KLabが新CVC、15億円規模のシード特化ファンド組成へ—キャピタルゲイン重視で独立性高い組織に

KLabがSBIインベストメントと組んで2011年にスタートしたコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のKLab Ventures。インドネシアでオンラインマーケットプレイスを展開するTokopediaや先日米イングリッシュセントラルが買収した英会話サービスのラングリッチなど、これまでシード、アーリーステージの企業を対象に16件の投資を実施してきた。投資先のうち3社は買収によりイグジット。上場の準備を進める投資先もあるという。事業的にはまだまだこれから…という会社もあるようだが、すべての投資先が次のラウンドの調達を実現していると聞く。

KLab Venture Partners代表取締役社長の長野泰和氏

KLab Venture Partners代表取締役社長の長野泰和氏

そんなKLabがスタートアップ投資を加速する。同社は10月21日、ベンチャーキャピタル事業の子会社「KLab Venture Partners 株式会社(KVP)」を設立することを明らかにした。現在KLab Venturesの代表を務める長野泰和氏が代表取締役社長に就任するほか、KLab代表取締役社長 CEOの真田哲弥氏とKLab取締役副社長 COO五十嵐洋介氏が取締役に就任する。

KVPでは12月にも15億円規模のファンドを立ち上げる予定で、今後は国内外のシード、アーリーステージを対象に投資を行う予定。投資領域はFintechやB2B、IoT、C2C、シニア向けサービスなど。

「シード期のスタートアップに対して数百万円〜数千万円前半で投資していくことが中心となるが、シリーズAで数千万円以上の出資も検討する。『冬の時代になる(投資環境が悪化する)』という声も聞くが、この1〜2年でもシリーズA以降を投資の対象にする新しいファンドができている。シードで優秀なスタートアップを支援できれば、次のラウンドに繋げていける」(長野氏)

海外展開では、米国・サンフランシスコに担当を置くほか、フィリピン・マニラへの進出も検討しているという。「KLabグループの投資先であるYOYO Holdingsがフィリピンでもサービスを展開している。インドネシアなどと比較すると見劣りする市場かも知れないが、ホワイトスペースはまだまだ多い」(長野氏)

KVPは外部から出資者を募る予定で、CVCとはいえ高い独立性を持って投資活動を行うという。「真田(KLab代表の真田哲弥氏)からは『好きにやれ』と言われている。求めているのはキャピタルゲイン。シナジーばかりを求めると失敗する」(長野氏)。グリー子会社のグリーベンチャーズなどは以前から非ゲーム領域での投資を行っているし、直近ではアイスタイルがCVCのアイスタイルキャピタルを「iSG インベストメントワークス」と商号変更。独自にファンドを組成して投資を行うと発表している。ひとくくりに「CVC」と言っても、さまざまな方針を持つ組織が生まれているようだ。

元ピムコジャパン社長の高野真氏がGenuine Startups共同代表に——大企業との“橋渡し”を強化

左からGenuine Startupsの伊藤健吾氏と高野真氏

シードアクセラレーターのMOVIDA JAPANからスタートアップ投資の機能をスピンアウトして生まれたGenuine Startups。現在2号ファンドの組成中であるこのベンチャーキャピタルに元ピムコジャパン取締役社長で、アトミックスメディア代表取締役CEO、フォーブスジャパン発行人兼編集長の高野真氏が共同代表参画した。同氏はすでにGenuine Startupsの株式の4割を取得しているという。

MOVIDA JAPANは創業期のスタートアップに対して、育成プログラムと数百万円規模のシード投資を行っていた。これはMOVIDAの代表であった孫泰蔵氏やMOVIDAから独立したGenuine Startups代表の伊藤健吾氏が、シリコンバレーのようにスタートアップが数多く生まれ、そのほとんどが死に、残った中から優れたプロダクトが生まれるという「多産多死」モデルの構築を提唱するところからスタートした。

伊藤氏はMOVIDAから始まった投資活動や、周辺環境の変化によって「起業への世の中の見方は心理的なハードルは下がったのではないか」と振り返る。そして次の課題は「成功件数を増やすこと」だと語る。実際にMOVIDA、Genuineからは多くのスタートアップが生まれ、次のシリーズでの資金調達を成功するケースもある一方、まだIPOなど大きなイグジットが発表されていない状況で次の課題解決を掲げるのに違和感がないわけではないが、実際起業に対するハードルは心理的な側面だけでなく、資金、インフラなどさまざまな面で下がったのではないだろうか。

そうは言ってもスマートフォンアプリを作れば当たるという時代ではない。伊藤氏は「アプリのゴールドラッシュは終わった。インフラは早くなり、端末は優秀になった。クラウドで大量のデータも活用できるようになった。今後は既存のインダストリのプレーヤーと組んでいくことがトレンドになるし、買収にも繋がっていく。2号ファンドではその領域で投資をやっていきたい」と説明する。2号ファンドでは、食・農業、環境・エネルギー、金融、物流、教育、エンタープライズといった領域に投資していくのだという。

そこで課題となるのが既存のプレーヤーとの“橋渡し”だ。「大企業とスタートアップの連携」なんて言葉はこの数年いろんなところで聞いたし、大企業がスタートアップのサービスを導入するといった「お付き合い」程度の話はあっても、協業や買収といった規模感での連携はそうそう生まれてこない。そこで、もともと大企業や政界との親交が深く、個人でもスタートアップへの投資(Origamiやエニタイムズなどが同氏からの調達を発表している)を行う高野氏を共同代表に迎えたという。

「エスタブリッシュ層とのつながりを考えるとベテランの人と組みたいと考えていた。6月末に高野さんと出会い、8月末には共同代表になってもらった」(伊藤氏)。「政策的にもベンチャーは重要。Forbesでもそれを後押ししたいと思っていた。(孫)泰蔵さんとも、ベンチャーだけではなく大企業を巻き込んでいかないといけないと話していた。伊藤君は専門性やコネクションを持っており、僕は(エスタブリッシュ層)のバックボーンを持っている。サイロ型ではなく、広がりのあるビジネスを作っていく」(高野氏)

では具体的にはどういったことをやっていくのか? 2号ファンドでは今後、シード期のスタートアップに対して2000万〜3000万円程度の出資を行うほか、大企業が課題などを公開し、それに対して最適だというスタートアップが手を挙げるというようなビジネスマッチングも検討中だという。2号ファンドでは20億円規模のファンドを組成を目指す。

ところでForbesという雑誌の代表を務める高野氏が投資に携わることで、自らの手がけるメディアの内容にバイアスがかかったりしないのだろうか? これに対して高野氏は「(Forbesでは)提灯記事はいくらお金をくれてもやらない。なぜそんなことができるか? それは編集長がCEOだから。ビジネスのためにオーナーの顔を見る必要はない」と回答している。

アメリカでVCのあり方は変わりつつある―、Scrum Venturesで宮田拓弥氏が目指すもの

「今でファンド設立2年ほどです。ようやく形になったので取材を受けるようになってきました」。そう笑いながらTechCrunch Japanの取材に応えるScrum Ventures創業者でゼネラルパートナーの宮田拓弥氏(@takmiyata)は、日本のネット業界、スタートアップ界ではよく知られた人物だ。

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日米でエグジットを経験した起業家から投資家に

宮田氏は、サンフランシスコを拠点に米国のテック系スタートアップへの投資を行うVCを経営しているベンチャーキャピタリストだが、日本と米国でソフトウェア、モバイル関連のスタートアップを複数起業した元起業家でもある。顔認識技術を開発していた南カリフォルニア大学発のNeven Visionの創業に関わり、2006年にGoogleへ売却するというエグジットを経験。日本では自分に似た顔の有名人を教えてくれるサービス「顔ちぇき!」を提供するジェイマジックの創業者として知られていて、これは2009年にモバイルファクトリーに事業譲渡している。2009年にミクシィでアライアンス担当役員に就任し、その後はmixi America CEOを務めた。

アメリカを拠点とするようになって約10年、Y Combinatorを始めとする現地のテックコミュニティに人的ネットワークを持ち、これまでにコマース、ヘルスケア、SaaS、動画、IoTなどのスタートアップ39社に投資してきた。現在の投資テーマはライフスタイルとテクノロジーが重なる領域。投資対象はかなり幅が広く、金融やIoT、ドローン、ヘルスケアもファッションも含むという。技術トレンドとして、新しい価値が生まれるキーとなる、いわゆる「イネーブラー」としては人工知能、ビーコン、クラウドソース、API、ウェアラブルなどに注目しているそうだ。Scrum Venturesとして投資している39社は全部アメリカ企業で、7割がシリコンバレーベース。ただ、創業者の出身国は、韓国、イギリス、シンガポール、ロシア、中国、インド、フランス、オーストラリア、イスラエル、ベトナムなど、かなり多様だ。

VC関連の統計データを提供するCB Insightによれば、アメリカで投資している日本系のVCとしては、Scrum Venturesは投資件数で「最もアクティブ」と言えるという。アメリカで投資活動をしている日本系VCといえば、WiLDraper Nexusがある。

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Scrum Venturesは日本企業からの出資が主

アメリカのVC界隈では付加価値のない資金の提供という投資だけでは、なかなかベンチャーキャピタリストとしてトップ・ティアのグループに入って行って良い投資ラウンドに参加できないという現実がある。宮田氏は自らがエグジットを経験している起業家であることや、多くのアメリカのスタートアップを日本市場や日本企業へと繋ぐ役割を果たすことで、一定の地歩を固めつつあるようだ。

2013年スタートのScrum Venturesのファンド規模は現在合計で約2500万ドル。出資しているLP(Limited Partners)は、RSPファンド(リクルートホールディングス100%出資ファンド)、富士通、博報堂、DeNA、mixi、リヴァンプ、マネックス証券、クロスカンパニーなどがあり、このほか企業名は非公開であるものの百貨店グループも参加しているそうだ。こうした日本企業がScrum Venturesのようなスタートアップへの投資ファンドの出資者となる背景には、単なる投資という以上に、宮田氏のように現地に入り込んでいる人物を通してテックビジネスのトレンドにキャッチアップするという意味や、シリコンバレーの技術を取り込むようなアライアンスを模索するという狙いもある。Scrum Venturesでは定期的にLP向けのネットワーキングイベントも開催している。

インキュベーションやコミュニティ運営、教育にも取り組む

日本企業を出資者としたファンドを通して、日米のスタートアップ企業や大企業を繋ぐことには価値があるだろう。ただ、そういう2国間をブリッジする役割よりも、宮田氏はもう少し大きな構図の中で自分や自身のVCが果たすべき役割を見据えているようだ。アメリカでVCのモデルが変化しつつあることと呼応して、設立2年になるScrum Venturesでは新しい取り組みを始めているという。

もともとVCの役割として、単に資金を提供するだけでなく、「バリュー・アッド」(value add)と、この業界の人たちが呼ぶ付加価値の提供が重要だ。お金は今やコモディティで、むしろ良いアイデアや技術、チーム、成功しそうに見えるプロダクトのほうが希少。男女関係と同じで、VCと起業家というのは相手を選んでもいるが、選ばれる関係でもある。イケてる起業家に選んでもらえるVCであるためには、かつては、ビズデブやエンジニアリング、人材採用、PRなどでスタートアップを手助けすることが重要だった。これらに加えて、今後はインキュベーションやコミュニティ運営、教育、データベースの提供といったこともカギとなっていくだろうと宮田氏は言う。

インキュベーションやコミュニティというのは、シードアクセラレーターの先駆けとなったY Combinatorのモデルがうまく行っているように見える。最近だと投資済みのポートフォリオ企業以外の超アーリーステージの起業家もコミュニティに巻き込むスタイルも増えていて、日本だとIncubate Fundが主催し、多くのVCが参加する合同合宿のIncubate Campや、East Venturesなどが若い起業家予備軍やVC予備軍を惹きつけて大きなコミュニティを形成している例がある。

Scrum Venturesでもインキュベーションに力を入れていくといい、インキュベーション案件1号として、「#LYVE」(ハッシュ・ライブ)という動画メディアに投資している。#LYVEは元TheBridgeのライターだった福家隆氏が始めたメディアで、30〜60秒程度でシリコンバレーのサービスの体験動画、イベント紹介動画、インタビュー動画などを日本向けに提供していく。中期的には他言語化してアジアを繋ぐような動画メディアに育てる構想だそうだ。

若手の教育にも力を入れるそうだ。

「これまでにも実はScrum Venturesでベンチャーキャピタリストとなるためのアソシエート教育をやってきています。ミニマム3カ月で即戦力というのを目指して、9カ月は実地でOJTということを3人くらいを対象に内部でやってきました。これをテンプレ化して企業向け、大学生向けとして外部化していきます。今はいろんな国の政府と話をしています」

このテンプレの元になっているのは、シンガポール国立大学からの学生が、スタンフォードとの交換プログラムでシリコンバレーにやってきたときに彼ら向けに作ったプログラムなのだという。

「ベンチャーキャピタリストになるというのは企業評価ができるということ。そのブートキャンプをやりたいんですよね。Scrum Venturesに来たシンガポール人は、1年間ですごく伸びました。ちゃんとした教育を受けてる人たちは、あっという間に企業評価ができるようになる。今どきのネットビジネスって、能力が高ければ10代や20代でもできる」

「私はいま42歳です。これから時代が根本的に変わると思います。英語とプログラミングができたら世界で勝負ができるんです。だから自分たちが持ってるナレッジやリソースを使って、若者たちに武器を与えたいんです。いまシリコンバレーで活躍してるのはインド人と中国人ですが、ほかのアジア人にも活躍してほしいと思っています」

日本のスタートアップ投資はバブル? JVCA会長に就任した仮屋薗氏に聞く

国内のスタートアップ投資は過熱気味で未公開企業のバリュエーションが高騰している。これはバブルではないか? ここ1、2年ほど、そういう意見をよく耳にした。一部のVCは、投資しようにもバリュエーションが上がりすぎて「パス」することが多く、もう半年間どこにも投資をしていないだとか、むしろ今はトルコのスタートアップに注目しているなんて話を聞くこともあった。

スタートアップ投資はバブルなのだろうか?

この質問をぶつけるのに最適な人物の1人が、グロービス・キャピタル・パートナーズのマネージング・パートナー仮屋薗聡一氏だ。

仮屋薗氏は、日本のネット業界でもっとも長くベンチャー投資をしてきたベテラン投資家の1人で、VC業界の中でも「仮さん」との愛称で一目置かれる存在だ。その仮屋薗氏が2015年7月10日に、発足14年になる日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の第7代会長に就任した。いまの日本のスタートアップ投資は過熱気味なのか? いまの日本のスタートアップ投資の課題は何なのか? TechCrunch Japanでは仮屋薗氏に話を聞いた。

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仮屋薗聡一(かりやぞの・そういち)氏。三和総合研究所での経営戦略コンサルティングを経て、1996年、グロービスのベンチャーキャピタル事業設立に参画。1号ファンド、ファンドマネジャーを経て、1999年エイパックス・グロービス・パートナーズ設立よりパートナー就任、現在に至る。慶應義塾大学法学部卒、米国ピッツバーグ大学MBA修了。著書に、「機関投資家のためのプライベート・エクイティ」(きんざい)、「ケースで学ぶ起業戦略」(日経BP社)、「MBAビジネスプラン」(ダイヤモンド社)、「ベンチャーキャピタリストが語る起業家への提言」(税務研究会)など。

加熱は一段落、しかしまだ資金量は少なすぎる

過熱気味のバブルかとの問いに対して仮屋薗氏は、現状をこう語る。

「一時期公的な資金が流れこんでバリュエーションをヒートアップさせたという話は2014年にはありましたけど、一段落したかなと考えています。むしろ大企業を始めとして、新規の予算が増えて投資が増えたことが背景にあるのでしょうね」

「ただそれも、きわめて細っていたベンチャーファイナンスに金額が加わっただけ。それが大いなる加熱だったかというと、そこは判断が分かれますよね。今年に入って新規IPO銘柄で上場後の下方修正等もあり資本市場が敏感に反応していますしね。それよりも今年と来年は、過去1、2年に大型資金調達をした企業がパフォーマンスを出せるかが重要です。パフォーマンスというのはエグジットのことだけではなく、追加資金調達を含めたマイルストーン、そうした進捗があるかどうかということです」

仮屋薗氏によれば、日本のベンチャー投資は、むしろ資金量がまだ全然足りていない。

VEC(一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター)によれば、2014年のベンチャー投資は国内で740億円程度です。年間1200億円程度と言われている日本のVC投資金額のうち国内企業を対象とした投資は、その程度です。VECの数字はVCのものだけなので、新設CVCや大企業の直接投資を入れると1000億円に到達しているかもしれません。それにしてもその程度です。これはアメリカの5兆円を超える数字を考えると非常に細く、過小です」

むしろ資金は余剰気味で、良い起業家の数が足りてないという声も聞くが、どうだろうか。

「ICTというジャンルだけで見れば、資金量は必要十分になってきているかもしれません。でも、ちょっと引いて見てみれば、もっと社会にはアタックするべき課題があって、バブルどころか、その手前ですよね。モノづくりやIoT系、ライフサイエンス系は圧倒的に資金が足りていません。研究開発分野の資金量の細さは変わっていないし、ここはリスクマネーが必要です」

アメリカでVC業界に機関投資家のお金が流れ込むようになったワケ

VC協会としては資金量を増やしたいものの、日本の場合、まだ機関投資家の資金がほとんど国内のVCに来ていないという現実があると言う。アメリカでは年金基金が運用資産の5〜10%をVCなどのプライベート・エクイティーと呼ばれるリスクマネーに割り当てている一方、日本ではこの部分が発展途上であり、ことVCに至ってはほぼゼロというのが現状だ。

「これには経緯があります。まず、日本ではVCのパフォーマンスが長らく十分なレベルに到達していなかったことがあります。アメリカだと1980年代後半に独立系VCが大きく成功を収めたのをきっかけにして機関投資家のお金がどっと流れ込むようになりました。ネットバブルの前のことですけど、KPCBとかセコイア・キャピタルといったVCが行なったアップルとかAOL、シスコシステムズ、オラクルといったIT企業への投資が大きなリターンを生みました。こうした企業を支援した投資家たちが機関投資家からの信頼を得て、より多くの資金を預かるようになっていきました。大学の基金ですとか企業年金、自治体の年金基金が、独立系VCの高いパフォーマンスに対して集まってきた」

シリコンバレーは文字通り、シリコンチップをベースにしてPC産業やIT産業が興隆し、そのプロダクトがグローバル市場へ広がっていく中で資金が流入するサイクルが生まれた。今やアメリカではベンチャーキャピタルの投資した会社が民間雇用の11%を生みだし、その売り上げはGDPの21%を占めるという統計もある。

日本でも銀行系VCから独立系VCへと比重が移りつつある

日本で機関投資家の資金がVCに流れてこなかった理由が、もう1つあると仮屋薗氏は指摘する。

「これまで日本のVCが、そもそも機関投資家のお金を必要としてなかったという事情もあります。多くのVCは銀行系だったので、ファンドを組成する際の資金調達に困らなかったのです。一方で機関投資家からの資金を集める独立系VCというのが育ってこなかった。機関投資家からすると、投資対象として明確にVCが認識されていなかったのですね」

日本の現状は、いわゆるニワトリと卵の状態。VCのパフォーマンスが良くなく、機関投資家からお金を集める必要がなかった銀行系VCが主流だった。いまは事情が変わりつあって、独立系VCが増えいる。こうした独立系VCは自力でファンド組成のための資金調達をやる必要がある。これは簡単なことではないという。

「独立系VCの現状はどうかといえば、ようやくパフォーマンスがでてきているところです。ですので、きちんと機関投資家に対してIRをやっていく必要があります。アカウンタビリティが欠かせません。お預かりした資金を、きちんと運用できていることを示していかないといけません。投資先企業のガバナンスなども、上場企業に求められていることが、未公開企業でも求められているようになってくるのではないかと思います」

「日本では年金基金におけるVCへの投資額は、ほぼゼロです。これが1%にでもなれば、かなり意味のある金額になります。例えば、GPIFみたいなところが本丸ですが、自治体とか企業の年金ですね、われわれ日本のVCは、こうした機関投資家の方々と、しっかりとお話をしていかないといけない。そう思っています」

VC養成講座を通してキャピタリストの教育も

JVCAという日本のベンチャー協会の発足は2002年11月。アメリカのNVCA(National Venture Capitarl Association)にならって作られたもので、こうしたVC協会はヨーロッパのEVCAなど各国にあって年に1度は協会同士で集まるという。そもそも日本では民間によるベンチャーキャピタルは1972年に京都からスタートしているが、長らく協会というものはなかったそうだ。

仮屋薗氏自身は設立当初から協会と関わってきていて、それが今回の会長就任に繋がっている。その関わりというのは協会の目玉プログラムである「VC養成講座」を企画し、講師をしてきたことだ。

「VCというのは日本だけでなく、世界的にも定まったカリキュラムがあるわけではありません。それでVC協会のほうで案件開発、ディールの交渉、投資条項の策定、実際の契約、投資先支援、エグジットという一連の流れをカリキュラムとして教えるということをやっています。入社2、3年目ですかね、VCの関連業務をひと通りやって現場にも出ていくなかで、体系的に習得してもらうためにどうすればいいかということです」

「2015年4月に前任の尾崎会長が亡くなられて、それで私がJVCAの会長を引き受けることになりました。JVCAは長らく金融機関系のVCが会員の中核だったのですが、今では独立系VCやCVC系会員も増えています。特に独立系VCは、アメリカのようにこの業界の根幹となっていくものだろうから、独立系が引っ張っていかなければならないのではないか、亡くなられた尾崎さんは、そうおっしゃっていました。そういう中で会長就任の打診を頂きました。尾崎さんは新体制に持って行こうと思ってらっしゃったんですが、志半ばでいらっしゃいました……」

現在、JVCAの協会のWebサイトを見ると、9月末現在でVC会員が47、CVC会員が10となっている。毎月のように新会員が増えていて、日本の主要なVCが揃いつつあるのではないかという。監査法人や法律事務所も賛助会社として会員名簿に名を連ねている。

業界としての意見の取りまとめ、ロビー活動も

JVCAでは「これまで活動範囲が限定的だった」(仮屋薗氏)が、今後は活動を増やしていくという。

「時代背景からして、内閣府や関係省庁、メディアなどとの関係を協会として作っていくことも1つです。ベンチャーは国の成長戦略の本丸で期待も大きいので、協会としてはVCが活動しやすくなる法整備のロビー活動だけではなくて、VC業界の全体のレベルアップもしていきます」

ここで言うロビー活動は、アメリカのような業界ごとのロビィストが特定企業群へ利益誘導するような話ではないようだ。

「例えば、2012年にAIJ事件がキッカケとなってファンド規制の話が出てきました。預かったお金を本来とは違う用途に流用して資金を溶かした、そういうファンドがあったから出てきた規制ですが、このとき、『ファンド』と一括りで呼んで規制をかけるのではなく、VCは成長産業を作るものなので特例を作ってください、と。それで特例措置をどうするのか具体的なお話を、VC協会としてさせていただきました」

「これは金融庁さん応対ですけど、ほかにも経産省さんとはストック・オプションだとか、のれんの問題とか、M&Aがうまく行くために何をすればいいのかなど、いろいろとありますが、JVCAとしてはVCの意見の取りまとめをやっています」

「2006年ごろは、官公庁も大企業も政府も、どこもベンチャーに対して決して支援的ではありませんでした。ベンチャー叩きというのもありましたしね。あの頃、起業の数は相当に減ったんじゃないですか? 堀江さんの一件で『虚業』という言い方も、ありましたよね」

資金の流れも細り、向かい風が続いたベンチャー投資も、2015年の今は追い風だという。

「2015年の今は、フォローしていただいていて、大企業がどうやってコラボするのか、M&Aするのかと積極的なスタンスに変わっています。企業も官庁も積極関与、積極フォローという感じです。どうやったら日本でベンチャーがうまくいくんですか、というのが官庁などの基本的なスタンスです。ただ、具体的なところはリクエストをもらわないとできないよということでヒアリングにいらっしゃるので、逆に、われわれもキチンとお答えしていくということです。ベンチャー企業が、より積極的に活動していけるようにと」

「JVCAとしての取り組みで言うと、ファンドマネジメント能力を上げていくのもミッションです。グローバルスタンダードとは何かというのを理解しながらVCの能力向上をはかる。それは先ほど申し上げた通り、まずアカウンタビリティーですね。出資者との対話やヒアリングというIRの点では、もう1つのオルタナティブ投資であるプライベート・エクイティー業界のほうが進んでいます。VC業界は、そこから比べると遅れているので、学べばいいんです」

「キャピタリスト向けの能力向上でいうと、初心者向けカリキュラムはあったものの、中堅からシニアについては、何ら能力向上やナレッジ共有のプラットフォームがなかったので、これも協会として作っていきたいですね。このレベルだと教科書というのはたぶん作れませんから意見交換という形になるでしょう。ただ、意見を交換するにしても、そもそも『何がナレッジの対象なのか』ということの定義ができているか、『誰がそういうナレッジを持っているか』を特定していくことが大切です。その上で、みんなで勉強会をやる。ここで共有するナレッジは広く拡散させられるものではなく、オフレコでやるってことだと思いますけどね」

メディアに身をおく人間としては、広くパブリックに共有できないナレッジというと、何か村社会的で談合的なニオイも感じる。情報の非対称性を利用して有利に話を進めようとするのは前時代的なアプローチではないのだろうか?

「成功した本当の理由というのはなかなか表に出て来ません。例えばM&Aのとき、最終的なバリュエーションが3、4割上がった経緯とか、そういうのは業界内で研究していく形です。M&Aには客観価値はありませんから。公開企業だと分かりやすいですけどね、例えばTOBなら市場価格の4割増しが一般的じゃないですか。M&Aはベースとなる価格がないので、そこはもうノウハウというのもありますし、交渉の経緯ですよね。買収する企業からしたらシナジーがあるなどの理由以外にもディフェンスのために欲しいという場合もありますよね、他の有力な買い手に行くと困るなど。買い手が1社だと交渉が不利になる、とか、そういうところにもノウハウがあるということです」

大企業のM&A戦略の成功のカギは「企業統合」の知見と技量にある

ナレッジの共有を進めていくとしても、そもそもまだ日本のどこにも存在しない知見というものがあるという。

「そもそもM&Aのエグジットがまだ少ないので、VCにも知見があるわけでもありません。ほかの業界で長けている方から学んでいくのがいいのでしょう。特にM&A後の企業統合、いわゆるPMI(Post Merger Integration)がどうあるべきか、ここの知見が薄いです。これは日本全体でまだありません。こうした知見を深めていくことで、より良いM&Aが増えていくのだと思います」

これはあまりに表立って語られることがないが、M&Aが失敗に終わるケースもある。例えば買収したスタートアップ企業の事業が属人的すぎるために組織として統合できないことがある。そうした中で事業を興した起業家が去ってしまうと買収した側の企業には何も残らない。これは日本でもアメリカでも聞く話だ。日本の企業文化では買収側の担当者が減点方式のサラリーマンだったりして、M&A後の失敗によって大きな「黒星」がつくと、その人の出世に響くこともあり得る。だからM&Aに慎重にならざるを得ないという事情がある。買収する大企業側もM&Aがどうあるべきかを学んで行くフェーズなのだろう。

「日本でもPMIが強いところがM&A戦略で勝てると思うんです。シスコやセールスフォースといった、PMIが上手な企業は、相応の額でスタートアップ企業を買っても、買収金額を上回るような価値を生み出しています」

「成熟した企業のPMIをやったことがある人材は日本にもいます。ただ、成長企業のPMIというのは、まだこれから。ここはVC業界として学んでいきたいですね」

誰がハードウェアスタートアップに投資しているのか?

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多くのエンジェルやVCが〈ハードウェア〉スタートアップへの関わりをためらう一方で、ハードウェア・ファンディング・エコシステムではここ数年大きなルネサンスが起きている。2010年以来、ハードウェアスタートアップに対するベンチャーキャピタル投資額は30倍以上増えている。

Hardware Startup Investment by Year

VCまたはエンジェルから100万ドル以上公開調達したハードウェア/つながっているデバイス企業。

こうしたハードウェア・ファンディングの急増と共に、常に浮上する疑問は、「誰がハードウェアに〈投資〉しているのか?だ。一般に、プライベートなハードウェア投資家は以下の3つに分類される。

  • ハードウェア専門VC。ごく少数のファンド(当社を含む)はハードウェア企業だけとつきあっている。通常われわれは初期資金を投入し、その後追加投資をすることもあるが、将来の投資ラウンドをリードすることはない。
  • ハードウェアに優しいマイクロVC。シード段階には投資するが、ハードウェア専門ではないマイクロVCもいくつかある。一般に彼らは1億ドル以内の資金を扱い、5万~50万ドルをシードラウンドに投入するが、めったにリードしない。
  • ハードウェアに優しい伝統的VC。ハードウェアに投資される資金の大半は、伝統的VCから出され、特に熱心なVCも少数いる。消費者向けハードウェア企業に関しては特にそうだ。

どこで起きているのか?

資金を得た(公開で100万ドル以上を調達)〈つながっているハードウェア〉スタートアップの数は、私が数えた限り現在ベイエリアで110社だ。ボストンおよびニューヨーク市(両者はほぼ同じ)はその1/3だ。ロサンゼルスとボウルダー/デンバーはボストン・ニューヨークのさらに1/3だ。合計金額ではサンフランシスコが圧倒的で、2014年の総調達額はボストンの5倍、ニョーヨーク、ボウルダーの10倍だった。それ以外(海外を含む)の場所は、ごくわずかの例外(Xiaomi、DJI、Magic Leap) を除いて誤差範囲だ。

Hardware startup investment by region

なぜ今なのか?

3つの大きな力が個人投資家のハードウェア会社への投資を推進している。

強力な出口

Consumer Hardware Startups

いくつかの成功した会社が、ハードウェア会社は大きな見返りを生む、という道を開拓した。流通と製造は未だに困難だが、GoProとFitBitは、ハードウェア会社が同種のソフトウェア専門会社よりも強力な成長と利益を生みだせることを証明した。

SaaS型の測定基準

伝統的ハードウェア会社が売上と利益以外に殆どフィードバックの仕組みを持たないのに対して、つながっているハードウェアスタートアップは、製品の利用、維持、離散に関して継続的なフィードバックを得られる。これが反複サイクルを短縮し、(すでにSaaSに満足している)投資家らは、たとえ大きな売上実績がなくても若いハードウェア会社を理解しやすくなる。

ハードウェア+ソフトウェア=コモディティー化の減少

多くのハードウェア製品が、時間と共に起こるコモディティー化と苦闘している。今日のつながっているハードウェア製品の多くは、ソフトウェアのためのトロイの木馬である。複製が困難なソフトウェアが乗り換えコストを高め、顧客と接触してブランドを確立する機会を増す。その結果顧客の生涯価値は高まり、それは直接的な反複売上(Dropcam)あるいは消費財を通じて実現される(Kindle

過去数年間ベンチャーキャピタル投資の当たり年が続いているが、つながっているハードウェアのエコシステムは、スタートアップの数においても、そこに投資するVCの受容力においても、特に爆発的成長をみせた。これは開発費の減少、市場参入期間の短縮、およびハードウェアビジネスモデルの、コモディティー家電型から反復売上・ソフトウェアビジネス型への転換によるものだ。

今年は、ファンディングラウンド数、投資総額の両方が2014年を上回る見込みだが、ハードウェアカテゴリーの数が飽和し、エコシステムにおける勝者か見えてくるにつれ、成長は横ばいになりつつある。ハードウェアコミュニティーの進化と共に、いくつかの分野で新たなハードウェアスタートアップが登場することを期待したい

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

日本ではコーポレート・ベンチャーキャピタルが主流

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【本稿の筆者、James Rineyは、DeNA Venture Capital Groupのプリンシパル】

アメリカで資金調達を考えるとき、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)は「プランC」とほぼ同義だ。有力ベンチャーキャピタルから資金を得られなければプランBの準大手へと移る。それに失敗したときのプランCが、コーポレートだ。

例外はあっても、コーポレートは最後の手段と考えられがちだ。そこはあなたの会社が売れ残ったり、評価額が高すぎてそんな会社に小切手を書く頓狂な投資家は山ほどの「馬鹿マネー」を持っているところだけ、というときに行く場所だ。

「やつらは最低だ!」とUnion Square VenturesのFred Wilsonは言う。「彼らは会社の成功にも起業家の成功にも興味がない。大企業は自分たちの利益を最大化するために存在している。いい人や寛大になることはない。そんなものは彼らのDNAにない、だから投資家として最低なのだ」。

企業から資金調達することは米国で、とくにシリコンバレーでは理想的と言えないかもしれない。しかし日本では、IT起業家にコーポレート・ベンチャーキャピタルを嫌う贅沢は許されない。

CVC Participation Japan

様々な意味で、ベンチャーキャピタルとは基本的に企業の資金であり、それはコーポレート・ベンチャーキャピタルとしてだけでなく、個別ファンドの限定パートナーという形をとる場合もある。米国では圧倒的大部分の資金が年金基金、寄付、ファンドオブファンドなどの機関投資家から来ているが、日本では大半が企業からだ。

この相違は、日本の投資家の方がずっとリスク回避的であり、ベンチャーキャピタルは資金を投じるには危険すぎると広く理解されているためだ。そして、残念ながら、リターンはこの嫌悪感を乗り越えられるようなシリコンバレー並みにはいたっていない。

その結果、起業家の利用できるリスクマネーは著しく少ない。2014年、日本では9.6億ドルがベンチャーキャピタルに投じられたのに対して、米国では480億ドルだった ー 50倍の違いだ。エンジェル投資に関しては、違いは約10億ドル対241億ドルだ。言い換えれば、日本の起業家にはわずか19.6億ドルしか用意されていない。これは、おおよそAndreeseen Horowitzで5番目のファンドに相当する規模だ。

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ではなぜ日本企業はスタートアップに投資するのか?理由は他の国々の企業投資家とそう変わらない。企業投資の目的は金銭的見返りだけではない。経営的見地から、コーポレート・ベンチャー部門は、研究開発あるいは経営企画経費として見られている。

研究開発のニーズは、最新トレンドから目を離さなず、会社の中核ビジネスに影響を与えるものを手遅れになる前に発見することで満たされる。経営企画面からは、買収先企業を見つけるとともに、将来の提携を見越して有望な企業との関係を築くための機構の一つだ。要するに、彼らがVCをリスキーと考えているかどうかはあまり関係ない:金銭的見返りは主目的ではない。

スタートアップの資金の多くはいずれにせよ企業から来るため、企業マネーがなんらかの意味で独立マネーより劣るという発想は実はない。

実際、強力なブランドを持つ有力企業から資金を調達することは、市場に対して見せる姿勢として悪くない。体質的にリスクを嫌う国では、ブランド企業の後ろ盾は安定を意味し、その安定は途方もなく役に立つ。

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名もない小さなスタートアップにとって、1年後も会社が存続していることを信じてもらえれば、ずっと顧客を説得しやすい。同じことは、優れた人材を雇うときにも言える。企業の後押しは、あなたのスタートアップという手漕ぎボートが、起業精神の嵐に出会っても沈没しないという幻想を与える。

認識は場所によって変わる。日出ずる国の起業投資家は、ベンチャーワールドのSequoiaだったり、Andreessen Horowitzだったりする。直観に反するかもしれないが、日本について聞くユニークな話は、おそらくこれが初めてではないだろう。

原文へ

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

華やかじゃない、すぐにお金にならない、でも支えたい——独立系VCを立ち上げた24歳の投資家

tlm

「根が『サブキャラ』なんですよ。高校ではオーケストラをやっていたんですが、担当はコントラバス。華やかじゃないし、目立たない。でも、みんなを支えられるならそれでいいんです」——今月24歳を迎えたばかりの若き独立系ベンチャーキャピタリスト・TLMの木暮圭佑氏は、自分の性格についてこう語る。

23歳でファンドを立ち上げ

TLMの木暮圭佑氏

TLMジェネラルパートナーの木暮圭佑氏

国内で若手の独立系ベンチャーキャピタリストと言えば、ANRIの佐俣アンリ氏やSkyland Venturesの木下慶彦氏などの名前が挙がることが多い。

2人には2014年11月に東京・渋谷で僕らが開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2014」に登壇してもらったこともあるのだが、その際に印象的だったのは、「『若手』と言われる自分たちはもう30代前半。もっと若い人がベンチャーキャピタリストとして活躍して欲しい」という話だった。

別に年齢だけにこだわっても仕方ないのだけれども、学生起業家が生まれている中で、同年代の動きを同じ目線でキャッチアップし、支援できる投資家は実のところほとんどいないのは事実。

成功して財産を築いたエンジェル投資家はさておき、ベンチャーキャピタリストは自分のお金を出す以上に他人からお金を集めて預かり、投資をすることになる。そのためにはビジネス知識や実務経験、人脈、そしてなにより「この人にならお金を預けてもいい」と思わせる信頼が必要になるわけだ。

前述の佐俣氏も木下氏も学生の頃から投資家との関わりを持ち、それぞれ事業会社やベンチャーキャピタル(VC)で働く、いわば修行の時期を経て、20代後半でベンチャーキャピタリストとして独立している。必要な要素を考えれば、この年齢でのスタートだって早いほうだと思う。最近ではインキュベイトファンドのFoF(ファンドオブファンズ:ファンドが出資して作る「子ファンド」)としてプライマルキャピタル(佐々木浩史氏)やソラシード・スタートアップス(柴田泰成氏)なども立ち上がっているが、彼らも独立したのは30歳前後だったはずだ。その他にも最近では若手のキャピタリスト、インキュベーターなどが徐々に活躍しはじめていると聞く。

冒頭にあるように木暮氏は24歳になったばかり。僕が知る限りでは、国内で最年少の独立系ベンチャーキャピタリストだ。木暮氏は4月、23歳でベンチャー投資ファンド「TLM1号投資事業有限責任組合」を立ち上げたが、この夏からその投資活動を本格化させる。ファンドのサイズは現在約5000万円とまだ小さいが、年内には1億円規模を目指す。資金を提供するLP(有限責任組合員)の多くはエンジェル投資家。インターネット関連の事業でIPOやM&Aをした人物が中心だという。

きっかけは渋谷のコワーキングオフィス

木暮氏は1浪して早稲田大学国際教養学部に入学。そこで学生向けのビジネスコンテストを主催するサークルに入った。そしてサークル運営の作業場所として借りた東京・渋谷のコワーキングスペース「co-ba」で、paperboy&co.(現GMOペパボ)創業者の家入一真氏や、BASE代表取締役の鶴岡裕太氏といった起業家たちとの交流が始まったのだという。

その後木暮氏は米国に留学。2013年に帰国したのちEast Ventures(EV)のインターンを務めた。「帰国した次の日からEVで働いていました。当時EVは六本木に引っ越して、シェアオフィスを始めたばかり。オフィス管理や雑務からなんでも担当しました」(木暮氏)。仕事に集中するため、大学もいったん休学した。

木暮氏はその後、EVのファンド組成や具体的な投資先支援に関わり始める。女性向けキュレーションメディア「MERY」を運営するペロリや決済サービス「Coiney」を運営するコイニーなどの実務支援をしたそうだ。「投資先でスタートアップの組織の作り方、資金調達をする際の悩み、マネジメントの仕方などを現場で学びました。複数の投資先に関われたので、『この会社は代表主導で事業に対してロジカルな判断をする』『この会社は現場の人間に事業を任せて数字を伸ばす』といった起業家ごとの姿勢を見ることもできたのは大きな経験」(木暮氏)

投資先や社内外の先輩キャピタリストらと関わる中で、ベンチャーキャピタリストとして独立することを考えるようになった。当時は起業という選択肢もあったそうだが冒頭の発言のとおりで、自ら会社を興すのではなく、周囲の起業家を支えたいと考えてVCになる道を選んだ。2014年に入って準備のためにいったんEVを離れ、大学にも復学。具体的な計画を立て始めた。EV投資先の会社から就職の誘いもあったがあくまで外からの「お手伝い」をしていたそうだが、先輩キャピタリストに「本当に独立する気はあるのか?このままでは(社外の支援者として)口だけしか出さない人間になる」と言われ奮起。卒業を前にしてファンドを立ち上げた。

投資対象はシードラウンド、すでに3社に実行

TLMが投資するのは基本的にはシードラウンドで、一部シリーズAのスタートアップを含む。投資額は500万〜1000万円程度だという。

投資領域はウェブサービスが中心で、「テーマは日常生活を豊かにするもの。例えば今まで5時間かかっていたことを5分で解決する、そんなサービスやモノに投資をしたい。『大きな市場』とか『未来を作る』ということはもちろん言っていきたいが、まずはそんな身近なところから始めたい」(木暮氏)

すでにスマホ中古売買サービスの「ヒカカク」運営のジラフなど3社への出資を実行している。いずれもEV時代から面識のある、同年代の起業家だという。今後もファンドサイズを拡大しつつ、積極的な投資をするとしている。

若手独立キャピタリストは食っていけるのか

佐俣氏、木下氏と昨年のイベントで話したテーマの1つでもあるのだが、24歳の木暮氏は、はたしてベンチャーキャピタリストとして食っていけるのだろうか。

何でこんなことを言うのかというと——もちろんVCごとに差異はあるが——独立系ベンチャーキャピタルでは通常、年間でファンド総額の2〜3%程度の管理報酬と、投資先のIPOや売却などで元本を超えた金額の10〜20%程度の成功報酬を得るケースが多いからだ(一方で銀行系VCやコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などはいわゆるサラリーマン的な給与体系であるケースが多い)。TLMは管理報酬を公開していない。しかし1億円のファンドで管理報酬2%という計算をすれば、投資先のイグジットがない限り、キャピタリストとしての稼ぎは年収200万円となるわけだ。

木暮氏にその点を聞くと「お金が目的であれば、初期のベンチャーキャピタルは難しい」と本音を漏らす。「投資先についてははっきり言って心配してません。そもそも伸びると信じているし、そのための支援もしていく。課題は自分自身。もちろん日銭を稼ぐ必要はあると思っています。ただそれでもチャレンジしたい世界がそこにありました」(木暮氏)。かつてはコンサルティングやイベント運営などで食いつないだという若いキャピタリストの話を聞いたこともあるが、独立系VCには起業家とはまた違う苦労があるわけだ。

ともかく、24歳の若きベンチャーキャピタリストの活動は始まったばかり。実績はこれからだが、まずは投資先のスタートアップ1社1社の支援を続けるという。そしてゆくゆくは海外スタートアップへの投資もやっていきたいのだそう。「上に上に、常に高い山に登り続けるような気持ちが必要。お金を預けてくれる人がいるというのは、そういうことを求められている証なのだと思う」(木暮氏)

オンライン語学サイトのDuolingoがGoogle Capital他から4500万ドルを調達―評価額4億7000万ドルに

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reCAPTCHAの開発者Luis von Ahnが共同創立した無料のオンライン語学学習サービス、 Duolingoは、今日(米国時間6/10)、Google Capitalがリードしたラウンドで4500万ドルの資金を調達したことを発表した。Union Square Ventures、NEA、Kleiner Perkins Caufield & Byersに加えて、Tim Ferrisや俳優でベンチャーキャピタリストのAshton Kutcherなど前回のラウンドの参加者も今回のラウンドに加わっている。

今回のラウンドでDuolingoの調達した資金総額は8330万ドルとなり、同社によれば、会社評価額は4億7000万ドル程度だという。

Duolingoの発表によれば、無料語学学習コースのユーザーは世界で1億人に達し、アメリカにおけるDuolingoのユーザー数は全ての公立学校の生徒数より多いという。学校向け無料プログラム、platform for schoolsに登録している教師の数は10万人となっている。

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「Duolingoのモバイルに重点を置き、ゲーム化されたプラットフォームは世界中で言語学習の方法にイノベーショhンを起こしている。Duolingoの成長率、利用時間はわれわれを仰天させた。この会社と共に教育の未来を変えていく手助けができるのは喜ばしい」とGoogle Capitalのパートナー、Laela Sturdyは述べた。

実はvon Ahnは過去にGoogleと縁が深い。von Ahnは2009年にreCAPTCHAをGoogleに売却しており、またそれ以前にも彼のESPゲームがGoogleのImage Labelerに2006年に採用され、2011年まで用いられた。

Duolingoの翻訳事業はどうなる?

オンラインで無料の学習コースを提供するだけでビジネス―それも4億7000万ドルに評価されるビジネスを運営していくことはできない。複雑な文章も翻訳できるようになった上級課程の終了者による翻訳サービスによって収入を得るというのがDuolingoの当初のビジネスモデルだった。CNNはDuolingoの翻訳サービスをここしばらく利用している。

しかし奇妙なことに、Duolingoは今回の発表で翻訳サービス事業について全く触れなかった。私の取材に対して広報担当者は「われわれは1年半ほど前に翻訳事業を棚上げし、以来新規顧客の受付を中止している(ただしCNNの翻訳は続けている)」と語った。Duolingoは収益事業として 語学能力の検定を行うTest Center TOEFLに取って代る存在に育成しようと努力中だ(テストの料金は20ドル)。広報担当者は「それ以外にもマネタイズ手法を検討している」と語った。

広報担当者はこの方針変更の理由を次のように説明した。

「翻訳事業によって実際に収益を上げてみると、品質管理やセールスのために多くの人を採用しなければならなず、Duoingo自体が翻訳サービス会社になっていく危険を感じたからだ。企業は収益を上げている部門に注意を集中してしまうものだ。われわれはあくまで教育企業であり、世界の人々により効率的な学習手段を届けるのが使命だ」

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

48億円のファンドで「大阪発、世界」を支援—投資独立系VCのハックベンチャーズ

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地方創生というキーワードを聞くようになって久しいが、大阪をはじめとした関西のスタートアップを取り巻く環境もこの2年でかなり変化したんだそう。2013年に大阪市が起業家支援の拠点「大阪イノベーションハブ」がオープン。そこを拠点に多くの人材が交流しており、現在も週に数回テック系のイベントが開催されている(TechCrunchでもハッカソンを開催している)。

そんな活動の中から生まれる「大阪発、世界」のスタートアップへ投資する独立系ベンチャーキャピタルのファンドがスタートした。

大阪市や中小機構、銀行のほかに阪急電鉄などが出資

大阪市に拠点を置くハックベンチャーズが組成した投資ファンド「ハック大阪投資事業有限責任組合」。5月に一次募集を終了したこのファンドの規模は48億円。最終的には総額100億円規模まで拡大する予定だ。LP(有限責任組合)には大阪市のほか、独立行政法人中小企業基盤整備機構、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、積水ハウス、阪急電鉄、日立造船、Mistletoeの名前が並ぶ。

5月28日に発表されたプレスリリースによると、このファンドでは、「関西を基盤としつつ、米国シリコンバレーなどの最先端地域と密な連携を取ることにより、ITによる産業革新の波を引き寄せ、日本/関西に世界的に競争力のある事業を創造することを目指す」とのこと。直接ハックベンチャーズに聞いたところ、「大阪をベースにしながらも、地域の制限はせず、グローバルに進出するスタートアップを支援していく」との回答を得た。

パートナーを務めるのは、コンサルを経てシリコンバレーでシード投資やインキュベーションを手がけて来た校條浩氏のほか、東レでCVCを立ち上げたのち米国スタートアップと日本企業のマッチングなどを手がける山舗智也氏、日本テクノロジーベンチャーパートナーズの金沢崇氏の3人。校條氏や山舗氏は大阪とシリコンバレーを行き来して活動することもあり、「シリコンバレー経由でアジアや世界に出たいスタートアップも歓迎」(ハックベンチャーズ)する。

投資対象とするのはシード・アーリーステージからシリーズAのスタートアップまで。投資額は1社数千万円〜数億円程度を想定する。投資対象となるのはIoTのほか、住宅や自動車、医療といった、「ITによりスマート化が急速に進む領域」が中心となる。

LPとともに投資対象を育成

関西では最大規模の独立系VCファンドが誕生したワケだが、気になるのは投資対象となるスタートアップの数だ。冒頭のとおり、大阪のスタートアップ環境が変化しているのは事実だけれども、資金を調達して、Jカーブを掘って、早いスピードでの成長を目指すような起業家がはたしてどれだけ居るのだろうか。

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ハックベンチャーズでもそのあたりは課題として認識しているようで、「(スタートアップの)数は正直あまり多くない」と語る。そこで同社では「ハックラボ」というラボ機能を用意。単に出資をするだけでなく、LPの支援のもとで事業創造・育成をしていくそうだ。例えば阪急電鉄であれば鉄道から不動産まで様々なビジネスがあるし、積水ハウスならばスマートホームなんかも興味があるところだろう。詳細はこれから決めていくようだが、企業と組むことで具体的なビジネスの「ネタ出し」もしたいという。

「関西には中小企業気質の会社が多いが、一方でグローバルに出たいという声も聞く。そういう人たちにはハックラボを使ってもらいたい。ありきたりなキーワードだが、『大阪のものづくりとシリコンバレーのIoT』を組み合わせていきたい」(ハックベンチャーズ)

photo by
Yoshikazu TAKADA

クレディセゾン、FinTech特化のコーポレートベンチャーキャピタルを設立

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screenshot_371先日のGoogle I/Oでも決済サービスのAndroid Payが発表されたばかりだが、金融(Finance)とIT(Tech)を掛けあわせたいわゆる「FinTech」に注目が集まっている。そんなFinTech関連のスタートアップにも影響のありそうな動きがあった。

クレディセゾンは6月1日、国内カード業界初となるコーポレート・ベンチャーキャピタル、「セゾン・ベンチャーズ」の設立を発表した。資本金は1億円で、クレディセゾンの100%子会社となる。

クレディセゾンでは、これまでにもOrigamiやコイニーをはじめとしてスタートアップに積極的な出資をしてきた。新設したセゾン・ベンチャーズでは、シード・アーリーステージのベンチャーを対象により機動的に活動したいとする。

主な投資対象はFinTechの分野で新世代の金融・決済ソリューションに取り組むスタートアップ、もしくはカード会員資産や永久不滅ポイントなど、クレディセゾン固有の資源を活用し新たな経済活動を生み出すポテンシャルを持つスタートアップ。クレディセゾンでは、3500万人の顧客基盤、30年以上のカードビジネス経験でスタートアップを支援するとしている。

企業の規模やアイデアにもよるが、1社あたり数百万円〜数千万円をイメージしているとのこと。将来的には、数年で数十億円規模にまで投資規模を拡大していきたいと意気込む。

現在のテクノロジー・バブルは破裂必至―最大の痛手を受けるのはベンチャーキャピタリストではない

2015-05-27-bubblewillburst

編集部:この記事は税務、会計のための企業評価コンサルタントArancaのシニア・マネージャー、Manish Goyalと同社の会社評価部門の責任者、Bharat Ramnani の寄稿。

シリコンバレーは時限爆弾の上に座っているのだろうか? テクノロジー界はバブルなのかどうかをめぐる論議は激しさを増している。いわゆる「ユニコーン」、つまり投資家から何十億ドルもの資金を集めながらそれを正当化するような利益を返さないスタートアップが最近、何社も登場していることが論争の火に油を注いでいる。

いまやベンチャーキャピタルの世界ではユニコーンは珍しい存在ではない。CB Insightsのレポートによれば、現在アメリカで企業評価額が10億ドル以上になるスタートアップは103社もあるという。その大半は黒字化に近いところまでも行っていない。サンドヒル・ロードのベンチャーキャピタリストたちは「次のFacebook」を探すのに熱中するあまり、さしたる根拠のないコンセプトに法外な額の小切手を切っている。営業利益率、損益分岐点、将来のキャッシュ・フローといった着実な数字は後部座席に追いやられた格好だ。

強気筋の一部は警告を発するものに対して「テクノロジー投資がわかっていない不平屋の素人だ」というレッテルを貼っている。しかしMark Cubanはそうではない。この伝説的ベンチャーキャピタリストは、広く論議を巻き起こしたブログ記事で、「現在、過去最悪のバブルが起きている」と主張している。これはやはり極端な意見だという声が強い。しかし同時に、現在のバブルは―バブルだとして―2000年のドットコム・バブルとは根本的に性格が違うことに注意する必要がある。

それでは、このバブルで最も痛手を被りそうなのは誰だろうか? われわれの分析によると、一般に考えられているのとは違って、ベンチャー投資家の被害はさほど深刻なものとはならず、最も深刻な犠牲者はスタートアップのファウンダーと社員だ。

「次のFacebook」

投資家は遠い先に実現するかもしれないイノベーションに夢を託して、地に足のついた数字―企業のファンダメンタルの検討を窓から投げ捨ててしまったようだ。それに呼応して、Uberなど一部のスタートアップは利益を度外視して、新しい市場の立ち上げとシェアの獲得にしゃにむに突っ走っている。

投資ラウンドを重ねるごとにUberのようなスタートアップの会社評価額がロケットのように急上昇したスピードはどんな楽観主義者の予想も上回るものだった。 Uberは わずか6ヶ月で170億ドルから400億ドルになった。

これは正真正銘のバブルだ。 しかしこのバブルの破裂は投資家の金、特に一般投資家の金を一夜にして紙くずに変えるのだろうか? どうやらそうはならないようだ。

このテクノロジー・バブルの主たる推進力はスタートアップ後期のベンチャー投資で、公開市場にはある程度の理性が残っているように見えるのは興味ある点だ。2000年のドットコム・バブルのときには、売上ゼロの会社が株式上場に走ったものだが、今はテクノロジー・スタートアップが上場するまでの平均時間ははるかに長くなっている。上場の数が大幅に減った結果、上場した企業が黒字化に成功する率が高まっている。

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上場とベンチャー投資の比較。テクノロジー分野における1億ドルを超す投資と上場の件数 (世界) ソース:Renaissance Capital

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上場とベンチャー投資件数の比較。2000年以降のアメリカ。ソース: PwC/NVCA MoneyTree Report, Bloomberg

上のグラフでも分かるように、ベンチャー投資の件数と額は急上昇しており、もうじき2000年のペースに届く(バブルだ)。しかしNASDAQのインデックスが5000に近づき、株価収益率も36.5まで上昇しているものの、株式市場に関しては2000年代の狂乱ぶりにははるかに及ばない。つまり今回のテクノロジー・バブルが破裂しても2000年のドットコム・バブルのように一般投資家が何十億ドルもの投資を一夜にして失うという事態は起こりそうにない。

誰が打撃を受けるのか?

このバブルは近く破裂することが必至だ。非常識な評価額によるメガ投資のトレンドが破裂したときに打撃を受けるのは株式市場の一般投資家ではなく、プライベートな投資家だ。しかしドットコム・バブルのときは違って、今回はベンチャーキャピタリストは被害の矢面には立たないですみそうだ。

この点を理解するには、テクノロジー・スタートアップが10億ドル以上の評価額を得た代表的な例を詳しく見ていく必要がある。

Source: VC Experts

ソース: VC Experts

投資条件から計算された評価額(Implied Valuation)はすべて10億ドル以上だが、実際に投資された金額ははるか低い。さらに投資条件に含まれるliquidation preferences(会社が現金化される際にベンチャーキャピタリストの優先取り分を定める条項)が入ってくると、ベンチャー投資家はさらに手厚く守られることになる。

テクノロジー・スタートアップに対する数百件のベンチャー投資ラウンドでわれわれは会社評価額決定の専門家として意見を述べてきた。その中にはユニコーンも含まれる。われわれの見るところ、最近ベンチャー・キャピタリストはこうした投資におけるタームシート(投資条件規定書)にliquidation preferences以外にもparticipation rights(残余財産分配における株主としての参加権)などの権利を盛り込もうとしている。もしスタートアップの事業が目論見どおりに成功しなかった場合でも投資額を取り戻し、できれば利益を得ようとするさまざまな手段が講じられている。「お前たちは評価を取れ、こっちは現金を取る」という昔から言われる警句のとおりだ。

残念ながらベンチャーキャピタリスト以外の株主やストックオプションの持ち主にはこういう保護は及ばない。スタートアップの社員はベンチャー資金投資後の高い会社評価額をベースに自分のストックオプションの価値を算定する。しかしこの価値は名目的なものに過ぎず、オプションが無価値になるケースはきわめて多い。ファウンダーでさえ、往々にして数十億ドルの価値があるはずの持ち株が実際には紙の上の評価にすぎなかったと気付かされる。

UberとAirbnbの例でいえば、Uberの共同ファウンダー2人と幹部の1人、Airbnbの3人の共同ファウンダーがForbesの今年の「大富豪リスト」に載っている。言うまでもないが、彼らの「資産」は名目的な(それもベンチャー資金投資後の)会社評価額に基づく株式の価値にすぎない。その額は会社が今現実に売却される場合に想定される額を大幅に上回っている。

仮にUberやAirbnbが過大な会社評価額に見合う成長を達成することに失敗し、 たとえば、投資後評価額の10分の1の額で買収されたとする。その場合でもベンチャーキャピタリストはliquidation preferenceによって投資額を取り戻し、さらに利益を得ることも可能だ。しかしファウンダーや社員が「手にした」と思った数十億ドルは紙の上の泡と消えることになる。

〔日本版〕上の表によればUberの「計算上の評価額」は440億ドルで、それに対する実際の投資額は12億ドル。評価額の10分の1、44億ドルで買収された場合、liquidation preferencesが1.0倍なのでベンチャーキャピタリストは44億ドルから優先的に12億ドルを得る。タームシートの内容によっては44億ドルの大部分がベンチャーキャピタリストの手に渡り、ファウンダーや社員には利益がほとんどないという事態も十分に起こり得る。

最大の被害者

一言でいえば、テクノロジー・スタートアップの評価額を法外に吊り上げているのは「次のFacebookやTwitter」を探すベンチャーキャピタリストたちが感じるFOMO 〔Fear Of Missing Out=チャンスを逃がすことへの恐れ〕だ。その上、ベンチャーキャピタリストは上に述べたように自分たちの投資に対する保護策を講じているので、大きなリスクを冒しているとは感じていない。以前のベンチャーキャピタリストは評価額を決める際にある程度は実態に応じた数字を使ったものだし、liquidation preferencesその他の条項も半分は形式的なものだった。しかし、今やこうした条項は大きな意味を持ち始めている。

結局こういうことだ。人々は負けたたときのリスクがごく小さいのであれば、成功の確率が低いが成功すれば儲けの大きい賭けを追求するようになる。ベンチャーキャピタリストは巨大な評価額を付けた会社の株の数十分の1を買うかもしれないが、その評価額で会社全体を買うことは絶対にない。

スタートアップ投資のエコシステムではベンチャーキャピタリストが圧倒的に優位なプレイヤーなので、社員はもちろん、ファウンダーも弱い立場にある。アメリカではベンチャーキャピタルが投資する会社で1250万人が働いており、その数は増え続けている。こうした人々がスタートアップで働く動機の大きな部分がストックオプションへの期待だ。会社が目論見どおりに長期的に成長を遂げて買収や上場によってエグジット〔現金化〕されたときの巨額の報酬を当てにしているわけだ。

ごく近い将来、こうしたインフレの評価額は厳しいテストjにさらされることになるだろう。そして古き良き、現実の収益性に基づいた会社評価手法に立ち戻らざるを得ないに違いない。もちろんスタートアップの一部は成功するだろうが、失敗する例も多く出るだろう。失敗の割合がどのくらいひどいものになるかはまだ予測できない。ただ言えるのは、ベンチャーキャピタリストの大半は利益を上げられないまでも、投資額は守れるだろうということだ。逆に多くのファウンダーたち、社員たちは巨額の資産を手にしてと思ったのもつかの間、それが紙の上の数字に過ぎなかったことを知って落胆するだろう。

投機的バブルは「愚か者の競争」を必要とする。そしてバブルの破裂のタイミングが最大の打撃を受ける人々を決める。 現状では最大の打撃を受ける候補者はベンチャーキャピタリストではなく、ファウンダーと社員だ。

画像: jesadaphorn/Shutterstock

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


【以上】

ユーグレナなど3社、研究開発型ベンチャー支援で20億円規模の新ファンドを設立

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東大発バイオベンチャーのユーグレナがSMBC日興証券、リバネスと組んで「次世代日本先端技術育成ファンド」(通称:リアルテック育成ファンド)を設立した。ファンド規模は当初20億円。上記3社に加えて日本たばこ産業、三井不動産、吉野家ホールディングス、ロート製薬、鐘通が出資者として参加している。今後も参加企業を増やして2015年内に50億円以上を目指すという。多数の大手企業を巻き込むことで、「ヒト、モノ、資金」の面で総合的に支援するプログラムを開始する。各参加企業は資金のみではなく、経営ノウハウや施設・設備の提供、共同での研究や事業開発も実施していくという。

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ユーグレナといえば、社名ともなっている微生物「ミドリムシ」(学名:ユーグレナ)の屋外大量培養に成功したことで業績を伸ばしているバイオ系ベンチャー企業だ。2012年に東証マザーズに上場し、2014年12月には東証一部に市場変更となっている。ミドリムシというと「虫」を思い浮かべる人もいるかもしれないが、実際には光合成を行う藻類で、食糧問題や環境・エネルギー問題を解決するポテンシャルがあるとユーグレナは言っていて、ミドリムシ燃料でジェット機が飛ぶ日を目指している。

今回のファンド設立で音頭を取ったのはユーグレナだが、SMBC日興証券は研究開発型ベンチャー企業の上場支援の実績を持っていて、志が一致したんだとか。またリバネスはといえば、理系修士号・博士号取得者のみで運営されている科学教育などで知れる企業で、これまでにも研究開発型ベンチャー企業の育成プラットフォーム「TECH PLANTER」を提供してきた経緯があるという。

ユーグレナは第1回日本ベンチャー大賞の内閣総理大臣賞を受賞するなど注目度は高く、その分、技術者やベンチャー企業からの相談や出資依頼が多く集まるようになっていたそうだ。自分たちの経験からも企業連携によるベンチャー企業支援の体制構築の必要性を感じていた、という。

また、日本の研究開発系ベンチャー企業が海外企業に買われることで日本発の技術が海外に流出してしまうことへの危機感もあった、という。TechCrunchのメールでの取材に対してユーグレナ自身は具体的社名などは出さなかったが、Googleに買収された東大発ベンチャーのSchaftなどが念頭にあったのかもしれない。

ところで「リアルテック」は耳慣れない用語だが、ロボティクスやバイオ、IoT、アグリ、エネルギーなどのネットだけに完結しない技術分野を指すそう。こうした研究開発型ベンチャーは技術開発や事業化に時間とコストがかかる。国内でも近年、ネット系のVCは数が増えてきたし、IoTを標榜するVCも登場してきているが、大学発の研究開発の世界とは距離があった感は否めないと思う。大企業を辞める理由があまりない人材の流動性が低い日本では、リスクを取ってイノベーションを推し進めるスタートアップのようなチームと、大企業が共同で事業や価値を作っていく「オープンイノベーション」が必要だという声はよく聞くし、そうした活動や、それを支援する政策も増えているように思う。今回のファンドはベンチャー投資促進税制を利用している。これは投資額の80%までを損金算入することで法人税の対象から除外する制度だ。

各社の主な役割は以下の通り。

ユーグレナ:バイオ、アグリ領域における共同研究、事業化支援
SMBC日興証券:上場準備体制構築、大企業連携・紹介支援
リバネス:「TECH PLANTER」を活用した科学技術の発掘と研究者の育成、創業支援ならびにシード・アーリーステージのベンチャー企業を対象とした育成プログラムの提供
日本たばこ産業:ヘルスケア分野等の研究・ベンチャー企業の支援
三井不動産:研究開発拠点、オフィス等のファシリティ支援
吉野家HD:飲食業への展開や農業、畜産技術に関するノウハウ支援
ロート製薬:医薬品やヘルスケア領域における共同研究、ノウハウ支援
鐘通:研究開発型ベンチャー企業の製品販売などを通じた支援

Open Network Labが第10期のデモデイを開催、最優秀賞はKUFUの「SmartHR」に

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Open Network Lab(Onlab)が手がけるインキュベーションプログラム「Seed Accelerator Program」。2010年4月から続くこのプログラムもすでに第10期。4月2日にはその成果を発表するデモデイが開催された。

第10期には80チームが応募。ステルス(非公開)1チームを含めて合計7チームが採択された。デモデイに臨んだ6チームの概要を紹介する。

MOOB「MAKEY

ユーザー同士でメイク方法を共有する、いわば「クックパッド」のメイク版。ユーザーはメイクのビフォーアフターを投稿、閲覧できる。新規投稿数は3カ月で3倍に増加。サービス運営に加えて、花王やコーセーとコラボしたメイクのリアルイベントなども開催しているという。4月中旬以降サービスを本格化する。

フラップ「FLAP

「美容室」ではなく「美容師個人」にフォーカスしたマッチングサービス。12月にブラウザ版をリリースしている。美容師が得意な技術などを投稿。それを見たユーザーは、自分の気に入った美容師に対して予約を取ることができる。現在は登録美容師の42%が情報を発信し、35%が継続利用している。また美容師の7.5%がこのサービスを通じて新規顧客を獲得した。

KUFU「SmartHR

労務手続きをクラウド上で解決するサービス。これまで手書きで書く必要のあった各種の書類をオンライン上に入力するだけで自動的に生成する。ランディングページ公開後、2週間で125社(社員数ベースで1449人)の利用申し込みがあり、テストした10社の全社が「お金を払っても利用したい」と回答したそうだ。将来的には政府の公開するAPIと連携。さらに財務など各種業務システムとのつなぎ込みを検討している。

TSUNAGU「tsunagu Japan

訪日旅行者向けの英語メディアを運営。「日本のライフスタイルを知るコンテンツ」「まとめ記事形式の観光記事」の2つに特化した独自記事を配信している。現在のユニークユーザーは43万人、Facebookページは100万人、アンバサダー(記事拡散支援のユーザー)は320人。diggTripZillaと連携。7月をめどにUU100万人を目指す。将来的にはホテルや飲食などジャンル特化型メディアを提供する。

iDEAKITT「LifeCLIPS

書き手満足度重視のテキストベースSNS。書き手にとって重要なのは投稿の手軽さと表現の自由さを重視している。現在高校生から60代までが文章を綴っている。現在2万以上のCLIP(投稿)がなされている。アクティブ率は50%。平均滞在時間は10分を超える。アクセスの7割はモバイルからだというが、投稿される文字数は平均で400文字以上と長文が多い。3月31日にはiPhoneアプリもリリースした。(以前の記事はこちら

マミーケア「HouseCare

1時間2500円のハウスクリーニングサービス。ここは最近スタートアップが続々参入している領域でもあるが、HouseCareの強みは「速さ」。申し込みしたユーザーの37%が当日〜2日以内のブッキングを実現している。スタッフは日本語と英語に対応。もちろんレビューなどの仕組みも整えている。

最優秀賞はKUFUの「SmartHR」に

デジタルガレージ代表取締役グループCEO林郁氏をはじめとする審査員がBest Team Award(最優秀賞)に選んだのはKUFUのSmartHRだった。

僕もプレゼンを聞いていて「今人事労務が抱えている課題を解決する」という点では6チームで一番明快だと思ったのだけれども、ちょっと気になったのはサービスの参入障壁の低さだ。ビズグラウンドの「Bizer」なんかも、実はこのあたりの領域を狙っているサービスだったりするし、大手企業だって参入の可能性がある領域だ。

実際審査員の間でもこの点で評価が分かれたそう。林氏は「まだ完成していないがマーケット広い。だが参入障壁は低い。ささっと(資金)調達して勝負して欲しい」と評していた。

なおOnlabでは第11期のプログラム参加者を募集中だ。支援内容についても第10期からアップデートしているので、詳細はこちらの記事を確認して欲しい。

コロプラが子会社設立で学生特化の投資を始めたので、理由を聞いてきた

昨日報じたとおり、コロプラが学生起業に特化した投資活動を開始する。100%子会社のコロプラネクストを新たに設立し、コロプラ創業メンバーで代表取締役社長の馬場功淳氏がメンター、同副社長の千葉功太郎氏がエバンジェリストとして起業を支援する。

TechCrunch Japanでは早速、新会社代表に就任した山上慎太郎氏、新会社で投資を担当するキャピタリストの緒形仁暁氏、エバンジェリストの千葉功太郎氏の3人に話を聞いた。

左から緒形仁暁氏、山上慎太郎氏、千葉功太郎氏

日本のネット業界の発展のために必要なこと

コロプラネクストの1号ファンドの規模は非公開だが、特別大きいというわけではなく出資額も1社あたり数百万円から多くても1000万円程度という。分類としてはCVC(コーポレートVC)ということになるが、コロプラとしてはキャピタルゲインを狙っているわけでも、事業シナジーを考えた投資をするわけでもないという。投資対象も、代表者が学生であることと、ネットを使った事業を展開していることという2つがあるだけで、ゲーム分野に限らない。

エバンジェリストの千葉氏は「自分の時間の半分を投入する。飛び込んでくる学生起業家には全員会う」と意気込む。年商が500億円を超え、従業員数も500人に迫る伸び盛りのベンチャー企業の副社長として半分の時間を使うというのは、かなりのリソースの割き方だ。なぜそこまでするのか?

「いや、もうこれは業界貢献です。稼ぐという観点でいえば、われわれはゲームを作っていたほうがいいのです。でも、短期的にはそうかもしれなくても、中長期では違うかもしれません。長い目で見ればネット業界に注目が集まらないといけないと思っています。日本のネット業界が発展していくには、われわれのような事業家が次世代の事業家を育てていく、自分たちが得てきた何かを伝えていくというのが大切なんです」

「子を持つ親たちが、自分の子どもに行かせたいと思うような業界にしないといけない。医者とか弁護士とかピアニストとか、そういう職業に就かせるために親は子どもに投資するわけじゃないですか。教育をする。でも、プログラマにしようとか、ネットサービスを作れるようにしようとか、起業家にしようとか、そういう人って今のところ多くないですよね」

「起業家がうまくいって、若くしてしっかりと利益もだし、社会に必要だと思われる会社を作る。良い人材が活躍して、そういうストーリーが出てこないと、ネット業界が変わっていかない。コロプラネクストでは、そこを応援したい」

コロプラネクストは内部的なKPIを持ってはいるものの、目指しているのは数ではなく、「スター」と呼べるような人材の輩出。3〜5年でスター的な起業家が2、3人も出てくれば、という。これまでネット業界は、ITバブルやライブドア・ショックなどで否定的イメージで捉えられることもあったが、「2000年代前半のITイメージと違う、その次となるITのイメージを作っていかないといけない」と千葉氏は言う。

すでにコロプラネクストで投資を検討している会社は数社あるといい、4月にも発表予定だ。事業計画アドバイス、設立事務のサポート、オフィス活用、プロダクトアドバイス、定期面談、学生起業家コミュニティのための勉強会・懇親会の開催などを通して支援していく。

千葉氏は、今までも非常に多くの起業家志望の学生に会ってきているが、起業を推めづらいもどかしさもあったそうだ。「かつて起業したら、というアドバイスをしてしまったことがあるんですが、人事から怒られました(笑)。この人は起業したほうがいいと心底思ったとしても、これまでならコロプラに来たらというべき立場でしたからね」。

千葉氏は、これまで20年近くに渡って自分と同世代や後進にあたる世代で、多くの起業家志望の学生たちを見てきた。起業で成功した人もいれば、そうでない人もいて、そこの目利きができるという。

支援することで成功率を上げたい

たくさんの学生に会ってきたという意味では、コロプラネクストで「キャピタリスト」との肩書きで活動を開始した緒形仁暁氏も同じだ。もともとは前職ではスタートアップ企業の採用担当をしていたことから、むしろ千葉氏よりも学生に会っているという。

「1年で1000人以上というペースで、これまで起業に興味があるような学生たちに会ってきました。ただ、その後を見てみると、意外に就職していることが多いのです。9割ぐらいでしょうか、ほとんどです。それで話を聞いてみると、ささいなところで躓いていたりするんですね。財務の知識がなかったとか、仲間と喧嘩したとか。こうしたところでは支援できることがあると思っています。やるなら成功率を上げたいんですよね。知識があるかないか、ゴールが描けてるかどうかで最終的に全然違ってきますから。成功率を上げれば、もうちょっと面白いことが起きるんじゃないかと思います」

「学生なので視野が狭くなりがちということはあります。事業アイデアも身の回りのことから出てくる。そこはいったん崩すということもやりますが、最終的には事業を選ぶのは本人たちです。起業家が持つ信念とかポリシーを大切にしたいです。だからこそ本気でやる粘りが重要ですね」

山上氏は、大手銀行を経て上場株を中心にアセットマネジメントを行う会社にいて新興企業を見てきた人物だ。2000年にさんざん持ち上げられた後にITバブルが来て、「ほら、言わんこっちゃない」と叩かれた時期を見てきた。「あれから15年が経って、ネット業界も認知が上がってきたなと思います。波がありつつも、存在感が大きくなってきている。時間とともに社会にも受け入れられていくと思っています」

2015年の現在の日本のスタートアップ業界は資金供給過多ではないか、という見方もあるが、学生向けについては、そうでもないと山上氏。

「学生相手というのは手間がかかります。だから逆に真空地帯というかスイートスポットになっていたのかなと思います。ほかのVCはやりませんよね。でも、(コロプラ創業社長の)馬場がエンジニアなので、そういう視点でも見れるのが強いと思っています」

TechCrunch Japanを読んでいる学生諸君! プロトタイプも事業プランも、何もない状態でも会って話を聞いてくれるそうだから、起業に興味がある人は、コロプラネクストのページから申し込んでみては。


2014年のスタートアップ投資額、6年ぶりに1000億円超え―JVRが調査報告

リーマン・ショックの2008年以降下降線をたどっていた未公開ベンチャー企業の資金調達状況が2014年には大きく改善して、資金調達額は前年比1.58倍の1154億円となった。6年ぶりの1000億円超えとなる。2006年から継続して調査を続けているJVR(ジャパンベンチャーリサーチ)がまとめた数字だ。

1社あたりの調達額7250万円は前年比185%

1社あたりの資金調達額も中央値が7250万円と前年の4000万円から1.8倍と増えている。資金調達を行った企業の数は減少しているものの、1件あたりの金額が増えている。TechCrunch Japanでも日々お伝えしている調達額が増えていることは感じているが、この調査でも資金調達額の大型化が浮き彫りとなっている形だ。ただし、TechCrunchが主にIT関連のニュースをお伝えしているのに対して、JVRの調査にはヘルスケア、バイオ、医療、環境、エネルギー分野も含まれる。業種別の傾向としては、IT関連の企業数が増加傾向にあり、2014年は49%となっている。また、インターネットを利用したビジネスモデルを持つ企業の調達件数は2006年以来、ほぼ一貫して増加傾向にあり、2014年にその割合は80.5%となっている。

シード・アーリーからシリーズA、Bへ重心が移動

また資金調達を行った企業の設立年数を見てみると、設立1年未満の社数割合が減少する一方で、1年以上の割合が増加。1年以上5年未満が35%を占めるようになっている。調達額の大型化と合わせて、この傾向の背景には、2011年、12年に生まれたシード、アーリー対象のアクセラレーターの卒業組がシリーズAやBといった調達に成功する例が増えていることがある。以下のグラフは、それを顕著に示している。レポートでは「米国での一般的な調達額として、シリーズAで2億円、シリーズBで5億円、そしてシリーズCで10億円と言われているが、日本も同様の規模に近づいてきている」としている。

10億円以上の調達は7社→16社→25社と増加

資金調達の大型化により、10億円以上資金を調達した企業は前年比1.56 倍の25社だった。2012年に7社、2013年は16社だった。以下に資金調達ランキングの上位50社の一覧を画像で掲載する(クリックで拡大)。

以下の表は投資総額によるVCのランキングだ。投資金額のVCのランキングで上位31社中CVCが6社、外資VC7社と、CVCと外資VCが健闘しているのも目を引く。

優先株も実はすでに半数以上の63%で利用

かつて日本では優先株の利用はほとんどないと言われてきたが、ここ3、4年で一気に増えているようだ。JVRのレポートによれば、会社設立から上場までの資金調達で優先株を利用した企業数は2001年以降で1年当たり2、3社程度だった。これが今回VC9社の情報開示を受けて調査した結果、対象調査企業となった2014年に資金調達を行った127社のうち優先株の利用は59社で46.5%。この比率は、株式の種類が不明の企業を除外した場合には63%となる(調査に協力したVCは、ジャフコ、産業革新機構、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、グロービス・キャピタル、東京大学エッジキャピタル、DBJキャピタル、サンブリッジグローバルベンチャーズ、グローバル・ブレイン)。ある独立系VCのキャピタリストによれば、今や投資案件は「ほぼ全て優先株」といい、エンジェル投資やレイターをのぞけば、優先株の利用はもはやVC業界でデファクトではないかと話している。背景には、もともと投資家が引き受けるリスクが創業者に比べて大きかった面が優先株によって緩和されて、より大胆にリスクを取って投資しやすくなることがあるという。特に残余財産の分配権が重要で、事業立ち上げに失敗した場合に投資を回収しやすくなるなどのメリットがある。

このほか、今回のJVRのレポートで目を引くのは海外比率だ。創業メンバーから日本のスタートアップとみなされるものの法人登記を海外で行っている「海外企業」の割合が8%となり、大阪(近畿)の6%を抜いてしまっている。より大きなマーケットを目指す海外志向が1つの傾向として数値に出ている形と言えそうだ。


スタートアップ大量氾濫の時代、VCもディスラプトしないと対応できない

[筆者: Aaron Holiday]

編集者注記: Aaron Holidayは645 Venturesの協同ファウンダ。Cornell Techで起業家育成を担当。

最近の10年間で、合衆国で各年に誕生するスタートアップの数は推計16000から20000に増加し、ソフトウェアスタートアップに投じられるベンチャー資金は年間50億ドル弱から190億ドルに増加した。

そして最近の5年間では、これらのスタートアップに関する数テラバイトものデータが、Web上に氾濫した。下図は、App Annieのトラフィックの推移と、CrunchBaseにある企業プロフィールの数の推移を示すグラフだ。

これらの数字はベンチャー産業の活況を表しているだけでなく、ファウンダになる人びとの多様化と、新しいイノベーションハブの勃興をも示している。そしてスタートアップの形成過程のこのような変化と多様化にもかかわらず、ベンチャーキャピタリストがファウンダを支援育成するやり方は、現代のソフトウェアのイノベーションと、シード段階のスタートアップに関するデータの氾濫に、乗ずる努力を怠っている。そういう意味で今VCは、時代から取り残されつつある。

新人ファウンダの出自の多様化

まず、学部と院の両方で、学生たちの起業家指向が大きく高まっている。その原因の一部は、大学と学生の増加に対して、大企業の(とくに役員〜中上級管理職レベルの)椅子の数が少なすぎることだ。学生たちは、既存企業への就職という狭き門を、最初から避けようとする。

そして、大企業へ入って出世することを諦めた学生たちは、スタートアップの創業者になり、あるいは創業初期のスタートアップに参加する。

またこれらのスタートアップが根付いて育つハブも、シリコンバレーやボストンのように、背後に名門大学/研究機関と技術系上場企業が控える伝統的な立地から、さまざまなリソースや人材や優れた中小企業の技術が潜在している新しい都市へと拡散しつつある。

そういう新興テクノロジハブの一つであるニューヨークの場合は、市にスタートアップ育成振興施策があるだけでなく、同市におけるスタートアップ形成の過程をドキュメントするDigital.NYCのようなサイトまで、市が制作している:

VC投資案件数: ニューヨーク都心(青、左端)、ニューイングランド(赤)、中西部(草色)、ロサンゼルス/オレンジ郡(紫、右端)

スタートアップのデータと量が多すぎてこれまでのVCのやり方では対応できない

スタートアップの活動が地理的にも人的にも多様化していることと並行して、シード段階のスタートアップに関するインターネット上の情報量も指数関数的に増加している。スタートアップのファウンダやプロダクトの人気、競合他社などなどに関するデータはほんの数年しか存在しないが、それら断片的データの多くはAPIから容易にアクセスでき、高成長スタートアップが発しているシグナルをリアルタイムで捕捉することもできる。

今では、スタートアップに投資する投資家は、プライベートな企業に関するパブリックな(==公開)データにアクセスするDataFoxやMatterMark、CB Insightsなどのツールを利用できる。しかしまだ、ベンチャー投資の意思決定とポートフォリオ作成のためにこれらのツールを活用しているところは、多くない。

最近の10年でテクコミュニティには大きな変化があったが、初期段階(アーリーステージ)向けのベンチャーキャピタルのやり方は20年前と同じだ。従来型のVCたちは個人的な人間関係からネタを拾い、標準性のない各社独特のやり方で投資案件の構築と提供を行っている。

そういう、人づての情報と、慎重な投資手順、事前調査、厳しい性格判断などが、従来型VCの、投資の意思決定のベースになっている。この方法は、前々世紀かそれ以前から、優秀な有限責任社員を選ぶために使われてきた。ポートフォリオ企業の選別も、ゼネラルパートナーの個人的なネットワーク(既存のポートフォリオ企業など)や地域社会の顔役、事業の支援者たち、そして一部のVCの経験やノウハウに基づいて行われていた。

上位のVCたちも、こういう伝統的なパターンで投資案件を構築してきたし、今後何年もこの方法を使っていくだろう。でも上で述べたように、今では、既存VCたちの個人的・伝統的ネットワークに引っかからない、新世代の創業者が増えている。また投資案件構築のペースも、今や従来の手作業的なやり方では遅すぎて、毎年大量に誕生する新しいファウンダたちの資金ニーズには、逆立ちしても対応できない。これまでのVCのやり方は、要するに、スケールしない/できない。

優秀な投資候補はアルゴリズムで拾え

今、プログラミングとソフトウェア開発の過程と費用は、ますます軽量化しつつある。したがって、多くのファウンダにとって、起業の敷居も低くなっている。起業資金へのアクセスも、昔に比べるとずいぶん容易だ。こういう変化が、学生たちでも気軽に起業するようになった今の傾向の原因でもある。またリーンスタートアップ(lean startup)などの新しい創業哲学も、起業を気軽で手早い起業実験として行う動向に火をつけている。

そこで今では、従来型のシードからシリーズAへという投資パターンのすぐ隣に(下図右)、実験から芽生える新しい形のシード市場が、すでに相当な規模で育っている。それを仮に、 “Gulf of Startup Experimentation”(スタートアップ実験の湾)と呼ぼう。この湾の外(下図左)には、従来型シーディングの大海がある。

この湾の中には、才能ある技術者や、プロダクトマネージャ、デザイナー、いろんな業種職種にわたるドメインエキスパート(domain expert, 特定分野の専門家)たちの集団がいて、実験を他が真似できない高成長のスタートアップに変える能力を持っている。一部のエンジェルたちや、アクセラレータ、シード投資家などが、湾内の実験を資金的に支えている。これらスタートアップのファウンダたちはもっぱら独学で、その企業はProduct HuntやAngelList、CrunchBaseなどから、もっぱらオンラインで知られるようになる(従来的な…スケールしない…人間関係のネットワークではない)。

今後確実にシリーズAになりそうな企業をこの湾内で効率的に見つけるためにVCは、湾内のベストファウンダを選り分け、パートナーしていくための高度な知恵を必要とする。情報源として人間的知性と人間関係だけに頼ることは、もはや許されない。この湾内ではいつも大量の実験が高速で生起しているから、これまでの評価や審査のやり方では対応できない。未来のダイヤモンドの、良質な原石を見つけるためには、テクノロジの利用がどうしても必要だ。

シードから初期段階投資へ、という流れも、その対象候補を見つけるためには人工知能のアルゴリズムを併用して、湾内で行われているさまざまな実験を知ることが必要だ。投資家はまた、スタートアップの経営管理チームの価値創造に影響を与えるさまざまな機会を、ソフトウェア(とくにビッグデータ分析)を使って見つけるだろう。これらのアルゴリズムによってVCは、ゼネラルパートナーとファウンダとの関係のあり方や投資戦略を分析し、そのVCにとってもっともふさわしいファウンダのタイプを、前もって見つけることができる。

VCの事業展開をソフトウェアとアルゴリズムを使って効率化し、大量起業の現代および未来に、VCが落ちこぼれることなくしっかり対応していくやり方は、まだ始まったばかりだ。投資の意思決定に補助的ソフトウェアや統計モデルを実験的に利用しているVCも、すでに数社あるが、まだ、総合的なソフトウェアとインテリジェントなアルゴリズムが日々の業務(候補の発見からポートフォリオ企業の管理までの全過程)の完全なベースとなって、優秀な投資対象スタートアップを確実に見つけているところは、ほとんどない。

VC業界が変わるためには、VCそのものにも新人が続々登場して、ソフトウェアの効果的な使い方を人びとに見せつけ、その知識を全業界に共有していくことが必要だ。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


ミサイル着弾でも帰国しない、サムライ榊原氏が率いる新ファンドは「イスラエルと日本の架け橋になる」

創業間もないスタートアップを育成投資するインキュベーター。日本での草分け的存在として知られるサムライインキュベートが1月12日、5号ファンドを設立すると発表した。これまで国内約80社に投資してきた同社だが、新ファンドでは、シリコンバレーに次ぐ「スタートアップの聖地」と言われるイスラエルの企業に積極的に投資していく。

「聖地」から世界を狙うスタートアップを支援

TechCrunchでも報じたが、サムライインキュベート創業者の榊原健太郎氏は5月にイスラエルに移住し、7月に同国最大の商業都市であるテルアビブに支社を設立。起業家の卵が寝食を共にする住居兼シェアオフィスの「Samurai House in Israel」を構え、イスラエルから世界を狙うスタートアップを支援している。

イスラエルがどれくらい「スタートアップの聖地」なのかは、データが物語っている。人口わずか776万人のイスラエルにおけるベンチャーキャピタル(VC)の年間投資額は2000億円と、日本の約2倍。人口1あたりの投資金額では世界1位だ。SequoiaCapitalやKPCB、IntelCapitalといった世界の大手VCが現地のスタートアップに投資し、これらの企業をIT企業の巨人が買収するエコシステムができているようだ。

例えばFacebookは2012年6月、iPhoneで撮影した友達にその場でタグ付けできるアプリを手がけるFace.comを買収。このほかにも、Microsoftは検索技術のVideoSurfを、AppleはXboxのKinectに採用された3Dセンサー技術のPrimeSenseを、Googleは地図アプリのWazeを買収。日本でも、楽天がモバイルメッセージアプリ「Viber」を9億ドル(約900億円)で買収して話題になった。

ちなみに、TechCrunch編集者のMike Butcherは「テルアビブで石を投げればハイテク分野の起業家に当たる」と、スタートアップシーンの盛り上がりを表現している。実際のところを榊原氏に聞くと、「道端でも飲食店やクラブでも起業家だらけ」とのことで、本当らしい。

テルアビブの市役所には、TechCrunch編集者のコメントが掲げられている。左から2番目が榊原氏

ファンド規模は10倍に、要因は日本企業が注ぐ熱視線

新ファンドでは、イスラエルと日本のスタートアップ110社以上に投資する。イスラエルについてはファイナンスやセキュリティ、ヘルスケア、ロボティクス、ウェアラブル分野のスタートアップ40社が対象。この中には、ベネッセ出身の寺田彼日氏らが現地で創業した「Aniwo(エイニオ)」も含まれる。

日本人とイスラエル人の混合チームで構成されるエイニオが手がけるのは、起業数が年間3000社と言われるイスラエルのスタートアップの事業スライドを収集・公開するサービス「Million Times」。起業家や投資家、一般ユーザーが交流できるプラットフォームを作ろうとしている。榊原氏は「事業スライド版のGoogleを狙える」と評価していて、1000万円の投資が決まっている。

イスラエル企業の投資先としては、自分の足を動画撮影することで足の形をモデリングする、靴の通販サイトで使えそうな画像解析技術であったり、自分の周囲数十センチの空気だけを浄化するウェアラブル空気清浄機を手がけるスタートアップなどに投資する予定だという。

新ファンドの規模は約20億円になる見込み。サムライインキュベートの過去のファンドを見ると、1号が5150万円、2号が6200万円、3号が2億1000万円、4号が2億4000万円。創業間もないスタートアップを対象にしていることもあり規模が小さかったが、5号ファンドでは10倍となる。

ファンド規模拡大の要因の1つは、日本企業がイスラエルに注ぐ熱視線だ。前述の通り、イスラエルからはイケてるスタートアップが数多く輩出されていて、イノベーションを迫られる日本の大企業にとって、魅力に映ることだろう。かといって、イスラエルの現状はわからない。そんな大企業が、新ファンドへの出資を希望するケースが増えているのだという。

大企業マネーの背景には「過去のファンド実績がある」と榊原氏はアピールする。1号ファンドでは、スマートフォン向けの広告配信サービスのノボットが、創業2年目にKDDI子会社のmedibaに15億円で売却。3号、4号ファンドの実績は明かしていないが、1号ファンドは7倍、2号ファンドは10倍以上のリターンが確定しているという。

ノボット以外の投資先としては、個人が独自の旅行を企画して仲間を集うトリッピース、、個人がコンテンツを販売できるオンラインサロンプラットフォームを手がけるモバキッズ、スライド動画作成アプリ「SLIDE MOVIES」や日記アプリ「Livre」など他ジャンルのアプリを手がけるNagisaなどがある。

イスラエルの技術と日本企業の架け橋に

日本進出を狙うイスラエルのスタートアップにとっても、「渡りに船」の存在のようだ。日本の四国ほどの面積に人口がわずか776万人のイスラエルは国内市場がないに等しく、敵対するアラブ諸国からなる周辺国の市場も見込めない。だからこそ、「最初から欧米やアジアを視野に入れるスタートアップが多い」と榊原氏は話す。

「イスラエルの起業家は0から1を生み出すのが得意。イグジットの意識も高くて、『このプロダクトはキヤノンに使ってもらえる』とか『ドコモにピッタリ』とか言ってくる。新ファンドは、イスラエルの技術を日本企業と連携させる架け橋になれる。」

5号ファンドでは、イスラエルに登記するスタートアップについては、一律で1億円の評価をして、1000万円を上限に投資する。国内のスタートアップは引き続き、B2BおよびC2C分野に注目し、一律で3000万円の評価をして、450万円を上限に投資する。現時点でイスラエル企業15社、日本企業5社への投資が確定しているという。

ミサイルが飛んできても帰国しない「ラストサムライ」

3月の取材時に、「日本の住居を完全に引き払って、背水の陣でイスラエルに挑戦する」と語った榊原氏。移住後は支社設立のために、ヘブライ語を話す日本人に協力してもらって銀行口座を作ることや、イスラエル人の保証人探しに奔走することに始まり、現地でのプレゼンスを高めるために人と会いまくる日々だったと振り返る。

7月8日には、イスラエル軍がガザ地区への軍事作戦を開始。それ以降、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスとの争いで、イスラエルには1000発以上のミサイルが着弾している(ほとんどはミサイル防衛システム「アイアンドーム」が迎撃している)。7月末に実施したイスラエル支社のオープニングパーティーでは「ミサイルが飛んできても日本には帰らない」と宣言。現地では「榊原こそラストサムライ」と喝采を浴びた。

住居兼シェアオフィスのSamurai House in Israelでは、現地の起業家や投資家にアピールするために、毎週のようにイベントを開催。寿司を作ったり剣道を教えるなど、日本をテーマにしたミートアップを60回以上やってきた。「最初はどこにも投資できないんじゃないかと不安もよぎった」という榊原氏だが、今では「イスラエルは日本人にとってブルーオーシャンな市場。リターンを得るのは難しくない」と自信をのぞかせている。

Samurai House in Israelでは毎週ミートアップを開催している


ディズニーやナイキに見る、大企業がアクセラレータで成功するためのキーワード

編集部注:この原稿はScrum Venturesの宮田拓弥氏による寄稿である。宮田氏は日本と米国でソフトウェア、モバイルなどのスタートアップを複数起業。2009年ミクシィのアライアンス担当役員に就任し、その後 mixi America CEO を務める。2013年にScrum Venturesを設立。サンフランシスコをベースに、シリコンバレーのスタートアップへの投資、アジア市場への参入支援を行っている。

Disney Acceleratorのデモデー(筆者撮影)

 
「部長、そろそろうちの会社もアクセラレータを始めた方がいいんじゃないでしょうか?」

こうした会話が世界中で行われているのではないかと思うくらい、さまざまな大企業がアクセラレータを始めた、もしくは計画しているという話を耳にする。事実、企業が主体となって行うベンチャーキャピタル、いわゆるCVC (Corporate Venture Capital)の規模は近年拡大を続けており、米国では2014年の3Qに過去最大の投資額(9億9360万ドル)となり、スタートアップへの投資額全体の10%にも達している。スタートアップが生み出すイノベーションを取り込もうと多くの大企業が必死に取り組んでいる様子が伺える。

私は、アーリーステージのベンチャーキャピタルとして、そのソーシング(投資先企業の発掘)の一環として、毎月1つか2つのアクセラレータのデモデー(支援企業の発表会)に参加をしている。その経験から、本稿では大企業が運営するアクセラレータの「トレンド」、そしてその「成功のキーワード」をご紹介したい。

ディズニーからナイキまで

日本では、携帯キャリアのKDDIが2011年からいち早くアクセラレータに取り組んでいるが、近年でもNTTドコモや学研、オムロンなど、新たにアクセラレータをスタートするというニュースも多い。

一方、米国では昨年くらいから大企業によるアクセラレータの動きが加速している。ディズニー、マイクロソフト、スプリント、ナイキ、クアルコム、カプラン、RGAなど様々な業種、業態の大企業が争うようにアクセラレータの運営を開始している。

「総花型」から「特化型」へ

2005年に設立され、DropboxやAirbnbなどを生み出したY-Combinatorに代表される「アクセラレータ」という業種であるが、元々は「テクノロジースタートアップ全般」を対象にするアクセラレータが多かった。その後、雨後のタケノコのようにアクセラレータそのものの数が増えたことと、テクノロジースタートアップがカバーする領域が非常に多様化したことなどを背景として、ここ数年は「特化型」のアクセラレータが増加している。具体的にはヘルスケアに特化したRockHealth 、教育に特化したImagine K-12、エンタープライズに特化したAlchemist、IoTに特化したLemnos Labsなどがある。総花的なアクセラレータはすでに淘汰が急速に始まっており、今後この「特化型」のトレンドはさらに進行していくものと考えている。

「アクセラレータ支援企業」の存在

冒頭にも述べたように多くの大企業でアクセラレータの展開が検討されている状況であるが、そこで問題となるのが「どうやって運営するのか?」という点だ。ディズニーやクアルコムにそう言う人材が最初からいたのか? それとも、新たに採用したのか?

そういうした大企業の悩みに答えているのが、「アクセラレータ支援企業」の存在だ。

米国で代表的な「アクセラレータ支援企業」は、コロラド州ボルダーに本拠を置くTechStarsだ。ナイキやディズニーなど、近年成功を収めている大企業アクセラレータの多くはTechStarsが仕掛けたものだ。TechStarsは2006年に、Y-Combinatorなどと同様に専業アクセラレータとしてスタートしたが、近年支援事業に力を入れている。

TechStarsの支援内容は非常に幅広く、基本的にアクセラレータ運営に必要な業務のすべてを担ってくれる。必要となる予算はかなり大きいと聞いているが、ウェブサイトの構築・運用、支援先企業の募集、審査、メンタリング、デモデー運営など通常3カ月の運営期間に必要な作業のほとんどがマニュアル化されている。ウン億円を支払ってTechStarsとパートナーシップを組めば、どんな大企業でもすぐにアクセラレータをスタートできるというわけだ。日本では、私がアドバイザーを務めるアーキタイプ社などが同様のサービスを提供している。

成功のための「3つのキーワード」

最後に、数多くの大企業によるアクセラレータを見て来た立場から、成功のためのキーワードを3つご紹介したい。

①「アセットへのアクセス」

数多くのアクセラレータがある中で、成功した先輩起業家が運営するアクセラレータでなく、なぜ大企業を選ぶのか?そのシンプルな答えは、スタートアップにはない、数多くの既存アセット(資産)が大企業にあるからだ。それは、販売チャネル、コンテンツ、ブランド、キャラクター、技術、特許、人材、設備など、企業によって様々だ。

今年、ディズニーがスタートしたアクセラレータ、「Disney Accelerator」は、ディズニーが持つ様々なキャラクターやコンテンツを、採択企業が自由に使ってよいと謳ったことで話題となった。実際に、デモデーでは、多くのキャラクターやディズニーランドなど、スタートアップであれば誰もが実現したいと思えるパートナーシップがすでに実現していた。

「自分たちがもつどんなアセットがスタートアップにとって魅力的か?」そこからアクセラレータの検討を始めてもいいのかもしれない。

②「トップのコミットメント」

アクセラレータやCVCなどは、新規事業の一環として一部の部署が主導して行われることも多いと思う。しかしながら、それでは会社全体でその重要性が理解されず、うまくいかないことも多い。一方で、最近はCEOや経営陣が自らアクセラレータにコミットし、積極的にスタートアップのイノベーションを取り込もうとする例を見かける。

例えば、昨年スタートした広告代理店、RGAによるIoT特化型のアクセラレータ、RGA Acceleratorでは、CEO自らがデモデーのオープニングに登場し、趣旨や意気込みを説明していた。「スタートアップのイノベーションを本気で取り込む」という外側に向けての強いメッセージになると同時に、前述の「アセットへのアクセス」という大企業としてはなかなか難しいテーマも、トップもコミットして進めることで実現が可能になるという側面もあるのかもしれない。

RGA Acceleratorのデモデー(筆者撮影)

③「レイターステージ」

通常、アクセラレータというと「創業間もないスタートアップ」を対象にすることが多い。だが最近は、Y-CombinatorがQ&A大手のQuaraをバッチに加えたり、Disney Accleratorでもすでに大きな実績のあるロボットの企業、Spheroなどがバッチに加わっていた。

アクセラレータの意義の一つは、まだ形になっていない新しいアイディアを3カ月という短期間でものにするというものであるが、当然うまくいかないことも多い。一方で、すでに実績のあるレイターステージの企業であれば、そうしたリスクもなく、大企業側のアセットを提供することで大きな成果も期待できる。つまり、最初からパートナーシップとしての成果を狙いながらバッチに加えるという訳だ。こうしたパートナーシップドリブンのアクセラレータというのも、大企業が主導する形としては今後増えて行く形態のような気がしている。

大企業のイノベーションにスタートアップとの連携は不可避

私はサンフランシスコを中心に投資活動を行っているが、ニューヨークやロスアンゼルスにも多くの投資先企業がおり、非常に重要視している。それはサンフランシスコに限らず、かつて大企業に行っていたような優秀な人材がこぞってスタートアップをスタートしているからであり、その流れは加速することはあっても逆戻りすることはないと感じているからである。

「うちの社内の技術の方が優れている」
「そんなの社内で同じことできるじゃないか」
「うちの事業と競合するかもしれない」

大企業の中でスタートアップとの取り組みにはまだまだ反対意見も多いかもしれない。ただ、今後の大企業のイノベーションにはスタートアップとの連携は不可避だ。ぜひ、御社でも経営陣を巻き込み、スタートアップのイノベーションを取り込む活動をスタートしてはいかがだろうか? 本稿が少しでも参考になれば幸いである。


成功する起業家に必要なのは「若さ」か「経験」か――国内キャピタリストに聞く

11月18日〜19日に東京・渋谷ヒカリエにて開催中の国内最大級のスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2014」。2日間に渡って国内外のテクノロジービジネスにまつわる多数のプログラムが展開されているが、18日午前には「若さか社会経験か?成功する起業家に必要なもの」というテーマで、国内屈指のベンチャーキャピタリスト4人によるパネルセッションが行われた。

パネリストの詳細は以下のとおり。モデレーターを務めたのは、TechCrunch Japan編集長の西村賢。

・秋元 信行 氏(株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ 取締役副社長)

NTTグループのコーポレートベンチャーキャピタルとして、スタートアップ支援プログラム「ドコモ・イノベーションビレッジ」を始め、グループ全体のオープンイノベーションを進める。

・松本 真尚 氏(株式会社WiL 共同創業者 ジェネラルパートナー)

ベンチャーと大企業との連携推進を大きなミッションとしながら、日米を中心に投資をしている。最近ではgumiやメルカリへの投資が話題となった。

・丸山 聡 氏(ベンチャーユナイテッド株式会社 チーフベンチャーキャピタリスト)

ユナイテッド株式会社(前ネットエイジ)の子会社として投資事業を展開。インターネットビジネスの黎明期からシードアクセラレーターとして携わる。過去の投資先はmixiやエニグモなど。

・田島 聡一 氏(株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズ 代表取締役)

サイバーエージェントの100%子会社。アジアを中心に8カ国11拠点において、シードステージ、アーリーステージを中心に投資活動を行う。

起業家に求められるのは「若さ」か「社会経験」か

―投資のステージによっても異なるかもしれませんが、シードステージやアーリーステージに投資されていると、やはり起業家は若い人が多いのでしょうか?

丸山(以下、登壇者の敬称略):うちはまだできたばかりですが、今のところ20代の起業家に投資していることが多いです。社会人未経験の人もいるし、社会人2〜3年の人も。なぜ彼らに投資しているかというと、生活費が安いからですね。その分、長い間挑戦できるので、僕らの投資スタイルにとってはアドバンテージになります。

秋元:うちも「ドコモ・イノベーションビレッジ」というインキュベーションプログラムをやっていますが、投資先全体のポートフォリオを見ると、ミドルステージ以降の人たちが多くなっているので、あまり学生はいません。それは、うちがベタベタのストラテジックリターンを目的としたコーポレートベンチャーキャピタルの志向なので、本体やグループ会社とのシナジーを追求しようとすると、シードの段階では、なかなか話を進めるのが難しいからです。

松本:年齢はあまり気にしたことはありませんが、うちの本社があるシリコンバレーでは、起業家の平均年齢は35〜40歳くらいが多いんですよね。我々の場合は、ある程度知見を持っている方に対しての投資が日米ともに増えています。

田島:うちの場合、事業会社で一定の成果を出した方が起業するときや、一度起業して会社を売却した方の二度目のチャレンジのときに投資するケースが多いです。それは失敗経験を積んでいる分、成功に対してショートカットできそうな方が多いからという理由と、「サービスじゃなくて産業を売りたい」といったような目線の高い方が多いという感覚があるからです。IPO時に時価総額1000億円を狙っている企業が多いですね。

―起業家の良し悪しについては、どのように見極めていますか?

松本:うちのメンバーは皆インターネット業界に15〜16年くらいいるので、起業家の方ともどこかしら友人関係でつながっている場合が多いです。シリコンバレーに(ベンチャー)村ができているように、日本でもベンチャー村みたいなのができてきているんですよね。まったくお会いしたことがない方は、いっしょにお仕事をされたことがある方にアポをとって、ボードメンバーすべての人物評価をしていただいて、それをある程度信用しながら進めていくことが多いです。

―逆に、若い人がデビューするには、どうすればいいですか?

丸山:今はシードアクセラレーションプログラムが増えているので、そういうところに入っていく方法もありますが、全体で言うとマジョリティではないと思います。大半の人は、まずサービスを作ってみるというところから始めています。起業の前から、ふわふわした段階の事業プランを元に、1〜2年かけてメンタリングをしながら投資に至るケースも多いので、僕らのようなベンチャーキャピタリストを使ってもらうのもひとつの手かなと。

マーケットを「取られる」のか「取りに行く」のか

―肌感覚として、何割くらいの起業家がグローバルを目指していますか?

丸山:世界に目を向けている起業家は日本では圧倒的に少ないですね。極端かもしれませんが、1対99くらいの感覚。本当に世界を見ている人は少ないと思います。今の世の中って簡単にグローバル展開できるので、まずは可能性を模索してみようという意味で、身近な問題を解くだけではなくグローバルに挑戦してみようという話はしています。

―起業家からすると、言葉の違いも大変だし、日本のマーケットは結構大きいし、イグジットも見え始めて……という「プチイグジット問題」(小さなイグジットを目指してしまいがちということ)のようなものがあるように思いますが、その辺りについて、どう思われますか?

松本:僕らはその“プチ感”をなんとか打破したいと思っています。gumiやメルカリにも、「そのまま上場するのではおもしろくないから、世界で戦うための金を調達しよう」と言ったんです。日本で数百億円で上場するということは、グローバルで1000億、2000億を目指せる環境があるってことじゃんっていう話もしますし。

世界中の人が困っているのであれば、課題を解決する対象が日本人だけである必要はない。自分のプロダクトで世界中の人を喜ばせたいという「志」さえあれば、国境なんて関係ありません。日本でゆっくりやっている間に、いつの間にか海外でメジャーになっていたなんてことになるのは残念なので、作った瞬間に5カ国対応くらいすれば? と思いますね。

田島:僕らは東南アジアで(投資を)やっているんですけれど、たとえばインドネシアの起業家は、インドネシアのマーケットが大きいので東南アジアに出て行きたいという人はあまりいません。でも、タイやベトナムやマーケットが小さいので、みんな東南アジアに出て行きたいと言います。日本でもこれと同じことが起こっているのかなと。つまり、日本の中にはそれなりのマーケットがあるので、その中でやっていけばいいと思っている人が多いんじゃないかと思うんです。

隣の韓国は、スマホの普及率が8〜9割になっていますが、マーケットがないので外に出て行きたいという勢いが極めて強い。取られるのか、取りに行くのか。世界大戦になってきているので、市場機会に気付いて、どんどんアジアや世界を取りに行くような起業家が増えればいいと思っています。


TBSがアイリッジと資本業務提携――O2O領域で新事業も検討中


東京放送ホールディングス(TBS)グループでベンチャー投資を手がけるTBSイノベーション・パートナーズ(TBS-IP)が11月11日、O2Oソリューションを手がけるアイリッジとの資本業務提携を発表した。

出資額は非公開だが、数千万円程度と見られる。アイリッジは2008年の設立で、これまでに代表取締役社長の小田健太郎氏の古巣であるNTTデータのほか、KDDIやデジタルガレージ、みずほキャピタルパートナーズ、三菱UFJキャピタルなどから資金を調達している。金額的にも今回の調達は、業務面でのシナジーを重視したものと考えて間違いない。

TBS-IPは、5月にソーシャルメディアを中心としたビッグデータの分析事業を手がけるデータセクションとの資本業務提携を発表している。この発表の際、テレビとソーシャルメディアの解析結果を組み合わせてどのように事業にするかが重要ということを聞いたのだけれども、今回もそれと同じような取り組みらしい。アイリッジが持つO2O向けソリューション「popinfo」とテレビやイベント運営などの関連事業を連携することで、互いの価値が向上するような取り組みをしていきたいのだそうだ。

例えば日本テレビは、ソーシャル視聴サービス「JoinTV」を使って「O2O2O(On Air to Online to Offline:テレビ番組やCMからネットに、さらにネットから実店舗などに誘導する仕組み)」なる、テレビだからこそできる新しいマーケティングの手法があるとアピールしてきた。これと同様…かは分からないけれども、TBSも提携先の持つソーシャルメディアのデータやO2Oソリューションを組み合わせることで、新たなマーケティングやビジネスモデルの模索を進めるという。

アイリッジのpopinfoは、位置情報や時間、ユーザー属性と連動してスマートフォンにプッシュ通知を行うソリューション。同社ではこれを軸に、O2O施策の企画からアプリ開発、運営までをワンストップで手がけてきた。これまでの導入事例はジーユーや東急電鉄など大手クライアントはじめとして250アプリ、合計1500万ユーザー(アプリごとのユーザー累計)が利用しているという。

すでに具体的な新事業がアイリッジ側から提案されており、実現に向けて調整を進めている段階だそう。とはいえテレビ局は免許の必要な事業ということもあって、大企業の中でも提携などには慎重な体質があることは確か。「たとえシステム的にオーバーになろうが、ベストエフォートではなく『ミスがない』という事業を行いたいという声はある」(TBS-IPの片岡正光氏)のだそう。だが片岡氏は「そこで外部の新しいプレーヤーと組むからこそイノベーションは起こる。すでにデータセクションについても複数のプロジェクトを社内で進めているが、アイリッジともそういった事例をうまく活かしていきたい」と今後の展開について語った。