Beyond Next Venturesの共同創業プログラム「APOLLO」から起業第1号、医療系スタートアップALY誕生

Beyond Next Venturesの共同創業プログラム「APOLLO」から起業第1号、医療系スタートアップALY誕生

ベンチャーキャピタル・アクセラレーターのBeyond Next Ventures(BNV)は3月29日、起業家候補人材とともに革新的な事業創造に挑む共同創業プログラム「APOLLO」において、医療系ディープテック企業ALY(アリー)が第1期参加者初の会社登記(2021年12月)を実現させたと発表した。同時に、第2期の募集を開始した。

ALYは、「データ技術で医療分野に化学反応を起こし、前へ進める」ことをミッションとする医療系スタートアップ。「データ分析で医療分野に良いインパクトを与えられる事業」を目指している。

共同創業プログラム「APOLLO」

APOLLOは、ディープテック領域に特化した起業家を対象に、構想段階からともに事業を練り上げ、スタートアップの起業を目指す創業プログラム。特定の事業テーマを選んで共創するという特徴がある。APOLLOが提供するのは、創業資金と成長資金、BNVの研究領域ネットワークを通じた事業に必要な研究シーズの探索や連携、事業構築と成長支援、目標領域に精通する投資家とともにビジネスモデルの策定や創業メンバーの採用などを行う事業構築と成長支援、起業家コミュニティーへの参加となっている。例えばALYでは、創業者・代表取締役の中澤公貴氏が、医療分野に精通するBNV執行役員の橋爪克弥氏と手を組み、創業に繋げている。

現在APOLLOは第2期の募集を行っている。対象となる事業テーマは、医療デジタルイノベーション、医療系IoT、バイオスティミュラント、カーボンオフセット、微生物/発酵、宇宙バイオテック、生殖医療/ファミリーヘルス、ベビーテック/チャイルドテック、インド市場となっている。これらの中で、少子高齢化、健康問題、環境問題などの社会課題の解決を目指す起業家を募集する。

対象者としては、強い挑戦心と起業家精神の持ち主、インパクトの大きな課題解決に取り組む強い意志の持ち主、スタートアップやスタートアップ的環境で新規事業に関わったことのある人を挙げているが、とりわけ、グローバル市場に挑戦する志向性がある人、特定の産業または事業モデルに強い興味と専門性がある人、起業経験がある人、医師、MBA、海外駐在経験者は歓迎するとしている。

説明会は下記のとおり領域ごとに開催される。

  • アグリ・フード領域(バイオスティミュラント、カーボンオフセット、微生物/発酵など)
    ・開催日:4月19日19時~20時
    ・詳細および申し込み: https://apollo20220419.peatix.com/view
  • 医療・ヘルスケア領域(IoMT、医療DXなど)
    ・開催日:4月27日19時~20時
    ・詳細および申し込み:http://ptix.at/Q4428G
  • バイオ領域(宇宙バイオテック、生殖医療/ファミリーヘルス、ベビーテック/チャイルドテックなど)
    ・問い合わせフォーム(https://talent.beyondnextventures.com/apollo)より連絡

高純度間葉系幹細胞を開発する島根大学発バイオスタートアップPuRECが総額7億円調達、製品開発を加速

高純度間葉系幹細胞を開発する島根大学発バイオスタートアップPuRECが総額7億円調達、製品開発を加速

島根大学発の細胞医薬スタートアップ「PuREC」は3月29日、第三者割当増資による総額7億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は持田製薬、山陰合同銀行、ごうぎんキャピタル、中内啓光氏(スタンフォード大学教授)。累計調達額は13億7000万円となった。

調達した資金は、製品開発をより加速することにあてる。それによりこれまで十分な医療効果が得られなかった疾病に対し、少しでも早く高純度間葉系幹細胞RECを活用した再生医療を届けることを目指す。

2016年1月設立のPuRECは、島根大学発のバイオ領域スタートアップ。独自開発した手法で得られた高純度間葉系幹細胞「REC」(Rapidly Expanding Cells)の臨床応用を進めている。間葉系幹細胞が持つ細胞機能の増殖能と分化能、またその均一性や遊走能を利用して、安全かつ効果的な幹細胞治療を実現することを目指しているという。これまでに日本医療研究開発機構(AMED)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、富士フイルム、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング、持田製薬などと連携し、低ホスファターゼ症、関節疾患、脊椎関連疾患など様々な疾患を対象とした細胞医薬品開発を進めている。

サシの入った和牛肉など培養肉の「3Dバイオプリント技術の社会実装」に向け大阪大学・島津製作所・シグマクシスが提携

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉自動生産装置のイメージ大阪大学大学院工学研究科島津製作所シグマクシスは3月28日、「3Dバイオプリント技術の社会実装」に向けた協業に関する契約を締結した。またこれに先立ち、大阪大学大学院工学研究科と島津製作所は、「3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉の自動生産装置の開発」に関する共同研究契約も締結したと発表した。環境・食糧問題の解決、健康、創薬、医療の進化に貢献するという。

社会実装を目指す技術は、大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授が開発した筋肉組織構造を自由自在に製作できるというものだ。食糧分野では「筋・脂肪・血管の配置が制御された培養肉」、医療分野では「ヒトの細胞による運動器や内臓モデル」の3Dプリントを可能にする。現在、世界で研究されている培養肉の多くは、筋繊維のみのミンチ構造のものだが、この3Dプリント技術を使えば、美しい「サシ」の入った和牛肉を再現したり、脂肪や筋肉の比率を調整したりもできるようになる。またこれを再生医療に応用することも可能だ。

3者が協業して行うのは、「3Dバイオプリント技術の開発推進に向けた他企業との共同研究」「周辺技術・ノウハウを有する企業・団体との連携」「食肉サプライチェーンを構成する企業・団体との連携」「3Dバイオプリント技術に関する社会への情報発信」となっている。

その中で大阪大学大学院工学研究科は、3Dバイオプリントを含む組織工学技術の開発を担当する。具体的には、より複雑な組織や臓器構造の再構築、血管を通じた栄養や酸素の循環による臓器モデルの長期培養のための基礎技術の開発としている。

島津製作所は、3Dバイオプリント技術による培養肉生産の自動化と、培養肉開発に関わる分析計測技術の提供を行う。具体的には、筋肉、脂肪、血管の繊維を「ステーキ様に束ねる工程を自動化する専用装置の開発」であり、培養肉の味や食感・風味・かみ応えなど「おいしさ」に関わる項目、栄養分などの含有量といった「機能性」の分析を行うソリューション開発する。

ビジネスコンサルティング企業のシグマクシスは、この事業のマネージメントを担当する。具体的には、この技術の活躍テーマごとの取り組み方針の策定、テーマ別に必要となる周辺技術やノウハウを有する企業や団体との連携、各取り組みにおける体制作り、進捗管理、課題管理などだ。

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉自動生産装置のイメージ

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉自動生産装置のイメージ

食糧問題、環境問題の解決に加え、ヒトの細胞を使った再生医療や創薬への応用が期待されるこの技術を、「多様な企業とともに活用することで社会への実装を加速」させると、3者は話している。

アキュリスファーマが28億円のシリーズB調達、てんかん発作用経鼻投与スプレー製剤の臨床開発や上市に向けた諸活動推進

アキュリスファーマが28億円のシリーズB調達、てんかん発作に対する経鼻投与スプレー製剤の臨床開発や上市に向けた諸活動推進

神経・精神疾患領域における新薬の開発と商業化を推進するアキュリスファーマ(Aculys Pharma)は3月27日、シリーズBラウンドにおいて、総額28億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、新規投資家のJICベンチャー・グロース・インベストメンツ、三菱UFJキャピタル、Spiral Capital、既存投資家のVision Pacific LifeSciences Capital I, II (DE) LLC 1、HBM Healthcare Investments、Global Founders Capital、三井住友トラスト・インベストメント、ANRI。累計調達額は96億円となった。

調達した資金は、第2パイプラインであるてんかん発作に対する経鼻投与スプレー製剤(主成分ジアゼパム)の臨床開発や上市に向けた諸活動にあてる。

ジアゼパムは、注射剤などの剤形でてんかん発作時の治療薬として60年以上日本の医療現場で使用されているという。また、医療機関外においても患者や介護者などの医療関係者以外の方が坐剤として使用してきた薬剤となっているそうだ。経鼻投与スプレー製剤としては、2020年1月に米国において「6歳以上のてんかん患者における通常の発作パターンとは異なる間欠性の典型的な発作頻発(群発発作、急性群発発作)のエピソード」を効果・効能として米国Neurelisが米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ているという。

アキュリスファーマは、同薬剤が貢献しうる患者に新しい治療手段を早く届けられるよう、日本国内での臨床試験を実施し、開発を進める。同時に、てんかん発作が患者とその家族の日常生活に及ぼす影響を軽減するための包括的な取り組みとして、急な発作時に迅速に治療薬にアクセスできるコミュニティ構築、AIやデジタルを活用した発作の予測システムなどに関する研究を外部パートナーと連携し、進める。また、てんかんに関して正しい理解が広まるよう、啓発活動への貢献にも取り組むという。

2021年1月設立のアキュリスファーマは、「Catalyst to Access」(革新的な医療への橋渡しを担う)を理念とする日本発のバイオ領域スタートアップ。神経・精神疾患領域において革新的な医療手段への橋渡し役となり、患者とその家族、医療関係者、社会により良い医療を届けるため、欧米諸国から革新的で優れた医薬品を導入し、開発・販売を担い、さらに疾患を取り巻く様々な課題に対するソリューションを提供するとしている。

次世代型mRNA創薬の実用化に向けた名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology設立

次世代型mRNA創薬の実用化に向けた名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology設立

名古屋大学は3月18日、メッセンジャーRNA(mRNA)の製造、分子設計・医学に関する知見、AI、データサイエンス、シンセティックバイオロジー(合成生物学)などの最先端技術を融合し、次世代型mRNA創薬を目指す名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology(クラフトンバイオロジー)を3月1日に設立したと発表した。国産mRNAワクチンの速やかな供給をはじめ、がんや遺伝子病の治療、再生医療にも応用されるmRNA創薬に取り組むという。

Crafton Biotechnologyは、名古屋大学、京都府立医科大学、早稲田大学、理化学研究所、横浜市立大学の共同研究を実用化することを目的に設立された。10年以上にわたりmRNAワクチンと医薬品の開発に取り組んできた名古屋大学大学院理学研究科の阿部洋教授と京都府立医科大学大学院医学研究科医系化学の内田智士准教授らが、AI、データサイエンスを専門とする早稲田大学の浜田道昭教授、シンセティックバイオロジーを専門とし進化分子工学の手法を採り入れた次世代mRNAの製造法と設計法を開発する理化学研究所の清水義宏チームリーダー、さらに、副反応の少ないmRNAワクチンの開発を進める京都府立医科大学大学院医学研究科麻酔科学の佐和貞治教授と横浜市立大学眼科学の柳靖雄教授らが連携し、「強固なベンチャーエコシステム」を構築するという。そのとりまとめを行うのが、代表取締役を務める名古屋大学大学院理学研究科の金承鶴特任教授。そのほか、安倍洋教授が最高科学責任者、内田智士准教授が最高医療責任者に就任した。名古屋大学インキュベーション施設に拠点を置き、各研究機関の技術をライセンス化して一元的に集約。mRNA技術の事業基盤を確立し開発を促進する。

同社は数年以内に国内でmRNAを製造できる体制を整備し、安定供給を目指す。また独自の創薬技術を整備して、新型コロナウイルスに限らず、感染症のパンデミック時に独自開発したmRNAワクチンの迅速な供給を可能にすると話す。また、治療技術の海外依存度が大変に高くなっている現在、医薬品産業における日本の国際競争力を高める上で非常に重要な「ワクチンを超えた医薬品としてのmRNAの応用」として、がんや遺伝性疾患、再生医療への応用にも取り組むとしている。

パンデミック下で成長する多種多様なフェムテック企業、従業員への福利厚生としても注目が集まる

女性の健康とウェルネスを支える技術「フェムテック」。McKinsey & Companyによると、2021年のフェムテック領域の資金調達総額は、25億ドル(約2830億円)に到達し、過去最高を記録した。

The dawn of the FemTech revolutio Published by McKinsey & Company(2022/2/14)


女性の健康とウェルネスに特化したVCであるCoyote Venturesと、フェムテック領域の情報配信やスタートアップサポートを行うNPO団体であるFemtech Focusの予測によれば、フェムテック市場は2027年までに1兆1860億ドル(約138兆円)の市場規模にまで成長するという。

そんなフェムテック業界だが、その注目領域も変化している。Crunchbaseによると、過去5年間は妊娠と子育てがVCの資金調達の最大のシェアを占めていたが、2021年に最も投資を集めたのは、プライマリ・ケアや予防医療領域だった。不妊や更年期など、困った時に頼るフェムテックから、すべての女性が常に自分の健康を守るために必要不可欠な技術になりつつあることがわかる。

欧米での盛り上がりを受け、日本でも注目が集まる領域だが、今回は、パンデミック後も続くと予測されるフェムテック業界のトレンドと注目領域について解説する。

新型コロナの影響で広まった手軽にできる自宅検査・治療

パンデミックによって、病院に行きづらくなったことを受け、遠隔医療や自宅検査キットが注目を集めた。これまで当たり前に診察や検査のために病院に行っていた人々が、パンデミックによって自宅でもできるという便利さを経験した。安全に病院に行けるようになっても、人々がこの便利さを捨てるとは考えにくい。実際に、2021年のMcKinsey & Companyの調査によると、調査対象の消費者の約40%が、今後も遠隔医療を利用すると回答しており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以前の遠隔医療利用者の11%から上昇している。

膣内マイクロバイオーム検査キットEvvy

Evvyは、膣内のマイクロバイオームの状態を分析し、健康状態の把握とライフスタイル改善アドバイスなどを提供する。General Catalyst、Box Groupなどから500万ドル(約5億7000万円)を調達している。

筆者も2021年末実際に試してみた。下記のように、検査キットが送られてくる。採取は簡単で、インストラクションを見ながら3分程度で終わった。

画像クレジット:Evvy

箱には「The female body shouldn’t be a medical mystery(女性の身体は、医療で解明できないミステリーであるべきではない)」と記されており、現状研究段階ではあるものの、マイクロバイオーム分析を通して女性の不調を改善したいという気概が感じられた。

次に、オンラインで質問に回答する。生理サイクル、健康の悩み、感染症歴や今回の検査で知りたいことなどを回答する。10分ほどの割と長い質問票だった。


​​採取したサンプルを送付すると、2週間ほどで結果がメールで送られてくる。結果を解説してくれるマイクロバイオーム専門家とのビデオコールも追加コストなしでリクエストできる。ビデオコールでは、自分の悩みを伝え、結果を見ながら改善方法などを教えてくれた。結果を見てもどのように実生活に活用すれば良いのか、わかりにくかったので、マイクロバイオーム初心者の筆者からするとありがたかった。

ユーザーは、3カ月ごとの定期検査のサブスクリプションモデルと1回のみの検査キット購入が選べる。定期的に検査することで、自分の健康状態を見てみたかったので、筆者はサブスクリプションを選択した。

細菌性腟症などの感染症は、一度なると再発しやすい。実際、一部のユーザーは、膣内感染症の再発を防ぐためのヒントを求めてEvvyにたどり着く。また、早産、不妊の可能性や予防法をマイクロバイオームから知りたいというユーザーもいる。

筆者が最も注目しているのは、同社のビジョンだ。まだ研究段階のマイクロバイオームだが、同社は今後、膣内マイクロバイオームと不妊、子宮頸がん、早産などとの関連を調査し解明するというビジョンを持っている。マイクロバイオームから自分の身体の状態を把握するという未来がくるのかもしれない。

カップルの唾液から遺伝疾患リスクを解明する出生前唾液検査キット

画像クレジット:Orchid ウェブサイトより

Orchidは、パートナー両方の唾液サンプルを送付するだけで60億ものゲノムを解析し、子どもが遺伝性疾患を発症するリスクが高いかどうかを判定する唾液検査キットを提供している。2021年4月、シードラウンドで450万ドル(約5億3000万円)を調達。遺伝子キットを開発、販売する23 and Meの創業者も出資​​している。

対象となる遺伝性疾患は、乳がん・前立腺がん・心臓病・心房細動・脳卒中・1型糖尿病・2型糖尿病・炎症性腸疾患・統合失調症・アルツハイマー病の10種類。唾液を送ると、カップル向け、女性・男性の各パートナー向けの3種類のレポートが送付される。

子どもを作る前に、遺伝リスクを検査するというアプローチをとる同社。心配な結果が出たとしても、遺伝カウンセラーと、リスクを最小限に抑える方法などを相談できる。

2020年にシリーズDラウンドで1億2100万ドル(約143億円)の大型調達を発表したSema4も、出生前検査・遺伝性がん検査を手がける企業だ。同社は、2020年フェムテック領域の中で最大額を調達した企業だった。

テレヘルスユニコーンRoが買収、精子分析・保存キット

画像クレジット:Ro

フェムテックではないが、精子を自宅で採取し、分析結果を送ってくれるサービスを提供するDadiを紹介する。同社は、2022年3月にテレヘルスユニコーンのRoに買収されている。米国の国保健社会福祉省によると、不妊症の約3分の1は男性の不妊症に関連しているため、精液の分析と保存は重要な不妊治療サービスだ。自宅で精子を採取した後、採取キットと保存カプセルの両方が、温度変化や提携ラボへの輸送中の障害などから精子を保護・保存するように設計されている。サンプルの分析が完了すると、精子の数、濃度、運動性の評価を含む個人別の報告書が送付される。また、採取した精子は提携ラボで冷凍保存される。

Roは、コアビジネスである勃起不全治療テレヘルスプラットフォームから、テレヘルス全体へ事業拡大を進めるため、過去12カ月に3社(Workpath, Kit, Modern Fertility)を買収している。

成功の鍵は、丁寧なインストラクションと行動に落とし込める分析結果表示

ここまで自宅検査のスタートアップを解説してきた。筆者自身、自宅検査を複数試して感じたのは、自宅検査ビジネスをグロースさせる上で重要なのは「わかりやすい検査のインストラクション」と「ユーザーが行動に落とし込める分析結果を提示する」という点だ。家庭で正しく検査するためには、動画や簡単なイラストなどで、わかりやすいインストラクションが必要だ。

また、検査を受けて良かったと感じてもらうためには、明日からできる行動の変化を促す分析結果を提示することが重要だろう。自分の状態を把握するだけでは、一度きりの購入で終わってしまう。消費者は「xxのサプリを毎日飲む」「○○の栄養素を避ける」「有酸素運動を30分する」など改善のための方法を知りたいのだ。

この満足感が、安定的な収益を達成するためのサブスク顧客獲得に繋がる。現状、専門カウンセラーとのビデオコールを提供し、テスト結果を解説することでこの部分を補う企業が出てきている。専門家たちは、医学的・生物学的な専門知識がない一般消費者をガイドする役割を担っている。ここでの問題点は、スケールだ。ユーザー数が増えるごとに、専門家の数を増やさなければいけない状況では、スケールは難しい。技術を活用し、ある程度自動化をしながら満足度も担保するようなサービスが、今後伸びていくと考える。

人材獲得戦争時代、さらに重要視される企業の充実した福利厚生

米国では現在、労働者が大量に仕事を辞めている。この現象は、大規模離職を意味する「グレイト・レジグネーション(大退職時代)」と呼ばれ、メディアで頻繁に報道されている。​​Fortuneが2000人以上の米国人労働者を対象に行った調査によると、80%が新しい仕事に就くことを考える際に柔軟なスケジュールが重要であると回答している。また、約70%の労働者がリモートワークの選択肢を重要視している。優秀な人材プールを惹きつけるためには、働きやすい環境を作ることが必須だ。そのため、企業は、福利厚生にこれまで以上に投資している。

パンデミックで完全リモートを経験した労働者たちは、今後も働きやすさを求めている。この流れは、B to B to E(Employee)モデルと呼ばれるかたちで、企業向けに福利厚生としてのソリューションを提供するフェムテック企業にとって追い風となる。

働く親のための福利厚生プラットフォーム​​

画像クレジット:Cleoウェブサイトより

従業員は、Cleoを通して、育休からの復職時に悩みを相談できる専門家や、子どもの健康の専門家、助産師や産後うつ専門家などにアクセスできる。同社は、Pinterest、Uber、Upwork、Salesforceなどを含む、55カ国以上の100社を超える多様な企業に導入されている。​​実際、産休・育休後の復職率は、全米での平均が60%であるのに対し、Cleo会員は92%と改善している。

妊娠・出産のサポートから始まった同社のサービスだが、現在は、5歳から12歳の子どもを対象とするCleo Kids、ティーンエイジャーの子どもを対象とするCleo Teensにも拡大している。

多様なニーズに応える福利厚生の変化

画像クレジット:Carrot Fertilityウェブサイトより

これまで対面での不妊治療を中心に提供してきた福利厚生プロバイダーも、パンデミックを受け、そのサービス提供内容と方法をユーザーの求める形に変化させている。

企業の従業員向けに不妊治療を提供するCarrot Fertilityは、SlackやBox groupなど北米、アジア、ヨーロッパ、南米、中東の50カ国以上で、約200社の企業​​を顧客に抱える。これまで約135億円($115M)を調達している。同社は、パンデミックで通院を避けたい患者のニーズを受け、2020年8月に遠隔医療プラットフォームのCarrot at Homeを開始した。また、2021年12月には、自宅で排卵誘発ホルモンや関連バイオマーカーをモニタリングできる自宅検査キットの提供も開始している。2022年2月には、更年期障害向けのプランも追加した。

従業員それぞれのニーズが異なる点に注目し、福利厚生をパーソナライズできるプラットフォームも登場してきている。

画像クレジット:Nayyaウェブサイトより

2022年2月にシリーズCラウンドで5500万ドル(約64億円)を調達したNayyaは、企業の人事福利厚生システムに組み込んで、従業員のための福利厚生をパーソナライズするツールを提供している。

RPAを使って、従業員がプランをより良く選択し、節約する方法を見つけ、より良い支払いオプションを提供し、保険などの福利厚生を総合的にナビゲートできるようにしている。

画像クレジット:Forma

Formaは、​​裁量型福利厚生管理プラットフォームを提供している。同社も2022年2月、シリーズBラウンドで4000万ドル(約47億50000万円)を調達した。同社は、人事担当者が、従業員による福利厚生ベンダーの選定、払い戻し手続き、デジタルウォレットによるプラン利用をチェックできるようなシステムを構築している。

同社によると、企業の福利厚生は通常、企業が従業員に必要なものを決定するトップダウン・モデルで展開されており、これは雇用者と従業員の双方にとって非効率的だという。Formaの使命は、従業員ファーストの福利厚生プログラムを設計することによって、この関係を逆転させることだ。

Formaはプロバイダーと提携し、家族・人間関係、教育・キャリア、ウェルビーイング・ライフスタイル、基礎健康・保護、資産運用、仕事・パフォーマンスの6つの大きなカテゴリーで福利厚生を提供する。Formaの顧客は、社内の予算と戦略に基づいて、これらのカテゴリーから提供するものを選び、従業員に提供したい福利厚生プログラムを設計することができる。

Twitch、Stripe、Zoom、Lululemon、Palo Alto Networks、Squareなど、前年比330%の125社を顧客に抱えており、定着率は99%だという。この1年間で同社は収益を4倍に増やした。

優秀な人材を惹きつけ、繋ぎ止めるために、今後も企業の従業員への投資は、続いていくだろう。​​上記のパーソナライズ福利厚生が成功していることからも、従業員それぞれニーズが異なっており、企業がそのニーズに応えようとしている姿勢が感じられる。

編集部中:本稿の執筆者は大嶋紗季(Saki Oshima)。日本企業と海外スタートアップの新規事業創出を手がけるスクラムスタジオで、大企業とスタートアップのオープンイノベーションを支援するスタジオ事業部門に所属し、既存プログラムの運営や新規プログラムの立ち上げに従事する。各プログラムで培った日本企業とスタートアップをつなぐ経験を生かし、米国スタートアップ情報プラットフォームScrum Connect Onlineの立ち上げ、運営を担当する。欧米のフェムテックトレンドやサービスを日本語で配信。日本初のフェムテックコミュニティFemtech Community Japan創立メンバー。UCサンディエゴ大学院修了(MBA)。

 

Ultrahumanのグルコーストラッカー「Cyborg」を4週間装着、自分を定量化することで何ができるのか?

2021年のある4週間、TechCrunchの記者である私は、インドのベンガルール本拠のスタートアップUltrahuman(ウルトラヒューマン)が提供している「代謝健全性」サービスを思い切ってテストした。このトラッカープログラムは商標名をCyborg(サイボーグ)といい、腕に装着する医療用のハードウェアを使用して血中グルコース値をリアルタイムで読み取る。Cyborgは、この動的なデータポイントを利用して食事の内容や運動の方法にスコアを付ける健康定量化サービスであり、1日を通して健康的な生活習慣を選択するようユーザーにアドバイスする。

研究によると、質の悪い食生活や運動不足などの要因で起こる代謝性の慢性炎症によって、糖尿病、心臓血管疾患、慢性腎疾患、がんなど、さまざまな病気を発症する危険性があるという。Cyborgの背後にある理論は、生活習慣の中で数多くの選択を積み重ねることで、より健康的な長期的展望が開けるというものだ。それには、そのような日々の決断を最適化して炎症や酸化ストレスを回避することが前提となる。

この長い記事では、皮膚に穴を開けるタイプのデバイスを身に付け、動的に更新される生体内プロセスのデジタルウィンドウを見ながら生活を送ったときの興味深い体験、および健康全般とフィットネスのために継続的グルコースモニタリング(CGM)を行う価値について書いてみたい。また、この種のセンシングハードウェアが次々に製品化されている現状における市場勢力図についても触れてみたい。

この記事は、Ultrahumanの製品とサービス(現在は非公開ベータ版で運営)に関する大まかなレビューだが「評定と価格」というセクションも設けた。動作の詳細をすぐに知りたい方は読み飛ばしていただきたい。その前に背景について少し説明することにしよう。

前置きと注意事項

Cyborgになるのはもはやまったくのサイエンスフィクションではなくなってきている。何年にも渡る「自己定量化」トレンドによって、身体の活動を計測し、出力を追跡して最適化するようアドバイスするさまざまなセンサーやサービスが次々に生まれた。歩数計心拍数モニター、ストレスおよび睡眠センサー、肺活量測定器などだ。最近ではさらに変わったものも登場している。血中グルコース値モニター、唾液小便大便分析器などだ。大便を解析することで、必要に応じて、ホルモンや微生物叢 / 代謝に異常があるかどうかを知ることができる。

心配症の人たちに手首装着型、またはベルト固定式の自己管理型センシングデバイスを装着させ、サブスクリプションサービス(計測したデータの意味をアプリで解釈し、数値を改善する方法を提示する)を提供するビジネスが活況を呈している。Apple Watchのリングを完成させる、深く呼吸する、早めに就寝する、といったことをアドバイスされる。

こうした定量化ヘルステックは少し浅薄で不真面目だと受け取られる可能性がある。毎日の生活にちょっとした小道具を持ち込み、単に散歩に行ったり早めに寝たりすればよいだけなのに役に立ちそうもない小物を押し付けてくる感じだ。やる気の出ない人に行動を起こしてみるよう勧める電話サービス、失われた子ども時代の代わりになる環境、あるいは存在の証明としてのデータ化サービスなどを販売する、もっと基本的で単純な製品でも十分だ。

しかし、餅は餅屋ということもある。睡眠障害があったり、ストレスや心配事で苦しんでいたりするなら、睡眠をトラッキングして、少しでも睡眠時間を増やすためのアドバイスやヒントを貰えば、質の高い睡眠を安定的にとれるようになるかもしれない。

利用できるテクノロジーもどんどん洗練されてきている。市販のトラッカーは臓器(心臓や肺)の機能障害の有無に焦点を合わせているのに対して、定量化というのは良さそうに思えるかもしれないが、正確性には疑問の余地がある。というのは、この種の製品は、規制の対象となる医療機器ではなく消費者向けレベルであることが多いからだ。

歩数計のデータでさえかなり不正確な場合がある。

しかし、最近の開発現場では、医療用レベルのセンシングハードウェアを使用して自己管理型の代謝分析機能を提供するスタートアップがどんどん増えている。こうしたデバイスは、皮膚上(というより皮膚中)に装着するセンサーを介して血中グルコース値の変化をほぼリアルタイムでトラッキングする。

これは魅力的な機能であり、成長しているが、健康定量化スタートアップとしてはまだまだ新しい領域だ。だが、有望な領域に思える。個人の有益な健康情報を提供でき、なおかつ十分なデータがあれば実用面でも大きく向上する可能性がある。また、多くの人たちがより健康的な生活習慣を選択できるようになる。

しかし、大きな問題がある。代謝健全性の科学的理解が我々が思っているほど完全ではないのだ。

UltrahumanのCyborg。欧州にいる筆者に送られてきた箱の中身。Abbott(アボット)製のCMGセンサー、アルコールティッシュ、センサーの上に貼るテープパッチ(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

まだ多くのことが解明されていない。例えば個人によって代謝反応に大きな差がある(まったく同じ食事を摂っても、人によって反応が大きく異なることがある)のはなぜかや、糖尿病やがんなどの発症リスクの増大に炎症がどのような役割を果たしているのか、といったことだ。

したがって、スタートアップ各社の病気を予測する能力は、今後の研究の必要性によって決まってくる(ただし、研究の進展のためにデータを収集して理解することは、企業家がひそかに狙っているビジネスチャンスの重要な部分ではあるが)。

また、問題となっているセンシングハードウェアは、大半のスタートアップが追求している「一般的な健康」という使用事例において規制の対象になっていない。

つまり、こうしたサービスはまだ新しい領域、つまり実験段階ということだ。たとえスタートアップが転用しようとしているハードウェアが老舗の医療機器会社によって製造されているという点で合法であり、より狭い範囲における使い方(糖尿病管理など)では規制の対象になるとしてもだ。

通常、このようなセンサーは、糖尿病患者が定期的に血糖測定を行う代わりに血糖値をトラッキングするためのデバイスとして規制当局の認可を受けている。そのため、スタートアップ各社は信頼性を付与され、同じデバイスメーカーのAPIに接続して同じデータストリームを取得できるようになるかもしれない。しかし、こうしたサービスがデータに付与するのは、偏った解釈だ。

生活習慣に関するアドバイスを含む、より広範な分析を行えば、FDAには絶対に認可されない。

栄養に関して長年に渡って激しく繰り返されてきた議論、すなわち、一時的な流行りの食事療法、ベストセラー本、体に良い食物と悪い食物や効果的な運動に関して繰り返される議論などは、人間の生態と人間が定期的に自分の体をさらすもの(食物、運動など)の間の相互作用に関する理解が不十分であるために起こってきた現象だ。

すべての構成要素がどのように相互作用するのかを完全に理解せずに複雑なシステムを計測しても、全体像を把握することはできない。把握できるのはせいぜいスナップショットだ。それでも理解を深めることができるかもしれないが、すべての答えがそこにあるわけではない。誤った解釈のリスクは本当に存在するのだ。気を付けなければならない。

「代謝健全性」の計測を実際にどのように行うのかという疑問もある。代謝健全性というのは漠然とした言葉だ。複雑な生物相互作用が化学反応を引き起こし、それによって体に必要なエネルギーが生成され、その結果、健全な体重を簡単に維持できることになる(あるいは維持できない場合もある)。つまり、体全体の健康を実現するのを支援することもあれば邪魔することもある。

食事の内容、方法、時刻、およびその時に十分に活動し休息を取れているか(ストレスを感じることなく)は、代謝機能に影響を及ぼす可能性のある動的な変動要因のほんの一部に過ぎない(わかりやすい例。今日体内で食材が代謝される方法は、昨日食べたものによって影響を受ける可能性がある)。センシングデバイスで焦点を絞って追跡するよう選択された生体指標(複数の場合もある)によって「代謝健全性」サービスでわかるもの、そして推定できるものも明らかに違ってくる。

代謝健全性を追求するスタートアップは、血中グルコース値のトラッキングから腸内微生物や体の排出物(尿など)の分析、あるいは、出力とシグナルの組み合わせの確認(心拍数を考慮に入れることもある)など、さまざまな方法を模索している。そのうち、より多くの体のシグナルがチェック対象に追加され、十分に解明していくための取り組みが行われるだろう。しかし、現状の代謝トラッキングの多くはせいぜいパズルの1ピースに過ぎない。陰影付けの線よりも空白のほうが多いスケッチ(つまり、大まかな推測)のようなものだ。

あらゆる生体化学を理解する最新技術の製品化を試みる人たちにとって、さまざまな代謝シグナルの組み合わせから得られるデータを理解する、いや最善の解釈を導き出す方法については、疑問と課題が山積みの状態だ。Ultrahumanの創業者もこの点を認めており、次のように話す。「血中グルコース値という生体指標から生成される情報を正確なものにすることが、当社の最も重要な使命です」。

Ultrahumanのウェブサイトには、Cyborgのサービスは「スポーツ愛好家が自分の血中グルコース値レベルと運動能力を把握するための一般的な情報を提供するもの」であり、医師の意見の代わりになるものでもなければ、特定の病状や健康上の懸念のケアや対処方法を構成するものではないという免責条項がある。

代謝の謎を解き、代謝健全性の概念を商用化するという企業使命はまだまだ現在も進行中だが、次の2つのことは明確だ。第1に、生物学的機能の理解を深めようとするニーズが存在している(トップアスリートだけでなく多くの人たちが体内で起こっていること全般、とりわけ代謝について関心を持っている)。第2に、この種のヘルストラッキングテクノロジーが個人ユーザーにもたらす長期的利点は何なのかについて、重大でありながら、未確認のさまざまな主張が行われている。

そこで、注意していただきたい点をもう1つ。代謝バイオハッキングに是非関わりたいと考えている人は、その制限についても明確にしておく必要がある。

少しばかりのデータを取得しても、診断を下すどころか、適切な理解さえできないこともある。この場合データ量が多いと、ノイズと混乱が増え、必ずしも明確なシグナルが得られるとは限らない。本来心配する必要のないことまで心配になることもある。

この10年間、デジタルでの健康 / ウェルネストラッキングの消費ブームは、侵襲的 / 半侵襲的なウェアラブル機器に関しては伸びが鈍化していたが、それもうなずける。侵襲的ウェアラブルとは、体の内部に(少しだけ)刺し込んで使うセンシングデバイスのことだ。

たとえ部分的でもウェアラブルな(UltrahumanのCyborgの場合は、皮膚パッチを皮下に刺して間質液中にセンシングフィラメントが押し込まれるようにする)代謝トラッキングサービス、それがこのレビューの中心テーマだ。この半侵襲的センサーとアプリの組み合わせで、代謝健全性を把握して評価する代わりにほぼリアルタイムでグルコース濃度をモニタリングする。血糖値が高いと、効果的な生活習慣に向けて改善するよう装着者にアドバイスや警告が出される。

目的は、センサー装着者の日常生活におけるグルコース濃度を安定させて(著しく高いまたは低い状態を避けて)、健康に悪影響を及ぼすような炎症と酸化ストレスを軽減するという包括的なミッションを達成することだ。

Ultrahumanが提案しているのは「代謝健全性」(同社が自社のミッションを説明するために好んで使うフレーズ)に注意を払い、食事の内容と時刻、運動や睡眠の質と時刻に関して少しでも対策を講じることで、時間の経過とともに、糖尿病、非アルコール性脂肪肝、心臓血管病などの代謝異常を発症する可能性のある慢性的炎症を回避したり好転させたりできるというものだ。

食事療法は、CGMテクノロジーを製品化しているスタートアップによって常にあからさまに宣伝されているわけではないが、血糖値の急上昇は、もちろん甘い食べ物の摂取(および過剰摂取)と関連している。いずれも体重の増加につながる可能性がある。したがって、代謝健全性を支援することは、健康的な体重を達成してそれを維持できるよう助けることを意味する。

慢性疾患のリスク軽減、体重管理支援、運動能力を向上させるスマートなデジタルアシスタントなど、マスコミに取り上げられそうな潜在的利益があることを考えると、大手スタートアップがこぞって代謝の謎を解明しマネタイズしようとしているのもうなずける。

また、スタートアップ側のビジネスチャンスという点では、文字どおり「ワイヤイン(針を刺す)」タイプの消費者向けヘルストラッカーは間違いなく、Apple Watchなど、手首に装着するトラッキングギアなどの主流からは外れた位置付けだ。だがそのおかげで大手消費者向けテック企業との競争は少なくなり、挑戦を続ける企業家には成功のチャンスとなる。

Appleのウェアラブルデバイスのバックパネルに収納可能なグルコース測定用の金属針が埋め込まれていたら、そのグルコース検知フィラメントの外観がどれほどしゃれていても、Apple Watchの出荷数は現状に遠く及ばなかっただろう(噂では、Appleはもちろん、針を使わないグルコースモニタリング機能をApple Watchに埋め込みたいと考えているようだ。うまく機能するならだが)。

皮膚に針を刺すのは(実際にはそうでもないとしても)面倒そうな感じがする。そして当然、多くの人が針と聞いただけで嫌がる。ということは、バイオハッキングの最先端で健康定量化スタートアップが、主流の大手消費者向けテック企業よりもはっきりとした足跡を残す存在になるチャンスと市場余地があるということだ。人々の針恐怖症に臆せず挑む自己定量化テクノロジーは、より本格的であるように思える。というのは、トラッキングされる生体内作用に文字どおり近い位置で計測するからだ。

とはいえ、トラッカーを皮下に挿入することで、センサーを侵襲性の低い形で装着する場合に比べて、取得されるデータの質、そのデータの分析、結果としてユーザーに提示されるアドバイスといった点において有意な差異が生まれるのかどうかは簡単には答えられない質問だ(実際、非常に多くの質問が生じ、その内容はコンテキストとサービスの実施によって変わる)。

UltrahumanのCyborgの場合、大げさな約束をしないよう慎重に事を進めている。マーケティングでは「食事と運動が体に与える影響と毎日の改善のモチベーションとなるスコアをリアルタイムで確認し、改善の取り組みを行う」のはユーザーの責任である、とベータ版に同梱されている簡単な説明書に記載されている。

Cyborgが出力する代謝スコアはパーソナライズされるが、科学的にはまだ解明されていない部分が多い生体内作用を抽象化し解釈したものだ。したがって、再度いうが、これは答えを探している途中の段階であって、明確な1つの「生物学的真実」をやすやすとユーザーに与えるものではない(要するに、差し出す真実などないのだ。あるのはユーザーの好奇心を満たす示唆的な大量のデータだけである)。

少しばかり知識があるのは危険なことだが(問題になっているデータが自分の生物学的状態に関連する場合、その危険性はもっと高まる)、人の体内の働きを垣間見るのは興味のある人にとって間違いなくおもしろいことだろう。このデジタル時代にあっては、コンピューターのキーを一打するだけで、健康に関する研究情報をいくらでも見ることができる。誰でも自分の生物学的状態について多少なりとも興味があるのではないだろうか。

危険なのは、おそらく、侵襲性の高いセンサーを装着することで、この種のトラッカーが、単なるデータ処理(および代謝プロセスに関するより広範な科学的理解)の域を出ない機能よりも高品質の情報(より個人の特質に沿った情報)を与えてくれるものとユーザーが自動的に思い込んでしまうことだろう。

しかし、Ultrahumanはこのサイエンスフィクション的なイメージをセールスポイントとして前面に押し出すことを恐れない。だからこそ、皮膚の中にセンサーを装着し、センサーと人体を直接接合することを意図的に強調した「Cyborg」という商標名をあからさまに選択したのだ。つまり、このデバイスが「少しずつ段階を追って健康増進へと導く」ことを約束する健康定量化サービスを実現する特殊なソースであることを暗示している。しかも、食事内容の大幅な変更や退屈でストレスのたまる包括的な運動プランは必要ない。

他の多くのスタートアップが同じ(または類似の)CGMハードウェアを利用しているため、魔法のごとく自動的にデータを取得する機能はすでにコモディティ化されている可能性がある。重要なのは、取得した情報を視覚化し、分析して、個々のユーザーの特質に合わせて提供することだ。

しかし、ここでも、上述の科学的理解の不確実さを考えると、定量化は本質的に難しそうだ。

もちろん皮肉屋に言わせれば、それこそスタートアップにとって完璧なビジネスチャンスだということになるのだろうが。

Ultrahuman製Cyborgの動作の仕組み

Ultrahumanは、代謝健全性を算定するために、血中グルコース値の動的な変化をトラッキングすることを選択した。

なぜグルコースなのか。UltrahumanのCEO兼共同創業者のMohit Kumar(モーヒト・クマール)氏によると、グルコースは「食事、ストレス、睡眠、活動に敏感に反応するリアルタイムの生体指標」であるため、Cyborgで達成したいことを実現するのに最適だったからだという。

「当初は健康増進をパーソナライズするための生体指標と手法も探していましたが、当社が目指しているインパクトが与えられる生態指標を特定するのに1年に渡る実験が必要でした。HRV(心拍数のばらつき)、睡眠、呼吸数など、あらゆる生体指標を検討しましたが、グルコースは生活習慣の食事面についてフィードバックが得られるため、最もおもしろいものに思えました」とクマール氏はいう。

「つまり、さまざまな生活習慣要因について即座にフィードバックを得ることができるのです。そして、これまで見たところ、即座にフィードバックを与えたほうが実際に行動に移す可能性が高くなるようです。例えばスパイク(血糖値の急上昇)を引き起こす食事の後にすぐ散歩するようアドバイスしたほうが、翌日出力されるレポートよりも、行動に移す可能性が高くなります」。

「次に、活動のパフォーマンスを高めるフィットネスウェアラブルやマーカーはたくさんありますが、食事の最適化を支援するものは皆無です。栄養摂取は一般にブラックボックスであり、食事の種類と個人的好みが幾百もあることを考えるとはるかに複雑です。ですが、食物エコシステムが破壊されていることを考えると、栄養摂取は最も重要な生活習慣の要素です」。

「半侵襲的生体指標であってもグルコースを指標として選択することがROIの観点から大いに意味があると感じた理由もそこにあります。非公開ベータ版によって、どのようなアドバイスと情報を与えれば人の生活習慣を簡単に変えられるのかがわかってきました。アプリ公開時には大勢のユーザーが参加しました。21歳くらいのユーザーが毎日計測を行い、大半の人が使い始めてから約45日目で健康に大きな改善が見られました」。

CGMテクノロジーのおかげで血糖値の変動をリアルタイムでトラッキングできるようになったことは、数週間、数カ月に渡って試行錯誤しながら進める従来のダイエットのような、ユーザーに忍耐を強いるビジネスに即座に大きな前進をもたらした。こうした従来のダイエットでは、食事と運動の内容を変えて数週間または数カ月後に実際に効果があったかどうかを確認する。

指に針を刺して繰り返し計測する方法ではなく、継続的な血中グルコース値をトラッキングする方法が近年、CGMハードウェアの開発によって実現された。CGMは当初、糖尿病と正式に診断された患者向けだったが、最近は、このテクノロジーを製品化して健康に懸念のある、またはフィットネス指向の消費者に販売するスタートアップがますます増えている。

このテクノロジーによって興味深い科学的事実が明らかになっている。例えばこの2018年の研究論文には、グルコースの調節異常(正常と考えられる範囲外の値を示すこと)は実は健康な人たち、つまり糖尿病または糖尿病予備群と診断されていない人たちの間でもごく普通に起こっていることが示されている。これは、研究者にとって意外なことだった。

ベーシックレベルでは、Ultrahumanのサービスは腕に装着するセンシングハードウェア(円盤型のセンサー、2週間ごとに交換が必要)と血中グルコース値を視覚化し警告とアドバイスを行うアプリがセットで提供される。トラッキングを継続するために、センサーは交換のたびにアプリとペアリングする。

平均的なフィットネスウェアラブルではない(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

センサーハードウェアを製造しているのは、米国の医療機器メーカーAbbott(アボット)という別の会社だ。本稿の執筆時点でUltrahuman製品といっしょに出荷される専用センサーは、アボットのFreeStyle Libre 2(フリースタイル・リブレ2)というグルコースモニタリングシステムだ。

CGMセンサーを自分で装着するのは少し神経を使う。これは、1回で正しく装着する必要があるからだ。TechCrunchに送られてきたベータ版の箱にはセンサーが2つしか入っていなかったので、センサーを無駄にしたくなかった。

筆者が装着した時には、センサーの装着とセットアップを説明した2つの(ロボットのおもしろい音声による)動画がUltrahumanによって制作されていた。これは役に立った。が、少し耳障りなところがあった(数滴血が飛び散ることがあるのであまり強く押し付けないようにと言っている部分が原因だろう)。

アボット製のハードウェアにも、独自の操作説明書とばね仕掛けの装着器が同梱されている。これを手動で準備し、上腕を上げてプラスチックのカップを装着位置にセットしてから、不安な気持ちになりつつも、押し下げてフィラメントを皮膚に向けて発射する。この動作は非常に速いので、思わずぎくりとする。Ultrahumanの操作説明動画に出てくる「中空の針」というフレーズを思い出してもあまり役に立たないかもしれない。しかしこの針はフィラメントを誘導するためのもので、腕の中に目に見える金属が残されたままになることはない。

血は飛び散ったかというと、筆者の気づいた限りではそのようなことはなかった。ただし、2回目に装着したセンサーは神経か何かに刺さったのか数日間かなり痛みがあった。その後落ち着いて安定した。もしくは、筆者が慣れたのかもしれない。

1台目のセンサーは装着時に痛みはなかったが、腕にプラスチック片を付けた状態で眠るのに慣れるまで少し時間がかかった。あるヨガのポーズを取ると、センサーを不自然に押し付けてしまうのを避けるため、余分に体をねじる必要があることに気づいた。また、CGMを装着している期間中は夜間、非常に高いピッチのすすり泣きが確かに聞こえたように思うが、筆者が電気羊の夢を見ていただけなのかもしれない。

センサーを付けたままシャワーを浴びたり入浴したりすることはできる。Ultrahumanの製品箱には、センサーを保護するための(腕にブランド名を表示する目的もある)布テープパッチが同梱されている。このパッチは、生活習慣によっては数日で剥がれてくることもあるが、センサー自体は筆者の2週間のテスト期間中しっかりと固着されていた。ぼろぼろになったパッチを剥がして新しいものと交換することはできる(予備のパッチがあればだが)。しかし、パッチを早めに剥がしたためにセンサーを通常より早く引き抜いてしまいたくないので、この作業も神経を使う。基本的には、Macbook(マックブック)ステッカーを貼るのと同じくらい楽しい。

センシング用フィラメント自体に興味のある方のために言っておくと、これはそれほど細くない針金ような感じだ。最初に腕から引き抜くときに確認できる。この時見て思ったのだが、何らかの黒いペイントでコーティングされているようだった。で、見ていてあまり気持ちの良いものではなかったが、そのコーティングが少し剥がれていた。だが、皮膚に装着したまま生活して2週間が経過する頃までには、体がCyborgを受容した。スマートな感じだ。

センサーを腕から引き抜いたところ(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

跡が残るかどうかだが、フィラメントが皮膚を穿孔した場所に赤い小さな腫れが残る。これはしばらくすると消えた。テープおよびセンサー内蔵の固定具(テープよりもはるかにしっかりと皮膚に接触したままである)で皮膚に問題が生じることはなかった。

センサーはBluetooth経由でUltrahumanのアプリとペアリングされる。このため、電話が腕と数メートルの範囲内にないと接続が切れることがある。そうなると、データフロー(およびリアルタイムアラート)が停止する。電話を決して自分の側から離さないようにするための完璧な理由ができたわけだ。

接続が切れると、アプリからその旨が通知され、接続可能になったら電話をタップしセンサーと再接続して失われた読み取り値をアップロードするよう要求される(セットアップ時にも、センサーには、データフローを開始する前にちょっとした「ウォームアップ」時間が必要になる。このため、最初のワークアウトや食事を記録する準備が整うまで部屋の中を行ったり来たりして待つことになるかもしれない)。

1カ月以上に渡って2回に分けて行った(センサー1の装着期間とセンサー2の装着期間の間に中断を入れたため)TechCrunchでのテスト期間中、アプリはまだ開発中だった。このため、ソフトウェアは見た目の大きな変更を含め、多数の変更が行われた。

これにより、グルコースプロット線のグラデーションをあまりにも単純すぎる表示(グルコース値の高低に応じて、常に赤から緑のグラデーションで表示する)から中央の「ターゲットゾーン」を設けるように変更された。ターゲットゾーンでは、プロットが「正常値」を意味する霧がかった緑で表示されるが、値が急降下または急上昇すると黄色、オレンジ、赤の順にグラデーションで表示される。つまり、グルコース値が最適範囲(70mg/dLと110mg/dLの範囲)外になると高すぎる場合も低すぎる場合も赤で表示されることになる。

この変更は大きな改善だった。これまでのバージョンでは、緑は常に良いサインとしてグルコース値が低くなることは常に良いことであると視覚的に示唆されていた。たとえターゲットを下回る値(低血糖)であっても緑で表示されていた。これは、この種の健康定量化製品で見られるデザイン/UXの落とし穴の一例だ。

アプリは、1日を通じて血中グルコース値の増減(またはアボットのハードウェアが間質液から引き出した近似値。糖尿病患者なら誰もがいうだろうが、これらの値は血中グルコースの読み取りと正確に一致するわけではない。また、グルコース値が上昇または下降する際には、フラッシュグルコースモニターに表示されるまでの間に短いタイムラグが発生することがある)をプロットするだけでなく、Ultrahumanが「代謝スコア」と呼ぶ数字(0~100)も表示する。

これは、健康的な生活習慣に向けた改善の実施をアドバイスおよびゲーム化するためにアプリが使用するメインの「指標」の仕組みだ。

Ultrahumanは、このスコアを「全体的な代謝健全性」を表す指標と説明しており、グルコース値のばらつきと平均、およびターゲット目標範囲内に収まっていた時間に基づいて算出しているという。このスコアは毎日深夜に100にリセットされ「日中の活動と体の反応に応じて」増減する。

このゲーム化のミッションは非常にシンプルだ。「目標は毎日、このスコアを最大にすることです」。

実際には、良い(高い)スコアを得られるかどうかは個人の生物学的状態と生活習慣による。そして、気が滅入るが、前日の活動と食事の内容によっては朝起きるとスコアが80台(いや、それよりも悪い数値だと思われる)に落ちていることもある。

注意:ストレスも血糖値に影響を与える可能性があるため、自分では制御不能な出来事が起こると数値に影響が出ることがある。

食事、活動、およびテスト期間中に徐々にアプリに追加されていったその他のタイプの出来事は手動で記録する。

当初、記録は食事または活動の説明を手入力することで行っていたが、その後のアップデートで、食事と活動のインデックスが追加され、構造化されたリストから食事と活動を検索して選択し、その量または時間も指定できるようになったため、すべてを手入力する必要はなくなった。

筆者としては、結局、食事の内容は手入力で記録するほうが良い感じがした。というのは、用意されているリストはあまりに詳しすぎて煩雑なため便利だと感じなかったからだ(「チーズ」と入力すると、ありとあらゆるタイプのチーズが候補として表示されるが、自分が食べているチーズや、実際に皿に盛る量と完全に一致するとは限らないし、そもそも量など認識していないかもしれない。チーズ一品を記録するだけでこの状態だ。これを皿一杯の料理について繰り返すなどうんざりだ。それに、このリストはかなり米国寄りのようで、欧州の食事を記録するにはあまり役に立たなかった)。

対照的に、自分の好みのチーズまたは料理全体のカスタムの説明を手入力しておけば、アプリでカスタムラベルが記録されるため、次回その料理を食べるときに迅速に記録できる。

Ultrahumanが、でき得る限り最高品質の構造化データを実現して、AI予測モデルで要求される広範な実用性を構築したがっていることは間違いない。しかし、記録作業があまりに仕事のように感じられると、ほとんどのユーザーはその仕事をタダでやろうとはしないだろう。このため、カスタムだが謎めいたものではなく、正確で構造化された食事グルコース反応データをベータ版ユーザーベースから取得するよう作業が調整されたのかもしれない。

(実際、食事の写真を撮るようユーザーに依頼し、コンピュータービジョンテクノロジーを適用して情報に基づく推論を行う必要があるのかもしれないが、それでも多くの誤りが入り込む可能性がある。長期的には、このテクノロジーが本当に主流になれば、レストランのメニューに各料理のQRコードが印刷され、それをスキャンする方法も想像できる。この方法ならすべての正しい栄養素データが即座に記録され入力時のイライラも緩和される)。

活動の記録は食事の記録よりもはるかに簡単だ。オリンピック選手でもない限り、活動の記録量は食事の記録量よりもはるかに少なくて済むということもある。

Ultrahumanは、ベータ版ユーザーコミュニティからのフィードバックを受け「ストレスのかかる」出来事と断食を記録のオプションとして追加した。断食はもちろん、血中グルコース値に大混乱を引き起こす可能性があるが、いくつかの研究によると、断食特有の健康面での利点もあるという。したがって、ユーザーにより細かい選択肢を与えて、CGMデータの構造化を進めていくのが合理的だ。

将来的には、他のタイプの消費者向けウェアラブルとの統合により、記録を自動化する可能性もあるようだ。例えばフィットネスバンドやスマートウォッチで具体的な活動を検出し、そのデータをUltrahumanのアプリに渡すという方法は容易に想像できる。ユーザーはアプリで検出されたワークアウトの詳細を確認するよう求められるだけだ。

とはいえ、現時点では、データの入力と構造化の主導権を握っているのは依然としてベータ版ユーザーなので、データ品質は本当にごちゃまぜ状態になっている可能性が高い。

学び

Ultrahumanの使用上の注意によれば、使い始め当初は、安定した高いスコアを得られない可能性が高いとある。

これは、通常、血中グルコース値を安定させるために行う必要があることを学習するには少し時間がかかるからだ。というのは、何が自分に効果的かを確認するために、さまざまな要素(食事の組み合わせ、運動する時刻など)を試してみる必要があるからだ。それでもこれは、保守的なダイエットやフィットネス計画査定の退屈な作業に比べると随分時短プロセスだ(当然だが、何もしなくても安定したグルコタイプ(グルコースの性質)に恵まれている人は、手動による、言わば「舵取り」を実行する必要性はずっと少なくなる)。

筆者はまだ使い始めの恐怖に対する心の準備ができていない。第1週のかなりの部分は、筆者の普段の食事内容についてアプリで見積もられる低いスコアをぼうぜんとして見ていた。

ランチはフムスサラダのピタパン・サンドイッチの後、クルミとリンゴ半分とコーヒー(ミルク入り、砂糖なし)。この食事はまあまあ健康的に思えないだろうか。ところが、筆者にとってこの食事は明らかに健康的ではないのだ。このランチは、Cyborgとして4週間の期間中で常に「下方ゾーン」に位置したままである(スコアもひどかった)。

テスト期間中、常に最低(単に食後のグルコース値が急上昇したという意味で)と判定されたランチは筆者が用意したものではなく、ファストフードによる料理だった。ただし「自然」として謳っているブランドの食品でマックバーガーとポテトチップなどよりはるかに健康的な選択のはずだった。

問題の料理Leon’s lentil masala(「レオン」のレンズ豆のマサラ)は玄米を使用しており、レギュラーサイズのココナッツミルクラテ(植物性ミルクブランドRude Health(ルードヘルス)のもの)が付いていたが、これもひどいスコアを記録した。グルコース値があまりに急上昇したため、元のレベルに戻すために急遽高強度インターバルトレーニングを行う必要があると判断されたほどだ。

トレーニングは効いた。ただし、食物を代謝させるためにランチ直後にバーピーとスクワットを何度もやる必要があると、ランチ前にわかっていたら、ランチを変更していただろう。

継続的グルコースモニタリングが普及し、一般消費者が代謝データにリアルタイムでアクセスできるようになったら、ファストフード産業にどのような影響があるかというのは、実に興味深い質問だ。

ファストフードによる大きなスパイク。強度の高い運動をすると消えた(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

レオンの料理を食べる前に小さな文字で印刷されている原材料を確認しなかったが、アプリが赤色で警告してきたことを踏まえ、後で疑いの目でラベルを見てみると、添加物の長いリストの中に上白糖が含まれていることに気づき、さもありなんという感じだった。

ただ、こうした事実を認識したうえで、筆者にとってグルコース値急上昇の引き金となったのはココナッツミルク(シチューやコーヒーの原材料)ではないかと思っている。

残念ながら、食後のコーヒーもおそらく効いていなかった。

Cyborgを装着してわかったことで最も気に入らなかったのは、筆者の場合、コーヒーが血糖値を上げるらしいということだ。緑茶は問題ない。しかし、ブラックコーヒー、デカフェ、ミルク入りコーヒー、どれを飲んでもいくらか血糖値が上がる。筆者の場合、午後、ランチの後にコーヒーを飲むのが好きなのだが、これは食事による上昇に追い打ちをかけることになり、余裕で赤のゾーンに入る可能性がある。

それでも、モーニングコーヒー派になるのは未だに拒否している。

米も多くの人にとって血糖値急上昇の原因となる。白米は、繊維質の豊富な全粒穀物に比べてよりすばやく体に吸収されるからだ。しかし、筆者は白米中心の夕食を摂った後に起こる血糖値の急降下のほうを心配するようになった。血糖値が安定して一晩中ターゲットゾーンに維持されればよいのだが、白米はそれを妨げる方向に働くようなのだ。

結局のところ、低血糖も高血糖と同じくらい避けることが大事だ。少なくとも、それがCGMを4週間装着した後の感覚だ。アプリを使い始めた頃は赤の急上昇を避けることだけに専念していたが、時間の経過とともに急上昇を容易に管理できるようになった。それには、創造的なバイオハックと食事内容の戦略的な修正が必要だ。

例えば筆者は植物ベースのミルクをほとんど食事から除外した(ただし、コーヒーには少量のオートミルクを入れている。そう、コーヒーは完全にはやめていないし、やめる気もない。ただ、一杯のコーヒーを長時間ちびちび飲むようにはしている)。こうした代替ミルクによる血糖値の急上昇は決まって警告を発して無視できないため、筆者はこれはフルーツジュースのようなものと思い避けるのが一番だと考えるようになった。こうした加工度の高い飲み物の宣伝広告では「健康的な選択肢」を提供していることがしきりに強調されているのをよく見かけることを考えると、代替ミルクによる血糖値の急上昇もかなり興味深い。

おもしろいことに、他のCyborgユーザーも似たような問題を報告しているようだ。ある会社のニュースレター要約による共有学習には「アーモンドミルクと朝食のシリアルはホテルのビュッフェの朝食より大きなスパイクを発生させることがある」と書かれている。

これはおそらく、一杯のオレンジジュースは血糖値スパイクを引き起こすが、オレンジを1個まるごと食べてもスパイクは起こらないのと同じメカニズムなのだろう。あるいは、こうした飲料の製造方法における特有の何か(加工方法と特有の添加物など)が原因なのかもしれない。例えば多くのメーカーは飲料に砂糖を入れている(ただ、筆者がシリアルにかけるミルクには砂糖は含まれていないが、それでもスパイクは起きた)。自家製のオートミルクを作って市販のものと直接比較し、スパイクが小さくなるかどうか試したかったのだが、残念ながらその機会はなかった。

筆者は朝食に今でもオーツ麦を食べている。これも繊維質は豊富だが糖質には違いないのでスパイクを起こす可能性があるが、オートミールではなく特大のオーツ麦を摂るようにしている。そしてこれを忘れてはいけないのだが、シリアルにシナモンを多めにまぶすようにしている(これがグルコース値のスパイクを軽減することを発見したからだ)。さらには、水(ミルクの類ではない)、天然ヨーグルト(味付けと必須ビタミン)、そしてよくあるベリーと種子類のミックスといっしょに食べている。

これはCGM装着前の朝食(オーツ麦、ベリー、種子類など。ただしオーツミルクで流し込んではいたが)とそれほど大きく変わってはいない。しかし、代謝スコアでは大きな差が出た。通常スコアが「2」の食事が「9」になった。ばかげたことのように思えるが事実だ(正確には、Cyborgによる筆者の間質液変動の読み取り値によると事実だ)。

また、パンを食べても、それによって生じるスパイクを抑えることができる独創的な方法も見つけた。

パンの量を減らすかまったく食べないようにするのは、血糖負荷を軽減し、結果として血糖値の上昇を管理する方法の1つだ。ただし、オーツ麦などの全粒パンはダイエット効果のある複合糖質なので食事から除外したくなかった。そこで、アプリのリアルタイムグルコースビューの利点を活用して、他の繊維質、たんぱく質、高脂肪食品を摂った後、ランチの終わり近くに、全粒パンのスライスを食べて、消化吸収に時間がかかるようにしてみた。この方法は効果があったようだ。

もう1つリンゴ酢を使ったバイオハックを見つけた。これも効果があった。

シナモンと同様、この種の発酵酢はグルコース値の急上昇を抑える特性があることがわかったので、サワードウで作ったパンを食べる前に発酵酢をかけてみた(まあ、聞いて欲しい)。かなり奇妙に聞こえるが、これがとても美味しい。サラダ、ナッツなどを食べた後、食事の後半にこの方法でパンを食べることで、スパイクが発生していたランチを健康的ゾーンの範囲内のランチに変えることができた。血糖値の変動をリアルタイムで確認できなれば、このような具体的な方法を知る方法などなかっただろう。

問題は、スパイクを引き起こすランチを食べても、そうでないランチと比べてことさら非健康的な感じはしなかったという点だ。アプリで代謝反応を確認できなければ健康に悪いとは思えない。センサーのデータがなければ両者の違いに気づくことなどできなかっただろう。

もちろん、人によって代謝反応は異なるため、パンを5切れ食べてもスパイクがまったく起こらない人もいる。一般化する賢明な方法はない。糖質の摂取を抑え、注意深く食事のバランスをとるなどの基本的な制限を課すことくらいしかない。汎用的で大まかな戦略はあるが、これは即座にフィードバックが返されないとやる気がなくなる。その点で、CGMは、生活習慣ツールとして潜在性、個別対応性という点でまさに変革をもたらす内容になっている。突如として、食物を試して自分に効果があるかどうかを確認できるようになったのだ。

とはいえ、比較的小さな血糖値スパイクを管理することが、代謝トラッカースタートアップが勧めているほど、個人の長期的な健康にとって重要なことなのかどうかは、別の問題だ。

Cyborgを装着した筆者(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

英国のサンダーランド大学で人の代謝作用に影響を与える生物システムの研究をしている科学者Matthew Campbell(マシュー・キャンベル)博士にCGMテクノロジーの一般利用について意見を求めたところ、他の点では健康な人が血中グルコースの管理に精力を注ぐことの有益性については懐疑的だという答えが返ってきた。

「グルコース値は1日を通して変動するのが普通です。静的な値ではなく、動的に大きく動く値なのです。しかし、平均値は正常範囲内に収まっている必要があります。高いリスクがあると特徴付けられる人たちにはカットオフポイント(正常とみなされる範囲を区切る値)があります。例えば食事の後グルコース値が特定レベル以下に下がらないとか、慢性的に値が高い場合は朝の時間帯でもグルコース値が高いままであるとかいった場合です。それが、糖尿病や糖尿病予備群、つまり糖尿病を発症する危険性のある人たちを診断するときのカットポイントになります」。

「健康な人がグルコース値をトラッキングすることの問題点は、恣意的な値を取り得るという点です。数値が下がっているなら問題はなく、上がっているならあまり良くないわけですが、正常な範囲内に収まっている場合は、すでに健康な範囲内にあるグルコース値を1ミリモル減らすことが臨床的に有用なのか、健康上有益なのか、健康上の利点があるのかどうかについてはわかりません」。

「ですから、グルコース値が、全時間の95%、健全な範囲内に収まっているのに、変動幅を少なくして平坦にしたり、値をさらに下げるよう積極的に管理したりしても、さらなる健康上の利点がもたらされるとは思いません。すでに健康な範囲内にいるのですから」。

キャンベル博士はまた、CGMから得られる血中グルコース値データを、ユーザーの体内で起こっているグルコース値レベルに影響を与える可能性のあるすべてのことに正しく関連付けるのは難しいと指摘し、タイムラグだけでなく、ユーザーの腕のセンサー装着位置も読み取り値に影響を与える可能があると付け加えた。

「ですから特定の状況下で、体重、性別、民族性、個々の遺伝子構造など、さまざまなすべての要因がグルコース値に影響を及ぼします。睡眠、栄養素なども影響を与えます。このテクノロジーが単にグルコース値をトラッキングするだけでそうした他の要因を考慮しないなら、グルコース値に影響を及ぼしている要因を情報に基づいて判断するのは極めて難しいでしょう」と同博士はいう。

ただし、同博士は、アスリートがCGMを利用することの潜在性について肯定的だ。

「こうしたセンサーが役立つ例として、先程一流アスリートについて言及されていましたが、極めて高度な練習、または長時間に渡る練習をしている場合は、糖尿病でなくても、血糖値レベルが低下する危険があります。こうしたセンサーの多くは、アラート機能を備えていますから、安心です」と付け加えた。

またキャンベル博士はおもしろい比較もしてくれた。グルコース値が正常範囲外になっても、その人の代謝が積極的に対応して元のレベルに戻すことができるなら、常に問題になるとは限らないというのだ。

「考え方は、運動中の心拍数に少し似ています。同じ強度の運動をしても、他の人に比べて心拍数が上がる人がいます。そうすると、非常に激しく運動した結果、健康が低下したのだと考えるかもしれません」。

「しかし、心拍数の変動が非常に大きいということは、心臓血管の柔軟性が非常に高いことを示唆しています。これは運動耐性が非常に高く、健康状態が非常に良いことと深い関係があります。グルコース値の反応も同じことではないでしょうか 」。

「ですから、グルコース値のレベルが正常範囲外になったというのは必ずしも事実ではありません。なぜなら、そういう状態は多くの人たちに起こっており、その人たちは代謝的に健全だからです。全体像を見ることが重要だと思います」。

そのうえで、キャンベル博士はこうしたサービスの本当の有用性はCGMデータをアルゴリズムと機械学習で補強できる点にあると指摘する。機械学習では「データ内のパターンを見つけ、さまざまな情報を組み合わせることができます。『これを行った後にあなたのグルコース値は上昇しました』などと自分に都合の良いデータだけを選択するわけではありません。グルコース値が上昇しても、その後すごい勢いで下降すれば問題はありませんし、むしろ良いことですから」。

低血糖の話に戻ると、筆者は個人的に興味深い体験をした。一晩中グルコース値が低い状態が続いたのだが、それは夜中に冷や汗や生理痛で目が覚めたことと関係があることがアプリを使用して(Ultrahumanのアプリ内コーチとチャットして筆者のCGMデータを手動で解析してもらったことも含む)わかったのだ。

また、こうした一晩中続く低血糖は飲酒をともなう食事の後に起こることが多いことにも気づいた(飲酒には通常の代謝プロセスを妨げるという悪魔的な効果がある)。そこで、食事とアルコールの比率を用心深く見続けること、そして夕食に栄養分の少ない料理(白米など)でワインを飲んだ後、就寝前までの時間にたんぱく質の豊富なスナック菓子を食べることを、夜中に低血糖や生理痛が発生するリスクを抑えるためのちょっとしたハックとして行った。これならワインを飲みながらの食事を控えなくてもできる。

その場合の個人的な利点は明らかだ。睡眠を妨げられて不快にならずに済む。

この発見から推測して、私よりも年上の親戚に夜にスナック菓子を食べる同じようなハックを提案することができた。その親戚は数カ月間、夜間の慢性的な生理痛に悩まされていたのだが、ベッドタイムにスナック菓子を食べる戦略を含めるよう計画変更したところ、夜中の生理痛からほぼ解放されたという知らせがすぐに届いた。

これらはもちろん、単なる事例だ。しかし、それらは、生活習慣上の奇妙な行動とCGMデータ間の点を、個人が実験し、接続し、結び付けることができる可能性があることを示している。

スタンフォード大学の教授で上述の先駆的な研究論文の共著者であるMichael Snyder(マイケル・シンドラー)博士は、CGMを製品化する独自の代謝健全性トラッキングサービスを販売する米国のスタートアップJanuary AI(ジャニュアリー・エーアイ)の共同創業者である。シンドラー博士はご推察のとおり、このテクノロジーの利点を布教して個人ユーザーに価値ある事実を伝えている。

シンドラー教授は実は2型糖尿病患者であり、現時点で約10年間CGMを装着して病状を管理している。したがって、このテクノロジーの有用性をコメントするのにふさわしい人物だ。

シンドラー教授の個人的なCGMの使い方は具体的な病状に合わせたものであるため、Ultrahuman、ジャニュアリー・エーアイ、およびこの分野のその他のスタートアップがターゲットとしている一般的なフィットネスと健康のための使い方とは大きく異なる。しかし、CGMテクノロジーが広範に使われるようになることで、人々が糖尿病予備群または糖尿病になるリスクを管理または低下させることができると同教授は指摘する。

「自分がスパイクを起こす食物とそうでない食物がすぐにわかります。それは人によって異なります」と同教授は言い、こう続ける。「グルコース調節異常でありながらそれを認識していない人がいます。これは大事なことです。というのは、糖尿病予備群の9割は自分の病状を認識しておらず、7割がそのまま糖尿病になってしまうからです。ですから、グルコース値をコントロールして糖尿病の発症を数年遅らせることが期待できるのは本当に価値のあることだといえます」。

「人が食べる物には隠された秘密があります。少なくともその人にとっては秘密ですが、他の誰かにとっては明白なことかもしれません。しかし、何でも知っていると思っている人でさえ、私の見たところでは、わかっていなかったことを学びます。そう、とにかくあらゆるものに砂糖が含まれています」。

「この考え方には多くの人が賛同すると思いますが、第二次世界大戦直後と比較して、人々は現在、当時の4万倍以上の糖質を摂取しているはずです。とにかくあらゆるものに砂糖が含まれています」。

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    画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch
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「私に言わせると、世界中の人たちは、少なくとも何らかの治療を受けたときにはグルコース値を計測してもらうべきだと思います。グルコース値をコントロールしている場合は計測回数を減らして、定期的に計測します。糖尿病予備軍または糖尿病の人にとって、この情報はある程度命を救ってくれるものになると思います」と同教授はいう。

シンドラー教授は、このテクノロジーは今よりずっとパワフルになると予測する。あらゆる経験データに基づき食物に対する反応についてAIと予測モデリングが追加されていくからだ。現在はアーリーアダプターによって食後に入力されている状態だ。

「AIが必要なのはそのためです」と同教授は言い、こう続ける。「まず、自分がスパイクを起こす食物とそうでない食物を知る必要があります。これは経験しなければわかりません。実際に食べてみなければスパイクが起こるかどうかわかりませんから。ぶどうでスパイクを起こす人もいれば、パスタでスパイクを起こす人もいます。白米を食べると誰でもスパイクを起こします」。

「スパイクを起こす食物は人によって異なります。ゆくゆくはスパイクを予測できるようになりますが、今は経験するしかありません。このようなデバイスが行っているのはまさにそれで、スパイクが起きるかどうか教えてくれるわけです」。

「ジャニュアリー・エーアイには食物推薦システムが備わっています。というのも、『あなたが食べているものでスパイクを起こすのはこれです。他の食物の構成についてもわかっています』と教えたり、そこそこの予測精度で『この食物はスパイクを起こさなかったから食べて良い、これはダメ』といったことを示したりできるためです」と同教授は付け加えた。

「ばかげていると思うかもしれませんが、これはビッグデータの問題です。こうした推測を可能にするには大量のデータと十分な理解が必要です」。

同様に、ジャニュアリー・エーアイでは、ユーザーの活動レベルも考慮している。活動レベルもグルコース値に影響を与えるからだ。シンドラー教授は、この2つの要素をトラッキングするだけでもこうしたサービスは十分に役に立つと指摘する。

「スパイクを起こす食物と活動レベル、基本的にこの2つの要素が重要です。もちろん他にも要因はたくさんあります。これがデータの問題である理由もそこにあります。ユーザーの個人的なデータを十分に取り込むことで、そのユーザーに効果のある方法を判断するためのデータが得られます」と同教授はいう。

個人的に、このことだけは確実に言える。これほど興味をそそるガジェットは今まで見たことがない。純粋に情報レベルだけで判断してもそう思う。

Ultrahumanのアプリが提供する定型的なアラートは、ポップアップ表示され、グルコース値が上がっていると警告し、グルコースレベルを下げるために運動せよと提案したり「睡眠の質と代謝反応を上げるために」夕食を早めに摂るようアドバイスしたり、スパイク/クラッシュが最小限に抑えられた場合に「すばらしい/すごい1日の始まりです」なとど高らかに宣言したりする。しかし、アラートは筆者にとってこの製品のおそらく最も役に立たない要素だった。というのは、データに注意を払っていれば、いちいちアラートで通知されなくても自分でわかるからだ。

筆者は、食事と運動のさまざまな工夫を試してみて、霧がかった緑の正常ゾーンを維持するためのハックや戦略を見つけられないか確認するという作業にあっという間にはまってしまった。

食べたものが体内でどのように処理されるのかを見るのは、本当に素晴らしくもありゾッとすることでもある。しかし、注意が必要だ。ランチや夕食時に急に携帯を取り出して、まず食事の内容をアプリに記録し、食べたものに対する体の反応にスコアが付けられるのを我が事のように観察したりしたら、恋人に嫌われるだろう。スクリーンタイムも長くなるためダブルパンチだ。これまでの中でも最も使用時間が長いアプリだ(食事中も食べているものをアプリに記録していることを考えると、本当にそうだ)。

だが、もちろん、このアプリも完璧ではない。

筆者が見つけた機能上の目立った問題として、このアプリでは、運動関連のスパイク(強度の高い運動をすると血糖値がターゲット範囲外に上昇することがある)と食事関連のスパイクを区別できない場合がある(注意深く記録を取っていたとしてもそうだ)。このため、実際には問題ないのにひどいスコアになってしまうことがある。

アプリのチャット機能を使ってこの点を質問してみた。Ultrahumanのコーチによると、運動関連のスパイクは何も心配する必要はないという。「強度の高い運動やHIIT(高強度インターバルトレーニング)を行うとアドレナリンとコルチゾールの値が上がり、それが肝臓を刺激してグリコーゲンがグルコースに分解されます」というのがコーチの1人から受けた説明だ。「何の心配もいりません。自然な現象です」という安心できる言葉も頂いた。

しかし、糖尿病の人は、たとえ運動が原因であっても、グルコース値がターゲットゾーンの範囲外になる場合は心配する必要があるかもそれない。糖尿病患者は上昇した血中グルコースを元のレベルに戻すのに苦労する可能性があるからだ。糖尿病ではない人、つまりUltrahumanがCyborgの対象と考えている一般消費者は、理論上、心配する必要はない。

しかし、このアプリの場合、現状では激しい運動の直後に食事を摂ると、少し心配になることがある。HIITによるグルコース値の上昇(これは通常「良いスパイク」として通知される)と、食事関連のグルコース値の上昇が混ざり合って、代謝スコアが低くなるのだ。

「良いスパイク」と悪いスパイクを正確に識別する修正は明らかに現在進行中だ。

この点についてクマール氏に質問したところ、次のような回答が返ってきた。「グルコース生体指標から生成される情報の精度を高めることは、当社のミッションの中心課題です。食物などに対する人体の反応の度合いを判定する臨床レベルのパラメーターを見ると、X(食物のマクロレベルおよびミクロレベルの成分)とY(回復状態。ストレス、睡眠不足、微生物叢の多様性など)の組み合わせであることがわかります」。

「現行のプラットフォームでは、Xを詳しく見ているため、食物に対するグルコースの反応については多くの例外があります。2022年始めに導入される当社のカスタムハードウェアでは、Yの残りの要因(心拍変動、睡眠など)を捕捉することでXの見方を変更する予定です。これによって、食物と活動に対する反応の見方、結果として得られる精度がまったく変わってくると思っています」。

「例えば新しいプラットフォームでは、スパイクにおける活動と食物の寄与度を明確に算出できます。これができるのは、グルコースと、カスタムのハードウェアウェアラブルデバイスによって捕捉されるその他の要因の組み合わせに基づいて、グリコーゲンのおおよその放出しきい値を算定できるからです」。

またクマール氏によると、Ultrahumanは、グルコース、インスリン、その他の身体パラメーター(中性脂肪とホルモンバランス)に関連する研究の臨床試験を開始して「グルコースモニタリング機能による予測(代謝スコア)と実際の代謝健全性の間の適切な相関関係」を確立したいと考えているという。

「この目標は、より小さなツールと非連続のグルコース値を利用して過去にも試みたのですが、v2でははるかに多くの検証が行えると思います」と同氏は予測する。

というわけで、ここでも、CGMにおいてユーザーの腕から取得する「パーソナライズされた」データのスナップショットの精度を改善するには、さらなる研究が必要になる。つまり、こうした最先端の健康定量化サービスでも、体内で刻々と起こっていることを比較的大ざっぱに査定している可能性があるということだ。

食物についても、もちろん、同様の複雑な問題がある(毎回の食事で1つの食材しか摂取しない場合は別だが)。

ほとんどの人はさまざまな食材を組み合わせて(さまざまな成分をまとめて)食べる。重要なのは、私たちが食べているのは多種多様な成分の組み合わせであるという点だ。そして、皿の上のさまざまな成分を摂る順序によって、それらの代謝方法も影響を受ける可能性がある。同じ食事でも食べ方(または食べる時刻)が異なると代謝のされ方も異なる。

繊維質の豊富な食物(サラダ、野菜など)から始めて、たんぱく質と脂肪を摂り、最後に炭水化物で終わる食事(フムスサラダピタのランチを分解したもの)は、おそらく、同じ食材をパンに挟んで手早く食べやすい方法で食べるよりも代謝スコアは低くなるだろう。

Cyborgを装着した4週間ではっきりとわかった重要なことがある。便利なファストフードを一定の速度でガツガツ食べると、容赦なく、いかにも不健全なグルコースの大きなスパイクが発生する。

また、加工度の高い食品(つまり、砂糖、防腐剤、油などを使った調理済みの食事)は、鮮度の高い自然食品よりもスパイクが発生する可能性が高い。

これは別に驚きもしなかった。筆者は加工度の高い食品は避け、新鮮で最小限に加工された成分を使って自分で調理したものを食べるようにしてきたからだ。とはいえ、加工度の高い食品でスパイクが発生するという事実は、西洋の問題の多い食文化の多くがいかにして形成されてきたかを如実に示している。時は金なりという考え方でスピードを重視した結果、食べられる程度のインスタンス食品を日持ちのする儲かる食品に変えるために人工甘味料やその他の添加物が大量に使われるようになった。

CGMを使ってみてわかったのは、炎症と酸化ストレスの少ない健康的な方法で食べるには、食物の準備と消費の両方により多くの時間をかける必要があるということだ。

より健康的な成分を自分で買い集めるのは、包装済みの「すぐに食べられる」食品を買うよりもお金がかかる。つまり、健康には時間とお金の両面でコストがかかる。したがって、代謝健全性に本格的に取り組み始めると考えるべき社会経済的な考慮事項が山ほど出てくる。

このパンドラの箱を開けることには、我々の破壊された食品システムを超えた意味合いがある。つまり、我々の社会に焼き付けられた広範な構造上の不平等に触れることになる。

健康状態の悪さと貧困は関連していることがよくある。ビッグデータとAIが価値のある健康情報へのアクセスを民主化する(個人が十分な知識を習得することで広範な実用性がスケールする)ことでそのリンクを断つことができるかどうかはまだわからない。あるいは、健康テクノロジーのスマート化が進む中、テクノロジー格差によって不平等がさらに加速することになるのだろうか。これもわからない。

Cyborgというと人類の新しい上流階級がすぐに思い浮かぶ。だが、トラッカーを買う余裕などない人たちはどうなるのだろうか。

夕食にピザ?ゆっくりだが確実な血糖値の上昇が待っている……(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

評定と価格

筆者は代謝トラッキングが謳っている潜在的利益の大きさについては未だに懐疑的だが(懐疑的で健全だと思っている)、Ultrahuman製Cyborgを装着した4週間で、これが何か大きなものの始まりであることを十分に納得できた。それに筆者には、体重を落としたいとか、体を鍛えたいなど、この製品を是非試してみたいというニーズもなかった。ただ、健康を維持することに興味があっただけだ。

また、フィットネス用ウェアラブルデバイスの愛好者というわけでもない。だが、この製品は自己定量化ツールとしてレベルが異なっていると感じた。

未来のヘルスケアの目的は、データアクセシビリティを活用して何が健康に良くて何が悪いのかという情報を知らせ補強することによって、予防介入の方向へシフトすることだ。とはいえ、代謝健全性に関しては、まだまだ知識と研究が不足していることは否めない。

個々のセンサーから得られたデータ(Ultrahumanのサービスだけでも本稿の執筆時点で400倍のCyborgが生まれている)が研究に使用され、複雑な代謝プロセスの理解がどんどん深まっていくだろう。商業的関心から自社の見解を支持し強調する結果を探すようになる危険性は幾分あるものの、潜在的な使用規模(こうしたサービスはどんどん増えている)によって透明性が推進され、技術がクリーンな状態に維持されるはずだ。

と同時に、慎重になるべき点もたくさんある。

非常に関心があり科学的知識も豊富なユーザーは、データ解釈の助けとなる広範な知識とリソースを利用できるため、この種のトラッキングサービスを最大限に活用できるだろうが、情報の少ないユーザーは情報の意味を過度に単純化して読み取る可能性がある。

また、明白なストレス要因を食物や他の生活習慣にリンクさせることで、摂食障害などの問題を引き起こす(または悪化させる)危険性もある。したがって、こうしたサービスのラッパー(やさしく使うための仕組み)とサポートが、CGMテクノロジーで提供される機能を最大限に活用する鍵となる。

簡単にいうと、貧弱なUX設計は深刻な結果をもたらす可能性がある。サービスの設計と実施に関する十分なケアと適切な配慮が必要だ。

長期的に見ると、血中グルコースのスナップショットビューという機能自体、制約が多すぎるのかもしれない。

さまざまなシグナルや生体指標を取り込んで個人の代謝作用について最善の理解を得るには、より統合されたトラッキングプラットフォームが必要になるだろう。ただし、現時点では、グルコースのトラッキングが第一歩のように感じられる。つまり、時間の経過とともに大きな恩恵が蓄積していくであろう生活習慣の調整を試してみる機会を提供してくれるものだ。ある意味、このほうがずっとやる気が起きる。健康食品の選択にいろいろと迷ってもリアルタイムのフィードバックなど一切ないからだ。

この製品を4週間使っただけで多くの興味深い情報が得られたし、本当に示唆に富む経験ができた。アボガドと卵は最高の朝食だ。ビールはひどいスパイクを起こすがリンゴ酒は実際に薬効がある。オリーブとナッツはまさに神の食物だ。こうした経験から小さいが息の長い生活習慣の変更をいくつか行うことができた。

こうした変更が長期的な健康という観点から本当に価値のあるものなのかまだ結論は出ていない。だが、それほど極端な変更ではないことを考えると、効果が出る可能性はわずかしかないとしても、問題はないのではないか。

ただし、別の問題がある。炭水化物によって大きなスパイクが発生することはわかった。だが、その結果に基づいて炭水化物の摂取量をさらに減らすと、トレーニングのためのエネルギー量が制限されてしまうのではないかと心配になった。

筆者の場合、炭水化物の摂取量はすでにかなり低いため、食物はエネルギーとなることを忘れるわけにはいかない。そして必要なエネルギーは変動する。したがって、血中グルコース値について「スパイクは悪い、安定しているのがベスト」という考え方をするのは、平均以上のスポーツ好きの生活を送っている人にとっては単純化し過ぎのきらいがある。

トラッカーのデータは是非ともしかるべき専門家に見てもらう必要がある。パーソナルトレーナーは、トレーニングに必要なエネルギー量を認識したうえで筆者の測定結果をはるかに賢明に活用できる能力を備えている可能性が高い。このようなトレーナーは、食事の調整についてもアドバイスできるかもしれない。それに基づいてパンを食べることが許されるかもしれない。

もちろんパーソナルトレーナーやパーソナル栄養士など、誰でも雇えるものでもないし(オリンピック選手でもない限り)生活習慣に基づいて正当化できるものでもない。そういう点では、この製品は価値があるように思う(ただ、得られるのはほとんど生のデータなので、より広範な解釈の大半を自分で行う必要があるが)。

Ultrahuman製Cyborgの価格は、ベータ版プログラムで2週間最大80ドル(約9000円)または12週間で470ドル(約53000円)だ。専属のパーソナルトレーナーに24時間体制で自分のデータを解析してもらうと、これよりはるかに高くなる。そういう点ではかなりお買い得だと思う(まともなパーソナルトレーナーを雇うと1時間80ドル(約9000円)くらいは取られる)。

このアプリがフルタイムのパーソナルトレーナーになることを目指しているわけではないことは強調しておく必要がある。ただし、血中グルコース値が高くなりすぎると運動するよう勧めたり、過去を振り返ってベストなワークアウトゾーン(つまり、1週間の間で運動するのに最適な時間帯を食事の方法に基づいて決めたもの)を特定したりといった基本的なことはやってくれる(「傾向はわかっていますか?この時間を有益に使って次回のワークアウトをこなしてください」という提案をメールで受け取ったことがあるが、正直言って、このアドバイスは役に立つというより思いつきのような感じがした)。

このアプリには人間のコーチが数人付いていて、質問を受けたり、データを分析したりしてくれる。また招待者限定のCyborg Slack(Cyborgスラック) チャンネル経由で他のユーザーにいつでも助けを求めることもできる(ただし、これはクラウドソーシングによって得られる知恵であり、専属のプロによるサポートではない)。したがって、価格は比較的リーズナブルだが、微妙なニュアンスの情報を知りたいときには、ほとんどの場合ユーザーが自分だけで解決する必要がある。

もう1つよく考えておくべきことがある。データ駆動型で野心的に予測を行うAI製品はどれも同じだが、Cyborgはユーザーをトレーニングしているだけではない。ユーザーのデータによってCyborgもトレーニングされているのだ。自分の生体情報を24時間休みなく提供することに、どのくらいの金銭的価値があるとお思いだろうか。

極めて私的なパーソナルデータから導出される価値はユーザーとデバイスの間を双方向に流れる。しかし、両者間でフローが均等に分配されているとは限らない。このサービスから十分な価値を得ていると感じているなら、それでもよいだろう。だが、プライバシーへの配慮がなされているかどうかは無視できない。

サービスにアクセスできるなら、このような私的なデータを民間企業と共有してもかまわないという人もいるだろう。しかし、Ultrahumanが規定しているCyborg向けのプライバシーポリシーには、ユーザーの情報が別の場所に送られる状況について記載されている。例えば召喚状を受け取った場合は、応じることが法的に義務付けられている。

このプライバシーポリシーには「匿名の集約データは、広告会社、調査会社、その他のパートナー企業と共有することがあります」という記載もある。また、アドテック業界が同じトピックについて複数の方法でデータを収集し共有することで個人のプロフィールの質を高めてターゲティング可能にするために貪欲に取り組んではいるが(「糖尿病」などのラベルを付けることも含む)、ヘルスデータを確実に匿名化するのは難しいことがよく知られている。したがって、CGMから吸い上げられた極めて個人的なデータが最近のウェブの巧みに操作されるマイクロターゲティング広告マトリックスに登録されることも、残念ながら、想像される。

個人的な感想はこのくらいにしておこう。クマール氏自身はCGMを使ってグルコースをトラッキングすることで何を学んだのだろうか?

「私にとって最も大きな学びは、自分が食べるものの範囲を広げて、自分の好きな食物をもっと食事に取り入れるようにすることです。CGMが登場する前は、自己管理型のダイエットを行っていましたが、ソーシャルイーティングに影響するため、長くは続きませんでした。Cyborgを使うようになって、食事と活動のバランスをとる方法を理解できるようになりました。ウェイトトレーニングをする日や全般に活動量の多い日は、いつもより少し柔軟に考えて好きなものを食べてもよいのだと思えるようになりました」と同氏はいう。

「もう1つの大きな学び、これはまだ進行中ですが、1日を通して安定したエネルギーレベルを維持することです。私の場合、グルコースレベルの安定とエネルギーレベルの安定の間に大まかな相関関係があります。ですから、仕事で大量の資料を読む必要がある週は、エネルギーレベルを安定させるようにしています」。

最先端の競争

この分野は、自己定量化トレンドにおける針恐怖症を乗り越えて開けた真の開拓地だ。あまり踏み荒らされていない市場で、スタートアップが実験的にビジネスチャンスを狙っている。当然、退屈な旧式の歩数と睡眠のトラッキングよりもはるかにおもしろい。それはまさに、この種のトラッカーはあまりなじみがないからだ。

ばね仕掛けのCGMセンサーを自分の腕に発射すると純粋に発見の感覚を覚える。ある種の市民科学共同体に関与している先駆者のような気分だ。自身の生活習慣の健全性を問いただす実験を設計し実行するというすばらしい機会を与えられる。

それに加えて、自分で個人的に学習したことが他の人たちの役に立つかもしれないという包括的な可能性がある。これが実現できるのは、Ultrahuman製Cyborgに関するコミュニティ構築の取り組みのおかげだ(例えばSlackチャンネルでは、アーリーアダプターたちが自分たちの学びを共有するよう促される。また、バーチャルおよび対面のオフ会も開かれる)。それで、社会貢献の使命を果たしている気分にもなる。

皮膚の穿孔を通じたマンマシン相互作用に関わる勇気のあるスタートアップは注目を浴びるチャンスだ。結局、主流の大手テック企業はそこまで変わったことはやれないのだ。そんなことをしたら、もっと平凡な生体指標のトラッキングを支持するより広範な健康定量化ユーザーからそっぽを向かれてしまうからだ。

そのおかげで、このようなスタートアップは、極めて私的な生体データを取得して自社の製品開発、データサイエンス、AIモデル、アルゴリズムによる予測機能に入力として与える機会を得られる。そして、消費者がヘルスサービスのパーソナライズを望む中、競争で有利な立場を得て先頭に立てる可能性もある。

血中グルコーストラッキング(従来は糖尿病またはその予備軍の症状がある人たちを対象としていた)の最前線では、多くのスタートアップがその気のあるユーザーの間質液に入り込むという思い切った方法をとるようになっている。

インドのUltrahuman(Cyborgサービスはまだベータ段階)だけでなく、他にも多数のスタートアップがある。米国におけるCGMを活用したUltrahumanの競合他社をいくつか挙げてみる。ジャニュアリー・エーアイはグルコーストラッキングと心拍数モニターデータを組み合わせて食物の予測と運動レシピのパーソナライズを提供し、過剰摂取した食物を燃焼させるのを支援する。Levels Heath(レベルズ・ヘルス)はa16zからの支援を受けている。Signos(シグノス)はCGMを使用してリアルタイムの減量アドバイスを提供している。Supersapiens(スーパーサピエンス)は運動能力を重視している。NutriSense(ニュートリセンス)は日々の健康度を最適化する全体像キャッチフレーズを提供する。

競合他社は欧州にもいる。英国本拠のZoe(ゾーイ)は、大規模な微生物叢研究から得たデータを使用してAIモデルを生成し、個々の食物の反応を予測する。このため、ユーザーに血中グルコースモニターを装着させるだけでなく、糞便サンプルを提出してもらい、ラボで解析する。

他にも欧州でグルコースモニタリングを目指しているスタートアップとして、ドイツのPerfood(パーフード)は食事のパーソナライズによる体重管理を行い、オランダのClear Nutrition(クリア・ニュートリション)は食物に対するユーザー固有の反応を学習してユーザー専用の栄養プランを構築している。本稿の執筆時点では、この発生期の領域にある他の欧州企業として、フィンランドのVeristable(ヴェリステーブル)(略称Veri)は、24時間体制のグルコースモニターサービスの広告を写真共有ソーシャルネットワークInstagram(インスタグラム)に掲載している。

この広告では、いかにもヒップスター的な見た目のモデルがUltrahumanのサービス(および他の多くのサービス)で使用するのと同じ円盤型のウェアラブルデバイスを身に付けている。このデバイスはスタイリッシュなグレーのパッチで留められている。Ultrahumanの円盤型ディスクは白黒で、斜体のKの文字がくっきりと入っていた。「何を食べるべきか推測するのはもう終わり」とヴェリステーブルの広告は宣言し、この159ユーロ(約2万円)のサービスに目を向けさせている。

Veri(6月にシードラウンドで資金を調達、ベンチャーデータベースCrunchbase(クランチベース)による)とUltrahuman、および他の多くのスタートアップがアボット製のCGM(前述のフリースタイル・リブレ)を使用している。この円盤型のデータ収集デバイスには、中空の針の付いたばね仕掛けの装着具が同梱されている。位置を固定してしっかりと、しかしあまり強すぎない程度に押し下げるとフィラメントが皮膚に直接発射される。

ここで珍しいのはテクノロジーそのものではない。CGMは世に出てから数年経っている(アボットのフリースタイル・リブレは2016年に導入された。一方、別のメーカーDexcom(デクスコム)は、他社の糖尿病管理用電子デバイスで使用できる完全互換CGMとして2018年にFDAの認可を受けている)。実験的なのは、CGMを使って行っていることである。

つまり、CGMは変革的なテクノロジーとして糖尿病および糖尿病予備群の患者たちにすでに利用されているが、自分たちの体についてもっと知りたいと思っている一般ユーザー向けにCGMを商業化する動きがあったのは比較的最近のことだ。

2021年夏、デクスコムは、サードパーティーデベロッパーとデバイス向けのリアルタイムAPIとしてFDAの認可を受けた。フィットネスハードウェアメーカーGarmin(ガーミン)はユーザーによる自身のグルコースデータへのアクセスを拡張するためにデクスコムと提携した数社のうちの1社だ。ただし、依然として糖尿病患者向けの実用性を高めることに重点が置かれている。

ただし、投資家たちはすぐに幅広い消費者がいる可能性を察知し、資金をどんどん投入して開発を加速させ、より多くの人たちにCGMを広げようとしている。

例えば2021年初め、ジャニュアリー・エーアイはさらに880万ドル(約10億200万円)を追加調達し、ゾーイは2021年5月に530万ドル(約6億300万円)のシリーズBラウンドをクローズした(Balderton(バルデントン)が投資家として追加され、最近、事業規模を拡大している)。Ultrahumanも1750万ドル(約19億9000万円)のシリーズBラウンドを実施すると発表した(2021年8月)。一方、シグノスも11月にシリーズAで1300万ドル(約14億8000万円)を調達している。

データ量が増えれば、投入されるVC資金が急増するのは確実だ。

Ultrahumanの広報は潜在的な最大市場規模に触れ「代謝健全性危機」が始まろうとしていると指摘する。具体的には、米国人の88%以上(世界の人口の約80%)が「代謝性疾患に対処する」ことになるという。そして、Ultrahumanの「Cyborgアーミー」(同社はアーリーアダプターたちをこう呼んでいる)に加わることで恩恵を受けられる可能性があるとしている。

したがって潜在的な最大市場は巨大だ。だが、このような広範なオンボーディングを行うことで、結果的に容易に習熟できるようになると思われる。スタートアップ各社は、抵抗の少ないアーリーアダプターや運動愛好家たち以外にもユーザー層を拡大し、このテクノロジーが放っておいても伸びるような自己定量化とバイオハッキングコミュニティの外に踏み出そうとしている。

Ultrahumanのコミュニティ構築の取り組みでは、Cyborgの招待者限定スラックチャンネルとTownhall(タウンホール)を介してユーザーに個人の体験とさまざまなヒントを共有するよう促すことに重点を置いている。また、スポーツ好きのインフルエンサーを登録して、運動エネルギーの補給とその他のバイオハッキング手法の利点を伝えてもらい、CGMを身に付けることに目的を与えようとしている。

「現在、糖尿病患者の数は全世界で5億人を超えていますが、さらに全体的に見れば、6億人を超える糖尿病予備群がいることに気づけます」と同社の広報は指摘し、その対処方法として、CGMテクノロジーと「健康スコアアルゴリズム」および「即座の健康アドバイス」の組み合わせを提案する。そして、これにより「数百万人がこの危機を管理し回避することができる」としている。

数百万人が皮膚にセンサーを付けることに納得するかどうかはまだわからない。

このテクノロジーは進化して、あまり精度を落とすことなく、侵襲性が低く、主流に沿ったものになるだろう。そうなれば、標準的なフィットネスキットにはならないと考える理由はなくなる。

代謝トラッカーのサブスクリプションサービスに数百万人がお金を出すようになるかどうは、また別の問題だ。だが、この種のデータにアクセスできる状態を少しでも体験してしまうと、病みつきになる可能性がある。もちろん、センサーが生活習慣の選択に関するデータ、どのくらい健康的な生活を送っているを示すソフトウェアスコアをフィードバックしてくると、若干、監視され判断されているという気持ちにはなるかもしれない。

おかしなもので、世界中に蔓延している甘いものを追い求める不健康な習慣が、今や商業的に逆用されて、血糖値の上昇と下降をトラッキングしバイオハッキングするようになった。少なくとも、次の血糖値の上昇を盲目的に追いかけるよりも健康的な習慣だとは思うが。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

大阪大学、薬剤耐性菌・非耐性菌を電子顕微鏡画像と深層学習により形で判別することに成功

薬剤耐性菌(左)と非耐性菌(右)の電子顕微鏡画像。耐性菌は外膜の形状が変化し、一部ブレブ構造(矢頭)も認められる。白矢印は異染顆粒

薬剤耐性菌(左)と非耐性菌(右)の電子顕微鏡画像。耐性菌は外膜の形状が変化し、一部ブレブ構造(矢頭)も認められる。白矢印は異染顆粒

大阪大学は3月16日、薬が効かない薬剤耐性菌を画像で判別できることを明らかにした。顕微鏡画像と深層学習により、耐性の獲得による形態の変化を検知し、さらにその特徴に寄与する遺伝子の紐付けにも成功した。薬剤耐性化の過程での細菌の形態変化、遺伝子や耐性化因子の変化が、機械学習によって複合的に理解できるようになるという。

抗菌薬に長い間さらされることで耐性を獲得した薬剤耐性菌による感染症が問題になっている。薬剤耐性菌が出現するメカニズムについては盛んに研究されているものの、耐性化の抑制に欠かせない総合的な理解は進んでいない。大阪大学産業科学研究所の西野美都子准教授、青木工太特任准教授、西野邦彦教授らによる研究グループは、複数の薬が効かなくなる多剤耐性に関する研究を行っており、その過程で、耐性を獲得した細胞は遺伝子だけでなく形も変化させていることを発見した。そこで細菌の顕微鏡画像と深層学習を用いて形態からの薬剤耐性菌・非耐性菌の判別を試みた。

電子顕微鏡解析の流れ

研究グループは、薬剤耐性菌であるエノキサシンを用いて、急速冷凍固定法で凍結して電子顕微鏡用のサンプルを作り、細菌の細胞内部構造が観察できるようにした。これを1万枚以上撮影し、深層学習で判別したところ、90%以上の正解率で耐性菌と非耐性菌の判別ができた。Grad-CAM(勾配加重クラス活性化マッピング)法で耐性菌の形態学的特徴を可視化すると、外膜領域に注目領域が集中していて、目視の所見と一致した。さらに、抽出された画像的特徴量と遺伝子発現データとの相関を計算すると、外膜を構成するリポタンパク質など、膜の構成に関わる遺伝子との高い相関が認められた。

Grad-CAMによる特徴の可視化。判別の根拠となった注目領域をヒートマップにて可視化。耐性菌(図左)の外膜に注目領域が集中している。非耐性菌(図右)は顆粒に集中している

顔認証など深層学習による画像判別技術は発展しているものの、微生物(肉眼では見ることのできない生物)、特に薬剤耐性菌を対象にした研究は、ほとんど例がないという。将来的には、細菌の形態から薬剤耐性能を自動的に予測する技術の開発につながることが期待されると研究グループは話している。

放射線治療で必要な臓器の自動認識と輪郭作成をAIで高精度に高効率に行うシステムを開発

放射線治療で必要な臓器の自動認識・輪郭作成をAIで高精度に高効率に行うシステムを開発

広島大学は3月11日、放射線治療で欠かせない腫瘍や臓器の輪郭作成を、AIで自動的に高精度に行うシステム「Step-wise net」を開発したと発表した。CTやMRIの画像から臓器の輪郭を自動的に抽出し、輪郭作成を行うというものだ。従来の方式に比べて、精度が「著しく向上」したという。

放射線治療では、臓器ごとに線量分布を評価できるように、CTやMRIの医療画像上で腫瘍の領域や正常な臓器の輪郭を作成する。臨床試験では、この輪郭作成は統一したルールの下で行われなければいけない。そのためにも、自動輪郭作成ツールの需要が高まっている。そこで広島大学学大学院医系科学研究科(河原大輔助教、小澤修一特任准教授、永田靖教授)と日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG。西尾禎治教授)からなる研究グループは、従来の深層学習を用いた輪郭作成技術を発展させた「Step-wise net」を開発した。

このシステムは、輪郭作成の対象となる臓器周辺域の抽出と、抽出した領域内での臓器の高精度な輪郭作成という2段構えになっている。研究グループは、これを用いて頭頸部の輪郭作成精度の評価を行った。その結果、すべての臓器において、画像変形技術を用いた非AIの市販ツール「Atlas」法よりも精度が高かった。さらに、従来のAI技術である「U-net」と比較しても、すべての臓器において「Step-wise net」の精度が高い結果となった。

ツール別の輪郭作成の結果。黄色が正解、緑線がツールが描いた輪郭。(a)Atlas、(b)U-net、(c)Step-wise-net。

自動輪郭作成が可能になれば、輪郭作成時間は従来の1/10にまで短縮予定で、臨床業務が改善されるという。また、手動で輪郭を描き出す方式とは異なり、施設ごとの差がなく、均質な輪郭が取得できるため、この自動輪郭作成ツールの活用が期待されるとのことだ。

新たな画像誘導手術システムを開発するZeta Surgicalがステルス状態から脱して約6億円調達

ボストンを拠点とするZeta Surgical(ゼータ・サージカル)は先日、ステルス状態から脱して520万ドル(約6億800万円)のシード資金調達を発表した。Innospark Ventures(イノスパーク・ベンチャーズ)が主導したこのラウンドは、Y Combinator(Yコンビネーター)とPlug and Play Ventures(プラグ・アンド・プレイ・ベンチャーズ)による25万ドル(約2900万円)のプレシードに続くものだ。

同社はハーバード大学の卒業生であるJose Maria Amich(ホセ・マリア・アミチ)氏とRaahil Sha(ラーヒル・シャ)氏によって設立された。2人は現在、それぞれCEOとCTOを務めており、ハーバード大学医学部脳神経外科のWilliam Gormley(ウィリアム・ゴームリー)准教授が、同社の最高医学責任者を務めている。同チームのミッションは、手術室の外で行われる非侵襲的な手術のために、正確な医用画像ガイダンスを提供することだ。

脳室開窓術や神経調節療法のような手術を手始めに、Zetaは同社の技術で精度を上げ、参入障壁が低くなることによって、このような手術の民主化に貢献できると信じている。

「現在、我々が行う手術には、一方では精度が高くても、もう一方に属する手術では技術や精度がまったく欠如しているという、大きな断絶があるのです」とゴームリー氏は語る。「その理由は、これらの手術の多くが緊急手術であり、そのような患者を治療するための技術が開発されていないためです。アミチ氏とシャ氏がもたらすものは、そんな技術です。この技術は、覚醒していて実際に動き回る患者に対し、外科医チームをほとんど必要とせず、非常に迅速に適用することができます。私たちがやっていることとどれだけ違うか、言葉で言い表すのは難しいですが、このような患者にとっては、すべてがまったく変わるということです」。

画像クレジット:Zeta Surgical

Zetaシステムには、外科医が低侵襲な脳外科手術をピンポイントで行えるように支援するために開発された複合現実(MR)オーバーレイが含まれている。これに組み合わて使用できるオプションのロボットシステムは、市販のDoosan(ドゥサン)製ロボットアームを独自のツールと組み合わせて活用している。同チームは、医用画像の表示にヘッドセットも検討したが、このような手術にはまだ十分な精度がないと判断したという。

「ARとVRの両方のシステムを検討しましたが、現時点では標準的な画面ベースのナビゲーションを採用することにしました」と、シャ氏は語る。「その理由のいくつかは技術的なものです。ARシステムには、外科手術に必要な精度が足りません。ARのオーバーレイは可能ですが、脳外科手術に必要なほどの精度は得られません」。

このスタートアップ企業は、北米とアジア市場を視野に入れ、ボストンとシンガポールで非臨床試験を完了させている。2022年前半にはFDA(米国食品医薬品局)への承認申請を予定しており、承認が計画通りに進めば、夏の終わりから秋の初めには製品版を発売する予定だ。

「今回のラウンドでは、2つの主要な成果物に焦点を合わせています。1つは、装置の初期臨床試験を完了させることです」と、アミチ氏は説明する。「そしてもう1つは、FDAの認可を受け、認可後に最初の臨床パートナーたちとともに実用を開始することです。それには何よりもまず、システムの完全な開発を完了させなくてはなりません。そのためにはチームを拡大し、新しいエンジニアを雇用することが必要になります」。

画像クレジット:Zeta Surgical

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

医療機関向け治療用アプリを手がけるCureAppの「高血圧症向け治療用アプリ」が薬事承認取得、ソフトウェア単体で日本初

医療機関向け治療用アプリを手がけるCureAppの「高血圧症向け治療用アプリ」が薬事承認取得、ソフトウェア単体では日本初

医療機関向けの治療用アプリを開発するメドテック企業CureApp(キュア・アップ)は3月9日、本態性高血圧症のための治療用アプリの薬事承認を取得したと発表した。薬だけに頼らず、アプリで生活習慣を修正するデジタル療法を実現する「高血圧症治療用アプリ」誕生の第1歩になるとのこと。ソフトウェア単体での薬事承認は国内初であり、高血圧領域における治療用アプリの薬事承認了承は世界初だという。これは、自治医科大学内科学講座循環器内科学部門との共同研究によるもの。

原因がはっきりしない本態性高血圧症の治療には生活習慣の修正が重要となるが、患者の価値観や意欲、生活環境に左右されるため継続が難しく、医療機関は介入しにくい。そのため、患者の70%は降圧目標が未達成もしくは未治療の状態だという。

このアプリは、そうした課題に対処するべく、患者ごとに個別化された治療ガイダンスを提供する。血圧と生活習慣の記録から、その人に合わせた食事、運動、睡眠などに関する情報を示すことで行動変容や継続的な生活習慣の修正を促し、正しい生活習慣の獲得をサポートすることで治療効果をもたらすことを目指している。患者の生活習慣の修正状況は、医師用アプリで医師が確認できるため、診療の質の向上も期待できる。

CureAppは、「アプリが病気を治療する効果を持つ」と考え、「治療アプリ」の開発を行っている。2020年8月には、ニコチン依存症治療アプリとCOチェッカー「CureApp SC」が薬事承認を取得し、保険適用になっている。現在は、非アルコール性脂肪肝炎向け、アルコール依存症向け、がん患者支援、慢性心不全向けの各治療アプリの開発に取り組んでいる。

歯の再生治療薬の研究・開発加速、歯科領域創薬の京大発スタートアップ「トレジェムバイオファーマ」が4.5億円調達

歯の再生治療薬の研究・開発加速、歯科領域創薬の京大発スタートアップ「トレジェムバイオファーマ」が4.5億円調達

歯科領域創薬の京大発スタートアップ企業「トレジェムバイオファーマ」(Toregem Biopharma)は3月8日、第三者割当増資による総額4億5000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、京都大学イノベーションキャピタル、Astellas Venture Management LLC、Gemseki、フューチャーベンチャーキャピタル、京信ソーシャルキャピタル、京都市スタートアップ支援2号ファンド。

調達した資金により、USAG-1中和抗体の非臨床安全性試験と治験用製剤の製造準備を進め、世界初の歯の再生治療薬の研究開発を一層加速させ、2023年度内の治験開始を目指す。

トレジェムバイオファーマは、京都大学大学院医学研究科口腔外科学分野の髙橋克准教授(現、同客員研究員、公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院歯科口腔外科主任部長)による長年の研究成果に基づき、2020年5月に設立。

骨形成たんぱく質であるBMPなどの働きを阻害する分子「USAG-1」が歯の発生過程に関与し、USAG-1を抑制する中和抗体によって無歯症モデル動物で欠損歯が回復することを明らかにした。

一般的な歯の治療法である義歯やインプラントの人工歯に対し、抗体製剤(注射薬)など医薬品による自己歯の再生は根治的な治療法となりえる可能性があり、同社は、同研究で得られた中和抗体を新規医薬品として上市を目指すとしている。

また現在、先天性無歯症を最初の適応疾患として研究開発を進めているという。先天性無歯症では、患者が未成年で顎骨が発達期にあるため義歯やインプラントの適用が困難であり、成人するまで根治的な治療法の無い希少疾患となっている。現状は成人するまでの長期間を温存療法で耐えるしかなく、歯の欠損が栄養確保と成長に悪い影響を及ぼすため、根治的な治療法の開発が強く望まれている。

そこでトレジェムバイオファーマの開発物質により、先天性無歯症患者の自己歯を再生してQOLの改善を提供するという。さらに、USAG-1の中和抗体は永久歯の後の第三生歯を発生させることも期待されており、将来的には高齢者のオーラルフレイル(口腔内の虚弱)改善まで展開し、歯科治療に広く貢献したいと考えているそうだ。

冠動脈疾患・脳梗塞治療に向け医師がX線被曝なしにトレーニングできる血管内治療シミュレーター開発、小型化・コスト削減

冠動脈疾患・脳梗塞・脳動脈瘤の治療に向け医師がX線被曝なしにトレーニングできる血管内治療シミュレーター開発、小型化・コスト削減を実現

血管モデルの可視光による画像(左)と、非被爆血管内治療シミュレーターによるX線模擬画像(右)

理化学研究所は2月25日、通常は、医師がX線透視像を見ながら行う血管内治療のトレーニングを、放射線被曝しない形で簡便に行える「非被爆血管内治療シミュレータ」を開発した。テーブル上に設置でき、従来方法よりはるかに安価なため、いつでもどこでもトレーニングが行えるという。

冠動脈疾患、脳梗塞、脳動脈瘤などの治療には、血管内にカテーテルやステントを通す血管内治療が行われることが多い。奥行き情報のない2次元的なX線透視像で、器具の先端の動きを見ながら血管の中に器具を通しゆくため、高度な技術を要する。しかしそのトレーニングは実際にX線を使って行う必要があり、医師は放射線被曝が避けられない。また、実際のカテーテル室で行わなければならないため、時間的な制約があり、同時に複数の医師がトレーニングできないといった課題があった。

血管内治療の模式図。(A)術部へのカテーテルの誘導。(B)脳動脈瘤に対する血管内治療。(C)頚動脈狭窄に対する血管内治療。(D)脳血管閉塞に対する血管内治療。(E)心臓冠動脈梗塞に対する血管内治療

白色光源とビデオカメラを使ったトレーニングシステムもあるが、それでは血管の分岐部やガイドワイヤーの上下の動きなどが陰影から推測できてしまうため、平面的な映像だけが頼りの実際の治療とは条件が違ってしまう。そこで、理化学研究所(深作和明氏)は、琉球大学病院(横田秀夫特命教授、岩淵成志特命教授、大屋祐輔教授)と共同で、「非被爆血管内治療シミュレータ」を開発した。

このシミュレーターの特徴は、X線透視像と同じく、奥行き情報のない画像で訓練ができる点にある。このシステムでは、高感度カメラと波長選択フィルターを使い、透明な血管モデルを可視光で撮影するという方式を採っている。造影剤には液体の蛍光色素を使い、ガイドワイヤー、カテーテル、バルーン、ステントにも同じ波長の蛍光色素を塗り、血管内と器具の特定の部位だけが発光するようにした。それにより、X線透視像と同じく奥行きのない映像を作ることができるようになった。さらに、リアルタイムで画像処理を行い、実際の手術の際に用いられる、複数の映像を重ねたり輝度を反転させたり差し引いたりして作られるサブトラクション血管造影と同等の、デジタル化したサブトラクション血管造影(DSA)の機能も実現させた。

(A)造影剤を入れた血管の画像。(B)ガイドワイヤーとカテーテルの画像。(C)血管とカテーテルを重ねた画像。(D)一般のカメラで撮影した画像

そしてもちろん、X線を使わないため、トレーニングを行う医師に放射線被曝の心配は一切ない。装置は60cm四方の場所に設置できるため、いつでもどこでも安全にトレーニングが行える。コストも、従来方法よりもはるかに安価になるという。

研究グループは、同グループが開発した患者個体別血管モデリングシステムと組み合わせ、実際の患者の血管形状を反映した3Dモデルや、統計的に多発する病態モデルでのシミュレーションへの展開を目指すと話している。

「もっと早く知りたかった」、Gesundが医療アルゴリズム検証データを提供するために2.3億円を調達

医療アルゴリズムを開発することと、それが本当に機能することを証明することは、まったく別の話だ。そのためには、入手しにくいある重要なものが必要だ。医療データである。現在、とあるスタートアップ企業が、そのようなデータを、検証研究を容易にするツールとともに提供する準備を整えている。

今週、2021年に創業されたGesund(ゲズンド)が、500 Globalが主導する200万ドル(約2億3000万円)のシードラウンドでステルスから浮上した。CEOで創業者のEnes Hosgor(エネス・ホスゴー)氏はTechCrunchに対して、同社はすでに多くの実績を残していて、実行可能なプラットフォーム、30社の見込み顧客との取引、今四半期の売上見込みなどを見込んでいると語る。

基本的にGesundは、医療アルゴリズムを開発するAI企業や、自身のモデルをテストするアカデミアのためのCRO(Contract Research Organization、医薬品開発業務受託機関)なのだ。一般のCROが医薬品や医療機器企業向けの臨床試験をデザインするのと同じように、Gesundのプラットフォームは、AI企業が自社の製品をテストするためのデータをキュレーションし、その比較をスムーズに行うためのITインフラを構築する。

ホスゴー氏は「私たちは、自分たちを機械学習運用企業だと考えています」という。「私たち自身はアルゴリズムを手がけません」。

医療アルゴリズムは、学習させるデータがあってこそ役に立つが、多様で有用なデータセットの入手は困難であることが知られている。例えば、2020年にJAMAで発表された研究では、放射線科、眼科、皮膚科、病理科、消化器科などの分野にわたる深層学習アルゴリズムを説明した74の科学論文を分析し、これらの研究で使われたデータの71%がニューヨーク州、カリフォルニア州、マサチューセッツ州からもたらされたものだということを報告している。

実際、米国の34の州は、これらのアルゴリズムの学習に使用したデータを提供しておらず、より広い母集団に対する一般化の可能性が疑問視されている。

また、この問題は医療機関の種類を越えて存在している。大規模かつ権威ある大学病院で収集されたデータを使ってアルゴリズムを学習させることは可能だ。しかし、それを地域の小さな病院に導入しようと思っても、そうしたまったく異なる環境ではうまくいく保証はない。

BMJに発表された152件の研究のメタレビューによれば、アルゴリズムを訓練するために使用されるデータセットは、一般的に、必要とされるものよりも小さいという。当然ながら、アルゴリズムの成功例もあるものの、これは業界全体の問題なのだ。

テクノロジーだけでこれらの問題を解決することはできない。そもそも、そこにないデータを分類したり、提供したりすることはできないのだ。ヨーロッパ人以外の祖先を持つ人々の遺伝子研究が、非常に不足していることを考えてみて欲しい。しかしGesundは、既存のデータへのアクセスを容易にし、データ共有の新たな道を開くパートナーシップを構築するという、テクノロジーを役立てられる可能性のある問題に焦点を絞っている。

Gesundの検証プラットフォームの画面

Gesundのデータパイプラインは「各臨床施設と締結している、データ共有契約」に基づいているとホスゴー氏はいう。現在、Gesundはシカゴ大学医療センター、マサチューセッツ総合病院、ベルリンのシャリテ大学で収集された画像データにフォーカスしている(同社は今後、放射線医学以外の分野にも拡大する計画だ)。

機械学習アプリケーションで使用するためのデータの集約と配信は、Nightingale Open Science Project(ナイチンゲール・オープンソースプロジェクト)のような、研究者に臨床データセットを無料で提供する他の企業によっても行われている(物議を醸しているGoogleの「Project Nightingale」[プロジェクト・ナイチンゲール]とは提携していない)。だが、データそのものも重要な要素だが、実はホスゴー氏が秘密兵器と見ているのは、同社のテクノロジー・スタックなのだ。

「誰もがクラウドでML(機械学習)をやっています。ですが、一般的な医療機関はクラウドを持っていないので、すべてが失われてしまうのです」とホスゴー氏はいう。「そこで私たちは、病院のファイアウォール内に設置できる技術スタックを構築しました。これは機械学習にはつきもののサードパーティのマネージドサービスには一切依存していません」。

そこを起点として、プラットフォームには「ローコード」のインターフェイスが搭載されている。つまり、医師や医療機関は、基本的に必要なデータセットをドラッグ&ドロップし、そのデータに対して自身のアルゴリズムをテストすることができるのだ。

ホスゴー氏は「創業して約6カ月ですが、すでに本格的に走っています。私たちは開発した最初の製品は、クラウドリソースにアクセスできない高度なコンプライアンス環境において、モデルの所有者がデータに対して自身のアルゴリズムを実行し、正確なメトリクスをその場で生成できるようにするものです。それが私たちの強みなのです」と説明する。

現時点では、GesundはNightingaleと同様に、一部のサービスを無料で提供している。同社のCommunity Edition(コミュニティエディション)では、手持ちのアルゴリズムがある研究者たちが、自分たちのアルゴリズムを無料でテストできる(ただし、自分たちのデータセットをアップロードする必要がある)。

一方、同社の「プレミアム」版の費用を払うのは、AI企業だ。これによって、お金を払っている顧客は、独自のデータセットにアクセスできるようになるとホスゴー氏はいう。そして、必要なデータにはお金を払うという実績もある。現在、Gesundは30の潜在顧客との交渉中だとしていて、今期中に収益を上げる予定だという。

「私たちは2021年11月にシカゴで開催されたRSNAに出席しましたが、話を聞いたあらゆるAI企業から『ああ、もっと早く知りたかったです』という発言を聴きました」。

現在Gesundが調達した資金は今回の200万ドル(約2億3000万円)のプレシードラウンドだけだが、ホスゴー氏は2022年中に再び資金調達を行えることを期待している。近い将来、同社は研究開発に注力しつつ、米国および欧州における臨床提携を拡大する予定だ。

画像クレジット:Gesund

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(文:Emma Betuel、翻訳:sako)

犬を立たせたまま足の裏の肉球を通し1分で心電図検査、ハカルスと動物用医療のDSファーマアニマルヘルスがAI活用

犬を立たせたまま足の裏の肉球を通し1分で心電図検査、ハカルスと動物用医療のDSファーマアニマルヘルスが犬の心電測定にAI活用

産業・医療分野向けのAI製品とサービスを提供するHACARUS(ハカルス)と動物用医薬品メーカーのDSファーマアニマルヘルスは2月18日、犬を立たせたまま足の裏の肉球を通して心電図検査を行ない、AIがデータを解析・診断するサービスを開始したと発表した。

これまで犬の心電図検査は、犬を横向きに寝かせて体にクリップを挟んで測る方法が一般的だった。場合によっては身動きが取れないよう押さえることもあり、犬に負担のかかる検査だったが、今回のサービスでは従来のようなストレスを感じさせずに測定できる。

ハカルスは2018年、DSファーマアニマルヘルス主催の「動物の健康を支える新規事業探索プログラム2018」において「スパースモデリング技術を応用した診断・治療支援AI」を提案。以降両社は連携を深めてきた。2019年にはドイツで開催された医療機器見本市でデモ機を展示、2021年には公募で選定された動物病院で試用を開始。それらの成果を経て今回のサービスの開始に至った。

ハカルスは、このサービスを動物病院に普及させることで、より手軽に愛犬の健康チェックができる環境を整え、犬の死因において高い割合を占める心臓病の早期発見への貢献を目指す。また今後は、犬だけではなく他の動物も視野に入れ、広範囲にわたる健康関連サービスを支援するプラットフォームに拡張する方針という。

検査の流れと特徴

犬を立たせたまま足の裏の肉球を通し1分で心電図検査、ハカルスと動物用医療のDSファーマアニマルヘルスが犬の心電測定にAI活用

  • 心電測定:電極シートに犬を立たせたまま乗せ、ボタンを押すと約30秒間で測定が完了する。犬の心臓が全身に血液を送り出す際に発生する電気のデータを肉球から取得する
  • AI解析:測定したデータはAIが約30秒間で解析・判定。日本獣医循環器学会の獣医循環器認定医が診断した「健康な犬」と「心疾患の犬」の状態を学習したAIが心電波形を判定し、結果をレポートに表示する
  • 解析結果(閲覧・確認):解析結果は、DSファーマアニマルヘルスが運営する獣医療支援プラットフォームサービス「あにさぽ」で閲覧可能。心電計の扱いについて特別な技術は不要で、動物病院が導入しやすい仕様になっている

コントレアが動画によるインフォームド・コンセント支援クラウドMediOSに麻酔科向けサービスを追加、麻酔説明を半自動化

動画を活用したインフォームド・コンセント支援クラウド「MediOS」(メディオス)を提供するContrea(コントレア)は2月18日、新たな疾患領域に対する展開として麻酔科向けサービスのリリースを発表した。内容としては、MediOSおよび麻酔科向け動画コンテンツとなっており、2月18日から提供を開始する。2024年4月、働き方改革に関する法律により医師の時間外労働に上限が設けられ、医療業界では医療現場の効率化が急務となっている。MediOSは、患者の理解度向上と医師の働き方改革を両立させるとしている。

日本病院会によると、安全な手術には麻酔科医による麻酔管理が重要だが、全診療科の中で麻酔医が最も不足しているという(「2019年度 勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査 報告書」)。そうした不足をカバーするため、大学病院では40%、一般病院では60%もの施設が外部に麻酔科医の派遣を定期的に要請している(麻酔学会「麻酔科医のマンパワーに関する調査」)。

これは手術件数が急増し需要が拡大していることや、麻酔業務以外に集中治療・救急医療・ペインクリニックなど担当範囲が拡大している点が理由として挙げられる。そうした業務量の拡大に加えて、術前の麻酔説明に多くの時間が取られることも麻酔業務を多忙にする要因となっている。

ただ、現場における麻酔説明は多くの時間がかかるものの、その内容は麻酔の概要や合併症といった定型的な内容が多くを占めているという。そこでMediOSの麻酔説明動画コンテンツでは、入院までの準備や各種麻酔方法と合併症、術後の覚醒、PCAポンプの使い方など約50分の内容を用意。またこれら動画は、京都府立医科大学の佐和貞治先生と柴﨑雅志先生、京都大学の松村由美先生・加藤果林先生による監修の元で制作したそうだ。

この麻酔科向けのサービスにより、麻酔科医の不足という課題を解決し、患者理解度や質問を事前に取得するクラークの役目を担うことまでできるという。システムは動画の準備から管理、患者への動画共有、視聴データ解析まで一気通貫で運用可能。定型的な部分を効率化することで、麻酔科医は患者個別性の高い説明やハイリスクな患者への事前準備、手術の麻酔管理など本質的な業務に集中でき、手術の安全性向上にもつながるとしている。

MediOSとは、インフォームド・コンセント(医療従事者が患者に診療目的・内容を説明し患者の同意を得ること)における定型的な内容をアニメーション動画にし、事前に患者が説明を受ける機会を提供するサービス。大学病院をはじめ200~700床の病院で導入されており、医師の説明時間が患者1人あたり33%短縮されたそうだ。また患者側の平均理解度が5段階中4.6を取得といった効果も得ているという。

NTTドコモ、AI活用医療サービスの提供に向け第二種医療機器製造販売業の許可を取得―国内移動体通信事業者で初

NTTドコモ、AI活用医療サービスの提供に向けて第二種医療機器製造販売業の許可を取得―国内移動体通信事業者で初

NTTドコモ(ドコモ)は2月16日、日本国内の移動体通信事業者で初めて「第二種医療機器製造販売業」の許可を取得(許可番号:13B2X10509)し、また「医療機器製造業」を登録(登録番号:13BZ201613)したと発表した。

今回ドコモは、医療機器のクラス分類のうち、クラスII(管理医療機器)の医療機器プログラムの製造販売が可能になる「第二種医療機器製造販売業」の許可を取得した。今後は、健康管理サービスやオンライン診療システムの提供だけではなく、病気の予防・診断・治療・予後管理などを目的として使用される医療機器プログラム、AI技術を活用した医療サービスを自社で設計・開発・製造・販売することが可能になる。

また、ヘルスケア領域からメディカル領域までスマートフォンの利用を軸にしたシームレスなサービス展開を行うことで、顧客がこれまで以上に医療を活用しやすく、病気の早期発見や治療を行える機会を増やせるようにする。医療機関などのパートナーと連携しながら、健康寿命の延伸や医療費の抑制などの社会課題の解決にも貢献するという。

これまでドコモは、位置情報や歩数、スマートフォンの利用時間帯などの生活習慣に関する情報や健康診断の結果などの利用に関して、事前に同意が得られたデータを基に、利用者の健康状態や病気の発症リスクを推定するAI技術の研究開発を進めてきた。また、個人ユーザ-向けの「dヘルスケア」、法人ユーザー向けの「dヘルスケア for Biz」「リボーンマジック」、自治体向けの「健康マイレージ」などの各種サービスを提供。生活習慣の改善や健康行動を促し、楽しく健康管理や健康増進を行うための取り組みを展開している。

また、オンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS」のメドレーとの共同運営を2021年12月から開始し、顧客の医療活用を支援する取り組みも推進しているという。

音響共鳴技術を使った肺機能モニタリング機器を開発するRespira Labs、3.2億円を超える投資と助成金を獲得

2021年、最初の製品を世界に発表した呼吸器ケアを専門とする医療技術企業のRespira Labs(レスピラ・ラブズ)は、肺機能とその変化を診断する音響共鳴技術の開発を継続するために、100万ドル(約1億1600万円)の資金調達と180万ドル(約2億900万円)の助成金を獲得することに成功した。新型コロナウイルス感染症や、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息などの肺疾患を持つ患者にとって、肺機能とその変化を追跡することは非常に重要なことである。

今回のプレシードラウンドは、ラテンアメリカを中心とするバイオテック投資会社のZentynel Frontier Investments(ゼンティネル・フロンティア・インベストメント)が主導し、アカデミックインキュベーション投資会社のVentureWell(ベンチャーウェル)、ミッションを重視したインパクト投資会社のImpactAssets(インパクトアセッツ)、そして米国およびラテンアメリカのエンジェル投資家数名が参加した。同社は調達した投資に加えて、Small Business Innovation Research(中小企業技術革新研究プログラム)、National Science Foundation(全米科学財団)、National Institutes for Health(米国国立衛生研究所)から、さらに180万ドルの助成金を獲得した。

Respira Labsは現在、フロリダ州とカリフォルニア州で30名の患者を対象とした予備試験を行っており、今後数年以内に製品のFDA(米国食品医薬品局)認証取得を目指している。同社が開発を進めているのは、マイクを使って肺機能を検出する、ウェアラブルで非侵襲的な肺機能モニタリング機器だ。

同社はこの技術で3つの特許を取得しているが、中でも重要なのは、人体に投射された圧電信号(パルスや音など)を分析して、肺の共振周波数や、音が身体にどのように吸収され、反射され、変化するかを明らかにするという技術だ。すばらしいことに、この信号は肺活量、肺に溜まった空気の量、COPDの有無などを調べることができるのだ。

「私たちは、競争の激しい分野で躍進できることに胸を躍らせています。また、私たちの使命と技術に深い関心を寄せてくださる組織に感謝します」と、Respira Labの創設者兼CEOであるMaria Artunduaga(マリア・アルトゥンドゥアガ)博士は述べている。「当社には、世界中で肺の問題を抱える何百万人もの人々の生活を改善できる可能性があります。これは早期発見が重要であり、私たちの技術は人々が問題をより早く発見し、生命を脅かすような危険な状況を回避するために役立ちます」。

「我々にとって、Respira Labsのようなビジョンとリーダーシップを持つ企業に投資できることは名誉なことです。同社のラテンアメリカにおけるバックグラウンドと専門知識は、当社の方針と完璧にマッチしています」と、Zentynel社のジェネラルパートナーであるCristian Hernández-Cuevas(クリスティアン・エルナンデスクエヴァ)氏は述べている。「Respira Labsのように、洗練された厳密なやり方で、音響の観点から肺機能のモニタリングに取り組もうとしているところは他にないと、我々は確信しています。これはポストコロナの世界で成長し続けるであろう巨大な市場への扉を開くものです」。

Respiraは製品開発の強化に取り組んでいるが、今回の資金調達はそれをさらに加速させることだろう。加速させる(アクセラレート)といえば、同社はMassachusetts Medical Device Development Center (マサチューセッツ医療機器開発センター)のアクセラレーターとバイオテックインキュベーターの参加企業に選ばれたことを筆者に明かした。

画像クレジット:Respira Labs

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

医師向け臨床支援アプリを提供する「HOKUTO」を提供するHOKUTOが8.25億円のシリーズA調達

医師向けの臨床支援アプリ「HOKUTO」(Android版iOS版)を開発・運営するHOKUTOは2月8日、シリーズAラウンドとして第三者割当増資による総額8億2500万円の資金調達を2021年12月に実施したと発表した。シリーズAでの累計調達額は11億2500万円となった。

引受先は、以下の通り。

新規株主

・グローバル・ブレイン8号投資事業有限責任組合
・Genesia Venture Fund 2号投資事業有限責任組合
・GMO GFF投資事業有限責任組合 無限責任組合員
・グリーベンチャーズ1号投資事業有限責任組合
・ほか個人投資家など

既存株主

・Genesia Venture Fund 2号投資事業有限責任組合
・イーストベンチャーズ2号投資事業有限責任組合
・ほか個人投資家など

調達した資金は、事業推進とプロダクト開発、そして今後の事業展開において重要な人材採用にあて、組織基盤の強化を図る。

HOKUTOは、2019年11月より提供されている臨床現場に立つ医師を支援するためのモバイルアプリ。アプリの医師会員数は直近1年間で約7倍に増加し、2021年11月時点で3万人を突破したという。同アプリを利用することで、最新の医学情報にアクセス可能。エビデンスに基づいた医療の実践に必要な「医学情報のインプット」「想起」「リサーチ」という一連の行動を一貫してサポートすることで、医師の負担を軽減し、患者に向き合う時間を増やすことを目的としているそうだ。医師のアウトカム(治療や予防による臨床上の成果)向上に貢献することも目指すとした。

また同社は、アプリで取得した医師のデータベースを基盤に、製薬プロモーション市場を非対面・デジタル化する医薬品デジタルプロモーション事業も展開している。

アマゾンが遠隔医療サービスを米国全域に展開

米国時間2月8日、Amazon(アマゾン)は同社のテレヘルス事業、Amazon Careが米国の全域で利用できるようになったと発表した。Amazon Careは、バーチャルケアと対面診療の両方を提供する。つまりAmazon Careのモデルはオンデマンドと対面の診療を組み合わせることによって、現在のヘルスケアサービスの足りない部分を補おうとしている。

同社の発表によると、対面診療は2022年に20ほどの都市で新たに展開される。Amazonによると、この拡張は同社が臨床診療チームとその診療サービスの成長に継続的に投資をしてきたことによって可能になったという。対面サービスが利用できる都市は、シアトル、ボルチモア、ボストン、ダラス、オースチン、ロサンゼルス、ワシントンD.C.、そしてアーリントンとなる。Amazonの計画では、2022年にはサンフランシスコやマイアミ、シカゴ、ニューヨークなどの大都市圏に対面診療を導入する。

Amazon Careは2019年に、Amazonの社員のためのパイロット事業としてローンチした。2021年3月にAmazonはそのサービスを、全米の他の企業も利用できるようにした。現在、社員にAmazon Careを提供している企業は Whole FoodsやSilicon Labsなどになるという。

このサービスは救急とプライマリーケアサービスを提供し、新型コロナウイルスやインフルエンザの検査、予防接種、病気や怪我の治療、予防医療、性の健康および処方箋の発行と継続再発行などを扱う。バーチャルで解決しない症状や心配については、患者の自宅にナースプラクティショナー(診療看護師)を派遣して、定期的な採血や肺活量測定などを行なう。

「患者は、患者ファーストではない現在のヘルスケアシステムにうんざりしています。私たちの患者中心のサービスは、往診は一度に1人のみというやり方でそれを変えようとしています。オンデマンドの救急とプライマリーケアサービスを全国に拡大しました。サービスの成長とともに、顧客との協働を続けて、そのニーズに応えていきます 」とAmazon CareのディレクターKristen Helton(クリステン・ヘルトン)氏は声明で述べている。

Amazonは数年前から、ヘルスケアに投資している。2018年にはオンラインの調剤薬局PillPackを買収し、薬種や量などを調剤済みの医薬を買えるようにしている。2020年には、オンラインとモバイルの調剤薬局Amazon Pharmacyをローンチした。そして最近Amazonは、ヘルスケアプロバイダーと高齢者居住施設のための新しいソリューションを展開した。そのソリューションはAlexa Smart Properties事業の一環として、大量のAlexaデバイスを展開し、施設の管理者が居住者や患者のためにカスタマイズされた体験を作り出せるようにする。

画像クレジット:David Becker/AFP/Getty Images

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(文:Aisha Malik、翻訳:Hiroshi Iwatani)