妊娠中・授乳中に安全な薬の情報を検索、産婦人科医開発「妊娠と授乳のくすり案内ボット(くすりぼ)」を相生市が提供

インターネットを通じて子どもの健康や子育てに寄り添う事業を展開するKids Public(キッズパブリック)は、妊娠中から授乳中のお母さんがいつでも気軽に薬の情報を検索できるチャットボット「くすりぼ」を開発。兵庫県相生市が住民向けサービスとして12月13日より提供を開始した。相生市の住民は、無料で利用できる。

Kids Publicは、産婦人科医や小児科医にスマートフォンから気軽に相談ができる遠隔健康医療相談サービスとして「産婦人科オンライン」と「小児科オンライン」を展開している。

くすりぼは、これらサービスに寄せられた、妊娠中から授乳中の8万件以上の相談データをもとに開発されている。様々な事情ですぐに病院にかかれない妊婦や授乳中のお母さんの、いろいろな体の症状に対して、妊娠週数、合併症、持病、産後月数、授乳状況といった本人の状況に合わせて、安心できる薬の情報が提供される。

またそれぞれの薬に関する情報は、2名以上の産婦人科専門医が作成・監修している。産婦人科専門医が文献をもとに臨床現場での知見も踏まえて作成した内容を、別の産婦人科専門医がチェックしているほか、回答文のパターンは2000種類以上にも及び、過去に例のない情報量だという。

さらに薬の情報に加えて、「セルフケアの方法」「事故判断すべきでない状況」「早期に受診したほうが良い状況」なども記載することで、安全性にも配慮している。

これらサービスは、自治体・法人・医療機関に販売されるもので、それら団体から一般にサービスが提供される形となっている。2021年6月1日から子育て支援策として産婦人科オンラインと小児科オンラインを導入している兵庫県相生市は、12月13日よりくすりぼの提供を開始した。

患者の治療に専念できるようになる、AI診断可視化プラットフォームLifeVoxelが約5.7億円のシード資金を調達

サンディエゴのスタートアップLifeVoxel(ライフボクセル)は、より迅速で正確な予後のためのAI診断可視化プラットフォームのデータインテリジェンスを強化するため、シードラウンドで500万ドル(約5億7000万円)を調達した。

Prescientという名称のプラットフォームは、診断、ワークフロー管理、トリアージに使用され、医師や病院はソフトウェアやハードウェア技術の管理でストレスを受けることなく、患者の治療に専念することができる。

Software-as-a-Service (SaaS) プラットフォームは、放射線科、循環器科、整形外科などのさまざまな医療分野で、医療施設が遠隔診断に使用する。Prescientには診断用の画像が保存されており、医師は携帯電話を含むあらゆるデバイスから必要に応じて画像を解析することができる。また、診断結果の注釈やレポートを作成する機能もある。

LifeVoxelの創業者でチーフアーキテクトのKovey Kovalan(コベイ・コバラン)氏は「今回のラウンドで確保した資金は、診断の効率と精度の向上のために、類似性や異常性、予測診断を識別できるデータインテリジェンスを提供できるよう、深層学習AIモデルや機械学習アルゴリズムの構築に役立てる予定です」と話す。

「つまり、当社が成長を続けることで、医療関係者が患者のどこが悪いのかをこれまでよりも迅速に把握できるようにし、より早く治療に取り掛かることができるようになるのです」とコバラン氏は述べた。

今回のラウンドには、医療や放射線の専門家、医療技術に関心のある富裕層など、さまざまな投資家が参加した。

マレーシアで生まれ育ったコバラン氏は、オハイオ州立大学でコンピュータサイエンスを学び、卒業後は人工知能を専門とするようになった。その後、研究のため、そして好奇心から、GPUを使った人工知能を医療画像の分類に応用し、その結果「インターネット上で医療画像のゼロレイテンシーのインタラクティビティを可能にする」プラットフォームの開発につながった。

このプラットフォームは、ソフトウェアを使用する病院のテクノロジーコストを約50%削減するように設計されていて、施設のニーズに応じて拡張または縮小することができる。また、医師が世界中のどこからでも患者やそのデータにアクセスできるようになり、よりスピーディーな治療が可能になる。

コバラン氏は、このプラットフォームを利用して、画像がオンプレミスで管理されているために共同作業がしづらいという医療画像の現状を変え、人工知能を活用したものにしたいと考えている。LifeVoxelはこの技術を使って、インテリジェントな可視化による診断結果の向上を目指している。

「専門家が不足している地方の人々は、どんなデバイスでも放射線技師のワークステーションにすることができるこのプラットフォームによって、都市部と同じように画像検査のレビューで専門医のネットワークにアクセスできます。最近ではパンデミックの間に、これまでにないインタラクティブな3D VRテレプレゼンスを実現するために、数千マイル離れた遠隔地のプロクターと手術室内の外科医との間でこのような技術が展開されました」。

新型コロナパンデミックをきっかけに、より多くの医療機関がリモートや遠隔医療の機能を拡大している中で、LifeVoxelの技術はタイムリーなものだ。加えて、従来のクラウドベースのシステムから脱却し、患者の予後を向上させるためにAI技術を採用する病院が増えている。

LifeVoxelの共同創業者で社長兼CEOのSekhar Puli(シェーカル・プーリー)氏は「医療用画像処理および放射線科には、従来のシステムの不備を補うダイナミックなソリューションが必要です」と話す。

「今回の資金調達により、世界中の医療用画像アプリケーションの事実上のプラットフォームになるというビジョンを加速させるだけでなく、ヘルスケアの未来のために、遠隔医療イメージングや高度な技術ベースのAIソリューションを大きく前進させることができるでしょう」。

画像クレジット:phuttaphat tipsana / Getty Images

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(文:Annie Njanja、翻訳:Nariko Mizoguchi

専門医による遠隔集中治療サポートのT-ICUとNTT西日本が遠隔医療のエッジコンピューティング活用に関し共同実験

専門医による遠隔集中治療ソリューションを提供するT-ICU西日本電信電話(NTT西日本)は11月18日、「遠隔医療におけるエッジコンピューティング技術を活用した情報処理の実現方式」に関して共同実験を開始したと発表した。同実験の成果を生かし、ウィズコロナ・アフターコロナ時代を見据えたリモートワールド(分散型社会)を実現し、地域医療の人材不足といった社会課題の解決を目指す。実験期間は2021年11月~2022年2月(予定)。

共同実験では、実証実験に協力している病院からNTT西日本の閉域ネットワークを介して、サーバーが設置されているエッジコンピューティング拠点まで映像を転送する。T-ICUの技術でその情報処理を行い、モニタリングセンターからの医師・看護師などによる遠隔モニタリングを実現する。

共同実験では、遠隔モニタリングに用いる高品質な映像が病院からNTT西日本の閉域ネットワークへ転送できること、容体悪化の兆候に関してAIによる推論ができることを評価するとともに、エッジコンピューティング技術に必要とされる要件についても評価する。こうした取り組みを通じ、医療情報を電子的に管理する上で準拠すべきガイドラインを念頭に、今後遠隔医療を提供する際に必要となる要件や技術課題を把握することを目指す。

・T-ICU:遠隔ICU技術の提供、遠隔モニタリングに必要な情報処理技術の検討
・NTT西日本:エッジコンピューティング技術の提供、クラウド化にかかる要件の検討

同実証実験では基本的な動作確認と要件確認を行い、得られた知見を活かして新たな遠隔ICUサービスの実現について継続して検討する。T-ICUとNTT西日本は、同サービスにより、地域の人材不足など社会課題の解決を目指す。

2016年創業のT-ICUは、「Anywhere, we care. すべての病院に集中治療医を」をミッションに、遠隔ICUにおけるサポートサービスを実施。集中治療医・集中ケア認定看護師のチームを擁し、病院向けに専門性の高いサポートを提供している。

T-ICUは、遠隔相談システム「リリーヴ」を契約している病院からの相談に対応する一方で、院内での遠隔モニタリング支援するシステム「クロスバイ」を提供し、導入病院内での効率的な医療提供に貢献してきた。

リリーヴは、命に関わる重症患者診療を担う医療スタッフの不安に寄り添い、呼吸・循環管理、鎮静・鎮痛、感染症治療などの全身管理を最新の知見と豊富な経験で支援する遠隔相談システム。全国的に専門家が不足する重症患者診療の現場を、集中治療医・集中ケア認定看護師で構成されたメディカルチームが24時間365日サポートする。専門医による遠隔集中治療サポートのT-ICUとNTT西日本が遠隔医療におけるエッジコンピューティング活用に関する共同実験

クロスバイは、ベッドサイドに配置した高性能カメラを利用した遠隔モニタリングシステム。患者の表情や顔色、呼吸様式の観察といった患者観察が可能。また、人工呼吸器を含む各種医療機器と接続することで、多面的な患者情報を院内の離れた場所に届けられる。新型コロナウイルス感染症患者受け入れ病院での医療の提供、また医療従事者への感染防止策としても導入されているという。専門医による遠隔集中治療サポートのT-ICUとNTT西日本が遠隔医療におけるエッジコンピューティング活用に関する共同実験

クロスバイ導入施設においては、重症患者への看護人員が不足する中、医療従事者によるモニタリングが常時実施されており現場の大きな負担となっているという。このような中、医療現場からT-ICUに対し、重症患者管理を専門とする集中治療医が不在となる夜間などの時間帯において、T-ICUが遠隔でモニタリングのうえ重症度に応じたアドバイスを提供してもらいたいという要望があるそうだ。ただ、この要望の実現には、モニタリングの際に発生するデータを低遅延かつセキュアに処理することが必要不可欠としている。

「曲面サウンド」で高齢者などの「聞こえ」をよくする「ミライスピーカー」が無医島での遠隔診断実証実験に参加

「曲面サウンド」で高齢者などの「聞こえ」をよくする「ミライスピーカー」が無医島での遠隔診断実証実験に参加

テレビなどの音声を聞こえやすい音に変換する「ミライスピーカー」を開発・製造・販売するサウンドファンは11月16日、無医島である山形県酒田市飛島での「高臨場感な診察を可能とした遠隔診断」の実証実験に「ミライスピーカー」が参加することを発表した。

山形大学学術研究院、日本海総合病院、NTT東日本山形支店は、山形県酒田市の無医島である飛島診療所と、酒田市の日本海総合病院松山診療所とをオンラインで結び、遠隔診断の実証実験を行う。これは、既存の遠隔診療システムを現在の技術に沿わせて更新することを目指ものだ。たとえば、患者の顔を白色有機EL照明で照らし、医師側は高画質の有機ELディスプレイで見ることで、自然に近い色合いで患者の顔色や症状が観察できるようにするといった内容が含まれている。この地域の患者は高齢者が多く、医師の声を聞こえやすくするために「ミライスピーカー・ホーム」が使われることになったということだ。

ミライスピーカーは、従来の円錐形の振動板を持つスピーカーと異なり、湾曲させた平板を振動させる。これにより、広く遠くまでハッキリとした音が届くようになる。早稲田大学の協力で行った音波の解析では、高音域において広範囲にしっかりと音が届けられる音場ができていることがわかった。「ミライスピーカー・ホーム」は、JALの空港カウンターでも採用されている。

在宅ヘルスケア大手Roが家庭用精子保存サービスDadi買収に向けて交渉中

ヘルスケアのD2CであるRoは今やユニコーンで、投資家たちの評価額は50億ドル(約5710億円)に達する。同社に近い筋によると、現在Roは家庭で精子を保存できるサービスのスタートアップDadiを買収するという。これはRoにとって、Workpath、KitそしてModern Fertilityに続き、過去12カ月で4度目の買収になる。

買収は完了に近いが、それでもまだ不安材料はある。額面は明かされていないが某筋によると1億ドル(約114億円)に近いという。RoとDadiにコメントを求めたが、返事はない。

Dadiは2019年に創業し、温度管理された家庭用不妊検査と精子採取キットを発売した。共同創業者でCEOのTom Smith(トム・スミス)氏によると同社は「不妊は女性の問題ではない、男性と女性双方の問題である」というミッションを掲げている。Crunchbaseによると、同社はこれまでfirstminute Capital、Third Kind Venture Capital、そしてChernin Groupなど著名なベンチャーキャピタルから1000万ドル(約11億円)を調達している。

Dadiと並ぶ競合他社のLegacyも、精子の検査と冷凍保存で同様にベンチャー資本を調達している。Legacyは2018年のTechCrunchTechCrunch主催Disrupt Berlin 2018のStartup Battlefieldで優勝し、これまでにFirstMark、Y Combinator、Justin Bieberなどから約2000万ドル(約23億円)を調達している。

この買収は、Roの社内で緊張が高まっている時期にやってきた。同社では今、以前の社員と現社員が問題を提起し、成長目標にこだわりすぎると不平を述べている。従業員の一部は会社を辞めたが、我慢が限界に達したのは、成長のための買収が立て続けに行われるようになったときだという。同社に長く在籍する者たちは、企業文化と仕事の改善が先決だと主張した。

最近辞めた社員がTechCrunchのインタビューに応じ、同社の買収の頻度について「得体のしれない買収ばかりだった。買収した企業との統合は何もなかった。会社は一体、何をしてたのだろう?買収のせいでフォーカスは変わってばかりいた。上司たちは『成長企業ってこういうものだよ』という」と語る。

しかしRoの最近の2つの買収は、戦略としてDadiと合いそうだ。Roが6月に買収したKitは在宅診断を提供する企業で、指を刺して採血する血液検査キットや体重測定ツールなど、カスタマイズできるプロダクトがいろいろある。同社はDadi同様、消費者が気楽な自宅で楽に、予防や早期発見のための検査を行なう。

Roの共同創業者でCEOのZachariah Reitano(ザカリア・レイタノ)氏は、Kitの買収について「ヘルスケアには細分化現象があり、ケアのプロバイダーは分断化したデータの全体を把握できません。そのため、私たちのようなところの仕事が増えますが、Kitはそんなインフラの中では重要で不可欠なピースです。同じ屋根の下の患者たちに、さらに多くのケアを提供できる」。

2億2500万ドル(約257億円)でModern Fertilityを買収したことが示すように、このところRoは不妊治療にも力を入れているようだが、Dadiはその方面でも貢献するだろう。Carly Leahy(カーリー・リーヒー)氏とAfton Vechery(アフトン・ヴェチェリー)氏が率いるModern Fertilityは、女性用の在宅不妊検査を提供し、妊娠と出産に関わる健康の問題に、個人化されたサポートを多数提供している。

そしてもちろんRoは、勃起不全(erectile dysfunction、ED)をターゲットとする男性の健康問題でも事業を拡大しようとしている。今やこのヘルステックユニコーンの売上の半分が、ED関連だ。

画像クレジット:Dadi

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

国立がん研究センターが8K腹腔鏡手術システムによる遠隔手術支援の有用性を確認

高度医療ロボのリバーフィールドが約30億円調達、執刀医にリアルタイムで力覚を伝える空気圧精密駆動手術支援ロボの上市加速

国立がん研究センターは11月2日、8K映像システムを使った腹腔鏡手術のリアルタイム映像を送受信して手術指導を行う世界初の実証事件により、その医学的有用性が確認されたことを発表した。また、遠隔支援(指導)により外科医の内視鏡技術が向上し、手術時間が短縮されることも確認できた。

これは、日本医療研究開発機構(AMED)「8K等高精細映像データ利活用研究事業」の支援による、国立がん研究センターとNHKエンジニアリングシステムなどによる共同研究。実験では、NHKエンジニアリングシステムと池上通信機が共同開発した小型の8K内視鏡カメラと、オリンパスが開発した8K腹腔鏡手術システムが使われた。手術室を想定した千葉県の実験サイトで、動物の直腸切除手術を行い、その様子を光ファイバーや5Gなどによるブロードバンドで京都府の京阪奈オープンイノベーションセンターに送信。外科医3名で手術を行ったが、遠隔支援がある場合とない場合との手術技術の改善度を評価した。

超高精細映像の「本物に迫る立体感」で、遠隔地でも手術状況を詳細に把握でき、質の高い手術支援が提供できたことで、外科医の内視鏡技術が向上し、手術時間が短縮された。また、映像伝送においては、転送レート80Mbps、遅延時間約600ミリ秒を達成し、十分な性能を確認できた。

これにより、少数の医師での治療が可能になり、若手育成、外科医の偏在の解消などが期待される。今後は、外科医を1名減らした場合の評価、「4K8K高度映像配信システム」への手術映像のアーカイブの開発などを進め、近い将来の社会実装に向けた具体的な計画を策定するとのことだ。

東南アジアでメンタルヘルス支援アプリを提供するThoughtFullが約1.2億円を獲得

新型コロナウイルス(COVID-19)が流行する以前から、うつ病や不安神経症は人々の健康に深刻な影響を与えていたが、パンデミックをきっかけに、メンタルヘルス関連のスタートアップ企業への関心(およびベンチャーキャピタル)が高まってきている。Calm(カーム)Headspace Health(ヘッドスペース・ヘルス)のようなメンタルヘルス関連のスタートアップ企業の多くは米国に拠点を置いているが、世界各地でもエモーショナル・ウェルネスに注目が集まっている。例えば、東南アジアでは、メンタルヘルスケアやサポートへのアクセスを向上させるスタートアップ企業が増えている。その1つであるThoughtFull(ソウトフル)は米国時間10月12日、110万ドル(約1億2400万円)のシード資金を調達したことを発表した。これまでに東南アジアのデジタルメンタルヘルススタートアップが調達したシードラウンドの中で最大級のものだという。

関連記事:新型コロナを追い風に瞑想アプリのCalmが2080億円のバリュエーションで78億円調達

2019年に設立されたThoughtFullのアプリ「ThoughtFullChat」は、ユーザーをメンタルヘルスの専門家につなげてコーチングセッションやセラピーを受けさせたり、セルフガイドのツールも用意している。「ThoughtFullCare Pro」と呼ばれる同スタートアップのメンタルヘルス専門家向けアプリは、オンライン診療の管理と拡大を可能にしてくれる。ThoughtFullChatは、App StoreGoogle Playでダウンロードできる他、保険会社や従業員の福利厚生プログラムを通じても入手可能だ。

今回のシードラウンドの投資家には、The Hive SEA(ザ・ハイブ・シー)、ボストンを拠点とするFlybridge(フライブリッジ)、Vulpes Investment Management(バルプス・インベストメント・マネジメント)の他、アジア太平洋地域のファミリーオフィスやエンジェル投資家が名を連ねている。

ThoughtFullを立ち上げる前、創業者兼CEOのJoan Low(ジョーン・ロー)氏は、香港のJ.P.Morgan(J.P.モルガン)での6年間を含み、投資銀行家だった。ロー氏はTechCrunchに電子メールで「私が住み、働き、学んできた米国やヨーロッパなどでは、デジタルメンタルヘルスのイノベーションが猛烈なスピードで起こっているのに比べ、東南アジアではメンタルヘルスケアにアクセスするのがいかに難しいかを認識し、金融機関を辞めなくてはいけないと感じました」と語ってくれた。

ThoughtFullの主な運営市場はシンガポールとマレーシアだが、現在は43カ国にユーザーがいる。2020年にサービスを開始した同社のアプリは、5つの言語に対応している。英語、バハサ・マレーシア、バハサ・インドネシア、北京語、広東語の5つの言語に加え、タミル語、タイ語、ベトナム語、タガログ語にも精通したコーチがいる。

ロー氏は、ThoughtFull社が各市場に合わせたサービスを提供するために、現地のヘルスケアシステムと密接に連携していると述べている。例えば、The Hive Southeast Asiaやマレーシア財務省の100%子会社であるPenna Capital(ペンナ・キャピタル)と提携し、パンデミックの影響で対面での相談を含むケアへのアクセスが困難になったマレーシアのメンタルヘルスのエコシステムをデジタル化する予定だ。

「ヘルスケアシステムは、さまざまなステークホルダー、構造、結果が絡み合っているため、本質的に複雑です。しかし、アジアのヘルスケアは、文化だけでなく、ケア提供から支払者や研究モデルに至るまで、システムが多様であるため、特に複雑なのです」とロー氏はいう。「そのため、参入障壁が高く、アジアのヘルスケアに大々的に参入する外資系企業が少ないのです」。

東南アジアでメンタルヘルスの専門家へのデジタルアクセスを提供するアプリには、最近ベンチャー資金を調達したIntellect(インテレクト)がある。ロー氏は、ThoughtFullが他のメンタルヘルス関連のスタートアップ企業と異なる点として、エンド・ツー・エンドのサービスに焦点を当て、ユーザーにパーソナライズされた予防と治療のオプションを提供し「より質の高いメンタルヘルスケアを提供するための完全に閉じたフィードバックループ」を構築することを挙げている。

ThoughtFullのシードラウンドは、ディープテック技術の開発や臨床研究を含む製品開発に使用される。

関連記事:アジア全体で心のケアをより身近にしたい遠隔メンタルヘルスケアのIntellectが約2.4億円調達

画像クレジット:ThoughtFull

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(文:Catherine Shu、Akihito Mizukoshi)

本田技研工業がeVTOL、アバターロボット、宇宙技術に向けた計画を発表

本田技研工業は9月下旬、電動垂直離着陸機(eVTOL)、二足歩行ロボット、宇宙技術などの新規事業分野におけるイノベーション計画を発表した。

本田技研工業(HMC)のイノベーション部門である株式会社本田技術研究所(Honda R&D)が中心となり「モビリティの可能性を3次元、さらには時間や空間の制約を受けない4次元、そして最終的には宇宙へと広げて、人々に新たな価値をもたらすテクノロジーへの既成概念にとらわれない研究」を行なっていくという。

まるでSF小説のような話である。こういったイノベーション計画は結局うまく行かずに終わることも多々あるが、説明会で同社は過去73年間にわたって開発し続けてきた燃焼、電動化、制御、ロボティクスなどのコア技術が、これまでのモビリティニーズと大きく異なる未来の目的に適応し、いかに進化を遂げることができるかを論証したのである。

ハイブリッドeVTOLとそれに対応するモビリティ・エコシステム

画像クレジット:本田技研工業株式会社

eVTOLとヘリコプターの違いは、前者がバッテリーからの電力で駆動する独立したモーターを持つ複数のプロペラを備えているのに対し、後者は巨大で騒がしいローターを上部に備えていることである。つまりeVTOLは通常、より安全で静か、そしてクリーンであることになる。

世界中で開発されているeVTOLのほとんどがオール電化であるのに対し、HMCは「自社の電動化技術を活用し、ガスタービンハイブリッドのパワーユニットを搭載したHonda eVTOLを開発する」ことを目標としている。この分野での技術開発を進めていくという計画意図は4月の記者会見で初めて発表されたが、その中でHMCは2050年までに製品を100%EVにするという目標も掲げている。

HMCのコーポレートコミュニケーション担当マネージャーであるMarcos Frommer(マルコス・フロマー)氏はプレスブリーフィングの中で、全電動式のeVTOLは質量あたりのバッテリー容量の関係で航続距離が非常に短いため、新型車両のほとんどのユースケースが都市間移動やシャトル便などの近距離飛行に限られると説明している。2024年までの商業化計画を発表したばかりのJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)でさえ、これまでで最も長いeVTOLのテスト飛行は1回の充電で約150マイル(約241km)だったという。

「当社の市場調査結果によると、eVTOL機での移動における最大のニーズは、航続距離が250マイル(約402km)程度の長距離の都市間移動です」とフロマー氏。「自動車の電動化もあって、ホンダはリチウムイオン電池の研究開発に力を入れています。しかし、現在のリチウムイオン電池をベースに進歩しても、容量あたりのエネルギー密度は今後20年間で数倍程度にしかならないと予想されています。そのため、さらなる軽量化が求められる空のモビリティでは電池だけで長距離を実現するのは難しいと考えています」。

フロマー氏によると、将来的にバッテリーがさらに進化すれば、HMCはガスタービン発電機を取り外してeVTOLをオール電化にすることも可能だという。

ホンダはコアテクノロジーを活用しながら新分野へ取り組み、挑み続けている(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

同社はeVTOLを核に、地上のモビリティ製品と連携した新しい「モビリティ・エコシステム」を構築したいと考えているという。同社の説明会ではアニメーションを使った次の例が発表された。ケープコッドに住むビジネスエグゼクティブが、1つのアプリを使ってハイブリッドeVTOLを予約。ニューヨークのオフィスまでは空路でわずか2時間の距離だ。このアプリはホンダの自律走行車に接続されており、離陸のためのモビリティーハブに向かう間には今日の天気を教えてくれるだろう。着陸すると自律走行のシャトルがビッグアップルで待機していて、オフィスに連れて行ってくれる。仕事が終わり、悠々と帰宅すれば、家族と一緒に自宅のテラスでディナーを楽しむことができるだろう。

「モデルベース・システム・エンジニアリング(MBSE)の手法を用いて、従来のものづくり企業から、システムやサービスの設計・商品化も行う新しい企業へと変革するために挑んでいます。予約システムのインフラ、航空管制、運航、自動車などの既存のモビリティー製品など、さまざまな要素からなる1つの大きなシステムを完成させてこそ、お客様に新たな価値をお届けすることができるのです。これらの要素をすべて弊社だけでまかなうことは不可能であり、多くの企業や政府機関とのコラボレーションが必要になるでしょう」とフロマー氏は話している。

HMCは2023年に試作機による技術検証を行い、2025年にハイブリッド実証機の飛行試験を行うことを予定している。商業化の判断はそれからだ。HMCがそこから進み続けることを決めた場合、2030年までに認証を取得し、その次の10年でローンチできるようにしたいと考えている。同社がTechCrunchに話してくれたところによると、商業化が実現した場合、一度に4人以上の乗客を乗せることができるeVTOLの価格は民間旅客機のビジネスクラスよりも低くなることが予想されている。

「商用化の可能性については、まだ詳細を議論中です。しかし、すべてのお客様が民間旅客機のビジネスクラスよりも安い価格で当社のeVTOL機を利用できるようになるよう努力しています」とフロマー氏は話している。2040年までにはeVTOLが日常化するとHMCは予想しており、それまでに市場規模は約2690億ドル(29兆8800億円)になると予測している。

ホンダのロボット「Asimo」で時空を超えた世界へ

ホンダのアバター・ロボット・レンダリングは、医師が遠隔で患者を助けることを可能にする(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

ユーザーが実際にその場にいなくてもタスクを実行したり物事を体験したりできるという、第二の自分を持つことを可能にする、ホンダによるアバターロボットコンセプトの「Asimo」。ユーザーはVRヘッドセットと、手の動きを正確に反映させることができる触覚グローブを装着することで、アバターを接続して遠隔操作することができる。

「私たちはこれを、2Dや3Dのモビリティを超え、時間と空間を超越した4Dモビリティと位置づけています」とフロマー氏。

Asimoは、世界で通用するような外科医がいない発展途上国では高いニーズを得るであろう遠隔手術や、人が住めない場所や人が到達するのが困難な場所にアバター版の人間を送る宇宙探査などの用途を想定している。

「アバターロボット実現の核となるのが、弊社の強みであるロボット技術を活かして開発された多指ロボットハンドと、ホンダ独自のAI支援の遠隔操作機能です。多指ハンドを使って人間用に設計されたツールを使いこなすことができ、AIによってサポートされた直感的なユーザー操作に基づいて複雑な作業を迅速かつ正確に行うことができるアバターロボットを目指しました」と同社は話している。

トヨタ自動車にもテレプレゼンスでコントロールできる同様の二足歩行アバターロボットT-HR3があり、テスラも最近人型ロボットの計画を発表している(テスラのロボットは遠隔操作技術をベースにはしていないようだが)。もしホンダがAsimoの計画を進めるならば、操作を容易にするためにも、ロボットの学習のためにも、遠隔操作の利用は理に適っている。ロボットに動作を直接行わせるというのは、ロボットを訓練する上で最良の方法なのかもしれない。

同社は2030年代にはAsimoを実用化したいと考えており、2024年3月期末までにテストを実施したいと考えている。

宇宙技術の研究・開発を強化する

循環型の再生可能エネルギーシステム(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

同社はさらに宇宙技術分野、特に月面開発の研究開発を加速する計画も発表した。その中で少し触れたのが、同社が以前発表した循環型再生可能エネルギーシステムだ。6月、本田技術研究所と宇宙航空研究開発機構はこのシステムの共同事業化調査を発表した。月面上の基地や惑星探査機に酸素、水素、電気を供給し、人間が長期間にわたって宇宙で生活できるようにすることを目的としたシステムについてである。このシステムは、ホンダの既存の燃料電池技術と高差圧水電解技術を活用したものだという。

同社は宇宙飛行士が宇宙に飛び出す際のリスクを最小限にするために、月面で遠隔操作のロボットを使うこと、さらには地球からバーチャルで月を探索できるようにするということも検討している。月面用ロボットには、アバターロボットで開発中の多指ハンド技術や、AI支援の遠隔操作技術に加え、ホンダが衝突被害軽減のために使用しているトルク制御技術が搭載される予定だ。

同社はまた、再利用可能なロケットの製造に向けて、流体や燃焼、誘導、制御などのコア技術を役立てたいと考えている。

「このようなロケットを使って低軌道の小型衛星を打ち上げることができれば、コネクテッドサービスをはじめとするさまざまなサービスにコア技術を進化させることが期待できます」とフロマー氏はいう。「これらのサービスはすべて、ホンダの技術と互換性を持つことになるでしょう」。

フロマー氏によると、同社はロケット製造を夢見る「若いエンジニア」たちに、2019年末に研究開発を開始する許可を与えたという。ホンダは宇宙に関するいずれの取り組みについても、それ以上の具体的な内容を明らかにしていない。

画像クレジット: Honda Motor Company

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

日本のヘルステックBisuがアシックスなどから3.5億円調達、自宅でラボグレードの尿・唾液検査を可能に

マッキンゼーの報告書によると、2020年1月以降、遠隔医療サービスの導入は38倍に増加しており、パンデミックに後押しされブームとなっている。コンシューマーと臨床医の間の通信レイヤーを構築する企業が注目されている一方で、テレヘルス環境でモニターまたは対処できる内容を拡大するためのデバイスを開発する企業も増えている。

最近の動きとしては、東京に本社を置くヘルスケアスタートアップのBisu, Inc.(ビース)が320万ドル(約3億5000万円)の資金を調達した。Bisuは、自宅で使用できるラボグレードの検査機器を開発し、実用的な健康データに変換する診断を行っている。今回のシードラウンドは、簡単で正確な尿や唾液の検査を通じて、個人に合わせた栄養やライフスタイルのアドバイスを提供するポータブルホームヘルスラボ「Bisu Body Coach」の立ち上げに使用される。今回のシード資金により、同社の累計調達額は430万ドル(約4億8000万円)に達した。

今回の資金調達は、QUADが主導し、アシックスベンチャーズ株式会社、15th Rock Ventures、パシフィコ・インベストメンツ、SOSV Investmentsが参加した。スポーツシューズ大手のアシックスは戦略的に支援しており、健康・フィットネスサービスの取り組みでBisuと協業していく予定。Bisuは、フィットネス、ペットケア、バスルームなどの分野で他の企業との追加提携を検討していると、共同設立者兼CEOのDaniel Maggs(ダニエル・マグス)氏はTechCrunchに語った。

Bisuは2015年に設立され、2017年にHAXのアクセラレータープログラムに参加して事業を開始した。

Bisu Body Coachは、使い捨て型のテストスティックと、スマホアプリと連動するリーダーを使用する。これらのテストスティックは、マイクロ流体を活用した「ラボオンチップ(Lab-on-a-chip)」技術により、ユーザーがわずか2分でさまざまなバイオマーカーを測定することを可能にする。

マイクロ流体「ラボオンチップ」技術は、分光分析とリアルタイムのエンド・ツー・エンド測定を用いて、従来のテストストリップが抱える測定タイミングの問題を解消する。また、血液、尿、唾液、汗などのサンプルを微小な流路内で操作し、化学的または生物学的プロセスを実行する。

ラボオンチップ技術を採用している他の競合他社との差別化について質問されたBisuは、複数のバイオマーカーを同時に検査することで、ユーザーが医師の診察を受けることなく、食生活やライフスタイルを理解し、前向きに変化させることができることに焦点を当てていると答えた。競合製品は、新型コロナウイルスやインフルエンザなど、重要度の高い個別のバイオマーカーを検出して、ユーザーに医師の助けを求めるように誘導するものが一般的だ。

Bisuアプリは、水分補給、ミネラル、ビタミン、pH、尿酸、ケトン体などの主要な栄養指標に関するフィードバックを提供する。ユーザーの目標、プリファレンス、活動パターン、睡眠、体重などをもとに、Bisu Body Coachはパーソナライズされたアドバイスを表示する。Bisuは今後、亜鉛やビタミンBの測定機能を追加する予定で、犬猫用のペット健康診断キットの発売も見込んでいる。

Bisu Body Coachは現在、米国とEUでベータテストを行っている。2022年にこれらの市場での商品化を目指しており、2023年には日本や韓国などのアジア市場への参入も視野に入れて準備を進めていると、マグス氏は述べている。

同社の中核となる研究開発および生産チームは東京にあり、Bisuのソフトウェアおよびマーケティングチームは米国に拠点を置いている。

マグス氏によると、従来の在宅検査市場は、主に(何らかの疾患を持つ)患者が中心で、約50億ドル規模(約5580億円)と推定され成長を続けているという。

しかし、Bisuの在宅検査は、非患者、つまり、何か特別なことで医師などの治療を受けているわけではないが、自分の体の中で何が起こっているのか知りたいと思っている人たちにも市場を広げる可能性がある。マグス氏によると、非患者向けの在宅診断の市場は、現在約100億ドル(約1兆1160億円)と推定されている。

画像クレジット:Bisu / Bisu platform

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)