『沈みゆく帝国』の著者、ケイン岩谷ゆかり氏がセミナーでDanbo山田昇氏と対談

ケイン岩谷ゆかり氏の『沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか』(日経BP刊) についてはTechCrunch JapanでもApple CEOティム・クックが名指しで批判した「沈みゆく帝国」で詳しい書評を掲載しているが、岩谷氏が昨夜(7/16)東京でセミナーを行ったので取材してきた。

このセミナーは出版元である日経BPが企画し、趣旨に賛同したサイバーエージェントがビジネスパーソン向けイベント事業、SHAKE100の一環として運営協力したものという。

セミナーはサイバーエージェントの渡邉大介氏がモデレータとなり、岩谷氏とMacお宝鑑定団の会長、山田昇(Danbo)氏が対談するという形で行われた。

なお、岩谷氏の日本での発言については本書の編集者である日経BP出版局の中川ヒロミ部長の、「ジョブズが去って一番変わったのは広告」、『沈みゆく帝国』著者がアップルの今後を語るという記事がたいへん参考になる。

執筆の動機―「Appleはもうクールじゃない」

岩谷氏は、もともとAppleについて、ジョブズを支えたチームに焦点を当てた本を書こうと考えていたという。しかしウォルター・アイザックソンによる膨大な伝記の出版とジョブズの死で、Appleの過去についてはひとつの答えが出たと感じ、その未来について考えてみたくなった。そのモチーフは、「偉大な創業者を失った会社がその後も偉大でいられるのか?」という疑問だった。この点は、20世紀末に井深大と盛田昭夫という創業者を失った後のソニーがいつの間にか不振にあえぐようになったことが念頭にあった。

はたして、スティーブ・ジョブズという不世出の天才を失った後もAppleは全盛期の輝きを維持し続けることができるのか? 岩谷氏はこの点について最近体験したエピソードを語った。岩谷氏は1月ほど前にサンフランシスコの名門中学で話をする機会があった。そのときに「自分(岩谷)はiPhone、iPadのユーザーだが、最近のAppleのプロダクトには問題もあると思うが、UIやアプリ連携の点でまだAndroidには移行しにくい」と言ったところ、すかさず中学生から「後で教えてやるよ!」と返されたという。新しいものを追う若者の間ではiPhoneはすでに一時のような「クールなプロダクト」ではなくなっていることを感じたという。

情報源は「歴史に残りたい」と協力

ガードの固いことで知られるAppleからこれほど豊富な内部情報を取材できた秘密について岩谷氏はこう語った。「Wall Street Journal時代もAppleは厳しい取材相手で、記事の個々の単語のニュアンスについてもAppleから要請を受けることがあった。ジョブズの生前であればあれほど多くの情報は得られなかったと思う。しかしジョブズの死後、その呪縛が薄れた。一方でジョブズに近い場所で働いていた人々には『この偉大な企業で果たした自分の役割をきちんと歴史に残したい』と考える人々がいて、取材に応じてくれた」という。

またジョブズが後継者としてクックを選んだのは「ジョブズの栄光を薄れさせるような独自性を発揮せず、かといってAppleを傾けもせず、堅実に経営してける人物」ということだったのかもしれないと岩谷氏は推測する。

ジョブズ時代には驚くほど細かいこと点ジョブズがすべてを決めていたという。データの出る幕はなく、M&Aだろうと製品開発だろうとジョブズの一言がすべてだった。その結果、エンジニアの地位は高く、MBAの出る幕はほとんどなかった。しかしティム・クックはデータと多数決が好きだという。この点はAppleが世界有数の巨大企業になってきたことからの必然だったかもしれないが、それでも官僚化は進んでいる感触だという。山田昇氏によるとは「以前のAppleは副社長(VP)が15人くらいだったが、今は50人くらいに増えた」という

ジョブズ後にAppleの空気が変わった例として、岩谷氏はApple内でG2Gという言葉が使われていることを挙げた。”Go to Google”の略で「誰それは最近見えないね」というと「ああ、奴はG2Gさ(Googleに転職したよ)」というような会話が交わされているのだという。

Appleのビジネスは絶好調ではないか?

山田氏は「Appleの現状は売上、利益ともに世界有数で、株価も高い水準を維持している。危機というのは当たらないのでは?」と疑問を呈した。

岩谷氏は『沈みゆく帝国』というのは日本語版のタイトルだと断った上で、「ソニーも創業者を失った後何年も好調を続けた。またジョブズがAppleから追放された当初、経営のプロのジョン・スカリーの下で業績は好調に見えた。しかし岩谷氏が取材したところでは、1985年当時も、ジョブズが去った後ですぐに社内ではエンジニアの地位が低下し、リスクを取ったプロジェクトがなくなるなどカルチャーの変化が感じられたと証言する人が多かったという。「業績の低下が表に出たときには事態はすでに相当悪化している」として岩谷氏は現在伝えられるAppleのカルチャーの変化に懸念を示した。

岩谷氏はスカリーにもインタビューしたが「創業者でないCEOはやはり自由が効かない」と語ったという。「スティーブなら通ってしまうようなことが自分の場合は株主や幹部が反対してやりずらかった」のだそうだ。ティム・クックはスカリーと同様、経営のプロで、ジョブズのパートナーとしては理想的だったが、ジョブズの天才の輝き、超人的な説得力はない。またAppleの社内文化は非常にタイト(結束力が強く)で、M&Aで外部から参加した人材は溶け込むのに苦労するという。

つまり、外部の人間がCEOになれるようなカルチャーではなさそうだ。岩谷氏はApple Store事業のチーフにスカウトされた元バーバリーのCEO、アンジェラ・アーレンツがAppleに溶け込めるか、その動向に注目していると語った。

どんな企業も永遠に輝き続けるのは無理なのかも

筆者(滑川)は、たまたまその朝、飛び込んできた速報:AppleとIBMがハード、ソフトで全面提携―エンタープライズ分野に激震という記事を翻訳したところだったので、Q&Aの際に「AppleとIBMの提携はうまくいくと思うか?」と質問してみた。

岩谷氏は「その成否はわからないが、もしうまく行かないとしたら、それはティム・クック自身の能力不足などによるのではなく、Appleという組織が巨大化し、官僚化したことによる結果だろう」と答えた。

岩谷氏はこれに続けて「本書はAppleを批判するために書かれたという誤解があるが、私はそうしているつもりはない。しかしAppleといえども永遠にあの輝きを放ち続けるのは無理なのかもしれないと感じることはある」と締めくった。

ティム・クックという人物の謎

最後に筆者(滑川)の感想を少し付け加えると、まず岩谷氏の徹底した取材ぶりにもとづく事実の積み重ねに圧倒される。さまざな場面が印象に残っているが、その一つがティム・クックCEOの人物像を得るためにアラバマ州南部のスモールタウン、ロバーツデールにまで足を運んでクックを教えた高校の教師などにインタビューした部分だ。

私はそこで描写された南部の町の雰囲気はハーパー・リーのベストセラー『アラバマ物語』にそっくりなことに気づいた。グレゴリー・ペック主演の映画も有名な『アラバマ物語』の舞台は1934年、ヨーロッパでヒットラーが権力を握った頃の南部の町だが、その町のモデルになったハーパー・リーの生地モンローヴィルをGoogleマップで調べてみると、ロバーツデールから車で2時間くらいの近所だった。

『沈みゆく帝国』を読んでいくうちに、アラバマの田舎町では80年経っても(物質的な面は別として)人々の行き方がほとんど変わっていないのに驚かされた。岩谷氏は本書でティム・クックがゲイ・レズビアン向けの雑誌の人気投票でナンバーワンになったことを紹介しながら、「(ゲイであるかどうかは)大きな違いはない。クックに私生活の時間はほとんどないからだ」とユーモラスに述べている。

それやこれを考えるとティム・クックの容易に人を寄せ付けない性格は、桁外れの才能と独自の感性を秘めた少年が「全員が全員のことを隅から隅まで知っている」南部の町に違和感を感じながら育ったことからも形成されたのではないかなどと勝手な想像が膨らんだ。そういえば、『アラバマ物語』には「おもしろい作り話をいくらでも作ってくれる」ディルという「変わった」少年が登場する。このディルのモデルであり、ハーパー・リーの従兄弟で一時隣家に住んでいたのが後年のゲイの天才作家、トルーマン・カポーティだったという。

外村仁Evernote Japan会長、林信行氏、小林啓倫氏を始め、Appleに詳しく、IT分野で影響力ある方が大勢出席しており、岩谷氏の著書への関心が高いことが感じられた。Appleの今後に興味があれば必読の基礎資料とといっていいだろう。

滑川海彦 Facebook Google+ 写真撮影:滑川)


資産価値15兆円? 押入れ資産を狙うCtoBtoC委託販売が密かな盛り上がり

リサイクルショップ「コメ兵」が5月に発表した調査によると、20歳以上の男女が所有するブランド品の購入金額は1人あたり平均約78万円。そのうち、もう使わなくなったモノの購入時の金額は平均約16万円に上り、日本の人口から推計すると総額15兆円分の資産が家の押し入れに眠っているそうだ。そんな“押入れ資産”に目を付けたスタートアップが昨今、スマホを使って中古ブランド品を委託販売するCtoBtoC型サービスを続々と立ち上げている。

いきなり押入れ資産が15兆円と言われてもピンと来ないが、2014年度の国家予算は約96兆円(財務省の予算政府案)なので、国家予算の約6分の1に相当することになる。野球に例えれば、他球団の4番バッターやエースをカネにモノを言わせて獲得しては、ベンチや2軍で塩漬けにする金満体質球団のようなことが、一般家庭の押入れの中で繰り広げられているのかもしれない。

スマホを使った中古ブランド品の委託販売サービスは、ユーザーが売りたい商品を送料無料で送り、鑑定士の査定結果に納得すれば販売を委託できる。商品の撮影や出品、梱包、配送といった面倒な作業を肩代わりしてもらえるのが特徴だ。いわゆる質屋型サービスの買取在庫や実店舗運営にかかる中間コストが少ない分、高く売れることを謳っている。各社は販売金額の50〜70%を出品者に還元している。買い手としては、鑑定士が査定している安心感から、偽ブランド品をつかまされずに購入できるのが利点といえそうだ。

有力プレイヤーが存在しないCtoBtoCはフリマアプリのような盛り上がりを見せるか?

アメリカでは、セレブ御用達の高級ブランド委託販売サービスとして知られ、約220万人が利用する「RealReal」や、800万ドルを調達した「Threadflip」などが有名。リアルリアルは2013年8月に日本に進出し、シャネルやエルメス、カルティエなどを中心としたラグジュアリーブランドのリセール商品を常時1000点近く扱っている。2014年4月にはルイ・ヴィトンジャパンカンパニーCEOを務めた経歴を持つ藤井清孝氏が社長に就任した。

2014年4月には、グルメ商品の定期購入サイト「smart select」を運営するアクティブソナーが「RECLO(リクロ)」を開始。商品を5日毎に5%ずつ自動的にディスカウントして購入を促す機能などで差別化を図っている。最近ではテレビ東京のドラマ「俺のダンディズム」で紹介されたアイテムを販売するキャンペーンを展開するなどして、登録会員数は5万人を突破。7月17日にはiPhoneで自分の持ち物を撮影し、商品名や状態を投稿することで、リセール相場がわかるアプリを公開し、さらなるユーザー拡大を狙っている。

CtoBtoC型サービスは、過去2カ月間だけでも動きが活発だ。例えば、5月にスタートした「retro.jp」を運営するretroは6月30日、インキュベイトファンドなどを引受先とする総額3000万円の第三者割当増資を実施した。retroの前身は、自社ECやファッションブランドの公式EC運営代行を手がけるZeel。事業譲渡を受ける形で運営しており、ブランド品に対する知識やサポートが強みだとしている。登録会員数は非公表、7月初旬時点では約400点を扱っている。

7月1日には海外ファッション通販サイト「waja」も、アパレルメーカーや個人が出品したブランド品を委託販売する「FASHION CHARITY PROJECT(FCP)」を開始した。ただし、このサービスはあくまでチャリティが目的で、販売代金から手数料40%を差し引いた金額がNPOに寄付される。出品者は販売額の最大50%の寄付金控除を受けられる。このほか、委託販売ではないが、5月にはグリー子会社のグリーリユースがコメ兵と提携し、ハイブランド商品の買取サービス「uttoku by GREE」を開始する動きも見せている。

スマホを使ったECといえば、CtoCのフリマアプリに大手からスタートアップまでが相次いで参入。この市場では、圧倒的なユーザー数を誇るLINE MALLと、14億5000万円を調達してテレビCMを放送するメルカリが他のサービスから頭1つ抜け出ている感もある。一方、CtoBtoC型の委託販売サービスは始まったばかりで、有力なプレイヤーは存在していない。それだけに、押入れ資産を掘り起こす業界が密かに盛り上がってきそうだ。

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darwin Bell


優勝賞金は100万円–TechCrunch Tokyo 2014スタートアップバトル参加者の募集開始

先日も告知したとおり、TechCrunch Japanは11月18〜19日にかけて、東京・渋谷の渋谷ヒカリエで「TechCrunch Tokyo 2014」を開催する予定だ。イベントページでは今後プログラムやチケットに関する情報を更新予定なので随時チェックして欲しい。

イベントの中では、例年の目玉企画の1つとなっている「スタートアップバトル」も、もちろん開催する予定だ。スタートアップがプロダクトについてのプレゼンテーションで競うこの企画だが、優勝チームには賞金100万円を贈呈する予定だ。

応募の締め切りは10月3日の金曜日まで。スタートアップ関係の方は、是非応募フォームから申し込み頂ければと思う。

TechCrunch Tokyo 2014スタートアップバトルの申し込みはこちらから→

 

今年も米国のTechCrunchからスタッフが来日するほか、起業家や投資家を中心にした審査員がプレゼンの審査に参加する予定だ。優勝チームはもちろんのこと、参加者は米国のTechCrunchでも取り上げられる可能性も高いチャンスとなる。世界デビューを目論むスタートアップの方は、ぜひご応募頂ければと思う。

応募資格

  • 未ローンチまたは2014年1月以降にローンチしたデモが可能なプロダクト(サービス)を持つスタートアップ企業(未公開プロダクトを歓迎します)
  • 創業年数3年未満(2011年11月以降に創業)で上場企業の子会社でないこと。なお、このイベント以前に開催された他のイベントで受賞をしていないプロダクトを優先します。

応募受付期間

2014年7月17日(水)〜 2014年10月3日(金)23時59分

審査について

  • 審査基準: 企業とプロダクトを対象にし、そのプロダクトの市場性やビジネスの成長性、またビジョンを実現していけるチームであるかを基準とします。
  • 事前審査:一次審査は書類審査とし、その後一部評価に必要な情報が足りない場合はインタビューやデモを見せていただく場合があります。選考を通った応募企業には運営事務局から10月10日までに審査結果を通知します。
  • 決勝戦: TechCrunch Tokyo 2014の2日目に行います。TechCrunch Japanが選んだ審査員によって最優秀企業を選出します。

一次審査員(書類審査)

  • 今野穣氏(グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー / Chief Operating Officer)
  • 和田圭佑氏(インキュベイトファンド 代表パートナー)
  • 木村新司(個人投資家 / Gunosy代表取締役)
  • 有安伸宏氏(コーチ・ユナイテッド 代表取締役社長)
  • 西田隆一氏(B Dash Ventures シニア・インベストメントマネージャー)
  • 西村賢(TechCrunch Japan編集長)

TechCrunch Tokyo 2014スタートアップバトルの申し込みはこちらから→

なお、イベントではスタートアップ用のデモブースも設ける予定だ。応募条件を満たしていないスタートアップであっても、そちらで大いにプロダクトを紹介してほしい。詳細は随時発表していく。


【書籍】Apple CEOティム・クックが名指しで批判した「沈みゆく帝国」

編集部:この記事は、本の要約サイト「flier(フライヤー)」と共同で選書したIT・テクノロジー関連書籍の要約を紹介するものだ。コンテンツは後日、フライヤーで公開される内容の一部である。

タイトル 沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、Appleは偉大な企業でいられるのか
著者 ケイン岩谷ゆかり 著、井口耕二 訳、外村仁 解説
ページ数 540
出版社 日経BP社
価格 2160円(税込)
要約者の評点 総合:3.7(5点満点、下記3点の平均値)
革新性:3.5、明瞭性:4.0、応用性:3.5

要約者によるレビュー

Appleの偉大な経営者スティーブ・ジョブズが存命中には、彼のリーダーシップやプレゼンテーションに注目が集まり、それにまつわる多数の書籍が出版された。その後ジョブズが膵臓がんで亡くなると、『インサイド・アップル』(早川書房)や『アップル帝国の正体』(文藝春秋)といった、Appleの組織構造について言及した書籍が発表されるようになる。

そしていま、世間の関心は「ビジョナリーなリーダーが去っても、偉大な会社が偉大なままでいられるのか」という点に寄せられている。たとえば、昨年末に日本で発売された『アップルvs.グーグル―どちらが世界を支配するのか―』(新潮社)では、GoogleとAppleがテクノロジーの領域にとどまらずメディア業界まで視野に入れた戦いを繰り広げるなかで、AndroidがiPhoneのシェアを追い抜き、優勢に立っているのはGoogleだと主張している。

対する本書はAppleの内部について深く掘り下げた1冊だ。社員が辞め、イノベーションが生まれないばかりか、アプリまで失敗作続きという状態に陥ってしまった内情を探るとともに、下請けの台湾企業フォックスコンの労働環境やサムスンとの特許裁判における争点など、次々と明らかにされる事実は衝撃的なものばかりである。

Appleの現CEO、ティム・クックが「寝言だ」と名指しで批判したと言われる本書は、米国の読者レビューを見ても肯定派と否定派に二分されているようだ。しかしながら、仔細にわたる著者の調査や分析は現経営陣が陥っている苦境を白日の下に晒している。日本に多いApple信者にこそぜひ読んでいただきたい一冊だ。著者のケイン岩谷ゆかりは、ウォール・ストリート・ジャーナルでApple担当として活躍した人物。ジョブズの肝臓移植やiPadの発表など数々のスクープを出した後、本書執筆のために退職した。

本書の要点

・ジョブズの後継者としてAppleのCEOに就任したティム・クックは、「在庫のアッティラ王」と呼ばれるほど管理面には強いが、ビジョナリーではなく、イノベーターの経験もない。

・帝国と化したAppleはSiriや地図アプリの失敗、Androidの台頭によるスマートフォン市場でのシェア低下、終わらない特許係争、制御不能になったサプライヤーなど、多くの課題を抱えている。

・ジョブズ亡きあと、問題が噴出しているAppleにはもはや世界を再発明するような製品を生み出す能力はなく、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」の例外ではなくなってしまった。

【必読ポイント】沈みゆく帝国

Siriの失敗

ジョブズの死去前日に発表されたiPhone 4Sは、見た目は前機種と変わらないものの、いくつかの機能が改良されたほか、新たな機能としてSiriが搭載されていた。未来を感じさせるものとして当初センセーショナルを巻き起こしたSiriだが、「バーチャルアシスタント」という謳い文句ほど役には立たないことがすぐに明らかになる。関係のない答えを返してきたり、わけのわからないことを言ったりすることが多いのだ。聞き間違えによって質問すら理解できないことすらある。

未熟な段階であるにもかかわらず、Appleは世間のSiriに対する期待値を上げすぎてしまっていた。それゆえ、Siriは「洗練されている」というAppleのイメージを叩き壊すとともに、今後もAppleが並外れた新製品を生み出せるということに疑問を抱かせてしまったのだ。

イノベーションのジレンマ

ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるクレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」は、巨大企業が新興企業に敗れる理由を説明した理論だ。技術がどんどん進化していく世界においては、既存市場を破壊する能力がなければ生き残りは難しい。

新たな製品を発表するたびに大きく、また無敵になっていくAppleは、これまでこの理論が適用できない例外となっていた。市場に新たな可能性を拓き、新たな消費者の欲求を生み出すことを一番の目標とし、利益は二の次にするのが特徴だった。しかし最近はライバルをたたくことに重きを置きすぎており、製品をより完璧に近づけることに邁進している。その結果、安さを武器にライバルが市場参入する隙ができてしまったのだ。

ソニーが共同創業者である盛田氏の引退を機に偉大な企業から単なる良い企業になってしまったように、Appleもイノベーションのジレンマに囚われてしまう可能性があるとクリステンセンは指摘する。そうならないためには、オペレーティングシステムをオープンにして技術を供与するという形でイノベーションを推進し、自社開発では得られないほどの存在感を業界内で確立すること。もしくは、破壊的な製品カテゴリをまた生み出すことが必要だ。クックは「最高の製品をつくることこそ、我々の道しるべだ」と繰り返し述べている。あとは、それができることを証明しなくてはならない。

地図アプリの失敗

スマートフォン市場におけるAppleのシェアが低下する一方、サムスンのシェアが急伸している。失敗が許されない状況の中で、新たに発表されたiPhone 5に標準搭載となる地図アプリは悲惨な結果を招いてしまう。それまで搭載されていたGoogleマップではなく、自社開発の地図アプリに差し替えることにしたのだが、あるはずの道路が表示されない、お店やランドマークの名前が間違っている、と地図自体が使い物にならない有様だったのだ。

AppleはGoogleを超えるものを作ろうとするあまり勇み足になってしまった。さらに、Siriと同様に開発を秘密裡に進めたために十分な試験ができなかった。地図アプリの試験を担当したディベロッパーはバグを報告しており、その問題がトップに報告されていなかったのか、それとも大した問題ではないと判断されたのかは定かではない。いずれにせよ、Appleの仕事の進め方がおかしくなってしまっていた。

クックは自ら謝罪を表明するとともに、ライバルのアプリの利用を促すという屈辱を受けた。さらにこのアプリを監修していたフォーストールが謝罪を拒否したため、クックは次期CEO候補と言われていたフォーストールを辞任させる。失敗を厳しく追及するクックのやり方では、部下がリスクを嫌ってイノベーションが生まれにくくなるおそれがある。このように見てくると、「Appleの未来を描く人物としてクックが最良の人物なのか」という疑問が湧いてくる。

弱まるAppleの支配力

Appleは自社工場を持っていない。iPhoneなどの製品の多くは、サプライヤーである台湾の巨大メーカー、フォックスコン(鴻海精密工業)に作らせている。軍隊にたとえられるフォックスコンの工場では教育と訓練が施された100万人もの工員が計画通りに製品を作っている。Apple製品に対する需要が高まるにつれ、Appleはフォックスコンに対して圧力をかけ、その厳しい労働環境は自殺者が相次いで問題になるほどであった。

そしてフォックスコンがiPhone 5の製造を受注し、組立ラインをフル稼働させるよう工場のマネージャーに指示が下されたとき、工員たちの堪忍袋の緒が切れた。今回は自殺ではなく、外に対して怒りを爆発させたのだ。2000名もの工員が暴徒と化し、建物を破壊した。別の工場では製造の基準が高すぎるとして、工員と品質管理係がストライキに入った。美しいiPhoneやiPadを製造する現場の暗い実態が明るみに出てしまった格好だ。

Appleにとって痛手なのは、こうしたイメージ面での失敗だけではない。クックがCEOに就任してからもAppleとフォックスコンの蜜月関係は続いていたが、Appleがあまりにフォックスコンに依存してしまったため、最近では力関係が逆転し、フォックスコンの方がAppleの要求を押し返し、価格の引き上げを交渉できるようになってしまったのだ。

Appleは委託先を拡大してフォックスコンへの依存を引き下げようと努力しているが、製造ノウハウはサプライヤーが握っているため、なかなか一筋縄ではいかない。新しいサプライヤーをAppleが要求する高い品質基準を満たすよう鍛えるのは容易ではない。最近ではシャープのようにAppleの販売減速の影響を受けて窮地に立たされる企業も出てきており、以前のようにAppleとの取引には大きなメリットがあるわけではなくなってしまったのだ。

沈みゆく帝国

ジョブズが亡くなって2年あまりのうちに、彼が生み出し、愛した会社は四方八方から押し寄せるたくさんの課題に直面している。

業界自体を変えてしまう夢のような新製品が出なくなったことだけではない。世間からの憧れは消え失せ、厳しい目が注がれるようになった。フォックスコンに依存していることに伴う危険が明らかになった。スマートフォンやタブレット市場はAndroidが席巻しつつあり、Apple製品のシェアが低下した。士気が低迷した社員が次々と辞め、あろうことかGoogleに行く人も多い。

こうした課題が大挙して押し寄せているなかで、株価は低迷し、利益もこの10年で初めて減少してしまった。株主総会でクックは新製品の開発に注力していると繰り返し述べたが、「クックが話すたびに株価が下がる」とまで揶揄される始末だ。

Appleに求められていることは、もう一度世界をあっと言わせる魔法のような新製品を出し、Appleの売上や利益にはっきりと貢献するような成功を収めることだ。だが、ジョブズが後継者に選んだクックはビジョナリーではなく、イノベーターの経験もなく、強みは表計算ソフトでしかない。クックの口から出てくる言葉は単調で、ちょっと調子が外れている。きらめきも、炎のような活気も感じられない。

元Apple取締役で、ジョブズの親友でもあったOracleのCEOであるラリー・エリソンは、「ジョブズがいなくなったいま、昔ほどの成功はもう無理だ」と語っている。


専用デバイスとスマホで車の健康を測るスマートドライブ、8月から実証実験開始

自動車についている「OBD2コネクタ」というものをご存じだろうか。OBDとは、On-board diagnosticsの略で、これは自動車の点検用の規格である。このODB2コネクタを通じて、車速やエンジンの回転数をはじめとした、さまざまなデータを取得できるようになっている。

このOBD2コネクタにデータ送信用のデバイスを差し込み、スマートフォンを経由して車の健康状態や移動の履歴などを取得するといった取り組みを行っているスタートアップが米国で続々登場している。AUTOMATICZubieMETROMILEMOJIODashなどが存在している。ちなみにDashには国内からサイバーエージェントが出資をしている。

それぞれ、コネクタに挿したデバイスからスマートフォンにデータを送信することで、急発進や急ブレーキなどガソリンの無駄になるような運転をした場合に警告を出したり、ドライブの記録をしたりといったことを実現している。

この領域に日本で挑戦するのがスマートドライブだ。2013年10月に設立した同社は、ベンチャーキャピタルのANRIから出資を受けて、現在自動車向けのデバイスと、連携するスマートフォンアプリを開発している。

そんなスマートドライブだが、8月から柏の葉アーバンデザインセンター (UDCK)の協力のもと、千葉県の柏の葉スマートシティにて1カ月にわたる実証実験を開始することを明らかにした。今回の実証実験では、柏の葉スマートシティエリアの住人約20人が対象となる予定だ。

スマートドライブの手がけるシステムもOBD2コネクタにデータ送信用のデバイスを挿し、スマートフォンへリアルタイムに車の健康状態や運転ログを記録する。

アプリでは、1000以上のエンジンアラートのトラブル内容を閲覧できるほか、運転ログの閲覧、急ブレーキや急発進、走行速度の状況などから、燃費効率を分析し、「ポイント」という形で評価する。

年内にも販売を開始

スマートドライブでは、年内にも個人向けにプロダクトの販売を開始する予定。ただし、ビジネスの中心になるのは、保険会社などにデバイスを卸し、その契約者に使用してもらうといったようなBtoBtoCのモデルになるそうだ。

例えば米国の保険会社Progressiveは、契約者に「Snapshot」なるデバイスを提供している。このデバイスもOBD2コネクタに接続して使用するのだが、急ブレーキなどの回数などをもとに安全な運転をしているかを分析。安全運転であれば保険料の割引もなされるという取り組みをしている。スマートドライブでもこのような形で自動車保険や自動車整備関連の事業者を通じたデバイスの提供を狙う。

また将来的には、個々の車のデータを分析し、ビッグデータによる渋滞予測や交通事故予防などにも取り組む予定だという。


KDDI ∞ Labo第6期最優秀賞はブラウザー間コンテンツ配信「MistCDN」

KDDIが2014年3月にスタートしたインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo(KDDI無限ラボ)」の第6期プログラムが終了した。7月14日には第6期参加チームが東京・ヒカリエでプレゼンを実施し、最優秀チームにはブラウザー間でコンテンツ交換を行うP2P型コンテンツ配信プラットフォーム「MistCDN」を運営するMist Technogiesが選ばれた。第6期プログラムは一般に公表されていないサービスアイデアを持つ5チームが参加し、KDDIが「独自性」「市場性」「完成度」の観点で最優秀チームを選定した。

アクセスが集中するほどパフォーマンスが向上

MistCDNはユーザーのPCにコンテンツをキャッシュし、同じコンテンツを視聴するユーザーのPC間でコンテンツを交換するコンテンツデリバリネットワーク(CDN)。アクセスが集中するほど配信元となるPCが増え、転送速度が向上する仕組み。PC間の通信は、Web標準技術の「WebRTC」を採用している。MistCDNを導入するウェブサービス運営者は、コードを数行挿入するだけで利用できる。

アカマイに代表される従来のCDNは、アクセスが集中するほどサービス品質が低下する傾向にあるが、「MistCDNはアクセス集中を味方にするのが強み」とMist Technologiesの田中晋太郎氏は話す。逆に言えば、アクセスが集中していない状況は従来のCDNに分があるとも言える。田中氏によれば、従来のCDNをディスラプト(破壊)するのではなく、お互いの強みをウェブサービス運営者が使い分けられる環境を提供したいのだという。

現在はHTML5コンテンツ配信やライブストリーミング配信を行っていて、14日には無料トライアルキャンペーンを開始した。正式サービスの時期や料金は未定だが、コスト面では従来のCDNと比べて平均60〜80%削減できるとしている。

子どもの日常のベストシーンを集めた成長シネマを自動作成できる「filme」

14日に行われたプレゼンでは、来場者の投票により決定する 「オーディエンス賞」も発表され、スマホで撮影した動画を選んでコメントを添えるだけで動画日記が作れるアプリ「filme(フィルミー)」を開発するコトコトが選ばれた。日々の動画が20日分たまると、その期間の成長を振り返れる「成長シネマ」を自動的に作成できるのが特徴。成長シネマは独自の動画編集エンジンにより、子どもの表情や動き、声を自動検出し、日々の動画の中からベストシーンを集める。

動画の保存容量に制限がある無料プランに加え、容量無制限で成長シネマを毎月1枚無料でDVD化できる有料プランを用意する。コトコトの門松信吾氏は「動画版のフォトブックのポジションを目指す」と言い、将来的にはDVDの送付先となる祖父母をターゲットとしたシニア市場や、動画編集技術を転用することで旅行を含めた「思い出市場」も視野に入れているという。8月に正式サービス開始予定で、14日には事前登録を開始した。

第6期プログラムのチームはこのほか、ユーザー投票や審査に通過したクリエイターのみが出店できるハンドメイドジュエリーのECサイト「QuaQua(クアクア)」を運営するダックリングス、独自のクローラーと女子大生キュレーターによって厳選した女性向け媒体の記事を配信する「macaron(マカロン)」を手がけるSPWTECH、ネイティブアプリのユーザー行動を動画として記録して解析するツール「Repro(レプロ)」を開発するReproが参加した。

第7期はセブン&アイやテレビ朝日などのパートナー企業が支援

第7期プログラムは、7月14日より参加チームの募集を開始した。第7期の特徴は「パートナー連合プログラム」として、セブン&アイ・ホールディングスやテレビ朝日など13社が参加すること。これによってスタートアップは、セブン&アイに流通チャネルとの連携をサポートしてもらうことなどが可能となる。

KDDI ∞ Laboのラボ長を務める江幡智広氏は、「各社のアセットをスタートアップに提供して新規事業創出のきっかけが作れれば」と話す。KDDI ∞ LaboのようなCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は一般的に自社の事業との相乗効果を求めて運営されるが、江端氏は「すぐにシナジーは求めず、スタートアップの成長をひたすら願う」としている。

パートナー連合プログラムに参加する各社は、スタートアップとの協業を通じて新事業シーズの発掘、経営資源の活用やスピード感の不足を補うのが狙いだ。13社のうちセブン&アイ、テレビ朝日、三井物産、コクヨ、プラスの5社はメンタリング企業としてスタートアップをバックアップする。このほか、近畿日本ツーリスト、ソフトフロント、大日本印刷、東京急行電鉄、凸版印刷、パルコ、バンダイナムコゲームスがサポート企業として名を連ねている。

KDDIは14日、新たに約50億円規模の「KDDI新規事業育成2号ファンド」を設立することも発表している。


クソみたいに小さいIPOはすべきではない–gumiが50億円を調達した理由

ソーシャルゲームの開発とパブリッシュを手がけるgumiが、WiLなどを割当先とする総額50億円の資金調達を実施した。日経新聞の報道や関係者からの話を総合すると、gumiの2014年4月期決算は、子会社エイリムのゲーム「ブレイブフロンティア」が好調で売上高が100億円超になっているという。また調達の発表後には、ブルームバーグにて年末にも東証1部に上場するという報道もなされた。

そんなgumiの今後について、代表取締役社長の國光宏尚氏と、WiL共同創業者でジェネラルパートナーの松本真尚氏の2人に話を聞いた。

3つの機能を持つWiL

WiLの設立は2013年8月。今回話を聞いた松本氏に加えて、元ベンチャーキャピタルDCMの伊佐山元氏、元サイバーエージェントの西條晋一氏が立ち上げたベンチャーキャピタルファンドだ(ちなみに松本氏は自身の会社の買収合併に伴いヤフーに参画。CIOを務めた)。全日本空輸やソニー、日産自動車などの大手企業、産業革新機構などを中心に、3億ドルという大規模なベンチャー投資ファンドを立ち上げている。gumiへの出資について話を聞く前に、まず松本氏にWiLの目的やミッションを聞いた。

–gumiのほかにもトライフォートやトレタなどがWiLのファンドからの資金調達を発表しています。あらためて投資スタンスを教えて下さい。

松本氏:WiLではすでに日米両国で複数の企業に投資しています。米国で2社ほど、日本で6社ほどです。米国では、例えばOculusと同じ大学で仮想現実を研究していたスタートアップ(Surviosと思われる。詳細はこちらの記事を参照)などに出資しています。

WiLは3つの機能を持っています。まず1つめは日米でのベンチャー投資です。日本からは世界で戦える産業に挑戦しているスタートアップに、また米国であれば日本に進出できるようなスタートアップに投資をしています。

2つめはビジネスクリエーションです。ビジネスクリエーションと言っても、プロダクトをゼロから作るというよりは、カーブアウトを考えています。実は大企業のR&D部門には、たくさんの特許やサービスが使われずに眠っています。さまざまな企業でお蔵入りしたプロダクトを組み合わせていったら面白いことができるという可能性がありますよね。

そのため、今は企業のR&D部門の方と毎週のように会っています。今僕らの時間の使い方は、ベンチャー50%、大企業(のR&D部門)50%くらいになっています。基礎技術だったりするので、今日明日どうこうするというスピードで進めている話ではありませんが、チームビルドも含めて我々がやり、カーブアウトさせるということをやっていきます。

3つめは日本のベンチャーの底上げをしっかりするということです。とは言ってもインキュベーション、アクセラレーションという形でサポートをする人たちは増えてきていますし、そこをやるつもりはありません。

日本のベンチャーの底上げと考えると、ヒト・モノ・カネを持っている大企業を通してベンチャーが世界に飛び出すということが大事です。そういうこともあって、実はLP(リミテッドパートナー:有限責任のファンド出資者、出資企業)の社員を我々のシリコンバレーオフィスに受け入れていたりします。そこでベンチャーのビジネスプランを考えたり、技術評価をしたりしています。エデュケーションとまではいかないのですが、底上げに向けた動きはしています。ただいずれにしても僕らは基本的にPRはあまりしていません。VCは裏方じゃないですか。

–gumiへの投資を決めた理由について教えて下さい。

松本氏:國光さんがこのあと話してくれると思いますが、「グミノミクス」ですよ。(國光氏がTwitterに投稿していた内容を挙げて)時価総額8兆円を実現してくれると思っています(笑)

冗談はさておいて、國光さんはストラテジストなんです。それに、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズにはなれないと思いますが、実は孫さん(正義氏)には性格が近いところがあります。それは7割方ものごとができあがると、ゴールに向かって進んでいくところです。「ここは勝てる」となった時にアクセルをかけるということをやってのけるし、ダメだとなった時にはすぐに軌道修正もする。しっかりしたボードメンバーもいるし、自社ゲームアプリの一発勝負ではなく、グローバルでゲームのパブリッシングもやっている点も評価しています。

gumiの成長戦略「グミノミクス」

–先ほど松本さんの話にあったグミノミクスについて教えて下さい。

國光氏:グミノミクスはgumiの成長戦略のことです。例えば2年前にはブラウザゲームからネイティブゲームへの移行、海外進出、内製アプリのヒットといったことを指針に掲げていました。

今最新のグミノミクスの指針は3つあります。1つめは「Conquer rest of the world」。ヨーロッパやロシア、中南米など、まだリーチしていない地域をどう攻めるかということです。

今gumiには、国内外合わせて800人弱の社員がいます。国内と海外の比率で言うと、半分は海外です。まだ場所は言えませんがさらに海外も拠点を拡張します。ブレイブフロンティアは現在15言語で展開していますが、こちらは年内にも全世界で展開していきます。

またgumiは自分たちでゲームを作るデベロッパーであり、他社のゲームを世界に展開するパブリッシャーでもあります。デベロッパーとしては、前述のとおり拠点を作っているところです。世界中でいい人材が居れば、チームごと引き抜いてきます。M&Aはやりません。M&Aしても買った会社に価値があるのではなくて、チームが大事です。人に投資しないといけません。

パブリッシャーはとしては取りあえず各国でゲームを出してみて、数値がよければ本格的に進出するという形で展開しています。多くのパブリッシングビジネスは、自分の国の小さいデベロッパーのコンテンツをパブリッシャーが出すことがメイン。金もある、ユーザーもある、と言ってくる。ただしgumiではグローバルでマーケティング、運用といった体制があります。最近ではセガとも組みましたが、我々はクロスボーダーでのパブリッシングに強いという大きい特長があります。

グミノミクスの2つめですが、「ミッドコアゲームへの注力」です。例えば韓国などはカジュアルが好調ですが、もう少しコアなゲームにもチャレンジしていきます。ブレイブフロンティアは世界でもいけると思えたので、パブリッシングゲームでもそこを狙っていきます。

そして3つめは、引き続きヒット作品を出すということです。

クソみたいに小さいIPOはすべきではない

–年内上場という報道もあります。gumiはこれまで何度かIPOの噂もありましたが、改めてIPOについてどう考えているか教えて下さい。

國光氏:gumiの目標は「ゲームで世界一をとる」ということがダントツです。そう考えるなら、たとえ年末にIPOできてたとしても、「攻める」ための資金を集めるには遅いじゃないですか。それがあっての今回の資金調達です。IPOはしかるべきタイミングでと考えています。

松本氏:IPOから逆算するようになると、世界一は実現できないでしょう。Dropboxだって上場のためにお金を集めるわけではないです。そしてFacebookだってTwitterだってずっと赤字でした。中途半端な上場をするくらいならしない方がいい。

國光氏:ここは声を大にして言いたいんですが、クソみたいに小さいIPOはすべきではないんですよ。

IPOするといろんな情報を公開していかないといけないし、計画を大きく変えることには問題が出てきます。そうなると、少なくとも売上はIPO後2年間は右肩上がりになるようなビジネスモデル、そして組織力が必要になります。

そこを考えるとgumiの戦略はシンプル。どんなに行っても日本のマーケットはいつかは底を打つことになります。それで我々は海外に展開しています。グローバルのゲーム市場はまだまだ右肩上がりです。

IPOまでに考えないといけないのは、グミノミクスとしても話しましたが、デベロッパーとしての「(ブレイブフロンティア以外という意味で)アナザーヒット」と、パブリッシャーとしての成功です。

そしてそのヒットを出すための公式は「打席数(金)×打率(人材とIP)」です。お金があっても、人材がいないと始まりません。また、すべてのゲームをIPものにするつもりではないのですが、IPには金がかかります。打席数を増やす、IPをとる、とすべてお金が必要です。いざ何かをやろうとしたタイミングに(今回の調達で)お金を持っている必要があります。

–すでに國光さんは自社の株式をすで3割切る程度しか持っていないとも聞きました。

國光氏:あくまで最優先するのは世界一。自分の持ち株比率は、それより優先度が下になります。株式が希薄化してもお金を集めるというのにそれほど躊躇はありません。ただし、意思決定のために個人筆頭(株主)であることはこだわっています。

松本氏:シリコンバレーでは多い考え方ですよね。会社としての成長に重きを置くというのは。

創業社長がずっと社長である意味はありません。ナンバーワンになることを最優先するなら、ステージステージで最適なボードメンバーが必要です。そうなると社長が國光さんじゃないかも知れない。自分の会社を大事にしたいのか、会社を世界一にしたいのか。例えば後者であれば、みんなが認めたバトンタッチであればいいのではないでしょうか。しかしながら日本ではあまりそういう考え方がありません。

–すべてのゲームとは言いませんが、この30年盛り上がっていたコンシューマ機からスマートフォンへの移行があります。ではスマートフォン中心のゲームビジネスはどれくらい続くと見ていますか?

國光氏:エンタメ産業の市場規模は結局のところ「可処分所得×人口」で決まります。これはなくらないし、市場規模だってきわめて安定している。それを誰が取っていくかの話だと思っています。

国内でいくと2、3年でスマートフォンゲームの市場は成熟化するでしょう。そこからはデバイスの進化に合わせて、5〜10年というところではないでしょうか。

ですが海外では、今まさにスマートフォンが普及し始めて、世界中が豊かになっているところです。向こう5〜6年は完璧な右肩成長が続くでしょう。先進国でこのペースであれば、新興国を含めると10年は伸びていくでしょう。

その後はスマートフォンやタブレットに続き、スマートTV、さらにはOculusのようなデバイスを使ったゲームも出るでしょう。そんな中でどんな手を打つかです。gumiが目指すのはエンタメの世界一です。例えばブレイブフロンティアだってタブレットやスマートTVでも出すし、コンシューマ機でだって出すし、アニメも映画も興味あります。例えばディズニーのミッキーマウスのように、ありとあらゆるところにプロダクトを出すイメージがあります。

あと、Eトイなんかは挑戦したいと思っています。テクノロジーは進化しています。時代ごとに、ハードとの連携なども考えていかないといけません。そこに手を打っていないと、一気に環境が変わったときに対応できなくなります。gumiはこれまで3回ピボットして、3回会社がつぶれかけたのですが、それでも生き残れてきたのは会社のビジョンで言っている「勝つためには誰より早く挑戦して、誰より早く失敗して、誰より早く復活する」ということをやれたからです。

松本氏:國光さんの、gumiのいいところは「無形資産に投資している」というところもあります。皆さんコンテンツではなくプラットフォームに挑戦をするので、いざそれをスイッチングしようとしても硬直化してしまいます。ですがディズニーだって無形資産、コンテンツです。それでさまざまな形でユーザーの可処分時間を取っています。

プラットフォームは変わって当たり前、ゲームにこだわらなくていいんです。gumiはこれまでのピボットでSNSもブラウザゲームも捨ててきました。いつかはネイティブアプリのゲームも捨てられるでしょう。そうして例えばリクルートのように「イズム」を作る会社になれば、100年だって続いていくはずです。


知識がなくても使える電子書籍出版サービスを目指す「WOODY」

WOODY Concept Movie from WOODY on Vimeo.

AmazonのKidle Direct Publishing(KDP)をはじめとして、個人が執筆した電子書籍を流通させるプラットフォームは増えてきた。だがいざ出版しようとなると、ITリテラシーの低い人間では難しいことも多いそうだ。例えばKDPであればEPUBへの変換が必要だし、管理画面も人によっては複雑だという。さらに米国での所得税の回避手続きに至っては、ファックスでのやりとりが発生するそうだ。

そんな電子書籍の出版を「JPEG(という画像形式)すら知らない主婦でも利用できるようにしたい」と語るのが、サイバーエージェントを退職して7月7日に「WOODY」を正式オープンしたWoody代表取締役社長の中里祐次氏だ。

中里氏が手がけるWOODYは、ブラウザ上で電子書籍を作成すれば、電子書籍プラットフォームでの出版の申し込みまでを実現してくれるサービス。書籍の内容をエディタ上で編集し、表紙の画像やタイトルを挿入、さらに著者や書籍の情報をサイトにて編集すれば、Kindle、GooglePlayBook、kobo、iBooksでの出版の申請ができる(出版元はWOODYとなる)。申請から先の作業はWOODYが担当する。すでに、先日上場したばかりのVOYAGE GROUP代表取締役である宇佐美進典氏の「サイバーエージェントからMBO、そして上場へ 」など、数冊の電子書籍が販売されている。僕も実際に申請までのフローを試してみたのだけれど、ブログサービスなどを使ったことのあるユーザーであれば迷うことはないと思う。ただ、各電子書籍プラットフォームの違いなども含めて、もう少し説明があればより使いやすくなる気がした。中里氏によると、サービスの改善については今後急ピッチで進めていくそうだ。

電子書籍の制作は無料。売上については、各販売プラットフォームの手数料を引いた金額から30%を手数料として徴収する。正直この手数料でマネタイズできるのかとも思ったのだけれど、今後はWoody自身も執筆者を発掘していき、「身近な人々」「興味のあるジャンルの人々」の本を簡単に読めるようになる仕組み作りをしていくという。

中里祐次氏は、2013年までサイバーエージェントに在籍し、若手ビジネスマン育成事業の「SHAKE100」などに携わっていた人物。もともと本を読むことは好きだったそうだが、複数の友人のすすめもあってWOODYを企画。サイバーエージェントから創業資金の一部について出資を受ける形で事業をスタートした。


スマホゲームのgumi、WiLなどから合計50億円の資金調達

子会社エイリムが手がける「 ブレイブフロンティア」も好調なスマートフォンゲームデベロッパーのgumiがまた大型調達を実施している。同社は7月4日、WiLが運営するファンド等を割当先とする第三者割当増資で総額50億円を調達したと発表した。

同社の発表によると、WiLのほか、セガネットワークス 、ジャフコ 、B Dash Ventures、新生企業投資、グリー、三菱UFJキャピタル、DBJ キャピタルに加えて、個人投資家が出資しているとのこと。また複数の業界関係者から聞いた話を総合すると、WiL単体で20億円程度の出資がなされているようだ。

gumiはこれまで公開されているだけでも40億円超の資金調達を実施しており、今回の調達をあわせると約100億円を調達したことになる。


「ごちクル」運営のスターフェスティバルがアスクルから28億円を調達、共同配送で効率化目指す

弁当やケータリング商品の宅配サービス「ごちクル」 を手がけるスターフェスティバル。2013年8月にジャフコを割当先とした10億円の資金調達を発表していたが、さらなる大型増資を実施している。同社は7月4日、オフィス用品の通販を手がけるアスクルを割当先にした第三者割当増資と、新株予約権付社債の発行等によって総額28億円の調達を実施。資本と業務の両面で提携することを明らかにした。

ごちクルはこれまでに、600ブランド6800種以上の商品を展開。累計550万食を提供してきた。今回の提携を契機にして、11月をめどにごちクルをアスクルのサービスとしても展開していく。

さらに配送面でもごちクルの商品をアスクル子会社であるBizexの配送サービスを活用して配送したり、スターフェスティバルの配送車の空き時間をアスクルのサービスに活用するなどして、配送の効率化を進める。将来的にはアスクルとごちクルの商材の同時配送等も目指すとしている。


オンライン秘書「Kaori-san」を起業したのは「FON」の共同創業者だった


「Kaori-san」は「出張先のホテルを探してほしい」とか「競合他社のサービスをリストアップしてほしい」といったリクエストに答えてくれるオンライン秘書サービスだ。TechCrunch Japan読者なら、このサービスの存在にしばらく前から気付いていた人もいるかもしれないけど、気になるのは、Kaori-sanを運営しているのはどんな会社なのかということだよね。サイトには社長と思われるスキンヘッドのいかついアフリカ系アメリカ人の写真が、「I am Kaori-san」というコメント付きで掲載されていたりする。意味が分からない。誰が、かおりさんだって?

Kaori-sanさんにメール取材を申し込んでみたところ、創業者であるイジョビ・ヌウェア氏から回答を得ることができた。

それによれば、Kaori-sanの母体となる会社はアメリカにあり、日本法人は2013年7月に設立。ヌウェア氏は先述したスキンヘッドのアフリカ系アメリカ人で、ニューヨーク出身。実は無線LAN共有サービス「FON」の創業者の1人で、ビジネスウイーク誌により「25人のトップ起業家」に選出されている。日本では2008年6月にオンラインマーケティングに特化したランドラッシュグループ株式会社を設立し、その後オンライン秘書サービスKaori-sanをスタートしたのだという(参考:CrunchBase

Kaori-sanの運営チームはすべてオンラインで仕事をしていて、オフィスは郵便物の受け取りや打ち合わせのためだけに使用している。オンライン秘書の人数は非公開とのことだが、8割は日本人、残りの2割は中国人、台湾人、韓国人が占めている。現在のアクティブユーザーは数百人。売上については非公開だそうだ。

日本でKaori-sanを始めたきっかけは、有能で「使える」スタッフを雇うのはコストがかかり、特に中小企業がバイリンガルのスタッフを探すのが難しかったからだ。「企業のスタートアップ時期に好ましくない人物を誤って採用してしまっては、会社にとって大きなダメージ」という問題を解決するために日本でKaori-sanを始めたのだと、ヌウェア氏は僕に説明した。

接待で使えるメイド喫茶を教えてください

実はメール取材の前に、Kaori-sanを試してみたので使用感もお伝えしたい。今回利用したのは、3件のリクエストを依頼できる「バイトプラン」(月額2490円)。このほかには、リクエスト数が6件までの「部長プラン」(月額4980円)、15件までの「社長プラン」(月額8980円)、25件までの「会長プラン」(月額1万4980円)がある。プランごとに営業時間が異なり、バイトプランは午前9時から午後5時までの対応だが、会長プランだと24時間対応してくれる(現実の会長秘書が24時間付き添ってくれるのかどうかは別として)。

実際にリクエストしたのは以下の3つだ。

・7月の山口・萩旅行のお土産を教えてほしい
・彼女の誕生日に贈るものを考えてほしい
・接待で使えるメイド喫茶を教えてほしい

内心、最後の質問は無茶振りかなと思ったりもしたが、果たしてKaori-sanはこれらの質問に答えてくれるだろうか。

それではまず、「7月の山口・萩旅行のお土産」の結果から見てみよう。返信は依頼から2時間で来た。これを早いと見るか、遅いと見るかは人それぞれだろうけど、そんなに急ぎの用件ではなかったので特に不満はなかった。

Kaori-sanのオススメは「夏蜜柑丸漬」「ブランデーケーキ 夏蜜柑」「萩焼(茶の湯で使うための陶器)」「萩のカマボコ」「萩のチクワ」。萩についていくばくかの知識しかない僕にとっては、夏蜜柑やカマボコ、チクワが名物であるなんて思いもしなかった。さすがに職場の同僚に陶器をプレゼントするのは躊躇するが、美味しそうなお土産を買って来ることができそうだ。1つ注文を入れるとすれば、「どこで購入できるのか」「駅の売店で買えるのか」といったところまでカバーしてくれればなお良かった。

次は、「彼女の誕生日プレゼント」だ。Kaori-sanはNAVERまとめをソースとして5つのプレゼントを提案してくれた。5位はバック、4位は時計、3位は花、2位はネックレス、そして1位は指輪という結果に。ふだん、ネットで記事を書いている僕からすると、「おいおい、ソースがNAVERまとめかよ。『彼女 誕生日 プレゼント』で検索してトップに出てくるようなページをおすすめされてもなあ……」と思わなくもなかったが、「検索するのも面倒」と言う人にはいいかもしれない。

最後は、「接待で使えるメイド喫茶」の結果だ。そもそも「ビジネス用メイド喫茶」を探す依頼自体が無理難題っぽいが(存在するかも含めて)、案の定、Kaori-sanは困っているらしく「どちらの場所でお探しいたしましょうか? 個室等ご希望でしたら、詳細も合わせてご連絡ください」とのこと。そこで「秋葉原で、個室」という追加情報を記入したところで、回答は次の日に持ち越しとなった。僕が選んだバイトプランは、午前9時から午後5時までの「定時」以外は対応しないからだ。

翌日に届いた返信でKaori-sanは、5カ所のメイド喫茶をオススメしてくれた。ちなみに個室の件だが、「ゲームをしたり、写真撮影をしたりするお部屋はございましたが、接待に適した個室のあるメイド喫茶はございませんでした」との返信。こちらの無茶振りにもしっかりと答えてくれ、まさに”ご主人様”になった気分(若干Sっ気が出たのは事実)であった。

最後のメイド喫茶のリクエストはさておき、職場へのお土産については解決してくれたKaori-san。ネットリテラシーの高い人にとっては「自分でネットを使って調べたほうが早いのでは?」と思う人もいるだろうが、ネットで調べること自体が面倒とか、時間がもったいないという人もなかにはいるはず(僕もその一人)。そういう意味で、忙しい人にはおすすめのサービスと言えそうだ。

また、今回は「調べ物」を依頼してみたが、サイト上には「代理でアポイントやレストランの予約を取る」「カスタマーサポートへの問い合わせに対応する」「競合他社等の企業リストを作成する」といったリクエストにも対応してくれるそうだ。


Twitterタイムラインで電子書籍の”立ち読み”を実現、KADOKAWAが共同開発

KADOKAWAは2日、Twitterのタイムライン上でEPUB形式の電子書籍を読めるサービス「Tw-ePUB」を開始した。KADOKAWAグループの電子書籍のURLをツイートすると、タイムラインに“立ち読み”用の電子書籍が埋め込まれるようになる。

ユーザーはTw-ePUBのサイトからお目当ての書籍を選び、再生ボタンをクリックすると数ページを読むことができる。試し読みの最終ページに表示されるツイートボタンから感想と一緒にツイートすると、自分のタイムライン上に電子書籍が埋め込まれるようになる。

KADOKAWAによれば、Tw-ePUBはTwitterと共同開発した技術で、Twitterのタイムラインに電子書籍ビューワーを埋め込める世界初のサービスだとしている。


楽天、1億ドルの新ベンチャーファンドを組成―イスラエル、アメリカ、アジア太平洋を対象

6月が終わろうとしているが、日本の巨大インターネット企業、楽天にとっては大いに忙しい半年だった。楽天はメッセージ・アプリのViberを9億ドルで買収したのに加えて、日本と東南アジアのスタートアップを対象として組成した1000万ドルのベンチャーファンドからCarousellVisenzeCoda PaymentsSend Anywhereなどに投資した。

今回、楽天はもっと広い世界を対象とする1億ドルのベンチャーファンドを組成した。この新たなファンドはアメリカ、イスラエル、アジア太平洋地区を主な投資先とする。

新ファンドはシンガポールから運営される。Rakuten Venturesのマネージング・パートナー、Saemin Ahnは「このファンドはより良いユーザー体験とソリューションのためのテクノロジーの潜在能力を備えるスタートアップを育成するというRakuten Venturesの広汎かつ長期の目標を支えるものだ。将来はこれによるテクノロジー、ビジネスのエコシステムの育成に加えて財務的な成果も期待される」と述べた。

楽天は新ファンドが投資を考えている候補についてまだ何も明らかにしていないが、「〔投資対象は〕戦略的重要性をもったスタートアップであり、買収に進むこともあり得る」としている。

Ahnは「対象スタートアップは必ずしもモバイル分野に限られない」と述べたが、これまでの楽天の東南アジアにおける投資はモバイル・コマースに集中している。たとえばCarousellはC2Cのeマーケット、CodaPaymentsはeペイメントだ。またビジュアル検索のVisenzeのようなデジタル・コンテンツ分野にも出資している。

ここ2年の楽天の投資とM&A戦略は、同社をAmazonに対抗できるようなグルーバルなeコマースのコングロマリットに成長させようというもののようだ。たとえば買収では、Viberの他に、eブック・プラットフォームのKoboを3億1500万ドルのキャッシュで、ストリーミング・ビデオ・サービスのVikiを2億ドルで買収したのに加えて、額は不明だがスペインのストリーミング・ビデオ・サービス、Wuaki.tvも買収している。

楽天は2012年にはPinterestが15億ドルの評価額で1億ドルを調達したラウンドにも参加している。

Ahnは楽天の全社的な戦略について語ることは避けたが、投資先を多様化していることを認めた。

Ahnは「楽天は城と堀を活用する。われわれの城はeコマースで、いろいろな堀を作ってユーザーをわれわれのエコシステムに留めておく努力をしている。これはGoogleがAndroidやYouTubeという堀で検索という城を守っている戦略に似ている」と説明した。

画像:Flickr user Andy BeattyCC BY 2.0ライセンス

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


孫さんが認めたサービスの開発者が手がけるデートアプリ「コッピア」

日本でFacebookを活用して恋人を探せるスマートフォンアプリといえば、2013年12月にヤフーと提携した「Omiai」や100万人が利用するという「pairs」などがある。この手のアプリはゴマンとあって、違いがよくわからないのが正直なところだけれど、今回紹介するデートアプリ「Coppia(コッピア)」を記事にするのは、その原点となったアプリがちょっと異色だからだ。

コッピアを運営するロケットスタッフは2011年3月、東日本大震災の被災者と支援者をマッチングするサービス「TwitForYou!」をオープン。被災者が欲しい物資と、支援者が送りたい物資の情報をそれぞれTwiterアカウントでログインして登録する仕組みで、これまでに家具や洋服、雑貨など2000件の物資がやりとりされたのだという。この取り組みにはソフトバンクの孫正義社長も「素晴らしい!」と絶賛している。

Twitterを使ったマッチングに可能性を感じた彼らが次に手がけたのは、現在地から10km圏内にいる人とチャットや写真共有ができるiPhoneアプリ「Pepper-meet」だ。この話を聞いてすぐに「近所同士の出会い系?」と思ってしまったが、ロケットスタッフ代表取締役社長の高榮郁氏曰く「近所同士の助け合いが目的だった」。結局は意に反して出会い系のように使われたためにサービスを終了。ところが、このアプリに目を付けた会社からデートアプリを作ってほしいというオファーが舞い込む皮肉な展開となり、2つのデートアプリを受託開発することとなったそうだ。

理想のデートプランでマッチングする「重くない」デートアプリ

そして今回、独自のデートアプリとしてリリースしたのがコッピア(イタリア語でカップルの意)というわけだ。自分が投稿したデートプランを気に入ってくれた異性とメッセージのやりとりをするのが特徴。デートプランを投稿した人は、1対1だけでなく、2対2以上のグループデートも選べる。アプリを見せてもらったところ、「ワールドカップ観戦できるビアガーデンに行きたい」「ダーツバーに行ってみたい、できれば複数で」といったデートプランが投稿されていた。

婚活や恋活をうたうデートアプリは、お互いのプロフィール写真に「いいね!」をした人同士をマッチングするものが多いが、高氏はこれらのアプリを「重苦くないですか? そもそも婚活ってキーワード自体が重い。出会いというのは、かしこまらず自然であるべき」と言う。コッピアは「同姓や異性にかかわらず、気軽に楽しいことができるサービスにしたい」と話し、早々に2000ユーザーを目指す。

利用するにはFacebookアカウントが必須。あとは保険証や免許証などの写真をアップロードして年齢認証を行わせることで安全面に配慮している。月額料金は無料で、課金はお互いの「サブ写真」(メインのプロフィール写真とは別にアップロードしている写真)を見たり、男性が女性にメッセージを送信するごとに発生する。現時点では東京限定のサービスだが、今後は大阪や名古屋での展開も見込んでいる。


週2日副業で月24万円も、エンジニアの空き時間と企業をマッチングする「PROsheet」

ITエンジニア不足が深刻化していると言われるが、優秀なエンジニアはすでに働いていたり、転職しようと思えば自分の横のつながりで新しい仕事を紹介されたりしている。企業に属さないイケてるエンジニアだってフリーランスや起業家として活躍しているもの。そんなITエンジニアの空き時間に着目し、企業とマッチングしているのが、今年2月にベータ版を開始した「PROsheet(プロシート)」だ。エンジニアに職務経歴書を登録してもらうことで、週2日からの仕事を紹介している。

エンジニアはサイト上で、自分が扱えるJavaScriptやPHP、Java、Ruby、Perlといった「言語」、LinuxやMySQLといった「スキル」、「希望報酬」を登録。希望に沿った案件がある場合は通知され、その場でエントリーできる。その後はプロシート専属のエージェントと面談し、希望条件を満たす企業に推薦してもらえる。最終的には企業との面談で業務委託契約を交わすことになる。

プロシートを運営するシェアゼロの中川亮氏によれば、すべての仕事が企業との直接案件のため報酬面が充実しているのが特徴。エンジニアが得られる報酬は「1日3万円がベース」。週2日勤務で月額24万円前後、週3日勤務で36万円前後の案件が多いという。自社サービスをやりつつ「ラーメン代稼ぎ」をしたい起業家や、時間を有効活用したいフリーランスなどに良さそうだ。

フリーのエンジニアが活躍する場としてはクラウドソーシングもあるが、「現状ではオンラインで完結する簡単なタスクが多い」と指摘する。サービス開始から3カ月で500人のエンジニアが登録し、年内に登録者数3000人を目指している。

採用企業にとっては、面談から最短1週間以内で稼働できるのがメリットだという。「即戦力を求める企業のニーズにも合致する」(中川氏)。プロシート側で登録者を事前にスクリーニングして、企業にフィットする人をエージェント経由で紹介するため、ミスマッチも起こらずに通常の採用のような負荷もないのだとか。これまでにカヤックやエウレカなどのベンチャー約60社が、100人近くのエンジニアと業務委託契約を結んでいるそうだ。

27日にはエンジニアを支援するために、シェアゼロが運営する東京・渋谷のコワーキングスペース「ライトニングスポット」にキャリア相談室を開設。プロシートの登録者に対して、TORETA(トレタ)やミイルのCTOを務める増井雄一郎氏ら現役エンジニアがメンターとなってアドバイスするサービスを開始した。あわせて、プロシート専属のエージェントが職務経歴書を添削するサービスも始めた。

シェアゼロの中川亮氏


日本人ファウンダーの福利厚生サービス、AnyPerkがVegas Tech Fund等から300万ドルを調達

AnyPerkはあらゆる規模の企業に社員福利厚生を提供するY Combinator出身のスタートアップだが、300万ドルの追加シード資金を調達したことを発表した。

共同ファウンダーでCEOの福山太郎(写真)によれば、AnyPerkはすでに2500社にサービスを提供しているという(Uberのライバル、Lyftはドライバーのリクルートの一環としてAnyPerkを利用している)。福山は「優秀な社員をリクルートするためのさまざまな方策が議論されているが、福利厚生の充実は社員の士気を高め、定着を促す上で非常に重要な要素だ」と語った。

この記事を執筆している時点で、AnyPerkのウェブサイトにはモバイル料金、映画、ジム、レストラン、スパリゾートの割引など400種類以上の福利厚生特典が用意されている。福山は「企業は自社で用意している福利厚生を社員がさらに簡単に利用できるようにするためにAnyPerkにアップロードすることもできる」と語った。

BetterWorksのような同種のサービスが失敗していることについて尋ねると、福山は「(BetterWorksなどは)ローカルビジネスと提携しようとした。われわれは逆に全国チェーンとの提携に力を入れている。その方がビジネスをスケールしやすいからだ」と答えた。また福山は「福利厚生サービスは他の多くの国ですでに成功している。アメリカが例外なのだ」と付け加えた。

たしかに投資家はこの分野に大きな可能性を見出しているようだ。AnyPerkに対する投資家にはZapposのファウンダー、Tony HsiehのVegas Tech Fund、Zuora CEOのTien Tzuo、Vayner RSEなどがいる。今回の新規資金の調達も主としてCyberAgent、Digital Garageなどを含む既存投資家から行われた。前回の資金調達(Andreessen Horowitz、SV Angel、YC、Digital Garage、CyberAgent)と合わせてAnyPerkは総額450万ドルのシード資金を調達したことになる。

今回の資金は主にセールスおよびマーケティングのチームの拡大とモバイル・アプリの開発に充てられる。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


nanapi「けんすう」が語る、ユーザー投稿サイト運営でやってはいけないこと

起業家の失敗談をテーマにしたイベント「FailCon」が18日、日本に初上陸した。FailConは、成功談ばかり語られるイベントが多く開催される中で、失敗談を研究して成功につなげようと、2009年にサンフランシスコで誕生したイベント。東京・代官山で開かれたFailCon Japanでは、 nanapi共同創業者の「けんすう」こと古川健介氏が、「CGMサービスを作る上での失敗」をテーマに講演。学生や予備校生向けのコミュニティサイト「ミルクカフェ」やハウツーサイト「nanapi」、スマホ向けQ&Aアプリ「アンサー」など、ユーザー投稿サイトの運営での失敗談とそこから得た教訓を語った。

ミルクカフェでは何度も警察に出頭

一番最初は19歳の時に「ミルクカフェ」というものをやっていました。どういう仕組みかというと、ユーザーが好き勝手に投稿して、「この授業が良かった」とか「予備校のあの先生、教えるの下手だよね」とかも投稿されていました。投稿しているのが学生さんなので責任を追わせるのは嫌だと思って、全部ボクの責任というふうにしたんですね。

そうすると、めっちゃ責任を負わされてですね。めっちゃ警察に行ってましたし、内容証明もがんがん来るし、訴訟での損害請求額は総額6800万円。でも、僕も学生でお金がなくて払えないので無敵だったんですね。

警察のような公的機関はいいんですけど、すごく大きな宗教団体の人が右翼を使って圧力をかけてきて、「街宣車呼ぶぞ」みたいな。すごい面白いと思って、ぜひ来てくださいという話で盛り上がったんですけど、そういうのがあると結構面倒臭いなと思うようになりました。

ミルクカフェの反省を活かした「したらば掲示板」も……

管理者が自分だからいけないんだと思って作ったのが「したらば掲示板」。ユーザーが好きに掲示板を作れるのですが、「自分の責任で管理してください」というものなので、我々は責任がなくなるんです。ユーザーも自分の掲示板を宣伝してアクセスが伸びていまして、2003年で3億PVだったりして、日本では100番ぐらいになってたりしました。

ただ、ユーザーからすると「掲示板は自分のもの」という意識があるので、広告を貼られるのを嫌がるんですよね。流行ってサーバー費用がかかるのにお金が入らない。成長すればするほどお金がなくなっていく感じで大変だなあと思いました。それで、ライブドアに事業譲渡せざるを得なかったという失敗をしてしまいました。

じゃあ次何やろうと考えてみると、やっぱり意見を交換するものは人が傷つく、これからはポエムだなと。主語とかなくて、「空がきれい」とか。ポエムが来るなと思ったんですけど、ポエムが来なかったんですね。ポエム来ないのかあと思って結構びっくりしました。

ハウツー版ウィキペディアの難しさ

その次にやったのがnanapiです。いろいろ考えてみて、人の意見がぶつかり合うものはトラブルが多いし、だからといってポエムぐらい振り切ってもニーズがない。そこで、生活に便利なネタを投稿するサービスを始めることにしました。

簡単に言うとWikipediaのハウツー版みたいなイメージ。これが結構難しくて、Wikipediaが解説する名詞と違って、ハウツーはコンテンツの粒感がバラバラなんですね。名刺とか固有名詞はひとつのコンテンツになるのですが、ハウツーだとドラクエのクリアの仕方から、ドラクエのこの洞窟の攻略法など、あらゆるレイヤーにわたって難しい。主観と客観もあったので、Wikipedia式は難しいと感じました。

最近気づいたのは、もともとは人が困るようなものを検索させたいと思ったんですが、検索できないものがあるということ。例えば、寂しいという悩みは、「寂しい」と検索してもいい情報が得られないんですね。我々のサービスの検索キーワードを見ても、寂しいで流入する人がベスト3くらいに入っていたんですよ。人は寂しいと思うと寂しいと検索するんだと。

検索しても解決しない悩みを解決したい

あんまり解決していないのでどうしようと思って作ったのが、即レス型の「アンサー」なんです。実際の例としては、「仕事にいきたくないー」「俺も」みたいなやりとり。仕事に行きたくないのは悩みなんですけど、検索してもしょうがなくて、「俺も」の2文字でいいんですね。それでユーザーさんが課題を解決するというか、解決まではいかなくても楽になることが起こっていたりします。

例えば、「次はぁ〜 おなりもん」という質問が飛んで「東京タワーのそばだよ」というと、のっぽんという東京タワーのキャラクターがボットで投稿したりします。そのほかにも、「化粧水は絶対にけちっちゃだめなんですってね」と言うと、島耕作が「そうですか」とボットで反応したりする。これは講談社に許可を取ってやっているんですけど、めちゃくちゃウザいじゃないですか。ユーザーは嫌がっているんですけど、島耕作がたくさん出てきます。

お題を投げてコミュニケーションしたかったのですが、こういったことはTwitterではできない。「おはよう」と言っても返信が少ないんですね。アンサーだと20〜30件くらい返ってくる。ユーザーが求めている緩やかなつながりとか、雰囲気を作っていたりします。今はアンサーが伸びていて、nanapiともつなげています。例えば、「大福の作り方を教えてください」といったときに、nanapiから引っ張ってコンテンツを出したりしています。

コミュニティサイトを作る際の5つのポイント

コミュニティサイトはボランティアや選挙事務所と同じなんです。社員は給料を払えば基本的に働いてくれますが、そうじゃないとモチベーション設計をしないといけない。このへんが難しいんですね。行き過ぎると誹謗中傷が起きたり、緩すぎると情報価値がなくなる。これをやると、こちらが立たず……ということになるんです。

人と人とのコミュニケーションは思い通りに行かないんですよね。そこで気づいたのはロジカルに考えないことです。意味のないことをやらないコミュニティはうまくいかない。2ちゃんねるのおみくじ機能とか、FacebookのPokeとか。

あとは数字で考えないのも大事です。この数字が伸びているので伸ばしましょうとすると、なぜか壊れるのでやっていなかったりします。

この機能の意味や価値は何かと説明できるものはイケてなくて、「島耕作がレスしたら面白いよね」「ユーザーが不便になるよね」というところからやるといいと思います。今のところ結果は悪いですけれど。意味不明にするのは大事で、素人考えだとわかりやすさやシンプルさが良いとされますが、わかりにくいからこそスティッキネスになったり、知りたくなるという人間の心理があるので、その辺を意識しています。

あとはゴールを明確にしないこと。例えば、クックパッドは「料理で困っている人を解決する」という価値が明確ですが、これを明確にするとつまんないなあと思うんですよね。コミュニティの話は非言語的な部分が多くて説明しにくいんですが、あえてゴールを明確にしないで、「この機能を付けるとユーザーがどうなるか」というのが大事だったりします。

手段を目的化するというのもよく言っています。目的に向かって手段を当てるのはアメリカ的な考えですが、手段自体を目的化したほうがよいと思っています。日本で言うと、初音ミクはこういう曲が作りたくて「手段」として使うよりも、初音ミクを使っていかに面白いことをするか、というのが起こっていて、新しいクリエイティブが生まれています。人間が生み出すものは、こういう目的のために作るというよりも、それ自体がめちゃくちゃ楽しいので盛り上がっていくのが強いんじゃないかなあと思っています。

アンサーも半分くらいは質問になっていないんですが、「会社に行きたくない」「俺も」と話しているうちに話が膨らみ、上司が嫌だったり、その上司ってこうだったんだよねと、会話で気づいたりする。上司の問題を解決しようとして、「あなたの心の持ちよう」と答えが返ってきても人は変われない。コミュニケーションをしているうちに解決したり、気持ちが楽になることを目的にしたほうが面白い。ビジネス的、ロジカルにやると面白くないと思っています。


大手Web企業→スタートアップの流れが来る? クラウド会計「freee」にex-Googlerが続々ジョイン

日本のスタートアップ業界でex-Googler(GoogleのOB/OG)の存在感が高まってきている。今年4月にローンチしたクラウド予約システム「Coubic(クービック)」を手がける倉岡寛氏、5月に東証マザーズに上場したDSP事業のフリークアウトを設立した佐藤裕介氏は、どちらもGoogle出身。クラウド会計ソフト「freee」を運営する佐々木大輔氏もその1人だ。TechCrunch Japanでは5月、「大企業を飛び出してスタートアップの世界に飛び込んだ理由」というテーマでイベントを開催したのだが、その際に佐々木氏が「海外のex-Googlerは起業したり、スタートアップにジョインするのが普通の選択肢」と語っていたのが印象的だった。そのfreeeにex-Googlerが続々とジョインしている。

2013年9月には、日本の中小企業向けマーケティングで「みんなのビジネスオンライン」のプロジェクト立ち上げから推進までを統括していた東後澄人氏が取締役として就任。今年2月には、Google日本語入力のUXなどを担当していた関口聡介氏が加わった。そして今日、2003年にGoogle Japanの17番目の社員として入社し、中小企業向けの広告営業チームを立ち上げた野澤俊通氏が執行役員に就任した。野澤氏はGoogle時代、フリークアウト佐藤氏の上司でもあった人物だ。

佐々木氏によれば、野澤氏は「中小企業向けのオンラインセールス・サポートチームのマネジメントのプロ」。Googleはかつて、「プロダクトがよければすべての問題を解決するというような思想の組織」だったというが、「野澤さんは、人がスケーラブルなサービス提供をする価値を実証してきた」と高く評価している。同氏の加入によって今後は、新規や既存ユーザー向けのサポートといった「人の手を含めた」サービスを強化する狙いだ。

冒頭で紹介した弊誌イベントには、リクルートを経てA/BテストのKAIZEN platformを創業した須藤憲司氏もご登場いただいたが、同社には2014年2月、元Google Japanの小川淳氏がカントリーマネージャーとして加入したほか、グリーおよびGREE Internationalでゲームやアドテクノロジー分野のプロダクトマネジメントを手がけた瀧野諭吾氏が参画している。

いわゆる大企業というのと違うのかもしれないけど、Googleのようなテックジャイアントからスタートアップという流れは来ているのかもしれない。


24歳以上限定のインタビューメディア「another life.」は一般人版「情熱大陸」

スポーツや芸能、ビジネスといった分野の著名人に密着取材するドキュメンタリー番組「情熱大陸」。各界で活躍する人物の普段は見えない素顔が出てきたりするのが面白いわけだけれども、ドットライフが運営する「another life.」(アナザーライフ)は、一般人版「情熱大陸」と言えるかもしれない。24歳以上で何かに情熱を捧げる人を取り上げるインタビューサイトで、登場人物は情熱大陸で紹介されるような「成功者」だけではないのが特徴だ。

自分の半生を伝えるサイトといえば、日本では「STORYS.jp」「ザ・インタビューズ」といったものがある。前者はいわば自分語り、後者は匿名の質問に答える形だ。アナザーライフはザ・インタビューズに似ているが、「実名・年齢・職業」というプロフィールを明記していることと、一問一答形式ではなくストーリー形式なのが違い。「特に自分と同じ年齢のインタビュー記事は、特別なモチベーションで見る人が多い」と、ドットライフCEOの新條隼人氏は語る。

サイトには、仲間のトラブルでバンドの解散、親友との絶縁、バイト先の解雇が重なり、自分の部屋から約3カ月間出られなくなる挫折を経験しつつも、音楽番組を見て自分の未練に気づき、「音楽を成就か成仏させなくては」と再度バンド活動を復活させたドラマーの話から、最近イスラエルに拠点を移したサムライインキュベートの榊原健太郎氏野菜版オフィスグリコ的なサービス「OFFICE DE YASAI」を手がける川岸亮造氏ら弊誌でも紹介した人物のインタビューまで100本近く記事が掲載されている。

記事の本数については、3月に終了した「笑っていいとも」のテレフォンショッキングのように、インタビューされた人が面白いと思う人を紹介する形式で増え続け、年末までには700本に達するという。7月3日に放映するTBS系列のスポーツエンタメ番組「SASUKE」の出場者のインタビューを掲載することも決まっているそうだ。記事は新條氏を含むドットライフに所属する3人に加え、インターン5人が執筆している。

内輪メディアの壁を超えられるか

今年2月のオープン以降、記事全文を読むために必要な会員登録を行うユーザーは月130%ペースで増加。6月末には1万人を超える見込みだ。現時点では「知り合いが出てるから見てみよう」という人が多く、会員数は記事が増えるごとに、その人の友達が登録するかたちで増え続けている。

こうした経緯もあり、「知り合いしか読まないんじゃない?」と思わなくもないが、今後は読者が「興味を持てた」ボタンを押した記事を解析し、関心にあった記事を配信することで、「内輪」な記事以外の閲覧数も増やす狙いなのだとか。17日にリリースしたiPhoneアプリでは、こうした記事を毎日プッシュ通知する機能を備えている。

収益面は「まだまだ先」だが、いくつかの方法を検討している。例えば、クラウドファンディングやスキル販売サイトなど「個人を打ち出す」プラットフォームと提携し、これらのサービスにインタビュー記事からユーザーを送客するごとに収益を得たり、記事広告の出稿などだ。

ところでなぜ、アナザーライフで紹介する人物は「24歳以上」なのか。新條氏が言うには「日本人が夢を諦める平均年齢だから」(出典:キリンビールの日本人夢調査)。かく言う新條氏も24歳だ。「やりたいことが見つからないと言うと、僕らの年代は『ゆとり世代』と世代論で語られがちですが、昔からそうだったわけではありません。打ち込めるものがなくモヤモヤしているだけ。今の自分の見えている範囲ではやりたいことが見つからなくても、他の人の人生を知ることで価値観が明確になる。昨日までと違う人生を踏み出すキッカケを提供できれば」。

ドットライフCEOの新條隼人氏


加熱するフードデリバリー市場、日、米、東南アジアのそれぞれの事情

編集部注:この原稿は、ベンチャーキャピタルであるサイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV) ヴァイスプレジデントの白川智樹氏による寄稿である。CAVでは東南アジアを中心に海外に11の拠点を設置し、現地企業への投資も実施している。本稿では、その各拠点からの情報をもとに、アジア全体で盛り上がりを見せるフードデリバリーサービスについて読み解いてもらう。なお本稿は後日CAVが運営するブログ「RisingAsia」にも掲載される予定だ。

2014年に入り日本で一気に盛り上がりを見せているネットを使ったフードデリバリー市場。アジア、米国の8カ国11拠点で投資活動を行うCAVの持つローカルネットワークを活用し、この注目市場を俯瞰してみたい。

本格的な立ち上がりを見せる米国

米国では、1年程前からローカル特化型のデリバリーサービスを展開刷るスタートアップが多数出てきている。6ドルの弁当を配達するY Combinator出身の「SpoonRocket」や同じくY Combinator出身でローカルレストランの食材を取り扱う「Doordash」、500 Startups出身で社員向けにランチを提供している企業にケータリングサービスを行う「chewse」などが代表例となっている。DoorDashに関しては、2013年9月にKhosla VenturesやCharles River Venturesなどいわゆる“トップティア”のベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達に成功している。

米国ではピザなどの宅配はこれまで一部あったものの、飲食店が配達機能を持っているケースはあまり多くなかったため、配達をスタートアップ側が担うことでフードデリバリー分野はこれから本格的に立ち上がっていくと見ている。しかし上記以外にも特化型サービスが多数生まれており、すでに過当競争の様相を見せている。

・出前(昼食/夕食)「SpoonRocket」「Doordash
・法人向けケータリング「chewse
・通販(生鮮食品)「Instacart

「オフィス設置型」も多い日本

出前をIT化した「出前館」や法人弁当ニーズを捉えた「ごちクル」が多くのユーザーを獲得していたが、2014年に入り、外出する手間を省くオフィス設置型のサービスや、米国のトレンドに合わせ「○分以内」で個人に配達するファストデリバリー型のサービスが増加している。ファストデリバリー型は配達網の早期確立により、速配ニーズの強い周辺分野への進出を狙っていると考えられるが、上述した米国とのインフラの違いは大きく、既存サービスとの差別化が必要とされるだろう。

・出前(昼食/夕食)「出前館

・弁当(昼食)「ごちクル」「bento.jp」「渋弁.com

・オフィス設置型(昼食)「オフィスグリコ」「 オフィスおかん」(2014年5月にCAVが出資)「 OFFICE DE YASAI

・通販(日用雑貨・食品・飲料) Yahoo!ショッピング「すぐつく

1.2兆円の市場規模を持つ韓国
韓国のフードデリバリー産業は日本以上に生活インフラとして浸透しており、12兆ウォン(約1.2兆円)の市場規模を誇る。この巨大市場のIT化はPCに先んじてスマートフォンから始まった。韓国最大のフードデリバリーアプリである「配達の民族」は市場シェア60%、合計ダウンロード数は1000万件を達成しており、現在はテレビCMを展開することでよりマス層へのリーチを狙っている(CAVでは2014年3月に同社に出資している)。また、電話注文によるファストデリバリーも一定層に普及しており、今後はこの分野のIT化も予想される。

・出前(昼食/夕食)「配達の民族 」「YOGIYO

・高級店に特化 「FOODFLY

中国では「出前」ビジネスに強み
日本同様、中国においても店舗側で料理を配達する文化があるため、出前館型のビジネスモデルはニーズが強い。現在大手となっているのは2009年に設立された「饿了么」である。中国12都市で展開しており、登録店舗は約2万店舗、年間交易額は6億元(約100億円)となっている。社員数は200人を超え、2013年11月に米Sequoia Capitalの中国法人から2500万ドル、2014年5月に中国レストラン情報サイト最大手である「大衆点評社」から8000万ドルの戦略投資を受けた。日本からは2011年末に出前館運営の夢の街創造委員会が「得利好(Deli-hao)」を北京市内で開始したが、2013年に事業撤退をしている。

インドネシアでは渋滞がサービスの利用を加速
ベトナムやタイでは、フードデリバリーの文化が日本に比べて定着していない。これは配達中に食事が冷めてしまうことへの懸念や、ワーカーの昼食時間の長さ(ゆっくり外で昼食を取りたいと考えるため、昼食時間が平均1時間半程度と長い)に理由があるようだ。2012年以降にRocket Internetの展開するサービス「foodpanda」をはじめ10社以上のフードデリバリーサービスが乱立したが、現在も未成熟市場であり被買収など淘汰が進んでいる。

一方、インドネシアはジャカルタなど都市部で特に渋滞が多く外食に時間がかかることもあるため、フードデリバリーが比較的利用されている。KFC、Pizza Hut、Domino Pizzaなどをはじめとして飲食店側で配達機能を持っていたり、オフィスで掃除や雑務を担うオフィスボーイに依頼しテイクアウトを行ったりすることもある。現在、東南アジア圏に事業展開するFoodPandaや、ローカル企業の「Klik Eat」(夢の街創造委員会が出資)などがサービスを展開している。加盟する飲食店の中には、配達機能を持っていない店舗も多いため、事業者がにバイク便を用いて配達している。