ブロックチェーン活用のブラウザ「Brave」、ユーザーがサイトにチップする機能を提供

ブロックチェーンを基盤とするブラウザを制作するBraveは、今年の初めイニシャル・コイン・オファリング(ICO)で3500万ドルを調達した。そのBraveが今回、新しい方法でパブリッシャーに報酬を提供するエコシステムの確立に向け、一歩を踏み出した。

Braveの特徴の1つは、独自の通貨であるBAT(Basic Attention Token)を使い、従来のオンラインパブリッシングにおける資金の流れを大きく変えようとしている点だ。Braveはブラウザを使用するユーザーに対して報酬を与え、同時に目障りな広告を抑制し、より関連性の高い広告を促進する。もう1つのBraveの特徴は、読者がBATを使って、アクセスするウェブサイトのコンテンツ製作者に対し、報酬を提供できるようにすることだ。

今回のBraveの取り組みは、そのような施策だ。Braveは、合計30万BATトークン(約6万ドル相当)を今後30日間でユーザーに提供する。ユーザーは通常Braveを使用することでトークンを獲得する。しかし、今回のプロモーションでは追加のクレジットがユーザーのウォレットに配布され、ユーザーはそのクレジットをパブリッシャーやYouTubeチャンネルの運営者らに直接提供することができる。

Braveは月間100万人のユーザーを持ち、パブリッシャーには1100以上のウェブサイトと600以上のYouTubeチャンネルがあるという。この数字を考慮すると、これはかなり大きな動きと言えよう。YouTubeは先月Braveに加わった

トークンを提供する通知

今後30日間(もしくは割り当てられたトークンの配布が終了するまで)で、ユーザーは最大5ドル相当のBATを獲得し、Braveウォレットに追加される。ウォレット残高は、ウェブサイトで費やした時間に基づき、訪問したウェブサイトに対する「チップ」として使用できる。

デフォルトでは、Braveのユーザーが同社公認のウェブサイトやYouTubeチャンネルを閲覧した時間に基づき、チップを付与する。この設定を変えることも可能で、ユーザーは好きなウェブサイトにチップを多く割り当てることができる。

Brave Paymentsのデフォルト設定では、同社公認のウェブサイトで費やされた時間に基づき、ウォレットが配分される。

Braveはこの施策で、ユーザーのウォレット残高を底上げする。これによりユーザーはコンテンツ制作者により多くチップを提供することができるようになる。コンテンツ製作者は得たBATを法定通貨に換金できる。

「これは、公平な取引に向けてユーザーを支え、有害な中間業者を排除するために必要な多くの段階の1つだ」。Mozilla前CEOで現在BraveのCEOを務めるBrendan Eichは、声明の中でTechCrunchにそう述べた。

「我々は、善意の貢献からユーザー助成金、そして広告収入の大半をユーザーと共有するプライベート広告へと移行しており、外部関係者(Braveを含む)によるターゲット設定や追跡は行わない」とBrendanは付け加えた。

その他多くのICOプロジェクトとは異なり、Braveはブラウザというプロダクトを提供することができている。しかし、プロジェクトの全面的な展開には時間がかかるだろう。支払いのオプションやYouTubeは2ヶ月前に追加されたばかりだ。だがBraveは、トークンの販売を通して資金調達を行った多くのプロジェクトよりは進んだ段階にある。

ICOに先立ち、Braveは通常のベンチャーキャピタルからの投資により600万ドルを調達している。

 

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(翻訳:Keitaro Imoto / LinkedIn / Facebook

Bitcoin、初の2000ドル台に――流通総額329億ドル

世界最大の暗号通貨、bitcoinが単位あたり2000ドルを記録した。 これはCoinbaseやKrakenなどいくつかの大規模な交換所を通じての記録だ。この価格をベースに流通しているbitcoinの総額を計算すると、329.2億ドルとなる。

Coindeskのグラフでも明らかなように、今年に入ってbitcoinは強い上げ調子だった。

Bitcoinが1000ドル台を最初に付けたのははるか以前、2013年だった。しかしあれこれの事情――当時最大のbitcoin交換所だったMount Goxの破綻などなど―により価格は低迷した。しかし金融機関がbitcoinやブロックチェーン・テクノロジーを試験的に採用したこと、中国で電子通貨に対する規制が実施されて状況が安定したこと、などにより、bitcoin価格は昨年末に1000ドル台に復帰した。2017年に入ると価格はさらに一本調子に上がった。

われわれがbitcoinとethereumが史上最高値を付けたことを書いたのは4月末だったが、その時点では1343ドルだった。たった3週間でbitcoinの価格50%もアップしたわけだ。先週だけでも価格は12%アップした。

しかし価格を上げている暗号通貨はbitcoinだけではない。有力金融機関向け決済プロトコルとなることを目指している中央集権的通貨、Rippleも1ヶ月で10倍の値上がりで今やbitcoinに次いで市場価値(流通総額)2番目の暗号通貨となっている。

同様にデベロッパー向けブロックチェーン・ベースの通貨プラットフォーム、ethereumも1コインあたり130ドルで市場総額も120億ドルに近い。先月の値上がりは2倍以上だった。

このためbitcoinはもはや市場総額の大半を占めていない。現在のbitcoinは市場総額の47%を占めている。数ヶ月以前は常に80%前後だった。

では他の暗号通貨がbitcoin以上に好調であった理由は何だろうか? 。bitcoinにはスケール拡大に問題があったという意見もある。bitcoinは急速にスケールを拡大したため取引の確認に遅延が生じた。この問題を避けるため高額の手数料を支払って小規模な取引所を利用するユーザーも出た。SegWitやBitcoin Unlimitedが提唱するテクノロジーを用いればこの問題を避けられるはずだったが、bitcoinのコードベースを事実上支配している有力なマイナー(採掘者)間で新しいソリューションを採用することに関してコンセンサスが得られなかった。【略】

2000ドルという値をつけたbitcoinは海図のない海に入ったといえる。一部の専門家は真の価値は1万ドル(かそれ以上)だと主張している。この価格を実現するにはbitcoinコミュニティーはスケール拡張に伴う問題を解決する必要があるだろう。そうなれば投資家もbitcoinのインフラはスケール拡大に対応できると納得するに違いない。

画像: Mike Lewinski/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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〔日本版〕”bitcoin”の表記には諸説あるが、原文記事は文頭あるいは大文字表記の団体以外、一律小文字表記なので日本語版もこれに従った。

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Blockchain―昨年は「幻滅の谷間」に落ちたが2017年の展望は明るい

Bitcoin

編集部:この記事はCrunch Networkのメンバー、Peter Smithの執筆。SmithはBlockchainのCEO、共同ファウンダー。以前の記事は How bitcoin protects against geopolitical risk

2017年のデジタル資産、またそれを支えるブロックチェーン・テクノロジーの展望は?

これは重要な質問だ。ことにフィンテック・ビジネスにとっては最近気がかりなニュースがあった。Goldman SachsとSantanderがR3 CEVを脱退し、 ブロックチェーンををプロトコロルとして採用する唯一の現実的デジタル通貨であるbitcoinは終わったのではないかという観測が流れた。

懐疑論者は正しいのか? われわれが知るようなデジタル通貨は本当に終わりなのか?

エコシステムになにがしかの影響はあるだろう。だが答えははっきりとノーだ。

以下のことを考える必要がある。ポンドは安全な決済通貨の一つと思われていたが、今年始めに起きたBrexit(イギリスのEU離脱)は、一夜にしてポンドの下落を招いた。この時期にbitcoinの価値は急増した。アメリカの大統領選直後、株価は一時急落したが、bitcoinはアップした。

これは偶然の一致だろうか? 私にはそうは考えられない。 これらの事象は 安全でボーダーレスで手続きが簡単なデジタル資産への要求が非常に強いことを自ずから物語っている。このようなデジタル資産は国や中央銀行のような中心による統制を受けない。金融政策、資本政策からも自由だ。その結果グローバル・リスクからの避難場所として最適だ。

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さらに重要な点はデジタル資産は現代、つまりデジタル情報が重要となった時代にこの上なく適合する。デジタル資産を可能にすyるブロックチェーン・テクノロジーは現行の金融システムを根底から揺るがす可能性がある。それはもっと透明性を高め、効率化され、誰にも利用できるものにならなければいけない。

この1年を振り返ると、第1四半期はblockchainをベースとするスタートアップへの投資の総額は10億ドルという巨額となった。しかしこの投資の勢いは後退した。

2016年の1月から9月まで、, blockchainスタートアップは4億2900万ドル92回の株式発行によって調達した。これを2015年の同期と比較すると件数で16%、金額で7%、それぞれマイナスとなっている。こうした低調さは、すでに市場に影響を与えている。たとえば、先週、Circleは同社のアプリ内でのbitcoinの売買から撤退した。

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これらはつまり「終わりの始まり」なのだろうか?

そうではない。こういう現象は画期的な新しいテクノロジーでは常に予期される。ことにそのテクノロジーが金融システムのような死活的に重要な分野を根本的に変革する可能性があるならなおさらだ。非常に有名になったGartnerのハイプ・サイクルの図で言えば、bitcoinは昨年「過度な期待」のピーク期を通り過ぎたところだといえる。Gartnerによればこの時期には「多数の成功事例が報じられるが、多くの失敗事例もある。この段階で一部の企業は行動を起こすが、静観している企業も多い」。

こうしてblockchainビジネスは「幻滅の谷間」の時期に入った。この時期は「興味が失われる」ことが特徴だとされる。 実験や導入が結果を出せないことが続くからだ。「この時期にこの段階で、ベンダーの多くは失敗して市場から退出する。生き残ったベンダーが製品を改善し、早期採用企業がそれに満足を示した場合にのみ投資が継続される」とされる。生き残った企業には逆に投資が集中することになり、本格的普及期に向かって進む道が開かれる。

これが私の見ている現状だが、来るべき2017年には市場にも変化が起きると予想している。

Gartnerのハイプ・サイクル理論によれば、一部の企業は段階的な改良を目指すが、一部の企業はすべてを自分でゼロから作らず、パートナーと提携するなどの戦略的な行動に出る。一部の企業は燃え尽きる。

しかしラディカルなイノベーションは現状を段階的な改良することによってもたらされることはない。本当のイノベーションはグローバル化という現代の状況に適合したまったく新しいシステムの構築を必要としている。blockchainに関していえば、2017年、またその後に来るのがこの時期だと私は考えている。

画像: Day Donaldson/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

東京銀行などから投資を受けたCoinbaseがシンガポールに次いで日本進出をねらう

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世界最大のbitcoin企業のひとつであるCoinbaseが、東京銀行やTwitterの日本進出を助けた企業など日本の一連の投資家たちから資金を獲得し、同社の市場としての日本にも焦点を定めた。

アメリカの企業であるCoinbaseは、 Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ(BTMU)とのパートナーシップを発表し、“その長期的な国際展開努力を支援していく”ことになった。つまり同社から見れば、サービスを日本に拡張する、という意味だ。Coinbaseはさらに、BTMU, Mitsubishi UFJ Capital(MUCAP), およびSozo Venturesからの投資を確保したことを開示した。Sozoはアメリカと日本にまたがるファンドで、TwitterやLinkedInにも投資している。

Coinbaseはbitcoinを買い入れるための消費者ウォレットサービスと、それを費消するための多様な商業者パートナーを提供しているが、同時にまた、機関投資家たちのためのプラットホームも運用している。これまで同社は投資家たちから1億ドル以上を調達しており、もっとも最近では2015年1月の、DFJがリードした7500万ドルあまりのラウンドがある。Reutersの記事によると、日本からの投資は1050万ドルだ。

サンフランシスコに本社のある同社は昨年、アジアの最初の拠点としてシンガポールに進出したが、アジア最初の取引所は日本に開く。シンガポールでの開設は、当局の認可を要するからだ。

“日本ではまだデジタル通貨の取引所サービスを提供していないが、弊社は国際展開の継続にコミットしており、BTMUとの協力のもとに、アジアとグローバルの主要市場を強力にサポートしていきたい”、とCoinbaseは声明文で言っている。

日本は2年前の、自爆したが窃盗や詐欺の噂もあるMt. Goxの一件で、bitcoinの世界で派手に有名になってしまったが、今ではBitflyer, Kraken, Quoine, Coincheckなど複数の取引所がある。Mt. Goxのメルトダウンに対応して日本は、bitcoinを監督するための新しい法律を今年成立させた。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Mt. Goxの管財人が失われたbitcoinに対する請求の調査を終了…結果発表はもうすぐ

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bitcoin取引所Mt. Gox(マウント・ゴックス)が破綻してから2年経つが、元ユーザーの一部はやっと、彼らのbitcoinを取り戻せるかもしれない。Mt. Goxの調査で東京の裁判所が指定した管財人が、失われたbitcoinに関するすべての請求を、ようやく調べ終えた。この調査では、Krakenが管財人に協力した。

Mt. Goxが2014年に閉鎖したとき、多くのユーザーがまだbitcoinをこのプラットホーム上に保有していた。Mt. Goxは回復不能のハックに遭ったか、または単純に、CEOがきわめて怠慢な人物だった。数百万ドル相当のbitcoinが、消えてしまった。

その後同社は破産を申請し、ユーザーが債権を主張するためのページを立ち上げた。債権請求の期日は2015年7月とされた。そして管財人は、24750件の請求の正当性を監査した。

請求の合計は2.4兆ドルに達したが、その中には$2.39兆ドルの請求が1件ある。全体としてMt. Goxは、91,185,435ドル相当のbitcoinを保有していた(現在価格451ドルで換算)。

Mt. GoxのWebサイトでユーザーはもうすぐ、自分の請求のすべてまたは一部が返ってくるか否かを、調べることができる。ただしその調査は、プライバシーとセキュリティ上の理由から、Mt. Goxのウォレットのアドレスを公表しない。

以上はとにかくすばらしいニュースだが、安心するのはまだ早い。Mt. Goxの元ユーザーが資産を取り戻したという報道があるまでは、まだやるべきことが残っているのだ。でも、日本の裁判所がギブアップしなかったのは、偉いね。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Bitcoinの約束は無に帰したのか?

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[筆者: Vivek Wadhwa](学者で起業家で著作家、Stanford, Duke, Singularity Universityなどで教える)

ついこないだまで、ベンチャーキャピタリストたちは、Bitcoinが世界の通貨システムを変え、政府が貨幣取引を監督することはできなくなる、と語っていた。しかし今や、この暗号通貨は、生き残るために頑張っているようだ。

新しい現実が、1月14日に明らかになった。その日、影響力の大きいBitcoinデベロッパMike Hearnが、この暗号通貨は失敗である、と宣言し、自分のBitcoinの全量を売却したことを明かした。そのニュースのあった日一日でBitcoinの価格は10%下がり、それによりお金を失った人にとっては、悲しい結果となった。

Bitcoinには大きなポテンシャルがあったが、今や修復不能のダメージを蒙り、何かそれに代わるものが切に望まれている。

今日の通貨と取引システムの多くが、不透明で非効率的で高価であることは、今なお事実だ。

例として、NASDAQを取り上げてみよう。それは、世界でもっとも技術的に進んでいる株式市場のひとつだ。しかしそれでも、たとえばFacebookの株をNASDAQで売り買いすると、その取引が最終的に成立するまで数日待たされる。これは、とうてい受け入れがたい。数ミリ秒で終わってほしい。

ヴェネズエラでは、スーパーマーケットで何かを買いたい市民はまる一日列に並ばなければならない。ハイパーインフレのため、ポケットにある紙の通貨の価値が日に日に下がっているからだ。

そこでは出稼ぎ労働者がメキシコやインドやアフリカの家族に送金するとき、料金として送金金額の5〜12%を海外送金業者に取られる。合衆国でさえ、決済企業やクレジットカード企業は1〜2.5%の手数料を取る。これは経済の足かせだ。

Bitcoinはこれを変えようとしたが、生まれたときから深刻な欠陥があった。それは、規制の外にあり、匿名性を提供したため、急速にドラッグディーラーやアナーキストたちの避難所になった。そして、Bitcoinの大半を、その普及活動を始めた小さなグループが保有していたため、ポンジー(Ponzi scheme)と比較された

その上に構築されている取引所にも、深刻なセキュリティの脆弱性があった。そしてまた、Bitcoinに夢中になったVCたちがいた。

彼らの一部は大量のBitcoinを買い入れ、モバイルバンキングから国境のない瞬間的な貨幣転送(送金)に至るまでの、ありとあらゆる金融イノベーションの基礎となる強力なディスラプションだ、と大言壮語した。彼らはBitcoinスタートアップにも数百万ドルを注ぎ込み、さらに大きな富を刈り入れることを期待した。

しかしBitcoinに、そんな大舞台は無理だった。Hearnの批判が、その悪夢的な現実をむき出しにした。それは、長い、ぞっとするような、否定性のリストだ。

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中国のBitcoinマイナーたちが、通貨創造能力の50%以上を占め、万里の火城(Great Firewall of China, インターネットの国家検閲)越しにBitcoinエコシステムのそのほかの部分に結びついている。Hearnの説明によると、それは粗悪なホテルのWi-Fi接続と同じだから、システム全体を遅くする。それはまた、グローバルな通貨に対する戦略的な優位性を“人民の軍隊”(People’s Army)に与える。

Bitcoinの分散ネットワークは毎秒ほんのひと握りのトランザクションしか処理できない。そのため、予測できないトランザクション決定時間やそのほかの問題が起こり、ユーザの、貨幣システムの一員でありたいという意欲が失せる。そのほかの問題とはたとえば、ピーク時にはBitcoinの手数料がクレッジットカードのそれを上回ることも、ありえることだ。

さらに、まるで傷口に塩を塗るように、Bitcoinのコミュニティは内戦をやってるように見える。そのメンバーたちは議論を検閲し、互いのサーバーを攻撃してきた。Bitcoinのコードベースをコントロールしている5人のコアデベロッパによる小さな委員会が星室裁判所(Star Chamber, 独裁的恣意的司法機関)となり、Bitcoinの未来をガイドしている。

これが、VCの評判…とお財布…に対する深刻な打撃だった。しかしそれでも、彼らの一部は今なお、どこまでもBitcoinを擁護している。

今は、現在のBitcoinを廃棄する必要があり、Bitcoinを支えている技術の背後にあるイノベーション、すなわちブロックチェーンを有効利用するのだ、と認めるべき時だ。

ブロックチェーンは、トランザクションの透明な台帳であり、世界中のコンピュータが並列的にホストし、それをベースに、デジタル通貨や仮想銀行を作ることができる。

正しく実装されればそれは、現在グローバルな金融システムが使っているものよりもベターな、トランザクションと証明のモデルであることが実証されるだろう、と私は信じている。金融取引だけでなく、投票や公的登記・登録、芸術作品の真正証明、不動産の権利移転、などにも利用できる。

最初、Bitcoinは高潔な実験だった。今、それは騒乱だ。

Bitcoinの失敗から私たちは、デジタルコミュニティはこのように運用されてはならない、という事例を学んだ。台帳システムがハイジャックされうることを、知った。そして、無駄な浪費のようなマイニングシステムも見た。そこではギガワット時の電力が消費され、中国に巨大なサーバーファームをいくつも作り出し、それらはただひたすら、Bitcoinを“マインする”ためにだけ数値演算をしていた。

私たちは、Linux Foundationのような、成功しているオープンソーステクノロジのプロジェクトから学ぶ必要がある。それが栄えている大きな理由は、小さなグループが気楽に管理できないほど大きく育った、あらゆる種類のオープンソースプロジェクトを統轄する中立的な機関としての価値が、実証されたことだ。また私たちは、ブロックチェーンのさまざまな側面を再考する必要がある。HearnとBitcoin支持者たちが提案していることにならって。

もうひとつ心にとめておくべきは、一部のVCたちをBitcoin狂にしたものは何だったか、ということ。それは、純粋に、貪欲だ。私から見ると、Bitcoinの失敗のいちばん明らかな理由がそれだ。公平な競争の場と、より効率的なトランザクションシステムとして意図されたBitcoinは、お金のプールをめぐる複数の利益集団による抗争へと堕落した。

最初、Bitcoinは高潔な実験だった。今、それは騒乱だ。今や、もっと理性的で、透明で、堅牢で、説明責任のある統轄システムを築き、誰にとっても豊かな、未来へ向かう道をひらいていくべき時だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)。

PayPalがbitcoin起業家を取締役会に加えて貨幣の未来に注力

SAN FRANCISCO, CA - SEPTEMBER 21:  Xapo CEO Wences Casares speaks onstage during day one of TechCrunch Disrupt SF 2015 at Pier 70 on September 21, 2015 in San Francisco, California.  (Photo by Steve Jennings/Getty Images for TechCrunch) *** Local Caption *** Wences Casares

PayPalは、フィンテック界のベテランでbitcoin起業家のWences Casaresを取締役会に加え、同社の貨幣と通貨の未来へ向かう姿勢を顕著に明らかにした。

アルゼンチン出身のCasaresは、今日までの41年で多くの経験を積んでいる。彼は現在、XapoのCEOおよびファウンダで、そのbitcoin決済スタートアップはこれまで4000万ドルを調達しているが、過去の彼のベンチャー企業にはデジタルウォレット企業Lemon(2014年にLifrLockが4260万ドルで買収)、アルゼンチン初のISP、ネット上の証券会社Patagon(スペインの銀行Banco Santanderが7億5000万ドルで買収)、ニューヨークのWanako Games、などがある。

明らかに金融テクノロジの先駆者であるCasaresは、今では、最近の一連のbitcoin開拓努力でいちばんよく知られており、PayPalが取締役会の九人目のメンバーとして彼を迎えたのもそのためだ。

PayPalは2014年に、bitcoinをプッシュする大きな動きをさまざまな形で見せた。たとえば将来性のあるbitcoin企業を見つけて買収し、また、同社の世界的なビジネスにとって新たな機会を開きうる、代替決済技術に対する注力と認識を高めた。

PayPalの社長でCEOのDan Schulmanは声明文で次のように述べている: “私もWencesを弊社の取締役会に歓迎するPayPalの役員とPayPalの全チームの一員だ。Wencesの、商業の未来に対する独特な見方は、全世界の人びとのために貨幣の管理と動きを変容させようとするPayPalのビジョンと理想的に整合している”。

一方Casares自身は、“貨幣の変容を世界的な規模で推進することに専念している、代表的なグローバル企業の取締役会でお役に立てることは光栄である。PayPalの取締役会および首脳陣と協働して、彼らの強力なビジョンの実現努力の継続にご奉仕していくことが楽しみである”、と語っている。

bitcoinは今でも、デジタルのゴールドラッシュ2.0として無視している人も多いかもしれない。本誌もそのことを、過去に何度も取り上げてきた。しかし、暗号通過を支える技術そのものは、未来の大きな可能性を秘めている。まず第一に、それは国際的な貨幣転送の苦痛をやわらげる。“bitcoin”は、その名前が人びとを遠ざけるかもしれないが、実際に取引に利用している人たちは、非常に低い料金など、ブロックチェーン技術の利点を利用できるし、その際、そこにbitcoinが関わっていることを知らない場合もありえる。オンライン決済の元祖で、創業時には真のディスラプターだったPayPalが、これらの新し可能性を積極的に迎え入れようとしていることは、とてもエキサイティングだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)。

ブロックチェーンをどう言い換えると人びとは理解するか?

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ブロックチェーン(blockchain)は、界隈の人びとにとって分かりづらい技術だ。そこらのコンピュータおたくたちでも、相当レベルの高い人でないと無理。ブロックチェーンをベースとするスタートアップにとっては、まずこの、ふつうの人にとって分かりづらい、という技術の特性が障害になる。

そこで本誌主催TechCrunch Disrupt London 2015は、ブロックチェーンのエキスパートたちに、それをもっと分かりやすい言葉で言い換える試みに、挑戦してもらった。

ブロックチェーンとBitcoinに投資しているPantera CapitalのパートナーSteve Waterhouseのは、単語が一つだけで、いちばんコンパクト、しかも一見、分かりやすそうだ: ‘分散化(decentralized)’。

独立系のブロックチェーンプラットホームEthereumのファウンダVitalik Buterinは、ちょっと気取って: ‘crypto 2.0’。cryptoはふつうに暗号の意味だから、ブロックチェーンほど技術用語っぽくはないけどね。

Blockstreamの協同ファウンダでCEOのAustin Hillは、“マーケティングのお遊びだ”と言ってこのパネルそのものに反対した。しかし、技術を多くの人びとに分かりやすくするためには、マーケティング的努力こそが必要だ。ブロックチェーンベースの生命保険や、今の銀行よりも安全な分散化銀行を一般消費者が理解納得するためには、まずそのための努力が必要。なお、Blockstreamはサイドチェーン(sidechains)というものを作っている。それは同社の言葉を借りれば、“互いに相互運用性のある並列ブロックチェーン”だ。

結局Hillが提案したのは、“分散化台帳技術(distributed ledger technology)”と“プログラマブルな信用のインフラストラクチャ(programmable trust infrastructure)”だ。ブロックチェーンよりもさらに難解になったようだが。

パネルの最初の方の雑談で彼は、ブロックチェーンは“大規模な分散化信用マシン”だ、と言った。こっちの方が、ましだと思うけどね。

ブロックチェーンを一般消費者向けにマーケティングするためには、10分間のブレーンストーミングを一回やったぐらいでは、名案は生まれない、ということ。

“ブロックチェーンについて考えるための一般的なアプローチは、それをプログラマブルな信用*のインフラストラクチャととらえることだ”、とHillは述べる。“信用をルールやコンセプトでプログラムできることが、重要な利点であり、それによってシステムのリスクを取り除けるのだ”。〔*: “信用”については、この本誌日本語記事などを。プログラム自身が信用を実装していることに比べると、国や大銀行に対する人びとの信用の方が、むしろ物理的な根拠も保証もなく、あやうい。 〕

“ブロックチェーンはリアルタイムの先験的な監査の機構(==信用の実装)として働く。それを長期的な視点で見ると、ほんとにすごいということが分かる”。

現在の監査の方式は、たとえばスポットチェックというものを行って、それらが事業全体の財務の過程を表している、と期待する。しかしブロックチェーンなら、それ自身に継続的連続的な追跡可能性(トレーサビリティー)がある、とHillは言う。そこで理論的には、スポットチェックで財務の不正を見抜けなかった場合には、別の検死的監査をしなければならない(Enronの場合のように)が、ブロックチェーンではその必要がない。監査は、ユーザがそれを利用するたびに行われるからだ。

ブロックチェーンの将来性を示すアイデアとしてHillが挙げるのが、P2P経済のための取引保険(transactional insurance)だ。

“今やあらゆる業界、あらゆる産業に、新しいタイプの新進企業が続々生まれている。先日保険業界で見たのは、P2P経済のための取引保険をやろう、という企業だった。たとえば、ある人が、週に2日Uberのドライバーをやり、週末にはAirbnbの貸主になる、という場合、そういうばらばらなユースケースをどうやって保険でカバーするのか? そこでその新進企業は、ブロックチェーンベースの保険市場というものを、作ろうとしている。すばらしいよね。ブロックチェーンの、斬新でエキサイティングなユースケースだから”、とHillは語る。

EthereumのButerin(前出)は、Ethereumのネットワークでも将来性のある保険業プロジェクトが進行中だ、と言った。たとえばそれは、フライトの遅れに対する保険だ。

“その場合おもしろいのは、暗号化によってWebページのセキュリティを確保し、そこから取り出したデータを実際に直接、スマートコントラクト*へプッシュする、という実用技術やサービスがすでにあることだ。ブロックチェーンによる分散化保険市場も、そんな技術の応用にすぎない”、と彼は言う。〔*: スマートコントラクトについては、英語Wikipedia本誌日本語記事などを。従来のコントラクトのように国など第三者による監査監督規制を要さず、コントラクト自身に(プログラミングによる)厳しい自己監査機能があるのが、スマートコントラクト。不正行為があり得ない。〕

Buterinが挙げたもうひとつのエキサイティングな事例が、IoTへのブロックチェーンの統合だ。ブロックチェーンの自己監査能力を利用して、物理的なオブジェクト(物)の所有権やレンタル等を支え、追跡するのだ。

“たとえば、完全に自動化された自転車レンタルシステムなら、ブロックチェーンによる暗号化決済技術で完全に実現可能だ。そういうものは、いったん立ち上げたら、その後は完全に自律的に動いていける”、とButerinは語る。

“そのほか、いろんなものがブロックチェーンで自動的自律的に不正なく管理運用できるから、応用例はあらゆる業界/産業にわたって無限にある。そう考えると、ぞくぞくしてくるよね”、と彼は付言した。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)。

coincheckが国際間の不動産売買にもビットコイン決済を提供開始

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ビットコインの購入サービスcoincheckを運営するレジュプレスは、アジアの富裕層向けに不動産販売事業を展開する株式会社世界と業務提携し、ビットコインを通じた不動産販売を実施すると本日発表した。また、販売の第一弾として、香港の投資家が熱海のリゾートマンションの一室を購入したことを明らかにした。

レジュプレスは、現在ビットコイン取引所coincheck exchangeとビットコイン決済サービスcoincheck paymentを運営している。レジュプレスのCOOを務める大塚雄介氏に今回の業務提携について話を聞いた。株式会社世界は、台湾や中国の投資家向けに日本の不動産情報の発信や不動産販売を行っている会社だという。2014年における同社の販売実績は10億円に上り、今年はさらに実績を伸ばす見通しだそうだ。しかし、世界は国際間の不動産売買には時間がかかるという問題を抱えていたという。海外の投資家を日本の不動産の内見にアテンドし、投資家がその場で購入を決めたとしても、決済をすぐに行うことはできない。海外送金には1週間近くかかる場合もあり、投資家が日本を訪れることの多い週末には銀行が営業していないことも多い。着金が確認できなければ、不動産の権利を渡すことができないため取引が滞る。世界には取引完了までのスピードを短縮するためにビットコイン決済を使用できないかという投資家からの問い合わせが多くあったという。世界はビットコイン決済サービスを展開するcoincheckを知り、協力できないかと話をしたところから今回の業務提携に至ったと大塚氏は説明する。

今回の提携に先駆け、12月6日にビットコイン決済で香港の投資家が熱海にリゾートマンションの一室を購入したという。coincheckを用いた不動産売買のスキームは次の通りだ。投資家は物件価格分のビットコインを購入し、世界のcoincheckのビットコインウォレットに送金する。振り込まれたビットコインはリアルタイムで日本円に換金され、coincheckは最短翌営業日に売上を世界の銀行口座へと送金する。ビットコイン決済を用いると、海外送金が最短で翌日には完了する。また海外送金の手数料は通常3000円ほどかかるが、coincheckならビットコインのブロックチェーンを更新するために必要な0.0002BTC(約9円)とウォレットから銀行口座に振替えるための300円の手数料ですむ。

不動産に限らずcoincheckにはビットコインを海外送金に利用したいというユーザーからの問い合わせが増えていると大塚氏は言う。その背景に、海外送金は時間がかかり手数料が高額なこと、送金の進捗が確認できないこと、そして為替レートの変動を受けやすいという問題があると大塚氏は指摘する。ビットコインなら取引はリアルタイムで着金もすぐに確認でき、そのような問題をほぼ解消できるという。また、ビットコイン決済を導入する店舗も広まっていると大塚氏は言う。特に海外からの観光客の要望を受けることの多い、北海道や京都、鹿児島でビットコイン決済を導入する店舗が増え、11月時点でcoincheckを導入するサービスは813社になったという。店舗側としては決済が素早く確実であることに加え、アプリをダウンロードしてアカウントを開設するだけと導入方法が簡単であること、そして基本料がなく、決済手数料も1%とクレジットカードより低コストで導入可能なことがcoincheckのビットコイン決済が支持される理由だと大塚氏は話す。「骨董品やアート作品の高額商品の売買を行っているアートギャラリーからの問い合わせもあり、国際間の決済手段としてビットコインの注目が高まっています」と大塚氏は言う。

この数ヶ月でcoincheckの月間取引高は急伸している。8月の取引高は3億円ほどだったが、11月には30億円を突破した。ビットコインは決済手段の他に株やFXのような金融商品として注目が集まっているのも取引高が急伸した理由の一つであると大塚氏は説明する。取引額が100万円以上となるユーザーが全体の23%を占め、ビットコイントレーダーが増えているのだそうだ。12月7日からはレバレッジ取引と1万円キャッシュバックキャンペーンを始め、そのようなユーザーの要望にも積極的に対応する考えだ。

世界初のBitcoinだけの銀行NextBankが、規制と偏見の少ないバヌアツで登記、将来はbitcoin投資銀行も目指す

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Dimitry Voloshinskiyと彼のチームは、従来型の銀行に恐ろしい災いをもたらすかもしれない。彼が創業したNextBankは、初めての、bitcoinによる、bitcoinのための、銀行だ。

これまで自己資金とエンジェルたちから計95万ドルを獲得した同社は、さらなる資金を求めている。

でも、そもそも、ビットコイン銀行って何だ? そう、まず何よりも、bitcoin人種が利用する銀行だ。

Voloshinskiyは説明する: “完全にオンラインだけの銀行だ。多くの場合、ネットを使ってリモートアカウントを開く。利用者はbitcoinのコミュニティだ。bitcoinを扱う企業やトレーダーやbitcoinに関して前向きな起業家も、大歓迎だ。NextBankは、世界で初めてのbitcoinフレンドリーな銀行だ”。

といってもその中身は、これまでの銀行とまったく違うらしい。

同行のもう一人の経営者Celine Nevesは、Vanuatu(バヌアツ)に登記した銀行のCEOだ。Voloshinskiyによると、Vanuatuは、南太平洋の海洋島嶼国で、国の金融行政が合理的であるなど、銀行経営にとって利点があり、また世界から肯定的に受け入れられている。ということは、伝統的銀行業が巨大に栄える国々のように、bitcoinに対する向かい風がきつくない、ということでもある。既存の先進諸国等では、暗号通貨をベースとするフィンテックスタートアップが育ちにくいのだ。

“Vanuatuは、ブラックリストに載ってるオフショアセンターではない。40ほどの司法圈を調べてみたが、その中ではVanuatuがいちばん、、未来の銀行にとって理想的だ”、と彼は語る。

同行は、リモートでアカウントを作りやすくし、国際的なデビットカードが使えるようにする。また、現在のそのほかの司法圈にあるような、bitcoinに対する規制の壁がないようにする。

“今の銀行は嫌いだよ。彼らはもうすぐ死ぬと思うね”、とVoloshinskiyは語る。彼は今後、bitcoinベースのフィンテックビジネスを育成し、bitcoinに対して前向きなファンを支援し、多くのbitcoin保有者たちを幸福にしたい、と考えている。2016年には最初のプロダクトを立ち上げるそうだから、期待しよう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)。

次の革命をもたらすのはブロックチェーンかもしれない

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編集部記Florian Graillotは、Crunch Networkのコントリビューターである。Florian GraillotはAXA Strategic VenturesのVC投資家である。

決済取引を行うには、まず送金者が送付しようとしている資金を所有しているかを確認する必要があり、次に取引が重複して行われないように保証しなければならない。

ブロックチェーンでは、ネットワークを介して行われる取引の全ての情報をブロックに保存している。そのため、取引される資産と所有権の両方を確認することができる。

取引を重複して行わないために、このテクノロジーは取引のプロセスの合意を得るために複数のノードをリクエストしている。この確認を人為的に達成するのは困難だ。マイナーはコンピューターでの演算処理を利用し、複雑な暗号課題(Proof of Work)を解いている。課題を解読する度に、ブロックがチェーンに追加され、それによりブロックに含まれる取引が承認される。新しくブロックを追加してアップデートされたチェーンは、他のノードと共有される新しい参照元となる。このプロセスは暗号技術を利用し、取引の重複を防ぐ。

新しく発行したブロックは前のブロックと接続しているため、以前の取引に戻ることはほぼ不可能となる。このテクノロジーは取引を認証する過程の中で発生する全ての問題を解決するため、取引を行うのにサードパーティーに依存する必要がなくなる。ネットワークで既存の中央機関を置き換えることができるのだ。

現在、ブロックチェーンを介した資産の取引はほぼリアルタイムで行われる。台帳に新しいブロックを追加するには、およそ10分かかる。時間の経過とコンピューター処理が増大するほど、解かなければならない数学課題の複雑性も増す。一つの取引を処理するごとにマイナーは0.0001ビットコイン(BTC)を得ていて、取引手数料はこれまでとは比較にならないほど低くなっている。これは市場を塗り替えるだろう。

ビットコインの先へ。他のユースケースの探求

ご存知のようにブロックチェーンを活用した最初の用途はビットコインで、それが最も有名なものだ。ビットコインのファウンダーは決済取引を行うため、そして仮想通貨が抱えていた多くの問題を解決するためにこの技術を開発した。中央銀行が貨幣を発行し、銀行が資産の取引を承認するのではなく、ビットコインはブロックチェーンを活用する。例えばAbraは、このテクノロジーを活用し国際間送金を簡単にする。彼らはビットコインで海外送金市場を刷新しようとしているのだ。

このテクノロジーが広く普及して成功を得るためには、テクノロジーの安定性が重要な課題となる。

決済に関連する分野を超え、ブロックチェーンを活用する他の方法を模索している企業もある。スタートアップ各社はその技術で他の業界も刷新しようと取り組んでいる。取引にサードパーティーが関連する場合、それをブロックチェーンに置き換えることができるからだ。

Overstockは、ブロックチェーンに基づいたプライベートエクイティの取引プラットフォーム「tØ」を開発した。同じ分野で数ヶ月前、NASDAQがChainとパートナーシップを締結したことを発表している。彼らは、ブロックチェーンで株式取引のあり方を刷新しようと取り組んでいる。

さらに統括的な部分で、Goldman SachsやBarclaysといった金融機関はスタートアップであるR3と組み、ブロックチェーンを使用した新しい市場のフレームワークを構築しようとしている。

いくつかのスタートアップはさらに先に進み、ブロックチェーンを物理的な資産の取引に活用しようと取り組んでいる。例えばBitproofやBlocknotaryは、ブロックチェーンに契約内容を記録することで不動産契約のあり方を刷新しようとしている。公証人の前で家の売却を行うのではなく、契約内容を公的な帳簿に保存するだけで済むようになる。

Coluは、ブロックチェーンを活用して資産をデジタルトークンで管理しようとしている。このトークンはオンラインのサービスや物理的な資産を利用する時に使用するものだ。

ブロックチェーンを知的財産にも適応することもできる。例えば、Verisartはこの分権テクノロジーをアート作品の認証に使用している。彼らは、アート作品の著作権を暗号化し、ブロックチェーンに記録する。ProofOfExistenceも同様に、作成したファイルを公的な台帳に記録し、トラックして管理している。

さらに、ブロックチェーンは個人を認証するのにも使用できる。ShoCardは本人確認に関連する個人情報を暗号化して保存する。インターネット上のスマートな契約に利用することが可能となる。契約条件が合意に達した際には、契約は権限が分散したインフラで処理することができる。IBMは現在、このアプリケーションの開発に取り組んでいる。また、Samsung ADEPTともパートナーシップを締結したことを発表し、ブロックチェーンをモノのインターネットの分野にも適応する可能性を示している。

リスクと脅威

しかしそれらを実現するには、ブロックチェーンのテクノロジーで修正しなければならない箇所がある。まず、ネットワークの容量だ。先に説明したように、ブロックは10分毎に台帳に追加される。ブロックのサイズの限度(1MB)により、ネットワークは毎秒7件(tps)の取引しか処理することがてきない。これは、VISAが処理できる56,000tpsに到底及ばない。

数週間前、ブロックサイズに関連する議論が起き、ブロックチェーンのフォークが誕生した。何名かのマイナーがブロックサイズを8MBに拡大したのだ。ブロックのサイズは2年ごとに倍になる予定だ。この議論を解決するために、Bitcoin XTがネットワークの容量の75%に達した場合、ネットワークは新しいブロックサイズへと移行する。さらに包括的な議論では、大量の取引を少ない取引手数料で行うようなブロックチェーンか、あるいは少ない取引数を高い手数料の割合で行うべきかという議論もある。

「1975年のパーソナル・コンピューター、1993年のインターネット、そして2014年のビットコイン」

— Marc Andreessen

セキュリティーも脅威だ。いくつかのビットコインの取引プラットフォームがハックされ、閉鎖したことに伴い、大量のビットコインが消滅した。これは、今後ブロックチェーンで取引される資産にも起きる可能性がある。

これは、分権したネットワークに管理の必要性という課題を突きつける。このテクノロジーが広く普及して成功を得るためには、テクノロジーの安定性が重要な課題となる。

ビットコインが普及し、ずっとあるのなら、それを支えるブロックチェーンという技術は、それの最も興味深く、革新をもたらす部分であると言える。歴史上初めて、このテクノロジーは中央機関を代替することができるかもしれない。分権したネットワークがサードパーティに取って代わることができるのなら、取引を簡単に、かつコストも抑えることができ、今後、多岐にわたる分野で応用することができるだろう。スタートアップはこのテクノロジーを加速させている。また、著名なVCであるMarc Andreessenでさえ、ブロックチェーンを以前のテクノロジー革命と重ねあわせている。「1975年のパーソナル・コンピューター、1993年のインターネット、そして2014年のビットコイン」。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

Citibank、bitcoinテクノロジーをベースにした独自のデジタル通貨プラットフォームを実験中

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この業界に詳しい人間にとっては驚きではないかもしれないが、CitibankはCitiCoinともいうべき独自のデジタル通貨のプラットフォームを開発し、実験中であることを認めた。International Business Timesによれば、Citigroupが開発したデジタル通貨はbitcoinとそのブロックチェーン・テクノロジーをベースにしたものだという。

この開発自体はさほど難しくない。適当なプログラミング技術があれば、誰でも暗号通貨システムを開発することはできる。しかしCitibankが、たとえR&D部門による実験とはいえ、デジタル通貨に興味を示したという点は将来への期待を抱かせる。

IBTの記事はCitigroupのイノベーション・ラボのKenneth Mooreの次のような発言を引用している。

現在Citi グループ内部では分散ブロックチェーン方式をベースにしたデジタル通貨関連システムの実験が3種類行われている。これらの実験はすべてわれわれのラボの内部で実施されており、まだ現実の金を扱ってはいない。はっきり言っていずれもまだプリプロダクション・レベルのシステムだ。われわれは、厳密にラボの内部でだが、bitcoinのマイニングも行っており、いわばCiticoin’が採掘されている。実験レベルとはいえ、われわれはデジタル通貨テクノロジーにおいても最先端を進んでおり、その利用の可能性を十分に吟味しているところだ。

Mooreは暗号通貨を国際送金に用いたり、グループ内部でマイニングを行いレッジャーを維持するのネットワークを構築するる可能性についても触れた。

Citigroupのような銀行がデジタル通貨の可能性に挑戦するのは賞賛されるべき努力だが―重要なのは銀行は通貨の移動に対するコントロールを無くさないためにそうしているのだという点だ。私は以前の記事で「金融機関は暗号通貨を恐れてはいないが、気にはしている」と書いた。Citigroupについてもそれが実態だろう。ひとたび暗号通貨が金融機関によって公式に採用されることになれば、ただちに規制当局が動き出すだろう。その結果、dogecoin、 bitcoin、citicoins、なんであれ規制のための精査が始まるに違いない。

5月にBitcoinMagazineはCitigroupがbitcoinのような暗号通貨に強い関心を抱いているのは明白だという記事を掲載した。これによればCitigroupは公式文書で「潜在的な利点を考慮すると、デジタル通貨の採用はいずれ不可避だとわれわれは考えている。ただし将来のデジタル通貨がBitcoinのような暗号通貨になるかどうかについてはまだ不明な点が多い」と書いている。

画像:Julia Zakharova/Shutterstock

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ビットコイントレーダー向けのダッシュボード「coincheck tradeview」、レジュプレスが提供

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いつでも決済でき、また手数料もかからないことから、少額決済にも有効だとそのメリットをうたっているビットコイン。しかし日本での利用はまだまだこれからという状況で、現在は投資目的の取引が大半を占めるという。ビットコイン取引所「coincheck exchange」を運営するレジュプレスは6月10日、そんな投資目的のビットコイントレーダー向けのサービス「coincheck tradeview」をリリースした。

coincheck tradeviewでは、FXのオンライントレードにあるようなグラフィカルなUIでユーザーのビットコイン運用をサポートする。

レジュプレスによると、coincheck exchangeの月間取引額1.6億円のうち、8割の取引はトレード目的で運用しているユーザーだという。そしてそのユーザーというのは、入金額でいえば上位5%のユーザーで、それぞれ100万円以上入金しているそうだ。tradeviewはそんな高額取引者向けの機能となる。FXトレーダーに馴染みやすい機能やユーザーインターフェースを採用。ビットコインにこれまで触れたことのない新規ユーザーの獲得にもつなげるとする。

tradeviewの利用は無料だが、利用には一定の条件がある。具体的には以下の条件のいずれかをcoincheck exchangeで満たしている必要があるという。

  • 合計25万円以上の日本円を入金したユーザー
  • 合計20BTC以上のビットコインを入金したユーザー
  • これまでに25万円分以上の取引をしたユーザー

tradeviewではこれまで指値注文(レートを指定しての売買)のみだった取引に加え、成行注文(その時点のレートで売買)にも対応する。将来的には海外ビットコイン取引所の売買情報やチャートのテクニカル分析なども追加する予定だ。

マネタイズに関してだが、coincheckではリリース記念で取引手数料が無料(原稿執筆時点)なこともあり、tradeviewのリリースで取引額が増えても同社の利益には直結しないという(レジュプレス取締役の大塚雄介氏)。それよりもまずはビットコインのマーケットを拡大するということに狙いがあるそうだ。

なお大塚氏は国内におけるビットコインサービスを改善すべく、米国ニューヨークに2週間の視察調査に向かうという。クラウドファンディングのReadyForで支援者を募集中だ。

おめでとう今年のBitcoin Pizza Day!

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毎年5月22日になると、世界中のサイバーおたくたちがBitcoin Pizza Dayを祝う。この日、初期のbitcoinファンでプログラマのLaszlo Hanyeczが、bitcoinsで実際に物を買うことに成功した。彼は10000bitcoin(当時約25ドル相当)で、Papa Johnのピザ(上図)を二つ買った。2010年に彼は、bitcoinのメッセージボードに、こんな投稿をした:

10000bitcoinで二枚のピザを買うよ…たぶん、ラージサイズ二枚だから、翌日まですこし残る。ピザを食べたければ自分で作ってもよいし、電話で近くの宅配のピザを頼んでもよい。でもぼくがやりたいのは、ホテルの食堂で何かを頼むときのように注文した食べ物の代金を、bitcoinで払うことだ。bitcoinでちゃんと食事ができたら、とてもハッピーだ。きみも関心があったら、残りのピザをbitcoinで売ってあげるよ。よろしくね。Laszlo

10000bitcoinは、今なら233万ドル相当だ。

それから数時間後にこのイギリスのbitcoin所有者は、ピザを注文して届けさせた。そのごちそうは、まるで奇跡のように、まる40日続いた。ただしLaszloと彼の子どもたちが大量のピザを食べたのは、ほんの数日だったが、ひとつの伝説がここに生まれた。

Bitcoin Pizza Dayには一部の決済サイトがディスカウントのピザをbitcoin所有者たちに提供する。Snapcardbitcoinで買ったピザ一枚につき5ドルをチャリティして、Bernard & Millie Duker子ども病院の子どもたちにピザを贈る。

Pizza For Coinsでは、パイも買える。この全国的な祝日をどのように祝ってもよいが、でも、今日(こんにち)までのbitcoinの成長と成熟のために奮闘した人たちに敬意を表して、あの、べたべたぬるぬるして、むかむかする匂いの、Papa Johnのガーリックソースを、ピザにどっさりかけよう。あるいは、あの日Hanyeczが買ったのよりもおいしいピザを買おう。Papa Johnのは、ひどいよ。

出典: CryptoCoinsNews

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Mt. Goxでbitcoinを失った顧客たちの再生手続が開始、全額は戻らないが

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昨年派手にぶっ潰れたMt. Goxは、債権者たちが倒産の主張を受け入れ始めていたが、顧客にとっては良いニュースもある。

今日発行された(米国時間4/21)通告は、顧客たちに、Mt. Goxのアカウントでclaims.mtgox.comにログインし、再生手続を行うよう指示している(書類の山が好きな人はオフラインでも申請できる)。

Kraken経由で弁済を請求する、という道もある。この韓国のbitcoin取引所は昨年、Mt. Gox’sの債権者たちから弁済請求の窓口に選ばれた。Krakenは若干の味付けをして、Mt. Gox’sの顧客たちによるここでの取引額100万ドルまでは手数料無料、としている。

どちらの場合も、実際に弁済された額はKraken上の口座に載るから、前もってKrakenのアカウントが必要だ。返済額は1BTCが483ドルとして計算され、それに6%の年利がつく。現在のbitcoinの価格よりも高いが、でも全額が返済されるわけではないから、Reddit上には悲嘆の声がある。

なお、保有bitcoinに関する再生手続の締め切りは5月29日まで、となっているから、あまりのんびりしない方がよろしい。同社の債権者たちは債権の返済に関する決定を今年の9月9日までに行う、としている。

Mt. Goxは(少なくとも)85万BTCを失ったあと、2014年2月にWebサイトを閉鎖し、取引を停止した。それにより生じた未済の債務は約6360万ドルとされる。

この、東京に本社を置く企業は2月に倒産を申請したが、最近の報道では、盗まれたbitcoinのほとんどが2011年から2013年までのあいだに盗まれている。同社がそのコインの蓄積を再生しようとする狂乱の努力に関しては、多くの物語が生まれている。その中には、ボットを利用する自動取引もあった、とか。…しかし、その理由が何であれ、同社の崩壊は決定的となった。

今では、bitcoinも成熟した。Mt. Goxのような一匹狼のビジネスの時代では、もはやない。今日の大手取引所CoinbaseやBitPayなどはVCや著名な機関投資家たちが支えている。彼らはbitcoinを、一風変わった新しいテクノロジではなく、主流的で正当な決済システムとして認め始めている。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

BitcoinのATMサービス、Robocoinで外国送金手数料が5分の1以下に

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送金、特に国外への送金は以前からbitcoinでもっとも人気のある利用方法だった。今回、Robocoinチームがさらに魅力的なキラー・ガジェットを開発した。Romit は自社開発のRobocoin ATM同士で、またはマーチャントのアカウントを利用して送金を行うシステムで、金融機関などによる振込に比べて手数料が圧倒的に安い。

Robocoinは香港、ルーマニア、イタリア、アメリカ(ラスベガスを含む)など世界20箇所にATMを設置している。送金手続きはこの上なく簡単で、ATMに紙幣を挿入し、受取人の電話場号を入力するだけよい。受取人は近くのATMまたはマーチャントで受け取る。

CEOのJordan Kelleyは、「われわれはATMの数を増やすというよりも、Romitシステムを利用するパートナー・マーチャントを増やすことで急速なスケーリングを図りたい。 たとえば、ルーマニアとイタリアの間では年間11億ドルもの送金が行われている。われわれはこの市場で、2015年末までにRomitを利用した送金を受け付ける小売店などを数百店舗パートナーとして獲得する計画だ」と語った。

bitcoinを利用した送金サービスは、フィリピンのRebitなど、世界にいくつも現れている。Robocoinは自らのネットワークに加えて、こうした他のサービスとも提携することでスケーリングに成功できるかもしれない。

Robocoinでは街角の店舗を出来合いのATM代わりに利用することでネットワークの拡大を図っている。手数料は4%で、これは他の送金サービスの手数料が25%かそれ以上にもなるのと比べて5分の1以下だ。またRobocoinは200ドル以下の少額送金も受け付けている。これは銀行口座を持たない外国人労働者が家族に送金する際に特に役立つ機能だろう。

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滑川海彦@Facebook Google+

誰も教えてくれないけれど、これを読めば分かるビットコインの仕組みと可能性

Bitcoin

編集部注この原稿は朝山貴生氏(@takaoasayama)による寄稿である。朝山氏はビットコインと国産暗号通貨のモナーコインを扱う国内向け取引所の「Zaif Exchange」(ザイフ)を2015年3月初旬にオープンしたテックビューロの創業者で代表取締役。暗号通貨関連サービスを開始、運用している立場から書かれた解説記事だという点は留意してほしいのだが、一方で、表層的な理解だけで「胡散臭い」と遠巻きに眺めているだけにするには、暗号通貨やブロックチェーンは、あまりにも重要な技術トレンドだ。以下の原稿を読めばその理由がわかるだろう。ネットに載せるには、かなり長い文章だが、ブックマークしておいて後でじっくり読んでほしい。現在の銀行間の送金システムから説き起こしているので、これまで技術用語の多さにビットコイン入門ができていなかった人でも分かりやすくなっている思う。意見や質問などがあれば、コメント欄に書くか、@jptechcrunch@takaoasayamaまでお知らせいただければと思う。

ビットコインは本当に怪しくて危険なのか?

2014年、日本のメディアでも華々しくデビューを果たしたビットコイン(Bitcoin)。しかしその登場シーンは、ビットコイン取引所Mt.Gox(マウントゴックス)の破綻という最悪のニュース。同社は日本に本社を置くにもかかわらず、当時は世界最大のビットコイン取引所だった。そのMt. Gox社が、約490億円相当ものビットコインを「盗まれた」と宣言し、その事がたちまちメディアを賑わせた。

Mt. Gox事件の真相は闇の中であり、いまだに各国の機関において調査が継続している。しかし、当初からはっきりしている事実はただ一つ。これは単に、ユーザーのビットコインを預かっていた取引所であるMt. Goxが破綻しただけであり、ビットコイン自体には何ら問題がないということだ。しかし、それから1年以上経った今でも、日本のメディアでは依然ビットコインにネガティブなイメージがつきまとう。

ところが、それら「怪しい」、「盗まれてしまう」、「消えてしまう」、「信用できない」といったイメージは全くの誤解だ。むしろビットコインは「取引は全て透明性が高く」、「盗むことは非常に困難」であり、「消したくとも消せない」もの。そしてある意味一般的な通貨や銀行よりも「信用できる」ものなのである。ただし法定通貨に対しての、金よりも激しいとされるその価格変動性(ボラティリティ)を除いては、という条件付きだが。

ビットコイン本来の素晴らしさを証明しようと、ビットコイン擁護派がイメージ回復のためにどれほど躍起しようとも、その利点を説明するためには常に技術的なボキャブラリーが欠かせず、それが更に印象を悪くするという悪循環を生んでいる。中でも、ビットコイン自体が生み出した「暗号通貨(Crypto Currency)」という言葉が示すとおり、その根幹となる「ブロックチェーン技術」を説明するためには「暗号」という言葉が避けて通れない。この、「暗号」という言葉が「怪しい空気」を醸しだし、一般人とビットコインとを隔てる溝をより深くする。

と、以上冒頭の4パラグラフだけでも「意味がわからん!タイトル詐欺ではないか!」と、続きを読むことをためらう方もおられるに違いない。

実際に私自身も、この何年間にも渡って、ビットコインをできるだけ簡単に説明する方法をずっと考えてきては諦めることを繰り返していた。そして今までにも日本語で、「これを読めばわかる」的な記事もいくつも出てきてはいるが、やはり一般的に理解されるようなレベルの内容ではなかった。

どうしても、難解な用語とその説明を避けて通れないのだ。

しかし何年も考え続けてみるもので、突如深夜の入浴時にその説明法に関するアイデアがわき出した。

ロールプレイで理解しやすくなる

その時、私がビットコインを説明する方法として思いついたのが「ロールプレイ」だった。

まずは、あえてビットコインの根幹となる暗号技術についての詳細を端折ることにより、その原理と仕組みを比喩的に理解してもらおうという作戦だ。要するに、一番売りである技術的セールスポイントをまずなかったことにして、概要を理解したあとでそこを埋めるという、ビットコイン推進派としては回り道な啓蒙戦術だ。

しかし技術用語を無視するとしても、「P2Pネットワーク」やら「Proof of Work」(後ほど説明)やらといった、ビットコインをビットコインたるものにする特徴の説明が非常に難しい。そこを架空の「役割」を持ったキャラクターが存在する世界で考えることによって、難しい技術用語が苦手な人にも想像しやすくしようと考えたのだ。

ここから続きを読んで頂ければ、あなたにもビットコインがどういうものなのかを理解して頂けるに違いない。そう願う。

では早速その「ロールプレイ」の世界に行ってみよう。

一般的な銀行とお金の仕組み

実は、全く知識のない人にビットコインを説明する際に、「銀行」や「日本円」といった法定通貨と比較することは逆効果である。

当然、それらの比較自体は有効な手段なのだが、原理を説明せずにそれらの違いを話そうすると「それ、電子マネーみたいなものやん?どこが違うの?」で片付けられてしまうのだ。最悪の場合は「中央管理者がいない? それって信用できるどころか逆に不安やん?」と気まずい雰囲気の中そこで話が終わる。

しかし、今日はあなたが遂にビットコインの原理を理解する日だ。従ってその比較は有効だ。まずは一般的なお金や銀行の世界を、それぞれの役割を担った「ロールプレイ」の世界で見てみよう。

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通常、お金は国=政府(Dくん政府)が発行している。Cくん銀行は、Dくん政府の許可をもらって銀行業を営んでいる。

AさんもBくんも、Cくん銀行に審査を受けて、それに合格した上で「銀行口座」を持っている。

AさんやBくんが預けた現金は、実際に元帳上にはその金額が残高として載ってるが、実はCくん銀行がEさんなどに貸し付けて利息を受け取っている。Cくんはその利息やその他の手数料で生計を立てているのだ。

ある日BくんがAさんに1,000円を振り込んだ(振り替え)。通帳の残高は振込手数料が取られて8,500円に減ったが、その実態は、単にCくんが元帳で「Bくんの残高が1,500円減った」ことと、「Aさんの残高が1,000円増えた」ことを書き込んだだけだ。その差分の500円は、元帳に書き込む手数料としてCくんのものになる。

これが一般的な銀行だが、もしあなたがBくんである場合、ここで起こっていることの全ては日々当たり前に行われている行為であり、一連のお金の流れは「信用するに足りる」話に聞こえるだろう。誰かに1,000円振り込んだら、相手にお金が入って、自分のお金が減る。そして手数料が取られる。引き出せば現金がATMから出てくる。なんて日常的な話なのだろうか。

その当たり前の話が通じるのは、財政が比較的安定した、日本を含む一部の近代国家における銀行の話。世の中には国民が銀行を信用しない国もある。以下では、そのような財政が破綻した国家とその銀行のような、預金リスクが最大である環境を想定して書いてみよう。

あなたの銀行残高は本当に存在するのか?

では、本当にあなた(Bくん)の残高8,500円は銀行に存在しているのか?もしそうでない場合は、誰かが保証してくれるのか?

事実として、銀行に預けられた現金のほとんどはそこにはない。銀行は、なんと預かっている合計金額よりも大きい金額を外に貸し出すことができるのだから。

実際、この銀行という仕組みはあなた(Bくん)が、お金を発行するDくん政府と、銀行を営むCくんを信用しているという前提において成り立っているのだ。

「銀行が信用できなくてどうする?」

そう思われる方も多いだろうが、日本でも1金融機関1預金者あたり、1,000万円までが保護される仕組み(ペイオフ)が導入されていることはご存知だろう。ペイオフ解禁で補償額が制限されてしまったものの、このような仕組みがあるだけでもまだ恵まれている。米国も同様のFRB制度が設けられているが、こんな制度さえない国家も山ほどある。

ようするに、お金を借りているEさん達が一斉にCくん銀行からの借金を踏み倒したり、Cくんがそもそも銀行の経営に失敗した場合、あなた(Bくん)のお金はなくなってしまう可能性があるということだ。

その場合、あなたの通帳に残高データはあっても、銀行にはもうそのお金さえもないのかも知れない。

銀行の残高データは消えてなくならないのか?

次に、違う切り口から極端な例を考えてみよう。

ある日誰かが、Cくんの管理する銀行の元帳に火をつけた。Cくんは念のため、バックアップとして常に3冊同じ記録をつけて、別々の場所に保管していた。しかしそれらもなぜか同時に火を付けられた。

その場合、あなた(Bくん)のお金(残高)はどうなる?

そう。消えてなくなる。記録、すなわち残高のデータが消えてなくなってしまうからだ。

現実世界にあてはめると、「もしあなたがお金を預ける銀行が管理する全サーバーが一斉に爆撃されたらどうなる?」と言ったところだろうか。

現実社会ではまずそんなことが起こる確率は低いし、先進的な銀行では当然のことながらサーバーも複数箇所に分散して管理してている。

ではこんな場合はどうだろう?

本当に銀行は信用できるのか?

Cくん銀行自体が私利私欲のために、あなた(Bくん)の知らないうちに、その残高である8,500円を元帳上でこっそり自分の名義に書き換えた。その場合、あなたの残高は当然消える。Cくんによる、いわゆる業務上横領である。

さすがに、現代の金融機関システムをそんな風にアクセス権限を飛び越えて違法に操作することは難しいが、今日でも銀行員が預金者の金を横領するなどいう古典的な事件はたびたび起こっている。

その場合、損失を銀行がカバーしてあなたの残高に戻すわけだが、人手を介する業務プロセスがゼロとならない限り、そう言った横領事件が世の中からなくなることがない。

あなたも、今までに友達と人生ゲームをプレイしたことがあるならこんな経験があるに違いない。銀行役をしていたプレイヤーが、ずるをして自分の手元のキャッシュをこっそり増やしたり、トイレに行っているプレイヤーのキャッシュを悪戯でくすねる。それを見つけた他のプレイヤーが怒る。あれが現実にも起こりうる言うことだ。

銀行は大丈夫だ。預金なんてなくならない。実は私も以前はそうだろうと考えていた。しかし、15年以上も前のことであるが、突然欧州の某国で、とある銀行に預けている残高をいきなり半分にされた。たった一通の通知を封書で送りつけられるだけで。銀行が破綻して、残高の半分を再建の原資に回すというのだ。当然、その国には日本のペイオフのような制度はなかった。

人が運営して経営している以上、銀行というシステムには必ずこのようなことが起こりうると言うことだ。

では、国なら信用できるのか?

もし、Dくん政府が国の財政政策で失敗したらどうなるだろう?Dくんがお金を発行しまくったらどうなるだろう?預金の消失を免れ、銀行の残高データは変わらずとも、あなた(Bくん)のお金はただの紙切れになるかも知れない。例えば、缶コーヒーが1本1万円になるかもしれない。

「そんなの、金の純度を下げてでもコインを作りまくった、古代ローマ帝国の話じゃあるまいし」と思われるかも知れない。しかしこの21世紀にも、現実として数多くの国が金融危機に陥っている。近年だけでも、ギリシャ、アルゼンチン、キプロス、その他多数。そんなとき、あなたがCくん銀行に詰め寄って残高を現金化しようとしてもシャッターを閉められ、もし一部を現金化できても日々その価値が下がり、紙くず同然になってしまう可能性だってある。

銀行を信用するしない以前に、国もしくはそれが発行する通貨が破綻してしまっては元も子もない。

ちなみに、皮肉なことにそんな財政破綻しているような国々で特にビットコインの利用が激増している。キプロスでは学費をビットコインで払えるし、アルゼンチンではコンビニでペソをビットコインに両替できる。

さて、以上までの、既存の国家やお金、銀行で起こりうる問題をざっとまとめ直すと以下の通りとなる。

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「中央集権」で、誰か人間が運営管理している限り、既存の法定通貨や銀行のシステムではこのような問題が発生する可能性があるというのが事実だ。

さて、私が今日したいのは、日本円や日本の銀行でこんな問題が起こりうるかどうかの議論ではない。繰り返すが、これは金融リスク、預金リスクが最大の環境で実際に起こりうる最悪の問題を「ロールプレイ」した結果のまとめである。

ここまでは、あくまでも既存金融システムに潜んだリスクを理解するための前置き。以上を踏まえた上で、ここからやっとビットコインの仕組みを見てみよう。

ビットコインは単なる電子マネーではなく決済システムだ

まずビットコインは、本当はいわゆる「通貨」ではなく、「電子マネー決済システム」だ。違うことを言う人もいるが、これはビットコインを発明したナカモトサトシの論文タイトルと序章にも書かれている事実だ(これは後ほど紹介)。

ビットコインというのは、何か物理的なものが誰かから誰かに渡っているわけではなく、誰にいくつ発行され、誰から誰にいくら支払われたかのデータを記録する仕組みだ。ところが、その名称だけではなく、単位自体もビットコイン(よくBTCと略される)と呼ばれるから話がややこしくなる。

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よくビットコインは「暗号通貨」と言われるが、それは実際に通貨のように使えるから便宜上そう呼んでいるに過ぎない。そして、お偉い学者さんの間でも、いまだにビットコインが通貨であるかどうかの議論が続いている。

実際あなたが日本で使う電子マネーも、同じ決済システムの一種である。その場合はあなたがチャージすると、現金と等価交換でその金額が残高としてどこかに記録され、コンビニで使えばコンビニにその残高が移行したとして記録される。どこかにEdyやSuicaなんていうコインが置いてあるわけではない。

繰り返しになるが、ビットコインも「Bitcoin」というコインが存在していて、誰かがそれを管理しているなんてわけではない。ビットコインはお金ではなく、決済システムだと言うことをまず覚えておこう。

「ビットコインも現金で買うんじゃないの?」という問いへの答えは「イエス」だが、それはあくまでも勝手に第三者が現在のバリューで売買するサービスを提供しているだけだ。だからビットコインは常時価格が変動する。それに対して一般的な電子マネーは、サービス運営者がその買い取り自体を手数料ビジネスとしている。上のコンビニの例で言えば、客から支払われた電子マネーを、手数料を差し引いて買い戻す訳である。

しかし、ビットコインはEdyやSuicaみたいな電子マネーとは「全く違う」。根本的な思想からして違うのだ。

ビットコインはオープンだ

実は、ビットコインはソフトウェアだ。そして、それは「オープンソース」という仕組みで、プログラムの中身(ソースコード)がそのまま一般公開されている。要するに、誰もが中身を見て、無料でインストールできる。

「さっき、ビットコインは決済システムって言ったやん?」

そう。ビットコインは中身が丸見えで、誰でもインストールできる決済システムのソフトウェアだ(インストールについての話は後ほど)。

中身が丸見え、ということは、プログラムが読める(書ける)世界中のエンジニアが、その中身に不正が潜んでいるかどうかも自由に精査できると言うこと。

では、そのプログラムは誰が作っているのか? というと、世界中の有志であるエンジニア達だ。しかも、世界でトップレベルの人材が集まっていると言っても過言ではない。

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かつて銀行システムの黎明期に、システム開発者が全ての計算を「切り捨て」にして、端数を全部自分の口座に入れていた不正が発生したことがあるとかないとか。そんな不正がビットコインでは不可能だと言うことだ。

銀行システムの場合、開発を請け負う業者が徹底的に不具合を精査して、運営に差し支えないようしらみつぶしにつぶす。ビットコインだと、世界中の有志であるスゴ腕エンジニア達がそれをつぶす。

あなたが使っている電子マネーや銀行のシステムが、その中身を「公開」しているなんて聞いたことがあるだろうか?そんなことはセキュリティー上絶対にあり得ない。

ビットコインは全てが公開されているから、世界中の誰にでも精査や監査ができて、「仕組み自体には不正がない」と言い切れる、「信用できる」決済システムなのである。これはOSやサーバー、セキュリティ関連のソフトウェアといったインターネットを支える基盤技術で、オープンソースのものが成功していることとも無関係ではない。不特定多数の人の目にさらされて、常時改訂を繰り返しているからこそ信用できるのだ。

発行量までオープン

一般的なお金では、その法定通貨という名が表すとおり、国が発行して流通をコントロールしているということだった。よって、国が財政に失敗したり、通貨を発行しすぎたりすると、お金の価値がどんどんと下がってしまう可能性もある。

しかし、ビットコインでは先ほど説明したとおり、全てのプログラムが無償で一般公開されている。その中には、なんとビットコイン自体が発行される量までが最初から組み込まれており、そのルールまでもが全てオープンに公開されている。

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ビットコインでは、公開された2009年から毎日ほぼ10分ごとに発行されているが、およそ4年ごとにその発行量が半減し、合計2,100万ビットコインを上限とすることが最初から決まっている。

2015年3月時点で既にもうその半数以上が発行されているが、また2年後である2017年に発行量が半減する。

次第にその発行量は少なくなり、ビットコイン自体の価値が陳腐化しないように計算されている。

日本円や米ドルのように、中央管理する誰かが発行量や流通量を決めて価値をコントロールしているわけではなく、ビットコインは最初からこの先どのように発行されていくかが明記されているという、極めて「透明性が高く」、健全な仕組みなのだ。

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では、誰がそのソフトウェアを何に入れて、何のための動かしてるのか?

その疑問は先送りにして、アカウント(口座)の概念をまず見てみよう。

ビットコインのアカウントは自分で勝手に開く

先述の通り、銀行で口座を開設するには、あなたは印鑑を押し、身分証明書を提出して開設を申し込まなければならない。

銀行はあなたが反社会的勢力でないかどうか、過去にその銀行で問題を起こしたことがないかどうかなどを調べた上で、あなたの口座を開くかどうかを決める。言い換えれば、「あんたなんかには口座を開いてやらない」と拒否されることがあるということ。全くの誤解で口座が開けない、なんてこともある。

実は、ビットコインには管理者がいない。その説明も後回しだが、ビットコインには「口座の開設」という概念がないのだ。当然管理者がいないので審査なんてあり得ない。「僕、ビットコインの口座開きたいんだけど、方法を教えてください」。そんな質問に、「勝手に自分でいつでも開けるでしょ?」と、ちょっと詳しい気取りの人からそんな冷たい答えが帰ってくる理由はここにある。

ビットコインではあなたの(口座番号にあたる)アドレスは、あなたがそれを勝手に自分のものと決めて使い始めることによってあなたのものになる。

言わば「今日からこれが俺のアドレスや!」と勝手に宣言するのだ。

ではどうやって?

ビットコインのアドレスは一人100万個でも持てる暗号鍵

世の中には「乱数」という言葉があるのをご存じだろうか?その名の通り、「ランダム」に発生させた数字である。ビットコインの暗証番号にあたる文字列は、その乱数を元にして作られる。

実際の乱数はプログラムが発生させるのだが、めちゃくちゃ乱暴に端折って例えると、ビットコインでは70回ほど10面サイコロを振った数字を出して、それを文字列に変換したものがまずあなたの「暗証番号」にあたるものになる。正式名称は「秘密鍵(Private Key)」。色んな形式があるが、使いやすい形式では最終的に「5」から始まる51文字の英数字に変換されている。

例えば、こんな感じ。「5Kb8kLf9zgWQnogidDA76MzPL6TsZZY36hWXMssSzNydYXYB9KF」
(残念ながら私の秘密鍵ではありませんのであしからず)

その秘密鍵を難しい暗号プログラムに通すと、それが「1」か「3」で始まる26文字から35文字の文字列になる。しかも、間違えられにくいように(??)見分けにくい小文字の「l(エル)」と大文字の「I」、数字の「0」と大文字の「O(オー)」は含まれない状態で。これは、飛行機の座席で「I」と「1」が見分けにくいから「I」席が存在しないのと同じ感じだ(笑)。こちらの文字列の正式名称が「公開鍵(Public Key)」。しかし通常は「ビットコイン・アドレス」(Bitcoin Address)と呼ばれる。これがあなたの「口座番号」にあたる。

例えば、こんな感じ。「1P95EfkCvo6HcPN21eVc3aPvzxqEjjGtQy」
(送金を是非お待ちしております(笑))

この「暗証番号」にあたる「秘密鍵」からは、そのプログラムを通せば誰でも「口座番号」にあたるまったく同じ「公開鍵」が作れる。しかし一方通行なのでその逆はできない。「公開鍵」から「秘密鍵」は推測できない。

ちょっと難しい説明になってしまったが、完全に理解する必要はない。ビットコインの根幹には、この「公開鍵暗号」という技術が使われていることだけ頭の片隅に置いておこう(後でもう一度簡単に説明する)。

ここで言いたかったのは、ビットコインの利用においてはこの「秘密鍵」が絶対的な存在だということ。もしこれが他人に渡れば、自動的に「公開鍵=アドレス」を教えることになるのは当然のこと、秘密鍵を持つ人物はそのアドレスにある残高を全て自由に送金することができてしまう。

冒頭でも触れたMt. Goxの破綻。それも、何万という客から預かっているビットコインを管理する秘密鍵が直接犯人の手に渡ったか、もしくはそれを操作する仕組みに違法にアクセスされたか、そのどちらかが起こったと言うことになる。
もともと個人情報を紐付けた「所有権」が存在しないので、「秘密鍵」が他人に知られた時点で、コントロールを失う。これについては自己責任だ。

そこが銀行口座とは違う。その残高や送金を誰も保証してくれない。

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もう一つ注目すべきポイントは、実は技術的な話を端折ってさらっと簡単に「10面サイコロを70回振る」と表現した部分。これは要するに、70桁以上の数字が無作為に作られて、変換されてあなたの「秘密鍵」になるということ。

アドレスとして使えるその数は、星の数ほどの組み合わせがあって、計算上あまりにもバリエーションが多すぎて他人のそれとダブることはない。そんな原理で、ビットコインのアドレスは作られる。

例えば、76桁の数字だとこんな感じ。
「5,738,109,574,369,060,248,638,013,835,744,990,135,867,462,664,001,844,289,011,300,385,771,209,384,756」

世界人口が72.5億人だといわれているが、その数字でもこれだけにしかならない。
「7,250,000,000」

どう見ても他人と数字がダブる桁数には見えない。

従って、このアドレスはプログラムを通したら誰でも簡単に作れてしまう。一人当たり、いくつでも作れてしまう。だから、もし必要ならばあなたは100万ビットコインアドレスだって持てる!

では、そのアカウント間の送金はどうやって動くのだろう?

ビットコインは元帳までオープン

送金の仕組みを見る前に、金融システムに必須な元帳の仕組みを覗いてみよう。冒頭で見た銀行の概念を、根底から覆す仕組みがここに登場する。

ビットコインでは、元帳の内容まで全てオープンなのだ。しかも、スタートした2009年から全ての支払い記録(トランザクション)が誰にでも入手できて閲覧することができてしまう。この部分だけでも、もう金融システムとしては非常識きわまりない。

ここで、先ほど後回しにした「ビットコインのインストール」についての話が登場する。

ソフトウェアとしてのビットコインは、そのルールに従って様々なバージョンが作られており、色んなハードウェアで動かせる。PCはもちろんのこと、専用機もあるし、やろうと思えばあなたが持っているスマートフォンで動かすことだって可能だ。

実際にソフトウェアとしてのビットコインを自分のPCにインストールすると、2009年から始まったその何十ギガバイトという元帳データをダウンロードして同期することから始まり、ひどい場合にはそのデータ同期には数日以上もかかる(ただし元帳データを同期しないようにもできる)。

「そんなことしたら、僕の支払いがみんなに丸見えで、プライバシーもくそもないやん!」

そう考えるのはごく自然だが、先ほど説明したとおり、ビットコインには個人情報は一切関係ない。存在するのは、ランダムに作られた無数の「アドレス」だけ。その元帳には、「どのアドレスからどのアドレスにいくらビットコインが送金されたか」だけしか書かれていない。

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よく、ビットコインは「違法なビジネスに使われやすい」とか「匿名で送金できる怪しいシステム」と言われる。実際にアドレス間のやりとりだけで成り立っているからそう言われるのは仕方ないのだが、アドレス間の送金は全て記録されていて、一般に公開されているのである。

もし、あなたがAさんとBくんの「アドレス(公開鍵)」を知っていて、BくんがAさんに送金した場合、その元帳を検索すれば、その支払いの時間と金額について知ることができる。

それが、冒頭に言った「ビットコインの透明性が高い」理由だ。

これって、よく聞くビットコインのイメージである「匿名性」と相反するように聞こえないだろうか?

ビットコインは、アドレスの所有者については「匿名性」が高く、アドレス同士のトランザクションについては「透明性」が高いのである。

よく「ビットコインがマネーロンダリングを容易にする」などと言われるのだが、アドレスを個人情報と結びつけることが困難なだけで、送金された内容を見るには、時間さえ掛ければ全てその記録から追いかけられるのである。その点では、既存の金融機関を駆使したマネーロンダリングに比べれば、よほどトレースしやすいと言える。銀行間のマネーローンダリングであれば、わざわざ経由した銀行全てに開示命令を持って、それぞれ個別に情報を取らなければならないのだから。

ビットコインで多額のマネーロンダリングを行っても、大金はどこかで現金にするしかない。アドレス間でぐるぐるたらい回しにしてから、デルのPCをビットコイン建てで大量に買い付けても(アメリカではデルもビットコインで払える)、売却と現金化が大変だしそこで足が付く。現行のマネーロンダリングでさえ、犯人の検挙には入り口と出口、中継地点となる口座での個人情報との紐付けが必須だ。知識と手順、手間の問題だけで、結局、ビットコインを使ったマネーロンダリングの検挙と、手間はそう変わらない。

一部のお偉い方達は、理解が難しいビットコインを怪しく思い、必要以上に危機感を感じているというわけだ。

ただしビットコインの場合も、複雑に送金を繰り返して追いかけにくくするようなサービスは存在している。ビットコインもあくまでもツールであり、実際の金融機関と同じく、そこに寄ってきて悪用する嗅覚の鋭い犯罪者がいるというだけの話。

いずれにせよ、銀行の仕組みではその元帳の公開など絶対にあり得ない。むしろセキュリティ上あってはならない。ビットコインでは、それが公開される前提で作られている仕組みだということだ。ビットコインはこのように、「極めて透明性が高い仕組み」であることを覚えていて欲しい。

中央管理者がいない?

ビットコイン推進派があなたにアピールしてくるとき、「中央管理者いないんだぞ!」や「非中央化されてるんだぞ!」、果てには「Decentralizedやで!」など謎めいた言葉を投げかけてくるだろう。必死なその言葉が宗教的に聞こえてしまうこともあるかもしれない。

実はビットコインの送金を理解するのに必須なのは「非中央化(Decentralization)」の理解。しかし、あなたの頭に浮かぶごく自然な疑問は「管理者がいなくて、金融サービスが動くわけないやん」ということ。

ここでは一旦その「Decentraなんとか」のことは忘れよう。

乱暴に言い換えれば、ビットコインは「ネットワーク参加者全員が管理」しているのだ。

冒頭の銀行の説明では、Cくんが銀行を管理運営していた。バックアップの元帳を別の複数箇所に管理していようが、これは「中央管理(Centralized)されている」と言う。法律や規制はあれど、Cくんの気持ち一つで不正や横領どころかサービス閉鎖も自由なのだから。

しかし、「ビットコインはオープンである」と説明したところで出てきたように、ビットコインは誰でも無料でダウンロード出来てしまう。すなわち、それを動かせば、誰でもビットコインの管理者(正しくは管理者ではないけれどその説明は後ほど)になることができるということ。

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では誰が、何の目的でわざわざそんなソフトウェアを入れて動かすのか?

ただのボランティアなのか?そしてそんな管理者もいない無秩序に聞こえる世界で、どうやって送金の仕組みが動くのか?それを解き明かすために、再びロールプレイの世界を見てみよう。しかも、前回よりは遥かにドラマティックな展開を見せるロールプレイを、さらにそのプレイヤー達に近い視点から。

ビットコインは少数点第何位まである?

今回は、BくんからAさんに1,000円ではなく、0.1BTC(ビットコインの略)を送金する場合で考えてみる。

「ん? ちょっと待った!0.1BTC? 少数点あるやん?」

そう。実はビットコインの最小単位は1ではない。日本円にも、かつては1/100円である「銭」という単位があった。

ビットコインの最小は0.00000001(=1億分の1)BTC。1ビットコインは2015年3月25日現在約3万円だから、最小単位を円に換算すると0.0003円ほどだ。この最小単位を、ビットコインの発明者のナカモトサトシに敬意を表してビットコイン業界(笑)では慣習的に1 Satoshiと呼ぶ。

しかし、実際にはビットコインで送金できる最小金額は仕様上5,460 Satoshiとなっており、この金額未満はDust(くず)と呼ばれる。日本円に換算すると約1.638円だ。この額以上であれば送金が可能なので、ビットコインは充分に魅力的な少額決済が可能なシステムとも言える。

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クレジットカードは送金(決済)のコストが高いので、10円なんて死んでも決済したくない。(元々クレジットカード決済事業を営んでいた私から見て、これはホンネの表現)。特に日本では大赤字になる。銀行は振込手数料さえ支払えば10円でも振り込んでくれるが、さすがに利用者の割に合わない。

さて、話がそれたが、BくんからAさんへの送金がどう処理されるかに視点を戻そう。ちなみに先ほどの円換算で言うと、約3,000円ほどの送金である。
「ビットコイン・ネットワーク」の参加者が送金処理を請け負う

ソフトウェアであるビットコインは誰でも無料で入手して、インストールすることができることは既に説明した。そのソフトウェアをインストールしていると、誰でもすぐに「ビットコイン・ネットワーク」に参加することができる。今日からあなたでもできる。

その参加者は、「ビットコイン・ネットワーク」上で他人の送金決済の承認を担うノード(node=接続ポイント)の一つとなるのだ(このノードと言う言葉もよく使われるので覚えてしまおう)。

では、そのネットワーク参加者(ノード)の間で何が起こっているのか。

ここでは、Oくん、Pくん、Qくんがソフトウェアであるビットコインを動かしていて、ネットワークに参加しているとしよう。わかりやすいように、PCではなくスマホ上でソフトウェアとしてのビットコインを動かしていることにする。3人ともスマホはインターネットにつながっている。この3人は立派な「ビットコイン・ネットワーク」上のノードだ。

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送金したい者は、インターネットにつながっている、いずれかのノードにその旨を伝えればよい。それだけで直ちに送金処理が始まる。
全ての送金依頼は「公開鍵暗号」で「電子署名」される

では、BくんがAさんに0.1BTCを送金したい場合はどうすればよいか?

Bくんは、先述の自分の(暗証番号にあたる)「秘密鍵」を使って、自分のアドレスからAさんのアドレスに対して0.1BTC送金したい、という情報をそのネットワークに流す。

ここでは、わかりやすくするために、Aさんのアドレスは「xxxxxxxx」、Bくんのアドレスは「yyyyyyyy」ということにしておこう

ややこしい暗号技術の話は端折る約束だが、簡単に説明すると「秘密鍵」を使った電子署名は、その「秘密鍵」を知っている人間にしかできない。これで作った「(Bくんのアドレス)yyyyyyyyから(Aさんのアドレス)xxxxxxxxに送金したい」という情報は、yyyyyyyyの「秘密鍵」を握るBくんにしか作れないのである。

しかし、他人からはBくんの「公開鍵」を使えば、これはBくんが作ったものだとちゃんと確認できる。しかも、この場合Bくんの「公開鍵」はBくんのビットコインアドレスそのものだから、それをそのまま使えば「これはちゃんとBくん本人が作った送金リクエストだ!」と本人確認できてしまう。

アドレスの作り方を説明したところから出てきたこの「公開鍵暗号」という仕組みは、「電子署名」という名の本人確認ができてしまう非常に便利な仕組みなのだ。

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通常の銀行送金の場合であれば、インターネット上でつながった銀行のウェブサイトにそのパスワードを入力せねばならない。だから、PCに怪しいマルウェアが仕込まれていたりすれば、パスワードが第三者に漏れて残高を盗まれる可能性も高まる。実は日本だけでも、一般預金者がそんな被害を年間何十億円も被っている

ところがビットコイン送金で必要なこの電子署名は、インターネットにつながっていない端末でも署名することができる。いったん署名した情報は他の誰にも改ざんできないから、安全に依頼ができるというわけだ。

それこそ、インターネット接続を切ったスマホでまず電子署名して、それからその署名したファイルを他の端末に移して送金リクエストを出すことだってできる。こんなにも安全な送金依頼方法は、既存の金融システムではまずありえない。

ビットコインはP2P電子マネー

さてBくんは、早速その送金リクエストの情報をOくんのノードに投げた。

「yyyyyyyy(Bくんのアドレス)からxxxxxxxx(Aさんのアドレス)に
0.1BTCを送金 by yyyyyyyy(電子署名済)」

そして、一つのノード(Oくん)に送り込んだ送金リクエストは、インターネットでつながった全部のノードに一気に広がる。

ここで初めて、ビットコイン好きな人からよく聞かされる言葉である「P2P(Peer to Peer)」が理解しやすくなる。

オンラインバンキングのように利用者が一斉に一カ所に用意された中央サーバーに接続する(「クライアント・サーバー方式」と呼ぶ)のではなく、それぞれのノードが蜘蛛の巣のようにインターネット上でつながって、個々のノード同士がが情報を交換するから、この仕組みを「P2P方式」と呼ぶ。

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図の右側では、BくんもGくんも両方同じCくん銀行のサーバーに接続している。しかし、図の左側のビットコインでは、手元で作った送金リクエストファイルを、好きなノードに投げるだけで良い。

よく知られているソフトウェアでは、インターネット電話のSkypeがこのP2P接続で成り立っている。音声を、無数にいる利用者の端末を都合良くつないで経由するのだ。

そこで見て欲しいのが、前の方で紹介を約束していた、ビットコインの発明者であるナカモトサトシの論文タイトルだ。

「Satoshi Nakamoto(中本 哲史)(2008)
Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System
(ビットコイン:P2P電子マネーシステム)」

タイトルに入れるほど、この「P2P」の仕組みがビットコインにとって大事だと言うこと。なのでこれは今のうちに頭に入れておこう。

ではBくんの送金に話を戻そう。

O君のスマホはそのBくんのリクエストを受け取った。すぐにO君が入れているソフトウェア版のビットコインは、そのリクエストが正しいものなのかを検証する。O君のスマホは過去全部の元帳データを持っている。だから、B君のアドレスが支払うに十分な残高を持っているかどうかもすぐに分かる。

これは正当な支払いリクエストだ。そのことが分かった瞬間、O君のスマホは「ビットコイン・ネットワーク」に参加している全員にも、先ほど出てきた「P2P接続」を利用してリクエストを配信する。当然PくんもQくんもそれを受け取ることになる。

これは、O君個人の意思ではなく、スマホに入っているソフトウェアとしてのビットコイン(覚えなくて良いが、通常デーモンと呼ばれる)に組み込まれている絶対ルールなのだ。ネットワーク参加者は、平等にそのリクエスト情報を受け取ることができる。

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では、ここでみんなに広がったB君の支払いリクエストについて、その情報を「ビットコイン・ネットワーク」上で「正式に支払い済」として採用するにはどうすれば良いのか?

それは、この新しいリクエストを新しいページに書き込み、そのページを元帳の最後のページにのり付けすればよいのだ。そうすれば、Bくんの送金は正規の元帳に記されたトランザクションデータの一つとなるはず。

Oくんは、早速新しいページを用意して、そこに書き込んだ。

「yyyyyyyy(Bくんのアドレス)からマイナス0.1BTC。xxxxxxxx(Aさんのアドレス)にプラス0.1BTC」

しかし、誰でも単にこのページを正規の元帳の最後にのり付けすれば良いというものではない。そんなのが有りなら、それこそ不正し放題の世界だ。

物事にはルールがある。ビットコインもしかり。のり付けする権利を得るのは、たった一人だ。

そしてバトルの火蓋が切って落とされる

そうだ。ここでついにビットコイン・ネットワークの真相を明かそうではないか。

この新しいページを既存の元帳に正式な1ページとして追加するには、実は参加者(ノード)全員が参加するバトルに勝たねばならないのだ!

よくみると、手元の元帳の最後のページには謎の暗号文字が書かれている。

「お題:00LhRlQs8A」
(実際にはもっと文字数が多いのだが、ここではわかりやすく短くしてある。)

Oくんはその文字列をスマホカメラで読み込んだ。スマホ画面には、その文字列が現れ、その下に「ノンス(nonce=使い捨てのランダムな値)」という空欄と送信ボタン、そしてさらにその下に「計算結果」という空欄の合計3行が表示された。

ちなみに「ノンス」は、ひたすらランダムな文字列を生成して放り込む。正解の計算結果を出すためだけに使われる、使い捨ての項目を意味する。

画面が表示されると、突然Oくんは画面の連打を始めた!ひたすら連打する度に「ノンス」の欄に意味不明な文字列が表示され、計算結果の欄にも意味不明な文字列が表示された。そして画面に大きな赤い「×」が「はずれ」の文字と共に表示されている。

その赤い「×」がでた瞬間に同じボタンを叩く、Oくんは気が狂ったように、ひたすらそれだけを繰り返す。

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Pくん、Qくんも同様だ。Oくんに負けずと、無心にスマホ画面上のボタンを連打している。その度に、3人の画面には赤い「×はずれ」が表示されるばかりだ。

そして10分後……。

Pくんの画面に、今までの赤い「×はずれ」とは違う青い「○正解」という文字が表示された。

「正解!勝者zzzzzzzz(Pくんのアドレス)!
おめでとうございます!
頭の『00』がそろいました!
賞金、25ビットコイン!
(30,000円換算でなんと750,000円)」

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勝者のPくんは休む暇もなく、自分が先ほど書いた新しいページの最後に、スマホ画面の「計算結果」という欄に表示された文字列を書き込んだ。

「お題:00ue7EGxpV」

さらに、自分のアドレス残高に賞金の25ビットコインを追加するよう自らページに書き込んだ。

「zzzzzzzz(Pくんのアドレス)にプラス25ビットコイン」

そして、糊でそのページを元帳の最後に貼り付け、新しいページの撮影をして、ビットコイン・ネットワークに送信した。

それと同時に、Oくん、Qくんの画面にもメッセージが表示された。

「Game Over!」
「残念、勝者はzzzzzzzz(Pくんのアドレス)でした」
「zzzzzzzzが導き出した正解を検証してから、新規ページに書き写してそれを元帳に足しなさい」

バトルの敗者となったOくんとQくんは、Pくんから送られてきた正式な新しいページをまず検証する。Pくんが不正をしていないか確認するためだ。

バトルに使うアプリはどれも、同じ「ノンス」を入力すると一方通行で同じ計算結果を算出するから、検証は簡単だ。Pくんがもし不正をしていれば、違う答えが出るからだ。

これは、参加者(ノード)全員が、その他の全員が不正しないよう勝者を360度監視するバトルなのだ。

Oくん、Qくんは、Pくんの答え=「ノンス」が正しいことを確認したので、自分たちが書いたページの下書きを破り捨てた。新しい用紙に勝者Pくんから送られてきたページの内容をそのまま書き写し、元帳の最後に貼り付けた。これでPくんの新規ページが正式に承認されたことになる。

当然その元帳の最新ページには「BくんからAさんへの送金」、「Pくんが勝ち取った賞金」、「新しいお題」の全てが記録されている。

これで、一連の送金手順がひと通り完結することになる。Bくんからは、Aさんに正式に0.1ビットコインが支払われたことになった。

そして、Pくんは何故か賞金25ビットコインも受け取った。

さて、いきなり賞金付きのパズルバトルなんて、ここでは一体何が起こってるというのだろうか?

新規発行ビットコインを賭けた欲望バトル、それが採掘

じつは、Oくん、Pくん、Qくんが参加していたのは、賞金を巡る果てしないパズルバトルだった。

そのルールというのは以下の通りだ。

  1. まず新しく「ビットコイン・ネットワーク」に投げられてきた送金リクエストの中から、好きな物を自分で選んで新しいページに書き込む。
    この場合、「(Bくんの)アドレスyyyyyyyyからマイナス0.1BTC。(Aさんの)アドレスxxxxxxxxにプラス0.1BTC」
  2. リクエストを新規ページに書き終わったら、手元にある元帳の最後のページにある「お題」という文字をスマホで読み込む。
    この場合、「00LhRlQs8A」がそれにあたる。
  3. すると、スマホでパズルバトルが始まる。元のお題の文字列に対して、「ノンス(nonce=使い捨てのランダムな値)」というランダムな文字列がボタン叩く度に表示され、その2つの文字列が暗号プログラムに通されて「計算結果」の欄が算出される。
  4. ボタンをひたすら叩き、約10分後に「計算結果」の欄に最初の2文字が「00」になる結果を一番最初に表示した者が勝者となる!
  5. 勝者には、賞金として25BTCものビットコインが新規に発行される!
  6. 勝者は、自分が書いた新しいページに算出された計算結果=新しいお題を書き込み、自分の残高にも25BTCを書き足してから元帳の最後に貼り付ける。この場合、「(Pくんの)アドレスzzzzzzzzにプラス25BTC」
  7. 勝者は、そのページを撮影し、ネットワークに流す。
  8. 他のプレイヤーは、勝者の「ノンス」を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する。ぶつけた「ノンス」の数(計算力)をもって投票権とし、51%以上のプレイヤーが正しいとすればよし。
  9. 検証の結果、敗者は失敗したページを破って捨て、プレイヤー全員は勝者が作った新しいページを、正式に採用(承認)する。
    これで1ページ分の送金が完了し、休みなく次のバトルへと進む!

すなわち、元帳の正規ページをのり付けするために開催される、この無謀な総当たり連打バトルに勝った者に、新規のビットコインが発行される仕組みになっていたのだ。

注目すべきはルールその8。

「他のプレイヤーは、勝者の『ノンス』を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する」

実はここにも、ビットコインのアドレス作成の箇所で学んだ、一方通行の暗号方式が使われている。Pくんがかなりの苦労を伴って算出した正解である「ノンス」。しかし一旦誰かがその正解を導き出せば、あとは誰がその「ノンス」を使っても、同じ計算結果が出る。

と言うことは、OくんとQくんがPくんの答えを検証するためには、その正解の「ノンス」を同じ暗号プログラムに放り込むだけ。それで一発で完了する。

これが冒頭でチラ見せした、ビットコインで重要な「Proof of Work(PoW)」という概念なのだが、詳しくはまた後ほど。

ここでもう一度、冒頭で説明した一般的な通貨を思い出して欲しい。それら法定通貨は、国=政府が勝手に発行量や流通量を決めてコントロールする。我々国民は、いくらどのように発行されているのかさえ気にしない。

しかしビットコインでは、決められた発行量がこのバトル勝者に発行される。ビットコインの発行量を説明した時に、「約4年ごとに発行量が半減される」と説明した。実はこれはわかりやすいようにい言い換えただけだった。これを正しく言い換えると、「10分ごとに勝者が発表されるバトルにおいて、21万バトル(ページ)ごとに支払われる賞金が半減される」となる。

すなわち、2015年現在25BTC支払われているものが、2017年には12.5BTCに半減されると言うことだ。そして2021年にはそれが6.25BTCになる。

この新規発行されるビットコインは、支払いリクエストの承認作業をするためにバトルに参加するプレイヤー(マイナー=採掘者)達への賞金としてのみ用意されている。

ビットコインを手に入れるには3つの方法しかない。買うか、もらうか、それとも自分で採掘するかだ。このバトルがその3つめにあたる。

あなたもよく、ビットコインに関してこの「発掘」や「採掘」、「mining(=採掘)」という言葉を聞いてきただろう。これは、「コイン=金」という発想から、連想される「採掘」という言葉を採用しただけの話で、本当は土を掘る行為でも何でもない。もうおわかりのように、それは新規発行される賞金のビットコインを賭けた、欲望によって成り立つ暗号パズルバトルだったのだ。それが「ビットコイン採掘行為」の実態である!

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ただし、ここまでの内容はわかりやすくするためにかなりデフォルメしてある。

実際には人が無心に画面を叩くわけでもなく、決まった暗号方式でひたすらコンピュータや専用機がノンスを総当たりでぶつけながら計算し続けているし、元帳のページも決まった方式でデータを整えて用意しなければならない。そして元帳1ページあたりにはかなりの量のトランザクション(送金リクエスト)が記載できる。

これら全ての行程はビットコインの仕様として詳細が決められており、人を介さず全自動で、かつ、とてつもない速さで処理されている。

さて、このバトルでは、ソフトウェアであるビットコインに組み込まれているルールが絶対だ。しかし、ここでもそれを逆手に取る者がいる。

実は、この採掘バトルでは、上記のルールさえ守れば「総当たり連打するための武器は問わない」のだ。
採算を賭け武器も場所も問わないバトル、それが採掘

Oくん、Pくん、Qくんは日本に住んでおり、かろうじて賞金総額(新規発行された獲得ビットコイン)が食費(消費電力の電気代)を上回って生活している。「腹が減っては戦はできぬ」のだ。

そこに、Sさん、Tさん、Uさんが参加してきた。しかも、Sさん、Tさん、Uさんは資金も潤沢で高級な「画面連打専用強化ギブス」を購入してバトルに備えてきた。

この「ギブス」は、ひたすらボタンを連打するマシーン。手でボタンを叩く何百倍もの速さで画面上のボタンをたたくことが可能だ。

ただ実は、この「ギブス」を使うと、使わないOくん達に比べて何倍も速く腹が減る(電力を消費する)。そこが唯一の難点だ。しかし、食費(電気代)が遥かに安い中国在住のSさん達には問題ない。電気代が馬鹿高い日本に住むOくん達よりも、高いコスト効率で賞金稼ぎに専念できるため、高いギブスのコストも十分に回収できるのだ。

この例えが、まさに近年のビットコイン採掘バトルを象徴している。電気代や土地代の安い中国では、部屋どころか工場を丸ごと専用採掘機(ASICと呼ぶ)専用のデータセンターに改造し、巨大な水冷装置でそのコンピュータを冷やしながら日々大量のビットコインを採掘している。

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ビットコイン採掘競争がグローバル規模で激しくなればなるほど、我々電気代の高い近代国家(当然日本は一番不利な方)に住む採掘者にとっては、参加するには採算の合わないバトルへと変貌している。

ここで、鋭い人には一つの疑念が浮かぶ。

採掘バトルの厳しさも自動で調節するビットコイン

「先ほど、ルールでは1バトルにおいて、約10分後に勝者が生まれると言っていた。これだけルール無用のバトラーが数多く参入してきたら、1バトルあたりの合計連打数がどんどん増えて、1バトルに要する時間も10分よりどんどん短くなっていくのでは?」

全くその通り、しかし、ソフトウェアであるビットコインはそれも自動的に制御している。

先ほどのルールに出てきたお題である「00LhRlQs8A」。計算結果はこのお題と同じく最初の2桁がゼロであれば勝利、となっていた。しかし、バトル参加者が増加して、合計の連打ペースがどんどん上がってくると、ソフトウェアであるビットコインはこのルールを自動的に変更する。

すなわち、1バトルあたりの時間がちょうど10分になるように、そろわなければならない頭のゼロの桁数を増減させるのである。バトル参加者の連打が増えれば、ゼロの桁数を増やす。連打が減れば桁数も減らす。これが、実に2,016バトル(ページ)ごとに自動的に調整される。

実際のビットコインでは、この例で出したものより遥かに文字数が多く、揃えなければならないゼロの桁数も現在は16桁前後である。これを総当たり戦で正しいノンスを割り出すには、とんでもない計算能力が必要になる。その計算力についての詳細は、また後ほど説明する。

「Bitcoinの決済には10分かかる」と耳にされたこともあるかもしれないが、その10分という数字はここに由来するというわけだ。

厳密に言うとすれば、ビットコインの採掘では、1バトルの時間制限が10分に設定されているのではなく、10分でバトルが終了して勝者が生まれるようにルール自体が自動的に調整されていたのだ。これにより、元帳のページは平均して10分に1ページずつ増えていくことになる。

ビットコインの決済手数料とは?

「ビットコインの送金手数料は銀行のそれに比べて遥かに安い」とよく言われる。しかし、「無料で送金できる」という者もいる。

一体何が正しいのだろう?

正解は、「両方とも正しい」である。

例えば、BくんとAさんに加えてもう一組、GくんとFさんが同時に0.1BTCを送金したい、とリクエストしたとしよう。

Bくんはケチで、手数料を払いたくない。そこで、送金時に「手数料0」としてリクエストに署名して「ビットコイン・ネットワーク」に送信した。

ところが、GくんはFさんに同じ0.1BTCを送金する際、0.001BTC(約30円)を手数料として含めて署名し、「ビットコイン・ネットワーク」に送信した。

そう、ビットコインでは、送金リクエスト時に好きな分だけ送金手数料を上乗せしてリクエストできる。例えば、1BTCを送金するために100BTCの手数料を支払うことも可能だ。もったいないけど。

カード決済のように受け側(商店側)が手数料を負担するのではなく、日本の銀行振り込みのように支払側が手数料を設定する。

ここで、採掘バトルのルールをもう一度見てみよう。ルールその1にこうある。

「新しく『ビットコイン・ネットワーク』に投げられてきた送金リクエストの中から、《好きな物を自分で選んで》新しいページに書き込む。」

実は、ビットコイン・ネットワークに投げられた送金リクエストは、各ノードにある「プール」と呼ばれる場所に一旦保留される。新規ページに自分が承認したいリクエストを書き込む際に、採掘者は自分が「好きなものをプールから自由に選べる」というわけだ。

ではもし、BくんGくん両方の送金リクエストが届いた時点で、採掘バトラーPくんのページには、もう既に最後の1リクエスト分しか書き込むスペースが残っていない場合はどうするだろうか?

答えは簡単である。Pくんは、手数料ゼロのBくんの送金リクエストを蹴って、手数料0.001BTCのG君の送金リクエストを書き込んでからバトルに参加する。

その結果Bくんのリクエストは、今回のバトルでは無視されてプールに放置されてしまった。次のバトルでページにとり上げられるのを待つしかない。

こんなことが起こる理由は明白だ。自分が採掘バトルに勝って元帳の正規新ページに採用された場合、そこに載せた送金リクエストの手数料全てが合算されて自分のものとなるという取り決めがあるからだ。

Pくんにとって、タダよりも0.001BTCの手数料の方が貴重だ。ちりも積もれば山となる。それに、時々送金の設定をミスって手数料1BTCなんてのも送られてくる。この話、実際に起こりがちだから手数料収入も馬鹿にならない。

勝者には、賞金である実に25BTCという大金が与えられるが、それ意外にも、この手数料収入が上乗せされて発生する仕組みになっているというわけだ。

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ちょっとビットコインを勉強した人から、こんなことを聞かれることが多い。とくにビットコインのあらを探す反対派の人達から。

「ビットコインの発行量、すなわち採掘者の報酬が4年ごとに半減するなら、採掘のインセンティブと魅力が下がっていって、どうせ将来はビットコインの仕組み自体が機能しなくなって破綻するんだろ?」

確かに先述の通り、2017年には報酬が25BTCから12.5BTCへと半減し、2021年には6.25BTC、2025年には3.125BTCとなる。しかし「ビットコイン・ネットワーク」は、年を増すごとに「採掘インセンティブ重視」から「送金手数料(トランザクション・フィー)インセンティブ重視」の、より純粋な決済ネットワークへとシフトしていくだけである。

ナカモトサトシ先生は、そんな誰もが思いつくような懸念について、最初から思いつかないほどの馬鹿ではない。

ちなみに、ビットコインの「送金手数料が安い」というのも事実だ。上記の0.001(約30円)でなくとも、0.0001BTC(約3円)も支払えば、充分に短い時間で送金が承認される。

現在の一般的な海外送金を考えてみて欲しい。数万円を送金するだけでも何千円もの手数料を支払い、長い場合には送金先に着金するまで2日3日かかる。大企業がどれだけ交渉しても、その料金は800円程までにしか下がらない。

さらには送金金額が非常に多い場合、銀行は1日2日分の金利を稼ぐためにわざと外部への送金を遅らせるということまで平気でやってのける(日本の銀行は知らないが、私は欧米の銀行で過去よくやられた)。最近では一般消費者向けの海外送金手数料も下がってきたが、ビットコインとは桁がまだ3つくらい違う。

そんなしがらみや無駄なコストが一切なしに、10分もあれば少額でも世界のどこにでも送金できてしまうのがビットコインである。

いや、実際にはビットコインが海外に送金されるわけではないので、厳密に言えば世界中どこにいる相手にでも、10分もあれば残高の権利を移行できる、としておこう。

手数料ゼロで送金できるのも真実

「では、手数料ゼロの送金リクエストは採掘者に損なので、永遠に無視し続けられるのでは?」

ビットコインでは、そんなことも想定してルールが作られていた。さすがナカモトサトシ師匠。

実は、先ほどのバトルのルールその2では、とある詳細を割愛していた。それがこれだ。

「なお、新規ページ上には決まった分だけの特別スペースを確保しておき、その分を『手数料が極めて小さくても承認されずに一定時間以上が経過しているなど、陳腐化しそうな送金リクエスト』で必ず埋めること」

儲かるトランザクションを優先することは自由だが、儲からないが時間が経過しているトランザクションも一定量は優先して載せねばならないという特別ルール。

これにより、時間がかかっても原理的には漏れなく送金リクエストは処理される。

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手数料をゼロとしてリクエストしたビットコインの送金が、当日には全く完了しないのにもかかわらず、数日後の忘れた頃に承認される現象はこれに起因している。

従って、「ビットコインは手数料ゼロで送金できる」というのも正しいと言うわけだ。

純粋な、採掘者の欲望の優先順位で成り立っている「ビットコイン・ネットワーク」。ここは「早く送金の処理をされたければ、手数料は高く払え」という現金な資本主義の世界なのである。

不正や破綻が困難なビットコイン

もう一度、「ロールプレイ」における銀行とお金の仕組みを思い出そう。あの金融リスクや預金リスクが高いことを想定した世界では、不正や破綻を起こすのは簡単だった。

そもそもお金の流通量をコントロールするDくん政府が財政でミスを犯すか、Cくん銀行が同様に経営でミスを犯す、もしくは故意に客の残高を操作するだけで、あなた(Bくん)の持っているお金の価値が紙くず同然になったり、銀行残高がいきなり半減したりする可能性があるという話だった(そう言えば実際に現実社会で半減された経験者は私だった)。

では、ビットコインではどうなのか?

採掘バトルのルールその8を見るとこうある。

「他のプレイヤーは、勝者の『ノンス』を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する。ぶつけた『ノンス』の数(計算力)をもって投票権とし、51%以上のプレイヤーが正しいとすればよし」

すなわち、誰かが全く嘘の「ノンス」でバトルに勝ったふりをしても、ビットコインの360度監視多数決ネットワークでは他の採掘者には一切誤魔化しは認められない。

ではどうすれば不正ができるのか?原理は簡単で、51%以上の投票権を掌握した上で嘘のページを正式に元帳に採用すれば良いのだ。

これを、ビットコインの世界では「51%アタック」と呼ぶ。

ちなみに、この「ノンス」は暗号の関数を通って算出された文字列であるため、多くの場合は「ハッシュ(Hash)」と呼ばれる。したがって、元帳最後のページに載ってる「お題」もハッシュと呼ばれる。なのでここからは「ハッシュ」という言葉を覚えて使おう。

実際には今この瞬間も、恐ろしい数の採掘者達によって、恐ろしい数のハッシュが総当たり採掘バトルにぶつけられている。

このハッシュがぶつけられている(バトルの喩え話で言えば連打されている)単位を、1秒間あたりのハッシュ数を使って、「GH/s(Giga Hash per Second=1秒辺りのハッシュ数/1,000)」で表す。まるでドラクエの呪文のような言葉だ。「ギガハッシュ!」

2013年3月半ば現在で言うと、この数字はおよそ35万GH/sである。それをちゃんとした数字で表すとこうなる:

350,000,000,000GH/s = 1秒間あたり3,500億ハッシュ

この数値を、ビットコインの世界では「ハッシュ・レート」と呼ぶ。

新規発行されるビットコインを巡って、これだけのハッシュが総当りで毎秒試されているのだ。

もしあなたがビットコインで不正をしたい場合は、ルールその8に従って、51%以上となる秒間1,785億以上ものハッシュ・レートをぶつける環境を用意せねばならない。

しかもそれは、現在動いている採掘ノードを乗っ取った場合の話。新規で参入して不正を働くには、既存の秒間3,500億ハッシュを49%以下に抑えるために、実に秒間3,643億ハッシュもの計算能力が必要となる。

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そうすれば、嘘の送金を承認することが可能になり、自分で勝手に大量の採掘報酬を受け取ることもできる。

しかし、そんなことは現実問題として到底不可能だ。

ビットコイン・ネットワークは、すでにそれぐらい巨大なサイズにまで成長している。現実的に、ビットコインの元帳を意図的に書き換えることはもう不可能であることをおわかり頂けたはずだ。

さて、これを聞いて、データやサービスの信頼性が高いのはこの時点でどちらと思われるだろうか?あなたが知ってるお金や銀行?それともビットコイン?

完全破壊が不可能なビットコイン

もう一度しつこく、「ロールプレイ」の世界の銀行とお金の仕組みを振り返ろう。

Cくん銀行で、あなたの銀行残高データを破壊するのには、その銀行が管理している元帳(実際にはデータを記録してるサーバー)を全て破壊すれば良い。

いくらバックアップとして冗長化され、複数箇所に分散してデータが保存されているとは言え、これは中央管理者によって中央管理されている「Centralizedな環境」と表現される。

それに対してビットコインはどうだろう?

ビットコインでは、採掘バトルに参加しているコンピュータに加え、ソフトウェアであるビットコインを稼働させている全てのコンピュータ内の全てに元帳データが保存されている(実際には、元帳データを持たないものもあるが、ここではいったん無視)。

すなわち、ビットコインであなたの残高データを破壊するには、それらネットワークに参加する全てのコンピュータをほぼ同時に破壊するしかない。でなければまた新たに生まれたノードに元帳がコピーされる。

「ビットコイン・ネットワーク」に参加しているコンピュータは、それこそ世界中に無数に散在している。中国の田舎にある巨大な採掘工場から、日本のとある会社員宅の押し入れの中まで。それを全て、しかもほぼ同時に破壊するなんてことはもう到底不可能な話だ。

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前項のとおり「データを改ざんできない」どころか、「データを破壊したくともできない」。それが、ビットコインの実態だ。

ここでもう一度同じ質問を投げかけよう。データの信頼性が高いのはどちらだろう?あなたが知ってる銀行?それともビットコイン?

ビットコインだけに起こるデータの不整合と解決法

では、ビットコイン・ネットワークに参加するコンピュータの全ては、ずれもなく常に完璧に同じ元帳データを保有しているのか?

実は、それがそうではないことが時々発生する。

とある勝者が勝利を宣言したと同時に、他の採掘者もほぼ同時に勝利を宣言したらどうなるか。そのデータはほぼ同時に無数のコンピュータに伝搬を始める。

そして、それぞれが一部のノードに承認されてしまうことがある。ノードたちが正解を検証する前に二人共が勝者としてデータが出回っている状態だ。

その場合はどうなるのか?ひどい場合は、複数ページにわたって、「ビットコイン・ネットワーク」が分裂して、それぞれを正しいものとして扱ってしまうことがある。

これを、元帳のFork(分岐)と呼ぶ。

分岐といえども、元帳に複数枚ずつページがぶら下がる訳ではない。ネットワーク内で、2種類の中身が異なった元帳が正しいとされて、同時期に二重に存在してしまう感じだ。

実際、1年に数度は、実に40分間ほど(4ページ)にもわたってこのForkが発生することがある。

ではそうなってしまったあと、どちらの元帳が正しいと判断すればよいのだろうか?

実は、そのルールもビットコイン自体に組み込まれている。さすがナカモトサトシはんやで。それは……

「元帳は長い(分厚い)ほうが常に正しい」である。

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きわめてシンプルで潔いルールだ!すなわち、ページ数が長く伸びている方が正しいとされ、短いほうが破棄されるのである。

よく、ビットコイン関連のサービスで、「あなたの入金を確定するには最低6認証必要です」と言ったような表現を見かける。これは、6認証すなわち6ページも元帳が進めば、もうFork(分岐)してその支払いが取消になることはなく、それ以降は改ざんの恐れもなく、支払いが100%確定するだろうということである。

ビットコインの世界では、これが最も確実な回収リスクの回避方法である。

Decentralized(非中央化)された世界

もうこれであなたにも、ビットコインには銀行や国と言ったような、中央管理のための管理者自体が存在しないどころか、全くその必要さえないこと、そしてそれらが存在せずともトランザクションの信用性とデータの冗長性が客観的に保てることも理解して頂いたはずだ。

破ることができない絶対ルールは、最初からソフトウェアとしてのビットコインに組み込まれており、全ての送金承認プロセスは、ネットワーク上に無数に存在するノードが賞金のためにその役割を担う。

この「Decentralized」なビットコイン・ネットワークは、詳しい仕様を見れば見るほど、なぜか「生物の仕様」や「宇宙の仕様」を見ているかのように思えてくる。

各ノードが知性を持ってルールに則った自律活動をし、それら無数のノードが互いにP2P接続し、「新規発行されるビットコインを得る」という共通の欲望をエネルギー源として活動している。

ノードが得たインセンティブが活動コスト(電気代)を上回ればその活動は拡大し、下回れば活動を止める。

世界のどこかでノードが消滅していく傍ら、どこか別の場所でさらにノードが生まれる。

採掘者である個々のノードは、経済的な(採掘能力的な)格差は別として、数学的に平等にその労働に対して報酬獲得のチャンスを得る。

この「ビットコイン・ネットワーク」はとても有機的というか、生物的な集合体(コレクティブ)であるかのようにも感じられる。

この自由で誰にも縛られない「Decentralized(非中央化)」された世界が、世界中のリバタリアン達の支持を得て、ギーク以外のもう一つの文化圏としてビットコインが普及するきっかけとなった。

その証拠に、ビットコインはシリコンバレーなどの活動値が盛んな地域だけではなく、片田舎で開催される小規模なリバタリアンのお祭りなどでも使える。まさに、ビットコインは21世紀仕様のデジタル・ヒッピー・マネーだ。

そしてこの「Decentralized」という言葉は、今やビットコインを語るに欠かせない重要なキーワードの一つとなっている。

ブロックチェーンとはなんぞや?

「ちょっと待った」

ビットコインを勉強したことのある方であれば、冒頭でちょこっと触れただけのあのフレーズが気になっているに違いない。

それが、ビットコインにまつわるキーワードの中で最も重要な「ブロックチェーン」である。

「Decentralized」が理念であれば、「ブロックチェーン」は設計や規律と言ったところだろうか。

しかし、ここまで読んだあなたには、一発で「ブロックチェーン」の意味が理解できる。次の2文を読めば、もう「ブロックチェーン」の全貌を知ることになる。

ここまでに散々登場した「元帳の1ページ」単位が、ビットコインでは「ブロック」と呼ばれる。そして、そのブロックがつながった状態の「元帳」を、「ブロックチェーン」と呼ぶ。

それだけである。

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ここまでの文章において、「ページ」を「ブロック」に、「元帳」を「ブロックチェーン」に置き換えても、全て話が通る(銀行の部分を除く)。

図解ではあたかも直方体の「ブロック」として表現したが、本来は単なる容量と書式が決まったデータの塊である。その名前が「ブロック」であるから、わかりやすくこのようなブロックのつながりや、単なる正方形のつながりとして表現される事が多い。

よく聞く「ブロックチェーン」が、こんなにも理解が簡単だったのかと驚かれることだろう。当然、技術的な仕様は難解であるが、コンセプトが「元帳」であることが分かっていれば理解しやすいはずだ。名前というものは、知らないフレーズが使われているだけで、敬遠しがちになり、全く意味がわからないものになるのだ。

なお、この「ブロックチェーン」は、単にこの元帳の仕組みを指すだけではなく、先ほどの暗号ハッシュを用いた採掘バトルの仕組みや、トランザクション承認の仕組み、「Decentralized」されて、P2Pネットワークとして稼働している仕組みも含めてそう呼ぶことが多い。

ブロックチェーンの「Proof of Work」

そして、そこでの採掘バトルに採用されている評価概念が、冒頭に出てきた「Proof of Work(PoW)」と呼ばれるものだ。「回り道ができずコストがかかる単純行為」をしたという事実を使って、仕事をしたということを証明する仕組みを指す。

変な例かも知れないが、例えば広大な野原で四つ葉のクローバーを見つけた人に対して、10分に一つ完成するおにぎりを渡すとしよう。

おにぎりを得るには、ひたすら野原を這いずり回るという行為でクローバーを見つけるしかない。しかしおにぎりを渡す側は、その仕事を評価するには参加者が取ってきた四つ葉のクローバーを見て確認するだけで良い。参加者がより数多くのおにぎりを得るには、仲間を連れてきて人数を増やすしかない。

すでに学んだように、参加人数が増えても10分に一回おにぎりを渡すには、ゲームのルール(難易度)を調整すれば良い。「よし、今からおにぎりは四つ葉ではなく五つ葉のクローバーに与えられる」と。

「ブロックチェーン」では、暗号技術を使ってこの「Proof of Work」を実装している。ランダムな「ノンス」を一つ前のブロックにあるハッシュと併せて、一方通行の暗号アルゴリズムに放り込めば出てくる計算結果の頭のゼロがそろっていれば当たり。評価するには当たったノンスをもう一度そのアルゴリズムに通すだけ。

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ビットコインでは、その正解となったハッシュが、次のブロックで採掘する際の問いのハッシュとして使われる。これが永久に続き、ブロックが鎖(チェーン)のようにつながって伸びていく。

この仕組みでは、ハッシュが一定の計算コストを持って仕事の証明になることから、「Hashcash」と呼ばれていて、メールのスパムを防止する仕組みなどにも使われている。スパマーは、メールを送るたびに一定の計算で仕事したことを証明せねばならないから、何億通もメールを送るのに計算能力をかなり消費してコストがかかってしまう。しかしメールを受けた側は一発で検証できる、という仕組み。

それを、金融システムにおけるトランザクション承認プロセスに応用したナカモトサトシさんかっこいい。

将来有望なブロックチェーン

これらを含めた全ての仕組みがあまりにも画期的であり、信頼性が高いため、様々な分野で「ブロックチェーン」の仕組が採用され始めている。

実際、IBMが「ブロックチェーン技術」をIoT(物のインターネット)や主要通貨の決済システムに採用を進めており、あのIntelまでもがついに暗号通貨関連の研究者を募集している。

本当にこのビットコインの「ブロックチェーン技術」が、一般的に思われているように「怪しい」、「信用出来ない」、「データが改ざんされてしまう」ような技術であれば、先進的なテクノロジー企業がそれを参考に、採用して新しいプラットフォームをつくろうとするはずがないだろう。

「ブロックチェーン」を用いれば、改ざんできない透明性の高いプラットフォームができあがる。それを世界で初めて、決済プラットフォームとして実働させ、証明したのが「ビットコイン」なのである。

そして様々な大小の問題を乗り越えながら、ビットコインは2009年から止まらずに立派に稼働している。

ビットコインの真の姿

もう、まとめる必要さえないかも知れない。

しかし最後にもう一度、冒頭で私が宣言したビットコインの真の特性を思い出してほしい。私は、ビットコインは「消したくとも消せない」と書いた。

2008年11月7日午前9時30分36秒(PST)。実際にビットコインが稼働するよりも前の日付だ。この日、とある暗号関係のメーリングリストに送られて来た質問に対して、ビットコインの未来の姿を予言する返答を返した人物がいた。

「Yes, (you will not find a solution to political problems in cryptography) but we can win a major battle in the arms race and gain a new territory of freedom for several years.
そうだ。(我々は暗号技術における政治的な問題の解決法は見いだせないだろう。)しかし、我々は激しい戦いにおいて大勝利を収め、数年間は新しい自由の領地を得るだろう。

Governments are good at cutting off the heads of a centrally controlled
networks like Napster, but pure P2P networks like Gnutella and Tor seem to be holding their own.
各国政府は、中央管理されたNapsterのようなネットワークを遮断することは得意だが、GnutellaやTorのような純粋なP2Pネットワークはまだそれに屈していないようだ。

Satoshi
哲史

Satoshi Nakamoto Fri, 07 Nov 2008 09:30:36 -0800
The Cryptography Mailing List
Re: Bitcoin P2P e-cash paperより」

そう。発明者ナカモトサトシは、「Decentralized」なP2P方式で、「力を持った第三者にも首が落とせない」前提でビットコインを作った。そしてそれは今も独自の経済圏、すなわち彼のいう「自由の領地」を拡大し続けている。

ここでは最低「数年間は」と謙遜気味に書いているものの、すでに6年間以上に渡って、「ブロックチェーン」はあらゆる圧力や問題に屈さず、人々の経済活動を刻み続けているのだ。

「ビットコインは『取引は全て透明性が高く』、『盗むことは非常に困難』であり、『消したくとも消せない』もの。そしてある意味一般的な通貨よりも『信用できる』ものなのである」

ビットコインの原理を理解した今、冒頭で宣言したこの言葉に偽りはあっただろうか?

念のため、ここで最後にビットコインの特徴をもう一度まとめておこう。

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『不正』、『破綻』、『盗難』、『消失』

そんな言葉は、ビットコイン自身にではなく、Mt. Goxなどの、盗難や破綻による被害を発生させた取引所やサービスに向けるべきものである。ビットコインは消えていないし、消せない。

『怪しい』『不正送金』『マネーロンダリング』

そんな言葉は、ビットコイン自身にではなく、それを時代に先駆けて活用している犯罪者に向けるべきものである。まさに殺人事件における、罪のない鋭い包丁。ビットコインも同様に、あくまでも単に鋭すぎる決済ツールなのである。

最後に

ついにビットコインの原理を知って、あなたはどう感じられただろうか?

もし、あなたがテクノロジー産業に従事しているにもかかわらず、今日これを読んでもビットコインの原理について理解ができなかった場合は、あなたと暗号通貨やブロックチェーン技術とは相当相性が悪いのかもしれない。

と言っても、この先一切ビットコインを使わなくとも、あなたに何か問題が起こるわけでもない。ただ、大きな可能性を秘めた新しい分野を一つ見逃すことになる。

しかし、まったく無の状態からこれを読んでビットコインに興味を持った方や、今日まで抱いていたビットコインのネガティブなイメージを払拭できた方、そしてビットコインの革命性に感銘を覚えた方には、この先に広がるさらに大きな世界の可能性について何かを感じて頂けたはずだ。

2008年に謎の人物ナカモトサトシの論文として発表されたこのビットコインは、実にこれほどまでに、世界のトップエンジニアや研究者たちが熱狂するに値する斬新な仕組みなのである。

そしてこの「ブロックチェーン」技術の利用は、単なる決済システムにとどまらない。また、何百ものビットコインクローンである他の暗号通貨(Altcoinと呼ばれる)の根幹技術としてのみ使われている訳でもない。

その他にも、全ての電子契約やプログラムをブロックチェーン上に乗せるという壮大な「Etherium」というプラットフォームや、オープンな電子トークン株式市場を実現している「CounterParty」、現実に存在する金融資産を同価で取引できる「BitShares」、消せない特性を利用してデータ記録に特化した「Factom」など、Bitcoin 2.0と呼ばれる分野がこの「ブロックチェーン技術」を応用し、既に国境を越えて世界中に広がり始めているのだ。

日本が、世界各国に比べ、ビットコイン自体への理解と受容に数年以上も出遅れる中、そこから派生した理念と技術は、国境を超えて既存の仕組みを着実に侵食している。

ここで、今までのものと大きく状況が違うのは、この「ブロックチェーン」技術を用いたプラットフォームは、ナカモトサトシが予言したように、一政府の圧力や法律、一個人の思惑では原理的に潰すことができないということだ。

そして、それらが日本に攻め入る日も近い。我々も、否が応でもそれを受け入れなければならない日を想定して、日本からもイニシアティブを取るべく準備を進めねばならないだろう。

なぜなら、そのパイオニアであるビットコインでさえも、止めたくても、もう誰にも止められないのだから。

「5円チョコが売れないECを変えたい」BASEとWebPayの創業者が語る”決済の未来”

スタートアップ業界を取り巻く旬のキーワードを読み解くイベント「TechCrunch School」。3月24日には、オンラインでの売買に欠かせない「決済」をテーマに、先日LINEの傘下に入った、クレジットカード決済機能を組み込める開発者向けサービス「WebPay」創業者の久保渓氏と、近日中に新たな決済サービス「PAY.JP」の提供を表明している、BASE創業者の鶴岡裕太氏が登場した。

2人をリクルートホールディングスが東京・渋谷に開設した会員制スペース「TECH LAB PAAK」に招き、TechCrunch Japanの増田覚が司会を務め、オンラインにおける決済という処理が抱える課題について語ってもらった。

LINEの買収で何が変わる?

久保氏は、API形式でクレジットカード決済機能を提供し、開発者がサイトやアプリなどに簡単に決済機能を組み込めるようにするサービス、WebPayを2013年5月に立ち上げ、提供してきた。

同社は2015年2月、モバイル送金・決済サービスを提供する「LINE Pay」を通じてLINEに買収されることを発表した。スマートフォンでの購入の広がりという大きなうねりにチャンスを見出していることが、買収に同意した大きな理由だったという。

現に、久保氏が会場で「スマホでものを買ったことのない人は?」と尋ねたところ、ほぼゼロという結果だった。「僕自身もそうだけれど、机に座っていて目の前にPCがあるのに、なぜかスマホでものを買ったりする。これって大きな習慣の変化だと思う」(久保氏)。検索などに時間のかかるPCに比べ、スマホは導線が短く、楽で、リアルタイムな購買体験を提供できる可能性がある。そこに、LINEと組む意味があると考えているそうだ。

「WebPayとLINE Payが組んで何が変わるの?」という率直な質問に対し、久保氏は「世界が変わります」と答えた。

「これまで、ものを買う行為って、土日など時間のあるときにやっていた。それが、スマホの決済が変わることで、空き時間、ほんの30秒あれば買うといったことが可能になる。決済という行為が、ストレスなく、リアルタイムで一瞬で終わるような世界を目指しています。安全で、ユーザー自身が意識して渡すと同意したとき以外は個人情報を渡さないという、エンドユーザーにとって理想的な世界の中で、モノやサービスを享受する体験ができる世界というのが、LINE PAYの提供する価値」(久保氏)。

これまで通り、開発者向けのWebPayも継続していく。ただ、WebPayがどちらかというとものやサービスを提供するマーチャント、サービス事業者向けのサービスだったのに対し、LINE Payではコンシューマーの視点に重点を置くことになる。

「決済がインフラだけで満足してもらう時代って、2014年で終わったと思っています。使いやすさや便利さも含め、使ってくれているサービス事業者の売り上げにどれだけ貢献できるかが決済事業者にも求められる時代です。マーチャントを向いて商売するだけでなく、一般のコンシューマーも見てサービスを提供していかなくてはならない。購買行動を全て設計するのが決済事業者」と久保氏。LINEが抱えるユーザーベースを基に、その人たちが買いたいものを最も買いやすく、心地よい導線を設計して、欲しいときにすぐ買える決済サービスを提供して、売り上げに貢献していきたいという。

ちなみにLINEによる買収の別の効果が、「門前払いがなくなりました」(久保氏)ということ。ある会社と新たにパートナーとなりたい、話をしたい、という時に、相手側も積極的に高いモチベーションで関わってくれるようになったそうだ。

「決済はうまみのないビジネス」

一方、「PAY.JP」の名称で決済ビジネスへの参入を表明した鶴岡氏だが、意外にも「決済って、あまりうまみのないビジネス。ビジネス的なうまみという観点なら、もっと他にいいビジネスがある」と述べる。

この点には久保氏も賛同する。しっかり、堅牢にやらなければいけないビジネスの性質上、導入までのリードタイムが3カ月程度かかることもざらにあり、「全部、3〜4カ月遅れで数字が出てくる」(同氏)。従って、いわゆるWebのスタートアップの感覚からすれば、決済ビジネスのスピード感は非常にゆっくりなのだそうだ。

「でも、決済業界に対する明確な課題意識があって、その課題を解決するために必要なことをやりたいんだ、という形であれば、カード会社も協力してくれるし、耐えられると思う」(鶴岡氏)。久保氏も、「N年コミットするつもりでやるのかどうかがすごく重要。僕はWebPayをやっていて、資本主義社会の根幹を自分が担えるかもしれない、というくらい、社会に触れ合っている感覚がある。自分たちが資本主義社会のインフラ、プラットフォームとして、社会を一歩前進させるところにコミットしているんだという信念があって、N年がんばろう、というのがあれば、すごくやりがいがある」と述べる。

5円チョコが売れないECサイト

鶴岡氏が抱いているその課題というのは、「今の決済が、過去のオフラインでの決済のプロセス、形式の影響をあまりに受け過ぎていること」だ。

例えば、インターネット上で1つの決済を処理しようとすると、間に非常に多くのプレイヤーが挟まることになる。「僕、これってすっごい無駄だなと思うんですよ。既に、Bitcoinのように二者間で直接お金をやり取りできる手段もあるし、自分の与信枠を与えるというやり取りだってできるのに、そうなっていない。そうした効率の良くない部分をPAY.JPで変えていきたいと思っています」(鶴岡氏)。

究極的には、オフラインの世界と同じような価値の交換スキームをオンラインでも実現するのが同社のミッションだという。

「オフラインだと、モノを売る人と買う人の2者だけで価値の交換が完結するわけですよ。でもひとたびインターネットが間に入るとそうはいかない。今、ECサイトで5円チョコって売れないんですよね。手数料がそれ以上にかかるので。だから、負担なく5円チョコを売れるECサイトができるように……つまり、手数料を誰か事業者が代わりに負担して『無料』にするのではなく、本質的に手数料のないスキームというのを構築できないかと考えています」(鶴岡氏)。

久保氏も、「決済のシステムでは、1980年代の仕組み、下手をすると1970年代後半の仕組みが動いている。そこでは、1つのトランザクションを処理するために原価として5円、10円という手数料がかかってしまい、それ以下にはできないんですよね。『オフラインを引きずっている』ってそういう意味です」と述べた。

「左手にクレカ、右手にスマホなEC体験は20年後に爆笑される」

1990年代、インターネットが広がりECサイトが生まれ始めた時期に、そうした過去のシステムとWebとを無理矢理つなげた仕組みによって、今の決済の仕組みは何とか保っている。とはいえそろそろひずみが来ており、トランザクションの仕組みを2010年代の今の技術に置き換えていくことができれば、原価を引き下げ、コストのかからない決済ができるのではないかと期待しているという。

鶴岡氏は、「今は、左手にクレジットカードを持ち、右手にスマホ持って番号を打ち込んで決済をしていますけど、20年後の人がこの姿を見たら爆笑すると思うんです。いろいろな方法で個人を特定できるこの時代において、オンラインにおいてもクレジットカードというものを使うのがなんかすごく効率が良くないなと思っていて、そういうところで『与信枠』というテーマを追求したいと思っています」と述べた。

これからの決済手段、「一回は多様化」?

決済をめぐるプレイヤーは多様化している。方やApplePayがあり、日本ではSuicaという存在がある他、ID決済の可能性もあるなど混沌とした状況だ。今後、決済手段はますます多様化するのだろうか?

この問いに対し久保氏は「一回は多様化すると思います。WebでさまざまなAPI標準がうわーっと出てきてREST APIに収束したのと同じで、一回は決済も多様化して、どこかでマジョリティが使っている良いものに集約される流れになるのではないか」と述べた。

一方鶴岡氏は、「決済という仕組みの中で、最強の立場にあるのがビザとマスターで、そこが変わらなければ言うほど大きく変わらないと思います。その意味で、これからの10年、20年で、あの立場に立つもの、入れ替わるものが出てくるかどうかが面白いポイントだと思っています」と言う。

取り残された領域にテクノロジの力を、「Airレジ」の取り組み

セッションの後半には、リクルートライフスタイルの執行役員、大宮英紀氏が登場し、POSレジの機能を提供する無料アプリ「Airレジ」について紹介した。2013年11月にリリースされてから、Airレジの導入件数は当初の予定を上回るペースで伸び、今や10万アカウントを突破。クラウド関連サービスとも連携を広げている。

Airレジというアプリをリリースした目的について、大宮氏は「テクノロジや環境が変わっていく中で、取り残されている領域がある、それを変えたいと思って数人で始めた」と振り返る。Airレジというプロダクトを通じて、それと意識することなく、テクノロジをうまく活用できるようにしたかったのだそうだ。

飲食店や小売店鋪、サービス業などの場合、店舗を開くには相応のイニシャルコストが必要になる。同じ金額をPOSレジに投じる代わりに、Airレジでまかない、マーケティングなどほかの部分に力を入れることで、中小企業の成長を後押ししたいという。


モナーコインは暗号通貨のiモードとなるか? 新Bitcoin取引所「Zaif Exchange」がオープン

Bitcoinと国産暗号通貨のモナーコインを扱う日本向けBitcoin取引所の「Zaif Exchange」(ザイフ)が今日オープンした。一般的な取引所で0.1〜0.5%の手数料が発生するのに対して、手数料ゼロをうたう。日本円を入金すると暗号通貨との取引が行えるほか、暗号通貨と日本円での両方で引き出しができる。

サービス自体は2014年7月にBitcoinウォレットサービスとしてテックビューロで生まれたが、2014年4月からBitcoin取引所として稼働していたEtwingsを買収してリブランドしたのが今回のZaifだ。再スタートにあたってロゴとシステムを刷新。暗号通貨管理の強化や、単位時間当たりの取引キャパシティを10倍に強化するなどしたという。

管理強化の面では、顧客が持つ暗号通貨残高のうち流動しないものについてはシステム内からは完全に隔離された状態で複数箇所に分けてオフライン保管したり、その再移動には権限を持った複数管理者の電子署名が複数段階に渡り必要となる内部統制制度を導入するなどした。また、取引所システムを複数層に渡って外部から遮断し、内部への侵入を防ぐセキュリティ環境を構築したという。

運営元のテックビューロは、創業期のDeNAへの投資で知られる独立系VCの日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)を引受先とする総額1億円の第三者割り当て増資を実施したこともオープンと同時に明らかにした。NTVP代表の村口和孝氏といえば、日本の独立系VCの草分け的存在として広く知られているが、その村口氏はBitcoinのような暗号通貨の将来性について、次のように述べている。

「15年以上前から大きな地殻変化が起こるだろうと思っていた領域だが、暗号通貨が21世紀の通貨革命としての歴史的な役割を果たすことの重要性は明らかだ。今回投資したテックビューロは、暗号通貨に関する技術力サービス力が国際的で、グローバルな暗号通貨サービス領域で重要な役割を果たすことが出来る有力な一社と判断した」。

NTVPとしてサービス立ち上げを支援し、今後追加投資もするという。

テックビューロは2014年6月創業で、先端技術を研究開発する企業としてスタートしていた。これまでに、肉眼からは見えずにスマートフォンカメラから見える印刷技術のライセンス供与などを行ってきたが、今回の増資にともなって暗号通貨関連サービスの提供を開始した形だ。今後はZaifブランドで取引所のほかにも、ウォレットサービスや決済サービスなどを順次公開予定という。

開発やコンサルティング、ビジネスは周辺領域で

Zaifは日本での暗号通貨普及促進のために、手数料無料を少なくとも1、2年は続けるとしているが、収益モデルを何に据えているのだろうか? テックビューロ創業者で代表の朝山貴生氏がTechCrunch Japanに語ったところによれば、いま見えている方向性は2つあるという。

1つはBitcoin関連ビジネス、中でもシステム開発やコンサルティングの事業だ。もともと朝山氏はシリコンバレーで技術者チームを率いてクレジット決済サービスを提供していた経験があり、金融システムやセキュリティに明るい。数理モデルによる不正検知導入や、日本の金融事情に特化した不正対策も施し、国際的なマネーロンダリング対策、KYC(顧客確認)基準にも対応していくとしている。

Bitcoinのような暗号通貨を扱う上で出てくるセキュリティ上の課題は、従来と異なってくる。このためシステム開発、コンサルティングのニーズが大きくなると見ているという。例えば、暗号通貨では「盗む」といっても、実体に触れずに盗むということが起こっている。以前、Bitcoinで個人口座情報が漏洩するというセキュリティ事故があったが、これは初回の個人口座情報(楕円曲線による公開鍵・秘密鍵のペア)生成時に使われていた乱数発生アルゴリズムに欠陥があったためだった。この欠陥自体はBitcoinそのものの欠陥ではなく、実装依存のセキュリティ問題だが、現実問題としては多くのサービスで利用されているBitcoinデーモンに入っていたものだったので広く問題となった。

というような話を常時把握しておき顧客の資産を守る、その専門技術者集団とプラットフォームというのがテックビューロとZaifの役割ということだ。だから、手数料無料といってもAPIベースでのシステム利用以外が対象となっている。

システム開発ニーズとしては、Bitcoin 2.0と呼ばれる周辺領域の拡大も見込む。

Bitcoin 2.0は、Web 2.0に似た総称で、暗号通貨方式そのものの革新も含まれるものの、どちらかというと、Bitcoinのブロックチェーン技術の上に築かれつつある各種応用技術のことを指す。たとえばCounterpartyというサービスは、Bitcoinを通貨として企業が「上場」できる暗号通貨を使った株式資本市場だ。市場参加者は「暗号債権」の売買ができる。SmartContractは電子署名と暗号通貨を結び付ける試みで、たとえばBitcoinの所有者移動と物品の所有権の移動を紐付けるようなことをデジタルで行う枠組みを提供している。Bitcoinのような暗号通貨の普及の先には、これまでと違った金融テクノロジーや関連ビジネスが生まれる余地がある。

海外からの送金ゲートウェイとしてのニーズも

現在、日本向けのBitcoin販売所/取引所としてはbitFlyerQoinKrakenCoincheckBtcBoxなどがあるが、朝山氏によれば、まだ取引額は1日3000BTC(現在のレートで約3000万円)程度にすぎない。仮に手数料が0.2%としても6万円で、これではビジネスの見通しは立たない。

日本ではMt.Gox破綻によるネガティブイメージや、そもそもの需要不足からBitcoinの普及は始まってすらいない。朝山氏によれば、米国でBitcoinユーザーの6割は非白人層で、これは出身国へ個人間国際送金する需要に応じて利用が伸びていることを示しているのだという。

Zaifでも直近では海外から日本への送金ニーズに一定の需要があるのではないかと見ているという。日本の金融機関とのつなぎ込みといったことは海外事業者や個人消費者には難しく、そのゲートウェイとしてBitcoinや取引所を使うというニーズだ。朝山氏は「2020年の東京オリンピックまでには、Bitcoinしか持たずに来日する外国人もいるかもしれませんよね」と、こうした可能性に言及する。

モナーコインは暗号通貨のiモードとなるか?

Bitcoinはインフレ懸念や財政政策の失敗から一国の通貨をBitcoinに切り替える、というような議論が出てくることもあるなど新興国で注目を集めている。一方で、日本のように通貨の安定性が比較的高い先進国では暗号通貨の利用は進んでいない。Mt.Gox破綻の背景にはBitcoinや暗号通貨と関係がないセキュリティ上の問題があったとされているが、Mt.Gox事件によって、特に日本ではBitcoin自体にネガティブイメージが付いたのは間違いない。

ボラティリティの高いBitcoin相場をTechCrunchでも一時期良くお伝えしていたし、暴落を伝えるたびに、それ見たことかという鬼クビ的ツッコミも多くあった。しかし一方では、初期Bitcoin賛同者が資産を1000倍とした例など「Bitcoin長者」も生まれていた。日本でBitcoinが広く紹介されるようになった2014年には、いわば祭りのあとだったので、こうした狂乱騒ぎを経験した日本人ユーザーはほとんどいないはずだ。

こうした状況から、朝山氏はモナーコインが一定の役割を果たすのではないかと見ているという。

モナーコインは日本で生まれた国産暗号通貨の1つだ。ほかにも国産暗号通貨は複数あるものの、海外の取引所で継続的に扱われていて、かつマーケットキャップが1億円を超えている唯一の暗号通貨だという。これを書いている間にも相場は上がっていて、ここ数日で3億円を超えたという。

コミケのような特定領域で利用されることがあるなど、現在のモナーコインには4、5年前のBitcoinに似たところがある、というのが朝山氏の指摘だ。「モナーコインが今後たどるプロセスが、過去のBitcoin黎明期の成長フェイズを日本人ユーザーに体験して頂ける良い機会であると考え、それが世界で最も流通しているBitcoinの日本での普及につながる」と考えているという。

インターネットや外界とは隔絶した環境で、2000年代前半にiモードが普及し、産業として発展したのと同様に、モナーコインという独自通貨が日本で広まる可能性もある。iモード同様に、恐らくモナーコインも今さらBitcoinを超えることはないだろうが、多地域で複数暗号通貨が併存した状態となるのか、その比率がどういうものになるのかなどは誰にも分からない。iモードがスマホの波に飲み込まれて消え去ったのと同じようにモナーコインが一時の徒花となるのかも分からない。朝山氏は「iモードのように寄り道してグッと戻ってくるという動きになるのかもしれない」と話している。


ギリシャがユーロを捨ててBitcoinに切り替えてはいけない理由

[筆者: Wences Casares]

編集者注記: Wences CasaresはXapoのファウンダでCEO。

ギリシャのユーロ離脱をめぐる議論の一部に、ギリシャはユーロをやめてBitcoinを採用したほうが良いという説がある。一見してBitcoinは良い対策にも思えるが、しかし、ユーロが問題であるときBitcoinに切り替えるのは、頭痛を脳に弾丸を撃ちこむことで治そうとするようなものだ。

ユーロの主な問題は、ギリシャが自由にそれをもっともっと印刷できないことだ。それができるのは、European Central Bankだけだ。でも、少なくとも、誰かにそれができる。ギリシャはECBを説得して自分たちのためにもっとユーロを印刷してくれ、と頼めるかもしれない。一方、ギリシャがBitcoinに切り替えたら、自分たちが発行する通貨の量をコントロールすることがまったくできない。発行量の増加を頼めるかもしれないECBや合衆国のFRBのような機関も、Bitcoinにはない。

Bitcoinは、その基本的な性質として、供給量が一定であり上限がある。今それは13,882,100bitcoinあって、2025年1月には20,343,750bitcoinになり、しかし供給量が21,000,000bitcoin以上になることはない。

今Bitcoinを保有している人は約1000万人いる。うまくいけば、20年後には10億から20億ぐらいの人びとが合計2100万bitcoinを保有し、そのときBitcoinの価格(貨幣価値)は相当大きくなっているだろう。経済学者はBitcoinを、“デフレ性通貨”と呼ぶ。

ギリシャ新内閣の財務大臣Yanis Varoufakisも、Bitcoinはデフレ性通貨なのでギリシャにとって良くない、と言っている。しかし彼はさらに、Bitcoinはデフレ性だから、欠陥のある通貨だ、とも言っている。でも、それはちょっと違う。Bitcoinは政府の通貨ではなくて、人びとのためのグローバルな通貨だ。人びとは一般的に、時間の経過とともに価値が上がっていく通貨、すなわちデフレ性通貨を好む。逆に、時間の経過とともに価値が下がっていく通貨、すなわちインフレ性通貨は好まれない。すべての国の通貨が、インフレ性通貨だ。

ギリシアに限らず、一国が自分たちのそれまでの通貨を捨ててBitcoinを採用するのは間違いだ。通貨政策は、それが賢明であれば、人びとのふところを豊かにし繁栄をもたらす。しかしあまりにも多くの通貨を政府が発行することは、通貨政策の濫用だ。

大量の通貨発行によってインフレが起こり、それらの国々の貧困層がなお一層困窮する。でも彼らは、ほかに方法もないので、どんどん減価していく自国の通貨にしがみつき、すべてを失う。

Bitcoinは、世界中の人びとに対策を与える。スマートフォンがあれば誰でも、どんどん減価していく通貨からの避難所としてBitcoinを持てる。そしてそれは、政府に対するメッセージになる: “政府の通貨じゃなく、自分たちの通貨を持とうよ。ただし、自分の意思で選んだ新しい通貨は、責任をもって管理しよう”。

Bitcoinが普及したとしても、それがどこかの国の通貨を代替することはない。ギリシャにかぎらず。Bitcoinは特定の国の通貨ではなく、人びとによる、人びとのための、インターネットのデジタル通貨だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa