Shopifyの最高技術責任者Jean-Michel Lemieux(ジャン・ミッシェル・レミュー)氏と最高人材責任者Brittany Forsyth(ブリタニー・フォーサイス)氏は2021年4月、それぞれの役割から退くことを明らかにした。最高法務責任者のJoe Frasca(ジョー・フラスカ)氏も同社を去る予定で、3氏はいずれも2021年6月で任期を終える。今後のチャプターではスタートアップへのアドバイスや投資、ローンチに関心があるようで、元Shopifyの役員や社員にも同じことをする人が増えている。
設立から15年、従業員7000人を擁し、オタワに拠点を置くShopifyのような規模の企業にとって、時価総額が1300億ドル(約14兆1350億円)というのは驚くことではない。それでも、Shopifyが生み出した莫大な富の恩恵を受けて、同社の元従業員たちは、かつてないほどのカナダの起業家エコシステムに影響力を持つことに目を向けている。
例えば、Shopifyの元最高製品責任者で、2020年10月に同社を去ったCraig Miller(クレイグ・ミラー)氏を見てみよう。同氏はすでに、フルタイムで働きながら、クリーンテクノロジーとカナダに焦点を当てたいくつかのベンチャーファンドに投資を行なってきた。現在は、資金と時間の両方を「大きな社会的影響を与えることができる」と考える個人企業に出資している。
その中には、個人事業を運営するためのツールを提供しているHousecall Proや、二酸化炭素回収を手がけるPlanetary Hydrogenのような気候変動対策に取り組むスタートアップも含まれている。
ミラー氏は、自身の時間はShopifyの元同僚を含む創業者に引きつけられていると語る。「資金調達は重要ですが、資金を投じようとする人はすでに十分すぎるほどに存在しています」と同氏はいう。そのため、同氏の持つ価値のほとんどは、スタートアップの規模を拡大する方法についてチームと話すことに注がれている。「企業を大きく成長させる方法を心得ている人、1億ドル(約109億円)から1000億ドル(約10兆8740億円)以上の企業を目にした人、そして製品を数百万人のユーザーに拡大する方法を熟知しているような人は極めて限られています」。
このような高度成長を経験した人は世界的に見てもあまり多くはないが「基本的にロールモデルが存在しない」カナダでは特にそうだと同氏は指摘する。
ミラー氏は自らを自身の置かれた環境の産物と捉えており、Shopifyが従業員を非公式ながらも積極的に教育していることを示唆している。
「私が最も好きだったことの1つは、私たちがどれだけオープンであったかでした」とミラー氏。「すべての従業員はロードマップを把握し、コードを見ることができ、データにアクセスすることができました。【略】私たちは、取締役会でのプレゼンテーションを会社全体で共有することもできました。そうすることで、すばらしい会社を作る方法に関心のある人たちがその貴重な情報を留め置くことができました」。
多くの人が知識を書き留めるペンを取り出していたようだ。Shopifyを去って自分たちのビジネスを立ち上げた人たちの中に、Michael Perry(マイケル・ペリー)氏がいる。同氏は2020年、忙しい家族をまとめるMapleというアプリを構築するためにShopifyを去った。また、Helen Tran(ヘレン・トラン)氏は2017年にShopifyを離れ、美容やパーソナルケアのブランド向けのソフトウェアを開発するJupiterを立ち上げた。Andrew Peek(アンドリュー・ピーク)氏は投資顧問会社Delphiaを設立。スタートアップAfterwordを運営するEffie Anolik(エフィー・アノリック)氏は、バーチャルとオフライン両方の追悼サービスの計画を支援している。
創業者の1人で誇り高きShopify出身者のArati Sharma(アラティ・シャルマ)氏は元製品マーケティング担当ディレクターで、Shopifyを「特別な場所」と呼び、多くの人にビジネスのスケールアップの方法や、Shopifyに特化した手法を伝授している。
Shopifyはカナダで最初にその規模を築き上げた企業であることから「この規模の企業をどのように運営すべきか」についての「固定的な考え方」がなく「過去の戦略に従う」こともなく、従業員が判断すべきことが多かったと同氏は語る。
シャルマ氏は、自身の会社Ghleeの立ち上げに照らして、経験から学べることには限界があることを認めている。Ghleeはトロントに拠点を置くスキンケアブランドで、2019年にローンチした。「Shopify社内でゼロから立ち上げる機会はありましたが、創業者の座に就くことはまったく新しいことです」と同氏は振り返った。
しかしミラー氏と同様、シャルマ氏も「文化と商業がいかに深く関わっているか」など、多くの教訓をShopifyで学んでいる。
同氏はまた「(Shopifyに)元創業者として参加していたとしても、あるいはそこで働いている間に起業家的なバグを見つけたとしても、いかに多くの従業員が自分のビジネスを運営しているかは注目に値する」と述べている。
Shopifyで働き続けながら事業を運営する人もいる。例えば、Atlee Clark(アトリー・クラーク)氏はPika Layersという子ども服の会社を設立し、フルタイムの取締役を務めている。
退職後に投資会社を設立したケースもある。元製品担当VPのAdam McNamara(アダム・マクナマラ)氏は現在、Shopifyの元同僚Joshua Tessier(ジョシュア・テシアー)氏とともに、影響力のあるエンジェルファンド、Ramen Venturesを運営している。
特に注目すべきは、シャルマ氏自身が積極的なエンジェル投資家であることだ。2021年初めにはBackbone Angelsと呼ばれる10人の投資家集団を共同で設立し「スピードに合わせて最適化し、来るべき取引に迅速に対応する」ことを目指している。
Backbone Angelsのメンバーは全員女性だ。いずれもShopifyの元従業員で、退職予定の最高人材責任者ブリタニー・フォーサイス氏も含まれている。キャップテーブル(資本政策)に参加する女性投資家や非バイナリ投資家の数を増やすことに注力しており、そうすることで取締役会の今後の見通しや企業の構築方法が変わると考えている。
Shopify(同社の株価は2020年中に急上昇したが、最近下落に転じている)の恩恵もあり、資金調達の機会には事欠くことはなさそうだ。
シャルマ氏は夫と共同で投資を始め、これまでに30あまりのスタートアップに出資しており、2021年だけで9つの投資が行われたという。
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画像クレジット:Thomas Trutschel / Getty Images
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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)