調達額トップはPreferred Networks、2017年の国内スタートアップ資金調達動向レポート

スタートアップのデータベース「entrepedia」を提供するジャパンベンチャーリサーチ(ユーザーベースグループ)は3月23日、国内スタートアップの資金調達情報をまとめたレポート「Japan Startup Finance 2017」を公開した。

これは2月にTechCrunchでも紹介したレポートに詳細なデータやセクター別、投資家タイプ別の分析を加えたものだ。本稿では一部抜粋して紹介する。

2017年の調達額は2717億円、1社あたりの平均は3億円突破

2017年の調達額は過去10年で最高となる2791億円(前年比で21.7%増加)。社数は金額不明のものも含めて1101社となっていて、ここ5年においてはもっとも少ない。

ただし1社あたりの平均調達額は拡大傾向にあり、2017年は3億円を突破した(前年比で27.6%増加)。

半数が1億円以上の調達、10億円超えの大型調達も増加

調達額の規模別で内訳を見ても、数年前まで多くのボリュームを占めていた5000万円未満の割合が減り、億単位の調達案件が増えてきている。2017年は1億円以上の調達をした企業の割合が半数を超えた。

10億円以上の大型調達の件数もここ5年は毎年増加傾向にある。2017年には59社が二桁億円の資金調達をしている。

調達額ランキングトップはPreferred Networks

レポートでは2017年の調達額ランキングの上位30社も紹介されている。これによると昨年最も多くの資金を集めたのは、深層学習技術の研究開発を行うPreferred Networks。トヨタらから100億円以上を調達して注目を集めた。

TechCrunchで過去に取り上げている企業では宇宙ベンチャーのispaceやレシピ動画メディア「kurashiru(クラシル)」のdely、同じくレシピ動画メディア「DELISH KITCHEN」などを展開するエブリー、名刺管理アプリのSansan、スマホ証券のOne Tap BUY が上位にランクインしている。

なおdelyとエブリーについては2018年に入ってからすでに大型の調達を発表。delyは1月にソフトバンクなどから33.5億円を、エブリーはKDDIから30億円を集めている。

IPOの件数はほぼ横ばい、バイアウトは増加

資金調達ではなくエグジットの動向についてはどうか。

まずIPOについては前年比で多少増加しているものの、ここ数年で大きく増えたということはないようだ。2017年に上場したスタートアップとしては家計簿アプリやクラウド会計ソフトを展開するマネーフォワード、ビジネスSNSや名刺管理アプリを手がけるウォンテッドリー、ユーチューバーのマネジメントを行うUUUMなどがあげられる。

一方で買収・子会社化・主要株式取得の件数は増加。KDDIによるソラコムの買収DMM.comによるバンクの買収などは金額も大きく話題を呼んだ。

今回紹介したレポートでは、このほかFinTechや人工知能などセクター別の動向や、VCや事業会社など投資家タイプ別の状況も紹介されている。そちらについては本編を参照していただきたい。

業界の異端児がイノベーションを生む――FinTechスタートアップたちの勝機とは

3月15日、16日で開催された「B Dash Camp 2018 Spring in Fukuoka」。2日目には、「フィンテックにいま参入その理由と勝機の可能性」と題して、フィンテックの第一線で活躍するプレイヤーたちが業界のいまを語った。登壇者は以下の通りだ。

モデレーターを務めたのは日経FinTech編集長の原隆氏だ。

幅広いフィンテック、どこに注目するか

Finance × Technologyだから「フィンテック」とひとくちに言っても、その領域はとても幅広い。本セッションではまず、各登壇者がフィンテック業界の中でもどの領域に注目しているのかという質問が飛んだ。

ソーシャルレンディング事業者の比較サイトを運営するクラウドポート代表取締役の藤田氏は、「注目しているのは中小企業のデットファイナンスと債権の流動化。中小企業の資金調達の選択肢が少ない。VCから出資を受けるのはひと握りだ。残りの大半は銀行融資を受けるが、審査が厳しい。それらの事業者から融資を受けられなかった企業に対してこれまで資金を供給していたのがノンバンクだ。しかし、1999年に3万社以上あったノンバンクは、2016年には2000社以下になっている。ここにビジネスチャンスがある」と語る。

メルペイ代表取締役の青柳氏は、「フィンテックのプレイヤーがひと通り揃ってきた。金融以外で活躍していた人たちが業界に参入するというのがグローバルなトレンドだと思う。そういうプレイヤーが入ったことで今後盛り上がると思うのが、まずは入口としての決済の部分。また、スコアリングやレンディングといった“信用を創造する”という分野が勃興すると思う」と話した。

青柳氏と同じく、スコアリングや与信の部分に注目するのがバンク代表取締役の光本氏だ。「企業でも個人でも、何かしらの取引をするときは必ず与信をとる。ただ、この与信はコストでしかない。そうであれば、それをとらずに成り立つビジネスができないかと僕たちは考えている。新しい与信のとり方、そして与信を使った新しいビジネスが今年はどんどん出てくると思う」(光本氏)

ところで、フィンテックという文脈でいつも話題にあがるのが、現金を使わないで買い物などを済ますキャッシュレス化の推進だ。日本は諸外国に比べてそのキャッシュレス化が遅れていると言われている。経済産業省が2017年に発表した資料によれば、米国、韓国、中国のキャッシュレス決済比率はそれぞれ40〜50%程度であるのに対し、日本は約18%と低い。なぜだろうか。

「日本の店員さんはまじめで、レジをちゃんと閉めるなど現金を扱うだけのモラルがある。他の国では現金を扱うとトラブルが起こるので、費用を払ってでもキャッシュレス化を進める動機がある」とヘイ代表取締役の佐藤氏は言う。

優秀な日本の金融インフラ、そこにイノベーションをどう生むか

日本が他国に比べてキャッシュレス化が遅れているのは、金融インフラが非常に整っているからだ、という意見もある。ただ、それは金融業界の既存プレイヤーにとってイノベーションの足かせになっているのかもしれない。

証券会社出身であるFOLIO代表取締役の甲斐氏は、「証券会社の反社チェックのシステムは、銀行に比べても厳しい。警察庁のデータを照合しなければならないが、リアルタイムでそれをしようとすると1回あたり数十件程度しか処理できない。もう少しそこを効率化するということは考えられる」と、現在の金融インフラの非効率性について述べた。

青柳氏は、「(イノベーションには)大きな社会インフラの組み換えが必要。既存プレイヤーはそこに大きな金額を投資してきて、それに合わせてオペレーションを最適化してきた。中国では色々なプレイヤーがインフラに大きな金額を投資をして、それを作り直した。そこから学べるのは、(金融インフラに対する)マッシブな投資はいずれにしろ必要で、それができたら色々なプレイヤーがどんどん出てくるということだ」と語る。

スーツ組と私服組が手を組むとき

金融インフラへの投資とともに、青柳氏が“必要なもの”として挙げたのが人材だ。「非金融業界の人が金融業界の人を引き込む採用力」が必要だと彼は話す。これまでスーツを着て毎日出社をしていた金融人からすると、スタートアップ業界というのは特異なものとして映るのかもしれない。でも、異業種の人間が交わることで生まれるイノベーションもある。

甲斐氏は、「FOLIOの場合、4割の社員が金融社員出身。基本的には、FOLIOでは金融用語は使わないということに非常にこだわっている。プロダクトの開発現場では、コンプラ担当と5人のデザイナーが毎日バチバチにやり合っています」と語った。些細なことかもしれないけれど、金融業界以外の人の視点で使いやすいUI/UXを金融商品に取り入れ、「冷たい」と言われがちなものに温かみをもたらす工夫だ。

一方、光本氏が率いるバンクには金融出身者が1人もいないという。「保守的な意見をすべてプロダクトに取り入れてしまうと、既存の金融機関のものと変わらないプロダクトが生まれてしまう。新しいサービスを作る場合、空気を読まずにやるのがちょうどいいのかもしれない」と光本氏は笑顔で話した。

どの業界もそうだけれど、お金を扱う金融業界は法令の順守が特に求められる領域だ。光本氏が言うように、まずは空気を読まずにプロダクトを作ってみるというイノベーションの方法論もあるが、法的なリスクに対しては気を配らざるを得ないのが現実だ。

それについて佐藤氏は、「ルール的にグレーな部分というのはトレードオフだと思っている。(多少プロダクトが不便になったとしても)それをやらなければ長期でみてユーザーの体験を毀損してしまうならやるべきだし、そうではないならユーザーのために取るべきリスクだと考える」と話す。

一方で、業界を取り巻く環境もここ数年で大きく変わったと青柳氏は話す。「フィンテックには追い風が吹いていると感じるようになった。ルールを作る金融庁などと話していても、20分間いろいろと話したあとに、『やりたいことっていうのは、例えばこういうものです』と直接UIを見せたりすると理解を得られることが多い」(青柳氏)。

世界中の金融業界にイノベーションが起こりつつある今、法的に可能な範囲で本当に便利なものは受け入れようという流れがあるのかもしれない。非金融と金融の視点を融合し、既存インフラの改善、または創造的破壊を起こすべきだと思っているのはスタートアップだけではないようだ。そのような流れのなかで、どのような新しいサービスが生まれるのか、注目したい。

猫の飼い主同士をマッチングするnyansが複数のエンジェル投資家から3000万円調達

猫の飼い主同士をマッチングする「nyatching(ニャッチング)」を提供するnyans(ニャンズ)は3月22日、複数のエンジェル投資家を引受先とする総額3000万円の第三者割当増資を実施した。

2月22日の猫の日にサービスローンチしたnyatchingは、猫の飼い主限定のマッチングサービスだ。近所に住む猫の飼い主を探し、家を留守にする際の猫の世話を他のnyatchingユーザーに依頼することなどを目的としている。

サービスローンチ時には本社のある福岡県在住のユーザーを限定に事前登録を開始していたnyatching。ローンチからちょうど1ヶ月の現在、事前登録には数百人のユーザーが登録済みだという。同社は今回の資金調達を期に、東京23区在住のユーザーからの登録を受け付ける。

地域限定で事前登録を実施する意図について、nyans代表取締役の谷口紗喜子氏は「サービス自体がご近所さんでのマッチングを重要視しているため。地域を絞らないと会員が分散されてしまい、ご近所さん同士でのマッチングが図りづらくなることを懸念しており、まずは地域を絞ってサービスを展開する」と話す。全国での展開の時期は未定だという。

ARスタートアップのMagic Leapが開発者向けポータルサイトとSDKを公開

eng-logo-2015Googleなどから巨額の資金を集めていた謎のARスタートアップMagic Leap。2017年末にようやく初のプロダクトとなるMagic Leap Oneを発表しましたが、そのハードウェアの詳細については、あまり明かされず、結局何ができるのかは漠然としたままでした。

ARゴーグル Magic Leap One 初公開、2018年発売。透過型『デジタルライトフィールド』ディスプレイ採用

そんな中、同社はMagic Leap One発表時に予告していた開発者プラットフォームとソフトウェア開発キット(SDK)を開発者向けに公開しました。

開発者プラットフォームCreator Portalでは、Magic Leapについてのガイドやチュートリアルを確認可能です。

それによると、Magic Leapは、LinuxやAOSPなどのオープンソースコンポーネントから派生したカスタムOS、Lumin OSを採用しているとのこと。Androidなどの既存のOSから多くのオープンソースコンポーネントを借用しているものの、その多くは空間コンピューティング向けにカスタマイズしているとのことです。なお、SDKは3Dエンジンとして、Unreal Engine 4とUnityをネイティブサポート。開発したアプリは、独自のアプリストア Magic Leap Worldで配布可能になります。

チュートリアルはいまのところエミュレーターを起動し、UnityやUnreal Engine 4を利用し始めるところまでが説明されています。

結局のところ、ハードウェアの仕様については不明なままですが、今後チュートリアルの追加に伴い、徐々に詳細が明らかになるものと考えられます。

Engadget 日本版からの転載。

毎週ランダムに花束が届く定期購買サービス「Bloomee LIFE」運営が1億円調達、ニッセンとの提携も

リビングテーブルや玄関の脇に、花がいつも飾られていたらホッとするものだ。ただし「欠かさずに生け替える」となると、やはりちょっと面倒だなと筆者などは思う。そんな「無精だけど手軽に部屋を明るくしたい」人にうってつけなのが、花のサブスクリプション(定期購買)サービス「Bloomee LIFE(ブルーミーライフ)」だ。

Bloomee LIFEを運営するCrunch Style(クランチスタイル)は3月19日、シリーズAで総額1億円の資金調達を実施したことを発表した。第三者割当増資の引受先は、KLab Venture Partners朝日メディアラボベンチャーズPE&HRの各社が運営するファンド。Crunch Styleではこれまでにも、トレンダーズ創業者で現在はキッズライン代表の経沢香保子氏とPE&HRから資金を調達している。

2016年6月にローンチしたBloomee LIFEは、週1回か2週に1回、週末に季節の花が定額で届くサービス。毎週違う花屋さんから違う種類の花束がランダムに届けられる。プランは500円、800円、1200円の3パターン(送料は別)。小さなサイズの花束はポストに投函してくれる。

ローンチから1年半で、Bloomee LIFEの有料会員は6500人を突破。同社のInstagramからの口コミを中心に、利用が広がっているという。また、ユーザーからInstagramにハッシュタグ「#bloomeelife」付きで投稿される写真は8000枚を超えている。

今回の調達資金により、Crunch Styleでは、ユーザーが好きな花屋を選べる機能の追加、ユーザーの好きな色や花材などのデータ化により、サービスを強化する予定。将来的にはD2C(Direct to Customer)展開も目指すとしている。また同時に、病院やカフェなどの法人向けサービス展開も行っていくという。

Crunch Styleは同日、今年2月に実施された、日本政策投資銀行主催のアクセラレーションプログラム「京都オープンアクセラレーター」を通じて、ニッセンとの協業を4月から開始することも明らかにしている。

まずはニッセンからBloomee LIFEへの送客を検証実験として実施。その後、両社協力して、サービス開発やプレゼント需要の創出など、新規事業化に向けての取り組みを行っていく予定だ。

インバウンドメディア「MATCHA」がTHE GUILDらから資金調達、“送客メディア”の枠を超えた挑戦も

訪日外国人向けメディア「MATCHA」を運営するMATCHAは3月19日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資と日本政策金融公庫からの融資により資金調達を実施したことを明らかにした。

具体的な金額は非公開だが、関係者の話では約1億円になるという。今回MATCHAに出資したのは、日本経済新聞の電子版の監修をはじめ様々なサービスの開発・デザインを手がけてきたクリエイターチームのTHE GUILD、コンサルティング業など複数事業を展開するバリュークリエイトの2社。そして片山晃氏を含む3名の個人投資家だ。

MATCHAにとっては今回が4回目の資金調達となる。前回は2017年7月に星野リゾート(資本業務提携)、個人投資家の千葉功太郎氏から。同年9月にはスノーピークとの資本提携に加えて、個人投資家の藤野英人氏、中竹竜二氏、志立正嗣氏を引受先とした第三者割当増資を実施し、トータルで約1億円を集めた。

月間で420万PV、自治体や企業とのネットワークも拡大

日本国内の観光情報を全10言語で発信しているMATCHA。現在の月間PVは420万ほどで、毎月200万人近くのユーザーが集まるサイトになっている。核となる広告に加え、宿泊施設やアクティビティ予約のアフィリエイトの強化などマネタイズの多角化も進めるほか、2017年11月にはiOSアプリもリリースした。

MATCHA代表取締役社長の青木優氏によると、スノーピークや星野リゾートとの提携効果もあって問い合わせ数も増加傾向にあるとのこと。特にここ半年ほどで「企業や省庁とのダイレクトなネットワークが広がってきた」(青木氏)という。

この繋がりも活用して同社では「MATCHAに訪れたユーザーを観光地のサイトへ送客する」ところからもう一歩踏み込んだ、新しい取り組みも模索している。

「たとえばある町はメキシコと縁があって国内での認知度も高いが、実際にメキシコから訪れる人は多くない。そこでMATCHAの特集と連動して『メキシコ人観光客限定で街の職員が無料ガイドを提供する』といったプランを提案している。(この仕組みがうまく回れば)来訪率の改善も期待できる上、実際に訪れた際の満足度向上にもつながる」(青木氏)

Webからの送客だけでなく、実際にコンバージョンする(来訪する)までの流れを自治体と一緒に設計することは、MATCHAにとっても新たな収益源となりうるだろう。

ただ直近では、組織体制を強化しシステムの開発とコンテンツの拡充に力を入れる方針だ。国内の主要なエリアについてはある程度カバーできてきたとのことで、これからは地方の記事も充実させて「面をもっと増やしていく」(青木氏)という。

星野リゾート、スノーピークに続き今回はTHE GUILDが出資

MATCHA代表取締役社長の青木優氏(写真右)、THE GUILD代表取締役の深津貴之氏(左)

冒頭でも触れたとおり、当ラウンドには新たな株主としてTHE GUILDが参加している。TechCrunchでは今回THE GUILD代表取締役の深津貴之氏にも話を聞くことができたので、出資の背景や今後の取り組みについても紹介したい。

深津氏はTHE GUILDのメンバーとして複数アプリのUI/UXデザインに携わっているほか、「cakes」や「note」を展開するピースオブケイクのCXO(Chief eXperience Officer)も担っている人物だ。もともとインバウンド業界に興味や課題意識があり、MATCHAへの出資に至ったという。

「少子高齢化が進み国内産業が衰退していくことが考えられる中で、どうやって外貨を獲得していくか。そのためにはある程度、観光立国化する必要があり、観光領域におけるユーザー体験の設計に関心があった」(深津氏)

インバウンドメディアはMATCHA以外にもあるが、大きな決め手になったのはMATCHAのチーム体制なのだそう。同メディアには約60名のライターが所属していて、約半数を外国籍のライターが占める。

「もの作りやデザインにおいて、『自分ごと』として作れるかが1番大事だと考えている。インバウンドメディアに関しては、日本人だけでやると日本人だけの自分ごとになり、外国人観光客を置いてけぼりにしてしまう恐れもある。THE GUILDとしてプロダクトを磨くサポートはできるが、そもそも内部にいい土壌がなければ意味がない。(MATCHAは)プロダクトもそうだが、現時点のチームのあり方に魅力を感じた」(深津氏)

深津氏に聞くまで知らなかったのだけれど、実はTHE GUILDとして、そして深津氏個人としても少しずつスタートアップへの出資を始めているそう。もともと同社では単発の「打ち上げ花火」的な関わり方ではなく、中長期に渡り「パートナー」として顧客と付き合ってスタイルを大切にしてきた。そして深津氏いわく「パートナーとして1番究極系のコミットの形が株主」なのだという。

「そもそも間違ったミッションが降りてきたり、本来なら他に優先すべきことがあったりした場合、受託の関係性ではそれを伝えるのが難しいこともある。(良いプロダクトを作るための本質的な議論を)対等にするためのチケットが、株主だと考えている」(深津氏)

“送客メディア”の枠を超え、観光体験を改善する

今回THE GUILDが出資したことで、MATCHAは今後どのようになっていくのだろうか。深津氏によると直近ではTHE GUILDでプロダクトの細かい改善をするなどはなく、「経営チームのアドバイザリーとして『視点を提供する』というコミットの仕方になる」(深津氏)という。

具体的には大局的な観点からMATCHAのポジションを一緒に設計したり、提供する観光体験のあり方についてアイデア出しや立案のサポートする。長期的な構想も含めると、2つの側面から「観光体験の改善」を一緒に目指していくことを見据えているようだ。

「1つは(Webメディアとしての)MATCHAの体験。ユーザーがMATCHAにきて、観光コンテンツを見つけて読む、この一連の体験を良くすることをサポートする。もう1つはMATCHAが提案する日本の観光体験そのもの。自治体や企業に提案する際に、MATCHAが考える良い観光体験とはどんなものか、そしてMATCHAと組むことでどんな価値を提供できるのか。『アプリの外側』の体験設計についても支えていければと思っている」(深津氏)

後者の「観光体験そのもの」については、これから方向性が定まっていく部分であり、現時点で何か具体的な構想がいくつもあるわけではないという。ただ記事中で紹介した、自治体と組んだメキシコ人観光客向けのプランなどはその一例と言えるだろう。

「送客するだけで終わるのはもったいない」という考え方は、青木氏と深津氏に共通するもの。日本の観光地にはポテンシャルを十分に発揮できておらず、もっとよくなる余地を残している場所もある。

「そのような自治体と組んで具体的な観光体験を提案できればMATCHAのバリューもあがる」と2人が話すように、これからのMATCHAはアプリの内側からだけではなく、外側の部分も含めて日本の観光体験そのものを変えていく——そんなフェーズに入っていくようだ。

月額750円でオーディオブック聴き放題——リリースから10年のオトバンクが“サブスクリプション”に舵を切った

「たくさんのエンタメコンテンツがある中で、オーディオブックが選択肢としてもっと前に出てこない限り、ユーザーにも使ってもらえないし権利者側も利益を得られない。もっと間口を広げて、オーディオブックを知らない人でも気軽に触れられる環境を作っていく必要があると考えた」—— オトバンク代表取締役社長の久保田裕也氏は新たなチャレンジに至った背景について、このように話す。

2007年よりオーディオブック配信サービス「FeBe」を提供してきたオトバンク。同社は3月19日より、月額750円でコンテンツが聴き放題の新サービス「audiobook.jp」を始める(新サイトは本日中にオープンする予定)。

audiobook.jpはこれまで提供していたFeBeを全面的にリニューアルする形で提供。最も注目すべき点は、これまでと同様にコンテンツを1冊ずつ購入できる仕組みを残しつつも、新たに月額定額制のサブスクリプションモデルを取り入れたことだ。

FeBeを活用するユーザー層が広がっていくことに合わせて、ユーザーがよりライトにオーディオブックを楽しめるようにするべく、今回のリニューアルに至ったという。

1万点のオーディオブックが月額750円で聴き放題

audiobook.jpはベストセラー書籍を中心に2万3千点のオーディオブックコンテンツをそろえたプラットフォームだ。0.5〜4倍まで、0.1倍速刻みで再生スピードを調整でき、音声のダウンロードも可能。これらの特徴は前身となるFeBeも共通で、移動中や家事の時間などを中心に幅広いシーンで活用されてきた。

従来は気になるコンテンツを1冊ごとに購入する仕組みだったが、サービスリニューアルに伴って聴き放題プランを新たに導入。対象となる1万点については、月額750円でいくらでも聴けるようになる。

この中にはビジネス書や小説、落語などを幅広いコンテンツが含まれるほか、今後は日経新聞の主要なニュースを聴ける「聴く日経」も追加する予定。入会から30日間は無料で利用できる。

コンテンツや開発体制も充実、ようやく準備が整った

冒頭でも紹介したとおり、実はFeBeはリリースから10年が立つ。これまで地道に規模を拡大してきたが、2017年は同サービス史上最大の伸びを記録。年間登録者数は前年比で3倍となり、登録者数は 30万人を突破した。

「2017年に入ってユーザーの単月の伸び方が変わり、購入頻度やコンテンツのトレンドなどユーザーの属性も広がってきた。たとえば以前多かったのは30~40代の男性。それが今は男女比もほぼ同率になってきている」(久保田氏)

ビジネス書をしっかり聴きこむヘビーユーザーも増えている一方で、小説や語学学習コンテンツだけをさらっと聴くライトなユーザーが増えてきた。コンテンツ数も拡大する中で、幅広い人にさまざまなコンテンツをより気軽に楽しんでもらう手段として、聴き放題プランの検討が始まったという。

リニューアルに向けて議論が本格化したのは2017年の夏頃から。ビジネス書や自己啓発書に加えて文芸や小説も増え、どのジャンルもある程度のボリュームに。合わせて開発リソースも拡充し「今だったらできるかも」と話が進んだそうだ。

「アラカルト(個別購入)の場合はユーザーが何かしら明確な目的を持っているが、サブスクリプションの場合は動機が固まっていないことも多い。そうなると、パッとサービスを開いた時に自分が気になるコンテンツがあるかどうか。『あ、この本あるじゃん!』と感じてもらえるかが重要だと考えていたので、コンテンツが充実してきたことは大きかった」(久保田氏)

合わせて権利者側の温度感もこの1、2年で変わってきたという。久保田氏の話では「2016年くらいから『オーディオブックもきちんと頑張れば収益がでる』という感覚が定着し、積極的にやっていこうと足並みが揃ってきた」という。

たとえば『サピエンス全史』など人気書籍を音声で楽しめるのはFeBeからの特徴。このようなコンテンツはオトバンクのみで作ることはできないので、権利者サイドがより前向きになったという意味でも、絶好のタイミングだったというわけだ。

オーディオブックをもっと一般的に、当たり前に

「会員数は30万人を超えたものの、まだまだ少ない。オーディオブックをもっと多くの人に、当たり前のように使ってもらえるような環境を作っていきたい」(久保田氏)

左から、聴き放題画面(アプリ)、再生画面(アプリ)、ブックリスト(WEB)

価格については社内で複数案が出たそうだが、ライトに使ってもらえるようにと月額750円に設定した。今後は「ランニング中」「カフェで」「雨の日に」などシチュエーション別や、「パラキャリ」「◯歳のお子さまと聴きたい」「資格取得」などユーザー層別に作品をまとめたブックリストを順次公開するほか、聴き放題プラン限定のコンテンツなども増やしていく方針だ。

「『しっかりと聞く』というところから、もう少しライトに『聞き流してもいいや』というコンテンツを作っていく。わかりやすいものだと“短尺”のもの。イメージとしては『ニュースサイトのPUSH通知ででてくる情報以上、従来のオーディオブック以下』のコンテンツなどを考えている」(久保田氏)

昨今コミックや動画、テキストメディアなど「目」を取り合うコンテンツの競争は激化している。一方「耳」については音楽やラジオなどあるものの、まだポジションが空いているというのが久保田氏の見立てだ。

今後スマートスピーカーが普及すれば、そのポテンシャルはさらに広がるかもしれない。「何かしながら、並行して聞き流せるコンテンツ」には一定のニーズもあるだろう。

一方で「他のコンテンツもどんどん進化している中で、オーディオブックとしてどんなチャレンジができるか、どんな価値を提供できるかを考えていきたい」と久保田氏はある種の危機感も感じているようだ。

NetflixやHuluのようなプレイヤーがドラマやアニメ、映画といったコンテンツの楽しみ方を変えた。スマホの普及に合わせて「縦スクロールのコミックアプリ」「スマホ版の携帯小説とも言えるチャットフィクションアプリ」など新たなフォーマットも続々と生まれてきている。

「オーディオブックについては、他のメディアと違って今のユーザーのニーズに応えきれていない部分がまだある。ユーザーが欲しい形に合わせて(コンテンツを)提供するのが理想。今後は聴き放題プランで完全にオリジナルなコンテンツなど、コンテンツホルダーとも協力して新しいものを作り『本を聴く文化』を広げていきたい」(久保田氏)

アプリ利用者をリアルタイムに解析して最適なメッセージが送れる「KARTE for App」提供開始

ウェブサイトの顧客行動を可視化する接客プラットフォーム「KARTE」を提供するプレイドは3月19日より、iOS、Androidのアプリ向けに「KARTE for App」の提供を開始する。

KARTEはサイトへの来訪者の行動をリアルタイムに解析し、「どういう人がどのようにサイトを利用しているのか」を可視化するサービス。可視化した個々のユーザーに対して、適切なタイミングでポップアップやチャットなどを使った適切なメッセージを発信することができる。2015年3月に正式ローンチして以来、約3年で累計22億人のユニークユーザーを解析してきた。

今回提供するKARTE for Appは、これまでウェブサイト向けに提供されてきたKARTEの機能を、iOS/Androidのネイティブアプリ向けにSDKとして提供するもの。アプリを利用するユーザー行動をリアルタイムに解析し、さまざまなタイミングでメッセージを配信することができる。

KARTE for Appの事業責任者で、プレイド プロジェクトリードの棚橋寛文氏によれば、「KARTEを利用する顧客からは、かなり前から『アプリでも同じことができないか』という相談があった」とのこと。

「ヒアリングしたところ、モバイル経由の利用が増える中で、アプリについてはマーケティングや運用がウェブに比べてまだうまくできておらず、課題とする企業が多いことが分かった。そうした顧客に、アプリについてもマーケティング支援を進めたい、ということで今回のリリースに至った」(棚橋氏)

KARTE for Appの機能は大きく分けて3つ。1つ目はアプリ内のユーザーをトラッキングして、行動をイベントベースでリアルタイムに解析できる機能。ダッシュボードやスコアなどで、ユーザーの行動やモチベーションの変化をつかむことができる。

2つ目は行動イベントやユーザー情報を自由に組み合わせてセグメントし、プッシュ通知やアプリ内メッセージを配信する機能。ユーザーの属性やタイミングに合わせて、いろいろな形でコミュニケーションを取ることができる。

3つ目は、ウェブサイトと相互にユーザー行動を解析し、コミュニケーションする機能。ウェブでKARTEを導入済みであれば、共通の管理画面でウェブとアプリ双方を横断的に解析できる。例えば夜、PCでウェブサイトを閲覧していたユーザーが、朝、通勤中にスマホアプリからアクセスしてきた場合に、プッシュ通知を送るなど、ワンストップでコミュニケーションを取ることも可能だ。

KARTE for Appは、KARTEの既存顧客を中心にクローズドベータ版が3月から提供されており、ZOZOTOWNクックパッドなどでの導入が既に決まっているという。棚橋氏は「業種・カテゴリーを問わず、アプリでのユーザー体験を良くしたい、という企業すべてを対象に導入を進めたい」と話している。

「“人”にひもづいたデータを“人”が分析しやすい形で提供」

プレイド代表取締役の倉橋健太氏は、楽天に2005年に入社し、約7年間在籍していた。その中で「ネットショップでも銀行などのサービスでもメディアであっても、ユーザーが行動したデータはたまる。それをより良いユーザー体験のために活用したい」と考えていた。しかし蓄積したデータを分析し、活用するためには相当の工数やリソースが必要で、「データ=資産」ではないのが実情だった。

そこで「担当者が誰でも簡単に、あるべき姿でデータを把握できるようにして、データを価値として還元したい。より世の中に流通させたい」との思いから、2011年に創業したのがプレイドだ。

倉橋氏は「人間は実は、数字でのデータ分析、計算は得意ではない。データを扱うには一定以上のリテラシーが要る。それを誰でも活用できるようにして、データの民主化に寄与したい」と話す。

昨年プレイドで開発された「K∀RT3 GARDEN(カルテガーデン)」は、「人間が不得意な方法ではなく、得意なやり方、普通の人のベーススペックでできる方法でデータを見えるようにする」取り組みだ。TechCrunchでも以前取り上げたが、このサービスでは通販サイトの訪問客の動きをVR空間上でリアルタイムに可視化し、実店舗で人が買い物をしているかのように見ることができる。

「“データ”ではなく“人”として見れば、人間にとっては分析の精度もスピードも上がる。そう考えて、R&Dの一環として、カルテガーデンをリリースした」と倉橋氏は述べている。

「市場で“ウェブ接客”という文脈で語られるときには、ポップアップやチャット、アンケートといったユーザーが目にするフロントのツールに焦点が当たりがち。だが、それ以外にも、マーケティングやカスタマーサポートなど多様な場面で支援することがあるはず。我々のサービスは人にひもづいた形で、人のオペレーションチェーンに組み込む方向にシフトしていく」(倉橋氏)

実は“ウェブ接客”という言葉はプレイドが発祥で、商標も登録してあるそうだ。だが、倉橋氏は「これからはKARTEを“ウェブ接客”ツールではなく、“CX(Customer eXperience:顧客体験)”プラットフォームとして打ち出していく」と言う。

「3年前のKARTEリリース時には、スタートアップとして現実解も出さなければいけない、ということで、ツールとして分かりやすい言葉で出した。でも当時から、長期的な目標として掲げてきた『データによって人の価値を最大化する』という考えではあったし、それは今でも変わっていない」(倉橋氏)

「データ活用は、行動する人やそれを読み解く人、すべての人々の活動の結晶。それがCXとなって反映される」と語る倉橋氏は、最近参加したオフラインのイベントなどで、CXが取り上げられ、浸透していることを再認識した、という。

「インターネットでビジネスを展開するときに、これまではグロースハック、物量のハックということが言われてきたが、そこからの揺り戻しが来ていると感じる。勝ち残るためには“個客”の視点が必要。“ウェブ接客”については市場を作ってきたという自負もあるし、ツールとしての改善はもちろん行っていくが、より、本当にやりたかったこととしてCXを改めて打ち出した。CXの視点でネットビジネス全般を良くしていきたい」(倉橋氏)

倉橋氏はまた「KARTE for Appは、KARTEの今年の攻めの1つ目のトリガー」と話している。「今まではオフラインイベントへの出展を除けば広告なども行わず、顧客企業から他社への紹介など、オーガニックな集客だけで来た。顧客も増え、オペレーションも整い、ニーズも顕在化したことから、今年は攻めに転ずる。ここから年内にかけて、いくつか大きめのサービスリリースも準備している。2018年を飛躍の年として、全力でアグレッシブに行くつもりだ」(倉橋氏)

B Dash Campピッチアリーナ、優勝は薬局薬剤師向けSaaSのカケハシ

3月15日から16日にかけて開催中の「B Dash Camp 2018 Spring in Fukuoka」。2日目となる本日、最後のセッションとなったのは、スタートアップのプレゼンバトル「ピッチアリーナ」だ。バトルには合計で18社のスタートアップが参加し、初日に行なわれたファーストラウンドを勝ち抜いた6社が本戦へと進んだ。

その本戦で優勝を飾ったのは、薬局薬剤師向けSaaSサービスのカケハシだった。同社が提供する「Musubi」では、患者の疾患や年齢、アレルギーの有無などの情報をもとに、それぞれの患者に最適な指導内容を提案する。薬の処方だけでなく、生活習慣のアドバイスなども行う。

通常は2時間ほどかかる薬歴(調剤や服薬指導の内容を記録したもの)の記入時間を、15分に短縮できるという。初期費用は100万円で、現在のユーザー数は40店舗。現在の月次売上高は4000万円ほどに達しているという。代表取締役の中尾豊氏は武田薬品出身だ。

優勝したカケハシのほか、ピッチアリーナ本戦に出場したスタートアップを以下に紹介しよう。

HERP

複数の求人媒体に送られた応募を一元管理できる採用プラットフォーム。メッセージ交換や日程調整、求人票の作成などの業務を1つのアプリケーションで完結できる。ベータ版における現在のユーザー企業数は20社。代表取締役の庄田一郎氏はエウレカの出身者だ。2017年12月には数千万円規模の資金調達を実施している

Inner Resource

Inner Resourceが提供する「ラボナビ」は研究機関向けの購買システム。研究機関では、研究費の不正利用を防ぐために購買に関するルールが数多く存在するという。そのため、実際の購買管理にかかる手間は非常に煩雑になってしまう。ラボナビを利用することで、複数の業者へ一括で見積もりや問い合わせを行うことができる。従来ならエクセルで行なわれていた予算管理もクラウド上で完結する。月額9800円。

ニューレボ

ニューレボが提供する「ロジクラ」は、商品の入荷から在庫管理、出荷までを一気通貫で管理できるシステム。バーコードやラベルの発行、在庫管理、通販サイトの受注取り込み、納品書の作成といった一連の物流業務をクラウド上で完結する。30万円ほどで販売されている従来の専用デバイスを、スマホに置き換える。将来的には取得した在庫データ、販売データをもとに需要予測ができるところまでを目指している。STORES.JPやShopifyなどと提携済みだという。ロジクラは、月額の基本料金と従量課金でマネタイズする。現在の有料課金ユーザーは4社。2017年12月には5000万円の資金調達も実施している

Subdream Studios

Subdream Studiosはカルフォルニアに本社を置くスタートアップで、ソーシャルVRゲームなどの開発を行う。「Yumerium」はブロックチェーンベースのゲームプラットフォームだ。同社はプラットフォーム上で使える仮想通貨「YUM」を発行。ゲームを長くプレイしたり、レビューやシェアするインフルエンサーがトークンが受け取れる仕組みを作る。また、開発者がマーケティング費用としてYUMをパブリッシャーに支払ったり、プレイヤーがゲーム内マネーとYUMと交換したりといった、YUMを中心とした経済圏を構築する。2018年2Qをめどにテスト運営を開始する予定。

justInCase

justInCaseは、スマホの故障に備える「スマホ保険」を提供する少額保険スタートアップ。ユーザーの活動量を機械学習によってスコアリングし、ユーザーごとに最適化した保険料を提案する。知り合いや友人同士でグループを作り、そのメンバーが保険金を拠出し合うP2P型保険の提供を目指す。2018年2月には3000万円の資金調達を実施した。TechCrunch Tokyo 2017のスタートアップバトルにも登場した。ピッチアリーナ本戦では、SPECIAL AWARDを受賞している。

映像制作のイマジカがCVC開始、15億円のファンドでエンタメ領域中心に投資へ

子供向けアニメや実写映画、テレビ番組を制作するオー・エル・エム、「ALWAYS 三丁目の夕日」をはじめとする実写映画やTVCMを制作するロボットなど、映像コンテンツビジネスを手掛けてきたイマジカ・ロボット ホールディングス。そんな同社がCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)を通じてスタートアップ投資を始める。

同社の子会社でベンチャーキャピタル事業を展開するオー・エル・エム・ベンチャーズは3月16日、1号ファンドを組成。1次募集として約12億円の出資約束金額で運用を開始したことを明かした(最終的な出資金総額は15億円を予定する)。

昨今コンテンツ業界を取り巻く環境は大きく変化している。激変するエンタメ領域にて、メディアやコンテンツを中心にVR 、AR 、MRや、新たな動画関連ビジネスを手掛けるベンチャー企業との出資・連携を進めていく方針だ。

「視聴スタイルの変化を筆頭に映像コンテンツ業界の環境変化が進む中、グループを挙げて様々なチャレンジをしてきており、今回もその一環だ。我々が手掛ける作品に、ベンチャー企業の持つARやVR技術を活用して、VRアニメのような今までに無い視聴体験、映像表現が提供できればと考えている」(オー・エル・エム・ベンチャーズの代表取締役を務める横田秀和氏)

横田氏は富士銀行(現 : みずほ銀行)に入行後、ソフトバンクへ出向し「ソフトバンク・コンテンツファンド」の担当としてVC業務をスタート。2001年より富士銀キャピタル(現:みずほキャピタル)に入社し、インターネットやコンテンツ分野を中心に投資活動を続けてきたベテランのキャピタリストだ。

「20年に渡るキャピタリスト人生を踏まえ、今まで以上に起業家に寄り添う立ち位置で支援をしたいと考えゼロからファンドを立ち上げた」(横田氏)

スタートアップ支援の観点から、グループ会社以外の事業会社にLPとして入ってもらうことにも拘った。今回LPにはイマジカ・ロボット ホールディングスとオー・エル・エムに加えて、アドウェイズや小学館、ミクシィ、SMBCベンチャーキャピタルらが名を連ねる。今後も引き続き事業会社を中心にLPに入ってもらう予定だという。

投資するスタートアップは、アーリーステージ(シリーズA)を中心にする予定。ただしミドル・レイターステージの企業でも、グループのリソースを活用することで、さらなる成長支援ができる場合には出資を検討する。

コンテンツ分野は日本が強みを有していることもあり、出資先は国内企業がメイン。グループ会社やLPとの連携も重要視しつつも「(グループ以外の企業がファンドに出資しているため)シナジーありきではなくしっかりとパフォーマンスを意識して運営していく方針」(横田氏)だという。

フリースロー対決はトヨタのバスケ・ロボが完勝――『スラムダンク』が開発のきっかけ

フリースローのチャンスを得たら100発100中、いつでも必ずゴールを決める。そんなプレイヤーがいたら脅威だが、トヨタ自動車のエンジニアが余暇を利用して完成させたのがそういうロボットだ(The Vergeから)。開発のきっかけは高校のバスケットボール・チームを描いた日本の人気マンガ、『スラムダンク』だったという。

トヨタのロボットはプロバスケ選手との対決に現れ(といっても日本のプロバスケ選手で、NBA選手ではない)、全投でゴールを決めて完勝した。これはフリースローに限った対決で、他の分野ではもちろん人間のプレイヤーのきわめてリードは大きい。しかし将来はダンクシュート対決にロボットが登場するかもしれない。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

「今回のディスラプトはデカい」――仮想通貨とブロックチェーンでビジネスが変わる

3月15日から16日にかけて開催中の招待制イベント「B Dash Camp 2018 Spring in Fukuoka」。開幕セッションでは、仮想通貨業界の最前線で活躍する経営者が仮想通貨やブロックチェーンの未来を語った。セッションの登壇者は以下の通りだ。

モデレーターはB Dash Ventures代表取締役の渡辺洋行氏が務めた。

過渡期を迎えた取引所ビジネス

この数年間、仮想通貨ビジネスの中心にいたのは取引所だった。コインチェックから580億円相当のNEMが流出した事件をきっかけに、世間から大きな注目も集めている。

メタップスは2017年11月、韓国の現地子会社を通して仮想通貨取引所の「CoinRoom(コインルーム)」を開設した。ICOを実施し、約11億円の資金も調達している。そのメタップスを率いる佐藤氏は、現在の日本の取引所ビジネスについて、FX業界の強いプレイヤーが参入してきており、手数料やレバレッジ倍率などもFX業界の慣習に近くなってきていると評した。FX業界の枠組みに、仮想通貨取引所を運営する新しいプレイヤーが飲み込まれてしまうといった危惧もあるという。

ステージ上にはGMOクリック証券を設立した高島氏もいる。同社はFX取引高が1兆円に達する、佐藤氏が言うところの“FX業界の強いプレイヤー”の1つだ。2006年に創業したGMOコインを通してFX業界から仮想通貨ビジネスに参入した高島氏は、現在の取引所ビジネスをどのように見ているのだろうか。

仮想通貨の取引所では、取り扱い通貨を増やすごとに別の管理システムを作らなければいけない点がFX業界との大きな違いだ、と高島氏は話す。異なるプログラムによって作られたビットコイン、イーサリアム、リップルなどの各通貨は、必要になる管理システムもまったく異なる。取り扱い通貨数の分だけ監理システムが必要だ。その取り扱いが雑になってしまうと、今回のコインチェックの流出事件のような問題につながりかねない。

こうした事件を受け、金融庁は仮想通貨交換業者に対する規制を強化するという姿勢を強めている。佐藤氏は、取引所ビジネスにはまだ伸びしろがあるが、通常のスタートアップが規制に対応できるだけの体力を備えられるかは疑問だと話す。「ファイナンス、人材など上場企業なみのものが求められている。それができるスタートアップは少ないだろう。(取引所ビジネスは)大人の戦いになってきたと感じる」(佐藤氏)。

規制強化を受け、取引所を運営するスタートアップは新しい生き残りの道を模索する必要があるのかもしれない。

ブロックチェーンは何を変えるか

急速な盛り上がりを見せた取引所ビジネスが変革を迎える一方、仮想通貨を支えるブロックチェーン技術があらゆるビジネスに影響をもたらそうとしている。セッションでは、今後2〜3年における有望な仮想通貨ビジネスの領域はなにかという質問が渡辺氏から飛んだ。

gumiの国光氏とメタップスの佐藤氏は、エンターテイメントが最も有望だろうと答えた。スマホ向けゲーム開発のgumiを率いる国光氏は、「インターネットの時代では、データというものはコピー自由なものだった。データそのものには価値がなかった。なので、SpotifyやNetflixなどもコンテンツではなくサービスを売っていた。対して、ビットコインはただのデータなのにそれが価値をもっている。それは、ビットコインはブロックチェーン上にあってコピーができないのでユニーク性が担保されており、かつトレーダブルだからだ。ゲームのアイテムなどがそれと同じような特徴を帯びるようになれば非常に面白いと思う」と話す。

それに関連して、佐藤氏は「これまでネイティブアプリをAppleやGoogleなどのプラットフォームで公開していた人たちが、ブロックチェーンのプラットフォームに流れてくる。そうなったときに、既存のプラットフォーマーがどのような対策を打つのかに興味がある」と語った。

DAS Capitalを通して仮想通貨領域への投資を行う木村氏は、「注力分野として考えているのは、仮想通貨、シェアリングエコノミー、人工知能。ユーザーを集める、というところ以外は、基本的にはすべてブロックチェーンでやれる。現在は20%や30%というプラットフォーム手数料はザラだけれど、そういう手数料は減っていくだろう」と話す。佐藤氏も、「これまでのモデルは場をつくって手数料を徴収するというモデルだったが、これからは通貨発行益を軸にしたモデルがどんどん生まれる」とコメントした。

GMOコインの高島氏は、「取引所が盛り上がる前、仮想通貨ビジネスは国際送金が一番伸びると言われていた」として国際送金ビジネスへの参入を示唆した。「外国に資金を送金するには、送金元と送金先の両国で銀行口座を持っている必要がある。為替手数料、取引手数料も高い。少額でも送りやすいビジネスをつくりたいと思っている」と自社の展望も交えながら注目分野について語った。

モデレーターを務めたB Dash Ventures代表取締役の渡辺洋行氏は、ブロックチェーンの破壊力を「今回のディスラプトはデカい」と表現した。ブロックチェーン技術の台頭は、現在ではすっかりインフラとなったインターネット黎明期以来のパラダイムシフトだと言う人もいる。もしかすると、今を生きる僕たちはそんな時代の移り変わりを見ているのかもしれない。

「将棋ウォーズ」開発元のAIスタートアップHEROZがマザーズ上場へ

将棋ウォーズ」を始めとした個人向けのゲームアプリや法人向けのソリューション「HEROZ Kishin」など、AI事業を展開するHEROZ。同社は3月15日、東京証券取引所マザーズ市場に新規上場を申請し承認された。上場予定日は4月20日だ。

有価証券報告書によると同社の平成29年4月期(第9期)における売上高は8億7762万円、経常利益が9435万円、当期純利益が9406万円。平成30年1月期(第10期第3四半期)における売上高は8億7189万円、経常利益が3億394万円、当期純利益が2億2393万円だ。

HEROZは2009年4月の設立。「mixi」向けのアプリを複数リリースしたのち、2012年にAIを活用したスマホアプリ将棋ウォーズを開始した(東京大学将棋部の出身である同社エンジニアの山本一成氏が開発したAI「ponanza」や、将棋ウォーズについては以前TechCrunchでも紹介している)。

その後も「Backgammon Ace」や「CHESS HEROZ」、「ポケモンコマスター」などを立て続けにリリース。現在はこれらのサービスを通じて培ったAI関連技術を、金融や建設など法人向けにも提供している。

株式の保有比率については、代表取締役の林隆弘氏と高橋知裕氏がそれぞれ35.19%を保有。ついでMICアジアテクノロジー投資事業有限責任組合(モバイル・インターネットキャピタル)が8.44%、HEROZが3.57%、ビッグローブが2.81%と続く。

感謝の気持ちを“ポイント”で、スマホから簡単に発行できる「mint」が先行登録開始

応援してくれる人に感謝の気持ちをポイントで伝えよう――本日先行登録が始まった「mint」は、スマホから簡単に発行できるポイントを通じて、個人や店舗がファンとの関係性を育めるサービスだ。

ポイントを発行するのに必要なことは、アプリからポイント名や説明を入力することだけ。QRコードを読み取る(対面)、もしくはIDを入力する(遠方も可能)ことでプレゼントできる。

「オリジナルグッズをプレゼント」「食事をごちそうする」などポイントと交換できる特典を設定しておくことで、ファンや常連とコミュニケーションをとるきっかけにもなる。ポイントを持っているユーザーに対して特別な情報を送ることも可能だ。

同サービスを開発するMINTは2017年11月の設立。創業者の田村健太郎氏はかつてオンラインサロンサービス「Synapse」を運営するシナプスの代表を務め、2017年2月にDMMへ売却。次なる挑戦としてmintを立ち上げた。

田村氏は自身のnoteでmintの構想を紹介しているが、このサービスを通じて実現したいことは「経済の非中央集権化」ということだ。「僕がmintを通じてやりたいのは、経済の非中央集権化です。組織に所属するだけじゃなくて、みんなが個人でも経済活動を行っていける世界を、僕は望んでいます」(田村氏のnoteより)

オンラインサロンも個人経済を支えるプラットフォームのひとつではあるが、課金専用のためにハードルもあったとのこと。mintでは有料のトークンではなく無料のポイントを配ることを通じて、だれでも小さく自分の経済圏を作りはじめることをサポートする。

個人事業主や小規模店舗、グループ、法人、家族間などさまざまなシーンで「人間関係を円滑にする」ツールとして使えるとのこと。アプリのリリースは4月下旬を予定している。

ホームセキュリティのStroboが1.5億の資金調達と新サービスを発表、“ウザくても通知がきれない”がカギ

低価格で導入できる後付型ホームセキュリティシステム「leafee(リーフィー)」を提供するStroboは3月15日、CROOZ VENTURESSkyland Ventures日本政策金融公庫、ほか複数名の個人投資家を引受先とする第三者割当増資を実施した。調達総額は1億5000万円だ。また、同社は賃貸管理会社向けの新サービス「Roomio(ルーミオ)」も併せて発表している。

Stroboのメンバー。写真中央が代表取締役の業天亮人氏

leafeeは、賃貸物件にも後付で導入できるホームセキュリティデバイスだ。42mm×42mmの小型デバイスをドアや窓などに貼り付けるだけで、スマホから扉の開閉状態を調べることができる。本体デバイスは専用のセンサーとセットになっていて、本体とセンサーが離れると扉が「空いている」と認識する仕組みだ。本体価格2580円という手頃な価格や導入の容易さがleafeeの特徴だ。現時点での販売台数は約1万台だという。

そして、Stroboが今回新たに発表したのが賃貸管理会社向けのスマートホームアプリ開発・運営プラットフォームのRoomioだ。管理会社は同サービスを利用して、入居者に提供する専用アプリを開発することができる。そのアプリにはleafeeのスマートホームセキュリティ機能が内蔵されているだけでなく、入居者が管理会社にチャットで問い合わせできる機能、入居者への情報提供機能などを備えることが可能だ。

特徴的なのは、Roomioで作るアプリは管理会社のオリジナルブランドとして提供ができる点だ。ホワイトレーベルアプリとでも呼ぶべきだろうか。アプリの大枠はすでに用意されているので、管理会社はアプリ名、アイコン素材、ナビゲーションバーに使う素材などを用意するだけで簡単にアプリを開発可能だ。

ホワイトレーベルというモデルを採用した理由について、Strobo代表取締役の業天亮人氏は「特に地方の管理会社は、賃貸管理業とは別にジムなどを運営しているところが多い。そういった企業へのヒアリングから、自社のブランディングのために独自プランドでアプリを提供したいというニーズがあることが分かった」と話す。

Roomioのような入居者向けアプリと、leafeeのようなホームセキュリティアプリの相性はとても良い。たしかに、特に単身者だと日中電話するのは難しいのでチャットで問い合わせできるのは便利だし、紙の回覧板が不要になる機能は便利だ。でも、賃貸に住んでいる読者なら分かると思うけれど、管理会社に問い合わせるのは1年に1回あるかどうかのこと。必要になる頻度を考えると、僕はわざわざそのためにアプリをダウンロードしようとは思わない。僕のように、プッシュ通知がはっきり言って“うざったい”のでオフにしてしまうというユーザーも多いだろう。

だから、管理会社が単体で入居者向けアプリを提供しようとしても、その普及は難しいのではないかと僕は思う。

でも、そのアプリにleafeeのホームセキュリティ機能が搭載されているとしたら話は別だ。leafeeのユーザーはドアの開閉状態をリアルタイムで知りたいという人たちなので、基本的にアプリからの通知を遮断することはない。業天氏によれば、「ほぼ100%に近い」ユーザーがleafeeの通知を許可しているという。普通であればわずらわしいと感じてしまう通知も、セキュリティのためだから切れないということなのだろう。そのような特徴があるので、管理会社はアプリを通した情報提供がしやすくなる。

また、チャット問い合わせ機能自体は便利なものだから、管理会社に連絡する頻度がたとえ低くても、その機能がホームセキュリティアプリに”おまけ”として付いているならユーザーは嬉しい。一方、チャット問い合わせ機能は管理会社にとっても大きなメリットを与える。問い合わせる側にとっては1年に1回のことかもしれないけど、問い合わせを受ける側は1日に何度も対応しなければいけない業務なのだ。

紙の回覧板が不要で、チャットで問い合わせに対応できれば管理会社の業務負担は大幅に短縮できる。もちろん、そのためにはユーザーがそのアプリを本当の意味で利用してくれることが必要だけれど、Stroboと手を組めばその可能性も高くなる。それを考えれば、管理会社にとってRoomioの導入は非常に魅力的に感じるのではないのだろうか。

Roomioの導入料金は管理戸数に応じて変動する。具体的な料金は非公開だが、1戸あたり数百円という価格帯で「個人がleafeeを導入するより安い価格」(業天氏)で提供する。業天氏によれば、現時点ですでに約10社の管理会社への導入が決定しているという。

Stroboは2015年2月の創業。同社はこれまでに複数回の資金調達を実施しており、今回のラウンドを含む累計調達金額は約2億5000万円となる。

日商120万円超えのアパレルEC、女性向け動画メディアの「PATRA」が1.3億円を調達

InstagramとYouTubeを中心に展開する女性向けの動画メディア「PATRA」とアパレルブランド「mellowneon by PATRA」を運営するChotchy(3月下旬に社名をPATRAに変更予定)。同社は3月15日、グローバル・ブレイン、SMBCベンチャーキャピタル、個人投資家を引受先とする第三者割当増資により、総額約1.3億円を調達したことを明らかにした。

PATRAではメイクやファッションに関する動画コンテンツをアプリを含む複数のプラットフォームで展開。Instagramアカウントのフォロワーは8万人、YouTubeチャンネルの登録者数は5万人を超えていて、1コンテンツあたりのリーチユーザー数は約15万人に上る。

1月にはオンライン販売に特化するセレクトアパレルブランドのmellowneon by PATRAも開始。インフルエンサーとのコラボ商品なども展開、3月には日商120万円を突破したという。

同社ではPATRAで培ったマーケティングノウハウを活用し、複数の自社ブランドを中心としたコマース事業を展開していく方針。「今後は動画やライブ配信を活用した既存のコマースとは違う体験を提供していくことで新しいEコマースの可能性を広げてまいります」としている。

プロ写真家に出張撮影を頼めるマッチングサービス「AMI」運営がメルカリなどから資金調達

国内外のプロフォトグラファーが登録するデータベース&撮影予約サービス「AMI」などを運営する、撮影サービスのスタートアップ、aMiは3月15日、メルカリマネックスベンチャーズ、その他エンジェル投資家を引受先とした第三者割当増資等により、シードラウンドでの資金調達を実施したことを明らかにした。調達金額は総額数千万円規模。同時に会社名をFamarryからaMiに変更したことも発表している。

aMiの創業者・藤井悠夏氏はリクルート出身。ゼクシィで営業に携わった後、退職してベトナムのホーチミンとシンガポールでそれぞれ2年弱、ウェディング事業の立ち上げに関わっていた。両都市で盛んだったのが「フォトウェディング」。海外で前撮りするカップルも多く、断崖の上などの絶景やパリのルーブル美術館が夜ライトアップされたタイミングで撮影するといったケースもあるそうだ。

aMi 代表取締役の藤井悠夏氏

そのフォトウェディングの舞台として日本の人気も高まる中、海外のウェディング撮影希望者と日本のフォトグラファーをマッチングする場や集客ツールがない、と藤井氏が気づいたことが同社立ち上げのきっかけだった。開発が始まったのは2014年末のこと。日本に帰国した藤井氏はエンジェル投資家らから投資を受け、まずはフォトグラファーを登録するデータベースを準備し、2015年初夏にはウェディング撮影予約サービス「Famarry(ファマリー)」ベータ版を、同年9月には正式版をリリースした。

その後、フォトグラファー向け管理ツールのリリース、企業向け撮影サービス提供開始を経て、2017年2月にプロフォトグラファー検索と撮影予約ができるサービス、AMIとしてローンチ。同年7月には家族写真の撮影予約サービス「emily(エミリィ)」もローンチしている。

現在は、AMIを軸にフォトグラファーの空き時間の管理やマッチング支援を行い、Famarryとemilyとの連携によって、ニーズが高く件数の多いウェディング写真や家族写真の撮影の仕事を紹介。撮影を希望するユーザーには、従来のスタジオ撮影などよりはリーズナブルな価格で、プロによる撮影サービスを提供している。

今回の調達資金の使途について、藤井氏は「撮影依頼件数をさらに引き上げることを目指し、ユーザー向けのマーケティングを強化する」と話している。「現在、フォトグラファーの登録数は国内外合わせて700名を超えた。撮影のキャパシティーは充実してきたし、システム構築もある程度行ってきたので、これからはフォトグラファーにより多くの仕事を紹介できる体制を用意したい」(藤井氏)

また、フォトグラファーにとってよりスムーズなマッチングができる環境も整えたい、とも藤井氏は述べた。「請求・決済などの事務作業や、撮影データの納品など、フォトグラファーにとって面倒な手間を軽減するための機能強化を考えている。フォトグラファーが多く登録してくれることで、撮影サービスの質も上がり、結果的にはユーザーも増えて満足度が上がると考えている」(藤井氏)。今後は評価システムを導入し、より評判のよいフォトグラファーがきちんと評価、利用されるような仕組み作りも検討している。

今回のラウンドでリード投資家となるメルカリについては、「スキルを広くマッチングするメルカリアッテを提供する彼らにとって、撮影だけに特化してマーケットを開拓し、そこに最適化したサービスを提供する我々のやっていることを評価してもらえたと考えている」と藤井氏は話す。

また「aMiのマッチングサービスはフォトグラファー視点。フォトグラファーにとって、登録していれば仕事が増えるという状態を作りたい。(ユーザー規模の大きな)メルカリと提携することで、仕事が増えれば」と藤井氏は、提携が実現した場合のシナジーにも期待を込める。

藤井氏は「ユーザーにとって良い撮影体験は、フォトグラファーの質で決まる」と話す。同社によれば国内の撮影市場は約1兆円。そのうちのほとんどはBtoBのビジネスである。収益を上げているのは大手フォトスタジオやエージェント、結婚式場などの既存プレイヤー。例えば結婚式の撮影費用で20〜30万円が式場から請求されても、フォトグラファーの手元にはその1割程度が支払われるだけ、というケースも多く、「フォトグラファーにとってはもちろん、ユーザーにとってもアンハッピー」と藤井氏は言う。

「インターネットの力で双方を直接マッチングできれば、フォトグラファーは収入が上がり、ユーザーは満足のいく撮影体験を得ることができる。現状では、子どもの七五三など、家族の節目の写真は大手のフォトスタジオでの撮影が多いが、ネットなら出張撮影の依頼も安くすることが可能。七五三ならお参りのところから撮影してくれるなど、自然な表情の写真も撮れる。私たちは同じ価格で良い撮影体験を提供できていると自負している」(藤井氏)

Instagramの影響もあり、日本でもユーザーの写真に対するこだわりは上がってきている、と藤井氏は言う。「ただ、フォトグラファーに撮影してもらう文化、ということではまだ日本は遅れている。一方、撮影文化が進んだ欧米や東南アジアでも、まだマッチングサービスが台頭している、というほどではない」(藤井氏)

aMiが提供する各サービスには、海外ユーザーもいる。日本人が海外で撮影したい、というアウトバウンドでも、海外からのユーザーが日本で撮影したい、というインバウンドでもマッチングが可能だ。特にアジア圏に関しては、はじめから英語でもサイトを用意していたので、「海外進出というよりは最初から利用があった」と藤井氏は話す。フォトグラファーの派遣を行うサービス自体は、GMOグループが提供する「出張撮影サービス by GMO」やPIXTAの「fotowa」などもあるが、国内外での撮影に対応しているのはaMiの強みと言えるだろう。

「東南アジアについては、タイからの問い合わせが増えている。富良野のラベンダー畑や渋谷のスクランブル交差点など、日本人にもよく知られたスポットだけでなく、山口県や青森県など日本人は知らない土地での撮影についても問い合わせがある」(藤井氏)

一方、日本人の方もInstagramで話題の海外のスポットで撮影したい、という傾向はあるそうだ。「ニューヨークなどからトレンドが始まった、新生児をアーティスティックに撮影する“NEW BORN”フォトなども日本に入ってきているし、今後さまざまなシチュエーションでフォトグラファーに撮影してもらうことは、さらに増えると思う」(藤井氏)

ウェディング、家族といったC向けだけでなく、企業の利用についても藤井氏はニーズを感じている。「UBER EATS、Airbnbなどのサービスの広がりで、レストランの料理や貸し出す部屋の写真などをより良く撮りたい、ということも増えている。Wantedlyなどの採用サイトやメディア取材で掲載する企業や人の写真も同様だ。そうしたネット上のサービスを提供する企業との連携も進めたい」と藤井氏は語っていた。

CVC運用の課題はガバナンスと事業シナジー実現——PwCが調査レポート発表

事業会社がスタートアップへ投資活動を行うCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)約1年前のレポートだが、ジャパンベンチャーリサーチによれば、事業会社による投資子会社の設立数は2015年に15社、2016年に12社と高い水準で推移している。2017年も3月にPanasonic Ventures7月にToyota AI Veutures10月に日本郵政キャピタル、そして2018年に入ってからは1月にルノー・日産・三菱が共同設立したAlliance Venturesなどといった大型CVCをはじめとしたCVCやファンドの設立は続いている。

日本企業によるCVC設立とスタートアップへの投資は、うまくいっているのか。3月13日、PwCアドバイザリーが発表した調査レポート「CVCファンドを活用したベンチャー企業とのオープンイノベーション」では、CVC関係者が抱える課題の一端が明らかになった。

調査はPwCアドバイザリーが2017年10月、日本国内でCVCファンドの実務に関与する57名から、オンラインによる選択式アンケート調査で得た有効回答をまとめたもの。回答者の所属企業は、売上高500億円以上の規模が半数以上だが、50億円未満の企業も9%ある。

【図1】回答者の所属企業 売上(連結) (n=57)

業種も幅広く、さまざまな業界でCVCへの取り組みが広がっているようだ。

【図2】回答者の所属企業(業種) (n=57)

設立直後は「順調に運用」8割、しかし3年以上経つと約半数に

同調査では「自社のCVCファンドの運用は順調であると思うか?」との設問に、運用1年未満の回答者の81%は「非常に順調」「おおむね順調」と回答している。ところが運用期間が経過するほど、この割合は低下していることが分かった。運用から3年以上経過した回答者の45%は「全く順調ではない」「あまり順調ではない」と回答している。

【図3】「自社のCVCファンドの運用は順調だと思うか?」(運用期間別)
※運用開始前の回答者(n=13)は除く。既に運用を終了した回答者は「3年以上」に含む。

運用面では投資判断への迷いとガバナンスに課題

「順調に運用」と回答したはずの設立直後の担当者にも悩みがある。運用1年未満の回答者では「適正な投資条件で出資できているのか、自信がない」(50%)、「投資担当者の熱意に押し切られ、ほぼ全案件が投資委員会を通過してしまう」(31%)と回答していた。ファンド設立初期では特に、投資判断への迷い、投資判断を監視するガバナンスに課題感があるようだ。

なお案件の選別ができていないことについては、運用3年以上の回答者でも27%と3割近くが課題を感じる結果となっている。ガバナンスを効かせずに案件が通り続けることが、次第に順調な運用ができなくなっていくファンドの割合が増える理由のひとつにもなっているのではないか。

また運用期間が長くなると、今度は成果、とりわけ「シナジー」に関する課題感が強まる。「事業シナジーが思ったほど実現できていない」と回答した割合は、運用1年未満の回答者では0%だったのに対し、3年以上では27%に上った。

【図4】CVCの運用で感じている課題(CVCファンド運用期間別)
※運用開始前の回答者(n=13)は除く。既に運用を終了した回答者は「3年以上」に含む。

「事業シナジーを求める」74%、半数近くは買収までは想定せず

CVCファンド設立の狙いについては、約半数が「事業シナジー」と「財務リターン」の両方に期待する、と回答。「事業シナジーのみ」の回答と合わせると、74%が事業シナジーを求める結果となった。

【図5】CVCファンド設立の狙い (n=57)

一方、投資先への追加出資に関するスタンスについては、「順調にいきそうな会社は、積極的に買収(過半数の株式取得)したい」とした回答者は19%にとどまる。また半数近くの46%が「買収までは想定していない」と回答している。

【図6】投資先への追加出資に関するスタンス (n=57)

PwCアドバイザリー ディールズストラテジーリーダーの青木義則氏は、調査結果に対して以下の通りコメントしている。

「(結果は)目標達成までのストーリーを描き、一貫した戦略のもとでファンドを運営していくことの困難さを示している。海外では、ベンチャー企業に少額出資した後、有望と見込んだ場合は、過半出資により買収し、オープンイノベーションを加速させるといったエコシステムが確立されているが、日本では投資後の出口戦略まで明確に定まっているケースは多くない。(中略)成果を出すためには、投資実行後を見据えた戦略設計や運営体制の構築が急務となる」(青木氏)

採用活動する前に候補者を囲い込む、タレントプール型採用ツールの「EVERYHUB」

タレントプール型の人材採用サービス「EVERYHUB(エブリハブ)」を提供するEveryhubは3月14日、プレ・シードラウンドとしてF Venturesを引受先とした第三者割当増資を実施した。調達金額は500万円だ。これに併せて、同社はEVERYHUBの正式版を本日より提供開始する。

写真左より、代表取締役CEOの小林祐太郎氏、CTOのTyler Shukert氏

数多くの人材採用系のサービスがあるなかで、EVERYHUBはちょっと変わった採用のあり方を提案しようとしている。自社に興味を持つ人々をあらかじめ囲い込み、その時点で採用活動を行っていようがなかろうが、それらの人材をタレントプールとして管理するという方法だ。

このようにタレントプールを構築し、その中の人材と継続的にコミュニケーションをとり続けることで、いざ採用活動を行うとなったときに効率的に候補者を絞りこむことができるというわけだ。

EVERYHUBでは、企業のタレントプールに紐付いたURLとQRコードを発行することができる。その企業に少しでも興味がある候補者は、これをスマホのカメラで読み取り、氏名、メールアドレス、パスワードの3点を入力することでタレントプールに参加できる。例えば、イベントで設置するバナーや名刺にこのQRコードをプリントしておけば、オフラインで出会った人々もタレントプールに呼び込むことが可能になる。

ちなみに、EVRYHUBはWebアプリとして提供しているので、QRコードを読み込むとアプリをダウンロードしろと言ってくることもない(僕はそこで離脱してしまうたちだ)。

企業はタレントプールに参加した候補者に対し、チャットやタイムライン型のフィードコンテンツを通してコミュニケーションを図ることができる。費用をかけて人材募集をかける前に、まずはタレントプール内の人材に対してフィード上で募集をかけるといったことも可能だろう。

タレントプールに参加した候補者は、EVERYHUBのサービスページにアクセスして自分のプロフィール情報をより充実させることも可能だ。タレントプールへ参加する時に入力した3つ情報に加えて、学歴やスキルなどを追加で入力することができる。すると、履歴書のフォーマットにそったプロフィールが自動で作成される。

Everyhub代表取締役の小林祐太郎氏によれば、このプロフィール機能は「社内会議で利用するために履歴書のフォーマットで候補者のプロフィールが見たい」という声を受けて導入したのだという。一方の候補者も、この履歴書をダウンロード(もしくは印刷)して利用することが可能だ。

EVERYHUBはタレントプールを作成する企業側に対し月額3980円〜の料金で提供する。それに加えて、タレントプール内の人数に応じて従量課金が発生する。

タレントプールという仕組みを取り入れ、広い意味での候補者たちと継続的なコミュニケーションが取れるというメリットを打ち出すEVERYHUB。しかし、現時点で同サービスが提供する機能だけを考えれば、ビジネスSNSの「Wantedly」とそう変わらないように見える。Wantedlyでも企業を”フォロー”することで最新情報を受け取ることができるし、企業側もフォローした候補者にアプローチできる。

QRコードを活用してオフラインでの出会いも採用に生かせる、という点のように、EVERYHUBならではのタレントプールという仕組みを生かし、既存サービスとは違うメリットをどれだけ訴求できるかが今後の成功の鍵となるだろう。

サービス業の人材育成を“動画”で支援、クラウドOJTサービス「ClipLine」が6.1億円を調達

動画を活用したサービス業の技術習得支援プラットフォーム「ClipLine」を提供するClipLine。同社は3月13日、産業革新機構とアニヴェルセルHOLDINGSを引受先とする第三者割当増資により総額6.1億円を調達したことを明らかにした。

ClipLineは動画を用いることで、離れた場所からでもクラウド上でOJT(On-The-Job Training)を実施できるサービスだ。主な顧客は外食や小売、介護・医療など多店舗展開しているサービス産業。そのような企業が抱える「指示が正確に伝わらず実行されない」「店舗間のサービス品質にバラつきが生まれる」といった課題を双方向の動画(クリップ)を通じて解決する。

たとえば本部の教育担当者やマネージャーがお手本となる動画を作成し、ClipLine上で共有する。各店舗で働くスタッフはその教材を参考に自分で実践した様子を撮影。再度ClipLineに投稿することで、担当者からのフィードバックを受け取るという流れだ。

2017年5月には「映像音声クリップを利用した自律的学習システム」で特許を取得している。

ClipLineは2014年10月のリリース。これまで対面指導が当たり前だったOJTをクラウド上で実現することで、多店舗展開する企業の人材育成やコミュニケーションをサポート。2015年に1.3億円を調達した際にはTechCrunch Japanでも一度紹介したが、これまで数回の資金調達をしながら事業を拡大してきた。

今回調達した資金をもとに、同社では開発体制やセールス・マーケティング体制を強化。コア機能の拡充やサービス拡大を図るほか、動画解析やAIなど新技術の研究も進めていく方針だ。

また業界としては介護・医療領域への市場開拓を加速。合わせて研究開発組織 「ClipLine Service Management Lab」を設立し、サービス産業全体の労働生産性向上と人材不足の解消を目指すという。