水素貯蔵・発電システムをディーゼル発電機の代わりに、オーストラリア国立科学機関の技術をEnduaが実用化

水素を利用する発電機は、従来のディーゼル燃料発電機に代わる環境に優しい発電機だ。しかし、その多くは太陽光や水力、風力に頼っており、いつでも利用できるとは限らない。ブリスベンに拠点を置くEndua(エンドゥア)は、電気分解によってより多量の水素を生成し、それを長期貯蔵することで、水素を利用する発電機をもっと使いやすくしようとしている。Enduaの技術は、CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)によって開発されたもので、CSIROが設立したベンチャーファンドのMain Sequence(メイン・シーケンス)とオーストラリア最大の燃料会社であるAmpol(アンポル)によって商業化される。

Main Sequenceのベンチャーサイエンスモデルは、まず世界的な課題を特定し、次にその課題を解決できる技術、チーム、投資家を集めてスタートアップを起ち上げるというものだ。このプログラムを通じて設立されたEnduaの最高経営責任者には、電気自動車用充電器メーカーのTritium(トリチウム)の創業者であるPaul Sernia(ポール・セルニア)氏が就任し、Main SequenceのパートナーであるMartin Duursma(マーティン・ダースマ)氏とともに、CSIROで開発された水素発電・貯蔵技術の商業化に取り組んでいる。アンポルはEnduaの産業パートナーとしての役割を担うことになる。

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Enduaは、Main Sequence、CSIRO、アンポルから500万豪ドル(約4億2000万円)の出資を受けている。同社はまずオーストラリアで事業を展開し、それから他の国々へ拡大していく計画だ。

セルニア氏によれば、Enduaは「再生可能エネルギーへの移行が直面している最大の問題の1つである、再生可能エネルギーをいかにして大量に、長期間にわたって貯蔵するかという問題を解決するために設立された」という。

Enduaのモジュール式パワーバンクは、1パックあたり最大150キロワットの電気を出力できる。さまざまなユースケースに合わせて拡張することが可能で、ディーゼル燃料で稼働する発電機の代わりとして機能する。蓄電池は通常、停電時などに備えたバックアップとしての役割を果たすが、Enduaが目指しているのは、大量に貯蔵できる再生可能エネルギーを提供することで、送電網から切り離されたインフラや、電気が届いていない地域コミュニティが自立した電源を持てるようにすることだ。

「水素の電気分解技術はかなり前から存在していますが、商業市場の期待に応え、既存のエネルギー源と比較になるほどコスト効率を高めるには、まだ長い道のりがあります」と、セルニア氏は語る。「我々がCSIROと共同で開発した技術なら、化石燃料と比べてもコストを抑え、信頼性が高く、遠隔地でも容易に維持できるようになります」。

このスタートアップは、産業界の顧客に焦点を当てた後、小規模な企業や住宅にも手を広げていくことを計画している。「最大の好機の1つは、地域社会や鉱山、遠隔地のインフラなど、これまであまり取り組まれることがなかったディーゼル発電機のユーザーです」と、セルニア氏はいう。「農業分野では、Enduaのソリューションは、掘削機や灌漑用ポンプなどの機器の電源として使用できます」。また、同社のパワーバンクは、太陽光や風力などの既存の再生可能エネルギーシステムに接続することができ、ユーザーは経済的な切り替えが可能であると、同氏は付け加えた。電気分解のプロセスには水が欠かせないが、必要な量はわずかだ。

「電池は出力を調整しながら少しずつ電力を供給できる優れた方法であり、全体的なエネルギー移行計画を補完するものです。しかし私たちは、地域社会や遠隔地のインフラが、信頼できる再生可能エネルギーをいつでも利用できるように、大量かつ長期間にわたって貯蔵できる再生可能エネルギーの供給に注力しています」と、セルニア氏はTechCrunchの取材に語った。

アンポルは、同社のFuture Energy and Decarbonisation Strategy(未来のエネルギーと脱炭素化戦略)の一環として、Enduaと協力している。同社はEnduaの技術をテストして商品化し、その8万社にものぼるB2B顧客に提供する予定だ。ますば年間20万トンの二酸化炭素を排出しているオフグリッドのディーゼル発電機市場に焦点を当てている。

アンポルのマネージングディレクター兼CEOであるMatthew Halliday(マシュー・ハリデイ)氏は「Enduaと関わりを持てることに興奮しています。これは、エネルギー移行を後押しする新しいエネルギーソリューションを発見・開発することによって、顧客価値提案を拡大するという当社のコミットメントの一環です」と、プレスリリースで述べている。

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画像クレジット:Andrew Merry / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

EUがゲイツ氏のBreakthrough Energyと提携、クリーンテックの開発・浸透加速へ

欧州委員会は、今後5年間(2022〜2026年)で最大10億ドル(約1095億円)をクリーンテックと持続可能なエネルギープロジェクトへ新たに投資することを目的に、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏の持続可能エネルギー投資ビークルとの提携を発表した

この提携がフォーカスする欧州連合(EU)ベースのプロジェクトはまず、欧州域内の二酸化炭素排出の大幅削減をもたらす可能性がある以下の4つの部門に絞られる。

  • グリーン水素
  • 持続可能な航空燃料
  • ダイレクトエアキャプチャー(大気中のCO2を直接回収するテック)
  • 長期間のエネルギー貯蔵

化石燃料ベースの既存のテクノロジーと競うには現在あまりにも高価であるテクノロジーを大規模展開するのが目的だ。

両者は今後、11月に開催される国連気候サミットCOP26会議で何か発表することを視野に入れながらプログラムの計画に引き続き取り組むと述べた。

欧州委員会とゲイツ氏のBreakthrough Energy(ブレークスルーエナジー)が持続可能な投資で協業するのは今回が初めてではない。しかし最新の提携の規模は、EUが2019年にBreakthrough Energyのベンチャー投資部門と設置した1億ユーロ(約134億円)のファンドを大きく上回る。

そして今、欧州委員会は低炭素社会を支えるのに必要なテクノロジーの開発と浸透を加速させることを目的とするゲイツ氏のBreakthrough Energy Catalystと提携した。クリーンテクノロジーのための大規模な商業実証プロジェクトを構築するのに、先の基金の10倍超の規模の資金を動員するためだ。

もちろん重要な目標は、パリ協定に沿ってCO2排出を大幅に削減するためにクリーンテックのコストを下げ、展開を加速させることだ。

欧州はCO2排出の主要地域だが、欧州グリーンディールの下で2050年までにネットゼロエミッションを達成することを約束している。

一方、2015年に設立したBreakthrough Energyビークルについてのゲイツ氏の哲学は、壊滅的な気候変動を回避するにはリニューアブル(再生可能)だけでは十分でなく、ハイリスクではあるが大きな効果をもららす可能性のあるさまざまなテクノロジーへの投資も必要、というものだ。

しかしこの手の投資のリターンを得るのは長期戦であることを考えると、官民の提携は資金調達パズルの重要な一部のようだ。

提携発表に関するコメントとして、 欧州委員会の委員長Ursula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)氏は声明文で次のように述べた。「欧州グリーンディールで、欧州は2050年までに初の気候中立大陸になりたいと考えています。そして欧州は気候イノベーションの大陸になるすばらしい機会も手にしています。このために欧州委員会は今後10年で、新しい、そして転換中の産業にかなりの投資を集中させます。だからこそ、Breakthrough Energyと手を組むことをうれしく思っています。提携はEUの企業やイノベーターが二酸化炭素排出を減らすテクノロジーの恩恵を受け、明日の雇用を生み出すのをサポートします」。

別の声明文でBreakthrough Energy創設者であるゲイツ氏は次のように述べた。「世界経済の脱炭素化は世界が今までに目にしてきたイノベーションにおいて最大の機会です。欧州は気候、そして科学、エンジニアリング、テクノロジーにおける長年のリーダーシップに早期から一貫したコミットメントを示してきて、今後も重要な役割を果たします。この提携を通じて欧州はクリーンテクノロジーが皆にとって信頼がおけ、利用可能で、そして利用しやすいものになるというネットゼロの未来のために確固たる土台を築きます」。

EU側では、提携のための資金はEUの主要R&D基金、Horizon Europe、そしてInvestEUプログラムのフレームワーク内の低炭素にフォーカスしたInnovation Fundから拠出される見込みだ。

Breakthrough Energy Catalystはいくつかの選ばれたプロジェクトの資金をまかなうために同額の民間資金と慈善事業基金を注ぐ。

提携はまた、InvestEUを通じてあるいはプロジェクトレベルでEU加盟国による国家の投資にもオープンだ、と欧州委員会は指摘した。InvestEU実行パートナーになるという意思表示は2021年6月まで受け付ける、とも付け加えた。

再生可能エネルギーと(これまで以上に)クリーンな運輸は、欧州委員会が2020年まとめた7500億ユーロ(約100兆3237億円)という巨額の「Next Generation EU」コロナ復興基金においても注力している分野だった。欧州委員会はコロナ復興のために債券発行を通じて金融市場で借金する、と述べた。コロナ復興基金は2021年から2024年の間にEUプログラムを通じて使われる。

欧州議員たちはまた、主要な投資が向かう他のエリアのデジタル化とAIテクノロジーが欧州のグリーン移行において大事な役割を果たすとの考えも示した。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:EUビル・ゲイツBreakthrough Energy二酸化炭素

画像クレジット:Mark Lennihan / AP

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

テクノロジーと災害対応の未来3「接続性、地球が滅びてもインターネットは不滅」

インターネットは、神経系のように世界中で情報伝達を司っている。ストリーミングやショッピング、動画視聴や「いいね!」といった活動が絶えずオンラインで行われており、インターネットがない日常は考えられない。世界全体に広がるこの情報網は思考や感情の信号を絶え間なく送出しており、私たちの思考活動に不可欠なものとなっている。

では機械が停止したらどうなるだろうか。

この疑問は、1世紀以上前にE.M. Forster(E・M・フォースター)が短編小説で追求したテーマである。奇しくも「The Machine Stops(機械は止まる)」と題されたその小説は、すべて機械に繋がれた社会においてある日突然、機械が停止したときのことを描いている。

こうした停止の恐怖はもはやSFの中だけの話ではない。通信の途絶は単に人気のTikTok動画を見逃したというだけでは済まされない問題だ。接続性が保たれなければ、病院も警察も政府も民間企業も、文明を支える人間の組織は今やすべて機能しなくなっている。

災害対応においても世界は劇的に変化している。数十年前は災害時の対応といえば、人命救助と被害緩和がほぼすべてだった。被害を抑えながら、ただ救える人を救えばよかったとも言える。しかし現在は人命救助と被害緩和以外に、インターネットアクセスの確保が非常に重要視されるようになっているが、これにはもっともな理由がある。それは市民だけでなく、現場のファーストレスポンダー(初動対応要員)も、身の安全を確保したり、ミッション目的を随時把握したり、地上観測データをリアルタイムで取得して危険な地域や救援が必要な地域を割り出すため、インターネット接続を必要とすることが増えているからだ。

パート1で指摘したように、災害ビジネスの営業は骨が折れるものかもしれない。またパート2で見たように、この分野では従来細々と行われていたデータ活用がようやく本格化してきたばかりだ。しかし、そもそも接続が確保されない限り、どちらも現実的には意味をなさない。そこで「テクノロジーと災害対策の未来」シリーズ第3弾となる今回は、帯域幅と接続性の変遷ならびに災害対応との関係を分析し、気候変動対策と並行してネットワークのレジリエンス(災害復旧力)を向上させようとする通信事業者の取り組みや、接続の確保を活動内容に組み入れようとするファーストレスポンダーの試みを検証するとともに、5Gや衛星インターネット接続サービスなどの新たな技術がこうした重要な活動に与える影響を探ることとする。

地球温暖化とワイヤレスレジリエンス

気候変動は世界中で気象パターンの極端な変化を招いている。事業を行うために安定した環境を必要とする業界では、二次的・三次的影響も出ている。しかし、こうした状況の変化に関し、通信事業者ほどダイナミックな対応が求められる業界はほぼないだろう。通信事業者は、これまでも暴風雨によって何度も有線・無線インフラを破壊されている。こうしたネットワークのレジリエンスは顧客のために必要とされるだけではない。災害発生後の初期対応において被害を緩和し、ネットワークの復旧に努める者にとっても絶対的に必要なものである。

当然ながら、電力アクセスは通信事業者にとって最も頭を悩ませる問題だ。電気がなければ電波を届けることもできない。米国三大通信事業者のVerizon(ベライゾン、TechCrunchの親会社のVerizon Mediaを傘下に擁していたが、近く売却することを発表している)、AT&T、T-Mobile(Tモバイル)も近年、ワイヤレスニーズに応えるとともに、増え続ける気象災害の被害に対処するため、レジリエンス向上の取り組みを大幅に増強している。

Tモバイルにおいて国内テクノロジーサービス事業戦略を担当するJay Naillon(ジェイ・ナイロン)シニアディレクターによれば、同社は近年、レジリエンスをネットワーク構築の中心に据え、電力会社からの給電が停止した場合に備えて基地局に発電機を設置している。「ハリケーンの多い地域や電力供給が不安定な地域に設備投資を集中させている」という。

通信3社すべてに共通することだが、Tモバイルも災害の発生に備えて機器を事前に配備している。大西洋上でハリケーンが発生すると、停電の可能性に備えて戦略的に可搬型発電機や移動式基地局を運び入れている。「その年のストーム予報を見て、さまざまな予防計画を立てている」とナイロン氏は説明する。さらに、非常事態管理者と協力して「さまざまな訓練を一緒に行い、効果的に共同対応や連携」を図ることで、災害が発生した場合に被害を受ける可能性が最も高いネットワークを特定しているという。また、気象影響を正確に予測するため、2020年からStormGeo(ストームジオ)とも提携している。

災害予測AIはAT&Tでも重要となっている。公共部門と連携したAT&TのFirstNetファーストレスポンダーネットワークを指揮するJason Porter(ジェイソン・ポーター)氏によれば、AT&Tはアルゴンヌ国立研究所と提携し、今後30年にわたって基地局が「洪水、ハリケーン、干ばつ、森林火災」に対処するための方策と基地局の配置を評価する気候変動分析ツールを開発したという。「開発したアルゴリズムの予測に基づいて社内の開発計画を見直した」とポーター氏は述べ、少なくとも一定の気象条件に耐えられるよう「架台」に設置された1.2~2.4メートル高の脆弱な基地局を分析して補強していると語った。こうした取り組みによって「ある程度被害を緩和できるようになった」という。

またAT&Tは、気候変動によって不確実性が増す中で信頼性を高めるという、より複雑な問題にも対処している。近年の「設備展開の多くが気象関連現象に起因していることが判明するのにそれほど時間はかからなかった」とポーター氏は述べ、AT&Tが「この数年、発電機の設置範囲を拡大することに注力」していると説明した。また可搬式のインフラ構築も重点的に行っているという。「データセンターは実質すべて車両に搭載し、中央司令室を構築できるようにしている」とポーター氏は述べ、AT&T全国災害復旧チームが2020年、数千回出動したと付け加えた。

さらに、FirstNetサービスに関し、被災地の帯域幅を早急に確保する観点から、AT&Tは2種類の技術開発を進めている。1つは空から無線サービスを提供するドローンだ。2020年、記録的な風速を観測したハリケーン・ローラがルイジアナ州を通過した後、AT&Tの「基地局はリサイクルされたアルミ缶のように捻じ曲がってしまったため、持続可能なソリューションを展開することになった」とポーター氏は語る。そして導入されたのがFirstNet Oneと呼ばれる飛行船タイプの基地局だ。この「飛行船は車両タイプの基地局の2倍の範囲をカバーする。1時間弱の燃料補給で空に上がり、文字通り数週間空中に待機するため、長期的かつ持続可能なサービスエリアを提供できる」という。

ファーストレスポンダーのため空からインターネット通信サービスを提供するAT&TのFirstNet One(画像クレジット:AT&T/FirstNet)

AT&Tが開発を進めるもう1つの技術は、FirstNet MegaRangeと呼ばれるハイパワーワイヤレス機器である。2021年に入って発表されたこの機器は、沖合に停泊する船など、数キロメートル離れた場所からシグナルを発信でき、非常に被害の大きい被災地のファーストレスポンダーにも安定した接続を提供できる。

インターネットが日常生活に浸透していくにつれ、ネットワークレジリエンスの基準も非常に厳しくなっている。ちょっとした途絶であっても、ファーストレスポンダーだけでなく、オンライン授業を受ける子どもや遠隔手術を行う医師にとっては混乱の元となる。設置型・可搬型発電機から移動式基地局や空中基地局の即応配備に至るまで、通信事業者はネットワークの継続性を確保するために多額の資金を投資している。

さらに、こうした取り組みにかかる費用は、温暖化の進む世界に立ち向かう通信事業者が最終的に負担している。三大通信事業者の他、災害対応分野のサービスプロバイダーにインタビューしたところ、気候変動が進む世界において、ユーティリティ事業は自己完結型を目指さざるを得ない状況になっているという共通認識が見られた。例えば、先頃のテキサス大停電に示唆されるように、送配電網自体の信頼性が確保できなくなっていることから、基地局に独自の発電機を設置しなければならなくなっている。またインターネットアクセスの停止が必ずしも防げない以上、重要なソフトはオフラインでも機能するようにしておかなければならない。日頃動いている機械が停まることもあるのだ。

最前線のトレンドはデータライン

消費者である私たちはインターネットどっぷりの生活を送っているかもしれないが、災害対応要員はインターネットに接続されたサービスへの完全移行に対し、私たちよりもずっと慎重な姿勢を取っている。確かに、トルネードで基地局が倒れてしまったら、印刷版の地図を持っていればよかったと思うだろう。現場では、紙やペン、コンパスなど、サバイバル映画に出てくる昔ながらの道具が今も数十年前と変わらず重宝されている。

それでも、ソフトウェアやインターネットによって緊急対応に顕著な改善が見られる中、現場の通信の仕組みやテクノロジーの利用度合いの見直しが進んでいる。最前線からのデータは非常に有益だ。最前線からデータを伝達できれば、活動計画能力が向上し、安全かつ効率的な対応が可能となる。

AT&Tもベライゾンも、ファーストレスポンダー特有のニーズに直接対処するサービスに多額の投資を行っている。特にAT&Tに関してはFirstNetネットワークが注目に値する。これは商務省のファーストレスポンダーネットワーク局との官民連携を通して独自に運営されるもので、災害対応要員限定のネットワークを構築する代わりに政府から特別帯域免許(Band 14)を獲得している。これは、悲惨な同時多発テロの日、ファーストレスポンダーが互いに連絡を取れていなかったことが判明し、9.11委員会(同時多発テロに関する国家調査委員会)の重要提言としてまとめられた内容を踏まえた措置だ。AT&Tのポーター氏によれば、777万平方キロメートルをカバーするネットワークが「9割方完成」しているという。

なぜファーストレスポンダーばかり注目されるのだろうか。通信事業者の投資が集中する理由は、ファーストレスポンダーがいろいろな意味でテクノロジーの最前線にいるためだ。ファーストレスポンダーはエッジコンピューティング、AIや機械学習を活用した迅速な意思決定、5Gによる帯域幅やレイテンシー(遅延)の改善(後述)、高い信頼性を必要としており、利益性のかなり高い顧客なのだ。言い換えれば、ファーストレスポンダーが現在必要としていることは将来、一般の消費者も必要とすることなのだ。

ベライゾンで公共安全戦略・危機対応部長を務めるCory Davis(コリー・デイビス)氏は「ファーストレスポンダーによる災害出動・人命救助においてテクノロジーを利用する割合が高まっている」と説明する。同氏とともに働く公共部門向け製品管理責任者のNick Nilan(ニック・二ラン)氏も「社名がベライゾンに変わった当時、実際に重要だったのは音声通話だったが、この5年間でデータ通信の重要性が大きく変化した」と述べ、状況把握や地図作成など、現場で標準化しつつあるツールを例に挙げた。ファーストレスポンダーの活動はつまるところ「ネットワークに集約される。必要な場所でインターネットが使えるか、万一の時にネットワークにアクセスできるかが重要となっている」という。

通信事業者にとって頭の痛い問題は、災害発生時というネットワーク資源が最も枯渇する瞬間にすべての人がネットワークにアクセスしようとすることだ。ファーストレスポンダーが現場チームあるいは司令センターと連絡しようとしているとき、被災者も友人に無事を知らせようとしており(中には単に避難するクルマの中でテレビ番組の最新エピソードを見ているだけの者もいるかもしれない)、ネットワークが圧迫されることになる。

こうした接続の集中を考えれば、ファーストレスポンダーに専用帯域を割り当てるFirstNetのような完全分離型ネットワークの必要性も頷ける。「リモート授業やリモートワーク、日常的な回線の混雑」に対応する中で、通信事業者をはじめとするサービスプロバイダーは顧客の需要に圧倒されてきたとポーター氏はいう。そして「幸い、当社はFirstNetを通して、20MHzの帯域をファーストレスポンダーに確保している」と述べ、そのおかげで優先度の高い通信を確保しやすくなっていると指摘する。

FirstNetは専用帯域に重点を置いているが、これはファーストレスポンダーに常時かつ即時無線接続を確保する大きな戦略の1つに過ぎない。AT&Tとベライゾンは近年、優先順位付け機能と優先接続機能をネットワーク運営の中心に据えている。優先順位付け機能は公共安全部門の利用者に優先的にネットワークアクセスを提供する機能である。一方、優先接続機能には優先度の低い利用者を積極的にネットワークから排除することでファーストレスポンダーが即時アクセスできるようにする機能が含まれる。

ベライゾンのニラン氏は「ネットワークはすべての人のためのものだが、特定の状況においてネットワークアクセスが絶対に必要な人は誰かと考えるようになると、ファーストレスポンダーを優先することになる」と語る。ベライゾンは優先順位付け機能と優先接続機能に加え、現在はネットワークセグメント化機能も導入している。これは「一般利用者のトラフィックと分離する」ことで災害時に帯域が圧迫されてもファーストレスポンダーの通信が阻害されないようにするものだという。ニラン氏は、これら3つのアプローチが2018年以降すべて実用化されている上、2021年3月にはVerizon Frontline(ベライゾン・フロントライン)という新ブランドにおいてファーストレスポンダー専用の帯域とソフトウェアを組み合わせたパッケージが発売されていると話す。

帯域幅の信頼性が高まったことを受け、10年前には思いもよらなかった方法でインターネットを利用するファーストレスポンダーが増えている。タブレット、センサー、接続デバイスやツールなど、機材もマニュアルからデジタルへと移行している。

インフラも構築され、さまざまな可能性が広がっている。今回のインタビューで挙げられた例だけでも、対応チームの動きをGPSや5Gで分散制御するもの、最新のリスク分析によって災害の進展を予測し、リアルタイムで地図を更新するもの、随時変化する避難経路を探索するもの、復旧作業の開始前からAIを活用して被害評価を行うものなど、さまざまな用途が生まれている。実際、アイディアの熟成に関して言えば、これまで大げさな宣伝文句や技術的見込みでしかなかった可能性の多くが今後何年かのうちに実現することになるだろう。

5Gについて

5Gについては何年も前から話題になっている。ときには6Gの話が出てレポーターたちにショックを与えることさえある。では、災害対応の観点から見た場合、5Gはどんな意味を持つだろうか。何年もの憶測を経て、今ようやくその答えが見えてきている。

Tモバイルのナイロン氏は、5Gの最大の利点は標準規格で一部利用されている低周波数帯を利用することで「カバレッジエリアが拡大できること」だと力説する。とはいえ「緊急対応の観点からは、実用化のレベルはまだそこまで達していない」という。

一方、AT&Tのポーター氏は「5Gの特長に関し、私たちはスピードよりもレイテンシーに注目している」と語った。消費者向けのマーケティングでは帯域幅の大きさを喧伝することが多いが、ファーストレスポンダーの間ではレイテンシーやエッジコンピューティングといった特徴が歓迎される傾向にある。例えば、基幹ワイヤレスネットワークへのバックホールがなくとも、前線のデバイス同士で動画をリレーできるようになる。また、画像データのオンボード処理は、1秒を争う環境において迅速な意思決定を可能とする。

こうした柔軟性によって、災害対応分野における5Gの実用用途が大幅に広がっている。「AT&Tの5G展開の使用例は人々の度胆を抜くだろう。すでに(国防省と協力して)パイロットプログラムの一部をローンチしている」とポーター氏は述べ、一例として「爆弾解体や検査、復旧を行うロボット犬」を挙げた。

ベライゾンは、革新的応用を戦略的目標に掲げるとともに、5Gの登場という岐路において生まれる新世代のスタートアップを指導する5G First Responders Lab(5Gファーストレスポンダーラボ)をローンチした。ベライゾンのニラン氏によれば、育成プログラムには20社以上が参加し、4つの集団に分かれてVR(仮想現実)の教育環境や消防隊員のために「壁の透視」を可能とするAR(拡張現実)の適用など、さまざまな課題に取り組んでいるという。同社のデイビス氏も「AIはどんどん進化し続けている」と話す。

5Gファーストレスポンダーラボの第1集団に参加したBlueforce(ブルーフォース)は、最新のデータに基づき、できるかぎり適切な判断を下せるようファーストレスポンダーをサポートするため、5Gを利用してセンサーとデバイスを接続している。創業者であるMichael Helfrich(マイケル・ヘルフリッチ)CEOは「この新しいネットワークがあれば、指揮者は車を離れて現場に行っても、情報の信頼性を確保できる」と話す。従来、こうした信頼できる情報は司令センターでなければ受け取ることができなかった。ブルーフォースでは、従来のユーザーインターフェース以外にも、災害対応者に情報を提示する新たな方法を模索しているとヘルフリッチ氏は強調する。「もはやスクリーンを見る必要はない。音声、振動、ヘッドアップディスプレイといった認知手法を検討している」という。

5Gは、災害対応を改善するための新たな手段を数多く提供してくれるだろう。そうはいっても、現在の4Gネットワークが消えてなくなるわけではない。デイビス氏によれば、現場のセンサーの大半は5Gのレイテンシーや帯域幅を必要とするわけではないという。同氏は、IoTデバイス向けのLTE-M規格を活用するハードやソフトは将来にわたってこの分野で重要な要素になると指摘し「LTEの利用はこのさき何年も続くだろう」と述べた。

イーロン・マスクよ、星につないでくれ

緊急対応データプラットフォームのRapidSOS(ラピッドSOS)社のMichael Martin(マイケル・マーティン)氏は、災害対応市場において「根本的な問題を解決する新たなうねりが起きていると感じる」といい、これを「イーロン・マスク効果」と呼んでいる。接続性に関しては、SpaceX(スペースX、正式名称はスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ)のブロードバンドコンステレーションプロジェクト「Starlink(スターリンク)」が稼働し始めていることからも、その効果は確かに存在することがわかる。

衛星通信はこれまでレイテンシーと帯域幅に大きな制約があり、災害対応で使用することは困難だった。また、災害の種類によっては、地上の状況から衛星通信接続が極めて困難だと判断せざるを得ないこともあった。しかし、こうした問題はスターリンクによって解決される可能性が高い。スターリンクの導入により、接続が容易になり、帯域幅とレイテンシーが改善され、全世界でサービスが利用できるようになるとされている。いずれも世界のファーストレスポンダーが切望していることだ。スターリンクのネットワークはいまだ鋭意構築中のため、災害対応市場にもたらす影響を現時点で正確に予測するのは難しい。しかし、スターリンクが期待通りに成功すれば、今世紀の災害対応の方法を根本的に変える可能性がある。今後数年の動きに注目していきたいと思う。

もっとも、スターリンクを抜きにしても、災害対応は今後10年で革命的に変化するだろう。接続性の高度化とレジリエンス強化が進み、旧式のツールに頼り切っていたファーストレスポンダーも今後はますます発展するデジタルコンピューティングを取り入れていくだろう。もはや機械が止まることはないのだ。

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画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

南アフリカの自動車サブスクリプション会社Planet42がカーボンニュートラルを目指す理由

UberやBoltのような配車サービス企業が交通業界の在り方を覆して以来、彼らの悩みの種となってきたのは交通渋滞と公害だ。調査によると、自家用車よりも配車車両による移動の方が排出量が多いことが示されている。

二酸化炭素排出量を削減して後者の問題を解決するべく、両社はライドシェアリングや、自転車やスクーターのシェアリングサービスといった他の交通モデルの構想を打ち出してきた。また、公共交通機関のスケジュールに合わせたサービス提供や、ドライバーに電気自動車への切り替えを促すインセンティブの提供などにも取り組んでいる。しかし、これらのモデルはほとんど成功していない。

2018年、Lyftはさらに一歩踏み込んで、カーボンニュートラルの実現を宣言した。Atlanticによると、Lyftはサンフランシスコに拠点を置くサステナビリティ企業3Degreesからカーボンクレジットを購入することで、その取り組みを実行する計画を立てた。

Lyftは2019年の一年間で、240万エーカーの木を植樹するのに匹敵する量の炭素を削減したと発表した。同社は206万2500トンのカーボンオフセットを購入してこれを達成したが、2020年には従来の路線に回帰している。

このプログラムによってLyftはカーボンニュートラルを実現したものの、これはコストのかかるプロセスだった。同社は、配車サービスによって排出される正味の炭素排出量は長期的に見て引き続き増加するだろうと主張した。そのためLyftは2030年までに乗車の提供を電気自動車に限定すると宣言した。これは世界中の大半の自動車会社と同じであり、各社とも将来的に電気自動車を通じてカーボンニュートラルを達成することを約束している。

一方、南アフリカに拠点を置く自動車会社Planet42は、カーボンニュートラルを将来的にではなく今現在達成することを目指している。だがPlanet42は配車サービス会社ではない。ディーラーから中古車を購入し、サブスクリプションモデルで顧客に貸し出すサブスクリプションサービスを展開している。

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Marten Orgna(マルテン・オルグナ)氏とEerik Oja(エリック・オジャ)氏によって設立されたPlanet42は、新興市場の個人をターゲットにしているが、その事業展開はアフリカに限定されている。同社はこれまでに南アフリカで3000台近くの車を調達しており、今後数年間で10万台に増やし、2025年までに全世界で100万台にする計画だ。

こうしたことからPlanet42は、配車サービスを提供しておらず、本来ならクルマを所有していない人々にクルマを提供するという点で社会的に大きなプラスの影響を与えているにもかかわらず、そのクルマから生じる排出ガスによって、限定的ではあるが環境上マイナスの影響をもたらしている。

多くの自動車会社はカーボンニュートラルになることに無気力になっているようだが、Planet42は間接的にどのように排出量に貢献するかを検証し、2020年行動に踏み切った。

「カーボンニュートラルになるという目標は価値がないと主張する人はほとんどいないと思いますが、世界はカーボンニュートラルに向けて十分な速さで進んでいないように感じました」とオジャ氏はTechCrunchに語った。「そこで私たちは、2040年までにカーボンニュートラルになるといった空虚な大構想を打ち出すのではなく、現時点でカーボンニュートラルを実現することを決断しました」。

画像クレジット:Planet42

電気自動車はアフリカではほとんど普及しておらず、植林にはコストがかかるが、同社はどのように取り組んでいるのだろうか。

Lyftの植林プロジェクトを支援する前に、3Degreesはいくつかの風力発電所の事業に関わり、また埋立地プロジェクトから温室効果ガスを回収した。Planet 42は風力発電所事業によるカーボンニュートラルの実現を選んだが、この取り組みに向けては南アフリカの現地企業と協力している。

最初のプロジェクトは南アフリカのノーザンケープ州にある風力発電所で、カーボンオフセットクレジットからの資金により、Planet 42はこの発電所に何カ月にもわたって資金の提供をすることができた。風力タービンから発電される電力は、石炭を燃やしたり、低炭素世界経済を支えるなど、他のより有害なエネルギー生産方法を相殺する。

「当社が及ぼすマイナスの影響を相殺するため、当社が事業を展開している市場でカーボンオフセットプロジェクトに投資しています。言い換えれば、当社がカーボンニュートラルに投資することは、自ら課した税に相当します。当社が率先して取り組むことで、アフリカやその他の地域の企業が追随してくれることを願っています」。

融資と株式で2000万ドル(約22億円)を調達した同社が最初にローンチしたときは、カーボンニュートラルを達成することは将来的な構想でさえもなかった。しかし今では、Natural Capital Partnersによってカーボンニュートラル企業として認定されただけでなく、投資家たちがこのプロジェクトに大きな関心を寄せている。

オジャ氏によると、同社の次の目標は、究極的には電気自動車によってカーボンニュートラルを達成することだが、その実現性は十分にあるだろう。アフリカにおける電気自動車の導入は、米国、欧州、さらにはその他の新興市場が抱える問題とは異なる別の問題に直面している。まず電力料金が高く不安定な電力供給が行われているという深刻な燃料上の問題がある。さらに、税制上の優遇措置、補助金、政策が全般的に欠如しているということ、そして平均的なアフリカの自動車所有者には高価すぎるという事実があげられる。

例えば、米国では100万台以上英国では31万7000台以上の電気自動車が走っているが、Planet42の主要な市場であり、アフリカでトップの電気自動車市場である南アフリカではその数は約1000台にとどまっている。したがって、電気自動車が主流になるまでは、風力発電は同社のカーボンニュートラルへの取り組みに欠かせないものとなる。

「理想的には、私たちが実現を目指しているのは当社の車が電気自動車になることであり、それこそが私たちが将来に向けて計画していることです。そうすることで日々のオフセットは必要なくなりますが、私たちはまだそこに至っていません。最終的には電気自動車が理想的であることを誰もが理解しています。しかし、その未来は手元にあるものではないため、今すぐ行動していく必要があります」とCEOは語っている。

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カテゴリー:EnviroTech
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(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Dragonfly)

テクノロジーと災害対応の未来2「データとAI」

データが10年以上も次世代の石油として評価されてきたきた経緯については、さまざまなメディアで取り上げられており、特定の分野ではまさにデータが重要な要素となっている。今やほとんどの民間企業で、マーケティング、物流、金融、製造、意思決定などのあらゆるレベルでデータが欠かせない(これが間違っているなら、私は履歴書を書いてすぐにでも転職した方がよい)。

データを使用することにより、多くの被災者が苦しめられるような災害に対する対応を根本から変えられる可能性があるが、この10年間に発生した緊急時対応にデータがほとんど活用されていないと聞くと、少し驚くかもしれない。災害対応機関と民間の組織は長年にわたり、災害対応用として入力するデータの範囲を広げ、処理するデータの量を増やしてきたが、結果はあまり芳しくなく、データを活用するには程遠い。

しかし、モノのインターネット(IoT)の普及により、このような現状も変わりつつある。災害の最前線で作業する危機管理マネージャーは、回復、対応、復興のサイクルにわたって必要なデータを入手し、的確な判断を下せるようになってきている。ドローンからの航空撮影、災害想定状況の可視化、AI誘発型の災害のシミュレーションなど、最前線で活用されている技術は最高レベルに達していない。これは、2020年代の災害対応における変革の幕開けに過ぎない。

膨大な量の災害データをついに入手

緊急時対応は、先の見えない不安と刻々と迫る時間との戦いである。山火事やハリケーンの現場では、数秒ですべてが変わる場合がある。注意を怠れば一瞬で事態が急変することさえある。避難者を輸送するはずの安全な道路に山火事が広がって突然通れなくなることや、避難チームが再編成を繰り返して広範囲に広がり過ぎること、また予想外の状況が急に発生することで、救助活動が立ち行かなくなってしまうといったことがよくある。情報を完全に掌握していたオペレーションセンターに、突如として地上検証データがまったく入らなくなってしまうこともある。

残念ながら、災害前や災害発生時に未処理データを取得することが極めて難しいことさえある。ビジネスの世界でこれまでに発生したデータ革命を振り返ってみると、初期の成功があったのは、企業が常にデータに大きく依存しながら、自社の活動を進めていたという事実によるところが大きい。今もそうだが重要なのはデジタル化である。つまり、放置されている未処理データをパソコンで解析可能な形式に変換するために、業務を書類からパソコンに移行することだった。ビジネスの世界でこれまでの10年間は、いわばバージョン1からバージョン2へのアップグレード期間だったといえる。

緊急対応管理について考えてみると、多くの対応機関がバージョン0からバージョンアップしていない。洪水を例にとると、洪水の発生源と水の流れをどのように把握するのか。つい最近まで、洪水の発生場所と水の流れに関する総合的なデータすら存在していなかった。山火事の場合は、世界中に点在する樹木の場所や可燃性に関するデータセットが管理されていなかった。電線や携帯電話の基地局といったインフラ設備でさえ、デジタル世界との接点がまったくないことが多かった。そのため、ユーザーがそうした設備を判別できなければ、そうした設備があっても、設備側からユーザーを認識することもできなかった。

洪水モデルは、災害防止計画と災害対応の最先端だ(画像クレジット:CHANDAN KHANNA/AFP/Getty Images)

モデルやシミュレーション、予測、分析には、未処理データが不可欠である。災害対応の分野には、これまで詳細なデータは存在しなかった。

モノのインターネット(IoT)がかなり浸透してきた今では、ありとあらゆるモノがインターネットに接続されるようになり、米国や世界中の至るところにIoTセンサーが設置されている。温度、気圧、水位、湿度、大気汚染、電力、その他のセンサーが広範に配備され、データウェアハウスに定常的に送信されるデータが分析されている。

例として米国西部の山火事を挙げよう。連邦政府と州の消防庁が火災の発生場所を把握できないというのは、そんなに昔の話ではない。消防には「100年の歴史があるが、その伝統が技術進歩に妨げられることはない」と、米国農務省林野部で10年間消防局長を務め、現在はCornea(コルネア)の最高消防責任者であるTom Harbour(トム・ハーバー)氏はいう。

彼のいうことは正しい。消火活動というのは理屈抜きの活動なのだ。消防隊員には炎が見える。炎の熱風を自分の肌で感じることさえある。広大な土地が広がり、帯状に都市が点在しているような米国西部では、データは役に立たなかった。衛星で大火災を発見することはできるが、茂みでくすぶっている小火を地理空間情報局から確認することはまず不可能だ。だが、小さい火事を発見できなくても、カリフォルニア一帯には煙が充満していることがある。では、このような貴重な情報を、地上の消防隊員はどのように処理すればよいのだろうか。

これまで10年にわたってIoTセンサーの成功が謳われてきたが、ここへきてようやく障害となっていた多くの問題が解決されつつある。回復力のあるコミュニティについて調査しているRAND Corporation(ランド・コーポレーション)の社会科学者Aaron Clark-Ginsberg(アーロン・クラークギンズバーグ)氏は「非常に安価で使いやすい」大気質センサーを使うと、大気汚染に関する詳細な情報(山火事の重要な徴候など)を入手できるため、このセンサーがいたるところに設置されていると説明する。同氏は、最近のテクノロジーの可能性を示すものとして、センサーの製造だけでなく、人気のある消費者向け大気質マップも作成しているPurple Air(パープルエアー)を挙げた。

災害時にデータを扱う際には、マップが重要なツールとなる。大半の災害防止計画チームや災害対応チームは地理空間情報システム(GIS)をベースに活動しているが、この分野で随一のマップ制作量を誇っているのが非公開企業のEsri(エスリ)だ。同社の公安ソリューション担当部長Ryan Lanclos(ライアン・ランクロス)氏は、水位センサーの数が増えたことにより、特定の災害に対する対応が劇的に変化したという。「洪水センサーは常に稼働状態にあります」と同氏はいう。「連邦政府が作成している全米洪水予報モデル」により、研究者はGIS分析を使用して、洪水が各コミュニティに及ぼす影響をかつてないほど正確に予測できるようになったと指摘する。

デジタルマップとGISシステムは災害防止計画と災害対応にますます不可欠な存在となっているが、印刷版のマップも依然として好まれている(画像クレジット:Paul Kitagaki Jr. — Pool/Getty Images)

Verizon(ベライゾン)(Verizon MediaはTechCrunchの親会社であるため、ベライゾンは当社の最終的な所有会社)の公安戦略および危機対応担当ディレクターCory Davis(コリー・デイビス)氏によると、このようなセンサーのおかげで、同社の作業員がインフラを管理するために行う作業が変わってきたという。「送電線にセンサーを設置した電力会社を想像してみてください。センサーがあれば、障害が発生した場所にすぐに駆け付け、問題を解決して、復旧させることができます」。

同氏はセンサーのバッテリー寿命が延びたことで、この分野で使用されているセンサーがこの数年で大きく進歩したという。超低電力のワイヤレスチップやバッテリー性能、エネルギー管理システムが絶えず改善されているおかげで、荒れ地に設置したセンサーをメンテナンスしなくても、非常に長い期間使用できるようになった。「バッテリー寿命が10年というデバイスもある」と同氏はいう。これは重要だ。最前線の送電網にセンサーを接続することなどできないからだ。

同じ考え方がT-Mobile(ティー・モバイル)にも当てはまる。防災計画に関して、電話会社の全米技術サービスオペレーション戦略上級ディレクターJay Naillon(ジェイ・ナイロン)氏は次のように話す。「価値が向上し続けているタイプのデータとして、高潮データがあります。このデータのおかげで、設備が正常に稼働していることを容易に確認できます」。高潮データは洪水センサーから送信されるため、全米の防災計画策定者に警報をリアルテイムに送ることができる。

災害関連のセンサーやその他のデータストリームの採用を進めるためには、電話会社の関心やビジネス面での関心を惹くことが必要不可欠だった。洪水や山火事のデータを必要とするエンドユーザーは政府ではあるが、このようなデータの可視性に関心があるのは政府だけではない。Columbia(コロンビア)大学の地球研究所国立防災センターのプロジェクト統括責任者Jonathan Sury(ジョナサン・シュリー)氏は「こうした情報を必要としているのはほとんどの場合、民間企業です」と話す。「気候変動などの新しいタイプのリスクが、企業の収益に影響を与えるようになっています」と同氏はいい、センサーデータに対するビジネス面での関心が、債権格付けや保険の引受などの分野で高まっていると指摘する。

センサーはどこにでも設置できるわけではないが、緊急対応管理者がこれまで確認できなかったような、現場のあいまいな状況を見通すのに役立ってきた。

最後に、世界中の至るところで利用されるようになったモバイル機器には、膨大なデータセットが存在する。例えばFacebook(フェイスブック)のData for Good(データ・フォー・グッド)プロジェクトでは、接続に関するデータレイヤーを利用できる。ある場所から接続していたユーザーが別の場所で接続したら、移動したと推測できる。フェイスブックや電話会社が提供するこのようなデータを使うことで、緊急対応計画を策定するスタッフは、人の移動をリアルタイムに把握することができる。

氾濫するデータとAIの可能性

データが乏しかった過去と比べると今は情報が溢れているが、世界中の都市で発生している洪水のように、データの氾濫に対応する時期が近づいている。データウェアハウスやビジネスインテリジェンスツールなどのITスタックによって、過剰なまでのビッグデータが収集されている。

災害データが簡単に処理できさえすればよいのだが、現実はそう簡単ではない。民間企業や公的機関、非営利団体などさまざまな組織が災害関連データを保持しているため、データを相互に運用する面で大きな障害がある。分散しているデータを統合して知見を得られたとしても、最前線で対応するスタッフが現場で意思決定に役立てられるようにまとめるのは困難だ。そのため、防災計画以外の用途でAIを売り込むのは今でも難しい。ベライゾンのデイビス氏は次のように話す。「過剰なまでのデータをどのように活用すればよいのかという点に関して、多くの都市や政府機関が苦慮しています」。

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残念ながら、あらゆるレベルでの標準化が課題だ。世界的にみると標準化が徐々に進んではいるものの、各国間の相互運用性はほとんど実現されていない。緊急電話対応プラットフォームCarbyne(カーバイン)の創業者兼CEOのAmir Elichai(アミール・エリチャイ)氏は「テクノロジーと標準化の両面で、国ごとに大きな隔たりがあります」と語り、ある国のプロトコルを別の国で使用するには、まったく別のものに作り直す必要があることが多いと指摘する。

ヘルスケア災害対応組織Project HOPE(プロジェクト・ホープ)の緊急対応準備担当ディレクターTom Cotter(トム・コッター)氏は、国際的な環境では、対応するスタッフ同士でコミュニケーションを確立することさえ難しいと話す。「ある国では複数のプラットフォームを使用できるのに対し、別の国では使用が許可されていないということがあり、状況は常に変化しています。基本的には、テクノロジーコミュニケーションプラットフォームを国ごとに別々に用意している状態です」。

連邦政府の緊急管理部門のある上級担当者は、テクノロジーの調達契約ではデータの互換性がますます重要になっていることを認め、政府は自前のソフトウェアを使用するのではなく、市販の製品を購入する必要性を認識していると話す。こうしたメッセージはエスリなどの企業にも届いている。ランクロス氏は「当社の中核となる使命はオープンであることです。作成したデータを一般公開して共有するか、オープンな基準に基づいてセキュリティ保護したうえで共有するというのが当社の考え方です」。

相互運用性が欠如しているというのはマイナス面がいくつもあるが、皮肉なことにイノベーションの際にはプラスに作用することがある。エリチャイ氏は「標準化されていないということは利点になります。従来の標準に合わせる必要がなくなるからです」と指摘する。標準化されていない状況では、最新のデータワークフローを前提とした、質の高いプロトコルを構築できることもある。

相互運用性が確保されたとしても、その後にはデータ選別の問題が控えている。災害関連データには危険も潜んでいる。センサーから発信されるデータストリームは検証したうえで別のデータセットと照合できるが、一般市民から発信される情報量が激増してきているため、初動対応するスタッフや一般向けに公開する前に安全性を精査する必要がある。

一般ユーザーがかつてないほどスマホにアクセスできるようになっているため、緊急対応計画を策定するスタッフが、アップロードされたデータを選別して検証し、使える状態にする必要がある(画像クレジット:TONY KARUMBA/AFP/Getty Images)

災害コミュニケーションプラットフォームPerimeter(ペリメーター)のCEO兼共同創業者Bailey Farren(ベイリー・ファレン)氏は「正確な最新情報を持っているのが一般市民である場合もあります。そうした貴重な情報を、初動対応するスタッフが作業を始める前に市民が政府担当者に伝えてくれればよいのですが」と話す。問題は、無益な情報や悪意のある情報から質の高い情報を選別する方法だ。自然災害の対応要員として有志の退役軍人チームを構成する非営利団体Team Rubico(チーム・ルビコン)のCIO Raj Kamachee(ラージ・カマチー)氏は、データの検証が必要不可欠であると述べ、同氏が2017年にチーム・ルビコンに参加して以来、組織で構築するインフラの重要な要素にデータの検証があると考えている。「当社のユーザーが増えているため、フィードバックのデータ量も増えています。結果として、セルフサービス型の非常にコラボレーション的なアプローチが形成されています」。

量と質が確保されれば、AIモデルを活用すべきだろうか。答えは、イエスでもありノーでもある。

コロンビア大学のシュリー氏は、一部で話題になっているような過剰な期待をAIにすべきではないと考えている。「注意が必要な点ですが、機械学習やビッグデータ関連のアプリケーションで何でもできるわけではありません。こうしたアプリケーションでさまざまな情報を大量に処理できますが、AIが具体的な解決策を教えてくれるわけではありません」と同氏はいう。「初動対応するスタッフはすでに大量の情報を処理しており」、それ以上のガイダンスを必ずしも必要としているわけでない。

災害分野では、防災計画や復旧にAIを利用することが増えている。シュリー氏は、防災計画プロセスでデータとAIを組み合わせた1つの例として、復旧計画プラットフォームOneConcern(ワン・コンサーン)を挙げる。また、さまざまなデータシグナルをいくつかのスカラー値にまとめて、緊急対応計画を策定するスタッフが危機管理計画を最適化できるようにする、CDC(米国疾病管理予防センター)の社会的脆弱性指標とFEMA(連邦危機管理庁)のリスクツールも挙げた。

とはいえ、筆者が話を聞いたほとんどの専門家は、AIを使用することについて懐疑的だった。災害に関する販売サイクルについて取り上げたこのシリーズのパート1で少し説明したように、データツールは、人命がかかっているときは特に信頼性が重要で、最新の情報に更新されていなければならない。チーム・ルビコンのカマチー氏は、ツールを選択する際にはそのツールの秀でているポイントではなく、各ベンダーの実用性だけに注目するという。「当社はハイテク機能も追求しますが、ローテクも用意しています」と同氏は語り、災害対応で重要なのが、変化する状況に機敏に対応できることであることを強調する。

カーバインのエリチャイ氏は、同社の販売実績にも同様のパターンがあると認識している。同氏は「市場には新しいテクノロジーに対する意識の高さと、採用を躊躇する慎重さの両方がある」ことを指摘するが「あるレベルに達すればAIが有益となることは間違いない」と認める。

同じように、ティー・モバイルのナイロン氏も経営者の観点から、ティー・モバイルの災害計画に「AIを最大限に活用できるとは思えない」と語る。ティー・モバイルはAIを頭脳として使う代わりに、単純にデータと予測モデリングを使用して装置の配置を最適化している。高度な敵対的生成ネットワークなど必要ないというわけだ。

AIは計画策定以外でも、災害後の復旧、特に損害査定に活用されている。災害の収束後にはインフラと私有財産の査定を行って、保険金を請求し、コミュニティを前進させる必要がある。チーム・ルビコンのCOO兼社長Art delaCruz(アート・デラクルーズ)氏は、テクノロジーとAIの普及によって、損害査定の作業が大幅に軽減されたと指摘する。チーム・ルビコンでは、復旧作業の過程でコミュニティの再構築を支援することが多いため、損害の重大度判定が対応戦略を効果的に進めるうえで不可欠だ。

太陽の光で将来は明るくなるが、その光でやけどする可能性もある

AIはこのように、回復計画と災害復旧の分野でいくらかの利用価値があるものの、緊急対応の分野ではあまり役に立っていない。とはいえ、災害対応サイクル全体では有効な場面も増えてくるだろう。ドローンの将来性には大いに期待が寄せられているし、現場で使用されるケースも増えている。しかし、長期的に考えると、AIとデータが解決策とならず、新たな問題を引き起こすのではないかという懸念がある。

災害対応の現場でドローンを使用することは、明らかに価値があるように思える。救援隊員が立ち入ることが困難な現場でも、ドローンを導入したチームは空からの映像や情報を入手できる。バハマでの任務遂行中に主要道路が閉鎖されたため、現場のチームがドローンを使って生存者を見つけたと、チーム・ルビコンのカマチー氏は話す。ドローンから撮影された画像がAI処理され、生存者を特定し避難させるのに役立った。同氏は、ドローンとその潜在能力について「とにかくすばらしいツールだ」と話してくれた。

ドローンから航空写真を撮影することで、災害対応チームが入手できるリアルタイム情報の質は大幅に向上する。地上からは近づけない現場ではなおさらだ(画像クレジット:Mario Tama/Getty Images)

プロジェクト・ホープのコッター氏もやはり、データ処理を高速化することで的確に対応できるようになると話す。「災害地で人命を救うのは、結局のところスピードです。対応をリモートから管理できるケースも増えたため、多数の要員を現地に送らずに済みます」と同氏はいう。これは、人員が限られている場所で活動する対応チームにとって、とても重要である。

「捜索や救助、航空写真などに、ドローンのテクノロジーを活用する緊急管理機関が増えています」とベライゾンのデイビス氏はいい「現場に機材を導入することが先決」という考え方の作業員が多いと指摘し、次のように続ける。「AIの性能は向上する一方であり、初動対応するスタッフはより効果的、効率的かつ安全に対応できるようになっています」。

センサーやドローンから送信される大量のデータを迅速に処理して検証できるようになれば、災害対応の質は向上するだろう。大自然が気まぐれに起こす大災害が増えているが、そうした現状にも対応できるかもしれない。しかし問題がある。AIのアルゴリズムが将来、新たな問題の原因となることはないのだろうか。

ランドでは典型的な代替分析を提供しているが、ランドのクラークギンズバーグ氏は、これらのソリューションで問題が発生する可能性があると話し「テクノロジーが引き金となって災害が発生し、テクノロジーの世界が災害を悪化させます」と指摘する。これらのシステムは破綻する可能性がある。間違いを犯すかもしれない。そして何より不気味なのは、システムを細工して大混乱と破壊を拡大させる可能性があるということだ。

筆者が最近紹介した災害対応VCファンド兼慈善活動組織のRisk & Return(リスク&リターン)社の取締役会長で、9/11 Commission(米国同時多発テロ事件に関する調査委員会)の前共同議長、およびネブラスカ州知事と上院議員も務めたBob Kerrey(ボブ・ケリー)氏は、多くの対応現場でサイバーセキュリティが不確定要素となるケースが増えていると指摘する。「(調査委員会が業務を遂行していた)2004年当時は、ゼロデイなどという概念はありませんでした。もちろんゼロデイを取引する市場もありませんでしたが、今はその市場があります」。9/11の同時多発テロでは「テロリストたちは米国にやってきて、飛行機をハイジャックすることが必要でした。今はハイジャックしなくても米国を破壊することが可能です」と同氏はいい「ハッカーたちは、モスクワやテヘランや中国の仲間、もしかすると自宅に引きこもっている仲間と、家で座ったまま攻撃できます」と指摘する。

災害対応の分野でデータは注目を浴びているが、このような状況が原因で、これまで存在しなかった二次的な問題が引き起こされる可能性がある。与えられしものは奪われる。今は石油が湧き出ている井戸もいつか突然枯渇する。あるいは井戸に火が付くかもしれない。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

テスラの大型蓄電システム「Megapack」が日本初上陸、茨城県・高砂熱学イノベーションセンターで稼働開始

テスラの大型蓄電システム「Megapack」が日本初上陸、茨城県で稼働開始Tesla(テスラ)は、大型蓄電システム「Megapack」(メガパック)が高砂熱学イノベーションセンター(茨城県つくばみらい市)に設置され、2021年4月より稼働を開始したと発表した。システム規模は429kW / 2964kWh。日本におけるMegapackの導入は今回が初。

同センターは、オフィス棟、ラボ棟、展示スペース、プレゼンルームで構成され、建物全体に省エネソリューションが施されており、オフィス棟ではZEB(ゼブ。Net Zero Energy Building)を、また敷地全体でNearly ZEBを目指しているという。ZEBとは、快適な室内環境を実現しつつ、建物で消費する年間の一次エネルギーが正味ゼロまたはマイナスの建築物を指す。Nearly ZEBは、建物で消費する年間の一次エネルギーを75%以上削減する建築物。

Megapackは、同センターにおける発電設備にあたる超小型木質バイオマスガス化発電、太陽光発電約200kWにより発電した電気を施設内の需要に合わせて適切に蓄電・放電することで、施設全体のエネルギーの自立化、電力の安定供給に貢献しているという。

テスラの大型蓄電システム「Megapack」が日本初上陸、茨城県で稼働開始

Megapackの特徴の1つにはオールインワンで現地における省施工を実現できる点にある。筐体には、蓄電池、パワーコンディショナー、温度管理システム、制御機構をすべて内蔵している。現地での施工はACとLANを接続するだけという。現場作業が少ないため、施工期間も短いとしている。

また、蓄電池・パワーコンディショナーなどのハードウェアだけでなく、システム設計・試運転・カスタマーサービス・ソフトウェアまですべてをテスラが提供。テスラ自社開発のソフトウェアによりプロジェクトに最適なシナリオで運転・制御でき、設置後にはデータを継続的に収集し、将来のパフォーマンスも予測する。また、稼働状況も簡単に確認できるウェブインターフェイスも提供している。

テスラの大型蓄電システム「Megapack」が日本初上陸、茨城県で稼働開始

標準仕様(2021年5月時点)

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テクノロジーと災害対応の未来1「世界で最も悲惨な緊急事態管理関連の販売サイクル」

スタートアップが 自分たちは使命感を持っていると語るのをよく耳にする。しかし、その使命が節税対策のためにキャッシュフローを最適化することだとしたら、そのような言葉を真に受けてはならない。一方、新世代のスタートアップも登場してきている。世界規模の大きな課題に挑み、これまでのスタートアップと同様の起業家精神や卓越した運営能力、優れた技術力を、現実的な使命に生かそうとしている企業だ。こういった企業が何千人もの命を救う可能性がある。

気候テックは全般的に、新世代のスタートアップの登場というトレンドから大きな恩恵を受けているが、私が注目したのは災害対応という小規模な専門分野だ。この分野はソフトウェアサービスのカテゴリーで、何年も前からあちこちのスタートアップが参入しているが、今、新たな創業者たちが、これまでにない危機感や熱意を持ってこの分野の課題に取り組んでいる。

最初に触れたように、災害対応は急激に成長している。2020年は厳しい年だった。その理由は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行だけにとどまらない。この年、記録的な数のハリケーンが発生し、米国西部では過去最悪の山火事シーズンとなった。また、世界各地でメガストームも発生した。気候変動、都市化、人口増加、不十分な対応策などの要因が重なり、人類全体がこれまでに直面してきた中でもかなり危険な状況となっている。

私は、この10年間で災害対応市場がどのような状況になっているのかを把握すべく、過去数週間にわたりスタートアップの創業者、投資家、政府関係者、公益企業の幹部など30人以上にインタビューを行い、最新の状況とこれまでの変化を理解するに至った。4回にわたるシリーズで、テクノロジーと災害対応の未来をテーマに、災害対応市場の販売サイクル、ようやく災害対応にデータが活用されるようになったいきさつ、インターネットアクセス問題への公益企業や特に通信会社による対処法、そして地域社会における今後の災害対応の再定義について考えていく。

災害対応やレジリエンス(災害復旧力)におけるテクノロジーの発展を紹介する前に、次の基本的な質問について考えることが重要だ。テクノロジーを確立すれば、それは売れるのか。創業者や投資家、政府調達関係者からは「ノー」というシンプルな答えが返ってきた。

実際、今回のシリーズ用のインタビューでは、緊急事態管理関連の販売サイクルの厳しさが繰り返し話題にのぼり「世界のどの企業にとっても、緊急事態管理関連の売上を上げるのは最も難しいことかもしれない」と語る人も1人ではなかった。地方自治体、州政府、連邦政府、各国政府の調達予算を合計すると、あっという間に数百億ドル(数兆円)規模の市場になることを考えると、この見解は意外かもしれない。しかしこの後見ていくように、この市場には独特のメカニズムがあるため、従来の販売手法はほとんど役に立たない。

これは悲観的な見方だが、販売活動が不可能というわけではなく、いくつもの新しいスタートアップがこの市場への参入障壁を打ち破っている。現在、多くのスタートアップが突破口を開くために採用している販売戦略と製品戦略を見ていく。

厳しい状況での販売

政府機関相手の販売には困難が付き物であるが、それも驚くにはあたらない。これまで多くのGovTechスタートアップの創業者たちが学んできたことは、販売サイクルの遅さ、複雑な調達手続、厄介な検査やセキュリティ要件、契約担当者の全般的に消極的な態度などが、収益を上げるための戦いにおいて障害となっているということだ。現在、多くの政府機関がスタートアップに特化したプログラムを導入しているが、これは、新たなイノベーションが日の目を見ることがいかに難しいかを知っているからだ。

緊急事態管理関連の販売活動は、他の分野のGovTechスタートアップと同様の問題を抱えている。一方で、それに加えさらに6つほどの問題があるため、販売サイクルは疲弊し、かなり厳しい状態になっている。

まず第一に最も厳しいのは、緊急事態管理関連の販売活動が、著しく季節に依存することだ。季節的な災害(ハリケーン、山火事、冬の嵐など)に対応している機関の多くは、災害に対応する「活動」期間を経た後、その活動内容を評価し、次のシーズンに向けて必要な変更を判断して、災害対応要員の活動の効果を高めるために追加または廃止する災害対応用ツールを検討する「計画」期間に移行することが多い。

ここでは、先ごろ紹介した山火事対応分野のスタートアップであるCornea(コーニー)Perimeter(ペリメーター)を取り上げる。どちらの企業も、製品を継続して販売するためには、火災シーズンを考慮する必要があると語っている。ペリメーターのCEO兼共同創業者であるBailey Farren(ベイリー・ファーレン)氏は「解決すべき問題を適切な方法で解決するため、2回の火災シーズンをかけてテクノロジーのベータテストを行いました。そして、実は2019年にカリフォルニア州で起こったキンケード火災の際に、ベータテストの対象を変更しました」と述べている。

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こういった点について、防災テックとEdTechを比較することもできる。EdTechに関しては、学校がテクノロジーを購入する時期は、アカデミックカレンダーで決まることが多い。米国の教育システムでは、6月から8月までの期間を逃すと、スタートアップはその年に学校で販売する機会を失い、次の年まで待つことになる。

3カ月という短い期間に売り込まなければならないEdTechの方が、以前は状況が困難だったかもしれないが、年々、災害対応の販売活動の方が難しくなってきている。気候変動の影響により、あらゆる種類の災害の継続期間が長くなり、深刻さが増し、被害が悪化している。そのため、これまで災害対応機関には半年以上のオフシーズンがあり、その期間に次の計画を立てていたのだが、今では1年中、緊急事態対応の活動に追われていることもある。つまり、災害対応機関が新たに購入すべきソリューションを検討する時間はほとんどないということになる。

さらに言えば、標準化されたアカデミックカレンダーとは異なり、災害が起こる時期の予測が最近では難しくなっている。例えば、洪水や山火事のシーズンは以前は年間の特定の時期に比較的集中していた。しかし今は、このような緊急事態が1年中いつでも発生する可能性がある。この結果、災害対応機関は災害にいつでも対応する必要があるため、調達手続は急に開始されることもあれば急に凍結されることもある。

季節性は販売サイクルだけでなく、災害対応機関の予算にも影響を与える。災害が発生している間は市民や政治家の関心はそこに注がれるが、その後、次の大災害が発生するまで、私たちはそのことをすっかり忘れてしまう。他のテクノロジーへの政府支出が毎年安定している一方、防災テックの予算には増減がある場合が多い。

連邦政府の緊急事態管理機関のある高官(公に話す権限がないため名前は伏せるようにとのことだった)は「好天の日々」(災害のない期間など)には一定の予算の確保とそれを迅速に使用する条件が非常に限られており、同局のような機関は、連邦議会や州議会が追加資金を承認した場合に、補完的な災害資金をつなぎ合わせて使用しなければならないと説明した。主要な機関はテクノロジー関連のロードマップを用意しており、追加の資金が入ってきた時に、すぐにその資金を使って計画を実現できるようにしているが、すべての機関がそのような準備をするためのテクノロジー計画のリソースを持っているわけではない。

911(緊急通報)センターでの電話対応をサポートするクラウドネイティブプラットフォームであるCarbyne(カーバイン)のCEO兼共同創業者のAmir Elichai(アミール・エリチャイ)氏は、災害対応への関心の波は2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で再び頂点に達し、それにより緊急対応能力に関する注目度と資金が大幅に増加したと述べた。「新型コロナウイルス感染症によって、政府の準備が不十分であるということが明らかになったのです」と同氏はいう。

驚くにはあたらないが、災害対応業界や災害対応要員が長年にわたって提唱してきた次世代の911サービス(一般的にNG911と呼ばれている)に対する大幅な資金強化が期待されている。バイデン大統領が提案したインフラ法案では、米国内の911の業務機能を強化するために150億ドル(約1兆6400億円)が追加される予定だが、この資金は過去10年間ほぼ毎年要請されてきた。2020年、120億ドル(約1兆3000億円)規模の同法案は、連邦下院議会を通過した後、上院で否決された

販売活動では、例えるならば客に鎮痛剤を提供する場合とビタミン剤を提供する場合がある。鎮痛剤には即効性が、ビタミン剤には遅効性がある。システムのアップグレードを検討している災害対応機関は、おおかた鎮痛剤を求めるだろうと予想される。恐怖感と危機的状況が災害対応機関とその活動を取り巻いているため、これらの機関は自分たちのニーズを直感的に意識するようだ。

しかし、このような恐怖感から、テクノロジーの組織的なアップグレードよりもその場しのぎの、いわば鎮痛剤のようなソリューションに注意が向いてしまい、実際は逆効果となる場合が多い。名前を伏せたあるGovTechのVCは「この世界が怖くて危険な場所だというイメージを与えないようにしています」と語った。そうすることがないよう「重要なのは、危険性よりも安全性に目を向けることです」。安全性の確保は、時々起こる緊急事態への対処より、はるかに広範で一貫したニーズだ。

最終的に資金が承認されれば、各機関は立法府からついに割り当てられた予算資金の用途として優先すべきことを見つけ出すためにすぐに行動しなければならない。スタートアップが適切なソリューションを提供していても、特定のサイクルでどの問題に資金が集まるのかを見極めるためには、すべての顧客にきめ細やかな意識を向ける必要がある。

スタートアップスタジオでありベンチャーファンドでもあるHangar(ハンガー)のマネージングパートナーであるJosh Mendelsohn(ジョシュ・メンデルゾーン)氏は「災害対応機関のお客様は常にさまざまなニーズを提示してくださいます。最も難しいのは、最も取り組む価値がある問題は何かを見極めることです」と述べた。その価値は、残念ながら、災害対応機関の任務の要件に応じて非常に急速に変化する。

すべての条件が揃っているとしよう。災害対応機関には購入する時間的余裕とニーズがあり、スタートアップは彼らが求めるソリューションを持っている。最終的に最も解決が困難だと思われる課題は、そもそも災害対応機関が新しいスタートアップを信頼していないということだ。

この数週間、緊急対応の関係者たちと話をしたが、当然のことながら信頼性の話が何度も持ち上がった。災害対応は極めて重要な仕事であり、現場でも司令センターでも決して中断することは許されない。一方、最前線の災害対応要員は、タブレットや携帯電話の代わりに今でも紙とペンを使っている。紙ならばバッテリー切れになることなく、どんな時でも使用できるからだ。シリコンバレーの「Move Fast and Break Things(すばやく動き、物事のマンネリを打破すべし)」という精神は、この市場とは根本的に相容れない。

季節性、資金の増減、注目度の低さ、調達の緊急性、信頼性の厳しい要件などのため、緊急事態管理関連の販売活動はスタートアップにとってかなり困難なものとなっている。これには、GovTechの典型的な課題は含まれていない。その課題とは、レガシーシステムとの統合、米国や世界各地に散在し、バラバラな状態となっている何千もの緊急対応機関、多くの機関の人々がそもそも変革にあまり興味を持っていないという事実などだ。ある関係者は、政府による緊急対応テクノロジーへの取り組みについて「多くの部署の人員が、テクノロジーの移行という困難な課題に取り組む前に、あわよくば定年を迎えられるかもしれないと考えています」と述べた。

不確実な状態から抜け出すための戦略

つまり、販売サイクルは厳しい状態なのだ。では、なぜVCはこの分野に資金を投入しているのか。数カ月前には、緊急対応データプラットフォームのRapidSOS(ラピッドエスオーエス)が8500万ドル(約93億円)を調達しており、これはCarbyneが2500万ドル(約27億3000万円)を調達したのとほぼ同時期だ。この他にもかなりのスタートアップが初期段階でプレシード投資やシード投資を調達した。

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この分野に携わるほぼ全員が同意している重要な論点は、創業者(およびその企業への投資家)は、民間企業に対する販売戦略を捨て、災害対応機関に特化して販売するために、アプローチを根本から再構築しなければならないということだ。つまり、収益を確保するためにまったく異なる戦略や戦術を立てなければならないということになる。

第一に最も重要なアプローチは、まず顧客となる機関を知ることではなく、この分野の人々が実際にどのような仕事をしているかを知ることだと言えるだろう。販売サイクルが示すように、災害対応は他の仕事とは異なる。混沌とした状況、急速に変化する環境、複数の分野にまたがるチームや省庁間の連携など、効果的に対応するにあたって行うべきことは、オフィスワークとはかなり違っている。ここで重要なことは共感だ。紙を使っている災害対応要員は、現場でデバイスが故障して危うく命を落とすところだったという経験があるかもしれない。911センターのオペレーターは、ソフトウェアのデータベースから適切な情報を見つけようと必死になっている間に、誰かが亡くなるのをリアルタイムで聞いたという経験があるかもしれない。

要するに、顧客の発見と開発だ。これは企業の世界とあまり変わりないが、緊急対応の業界関係者と多くの会話を交わす中で、そこからは忍耐の必要性が感じ取れた。構築すべきソリューションやソリューションを効果的に売る方法を確実に見いだすためには、とにかく長い時間、時には何シーズンもの時間が必要だ。企業向けのSaaS製品を繰り返し市場に出し、それが市場に受け入れられるまでの期間が6カ月だとすれば、政府機関ではそれと同等の段階に達するのに2~3年かかる可能性もある。

RapidSOSのMichael Martin(マイケル・マーティン)氏は「公共サービス分野における顧客発見に近道はありません」と語った。同氏は「シリコンバレーの技術コミュニティの傲慢さと、公共安全に関わる課題の実態の間には、実に難しい問題があると思います」と述べ、スタートアップが成功を収めるためには、そうした問題を解決しなければならないと指摘した。一方、公共安全分野の企業であるResponder Corp(レスポンダー)の社長兼共同創業者、Bryce Stirton(ブライス・スタートン)氏はこう語る。「すべての課題を捉えるにはエンドユーザーについて考えるのが一番です。エンドユーザーにとって新しいテクノロジーを導入する上で満たす必要のある条件は何かを考えるのです」。

ハンガーのメンデルゾーン氏は、顧客発見のプロセスで創業者はいくつかの難しい質問に答えを見いだす必要があると述べている。「結局のところ、エントリーポイントは何かということです」と同氏はいう。「Corneaでは、顧客発見のプロセスを経る必要がありました。顧客にとってすべての要素が必要に思えたとしても、最小限の行動変化ですぐに効果があらわれる最適な解答を見つけ出す必要があるのです」。

確かに、顧客発見のプロセスは顧客の側からも評価されている。連邦政府の緊急事態管理機関の高官は「どの会社もソリューションを持っていましたが、誰も私の抱えている問題について質問することはありませんでした」と語った。質の高い製品を用意し、この市場で行われている特別な仕事に合わせてその製品をカスタマイズしていくことが鍵となる。

しかし、仮にすばらしい製品があったとしても、どうやって調達手続の難しい課題を解決できるのか。その答えはさまざまで、この問題へのアプローチ方法について各スタートアップが戦略を示している。

RapidSOSのマーティン氏は「問題解決のための新しいサービスを調達するうえで、政府には手本となる良いモデルがない」と述べる。そこで、同社は政府向けのサービスを無料にすることを決めた。「かつて当社の製品を使用している政府機関はゼロでしたが、3年であらゆる政府機関が当社の製品を使用するようになりました。手本となるモデルがないという調達の問題を解決したことが功を奏しました」と同氏は語る。同社のビジネスモデルが基盤としているのは、自社のデータを911センターに統合して自社の安全を確保したいと考える有料の企業パートナーを持つことだ。

これはMD Ally(エムディアリー)が採用しているモデルと同様のものだ。同社は先週、シードラウンドでGeneral Catalyst(ジェネラルカタリスト)から350万ドル(約3億8200万円)の資金を調達した。エムディアリーは、911通報システムに遠隔医療の紹介サービスを組み込んでいる。CEO兼共同創業者のShanel Fields(シャネル・フィールズ)氏は、政府調達を避け、医師や精神医療従事者側からの収益エンジンを作成することに活路を見いだしたと強調している。

「政府のロビンフッド」とでも呼ばれるようなもの(つまり無料で提供するサービス)以外に、別のアプローチもある。より有名で信頼できるブランドと連携して、スタートアップの革新性と既存プレイヤーの信頼性を兼ね備えた製品を提供するというものだ。レスポンダーのスタートン氏は「この分野で企業を立ち上げるには、資本金だけでは不十分であることをこの市場で学びました」と述べている。同氏は、民間企業とパートナーシップを構築して、政府に共同提案を行うことが効果的だと判断した。例えば、クラウドプロバイダーのAmazon Web Services(アマゾンウェブサービス)やVerizon(ベライゾン)は政府からの評判が良く、そのおかげでスタートアップが政府調達のハードルを越えやすくなっているという(TechCrunchはベライゾングループの一員であるVerizon Mediaが運営している)。

Carbyneのエリチャイ氏は、販売の大部分はインテグレーションパートナーを介して行っていると言い、その一例としてCenterSquare(センタースクエア)を挙げた。911サービスについては「米国の市場が最も細分化されていることは明らか」だ。だからこそパートナーを持つことで、同社は何千もの機関へ販売する労力を省くことができる。「通常、政府に直接販売することはありません」と同氏は述べた。

パートナーを持てば、緊急事態管理関連の調達における地元主義の問題に対処することもできる。多くの政府機関は実際に何を購入すべきかわからないため、地元地域の身近な企業が提供しているソフトウェアを購入する。パートナーは地元地域での存在感を示すと同時に、スタートアップが全国的にすばやく事業展開する後押しをしてくれる。

また、パートナーとして、経験豊富な退職した政府関係者との関係を構築することも考えられる。彼らの存在やネットワークを通してスタートアップへの信頼を勝ち得ることができる。政府関係者、特に緊急事態管理担当者の仕事は、企業における仕事以上に密接な連携が求められるため、お互いに協力し合い、信頼関係を築く必要がある。そのような連携を通して親しくなった関係者からの積極的な推薦があれば、商談の流れは簡単に変わる可能性がある。

最後に、緊急事態管理ソフトウェアは政府を対象にしているが、民間企業にとっても、自分たちの業務を守るために同じようなツールを検討する必要が増してきている。多くの企業は、従業員や現場チーム、守るべき物理的資産を分散して抱えており、政府と同様に災害に対応しなければならない場合が多い。スタートアップによっては、初期の段階では民間企業に売り込みながら、公的機関との関係を根気強く構築し続けることも可能だ。

要するに、スタートアップが政府の災害対応機関と関係を築くためには、長期的な顧客開発プログラムや良好なパートナーシップ、共同提案に加え、民間企業も大切にするというのが最善の道だ。

幸いなことに、こうした努力は報われる可能性がある。災害対応機関にはかなりの資金があるだけでなく、これらの機関自体が今より優れたテクノロジーが必要であることを認識している。Corneaの消防責任者であり、以前は米国森林局で火災対応責任者も務めていたTom Harbour(トム・ハーバー)氏は「私たちが費やす資金は数十億ドル(数千億円)にもなります。しかし、もっと効率を上げることができると考えています」と述べた。政府は効率性を高めることに必ずしも協力的ではないが、最後までやり遂げる意思のある創業者なら、影響力があり、収益性が高く、使命感を持った企業を作り上げることができるだろう。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

テスラが20万台目の家庭用蓄電池「Powerwall」設置完了を発表、この1年間で2倍に

Tesla(テスラ)は、同社の家庭用蓄電池製品である「Powerwall(パワーウォール)」の20万台目の設置が完了したことを、米国時間5月26日のツイートで発表した。テスラのCFO(最高財務責任者)を務めるZachary Kirkhorn(ザッカリー・カークホーン)氏は、2021年4月の第1四半期決算説明会で投資家に、テスラは「Powerwallの数四半期分の受注」の処理に追われていると語り、今後数カ月の間に設置台数が急増することを示唆していた。

テスラのElon Musk(イーロン・マスク)CEOは、この決算説明会で、今後はPowerwallなしで同社の「Solar Roof(ソーラールーフ)」パネル製品のみを販売することはしないと述べた。太陽光発電パネルと家庭用蓄電池(もちろん、テスラ製)の設置が広がれば、すべての家庭が分散型発電所になると、同氏はいう。

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「Powerwallが設置されている住宅やアパート、あるいはどんな建物でも、それ自体が電力会社になります。近所の照明がすべて消えてしまうような停電時でも、電力を確保できるのです。これは人々にエネルギーの安全性を提供します。また電力会社と協力し、Powerwallを使って地域全体の電力網を安定させることもできます」とマスク氏は語った。

2月にテキサス州で発生した未曾有の冬の嵐では、記録的な電力需要と相まって、何百万人もの人々が凍えるような寒さの中で電気を失ったことにマスク氏は言及。このような状況になった場合、電力会社はPowerwallを設置している顧客と協力して、蓄えた電力を送電網に戻し、需要を満たすことができると提案した。

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「電力網がより多くの電力を必要とする場合、もちろん同意が必要ですが、住宅所有者と電力会社が連携して、Powerwallに蓄えられた電力を電力網に開放し、ピーク時の電力需要に対応することができるのです」と、マスク氏は語った。

テスラが初代Powerwallを発売してから5年後の2020年4月に、Powerwallの設置台数は10万台を超えた。これはつまり、同社が5年をかけて達成した販売数が、この1年間で2倍になったことを意味する。

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

サプライチェーンの温室効果ガス排出量計測・管理をAIで自動化するEmitwiseがシード約3.5億円を追加調達

AIプラットフォームで企業とそのサプライチェーンからの温室効果ガス排出量を測定できるとするスタートアップのEmitwiseは、シードラウンドに320万ドル(約3億5000万円)を追加し、これで同社が調達したシード資金の総額は660万ドル(約7億2000万円)となった。320万ドルの追加調達はArcTern Venturesが主導した。また、Schroders(シュローダー)のCEOであるPeter Harrison(ピーター・ハリソン)氏、テトラパックのファミリー後継者Magnus Rausing(マグナス・ラウシング)氏、そしてUber(ウーバー)の共同創業者Ryan Graves(ライアン・グレイブス)氏の投資会社であるSaltwaterなどのエンジェル投資家も参加した。その他の投資家には、True Ventures、Social Impact Capital、Lightbird Venturesなどが含まれている。

同社はこのプラットフォームにより、サプライチェーン全体のカーボンアカウンティング(炭素会計)の自動化、排出ホットスポットの特定、ERPシステムとの統合、CDP、GHG、TCFDなどの監査・開示システムへの準拠を実現するとしている。

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Emitwiseの共同創業者兼CEOであるMauro Cozzi(マウロ・コッツィ)氏は、次のように述べている。「きたるCOP26気候サミットで各国首脳が気候変動への取り組みを強化する中、企業や投資家の間では、『炭素イコール コストとリスク』という確信がかつてないほど高まっています。ネットゼロに合致したモデルは、利益・効率性・耐性を代弁するものであり、当社は企業が変革により大きな経済的利益を実現できるよう支援することを約束します」。

ArcTern VenturesのMarc Faucher(マーク・フォーシェ)氏は次のように述べた。「企業は顧客、投資家、そして規制当局から正確な環境データを開示するように迫られています。Emitwiseは、効果的な緩和策やインセンティブを導入する上で重要となる、サプライチェーンのカーボンを明確に把握できるようにします。ArcTern Venturesでは、Emitwiseのソフトウェアプラットフォームは、世界共通のカーボンフットプリント報告の新しい基準となるゲームチェンジャーだと信じています」。

EmitwiseはWatershedsやPlan Aなどを含むこの分野の他のスタートアップとある程度競合しており、これらの企業も最近資金調達を行った。

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タグ:温室効果ガス人工知能Emitwise資金調達カーボンアカウンティング二酸化炭素

画像クレジット:Emitwise team

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(文:Mike Butcher、翻訳:Dragonfly)

パナソニックが世界で初めて純水素型燃料電池を活用したRE100化ソリューションの実証実験を開始

パナソニックは5月24日、純水素型燃料電池と太陽電池を組み合わせた自家発電によるRE100化ソリューションの実証に取り組むと発表した。工場の稼働電力のための自家発電燃料として水素を本格的に採り入れた実証実験としては、世界初の試みとなる。

RE100(Renewable Energy 100%)とは、事業活動の自然エネルギー100%化を推進する国際イニシアティブ。これに加盟するパナソニックは、滋賀県草津市で家庭用燃料電池エネファームを生産する同社工場に、500kWの純水素型燃料電池、約570kWの太陽電池を組み合わせた自家発電設備と、余剰電力を蓄える約1.1MWh(メガワット時)のリチウムイオン蓄電池を備えた大規模な実証施設を設置し、同工場の製造部門の全使用電力をこれでまかなうことにしている。また、これら3つの電池を連携させた最適な電力需給に関する技術開発と検証も行う。

一般に、RE100の実現方法には自家発電と外部調達の2つがあるが、外部調達の主力となるグリーン電力の購入も環境価格証明書の活用も価格が不安定などの短所がある。また自家発電の主力である太陽光発電も、事業に必要な電力を生み出すためには広大な敷地を必要とすることや、天候に左右されるという短所がある。そこでパナソニックは、3つの電池を組み合わせることで、工場の屋上などの限られたスペースでも、高効率で安定的に電力を供給できる方式を考案した。蓄電池を含めることで、需要に応じた適切なパワーマネージメントが可能になり、工場の非稼働日にも発電量を無駄にしないで済む。

この実証でパナソニックは、純水素型燃料電池の運用を含めたエネルギーマネージメントに関するノウハウの蓄積と実績構築、そして事業活動に必要な再生可能電力を自家発電でまかなう「RE100ソリューション」の事業化を目指す。

今回使用する水素は、再生可能エネルギー由来のグリーン水素ではないものの、ゆくゆくは環境価値証書の活用を含む再生可能エネルギーにて生成された水素を使用し、RE100に対応してゆく予定だ。

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地球の電力需要を満たす大きな可能性を持つ地熱テクノロジーでリーダーを目指す「Fervo」

地表の下に蓄えられた地熱を再利用可能エネルギーの生成に使う方法は、環境問題専門家や石油、ガス技術者らの注目を引きつけている未来に向けた新たなビジョンだ。

それは、この技術が温室効果ガスを発生る炭化水素に依存しない発電方法であるからだけでなく、石油とガス産業が長年にわたって磨き続けてきたのと同じ技能と専門技術を使うからだ。

少なくともそれが、石油工学のコンプリーション・エンジニアだったTim Latimer(ティム・ラティマー)氏がこの業界に興味をもち、 Fervo Energy(ファーボ・エナジー)を立ち上げた理由だ。テキサス州ヒューストン拠点の地熱技術開発会社は、あのBill Gates(ビル・ゲイツ)のBreakthrough Energy Ventures(非常に忙しいファンドである)とeBay(イーベイ)の幹部であるJeff Skoll(ジェフ・スコール)氏のCapricorn Investment Groupから資金提供を受けている。

新たに2800万ドル(約30億6000万円)のキャッシュを手にしたFervoが計画、遂行しているプロジェクトの数々は「今後数年のうちに数百メガワットの電力を生み出す」とラティマー氏はいう。

ラティマー氏が発電の環境への影響を初めて肌で感じたのは、テキサス州ウェイコ郊外の小さな町で、米国で作られた最後の石炭による発電所であるSandy Creek石炭発電所の近くで少年時代を過ごしたときだった。

多くのテキサス・キッズと同じく、ラティマー氏は石油一家の出身で、彼が石油・ガス産業で最初の職を得たとき、世界が再生可能エネルギーへと切り替わり、石油産業が友達や家族ともども、取り残される運命になる可能性があることを知らなかった。

それが、Fervoを立ち上げた理由の1つだった、と起業家は語った。

「私にとって、石油・ガス産業で仕事を始めて以来一番大切にしてきたことは、エネルギー転換が起きる中で、化石燃料側にいる人達が将来クリーンエネルギーの仕事に就けるようにすることです」とラティマー氏は言った。「私は石油価格の暴落によって失業したり苦労を強いられている人たちを雇い、私たちの発電所で働いてもらうためのスタートを切ることができました」。

Fervo EnergyのCEOであるティム・ラティマー氏。同社の作業現場で保護帽を被っている同氏(画像クレジット:Fervo Energy)

バイデン政権がエネルギー転換政策の一環として、炭化水素業界の労働者のために職を探すことについて話している今、彼らはまさしくそのとおりのことをやっている。

そして地熱発電は以前ほど地理的制約を受けないため、世界には豊富な資源があり、すでに地質学的作業に依存している地域では高賃金職の可能性もある、とラティマー氏はいう(2020年10月にVoxはこの技術がもたらす歴史と可能性に関する優れた概観を出版した)。

「世界人口の大きなパーセンテージが、実は良質な地熱資源の近くに住んでいます」とラティマー氏はいう。「現在25か国に地熱発電所が設置・運用されており、他に地熱発電が生まれつつあるところが25か国あります」。

実際地熱発電は、米国西部およびアフリカの一部で長い歴史をもっている。自然に間欠泉が湧き、水蒸気噴流が地球から出ていることは、良い地熱資源の明白な指標だ。

「Fervoのテクノロジーは、大規模な展開が期待される新たなタイプの地熱資源の扉を開きます。Fervoの地熱システムは水平掘削、分散型光ファイバーセンシング、先進コンピューターモデリングなどの斬新な技術を使って、反復可能で費用効率の高い地熱電力の提供を可能にします」とラティマー氏がメールに書いた。「Fervoのテクノロジーは、有機ランキンサイクル発電システムの最新技術を組み合わせることで、柔軟な24時間運転カーボンフリー電力を供給します」。

当初、スタンフォード大学TomKat Centerの助成金とローレンス・バークレー国立研究所サイクロトロン・ロード・プロジェクトでActivate.orgから受けた奨学金によって設立されたFervoは、エネルギー省の地熱技術部門とARPA-E(エネルギー省高等研究計画局)から資金を調達するまでになり、Schlumberger(シュルンベルジェ)、ライス大学、バークレー研究所などと提携して業務を遂行している。

この新旧技術の融合は、同社が新たなプロジェクトを開発する可能性を地理的に膨大な地域へと拡大するものだ。

地熱を使って再生可能発電開発ビジネスを推進しようとしている会社は他にもある。エネルギーメジャーのBP Ventures、Chevron Technology Ventures、Temasek、BDC Capital、EversourceおよびVickers Venture Partnersらの支援を受けているEavornなどのスタートアップや、GreenFire EnergySage Geosystemsなどが参入している。

地熱プロジェクトの需要は止まるところを知らず、地熱開発のコスト問題を解決できるスタートアップには巨大な市場が開かれている。Latimer氏によると、2016~2019年には主要な地熱の契約はわずか1件だったが、2020年には業界内で新たに締結された大型電力購入契約が10件あった。

いずれのプロジェクトにとっても、コストは未だに課題だ。地熱発電契約における価格はメガワット当たり65~75ドル(約7100〜8200円)の範囲だとラティマー氏はいう。比較して、ソーラー発電はメガワット当たり35~55ドル(約3800〜6000円)だ。2020年のThe Vergeの報告による。

しかしラティマー氏は、地熱発電の安定性と予測可能性は、無停電電力供給の確保が必要な公共機関や企業にとってコスト差異を許容できるものだという。テキサス州ヒューストン住民として2021年の厳冬で5日間電気のない生活を強いられたラティマー氏にとって、これは身近な体験のある問題だ。

事実、常時利用可能なクリーン電力を供給する地熱の能力は、驚くほど魅力的な選択肢になりうる。エネルギー省の最近の研究によると、地熱は米国電力需要の最大16%を満たす可能性があり、別の推計によると地熱は完全脱炭素電力グリッドの20%近くに寄与する。

「私たちは長年の地熱エネルギー信奉者ですが、業界でイノベーションを起こす理想のテクノロジーとチームが見つかるのを待っていました」とCapricorn Investment GroupのIon Yadigarouglu(イオン・ヤディガロウグル)氏が声明で語った。「Fervoaはその技術力と彼らが先端研究組織と築いたパートナーシップによって、地熱の新たな波における明確なリーダーになるでしょう」。

Fervo Energyの掘削現場(画像クレジット:Fervo Energy)

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Fervo Energy再生可能エネルギー電力地熱

画像クレジット:Universal Images Group / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nob Takahashi / facebook

エネルギー事業で余った天然ガスを利用し暗号資産のマイニングに電力供給するCrusoe Energy

Crusoe Energy(クルーソーエナジー)の2人の創業者が、今日の地球が直面している2つの大きな問題、すなわちハイテク産業のエネルギー使用量の増加と、天然ガス産業に関連した温室効果ガスの排出に対する解決策を見つけたかもしれない。

エネルギー事業で余った天然ガスを利用してデータセンターや暗号資産のマイニング事業に電力を供給するクルーソーは、事業の拡大に向けて、つい最近ベンチャーキャピタル業界のトップ企業から1億2800万ドル(約139億6396万円)の新規資金を調達したところであり、これはこれ以上なく良いタイミングだ。

温室効果ガスの排出量を削減し、地球温暖化をパリ協定で定められた1.5℃以内に抑えることを目指す研究者や政策立案者にとって、メタンガスの排出は新たな注目分野となっている。クルーソーエナジーはまさにこのメタンガス排出を使用してデータセンターやビットコインマイニングへの電力供給を行おうとしている。

メタンの排出量を削減することが短期的に非常に重要である理由は、メタンの温室効果ガスは二酸化炭素の温室効果ガスに比べてより多くの熱を閉じ込め、またより早く消散するからだ。そのため、メタンの排出量を劇的に削減できれば、人間の産業が環境に与えている地球温暖化の負荷を短期間で緩和することができる。

メタンを排出する最大の原因は、石油・ガス産業だ。クルーソーエナジーの共同設立者であるChase Lochmiller(チェース・ロックミラー)によると、米国だけでも毎日約3964万立方メートルの天然ガスが焼却されているという。焼却量のうち約3分の2はテキサス州で、さらに約1415万立方メートルはクルーソーがこれまで事業を展開してきたノースダコタ州で焼却されている。

米国の大手金融機関でクオンツトレーダーとして活躍していたロックミラーと、石油・ガス業界の3代目社長であるCully Cavness(カリー・カブネス)にとって、回収した天然ガスをコンピューターに利用することは、金融工学と環境保全という2人の関心が自然に結びついたものだった。

ノースダコタ州ニュータウン。2014年8月13日、ノースダコタ州ニュータウン近くのフォート・バートホールド・リザベーションにて、3つの油井と天然ガスのフレアリングの様子。1カ月に約1億ドル(約108億9600万円)相当の天然ガスが焼却されるのは、それを回収して安全に輸送するパイプラインシステムがまだ整備されていないからだという。フォート・バートホールドにある近親三部族は、マンダン族、ヒダーツァ族、アリカラ族から成る。ここは、フラッキングと、そこに住む多くのネイティブアメリカンに石油使用による収益をもたらしていた石油ブームの震源地でもある(画像クレジット:Linda Davidson / The Washington Post via Getty Images)

デンバー出身の2人は、予備校で出会い、その後も友人として付き合っていた。ロックミラーがマサチューセッツ工科大学に、キャブネスがミドルベリー大学に進学したときには、まさか一緒にビジネスを立ち上げることになるとは思ってもいなかった。しかし、ロックミラーは大規模なコンピュータや金融サービス業界に触れ、キャブネスは家業を継いだことで、天然ガスの大量廃棄に対処するためのより良い方法があるはずだという結論に達した。

クルーソーエナジーにまつわる会話は、2018年にロッキー山脈にロッキー・クライミングに行った際に、ロックミラーがエベレストに行った話をしたことから始まった。

2人がビジネスを構築し始めたとき、最初に注目したのは、ビットコインのマイニングで発生するエネルギー・フットプリントに対処するための環境に優しい方法を見つけることだった。この試みが、Olaf Carlson-Wee(オラフ・カールソン-ウィー、ロックミラーの元雇用主)が立ち上げた投資会社Polychain(ポリチェーン)や、Bain Capital Ventures(ベインキャピタル・ベンチャーズ)、新たな投資家であるValor Equity Partners(ヴェイラー・エクイティ・パートナーズ)などの目に留まった。

(この試みについては、私が同社のシードラウンドを取材する際にロックミラーが言及していた。当時、私はこの会社の前提に懐疑的で、この事業は炭化水素の使用を長引かせ、政府の崩壊に対する投機的なヘッジ目的以外には実用性が限られている暗号資産を支えているだけではないかと心配していた。しかし、少なくとも私の懐疑のうちの1つは間違っていたと言える)

ヴェイラー・エクイティの広報担当者はメールで以下のように述べている。「持続可能性についての質問ですが、クルーソーには、排出量を実質削減するプロジェクトのみを追求するという明確な基準があります。通常、クルーソーが担当する油井はすでにフレアリングしており、クルーソーのソリューションがなければフレアリングが続くでしょう。同社は、従来のパイプラインから低コストのガスを購入することになる数多くのプロジェクトを断ってきました。その需要と排出量の実質増加を望んでいないためです。さらに、マイニングは再生可能エネルギーへの移行が進んでおり、座礁資産であるエネルギーに対するクルーソーのアプローチは、座礁資産であり限界のある再生可能エネルギーの経済的価値を向上させ、最終的には再生可能エネルギーをより多く取り入れることができます。マイニングは、電力の需要が増加したときに削減できる中断可能なベースロード需要を提供することができるため、全体として、より多くの再生可能エネルギー源をグリッドに追加する動機付けとなる効果があります」。

その後、Lowercarbon Capital、DRW Ventures、Founders Fund、Coinbase Ventures、KCK Group、Upper90、Winklevoss Capital、Zigg Capital、Tesla(テスラ)の共同創業者であるJB Straubel(J.B.ストラウベル)といった投資家が加わっている。

同社は現在、ノースダコタ州、モンタナ州、ワイオミング州、コロラド州で、廃棄された天然ガスを動力源とする40のモジュール型データセンターを運営している。来年は、クルーソーがテキサス州やニューメキシコ州などの新しい市場に参入するため、その数は100ユニットに拡大する見込みだ。2018年の立ち上げ以来、クルーソーは、ビットコインマイニング、レンダリング、人工知能のモデルトレーニング、さらには新型コロナウイルス感染症の治療法研究のためのタンパク質のフォールディングシミュレーションなどのエネルギー集約型コンピューティングによってフレアを削減する、スケーラブルなソリューションとして登場した。

クルーソーは、メタンガスの燃焼効率が99.9%であることを誇っており、さらにデータセンターやマイニング現場でのネットワーク構築という新たなメリットももたらしている。将来的にはクルーソーの事業所周辺の農村地域の接続性向上にもつながる可能性がある。

現在、同社の業務の80%はビットコインマイニングに関するものだが、データセンター業務での使用の需要も高まっており、ロックミラーの母校であるMITをはじめとするいくつかの大学が、自校のコンピュータのニーズのために同社の製品を検討している。

ロックミラーはこう述べている。「今はまだ潜伏期の段階です。プライベート・アルファ版には、何人かのテストを行う顧客がいますが、2021年後半には一般のお客様にもご利用いただけるようになるでしょう」。

クルーソー・エナジー・システムズのデータセンターの運用コストは世界で最も低いはずだと、ロックミラーは述べている。同社は、データを顧客に届けるために必要なインフラ構築をサポートするために費用をかけるつもりだが、エネルギー消費量に比べれば、それらの費用は無視できるレベルだという。

これはビットコインマイニングにおいても同様で、中国で石炭を使ったマイニングを行う代わりに、(送電網の整備に使用されるのではない)再生可能エネルギーを使った新たな設備の建設という選択肢を提供できる。暗号資産業界は、その生成と流通にともなうエネルギー使用に対する批判をかわす方法を探しており、クルーソーはすばらしいソリューションとなる。

また、制度や規制面での追い風も同社を後押ししている。最近では、ニューメキシコ州が来年4月までにフレアリングとガス放散を事業者の生産量の2%以下に制限する新しい法律を可決した一方で、ノースダコタ州は現場でのフレアガス回収システムを支援するインセンティブを推進し、ワイオミング州はビットコインマイニングに適用されるフレアガス削減のインセンティブを設ける法律に署名した。世界最大の金融サービス企業もフレアガス対策に取り組んでおり、BlackRock(ブラックロック)は2025年までに日常的なフレアガスの発生をなくすよう呼びかけている。

ロックミラーは「電力消費量については、プロジェクトの評価段階で、石油・ガスプロジェクトの排出量を削減するための明確な線引きをしています」と語った。

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タグ:Crusoe Energy温室効果ガス暗号資産データセンター資金調達電力

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

多数の著名投資家が支援するカーボンオフセットマーケットPachamaが約16億円調達

世界の森林の復元と保全は、大気中の温室効果ガスを減らす最も簡単でコストも安く、シンプルな方法の1つだと長い間考えられてきた。

脱炭素、あるいは事業から排出される炭素の相殺に向けた長い道のりにおいて、簡単な最初のステップを模索している企業にとっては圧倒的に人気の手法だ。しかしこのところ、Bloombergの爆弾のような報道のおかげで、数多くの森林オフセットの効率、妥当性、そして信頼性には疑問の目が向けられてきた。

森林カーボンクレジットのためのマーケットプレイスを構築しているPachama(パチャマ)の財務を投資家が補強することになったというのは、この不確実な背景に反するものだ。このマーケットプレイスについて同社は、衛星画像と機械学習テクノロジーのおかげで透明性があり、検証可能だと話す。

そうした主張は新規ラウンドで1500万ドル(約16億円)をもたらした。共同調達した資金はプロダクト開発とマーケットプレイスの拡大に使われる、と創業者でCEOのDiego Saez Gil(ディエゴ・サエズ・ギル)氏は話した。

わずか1年前に創業されたPachamaは著名な顧客や投資家を獲得してきた。(Amazonがどれくらいマイナスの影響を地球に及ぼしたか考えると)他ならぬJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏が、役職を間もなく離れるCEOとして株主に宛てた手紙でPachamaに言及した。南米最大のeコマース企業Mercado Libreは持続可能性に向けた広範な取り組みの一環として80万ドル(約8700万円)のオフセットプロジェクトの管理でPachamaを選んだ。

関連記事:炭素市場を通じて世界の森林再生を支援するPachama

AmazonのClimate Pledge Fundは最新ラウンドに出資している。この最新ラウンドはBill Gates(ビル・ゲイツ)氏の投資部門Breakthrough Energy Venturesがリードした。他の投資家にはLowercarbon Capital(Uberへの投資で成功したエンジェル投資家のChris Sacca[クリス・サッカ]氏の気候専門のファンド)、元Uber幹部Ryan Graves(ライアン・グレーブズ)氏のSaltwater、MCJ Collectiveが、そして新規投資家としてTim O’Reilly(ティム・オライリー)氏のOATV、Ram Fhiram(ラム・フィラム)氏、Joe Gebbia(ジョー・ゲビア)氏、Marcos Galperin(マルコス・ガルペリン)氏、NBAスターのManu Ginobili(マヌ・ジノビリ)氏、James Beshara(ジェームズ・ベシャラ)氏、Fabrice Grinda(ファブリス・グリンダ)氏、Sahil Lavignia(サヒール・ラヴィニア)氏、Tomi Pierucci(トミ・ピエルッチ)氏がいる。

これは同社の投資家のフルリストではない。Pachamaの成功の理由はGoogle、Facebook、SpaceX、Tesla、OpenAI、Microsoft、Impossible Foods、Orbital Insightsなどの企業からトップの人材を引きつける能力と併せて、十分に理解された森林オフセットマーケットに気候ミッションを適用していることだ、とサエズ・ギル氏は話した。

「自然の回復は気候変動の最も重要なソリューションの1つです。森林、海洋、その他のエコシステムは膨大な量の二酸化炭素を大気から隔離するだけでなく、多様な生物に重要な生息地を提供し、世界中のコミュニティの暮らしの源です。当社は誠実さ、透明性、そして効率性をもって資金をこうしたエコシステム回復と保全に振り分けられるようにするのに必要なテクノロジーを構築しています」とサエズ・ギル氏は説明した。「我々のミッションを信じ、長期的に成長を喜んで支えようという気持ちを示している、信じられないような投資家のグループからサポートを得ることができ、名誉に思うと同時に興奮しています」。

南米以外の顧客もまたPachamaのオフセットマーケットプレイスへのアクセスを求めている。Microsoft、Shopify、SoftBankも有料の顧客だ。

これはY Combinator、Social Capital、Tobi Lutke、Serena Williams、Aglaé Ventures (LVMHのテック投資部門)、Paul Graham(ポール・グレアム)氏、AirAngels、Global Founders、ThirdKind Ventures、Sweet Capital、Xplorer Capital、Scott Belsky(スコット・ベルスキー)氏、Tim Schumacher(ティム・シューマッハ)氏、Gustaf Alstromer(グスタフ・アルストロマー)氏、Facundo Garreton(ファクンド・ガレトン)氏、Terrence Rohan(テレンス・ローハン)氏が、Pachamaの2020年の創業以来の調達資金2400万ドル(約26億円)の支援を約束できたもう1つの理由だ。

「Pachamaは大気から二酸化炭素を取り除く自然の潜在能力をフルに引き出すべく取り組んでいます」とBreakthrough Energy VenturesのCarmichael Roberts(カーマイケル・ロバーツ)氏は声明で述べた。「Pachamaのテクノロジーベースのアプローチは、インパクトのあるカーボンニュートラルイニシアチブを認証、モニター、測定するための森林分析に機械学習モデルを使うことで巨大な相乗効果を生み出します。Pachamaのチームが短期間に成し遂げた成果に感銘を受け、彼らのユニークなソリューションをグローバル展開するために協業することを楽しみにしています」。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Pachamaカーボンオフセット資金調達二酸化炭素

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

ソーラールーフタイルで家を仮想電力会社にするSunRoofが約5.9億円調達

SunRoof(サンルーフ)は、巧妙なアイデアを思いついた欧州のスタートアップだ。同社は、太陽光で発電する独自のルーフタイル技術を持つ。さらに、ルーフタイルを使う家をつなげて一種の仮想発電所を構築し、住宅の所有者が余剰エネルギーをグリッドに売却することを可能にする。

同社は、Inovo Venture Partnersがリードし、SMOK Venturesが参加した450万ユーロ(約5億9400万円)のラウンド(シード延長)をクローズしたばかりだ(200万ユーロ、約2億6400万円はコンバーチブルノートで調達した)。他の投資家には、LT Capital、EIT InnoEnergy、FD Growth Capital、KnowledgeHubが含まれる。

スウェーデンを拠点とするSunRoofのアプローチは、同じくソーラールーフタイルを展開するTesla Energy(テスラエナジー)を彷彿とさせる。テスラはクローズド(閉じた)エネルギーエコシステムを運営しているが、SunRoofは複数のエネルギーパートナーと協力する計画だ。

SunRoofは2020年、この「仮想電力会社」の実現に向け、再生可能エネルギーシステムRedlogger(レッドロガー)を買収した。SunRoofのCEOはシリアルアントレプレナーのLech Kaniuk(レック・カニューク)氏で、以前はDelivery Hero、PizzaPortal、iTaxiに在籍していた。

SunRoofのプラットフォームは、従来の太陽光発電モジュールなしで発電する2-in-1ソーラールーフとファサードで構成され、1.7平方メートルの大きなガラス板2枚に挟まれた単結晶太陽電池を使用する。表面積が大きく、接続部分が小さいため、安価で迅速に屋根をふくことができる。

同社は住宅所有者に、Redloggerのインフラで太陽光を管理するエネルギーアプリを提供する。

テスラのAutobidder(オートビッダー)は、屋根から得られるエネルギーを管理する取引プラットフォームだが、閉じたエコシステムだ。対照的に、SunRoofは複数のパートナーと連携する。

カニューク氏は次のように述べる。「SunRoofを創業したのは、機能やデザインを損なわずに、再生可能エネルギーへの移行を容易にするだけでなく費用対効果の高いものにするためです。私たちはすでに前年比で500%以上成長しており、今回得た資金によって成長を加速させます」。

Inovo Venture PartnersのパートナーであるMichal Rokosz(マイカル・ロコズ)氏は次のようにコメントした。「太陽エネルギーの市場は活況を呈しており、2026年までに3340億ドル(約36兆円)に達すると推定されています。統合されたソーラールーフの技術は変曲点を超えました。新しい家をソーラーソリューションとともに建てることは、消費者にとって経済的にも難しいことではありません。従来の屋根とソーラーパネルのハイブリッドに比べ、エレガントで効率的な代替品として、サンルーフは明らかに際立っています。ソーラールーフのブランドの1つになるチャンスがあり、クリーンテクノロジーをより幅広い顧客層へアピールします」。

SunRoofのチームには、共同創業者のMarek Zmysłowski(マレク・ズミスロースキー氏、以前はJumia TravelおよびHotelOnline.coに在籍)、元Google幹部のRafal Plutecki(ラファル・プルテクスキー)氏、元Tesla ChannelセールスマネージャーのRobert Bruchner(ロバート・ブルックナー)氏もいる。

スウェーデン、ドイツ、ポーランド、スイス、イタリア、スペイン、米国で事業を拡大する計画がある。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:SunRoof太陽光発電資金調達

画像クレジット:SunRoof

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

フランス家電修理会社SOS Accessoireが約13億円調達、消費者の節約だけでなく環境への貢献を目指す

家電製品の診断・修理を支援するフランスのスタートアップSOS Accessoireは、ETF Partnersが主導する資金調達ラウンドで1000万ユーロ(約13億円)を調達した。このラウンドにはQuadia、Starquest、Seed for Goodが参加した。

現在、このようなスタートアップ企業が提供する家電修理市場が成長しており、人々はお金を節約できるだけでなく、廃棄物を減らし、最終的には環境にも貢献できるようになる。

家電製品の約80%が修理されずに買い替えられており、環境問題が深刻化している。一方でSOS Accessoireによると、スペアパーツ市場はEUだけでも41億ユーロ(約5400億円)の価値があるという。そのような消費者の欲求を利用しない手はあるのだろうか。

しかしスペアパーツを調達するのは容易ではなく、何百ものサプライヤーが存在し、マニュアルはアマチュア修理業者ではなくプロを対象としている。

SOS Accessoireは家電製品の故障を診断したり、スペアパーツを入手したり、修理手順のビデオチュートリアルを提供したりしている。

SOS Accessoireによると、2020年には50万台の家電製品が廃棄されなかったと推定されており、これは2万トンの二酸化炭素排出量に相当する。また、これは4375人のフランス人が1年間に排出する二酸化炭素に相当する量が削減されたと推測される。

SOS Accessoireの創設者であるOlivier de Montlivault(オリビエ・ド・モンリヴォー)氏は「私達には家電製品の廃棄量を削減し、壊れたら交換しなければならないという常識を覆す大きなチャンスがあります」と述べている。

SOS Accessoireの直接の競合相手はSparekaやAdepemなど、小売店の顧客に焦点を当てた他のデジタルプレイヤーだ。しかし同社によると、規模の大きさやスペアパーツの入手のしやすさ、カタログやデータベースの充実度などが競争上の優位性だとしている。

ETF PartnersのパートナーであるRemy de Tonnac(レミー・ド・トナック)氏は「消費者が家電製品を捨てるのではなく、メンテナンスしたいと考えるようになってきている。SOS Accessoireはそのようなニーズに応えるための理想的な場所にあります。市場を深く理解している経営陣と、eコマース部門の中でこのニッチな分野を支配するだけでなく、より広く市場自体を破壊するビジネスモデルを持っています」と述べた。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:SOS Accessoire資金調達フランス家電修理

画像クレジット:SOS Accessoire

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(文:Mike Butcher、翻訳:塚本直樹 / Twitter

テスラはすべての家庭を分散型発電所にしようとしている

Tesla(テスラ)のCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏は、同社の製品だけを使ってすべての家庭を分散型発電所にし、エネルギーの生成、保存そして電力の電気会社への売り戻しさえできるようにしたい、と考えている。

同社はもう何年も前から太陽光発電や蓄電製品を販売しているが、太陽光発電と蓄電製品を組み合わせて販売するという新たな方針と米国時間4月26日のマスク氏の発言を電力会社にアピールすることで、Teslaによるこれらの事業の拡大戦略を明らかにしている。

マスク氏は投資家向けて「これはテスラにとっても、電力会社にとっても繁栄する未来だ。それができなければ、電力会社は顧客への奉仕に失敗するだろう」と述べた。その際、彼は2020年夏にカリフォルニア州で計画された停電や、最近、テキサス州で起きた停電を例に挙げ、電力網の信頼性に対する懸念が高まっていることを証拠として示している。

先週、同社はウェブサイトを変更し、顧客が太陽光発電と電力貯蔵製品である「Powerwall」のみを購入するのではなく、代わりにシステムとしての購入を勧めた。その変更を発表するツイートでマスク氏は「太陽光発電はPowerwallにのみ供給される。Powerwallは電力会社のメーターと家のメインブレーカーパネルの間にのみ接続され、設置が非常にシンプルなものとなり、停電時に家全体をシームレスにバックアップすることができる」と述べている。

マスク氏の主張は、電力会社自身が再生可能エネルギーとストレージを使って脱炭素しようと思ったら、今よりももっと多くの送電線と発電所と変電所が必要になるというものだ。それに対してテスラの製品を使う分散居住地区システムならもっと良い方法を提供できる、と彼は考えている。マスク氏の主張は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の最近の研究にも裏づけられている。MITの研究では、米国は送電容量を2倍以上増やすことでゼロ・カーボン・グリッドに到達できるとしており、プリンストン大学の研究では、ネット・ゼロ・エミッションを達成するには2050年までに送電システムを3倍にする必要があるという。

マスク氏は、現在のCalifornia Independent System OperatorやElectric Reliability Council of Texasといった独立した事業者により集中的に管理・運営されているものとは根本的に異なる電力網システムを思い描いている。これは官僚主義とロジスティクスな課題が多いビジョンだ。電力会社と規制当局は、住宅の屋根に設置されたソーラーパネルなど、いわゆる「分散型エネルギー資源」が大量に流入した場合に、どのように対処するかを解決する必要があるが、これは電力会社の長年のビジネスモデルとは相反するものだ。

さらに重要なのは、再生可能エネルギーとストレージの組み合わせでエネルギーグリッドの脱炭素化が可能かどうか、議論の余地があることだ。

多くの専門家は、自然エネルギーの土地利用の問題、貯蔵の必要性、断続性の問題などから、自然エネルギーが国の主要な電力供給源となることは夢物語だと考えている。しかし、マスク氏は以前から自然エネルギーと蓄電のモデルに強気で、2020年7月には「物理学的には電気輸送、定置用蓄電池、エネルギー生成には太陽光や風力が有利だ」とツイートしている。

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タグ:Tesla再生可能エネルギーイーロン・マスク電力

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hiroshi Iwatani)

肉を食べる回数を減らして地球を守るHabits of Wasteの「#8mealsアプリ

アースデイは過ぎても、NPOのHabits of Wasteがリリースしている#8mealsアプリ(iPhone版Android版)を使い、週に8回の食事で肉を食べるのを止めると誰もが森林伐採や温室効果ガス排出量の削減に参加できる。

Habits of Wasteの設立者であるSheila Morovati(シーラ・モロバティ)氏が開発会社のDigital Pomegranateとともに作ったこのアプリで、目標達成に向かって肉を食べない食事の計画を立て、おすすめレシピを知ることができる。

モロバティ氏は廃棄物と消費を減らす活動を続けており、#8mealsアプリはその最新の取り組みだ。同氏の環境保護活動は、南カリフォルニア地域でレストランに回収箱を設置し、使用済みクレヨンを集めて学校へ再配分するプログラムから始まった。

クレヨンコレクション」というこのプログラムでは、2000万本以上のクレヨンがゴミにならずに再配分されたが、モロバティ氏が設立したNPOのHabits of Wasteが推進する廃棄物削減はこれでは終わらなかった。

Habits of Wasteは#cutoutcutlery(カトラリー削減)キャンペーンも開始した。Uber Eats、Postmates、Grubhub、DoorDashを説得し、標準で添付していたプラスチックのカトラリーを顧客からの要望があったときだけ添付するように変えたキャンペーンだ。Habits of Wasteのウェブサイトによれば、これは毎年400億本近く廃棄されているプラスチック製カトラリーを削減する手段だという。

モロバティ氏は「我々はカトラリーと8回の食事を変えるまったく新しい戦い方を作ることにしました。社会の考え方を変えることが私のゴールです」と語る。

一方、消費者が利用できる代替肉製品は増え続けている。朝食用シリアルのPost CerealからビールのAnheuser Buschまで、さまざまな企業が動物性タンパク質の代替製品に参入しようとしている。Impossible FoodsやBeyond Meatなどが代替肉を消費者に直接販売するために巨額の資金を調達していることはいうまでもない。

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肉を食べないことは、それが週に数回であっても、地球の健康(そして人間の健康)にとって大きな違いを生む。畜産は世界全体で温室効果ガスの18%以上を排出しており、森林伐採の一因でもあるからだ。

モロバティ氏は2021年1月にYouTubeで公開された、スーパーフード指導者を自称するDarin Olien(ダリン・オリエン)氏とのインタビューで次のように語っていた。「私はいつも、自分の頭の中で作った架空の人物であるJoe Barbecue(ジョー・バーベキュー)氏について考えています。我々はどうすればジョー・バーベキュー氏に参加してもらえるでしょうか。この人に完全なビーガンになるように勧めることができるかといえば、私はできないと思います。今はまだ。しかし週に8食だけビーガンになるように提案すれば、バーベキュー氏であっても試し、理解して、試そうと思わない人たちに勧めてくれるかもしれません」。

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タグ:Habits of Waste温室効果ガス代替肉

画像クレジット:ANGELA WEISS/AFP / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Kaori Koyama)

部品サプライヤーBoschが環境規制が強まる中、合成燃料と水素燃料電池に活路を見いだす

Bosch(ボッシュ)の経営幹部は米国時間4月22日、2025年までに内燃機関を禁止するというEUが提案した規制について、議員たちはそうした禁止が雇用にもたらす影響についての議論を「避けている」と批判した。

同社は新規事業、特に燃料電池事業で雇用を創出していると報告し、こうした雇用の90%超を内部でまかなっていると述べたが、電動輸送革命のすべてあるいは大半は雇用に影響するとも指摘した。格好の例として、ディーゼルのパワートレインシステムを作るのに従業員10人を要し、そしてガソリンのシステムでは3人を要するが、電動パワートレインの場合1人だけだと記者団に語った。

その代わり、Boschは電動化とともに再生可能な合成燃料と水素燃料電池に活路を見出している。水素から作られる再生可能な合成燃料は水素燃料電池とは異なるテクノロジーだ。燃料電池は電気を生み出すのに水素を使い、一方で水素由来の電池は改造された内燃機関(ICE)の中で燃焼する。

「もし再生可能な水素と二酸化炭素由来の合成燃料が道路交通で使用禁止のままであれば、機会は失われます」とBoschのCEOであるVolkmar Denner(フォルクマル・デナー)氏は述べた。

「気候変動に関する活動は内燃機関の終わりではありません。化石燃料の終わりなのです。電動モビリティと地球に優しい充電パワーが道路交通をカーボンニュートラルにし、再生可能燃料も同様です」。

電動ソリューションには、特に大型車を動かすという点で限界もある、とデナー氏は述べた。Boschは2021年4月初め、テストトラック70台の燃料電池パワートレインを作るために中国の自動車メーカーQingling Motors(慶鈴汽車)と合弁会社を設立した。

水素燃料電池と合成燃料に関するBoschの自信はバッテリー電動モビリティから除外されていない。自動車・産業部品の世界最大のサプライヤーの1社である同社は、社の電動モビリティ事業が約40%成長していると述べ、電動パワートレインの部品の年間売上高は2025年までに5倍の50億ユーロ(約6488億円)に増えると予想している。

しかしながらBoschは今後3年間で燃料電池パワートレインにも6億ユーロ(約778億円)投資するという「オプションを保留にしておく」と述べた。

「究極的には欧州は水素経済なしに気候中立を達成することはできないでしょう」とデナー氏は話した。

Boschは2021年も続いている世界的な半導体不足の影響を免れていない。取締役のStefan Asenkerschbaumer(シュテファン・アーセンケルシュバウマー)氏は、半導体不足が2021年「予測されていた回復を抑制する」リスクがあると警告した。台湾の半導体メーカーの幹部は2021年4月初めに、状況は2022年まで続くかもしれない、と投資家らに伝えた

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タグ:Bosch気候変動電気自動車水素燃料電池

画像クレジット:Krisztian Bocsi/Bloomberg / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

世界最大級の消費財・食品メーカーたちが持続可能サプライチェーンアクセラレーターに参加

世界最大級の消費財・食品メーカーたちが、ビールのBudweiser(バドワイザー)の親会社であるAnheuser-Busch InBev(AB InBev、アンハイザー・ブッシュ・インベブ)が運営する投資プログラムへの参加を決定した。この投資プログラムは、サプライチェーンの持続可能性を追求するアーリーステージの企業を支援するためのものだ。

アースデイ(4月22日)にタイミングを合わせて行われた今回の発表は、企業や消費者が、リサイクルプログラムがプラスチック廃棄物に関連する問題に適切に対処できておらず、そして現在の気候緊急事態に影響を与えている消費者の行動や工業製品の生産と流通に関わる幅広い問題に直面している中で行われた。

この「100+ Accelerator」という名のAB InBevのプログラムは、ウォーター・スチュワードシップ、循環型経済、持続可能な農業、気候変動対策における、サプライチェーンの課題を解決することを目的として、2018年に開始された。これらの課題は、AB InBevの新しいパートナーであるColgate-Palmolive(コルゲート・パルモリーブ)、Coca-Cola(コカ・コーラ)、Unilever(ユニリーバ)たちも熟知している。

声明によれば、アクセラレーターと投資プログラムの開始以来、AB Inbevは16カ国で36社を支援してきた。支援されるスタートアップ企業たちは、その後2億ドル(約216億3000万円)以上を調達している。

このアクセラレータープログラムは、パイロットプログラムへのファンド組成を行ったり、アーリーステージの企業たちが世界のトップコンシューマーブランドの経営陣と相談できる機会を提供したりしている。

プログラム開始以来、AB InBevはスタートアップたちと協力して、リターナブルパッケージプログラムの試験運用、コロンビアの醸造所での水とエネルギーの使用量を削減するための新しい洗浄技術の導入、アフリカと南米の小規模農場への保険の提供、ブラジルでの廃棄物の回収強化、中国での電気自動車用バッテリーのリサイクル、醸造過程で発生する穀物の廃棄物をアップサイクルして、栄養価の高い新たな食材の創出などを行ってきた。

外部の投資家や規制当局からの圧力が強まる中、企業は自社の各プロセスをより持続可能なものにするための方法に注目し始めている。

長い間懸案だった、このような大手企業同士の共同イニシアチブは、ビジネスから環境に対する影響の削減に大きく貢献できる可能性はあるが、その結果は、これらの企業が小さなパイロットプログラムを超えて、ソリューションを実際に展開していく、コミットメントの深さとスピードにかかっている。

直近のアクセラレータープログラム申込期限は2021年5月31日だ。

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タグ:Anheuser-Busch InBevサプライチェーン持続可能性循環型経済

画像クレジット:NOEL CELIS/AFP via Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:sako)

豊田中央研究所が36cm角実用サイズ人工光合成セルで世界最高の太陽光変換効率7.2%を実現

豊田中央研究所が36cm角実用サイズ人工光合成セルで世界最高の太陽光変換効率7.2%を実現、植物を大きく上回る

36cm角の人工光合成セル

トヨタグループの豊田中央研究所(豊田中研)は4月21日、太陽光のエネルギーを利用しCO2(二酸化炭素)と水のみから有用な物質を合成する人工光合成について、実用太陽電池サイズ(36cm角)セルで実現し、同クラスでは世界最高の太陽光変換効率7.2%を達成したと発表した。将来的には、工場などが排出するCO2を回収し、この人工光合成で再び資源化するシステムの実現を目指す。

豊田中研の人工光合成は、半導体と分子触媒を用いた方式でCO2の還元反応と水の酸化反応を行う電極を組み合わせ、常温常圧で有機物(ギ酸)を合成するクリーンな技術。

2011年、豊田中研による世界初の原理実証時には太陽光変換効率は0.04%だったという。しかし2015年には、1cm角サイズで、植物を大きく上回る変換効率4.6%(当時の世界最高)を実現した。

また人工光合成セルの社会実装には、変換効率を低下させず実用サイズに拡張することが必要が必要となるものの、技術的には困難とされてきたという。

そこで人工光合成の基本原理はそのままに、太陽光で生成した多量の電子を余すことなくギ酸合成に使用する、新しいセル構造と電極を考案した。その特徴は、太陽電池で生成した電子量とのバランスが良いサイズに電極面積を拡張するとともに、ギ酸合成に必要な電子、水素イオン、CO2を電極全面に素早く途切れることなく供給し、ギ酸合成を促進するものとしている。

36cm角実用サイズ人工光合成セル

人工光合成の基本原理

その結果、36cm角の実用サイズで、同クラスでは世界最高の変換効率を実現した。新セル構造は、より大きなサイズにも適用できるとしている。

36cm角実用サイズ人工光合成セル

カテゴリー:EnviroTech
タグ:人工光合成(用語)炭素 / 二酸化炭素(用語)太陽光 / 太陽光発電 / 太陽電池(用語)豊田中央研究所(組織)日本(国・地域)