Ultrahumanのグルコーストラッカー「Cyborg」を4週間装着、自分を定量化することで何ができるのか?

2021年のある4週間、TechCrunchの記者である私は、インドのベンガルール本拠のスタートアップUltrahuman(ウルトラヒューマン)が提供している「代謝健全性」サービスを思い切ってテストした。このトラッカープログラムは商標名をCyborg(サイボーグ)といい、腕に装着する医療用のハードウェアを使用して血中グルコース値をリアルタイムで読み取る。Cyborgは、この動的なデータポイントを利用して食事の内容や運動の方法にスコアを付ける健康定量化サービスであり、1日を通して健康的な生活習慣を選択するようユーザーにアドバイスする。

研究によると、質の悪い食生活や運動不足などの要因で起こる代謝性の慢性炎症によって、糖尿病、心臓血管疾患、慢性腎疾患、がんなど、さまざまな病気を発症する危険性があるという。Cyborgの背後にある理論は、生活習慣の中で数多くの選択を積み重ねることで、より健康的な長期的展望が開けるというものだ。それには、そのような日々の決断を最適化して炎症や酸化ストレスを回避することが前提となる。

この長い記事では、皮膚に穴を開けるタイプのデバイスを身に付け、動的に更新される生体内プロセスのデジタルウィンドウを見ながら生活を送ったときの興味深い体験、および健康全般とフィットネスのために継続的グルコースモニタリング(CGM)を行う価値について書いてみたい。また、この種のセンシングハードウェアが次々に製品化されている現状における市場勢力図についても触れてみたい。

この記事は、Ultrahumanの製品とサービス(現在は非公開ベータ版で運営)に関する大まかなレビューだが「評定と価格」というセクションも設けた。動作の詳細をすぐに知りたい方は読み飛ばしていただきたい。その前に背景について少し説明することにしよう。

前置きと注意事項

Cyborgになるのはもはやまったくのサイエンスフィクションではなくなってきている。何年にも渡る「自己定量化」トレンドによって、身体の活動を計測し、出力を追跡して最適化するようアドバイスするさまざまなセンサーやサービスが次々に生まれた。歩数計心拍数モニター、ストレスおよび睡眠センサー、肺活量測定器などだ。最近ではさらに変わったものも登場している。血中グルコース値モニター、唾液小便大便分析器などだ。大便を解析することで、必要に応じて、ホルモンや微生物叢 / 代謝に異常があるかどうかを知ることができる。

心配症の人たちに手首装着型、またはベルト固定式の自己管理型センシングデバイスを装着させ、サブスクリプションサービス(計測したデータの意味をアプリで解釈し、数値を改善する方法を提示する)を提供するビジネスが活況を呈している。Apple Watchのリングを完成させる、深く呼吸する、早めに就寝する、といったことをアドバイスされる。

こうした定量化ヘルステックは少し浅薄で不真面目だと受け取られる可能性がある。毎日の生活にちょっとした小道具を持ち込み、単に散歩に行ったり早めに寝たりすればよいだけなのに役に立ちそうもない小物を押し付けてくる感じだ。やる気の出ない人に行動を起こしてみるよう勧める電話サービス、失われた子ども時代の代わりになる環境、あるいは存在の証明としてのデータ化サービスなどを販売する、もっと基本的で単純な製品でも十分だ。

しかし、餅は餅屋ということもある。睡眠障害があったり、ストレスや心配事で苦しんでいたりするなら、睡眠をトラッキングして、少しでも睡眠時間を増やすためのアドバイスやヒントを貰えば、質の高い睡眠を安定的にとれるようになるかもしれない。

利用できるテクノロジーもどんどん洗練されてきている。市販のトラッカーは臓器(心臓や肺)の機能障害の有無に焦点を合わせているのに対して、定量化というのは良さそうに思えるかもしれないが、正確性には疑問の余地がある。というのは、この種の製品は、規制の対象となる医療機器ではなく消費者向けレベルであることが多いからだ。

歩数計のデータでさえかなり不正確な場合がある。

しかし、最近の開発現場では、医療用レベルのセンシングハードウェアを使用して自己管理型の代謝分析機能を提供するスタートアップがどんどん増えている。こうしたデバイスは、皮膚上(というより皮膚中)に装着するセンサーを介して血中グルコース値の変化をほぼリアルタイムでトラッキングする。

これは魅力的な機能であり、成長しているが、健康定量化スタートアップとしてはまだまだ新しい領域だ。だが、有望な領域に思える。個人の有益な健康情報を提供でき、なおかつ十分なデータがあれば実用面でも大きく向上する可能性がある。また、多くの人たちがより健康的な生活習慣を選択できるようになる。

しかし、大きな問題がある。代謝健全性の科学的理解が我々が思っているほど完全ではないのだ。

UltrahumanのCyborg。欧州にいる筆者に送られてきた箱の中身。Abbott(アボット)製のCMGセンサー、アルコールティッシュ、センサーの上に貼るテープパッチ(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

まだ多くのことが解明されていない。例えば個人によって代謝反応に大きな差がある(まったく同じ食事を摂っても、人によって反応が大きく異なることがある)のはなぜかや、糖尿病やがんなどの発症リスクの増大に炎症がどのような役割を果たしているのか、といったことだ。

したがって、スタートアップ各社の病気を予測する能力は、今後の研究の必要性によって決まってくる(ただし、研究の進展のためにデータを収集して理解することは、企業家がひそかに狙っているビジネスチャンスの重要な部分ではあるが)。

また、問題となっているセンシングハードウェアは、大半のスタートアップが追求している「一般的な健康」という使用事例において規制の対象になっていない。

つまり、こうしたサービスはまだ新しい領域、つまり実験段階ということだ。たとえスタートアップが転用しようとしているハードウェアが老舗の医療機器会社によって製造されているという点で合法であり、より狭い範囲における使い方(糖尿病管理など)では規制の対象になるとしてもだ。

通常、このようなセンサーは、糖尿病患者が定期的に血糖測定を行う代わりに血糖値をトラッキングするためのデバイスとして規制当局の認可を受けている。そのため、スタートアップ各社は信頼性を付与され、同じデバイスメーカーのAPIに接続して同じデータストリームを取得できるようになるかもしれない。しかし、こうしたサービスがデータに付与するのは、偏った解釈だ。

生活習慣に関するアドバイスを含む、より広範な分析を行えば、FDAには絶対に認可されない。

栄養に関して長年に渡って激しく繰り返されてきた議論、すなわち、一時的な流行りの食事療法、ベストセラー本、体に良い食物と悪い食物や効果的な運動に関して繰り返される議論などは、人間の生態と人間が定期的に自分の体をさらすもの(食物、運動など)の間の相互作用に関する理解が不十分であるために起こってきた現象だ。

すべての構成要素がどのように相互作用するのかを完全に理解せずに複雑なシステムを計測しても、全体像を把握することはできない。把握できるのはせいぜいスナップショットだ。それでも理解を深めることができるかもしれないが、すべての答えがそこにあるわけではない。誤った解釈のリスクは本当に存在するのだ。気を付けなければならない。

「代謝健全性」の計測を実際にどのように行うのかという疑問もある。代謝健全性というのは漠然とした言葉だ。複雑な生物相互作用が化学反応を引き起こし、それによって体に必要なエネルギーが生成され、その結果、健全な体重を簡単に維持できることになる(あるいは維持できない場合もある)。つまり、体全体の健康を実現するのを支援することもあれば邪魔することもある。

食事の内容、方法、時刻、およびその時に十分に活動し休息を取れているか(ストレスを感じることなく)は、代謝機能に影響を及ぼす可能性のある動的な変動要因のほんの一部に過ぎない(わかりやすい例。今日体内で食材が代謝される方法は、昨日食べたものによって影響を受ける可能性がある)。センシングデバイスで焦点を絞って追跡するよう選択された生体指標(複数の場合もある)によって「代謝健全性」サービスでわかるもの、そして推定できるものも明らかに違ってくる。

代謝健全性を追求するスタートアップは、血中グルコース値のトラッキングから腸内微生物や体の排出物(尿など)の分析、あるいは、出力とシグナルの組み合わせの確認(心拍数を考慮に入れることもある)など、さまざまな方法を模索している。そのうち、より多くの体のシグナルがチェック対象に追加され、十分に解明していくための取り組みが行われるだろう。しかし、現状の代謝トラッキングの多くはせいぜいパズルの1ピースに過ぎない。陰影付けの線よりも空白のほうが多いスケッチ(つまり、大まかな推測)のようなものだ。

あらゆる生体化学を理解する最新技術の製品化を試みる人たちにとって、さまざまな代謝シグナルの組み合わせから得られるデータを理解する、いや最善の解釈を導き出す方法については、疑問と課題が山積みの状態だ。Ultrahumanの創業者もこの点を認めており、次のように話す。「血中グルコース値という生体指標から生成される情報を正確なものにすることが、当社の最も重要な使命です」。

Ultrahumanのウェブサイトには、Cyborgのサービスは「スポーツ愛好家が自分の血中グルコース値レベルと運動能力を把握するための一般的な情報を提供するもの」であり、医師の意見の代わりになるものでもなければ、特定の病状や健康上の懸念のケアや対処方法を構成するものではないという免責条項がある。

代謝の謎を解き、代謝健全性の概念を商用化するという企業使命はまだまだ現在も進行中だが、次の2つのことは明確だ。第1に、生物学的機能の理解を深めようとするニーズが存在している(トップアスリートだけでなく多くの人たちが体内で起こっていること全般、とりわけ代謝について関心を持っている)。第2に、この種のヘルストラッキングテクノロジーが個人ユーザーにもたらす長期的利点は何なのかについて、重大でありながら、未確認のさまざまな主張が行われている。

そこで、注意していただきたい点をもう1つ。代謝バイオハッキングに是非関わりたいと考えている人は、その制限についても明確にしておく必要がある。

少しばかりのデータを取得しても、診断を下すどころか、適切な理解さえできないこともある。この場合データ量が多いと、ノイズと混乱が増え、必ずしも明確なシグナルが得られるとは限らない。本来心配する必要のないことまで心配になることもある。

この10年間、デジタルでの健康 / ウェルネストラッキングの消費ブームは、侵襲的 / 半侵襲的なウェアラブル機器に関しては伸びが鈍化していたが、それもうなずける。侵襲的ウェアラブルとは、体の内部に(少しだけ)刺し込んで使うセンシングデバイスのことだ。

たとえ部分的でもウェアラブルな(UltrahumanのCyborgの場合は、皮膚パッチを皮下に刺して間質液中にセンシングフィラメントが押し込まれるようにする)代謝トラッキングサービス、それがこのレビューの中心テーマだ。この半侵襲的センサーとアプリの組み合わせで、代謝健全性を把握して評価する代わりにほぼリアルタイムでグルコース濃度をモニタリングする。血糖値が高いと、効果的な生活習慣に向けて改善するよう装着者にアドバイスや警告が出される。

目的は、センサー装着者の日常生活におけるグルコース濃度を安定させて(著しく高いまたは低い状態を避けて)、健康に悪影響を及ぼすような炎症と酸化ストレスを軽減するという包括的なミッションを達成することだ。

Ultrahumanが提案しているのは「代謝健全性」(同社が自社のミッションを説明するために好んで使うフレーズ)に注意を払い、食事の内容と時刻、運動や睡眠の質と時刻に関して少しでも対策を講じることで、時間の経過とともに、糖尿病、非アルコール性脂肪肝、心臓血管病などの代謝異常を発症する可能性のある慢性的炎症を回避したり好転させたりできるというものだ。

食事療法は、CGMテクノロジーを製品化しているスタートアップによって常にあからさまに宣伝されているわけではないが、血糖値の急上昇は、もちろん甘い食べ物の摂取(および過剰摂取)と関連している。いずれも体重の増加につながる可能性がある。したがって、代謝健全性を支援することは、健康的な体重を達成してそれを維持できるよう助けることを意味する。

慢性疾患のリスク軽減、体重管理支援、運動能力を向上させるスマートなデジタルアシスタントなど、マスコミに取り上げられそうな潜在的利益があることを考えると、大手スタートアップがこぞって代謝の謎を解明しマネタイズしようとしているのもうなずける。

また、スタートアップ側のビジネスチャンスという点では、文字どおり「ワイヤイン(針を刺す)」タイプの消費者向けヘルストラッカーは間違いなく、Apple Watchなど、手首に装着するトラッキングギアなどの主流からは外れた位置付けだ。だがそのおかげで大手消費者向けテック企業との競争は少なくなり、挑戦を続ける企業家には成功のチャンスとなる。

Appleのウェアラブルデバイスのバックパネルに収納可能なグルコース測定用の金属針が埋め込まれていたら、そのグルコース検知フィラメントの外観がどれほどしゃれていても、Apple Watchの出荷数は現状に遠く及ばなかっただろう(噂では、Appleはもちろん、針を使わないグルコースモニタリング機能をApple Watchに埋め込みたいと考えているようだ。うまく機能するならだが)。

皮膚に針を刺すのは(実際にはそうでもないとしても)面倒そうな感じがする。そして当然、多くの人が針と聞いただけで嫌がる。ということは、バイオハッキングの最先端で健康定量化スタートアップが、主流の大手消費者向けテック企業よりもはっきりとした足跡を残す存在になるチャンスと市場余地があるということだ。人々の針恐怖症に臆せず挑む自己定量化テクノロジーは、より本格的であるように思える。というのは、トラッキングされる生体内作用に文字どおり近い位置で計測するからだ。

とはいえ、トラッカーを皮下に挿入することで、センサーを侵襲性の低い形で装着する場合に比べて、取得されるデータの質、そのデータの分析、結果としてユーザーに提示されるアドバイスといった点において有意な差異が生まれるのかどうかは簡単には答えられない質問だ(実際、非常に多くの質問が生じ、その内容はコンテキストとサービスの実施によって変わる)。

UltrahumanのCyborgの場合、大げさな約束をしないよう慎重に事を進めている。マーケティングでは「食事と運動が体に与える影響と毎日の改善のモチベーションとなるスコアをリアルタイムで確認し、改善の取り組みを行う」のはユーザーの責任である、とベータ版に同梱されている簡単な説明書に記載されている。

Cyborgが出力する代謝スコアはパーソナライズされるが、科学的にはまだ解明されていない部分が多い生体内作用を抽象化し解釈したものだ。したがって、再度いうが、これは答えを探している途中の段階であって、明確な1つの「生物学的真実」をやすやすとユーザーに与えるものではない(要するに、差し出す真実などないのだ。あるのはユーザーの好奇心を満たす示唆的な大量のデータだけである)。

少しばかり知識があるのは危険なことだが(問題になっているデータが自分の生物学的状態に関連する場合、その危険性はもっと高まる)、人の体内の働きを垣間見るのは興味のある人にとって間違いなくおもしろいことだろう。このデジタル時代にあっては、コンピューターのキーを一打するだけで、健康に関する研究情報をいくらでも見ることができる。誰でも自分の生物学的状態について多少なりとも興味があるのではないだろうか。

危険なのは、おそらく、侵襲性の高いセンサーを装着することで、この種のトラッカーが、単なるデータ処理(および代謝プロセスに関するより広範な科学的理解)の域を出ない機能よりも高品質の情報(より個人の特質に沿った情報)を与えてくれるものとユーザーが自動的に思い込んでしまうことだろう。

しかし、Ultrahumanはこのサイエンスフィクション的なイメージをセールスポイントとして前面に押し出すことを恐れない。だからこそ、皮膚の中にセンサーを装着し、センサーと人体を直接接合することを意図的に強調した「Cyborg」という商標名をあからさまに選択したのだ。つまり、このデバイスが「少しずつ段階を追って健康増進へと導く」ことを約束する健康定量化サービスを実現する特殊なソースであることを暗示している。しかも、食事内容の大幅な変更や退屈でストレスのたまる包括的な運動プランは必要ない。

他の多くのスタートアップが同じ(または類似の)CGMハードウェアを利用しているため、魔法のごとく自動的にデータを取得する機能はすでにコモディティ化されている可能性がある。重要なのは、取得した情報を視覚化し、分析して、個々のユーザーの特質に合わせて提供することだ。

しかし、ここでも、上述の科学的理解の不確実さを考えると、定量化は本質的に難しそうだ。

もちろん皮肉屋に言わせれば、それこそスタートアップにとって完璧なビジネスチャンスだということになるのだろうが。

Ultrahuman製Cyborgの動作の仕組み

Ultrahumanは、代謝健全性を算定するために、血中グルコース値の動的な変化をトラッキングすることを選択した。

なぜグルコースなのか。UltrahumanのCEO兼共同創業者のMohit Kumar(モーヒト・クマール)氏によると、グルコースは「食事、ストレス、睡眠、活動に敏感に反応するリアルタイムの生体指標」であるため、Cyborgで達成したいことを実現するのに最適だったからだという。

「当初は健康増進をパーソナライズするための生体指標と手法も探していましたが、当社が目指しているインパクトが与えられる生態指標を特定するのに1年に渡る実験が必要でした。HRV(心拍数のばらつき)、睡眠、呼吸数など、あらゆる生体指標を検討しましたが、グルコースは生活習慣の食事面についてフィードバックが得られるため、最もおもしろいものに思えました」とクマール氏はいう。

「つまり、さまざまな生活習慣要因について即座にフィードバックを得ることができるのです。そして、これまで見たところ、即座にフィードバックを与えたほうが実際に行動に移す可能性が高くなるようです。例えばスパイク(血糖値の急上昇)を引き起こす食事の後にすぐ散歩するようアドバイスしたほうが、翌日出力されるレポートよりも、行動に移す可能性が高くなります」。

「次に、活動のパフォーマンスを高めるフィットネスウェアラブルやマーカーはたくさんありますが、食事の最適化を支援するものは皆無です。栄養摂取は一般にブラックボックスであり、食事の種類と個人的好みが幾百もあることを考えるとはるかに複雑です。ですが、食物エコシステムが破壊されていることを考えると、栄養摂取は最も重要な生活習慣の要素です」。

「半侵襲的生体指標であってもグルコースを指標として選択することがROIの観点から大いに意味があると感じた理由もそこにあります。非公開ベータ版によって、どのようなアドバイスと情報を与えれば人の生活習慣を簡単に変えられるのかがわかってきました。アプリ公開時には大勢のユーザーが参加しました。21歳くらいのユーザーが毎日計測を行い、大半の人が使い始めてから約45日目で健康に大きな改善が見られました」。

CGMテクノロジーのおかげで血糖値の変動をリアルタイムでトラッキングできるようになったことは、数週間、数カ月に渡って試行錯誤しながら進める従来のダイエットのような、ユーザーに忍耐を強いるビジネスに即座に大きな前進をもたらした。こうした従来のダイエットでは、食事と運動の内容を変えて数週間または数カ月後に実際に効果があったかどうかを確認する。

指に針を刺して繰り返し計測する方法ではなく、継続的な血中グルコース値をトラッキングする方法が近年、CGMハードウェアの開発によって実現された。CGMは当初、糖尿病と正式に診断された患者向けだったが、最近は、このテクノロジーを製品化して健康に懸念のある、またはフィットネス指向の消費者に販売するスタートアップがますます増えている。

このテクノロジーによって興味深い科学的事実が明らかになっている。例えばこの2018年の研究論文には、グルコースの調節異常(正常と考えられる範囲外の値を示すこと)は実は健康な人たち、つまり糖尿病または糖尿病予備群と診断されていない人たちの間でもごく普通に起こっていることが示されている。これは、研究者にとって意外なことだった。

ベーシックレベルでは、Ultrahumanのサービスは腕に装着するセンシングハードウェア(円盤型のセンサー、2週間ごとに交換が必要)と血中グルコース値を視覚化し警告とアドバイスを行うアプリがセットで提供される。トラッキングを継続するために、センサーは交換のたびにアプリとペアリングする。

平均的なフィットネスウェアラブルではない(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

センサーハードウェアを製造しているのは、米国の医療機器メーカーAbbott(アボット)という別の会社だ。本稿の執筆時点でUltrahuman製品といっしょに出荷される専用センサーは、アボットのFreeStyle Libre 2(フリースタイル・リブレ2)というグルコースモニタリングシステムだ。

CGMセンサーを自分で装着するのは少し神経を使う。これは、1回で正しく装着する必要があるからだ。TechCrunchに送られてきたベータ版の箱にはセンサーが2つしか入っていなかったので、センサーを無駄にしたくなかった。

筆者が装着した時には、センサーの装着とセットアップを説明した2つの(ロボットのおもしろい音声による)動画がUltrahumanによって制作されていた。これは役に立った。が、少し耳障りなところがあった(数滴血が飛び散ることがあるのであまり強く押し付けないようにと言っている部分が原因だろう)。

アボット製のハードウェアにも、独自の操作説明書とばね仕掛けの装着器が同梱されている。これを手動で準備し、上腕を上げてプラスチックのカップを装着位置にセットしてから、不安な気持ちになりつつも、押し下げてフィラメントを皮膚に向けて発射する。この動作は非常に速いので、思わずぎくりとする。Ultrahumanの操作説明動画に出てくる「中空の針」というフレーズを思い出してもあまり役に立たないかもしれない。しかしこの針はフィラメントを誘導するためのもので、腕の中に目に見える金属が残されたままになることはない。

血は飛び散ったかというと、筆者の気づいた限りではそのようなことはなかった。ただし、2回目に装着したセンサーは神経か何かに刺さったのか数日間かなり痛みがあった。その後落ち着いて安定した。もしくは、筆者が慣れたのかもしれない。

1台目のセンサーは装着時に痛みはなかったが、腕にプラスチック片を付けた状態で眠るのに慣れるまで少し時間がかかった。あるヨガのポーズを取ると、センサーを不自然に押し付けてしまうのを避けるため、余分に体をねじる必要があることに気づいた。また、CGMを装着している期間中は夜間、非常に高いピッチのすすり泣きが確かに聞こえたように思うが、筆者が電気羊の夢を見ていただけなのかもしれない。

センサーを付けたままシャワーを浴びたり入浴したりすることはできる。Ultrahumanの製品箱には、センサーを保護するための(腕にブランド名を表示する目的もある)布テープパッチが同梱されている。このパッチは、生活習慣によっては数日で剥がれてくることもあるが、センサー自体は筆者の2週間のテスト期間中しっかりと固着されていた。ぼろぼろになったパッチを剥がして新しいものと交換することはできる(予備のパッチがあればだが)。しかし、パッチを早めに剥がしたためにセンサーを通常より早く引き抜いてしまいたくないので、この作業も神経を使う。基本的には、Macbook(マックブック)ステッカーを貼るのと同じくらい楽しい。

センシング用フィラメント自体に興味のある方のために言っておくと、これはそれほど細くない針金ような感じだ。最初に腕から引き抜くときに確認できる。この時見て思ったのだが、何らかの黒いペイントでコーティングされているようだった。で、見ていてあまり気持ちの良いものではなかったが、そのコーティングが少し剥がれていた。だが、皮膚に装着したまま生活して2週間が経過する頃までには、体がCyborgを受容した。スマートな感じだ。

センサーを腕から引き抜いたところ(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

跡が残るかどうかだが、フィラメントが皮膚を穿孔した場所に赤い小さな腫れが残る。これはしばらくすると消えた。テープおよびセンサー内蔵の固定具(テープよりもはるかにしっかりと皮膚に接触したままである)で皮膚に問題が生じることはなかった。

センサーはBluetooth経由でUltrahumanのアプリとペアリングされる。このため、電話が腕と数メートルの範囲内にないと接続が切れることがある。そうなると、データフロー(およびリアルタイムアラート)が停止する。電話を決して自分の側から離さないようにするための完璧な理由ができたわけだ。

接続が切れると、アプリからその旨が通知され、接続可能になったら電話をタップしセンサーと再接続して失われた読み取り値をアップロードするよう要求される(セットアップ時にも、センサーには、データフローを開始する前にちょっとした「ウォームアップ」時間が必要になる。このため、最初のワークアウトや食事を記録する準備が整うまで部屋の中を行ったり来たりして待つことになるかもしれない)。

1カ月以上に渡って2回に分けて行った(センサー1の装着期間とセンサー2の装着期間の間に中断を入れたため)TechCrunchでのテスト期間中、アプリはまだ開発中だった。このため、ソフトウェアは見た目の大きな変更を含め、多数の変更が行われた。

これにより、グルコースプロット線のグラデーションをあまりにも単純すぎる表示(グルコース値の高低に応じて、常に赤から緑のグラデーションで表示する)から中央の「ターゲットゾーン」を設けるように変更された。ターゲットゾーンでは、プロットが「正常値」を意味する霧がかった緑で表示されるが、値が急降下または急上昇すると黄色、オレンジ、赤の順にグラデーションで表示される。つまり、グルコース値が最適範囲(70mg/dLと110mg/dLの範囲)外になると高すぎる場合も低すぎる場合も赤で表示されることになる。

この変更は大きな改善だった。これまでのバージョンでは、緑は常に良いサインとしてグルコース値が低くなることは常に良いことであると視覚的に示唆されていた。たとえターゲットを下回る値(低血糖)であっても緑で表示されていた。これは、この種の健康定量化製品で見られるデザイン/UXの落とし穴の一例だ。

アプリは、1日を通じて血中グルコース値の増減(またはアボットのハードウェアが間質液から引き出した近似値。糖尿病患者なら誰もがいうだろうが、これらの値は血中グルコースの読み取りと正確に一致するわけではない。また、グルコース値が上昇または下降する際には、フラッシュグルコースモニターに表示されるまでの間に短いタイムラグが発生することがある)をプロットするだけでなく、Ultrahumanが「代謝スコア」と呼ぶ数字(0~100)も表示する。

これは、健康的な生活習慣に向けた改善の実施をアドバイスおよびゲーム化するためにアプリが使用するメインの「指標」の仕組みだ。

Ultrahumanは、このスコアを「全体的な代謝健全性」を表す指標と説明しており、グルコース値のばらつきと平均、およびターゲット目標範囲内に収まっていた時間に基づいて算出しているという。このスコアは毎日深夜に100にリセットされ「日中の活動と体の反応に応じて」増減する。

このゲーム化のミッションは非常にシンプルだ。「目標は毎日、このスコアを最大にすることです」。

実際には、良い(高い)スコアを得られるかどうかは個人の生物学的状態と生活習慣による。そして、気が滅入るが、前日の活動と食事の内容によっては朝起きるとスコアが80台(いや、それよりも悪い数値だと思われる)に落ちていることもある。

注意:ストレスも血糖値に影響を与える可能性があるため、自分では制御不能な出来事が起こると数値に影響が出ることがある。

食事、活動、およびテスト期間中に徐々にアプリに追加されていったその他のタイプの出来事は手動で記録する。

当初、記録は食事または活動の説明を手入力することで行っていたが、その後のアップデートで、食事と活動のインデックスが追加され、構造化されたリストから食事と活動を検索して選択し、その量または時間も指定できるようになったため、すべてを手入力する必要はなくなった。

筆者としては、結局、食事の内容は手入力で記録するほうが良い感じがした。というのは、用意されているリストはあまりに詳しすぎて煩雑なため便利だと感じなかったからだ(「チーズ」と入力すると、ありとあらゆるタイプのチーズが候補として表示されるが、自分が食べているチーズや、実際に皿に盛る量と完全に一致するとは限らないし、そもそも量など認識していないかもしれない。チーズ一品を記録するだけでこの状態だ。これを皿一杯の料理について繰り返すなどうんざりだ。それに、このリストはかなり米国寄りのようで、欧州の食事を記録するにはあまり役に立たなかった)。

対照的に、自分の好みのチーズまたは料理全体のカスタムの説明を手入力しておけば、アプリでカスタムラベルが記録されるため、次回その料理を食べるときに迅速に記録できる。

Ultrahumanが、でき得る限り最高品質の構造化データを実現して、AI予測モデルで要求される広範な実用性を構築したがっていることは間違いない。しかし、記録作業があまりに仕事のように感じられると、ほとんどのユーザーはその仕事をタダでやろうとはしないだろう。このため、カスタムだが謎めいたものではなく、正確で構造化された食事グルコース反応データをベータ版ユーザーベースから取得するよう作業が調整されたのかもしれない。

(実際、食事の写真を撮るようユーザーに依頼し、コンピュータービジョンテクノロジーを適用して情報に基づく推論を行う必要があるのかもしれないが、それでも多くの誤りが入り込む可能性がある。長期的には、このテクノロジーが本当に主流になれば、レストランのメニューに各料理のQRコードが印刷され、それをスキャンする方法も想像できる。この方法ならすべての正しい栄養素データが即座に記録され入力時のイライラも緩和される)。

活動の記録は食事の記録よりもはるかに簡単だ。オリンピック選手でもない限り、活動の記録量は食事の記録量よりもはるかに少なくて済むということもある。

Ultrahumanは、ベータ版ユーザーコミュニティからのフィードバックを受け「ストレスのかかる」出来事と断食を記録のオプションとして追加した。断食はもちろん、血中グルコース値に大混乱を引き起こす可能性があるが、いくつかの研究によると、断食特有の健康面での利点もあるという。したがって、ユーザーにより細かい選択肢を与えて、CGMデータの構造化を進めていくのが合理的だ。

将来的には、他のタイプの消費者向けウェアラブルとの統合により、記録を自動化する可能性もあるようだ。例えばフィットネスバンドやスマートウォッチで具体的な活動を検出し、そのデータをUltrahumanのアプリに渡すという方法は容易に想像できる。ユーザーはアプリで検出されたワークアウトの詳細を確認するよう求められるだけだ。

とはいえ、現時点では、データの入力と構造化の主導権を握っているのは依然としてベータ版ユーザーなので、データ品質は本当にごちゃまぜ状態になっている可能性が高い。

学び

Ultrahumanの使用上の注意によれば、使い始め当初は、安定した高いスコアを得られない可能性が高いとある。

これは、通常、血中グルコース値を安定させるために行う必要があることを学習するには少し時間がかかるからだ。というのは、何が自分に効果的かを確認するために、さまざまな要素(食事の組み合わせ、運動する時刻など)を試してみる必要があるからだ。それでもこれは、保守的なダイエットやフィットネス計画査定の退屈な作業に比べると随分時短プロセスだ(当然だが、何もしなくても安定したグルコタイプ(グルコースの性質)に恵まれている人は、手動による、言わば「舵取り」を実行する必要性はずっと少なくなる)。

筆者はまだ使い始めの恐怖に対する心の準備ができていない。第1週のかなりの部分は、筆者の普段の食事内容についてアプリで見積もられる低いスコアをぼうぜんとして見ていた。

ランチはフムスサラダのピタパン・サンドイッチの後、クルミとリンゴ半分とコーヒー(ミルク入り、砂糖なし)。この食事はまあまあ健康的に思えないだろうか。ところが、筆者にとってこの食事は明らかに健康的ではないのだ。このランチは、Cyborgとして4週間の期間中で常に「下方ゾーン」に位置したままである(スコアもひどかった)。

テスト期間中、常に最低(単に食後のグルコース値が急上昇したという意味で)と判定されたランチは筆者が用意したものではなく、ファストフードによる料理だった。ただし「自然」として謳っているブランドの食品でマックバーガーとポテトチップなどよりはるかに健康的な選択のはずだった。

問題の料理Leon’s lentil masala(「レオン」のレンズ豆のマサラ)は玄米を使用しており、レギュラーサイズのココナッツミルクラテ(植物性ミルクブランドRude Health(ルードヘルス)のもの)が付いていたが、これもひどいスコアを記録した。グルコース値があまりに急上昇したため、元のレベルに戻すために急遽高強度インターバルトレーニングを行う必要があると判断されたほどだ。

トレーニングは効いた。ただし、食物を代謝させるためにランチ直後にバーピーとスクワットを何度もやる必要があると、ランチ前にわかっていたら、ランチを変更していただろう。

継続的グルコースモニタリングが普及し、一般消費者が代謝データにリアルタイムでアクセスできるようになったら、ファストフード産業にどのような影響があるかというのは、実に興味深い質問だ。

ファストフードによる大きなスパイク。強度の高い運動をすると消えた(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

レオンの料理を食べる前に小さな文字で印刷されている原材料を確認しなかったが、アプリが赤色で警告してきたことを踏まえ、後で疑いの目でラベルを見てみると、添加物の長いリストの中に上白糖が含まれていることに気づき、さもありなんという感じだった。

ただ、こうした事実を認識したうえで、筆者にとってグルコース値急上昇の引き金となったのはココナッツミルク(シチューやコーヒーの原材料)ではないかと思っている。

残念ながら、食後のコーヒーもおそらく効いていなかった。

Cyborgを装着してわかったことで最も気に入らなかったのは、筆者の場合、コーヒーが血糖値を上げるらしいということだ。緑茶は問題ない。しかし、ブラックコーヒー、デカフェ、ミルク入りコーヒー、どれを飲んでもいくらか血糖値が上がる。筆者の場合、午後、ランチの後にコーヒーを飲むのが好きなのだが、これは食事による上昇に追い打ちをかけることになり、余裕で赤のゾーンに入る可能性がある。

それでも、モーニングコーヒー派になるのは未だに拒否している。

米も多くの人にとって血糖値急上昇の原因となる。白米は、繊維質の豊富な全粒穀物に比べてよりすばやく体に吸収されるからだ。しかし、筆者は白米中心の夕食を摂った後に起こる血糖値の急降下のほうを心配するようになった。血糖値が安定して一晩中ターゲットゾーンに維持されればよいのだが、白米はそれを妨げる方向に働くようなのだ。

結局のところ、低血糖も高血糖と同じくらい避けることが大事だ。少なくとも、それがCGMを4週間装着した後の感覚だ。アプリを使い始めた頃は赤の急上昇を避けることだけに専念していたが、時間の経過とともに急上昇を容易に管理できるようになった。それには、創造的なバイオハックと食事内容の戦略的な修正が必要だ。

例えば筆者は植物ベースのミルクをほとんど食事から除外した(ただし、コーヒーには少量のオートミルクを入れている。そう、コーヒーは完全にはやめていないし、やめる気もない。ただ、一杯のコーヒーを長時間ちびちび飲むようにはしている)。こうした代替ミルクによる血糖値の急上昇は決まって警告を発して無視できないため、筆者はこれはフルーツジュースのようなものと思い避けるのが一番だと考えるようになった。こうした加工度の高い飲み物の宣伝広告では「健康的な選択肢」を提供していることがしきりに強調されているのをよく見かけることを考えると、代替ミルクによる血糖値の急上昇もかなり興味深い。

おもしろいことに、他のCyborgユーザーも似たような問題を報告しているようだ。ある会社のニュースレター要約による共有学習には「アーモンドミルクと朝食のシリアルはホテルのビュッフェの朝食より大きなスパイクを発生させることがある」と書かれている。

これはおそらく、一杯のオレンジジュースは血糖値スパイクを引き起こすが、オレンジを1個まるごと食べてもスパイクは起こらないのと同じメカニズムなのだろう。あるいは、こうした飲料の製造方法における特有の何か(加工方法と特有の添加物など)が原因なのかもしれない。例えば多くのメーカーは飲料に砂糖を入れている(ただ、筆者がシリアルにかけるミルクには砂糖は含まれていないが、それでもスパイクは起きた)。自家製のオートミルクを作って市販のものと直接比較し、スパイクが小さくなるかどうか試したかったのだが、残念ながらその機会はなかった。

筆者は朝食に今でもオーツ麦を食べている。これも繊維質は豊富だが糖質には違いないのでスパイクを起こす可能性があるが、オートミールではなく特大のオーツ麦を摂るようにしている。そしてこれを忘れてはいけないのだが、シリアルにシナモンを多めにまぶすようにしている(これがグルコース値のスパイクを軽減することを発見したからだ)。さらには、水(ミルクの類ではない)、天然ヨーグルト(味付けと必須ビタミン)、そしてよくあるベリーと種子類のミックスといっしょに食べている。

これはCGM装着前の朝食(オーツ麦、ベリー、種子類など。ただしオーツミルクで流し込んではいたが)とそれほど大きく変わってはいない。しかし、代謝スコアでは大きな差が出た。通常スコアが「2」の食事が「9」になった。ばかげたことのように思えるが事実だ(正確には、Cyborgによる筆者の間質液変動の読み取り値によると事実だ)。

また、パンを食べても、それによって生じるスパイクを抑えることができる独創的な方法も見つけた。

パンの量を減らすかまったく食べないようにするのは、血糖負荷を軽減し、結果として血糖値の上昇を管理する方法の1つだ。ただし、オーツ麦などの全粒パンはダイエット効果のある複合糖質なので食事から除外したくなかった。そこで、アプリのリアルタイムグルコースビューの利点を活用して、他の繊維質、たんぱく質、高脂肪食品を摂った後、ランチの終わり近くに、全粒パンのスライスを食べて、消化吸収に時間がかかるようにしてみた。この方法は効果があったようだ。

もう1つリンゴ酢を使ったバイオハックを見つけた。これも効果があった。

シナモンと同様、この種の発酵酢はグルコース値の急上昇を抑える特性があることがわかったので、サワードウで作ったパンを食べる前に発酵酢をかけてみた(まあ、聞いて欲しい)。かなり奇妙に聞こえるが、これがとても美味しい。サラダ、ナッツなどを食べた後、食事の後半にこの方法でパンを食べることで、スパイクが発生していたランチを健康的ゾーンの範囲内のランチに変えることができた。血糖値の変動をリアルタイムで確認できなれば、このような具体的な方法を知る方法などなかっただろう。

問題は、スパイクを引き起こすランチを食べても、そうでないランチと比べてことさら非健康的な感じはしなかったという点だ。アプリで代謝反応を確認できなければ健康に悪いとは思えない。センサーのデータがなければ両者の違いに気づくことなどできなかっただろう。

もちろん、人によって代謝反応は異なるため、パンを5切れ食べてもスパイクがまったく起こらない人もいる。一般化する賢明な方法はない。糖質の摂取を抑え、注意深く食事のバランスをとるなどの基本的な制限を課すことくらいしかない。汎用的で大まかな戦略はあるが、これは即座にフィードバックが返されないとやる気がなくなる。その点で、CGMは、生活習慣ツールとして潜在性、個別対応性という点でまさに変革をもたらす内容になっている。突如として、食物を試して自分に効果があるかどうかを確認できるようになったのだ。

とはいえ、比較的小さな血糖値スパイクを管理することが、代謝トラッカースタートアップが勧めているほど、個人の長期的な健康にとって重要なことなのかどうかは、別の問題だ。

Cyborgを装着した筆者(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

英国のサンダーランド大学で人の代謝作用に影響を与える生物システムの研究をしている科学者Matthew Campbell(マシュー・キャンベル)博士にCGMテクノロジーの一般利用について意見を求めたところ、他の点では健康な人が血中グルコースの管理に精力を注ぐことの有益性については懐疑的だという答えが返ってきた。

「グルコース値は1日を通して変動するのが普通です。静的な値ではなく、動的に大きく動く値なのです。しかし、平均値は正常範囲内に収まっている必要があります。高いリスクがあると特徴付けられる人たちにはカットオフポイント(正常とみなされる範囲を区切る値)があります。例えば食事の後グルコース値が特定レベル以下に下がらないとか、慢性的に値が高い場合は朝の時間帯でもグルコース値が高いままであるとかいった場合です。それが、糖尿病や糖尿病予備群、つまり糖尿病を発症する危険性のある人たちを診断するときのカットポイントになります」。

「健康な人がグルコース値をトラッキングすることの問題点は、恣意的な値を取り得るという点です。数値が下がっているなら問題はなく、上がっているならあまり良くないわけですが、正常な範囲内に収まっている場合は、すでに健康な範囲内にあるグルコース値を1ミリモル減らすことが臨床的に有用なのか、健康上有益なのか、健康上の利点があるのかどうかについてはわかりません」。

「ですから、グルコース値が、全時間の95%、健全な範囲内に収まっているのに、変動幅を少なくして平坦にしたり、値をさらに下げるよう積極的に管理したりしても、さらなる健康上の利点がもたらされるとは思いません。すでに健康な範囲内にいるのですから」。

キャンベル博士はまた、CGMから得られる血中グルコース値データを、ユーザーの体内で起こっているグルコース値レベルに影響を与える可能性のあるすべてのことに正しく関連付けるのは難しいと指摘し、タイムラグだけでなく、ユーザーの腕のセンサー装着位置も読み取り値に影響を与える可能があると付け加えた。

「ですから特定の状況下で、体重、性別、民族性、個々の遺伝子構造など、さまざまなすべての要因がグルコース値に影響を及ぼします。睡眠、栄養素なども影響を与えます。このテクノロジーが単にグルコース値をトラッキングするだけでそうした他の要因を考慮しないなら、グルコース値に影響を及ぼしている要因を情報に基づいて判断するのは極めて難しいでしょう」と同博士はいう。

ただし、同博士は、アスリートがCGMを利用することの潜在性について肯定的だ。

「こうしたセンサーが役立つ例として、先程一流アスリートについて言及されていましたが、極めて高度な練習、または長時間に渡る練習をしている場合は、糖尿病でなくても、血糖値レベルが低下する危険があります。こうしたセンサーの多くは、アラート機能を備えていますから、安心です」と付け加えた。

またキャンベル博士はおもしろい比較もしてくれた。グルコース値が正常範囲外になっても、その人の代謝が積極的に対応して元のレベルに戻すことができるなら、常に問題になるとは限らないというのだ。

「考え方は、運動中の心拍数に少し似ています。同じ強度の運動をしても、他の人に比べて心拍数が上がる人がいます。そうすると、非常に激しく運動した結果、健康が低下したのだと考えるかもしれません」。

「しかし、心拍数の変動が非常に大きいということは、心臓血管の柔軟性が非常に高いことを示唆しています。これは運動耐性が非常に高く、健康状態が非常に良いことと深い関係があります。グルコース値の反応も同じことではないでしょうか 」。

「ですから、グルコース値のレベルが正常範囲外になったというのは必ずしも事実ではありません。なぜなら、そういう状態は多くの人たちに起こっており、その人たちは代謝的に健全だからです。全体像を見ることが重要だと思います」。

そのうえで、キャンベル博士はこうしたサービスの本当の有用性はCGMデータをアルゴリズムと機械学習で補強できる点にあると指摘する。機械学習では「データ内のパターンを見つけ、さまざまな情報を組み合わせることができます。『これを行った後にあなたのグルコース値は上昇しました』などと自分に都合の良いデータだけを選択するわけではありません。グルコース値が上昇しても、その後すごい勢いで下降すれば問題はありませんし、むしろ良いことですから」。

低血糖の話に戻ると、筆者は個人的に興味深い体験をした。一晩中グルコース値が低い状態が続いたのだが、それは夜中に冷や汗や生理痛で目が覚めたことと関係があることがアプリを使用して(Ultrahumanのアプリ内コーチとチャットして筆者のCGMデータを手動で解析してもらったことも含む)わかったのだ。

また、こうした一晩中続く低血糖は飲酒をともなう食事の後に起こることが多いことにも気づいた(飲酒には通常の代謝プロセスを妨げるという悪魔的な効果がある)。そこで、食事とアルコールの比率を用心深く見続けること、そして夕食に栄養分の少ない料理(白米など)でワインを飲んだ後、就寝前までの時間にたんぱく質の豊富なスナック菓子を食べることを、夜中に低血糖や生理痛が発生するリスクを抑えるためのちょっとしたハックとして行った。これならワインを飲みながらの食事を控えなくてもできる。

その場合の個人的な利点は明らかだ。睡眠を妨げられて不快にならずに済む。

この発見から推測して、私よりも年上の親戚に夜にスナック菓子を食べる同じようなハックを提案することができた。その親戚は数カ月間、夜間の慢性的な生理痛に悩まされていたのだが、ベッドタイムにスナック菓子を食べる戦略を含めるよう計画変更したところ、夜中の生理痛からほぼ解放されたという知らせがすぐに届いた。

これらはもちろん、単なる事例だ。しかし、それらは、生活習慣上の奇妙な行動とCGMデータ間の点を、個人が実験し、接続し、結び付けることができる可能性があることを示している。

スタンフォード大学の教授で上述の先駆的な研究論文の共著者であるMichael Snyder(マイケル・シンドラー)博士は、CGMを製品化する独自の代謝健全性トラッキングサービスを販売する米国のスタートアップJanuary AI(ジャニュアリー・エーアイ)の共同創業者である。シンドラー博士はご推察のとおり、このテクノロジーの利点を布教して個人ユーザーに価値ある事実を伝えている。

シンドラー教授は実は2型糖尿病患者であり、現時点で約10年間CGMを装着して病状を管理している。したがって、このテクノロジーの有用性をコメントするのにふさわしい人物だ。

シンドラー教授の個人的なCGMの使い方は具体的な病状に合わせたものであるため、Ultrahuman、ジャニュアリー・エーアイ、およびこの分野のその他のスタートアップがターゲットとしている一般的なフィットネスと健康のための使い方とは大きく異なる。しかし、CGMテクノロジーが広範に使われるようになることで、人々が糖尿病予備群または糖尿病になるリスクを管理または低下させることができると同教授は指摘する。

「自分がスパイクを起こす食物とそうでない食物がすぐにわかります。それは人によって異なります」と同教授は言い、こう続ける。「グルコース調節異常でありながらそれを認識していない人がいます。これは大事なことです。というのは、糖尿病予備群の9割は自分の病状を認識しておらず、7割がそのまま糖尿病になってしまうからです。ですから、グルコース値をコントロールして糖尿病の発症を数年遅らせることが期待できるのは本当に価値のあることだといえます」。

「人が食べる物には隠された秘密があります。少なくともその人にとっては秘密ですが、他の誰かにとっては明白なことかもしれません。しかし、何でも知っていると思っている人でさえ、私の見たところでは、わかっていなかったことを学びます。そう、とにかくあらゆるものに砂糖が含まれています」。

「この考え方には多くの人が賛同すると思いますが、第二次世界大戦直後と比較して、人々は現在、当時の4万倍以上の糖質を摂取しているはずです。とにかくあらゆるものに砂糖が含まれています」。

  1. IMG_5889

    画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch
  2. IMG_5391-1

    画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch
  3. IMG_5953

    画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch
  4. IMG_5886

    画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch
  5. IMG_5410

    画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch

 

 

「私に言わせると、世界中の人たちは、少なくとも何らかの治療を受けたときにはグルコース値を計測してもらうべきだと思います。グルコース値をコントロールしている場合は計測回数を減らして、定期的に計測します。糖尿病予備軍または糖尿病の人にとって、この情報はある程度命を救ってくれるものになると思います」と同教授はいう。

シンドラー教授は、このテクノロジーは今よりずっとパワフルになると予測する。あらゆる経験データに基づき食物に対する反応についてAIと予測モデリングが追加されていくからだ。現在はアーリーアダプターによって食後に入力されている状態だ。

「AIが必要なのはそのためです」と同教授は言い、こう続ける。「まず、自分がスパイクを起こす食物とそうでない食物を知る必要があります。これは経験しなければわかりません。実際に食べてみなければスパイクが起こるかどうかわかりませんから。ぶどうでスパイクを起こす人もいれば、パスタでスパイクを起こす人もいます。白米を食べると誰でもスパイクを起こします」。

「スパイクを起こす食物は人によって異なります。ゆくゆくはスパイクを予測できるようになりますが、今は経験するしかありません。このようなデバイスが行っているのはまさにそれで、スパイクが起きるかどうか教えてくれるわけです」。

「ジャニュアリー・エーアイには食物推薦システムが備わっています。というのも、『あなたが食べているものでスパイクを起こすのはこれです。他の食物の構成についてもわかっています』と教えたり、そこそこの予測精度で『この食物はスパイクを起こさなかったから食べて良い、これはダメ』といったことを示したりできるためです」と同教授は付け加えた。

「ばかげていると思うかもしれませんが、これはビッグデータの問題です。こうした推測を可能にするには大量のデータと十分な理解が必要です」。

同様に、ジャニュアリー・エーアイでは、ユーザーの活動レベルも考慮している。活動レベルもグルコース値に影響を与えるからだ。シンドラー教授は、この2つの要素をトラッキングするだけでもこうしたサービスは十分に役に立つと指摘する。

「スパイクを起こす食物と活動レベル、基本的にこの2つの要素が重要です。もちろん他にも要因はたくさんあります。これがデータの問題である理由もそこにあります。ユーザーの個人的なデータを十分に取り込むことで、そのユーザーに効果のある方法を判断するためのデータが得られます」と同教授はいう。

個人的に、このことだけは確実に言える。これほど興味をそそるガジェットは今まで見たことがない。純粋に情報レベルだけで判断してもそう思う。

Ultrahumanのアプリが提供する定型的なアラートは、ポップアップ表示され、グルコース値が上がっていると警告し、グルコースレベルを下げるために運動せよと提案したり「睡眠の質と代謝反応を上げるために」夕食を早めに摂るようアドバイスしたり、スパイク/クラッシュが最小限に抑えられた場合に「すばらしい/すごい1日の始まりです」なとど高らかに宣言したりする。しかし、アラートは筆者にとってこの製品のおそらく最も役に立たない要素だった。というのは、データに注意を払っていれば、いちいちアラートで通知されなくても自分でわかるからだ。

筆者は、食事と運動のさまざまな工夫を試してみて、霧がかった緑の正常ゾーンを維持するためのハックや戦略を見つけられないか確認するという作業にあっという間にはまってしまった。

食べたものが体内でどのように処理されるのかを見るのは、本当に素晴らしくもありゾッとすることでもある。しかし、注意が必要だ。ランチや夕食時に急に携帯を取り出して、まず食事の内容をアプリに記録し、食べたものに対する体の反応にスコアが付けられるのを我が事のように観察したりしたら、恋人に嫌われるだろう。スクリーンタイムも長くなるためダブルパンチだ。これまでの中でも最も使用時間が長いアプリだ(食事中も食べているものをアプリに記録していることを考えると、本当にそうだ)。

だが、もちろん、このアプリも完璧ではない。

筆者が見つけた機能上の目立った問題として、このアプリでは、運動関連のスパイク(強度の高い運動をすると血糖値がターゲット範囲外に上昇することがある)と食事関連のスパイクを区別できない場合がある(注意深く記録を取っていたとしてもそうだ)。このため、実際には問題ないのにひどいスコアになってしまうことがある。

アプリのチャット機能を使ってこの点を質問してみた。Ultrahumanのコーチによると、運動関連のスパイクは何も心配する必要はないという。「強度の高い運動やHIIT(高強度インターバルトレーニング)を行うとアドレナリンとコルチゾールの値が上がり、それが肝臓を刺激してグリコーゲンがグルコースに分解されます」というのがコーチの1人から受けた説明だ。「何の心配もいりません。自然な現象です」という安心できる言葉も頂いた。

しかし、糖尿病の人は、たとえ運動が原因であっても、グルコース値がターゲットゾーンの範囲外になる場合は心配する必要があるかもそれない。糖尿病患者は上昇した血中グルコースを元のレベルに戻すのに苦労する可能性があるからだ。糖尿病ではない人、つまりUltrahumanがCyborgの対象と考えている一般消費者は、理論上、心配する必要はない。

しかし、このアプリの場合、現状では激しい運動の直後に食事を摂ると、少し心配になることがある。HIITによるグルコース値の上昇(これは通常「良いスパイク」として通知される)と、食事関連のグルコース値の上昇が混ざり合って、代謝スコアが低くなるのだ。

「良いスパイク」と悪いスパイクを正確に識別する修正は明らかに現在進行中だ。

この点についてクマール氏に質問したところ、次のような回答が返ってきた。「グルコース生体指標から生成される情報の精度を高めることは、当社のミッションの中心課題です。食物などに対する人体の反応の度合いを判定する臨床レベルのパラメーターを見ると、X(食物のマクロレベルおよびミクロレベルの成分)とY(回復状態。ストレス、睡眠不足、微生物叢の多様性など)の組み合わせであることがわかります」。

「現行のプラットフォームでは、Xを詳しく見ているため、食物に対するグルコースの反応については多くの例外があります。2022年始めに導入される当社のカスタムハードウェアでは、Yの残りの要因(心拍変動、睡眠など)を捕捉することでXの見方を変更する予定です。これによって、食物と活動に対する反応の見方、結果として得られる精度がまったく変わってくると思っています」。

「例えば新しいプラットフォームでは、スパイクにおける活動と食物の寄与度を明確に算出できます。これができるのは、グルコースと、カスタムのハードウェアウェアラブルデバイスによって捕捉されるその他の要因の組み合わせに基づいて、グリコーゲンのおおよその放出しきい値を算定できるからです」。

またクマール氏によると、Ultrahumanは、グルコース、インスリン、その他の身体パラメーター(中性脂肪とホルモンバランス)に関連する研究の臨床試験を開始して「グルコースモニタリング機能による予測(代謝スコア)と実際の代謝健全性の間の適切な相関関係」を確立したいと考えているという。

「この目標は、より小さなツールと非連続のグルコース値を利用して過去にも試みたのですが、v2でははるかに多くの検証が行えると思います」と同氏は予測する。

というわけで、ここでも、CGMにおいてユーザーの腕から取得する「パーソナライズされた」データのスナップショットの精度を改善するには、さらなる研究が必要になる。つまり、こうした最先端の健康定量化サービスでも、体内で刻々と起こっていることを比較的大ざっぱに査定している可能性があるということだ。

食物についても、もちろん、同様の複雑な問題がある(毎回の食事で1つの食材しか摂取しない場合は別だが)。

ほとんどの人はさまざまな食材を組み合わせて(さまざまな成分をまとめて)食べる。重要なのは、私たちが食べているのは多種多様な成分の組み合わせであるという点だ。そして、皿の上のさまざまな成分を摂る順序によって、それらの代謝方法も影響を受ける可能性がある。同じ食事でも食べ方(または食べる時刻)が異なると代謝のされ方も異なる。

繊維質の豊富な食物(サラダ、野菜など)から始めて、たんぱく質と脂肪を摂り、最後に炭水化物で終わる食事(フムスサラダピタのランチを分解したもの)は、おそらく、同じ食材をパンに挟んで手早く食べやすい方法で食べるよりも代謝スコアは低くなるだろう。

Cyborgを装着した4週間ではっきりとわかった重要なことがある。便利なファストフードを一定の速度でガツガツ食べると、容赦なく、いかにも不健全なグルコースの大きなスパイクが発生する。

また、加工度の高い食品(つまり、砂糖、防腐剤、油などを使った調理済みの食事)は、鮮度の高い自然食品よりもスパイクが発生する可能性が高い。

これは別に驚きもしなかった。筆者は加工度の高い食品は避け、新鮮で最小限に加工された成分を使って自分で調理したものを食べるようにしてきたからだ。とはいえ、加工度の高い食品でスパイクが発生するという事実は、西洋の問題の多い食文化の多くがいかにして形成されてきたかを如実に示している。時は金なりという考え方でスピードを重視した結果、食べられる程度のインスタンス食品を日持ちのする儲かる食品に変えるために人工甘味料やその他の添加物が大量に使われるようになった。

CGMを使ってみてわかったのは、炎症と酸化ストレスの少ない健康的な方法で食べるには、食物の準備と消費の両方により多くの時間をかける必要があるということだ。

より健康的な成分を自分で買い集めるのは、包装済みの「すぐに食べられる」食品を買うよりもお金がかかる。つまり、健康には時間とお金の両面でコストがかかる。したがって、代謝健全性に本格的に取り組み始めると考えるべき社会経済的な考慮事項が山ほど出てくる。

このパンドラの箱を開けることには、我々の破壊された食品システムを超えた意味合いがある。つまり、我々の社会に焼き付けられた広範な構造上の不平等に触れることになる。

健康状態の悪さと貧困は関連していることがよくある。ビッグデータとAIが価値のある健康情報へのアクセスを民主化する(個人が十分な知識を習得することで広範な実用性がスケールする)ことでそのリンクを断つことができるかどうかはまだわからない。あるいは、健康テクノロジーのスマート化が進む中、テクノロジー格差によって不平等がさらに加速することになるのだろうか。これもわからない。

Cyborgというと人類の新しい上流階級がすぐに思い浮かぶ。だが、トラッカーを買う余裕などない人たちはどうなるのだろうか。

夕食にピザ?ゆっくりだが確実な血糖値の上昇が待っている……(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

評定と価格

筆者は代謝トラッキングが謳っている潜在的利益の大きさについては未だに懐疑的だが(懐疑的で健全だと思っている)、Ultrahuman製Cyborgを装着した4週間で、これが何か大きなものの始まりであることを十分に納得できた。それに筆者には、体重を落としたいとか、体を鍛えたいなど、この製品を是非試してみたいというニーズもなかった。ただ、健康を維持することに興味があっただけだ。

また、フィットネス用ウェアラブルデバイスの愛好者というわけでもない。だが、この製品は自己定量化ツールとしてレベルが異なっていると感じた。

未来のヘルスケアの目的は、データアクセシビリティを活用して何が健康に良くて何が悪いのかという情報を知らせ補強することによって、予防介入の方向へシフトすることだ。とはいえ、代謝健全性に関しては、まだまだ知識と研究が不足していることは否めない。

個々のセンサーから得られたデータ(Ultrahumanのサービスだけでも本稿の執筆時点で400倍のCyborgが生まれている)が研究に使用され、複雑な代謝プロセスの理解がどんどん深まっていくだろう。商業的関心から自社の見解を支持し強調する結果を探すようになる危険性は幾分あるものの、潜在的な使用規模(こうしたサービスはどんどん増えている)によって透明性が推進され、技術がクリーンな状態に維持されるはずだ。

と同時に、慎重になるべき点もたくさんある。

非常に関心があり科学的知識も豊富なユーザーは、データ解釈の助けとなる広範な知識とリソースを利用できるため、この種のトラッキングサービスを最大限に活用できるだろうが、情報の少ないユーザーは情報の意味を過度に単純化して読み取る可能性がある。

また、明白なストレス要因を食物や他の生活習慣にリンクさせることで、摂食障害などの問題を引き起こす(または悪化させる)危険性もある。したがって、こうしたサービスのラッパー(やさしく使うための仕組み)とサポートが、CGMテクノロジーで提供される機能を最大限に活用する鍵となる。

簡単にいうと、貧弱なUX設計は深刻な結果をもたらす可能性がある。サービスの設計と実施に関する十分なケアと適切な配慮が必要だ。

長期的に見ると、血中グルコースのスナップショットビューという機能自体、制約が多すぎるのかもしれない。

さまざまなシグナルや生体指標を取り込んで個人の代謝作用について最善の理解を得るには、より統合されたトラッキングプラットフォームが必要になるだろう。ただし、現時点では、グルコースのトラッキングが第一歩のように感じられる。つまり、時間の経過とともに大きな恩恵が蓄積していくであろう生活習慣の調整を試してみる機会を提供してくれるものだ。ある意味、このほうがずっとやる気が起きる。健康食品の選択にいろいろと迷ってもリアルタイムのフィードバックなど一切ないからだ。

この製品を4週間使っただけで多くの興味深い情報が得られたし、本当に示唆に富む経験ができた。アボガドと卵は最高の朝食だ。ビールはひどいスパイクを起こすがリンゴ酒は実際に薬効がある。オリーブとナッツはまさに神の食物だ。こうした経験から小さいが息の長い生活習慣の変更をいくつか行うことができた。

こうした変更が長期的な健康という観点から本当に価値のあるものなのかまだ結論は出ていない。だが、それほど極端な変更ではないことを考えると、効果が出る可能性はわずかしかないとしても、問題はないのではないか。

ただし、別の問題がある。炭水化物によって大きなスパイクが発生することはわかった。だが、その結果に基づいて炭水化物の摂取量をさらに減らすと、トレーニングのためのエネルギー量が制限されてしまうのではないかと心配になった。

筆者の場合、炭水化物の摂取量はすでにかなり低いため、食物はエネルギーとなることを忘れるわけにはいかない。そして必要なエネルギーは変動する。したがって、血中グルコース値について「スパイクは悪い、安定しているのがベスト」という考え方をするのは、平均以上のスポーツ好きの生活を送っている人にとっては単純化し過ぎのきらいがある。

トラッカーのデータは是非ともしかるべき専門家に見てもらう必要がある。パーソナルトレーナーは、トレーニングに必要なエネルギー量を認識したうえで筆者の測定結果をはるかに賢明に活用できる能力を備えている可能性が高い。このようなトレーナーは、食事の調整についてもアドバイスできるかもしれない。それに基づいてパンを食べることが許されるかもしれない。

もちろんパーソナルトレーナーやパーソナル栄養士など、誰でも雇えるものでもないし(オリンピック選手でもない限り)生活習慣に基づいて正当化できるものでもない。そういう点では、この製品は価値があるように思う(ただ、得られるのはほとんど生のデータなので、より広範な解釈の大半を自分で行う必要があるが)。

Ultrahuman製Cyborgの価格は、ベータ版プログラムで2週間最大80ドル(約9000円)または12週間で470ドル(約53000円)だ。専属のパーソナルトレーナーに24時間体制で自分のデータを解析してもらうと、これよりはるかに高くなる。そういう点ではかなりお買い得だと思う(まともなパーソナルトレーナーを雇うと1時間80ドル(約9000円)くらいは取られる)。

このアプリがフルタイムのパーソナルトレーナーになることを目指しているわけではないことは強調しておく必要がある。ただし、血中グルコース値が高くなりすぎると運動するよう勧めたり、過去を振り返ってベストなワークアウトゾーン(つまり、1週間の間で運動するのに最適な時間帯を食事の方法に基づいて決めたもの)を特定したりといった基本的なことはやってくれる(「傾向はわかっていますか?この時間を有益に使って次回のワークアウトをこなしてください」という提案をメールで受け取ったことがあるが、正直言って、このアドバイスは役に立つというより思いつきのような感じがした)。

このアプリには人間のコーチが数人付いていて、質問を受けたり、データを分析したりしてくれる。また招待者限定のCyborg Slack(Cyborgスラック) チャンネル経由で他のユーザーにいつでも助けを求めることもできる(ただし、これはクラウドソーシングによって得られる知恵であり、専属のプロによるサポートではない)。したがって、価格は比較的リーズナブルだが、微妙なニュアンスの情報を知りたいときには、ほとんどの場合ユーザーが自分だけで解決する必要がある。

もう1つよく考えておくべきことがある。データ駆動型で野心的に予測を行うAI製品はどれも同じだが、Cyborgはユーザーをトレーニングしているだけではない。ユーザーのデータによってCyborgもトレーニングされているのだ。自分の生体情報を24時間休みなく提供することに、どのくらいの金銭的価値があるとお思いだろうか。

極めて私的なパーソナルデータから導出される価値はユーザーとデバイスの間を双方向に流れる。しかし、両者間でフローが均等に分配されているとは限らない。このサービスから十分な価値を得ていると感じているなら、それでもよいだろう。だが、プライバシーへの配慮がなされているかどうかは無視できない。

サービスにアクセスできるなら、このような私的なデータを民間企業と共有してもかまわないという人もいるだろう。しかし、Ultrahumanが規定しているCyborg向けのプライバシーポリシーには、ユーザーの情報が別の場所に送られる状況について記載されている。例えば召喚状を受け取った場合は、応じることが法的に義務付けられている。

このプライバシーポリシーには「匿名の集約データは、広告会社、調査会社、その他のパートナー企業と共有することがあります」という記載もある。また、アドテック業界が同じトピックについて複数の方法でデータを収集し共有することで個人のプロフィールの質を高めてターゲティング可能にするために貪欲に取り組んではいるが(「糖尿病」などのラベルを付けることも含む)、ヘルスデータを確実に匿名化するのは難しいことがよく知られている。したがって、CGMから吸い上げられた極めて個人的なデータが最近のウェブの巧みに操作されるマイクロターゲティング広告マトリックスに登録されることも、残念ながら、想像される。

個人的な感想はこのくらいにしておこう。クマール氏自身はCGMを使ってグルコースをトラッキングすることで何を学んだのだろうか?

「私にとって最も大きな学びは、自分が食べるものの範囲を広げて、自分の好きな食物をもっと食事に取り入れるようにすることです。CGMが登場する前は、自己管理型のダイエットを行っていましたが、ソーシャルイーティングに影響するため、長くは続きませんでした。Cyborgを使うようになって、食事と活動のバランスをとる方法を理解できるようになりました。ウェイトトレーニングをする日や全般に活動量の多い日は、いつもより少し柔軟に考えて好きなものを食べてもよいのだと思えるようになりました」と同氏はいう。

「もう1つの大きな学び、これはまだ進行中ですが、1日を通して安定したエネルギーレベルを維持することです。私の場合、グルコースレベルの安定とエネルギーレベルの安定の間に大まかな相関関係があります。ですから、仕事で大量の資料を読む必要がある週は、エネルギーレベルを安定させるようにしています」。

最先端の競争

この分野は、自己定量化トレンドにおける針恐怖症を乗り越えて開けた真の開拓地だ。あまり踏み荒らされていない市場で、スタートアップが実験的にビジネスチャンスを狙っている。当然、退屈な旧式の歩数と睡眠のトラッキングよりもはるかにおもしろい。それはまさに、この種のトラッカーはあまりなじみがないからだ。

ばね仕掛けのCGMセンサーを自分の腕に発射すると純粋に発見の感覚を覚える。ある種の市民科学共同体に関与している先駆者のような気分だ。自身の生活習慣の健全性を問いただす実験を設計し実行するというすばらしい機会を与えられる。

それに加えて、自分で個人的に学習したことが他の人たちの役に立つかもしれないという包括的な可能性がある。これが実現できるのは、Ultrahuman製Cyborgに関するコミュニティ構築の取り組みのおかげだ(例えばSlackチャンネルでは、アーリーアダプターたちが自分たちの学びを共有するよう促される。また、バーチャルおよび対面のオフ会も開かれる)。それで、社会貢献の使命を果たしている気分にもなる。

皮膚の穿孔を通じたマンマシン相互作用に関わる勇気のあるスタートアップは注目を浴びるチャンスだ。結局、主流の大手テック企業はそこまで変わったことはやれないのだ。そんなことをしたら、もっと平凡な生体指標のトラッキングを支持するより広範な健康定量化ユーザーからそっぽを向かれてしまうからだ。

そのおかげで、このようなスタートアップは、極めて私的な生体データを取得して自社の製品開発、データサイエンス、AIモデル、アルゴリズムによる予測機能に入力として与える機会を得られる。そして、消費者がヘルスサービスのパーソナライズを望む中、競争で有利な立場を得て先頭に立てる可能性もある。

血中グルコーストラッキング(従来は糖尿病またはその予備軍の症状がある人たちを対象としていた)の最前線では、多くのスタートアップがその気のあるユーザーの間質液に入り込むという思い切った方法をとるようになっている。

インドのUltrahuman(Cyborgサービスはまだベータ段階)だけでなく、他にも多数のスタートアップがある。米国におけるCGMを活用したUltrahumanの競合他社をいくつか挙げてみる。ジャニュアリー・エーアイはグルコーストラッキングと心拍数モニターデータを組み合わせて食物の予測と運動レシピのパーソナライズを提供し、過剰摂取した食物を燃焼させるのを支援する。Levels Heath(レベルズ・ヘルス)はa16zからの支援を受けている。Signos(シグノス)はCGMを使用してリアルタイムの減量アドバイスを提供している。Supersapiens(スーパーサピエンス)は運動能力を重視している。NutriSense(ニュートリセンス)は日々の健康度を最適化する全体像キャッチフレーズを提供する。

競合他社は欧州にもいる。英国本拠のZoe(ゾーイ)は、大規模な微生物叢研究から得たデータを使用してAIモデルを生成し、個々の食物の反応を予測する。このため、ユーザーに血中グルコースモニターを装着させるだけでなく、糞便サンプルを提出してもらい、ラボで解析する。

他にも欧州でグルコースモニタリングを目指しているスタートアップとして、ドイツのPerfood(パーフード)は食事のパーソナライズによる体重管理を行い、オランダのClear Nutrition(クリア・ニュートリション)は食物に対するユーザー固有の反応を学習してユーザー専用の栄養プランを構築している。本稿の執筆時点では、この発生期の領域にある他の欧州企業として、フィンランドのVeristable(ヴェリステーブル)(略称Veri)は、24時間体制のグルコースモニターサービスの広告を写真共有ソーシャルネットワークInstagram(インスタグラム)に掲載している。

この広告では、いかにもヒップスター的な見た目のモデルがUltrahumanのサービス(および他の多くのサービス)で使用するのと同じ円盤型のウェアラブルデバイスを身に付けている。このデバイスはスタイリッシュなグレーのパッチで留められている。Ultrahumanの円盤型ディスクは白黒で、斜体のKの文字がくっきりと入っていた。「何を食べるべきか推測するのはもう終わり」とヴェリステーブルの広告は宣言し、この159ユーロ(約2万円)のサービスに目を向けさせている。

Veri(6月にシードラウンドで資金を調達、ベンチャーデータベースCrunchbase(クランチベース)による)とUltrahuman、および他の多くのスタートアップがアボット製のCGM(前述のフリースタイル・リブレ)を使用している。この円盤型のデータ収集デバイスには、中空の針の付いたばね仕掛けの装着具が同梱されている。位置を固定してしっかりと、しかしあまり強すぎない程度に押し下げるとフィラメントが皮膚に直接発射される。

ここで珍しいのはテクノロジーそのものではない。CGMは世に出てから数年経っている(アボットのフリースタイル・リブレは2016年に導入された。一方、別のメーカーDexcom(デクスコム)は、他社の糖尿病管理用電子デバイスで使用できる完全互換CGMとして2018年にFDAの認可を受けている)。実験的なのは、CGMを使って行っていることである。

つまり、CGMは変革的なテクノロジーとして糖尿病および糖尿病予備群の患者たちにすでに利用されているが、自分たちの体についてもっと知りたいと思っている一般ユーザー向けにCGMを商業化する動きがあったのは比較的最近のことだ。

2021年夏、デクスコムは、サードパーティーデベロッパーとデバイス向けのリアルタイムAPIとしてFDAの認可を受けた。フィットネスハードウェアメーカーGarmin(ガーミン)はユーザーによる自身のグルコースデータへのアクセスを拡張するためにデクスコムと提携した数社のうちの1社だ。ただし、依然として糖尿病患者向けの実用性を高めることに重点が置かれている。

ただし、投資家たちはすぐに幅広い消費者がいる可能性を察知し、資金をどんどん投入して開発を加速させ、より多くの人たちにCGMを広げようとしている。

例えば2021年初め、ジャニュアリー・エーアイはさらに880万ドル(約10億200万円)を追加調達し、ゾーイは2021年5月に530万ドル(約6億300万円)のシリーズBラウンドをクローズした(Balderton(バルデントン)が投資家として追加され、最近、事業規模を拡大している)。Ultrahumanも1750万ドル(約19億9000万円)のシリーズBラウンドを実施すると発表した(2021年8月)。一方、シグノスも11月にシリーズAで1300万ドル(約14億8000万円)を調達している。

データ量が増えれば、投入されるVC資金が急増するのは確実だ。

Ultrahumanの広報は潜在的な最大市場規模に触れ「代謝健全性危機」が始まろうとしていると指摘する。具体的には、米国人の88%以上(世界の人口の約80%)が「代謝性疾患に対処する」ことになるという。そして、Ultrahumanの「Cyborgアーミー」(同社はアーリーアダプターたちをこう呼んでいる)に加わることで恩恵を受けられる可能性があるとしている。

したがって潜在的な最大市場は巨大だ。だが、このような広範なオンボーディングを行うことで、結果的に容易に習熟できるようになると思われる。スタートアップ各社は、抵抗の少ないアーリーアダプターや運動愛好家たち以外にもユーザー層を拡大し、このテクノロジーが放っておいても伸びるような自己定量化とバイオハッキングコミュニティの外に踏み出そうとしている。

Ultrahumanのコミュニティ構築の取り組みでは、Cyborgの招待者限定スラックチャンネルとTownhall(タウンホール)を介してユーザーに個人の体験とさまざまなヒントを共有するよう促すことに重点を置いている。また、スポーツ好きのインフルエンサーを登録して、運動エネルギーの補給とその他のバイオハッキング手法の利点を伝えてもらい、CGMを身に付けることに目的を与えようとしている。

「現在、糖尿病患者の数は全世界で5億人を超えていますが、さらに全体的に見れば、6億人を超える糖尿病予備群がいることに気づけます」と同社の広報は指摘し、その対処方法として、CGMテクノロジーと「健康スコアアルゴリズム」および「即座の健康アドバイス」の組み合わせを提案する。そして、これにより「数百万人がこの危機を管理し回避することができる」としている。

数百万人が皮膚にセンサーを付けることに納得するかどうかはまだわからない。

このテクノロジーは進化して、あまり精度を落とすことなく、侵襲性が低く、主流に沿ったものになるだろう。そうなれば、標準的なフィットネスキットにはならないと考える理由はなくなる。

代謝トラッカーのサブスクリプションサービスに数百万人がお金を出すようになるかどうは、また別の問題だ。だが、この種のデータにアクセスできる状態を少しでも体験してしまうと、病みつきになる可能性がある。もちろん、センサーが生活習慣の選択に関するデータ、どのくらい健康的な生活を送っているを示すソフトウェアスコアをフィードバックしてくると、若干、監視され判断されているという気持ちにはなるかもしれない。

おかしなもので、世界中に蔓延している甘いものを追い求める不健康な習慣が、今や商業的に逆用されて、血糖値の上昇と下降をトラッキングしバイオハッキングするようになった。少なくとも、次の血糖値の上昇を盲目的に追いかけるよりも健康的な習慣だとは思うが。

画像クレジット:

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

紛失・盗難対策トラッカーTileがモバイルアプリにストーカー対策安全機能を追加

貴重品の紛失・盗難対策トラッカーで AppleのAirTag(エアタグ)と競合するTile(タイル)は米国時間3月17日、初のストーカー対策機能「Scan and Secure(スキャン・アンド・セキュア)」を導入する。2021年10月に発表されたこの技術は、2022年初頭の導入が約束されていた。Tileのモバイルアプリを利用するユーザーは、一緒に移動している可能性のある未知のTileまたはTile対応デバイスをスキャンすることができるようになる。同社によると、この新技術を利用するためには、ユーザーがTileの所有者であったりTileの発見ネットワークに加入している必要はない。また、iOSとAndroidの両方で誰でもアクセス可能だ。

Scan and Secureを利用するには、最新バージョンのTileアプリが必要。また、Bluetooth、Location、Location Services、Precise Locationをモバイルデバイスで「オン」にしておく必要がある。Tileによると、この機能を使用するために、以上の設定やその他の許可設定を変更する必要がある場合は、モバイルアプリ内でそれを促す表示が出るという。

画像クレジット:Tile

アップデート後、新規ユーザーは、アプリのサインイン画面の右上にある「Scan」アイコンをタップすると、この機能にアクセスできるようになる。既存のユーザーも、アプリの設定から「Scan and Secure」にアクセスすることができる。

スキャンのプロセスには、ユーザーの近くにあるTileデバイスを見つけることを可能にするような「正確な場所を探す」ツールは含まれていない。Scan and Secureを機能させるためには、ユーザーは一定の距離を歩くか車で移動する必要がある。Tileによると、フルスキャンを完了し、正確な結果を出すには、連続でも最大10分かかる。家の中をただ歩いている場合や、公共交通機関の中など、近くにある他のTileを検知してしまうような人混みでは機能しない。

スキャンの結果は、完了するとアプリに表示される。ユーザーは、その結果を法執行機関に提出するために保存しておくことができるとTileは助言する。同社は、ユーザーが複数のスキャンを実行することが望ましいと指摘する。スキャン中に一時的に通過したデバイスや、実際に一緒に移動していたデバイスの可能性を排除するためだ。また、スキャンの画像を使って、見た目でデバイスの位置を特定することも提案している。残念ながら「正確な場所を探す」機能はないため、巧妙に隠れたデバイスを見つけられないユーザーもいるだろう。

画像クレジット:Tile

同社は、ストーカー行為などの犯罪行為に使われたデバイスの所有者を特定するために、裁判所命令を通じて法執行機関と協力するとしている。

TileのScan and Secure機能は、Apple(アップル)が提供するAirTagの安全性を確保するためのツール群ほど包括的なものではない。Appleは、AirTagがストーカー行為やカージャックに利用されたという多くの報告を受け、AirTagsとFind My networkをアップデートし、警告とアラートを強化した。これには、Appleがストーカーを特定し、そのデータを警察と共有することができるというストーカー予備軍への警告や、ストーカー被害者の可能性を示す詳細で先を見越したアラートなどが含まれている。さらにAppleは、今後のアップデートにより「正確な場所を探す」機能や大きな音が鳴るアラートを使って、一緒に移動しているAirTagの位置を特定できるようにすると述べた。ゆくゆくは、スピーカーを無効にしたデバイスを見つけることができるようになるという。

Scan and Secureは、Tileモバイルアプリのユーザーを対象に今後数週間かけて徐々に提供されるが、Tileアカウントの有無にかかわらず、iOSおよびAndroidのすべてのユーザーがアクセスできるようになる予定だ。

同社は、この新機能について、安全の専門家に相談したと述べている。専門家らは、ユーザーが自身でスキャンができることは有用な機能だと助言した。特に、ストーカー被害者の70%近くが加害者を知っており、その多くが被害者のパートナーであることもわかっている。

「例えば、家庭内暴力の被害者がパートナーと別れる準備をしている場合、最も安全な時間や場所を選んで、自分の位置を追跡できるデバイスがあるかどうかを前もって確認できるのは便利です」とドメスティック・バイオレンス撲滅全国ネットワークのセーフティ・ネット・プロジェクト・ディレクターであるErica Olsen(エリカ・オルセン)氏は話す。「安全性を高めるには、コントロールを彼らの手に委ねることが重要です」と同氏はいう。

ストーカー問題とは関係のないプライバシーに関する懸念が、ここ数カ月Tileを悩ませてきた。Tileの新しい親会社であるLife360が、顧客データを位置情報仲介業者に売っているとの報道があったからだ。調査の結果、Life360は販売を終了すると述べた

Tileは、他の専門家や支援団体と協力し、時間をかけて安全機能をさらに向上させていくとしている。

画像クレジット:Tile

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

アップル、AirTagを悪用したストーカー問題に次期アップデートで対応

Apple(アップル)は米国2月10日、AirTagアクセサリが個人または人の所有物を密かに、あるいは同意なしにストーキングするために使用されているという問題に対処すべく、AirTagおよびFind Myネットワークに関する一連の今後のアップデートを発表した。2021年春のAirTagリリース後、多くのメディア報道や地元警察からの最新情報で、AirTagが人や貴重品(例えば泥棒が盗むつもりのクルマ)などの不要な追跡に使用されている事例が警告された。その結果、消費者のプライバシーを重視する企業として自らを位置づけていたAppleにとって、PR上の悪夢が広がることになった。

Appleは米国時間2月10日、AirTagの仕組みを変更する計画で消費者、安全の専門家、法執行機関からのフィードバックに応えた。

同社は、AirTagsとFind My(探す)ネットワークの両方で、一連のアップデートを間もなく実施すると発表した。まず、新しいプライバシー警告、アラート、文書の提示から始める。また、新しい精密な発見ツールやAirTagのアラートと音の調整など、他の機能の導入についても今後のリリースに向けて「調査中」だ。

まず、Appleのデバイスは、今後のソフトウェアアップデートにより、AirTagの設定プロセスにおいて、新しいプライバシーに関する警告を表示するようになる。この警告は、本来の目的である持ち物の追跡以外の用途でのAirTag使用を抑止することを目的としている。この警告は、同意なしに人を追跡することは犯罪であり、警察当局はAirTagの所有者の識別情報を要求できることをユーザーに知らせる。

画像クレジット:Apple

Appleはまた、受け取ったすべてのAirTag関連の要請について法執行機関と積極的に協業していると述べ、召喚状やその他の有効な法執行機関の要請に応えて、アカウントの詳細を提供することができると指摘した。これが可能なのは、すべてのAirTagがApple IDに関連付けられた固有のシリアル番号を持っているためだ。同社は、この情報を提供することで、多くの場合、警察当局はAirTagの所有者を突き止めることができ、そうした所有者は捕まり、起訴されている、と述べた。しかしAppleは何件のケースに関与したのかについては言及を避けた。

さらにAppleは、ストーカー被害に遭っているのではないかという人々の不安を和らげるために、紛らわしい警告の1つを変更する予定だ。同社はユーザーから、見知らぬAirTagが自分を追跡していると思わせた「持ち主不明のアクセサリが検出された」というアラートをどのように受け取ったか、話を聞いた。しかし、Appleはこのアラートが近くにある持ち主不明のAirTagには表示されず、AirPods(第3世代)、AirPods Pro、AirPods Maxまたはサードパーティ製のFind Myネットワークアクセサリのみであることを確認した。Appleは今後、このアラートを更新し「持ち主不明のアクセサリ」ではなく「AirPods」がユーザーと一緒に移動していることを示すようにする。

画像クレジット:Apple

Appleはまた、不要な追跡に関するサポートドキュメントを更新し、Find Myアクセサリとその追跡アラートに関するより詳しい情報を掲載する予定だ。アラートの具体例を示す画像が提供され、ドキュメントでは、ストーカー行為の被害者になった場合にどうすればよいか、さらなる説明が示される。

しかし、AirTagとFind Myの大きな変更はまだ取り組んでいる最中だ。

その中には、アラートを受信した後、近くにいる持ち主不明のAirTagの位置を特定することができる新しい精密検索機能が含まれている。AirTagを使ったストーカー被害では、AirTagが一緒に移動しているという警告を受けたとき、検索しても見つからないという苦情が多く寄せられた。そのため、被害者はAirTagがまだ近くにあるのかどうかわからず、無防備な状態だと感じた。

画像クレジット:Apple

iPhone 11、iPhone 12、iPhone 13のユーザーは、精密検索機能を活用することで、自分のAirTagデバイスと同じように、持ち主不明のAirTagが範囲内にあるときに、方向と距離の両方を確認することができるようになる。この機能は、カメラ、ARKit、加速度計、ジャイロスコープからのインプットを使って、音、触覚、視覚フィードバックとともにAirTagに誘導する。

AirTagストーカー事例から出てきた別の不満は、ストーキング目的で持ち主不明のAirTagが仕組まれてから、被害者のデバイスが実際に警告を出すまでにどれだけの遅延があるかということだ。ソフトウェアによって警告される前に、AirTagは何時間も街中を一緒に移動していたと指摘した人もいた。

Appleは、持ち主不明のAirTagやFind Myネットワークアクセサリ(ChipoloなどのAirTag代替品を含む)が一緒に移動している可能性があることを「より早くユーザーに通知する」ように警告ロジックを更新する予定だと述べた。しかし、同社は、ユーザーがこれらの警告をどの程度早く受け取れるかについては示さなかった。

Appleはまた、警告の仕組みを後で調整する予定だ。持ち主不明のAirTagが検出された場合、iPhone、iPad、iPod touchにビジュアルアラートを表示し、同時にサウンドを出すようにする。このアラートは、精密検索ツールを使ってAirTagの位置を特定するためのさらなる支援にユーザーを誘導するか、または、AirTagから音が出るようにする予定だ。この機能は、アラートが聞き取りにくいところにAirTagがある場合に役立つ。また、ストーカー事例で問題となっている、AirTagのスピーカーに細工が施された場合にも、発見ツールが役立つ。実際、スピーカーが無効化されたAirTagがeBayやEtsyで売られているのがここ数週間で発見されてもいる

Appleは、持ち主不明のAirTagをより簡単に見つけられるよう、トーンシーケンスを調整してより大きなトーンを使用すると述べた。

このニュースを発表するにあたり、Appleはテクノロジーを使ってストーカー行為をすることは社会問題であり、そしてAirTagsは良い方向にも使われている、という主張を展開した。この件は、他のデバイスメーカーもAppleに続いて自社の製品にこのような積極的な機能を追加するよう働きかけた。例えば、AirTagのライバルであるTileは、安全機能に取り組んでいると述べたが、まだ提供していない。同社は最近、家族追跡・コミュニケーションアプリのLife360に買収された

National Network to End Domestic Violence(ドメスティック・バイオレンス撲滅全国ネットワーク)やNational Center for Victims of Crime(全米犯罪被害者センター)など安全問題に取り組む団体は、Appleの取り組みを称賛した。National Network to End Domestic Violenceは、ディレクターのErica Olsen(エリカ・オルセン)氏を通じて「Appleが被害者の安全についての会話に関与している」ことを喜び、同社が「セーフガードの改善を続けている」と述べた。National Center for Victims of Crimeは、エグゼクティブディレクターのRenee Williams(レニー・ウィリアムズ)氏を通じて、もう少し冷静な声明を発表した。

「これらの不要な追跡の警告が私たちに示していることは、Appleのシステムが動作しているということです。同時に、この問題を啓発しています」とウィリアムズ氏は述べた。「テクノロジーによる虐待、ストーカー行為、または嫌がらせを経験している場合、我々は、法執行機関に加えて、被害者のためのリソースになることができます」と同氏は付け加えた。

望まない追跡の問題に対処するために、Appleがこの分野の他の企業よりもはるかに多くのことを行っているというのは正しいかもしれないが、より高い基準が要求されるのも事実だ。同社はより徹底した製品開発に投資する資金とリソースを持っているだけでなく、アプリのアンチトラッキング機能のような最近の発表も含め、消費者のプライバシーに配慮する企業として自社を位置づけてきた。

AirTagがどのように悪用されるかを考慮する先見性をAppleがなぜ持たなかったのかは不明だ。そして、多くの女性を雇用することにテック業界が苦戦していることが、ここで問題になった可能性があるのではという疑問が生じる。ストーカー被害者の大半を占める女性は、AirTagの機能に関する問題を容易に認識できたかもしれない。

Appleにコメントを求めたところ、アップデートがいつ実施されるのか、どのソフトウェアのバージョンにこの変更が含まれるのか、同社は言及を避けたが、これは新機能で保護されるかどうか、いつ保護されるのかを知りたい消費者にとっては有益な情報だろう。

画像クレジット:Apple

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

天気予報AccuWeatherが大気汚染データのスタートアップ仏Plume Labsを買収

天気予報会社のAccuWeather(アキュウェザー)がフランスのスタートアップPlume Labs(プルームラブズ)を買収する。買収条件は非公表。2014年の創業以来、Plume Labsは徐々に提供プロダクトを拡大し、大気汚染データに特化した3種類のプロダクトを展開している。

Plume Labsはまず、iOSとAndroid向けに、空気の質に関する情報を提供するモバイルアプリを立ち上げた。当初は、シンプルな都市レベルの大気汚染予測アプリだった。さまざまなソースからのデータを集約し、大気汚染が時間とともにどのように変化するかを予測していた。

その後、同社は予測能力を向上させ、現在では数日先の大気環境を予測することができる。同社は、予測にいくつかの機械学習モデルを使用している。また、通りごとの情報を含む詳細な地図も提供するようになった。これにより、自転車や原付バイクで通勤している人は、避けた方がいい特に交通量の多い通りがわかるようになった。

そしてPlume Labsは、空気質のトラッキングを視覚的かつ実用的にすることで、ユーザーが行動に移せるようにしたいと考えた。そこでBluetooth Low Energyを利用してスマートフォンに接続する、独自の大気質トラッカーを設計した。

この第2世代の装置は、粒子状物質(PM1、PM2.5、PM10)および汚染ガス(二酸化窒素、揮発性有機化合物)を追跡することができる。現在、政府が支援するモニタリングステーションよりもPlume Labsのデバイスは多く使用されており、比較的成功している。

最後に、Plume Labsは大気汚染データをAPIとして提供し始めた。同社は、世界中の何千もの環境モニタリングステーションを集約し、このデータに機械学習モデルを適用している。こうすることで、Plume Labsの顧客は、自社の製品に大気汚染データを統合したい場合に一歩先に進められる。異なるデータソースを扱い、これらのデータセットを1つのセットに統合する必要はない。同様に、大気汚染に適用する機械学習にリソースを割り当てる必要もない。

AccuWeatherは2020年1月にPlume Labsのデータを自社の天気予報プロダクトに統合した。AccuWeatherはその機会を利用してPlume Labsの株式を取得した。そして今回はさらに一歩踏み込んで、残りの株式を買収する。

「大気質は、人命救助と人々の繁栄を支援するというAccuWeatherのミッションにおいて本質的な役割を担っています。今回の買収により、ユーザーや顧客に、よりパーソナライズされた体験と、天候が健康に与える影響に関する360度理解を提供することができます」と、AccuWeather社長のSteven R. Smith(スティーブン・R・スミス)氏は声明で述べた。「2社の提携は、ユーザーが健康をこれまで以上にコントロールできるようサポートするという約束を実現し、この新しい戦略的方向性によって、目標にさらにしっかりとコミットしています」。

Plume Labsは、AccuWeatherの気候・環境データのセンターとなる。この買収は、大気汚染が多くの産業にとって重要な指標になりつつあることを証明している。

Plume Labsの共同創業者でCEOのRomain Lacombe(ロメイン・ラクーム)氏は「7年前、David Lissmyrと私は、誰もが大気質情報を利用できるようにするためにPlume Labsを設立しました。それ以来、私たちの活動は、気候変動の健康への影響を身近なものにすることで、きれいな空気を求める闘いに刺激を与えてきました。今、AccuWeatherと力を合わせることは、私たちの影響を地球規模で増幅し、世界中で15億人が大気汚染を回避するのを助ける特別な機会です」と声明で述べた。

今後、Plume Labsのチームと技術の運用は続き、山火事など他の環境リスクにも取り組む予定だ。気候リスク予測はまだ初期段階だが、今回の買収は時間の経過とともにその重要性が増していくことを裏付けている。

画像クレジット:Plume Labs

原文へ

(文:Romain Dillet、翻訳:Nariko Mizoguchi

【レビュー】FightCamp、データドリブンな「パンチ」でワークアウト!

身体が痛い……。

座っていられないほどの痛み、というわけではない。「よし、長年無視していた筋肉を鍛えたぞ!」という感じ。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの低迷から抜け出そうとしている今、これは良いことだ。

原因はPeloton(ペロトン)のサイクリングではなく、コネクティッド(接続された)ホームジムの分野に新たに登場した製品である。その名も「FightCamp(ファイトキャンプ)」。名前が示すとおり、パンチングバッグとスマートトラッカーに接続したグローブがセットになったホームエクササイズシステムで、ボクシングとキックボクシングに特化している。

FightCampを1カ月以上使ってみた筆者としては「汗をかくワークアウトで、定期的に行えば体幹、バランス、スピード、ボクシングの基本的なノウハウを向上させることができる」と言って(書いて)も差し支えないと思う。ボクシングをやってみたいけれどもボクシングジムや総合格闘技センターに行くのは怖い、という人にも、誰からもジャッジされない安全な方法を提供してくれる。

成り立ち

FightCampが何であり、何をするものかを理解するために、その由来を振り返る価値はあるだろう。FightCampは、コネクテッドホームワークアウトシステム「FightCamp」が発売される4年前の2014年「Hykso(ヒクソー)」として設立された。その後の4年間、同社が開発したフィットネストラッカーは、オリンピックの出場経験もあるボクシング選手によってテストと改良を繰り返した。米国、カナダ、中国を含む複数のオリンピックボクシングチームがこのトラッカーを使用し、史上最高クラスのボクサーであるManny Pacquiao(マニー・パッキャオ)も初期のユーザーの1人だった。

これらのアスリートたちはすでに最高レベルのボクサーだったので、データにはユーザー層の違いによるレイヤーが存在せず、トラッカーはただトラッキングして大量のデータを蓄積していた。

しかし、おもしろいことが起こった。創業者かつCEOのKhalil Zahar(カリル・ザハール)氏によると、ボクシングのコーチたちが自分たちの顧客にFightCampを使い始めたのだ。

ザハール氏はこのコーチたちを「架け橋になってくれた」という。ここからFightCampのアイデアが生まれた。「私たちは、コーチと一緒にワークアウトをするだけでなく、ボクシングのテクニックを自宅で学べる初心者向けのプログラムを構築して提供しようと考えました」と同氏は話す。

オプション

FightCampには3つのハードウェアパッケージがある。Connectは439ドル(約5万円、ホリデーシーズンは399ドル[約4万6000円])、Personalは1219ドル(約14万円、ホリデーシーズンは999ドル[約11万5000円])、Tribeは1,299ドル(約15万円)である。また、月額39ドル(約4500円)のサブスクリプションに登録する必要がある。iOSアプリや最近追加されたAndroidアプリで1000以上のクラスやドリルなどのコンテンツにアクセスすることができる。ボクシングのパンチだけでなく、キックボクシングなどのワークアウトもあり、すべてのセッションの最後に腹筋やプランクなどの体幹トレーニングを行うようにアプリを設定することも簡単だ。

Connectパッケージはすでに自分のサンドバッグを持っているユーザー向けで、デジタルパンチトラッカーとクイックラップだけが付属している。筆者が試用したPersonalパッケージには、パンチトラッカー、クイックラップ、グローブ、自立型のサンドバッグ、バッグリングが含まれる。その当時はマットも付属していたが、残念ながら現在は付属しないそうだ。

Tribeパッケージはその名のとおり複数人で使用するもので、パンチトラッカー、クイックラップ×2、自立式バッグ、ヘビーワークアウトマット、プレミアムボクシンググローブ×2、バッグリング、キッズボクシンググローブが含まれる。

セットアップ

画像クレジット:Kirsten Korosec

Personalパッケージの箱は2つ。巨大な段ボール箱にはサンドバッグと台座が入っていて、もう1つの箱にはパンチ数とパワーを記録するパンチトラッカー、クイックラップ、マット、グローブが入っている(現在はマットは含まれない)。

サンドバッグの設置とパンチトラッカーの準備は簡単だ。しかし、サンドバッグはかさばり、置き場によっては少々厄介である。筆者は普段の生活の邪魔にならず、テレビが近くにあるゲストハウスに設置した(詳細は後述)。

マットを敷いたらバッグを乗せる台座を設置する。台座には水や砂を入れる。筆者はゲストハウスの中に外からホースを引き込んだので、設置にかかる時間が大幅に短縮された。そうしないと、水の入ったピッチャーや砂の入ったバケツを持って何度も往復することになる。大変だが、その分運動にはなると考えれば良い。

失敗したのは最初に台座を正確な位置に置かなかったことだ。台座に水や砂(あるいはその両方)を入れてサンドバッグを乗せると、台車がなければ動かせなくなる。

台座とバッグをテレビと反対になるように置いたのが失敗だった。これを直したら、トレーニングの質が格段に向上した。

長所と欠点

画像クレジット:Kirsten Korosec

長所は、上の写真にあるパンチトラッカーが広告で謳われているとおりに機能し、本当にすべてのパンチを追跡してくれることだ。アプリも使いやすく、米国ボクシング協会認定コーチやNASM認定パーソナルトレーナーが指導するワークアウトが豊富に用意されている。

筆者が特に気に入ったのは、ボクシングやキックボクシングの指導に合わせて、体幹のエクササイズを確実に行える設定である。また、シャドーボクシングのクラスもあり、サンドバッグやグローブ、クイックラップ、トラッカーが届く前に、ボクシング用語や基本的なパンチ、ジャブなどを学ぶことができるのも魅力的だ。

FightCampにはユーザーが嫌がるかもしれない欠点もいくつかある。

1つはシステムの大きさである。狭いアパートでは、バッグが貴重なスペースを占めることになり、それを良しとしない人もいるだろう。広い家やガレージがあれば、このシステムはいっそう魅力的に思えるかもしれない。筆者の場合はスペースがあったので、この点は問題なかった。

筆者が感じた主な欠点は、近くにテレビがないと、画面を見なくてもついていけるぐらいワークアウトを覚えなければ、インストラクターにきちんとついていくのが難しいということである。

実際の内容は明確でわかりやすい。コーチは、ユーザーがモチベーションを維持できるように身振りとインストラクションを適切に組み合わせて指導してくれる。筆者もとても勉強になった。

しかし、覚えるのは簡単ではない。テレビの画面を見ることができなかった最初の頃は、動画を止めて前の動きを何度も再生する必要があり、スムーズに進めることができなかった。

テレビの画面を見えるようにしてトレーニングを連続して続けられるようにしたら、より簡単についていけるようになった。正確な動作を見なくても何をすべきかがわかり、1-2-3といわれたら「ジャブ、クロス、フックだ」とわかるようになった。

また、自分のフォームが正しいのかどうかがわからない。パンチトラッカーやアプリにはそのようなフィードバックを提供する機能がないからだ。筆者のように汗をかきたいだけの人には関係のないことかもしれないが。

今後の展開

ザハール氏とFightCampは、コンテンツだけでなく、フォームに関するフィードバック機能の付いたトラッカーや、もっとゲーム化されたワークアウトなどへの拡張を計画している。

「あなたの身体をゲームのコントローラーにすることが基本的なコンセプトです」とザハール氏。「トラッカーは身体をコントローラーとして使えるようにするためだけのものです」。

FightCampでは手首に装着したパンチトラッカーから取得したデータを使って、他のユーザーと競争したり、進捗を確認したりすることができる。ザハール氏は、将来的には足にもトラッカーを付けたいと考えている。

同氏は次のように話す。「その後はユーザーが触れるものすべてに拡張して、コネクテッドフィットネスアクセサリーにしたいと考えています」「縄跳び、バトルロープ、ケトルベル、ボックスジャンプなど、ワークアウト中のあらゆる動きに応じて報酬が得られるようにしたいと思います」。

つまり、FightCampを器具だけのワークアウトシステムにはしたくないということだ。同氏は「トラッカーや、サンドバッグを必要としないコンテンツを追加することで、その目標を達成することができる」という。

すでにFightCampは無料コンテンツを強化している。同社は最近、毎週100以上の無料ワークアウトを提供すると発表した。「Tracker optional(トラッカーはオプション)」と表示されたこれらのワークアウトは、無料かつトラッカー不要で、シャドーボクシング、リカバリー、ストレッチ、キックボクシング、自重エクササイズがメインである。最近追加されたAndroidアプリはまだベータ版なので、現在のところ、これらの無料ワークアウトはiOSアプリでのみ利用できる。

画像クレジット:FightCamp

原文へ

(文:Kirsten Korosec、翻訳:Dragonfly)

ペット追跡GPSトラッカーのTractiveが日本市場に正式参入、犬用トラッカーを販売開始・猫専用も販売予定

ペット追跡GPSトラッカーのTractiveが日本市場に正式参入、犬用トラッカーを販売開始・猫専用も販売予定

オーストリアのペット用品・アプリ開発メーカーのTractiveは1月12日、日本市場への正式参入を発表した。ペットの位置情報をほぼリアルタイムで追跡可能な「Tractive 犬用GPSトラッカー」(Android版iOS版)が日本で販売開始となった。また従来版より小型の猫専用トラッカーの準備を別途進めており、日本でも販売予定という。

ペット追跡GPSトラッカーのTractiveが日本市場に正式参入、犬用トラッカーを販売開始・猫専用も販売予定

Tractive GPSトラッカーは、本体をペットの首輪に取り付けることでペットの位置情報を追跡し、PCやスマートフォンで確認できるサービス。自宅の庭などを安全圏として指定し、指定した範囲からペットが出た際、また安全圏に戻った際に通知する「バーチャルフェンス機能」、ペットが動いている時間・休憩時間・カロリー消費量を記録して健康管理に活用できる「身体活動モニター機能」、2~3秒ごとに位置情報を更新することで、走って逃げている場合の正確な位置情報が把握できる「ライブトラッキング機能」などを搭載。現在150カ国以上での利用が可能で、欧米を中心とする50万人以上のペットオーナーに愛用されている。

ペット追跡GPSトラッカーのTractiveが日本市場に正式参入、犬用トラッカーを販売開始・猫専用も販売予定

Tractiveは今回の日本参入にあたり、まずは犬用GPSトラッカーの販売をAmazon.JPで開始している(Amazon.JP tractiveストア)。本体サイズは約71.4×28.0×17.5mmで、重量35g。4kg以上の愛犬であれば負荷なく利用できるという。バッテリー駆動時間は最長で7日間、通常トラッキング利用時は平均5日程度としている。

またトラッカー本体の価格は6900円(税込)。利用料金は、月額プラン1199円、1年プラン7499円(625円/月)、2年プラン1万1999円(499円/月)。日本語対応のカスタマーサービスの提供も開始している。

ペット追跡GPSトラッカーのTractiveが日本市場に正式参入、犬用トラッカーを販売開始・猫専用も販売予定

トラッカー、プロジェクター、ロボット、可動するルーター、CESのガジェットについて語ろう

CESが真の意味で「Consumer Electronics Show」(消費者向け電気機器展示会)の略だった時代はとうに過ぎ去った。主催のCTA(全米民生技術協会)は、そのことを小さく表記することであれこれ配慮している。スマートフォンなどが主役だった時代を振り返るには、先日の「10年前のCESベスト」記事がおすすめだ。各社が自社イベントでフラッグシップモデルを発表する傾向が強まり、Mobile World Congress(モバイルワールドコングレス)がCESの勢いを削いできた。

2022年は並行して開催されたイベントで、Samsung(サムソン)の廉価版フラッグシップとOnePlusの最新機種のプレビューが行われた。もちろん、LGとHTCも今回のショーに参加はしていたものの、スマートフォンのゲームからほとんど、あるいは完全に撤退してしまっていたことは状況の改善には良い影響を与えなかった。また、ほんの数年前まではショーで大きな存在感を示していたHuawei(ファーウェイ)も、すぐにはCESに復帰することはないだろう。

こうした空白の多くは「輸送技術」によって埋められた。この10年間で、CESは主要な自動車ショーへと変貌を遂げた。自動車メーカーは、自動運転や車載システムをはじめとして火星のメタバースへのロボットの派遣など、最先端の技術を世界に証明しようとしている。もちろんこのショーのおかげで、Kirsten(カーステン)記者とRebecca(レベッカ)記者は今週とても忙しかった

CESは、かつてのように携帯電話が多くないにもかかわらず、コンシューマーハードウェアの面でも大きなイベントであり続けている。PC、コネクテッドヘルス、スマートホームガジェット、アクセサリー、さらにはロボットの主要な展示会であることに変わりはない。また、業界がどのように進化しているかを知ることができるのも魅力だ。フィットネスを例にとると、ウェアラブルの数は減少しているものの、各社はリング(指輪)のような新しい形状を試している。一方で、Peloton(ペロトン)やMirror(ミラー)のような企業に対抗しようとする企業も急増してる。

画像クレジット:Garmin

ウェアラブル製品の展示はかなり控えめなものではあったが、Garmin(ガーミン)はハイブリッド型スマートウォッチSport(スポート)で注目を集めた。ハイブリッドスマートウォッチは、確かに長年にわたってさまざまな課題を抱えてきたが、Garminはウェアラブルカテゴリーにおいて驚くほど強いブランドであることを証明してきた。そしてVivomove Sport(ビボムーブ・スポート)は、派手なスマートウォッチを敬遠している人にもアピールできるすっきりとしたデザインで、かなり見栄えがする時計だ。

Tile(タイル)やApple(アップル)のAirTag(エアタグ)といった製品の人気を受けて、トラッカーはちょっとしたブームになった。2022年は、Tileが新しいPCパートナーを獲得した。ThinkPad X1(シンクパッドX1)がTileトラッキングに対応し、電源を切った状態でも最大14日間、紛失したノートPCを探すことができるようになった。一方、Targus(ターガス)は、AppleのFind My(探す)サポートを 最新のバックパックに直接組み込んでいる。

画像クレジット:Chipolo

しかし、CARDを発表したことで、Chipolo(チポロ)が一歩先に踏み出した。このデバイスは、クレジットカードよりもわずかに大きく、財布の中に入るようにデザインされていて、Find Myにも対応しているため製品を置き忘れると警告が表示される。現在、私はAirTagを1つ所有しており、鍵に使用している。大人になってから何度も財布を失くしたことがある私にとって、これはもう1つの購入しようと思わせる、かなり説得力のあるユースケースだと思う。

画像クレジット:TP-Link

Devin(デビン)記者は、「もし私が独立して裕福になったら、自宅での仕事のセットアップはどのようになるだろうか」(これは私の言い換えだが)という記事の最後に、AXE11000 Tri-Band Wi-Fi 6E Routerを紹介している。この製品は、ルーターの世界ではかなり異色な存在だ。このシステムには、より強い信号を得るために調整できるモーター付きのアンテナが搭載されている。価格は未定だが、今でも高価なTP-Linkの価格にこの贅沢さを上乗せすることになるだろう。しかし、より速いWi-Fiに値段をつけることができるだろうか?

画像クレジット:Anker

それよりもはるかにリーズナブルな価格で提供されるであろうリモートアクセサリーに拍手を送りたい。とりわけAnker(アンカー)はコストを抑える方法を知っている。220ドル(約2万5400円)で手に入るVideo Bar(ビデオバー)は、一種のオールインワンのウェブカムソリューションだ。これはAIによるピクチャーフレーミング機能を備えた2Kカメラと、内蔵のライトバーとスピーカーを搭載している。高度なスタジオ設備(あるいはOpal[オパール])に取って代わるものではないが、(比較的)安価にホームビデオのレベルアップを図りたい人にとっては、堅実なプラグ・アンド・プレイ・ソリューションと言えるだろう。

画像クレジット:Labrador Systems

今週初めには、ロボットショーとして進化しているCESについての記事を書いた。最大の難点は、家庭用ロボットは、ルンバをはじめとするロボット掃除機以外には、実用的なものがないことだ。しかし、今週Labrador(ラブラドール)のシステムを詳しく見ることができたのは幸いだった。なぜならこのシステムは、特に動きが不自由でありながら独立した生活を模索しているひとたちの、非常に現実的なニーズに対応しているからだ。このシステムは実質的に、家庭用のモバイル・ヘルプ・ハンドだ。

画像クレジット:Asus

楽しく新しい形状が登場しなければCESとはいえないが、2022年のCESでは、折りたたみ式の携帯電話の形状をノートPCにとりいれたAsus Zenbook 17 Fold OLED(エイスース・ゼンブック17・フォールドOLED)が圧倒的な存在感を示している。何よりも驚かされるのは、同社が実際に発売を予定しているということだ。レンダリング画像を最初に見たときに、この製品は単なるコンセプトだと思ったのは私だけではないと思うが、Asusはこのシステムを2022年の第2四半期に発売する予定だ。この写真にどれほど近いものが商品化されるかは、ほどなくわかるだろう。

画像クレジット:Samsung

Samsungは2022年、いつものような五感を刺激するような演出をしなかった。ロボットはなく、特注の洗濯機や格安の電話機などがあったが、楽しいプロジェクターが紛れ込んでいたのが良かった。比較的限定的な魅力しかないものの、各社はプロジェクターを実現しようと努力を続けている。少なくともこのプロジェクターは、小さくて、よくできていて、見た目も良い。ただ価格が900ドル(約10万4000円)であることから、ニッチな分野にとどまる可能性が高い。

画像クレジット:ROBYN BECK/AFP / Getty Images

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:sako)

子どもを車内に置き去りにした親に警告を出すチャイルドシート用クッション「Tata Pad」

イタリアのスタートアップ企業であるFilo(フィーロ)は、欧州ではTile(タイル)のようなBluetoothトラッキングデバイスでよく知られている。その新製品である「Tata Pad(タタ・パッド)」は、チャイルドシートの上に置くクッションで、あなたがショッピングモールの涼しく爽やかなエアコンの風の中をのんびり歩いているときに、大事な赤ちゃんがクルマの後部座席に縛り付けられたままになっていると通知してくれるというものだ。イタリアではすでに発売されているが、今週ラスベガスで開催されているCESで米国での発売が発表された。

筆者のように親ではない者にとって、このTata Padは一見すると、まったくばかばかしい製品のように思われる。後部座席に自分の子どもがいることを忘れる親なんて、一体どのくらいいるというのだろうか?同社の説明によると、1990年代後半以降、暑くなった車内に置き去りにされた子どもが900人以上(年間平均38人)死亡していることを受けて、米国では車内に置き去りにされた子どもやペットに対して何らかの安全警告を必須とするための法律が制定されようとしているほど、この問題は深刻であるという。置き去りにされた子どもは「1人でも多すぎる」という標語のもと、同社は忘れっぽい親にテクノロジーによる解決策を提案している。

この製品は、基本的にTileのようなデバイスと同様に機能するクッションであり、子どもがクッションの上に座るとデバイスが起動する。そして親が3分以上その場を離れると、Tata Padは大切なものを置き忘れているという通知をスマートフォンに出す。それでもクルマに戻る気にならなかったら、電話をかけてきて「本気になって、子どもを連れてきなさい」と親切に注意を促す。さらにこの電話を無視すると、Tata Padはさらにエスカレートして、緊急連絡先に電話やSMSを発信し、子どもの居場所を知らせ、救助活動を開始できるようにする。

Tata Padは1つにつき最大2台の携帯電話を接続することができ、2個の交換可能なコイン電池で駆動する。電池の持続時間についてメーカーはコメントしていない。Filoでは、最初の4年間はメッセージと電話の発信を無料で提供することを約束しており、その後も延長サービスを購入すれば警告機能を使い続けることができる。

FiloのTata Padは、チャイルドシートに追加するクッションで、クルマから離れる際に大切な子どもを置いてきたことを通知する機能を備えている(画像クレジット:Filo)

Filoは、米国での販売が完全に認証されていることを示唆しており、CESで発表した後にプレオーダーの受付を開始している。CEOのGiorgio Sadolfo(ジョルジオ・サドルフォ)氏によると、同社では現在、米国市場で大きな成功を収めるために、パートナーや販売代理店を探しているとのこと。欧州では60ユーロ(約7850円)で販売されており、米国でも同程度の価格設定となるようだ。

画像クレジット:Filo

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Chipolo、アップルの「探す」アプリ対応の「カード型紛失物トラッカー」でTileに対抗

AirTag(エアタグ)とTile(タイル)のライバル、Chipolo(チポロ)が発表した新製品は、ユーザーが紛失したものをAppleの「Find My(探す)」アプリで見つけたり、うっかり置き忘れた時に通知を受けることができる。Chipolo CARD Spot(チポロ・カード・スポット)は、同社の既存のスマートカード製品の改良版で、同社のもう1つの紛失物トラッカーであるChipolo ONE Spot(小さな丸形デバイスでAirTagと直接競合する)と同じように、Appleの「探す」ネットワークを利用できるようになった。

新しいスリムなスマートカードは、キャッシュカード並の薄さで、サイズは3.35 x 2.11インチ(8.5 x 5.4 cm)と財布のクレジットカードポケットに入れることができる。

デバイスを追跡するには、まずChipolo CARD Spotを「探す」アプリのサードパーティ製ハードウェアアクセサリー追跡機能を使って、iPhoneまたはiPadとペアリングする。このシステムは、AppleのMFi Program(MFiプログラム)に支えられているもので、デバイスメーカーは、iPhoneなどのAppleデバイスとやり取り可能なアクセサリーを開発するために必要な仕様やリソースの提供を受けることができる。これは、AppleがAirTagで参入する前から忘れ物トラッカー市場をリードしてきたTileとの争点でもあった。

画像クレジット:Chipolo

TileはAppleが権力を乱用して市場を支配しようとしていると主張し、同社のようなデバイスメーカーが独自のモバイルアプリを経由してユーザーに直接アクセスするのをやめさせて、Appleのテクノロジーに統合させようとしていると訴えた。しかもAppleは、AirTagが発売されて顧客基盤ができあがるまでそのテクノロジーの利用を遅らせた(Tileは最近、Life360に227億円で買収された。競合が激化する中でスタンドアロン企業としての将来を見限ったようだ)。

関連記事
Tileがアップルの新しいAirTagを不正競争だと非難
家族向けロケーターサービスのLife360が紛失物探索デバイスTileを227億円で買収

しかしChipoloは違うアプローチをとった。Appleと喧嘩するのではなく、同社はAppleのネットワークを活用し、AirTagに似た同社独自のトラッカーを「探す」対応にした。これによってChipoloの認知度は高まり、Appleの新製品プロモーションのおかげで紛失物トラッカーとその能力を初めて知った人たちにリーチすることができた。

Chipolo CARD Spotの発売によって、同社は「財布を追跡するスマートカード」というAppleにない「探す」対応製品の可能性に賭けている。

しかし、この新しいアクサセリーは、Tileの薄型ウォレットトラッカーであるTile Slim(タイル・スリム)と直接競合する。

画像クレジット:Chipolo

Tileのスマートカードと同じく、Chipoloカードは財布が手元を離れるとアラームを鳴らしたり、Lost Mode(紛失モード)になる。アラームは音は大きく(105dB)、カードは「探す」の200フィート(60m)範囲内で位置を特定できる。

Chipoloの新デバイスは、防水(IPX5)だが、この点ではTile SlimのIP67が上を行っている。Chipoloカードのバッテリー寿命は約2年間。その時点でユーザーには新製品を50%ディスカウントで購入できる通知が送られ、古いデバイスはリサイクルのために送り返すことができる。ちなみにTile Slimは最大3年間のバッテリー寿命を約束している。

Chipoloデバイスは1台35ドル(約4060円)、3台60ドル(約6959円)だが、TileはSlimを値下げして1台29.99ドル(約3480円)、2台で59.99ドル(約6958円)にした。

しかしChipoloの強みは、顧客は「探す」アプリで使えるデバイスを選ぶ可能性が高いということで、Tileは対応していない。

また、消費者がAirTagの安全性について懸念し始めている(デバイスがストーカー行為やカージャックに使われていると記事は伝えている)ことから、ユーザーは「探す」対応製品の方を選ぶかもしれない。Appleの同アプリは、未知のデバイスがユーザーを追いかけていると先を見越して警告してくれるからだ。Tileはまだ、アンチストーカー機能に取りかかっている段階だ。

関連記事:TileがApple AirTagのライバルとなる次期製品Tile Ultraを含む新製品ラインナップを発表

Chipoloの新デバイスは、現在予約受付中で、公式ウェブサイトおよびNomad(ノマド)で申し込める。出荷は2月の予定。

画像クレジット:Chipolo

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Nob Takahashi / facebook

アップル、正体不明のAirTagを発見するAndroidアプリ「Tracker Detect」をリリース

Apple(アップル)は、プライバシー保護の観点から、アップル製品を所有していない人が近くにある身に覚えのないAirTag(エアタグ)を特定できるようにするための新しいAndroidアプリ「Tracker Detect」をリリースした。追跡されているかもしれないと思ったユーザーは、このアプリを使って近くにあるAirTagをスキャンすることができる。もし見つかったら「unknown AirTag」としてフラグが立てられる。検出されたアイテムトラッカーが10分以上アプリユーザーと一緒に移動していることがわかった場合、ユーザーは検出されたアイテムトラッカーから音を出して、その場所を特定することができる。そこから、そのアイテムトラッカーについて詳しく知る方法と、バッテリーを取り外して無効にする方法が案内される。

「Tracker Detectは、所有者から離れた、AppleのFind Myネットワークに対応しているアイテムトラッカーを探します」とアプリの説明にある。「対象となるアイテムトラッカーには、AirTagや他の企業が提供する互換性のあるデバイスが含まれます。誰かがAirTagや他のデバイスを使ってあなたの位置を追跡していると思われる場合、スキャンしてそれを見つけることができます」。

差し当たって、Google Play StoreのTracker Detectアプリは、AppleのAirTagやChipolo ONE Spotを含む、Find Myネットワークをサポートしているアイテムトラッカーと互換性がある。例えばTile(タイル)のような、Find Myネットワークと互換性のない他のトラッカーは対象外だ。

また、このアプリではAppleアカウントに関連付けられたAirTagをユーザーが追跡することはできないため、実際にはAirTagの機能をフル活用できていない。

「AirTagは業界をリードするプライバシーとセキュリティ機能を提供し、今日、当社はAndroidデバイスに新しい機能を持ってきます」とAppleの広報担当は電子メールでTechCrunchに述べ、 新アプリの提供開始を認めた。「Tracker Detectは、Androidユーザーが、知らないうちに自分と一緒に動いているかもしれないAirTagまたはFind Myをサポートしているアイテムトラッカーをスキャンできるようにします」。

もしユーザーが身に覚えのないAirTagを見つけた場合、iPhoneや他のNFC対応デバイスでそれをタップすると、AirTagを無効にする方法が案内される。Tracker Detectアプリのユーザーは、アプリ内でAirTagの詳細とそれらを無効化する方法を確認することができる。

この新しいアプリの導入は、AppleのAirTagが、バッグやコートの中に入れておけるほど小さいため、密かに人を追跡するために使われるのではないかという懸念を受けてのことだ。2021年初めのワシントン・ポストの報道では、AppleのAirTagによって、相手に気づかれずにストーキングすることが容易になる可能性がある、とされている。他にも、この追跡デバイスが個人を密かに監視するために使われる可能性があると主張する報道が多くあった。

こうした報道を受けてAppleは、所有者の元を離れたAirTagが動いたときに音が鳴るまでの期間を更新した。発売当初は3日間としていたが、8〜24時間の間でランダムに設定できるように変更した。また、ユーザーのiPhoneは、近くに身に覚えのないAirTagを検出した場合、「Item Detected Near You」というメッセージを表示するようになった。つまり、iOSユーザーは見知らぬAirTagを見つけるために別のアプリを必要としない。

しかし、Androidユーザーが近くにある見知らぬAirTagを発見する方法がなかったため、Appleはユーザーが一緒に移動しているかもしれないAirTagを検出できるAndroidアプリを発表する予定であることも発表していた。

AirTagに対する懸念はあるものの、Appleがトラッカーのスキャンをサポートしたことで、まだストーカー対策機能を提供していない競合他社をリードすることになった。この発表を受けて、競合するTileは、誰でもTileアプリを使っていつでも手動スキャンを行えるようにすると述べた。この機能は2022年初めに提供される予定だ。

Appleは2021年4月にAirTagを発売した。価格は1個29ドル(日本での価格は税込3800円)、4個入りで99ドル(税込1万2800円)となっている。アイテムの追跡には、同社が「Precision Finding」と呼ぶ、同社独自の超広帯域チップ「U1」が使用されている。また、Bluetooth LE(低消費電力)も採用している。

画像クレジット:Apple

原文へ

(文:Aisha Malik、翻訳:Nariko Mizoguchi

【レビュー】邪魔にならない、スマートリング「Oura Ring」第3世代モデル

Oura Ringについて、誤った意見を持っていたことを認めざるを得ない。筆者はこのデバイスをApple Watchの代替品として考えていた。ざっくりいえばその通りだが……ほとんどの人がどちらか一方を選択するだろう。活動量計2つは多すぎるし、コスト的にも難しい。299ドル(約3万4000円)あればスマートウォッチが1つ買える。

また、この第3世代からOura Ringには月額6ドル(約700円)のサブスクリプションが追加される(6カ月の無料期間あり)。サブスクリプションには新しい機能も追加されているが、これまで無料だった機能まで有料になる。Oura Ring 3はまさに「投資」だが、スマートウォッチではない。

Oura Ring 3はどちらかといえばフィットネスバンドを後継する製品だ。最近はフィットネスバンドの話をあまり聞かないが、Appleがウェアラブル市場に参入する前は、フィットネスバンドがこの市場を完全に支配していた。Fitbit(フィットビット)やXiaomi(シャオミ)のような企業は今でも毎年大量にフィットネスバンドを販売しているが、同種の、さらに機能が充実した製品に押されてもはや時代遅れになってしまった。しかしながら、Oura Ringをフィットネスバンド(あるいはヘルスバンド)として考えてみると、その意味がわかるようになる。

画像クレジット:Brian Heater

Oura Ringは、いうなれば受動的なデバイスだ。ブザーやビープ音が鳴り、常に注意を向けなければならないデバイスではない。装着しておくだけのデバイスで、活動のリマインダーなど、あらかじめ設定された小さな刺激がある以外はほとんど無視できる。実際その通りなのだ。フィットネスバンドにはディスプレイがあったりなかったりするが、リングという形状はスペース的に非常に大きく制限される。

それを逆手に取り、Oura Ringは邪魔にならないように設計されている。リングで収集された睡眠、健康、フィットネスの実用的なデータは、後から接続済みのモバイルアプリで見ることができる。それこそがOura Ringのセールスポイントだ。リングという形状はフィットネスバンドよりも邪魔にならないようにすることができる。このタイプの最初の製品であるMotiv(モーティブ)のリングはそれが魅力だった。Motivはその後フィットネスカテゴリーから離れていったようだが、Ouraがその後を引き継いだ。

画像クレジット:Brian Heater

先に進む前に告白しておこう。筆者はリング的なものが好きではないので、身につけることもない(締め付けないでくれ、といったところだ)。これはOura Ringを使わない大きな理由の1つだが、正直なところスマートウォッチに愛着もある。とはいえ、ここ2週間はOura Ring 3を装着している。製品をレビューするにあたり、Oura(オウラ)に提案、というか控えめに要求されたのだ。

筆者はこの提案を不思議に思った。ハードウェアをレビューする際、できるだけ長く製品を試して欲しいと思うのは一般的だ。時としていうは易く行うは難しだが。しかし同社は、ある種の基準となる測定を行うために2週間使ってくれと主張する。最初の2週間の測定値が悪いということではなく、少しの間デバイスを装着し、Ouraがユーザーの習慣、睡眠、生体認証をより明確に把握するとより良い結果が得られるということらしい。

私たちはそれぞれが異なる個性を持っているので、どのような種類の健康器具にとってもカスタマイズは重要だ。299ドルのリングを購入しようとするユーザーには賛同してもらえると思う。付けていてもあまり影響はないので装着し続けるのも難しくはない。繰り返しにはなるが、リングが好きではなく、寝不足気味の筆者にとっては慣れるまでに多少時間がかかった。それでも大きくてかさばるスマートウォッチを装着したままにするよりも楽だった。睡眠の邪魔になる睡眠トラッキングデバイス、というのも皮肉なものだが、Oura Ringはそれには該当しない。

Oura Ringはリングであるが故に快適だ。リングが好きでなくても、単に身体に触れる面積が小さいだけで侵襲性が低い(影響が少ない)。デザインは前作とほとんど変わらず、丸い単色のメタルバンドだが、上下を示すために上部は平らになっている。

画像クレジット:Brian Heater

自分の指輪のサイズがわからない場合は、プラスチック製のダミーリングが多数入ったサイズ調整キットが送られてくる。Warby Parker(ワービー・パーカー、気になるメガネを自宅で試着できるサービスを展開)みたいだ。人間の指は日中でもサイズが変わるから、1つのリングを丸一日装着することが推奨される。サイズとカラー(筆者はマットブラックを選択)を選び、製品を待つ。実際のリングはプラスチック製のダミーよりも少しゆるい気がしたが、問題なく装着できた。そして日を追うごとにフィット感が増していくように感じられた。

一見すると普通のリングのように見え、それが実に魅力的である。しかし、心拍数の計測時にはリングの内側から緑の光が見えてしまうことがある。発売当初に搭載されたいくつかの新機能の中には日中の心拍数モニターがあり、(筆者が使う機会はなかったが)生理日予測や温度感知機能も改善されている。これらの新機能だけを見ても、第3世代は第2世代よりも進化していることがわかる。

関連記事:Oura Ringは今の時代を生き抜くための指輪型健康トラッカー、睡眠分析機能はwatchOS 7を凌ぐ

2021年から2022年にかけて搭載される予定の機能は、瞑想や呼吸法などの新コンテンツ、ワークアウト時の心拍数モニター、より正確な睡眠ステージング、動脈血酸素飽和度(SpO2)測定など、盛りだくさんだ。最後のSpO2測定機能については、導入が遅れたとしてもまったく不思議ではない。発売後に重要なヘルスセンシング機能を追加するのはOuraだけではない。Ouraの場合は、(少なくとも今のところ)米国食品医薬品局(FDA)の承認の問題ではなく、実装の問題だ。

Samsung(サムスン)やApple(アップル)でもなければこの種の機能をきちんと実装するのは難しいだろうが、今後の予定となっている機能は数多くあり、多くの潜在ユーザーが「なぜOuraはより完全に機能を実現した製品まで待たなかったのか」と思うことだろう。筆者は、これはベースとなるハードウェアを提供し、製品の耐用年数が尽きるまで機能の改善と展開を続けることを約束する、という熟慮された戦略の一環なのではないかという考えに至った。

Ouraがこの製品に対して長期的な目標を持っていることは間違いない。同社が参加した数多くの研究に目を向けてみよう。同社のブログをざっと見ただけでも、うつ病、スマートフォンの使用が睡眠に与える影響、海底環境への適応など、あらゆる研究が紹介されている。すべてが解明されるわけではないとはいえ、ほとんど(または多く)が今までにない、新しい機能につながると思われるが、少なくとも、センサーを使用するとどれだけ正確にモニター / 予測できるかについては興味深い洞察が載っている。特に、これらの研究では指と手首で心拍数などを測定する際の精度が明らかになっているようだ。

結局、筆者はワークアウトのトラッキングにはApple Watchのような手首に装着するタイプのトラッカーの方が好みだが、この2つを組み合わせることで自分の活動の全体像を知ることができた。とはいえ、誰もができる方法ではないし、皆が希望するものでもないことは承知している。Oura Ringが従来のトラッカーと比較しても結果的に成功しているのは、Ouraが実用的な分析情報にフォーカスしているからだ。だからこそ、Oura Ringの効果を判断する前に基準を決めることにこだわるのだろう。

画像クレジット:Brian Heater

この手のデバイスでは、回復(リカバリー)や準備状態(レディネス)といったものが見落とされがちだが、Ouraは後者について次のように説明している。

レディネスはOuraのメインスコアであり、あなたのためだけに設計され、何があなたの身体とライフスタイルに合っているのかを認識できるようにします。レディネスは、最近の活動、睡眠パターン、身体に負担がかかっているかどうかを示す直接的な身体のシグナル(安静時心拍数、心拍変動、体温など)を考慮した、あなたの健康の全体像です。

実際上は、収集したすべての指標を使用して十分にリカバリーできているかを判断する。筆者にとってはリカバリータイム(身体が次のトレーニングに適した状態になるまでの時間)が常に要注意だった……まあそれはおいておこう。筆者はワークアウトとワークアウトの間に身体を回復させることができたし、もっと上手くやるべきだった。赤の「Pay attention(注意)」が示しているように、確かに改善すべきポイントだった。

画像クレジット:Brian Heater

もう1つ注目すべきは睡眠だ。「ホーム」タブをタップすると「昨日の夜、心拍数が低下したので、まだ完全には回復していないかもしれません。身体の充電のために、今日はゆっくりしてみませんか?」と表示される。例えば、(筆者は朝に瞑想をしているが)朝ではなく夜に瞑想したり、寝る前に呼吸法を行ったりする方が、イヤフォンで音楽を聴きながらTwitterでネガティブ情報ばかり追ってしまうよりも良い睡眠が得られる(実際筆者の睡眠の質は悪い)というのは明らかだろう。

しかし、日々の仕事に追われているとこの事実は見失いがちである。筆者は常々、ウェアラブルデバイスの利点は指に結んだ紐と同じように気にならないことであり、過小評価されていて議論もされていないと発言している。このテクノロジーは、マインドフルネスをもたらし、そもそもなぜ投資をしたのかを思い出させてくれる。私たちがこれらの製品を購入するのは、自分自身を改善したいからである。ともすればテクノロジーが真逆のことをしてしまう現在、ウェアラブルのテクノロジーによるポジティブな補強はネット・ポジティブ(差し引きプラス)だ。

画像クレジット:Brian Heater

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

探し物トラッカーTileを買収したLife360が数百万人の正確な位置情報データを販売

探し物トラッカーTileを買収したLife360が数百万人の正確な位置情報データを販売

子供の見守りや家族との位置情報共有サービスを提供するLife360が、探し物トラッカーTileを買収したとお伝えしました。そのLife360が、数百万人ものユーザーの正確な位置情報を販売していると報じられています。

The Markup(米ニューヨークを拠点とする非営利団体)The Markupの報告によると、Life360のスマートフォン用アプリは全世界で3300万人が利用しているとのこと。そのアプリが集めた子供と大人の位置情報データが12のデータブローカーに販売され、他の第三者に提供されていたと伝えられています。

Life360の元従業員2人は、同社が業界最大級のデータ供給元でありながら、データの使用方法や悪用を防ぐためのセーフガードがない、すなわち位置情報の履歴から個人をたどれなくする予防措置が取られていないと証言。最も明白な(直接、個人に紐付けられた)ユーザー識別情報は削除されているが、プライバシー保護のためにデータを集約したり、精度を下げたりしないと語られています。

この件につきLife360のCEOであるクリス・ハルス(Chris Hulls)氏は、データは同社の中核的なサービスを無料で提供するための「ビジネスモデルの重要な一部」であると回答。つまりユーザーの位置情報データを販売することが前提で、無料サービスが成り立っていると言いたい模様です。

同じく位置情報データをブローカーに販売するX-Modeに勤務していたエンジニアいわく、Life360の提供する生の位置情報データは「データの量と精度の高さ」から、同社の「最も価値ある商品」の1つだと述べています。X-Modeは、Life360のデータ販売先としてCuebiqやArity、Safegraphとともに公開されている企業でもあります。

逆にいえば、Life360が公開していない提供先の企業もあるということ。ハルスCEOによれば、パートナー企業から透明性を求められたり「そうする特別な理由」がある場合にのみ公開されるとのこと。そうしたパートナーを公開することを義務付ける法律を支持する、とも付け加えられています。

Life360はデータ販売していることをプライバシーポリシーの細則に明記しており、秘密にしていたわけではありません。が、ここで問題視されているのは、データブローカーに提供された後、データがどのように扱われているのか、ユーザーが自覚していないかもしれない点です。一応はオプトアウト(提供を拒否)オプションもありますが、全てのユーザーがそれに気づいているとは限りません。

Life360アプリは主に親が子供やティーンエイジャーを追跡するために使うもので、その性質上プライバシーに関する懸念が指摘されていました。同社は13歳未満の位置情報は共有しないとしている一方で、13歳以上の子どもや大人のデータは(第三者への販売についても)公平に扱われています。

かたやLife360に買収されたTileは、探し物トラッカーを製造し、モノやペットを探すサービスを提供している企業です。Life360はTileと一緒になることで、ペットや人、物の位置を特定する「包括的なソリューション」を提供できると謳っていましたが、今回の報道を合わせて考えると、プライバシー保護に関する懸念が高まりそうです。

(Source:The Markup。Via MacRumorsEngadget日本版より転載)

【レビュー】Withings ScanWatch、Apple Watchと正反対なスマート腕時計には乗り換えるべき価値がある

Apple Watchをリリースしたとき、Appleは「デジタルクラウン」や「コンプリケーション」がいかにすばらしいものか消費者に説いて大騒ぎしていた。しかし、我々のような時計愛好家には、あの騒動は理解し難いものだった。当然だが、時計にはそんなものはすべて付いているからだ。

当時、Appleは、コンピューティング企業として既存自社製品の犠牲になっていた。要するに、Appleが作っていたのはスマートウォッチなどではなく、手首に着けることができる小さなiPhoneだったのだ。それでもAppleは「いや、これは腕時計ですよ。絶対に」と言い張りみんなを必死に説得しようとしていたが。

Withings(ウィジングス)のHealth Mateアプリは格別だ。Withingsの健康関連プロダクツを複数使っているならなおさらだ。このアプリはGoogle FitおよびApple Health Kitと統合されているため、お好みのエコシステムにデータを移植できる。(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

これと同じような状況をクルマの世界で見たことがある。多くの従来の自動車メーカーは困惑して、こう思っていた。「一体どうすればトラック1台分のバッテリーと電気ドライブトレインを1台の車に詰め込むことができるのだろう」と。しかし、一部のメーカー、とりわけテスラはこの難題をまったく違った方向から捉えた。テスラのアプローチはこうだ。「iPhoneはソフトウェアアップデートが利用可能になると自動的に更新される。それなら、iPhoneを中心に据えて、その周りに車を構築したらどうなるだろう」と。その結果、テスラが生まれた。テスラは、外観も使い勝手も他の車とは見事に異なっていた。テスラのインテリアと所有権を取るか、メルセデスの最新世代電気自動車を取るかを決める要因はさまざまだが、筆者の考えでは、製品の全般的な哲学およびデザインと機能に対するアプローチの問題だと思う。

それらすべての要因を考慮するとScanWatchに行き着く。Withingsは常に、Appleとは異なるアプローチを取ってきた。ScanWatchはミニマリズムの外観と操作性を備えているが、Appleが解決しようとしていたのと同じ問題を抱えていた。時計の外観と操作性を持ちながら、優れた実用性を備え、そしていく分のスマートな機能も備えた時計を作るにはどうすればよいだろう、と。Withingsは、この問題をあくまで時計メーカーのやり方で解決しようとした。Steel HRはその後に登場する製品を示唆していた。WithingsのScanWatchは、Steel HRを自然な形で、より野心的にステップアップさせたものだ。

Withings独自のデザイン哲学とは要するに次のようなことだ。つまり、ScanWatchを手持ちのスマートフォンで写真を撮るためのリモートコントロールとして使うことはできない。ScanWatchに話しかけたりメールを打つこともできない。ScanWatchでメールを読んだり音楽を聴いたり、音声メモを録音することもできない。こうした機能が重要なら、ScanWatchはあなたが求めている製品ではない。あなたが求めているのはスマート腕時計ではなく、超小型スーパーコンピューターだ。

全体的な品質の高さと細部へのこだわりが光るScanWatchは本当にすばらしい製品だ。小型コンピューターというよりむしろ高級腕時計に近い(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

筆者は、Withingsの最上位機種のスマート腕時計をしばらく使ってみたが、この時計が備えているすべての機能に、そして何より、この時計から余分な機能が取り除かれていることに、何度もうれしい気分になった。筆者がApple Watchを着けるのを止めてしまったのは、デザインが嫌いだったし(味気ない黒の四角で、むしろスマートフォンに近い)、メッセージやツイートやメールの着信音がしょっちゅうブンブンと鳴ることに辟易していたからだ。もちろん、着信音をオフにすることはできるが、そうするとApple Watchを着けている意味がほとんどなくなってしまう。わざわざ毎日充電してまで着けたいとは思わなくなってしまった。

Withings ScanWatchの文字盤サイズには、38ミリと42ミリの2種類がある(画像クレジット:Withings)

WithingsのScanWatchはApple Watchとは正反対の時計だ。第一に、見た目がシンプルでミニマリズムだ。小さなPMOLEDディスプレイをオフにすると、多くの時計メーカーが作っているハイエンドの控えめなデザインの時計だと勘違いしても無理もない。ディスプレイはしゃれたRetinaディスプレイではないが、その代わり、電池は最大1カ月は持つ。腕時計らしさもよく出ている。思ったより重いが、それもある意味安心感を与えてくれる。着けていることが分かるし、上質の時計を着けるのに慣れるのも悪くない。

ScanWatchは、健康とウェルネス機能を重視した多くの極めて高度なテクノロジーを腕時計に取り込んでいる。これらの機能は、スマートフォンの機能ではなくフィットネストラッカー機能を拡張したものだ。

WithingsのScanWatchには、多数の医療用トラッカーが組み込まれている。EKG(心電図)機能はこのスマートウォッチとアプリの組み合わせで最も重要な部分だ(画像クレジット:Withings)

ScanWatchは欧州ではリリースされてしばらく経つ。米国でのリリースが遅れている理由を聞くと、このデバイスが競合他社製デバイスと大きく異なっているがよくわかる。ScanWatchを販売するにはFDAの認可が必要なのだ。Withingsによると、ScanWatch内蔵の心電図機能(EKG)は非常に高品質であるため、心房細動(afib)を検出できるという。心房細動は、最も一般的な不整脈で、脳卒中、心臓麻痺、その他の心臓疾患の主な原因でもある。

同社によると、この心電図データをユーザーに提供するには、処方箋が必要で、最初の心電図の出力を医療専門家に分析してもらう必要があるという。同じような心電図機能を備えたスマートウォッチを提供している他のメーカーがこの承認プロセスをどのようにして回避しているのかはよく分からない。Withingsがこの機能を根本的に異なる方法で実装しているのかもしれない。

心電図の承認プロセスは無料で受けることができる。継続的な心電図機能の利用を承認されるかどうかに関係なく、料金はかからない。しばらくの間、同社は処方箋と追加費用なしでユーザーが心電図機能をフルに使えるようにするための取り組みを進めている。おそらく、Apple、サムソンなどがFDAの承認を回避するために行ったことを真似するのだろう。

FDAの承認とはやり過ぎだと感じるかもしれない。そう感じたのはあなただけではない。WithingsはScanWatchのリリース前から守りの姿勢を取っており、心電図機能に関するFAQまで公開している

ここで、健康ファーストデバイスのブランドになろうとするWithingsの野心にスポットライトを当ててみよう。Withingsは、スマートスリープトラッカー血圧測定バンドスマート体温計体脂肪測定器具などを販売している。また、すべてのWithings製デバイスで稼働している優れたHealth Mateアプリは、体の健康のセントラルハブとして人目を惹き付ける。

ScanWatchには2つのサイズがある。これは38ミリ版で「筋トレやってる?」と聞かれるくらいひ弱な手首の筆者にはちょうどよい(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

ScanWatchは着けているのを忘れてしまうようなおしゃれなデバイスだが、その中に、心拍数、血中酸素濃度の監視、心電図機能、歩幅 / トレーニング / アクティビティトラッカー、接続されたGPS、高度計、スリープトラッカー、スマート目覚ましアラームなどの機能がすべて詰め込まれている。これらの機能がすべて揃っているのは本当にすごい技術力だ。

筆者はテクノロジーレビューワなので、これらがすべてWithingsが謳っている機能を本当に実現しているのどうかを判断できるような医療専門知識は持ち合わせていない。何人かの医療専門家に聞いたところ、病院にあるような数千ドル(数十万円)の工業医療機器と同等と言えるほどの機能は提供していないということのようだ。正直、手首に着けられる300ドル(約3万4000円)程度の消費者向けアイテムで、そこまでの機能を提供していたら理屈に合わないだろう。

体型を気にしている健康フィットネス志向の人なら、この時計を選択して間違いないはだろう。手首装着型デバイスとしては信じられないほどの大きな進歩であり、若干低酸素状態で行き詰まり始めていたこの製品カテゴリーに、新鮮で酸素を豊富に含んだ血液を流し込んでくれる、そんな製品だ。

最後に余談を少し。筆者は、数年前eBayでApple Watchを売り払ってせいせいしていたのだが、このレビューのためにお借りしたScanWatchをWithingsに返却したらすぐに、自前でScanWatchを購入するつもりだ。最近たくさんのガジェットを疑いに満ちた目で見ている筆者だが、この時計は本当にすばらしいと思う。

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

米アマゾンの新型スマートバンド「Halo View」予約注文を開始、限定期間約5700円に

9月のハードウェアイベントでフィットネスバンド「Halo」の新バージョンを発表したAmazon(アマゾン)は米国時間11月19日、予約注文の受付を開始した。Amazon初のディスプレイ付きウェアラブル「Halo View」は、予約期間中は50ドル(約5700円)。通常価格は80ドル(約9100円)だ。

12月中に出荷される予定のこのデバイスには、Haloメンバーシップ1年分が付いてくる。Haloプランにはワークアウトと栄養管理ガイドが含まれており、通常は月額4ドル(約450円)で利用することができる。

Halo ViewはFitbitのChargeバンドと似たデザインで、AMOLEDカラーディスプレイには、ライブワークアウト、アクティビティ履歴、血中酸素濃度、睡眠スコアなどの詳細が表示される(これらの機能の一部は、Haloサブスクリプション限定)。テキスト通知も表示可能だ。

「水泳可能」防水レベルのデバイスには、皮膚温度センサー、心拍数モニター、加速度計が搭載されている。Amazonは、1回の充電でバッテリー持続時間は最大7日間、フル充電に2時間かかるとしている。

Halo Viewにマイクは内蔵されていないが、Alexaとの連携機能がある。Haloアプリの設定で音声アシスタントに接続すれば、Alexa対応デバイスにヘルスサマリーや睡眠の質などを教えてもらうことができる。

Amazonは、Haloを設計するにあたり、プライバシーを重要視したとのこと。「データを安全に保ち、ユーザーがコントロールできるよう、何重にも保護されています」と同社は主張している。また、ユーザーに直接リンクされている健康データを転売しないことを約束している。自分の健康データをダウンロードしたり、Haloアプリから削除したりすることも、いつでも可能だという。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Kris Holt(クリス・ホルト)氏は、Engadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Amazon

原文へ

(文:Kris Holt、翻訳:Aya Nakazato)

第3世代「Oura Ring」は健康状態トラッキングや生理予測など新機能満載のフィットネスリング、有料コンテンツ配信も

2017年初頭、Motiv(モチーブ)はウェアラブルなフィットネストラッカーの装着箇所が手首だけでないことを実証し、テクノロジー業界メディアの想像力を掻き立てた。しかし、同社は最終的に運動トラッキングだけでは飽き足らず、すぐにその技術を生体認証ツールなどへ拡大することに目を向けるようになった。その一方で、Oura(オーラ)は、健康という分野にまだまだ可能性を見出していた。


実際、新型コロナウイルス流行時には、組織が既成概念にとらわれないソリューションを探し求めていたため、Ouraは2020年に大きな成功を収めた。このスタートアップ企業は、そのさまざまな健康指標が、新型コロナウイルスやその他の健康状態の早期発見にいかに役立つかを証明し、NBA(全米バスケットボール協会)、WNBA(全米女子バスケットボール協会)、World Surf League(世界プロサーフィン連盟)、Red Bull Racing(レッドブル・レーシング)、Seattle Mariners(シアトル・マリナーズ)、UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)、NASCAR(ナスカー)など、米国の大手スポーツ団体が喜んで採用した。

画像クレジット:Oura

これまでにOuraは「数十万個」のリングを販売してきたと記している。家電製品の世界では驚異的な数字というわけではないが、ハードウェアのスタートアップとしては、特にスマートウォッチやフィットネスバンドが氾濫している市場では、目覚ましい成長と言えるだろう。

Ouraの製品は、数多くのセンサーを1個のパッケージに詰め込むという特長で成功を収めており、これがワークアウトや睡眠などに関する質の高い洞察を提供する。同社の新しい第3世代のリングは、Ouraが自分たちの本業に力を入れていることを再認識させる製品に仕上がっている。もっとも、ほとんどのウェアラブルメーカーが健康とウェルネスに力を入れている今、もちろんそれは当然のことだろう。

第3世代Oura Ring(オーラ・リング)の最大の特徴は、24時間365日の健康状態トラッキング機能で、心拍数を常時モニタリングできることだ。体温モニターや睡眠トラッキングも改善された他、生理予測などの機能も備わる。これについては、同社は次のように述べている。

Ouraは、次の生理を30日前に正確に予測し、生理開始の6日前に警告するため、あなたは常に準備を整えておくことができます。Ouraはカレンダー方式だけに頼るのではなく、生理周期を通じて自然に変化する体温から、より総合的なアプローチで生理を予測します。多くのトラッキング法は、あなたの生理周期が毎月同じであることを前提としていますが、Ouraの生理予測は、あなたの生理周期の変化に合わせて予測を調整します。

今回のニュースでは、Ouraが、Apple(アップル)、Fitbit(フィットビット)、Samsung(サムスン)などのメーカーと同様に、ワークアウトのコンテンツにより深く踏み込んでいることもわかった。現在は「近日公開」となっているこのライブラリにはワークアウト、瞑想、睡眠、呼吸法などをテーマにした50以上の映像 / 音声セッションが用意されている。

画像クレジット:Oura

「当社ではこのライブラリを拡大し続ける予定です。ライブラリには、睡眠とカフェインなどの影響を理解するための教育的なコンテンツと、ガイド付きコンテンツの両方があります」と、同社CEOのHarpreet Rai(ハープリート・ライ)氏はTechCrunchに語った。「最初のうちは、瞑想や睡眠のための音が多いですが、我々はこのライブラリを大幅に増やしているところです。今後もどんどん増えていくでしょう。これはあなたの健康のためのワンストップショップになります」。

これらの動画は、より深い健康に関する洞察とともに、新たに開始される月額6ドル(約680円)のOura Membership(オーラ・メンバーシップ)サービスを通じて提供される。

「Peloton(ペロトン)、Tonal(トーナル)、Tempo(テンポ)、Hydro(ハイドロ)などのコネクテッドフィットネスは、ハードウェアとサブスクリプションの組み合わせになっています」と、ライ氏はいう。「ウェアラブルもそのような形になりつつあります。将来的には完全なサブスクリプションモデルに移行できると思うかと訊かれたら、収益を得る方法は色々とあるでしょうが、私はそれも可能だと思います。その方法を除外してはいません。しかし、より多くの消費者は、総所有コストの点からこの製品に惹かれていることも確かです」。

このOura Ringは、今後も新機能の追加が予定されており、2022年には血中酸素濃度を示すSpO2値の測定機能が搭載される予定だ。価格は300ドル(約3万4000円)で、現在予約注文を受け付け中。11月中旬に出荷開始となる。

画像クレジット:Oura

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ウェアラブルな血糖値トラッカーを掲げるフィットネスプラットフォームUltrahumanが19億円調達

フィットネスプラットフォームのUltrahumanが、アーリーステージ企業を対象としたファンドであるAlpha Wave Incubation、Steadview Capital、Nexus Venture Partners、Blume Venturesの他、Utsav Somani(ウトサヴ・ソマニ)氏のiSeedファンドからの出資を受け、1750万ドル(約19億円)のシリーズB資金調達を正式に発表した。

ベンガルールに本社を置く同スタートアップのシリーズBには、Tiger GlobalのScott Schleifer(スコット・シュライファー)氏、ZomatoのCEOのDeepinder Goyal(ディピンダー・ゴヤル)氏、CredのCEOであるKunal Shah(クナル・シャー)氏、unacademyのCEOおよび共同創業者のGaurav Munjal(ガウラヴ・ムンジャル)氏とRomain Saini(ロマン・サイニ)氏など、数多くの創業者やエンジェル投資家も参加している。今回の資金調達により、同社のこれまでの累計調達額は2500万ドル(約28億ドル)となっている。

このサブスクリプションプラットフォームが登場したのは2019年のこと。以来、同社は自宅向けのワークアウトビデオ、マインドフルネスのコンテンツ、睡眠セッション、心拍数トラッキング(Apple Watchなどのサードパーティ製ウェアラブルとの統合)など、比較的馴染みのあるプログラムを提供してきた。しかし、同社最新のフィットネスツールはかなり斬新なものになっており、ユーザーのグルコースレベル(つまり血糖値)をトラッキングすることで代謝活動を監視できるよう設計されているのだ。

糖尿病を患っている人々にとって血糖値の管理は欠かせない。しかし、米国だけでも何百万人もの人が糖尿病予備軍、つまり血糖値が正常値よりも高く、本人が分かっていないだけで実際は糖尿病になる危険性が高いグループに属している。

さらに、Ultrahumanは世界中で10億人以上もの人々がメタボリックヘルス障害に苦しんでいると主張しており、同社が目をつけている潜在的市場の大きさを物語っている。

血糖値が高い状態が続くとさまざまな健康上の問題が発生するため、食事や運動などの生活習慣を改善させて血糖値を管理することが望ましいとされている。生活習慣の改善は血糖値の上昇を抑え、健康への悪影響を軽減したり、あるいは糖尿病予備軍の人が本格的な糖尿病を発症するリスクを回避したりすることさえできるという。

しかし、人によって、それぞれの食べ物に対する血糖値の反応は大きく異なるため、どのような食事療法や運動療法が自分に合っているのかを知ることは難しく、試行錯誤を繰り返すことになりかねない。

これらの反応は個人の代謝の健康状態に左右されるものであり、さらにマイクロバイオームの多様性、ストレスレベル、時間帯、食品の成分や品質などさまざまな要因に影響を受ける。(関連記事: パーソナライズされた栄養改善アドバイスを提供するスタートアップZoeは、同様に血糖値に注目しているものの、彼らはビッグデータとAIを使ってマイクロバイオームを解読しようとする幅広い取り組みのうちの一要素として扱っている)。

代謝の健康状態には個人差があるため、継続的なグルコースモニタリングが広く普及する可能性は極めて高いと言えるだろう。そのプロセスと価格帯が広く受け入れられるようなものならば、なおさらである。

Ultrahumanは現在、それを達成すべく、フィットネス愛好家に向けたデバイスの製品化に取り組んでいる。6月には最初のデバイスのベータ版を発表しているが、ターゲットとしている価格帯はかなりプレミアムなものとなっている。

創業者兼CEOのMohit Kumar(モヒット・クマール)氏によると「Cyborg」と名付けられた同製品(ウェアラブルとサブスクリプションサービス)は、皮下の間質液からグルコースを抽出する皮膚パッチを備えており、そのデータが分析と視覚化のための付属アプリに供給される仕組みとなっている。

画像クレジット:Ultrahuman

食事中、運動中、睡眠中など、着用者の日常生活における血糖値をこのパッチがトラッキング。バイオマーカーがアプリのトリガーとなって、ユーザーに「ライフスタイルの最適化」を促すシステムだ(Ultrahumanのウェブサイトによると、高血糖イベントを警告し、レベルを下げるための運動を提案するなど)。

継続的な血糖値モニタリングを簡単に行う、とうたうこの製品が実際に効果を発揮すれば、ジャンクフード好きの人は大好きな菓子を食べたらすぐに送られてくる、自分の体の反応に対するフィードバックにショックを受けることになるだろう。

ウェアラブル技術の具体的な内容について尋ねると「スポーツテクノロジーの分野で過去6〜7年にわたって使用されてきた医療グレードのセンサーを使用しており、精度もまずまずです」とクマール氏は回答。(ここでいう「ウェア」とは、センシングハードウェアを素肌に直接装着することを意味する)

Ultrahumanのプラットフォームには一般のフィットネスコンテンツも数多く含まれているが、同社は現在「メタボリックフィットネス・プラットフォーム」と称して開発中の同製品を前面に押し出している。ただし、このサービスは現在のところクローズドベータ版となっている。

現在は技術に磨きをかけながら、登録待ちのリストを受け付けている最中である。

「数千人」もの人々がこの血糖値トラッカーサービスに登録し、その利用を待っているとUltrahumanは伝えている。また、登録者数は前週比で60%増加しており、製品の一般普及は「2022年初頭」を予定しているとのことだ。

シリーズBの資金の一部は、製品の本格的な発売に向けてグルコースバイオマーカーの品質を向上させるために使用される予定だ。

強化面においては、ウェアラブルの改良を進める中で同社は「より正確な方法でグルコースを捉え、14日間以上使用できるような他のフォームファクターや他のタイプのセンサー」を検討しているとクマール氏はTechCrunchに語っている。(現在の皮膚装着型センサーは2週間しか使用できず、その後は別のパッチに交換する必要がある)

「HRV(心拍変動)、スリープゾーン、呼吸数などのバイオマーカーを追加して、代謝の健康状態が回復や睡眠に与える影響や、またその逆を理解してもらえるようにしたいと考えています」と同氏。

グルコースはフィットネスやウェルネスに関するさまざまな問題を数値化するためのプロキシとして使用でき、個人の健康シグナルを測るのに非常に役立つ(可能性のある)指標となるため「主要なバイオマーカー」としてグルコースのトラッキングに焦点を当てることにしたと、Ultrahumanは伝えている。

同スタートアップの技術が血糖値の変化を十分な感度で検知し、ユーザーごとに意味のある提案ができてこその製品である。

「グルコースは運動、睡眠、ストレス、食事などの影響を直に受けるリアルタイムのバイオマーカーで、とても興味深いものです。私たちは、栄養、睡眠、ストレス、運動など、さまざまな要素から人々のライフスタイルを変える手助けをすることができます。また体の反応に合わせ、非常にパーソナライズされたガイダンスを提供することが可能です」とクマール氏は話している。

この製品を使い、どのようにしてユーザーの食事や運動に有益な調整を行うことができるかという例をクマール氏は説明してくれた。例えば、同製品は今食べた食事が「健康的な代謝反応」をもたらすものなのか、それとも「より最適化が必要」なものなのか(血糖値の急降下を避けるため)を特定でき、また体内のグルコース消費率に応じて、ユーザーのライフスタイルに合わせた「最適な食事のタイミング」を特定することもできるという。

また、アスリートやフィットネス愛好家に向けて、センサーを装着したユーザーが最適なパフォーマンスを発揮するため、運動前にどのような食事を補給すればよいかなどのアドバイスも提案してくれるという。

また、1日の最後の食事を最適化することで、睡眠効率を高めることも可能だ。

UltrahumanのCyborgが(我慢できる程度に)装着可能な皮膚パッチと巧妙なアルゴリズム分析でこれらすべてを行うことができるとすれば、セルフトレーニングトレンドの次を行くものになるだろう。

シンプルな貼るタイプのセンサー&アプリは、体内の生体信号を受動的に増幅し、個々のバイオマーカーを実用的なパーソナライズされた健康情報にリアルタイムで変換するもので、これは予防医療の分野における大きな始まりの一歩になるかもしれない。

ただし、繰り返し書くがUltrahumanの初期価格設定を見ると、ここでこの製品を購入できる人は限られてくるだろう。

クマール氏によると、クローズドベータ版のアーリーアダプターは、サブスクリプションサービスに毎月80ドルを支払うことになっている。そして少なくとも今のところ、同社は今後より多くの機能を追加しようと目論んでいる。「製品の価格設定はほぼ同じままですが、さらにサービスやプレミアム機能を追加する可能性があります」と同氏は述べている。

しかし健康的な食事をするためのコストや、運動をして自分の体をケアできるだけの余暇を持つというのは、社会経済的に厳しい制限である。どんなにスマートであっても、こればかりはウェアラブルによって解決できるものではない。

画像クレジット:Ultrahuman

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

TileがApple AirTagのライバルとなる次期製品Tile Ultraを含む新製品ラインナップを発表

Tile(タイル)は、先日の4000万ドル(約45億円)の資金調達に続き、Apple AirTagに対抗するために長い間期待されていたウルトラワイドバンド(超広帯域)搭載トラッカーTile Ultraを含む、最新の紛失物トラッカーのラインナップを発表した。この製品は、正式に発表されたものの、まだ購入することはできない。その代わりに、バッグ、鍵、バックパック、荷物などに取り付けるというコアとなるユースケースに対応するために、新しいデザインを採用したTileのプレミアムデバイスであるTile Proが最初のアップデートとして発表された。また、Mate、Sticker、SlimといったTileの既存のトラッカーも、音の大きさ、検出範囲の長さ、耐水性の向上などの新機能が追加されている。

関連記事
44億円を調達した紛失物探索デバイスのTile、新製品でアップルのAirTagに対抗
ARで簡単に紛失物を探し出せるウルトラワイドバンド搭載トラッカーをTileが準備中

Tileは、1月に新技術に関する同社の計画を詳細に説明しており、Tile Ultraの開発には以前から取り組んできた。このデバイスは、Tile Proと同じフォームファクターでありながら、よりプレミアムなデザイン処理が施され、ステンレススチール製のリングを付けて出荷される予定だ。さらに、このデバイスにはAppleのAirTagと同じウルトラワイドバンド技術が採用され、より正確な検索機能が実現される。

Tile Ultraは、Bluetoothとウルトラワイドバンドの両方の機能を備えており、400フィート(約121メートル)離れた場所にある物体を探し出し、その位置を最新のモバイルアプリケーションのインターフェースに表示する。そして、以下の画像のように、自分の部屋やその他の場所がカメラビューで表示され、大きなARの矢印が消えたTileの位置を示してくれている。

画像クレジット:Tile

ここ数カ月の間、Apple(アップル)を厳しく批判しているTileは、Appleが自社の市場に参入し、競争面で不利になったことを訴えてきたiPhoneの新しいモデルには、U1チップによるウルトラワイドバンド機能が搭載されているが、その機能を利用することは、iOS 15が登場するまでサードパーティの開発者にはできなかった。そのため、AppleはAirTagを先行して開発した。それに比べてTileは、パートナーであるGoogle(グーグル)と緊密に協力して、新しいデバイスが、Androidに初めてウルトラワイドバンドを導入したAndroid 12でうまく動作するようにしていると述べた。

関連記事:Tileがアップルの新しいAirTagを不正競争だと非難

TileのCEOであるCJ Prober(CJ・プローバー)氏は、Tile Ultraの発売が遅れたことについて「Appleは、最初の自社製品を発売し、その製品がしばらく市場に出回るまで、ウルトラワイドバンドを試験的に利用できるようにすることを控えていました」と指摘している。このため、次期Tile Ultraの出荷は2022年初頭となる。

近い将来、Tileの他のラインアップも大幅に刷新される。

人気のTile Proは、よりスリムになった新しいフォームファクターで、見た目が大きく変わった。Tileは、社内で約16種類のデザインをテストした後、このデザインを採用した。

「このフォームファクターは、キーフォブのように鍵に引っ掛けることができるため、ユーザーの共感を得ることができました」とプローバー氏は述べている。

今回のアップデートでは、外観の変更が大きなポイントとなっており、性能面ではわずかな改良にとどまっている。また、400フィート(約121メートル)の電波到達距離と、1年間交換可能なバッテリーも引き続き搭載されている。

画像クレジット:Tile

Tileの他のラインアップも更新された。Tile Mateは、財布や鍵にもフィットするような、より洗練されたデザインに変更され、カラーもブラックとホワイトの2色になった。到達距離は250フィート(約76メートル)(従来比25%増)、防水性能の改良(IP67、水深1メートルで30分)、リングの音も大きくなり、3年間交換不能のバッテリーを搭載している。

テレビのリモコンなど、トラッカーを簡単に取り付けられないものに貼ることができるTile Stickerは、通信距離が67%向上して最大250フィート(約76メートル)になった。また、リングの音量が大きくなり、耐水性が向上し、3年間交換不能のバッテリーが搭載されるといったTile Mateと同様のアップデートが施されている。

また、財布の中に入れられるように設計されたTile Slimは、通信距離、バッテリー、リングなどの性能が同じようにアップデートされている。

ProとSlimの販売価格は34.99ドル(約4000円)で、Mateは24.99ドル(約2800円)、Stickerは29.99ドル(約3300円)だ。

画像クレジット:Tile

製品のアップデートと同時に、Tileは、Lost and Foundと呼ばれる紛失物を見つけるための新しい方法を提供するモバイルアプリをアップデートしている。このサービスは、紛失したTileのアイテムを見つけた人が、デバイスのQRコードをスキャンすると、持ち主の連絡先が表示され、返却の手続きができるというものだ。

画像クレジット:Tile

Tileは、未知のAirTagがあなたの後をつけていると定期的に警告するというAirTagのセキュリティ機能にヒントを得て、未知のデバイスが近くにあるかどうかも識別する。ただし、この機能はAppleのAirTagとは仕組みが異なる。ユーザーは、Tileアプリをダウンロードし、ボタンを押すことで、近くにある望まれないTileを手動でスキャンすることができるようになる。その際、Tileのアカウントは必要ない。この機能はまだ実装されていないが、National Network to End Domestic Violence(ドメスティック・バイオレンス撲滅のための全米ネットワーク)の勧告に基づいて設計されたものだそうだ。

「ストーカー被害者の約70%は加害者を知っています」とプローバー氏はいう。「彼らの指導は、見逃してしまうかもしれない通知を待たせるのではなく、このような安全機能をユーザーに提供する必要があるというものでした」。

Scan and Secureと呼ばれるこの機能は、2022年初めにiOSとAndroidに搭載される予定だ。

Tileは自社製品に紛失物検索機能を搭載したいと考える企業とのパートナーシップを通じて事業を拡大してきたが、Tileの収益の大部分は、依然として自社デバイスの直接販売によるものだ。Tileはこれまでに4000万台のトラッカーを販売し、42万5000人以上の有料会員を抱えているが、これはプレミアムサービスに加入していない多くのユーザーのごく一部にとどまっている。上半期の売上高は50%以上増加しているが、同社はその数字を公表していない。

Tile Ultraを除くTileの新しいラインナップは、Tile.comおよびAmazon(アマゾン)、Costco(コストコ)、Best Buy(ベストバイ)、Target(ターゲット)などの小売店で販売される。

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Yuta Kaminishi)

44億円を調達した紛失物探索デバイスのTile、新製品でAppleのAirTagに対抗

Bluetoothを利用した紛失物探索デバイスのメーカーTile。最近ではApple(アップル)を激しく非難している同社は、現地時間9月16日、Capital IP(キャピタルアイピー)から4000万ドル(約43億8000万円)の希薄化をともなわない融資を獲得したことを発表した。今回の資金調達は技術開発への投資に充てられる。また、同社はAppleのAirTagsに対抗し、新製品や機能を発表して市場の拡大を図る。

関連記事
Tileがアップルの新しいAirTagを不正競争だと非難
アップルが紛失物トラッカー「AirTag」をついに正式発表

Tileは、ハンドバッグやスーツケース、自転車、財布、鍵などのアイテムに取り付けられる小型紛失物探索デバイスの分野で長年にわたり業界をリードしてきた。ユーザーはiOS、Androidのスマートフォンアプリ「Tile」を使ってそのアイテムを追跡することができる。アイテムを紛失した場合、Tileアプリを使って、Bluetooth経由でアイテムを探索し、アイテムに取り付けられたデバイスで音を鳴らしてアイテムを見つける。アイテムが近くにない場合は、アプリをインストールしている他のユーザーやその他のアクセスポイントで構成される、より広範な探索ネットワークを利用する。Tileはこのネットワークを介して、自動的かつ匿名でアイテムの位置を持ち主のTileアプリに伝える。

画像クレジット:Tile

同社は、オーディオ、トラベル、ウェアラブル、PCなど40以上の企業について、その企業のデバイスとTileの検索ネットワークを統合するパートナーシップを締結している。代表的なブランドパートナーとしては、HP(ヒューレットパッカード)、Dell(デル)、Fitbit(フィットビット)、Skullcandy(スカルキャンディー)、Away(アウェー)、Xfinity(エクスフィニティ)、Plantronics(プラントロニクス)、Sennheiser(ゼンハイザー)、Bose(ボーズ)、Intel(インテル)などが挙げられる。Tileによると、同社のサービスが組み込まれたデバイス上のアクティベーションは、前年比で200%の伸びを示しているという。

これまでにTileは4000万台以上の探索デバイスを販売し、42万5000人以上の有料顧客を獲得している。これらの数字は今回初めて公表されたが、同社は無料と有料を合わせた総ユーザー数は公表していない。同社は2021年上半期に収益が50%以上増加したとしているが、これについても正確な数字は公表されていない。

Tileは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、一部の市場の回復が遅れ、海外展開に影響があったことを認めているが、海外での業績は好調であり、今後も注力していく予定だという。

しかし、Tileにとっての唯一の障害がパンデミックという訳ではない。

AppleがAirTagsを発売してTileに対抗する計画を発表した際、Tileはそれを「不公正な競争」として批判した。Tileの製品とは異なり、AppleのAirTagsでは、iPhoneの新モデルに搭載されたU1チップが実現するウルトラワイドバンド(超広帯域)技術を利用して、より正確な探索が可能だ。一方、Tileは独自のウルトラワイドバンドを利用したデバイスを計画していたが、iPhoneでウルトラワイドバンドを利用することができなかった。つまり、Appleは自社の紛失物探索デバイスに、競合他社との差別化を図るための機能をいち早く、独占的に利用したのだ(Appleはその後、ウルトラワイドバンドのAPIをサードパーティ開発者に提供することを発表したが、APIが利用できるようになったのはAirTagが発売された後のことである)。

関連記事:ARで簡単に紛失物を探し出せるウルトラワイドバンド搭載トラッカーをTileが準備中

Tileのコンセプト図(社内資料)

Tileは、Appleの反競争的行為を問題視し、Spotify(スポティファイ)やMatch(マッチ)といった他のAppleに批判的な企業とともに複数の議会公聴会で証言してきた。規制当局からの圧力が強まった結果、Appleは後になってFind Myネットワークをサードパーティ製デバイスに開放し、AirTagsによって不利益を被るTileや他の競合他社を懐柔しようとしている。

関連記事:アップルの「Find My(探す)」がサードパーティーの電動自転車とイヤフォンをサポート

しかし、Tileは、顧客をAppleのファーストパーティアプリに誘導するのではなく、独自のアプリを使用して、独自の機能やサービスで勝負するつもりだ。Tileのサブスクリプションにその姿勢が良く表れている。基本となるTile Premiumプランは年額29.99ドル(日本では3600円)で、無料のバッテリー交換(日本では延長保証)、スマートアラート、ロケーション履歴などの機能を提供する。また、年間99.99ドル(約1万1000円、日本未対応)のPremium Protectプランでは、発見できなかったアイテムに対して年間1000ドル(約11万円)までの保険が適用される(AirTagには同様のサービスは存在しない)。

多くの差別化要因があるにもかかわらず、TileはウルトラワイドバンドのAirTagとの激しい競争に直面している。なぜなら(Appleの製品である)AirTagには、潜在的に数億人のiPhone所有者から成るAppleのネットワークを利用できるという利点があるからだ。

それでも、2018年にTileに参入したCEOのCharles “CJ” Prober(チャールズ・プローバー)氏は、AirTagは同社の収益やデバイスの販売に影響を与えていないと主張する。

同氏はAppleについて次のように話す。「……しかしそれは、Appleが私たちのビジネスを難しくしているという事実を取り除くものではありません」「私たちのビジネスは成長を続け、ユーザーに支持されています。Appleは不公平な競争をしています」。

「プラットフォームを所有している以上、参入したいカテゴリを決めて、そのカテゴリの既存企業を不利にすることで自分たちが有利になるようにすることは許されません。彼らが私たちにしたようにね」。

TileはAirTagに対抗するために、製品のリニューアルを発表する準備をしている。詳細は来週発表されるとのことだが、おそらく、これにはすでに発表されたウルトラワイドバンドバージョンのTileが含まれると思われる。より競争力を高めるために、デザイン、サイズ、形状、機能などの面でラインナップを拡大する可能性もある。

関連記事:ARで簡単に紛失物を探し出せるウルトラワイドバンド搭載トラッカーをTileが準備中

資金調達については、Tileは2019年にグロースキャピタル(未上場株投資の一種)で4500万ドル(約49億円)を調達した。現在は融資にシフトし、今回の資金調達で、新たな融資に加えて、既存の融資の一部を借り換えているという。

「私は、融資と株式を混在させるのが良いと考えています。ですから、バランスシートにある程度の負債があることは良いことです。株主に希薄化をもたらすものでもありませんから」「私たちは、この資本選択の組み合わせが適切だと思っています」とプローバー氏。

Capital IPは、Tileが過去3年関係を築いてきたグループであり、Tileは同グループを投資家として迎えることを検討していた。「Capital IPグループは、Tileに関心を持ち続け、Tileの将来に期待を寄せている」とプローバー氏は指摘する。

Capital IPのマネージングパートナー、Riyad Shahjahan(リヤド・シャージャハン)氏は、声明の中で次のように述べる。「私たちは、Tileのチームと提携できることをうれしく思います。Tileはハードウェアおよびソフトウェアベースの革新的な技術によって探索システムのカテゴリを定義し、リードし続けています」「収益成長は素晴らしく、急速に上昇する加入者数の傾向は、Tileがプラットフォームに依存せずに提供できる価値提案を裏付けるものであり、当社が投資を決定する上での重要なポイントとなりました。Tileのチームは意欲的なロードマップを持っています。私たちは、Tileのチームが新しい市場やアプリケーションに参入し、市場でのリーダーシップをさらに強固なものにすることを楽しみにしています」。

画像クレジット:Tile

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

Sila Nanotechnologiesの次世代バッテリーがWhoopのウェアラブルデバイスで初めて商用利用

米国時間9月8日、Sila Nanotechnologiesの次世代バッテリー技術がWhoopのフィットネストラッカーの新製品で商用製品デビューを果たした。これは、1つのセルにできるだけ多くのエネルギーを低コストで詰め込もうとするこのシリコンバレーの企業にとって10年にわたる謎解きのような研究開発の成果だ。

バッテリーの化学的な改良にはこれまでの数年間で数十億ドル(数千億円)が投じられ、さまざまなスタートアップが、アノードやカソードを、シリコンや固体電池企業の場合はリチウムのような変換材料に置き換えようとしている。

Silaのバッテリー化学のレシピは、バッテリーセルのアノード中のグラファイトをシリコンで置き換えて、エネルギー密度が高く安価なバッテリーパックを実現する。BASFなどその他の企業は、エネルギー密度の高いカソードを作ることにフォーカスしている。

現在では、さまざまな企業がさまざまな化学構造のバッテリーの実現を目指しているが、それらはいずれも今日のリチウムイオンバッテリーのように、従来的なセルの技術をそのまま継承している。最新のヘルス&パフォーマンストラッカーであるWhoop 4.0で使用されるSilaのバッテリーは、この数十年間において世界で初めて市販の次世代バッテリー化学製品となる。

Sila Nanotechnologiesの創業者でCEOのGene Berdichevsky(ジーン・ベルディチェフスキー)氏は「小さなフィットネストラッカーは、些細なものにしか見えないかもしれませんが、市場に初めて登場する弊社の革新性を実証するデバイスです。今後、もっと大きくなりあらゆるものの電動化に使われることになるでしょう」という。

電気自動車と、それらを動かすSilaの役割が、ベルディチェフスキー氏のいう「あらゆるものの電動化」リストのトップにある。そして同社は、そこでもすでにリードしている。

Sila NanotechnologiesはBMWやDaimlerとのバッテリーに関するジョイントベンチャーで、同社のシリコンアノード技術を使ったバッテリーを開発する。自動車としての市販開始は、2025年の予定となっている。

「Whoopの成功を自動車に持ってくる方法にはさまざまなものがある。今日では、走行距離の長いクルマが欲しければ大型車を買えばいい。小型のEVはバッテリーをたくさん倒産できたいため、その距離も短くなります。しかし、弊社の技術が自動車業界で本格的に採用されることになれば、走行距離600kmのシティーカーの実現も可能です。これにより自動車産業におけるより広い分野で、電動化を目指せるようになるでしょう」とベルディチェフスキー氏は語る。

2021年9月初めに、36億ドル(約3967億円)の評価額で2億ドル(約220億円)を調達したWhoopは、Whoop 4.0をウェアラブルデバイスとして市場に投入するが、Sila製バッテリーのおかげで、そのサイズは前モデルよりも33%小さい。ベルディチェフスキー氏によれば、そのエネルギー密度は17%高いという。しかもバッテリーの高密度化でウェアラブルデバイスが小さくなるだけでなく、Whoop 4.0は、睡眠のコーチングや触覚によるアラート、パルスオキシメーター、皮膚温度センサー、ヘルスモニターなど機能が豊富になり、しかもバッテリー寿命は前モデルと同じ5日間のままだ。

関連記事:プロアスリート向けのウェアラブルトラッカーのWhoopが220億円調達

「弊社のような化学構造が可能になったことによって、これまでできなかったことができるようになったのが大きい」とベルディチェフスキー氏はいう。

Whoopの場合は、同社がAny-Wearと呼ぶ新技術により、バンドなど腕時計以外の部分もウェアラブル化し、胴体や腰、ふくらはぎなどからもデータを集めることができる。

製品の成功の鍵となるのは、Sila製バッテリーの新しい化学構造だけでなく、重要なのはむしろ製品のスケーラビリティだ。スケーラビリティは、Silaのロードマップに最初から存在する。

ベルディチェフスキー氏は「弊社のサイエンティストとエンジニアには、最初の頃からグローバルに利用される日用品向けの設計はそのまま、数百万台のクルマの設計に活かすことができると言っています。両者は大量生産の技術という点で共通しており、平面リアクターではなく体積リアクターを使える点が大きい」という。

この、リアクターのタイプの違いについては、次の例がわかりやすいかもしれない。小さな広場で大群衆に食事を提供するためには、大鍋でチリをつくる、つまり体積型の方が1人1人にピザパイを提供する、つまり平面型よりも効率がいい。

また、ベルディチェフスキー氏は、スマートフォンや自動車、ドローンなどのバッテリーを供給するあらゆるのバッテリー工場のプロセスに、シームレスに組み込むことができるものでなければならないとチームに語っている。

ベルディチェフスキー氏によると、Silaはすでにスケーラビリティを2度実証している。最初は、ラボからパイロット事業への100倍のスケールで、約1リットルサイズの体積リアクターから始まった。9月8日に結んだWhoopとのパートナーシップが2度目のスケールアップで、5000リットルのリアクターを実現した。5000リットルのリアクターは、その上に人間が2人乗れるような大きさだ。次の段階のスケールアップは、3年後を狙っている自動車に載せられる量となる。

「現在、自動車に搭載されていない理由は、実際に自動車に搭載するためには100倍のスケールアップが必要であるためです。しかし、材料は同じです。”粒子や粉末は、これまでに作ったどのスケールのものも同じです」とベルディチェフスキー氏はいう。

画像クレジット:Whoop

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hiroshi Iwatani)

プロアスリート向けのウェアラブルトラッカーのWhoopが220億円調達

2012年創業のWhoop(ウープ)はフィットネストラッカーの世界では馴染みのないブランドだ。しかしここ数年、同社はかなりの乗り換えユーザーをひきつけてきた。同様に、ベンチャーキャピタルをひき寄せるのにも苦労はしなかった。ボストン拠点の同社にTechCunchが最後に話を聞いたのは、同社が5500万ドル(約60億円)を調達した2019年後半だった。そしていま、Whoopはさらに2億ドル(約220億円)という巨大な資金調達を行った。

今回のシリーズFラウンドでWhoopの累計調達額は4億500万ドル(約446億円)近くになった。この規模の企業にしてはかなりの額だ。ソフトバンクのVision Fund 2がリードしたFラウンドでのバリュエーションはなんと36億ドル(約3965億円)だ。

その他の投資家にはIVP、Cavu Venture Partners、Thursday Ventures、GP Bullhound、Accomplice、NextView Ventures、Animal Capitalが名を連ねている。既存投資家は全国フットボールリーグ選手協会、Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏、その他数多くのプロアスリートだ。

Whoopがアスリートをターゲットとしているのは、Apple WatchやFitbitなど主要な消費者向けウェアラブルとはかなり対照的だ。事実、Whoopはスポーツチーム、企業やヘルスケア、政府 / 防衛向けソリューションのための特別販売を行っている。

Whoopは、このほどFitbitが新製品Charge 5のための「Daily Readiness Score(体の準備ができているかを示すスコア)」を発表したときに社名を響かせた。このスコアについては、多くの人がより高度なWhoopの分析を引き合いに出した。

Whoopは追加の資金調達を模索するモチベーションとして、2020年の会員数の「大幅な成長」を挙げている。それはおそらく部分的に、18カ月のサービスが月18ドル(約2000円)〜というサブスク(サービス利用期間が短いほど月額料金は高くなる)に注力する一方で、500ドル(約5万5000円)のウェアラブルを無料にするという2019年の決断によるものだった。

Whoopは米国以外のマーケットへの進出もにらんでいて、膨大な額の調達資金をハードウェアのR&D、ソフトウェア、分析ソリューションに注ぐ。また、現在500人超の従業員数の増加にも使う(従業員の半分近くは2020年加わった)。

「当社は国際的に成長していて、ソフトバンクとの提携をさらに深化させることに胸躍らせています」と創業者でCEOのWill Ahmed(ウィル・アーメッド)氏はリリースで述べた。「2020年驚くほどの成長を経験しましたが、当社のテクノロジーの潜在性ならびに健康モニタリングの広大なマーケットの大部分は未開拓のままです」。

画像クレジット:Whoop

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi