京都大学とパナソニック、電池交換や電源ケーブルが不要になるマイクロ波電力伝送システムのサンプル提供開始

京都大学とパナソニック、電池交換や電源ケーブルが不要になるマイクロ波電力伝送システムのサンプル提供開始

京都大学パナソニックは3月24日、京都大学生存圏研究所の篠原真毅教授とパナソニックが共同開発してきたマイクロ波を使った長距離のワイヤレス電力伝送システムについて、プロトタイプ開発が完了し、試験用サンプルの提供を開始すると発表した。この技術が実用化されたなら、IoTセンサーやウェアラブル機器などの電源ケーブルや電池交換が不要になる。

これは、920MHz帯のマイクロ波を利用したワイヤレス電力伝送システム。2022年に電波法施行規則等に関する省令の改正が予定されており、それを見据えてサンプルが提供される。免許を取得すれば、屋内の一般環境で利用が可能となるのだが、規制によって送電できる電力は1ワット以下に制限される。そのため、この範囲内で電力を効率的に伝送し、広範囲に設置された受電機へ電力を送ることが開発のポイントとなった。京都大学とパナソニックは、高効率な送電方法、受電用の小型アンテナ、受電したマイクロ波電力を高効率に安定して直流に変換する回路の開発に取り組んだ。

ワイヤレス送電は、特に人の見守りや健康管理用のバイタルセンサーのためのウェアラブル端末への応用が期待される。しかし既存のアンテナでは、人に近づけると電波が人体に吸収されてしまうという課題があった。そこで、人体に装着しても受電効率が低下しないアンテナを開発した。またこのシステムでは、1つの送電機から複数の充電器に一括で送電が行える。そのため、工場やオフィスに多数設置されるIoTセンサーの電源としても利用できる。

パナソニックは、このシステム「Enesphere」(エネスフィア)としてサンプル化し提供を行う。システムには、1ワット以下の送電機と、カードタイプ、人体装着タイプ、液晶表示タイプ、基板タイプなどさまざまな形態の充電器で構成される。提供開始は「準備が整い次第」ということだ。京都大学とパナソニック、電池交換や電源ケーブルが不要になるマイクロ波電力伝送システムのサンプル提供開始

京都大学、摂氏350度で動作する省電力型の集積回路を開発―高温動作集積回路の実用化に道

京都大学、摂氏350度で動作する省電力型の集積回路を開発―高温動作集積回路の実用化に道

京都大学は3月25日、京都大学大学院工学研究科の金子光顕助教、木本恒暢教授らによる研究グループが、独自構造のトランジスターを搭載したSiC(シリコンカーバイド)半導体を開発し、シリコン(Si)半導体では不可能な摂氏350度という高温での基本動作の実証に成功したと発表した。

現在広く使われているシリコンベースの半導体は、動作可能温度の上限が摂氏250度とされている。しかし、地下資源採掘や宇宙開発の現場では、それより高い温度での動作を求められる。シリコンよりも高温での動作が可能なSiC半導体の研究は進められているが、集積回路の基本要素であるトランジスターの高温での信頼性や電力消費量が大きな課題となっていた。

集積回路で一般的に使われているトランジスターはMOSFET(金属酸化膜半導体電解効果トランジスター)と呼ばれるタイプのもので、添加する不純物によってn型とp型と2種類に分かれる。この2つ組み合わせた相補型という集積回路が、待機電力をほぼ0にできるため広く普及した。SiC上にもMOSFETを作ることはできるが、酸化膜とSiCとの間の接合界面に欠陥が多く発生(Siの場合の100倍以上)するために高温での安定動作ができなくなる。これとは別に、JFET(接合型電界効果トランジスター)というトランジスターも作れる。こちらは界面欠陥がないため高温動作が可能なのだが、相補型回路の構成が不可能で、省電力とはならない。300度以上の高温環境では供給電力も限られることが予想され、低消費電力化が課題となっている。

研究グループが新しく開発したのは、JFETで相補型回路を作る方法だ。これまでJFETは、同一基板上にn型とp型の両方を同時に作ることが技術的に難しかったのだが、研究グループは、イオン注入という工業界では広く使われている方法でそれを可能にした。また、集積回路として重要となるゲート端子に電圧をかけていないときに電流を通さないノーマリーオフの特性を持たせることも、従来のJFETでは難しかったのだが、構造の工夫により実現した。これにより、「室温から350℃までのSiC論理ゲート動作実証に世界で初めて成功」した。京都大学、摂氏350度で動作する省電力型の集積回路を開発―高温動作集積回路の実用化に道

これは、「高温エレクトロニクスの創生を期待されながら遅々として進まない高温動作集積回路の実用化」だと研究グループは話す。今後は、微細化による小型化、高速化、高機能化がJFETでも可能かどうか、研究を進めてゆくとしている。

農作物の生育状態を高速・定量的に測定するフェノタイピング用ローバー開発、設計などをオープンソースとして公開

農作物の生育状態を高速に定量的に測定するフェノタイピング用ローバー開発、設計とソフトをオープンソースとして公開

東京大学などによる研究グループは3月10日、植物の形態的、生理的な性質(表現型:フェノタイプ)を観測する自走式装置「高速フェノタイピングローバー」を開発し、その設計をオープンソース・ハードウェアとして公開したと発表した。

近年、地球規模の気候変動や有機農法の拡大などを受け、作物の品種や栽培方法を改良するニーズが増えているという。そのためには、まず農作物などの植物の生育状態を精密・大量に測定する表現型測定(フェノタイピング)が必要となるのだが、これまで人の手と目で行われており、大変に非効率なために、IT技術を活用した効率化が求められてきた。

またすでに、ドローンや大型クレーンを使って作物を撮影し測定を行うシステムは存在するものの、一般に広い農場を対象としており、日本の畑のように狭い場所での導入は難しい。そこで、東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構(郭威特任准教授)、京都大学チューリッヒ大学横浜市立大学による共同研究グループは、場所や条件を選ばずに導入できる地上走行型のローバーを開発した。

この「高速フェノタイピングローバー」は、四輪で走行しながら大量の写真を撮影する。その画像を解析することで、さまざまな表現型を取得でき、応用目的は多岐にわたるという。地上の近距離から撮影するため、ドローンの画像よりも細部まで確認できる。また、ドローンの風圧で果実が落下したり、植物があおられてしまうといった心配もない。ただ、起伏が激しい場所や水田などではドローンのほうが優れているため、このシステムとドローンを組み合わせてデータの質を最大化するのがよいとしている。

また、リアルタイムで画像処理ができる小型コンピューターを搭載し、地上に設置した目印を頼りに畝に沿って移動できる走行アシスト機能も備わっているため、GPSに依存しない。建物に隣接していたり、電波が妨げられる場所でも問題なく使える。

試験運用で撮影した画像から、小麦の出穂の様子を測定

試験運用で撮影した画像から、小麦の出穂の様子を測定

研究グループは、京都大学の小麦の圃場で実験を行ったところ、多数の系統の生育状態を撮影し、深層学習モデルで画像を解析して、小麦が出穂する様子の定量的な測定に成功した。また、日本の畑でよく見られる、道路から水路などをまたいで畑に入るための持ち運び式のスロープでの移動が可能であることも確認できた。

開発した高速フェノタイピングローバーの3D図面。自由に回転や拡大、改変できるデータファイルを論文で公開した

開発した高速フェノタイピングローバーの3D図面。自由に回転や拡大、改変できるデータファイルを論文で公開した

この「高速フェノタイピングローバー」は、様々な条件や用途に合わせて組み立てたり改良したりできるように、市販のパーツのみで作られていて、3D図面、パーツリスト、ソフトウェアなどは論文中においてオープンソース・ハードウェアとして公開されている(GitHub)。

歯の再生治療薬の研究・開発加速、歯科領域創薬の京大発スタートアップ「トレジェムバイオファーマ」が4.5億円調達

歯の再生治療薬の研究・開発加速、歯科領域創薬の京大発スタートアップ「トレジェムバイオファーマ」が4.5億円調達

歯科領域創薬の京大発スタートアップ企業「トレジェムバイオファーマ」(Toregem Biopharma)は3月8日、第三者割当増資による総額4億5000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、京都大学イノベーションキャピタル、Astellas Venture Management LLC、Gemseki、フューチャーベンチャーキャピタル、京信ソーシャルキャピタル、京都市スタートアップ支援2号ファンド。

調達した資金により、USAG-1中和抗体の非臨床安全性試験と治験用製剤の製造準備を進め、世界初の歯の再生治療薬の研究開発を一層加速させ、2023年度内の治験開始を目指す。

トレジェムバイオファーマは、京都大学大学院医学研究科口腔外科学分野の髙橋克准教授(現、同客員研究員、公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院歯科口腔外科主任部長)による長年の研究成果に基づき、2020年5月に設立。

骨形成たんぱく質であるBMPなどの働きを阻害する分子「USAG-1」が歯の発生過程に関与し、USAG-1を抑制する中和抗体によって無歯症モデル動物で欠損歯が回復することを明らかにした。

一般的な歯の治療法である義歯やインプラントの人工歯に対し、抗体製剤(注射薬)など医薬品による自己歯の再生は根治的な治療法となりえる可能性があり、同社は、同研究で得られた中和抗体を新規医薬品として上市を目指すとしている。

また現在、先天性無歯症を最初の適応疾患として研究開発を進めているという。先天性無歯症では、患者が未成年で顎骨が発達期にあるため義歯やインプラントの適用が困難であり、成人するまで根治的な治療法の無い希少疾患となっている。現状は成人するまでの長期間を温存療法で耐えるしかなく、歯の欠損が栄養確保と成長に悪い影響を及ぼすため、根治的な治療法の開発が強く望まれている。

そこでトレジェムバイオファーマの開発物質により、先天性無歯症患者の自己歯を再生してQOLの改善を提供するという。さらに、USAG-1の中和抗体は永久歯の後の第三生歯を発生させることも期待されており、将来的には高齢者のオーラルフレイル(口腔内の虚弱)改善まで展開し、歯科治療に広く貢献したいと考えているそうだ。

iPS細胞による免疫細胞臨床応用に向けた研究を進める京都大学発サイアスが21.3億円調達、研究開発体制拡充・米国展開へ

iPS細胞由来の免疫細胞の臨床応用に向けた研究を進めるサイアスは2月28日、シリーズBラウンドとして、第三者割当増資による総額21億3000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、新規投資家のEight Roads Ventures Japan、F-Prime Capital Partners、既存投資家のD3 LLC。調達した資金により、研究開発体制を大幅に拡充し、次世代の免疫細胞療法の開発を加速する。またEight RoadsとF-Primeの協力の下、本格的な米国展開の準備を開始する。

サイアスは、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の金子新教授の研究成果を基に、iPS細胞由来の免疫細胞(T細胞やNK細胞等)の臨床応用に向けた研究開発を進める京都大学発のスタートアップ。

他家iPS細胞を原料として、固形がんをターゲットにT細胞受容体(TCR)を遺伝子導入するiPS細胞由来T細胞製品や、固形がんをターゲットとするキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子を導入したiPS細胞由来NK細胞製品など、各種免疫細胞治療の研究開発を行っている。また、この分化技術から製造される再生免疫細胞は、様々なTCRやCARを搭載しており、多様ながん種に対する治療法の開発を行えるプラットフォームとなりえるという。そのため、所望するターゲットを狙ったTCRやCARを搭載した免疫細胞製品を様々なパートナーと共同開発することも可能としている。

京都大学iPS細胞研究所を起源とするサイアスの免疫細胞分化方法は世界有数の技術としており、これを基に世界最先端の遺伝子・細胞療法市場、巨大な資本市場、さらに優秀な人材へのアクセスが可能なアメリカに踏み出すことで、グローバル企業への進化を目指す。

光電変換効率が高い有機薄膜太陽電池の発電の仕組みは「下り坂」だった―京都大学が発電機構を解明

光電変換効率が高い有機薄膜太陽電池の発電の仕組みは「下り坂」だった―京都大学が発電機構を解明

左図:従来型の有機薄膜太陽電池では、十分な「オフセット」(=電子の動きを速くするドーピングのようなもの)がないとエネルギー準位の峠を越えられず効率よく発電できない。右図:最新型の有機薄膜太陽電池ではエネルギー準位の勾配ができるため、オフセットがなくても坂道を下るだけで効率よく発電できる

京都大学大学院工学研究科の研究グループは2月24日、プラスチック太陽電池とも呼ばれる有機薄膜太陽電池(OSC。Organic Solar Cell。OPVとも)の発電メカニズムを明らかにしたと発表した。P型半導体に半導体ポリマー、n型半導体に非フラーレン型電子アクセプターを用いたOSCは、「坂を下る」ように効率的に発電ができるという。

軽量、柔軟で、大量生産に向き、室内光でも光電変換効率が高いOSCは、次世代太陽電池として注目されている。特に、これまでn型半導体に使われてきたフラーレン誘導体の替わりに非フラーレン型電子アクセプター(NFA。Non-Fullerene Acceptor)を使うことで、OSCの課題となっていた高い「オフセット」(エネルギー準位差)の問題が解決し、さらなる高効率が実現した。研究グループでは、半導体ポリマーに「PM6」という有機化合物を、NFAには「Y6」という有機化合物を用いて研究を行った。これらは、オフセットが低くとも発電効率がよいことから、現在もっともよく研究されている材料だ。しかし、その発電メカニズムはよくわかっていなかった。OSCを実用化するためには、その解明が欠かせない。

OSCでは、半導体ポリマーとNFAのエネルギー準位(エネルギーレベル)の差によって光電変換が行われる。従来の方式では、効率のよい光電変換を行うには、0.3eV(電子ボルト)の電圧をかける必要があった。これがオフセットだ。光電変換効率を高めるには、太陽電池の最大電圧を高める必要がある。そのためにはオフセットを小さくしなければならない。しかし、オフセットを小さくすると効率的な発電が行われない。そこが大きな問題だった。ちなみに、PM6とY6を組み合わせたOSCでは、オフセットは0.1eVで済む。光電変換効率が高い有機薄膜太陽電池の発電の仕組みは「下り坂」だった―京都大学が発電機構を解明

研究グループは、PM6とY6のブレンド膜で電子と正孔が形成する界面電荷移動状態(電子と正孔が拘束された状態)を観察した。電子と正孔が拘束から解かれて自由電荷になること(電荷解離)で、光電流として回収され、光電変換が行われるようになるのだが、電荷解離までの時間を測定したところ、10ピコ秒だった。フラーレン誘導体を用いたOSCでは0.1ピコ秒ほどであり、その反応が速いことが高効率な発電につながると考えられている。そのため、非常に長い時間がかかるPM6とY6の組み合わせでは、発電のメカニズムが異なることがわかった。

その秘密は結晶化にあった。n型半導体のY6は時間とともに非晶状態から結晶状態へと変化する。n型半導体とp型半導体の相分離界面付近では材料の結晶化が低下していることが知られている。Y6の基底状態(エネルギー値がもっとも低い状態)を調べたところ、そのスペクトルの変化から、時間とともに電荷がより結晶性の高い領域に移動していることがわかった。非晶状態のY6よりも結晶状態のY6のほうがエネルギー準位が「深く」、電子は結晶相へ移動することで安定化されるためだという。結晶性が低い相分離界面で発生した電荷は、よりエネルギー的に安定した結晶性の高い領域を求めて移動することで電荷解離されていた。つまり、「界面から遠く離れるほどY6の結晶性が向上し、それに伴いエネルギー準位が連続的に安定化することで、電荷が坂道を転がるように界面から遠ざかっていく」という。

この研究成果を活かすことで、「無限に存在する有機半導体」からOSCの材料として有望なものを効率的にスクリーニングでき、さらなる効率向上が期待されるとのことだ。

九州大学ら研究チーム、水素による破壊を防止し高強度アルミニウム合金をさらに高性能化する方法を確立

九州大学ら研究チーム、水素による破壊を防止し高強度アルミニウム合金をさらに高性能化する方法を確立

九州大学(戸田裕之主幹教授、王亜飛特任助教)は2月7日、岩手大学京都大学高輝度光科学研究センターと共同で、高強度アルミニウム合金に脆弱化をもたらす水素に対処し、さらなる高性能化をもたらす手法を確立したと発表した。これにより、20世紀初頭からあまり進んでこなかったアルミニウム合金の高強度化が大きく発展することになる。

金属に水素が入り込むと、「水素脆化」という現象により強度が低下するという。アルミニウムも水素脆化の影響を受ける。水素を取り除くことができれば強度は増すが、水素はもっとも小さな元素であるため、その存在の可視化や解析は極めて困難であり研究は進まず、1900年代初頭から飛躍的に強度を増した鉄鋼に対して、アルミニウムの進化は鈍かった。

九州大学ら研究チーム、水素による破壊を防止し高強度アルミニウム合金をさらに高性能化する方法を確立

金属材料の強度向上の歴史

そんな中、同研究グループは2020年、大型放射光施設SPring-8で3D画像を連続的に撮影する4D観察と、スーパーコンピューターによる原子シミュレーションにより、水素脆化を引き起こしているのがナノ粒子であることを突き止めた。このナノ粒子には、アルミニウム内のほとんどの水素が集まっていた。その水素の集中によりナノ粒子は自発的に崩壊し、アルミニウムが破壊される。アルミニウムから水素自体を取り除くことはきわめて難しい。そこで研究グループは、ナノ粒子よりも水素を引く付けやすいものを添加することを考え、研究を進めた。その結果、意外にもアルミニウム、鉄、銅という平凡な元素を含むミクロ粒子に、水素を強力に引きつける力があることがわかった。

この「水素脆化防止剤」を導入すると、ナノ粒子に引きつけられた水素は、94.5%から34.6%に減少した。しかし、今度は大量の水素を引きつけたミクロ粒子が水素脆化を引き起こすのではないかと疑問を抱いた研究グループは、再び4D観察によりミクロ粒子の破壊挙動を確かめたところ、水素脆化防止剤による破壊は見られなかった。

九州大学ら研究チーム、水素による破壊を防止し高強度アルミニウム合金をさらに高性能化する方法を確立

特に航空産業では、アルミニウムに代わって炭素繊維複合材料が使われるようになっているが、製造・加工・修理のコストと信頼性の面から、軽量で高強度なアルミニウム合金への期待は高い。この手法を用いることで、アルミニウム合金はより強くなり、より薄く延ばすことも可能となり、利用価値は高まる。

また、リサイクルされたアルミニウムの場合、どうしても鉄が混入しアルミニウムの性能を落とすという課題がある。そのためにアルミニウムのリサイクルが拡大しない要因になっているという。しかしこの研究成果を応用して、「リサイクル時に増える有害な鉄を有益な水素脆化防止剤として活用することで、高強度なアルミニウムのリサイクルを促進する効果も期待されます」と研究グループは話す。

現在は、アルミニウムの水素脆化を防ぐさらに有効なミクロ粒子を探すべく、原子レベルの大規模シミュレーションによる探索を進めているとのことだ。

進化したヒトの脳はサルより回転が遅い? 新潟大学脳研究所が霊長類4種類で検証

進化したヒトの脳はサルより回転が遅い? 新潟大学脳研究所が霊長類4種類で検証

新潟大学脳研究所は、音を聞いてから大脳がそれを分析するまでの時間を、霊長類4種類で測定したところ、ヒトがもっとも遅かったという研究結果を発表した。サルよりも発達した脳を持つ人間のほうが、脳の処理に時間がかかるということだが、これは退化ではなく、むしろ進化の結果だという。

新潟大学統合脳機能研究センターの伊藤浩介准教授、京都大学霊長類研究所の中村克樹教授、京都大学野生動物研究センターの平田聡教授らによる研究グループは、ヒト、チンパンジー、アカゲザル、コモンマーモセットの4種類の霊長類を使って、音に対する大脳聴覚野の応答時間を脳波で無侵襲で計測した。音によって大脳の聴覚野から誘発されるN1という脳反応が、何ミリ秒後に生じるかを調べたものだ。その結果、コモンマーモセットが40ミリ秒、アカゲザルが50ミリ秒、チンパンジーが60ミリ秒、そしてヒトが100ミリ秒ともっとも遅かった。

脳は大きいほど、つまり脳細胞が多いほど発達しているという。脳細胞が多いので、ヒトの場合はその他の動物にくらべて、N1反応が現れるまでに多くの脳細胞を通過して多くの処理が行われているわけだ。そのために遅れる。決して、伝達速度が遅いわけではない。

N1反応は、無音から音が鳴ったり、鳴っていた音が消えたり、音の高さが急に変化したりするなど音が「変化」したときに誘発されるのだが、変化を検出するには、その前後の音と比較する必要がある。瞬間の音を認識するというよりは、時間軸上に開いたある程度の長さの「時間窓」で、音を一連のつながりの中で分析を行う。研究グループによれば、ヒトは「音を分析する時間窓が長い」のだそうだ。音の時間窓が長いということは、視覚で言えば視野が広いのに相当する(音の変化をストロボのように瞬間ごとでなく、一連のものとして大局的に捉える)。これは「言語音のように時間的に複雑に変化する音の分析に有利」なのだという。

処理に時間がかかるのはデメリットだが、時間窓が広がり複雑な刺激を処理できるようになったことは、「デメリットを補って余りあるメリット」だと研究グループは話す。また、それがあるからこそヒトの脳は大きくなり進化したというのが、この研究成果に基づく新仮説とのことだ。

今後は、様々な感覚や認知を、長い時間窓でじっくりと大局的な処理をすることで、動作が遅くても高度な機能を獲得したのがヒトの脳、とする仮説の検証を目指すという。

細胞量産技術開発の東京大学発セルファイバと京都大学iPS細胞研究財団がiPS細胞増殖の効率化を目指す共同研究を開始

細胞量産技術開発の東京大学発セルファイバと京都大学iPS細胞研究財団がiPS細胞増殖の効率化を目指す共同研究を開始

iPS細胞を培養中の細胞ファイバー

東京大学発の細胞量産技術開発スタートアップのセルファイバは、iPS細胞増殖の効率化に関する研究を、京都大学iPS細胞研究財団(CiRA_F:サイラエフ)と共同で開始した。CiRA_Fの理念である「最適なiPS細胞技術を、良心的な価格で届ける」の実現を後押しするという。

セルファイバは、「細胞ファイバ」という技術を有している。髪の毛ほどの中空ハイドロゲルチューブの中に細胞を封入して培養するというものだ。細胞はゲルに保護されるため、従来の培養方式に比べて、細胞を良好な状態で長時間維持することができる。また細胞から分泌される物質はチューブの外に放出されるため、物質生産にも有用となる。この細胞ファイバ技術を使うことで、製造施設の省スペース化、品質と回収率の改善、プロス開発工数の短縮、製造工程の簡略化などが期待できるという。

共同研究では、この細胞ファイバ技術開発の知見を活かし、iPS細胞増殖技術の検討が行われることになる。安全で効率のよい製造手法が確立されれば、高額な再生医療費用の低価格化や、今よりも早く治療法を患者に届けることが可能になると、CiRA_Fは話している。

東大・京大・東北大ら研究グループが1個の水分子の量子回転運動の検出に成功、量子情報処理の基盤技術への発展に期待

1個の水分子の量子回転運動の検出に成功、量子情報処理の基盤技術への発展に期待

(a)1nm以下のギャップを有する電極を単一H2O@C60分子に形成し、さらにゲート電極も備えた単一分子トランジスタ構造(single molecule transistor。SMT)の概念図。(b)水分子の模式図。2個の水素原子が持つ核スピンの向きにより、オルソ水分子(左)とパラ水分子(右)の2つの核スピン異性体がある

東京大学京都大学東北大学からなる研究グループは、1個の水分子を流れる電流を計測することで、水分子の量子力学的な回転運動を検出することに成功した。これは、1個の原子が持つ量子状態を情報の媒体とする、つまり1個の原子や分子に量子情報を担わせる、量子情報処理の基盤技術につながるものと期待される。

水分子(H2O)は、その単純な構造から量子技術への応用に適しているとされている。しかし、水分子同士の強い水素結合により、単一の分子の量子状態を測定するのが困難だった。そこで研究グループは、フラーレン(炭素原子が球状構造になったカゴ状の化合物)分子に水分子を1個だけ封じ込めたH2O@C60分子を使用し、分子1個分の隙間をあけた電極にこのH2O@C60を挟み、「H2O@C60単一分子トランジスタ構造」を形成した。そして、そこを流れるトンネル電流を計測すると、1個の水分子の量子力学的な回転運動を検出することができた。

水分子に含まれる2つの水素原子の回転運動(核スピン)には、同じ方向に回転する平行状態(オルソ)と、違う方向に回転する反平行状態(パラ)とがある。H2O@C60単一分子トランジスタ構造で、水分子を経由して流れる電流を測定したところ、オルソのときに2meV(ミリ電子ボルト)と7meVで励起が生じ、パラとのきに5meVの励起が生じた。また、オルソとパラは、測定中の短い時間内にも入れ替われることがわかり、それは伝導電子と水分子の相互作用によるものと考えられるという。つまり、単一分子を経由して流れる電流を計測することで、水分子の水素原子の核スピンに関する情報を読み出すことができたということだ。

これを利用すれば、1個の水分子に量子情報を担わせることが可能になり、量子情報処理の基盤技術の形成につながる。このことは「原子や分子を用いた量子情報処理技術に大きな進展をもたらすとともに、物理、化学、生物学、薬学などの基礎から応用に関わる広い分野に大きな発展をもたらすと期待されます」と研究グループは話している。

宇宙で発生した電磁波が地上に伝わる5万キロにおよぶ「通り道」が世界で初めて解明される

「電磁波の通り道」を同時多地点観測する様子 ©ERGサイエンスチーム

「電磁波の通り道」を同時多地点観測する様子 ©ERGサイエンスチーム

金沢大学理工研究域電子情報通信学系松田昇也准教授らからなる国際研究チームは12月10日、複数の科学衛星と地上観測拠点で同時観測された電磁波とプラズマ粒子データなどから、電磁波の通り道の存在を世界で初めて突き止め、電磁波が地上へ伝わる仕組みを解明したと発表した

地球周辺の宇宙空間では、自然発生した電磁波が地球を取り巻く放射線帯を形成したりオーロラを光らせるなどの物理現象を引き起こしているが、1つの衛星や観測地点からの観測では、電磁波の伝搬経路全体を三次元的に捉えることができなかった。そこで研究グループは、日本のジオスペース探査衛星「あらせ」、アメリカの科学衛星「Van Allen Probes」、そして日本が世界に展開する地上観測拠点「PWING 誘導磁力計ネットワーク」とカナダが北米に展開する「CARISMA 誘導磁力計ネットワーク」を連携させて、同時に観測を行った。

それにより、宇宙空間の特定の場所で電磁波(イオン波)が生まれ、その一部だけが宇宙の遠く離れた場所や地上に届いていることがわかり、そのおよそ5万キロの旅の途中で宇宙のプラズマ環境変動を引き起こし、やがて地上に到達していることを解明した。

宇宙空間には冷たいプラズマが存在し、それが電磁波によって温められると、地上の大気の寒暖の変化のように、宇宙の環境が変化する。特に大規模な太陽フレアによる宇宙嵐が起きると大量の電磁波が発生し、人工衛星の故障、宇宙飛行士の放射線被曝、地上の送電網の障害など、多くの影響をもたらす。電磁波の通り道がわかれば、プラズマ環境変化が様々な場所で同時に発生する仕組みもわかる。

イオン波を4つの拠点で同時に捉えた観測結果

だがそれを解明するには、イオン波が発生している時間帯の、2つの科学衛星と2つの地上観測拠点の位置関係が大変に重要になる。研究グループは、そのタイミングを予測しつつイオン波の観測を続けたところ、2019年4月18日に4つの拠点でのイオン波の同時観測が達成され、同一のイオン波が地磁気赤道から地上に伝搬する「電磁波の通り道」が同定された。それによると、イオン波は5万キロの距離を移動するが、経路の断面はその1/1000ほどと小さい、細長いストロー状であり、広い宇宙空間で、きわめて局所的に伝搬経路が形成されていることもわかった。

あらせ、Van Allen Probesの衛星軌道と地上観測拠点の位置関係

「電磁波の通り道」が解明され、電磁波がどこで発生し、どう伝わるかがわかったことで、安全な宇宙利用に向けた「宇宙天気予報」の精度向上が期待されるという。同研究グループは「地球以外の惑星でも電磁波が発生し伝わっていく仕組みを解明し、宇宙環境変動の網羅的な理解と普遍性の解明へと歩みを進めていきたい」と話している。

この研究には、金沢大学の他、名古屋大学、東北大学、コロラド大学、ミネソタ大学、JAXA宇宙科学研究所、京都大学、九州工業大学、ロスアラモス国立研究所、ニューハンプシャー大学、情報通信研究機構、国立極地研究所、アルバータ大学などが参加している。

京都大学、iPS細胞研究所の山中伸弥所長が所長退任と発表、同研究所教授・主任研究者として基礎研究推進

京都大学がiPS細胞研究所所長の山中伸弥教授が所長退任と発表、同研究所教授・主任研究者として基礎研究推進

京都大学は12月8日、iPS細胞研究所(CiRA。サイラ)の山中伸弥所長が2022年3月31日付で所長を退任すると発表した。山中伸弥教授は、2010年の研究所設立当初より6期(12年)にわたり所長を務めており、所長退任後も京都大学に在籍。CiRA教授・主任研究者として引き続きiPS細胞研究を推進する。

山中教授は、次のようにコメントしている。

2006年にiPS細胞を発表して以来、15年間にわたり組織運営や寄付募集活動に微力を尽くしてまいりました。この数年は、研究者としての最後の期間は自身の研究に注力したいという思いが日に日に強くなっていました。先日の教授会で令和4年度からの所長として髙橋淳先生を推薦し、投票の結果、髙橋先生が選出されました。iPS細胞を用いた多くのプロジェクトが臨床試験の段階に到達しつつある中、自らも臨床試験を先導されている髙橋先生は、新所長として最適の研究者です。私は、基礎研究者として、iPS細胞や医学・生物学の発展に貢献できるよう全力を尽くします。」

また2021年12月2日に開催された教授会において、CiRAの所長候補者選考内規に従って投票を実施。髙橋淳教授が過半数の票を得て次期所長に選出された。所長任期は2022年4月1日から2024年3月31日まで。

髙橋教授はCiRA設立当初からのメンバーで、専門分野は神経再生や脳神経外科。特に長年パーキンソン病治療の研究を行っており、2018年には、京都大学医学部附属病院においてiPS細胞を用いたパーキンソン病治療の医師主導治験が開始されている。iPS細胞研究の最前線で活躍する研究者として、現在もiPS細胞技術などを用いて脳梗塞などの治療法開発を目指した研究を進めている。

画像クレジット:京都大学iPS細胞研究所

新素材「多孔性配位高分子PCP/MOF」を開発する京都大学発スタートアップAtomisが12億円のシリーズB調達

新素材「多孔性配位高分子PCP/MOF」を開発する京都大学発スタートアップAtomisが12億円のシリーズB調達

新素材「多孔性配位高分子PCP/MOF」を開発する京都大学発スタートアップAtomisは12月6日、第三者割当増資による総額12億円の資金調達を発表した。引受先は、リードインベスターの未来創生2号ファンド(スパークス・グループ運営)、クボタ、Mitsui Kinzoku-SBI Material Innovation Fund(三井金属鉱業とSBIインベストメントのプライベートファンド)、長瀬産業、MOL PLUS(商船三井100%子会社のCVC)、京銀輝く未来応援ファンド2号(京都銀行と京銀リース・キャピタルによる共同ファンド)の合計6社。また、事業会社4社と戦略的な業務提携に向けた取り組みに着手する。

業務提携

  • 三井金属鉱業:PCP/MOF素材の量産化、新用途開発
  • クボタ:水・環境分野におけるPCP/MOFの利活用
  • 長瀬産業:PCP/MOF素材の拡販、環境分野におけるPCP/MOFの利活用
  • 商船三井グループ:船舶向け水素サプライチェーン構築におけるPCP/MOFの利活用

Atomisは、調達した資金を活用し、多孔性配位高分子PCP/MOFの開発および量産に向けた新たな研究開発拠点を建設。また、環境領域(CO2分離変換)、エネルギー領域(次世代高圧ガス容器CubiTan)の開発を加速させ、今後も「気体を自在に操る技術」で持続可能な社会の実現に貢献するとしている。

話題の金属有機構造体(MOF)とは何か?使い勝手良すぎるからこその問題と素材ベンチャーの壁

今、注目を集める素材がある。京都大学高等研究院特別教授の北川進氏が発表したPCP(Porous Coordination Polymer、多孔性配位高分子)あるいはMOF(Metal-Organic Framework、金属有機構造体)と呼ばれるものだ。京都大学系スタートアップのAtomisは、MOFを中心技術に据え、その開発・活用を進めている。同社CEOの浅利大介氏が、MOFで何ができるのか。なぜ注目されているのか。何が課題なのか。理系科目が苦手な人にもわかるように説明する。

MOFとは何か?

MOFとは、多孔性材料の1つだ。多孔性材料とは、多数の小さな穴の空いている材料。液体や気体から、触媒や物質を除去・分離する際に広く使われる。

多孔性配位高分子(PCP/MOF)とは(画像提クレジット:Atomis)

人間が紀元前から活用している多孔性材料には、現在も水の浄化や脱臭など、多様な用途で使われている活性炭がある。18世紀にゼオライトという多孔性材料が発見され、20世紀から活用されるようになり、石油産業で必要不可欠となった。

多孔性材料の歴史(画像クレジット:Atomis)

「活性炭もゼオライトも、歴史ある多孔性材料ですが、その需要は現在でも伸び続けています」と浅利氏は話す。

1997年になると、京都大学高等研究院の北川進特別教授がPCPを発表する。これは、金属イオンと有機物を三次元的に組み合わせて作る素材で、ジャングルジムのような構造を持つ。

浅利氏は「北川先生の研究のポイントは、『これだけ穴がたくさん空いた構造物には、いろいろおもしろい用途が考えられる』ということです。そのため、この新しい素材をPCP(Porous Coordination Polymer、多孔性配位高分子)という名前で発表しています。一方で、同じ素材の研究をしているカリフォルニア大学バークレー校のオマール・ヤギー教授は、『この構造そのものが興味深い』という点を強調しています。そのため、同じものをMOF(Metal-Organic Framework、金属有機構造体)という名前で発表しています」という(つまりPCPもMOFも同じ構造物のことだ)。

MOFの特徴1:自由に設計できる

浅利氏によると、MOFの特徴は主に3つある。その1つが「自由に設計可能」な点だ。

「MOFは有機物同士を金属イオンでつなぎ合わせた構造物です。つなぎ目にあたる無機物の種類を変えることで、穴の形や大きさ、数を自由自在に設計・デザインすることができます」と浅利氏。

画像クレジット:Atomis

この自由度の高さは、どう画期的で、これまでの多孔性材料と何が違うだろうか。

「これまでの多孔性材料では、穴の形状や大きさ、数を人間の意のままに操作できませんでした。活性炭であれば、どの種類の木を使うのか、どうやって焼くのかなどの工夫を行うことで穴の形や大きさ、数を希望のものに近づけることが限界でした。しかし、MOFの場合、それらをきっちり人間の希望に合わせて設計できるのです。さらに、これまでの多孔性材料は、無機化合物でした。無機化合物は元素で素材が決まり、単一の無機物でしか組み立てることができず、構造も自動的に決まってしまいます。MOFはさまざまな有機物を金属イオンで結合するものなので、素材の特性も構造も自由自在なのです」と浅利氏は答える。

さらに、MOFは、構造の結合部ではない柱の部分に特徴を加えることもでき「CO2が付着やすい穴を作る」といったことも可能だという。このような構造物を作れば、空気中のCO2を回収することに活用できる。また、柱の部分を水と親和性の良いものにすれば、大気中から水を吸収するものを作ることができる。

MOFの特徴2:機能の多様性、MOFの特徴3:柔軟な多孔性

このように、MOFではサイズ、穴の大きさ、穴の特徴、形状などを自由自在に操れるため、その機能も幅広く考えることができる。これが2つ目の特徴だ。物質の分離、貯蔵、隔離、配列、触媒としての利用など、可能性は広がるばかりだ。

「当社も実際、食品、医薬品、電機、半導体、環境、電池、自動車、建材、宇宙開発などの企業からお声がけいただくことが多いです」と浅利氏。

そして3つ目の特徴が「柔軟な多孔性」だ。

「これまでの多孔性材料は、柔軟性に欠ける硬いものばかりでした。卵の殻をイメージするとわかりやすいかもしれません。そのため、使っているうちに潰れてしまうこともありましたし、穴を活用するにしても、物質が穴を出入りするような物しか作れませんでした。ですが、MOFは柔軟に結合しています。そのため、押せば穴が潰れるものの、放せば穴が元通りになるような、スポンジのような柔軟性が実現しています。

MOF関連企業は世界に23社

MOFは注目を集める素材だが、扱っている企業は多くはない。

「私の把握している範囲では、これまでに24社のMOF企業が誕生しました。ですが、MOFの実用化例はまだ少ない状況です。製品化にまでこぎつけられたのは米国のNuMat Technologies、英国のMOF Technologies、そして日本の当社のみです」と浅利氏は語る。

世界のMOF関連企業(画像クレジット:Atomis)

浅利氏によると、10年ほど前であればMOFを1kg生産するのには数百~数千万円かかったという。その後研究が進み、大企業でも活用を検討できる水準にまでコストが下がり、実用化への期待が高まっている。MOFはCO2回収に関して定評があり、特に最近では環境の側面からの期待が大きいという。

とはいえ、これらの企業が激しく競争しているかというと、そうでもないと浅利氏は見ている。

「これらの企業の中には、大学の研究者が研究費を得るために起業したものも含まれています。そうした企業はMOFのビジネス化や実用化を追求していません。実際にMOFでビジネスをしようとしているのはこの中でも一部です」と浅利氏は説明した。

素材ベンチャーの壁

浅利氏は「当社はMOFを扱う素材ベンチャーです。そして素材ベンチャーには特有のビジネスの壁があります」と話す。

素材ベンチャーは新しい素材を開発し、大手企業に売り込みに行く。必然的に新素材は既存の素材と競争することになる。大手企業からすれば、既存の素材でビジネスが回っているため、あえて積極的に新素材を検討するモチベーションは生まれにくく「試してはみるけれど、既存の素材より劣るところがあれば、新素材を活用しない」という流れになりやすい。

また、素材ベンチャーは新素材を作るところに集中するあまり、素材の用途を提案するところまで手が回らないことも多い。その結果「こんな素材を作りました。活用方法は各社で考えてください」というビジネスモデルになりがちだという。

浅利氏は「これではビジネスが安定しにくいのです。いうなれば素材ベンチャーの壁ですね」と説明する。

そのため、Atomisでは新素材を開発する「マテリアル事業」と、独自に新素材を用いた用途開発を行う「環境・エネルギー事業」の2本柱で素材ベンチャーの壁を打破しようとしている。

「マテリアル事業だけで投資家にアピールしても、結局『誰がその素材を使うのですか?』と切り返されます。『我々が、こうやってこの素材を使います』という答えが環境・エネルギー事業なのです。投資を受けるには、素材の用途まで視野に入れることが重要です」と浅利氏。

「量産」も壁

とはいえ、壁はこれだけではない。「誰が素材を生産するのか」も大きな問題だ。

浅利氏によると、製造業の企業で新素材の活用に熱心なところは少なくなく、企業から大学の研究所に声がかかることはよくあるという。

「ここで問題になるのが、一度に生産できる量です。例えばMOFは、大学の研究所で一度に生産できるのは、数mg〜1g程度です。しかし、素材の生産コストを計算するには、最低限一度に数キログラム程度の生産量が必要です。そこで、誰かが量産体制を構築しなければいけません。ユーザー企業の選択肢は2つあります。自社で量産方法を編み出すか、諦めるかです」と浅利氏。

ここで諦めるユーザー企業もあるが、量産を検討する企業もある。ただし、最終的に量産に漕ぎ着ける企業は多くはない。そこでAtomisは量産体制構築もサポートする。だが、量産そのものは行わない。

浅利氏は「素材ベンチャーは、自社の素材を使ってもらって初めてビジネスが成り立ちます。だからこそ、素材の製法を外に出したがらない。その結果、大量生産まで行おうと考えてしまいがちです。しかし、大量生産には一定の規模の生産設備、品質管理体制、品質管理のための多数の人材、規制対応など、幅広いリソースが必要になります。そしてこのリソースこそ、多くのベンチャー企業が持ち合わせていないものです。一方でユーザー企業は大企業が多い。大企業にとって品質と信頼は重要なものです。そんな大企業が、ベンチャー企業が大量生産した素材を使用できるのか。実際は難しい。そこで、当社は量産体制構築のサポートまでを行い、ライセンスを与えることで大企業に量産を任せることにしています」と話す。

MOFの使い方

ここまでMOFとは何か、素材ベンチャーはどんな課題を抱えているのかを見てきた。では、MOFは実際にどのように使われているのだろうか。

次世代高圧ガスCubiTan(画像クレジット:Atomis)

Atomisでは、MOFを使って次世代高圧ガス容器CubiTanを開発した。従来の高圧ガス容器は直径25cmの底に高さ150cm、重さ50kgで、ここ100年ほどイノベーションが起きておらず、同様の容器が使い続けられてきた。CubiTanはMOFの穴にガスを整列して並べることで効率的にガスを収納している。その結果、27cm×27cm×34cmのほぼ立方体型の容器となっている。さらに重さは8kg。軽量化にも成功した。さらに、CubiTanでは、IoTを活用してガスがどこにどれだけあるのかを把握することができ、遠隔管理できる。CubiTanは今後本格ビジネス化予定だ。

MOFはガスなど気体の分離・収納に活用できる素材として注目されているが、用途はそれだけではない。

「これまで気体を整列させられる素材がなかったので、気体を操作するためのソリューションとしてのMOFの側面が目立ちますが、気体でなくてもMOFは使えます。MOFの穴や枠の大きさは自由自在に変えることができるので、その穴や枠に収まるものであれば基本的になんでもその中に入れたり、通したりできます」と浅利氏。

例えば、特定の物質をのMOF枠の中に整列させてからMOFの枠を焼いてしまえば、その物質を自由に整形できる。MOFは一種の型としても活用できるのだ。

浅利氏は「ナノレベル、オングストロームレベルでものを並べられるので、例えばこれまでにない半導体を作ることも可能です」という。

「使い勝手良すぎ」問題

このように使い勝手の良いMOFだが、それゆえの課題もある。MOFは多様な物質をつなぎ合わせることができるため、いくらでも新しいものを作ることができる。これまでに発表されたMOFは10万種類ほどある。

「多くの場合、新素材といえば用途が限られているため、生産性を高めるための試行錯誤がすぐに始まり、深まっていきます。ですが、MOFはさまざまな構造を作れるため、多様なMOFの開発が進んだ一方で、開発したMOFの実用化や生産性を高める試行錯誤がそれほど進みませんでした」と浅利氏は説明する。

また、生産コストを下げる場合、限られた種類のMOFを多く生産すると単価が下がり、コストも下がる。しかし、MOFそのものの種類が増えてしまっては、需要もさまざまなMOFに分散してしまい、コストを下げにくくなる。

また、MOFは柱となる有機配位子というものを変えることで種類や特性を変えていくことができるが「有機配位子を変える」というプロセスにもお金がかかる。

浅利氏は「オーダーメードがMOFの強みですが、それゆえにコストが下がりにくいのです。MOFが競う相手は活性炭やゼオライトなどの既存の多孔性材料です。MOFの価格はこれまで1kgで100~1000万円程度でしたが、活性炭は1kgで数百円程度です。MOFのコストが1kgあたり1万円程度まで落とせれば社会実装が進むでしょう」と話す。

MOFの現実的なコストの下げ方

コストが下がりにくいMOFだが、下げるための道筋はあるのだろうか。

「戦略は主に2つです。1つは『少量のMOFを使えば性能が上がる』例を作っていくことです。例えば、フッ素樹脂コーティングでは少しMOFを添加することで耐久性が大幅に向上します。少量のMOFでも効果が示せるような使い方であれば高額なMOFを使っても十分ペイできます。もう1つは『圧倒的に高付加価値のMOFを開発する』ことです。例えば、エネルギー業界などで水素の需要が高まっています。水素だけを吸着するMOFを開発できれば、競合する素材は今のところないので、圧倒的な需要を得られる可能性があります。また、CO2をメタノールに変えて回収できるMOFを開発できれば、大きな需要を見込めます。メタノールはプラスチックも作れますし、燃料にもなるからです。このアプローチで需要を掴むことができれば、生産コストも下げていくことができるでしょう」と浅利氏は考えている。

実際、Atomisでは、上記の水素を吸着するMOFと、CO2をメタノールに変換するMOFを開発中だという。

MOFの実用化、活用拡大には、量産体制の構築、生産コストの低減、使用用途の提案など、多くの壁がある。しかし、エネルギーや環境分野を始め、多数の分野での活用が期待される、今後が楽しみな注目素材だ。

京都大学、高温超伝導線の交流損失を20分の1に低減しモーターなどの超伝導化に道を拓く

京都大学、高温超伝導線の交流損失を20分の1に低減しモーターなどの超伝導化に道を拓く京都大学は11月16日、高温超伝導線に交流の磁界中で発生する「交流損失」を1/20に抑えることに成功したことを発表した。液体水素や液体窒素などの比較的高い温度で超伝導状態になる高温超伝導線は、大量の電気を効率的に流すことができるため、モーターなどの電気機器の高効率化やコンパクト化に貢献すると期待されているが、交流損失の問題が実用化のハードルになっている。

この研究は、京都大学工学研究科の雨宮尚之教授と古河電工グループからなる研究グループによるもの。交流の磁界の中で高温超伝導線を使うと、細い磁束の線「磁束量子線」が超伝導体の中に浸入し、それが移動するときに摩擦熱のようなものが発生する。そして、交流の磁界内で交流損失と呼ばれる損失が生じる。また高温超伝導線は、局所的な不良や外からの干渉によって超伝導状態が破れたり、それによって線が損傷したりすることもある。そのため、超伝導状態を保つ「安定性」と破損を防ぐ「保護性」を備える必要があるのだが、これまで、交流損失の低減と、安定性と保護性の両立は難しいとされてきた。

京都大学、高温超伝導線の交流損失を20分の1に低減しモーターなどの超伝導化に道を拓く

そこで研究グループでは、高温超伝導線の薄膜状の超伝導体を細いフィラメントに分割(マルチフィラメント化)することで、磁束量子線の移動距離を短くして交流損失を小さくした。さらに、フィラメントに短い部分があるなどして超伝導状態が破られないよう、銅メッキを施して電流が問題部分を迂回できるようにした。こうすることにより、標準的な薄膜高温超伝導線に比べて交流損失は約1/20に抑えられた。

京都大学、高温超伝導線の交流損失を20分の1に低減しモーターなどの超伝導化に道を拓く京都大学、高温超伝導線の交流損失を20分の1に低減しモーターなどの超伝導化に道を拓く

現在、研究グループでは、この銅メッキした超伝導フィラメントを細い芯のまわりに螺旋状に巻きつけることで、数十mにもなるマルチフィラメント薄膜高温超伝導線「SCSC」(ダブルSC)ケーブルの開発を進めている。SCSCケーブルを使うことで、より高い密度で交流電流を流せるコイルが実現する。そうなれば、軽量コンパクトで大出力なモーターを作ることができるため、船舶や航空機の電動化や、風力発電機の軽量化による大容量化など、脱炭素に貢献できるとのことだ。

光を当て記憶を消去?京都大学、学習結果が長期記憶に移行する細胞活動を解明

京都大学は、光を当てることで記憶を起こしたシナプスのみを消す、つまり記憶を消すことに成功した。映画のように光を当てれば人の記憶を消せるというような単純な話ではないものの、この研究が重要な脳の働きを解明することにつながった。

京都大学大学院医学研究科後藤明弘助教、林康紀同教授らからなる研究グループは、海馬に保存された短期記憶が皮質に長期記憶される、いわゆる「記憶の固定化」がなされるときに起きるシナプス長期増強(LTP)という現象について調べている。このLTPが、いつどこで誘発されるかがわかれば、記憶がどの細胞に保持されるかがわかる。研究グループは、それを検出する技術の開発を目指した。

実は、この光によって記憶が消せる手法は、LPTがいつどこで起きるかを検出する手法として開発されたもの。LTPが起きるとシナプス後部のスパインという構造が拡大するのだが、これにはコフィリン(cofilin)という分子が関わっている。このコフィリンとイソギンチャク由来の光増感蛍光タンパク質SuperNovaを融合させ、特定の波長の光を当てると、SuperNovaから活性酵素が発生し、近隣のコフィリンだけが不活性化される。するとLPTが消去され、記憶が消える。

この手法を使うと、薬剤を使った場合と異なり、狙いどおりの場所と時間にLTPの消去が行える。これを利用して、学習直後と学習後の睡眠中の海馬に光を当てたところ、それぞれの記憶が消えた。このことから、学習直後と、その後の睡眠中の2段階でLTPが起き、短期記憶が形成されることがわかった。さらに、神経細胞の活性を調べたところ、細胞は学習により特異的に「発火」(スパイク信号を出力)し、学習後の睡眠中にはLTPによって細胞同士が同期して発火することが認められた。これにより、記憶を担う細胞が形成される過程が詳細に見られるようになった。また、記憶が皮質に移り固定化される時間を知るために、前帯状皮質でのLTP時間枠を調べたところ、学習翌日の睡眠中に前帯状皮質でのLTPが誘導されていることもわかった。

この研究により、LTPが誘発される時間枠を解析する技術が開発された。これは、記憶に関連する多くの脳機能を細胞レベルで解明できる可能性を示すものだ。LTPに関連するシナプスの異常は、発達障害、外傷性ストレス障害(PTSD)、認知症、アルツハイマーといった記憶・学習障害だけでなく、統合失調症やうつ病の発症にも関わることが示唆され、こうした病気の治療にもつながるという。

この研究は、京都大学大学院医学研究科後藤明弘助教、林康紀同教授、理化学研究所脳神経科学研究センター村山正宜チームリーダー、Thomas McHughチームリーダー、大阪大学産業科学研究所永井健治栄誉教授らの研究グループによるもの。

筑波大学が「富岳」全システムを使い宇宙ニュートリノの数値シミュレーションに成功、ゴードン・ベル賞の最終候補に選出

筑波⼤学計算科学研究センターは10月28日、宇宙大規模構造におけるニュートリノの運動に関する大規模数値シミュレーションを、ブラソフシミュレーションというまったく新しい手法を用いて、理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」上で成功させたことを発表し、その動画も公開した。この研究論文は、米国計算機学会(ACM。Association for Computing Machinery)のゴードン・ベル賞の最終候補(ファイナリスト)に選出されている。

これは、筑波大学、京都大学、東京大学、理化学研究所の共同による研究。宇宙の銀河の分布を示す宇宙大規模構造は、何も存在しない「ボイド」と、銀河が多く集まる領域が泡の集まりのような形で構成されている。この数値シミュレーションでは、その宇宙大規模構造の中のニュートリノとダークマターの運動が計算された。数十年も前から、N体シミュレーションに代表される粒子シミュレーションと呼ばれる手法での計算は試されてきたが、人工的な数値ノイズが入るなどの問題が解決できずにいた。そこで研究グループは、数値シミュレーションコードを開発し、数値ノイズの影響を受けない、「多数の粒子の集団的振る舞いを記述するブラソフ方程式を直接数値的に解く手法」であるブラソフシミュレーションを採用した。

ダークマターの空間分布。1 h-1 Mpcは約466万光年。

ニュートリノの空間分布。

ただし、この手法は計算量や必要なメモリーの量が膨大になるため、なかなか実現できなかったのだが、⽂部科学省の「富岳」全系規模⼤規模計算実施公募に採択されたことで、「富岳」の全システムが使えることとなった(通常、利用者には「富岳」の性能の一部が割り当てられる)。研究グループは、「ブラソフ方程式の数値解法としては、これまでになく高精度で、かつ演算量の少ないアルゴリズム」を開発し、「富岳」のプロセッサーに合わせてプログラムの実装を全面的に見直すことで、理論ピーク性能の15%という実行性能を達成。さらに「計算ノード間のネットワーク構成に合わせた並列化」により最大96%という高い並列化効率を達成した。その結果、「富岳」の全システムの93%にあたる14万7456ノードを用い、最大で約400兆個のメッシュを使ったシミュレーションに成功した。中国のスーパーコンピューター「天河⼆号」(Tianhe-2)で行われた過去最大の数値シミュレーションと同等の数値シミュレーションが、約1/10の時間で実行できたことになる。

この研究により、ブラソフシミュレーションの大規模な数値シミュレーションが、スーパーコンピューターによって高い並列化効率で実行できることが示された。このことから、核融合プラズマや宇宙の磁気プラズマの振る舞いの研究にも、この手法が適用できるとのことだ。

ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円調達

ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円のシリーズB調達

ナノテクノロジー応用がん免疫薬(ナノ免疫薬)に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」(UI)は9月7日、シリーズBラウンドにおいて、第三者割当増資による約5億円(4.995億円)の資金調達を実施したと発表した。引受先は、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、KISCO。

2017年11月設立のUIは、京都大学大学院工学研究科と三重大学大学院医学系研究科の長年の医工連携研究の成果を実用化すべく設立され、次世代ナノ免疫薬の基礎研究から臨床応用まで幅広く取り組んでいるという。

独自のナノ粒子型免疫デリバリーシステム(プルランナノゲルDDS)を活用した免疫活性化の基盤技術を活用し、難治性がんの治療薬や新型コロナウイルスワクチンの研究開発を手がけているそうだ。

調達した資金により、免疫チェックポイント阻害剤でも十分な薬効を示せない難治性がんの治療を目指す抗がん剤「T-ignite」、新型コロナウイルスワクチンの臨床試験実施の準備(どちらもAMED CiCLE事業の支援で研究開発を推進中)、および他の自社研究開発プログラムの加速化を推進する。また、アステラス製薬子会社のXyphosと実施中の共同研究の加速、人材獲得を含めた経営体制の強化を推進する。

UIによると、今までの治療法が効かない免疫的難治性がん(cold tumor)の原因となっているがん組織内のマクロファージの機能をうまく調節できれば、免疫的難治性がんを治療感受性の(T細胞が豊富に存在し免疫的に活性化した)「hot tumor」に変換して、治療効果を発揮する可能性があるという。そこで同社は、治療成分を搭載したプルランナノゲル型ドラッグデリバリーシステム(DDS)を「T-ignite製品」と名付けて鋭意開発している。

例えば、静脈内投与されたT-igniteは、プルランナノゲル型DDSの働きによってがん組織内のマクロファージに選択的に取り込まれる。そこで、T-igniteに含まれる薬剤がマクロファージの機能で抗がん免疫を活性化する方向に調節することで、がん組織の中から免疫が活性化して、がんを難治性から治療感受性へ変換できると考えているという。搭載する薬剤や適応疾患の種類を変えることで、多様なT-ignite製品をシリーズ化するとしている。ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円のシリーズB調達

Luxonusが被曝の心配がない超高解像度光超音波3Dイメージング装置を開発

  1. Luxonusが被曝の心配がない超高解像度光超音波3Dイメージング装置を開発

医療用の新しい画像装置を開発するLuxonus(ルクソナス)は8月24日、近赤外レーザーと超音波を融合させた光超音波イメージング技術を用いた超高解像度3Dイメージング装置の開発を発表した。

これは、近赤外波長のパルスレーザー光を体内に照射し、その際に血中ヘモグロビンから発生される超音波を512個の超音波センサーで捉え、3D画像を作り出すというもの。体表から3cmほどの深さまで、微細な血管の状態を撮影できる。利点としては、X線や造影剤を使わず放射線の被曝の心配がないこと、安全で簡便であるため専用の部屋が必要ないこと、リアルタイムの3D動画の撮影、酸素飽和度の画像化、血管とリンパ管を同時に画像化といった「機能画像」の撮影も行えることなどが挙げられる。

現在は、医師との間で、治療をターゲットとした応用方法を検討中とのこと。また臨床用だけでなく、実験小動物を対象とした基礎医学研究分野に向けた製品も開発している。これを使えば、動物の体内を、生きたまま安全に撮影ができるという。

マイオリッジが京都大学保有のiPS細胞由来心筋細胞製造方法について海外企業と初のライセンス契約

マイオリッジが京都大学保有のiPS細胞由来心筋細胞製造方法について海外企業と初のライセンス契約

京都大学発スタートアップ「マイオリッジ」は4月19日、iPS細胞由来心筋細胞を用いた再生医療関連製品を開発する米Avery Therapeutics(Avery)との間で、京都大学およびマイオリッジが保有するiPS細胞由来心筋細胞の分化誘導法について非独占的なライセンスをAveryへ共与するライセンス契約を締結いたしたと発表した。

この契約に基づきAveryは、同誘導法を使用した製品の製造・開発販売を北米において行う非独占的な権利を得る。現在Averyの製品は、非臨床試験の段階にあるという。

なお同契約は、公表されている限り、京都大学の保有するiPS細胞由来心筋細胞製造方法として、海外企業に対して臨床応用を目指した技術供与を行う、初めてのライセンス契約となる。マイオリッジは、京都大学よりライセンスを受けた同誘導法に加えて、iPS細胞などの幹細胞や中胚葉由来細胞(心筋細胞、間葉系幹細胞、血球系細胞など)の製造にかかる基盤技術を有している。今後も独自性の高い基盤技術を世の中へ送り出すことで、再生医療の普及に貢献するとしている。

マイオリッジは、京都大学の研究成果を基に2016年8月に設立されたスタートアップ。新規低分子化合物を用いることで高価なタンパク質を必要とせずに、浮遊培養にて多能性細胞を心筋細胞を含む分化細胞へ分化誘導できる基盤技術を保有している。同誘導法は京都大学よりライセンスを受け実施している。

同技術を活用したiPS細胞由来心筋細胞の販売のほか、自社で保有する低分子化合物データベース、特許出願中の培地成分探索技術を活用したオーダーメイドの培地開発支援、製造プロセス開発支援といった、再生医療等製品を開発する企業を対象としたサービスなどの事業を展開している。

Averyは、心血管疾患に苦しむ患者のため高度な治療法を開発している企業で、主要な開発パイプラインは、慢性心不全の治療を目的に開発中の同種再生医療製品MyCardiaとなっている。同社は、独自の製造プロセスを活用しMyCardiaの大規模製造を実現し、凍結保存することで即時使用可能な製品としてMyCardiaを販売する予定。さらに同社は、独自の組織プラットフォームを活用し、他の心血管系疾患を対象とした開発も進めている。

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カテゴリー:バイオテック
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