3Dプリントで作った生体工学的な珊瑚が珊瑚礁の光合成能力を模倣する

珊瑚礁の大量絶滅は地球規模の惨事だが、彼らの有機体としてのこれまでの成功の圧倒的な大きさは、科学に教訓を与えている。その好例が、ケンブリッジ大学の研究者たちが作った3Dプリントによる「バイオニック珊瑚」だ。それは、脆い微生物を重ねた骨格以上のもので、むしろ自分で自分を生み出しているのだ。

3Dプリントで作る珊瑚の話は実は2年前にもあり、そこでは別の研究者たちが、珊瑚のような複雑な形の構造物をプリントして、それを本物の珊瑚やそのほかの生き物が育つための基盤(ソリッドベース)にすることを提案した。それは良いアイデアだが、でも珊瑚には単なるソリッドベース以上のものがある。

実は珊瑚は、珊瑚自身の有機体とその中に住む藻類との、高度に進化した共生体だ。藻類は光合成によって宿主のために糖を作り、珊瑚は藻類に安全な生活環境を与える。そして興味深いことに、珊瑚は光の収集と方向変えをきわめて効率的に行う。この共生関係は何百万年にもわたって高い生産性を維持してきたが、海水の温度上昇と酸性化によって、成功に必要な微妙なバランスが崩壊した。

ケンブリッジのチームが理解したのは、珊瑚の微細な生態系の模倣に成功するためには、住民である藻類のために太陽光を捉えて拡散する特殊な能力の模倣も必要なことだ。彼らは珊瑚の構造を細部まで調べて、それを顕微鏡的なレベルにまで再生することに成功した。ただし彼らが使ったのは耐久性のある剛体の培養基ではなく、実際に作ったのは生きているゲルのようなものだ。

このプロジェクトの研究論文を書いたケンブリッジの化学者Daniel Wangpraseurt氏が、こう言っている: 「われわれが作った人工珊瑚の組織と骨格は、ポリマーのゲルとセルロースのナノ素材でドープしたヒドロゲルを組み合わせて、生きている珊瑚の光学的性質を模倣している」。

藻類にもやはり、その混合液が注入された。そして研究者たちは、そのいわば生きている物質をプリントした。このようなテクニックは、医療分野ではすでに試験や利用に供されている。たとえば、インプラントするための器官や組織の部分をプリントするのだ。しかし今回の場合は特定の大きな形をプリントするのではなく、表面に当たった光の到達距離を最大化する、きわめて複雑な内部構造を作らなければならない。しかもそれが非常に高速に行われないと、藻類は露光によって死ぬ。

そうやってバイオプリントされた構造体は藻類の理想の家になり、通常の媒質の何倍もの速さで成長する。しかしそれは、次のステップが珊瑚を超高速に育てることである、という意味ではない。いやむしろ、これが珊瑚の復活に寄与する、と考えられる根拠は何もない。しかし一方では、このような形のシミュレーションが、珊瑚と藻類のパートナーシップが栄える生態系や栄養補給系の、より深い理解に導くかもしれない。

同時にまた、藻類を倍速で育てられることには、商業的魅力もある。そしてMantazと呼ばれるスタートアップが、この技術の短期的な利用を追究しようとしている。

画像クレジット: ケンブリッジ大学

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Modernaに続きゲイツ財団が支援するInovioの新型コロナのワクチンが臨床試験へ

米国時間4月7日、FDA(米国食品医薬品局)は新薬臨床試験(IND)プログラムに基づいて新しい新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの候補を承認した。これにより直ちにINO-4800 DNAワクチンの臨床試験のフェーズ1が開始される。

開発元のバイオテック企業 InovioではINO-4800 DNAワクチンをボランティア被験者に接種する計画で、動物実験では免疫反応の増加が示されるなど有望な結果が得られている。

InovioのDNAワクチン候補は、特別にデザインされたプラスミド(細胞の核外に存在するDNA断片)を患者に注入する。プラスミドを受け取った細胞における、特定の感染源を標的とする抗体生成を増強させるのが目的だ。DNAワクチンは、獣医学においては各種動物の感染症に対して承認を受け、頻繁に利用されているが、人間への使用はまだ承認されていない。

Inovioの新型コロナウイルスのワクチン開発はゼロから始まったわけではない。これまでにも同社はMERS(中東呼吸器症候群)のDNAワクチン候補のフェーズ1臨床試験を完了し、有望な結果が出している。被験者は高レベルの抗体生産を示し、効果は長期間持続している。

Inovioには優れたスケールアップ能力があり、フェーズ1およびフェーズ2の試験を実施するためにわずか数週間で数千人分のワクチンを製造することができた。同社はこの実験にあたってMicrosoftのファウンダー、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏が創立したBill and Melinda Gates Foundationからの支援を受けている。プロジェクトには他の非営利団体からの資金提供もあった。Inovioでは「 臨床試験が成功した場合、追加試験と緊急使用(承認が必要)のために今年中に100万回分のワクチンを準備できる」と述べている。

INO-4800は、FDAから臨床試験のフェーズ1の承認を受けたたワクチンとして2番目となる。我々も報じたとおり、 Modernaも2020年秋の限定実用化を目指して臨床試験を行っている。Inovioの臨床試験に参加する40人のボランティアはすべて健康な成人で、ペンシルベニア大学フィラデルフィア校のペレルマン医学部、あるいはカンザスシティの製薬会社、Center for Pharmaceutical Researchによってスクリーニングされる。 フェーズ1の試験は向こう数週間続けられ、夏の終わりまでまでに被験者の免疫反応、副作用の有無に関するデータが得られるものと同社では期待している。

新しいワクチンの広範な使用の承認が得られるまでには、1年から1年半以上かかるのが通例だが、新型コロナウイルスに対するワクチンの臨床試験開始のペースは並外れて速い。あまり長く待たずにすむことを期待しよう。

画像クレジット:Alfred Pasieka / Science Photo Library / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

血漿ベースの新型コロナ治療法開発に米政府が約16億円注入

先週我々はEmergent BioSolutions(エマージェント・バイオソリューションズ)の治療学事業部門の責任者Laura Saward(ローラ・サワード)博士に、同社の血漿をベースとする新型コロナウイルス(COVID-19)治療法の開発について話を聞いている。そして今、同社は米国生物医学先端研究開発局(BARDA)から1450万ドル(約16億円)の資金を得たと発表した。BARDAは米保健福祉省(HHS)の一部門で、今回調達した資金は、可能性がある治療法の開発のスピードアップに使う。

Emergent BioSolutionsは、新型コロナに感染し、それによって引き起こされる呼吸器疾患を抱える患者の処置に使う2種類の血漿ベース治療法の開発にすでに取り組んでいる。そのうちの1つは馬から採取した血漿をベースにしたもので、大量生産できることがメリットだ。もう1つは人間の血漿を使用していて、こちらは患者の拒絶反応を引き起こす可能性を抑えられる。

どちらの場合も、患者の免疫を高めることができる「高度免疫」治療製品を開発する1つの方法として回復期患者の血漿を使うというコンセプトに基づいている。研究者や衛生当局が調べている、回復期患者の血漿の他の使用法と似ている。しかし直接注入するアプローチではなく、Emergentはウイルスと戦うための多くの異なる種の抗体を含む血漿ベースのソリューション、しかも予想通りの効果を伴うものを作り出すことで状況を打破しようとしている。

同社はすでにこれらのソリューションの開発に取り組んでおり、似たような治療法を実用化させた以前の経験をフル活用しながら開発、認証、テストを急いでいる。しかし今回、特に人間の血漿を使ったプログラムの開発を加速させるためにBARDAから1450万ドル(約16億円)を得た。計画では、新型コロナウイルスから回復した人の血液を使って開発を行う。同社はまた、すでに献血の回収とスクリーニングを始めている。

次のステップとして、Emergent BioSolutionsのソリューションは米国立アレルギー感染症研究所との臨床試験で確かめられる。同研究所が治療の有効性を判断する。

画像クレジット:zhangshuang/Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Mizoguchi

Colorが新型コロナ大量検査テクノロジーをオープンソース化、自社ラボも稼働へ

ヘルス・遺伝子テクノロジーのスタートアップColorは、世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に対処するために重要な役割を果たそうとしている。3月31日に公開されたCEOのOthman Laraki(オスマン・ララキ)氏の書簡で、新型コロナウイルスの検査を大幅に拡充するためのColorの支援内容が詳しく説明されている

稼働が計画されている高スループットの検査ラボでは、結果を病院に報告するまでのターンアラウンドタイムを24時間以内として1日あたり最大1万件の検査を処理できるという。Colorは新型コロナウイルス拡大防止に最大限に役立てるために、この検査ラボの設計や検査プロトコルを含むテクノロジーの詳細をオープンソース化し、誰でも利用できるようにするという。これにより高速、大容量の検査施設が世界各地にオープンされることを期待している。

Color自身のラボはすでに準備をほぼ完了しており、ララキ氏によれば「ここ数週間で稼働を開始」できるという。Colorのチームは、MIT(マサチューセッツ工科大学)とハーバード大学が運営するBroad Institute、コーネル大学のWeill Cornell Medicineと協力して、現在標準的に利用されている手法よりも高効率で結果が得られるテクノロジーを開発した。

Colorの重要な強みは、自動化と必要な資材をすばやく調達するテクノロジーにある。 例えば検査に必要な試薬は多数のサプライチェーンから入手可能だ。これは米国だけでなく世界的に大規模な検査体制を構築する上で極めて重要な要素となる。つまり全員が同じテクノロジー、同じ処理プロセスを利用していれば早い段階で試薬などの供給においてボトルネックに直面することになるからだ。1日に数万の検査を処理できるテクノロジーがあっても、必須試薬の1つが他のすべてのラボでも必要とされている場合、たちまち入手困難に陥ってしまうだろう。

Colorは、他の2つの重要な分野でも新型コロナウイルス対策に取り組んでいる。 最前線で仕事をしている人々のための検査と結果判明後のフォローアップ処理だ。こうした人々は社会を機能させるために必須であるが高いリスクに直面しているため検査の必要性が高い。Colorでは政府や雇用主と連携し、病院内の検査、検査ラボのロジスティクス、患者と医師のコミュニケーションなどの改善に注力するために全社的に人員を再配置した。

多くの医師や医療関係者から検査後のワークフローに関する問題が報告されている。つまり検査結果を有効かつ効率的に利用する一貫したフォローアップ体制を構築することが非常に難しいという問題だ。Colorはこの解決にも取り組んでいる。例えば同社はこれまでの経験を活かして構築した独自のワークフローのプラットフォームを開放し、他の新型コロナウイルス検査ラボが無料で利用できるようにしている。

無料で利用できるリソースには、検査結果報告書、患者向けのガイドラインと指示、接触履歴アンケート、陽性と判定された患者に接触しウイルスに暴露された可能性がある人々に連絡する方法などが含まれている。

Colorの新型コロナウイルス対策事業の一部は個人及び組織の寄付によって支えられてきたという。同社では、新型コロナウイルス対策のプロジェクトやリソースに関連して有用な貢献ないしビジネスができると考えるならcovid-response@color.comに直接メールするよう呼びかけている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

新型コロナの流行で分子科学のクラウドソーシング演算パワーがエクサフロップ級に

分子相互作用を解明するという複雑なタスクを、長い間クラウドソーシングによって運営してきたFolding@Homeプログラムが、大きな節目を迎えている。多くのユーザーが新規登録して自身のコンピューターの演算パワーの提供を始めたからだ。ネットワークが現在提供する計算パワーは「エクサフロップ」に達した。これは1秒あたり100京(1,000,000,000,000,000,000回)の演算を行えるということだ。

Folding@Homeが始まったのは約20年前。このプロジェクトは多大な計算量を要求する問題を適当な大きさに分割し、個々のコンピューターに割り当てる手段を提供するために登場した(現在は休眠中のSETI@Homeが切り拓いた、斬新な方法だった)。これはいわば、世界中に分散しているスーパーコンピュータに相当する。計算を一気呵成に行う「本物の」スーパーコンピューター程は効率的ではないものの、複雑な問題を短時間で処理することが可能だ。

セントルイスのワシントン大学の研究グループによって管理されているこのツールが対象としている問題は、タンパク質の折り畳み問題(Protein Folding)である。タンパク質は私たちの体を機能させている多くの化学構造物の1つであり、それらは比較的よく理解されている小さな分子から、本当に巨大なものまでさまざまなものが存在している。

タンパク質の性質は、温度、pH、他の分子の有無などの条件によって形状が変化することだ。この形状の変化によって、しばしばそれらは役に立つものとなる。たとえば、キネシンタンパク質は、一対の脚のような形状に変化して、物質を細胞内で運ぶ役割を果たすようになる。またそれとは別に、イオンチャネルのようなタンパク質は、その鍵穴に鍵のように差し込まれる別のタンパク質が存在する場合にのみ、荷電原子を通過させる。

画像クレジット:Voelz et al

こうした変化、もしくは畳み込み(Convolutions)の中には、よく解明されているものもあるが、ほとんどのものは完全に未知なままである。しかし、分子とその周囲に関する堅実なシミュレーションを行うことで、重要な発見につながる可能性のあるタンパク質の新しい情報を発見できる。例えば、あるイオンチャネルが開いているときに、別のタンパク質がそのチャネルを通常よりも長く開けたままにしておけたり、素早く閉じることができるとしたらどうだろうか?このような条件を見つけることが、この種の分子科学で一番大切なことなのだ。

だが残念ながら、そのための計算コストは、非常に高価なものとなる。これらの分子間および分子内の相互作用は、スーパーコンピュータがあらゆる組み合わせの可能性を、果てしない計算を通して試していかなければならない種類の問題なのだ。20年前には、スーパーコンピュータは現在よりもはるかに珍しいものだった。そのため5億ドル(約545億円)でCrayを導入する代わりに、この手の重い計算タスクをこなすためにFolding@Homeが始まったのだ。

このプログラムは誕生以来ずっと継続していて、SETI@Homeが自身の代替物としてこのプログラムを多数の既存ユーザーに推薦したときには、ユーザーが一気に増加した。そして今回、コロナウィルスの危機によって、自分のリソースをより大きな使命に提供するという考えが俄然魅力的なものになった。こうして多数のユーザーが増えたために、いまでは各人のコンピューターに解くべき問題を振り分けるためにサーバーが大忙しになっている。

Folding@Homeによって視覚化された新型コロナウイルス関連タンパク質の例

記念すべきマイルストーンは、エクサフロップの計算パワーの達成である。これは毎秒100京(10の18乗)回の演算に相当するはずだ。1回の演算はANDやNORのような論理演算であり、それらを組み合わせることで数式が表現される、その積み重ねによって、最終的に「摂氏38度以上の温度で、このタンパク質は変形し、薬物がこの部位に結合して、それを無効にする」といった有用な知見が引き出されるのだ。

エクサスケールコンピューティングは、スーパーコンピューターが目指す次の目標だ。IntelCrayは、国立研究所向けに今後数年後の稼働を目指してエクサスケールコンピューターを構築中である。だが、現在稼働中の最速のスーパーコンピューターの速度は数百ペタフロップス程度である。これはエクサフロップのおよそ半分から3分の1程度の速度だ。

当然、これら2つは直接比較することはできない。Folding@ Homeは個々の計算パワーを統合することでエクサフロップに相当する計算パワーを生み出しているが、他のエクサスケールシステムののように単一の問題を解くための単一のユニットして動作しているわけではない。ここで使われる「エクサ」というラベルは、スケール感を表現するためにつけられているのだ。

この種の分析はコロナウイルス治療につながるのだろうか?おそらく将来的には。だが近い将来に即効性があるということはないだろう。タンパク質の構造と機能を大規模に研究するプロテオミクスは、私たちの周り(そして私たちの中)の世界を、よりよく理解することを中心テーマとした「基礎研究」なのだ。

新型コロナウイルスは、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALSなどと同様に、単一の問題ではなく、未知のものが広がった境界のはっきりしない大きな塊である。プロテオーム(対象にするタンパク質の総体)と関連するそれらの相互作用はその塊の一部なのだ。重要なのは、魔法の弾丸を見つけることではなく、理解のための基礎を築くことだ。そうしておくことで、潜在的なソリューションを評価する際に、この状況では、この分子が、あのように機能することを、たとえ1%程度だとしても速く判断することができるようになるのだ。

なおプロジェクトはブログ投稿の中で、新型コロナウイルス関連タスクの開始を発表している。

このプロジェクトの最初のタスクでは、コロナウィルスがヒト宿主細胞へのウイルスの侵入に必要な、ヒトACE2受容体とどのように相互作用するかをよりよく理解し、その相互作用を阻害する可能性のある新しい治療用抗体や低分子をデザインすることによって、研究者がコロナウィルスにどのように干渉できるかに焦点を当てます。

研究に協力したい場合には、Folding@Homeクライアントをダウンロードして、余っているCPUとGPUサイクルを提供することができる。

画像クレジット: Science Photo Library – PASIEKA / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:sako)

Modernaは臨床試験中の新型コロナワクチンを早ければ今秋にも医療スタッフに提供する計画

新型コロナウイルスのワクチン開発にはさまざまなハードルがあり、1年から1年半はかかるとみられていた。しかしワクチンの臨床試験を米国で最も早く開始することを発表していたModernaは、3月23日にさらに詳しい情報を発表した。これによると、同社は一部のグループ、おそらくは医療スタッフ向けに、早ければ2020年秋にもワクチンの提供を開始する計画を進めているという。

ModernaはFDA(食品医薬品局)からの緊急使用許可の利用を検討している。新しい医薬品や検査手法の臨床試験が承認されるためには複雑な手続きが必要だが、現在の緊急事態を受けて新型コロナウイルス関連の診断ツールに関しては、通常の手続きを経ないで進めることが認められている。Modernaのワクチンについてもこれに似た特例が認められるようだ。Modernaのワクチンは米国のNational Institute of Allergy and Infectious Diseases(国立アレルギー感染症研究所)と共同で開発されたもので、臨床試験段階に入る最速のワクチンとみられている。

通常のワクチンと異なり、Modernaのワクチンは新型コロナウイルスを不活性化したものではなく、ウイルスのメッセンジャーRNA(mRNA)を利用している。mRNA法は実際のウイルスが被験者の体内に入らないこと方法で、ワクチンからウイルスに感染してしまうリスクがない。 COVID-19に限らず、不活性化不十分による事故の可能性は、従来のウイルス自体を利用したワクチンの試験や実用のあらゆる段階で問題となり得る。

3月16日に、Modernaはワシントン州における臨床試験の最初のステップとしてボランティアグループにワクチンを提供し始めた。動物実験を行わず異例のスピードで臨床試験を開始したとはいえ、このワクチンが医薬品として一般に入手可能となるのは少なくとも1年後だと考えられていた。Modernaのワクチンが有効であり副作用もないならば、型破りなほど短期間で医療スタッフに対して限定的に利用可能になれば、最前線で働く人々の感染リスクを大いに減少させることができるだろう。

Modernaのワクチンは、COVID-19ウイルスに似ているが無害なタンパク質を投与することで人体に反応を起こさせる。これによりワクチンを投与された身体は、有害なタンパク質と実際のウイルスの撃退に効果的な抗体を生み出すようになる。他にも多数のRNAベースのワクチンや免疫療法が開発中だが、これまでのところ臨床試験段階に到達したのはModernaのみだ。がん細胞のmRNAベースの治療を専門とすModernaは、ボストンで創立されたスタートアップで2018年12月に上場している。

画像:Scott Eisen / Getty Images

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滑川海彦@Facebook

抗生物質をプログラム可能なウィルスで置き換えることを狙うスタートアップFelix

現在、世界は戦争状態だ。しかも、これは普通の戦争ではない。それは顕微鏡を用いることによってようやく見ることができる小さな生物との戦いであり、もし私たちがそれを止めなければ、数十年のうちに莫大な数の人びとが死ぬだろう。いや、私がここで話しているのは、現在全員の関心を引きつけている新型コロナウイルス(COVID-19)のことではない。私が話しているのは抗生物質耐性菌のことだ。

事実として、昨年は世界で70万人の人々が細菌感染症で亡くなっている。そのうちの3万5000人が米国人だ。国連の報告によれば、私たちが何もしなければ、この数字は2050年までには毎年1000万人まで膨れ上がるだろうと言われている。

何が問題なのだろう?それは、病院もしくは、家畜ならびに農業慣行における抗生物質の過剰使用だ。私たちは悪い細菌を皆殺しにしようと、長期間大量の薬を使ってきたが、それが殺すことができたのは、悪い最近の大部分であって、全部ではなかった。そして、映画ジュラシックパークの中でイアン・マルコム博士役のジェフ・ゴールドブラムが口にする、あの有名なセリフのように「生命は、必ず道を見つける」のだ。

そこに登場したのが、最新のY CombinatorバッチのバイオテックスタートアップであるFelix。同社は細菌感染症を寄せつけないための新しいアプローチを推進している 、ウイルスの利用だ。

ペトリ皿上で細菌を殺すファージ

新型コロナウイルスに対する広範な懸念が広がるこの時期に、たとえどんなウイルスであったとしても、それを良い視点から眺めようとするのは奇妙に思える。だが共同創業者のRobert McBride(ロバート・マクブライド)氏によれば、Felixの基幹技術は、同社のウイルスが細菌の特定の部分を狙うようにできるのだという。これは悪い細菌を殺すだけではなく、細菌が進化して再び耐性を獲得する能力を奪うことができる。

しかし、ウイルスを使用して細菌を殺すというアイデアは 必ずしも新しいものではない。細菌に「感染」するウイルスであるバクテリオファージは、1915年に英国の研究者によって発見された。1940年代にはイーライリリー・アンド・カンパニーによって、米国内での商用ファージセラピー(バクテリオファージを用いた治療)が開始されている。だがちょうどその頃に、抗生物質が登場したために、西洋の科学者たちがその治療法をさらに探求することはなかったようだ。

だが、標準的な薬物モデルが現在の状況に対して効果的に機能しておらず、提供されている新しいソリューションがあまりにも少ないという事実を前にして、マクブライド氏は彼の会社がファージセラピーを治療の最前線に戻すことができると考えている。

すでにFelixは、そのアプローチを実証するために10人の初期グループに対してソリューションをテストしている。

ファージセラピーを使って、嚢胞性線維症患者のElla Balasa(エラ・バラサ)氏の支援を行うFelixの研究者

「私たちは希少疾病を対象としていて、既に私たちの治療法が人間の体内で働くことは知っているので、従来の抗生物質よりも短い時間と少ないコストで治療法を開発することができるのです」とマクブライド氏はTechCrunchに語った。「私たちは、細菌を従来の抗生物質に再感作するようにする私たちのアプローチが、治療の第一選択になる可能性があるということを主張しています」。

Felixは、嚢胞性線維症に苦しむ患者に対する細菌感染症治療をまずは展開する予定だ。なぜならこの病気の患者の多くは、肺感染症と戦うために、ほぼ一定量の抗生物質投与を続ける必要があるからだ。

次のステップは、30人の患者を対象とした小規模な臨床試験を実施することだ。その後、FDAの承認を求める前に、通常の研究開発モデルが進むように、より大規模な治験を実施する。だが、マクブライド氏は、抗生物質耐性菌による今後の猛攻撃に対抗するために、彼のウイルスソリューションの有効性が早期に認められることを望んでいる。

「抗生物質耐性菌の問題が、現在大きくひたすら悪化しつつあることはわかっています」とマクブライド氏は語る。「私たちはこの問題に対するエレガントな技術的ソリューションを持っていて、私たちの治療法がうまくいくことを知っているのです。私たちは、細菌感染症によって年間1000万人以上が死ぬことがない、明るい未来のために、貢献したいと考えています」。

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(翻訳:sako)

ゲイツ財団やMastercardが新型コロナ対策医薬品開発に約130億円の出資を約束

ビル・ゲイツの慈善財団であるBill&Melinda Gates Foundation、英国の医療慈善団体であるWellcome Trust、大手クレジットカード企業のMastercardは、共同で新型コロナウィルス(COVID-19)に対する新たな診断、治療法の開発、普及を目指すテクノロジーを支援するイニシアチブを発表した

ゲイツ財団の発表よると、「COVID-19 Therapeutics Accelerator」(COVID-19治療法アクセラレータ)プログラムは、当初まず新型コロナウィルスの患者を治療し、将来はほかのウイルス性感染症を治療することを目的として、既存薬剤のリポジショニングや新たな抗ウウイルス・バイオ医薬品の研究開発や評価を支援する。このイニシアチブについてパートナー3社は、「プロダクトを誰でも利用できる低価格に設定し、公平なアクセスを確保する」と表明した。

まさにこの「公平なアクセスが確保できる低価格」が現在最大の問題となっている。新型コロナウィルスの流行の突発に対応すべき公的機関はそのようなノウハウやリソースを欠いており、民間部門に依存しなければならない。公的ヘルスケアシステムは診断キット、治療薬など民間企業が開発する高コストな手段に頼ることになる。

このイニシアチブの直近の目標は、新型コロナウイルスの治療に役立てるための新たなバイオ医薬品の開発やドラッグリポジショニングを支援、加速させることだ。ゲイツ財団によれば、現在新型コロナウイルス流行を抑制するために有効な抗ウイルス薬やワクチンは存在しない。

ゲイツ財団とウェルカム財団はそれぞれがプログラムに最大5000万ドルを寄付する。ゲイツ財団が2月に発表した新型コロナウイルス対応のための1億ドルの資金が同財団の今回の寄付に利用される。

ゲイツ財団のCEOであるMark Suzman(マーク・スズマン)氏は「新型コロナウイルスのようなウイルスは世界に急速に拡大するのに対して、ワクチンや治療法の開発はスピードがはるかに遅い。新型コロナウイルス流行の拡大から世界、ことに最も立場の弱い人々をを守るためには、研究開発を加速する方法を見つけねばならない。これには政府、企業、慈善団体が迅速に行動して研究開発に資金を提供する必要がある」と述べた。

発表によれば、、このプログラムはWHO、政府、規制当局、議会、民間慈善団体など政策決定と資金提供に関連するあらゆる組織と協力し、医薬品の研究開発から製造、生産、流通に至るパイプラインのすべてに焦点を当てるという。

ゲイツ財団にとって、組織横断的、学際的アプローチの有効性は2014年にエボラ出血熱の流行を封じ込めることに成功したことから得た成果の1つだったとい。声明によれば、プログラムは資金提供3社の共同主導し、3つの異なる戦略を追求する。 1つは感染の治療、拡大防止に役立つ医薬品の発見と評価、2つ目は医薬品業界のパートナーとの協力、3つ目は治療を現場で役立てるための規制当局などの公的機関との連携だ。

Wellcom Trustの責任者、 Jeremy Farrar(ジェレミー・ファラー)博士は声明で「このウイルスは前例のないレベルでの世界的な脅威であり、迅速な診断と治療、、あたワクチンの開発のために国際的な協力を推進する必要がある。 COVID-19に対して医学、薬学など関連分野において驚くべき努力が払われているが、この流行に先んじ、封じ込めるためにはさらに多額の資金が必要だ。また多数の研究の共同と調整を確保することも重要だ。われわれのアクセラレータ・プログラムは治療、予防に役立つ研究、開発、評価、製造の過程全体をサポートする。 COVID-19への挑戦は困難な課題ではあるが、国境を越えて協力することで新たな感染症に取り組むことができることが証明されている」と述べた。

画像: Mark Lennihan/AP

【Japan編集部追記】ゲイツ財団のサイトによればMastercard Impact Fundが最大2500万ドルの寄付を約束している。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

血液検査で新型コロナなどの病原体を特定し最適な治療法を見極める液状生検技術のKariusが183億円調達

「新型コロナウイルスのような新しい病原菌を感染が大流行する前に特定するのがKarius(カリウス)の得意技です」と、最高責任者のMickey Kertesz(ミッキー・ケルテス)氏は言う。彼のこのライフサイエンス系スタートアップは、つい先日、1億6500万ドル(約183億円)を新規に調達した。

この新規投資は、次第に脅威を増すCOVID-19のおかげで決まったように見えるが、同社の技術は、免疫不全の小児患者のための感染症を引き起こす病原体または複合体肺炎、真菌感染症、心内膜炎の潜在的原因の検査にすでに使われていると、同社の説明には書かれている。

液状生検技術は、癌の治療に広く用いられているものだ。患者の癌細胞から流れ出た血液中の微量な遺伝物質の有無から、患者にとって最適な治療法を見極めることができる。

Kariusは、患者の血液サンプルの中の遺伝物質の特定を行うDNAシークエンシングと機械学習技術を活用するためのハードウェアとソフトウェアを開発し、それと同じ原理を応用して血中の病原体を特定できるようにした。

同社の説明によると、人間の体に感染した病原菌は、血中にDNAの痕跡を残すという。これを微生物無細胞DNA(mcfDNA)と呼ぶ。Kariusの検査方法ではバクテリア、DNAウイルス、菌類、寄生虫といった臨床的に意義のある1000以上のサンプルの無細胞DNAを測定できる。この検査によって、無数にある病原菌の中から患者に悪影響を及ぼす恐れのあるものが提示される。

「現在私たちは、採択の段階を通過し、臨床研究によってこの技術が文字どおり人の命を救うものであることが示された段階にあります」とケルテス氏。

初期段階の成功だが、これはソフトバンクを惹きつけるのに十分だった。ソフトバンクは、ビジョン・ファンド2からの投資により同社を支援している。

ソフトバンクは、約束を果たせなかった消費者系スタートアップ(内部崩壊したBrandlessやZume、WeWorkに代表される壊滅的打撃を招きかねない企業)への投資が多すぎ、早すぎる(または遅すぎる)ことで激しい批判を浴びているが、ライフサイエンス分野の投資チームは目覚ましい実績を挙げている。「彼らには経験と専門知識とネットワークがあり、まさにそれが私たちにつながりました」とケルテス氏は、ソフトバンクからの支援を決めたことについて話していた。「彼らは以前、Guardant Healthと10X Genomics(テンエックス・ゲノミクス)の取締役会のメンバーでした」

どちらの企業も、公開市場で成功し、その技術の有効性を証明してきた。その同じ気質をKariusも備えている。同社は、その検査方法の分析的検証と臨床的有効性に関する記事を、同業者の審査を経てNature Microbiology誌に掲載。通常の方法と比較して、感染を引き起こす可能性のある病原菌をより早く、より正確に特定できることを示した。

その技術の有効性が初めて認められたことで新たな投資を獲得した同社は、その検査方法の商品化を急ぎ、技術の有効活用を推し進めつつ、新たな技術の開発を行うことにしている。

彼らが第一に考えている開拓分野に、新しい生体指標の特定がある。これはCOVID−19のような新しい病気の指標になることが期待される。

「人類はまだ、感染症を解明できていません」と、同社の最高技術責任者Sivan Bercovici(シビアン・バーコビッチ)氏は言う。「私たちの技術で特定できない病原体の痕跡について、今後も公共のデータベースにある高品質なゲノムの設計図をさらに取り込み、私たちがダークマターと呼んでいるそうしたグループのデータを個別にまとめて将来に備えています。最大の挑戦は、知らないものを、いかにして知るかです」

Kariusは、血液サンプルの中の病原菌の情報をデジタル化し、機械学習とDNAシークエンシングを使って病原体の指標を認識している。同社は、30万種類以上の病原体のデータが記録されている公共のデータベースを利用しているが、同社で特定できない種類については、そのための識別子も作成している。

1回の費用が2000ドル(約22万円)というKariusの検査は決して安くはない。しかしケルテス氏によれば、外科手術よりも安全で費用対効果も高いという。患者の体に穴をあけて組織を摘出する必要がなくなるばかりか、この技術はすでに100以上の病院と医療機関で使われていると同社は話す。

ここまで達成できたことを受けて、General CatalystやHBM Healthcare Investmentsといった新しい投資企業も、ソフトバンクのビジョン・ファンド、そして前回のラウンドに参加したKhosla VenturesやLightSpeed Venture Partnersなどの以前の投資企業とともに契約したい意向を示している。

「感染病は、死亡原因の世界第2位です。Kariusの革新的なmcfDNA技術は、感染病を正確に診断します。これは、既存の技術では判別できません」とソフトバンク投資顧問のDeep Nishar(ディープ・ニシャー)氏は声明の中で述べている。

画像クレジット:SCIEPRO

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(翻訳:金井哲夫)

消費者向け遺伝子検査市場縮小を受けAncestryが6%の従業員を解雇

消費者向け遺伝子検査市場の活況が減速する兆しが続いている。過去2週間で、消費者遺伝子検査サービス最大手2社である23andme(23アンドミー)とAncestry(アンセストリー)をレイオフの嵐が襲った。Ancestryは2月5日、ブログ投稿で従業員を6%削減することを発表した。CNBCが最初に報じた

レイオフを発表したブログの投稿で、Ancestryの最高経営責任者であるMargo Georgiadis(マーゴ・ジョージアディス)氏は次のように述べた。

過去18か月間にわたりDNA市場全体で消費者需要が減速していることが確認された。アーリーアダプターのほとんどが市場に参加した今、DNA市場は転機を迎えている。将来の成長には、消費者の信頼構築と、人々により大きな価値をもたらす革新的な新製品の開発に継続して力を注がねばならない。Ancestryは、その革新をリードし、家族史と健康の両方で新発見を促すための良い位置にいる。

本日、市場の現実に合わせて当社の事業をさらに良い位置につけるため、焦点を絞った変革に踏み切った。これは難しい決定であり、従業員の6%に影響が及ぶ。従業員に影響を与える変更は、細心の注意を払って実行される。実施した理由は、AncestryHealth事業で見込まれる長期的な機会と中核事業である家族史事業へさらに注力し、また投資を強化するためだ。

Ancestryの動きは、1月下旬の23andMeの人員削減に続くものだ。23andMeは100人(従業員全体の約14%)の従業員を解雇した。

Business Insiderが昨年8月に報じたように、遺伝子検査会社のIllumina(イルミナ)は、DTC(Direct to Consumer、D2C)遺伝子検査市場の「やわらかさ」について警告した。

「以前はDTC市場の見込みを消費者需要に基づき予測していたが、予期しない市場の軟調を受け、近い将来の成長予測について慎重な見方をしている」と同社の最高経営責任者であるFrancis deSouza(フランシス・デソウザ)氏は第2四半期の決算報告で述べた。遺伝子検査の結果がどう使われるのか、消費者はプライバシーの問題に気づき始めたようだ。

「クレジットカードは解約できるがDNAは変えられない」と、市民団体Tactical TechのデジタルセーフティーおよびプライバシーのディレクターであるMatt Mitchell(マット・ミッチェル)氏は今年初めにBusiness Insiderに語った

プライバシーの専門家と法学者によると、米国のプライバシー法はDNA検査の結果がどのように使用されているのか、また潜在的に悪用される可能性についても現実に追いついていない。

「米国では、遺伝情報の保護に一般的なプライバシー法を適用せず、固有の問題として取り組んできたが、それは本当に悪いアイデアだったというのが関係者の結論だ」と、ブランダイス大学法学教授およびルイビル大学生命倫理健康政策法律研究所所長のMark Rothstein(マーク・ロススタイン)氏は5月にWiredに語った

GEDMatchと呼ばれるオープンソースの系図サイトから収集されたDNA証拠に基づき「ゴールデンステートキラー」の調査が行われ、最終的にJoseph James DeAngelo(ジョセフ・ジェームズ・デアンジェロ)が逮捕された一件は、消費者がこの問題についてじっくり考えるきっかけになったはずだ。

この事件では、デアンジェロの親類がサイトにアップロードした情報を、捜査官が犯罪現場でDNAと照合し、一致に近いことを確認した。その情報が他の詳細と関連付けられ、最終的に容疑者をデアンジェロに絞り込んだ。

消費者向け遺伝子検査サービスは苦戦しているかもしれないが、投資家の臨床遺伝検査に対する期待は高まる一方で、InVitaeのような上場企業の株価は上昇し、非上場会社であるColorはT. Rowe Priceのリードで投資家から約7500万ドル(約83億円)の資金を新規調達した。

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

DNA解析からモノクローナル抗体を発見し、難病皮膚疾患向け創薬を目指す23andMe

一般向けDNA分析のパイオニアである23andMeが収集・蓄積してきた遺伝子情報が創薬に役立つことが実証された。市販が予定されている新しい薬品は皮膚疾患の治療に効果があるという。

23andMeはスペインの製薬会社がAlmirall(アルミロール)と契約し、自社のDNA情報をベースにしたモノクローナル抗体による皮膚疾患の治療に役立つ薬剤の開発に努力を集中している。

23andMeは同社にDNA分析を依頼してきたユーザーの試料から新しいモノクローナル抗体(MAb)を発見した。これはヒトの免疫機構において重要な役割を果たすIL-36(インターロイキン-36)の活動をブロックする作用があり、疥癬(ヒゼンダニ症)、狼瘡(全身性エリテマトーデス)、その他の炎症性皮膚疾患に加えて、潰瘍性結腸炎やクローン病などの難病を引き起こすという。

金銭的条件などの詳細は発表されていないが、Almirallは提携によって23andMeの発見に関する利用ライセンスを取得し、皮膚疾患の新薬を開発して世界に販売する計画だ。

1000万人に上る23andMeの登録ユーザーのうち80%前後が提出したサンプルが新薬開発のために利用されることに同意している。23andMeによれば同社が蓄積した情報は世界各地の一般消費者から収集したサンプルに基づいて遺伝子タイプとその表現形をペアとして保持する世界最大のデータベースだという。なお一般とはいうが、たぶんかなり裕福な層だろうという気はする。

23andMeの治療部門の責任者であるKenneth Hillan(ケネス・ヒラン)医師は声明で、「Almirallとの提携は遺伝子情報を解明することによって人々に利益をもたらすという23andMeの使命によく適合する。長年、皮膚疾患治療のリーダーとして認められてきたAlmirallはこのプロジェクトを前進させる上で最適の企業だった。23andMeは実際に患者を治療する成果を挙げるために努力中だ」と述べた。一方Almirallは「(モノクローナル抗体利用の新薬)臨床での治験を経て市販を目指しいる」と発表した。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

眠りを誘う瞑想を促すヘッドバンド「Muse S」が登場

2019年のCESに出展されたMuse Softband(ミューズ・ソフトバンド)を憶えているだろうか。正直なところ、誰も憶えてないかもしれない。しかし私は憶えている。なぜなら、CESで見たし、その通常版をおおいに気に入ったからだ。私は、瞑想でマインドフルネスが一気にかなうという考え方には今でもかなり懐疑的だが、Muse 2は思考を沈静化させるためのハードウェアとしては魅力的なものだった。

1年間の沈黙の後、リブランドされたMuse Sの発売準備が整った。まず名前が好きだ。日本の投資会社を連想させる「ソフトバンド」よりずっといい。「S」は「Soft」と「Sleep」のSだ。この2つの要素が仲良く共存している。また「Savvy move on Muse’s part」(機転が利いたMuseの動き)の「S」でもある。2020年のCESでは睡眠技術が大いに盛り上がっているからだ。そしてもちろん、瞑想と睡眠も協調関係にある。

布製になったヘッドバンドでも、以前と同じく「バイオフィードバックによって強化される瞑想」が提供される。脳波を測定して、どの程度集中しているかを判断する。今回、そこに睡眠の要素が加わった。就寝前の5分間ほどこれを装着できるようにデザインされているのだ。Museアプリと組み合わせて使用可能で、アプリには眠りを誘う瞑想を促す「Go-to-Sleep Journey」(眠りへの旅)という機能が備わっている。類似の睡眠用マスクとは異なり、ヘッドフォンは装備していない。

だが、自分のヘッドホンを使えば、スマートフォンを手に持っている必要はない。当然のことながら、使用するヘッドホンの種類によって快適さは違ってくる。脳の活動、体の動き、心拍数を含むバイオフィードバックに基づく信号により、リアルタイムでサウンドトラックの音が調整される。これは本当にいい。私は信頼できる人に、家に帰るまでにこれが届いているように注文しておいたのだが、悲しいかな間に合わなかった。地獄のようなCESの1週間に、これがぜひとも欲しかったのに。

ともかく、届いたらすぐにレビューしたいと思う。待てない人は、Muse SならMuseのサイトなどから手に入る(現在は在庫切れ)。価格は349.99ドル(約3万8000円)。Muse瞑想アプリの利用料は月額13ドルだ。

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(翻訳:金井哲夫)

動物を殺さずに肉の細胞を得る、培養肉生産技術開発のMeatableが10億円超を調達

動物に対して残酷でない培養肉製造技術を開発しているオランダのMeatable(ミータブル)が、世界の豚肉の供給量の4分の1を損なったと言われる豚インフルエンザの流行を契機に豚肉に専心することになり、このほどその新しい方向性を支えるために1000万ドル(約10億円8500万円)の資金を調達した。

同社はその技術を昨年公開したが、動物の細胞から食肉を作っている企業はほかにも数社ある。この食肉生産方法は、理論としては炭素排出量が極めて少なく、従来の畜産よりは環境に優しいと言われている。

これまでの同社は、Memphis MeatsやFuture Meat Technologies、Aleph Farms、HigherSteaksなどなどと肩を並べて培養牛肉を市場に持ち込もうとしていた。でも今や、豚肉の価格が世界的に高騰しているため、Meatableは牛肉以外のほかのホワイトミートに関心を向ける世界で初めての企業の仲間入りをした。

しかし、同社の差別化要因はそれだけではない。Meatableは、動物を殺さずに肉の細胞を得る商業的実用性のある方法で特許を取得している。それまでは、培養肉の成長と肉質を良くするには元の細胞の保有動物を殺すことが必須だった。

他社は、牛の胎児の血清やチャイニーズハムスターの卵巣を使って細胞分裂を刺激し、培養肉を生産してきた。しかしMeatableが開発した工程では、動物から細胞をサンプリングして、その組織を分化可能な幹細胞に戻す。その後その標本細胞を筋肉と脂肪に培養して、世界中の嗜好を満たす豚肉製品を作る。

CEOのKrijn De Nood(クライン・デ・ヌード)氏は「どのDNA配列が初期段階の細胞を筋肉細胞にするのか、我々にはそれがわかっている」と語る。

この新しい方法を追究するために同社は、多くのエンジェル投資家たちと機関投資家から700万ドル(約7億6000万円)を調達し、欧州委員会(EC)から300万ドル(約3億2500万円)の助成金を取得した。エンジェル投資家には、TransferWiseのCEOで共同創業者のTaavet Hinrikus(ターヴェット・ヒンリクス)氏や、ニューヨークのベンチャー企業Union Square Venturesの役員パートナーであるAlbert Wenger(アルバート・ウェンガー)氏らがいる。

デ・ヌード氏によると、Meatableは今回の資金をプロトタイプ開発を早めるために利用する。同社は当初、小さなバイオリアクターを使ってプロトタイプを2021年に完成させるスケジュールだったが、それを2020年に早めることができる。さらに2025年までには、年産製造能力数千kgの工場を建設できるという。

産業として行われている農業や畜産業などは、地球上の気候変動に結びつく温室ガスの排出量の14%から18%を占めると言われている。そしてMeatableの主張によれば、同じ量の培養肉は従来の畜産業に比べて水の使用量が96%少なく、土地の使用面積は99%少ない。同社によると、製造施設が再生可能エネルギーを採用すれば食肉生産に伴う排出量をさらに減らせるとのこと。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

健康なサンゴ礁から出る音を死んだサンゴ礁で鳴らすと海域に活気が戻る

ワシントンポスト紙が紹介しているNature Communications誌上の研究論文によると、健康なサンゴ礁から出る音を録音して瀕死のサンゴ礁で鳴らすと良い効果がありそうだ。それはまるでインチキ健康食品の宣伝のようだが、でもこの前の研究では、まわりの魚の種類や個体数が増えて賑やかになると、辛い状況を抱えるサンゴ礁を助けることができた。つまりサンゴが死んでいくだけのネガティブなトレンドを、少し上向きに変えることができそうだ。

英国とオーストラリアの研究者が6週間、グレートバリアリーフのサンゴが死んだ区画の海面下にスピーカーを置き、録音された音を再生した。その音は、サンゴが健康な区画で録られ、生命が栄えているサンゴのコミュニティに特有の音を含んでいた。それは、魚やエビや甲殻類、軟体動物などサンゴ礁の住民たちが作り出す音だ。若い魚はそれらの音を聞いて、そこが自分が落ち着いて自分のコミュニティを作れる場所だと判断する。

研究者たちがスピーカーから流した音によって、死んだ海域であるそこに集まる魚の数がそれまでの倍になった。また、魚種など生物の種類も50%増えた。そして人工的な音に惹かれてサンゴ礁に集まった新住民たちは、そこに定住した。

魚の人口が増えただけでは、死んだサンゴや死にゆくサンゴが生き返ることはなかった。しかし、このテクニックをほかのテクニック、例えば新鮮な珊瑚の移植や、高い海水温に強い珊瑚種の導入などと併用すれば、その死んだ区画に活気がよみがえり、それまで人間がさんざん痛めつけたサンゴたちに命が戻るだろう。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

有機廃棄物をバイオプラスチックに変えるVEnvirotechが大規模なパイロットへ

非上場企業VEnvirotechで1年間さまざまな環境技術をテストしてきた共同創業者のPatricia Ayma(パトリシア・アイマ)氏が、バクテリアを使ってバイオプラスチックを作る工程を開発した。そのシステムは生ゴミや食品廃棄物などの有機物を、生物分解性のある使い捨てのプラスチックとして使える製品に変える。「世の中に訴えるのはおこがましいほど単純な技術だけど、みんなの役に立つ」と彼女は語る。

彼女のバイオテックスタートアップは、バルセロナ近郊のBonAreaスーパーマーケットのプラントでパイロット事業を開始した。そこで彼らは、将来の見込み客である企業と一緒に、その技術の大規模なテストをすることができた。Aymaは、そのイノベーションが2つの業界に売り込めると想定している。ひとつは、有機廃棄物の生産者で、彼らは廃棄物管理の費用を少なくしたいと考えている。そしてもうひとつは、自然に分解するバイオプラスチックをさまざまな用途に使いたいと思っている企業だ。

彼女のチームは最近、200万ユーロ(2億4000万円)あまりの資金調達ラウンドを完了した。それにより同社は3000平米のプラントを作ってVE-boxの生産を開始できる。それはポータブルな廃棄物管理容器で、その中で有機廃棄物が生物分解性のプラスチックに変わる。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

ゲノム配列を利用して非侵襲的ながん検診を実現するLucenceが20億円超を調達

非侵襲的な癌検診技術を開発しているゲノム医学のスタートアップLucence Diagnosticsが、世界最大の民間総合ヘルスケアグループの一つであるIHH HealthcareがリードするシリーズAのラウンドで2000万ドル(約22億円)を調達した。これにはSGInnovateとこれまでの投資家Heliconia Capital(Temasek Holdingsの子会社)、Lim Kaling、およびKoh Boon Hweeが参加した。

この資金はLucenceの研究施設の規模拡大と人員増員および、アジアと北米地区で同社製品の商用化を進め、より多くの患者が利用できるようにすることに充当される。

資金はまた、2つの有望な治験をサポートする。ひとつはこの技術の、末期がん患者への有効な感応性にフォーカスし、他は肺がんや大腸がん、乳がん、すい臓がんなどいくつかのタイプのがんの早期発見への有効性の評価だ。Lucenceは現在、早期発見の評価のために10万名を対象とする調査を設計している。最初の患者の起用を来年半ばと予定しており、米国とアジアでローンチする。

この前のシード資金と合わせてLucenceの総調達額は2920万ドルになる。

Lucenceのテストは現在、東南アジアと香港の医師が利用しているが、今後は北米と東アジアにも広げる計画だ。シンガポールの研究所はすでにCLIAとCAPの認定を得ているので、米国の医師と患者もそのテストを利用できる。現在ベイエリアに建設中のラボが完成すれば、患者が結果を得るまでの時間も短くなる。

シンガポールに本社があり、サンフランシスコと香港と中国の蘇州にオフィスのあるLucenceは、CEOで医師のMin-Han Tan(ミン-ハン・タン)氏が創業した。彼は腫瘍専門医で、2016年にシンガポールの科学技術研究庁からスピンアウトした。2年後にLiquidHALLMARKをローンチし、それは同社によると「世界初で唯一の血液の遺伝子配列テストにより、1回のテストでがん関連の遺伝子の突然変異と癌を起こすウィルスの両方を検出する」。それは、14種のがんの兆候を検査できた。同社によるとLiquidHALLMARKはこれまで、アジアの1000名の患者に利用された。

ゲノム配列を利用するがん検診を開発したスタートアップとして、ほかにSanomics、Prenetics、Guardant、Grailなどがいる。Lucenceの差別化要因は、その特許技術によるアンプリコンシーケンスで、ゲノムの特定部分の変異を調べて癌に結びつく突然変異などを見つけることにある。同社はそのテストを「スイス製アーミーナイフ」と呼んでいる。それは、がんの検診と診断と処置と選別と監視に利用できるからだ。

IHH HealthcareのCEOに任命されているドクターの、Kelvin Loh(ケビン・ロー)氏は声明で「液体生検は、処置の精密な選択とより安価なケアによって癌の処置を画期的に改善した。Lucenceへの投資は、IHHの患者にこの先進的な技術へのより良いアクセスを提供するだろう」と述べている。

画像クレジット: Enterprise Singapore

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

Eclipse Foodsの純植物性アイスクリームがニューヨークとサンフランシスコの高級店に登場

植物性の代替食品が今ホットだ。食べ物の中で最もクールと言われるものにさえ、そのホットなやつは侵入してきた。それはアイスクリームだ。

植物性の乳製品を作るEclipse Foods(エクリプス・フーズ)が、若者に人気の高級アイスクリームブランドであるHumphry Slocombe(ハンフリー・スロコム)やOddfellows(オッドフェローズ)と契約して、その製品を原料に使ってもらえることになった。

これまであった植物性の乳製品は味や舌触りまで真似ていなかったが、Eclipse Foodsによると彼らの製品は動物の乳と区別がつかない。しかも、アレルギーを起こさない原料を使用している。

米国時間11月9日から、ニューヨークとサンフランシスコのお店の棚には、植物から作ったOddFellowsHumphry Slocombeの職人芸的アイスクリームがある。

Eclipse Foodsは350万ドルの資金を、Redditの共同創業者であるAlexis Ohanian(アレクシス・オファニアン)氏と、彼の投資会社であるInitialized Capital、Gmailを作ったPaul Buchheit(ポール・ブックハイト)氏、そしてDaiya Foodsの元会長であるEric Patel(エリック・パテル)氏らから調達した。

オファニアン氏は声明で「また植物性食品に投資できてうれしい。創業者のAylon(エイロン)とThomas(トーマス)は食品科学のエキスパートだから文句なしだ。アイスクリームの品質は本物の乳製品で作ったものと区別できないし、今後もっともっと良くなるだろう。植物性食品のニーズは今高まっているし、このように値段が高くなくて、持続可能な作り方をされてて、そしてもちろんおいしい製品はそのニーズにぴったり合う」と語っている。

競合他社に比べるとEclipse Foodsの手法は単純明快だ。遺伝子を組み換えた原料は使っていない。植物性挽きの分野では、Impossible FoodsよりもBeyond Meatに似ている。

Eclipse FoodsのCEOであるAylon Steinhar(エイロン・スタインハート)氏は「同社は高価なバイオテクノロジーを使ってここまで来たわけではない。使ってるものは、植物と、機能性植物蛋白質に関するわれわれの専門知識と、複数の植物の単純な組み合わせ方だ」と語る。

創業者のスタインハート氏は、植物による食品革命を志す非営利団体のGood Food Instituteの専門科学者だった。相棒のThomas Bowman(トーマス・ボウマン)氏は、植物性食品の先輩企業JUSTの製品開発部長だった。Eclipse Foodsは高名なアクセラレーターであるY Combinatorから今年の3月にローンチした。

関連記事:Launching from YC, Eclipse Foods casts a long shadow over the $336 billion dairy industry(YC卒のEclipse Foodsが3360億ドルの酪農乳業界に挑む、未訳)

スタインハート氏によると「原料はコーンやキャッサバなど安いものばかりなので、今後の規模拡大にもあまり資本はいらない」とのこと。

現在同社が歩んでいるロードマップは、最初Pat Brown(パット・ブラウン)氏のImpossible Foodsで作られ、その後同じく植物性の蛋白質による代替食品を追究する数十社ものスタートアップによって複製されたものだ。それは、今回のアイスクリームの例が示すように、有名なシェフや職人芸的なブランドをパートナーとして、彼らの比較的高く売られている製品の仲間入りをすること。マクドナルドやバーガーキングのソフトクリームコーンや、ウェンディーズのあのおいしいフォレスティの路線ではない。

シンプルなバニラアイスクリームではなく、Eclipse Foodsの植物性アイスクリーム原液はOddFellowsではミソチェリーやオリーブオイル・プラムアイスクリームに使われ、Humphry Slocombeではスパイシーなメキシカン・ホットチョコレートに使われる。

同社の今後の計画では、Beyond MeatやImpossible Foodsのバーガーを売ってるような店舗でも売っていくつもりだ。ボウマン氏は「バーガーキングのどの店にもImpossible Whopperがあって、Carl’s Jr.のどの店にもBeyond Famous Starがあるような時代になったら、どのレストランでも純植物性のアイスクリームを扱うだろう。アレルゲンがないし、遺伝子組み換え作物を使ってないし、粘着剤も弾性剤も安定剤も何も使っていない」と語る。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

非動物由来コラーゲン製造のGeltor、食品添加物の大型契約締結後に約54億円調達へ

細胞培養コラーゲンメーカーであるGeltor(ジェルター)は、世界トップのコラーゲンサプライヤーであるGelita(ジェリタ)と9桁(日本円で数百億円)規模の取引契約にサインしたようだ。TechCrunchが得た情報によると、Geltorは現在少なくとも5000万ドル(約54億円)の新規資金調達を目指している。

同社の計画を知る筋によると、調達額は5000万ドル〜1億ドル(約54億円〜108億円)になる見込み。調達資金は、Gelitaとの長期契約遂行に必要なコラーゲン製造能力拡大に使われる。

Geltorはタンパク質の大量培養技術を開発中。動物由来のタンパク質を補完する位置づけだが、最終的には代替するのが狙いだ。他社は培養製品を肉の代替品として開発しているが、Geltorはサプライチェーンの別の側面、すなわちコラーゲンとゼラチン添加剤が一般に食肉産業からの廃棄物から作られる点に注目した。

古来、ゼラチンは動物の皮膚、軟骨、骨から煮出す。この物質は増粘剤として機能するため化粧品や食品に多く使われている。Geltorが挑むコラーゲンとゼラチンの市場は合わせて90億ドル(約1兆円)と、かなりの規模がある。

市場規模と同様に重要な点は、代替肉産業が確立された場合、従来の食肉加工からの廃棄物に代わる原材料を見つける必要があるということだ。Geltorは、非動物由来コラーゲンとして、海洋性コラーゲン「Collume」ブランドとヒトコラーゲン「HumaColl21」ブランドを販売している。いずれもスキンケア市場向けだ。

Gelitaとの契約は、Geltorが食品・飲料添加物市場に初めて参入したことを意味する。GelitaのコラーゲンペプチドビジネスユニットのグローバルバイスプレジデントであるHans-Ulrich Frech(ハンス=ウルリッヒ・フレッヒ)氏は先月「バイオデザイン技術に投資するという当社の決定は、市場のニーズを満たすこととイノベーションに当社が真剣に取り組んでいる代表的な例だ。Gelitaのコラーゲンビジネスに新たに加わるGeltorは、我々がすでに保有する科学的に実証済みのBioactive Collagen Peptidesを補完することになる。Bioactive Collagen Peptidesは食品および栄養補助食品の主要成分で、タンパク質としての性質と生理学的利点を有している」と発表した。

一方、Geltorにとってこの契約は、タンパク質製造が食肉市場以外でも大きなビジネスになり得るという仮説を証明することになった。Memphis MeatsやFuture Meat Technologiesなどの、従来の細胞培養による代替肉開発企業も関心をもっている。

GeltorのCEOであるAlexander Lorestani(アレクサンダー・ロレスタニ)氏は「この契約は、世界が新しい時代に入ったという当社の見解を支持するものだ。世界中の消費者が日常生活で使う製品の改善にタンパク質が有用だ。いよいよ市場環境が整い、タンパク質成分を使った付加価値のある製品への需要が高まってきた。Geltorがその需要を満たす役割を果たせる」と語った。

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(翻訳:Mizoguchi)

米デニーズがBeyond Meatと提携して植物性バーガーを展開へ

米国のDenny’s(デニーズ)は植物由来食品メーカーのBeyond Meat(ビヨンド・ミート)と提携を結んだ。新メニュー「Denny’s Beyond Burger」(デニーズ・ビヨンド・バーガー)にBeyond Meatの肉代替品を使用する。

Beyond Meatと同社の最大のライバルImpossible Foodsは、米国の大手食品会社に肉代替品を提供するために熾烈な争いを展開しているが、Beyond Meatが次第にImpossible Foodsを引き離しつつある。ここ数カ月で、Beyond MeatはMcDonald’s(マクドナルド)、そしてデニーズと契約を結び、Dunkin’ Donuts(ダンキン・ドーナツ)にも供給することで合意した。

デニーズとの初期パイロット事業には、米国サウスカロライナ拠点のレストランチェーンであるロサンゼルスにあるデニーズ全店が含まれる。デニーズでは、Beyond Burgerがトマト、タマネギ、レタス、ピクルス、アメリカンチーズ、そしてスペシャルソースとともにマルチグレインのパンにサンドされて提供される。

このサンドの販促の一環として、ロサンゼルスのデニーズではハロウィーンの夜にサンドを購入した客にバーガーを1つ無料で提供する。デニーズは(私の前の雇用主だ)2020年にBeyond Burgerを全国展開する。

「今までの流れを変えるようなBeyond Meatとの提携を発表することができるのは素晴らしい」とデニーズのブランド責任者John Dillon(ジョン・ディロン)氏は声明文で述べた。「企業として、テイストと顧客の要望を満足させるべく努力している。我々の高品質基準とテイストの期待値にかなう植物ベースの選択肢を見つけることは、今後の競争を勝ち抜く上で必須であることはわかっていた。デニーズの新たなBeyond Burgerは素晴らしい味だ。ロサンゼルスで展開できることを嬉しく思う。今後は2020年の全国展開に向けて準備する」。

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(翻訳:Mizoguchi)

AIでタンパク質医薬品の発見に挑むLabGeniusが約11億円を調達

AIとロボットオートメーションでタンパク質医薬品の発見に挑むロンドン拠点のLabGenius(ラボジーニアス)が、シリーズAで1000万ドル(約11億円)を調達した。

Lux CapitalObvious Venturesがラウンドをリードし、Felicis Ventures、Inovia Capital、Air Street Capital、さらに既存株主も参加した。Recursion Pharmaceuticalsの創業者兼CEOであるChris Gibson(クリス・ギブソン)氏と、Googleの前CFOで現在はInovia CapitalのゼネラルパートナーであるPatrick Pichette(パトリック・ピシェット)氏も投資した。

Lux CapitalのZavain Dar(ザベイン・ダール)氏とObvious VenturesのNan Li(ナン・リー)氏が、LabGeniusの取締役会に加わる。同社に初期から投資している投資家には、Nathan Benaich(ネイサン・ベナイチ)氏、Torsten Reil(トーステン・レイル)氏、Entrepreneur FirstのMatt Clifford(マット・クリフォード)氏、Philipp Moehring(フィリップ・モーリング)氏がいる。

「LabGeniusは何でもこなすタンパク質エンジニアリング企業だ。AI、ロボットオートメーション、合成生物学を組み合わせ、次世代のタンパク質治療薬を作る」と創業者兼CEOのJames Field(ジェームス・フィールド)博士は語る。

「人間だけがイノベーションの担い手になる時代は終わるという仮説が当社の原動力だ。私はその仮説を確信している。人間の代わりに、経験的計算エンジンと呼ばれるスマートロボットプラットフォームが、新しい知識、技術、洗練されたリアルな製品を生み出す。経験的計算エンジンは、ソリューションスペースを再帰的かつ効率的に検索できる人工システムだ」。

LabGeniusの主力テクノロジー「EVA」は、フィールド氏によれば新しいタンパク質を開発 できる「機械学習主導型のロボットプラットフォーム」だ。「スマートロボットプラットフォームとして、EVAは独自の実験を設計・実施し、批判的に学習することができる」と同氏は説明する。目標は、人間の力だけでは探索が困難な新しいタンパク質治療薬を発見・開発すること。

「サイエンティスト、エンジニア、テクノロジストは何十年もの間、新しい知識、技術、洗練された現実世界の製品を自動で発見できる『ロボットサイエンティスト』の育成を夢見てきた」とフィールド氏は述べた。

「タンパク質エンジニアにとって、その夢は射程圏内に入ってきた。合成生物学、ロボットオートメーション、機械学習の急速な技術進歩により環境は整った。新しい治療用タンパク質を効率的に発見するスマートロボットプラットフォームの構築に必要な技術が手に入るようになった」。

フィールド氏は、EVAの開発を「長期的で野心的な取り組み」として位置づけている。EVAによって、これまで解決不可能だったタンパク質エンジニアリングの課題に対処し、緊急性の高い治療薬を開発できるようになると述べた。

フィールド氏は「私が考えるLabGeniusの最終目標は、世界最先端のタンパク質エンジニアリングプラットフォームを活用した完全統合型のバイオ医薬品会社を作ること。正直なところ、壮大な取り組みだ。世界最高水準の技術を持つ洗練されたタンパク質エンジニアリング事業をすでに確立したが、実現可能なことのほんの一部に触れたにすぎない」と語った。

多くのディープテクノロジー企業が共通して直面している緊張感がある。現実世界の商業的なニーズにしっかり応えるテクノロジーを開発しなければならないというプレッシャーだ。それが最善の開発方法を探す原動力になっている(資金を使い果たす前に探す必要がある!)。 「LabGeniusの場合、創業当初から複雑な商業プロジェクトを受注して、意図的にそれを成し遂げてきた」とフィールド氏は述べた。Tillotts Pharma AGと共同で、炎症性腸疾患の新薬候補を特定・開発する進行中のプロジェクトがある。

フィールド氏は「当社のビジネスモデルは非常にシンプルだ。我々はEVAで新薬の分子を発見し、それを市場に投入できる製薬会社と提携する。パートナーが資金を提供する典型的な早期発見プログラムでは、コンセプトから前臨床前段階までをカバーするプロジェクトを立ち上げる。典型的なディールストラクチャーには、研究開発費、マイルストーン、ロイヤリティといった要素が含まれる」と説明した。

LabGeniusは調達した資金で人員増強、ディスカバリープラットフォームの範囲拡大、「内部資産開発プログラム」開始に着手する。次の目標は、従来の抗体フォーマットでは対応できない状態を扱える新しいフラグメント抗体を開発することだ。

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(翻訳:Mizoguchi)