細胞量産技術開発の東京大学発セルファイバと京都大学iPS細胞研究財団がiPS細胞増殖の効率化を目指す共同研究を開始

細胞量産技術開発の東京大学発セルファイバと京都大学iPS細胞研究財団がiPS細胞増殖の効率化を目指す共同研究を開始

iPS細胞を培養中の細胞ファイバー

東京大学発の細胞量産技術開発スタートアップのセルファイバは、iPS細胞増殖の効率化に関する研究を、京都大学iPS細胞研究財団(CiRA_F:サイラエフ)と共同で開始した。CiRA_Fの理念である「最適なiPS細胞技術を、良心的な価格で届ける」の実現を後押しするという。

セルファイバは、「細胞ファイバ」という技術を有している。髪の毛ほどの中空ハイドロゲルチューブの中に細胞を封入して培養するというものだ。細胞はゲルに保護されるため、従来の培養方式に比べて、細胞を良好な状態で長時間維持することができる。また細胞から分泌される物質はチューブの外に放出されるため、物質生産にも有用となる。この細胞ファイバ技術を使うことで、製造施設の省スペース化、品質と回収率の改善、プロス開発工数の短縮、製造工程の簡略化などが期待できるという。

共同研究では、この細胞ファイバ技術開発の知見を活かし、iPS細胞増殖技術の検討が行われることになる。安全で効率のよい製造手法が確立されれば、高額な再生医療費用の低価格化や、今よりも早く治療法を患者に届けることが可能になると、CiRA_Fは話している。

DRP創薬を手がける産総研技術移転ベンチャーVeneno Technologiesが2億円のシード調達

DRP創薬を手がける産総研技術移転ベンチャーVeneno Technologiesが2億円のシード調達

Veneno Technologies(ベネイノテクノロジーズ)は1月24日、シードラウンドとして、第三者割当増資による2億円の資金調達を完了したと発表した。引受先は、SBIインベストメント、筑波総研、SBI地域活性化支援。

調達した資金は、採用・組織体制の強化、同社独自のペプチド創薬プラットフォーム技術のさらなる発展と、DRP機能性ペプチドを基盤分子とする自社創薬パイプラインの研究開発に投資し、DRP創薬を推進する。DRPは、ジスルフィドリッチペプチド(Disulfide-Rich Peptide)の略称。分子内に3つ以上のジスルフィド結合を有し特徴的な構造を持つ、20から60アミノ酸残基程度のペプチドの総称したもの。

Veneno TechnologiesのVeneno Suiteは、独自のDRP創薬一気通貫技術により、天然のDRPを鋳型に人工的に加速進化させ作成される巨大な遺伝子ライブラリーと、そのライブラリーから目的とするDRPを高速・効率的に探索できるスクリーニングシステムという。また多様なDRPを短期間で効率よく製造できる技術からなるとしている。

同社は、これまで創薬困難とされてきた膜たんぱく質などの標的や、それに関与する難治性疾患に対し新たな薬剤を提供することで、医療の進歩に少しでも貢献することをミッションとして掲げており、DRP創薬の新たな展開に向けて、調達した資金により以下の点を中心に強化するという。

・DRP創薬を進める高度な研究員の登用、研究所の新規開設
・DRP焦点化ライブラリー(DRP Space)の拡充
・DRP高速探索システム(PERISSTM)の強化とパイプライン拡充(共同研究の推進)
・DRP製造技術(Super Secrete)の開発(高効率な少量多品種製造技術の確立)
・DRP分析技術の開発

Veneno Technologiesは、DRP機能性ペプチドの研究開発を加速し、先進的で持続可能な医療と社会への貢献を目指し、2020年7月に設立。産業技術総合研究所(産総研)で長年研究されてきた革新的なDRP探索技術と、現在研究開発を進めているDRP製造技術の統合により、新薬や研究試薬、農薬、バイオスティミュラントなど、様々なDRP創薬の研究開発をリードするとしている。

また産総研による技術移転措置により、特許実施許諾契約を締結し、産総研技術移転ベンチャーの称号を付与されている。

切っても茶色くならないリンゴの品種育成を加速、リンゴ果肉の変色に関わる染色体領域を特定

切っても茶色くならないリンゴの品種育成を加速、リンゴ果肉の変色に関わる染色体領域を特定

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と青森県産業技術センターは1月20日、リンゴの果肉が茶色くなる(褐変)ことに関連する染色体領域を3カ所特定し、その領域の目印となり、品種改良のための苗の選抜に活用できるDNAマーカーを開発した。これにより、切っても褐変しないリンゴの品種改良が大幅に効率化される。

リンゴは、切ったりすりおろしたりするとすぐに茶色くなり、見た目や商品価値が損なわれてしまう。中食・給食・離乳食・デザートトッピングなどカットフルーツとしての需要はあるものの、流通させようとすると、褐変させない処理や包装などに手間とコストがかかってしまう。そのため、褐変しないリンゴの品種開発が求められている。

ほとんどのリンゴ品種は、果実をカットすると短時間のうちに茶褐色に変色(褐変)する

ほとんどのリンゴ品種は、果実をカットすると短時間のうちに茶褐色に変色(褐変)する

実際に褐変しにくいリンゴの品種はきわめて少なく、世界では「あおり27」と「Eden」の2種類だけが知られている。だが、あおり27は流通期間が短い(普通冷蔵で2カ月程度)という課題があり、Edenは海外品種のため現時点では国内での流通が難しい。また、これらの遺伝情報はわかっていない。

そこで農研機構と青森県産業技術センターは、褐変しにくい品種を効率的に育成するために、ゲノム解析技術を活用した大規模な遺伝解析を行い、褐変に関連する染色体領域の特定を行うことにした。あおり27や「シナノゴールド」といった28品種を親とする24通りの組み合せの交配により育成した468個体のリンゴ樹から果実を収穫し、すりおろして、24時間後の褐変の状態を6段階で評価。

28品種を親とする24通りの組み合せの交配により育成した468個体のリンゴ樹から果実を収穫し、すりおろして、24時間後の褐変の状態を6段階で評価。褐変指数0:無、1:難、2:低、3:中、4:高、5:甚の6段階に分類した

28品種を親とする24通りの組み合せの交配により育成した468個体のリンゴ樹から果実を収穫し、すりおろして、24時間後の褐変の状態を6段階で評価。褐変指数0:無、1:難、2:低、3:中、4:高、5:甚の6段階に分類した

この468個体の果肉褐変指数と全染色体領域にわたる約1万カ所の情報から遺伝解析を行い、褐変の原因領域が、第5染色体、第16染色体、第17染色にあることを突き止めた。そこから、その染色体領域を特定しやすくするDNAマーカーを開発。これを使うことで、若い苗の段階で褐変しにくい品種の選抜、および褐変しない品種の育成が効率的に行えるようになるという。

これにより、「リンゴ加工品の活用場面が広がり、新たな需要の創出につながることが期待されます」と農研機構では話している。


画像クレジット:Fumiaki Hayashi on Unsplash

低コスト細胞培養技術CulNet Systemのインテグリカルチャーが7.8億円調達、2022年に世界初の培養フォアグラ上市を目指す

低コスト細胞培養技術CulNet Systemのインテグリカルチャーが7.8億円調達、2022年に世界初の培養フォアグラ上市を目指す

独自開発の低コスト細胞培養技術「CulNet System」(カルネット システム)の生産プラットフォーム化を目指すインテグリカルチャーは、シリーズA’ラウンドにおいて、第三者割当増資による総額7億8000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、リアルテックファンドやFuture Food Fund1号投資事業有限責任組合をはじめとする複数のベンチャーキャピタル、および事業会社の計12社。累計資金調達額は約19億円となった。また、2022年後半以降には施設拡大を目的としたシリーズBを予定。

  • リアルテックファンド
  • Future Food Fund1号投資事業有限責任組合(新規)
  • Beyond Next Ventures
  • 食の未来ファンド(kemuri ventures。新規)
  • りそなキャピタル6号投資事業組合(新規)
  • Plan・Do・See(新規)
  • 山口キャピタル(新規)
  • SuMi TRUST イノベーションファンド(新規。三井住友信託銀行とSBIインベストメントが共同設立したプライベートファンド)
  • いよぎんキャピタル(新規)
  • AgFunder
  • VU Venture Partners
  • ほか1社

調達した資金は主に、CulNet Systemのスケールアップと、これを用いた細胞農業生産プラットフォーム構築に向けた研究開発、および培養フォアグラ製品上市や化粧品原料などの事業化資金にあてる。細胞農業プラットフォーム構築に向けた研究開発では、主に培養プロトコル開発の動物種を広げ、食品会社や細胞農業スタートアップを中心に、受託研究や共同研究パートナーを拡大する。低コスト細胞培養技術CulNet Systemのインテグリカルチャーが7.8億円調達、2022年に世界初の培養フォアグラ上市を目指す

同社は、2021年に細胞農業オープンイノベーションプラットフォーム「CulNetコンソーシアム」を12事業体で設立し、その後も加盟企業が増えているという。2021年4月にリリースした、細胞培養上清液を用いた化粧品原料「CELLAMENT」(セラメント)は、原料販売・OEM事業をスタートした。今後も、原料およびOEM製品として事業拡大を計画しているという。

食品事業では、2022年に培養フォアグラの世界初の上市を予定しており、月産8kg/機の安定生産を実現した上で、数年おきにスケールアップを達成、生産規模の拡大および低コスト化を目指し研究開発を進める。

同社代表取締役CEOの羽生雄毅氏は、「引き続き弊社ミッション『生物資源を技術で活かし、健やかな社会基盤を創る」に向けた技術開発を進め、2022年に培養肉をついに現実のものとします。色々な食文化が新たに生まれる世界が見えてきており、ワクワクしています」と話している。

人工沈香の開発につながる「沈香」の香り成分を生み出す重要な酵素を世界で初めて発見

人工沈香の開発につながる沈香の香り成分を生み出す重要な酵素を世界で初めて発見

富山大学は1月17日、数が激減している高級香木、「沈香」(じんこう)の香り成分を生み出す酵素の解明に、世界で初めて成功したと発表した。沈香の香り成分がどのようにして植物の中で組み立てられるかを明らかにしたこの発見が、香り成分を生産する人工沈香の栽培につながるという。これは、東京大学大学院薬学系研究科北京中医薬大学北京大学との共同研究によるもの。

沈香の香り成分は、ジンチョウゲ科ジンコウ属の牙香樹、沈香樹、沈香木から生み出され、香料としてはもちろん、精神作用を持つ生薬としても珍重されている。しかしそれは、細菌の感染や摂食生物の脅威にさらされたときにのみ生産され、長時間そのような状態に置かれることで十分に蓄積されるというものだ。その木があっても、こうした条件が整わなければ香り成分は得られないため、希少性が高い。人工的にストレスを与える試みもなされているが、なかなかコストに見合わない。稀少な故に密栽も絶えず、さらに数を減らしているのが現状だ。

研究グループは、牙香樹の培養細胞にストレスを与え、香り成分と相関して発現する酵素遺伝子を発見した。そこから遺伝子技術を用いてその遺伝子が牙香樹の香り成分の基になる化合物を生み出すことを突き止め、沈香の香り成分の生産に関わる酵素を明らかにできた。

この酵素がわかったことから、牙香樹などの植物にストレスを与えたときの酵素遺伝子の発現を詳細にモニタリングすることで、香り成分の生産と蓄積が予想できるようになるという。この酵素遺伝子が発現しやすいストレス条件を解明すれば、香り成分を多く含む人工沈香の栽培も可能になると、研究グループは期待している。

「栄養」をがん治療の柱にすることを目指すFaeth Therapeuticsが約23億円調達

目の前に熱々のパッタイがある。その味と食感は、手軽なテイクアウトの夕食から想像できるものだ。しかし、これは単なる食事ではなく「薬」だ。

この仮説上のパッタイは、スタートアップFaeth Therapeutics(フェイス・セラピューティクス)が開発した、がんと闘うための食事療法の一部だ。食事そのものは、科学者によってすでに遺伝学的に精査されて「腫瘍を飢えさせる」ように特別に作られ、既存の抗がん剤や治療法と組み合わせて使用される。がん治療に対するこの「プレシジョンニュートリション(個別化栄養)」アプローチは確かに新しいものだが、2019年に創業されたFaeth Therapeuticsは、このアプローチを臨床に持ち込む最初の企業となることを望んでいる。

「会社設立の本当のきっかけは、世界的な科学者の3つの独立したグループが、私たちが基本的にヒト生物学とがんの治療の大部分を無視していることにそれぞれ気づいたことです」とFaeth Therapeuticsの創業者でCEOのAnand Parikh(アナンド・パリク)氏は話す。

「私は冗談で、これをがん生物学のマンハッタン計画と呼んでいます。科学者たちはそれぞれこの問題に異なるアプローチをしていましたが、既存の治療薬を増強するだけでなく、これらの栄養素の脆弱性をターゲットにした新しい治療薬の開発をサポートするために、がん患者の栄養を変えなければならないという考えに至りました」

Faeth Therapeuticsは米国時間1月18日、2000万ドル(約23億円)のシードラウンドを発表した。従業員15人を擁する同社にとって初の外部資金調達ラウンドだ。同ラウンドはKhosla VenturesとFuture Venturesが共同でリードした。また、S2G Ventures、Digitalis、KdT Ventures、Agfunder、Cantos、Unshackledが参加している。

Faeth Therapeuticsについてまず注目すべき点の1つは、同社を支える科学的なチームだ。Faethの共同設立者は次のとおりだ。2011年ピューリッツァー賞一般ノンフィクション部門を受賞した「The Emperor of All Maladies(病の「皇帝」がんに挑む 人類4000年の苦闘)の著者でコロンビア大学の腫瘍学者であるSiddhartha Mukherjee(シッダールタ・ムカージー)氏、Weill Cornellのメイヤーがんセンター所長でPI3Kシグナル伝達経路の発見者であるLewis Cantley(ルイス・キャントリー)氏、英国がん研究所の主任研究者でフランシス・クリック研究所のグループリーダーであるKaren Vousden(カレン・ボーデン)氏。ボーデン氏は、がん抑制タンパク質p53の研究で知られている。

特にキャントリー氏とボーデン氏は、代謝とがん治療の関係を深く追求した最初の人物だ。

例えば、PI3Kは細胞の代謝、成長、生存、増殖に影響を与える細胞シグナル伝達経路だが、がん患者ではしばしば制御不能に陥ることがある。この経路を標的とした薬があるが、キャントリー氏の研究は、患者によっては高血糖に陥り、この経路の制御異常を誘発する可能性があることが示唆されている。同氏は、その代わりに食事療法によってインスリンレベルを下げることで、再活性化を回避し、薬の効果を高めることができることを明らかにした。例えば、ネイチャー誌に掲載されたマウス研究では、ケトン食(低炭水化物、高脂肪)にすると、グリコーゲンの貯蔵量が減り、薬の効果を妨げる可能性のあるスパイクを防ぐことができることが示された。

これまで前臨床研究は断続的に有望視されてきたが、まだ多くの作業を必要としている(ムカジー氏がキャントリー氏の研究を説明する自身の論説で述べているように)。しかし、パリク氏は、この研究を改善し、よりターゲットを絞った方法で栄養学に基づく医療にアプローチする余地がまだたくさんあると指摘している。

「多くの人が、ケトン食で膠芽腫を治療しようといっていると思います。しかし、それよりも深いレイヤーがあるのです」と同氏は話す(注意:ケトン食[低炭水化物、高脂肪]食は、特定の膠芽腫の症例にも展開されている)。

「膵臓がんの場合、膵臓の腫瘍の働きによって、特定の栄養素に対するニーズが高くなる可能性があることがわかってきました。この場合、アミノ酸が必要かもしれません。そこで、特定のアミノ酸が不足するような食事を作るのです」。

Faethの使命は、今回調達した資金を利用して、この分野の研究を拡大・深化させることだとパリク氏は付け加えた。

栄養と健康は明らかに関連しており、栄養はがんの転帰に影響を及ぼす。しかし、この分野の研究は、当然のことながら懐疑的な見方をされることがある。食事と健康に関しては、科学的事実から、かなり簡単に神話の領域に入ってしまうことがある。はっきりいえば、この研究はがんのための「奇跡の食事」や「食事ベースの治療法」を宣伝しているわけではない。むしろ、栄養学ががん治療の「5本目の柱」になりうるかどうかを、科学的な研究を通じて検証することを目的としている。

Faethは、前臨床試験で明らかになった関連性を検証するために、すでに3つの試験の準備を進めている。ゲムシタビンとナブパクリタキセル化学療法にアミノ酸低減食を組み合わせた転移性膵臓がんの試験を開発中で、また、転移性大腸がんを対象とした別の試験も準備している。最後に、パリク氏によると、インスリン抑制食に関する試験が今後数週間のうちにclinicaltrials.govに掲載される予定だ。

もし、治療を保証するほど強力な結びつきが証明されれば、(前述のパッタイのような)高品質の食事と抗がん剤が一緒になってより良い治療結果をもたらすようながん治療をパリク氏は想像している。放射線治療や化学療法を受けながらも、家に帰れば医師が処方した食事が玄関まで届く(パリク氏は「世界的なシェフが開発した食事」だと付け加えた)。そして、心配な点が出てきたら栄養士に相談する。

しかし当面はこの研究を臨床の場に持ち込むことにほぼ全力を注ぐと同氏はいう。

「前臨床でできる限りのことをやってきたので、今回、臨床に移行するために資金を調達しました。安全性の確認はもちろんですが、有効性のシグナルがあるかどうかも確認するために、初期段階の試験を行っています」と、パリク氏は述べた。

画像クレジット:JESPER KLAUSEN / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

「生きた細胞の中」を覗ける超解像蛍光顕微鏡を活用する創薬プログラムEikon Therapeuticsが約598億円調達

Lux Capital(ラックス・キャピタル)のパートナーであるAdam Goulburn(アダム・ゴールバーン)氏は、Eikon Therapeutics(エイコン・セラピューティクス)が行った超顕微鏡による薬の開発を説明するピッチで、創業者のEric Betzig(エリック・ベッツィヒ)氏の「生きている生命を見ないで、どうしてそれを理解できるでしょうか?」というシンプルな問いかけに最初に感銘を受けた。

「それはとてもシンプルな言葉でしたが、私にとっては興味を掻き立てられるものでした」とゴールバーン氏はTechCrunchに語った。

細胞内の環境は絶え間なく動いている。タンパク質はねじれたり、回転したり、移動したりしている。しかしこの環境は、どのような顕微鏡下であっても、不可視であり続けてきた。

それは、科学者であるエリック・ベッツィヒ氏、Stefan W. Hell(シュテファン・W・ヘル)氏、William E. Moerner(ウィリアム・E・モーナー)氏の3氏が、生きた細胞の中の「ナノ領域を覗く」ことを可能にする技術を開発するまでの話である。この偉業によって、チームは2014年にノーベル化学賞を受賞した。具体的にいえば、ベッツィヒ氏は超解像蛍光顕微鏡を初めて開発した人物であり、この顕微鏡によって単一分子の動きの詳細な観察が可能になったのである。

生細胞内でのタンパク質の動き(画像クレジット:Eikon Therapeutics)

このイノベーションが、2019年の創業以来資金調達を続けてきたスタートアップの基盤となっている。ベッツィヒ氏が共同設立したEikon Therapeuticsは、超解像蛍光顕微鏡と、このような高性能顕微鏡によって収集されるデータ、そして新薬開発のためのその他数多くのツールの使用を計画しているバイオ医薬品企業である。

米国時間1月6日、同社は5億1780万ドル(約598億円)のシリーズBラウンドを発表した。これは2021年5月に発表された1億4800万ドル(約171億円)のシリーズAに続くものであり、これで同社の調達総額は6億6800万ドル(約771億円)を超えることになる。

シリーズBラウンドの新規投資家には、T. Rowe Price Associates(ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ)の助言を受けたファンドとアカウント、Canada Pension Plan Investment Board(カナダ年金制度投資委員会、CPP Investments[CPPインベストメンツ])、EcoR1 Capital(エコアールワン・キャピタル)、UC Investments(UCインベストメンツ、Office of the Chief Investment Officer of the Regents of the University of California[カリフォルニア大学理事会最高投資責任者室])、Abu Dhabi Investment Authority(アブダビ投資庁、ADIA)の100%子会社、Stepstone Group(ステップストーン・グループ)、Soros Capital(ソロス・キャピタル)、Schroders Capital(シュローダー・キャピタル)、Harel Insurance(ハレル・インシュアランス)、General Catalyst(ジェネラル・カタリスト)、E15 VC(イーフィフティーンVC)、Hartford HealthCare Endowment(ハートフォード・ヘルスケア・エンダウメント)、AME Cloud Ventures(アメ・クラウド・ベンチャーズ)などが名を連ねている。

Column Group(コラム・グループ)、Foresite Capital(フォレサイト・キャピタル)、Innovation Endeavors(イノベーション・エンデバー)、Horizons Ventures(ホライゾン・ベンチャーズ)、Lux CapitalはいずれもシリーズAラウンドの投資家であり、シリーズBに再び参加する。

「多くの人がプロプライエタリ技術という言葉を盛んに使用していますが、私の見解では、Eikonが持っているものはまさにプロプライエタリです」とゴールバーン氏は語っている。「それが新しい生物学の発見において独自のアドバンテージをもたらす力を持つことを、私たちは確実に認識しています」。

超解像顕微鏡法が大きな生物学的ポテンシャルを秘めていることは疑う余地はないが、薬剤開発への応用はどのようになされるのであろうか。

これについての1つの考え方は、タンパク質が細胞内で大部分の働きをしていることを思い起こすことである。例えば、タンパク質はシグナルを送ったり、化学反応を行ったり、より小さな分子を全身に輸送したりするのに役立っている。私たちは薬を服用するとき、その多忙なワークフォースに別のコンポーネントを導入して、それが特定のターゲットに結合し、体内ですでに起きている事象(おそらく問題を引き起こしている)を変化させることを期待する。

超解像顕微鏡のようなツールを使えば、他の種類の実験によって何が起きるかを推測するのではなく、生きた細胞に薬が導入されたときに何が起きているかを正確に知ることができる。さらには、これまで見えなかった新たなターゲットが明らかになるかもしれない。

「このように超高解像度の、細胞の中を覗くことができる単一粒子追跡顕微鏡を私たちは有しています」とゴールバーン氏は説明する。「このツールを軸に、ウェルに何百万もの細胞を加え、さらに何百万ものウェルを追加し、そのウェルに何百万もの薬のような化合物を加えることを想定すれば、生きているという意味での大規模な創薬研究に向かうことが期待できるでしょう」。

その一方で、Eikonの目下のフォーカスは、自社の創薬プラットフォームの「工業化」に置かれている。この詳細なタンパク質データを新薬の製造や既存薬のより良い理解に役立てるための、プロセスやツールの開発を進めている。

このプロセスは、業界でも指折りの人物である、Merck Research Laboratories(メルク・リサーチ・ラボラトリーズ)の元プレジデントで2020年にMerckからの引退を発表したRoger Perlmutter(ロジャー・パールムッター)氏によって監督されている。だが今回の最新資金調達ラウンドで、同社はさらに6人の経営幹部レベルの人材を迎え入れた。

最高科学責任者にRecursion Pharmaceuticals(リカージョン・ファーマシューティカルズ)で生物学担当VPを務めていたDaniel Anderson(ダニエル・アンダーソン)氏、最高技術責任者にPacific Biosciences(パシフィック・バイオサイエンシズ)の元エンジニアリング担当VPであるRuss Berman(ラス・バーマン)氏が就任する。最高財務責任者にはVeracyte(ベラサイト)でコーポレートおよびビジネス開発担当VPを務めていたAlfred Fredddie Bowie, Jr.(アルフレッド・フレディ・ボウイ・ジュニア)氏、最高人事責任者兼エグゼクティブバイスプレジデントにはPliant Therapeutics(プライアント・セラピューティクス)の元最高人事責任者であるBarbara Howes (バーバラ・ハウズ)氏を迎える。最高情報責任者としてPACT Pharma(パクト・ファーマ)の元最高情報責任者であるAshish Kheterpal(アシシュ・ケターパル)氏、ゼネラルカウンセルおよび最高ビジネス責任者としてMerck Research Laboratoriesでシニアバイスプレジデント兼BD&Lヘッドを務めたBen Thorner(ベン・ソーナー)氏が加わる。

ゴールバーン氏は、Eikonの技術はすでに工業化の準備が整っているという見方を示している。T. Rowe Priceの投資アナリストであるJohn Hall(ジョン・ホール)氏もプレスリリースの中で、Eikonの研究がすでに「タンパク質の動的挙動に関する大量の定量的情報を生み出している」ことに言及している。

「私の見るところ、現時点で工業化されています」とゴールバーン氏。「私たちは24時間年中無休で薬剤スクリーニングを行うことを考えています。それは私の心の中にある未来のバイオファクトリーです」。

同社は4つの匿名ターゲットプログラムを推進しており、パートナーは非公表の1社となっているが、ゴールバーン氏は、これらのプログラムがどのように進行しているのか具体的には明らかにしなかった。

この最新の資金調達ラウンドで、同社は100人のチーム(理想的には2倍の規模を想定しているとゴールバーン氏は述べている)を成長させ、プラットフォームの開発を加速し、すでに動きを見せている創薬プログラムの進歩を目指していく。

画像クレジット:Eikon Therapeutics

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

菌類から革を生み出すMycoWorksが生産規模拡大のため約143億円を調達

MycoWorksの「Reishi」製品(画像クレジット:Jesse Green, Courtesy of MycoWorks)

革に代わる菌類ベースのバイオマテリアルを製造しているMycoWorks(マイコワークス)は、主力製品である「Reishi」の製造を拡大するための生産工場に資金を提供するため、シリーズCで1億2500万ドル(約143億円)という新たなラウンドの資金を調達した。

Matt Scullin(マット・スカリン)CEOは、同社の生地に関する取り組みは競合他社とは異なるとし、同社のFine Myceliumプロセスを「菌糸を工学的に加工し、オーダーメイドで仕様に合わせた唯一の高級素材を育てるバイオテクノロジープラットフォーム 」だとアピールしている。

「この分野では多くのことが起こっています。菌糸体は調整可能な素材であり、多くの人々がこの分野に参入しています。しかし、彼らの主なアプローチは、繊維をとってプラスチックに埋め込むというもので、その結果、『人造皮革』のような低品質の素材になってしまうのです」。と彼は付け加えた。

確かに、Philip Ross(フィリップ・ロス)氏とSophia Wang(ソフィア・ワン)氏が2013年に設立したカリフォルニアの会社は、菌類や他の植物由来の素材を使ってファッション用の生地を作るホットなトレンド企業の1つだ。以前、2020年に4500万ドル(約51億5300万円)の資金調達を行ったMycoWorksを紹介した際、Bolt Threads(ボルトスレッズ)(キノコ)、Ananas Anam(アナナス・アナム)(パイナップル繊維)、Desserto(デセルト)(サボテン革)といった企業が同様のことを行っていることに触れた。

植物由来の素材をファッションに利用することに加え、菌類を利用した技術で成功を収めている企業もある。2021年にシリーズCラウンドで3億5000万ドル(約400億円)を調達したNature’s Fynd(ネイチャーズ・フィンド)は、肉やチーズなどのサステナブルな食品を作るために、固体、液体、粉末として使用できるビーガンタンパク質「Fy」を作った。Atlast Food(アトラスト・フード)も似たようなことを行っており、グルメなキノコの菌糸体から肉の代用品を作っている。一方、発酵プロセスを利用して、とりわけ、他の食品の好ましくない風味を防ぐキノコのエキスを作っているMycoTechnologyは、2020年に1億2000万ドル(約137億円)を超えるシリーズDラウンドを終了した。

一方、シリーズCはPrime Movers Lab(プライム・ムーバーズ・ラボ)が主導し、SK Capital Partners(SKキャピタル・パートナーズ)、Mirabaud Lifestyle Impact and Innovation Fund(ミラボー・ライフスタイル・インパクト・アンド・イノベーションファンド)を筆頭に、他の新規および既存の投資家たちが参加した。現在までに、同社は総額1億8700万ドル(約214億円)を調達している。

MycoWorksは、2021年初頭にHermès(エルメス)との最初の提携を開始し、現在では世界の主要な高級ブランドと契約を結んでいる。Scullin(スカリン)氏は、聞いたことのある高級ブランドであれば、同社はおそらく提携しているはずだと話してくれた。

MycoWorksは、当初は高級品分野で活動していたものの、さまざまな価格帯の製品を可能にする大量生産への移行も目指している。今回の資金調達でそれが可能になると、スカリン氏はいう。

MycoWorksの菌類の青いラックトレイ(画像クレジット:Lindsey Filowitz)

MycoWorksの新しい生産工場は、カリフォルニア州エメリービルのパイロット工場で成功を収めた現在、サウスカロライナ州ユニオンに建設される予定だ。そのパイロット工場でMycoWorksは、トレイベースの生産プロセスを検証し、1万トレイという生産マイルストーンを達成した際には、Fine Myceliumプロセスのスケーラビリティを実証することができたのだ。スカリン氏は、今後12カ月で工場が稼働し、当初は年間数百万平方フィートのFine Myceliumを生産できるようになると予想している。

消費者が求める持続可能な商品の需要に応えるため、スカリン氏は今回の資金をチームの拡大、研究開発、技術開発に投資する予定だ。同社には、Fine Myceliumを最初に使用するブランドとして選ばれるために、何千ものインバウンドの要望が寄せられている。

同氏は、毎年1500億ドル(約17兆1700億円)の革製品が販売されていると推定しており、特にその消費者の追い風が「今、経済における強力な力の1つ」であり続けているため、これは機会が大きいことを意味する、と付け加えた。

スカリン氏は、Prime Movers Labやその他の投資先を選ぶ際に、どれもバイオテクノロジーと製造のスケールアップに関する共通の専門知識を持っていて、それが今まさに同社に必要なことだったと述べた。

Prime Movers LabのジェネラルパートナーであるDavid Siminoff(デビッド・シミノフ)氏は「MycoWorksがFine Myceliumプラットフォームで成し遂げたことは、単なるブレークスルーではなく、変化の時期にある産業にとっての革命です」と文書で述べている。「このチャンスは巨大であり、私たちは、比類のない製品品質と独自の拡張可能な製造プロセスの組み合わせにより、MycoWorksが新素材革命のバックボーンとして機能する態勢を整えていると確信しています」と同氏は語った。

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(文:Christine Hall、翻訳:Akihito Mizukoshi)

豪Fertilisが体外受精胚培養の自動化に向け約2億円調達

Fertilis共同創業者のジェレミー・トンプソン教授(画像クレジット:Fertilis)

体外受精(IVF)を患者と臨床医にとってよりストレスの少ないものに、そしてIVFをより成功させようと世界の多くの企業が取り組んでいるが、アデレード拠点のスタートアップFertilis(ファーティリス)はその輪に加わった最新の企業だ。

創業2年のFertilisは、超小型医療機器を使って細胞培養を自動化する技術で投資家から支持を取り付けた。香港の大物Li Ka-shing(李嘉誠)氏のベンチャーキャピタルで、Facebook(フェイスブック)やSpotify(スポティファイ)の初期投資家でもあるHorizons Venturesはこのほど、Fertilisの275万豪ドル(約2億円)のシードラウンドをリードした。他の投資家は明らかにされていない。

英国の国民保健サービスによると、2019年に出産に至った体外受精治療の割合は、35歳以下の女性でわずか32%だった。患者の年齢や精子・卵子の質といった要因が、成功率に影響を与える可能性がある。

胚の選別の改善に取り組むスタートアップが相次いでいる。例えば、TechCrunchが取り上げたイスラエル拠点のEmbryonics(エンブリオニックス)がある。生殖生物学者のJeremy Thompson(ジェレミー・トンプソン)氏と連続起業家のMartin Gauvin(マーティン・ゴービン)氏が創業したFertilisは、胚の培養という別の角度からこの問題に取り組んでいる。

体外受精のクリニックは「非常に忙しい場所」であり、専門家は「やらなければならないことすべてについて訓練を受けている」とトンプソン氏はTechCrunchのインタビューで語った。標準的な体外受精のプロセスでは、胚の発育に合わせてシャーレの中で細胞をさまざまな環境に移し替えていく。しかし、採卵からシャーレをラボに運び、胚を生殖器官に入れるまで「うまくいかないことがいろいろある」と同氏は指摘した。

「胚が臨床医に取り出されるたびに、環境は悪影響を受けるのです」とトンプソン氏はいう。「患者の希望や夢は文字通り、臨床医の一挙手一投足にあります」。

Fertilisのソリューションは、特許取得済みの3Dプリントのクレードルに各胚を入れることで、体外受精のプロセスを標準化し、自動化することだ。髪の毛ほどの幅のこの装置により「より人体に近い環境」で細胞を培養することができる、とトンプソン氏はいう。このクレードルはシャーレの上に置かれるため、臨床医は胚を直接扱う必要がない。

生殖技術に関する規制という点で、同社はユニークな立場にある。人間ではなく細胞に作用する医療機器を製造しているため、直面する規制は「一部の国ではもっと簡単なもの」だとゴービン氏は話す。同社は現在、FDA(米食品医薬品局)の承認を申請中だ。

Fertilisが調達した新しい資金は、継続的な科学的開発を支える。2022年後半には、カリフォルニア州の不妊治療クリニックと共同で臨床試験を開始する予定だ。また、欧州やアジアのパートナーとも話を進めており、今後数カ月以内に契約を締結する見込みだ。2023年までには、最初の市販製品を発売することを目指している。

技術的には、Fertilisの粒子サイズの装置は、他の種類の細胞の培養にも使用することができる。受精はスタート地点にすぎない。

「Fertilisの技術は、診断や治療から特定の細胞培養製品の製造に至るまで、幅広いヘルスケア用途に変革的な影響を与えると確信しています」と、Horizons Venturesのオーストラリアを拠点とする投資家Chris Liu(クリス・リュウ)氏は述べた。

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi

米国メリーランド大学が遺伝子操作した豚の心臓を人間の患者に移植し成功、術後3日経過も安定

米国メリーランド大学が遺伝子操作した豚の心臓を人間の患者に移植し成功、術後3日経過も安定

Thierry Dosogne via Getty Images

米メリーランド大学の医師が、遺伝子操作した豚の心臓を人間の患者に移植し、成功したと発表しました。術後3日の時点では顕著な拒絶反応もなく、機能しているとのこと。

移植を受けたのは57歳のデヴィッド・ベネット氏。57歳のベネット氏は、彼の息子がAPに語ったところによると心臓移植をしなければ余命わずかと診断されているものの、人間の心臓移植を受けることができない状況にありました。ほぼ前例がないだけに、成功するかどうかはわからない遺伝子操作済みの豚の心臓移植だけが唯一の選択肢といて示されたとき、ベネット氏は「一か八かだが、最後の選択だ」と語ったとのことです。

通常、このような手術の許可は簡単には下りません。しかし、米食品医薬品局(FDA)は、生命を脅かされた状況にあり、なおかつ他の選択肢がまったくない患者の最後のチャンスとなる「同情的利用」と呼ばれる緊急認可手段を適用しました。

とはいえ、豚の心臓をそのまま人体に移植すれば、強い拒否反応が出るのは目に見えています。ただ、逼迫している心臓移植の需要への対処のため、近年はいくつかのバイオテック企業が豚の心臓を人体に移植するための研究と技術開発を行っており、その中のひとつであるUnited Therapeuticsの子会社Revivicorが、ベネット氏へ移植するため、遺伝子組み換えで拒否反応の原因となる4種類の遺伝子を取り除き、一方で6種類の人の遺伝子を挿入した特別な心臓の提供を申し出ました。

昨年9月には、実験用に献体された人に豚の腎臓を一時的に移植したところ、それが機能したとの実験結果がニューヨークの研究者らによって発表されており、豚から人への臓器移植の相性が良いことが注目されています。

そして、今回のベネット氏への移植手術は、過去5年間に50頭のヒヒに豚の心臓を移植して研究を重ねてきたバートリー・グリフィス医師が担当しました。7時間かけて手術を終えたグリフィス医師は、ベネット氏の心不全と不整脈の状態は人間の心臓を移植しても改善できなかった可能性があると述べています。そして、豚の心臓弁は人に移植されるようになって長く、ベネット氏自身も(息子によれば)10年程前に弁の移植を受けていたとのことでした。

もちろん、術後しばらくは安定していてもその後拒否反応が出てしまう可能性はまだ否定できません。ベネット氏の息子は「父はこの手術におけることの大きさと重要性をしっかり理解している」とし「今後2~3日、いや1日しか生きながらえられないかもしれない。今の時点ではまったく未知の領域です」と述べました。

しかし術後の経過は悪くなく、メリーランド大学医学部の異種移植プログラムの責任者ムハンマド・モヒディン博士は「この手術が成功すれば、苦しみながら移植の順番待ちに並ぶ患者たちに臓器を提供しやすくなり、劇的な変化をもたらすだろう」と述べました。

米国では、臓器移植の順番待ちでおよそ10万人がリストアップされており、毎日17人が持ちこたえられず命を落としているとされています。

(Source:AP NewsEngadget日本版より転載)

ベンチャーウォーター、フィンテック、バイオテックへの投資

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

みなさん、再び仕事の世界へようこそ。デスクへと無事にたどり着き、暖かく健康であることをお祈りしている。現時点の新型コロナウイルス感染症の隆盛は非常に困った事態だが、ロックダウン、大量死、抱擁の欠如という不安の中で、生産性を取り戻すために苦労するのはおそらく2022年が最後だろう。そう願っている。

ともあれ、今日は世界情勢をつかの間でも気にせずに済むような楽しいネタをたくさん用意した。

今日はまず、Liquid Death(リキッド・デス)についてお話ししよう。この見事な名前の会社は、その名の通り、喉の渇きを水で「殺して」くれる企業だ。それがこの会社の簡潔な説明である。Liquid Deathは缶入りの水を販売しているが、反プラスチックのスタンスと一般的なヘビーメタルの雰囲気に合わせて作られている。うまいやり方だ。

しかし、Liquid Deathは今週7500万ドル(約86億7000万円)の調達もしていて、最近は何を作るにも金がかかるものだと思わずにはいられない。なぜ水販売の会社が1回の投資でプレシード資金をすべて調達する必要があるのだろうか?何のためにそのお金が必要なのか?研究?水を売っているだけなのに!

数年前には、スタートアップを作るのがかつてないほど安くなったという一般的な見方があった。既製のソフトウェア、クラウドコンピューティング、最新のフィンテックのバックエンドといった現代のビジネス要素を組み合わせることは、ますます速くそして安く行うことができるようになった。ソフトウェア開発者を雇うコストの高さを除けば、スタートアップ企業はより少ないコストでより多くのことを行うことができるようになるように見えた。

それなのに、スタートアップたちは、かつてないほど多くの資金を調達しているのだ。The Exchangeは来週、ベンチャーキャピタルのデータを調査する予定だが、ベンチャーキャピタルやスタートアップクラスが嬉々として資金を動かし続けていることは明らかだ。そうした中で、Crunchbaseのデータによれば、Liquid Deathはこれまでに1億3000万ドル(約150億2000万円)以上を調達している。

スタートアップコストの削減とメガラウンドの実現、できるものなら見せて欲しい。マーケティング費用を自己資本から調達しているのだろうか?そうだとすると、ちょっと心配になる。

(なお、Liquid Deathは利益率が高く、経済的にも優れた凄いビジネスである可能性があるが、私はその数字を知らない。しかし、もしそんなに調子が良いのなら、なぜ7500万ドル[約86億7000万円]も必要になるのか?何か私がまだ知らないことがあるのだろうか?)

Levelが資金調達

メモ帳を掘り起こして、Level(レベル)についての簡単な説明をしよう。Levelは、2021年2月に記事で取り上げた会社だ。そのときこの会社は、150万ドル(約1億7000万円)の資金調達を行ったばかりだったが、私たちはその事業内容を「現在のフリーランス収入をもとに、従来なら不可能だった前借りを行えるような信用供与を行う」と説明した。

多くの人々が、働いてはいるものの資産重視のライフスタイルを送っていない世界では、キャッシュフローではなく資産に基づく融資は少々ばかげているので、これはすばらしいモデルだった(もちろんこれは総論賛成各論反対のブーマーたちを皮肉る丁寧な言い方だ)。

ともあれ、Levelは2021年の終わりに今度は700万ドルのシリーズAを行った。Anthos Capitalがこのラウンドを主導し、NextView Venturesやその他の既存投資家も資金を提供した。今回の資金は、同社のデータによれば「10倍」の規模に成長した後に得られたものだ。

Levelのニュースで最も注目すべき点は、同社がより多くの資金を調達したという点ではなく、その目標設定が非常に大きいという点だ。同社は「マイクロビジネスのための金融OS」を構築したいのだという。

伝統的な金融機関は小規模ビジネスを相手にしたがらないので、これはよく理解できる。フィンテックは、技術を応用して壁を壊し、より多くの人々に価値をもたらす手法であるべきだと私は考えている。Levelは、その線に沿った活動をしながら、ベンチャー企業に役立つビジネスを構築しているように見える。すばらしい!

PsyMedがバイオテックファンドを組成

a16zがベンチャー、グロース、バイオテック投資のために90億ドル(約1兆円)の新規ファンドを設立したというニュースを聞くと、市場には小規模なファンドも存在することを忘れそうになる。また、その中には実際かなり新しいものもある。

バイオテック分野では、PsyMed Venturesが2500万ドル(約28億9000万円)のファンド組成に奔走しており、その第一次分の800万ドル(約9億2000万円)が銀行に入金されたところだ。私は彼らのモデルについてもう少し掘り下げるために、金曜日(米国時間1月7日)にこのグループと対話をした。

まずは基本。PsyMedには3人の投資パートナーがいる。Dina Burkitbayeva(ディナ・ブルキトバエワ)氏、Greg Kubin(グレッグ・キュービン)氏、Matias Serebrinsky(マティアス・セレブリンスキー)氏だ。最初のファンドサイズの目標からもわかるように、この会社は、麻薬医療分野とその関連分野での初期段階の投資を行う。このグループは共同作業は初めてではなく、以前にもAngelList(エンジェルリスト)の技術を使って投資グループを結成し、これまでに約1500万ドル(約17億3000万円)の投資を行っている。

PsyMedについて少し考えてみよう。まず、医療用にテストするものの対象の境界を広げていることに興奮する。私の国では、慎重さがこの種の仕事を妨げ、私たちに不利益を与えている。第二に、バイオテックへの投資は、たとえば企業向けソフトウェア市場で見られるようなものよりもずっと早く上場する企業が多く、私にとって興味深いものだ。そのため、より多くの企業を、よりすばやく、より頻繁に見ることができる。

バイオテック企業へのベンチャー投資家にとっては、今日のユニコーン時代によく見られるような流動性の可能性よりも早い時期に流動性が得られることを意味する。

ブルキトバエワ氏、キュービン氏、セレブリンスキー氏と話していると、規制、科学、医学の進歩の面で合流点に近づいているという印象を受けた。この合流点では、人間の厄介な問題に対する多くの優れた新しい治療法が生み出される可能性がある。たとえばPTSD、治療抵抗性うつ病など、そして個人的に気に入ったのは薬物利用障害だ。

ともあれ、このグループが新しいファンドをどのように活用し、初期段階の製薬スタートアップをどれだけ早く公開市場に送り出すことができるかに注目していきたい。2022年も来年も、バイオテックのS-1申請書類をたくさん読めることだろう!

最後に

来週からEquityは週3回のペースに戻るので、お好きなポッドキャストアプリでお会いしよう。ではまた!

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

慶應発の再生医療スタートアップ「セルージョン」が11億円調達、水疱性角膜症に対する再生医療等製品の社会実装加速

慶應発の再生医療スタートアップ「セルージョン」が11億円のシリーズB調達、水疱性角膜症に対する再生医療等製品の社会実装加速

慶應義塾大学医学部眼科学教室発の再生医療スタートアップ「セルージョン」は1月7日、シリーズBラウンドにおいて、第三者割当増資による総額11億円の資金調達を2021年12月に完了したと発表した。引受先は、リード投資家の東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、新規投資家の東邦ホールディングス、東洋製罐グループホールディングス、Gemseki、既存投資家のSMBCベンチャーキャピタル、慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)、DBJキャピタルが運営する投資事業有限責任組合。

2015年1月設立のセルージョンは、iPS細胞から角膜内皮代替細胞を効率的に作り出す独自技術を基に、世界の角膜移植課題をはじめとした、現在の医学が抱えるアンメット・メディカルニーズ(未解決の治療ニーズ。Unmet MedicalNeeds)の解消を最先端の細胞治療技術により解決し、全世界の健康福祉向上への貢献を目指している。

調達した資金により、先行開発品であるiPS細胞由来角膜内皮代替細胞(CLS001)の国内および海外の臨床試験準備、研究・組織体制の強化、後続パイプラインの研究開発を進める。また、医薬品卸業者の東邦ホールディングスや包装材メーカーの東洋製罐グループホールディングスとの事業連携を進め、CLS001の社会実装へ向けたサプライチェーンを整備し、水疱性角膜症に対する新たな治療法提供へ向けた取り組みを加速する。

角膜移植以外では失明を防げない水疱性角膜症のような眼科疾患は、全世界では1300万人以上の待機患者が存在するにもかかわらず、年間実施される角膜移植はわずか約18万件という。この治療需給ギャップの原因は、角膜移植にはドナーからの角膜提供が必要な点に加えて、熟練した角膜移植医の確保やアイバンクの整備を要することが治療提供の大きな制約となっている点が挙げられるという。

そのためセルージョンは、「増殖性に優れるiPS細胞から角膜内皮代替細胞を効率的に作り出す技術」と「簡便な手技で属人的技術を不要とする細胞移植法」を組み合わせ、角膜移植適用症例の半数以上を占める水疱性角膜症に対する再生医療等製品CLS001による治療の開発を進めている。CLS001は、慶應義塾特定認定再生医療等委員会および厚生労働省の厚生科学審議会から2021年7月にヒトでの安全性を評価する医師主導臨床研究の実施承認を得ており、準備が整い次第、慶應義塾大学病院にて同研究が開始される予定だ。

ヒトに有用なカイコ原料の供給を行うMorusが5000万円のシード調達、食・医療・飼料・化粧品分野のプロダクト開発

ヒトに有用なカイコ原料の供給を行うMorusが5000万円のシード調達、食・医療・飼料・化粧品分野のプロダクト開発

ヒトへの有用成分が多く含まれるカイコ原料を供給するバイオスタートアップMorus(モルス)は1月5日、シードラウンドにおいて、第三者割当増資による5000万円の資金調達を発表した。引受先は、リードインベスターのANRI(ANRI 4号投資事業有限責任組合)、またサムライインキュベート(Samurai Incubate Fund 6号投資事業有限責任組合)。

Morusは、カイコを原料とした食品、医薬品、飼料、化粧品などの開発、生産、販売を行っている。古くから家畜化され、逃げない、共食いをしないといった飼いやすく量産に適した特質を持つカイコには、豊富なタンパク質をはじめ、ヒトにとって有用な栄養成分が含まれており、「現代人のタンパク質不足や不足する栄養分を補う」ことが期待されるという。

今後は、複数の産業向けに製品開発を行うとともに、「カイコの高速品種改良と量産化における研究開発や体制強化」を行うとのこと。これにともない、共同創業者である信州大学繊維学部の塩見邦博教授が社外取締役に就任する。

Morusの代表取締役CEOの佐藤亮氏は、サムライインキュベートから独立してこの会社を起業した。サムライインキュベートは、今回の出資を通して「世界で課題を抱える約9億人の人々を対象とする課題解決を目指して、継続して伴走支援をしてまいります」としている。

セラノスの元CEO、11件の詐欺容疑のうち4件で有罪評決

Elizabeth Holmes(エリザベス・ホームズ)被告は、Theranos(セラノス)の創業者兼CEOとして、投資家を欺いた罪で有罪評決を受けた。4カ月にわたる裁判手続きと7日間の審議の末、陪審団はシリコンバレー以外にも永続的な影響を与える評決に達した。

かつて最年少で最も裕福であり、一代で億万長者となった女性は、2件の通信詐欺共謀罪と9件の通信詐欺罪に問われた。ホームズ被告は、投資家詐取の共謀と、デボス家、ヘッジファンドマネージャーのBrian Grossman(ブライアン・グロスマン)氏、元不動産・信託弁護士のDan Mosely(ダン・モーズリー)氏からの投資家を詐取したことで有罪評決を受けた。患者への詐取に関する容疑については無罪となった。

Black Diamondの幹部Chris Lucas(クリス・ルーカス)氏、Hall Groupの幹部Bryan Tolbert(ブライアン・トルバート)氏とマネーマネージャーのAlan Eisenman(アラン・アイゼンマン)氏が裁判で証言した3件の通信詐欺については、陪審団は評決に至らなかった。Edward Davila(エドワード・ダビラ)判事は、これら3件について審理無効とした。Jeffrey Schenk(ジェフリー・シェンク)検事は、司法省と協議した後、政府がどのように進めたいかを1月9日の週に裁判所に伝えると述べた。

ホームズ被告はスタンフォード大学を中退した後、2003年にTheranosを設立した。静脈内の血液を採取して検査結果を何日も待つ代わりに、指先を刺して採取するほんの少しの血液だけで、瞬時に何十もの検査を行うことができるという、医療システムに革命を起こす技術を投資家やパートナーに売り込んだ。間もなくホームズ被告は評価額100億ドル(約1兆1620億円)の企業のCEOとなったが、1つ問題があった。それは、その技術が機能しなかったことだ。

Theranosは2018年に解散したが、ホームズ被告の刑事裁判は、パンデミックとホームズ被告の出産による遅れを経て、2021年秋に始まった。検察側は11週間にわたり、元米国防長官のJames Mattis(ジェームズ・マティス)氏、内部告発者のErika Cheung(エリカ・チャン)氏、Theranosの患者、投資家、医療関係者、ジャーナリストなどの証人に尋問を行い、ホームズ被告が故意に投資家を欺いたと主張した。

Theranosの技術が実際には同社が主張するような成果を上げていなかったにもかかわらず、ホームズ被告は、自分は真実を語っていると思っていたと述べた。投資家に提示したスライドショーは科学者やエンジニアが作ったものだとさえ主張した。しかし検察側は、ホームズ被告が故意に投資家やパートナーをミスリードしたと陪審団を説得することに成功した。その証拠の1つは、TheranosがWalgreens(ウォルグリーン)との提携交渉中にPfizer(ファイザー)のロゴを無許可で使用していたことを示すものだった。Theranosの元シニアプロダクトマネジャー、Daniel Edlin(ダニエル・エドリン)氏は、Theranosが投資家の前で偽りの技術デモンストレーションをすることがあったと証言した。億万長者の投資家Rupert Murdoch(ルパート・マードック)氏が血液検査を受けたとき、Theranosは報告書を送る前に異常な結果を削除したと、エドリン氏は述べた。

注目を集めている裁判の大きな展開として、ホームズ被告は自ら証言台に立ち、スタートアップ創業者としての失敗は、自身が詐欺を働いたことを意味するものではないと主張した。重要な場面で、ホームズ被告はTheranosのCOOであるRamesh “Sunny” Balwani(ラメッシュ・”サニー”・バルワニ)被告が自身を虐待したと主張した。

2023年に別の裁判に臨むバルワニ被告は、ホームズ被告の秘密のボーイフレンドだった。2人はホームズ被告が18歳、バルワニ被告が37歳のときに出会い、ホームズ被告がスタンフォード大学を中退した翌年に同居し始めた。ホームズ被告はまた、スタンフォードの学生時代にレイプされ、それが学位を取得できなかった理由の1つだと公判で述べた。ホームズ被告は「この会社をつくることで、人生を切り開こうと決めた」。ホームズ被告はバルワニ被告の支配的な行動について詳しく説明し、そこには何を食べ、いつ眠り、どのような服を着るかなど、毎日のスケジュールを指示する書面を作成することも含まれていた。ホームズ被告は「彼(バルワニ被告)は私が平凡であることにかなり失望し、どうすればもっと良くなれるかを教えようとしていた」と述べた。

陪審団は7日間審議し、陪審説示を家に持ち帰ってレビューしてもよいか尋ねさえした。また、証拠として提出されたホームズ被告と投資家の通話音声の一部の聞き直しを求め、それでも審議は新年に入っても続いた。

審議7日目に、陪審団は11件の罪状のうち3件について全員一致の評決に至らなかったとする3回目のメモを判事に提出した。検察側はダビラ判事に、陪審団がデッドロック状態に陥った場合の対処法についての指示書を読むことを提案した。ホームズ被告側の弁護人は、このような指示は強制的と見られる可能性があるとして反対したが、判事は指示書を配布した。判事はまた、有罪が証明されるまでホームズ被告が無罪と推定されることを陪審団に念押しした。4時間後、陪審団は、3件の容疑について全員一致の評決に至ることができなかったというメモを再度提出した。その直後、他の8つの罪状についての評決が出された。

著名なホワイトカラー裁判で、審議がこれほど長引くのは予想外ではない。Ghislaine Maxwell(ギスレーヌ・マックスウェル)の4週間にわたる直近の裁判では、陪審団は5日間審議し、6件の容疑のうち5件つについて有罪とした。2007年、元報道界の大物Conrad Black(コンラッド・ブラック)は、14週間にわたる裁判の12日間の陪審団審議の末、詐欺罪で有罪になった。

この裁判の評決は、テック系の創業者たちに、自社の技術について嘘をつくことは許されない、特にそれが実際の人々の健康に影響を与える場合はなおさらだ、というメッセージを送るものだ。しかし、患者を欺くことに関する訴えが無罪とされたことは、複雑なメッセージだ。それ以上に、この事件は、投資家やスタートアップと協業するパートナーにとって、デューデリジェンスがいかに重要であるかを示した。注目すべきは、Theranosの投資家が、通常疑われるようなベンチャーキャピタル企業ではなかったことだ。むしろ、前教育長官のBetsy DeVos(ベッツィ・デボス)氏、億万長者のメディア王ルパート・マードック氏、前国務長官のHenry Kissinger(ヘンリー・キッシンジャー)氏、ウォルトン家など、裕福なエリートたちがホームズ被告の資金源となっていた。これらの投資家は、ホームズ被告がより突っ込んだ質問から逃れても、Theranosに資金を提供する意思があったことを示す証拠もある。

しかし、投資家たちのホームズ被告に対する誤った信頼だけが、欠陥のあるTheranosの技術を前進させたのではない。Theranosや他の診断会社は、FDAの承認を受けていない機器が市場に出回ることを可能にする規制の抜け穴を利用していた。

ホームズ被告の評決言い渡し日はまだ決まっていない。検察は米国時間1月3日、ホームズ被告の勾留を求めないが、政府は同被告の保釈金を確保するために現金か財産のいずれかを望んでいる、と述べた。

Theranosはまだ過去のものではない。バルワニ被告は2023年に自身に対する詐欺罪の刑事裁判を控えている。

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

モデルナの主要投資元Flagship Pioneeringの新たな投資先、tRNAを用いて「何千もの病気」の治療を目指すAlltrna

米国時間11月9日、モデルナの主要投資元であるFlagship PioneeringはRNAに関心を寄せる企業のポートフォリオに新たな企業を追加したことを発表した。この1年、mRNAが話題になったわけだが、Alltrnaと呼ばれる新しい企業は転移RNA(tRNA)ベースの薬剤の開発に乗り出そうとしている。

メッセンジャーRNA(ModernaやPfizerの新型コロナウイルスワクチンに使用されているmRNA)が、細胞にある特定のアミノ酸を組み立てそれらを結合してタンパク質を作るよう指令する遺伝子情報であることを知る人は多いだろう。では、tRNAとはなにかというと、これはL型をした分子で、mRNAにより集められたアミノ酸を実際に組み立てる働きをする分子である。tRNAは人の細胞が遺伝子コードを取得し、それを体内で機能的なタンパク質に変えるための最後のステップの1つを実行する。

Flagshipの設立期からのパートナーでAlltrnaの共同創設CEOである Lovisa Afzelius(ロヴィサ・アフゼリアス)氏がTechCrunchに語ったところによると、Alltrnaでは、1つのtRNAを「何千もの病気」を治療するのに活用できると考えている。同社は、過去3年間プロトモードにあったのだが、その間、30人からなるチームでtRNA治療開発のための「プラットフォーム」を開発してきた。

「これは本当に重要な分子です。しかし現在まで、創薬手法としては完全に過小評価されてきました。当社が開発したのは広範囲にわたるtRNAプラットフォームで、これを使用することで、tRNAの生物学的側面全体を探求することが可能になります」と、アフゼリアス氏は語った。

ModernaやPfizerの新型コロナワクチンは、mRNAテクノロージの可能性について非常に説得的に証明してきた。しかし、2021年は他のRNAプロジェクトの資金調達に大きな動きのある年となっている。

5月、Flagshipは次の10年間で100種類のエンドレスRNA(eRNA)製品および薬剤プログラムの開発を目指す企業、Larondeに関する発表を行った(eRNAはFlagshipにより開発されたRNAの一種で、体内で特定の薬の治療効果を引き伸ばしたり、治療用タンパク質の「持続的な」発現を生み出したりするように設計されている)。

Larondeは2021年シリーズBでの資金調達で、Flagshipからの投資に加え、T. RowePrice、CPPinvestments、Fidelity Management and Research Company、Federated Hermes Kaufmann Funds、BlackRockが管理する資金とアカウントより、約4億4000万ドル(約501億円)を調達した

tRNAを用いた薬剤のアイデアは比較的新しいものだが、次第に注目され始めている。2021年9月にC&EN が報じたところによると、ReCode Therapeutics、Shape Therapeutics、Tevard Biosciencesの三つのスタートアップは、tRNAを用いた治療法の開発に向け、合わせて2億4000万ドル(約273億円)を調達した。

Alltrnaは、さまざまな病気に介入しうるtRNAの可能性を大いに喧伝している。Flagshipのプリンシパルで、共同創設兼Alltrnaのイノベーションオフィスの責任者でもあるTheonie Anastassiadis(セオニー・アナスタシアディス)氏は、 tRNAには「翻訳の多くの側面」を制御する機能があるという。

例えば「増殖tRNA」の一部は細胞分裂に関与している(またいくつかの研究では、 tRNAを下方制御することにより細胞の増殖を抑えることができ、癌への対応策となりうることが示唆されている)。

また、tRNAにより、遺伝子コードのエラーに起因する問題を修正することができる。一部の遺伝子には、早すぎる時点でタンパク質生成の停止を促す「終止」サイン(終止コドンとも呼ばれる)として機能する変異が含まれている。これらの終止サインは、特定のタンパク質について、それが完全に生成されきっていない状態であるのに、生成を停止するよう指示する。この時期尚早な終止コドンは遺伝性疾患の大きな要因であり、すべての遺伝性疾患または癌の10%から30%程に関係しているとされている。

アフゼリアス氏によると、tRNAエンジニアリングの背後にある考え方は、tRNAがそれらの終止サインを読み込んだ場合でも、完全なタンパク質を組み立てられるということである。

「何千という病気にこれらの終止コドンがまったく同様のかたちで関与している可能性があります。これらのタンパク質に挿入すべきアミノ酸は同一のものです。実際に広範囲に渡る遺伝性疾患に同一のtRNA薬剤を使用することが可能です」。とアフゼリアス氏は語った。

AlltrnaのtRNA に対するアプローチはtRNAベースの薬剤開発を実際に行うのに必要なツールを拡張するところから始まる。tRNAを発現させ、そのレベルを計測し、修正し、そして合成する基本的な手法は現在「非常に技術的に難しい課題です」とアナスタシアディス氏は述べた。

「プラットフォームの一部としてまず私たちが行ったのは、実際にこれらのAlltrnaの独自のツールを構築したことでした」。

tRNA治療のためのプラットフォームの開発は、計画にそって進んでいる。現在のところ、同社はどこと提携しているかや、どういった病気を治療対象と考えて開発に取り組んでいるかについては明らかにしていない。

Flagshipは現在までに、Alltrnaに5000万ドル(約54億円)を提供している。これは2021年FlagshipがLarondeに最初に提供した額と同額である。アフゼリアス氏は今後「適切な時期が来たら」外部からの投資も求めたい考えだと語った。

画像クレジット:LAGUNA DESIGN / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

気候変動に強い作物づくりの技術を開発するPhytoformが6.5億円調達、人工知能を使ってゲノム編集

気候変動は農家の作物栽培に影響を及ぼしており、英国の厳しい栽培条件を知り尽くしたPhytoform(ファイトフォーム)は、作物をより気候変動に強いものにすることを目指している。

ロンドンとボストンに本社を置くこのバイオテクノロジー企業は、作物の改良を目的とした人工知能ゲノム編集技術の拡張のために、Enik Venturesがリードするラウンドで570万ドル(約6億5000万円)を調達したと発表した。

Phytoformは、William Pelton(ウィリアム・ペロトン)氏とNicolas Kral(ニコラス・クラール)氏が博士号を取得する過程で2017年に興した会社だ。CTOのクラール氏は植物発生生物学を研究し、CEOのペロトン氏は作物科学者だ。祖父が農家で、英国の天候などで作物が失敗する話を聞いて育った、とペロトン氏はTechCrunchに語った。

Phytoformの共同創業者ウィリアム・ペロトン氏とニコラス・クラール氏(画像クレジット:Phytoform)

「私たちは、遺伝学の分野で幸運に恵まれています」とペロトン氏は話す。「数百ドル(数万円)で植物全体のゲノムができ、ゲノムの合成もできるのですから。ニックと私は博士課程の学生だったのですが、技術を取り入れ、私たちが目にするいくつかの問題に適用してみることにしました」。

現在の作物改良のための育種法は、通常、開発に数十年かかり、遺伝子組み換え生物の技術も限られている、と同氏はいう。

気候変動に強い新しい作物を開発するPhytoformのアプローチでは、機械学習とゲノム編集技術で植物のDNA配列の組み合わせの可能性数を決定し、新しい特性を特定しつつ、農業の気候変動への影響を軽減している。そして、それらの特性は、フットプリントフリーのCRISPRゲノム編集を用いて作物品種に直接実装される。

農業におけるCRISPR技術の成功は、植物ゲノムを操作して害虫や気候への耐性を高め、より安定した製品を栽培する方法として、長年にわたってよく知られている。

国連食糧農業機関は毎年世界の食糧の14%が失われていると推定しており、今後数年間は干ばつや酷暑、害虫が増加する中で気候変動が悪化する一方のため、この技術を植物に活用することが急がれるとペロトン氏とクラール氏は話す。

今回のラウンドに参加したのは、Wireframe Ventures、Fine Structure Ventures、FTW Ventures、既存投資家のPale Blue Dot、Refactor Capital、Backed VC、そしてJeff Dean(ジェフ・ディーン)氏、Ian Hogarth(イアン・ホガース)氏、Rick Bernstein(リック・バーンスタイン)氏を含むエンジェル投資家のグループだ。

「Eniacは、これまでVenceやIron Oxなどに投資しており、持続可能な農業の未来を大いに信じています。気候危機が深刻化する中、我々は、計算ゲノム学を活用することで食料廃棄を減らし、より質の高い多様な農産物を市場に送り出すことができることを目の当たりにしてきました。我々は、Phytoformの創業者であるウィルとニックの、植物の遺伝学に関する深い機械学習とゲノム編集を組み合わせて消費者に最適な農産物のポートフォリオを提供するというアプローチにすぐに惹かれました」とEniac Venturesのゼネラルパートナー、Vic Singh(ヴィック・シン)氏は述べた。

今回の資金調達により、Phytoformはチームを拡大し、トマトやジャガイモに特性を導入し、食品サプライチェーンに沿ってより大きな収穫量と作物の損失を少なくするための取り組みを強化することができるようになる。

2人の創業者は、トマトとジャガイモのプログラムを市場に投入する準備をしており、2022年は同社にとって「すばらしい年になる」と話す。また、他の3つのプログラムにも取り組んでいて、地域も米国だけでなくオーストラリアと英国にも広げている。

加えて、種苗業者や生産者といったサプライチェーンの初めに位置する個人や企業とのパートナーシップに力を入れており、将来的にはそれを食品製造業者にも広げていく計画だ。

一方、初期ビジネスモデルは種子の販売によるロイヤルティ収入となるが、顧客基盤が消費者まで進化するにつれてビジネスモデルが変化することを期待していると、ペロトン氏は述べた。

Phytoformは2021年、従業員6人でスタートしたが、現在その数は倍増していると、クラール氏は話す。さらに、ソフトウェアとウェブラボの機能の両方でAIプロセスのコンセプトを実証し、技術的にも良い成長を遂げた。

「トマトプログラムの開発後期にたどり着くには、まだかなり大きなプロセスが控えていますが、今後もさらに試行錯誤を続けます。現在の技術では新品種の生成に10年かかっていますが、我々はそれを短縮できることを証明しています」と同氏は付け加えた。

画像クレジット:Pgiam / Getty Images

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

培養したヒトのリンパ節で医薬品開発貢献を目指すPrellis Biologicsが約16億円を調達

3Dプリント臓器を作成するツールを開発しているPrellis Biologics(プレリスバイオロジクス)は米国時間12月15日、1450万ドル(約16億円)のシリーズBラウンドを発表した。Prellisは何年もかけて組織エンジニアリング能力を開発してきたが、最近は特にある種の構造の開発に注力してきた。

これまで同社は、企業が薬物試験や最終的には移植のために健康で酸素の豊富な人間の臓器(またはオルガノイドと呼ばれるミニチュア版)を育てられるよう、スキャフォールド(細胞培養などの基盤となる足場)を3Dプリントすることにフォーカスしてきた。しかし最近、EXIS(Externalized Immune Systemの略)と呼ばれる新製品を発表した。これは、実験室で培養したヒトのリンパ節だ。

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リンパ節は人間の免疫システムの重要な部分であり、特定の免疫細胞を貯蔵し、体が免疫反応を起こすのを助ける。このリンパ節オルガノイドが、新しい治療法に対する人間の免疫システムの反応を模倣することで、医薬品開発に貢献するというのが理想だ。そして、おそらく、その過程で新薬の開発にも役立つ。

創業者でCEOのMelanie Matheu(メラニー・マテュー)氏は「この免疫システムを培養することで、治療薬が人間に投与される前に免疫反応を引き起こすかどうかを実際に試すことができます」とTechCrunchに語った。

「当社の強みは、(EXISが)箱から出て、完全に人間に使えるということです」。

2016年に設立されたPrellis Biologicsは、これまでに約2950万ドル(約33億円)を調達している。今回のシリーズBラウンドは、Celesta Capitalと既存投資家のKhosla Venturesがリードした。さらに、CelestaのアドバイザーでBerkeley Lightsの元CSO、Kevin Chapman(ケビン・チャップマン)氏を最高科学責任者として招く。また、元J&J Innovation社員のYelda Kaya(イェルダ・カヤ)氏がビジネス最高責任者として加わる。

薬物や病原体に対するリンパ節の反応は、免疫システム全体がどのように反応するかを予測する方法として知られている。それに応じて、チップ上のリンパ節から扁桃組織からのリンパ球オルガノイドの成長まで、ヒトリンパ節の体外モデルの開発に取り組んでいる学術研究機関は多い。

Prellisは、リンパ節オルガノイドの成長に必要な酸素と栄養の交換を促進するためにスキャフォールドを用いることで、この争いに参入した。マテュー氏によれば、この方法によってPrellisは「ヒトの免疫システムをヒトの外で再現する」ことができるのだという。

このようにリンパ節に注目することで、Prellisは抗体医薬の開発という新たな切り口を手に入れた。

新しい抗体医薬を開発し、臨床試験でどのように作用するかを予測することは、競争が激しい分野になってきており、現在、いくつかの異なるアプローチが進行中だ。

その中には、計算機によるものもある。1100万ドル(約12億円)を調達したばかりのNabla Bioは、自然言語処理を使って抗体を設計している3億7000万ドル(約422億円)のシリーズB資金を調達したばかりのGenerate Bioも機械学習によるアプローチをとっている。

Prellisのアプローチは、免疫システムをミニチュアでモデル化し、免疫反応をマイニングして薬剤候補の候補を開発するというものだ。マテュー氏は、これを人工知能ではなく「自然知能」と呼んでいる。

1回の採血で1200個のオルガノイドを作り、それらの免疫システムに特定の抗原を投与し、各免疫システムから何が出てくるかを見ることができる。このプロセスは、異なる免疫システムの特徴を持つ異なる血液ドナーを用いて行うことができ、分析するために多くの反応を作り出すことができる、と同氏はいう。

「このタンパク質と結合するかどうかという問題に対して、10人全員が同じ抗体のソリューションを出すことは非常に稀です。そのため、1人の人間から平均して500〜2000のユニークな抗体が得られ、それを人数でかけ合わせると、これらはすべて標的結合抗体になります」。

Prellis Biologicsの資料によると、採血から「抗体ライブラリー」作成まで約18日かかる。

画像クレジット:Prellis Biologics

マテュー氏によると、同社はSARS-CoV-2、インフルエンザA、マールブルグ出血熱に反応する抗体を開発している(これらの結果は公表されていない)。また、製薬会社5社と提携したが、マテュー氏は社名を明かさなかった。

Prellisは今回のラウンドで、研究開発主導型から製品重視型に移行することを計画している。つまり、より多くの医薬品会社との提携を進め、プラットフォームの能力を実証することを意味する。

成功に向けた大きな指標は、抗体治療を臨床に持ち込むことだとマテュー氏はいう。そのためには、製薬会社との提携が必要だが、自社で医薬品パイプラインを作ることも否定はしていない。

同氏は具体的なこと明らかにしないが、Prellisは治療用パイプラインをサポートする「内部技術」を開発中だと話す。

「技術開発が進めば、その方向へ進んでいくでしょう」と同氏は述べた。

画像クレジット:PIXOLOGICSTUDIO/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

京都大学、iPS細胞研究所の山中伸弥所長が所長退任と発表、同研究所教授・主任研究者として基礎研究推進

京都大学がiPS細胞研究所所長の山中伸弥教授が所長退任と発表、同研究所教授・主任研究者として基礎研究推進

京都大学は12月8日、iPS細胞研究所(CiRA。サイラ)の山中伸弥所長が2022年3月31日付で所長を退任すると発表した。山中伸弥教授は、2010年の研究所設立当初より6期(12年)にわたり所長を務めており、所長退任後も京都大学に在籍。CiRA教授・主任研究者として引き続きiPS細胞研究を推進する。

山中教授は、次のようにコメントしている。

2006年にiPS細胞を発表して以来、15年間にわたり組織運営や寄付募集活動に微力を尽くしてまいりました。この数年は、研究者としての最後の期間は自身の研究に注力したいという思いが日に日に強くなっていました。先日の教授会で令和4年度からの所長として髙橋淳先生を推薦し、投票の結果、髙橋先生が選出されました。iPS細胞を用いた多くのプロジェクトが臨床試験の段階に到達しつつある中、自らも臨床試験を先導されている髙橋先生は、新所長として最適の研究者です。私は、基礎研究者として、iPS細胞や医学・生物学の発展に貢献できるよう全力を尽くします。」

また2021年12月2日に開催された教授会において、CiRAの所長候補者選考内規に従って投票を実施。髙橋淳教授が過半数の票を得て次期所長に選出された。所長任期は2022年4月1日から2024年3月31日まで。

髙橋教授はCiRA設立当初からのメンバーで、専門分野は神経再生や脳神経外科。特に長年パーキンソン病治療の研究を行っており、2018年には、京都大学医学部附属病院においてiPS細胞を用いたパーキンソン病治療の医師主導治験が開始されている。iPS細胞研究の最前線で活躍する研究者として、現在もiPS細胞技術などを用いて脳梗塞などの治療法開発を目指した研究を進めている。

画像クレジット:京都大学iPS細胞研究所

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

東京大学は11月30日、乾燥ワカメや紙おむつの吸水材などのゲルが吸水して膨らむ速度の温度による変化を決める物理法則を、世界で初めて解明したことを発表した。この発見には、アインシュタインが提案したブラウン運動の理論が糸口になった。

大量の水を含むことができる固形物であるゲルは、長いひも状の高分子(ポリマー)のネットワークでできている。乾燥ワカメやゼリーなどの食品のほか、紙おむつの吸水材や、ソフトコンタクトレンズなどの医療分野にも広く使われている。また光や温度によって水を出し入れして縮んだり膨らんだりできるゲルもあり、それらはバイオセンサーや薬物送達キャリアーなどに利用されている。そのため、ゲルが膨らむ速度を決める物理法則の研究がこれまでも多く行われてきたが、温度による速度の変化に関しては、影響し合う要素が多く、それぞれが異なる温度変化をするなどの問題のために解明されていなかった。

東京大学大学院工学系研究科の酒井崇匡教授らからなる研究グループは、様々なネットワークを持つゲルの膨らむ速度の温度変化を「世界最高水準の精度」で測定し、明確な物理法則を解明した。水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

ゲルの弾性率(固さ)とゲルの拡散係数(膨らむ速度)の温度変化の類似性。異なる高分子ネットワークを持つ4種類のゲルの結果となっている(各シンボルが測定データを表し、直線はデータを直線で近似したもの)。左図:ゲルの弾性率の温度変化を直線で近似すると、「温度軸上の1点で交わる」という性質がある。このとき、温度ゼロの切片が「負のエネルギー弾性」の大きさを表す。右図:ゲルの拡散係数(黒丸)の温度変化を直線で近似すると、「1点で交わる」が、温度軸上ではない。拡散係数を浸透圧に由来する成分(赤丸)と弾性率に由来する成分(青四角)に分離すると、弾性率に由来する成分は「温度軸上の1点で交わる」。つまり、弾性率に由来する成分は、負のエネルギー弾性と形式的に同一の法則に従う。ただし、拡散係数には水の粘度が大きな影響を及ぼすために、1点で交わる温度は、両者で大きく異なる

しかし、測定だけでわかったわけではない。解明の糸口となったのは、水中の微粒子の不規則な熱運動としてアインシュタインが提案したブラウン運動だった。ゲルの吸水も、高分子ネットワークの不規則な熱運動によって起こる。そこでアインシュタインの数式から着想を得て、実験結果を解析したところ、先に同研究グループがゲルの弾性率に関する定説を覆して提案した「負のエネルギー弾性」と形式的に同一なシンプルな法則が見出された。それは、「主として水の粘度の温度変化に由来する新しい非平衡系の法則」だという。

今回の研究により、ゲルの膨らむ速度の温度変化は「従来の想定よりもかなり大きい」ことが実証された。ゲルは食品や医療の分野で様々な温度で利用されるため、この法則の発見は、ゲルが利用されるすべての産業分野で大きく貢献することが期待される。

ワンチップ顕微観察技術MID活用、人工衛星に搭載可能な小型バイオ実験環境開発でIDDKとElevationSpaceが協業


顕微観察装置の研究開発・製造・販売を行うIDDKは11月30日、同社のワンチップ顕微観察技術「MID」を活用した人工衛星に搭載可能なバイオ実験環境の開発を発表した。これは、小型宇宙船を開発するElevationSpaceが2023年に打ち上げを予定している人工衛星への搭載を目指しており、両社はそのための協業を開始した。

IDDKの小型バイオ実験環境「Micro Bio Space LAB」は、微生物や細胞の培養観察を人工衛星内で行うためのもの。MIDを利用することで、培養と観察のための装置を最小化できるという。

搭載する衛星は、「国際宇宙ステーションに代わるプラットフォーム」としてElevationSpaceが開発している100kg級の小型人工衛星「ELS-R100」。東北大学発の宇宙スタートアップであるElevationSpaceは、東北大学で数多くの小型人工衛星を作ってきた知見にもとづき、開発を進めている。