Genuine Startupsが世界的デザインコンサルのIDEOとタッグ、新VC「D4V」を設立

左からトム・ケリー氏、高野真氏、谷家衛氏

左からトム・ケリー氏、高野真氏、谷家衛氏

MOVIDA JAPANの投資部門を引き継ぐかたちで2014年にスタートしたベンチャーキャピタルのGenuine Startups。MOVIDA時代からスタートアップ投資を担当していた伊藤健吾氏に加え、元ピムコジャパン取締役社長でアトミックスメディア代表取締役CEO・フォーブスジャパン発行人兼編集長の高野真氏、あすかアセットマネジメント取締役会長の谷家衛氏の3人体制で投資を進めていた同社が、世界的なデザインコンサルティング会社であるIDEOと組み、新たなベンチャーキャピタルを設立することを発表した。

Genuine StartupsとIDEOで設立するのは「D4V(Design for Venturesの略)合同会社」。出資比率はGenuine Startupsが60%に対して、IDEOが40%となる。会長にはIDEO共同創業者のトム・ケリー氏が、CEOには高野真氏が、COOには伊藤健吾氏がそれぞれ就任。ファンディングパートナーは前述の3人に加えて谷家衛氏、IDEOディレクターの計5人。これに加えて、ソニー元CEOの出井伸之氏、ハリウッド俳優でプロデューサーのマシ・オカ氏がエグゼクティブアドバイザーとなる。

D4Vでは2017年3月をめどに日本の事業会社や金融機関をLPとした50億円規模のファンドを組成する予定。最終的には米国など海外LPを含むファンドの組成も視野に入れる。なおGenuine Startupsが組成していた2号ファンドは、D4Vの新ファンドに移管することになる。

投資対象とするは、国内・海外の両方の市場にインパクトを与えるアーリーステージのスタートアップ。これまでスタートアップ投資に関わってきた伊藤氏に加え、金融系のバックグラウンドを持つ高野氏や谷家氏が中心となって大企業とスタートアップの橋渡しを支援。また一方では、IDEOがデザイン思考やベンチャーデザインに関する知見を提供するという。

「4つのエレメント(ここではGenuineの3人のパートナーとIDEOを指す)は全て違いを持っている。スタートアップ投資のネットワークがあるのが伊藤。谷家さんエンジェル投資家としていくつかの事例を成功しており、アントレプレナーの間では『ビッグブラザー』的な存在。私は2年前にForbes(日本版のフォーブスジャパン)を立ち上げるまでは金融畑で、そのコネクションがある。これにIDEOが入ることでグローバル展開、デザイン思考といったものが実現できる」(高野氏)

だが、バズワードになっている「デザイン思考」をスタートアップに無理矢理持ち込もうとしたプロジェクトではないのだそう。「本質は色んなバックグラウンドの人が一緒に作っていくこと。人が共感するサービスやビジネスを作る。IDEOにはそういった経験がある」(野々村氏)

では、世界的なデザインコンサルであるIDEOがどうして彼らと組み、日本のスタートアップの支援に乗り出すのか?トム・ケリー氏は次のように語る。

「日本といえば——多少の変化はあるにしても——『大企業が成功している国』と思っていた。だが、(スタートアップ向けイベントの)Slush Asiaに参加してその考え方は大きく変わった。大企業で働く人たちだけでなく、起業する、起業を継続するという人が集まっていた。もしかしたらスタートアップに投資する完璧なタイミングが整っているのではないかと考えるようになった。そうと思っているところでD4Vの提案を頂いた。IDEOは世界で9カ所にオフィスを構えてコンサルサービスを提供してきた。私たちのビジネスも多様化していかなければならないと考えていた時期だった」

またケリー氏は、創業期のアップル社を例に日本の状況を語る。

「日本はジョブズ(スティーブ・ジョブズ)がHP(Hewlett Packard)で働いていたウォズ(スティーブ・ウォズニアック)に出会った状況に近い。ジョブズについては知られているが、アップルを世界に羽ばたくまで育て上げたのはウォズのテクノロジーの知識。日本の大企業にはウォズが埋もれているが、それを開放していかないと行けない。堅牢なベンチャーが育つ環境作りを促進したい」

デザインコンサルティングファームとして知られるIDEOだが、クライアントとしてスタートアップを支援してきただけでなく、実はスタートアップとの協業プログラムを展開するほか、スピンアウトを前提とした新規事業を社内で立ち上げるなどしてきている。例えばIDEOと組んで生まれた「PillPack」は毎日飲む薬を1回分ごとに個装して提供することで、飲み忘れを防げるというプロダクトだ。また「Omada Health」はIDEO社内で立ち上がったプロジェクトで、糖尿病予防プログラムなどを提供している。

Twitterを去ったMarc Andreessen曰く: “おかげで50ポンド体重が減った感じだ”

SAN FRANCISCO, CA - SEPTEMBER 13:  Entrepreneur Marc Andreessen speaks onstage during TechCrunch Disrupt SF 2016 at Pier 48 on September 13, 2016 in San Francisco, California.  (Photo by Steve Jennings/Getty Images for TechCrunch)

パロアルトで行われたイベントStrictly VCで、著名なVCのMarc Andreessenが、突然Twitterを去り、過去の全ツイートを削除した理由を述べた。

“体重が50ポンド減った気がするな。鳥になったみたいだよ”、と冗談っぽく言うが、‘鳥’とはTwitterのロゴのことだろう。

彼はTwitterで非常に熱心にツイートしていたから、彼の離脱を意外に思う人たちもいる。Andreessennは彼のいわゆる“tweetstorms”(ツイート嵐)で、政治に関する意見(彼はTrumpが嫌い)から、シリコンバレーに影響を与える最新ニュースに対する見解に至るまで、あらゆる発言をシェアした。

しかし彼のその率直さは、ときどき彼をトラブルに巻き込んだ。今年のはじめにはインドに関する物議を醸す意見を述べ、そのことをFacebookに嫌われた。彼は、Facebookの取締役だ。

Andreessenはまた、テクノロジー企業のIPOが最近ますます難しくなっている、と主張した。“20年前に比べると上場はものすごく困難だ”、と述べ、最近は投資家による詮索がますます厳しくて、それはまるで一種の“刑罰だ”とまで言った。企業が四半期の成績ばかり気にするようになると、“長期的な目標は視界から消えてしまう”、と嘆いた。

しかし投資家としての彼自身は、自分のポートフォリオに関してはきわめて楽観的で、A16zの後期段階の企業の多くがIPO近し、を匂わせた。スタートアップというものは、“最終的には上場企業になるしかないんだ”、と彼は言う。

Andreessenは、きわめて活発だったM&A環境についても語った。彼によるとそれは、“これまでとは違う買い手による新しい現象”であり、Under ArmourやGMのようなテクノロジー系でない企業がVCに支えられたスタートアップを買っていることを挙げた。

また彼は、Andreessen Horowitzの途上的(in-progress)投資と、Sequoiaのような完成(completed)投資のリターンを比較した最近のWSJの記事についても述べている。彼はA16z型の投資を擁護するが、それでも、“世界で最良のベンチャーキャピタリストでさえ、ほとんどの案件が空振り三振アウトだ。それがVCという生き物の、ふつうの生態だ”、と認める。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

転機を迎えつつあるハードウェアスタートアップへの投資

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【編集部注】執筆者のChris Quinteroは、Boltでアソシエイトを務めている。同社はシードステージの企業を支援するファンドで、資本のほかにも、スタッフやプロトタイピング施設、専門知識などを、ハードウェアとソフトウェアどちらの開発も行っているスタートアップに対して提供している。

私たちは、まだハードウェアルネサンスの初期段階にいる。開発コストの低下や、製品を市場に届けるまでの期間の短縮、また、ハードウェアビジネスの性質が、コモディティ化した家電製品から定期収益型のソフトウェアサービスへと移行したことなどを背景に、VCはハードウェアスタートアップへの投資を加速させてきた。

昨年TechCrunchでは、ハードウェアスタートアップへの投資資金の爆発的な増加に関する記事を公開し、投資額が4年前と比べて30倍以上になっていることがわかった。その後何が起きているのだろうか?ハードウェア業界は、盛り上がりに見合った成長を遂げているのだろうか?以下が私たちの調査結果だ。

増加を続ける投資額

全体で見たときには、VCによる投資額の伸びが鈍化している一方、ハードウェア企業は引き続き資金調達に成功している。2016年の上半期には、120もの案件に17億ドルの資金が投入されており、この数字は過去10年間のどの期間と比べても1番多い。しかし、投資額が伸びている一方で、案件数は横ばいとなっている(2015年上半期:123件、2016年上半期:120件)。これらの数字から、ハードウェア業界が成熟しつつあり、投資家は初回投資に自信を持ち、どの企業がうまく事業を運営しているかを消費者が理解していく中で、同業界は踊り場に差し掛かろうとしていると考えられる。

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2016年7月1日時点のデータ。公に発表されている100万ドル以上のラウンドのみを記録。Xiaomi、 Magic Leap、Jawboneのような異常値は含まれていない。出典:Bolt、Crunchbase

つまずくGoProとFitbit

昨年のハードウェア業界の寵児であるGoProFitbitは、成長を維持するのに苦労しており、現在の両社の時価総額は、ピーク時の約4分の1にまで落ち込んだ。興味深いことに、この2社が苦労している理由は、競合の登場による製品のコモディティ化ではなく、それぞれの市場が飽和状態にあることなのだ。既にGoProやFitbitを持っていれば、最新の良いモデルを購入するインセンティブが働きづらくなる。両社が、来年新たな製品ラインで成功を掴むことができるか見るのが楽しみだ。

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GoProの時価総額推移

引き続き控えめな企業買収とIPO

昨年は、SquareMisfitWithingsWhistleJaybirdなどを含む、たくさんの企業がイグジットに成功した。2014年に比べると、数十億ドルの規模に達するサクセスストーリーの数は少ないものの、この分野でイグジットしている企業がいるというのは喜ばしいことだ。

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出典:Bolt

サンフランシスコが依然ハードウェア企業への投資を支配

ボストンとニューヨークのコミュニティが大きな成長を遂げた一方で、両都市の数字を合わせても、サンフランシスコの半分程にしかならない。ベイエリアの(100万ドル以上の資金調達を公に行った)ハードウェアスタートアップの数は、私の計算だと現時点で161社で、昨年の110社から増加している。ニューヨークは、調達総額と資金調達に成功したハードウェアスタートアップの数どちらに関しても、最近ボストンを追い抜いた。

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100万ドル以上を調達した企業の分布。出典:Bolt、Crunchbase

ハードウェアに特化したベンチャーファンドの増加

昨年、Eclipseは、初となる1億2500万ドルのファンドを組成し、すでに新たなファンドの設立に向けて動いていると言われている。パリに拠点をおくHardware Clubも、自社ファンドの募集を終えようとしている。しかし、どのVCがハードウェアの分野で1番良い成績をおさめているか、というのを判断するにはまだ早い。これまでで最大のイグジットを行った企業(Fitbit、Square、Nest)は全て、ハードウェア業界への投資が盛り上がり出した2011年以前に設立された。誤解しないでほしいのが、VCは既に多額のリターンを受け取っている(SoftTechTrueはFitbitから、KleinerShastaはNestから、KhoslaはSquareから)ものの、VCからの投資を受けたハードウェアスタートアップのほとんどが、設立からまだ2〜4年しか経っていないのだ。

過去数年間がハードウェアスタートアップへの期待の時代だったとすれば、今後数年間は、彼らの実行力の時代になるだろう。

VCによるハードウェアスタートアップへの投資件数の増加は、必ずしも彼らがこの分野に注力していることを意味しているわけではない。例えば、a16zLux Capitalと比較して、これまでに50%も多くのハードウェア関連の投資案件に参加してきた。しかし、a16zのポートフォリオの中で、私たちが”ハードウェア”と分類するものの割合は8%以下しかない一方、Lux Capitalのポートフォリオにおけるハードウェア企業の割合は25%以上だった。

考察

ハードウェア業界への投資は、過去1年半の間に盛り上がってきたが、市場が成熟するにつれて投資額の伸びは踊り場に達しようとしている。そして、2013年、2014年に市場を騒がせた製品の数々が、ようやく出荷されはじめたところだ。大半の企業に関してはまだ判断が難しいものの、突出した勝ち組(Eero)と負け組(Skully)も現れはじめた。

過去数年間がハードウェアスタートアップへの期待の時代だったとすれば、今後数年間は、彼らの実行力の時代になるだろう。新たなファンドやアクセラレーターが次々と誕生する中、アーリーステージのハードウェア企業が資金調達を行うのは、これまでにないほど簡単になっているかもしれないが、スケールのためのその後の資金調達段階はデスバレーのままだ。

ハードウェアの定義は人によってそれぞれだが、この記事内の”ハードウェア企業”とは、インターネットに接続されたデバイスのハード・ソフトウェアの開発を行っているスタートアップを指している。ロボットやウェアラブルデバイス、IoTデバイスなどを開発する企業が、このカテゴリーに含まれる一方で、ほとんどの消費財企業は含まれていない。Casper、Warby Parker、Bonobosといった消費財企業は、ハードウェア企業と言うよりも、流通面にイノベーションをもたらすECブランドと考えている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ファウンダーがVCの資金源を気にすべき理由

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【編集部注】Elizabeth “Beezer” ClarksonはSapphire Venturesの常務取締役。

スタートアップの資金調達は、ストレスのたまるプロセスとして有名だ。莫大な量のインクが、VCにプレゼンを行う際の注意点ひとつひとつについて書くことに費やされ、巷には起業家が契約を結ぶのに役立つとされている”コツ”が溢れている。

しかし、VCへの気遣いや、いかに彼らに印象を与えるかということばかりに労力が使われている一方、リミテッドパトナー(LP)という、ベンチャー界を動かすお金の裏に存在する資金源ついて触れられることはあまりない。

言いかえれば、LPはVCの資金の出元なのだ。LPには様々な形態や規模のものがあり、数万ドルの小切手を切る個人投資家や、1億ドル以上もの投資を行うソブリン・ウェルス・ファンド以外にも、ファミリーオフィスや”機関投資家”(基金、財団法人、年金機構や信託サービスを提供する銀行、ファンド・オブ・ファンズ、保険会社や事業会社)などが存在する。

適切な投資家を選ぶことは、スタートアップの成功において極めて重要な役割を果たす可能性がある。現実問題として、VCの資金無しでは、ほとんどのスタートアップの成長が停滞したままになるだろうし、LPなしではVCがスタートアップに投資できなくなってしまうだろう。したがって、テックエコシステムの中でめったに語られることのないLPが、実はイノベーションの原動力の一端を担っていると言えるのだ。また、ファウンダーは外部からの資金調達にそこまで依存するのであれば、ベンチャー資金についてあらゆるレベルで理解しておかなければならず、LPもその対象に含まれる。というのも、実はLPがスタートアップの役に立つかもしれないからだ。

LPは付加価値を提供していくのか?

現代のVCシステムは、Arthur RockやLaurance Rockefellerなどの大物実業家の努力の結果、20世紀中に誕生した。彼らは、科学やテクノロジーの分野に根ざした、誕生間もない企業へのハイリスクな投資を行っていたのだ。それ以来、VCは成長と共に新たな役割を担っていった。

直近の十年間で”付加価値型投資”が流行し、VCは資金を提供するたけでなく、自分たちのネットワークを通じて投資先のスタートアップに様々な利益をもたらすことが期待されるようになった。このトレンドは今後も続くのだろうか?もしもそうならば、彼らはどのようなユニークな価値を提供していくのだろうか?私は今後も付加価値型のトレンドは続くと考えており、実際にVCも既にその道を進みはじめている。

LPの付加価値とは?

最近多くのLPが、”リミテッドパートナー”という名称の中の、”パートナー”という単語を強調している。彼らは、スタートアップにとっての単なる資金供給者ではなく、信頼の置けるアドバイザーになろうとしているのだ。多くの場合、起業家は資金調達に加え、LPからテック業界や投資家の大きな動向を理解するための視点について学ぶことができる。

関係者の紹介

非常に重要なこととして、いくつかのLPは、パートナーや顧客候補となる人や企業を紹介することで事業価値を提供することができる。これによってスタートアップは、Sand Hill Roadや最近で言えばSouth ParkといったVCが密集するエリアとは全く違うコミュニティやネットワークに入り込むことができるのだ。最近の例を挙げると、Alan Feldが設立し、さまざまなファンドのLPになっているVintage Investment Partnersは、今年だけで200回も顧客をスタートアップに紹介してきた。

LPは市場のはるか上流に位置するため、さまざまな人や企業を紹介できるくらいの広範なネットワークを構築していることが多いのだ。彼らの人脈には、スタートアップのビジネスに直接関連する人や企業のほか、将来の投資ラウンドを率いることになるかもしれないVCや、ジェネラルパートナー(GP)として今後投資を行うかもしれないLPなどが含まれている。

ユニークな視点

前述のような人脈を超え、LPはより広い意味での業界の洞察や独自の視点、さらにはベスト・プラクティスを提供してくれるかもしれない。様々なファンドに参加している投資家として、LPはテック業界にいる他者よりも鋭い視点を持っているのだ。そのため、彼らは業界を観察することでトレンドをみつけだすことがき、さらには何十年もの間に培ってきた情報と経験から長期的な視点に立つことができる。

企業が低迷期を避けることはできないため、起業家は自分のVCやLPがどのくらい力を持っているか、というのを知っておく必要がある。

さまざまなVCやLPが投資に参加することで、広範囲に及ぶアドバイスが期待でき、スタートアップは十分な情報を得た上で物事を判断できるようになる。例えば、ヨーロッパまたは中国で広く投資活動を行っているLPであれば、それらの市場の変動がシリコン・バレーにどのような影響を与えうるかという情報を共有することができるかもしれない。さらには、必要応じて、ヨーロッパ市場へ拡大する際の助けとなるような人たちを紹介してくれる可能性もある。

LPのリードインベスター化

LPの多くは、GPと共に直接投資を行うことで、より積極的にスタートアップとの関わりを深めている。PitchBookのデータによれば、LPの直接投資および共同投資の額は、世界的に見て2009年以来伸び続けており、そこにはもっともな理由がある。彼らが信頼するスタートアップに対して、直接投資を行って”倍賭け”したり、VCと共同投資を行ったりすることで、LPは運用益を増やすことができる上、その分野に特化した経験を積むことができるのだ。

さらに良いことに、このトレンドの結果、LPとGP、LPとスタートアップは、より親密な関係を築いていった。直接投資を行うLPの存在によって、VCとLPの間の境界線がぼやけはじめているのかもしれない。これはつまり、特にレーターステージにあるスタートアップにとって、LPが次のラウンドのリードインベスターになる可能性があることを意味する。これだけでも、ファウンダーがLP界へ目を向ける良い理由になる。

低迷期を乗り切る強力なLP

ちょうど起業家が条件規定書を受け入れる前に、VCの沿革や強みについて細かな評価をするように、彼らは、VCの影に隠れたLPについて知ることで恩恵を受けることができるかもしれない。企業が低迷期を避けることはできないため、起業家は自分のVCやLPの力を知っておく必要があるのだ。さらに彼らは自分たちの投資家が低迷期を生き抜いていけると信じなければならない。1回投資したからといって、LPが将来的にも全てのファンドに参加するとは限らない。そのため、長期的にコミットしたLPのいない企業は、熱心で力を持ったLPのいる企業ほどは成功しない可能性が高いのだ。

透明性の向上とこれから

この新時代の到来の告げる主な要因は、VC界の透明性向上に向けた動きだ。スタートアップにとって、資金の供給源に関して議論することは一般的である。同様に、私たちは、VCが段々と資金源に関してオープンになってきていると感じる。というのも、彼らは、起業家からLPへのテックエコシステムへの理解が、ひいてはエコシステム全体の強化につながると認識しているのだ。虫のいい話だが、この話に関する私たちのお気に入りの例が、Point Nine Capitalの共同設立者兼マネージングパートナーであるChristoph Janzがツイートしていた「私たちの秘密武器は何だと思います?それは最高のLPです」という言葉だ。

さらに、起業家の中には、自分たちの利益で最終的に誰が得をして、その目的は金銭的なものか、道徳的なものかということを気にする人もいる。モラルに基づいた強い使命を持つ企業は、全くお金と関係がない理由でLPを選ぶかもしれないし、VCやファウンダーの中には、どのLPが投資成績を公表しなければならず、どのLPが公表しなくてもよいのかを知りたがる人もいるだろう。もしも、企業の売却で巨額の収益を得たのであれば、VCだけでなくLPも儲けたこととなり、起業家にはそのお金が誰の手に渡るのかを知る権利がある。

つまり、スタートアップが新たな投資家を受け入れるとき、彼らは単にVCを受け入れるだけではなく、そのVCを構成しているLPをも見据えているのだ。LPがさらに積極的な役割を担うようになってきたということは、LPとの協業について理解している起業家にとって大きなチャンスを意味する。恐らく未だ解明されていない洞察や付加価値がそこにはたくさん存在するのだ。

注:Sapphire VenturesはPoint Nine CapitalのLP。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

VCのCRVがTrump反対キャンペーンを開始、移民の国で移民を締め出す矛盾を突く

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アメリカの大統領選挙が急速に近づきつつある。そして今回は、誰を支援するかを明言しないことが常であったVC業界においても、ツイート記者たちへの談話ブログなどで、支持する候補とその理由を公表する者が、ますます多くなっている。初期段階のスタートアップを対象とするベンチャー企業CRV(元Charles River Ventures)は、それをさらに一歩進めて、共和党候補Donald Trumpの“反移民声明”に対する同社の拒絶の姿勢を明らかにするための、穏やかで短いブログ記事“F*ck Trump”をポストした。

なぜそこまでするのか、CRVのゼネラルパートナーGeorge Zacharyに今朝(米国時間8/24)インタビューしてみた。

TC: 世論調査では民主党候補のHillary ClintonがTrumpを大きくリードしている。なぜ今さら、こんな声明を発表するのか?

GZ: 世論調査の結果は彼を変えない。この問題(移民問題)はとても重要だ、とわれわれは感じている。数週間前のオフサイトで、Trump対策を話し合い、選挙について議論した。集まった者の誰もが、Trumpに立腹しており、とくに彼が移民について言っていることに怒っていた。あなた(Connie Loizos)の祖父母はギリシア人だし、私の父もギリシア出身だ。この国を創ったのは移民たちだ。今、そのことを声を大にして言うべきだ。

TC: 彼の言うことはころころ変わりますね。

GZ: これからも変わるだろう。しかしわれわれは一貫した姿勢を持つべきであり、この国に来てこの国を創った人たちのために言葉を発するべきだ。うちが投資したスタートアップの半分はファウンダーが移民だ。うちは今パートナーが9人いるが、彼らは7つの国からの移民たちだ。

TC: この前、クリーヴランドへ行ったんですけど、あそこはベイエリアと違ってTrumpの支持者が多いですね。企業の経営者として、敵を作るのは損ではありませんか?

GZ: 今の主な問題は、それではないし、気にもならない。元々難民の国であるこの国にやってくる移民を脅すことは、たいへんおそろしいことだ。それは結果的に、新しい経済や産業を作り出す能力を遮断することにつながる。Trumpが何を言おうと彼の自由だが、いやしくも大統領候補が彼のようなことを言うのは、前代未聞だ。

TC: あなたが今回記事をポストしたMediumは、エリートのためのメディアだと思われていますが、移民のファウンダーたちをもっと積極的にヘルプするために、ほかに何かしていますか?

GZ: ビザの費用など、移民たちの渡航費用を出してあげる事業がある。始まったばかりだから、まだ対象者は一人だが、ここからもっと、手を広げていきたい。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

小さな企業自らが買収に向かうべきシグナルとは

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【編集部注】著者のChelsea Stoner氏はBattery Venturesのジェネラルパートナーである 。

M&Aが、特にソフトウェア企業のものが、ホットである:大手の未公開株式投資会社たちは、2016年の前半だけで270億2200万ドルの価値のある170のソフトウェア企業への投資を現金で行ったし、悩めるYahooはVerizonによって48億ドルで救い上げられ、Microsoftはプロフェッショナル向けネットワーキングサイトのLinkedInを驚きの260億ドルで買収することを発表した。その取引は、マイクロソフトは自社製品を強化するために、レジュメデータをどのように活用するのだろうか、という多くの憶測を呼び起こした。

しかし、ソフトウェアのM&A狂騒曲はその一方で、小さなハイテク企業がその成長を、高度で戦略的なアドオン的買収により、いかに強力に加速できるかという点にも光を当てている。

筆者は中堅テクノロジー企業に焦点を当てたソフトウェア投資家として、このセグメントにいる会社が新しい方向へ成長する必要があることを示すシグナルに気が付いていない多くのビジネスオーナー達に出会った(シグナルに気が付いているMicrosoftの幹部たちとは好対照である)。それは主として、他の会社を買収することによって、自身のプロダクト系列の穴を埋めることができるとか、補完的なプロダクトやサービスを提供することができるという方向への成長である。こうしたシグナルを見出すことには、単なるスマートなリーダーシップ以上の意味がある。そのことにより成長の機会を見出し ‐ そして、より大きな可能性へと長期的に導いていくこともできるのだ。

更には、未公開テクノロジー企業の評価が下降気味の今日は、こうした成長戦略を考える好機なのである。

気にすべきは顧客数増加「率」だ

M&Aを検討する必要を促すであろう1つの目をつぶることのできないシグナルは、月毎の顧客数増加率の変化(正確に言えば負の変化)である。しかし、このシグナルの観察には注意が必要である。新しい顧客が増え続けている限り、増加の現象は大きな問題ではないような気もするが、どうだろう?規模が大きくなるときに、どんな企業にも起きる典型的な現象ではないのだろうか?

時にはそのようなことも起きるだろう。しかし、顧客数増加率の減少はまた、現在の市場を越えて成長をする必要があることを示すシグナルでもあり、少なくとも現在あなたが提供しているプロダクトの再評価を促すものである筈だ。自らに問いかけなければならない:顧客は更に何を求めているのか?顧客は現在、他の場所では何を買っているのか?この問いは、やがて、新しい顧客増加を後押しする方向へとつながるだろう。

会社はサメのようなものだと思うこと:前に進まなければ、おそらく死んでしまう。

私のビジネスにおける経験則によれば、顧客は収入の1〜2%をソフトウェアに費やしている。たとえば顧客Xにおけるその金額が10万ドルで、そのうちの1万ドルをあなたに支払っているとしよう。そこにはあなたが手にしていない9万ドルが存在している。その支出を手に入れる方法を見つけよう。双方にメリットがある話だが、顧客はしばしばワンストップショップの方が仕事が楽だと思う。古い格言である「絞める首は1つに」は真実なのだ。

Brightree*は、参考になる事例である。当初は家庭用医療機器プロバイダーのビジネス管理ソフトウェア会社だった Brightreeは、その提供するプロダクトを拡大するために、C&S Billing Centerを2009年に買収した。C&S Billingが加わったことにより、Brightreeの顧客たちは課金の悩みから解放されただけではなく、加えて熟練したスタッフが関与するアドオンサービスに対しても、Brightreeへ支払いを行うようになった。買収は、Brightreeの全体的な収益を大幅に押し上げた。

しかし、すべての新規提供が単なるオプション追加によるものというわけではない。あなたのブロダクト系列を拡大することにより、近いところにいる買い手に対してあなたの会社を魅力的に見せ、全体の市場が拡大することが起き得るのだ。例えばBrightreeによる別の買収事例をみてみよう。2013年にCareAnywareを買収した事例であるBrightreeと同様にCareAnywareは、クラウドソフトウェアプロバイダーだったが、在宅医療とホスピスという2つの異なる急性期後市場に対して販売を行っていた。医療分野の新しいセグメントに展開することにより、Brightreeは対象とするパイの潜在的な大きさを大幅に増加させた。ResMed (NYSE:RMD)は2016年4月に8億ドルでBrightreeを買収した。

潜在的なM&Aをあなたが考える際に追うべき、もう一つの重要な指標は、製品の平均販売価格が同じままか低下傾向にあるのかということである。もしあなたが顧客のためのより大きな問題解決を狙って、自社を別のサービスと合わせていたならば、おそらくより大きな収入を上げることができたかもしれない。営業担当者と話をすることで、この評価を開始しよう。彼らは繰り返し、どのような質問を受けているのか?何に顧客は夜も眠れぬほど悩んでいるのか?

理学療法士のビジネスを効率的にすることを助けるWebPT*は、数年前にこれらの問いかけをした企業である。彼らの顧客は、オバマケアによる医療費還元率が最終的には治療成績と結びつくことを認識していた。

WebPTは、短期的には患者の治療成績もセラピストの仕事に役立つだろうということを理解しつつ、長期的に顧客の要求を先回りして助ける方法を探していた。そしてWebOutcomesが仲間に加わった。WebPTが2014年11月に買収を行った会社である。当初は治療成績管理のための、ちょっとした機能だと思われたものが、あれよあれよという間に成長し、会社の核となるサービスの1つとなった。

離れようと考えている顧客を観察せよ

最後に、すべての企業は顧客離れをM&Aに向けてのシグナルとして注意深く追跡する必要がある。のぞむらくは、将来の顧客離れにつながるかもしれない、顧客の不満のシグナルにとても早い段階から敏感でいるべきなのだ。

小さなハイテク企業はその成長を、高度で戦略的なアドオン的買収の追求により、強力に加速できる。

おそらくあなたは顧客サポートまたは電子メールを介しての顧客の声を、しばらく聞いていないかもしれない。もしかすると彼らはサービスプランをダウングレードしているかもしれないし、もしくは ‐ ソフトウェアビジネスの場合なら ‐ ソフトウェアの使い方が変化しているかもしれない。それは彼らがあなたの製品に以前ほど依存していないことを示していて、以前ほどは頻繁に使っていないか、以前ほど多くの機能を使っていないことを意味している。これらはいずれも、プラグを抜く(契約を打ち切る)ことを考えている顧客の、初期のシグナルの可能性がある。

しかし顧客離れはまた、もしあなたがスマートな買収に柔軟であれば、より大きな機会に向けてのシグナルともなる。これを、顧客はどこかに移ろうとしているのか、それは何故なのかを考える機会にするのだ。あなたの営業担当者は既にこの情報を持っているかもしれないし、または改めて顧客に率直に尋ねることもできる。

競合他社があなたのランチをつまみ食いしていることに気がついたら、彼らの提供しているものを評価しよう。こうしたことには、いくつかの対抗手段がある;直接相手を買収してしまう、より優れた技術を使って相手を打ち負かす、あるいは、あなたの方の規模が大きくて、新進のあたらしい玩具と競うというのなら、価格やサービスの組み合わせを変えることができる。資金が潤沢ではなくスタートアップは、気の利いた価格設定変更を行うことのできる余裕ある相手との競争に、耐え切れないかもしれない。

巨大なテクノロジープレイヤーでさえ、しばしばアドオンの買収を経て成長する – 特に業界全体が新しいクラウドベースのソフトウェアに移行する際には。実際、あなたの次の成長段階は、超大物との提携を含むものになるかもしれない。

Oracleは、クラウドソフトウェアの重要さを認めていて、人事ソフトウェア会社のTaleo、マーケティングソフトウェア会社のResponsysとEloqua(クラウド内で営業事務を行うソフトウェアを提供する)、そして最近ではOpowerとTexturaなどを戦略的に買収してきた。

同様に、 Salesforceは的を絞った買収を通じて、CRM専業から、クラウドサービスやマーケティングなどの分野へとビジネス領域を拡大した。同社は、ExactTarget*のような電子メールマーケティングプラットフォームや、Desk.comから名前を変えたAssistlyといった企業の買収を通して、より多くの収入を手に入れ、強力なカスタマーサービスサポートを提供できるレベルアップを行った。今年の6月には、Salesforceは小売業者のためのマーケティングプラットフォームであるDemandwareを買収することを発表している

会社はサメのようなものだと思うこと:前に進まなければ、おそらく死んでしまう。マーケットを見て回ることを怖れてはいけない。そして競合他社や補完企業との提携にいつでもオープンでいること。このことを理解し、適度にビジネスに後押しをしてあげれば、あなたは生き残る(survive)だけではなく、繁栄する(thrive)ことになるだろう。  

*で示したのはBattery Venturesのポートフォリオに含まれる企業である。

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(翻訳:Sako)

VCがAI化されたら、あなたの地元のスタートアップ用ATM(のようなVC)よりずっとお利口だろう

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毎日々々、大量のスタートアップたちのピッチ(pitch, 売り込み)に接していると、あなたの生きる意志計の針はたちまち、“いますぐ死にたい”を指すだろう。自分がVCだと想像してみよう。その日の15番目のピッチが始まるころには、疲労と眠気に支配され、真剣な関心を持てなくなっている。むしろ、ピッチのスライドデッキをチャットボットに与えてフィードバックと提案をさせ、有望な投資先を決められたら、便利ではないか。それをやろうとしているのがAIVC、VCを演ずるAIだ。

自動化されたピッチは意外と楽しいかもしれないが — ここで早くもネタバレを— でもすぐに、すべてがジョークであることに気づくだろう。

このボットの作者は曰く、“うちも初期段階のスタートアップを対象とするVCだけど、今のVCの世界は、他に依存しない優れた分析的視点よりもむしろ、自分もバスに乗り遅れたくない焦(あせ)り根性と、既知のパターンへの当てはめ主義に支配されている。この世界は、投資を得たい根性だけが先走っているファウンダーたちで混雑していて、優れた起業アイデアはめったにない”。

これもまたジョークだけど、優れたお笑い芸がそうであるように、事の本質を突いている: 標準的なパターンにフィットしていないファウンダーが資金を調達するのはとても難しい。– パターンよりもそういう問題を議論すべきだろう。

スタートアップへの投資にも、データがますます重視されるようになった。いまどきの超高頻度トレーダー(high-frequency trader, HFT)は、自分の頭や心ではなく、アルゴリズムとデータだけに頼っている。スタートアップ投資の世界でも、データサービスへの関心が高まり、MattermarkAngelList、本誌のCrunchBaseなどがよく利用されている。VCの投資がAI駆動になるのは、時間の問題かもしれない。金額の決定と実際の出資も、AIがやるようになるかもしれない。

冗談はさておき、スタートアップの世界だけでなくVCの世界は、今後どのようにテクノロジーが浸透していくのか? 読者のお考えを、下のコメント欄でお伺いしたい。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

HTC Viveが100億ドル規模のVRベンチャーキャピタル・アライアンスを発表

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VR技術は、研究開発からマスに向けて市場に投入への転換するために大量の資本が必要となる。HTCも自社が開発するヘッドセット技術が広いエコシステムに落ち着くことができるよう、市場開拓の一端を担う。

本日上海で開催されたGSMA Mobile World Congressで、HTC ViveはVRに注力するVC、そして確立された著名VCであるSequoia CapitalRedpoint Venturesとともに100億ドル規模の投資を行い、投資の比重をHTCとHTCのパートナー企業の分野に持ってきたい考えだ。

合計27社がHTC Viveと共に VR Venture Capital Alliance (VRVCA)に参加する。HTCのVRで中国地域のプレジデントを務めるAlvin Wang Graylinがこの「アライアンス」を率いるという。

VRVCAは、HTCがVR投資において大規模なリーダーシップを発揮する取り組みとなる。HTCは今年の4月、VR分野のスタートアップに投資する1億ドルのVive X アクセラレーターファンドを立ち上げている

VRファンドとして100億ドルという数字が信じがたいと思ったのなら、それは正しい感想だ。確かにVRVCAは結構な金額をポートフォリオ内の企業に投入するが、100億ドルというのは各投資企業が持つ「投資可能な資本」を指していて、その額が全てVR投資に向かうのではないということだ。

VRVCAは2ヶ月毎にサンフランシスコと北京でミーティングを開催し、アイディアを実現するために資金を求める企業を受け付けるという。このアライアンスが投資可能としている100億ドルの一部を得たいVRスタートアップは今日からVRVCAにピッチデッキを提出してレビューを受けることができる。VRVCAには多様なVCが参加していることから、このアライアンスは、ミックスリアリティー、AR、VR分野における多様な業界に広く網を張ることを考えているようだ。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website

ビジネスとしてのビッグデータ分析はいまやっと“成熟期”に入ったばかり、今後の機会が大きいとVCたちは見ている

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[筆者: Harry-Stebbings](ベンチャーキャピタルに関するポッドキャストThe Twenty Minute VCのファウンダーでホスト。)

最近のインタビューで、“ビッグデータはいよいよこれからが本番だ”、と語ったFirstMark CapitalのMatt Turckによると、2010年にはシリーズA市場のわずか2.5%にすぎなかったビッグデータへの投資が、今ではVCたちの投資全体の7.5を超えている。そもそも、ビッグデータ分析という業態は、今どんな段階にあるのか? そして最近のAI熱は、ビッグデータと密接な関係があるのか?

エコシステムの成熟

ビッグデータのこれまでの進化には、三つの段階がある。まず、その形成期は、LinkedIn, Facebook, Googleなど少数の大手インターネット企業が支配した。彼らのもとに大量のデータセットが集まり、彼らにはレガシーのインフラストラクチャがないから身軽で、しかも優秀な技術者がたくさん集まった。彼らは、これからの世界が必要とする技術を作っていった。

そして次の第二の段階では、これら大手インターネット企業の技術者たちがスピンオフして自分のスタートアップを作り始めた。彼ら未来のユニコーン(10億ドル企業)候補たちは、彼らと同じくレガシーのインフラストラクチャのない企業を顧客にしていった。Turckはこう言う: “レガシーのインフラストラクチャがないことこそが、彼らのイノベーションの基盤だった”。そして彼らにとってイノベーションの最先端といえば、ビッグデータスタートアップの初期の顧客になることだった。

そして、今現在の第三段階が、大きな課題をもたらしている。さまざまな企業がビッグデータ技術に関心を持ち、採用を始めているが、それ自体はまだ、ごくごく初期的な段階なのだ。

第二段階のときと違って、今の企業は多くがレガシーのインフラストラクチャを抱えているから、ビッグデータ革命によって失うものも多い。彼らの既存のインフラストラクチャは、企業の現状をまがりなりにも支えているから、ビッグデータにとって大きなハードルになる。ビッグデータには、彼らの経営の核であるレガシーのインフラストラクチャを捨ててもよいほどの価値があることを、どうやって説得すべきか?

Turckは語る: “これからのスタートアップの仕事は、データによって企業経営がよりスマートになることを、顧客に理解してもらうことだ”。また、“大企業が率先してビッグデータ分析を試行的に導入していくこと、スタートアップがそこから食い込んでいくことも重要だ”。

AI

AIの最近の進歩と、それに対する関心の高まりは、ビッグデータがなければありえなかった。Turckは極論する: “AIはビッグデータの子どもだ”。たとえば深層学習(deep learning)のアルゴリズムが作られたのは数十年前だが、それが今や、大量のデータ集合を扱う実用技術になり、コストも実用レベルまで下がってきている”。だから、“AIが可利用性の高い実用技術へと開花結実してきたのも、ビッグデータのおかげだ”。

ビッグデータエコシステムの成熟と進化がこれからも続けば、AIがビッグデータのアプリケーション層の成長を導く触媒になるだろう。でも、ビッグデータは、今はまだまだ初期的な段階だから、今後のアプリケーションの多様化とともに、ビジネス機会としてのビッグデータはますます大きくなっていくだろう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

「シリコンバレーと日本をつなぐ」ルース元駐日大使や三菱商事が3億3500万ドルのファンドを立ち上げ

前駐日米国大使であり、Geodesic Capitalゼネラルパートナーのジョン・ルース氏

前駐日米国大使であり、Geodesic Capitalゼネラルパートナーのジョン・ルース氏

米カリフォルニア州に拠点を置くGeodesic Capital(ジオデシック・キャピタル)は5月17日、第1号ファンドの「Geodesic Capital Fund I」を組成したことを発表した。ファンドの総額は3億3500万ドル。三菱商事のほか、三井住友銀行、三菱重工業、三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、損害保険ジャパン日本興亜、ニコン、日本政策投資銀行、東邦銀行などが出資する。

ジオデシック・キャピタルは、前駐日米国大使のジョン・ルース氏と、アンドリーセン・ホロウィッツ元パートナーのアシュヴィン・バチレディ氏、三菱商事で立ち上げた投資ファンド。

ルース氏は第1期オバマ政権下、2009年から2013年まで駐日大使を務めたが、それ以前はスタートアップのサポートにも積極的なウィルソン・ソンシーニ・グッドリッチ&ロサーティ法律事務所のCEOを務めていた。TechCrunchの過去記事にもあるが、Salesforce.comをはじめとしたIT企業の取締役も務めている。またアシュヴィン・バチレディ氏は米VCのアンドリーセン・ホロウィッツでFacebookをはじめ、Twitter、Box、Airbnb、Githubへの投資に関わってきた。

日本やアジアのマーケットを狙う米スタートアップに出資

Geodesic Capitalでは、グロースステージのシリコンバレーのスタートアップに対して、500万〜3000万ドルの範囲で投資を実行する。バチレディ氏いわく、投資の際に重要視するのは(1)Strong Leader、長期的なビジョンを持ち舵取りをするCEOがいること、(2)イノベーションを起こすプロダクトを持っている個と、(3)潜在市場、ポテンシャルがあること、(4)強い実行力と急速な拡大を実現できること——の4点。

投資の対象とするのは、日本やアジア進出を狙うシリコンバレーのスタートアップだ。ルース氏は大使としての日本赴任から米国・シリコンバレーに戻ってきて、あらゆる業種でITによる破壊的なイノベーションが起こっていること、また同時にシリコンバレー企業が日本の市場への関心が高まっていることなどを背景にこのファンドを立ち上げたと語る。現在公開されているポートフォリオは、セキュリティのTanium、メッセージングサービスのSnapchat、アプリケーション配信ネットワークのInstart Logic、ビットコインマイニングに特化したコンピュータを手がける21の4社。

こう聞くと——あまりにも使い古された表現だが——「黒船襲来」という印象を持つ人がいるかも知れない。だがルース氏らは、海外からのイノベーション、イノベーティブな企業が日本の市場に参入することこそが、日本経済に価値をもたらすと語る。「一方通行でなく、両方が通行できる『架け橋』を作る」(ルース氏)。シリコンバレーのスタートアップに対しては日本を玄関口にして、アジア進出を支援。一方、ファンドへ出資する日本企業に対してはシリコンバレーの拠点も用意しているという。

三菱商事もファンド組成の趣旨について「当然だが金融投資のリターンは大いに期待している」(三菱商事常務執行役員新産業金融事業グループCEOの吉田真也氏)とした上で、「狙いは中期経営戦略2018にうたっているとおりで、ビジネスにおける先端技術の利用や新規ビジネスの開発、既存ビジネスの変革。そのためにもシリコンバレーとのアクセスを深めていきたい」(吉田氏)と語る。

新しい市場へのチャレンジ、「One size fits all」になるな

ところで、米国で人気を博したサービスであっても、いざ日本市場に参入した際にはパッとしないなんて話は時々聞くものだ。そうならないためにも重要なのは、ローカルパートナーと組むなどして、カルチャライズすることだろう。例えば、今では日本人が数多く利用するTwitterも、デジタルガレージと組んで日本に参入している。

リース氏もこの点については意識しており、「米国企業に限らず、世界の多くの企業が日本やアジアの国々に進出する際に犯す過ちが『One size fits all』。つまりそのまま持ってくれば成功すると信じているところだ」と指摘する。これに対してGeodesic Capitalでは、投資先の日本参入支援を行う日本法人「ジオデシック・ジャパン」を設立しており、カントリーマネージャーには元オムニチュア・ジャパン カントリーマネージャーの尾辻マーカス氏、シニアアドバイザーに元ツイッター日本法人代表取締役会長の近藤正晃ジェームス氏を招聘。日本でも成功したそのノウハウを生かして投資先の支援を行うとしている。

インドア農業にデータ分析と営農アドバイスを提供するAgrilystがシードで$1Mを調達

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Disrupt SF 2015のBattlefieldで優勝したAgrilystが今日(米国時間5/11)、インドア農業に同社が提供する分析サービスの育成のために100万ドルのシード資金を獲得したことを発表した。

ラウンドをリードしたのはBrooklyn Bridge Venturesで、これにMetamorphic Venturesやそのほかのエンジェル投資家とシードファンドが参加した。その中には、同じくBattlefieldでデビューし、のちにFacebookが買収したQuickFireの創業者たちもいる。

Agrilystの協同ファウンダーAllison Kopfによると、この投資ラウンドは投資希望者の数が予定より多すぎた。それだけの関心が集まった原因は、彼女によると、関心はあるけど彼らがよく知らない農業という分野と、従来からあるSaaSのビジネスモデルおよびデータ分析の両者が、組み合わさっているからだ。

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創業からほぼ1年になる同社は、現在の社員数が6名だ。昨年のDisrupt SFでデビューしたときには、やっとプロダクトのベータバージョンが完成した段階だった。

しかし今の同社はサービスの新しいバージョンを立ち上げるまでに成長し、その新サービスはとくに、野菜の生産向けに最適化されている。

またこのサービスには今ではワークフロー管理ツールや、在庫管理、作物の栄養管理と病疫や害虫管理の機能もある。今度のニューバージョンには、農業経営者が新規採用者を教育訓練するための機能もある。

ベータのときも今も、Agrilystはデータを利用してインドア農業の経営者に、営農管理の最適手法を勧奨する。今後は、作物をよりおいしくするための推奨事項も提供していきたい、という。

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Kopfによると、インドア農家の多くがまだセンサーを使っていない。使っている農家でも、そのデータは彼らのデスクトップにローカルにたまっていくだけで、オンラインへ行かない。でもAgrilystに任せれば、スプレッドシートのデータでも十分利用価値があるのだ。

しかし状況は徐々に変わりつつあり、Agrilystは今ではインドア農業でよく使われているセンサーシステムからのデータも利用している(CO2や土壌水分など)。でもまだ、データ入力の多くは手作業で行われている。しかしAgrilyst自身は、ハードウェア企業になるつもりはなく、むしろできるだけ多くのサードパーティ製センサーをサポートしていきたい、という。

Kopfによると、同社がローンチしたときは、マリファナ関連の企業だと思われたくなかったが、しかし蓋を開けてみると、今インドア農業で急速に成長しているのが、マリファナの栽培なのだ。そこで7月以降は、Agrilystはマリファナの栽培農家もサポートしていく。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Kubernetes/Docker Swarm両方をサポートするコンテナ管理プラットホームRancher LabsがシリーズBで$20Mを調達

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KubernetesとDocker Swarmの両方をサポートするコンテナ管理プラットホームRancher Labsが今日(米国時間5/9)、シリーズBで2000万ドルを調達したことを発表した。このラウンドをリードした同社の新しい投資家は、中国の投資企業GRC SinoGreenで、既存の投資家MayfieldとNexus Venture Partnersも参加した。これで同社の資金調達総額は3000万ドルになる

新たな資金は、営業とマーケティングの強化および、ユーザーの要望に合わせての製品の改良に充てられる、という。

Rancher LabsのCEO Sheng Liangは今日の発表声明の中でこう述べている: “コンテナ化によって企業は、アプリケーションのパフォーマンスと可利用性とコストを改良するための、すばらしいことがいろいろできるようになった。このパズルの次のピースはコンテナ技術の完成に貢献するものであり、それはコンテナの管理に関連するツールだ。ユーザーがコンテナ技術をフルに利用して、コンテナが約束する財務的および組織的な利益を得ていけるための、正しいツールを提供していくことが、弊社の目標である。弊社が今後もこの目標追求のための努力を継続できることは、きわめて喜ばしい”。

コンテナプラットホームの市場はやや混み合ってきたが、Rancher Labsによれば、KubernetesとDocker Swarmの両方をサポートしているために、Rancherはエンタープライズのコンテナ展開のための正しいツールになっている。しかしおそらくさらに重要なのは、 それが、使用するクラウドを特定しないこと、およびエンタープライズがパブリックとプライベート両方のクラウドと、さらに従来からのデータセンターで、コンテナを使えることだ。

なお、Rancherはマルチテナントプラットホームなので、各チームが自分たちのニーズに即したやり方で自分のクラスタを管理できる。この方式では、たとえば、Kubernetesのクラスタのセットアップがわずか5分でできる。(ただしクラスタのデプロイを初めてやる方は、もっとかかるかもしれない。)

コンテナのデプロイを容易にするために同社は、アプリケーションカタログを提供している。それを利用すると、かなり複雑なアプリケーションのデプロイでも、わずか数クリックで簡単に構成できる。

投資をリードしたGRC SinoGreenのパートナーDr. James Zhangは発表声明の中でこう語る: “コンテナはソフトウェアの開発とITのオペレーションを急速にディスラプトしつつある。Rancher Labsはそのすばらしいオープンソース技術によって、ソフトウェア開発の加速化のためにはコンテナ管理が重要であることを企業に示し、同じく適正なコンテナ管理によってアプリケーションをプロダクション(本番稼働)における高い信頼性と効率で動かせることを、示してきた”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

UC Berkeleyが生んだ24歳のベンチャーキャピタリスト:Jeremy Fiance

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大抵、24歳というと多くの人が自分のキャリアをどのように形成していくのか、まだ迷っている年頃だろう。最近UC Berkeleyを卒業したばかりのJeremy Fianceは、自分はベンチャー・キャピタリストになるのだと確信している。他の誰かが経営する会社に入って、そこで昇進するのを待つという選択もしなかった。

その代わりに、今日、Fianceは彼の新しい会社をお披露目した。The House Fundと名付けられたこのファンドは、先日数々の個人投資家から600万ドルを集め、初めての資金調達を達成したばかりだ。投資家の多くはベンチャーキャピタリストだ。

彼らがFianceに興味を持つのは無理もない。彼は頭がキレる。(彼は教養学部を卒業し、ビジネス、エンジニアリング、デザインを学んだ)。彼はメディア通だ。(先週おこなった電話インタビューの数時間後には、彼から幅広い内容のメディア・パッケージが送られてきた)。

そしてFianceには人を動かすピッチがある。長い間、エンジェル投資家やVCたちから見落とされてきたUC Berkeleyから、そこに埋まっている宝石を掘り起こすという大きなアイデアだ。

この数字を見ると、にわかには信じがたい。UC Berkeleyには50万人の卒業生がおり、大学と大学院あわせて3万7000人の現役学生たちがいる。同校の卒業生にはEric Schmidt、Steve Wozniak、Chris Andersonといった著名な人物がおり、多くのスタートアップがこの学校で生まれたのは言うまでもない。(Squareに買収されたCaviarもその例の1つだ) それにも関わらず、エンジェル投資家やベンチャーキャピタリストから向けられる同校への注目度は、Stanfordに対するそれと比べるとかなり低い。

ベンチャーキャピタリストのPejman Nozadが昨年の夏に私たちに話してくれたように、鍵となる要素は単純にロケーションだという。Palo Altoは今でも多くのVCにとっての生活と仕事の拠点だが、UC Berkeleyはそこから45分の距離に位置している。そのため、「UC Berkeleyのコンピューターサイエンス学部は、StanfordやCarnegie Mellon、M.I.T.などと同じくトップクラスであるにも関わらず、他の学校に比べるとUC Berkeleyの注目度は低い」。

Nozadが経営し、Stanfordから目と鼻の先にあるPejman Marは、UC Berkelyにおいて賞金が25万ドルのスタートアップ・コンテストを開催しており、その後のさらなる投資の対象となる将来有望なチームを見つけ出そうとしている。

他の会社もあちらこちらの大学に入り込んできている。たとえば、Alsop Louie Partnersは時折、キャンパス内のスカウトとして学生を雇い入れている。Andreessen Horowitzでは、テクノロジーに通じた人々による大規模なチームが構成され、そのチームがUC Berkeleyを含む大学のキャンパス内に時々現れては、能力を持った学生をスカウトしている。(その成果の一つ、機械学習とデータ分析プラットフォームのDatabricksは、UC BerkleyのAMPLabから誕生した。創立3年目のこの企業は、これまでに4700万ドルを調達している)

それでもまだ、Stanfordでの起業家の育成に注力しているStartXのように、UC Berkeleyだけに焦点を当てた団体は存在しない。

そして、これこそがFianceが埋めようとしている空白地帯だ。

彼にはそのためのコネクションがあるようだ。2010年、大学一年生だった彼は、現在は創立9年目になる、社会問題の解決のために起業家を育成する団体のKairos SocietyをUC Berkeleyに持ち込んだ。

またFianceは友人と共に、現在も活動中の学生アクセラレーターであるFree Venturesを在学中に創立した。初期の段階ではこの団体の資金力は乏しかった。実のところ、この団体が保有していた資金はBig Ideasと呼ばれるUC Berkeley主催のコンペティションでの優勝賞金の2500ドルだけだった。しかし、彼らはその金額で6つのスタートアップへ投資することに成功した。

しかも、彼らはその内いくつかの賭けに勝つことに成功した。その1つが当時創立されたばかりだったLily Roboticsだ。カメラを搭載したドローンを製造する同社は現在では創立2年半目に突入しており、これまでにSpark Capitalなどから1500万ドルを調達している。それ以外の5つの企業でも、これまでに合計で2300万ドルの資金調達を達成したとFianceは語る。

Fianceは他にも、学生によって運営されているベンチャーファンドであるDorm Roomにも関わっていた。First Round Capitalの協力のもと、同ファンドは50万ドルの資金を学生ベンチャーに投資している。彼は同ファンドに1年間半在籍し、将来有望なスタートアップを見つけ出す手助けをしていた。その後、シードステージ・ファンドのCrunch Fund(TechCrunchの創業者、Michael Arringtonによって共同創業)に在籍し、彼の学校生活における最後の7カ月間をそこで過ごした。このファンドに在籍中に、興味を惹いた7つのスタートアップに投資をしたとFianceは語っている。

当然のことながら、VCたちがFianceの噂を聞くまでには、そう長くの時間はかからなかった。これまでに何社から声を掛けられたのかと聞くと、彼はしぶしぶ10社だと答えてくれた。この記事を執筆するために彼を調査した際、Redpoint VenturesやGrey Partnersなどの企業が一様に彼を支持したところを見ると、私たちはそれを信じざるを得なかった。

Fianceはそれらの誘いを丁重に断り、かわりに彼のThe House Fundに投資するように説得した。このファンドはすでに6つのスタートアップに投資をしており、ターゲットとなるスタートアップはUC Berkeleyに在籍する学生や卒業生、教授によって創立され、モデルのテストに25万ドル以下の資金を必要とする企業だ。(The House Fundはスタートアップに対して5万ドルを提供し、他のエンジェル投資家やベンチャーキャピタリストを巻き込んでシンジケートを組織する)

どのように有望なスタートアップを見つけ出しているのかとFianceに聞くと、「つねに積極的に素晴らしい才能を探しています。それには、すでに過去にプロジェクトを実行してきた経歴のある起業家だけでなく、ユニークな分野のエキスパートたちも含みます」と彼は答えた。

これまで関わってきたチームに未練はないかと聞くと、彼は「ないです。もっと投資の数を増やすことの方が好きなのです」と語った。

今でも、外部の人々が気づいているよりも沢山のことがUC Berkeleyでは起こっており、彼の600万ドル規模のファンドはその始まりでしかないと彼は話す。「Berkeleyに的を絞ったファンドは、確実に同校のエコシステムに利益をもたらすでしょう」。

Fianceに協力するベンチャーキャピタルたちは彼に期待している。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 / Website / Twitter

本当にバブル?2016年Q1、VCによるスタートアップへの投資額は120億ドル超

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ベンチャーキャピタリストはパッとしないIPO市場苦戦を強いられているテック株は、彼らが慎重に行動している証拠と説明するだろう。しかし、データは違うことを示している。National Venture Capital Associationのデータによると、2016年最初の四半期における投資額は121億ドルだった。これは第1四半期に137億ドルの投資があった昨年を除くと、 2001年のドットコムバブル以来、最も高い数値だ。

昨年の第4四半期の投資額は120億ドルだったので、同じ水準にある。また、今四半期で取引額が100億ドルに届いたのは9四半期連続となる。

「市場環境は不安定でしたが、取引は成立してきました」とBattery Venturesのジェネラル・パートナーを務めるNeeraj Agrawalは言う。「バブルは起きていないと思います」。

PricewaterhouseCoopersのパートナーであるTom Ciccolellaは「数字が出る前まで悲観的な観測が広がっていました」と言う。蓋を開けてみれば「堅調は四半期」だった。PwCはNVCAとMoneytreeと共にこのレポート制作を行った。

最大の投資案件はLyftで10億ドルの資金調達を行った。フロリダに拠点を置く拡張現実スタートアップのMagic Leapは飛び抜けた7億9400万ドルを調達した。続いてSunnova Energy、Uber 、Flatiron Healthが上位5社だった。勝者総取りの様相を呈し、第1四半期に投資された金額の25%を上位10社の案件が占めた。全体では969社が資金調達を行っていた。

ソフトウェア分野で376の取引があり、累計調達額が51億ドルと最も多くの投資金額を集めた。バイオテクノロジー分野ではIPOラッシュがあり、18億ドルを調達。メディア・エンターテイメント分野は3番目に人気のスタートアップのカテゴリーで109社に9億3000万ドルが投資された。

ただ、資金はより経験豊富なスタートアップの方へと流れた。アーリーステージの投資は前四半期と比較すると18%減少した。シードステージの取引数も10%減った。一方、拡大局面のスタートアップへの投資は25%増加し、レイトステージの案件も10%増加した。

このデータに驚いた投資家もいるだろう。多くの投資家は現実を直視すべきと彼らは考えている。「シリコンバレーにはとてつもなく多くのベンチャー資本が過剰供給されています」とGreylockのパートナーであるAshen Chandnaは注意を促す。「全体的にVCも慎重になっていますが、それでも資本の流入が早すぎます。実際、最も優良な企業はベンチャーキャピタルの資金を大量には必要としないのです」。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

インターネットに接続するスマートワインボトルKuvéeが$6Mを調達、予約販売を開始

最近はあらゆるものが“スマート”(電脳化)だから、ワインボトルがインターネットに接続されても不思議ではない。そのKuvéeという名の、再利用性のあるボトルケースは、ワインの鮮度を最大30日キープする。

General CatalystやFounder Collectiveなどから600万ドルを調達したKuvéeは、ワインの履歴や合う料理などを知らせるタッチスクリーンの画面で、ディナーに招いたゲストたちを感動させるだろう。正しい飲み方、ユーザーの好みに合わせて個人化されているワインのリコメンデーション、同じワインの再注文、などの情報や機能もある。

一度開けたボトルの(ワインの)鮮度を保つ技術で特許を取ったCEOのVijay Manwaniによると、飲みかけのボトルでも一週間はフレッシュな味と香りを維持するそうだ。

Kuvéeのシステムは、Bonny DoonやPine Ridgeなど、カリフォルニアの高級ワインと相性が良い。750mlのボトルが15ドルから50ドルぐらいだ。

今日(米国時間3/28)からKuvéeは、予約販売をKuvee.comやIndiegogoで開始する。179ドルの予約価格には、システムのほかに4本のワインが含まれる。

Kuvéeのデモビデオ(上図)を見てみよう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

いきなり50億円の1号ファンドを組成、最大手VCを辞めてBeyond Next伊藤氏が独立した理由

「少なくとも30億円ないと戦えない。だから意地でも金融機関に入って頂きたいと思っていました」

新卒入社で11年間勤めた大手VCのジャフコを2014年夏に退職し、独立系VC「Beyond Next Ventures」を立ち上げた伊藤毅氏はTechCrunch Japanの取材に対して、そう話す。Beyond Next Venturesは大学発の研究開発型ベンチャーを投資対象として創設され、総額50億円となるBNV1号ファンド(Beyond Next Ventures1号投資事業有限責任組合)の組成がクローズしたことを今日発表した。

BNV1号ファンドの出資者には大手金融機関も名を連ねる。主な出資者は、第一生命保険、三菱東京UFJ銀行、東京センチュリーリース、グリーなどの事業会社と機関投資家、それに上場企業経営者などの個人と中小企業基盤整備機構だ。金額的には中小機構の20億円というのが大きいが、生保や銀行が出資しているのは注目に値する。

大学発の技術系ベンチャーへの投資を行うVCとしては、このところ大学が設立するファンドが東大、京大、阪大、東北大などで立ち上がり、総額1000億円のリスクマネーがこの領域に流れ込もうとする動きが出てきている。ただ、投資家がいわゆる「ピン」で独立系VCを立ち上げたのは珍しいし、1号ファンドで、いきなり50億円もの資金を調達したのも例外的だ。Beyond Next Venturesは医療機器やロボット、ハイテク素材などのベンチャー企業に投資していく。すでに3社に投資済みで、最終的なポートフォリオは10〜15社の予定。1社当たり4、5億円程度の投資を予定する。日本の技術系のエコシステムの現状と課題、新産業創出に賭ける思いを創業者で代表の伊藤氏に聞いた。

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Beyond Next Ventures代表取締役社長の伊藤毅氏

37歳でジャフコを退職、不安を抱えつつVC設立

2014年の独立時の伊藤氏は、学齢の2人の子持ち、住宅ローンも残る37歳だった。業界最大手を辞めてまで独立するというのは相当に思い切ったことのように思える。投資組合を作ってVCとして独立する、というのは起業にほかならない。

「よく聞かれるんですよ、お金を出してくれる人とか会社のめどが付いていたんですかって。でも、まったく(笑) ジャフコにいたときに起業の準備をしていたわけでもないんです」

「自分も起業家としてリスクを取って、いったんゼロにリセットしようということです。そこから積み上げて行きたかったんです。(投資する起業家の)相手との信頼関係を築いて行くとき、サラリーマンとして投資しているよりも共感も得られるだろうと、ずっとそう思っていました。一緒に仕事をする人たちも、みんな起業家ですからね」

転職や独立に際して家族に反対される「嫁ブロック」のようなものはなかったのだろうか?

「それもよく聞かれますが、ありませんでした。結婚した頃から妻には起業したいと言い続けていましたし、ぼくが楽しそうに仕事をしているのを見ていたからじゃないですかね。ただ、私自身は本当に不安でした。ファンドに本当にお金が集まるのかどうか……、あまりに不安だったので、まずお酒をやめたりしました(笑)」

37歳で独立という年齢については、もうちょっと若ければ良かったのかと思うことはあるとしながらも遅くも早くもないのでは、と話す。これは日本に限らないが、起業は若者のものと見られがち。でも現実にはシリコンバレーでも30代や40代の起業は多いし、日本でも中堅のベテラン会社員や技術者が起業する例が増える傾向にある。

転機となったのは産学連携グループへの移籍

いつか起業したいと考えていたとはいえ、伊藤氏はVC(投資家)として起業しようとは思っていなかったそうだ。

東工大の理系大学院を修了後、2003年に伊藤氏は大手VCのジャフコに入社した。当時の新卒入社は11人中10人が文系で、理系の院卒は伊藤氏1人だったという。最近でこそ「技術とビジネスを繋ぐ人」が求められているという認識から理系卒の比率も上がってきているそうだが、ジャフコの同期の中で伊藤氏は少し周囲と違った存在だったそうだ。

「ジャフコに入ったのは起業したかったからです。でも仕事をしているうちにVCが楽しいなと思うようになったんです。周りを見渡しても、産学連携分野では自分はそこそこ成果を出していて、得意な方なのかもしれないというカンチガイをして(笑)」

伊藤氏に転機が訪れたのは入社5年目となる2008年のことだった。「産学連携投資グループ」の責任者となったのだ。

「今でもそうですけど、当時ベンチャーといえばITでした。たしか当時、ジャフコ全体の投資担当者は100名弱はいたと思いますが、産学連携投資グループはその中では、かなり小さなチーム。私が引き継いだときには3人だけの一番小さいチームでした」

IT系スタートアップ企業はプロダクトのターゲットが個人向けということも多く、投資経験が少ない若手でも分かりやすい。一方、シーズの発掘がしにくい研究開発型・技術系を担当する産学連携投資グループには入社20年といったベテランが在籍していたという。1996年頃から10年近くやっていたものの、なかなか目立った成果に繋がっていなかったこともチーム規模が小さかったことの背景にある。

リーダーへの抜擢とはいえ、本流ではないグループへの移籍。「飛ばされたのかなと思うこともあった」と伊藤氏と振り返る。

ただ、2014年の退社時点で振り返ってみると、ジャフコ時代の伊藤氏は十分な実績を上げてきたことが分かる。ロボットスーツのサイバーダインの2014年の上場や、人工クモ糸を開発するバイオ新素材のSpiberへの投資と社外取締役として事業化支援を手掛けてきた。ほかにも、超高速DNAシーケンサの「クオンタムバイオシステムズ」などへのリード投資や、空気圧駆動アームによる術者へのフィードバック付き次世代手術支援ロボット「リバーフィールド」などの創業に関わってきた。

このジャフコ時代の経験から「大学のシーズには魅力的なものがあるなと分かった」(伊藤氏)のがVCとして起業した理由だという。新卒時代には何かしらの事業で自分も起業したいと思っていた伊藤氏だが、投資家として成果を上げてきたことから、「これが自分の社会の中での役割」と思うに至ったのだという。

研究開発ベンチャーに再びリスクマネーが戻ってきている

ここ数年でサイバーダインやユーグレナなど大学発ベンチャーでも時価総額が1000億円を超えるような、ロールモデルとなる企業群が出てきた。こうしたことから大学発ベンチャーの領域にリスクマネーが流れつつある。

伊藤氏は「生保も戻ってきた」と言う。1980〜1990年頃、金融機関がCVCを設立してリスクマネーを提供していた時代がある。1983年には店頭登録基準や東証2部上場基準の緩和を受けて大手銀行、証券会社ばかりでなく地銀系がVCを設立する例が相次いだ。「当時、日本全体の成長とともに各VCはリターンを出していました。ただ、リーマン・ショック以降は銀行系、金融系のVCは軒並み撤退して行ったんですね。それが今ちょっとずつ復活しつつあります」。

リスクマネーが再び技術系ベンチャーに戻ってきている背景には市況の変化ということもあるが、伊藤氏によれば、いくつか理由があるようだ。

1つはすでに書いたようにロールモデルとなる企業が出てきたこと。その影には失敗した事例もある。まず、投資する側からみると「ファンドサイズが10億とか20億とかで設立して失敗するファンドを見てきた」と伊藤氏は言う。研究開発型ベンチャーでは黒字化するまで50〜100億円が必要となるようなケースも少なくない。ところが、例えばファンドサイズが10億円だと、1社のシード期のベンチャーに投資できる金額はせいぜい累計1億円程度だ。これでは追加投資ができなくなってしまい、せっかく可能性が出てきていても資金が続かない。いわゆる研究開発型ビジネスの「死の谷」だ。

photo04a「試行錯誤の時代でした。産学連携投資グループを引き継いだときに調べたのですが、初回投資で終わってしまっているケースが多くありました」

「シード段階で投資しても、なかなか計画通りに行かないじゃないですか。でもマイルストーンまで到達していない、だから継続投資はしないっていう基準で一律でやっていたように見受けられました……。それで結果が出ないということがありました。多少の計画のズレは許容して、継続的に資金調達をしていけば次の投資家が入るところまで引き上げていける。投資家として、そこまで辛抱強く支えていかないといけない。これはお金だけの話じゃなく、経営や事業化の支援という面でもそうです」

技術が面白いというだけで投資をしてしまう。そんな目利き時点での失敗も大学発ベンチャーには少なくなかったという。

一方、ハンズオンと追加投資を続けて研究開発のシーズをビジネスとして育てていくモデルでは近年東大系VCのUTECが成功事例を次々と生み出して結果を出している。「少なくとも30億円ないと戦えない」という冒頭に引用した発言は、この辺の成功と失敗を見てきた伊藤氏の覚悟と戦略性から出た言葉といえそうだ。

官製ファンドよりも民間VCを増やせ

研究開発型ベンチャーへリスクマネー供給が増加する流れの背景にはもう1つ、研究開発に対して割り当てられる公的資金、いわゆる国プロとか助成金の動き方が変わりつつあることも見逃せない。

典型的なのは文科省の助成金だ。

従来から大学の研究などをプロジェクト単位で採択して資金を提供しても成果につながらないことが続いていた。これは当然の話だ。VCのように目利きができるわけでも、起業や経営経験者のようにビジネスの構想ができる人がいるわけでもない。何より、リターンに対するプレッシャーもゆるい。助成金を出している側としても「失敗」とは口が裂けても言えないから、助成金の成果として何か発表らしいものさえあれば、「成果が出ました」と言えば終わる。

一方、リターンを出す強烈なプレッシャーにさらされている民間VCは、採算に見合う投資しかしない。例えばBeyond Next Venturesの伊藤氏は50億円の資金を10年間という期限で預かっているが、これを100億円とか200億円にしないと次のファンドは組成できないだろう。もし全然成果が出なかったら失敗とみなされるから、キャリア上のリスクを負っているわけだ。

これは伊藤氏が言っていることではないが、ぼくはここに「キツイ上司」と「ゆるい上司」の違いに似た対立軸があると思う。高い目標を掲げて部下を鼓舞し、プレッシャーをかけて成果を出させる上司が良いのか、それとも放任型の上司が良いのかという話だ。短期的に見れば仕事がやりやすいのは後者かもしれない。でも、自分のキャリア上「あのとき最高の仕事をやった」と振り返るほど結果が出る可能性が高いのはキツイ上司の元で仕事をした場合だろう。「これが成果です」と何かしら発表しさえすれば良いという程度のゆるいプレッシャーの助成金をもらって世界に羽ばたくグローバル企業がたくさん出てくるようには思えない。

伊藤氏は日米の大学での研究開発費の規模と、それによるライセンス収入には大きな違いがあると指摘する。

大学の年間の研究資金は日米でそれぞれ3.5兆円、5.1兆円と1.5倍ほどしか違わない。しかし実用化による大学のライセンス収入となると、それぞれ2500億円と7〜15億円と桁違い。日本は米国の数百分の1にすぎない。このことから、伊藤氏は技術シーズの実用化による社会還元が急務だと指摘する。そしてそのためには技術とビジネスを繋ぐ経験を持った民間VCが欠かせない。

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※Beyond Next Ventures作成の資料より

そういう経緯もあって、2012年から文科省の科学技術振興機構(JST)は大学発新産業創出プログラム(START)というのを始めている。これは大学発の起業前のプロジェクトについて、プロジェクトだけではなく、目利きとなるVC(事業プロモーター)も外部から公募、審査して認定するというモデルだ。認定されたVCが支援するプロジェクトに対して助成金を付ける。このSTARTがうまく行き始めていることから、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)や総務省(I-Challenge)も同様の仕組みで助成金プログラムを走らせている。例えばNEDOの研究開発型ベンチャー支援事業ではエクイティ投資の最大5倍程度(15%:85%)まで交付金を付けることができる。これはイスラエルのモデルを参考にしたもので、VCのリスクマネーを増やす仕組みだ。「シードで1億円投資したいけど、そこまでできない、というときに国が足りない部分をカバーしてくれます。Beyond Next Venturesは、これまでの研究開発型ベンチャーへの支援実績を評価頂き、JSTやNEDOからの認定を受けているので、研究開発型ベンチャーの支援という意味で、そうでないVCに比べて競争力があります」(伊藤氏)

研究開発現場でも意識が変化

もう1つ、伊藤氏が「ようやく技術系ベンチャーもエコシステムが回り始めつつある」と見る理由として、研究現場の意識の変化がある。

「大学の研究現場にいる若い優秀な人たちが変わってきました。大学にそのまま残ってもだいたい研究者としての自分の将来が見えますよね。でも外で独立して会社を作れば違います。資金調達という手段があって、自分の研究を広げつつ加速できる。そういう考えを持つ人がでてきています。7、8年前に私が産学連携投資グループをやり始めたころとは全く状況が変わってきています。人もお金も動くようになってきました」

意識が変化しているのは、研究者たちだけではないようだ。独立した伊藤氏を追いかけるように、ジャフコ時代の同期入社だった植波剣吾氏がBeyond Next Venturesにジョインしている。当初、伊藤氏は植波氏の参加を断ったそうだ。先行きが不透明で、給料が払えるかも分からないという理由からだ。それでも植波氏はジャフコを退社した。そして実際、伊藤氏も植波氏も最近まで無給状態だったそうだ。

植波氏は伊藤氏とはタイプが違うのだという。器用に何でもこなす植波氏は、投資の実績もあったが、ジャフコの中で投資事業を支えるバックオフィス系の業務で頭角を現した。ファンド組成、法務やコンプライアンス、危機管理、広報・IRなどを担当。そうした業務をこなす植波氏が加わったことはBeyond Next Venturesが金融機関から出資を受ける上で追い風になったと伊藤氏は説明する。

「当初、金融機関さんに話をしに行ったときには、『伊藤さん、これは会社の体のなしていませんね』と言われたんです。でも私自身は断られたとは受け取らずに、リベンジしようと楽観的でした(笑)」

ジャフコ時代の同期がジョイン、企業経営者個人からも資金が集まる

ファンドの基本的な設計をどうするのか。預かった資金をどのように適正に管理するのか、投資判断の組織はどうなっているのか、実際に資金を企業に投資する手続はどうするのか。法務・税務などのリスクはどう管理するのか。そうしたことを担当しているのがVC業務全般を広く経験してきた植波氏だ。

「2人で一緒にカバーする仕事も多いですが、大まかに、私がフロント、彼がバックという役割分担です。彼も本当はずっと投資をやりかったのだと思います。でも彼は器用に何でもできちゃうタイプ。複雑な契約書を作ったりする一方で、それこそオフィスの電球交換とかもできちゃうタイプ」

「独立系VCに対して、事業会社や個人投資家が出資するということはあると思います。分野特化で、その領域の経営者らが出資するということですね。でも、それだけだとファンド規模を大きくできません。大きな資金を運用しようと思うと金融機関などの機関投資家からお金を預からないといけませんが、これは難しい。Beyond Next Venturesには植波がいたから体制もきちんと整えられて、機関投資家も資金を入れてくれたのだと思っています」

BNV1号ファンドの50億円の資金のうち20%に相当する10億円程度は複数の個人投資家が出資しているという。出資しているのはIT系の上場企業の著名な創業者や経営者ら。Mistletoe社(連続起業家の孫泰蔵氏がオーナー)も含まれる。スタートアップ企業と同じで最初はエンジェル投資家から、そして次に事業会社、そして金融機関へ、というように伊藤氏は資金を集めていった。つまり、BNV1号ファンドが50億円もの資金を集められたのは、日本でエンジェル投資家の層に厚みが出てきたこととも無関係ではない。

中小機構は民間VCのファンド組成において、調達額と同額程度を出資する独立行政法人だが、まだ実績のない1号ファンドに対して20億円を出すというのは珍しい。

VCとして独立して果たしてファンドの資金調達はうまくできるのか。それが不安で仕方なかったという伊藤氏。しかし出資者の顔ぶれを見ると、そんな伊藤氏への応援の声がたくさん聞こえてくるように思える。Beyond Next Venturesは1号ファンドの運用を始めたばかりだが、大学発で世界に通用するスタートアップ企業が生まれてくるかどうか、今後に注目だ。

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「支払いは次の資金調達の際に」もOK、スタートアップのHR支援をCAVとインテリジェンスが開始

スタートアップの課題となるのは、採用や組織運営などいわゆるHR領域の話であることも少なくない。先日新ファンドの組成を行ったグロービス・キャピタル・マネジメント(GCP)でもIR、PR、HRの「3R」の支援を行っているという話があったが、米国の大手VCなどを中心にHRやPRを支援するような仕組みを内部に持っているケースも少なくない。

そんな中、サイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV)も投資先スタートアップのHR支援に乗り出した。同社はインテリジェンスと組み、支援先企業の採用・組織に関する課題解決を支援する組織「HR Support Team」を設置することを明らかにした。

HR Support Teamでは、人材の採用・配置・育成や組織マネジメントに関する相談・コンサルティングを実施するだけでなく、インテリジェンスを通じた人材紹介において、企業の成長ステージに応じて採用手数料や支払期日が変動する特別プランを提供する。ステージにもよるが、「支払いは次の資金調達を行った際に行う」といった条件も用意するのだという。

果たしてそれでビジネスになるのか? とも思うのだが、CAVのHRアクセラレーターとしてHR Support Teamに参加するインテリジェンスの佐古雅亮氏によると、「ビジネス以上にスタートアップの人材活用の可能性を広げて、事業成長を支援するという新しい取り組み。国家戦略ではないが、次のベンチャーに元気になって欲しい。これまでの人材サービスはベンチャーにはフィットしないところもあったので、その領域で新しいことができないか考えた結果」なのだそうだ。

このほかHR Support Teamでは、求職者と起業家を繋ぐネットワーキングイベントやCAVの支援先スタートアップに限定した組織・人材に関するクローズドな勉強会も開催する。なおインテリジェンスとしてはCAV以外でもVCと組んでスタートアップのHR支援を行う予定。GMO VenturePartnersとも共同でスタートアップのHR支援を行うことが決定している。

グロービスが総額160億円の5号ファンドを組成、年金基金の出資は「VCの悲願」

gcpちょうど1年前の年始、僕はインキュベイトファンドが組成した110億円の3号ファンドについて記事にしたのだけれども、2016年も年始に大型のファンド組成のニュースがあった。

ベンチャーキャピタルのグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)は1月4日付けで第5号となる新ファンド「Globis Fund V, L.P.、グロービス5号ファンド投資事業有限責任組合」を組成した。一次募集(ファーストクローズ)は約140億円。出資するのは三井住友信託銀行、日本政策投資銀行、大同生命保険、マスミューチュアル生命保険株のほか、国内大手企業年金基金を含む国内外の大手機関投資家。ファンド総額は160億円の予定だが、すでにそれ以上の出資要望があるそうで、3月末の最終募集(ファイナルクローズ)を前に、すでに募集が完了している状況だという。

GCPでは1996年に1号ファンド(5億4000万円)を組成。1999年に2号ファンド(200億円)、2006年に3号ファンド(180億円)、2013年に4号ファンド(115億円)を組成。累計120社以上への投資を行っている。直近の投資先上場企業としてはピクスタやイード、カヤック、ブイキューブなど、TechCrunchの読者もよく知るIT企業が多い。

投資領域は「6 Tech」ほか、投資額は1社最大20億円超に

5号ファンドで投資対象とするのは、「6 Tech」(FinTech、HealthcareTech、EduTech、HomeTech、AutoTech、FrontierTechの総称)のほか、シェアエコノミーやAR/VR、IoT、AIなど。GCPパートナーの高宮慎一氏いわく、「IT(Information Technology:情報技術)&IT(Industry Transformation:産業の変革)の領域。2016年に『来る』という領域かどうかに関わらず、ファンドが終了する10年先までを見据えた投資を行う」とのことだ。

投資対象とするのはシードマネーを調達済みで、シリーズA以降の調達を検討しているアーリーステージのスタートアップが中心。GCPというとレイターステージの資金調達を手がける印象が強かったのだけれども、よくよく考えてみると、メルカリやスマートニュースなどもアーリーステージでの投資だ。内訳としては「ざっくり45%がアーリーステージ、35%がミドルステージ、残りがレイターステージ」(高宮氏)なのだそう。具体的には1社あたり数億円〜最大で20億円超の出資を行う予定だという。

昨日はシード特化のVCであるSkyland Venturesの新ファンドのニュースがあった。その中でパートナーの木下慶彦氏が自身の投資スタンスについて、進捗報告のために起業家の時間を取るようなことをしないためにも「ノーハンズオン」だと語っていたが、GCPのスタンスは、バリバリの「ハンズオン」なのだそう。もちろん投資対象のステージも違うし、事業内容によって出資先ごとにVCが支援するべき内容は異なるので、どちらが正しいという話ではない。

GCPのハンズオンの中で特徴的なのは、3R、すなわちIR、PR、HRの業務支援だという。投資担当以外のキャピタリストや親会社であるグロービスのスタッフ、社外のパートナーなどと連携して各種のリソースを提供するのだそうだ。例えば元証券会社の引受担当者がIRまわりのコンサルティングをしたり、グロービスの広報チームがPRの支援をしたりするほか、GCPが投資先企業の人材ニーズをとりまとめてヘッドハンターに共有。一括で広く人材の確保を進めるといったこともしているそうだ。

年金基金からの出資は「VCの悲願」

ファンド組成のニュースはこれまでいくつもあったが、少し珍しいのは、「企業年金基金などの機関投資家が出資している」という内容だ。高宮氏はこれについて、「ある意味では国内VC、ひいてはベンチャー業界の悲願ではないか」と語る。

それはどういう意味か? 100億円超のファンドを組成するとなると出資者1組織ごとに10億円ほどの額を集める必要が出てくる。かといって10億円もの資金を出せるような組織なんてそうそうはない。そこで銀行や保険会社、政府系金融機関などの機関投資家からの出資を仰ぐ必要があるわけだ。そんな機関投資家の中でも、年金基金といえばリスクに対して非常にセンシティブな運用を行ってきたところだ。例えば2015年には、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が年金の運用において、四半期での損失を出したと批判を浴びた。もちろん短期的に見れば8兆円近い損失という大きな話だ。だがたった1つの四半期の損失という見方もできる。長期的に見ればGPIFは高い運用成績を上げており、しかもベンチマーク(運用成果を測定し、評価するための基準)と比較しても良い結果となっている。

しかしそういったネガティブな反応を意識する以上、年金の運用はセンシティブにならざるを得ないというのは致し方ないところ。とはいえ年金基金は数千億円を超えるような運用総額を誇っているわけだし、代替資産(株式や債権以外の資産。不動産もVCへの出資もこれにあたる)に長期的視点で腰をすえて投資するプレーヤーであるという意味でも、機関投資家の中でも大きな存在だ。米国においては、年金基金からの資金がVC業界の発展を支えてきた側面が大きいとも聞く。

そんな背景がある中で年金の資金が入ることについて、高宮氏は「もちろん我々の成果が評価されたということや、そのIRを行った結果ではある」とした上で、「それ以上に、ベンチャーというハイリスクハイリターンな領域に、年金の大きなお金が流れ始めたということが大きい。GCPだけの話ではなく、VC業界、ベンチャー業界全体に意味があること」(高宮氏)と説明する。

2015年3月に発表されたJapan Venture Researchのレポートでは、スタートアップの調達額は増加(一方でその社数は減少)というトレンドが紹介されているが、米国と比較すれば国内VCの投資額はまだまだ小さい(2012年度で米国VCの投資額は国内VCの約24倍という数字もある。リンク先はベンチャーユナイテッド チーフベンチャーキャピタリストである丸山聡氏のブログ)。今回の発表は「GCPが大きなファンドを1つ作った」というだけ(もちろん、「だけ」といっても大きなファンドができることは国内のスタートアップコミュニティにとっては大きな意味がある)の話だが、背景を読み解けば「国内VCに流れるお金の変化」という大きな兆しの見える話とも言えそうだ。

元DGインキュベーションの石丸氏が「アコード・ベンチャーズ」を立ち上げ

また1人、東京のスタートアップ界で投資家として独立する人物が現れた。新たに独立系ベンチャーキャピタル「アコード・ベンチャーズ」を立ち上げた石丸文彦氏は、デジタルガレージなどで投資を担当し、国内で最も早く立ち上がったアクセラレーターの1つである「Open Network Lab」の代表取締役として国内外のスタートアップ投資に携わってきた人物だ。アコード・ベンチャーズのファンド規模は約12億円となる見込みで、2016年春頃の最終クローズを予定している。2015年10月半ばには最初の資金調達をクローズし、11月からVCとして活動を本格化している。

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アコード・ベンチャーズ創業者でCEOの石丸文彦氏

石丸氏は1999年にジャフコに入社し、コンサルティング会社を経て2003年にカカクコムで新規事業の立ち上げやM&A、IRなどを担当。その後は国内投資会社でバイアウト業務、2年ほどサイバーエージェント・ベンチャーズで中国駐在を経験して、深セン拠点の立ち上げに携わったという。2012年1月からはデジタルガレージに参画し、執行役員に就任するとともに投資子会社のDGインキュベーション取締役COO、そしてOpen Network Lab代表取締役などを歴任してきた。デジタルガレージ時代には、弁護士ドットコムアイリッジなどはボードメンバーとしてIPOに立ち会ってきた。その他、投資先ではクラウドワークスが上場している。

デジタルガレージで担当した投資案件としては上記3社だけでも7、8倍のリターンとなっているそう。このほか、フリルIncrements(Qiita)、グッドパッチReproなども「向こう2、3年が楽しみ」で、石丸氏は「投資元本に対して10倍くらいのリターンになるのではないか」と自身の投資のトラックレコードについて話す。

十分なリターンを出せたこともあって投資家として独立。アコード・ベンチャーズのLP(出資者)としては、古巣であるDGインキュベーションやカカクコム、そしてこれまでに培ってきた人的ネットワークで上場企業の経営者や役員といった個人投資家などがいるという。

アコード・ベンチャーズには、みんなのウェディングの代表取締役を務めていた内田陽介氏もパートナーとして参画する。内田氏はカカクコムで10年ほど新規事業やマネタイズを手がけてきた人物で、うち6年は役員も務めていたそうだ。現在はスタートアップの顧問をしながら、半分くらいの時間をアコード・ベンチャーズに割くという。

石丸氏、内田氏の強みは「事業サイドに立って経営と事業の成長に携わった経験があること」という。カカクコム、弁護士ドットコムなどで経営やマネタイズ、IPOを見てきた経験から、どういうタイミングでどういうCFOを入れるべきか、資本政策はどうすべきか、採用プランはどう組むか、IPOで公募価格はどう決めるか、上場後の投資家へのIRをどうするかといったことで、VCとしてのハンズオンの付加価値を出していけるだろうという。「どんなに伸びている会社でも課題がある。1社1社、ちゃんとハンズオンをやっていきたい」(石丸氏)。

ベンチャーパートナー制度で外部協力者にインセンティブ

アコード・ベンチャーズはパートナーが1.5人という感じだし、ファンド規模も2015年の今となっては特別に大きいものじゃない。ただ、「ベンチャーパートナー制度」という仕組みを取り入れているのは、ちょっと興味深い。

ベンチャーパートナー制度というのは、例えばUI/UXの専門家、SEOの専門家、管理部門の専門家など、スタートアップ立ち上げに必要となる専門家数人をネットワークして、最大7%程度の成功報酬を出すという仕組みだそう。例えば1億円を投資して5倍の5億円になった案件なら、元手の1億円を引いた4億円の7%、つまり2800万円程度の報酬ということになる。特に成功可能性の高そうな起業家やシード前のスタートアップ企業をVCに繋げる部分、いわゆるディール・ソーシングで案件を持ってきた人には報酬を厚くする。限られたリソースの中で案件の母数を増やすための方策だそうだ。

実際の投資は7割程度を国内で行っていく。ファンド出資者のカカクコムなどが持つ顧客基盤があるため、C向けのメディアおよびB向けのSaaSなどシナジーが効きやすいところで投資していくのが1つの方針という。同じくファンド出資者であるDGインキュベーションとは、海外への投資で協調投資をしていく。

今回のファンド組成発表に合わせてアコード・ベンチャーズは、国内1件、海外1件の投資案件を発表している。国内はプロジェクト管理SaaSのマンモス・チームワークというスタートアップ企業で、DFJSMBCベンチャーキャピタルと合わせて約3000万円の投資を11月末にクローズしている。もう1つはEntrupyという海外のIoT系スタートアップ。スマホに簡易な拡大鏡をつけて撮影した画像をサーバ側で解析することで、偽ブランド品を見抜くサービスを提供しているのだそう。ちなみに真贋判定の精度は99.5%程度はでるそうだ。

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Mammoth TeamWorkは依存関係などを可視化してプロジェクト管理ができるSaaS

元学生起業家の22歳、シード期特化ファンド「IF Angel」をスタート

22歳という恐らく国内最年少のVCが誕生した。

元学生起業家で、2014年7月から独立系インキュベイトファンドでアソシエイトとして活動していた笠井レオ氏が今日、「IF Angel」というファンドを立ち上げたことを発表して活動を開始した。LP出資するのはインキュベイトファンドで、IF Angelという名前が示すようにインキュベイトファンドから独立した形だ。ファンドサイズは1.5億円。笠井氏が単独の個人ジェネラル・パートナー(無限責任組合員)となっている。22歳が負うにはちょっと重たい借入を個人でしていて、笠井氏の自己資金もファンドに入っている。すでにインキュベイトファンドではIF Angelのように若手キャピタリストのファンドに対して出資(ファンド・オブ・ファンズ:FoF)してきていて、これまでに「プライマルキャピタル」や「ソラシード・スタートアップス」が設立されている。

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起業して大学を退学した元学生起業家

ぼくが初めて笠井レオ氏に会ったのは2年前のTechCrunch Schoolというイベントでのことだった。トークセッションが終わるなり、目をキラキラさせて、ものすごい勢いで手を挙げてくれたのが、当事学生起業家だった笠井氏だった。正確に言うと、そのときすでに「実は先週、休学していた学校を退学しました!」と発言していたので、すでに学生起業家そのものではなかったのだけど。

笠井氏は、2012年5月にProsbeeという会社を設立して読書関連サービス「Booklap」を世に問うた。起業は大学在学中の19歳のときのこと。1年間休学して、インキュベイトファンドやVOYAGE GROUPなどから投資を受け、最盛時にはフルタイムが5人、外部ライターなども全部入れると15人くらいのチームとなっていた。

「でも、事業は全然うまくいきませんでした。次の(資金調達)ラウンドに進むか、それとも残金を精算して会社をクローズするのかという岐路に立ったのが2014年6月でした」(笠井氏)

ユーザー数は少しずつは伸びていたものの、当初想定していた数十万UUには遠かった。Booklapは書籍の一部を引用してコメントする形でシェアできるソーシャルサービスだったが、すでに先行していた読書メーター(後の2014年9月にドワンゴが17億円で買収)などに対して勝ち目がないように見えたと笠井氏は振り返る。

Booklapのサービスで学んだことは、SEOがカギとなるサービスで勝つには2つの条件が必要だということだという。新しいキーワードが出てくることと、それが大きなトラフィックを生むこと。

「書籍の場合は、そもそも昔から多くのサイトがあってコンテンツが蓄積されています。どんどん新しい本も出てきていますが、ヒットとなる書籍は少ないのです。例えば、ニンジン、切りかた、という検索ワードで、今からクックパッドには勝てないのと同じです」

Booklapはソーシャル時代らしく実名制採用とか、コンテンツの一部を引用してコメントできるなど目新しい機能はあったが、先行サービスに対して差別化といえるほどのものではなかった。

間近でVCの仕事をみて、その存在意義に気付いた

2014年6月に会社を清算した。この時点では笠井氏は「次は何の事業で起業しようかと考えていた」という。リサーチャーとして独立系VCのインキュベイトファンドに入り、もう1度スタートアップをやろうと事業機会を探していた。

インキュベイトファンドで2014年7月にアソシエイトになって活動する中で、笠井氏は徐々に考えが変わって行った。起業したいという思いは変わらなかったものの、「VCとして起業しよう」という考えに至ったのだそうだ。VCのパートナーを間近で見るようになって、「起業家とあまり変わらないんだなと思った」というのが理由の1つという。

これは多くのスタートアップ業界関係者が言うことだが、独立系VCのパートナーたちの多くは「投資家という役割の起業家」だ。大手投資会社やCVC、あるいは事業会社などで修行を積み、その経験や知見、業界内で築いた人的な信用のネットワークを活かして自らファンドを組成。ファンド出資者にリターンを返すべく奔走する。このとき、多くのVCは自己資金をファンドに投資することで自らリスクを取る。それはコミットメントを示す意味もあるし、出資者と運用者のインセンティブを一致させる意味もある。アメリカではファンド規模の1%とか2%を、そのファンドのジェネラル・パートナーが自己資金として投資することが多い。十分なリターンが出せないと、投資家としての評価が下がって次のファンドが組成できないし、自分も経済的痛手を受ける。

IF Angelの強みは、笠井氏と同年代の若い起業家のネットワークに笠井氏自身が「中の人」として存在していること。優秀な起業家を発掘するというよりも、友だちの友だちという広がりの中から投資先を見つけるスタイルになるという。例えば、いま投資を検討している起業家は2年前からの友人だという。

VCを含む複数のスタートアップ業界の関係者に、若い人が独立VCの道を歩むことについて感想を求めると、「もっと事業経験を積んでからのほうがいい」という意見もあれば、「起業家と同じ目線でシード期に本気でコミットして伴走できるVCは、実は日本に多くない。そうした人材は極めて重要」という意見もあった。

IF Angelの1件あたりの投資額は1000万円程度になる見込み。インキュベイトファンドのほうはファンドが3号目となって、シード投資といっても大型案件が多くなっている。このため投資規模の違いで、IF Angelとインキュベイトファンドは相補関係にある。笠井氏はインキュベイトファンドのアソシエイトとしての籍も残してあるそうだ。

VCという起業で社会貢献がしたい

インキュベイトファンドは2010年の設立以来、これまでに累計で100社程度に投資してきている。笠井氏は新規投資に関わる一方で、6社ほどの投資先の経営会議にジェネラル・パートナーとともにオブザーバーとして出席することで「(VCが)裏方に徹して仕事をして、それで会社が伸びるのを見た」という。

photo03「最後は起業家を信頼して背中を押すんですが、いろんな業界を見てきたパートナーたちは、人や情報を集めてくることができる。あらゆる領域を全て知ることはできません。でも投資家には広いネットワークがあって、それで解決できることがあるんです」。

力強く成長するスタートアップ企業の創業者たちが、ユーザー視点で深く物事を考えていて、多くの試行錯誤を繰り返す中で少しずつ当てながら伸ばしていくという様子を見ることができたのは、気づきに繋がったという。

インキュベイトファンドは、もともとハンズオンを強くやるタイプのVCで、投資家と起業家がチームとなって事業モデルを構築することがある。むしろ事業ドメインを先に決めていて、起業家に対して一緒にやれるならやりましょうと提案するスタンスのこともある。例えば最近だと、ある自動車関連スタートアップでは約10カ月をかけて、5回ぐらい事業プランを変えて1億円ほどの投資を集めた例があるのだそうだ。

笠井氏は、インキュベイトファンドの4人のジェネラル・パートナーからの影響に加えて、シリコンバレーの名門VC、セコイア・キャピタルのジェネラル・パートナー、ダグラス・レオーネ氏の影響を強く受けているという。以下のTechCrunch創業者マーケル・アーリントンとのインタビュー動画は100回以上も見ていて、憧れのキャピタリストだという。実際にアメリカに行って本人にも会ってきたそうだ。

「ジムで走るたびに、ずっとこの講演を聞いています。もうダグの発言が全部そらで言えるぐらいに内容を覚えています。セコイアが運用してきた何千億円というファンドの80〜90%は非営利団体の資金です。大学系の基金で、そのリターンが奨学金になったりして、また大学へ還元される。ダグは、そういう仕事が誇らしいというんですね。そうやって投資家という立場から社会貢献をすることもできると知って、これをやりたいと思ったんです」