高廣氏はCG業界で15年の経験を持つ。3DCG制作のアニマでアートディレクターを務めた後、中国・大連で関連会社立ち上げにも参画。そうした中で「離れていても、どこでもいつでもCG制作の仕事を依頼できる環境ができないか」と考えたことが、TANOsim創業のきっかけとなった、と森本氏は話す。

「CG自体は制作に最新の技術を要する。またVR/ARなどの登場で需要も高まっている。ところが、仕事の進め方はアナログなまま。受注発注の仕組みも旧来のままで、クライアントはクリエイターの見つけ方や発注先がわからない。そこで、CGクリエイターのためのプラットフォームを開発しようと考えた」(森本氏)

CGクラウドは、最終的にはクリエイターと制作を依頼したい企業とのマッチングを目指している。「まずはクリエイターが集まれる場を提供したい」ということで、2017年8月にベータ版をリリース。約1年経った今回、各クリエイターの作品が一覧できるギャラリーサイトとしてリニューアルを行った。

CGクラウドのクリエイタープロフィール画面サンプル

クリエイターが作品投稿できるサービスとしてはpixivなどもあるが、森本氏によると「フルCGをアップできるサービスは国内ではCGクラウド以外にない」とのこと。

現在は300名の登録クリエイターに、TANOsimが依頼された仕事をアナログな形で紹介し、実プロジェクトをこなすことで収益を得ているが、「ゆくゆくはクリエイターへの仕事依頼や作品管理ができるプラットフォームとしてCGクラウドを強化し、手数料などで収益を得るビジネスを目指す」と森本氏は語る。

TANOsimでは、2017年8月にEast Venturesデジタルハリウッドから約1500万円、2018年4月には大和企業投資KLab Venture Partnersから約5500万円を資金調達している。日本政策金融公庫からの融資も合わせると、これまでの調達総額は約8500万円となる。

調達により、エンジニア、デザイナー、セールス採用の強化を図っていく、という森本氏。「クリエイターが未来を見られる形を(プラットフォームとして)作っていきたい」と話している。

TANOsim代表取締役社長 森本高廣氏

少量のデータから特徴を抽出する独自AI開発、ハカルスが1.7億円を調達

AIソリューションの開発を手掛けるハカルスは7月12日、エッセンシャルファーマ、大原薬品工業、キャピタルメディカ・ベンチャーズ、みやこキャピタル、メディフューチャーを引受先とした第三者割当増資により、総額1.7億円を調達したことを明らかにした。

同社は2014年の設立。過去にトータルで1億円を調達していて、今回のラウンドを含めると累計調達額は2.7億円となる。

前回の調達時にも紹介している通り、ハカルスはもともとヘルスケア分野のAIベンチャーとしてスタート。少量のデータからでも傾向や特徴を抽出できる「スパースモデリング」技術を機械学習に応用した、独自AIを開発している。

これによって一般的なディープラーニング技術が抱える「膨大な学習データが必要」「AIの意思決定の過程が人間には解釈できずブラックボックス化している」「大規模な計算資源が必要」などの課題を解決することを目指しているという。

ハカルスでは同社の技術をこれまで産業や医療分野に展開。たとえばドローンで空撮した建物の画像から補修が必要な箇所を特定するようなシーンで利用実績がある。

3月には医療・ヘルスケア分野での利用に特化した開発パッケージ「HACARUS Fit Platform」 を発表しているが、今回の調達資金は医療分野の課題解決を行うソリューションの開発体制をさらに強化するのが目的。

株主となった大原薬品やエッセンシャルファーマ、メディフューチャーとは共同で医療機関と医療従事者に向けた包括的なAIソリューションの開発、AIによる診断・治療支援の事業化などに取り組むという。

なお同社はTechCrunch Tokyo 2016スタートアップバトルのファイナリストのうちの1社だ

余った食品をご近所とシェアできるアプリ「Olio」、シリーズAで600万英ポンド調達

世界各地で見られる食品廃棄を減らそうと、超ローカルな食品シェアリングアプリを展開しているOlioが、シリーズAで600万英ポンドを調達した。

この英国拠点のスタートアップは、ご近所に住む人とシェアしてもいいという余った食品のリストと写真を公開できるサービスを、位置情報ベースのアプリとウェブサイトで展開している。

Olioの共同創業者でCEOのTessa Clarkeは、コミュニティアプローチというまったく逆のアイデアから生まれた、と今週初めに電話で私にこう語った。そのアプローチというのは個人の行動によるもので、家庭の食品廃棄量を減らすという手法だ。Clarkeは、食品のおおよそ3分の1が廃棄されていて、そのほとんどは埋め立て処理されている、そうした廃棄される食品の半分は家庭から出されるものだ、と語る。

このスタートアップは、事業所の食品廃棄問題の解決もサポートしている。“Food Waste Heroes Programme”という名称のこのプログラムでは、小売業者やイベント事業者、企業の売店などがOlioのプラットフォームやコミュニティを使って“食料廃棄ゼロ”団体となるように手助けする。

このサービスを利用するには料金が発生するが、Olioは事前に身元調査し、また食品衛生について訓練を受けた何千というボランティアを派遣し、不要となった食品を回収する。このボランティアは食品の写真を撮り、アイテムのリストをアプリに掲載。そして食品をローカルの食品引取所に並べる。ほとんどの食品はわずか数時間内にシェアされ、そして引き取られる。

Olioは現在、プレミアムモデルへの移行の可能性について検討しているとClarkeは語った。そのプレミアムモデルとは、プラットフォームのアクティブユーザーが定期料金を払えば付加価値のある機能を追加で利用できるというものだ。Olioがすでに50万超のユーザーを抱えていることを考えれば、この取り組みは超ローカルな広告分野の聖杯となる。

このまだ若い企業についてOlioの共同創業者が語る中で最も印象に残ったのは、彼女、そして彼女のチーム、コミュニティがいかに使命感に燃えているかということだ。それは食料廃棄がかなりの額を伴う問題ー明らかに年間1兆円を超えているーだからだけではない。人口の増加で近い将来、食糧不足が問題となるというのに、環境に負荷をかけるような食糧生産や流通がまかり通っているからだ。Olioのそうした要素はすでにある意味、食の貧困の緩和を手助けしていて、理解を得られやすいものだろう。

また、Olioがどれくらいボランティアに頼っているのか尋ねたところ、対応できる以上のボランティア申し込みがあるとのことだった。さらにいうと、プラットフォーム上でアクティブであるというのが、必ずしもフルタイムジョブであるということにはならず、きちんと食材を分配し、地に足をつけて超ローカルで活動することがボランティアに求められている。ボランティアは集荷した食品の10%を自分のものとすることができる。

今回のシリーズAラウンドはOctopus Venturesが主導し、これまでも投資しているAccel、 Quadia、そしてQuentin Griffiths(ASOS & Achicaの共同創業者)が名を連ねている。また、Lord Waheed AlliのSilvergate Investments 2,、Bran Investments、Julien Codorniou (Facebook) 、 Jason Stockwood (Match.com, Simply Business)が新規で投資している。

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(翻訳:Mizoguchi)