2016年に約4600億円で非公開化したRackspaceが再IPOを準備、少々図々しい

1株当たり32ドル(約3400円)、総額43億ドル(約4600億円)の条件をApollo Global Management(アポロ・グローバル・マネジメント)から受け入れ2016年に非公開化(未訳記事)したあと、Rackspace(ラックスペース)は再び公開市場に目を向けている(Form S-1提出書類、上場前に米証券取引委員会に提出する書類)。同社は2008年に初めて株式を公開した。そのデビューから約12年経ち、 二度目の株式公開を目指している。

Rackspaceは自社の事業を「マルチクラウドテクノロジーサービス」ベンダーだと表現し、顧客のクラウド環境の「設計・構築・運用」を支援している。同社自身がサービスに注力していると強調していることは、後述するように同社の財務面の特徴を理解するヒントになる。

だが最初にいくつかの基本事項から。同社のS-1申請書類では、株式公開による調達金額を仮に1億ドル(約107億円)としている。この数字は変わるが、仮の数字としてよく使われるもう1つの数字である5億ドル(約535億円)よりも、株式発行による収入の目標が1億ドル(約107億円)に近いことを示している。

RackspaceはNadaq(ナスダック)市場にティッカーシンボル「RXT」で上場する。 Goldman(ゴールドマン)、Citi(シティ)、J.P. Morgan(J.P. モルガン)、RBC Capital Markets(RBCキャピタルマーケッツ)などの銀行が2度目のデビューで引き受けを担当する。

財務実績

非公開企業になったほかの企業と同様、後になって再び公開企業としてデビューするRackspace(未訳記事)は「借金の海」を抱えている。

2020年3月31日時点の同社の貸借対照表には現金および同等物が1億2520万ドル(約130億円)計上されている。貸借対照表の反対側には39億9000万ドル(約4300億円)の負債を抱える。主な内容はタームローンファシリティ(中長期のローン)が28億2000万ドル(約3000億円)とコスト(利率)8.625%のシニアノート(高格付け債券、シニア債)が11億2000万ドル(約1200億円)だ。シニアノートよりコストが4%ほど低いタームローンは、Rackspaceを非公開化した際の借入金20億ドル(約2140億円)と、後に「Datapipeの買収に関連して」借り入れた8億ドル(約820億円)からなる。

もともと総額12億ドル(約1300億円)あったシニアノートは、2016年に同社が非公開化した際に借り入れたものだ。借りてきた金で企業を買収し、後で再び公開し、その資金で膨らんだ負債を減らす。それを可能にするプライベートエクイティの能力が「もうけ」をもらたすが、少々図々しい。

RackspaceはIPOで調達する資金で、タームローンとシニアノートの両方を含めた負債を減らす予定だ。負債をどれだけ減らせるかはIPO価格による。この負債によって同社は、営業ベースの収益性は良いが、純利益ベースでは非常に収益性が低い会社となっている。下表を見てほしい。

画像クレジット:SEC

一番右の列を見ると、売上高が大きい企業だとわかるが、粗利益はテック企業にしては小さい。2020年第1四半期は売上高6億5270万ドル(約700億円)から営業利益2150万ドル(約23億円)を生み出した。だが、7200万ドル(約77億円)の支払利息もあり、4820万ドル(約52億円)もの巨額の純損失を計上した。

ただし、同じ3カ月で営業キャッシュフローはプラスになっており、何もかも失われたわけではない。それでも、同社の数十億ドル(数千億円)の負債は巨額であり、負担は大きい。

Rackspaceの事業の説明に戻り、同社が「マルチクラウドテクノロジーサービス」を提供していることを思い出してほしい。これが物語るのは、粗利益が今後はサービスから生まれ、ソフトウェアからではなくなるということだ。実際にそうなっている。2020年第1四半期の同社の粗利益は38.2%で、前年同四半期の41.3%から下落した。この傾向は気がかりだ。

成長の軌跡もやや不安定だ。2017年から2018年にかけて、売上高は21億4000万ドル(約2290億円)から24億5000万ドル(約2620億円)へと14.4%増加した。同社は2019年にわずかに縮小し、売上高は2018年の24億5000ドル(約2620億円)から翌年度には24億4000万ドル(約2610億円)に減少した。2019年の景気とクラウドの重要性を考えると、結果は少々驚きだ。

ただし2020年第1四半期は増収となった。同社の第1四半期のトップライン(売上高)6億5270万ドル(約700億円)は、2019年第1四半期の6億690万ドル(約650億円)を楽に上回り、7.6%成長した。それほど大きなことではないが(特に粗利率が低下している)、成長路線へ戻ることはいつでもおそらく歓迎される。

TechCrunchは開示書類に目を通したものの、現時点ではS-1で2020年第2四半期の結果を確認していない。新型コロナウイルスの時代にあって、第2四半期の数値を開示せずに魅力ある株価でデビューすることは難しいと考える。

Rackspaceの評価はパズルのように難しい。同社は一種のテック企業だから、ある程度の関心は集まる。だが、成長率の低さ、巨額の負債、さえない利益率により、「正しい」マルチプル(投資尺度)を定めるのが難しい。それらが解消すれば評価は上がる。

画像クレジット:TechCrunch

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(翻訳:Mizoguchi

中国のゲイ専門デートアプリ「Blued」がNASDAQにIPO申請

20年ほど前のことになる。Baoli Ma(バオリ・マー)氏は中国でゲイであることに絶望と孤独を感じ、寝室に隠れていた。

その後、マー氏の人生は大きく変わった。6月16日、同氏が立ち上げたゲイを専門とするデートとライフスタイルのプラットフォームBlueCity(ブルーシティ)がNASDAQ(ナスダック)にIPOを申請したのだ。

「私にとって、インターネットの力が大きい。インターネットによって私たち自身の存在を高めることができ、また性的指向のために孤独や絶望感の中で暮らしている世界中の全ての人に思いやりを届けることができる」とCEOのマー氏は米国証券取引委員会への趣意書に書いた。

IPOで5000万ドル(約53億円)の調達を目指すとしたが、米国預託証券(ADS)の公募価格は決めていない。上場で調達する資金は新たなテクノロジーや国内外マーケットの拡大にあてる。現在は月間ユーザーの半分が海外マーケットだ。

ゲイであることを公表していなかった元警官のマー氏は、 LGBTQにフォーカスしたオンラインフォーラムとしてDanlan.orgを2000年に立ち上げた。そして2011年にBlued(ブルード)を設立するために仕事を辞めた。Bluedはゲイ専門のデートアプリでBlueCityが親会社だ。

当初は、多くの人がBluedをGrindrのコピーキャットとして見ていた。Grindrはカリフォルニアのスタートアップで、セキュリティ問題で売却を余儀なくされる前は中国企業が所有していた。Bluedは差別化を図るために数多くの機能を考案した。Bluedは主に同性愛の男性が使用していて、チャットやライブブロードキャストができるようにデザインされている。ただ、このアプリにはあらゆるLGBTQの人々のためのサービスが含まれ、6月には中国のレズビアンデートアプリを買収するための株式投資の落札内示書を出した。

3月時点のBluedの月間アクティブユーザーは600万人、登録ユーザーは4900万人だ。インドや韓国、タイ、ベトナムといった海外マーケットのファンも引きつけている。

Bluedの売上高の大半はライブブロードキャスティング中のバーチャルアイテムの販売によるものだ。1億700万ドル(約114億円)だった2019年売上高の88.5%がバーチャルアイテム販売だ。他の収入源は広告と会費で、会費を払うとユーザーはアプリ内のプレミアム機能を利用できる。

近年同社はLGBTQコミュニティのためのヘルスサービス提供を模索している。HIV相談や、クライアントへの海外の代理母の紹介(Blue Babyサイト)などだ。

BlueCityが想定しているビジネスリスクは、政府の政策と、さまざまな地域のマイノリティコミュニティに対するネガティブな社会の目だ。2018年初め、インドネシア政府はGoogle Play Storeに、Bluedを含むその部門の何十ものアプリを削除するよう求めた。ユーザーの安全を確保するのも極めて重要だ。2019年にBluedは未成年のユーザーに性的搾取をさらし、年齢確認に不備があったとして非難され、ユーザー登録の一時停止を余儀なくされた(Caixin記事)。

中国は1997年に同性愛を解禁し、2001年に精神疾患のリストから同性愛を除外したが、同性愛の公表はまだ微妙だ。中国で人気のミニブログサイトのSina Weibo(新浪微博)が同性愛に関連するコンテンツの禁止を発表したとき、同性愛コミュニティや多くの市民の間で大きな抗議が起こった。Sina Weiboは後に禁止を撤回(The Guguardian記事)した。

画像クレジット: Blued via App Store

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(翻訳:Mizoguchi

IPO果たしたChatwork、スペースマーケットの組織づくりと採用:TC School #17レポート2

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第17回が1月23日、開催された。スタートアップのチームビルディングを一連のテーマとして展開する今シーズンの4回目、最終回となるイベントでは「チームを拡大する(拡大期の人材採用)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた。

この記事では、パネルディスカッションの模様をお伝えする(キーノート講演のレポートはこちら)。千葉道場ファンドで取締役パートナーを務める石井貴基氏は、キーノートに続いてパネルディスカッションにも登壇。Chatwork代表取締役CEO兼CTOの山本正喜氏、スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者の佐々木正将氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏を加えて、IPO前後の社内組織づくりや人材採用などについて聞いた。

Chatwork、スペースマーケットの設立からIPOまでの軌跡

まずは登壇者それぞれの自己紹介と、各社事業の簡単な紹介があった(石井氏の紹介については、キーノート講演レポートをご覧いただきたい)。

トップバッターは、Chatwork代表取締役CEO兼CTOの山本正喜氏。Chatworkは2000年、大学在学中に兄の山本敏行氏と正喜氏が兄弟で創業した企業で、実は20年事業を続けている。創業当時は兄・敏行氏がCEOで、正喜氏はCTOだった。

設立から11年目に、ビジネスコミュニケーションツールの「Chatwork」を正喜氏が中心となってリリースし、プロダクトの成長に合わせて社名も変更。2018年に正喜氏がCEO兼CTOに就き、2019年9月に東証マザーズへの上場を果たした。

2019年12月末時点での従業員数は106名。大阪本社、東京オフィスのほかにベトナム、台湾に拠点を置くChatwork。「働くをもっと楽しく、創造的に」をミッションに掲げる同社は、Chatwork以外にも、セキュリティソリューションのESETを扱っている。

「我々はChatwork以前から行っていたセキュリティ事業で収益を上げて、そこからChatworkへ投資していたので、外部から資金調達を行ったのは、結構後になってからのことだった」(山本氏)

代表取締役CEO兼CTO 山本正喜氏

Chatworkは2011年、国内ビジネスチャットプロダクトのパイオニアとして誕生した。電話やメールに代わるビジネスコミュニケーションツールとして、グループチャットのほか、タスク管理、ファイル共有、ビデオ・音声通話といった機能を提供。ビジネスチャットツールとしての利用者数は国内ナンバーワン、導入社数は24万6千社以上(2019年12月末日現在)に到達している。

IPOまでの売上の軌跡も紹介してくれた山本氏。設立から10年で既存事業が踊り場に来たときに、新たに投入されたプロダクトがChatworkで、「しばらくは苦しい時期が続いたが、2015年のシリーズAラウンドで資金調達を行い、そこからぐっと売上が伸びた」と説明する。設立以来の売上の比率は、集客支援(SEO関連)、ESET事業と移り変わり、長く会社を支えてきたが「いつまでも他社製品に頼っていてはいけない。自社製品をつくろう」として開発されたChatworkが、現在は売上の中心となっているそうだ。

続いては、2019年12月20日に東証マザーズへの上場を果たしたばかりのスペースマーケット佐々木氏からの自己紹介・事業紹介だ。佐々木氏は、スペースマーケットでCFOとしてファイナンスを担当しながら、人事責任者を兼任する。2017年にベンチャーキャピタルからの紹介で代表取締役CEOの重松大輔氏と出会い、ジョインした。入社後はコーポレートの組織構築、上場準備開始から着手し、ファイナンス、組織、経営管理を主に担当している。

スペースマーケットは、さまざまなスペースを1時間単位で貸し借りできる、スペースシェアリングのプラットフォームを運営するスタートアップだ。「チャレンジを生み出し、世の中を面白くする」をビジョンに掲げ、「世界中のあらゆるスペースをシェアできるプラットフォームを創る」ことをミッションに、2014年、代表取締役CEOの重松大輔氏が創業した。現在は約50人の従業員を擁し、1万2000件以上のスペースをサイトに掲載する。

スペースを借りたいゲストと貸したいホストをマッチングし、ゲスト手数料を5%、ホスト手数料を30%として、双方から手数料を得るビジネスモデルを採るスペースマーケット。現在は「全国47都道府県にある、種類もさまざまなスペースを掲載している」と佐々木氏は説明する。

「家を一軒貸すケースもあれば、部屋を一部屋、使っていない時間帯だけ貸すケースもある。住居だけでなく、オフィスの空き会議室や、空き時間の飲食店、スポーツ施設などもある。スペースマーケットで特徴的なスペースとしては廃校や、お寺といったものも提供されている」(佐々木氏)

スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者 佐々木正将氏

利用用途として多いのは、パーティーなどの会合で使われるケースだそうだ。会議や撮影などにも使われるほか、ボードゲームの集まりで使われることも。「実現している世界としては、ママ会などが有用に使われる例となっている。子ども連れでも安心・安全に、レストランなどと違って気を遣わずに使える場として活用されている」(佐々木氏)

貸す側のニーズとしては「古民家で、全く使っておらず、維持費はかかるが壊すのはもったいないので、誰かに使ってほしい」という事例や、「取り壊し予定のビルで新たな賃貸契約は結べないが、壊すまでの間は時間貸ししたい」といった事例があるという。「少子高齢化で浮上している空き家問題解決の対策にも貢献できるのではないか」と佐々木氏は言う。

事業は2019年9月(2019年度3Q)時点でGMV(流通取引総額)が16億円規模まで伸張。GMVを因数分解し、「利用されているスペース数」と「スペース当たりの平均利用金額」も主要KPIとしているそうだ。全社総取扱高・営業損益については、「数値・コストを厳しく管理して、3Q時点で黒字転換。黒字でIPOを果たせるよう進めてきた」と佐々木氏は述べている。

佐々木氏は「今後、広告媒体としてのスペース活用により、法人向けイベントプロデュースやプロモーション支援なども強化していきたい」と話している。

シェアリングエコノミー業界に属する企業として、スペースマーケットには「業界全体の発展推進にも貢献したい」という意向もあり、代表の重松氏は、シェアリングエコノミー協会を設立し、代表理事も務める。「スペースマーケットではこれからも、新たなスペース利用の可能性を創造し、スペースシェアのモデルを確立していきたいと考えている」(佐々木氏)

TechCrunch Schoolの一連のシリーズのスポンサーとして登壇してきた、エン・ジャパン執行役員の寺田氏。今回のディスカッションでは、モデレーターを務めるTechCrunch Japan 編集統括・吉田博英とともに、進行役として参加してもらっている。

寺田氏はエン・ジャパンで2016年8月に、採用支援サービス「engage(エンゲージ)」を立ち上げ、中心となって運営している。engageは「誰でも採用が始められて続けられる」(寺田氏)ことをコンセプトに誕生したサービスだ。

「engageでは、エン・ジャパンが求人サービスを提供する中で得たエッセンスやノウハウを応用し、企業独自の採用ページを、クックパッドのレシピが投稿できる人なら誰でも作成できるようにした。また採用情報がつくれても、応募が集まらなければ続けられないので、オンラインの採用マーケティング機能も強化してきた。IndeedやYahoo!しごと検索、Google しごと検索といった求人のメタ検索エンジンにも自動連携し、求職者にリーチすることができるようにしている」(寺田氏)

寺田氏は「LINEキャリア」を運営するLINEとのジョイントベンチャー、LENSAの代表取締役も務めており、LINEキャリアへの求人情報掲載無料も実現している。

engageは2020年1月現在、25万社が利用。スタートアップから大手企業まで多くの企業の採用に活用されている。スタートアップでは「本業にデザイナーやエンジニアのリソースを集中したいというニーズが大きい一方、採用広報やHR担当者にはテクニカルスキルが十分でなく、情報発信が難しいことも多い。そういう方でも簡単に採用情報を発信できるということで利用されている」とのこと。

また、大手企業の場合は「会社としての採用情報は公開されているが、セールス部門とエンジニアリング部門ではカラーがかなり違う、といったこともある。そういう各部署でチームメンバーを募集するために利用されることもある」そうだ。

事業の信頼性、安心感がIPOで社会に広く伝わる

ディスカッションではまず、昨年マザーズ上場を果たしたばかりの2社に「なぜ、このタイミングで上場したのか」という質問が投げかけられた。

Chatworkの山本氏は「自己資金で黒字経営でずっと来ていたので、元々は上場する気はなかった」としながら、「Chatworkのビジネスをきっちり成長させるには、資金調達やIPOというモデルが合っていた」と話している。

「成長するSaaSほど、初期は赤字になると言われている。Chatworkはユーザー数も大変増え、チャーンレートも低く、伸びるとは分かっていたが、エンジニアをたくさん採用すると大赤字になっていた」(山本氏)

同社には黒字経営のポリシーがあり、Chatwork事業も「ほかの事業を食い潰しながら、我慢しながらやっていた」という山本氏。だが、2015年ごろ、ビジネスチャットのカテゴリが盛り上がりを見せ、サンフランシスコやシリコンバレーのスタートアップエコシステムの中でも資金調達が活発になる。日本では先行していた同社としては「Chatworkを利用する顧客のためにも、会社のポリシーよりプロダクトの成長にコミットすることを決断した」そうだ。

「ビジネスチャットはコミュニケーションの根幹を預けるインフラビジネス。そこへの信頼性という点でも上場は向いていたし、モデルとしてもエクイティで成長させるというのが向いていた。資金調達から、順調に背徴させて、無事上場することができた」(山本氏)

スペースマーケットの佐々木氏は、上場を前提にCFOとして同社に入社している。「投資契約の上場ターゲットが2019年だった。私が2017年に入社した後、一番最初にやった仕事が、主幹事会社の選定だった」と振り返る。その後も事業計画の変更など、2019年の上場を目指して準備を進めていったという佐々木氏だが、「最後の最後、上場承認が発表される1〜2週間前になって、バリュエーションなどの話で社内で議論となり、(ボードメンバー間で)悩んだ」と明かす。

それでも上場したのは「スペースシェア、シェアリングエコノミーについて、個人のデリバリーサービスへの不安やアメリカの民泊サービスでの事件などがあった中で、スペースマーケットは『安心・安全に使ってもらえるサービスだ』と社会に知ってもらいたい」(佐々木氏)との思いからだったそうだ。

石井氏が創業したアオイゼミでも「IPOストーリーで考えてはいたが、具体的に上場を考える手前でM&Aとなった」とのこと。石井氏自身は「IPOという世界を見たことがない」として、2人の話に「勉強になる」と述べていた。

IPOまでの社内組織の変化・変更点

続けて「IPO前後の社内組織の変化や、変更した点はあるか」との問いに、佐々木氏が答えた。

「IPO後の方は1カ月ほどしかないが、前について言えば、アーリー・ミドル期からレイターへ移るころに変化はあった。ミドル期ぐらいまでは、何もできていない状態なので、チャレンジをすれば当たる確率が高く、やれば伸びる、という状況だった。そこから上場を見据えて利益づくりに動くようになると、施策の精度や予算達成が求められるようになる。だから去年1年間ぐらいは、社内的には閉塞感を感じていたメンバーもいたかもしれない。それが上場承認を社内で発表した途端に雰囲気が明るくなり、『また新しいチャレンジをしていこう』というモードになっている」(佐々木氏)

組織変更については「IPO後の1月から早速、権限委譲を始め、部長職の擁立などを進めている」と佐々木氏は話している。

山本氏も「うちもIPOからそれほど間がない」と前置きしつつ、上場前後で「あまり大きな変化はなかったように感じる」と述べている。「よく言われることだが、IPO申請期は事業計画の蓋然性の証明がきつい。売上・利益を計画の上下5%に収めるように、というかなりの『無理ゲー』をみんなクリアしなければいけない。ただ僕らはそれほど大変ではなかった。そこはSaaSビジネスの強みだが、変動が小さく、数字が読みやすいこともあって、計画周りではそれほど苦労しなかった」(山本氏)

組織については「上場というよりは、資金調達前後で変わっている」と山本氏は言う。「もともと30人ぐらいのスモールビジネスで15年やってきて、社員満足度が大事という『ファミリー』なカルチャーだった。資金調達後は、Excelで言えば2次曲線を描くような成長を求められ、後半は特に新規事業づくりなど、やり遂げるためのプレッシャーがかかる。以前は知り合いの紹介で社員が入社して、離職も少ない会社だったところを、18億円調達して『使わなければならない』ということで採用を活発にして、1年でそれまでの倍の50人になった」(山本氏)

急な人数増、というだけでなく、「それまでのファミリーなカルチャーの人に対して、少し山っ気のある『一発当ててやろう』というような人も入ってくるようになり、カルチャーの衝突が起きた」と山本氏は振り返る。「会社としては、スケールさせる組織のカルチャーや事業の仕組みにアップデートしていかなければならないので、アジャストするんだけれども、変わりきれない部分もあり、そこがぶつかって組織崩壊も何度か経験し、2016〜17年ぐらいはしんどかった」(山本氏)

その後「アップデートの仕方を経営陣も学んで、50人の壁を乗り越えるメドがつく頃には組織も落ち着き、IPO前後には安定していた」(山本氏)ということだ。

IPOに関連して寺田氏が「社員が盛り上がったタイミングはいつだったか」と聞くと、佐々木氏は「上場承認日だった」とのこと。「15時に有価証券届出書がウェブで公開されるのだが、これが社内での発表前だったので、社内はザワザワしていた。15時半ごろに、社内でも正式に公表した」(佐々木氏)

一方の山本氏は「IPOの発表は盛り上がったことは盛り上がったけれども、盛り上げすぎないように気をつけていた」そう。「スタートアップの失敗談として、IPOを目標にしすぎると、IPO後ヤバいと聞いていたので、離脱や燃え尽きが起きないように、発表前から繰り返し『IPOはゴールではなくてスタートだ』と話していた。『IPOは、運転免許が取れたようなもの。我々はやっとクルマに乗れるようになったところ』と社員には説明していて、上場当日も意図的に盛り上がらないようにして、『社会的責任が出たから、これからもがんばろうね』という話をした」(山本氏)

IPOに向けた採用・事業での取り組み

IPOに向けて、集中して取り組んだ採用や事業についても、2人に聞いた。

佐々木氏がスペースマーケットに入社したのは2017年1月だが、「直前の2016年冬は業績が良かったのに、入社後の1月から3月はあまりよくなかったので、騙されたと思った(笑)」という。そして3月、千葉道場に参加した佐々木氏は、あるスタートアップのCEOにKPIの生データを見せてもらい、やり方を持ち帰って細かいKPI管理を行うようになった。

「スペースマーケットの掲載物件には、いろいろな場所、用途がある。ユーザーも法人、個人ともにいて、エリアもさまざま。料金も数百円から100万円まで幅広い。そうしたサービスを数字で判断するということを、2017年から始めた。2017年4月から6月は毎日KPIをみるようにしたところ、夏ごろから施策の精度が段々上がっていった」(佐々木氏)

千葉道場ファンド取締役パートナー 石井貴基氏

ここで石井氏から「KPIをゴリゴリ管理するようになって『社風が変わる』ではないが、既存メンバーから嫌がられなかったか」と佐々木氏に質問があった。

佐々木氏は、「確かに当初は嫌がられたが、重松氏が『新しいことをやろう!』という部分を担当した」と回答。自身が数字管理などの「厳しい方」を担当することで棲み分けを行ったということだった。

山本氏も、IPO前の数字の管理については「かぶるところがある」と話す。「IPOに向かう前は、事業が当たって勝手に伸びていく、といった具合で、フィーリングで経営していた。しかしVCからの投資が入ってからは、『ケーパビリティを超えることをやろうとしているのに、科学的にやらなければ実現は無理だ』ということで、なぜうまくいっているのか、数字を解明することから始めた。ひたすらデータ化し、分解しまくって、巨大なスプレッドシートに何百個というデータを最初は手作業で入力し、それを徐々に自動化して、データの見える化に3年ぐらいかかった」(山本氏)

山本氏は見える化によって「ようやくファクトで議論できるようになった」といい、「経営や事業は、科学しないとスケールしない」と語っている。

また山本氏は、役員からのトップダウンで組織で経営するにあたっては「経営会議をしっかり開くことも有効だった」と話している。ボードメンバーは5人。経営の意思決定が進まないという課題に対し、経営会議を週3回の頻度で開催するようにしたが、「話すことはなくならなかった」と山本氏はいう。

監査役も入った正式な会議を週2回、週1回はボードメンバーだけで集まって、よもやま議論を行っていくことで「ボードメンバーの結束が高まった」と山本氏。「今は週2回実施となったが、今でもまだまだ話すことがある。経営会議の頻度で、経営陣、社長と役員が一枚岩になったことは、100人の組織の壁を乗り越えるためのひとつのプラクティスでもあるのかなと考えている」(山本氏)

CEOでもあり、CTOでもある山本氏には「経営会議ではCEO、CTOのどちらの立場として発言するのか」との質問も投げかけられた。山本氏は「話題によって、帽子をかぶり分けている」と答えている。

「これは結構難しいのだけれども、経営会議ではCEOの帽子をかぶらざるを得ないときが多い。ボードメンバーのひとりに開発本部長、VPoE的な役割のメンバーがいるので、必要なときには、彼にCTO的な立場を取ってもらって、自分は結構厳しいフィードバックをするようにしている」(山本氏)

目的達成に影響を与えたキードライバーは?

エン・ジャパンの寺田氏からは2社に「どんなKPIを見て、それをどう上げていったか」という問いかけがあり、それぞれの目的達成に強く影響を与えた「キードライバー」について、佐々木氏、山本氏に聞いていくことになった。

スペースマーケットの佐々木氏は、同氏の入社以前の2016年までは「なぜ事業が伸びているのかは、しっかり分析できていなかった」という。そして「特にどの指標がキードライバーだったとは言えないが、要因分析をすることは重要だ」と話している。KPIのレポーティングは、「エンジニアやデザイナー、PMがそれぞれ行っている」そうだ。「CVRや利用率、利用額、高額利用の金額など、四半期ごとに確認するKPIを変えているので、追う数値が何かによって担当を変えている」とのことだった。

Chatworkの山本氏は「事業のキードライバーは、2つのエンジン。ひとつはフリーミアムモデルで、もうひとつがダイレクトセールスモデル」と答える。

「Chatwork事業は、無料利用のユーザーが機能を開放して有料コースを使うようになる、フリーミアムモデルでスタートしている。最初はそれしかなかったが、資金調達前は、それで自然成長していた」(山本氏)

しかし自然成長だけでは「VCが要求する成長に間に合わない」タイミングが来る。資金調達後はそこから成長をさらに加速するために、フリーミアムモデルに加えて、ダイレクトセールスモデルを立ち上げたと山本氏はいう。

「BtoB、SaaSモデルではむしろこちらがメインだと思う。マーケティングチームが見込み客のリードを展示会などのイベントで集めて、そこから電話でアポイントを取り、セールスが訪問して、1〜2カ月のトライアルはあるが、はじめから有料でサービスが始まる、直販モデル。それをやることを前提に調達したので、調達後に我々がまずやったことは、営業がゼロの状態から、営業部、マーケティング部を作ることだった」(山本氏)

もともとはエンジニア中心のChatworkには、営業、マーケティングで入った人材とは「カルチャーが全然違う」状況だったが、それを両方やる、あるいは営業側を推していかなければならない。山本氏は「フリーミアムでいいものを作ればプロダクトが広がる、というのはアーリーアダプターまで。そこから先のマジョリティ層は、自分で良いものがないかとプロダクトを探したりはしない。プッシュマーケティング、プッシュセールスが必要」として、開発と営業の両部門を担当し、「知ってもらわなければ」という文化へカルチャーの変革に乗り出した。

「カルチャーを変えることはすごく大変だったが、4〜5年かけて、フリーミアムとダイレクトセールス、両方のエンジンがあったからこそ、成長が2次曲線になった」(山本氏)

採用時の体験入社は強くおすすめしたい

キードライバーを加速させるための採用戦略について聞かれて、山本氏は次のように答えている。

「Chatworkの調達資金の使途は、マーケティングと開発が多く、エンジニアとビジネス系人材をほぼ同数、採用していた。調達しているスタートアップでは、ビジネス系人材の採用ではエージェントを使うのがスピードが早いと思う。ただし紹介を依頼すればいい人が採れるかというと、そういうわけでもない。ただ候補者リストが流れてくるだけで、ヒットする人材が見つからず、うまくいかないことも多い。エージェントを使いこなさなければ、いい採用にはつながらないだろう」(山本氏)

山本氏はエージェントを活用した採用でうまくいったケースとして「小さな人材紹介会社の社長と仲良くなって、こちらの思いを語り、ファンになってもらったことをきっかけに、向こうも『うちを人事部と思って使ってくれ』と言ってくれるようになった」という例を紹介した。

「どういう人が欲しいかが伝わると、とても(質の良い)熱いリストを用意してくれるようになる。そうして2〜3社と濃く付き合うようになった」(山本氏)

ちなみに「初期には採用計画といったものは特になかった」と山本氏は言う。石井氏も投資家の立場から考えても「採用計画は用意してもらうとしても、必ずしも当てにはならず、そこまで厳密にはできないと思う」と述べている。

「上場が近づくとようやく、計画通り採用できるようになる」という山本氏。スタートアップがスケールするときの人材採用について、「シニアマネージメントや、マーケティングスペシャリスト、スーパーエンジニアといった、成長にとって欠かせないケーパビリティを持つキーパーソンに、いかにいい人が採用できるかが肝。そういう人が採用できれば、その人の下にメンバーを入れていけばいいので、組織はスケールする。そこで失敗すると、半年、1年遅れてしまう」と語っている。

佐々木氏は、経営管理チームだけでなく、エンジニアでも数字も読みながら開発の優先順位が決められるという人材を重視していたということで、「エンジニアとコーポレートの採用については注意していた」と話す。一方で「キーマンを採用した後は、カルチャーフィットを重視しながら、ほぼ未経験の人も採用してきた」そうだ。

スペースマーケットでは、経理未経験で営業事務として入社した人材が、入社3年で決算までできるように成長した例もあるという。財務担当者も新卒2年目で、エンジニアにも未経験者を採用しており、うまくいっているそうだ。

人材エージェントについては「コミュニケーションがうまく取れなくて、50人の候補で1人しか入社しないといった結果になった」と佐々木氏。「給与水準が高くない上に、選考中に1日インターン体験を組み込んでいて、選考ステップが重いことも理由としてある。課題をハックしてもらい、たくさんの社員と面談してもらう1日体験を実施することにより、採用ミスマッチは少なくなるが、早く採用を決めたいエージェントからすると、あまりうまみがないだろう」(佐々木氏)

採用の窓口としては「Wantedlyが6〜7割、次いでGreenとリファラルで2〜3割ぐらい」と佐々木氏は言う。そのほかに「ブログや勉強会などで発信を行い、新しい技術導入もアピールし、スタートアップに興味のあるエンジニア界隈を引きつけることで、採用フィーをかけずに人材を獲得するようにしている」(佐々木氏)

体験入社では「マーケティングならダミーデータを用意して、マーケティング施策を2時間で考えて、といった課題を出す。実際に近い仕事を実践してもらうことで、入社する人にとっても業務がイメージしやすくなる」(佐々木氏)

体験入社については、Chatworkでも実施しているとのことで、山本氏も「体験入社は、カルチャーギャップや入社時のミスマッチが本当になくなるので、メチャクチャおすすめする」と話していた。

フードデリバリー大手のDoorDashがIPOを非公開申請

米国でのオンデマンド・フードデリバリーの戦いは未だにヒートアップを続けている。米国時間2月27日、DoorDashは証券登録届出書のForm S-1をSECに非公開で提出したことを発表し、現在確認手続き中であると語った。売出し予定の株数やIPO株価の範囲、次のステップの時期などについては何も語っていない。

株式公開は、同社がオンデマンド配達業界の重要な時期に大規模な資金を調達するひとつの方法だ。競合は激烈で全世界で多くの統合が起きている。このニュースのタイミングも、いかにこのビジネスがキャッシュに依存しているかを強調している。一部で米国フードデリバリー市場のトップと見られているDoorDashは、わずか3カ月前の昨年11月に調達ラウンドを終えたばかりだ。調達額は7億ドル(約762億円)で、当時の会社評価額は130億ドル(1兆4160億円)だった。

DoorDashが、カナダ、プエルトリコ、オーストラリアとともに主要な市場としている米国で、同社は市場シェア38%を占めていると言われている。シェア10%のPostmates、20%のUber Eats、伝統的企業であるGrubhubは31%と熾烈な争いを繰り広げており、資金も多く必要だ。この激しい競争は極めて資本集約的であり、DoorDashがUber EatsとPostmatesとの合併を目論んでいるという噂がここ数年出回っている。

しかしDoorDashはそれ以外にも課題を抱えている。数千人の契約労働者との接し方や支払いに関する労働問題のほか、昨年のデータ漏洩問題は、500万人近い顧客、労働者、売り手などに影響を与えた。ほかにも、Scotty Labsを買収して自動運転システムの導入(人間の配達ドライバーの補助または置き換え)を検討するなど技術蓄積も密かに進めている。

IPOを非公開申請することで、まだ「成長」段階にあるスタートアップ(ほとんどが赤字)が、手続き中に世間の監視を受けることなく準備を進められる。SpotifyとSlackが取った手法で、必ずしもIPOにつながらない(両社は上場済み)。WeWorkの申請とその後会社の状態を詳しく公表したしてからのUターンを思い出してほしい。またPostmatesは1年前にIPO申請したが、その後資金調達を行っており、上場は遅らせると言われている。

画像クレジット:Photo by Tibrina Hobson/Getty Images for Los Angeles Times Food Bowl / Getty Images

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

フードデリバリー大手のDoorDashがIPOを非公開申請

米国でのオンデマンド・フードデリバリーの戦いは未だにヒートアップを続けている。米国時間2月27日、DoorDashは証券登録届出書のForm S-1をSECに非公開で提出したことを発表し、現在確認手続き中であると語った。売出し予定の株数やIPO株価の範囲、次のステップの時期などについては何も語っていない。

株式公開は、同社がオンデマンド配達業界の重要な時期に大規模な資金を調達するひとつの方法だ。競合は激烈で全世界で多くの統合が起きている。このニュースのタイミングも、いかにこのビジネスがキャッシュに依存しているかを強調している。一部で米国フードデリバリー市場のトップと見られているDoorDashは、わずか3カ月前の昨年11月に調達ラウンドを終えたばかりだ。調達額は7億ドル(約762億円)で、当時の会社評価額は130億ドル(1兆4160億円)だった。

DoorDashが、カナダ、プエルトリコ、オーストラリアとともに主要な市場としている米国で、同社は市場シェア38%を占めていると言われている。シェア10%のPostmates、20%のUber Eats、伝統的企業であるGrubhubは31%と熾烈な争いを繰り広げており、資金も多く必要だ。この激しい競争は極めて資本集約的であり、DoorDashがUber EatsとPostmatesとの合併を目論んでいるという噂がここ数年出回っている。

しかしDoorDashはそれ以外にも課題を抱えている。数千人の契約労働者との接し方や支払いに関する労働問題のほか、昨年のデータ漏洩問題は、500万人近い顧客、労働者、売り手などに影響を与えた。ほかにも、Scotty Labsを買収して自動運転システムの導入(人間の配達ドライバーの補助または置き換え)を検討するなど技術蓄積も密かに進めている。

IPOを非公開申請することで、まだ「成長」段階にあるスタートアップ(ほとんどが赤字)が、手続き中に世間の監視を受けることなく準備を進められる。SpotifyとSlackが取った手法で、必ずしもIPOにつながらない(両社は上場済み)。WeWorkの申請とその後会社の状態を詳しく公表したしてからのUターンを思い出してほしい。またPostmatesは1年前にIPO申請したが、その後資金調達を行っており、上場は遅らせると言われている。

画像クレジット:Photo by Tibrina Hobson/Getty Images for Los Angeles Times Food Bowl / Getty Images

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

SpaceXはStarlinkをスピンアウトさせてIPOを目指す

SpaceXは、急成長を続ける衛星インターネットサービスのプロジェクト、Starlink(スターリンク)の事業をスピンアウトさせ、IPOによって株式を公開することを目論んでいるようだ。ブルームバーグによると、SpaceXのCOO兼任社長のGwynne Shotwell(グウィン・ショットウェル)氏が、JPMorgan Chase(JPモルガン・チェース)の投資家会議で明らかにしたという。

SpaceXは、これまでに多くの衛星を打ち上げて、Starlinkクコンステレーションに追加してきた。最終的な目標は、全世界から接続可能な低コストで高バンド幅のインターネット接続を実現すること。Starlinkは、低地球軌道を回る小さな衛星をネットワーク化することで、これを実現しようとしている。そのためにSpaceXは、現在の申請内容によれば、最終的に2万5000基もの衛星を打ち上げることを目標にしている。

現在、約240のStarlink衛星が周回軌道上にある。また、2月中に予定されている5回目のStarlink打ち上げによって、さらに60の衛星が加わる計画となっている。今後もSpaceXは、2020年の間に頻繁な打ち上げを続け、最終的に年末までには顧客へのサービス提供を開始できるよう目指している。さらに2021年の間にコンステレーションを充実させ、サービスを提供可能な領域を拡張する計画だ。

ショットウェル氏はブルームバーグに「SpaceXは今のところプライベートな企業だが、のStarlinkは今後も成長し、株式を公開するのにふさわしいビジネスなのです」と語った。それも道理というものだろう。のStarlinkの運営がいったん軌道に乗れば、他のネットワーク事業者と同様、会員となった顧客から継続的に収益を得ることが可能な、伝統的な構造のサービス事業となる可能性が高いのだから。今のところSpaceXは、スピンアウトの具体的なスケジュールを定めていないという。これはまだ初期の検討段階の話であり、実際にスターリンクの株式が公開されるのは、数年先になりそうだ。

一方SpaceXは、当面の間は収益性はさほど重視していないように見える。これまでに、打ち上げに対して多額の現金を喜んで支払う顧客のために、Falcon9やFalcon Heavyのような繰り返し使える輸送ロケットを開発し、実証してきた。もちろん、再利用可能にすることで、打ち上げにかかるコストは低減し続けてきたが、同時にSpaceXは、Starshipと呼ばれる完全に再利用可能な、まったく新しい打ち上げシステムも開発してきた。その中には新たなSuper Heavy(スーパー・ヘビー)ブースターも含まれていて、開発プログラムには、かなり多額の継続的な出費が見込まれる。しかもその出費は、今後減るどころか、ますます増えることが予想される。

最終的にStarshipは、Falcon 9とFalcon Heavyの両方に取って代わって、SpaceXとして唯一の打上げ機となるだろう。それによって毎回の打上げコストを大幅に削減し、収益性の高い運用が確保できる。とはいえ、まだStarshipは開発の初期段階にある。またSpaceXのCEO兼創立者のElon Musk(イーロン・マスク)氏は、火星に到達して植民地化するという野心的な計画も持っている。その実現には、それなりの資本支出が必要だが、それは必ずしも株式市場の要望に沿うものではない。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

SaaS 21社のIPOから得られた資本効率に関する教訓

安心してほしい、ほとんどのハイテク企業はWeWorkではない

Uber(ウーバー)とWeWork(ウィワーク)が最近盛んに取り上げられたために、メディアの注目は「ソフトウェア主体の」スタートアップの、高いコスト(ハイバーン)に集まっている。とはいえ、ここ数年のテック分野でのIPOのほとんどは、資本効率の高い「サービスとしてのソフトウェア」(SaaS)スタートアップとして行われているのだ。

SAN FRANCISCO, CA – MAY 10: Adam Neumann Founder of WeWork speaks on stage at the WeWork San Francisco Creator Awards at Palace of Fine Arts on May 10, 2018 in San Francisco, California. (Photo by Kelly Sullivan/Getty Images for the WeWork Creator Awards)

過去30か月間(2017年下半期以降)、米国拠点のVC支援SaaS企業21社がIPOを行った。その中にはZoom、Slack、そしてDatadogなど1が含まれている。私はその21社すべてを分析して、資金調達と収益創出の軌跡をたどった。なお個々の企業の軌跡はこのExtra Crunchの記事で深く掘り下げている。

以下は、そのデータセットからの要点をまとめたものだ。

1. IPOで、調達された資本総額2は、中央値の企業の年間収益予測値(ARR:annual run-rate revenue)3 をわずかに上回っていた

上に示したのは、各企業が上場した時点でのARRと、累積資本の散布図である。ほとんどの企業は、ARRと調達資金が一致することを表す対角線の近くに集まっている。調達された資本金は、しばしば線に接しているかARRよりわずかに高い。

たとえば、Zscaler1億4800万ドル(約162億円)を調達してIPO時点でのARRは1億4600万ドル(約160億円)に達していたし、Sprout Social は1億1200万ドル(約122億円)を調達して、1億600万ドル(約116億円)のARRを達成していた。

データセットとしての企業の収益の間に大きなばらつきがあることを考えると、総額を見る代わりの指標を取り入れると便利だ。なにしろARRを見たときに、SproutSocialは1億600万ドル(約116億円)、Dropboxは12億2200万ドル(約1335億円)と10倍以上の差があったのだ。ARRの倍数として表現された総資本額は、この差異を正規化する。下に示したのは、この指標による分布のヒストグラムである。

分布は約1.00倍から1.25倍に集中しており、中央値の企業はIPOの時点でARRの1.23倍の資本金を得ている。

両端に外れ値が出現している。Domoは、6億9000万ドル(約754億円)を調達して1億2800万ドル(約140億円)のARR、つまりARRの5.4倍という異常値で、これに迫る会社は存在しない。これに対してZoomとDatadogは効率的な方の外れ値だ。Zoomは1億6100万ドル(約176億円)を調達して4億2300万ドル(約462億円)のARRを達成し、Datadogは1億4800万ドル(約162億円)を調達して3億3300万ドル(約364億円)のARRを達成している。

2.キャッシュバーンは資本効率のより正確な尺度であり、調達した資本金額とは大きく異なる場合がある(会社によって異なる)

ある企業がどれくらいの資本金を調達したかは資本効率のストーリーの半分しか語っていない。なぜなら多くの企業が十分な預金残高を保有しているからだ。たとえば、PagerDutyは合計1億7400万ドル(約190億円)を調達したが、公開時には1億2800万ドル(約140億円)の現金が残されていた。また別の例として、Slackは公開前に合計13億9000万ドル(約1519億円)を調達していたが、8億4100万ドル(約919億円)の現金が残されていた。

一部のSaaS企業が、既存の株主への希薄化となるにもかかわらず、当座の現金需要を超えて資本金を過剰に調達しているように見えるのはなぜなのか?

理由の1つは、企業が日和見的であり、市場の状況が良好なときに、実際のニーズよりもはるかに早い段階で資本を調達しているからだ。

もう1つの理由は、目標を達成したいVCがより大きなラウンドを推進していることだろう。たとえば、4億ドル(約437億円)の事前評価を受けた企業が、5000万ドル(約55億円)の現金しか必要としないのにも関わらず、最終的に25%の所有権を持ちたいVCから1億ドル(約109億円)を調達する結果になる場合もある。

これらの諸要因により、調達された総資本から現金残高を差し引いて計算されるキャッシュバーン4の方が、総調達額よりも正確な資本効率指標となるのだ。以下に示したのが、ARRの倍数としての総キャッシュバーンの分布だ。

驚くべきことに、Zoomはマイナスのキャッシュバーンを達成した。つまりZoomは、調達したすべての資本金よりも多くの現金を貸借対照表に載せて公開したのだ。

IPOでの会社のキャッシュバーンの中央値はARRの0.77倍であり、ARRの1.23倍である調達された総資本よりもかなり少なかった。

3.「Rule of 40」の指標でみた最も健全なSaaS企業は、多くの場合最も資本効率が高い

Rule of 40は、SaaS企業のビジネスの健全性を評価するための一般的な経験的法則だ。それが主張しているのは、健全なSaaS企業の収益成長率と利益率の合計が40%以上になるということだ。以下に示したグラフは、21社が「Rule of 40」でどのように採点されるかを示したものである5

21社のうち、8社が40%のしきい値を超えている。Zoom(123%)、Crowdstrike(119%)、Datadog(76%)、Bill.com(56%)、Elastic(55%)、Slack(52%) 、Qualtrics(44%)、そしてSendGrid(41%)という数字になっている。

興味深いことに、キャッシュバーンで測定された資本効率の両端の外れ値は、「Rule of 40」でも同じく外れ値となっている。資本効率が最も高いZoomとDatadogは、「Rule of 40」で最高と3番目に高いスコアを獲得している。逆に、資本効率が最も低いDomoとMongoDBも、「Rule of 40」で最低スコアを獲得している。

実際に「Rule of 40」と資本効率は実際には同じコインの両面であるため、これは驚くようなことではない。企業が利益率をあまり犠牲にせずに高い成長を維持できる場合(つまり「Rule of 40」で高得点)には、同業他社と比べて当然ながら現金の消費量は少なくなる。

結論

これらすべてを、お気に入りのSaaSビジネスに当てはめるためには、いくつかの質問に答えなければならない。調達した総資本金額はARRの何倍だろう?総キャッシュバーンはARRの何倍だろうか?上記の21社と比較した場合、その会社はどの位置に入るだろう?Zoomに近いだろうか、それともDomoに近いだろうか?”Rule of 40″での評価はどのくらいだろうか?それは、その会社の資本効率の良さまたは悪さを説明するのに役立つだろうか?

この記事のドラフトをレビューしてくれたElad Gil(エラド・ギル)とDenton Xu(デントン・スー)に感謝したい。

脚注

1米国拠点のVC支援SaaS企業のみが含まれる。予定されたIPOの直前に買収されたため、公開されはしなかったが、Quatricsを含んでいる。

2IPOに先立つ機関投資を含む。創業者による個人的な資本投資は含まれていない。

3これは、年間経常収益(Annual Recurring Revenue、これもまたARRと略される)ではなく、公開会社の報告要件ではないことに注意してほしい。年間収益予測値は、四半期収益を年換算することで計算される(4倍にするということ)。SaaSの収益は主に定期的なソフトウェアサブスクリプションであるため、両者の指標はSaaSビジネスを厳密に追跡する。

4これは、創業者からの株式買戻しなど、営業とは関係のない現金の利用も含んでいるため、あくまでも単純化された定義である。

5収益成長率は、過去12か月間(LTM)の収益を、その前の12か月間の収益と比べた成長率として計算される。利益率は、非GAAP営業利益率のことで、営業利益に株式ベースの報酬費を加えたものを、過去12か月(LTM)の収益で割ったものだ。

関連記事:資本調達の適切なペースは?(未訳)

【編集部注】著者のShin Kim(シン・キム)は新しいSaaSスタートアップに取り組んでいる最中で、かつ起業家であるElad Gil(エラド・ギル)のスタッフのチーフでもある。以前は、Oak Hill Capitalと J.P. Morganに在籍し、カリフォルニア大学バークレー校でEECS(データサイエンス)の修士号を取得した。

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(翻訳:sako)

CasperのIPOはマットレスを売って損をすることがあるという見本

eコマースの天才でD2Cの希望の星であるCasperIPOを申請したCrunchbaseデータによると、ニューヨーク拠点の同社は、上場前に3億4000万ドル(約373億円)近くを調達しており、ニューヨーク証券取引所(NYSE)でティッカーシンボル「CSPR」取引される予定だ。同社のS-1申請資料には、調達可能金額のプレースホルダーには1億ドルという数字が書かれている。

同社は今後資金が必要になる、なぜなら損失を出し現金を燃焼しているからだ。マットレス会社がどうやってそんな状態にあるかを詳しくみてみよう。

成長と損失

2017年の年間売上は2億5090万ドル(約275億円)で、正味4570万ドル(約50億円)の「返金、返品、ディスカウント」、2018年は3億5790ドル(約330億円)で、同8070万ドル(約88億4700万円)だった。これは年間成長率42.6%に当たる。その2年間に、Casperはそれぞれ7340万ドル(約80億4660万円)と9210万ドル(約101億円)の純損失を出した。

Casperの2019年の最初の3四半期の売上は3億1230万ドルで、「返金、返品、ディスカウント」が正味8010万ドル。2018年同期間の2億5970万ドル、5770万ドルより20%強上昇した。

同社の3四半期間の純損失は2018年の6420万ドルから2019年は6740万ドルに増えた。同社の純損失は一般に、成長が減速するにつれて上昇している(ただし2019年は現時点までゆっくりと)。

対照的に、会社にとって朗報なのは営業キャッシュ消費が減速していることだ。暦年2017年の8400万ドルから2018年は7230万ドルへと減少し、2019年最初の3四半期では2970万ドルと前年同時期の4490万ドルから減らしている。

しかし同社の成長の遅さと、標準会計原則(GAAP)で見た継続的な損失は会社評価額を損ないかねない。Casperの直近の調達ラウンドでの評価は11億ドルだった。

同社の粗利益は、2019年最初の9カ月は49.6%で非ソフトウェア会社としては悪くないが、2019年は粗利益の73%以上を営業およびマーケティングに費やした。この数字はCasperが成長のために大きく投資していることを表しており、その成長は現時点まで20%と報告されている。

同社は今後そのための出費を大きく増やすことができないことから、今後も成長が抑えられることを示唆している。そうなると出てくる疑問は、成長が遅く、継続的売上がなく、GAAP損失が続く会社の価値とはいったい何かということだ。

同社の調整済みEBITDA(ビックリハウスのゆがんだ鏡に似た偽善的な収益指標)もさほど良いわけではなく、Casperの最初の3四半期損失は2018年がマイナス5750万ドル、2019年がマイナス5380万ドルとわずかに改善されるだけだ。

投資家

Casperは、IVPLerer HippeauTarget、およびNew Enterprise Associatesから資金を調達している。2014年にシリーズAラウンドでシード資金を調達した。過去の記録を見ると、LererとNEAが最も積極的に投資していた。2015年にさらに5500万ドルを、2017年中頃にははるかに多額の1億7000万ドルを調達した。2019年の1億ドルのラウンドは、2020年のIPOに向けて実施された。

この会社のIPOは、値付けの問題だ。そしてそれはCasperと直接競合していたり、Casperに似たビジネスの異なる分野で運営している多くのスタートアップに影響を与える問題でもある。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

ハードウェアスタートアップのIPOはいまも苦戦が続く

2019年最後のテック系IPOも完了したところで、今年どんなことが起きたかを振り返ってみたい。我々は時間の経過に併せてトレンドを追った。ひとつ明白なことがある。ハードウェアのスタートアップはいまも苦戦している。

スタートアップの世界でハードウェアがハードであるというのは陳腐な指摘だ。誰でもそれを知っている。ハードウェアは作ること自体が難しいうえに、あらゆるテック系ハードウェアにはソフトウェアが必要なので、純ソフトウェアのスタートアップよりも広い分野の専門性が必要になる。そしてそれが「ハード」なのである。

しかもハードウェアのスタートアップがなんとか一定のスケールを実現できたとしても、その勢いを維持することは容易ではないようだ。今年我々は、ハードウェアとデジタルサービスのハイブリッド企業であるPelotonが上場し、その後苦戦するところを見てきた。最近株式市場が活気を取り戻しているにもかかわらず、株価はIPO価格に向かって逆戻りしている。今日の株価は6%安の約30ドルだった。IPO価格の29ドルに不快なほど近い。

2019のIPO企業にはEHangもいた。最近上場したばかりの同社は(デビュー時についてはこちら)わずかな上昇のあとすぐに下降を続けた。今日は値上がりしたものの未だに上場前に引き下げたIPO価格を下回っている。というわけで、Pelotonはおおむね横ばいでEHangは下落。ことしの有望ハードウェアIPOのまとめとして素晴らしとは言えない結果だ。振り返ってみてもあまり状況かわらない。

中国拠点の電気自動車メーカーのNIOは、(美しい自動車を作っているにもかかわらず)2018年末に米国でIPOして以来価値の約3分の2を失った。6.25ドルで上場したNIOの株価は現在2.70ドルにすぎない。

Sonosも2018年に米国で上場した。当初はIPO価格の15ドルより高値で取引されていた。そして2018年が終わり近くになると10ドル以下に沈んだ。スマートスピーカーとステレオを開発・販売するこの会社は2019年いっぱいをかけて回復した。再びIPO価格を取り戻し、今日は約14.80ドルで取引された。

しかし2017年に遡るとRokuが大成功を収めている。1株当たり14ドルだったテレビハードウェアメーカーの株価は現在137ドルで、10倍近く伸びている。しかしRokuはIPO当時にはハードウェア事業から撤退しつつあったため適当な事例ではない。ちなみに直近の四半期にRokuのハードウェア売上は全体のわずか31%だった。1年前には42%だった。減少は続いている。

ここでFitbitGoProに何が起きたかを解説する必要は、おそらくないと思う。

ハードウェアは多くの利益をもたらす。サムスンをアップルはハードウェアで莫大な利益を上げている。マイクロソフトはSurfaceを本物のビジネスにすることに成功し、毎年何十億ドルもの売上を得ている。アマゾンは消費者向け読書デバイスと消費者向け防犯デバイスで大きなハードウェアビジネスを築いた。グーグルでさえ、新型スマートフォンの売り込みに本腰を入れ、NBAの広告枠(たぶんこれだと思う)をまとめて買ったようだ。Facebookはこのグループでは遅れをとっている。

しかし小さなハードウェア会社のIPOにとっては、私が最近のIPOを見逃しているのでない限り(多分ないと思う)、厳しい世界が待っている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

OneConnectのIPO評価額の急下落から見える急成長急燃焼企業の危うさ

先週、OneConnect(ワンコネクト)が米国でIPO(株式上場)を計画しているという話が我々のもとに飛び込んできたが、それは無理のある話だった。この会社の株式公開は興味深く、同時に重要なものだった。そこで、私たちが見落としている問題とこのIPOが気になる理由を理解するために、ちょっと考えてみよう。

新規株式公開を行ったOneConnectは、中国の銀行や選ばれた海外企業にサービス近代化のための金融技術を売る企業だ。OneConnectの収益の大半は製品の使用料であり、APIコールを含む商取引による収益の4分の3を占める。

ソフトバンクビジョンファンドが支援するこの企業は、新規公開株価を1株あたり10ドルに設定したが、先週は、1株10ドルと変わらない株価で取り引きを終えた。

OneConnectは、米国内ではほかと特段変わらないIPO上場を果たした中国企業であり、大勢の中のひとつに過ぎない。なのに、どうしてこんなにその上場が問題視されているのか?

理由はいくつかある。この上場により、ソフトバンクとビジョンファンドにまたしてもリクイディティ(市場流動性)問題が増えるためでもある。2つめのビジョンファンド(ビジョンファンド2)のエンジンを盛んにふかす日本のこの複合企業体には、その勝者を選ぶ能力の見返りと証明、そして資本投入で自らに燃料を注ぐことが鍵となる。だから、OneConnectが公開企業として成功することがとても重要なのだ。

そして我々、市場のオブザーバーにとって同社の上場は、金融の観点から2倍の興奮をもたらすものだった。いや、OneConnectは儲かっていない(むしろその逆だ)。興味がそそられるのは、投資の誘いをしている間に、売り上げが大きく下落していたことだ。WeWork(ウィワーク)後の世界では、それは流行遅れとされているはずだが。では、どれだけの評価額になったかを見てみよう。

OneConnectの価値は?

OneConnectは、株式公開価格を9ドルから10ドルを目指していた。なので、実際の価格はその最高値ということになる。とはいえ、最初から幅が非常に狭かったこともあり、大きな効果は得られなかった。OneConnectが当初は12ドルから14ドルとしていた株式公開価格(こちらのほうがずっと標準的だが)から下げた価格帯であることを思うと、なおさら効果は薄かった。そうして、同社は期待されていた最高値を実現できたのだが、あくまで価格帯を下げたうえでのことだ。

結果として、ニューヨーク・タイムズが株式公開価格から計算したOneConnectの評価額は、およそ37億ドル(約4050億円)だった。TechCrunchが独自に計算したところでは、ややマシな38億ドル(約4160億円)だった。いずれにせよ、がっかりする額だ。

Crunchbaseのデータによれば、2018年の初めにOneConnectがソフトバンク・ビジョンファンドから資金調達をしたときは、投資前の企業価値68億ドル(約7450億円)に対して6億5000万ドル(約712億円)が投資されている。それにより、この中国平安グループの企業の投資後の価値は74億5000万ドル(約8160億円)となった。現状で株式公開価格を下げなければならなかったことは、OneConnect自身にも、中国平安にもソフトバンクにも痛手だ。

なぜこんなに安いのか

最初に、ちょっと考えてみようと言ったからには手短に話そう。OneConnectは事業で大幅な損失を出したが、同社の不採算性が深刻なだけに、一般投資家への影響が思っていたより大きかったのだ。

OneConnectは、2019年の第1四半期から第3四半期までの間に、なんとか70%以上の増収を果たし、その時点での総収入は2億1750万ドル(約238億円)を記録した。ところが、その期間の売上高はわずかに7090万ドル(約77億7000万円)と、営業経費を賄える程度だ。だが、この会社の費用構造の規模はその売上高をずっと上回る。

その同じ9カ月の間、OneConnectでは、セールスとマーケティングの経費だけで総利益を上回った。そんなわけで、OneConnectの2019年の第1から第3四半期の営業経費は2億2760万ドル(約250億円)にのぼり、その時期の営業損失は1億5660万ドル(約17億2000万円)となってしまった。

つまりOneConnectは、成長すればするだけ大量の現金を燃やすことになる。今もまだ投資を求めて精力的に動いているものの、収益性の改善からはほど遠い状態というのが流行っているらしい。ある意味、OneConnectがそれを裏付けている。独立するためには、急激な評価額の下落に耐えなければならなかった。その事実ひとつだけでも、市場のムードは一変してしまった。

画像クレジット:Roberto Júnior on Unsplash

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(翻訳:金井哲夫)

2019年最後のテック系IPOを採点する

ホリデーシーズンに向けて米国市場の動きが鈍る中、米国で今年最後のテクノロジー系IPOが完了して取引が始まった。

今週、テクノロジー系、テクノロジー風、あるいはベンチャーキャピタル支援のスタートアップ3社が上場した。Bill.comSprout SocialEHangの面々だ。ここまでの各社の状態を見てみよう。なお、ここに上げたのは我々の知る今年最後のIPOグループという意味であり、まだまだほかにも驚きの出来事が待ち構えているに違いない。2020年にはいろいろ楽しみがあるだろうが、ともあれ今年のIPOはこれでおしまい。

価格設定

3社はそれぞれの方法で価格を設定した。IPOに向けて各社が行った価格管理方法を見てみよう。

  • EHangは予定価格帯の最低金額でIPO価格を設定し、1株12.50ドルで売り出した
  • Sprout Socialは16~18ドルの価格帯の中間の1株当たり17ドルで設定した
  • Bill.com 予定を上回る1株あたり22ドルで売り出した。予定価格帯は当初の16~18ドルを19~21ドルに引き上げていた

この結果は各社の上場前の最終評価額と比べてどうだったのか。本誌にわかる限りの比較結果は以下のとおり。

というわけで、EHangの価格設定は低く、上場前の評価額は推測するしかないためIPOとの比較は難しい。評価は及第点としておく。Sprout Socialの価格設定は範囲の中央で、上場前の評価額をわずかに超えた。評価はBまたはB+。Bill.comのIPO価格は引き上げた予定価格よりさらに高く、以前の評価額を大きく上回った。これは評価Aに値する。

株価

取引は始まったばかりなので、上場企業としての各社のこれまでの実績はどうやって測ればいいのだろう。スコアカードは以下の通り。

  • EHangの金曜日の終値:12.90ドル (+3.2%)
  • Sprout Socialの金曜日の終値:16.60ドル (-2.35%)
  • Bill.comの金曜日の終値:38.83ドル (+76.5%)

ここから成績をつけるのは比較的簡単だが、ひとつ注意すべき点がある。Bill.comのIPOがいきなり大きく成功していることで、引受銀行の値付けがやすかったために会社が利益をさらったのではないか、というよくある苦情が聞こえてきている。この主張はおそらく、公開市場で取引が始まってからの価格は妥当である。そして当事者である企業はおそらく、その価値の大部分を手にしているという仮定に基づいている。

本件に対してBill.com CEOは別の解釈を示しているが、その週で最も成功したIPOが、成功しすぎていることで批判を買っているといを事実は少なくとも知っておくべきだろう。よって、A+はつけられない。

画像:Getty Images / Somyot Techapuwapat / EyeEm

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

B2B決済企業Bill.comのIPO公募価格は赤字経営のスタートアップに朗報?

B2B決済企業であるBill.comは米国時間12月12日、IPOの公募価格を1株あたり22ドル(約2400円)強に設定した。同社はIPOで982万株を売却し、約16億ドル(約1754億円)の評価額のもとに、約2億1600万ドル(約237億円)を調達する予定だ。

画像クレジット: Chris Liverani

同社のIPOにおける公募価格は、上場を目指す赤字経営の企業にとっては、やや不確実な時期に設定された。WeWorkによるIPOの混乱によって、成長志向の企業が株式公開時に投資家の関心を高めることに苦労するかもしれないという懸念が生じていたからだ。

しかし、Bill.com のIPOは、すべての赤字会社が同様ではないことを明らかにしている。同社の公募価格設定は、投資家たちの損失に対する懸念よりも、その成長ストーリーにより強く共感したことを示している。同社はこれまで1株当たり16ドルから18ドル(約1800円から2000円)のIPO価格帯を目標としていた。しかし、その価格帯は本日の価格設定の前に、昨日1株あたり19ドルから21ドル(約2100円から2300円)に引き上げられていた。

財務履歴

Bill.comのIPOが、スタートアップにとって何を意味するのかを理解するために、同社が未公開の間にどれくらいの資金を調達したか、そしてその財務状況がどうであったかを思い出してみよう。

同社は未公開時期に行ったシリーズとベンチャーラウンドを通して、3億4710万ドル(約381億円)を調達してきた。その中には2017年の1億ドル(約110億円)や、2018年の8800万ドル(約96億円)が含まれている。米国カリフォルニア州パロアルトに本拠を置く同社は、未公開時期の後期には、Franklin TempletonJP Morgan、そしてTemasekからも調達している。それ以前には、EmergenceDCMIcon VenturesFinancial Partners Fund、そしてScale Venture PartnersなどからBill.comは資金を調達していた。

Crunchbaseのデータによれば、同社は2018年の調達後における評価額は、きっちり10億ドル(約1100億円)だった。これによりIPOが行いやすくなり、最近増加したBill.comの個人投資家たちにも価値が増したこととなった。

IPOに向けて、Bill.comはともに増加した売上損失の両方を公表した。

  • 第3四半期売上:3520万ドル(約39億円)、前年比56.9%増
  • 第3四半期純損失:570万ドル(約6億円)、前年比544.3%増

1年前の第3四半期の100万ドル(約1億円)以下の損失と見比べると、同社の純損失の伸びは実際よりも悪いものに見える。しかし、利益への道を探している投資家たちには、計算ベースの大きさに関係なく、その方向性やペースは気にしていないのかもしれない。

1年前よりも多くの損失を出しながら公募価格帯を引き上げてきた企業に、さらに上回る公募価格がついたという事実は、IPOウインドウが閉じられてしまったのではと考える企業たちの懸念を和らげるはずだ。もし損失が収益に対して割合として少なく成長が堅調であれば、決して可能性は閉じられていない。

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(翻訳:sako)

ビッグユニコーングループの最後、民泊仲介のAirbnbが2020年のIPOを発表

Airbnbは2020年にIPO(新規株式公開)を実施すると発表した。同社は、おおよそ10年前に創業されたUber、Lyft、The We Company、そしてPostmatesが含まれるビッグユニコーングループの中でIPOの意思を表明した最後の企業だ。

米国時間9月18日の夜にAirbnbは2019年第2四半期の売上高が10億ドル(約1080億円)に達したことを明らかにした。発表文によると、同社の売上高が10億ドルを超えたのは2回目となる。

Airbnbはまた、同社立ち上げから2019年9月15日までの間に、自宅や部屋を同社のマーケットプレイスのリストに掲載したホストが800億ドル(約8兆6400億円)を得たことも明らかにした。収入が十分でない教師だけとってみてもAirbnbによる副収入が1億6000万ドル(約170億円)となり、同社が調査した人のおおよそ51%が、部屋の貸し出しが家計を助けていると答えた。

加えて同社は、世界10万都市で取り扱っている物件の数は700万件にのぼるとも語った。1000都市で取扱件数は1000件を超えている。ちなみに8年前は12都市のみだった。

民泊だけでなくなくAirbnbは観光事業でも収益を上げている。4万件以上のツアーや体験が1000都市超で予約された。こうした旅行は、30カ国で合わせて1000億ドル(約10兆8000億円)超の経済効果につながった、としている。

ただ、Airbnbの成長には議論がつきまとっていて、Airbnbが成功するかどうかは政府による規制との間で妥協点を見い出せるかにかかっている。規制は、Airbnbの影響を受けている家賃、そしてAirbnbの物件リストを増やす投資不動産となっている空きアパートや空き家についてのものだ。

間もなく行われるAirbnbのIPOはAndreessen Horowitz、Manhattan Venture Partners、Sequoia Capital、TCV、Firstmark、そしてAltimeter Capitalといった投資家にとっては吉報だ。Crunchbaseによると、これら企業は合わせて約44億ドル(約4750億円)をAirbnbに投じている。

画像クレジット: Carl Court / Staff

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(翻訳:Mizoguchi)

コワーキングスペースWeWork運営のThe We CompanyがIPOを保留へ

不動産の短期貸出しと管理を行うWeWorkをはじめとする「We関連」子会社を傘下にもつThe We Companyが、IPOを凍結することが明らかになった。

同社の上場計画は、同社のコーポレートガバナンスや、一時は500億ドル(約5兆4000億円)近いと投資家が考えていた会社価値に対する疑念のために難航していた。

投資家は天井知らずの企業価値と、共同創業者でCEOのAdam Neumann(アダム・ノイマン)氏の不品行な経営慣行に尻込みし始めたと、The We Companyの上場保留を最初に報じたウォールストリートジャーナルは書いている

過去数週間、The We Companyは投資家の懸念を払拭しようと数々の手を打ってきた。ノイマン氏との酷い契約を白紙に戻し、新たな役員を加えた。さらにノイマン氏の会社での力を制限する動きも見せた。

先週同社は目論見書を修正し、外部から幹部を招いたことを記載した。さらに、クラスBとクラスC株の権利を減らしてノイマン氏が他の株主の20倍の議決権を持つことがないようし、ノイマン氏の妻を同社の後継者計画から除外した。

こうした行動もウォール街の投資家をなだめるには不足だったようだ。会社価値を100億ドル以下に引き下げようとする試みでさえ、投資家の関心をIPOに向けることはできなかった。

そしてThe We Companyが上場を断念することが確実になり、上場後のUberとLyftが不調を続ける今、おそらくベンチャーキャピタルは投資先企業のとんでもなく高い評価額を見直すことになるだろう。そしておそらく、強欲はよくないかもしれないことを学ぶときなのかもしれない。

関連記事:WeWork and Uber are proof valuations are meaningless

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

2019年のテクノロジーIPO、上場会社というジェットコースターから考えたこと

2019年は米国のテクノロジー系IPOにとってすでに活発な年となっている。UberLyftなど、非常に期待されていた一部のユニコーンは、IPOデビューと上場企業としての初期の株価で投資家を失望させた。FiverrZoomCrowdStrikeなど株価が急上昇している会社もある。食品テクノロジーブランドのBeyond Meat(通常一緒に見ることのない2つの単語だ)は、25ドルのIPO価格から239ドルの高値を付けた。

2019年のIPO企業のうち年初に上場した企業は、上場前の投資家と従業員のロックアップがまもなく期限切れ、多くの場合でIPOの180日後、新たな課題に直面する。上場前から投資家と従業員が保有している株式を売却することが可能となり、市場に流通する株式数が増えることになる。Lyftは、ロックアップの期限が切れる、株式市場へ多くの同社株式が流入するタイミングで、まだ2019年パッケージ(従業員向け株式購入プラン)の募集期間の初期段階にいる。次に何が起こるかに関係なく、非常に短期間でこのような印象に残るビジネスを構築した企業の軌跡を引き続き追うことができ、わくわくしている。

私は最近、ニューヨーク証券取引所(NYSE)でオープニングベルを鳴らし、当社のプラットフォームに300万人目の借り手を迎えた。2014年に当社LendingClubが公開企業の仲間入りを果たしたときの素晴らしい気持ちを思い出した。LendingClubはその年最大の米国のテクノロジーIPOであり、現在でも史上最大の米国のテクノロジーIPOの1つだ。バリュエーションは54億ドルで、取引初日には株価が67%も上昇した。我々はハードワークが報われたことを喜び、成長の次の段階に期待した。しかし、ロックアップの期限が切れる頃には、1株あたり15ドルのIPO価格に戻ってしまった。

それ以来、国内で最も成長率の高い消費者金融セクターの市場リーダーであり、年間2桁の成長を遂げているが、今日の会社の価値は2014年の5分の1未満だ。詳細は後述するが、非常に困難な時期をくぐり抜けてきた、と言うだけでも十分だと思う。目標に向かって行動し、成長と利益率の拡大を実現しながら、我々はようやく順調な流れに戻った。

我々の体験から得られた、IPO後の展開について考えたい方にとって有益かもしれないいくつかの洞察がある。ここでは、短期志向に陥る過酷な四半期目標ではなく(すでにあちこちで十分に語られている)、事前に知っていたら私にとって役立ったであろうと思われる点について取り上げる。

物事は意外な方向に展開する、本当に

IPOに至るまでの期間を、赤ちゃんの誕生を待っている期間と比べてみたい。知識として、新生児を家に迎えた後は、これまでとは状況が一変するだろうというのは知っている。しかし、頭でわかることと実際に体験することとは違う。株式上場というのは、会社そのものと、CEO、CFO、取締役会が時間をどのように使うかを劇的に変えてしまうイベントだ(そして、明らかに会社全体への波及効果もある)。2014年12月11日にNYSEのベルが鳴った瞬間から、すべてが変わった。

お金を稼ぐことが重要

あなたの会社の株式を買う投資家は、究極的にはあなたの会社の将来のキャッシュフローを評価する。将来のどこかのタイミングで「お金を見せ」なければならない日がきて、つまりその日には利益を上げている必要がある。AmazonはIPOの後、17四半期連続で合計28億ドルを失い、多くの懐疑論と批判の対象となった。同社は戦略を維持したまま、トップラインの成長を実現し、将来への投資を実行し、投資家の忍耐は報われた!

LendingClubでは、数百万ドルを投資して300万人以上の顧客を満足させる製品を開発し(顧客ロイヤルティの指標であるNPSは会社史上最高レベルの78%に達した)、競合他社を寄せ付けないための堀を拡げた。現在は、調整後純利益に基づく収益性の向上に努めている。

好むと好まざるとにかかわらず、スコアボードがある

上場すると、一部の人々はあなたの会社をビジネスだと考えるのをやめて、株価だと考えるようになる。株価というのはラジオ放送のようなものだ。あなたの株主、従業員、パートナー、取締役会―聞いているすべての人にいつも放送されている。

会社のカルチャーが変わらないようにとどめることはできないが、会社が大切にしている価値観を守り続けることはできるし、その必要がある。

株価が上がると、誰もがいい気分になる。しかし、株式市場が不安定だったり景気が良くない時には、多くの人が、現状についてあなたの意見を聞きたいと思うだろう。利害関係者とのコミュニケーションは、あなたの仕事を邪魔するものではなく、以前よりも非常に範囲が広くなったあなたの仕事の重要な部分である。利害関係者とのコミュニケーションに、時間を優先的に割いた上で、常に準備しておく必要がある。

マイクを共有している人がいる

何かを始めるとき、世界は2つのタイプの人々に分けられる。あなたを愛している人とあなたのことを知らない、気にしない人。上場会社の場合、多くの人が会話に参加してくる。業績に焦点を当てる記者がいる。報酬をもらって、あなたの会社やその戦略、見込み、価値について調査・検討するアナリストがいる。そういったアナリストは、あなたの会社とまったく同じような会社をカバーしたことがないかもしれない(結局、あなたは新境地を開いているのだ)。

「ショート」と呼ばれるまったく新しい種類の投資家、すなわち、あなたの会社の株価の下落に賭けている人たちが寄ってくることもある。そうした人々はすべて、あなたの会社の利害関係者に話しかけているため、彼らが何を言っているのか、それがあなた自身のコミュニケーションにどのように影響するのかを理解する必要がある。

マイクがオンになっていることに注意する

従業員全員が「オールハンズ」(全社員ミーティング)に参加した当時のことを思い出してほしい。そこでは、製品ロードマップの詳細、企業戦略、何が機能していて何が機能していないかを共有できたはずだ。もう同じことはできない。重要な非公開情報が漏洩するリスクというものを考えるとき、従業員(や友人や彼らのパートナーたち)に対して確保すべき透明性との間に、新しいバランスを見つける必要があることに気づくだろう。

それは行動とカルチャーが変わるということだが、自然にもたらされるものではない(少なくとも私にとってはそうではなかった)。従業員にとっては不快な変化だ。人々は十分に情報を共有されていないと感じると、たとえそれが会社にとって「必要な」不透明性であっても、会社に対する信頼を失う。LendingClubでは、できる限り定期的に従業員とコミュニケーションを図り、信頼関係を保つようにしているが、どこかで線を引く必要がある。

あなたの競争相手も聞いている

皮肉なことに、重要事項を従業員と共有する能力は限られているが、競合他社には多くを共有してしまっている。 株主やファンドマネージャーは、あなたの戦いの計画を知りたがり、毎四半期、決算説明会で詳細なアップデートを期待している。 あなたの競争相手も注意を払ってメモを取っていると考えて間違いない。

あなたの最も貴重なリソース

これまで述べてきた通り、上場企業であるということは、ビジネスに費やす時間が必然的に少なくなり、外部の物ごとに集中する時間が長くなることを意味する。これ自体悪いことではないが、ビジネスの勢いを維持するために、あなたが使えるリソースを別途確保する必要があるだろう。株式市場と対峙しようとしているとき、あなたの会社の経営陣の陣容が、数年前と比べて大して変わっていないのなら、私にとっては驚くべきことである。

会社のカルチャーは変わる、価値観に重点を置くこと

私はかつて、Googleの幹部に、会社が大きな変化の過程にあるときでもなお、カルチャーを維持する方法についてアドバイスを求めた。彼女は、会社のカルチャーが変わらないようにすることはできないが、会社が大切にしている価値観は守ることができるし、守らなければならないと語った。私がこれまで守り続け、また今あなたに伝えている彼女のアドバイスは、大切にすべき価値観を書き留め、その価値観に基づいて採用し、従業員のパフォーマンスを評価するということだ。

何年も前にこれを実践し始めた。会社が進化・成熟する中で、我々の価値観がこれほど一貫していたというのは驚くべきことだと思う。我々は、顧客をすべての中心に置く価値観を6つのコアバリューに体系化した。我々はNo.1のバリュー「Do What’s Right」(正しいことをする)に従っている。あなたがLendingClubberの価値観に触れたときに、LendingClubberという会社を知ることになるだろう。その価値観が、我々を素晴らしい存在にしている。

上場会社を維持することは気の小さい人には向いていないが、それによって人間的に成長できる。上場会社となることで会社に正統性が与えられ、株式の流動性が高まりそれによって成長が促進され、また次世代の人材をひきつけることができる。株式を上場することでより多くの消費者により多くの価値を提供できるようになり、この成長する産業に正統性を与えることになると、私は常に言ってきた。当社は500億ドル以上の融資を実行したが、まだ市場シェアのごく小さな割合を占めているにすぎない。困難に直面する時もあるが、我々は、米国人が活気を取り戻すのを本当の意味で助けるという夢を日々追いかけている。

IPO以来、融資や借り入れに関わる人々の表情を明るくするために一生懸命働いてきた。多様性のあるチームを構築し、強力なコアバリューを確立し、シリコンバレーの内外を問わず、フィンテックとテクノロジー業界全体を代表したいと思えるような会社を生み出すカルチャーを育ててきた。

上場という公の場への新しい参加者にとって、スポットライトを浴びる生活は波乱に満ちたものになるだろう。まずはこのステップ、そして次のステップにもおめでとう!

【編集部注】著者のScott Sanborn(スコット・サンボーン)はピアツーピア融資会社LendingClubのCEO。

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(翻訳:Mizoguchi)

ビジネスチャットツールのChatworkが東証マザーズ上場へ

チャットツール「Chatwork」(チャットワーク)を開発・提供しているChatworkは8月15日、東京証券取引所マザーズ市場への新規上場を承認されたことを発表した。上場⽇は9⽉24⽇を予定しており、同⽇以降は同社の株式の売買が可能となる。主幹事証券会社は大和証券。そのほか、みずほ証券、SMBC⽇興証券、SBI証券、マネックス証券、楽天証券、松井証券などが株式を取り扱う。

ChatWorkは2000年7月の設立。2015年4月にGMO VenturePartnersから3億円、2016年1月にGMO VenturePartners、ジャフコ、新生企業投資、SMBCベンチャーキャピタルから15億円を、第三者割当増資で調達していた。

同社は大手企業への導入やサイボウズやBoxなど他社サービスとの連携など進め、2018年6月にはChatworkの生みの親でもある取締役兼専務執行役員CTOだった山本正喜氏が、代表取締役兼社長執行役員CEO兼CTOに就任。今年2月にはマネーフォワードとの資本提携も発表。3月には、取締役1名と執行役員を2名、監査役を1名を選任する新経営体制を発表していた。

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フリーランスマーケットプレイスFiverrの株価は上場初日に90%アップ

フリーランスマーケットプレイスのFiverrは、上場したニューヨーク証券取引所で幸先のいいスタートを切った。

Fiverrは昨夜、IPO価格を21ドルに決め、これによる調達額は1億1100万ドル(約120億円)だった。しかし今朝の取引は26ドルで始まり、日中、株価は上昇する一方で、IPO価格を90%上回る39.90ドルでひけた。

Fiverrは、いわゆるギグエコノミーを促進する代表的な企業の一つだ。先月、上場の書類を提出したとき、同社は550万社のバイヤーとフリーランス83万人の間での取引をこれまでに5000万件をプロデュースした、と述べた。

同社は2018年に売上高7550万ドル、損失3610万ドルを計上して赤字だったにもかかわらず、投資家は喜んで同社の未来に賭けようとしているようだ。今日午後のインタビューで、創業者で CEOのMicha Kaufman氏は同社のマイナスのEBITDAは縮小している(少なくとも2018年の第1四半期と2019年の第1四半期を比べたときはそうだ)と指摘した。

「我々は黒字化に向かいつつある。その黒字を維持したい。そのために、成長にフォーカスしつつ、長期的に収益をあげられる事業を構築する」とKaufman氏は語った。フルインタビューを明日アップする。

イメージクレジット: Fiverr

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(翻訳:Mizoguchi)

サイバー侵害対策のCrowdStrikeがIPOで410億円を調達へ

NasdaqでのIPO準備を進めているCrowdStrikeは1800万の株式を1株あたり19〜23ドルで売り出す計画にサインした。中間の価格でいけばCrowdStrikeは3億7800万ドルを調達し、時価総額は40億ドル超となる。

IPO趣意書によると、サイバー侵害を防ぐためのクラウドベースのエンドポイント防御ソフトウェアを開発するCrowdStrikeはこれまでにpre-IPOで株式の30.2%を所有するWarburg Pincus、Accel (20.2%) 、そしてCapitalG (11.1%)からベンチャーキャピタルファンディングで4億8000万ドルを調達している。2018年1月にシリーズEで2億ドルを調達したときの企業価値は33億ドルだった。

カリフォルニア州サニーベール拠点のCrowdStrikeは2週間前にIPO計画の概要を明らかにした。同社はティッカーシンボル“CRWD”で上場する見込みだ。

このサイバーセキュリティーのユニコーンの上場はUberやLyft、Pinterest、PagerDuty、そしてZoomといったベンチャーから投資を受けている企業価値の大きなスタートアップの株式公開に続くものだ。しかし、サイバーセキュリティのIPOとしては今年2番目となる。1番目はイスラエルのTufin Software Technologiesで今年初めに上場した。昨年はZscaler、Carbon Black、そしてTenableが上場した。

McAfeeの経営責任者George Kurtz氏とDmitri Alperovitch氏によって2011年に創業されたCrowdStrikeはサイバー防御業界でめざましく存在感を増しつつある。McAfee、Cylance、Palo Alto Networks、Symantec、Carbon Blackなどと競争を展開している。

幸いにもCrowdStrikeの売上高は急激に伸びていて2017年1月末までの1年間で5300万ドルだったのが、翌年には1億1900万ドルとなり、そして2019年1月末までの1年間では2億5000万ドルだった。今年第1四半期決算(2ー4月)では、売上高は4730万ドルだった前年同期から大幅に増えて9360万〜9570万ドルとなった。

CrowdStrikeはIVP、March Capital Partners、General Atlanticなどからの支援も受けている。

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(翻訳:Mizoguchi)

アリババが香港証券取引所で2兆円超の二度目の上場を検討中

香港の資本市場に大きなニュースが落ちてきた。世界最大のテクノロジー企業のひとつであるAlibaba(アリババ)が、香港証券取引所のセカンドリスティングで200億ドル(2兆円超)の調達を検討している。5月28日にBloomberg(ブルームバーグ)が、匿名情報筋からの情報としてそう報じている(訳注:すでによそで上場している企業がその証券取引所で新たに上場する場合を、セカンドリスティングないしセカンダリーリスティングと呼ぶ。アリババはすでに、2014年にニューヨーク証券取引所で上場している)。

TechCrunchは今アリババにコメントを求めているので、情報が得られ次第この記事をアップデートしよう。

匿名の情報筋がブルームバーグに語ったところによると、香港で調達する資金はアリババの「資金調達チャネルを多元化し流動性を高めるため」だそうだ。記事によると、この中国のeコマース巨人は上場の申請を早くも2019年第2四半期までには秘密裏に行う。アリババがニューヨーク証券取引所で250億ドルという記録的な額の上場を行って話題になったのは5年前だが、そのとき香港は、企業の構造が規則違反として同社の上場の申請を却下している。

しかし香港証券取引所はその後ますます、上場のための人気市場になり、それにより中国のテクノロジー企業を国内の投資家に近づけることになった。2017年には本誌のライターのJon Russellが、そんな状況を説明している。転換点になったのは、昨年同取引所がデュアルクラスストック(複数クラスの株式)による上場をやっと導入したことで、これがHKEXの魅力増大に大きく貢献し、スマートフォンメーカーのXiaomi(シャオミ)やフードデリバリーのMeituan Dianping(美团点评)の上場が相次いで行われた。

このニュースが登場した今は、中国のテクノロジー企業が米国の増大する敵意と、一連の長引く貿易交渉に直面している。先週は中国最大のチップメーカーがニューヨーク証券取引所からの撤退を表明し、既存の香港市場に集中すると発表した。でもその計画は前から懸案のもので、中米の貿易戦争とは無関係、と言っている。

関連記事:中国最大のチップメーカーがニューヨーク証券取引所上場廃止へ

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

大荒れ上場までにUberが起した事件をまとめてみた

Uberというスタートアップが誕生したのは2010年夏だった。WordPressで作ったウェブサイトは既存のタクシー業界の地域カルテルを打破する画期的サービスを提供した。以後、9年の間に同社はありとあらゆる交通運輸部門で既存勢力の抵抗を押しつぶして制覇を目指す巨大企業に成長した。

その過程でUberが達成した功績も多数あったが、下のツイートのように株主をひるませるような問題も起してきた

Uberが「なしとげた」ことには次のようなものがある。

1. 片端から法規を破った
2. AI自動走行車で最初の死亡事故を起した
3. 経営幹部がジャーナリストを脅した
4. ドライバーを全員クビにして自動操縦に置き換える以外現在の企業価値を維持する方法がない

Uber上場バンザイ!

事業を始めたときの最初のプレゼンスライドから今回の不調に終わった新規上場まで、TechCrunchはUberの動向を詳しく報じてきた。これはUberga2008年の金融危機以後、テクノロジー系ベンチャー投資の裾野が大きく拡大した時代を象徴する企業の一つだと考えたからだ。

以下はUberに起きたネガティブな事件のリストだ。一般投資家が自由に株式を売買できる公開企業となった以上、こうした問題も記憶にとどめて置くべきだろう。

  • 2014年にUberはGod Viewというニックネームの乗客の移動経路を詳しく知ることができるシステムを開発し、誰でも閲覧できる状態にしていた。Uberno企業評価額は182億ドルに達していたが、このスキャンダルは次々に降りかかってくる災難の前兆だったかもしれない。
  • Uberの元幹部、Emil MichaelがPandoDailyの編集長、サラ・レイシーを始め、berに批判的な記事を書いたジャーナリストを調査すべきだと示唆した。
  • 2014年から2016年にかけて、UberはHellというコードネームのプログラムを利用してライバルのLyft車両の位置と移動を違法に監視していた。この件はFBIによる捜査の対象となった。
  • 国際展開を進める中で、Uberは運転手の採用審査がルーズであると強く批判された。インドでは性犯罪の前歴があるUberドライバーが女性乗客をレイプした疑いで逮捕された事件をきっかけてにニューデリーで運営を禁止された。
  • 昨年、アメリカの雇用機会均等委員会は採用と昇給における女性差別の疑いで同社を調査した。元社員、スーザン・ファウラーによるUber社内のセクハラの実態についてのレポートがテクノロジー業界における女性差別に意識を向けさせるきっかけとなった。
  • Uberは利用者のプライバシー情報のリークに関連して制裁金の支払と2017年以降20年間にわた監査の実行に合意することでFTC(連邦取引委員会)和解した。
  • アリゾナ州における歩行者の死亡事故はUberの責任ではないと認められたものの、自動運転車による歩行者の死亡事故としては現在これが唯一の例だ。
  • 連邦法規違反に加えて、コロラド州ではドライバー採用にあたって州の定める経歴調査の基準に従わなかったとしてで1000万ドルの罰金を課された。
  • Uberは他の企業との間にも訴訟を抱えていた。主要なものとしては、Googleの親会社Alphabetの自動運転事業部、Waymoとの法律的泥仕合だ。
    これはWaymoの幹部だったAnthony Levandowskiを始め何人かの幹部がAlphabetに移籍するときにUberの企業秘密を盗んだという訴えだった。
  • Uberの法律問題は社外だけでなく社内でも起きた。ファウンダーのトラビス・カラニックが取締役会によって解任されたとき、取締役の投票は割れて社外にも影響が及んだ。初期からの大株主、Benchmarkはカラニックを詐欺、背任、契約違反で訴えた。
  • Uber人材責任者、Liane Hornseyは人種差別に関する社内からの苦情を無視し、公表もしなかったという批判を受けて辞任に追い込まれた。
  • 人種問題だけでなく性差別やアクセシビリティが不雇用機会均等委員会適切であることに対しても訴訟が起こされている。Title II of the 障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act)の2章、カリフォルニア州の障害者法違反でも訴えられている。.
  • Uberは国際市場でも法律トラブルを抱えている。今年に入って運営が認められていない地域でサービスを行ったことについて300万ドルの制裁金を支払うことで当局と和解している。
  • また採用時の審査が甘いことにより、ドライバーが乗客の女性を襲う事件が多発した。Uberは最近、こうした事件が起きた際に強制力のある仲裁によって賠償額を決定する方針を取りやめた。
  • Uberサービスのコアとなるドライバーも同社の待遇には満足していない。上場開始の前夜、全米各地で経営陣に待遇改善を要求するストライキが起きた。Uberの株価に打撃を与える一因となった。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook