ありそうでなかったウェアラブル・トランシーバー「BONX」 スノボ好きの元東大生が開発

“ウェアラブル・トランシーバー”というと既存ジャンルに思えるが、そうではない。日本のスタートアップ企業から面白いガジェットが登場した。2014年11月創業のチケイは今日、「BONX」を発表してクラウドファンディングを通じた予約販売を開始した。予約販売の価格は、1個1万5800円、2個だと1つあたり1万4800円などとなっている。色は4色。出荷は11月末から12月中旬。

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BONXは片耳にぶら下げる小型デバイスで、スノーボードや釣り、自転車、ランニングなど屋外で複数人で遊ぶようなときに仲間同士でリアルタイムで会話ができるというコミュニケーションツールだ。耳に装着したBONXは専用アプリを使ってBluetoothで利用者のスマホと接続する。アプリは3G/LTEのネット通信を介して、ほかの利用者と接続しているので、デバイス(利用者)同士の接続距離は、Bluetoothの制限を受けない。

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ここまで聞くと、Blutoothヘッドセットのような感じと思うかもしれないが、以下の点がBONXではユニークだ。

まず、しゃべっているときだけ利用者の音声を拾って接続中の仲間全員に届ける「ハンズフリーモード」を実装しているのが特徴だ。ハンズフリーモードでは、東大発ベンチャーのフェアリーデバイセズが開発した音声認識技術を使うことで、人間の発話だけを検知している。スノボや自転車だと速いと時速30〜50km程度で動くことになるが、このときの風切音や、周囲を行き交うトラックのエンジン音など、外部ノイズを拾いづらい設計になっている。マイクも2つ搭載してマルチレイヤーによる騒音、風切り対策をしているという。こうした対策がない一般的Bluetoothヘッドセットは、スポーツなどでは風切音で使い物にならなくなる。

従来のBluetoothによる音声通話と、BLEによるスマホとのペアリングという新旧のBluetoothを同時に使う「デュアルモード」を使っているのも実装上の特徴で、これによって高音質と低消費電力を実現している。チケイ創業者でCEOの宮坂貴大氏によれば、バッテリー駆動時間は現在バッテリーモジュールの調達中のために不確定であるものの最低5時間以上は確保できるだろうとしている。

BONXはハンズフリーモード以外にも、「ノーマルモード」を用意している。これは、いわゆるPTT(プッシュ・トゥ・トーク)で、トランシーバーのようにしゃべりたいときに明示的にボタンを押す形だ。ノーマルモードで利用するとバッテリーがより長時間持つほか、音声の遅延が少ないという。ハンズフリーモードでは音声検知をしている分、遅延が入るが、ぼくが量産試作機を実際に少し使ってみた感じでは実用上問題ないレベルのものに感じられたことを付け加えておこう。サーバ側の実装としても、遅延の蓄積が検知された段階で遅延分を無視して、リアルタイム性を優先するような処理を入れるなどBONXでは「スポーツなどでのリアルタイムコミュニケーション」というユースケースに特化した最適化をしているそうだ。この利用シーンについてチケイは「アウトドアで激しい運動をしている最中でも、まるでちゃぶ台を囲んでいるかのような自然な会話ができるというのは、実際に体験として画期的」で、「BONXを使うことで逆に、今までがどれだけ孤独だったのか気づきます」と説明している。

GoProにインスピレーション、スノボ好きの元東大生が起業

チケイを2014年11月に創業した宮坂貴大CEOは、東京大学で修士課程を終えるまで合計8年間大学にいたが、「大学時代は、半分くらいはスノボをやっていて、4年間は北半球と南半球を往復していた」というほどのスノボ好き。2011年4月の大学卒業後はボストン・コンサルティングで戦略コンサルタントとしての道を歩んでいたが、BONXのアイデアを思い付いて2014年8月に退社。もともと「いつかは自分で事業をやりたいとは思っていた」という宮坂CEOは、肥料や農薬を使わない「代替農業」での起業も考えていたが、GoProの華々しい成功にインスピレーションを受けたそう。

チケイ創業者でCEOの宮坂貴大氏

「BONXを思い付いたのは、GoProの事業を見たことがきっかけです。サーファーだった人(GoPro創業者のニック・ウッドマンのこと)が自分自身の姿を撮りたいということでカメラを作ったのがGoProの始まり。個人的なニーズを事業化したわけですよね。これは自分でもできるんじゃないかと思ったんです」。もともとスノボの経験から潜在的ニーズは感じていた。ただ、ニーズがあるならすでに製品があって良さそうなもの。「なぜ今までBONXのようなものがなかったのか?」という問いに対して、宮坂CEOはデュアルモード対応Bluetoothチップが出てきたことや、野外でも電波が入るようになった外的環境の変化を指摘する。

ウィンタースポーツの文脈で言えば、実は日本がウィンタースポーツ大国であるということもある。1992年のピーク時に2000万人いたウィンタースポーツ人口が800万人に激減しているとはいえ、まだまだ多いし回復の兆しもある。規模の違いはあれど、世界にある2000箇所のスキー場の3分の1は日本国内にあるそうだ。宮坂CEOは、すでに電波状況を調べるべく各地のスキー場へ足を運んでいるそうだが、シリコンバレーの人たちが必ずいくスキー場のタホ湖ではケータイの電波が入らないという。つまり、シリコンバレーのギークたちは「雪山なんて電波入らないじゃん」と思っているかもしれず、BONXは日本で生まれるべくして生まれたようなところがあるのだ。ちなみに全世界だとウィンタースポーツ人口は5000万〜1億人程度と言われているそうだ。もう1つのBONXのターゲット層であるサイクリストは数千万人規模。

宮坂CEO自身は文系だが、プログラミングやArduino工作を自分で勉強したりハッカソンに参加する中で、ハードウェア関連スタートアップ企業のユカイ工学創業者で代表の青木俊介氏に出会い、そこからiOSハッカーで知られる堤修一氏などをプロジェクトに巻き込んだ。現在は早稲田大学系VCのウエルインベストメントなどから総額1億円ほどの資金を集め、フルタイム4、5人、フリーランスも入れると14、5人というチームでプロジェクトが動き始めているという。

アイデアの検証は2014年末に開始して、今は量産試作段階。この11月にも深センでの量産を開始する。ハードウェアスタートアップが深センで量産するというと、予期せぬトラブル発生という事態も脳裏をよぎるが、実はプロジェクトチームには元エレコムのデザイナーが立ち上げたデザイン事務所が入っていて、深センでの発注経験があるエレコム時代のチームでやってるのだとか。国内GreenFundingでのキャンペーンを終えたら、第2弾として来春にはKickstarterでのキャンペーンも予定している。第2弾では、よりスポーツに適した性能を発揮するモジュールを組み込むアイデアもあるそうだ。

さて、BONXを発表したチケイだが、実は11月17日、18日に渋谷ヒカリエで開催予定のTechCrunch Tokyo 2015のスタートアップバトルのファイナリストとして登壇が決定している。書類審査による予選を勝ち残った12社のうちの1社だ。まだチケットを販売中なので、ぜひチケイのようなスタートアップの勇姿を会場に見に来てほしい。

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ニュースアプリ「Vingow」などを開発するJX通信社、共同通信デジタルと資本業務提携

JX通信社代表取締役の米重克洋氏(左)と取締役の

JX通信社代表取締役の米重克洋氏(左)と取締役COOの細野雄紀氏(右)

ニュースアプリ「Vingow」などを開発するJX通信社は10月15日、共同通信デジタルとの資本業務提携を実施したことを明らかにした。資本提携として、共同通信デジタルを割当先とした第三者割当増資を実施。金額は非公開だが、関係者らによると億単位の資金を調達しているという。

「NewsDigest」

「NewsDigest」

JX通信社は2008年の設立。2012年10月よりVingowを提供している。Vingowは、ユーザーがあらかじめ登録したキーワードに対して、最適なニュースを閲覧できるというニュースアプリ。その仕組みを実現するために、同社では独自のエンジンを開発。ネット上の記事をクロール・自動解析・要約している。

Vingowで行っている記事の収集から整理・編集・発信のという一連のプロセスを、SaaS型のニュースエンジン「XWire(クロスワイヤ)」としてニュースサイトなどに提供しているのが同社のコア事業だ。大きなところでは、T-MEDIAホールディングスの運営するポータル「T-SITE」などへの導入実績がある。

また2015年には、速報配信に特化したニュースアプリ「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」の提供も開始。ダウンロード数は数十万件だが、速報ということでプッシュ通知も積極的に行っていることもあり(もちろん設定でオフにできる)「起動回数やアクティブ率は他のニュースアプリと比較しても非常に高いのではないか」(JX通信社代表取締役の米重克洋氏)という。
さらにこのNewsDigestをベースにした法人向けの速報検知サービス「FASTALERT」も開発。大手メディアや金融機関を対象に提供していくという。

速報検知の仕組みについて聞いたところ、「Vingowで1日5万件の記事を解析してきた。その中から例えばどういった単語がニュースに使われるかなどのデータを蓄積している。人によってはビッグデータと呼ぶかも知れないが、そういった情報をもとにニュース性を見ている」(米重氏)とのこと。

これについては同社取締役COOの細野雄紀氏が例を挙げて説明してくれたのだが、例えば「ソーシャルネットワーク上で話題になっている記事」という切り口だけで速報のニュースを集めようとすると、2ちゃんねるのまとめ記事なんかも頻出するそうだ。そこでその内容を「ニュースそのもの」かどうか、すばやく正確に判定するために、Vingowで培ってきたノウハウが生きているという。

今回の資本業務提携により、JX通信社は自社の技術を共同通信グループの報道現場に応用する取り組みを協力して進めるとしている。また共同での新製品開発も検討するほか、XWireの拡販などでも協力していくとしている。

ツイキャスがゲーム実況配信に向けて機能を強化、Twitchやニコ生を追随

twicas2014年にはAmazonがTwitchを買収、2015年8月にはYouTubeも専用のチャンネル「YouTube Gaming」を立ち上げたように、ゲーム実況のストリーミングは世界的なトレンドの1つとなっているようだ。日本だと「ニコニコ生放送」がその文化を作ってきたし、ディー・エヌ・エー(DeNA)も8月にスクリーンの様子をリアルタイムで配信できる「Mirrativ」をリリースして好調だと聞く。

そんなゲーム配信の領域にモイのライブ配信サービス「TwitCasting(ツイキャス)」も参入する。同社は10月14日、ツイキャスにて、外部ツールを使った配信に対応したことを明らかにした。これはゲーム実況配信での利用を想定したものだ。

ツイキャスは4月時点で1000万ユーザーという数字を発表しているが、配信者として最も多いのは、雑談をする女の子。つまりは日常的なことを配信するユーザーだという。ツイキャスのユーザーの6割は女性で、それも10〜20代が過半数。そんなユーザー層もあいまって、「ゲームの実況をしている人は少なかった」(同社)のだという。ツイキャスはアプリによる配信が半分以上だと聞くが、それではテレビ画面を配信すると粗くなってしまう。こういったことも背景にあるのだろう。

だが一方で、ゲーム実況はライブ配信の中でも世界的な盛り上がりを見せている領域。新たなユーザー層を拡大すべく、ニコ生の配信者なども利用する動画配信ソフト「Xsplit」をはじめとした外部ツールへの対応を行ったという。またこれにあわせて、ツイキャス内にゲーム関連の10カテゴリを設置。視聴者の導線も整えた。

では既存のサービスではなくツイキャスでゲーム実況配信をする配信者側のメリットは何なのだろうか。モイによると「プッシュ通知とSNS連携」なのだそう。実況開始時にツイキャスのアプリでプッシュ通知が行われるほか、コメントがTwitter投稿と連携することで、「(ツイキャスというサービスの中に閉じることなく)SNSなどの『外』に情報を発信できることで視聴者が増えることは確信している」(モイ)ということだ。

日本発の米国スタートアップ「ADAWARP」はOculusでテレプレゼンスを実現する

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先月米国サンフランシスコで開催された「TechCrunch Disrupt SF 2015」。イベントの概要は以前にお伝えしたし、そのセッションについてはいくつもの翻訳記事が出ているが、展示ブースの様子についても紹介したい。

今回のDisruptの展示ブースは「Startup Alley」と呼ぶECからエンタメ、不動産にヘルスケア、IoTまで、さまざまな領域のスタートアップが日替わりで出展するブースのほか、日本や台湾、アルゼンチンにブラジルといった国・地域ごとのプロダクトを紹介する「Pavilion Alley」などがあった。例えばJETROが主導した「Japan Pavilion」では、グラッドキューブのサイト解析・A/Bテストツール「Sitest」や、やオフショア開発ネットワークの「セカイラボ」など、約20社の日本発スタートアップの展示を見ることができた。

Disruptにはさまざまなプロダクトが出展していたのだけれども、ひときわ目を引いたのが、イベント会場の一番奥にあったパビリオン「Virtual Reality Pavilion」だ。

このパビリオンに出展するのは、米国のベンチャーキャピタル・Rothenberg Venturesが手がけるVR・AR特化のインキュベーションプログラム「RIVER」の採択企業。そのため、各ブースにはOculus RiftをはじめとしたHMDなんかが並んでいた。Riverは2015年1月からスタートしたプログラムで、日本発のスタートアップもこれまで2社が採択されている。以前TechCrunchでも紹介したFOVEと、今回紹介するADAWARPだ。

ADAWARPが開発するのは、Oculus Riftとゲームコントローラーを使ったロボットによるテレプレゼンス(臨場感のある遠隔地とのコミュニケーション、ざっくり言うと今までよりリアルなビデオ会議システム)装置。専用のソフトを立ち上げたPCと接続されたOculus Riftで見る世界は、ロボットの視野そのもの。首をかしげればロボットも首をかしげるという。さすがにOculusだけでは手足を動かせないため、操作にはゲーム用のコントローラーを使用する。

動画には首や手を自由に動かすクマのぬいぐるみが登場するが、これこそが彼らのプロダクトだ。とはいっても、ADAWARPは別にクマのぬいぐるみを作っているワケではない。Oculusやコントローラーを入力デバイスに使うクラウドサービス、そしてクラウドと連携するロボットのモジュールを開発している。プロダクトはまだ開発中だが、将来的にはOculus以外のハードウェアにも対応していく予定で、すでに複数の国内ハードウェア企業との連携を開始している。

ロボット単体の販売価格は200ドル以下、2016年のクリスマスシーズンにも販売を目指す。テレプレゼンスと聞くとビジネス向けのイメージがあるのだけれど、「遠隔地にいる親子のコミュニケーションをはじめとして、いろいろな利用シーンがあると思う」(ADAWARPの安谷屋樹氏)とのこと。ちなみに安谷屋氏は文部科学省の留学支援制度でシリコンバレーに渡米している最中に起業したのだそうだ。

プロダクトのイメージ

プロダクトのイメージ

DisruptにはADAWARPのように、新しい発想やテクノロジーをもとにしたさまざまなプロダクトが並んでいた。僕たちも日本でそんな新しいプロダクトのお披露目の場を提供したいと考えている。11月17日〜18日に東京・渋谷ヒカリエで開催する「TechCrunch Tokyo 2015」では、スタートアップ・デモ・ブースの出店者を募集中だ。

TechCrunch Tokyo 2015についてはこれまでも何度か紹介したが、昨年実績でのべ1700人以上が参加した日本最大級のスタートアップの祭典だ。スタートアップブースは創業3年未満のスタートアップに限定して提供するブースだ。起業家や投資家のほか、TechCrunch読者や大手企業の新規事業開発担当者など、スタートアップを取り巻くさまざまな関係者に出会うことができるはずだ。ブースは30社限定。興味のあるスタートアップは是非とも出展を検討してもらいたい。

スタートアップ・デモ・ブース申し込みページはこちら
イベント名:TechCrunch Tokyo 2015(ハッシュタグ #tctokyo)
イベント開催日:11月17日(火)、18日(水)
会場:渋谷ヒカリエ(東京都渋谷区渋谷2−21−1)
出展料:5万8320円(税込み。2名分の参加チケットが含まれます)
販売数:30ブース
条件:創業3年以内の企業
主催:AOLオンライン・ジャパン株式会社
問い合わせ先:event@tc-tokyo.jp

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AdobeがMorisawa(モリサワ)とパートナーして20の日本語フォントをTypekitから提供

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Adobeの、東アジアの言語のサポートが拡大を続けている。今年初めにはGoogleとパートナーして、中国語と日本語と韓国語(CJK)のオープンソースのフォントを新たにローンチした。さらにAdobeは、フォントサービスTypekitに、これらのフォントのサポートを加えた。

本日(米国時間10/5)、同社のMAXカンファレンスで、さらに日本語フォントの新たなサポートが発表された。同社は日本のトップクラスの活字メーカーMorisawaモリサワ)とパートナーして、20種の高品質な日本語フォントをTypekitとCreative Cloudのユーザに提供することになる。

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AdobeのTypeとTypekit担当ゼネラルマネージャMatthew J. Rechsによると、AdobeがCJKフォントをライセンスしたのはこれが初めてである。とくに、Morisawaのフォントを日本以外で見つけるのは、これまでずっと困難だったそうだ。

Typekitに含まれる20種のフォントには、Ryuminフォントも含まれる。Adobeのデザインチームによると、これは“もっとも有名な明朝系フォントで、Morisawaの年次報告書によると、長年、人気トップのフォント”、だそうだ。

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“フォントを使いやすくすることの中には、世界中のユーザにとって使いやすくすることも含まれる”、とRechsは説明する。

CJKフォントはラテン文字のフォントと全然違うので、これらのフォントをTypekitで使えるようにするのがチームの最初の仕事だった。CJKは、デフォルトでも、サポートすべき文字種がとてつもなく多い。たとえば、Adobe自身のSource Han Sansフォントには、簡体中国語の文字31000種がある。デスクトップユーザにとっては、あまり問題ではないが、WebでCJKフォントをサポートするとフォントファイルのサイズが急激に大きくなる(だからテキストの一部を画像で表示するアジア系サイトも少なくない)。

CJKのWebフォントを使いやすくするためにAdobeは、サイトで実際に使われている文字のフォント(のグリフ)だけをダウンロード〜キャッシュするテクニックを開発した。

またこの夏Adobeは、Typekitのユーザインタフェイスを日本語サポートに対応させ、実質的にインタフェイスを‘デフォルト’のフォントと‘日本語’フォントに二分した。後者にはラテンフォントですでにおなじみの、セリフ、サンセリフ、スクリプトの分類がある。

MorisawaフォントをTypekitで使えるようになったが、それ自身はCreative Cloudのアカウントの一部であり(ただしPhotographyプランを除く)、またTypekitだけの利用アカウントも、あることはある。ただしRechsによると、Typekitそのものを直接買う顧客はごく少ないそうだ。

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[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

インターンシップ市場は拡大するか? 就活の新しいあり方を提案する「InfrA」がローンチ

結婚情報誌ゼクシィが2010年に実施したアンケート調査によれば、今や結婚するカップルの7割が結婚前に生活をともにする、いわゆる「同棲」を経験している。これを読んでいるTechCrunch Japanの若い読者にはピンと来ないかもしれないけど、ほんの一世代とかふた世代前までは「婚前交渉」というインビな言葉があったくらい、結婚前に生活をともにするなんてトンデモナイと考える人が少なくなかった。でも、一緒に暮らしてもみずにいきなり結婚なんて恐いよね。

就活にも似た事情があると思う。採用する企業にしてみても、これからキャリアをスタートしようという学生にしてみても、「本当にコイツでいいのだろうか? ちょっと試せるなら試してみたい」という気持ちがあるのが本音だろう。一緒にやってみれば、価値観や相性が分かる。エントリーシートの文章を表面的に洗練させるだけ洗練させ、大量に送って、大量に見るのなんて不毛なのかもしれない。

そんな時代背景から、本誌でもお馴染みのWantedlyのような、職探し・人材探しの新しいカタチが出てきているが、この問題の当事者の一方である学生起業家によるスタートアップのTraimmuが、つい先ほど、インターンシップ関連サービスの「InfrA」(インフラ)をローンチした。

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成果報酬型でインターンシップのマッチング

InfrAは学生向けインターンシップの掲載媒体として機能する。現在参加企業はリクルートホールディングス、弁護士ドットコム、グロービス、トレンダーズをはじめ、スタートアップ企業のC Chanel、ZUU、ユーザーベース(NewsPicks)、Rettyなど30社。実際にインターンシップが決まれば企業はInfrAに対して成果報酬を支払う。この市場ではインターンシップ1件につき平均10万円程度の支払い発生するが、InfrAではその半分程度という。

インターンシップ期間終了後に、企業側から学生に対して定型フォーマットに従ったフィードバックが行われるのがInfrAの特徴だ。この夏に大阪大学を中退した、Traimmu創業者の高橋慶治氏は、以下のように話す。

「フィードバックが学生のマイページに表示されます。フィードバックには4項目あって、採用理由、インターンシップで取り組んだ内容、インターンシップ生の強み・弱み、改善の提案です。学生がインターンシップを希望する理由は、自己の成長と就職のため。フィードバックは学生にとって非常に重要です」

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Jobwebの調査によれば、約85%の学生がインターンシップを選ぶ際に「フィードバックがもらえるか」を重視している一方、これまでのインターンシップは、ただ参加して終わりというものが多かったという。ここには終了時に社員に聞きづらかった、という学生側の事情もあるようで、それを解決するのが、インターン終了後に現場社員から必ずフィードバックがもらえる仕組みというわけだ。「参加して終わりではなく、成長に活かせる。学生ファーストで考えています」(高橋CEO)

プロジェクト参加など実績を可視化し、そのままエントリーシートに

このフィードバックは、仕事やプロジェクトの内容のみが公開され、それ以外は本人にしか見えない非公開となるが、そのままエントリーシートとして使えるようにするという。11月には就職活動用ページを用意する。「これまでのエントリーシートは文字ベースで学生時代の取り組みを書くもので、形骸化していた。InfrAではプロジェクト参加履歴など経歴を可視化し、データとして蓄積していきます」(高橋CEO)

過去に参加したインターンシップのほかにも、留学経験やゼミ・研究室での成果、学外でのプロジェクトなどの経歴を時系列順に追加していくことができるという。

Traimmuは、2015年6月にコロプラネクストからシード資金を得て、インターンを含めて7人のチームでスタートを切っている。TraimmuがInfrA公開前から運営しているウェブメディアで、月間12万人の学生が読む(16万UU)「co-media」と連携することで、知名度が低く学生へのリーチが難しいスタートアップのリアルな姿を伝えるなどしていくという。

また、InfrAでは地方学生向けの就活シェアハウスを経営する「地方のミカタ」と提携することで学生に対して安価に住居を提供するそうだ。高橋CEOによれば、現在学生たちの間でインターン経験者は増加中とか。

「ここ2、3年は増えていますね。1日とか1週間程度の短期インターンだと周囲で8割程度が経験しているイメージです。中長期のインターンシップは比較的少なく、経験者は1〜2割です。IT系やスタートアップ・ベンチャーが多いですが、中長期的には大手や外資系でも増えていくのではないかと思います」

「一度企業と接点をもっている学生は、自分の尺度、自分の目で見ることができるようになります。企業文化を知った上で納得して企業選びもできる。企業にとってはミスマッチを減らせるのがメリットです。入社してからギャップを感じて3年以内に退職する離職率が厚生労働省が毎年発表している統計では約30%だと言われています。1人あたり200〜300万円をかけて学生を獲得している企業には厳しいです。インターンシップは、企業と学生の熱量をすり合わせる重要な作業です」

アイスタイルがベンチャー投資を加速、ベイスターズ買収の立役者が子会社の代表に

アイスタイルの100%子会社のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)・アイスタイルキャピタル。2014年11月に設立した同社が商号変更と代表の異動を行い、より積極的な投資を進める。

アイスタイルは10月5日に臨時株主総会を開催。商号をアイスタイルキャピタルから「iSG インベストメントワークス」に変更、さらに代表取締役社長を務めていたアイスタイル取締役 兼CFOの菅原敬氏が取締役に異動。あらたに五嶋一人氏が代表取締役社長に就任する決議をしたと発表した。今後は投資ファンドを組成し、本業との事業シナジーを目的とするCVCではなく、より独立した組織として投資意思決定を行うとしている。

スタートアップコミュニティの関係者であれば五嶋氏のことを知っている人は少なくないだろう。同氏は新卒で入社した銀行で法人融資・銀行系ベンチャーキャピタルでのファンド管理・投資実行、事業子会社立ち上げに従事。その後2006年にはディー・エヌ・エーに入社し、事業戦略室の室長として、投資やM&A、組織再編を主導してきた。大きなものでは、横浜DeNAベイスターズの子会社化なども同氏が関わった案件だ。

2014年にはコロプラに入社し、引き続きべンチャー企業やM&A等に従事。ランサーズやFablic、FILLER、オリフラムなどへの投資を行ったのち退任。今回iSG インベストメントワークスの代表に就任した。なお菅原氏はiSG インベストメントワークスの代表からは退くが、「今後も五嶋氏と二人三脚で投資を行っていく」(菅原氏)としている。ちなみに社名の「iSG」とは、アイスタイルの社名、菅原氏、五嶋氏の頭文字から付けたのだとか。

iSG インベストメントワークスでは今後外部のLP投資家を募り、ベンチャー投資ファンドを組成する予定。投資対象については「『インターネット+アルファ』が中心になると考えている。第一次産業、第二次産業を中心に、インターネットを活用することによって産業に革新を起こしうる企業、またはその産業で圧倒的な成功を収める可能性がある企業が対象」(五嶋氏)

シードからレイターまで幅広いステージのスタートアップに対して、数百万円から数千万円程度の投資を行う予定。「シリーズAに至る前の『死の谷(投資がかさむ一方で売上が伸びない時期)』にある企業に対しても積極的に投資したい」(五嶋氏)。「他のVCが出しづらい領域でも我々は出資していく」(菅原氏)。また既存ファンドのセカンダリー投資をバルク案件を組成して買い受ける「バルクセール」や、ある企業の株式のVC分を全部、あるいは経営者の分も買い受ける「バイアウト投資」も検討するとしている。

元ピムコジャパン社長の高野真氏がGenuine Startups共同代表に——大企業との“橋渡し”を強化

左からGenuine Startupsの伊藤健吾氏と高野真氏

シードアクセラレーターのMOVIDA JAPANからスタートアップ投資の機能をスピンアウトして生まれたGenuine Startups。現在2号ファンドの組成中であるこのベンチャーキャピタルに元ピムコジャパン取締役社長で、アトミックスメディア代表取締役CEO、フォーブスジャパン発行人兼編集長の高野真氏が共同代表参画した。同氏はすでにGenuine Startupsの株式の4割を取得しているという。

MOVIDA JAPANは創業期のスタートアップに対して、育成プログラムと数百万円規模のシード投資を行っていた。これはMOVIDAの代表であった孫泰蔵氏やMOVIDAから独立したGenuine Startups代表の伊藤健吾氏が、シリコンバレーのようにスタートアップが数多く生まれ、そのほとんどが死に、残った中から優れたプロダクトが生まれるという「多産多死」モデルの構築を提唱するところからスタートした。

伊藤氏はMOVIDAから始まった投資活動や、周辺環境の変化によって「起業への世の中の見方は心理的なハードルは下がったのではないか」と振り返る。そして次の課題は「成功件数を増やすこと」だと語る。実際にMOVIDA、Genuineからは多くのスタートアップが生まれ、次のシリーズでの資金調達を成功するケースもある一方、まだIPOなど大きなイグジットが発表されていない状況で次の課題解決を掲げるのに違和感がないわけではないが、実際起業に対するハードルは心理的な側面だけでなく、資金、インフラなどさまざまな面で下がったのではないだろうか。

そうは言ってもスマートフォンアプリを作れば当たるという時代ではない。伊藤氏は「アプリのゴールドラッシュは終わった。インフラは早くなり、端末は優秀になった。クラウドで大量のデータも活用できるようになった。今後は既存のインダストリのプレーヤーと組んでいくことがトレンドになるし、買収にも繋がっていく。2号ファンドではその領域で投資をやっていきたい」と説明する。2号ファンドでは、食・農業、環境・エネルギー、金融、物流、教育、エンタープライズといった領域に投資していくのだという。

そこで課題となるのが既存のプレーヤーとの“橋渡し”だ。「大企業とスタートアップの連携」なんて言葉はこの数年いろんなところで聞いたし、大企業がスタートアップのサービスを導入するといった「お付き合い」程度の話はあっても、協業や買収といった規模感での連携はそうそう生まれてこない。そこで、もともと大企業や政界との親交が深く、個人でもスタートアップへの投資(Origamiやエニタイムズなどが同氏からの調達を発表している)を行う高野氏を共同代表に迎えたという。

「エスタブリッシュ層とのつながりを考えるとベテランの人と組みたいと考えていた。6月末に高野さんと出会い、8月末には共同代表になってもらった」(伊藤氏)。「政策的にもベンチャーは重要。Forbesでもそれを後押ししたいと思っていた。(孫)泰蔵さんとも、ベンチャーだけではなく大企業を巻き込んでいかないといけないと話していた。伊藤君は専門性やコネクションを持っており、僕は(エスタブリッシュ層)のバックボーンを持っている。サイロ型ではなく、広がりのあるビジネスを作っていく」(高野氏)

では具体的にはどういったことをやっていくのか? 2号ファンドでは今後、シード期のスタートアップに対して2000万〜3000万円程度の出資を行うほか、大企業が課題などを公開し、それに対して最適だというスタートアップが手を挙げるというようなビジネスマッチングも検討中だという。2号ファンドでは20億円規模のファンドを組成を目指す。

ところでForbesという雑誌の代表を務める高野氏が投資に携わることで、自らの手がけるメディアの内容にバイアスがかかったりしないのだろうか? これに対して高野氏は「(Forbesでは)提灯記事はいくらお金をくれてもやらない。なぜそんなことができるか? それは編集長がCEOだから。ビジネスのためにオーナーの顔を見る必要はない」と回答している。

物理演算ゲームBrain Dotsに自分でステージを作れる「ビルダー機能」が搭載された

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トランスリミットが提供する物理演算パズルアプリ「Brain Dots」。当初300までだったステージ数も現在は500以上にまで拡大したが、ヘビーユーザーはすでに全ステージをクリアしているそうで、同社にはステージ追加の要望が寄せられている状況だ。

そんなBrain Dotsが10月1日にバージョン2.0のアプリの提供を開始した。その目玉となるのが、ユーザーが自らステージを作成し、他のユーザーと共有できる「ステージビルダー機能」だ。

ステージビルダー機能を使えば、ユーザーはBrain Dotsのステージを構成する様々なパーツを自由に配置し、新たなステージを作成できる。作ったステージは、作成したユーザーがクリアすると公開可能になる。公開されたステージは世界中のユーザーがプレイしたり、評価・お気に入り登録したりできる。

コンシューマーゲーム機のWii Uにおいては、9月に任天堂が「スーパーマリオメーカー」というタイトルをリリースしている。これは人気アクションゲーム「スーパーマリオブラザーズ」のステージを自ら作成し、世界中に公開できるというもので、ソーシャルネットワークを見ると非常に人気を博しているようだ。今回のステージビルダー機能のコンセプトはこれに近いだろう。トランスリミットでは新機能によって、「Brain Dotsはユーザーが作りユーザが遊ぶプラットフォームとして生まれ変わる」と説明している。

ちなみに最新のダウンロード数やアクティブユーザー数については聞けなかったが、「ダウンロード数は伸びているし、継続率は非常にいい。(アクティブについては)リリース当初の勢いがもの凄かったので目減りしている感はあるが、もうひと山作っていく」(トランスリミット代表取締役の高場大樹氏)とのこと。

ステージビルダー機能のイメージ

ステージビルダー機能のイメージ

モバイルポータル「Syn.」参画のスケールアウト・nanapi・ビットセラーが合併、新会社は「Supership」に

supership2014年10月にKDDIが主導して立ち上げたモバイルインターネット向けの新ポータル構想「Syn.」。昨年11月には僕らのイベント「TechCrunch Tokyo 2014」でもその詳細を聞くことができたし、参画企業のサイト・アプリにはSyn.の独自メニューが付くなどしていたのだけれども、発表から1年が経過して1つ大きな動きがあったようだ。

Syn.に参画し、KDDI傘下となっているスケールアウト、nanapi、ビットセラーの3社は、11月1日(予定)を効力発生日として合併することを明らかにした。新会社名は「Supership株式会社」となる。新会社の代表には、KDDIにおけるSyn.構想の立役者であり、Syn.ホールディングスおよびビットセラーの代表取締役を務める森岡康一氏が就任する。

今後は各社で展開していた広告、インターネットサービス、プラットフォーム事業等の事業基盤を活用。「すべてが相互につながる『よりよい世界』を実現する」という理念のもとで新サービスを提供するとしている。具体的なサービスについては現時点では明らかにされていない。また、各社で提供するサービスについては、引き続き利用できる。

またSyn.ホールディングスでは同日、あわせてアップベイダー、Socketを子会社化したことも明らかにしている。

英国発の日本人スタートアップ・エネチェンジ、電力自由化に向けサービスを開始

エネチェンジ代表取締役の有田一平氏(右)と創業メンバーでアドバイザーの城口洋平氏(左)

エネチェンジ代表取締役の有田一平氏(右)と創業メンバーでアドバイザーの城口洋平氏(左)

先週僕は米国サンフランシスコで開催されたTechCrunchのイベント「Disrupt San Francisco 2015」に参加していた。そこで衝撃的だったことの1つは大麻に関する新メディア(ラッパーのSnoop Doggが10月に「Merry Jane」なるサイトを立ち上げる)や大麻ショップ向けのPOSシステム「Green Bits」が、そのステージで発表されていたことだ。

日本で生まれ育った僕としてはテック系のイベントでこういう話が出ること自体が驚きだが、米国では医療用に加えて娯楽用での大麻の使用を認めている州が複数存在しており、その数は増えつつあるという。その是非はさておき—1つはっきりと言えるのは、今まさに新しいマーケットが生まれており、スタートアップが活躍するチャンスがあるということだ。

では日本にはそんな新しいマーケットがあるのだろうか? 僕が最近よく聞くキーワードは2つ。2020年の東京五輪を見据えた「インバウンド」、そして2016年4月よりスタートする「電力自由化」だ。今回はその電力自由化のマーケットにチャレンジするスタートアップ、エネチェンジについて紹介する。同社は9月30日より、電力の価格比較サイト「エネチェンジ」において、専用ダイヤルでオペレーターが電力会社選択の相談・支援を行う「エネチェンジ優先予約」をスタート。電力自由化に向けてサービスを本格化する。2016年の年始にも各電力会社から価格等が発表されると見られるが、それ以降はより具体的な乗り換えプランの提案などを行う予定だ。

エネチェンジ優先予約

エネチェンジ優先予約

英国発の日本人スタートアップがそのルーツ

エネチェンジは2015年4月の設立。そのルーツは英国発のスタートアップだ。もともとは建築・エネルギー事業を手がけるJASDAQ上場のエプコの代表取締役 グループCEOの岩崎辰之氏や、英・ケンブリッジ大学の卒業生らが英国で2013年に電力関連の技術を研究する「Cambridge Energy Data Lab」を設立。そこで電力データの解析をはじめとして研究やサービス開発を進めていたが、そこから価格比較サービスを切り出す形で日本にエネチェンジを立ち上げた。

エネチェンジの代表には、同ラボの創業メンバーである有田一平氏が就任する。有田氏はJPモルガンで債権やトレーディングなどにかかわるシステムの開発に従事。その後グリーの海外向けプラットフォームの開発に携わった。

ところでこのエネチェンジ、なぜ英国発なのか? それは英国が2002年から電力自由化を進めており(ヨーロッパ各国は2008年までにすでにほとんどの国が電力を自由化している)、なおかつ経済規模が大きく、かつ地理的には島国という、日本のモデルとなる環境なのだそうだ。そこでの研究成果を日本の市場に生かす考えだ。

ミログ創業者の城口氏が創業メンバー・アドバイザーに

エネチェンジ創業メンバーの1人であり同社のアドバイザーを務めるのは、ケンブリッジ大学で電力データ解析の研究を行う城口洋平氏。同氏はかつてはAndroidのログ解析サービスを提供するミログを立ち上げた人物だ。ミログは2009年に創業したが、ユーザーの同意を得る前にデータを収集・送信するという仕様が問題となりサービスを終了。2012年に会社を解散した。城口氏はその後渡英し、現在はケンブリッジ大学で日本人唯一の電力データ研究者として活動している。

城口氏によると、英国では電力自由化に伴って、「『ライフネット生命』モデルと『ほけんの窓口』モデルの新会社が登場した」のだという。もちろん前述の2つのサービス名は例でしかないが、要は新興の電力会社と、その販売窓口が生まれたそうだ。前者は相当の資金力が必要となるし、競合となる既存の電力会社は巨大だが、後者はスタートアップでも比較的挑戦しやすいマーケット。2006年にスタートした価格比較サイト「uSwitch.com」は1億6000万ポンド(約291億円)で売却されるなど、イグジット実績も出ている。

ちなみに日本の電力市場は約7.7兆円。オール電化や電気自動車の登場を背景にしてオールドエコノミーながらまだまだ成長している領域でもある。すでに価格比較サービスの価格.comでも電力比較のサービスをスタートしているし、他にも競合サービスを準備中のスタートアップがあるとも聞いている。

エネチェンジはすでにエプコやB Dash Venturesから合計2億2000万円を調達している。今後は採用やカスタマーサポートの強化、電力自由化に関する啓蒙も含めた広報・宣伝活動などを進める。また本日より、タレントのデーブ・スペクター、京子スペクター夫妻が広報アドバイザーとして就任するという。

アメリカでVCのあり方は変わりつつある―、Scrum Venturesで宮田拓弥氏が目指すもの

「今でファンド設立2年ほどです。ようやく形になったので取材を受けるようになってきました」。そう笑いながらTechCrunch Japanの取材に応えるScrum Ventures創業者でゼネラルパートナーの宮田拓弥氏(@takmiyata)は、日本のネット業界、スタートアップ界ではよく知られた人物だ。

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日米でエグジットを経験した起業家から投資家に

宮田氏は、サンフランシスコを拠点に米国のテック系スタートアップへの投資を行うVCを経営しているベンチャーキャピタリストだが、日本と米国でソフトウェア、モバイル関連のスタートアップを複数起業した元起業家でもある。顔認識技術を開発していた南カリフォルニア大学発のNeven Visionの創業に関わり、2006年にGoogleへ売却するというエグジットを経験。日本では自分に似た顔の有名人を教えてくれるサービス「顔ちぇき!」を提供するジェイマジックの創業者として知られていて、これは2009年にモバイルファクトリーに事業譲渡している。2009年にミクシィでアライアンス担当役員に就任し、その後はmixi America CEOを務めた。

アメリカを拠点とするようになって約10年、Y Combinatorを始めとする現地のテックコミュニティに人的ネットワークを持ち、これまでにコマース、ヘルスケア、SaaS、動画、IoTなどのスタートアップ39社に投資してきた。現在の投資テーマはライフスタイルとテクノロジーが重なる領域。投資対象はかなり幅が広く、金融やIoT、ドローン、ヘルスケアもファッションも含むという。技術トレンドとして、新しい価値が生まれるキーとなる、いわゆる「イネーブラー」としては人工知能、ビーコン、クラウドソース、API、ウェアラブルなどに注目しているそうだ。Scrum Venturesとして投資している39社は全部アメリカ企業で、7割がシリコンバレーベース。ただ、創業者の出身国は、韓国、イギリス、シンガポール、ロシア、中国、インド、フランス、オーストラリア、イスラエル、ベトナムなど、かなり多様だ。

VC関連の統計データを提供するCB Insightによれば、アメリカで投資している日本系のVCとしては、Scrum Venturesは投資件数で「最もアクティブ」と言えるという。アメリカで投資活動をしている日本系VCといえば、WiLDraper Nexusがある。

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Scrum Venturesは日本企業からの出資が主

アメリカのVC界隈では付加価値のない資金の提供という投資だけでは、なかなかベンチャーキャピタリストとしてトップ・ティアのグループに入って行って良い投資ラウンドに参加できないという現実がある。宮田氏は自らがエグジットを経験している起業家であることや、多くのアメリカのスタートアップを日本市場や日本企業へと繋ぐ役割を果たすことで、一定の地歩を固めつつあるようだ。

2013年スタートのScrum Venturesのファンド規模は現在合計で約2500万ドル。出資しているLP(Limited Partners)は、RSPファンド(リクルートホールディングス100%出資ファンド)、富士通、博報堂、DeNA、mixi、リヴァンプ、マネックス証券、クロスカンパニーなどがあり、このほか企業名は非公開であるものの百貨店グループも参加しているそうだ。こうした日本企業がScrum Venturesのようなスタートアップへの投資ファンドの出資者となる背景には、単なる投資という以上に、宮田氏のように現地に入り込んでいる人物を通してテックビジネスのトレンドにキャッチアップするという意味や、シリコンバレーの技術を取り込むようなアライアンスを模索するという狙いもある。Scrum Venturesでは定期的にLP向けのネットワーキングイベントも開催している。

インキュベーションやコミュニティ運営、教育にも取り組む

日本企業を出資者としたファンドを通して、日米のスタートアップ企業や大企業を繋ぐことには価値があるだろう。ただ、そういう2国間をブリッジする役割よりも、宮田氏はもう少し大きな構図の中で自分や自身のVCが果たすべき役割を見据えているようだ。アメリカでVCのモデルが変化しつつあることと呼応して、設立2年になるScrum Venturesでは新しい取り組みを始めているという。

もともとVCの役割として、単に資金を提供するだけでなく、「バリュー・アッド」(value add)と、この業界の人たちが呼ぶ付加価値の提供が重要だ。お金は今やコモディティで、むしろ良いアイデアや技術、チーム、成功しそうに見えるプロダクトのほうが希少。男女関係と同じで、VCと起業家というのは相手を選んでもいるが、選ばれる関係でもある。イケてる起業家に選んでもらえるVCであるためには、かつては、ビズデブやエンジニアリング、人材採用、PRなどでスタートアップを手助けすることが重要だった。これらに加えて、今後はインキュベーションやコミュニティ運営、教育、データベースの提供といったこともカギとなっていくだろうと宮田氏は言う。

インキュベーションやコミュニティというのは、シードアクセラレーターの先駆けとなったY Combinatorのモデルがうまく行っているように見える。最近だと投資済みのポートフォリオ企業以外の超アーリーステージの起業家もコミュニティに巻き込むスタイルも増えていて、日本だとIncubate Fundが主催し、多くのVCが参加する合同合宿のIncubate Campや、East Venturesなどが若い起業家予備軍やVC予備軍を惹きつけて大きなコミュニティを形成している例がある。

Scrum Venturesでもインキュベーションに力を入れていくといい、インキュベーション案件1号として、「#LYVE」(ハッシュ・ライブ)という動画メディアに投資している。#LYVEは元TheBridgeのライターだった福家隆氏が始めたメディアで、30〜60秒程度でシリコンバレーのサービスの体験動画、イベント紹介動画、インタビュー動画などを日本向けに提供していく。中期的には他言語化してアジアを繋ぐような動画メディアに育てる構想だそうだ。

若手の教育にも力を入れるそうだ。

「これまでにも実はScrum Venturesでベンチャーキャピタリストとなるためのアソシエート教育をやってきています。ミニマム3カ月で即戦力というのを目指して、9カ月は実地でOJTということを3人くらいを対象に内部でやってきました。これをテンプレ化して企業向け、大学生向けとして外部化していきます。今はいろんな国の政府と話をしています」

このテンプレの元になっているのは、シンガポール国立大学からの学生が、スタンフォードとの交換プログラムでシリコンバレーにやってきたときに彼ら向けに作ったプログラムなのだという。

「ベンチャーキャピタリストになるというのは企業評価ができるということ。そのブートキャンプをやりたいんですよね。Scrum Venturesに来たシンガポール人は、1年間ですごく伸びました。ちゃんとした教育を受けてる人たちは、あっという間に企業評価ができるようになる。今どきのネットビジネスって、能力が高ければ10代や20代でもできる」

「私はいま42歳です。これから時代が根本的に変わると思います。英語とプログラミングができたら世界で勝負ができるんです。だから自分たちが持ってるナレッジやリソースを使って、若者たちに武器を与えたいんです。いまシリコンバレーで活躍してるのはインド人と中国人ですが、ほかのアジア人にも活躍してほしいと思っています」

【詳報】ソラコムがベールを脱いだ、月額300円からのIoT向けMVNOサービスの狙いとは?

ソラコムがステルスで取り組んでいた新規プラットフォーム事業の詳細を明らかにした。ソラコムは、元AWSのエバンジェリスト玉川憲氏が2015年3月にAWSを退職して設立したスタートアップ企業で、創業直後に7億円というシードラウンドとしては大型の資金調達が注目を集めた。TechCrunch Japanは発表直前にソラコムに話を聞いてきたので詳しくお伝えしたい。

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提供を開始したSIMカードを手にするソラコム創業者で代表の玉川憲氏

ソラコムが取り組むのは、IoT向けの格安MVNOサービス「SORACOM Air」だ。これだけ書くと、何だまたもう1つ別のSIMカード提供会社か登場したのかと思うかもしれないが、2つの点で注目だ。

1つは、利用用途によっては月額利用料が300円で済むという衝撃的な安さ。これだけでもIoTや業務用スマホ・タブレットの全く新しい市場を切り開く可能性がある。

さらにもう1点、ソラコムの新プラットフォームが注目すべき理由は、基地局だけ既存キャリアのシステムを流用していて、残りをソフトウェアで実装している点だ。通信キャリアはもちろん、従来のMVNO事業者は、パケット交換、帯域制御、顧客管理、課金など、キャリア向けの専用機器を利用していた。ソラコムでは、この部分をAWSのクラウド上に展開したソフトウェアで置き換えてしまった。

これは単に運用コストの削減に繋がるだけでなく、高い柔軟性とスケーラビリティーを確保できるということだ。例えば、SIMカードを搭載したデバイス、もしくはそのデバイスを管理するサービス側からソラコムのAPIを叩いて通信速度をダイナミックに変更できたりする。これは、ちょうどAmazon EC2でインスタンスをソフトウェア的に切り替えるような話だ。暗号化通信もクラウドの豊富なコンピューティングリソースを使うことでソフトウェア的に簡単に実現できてしまう。AWSでサーバーがプログラマブルになったように、ソラコムは通信サービスをプログラマブルにしてしまうということだ。

IoTで未解決だった「通信とセキュリティー」問題を解決する

ソラコムの狙いと、今後のビジネスモデルの話は、創業者である玉川憲氏の経歴に重ねて説明すると分かりやすいかもしれない。

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WatchPad

玉川氏は東京大学大学院機械情報工学科修士卒で、日本IBMの基礎研究所でキャリアをスタートしている。2000年ごろ、IBMで「WatchPad」と名付けられた今で言うスマートウォッチを作っていたそうだ。製品化には至らなかったものの、Linux搭載で腕に巻きつけられる超小型コンピューターとして当事非常に大きな注目を集めた。

「2000年にIBMの基礎研でWatchPadを作っていたのですが、その頃からIoTの課題って変わってないなと思っています。1つはバッテリーが持たないこと。10年かかって2倍にもなっていませんよね。10年で100倍速くなっているコンピューターとは違います。もう1つはネット接続。近距離無線は進化しているものの、まだまだネット接続が難しいのが現状です」

「もう1つ未解決なのはセキュリティーです。デバイスで暗号化をすると小型化や低コスト化ができません」

ソラコムでは、通信とセキュリティーについての回答を用意したという。

近距離通信としてはBluetoothが普及しているし、家庭内のWPANとしてZ-WaveやThread、Weave、ZigBeeなどの規格もある。しかし、これらはスマホやハブといったアップストリームにぶら下がった端末までの接続のためのもので、ネット接続ではない。一方、Wi-Fiは小型デバイスにとっては難しい。玉川氏によれば、これまでモバイル通信は、おもにヒト向け。「IoT向けのモバイル通信を作りたい」と考えて立ち上げたのがソラコムだという。

従来のMVNOと違って専用機材ではなく、クラウド上に各機能を実装

モバイル向け通信に参入するといっても、「全国に設置した基地局だけで1兆円ぐらいのアセット。パケット交換や帯域制御、顧客管理、課金といった部分で数千億円規模の投資。さらにISPも入れて、この3つをやって初めて通信キャリアなわけですが、われわれは、そうはなれません」という。

「一方、MVNOといえば、楽天やイオン、DMMが参入しています。これは(1契約あたり)2000円で仕入れて2500円で売るというビジネスで、ブランドや販売網があればできますが、これもわれわれにはできないし、テクノロジーのビジネスでもありません。われわれがやるのは基地局だけをレイヤー2接続の契約で利用して、残りはクラウドネイティブで提供するというモデルです」

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従来のMVNOの接続では、キャリアが持つ基地局からパケットが飛んでくるゲートウェイに続けて、MVNO事業者が利用者認証や課金管理、利用者ごとのポリシー適用のための機材などをそれぞれ用意する必要があった。ここはエリクソンなど専用ベンダーが提供するハードウェアの世界。ここの機能群をAWSのクラウド上にソフトウェアで実装したのがSORACOM Airで、クラウドの特徴であるスケーラビリティーの高さがメリットだ。玉川氏は「人口の10倍とか100倍のデバイスが繋がってきても対応できるような、IoTに特化したバーチャルキャリア」と、そのポテンシャルを説明する。

スケーラビリティーは上限のほうだけなく、小さい単位から即利用できるという点にも当てはまる。例えばデバイスとサービスを統合したソリューションを展開する企業が通信部分が足りていないようなケース。

「従来のMVNOだとSIMカード2000枚以上、500万円以上からと言われたような話が、SORACOM Airなら1枚から利用できる。誰でも通信キャリアになれるというモデルで、自在に値付けしてビジネスができます」

クラウド上に実装された通信管理機能には、AWSクラウドと同様にWebコンソールからでも、APIからでも操作可能で、複数SIMを一括操作するようなことができる。各端末からでもサービス側からでもAPIを通して、各SIMの通信状態の監視や休止・再開、速度変更といったことができる。

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SORACOM AirのSIMカードは20枚で1万1600円(1枚580円)など。月額基本料金は300円で、32kpbsだと1MBあたり上り0.2円、512kbpsで1MBが0.24円。上り・下りで料金が違ったり、夜間割引も適用されるなど明朗会計だ。料金設定はAmazon EC2のインスタンスサイズを選ぶようなイメージだ。将来的にはニーズに応じて料金を変動させる「スポットインスタンス」のようなことも、アイデアとしては検討しているそうだ。以下がSORACOM Airの価格表。s1.minimumとかs1.fastとか、何だか見慣れた命名規則だ。

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SORACOM Beamで暗号化やルーティングなど高度な処理をクラウドにオフロード

IoTで未解決だった問題として、玉川氏はセキュリティーを挙げていた。これについてはクラウドで潤沢なリソースを使った「SORACOM Beam」というサービスで解決可能だという。SORACOM Beamはデバイスとサービスを繋ぐ通信経路を暗号化したり、ルーティングするサービスだ。

セキュアな通信を行うには暗号化が必要だが、小型デバイスに暗号化処理をやらせるのは重たい。ただ、もともとキャリアのパケット網はゲートウェイ部分まではセキュアなので、ソラコムにパケットが入ってきてインターネット側のシステム(サーバー)へと繋ぐ部分を暗号化すれば良いだけだ。そこで、

・HTTP→HTTPS
・MQTT→MQTTS
・TCP→SSL

という変換をソラコムのクラウド上で行うことで、重たく面倒な処理はデバイスではなくクラウドで済ませることができる。実際、車いす開発のWHILLは、バッテリーをできるだけ使わずにセキュアに見守りシステムを作ることを検討していて、こういうケースだと「TCP→SORACOM Beam→HTTP」とすることで、デバイス側の負荷をオフロードできるのだという。タイムスタンプやSIMのIDもソラコム側で分かるし、カスタムヘッダを付けてHTTPSで送ることもできる。そして、これがまた重要だと思うのだけど、こうした設定はすべて、デバイスの設定に触れることなくAPIで変更ができる。出荷したIoTデバイスに触れることなく、サービス改善や新規サービス開発が可能ということだ。

ソラコムでは今回、デバイスやソリューション、インテグレーションのサービスを提供するパートナープログラム(Soracom Partner Space)を発表している。現時点では、以下のような企業がテストしているそうだ。

・内田洋行:IoT百葉箱
・リクルートライフスタイル:無料POSレジアプリ「Airレジ」にSORACOM Air搭載、イベント会場で1カ月だけ臨時店舗運営
・フォトシンス:スマートロックのAkerunで応用、カギを開けるときには低速、ファームウェアのアップロード時には転送速度をアップ
・フレームワークス:物流システムにおける動態管理システム。トラックにスマホを搭載してGPSデータだけを利用。業務時間のみの小容量の通信
・キヤノン:事務機器でSORACOM Airの実証実験
・東急ハンズ:業務システムのバックアップ回線として利用
・Global Mobility Service:フィリピンでクルマにSORACOM Airを搭載。割賦未払いの利用者のクルマを遠隔地から停止

いろいろな実験的取り組みがベータ期間中にも出てきているが、ソラコムの新サービスは、Amazon S3が出てきたときと似ているかもしれない。S3のリリース初期には開発者だけではなく、個人利用で使ってしまうパワーユーザー層にもアピールしたものだ。SORACOM Airも1枚880円からAmazonで購入できるので、何かのアプリが出てきて個人ユーザーが使うような事例も出てきそうだ。

Amazon同様に継続的な値下げ努力とイノベーションで競合に勝つ

ステルス期間は別として、ローンチしてしまえばアイデアは自明だし、ソフトウェアの話なので誰でも実装できるのではないだろうか。競合が出てきたときに、ソラコムではどうやって戦っていくのだろうか。

「ソラコムは、モバイルとクラウドが融合した初めての形と思っています。単純な通信ではなく、暗号化したり、認証したりという付加価値があます。新機能や新サービスも開発していきます。まだ2つ3つは温めているアイデアがありますし、実際にお客さんと話している中でニーズが見えてくる面もあります」

「これはAWSが出てきたときと似てるなと思っています。AWSはクラウドです。当事は、うちもクラウドですといってプライベートクラウドみたいなのが、たくさん出てきましたよね。でも、その多くはあくまでもサーバー仮想化の話であって、AWSがやっているようなクラウドネイティブではありませんでした。ハードウェアを仮想化して、物理サーバー上に仮想マシンを複数設置しましたという程度にすぎなくて。もちろん仮想化は仮想化で価値はあるんですけど、瞬時に使えて、いつでもやめられて、いくらでもスケールできるというクラウドとは違いますよね」

「もしソラコムが取り組む市場が良い市場だとしたら、今後は競合がたくさん入ってくるはずです。でも正しいアプローチでやれる企業は少ないと思うんです。いつでも始められて、いつでも利用をやめられて、APIが備わっていて、自動化ができてという。そういうことを質実剛健にやっていけるような企業は少ない」

「われわれも運用コストに少しだけ利益をのせて回していくのですが、Amazonみたいな薄利多売モデルで、どんどん価格を下げていきます。Amazonにいた私からすると当たり前のことですけど、ふつうはそうじゃありません。多くの企業は大きな利益を取っていくので、同じアプローチを取る会社が多いとは思っていません」

「かつてAWSがでてきて、その結果、InstagramやDropbox、Pinterest、Airbnb、Uberといったサービスが出てきたみたいに、ソラコムのようなプラットフォームによって、きっと面白いIoTが出てくるんじゃないかなと思います」

“学生起業”の挫折乗り越えたアトコレ、メンバーズ傘下に——今後はインバウンド向けメディアを運営

アトコレの石田健氏(中央)、右からサムライインキュベートの榊原健太郎氏(右)、玉木諒氏(左)

アトコレ(現:マイナースタジオ)の石田健氏(中央)、サムライインキュベートの榊原健太郎氏(右)、玉木諒氏(左)

2011年9月に設立された学生スタートアップのアトコレ(9月に社名をマイナースタジオに変更)。同社をメンバーズが買収することが明らかになった。買収額は非公開。関係者によると数億円程度になるという。

創業間もなくメンバーが会社を離れることに

同社は創業時にはサムライインキュベートからシードマネーを調達。アート作品に特化したまとめサイト「みんなの美術館 アトコレ(現:MUSEY)」を提供していた。だが1年ほど経った頃、当時の代表をはじめとしたメンバーが会社を離れ、サービスを企画した石田健氏だけが代表取締役として会社に残ることとなった。ちなみに当時の代表は、現在クラウドソーシングサービス運営のクラウドワークス取締役副社長兼COOを務める成田修造氏。ほかのメンバーは、女性向けメディア「MERY」運営のペロリ代表取締役・中川綾太郎氏、同社取締役の河合真吾氏。それぞれ新しい場所で活躍をしている。

創業から間もないタイミングでの挫折。「みんなで『互いのキャラが濃すぎるとダメなのか』ということまで話し合った。個人的な視点だが、オペレーションを回すのが得意な人間や市場の方向性に明るい人間がいて個性も違う。一方で僕は研究員をやりたいようなタイプ。みんながひと通り事業を経験した今ならまた違うのかも知れないが、それぞれの(事業への)体重のかけ方が違っていた」——石田氏は当時をそう振り返る。

結局アトコレは石田氏を残して実質的に活動を停止。石田氏も大学院に進学し、その一方で個人プロジェクトとしてニュース解説メディア「The New Classic」をスタートした。この反響が大きかったことからサービスをアトコレに移管して運営することになったが、「広告で月の売上が数十万円程度、それ以外は2年間ほとんど何もしていなかった」(石田氏)のだという。

サムライ榊原氏「環境をリセットしてもう一度挑戦を」

そんな状況だが、石田氏には会社をたたむという選択肢はなかった。「当時は学生起業ブーム。だからといって『学生は勝手』と言われるようなことはしたくなかった。榊原さん(株主であるサムライインキュベートの代表取締役・榊原健太郎氏)にも『自由にやりなよ』と言われたので、すぐにではなくても、勝負できるマーケットを見つけて結果を出そうと思った」(石田氏)。榊原氏も当時を振り返って「全員環境をリセットして、もう一度挑戦してもらうべきだと思った」と語る。

一念発起したのは2014年の春。新たに社内にメンバーを迎え、メディア事業を強化。おでかけをテーマにしたキュレーションメディア「Banq」をはじめとした複数の特化型メディアを立ち上げた。Banq、THE NEW CLSSICは、それぞれ現在MAU(月間アクティブユーザー)数百万人のサイトに成長している。

「Banq」のスクリーンショット

「Banq」のスクリーンショット

メディア運営を通じて、オウンドメディアの運用支援事業にも進出した。「単純にコンテンツを作って納品するのではなく、メディア運営ノウハウをもとにSEOなども支援する。ライターに価値に置くよりも、コンバージョンに価値を置いたメディア作りをしている」(石田氏)。売上高などは非公開だが、メディア運営とオウンドメディア運用支援で黒字化は達成しているという。

アトコレでは、メンバーズの買収に合わせて社名をマイナースタジオに変更している。今後はメンバーズのクライアントをターゲットにしたオウンドメディア運用支援・コンテンツマーケティングを行うほか、新たにインバウンド向けのメディアを立ち上げる予定だという。「Banqはただのキュレーションメディアに見えるかもしれないが、実は裏側で各記事にスポット情報が紐付いている。このスポット情報を生かして、新しい『シティガイド』を作っていきたい」(石田氏)

ジャック・ドーシーいわく「Squareはゴールデンゲートブリッジ」、国内の加盟は10万店舗以上に

Square CEOのJack Dorsey氏

Square CEOのJack Dorsey氏

専用カードリーダーとスマートフォンを使ってカード決済を実現する「Square」。このサービスについて、Square共同創業者でCEOのJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は「創業の地であるサンフランシスコのゴールデンゲートブリッジのような、『橋』のようなもの」だと説明する。

Squareは9月28日、東京・虎ノ門にて日本初の開催となるプライベートカンファレンス「TOWN SQUARE TOKYO 2015」を開催。橋とは、その冒頭に登壇したDorsey氏の言葉だ。

Squareは2009年、米サンフランシスコで設立された。2010年には米国でサービスを開始。日本では三井住友フィナンシャルグループの三井住友カードと提携し、2013年5月にサービスを開始した。専用のリーダーを使ったカード決済のほか、レジやレシート、アナリティクス、請求書などの機能を一元的に提供している。料率は3.25%。国内では楽天の「楽天スマートペイ」、PayPalの「PayPal Here」、コイニーの「Coiney」などの競合サービスがある。

冒頭の「橋」の話に戻ろう。Dorsey氏はサービスを提供して間もない頃から、Squareについてゴールデンゲートブリッジを例にして語っている(こちらは2011年のTechCrunchの記事だ)。それは、優美なデザインを持っており、100%いつもそこに立っている(=信頼できる)プロダクトであるということ。その橋を行き来することで、様々な人がビジネスを実現する——Squareはそういう存在なのだという。

加盟店は国内10万店舗に

Squareが日本でサービスを開始して2年。国内の加盟店は現在10万店以上。個人事業主からミドル・スモールマーケットを中心に加盟店を拡大。業種でいえばアパレルなどの小売店を中心に、飲食やサービス、さらにはイベントやライブ会場など移動を前提とした店舗での利用も拡大している。

当初の利用は都心部が中心だったが、現在では地方にも加盟店は拡大。北は北海道の寿司屋から、南は沖縄のカフェまで各所で利用されているという。競合各社が加盟店舗数やアクティブな利用率を出していないので、比較することが難しいところはあるが、少なくともSquareは国内で成長しているということのようだ。

Squareの加盟店はミドル・スモールマーケットが中心

Squareの加盟店はミドル・スモールマーケットが中心

また大企業への導入も進んでいる。Square最高事業責任者のフランソワーズ・ブロッカー氏は、ローソンやタワーレコード、横浜DeNAベイスターズなどもSquareを利用していると説明。ユニクロを展開するファーストリテイリングでも、代表取締役会長の柳井正氏の提案で2013年10月より試験的に導入。当初は特設コーナーなどで利用していたが、徐々にその利用範囲を広げているそうだ。「感謝祭(セール)などではレジの台数を増やすが、これがSquareだとスピーディーかつ省スペースで実現できる。店舗によっては 臨時のレジだけでなく、常設レジとして導入している」(ファーストリテイリング 業務情報システム部部長の岡田章二氏)

 

競合のローンチ、焦ることはなかった

Squareに出資し、国内でサービスを共同展開するのは三井住友カードだ。取締役会長の島田秀男氏が語ったところによると、同社は2011年にSquareにコンタクトを開始した。「テクノロジーがビジネスを変える時代を強く感じて、社内の若手をシリコンバレーに向かわせた。これをきっかけに日本でビジネスを展開できないかと話し合いを重ねてきた」(島田氏)。 Squareの企業理念は「Make Commerce Easy(商業活動をシンプルに)」。これがユーザー視点を重視する自社の考えともマッチしたと語る。

国内でSquareの競合を見てみると、2012年10月にCoiney、2012年12月に楽天スマートペイが先行してサービスを開始している。だが島田氏は「(Squareの)サービス開始より少し前に他社が類似サービスをローンチすることになったが、焦ることはなかった 。一番早く提供するよりも、お客様に満足頂けるのが一番だと考えた。そして入念な準備期間を経てサービスを提供するに至った 」と語る。

またSquare日本法人のカントリーマネージャーである水野博商氏は、Squareが米国の企業であることから、参入当時に「黒船が決済市場を食いに来た」と言われたことを振り返った上で、初期コストやスペースの問題でこれまでカード決済を導入していなかった企業や店舗がSquareを導入しているため、「市場を食うのではなく、広げている」とした。

Squareの利用動向。円の大きさが決済額の大きさを示す

Squareの利用動向。円の大きさが決済額の大きさを示す

10月にはICカード対応端末を発売。国内で新サービスも

そんなSquareだが、すでに発表されている通り、10月1日よりこれまでの磁気型のクレジットカードに加えて、EMV(ICカードの国際標準規格)に対応した「Squareリーダー」を販売する。メーカー希望小売価格は4980円となっているが、10月31日までに決済受付を開始した事業者に対して4980円分の決済手数料を還元する。大手量販店やAmazon.co.jpなどで購入可能だ。

また機能面でも、現在米国で提供中のギフトカード(加盟店が独自デザインで発行可能)を年内にも国内で提供するほか、特定の属性の顧客に対してプロモーションを行うような顧客管理機能についても2016年をめどに提供していくとしている。

日本のスタートアップ投資はバブル? JVCA会長に就任した仮屋薗氏に聞く

国内のスタートアップ投資は過熱気味で未公開企業のバリュエーションが高騰している。これはバブルではないか? ここ1、2年ほど、そういう意見をよく耳にした。一部のVCは、投資しようにもバリュエーションが上がりすぎて「パス」することが多く、もう半年間どこにも投資をしていないだとか、むしろ今はトルコのスタートアップに注目しているなんて話を聞くこともあった。

スタートアップ投資はバブルなのだろうか?

この質問をぶつけるのに最適な人物の1人が、グロービス・キャピタル・パートナーズのマネージング・パートナー仮屋薗聡一氏だ。

仮屋薗氏は、日本のネット業界でもっとも長くベンチャー投資をしてきたベテラン投資家の1人で、VC業界の中でも「仮さん」との愛称で一目置かれる存在だ。その仮屋薗氏が2015年7月10日に、発足14年になる日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の第7代会長に就任した。いまの日本のスタートアップ投資は過熱気味なのか? いまの日本のスタートアップ投資の課題は何なのか? TechCrunch Japanでは仮屋薗氏に話を聞いた。

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仮屋薗聡一(かりやぞの・そういち)氏。三和総合研究所での経営戦略コンサルティングを経て、1996年、グロービスのベンチャーキャピタル事業設立に参画。1号ファンド、ファンドマネジャーを経て、1999年エイパックス・グロービス・パートナーズ設立よりパートナー就任、現在に至る。慶應義塾大学法学部卒、米国ピッツバーグ大学MBA修了。著書に、「機関投資家のためのプライベート・エクイティ」(きんざい)、「ケースで学ぶ起業戦略」(日経BP社)、「MBAビジネスプラン」(ダイヤモンド社)、「ベンチャーキャピタリストが語る起業家への提言」(税務研究会)など。

加熱は一段落、しかしまだ資金量は少なすぎる

過熱気味のバブルかとの問いに対して仮屋薗氏は、現状をこう語る。

「一時期公的な資金が流れこんでバリュエーションをヒートアップさせたという話は2014年にはありましたけど、一段落したかなと考えています。むしろ大企業を始めとして、新規の予算が増えて投資が増えたことが背景にあるのでしょうね」

「ただそれも、きわめて細っていたベンチャーファイナンスに金額が加わっただけ。それが大いなる加熱だったかというと、そこは判断が分かれますよね。今年に入って新規IPO銘柄で上場後の下方修正等もあり資本市場が敏感に反応していますしね。それよりも今年と来年は、過去1、2年に大型資金調達をした企業がパフォーマンスを出せるかが重要です。パフォーマンスというのはエグジットのことだけではなく、追加資金調達を含めたマイルストーン、そうした進捗があるかどうかということです」

仮屋薗氏によれば、日本のベンチャー投資は、むしろ資金量がまだ全然足りていない。

VEC(一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター)によれば、2014年のベンチャー投資は国内で740億円程度です。年間1200億円程度と言われている日本のVC投資金額のうち国内企業を対象とした投資は、その程度です。VECの数字はVCのものだけなので、新設CVCや大企業の直接投資を入れると1000億円に到達しているかもしれません。それにしてもその程度です。これはアメリカの5兆円を超える数字を考えると非常に細く、過小です」

むしろ資金は余剰気味で、良い起業家の数が足りてないという声も聞くが、どうだろうか。

「ICTというジャンルだけで見れば、資金量は必要十分になってきているかもしれません。でも、ちょっと引いて見てみれば、もっと社会にはアタックするべき課題があって、バブルどころか、その手前ですよね。モノづくりやIoT系、ライフサイエンス系は圧倒的に資金が足りていません。研究開発分野の資金量の細さは変わっていないし、ここはリスクマネーが必要です」

アメリカでVC業界に機関投資家のお金が流れ込むようになったワケ

VC協会としては資金量を増やしたいものの、日本の場合、まだ機関投資家の資金がほとんど国内のVCに来ていないという現実があると言う。アメリカでは年金基金が運用資産の5〜10%をVCなどのプライベート・エクイティーと呼ばれるリスクマネーに割り当てている一方、日本ではこの部分が発展途上であり、ことVCに至ってはほぼゼロというのが現状だ。

「これには経緯があります。まず、日本ではVCのパフォーマンスが長らく十分なレベルに到達していなかったことがあります。アメリカだと1980年代後半に独立系VCが大きく成功を収めたのをきっかけにして機関投資家のお金がどっと流れ込むようになりました。ネットバブルの前のことですけど、KPCBとかセコイア・キャピタルといったVCが行なったアップルとかAOL、シスコシステムズ、オラクルといったIT企業への投資が大きなリターンを生みました。こうした企業を支援した投資家たちが機関投資家からの信頼を得て、より多くの資金を預かるようになっていきました。大学の基金ですとか企業年金、自治体の年金基金が、独立系VCの高いパフォーマンスに対して集まってきた」

シリコンバレーは文字通り、シリコンチップをベースにしてPC産業やIT産業が興隆し、そのプロダクトがグローバル市場へ広がっていく中で資金が流入するサイクルが生まれた。今やアメリカではベンチャーキャピタルの投資した会社が民間雇用の11%を生みだし、その売り上げはGDPの21%を占めるという統計もある。

日本でも銀行系VCから独立系VCへと比重が移りつつある

日本で機関投資家の資金がVCに流れてこなかった理由が、もう1つあると仮屋薗氏は指摘する。

「これまで日本のVCが、そもそも機関投資家のお金を必要としてなかったという事情もあります。多くのVCは銀行系だったので、ファンドを組成する際の資金調達に困らなかったのです。一方で機関投資家からの資金を集める独立系VCというのが育ってこなかった。機関投資家からすると、投資対象として明確にVCが認識されていなかったのですね」

日本の現状は、いわゆるニワトリと卵の状態。VCのパフォーマンスが良くなく、機関投資家からお金を集める必要がなかった銀行系VCが主流だった。いまは事情が変わりつあって、独立系VCが増えいる。こうした独立系VCは自力でファンド組成のための資金調達をやる必要がある。これは簡単なことではないという。

「独立系VCの現状はどうかといえば、ようやくパフォーマンスがでてきているところです。ですので、きちんと機関投資家に対してIRをやっていく必要があります。アカウンタビリティが欠かせません。お預かりした資金を、きちんと運用できていることを示していかないといけません。投資先企業のガバナンスなども、上場企業に求められていることが、未公開企業でも求められているようになってくるのではないかと思います」

「日本では年金基金におけるVCへの投資額は、ほぼゼロです。これが1%にでもなれば、かなり意味のある金額になります。例えば、GPIFみたいなところが本丸ですが、自治体とか企業の年金ですね、われわれ日本のVCは、こうした機関投資家の方々と、しっかりとお話をしていかないといけない。そう思っています」

VC養成講座を通してキャピタリストの教育も

JVCAという日本のベンチャー協会の発足は2002年11月。アメリカのNVCA(National Venture Capitarl Association)にならって作られたもので、こうしたVC協会はヨーロッパのEVCAなど各国にあって年に1度は協会同士で集まるという。そもそも日本では民間によるベンチャーキャピタルは1972年に京都からスタートしているが、長らく協会というものはなかったそうだ。

仮屋薗氏自身は設立当初から協会と関わってきていて、それが今回の会長就任に繋がっている。その関わりというのは協会の目玉プログラムである「VC養成講座」を企画し、講師をしてきたことだ。

「VCというのは日本だけでなく、世界的にも定まったカリキュラムがあるわけではありません。それでVC協会のほうで案件開発、ディールの交渉、投資条項の策定、実際の契約、投資先支援、エグジットという一連の流れをカリキュラムとして教えるということをやっています。入社2、3年目ですかね、VCの関連業務をひと通りやって現場にも出ていくなかで、体系的に習得してもらうためにどうすればいいかということです」

「2015年4月に前任の尾崎会長が亡くなられて、それで私がJVCAの会長を引き受けることになりました。JVCAは長らく金融機関系のVCが会員の中核だったのですが、今では独立系VCやCVC系会員も増えています。特に独立系VCは、アメリカのようにこの業界の根幹となっていくものだろうから、独立系が引っ張っていかなければならないのではないか、亡くなられた尾崎さんは、そうおっしゃっていました。そういう中で会長就任の打診を頂きました。尾崎さんは新体制に持って行こうと思ってらっしゃったんですが、志半ばでいらっしゃいました……」

現在、JVCAの協会のWebサイトを見ると、9月末現在でVC会員が47、CVC会員が10となっている。毎月のように新会員が増えていて、日本の主要なVCが揃いつつあるのではないかという。監査法人や法律事務所も賛助会社として会員名簿に名を連ねている。

業界としての意見の取りまとめ、ロビー活動も

JVCAでは「これまで活動範囲が限定的だった」(仮屋薗氏)が、今後は活動を増やしていくという。

「時代背景からして、内閣府や関係省庁、メディアなどとの関係を協会として作っていくことも1つです。ベンチャーは国の成長戦略の本丸で期待も大きいので、協会としてはVCが活動しやすくなる法整備のロビー活動だけではなくて、VC業界の全体のレベルアップもしていきます」

ここで言うロビー活動は、アメリカのような業界ごとのロビィストが特定企業群へ利益誘導するような話ではないようだ。

「例えば、2012年にAIJ事件がキッカケとなってファンド規制の話が出てきました。預かったお金を本来とは違う用途に流用して資金を溶かした、そういうファンドがあったから出てきた規制ですが、このとき、『ファンド』と一括りで呼んで規制をかけるのではなく、VCは成長産業を作るものなので特例を作ってください、と。それで特例措置をどうするのか具体的なお話を、VC協会としてさせていただきました」

「これは金融庁さん応対ですけど、ほかにも経産省さんとはストック・オプションだとか、のれんの問題とか、M&Aがうまく行くために何をすればいいのかなど、いろいろとありますが、JVCAとしてはVCの意見の取りまとめをやっています」

「2006年ごろは、官公庁も大企業も政府も、どこもベンチャーに対して決して支援的ではありませんでした。ベンチャー叩きというのもありましたしね。あの頃、起業の数は相当に減ったんじゃないですか? 堀江さんの一件で『虚業』という言い方も、ありましたよね」

資金の流れも細り、向かい風が続いたベンチャー投資も、2015年の今は追い風だという。

「2015年の今は、フォローしていただいていて、大企業がどうやってコラボするのか、M&Aするのかと積極的なスタンスに変わっています。企業も官庁も積極関与、積極フォローという感じです。どうやったら日本でベンチャーがうまくいくんですか、というのが官庁などの基本的なスタンスです。ただ、具体的なところはリクエストをもらわないとできないよということでヒアリングにいらっしゃるので、逆に、われわれもキチンとお答えしていくということです。ベンチャー企業が、より積極的に活動していけるようにと」

「JVCAとしての取り組みで言うと、ファンドマネジメント能力を上げていくのもミッションです。グローバルスタンダードとは何かというのを理解しながらVCの能力向上をはかる。それは先ほど申し上げた通り、まずアカウンタビリティーですね。出資者との対話やヒアリングというIRの点では、もう1つのオルタナティブ投資であるプライベート・エクイティー業界のほうが進んでいます。VC業界は、そこから比べると遅れているので、学べばいいんです」

「キャピタリスト向けの能力向上でいうと、初心者向けカリキュラムはあったものの、中堅からシニアについては、何ら能力向上やナレッジ共有のプラットフォームがなかったので、これも協会として作っていきたいですね。このレベルだと教科書というのはたぶん作れませんから意見交換という形になるでしょう。ただ、意見を交換するにしても、そもそも『何がナレッジの対象なのか』ということの定義ができているか、『誰がそういうナレッジを持っているか』を特定していくことが大切です。その上で、みんなで勉強会をやる。ここで共有するナレッジは広く拡散させられるものではなく、オフレコでやるってことだと思いますけどね」

メディアに身をおく人間としては、広くパブリックに共有できないナレッジというと、何か村社会的で談合的なニオイも感じる。情報の非対称性を利用して有利に話を進めようとするのは前時代的なアプローチではないのだろうか?

「成功した本当の理由というのはなかなか表に出て来ません。例えばM&Aのとき、最終的なバリュエーションが3、4割上がった経緯とか、そういうのは業界内で研究していく形です。M&Aには客観価値はありませんから。公開企業だと分かりやすいですけどね、例えばTOBなら市場価格の4割増しが一般的じゃないですか。M&Aはベースとなる価格がないので、そこはもうノウハウというのもありますし、交渉の経緯ですよね。買収する企業からしたらシナジーがあるなどの理由以外にもディフェンスのために欲しいという場合もありますよね、他の有力な買い手に行くと困るなど。買い手が1社だと交渉が不利になる、とか、そういうところにもノウハウがあるということです」

大企業のM&A戦略の成功のカギは「企業統合」の知見と技量にある

ナレッジの共有を進めていくとしても、そもそもまだ日本のどこにも存在しない知見というものがあるという。

「そもそもM&Aのエグジットがまだ少ないので、VCにも知見があるわけでもありません。ほかの業界で長けている方から学んでいくのがいいのでしょう。特にM&A後の企業統合、いわゆるPMI(Post Merger Integration)がどうあるべきか、ここの知見が薄いです。これは日本全体でまだありません。こうした知見を深めていくことで、より良いM&Aが増えていくのだと思います」

これはあまりに表立って語られることがないが、M&Aが失敗に終わるケースもある。例えば買収したスタートアップ企業の事業が属人的すぎるために組織として統合できないことがある。そうした中で事業を興した起業家が去ってしまうと買収した側の企業には何も残らない。これは日本でもアメリカでも聞く話だ。日本の企業文化では買収側の担当者が減点方式のサラリーマンだったりして、M&A後の失敗によって大きな「黒星」がつくと、その人の出世に響くこともあり得る。だからM&Aに慎重にならざるを得ないという事情がある。買収する大企業側もM&Aがどうあるべきかを学んで行くフェーズなのだろう。

「日本でもPMIが強いところがM&A戦略で勝てると思うんです。シスコやセールスフォースといった、PMIが上手な企業は、相応の額でスタートアップ企業を買っても、買収金額を上回るような価値を生み出しています」

「成熟した企業のPMIをやったことがある人材は日本にもいます。ただ、成長企業のPMIというのは、まだこれから。ここはVC業界として学んでいきたいですね」

アプリ操作の録画で定着率を上げる「Repro」が栄冠、B Dash Campピッチコンテスト

京都で開催中の「B Dash Camp」で18日、スタートアップのピッチコンテスト「ピッチアリーナ」が開催された。国内外23社が参加し、前日の予選を通過した10社が本戦でプレゼンを実施。本戦には韓国企業が7社と半数以上を占めたが、最優秀チームには、ユーザーのアプリ利用動画を使ってコンバージョン率や定着率を改善するサービス「Repro」が選ばれた。以下、賞を獲得したサービスを紹介する。

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B Dash Venturesの渡辺洋行社長(左)とReproの平田祐介社長(右)

Repro(日本)※最優秀チーム/PayPal賞

ユーザーの画面操作を動画で取得し、モバイルアプリの課題発見から解決策までを提示する。Reproが提供するSDKを自社アプリに導入すると、例えば、アプリの起動からクラッシュまでのユーザー行動を記録。これを動画を見れば、簡単にクラッシュを再現し、効率的にバグを修正できる。

アプリ操作動画の再生画面。多くの動画を見るときは倍速、じっくり確認したいときはスロー再生ができる

アプリ操作動画の再生画面。多くの動画を見るときは倍速、じっくり確認したいときはスロー再生ができる

ユーザーの離脱率を把握するファネル分析と連携し、離脱しやすい場所を見つけられる。離脱してしまったユーザーと、コンバージョンしたユーザー行動の動画を見比べれば、離脱原因までわかるのが特徴だ。離脱したユーザーだけを抽出してプッシュ通知を送り、再訪やコンバージョンを促す機能もある。

「初回アクセス時にお気に入りを3回実行した」のように設定したユーザー抽出できる

「初回アクセス時にお気に入りを3回実行した」のように設定したユーザー抽出できる

リピーターを増やすためのリテンション分析とも連携。ユーザーが特定のアクションを「いつまでに何回すると定着しやすい」かを示す“マジックナンバー”を導き出せる。マジックナンバーとは、Twitterで言うと、新規ユーザーが5人以上フォローするとリピーターになりやすいといった数値だ。

利用料金は毎月1万2000円〜。4月22日に公開し、これまでに852アプリが導入している。

TALKEY(韓国)※特別賞

スマートデバイス向けの自然言語解析技術。スマートウォッチで「ランチでもどう?」というメッセージを受信した場合、その内容を解析したうえで「何時?」「もちろん」「お前のおごりな!」みたいな返信メッセージ候補を表示する。

現時点では英語版のみだが、日本語を含む多言語に対応する。将来的にはスマートデバイス以外にも、ネット対応の自動車やIoTへの技術提供も視野に入れている。

カバンやポケットからスマホを取り出さずに、スマートウォッチで受信したメッセージに返事できるのが便利そう。

カバンやポケットからスマホを取り出さずに、スマートウォッチで受信したメッセージに返事できるのが便利そう。

Vetpeer(日本)※エボラブルアジア賞

動物病院の獣医師を対象にしたコミュニティサイト。獣医師が読むべきニュースをキュレーションしたり、「パート獣医師の時給どうしてる?」「開業にかかったお金は?」といった同業者だからこそ相談できるQ&Aコーナーがある。2年前にローンチし、全国の獣医師の42%にあたる約6000人が登録している。

収益源は、動物病院に医薬品や療法食を販売するメーカー向けのマーケティング。具体的にはメーカーの獣医師向けセミナーをネット配信する。従来、この種のセミナーは首都圏を中心に開催していたので来場者が限られたが、全国の獣医師に向けて情報発信できるようになる。

獣医必読(?)のニュースをピックアップしたり、獣医師同士だからこそ聞けるQAコーナーなどがある

獣医必読(?)のニュースをピックアップしたり、獣医師同士だからこそ聞けるQAコーナーなどがある

CtoCコマースのメルカリが新会社「ソウゾウ」を設立、代表には元ヤフーの松本氏

CtoCコマースを提供するメルカリ。同社が9月17日、100%子会社となる新会社「ソウゾウ」を設立したことを明らかにした。資本金は非公開。代表にはメルカリ執行役員の松本龍祐氏が就任する。

松本氏は2800万ダウンロードの写真加工アプリ「DECOPIC」を手がけたコミュニティファクトリーの創業者で、同社をヤフーに売却したのち、ヤフーのアプリ開発室本部長などを務めた。2015年3月にヤフーを退職し、5月にメルカリに参画している。

ソウゾウはまだプロダクトのリリースをしておらず、Wantedlyなどを通じて人材募集を開始したところ。松本氏は「今後新しいアプリをどんどん作っていく」としている。同氏はDECOPIC以外にもTRILLなど女性向けのサービスやメディアにも関わってきているが、ソウゾウは特に女性にターゲットを限定したサービスを展開するという訳ではないという。

ちなみにメルカリの創業期の社名は「コウゾウ」。ソウゾウはこの名称にかけたもののようだ。まずは最初のプロダクトの提供を待ちたい。

エフルート創業者・佐藤崇氏の次なる挑戦はアプリ紹介メディア「AppCube」、事前登録を開始

appcube

モバイルサービスの黎明期、2003年にビットレイティングス(現:アクセルマーク)
を設立し、検索サービス「froute.jp(エフルート)」をはじめとしたサービスを提供した佐藤崇氏。2010年には同社を離れてモブキャストに参画。取締役としてプラットフォーム事業を推進した人物だ。

佐藤氏は2015年1月にモブキャストの役員を退任。再び起業家とし挑戦すべく、新会社のスマートアプリを設立した。6月にはEast Venturesおよび山田進太郎氏(メルカリ代表取締役社長)、藪考樹氏(モブキャスト代表取締役)などの個人投資家から合計3450万円の資金を調達したことを明らかにしている。

そんなスマートアプリの第1弾サービスが間もなくローンチする。同社は9月16日、「AppCube」のティザーサイトを公開し、サービスの事前登録を開始した。今秋中にもまずはAndroid向けにサービスを提供する。

AppCubeは、スマートフォン向けアプリの情報を集約したアグリゲーションサービス。国内のアプリストアに掲載された300万件以上のアプリの情報をクロールしてリアルタイムに収集。アプリの情報と、人工知能で分類した関連レビューやニュース、動画などを集約し、ユーザーの利用動向に合わせて表示する。デモを少し見せてもらっただけなので「人工知能云々…」というところは分からなかったのだけれども、1つのアプリに紐付いて、さまざまな媒体に分散されているレビューや動画などが一覧して閲覧できることは確認できた。特にゲームなど「濃い」アプリの情報収集に向いているだろう。自分がインストールしたアプリを把握し、最新情報を通知する機能なども用意する。

佐藤氏いわく、AppCubeは「アプリ紹介メディアとも言えるが、(コンテンツを作るのではなく)テクノロジーでストアにあるアプリの情報、アプリに紐付く外部の情報をすべて網羅する」のだという。Android、iOSあわせて300万以上もあると言われるスマートフォンアプリ。だがその99%はユーザーに発見されずに埋もれているのが現状だ。その理由は「広告で歪んだランキングや検索メニューからアプリを探す」(同社のリリースより)から。そこでAppCubeでは、アプリの関連情報を網羅。利用動向も把握することで、新しいアプリとの出会いを提案するとしている。

人工知能で入会審査する学生限定SNS「Lemon」が、社会人も参加可能に

人工知能による審査をクリアした大学生・大学院生のみが入会できるSNS、「Lemon」については2015年5月に紹介したが、今日から参加ユーザーの対象を大学生に加えて一般社会人にまで広げた。

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「毎日、学校や職場の人としか会わない。もっといろんな人と交流したい」、「他の業界の友人を作り世界を広げたい」、「職場に出会いがなく、恋人ができない」といった声に応えるべく業界や学校といった枠を超えた交流ができる、というのがLemonの売りだそう。Lemon上でユーザーは、自分の仕事や活動内容を軸にして掲示板やメッセージのやり取りができる。オフ会などもあり、すでにビジネスパートナーになったとか、友人・恋人になったといったユーザーもいるのだという。プレスリリースから、具体的な声を抜き出すと、

「アフリカをテーマに事業立案したいと考えていたところ、Lemonのおかげで当時アフリカインターン中だった仲間と出会い、ビジコンに出場できました!」(京都大学理学部4年)

「イギリス留学に関しての掲示板がきっかけで、お互いの留学経験についてメッセージするうちによく会うようになり、今は付き合っています」(中央大学4年)

というものがある。ちょっと意識が高めだね。ちょっと甘酸っぱいね。

若い人が集まれば、そりゃ恋の1つも生まれるだろうから、これだけで何かが言える気がしないのだけど、ちょっと面白いのは当初想定していたのと異なる気づきがあったという話だ。親和性が高いユーザー同士でコミュニケーションが発生するのかとおもいきや、案外そうでもなかったという知見が出てきてるという。LIP代表社長の松村有祐氏は、次のように話す。

「審査という点では親和性を軸にしたアルゴリズムで入会審査をやってきました。開始時に話題になったこともあって、すごいプロフィールの方々が集まり、結果として審査通過率は思ったよりも高かったです。一方で定性的観点からみると、ちょっとユーザー層が偏ってしまうという結果が見えました。いろいろと目指す方向になるようにアルゴリズムは随時修正しています。で、そもそも親和性ベースでの審査がどうかという点については、Lemon内のユーザー間のコミュニケーションの発生について分析をしました。結果としては、親和性の高低とコミュニケーションの発生については必ずしも全てに相関があるというわけではなく、ユーザーへのヒアリングを続けたところ、むしろ、親和性が低いというか、あまり接点がないユーザーとの交流を求めている人も多いというインサイトが発見されました。それが今回社会人解禁するにあたって、普段接点のない人たちとの交流を推すことにもつながっています。おすすめユーザー紹介機能やメッセージの送受信などの動向を学習しており、もちろん引き続きもっと良いアルゴリズムの開発に取り組んでいきます」

これはアルゴリズムというよりもコミュニティー運営上の理念みたいなものかもしれないけど、もう1つLemonがユニークなのは、どんどん参加者の顔アイコンを小さくしていっている点だ。もともと松村氏は「顔面偏差値」で出会いの成否が決まることが多い、旧来のデーティング・サイトへのアンチテーゼを掲げて起業している面がある。リアルな出会いでは外見以外の内面がすぐ伝わるので、人柄やコミュニケーションの内容も出会いの成否に影響する。それをオンラインに持ち込むことができれば、よりリアルに近いパートナー探しの場が作れるのではないか、という発想だ。といっても、「最終的には異性との出会いというのもあるとは思いますが、Lemonでは最初からそこまで強い欲求を想定していません」といい、「知らない人とまずオンラインで知り合ってオンラインでお互いの内面を知り深める、そんなコミュニケーションを想定しています。だから、どちらかというとダイレクトな出会いのツールというよりは、Lemonの中でのコミュニケーションを楽しんで欲しいですね」と、松村氏は話している。