Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)は、数週間かけてじらし広告、発表、生産開始前の試乗イベント(TechCrunchも参加)を重ねた後、ついに米国時間4月15日、カモフラージュを取り去り、テクノロジーを詰め込んだフラッグシップ超高級セダンEQS(メルセデスSクラスの電気自動車版)を公開した。
注目の大半はその外観に向けられているが、TechCrunchが注目しているのは、そのテクノロジーだ。マイクロ睡眠警告システム、142cmのハイパースクリーン、超大型のHEPAエアフィルター、運転者の要望やニーズを直感的に学習するソフトウェアなど、さまざまな技術が搭載されている。No.6 MOOD Linenと呼ばれる新しい香料まで採用されており、その香りは「イチジクの新緑とリンネルに包まれている」ような感じ、と説明されている。
「何か1つを取り上げることはできません。この車は100の様々な要素で構成されているからです」とDaimler AG(ダイムラー)の取締役会会長でメルセデス・ベンツ社長のOla Källenius(オラ・ケレニウス)氏はいう。「そして、その100の小さな要素にこそ、メルセデスのメルセデスたる所以があります」。
メルセデスは、このテクノロジーにパフォーマンスとデザインを組み合わせれば、買い手は惹きつけられると確信している。この車はメルセデスにとっていちかばちかの賭けだ。同社は、北米でEQSが成功を収めることによって、全米での販売開始時に問題を起こした(今はすべて解決済み)EQCの記憶を払拭できると踏んでいる。
基本概要
最新のテクノロジーについて説明する前に、基本事項について概説しておこう。EQSは、メルセデスの新しいEQブランドとなる超高級純電気自動車で、米国市場に導入される最初のモデルは、329馬力のEQS 450+と516馬力のEQS 580 4MATICだ。メルセデスはこれらのモデルの価格を公開していないが、パフォーマンス、デザイン、レンジについて詳細な情報を提供している。
米国で販売予定のEQSの車長は5.2mを若干超える(正確には5.217m)くらいで、メルセデスSクラスのバリエーションに相当するサイズだ。
メルセデスEQS 580 4MATIC
このモデルの空気抵抗係数は0.202で、Tesla Model SとLucid Motors Airより若干低く、世界で最も空気抵抗の少ない量産車となっている。すべてのEQSモデルは後車軸に電動パワートレインを備えている。EQS 580 4MATICは前車軸にも電動パワートレインを備えており、全輪駆動を実現している。EQSの最高出力は329~516馬力で、車種によって異なる。メルセデスによると、最大630馬力の高パフォーマンス車種の生産も計画されているという。EQS 450+とEQS 580 4MATICのどちらも、最高速度は時速209kmだ。EQS 450+の時速96kmまでの加速時間は5.5秒だが、高出力の上位車種は4.1秒で同じ速度に達する。
EQSでは、2種類のバッテリーのどちらかを選択できるが、メルセデスが詳細を明らかにしているのは1つのバッテリーのみだ。最高負荷構成のEQSには使用可能エネルギー含有量107.8 kWhのバッテリーが搭載されており、European WLTP(国際調和排出ガス・燃費試験方法)による概算では1回の充電で769キロメートルまで走行できる。より厳しい基準であるEPAによる概算では、この数字を下回る可能性が高い。
メルセデスによると、EQSは、直流高速充電ステーションで最大200kWまで充電できるという。自宅または公開の充電ステーションでは、オンボードの充電器を使用して交流で充電できる。
それでは、EQSで使用されている注目すべきテクノロジーをいくつか紹介しよう。
ADAS(先進運転支援システム)
EQSにはさまざまな運転者支援機能が搭載されている。この機能を実現しているのは、車に組み込まれている超音波、カメラ、レーダー、ライダーなどの多様なセンサーだ。ADAS機能として、適応走行、加速動作調整機能、車線検知、自動車線変更、ハンドル操作補助(最大時速209kmで車線走行)などが組み込まれている。このシステムは、速度制限標識、オーバーヘッドフレームワーク、工事現場の標識も認識し、一時停止や赤信号を無視すると警告する機能もある。
さらに新しい機能として、時速19kmに達すると自動的に作動するマイクロスリープ警告機能がある。この機能は、運転車のまぶたの動きをドライバー用ディスプレイのカメラで分析することで実現されており、MBUX Hyperscreen搭載車種でのみ利用できる。
必要に応じて運転操作に介入するアクティブ補助機能もある。アクティブ死角補助では、時速9.6~199kmの速度範囲で側面衝突の可能性があることを視覚的に警告する。それでも運転者が警告を無視して車線変更を開始すると、速度が時速30kmを超えている場合は、衝突直前に一方的にブレーキ操作を介入させて修正操作を実行するという。この機能は駐車中でも作動し、車や自転車が近くを通過している場合に車を発進させないよう警告する。
緊急停止補助機能も用意されており「運転者が交通状況に反応しない時間が続いている」とセンサーとソフトウェアが認識すると、ブレーキを稼働して走行中の車線で車を停止させる。ブレーキ操作は急には行われない。運転者が反応していない場合は、まず音声で警告し、その後、計器群に視覚的な警告が表示される。車が徐々に減速される間、これらの警告が継続的に発出される。ハザードランプが点灯し、触覚による警告として運転席のシートベルトが一瞬締まる。最後に、追加の警告としてメルセデスのいう「短く強いブレーキ操作」が適用され、車は減速して停止する。必要に応じて、1回車線変更することもある。
また、オプションでDRIVE PILOT(ドライブパイロット)機能も用意されている。これは、SAE Level 3対応の条件付き自動運転システム機能で、これによりハンズフリーの運転が可能となる。欧州では規制により、公道を走行する量産車にこのレベルの自動化を実施することは禁止されている。この件について、ケレニウス氏はドイツのメディアに次のように語っている。「2021年下半期にドイツで最初の量産車向けLevel 3システムの認可を取得する寸前まできている」(Automotive News Europeの記事より抜粋)。
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学習するクルマ
EQSには驚くべき技術的な仕かけが数多く搭載されているが、その多くは運転者の動作を学習するよう設計された基盤AIに依存しており、ソフトウェアと、驚くほど多数のセンサーで実現されている。メルセデスによると、機器にもよるが、EQSには最大350のセンサーが組み込まれる予定で、距離、速度、加速、ライト点灯条件、降雨、気温、座席専有率、運転者のまばたき、同乗者の話し声などが記録される。
これらのセンサーによって取得された情報は、電子制御ユニット(コンピューター)によって処理され、その後、ソフトウェアアルゴリズムが処理を引き継いて判断を下す。TechCrunchの試乗レビュー担当者Tamara Warren(タマラ・ウォーレン)によると、半日試乗しただけで、EQSが運転者の好みを学習する能力に気づいたという。
メルセデスは、これらのセンサーとソフトウェアの連係動作について、例えば、対話型で、さまざまなパラメーター(アクセルの位置、速度、回復動作)に反応するオプションの走行音など、さまざまな例を使って説明した。
直感的な学習機能が明白にわかるのは、MBUX情報システムとのやり取りを介して学習される場合だ。このシステムは、ユーザーにしかるべき機能をしかるべきタイミングで予測的に表示する。センサーは環境とユーザーの動作の変化を感知し、変化に応じて反応する。メルセデスは、第1世代MBUX(2019年型Mercedes A Classに搭載)から収集したデータで学習した結果、大半のユースケースはナビゲーション、ラジオ / メディア、電話の各カテゴリーに当てはまることがわかった。
このユーザーデータに基づいて、第2世代MBUZ(EQSに搭載されるもの)のレイアウトが決められた。例えば、ナビゲーションアプリは常に、ビジュアルディスプレイユニットの中央に表示される。
画像クレジット:Mercedes-Benz
MBUXでは自然言語処理を採用しているため、運転者はいつでも自分の声でラジオ局を選択したり、社内環境を制御したりできる。しかし、メルセデスは、EQSの直感的学習機能を強く推奨している。この機能では、運転者がクルマを使い込むにつれて、通常はメニューの深い階層に埋もれている項目が前面に表示されるようになったり、時間や場所に応じて前面に出てきたりする。
「このクルマは運転者を人として認識し、運転者の好みや動作を学びます。次に使いたいオプションを、運転者が考える前に提示してくれるような感じです」とケレニウス氏は説明する。
「お腹が空く前にピザが配達されるようなものです」とケレニウス氏は冗談交じりに続け「直感的という意味ではまさに画期的です」と付け加えた。
メルセデスによると他にも20を超える機能があるという。例えば誕生日リマインダー機能は、ユーザーに関係のある人の誕生日を人工知能の助けを借りして自動的に知らせてくれる。階層なしのインターフェイスに表示されるこうした提案モジュールは「マジックモジュール(Magic Modules)」と呼ばれ、次の原理で動作する。運転者が数日続けて、夜帰宅途中に特定の友人や親戚に電話すると、今日この時刻にこの相手に電話をするかどうか提案してくる。名刺は、連絡先情報と写真(保存されている場合)付きで表示される。MBUXが行うすべての提案は、ユーザーのログインプロファイルと関連付けられる。つまり、他の誰かが自分のプロファイルでログインして、同じ夜にそのEQSを運転したとしても、この推薦は表示されないということになる。
運転者が帰宅途中にいつも特定のラジオ番組を聴く場合は、その番組を聴くかどうかが提案される。定期的にホットストーンマッサージを利用している場合は、低温でマッサージ機能を作動させるかどうか自動的に提案してくる。
こうした提案は運転機能にも適用される。例えば、自宅車庫までの私道が急勾配だったり、同じような減速バンプを通過して自宅近くに入っていく場合、MBUXはそのことを記憶する。そして、GPSの位置がその区域に近づくと、車体を上げて地面からの距離を確保するよう提案してくる。
健康とウェルネス
上述の各種センサーにはさらに高度な用途がある。運転者はさらに一歩進めて、スマートウォッチ(Mercedes-Benz vivoactive 3、Mercedes-Benz Venu、またはその他のGarmin互換ウォッチ)をEQSの「エナジャイジングコーチ」に接続できる。エナジャイジングコーチは運転者の動作に反応し、1人ひとりの気分に応じて「Freshness(リフレッシュ)」「Warmth(暖かさ)」「Vitality(活力)」「Joy(喜び)」などの中から1つのプログラムを提案してくる。スマートウォッチは、Mercedes meアプリを介して、ウォッチ装着者のバイタルデータ(心拍数、ストレス度、睡眠の質など)をエナジャイジングコーチに送信する。組み込みのGarminウェアラブルによって記録された心拍数は中央ディスプレイに表示される。
これが実際にどのような役に立つかというと、実は、ユーザーの要望とAIシステムが判断したユーザーの要望に合わせて、ライト、車内環境、サウンド、座席などが調整されるのだ。もちろん、これはすべて、音声アシスタント「Hey Mercedes(ヘイ、メルセデス)」に統合されているため、運転者は、自分の気分をいうだけで望みのプログラムを起動できる。
運転者が「ストレスを感じている」というと「喜び」プログラムが起動され「疲れている」というと「活力」プログラムで休憩をとるよう促される。
メルセデスSクラスのオーナーには、こうしたオプションはすでにお馴染みかもしれないが、メルセデスによると、EQSではシステムがさらに強化されているという。具体的には、新しい3つのエナジャイジングネイチャープログラムとして、森の中の空き地、海の音、夏の雨が追加され、トレーニングとヒントも用意された。各プログラムでは、音響生態学者Gordon Hempton(ゴードン・ヘンプトン)氏の助言を受けて作成された、異なる没入型サウンドが再生される。例えば「森の中の空き地」では、鳥のさえずり、葉の擦れる音、そよ風を組み合わせた音が再生され、温かみのある音風景と淡い香りが車内に満ちる。
海の音では、柔らかい音楽風景、波の音、カモメの鳴き声が生成される。これに空調システムからの風が加わってプログラムが完成する。一方「夏の雨」では、落ち葉の積もった屋根に落ちる雨粒の音、遠くの雷鳴、パタパタと音を立てる雨、環境音景などが生成される。
画像クレジット:Mercedes-Benz
さらに、休憩が必要な長距離ドライブ向けに、パワーナップ(積極的仮眠)機能が追加された。パワーナップを選択すると(間違っても運転中に選択しないよう注意)、入眠、睡眠、目覚めの3つのフェーズからなるプログラムが実行される。運転者の座席は安静位に移動し、窓とパノラマサンルーフが閉じて、空気イオン化が起動される。心地よい音と中央ディスプレイに映し出される満天の星空によって入眠が促される。目覚めの時刻がくると、音楽景が起動され、香りが立ち、簡単なマッサージと座席シートの通気が開始される。座席が元の位置に戻り、サンルーフの裏張りが開く。
音声
先ほど述べたとおり「へイ、メルセデス」音声アシスタントは、自然言語処理を使用しているため、多くの要求を処理できる。メルセデスによると、音声アシスタント機能はさらに強化され「へイ、メルセデス」という起動キーワードを言わなくても電話を受けるなどの特定のアクションを実行できるようになったという。また、クルマの機能説明もできるようになった。
音声アシスタントは同乗者を音声で識別することもできる。実際、車内の各座席には個別のマイクが設置されている。同乗者の音声を学習したアシスタントは、そのユーザーの個人データと職務を参照できる。
EQSの音声アシスタントは後部座席からでも使用だ。
これらの個人プロファイルは「Mercedes me」の一部としてクラウド上に保存される。つまり、プロファイルは新世代のMBUXを搭載した他のメルセデス車でも使用できるということだ。セキュリティは組み込まれており、PINも使用でき、顔認識と音声認識を組み合わせて認証を行う。これにより、個人設定へのアクセスやデジタル決済処理の確認を車から実行できるという。
スクリーンとエンタテイメント
最後に、画面について触れておこう。すべての画面についてだ。142cmのハイパースクリーンが最も注目を浴びているが、EQSでは車内に複数の画面が設置されている。重要なのは、これらの画面が相互にやり取りする方法だ。
ハイパースクリーンは実は3つの画面で構成されているのだが、3つとも共通のガラスカバーに接着されているため、見た目には1つのディスプレイに見える。運転席ディスプレイは31cm、中央ディスプレイは45cm、助手席のディスプレイは31cmだ。MBUXハイパースクリーンはタッチスクリーンになっており、触感フィードバックと力フィードバックを返すこともできる。
「最初のデザインと実際の完成品についてときどき考えるのですが、『1メートル41cmの曲面ガラスを車内に搭載するなんて、突拍子もないアイデアだ』と思うことがあります」とケレニウス氏はいう。「それ自体が1つの作品であり、テクノロジーアートなのです」。
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後部座席に多くの注目が集まっているが、これはEQSが同グレードのSクラスと同様、オーナーが運転手を雇って使うことが多い車だからだ。後部座席はすべてシステムに接続されているため、メルセデスはこれを後部座席エンタテイメントシステムとは呼ばず、マルチ座席エンタテイメントシステムと呼んでいる。
運転者が2人の後部座席同乗者に異なる映画を見せたい場合は、メインスクリーンで映画をドラッグし、それを見たい同乗者の方へスワイプするだけで、後部座席のプログラムが調整される。後部座席の同乗者も、隣の同乗者のスクリーンに映画をいわば「投げる」ようにスワイプして渡すことができる。
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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Dragonfly)