MITのテラヘルツ・フェムトフォトグラフィー技術は、表紙の上から本を読む

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本の中を見てみたいけれど、ちょっと表紙に触れただけで粉々になってしまうとわかっている時はどうすればいいか? どうすることもできない。本を開くことは中に何があるかを知るために必須の手順だ。しかし、そうは考えない人たちがMITにはいる。

MITの研究者らは強力な技術を組み合わせることによってそれを可能にした。テラヘルツ波は表紙やページを透過するが、波長の長いX線等と違い、紙とインクとで異なる電磁波を反射する。

これにフェムトフォトグラフィーと呼ばれる超高速度撮影技術を組み合わせ、特定のタイプの画像を1兆分の1秒単位で取り込む。こうすることで極めて精度の高い識別が可能になり、反射から得られた画像が、注目しているページのものか、数十分の一ミリ下にある次のページのものかを区別することがてきる。

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こうして生まれたテラヘルツ・フェムトフォトグラフィー技術を使って、研究者らは本の最初の20ページまでの距離を割り出し、最初の9ページからは印刷されている文字を取り出すことに成功した。1ページには1文字しか書かれていないが、〈あなた〉なら表紙の上からどれほど読めるだろうか。

「ニューヨークのメトロポリタン美術館が非常に興味を持っている。触れることすらためらわれる古書の中を見たいからだ」と論文の著者の一人である、Barmak HeshmatがMITのニュースリリースに書いている。

まだまだやるべきことはたくさんある。例えばテラヘルツ波に他の周波数を組み合わせることが考えられる。これは可視光と近可視光についてはマルチスペクトル・イメージングと呼ばれる方式で既に使われている手法であり、一世紀以上前の手書き文字インクの下に隠された秘密を暴いた。

この技術は本以外にも応用できる。例えば、有名な絵画の絵具の重なりや、考古学試料に固着した物質の分析等だ。

研究はMITのカメラカルチャー研究室で行われている。詳しい解説は このビデオおよび今日(米国時間9/10)Nature Communicationsに掲載される論文で見ることができる。

(注:言い訳めくが、[原題の]”judge a book through its cover” [見かけで判断するな]は、MIT発表の見出しを見る前から考えていた。使わずにはいられなかった!)

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

マイクロバイオームが医療と食品に対する概念に革命をもたらす

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【編集部注:本稿の執筆者、Kobi GershoniはSignals Analyticsの共同設立者で主任研究官でAlexandra V. EberhardはSignals Analyticsのサイエンス担当VPでSignals Analytics Europeのゼネラルマネジャー】

ヒトのマイクロバイオームと言う時、それは人体内に住むすべての微生物の遺伝子のことを指す。ヒトのマイクロバイオームが今、オーダーメイド医療と食事療法のあり方を塗り替えようとしている。ヒトゲノムプロジェクトの完成後、テクノロジーの進歩により病気の診断とその治療の精度は極めて高いレベルにまで押し上げられた。

マイクロバイオームのことを「新規に見つかり、ほとんど調査されていない臓器」と呼ぶ科学者もいるくらい、マイクロバイオームは我々が直面しているもっとも深刻な病気の診断と治療の方法を革新する可能性を秘めている。それらの疾患にはクローン病、糖尿病、肥満や様々なガン、急性下痢、精神障害などが含まれる。

あたかも人体だけでは複雑さが足りないかのごとく、我々一人一人は独自の微生物環境を持っている。新薬の発見と栄養摂取という観点において、それぞれの人が独自の微生物環境を持つということは人それぞれがオーダーメイド治療や摂取した食品にどのように反応するのかという点で重要になってくるだろう。かつてオーダーメイド医療は、実際のテクノロジーが追いついていなかったため法外な費用がかかり、SF映画の中でのみ存在するコンセプトに感じられた。マイクロバイオームの夢はオーダーメイド医療と個人に最適化した栄養摂取を全ての人々の手の届くものにすることだ。

それでは、人の健康状態の維持・管理や栄養摂取を専門とする企業はこの新たなテクノロジーの進歩に対して、どのように対応するのだろうか。

人の腸内マイクロバイオームのおかげで我々が若々しく、より健康的な食事をして慢性疾患とはおさらばする日が来るのだろうか?

これからマイクロバイオームが人の健康に利用される機会がどんどん増え、オーダーメイド医療を一般の人々に浸透させるために今後より多くの投資がなされるのは疑う余地がない。製薬産業はマイクロバイオーム関連のプロジェクトの発掘を行ってきたが、その中でもとりわけプロバイオティクスとプレバイオティクスの分野の成長が顕著だ。体重管理の市場はアメリカだけでも600億ドルに近い規模であり、そのうちの半分以上がプロバイオティクス関連である。プロバイオティクス商品はすでに何年もの間市場に出回っているが、FDAは自身が栄養補助食品に関してはモニターしていないことを明言しており、栄養補助食品には十分注意するよう消費者に対し警告を発している。

プロバイオティクスとプレバイオティクスをめぐってはすでに大量の文献、特許及び臨床試験が存在するが、確かな結果を消費者にもたらす食製品を開発することは製薬市場の研究チームが今度解決して行かねばならない課題である。

例えば、ViThera Pharmaceuticalsはプロバイオティクな細菌株(一部は臨床試験済み)を使って慢性疾患の治療に役立てようとしている。しかしヨーグルトなどの食品に利用可能な菌株などはマーケティングがより困難だ。ダノンのActivaやDanActiveラインの製品は歴史的に見て消化を助けプロバイオティクス細菌を摂取するのに適した食品として売り出されている。

マイクロバイオームは我々が摂取するものをどのように変化させるだろうか。

マイクロバイオームの多くはヒトの腸に焦点を絞っている。腸には高密度の微生物が生存しており、多国籍企業はこれについてさらなる知見を得ようとしている。

今年度の初めに、ワイツマン科学研究所の二人の科学者がPersonalized Nutrition Projectの元で行った研究成果を発表した。その研究では、人それぞれが同じ食物に対してもいかに異なった反応を示すかを調べたもので、この反応の違いの一因は個々人のマイクロバイオームの違いに由来するものだ。その研究で明らかになったのは、食物の人に与える影響は人それぞれで、その影響は予想し難く、栄養摂取は個々人に対して最適化されるべきだということだ。

それでは、私にとって健康的なものがあなたにとって健康的でないとすれば、どのようにして我々はどの食物が自分に健康的だと判別すれば良いのだろうか。幅広い消費者層に対応している大企業の多くが既に気づいていることは、大衆の未来はカスタマイゼーションと共にあるということだ。それらの企業は、これまで伝統的に行われてきた人口分布に基づいた分析をやめ、マイクロバイオーム分析の理解を通じた顧客分析を開始した。

ワイツマンの研究結果がもし広く受け入れられるとすれば、その結果は我々の、健康・栄養関連製品およびそれらを製造する企業、に対する考え方に大きな影響を与えることになるだろう。これまで知られていたよりはるかに多くの病気が人とその人の体内にいる微生物との相互作用により引き起こされている可能性が次々と示されている。

マイクロバイオームを使った診断

ガンとの闘いでは早期診断が有効な治療に不可欠だ。医療会社はガンや他の疾患の診断を効率化するためマイクロバイオームを利用した新しい方法を開発している。

 Metabiomicsはマイクロバイオームをガン診断に応用している企業の一つで、分子レベルの初期診断を専門としている。Metabiomicsは特に、非侵襲的な検便をベースとしてヒトの腸内マイクロバイオームを分析することに焦点を絞っており、結腸内のポリープやガンをより早期に、かつ正確に発見することを目指している。Metabiomicsの技術革新の鍵は特許取得済みのMultiTag™ DNAシーケンス技術であり、この技術によりこれまで不可能であったやり方でマイクロバイオームを解析することが可能になった。

マイクロバイオームの研究は病気の予防とコントロールに向けた新しい道を切り開くかもしれない

オーダーメイド医療のもう一つの波として盛り上がりを見せているのが糞便移植(Fecal Microbiota Transplant)である。これは、テストを受けたドナーより糞便を採取しある種の腸疾患を治療しようというものだ。研究者はIBSやクローン病などの胃腸疾患の治療に糞便移植が使えるか、その可能性を模索している。マイクロバイオームをベースにした治療法を商品化するのはなかなか大変だが、バイオテクノロジー系のRebiotixなどの企業は糞便移植の商品化に取り組んでいる。それらのバクテリアや糞便中の微生物関連製品を使い、生きたヒトの微生物を患者の腸に送り込むことで疾患の治癒を目指す。

オーダーメイド医療の開発とヒトのマイクロバイオーム特有の性質の組み合わせにより製薬企業大手にとっては、近傍領域の産業が真似のできないような装置を開発する機会が到来している。

マイクロバイオーム系企業のEnteromeとEvolve Biosystems

微生物は体を病気から守り免疫力を増強するので、マイクロバイオームの技術革新と疾患予防分野はとてもよくマッチしている。疾患予防は医療会社にとっては巨大なマーケットであり、2020年までにプロバイオティクスの市場規模は500億ドルを超えるだろう

しかしながら、消化器系の健康のためのプロバイオティクスだけがマイクロバイオームを使った予防医療のアプリケーションという訳ではない。

マイクロバイオームの研究では治療と診断が鍵となるアプリケーションである。

現時点では商業化可能な製品はないかもしれないが、この領域での技術革新を推し進めている医療会社は依然多い。そう言った企業であるEnteromeEvolve Biosystemsは、マイクロバイオーム関連の疾病・疾患を治療、診断する目的でマイクロバイオームに目を向けている。 

Enteromeはパリを拠点する、ヒトの腸を専門に扱う企業である。同社は炎症性腸疾患や、糖尿病や肥満などの代謝性疾患の治療を目指している。Enteromeの中で最も開発の進んでいる治験薬であるEB 8018は、同社のメタゲノミクスプラットフォームの強みを生かし、腸内マイクロバイオームを標的にする。そのような腸内マイクロバイオームはクローン病の発症に重要な役割を果たしていることがわかっているからだ。

一方でEvolve Biosystemsが扱うのは妊娠である。幼児における呼吸器や胃腸の疾患、s過剰なアレルギー反応の発症と母親の腸内マイクロバイオームには高い相関があることが判ってきたからだ。同社の目標は、向こう半年の間に同社独自のプロバイオティクスに基づいた生物的治療システムを開発して幼児のマイクロバイオームの健康状態を改善することだ。

製薬市場の研究者は特許や臨床試験以外にも学術論文の重要性を認識して、その利用方法や競合他社の技術革新という点においてマイクロバイオーム市場がどこに向かっているのか見極める必要がある。

マイクロバイオームは製薬、医療、健康管理と栄養摂取の領域に渡って何度も登場するトレンドであり続けるだろう。また、この度のワイツマンの研究結果が示しているのは、我々は自分たちが摂取する食品や製品においてマイクロバイオームが果たしている役割について、まさに理解し始めたところだということだ。個人各々が自分の持つ微生物に基づいて個人に最適化した健康管理と栄養摂取プログラムを持つ日が来ることを想像して見て欲しい。我々各人が科学に基づき最適化され、新規薬物療法にどう反応するのか、摂取するものからどのような恩恵を得るのかを理解するようになるのだ。

マイクロバイオームの将来

イクロバイオームの研究は病気の予防とコントロールに向け、新しい道を切り開くかもしれない。健康な人たちや症状の無い患者は病気の予防に向けて行動を起こすことにそれほど乗り気ではなく、特に症状が進んでいない状態では、病気の進行を遅らす取り組みにも消極的である。ジョンソン&ジョンソンやダノンなどの企業はマイクロバイオームにおける市場を牽引しており、将来的にはもっと多くの会社がこの領域のイノベーションに参画してくるはずだ。マイクロバイオームは既に消費者の毎日の行動に影響を与え始めており多様な商品を通じて生活に浸透して来ている。

健康維持から本当の意味での病気の予防とその進行の阻止にその役割を移行してゆくことは簡単には行かないだろう。しかし現実においてはマイクロバイオームは我々の生活のあらゆる局面にインパクトを及ぼす可能性を秘めている。それは病気の診断や健康な体内微生物群の維持、もしくは直接・間接的な微生物関連の疾患を予防するための早期診断であるかもしれないが、マイクロバイオームは結果的に我々の平均寿命に影響を及ぼす可能性を秘めている。実際にはそれがどのように我々の生物学的寿命と進化に影響を及ぼすのかというのが大きな問題である。ヒトの腸内マイクロバイオームのおかげで、我々が単に長く生きるということを超えて、若々しくあり続け、健康的食生活を送り慢性疾患を克服する日が来るのだろうか。その答えはイエスである。
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(翻訳:Tsubouchi)

海の魚を全部3Dスキャンする、教授のあくなき探求

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もし、mottled sculpin(カジカの一種)がどんな魚かを知りたければ、ネットでいくらでも写真を見ることができる。しかし、それで物見高い干潟マニアを満足させられたとしても、目利きの魚類学者の要求はそれに留まらない。ワシントン大学の教授が、海の魚 ― あらゆる魚の〈種〉だが ― をフル3Dスキャンしているのはそれが理由だ。

34万ドルのCTスキャナーと数人の実験助手と山ほどの魚を使って、Adam Summersは2万5000種以上の魚の完全カタログを作ろうとしている。彼は昨日今日のマニアではない。教授は1990年代から魚をスキャンしていて、この種のデータの持つ科学的価値も知っている。

ミリ単位精度のデジタルモデルがあることによって、異なる種、あるいは同じ種のいくつかの標本の正確な比較が可能になる ― 骨格、尾、脊椎、あるいは魚全身を3Dプリントして実世界の標本と比較することもできる。これは極めて価値あるツールであり、Summersが彼の研究室で作ったデータを無料で提供することにこだわる理由もそこにある。

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「このスキャナーのおかげで、正しく理解すればこのシステムが驚くべき能力を持つことを確信した」とSummersが大学のニュースリリースで語った。「このスキャンデータは、3Dデータとその利用方法に対するわれわれの考え方を変えるだろう」。

研究室はワシントン州の美しいピュージェットサウンド地区のサンファン島にあり、今Summersの水のパラダイスには、自分の魚をスキャンしてほしい人々が次々と訪れてくる。もちろん大物を釣った人だけではなく、生物学者や美術館の学芸員が膨大なコレクションをデジタル化するためにやってくる。

Summnerは、全部をスキャンするのに2~3年かかると考えているが、それで彼の仕事が終るわけではない。次の計画は、残る5万種ほどの地球上の脊椎動物をスキャンすることだ ― いくつもの意味でずっと大変な作業だ。

現在までに500種以上の魚がスキャンされており、 ここOpen Science Frameworkで見ることができる。全ファイがフル解像度で自由にダウンロードできる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

1ビット当たり1原子。この1 KB ドライブは幅わずか100ナノメートル

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井戸端会議のちょっと興味深い新記録の話題。オランダの科学者が超微視的ストレージシステムを作り、1ビットを原子1個でエンコードした ― 1キロバイトが100ナノメートルに収まる。

これは1平方インチ当たり500テラビットのストレージ密度に相当する。ちなみに今日の4テラバイトのハードディスクは、約〈1〉テラビット/平方インチだ。それは、新システムと異なり、1ビットを記録するのに何百何千もの原子が使われているからだ。

「理論的にこのストレージ密度は、人類が作ったあらゆる書物を1枚の切手に記録することを可能にする」とデルフト工科大学の主任研究員、Sander Otteがニュースリリースで言った。ただしこれでは、この技術の真のすばらしさは伝わらない。

このストレージアレイ(正確には「ハードディスク」ではない)は、驚くほどエレガントに構造化されている ― 原子レベルで働くためにはそれが必須だ。

「各ビットは、銅原子表面上の2つの位置と、2つの位置を行き来できる1個の塩素原子から成っている」とOtteは説明する。銅の上の塩素は完全な正方形の格子を形成するので、位置づけや読み取りが容易(比較すれば、ではあるが)だ。塩素原子が上側にあれば1、下側にあれば0を表す。塩素原子を8つ一列に並べれば、1バイトができあがる。

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さらには、行やファイルの終りや次の位置は無視する(例えば損傷のため)ことを表す特別な印がいくつかある。システム全体の効率としては、96 x128 ナノメートル(12行x12列、各セルが8バイトを保持)の大きさに数百文字を記録できる。また、これらの操作は簡単なためプロセスを自動化することが可能だ。

研究者らがデモンストレーションに選んだのはファインマンの講義、 “There’s plenty of room at the bottom” (PDF)の一部だ ― 極小スケールでデータを記録することに関する内容で、正にぴったりの題材(アレイの高解像度画像はここで見られる)。

ただしこれは厳密に研究室内限定のプロジェクトだ ― 少なくとも今は。塩素-銅アレイは、絶対温度77度の真空中でしか安定しない ― 液体窒素とほぼ同じ温度だ。少しでも越えると熱が原子の構造を破壊してしまう。

研究は初期段階だが有望だ。個々の原子をビット記録に使うというアイデアは、多くの科学者が夢見てきたことであり、こうした高密度ストレージの用途は数え切れない。本研究はNature Nanotechnology誌で本日公開された。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

月が地球に写り込むレアな瞬間を捉えたNASAの写真

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NASAの宇宙気象観測衛星(DSCOVR)の塔載カメラが、太陽に照らされた地球を月が横切るレアな瞬間を捉えた。月の裏側全体明るく写しされたこの画像は、7月4日 11:50 pm ETおよび7月5日 3:18 am ETに撮影された。

Lunar transit across the Earth / Animation courtesy of NOAA

Lunar transit across the Earth / Animation courtesy of NOAA

DSCOVRで月のフォトボム(写り込み)が撮影されたのは実はこれが2度目で、1度目は約1年前の2015年7月16日に起きた

First lunar transit of the Earth captured by EPIC on the DSCOVR satellite in July, 2015 / Animation courtesy of NOAA

Lunar transit across the Earth captured by EPIC on the DSCOVR satellite in July, 2015 / Animation courtesy of NOAA

100万マイルの彼方に位置するDSCOVRは、宇宙で太陽嵐の中に浮かぶブイのようだ。人工衛星の主要なミッションは、太陽風をリアルタイムでモニタリングすることで、これを使って国立海洋大気庁(NOAA)は危険の宇宙気象事象を事前に予測することができる。

そのミッションを達成するために、DSCOVRは太陽と地球のラグランジュ第1点(L1)と呼ばれる固有な位置に置かれている。

L1は、地球と太陽の間で、地球の引力が太陽の引力と等しい大きさで逆方向になる位置にある。DSCOVRは地球が太陽のまわりを動く間、L1軌道に乗り、常に太陽と輝く地球と間を浮遊している。

DSCOVR location in relation to the Earth and sun / Image courtesy of NOAA

DSCOVR location in relation to the Earth and sun / Image courtesy of NOAA

この位置で、月が地球の面を横切るところをDSCOVRが見られるのは年に1回か2回だけだ。

NASAの4メガピクセルCCDカメラ兼望遠鏡、地球多色画像カメラ(EPIC)がこの画像を撮影した。去る3月、同じカメラが日食の珍しい光景を捉えた。日食の間、地球の人々は太陽が月に覆い隠されるところを見た。同じ時、EPICからは地球の表面を月の隠が横切るところが見えた。

Lunar shadow moving across the planet during a solar eclipse in March, 2016 / Animation courtesy of NOAA

2016年3月の日食で、月の隠が地球を横切っているところ/アニメーション提供:NOAA

DSCOVRの一方の面に設置されたEPICは、常に地球に面していて、オゾン、植生、雲の高さ、大気中のエアロゾル等の科学データを提供する。反対側には別の装置が太陽を向いて太陽粒子の測定データを提供している。

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DSCOVRの地球・太陽間の相対位置/アニメーション提供:NOAA

「DSCOVRは私たちが太陽を見る目とって、地球に向かう地磁気嵐の引き金となる急激なエネルギー変化を検出して、早期に警報を与える」― NOAAの衛星および情報サービス、副管理者、Dr. Stephen Volzは言った。

太陽気象に注意深く目を向けることは、宇宙飛行士や装置を太陽から放たれる高エネルギー粒子から守るために重要だ。その粒子たちはオーロラのような美しく無害な事象を生みだす一方、重要な国家資産である装置に深刻な打撃を与える可能性があり、宇宙に住む人たちにとっても有害だ。

そのような嵐は地球の電離層を刺激し、商用航行で使用されている様々な高周派通信を妨害する。他の強力な太陽現象であるコロナガスの墳出は、磁気プラズマの波を送り出し、人工衛星に損傷を与え、地球に達すれば電力網を破壊しかねない。

DSCOVRを使って科学者たちは、太陽活動が地球内外の環境にどう影響を与えるかの理解を深めることができる。地上における地球嵐の警報と同じく、NOAAはDSCOVRを使って太陽を監視し、政府や商用衛星のオーナーに、太陽嵐の来訪を知らせている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

パーキンソン病患者の状態を終日チェックするウェアラブル(+補助アプリ)XEED、徐々に投資家の関心が集まる

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物のインターネットや、とくにウェアラブルは、その誇大な約束にまだ達していないと思うが、パーキンソン病で苦しんでいる人たちの助けにはなるようだ。ペンシルベニア大学工学部の二人の学生が、その可能性を追究するために会社を興した。会社の名前を、XEEDという。

その二人、Sade ObaとAlfredo Munizはヒューストン出身、子どものころからご近所同士で、大学に入る前から、テクノロジーを保健医療方面に活かすことに関心があった。パーキンソン病の治療にウェアラブルが使えるのではないか、という考えは、大学入学後に芽生えた。Obaは機械工学、そしてMunizは電気工学専攻だ。

“二人ともロボット工学を主に勉強しているので、家庭用の移動するスマートホームロボットに関心が向いた”、とObaは言う。“しかし最初に作った製品があまり受けなかったから、専門家にアドバイスを求め、センサーの数を大幅に減らして、人の動きを追跡する用途に特化した”。

パーキンソン病には、間欠的な震えが伴う。それは薬や物理療法でコントロールできるが、震えがいつ起きるか分かればもっと良いし、また患者の、病院へ行くこと以外の行動も知りたい。

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XEEDのブレスレットふうのウェアラブルはユーザーの手足を終日チェックし、震えが起きる時間や震えの強さを知り、またユーザーの自発的な動きの範囲も分かる。そのデータは介護者がアクセスするだけでなく、スマートフォンのアプリに送られて、いろんなアドバイスをしたり、またユーザーが自分の症状改善の進歩を知ったりする。

Obaは大学で作ったビデオの中で、“患者はスマホアプリの情報から、日常の生活や活動の何をどう変えるべきかを理解する”、と言っている。

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データは、患者個人と物理療法士と医師が利用するが、蓄積されてデータベースに入ると研究者のためにも役に立つ。

“今は三つ目のプロトタイプを設計している段階だ”、とMunizは言う。“プロトタイプは50作り、それを小さなグループで2週間テストする。実際に彼らはどんな着け方をするのか、LEDの表示は役に立っているか、充電を忘れることはないか、アプリのどこをどう変えるべきか、などなどをチェックするんだ”。

だんだん完成に近づいているようだが、最終的にはFDAの認可が必要だ。そのお役所では、彼らの製品が医療補助具として評価される。本格生産までまだ道のりは遠いが、小規模な研究はもちろん続けられる。

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二人は昨年、大学の起業支援制度“イノベーション学長賞”により、20万ドルの資金を獲得した。だから、まだまだ当分、研究開発を続けられる。

“数社の投資家も関心を示しているから、ピンチになったら頼ろうと思う”、とMunizは語る。“でも今は、NSFNIH(SBIR)の助成金が欲しいね”。

XEEDは、地元のパーキンソン病リハビリセンターとパートナーしている。今月の終わりごろには、支援などに関してMichael J. Fox Foundationとの話し合いを持つ予定だ。〔Michael J. Foxはパーキンソン病の闘病生活で有名。〕

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

シャンプーを最後の一滴まで絞り出す方法が発明された

もし一度でも、シャンプーの最後の大切な一滴を絞り出すのに苦労したことがある人なら、オハイオ州立大学の研究者らが発明した、「石けん液の滴を小さな空気ポケットの上に載せる」構造を持つプラスチックに感銘を受けることだろう。別の言い方をすれば、液体はボトルに触れないので、くっつくことはない。

その「物質は二酸化ケイ素 ― ガラスの成分 ― の非常に小さなナノ粒子から成り、さらに処理を施すことによって石けん液がくっつかなくなる」と研究者らは書いている。

この材質は、石けんやシャンプーを強くはじき、ボトルを振ったり絞ったりすることで、最後の一滴まで使うことができる。それは簡単に解決できる問題ではなかった。石けんは界面活性剤なので、研究者たちは界面活性剤をはじく表面を作り出さなくてはならなかった。

「『ボトルの中からシャンプーを全部取り出せない』というのは、いわゆるfirst-world problem[ぜいたくな悩み]というものだろう。しかし、メーカーは非常に興味を示している。なぜなら、まだ製品の入ったボトルが何十億個も捨てられているのだから」と、同大学のBharat Bhutan教授は言った。

ボトルは環境に優しく通常の方法でリサイクルできる。その物質は「ハート型のけば立った枕」のような見た目で、ガラスのように固い。この製品は、リサイクルにも貢献する、なぜなら、ボトルを洗う必要がなくなるからだ。大切なシャンプーを最後の一滴まで絞り出すだけでよい。このテクノロジーは他のプラスチック製品にも応用できる ― 例えば、車のヘッドライト。高級なフェイスクリームや高価なふけ取りコンディショナーを最後まで使い切るのに役立つことだろう。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

MITの新しいコンパイラーが、アナログコンピューティングと生物学シミュレーションを進化させる

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人生は、何とかなる。そして多くの場合、その方法はアナログだ。インパルスのような脳の活動電位でさえ、コンピューターの1と0より複雑だ ― そして細胞や系のデジタルシミュレーションは容易ではない。アナログ電子回路はこうした難問に太刀打ちするための強力なツールだ ― そしてMITの新しいコンパイラーは、プログラミングを大幅に簡易化する。

アナログ回路はバイナリー信号を通さないが、事実上無限種類の値を持つ入力を扱うことができる。そして、そのような数多くの独立した値 ― 化学濃度、pH、温度等々 ― を伴う細胞のシミュレーションには、特に適している。

そうした複雑な関係を、科学者は微分方程式でモデル化することが多い。もちろん解はデジタル的に求められる ― しかしデジタルコンピューターは同じ作業を連続して何十億回も繰り返さなくてはならない。データを薄くスライスすればするほど精度は高くなる。

しかしアナログ回路では、方程式の各値に相当する電圧が正しく設定され、それぞれがこの電流やあの電流に影響を与え、電気力学の法則の要求に応じることによって自ら答を出す。完全かつ連続的な解が、すばやく簡単に求められる ― しかしそうした回路をどう構成すべきかを知ることは、簡単とはほど遠い。実際それは、複雑さが増すにつれ、並外れて困難になっていく。

MIT CSAILの大学院生、Sara Achourは彼女の指導教授であるMartin Rinardおよびダートマス大学のRahul Sarpeshkarと共に、Acroと呼ばれるコンパイラーを作った。これは実質的に、人間が読めるデジタルコードをアナログコンピューター回路の構成に変換するものだ。

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アナログ回路を記載した図面の例。

いくつかのトランジスタを使うことで、細胞形態アナログ回路は複雑な微分方程式 ― ノイズの影響を含む ― を解くことができ、そのためには何百万ものデジタルトランジスターと、何百万ものデジタルクロックサイクルが必要だ」とMITのニュースリリースでSarpenshakarは言った。

コンパイラーは関連する数式を見て、正しい結果を生む回路を生成する ― 数式1つにつき14~40秒かかるが、これは人間が解を求めるのに比べて大幅な改善だ。そして、改善されたのは時間だけではない。アナログ回路の構成はどんなに大きなアナログ回路にもスケーリングが可能で、単一の細胞だけでなく、器官や組織全体にも使える。

バイオインフォマティクス(生物情報学)の仕事をしているのでない限り、アナログコンピュータを直接見ることはないだろうが、生物プロセスのシミュレーションの進歩は、それ自身に加えて医療分野の研究を進める一手段でもある。

彼らの書いた新しいコンパイラーの論文はAssociation for Computing Machineryカンファレンスで先週発表された。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

超音波を利用してどんなスマートフォンにも感圧機能を持たせるForcePhone

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感圧タッチ(force touch)は最新のiPhoneだけの機能かもしれないが、今やそれとほぼ同じことを、そこらのどんなスマートフォンでもできる。そんな仕組みが、ミシガン大学の工学部の研究から生まれた。

それはタッチスクリーンのセンサーをポーリングする方式ではなく、超音波を利用する。スマートフォンのスピーカーが18000〜20000ヘルツのサウンドを放出すると、それは人間の耳には聞こえないがデバイスのマイクロフォンは検出できる。ユーザーがスクリーンを押したりデバイスの本体を握ったりすると、音の性質が変わり、ソフトウェアがそれを検出する。

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でもご心配なく。音量はとても低いから、それが犬を悩ませたり、耳の鋭い青少年を困らせることはない。

Touches with different pressures don't register on the gyro or accelerometer, but are clear as day to the ForceTouch process.

ジャイロや加速度センサーはタッチの圧力を感知しないが、ForceTouchのプロセスにははっきりと分かる。

同大学の電気工学とコンピューターサイエンスの教授Kang Shinは、プレスリリースでこう語る: “特殊なスクリーンや内蔵センサーは要らない。ForcePhoneは、スマートフォンとユーザーが対話するためのボキャブラリーを増やす”。

たとえば、本体を強く握るとホーム画面に戻る、とか、何度も握ると911を呼ぶ、なんてことができるだろう。押したか・押されてないかの二値ではなくて圧力の大きさも検出するから便利だ。iPhone 6sやWacomのタブレットほど精細な感度ではないが、一種のジェスチャーとしてなら十分だ。

Shinと院生のYu-Chih Tungは、なんと、最近のバットマンの映画を見て、これがひらめいた。その”The Dark Knight”という映画では、バットマンが町中のすべての電話機を音響検出装置に換えて、ジョーカーを見つけるのだ。

“スマートフォンをソナーのように使ったらおもしろいかも、と思ったんだ。そこから、今のスマートフォンのユーザーが抱えている問題を解決するための応用に、たどり着いた”、とTungは語る。

まわりのノイズの影響を受けないか、とか、アプリとして一般公開されるのはいつごろか、なども聞いてみた(上のビデオ)。とりあえず、シンガポールで来月行われるMobiSysでプレゼンするそうだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

MIT、太陽電池を強力な光で修複する技術を発見

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時として科学の世界では、答は目と鼻の先にあったということがある。例えば、太陽光技術の限界に関する問題を解決する物は、何あろう、光だった。

過去数年間、太陽電池の材料として、ペロブスカイト化合物の可能性に注目が集まっている ― しかし、本質的は欠点により効率は限られている。しかし、今日(米国時間5/24)MITが発表した新たな研究によると、同化合物の制限に対する答は最も便利な場所にあった:非常に強力な光だ。

有機-無機金属ハロゲン化ペロブスカイトの薄膜に強い光を当てると、物質内の欠陥が修複される効果が働き、太陽電池の受光効率が高まる。この修複方法には、同物質の発光効率を高める効果もあるため、新たなLEDやレーザーの開発にもつながる。

修復方法には解決すべき問題がまだ残っているが、長期にわたって効率を維持する方法は最大の課題であることから、メーカーにとっては大いに価値がある。この研究によって、一年以内には各企業が様々なタイプの材料を市場に提供することが期待できる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

NASA、太陽系外惑星1284個を発見

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NASAは、ケプラー宇宙望遠鏡で作業している天文学者らが、1284個の新惑星を発見したと発表した ― これまでにケプラーで確認された惑星の2倍以上の数だ。事実、この新しい惑星グループは、これまで新たに検証された惑星グループとして最大である。

天文学者らは、ケプラー宇宙望遠鏡が2015年7月に収集した、4302個の惑星〈候補〉から成る惑星カタログの統計分析を行った。彼らは、候補のうち1284個が99%以上の確率で「惑星」の条件を満たすことを確認した。

これは、新たに確認された惑星のいくつかは、今後分析を進めた結果惑星ではなかった、という場合もあることを意味している。それでも、ほぼ確実に惑星とみられるものが、驚くほど多く同時に確認されたことに違いない。

Timeline of exoplanet discovery / Chart courtesy of NASA

太陽系外惑星発見の時系列記録/提供:NASA

分析が進めば、2015年7月のケプラー惑星カタログから、さらに多くの惑星が確認されるかもしれない。NASAは、1327の候補が「実際に惑星である可能性はある」が、追加研究に必要な99%の基準は満たしていないと言っている。

4302の候補群のうちの残る候補は、「何らかの天体物理現象である」か、他の手法で既に惑星として検証されている可能性が高い。

確認された1284惑星のうち、550個は地球のような岩石惑星でありうる大きさだ。ここからの話は結果が非常に楽しみだ。岩石惑星候補の9つは、属する恒星の「居住可能区域」内を周回している。これは、惑星が液体の水 ― われわれの知る生命に必要な成分 ― を保持できる表面温度を持つ可能性のある領域だ。

Illustration courtesy of NASA

居住可能区域、別名ゴルディロックスボーン/提供 NASA

この9つの特別な惑星を加え、岩石惑星の可能性が高く、それぞれの系で居住可能区域に位置する太陽系外惑星は、これで計21個が確認された。

Illustration of the Kepler space telescope / Image courtesy of NASA

Illustration of the Kepler space telescope / Image courtesy of NASA

科学者らは、この太陽系外惑星の「居住可能」カテゴリーに特に注目しており、それは生命の探求に最も適した場所だからだ。ケプラーが2009年3月に打ち上げられるまで、天文学者は宇宙の中で、地球型惑星はもちろん惑星がどの程度ありふれたものかを知らなかった。

「ケプラー宇宙望遠鏡ができるまで、銀河系の中で太陽系外惑星が稀なのかありふれているのか知らなかった。ケプラーや研究コミュニティーのおかげで、現在われわれは惑星の方が恒星よりも多いかもしれないことを知っている」と、NASA本部の天文物理学部門長のPaul Hertzは語った。

われわれの宇宙で新世界を発見することは、地球外生命の探求と密に結びついている。天文学者が太陽系外惑星は宇宙にたくさんあることを確認した今、エイリアン生命が存在する可能性はいよいよ高くなったようだ。

今後数年のうちに新たな宇宙望遠鏡が増えれば、天文学者は優れたツールとデータを得て、居住可能な地球型惑星と地球外生命の探求を続けることができる。

ケプラーは、地球サイズ以下の惑星を探す1回の天空観測で、15万個の恒星を監視する。ケプラー計画の主要目標の一つは、 恒星にとって、地球のような岩石惑星が周回していることが、どの程度ありふれているかを知ることだった。

NASAの次の太陽系外探査望遠鏡、トランジット系外惑星探索衛星は、2018年に打ち上げられる予定で、ケプラーから得た知見に基づき、20万以上の星の中からさらに地球に近い地球型惑星を探す予定だ。

そして同じ年のその後には、 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられ、天文学者は居住可能太陽系外惑星を研究し、表面に生命が存在する化学的特徴を探せるようになる。

この数年間で、科学コミュニティーは宇宙における惑星の出現頻度を想定するところから、確認された地球型世界で生命を探索するために、技術を投入し計画を進めるところまで来た。

新惑星群の正体を見極わめるまでには、まだ多くの努力が必要だが、今は宇宙を研究するには実に興味深い時である。特に天文学者や惑星科学者、そして次の質問の答を待っている人たちにとって:“Are we alone?”[われわれは宇宙で唯一の存在なのか?]

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

モバイルのタッチスクリーンがゲームのコントロールとして最悪である理由を解明した研究論文、フィンランドの大学から

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Flappy Birdについて今さら何を、とお思いかもしれないが、でも、あのようなゲームがなぜあれほど難しくていやらしいのか、を論ずる研究論文で最近取り上げられたのだ。その理由は、コントロールが根本的に劣悪だからだ。

そう言われて驚く人は、たぶんいないだろう。Angry BirdsやNeko Atsumeならいいけど、モバイルのアクションゲームは、反応の悪いコントロールに悩まされることが多い。しかしそれは、デベロッパーのせいではなかったのだ。

フィンランドのアールト大学(Aalto University)の研究者たちは、たぶんFlappy Birdで1000万回も死んだあとで、彼らの失敗を科学的に正当化する方法を見つけると誓った。そして彼らの研究論文は、複数の要素が組み合わさってコントロールの応答性が悪くなっている、と結論している。

“正確なタイミングを要するゲームがタッチスクリーン上では腹立たしいほど難しい理由を、やっと説明できる”、と共同執筆者のAntti Oulasvirtaが、論文に付随するニュースリリースで述べている。

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第一に: “ユーザーは自分の指の高さを正確にコントロールできない”。物理的なボタンでこの問題がないのは、ボタンの面に指が触れた時点で指の高さが正確に決まっているからだ。タッチスクリーンでは、タイミングが不定になる。

第二に: “センサーのイベントのタイミングが不確定である”。プレーヤーには、タッチスクリーンがいつタッチイベントを生起するのか、そのタイミングが分からない。イベントは、指がスクリーンに軽く触れたときに生起するのか? それとも、別の識閾を経過するのか? この問題でさらにタイミングが不定になる。

第三に: そのゲームやアプリにおける遅延を予測できない。タッチイベントへの反応が速いこともあれば、遅いこともある。それは、いろんな要素に左右されている。中には、ゲームの設計者にコントロールできない要素もある。これでまた、タイミングが不定になる!

遅延を最小化し、一定に保てれば、状況はかなり改善される。また、タッチイベントが、一定の「最大タッチ」識閾(上図中央)でのみ起きるようにすると、タイミングの精度が向上し、エラー率は9%に下がった。指の高さに関しては、残念ながら良い解決方法がないようだ。

以上で、問題の所在は明らかになったようだが、でも当面は、できるかぎり物理ボタンを使うべきだね。

OulasvirtaとByungjoo Leeが書いたこの論文は、来月行われるAssociation for Computing Machinery(ACM)のカンファレンスComputer-Human Interactionで発表される。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Teslaphoresisで自己を組み立てるカーボンナノチューブは、こんな言葉では言い表せないぐらいクールだ

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重要な科学研究のすべてがクールに見えたり、名前がクールだったりするわけではないが、でもときには、その両方の場合がある。この、自分で自分を組み立てるカーボンナノチューブ(self-assembling carbon nanotubes)は、Teslaphoresis〔仮訳: テスラ泳動〕と呼ばれる工程で作られる。あなたが今日見たあらゆる文の中に、これよりもクールな響きを持つ文*が一つでもあったら、教えてほしい。〔*: 全文: These self-assembling carbon nanotubes are created with a process called Teslaphoresis.〕

ライス大学(Rice University)の化学者Paul Cherukuriの研究室も、まるでマッドサイエンティストの隠れ家みたいだ。でも、そんなけばいびらびらに騙されてはいけない。これはきわめて重要な研究開発なのだ。

ナノチューブは一連のカーボン製卓越機能素材(supermaterials)の一種で、グラフェンと同じく、興味深い特性がたくさんあり、理論上の応用技術/製品も多い。しかし、これまたグラフェンと同じく、安価で信頼性の高い製法が難しい。このテスラ〜〜法は、超薄型で超強力で超伝導性のあるカーボンナノワイヤを作るための、画期的な方法かもしれない。

Cherukuriは、子どものころから今日まで、テスラコイルのファンだ。それは、強力な交流電界を作り出す。

同大学が発表したビデオの中で、彼はこう言っている: “われわれが発見したのは、この電界下ではナノチューブが自分自身でひも状につながってワイヤーを作ることだ。Teslaphoresis〔という言葉〕は、それが離れた空間における自己組み立てであることを理解するための、いちばん簡単な方法だ”。

コイルの交流電流が、ナノチューブの小片に極性を与えるようである。すると彼らは直ちに隣同士で列を成(な)し、長い鎖(さ)を作る。下図のように:

teslaphoresis 1teslaphoresis 2

上の二つめのgifでは、ワイヤーが実際に二つのLEDを接続し、それらに電気を送っている。これまでで最長の鎖は15センチだ。ワイヤーがやや毛羽立って見えるのは、たくさんのナノチューブが、われもわれもと列に並ぼうとするからだ。面にパターンがあって、余分なのをそぎ落としたり、行き先をガイドできたりすれば、この現象は防げる。あるいは、コイルを複数使ってもよい。

この研究のペーパー執筆を監督しているLindsey Bornhoeft(テキサスA&M大学の院生)によると、“これらのナノチューブワイヤーは神経のように成長し行動する”、という。“ナノ素材のコントロールされた組み立てがこのようにボトムアップで行われるのなら、再生医療のためのテンプレートなどの応用がありえるだろう”。

恒久性のある電子回路インプラントとか、可撓性のある電子回路なども、この技術の応用として可能になるのではないだろうか。もうすぐ、それらが世の中の当たり前になる。研究者たちは彼らの仕事を、アメリカ化学学界の機関誌Nanoに発表している

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

NASAの新しい海水位サイトには、気象変動に関する論文、データ、ツールが満載

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月曜日(米国時間4/4)、NASAは世界の海水位の変化を追跡する専用サイトを新たに開設した。そこに満載されたオンラインデータは、教員、気象変動マニア、そしてあらゆる公開データを堀り起こすのが好きな人々の役に立つことだろう。

The Sea Level Changeは、NOAA(国立海洋大気庁)ではなく、NASAのサイトで、それは宇宙に基づく観察が中心だからだ ― たたしNOAAの名前も随所に見られる。海水位観測の歴史や氷の量その他の気象マーカーについての部門もあり、海洋学に馴じみのない人にはよい教材になるだろう。

でもおそらく、データ分析ツールをいじり回す方が楽しいだろう。これは大きな世界地図にいくつかレイヤーを重ねられるもので、アニメーションもできる(シムアースににている!)。まだバグはあるが(現在アルファ版)試す価値はある ― 学生なら海水位と温度が時間と共に変化するところを観察して何かを学ぶかもしれない。今後さらにデータセットがレイヤーに追加され予定なので、授業計画を練るのは少し待った方がよいかもしれない。

サイトの情報を裏付ける公開済み論文のデータベースもある ― 無料で読めるものもあるが、自分で探す必要がある。(NASAへの注文:すばらしいサイトだが、自由にアクセスできる記事に印がついていればさらにすばらしい。

ランディングページにも最新の憂鬱なデータが知らされている。例えば、海水位は年間3~4 mm上昇していて、グリーンランドは毎年278ギガトン収縮している、等々。NASAのみなさん、すばらしい仕事をありがとう。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

SpaceXが国際宇宙ステーション向けにBigelow社のゴムボート式居住区を打ち上げる

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国際宇宙ステーション(ISS)への次回の物資補給に際して、SpaceXはBigelow Aerospaceが製作した膨張式の居住区を打ち上げる計画だ。4月8日に予定されているFalcon 9ロケットには「ビゲロー拡張式活動モジュール(Bigelow Expandable Activity Module, BEAM)が折り畳んだ状態で搭載される。宇宙ステーションの適切なノードに固定され、空気によって膨らませることができれば、ISSに新しい居住区が追加されることになる。

The space station's Canadarm placing BEAM onto Node 3 / Courtesy of NASA

ISSのロボットアームがBEAMをNode 3に取り付ける(想像図) / NASA

SpaceXのDragonカプセルは打ち上げから数日後にISSにドッキングする。つまり4月の中旬にISSのロボット・アームがBEAMモジュールをつかみ、Dragonの荷物室から引き出してISSのノード3に取り付ける。BEAMの膨張作業は5月の終わりか6月初めに予定されている。正確な日時はクルーの作業日程より決定される。完全に膨張するとBEAMの内部空間は折り畳まれた状態の10倍になる。

Illustration of NASA's TransHab design / Image courtesy of NASA

INASAの当初のTransHab宇宙居住区のデザイン(キャンセルされた) / NASA

Bigelow Aerospace社は15年前にRobert Bigelowによって創立された。BigelowはBudget Suites of Americaというリゾートホテル事業で財をなした。NASAはTransHab in 2000という膨張式宇宙居住カプセルを開発していたが、議会の財政緊縮策によってキャンセルを余儀なくされた。このときBigelowはゴムボート式に膨らませる宇宙コテージの特許をNASAから買い取った。

しかし膨張式宇宙モジュールのアイディアはこれよもずっと早く、60年代初期にすでに生まれていた。事実、NASAの最初の通信衛星、エコー1号はこの風船デザインの産物だ。しかし当時のテクノロジーで得られる素材は通信衛星はともかく、居住区に用いられるような水準にまったく達していなかった。

NASA's first communications satellite, Echo / Image courtesy of NASA

NASAの最初の通信衛星、Echo-1 / NASA

その後の目覚ましい発達により、有人の宇宙任務に耐える素材が現れた。Bigelow Aerospaceは、観光客み魅力的な軌道上の宇宙ホテル建設のために設立された。同社は2006年にGenesis 1、 2007年にGenesis 2という実証用無人モジュールの打ち上げに成功した。両モジュールとも現在も軌道を周回中だ。

残念ながらBigelow Aerospaceは時代に先んじ過ぎていた。居心地よく滞在できる完璧な宇宙ホテルの製造と打ち上げに成功したものの、肝心の人間を軌道上に送る事業は予想どおりに拡大せず、室料を払ってホテルに滞在する顧客は現れなかった。そのため今年に入って150人のBigelow Aerospaceの社員のうち30人から50人がレイオフされた。民間有人宇宙旅行を可能にする機体は2017年から2018年にならなければ実用化しないと予想されている。

そこで当面Bigelow AerospaceはNASAとの契約に活路を見出している。同社は2013年にBEAMモジュールをISSに提供することを含む1780万ドルの契約をNASAと結んでいる。

BEAM inflation on the ISS / Image courtesy of NASA

ISSに取り付けられたBEAMが膨張する/ 画像: NASA

一見すると膨張式居住区は微小なデブリの衝突で風船のように「パチンと弾ける」のではないかと不安になる。しかし居住区は最新の柔軟な素材による多重構造となっているため、こうしたMMODと呼ばれる微小天体および軌道周回デブリ(MMOD)に対して十分な盾としての能力がある。

NASAのBEAMプロジェクトの代表の一人、Rajib Dasguptaは「今回のISSでのテストは、BEAが将来の有人宇宙ミッションで利用できるかどうかを決める重要なステップとなる」と述べた。【略】

BEAMのISSでのテストとは別個にNASAはBigelow AerospaceとB330膨張式モジュールの実験に関する契約を結んでいる。NASAはこのモジュールが月および火星への有人宇宙飛行に役立つことを期待している。

Bigelow Aerospace's B330 module with 330 cubic meters of internal space / Image courtesy of Bigelow Aerospace

Bigelow AerospaceのB330モジュールは330立法メートルの内部空間を持つ/ 画像:Bigelow Aerospace

〔日本版〕記事中に写真が掲載されているエコー1号通信衛星は1963年11月に翌年の東京オリンピックの世界中継の準備のために太平洋を越えたテレビ映像の中継実験を行った。この最初の中継でケネディー大統領暗殺のニュースがNHKを通じて放映され、日本の視聴者に大きな衝撃を与えた。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

「泥んこ発電」で子供たちの科学力を育てるMudWatt

MudWatt

またひとつ、子供たちに科学技術的な知識と興味を与えようとするプロダクトが誕生した。MudWattというもので、泥を使って電気を起こすものだ。この非常に楽しそうな(汚い、という人もいるだろうけれど)プロダクトは現在Kickstarterキャンペーンを展開中だ。泥の中でバクテリアを繁殖させ、そして時計、温度計、ブザーなど単純な電子機器を動作させる仕組みになっている。

Kickstarterでのキャンペーンということを聞いて、開発途上のプロダクトなのではないかと考える人もいるだろう。しかし実のところ、このMudWattは何年も前から開発を行なってきたものなのだ。また最近ではスタンフォードのStartXインキュベータープログラムにも参加して、子供向けプロダクトについての知見も深めている。

共同ファウンダーのKeegan Cooke曰く、MudWattのアイデアは、2010年に買収されたTrophos Energyという小さなスタートアップにてリサーチサイエンティストとして働くうちに得られたものなのだそうだ。Cookeはそこで海底堆積物を利用したバクテリア燃料電池のプロトタイプを研究していた。また同時にさまざまな学童向けイベントにて研究成果を案内し、子供たちが科学的なデモンストレーションに大いに興味を持つようであることを認識したそうだ。

MuddyKeegKev

そうして友人であり共同ファウンダーでもあるKevin Randとともに、仕事や大学院における研究の空き時間を使いながらMudWattのアイデアを数年間かけて温めていった。初期モデルを配ってみたところでは大きな反響があり、このプロダクトには楽しみのためのサイドプロジェクトとして以上の可能性があると感じるようになっていったのだとのこと。

これまでのところで、キットの販売台数も6000台となり、さらに月間200セットの割合で売れ続けているのだそうだ。

「販売に力を入れるということはありませんでした。その中での数字ですから、正直いって驚いています」とCokeは言う。「このプロダクトには大きな可能性があり、ビジネスとして成立するほどの需要があると認識するにいたったのです」。

Kickstarterに投入したのはMudWattキットの最新版だ。コンポストとして利用できるケースも用意し、他にもさまざまなアップデートが加えられている。いろいろな組み合わせのキットが用意されているが、電極やLED、説明書などが同梱されていて、またiOS版およびAndroid版が用意されているMudWatt Explorerというモバイルアプリケーションも利用できるようになる。

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MudWattで利用する泥は、自宅の庭から掘り起こしても良いし、園芸店で購入してきても良い。また電力を強めるために「燃料」を入れても良い。冷蔵庫の中にあるものがよい「燃料」となる。但し、ゲータレードがふさわしいのか、それともケチャップか、もっと別のものが良いのかを考えるのは、子供たち自身に委ねられている。

数日するとLEDが点滅をはじめる。これはキット内のバクテリアコロニーが電気を生み出し始めたことを示すサインだ。電気を生み出し始めれば、いよいよ次のステップに進むこととなる。

バクテリアのコロニーが拡大すれば、LEDの点滅頻度が高まる。そうなればブザーや時計、温度計、あるいは液晶電卓などのデバイスを繋いで観察することができるようになるのだ。

App-in-phones (new app images)

モバイルアプリケーションでも、LEDが点滅する様子を検知してバクテリアの成長具合を測ることができるようになっている。これにより成長具合や、どれくらいの電気を生み出しているのかを知ることができる。またアプリケーションから、泥の中で活躍して電気を産み出すバクテリアを主人公とするコミックを読むこともできる。

Cookeは、子供たちが泥発電に興味を持つだけでなく、身の回りのさまざまな不思議に興味を持ってもらいたいと考えているそうだ。

「子供たちが自分でいろいろ調べてみて、試して見ることのできる環境を提供したいと考えているのです。MudWattもそうした方向で活用して貰えればと希望しています」。

そうした方針に則って、MudWatt以外のキットの可能性についてもいろいろと考えているところなのだそうだ。たとえば沼にある藻などを使った発電キットなどを考えて見ているのだとのこと。

ビデオで紹介されているキットをすべて含むMudWatt DeepDig Kitの価格は59ドルとなっている。但し容器などを自分で用意するのなら、電極などの基本キットは29ドルで手に入る。また教育機関向けのClassroom Packというものもあり、こちらは350ドルになっている。

調達目標額は3万ドルで、本稿執筆時点では2万6000ドル程度が集まっている。

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(翻訳:Maeda, H

AuroraTekはCESで物理の法則に反する技術を売ろうとしていた

 

CESの取材のためにラスベガスのThe Sandsホテルの、スタートアップだらけのEureka Parkを歩きまわっていると、ひとつのブースがぼくと、同僚のDarrell Etheringtonの前に立ちふさがった。テーブルの上に数台の電動スクーターがあり、その背後のパネルには“惑星地球上のもっとも進歩したテクノロジ!”(The MOST Advanced Technology on Planet Earth!)と書かれている。

ぼくたち二人は、その(たぶん)素敵な電動スクーターに関心を向けるためのギャグだと思ったから、そのブースの主(あるじ)、AuroraTekの社長でCEOのWilliam Alekに話を聞いた。上のビデオにはぼく自身も写っているから、そのときの会話の全貌が分かる。

AuroraTekは実際に電動スクーターを作っているのだが、Alekの話では、そのブースの本当のスターは、ものすごく特別な変圧器(トランス)で、入力よりも大きい電力を出力するのだ。

“カン、カン、カン、カン、カン、…”、ぼくの頭の中の、いかさま検出器が鐘を連打した。それは、熱力学の第一法則に反している。小学校の初等物理で教わると思うが、エネルギーは作ることも破壊することもできない。

ライブでビデオを撮っているのだから、Alekの話はAlekに有利に解釈してやるべきだ。そこで、彼に説明を求めた。彼は、量子トンネル効果がなんたらかんたらという、ニセ科学のような大風呂敷を広げ始めたが、その効果をふつうの分かりやすい英語で説明できなかった。AuroraTekのホームページの方が、まだましだ: “私たちはこれを、負から正へのエネルギー変換(NEGATIVE-to-POSITIVE Energy transformation)によるフリーエネルギー、または過統一(overunity)技術と呼んでいる。なぜならばそれは、“無から有を生む”を実現しているように見えるからだ”。

AuroraTekのブースのパネル

ぼくの場合、スタートアップのアイデアがだめだと思ったら、黙って立ち去ることにしている。それについて、いろいろ否定的な記事を書くのは簡単だけど、世界にはぼくとは違う頭や心やニーズを抱えた人がたくさんいる。一部の人たちにとっては、それは、価値あるアイデアかもしれない。でもガマの油(いんちき薬)のようなテクノロジを売ることは? それは、我慢できないけどね。

ぼくの中の別のぼくは、Alekがプロ級のトロルだったらおもしろいな、と思っている。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


親指タイプは人間の脳を変える

スマートフォンは人間を変えつつある、と少なくともチューリッヒ大学の神経情報科学研究所の研究者たちは言っている。Blackberryやフィーチャーフォンのようなボタンのある携帯電話から、画面を頻繁にタイプする今のスマートフォンに移行するに伴い、脳の、親指に結びついている部分が変わっていく、というのだ。

研究者たちの所見によると、スマートフォンを使っているときは、脳の、親指に結びついている部分がより活発になる。意外なことではないと思うが、この反応はタッチスクリーンタイプの電話機を使っているユーザにしか起きない。彼らの発表から引用しよう:

Ghoshがさらに見せたのは、スマートフォンの使用頻度が皮質の活動に影響することだ。過去10日間スマートフォンを多く使用した人ほど、脳内の信号は大きい。この相関性は、親指を表している領域で最強であった。

彼らは“37名の右利きの人を調べ、内26名はタッチスクリーンタイプのスマートフォン、11名は古い携帯電話を使っている”。そして彼らは、大脳皮質の、親指のコントロールに結びついている領域の活動が、タッチスクリーンのユーザでは高いことを発見した。実はこれと同様のことが、ヴァイオリニストでも発見されている。その楽器の演奏に熟達するにつれて、脳が変わるのだ。

ということは、iPhoneを毎日大量にタップしていると、天才的な脳になるのだろうか? それはないと思うが、タップすることが思考に影響を与えていることは、確かなようだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


見よ、この驚きの「透明自動車」を

IEEE Spectrumは、日本の研究者が製作した驚きの「透明」自動車のビデオを掲載した。この車はプロジェクター、カメラ、および特殊な鏡を使用して、車の外を車の中に投影する。その映像によって、車の周囲で何が起きているかを車内から見ることができる ― 自分の後方や死角にあたる場所であっても。

慶応大学大学院メディアデザイン学科の舘暲(たち すすむ)教授と稲見昌彦教授によるこのプロジェクトは、運転者が常に周囲に注意を払うために開発された。テクノロジー自体は新しくないが ― この種の映像カムフラージュは以前から見られた ― これをコンパクト化して車内に塔載することによって、逆カムフラージュと言えるものが可能になった。光で物体を隠すのではなく、プロジェクターがトヨタ・プリウスをビデオで「透明に」レンダリングする。

将来これが実用化されることはあるのだろうか? 製作者らはこう語る。

次はトヨタ・プリウス専用で、後部座席を事実上透明にして、バックする際に運転者が車の後方にあるものすべてを見られるようにします。この設定ではシステムはプロジェクター1台とレンズ6基を使用し、システムが運転者の頭の動きを追跡しなくてもよくなるので運転者が自然に振舞えます。こうして作られたパノラマ映像は運転者が直感的に利用することができます ― 後方カメラの出力をダッシュボードのディスプレイに表示する現在の直感に反するシステムとは大きく異なるものです。現在自動車メーカーおよび自動車エレクトロニクス会社数社と協力して、われわれのコンセンプトを商品化する準備を進めています。

上のビデオからもわかるように、テクノロジーは未だかなり不安定だ。しかし、プロジェクターが明るくなり、カメラが良くなり、小型化が進めば、いつ日か誰もが、ハイウェーを走るワンダーウーマンの気分を味わえるようになるだろう。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


水を”訓練して”目的地まで行かせる方法をデンマークの科学者らが発見

化学物質を移動するための便利な(と思われる)方法を、南デンマーク大学(University of Southern Denmark)とチェコ共和国の首都プラハの化学技術研究所(Institute of Chemical Technology)の科学者たちが作り出した。この方法では液体をアルコール塩基中で移動でき、それだけではあまりクールだとは思われないが、上のビデオをご覧頂きたい。色のついた水滴が、紙で作った迷路をたどりながら、二つの食塩水の水滴に近づいていく様子が見られる。

このシステムは、生命の起源を表しているかもしれない、と研究者たちは言っている。彼らの発表声明から引用しよう:

“塩が彼らを移動させる刺激である。彼らが移動するのは、塩分濃度の勾配が場所によるエネルギーの落差を作り出すからだ。それは、ボールを平面に置いて、その面を急に傾けた場合と似ている。ボールはいちばん低い地点へと転がっていく。水滴も、それと同じことをしている。どちらの方向にも塩分濃度の勾配がなければ、水滴は水平な平面に置かれたボールと同じだ。でも一つの方向から塩分濃度の勾配がやってくると、水滴は勾配の下へ向かって元気に動きだす。塩分濃度が濃いほど、ボールをより強く引き寄せる”、とMartin Hanczycは述べている。塩を次々と別の場所に置くと水滴はそのそれぞれの方向に動いていくから、その意味ではこのシステムは持続可能である。しかも水滴は、それぞれの塩分溶液滴の濃度を見分けることができる。その過程を、外部からの温度の刺激でコントロールできる。水滴が塩分の源へ到着すると、物理的に溶融してそれと反応する。

Martin Hanczycは前に、油滴が生物のような動きを見せることを報告し、生命の前触れのような単純な化学反応かもしれない、と述べたことがある。

チームは、この方法が複雑な機械における潤滑油の浸透や、薬品、香料、冷却剤などの配布に応用できる、と言っている。“スマートウォーター”では決してないが、液滴を目的地に届けるための簡単で精度の高い方法、と言えるかもしれない。

ひとつだけ確かなことは、未来において人類を支配するロボットが、アルコールで全身びしょ濡れだったら、ぼくは歓迎するね。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))