ハードウェアエンジニアリングのベースになっているのは、たいていドキュメントだ。一般的な人工衛星では数十万ものPDF、スプレッドシート、シミュレーションのファイルなどがあり、複数の書類の間に矛盾が生じるおそれがある。そしてそれは、高くつく失敗の原因になりかねない。例えばNASAでは1999年に、あるエンジニアリングチームはメートル法を使い、別のチームは英国の単位を使っていたために、1億2500万ドル(約136億円)の火星探査機を失ったことがある。
ドイツに本社がありポルトガルにもオフィスを置くValispaceは、自社を「ハードウェアのためのGitHub」と称する。Valispaceのサービスはエンジニアが共同作業をするためのプラットフォームで人工衛星、飛行機、ロケット、核融合炉、自動車、医療機器などあらゆるものの開発に役立つブラウザベースのアプリだ。エンジニアリングのデータを保存し、ユーザーは数式でデータを互いに接続できる。すると、ある値が変更されれば、自動で他の値もすべて更新され、シミュレーションが再実行され、ドキュメントが書き換えられる。
現在の新型コロナウイルス感染拡大下では、最後の点が重要だ。人工呼吸器の製造と改良が世界的な大問題になっているからだ。
Valispaceは現在、この危機に対してオープンソースでハードウェアソリューションを開発しようと数千人ものエンジニアを集めるいくつかの取り組みと連携している。その代表的な取り組みには、CoVent-19 Challenge、GrabCAD、Helpful Engineeringなどがある。人工呼吸器に携わっているエンジニアはここから無料のアカウントを申請するか、engineering-taskforce @ valispace.comにメールで連絡して参加できる。
Valispaceはシード拡張ラウンドで220万ユーロ(約2億6000万円)を調達した。このラウンドを主導したのはベルリンのJOIN Capitalで、パリのHCVC(Hardware Club)も参加した。
この資金で、新たな業界(医療機器やロボティクスなど)への進出と、現在関わっている業界(航空、宇宙、自動車、エネルギー)での拡大を目指す。Valispaceは70億ユーロ(約8248億円)規模のヨーロッパのシステムエンジニアリングツール市場に取り組んでいるが、米国の市場も同等かそれ以上だ。同社の競合にはRHEA CDP4、Innoslate、JAMA、そして最大手のStatus Quoなどがある。
ValispaceのCEOであるMarco Witzmann(マルコ・ウィッツマン)氏は、次のように述べている。「Valispaceには、さまざまな業界のエンジニアが優れたハードウェアを開発できるよう支援してきた実績がある。それはドローンから人工衛星まで、小さな電子装置から核融合炉全体までに及ぶ。我々の顧客となっている最先端の企業は、Valispaceを利用したアジャイルなエンジニアリングのアプローチを選んでいる」。
JOIN CapitalのTobias Schirmer(トビアス・シルマー)氏は「ブラウザベースの共同作業は現代のあらゆる企業にとって必須となっている。チームやオフィス間のコミュニケーションの重要性が増しているからだ」とコメントしている。
BMW、ペイロード輸送サービスのMomentus、小型商用核融合炉開発のCommonwealth Fusion Systems、エアバスなどがValispaceの顧客となっている。
ウィッツマン氏はかつて、ヨーロッパ最大の人工衛星プログラム、メテオサット第3世代にシステムエンジニアとして関わっていた。ポルトガルに拠点を置く共同創業者でCOOのLouise Lindblad(ルイーズ・リンドブラ-ド)氏は、欧州宇宙機関で人工衛星とドローンの開発を手がけていた。
人工衛星のエンジニアだった2人は、最先端のプロダクトを開発しているにもかかわらず開発のためのツールはまるで1980年代のようだと疑問に思っていた。2016年に2人はValispaceを創業し、エアバスを最初の顧客の1社として獲得した。
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(翻訳:Kaori Koyama)