ユニコーン以上の価値があるWorkplaceにスピンアウトして欲しいVCと、それを手放したくないフェイスブック

Workplace(ワークプレイス)とは、もともとFacebook(フェイスブック)が従業員同士のコミュニケーションの場として作ったアプリである。友人や家族と楽しむためのものとして定着したFacebookと実質的に同じこのツールは、現在700万人以上のユーザーに利用されており、企業の社内コミュニケーションを支援するアプリとして地位を確立している。そして今、この人気を背景にWorkplaceには別の意味での注目が集まっているようだ。

Meta(メタ)に社名を変更する前、Facebookが企業投資家から「Workplaceをスピンオフして、スタートアップとしてバックアップさせて欲しい」という提案を受けていたという事実が浮上した。関係者によれば、この取引によってWorkplaceが独立していたら、少なくとも10億ドル(約1138億ドル)の「ユニコーン」として評価されていたとのことである。

情報源によるとこの話は進まなかったようだが、それは主にFacebook(現在はMeta)がWorkplaceを「戦略的資産」と見なしたからだという。MetaがFacebookやInstagram(インスタグラム)などのプラットフォーム上の広告から得ている数十億ドル(数千億円)に近い売上を、Workplaceが上げているわけではない。しかし、Metaの多様な側面を市場に強調するためには、Workplaceが重要なのだという。規制当局にとって、Facebook / Metaはあまりにも強力すぎるソーシャルネットワークなのであるのに対し、企業組織にとってFacebookは広告を販売する以外にもまだ多くのポテンシャルを秘めている存在なのである。

情報源によると「WorkplaceはFacebook(およびMeta)を大人っぽくみせてくれる」のだという。

MetaとWorkplaceの広報担当者はこの記事へのコメントを控え、何も伝えることはないと述べている。

どの投資家が関係していたかは明らかにされていないが、ある関係者によるとその企業投資家とは、資本注入を目的とした後期の成長ラウンド投資に重点を置く、エンタープライズに特化した投資家だという。

スピンアウトしたWorkplaceに出資しようという彼らのアプローチは、2021年レイトステージの投資家やプライベートエクイティの投資家らが成熟した大規模なテック企業を買収するために活動を活発化させていた時期(今もそうだが)と重なっている。Thoma Bravo(トーマス・ブラボー)は2021年、350億ドル(約3兆9840億円)を調達してこの分野でより多くの買収機会を得ようとしていたと報じられている(そしてそのためにさまざまな投資や買収を行ってきた)。2021年のプライベートエクイティによる買収総額は約800億ドル(約9兆円)に達し、2020年に比べて140%以上増加しているとBloomberg(ブルームバーグ)は推定している。

このペースは2022年も衰えそうにない。その中には、あまり主要ではなく収益性の悪い、どちらかといえば低迷中の資産を合理化してより多くの資本を回収しようと、大手テクノロジー企業に対して事業のスピンアウトを持ちかけるPE企業もある。ちょうど今日、Francisco Partners(フランシスコ・パートナーズ)はIBM(アイビーエム)のWatson Health(ワトソン・ヘルス)事業を約10億ドル(約1138億ドル)で買収することを発表した

SaaS展開の足がかりを構築

Metaの場合、Workplaceをスピンアウトさせるためには、2つの面での展開が必要となる。

企業面では同社の解体を求める声が上がっている。2022年1月初め、米連邦取引委員会(FTC)がWhatsApp(ワッツアップ)とInstagramの売却を求める訴訟の継続を裁判所が認めた他、報道によるとVR部門が反トラスト法違反ではないかという別の調査も行われているという。一部の投資家や株主にとってこの状況はチャンスだが、Metaにとってはあらゆる資産の保持を正当化するための検討が必要になってくるだろう。

Workplaceはこの数カ月間、重要な岐路に立たされていた。

多くの人材が離職したのである。その中には、1月BREX(ブレックス)のチーフプロダクトオフィサーに就任したKarandeep Anand(カランディープ・アナンド)氏や、ロンドンのベンチャー企業Felix Capital(フェリックス・キャピタル)のパートナーに就任したJulien Codorniou(ジュリアン・コドルニウ)氏というトップ2人の幹部も含まれている。その他多くの人たちも、新たな旅路をスタートさせるため同社のビルを去っていった。

これはMetaのPRの失敗が原因なのではなく、むしろごく自然な現象なのだと私は聞いている。これまでここにいたのはWorkplaceを一から作り上げるために集められた人々だ。同社の製品が成熟し、より明確な焦点を持った今こそ、新たな人員が入社して次のステージに取り組むのに適切な時期であるのだという(私の個人的な意見だが、Workplaceの新リーダーであるUjjwal Singh[ウジワル・シン]氏は、今のWorkplaceを率いるのにふさわしい人物だと感じている)。

しかしそれとはに、Metaが常に世論からバッシングを受けていることで従業員が疲弊しているのではないかという報道もある。Workplaceもこれは人ごとではない。以前Workplaceは最大手のレストランチェーンと大きな契約を結んだと私たちは理解しているのだが、その顧客は昨秋、穏やかでないニュースの数々と「評判の問題」を理由にその発表を控えるよう求めてきたという。

「他のSaaS企業ではありえないことだ」とある人物はいう。

これはWorkplaceを親会社から切り離すための良い理由となったはずだし、スピンアウトへの一歩ともなりえただろうが、Metaはそうは感じていないようだ。

Workplaceは製品として展開された当初から、実は大きな変化を遂げている。

もともとFacebookの「仕事版」として設立されたWorkplace。Facebookの従業員がすでにFacebookを使ってプライベートなグループでコミュニケーションをとっていたのを発展させたもので、Slack(スラック)やその他の職場向けチャットアプリの台頭に対抗する形で登場した。何十億もの人々がすでにFacebookを利用しているのだから、 当然Workplaceに優位性があるだろうというのが同社の当時の考えである。異なる種類のユーザーをターゲットにした新サービスを導入し、広告収益ではなく有料化という異なるビジネスモデルを採用することで、同社にとって新たなビジネスの可能性の扉を開いたのだ。

時とともにWorkplaceの焦点が変わろうとも、この戦略が変わることはほとんどない。もともとWorkplaceは、SlackやTeamsに対抗するためにナレッジワーカーを対象とした他の職場生産性向上ツールとの統合を数多く導入していたのだが、時が経つにつれ、Workplaceは主にモバイルで雇用主とコミュニケーションをとるデスクレスワーカーに支持されるようになったのである。つまり、ナレッジワーカーとデスクレスワーカーの両方に対応するコミュニケーションアプリになることがWorkplaceのスイートスポットとなったのだ。

「Teams、Slack 、Workplaceのどれかを選んでもらうのではなく、両方持っていてもいいのではないかと気づいたのです。他の会社はナレッジワーカーのためのリアルタイムのメッセージングコミュニケーションを扱って、Workplaceはそうではないサービスをすべての人のために提供すれば良いのです」と関係者は振り返る。

そして、これが現在の Workplace の戦略の指針となっている。最近では、Microsoft Teams(マイクロソフトチームス)の機能をプラットフォームに統合して補完を行っている他、先に、同社はWhatsAppとの新たな統合を発表した。これはすでに最前線のチームに人気があるのだが、今後はWorkplaceでのコミュニケーションのため、より正式なインターフェースとなるようだ。また、MetaのVR事業とPortal(ポータル)との統合やサービス提供も予定されているという。

同社が最新のユーザー数を公表するのは2022年の後半になる予定だが、ある関係者によるとWorkplaceのユーザー数は現在1000万人近くに達しており、Walmart(ウォルマート)やAstra Zeneca(アストラゼネカ)など世界最大級の企業もその顧客リストに含まれているという。

Workplaceはこれまでに独立型製品として販売されていたこともあるが「今後独立型のアプリケーションとして販売されることはないと思います」と関係者は話している。

その代わりに、例えばビジネスメッセージングとWorkplaceを組み合わせて販売したり、Facebookのログイン機能と組み合わせて販売したりと、Metaにはさまざまな可能性が広がっている(CRMのスタートアップであるKustomer買収の背景には、このような企業への幅広い売り込みがあると思われるが、この買収はまだ完了していない)。

Workplaceを手放す準備などもっての他で、Metaはより大きなSaaSビジネスを構成する足がかりとしてWorkplaceを位置づけているようだ。果たしてMetaは独立会社のように、そのチャンスを逃さずに動けるだろうか。それができなければVCが舞台のそでで出番を待っているのである。

画像クレジット:Workplace

原文へ

(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

米消費者の2021年ソーシャルメディア詐欺被害額は約888億円、2017年の18倍に増加

米連邦取引委員会(FTC)の新しい報告書によると、ソーシャルメディアで詐欺に遭う米国の消費者が増えており、2021年に消費者は7億7000万ドル(約888億円)をソーシャルメディア詐欺で失い、同年の詐欺被害総額の約4分の1を占めていることが明らかになった。また、この数字は2017年に報告されたソーシャルメディア詐欺被害額4200万ドル(約48億円)から18倍に増えており、暗号資産やオンラインショッピングが関係する新しいタイプの詐欺が流行したためだと、FTCは指摘している。これにより、多くの若い消費者が詐欺に遭うようになり、現在、18〜39歳の成人は、40歳以上の成人に比べて2.4倍多く詐欺に遭っている。

スキャマー(詐欺師)たちは、ソーシャルメディアが詐欺を行うのに最も収益性の高い場所の1つであることを明確に認識している。9万5000人超の詐欺被害者が、最初にソーシャルメディアでコンタクトがあったと答えており、この数は2020年の2倍超、2017年の19倍にのぼる。

画像クレジット:FTC

2021年に詐欺でお金を失ったとFTCに報告した人の4人に1人以上が、詐欺のきっかけとなった投稿、メッセージ、広告を最初に見たのはソーシャルメディア上だったと回答した。連絡方法が明記されていない報告を除くと、2021年の詐欺による損失の26%をソーシャルメディアでの詐欺が占め(7億7000万ドル、約888億円)、次いでウェブサイトやアプリが19%(5億5400万ドル、約639億円)、そして電話が18%(5億4600万ドル、約629億円)だった。しかし、個人の損失額の中央値は、ソーシャルメディア詐欺の468ドル(約5万4000円)に対し、電話詐欺が1110ドル(約12万8000円)と最も多い。

ソーシャルメディア詐欺が最も多く発生しているのは、Facebook(フェイスブック)とInstagram(インスタグラム)であることがデータから読み取れる。

オンラインロマンス詐欺の場合、ユーザーの3分の1以上が、スキャマーからの最初の働きかけがFacebookまたはInstagram上でのものだったと報告している。具体的には、Facebookが23%、Instagramが13%だ。これらの詐欺は、一見無邪気な友達申請から始まり、甘い言葉、そして金銭の要求へと続くと報告書にはある。

一方、2021年の投資詐欺の半数以上(54%)は、ソーシャルメディアプラットフォームから始まっていて、スキャマーは偽の投資機会を宣伝したり、人々と直接つながって投資を促したりしている。ここではInstagramがスキャマーに人気で、投資詐欺の36%を占め、次いでFacebookが28%、そしてメッセージングアプリのWhatsApp(ワッツアップ)とTelegram(テレグラム)がそれぞれ9%と7%だった。

そしていまでは投資詐欺の大部分に暗号資産が関わっていることも明らかになった。2021年、FTCに報告されたソーシャルメディア投資詐欺の64%で暗号資産が支払い方法となっている。決済のアプリやサービスが使われたのは13%、次いで銀行振り込みや銀行決済が9%だった。

画像クレジット:FTC

ロマンス詐欺と投資詐欺が引き続き金額ベースで最大の被害で、過去最高を記録してもいるが、FTCへの報告数が最も多い詐欺は、消費者がソーシャルメディアで初めて見たものを購入しようとするものだ。ほとんどの場合、被害者はFacebookやInstagramで販売されているものを見て、購入しようとしていた。

2021年にソーシャルメディア詐欺で失ったお金についてFTCに届けのあった報告の45%は、オンラインショッピングに関連するものだった。そのうちの70%近くは、ソーシャルメディア上の広告を見て注文したものの、その後商品が届かなかったというものだった。また、広告から「そっくり」ウェブサイトに誘導され、本物のオンライン小売業者から購入したかのように騙されるというケースもあった。このような詐欺のうち、10件中9件はFacebookとInstagramがプラットフォームとして使われている、とレポートにはある。

オンラインショッピング詐欺の増加は、消費者がお金を失うというだけでなく、eコマースのエコシステム全体とソーシャルメディア企業のビジネスにとっても決定的な意味を持つ。近年、FacebookとInstagramは、オンラインショッピングをサービスの中核とするために多額の投資を行っており、広告主とターゲットとなる顧客を結びつけることを約束している。Meta(メタ)が所有するアプリには独自の「ショップ」セクションがあり、消費者は商品を閲覧して、外部のウェブサイトに移動することなく直接精算することができる。しかし、これらのプラットフォームで紹介されているオンライン小売業者の正当性に消費者が警戒心を抱くようになれば、将来的にソーシャルメディアからの買い物を躊躇するようになるかもしれない。

Metaにとって、消費者の購買行動の変化は、過去数年よりも現在の方が大きな問題となっている。というのも、同社の大規模な広告ビジネスは、消費者が追跡を拒否できるようにしたApple(アップル)のiOSのプライバシー変更によって影響を受けているからだ。広告のパーソナライズ機能の低下による市場の変化を予測して、Metaは自社のプラットフォーム内で消費者のショッピングに基づくより多くのファーストパーティデータを取得できるアプリ内ショップを作成し、収益の多様化を進めている。また、サブスクリプションやチップなど、クリエイターエコノミーからの新しい収入も開拓している。

FTCは、2021年のソーシャルメディア詐欺のうち、投資、ロマンス、eコマースで70%を占めているが、それ以外にもソーシャルプラットフォームに関連した詐欺の種類があると述べている。ただし、報告書ではこれらをカテゴリー別に分けてはいない。

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

米FTCが星4つ以下のレビューを隠していたオンラインショップに約4.8億円の罰金

ネットのレビューは当てにならないということは周知の事実だが、一般的には平均星4.5の製品は平均星3.5の製品よりも優れていると考えたいものだ。しかし、それも間違っているかもしれない。あなたが見ているサイトは、悪いレビューの掲載すら許可していないかもしれないのだから。FTC(連邦取引委員会)から420万ドル(約4億7800万円)の和解命令を受けたばかりのFashion Nova(ファッション・ノバ)のように。

何が起こったのか説明しよう。まず、Fashion Novaは、サードパーティ製のレビュー管理ツールを使っていた。ユーザーが購入した商品をレビューできるサイトを運営する者にとっては、きっと当たり前のことなのだろう。しかし、その後、彼らはひどいことをした。2015年から2019年まで、4つ星と5つ星のレビューをサイトに自動的に表示させ、それ以下のものは承認が必要になるようにしていたのだ。そして、何十万件も承認せず、サイト上の商品の品質が高く見えるよう、人為的に操作していたのだ。

「Fashion Novaは、サイト上のレビューが、サイトにレビューを投稿したすべての購入者の意見を正確に反映していると偽っていました。和解案は、同社の欺瞞的行為に対処するための規定を設け、消費者が被った被害に対して420万ドル(約4億7800万円)の支払いを命じるものです」と、FTCは状況を説明するブログ記事で記している

この件に関するさまざまな文書は、こちらで見ることができる。

FTCは、このような詐欺がサードパーティ製のレビュープラットフォームを装って行われていることを察知したようで、その後、レビュープラットフォームを運営する他の10社(元の会社同様、無名)に対して警告状を送っている。そして10月には、偽のレビューや偽の推薦文に関して、「見ていなさい」と告げるかのようなより広範な警告を行った。

Fashion Novaが無実の犠牲者だと心配する人のためにいっておくと、同社が連邦当局と関わるのはこれが初めてではない。2020年には、怪しげなキャンセル・返品ポリシーに関して900万ドル(約10億2500万円)の支払いに同意している(残念なことに、この罰金が全額支払われるかどうかは誰にもわからない)。

関連記事:ロボットを使った詐欺広告業者の業務は止められるが、その罰が非道さに見合わない現実

これとは別に、おそらくこの発表と時期を同じくして、FTCは、オンラインレビューにお金を払ったり勧誘したりしようとするマーケティング担当者のためのガイドラインを更新した。例えば、透明性を保ち、一度募集したレビューには肯定的なものも否定的なものも表示されるようにするなど、正しいやり方がある。そして、他の方法も……。また、レビューを公開するプラットフォームに対し、レビューの出所やインセンティブ、可視性を自分たちに有利になるように操作することについて、よく考えるべきだという新たなガイダンスを発表している。

偽のレビューはオンライン経済の疫病だが、今のところ誰もこの問題を解決していないか、小売業者にとって、多くの作業を必要としたり、さまざまな有利な取り決めが崩れたりするために、治療法が実はその病気よりも悪いかのどちらかだ。FTCのこのちょっとした対応が、小売業者を正しい方向へ導いてくれるかもしれない。

画像クレジット:Kiyoshi Hijiki / Getty Images

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Akihito Mizukoshi)

FTCがMetaのVR事業を独占禁止法違反で調査中との報道

Metaに対するFTC(米連邦取引委員会)の反トラスト訴訟が、今週初めに重要なハードルをクリアしたことに続き、この同委員会はさらに、MetaのVR事業に対しても強い関心を寄せているようだ。

Bloombergの記事によると、FTCと複数の州の司法長官は、Metaのバーチャルリアリティ部門を「反競争的行為の可能性」で調査しているという。ニューヨークが州レベルの調査を主導しているとされ、MetaのVR体験のためのアプリを開発する外部のソフトウェア開発者とチャットしているとのこと。

記事によると、州と連邦の職員たちは、同社がどのようにして、反競争的な行いに関わり、VR市場における競争を妨害したかを調べている。職員たちはまた、同社がVRヘッドセット「Quest 2」の価格をどのようにして下げ、それを消費者にプッシュして競争をブロックしたかについても、関心を持っている。

FTCがMetaのアプリストアとハードウェア、ソフトウェアを調べている事実は、同社の買収案件が、次の時代のインターネットビジネスを定義する道標になるかもしれないこの反トラス訴訟における、唯一の視点ではないことを示唆している。

2021年12月、The InformationはFTCがMetaが申請しているVRフィットネスアプリ「Supernatural」の買収、その4億ドル(約456億9000万円)を超える取引を調べていると報じている。

今週初め、ある判事は、FTCがMetaの子会社であるFacebookに対して行っていた大規模な反トラスト法違反訴訟を継続できると判断し、これを阻止しようとする同社の取り組みを拒否した。2021年12月、Facebookは裁判所に訴えの却下を求め、ビッグテック解体推進派のLina Khan(リナ・カーン)FTC委員長に退陣を迫っていた。

FTCはその訴訟で、Facebookがソーシャルメディア分野のライバルを押さえ込むために市場力を乱用していると非難し、親会社のMetaにInstagramとWhatsAppを売却させるよう裁判官に求めるところまで踏み込んでいる。

「しかし、これらの理論を補強するために今回主張された事実は、特に被告が主張する独占の輪郭に関して、以前よりもはるかに強固で詳細である」とJames Boasberg(ジェームズ・ボースバーグ)連邦地裁判事は記している。

「……FTCは、その主張を証明するために、この先、困難な課題に直面する可能性がありますが、裁判所は、現在、弁論の要件をクリアし、証拠開示に進む可能性があると考えている」と述べている。

関連記事
「コピーされて殺された」、ショート動画アプリPhhhotoがフェイスブックを反トラストで訴える
英国でMeta集団訴訟、競争法違反で約3520億円求める

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

原文へ

(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)

米FTC、Log4jの脆弱性を修正しない組織に対する法的措置を警告

Javaで書かれた広く使われているログ記録ライブラリApache Log4jには、Log4Shellと通称されるゼロデイ脆弱性がある。連邦取引委員会(FTC)はこのほど、Log4Shellに対して顧客データのセキュリティを確保していない米国企業に対しては法的措置をとると警告した。

2021年12月に初めて発見されたこの「深刻な」脆弱性は、ますます多くの攻撃者によって悪用されており、何百万もの消費者製品に「深刻なリスク」をもたらすと、FTCは警告している。この公開書簡は、消費者に被害が及ぶ可能性を低減し、法的措置の可能性を回避するために、組織に対して脆弱性を緩和(ソフトウェアの最新バージョンへのアップデート)するよう組織に要請しています。

関連記事:iCloud、ツイッター、マインクラフトなどに使われているオープンソースのログユーティリティにゼロデイ脆弱性が見つかる

「脆弱性が発見され悪用された場合、個人情報の紛失・漏洩、金銭的損失、その他取り返しのつかない損害を被る危険性がある。既知のソフトウェアの脆弱性を軽減するために合理的な措置を講じる義務は、特に連邦取引委員会法およびグラム・リーチ・ブライリー法を含む法律に関係するものである。 Log4jに依存している企業やそのベンダーが、消費者に被害を与える可能性を減らし、FTCの法的措置を回避するために、今すぐ行動することが重要だ」とFTCは述べている。

FTCは、2017年にApache Strutsの既知の欠陥のパッチを怠り、消費者1億4700人の機密情報の侵害が起こったEquifaxの例を挙げている。その信用報告機関はその後、FTCとそれぞれの州に7億ドル(約810億円)を払う示談に合意した

さらにFTCは「Log4jや同様の既知の脆弱性の結果として、消費者データを露出から保護するための合理的な措置を講じていない企業を追及するために、完全な法的権限を行使する意向だ」と述べ、「今後同様の既知の脆弱性」が発生した場合に消費者を保護するために法的権限を適用する計画だと付け加えた。

FTCは、数百万ドル(数億円)規模の罰金を回避したい企業に対して、米国のサイバーセキュリティー・インフラセキュリティー庁(CISA)が発行したガイダンスに従うよう促している。これにより、企業はLog4jソフトウェアパッケージを最新バージョンにアップデートし、脆弱性を緩和するための対策を講じ、脆弱性の可能性があるサードパーティーやコンシューマーに脆弱性に関する情報を配布する必要がある。

このFTCによる警告射撃は、Microsoftが今週、Log4Shellの脆弱性が依然として企業にとって「複雑で高リスク」の状況にあると警告し、「12月最後の数週間、悪用の試みとテストは高いままであり、低スキルの攻撃者と国民国家の行為者が同様にこの欠陥を利用している」と述べたことを受けてのものだ。

関連記事:インターネットを破壊するバグ「Log4Shell」へのパッチ適用競争が始まっている

「現時点では、悪用コードやスキャン機能が広く出回っていることが、顧客の環境にとって現実的な危険であると考えるべきでしょう。影響を受けるソフトウェアやサービスが多く、更新のペースも速いため、修復には長い時間がかかると予想され、継続的な警戒が必要です」とMicrosoftとは述べている。

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Carly Page、翻訳:Hiroshi Iwatani)

2021年に知ることになったサイバーセキュリティの6つのポイント

この12カ月間におけるサイバーセキュリティは、暴れ馬のようだった。サイバーセキュリティで何もかもが壊れ、あとはそのことを認めるだけとなり、そして今年、2021年は、特に年末にかけて何もかもが一度に壊れた。しかし、何はともあれ、私たちはこれまで以上に多くのことを知り、この年を終えることになる。

この1年で、私たちは何を学んだのだろうか。

1.ランサムウェアの被害で大きいのはダウンタイムであり身代金ではない

ファイルを暗号化するマルウェアの被害が続いている。2021年だけでもランサムウェアは町全体にオフラインを強いることになり、給与の支払いをブロックし、燃料不足を招いた。企業のネットワークの全体が、数百万ドル(数億円)の暗号資産と引き換えに人質に取られたからだ。米財務省の推計では、ランサムウェアの2021年の被害額は、これまでの10年を合わせた金額よりも多い。しかし研究者たちによると、企業の被害の大半は、生産性の落ち込みと被害後の困難な後始末作業によるものだ。後者には、インシデント対応や法的サポートも含まれる。

関連記事:ランサムウェアが企業に与える莫大な金銭的被害は身代金だけじゃない

2.FTCはモバイルのスパイウェアメーカーに被害者の通知を命じることができる

SpyFoneは、2021年9月の連邦取引委員会(FTC)からの命令により米国で禁止される初めてのスパイウェアになった。FTCはこの「ストーカーウェア」アプリのメーカーを、人目につかない秘かなマルウェアを開発し、ストーカーや米国ないの悪意を持つ者が、被害者のスマートフォンのメッセージや位置情報の履歴などを知られることなくリアルタイムでアクセスできるようにしたと訴えた。さらにFTCはSpyFoneに、同社が不法に集めたデータをすべて削除し、同社のソフトウェアによってスマートフォンをハックされた人たちに通知することを命じている。

関連記事:米連邦取引委員会がスパイウェアSpyFoneを禁止措置に、ハッキングされた被害者に通知するよう命令

3.サイバーセキュリティへのVCの投資は2020年に比べて倍増

2021年はサイバーセキュリティへのVCの投資が、記録破りの年だった。8月には、投資家たちが2021年の前半に115億ドル(約1兆3242億円)のベンチャー資金を投じたことが明らかとなっている。これは2020年の同時期に投じられた47億ドル(約5412億円)の倍以上の額となる。最大の調達はTransmit Securityの5億4300万ドル(約625億円)のシリーズAと、Laceworkの5億2500万ドル(約605億円)のシリーズDだった。投資家たちは、クラウドコンピューティングとセキュリティのコンサルティング、およびリスクとコンプライアンス方面の好調が投資に火をつけたという。

関連記事
パスワードのない世界を目指すTransmit Securityがサイバーセキュリティ史上最大のシリーズAで約601億円調達
クラウドセキュリティのLaceworkが2年連続収益300%増で約545.7億円のシリーズD投資調達

ハイテク企業がユーザーデータの最大の保有者であることは周知の事実であり、意外にも、犯罪捜査のための情報を求める政府のデータ要求の頻繁な対象になっている。しかし、Microsoftは2021年、政府が検索令状に秘密命令を添付する傾向が強まっていることを警告し、ユーザーのデータが調査の対象となる時期をユーザーに通知しないようにしている。

関連記事:米政府による顧客データ要求の3分の1が秘密保持命令をともなう、マイクロソフト幹部が乱用に警鐘

Microsoftによると、法的命令の3分の1は秘密保持条項付きで、その多くは「意味のある法的分析や事実分析に裏づけられていない」と、同社の顧客セキュリティー・トラストの責任者Tom Burt(トム・バート)氏はいう。Microsoftは、秘密保持命令は技術産業全体に蔓延していると述べている。

5.FBIはサイバー攻撃の後処理の一環として、プライベートネットワークへのハッキングを許される

2021年4月にFBIは、この種の操作としては初めてハッカーが数週間前に放置した米国の数百に及ぶ企業のメールサーバーにあるバックドアの削除を開始した。MicrosoftのメールソフトウェアであるExchangeの脆弱性を大規模に悪用して、ハッカーが米国全域の何千ものメールサーバーを攻撃し、連絡先リストと受信箱を盗んだ。非難されているのは中国だ。その犯行により数千のサーバーが脆弱性を抱えたままであり、企業は緊急に欠陥を修復すべきだが、しかしパッチは残されたバックドアを削除しないので、ハッカーが戻ってきて容易にアクセスを取得できる。

関連記事:中国の国家ハッカーがExchange Serverの脆弱性をゼロデイ攻撃、マイクロソフトが警告

テキサス州の連邦裁判所が操作を許可し、FBIはハッカーが使ったのと同じ脆弱性を利用してバックドアを削除した。裁判所による操作許可の根拠は、今後の再犯への恐れだ。それにより、悪人たちによる今後の悪用を防いだ。同様の「ハックとパッチ」操作でボットネットを駆除した国は他にもあるが、サイバー攻撃の後でFBIがプライベートネットワークを効果的に掃除したのは、知られているかぎり、これが初めてだ。

6.詐欺師たちが自動車保険のサイトを襲って失業手当を詐取

2021年は複数の保険企業が、ありえないがますます普通になってきた詐欺のターゲットになった。Metromileによると、保険の見積もりを保存する同社のウェブサイトにバグがあり、運転免許証の番号が盗まれた。そして数カ月後には、Geicoもターゲットになり、同じく運転免許証の番号を盗み取られている。

関連記事
米自動車保険スタートアップMetromileがウェブサイトに侵入者が運転免許証番号を取得できるバグがあったと報告
米国2位の自動車保険大手Geicoが数カ月にわたりウェブサイトから運転免許証番号を盗まれていたと認める

Geicoのデータ侵犯報告は、盗んだ免許証番号を使って、ユーザーの名前で「失業手当を申請した」詐欺師たちを非難した。米国の多くの州では、州の失業手当を申請する前に運転免許証を必要となる。自動車保険会社ならその番号がわかるので、ターゲットにされたのだ。

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Zack Whittaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)

【コラム】バイデン大統領は本当に技術独占を取り締まることができるだろうか?

ジョー・バイデン大統領は2021年7月、米国経済における「競争促進」の行政命令を出した。この命令の中で、大統領は特に大手テクノロジー企業に対して「現在、少数の有力なインターネットプラットフォームがその力を利用して、市場新規参入者を排除し、独占的利益を引き出し、自分たちの利益のために利用できる個人の秘密情報を収集している」と述べている。

米上院は11月、ハイテク企業の反競争的買収を規制する法案を提出した。米国ではこの20年間、重大な独占禁止法事案はなかったが、最近の勢いは、現政権が運用の透明化を望んでいることを示唆している。

これまでのところ、独占禁止法違反を適用するためには、ルールや市民の間に曖昧な領域があまりにも多かったが、アプローチへのいくつかの変更で、大衆の意見が、新しい政策、罰則、さらには起訴につながる可能性がある。

この1世紀の間に、独占禁止法はその効力を失い「消費者福祉」という曖昧な基準の下に、より大きな目標は放棄されてきた。1980年代に確立された独占禁止法適用の判断基準はすべて、疑惑の独占行為が消費者物価の上昇をもたらしたかどうかだけに還元されていた。

だが独占禁止法の運用を、こうした1つの経済的影響テストに帰すこの手法は、過度に単純化されていることが証明されている。独占禁止法に対するこの特異な消費者価格ベースのアプローチの擁護者たちは、現在の技術の価格低下が公正な競争が支配的であることの明白な証拠だと主張している。

技術独占の解体は容易ではないが、それは以下の3つのアプローチで実現できる。すなわち、反競争的なM&Aを阻止すること、政策を書き換えてデータを市場の力として位置付けること、そして市民が独占禁止政策に関心のある政治家を選ぶことができるようにこのトピックへの公共の関心を駆り立てることだ。

キラーM&A

非常に緩い金融政策が長期化し、株価が非常に高騰しているこの金融緩和の時代にあっては、将来の競争相手を高値で買い取ることが現在のビジネス戦略の一部となっている。

テクノロジーの世界には例がたくさんあるが、たとえばFacebook(フェイスブック)によるInstagram(インスタグラム)とWhatsApp(ワッツアップ)の買収は議論の余地のない例だ。過度の規制はイノベーションを殺すが、自由市場が公正で自由なままでいるためには規制が必要だ。

現行法では、9200万ドル(約104億4000万円)以上の取引は、ほとんど例外なく、審査のために米連邦取引委員会(FTC)と司法省(DOJ)に報告しなければならないと定められている。

バイデン命令の意図の1つが、M&Aに対する監視の強化であることを考えると、この先消費者は「競争を大幅に減少させる」取引を阻止するための法的措置を目にすることになるかもしれない。

提案された、特定の買収を阻止する法案は、これまでその濫用があったことを両陣営が認識している証拠だが、データの独占が反競争的だと広く考えられていない場合は特に、違反認定の基準は依然として高いままだ。FTCとDOJは、ビッグテックに対して独占禁止法を適用する能力を発揮できるようになる必要があるが、これは、今回の新しい法律でより適切に行うことができるだろう。

データ=お金=市場支配力

一部のテック大企業にとって、無料の製品を提供することは、その他の資産を蓄積するための秘密裏の戦略であることが判明している。特にその中には、無意識のうちに「無料」で使う顧客の個人情報が含まれていて、それらの資産は数十億ドル(数千億円)規模の莫大な利益をもたらしただけでなく、そうした資産の独占も行われている。検索エンジンマーケティングとソーシャルメディア広告はまさにこの方法で構築された。このようなデジタル資産は現在、他のすべての企業にマーケティング予算に対する税金として貸し出されている。これは市場支配力の明白な例である。

私たちはほとんどの産業で前例のない集中に出会っている。集中が高まっている産業の企業は、市場支配力をより容易に行使できるため、実際には投資を減らしてさえいるのだ。

しかし、少し天候が悪くなると、自分で規則を変える都合の良いときだけの友たちはチームをすぐに変えて、連邦準備制度がパンデミックの最中に市場を支えるために臆面もなく行った、複数の異常な市場介入を支持するだろう。

バイデンの大統領命令で歓迎されたのは、オンライン監視とユーザーのデータの蓄積に関する新しい規則を確立するようFTCに促したことだ。独占的なテクノロジーの巨人たちは、このゲームのルールをあまりにも長い間作り続けていて、騙されやすい議員たちの目を、笑えるような自己規制の誓いでくらましている。

データの大量収集と管理が市場支配力として適切に分類されるまで、正義の手段は消費者ではなくビッグテックの手に握られ続ける。この場合、新しい政策と法律は、国民の抗議の声が立法者を動かしたときのみ実現するだろう。

大衆意識の変化を

緩い独占禁止法の執行と緩い政策の影響を最も受けているのは、消費者と市民だ。個人情報が取り込まれたり、サービス料を払い過ぎることになったり、商品を選択できなかったりするという形で、独占は消費者の福祉を侵害する。しかし、消費者にできることはあるだろうか?

バイデンの大統領命令は、米国内の独占禁止法をめぐる世論の圧力の高まりを直接反映したものだ。同じことが新しい上院法案にも当てはまる。ますます民間企業たちは、選出された公務員が多くいる州裁判所で、独占に対して訴訟を起こすようになっている。

今はバカげているように聞こえるかもしれないが、独占禁止法は、政治家が挑戦しなければならない主要なトピックになる可能性がある。有意義な独占禁止政策改革は、政治団体によって選出された改革派によってもたらされる。そのため、独占禁止法の執行に対する意見に基づいて候補者を選出することは、現状を変えるために極めて重要である。

私たちは今、より強力な独占禁止法とプライバシー規制を必要としている。私たち市民のプライバシーと幸福が危機に瀕しているからだ。チャリティーのように、独占禁止法への取り組みは身近なところから始めなければならない(訳注「チャリティはまず身近なところから始めよ」という諺のもじり)。

関連記事:サードパーティーがユーザーデータを知らぬ間に収集する副次的監視の時代を終わらせよう

編集部注:著者のVijay Sundaram(ビジェイ・サンダラム)氏は、大手テクノロジー企業と競合しつつ、消費者のプライバシーをポリシーの最優先事項としているビジネスソフトウェア企業Zoho Corporation(ゾーホー・コーポレーション)の最高戦略責任者。

画像クレジット:Glowimages / Getty Images

原文へ

(文:Vijay Sundaram、翻訳:sako)

アドエクスチェンジのOpenX、子どもの位置情報収集で連邦取引委員会が罰金

広告テクノロジー企業のOpenX(オープンX)は、同社が米国の児童プライバシー法に違反したという疑惑を解決をするため、連邦取引委員会に200万ドル(約2億3000万円)を支払うことになった。

連邦取引委員会は、カリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所に提出した訴状において、OpenXが親の同意を得ずに13歳未満の子どもから個人情報を収集したことにより、児童オンライン・プライバシー保護法(COPPA)に違反したと主張している。

カリフォルニア州に本社を置くこの企業は、子どもや幼児、就学前児童の学習用に販売されている数百ものアプリから故意に情報を収集し、このデータ(詳細な位置情報、IPアドレス、デバイスの固有識別子など)を、ターゲット広告に使用する第三者に渡したとしても告発されている。

「OpenXは、子ども向けアプリから直接または間接的に数百万から数億のアドリクエストを受信し、子どもの個人情報を含む数百万から数億のビッドリクエストを送信した」と、訴状には書かれている。

連邦取引委員会の訴状では、OpenXはCOPPAに違反したことに加え、データ収集をオプトアウトしたユーザーから詳細な位置情報を収集していないと偽り、連邦取引委員会法に違反したと主張している。連邦取引委員会によると、OpenXは、一部のAndroidユーザーが位置情報の収集を「許可しない」を選択した後も、位置情報の収集を続けていたとのことだ。

「OpenXは、位置情報を密かに収集し、子どもを含む大規模なプライバシー侵害の扉を開きました」と、連邦取引委員会の消費者保護局で局長を務めるSamuel Levine(サミュエル・レビン)氏は述べている。「デジタル広告のゲートキーパーは、舞台裏で活動していても、法を免れることはできません」。

連邦取引委員会の理事を務めるNoah Joshua Phillips(ノア・ジョシュア・フィリップス)氏は、別の声明の中で、この命令は当初、OpenXに対して750万ドル(約8億5000万円)の罰金を求めていたが、同社の支払い能力が不十分であったため、罰金を200万ドルに減額したと述べている。また、この和解案では、同社がターゲット広告を配信するために収集したアドリクエストのデータをすべて削除し、COPPAを完全に遵守するための包括的なプライバシープログラムを実施することが求められている。

OpenXはTechCrunchのコメント要請にすぐには応じなかったものの、和解案に言及したブログ記事の中で、データ収集は「意図しないミス」であるとし、内部検査の結果「99%以上のドメインとアプリは適切に分類されていた」と述べている。

「当社は、COPPAを完全に遵守するために、ポリシーや手順の見直しと強化に取り組んでいます。また、質的および量的属性の厳格な基準に引き続き従い、サイトやアプリが当社のエクスチェンジに含まれるのに適しているかどうかを判断していきます」と同社は述べている。

画像クレジット:Bryce Durbin

原文へ

(文:Carly Page、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米FTCが大手テックのアルゴリズムによる差別と商業的監視に対する規則を検討中

連邦取引委員会(FTC)が、ユーザーを侵害的に追跡したり他の者にそれをさせているデジタルプラットフォームを対象とする規則の検討に備えているようだ。「Trade Regulation Rule on Commercial Surveillance(商業的監視行為に対する規制規則)」は、まだ極めて初期的段階だが、FTCの新委員長Lina Khan(リナ・カーン)氏による最初の大手テクノロジー企業に対する大型規制になるかもしれない。

現在のところ、大統領府総務部の予算概要書に載っているだけだが、FTCが今後の規制の可能性について情報を伝えたことを意味している。リストによると、規則は「粗略なセキュリティ慣行を阻止し、プライバシーの濫用を制限し、アルゴリズムによる意思決定が不法な差別に結果しないようにする」とある。規則の一般公開された草案はまだないし、まだ構想段階の可能性もある。

FTCの広報担当者は「FTCには、その権能のすべてを駆使して有害な商業的監視行為と戦い、米国人のプライバシーを保護する用意がある」というコメントをくれたが、それ以上の話はない。

Brian Schatz(ブライアン・シャーツ)上院議員はこの文書への関心を示し、これに(尚早ながら)取り組んだ機関を褒め称えた。「カーン委員長とその機関が一歩を踏み出し、差別的なアルゴリズムを使っている企業を取り締まろうとしていることは喜ばしい。それは、私たちが絶対に取り組まなければならない課題だ」とシャーツ氏はいう。

本規則の策定はFTC基本法18条の「非公正または欺瞞的な行為や慣行の規制」に準じるものになるだろう。それは、FTCがいろいろな要件や禁忌を定めようとするときの、権限の拠り所となる条文だ。

規則は、ソーシャルメディア企業やインターネットプロバイダーといったあらゆるものの侵食から消費者を守ろうとするさまざまな試みの中でも、特に廃案になったBroadband Privacy Act(ブロードバンドプライバシー法)の系統になるのだろう。

もちろんFTCが規則を無から発明することは不可能であり、いくら規則を作っても、産業の新旧交替や現業界の変化によって、正しい理由で作られた規則が迂回されることも多い。

例えばヨーグルトのラベルに無脂肪とあるのに検査で脂肪が見つかったら、それは当然、虚偽の表示だ。しかし、ソーシャルメディア企業が例によって「あなたのデータはあなたに所有権があります」などといっても、それをダウンロードできなかったり、売ることも、プラットフォームから完全に削除することもできなかったら、それは虚偽の表示だろうか?FTCが規則とガイダンスを改訂して、そういう行為を含めないかぎり、虚偽にはならないだろう。

また「不法な差別」は、アルゴリズムに不正な構成のデータが供給されたことによって、宗教や人種や医療の状態などの保護を要する状況に基づいて、人びとの特定の集団が厚遇されたり非遇されたりする場合にも起きうる。現時点では、人を審査するアルゴリズムに公式の要件はほとんどないのに、データやそのソースは企業秘密であったり、公表や問い合わせから遮蔽されていることも少なくない。FTCの規則はこれを、任意ではなく要件にできるだろう。

そのような取り組みを議会や大統領府などが支えることもあり、カーン氏は、テクノロジー大手に介入する暗黙の権威をホワイトハウスから認められている。大統領府の法務アドバイザーに過ぎなかった彼女が急に国の行政機関のトップになったのも、このような規則制定に対する暗黙の支持があったからだ。

ただし現時点では、FTCのまばたきのようなサインにすぎないが、予算概要書に載っているため2022年に優先扱いになる可能性はある。中間選挙なので、現政権はその力を誇示しなければならない。ただしテクノロジー大手に対する攻撃は現存する数少ない超党派努力の1つであるため、かなりの数の政治プラットフォームがこの話題を取り上げるだろう。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

アップル、自分でiPhoneやMacを修理するための純正パーツ・ツールを提供するプログラムを発表

Apple(アップル)からうれしい、そして予想外のアップデートがあった。同社は、ユーザーが自宅でデバイスの一般的な修理を行えるようにするための新しいプログラム「Self Service Repair」を発表した。このプログラムでは、故障したデバイスを持っているユーザーに、同社のGenius Bar(ジーニアスバー)で使用しているものと同じ「Apple純正」のツールや部品が提供される。

また、新しいApple Self Service Repair Online Storeでは、オンラインの修理マニュアル(動画ではなくテキスト)を提供する。これは、同社が独立系修理業者(現在、米国内に2800社とApple正規サービスプロバイダー5000社が存在)向けに、ディスプレイ、バッテリー、カメラの修理を中心にiPhone 12と13から展開してきたものと似ている。また、M1Mac向けの同様のサービスも「間もなく」開始する予定だ。

COOのJeff Williams(ジェフ・ウィリアムズ)氏は今回の発表のリリースの中で「Apple純正部品へのアクセスを拡大することで、修理が必要になった際の顧客の選択肢がさらに広がります」と述べている。「Appleは過去3年間で、Apple純正部品、ツール、トレーニングを利用できるサービス拠点の数を約2倍に増やしてきましたが、今回、自分で修理をしたい人のための選択肢を提供します」。

Appleは具体的な価格をまだ公表していないが、顧客が破損した部品をリサイクルのために郵送した場合、最終的な価格に対するクレジットを得る。2022年初めに米国でサービスを開始する際には、約200種類の部品やツールを提供する予定だ。修理作業を自宅で行っても機器の保証は無効にはならないが、修理の過程でさらに製品を破損させてしまった場合は無効になるかもしれない。なのでマニュアルをしっかりと読んだ方がいい。これらを確認した上で、Apple Self Service Repair Online Storeから部品を購入できる。

今回のニュースは、修理する権利の法制化を求める動きが強まっている中でのものだ。これには家電業界の一部の大物が反対している。米議会図書館は最近、ユーザーによる修理を妨げるDMCA(デジタルミレニアム著作権法)の適用除外を承認した。「違法な修理制限に対処するために、FTC(米連邦取引委員会)は法的権限に基づいて、適切な法執行や規制、消費者教育などの選択肢を追求していく」と記されたFTCの5月の議会への書簡を受けて、大統領までもがこの問題に取り組んでいる。FTCはまた、消費者が購入・所有した製品を修理する際の選択肢を確保するために、州または連邦レベルで議員と協力する用意がある、としている。

修理できるようにすることを支持する人たちは、計画的な陳腐化による価格負担の軽減や、E-waste(廃棄物)に関する世界的な関心の高まりなど、多くの問題を挙げているが、後者は過去数年間にわたってAppleが取り組んできた問題でもある。スマートフォンの技術が高度化するにつれ、家庭での修理がますます困難になっている。バッテリー交換が可能だった時代からは程遠い状況だ。こうした中、ユーザーの修理性を前面に押し出したFairphoneのようなブティック系の製品が生まれた。

Appleの新しいプログラムは、2022年以降、さらに多くの国で展開される予定だ。それでも同社は明らかに、状況が許す限りユーザーに正規販売店での修理を奨励しているが(特にAppleCare+に加入している場合)、自分の手で解決したいと考える多くのユーザーにとっては、これはすばらしい一歩となる。

画像クレジット:Apple

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】フェイスブック「怒りの絵文字」を米証券取引委員会が注視する理由

Facebook(フェイスブック)は新しい名前になったかもしれないが、ブランド名を変えても、同社が社会にとっていかに破壊的であるか、そして自社の投資家にとっていかに有害であるかを示す、最近の複数の情報開示は消えない。

Facebookの内部告発者であるFrances Haugen(フランシス・ハウゲン)氏の暴露は衝撃的だったが、驚きではなかった。大量の文章を報道機関や議員、当局に提出する以前、Facebookの選挙のセキュリティ問題を担当していたハウゲン氏によると、Facebookは、例えば、拒食症の可能性を高めるいわゆる「thin-spiration(シンスピレーション)」を10代の少女たちに押し付けるなどの非難すべき行為とともに、そのアルゴリズムが社会や弱者に害を及ぼしていることを一貫して認識していた。

Facebookの内部文書の最近の分析は、Facebookのエンジニアは、「怒り」の絵文字を含む絵文字のリアクションを「いいね!」の5倍の価値があるものとして扱い、ユーザーを惹きつけて利益を上げるために、物議を醸すような投稿を好んでいたことを示している。

これは、単に企業が公共の利益に反して行動し、自社の消費者に損害を与えているという話ではなく、その投資家に反して行動したという話でもある。ホーゲン氏によれば、同社は、安全性への取り組み方からユーザーベースの規模まで、ビジネスの基本的な事実について株主を欺いていた。

このような重要な情報を連続して投資家に伝えなかったことで、Facebookは米国の証券取引法に違反した可能性がある。また、ハウゲン氏は、Facebookが会社の内部調査に関連する重要な情報を隠していたことで法律に違反していると主張し、少なくとも8件の苦情を証券取引委員会に提出している。

一方、2人目の無名の内部告発者は、Facebookがヘイトスピーチや誤情報よりも成長と利益を優先していると主張する宣誓供述書を米国証券取引委員会に提出した。

内部告発が注目を集めているのにもかかわらず、Facebookを規制・抑制するために米国証券取引委員会が果たしうる役割が最重要視されていないのは驚きだ。Facebookはハイテク企業だが、何よりもまず上場企業であり、それゆえに米国証券取引委員会の規制と監視の対象となる。

株式公開後もMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が会社を完全に実効支配できるような奇妙な特殊クラスの株式が含まれていたにも関わらず、2012年のFacebookの新規株式公開を承認したのは、オバマ政権下の米国証券取引委員会だった。さらに、スキャンダラスなデータ会社であるCambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)が、約3000万人の米国人のFacebookデータにアクセスして悪用したことを知っていたにもかかわらず、それを投資家に適切に開示しなかった件について、Facebookと和解したのはトランプ時代の米国証券取引委員会だった。

過去2年半の間に証券法違反で米国証券取引委員会と和解した企業であるFacebookを詳しく調査するように求めることは、驚くことではなく、合理的なことであり、私たちが証券規制当局に期待することでもある。

バイデン政権が、Gary Gensler(ゲーリー・ゲンスラー)氏とLina Khan(リナ・カーン)氏という強力な規制官をそれぞれ米国証券取引委員会と連邦取引委員会の委員長に任命したことは、米国人にとって幸運なことだ。しかし、Facebookをはじめとするビッグテック企業が、経済、政治、日常生活のあらゆる側面に影響を及ぼすようになったように、これらの企業を適切に規制し、抑制するという課題は、1つや2つの機関では解決できない。

大規模テック企業がもたらす問題や脅威に真に取り組むために必要なのは、政府全体でのアプローチだ。バイデン政権は、競争評議会で良い第一歩を踏み出したが、これは最終的な製品ではなく、最初の切り札でなければならない。また、大規模なテック企業に、フィンテック、通貨、政府との特別契約など新しい市場へのアクセスを与えないことも重要だ。これらの企業は、中小企業や消費者を犠牲に、これらの機会を利用してさらに強力になることはほぼ間違いないからだ。

また、これらの重要な問題については、議会の関与が必要だ。ホーゲン氏が上院の小委員会で証言した同じ日に、下院金融サービス委員会は、米国証券取引委員会の監督に関する公聴会を開催した。ホーゲン氏の扇情的な主張が数日間にわたって報道されたにもかかわらず、公聴会は、Facebookの投資家に対する説明責任を果たす上での米国証券取引委員会の役割について何のコメントも質問もなく何時間も続いた。

この重要な監視の機会が失われたことは、想像力と協調性の欠如を意味している。ビッグテックの危険性に真に対処するためには、すべてのメンバーが、バイデン政権への働きかけを含め、これらの巨大企業に対処するための改善策を考える必要がある。

ホーゲン氏は、フェイスブックから生まれた最初の内部告発者でもなければ、最後の告発者でもない。米国連邦政府が、ビッグテック企業の従業員、株主、下請け業者、さらには創業者が、これらの企業が米国人にもたらす危険性を明らかにするのを黙って見ている時代ではなくなった。

企業の規模、力、そして危険性がましている今こそ、バイデン政権は、大胆に、積極的に、結束して行動すべきだ。そのためには、まず、米国証券取引委員会が、この問題を取り上げ、Facebookを徹底的に調査し、法律を完全に執行することから始める必要がある。

編集部注:本稿の執筆者Lisa Gilbert(リサ・ギルバート)氏は、Public Citizenの副社長。

画像クレジット:Serdarbayraktar / Getty Images

原文へ

(文:Lisa Gilbert、翻訳:Yuta Kaminishi)

【コラム】テック系ワーカーの大多数が反トラスト法の施行を支持

米連邦取引委員会のLina Khan(リナ・カーン)委員長の登場で、ビッグテックの解体が再びワシントンの主要政策論議に浮上した。この問題は超党派的な様相を呈しており、共和党も民主党も同様に、テック業界における独占的な行動を止めることに賛成している。もちろん、立脚点の状況はもっと微妙だ。

Amazon、Apple、Microsoft、Facebook、Googleに事業分割や中核事業からの撤退を迫る5つの超党派法案を米下院司法委員会が可決してから1カ月後、共和党の委員会メンバーらは、ビッグテック企業によるオンライン検閲を阻止する法的手段を米国民に与える新たな法案を提出した。より保守的な政策措置は、ビッグテックによるコンテンツモデレーションの慣行の透明性を高めることも提案している。

ビッグテックの規制方法をめぐる議員同士の争いは、すぐには終わらないだろう。しかし、パンデミックによって加速されたデジタルトランスフォーメーションの新時代を米国が先導する中、連邦議会は、自由市場を維持するにはビッグテックの力が抑制されなければならないという信念で強固な結束を築いている。

現状では、小規模な競合企業も消費者も、今日の近代的な経済エンジンに参加するにあたってはビッグテックに縛られる以外に選択肢はほとんどない。そしてパンデミックを経て、テック最大手5社は、資本主義の歴史ではこれまで見られなかったような驚異的なスピードで成長を続けている

大手テック企業は、事業を分割することになりかねない規制に対して強い反対の意思を示しており、規制改革は研究開発の損失、非現実的な市場の細分化、消費者へのサービスコストの上昇をもたらすことを示唆している。

AppleやFacebook、Amazonなどのビッグテック企業が出資するテック業界団体が委託した調査によると、米国人はテック関連の規制を議会にとって優先度が低いものだと考えている。米国人の最優先事項として挙げられたのは、経済、公衆衛生、気候変動、インフラであった。この調査ではまた、Amazon Primeプロダクトの無料配信のようなオファリングに影響を与える規制には、米国人が反対する可能性が高いことも明らかになった。

おそらく今回の世論調査と、選挙で選ばれた指導者たちの超党派的なセンチメントは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生後、社会が良くも悪くもテック大手への依存を認識し始めたことを示しているのだろう。過去18カ月間、米国の労働者はリモートワークに適応してきた。彼らは、他の従業員とのコミュニケーション、企業の経営、食料品や必需品の購入などに対してビッグテック企業が展開するプログラムを利用している。多くの企業が完全なリモートまたはハイブリッドのワークモデルへの移行を公表しており、この動的な状況が変わる可能性は低い。

この話題に対して、プロフェッショナル、特にテック業界やスタートアップ、スモールビジネスで仕事をする人々の間で関心が高まっている。私たちFishbowlは、その多くがテック業界で働くプロフェッショナルたちに、テック大企業の分割について聞いてみようと考えた。Fishbowlはプロフェッショナルのためのソーシャルネットワークであるため、このような職場の話題について調査を行うのは自然な流れだ。

この調査は2021年7月26日から30日にかけて実施され、この分野の従業員が反トラスト法についてどのように感じているかが調査された。調査ではプロフェッショナルたちに次のように問いかけた。「AmazonやGoogleのような大手テック企業を解体させるために、反トラスト法が使われるべきだとだと思いますか?」。

Fishbowlアプリ上で11579人の認証プロフェッショナルが調査に参加し、イエスかノーのどちらかを回答するオプションを与えられた。調査は、法律、コンサルティング、ファイナンス、テクノロジー、マーケティング、アカウンティング、ヒューマンリソース、教師などを対象に、州および専門業界に分類して行われた。

調査結果は以下の通りである。

画像クレジット:Fishbowl

1万1579人のプロフェッショナルのうち、6920人(59.76%)が回答に応じた。

回答に基づくと、調査に肯定的な回答が最も多かったのは法律のプロフェッショナルで、66.67%であった。コンサルティングのプロフェッショナルは61.97%で、次いでファイナンス(60.64%)がテクノロジー(60.03%)をわずかに上回った。一方、教師の割合は53.49%と最も低かった。ヒューマンリソース(55.65%)、アカウンティング(58.51%)、その他の専門職(58.83%)と続いている。

この調査のデータは、米国25州のプロフェッショナルから集めたものである。イエスと答えた割合が最も高かったのはコロラド州で、76.83%だった。2位は73.17%のワシントン州、3位は69.70%のミシガン州となった。大手テック企業の分割に「イエス」と答えた従業員の割合が最も低かったのはミズーリ州(51.35%)であった。インディアナ州(52.59%)、マサチューセッツ州(52.83%)と続いている。全体的に見て、調査に参加した州の大半は、反トラスト法がビッグテック企業を事実上解体すべきだと考えている。

テクノロジーのプロフェッショナルは、大手テック企業が解体されるべきだと回答した割合が4番目に高かった。ビッグテック企業を解体することで得られるメリットの一部として、スモールビジネスにより多くの機会がもたらされることが挙げられる。テクノロジーのプロフェッショナルや起業家にとっては、新たなプロダクトやプログラム、サービスを立ち上げる好機となるかもしれない。また、高度なスキルを持つプロフェッショナルの雇用を増やす可能性もある。第2のメリットは、データのプライバシーと国家的なセキュリティに関する懸念を軽減できることだ。しかし、大企業を解体することのデメリットとして、研究開発の損失が考えられる。大企業は人工知能、自動運転車、ウェアラブル、ロボットなどに多額の資金を提供している。最終的には、ビッグテック企業の解体は、プロフェッショナルそして一般の人々にとってもサービスコストを増加させる可能性がある。

政策立案者たちがビッグテックの解体方法について交渉を続ける中、ホワイトハウスも動き始めている。Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領は最近、コロンビア大学ロースクール教授のカーン氏をFTC委員長に任命した。カーン氏はビッグテックを強く批判しており、企業の濫用から一般市民を保護し、合併のガイドラインに経済の現実と実証的な学習・執行を反映させることを最優先課題としている。端的に言えば、同氏は合併について懐疑的な見方をしている。

そして7月、バイデン大統領はJonathan Kanter(ジョナサン・カンター)氏を司法省反トラスト局長に指名する意向を表明した。カンター氏は、反トラスト法を専門とする20年以上の経験を持つ弁護士で、強力かつ有意義な反トラスト法の執行と競争政策を推進する取り組みの第1人者であり、専門家でもある。

こうしたメンバーの追加により、業界全体で反トラスト法を施行するための積極的なアプローチが行われることが期待される。今後の動きに確実に違いをもたらすことが議会に委ねられよう。

編集部注:Matt Sunbulli(マット・サンブリ)氏は、リモートワークの新時代にプロフェッショナルを結びつけるワークプレイスソーシャルネットワークFishbowlの共同設立者兼CEO。

画像クレジット:Peter Dazeley / Getty Images

原文へ

(文:Matt Sunbulli、翻訳:Dragonfly)

米連邦取引委員会が健康アプリはデータ漏洩の消費者への通知を求める、従わない場合は罰金

米連邦取引委員会(FTC)は、個人の健康情報を収集しているアプリやデバイスは、そのデータを漏洩させたり許可なくサードパーティと共有した場合は、消費者にその旨を通知しなければならないと警告した。

米国時間9月15日の 3-2採決で、FTCは施行されて10年になる「2009 Health Breach Notification Rule」を明確にするために新規則方針を採択した。このルールは、健康記録を扱う企業に対し、たとえば情報漏洩の結果として起こった場合などに、データが許可なくアクセスできるかどうかを消費者に通知することを求めている。健康アプリやデバイスへと適用が拡大されてきて、特に排卵日データ、フィットネス、血糖値を追跡するアプリを名指ししている。FTCの委員長、Lina Khan(リナ・カーン)氏によると、これらのアプリは「プライバシーとデータセキュリティに十分に投資していないことが往々にしてある」ためだ。

カーン氏は医学誌British Medical Journal(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)に発表された、安全でないユーザーデータの送信から広告業者との無許可のデータシェアに至るまで健康アプリが「深刻な問題」を抱えている、という研究結果を指摘しながら「デジタルアプリは、ユーザーのセンシティブな健康情報をハッキングや漏洩にさらされやすい状態のままにし、ユーザーデータに対していい加減な傾向にあります」と声明で述べた。

また近年は、健康アプリを含め、世間の耳目を集めた情報漏洩が数多くあった。英国のAIチャットボットと遠隔診療スタートアップのBabylon Healthは2020年、ユーザーが他の患者のビデオコンサルテーションにアクセスできるという「ソフトウェアエラー」の後にデータ漏洩に直面した。また、月経周期追跡アプリのFloがユーザーの健康データをサードパーティの分析、販促サービスと共有していることも最近明らかになった

新しいルールのもとでは、健康アプリや個人の健康データを収集しているコネクテッドフィットネスデバイスを提供している企業は、その消費者のデータが損なわれている場合は消費者に通知しなければならない。しかしルールは「データ漏洩」を単なるサイバーセキュリティ侵入として定義してはいない。許可のない情報共有を含む、個人データへの不正アクセスでも通知する義務が発生する。

「このルールは、我々の個人情報を損なうテック企業に説明責任を課しますが、より根本的な問題は、企業がこうしたデータを行動ターゲティング広告とユーザー分析を行うために使うことができる、センシティブな健康情報の商品化にあります」とカーン氏は述べた。

企業がルールに従わなければ、1日あたりの罰金4万3792ドル(約480万円)を「精力的に」科す、とFTCは述べた。

FTCはここ数週間、プライバシー違反を取り締まっている。9月初めにはスパイウェアメーカーのSpyFoneを禁止し、多くの人のモバイルデータを収集してインターネット上に放置していたとしてSpyFoneのCEOであるScott Zuckerman(スコット・ズッカーマン)氏を監視産業から追放することを全会一致で決めた

関連記事:米連邦取引委員会がスパイウェアSpyFoneを禁止措置に、ハッキングされた被害者に通知するよう命令

画像クレジット:P. Wei / Getty Images

原文へ

(文:Carly Page、翻訳:Nariko Mizoguchi

米連邦取引委員会がスパイウェアSpyFoneを禁止措置に、ハッキングされた被害者に通知するよう命令

米連邦取引委員会(FTC)は全会一致でスパイウェアメーカーのSpyFone(スパイフォン)を禁止し、同社のCEOであるScott Zuckerman(スコット・ズッカーマン)氏を監視産業から追放することを決めた。この種の命令は初で、同社が多くの人のモバイルデータを収集してインターネット上に放置していたことを受けての措置だ。

SpyFoneは「隠されたデバイスを通じたハックで密かに人々の身体の動き、電話使用、オンライン活動に関するデータを集めて共有」し、スパイウェア購入者が「デバイスのライブの位置情報を確認したり、デバイスユーザーの電子メールやビデオチャットを閲覧できるようにしていた」とFTCは述べている。

SpyFoneは、ペアレンタルコントロールを装ってマーケティング活動し、往々にして既婚者がパートナーをスパイするのに使う、数多くのいわゆる「ストーカーウェア」アプリと呼ばれるものの1つだ。スパイウェアは、誰かのスマホに密かにインストールされることで機能する。多くの場合、許可なくメッセージや写真、ウェブ閲覧履歴、リアルタイムの位置情報を得るために使われる。FTCはまた、SpyFoneが被害者にさらなるセキュリティリスクを与えたと非難した。SpyFoneはスマホの「根幹」レベルで作動し、これによりSpyFoneがデバイスのOSの立ち入り禁止部分にアクセスできるからだ。SpyFoneのプレミアム版にはキーロガー(キー入力監視プログラム)や「ライブスクリーン視聴」が含まれていた、ともFTCは指摘する。

関連記事:すべてを監視するストーカーウェア「KidsGuard」から個人データが大量に漏洩

FTCは、SpyFoneの「基本的なセキュリティの欠如」がそうした被害者のデータを流出させた、と述べた。スパイウェアが被害者2000人超のスマホから収集していたデータを垂れ流していた安全でないAmazonのクラウドストレージサーバーのためだ。SpyFoneは調査のためにサイバーセキュリティ会社、法執行当局と協業したと述べたが、FTCはそうした事実はないと述べている。

実際には、禁止措置でSpyFonとCEOのズッカーマン氏は「監視アプリ、サービス、事業の提供、販促、販売、広告」が禁じられることを意味し、同社の事業運営を難しいものにしている。しかしFTCコミッショナーのRohit Chopra(ロヒト・チョプラ)氏は別途出した声明文で、ストーカーウェアメーカーは米国のコンピューターハッキングと盗聴の法律に基づいて刑事罰を受けるべきだと述べた。

FTCはまた「不法に」集めたデータすべてを削除するようSpyFoneに命じ、SpyFoneのアプリが密かにデバイスにインストールされていたことを初めて被害者に伝える。

声明文で、FTCの消費者保護責任者のSamuel Levine(サミュエル・レヴィーン)氏は「今回のケースは、監視ベースの事業が我々の安全やセキュリティにとって大きな脅威になるという重要なリマインダーです」と述べている。

ストーカーウェアを検知して対抗し、また啓発する企業のグループであるEFFは、FTCの措置を賞賛した。EFFは2年前にCoalition Against Stalkerware(対ストーカーウェア同盟)を立ち上げている。「FTCはいまこの産業に注意を向けていて、ストーカーウェアの被害者は規制当局が自分たちの懸念を真剣に受け取り始めているという事実に慰めを見出すことができます」とEFFのEva Galperin(エヴァ・ガルペリン)氏とBill Budington(ビル・バディントン)氏はブログ投稿で述べた。

ストーカーウェアメーカーに対するFTCの禁止措置は今回が2例目だ。FTCは2019年に、Retina-Xが何回かハックされ、最終的に業務を停止した後に同社と和解した。

過去、mSpy、Mobistealth、Flexispyなどいくつかのストーカーウェアメーカーがハックされるか、うっかり自らのシステムを露出した。また別のストーカーウェアメーカーであるClevGuardはハックされた何千人という被害者のスマホのデータを野ざらしのクラウドのサーバーに置いていた。

もしあなた、あるいはあなたが知っている人が助けを求めているなら、National Domestic Violence(全国家庭内暴力)ホットライン (1-800-799-7233) が24時間無料で内々のサポートを家庭内虐待・暴力の被害者に提供している。緊急事態であれば911に通報を。

この記事を読んで思うところがあったり、筆者に伝えたいことがあれば、SignalかWhatsAppを使って+1 646-755-8849まで、あるいは電子メールzack.whittaker@techcrunch.comで連絡して欲しい。

関連記事
スパイウェア「Pegasus」が政府批判を行う女性ジャーナリストのスマホから写真を盗むために使われた疑惑が浮上
45カ国と契約を結ぶNSOのスパイウェアによるハッキングと現実世界における暴力の関連性がマッピングで明らかに
MicrosoftやGoogle、CiscoなどがWhatsAppスパイウェア訴訟でイスラエルのNSOに抗議
画像クレジット:Jake Olimb / Getty Images

原文へ

(文:Zack Whittaker、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】Facebookは独占企業だ、そうだろう?

Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏は米国時間8月19日、全国テレビに出演して「特別発表」を行った。そのタイミングはこれ以上ないほど興味深いものだ。この日はLina Khan(リナ・カーン)氏のFTC(連邦取引委員会)がFacebookの独占を解体するためにその訴訟を再提出した日である。

普通の人には、Facebookの独占は明白に見える。コロンビア特別区連邦地方裁判所のJames E.Boasberg(ジェームズ・E・ボースバーグ)判事が最近下した判決の中で述べているように「2010年の映画『The Social Network(ソーシャル・ネットワーク)』のタイトルを聞いて、それがどの企業に関するものなのかわからない人はいないだろう」。しかし、自明性は反トラストの基準ではない。独占には明確な法的意味があり、これまでのところリナ・カーン氏のFTCはそれを満たしていない。今回の再提出は、FTCの最初の襲撃に比べてはるかに実質的だ。しかし、まだ批判的な議論が欠けている。最前線からの意見をいくつか示したいと思う。

第1に、FTCは市場を正しく定義しなければならない。メッセージングを含むパーソナルソーシャルネットワークの定義だ。第2に、FTCはFacebookが市場の60%以上を支配していることを証明しなければならない。これを証明する正しい指標は収益である。

消費者に対する損害は、独占的な判断の試金石として広く認識されているが、当法廷はFTCに対し、Facebookが消費者に損害を与えていることを証明して勝訴するよう求めてはいない。しかしこれに代わる訴答として、政府は、Facebookがクリエイターエコノミーにおける賃金を抑制することで消費者に損害を与えている、という説得力のある主張を提示することができる。クリエイターエコノミーが本物なら、Facebookのサービス上にある広告の価値は、クリエイターの労働の成果によって生み出されているはずだ。ユーザー生成コンテンツがなければ、動画の前や投稿の間の広告を見る人はいないだろう。Facebookはクリエイターの賃金を抑制することで、消費者に損害を与えている。

編集部注:本稿はFacebook独占に関するシリーズの第1弾である。Cloudflareの最近のブログ記事で、Amazonの独占が業界に与える影響を説明しているが、感銘を受けるものがあった。おそらくそれは競争戦術だったのだろうが、筆者はこれをより愛国心に訴える責務であると心から確信している。複雑な問題についての議員や規制当局のための道しるべとなる。筆者の世代は、Eメールをほとんど使用しない議員が、私たちがまだ理解していない方法で長い間私たちの生活に浸透してきたプロダクトについて、私たちの時代の第一線の技術者たちに疑問を投げかけているのを、悲しみと不安の中で見てきた。筆者個人としても、また自社としても、このことから得るものはほとんどない。しかし、ソーシャルメディア新興企業の最新世代の参加者として、そして民主主義の未来を懸念する米国人として、私は挑戦する義務を感じている。

問題

裁判所によると、FTCは2つの部分からなる評価基準を満たす必要がある。FTCはまず、Neumann対Reinforced Earth Co.(1986年) においてD.C.巡回区控訴裁判所(控訴裁判所)によって立証された独占力をFacebookが有している市場を定義しなければならない。これは、メッセージングを含む、パーソナルソーシャルネットワークの市場だ。

次に、FTCは、Facebookがその市場の支配的なシェア、すなわち裁判所が定義する60%以上を占めていることを立証しなければならない。これはFTC対AbbVie訴訟(2020年)で第3巡回区控訴裁判所によって定められたものだ。この市場シェア分析の正しい測定基準は、紛れもなく収益であり、デイリーアクティブユーザー数(DAU)× 1ユーザーあたりの平均収益(ARPU)となっている。そしてFacebookは90%超を握っている。

FTCの問題に対する答えは、Snapchatの投資家向けプレゼンテーションを見れば明らかだ。

Snapchat 2021年7月 投資家向けプレゼンテーション「Significant DAU and ARPU Opportunity」(画像クレジット:Snapchat

これはFacebookの独占状態を示すグラフで、パーソナルSNS市場の91%を占めている。グレーのブロックは、FacebookのStandard Oil(スタンダード・オイル)事業部が掘削に成功した巨大な油層のように見える。SnapchatとTwitterは小さな石油試掘者であり、Facebookの規模とはほぼ無関係だ。Facebookがかつて両社を買収しようとしていたことは、市場の観測筋の誰もが認めるところだろう。

市場にはメッセージングが含まれている

FTCは当初、Facebookが「パーソナルソーシャルネットワーキングサービス」市場を独占していると主張した。この訴状では、Facebookの市場から「モバイルメッセージング」を除外しおり、その理由として「 (i) 交流のための『共有ソーシャルスペース』がなく(ii) ユーザーが知っているかもしれない他のユーザーを見つけて『友達になる』ためのソーシャルグラフを採用していない」ことを挙げている。

メッセージングはFacebookのパワーから切り離すことができず、これは正しくない。Facebookはこれを、WhatsApp買収、Messengerのプロモーション、SnapchatとTwitterの買収で証明している。いかなるパーソナルソーシャルネットワーキングサービスもその機能を拡張することができる。そしてFacebookの堀はメッセージングのコントロール次第である。

エコシステムの中で過ごす時間が長いほど、その価値は高くなる。ソーシャルネットワークにおける価値は、誰に対して求めるかに依存して、アルゴリズム的(メトカーフの法則)または対数的(ジップの法則)に計算される。どちらにしても、ソーシャルネットワークでは1+1は2よりずっと多い。

ソーシャルネットワークは、企業がより多くの機能を構築できるノードの数が増え続けることで価値が高まる。ザッカーバーグ氏はこの関係を「ソーシャルグラフ」という言葉で表現した。日本、韓国、中国におけるLINE、Kakao、WeChatの独占はこれを明確に証明している。彼らはメッセージングからスタートし、外部へと拡大し、パーソナルソーシャルネットワーキングの巨人となった。

今回の提出書類でFTCはFacebook、Instagram、Snapchatはいずれもパーソナルソーシャルネットワーキングサービスであり、3つの主要機能を利用していると説明している。

  • 「第1に、パーソナルソーシャルネットワーキングサービスは、ユーザーと友人、家族、その他の個人的なつながりをマッピングしたソーシャルグラフ上に構築されている」。
  • 「第2に、パーソナルソーシャルネットワーキングサービスには、多くのユーザーが個人的なつながりと対話し、1対多の『ブロードキャスト』形式を含む共有ソーシャルスペースで個人的な体験を共有するために定期的に使用する機能が含まれている」。
  • 「第3に、パーソナルソーシャルネットワーキングサービスには、ユーザーが他のユーザーを見つけて接続できるようにする機能が含まれており、各ユーザーが個人的な接続を構築して拡張するのを容易にする」。

残念ながら、これはほんの一部しか真実を語っていない。ソーシャルメディアの危険な領域では、FTCが明言に苦慮しているように、機能セットは日常的にコピーされ、クロスプロモーションされている。InstagramがSnapchatのストーリーをコピーしたことを忘れることができるだろうか?Facebookは、最初から市場で最も成功したアプリの機能を容赦なくコピーしてきた。Clubhouseと競合するLive Audio Roomsのローンチは、ごく最近の例にすぎないだろう。TwitterとSnapchatはFacebookのライバルである。

メッセージングは、コピーして破壊しようとするFacebookの広範で貪欲な欲求を示すために含まれなければならない。WhatsAppとMessengerはそれぞれ20億人と13億人を超えるのユーザーを擁している。機能コピーの容易さを考えると、WhatsAppの規模のメッセージングサービスは、数カ月もすれば本格的なソーシャルネットワークになる可能性がある。これこそがFacebookが同社を買収した理由だろう。Facebookのソーシャルメディアサービスの幅広さには目を見張るものがある。しかしFTCは、メッセージングが市場の一部であることを理解する必要がある。そしてそのことを認めたからといって、彼らの訴えの妨げにはならないだろう。

測定基準:収益はFacebookの独占を示す

ボースバーグ判事は、収益は個人のネットワーキングを算定するための適切な測定基準ではないと考えている。「●PSNサービスによって得られた総収益は、市場シェアを測定するための正しい測定基準ではありません。これらの収益はすべて別の市場、つまり広告市場で得られたものだからです」。同氏はビジネスモデルと市場を混同している。すべての広告が同じ布から切り離されているわけではない。今日の再提出で、FTCは「ソーシャル広告」を「ディスプレイ広告」と区別して正確に識別している。

しかしFTCは、収益を明確な市場シェア測定基準とすることを避けようとしている。代わりにFTCは「消費時間、デイリーアクティブユーザー数(DAU)、月間アクティブユーザー数(MAU)」を挙げている。Facebook BlueとInstagramがSnapchatとだけ競合する世界において、これらの測定基準はFacebookブルーとInstagramを合わせると60%の独占のハードルを超えるかもしれない。しかしFTCは、このような指標の選択を正当化するための十分に説得力のある市場定義の議論をしていない。Facebookは、DiscordやTwitterのような他の個人向けソーシャルネットワーキングサービスと比較されるべきであり、それらが市場に正しく含まれることで、消費時間やDAU / MAUというFTCの選択はその意味を失うことになる。

結局のところ、お金が王様なのだ。収益が重要であり、FTCが強調すべきことである。Snapchatが上記で示しているように、パーソナルソーシャルメディア業界の収益はARPU×DAUで計算されている。パーソナルソーシャルメディア市場は、エンタテインメントソーシャルメディア市場(FacebookはYouTube、TikTok、Pinterestらと競合している)とは異なる市場である。また、これはディスプレイ検索広告市場(Google)から切り離された市場でもある。すべての広告ベースの消費者向けテクノロジーが同じように構築されているわけではない。繰り返しになるが、広告はビジネスモデルであり、市場ではない。

例えばメディアの世界では、Netflixのサブスクリプション収入は明らかにCBSの広告モデルと同じ市場で競合している。News Corp.によるFacebookの初期のライバルMySpaceの買収は、従来のメディア広告市場を破壊するインターネットのポテンシャルについて多くを物語っている。Snapchatは広告を追求することを選んだが、Discordのような初期のライバルはサブスクリプションを利用して順調な伸びを見せている。しかし、その市場シェアはFacebookと比べると依然として低いものだ。

代替的訴答:Facebookの市場支配力がクリエイターエコノミーの賃金を抑制している

公正取引委員会は、独占の定義に関して、可能な限り小さい市場を主張してきた。Facebookが少なくとも80%を支配しているパーソナルソーシャルネットワーキングは(最も強い主張においては)エンターテインメントを含むべきではない。これは成功の可能性が最も高い、最も狭義の議論である。

しかし、彼らは代替案でより広い議論をすることを選択することができた、より大きなスイングをとるものだ。リナ・カーン氏がNew Brandeis運動を始めた2017年のメモの中でAmazonについて言及したことで知られるように、従来の経済的消費者有害性の評価基準は、ビッグテックがもたらす有害性に十分に対処していない。その害はあまりにも抽象的だ。ホワイトハウスのアドバイザーであるTim Wu(ティム・ウー)氏が「The Curse of Bigness(巨大企業の呪い)」の中で論じ、ボースバーグ判事が自身の意見で認めているように、独占禁止法は価格効果のみに依存するものではない。Facebookは、価格効果の悪影響を証明することなく分割できる。

しかしFacebookは、消費者に損害を与えてきている。消費者は、その労働がFacebookの価値を構成する労働者であり、低賃金である。個人的なネットワーキングをエンターテインメントを含むものと定義すれば、YouTubeは教訓的な例になる。YouTubeとFacebookの両方のサイトでは、インフルエンサーはブランドに直接課金することで価値を獲得できる。それはここでの話題ではない。問題となるのは、クリエイターに支払われる広告収入の割合である。

YouTubeの従来のパーセンテージは55%だった。YouTubeは、過去3年間でクリエイターと権利保有者に300億ドル(約3兆3000億円)を支払ったことを発表している。保守的にいうと、資金の半分は権利保有者に配分される。つまりクリエイターの平均収入は150億ドル(約1兆6500億円)、年間50億ドル(約5500億円)ということになるが、これはその期間のYouTubeの460億ドル(約5兆円)の収益のかなりの部分を占めることになる。言い換えれば、YouTubeは収益の3分の1をクリエイターに支払ったということになる(これは明らかにYouTubeの非広告収入は考慮していない)。

これに対してFacebookは、わずか数週間前に、年間10億ドル(約1100億円)というごくわずかな額のプログラムを発表し、変更を加えたばかりだ。確かにクリエイターたちは、インタースティシャル広告からいくらかの収入を得ているかもしれないが、Facebookはその収入の割合を公表していない。それは侮辱的なものになるからだろう。YouTubeの発表に相当する3年間で、Facebookは2100億ドル(約23兆1100億円)の収益を上げた。その3分の1は700億ドル(約7兆7000億円)、年間230億ドル(約2兆5300億円)に相当する額がクリエイターに分配される計算になる。

なぜFacebookはこれまでクリエイターに支払いをしてこなかったのか?その必要がなかったからである。Facebookのソーシャルグラフはあまりにも大きく、クリエイターたちはとにかくそこに投稿しなければならない──Facebook BlueとInstagramの成功がもたらす規模によって、クリエイターたちはブランドに直接販売することで収益化することができる。Facebookの広告はクリエイターの労働力によって価値がもたらされている。ユーザーがコンテンツを生成しなければ、ソーシャルグラフは存在し得ない。クリエイターたちは、自分たちで作ったスクラップ以上のものを受け取る資格がある。Facebookは、それが可能だという理由でクリエイターの賃金を抑制している。これが独占企業のやっていることなのだ。

Facebookのスタンダード・オイル精神

Facebookは長い間、ソーシャルメディアのStandard Oil(スタンダード・オイル)だった。ザッカーバーグは7月に、Robloxが開拓した市場であるメタバースに再び焦点を当てていることを明らかにした。パーソナルソーシャルメディアでの独占を達成し、エンタテインメントソーシャルメディアとバーチャルリアリティで競争した後も、Facebookの掘削は続いている。確かにFacebookは無料かもしれないが、その独占はクリエイターの賃金を抑制することで米国人に害を与えている。反トラスト法は、シャーマン法の下では、消費者被害は独占を証明するための必要条件ではないと規定している。独占は違法である。正確な市場定義と市場シェアを再提出することで、FTCはチャンス以上のものを手にしている。きっと勝利を収めるはずだ。

編集部注:本稿の執筆者Daniel Liss(ダニエル・リス)氏は、デジタル使い捨てカメラのソーシャルネットワークであるDispoの創設者兼CEO。本記事の前バージョンはSubstackに掲載されている。

関連記事
ソーシャルプラットフォームはタリバンの扱い方で歩調揃わず
米上院議員がFacebookに研究者のアカウントを停止させた理由の説明を求める
なんとフェイスブックがまたもプライバシー設定を変更
画像クレジット:NurPhoto / Getty Images

原文へ

(文:Daniel Liss、翻訳:Dragonfly)

テスラの「完全」自動運転という表現に対し米上院議員がFTCに調査を要請

2人の民主党上院議員が、今度の連邦取引委員会(FTC)の議長に、Tesla(テスラ)のオートパイロットとフルセルフドライビング両システムの自動運転能力に関する、同社の声明を調査するよう求めた。上院議員Edward Markey(エド・マーキィー)氏(民主党・マサチューセッツ州)とRichard Blumenthal(リチャード・ブルーメンソール)氏(民主党・コネチカット州)は、クルマに完全な自動運転能力があると顧客に誤解させかねないTeslaの文言に対して特に懸念を表明している。

「Teslaのマーケティングは、自社の自動車の性能を繰り返し誇張しており、こうした表現は、自動車運転者や他の道路利用者に対する脅威となっています。したがって私たちはTeslaの運転自動化システムの広告およびマーケティングにおける欺瞞的で不公正な行為の可能性について調査を開始し、道路上のすべてのドライバーの安全を確保するために適切な執行措置をとることを強く求めます」と両議員はFTCに対して述べている。

FTCの新議長Lina Khan(リナ・カーン)氏に宛てた書簡で両氏は、Teslaが2019年にYouTubeの同社チャンネルにポストしたビデオを問題視している。Teslaの自動運転を見せるそのおよそ2分のビデオは「Full Self-Driving」(完全な自動運転)と題され、1800万回以上視聴された。

両議員によると「同社の主張はTeslaのドライバーと、旅をするすべて人たちを重傷や死の危険にさらしている」という。

Teslaと公式の調査は、雨が降れば土砂降りになるといった関係だ。例えばこの書簡が発表されたわずか2日前には、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が、Tesla車が駐車している緊急車両に衝突した事件の予備調査を開始している。

関連記事:米当局がテスラのオートパイロット機能を調査開始、駐車中の緊急車両との衝突事故受け

リナ・カーン氏は、これまで最も若いFTCの議長だ。彼女は多くの人たちから、反トラスト法で学位を持つことなどから、近年で最も先進的な起用だと考えられている。しかしFTCがTeslaを調査することになったら、そのケースは反トラスト法と何ら関係がなく、むしろ消費者保護に該当することになる。製品に関する企業の、偽のあるいは誤解を招きかねない主張の調査は、確かにFTCの守備範囲だ。

Teslaの主張に対してFTCに公開調査を求めた著名人や機関は、今回が初めてではない。2018年には、2つの特定利益団体Center for Auto SafetyとConsumer Watchdogが、やはり同委員会にAutopilot機能のマーケティングに関して書簡を送った。2019年には上記交通安全局がFTCに、TeslaのCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏によるModel 3の安全に関する主張が「不公正または欺瞞的に相当しないか」調査するよう主張した。

Teslaの「Full Self-Driving」(完全自動運転)は、代価の一部またはサブスクリプションとして1万ドル(約110万円)を課金される。現在、同社はそのバージョン9のベータテストを数千名のドライバーで行っているが、上院議員たちはベータも対象にしている。「ベータ9へのアップデートの後でドライバーたちはビデオをポストしたが、それによると、アップデートされたTesla車は予想外の動作をして、衝突を防ぐためには人間の介入を必要とした。マスク氏がソーシャルメディア上に目立たないように置いた生ぬるい警告は、ドライバーを誤導し、路上の全員の命を危うくしたことの言い訳にはならない」という。

カテゴリー:モビリティ
タグ:民主党Tesla自動運転FTCオートパイロット

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hiroshi Iwatani)

FTCがビッグテックの聖域「不法な修理制限」の調査と政策立案を開始

スマートフォンやその他の消費者製品が機能を増していくにつれて、それらはますます修理しづらいものになっていく。その不名誉な集団のトップにいるのがApple(アップル)だ。FTCもこの点に留意し、同機関がこの問題に関して手ぬるかったことを認めているが、しかし今後は、消費者が自分の所有物を修理、改造、および再利用するやり方に対する企業の違法な制限をより重視していく、と言っている。

現在のデバイスは、容易な修理や改造への配慮なく作られていることが多く、かつては定番だったRAMの増設や電池交換などのアップグレードさえできない製品もある。Appleのような企業は、ある部分に関してはハードウェアを長期にサポートしていることが多いが、ただし、たとえば画面の破損に対応するとはいっても、その修理をしてもよいのは、メーカー自身に限られている。

それは多くの点で問題だ。iFixitの創業者で修理する権利の活動家であるKyle Wiens(カイル・ウィーンズ)氏は、活動声明を誇らしげにブログに載せるだけでなく、この問題に関して長年、一貫して闘ってきた。FTCはこの問題に関するコメントを2019年に募集し、数カ月前に報告書を発行した。そして今回発表したのは政策声明だ。これらはおそらく新委員長Lina Khan(リナ・カーン)氏の、ビッグテック企業の姿勢を正すためなら何でもやる、という方針の表れだろう。

関連記事
iPhoneなどの分解で人気のiFixitが医療機器の修理マニュアルのデータベースを無料提供中
マサチューセッツ州の有権者が自動車データへの前例のないアクセス権限を与える「修理する権利」法案に賛成

全会一致で可決された政策声明の骨子は、修理を意図的に制限する慣行は重大な結果を招きかねないとする所見だ。被害が及ぶのは例えばかつては簡単な修理で済み、今でもそうであるべき故障の修復に対して、お金のない人でも一律に払わなければならないアップル税が、そんな問題の1つの例だ。

修理の制限に関する委員会の報告書は、これらの問題を数多く探究および議論して、修理の制限が家族や企業にもたらしている苦難を記述している。委員会が懸念するのは、この重責を負担する者が有色や低所得に代表される、恵まれない人びとのコミュニティであることである。テクノロジーへの依存がかつてなく大きくなっている消費者社会においては、パンデミックがこれらの負の効果をさらに激化している。

不法な修理制約は長年、委員会が優先する執行事項ではなかったが、委員会はこのたび、これらの慣行と闘うために、より多くの執行原資を投ずることになった。したがって今回委員会は、関連法に基づいて、不法な修理制限に対する調査を優先する。

そして声明は、4つの基本点を挙げている。まずそれは、不法で問題ある修理制限と感取されるものを消費者やその他の公共団体が報告し、その性格を明らかにする必要性を、改めて繰り返している。FTC自身が自発的に企業に出向いて調査するのではなく、Facebookによるユーザーデータの誤用の場合のように、当事者の苦情から調査などが始まる。

第2は、意外にも反トラストとの関係だ。FTCによると、修理制約が、消費者を特定の排他的なデザインに束縛する独占的な慣行の一部ではないか、検討する必要がある。それには、消費者による自由なアップグレードを拒否したり、ストレージやRAMの増設で法外な料金を請求したり、競争がありえないほどの設計やデザインにしてしまうなどの慣行が関与している。あるいはまた、ねじ1つ取り外しただけで保証対象外にされたり、デバイスをサードパーティの修理に持ち込むことを禁じたりすることも、この問題の関連項だ。もちろんこれらに関しては、企業の独占状態や市場力の確立との関係が立証されなければならない。それは従来FTCにとって、困難な課題だった。

第3に、商行為に対するFTCの通常の規制としては、修理制約が「不公正な行為ないし慣行」であるかを評価する。それは、独占とは特に関係なく、範囲が広くて応じることも容易な要求だ。「オープン・スタンダード」が人に誤った印象を与えることを主張するのに、独占は必要ない。あるいは、サードパーティアプリや周辺機器の動作を遅くするための隠された設定がある、という主張に対しても、独占を持ち出すことはない。

委員会が言及している最後の4つ目の項目は、新しい規制や法律を施行するために必要な州との協力だ。それは、2020年マサチューセッツ州で成立した先駆的な法律「修理権法」に言及しているのだろう。今後の失敗も成功もすべて考慮の対象となり、国と州の政策立案者らが、互いを比較しあうことになる。

関連記事:アップル公認サービスプロバイダ以外で純正パーツを使った修理がMacでも可能に

こういう動きは前にもあったが、でも、いちばんわかりやすいのが今回だろう。これまでのテクノロジー企業は壁に書かれた落書きを読まされ、独立の修理プログラムの拡張みたいなことをやってきたが、しかし今回のアクションは、この問題に対するFTCの強硬路線が期待されている中で作成された政策声明だ。

FTCはここで、手の内をすべて明かしてはいない。しかし、関連する企業がこれまでのような運を信じて卓につく気なら、お相手しましょうと言っている。今後委員会は、消費者の苦情の収集と消化を開始し、修理の状況がよく分かってくれば、その手の内ももっと具体的になるだろう。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:FTC修理する権利

画像クレジット:boonchai wedmakawand/Getty Images

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

フェイスブックがFTCのリナ・カーン委員長を独禁法違反訴訟から除外するよう要求

Facebook(フェイスブック)がAmazon(アマゾン)の仲間に加わって、反トラストのタカ派であるLina Khan(リナ・カーン)氏が突然FTCの委員長になったことに警戒を示し、氏を同社に関するすべの決定から外すよう要求した。その主張はAmazonの場合とほぼ同じで、就任前のカーン氏のプロフェッショナルとしての意見が、このような企業は反トラストのルールに違反しているという、あまりにも過激なものだった、と両社は述べている。

関連記事:アマゾンがFTCの新委員長と独占禁止強硬派のリナ・カーン氏の辞任を求める嘆願書を提出

今回はFTCに提出された書簡をWSJが入手したが、FTC自身はコメントを断っている。書簡でFacebookは、カーン氏の最近数年間の学術的刊行物や他のメディア上の記事は、すべてが積もり積もって、氏を同社に関する決定から排除すべき根拠になる、と述べている。現在、Facebookに陳情書のコピーを求めているため、届き次第この記事をアップデートしたい。

WSJの記事によると、陳情書では次のように述べられている。「カーン委員長は一般的に公表される声明の中で一貫して、弊社自身が認めていない行為でFacebookを非難するだけでなく、その行為が反トラストの侵害に該当するという彼女の信念を述べてきた。新しい委員がすでに事実と法に関する結論を描き、ターゲットを事前に違法者と見なしているとき、デュープロセス(適正手続)はその個人が自己を除外することを要求している」。

FTCとカーン氏には、FacebookとAmazonからの除外要求に応じる能力がない。彼女は自分の指名議事の中で、このような除外要求があった場合にはケース・バイ・ケースで解決するとと述べている(金銭的ないし個人的関心なら自動的な除外になる)。おそらく彼女は今すでに、部内の倫理専門家と相談しているのではないだろうか。

たしかにカーン氏は、自らの政策の立ち位置を多くの記事や論文で発表してきた。その多くは、反トラストの規制当局が自分たちの法的権力の解釈と実行においてあまりにも保守的で、また、今日隆盛を極めている巨大テクノロジー企業の監督においてはあまりにも甘いと論じている。競合他社を買収したり、価格を人為的に下げて市場に圧力を加えたり、顧客データの収集と利用に関して虚偽を述べたりといった行動は、見逃されたり過小な罰で済まされていた。

特に彼女は、下院が2020年秋発行した反トラスト報告書で顧問弁護士を担当している。1966年から1970年までの事件ではAmazonとFacebookの圧力でFTCの委員が、彼が参加した議会の調査の間に「偏見」で除外された。たしかにそれは、訴えを取り上げるための有望な契機にはなるが、状況は決して当時と同じではない。私は法律家ではないがそんな私から見ても、今やいかなる訴えも、具体的な申し立ても事前審理すら為されず、ただFacebookやApple、Google、Amazonなどはすべて独占であるか、または市場に対する力を持っているという一般的な風説があるだけだ。そのため下院の2020年の報告書も、彼らにとっては痛くも痒くもない。

むしろ下院の報告書が見つけたメインの事項は、既存の法と規制が不備があり、いかなる訴訟もありえないということだ。確かにカーン氏はここ数年、まさにこのことを屋根の上から叫んできた。でもその結論は法律の問題であり、FTCの仕事ではない。まだ書かれてもいない法律が定義している反トラストの訴訟をカーン氏が事前審理することは、おそろしく難しいだろう。

カーン氏のFTCは、同委員会が抱えていたFacebookに対する反トラストの訴件の一部が棄却され、彼女の就任直後という初期にやや躓いたが、しかしそれは彼女のせいではない。それは、Facebookがソーシャルメディアを独占的にコントロールした、という訴件に十分な証拠がないため、判事がFTCにもう一度出直せと告げたものだ。それに対しカーン氏の意図は、補足文書を提出するか、または負けを認めて来年か再来年の別件のために力を結集するかのどちらかだろう。しかしいずれにしても、彼女に対して言われている「偏見」の問題を解決してから決定を発表するのがベストだ。なお、除外要求が現在行われている訴訟に影響を及ぼすか、という推測をFTCは断った。

関連記事:フェイスブックに対する米連邦取引委員会の独禁法訴訟は棄却、しかし完全には敗訴せず

しかしFTCは、バイデン大統領の大統領命令という形で、ホワイトハウスから明示的な支持を得た。大統領令が優先的に取り上げているのは「支配的なインターネットプラットフォームの、特に若い競合他社の買収や連続的な合併、データの集積、『無料』のプロダクトによる競争、そしてユーザーのプライバシーへの影響」だ。これでカーン氏もおそらく前述の法的チャレンジに対してあまり痛みを感じないだろう。

AmazonとFacebookが提出した陳情は、同社自身がひとかけらもリスクを負わない(訴訟ではない)ものであり、単純に除外の挑発という外部的チャンスに賭けている。だから、陳情という形になっているのであり、それは彼らが今後必然的に独占的慣行をFTCとカーン氏から訴えられた場合に備えるパン屑でもある。法的反動は予測が難しいが、通常は訴状が最初からテーブルの上にあった方が後から持ち出すよりも良いというわけだ。

カーン氏の委員長着任により、FTC自身も改革が必要であり、Facebookのような企業を相手にできるだけの強さが必要だ。そして、これが、今後の長い々々勝負の最初の一手にすぎないことは、誰の目にも明らかだ。

関連記事:バイデン氏がビッグテックの「悪質な合併」阻止目指す大統領令に署名、過去のM&Aにも異議の可能性

カテゴリー:ネットサービス
タグ:FacebookFTC独占禁止法アメリカ

画像クレジット:TechCrunch

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

バイデン氏がビッグテックの「悪質な合併」阻止目指す大統領令に署名、過去のM&Aにも異議の可能性

バイデン政権は米国経済の一部の寡占化が進む分野、中でもハイテク業界に、大統領令によって強制的に競争を導入する大規模かつ野心的な計画を発表した。

「バイデン大統領は本日、企業統合の傾向を緩和し、競争を促進して、米国の消費者、労働者、農家、中小企業に具体的な利益をもたらすために、断固たる措置をとります」と、ホワイトハウスが公表した今回の大統領令に関するファクトシートには記されている。

バイデン氏が米国時間7月9日に署名したこの大統領令は、連邦レベルで12以上の異なる機関を巻き込み独占を規制し、消費者を保護し、世界最大級の企業の悪行を抑制するという、包括的な「政府一丸」のアプローチを開始するものだ。

このファクトシートの中でホワイトハウスは、大企業を取り締まる問題を連邦レベルで自らの手で解決しようとする計画を掲げている。テック分野に関しては、反トラスト法の施行権限を持つ連邦機関であるFTC(連邦取引委員会)と司法省の力を強めることが主な目的だ。

すでに規制の脅威にさらされているビッグテックにとって最も注目すべき点として、ホワイトハウスはここで、これらの機関は「過去の政権が以前に異議を唱えなかった悪質な合併に異議を申し立てる」法的手段を持っていると明確に主張している。つまり、一握りのハイテク企業を今日の巨大企業に育て上げた過去の買収案件を巻き戻す可能性があるということだ。大統領令は、反トラスト法を「精力的に」執行することを反トラスト当局に求めている。

連邦政府の監視は「支配的なインターネットプラットフォームに焦点を当て、とりわけ新興の競合企業の買収、連続的な合併、データの蓄積、『無料』の製品による競争、ユーザーのプライバシーへの影響などに注意を払う」としている。Facebook(フェイスブック)、Google(グーグル)、Amazon(アマゾン)が特にこの警告の矛先だが、Apple(アップル)も連邦政府の注意を免れることはできないだろう。

ホワイトハウスはファクトシートの中でこうも述べた。「過去10年間で、大手テクノロジー企業は数百社を買収しており、その中には潜在的な競争上の脅威を排除するための『キラーアクイジション』と呼ばれるものも含まれている。連邦政府機関は、これらの買収を阻止したり、条件を付けたり、場合によっては意味のある調査さえしなかった場合があまりにも多かった」。

最大手のテック企業各社は、競合他社を買収するという長年の戦略を当時は何の摩擦もなく行うことができたため、後から違法と見なすべきではないと主張してきた。しかし、今回の大統領令は、バイデン政権がそれを認めていないことを明確にしている。

関連記事:グーグルがGoogle Playの課金をめぐり大規模な反トラスト訴訟に直面

ホワイトハウスはまた、インターネットサービスプロバイダー(ISP)を具体的に挙げ、消費者の選択を優先し、速度の上限や隠れた料金を明記したブロードバンドの「栄養ラベル」を制定するようFCCに命じている。こうしたラベルはオバマ政権下でFCCが取り組み始めていたが、トランプ大統領の就任後に廃止された。

大統領令はさらに、2017年に撤廃されたネット中立性ルールを復活させることをFCCに直接求めている。ルール撤廃の動きは、オープンインターネットの支持者や、恩恵を受けることになるサービスプロバイダー以外のテック業界のほとんどに広く恐怖を与えたものだった。

また、ホワイトハウスはFTCに対し、FacebookやYouTubeなどの無料サービスが巨大な帝国を築くために利用してきた、監視や「非常に多くのセンシティブな個人情報の蓄積」から消費者を守るための新しいプライバシールールを作成するよう要請する予定だ。ホワイトハウスはFTCに対しさらに、大規模なプラットフォームの寡占により成長を抑制されないよう、中小企業を保護するためのルールを策定するよう求めている。大企業は新進気鋭の競合他社を打ち負かすために、別の形のデータに基づいた監視で市場の優位性を乱用するケースが多いからだ。

最後にこの大統領令は、DIYや第三者による修理を阻害するような制約から消費者を解放する「修理する権利」ルールを導入するようFTCに促している。国家経済会議(NEA)長官の下に新設されたホワイトハウス競争評議会(White House Competition Council)は、新大統領令で示された提案を連邦政府が実行するための調整を行うとのこと。

関連記事
マサチューセッツ州の有権者が自動車データへの前例のないアクセス権限を与える「修理する権利」法案に賛成
巨大テック企業を規制する米国の新たな独占禁止法案の方針

行政府の反トラスト法への取り組みは、FTCや議会での活動と並行して行われている。FTCサイドでは、バイデン大統領はLina Khan(リナ・カーン)氏という恐れられている反トラスト運動家を任命した。カーン氏はAmazonを激しく批判する若い法学者であり、連邦政府が独占を定義する方法を哲学的に見直すことを提案している。同氏は現在、委員長としてFTCを率いている。

米国議会では、テック業界を抑制することを目的とした超党派の法案が、多くのハードルを残しながらも法制化に向けて徐々に動き出している。2021年6月に下院司法委員会は、ハイテク業界のロビー活動に対抗するために別々に作成された6つの法案を審議した。これらの法案は、巨大なインターネットベース企業の現代のリアリティに対応できていない独占禁止法を近代化しようとするものだ。

今回の大統領令について、ハイテク分野の反トラスト法改革を主導しているAmy Klobuchar(エイミー・クロブシャー)上院議員はこう述べている。「米国の独占問題に対処するためには、競争政策に新たなエネルギーとアプローチが必要です。それは、独占禁止法を更新するための法律を制定することを意味しますが、同時に、現行の法律の下で競争を促進するために連邦政府ができることを再考することも意味します」。

ホワイトハウスは、ここ数十年で企業統合が加速していることを挙げ、ひと握りの大企業が医療、農業、ハイテクなどの業界を支配しており、消費者、労働者、中小の競合企業は、それら大企業の過剰な成功の代償を払っていると主張している。バイデン政権は、これらの産業の一角にある企業に対して独占禁止法の執行に力を入れるとともに、労働市場や労働者保護を全体的に評価していくという。

「不十分な競争は、経済成長とイノベーションの妨げとなります。【略】経済学者たちは、競争が減ると、生産性の伸びが鈍化し、企業投資やイノベーションが減少し、所得、富、人種の不平等が拡大すると指摘しています」とホワイトハウスは述べている。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:ジョー・バイデンアメリカ反トラスト法FTC

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

原文へ

(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Aya Nakazato)

アマゾンがFTCの新委員長と独占禁止強硬派のリナ・カーン氏の辞任を求める嘆願書を提出

Amazon(アマゾン)が、新任のFTC委員長で、同社を容赦なく批判しているLina Khan(リナ・カーン)氏を同社関連の決定から外すよう陳情している。同社は、Amazonに対する規制にこれまで失敗してきたことを批判する彼女の言葉遣いがあまりにも感情的であり、問題を公正に取り扱うことができない、と主張している。

カーン氏が外されるかどうかは、FTCが決めることであり、監督委員会が判定する。FTCの広報担当者は、この問題に関するコメントを拒否した。

Amazonの陳情書を以下に引用したが、同社の言い分は、彼女の委員長着任確定前のAmazonに対する批判はあまりにも言葉が過ぎており、同社に関する問題を客観的に検討する彼女の能力を疑わせるに十分であるというものだ。

同社に関するカーン委員長の結論をAmazonは強く否定するが、彼女が以前の役割において長々と挑発的に語ったことの権利は否定しない。しかし彼女の、Amazonに関する詳細な意見表明の長い履歴と、Amazonが反トラスト方に違反したとする度重なる宣言からは、合理的な観察者であれば、彼女はもはや同社の反トラストに関する弁護を公平に検討することができないと結論するだろう。

しかし「合理的な観察者」は同じく、世界最大で最強企業の1つであるAmazonが、現在の反トラスト法は不適切であり古いというプロとしての意見を持つエキスパートの、分析の対象に当然なることは否定できないだろう。

そしてそういうプロフェッショナルだからこそ、彼女は指名され、突如FTCの委員長の座に上ることになったのだ。彼女の論文「Amazon’s Antitrust Paradox」(アマゾンの反トラストのパラドックス)は、オンラインサービス大手に対する復讐状ではない。彼女によるとそれは、まるで独占を法律で認めているような、反トラストの古びた考え方に対する告発状だ。

Amazonはそのための標的の1つだったかもしれないが、しかし実際には同社は、カーン氏がその説得力に富む数多くの論文や記事で主張している、消費者の被害と利益の狭い定義にばかり拘泥する規制に関する古い学派を表すスタントマンだ。企業が消費者の利益に反した行いをする例は、他にもある。たとえば買収した企業のコストを助成して、安売り競争の先頭に立たせ、競争を無にしてその市場を支配するやり口は、Amazonのビジネスモデルの常套手段だ。

関連記事:ワシントンD.C.の司法長官がアマゾンを「オンライン小売市場の競争を阻害している」と提訴

しかも、FTCの委員長という地位は、完全な公平性などではなく、リーダーシップとプライオリティの設定が期待されている。公平性はあくまでも司法のテーマであり、例えば企業のやったことが違法か否かが問われる。判事が長年固執していた意見などの出番はない。カーン氏がプロとして公開し表明してきた意見についても、同様だ。彼女がAmazonに敵対するFTCの捜査や審理を指揮するとしたら、彼女は事実と系統的な議論に基づいて、自分の法解釈をサポートしなければならない。

若いカーン氏をいきなり抜擢した現政権の意図は、推察するしかないが、彼女が主張していた哲学と変化に対する心からの支持表明があったことは間違いない。

反トラストに関するカーン氏の専門家としての能力と観点は、Amazonを映画の悪役に仕立ててしまう。カーン氏が偏執狂的な改革運動家だからではなく、Amazonが規制の史上最大の失敗を表しているかもしれないからだ。それを指摘したことは、Amazonが陳情で求めている「カーン外し」の根拠にはならないが、歴史を作る土台にはなるかもしれない。

下図は、Amazonの陳情書の全文となる。