ソラコム玉川氏が語る起業、KDDIによる大型M&AとIoT通信の未来

11月16日・17日に渋谷・ヒカリエで開催されたTechCrunch Tokyo 2017。2日目の17日最初のセッションには、IoT向けの通信プラットフォームを提供するソラコム共同創業者でCEOの玉川憲氏が登壇し、KDDIによる大型M&Aの背景とIoT関連サービスの展望、今後のサービス展開について語った。聞き手はTechCrunch Japan編集長の西村賢が務めた。

ソラコム共同創業者でCEOの玉川憲氏(右)と聞き手のTechCrunch Japan編集長西村賢(左)

ソラコム誕生のきっかけは「仮想のプレスリリース」

まずはソラコム起業の経緯について。起業前の玉川氏は、Amazon Web Services(AWS)の日本のエバンジェリストとして知られていた。Amazonを辞めて起業をするのは自分でも「クレイジーだと思った」と玉川氏は明かす。

「新卒で日本IBMへ入社したときのキャリアゴールは、CTOになることだったが、それはかなわなかった。AWSでは、技術全体のリーダーと近いポジションだったので満足していた。しかし、ソラコムのアイデアを思いついてからは、それをやりたくて仕方がなくなってしまって」(玉川氏)

玉川氏はAWSを心から好きだった、と言う。「AWSの登場で、スタートアップがサービスを最初に始める時に,サーバーに6000万円とかかける必要がなくなった。パッションがあればスモールサービスで取りあえずやって、うまくいけばスケールする。インターネット上でサービスをやりたいスタートアップにとっては、そういうことができるというのは、劇的な変化だった。コンピューティングのような、みんなにとって必要なリソースを既得権益だけでなく、オープンにフェアに提供するというAWSの考え方が、僕は非常に好きだった」(玉川氏)

というわけで、日本でAWSのエバンジェリストを務めていた玉川氏だが、日本ではAWSを使って世界へ打って出るようなスタートアップは、なかなか生まれてこなかったという。そんな中、現ソラコムCTOの安川健太氏と出張先のシアトルでビールを飲んで話をする機会があった。「パブリッククラウドを使えば今、何でも作れる」という話で盛り上がった玉川氏は、ホテルに戻り、時差ぼけで寝付けない中で、Amazonの文化に則ってサービスのアイデアを仮想のプレスリリースに書き起こしてみた。翌朝起きて「リリース文を見たら、行けると思った」と玉川氏。クラウドスタートアップが出てくれないのなら、自分でやってみよう、と考えるようになったそうだ。2014年春のことだ。

「初めは起業しよう、と思っていたわけではなかった。(プロダクトを)作ってみたら面白いんじゃないか、ということでプロトタイプを試作していた」と話す玉川氏。Amazonの中でサービス化するという選択肢もあったというが、「ソラコムは通信の仕組みをクラウド上で作るという、AmazonにとってはAWSを利用するお客さん側にあたるので、自分たちで(起業して)やった方がいいんだろうなと思った」と起業に踏み切った理由を語った。

こうして2014年11月に、IoT通信プラットフォームを提供すべく起業したソラコムは、2017年8月、KDDIによる大型買収を決め、わずか2年半でイグジットを果たした。買収額は200億円程度と言われている(公表はされていない)。

買収先としては、Amazonもあり得たのでは?との西村の質問に、玉川氏は「クラウド上の通信サービスを提供するということから、買収先には2つの選択肢があった。ひとつは通信キャリア、もうひとつは(AWSのような)クラウドベンダーだ」と答える。「買収先は単に金銭的な条件だけが重要ではなく、パートナーでもある。お金も大事だが、M&A後のシナジーや、我々自身がモチベーションを保ったまま続けられる環境か、といったことも大切な条件だった」(玉川氏)

KDDIが買収先となった決め手のひとつは、KDDIが世界でもいち早く、ソラコムのクラウドベースの通信機関システムを採用し、ソラコムと共同開発したサービス「KDDI IoTコネクト Air」を提供開始したことだと玉川氏は話している。

「それにIoT向けの通信はまだ始まったばかり。乾電池で10年動くような通信など、モノに通信を入れるための規格は、これから本格化してどんどん出てくる。それをどこよりもいち早く取り入れて提供していこうとしたときに、やはり通信キャリアと組むのがいいだろうと考えた。もうひとつ、“日本発”でグローバルを目指したいというときに、一番やりやすいのはKDDIではないかと思った」(玉川氏)

スマホにおけるTwitterのようなキラーアプリがIoTにもいずれ来る

IoTとIoT向け通信の今後の行方について、もう少し詳しく玉川氏に聞いてみた。玉川氏によれば、携帯通信全体ではどんどん高速化・大容量の方向へ進んでおり、この方向性は変わらず進化を続けるが、IoT向け通信に限って見れば、それほど速度は必要なく、通信モジュールが小さく安く、どこででも電波が入って、低消費電力で動くことが求められるという。

「ちょうど昨日(11月16日)、KDDIがセルラーLPWA(Low Power Wide Area)通信サービスの提供開始を発表したところ。我々も今後ソラコムとどう組み合わせていくかを検討している」(玉川氏)

最近スタートアップでIoTサービスを提供する企業は、軒並みソラコムの通信サービスを利用している印象もあり、まさにIoT通信界のAWSのような状況と言える。現ユーザーはどういった傾向にあるのだろうか。「現在は8000件以上の顧客に利用されている。企業規模も大企業からスタートアップまで幅広く使ってもらっている」(玉川氏)

スタートアップでのソラコム活用例として挙げられたのは、TechCrunch Japanでも以前紹介したことがあるファームノート。農家へ牛の状態の管理をするアプリを提供する企業だ。「酪農家にとっては、子牛が生まれるときというのが非常に重要なタイミング。牛の胎盤の温度などを測ってモニターするのにソラコムが利用されている」(玉川氏)

またこちらもTechCrunch Japanで紹介済みのスタートアップだが、まごチャンネルもソラコムの顧客だ。スマホが操作できないシニア世代でも、テレビで遠くの家族の写真や動画を共有できるIoTデバイスを提供している。「テレビにくっつくセットトップボックスに(ソラコムの)SIMを入れてもらっている」(玉川氏)ということで、Wi-Fiの設定などインフラの心配なく、ユーザー体験を作り出すことができたという。

最近発表されて話題となった製品では、ソースネクストが12月14日に発売する通訳デバイス「POCKETALK(ポケトーク)」にも、ソラコムのグローバルSIMが採用されている。「世界61カ国で使えて、50言語以上に対応している。翻訳エンジンは、中国語ならバイドゥ、といった感じでクラウド上の最適なものを選んでいる。スマホはSIMの入れ替えや設定など、海外ですぐに使えないことも多いが、これはすぐ使える。また通訳目的に限定されているので、スマホと違って現地の人に渡すことにも躊躇しなくて済む」(玉川氏)

コンシューマーとインフラ系やセンサーネットワーク(かつてM2Mと言われた領域)とでは、どちらがIoT市場として大きくなるのだろうか? 玉川氏は「私自身も全く読めない」とこの問いに答えている。「“IoTのポテンシャルは無限大”みたいなところがある。日本だと2000年前後に“eビジネス”を切り口に企業がこぞってウェブサイトを作っていたが、それと似たような感じで各産業がIoTに取り組んでいる。今はクラウドがあって、IoT向け通信もある。そしてデバイスがメーカーのムーブメントで、どんどん安く小さくなっている。そうすると、そこら辺中のモノが通信でつながるかもしれないですよね」(玉川氏)

IoTにとってのキラーアプリは、どういったものになるのだろうか。玉川氏は「僕も分からない。ただ振り返ってみると、スマホが出てきたときにTwitterが出てきて『うわあ、これはキラーアプリだ』みたいな感覚があったでしょう。あれは誰も予測ができなかった。それと同じようなことがたぶん、IoTでも起こるんじゃないかと思う」と予想する。

ソラコムが「ブラック企業にしない」「ストックオプションを出す」理由

さて、ここからはスタートアップとしてのソラコムについて、玉川氏に聞いていく。まずはチームビルディングについてだ。スタートアップというと、若手のイメージがあるかもしれないが、ソラコムは比較的年齢層が高めだという。「平均年齢は36〜7歳。エンジニアが半分以上だ。日本だと『エンジニア35歳定年説』などと言われているが、うちは35歳以上のエンジニアが活躍している」と自身も起業当時39歳だった玉川氏が話す。

スタートアップあるあるとして、立ち上げ期の起業家や創業メンバーが配偶者に起業やスタートアップへのジョインを反対される、いわゆる“嫁ブロック”問題というのがある。ソラコムではどうだったのだろう。玉川氏は「我が家は大丈夫だったが、初期メンバーを集めるときに、ほとんどのメンバーがジョインを即決できなくて、家族に説明するために会いに行った」と明かす。

「給料などがちゃんとしていますよ、という話もそうだが、どちらかというと『こういうことがやりたいんです』というビジョンを説明した。また『ブラックな会社にするつもりはありません』といったこともお話しした」(玉川氏)

現在社員数45人のソラコムでは、子だくさんの社員が多いと玉川氏は言う。「自分も3人の子どもがいて、多い社員では5人の子どもがいる家庭も。最近、スタートアップ界隈では“憧れ”の関東ITソフトウェア健康保険組合(IT系企業が多く加入しており、寿司屋など保養・関連施設が充実していることで有名)に、ソラコムでも加入の申し込みをしたところ、子どもの数が多すぎて断られてしまった。でも『スタートアップで子どもが増えているのはいいことだ。日本(の少子化対策)に貢献しているし、メンバーが未来があると感じているから、子どもが増えているのであって、そのことを誇ろう』と思うことにした」(玉川氏)

会社の労働環境については、ブラックでないように心がけている、という玉川氏。「ソフトウェアテクノロジーで価値を作るスタートアップは、優秀なソフトウェアエンジニアがゼロからイチ(のサービス)を作れるか作れないかにかかっている。人数や時間をかければ作れるというものではなく、生産性で言えば今までの従業員と比べると、100倍にも1000倍にもなるエンジニアには希少価値があり、大切にしなければいけない」とその理由を説明する。

フルフレックスで、リモートワークもOK、基本的に社員を満員電車には乗せない、というソラコム。優秀な人材にジョインしてもらうために、玉川氏が待遇面で気を配ったのがストックオプションの付与だ。「テクノロジープラットフォームを作る会社でグローバルに展開したい。一気に投資をして一気に成長させる、いわゆるスタートアップをやりたかった」と話す玉川氏は、全員にストックオプションを付与したそうだ。「優秀なエンジニアはコアメンバーだ。給料を(前職の)半分しか出さないとか、ストックオプションを出さないとかいうことは僕にはできなかった」(玉川氏)

「我々の場合、少人数で価値の高いプラットフォームを作ろうとしていて、それは経験の浅いエンジニアだけではできないことだ。15年以上の経験・実績があって、サーバ側もアプリ側も分かるような、いわゆるフルスタックと呼ばれるようなエンジニアに入ってもらってやってきた。そうすると、きちっとした待遇でストックオプションも出してやりたいな、と。結果的にはそれがよかったと思う」(玉川氏)

大手企業で経験を積んできたエンジニアを採用する場合にも、基本的な給与についてはできるだけ前職と同じかそれ以上の条件を用意し、ただしインセンティブやボーナスに関しては「ストックオプション以上の可能性は(他には)ないので、がんばろう」と話しているそうだ。

また、ワールドワイドに事業展開を図るソラコムにとって、海外での採用にはストックオプションの提示が不可欠だったという側面もあったようだ。玉川氏はこう話す。「日本だと、ストックオプションの相場が分からない人も多いが、シリコンバレーでは会社のステージ(投資ラウンドのどの時点か)と、どのポジションでの採用になるか、というのがマトリックスになっていて、業界標準値のようなものがある。アメリカで入ってくるメンバーはそれをベースに交渉するのが普通となっているので、我々もその標準に合わせようと考えた」(玉川氏)

シリーズA段階でのストックオプションの付与は、保有する株の希薄化を避けたい投資家から見ると嫌がられることも多いはずだが、ソラコムではそのあたりはどのようにクリアしたのだろうか。玉川氏は「我々の場合はオプションプールを10%作った。投資家からは確かに嫌がられるのだが、『成長するために優秀な人材を確保するには必要なことだ』と説得すれば理解してもらえるので、オプションプールは作っておいた方がいい。特に海外ではストックオプションがなければ採用はできなかった」と話している。

ストックオプションの価値や相場について理解度が低い日本の場合でも、ストックオプションの付与は有効だったと玉川氏は言う。「ストックオプションはある意味、(会社の成長の仕方によっては)どういう価値が出るのか分からないものなので、細かい値(付与のパーセンテージ)にこだわっても仕方ない。それよりは、会社としてどこまで一気に成長させられるかという観点のほうが大事だ。そういう意味では、ソラコムの日本のチームも(ストックオプションの付与を)前向きに『これでがんばっていこう』ととらえてくれたかな、と思っている」(玉川氏)

ストックオプション付与の利点について、玉川氏は「説明コストが省けること」もあると説明している。「例えば、我々は2年ぐらいで買収ということになったので(イグジットまでの)時間はかからなかったが、通常スタートアップでは3年とか5年がんばっていかなければならず、疲弊してくる。そうすると、分かりやすいインセンティブやボーナス(が欲しい)という話になってくるのだが、それよりは、ストックオプションのほうが可能性としてはずっと高い。しかも全員ががんばればがんばった分だけ、プールは大きくなる。みんながひとつのビジョンに向かって突き進むには、非常にいい仕組みだなと思う」(玉川氏)

創業2年半、ソラコムの今後と起業を目指す中堅へのメッセージ

創業2年半の若い企業とはいえ、既にさまざまなサービスを展開するようになったソラコム。ゼロからイチを立ち上げる初期とは違い、ある程度ソフトウェアができてくるとメンテナンスタスクなども増え、新しいことがだんだんできなくなってきて、モチベーションが続かないこともあるのではないか。

「確かに最初は通信サービスのSORACOM Airとデータ転送サービスのSORACOM Beamの2つしかサービスがなかったが、今は10個以上ある。次に新たにサービスを出していく、となったときに、10個のサービスのメンテナンスもやっていかなければならないし、(新サービスとの)整合性、依存関係も考えていかなければいけないので、もちろん一番最初に比べると身重になっている、というのは正しい。またよく言われる“技術的負債”というのもあって、作ったときにはきちんと解決してきれいにしておかなかったところが、後々重荷になる、ということもある」と言う玉川氏。ただしソラコムの場合は「元々エンジニアを“作る”メンバーと“運用する”メンバーに分けていなかった」ことが功を奏しているとのこと。「(サービスを)作ったメンバーがサポートも受けているので、汚いコードをそのままにしておく、という人は誰もいない。汚いコードを書くと障害も出やすくなり、サポートもいっぱい受けることになって、自分に返ってきちゃうことになるので、きれいに作ろうという意識は高い」(玉川氏)

それでもサービス群が大きくなってくると、取り回しが大変になる部分もある。そこでソラコムでは、定期的に“お掃除の期間”を設けているそうだ。「この期間はディフェンシブに、技術的負債をクリアにしたり、運用を自動化したりするための開発期間に当てよう、ということで何度か期間を取ってきた。それにより、新しいものを作るときに技術的負債が重くのしかからないようにしている」(玉川氏)

今後のソラコムの動きはどうなっていくのか、KDDIとの今後のグローバル展開について聞いてみた。「今はアメリカの特にシリコンバレー周辺とヨーロッパ、それからシンガポールにもオフィスがある。アメリカはやっと立ち上がってきた感じがしている。既にソラコムの顧客に、C2Cの不動産売買プラットフォームを提供するOpendoorがいて、スマートロックを使って内見を自動的にできる仕組みに使っている。またカード型SIMではなく、基盤に埋め込めるように作った5mm×6mmのチップ型SIMを出したのだが、それもアメリカが一番採用が早かった。腕時計型デバイスに埋め込んでもらい、12月に発売される予定だ」(玉川氏)

日本のメーカーが海外展開するときに、ソラコムのサービスが採用されるケースも増えている、と玉川氏は言う。「ソースネクストのPOCKETALKもそうだし、IHIのグローバルでのプラントの遠隔監視に利用されていたり、旭硝子では工場で働いている人がどう動いているかログを取って、動きをより最適化するためにソラコムのグローバルSIMを使ってもらっている」(玉川氏)

最後に、これから起業しようという人たちの参考として、会社の立ち上げからこれまでで、苦しかったことは何かを玉川氏に聞いてみた。「スタートアップって、ずっと苦労してるものだと思うけど、それを言うと全部言い訳に聞こえるんじゃないか。だって自分たちでやりたくてやっているわけだから」と言いつつ、玉川氏は苦しかったフェーズは常にある、と話し、特につらかったのは資金調達だ、と打ち明けた。

「最初の資金調達は2015年のことだが、2015年初めのころは心臓が痛くなった。シリーズA調達が終わったら痛みがなくなったので、ストレスやプレッシャーはすごくあったのだと思う。手持ちの資金で始めてはいるものの、調達できなければせっかく“嫁ブロック”をくぐり抜けて参加してくれたメンバーが解散か、となるので責任感はあるし、引き下がれないし……。資金調達はいつでもつらいもの。調達のニュースがあったときに『まだおめでとうは言わないよ、これからだから』なんて言いたくなる気持ちは分かるが、KPIを達成してマイルストーンを超えているから調達できているわけで。『普通におめでとう、って言ってあげて』と思ってしまう(笑)」(玉川氏)

玉川氏のように、経験を積んだ上で中堅として起業する方へのメッセージももらった。「今、こうしてここに偉そうにすわらせてもらっているが、実際、2年半ほど前に起業を明かしたときには、こうなるとは全く思っていなかった。去年サービスインを伝える記事でTechCrunchに出たときにも、こうなると想像していなかったし、M&Aのことも全く考えていなかった。ただ、今ここにこうして座っている、というのはスタートアップの醍醐味だと感じている。チャレンジしたい、やってみたい、ということがあるならぜひ、チャレンジして欲しい」(玉川氏)

起業に際して最初にするべきことは何か。この質問に玉川氏は「私もTechCrunch Tokyoに来たり、起業家向けイベント、経営者向けイベントにAWSのエバンジェリストとして通っていて、顔見知りになっていて。これが結果的にはすごく役に立った。投資家の人に資金調達のお願いに行ったときにも、はじめてではなく、何度か会っていて、向こうにも『ああ、AWSの玉川さんね』と知ってもらっている状態だった。それは役に立っている」と答えてくれた。

即査定・現金化できる買取アプリ「CASH」の最低買取金額が1000円にアップ

ファッションアイテムなどを撮影するだけで即査定、現金化できる買取アプリ「CASH(キャッシュ)」。6月のサービス開始からわずか16時間で3億6000万円分の「キャッシュ化」がされるも、利用が殺到しすぎてサービスを停止し、物議を醸した。その2カ月後にサービスを再開。11月21日には運営のバンクDMM.comが70億円で買収し、話題を集め続けている。

そのCASHで今度は「最低買取金額を1000円に変更する」との発表があった。“どんなアイテムを査定しても、買取金額が1000円以上になる”とうたう今回の変更。8月のサービス再開時にブランド品買取に特化し、当初「1000円でキャッシュ化できた」ことで話題になった「H&Mのヘアゴム」などはさすがにカテゴリーから削除されているが、服飾雑貨で使用済みのものなど、これまでは1000円以下と査定されていたものも軒並み1000円以上に査定額が変わることになる。

CA4LA(カシラ)のキャップ(使用済み・美品)を査定したところ。以前は査定額500円だった。

CASHを運営するバンク代表取締役兼CEOの光本勇介氏は、DMM.comによる買収に際してのインタビューでも「前提として僕たちは1円でも高く買い取れるよう努力している。今の時点でも、不利に、安く買いたたいているわけではない。『この価格ならノールックで買い取らせて頂ける』と提示している」と話している。

以前ならオークション、直近では“フリマアプリ”が幅を利かせていた中古品の二次流通市場。だが、本日(11月27日)、メルカリも「メルカリNOW」を引っさげて即時買取市場への参入を発表した。こうした動きをきっかけに“買取”の分野が拡大し、マーケット自体に変化が訪れる可能性もある。

メルカリが「メルカリNOW」を発表、CASHが先行する即時買い取り市場に参入

“目の前のアイテムを一瞬でキャッシュに”のコンセプトが大きく話題を生んだ質屋アプリの「CASH」。彼らが生み出した即時買い取り市場に、フリマアプリ大手のメルカリがついに参入する。サービスの運営はグループ会社のソウゾウが行う。

メルカリは11月27日、新たに「メルカリNOW」を発表し、即時買い取り市場に参入すると発表した。メルカリは同日、都内で記者会見を開催した(僕もいま、その記者会見に参加している。メルカリNOWの詳細については随時アップデート中だ。記事の最下部に主な機能を追加していく)。

もともと、個人間売買サービスの市場では「Yahoo! オークション(現:ヤフオク!)」が2000年代から独占的な地位を築いていた。1999年9月に“誰もが手軽に出品、入札ができるインターネットオークション”というコンセプトで生まれたヤフオク!は、サービス開始から15年目を迎える2014年には総落札総額が約8.5兆円を超えるまでに成長した。

そして、それとほぼ同じ時期の2013年7月、この個人間売買アプリの分野に誕生したのがフリマアプリの「メルカリ(mercari)」だ。ヤフオク!はその名前の通り、個人が自分の持ち物をオークション形式で販売できるという特徴で人気を集めたが、その反面、実際にモノを売却するには、オークションの終了時間まで待たなければならないというデメリットがあった。

そこでメルカリは、出品者の設定した金額に購入者が納得できればすぐに販売できるというフリーマーケットの形式を採用。すぐに商品を売却できるスピードと、その“ラクチンさ”によって急激に成長した。メルカリによれば、「売れた商品のうち約半分が24時間以内に売れる」という。

しかし、そのメルカリを持ってしても、“売りたいモノはあるが面倒くさい”というニーズに応えきれていないと考える人がいた。バンクの光本勇介氏だ。2017年6月に、光本氏は目の前のアイテムを一瞬で現金で買い取ってもらえるアプリの「CASH」をリリース。キャッシュ化の依頼があまりにも多すぎて、ローンチしてから16時間でサービスを停止するなど大きな注目を集めた。

そしてつい先日の11月21日、この市場には大きなポテンシャルがあることを確信した光本氏は、DMM.comから受けた70億円の買収案を受け入れ、そこで得た資金をもとに一気にアクセルを踏む決心をしたところだった。

ヤフーとメルカリも、この市場のポテンシャルを無視できなくなったのか、11月20日、ヤフーは「ヤフオク!」内で、ブックオフコーポレーション、マーケットエンタープライズと連携した家電・携帯電話・ブランド品などの買い取りサービス「カウマエニーク」を公開している。そして今日、メルカリもこの即時買い取り市場に新しく「メルカリNOW」を投入すると発表したというわけだ。

個人間売買の市場について色々と説明したわけだけど、「で、メルカリNOWの詳しい内容は?」と思った読者のみなさん。ちょっとだけ時間がほしい。いま、記者会見でメルカリNOWの詳細が徐々に明らかになっているので、その全貌が分かり次第、すぐにこの記事をアップデートする。

メルカリNowの主な特徴

  • スマホのカメラで撮影するだけで、すぐに査定額を表示
  • 「メルカリ」の取引データを参考に査定金額を算出するため、他社よりも納得感の高い金額を提示可能
  • 査定金額の上限は2万円
  • 当初はレディース、メンズの服飾品限定。利用状況を見ながらカテゴリーを拡大。
  • 売上金はすぐにメルカリ内での買い物に利用できる。
  • 1日の買取金額は上限1000万円。毎日10時にリセット。
  • メルカリのアプリ内にある「メルカリNOW」のタブから利用可能。
  • 買い取った商品は、ソウゾウがメルカリ内で販売する
  • メルカリNOWの利用には本人確認書類(免許証など)のアップロードが必要。
  • カメラロールに保存された画像を査定に使うことはできない仕組み
  • 査定までの流れは、商品ブランドの選択、カテゴリーの選択、製品の状態(未使用、1回着用など)を選択、製品全体の写真を撮影する。
  • 手数料は無料。集荷も無料でメルカリが行う。
  • 本人名義の銀行口座の登録が必須。未成年は利用不可。
  • 万が一、盗難品などを出品した場合、売上金の没収やアカウントの停止を行う。

なお、メルカリNOWの発表と同日、CASHは最低査定金額を1000円以上とすると発表している。即時買い取り市場は、両陣営の直接対決の様相となってきた。

“膨大な医療画像”に向き合う医師をITで支援、東大発エルピクセルがAI活用の診断支援システム発表

医療や製薬、農業といった「ライフサイエンス」領域の画像解析ソリューションを開発する東大発ベンチャー、エルピクセル。同社は11月24日、研究開発を進めている医療画像の診断支援技術「EIRL(エイル)」を発表した。

EIRLを通じてエルピクセルが取り組むのは、医療画像診断を効率化することによる「放射線診断医の業務サポート」だ。近年CTやMRIなど医療技術が進歩することにともなって、現場で働く診断医は日々膨大な量の医療画像と向き合うようになっている。

横断的な知識や経験を持ち、医療画像から病巣を見抜ける専門医の数は全国で5500人ほど。これは割合にすると医師全体の2%にも満たない人数だという。この限られた人数で増加し続けるデータ量に対応する必要があり、業務負担の増加が問題視されている状況だ。

これまでエルピクセルは国立がん研究センターなど複数の医療機関と連携し、AIを活用した医療画像診断を支援するシステムの研究開発を進めてきた。現在EIRLを活用して脳MRIや胸部X線、乳腺MRI、体調内視鏡、病理といった画像診断支援技術に取り組んでいて、本日10のテーマを公開している。

EIRLの主な特徴は以下の通り。

  • 医師のダブルチェック、トリプルチェックによって品質が担保された学習データを使用
  • 学習データが少なくても効率的、高精度に学習する独自技術を活用
  • 主要な画像診断装置および撮影プロトコルで撮影した医療画像に対応
  • PACSシステムと連携可能

これらの特徴を活かしながらエルピクセルでは医師の診断を支援していくという。

同社は2014年3月の設立。2016年10月にはジャフコ、Mistletoe、東レエンジニアリングらから総額7億円を調達している。

仮想通貨の税務問題を解決する「Guardian」提供元が約5000万円を調達――Twitterで350件以上の相談を受け事業化

2017年はビットコインを筆頭に仮想通貨の注目度が高まった1年だった。投資の対象としてはもちろん、文字通り「通貨」として会計に使える店舗もでてきているし、仮想通貨を活用した新たなベンチャーファイナンスの枠組みとしてICOが話題になった。

個人で仮想通貨の取引を始めた人も一気に増えたことによって今後大きな問題となるのが税務、つまり確定申告だ。ビットコインに関しては9月に国税庁が課税の取り扱いについての見解を公表しているが、実際どうしたらいいのかわからないという人も多いのではないだろうか。

そんな仮想通貨の税務問題に取り組むのが、12月1日にリリース(一次申し込み開始)予定の税理士紹介・記帳代行サービス「Guardian」だ。

提供元のAerial Partnersはサービス公開に先立って、総額約5000万円の資金調達を実施することを明かしている。第三者割当増資の引受先は日本テクノロジーベンチャーパートナーズおよびCAMPFIRE代表取締役の家入一真氏、3ミニッツ取締役CFOの石倉壱彦氏を含む複数の個人投資家。500 Startups Japanが公開する投資契約「J-KISS」による資金調達だという。

仮想通貨に詳しい税理士の紹介と記帳代行システムをセットで提供

Guardianは仮想通貨に詳しい税理士の紹介と記帳代行システムをセットにしたサービスだ。一見シンプルな税理紹介サービスに見えるが、Guardian側で複数取引所の情報整理や取引を時系列に並べる機能をもつ独自システムを開発し、税理士に提供することで税務業務をサポートしている。

「仮想通貨のロジックがわかっていても人間が手作業で全て対応するのは難しい。そこで申告者に税理士の先生を紹介するだけでなく、記帳代行をスムーズにするシステムを開発している」(Aerial Partners代表取締役の沼澤健人氏)

国内外の取引所10社を中心に、取引履歴照会のAPIを公開している取引所についてはAPI登録のみで自動で所得を集計。APIを公開していない取引所についてもCSVアップロードなどで所得が集計できる。

沼澤氏によると将来的にはこの独自システムをさらに改良した上で、SaaSとして外部に提供することも検討しているとのことだった。ただし現状は法制度も整備しきっていないこともあり、あくまでもGuardianを支えるツールとしての位置付けだ。

現在はむしろ税理士側の啓蒙活動などアナログな取り組みに力を入れているそう。たとえば日本仮想通貨税務協会を設立して仮想通貨に対する講習を実施。認定された税理士をGuardianで紹介していく予定だ。

Twitterアカウント開設後2ヶ月で350件以上の税務相談

Aerial Partnersのメンバー。写真中央が代表取締役の沼澤健人氏

沼澤氏はあずさ監査法人で3年間勤務した後に独立。現在はチャット小説アプリ「peep」を手がけるTaskeyの共同代表や法人向けの会計業務を行うAtlas Accountingの代表を務めている起業家だ。今回新たに仮想通貨に関する事業を始めた背景には、7月に開設したTwitterアカウント「2匹目のヒヨコ」を通じて、多数の仮想通貨に関する税務相談が寄せられたことがあるそうだ。

「個人的に1年半ほど仮想通貨の投資をやっていたが、今年に入って一気に利用者が拡大する中で所得税の計算が大変なことになるだろうなと思い、税務相談ができるTwitterアカウントを立ち上げた。仮想通貨と税務の知識がどちらもある人が界隈にいないこともあり、150人以上の方から370件ほどの相談を受けた」(沼澤氏)

沼澤氏が約1000人に行ったアンケートでは1つの取引所のみを使っているユーザーは全体の1割ほどで、4割が5つ以上の取引所を使っていると答えたそう。中にはアルトコインを使うために海外の取引所を利用するユーザーも多い。そうなると円建てで計算する必要が生じ、後々個人で対応するのは難しいという。

相談をしてくる人の中には税理士に相談したところ対応が難しいと断られ、解決策を探し求めた結果沼澤氏のTwitterにたどり着いたという人もいる。「10年ほど前にFXが注目された時も申告していないためにペナルティを受けた人が多発した。同じような状況にするわけにはいかない」(沼澤氏)

当初は個人的に無償でアドバイスを行ったり税理士の紹介をしていたそうだが(沼澤氏自身は税理士ではないため)、案件が増え個人では対応できなくなり、8月後半から事業化に向けて急ピッチで動き出した。

「3月になって地元の税理士事務所に駆け込んでも、ほとんどの税理士は対応できない。そもそも申告が必要だと知らない人もいるので、申告者と税理士双方への啓蒙活動を進めながら今年の確定申告期を業界全体で乗り越えていきたい」(沼澤氏)

ZOZOTOWN用の採寸ボディースーツをスタートトゥデイが無料配布(ただし送料はかかる)

ファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイは11月22日、採寸用ボディースーツ「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」を無料配布すると発表した。初回無料、同一ユーザーの2回目以降の購入は3000円(税込)で予約申込が可能。ただし配送には、「送料自由」の試験導入結果を受けて11月1日より変更された「一律200円」の送料がかかる。発表当日の22日より予約受付を開始し、11月末ごろから順次配布される。

ZOZOSUITは、上下セットで着用し、スマートフォンをかざすことで体の寸法を瞬時に採寸できる、伸縮センサー内蔵の採寸ボディースーツ。スマートフォンとBluetooth通信で接続することで、寸法を計測し、データをZOZOTOWNアプリに保存することができる。スタートトゥデイが、ニュージーランドのソフトセンサー開発企業StretchSenseと共同で開発したという(StretchSenseには2016年6月にスタートトゥデイが出資を行っている)。

採寸データはZOZOTOWN、および同日発表され、11月末ごろスタート予定のプライベートブランド「ZOZO」での活用を予定。スタートトゥデイでは、計測した体型データの活用で、ファッションECの課題である「サイズの不安」を解消すべく、さらに商品検索機能やレコメンド機能の充実を図るとしている。なお、ZOZOで提供されるアイテムの購入には、ZOZOSUITでの事前の計測が必須となるようだ。

名刺管理アプリ「Eight」がインド進出、6ヶ月で100万ユーザーの獲得めざす

法人向けと個人向けに名刺管理サービスを展開するSansanは11月22日、名刺管理アプリのEightをインド市場でも提供開始すると発表した。

2007年創業のSansanは、個人向け名刺管理アプリのEightと法人向けのクラウド名刺管理サービスSansanを展開するスタートアップ。Eightのユーザー数は150万人を超え、これまでに取り込んだ名刺データは約3億枚以上だ。

42億円の資金調達を実施したことを2017年8月に発表したSansanだが、その際、同社は調達した資金を利用してアジア諸国への展開に注力するとしていた。今回のインド進出がその第一弾となる。

進出先にインドを選んだ理由としてSansanは、「4億人を超える世界最大の潜在労働力を抱えるなど、(インドは)今後の成長性の面でも大きな期待がされている。また、インドにはビジネスのつながりを大切にし、次のビジネスに活かす文化もあり、日本と同様に日常的に名刺交換が行なわれている」と話す。

確かに、“インドとビジネスをするための鉄則55”(島田卓著)にも、「初対面の人たちとの会議では、まずあいさつし、握手をして名刺交換をします。なじみのない国では顔も名前も分からなくなりやすいので、目の前の卓上に名刺を並べて順番に確認していくといいでしょう」と書かれているように、この地では日本と同様の名刺文化が根付いているようだ。

Eightのインドローンチとあわせて、Sansanは現地における“スキャンパートナー”を募集する。これは、ビジネスマンが多く集まる場所にEight専用スキャナーを設置する事業パートナーのことを指す。今後の6ヶ月間で、Sansanはインドで100万ユーザーの獲得を目指すとしている。

CTOオブ・ザ・イヤー2017は1人開発体制からクラシルを立ち上げた大竹雅登氏に

テック系のスタートアップにとって、技術の立場から経営に参加するCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)は重要な役職だ。そのCTOにスポットライトをあてる企画が、TechCrunch Tokyo 2017の初日である2017年11月16日に開催された「TechCrunch Tokyo CTO Night powered by AWS」。LT(ライトニングトーク)を審査し、CTOオブ・ザ・イヤーを選出する。4回目となる今年は8社のCTOが登壇した。

結果からお伝えすると、今年の優勝者は料理動画「kurashiru(クラシル)」を運営するdelyの大竹雅登氏。まだ24歳の若さである。エンジニアが全員退職した後に1人開発体制を続けた大竹氏のチャレンジについては、ぜひ記事の続きに目を通していただきたい。

CTOオブ・ザ・イヤー2017に選ばれたdelyの大竹雅登氏

今年の審査員は、グリーCTOの藤本真樹氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン ソリューションアーキテクトの松尾康博氏、サイバーエージェントSGE統括室CTOの白井英氏、竹内秀行氏(ユーザーベース、インキュベーション担当 専門役員)の4名である。竹内氏は第1回CTOオブ・ザ・イヤーに選出されている。

空港設置のSIM自販機を3カ月で立ち上げる

最初のLTは「WAmazing」のCTOである舘野祐一氏。舘野氏の前職はクックパッドCTOで、「CTO Night」で審査員を務めた経験を持つ。現職は「CTO2周目」にあたる。

WAmazingは外国人旅行者をターゲットとする観光プラットフォームだ。サービスを知ってもらう手段としてSIMを無償提供する。そこで空港に「SIM受取機」を設置する形としている。

舘野氏がフルタイムでWAmazingにジョインしたのは2016年11月頭。着任と同時に「3カ月で空港設置のSIM受け取り機を立ち上げる」という高難易度のタスクを抱えることになった。ハードウェア開発はやったことがない。そこでハードは協力会社に頼り、できるかぎりの処理はサーバーサイドで実現した。それでも完成したのは期限の「2日前」。まだまだ万全といえる状態ではなかった。

ソフトウェア開発では開発サイクルを素早く回転させることが大事だ。この考え方を適用できる環境を用意した。社員が持ち回りでSIM受け取り機を設置する空港に常駐し、その場で問題対応できるようにする。必ずしも技術的な問題ばかりではなかったが、エンジニアでなければ切り分けられない種類の問題も多かったとのことだ。問題が発生するたびに原因調査とフィードバックを繰り返すことで「2〜3週間後には完全になった」。SIM受取機を最初に設置した成田空港での経験を元に、その後は日本各地の空港へのSIM受取機の設置を進めている。

質疑応答では、審査員の竹内氏が「僕も自動販売機のサービスをやったことがあり、大変でした」と意外な経験を披露しつつ、舘野氏から「改善の余力を残しつつ早めに改修していった」との方針を聞き出していた。不完全なサービスの完成度を上げていくやり方に、舘野のソフトウェアエンジニアとしての経験、そしてCTOとしての経験が活かされた形だ。

1人体制で開発開始、リリース直後にデータ分析基盤を整備

2番目のLTは、CTOオブ・ザ・イヤーに選ばれることになるdelyの大竹雅登氏である。料理動画(レシピ動画)サービス「kurashiru(クラシル)」は、dely社にとって3個目のプロダクトだ。1回目は配達サービス、2回目はメディア。「最初のプロダクトでは開発メンバーをけっこう集めたが全員辞め、しばらく1人で開発する体制が続いた」。「狭いオフィスで、手を伸ばせば届くところで料理人がスイーツを作っている」厳しい環境からkurashiruが生みだされた。

kurashiruではアプリのリリースの初期の段階から「Logpose」と名づけた独自のデータ分析基盤を構築した。「サービスを伸ばす、ユーザーを深く知る、PDCAを速く回す」ためにはデータ分析が欠かせないと考えたからだ。データ分析では「人の言葉で説明する」方針をとる。言葉で説明できなければ施策の納得感が得られないし、相関関係と因果関係を取り違える危険もある。分析結果を言葉で説明できるなら「大筋間違った方向にいかない」と話す。

「楽しければ嬉々として開発するはず」と環境整備

女性向け動画サービスC Channelの西村昭彦氏は、「コンテンツ×運営×開発」の重要性について語った。同社の今の規模は社員が約130名、月間動画再生数6億件以上。技術面でも新たな課題が出てきていた。

開発速度を上げる上で「楽しければ嬉々として開発するはず」と考え、開発言語とフレームワークを、それまでのPHPとZF1から、PythonとFalconに変更した。生産性、保守性が向上したほか、募集文面に「Python」と付けたことで「濃いエンジニアに来てもらえた」。また言語と開発フレームワークを切り替えた結果「コードをどう書くか」といった「宗教論争から卒業できた」。

開発インフラはAWS(Amazon Web Services)に移管した。従来のインフラでは「眠れない日々」が続いたが、AWS移管の後は工数削減と睡眠時間確保が可能となった。分析系ではGoogle BigQueryを活用している。

質疑では、女性向けメディアの特性を男性エンジニアが理解することの難しさへの質問も出た。女性向けメディアはコンテンツの消費速度や属性の違いが顕著とのことだ。「趣味や世界観が違うと見てくれない」。西村氏のスタンスは「男性エンジニアには理解できないと開き直って、とにかく作る」というものだ。

建築現場を支援するサービスを作る

CONCORE’S(コンコアーズ)の藤田雄太氏は、建築業向けの写真共有アプリ「Photoruction」への取り組みについて語った。同社は建築業向けの「建設IT」に詳しいエンジニアで起業した。今は写真共有サービスだが、「建築現場のすべての課題に対応するサービスを目指す」としている。今取り組んでいるのが図面の共有である。

建築図面の分野では、「1ページ、ベクターデータなのに400MバイトもあるPDFファイル」を取り扱う必要がある。従来の建築現場がどうしていたかというと、パソコンでPDFを開くのに時間がかかるので、その間にコーヒーで一服して時間を過ごしていた。そこで表示の高速化を図った。基本的な方針は、地図アプリのように、タイル状に分割して画面表示に必要な部分だけを描画するというものだ。LTで見せたデモでは、情報量が多い図面をなめらかに表示、スクロールできる様子を見せた。

証券会社にとってクラウド移行は「火星行き片道切符」

オンライン証券FOLIOの椎野孝弘氏は3社の起業経験を持つ。企業買収を経てヤフー ジャパンに在籍した時期もある。一方、FOLIOは創業2年弱で「第2創業期」にあたる時期だ。そこで椎野氏は、自分のミッションを「第2創業期をうまく離陸させること。そのためにエンジニア、デザイナーが実力を出せるよう環境を整備すること」と位置づける。

環境整備で大きかったのは、クラウドへの移行だ。「証券会社にとってクラウド移行は火星行きに等しい高いハードルだ」と表現する。これを「火星行きの片道切符を買った」との意識で乗り切った。

同社のシステムは、マイクロサービスの種類が30近くと複雑だ。マイクロサービスの弱点は、サービスをまたいで発生する障害の検出が難しいこと。そこでメトリクスを監視ツールPrometheusに集約した。利用言語は、フロントエンドではSwift、Kotlin、Node.js、バックエンドはScalaを中心にPythonとRuby on Railsに集約した。

椎野氏は「第2創業期の離陸はできた」と振り返る。今後の取り組みとして、FOLIOを起点とした新しいエコシステムを目指してAPI公開を目指していく。

排泄予知デバイスの未来を考え生データを保管

排泄予知デバイス「DFree」を開発するトリプル・ダブリュー・ジャパンの九頭龍雄一郎氏は、「100年続くTECH COMPANYへ」と題してLTに臨んだ。

DFreeは、介護施設で排尿時期を予知するデバイスとして利用できることを目指している。現状はビジネスの世界展開へ向け取り組んでいるところだ。技術面での難しさは、ハードウェアもサービスも両方とも新たに創り出さなければならなかったことだ。サーバー側ではAWSのS3、Dynamoなどクラウドサービス群を活用する。DFreeは超音波により腹部を調べるが、測定結果の時系列データはすべてS3上に格納している。「解析後のデータなら何十分の一かのデータ量になるが、あえて生データを入れている」。これは、将来は排尿時期の予知だけでなく、より多様な人体データの活用を視野に入れているからだ。

「FinTechは攻めと守りのバランスが大事」

個人間決済サービスAnyPayの中村智浩氏は、ゴールドマン・サックス、エレクトロニック・アーツなどを経て同社に参加した。スマートフォンによる決済サービスを提供する。個人向けサービスのpaymoと事業者向けサービスのPaymo bizを今年(2017年)ローンチした。

「FinTechは攻めと守りのバランスが大事。一発で信用を失ってしまう」と中村氏は語る。守りとPDCAを回すスピードの両方が大事だ。例えば、クレジットカードの情報をアプリケーションのほとんどの部分が持たない仕組みとした。「比較的安心してPDCAをRails上で回せる」。

同社の社員は投資銀行、広告代理店、コンサルティングファームなどからの転職組も多い。そこで開発に携わる気持ちを会社全体に浸透させることを狙い、GitHubアカウントをみんなに持ってもらった。ビジネス側もGitHub上の議論に参加してもらい、また「ちょっとしたランディングページの変更ぐらいはマーケティングの人がプルリクエストを出す」形とした。ほか、SQLの社内勉強会をして「ちょっとしたデータ分析はエンジニアに頼まなくてもできる」ことを目指す。

質疑では、外部の会社とのやりとりにもGitHubを活用しているという興味深い話が出た。FinTechサービスでは規制への対応が重要となるが、「資格を取得するための業者とのやりとりをGitHub Issueにした。けっこう効率的になった。相見積もりをしてGitHubに対応できる事業者を選んだ」。

技術力で「事業について考える時間」を作り出す

Tunnelの平山知宏氏は、住生活の実例写真の投稿・閲覧サービス「RoomClip」に取り組んでいる。自分の部屋をどう改善すればいいのか、それを考える上で他人の部屋を見る回数が普通の人は少ない。そこを埋めるサービスがRoomClipだ。

平山氏は、エンジニアを忙しくさせる要素を排除することで、エンジニアがユーザーの課題について悩む時間を作り出すことを狙った。「品質が高い開発環境を支える技術力は、考える時間を与えてくれる」。その時間を使い、エンジニア各人もビジネス側の会議に出席して「KPIを追い、一緒にPL(損益)を作り、CMJ(カスタマージャーニーマップ)を作る」ようにした。「エンジニアにとっても事業に責任を持てるポジションが開かれている」。

以上、8社のCTOのLTを紹介した。審査員を代表して、グリー 藤本真樹CTOは「今年特徴的だったのは、2周目、3周目の方々がいたこと。いいことなので、がんばっていきましょう」と締めくくった。

 

近所のおすすめレストラン、歯医者はどこ?――ご近所SNSマチマチが1.7億円の資金調達

ご近所SNS「マチマチ」を運営するマチマチは11月21日、ANRIBEENEXT、および個人投資家を引受先とする第三者割当増資を実施し、総額で1.7億円を調達したと発表した。また、マチマチは同時に茨城県水戸市との連携を開始した。ご近所SNSのマチマチは、生活圏内の近所に住むユーザー同士がコミュニケーションをとるためのサービスだ。近所のおいしいレストラン、おすすめの歯医者、地域イベントの開催情報などをユーザー同士がやりとりできる。

マチマチは日本に昔からあるリアルな“ご近所付き合い”をデジタル化しようとしていて、サービス登録には携帯電話番号を用いたSMS認証が必要だ。登録も実名でしなければならない。

TechCrunch Japanではマチマチをローンチ当初から紹介しているけれど、以前はサービス登録時に郵送による住所確認が必要だった。しかし、想定以上の離脱率からSMS認証に切り替えると、離脱率が大幅に改善。マチマチ代表取締役の六人部生馬氏は「『近所×実名』というプロダクトの設定が生きて、トラブルやネガティブな投稿はほとんどない」と話す。

前回の取材時から比べると展開地域数も大幅に伸びている。約半年前には2000地域だったのが、その約3倍の6300地域にまで拡大した。六人部氏によれば、展開地域数が急激に拡大した要因は主に、ユーザー同士の口コミと「コミュニティデザイナー」を活用した草の根活動の結果だという。コミュニティデザイナーとは、各地域に住むインターンやボランティアのことで、近くに住む知り合いに声をかけたり、ポスティングしたりといった地道なPR活動を行っている。

そこに住んでいるからこそ分かる有益な情報

ところで、僕はいま、東村山市という都心から(ほんの少しだけ)離れたところに住んでいる。マチマチを取材するにあたりサービスを試してみたのだが、僕の近所でもちゃんとマチマチコミュニティが立ち上がっていた。まだ11人程度の小さなコミュニティだったけれど、おすすめレストランなど、実際にこの近所に住む僕にとっては非常に価値の高い情報が掲載されている。離れた場所にあるレストランで撮ってフィルターをかけたインスタの写真なんかより、こっちの方がよっぽど有益だ。

僕のマチマチコミュニティでは子供のいる主婦の方がメインユーザーのようだったが、六人部氏によれば、「全体のユーザーの内訳は、20代後半〜40代が70%、50〜60代前半が20%。都心では上京したての新大学生や新社会人の利用が若干増加してきている」という。

マチマチは現在、マネタイズよりも利用者の増加と自治体との連携に注力している。今回連携した水戸市は、2017年6月の渋谷区などに続いて4例目の連携となる。マチマチは今後もこの戦略にフォーカスし、1年間で50〜100程度の自治体と連携をしていく予定だ。

マチマチを含むSNSには「他のみんなが使っているから使いたい」というようなネットワーク効果がある。その効果が現れる臨界点をユーザー数が超えられるかが鍵となるだろう。

「2016年3月のサービス以降、確かな手応えを感じており、利用者数さえ増えれば、ビリオンダラーを超えるポテンシャルのある領域だと確信した。既存のソーシャルサービスとは違い、短期間に成長するモデルではないが、12ヶ月の利用継続率は約50%と、1度登録すると使い続けるサービスとなっている。マネタイズは、MAUで2ケタ〜3ケタ万台を超えた段階で開始していく」(六人部氏)

サービス運営2カ月弱での大型イグジット、買取アプリ「CASH」運営のバンクをDMM.comが70億円で買収

左からバンク代表取締役兼CEOの光本勇介氏、DMM.com代表取締役社長の片桐孝憲氏

“目の前のアイテムを一瞬でキャッシュ(現金)に変えられる”とうたう買取アプリ「CASH(キャッシュ)」。そのコンセプト通り、ファッションアイテムなどをアプリで撮影するだけで即査定というシンプルで素早い現金化のフローもさることながら、サービスローンチからわずか16時間でユーザーからの申し込みが殺到し過ぎてサービスを2カ月ほど停止したこと、さらにはその16時間で3億6000万円分の「キャッシュ化」がされたことなどとにかく話題を集め続けている。そんなCASHが創業から約8カ月、サービス運営期間で言えばわずか2カ月弱で大型のイグジットを実現した。

DMM.comは11月21日、バンクの全株式を取得、子会社化したことを明らかにした。買収は10月31日に合意。買収金額は70億円。代表取締役兼CEOの光本勇介氏をはじめ、6人いるバンクのメンバーは引き続きCASHを初めとしたサービスの開発を担当する。今後は、DMMグループの持つ資本力やシステム基盤、サービス体制を連携させることで、拡大成長を目指すとしている。

「リリースしてから思ったことは、僕たちが取りたい市場には想像した以上のポテンシャルがあるということ。ただ、需要があるからこそ、競合環境も厳しくなると考えた。市場が大きくなる中で、それなりの自己資本も必要。(資金を調達して)一気にアクセルをかけなければならないこのタイミングでの戦い方を考えている中で今回の話を頂いた」

「DMMグループはいわば現代の超クールな総合商社。金融にゲームから、水族館にサッカーチームまで持っている。一方で僕たちみたいなサービス運営が2カ月、売上もこれからの会社の買収も数日で決めてしまう。こんなに“ぶっ込んでいる”会社はない。大きい市場を取りに行こうとしているときに、経済合理性をいったん置いてでも挑戦する会社がサポートしてくれるというのは、とても心強い。困っていることや強化したいことを相談すると、ほとんど何でもある。例えば物流まで持っているんだ、と」

光本氏は今回の買収についてこう語る。

一方、DMM.com代表取締役社長の片桐孝憲氏は、同年代(片桐氏は1982年生まれ、光本氏は1981年生まれ)の経営者である光本氏を自社に欲しかった、と語った上で、「(光本氏は以前ブラケット社を創業、イグジットした上で)2回目でもいいサービス、いいチームを作っていると思っていた。もともとDMMでも(CASHのようなサービスを)やるという話はあったが、結局チームまではコピーできない。とは言えバンクを買収することは不可能だと思っていたので、ちょっと出資ができないかと思っていた」と振り返る。

買収のきっかけとなったメッセージ

片桐氏は以前から競合サービスの立ち上げについてDMM.comグループ会長の亀山敬司氏と話していたが、10月になって事態が動き出したという。片桐氏の海外出張中に、以前から面識があったという亀山氏が、光本氏に直接メッセージを送り、翌日の食事に誘って買収の提案を行ったのだという。その後はトントン拍子で話が進み、約1カ月で買収完了に至った。「きっちりとCFOがデューデリジェンスもしているが、基本的に口頭ベースで合意したのは5日くらいのスピードだった」(片桐氏)

ちなみに今回の買収、光本氏にはロックアップ(買収先の企業へ残って事業の拡大をする拘束期間。通常2〜3年程度付くことが多い)が設定されていないという。「もし明日辞めても、『そっかー……』というくらい。ロックアップというのは意味がないと思っている。僕が担当した会社(DMM.comが買収したnana musicとピックアップのこと)はロックアップがない。経営者との関係性や経営者のやる気がなくなったら意味がないから。僕がバンクを経営できるわけではない。モチベーションを上げるためのソースがないと無理だと思っている。(買収は)事業を付け加えていくことというよりは、いい経営者にジョインしてもらうこと」(片桐氏)

光本氏は先週開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2017」にも登壇してくれており、その際にも尋ねたのだけれども、現状CASHに関する細かな数字については非公開とのこと。「まだ運営して2カ月くらいのサービスなので、僕たちもまだデータをためている段階。ただ、2カ月前に再開して、改めて確信したのは、今までは二次流通や買取の市場——つまり『モノを売る』という手段の一番簡単なものがフリマアプリだと捉えられていたが、(より手軽という意味で)その下はもっとあったのだということ。この市場はフリマアプリと同様に持っていけるポテンシャルがある。それをただただ構築していきたい」(光本氏)

また、少額・即金という資金ニーズに対応するCASHに対して、FinTechをもじって「貧テック」と揶揄する声もあったが、「全く理解できない。前提として僕たちは1円でも高く買い取れるよう努力している。今の時点でも、不利に、安く買いたたいているわけではない。『この価格ならノールックで買い取らせて頂ける』と提示しているだけだ」と反論した。

バンクはDMM.com傘下で開発体制も大幅に強化する。すでにDMMグループからの出向も含めて人数を拡大中で、2018年中には100〜150人規模を目指して採用を進めるとしている。また当初はCASH以外のサービスも展開するとしていたが、「機会があれば(DMMと)一緒に新しい事業をやっていきたい。会社としてはやりたいネタがいっぱいある。まずはCASHに注力しつつ、新規の事業も出していきたい」(光本氏)と語っている。

なお11月20日にはヤフーがオークションサービス「ヤフオク!」内で、ブックオフコーポレーション、マーケットエンタープライズと連携した家電・携帯電話・ブランド品などの買い取りサービス「カウマエニーク」を公開している。こちらはブックオフ店舗持ち込みか宅配による買い取りだが、フリマに続いて買取のマーケットにも続々動きがありそうだ。

dカードプリペイドがApple Payに対応、iPhone 7以降で非接触決済が可能に

eng-logo-2015NTTドコモの「dカードプリペイド」が本日(11月20日)からApple Payに対応しました。

dカードプリペイドは、全国のiD加盟店、および国内外のマスターカード加盟店で利用できるプリペイドカードです。

今回のApple Pay対応により、iPhone 7 / Apple Watch Series 2以降を利用しているユーザーは、iDが使える店舗で非接触決済が利用可能に。さらに、アプリ・ウェブでの買い物の際にも、dカードプリペイドを利用できるようになります。

なお今回のApple Pay対応にあたり、NTTドコモはキャンペーンを実施・本日から2018年1月31日まで「dカードプリペイド」に入会し、iPhone 7 / Apple Watch Series 2以降でdカードプリペイドをApple Payを設定したユーザー全員に、1000円分をプリペイド残高にチャージするとのこと。

また、すでにdカードプリペイドを利用中のユーザーにも、2018年2月28日までにApple Payを500円以上利用することで、500円分をプリペイド残高にチャージするとしています。

Engadget 日本版からの転載。

アプリ制作当初からグローバルを視野に入れるべき――Trelloが世界中の人に使われるワケ

11月16日、17日の2日間で開催したスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2017」は大盛況のうちに幕を閉じた。海外からの有名スピーカーも多く登壇するなか、初日にはTrello CEOのMichael Pryor氏がステージ上に現れた。TechCrunch Tokyoに集まった日本の投資家や起業家たちの前で彼は、日本市場のポテンシャルやTrelloが世界中の人々に受け入れられた理由について語ってくれた。

2011年にFog Creek Softwareの社内プロジェクトとして始まったタスク管理アプリ「Trello」は、2011年9月に開催された米国TechCrunchのスタートアップイベントDisruptで正式ローンチ。その後も順調にユーザーを集め、2017年1月にAtlassianに4億2500万ドルで買収されている。

Trelloが多くのユーザーを惹きつけたのは、コンセプトがシンプルであること、そして何より操作が楽しいことが要因だとMichael氏は語る。

「付箋を使ったことがあるユーザーであれば、Trelloのことをすぐに理解できる。Trelloは、付箋にメモを残すという行為をデジタル化したものです。操作は楽しく、人間味があります。付箋を貼るというコンセプトは、誰にとっても理解しやすいものなのです」(Michael氏)。

デジタル化した付箋メモというコンセプトのシンプルさゆえに、その使い道もユーザーによってさまざまだ。僕たちTechCrunch Japanでは、取材案件の担当者決めと進捗管理にTrelloを使っているけれど、ユーザーのなかにはTrelloをアンケートアプリとして使ったり、家庭でのタスク管理に使っているという人たちもいるという。

Trelloは今やグローバルで使われるタスク管理アプリへと成長したが、国によってもその使い方に違いがあるようだ。例えば、ブラジルでは家庭で使われることが多い一方で、ドイツでは主に仕事場で使われている。使用用途を選ばないTrelloの柔軟性こそがその人気の秘密なのかもしれない。

「IRC(インターネット・リレー・チャット)やSlack、その他のチャットアプリのようなツールから良いところを取り出し、誰もが使えるようなツールを作るというのがTrelloのアイデアでした」(Michael氏)

“翻訳”と“ローカライゼーション”の違い

2016年4月に行ったサービスの多言語化により、現在Trelloは日本語でも使用することができる。日本市場の可能性ついてMichael氏は、「現状、Trelloは日本向けにローカライズしたというよりも、単に翻訳したに過ぎません。それでも、日本のユーザー数は非英語圏のなかでは最も多い。日本市場には大きなポテンシャルを感じています」と語る。

しかし、その一方でMichael氏は、サービス内の文言をその国の言語に翻訳するだけでなく、その国の特徴にあわせてローカライズすることの重要性についても強調した。

「Trelloの多言語化で私たちが学んだのは、単なる翻訳とローカライゼーションの間には大きなギャップが存在するということです。Trelloはブラジルとスペインの両国に進出しています。しかし、それぞれの国におけるローカライズ度合いは大きく異なります。ブラジルではアプリを現地の言葉に翻訳するだけでなく、現地で人を雇い、ブラジル人ユーザーと対話することを心がけました。その一方で、スペインではアプリを翻訳するだけでした。ローカライズ度合いの差が、その後の成長速度にどんな影響を及ぼすのかを観察したかったのです。結果、ブラジル市場での成長速度はスペインのそれを大きく上回りました」(Michael氏)

アプリのグローバル展開とローカライゼーションについてのMichael氏の意見を紹介したが、これを聞いて「グローバル展開か。自分にとっては数年後の話かな」と思った起業家諸君。そんなことはない。この記事の最後に、起業家に向けたMichael氏のアドバイスを紹介しておこう。

「今の時代にアプリを作るのであれば、最初からグローバル展開を視野にいれて作るべきだと思います。翻訳すれば世界中の人々に使ってもらえるような仕組みのものを作るべきなのです。今ではサービスの翻訳がとても簡単にできるようになりました。最初からグローバル展開を視野に入れてアプリを開発するのは簡単なことですが、後からそれを行うのは非常に難しいことなのです」(Michael氏)

Twitterで流行中の「Sarahah」はもう使った?サウジアラビア発の匿名メッセージサービス

ここ数日、TwitterでSarahahの画面を見かけたという人も多いのではないだろうか?これは、匿名で相手にメッセージを送れる「Sarahah(サラハ)」というサービスだ。Sarahahの公式サイトを見ると、「同僚や友人から正直なフィードバックを得るためのサービス」と説明がある。

使い方は簡単だ。Sarahahにメールアドレスとユーザー名を入力してアカウントを作成すると、シンプルなフォームのページが生成される。そのページのURLを例えば、TwitterなどのSNSに投稿することで、フォロワーや友人からフィードバックや質問を募ることができる。

Sarahahスはサウジアラビア発でWeb版とiOSアプリがある。「Sarahah」はアラビア語で「正直」という意味らしい。

 

 

日本では、ユーザーが公開しているメッセージのスクショを見る限り、友人がその人に対するフィードバックを投稿するというよりも、その人に聞きたい質問やアドバイスを求めるメッセージを投稿している人が多いようだ。Twitterで#Sarahahと検索すると、たくさんSarahahのメッセージを見ることができる。

大人から子供まで、投資がより身近に――株価連動型のお買い物ポイント「STOCK POINT」が12月リリース

金融ベンチャーのSTOCK POINTは11月20日、株価連動型ポイントサービス「STOCK POINT(以下、ストックポイント)」を12月20日に正式リリースすると発表した。また、同社はサイバーエージェントのポイントプラットフォーム「ドットマネー」との連携も併せて発表。ドットマネー上で交換ができるnanacoポイントやWAONポイントなどとSTOCK POINTを交換して運用できる「ポイント運用プログラム」を開始する。

ポイントを“運用”する

ストックポイントは、企業の株価に所持ポイント数が連動するポイントサービスだ。同社が12月に開始する「ポイント運用プログラム」では、サーバーエージェントの「ドットマネー」が取り扱う60種類以上のポイントを自分の好きな企業のストックポイントに交換することができる。

ストックポイントは企業の株価に連動して所持ポイント数が毎日変化する。株価が上がって所持ポイント数が増えれば、そのストックポイントを元のポイント(例えばnanacoポイント)に交換しなおして消費することも可能だ。

また、STOCK POINTはSBI証券とみずほ証券との連携も開始する。ストックポイントを貯めたり運用したりして所持ポイント数がその企業の1株あたりの株価まで達すれば、それを実際の株式に変換することも可能だ。

ストックポイントを株式に交換する需要に備えるため、同社はその株式を“在庫”として用意しておかなければならない。そのため、正式リリース時点で対応する銘柄数は5〜6社だという。ここは正直心もとない数字だけれど、STOCK POINTは資金力を高めるにつれて銘柄数を増やしていく予定だという。

この運用プログラムでは、STOCK POINTはポイント交換時に発生する手数料でマネタイズしていく。ドットマネーが扱う各種ポイントからストックポイントへの交換には5%、ストックポイントからドットマネーへの交換は2%だ。

来年3月からはロイヤリティプログラムも

ここまでで説明した「ポイント運用プログラム」に加えて、STOCK POINTは2018年3月から企業のファンを育てる「ロイヤリティプログラム」も開始する予定だ。

ロイヤリティプログラムとは、ある企業の製品を購入によってその企業のストックポイントがもらえるという仕組みだ。明治のチョコレートが好きだというユーザーは、毎日自分の好きなチョコレートを食べているだけでいつのまにか明治の株主になれる。そのうちに明治の企業経営にも興味を持つかもしれない。企業にとっては自分たちのファンを囲い込めるチャンスになる。

ただ、ロイヤリティプログラムも開始時点では対応企業は2〜3社になる予定ということで、少ない数字ではある。資金力を解決すれば対応企業が増やせる「ポイント運用プログラム」とは違い、個別に企業との連携が必要なロイヤリティプログラムの対応企業数をどこまで増やせるかが鍵となるだろう。

「貯蓄から投資へ」

日本政府は長年、「貯蓄から投資へ」というスローガンのもとに様々な施策を打ってきた。2014年1月からスタートした「NISA(少額投資非課税制度)」もその1つだ。NISAは、毎年120万円の非課税投資枠が個人に与えられ、その範囲内の投資から生まれた配当や値上がり益に対する税金がゼロになるという魅力的な制度だ。

しかし、その「貯蓄から投資へ」という流れはなかなか進んでいないのが現状だとSTOCK POINT代表取締役の大越信幸氏は語る。

「10年前、全人口のうち投資を行っている人の割合は約18%だった。しかし、その割合はいまでもほとんど変わっていない。STOCK POINTのミッションは、ポイントという身近なものを利用することで誰もが簡単に投資に参加できる仕組みを提供することです」(大越氏)。

ポイントの状態で運用するだけであれば、STOCK POINTを運用するのに証券口座を開く必要はない。スマホがあれば誰でも“擬似株式”に触れることができる。その点から言えば、ストックポイントは子供や若い世代の金融教育にも適したサービスと言えるだろう。

貯蓄から投資への壁が、また少し低くなるかもしれない。

“商標登録”をもっと身近に、簡単に――弁理士が立ち上げたオンライン商標登録サービス「Cotobox」

重要なのはわかっているけど、ついつい後回しになりがち――初期のスタートアップにとって「商標登録」とはそんな存在なのかもしれない。

商標登録のためには事前の調査や書類作成が必要になり、実務の知識がない人にとってはハードルが高い。その一方で専門家に依頼するとなるとそれなりの費用がかかる。法律で義務づけられているわけでもないので、自然と優先度が低くなってしまっても不思議ではない。

ただ後々サービスを本格的に展開するにあたって、事前に商標登録をしていないことが余計な問題を招く可能性もある。サービスのネーミングやロゴはブランドの代名詞ともいえるものだから、事前に登録しておくにこしたことはないだろう。

Cotoboxが11月20日にベータ版の提供を開始した「Cotobox」は、まさにスタートアップの商標登録の負担を減らし自社ブランドの保護・育成をサポートするサービスだ。

商標の事前調査から書類作成、提出までをスムーズに

Cotoboxが取り組んでいるのは、ITを活用して商標の登録や管理をスムーズにすること。同サービスでは出願前の事前調査から書類作成までがオンライン上にて完結。作成した書類はそのまま弁理士が代理で特許庁に提出してくれるため、高度な専門知識がなくてもスピーディーに商標登録出願ができる。

無料の「商標サーチ」機能を使えば、気になるキーワードでどの区分なら商標が取れそうか検索できる

通常自力で商標登録出願を行う場合、まず時間を要するのが事前調査だ。自分が登録したい商標と同じものや紛らわしいものがすでに登録されていないか、そもそも登録することができる商標かどうかを調査する必要がある。

仮に上記の条件をクリアしていると判断した場合でもそこで終わりではない。商標を使用する商品またはサービス(商標法では役務という)を指定するとともに、「区分」を指定しなければいけない。区分とは商品・役務の権利範囲を決めるカテゴリーのようなもので、第1類から第45類までに分かれている。

商標の検索自体は特許情報プラットフォームを活用すればオンライン上でも無料でできるが、相応の時間がかかる上に区分とその内容を適切に選択するのは専門知識がなければ難しい。一方CotoboxではAIを活用することで、ユーザーが最適な区分とその内容を判断するサポートをしている。

専門知識がなくても4ステップで出願書類が完成

Cotoboxの場合、以下の4ステップで出願書類が完成する。

  1. 商標とタイプの選択
  2. 区分の選択
  3. 出願人情報の入力
  4. 入力情報の確認と支払い

上述したようにポイントとなるのが2つめの「区分の選択」だ。まず登録する商標とタイプを選択し、商品とサービスのどちらに使用するか(双方も可能)を決め、関連するキーワードを入れてみると……適切だと判断された区分およびその内容が、自動でいくつか表示される。

ユーザーはこのレコメンドされた内容を参考にしながらチェックボックスにチェックを入れることで、出願したい区分と小項目を決定できる。区分ごとに申請サービス料と特許庁費用がかかるため、チェックを入れた区分の数に応じて出願費用が自動で算出される仕組みだ。

あとは出願人の情報を登録して内容を確定すれば書類は完成。担当弁理士のチェックがすんだ後に最終確認を済ませれば、特許庁への出願となる。

「弁理士に依頼する場合、そもそも知り合いに弁理士がいないケースも多くファーストコンタクトを取るまでに時間がかかる。その後も細かいコミュニケーションを重ねていると出願までに1ヶ月ほど要することに加え、(印紙代を除いて)安くても10万円前後の費用が発生するためハードルが高かった」(Cotobox代表取締役CEOの五味和泰氏)

Cotoboxの場合は利用料金が一律でエコノミープランは出願時に5000円、登録時に1万5000円。提携弁護士のフルサポートを受けられるプレミアムプランは出願時に3万5000円、登録時に1万5000円となっている。この料金は区分を1つ指定した場合の価格で、別途印紙代が必要となる。

書類作成までの時間も削減され、クローズドでテストをした際には3分で出願準備が完了したユーザーもいたそうだ。

「大手企業だと知財部のような専門チームを設けている場合もあるが、リソースが限られる中小企業やスタートアップがそこまでやるのは難しい。結果的に後回しになって、後々相談を受けると商標が取れないということもよくある。自社のブランドになりうるネーミングやロゴを早く守ることは重要なので、(中小企業やスタートアップが商標登録をするまでの)ハードルを下げてもっと身近なものにしたい」(五味氏)

特許事務所に約10年勤務した後、アメリカ留学を経て起業

五味氏は特許事務所に約10年勤務した経験のある現役の弁理士だ。数年前に国際的な弁理士になる目的でアメリカのロースクールへ留学した際に、現地のスタートアップイベントなどにも参加。「自分が携わっている業務もペーパーワークが多く、効率が悪い。ITを使えば何かできるかもと考えた」(五味氏)ことがきっかけで、国内に戻った後2016年2月にCotoboxを創業した。

今後も当面は「商標」の領域でサービスを拡大していく予定。現地の弁理士と連携した海外商標への対応や、大企業向けに商標管理の機能などを拡張したサブスクリプションモデルの提供も検討していくという。

スマホの“次”をにらみ、AIアシスタント「Clova」にかける思いをLINE舛田氏に聞く

渋谷・ヒカリエで開催中のTechCrunch Tokyo 2017。2日目となる17日午前には、LINE取締役CSMOの舛田淳氏が登壇。日本発のスマートスピーカー「Clova WAVE」とAIアシスタント「Clova」を軸にした、ポストスマホ時代のLINEの戦略について語った。聞き手はTechCrunch副編集長の岩本有平。

スマートスピーカーは世界では「Amazon Echo」が2000万台、「Goole Home」が700万台が普及。今年に入って、これらの先行製品が続々と日本上陸を発表し、秋から発売されているが、それらに先駆けていち早く、8月に先行体験版の形で発売されたのがClova WAVEだ。これまではウェブでの直販のみでの取り扱いだったが、本日から、家電量販店362店舗でも販売が開始されている。

LINEではかつて、スマートフォン時代の到来を見据え、“PCのことは忘れて”スマートフォンに賭ける方向性を打ち出してきた。LINEのユーザーは現在、月間7100万人。スマートフォンの普及も進み、日本では国民の2人に1人以上、世代によっては、もっと浸透している状況だ。ではその後の「ポストスマホ時代」はどうなっていくのか。

ポストスマホ時代に向けた進化の結果生まれたClova

「我々は、ポストスマートフォン時代は、さまざまな環境にデバイスが出てくる『IoT』と、そこから取れる膨大なデータをより良くしていくための『AI』の時代となると考えている」と舛田氏は話す。

AIと言っても幅広いが、LINEが目指すのは生活を支えるアシスタントを作っていこう、という部分だと語る舛田氏。「PCもスマホもGUIがあって、タイピングやタッチでさまざまな情報に触れるインターフェースとなっていた。これがポストスマートフォンの時代になると、ボイスユーザーインターフェース(Voice User Interface:VUI)になっていくだろう」(舛田氏)

舛田氏は「LINEとClovaでは全く別々のことをやっているように見えるかもしれないが、メッセンジャーからスマートポータル、そしてClovaへ移行するのは、我々にとっては正常な進化」と言う。「メッセンジャーで人と人の距離を縮め、スマートポータルで人とコンテンツの距離を縮めてきた。次は人とモノ、コンピューターを近づけていく。それがClovaだ」(舛田氏)

Clovaの核は、会話の制御やサービスのレコメンデーションを行う頭脳となる「Clova Brain」と、インプットとアウトプットをつかさどる耳や目などとなる「Clova Interface」で構成される。その核の部分とさまざまなデバイスやハードウェアをつなぐSDKが「Clova Interface Connect」、コンテンツやサービスをつなぐSDKがClova Extension Kitだ。これらすべてを合わせて、Clovaのプラットフォームが構成されている。現在はこれらSDKは、サードパーティーには公開されていないが、自社内での開発と提携パートナーによる開発に利用されている。

舛田氏は、外部との連携による開発について「外部連携で開発されるデバイスは重要だと考えている。LINE自身でハードウェアを開発することも大切で、つなぎ込みやスペック、体験の最適化は自社でやってみないと十分なプラットフォームにはならないだろう。ただ、それだけではチャレンジングなもの、面白いものはできない。『それホントに役に立つの?』というものが生まれた方が面白いだろう」と話している。「来年あたりから順次、提携先、そしてサードパーティーにもSDKを公開していくことになるだろう」(舛田氏)

データの先読みと学習がAIアシスタントの本質

LINEが、Clovaにとって重要と考えるのは「家」「クルマ」「ウェアラブル」の3つの領域。そのうちの「家」の領域に対応する製品第1弾として提供されたのが、スマートスピーカーのClova WAVEだ。舛田氏は「今、スマートスピーカーは非常に注目されている。海外では既に何千万台普及しているが、残念ながら日本では今年ようやく始まったばかり。このギャップをどうしていくのか、ということが日本の産業、インターネットにとって課題だと思っている」と言い、「それほど待っていられないという思いもあって、我々LINEとしては自分たちで作る、という判断をして、8月の先行版販売、10月の正式発売に至った」とClova WAVE販売の経緯を語った。

販売開始からこれまでの反響について、舛田氏に聞いたところ「一般の方、リテラシーがあまり高くない方にも使っていただきたい、というこちらの狙いと合致しているようだ」とのこと。「お子さまやシニアからもいろいろな意見をいただくことが多い。もっと使いやすく分かりやすくするためのフィードバックをもらっている」(舛田氏)

Clova WAVEでは、キーとなるフレーズを毎回発声しなくても、連続でAIと会話することを実現。音楽、赤外線リモコン、ニュースなど毎日の情報提供、ラジオ、人物や百科事典の内容を回答してくれる、といった機能が備わっている。ほか、経路検索やデリバリー、ショッピング、朗読、タクシーとの連携など「スマートスピーカーで使いたいと思われるような機能を搭載しようと順次開発を進めている」(舛田氏)とのことだ。

赤外線リモコンについては「ローテクだが日本の実情に合わせて搭載した」と舛田氏は言う。「現在は韓国と日本で展開しているが、それぞれの国に最適化されたものを考えていきたい。海外の先行製品と違って、バッテリーを積んでいるのもそうだ。海外ではそれぞれの部屋にスマートスピーカーを設置する、という使い方になるだろうが、一般的な日本の家庭では『リビングで使っていたけど、寝る時間になったらベッドルームに持っていく』となる。これはこの冬発売予定の『Clova Friends』でも踏襲している」(舛田氏)

また、カーライフへの浸透も積極的に進めていると舛田氏は説明。「トヨタ自動車と提携し、先日の東京モーターショー2017ではトヨタのブースで、自動車の中にClovaを実装して、どのようなカーライフになるのかということをデモンストレーションさせてもらった」(舛田氏)

そして重要領域の3点目「ウェアラブル」については、11月10日に発表されたばかりの「MARS」が紹介された。MARSはイヤホンとして装着できるClova搭載デバイス。紹介動画では、MARSを使って日本語と英語でリアルタイム翻訳を聞きながら会話する男女が登場する。舛田氏によれば「まだコンセプトモデルで発売時期も未定だが、このような形でウェアラブル対応も進めている」とのことだ。

舛田氏は「スマートスピーカーがClovaの本質ではない」と強調する。「スマートスピーカーから始まって、さまざまなものにClovaがつながり、さまざまな環境とClovaをどう溶け合わせていくかというのが、我々の目指す方向だ」(舛田氏)

「クラウド型のAIがあることで、先読みをしながら、さまざまなことをサポートしていくことができる」と舛田氏は言う。例えば、クルマで移動中のデータをもとに、帰宅すると暖房がついている、あるいは、朝少し遅く起きたというデータをもとに、通勤中や出社時に何か提案する、といったシーンを舛田氏が説明。「さまざまなポイントから取れるデータをベースにした学習と先読みがAIアシスタントの本質。我々はまだまだそこまでのレベルには達していないが、段階的にそこに向かって進んでいる」(舛田氏)

TC Tokyo 2017スタートアップバトル優勝は、ホテル向けの経営分析ツール「ホテル番付」だ!

11月16日、17日で開催中のTechCrunch Tokyo 2017。本日が2日目となるが、その目玉イベントはなんといっても「スタートアップバトル ファイナルラウンド」だ。

昨日、113社が応募した書類審査、そして20社が参加したファーストラウンドを通過した合計6社がファイナリストとして選ばれた。そして今日、ついに優勝企業が決まった。

初日から大盛況で始まったスタートアップバトルの勝者に輝いたのは、ホテル向け経営分析ツールの「ホテル番付」を提供する空だった。スクリーンの前にいるTechCrunch Japan読者も、ぜひ優勝した空に、そして出場したすべてのスタートアップに拍手を送って頂きたいと思う。それだけ彼らは必死に闘ったのだ。

現在、会場では表彰式が行なわれている。各スポンサー賞の受賞企業が決まり次第、この記事をアップデートしていく予定なので、後ほどチェックいただいきたい。

受賞企業一覧

株式会社空: 優勝

ホテル経営者向けに無料の経営分析ツール「ホテル番付」を開発。すでに運営中のホテル経営者向け料金設定サービス「MagicPrice」と合わせて、業界の価格最適化を進める。

株式会社東京ロケット: 審査員特別賞
建設業における職人の労働環境をITの力で解決する「助太刀くん」を運営。職人が職種と居住地を入力すれば条件にあった現場情報が届くほか、勤怠管理やペイメントサービスを提供する。

(アップデート中)

「今までにないカルチャーの届け方を発明したい」インスタストーリーメディア「lute」が8000万円を調達

「インスタ映え」が2017年の流行語大賞候補になるほど、日本国内でも知名度が高まり多くのユーザーを抱えるInstagram。中でも24時間で投稿が消えるStories(ストーリー機能)は若い世代を中心によく活用されている。

そんなInstagram Storiesを使って様々な短尺動画コンテンツを配信しているのが、カルチャー系メディア「lute」だ。同サービスを提供するluteは11月17日、gumi ventures、Candee、allfuzおよび個人投資家から総額8000万円を調達したことを明らかにした。

luteは分散型の動画メディアとして2016年にβ版をリリース。ライフハッカー編集部を経てエイベックス・デジタルに入社した五十嵐弘彦氏が、社内の新規事業として立ち上げたのが始まりだ。もともとはアーティストのMVやライブ映像、ドキュメンタリーといった動画をYouTubeを中心に展開していた。

そこから主戦場をInstagramに移し、2017年8月にInstagram Storiesメディアとして正式にスタート。同時期に独立する形でluteを設立、五十嵐氏が代表取締役社長に就任している。

「デジタルネイティブ世代は、MacBookなどPCを持ってない人も多くiPhoneで動画コンテンツを視聴する。そのような世代で特にカルチャー系の情報に関心が高いユーザーが集まっているのがInstagram Storiesだと考えた」(五十嵐氏)

luteで配信されるコンテンツには、アーティストが影響を受けた映画やMVなどの作品をバイオグラフィーと重ねながらプレゼン形式で紹介する「マイベスト」や、長尺のインタビューの中から印象的な一言をピックアップした短尺動画を「インタビュー」などがある。

「情報過多の社会においては、若い人達が1つのコンテンツに対して使ってくれる時間も限られる。luteのミッションは素晴らしいカルチャーのエッセンスを短時間に凝縮して届けること」(五十嵐氏)

動画自体は短尺ですぐに視聴できるものだが、スワイプアップ機能を使って商品ページや長尺の本編インタビューへ誘引するなど、Storiesの特徴を踏まえてコンテンツの見せ方を工夫している点は興味深い。先日Instagramでハッシュタグをフォローできる機能についても紹介したが、配信先のプラットフォーム自体が日々進化している。五十嵐氏の話では、新しい機能も活用しながら今後より楽しいコンテンツを作っていきたいということだ。

「人気を集めるコンテンツは動画というよりも雑誌の感覚に近いものが多いなど、3ヶ月取り組んできた中でわかったことも多い。Storiesはシンプルな設計だが、その中でユーザーと連動して楽しめるようなコンテンツや今までにないカルチャーの届け方を発明したい」(五十嵐氏)

また現在luteではカルチャーメディアに加えて、マネージメント事業や受託事業も手がけている。「エンタメ業界はビジネスモデルの転換期を迎えている。(複数事業を連携させながら)アーティストなどが稼げるビジネスモデルを作っていく」(五十嵐氏)

テレビ局などにVR×AIサービスを提供するジョリーグッド、ディップらから総額4億円を調達

テレビ局や制作会社向けのVRソリューション「GuruVR Media Pro(グル・ブイアール・メディアプロ)」や、VRコンテンツとユーザーの視聴行動を解析する人口知能エンジン「VRCHEL(ヴァーチェル)」などを提供するジョリーグッド。同社は11月16日、ディップ、エースタートを引受先とした第三者割当増資により、総額約4億円の資金調達を行ったことを明らかにした。

ジョリーグッドは2014年5月の創業。代表取締役CEOを務める上路健介氏は、テレビ局で技術者として番組制作に従事した経験を持つ人物だ。

同社が展開するサービスのひとつGuruVR Media Proは、テレビ局や制作会社向けのVRソリューション。撮影から編集、配信までの制作環境をワンストップで提供していることが特徴で、撮影や編集システムに加え、配信や効果測定に活用できるCMSも備える。

2016年6月のリリース以降、すでに北海道放送の「HBC VR」やテレビ西日本の「VR九州」、毎日放送の「絶景散歩VR」など各地のマスメディアと共同で多数のVRサービスを展開している。

おなじく同社が手がけるVRCHELは、VRコンテンツの属性とユーザー視聴行動のパターン解析を行う人工知能エンジンだ。映像や音声から各VRコンテンツの詳細を分析するだけでなく、実際に視聴したユーザーの行動を分析することで最適なソリューションを提案できるのが強み。こちらも東海テレビと共同で展開するVRアプリ連動テレビ番組などで活用されているという。

ジョリーグッドでは今回の調達資金によりサービス拡充と体制強化を行い、引き続き地域や企業にVR×AIソリューションを提供していく。

Slackの日本語版が本日ローンチ、日本語サポートにも対応

TechCrunch Japanの読者の中には、すでに活用しているという人も多いであろうチャットツール「Slack」。少し意外かもしれないが、本日より日本語版の提供を開始した。

Slackはチームの共有作業をサポートするためのビジネスコラボレーションツール。世界600万人以上のユーザーが日常的に活用しており、5万以上のチームが有料プランを導入している。9月にはソフトバンクの孫氏が率いるビジョン・ファンドをリードVCとして、2億5000万ドルを調達したことも注目を集めた。

Slackには日本のユーザーも多く、ARR(年間経常収益)はアジア太平洋地域で第1位、世界でも第3位となっている。これまでも日本語で利用することはできたが、今回より日本語でのサポートを導入。加えてUIの内容を日本語に翻訳するほか、日本人ユーザーの特性を踏まえてローカライズしたという。

周りでは日本語サポートがなかったり、メニューやヘルプページが英語だったりするために敷居を感じて別のツールを使っているという声も実際に聞いたことがあった。日本語への対応は新たな層のユーザーを獲得するチャンスになるかもしれない。

日本語版の提供にあたってSlackのCEO兼共同創設者であるスチュワート・バターフィールド氏は「2014年の創立以来、Slackは日本市場で驚くべき有機的成長を遂げてきました。事実として日本はSlackにとって世界第3位の市場規模となっています。日本語版Slackをリリースすることで、より多くの人にSlackを利用してもらえることを大変うれしく思います。また、今後も革新的な日本企業と提携していけることを楽しみにしています。」とコメントしている。

なお同じく共同創業者でCTOのカル・ヘンダーソン氏は本日開催中のTechCrunch Tokyo 2017に登壇していて、こちらのセッションの様子も後日レポートする予定だ。