心でコンピュータを操作するNextMindの開発キットは技術に対する新鮮な驚きを与えてくれる

NextMind(ネクストマインド)は、2019年のCESでその開発キット用ハードウェアを初披露していたが、ようやくその発売が開始され、同スタートアップはお試し用として私に製品版を送ってくれた。NextMindのコントローラーは、脳の視覚野の電気信号を読み取るためのセンサーで、それを入力信号に変換して接続されたコンピュータに送るというもの。眼球運動や電気的インパルスを検出する革新的な入力ソリューションを開発する企業は多いが、NextMindは私が試してきた中でも、即座に、素晴らしく機能する初めての製品だった。コンピュータ利用におけるパラダイムが比較的成熟してきた現在となっては、滅多に出会える機会がなくなった本当の驚きを与えてくれた。

基本情報

NextMindの開発キットは、まさに、NextMindのハードウェアとAPIを利用するソフトウェアの開発に必要な一切合切を開発者に提供することを意図した製品だ。これには簡単なストラップ、Oculus VRヘッドセット、さらには野球帽などのさまざまなヘッドギアに装着できるNextMindのセンサー、パソコンで機能させるために必要なソフトウェアとSDKが含まれている。

画像クレジット:NextMind

NextMindが私に送ってくれたパッケージにはセンサー、布製のヘアバンド、エンジンがインストールされたSurface PC、同社がインストールしたデモの中の1つで使用するUSBゲームパッドが入っていた。

センサー自体は軽量で、1回の充電で連続8時間まで使用できる。充電はUSB-Cで行う。ソフトウェアはManとPCの両方に対応している。さらにOculus、HTC、Vive、Microsoft(マイクロソフト)のHoloLensにも対応している。

デザインと機能

NextMindのセンサーは、驚くほど小さくて軽い。本体は手のひらに収まる程度のサイズで、2つのアームがわずかにはみ出る感じだ。ほぼあらゆるものに取り付けられる汎用クリップマウントが付いていて、頭にしっかりと固定できる。装着の際には、2極が一対になった9組の電極センサーを肌に密着させる必要がある。NextMindの説明には、ヘッドバンドを頭にしっかりと装着してから、「櫛でとく」要領でセンサーを少し上下に動かせと書かれている(上下に動かすことで、挟まっている髪の毛をどかすわけだ)。

装着感は悪くないが、電極が肌に押しつけられている感じが伝わってくる。特に長時間着けていると、その感覚は強くなる。普通の野球帽にもクリップで取り付けられる仕様は、取り付けも装着も簡単にできてとても便利だ。Oculus RiftとOculus Questのヘッドストラップにも、簡単にすばやく取り付けられる。

画像クレジット:NextMind

セットアップは楽勝だった。私はNextMindの開発者たちからご教授をいただいたが、とてもわかりやすい説明書も付属している。最初に、パソコンに表示されるアニメーションを見ながら行う調整プロセスがある。NextMindに最適化されたソフトウェアを使うときに目的の操作が行えるよう、後頭葉から発せられる特定の信号を検知するためのものだ。

ここで、NextMindが「心を読む」方法を解説しておこう。基本的にセンサーは、脳が「アクティブな視覚焦点」と同社が呼ぶ状態に入ったことを検知する。これは、ソフトウェアのグラフィカルユーザーインターフェイスの操作対象の要素にオーバーレイされる共通の信号を使って行われる。そうすることで、特定のアイテムに視点を合わせると、それが「押す」や「掴んで動かす」といったアクションや、その他数々の対応可能な出力結果に変換できるようになる。

NextMindのシステムは、優美なまでにシンプルなコンセプトで成り立っており、力強い豊かな使用感はそこからくるのだろう。私は調整プロセスを済ませると即座にデモに飛びついたが、脳と連動して実際に幅広い操作を行えることがわかった。まずはメディアの再生とデスクトップのウィンドウの操作。次に音楽の作曲、テンキーパッドでPINコードの入力、いろいろなゲームもプレイした。あるゲームプラットフォームでは、USBゲームパッドの手の操作を心の操作が補うという、他の方法では決して味わえないまったく新しいレベルの楽しくて複雑なプレイが楽しめた。

これは開発キットなので、付属しているソフトウェアはNextMindで実際に何ができるかを体験するだけの簡単なサンプルに過ぎないのだが、これで開発者たちは、独自のソフトウェアを作れるようになった。驚いたのは、一部のサンプルはそれ自体が息を呑むほど素晴らしい内容であったことだ。それらは、あらゆる可能性を最高のかたちで表していて、大変に刺激的な体験を味合わせてくれる。NextMindのハードウェアがさらに小型化されて、コンピュータのあらゆる使用状況に溶け込んだ未来を想像してみてほしい。これまでの入力方法が、実にじれったいものになるはずだ。

まとめ

NextMindの開発キットは、まさに開発キットそのもの。同社のユニークで安全で便利なかたちのブレインマシンインターフェイスの利点を活かして独自のソフトウェアを生み出そうとする開発者のための製品だ。キットの価格は399ドル(約4万1000円)。すでに出荷が始まっている。NextMindは、ゆくゆくは消費者向け製品を出したいという計画があり、OEMと協力して実装を行いたいと考えているが、現在この段階ですでに、私たちの日常的なコンピュータ利用における大きなパラダイムシフトの一面を、非常に刺激的なかたちで覗かせてくれている。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:NextMind

画像クレジット:NextMind

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(翻訳:金井哲夫)

アリババがウイグル人を識別する自社クラウド部門の民族検知アルゴリズムに「がく然」

中国の巨大テック企業数社は、権力機構のためにウイグル人イスラム教徒を識別する技術を有しているとの調査結果を受け、国際的な批判にさらされている。

Alibaba(アリババ)のクラウドコンピューティング部門であるAlibaba Cloud(アリババ・クラウド)は、民族やその人が「ウイグル人」であるか否かを識別できる顔認識アルゴリズムを開発していたことが、映像の監視を行う業界団体IPVMの調査でわかった。

ウイグル人やカザフ人などのイスラム教少数民族向けの悪評高い中国の「職業訓練プログラム(中国外務省リリース)」を、中国政府はテロ対策だとして擁護(中国外務省リリース)を繰り返してきた。

アリババは声明の中で、Alibaba Cloudが「アルゴリズムとしての民族性」や「いかなるかたちにせよアリババのポリシーと価値観に反した人種または民族の差別や識別」などを含む技術のテストを行っていたことを知り「がくぜんとした」と述べている(Alibabaリリース)。

「私たちは、自社技術が特定の民族に対して使われることを決して意図しておらず、それを許すつもりも毛頭ありません。私たちは、自社製品が提供するものから、民族を示すタグを一切排除しています。この試験的技術が、いかなるお客様にも使用されたことはありません。私たちの技術が特定の民族を対象に使われること、特定の民族を識別することに使われることはなく、それを許可することもありません」と同社はいい加えた。

2019年のセキュリティ侵害事件で、Alibaba Cloudがホスティングしていた「スマートシティー」監視システムに民族の識別やイスラム教ウイグル人にラベル付けできる能力があることが発覚したと、TechCrunchでもお伝えした。当時、アリババは、公共のクラウドプロバイダーとして「顧客のデータベース内のコンテンツにアクセスする権限を持たない」と話していた。

IPVMはまた2020年12月の初め、Huawei(ファーウェイ)と、顔認識製品Face++で知られる人工知能のユニコーン企業Megvii(メグビー)が、システムがウイグルコミュニティーのメンバーの顔を認識すると中国政府に通報する技術を共同開発していたことを突き止めた(The Washington Post記事)。

これらの中国テック企業は海外進出を目指しているが、北京からの要求と、その人権問題への態度に対する国際的な監視の目との間に挟まれて、ますます苦しい状況に追い込まれている。

クラウドコンピューティングは、アリババで一番の急成長セグメントであり、海外の顧客をより多く呼び込みたいと同社は目論んでいる。調査会社Gartner(ガートナー)の調査(Alibabaリリース)によれば、Alibaba Cloudは2019年、アジア太平洋地区の最大手企業となり、世界で3番目に大きい(Alibabaリリース)サービスとしてのインフラストラクチャー(IaaS)提供企業になった。

アリババのクラウド部門は、前年比で60%の成長を果たし、9月までの3カ月間(Alibabaリリース)、全社の収益10%を支えた。この四半期の時点で、中国本土に拠点を置き人民元で取引を行っているA株上場企業のおよそ60%がAlibaba Cloudの顧客になっていると、同社は主張している。

関連記事:中国のとあるスマートシティ監視システムのデータが公開状態になっていた

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Alibaba中国顔認証差別

画像クレジット:Alibaba Databases In Hebei / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

ロッキード・マーティンのリサ・キャラハン氏が語る月着陸船共同開発の今

NASAのアルテミス計画はやっと進み始めたところだが、民間パートナー企業たちは、月着陸システム開発の名誉を獲得しようと競い合っている。なかでもこの取り組みをリードしているのが、Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)とBlue Origin(ブルー・オリジン)だ。ロッキードの副社長であり商用民間宇宙担当ジェネラルマネージャーのLisa Callahan(リサ・キャラハン)氏は、共同作業は驚くほど円滑で成果も大きいと語る。

TC Sessions:Spaceに登壇したキャラハン氏は、そうした取り組みに最初から参加できることへの喜びを表していた。「やりたくない人なんて、いないでしょ?めちゃくちゃすごいことです」と彼女は話す。「私たちのスタッフには、アポロのときにはまだ生まれていなかった人が大勢います。なので、彼らは次世代の一員として、再び月に宇宙飛行士を送る計画に参加できることを、とても喜んでいます。私も個人的に、最初の女性を月に送ることになるという事実を誇らしく感じています」。

ロッキードは離陸モジュールの開発を行っており、その一方でNorthrup Grumman(ノースロップ・グラマン)とDraper(ドレイパー研究所)がその他のコンポーネントを、主契約者であるブルー・オリジンは着陸モジュールを担当していると、彼女は説明した。

「ブルー・オリジンの視点からすると、この企業の組み合わせは実におもしろいものです。ロッキードやノースロップ・グラマンやドレイパー研究所といったアポロの時代まで遡る老舗が、この国家的優先課題のために、ある意味、国民としての時間をともに過ごしているのですから」と彼女はいう。

昔からのライバルと新参企業との間に摩擦はないものかと案じるのは無理もないが、キャラハン氏によればその関係は非常に前向きだという。

「これは異なる文化の融合なのです。このチームのメンバー全員が、それによって成長していると私は考えています」と彼女はいう。「ブルー・オリジンは、元請け業者としてとてもよくやっています。みんなを大変に温かく迎え入れてくれます。私はその雰囲気を、社員章のない環境と呼んでいます。何らかの技術交流会議に出席しても、誰がどの会社の人間かはわからないでしょう。なぜなら全員が、取り組むべき仕事の担当者として適切な経歴を有する一流の人材だからです。なので、まったく境目がありません。その状態を、私たちはとても楽しんでいます」。

これはすべて、ほとんどの企業が業務方法の変更を余儀なくされたパンデミックの間のことだ。キャラハン氏は、計画を大転換するのではなく、まさしくこれまで続けてきた業務の近代化に重点を置いた賜物だと話した。

「おそらくこの5年間かそれ以上、私たちは、デジタルトランスフォーメーションと呼んでいるものに投資してきました。デジタルコラボレーションツールです。複数の人たちが同時にデザイン作業ができるよう、双子の宇宙船をデジタルで構築するものです」と彼女は説明する。「苦あれば楽ありといってもいいでしょうが、新型コロナウイルスのお陰でその取り組みが加速されました。このような仮想環境で、これまで思ってもみなかったかたちで、本当のコラボレーションができるのだと新型コロナは教えてくれています」。

ロッキードの次なる大きな節目は、Orion(オライオン)宇宙船を、ケープ・カナベラルのケネディー宇宙基地に届けることだ。

「本当にわくわくしてます。私たちがこのシステムをVBA(NASAの宇宙船組立棟)に届けると、その打ち上げ準備が完了します。2021年の予定です。そしてそれは、Space Launch System(スペース・ローンチ・システム)によって打ち上げられる最初のOrionとなります」とキャラハン氏は話していた。

ロッキード・マーティン、エアロスペース、アメリカ宇宙軍などがTC Sessions:Spaceに登場する。アクセス登録はこちらから

カテゴリー:宇宙
タグ:Lockheed Martinアルテミス計画

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(翻訳:金井哲夫)

「宇宙のガソリンスタンド」を目指すスタートアップOrbit Fabがシードラウンドで6.2億円を調達

TC Disrupt 2019にて衛星カップリングシステムを披露するOrbit Fabの最高開発責任者Jeremy Schiel (ジェレミー・シール)氏

「宇宙のガソリンステーション」の構築に特化した企業を自称する、軌道上でのサービス提供を目指すスタートアップOrbit Fab(オービット・ファブ)は、シード投資ラウンドに新たな投資者を迎えた。この追加拡張投資は、Munich Re Ventures(ミューニック・リー・ベンチャーズ、世界最大クラスの保険会社ミュンヘン再保険グループのコーポレートベンチャー投資部門)によるものだ。Munich Reグループは、特に衛星運用者には非常に重要な保険会社であり、打ち上げ前、打ち上げ時、軌道上の運用をカバーする保険商品を提供している。

2019年TechCrunch Disruptバトルフィールドの最終選考まで勝ち残った経験のあるOrbit Fabのシステムは、基本的には、宇宙船を軌道上の給油所まで誘導する宇宙タグボートで成り立つ。給油所には、同社が注文に応じて製作するインターフェイスを使って接続できる。新しく衛星を設計する際に、比較的簡単に組み込めるようデザインされており、キャプチャーやドッキングのための特別なロボットシステムなどを必要とせず、宇宙空間で簡単に燃料補給ができる。

このスタートアップの目標は、宇宙船の寿命を延ばして宇宙デブリを減らし、運用者の経費を削減することで、持続可能な軌道上の商用運用環境の構築を助けることだ。Munich Re Venturesの参加は、衛星運用者の打ち上げと運用のリスクモデルに持続可能性が高く運用期間が長い宇宙船を組み込めるという点で、極めて大きな前進となるずだ。

「推進剤のサプライチェーンの立ち上げを見てみると、その大部分は財務モデルです」と、Orbit Fabの共同創設者でCEOのDaniel Faber(ダニエル・ファーバー)氏はインタビューで私に話した。「顧客のリスクを移動し、設備投資を運営費用に確実に移動し、それでいて新たなリスクを招かないようにするには、これをどう使えばよいのか。そのすべてを、Munich Reの財務商品、保険とリスクの評価に任せることができます。なのでこれは、大変に意味深いパートナーシップなのです」。

ファーバー氏は続けて、Munich Re Ventures のTimur Davis(ティムア・デイビス)氏が宇宙関連のカンファレンスによく顔を出すようになり、そうしたイベントでファーバー氏は彼と言葉を交わすようになったと話した。それがやがて、宇宙でのサービスと基盤整備を見すえたMunich Re Venturesの投資計画に発展し、Orbit Fabはその新計画を背景とした最初の投資先となったわけだ。

この新規投資によって、Orbit Fabのシード投資ラウンドの総額は600万ドル(約6億2000万円)に達した。この中には、ベンチャー投資企業からのものに加えて、米国政府からの200万〜300万ドル(約2億6000万〜3億9000万円)の資金援助も含まれている。同社はまた、新たにドッキングのための「自動運転衛星」キットを着想し研究を行っている。これには、米国立科学財団から予備的な要求開発のための資金を獲得し、現在、その設計製造に着手できる段階に至っている。2021年は、宇宙産業の新企業にとっては大きな年となる。持続可能で規模の拡張が可能な衛星運用というアプローチを掲げるOrbit Fabも、間違いなくその中の1つだ。

関連記事:軌道上の人工衛星に燃料補給するスタートアップOrbit Fabが約3億2000万円を調達

カテゴリー:宇宙
タグ:Orbit Fab人工衛星保険持続可能性

画像クレジット:TechCrunch

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(翻訳:金井哲夫)

「アップル税」に抵抗、米主要ニュース配信元がアプリの公平性を求める団体CAFに加入

米国の主要なニュースパブリッシャーの一団が、アプリストアの規制を強化し、すべての開発者を公平に扱うよう圧力をかける(未訳記事)権利擁護団体Coalition for App Fairness(CAF)に加盟した。現在、CAFに加盟しているパブリッシャー事業者団体は、APを代表するDigital Content Next (DCN)、The New York Times(ニューヨーク・タイムズ)、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)、ESPN、Vox(ボックス)、The Washington Post(ワシントン・ポスト)、Meredith(メレディス)、Bloomberg(ブルームバーグ)、NBCU、The Financial Times(ファイナンシャル・タイムズ)他多数(DCNサイト)。同事業者団体は、CAFに加盟した50番目の、そして米国のニュースとメディア事業者の代表としては初のメンバーとなった。

この他に、CAFにすでに加盟しているメディア団体には、European Publishers Council(ヨーロピアン・パブリッシャーズ・カウンシル)、News Media Europe(ニュー・メディア・ヨーロッパ)、GESTE(ジェスト)、Schibsted(シブステッド)、さらにはCAFの創設メンバーであるBasecamp(ベースキャンプ)、Blix(ブリックス)、Blockchain.com(ブロックチェーン・コム)、Deezer(ディーザー)、Epic Games(エピック・ゲームズ)、Match Group(マッチ・グループ)、Prepear(プリペア)、Protonmail(プロトンメール)、Skydemon(スカイデーモン)、Spotify(スポティファイ)、Tile(タイル)があり、小さな開発業者の加盟数も増えている。

DCNのメンバーは、米国のオンライン人口だけに限っても、合計2億2300万件のユニーク訪問者にリーチしていると同団体はいう。サブスクリプションを基本とするモデルでコンテンツへのアクセス権を提供している加盟パブリッシャーは、Apple(アップル)は仲介業者として「深刻な影響」を及ぼしていると声明で訴えている。同団体の主張は、サブスクリプションなどのサービスには、アプリ内課金を使うようアップルがパブリッシャーに強制しているというものだ。その結果、一部のパブリッシャーは、いわゆる「Apple Tax」(アップル税)と呼ばれる販売手数料を賄うために、価格を上げざるを得ないという。

「DCNはCAFに加盟し、公平で競争が可能なデジタル風景の確立に協力できることをうれしく思います」と、DCNのCEOであるJason Kint(ジェイソン・キント)氏は声明の中で述べている。「DCNのプレミアムメンバーであるパブリッシャーは、消費者との信頼性の高い直接的な関係を享受しています。ニュースを見たり、大好きな娯楽を楽しむ権利が、仲介業者の恣意的な手数料やルールによって制限されることは、消費者が望むところではありません」。

2020年の米国議会公聴会で、アップルがAppStoreのルールをAmazon(アマゾン)との特別な申し合わせに従い変更していたことが明らかにされたときから、DCNはアップルのビジネス手法への抗議をすでに表明(DCNブログ)してきた。

米下院司法委員会は調査を行い、iOSとApple TV用のPrime Videoアプリに関するアップルとアマゾンとの交渉内容(未訳記事)を突き止めた。2017年にApple TV用Prime Videoアプリが公開される前、2016年11月の電子メールから判明したのは、アップルの支払い方法を使って同アプリを登録した消費者に限り、売上げの15%のみを徴収するという取り決めにアップルが合意したということだ。その当時、アプリの販売手数料は30%だった。サブスクリプション型のアプリの販売手数料は、その2年後に15%に引き下げられたが、アマゾンは初日からこの割り引きが適用されていた。

アップルはさらに、Prime Videoのすべての登録者に対して通常手数料15%の免除に合意し、アップル以外の支払い方法も使えるようにした。

つまり、AppStoreのルールはすべての事業者に公平に適用されるとアップルは公言しておきながら、元来すべてのパブリッシャーが望む条件をアマゾンだけに適用したというわけだ。

さらにDCNは、一部の企業だけが特別な条件でアップルと取引しているという問題もさることながら、アップルの手数料のために、パブリッシャーは、サブスクリプションやイベントでオーディエンスから直接収益を得ることが難しくなっている主張している(DCNブログ)。アップルは、代わりにデジタル広告を薦めてくる。30%の手数料を払わずに済むが、そこはデータやプライバシーの扱いに疑念がつきまとう商慣行の世界だ。それは一方では、アップルが率先して一掃を訴えているものでもある。

下院公聴会の後、キント氏はアップルのCEOであるTim Cook(ティム・クック)氏に書簡を送り、誰もが同じ条件でアップルと取引ができるよう、アマゾンとの合意内容を公開するよう求めた。

2020年11月、アップルは外部からの圧力に屈し(未訳記事)、スモールビジネスを対象とした新しい取り組みを通じて、収益が100万ドル(約1億300万円)未満のすべてのアプリの手数料を15%に引き下げることにした。しかし大手パブリッシャーの場合、その(Statistaレポート)収益(Statistaレポート)がずっと(Digiday記事)大きい(Pew Resarch Centerレポート)ため、この引き下げの対象外となる。

「DCNがCAFに加盟したことは、私たちの戦いにおいて歴史的な出来事になりました。主要パブリッシャーが直面しているAppStoreの問題の本質を見極める彼らの見識は、私たちの声をさらに力強いものにしてくれます」と、CAFの広報担当者Sarah Maxwell(サラ・マックスウェル)氏は声明の中で話している。「公平なアプリストアの方針を提唱し、アップルに説明責任を果たさせ、消費者に選択の自由を与える活動を、彼らとともに進められることを、とても嬉しく感じます」と彼女は付け加えた。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:AppleアプリCAF

画像クレジット:TechCrunch

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(翻訳:金井哲夫)

アリババのライバルPinduoduoはなぜ中国の農業に投資するのか

Pinduoduoのスマート農業コンペ温室で作物の生長を見守る監視装置

2018年、Pinduoduo(拼多多、ピンドゥオドゥオ)は、創設3年目の企業(未訳記事)でありながらNASDAQ上場で16億ドル(約1660億円)を調達(未訳記事)し、投資コミュニティに衝撃を走らせた。中国のオンラインショッピング利用者は、長年市場を独占してきたAlibaba(アリババ)やJD.comに取って代わる新サービスの登場に歓喜した。

しかし、Google(グーグル)の元エンジニアColin Huang(コリン・フアン)が創設したこのスタートアップ企業は、その野心をeコマースの先に据えていた。同社は、中国の農業の近代化と地方経済の活性化を目指す中国政府の要請に応えたのだ。

中国の日常生活は小売り、娯楽、教育、医療に至るまで、さまざまな側面が高度にデジタル化されてきた。しかし、農業だけが取り残されている。2017年後半からのMcKensey(マッケンジー)の報告を見ると、農業は中国で最もデジタル化が遅れている産業であることがわかる。Pinduoduoはこのギャップを好機と考えて、オンラインで果物を売ることから事業を始めた。時が経ち、PinduoduoはAlibaba(アリバナ)と並ぶ総合eコマースプラットフォームに成長した。しかし農業は「創業以来、ずっとPinduoduoの中心的な位置にあります」と、同社上級副社長Andre Zhu(アンドレ・ズー)氏はいう。

「スマート農業への投資は、私たちの事業の延長線上にあり、デジタル包括性を促進するという私たちの目標に沿ったものです」。

独立した部署を置くことはせず、同社はこの農業事業を、全社をあげたそして社会をも捲き込んだ取り組みとしている。その戦略および投資担当チームは、農業のあらゆる段階において、規模拡大のために同社が協力し得るソリューションの特定を主導している。実装段階では、実働部隊の力を借りて、さまざまな地方行政機関と、テクノロジーを試したいと考える伝統的な農家との仲立ちをしている。

「少なくとも下流の流通面、eコマースの農業製品用マーケットプレイスでは、中国は諸外国に比べて比較的進んでいるといえます」とPinduoduoの持続可能性および農業インパクト担当エグゼクティブディレクターXin Yi Lim(シン・イ・リム)氏はTechCrunchのインタビューに応えて話した。

2019年、60万件近い業者が農作物をPinduoduoを通して販売した。それは、1200万件もの農家がその業者に果物や野菜を供給したものと解釈できる。2020年8月、Pinduoduoは、2025年までに年間1450億ドル(約15兆円)相当の農作物を扱うと宣言した。2019年時点では、その額は210億ドル(約2兆1700億円)だった。

「しかし、私たちがさらなる投資を奨励し増やしたいと思っているのは、実は上流部です」とリム氏はいい加えた。

そのためこのeコマースの巨大企業は、農業のライフサイクルを遡る旅を続けている。それはつまり、流通インフラの構築や、農家にマーケティングの知識を与えるなどの事業だ。2019年には、同社のオンラインeコマースビジネス学校が、およを50万の農業経営者に教育を施した。

Duo Duo大学にて、Pinduoduoに店舗を開設し運営する方法を学ぶ雲南省の農家(画像クレジット:Pinduoduo

生産面では、Pinduoduoは数億人の購買者の購買行動を追跡し、何を植えて、どれほどの値を付けて販売するべきかを農家に教えている。このアプローチは、中間業者のコストを削減するための、同社の大規模な消費者直販戦略に従っている。

Pinduoduoはまた、農家のために農業の専門知識を収集したいとも考えている。同社は2020年、スマート農業コンテストを開催し、人工知能やネット接続機器を活用したイチゴの栽培を競うチームが世界中から参加した。評価はイチゴの甘さ、使用したエネルギーと肥料の量、AI戦略で審査された。優勝者のシステムは、Pinduoduoと雲南省政府との合弁プロジェクトであるAI管理のDuo Duo Farm(デュオデュオ・ファーム、Pinduoduoリリース)で展開され、同eコマースプラットフォームで農家が作物を直販できるようにする。

こうした例は、Pinduoduoの長期にわたる農業ゲームという氷山のほんの一端に過ぎない。この分野に投資(Pinduoduoリリース)する具体的な金額を同社は公表していないが、リム氏はこう話す。「この業界の他のプレイヤーと比較しても、私たちの農業への関与は、間違いなくずっと大局的です」。

同社は、中国国外にも投資のチャンスを探している。国内では、ドローンやセンサーなどに代表されるハードウェアの導入を安価に提供する企業が増えてきたものの、作物モデルや予測に関しては、大型の商業農場が広がる西側諸国に見られるソリューションのほうが成熟度は高いとリム氏は指摘する。

Pinduoduo農家の間でも、アグリテックを受け入れるところはまだ「比較的少ない」。なぜなら、同社のスマート農業の取り組みがまだ初期段階にあるからだ。しかし、eコマースの新参企業であるPinduoduoは、中国のアグリテックを促進するよい立ち位置にあるともいえる。

米国やオーストラリアと違い、中国では小規模農家がほとんどであるため、高度な農業機械を買える余裕がない。需要がなければ、アグリテックのスタートアップは資金調達が難しくなり、顧客を増やして販売価格を下げるための投資もできなくなるとリム氏は説明する。

「Pinduoduoは、すでにアグリテックのスタートアップ企業と幅広い潜在顧客プールとを結び付ける用意ができています。これで、最初の難関が少しでも楽に通過できるようになると思います」とリム氏。

もう1つ、農業にテクノロジーを投入すれば、広大な中国の農村地帯から若い人材が豊かな大都会に流出してしまうのを防ぐこともできる。

「長期的には、私たちは農業をより効率的で楽なものにします。農業という産業の構造を、全体的に変革してしまう可能性もあります。若い人たちが、自分も起業家になれる、このツールを使えば生産をもっとしっかり管理できる、と感じられるようになるでしょう」とリム氏は訴えた。

「いまは農家でなくても、現実的な新事業として農業を考える人も現れる可能性もあります」

関連記事:2025年に15兆円超の農産物販売を目標を掲げる中国eコーマスのPinduoduo

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Pinduoduo中国農業

画像クレジット:Pinduoduo

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(翻訳:金井哲夫)

欧州理事会は暗号化データを守りたいが合法的にアクセスもしたい

個々のEU加盟国政府を代表する組織である欧州理事会は、データの暗号化に関する議案(欧州理事会リリース)を可決した。これは同理事会が「security through encryption and security despite encryption」(暗号化によるセキュリティと暗号化に対するセキュリティ)と称するものだ。

「管轄権を有する公共機関は、基本的人権およびそれに関連するデータ保護法に完全に準拠し、サイバーセキュリティを保持しながら、合法的に明確な目的のもとでデータにアクセスできなければならない」と同理事会は書いている。

2020年11月、理事会決議案の草案に関して、ヨーロッパの一部メディアは、EUの政治指導者たちはエンド・ツー・エンドの暗号化の禁止を推し進めていると報じたが、草案にも最終的な決議案(12月14日に公表)にも、そのようなことは明示されていない。反対に、どちらも「強力な暗号化方式の開発、実装、利用」の推奨を表明している。

可決(欧州理事会リリース)されたばかりのこの(法的拘束力のない)決議書では、EUの政策議題を決定する責任を負う同理事会の強固な暗号化を支持すると同時に、電子的証拠が収集できるよう暗号化されたデータの目標を明確にした合法的なアクセス権も求めている(テロ、組織犯罪、児童の性的虐待、その他のサイバー犯罪とサーバー空間を悪用した犯罪などの犯罪活動に「効果的」に対抗するため)。

決議書には、その2つの側面の「適切なバランス」が必須だが、EUの主要な法的原則(必要性や均衡など)を考慮すべきと書かれている。決議書がそうしなければならないと書いているように、「暗号化によるセキュリティと暗号化に対するセキュリティの原則を完全に擁護する」ためだ。

欧州理事会はまたこの決議を、通信のプライバシーとセキュリティが暗号化によって守られ、同時に「デジタル世界における重大犯罪、組織犯罪、テロと戦うという合法で明確な目的のため、セキュリティおよび刑事司法が適法に関連データーにアクセスできる権限を有する」という点で「非常に重要」と位置づけている。

「いかなる行動も必要性、均衡、実権配分との利害のバランスを慎重に保たなければならない」と、ここでも政治的優先度が、強力な暗号化の難しい二元論と再び衝突(未訳記事)する中で、理事会は謳っている。

理事会は、この不可能な課題をEU議会がどのような政策で解決するかは明確にしていない(要は、他のすべての人の暗号はそのままに、どうやって犯罪者の暗号だけを解除するかだ)。

だが彼らは、暗号化を、簡単にかたちが変えられる矛盾撞着に作り変える、この最新の無益な努力にテック業界を巻き込みたいと考えている。議定書には「テック業界の力を加え」と明示されているからだ。とはいえ、不確かなセキュリティ(確かな危うさともいえるが)の神聖な(不浄な)バランスを探すというほかに、具体的にどのようなかたちで「援助」を求めるかは明らかではない。

「暗号化されたデータにアクセスするための技術的ソリューションは、最初から個人データ保護対策が組み込まれ、それが初期設定で有効になっていることを含め、合法性、透明性、必要性、均衡性の原則に準拠していなければならない」と理事会は続け、この文脈の中に「適法」なアクセスの意味を定義している(こう明言することで、バックドアの強制はできないことが十分に明らかにされている。なぜなら、バックドアは不均衡で不必要で卑劣で不法になりかねないからだ)。

議定書の後半で理事会は、その監視下で暗号を解除するための技術的ソリューションは、EU全体で通用する単一の汎用な方法を強制するものではないと明言している。正確にはこうある。「暗号化されたデータへのアクセスを可能にする単一の技術的ソリューションを規定するべきではない」。

「定められた目標を達成する方法は1つではない。政府、産業界、研究機関、学界は、透明な協力関係において戦略的にこのバランスを生み出す必要がある」とも書かれている。議員と業界との秘密の会合が持てる安全な場所は、もう存在しないといっているようなものだ(そうしなければ「いやそれでも法的に怪しいものだけに目標を定めたバックドアなら作れるんじゃない?」といった本性を抑えることができない)。

「有望なソリューションは、国内外の通信サービスプロバイダーとその他の利害関係者との透明なかたちの協力関係の下で開発されるべき」だと理事会はいっている。ここでもまた、「目標を明確にした適法な」アクセスの期待に応えるために政治家と技術提供者が秘密の取り決めをすることを明らかに禁じている。ただし、彼らが政治家と業界の利害関係者(さらに関連する学術研究者も含まれる可能性がある)のための、しかし公共および通信サービスのユーザー自身のためでは決してない透明化のために、なぜだか協力したいと考えた場合は除外される。議定書の条文そのものには書かれていないまでも、それでは「透明にやる」精神に反してしまうためだ。

暗号化戦争における今回の一斉砲撃も、EU議員たちがテック業界と手を組んでバックドアを強制し暗号を解除する方向へ突き進むという、大きな懸念を払拭するものではない。

だが、そうでもなければイライラするほど一挙両得主義的な理事会の決議が、その(不可能ではあるが)目標の達成のために、単一の技術的ソリューションの導入を拒絶したことは注目に値する。(「有望」な、そして運用可能な複数の技術的ソリューションを探すための手引きを単にいくつか提示しただけだが)。

従ってこの決議は、(政治的)取り組みめいたものを、頑張っているように見せるためのものであり、せいぜい関係機関の長をテーブルの周りに集めて利害関係者に事情を説明して、みんなが仲間であることを確認し合うためだけのものだ。ただこれにより理事会は、EU全域の研究機関に新技術の審査と分析のための協調と共同作業(および「専用の高度なトレーニング」の提供)を呼びかけ、同時に研究機関および大学に「強力な暗号化技術の実装と使用を確実に継続させる」ことで、同じ研究が重複する無駄を省くことはできる。

理事会はまたEU域内のあらゆる法執行機関が陥りがちな、自分たちを愚か者に見せるだけのエンド・ツー・エンドの暗号化への玉砕攻撃という落とし穴を避ける方法も模索している。その代わりとして彼らは、ここで一致団結して「暗号化によるセキュリティと暗号化に対するセキュリティ」という愚かなスローガンの背後やてっぺんにしがみ付いた。暗号化への愚行がこれで終わることを願って。

先週(未訳記事)、EU議員たちは、幅広いテロ対策の一環として「適法」なデータアクセスに取り組むとも話していた。これに欧州理事会は「加盟国と協力し、通信のプライバシーとセキュリティを確保しつつ、暗号化されたデータに適法にアクセスできる合法的で運用可能な有望な技術的ソリューションの特定と、通信のプライバシーとセキュリティを保つ上での効率的な暗号化方式と、犯罪やテロへの効果的な対処法の提供を両立させるアプローチを推進する」ことを約束している。

それでもやはり、この話には暗号化されたデータへの適法なアクセスを行うための「有望なソリューション」を探すという議論を超えるものがない。しかも、暗号化の実効性は保持すると、EU議員たちは同じ口でいっている。いつまでも堂々巡り(未訳記事)だ……。

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カテゴリー:セキュリティ
タグ:EU暗号化バックドア

画像クレジット:Bob Peters Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(翻訳:金井哲夫)

欧州理事会は暗号化データを守りたいが合法的にアクセスもしたい

個々のEU加盟国政府を代表する組織である欧州理事会は、データの暗号化に関する議案(欧州理事会リリース)を可決した。これは同理事会が「security through encryption and security despite encryption」(暗号化によるセキュリティと暗号化に対するセキュリティ)と称するものだ。

「管轄権を有する公共機関は、基本的人権およびそれに関連するデータ保護法に完全に準拠し、サイバーセキュリティを保持しながら、合法的に明確な目的のもとでデータにアクセスできなければならない」と同理事会は書いている。

2020年11月、理事会決議案の草案に関して、ヨーロッパの一部メディアは、EUの政治指導者たちはエンド・ツー・エンドの暗号化の禁止を推し進めていると報じたが、草案にも最終的な決議案(12月14日に公表)にも、そのようなことは明示されていない。反対に、どちらも「強力な暗号化方式の開発、実装、利用」の推奨を表明している。

可決(欧州理事会リリース)されたばかりのこの(法的拘束力のない)決議書では、EUの政策議題を決定する責任を負う同理事会の強固な暗号化を支持すると同時に、電子的証拠が収集できるよう暗号化されたデータの目標を明確にした合法的なアクセス権も求めている(テロ、組織犯罪、児童の性的虐待、その他のサイバー犯罪とサーバー空間を悪用した犯罪などの犯罪活動に「効果的」に対抗するため)。

決議書には、その2つの側面の「適切なバランス」が必須だが、EUの主要な法的原則(必要性や均衡など)を考慮すべきと書かれている。決議書がそうしなければならないと書いているように、「暗号化によるセキュリティと暗号化に対するセキュリティの原則を完全に擁護する」ためだ。

欧州理事会はまたこの決議を、通信のプライバシーとセキュリティが暗号化によって守られ、同時に「デジタル世界における重大犯罪、組織犯罪、テロと戦うという合法で明確な目的のため、セキュリティおよび刑事司法が適法に関連データーにアクセスできる権限を有する」という点で「非常に重要」と位置づけている。

「いかなる行動も必要性、均衡、実権配分との利害のバランスを慎重に保たなければならない」と、ここでも政治的優先度が、強力な暗号化の難しい二元論と再び衝突(未訳記事)する中で、理事会は謳っている。

理事会は、この不可能な課題をEU議会がどのような政策で解決するかは明確にしていない(要は、他のすべての人の暗号はそのままに、どうやって犯罪者の暗号だけを解除するかだ)。

だが彼らは、暗号化を、簡単にかたちが変えられる矛盾撞着に作り変える、この最新の無益な努力にテック業界を巻き込みたいと考えている。議定書には「テック業界の力を加え」と明示されているからだ。とはいえ、不確かなセキュリティ(確かな危うさともいえるが)の神聖な(不浄な)バランスを探すというほかに、具体的にどのようなかたちで「援助」を求めるかは明らかではない。

「暗号化されたデータにアクセスするための技術的ソリューションは、最初から個人データ保護対策が組み込まれ、それが初期設定で有効になっていることを含め、合法性、透明性、必要性、均衡性の原則に準拠していなければならない」と理事会は続け、この文脈の中に「適法」なアクセスの意味を定義している(こう明言することで、バックドアの強制はできないことが十分に明らかにされている。なぜなら、バックドアは不均衡で不必要で卑劣で不法になりかねないからだ)。

議定書の後半で理事会は、その監視下で暗号を解除するための技術的ソリューションは、EU全体で通用する単一の汎用な方法を強制するものではないと明言している。正確にはこうある。「暗号化されたデータへのアクセスを可能にする単一の技術的ソリューションを規定するべきではない」。

「定められた目標を達成する方法は1つではない。政府、産業界、研究機関、学界は、透明な協力関係において戦略的にこのバランスを生み出す必要がある」とも書かれている。議員と業界との秘密の会合が持てる安全な場所は、もう存在しないといっているようなものだ(そうしなければ「いやそれでも法的に怪しいものだけに目標を定めたバックドアなら作れるんじゃない?」といった本性を抑えることができない)。

「有望なソリューションは、国内外の通信サービスプロバイダーとその他の利害関係者との透明なかたちの協力関係の下で開発されるべき」だと理事会はいっている。ここでもまた、「目標を明確にした適法な」アクセスの期待に応えるために政治家と技術提供者が秘密の取り決めをすることを明らかに禁じている。ただし、彼らが政治家と業界の利害関係者(さらに関連する学術研究者も含まれる可能性がある)のための、しかし公共および通信サービスのユーザー自身のためでは決してない透明化のために、なぜだか協力したいと考えた場合は除外される。議定書の条文そのものには書かれていないまでも、それでは「透明にやる」精神に反してしまうためだ。

暗号化戦争における今回の一斉砲撃も、EU議員たちがテック業界と手を組んでバックドアを強制し暗号を解除する方向へ突き進むという、大きな懸念を払拭するものではない。

だが、そうでもなければイライラするほど一挙両得主義的な理事会の決議が、その(不可能ではあるが)目標の達成のために、単一の技術的ソリューションの導入を拒絶したことは注目に値する。(「有望」な、そして運用可能な複数の技術的ソリューションを探すための手引きを単にいくつか提示しただけだが)。

従ってこの決議は、(政治的)取り組みめいたものを、頑張っているように見せるためのものであり、せいぜい関係機関の長をテーブルの周りに集めて利害関係者に事情を説明して、みんなが仲間であることを確認し合うためだけのものだ。ただこれにより理事会は、EU全域の研究機関に新技術の審査と分析のための協調と共同作業(および「専用の高度なトレーニング」の提供)を呼びかけ、同時に研究機関および大学に「強力な暗号化技術の実装と使用を確実に継続させる」ことで、同じ研究が重複する無駄を省くことはできる。

理事会はまたEU域内のあらゆる法執行機関が陥りがちな、自分たちを愚か者に見せるだけのエンド・ツー・エンドの暗号化への玉砕攻撃という落とし穴を避ける方法も模索している。その代わりとして彼らは、ここで一致団結して「暗号化によるセキュリティと暗号化に対するセキュリティ」という愚かなスローガンの背後やてっぺんにしがみ付いた。暗号化への愚行がこれで終わることを願って。

先週(未訳記事)、EU議員たちは、幅広いテロ対策の一環として「適法」なデータアクセスに取り組むとも話していた。これに欧州理事会は「加盟国と協力し、通信のプライバシーとセキュリティを確保しつつ、暗号化されたデータに適法にアクセスできる合法的で運用可能な有望な技術的ソリューションの特定と、通信のプライバシーとセキュリティを保つ上での効率的な暗号化方式と、犯罪やテロへの効果的な対処法の提供を両立させるアプローチを推進する」ことを約束している。

それでもやはり、この話には暗号化されたデータへの適法なアクセスを行うための「有望なソリューション」を探すという議論を超えるものがない。しかも、暗号化の実効性は保持すると、EU議員たちは同じ口でいっている。いつまでも堂々巡り(未訳記事)だ……。

関連記事:ヨーロッパが暗号化のバックドアを必要としている?

カテゴリー:セキュリティ
タグ:EU暗号化バックドア

画像クレジット:Bob Peters Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(翻訳:金井哲夫)

Momboxはママ・ファーストの厳選された出産後ケア製品キット

ベンチャー投資企業General CatalystのPeter Boyce(ピーター・ボイス)氏は、企業創設者を見極めるときに最も重視する点は、その人が解決しようとしている問題に個人的なつながりを持っているかどうかだと話していた。Kate Westervelt(ケイト・ウェスターベルト)氏は、そんな企業創設者の1人だ。

ウェスターベルト氏は、子どもではなく母親に強く特化して厳選した出産後ケア用製品のキットを提供するMombox(マムボックス)の創設者。同社は先日、WayfundとTBD Angels、さらにFacebook(フェイスブック)、Amazon(アマゾン)、Uber、Drizlyといった団体に属する裕福な個人投資家が主導するエンジェルラウンドで50万ドル(約5200万円)をクローズした。

ウェスターベルト氏は、最初の子どもを出産した直後、特に新生児を抱っこした状態で、産後の体の回復のために欲しい製品を探し回るのが困難であることを実感し、Momboxのアイデアを思いついた。

画像クレジット:Mombox

標準的なMomboxには、オーガニックの夜用パッド、ペリボトル、会陰アイスパック、マタニティーショーツ、その他の心と体を癒すケア製品が入っている。Momboxには他にも、帝王切開ボックスやDeluxe Momboxがある。

現在のところ、Momboxは単品販売のキットだが(ウェスターベルト氏によれば、ほとんどが出産祝いとして売れているという)、同社はキットのサブスクリプション、コンテンツ、プラットフォームなどを含む製品を構築して、産後1年間に求められるサービスの提供者とママとをつなぐ計画を立てている。ウェスターベルト氏は、これを24 / 7ポケットコンシェルジュと呼んでいる。新生児の母親が、授乳コンサルタント、骨盤底療法士、夫婦療法士、その他、出産1年以内に必要とされる人たちとつながりを作り、いつでも相談ができるようにするものだ。

「産後の回復期間は6〜8週間とする神話が、男性が支配する医療と母体健康管理コミュニティによって作り上げられました」とウェスターベルト氏。「実際は、母親の体は思春期とよく似たマトレセンス(Psychology Today記事)と呼ばれる母親への移行期を経て、肉体とホルモンとアイデンティティが変化します。これには少なくとも12カ月かかります」。

さらに彼女は、出産後に医師の診療が1回あるだけで、後は母親が自力で乗り越えなければならないと話す。Momboxは、母になった最初の12カ月間を母親に寄り添うことを目指している。ゆくゆくは母乳か人工栄養か、自宅で育児ができるか、仕事場に行かなくてはならないかなど、個々の母親の状況に合わせてMomboxのエクスペリエンスをパーソナライズしたい考えだ。

「最大の課題は、どんなときも子どもが第一と語られてしまうことです」とウェスターベルト氏はいう。「母親には、自らの健康を犠牲にしてでも新生児のために苦難を耐え抜く覚悟があります。課題は、母親に自分が中心なのだと理解させることです。自分が大丈夫なら、赤ちゃんも大丈夫なのです」。

ウェスターベルト氏は、家具と日用品のオンライショップであるWayfairが発行するLifestyle誌の編集者、ビーガン食品ブランドPurple Carrotのコンテンツ戦略ディレクターを経てMomboxを立ち上げ、現在まで自己資金でやってきた(従業員も自分1人)。現在までにMomboxがマーケティングに使った資金は0ドル。収益は、創業以来、口コミだけで前年比100%の成長を果たしている。

ウェスターベルト氏は、今回調達した資金を使って、人材を雇い入れて、収益倍増と、同氏が思い描く完全なサービスが提供できるプラットフォームの構築を目指した新しいマーケティング戦略を試す予定だ。

カテゴリー:フェムテック
タグ:Mombox資金調達

画像クレジット:mombox

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(翻訳:金井哲夫)

アマゾンがEchoデバイスを使った「ライブ翻訳」機能をローンチ

Amazon(アマゾン)は米国時間12月14日、Alexaの新機能Live Translation(ライブ・トランスレーション、ライブ翻訳)を発表した。2つの異なる言語で交わされる会話を翻訳するというものだ。アマゾンの音声認識技術とニューラル機械翻訳技術によって機能し英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル(ブラジル)語、ドイツ語、イタリア語間で翻訳ができる。

ライブ翻訳を使いたいときは、Echoデバイスのオーナーが「Alexa, translate French(アレクサ、フランス語を翻訳して)」という具合に命令すると、英語とフランス語の翻訳が開始される。ビープ音がしたら、いずれかの言語で話ができるようになる。文章の間に自然な間を入れても大丈夫だとアマゾンは話している。Alexaは話された言語を自動的に認識し、互いの話を翻訳して伝える。Echo Showでは、会話を音声で聞くばかりでなく、テキストで読むこともできる。

終わらせたいときは「Alexa, stop(アレクサ、ストップ)」と命じる。

同社は、多言語翻訳機能の開発に取り組んでいることを、2018年のYahoo Finance(Yahoo Finance記事)で発表していた。

この新機能の追加により、Alexaは、すでにGoogleアシスタントで翻訳サービスが利用できるGoogleアシスタント対応機器との競争力をさらに高めることになった。Google Home機器は、2019年の初めにリアルタイムで複数言語を翻訳できる「通訳モード」を導入している。現在では、通訳モードはスマートスピーカー、スマートディスプレイ、スマートクロック、さらにはGoogleアシスタントを搭載したスマホやタブレットなど数多くのGoogleアシスタント対応機器で使用できる。しかしPixel Budsでは、導入当初、この機能はうまく働かなかった(WIRED UK記事)。

Alexaの翻訳機能がどれだけ使えるようになるかは、本日のローンチ以降のさらなる試練にかかっている。

ライブ翻訳は、Echoデバイスの言語に集中した一連のアップデートの最後の1つとなる。

これは、2019年に米国向けに導入された、たとえば英語とスペイン語、フランス語と英語、ヒンディー語と英語といった組み合わせの会話をAlexaで可能にする多言語モードに続く新機能だ。Alexaはまた、対応する50の言語の単語や語句の翻訳もできる。

さらに、ユーザー同士のコミュニケーションを円滑にするために、この機能を言語学習に利用することもできるとアマゾンでは話している。また、ホテル業界向けにデザインされたプラットフォームであるAlexa for Hospitality(アレクサ・フォー・ホスピタリティー)を通じて、ホテルの客と従業員との会話の支援も行えるという。

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カテゴリー:人工知能・Ai
タグ:AmazonAmazon Alexa機械翻訳音声アシスタント

画像クレジット:Amazon

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(翻訳:金井哲夫)

動画音声を本人の自然な声で別言語に吹き替えるAIシステムのPapercupが約11億円を調達

すでにゲームやテレビ業界で使われているが、話した人の声で別の言語に変換するスピーチ技術を開発した英国のAIスタートアップPapercup(ペーパーカップ)は、800万スターリングポンド(約11億円)の資金を調達した。

このラウンドはLocalGlobeとSands Capital Venturesが主導し、Sky、GMG Ventures、Entrepreneur First(EF)、BDMIが参加している。Papercupは今回の資金を機械学習研究と、AI通訳動画の品質改善やカスタマイズのための「Human in the loop」(人間参加型)品質管理機能の拡大に追加投入すると話している。

Papercupは、これ以前からエンジェル投資家の支援も受けている。その中には、後にAmazon(アマゾン)に買収されAlexaを誕生させたEvi Technologies(イービー・テクノロジーズ)の創設者William Tunstall-Pedoe(ウィリアム・タンストールペドー)氏や、Uber(ウーバー)で主任サイエンティストとAI担当副社長を務め、現在はGoogle Brain(グーグル・ブレイン)リーダーシップチームの一員であるZoubin Ghahramani(ズービン・ガラマニ)氏も含まれている。

2017年、EFの企業創設者向けアクセラレータープログラム参加中にJesse Shemen(ジェシー・シーメン)氏とJiameng Gao(ジアメン・ガオ)氏が立ち上げたPapercupは、話し手の声や話し方をそのままに別の言語に変換する能力、と同社が説明するAIと機械学習に基づくシステムを開発している。よくあるテキストの読み上げシステムとは異なり、通訳された音声は人間の声と「判別が不可能」だと彼らは主張している。しかも、そこがユニークな点だと思われるが、話し手の声の特徴もできるだけ引き継がれる。

もともとこの技術は、すでにこれを利用しているSky News(スカイ・ニュース)、Discovery(ディスカバリー)、YouTube(ユーチューブ)の人気チャンネル「Yoga with Adriene」、その他の動画を自主制作するクリエイターたちに向けて開発された。その売り文句は、もっとずっと幅広い応用が可能であり、したがって本物の人間による吹き替えに取って代わる安価な手段だと訴えている。

「世界の動画と音声のコンテンツは1つの言語に縛られています」とPapercupの共同創設者でCEOのシーメン氏はいう。「YouTubeの数十億時間分の動画、何百万本というポッドキャスト、Skillshare(スキルシェア)やCoursera(コーセラ)の何万件ものオンライン学習講座、Netflix(ネットフリックス)の何万本もの番組などもそうです。そうしたコンテンツの所有者は、ほぼ全員が世界展開を強く望んでいますが、字幕に勝る簡単で費用対効果の高い方法がまだありません」。

もちろん「予算がたっぷりあるスタジオ」なら、プロ用の録音施設で声優を雇い最高級の吹き替えが可能だが、ほとんどのコンテンツ所有者には高すぎて手が出せない。裕福なスタジオであっても、対応する言語が多ければ、制約が加わわるのが普通だ。

「そのため、ロングテールやそれに準ずるコンテンツ、それはまさに全コンテンツの99%に相当しますが、その所有者は海外のオーディエンスにリーチしたいとき、字幕以上の方法を諦めたり、そもそも不可能だったりします」とシーメン氏。もちろん、そこがPapercupの狙い目だ。「私たちの目標は、翻訳された言葉を、できるだけ元の話し手の声に近づけることです」。

それを実現させるために、Papercupは4つの課題に取り組む必要があったという。1つめは「自然に聞こえる」声だ。つまり、合成音声をできる限り明瞭で人間の声に近づけることだ。2つめの課題は、元の話し手が表現した感情や速度(つまり喜怒哀楽)を失わないこと。3つめは、人の声の特徴を捉えること(たとえばドイツ語でもモーガン・フリーマンが話しているように聞こえるといったように)。そして最後は、翻訳されたセリフを動画の音声に正確に揃えることだ。

シーメン氏はこう説明する。「私たちはまず、できる限り人間に近い、自然に聞こえる音声を作ることから始めました。その目的に沿って技術の洗練させてゆく過程で、私たちは音質の面で飛躍的な技術革新を果たしました。いま作られているスペイン語音声合成システムの中で、私たちのものは最高水準にあります」。

「現在私たちは、さまざまな言語に変換するときに、元の話し手の感情や表現をできるだけ残したままで行う技術に重点を置いています。その中で、これこそが吹き替えの質を左右するものだ気がつきました」。

間違いなくこれが最も大きな難関となるが、次の課題は「話者適応」だ。つまり、話し手の声の特徴を捉えることだ。「それが適応の最終段階です」とPapercupのCEOは話す。「しかし、それは私たちの研究で最初に実現したブレイクスルーでもあります。私たちにはこれを達成できるモデルはありますが、感情や表現に多くの時間をかけています」。

とはいえPapercupは、いずれはそうなるかもしれないものの、完全に機械化されているわけではない。同社では、翻訳された音声トラックの修正や調整に「人間参加型」のプロセスを採り入れている。そこでは、音声認識や機械翻訳のエラーの修正、タイミング調整、さらには生成された音声の感情(喜びや悲しみ)の強調や速度の変更が人の手で行われている。

人間参加型の処理がどれほど必要になるかは、コンテンツのタイプや、コンテンツ所有者のこだわりによって異なる。つまり、どれだけリアルで完璧な吹き替え動画を求めるかだ。逆にいえば、これはゼロサムゲームではないため、大きな規模で考えた場合、大半のコンテンツ所有者は、そこまで高い水準は求めないということだ。

この技術の始まりについて尋ねると、共同創設者でCTOのジアメン・ガオ氏の研究からPapercupはスタートしたとシーメン氏は答えた。ガオ氏は「驚くほど頭が良く、異常なほどに音声処理にのめり込んでいた」という。ガオ氏はケンブリッジ大学で2つの修士号を取得し(機械学習と音声言語技術)、話し手に順応する音声処理に関する論文も書いている。Papercupのようなものを作ることができる可能性に気づいたのは、ケンブリッジ在学中だった。

「2017年の終わり、Entrepreneur Firstで勉強していたときに、私たちは最初のプロトタイプシステムを作りました。前例のないものながら、この技術は使えると感じました」とシーメン氏。「当初、人から聞いた意見から、私たちが作っているものには予想を超える膨大な需要があることを知りました。制作スタジオでの使用を想定して開発しているものの、ほんの一機能に過ぎなかったのですが」。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Papercup合成音声機械翻訳資金調達

画像クレジット:Papercup

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(翻訳:金井哲夫)

Nielsenが現状に合わせて従来のテレビ放送とデジタル配信の視聴率調査統合を準備

Nielsen(ニールセン)は、テレビ視聴率の調査を、リアルタイムで見る人と、さまざまな配信サービスやデバイスを使ってオンデマンドで見る人とが混在する世界を反映させた方式に刷新する。

同社は長年にわたりテレビ視聴率調査の標準的方式を提供してきたが、テレビがデジタルで視聴できるようになり、物事は大変に細分化されてしまった。そこで、間もなく運用が開始されるNielsen One(ニールセン・ワン)プラットフォームは、他社とそう変わらない新しいデジタル視聴率調査方式を提供するだけではなく、Nielsenの中核的な測定基準を刷新するものとなる。

「私たちの主な目的は、測定方法が複数メディアをまたぐ広告枠買い付けの妨げになっている現状を打開することです」とNielsen視聴率調査ジェネラルマネージャーScott Brown(スコット・ブラウン)氏は話す。

2022年秋にNielsen Oneの運用が開始されると、テレビ番組の視聴に関するNielsenの報告には、昔ながらのかたちでテレビを観ている人の数だけでなく、視聴者の現実の数が反映されるようになる。

さらに、オンライン世界のプログラマティック広告や、同等の広告枠買い付けツールが従来型のリニアなテレビ放送にも広がりつつあることを考えれば、「みんなが同じ広告を見る」という考え方は捨て去るときがきたとブラウン氏はいう。

つまり、このプラットフォームはNielsenのC3とC7という視聴率基準から「離れる」ことを意味する。この基準とは、テレビ番組の広告を、C3は3日間、C7は7日間の放映の間にどれだけの人が見たかを示す値だ。

ブラウン氏によれば、Nielsenは各プラットフォームごとに、何人の人が広告を見たかをきめ細かく調査できるようになるという。「個々の広告に推定視聴者数が示される」ことになり、2024年秋までには従来型測定方法の全廃を目指す。

画像クレジット:Nielsen

またNielsen Oneのスタートにともない、ブラウン氏が「新しいデータバックボーン」と呼ぶものが導入され、Nielsenのクライアントは、同社が報告書で示す数値の元となるデータに、もっと直接的にアクセスできるようになる。

このデータを提示するためには、テレビ視聴率の一般調査員「パネル」の協力に今後も依存することになるが、これからは「本当のクロスプラットフォーム」のデータになる点が違うとブラウン氏は話す。同社は、Amazon(アマゾン)、Hulu(フールー)、Roku(ロク)、Vivio(ビジオ)、Google(グーグル)およびYouTube(ユーチューブ)をすでに利用しているパートナー企業から追加データを引き出すことにしている。

多くのネットワークやメディア企業が独自の配信サービスを立ち上げたり買収したりしているが、誰もがNielsenで視聴率や広告の検証をしたがっているはずだとブラウン氏は示唆する。だが、Netflix(ネットフリックス)やDisney+(ディズニープラス)などの一部のサービスはインセンティブが低い。広告ではなくサブスクリプションのビジネスモデルに依存しているからだ。

「すべての視聴率がわかります」と彼はいう。「しかし私たちに寄り添い、一体となれる企業には、より細かい数値と、より総合的な調査を提供できるようになります」。

私は、オンラインの世界で議論されている大きな問題についても尋ねてみた。Facebook(フェイスブック)は動画を3秒間見たかどうか、Netflixは、番組の「視聴することを選んでいる」人が少なくとも2分間見たかどうかをチェックしているが、実際に何をもって1回のインプレッションと数えるのか?

「はっきり公表できるものとしては、最終的な答えは出ていません」とブラウン氏。だがNielsenでは、2021年にこの問題を細かく整理する作業部会を設ける予定だ。同時に、「1秒単位の解像度で測定」できる技術を構築し、どのようなルールが決められようとも対応できる体制を整える。

「現在の細分化された測定環境では、複数のプラットフォームにまたがるキャンペーンの計画、実施、検証が過度に複雑になり、予測がますます困難になっています」とデジタルエージェンシーEssence(エッセンス)の最高メディア責任者Adam Gerber(アダム・ガーバー)氏は声明の中で述べている。「アドレサブル広告モデルへ移行し、リーチを優先化し、成果をあげるための最適化を行うようになるほど、一貫した単一ソースによる測定ソリューションが必須となります。Nielsenの複数メディアにまたがるこの新しいアプローチは、総合的なキャンペーンを成功させたい広告主が求める信頼性と透明性を届ける重要なステップとなります」。

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カテゴリー:その他
タグ:Nielsenメディア動画配信

画像クレジット:Karunyapas Krueklad / EyeEm / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)