プレシジョン、東京都の新型コロナ患者向け宿泊療養施設にAI問診票「今日の問診票 コロナ宿泊療養者版」を提供開始

プレシジョン、東京都の新型コロナ患者向け宿泊療養施設にAI問診票「今日の問診票 コロナ宿泊療養者版」を提供開始

AIを用いた医療支援システムを開発提供するプレシジョンは2月7日、東京都の新型コロナウイルス患者向け宿泊療養施設に向けて、AI問診票『「今日の問診票」コロナ宿泊療養者版』の提供を開始した。宿泊療養施設の電子問診票の導入は、日本初となる。デモ問診のURLはhttps://u5000672.cl1.cds.ai/preMonshin/#/

これは、プレシジョンが展開しているAI問診票「今日の問診票」を、ホテルなどで宿泊療養する新型コロナウイルス感染者向けに特化させたもの。「今日の問診票」は、AIにより、聞き取った症状などに応じて質問内容が動的に変化する電子問診票。これに、同じくプレシジョンが展開している医療機関向けの医学情報データベース「Current Decision Support」(CDS)が組み合わされている。CDSは、日本の2000名の医師の協力で作られるデータベースで、現在3000疾患、700病状の所見、全処方薬の情報が掲載され、大学病院の8割、全国300以上の医療機関で使われているというものだ。

宿泊療養者の健康観察と説明は、現在は看護師が電話で行っているため、20分から40分という時間がかかり、看護師不足が深刻化する現場の負担は大きい。しかしこのAI問診票を使えば、健康状態の聞き取りや、その後の登録作業にかかる時間を半分以下に短縮できる。重症化のリスクもAIが判断してくれるなど医療機関の負担軽減となり、患者にとっても電話応答に比べ短時間で済み、自分のペースで回答できるため負担が減る。

プレシジョンでは、第6波の到来に備えて2021年10月から「『今日の問診票』コロナ宿泊療養者版」の準備を行ってきた。設計にあたっては、プレシジョン所属の医師や看護師が医療現場での業務フローの聞き取りを行ったり、実際に宿泊施設で働いたりなどして、「現場に即した運用フロー」が作り上げられている。2022年1月27日からテスト運用を行ったところ現場での評価は高く、2月7日から2つの宿泊療養施設で本格運用されることに決まった。

質問が終わると、患者の疑問に答える動画が閲覧できる。プレシジョンの社長であり医師でもある佐藤寿彦氏の監修による、よくある質問に答えたものだ。佐藤氏は、在宅療養をしている人にも役に立つと考え、酸素飽和度の測り方退所の時期に関する動画をYouTubeでも公開した。「今後も日々変わる状況に応じて更新をする」と佐藤氏は話している。

 

遺伝子治療による視覚再生の早期実用化を目指すレストアビジョンが3億円調達、網膜色素変性症治療薬の臨床試験目指す

遺伝子治療による視覚再生の早期実用化を目指すレストアビジョンが3億円のシード調達、網膜色素変性症治療薬の臨床試験目指す

遺伝子治療による視覚再生の早期実用化を目指すレストアビジョンは2月4日、シードラウンドにおいて、第三者割当増資による総額3億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、リアルテックファンド、ANRIおよびRemiges Venturesがそれぞれ運営するファンド。

調達した資金は、慶應義塾大学とともに採択された日本医療研究開発機構(AMED)などの補助金計3億円とあわせて、6億円の資金をもって、同社リードパイプラインである網膜色素変性症の遺伝子治療薬RV-001の製剤開発、非臨床試験などを推進し、RV-001の臨床試験の早期実現を目指す。

レストアビジョンは、慶應義塾大学医学部と名古屋工業大学の共同研究成果をもとに、オプトジェネティクス技術の臨床応用による、遺伝性網膜疾患に起因する失明患者の視覚再生の実現を目指して、2016年11月に設立。いまだ有効な治療法のない遺伝性網膜疾患に対し、同社の治療を提供していくことを第1のミッションに掲げて開発に取り組み、日本発・大学発の遺伝子治療技術の産業化による日本経済への貢献を目指している。

RV-001は、AAV(Adeno Associated Virus)ベクターに独自の光センサータンパク質である「キメラロドプシン」を目的遺伝子として搭載した遺伝子治療薬。ヒトの網膜において光センサーの役割を担う視細胞が、遺伝的要因で変性消失してしまう網膜疾患を主な対象として、簡便かつ低侵襲な投与方法である硝子体内注射によりRV-001を投与し、残存する介在神経細胞内でキメラロドプシンを発現させることで、視覚再生を実現する治療法という。

Dawn Healthは認知行動療法で快眠をサポートする不眠症治療アプリ

新年を迎えて全力で進む中、不安な状態が続くと誰もが眠れない夜を過ごすことになる。

不眠症治療のスタートアップDawn Health(ドーンヘルス)は、不眠症を抱える人たちが睡眠を再びコントロールできるようにしたいと考えている。同社は2021年に、Intercom(インターコム)とMicrosoft(マイクロソフト)で製品エンジニアとして働いたRahul Shivkumar(ラホール・シブクマール)氏、認知行動療法士のAndreas Meistad(アンドリアス・マイスタッド)氏、Yahoo(ヤフー)のソフトウェアエンジニアだったVarun Krishnamurthy(ヴァルン・クリシュナムルティ)氏によって設立された。

シブクマール氏は、不眠症について身をもって知っている。ひどい睡眠障害を抱え、効果があるとされていた薬が効かなくなり、依存症になった。

シブクマール氏だけではない。米国睡眠協会は、米国人の70%が何らかの睡眠障害を抱えていると推定している。米国睡眠医学会によると、職場においては、平均的な労働者が毎年2280ドル(約26万円)、合計で年632億ドル(約7兆2700億円)の生産性を失っていることになるという。

画像クレジット:Dawn Health

シブクマール氏の場合、睡眠薬をやめるのに6カ月かかった。その後、同氏は瞑想など、眠りにつくための常套手段をすべて試したが、世の中に出回っている一部の人気アプリは、たまに起こる睡眠の問題には良いが、病的な不眠症にはそれほど効果がないことがわかった。

そんなときに出会ったのが、不眠症のための認知行動療法(CBT)だった。これは、睡眠障害を引き起こしたり悪化させたりする思考や行動を特定し、睡眠につながり、眠り続けるための習慣に置き換えるよう導くケア方法だ。

「12週間のセッションを受け、1回につき300ドル(約3万5000円)の費用がかかりましたが、今はよく眠れるというROI(投資利益率)があるので、その価値はありました」と同氏は話した。「それが会社を始めるきっかけになりました」。

シブクマール氏と同氏のチームは2020年半ばに会社を設立し、不眠症のためのCBTを活用して「不眠症治療の新しいスタンダード」と呼ぶDawn Healthアプリを開発した。

月額60ドル(約6900円)のモバイルアプリは、マイスタッド氏の研究に基づく証拠に準拠するセラピーを、睡眠トラッカーと統合して提供する。ユーザーは、Dawn Healthのセラピストからトレーニングを受けた睡眠コーチとペアを組み、チャット機能やパーソナライズされた毎日のレッスンプランにアクセスすることができる。

Dawn Healthはこれまでに100人以上の患者を治療しており、その中にはOpenAI CEOのSam Atlman(サム・アトルマン)氏やTwitch共同創業者のKevin Lin(ケビン・リン)氏、Galaxy Digital共同創業者のSam Englebardt(サム・エングルバート)氏といったテック業界の著名人が含まれている。シブクマール氏によると、初期のデータでは、プログラムを受けた人の80%が不眠症で薬やアルコール、マリファナに頼ることがなくなったという。

Dawn HealthはiOSアプリを展開し、ユーザーを獲得している。成長モードに入り、治療のスタンダードを継続するために重要な研究調査による臨床的証拠を構築している。

そのために同社は、Kindred Venturesがリードし、OnDeckのRunway Fundと、リン氏やSegment共同創業者のIlya Volodarsky(イリヤ・ヴォルダルスキー)氏、Intercom共同創業者のEoghan McCabe(エオガン・マッケイブ)氏といった個人投資家が参加したプレシードラウンドで180万ドル(約2億円)を調達した。今後、チームを拡大し、新製品も展開する。

ウェアラブル(Oura RingZeitGoogleのNest Hub)、その他の睡眠トラッキングアプリ(Aura)、スマートマットレス(Eight Sleep)など、最近ベンチャーキャピタルが注目した製品の多くが人気を集めている中、Dawn Healthは2026年までに1370億ドル(約15兆7740億円)に達するとされる睡眠市場でシェアを獲得するために、競争が一層激しさを増している市場に参入する。

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「医療費の多くは、睡眠障害に起因しています」とシブクマール氏は話す。「特に、Ouraのような企業がデータを発表しているアルツハイマー病やその他の疾患を予防できれば、長期的に大きなメリットがあります。人生の早い段階で睡眠不足を解決したり、睡眠の問題を完全に予防できれば、健康とコストの大幅な節約になります」と述べた。

画像クレジット:Dawn Health

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

IoTスタートアップobnizの通信ゲートウェイが東京都のコロナ自宅療養者向けパルスオキシメーター監視システムに採用

IoTスタートアップobnizeの通信ゲートウェイが東京都のコロナ自宅療養者向け血中酸素飽和度監視システムに採用

あらゆる人がIoTの恩恵を受けられる世界を目指すobniz(オブナイズ)は2月1日、「obnizBLE/LTE(encored)」(obniz BLE/LTEゲートウェイ)が、東京都のコロナ自宅療養者のためのSpO2(動脈血酸素飽和度)遠隔監視システムの通信用ゲートウェイとして採用されたことを発表した。

obniz BLE/LTEゲートウェイは、医療機器メーカー「三栄メディシス」が販売する、心電図とSpO2が同時に長時間測定ができるバイタルデータ測定医療機器「Checkme Pro B ADV」(チェックミープロBアドバンス)と組み合わせて、「ウェアラブル型パルスオキシメーター遠隔監視システム」として、まずは多摩府中保健所と多摩立川保健所の2カ所から貸し出しが行われる。

自宅療養者に貸し出される機器

自宅療養者に貸し出される機器

このシステムは、チェックミープロBアドバンスで測定されたSpO2値が、obniz BLE/LTEゲートウェイでLET回線を通じてクラウド上の遠隔監視システムに送られ、一定の値を下回った時に所定の通知先(今回は保健所の職員)にメールが送られるというもの。自動的に通知されるので、容体が変化した際、自宅療養者が自分で電話連絡を行う必要がない。また保健所も電話応対に追われることなく、いち早く状態の把握ができる。

obnizBLE/LTE(encored)

obnizBLE/LTE(encored)

obniz BLE/LTEゲートウェイは、中継機としての機能に特化したプラグ一体型となっており、コンセントに挿入するだけで使えるようになる。設定操作が一切不要なため、技術的な知識のない人でも誰の手も借りずに設置できる。

なお、自宅療養者への機器貸し出し、回収、利用方法などの問い合わせに対応するコールセンター業務は、ソフトバンクのグループ会社リアライズ・モバイルがGENieやサンクネットといったパートナー企業と連携して行う。

採血がいらない非侵襲血糖値センサーのライトタッチテクノロジーが1億円の追加調達、量産化に向けた開発・薬事戦略を加速

採血がいらない非侵襲血糖値センサーのライトタッチテクノロジーがシリーズAファイナルとして1億円調達、薬事承認に向け展開加速赤外線レーザーを用い、採血をしなくても血糖値を測定可能な非侵襲血糖値センサーを開発するライトタッチテクノロジー(LTT)は2月4日、シリーズAファイナルラウンドとして、1億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、MPI-2号投資事業有限責任組合(MedVenture Partners)。2017年の創業以来の資金調達総額は、補助金などを含め累積調達額約5億円となった。

調達した資金により、量産化に向けた試作器の開発を用いて、臨床試験、薬事承認に向けた展開を加速させる。

世界で4億人ともいわれる糖尿病患者は、毎日指などに針を刺して採血し、血糖値の測定を行っている。そうした患者の痛みや精神的ストレスの他に、体に針を刺すことから感染症のリスクもあり、さらに測定に利用した針やチップは医療廃棄物となるという問題もある。そこでLTTは、従来光源(黒体放射)に比べて10億倍の明るさがある高輝度赤外線レーザーを開発し、高精度の非侵襲血糖測定技術を世界で初めて確立した。これにより、採血なしに約5秒で血中グルコース濃度の測定を可能にした。採血がいらない非侵襲血糖値センサーのライトタッチテクノロジーがシリーズAファイナルとして1億円調達、薬事承認に向け展開加速

AIでマウスのグルーミング(毛づくろい)を高精度で検出、動物の心と体の変化の把握が人の中枢性疾患の治療に貢献

AIでマウスのグルーミング(毛づくろい)を高精度で検出、動物の心と体の変化の把握が人の中枢性疾患の治療に貢献

東京大学は2月2日、マウスの動画からAIを用いてグルーミング(毛づくろい)行動を検出する方法を開発したと発表した。グルーミングは動物の心と体の状態を理解するうえでの重要な指標であるため、低コスト、長時間の自動判定が可能になれば、動物実験の効率が大幅に向上するという。

東京大学大学院農学生命科学研究科の坂本直観学部生らによる研究グループは、ケージの上部に設置したカメラで撮影したマウスの動画から、その行動を「グルーミングなし」「顔のグルーミング」「体のグルーミング」に分類してラベル付けを行った。そしてこれを脳の神経回路を模した数理モデルである折り畳みニューラルネットワークに学習させた。そして、折り畳みニューラルネットワークが間違えた画像パターンを解析し改善を試みたところ、かなりの高確率での識別が可能となった。また、グルーミング回数の評価では、人の観測と畳み込みニューラルネットワークの予測は同等だった。

健康な動物に比べて不健康な動物の毛並みが悪いのは、健康状態によってグルーミングの頻度や長さが変わるためだという。動物の心身の状態を詳しく観察することが動物実験では大切なのだが、そこでグルーミングが重要な指標となる。だが、目視による観察は研究者の負担が大きく、また観察者や環境によって判断が変わるといった客観性に欠ける部分もある。そこでこの方法が開発された。

現在、その治療法が強く求められている自閉症、認知症、統合失調症といった中枢性疾患には「ヒトの疾患の病態を適切に反映できる動物モデル」が必要なのだが、それが不足しているために治療法の開発が進んでいないと研究グループは言う。しかし今回確立された技術を用いて「動物の心の機微と体の変化を捉えることが可能となれば、ヒトの中枢性疾患の病態解明や治療方法の開発にも大いに役立つことが期待される」とのことだ。

再生医療スタートアップU-Factorと慶應義塾大学医学部、幹細胞培養上清液によるドライアイ治療の共同研究開始

再生医療スタートアップU-Factorと慶應義塾大学医学部、幹細胞培養上清液によるドライアイ治療の共同研究開始

再生医療スタートアップU-Factor(ユーファクター)と慶應義塾大学医学部眼科学教室は2月2日、乳歯由来の歯髄幹細胞培養上清液を用いたドライアイ治療の共同研究を開始したと発表した。

U-Factorは、アルツハイマー病をはじめ、有効な治療法のない疾患に対する要望、いわゆる「アンメットメディカルニーズ」に対処する薬の開発を進めており、乳歯由来の歯髄幹細胞培養上清液の基礎研究も行っている。幹細胞培養上清液とは、幹細胞を培養する過程で得られる上澄み液のこと。これまでの再生医療では、幹細胞そのものを体内に移植する方式が有効とされているが、近年、幹細胞培養上清液にも幹細胞移植と同等の利用効果があることがわかった。

幹細胞培養上清液には数千種類の成長因子が含まれており、体内の細胞組織の再生を促す。なかでも、U-Factorが開発している乳歯由来の幹細胞培養上清液は、骨髄や脂肪から得られる間葉系由来のものに比べて成長因子がより豊富に含まれているという。

この共同研究では、日本で2200万人が悩まされているドライアイ(Uchino M, et al. Am J Ophthalmol, 2013)への幹細胞培養上清液の有効性を確認することにしている。U-Factorは研究費用と幹細胞培養上清液を提供し、慶応義塾大学医学部眼科学教室が研究の実務を行う。数年後には幹細胞培養上清液の産業化を目指すとのことだ。

イマクリエイトと東京大学が医学生用VRシステム共同開発、実際に体を動かしながらの実習をバーチャルトレーニングで支援

皮下注射の様子。手本となる医師の動きに重なるように手を動かして手技を習得できる

皮下注射の様子。手本となる医師の動きに重なるように手を動かして手技を習得できる

XRシステムの研究・開発を行うイマクリエイトは2月1日、東京大学医学部附属病院クリニカルシミュレーションセンターと共同で、「現実のように実際に自らの身体を使いながら行う実習」を目指した医学生向けのバーチャルトレーニング・システムを開発した。

これは、皮下注射、静脈採血、末梢静脈カテーテル挿入の3つの穿刺(針を刺すこと)手技をトレーニングできるというもの。消毒、患者への声かけ、穿刺、片付けなどを、実際に自分の体を動かして学習する。正しい位置での消毒や穿刺、正しい注射針の角度など、適切な手段を踏まなければ先に進めない仕組みだ。手本となる医師の動きに重なるように手を動かして手技を習得できる。また手技だけでなく、どのタイミングで患者に声をかけるかなどのコミュニケーションも学べる。

患者の体に針を刺す穿刺手技など患者への侵襲性が高い学習には、当然のことながら十分な訓練が必要となる。だが模擬腕を使ったトレーニングでは、同時に学習できる学生の数が限られ、機器の消耗品の補充が必要になるなどの手間がかかる。それをXRにすることで、いつでも何度でもトレーニングできる環境を整えようというのが、このシステムの目的だ。

静脈採血の様子。手本を非表示にして手技を習得できたかを確認

末梢静脈カテーテル挿入の様子。手本の手が見えている

イマクリエイトは、2021年4月にも、新型コロナワクチン接種のためのトレーニングシステム「VR注射シミュレーター」を開発している。「見る」ではなく「する」XR、いわゆる「Doable XR」の研究を重ね、「世界唯一のXR物理トレーニング技術」を有しているという。

Stogglesは仕事で使われる保護メガネもファッションの一部だと考えている

私たちがサングラスをかけるのは、目に太陽の日差しが入らないようにするためだが、それは常にファッションの一部でもあった。Stoggles(ストグルズ)の共同設立者であるMax Greenberg(マックス・グリーンバーグ)氏とRahul Khatri(ラフル・カトリ)氏は、保護メガネにもファッションのラベルが適用されるべきだと考えている。

世界的なパンデミックが起きたとき、2人は別のファッションメガネの会社で一緒に働いていた。市場がいかに飽和状態にあるかを目の当たりにした2人は、最初はヘルスケア業界をターゲットに、保護メガネを、これと類似したセクシーな空間にする機会を見出した。Stogglesのメガネは、ANSI-Z87認定の保護性能と、スタイリッシュで快適性を兼ね備え、度付きレンズのオプションもあり、ブルーライトカット技術や独自のくもり止めコーティングが施されている。

グリーンバーグ氏は「我々の最大の顧客は医療従事者で、これは非常にやりがいのあるビジネスでした。そして、彼らは、本当にかさばって、不快かつ不格好な保護メガネをかけることから、見せびらかしたい、Instagramにも投稿したい、機能的にも一般的な幸福度やウェルビーイングにおいても、日常生活に大きな影響を与えるものであることを友人に共有して話したいと思うようになったのです」。と語っている。

彼らは2020年8月にロサンゼルスを拠点とするStogglesをクラウドファンディングでキックオフし、2021年2月にeコマースサイトを立ち上げた。そこからグリーンバーグ氏は「2021年は信じられないような成長を遂げ、前月比で平均約30%の収益増を記録しました」と述べている。

世界の保護メガネ市場は、2026年までに31億ドル(約3540億円)規模の産業に達すると言われており、他にもPair Eyewear(ペア・アイウェア)Cheeterz Club(チーターズ・クラブ)、そしてその発端となったWarby Parker(ウォービー・パーカー)(9月に直接上場)など、より消費者側ではあるが、メガネをもっと流行らせようと取り組んでいる企業もある。

Stogglesの創業者たちは、すでに利益を上げており、同社のアイウェア製品もヘルスケア業界では好評だったにもかかわらず、会社を立ち上げた後、最初のベンチャーキャピタルのラウンドに参加することにしたのだ。グリーンバーグ氏によると、同社はすでに製品と市場の適合性を確立していたため、従来のシリーズAではなく、成長ラウンドに進み、The Chernin Group(ザ・チェルニン・グループ)から4000万ドル(約45億7200万円)を調達したとのことだ。

同社の目標の1つは、Stogglesの認知度を上げるために、コンテンツやメディアへの参入を増やすことであり、創業者たちは、コンテンツやメディア企業での経験を持つThe Chernin Groupがそのための良いパートナーになると考えたと、彼は付け加えた。

TCGのパートナーであるLuke Beatty(ルーク・ビーティー)氏は、Stogglesが保護メガネ市場の大きなギャップを発見し、それを証明しただけでなく、そのギャップを埋めたと書面で述べている。「この創業年数の企業としては、かなり驚くべき偉業だと思います」と付け加えた。「マックスとラフルは、卓越したビジネスモデルを巧みに構築しており、我々はこの次の成長段階におけるパートナーになれることをうれしく思っています」。と述べている。

同社は、今回の資金調達により、ゴーグルのラインアップを拡充するための製品開発への投資を行い、ヘルスケア市場でより多くの製品を提供し続ける予定だ。また、この市場を超えて、建設、実験科学、ホームセンター、日曜大工など、他の市場にも進出する構えだと、グリーンバーグ氏は述べている。さらに、Stogglesは経営陣を強化し、マーケティング・ディレクターを加えることも検討している。

現在、従業員は15名だが、2022年中に倍増させたい考えだ。

「私たちは、私たちの使命を理解し、その達成を手助けし、その一部となることを望む、偉大で本当に情熱的な人々の強い基盤を作りたいと思っています」と、グリーンバーグ氏は付け加えた。「私たちは、ヘルスケアのお客さまのおかげでここまで来ることができたので、お客さまのためにさらに良い製品を作り、改善を続け、製品ラインを拡大し、情報を発信し、体験をより良いものにしたいのです」と語っている。

画像クレジット:Stoggles

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(文:Christine Hall、翻訳:Akihito Mizukoshi)

家庭用性感染症検査キットを提供しSTI検査の敷居を下げる米TBD Health

性に関する健康問題は以前ほどタブーではないが、だからといって、STI(Sexual Transmitted Infection、性感染症)の検査における問題がすべて解決したというわけではない。TBD Health(TBDヘルス)は「Vagina-Haver(女性器所有者)」のために、自宅で検査ができるようにするという新しいアプローチをとっている。同社は、自宅で5種の検査ができる「Check Yourself Out(チェック・ユアセルフ・アウト)」キットを提供しているが、最近、ラスベガスに対面式のクリニックを開設した。なぜ家庭でできる性のヘルスケアサービスが求められているのか、共同設立者の2人に話を聞いた。

米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国のSTI感染率はここ数年上昇を続けており、2021年に報告されたデータでは6年連続で過去最高を記録している。米国では5人に1人がSTIに罹患しており、そのうち半数は15~24歳の若者で、直接的な医療費として160億ドル(約1兆8200億円)がかかっている。あえていうなら、TBDは縮小するはずの市場を狙っているのだが、そうではない。

「当社は、検診にかかることが重要であることに気づいた。現在、検診を受ける人は以前よりも少なくなっている。これは新型コロナウイルス感染症の影響もあるが、人々は病院に行きたがらないし、連邦政府の多くの資金援助が問題をより複雑にしている。当社は、家庭用キットから始めて、人々の日常生活で実際に有効なSTI検査を提供するために設立された。他の医療関連企業とはまったく異なるアプローチをとったので、臨床的とは感じないし、賭けに出ているとも感じていない。本当に受診者の身になって行うような検診をしたいと考えていた。そして、2022年の初めに、6つの州で試験的にクリニックを開設した」とTBD Healthの共同設立者であるStephanie Estey(ステファニー・エスティ)氏は語る。

TBD Healthの家庭用検査サービスは、ワシントン州、アリゾナ州、ネバダ州、マサチューセッツ州、フロリダ州、コネチカット州で提供されており、さらに多くの州への展開を計画しているが、全50州をカバーするには規制上の課題がある。

「もし陽性と診断された場合、当社でほとんどすべての治療を行うことができる。当社の臨床医は、罹患者の個別のケアプランについて話し合うための時間を設ける。それは『ここに一般的なケアプランがあるので、かかりつけの病院に相談してください』というような無責任なものではない。例えば、抗生物質が必要な感染症の大半は、当社が処方箋を発行して治療を行うことができる」とエスティ氏は説明する。もちろん、臨床医を必要とするということは、その臨床医らが活動するすべての州に拠点が必要だということでもある。「当社は各州に医療チームを置いており、臨床医がすべての結果を確認し、検査機関の依頼に署名し、結果を分析したり、処方を行ったりする。現在は6つの州で展開しているが、2022年には急ピッチで拡大していく予定だ」と同氏はいう。

同社は、通常の医師が検査できるのと同じSTIをすべて検査できるとしているが、検体の採取には自己採取のプロトコルを採用している。自分で採取するものには、膣スワブ、尿サンプル、血液サンプルがある。特に血液サンプルについては、静脈穿刺を自分で行うのかと興味をそそられたが、指先から採血カードに少量の血液を落とすタイプのもので、それを医療チームが分析し、治療が必要かどうか判断できるとのことだ。

「当社では、乾燥血液スポットカードと呼ばれるものを使用している。これは基本的に、いくつかの円が描かれた紙であり、指にランセットを刺して血液を垂らして使う。糖尿病患者が日常的に行っている検査と同じものだ。このカードによって、HIVや梅毒など、血液を用いた主なSTIの検査はすべて行うことができる。実際これは、すばらしいツールだ。乳児の採血をするのは難しいため、乳児の検査を目的として開発されたものだと思う。また、輸送中も安定しているので、自宅での検査に適している」とエスティ氏は説明する。

ラスベガスにオープンしたTBD Healthの対面式クリニック。壁には家庭用検査ボックスが飾られている(画像クレジット:TBD Health)

TBD Healthは、従来のSTI検査プロトコルの精度を維持しているという。

「検査機関での検査には、感度と特異度という2つの主要な精度指標がある。その確認のため、当社は多くの検査機関を精査した。当社のパートナー検査機関の感度と特異度は基準を満たしており、これは必要な精度を確保していることを意味している。また、自宅でプライバシーを守りながら検査ができる」とエスティ氏は述べる。そして「遠隔医療により、当社の臨床ケアチームのサポートを受けることもできる」と同氏は付け加える。

TBDは、対面式のケアも行うために、ラスベガスにケアハブを開設した。これは、顧客のニーズをより深く把握できる環境を整え、そこから得た知見を他の事業のサービス向上につなげることを目的としている。

今のところ、同社は女性器所有者に焦点を当てている。それは、STIの問題だけでなく、不妊症の問題にも取り組んでいるためであり、可能な限り最高のサービスを提供するため、同社は対象を絞ることにした。

「当社は今、女性と女性器所有者のためのサービスに集中している。男性器所有者へのサービスが当社のロードマップのどこに位置するのかは、まだいえない。男性器所有者は、伝染の面で大きな要因となっていることは確かだ。しかし、女性にとっては、コストや不名誉だけでなく、多くの場合、生殖機能の問題でもある。STIは、米国における不妊症の原因のうち、予防可能なものの1番目に挙げられている」とエスティ氏は説明し、そして次のように続けた。「当社が重点分野を拡大する場合、そうした人々に適切なサービスを提供できる体制を整えたいと考えている。企業が間違ったことをする例は数多くある。女性のために何かを作ることは、ピンク色にすればいいというようなことではない。TBDは、女性器所有者をよく理解していて、どうすれば最適なサービスを提供できるかわかっている。だからこのサービスに深く関わることに興奮を覚えるのだと思う。当社が男性器所有者にサービスを提供する時には、女性器所有者に対して行ってきたことと同様に、思慮深く、真剣に、公正を保ちたいと考えている」。

画像クレジット:TBD Health

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

医薬品の低温輸送に適した「自己冷蔵型クラウドベースの配送箱」をEmberが発表、大手ヘルスケア物流企業と提携

Ember(エンバー)は2021年、最近のハードウェア分野で見られる最も魅力的な事業展開の1つを発表した。同社は保温機能を備えたスマートマグカップで知られているが、以前からコールドチェーン、特に医薬品の長距離輸送に注目したきた。最初は会話から始まったこのプロジェクトは、2021年2350万ドル(約27億円)の資金を調達して促進されることになった。そして今回、同社は新たな製品と、今後の展開を示すパートナーシップを発表した

新しい方向性の中心となる製品は「Ember Cube(エンバー・キューブ)」と名付けられたもので、同社はこれを「世界初の自己冷蔵型クラウドベースの配送箱」と呼んでいる。この技術は、重要な荷物を運ぶのに、いまだに段ボールや発泡スチロール、使い捨ての保冷剤などに頼っている時代遅れの輸送技術を更新するために開発された。その核となるのは、内容物を摂氏2~8度に保つように設計されたEmber独自の温度制御技術だ。

このEmber Cubeは、温度・湿度の情報とGPSの位置情報をクラウドで共有することで、輸送中の情報を追跡することができる。本体背面には「Return to Sender(送り主へ返却)」ボタンがあり、これを押すと本体のE Ink画面上に返品ラベルがポップアップ表示される。同社によると、このCubeは「数百回」の再利用が可能だという。

同社は今回、このEmber Cubeの公開と併せて、大手ヘルスケア物流企業であるCardinal Health(カーディナル・ヘルス)との提携も発表した。

Cardinal Healthスペシャリティソリューションズ部門のプレジデントであるHeidi Hunter(ハイディ・ハンター)氏は、今回の発表に関連したリリースの中で「Ember社とのパートナーシップは、リアルタイムの可視性を備え製品を完全な状態に保つ、新しい業界標準となる技術ソリューションを活用するとともに、廃棄物の削減にも変革をもたらします」と述べている。「Ember Cubeは、医薬品開発パイプラインにおける多くの細胞療法や遺伝子療法にとって、特に価値あるソリューションとなるでしょう。これらは温度に敏感で、価値が高く、リアルタイムに統合された追跡を必要とするからです」。

Cardinal社は、この2022年後半に発売予定の新デバイスを試験的に使用する最初の大手企業となる。

画像クレジット:Ember

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

がん患者のためのデジタルサポートと研究開発向けのSaaSを提供する英Vinehealth、米国でのローンチを目指して6.2億円調達

2018年にロンドンで設立されたデジタルヘルスのスタートアップVinehealth(ヴィネヘルス)は、がん患者のためのパーソナル化されたサポートを提供すると同時に、薬の開発や臨床試験を含む患者報告アウトカム(PRO:Patient Reported Outcome)データの収集を容易にするアプリを構築した。同社は米国進出の準備を進める中、550万ドル(約6億2000万円)のシードラウンドを完了した。

共同創業者でCTOのGeorgina Kirby(ジョージナ・カービー)氏が「後期シード」と呼ぶこのラウンドは「今後12〜18カ月の間に」予定されているシリーズAに先立って行われたもので、Talis Capital(タリス・キャピタル)がリードし、既存投資家のPlayfair Capital(プレイフェア・キャピタル)とAscension(アセンション)が参加した。

AXA PPP Healthcare(AXA PPPヘルスケア)の元CEOであるKeith Gibbs(キース・ギブズ)氏をはじめ、多くのエンジェル投資家もこのラウンドに参加している。Newhealth(ニューヘルス)のパートナーPam Garside(パム・ガーサイド氏)、Wired(ワイアード)の創刊者兼編集者David Rowan(デビッド・ローワン)氏が率いるVoyagers Health-Tech Fund(ボイジャーズ・ヘルス-テック・ファンド)、ヘルスケア起業家でPI Capital(PIキャピタル)の創業者David Giampaolo(デビッド・ジャンパオロ)氏、Speedinvest(スピードインベスト)とAtomico Angel(アトミコ・エンジェル)のベンチャーパートナーDeepali Nangia(ディーパリ・ナンジア氏)、Bristol Myers Squibb(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ)のVP兼元医療ディレクターFaisal Mehmud(ファイサル・メフムード)氏、King’s College London(キングス・カレッジ・ロンドン)とKing’s College Hospital NHS Foundation Trust(キングスカレッジ病院NHS財団トラスト)およびGuy’s and St Thomas’ NHS Trust(ガイズ&聖トーマスNHS財団トラスト)のコラボレーションであるKHP MedTech Innovations(KHPメドテック・イノベーション)が名を連ねている。

このスタートアップは、2019年に創業者たちがEntrepreneur First(アントレプレナー・ファースト)のデモデーにピッチしたとき、私たちが「注目すべき」と評した企業だ。同社は、行動科学とAIを組み合わせて、患者にタイムリーなサポートとナッジ(薬の服用を促すリマインダーなど)を提供することで、患者が自分の治療をより簡単に自己管理できるようにしている。

Vinehealthのプラットフォームは、患者が症状に関するフィードバックを提供したり、治療の副作用を報告したりする際に、臨床医が患者をリモートで監視できるチャネルとしても機能する。

このアプリは2020年1月に公開されて以来、これまでに約1万5000回ダウンロードされている。カービー氏が確認したところによると、そのダウンロード数はこれまですべて利用に及んでおり、純粋な患者サポートと試験・研究の両方が含まれているという。

同社の患者支援アプリは、がん患者が自分でダウンロードできるように無料で提供されている。現在は英国とアイルランドで利用可能となっている。

製薬業界向けには、VinehealthはそのプラットフォームをSaaSとして提供しており、製薬会社が試験のために患者を募集したり、研究開発や医薬品開発のためにPROを集めたりするのを支援している。

「私たちは最初から製薬業界に注力してきました。トラクションを豊富に獲得しており、多くの機会を見出しています」とカービー氏は語る。「患者支援プログラムと臨床試験は極めて類似性が高い(プロダクト)です【略】製薬業界向けのものは、薬の開発プロセスの一部であるという点で異なりますが、ソフトウェアの提供という観点では、そのプロセスを通じて患者が必要とするものであり、非常に類似しています。そのため、こうしたライフサイエンスのオファリングに的を絞っています」。

同氏は、Vinehealthがヘルスケアサービスに直接売り込む調達ルートを進んではいないことを強調した。つまり基本的には、患者への支援ソフトウェアの無償提供にライフサイエンス研究が資金を提供する、という考え方だ(ただし、現時点では製薬業界の顧客名を公表することはできない)。

収益化に関しては、製薬会社のニーズに応えることに焦点が置かれている。Vinehealthは患者中心のアプリとして見られることも同様に切望しており、より良い患者アウトカムを促進する重要な臨床医サポートの役割を果たすことを目指している。

「どのブラウザからでもアクセス可能なウェブダッシュボードを用意しています。患者をリモートで追跡したいと考えている臨床医や医師は、調査研究の実施を通じて、あるいは臨床試験の中でも、それを行うことができます」とカービー氏。「こうした医師や看護師はデータをリアルタイムで見ることができる一方、それをケア経路の適切なポイントのいずれかに送り込むことも可能になっています。もちろん、彼らは1日中ダッシュボードの前に座っているということはありませんが、特定の危険信号を確認してどの患者を最初に診察すべきかを把握することや、そのようなリアルタイムのデータを使ってより良い臨床判断を下す方法を知ることは、通常(隔週や月ごとの患者追跡)よりも非常に有益な場合があります」。

「これまでに得たことのないコンテキストと豊富な長期的データを提供するものです」と同氏は付け加えた。

Vinehealthは従来の紙ベースの質問票をデジタル化した。がん患者が臨床チームを訪問する際、症状を報告し、より広範なフィードバックを提供するために記入するよう一般的に求められるものだ。

その前提は、レガシープロセスを専用のユーザーフレンドリーなデジタルインターフェイスに移行することで、より良い患者の自己管理、治療アウトカム、そしてがんとともに生きる人々の生活の質の向上をサポートすることにある。アプリ経由でデータを報告するのが相対的に簡単であることに加えて、同社はそこにより幅広いサポートパッケージを組み合わせている(アプリにサポートコンテンツを提供するために慈善団体Macmillan[マクミラン]およびBowel Cancer UK[バウエル・キャンサーUK]と協力している)。

例えば、A/BテストとAIを利用して、適切なリソースを抽出するためのパーソナライズされたタイムリーなレコメンデーションの設定、患者の薬の服用に対する注意喚起や動機づけの最善方法の決定、がん治療のための複雑な投薬レジームとなり得るものの管理などを行っている、とカービー氏は説明する。

Vinehealthのアプリラッパーは、患者にPROを提供するよう促すポジティブなフィードバックを施すこともできる。

カービー氏は、患者がPROのデータを効果的に追跡すれば、生存率が最大20%上昇する可能性があるというエビデンスを挙げている。「より良い自己管理は、生存に多大なインパクトを与える可能性があります」と同氏は話す。「私たちは生存率の改善だけではなく、生活の質の向上も提示したいのです」。

行動科学とデータ駆動型サポートを融合したVinehealthのアプローチは、共同創業者たちの専門知識を組み合わせたものだ。

「レイナ(Rayna Patel[レイナ・パテル]氏、共同創業者兼CEO)の経歴はまさに行動科学にあり、私の経歴はデータ科学にあります」とカービー氏は語る。「私たちが協働を始めたとき、ここで双方を有効に活用できると考えました。データを使用することで、人々がどのような状況に置かれているかを把握し、そのナッジが最も効果的なのはどこかを特定することができます。また、行動科学を利用して、適切なタイミングで重要なポイントを的確な言葉で提供することで、人々が習慣を身につけ、よりコントロールできるようになり、何が起こっているのかを実際に理解し、自分のケアのためにより良い決定を下せるようになります」。

「アプリにはいくつかのナッジがあります。大小さまざまです。実際に効果があり、患者に見過ごされてしまうことのない、特定の方法で提供される薬のナッジやリマインダーを開発しています。特定の症状や、それが何につながるのかを記録するためのナッジであり、特定の支援コンテンツを形成するものです。特定のレベルで懸念を記録していくことができます。ここには、具体的な症状や薬の副作用に対処するのに本当に役立つ支援コンテンツがあるのです」。

「時によって、タイミング、言葉の使い方、そしてそのナッジを届けることに関する要素に配慮します」と同氏は言い添えた。「一度にあまりにも多くのことを変えようとすると、何も変えられないという研究結果が出ています。ですから私たちは、どのように患者を少しずつ動かしていくか、どのように患者がより良い習慣を身につける手助けをするのか、またそれをどのくらいの頻度で行うのかについて、慎重に検討を重ねています」。

カービー氏によると、AIを利用して、将来的には予測症状のログ記録など、より高度な提案をプラットフォームに組み込むことも目標に据えているという。例えば「この特定の患者に対して、この特定の薬で何が起こり得るか」といったことだ。

現在のところ、Vinehealthは腫瘍学に特化し、患者に合わせてカスタマイズされたコンテンツレコメンドシステムを構築している。患者の診断に合わせて調整し、患者の継続的なインプットに適応し、他の同様の患者が閲覧し支持しているコンテンツを考慮に入れていくものである。

研究面では、9つのNHSトラストと300人の患者が関与する進行中の研究がこれまでに同プラットフォームで利用された中で最大の研究であり、これはVinehealth自身が行っている研究の一部でもあるとカービー氏は述べている。

健康データはもちろん非常に機密性が高く、Vinehealthが医療情報を処理してサービスを提供し、個別化された治療サポートを行うためには、患者支援プロダクトのユーザーに求められる同意とは別に、第三者による研究目的のための同意が求められることをカービー氏は認めている。

「そのデータは誰とも共有されないものです。ただし、明示的に同意した場合を除きます。プラットフォームにサインアップするだけで、臨床試験の一環としてデータを共有することに同意することにはなりません。これはまったく別の同意です」と同氏はいう。

「私たちはそれを極めて明確にしており、いかなる形であっても共有を隠すことを望んではいません。それは患者にとって真に明白かつ明確でなければなりません。最終的には誰もが患者をサポートしたいと考えています。患者が臨床試験に参加する機会を増やし、そのデータを収集し、例えば自宅で関連する副作用に苦しんでいて、製薬会社に戻ることがないような状況でもそのデータをフィードバックできる方法を提供したいと思っているのです。だからこそ私たちは、自分たちが何をしているのか、なぜそれをしているのかを真に明確にし、患者に選択肢を提供していこうと努めています」。

将来的には、同スタートアップは、患者から提供され、純粋に集計されたインサイトに基づいて「適切に匿名化された」データセットを提供できるようになるかもしれないことをカービー氏は示唆した。例えば、特定の薬剤の特定の副作用を経験している人口統計学的グループをハイライトすることができるかもしれない。しかし現時点では「臨床試験と患者支援プログラムに重点を置いているため」それは行っていないと同氏は付け加えた。

短期的には、Vinehealthは米国でのローンチを通じた成長に向けて準備を進めており(「2022年の早い時期」に実現したいと考えている)、18人強のチームは今後6カ月ほどで倍増する見込みで、最初の米国人雇用者はすでに確定している。

「資金調達を行って以来の私たちの主要な焦点は、優秀なチームを採用して成長させ、チームを築き上げることに時間を投資すること、そして全員がミッションに整合し、この新規市場に参入できる拡張性の高いプロダクトを私たちが実際に構築しているのだと明確に認識することに置かれています」とカービー氏。「スタートアップを立ち上げるには優秀な人材が必要です。優れたテクノロジーを持つことはできますが、優秀な人材がいなければ意味がありません」。

Talis CapitalのプリンシパルであるBeatrice Aliprandi(ビアトリス・アリプランディ)氏は声明の中で次のように述べている。「レイナ(・パテル氏)やジョージナ(・カービー氏)と提携することを非常に楽しみにしています。私たちは、ヘルスケアのアウトカムが財務的なアウトカムと直接的な相関関係にあるという独自のバリュープロポジションを考慮して、投資を行う数カ月前からVinehealthの成長に注目していました。これは患者、病院、製薬会社にとってWin-Win-Winの関係であり、医療業界ではほとんど見られないものです」。

「最初のミーティングから、創業者たちのレジリエンスとミッション主導の姿勢はすぐに明らかになり、そのことがこのオポチュニティを非常に魅力的なものにしました。レイナもジョージナも、がん患者の生活と生存を改善することへの極めて強い動機を持っていることは間違いありません。チームとして、彼らはVinehealthを成功に導くための専門知識、スキル、動機の独自の組み合わせを備えています」。

画像クレジット:David Albatev / under a license

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

うつ病の自宅臨床試験の実施に乗り出すCerebralとAlto Neuroscience

パンデミックによって、リモートワーク、学校、研究を注目せざるを得ない状況になっている。実はそうなる前から、分散化臨床試験はおそらくその姿を現し始めていたのだが、今、それが本格的に登場してきた。

2021年12月、高精度の精神医学スタートアップAlto Neuroscience(アルトニューロサイエンス)とオンラインメンタルヘルスプロバイダーCerebral(セラブラル)が、アルトのうつ病薬候補ALTO-300の分散化フェーズ2臨床試験で協力すると発表した。この臨床試験の大半は患者の自宅で実施される。

具体的にいうと、このプロジェクトでは、セラブラルのプラットフォームから、現在うつ病で苦しんでいるが、既存の治療法では症状が改善されない約200人の患者を募集する。アルトは新薬を提供するだけでなく、患者の生体指標を使って患者に効果がある(または効果がない)薬品を予測するという同社独自の新薬開発アプローチを評価しようとしている。

「臨床試験に数十億ドル(数千億円)を使う羽目になる前に、患者グループに対して徹底した表現型検査を実施して、患者のどのサブグループが本当に新薬の恩恵を受けることができるのかを特定するという方法は、業界では至極道理に適っているものの、これまで誰も行おうとしなかったのです」とセラブラルの医務部長David Mou(デビッド・マオ)氏はTechCrunchに語った。

「ある意味、当社とアルトは相性抜群でした。当社はアルトが必要としているものを持っていましたし、アルトのビジョンは最も成功する可能性が高いものだと確信しています」。

分散化臨床試験の興味深い点

「分散化臨床試験」の定義はいろいろあり、それぞれ微妙に異なるものの、基本的には、バーチャルに、またはモバイル臨床医によって、何らかの形で患者に医療行為が施されるという意味だ。また、データも通常患者のいる場所で収集される。わざわざ、研究センターまで患者が足を運ぶ必要はない。

臨床試験を患者の自宅で実施することによって、患者から見た煩わしさが軽減されるため、現在の臨床試験が抱える大きな問題を解消できる可能性がある。例えば臨床試験を受ける患者の約7割が研究センターから2時間以上離れた場所に住んでいる。登録者数不足のため臨床試験が打ち切られることもよくある。およそ8割の臨床試験で、試験実施までに十分な数の患者を登録できていない。また、専門家によると、臨床試験を患者の自宅で実施することで、新薬研究の多様性とアクセス可能性が向上する可能性があるという。

今回の臨床試験は最初の分散化臨床試験というには程遠いものだが、業界の転換期に登場した手法であることは間違いない。

McKinsey(マッキンゼー)の調査によると、パンデミック前は、分散化臨床試験が主力サービスになると考えていたのは、製薬会社と開発業務受託機関(CRO:製薬会社と契約して開発をする組織)の38%ほどに過ぎなかったという。

マッキンゼーが同じ調査を2020年に実施したところ、回答した企業や機関すべてが、分散化臨床試験は今後大きな役割を果たすようになると考えていると回答した。

今回の臨床試験で判明すること

今回の臨床試験で、自宅で収集されたデータの強み、そうしたデータに対するFDAの考え方、そして現実世界で現場ベースの臨床試験が長年に渡って抱えてきた問題が分散化臨床試験によって解決されるのかどうかといった点について多くのことが明らかになる可能性がある。

詳細なデータを収集することは、アルトの医薬品開発戦略にとってとりわけ重要である。それは、同社が、EEG測定値から感情や気分に関するアンケートまで、さまざまなメンタルヘルス診断を使用した独自の生体指標(体の状態や病態を示す指標)駆動型の患者ポートレートを基盤としているからだ。

「当社はさまざまな精神疾患用の新薬を開発していますが、その際、脳のテストや脳の生体指標に基づいてその新薬の対象となる患者を特定することに重点を置いています」とアルトの創業者兼CEOのAmit Etkin(アミット・エトキン)氏はTechCrunchに語った。

「つまり、今回の臨床試験における当社の主眼点は、当社の収集した整体指標データによって、当社の新薬が効果を発揮する患者を、最も一般化可能な形で特定できることを確認することです」。

セラブラルが近く実施されるアルトの臨床試験において魅力的なパートナーとなる理由はいくつかある。まず、セラブラルは今回の臨床試験の具体的な内容に適合する患者グループを迅速に見つけることができたという点だ。「当社は今回の臨床試験の対象となる200人の患者を1時間以内に見つけ出しました」とマオ氏はいう。

しかし、最も重要なのは、セラブラルが患者や臨床医に関する膨大なデータをすでに収集蓄積しているという点だった。つまり、セラブラルはアルトが必要とする高品質のデータを収集する能力を備えているということだ。このデータには、重篤なうつ病(ウェルネス分野に属するアプリでは対象外となることが多い病状)を患っている患者に関するデータも含まれる。

例えばセラブラルの登録患者はすでに症状や心的状態についてのアンケートに定期的に回答している。またCerebralは臨床医の処方パターンに関するデータも持っており、どの薬が効果がある(または効果がない)のかを知ることができる。

「当社は高品質の医療を非常に重視してきたので、バックエンドにデータインフラを構築せざるを得ませんでした。結果として、患者と臨床医について、現存する他のどのメンタルヘルスプロバイダーよりも詳細に把握できるようになりました」とマオ氏はいう。

厄介なのは、分散化リモート方式で収集されたデータをFDAがどのように見るかという点だ。このプロセスは現在開発中だ。たとえば2021年4月に、FDAは、がんの分散化臨床試験において、対面で収集したデータとリモートで収集したデータを識別できるようにデータセットにラベル付けを行うことを義務付けた。

今回の臨床試験では2つの手法を比較対照できるという利点もある。実際、アルトは、ALTO-300について2の類似した臨床試験を併行して進めている。1つはCerebralと協力して行うものもう1つは従来のサイトベースで行うものだ。

ここでの狙いは、ALTO-300の有効性を検証することだけではない。分散化高精度精神科臨床試験というアイデアそのものをテストするという目的もある。

「当社が行おうとしているのは、FDAに代わって当社のアプローチの正当性を立証し、分散化アプローチで得られる結果が、従来のサイトベースのアプローチで得られる結果と比べて何の遜色もないことを示すことです」。

最後に、今回の臨床試験によって従来の臨床試験が抱えていたさまざまな障害(登録者数不足など)を克服できるという証拠もいくつかあがっている。とはいえ、この方法も完璧ではない。例えばセラブラルの臨床試験に登録されている患者は、ニューヨーク、ダラス、アトランタなどに在住しており、必ずしも主要な医療センターから何時間も離れているというわけではない。

「この方法で登録者数不足が解消されるかといえば、完全に解消されることはないでしょう」とマオ氏はいう。「しかし、今回の登録者たちは極めて精度の高いグループです。従来のように実際の病院経由で登録患者を集めるよりも、本当にうつ病を患っている可能性がずっと高いと思われます」。

試験から商品化へ

両創業者とも、分散化臨床試験は医薬品の商品化の下準備になることを指摘している。例えばセラブラルは承認後に処方すれば患者に効くと思われる薬を承認前に簡単に処方できるとマオ氏は指摘する。

アルトから見ると、セラブラルはメンタルヘルスの生体指標を臨床診断に持ち込むためのパイプ役になる。これはメンタルヘルスの症状を診断する際の長年の懸案だった(これまでメンタルヘルスの診断は、医療試験ではなく、行動に現れる症状を観察することによって行われていたが、一部の研究者やアルトなどの民間企業が生体指標の確認による診断へと変えるべく取り組みを進めてきた)。

「当社の投薬用生体指標データが承認されれば、セラブラルなどのパートナー企業は同データを臨床試験に持ち込むのに理想的な存在となります。彼らの臨床ケアは構造化が進んでおり、徹底して追跡されているからです」。

アルトとセラブラルの両社は、今回の臨床試験について、2022年末までに最初の結果を取得する考えだ。

画像クレジット:Evgeny Gromov / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

ロボットが人の手を借りずに豚の腹腔鏡手術に成功

Johns Hopkins(ジョンズ・ホプキンズ大学)の研究者たちは今週、彼らが開発した「Smart Tissue Autonomous Robot(STAR、スマート組織自律ロボット)」システムが、人間の誘導なしにブタの組織の腹腔鏡手術を完了したことを記したレポートを発表した。この手術は、2つの腸管端部を縫合するもので、動物での手術に成功し、人間が行った場合よりも「格段に良い」結果が得られたと、研究者チームは述べている。

このような手術を完全に自動化するためには、いくつか越えなければならないハードルがある。その筆頭には、人間や豚などの組織は柔軟であり、予測不可能な性質を持っているため、プログラムを組むのが非常に難しいという事実がある。

人間の外科医は長い時間をかけて組織を扱う方法を学んできたが、ロボットの外科医にとってはさらに大変な仕事になる。今回のロボットシステムは、2016年に開発されたシステムがベースになっており、すでに豚の手術を上手くやり遂げたことがあるものの、これまでは人間の手による誘導や大きな切開などの補助が必要だった。STARの誘導システムのアルゴリズム構築には、3次元マシンビジョンが使用されている。

本論文の筆頭著者であるHamed Saeidi(ハメド・サエディ)氏は「STARが特別なのは、人間の介入を最小限に抑えながら軟部組織での手術計画を立案し、適応し、実行した初めてのロボットシステムだということです」と、リリースの中で述べている。

システムの開発者たちは、この技術がさらに高い精度と再現性を持って、このような手術に使えるようになると確信している。ロボット手術は、これまで高度に専門的な技術が必要とされた手術を、より多くの人が均等に受けられるようになるために役立つ可能性があるとして、ここ数十年の間に多くの関心と資金を集めるようになっている。

画像クレジット:Johns Hopkins, Axel Krieger, Jin Kang

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

精神疾患者向けカウンセリングAI実現のための大規模対話データベース構築に関する産官学共同研究プロジェクト

精神疾患者向けカウンセリングAI実現のための大規模対話データベース構築に関する産官学共同研究プロジェクト

精神障害者や発達障害者の教育・就労支援を行うフロンティアリンクは1月26日、日本初となる実際のカウンセリングの臨床データに基づいた大規模な対話データベースを構築し、「カウンセリングAI実現に向けたカウンセラーの効果的なコミュニケーションのパターン解析」を行うプロジェクトを開始すると発表した。これは、国立精神・神経医療研究センター東京工業大学との共同研究。また、国立精神・神経医療研究センター倫理審査の承認を得たものという(承認日:2021年11月15日、承認番号:B2021-084)。

日本では、100万人を超えるひきこもり者、400万人を超える精神障害者があり、その数は糖尿病やがんの患者数を上回るという。しかし、精神疾患の専門機関への相談は敷居が高いと感じる人が多く、カウンセリングを受けたことのない人が全体の94%に上っている(中小企業基盤整備機構。2019)。「潜在的には相談ニーズがあっても実際の相談行為に至らないというケースが多い」ということだ。

そうした潜在的相談ニーズをすくいあげるツールとして、AIがある。すでに音声アシスタントやホテルの受け付けなどで利用されている会話型AIを使うことで、相談の敷居が下げられる。場所や時間の制約も受けない。また、精神疾患者には外出が不安だったり、対人交流ができない人の場合、バーチャルのほうが自己開示しやすいという研究報告もある。

ただ、カウンセリングAIの開発には基盤となるデータベースが必要となる。研究の進んだ海外では、電子学術データベースを擁する出版社「Alexander Street Press」が体系的に整理された4000ものカウンセリングセッションの逐語データをオープンソース化するなど、対話型のAIカウンセリングシステムの発展に寄与しているが、日本では先行研究に使用できるデータが少なく、学生のロールプレイによる模擬データであったりするため、ユーザーの話を傾聴し、話を「深める」システムの発達について課題がある状況という。

そこでフロンティアリンクは、産官学共同で、実際のカウンセリングの臨床データに基づく大規模な対話データベースを構築し、このプロジェクトを開始した。ここでは、経験豊富なカウンセラーのカウンセリングデータを、600セッション収集することを目指す。また、自然言語処理、言語学、情報システム、精神医学、臨床心理学の専門家が、カウンセラーの効果的な発話の分析を行うとしている。

このプロジェクトで期待される効果には、精神疾患の重篤化を防ぐ早期発見、早期介入によるメンタルヘルスの増進のみならず、専門家の雇用促進、専門機関のネットワークの拡充、気軽に相談できる風土の促進が挙げられている。カウンセリングAIにより気軽に相談できる環境が整えば、それを通してユーザーを専門機関につなげるネットワーク作りも可能になるということだ。

画像クレジット:Volodymyr Hryshchenko on Unsplash

患者と医師、両方からデータを得てがん治療をよりパーソナライズする仏Resilience、約51.6億円調達

フランスのスタートアップであるResilience(レジリエンス)は、中央ヨーロッパ時間1月25日、Cathay Innovationが主導するシリーズAラウンドで4000万ユーロ(約51億6000万円)を調達したと発表した。同社は、がんと診断されたときの治療の道のりを改善し、より健康で長い人生を送れるように支援することを目指している。

このラウンドには、Cathay Innovationに加え、既存投資家であるSingularも参加した。Exor Seeds、Picus Capital、Seaya Venturesなどのファンドもこのラウンドに参加している。さらに、Fondation Santé Service、MACSF、Ramsay Santé、Vivalto Venturesといったヘルスケア分野の投資家も参加している。

Resilienceについては2021年3月にすでに紹介しているので、ぜひ前回の記事を読んで、この会社のことをもっと知っていただきたい。同社は、シリアルアントレプレナーであるCéline Lazorthes(セリーヌ・ラゾルテス)氏とJonathan Benhamou(ジョナサン・ベンハモウ)氏が共同設立した会社で、がん治療において患者と医療提供者の両方を支援したいと考えている。

関連記事:ITでがん治療を支援するフランスの意欲的なスタートアップ「Resilience」

患者側では、Resilienceはがんやがん治療の影響や副作用を測定し、理解し対処するのに役立つ。ユーザーはアプリ内でさまざまなデータポイントを追跡し、自分の病気に関するコンテンツや情報を見つけることができる。

だが、Resilienceは自宅で使用するアプリだけではない。病院が治療をよりパーソナライズするための、病院向けのSaaSソリューションでもあるのだ。Resilienceは、世界有数のがん研究機関であるGustave Roussy(ギュスターヴ・ルシー研究所)とのパートナーシップにより設立された。

医療関係者は、患者がアプリを使って集めたすべてのデータを活用できるようになる。これにより、がん治療施設は患者をよりよく理解し、より迅速にケアを適応させることができる。ResilienceはBetteriseを買収することで、データ駆動型のがん治療に関して先陣を切ることができた。

長期的なビジョンは、それよりもさらに野心的だ。がん治療施設で働く医療提供者に話を聞くと必ず、時間がいくらあっても足りない、という。

しかも、ますます専門化していく新しい治療法を把握するのはさらに困難だ。Resilienceは、医師に取って代わるものではない。しかし、医師が盲点を克服する手助けをしたいと考えている。

その結果、患者はより良い治療を受けることができ、Resilienceアプリによって追加サポートを受けられるようになるはずだ。がんの治療は長く苦しいものなので、プロセスを改善することができれば、それは良いことに違いない。

画像クレジット:Resilience

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(文:Romain Dillet、翻訳:Aya Nakazato)

AI問診・病名予測アプリのUbieが新型コロナ第6波を受け全国の病院・クリニックへ「ホームページAI相談窓口」を無償提供

AI問診・病名予測アプリ開発のUbieが新型コロナ第6波を受け全国の病院・クリニックへ「ホームページAI相談窓口」を無償提供

Ubieは1月25日、全国の病院・クリニックを対象に「ホームページAI相談窓口」の無償提供を開始したと発表した。来院前に各医療機関のウェブサイト上でAIを使用した事前問診が行えるサービスで、患者の症状に応じた適切な案内と問診時間削減による院内感染リスクの低減を実現する。導入・設置にかかる費用は無料。医療機関向けの問い合わせ先は、「【緊急提供】第6波を受け、全国の病院・クリニックへ「ホームページAI相談窓口」の無償提供を開始_医療機関さま向けお問い合わせフォーム」となっている。

ホームページAI相談窓口では、各医療機関のウェブサイト上において、患者が症状に応じた20問程度の質問に回答し、問診結果を受診前に医療機関へ送信できる。医療機関側は、医師語に翻訳された問診結果を受け取ることで、事前に患者の症状を把握可能。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関連症状がある場合は、「導線や診療時間を振り分ける」「発熱外来に対応している他医療機関を案内する」など適切な対応を取れる。また、受付での問診時間の短縮により、院内感染リスクの低減にもつながるとしている。AI問診・病名予測アプリ開発のUbieが新型コロナ第6波を受け全国の病院・クリニックへ「ホームページAI相談窓口」を無償提供

年始からコロナ禍の再拡大による第6波が全国に到来しており、より感染力の強いオミクロン株により病院・クリニックでは、来院患者がこれまでにない速さで急増している。また、新型コロナ関連症状患者の1次対応や振り分けを行う各自治体の保健所のリソースもひっぱくし、医療崩壊の危機を迎えている状態にある。

Ubieは、いまだ感染のピークが見えない状況でこの危機を乗り越えるためには、病院・クリニックがより多くの患者を受け入れられる体制の構築と従業員・患者の院内感染防止が必要不可欠と指摘。今回の第6波における医療現場の状況を踏まえ、持続可能な医療体制の構築のため、一部医療機関で試験的に導入していた「ホームページAI相談窓口」の正式リリースおよび無償提供開始を決定した。

Ubieは、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げ、医師とエンジニアが2017年5月に創業したヘルステック領域のスタートアップ。生活者の適切な医療へのかかり方をサポートするウェブ医療情報提供サービス「ユビーAI受診相談」、紙の問診票のかわりにタブレットやスマートフォンを活用した「ユビーAI問診」を提供している。ユビーAI受診相談は月間300万人以上(2021年9月現在)が利用し、ユビーAI問診は全国47都道府県・500以上(2022年1月現在)の医療機関が導入しているという。

患者は、ユビーAI受診相談を利用することで、気になる症状から関連する病名と適切な受診先をいつでもどこでも調べることができる。またユビーAI問診では、AIを活用したスムーズかつ詳細な事前問診を実現することで、医療現場の業務効率化や患者の滞在時間削減に寄与する新しい医療体験を生み出している。

IBMが医療データ管理「Watson Health」事業の大半をFrancisco Partnersに売却

拍子抜けするような結末だが、IBMは米国時間1月21日、Watson Health事業部門のデータ資産をプライベートエクイティ企業のFrancisco Partners(フランシスコ・パートナーズ)に売却した。両社は買収額を明らかにしていないが、以前の報道では約10億ドル(約1137億円)とされていた。

今回の取引でFranciscoは、Health Insights、MarketScan、Clinical Development、Social Program Management、Micromedex、イメージングソフトウェア製品など、Watson Health部門のさまざまな資産を取得する。これによりFrancisco Partnersは、幅広い医療データを傘下に収めることになる。

IBMは2015年にWatson Healthを立ち上げた際、データ駆動型の戦略に基づいてユニットを構築することで、この分野を支配することを望んでいた。そのために、PhytelやExplorysをはじめとする医療データ企業の買収を開始した。

その後、Merge Healthcareに10億ドル(約1137億円)を投じ、翌年にはTruven Health Analyticsを26億ドル(約2955億円)で買収した。同社はWatson Healthが人工知能(AI)の推進に役立つと期待していたが、この事業部門は見込まれていた成果を上げることができず、2019年にGinni Rometty(ジニー・ロメッティ)氏に代わってArvind Krishna(アルビンド・クリシュナ)氏がCEOに就任した際には、クリシュナ氏の優先順位は異なっていた

Francisco Partnersはこれらの資産をもとに、独立した新会社を設立することを計画している。この部門が期待通りの成果を上げられなかったことを考えるとやや意外な動きではあるが、少なくとも今のところは、同じ経営陣を維持する予定だという。

Francisco PartnersのプリンシパルであるJustin Chen(ジャスティン・チェン)氏は、新会社がその潜在能力を発揮できるよう、さらなるサポートを提供する予定だという。「Francisco Partnersは、企業と提携して部門のカーブアウトを実行することを重視しています。我々は、優秀な従業員と経営陣をサポートし、スタンドアロン企業がその潜在能力を最大限に発揮できるよう、成長機会に焦点を当てて支援し、顧客やパートナーに高い価値を提供することを楽しみにしています」と同氏は声明で述べている。

IBMがこの売却を行うのは、ヘルスケア分野が盛り上がっている中でのことだ。2021年、Oracle(オラクル)は280億ドル(約3兆1825億円)で電子カルテ企業のCernerを買収し、Microsoft(マイクロソフト)は200億ドル(約2兆2733億円)近くと見積もられる取引でNuance Communicationsを買収した。どちらの取引も規制当局の承認を得ていないが、大手企業がいかに医療分野を重視しているかを示している。

関連記事
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マイクロソフトが過去2番目規模で文字起こし大手Nuance Communications買収、ヘルスケア分野のクラウドを強化

そのため、この動きはMoor Insights & Strategyの主席アナリストであるPatrick Moorhead(パトリック・ムーアヘッド)氏を驚かせたという。「傾向としてはより垂直なソリューションに移行しているので、非常に驚いています。それを考えると、いかに同部門の成績が悪かったかを潜在的に示しているともいえるでしょう」。

いずれにしても、今回の買収は規制当局の承認を待って行われ、第2四半期中に完了する予定だ。この取引には機密性の高い医療データが含まれていることから、さらに精査される可能性もある。

画像クレジット:Carolyn Cole / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Dragonfly)

睡眠時無呼吸症候群(SAS)解決ソリューション開発のマリが3億円のシリーズA調達、開発中の治療機器の薬事承認化を加速

睡眠時無呼吸症候群(SAS)解決ソリューション開発のマリが3億円のシリーズA調達、開発中の治療機器の薬事承認化を加速

イビキや睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの睡眠障害を解決するソリューションを開発するマリは1月20日、シリーズAラウンドにおいて第三者割当増資による総額3億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は、既存投資家のMPI-2号投資事業有限責任組合(MedVenture Partners)のほか、イノベーション京都2021投資事業有限責任組合(京都大学イノベーションキャピタル)、KIRIN HEALTH INNOVATION FUND(グローバル・ブレイン)。

2017年11月設立のマリは、SAS患者の負担が少なく受け入れやすい完全非接触の診断・治療法の提供を目指す京都大学発のスタートアップ企業。調達した資金により、現在開発中のSAS治療機器の臨床研究を推進し、独自技術による治療ソリューションを確立させ、医療機器の薬事承認に向けた治験の準備を進める。

SASは、日本において治療が必要な患者が約500万人とされ、患者本人が気づかない間に高血圧・動脈硬化などをもたらし、重篤な場合は心不全や脳梗塞などの疾患につながる可能性もある。しかし自覚症状に乏しく、治療の第1選択肢である持続陽圧呼吸療法(CPAP)は受け入れや治療継続面での課題が顕在化しているという。このような課題に対してマリは、「Sleep Freely. 世界の睡眠障害をやさしく解決したい」を理念に掲げ、ミリ波レーダー計測・解析技術や音声解析技術を用いた非接触睡眠状態評価・生体情報センシング技術を開発している。

「栄養」をがん治療の柱にすることを目指すFaeth Therapeuticsが約23億円調達

目の前に熱々のパッタイがある。その味と食感は、手軽なテイクアウトの夕食から想像できるものだ。しかし、これは単なる食事ではなく「薬」だ。

この仮説上のパッタイは、スタートアップFaeth Therapeutics(フェイス・セラピューティクス)が開発した、がんと闘うための食事療法の一部だ。食事そのものは、科学者によってすでに遺伝学的に精査されて「腫瘍を飢えさせる」ように特別に作られ、既存の抗がん剤や治療法と組み合わせて使用される。がん治療に対するこの「プレシジョンニュートリション(個別化栄養)」アプローチは確かに新しいものだが、2019年に創業されたFaeth Therapeuticsは、このアプローチを臨床に持ち込む最初の企業となることを望んでいる。

「会社設立の本当のきっかけは、世界的な科学者の3つの独立したグループが、私たちが基本的にヒト生物学とがんの治療の大部分を無視していることにそれぞれ気づいたことです」とFaeth Therapeuticsの創業者でCEOのAnand Parikh(アナンド・パリク)氏は話す。

「私は冗談で、これをがん生物学のマンハッタン計画と呼んでいます。科学者たちはそれぞれこの問題に異なるアプローチをしていましたが、既存の治療薬を増強するだけでなく、これらの栄養素の脆弱性をターゲットにした新しい治療薬の開発をサポートするために、がん患者の栄養を変えなければならないという考えに至りました」

Faeth Therapeuticsは米国時間1月18日、2000万ドル(約23億円)のシードラウンドを発表した。従業員15人を擁する同社にとって初の外部資金調達ラウンドだ。同ラウンドはKhosla VenturesとFuture Venturesが共同でリードした。また、S2G Ventures、Digitalis、KdT Ventures、Agfunder、Cantos、Unshackledが参加している。

Faeth Therapeuticsについてまず注目すべき点の1つは、同社を支える科学的なチームだ。Faethの共同設立者は次のとおりだ。2011年ピューリッツァー賞一般ノンフィクション部門を受賞した「The Emperor of All Maladies(病の「皇帝」がんに挑む 人類4000年の苦闘)の著者でコロンビア大学の腫瘍学者であるSiddhartha Mukherjee(シッダールタ・ムカージー)氏、Weill Cornellのメイヤーがんセンター所長でPI3Kシグナル伝達経路の発見者であるLewis Cantley(ルイス・キャントリー)氏、英国がん研究所の主任研究者でフランシス・クリック研究所のグループリーダーであるKaren Vousden(カレン・ボーデン)氏。ボーデン氏は、がん抑制タンパク質p53の研究で知られている。

特にキャントリー氏とボーデン氏は、代謝とがん治療の関係を深く追求した最初の人物だ。

例えば、PI3Kは細胞の代謝、成長、生存、増殖に影響を与える細胞シグナル伝達経路だが、がん患者ではしばしば制御不能に陥ることがある。この経路を標的とした薬があるが、キャントリー氏の研究は、患者によっては高血糖に陥り、この経路の制御異常を誘発する可能性があることが示唆されている。同氏は、その代わりに食事療法によってインスリンレベルを下げることで、再活性化を回避し、薬の効果を高めることができることを明らかにした。例えば、ネイチャー誌に掲載されたマウス研究では、ケトン食(低炭水化物、高脂肪)にすると、グリコーゲンの貯蔵量が減り、薬の効果を妨げる可能性のあるスパイクを防ぐことができることが示された。

これまで前臨床研究は断続的に有望視されてきたが、まだ多くの作業を必要としている(ムカジー氏がキャントリー氏の研究を説明する自身の論説で述べているように)。しかし、パリク氏は、この研究を改善し、よりターゲットを絞った方法で栄養学に基づく医療にアプローチする余地がまだたくさんあると指摘している。

「多くの人が、ケトン食で膠芽腫を治療しようといっていると思います。しかし、それよりも深いレイヤーがあるのです」と同氏は話す(注意:ケトン食[低炭水化物、高脂肪]食は、特定の膠芽腫の症例にも展開されている)。

「膵臓がんの場合、膵臓の腫瘍の働きによって、特定の栄養素に対するニーズが高くなる可能性があることがわかってきました。この場合、アミノ酸が必要かもしれません。そこで、特定のアミノ酸が不足するような食事を作るのです」。

Faethの使命は、今回調達した資金を利用して、この分野の研究を拡大・深化させることだとパリク氏は付け加えた。

栄養と健康は明らかに関連しており、栄養はがんの転帰に影響を及ぼす。しかし、この分野の研究は、当然のことながら懐疑的な見方をされることがある。食事と健康に関しては、科学的事実から、かなり簡単に神話の領域に入ってしまうことがある。はっきりいえば、この研究はがんのための「奇跡の食事」や「食事ベースの治療法」を宣伝しているわけではない。むしろ、栄養学ががん治療の「5本目の柱」になりうるかどうかを、科学的な研究を通じて検証することを目的としている。

Faethは、前臨床試験で明らかになった関連性を検証するために、すでに3つの試験の準備を進めている。ゲムシタビンとナブパクリタキセル化学療法にアミノ酸低減食を組み合わせた転移性膵臓がんの試験を開発中で、また、転移性大腸がんを対象とした別の試験も準備している。最後に、パリク氏によると、インスリン抑制食に関する試験が今後数週間のうちにclinicaltrials.govに掲載される予定だ。

もし、治療を保証するほど強力な結びつきが証明されれば、(前述のパッタイのような)高品質の食事と抗がん剤が一緒になってより良い治療結果をもたらすようながん治療をパリク氏は想像している。放射線治療や化学療法を受けながらも、家に帰れば医師が処方した食事が玄関まで届く(パリク氏は「世界的なシェフが開発した食事」だと付け加えた)。そして、心配な点が出てきたら栄養士に相談する。

しかし当面はこの研究を臨床の場に持ち込むことにほぼ全力を注ぐと同氏はいう。

「前臨床でできる限りのことをやってきたので、今回、臨床に移行するために資金を調達しました。安全性の確認はもちろんですが、有効性のシグナルがあるかどうかも確認するために、初期段階の試験を行っています」と、パリク氏は述べた。

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi