ワイヤレス充電が可能なUVスマホ除菌器、Mophieが約8600円で販売

UV(紫外線)によるスマートフォン除菌器を発売するのに最適な時期は、約5カ月前だった。しかし、いまが遅すぎるというわけではない。新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが本格的に世界へと広がり始めたとき、PhoneSoapのような企業によるかつてはかなりニッチだったUV除菌器が、大ヒットした。

実際、スマートフォンがどれだけ病気の媒介者になりうるかを多くの人々が初めて認識し始めたときには、製品はあちこちで完売していた。以上のことから、このカテゴリーは多くのアクセサリーブランドにとってかなり論理的な次のステップだ。

米国時間6月25日、Mophie(モーフィー)とInvisibleShield(インビジブルシールド)が除菌分野に参入した。価格はそれぞれ80ドル(約8600円)と60ドル(約6400円)で、主な違いは10Wのワイヤレス充電パッドが搭載されているかいないかだ。これは製品のフタ部分に搭載されている。つまり、消毒しながらの充電はできない。

どちらも6.9インチまでのスマートフォンを波長が280nm未満のUV-Cライトで消毒し、細菌の99.9%までを死滅させられるとうたっている。ただしPhoneSoapの製品と同じく、両ブランドとも自社の製品が新型コロナウイルスを殺すことができるとは主張していないことは注目に値する。この点についてはまだ結論は出ておらず、プレスリリースにも言及は見当たらない。このような製品を所有していても抗菌シートを持ち歩くことを強くお勧めする。

なお、どちらの製品もそれぞれの公式サイトで購入可能だ。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

ソフトバンク本体が出資の独フィンテック企業Wirecardが破産申請、不正会計で債務超過

不正会計が疑われているドイツの決済サービス企業であるWirecard(ワイヤーカード)の信用は完全に失墜した。ドイツ時間6月25日、同社は「切迫した破産と債務超過」のために、ドイツ法人Wirecard AGがミュンヘン地方裁判所に破産手続きを申請すると発表(Wirecardリリース)した。6月30日が支払い期限となっている8億ユーロ(約960億円)と7月1日が期限の5億ユーロ(約600億円)の貸付金について貸し手側との協議がまとまらず、同社は「事業継続能力は保証されない」とする声明も出した(Wirecardリリース)。

同社はまた「暫定破産のもとでの再建を望む」とも述べた。一方で、Wirecard  Bank AGは申請には含まれていない。「BaFin(金融サービス監視当局)はすでにWirecard Bank AGの特別担当を指名した。今後は、Wirecard Bankの全決済の発表プロセスはグループレベルではなく同行内で行われる」。

Wirecardの破綻は、同社の債務返済期限が迫っているという状況に加えて、新型コロナウイルスのパンデミックのために全世界が不況に直面している中でのものだ。パンデミックは多くの産業に連鎖反応を引き起こした。一部の企業は繁盛していても、その他の企業は事業を完全に停止したり、事業を縮小したりしていて、これは決済手数料で稼ぐというビジネスモデルを取っている企業に直接的な影響をもたらす。

ソフトバンクからの出資を受けている上場企業のWirecardは、Wirecard Groupの子会社にも破産手続きを適用すべきか決めかねている。Wirecardはオンラインと店頭での決済サービスをドイツ国外の小売事業者に提供している。直近ではメキシコに子会社(Wirecardリリース)を設立し、そのほか28都市にオフィスを置いている。

上場しているドイツ証券取引所での同社の株価は6月25日、前日の下げに続いて77%近く急落し、時価総額は3億5000万ドル(約375億円)となった。Enron(エンロン)と同じ構図の破綻だ。ソフトバンクが昨年10億ドル(約1070億円)を出資した当時、Wirecardのバリュエーションは190億ドル(約2兆365億円)ほどだった。

破綻のニュースは残念だが驚くものではない。同社監査人のErnst & Youngが21億ドル(約2250億円)もの不明金に気付き、その後、前CEOのMarkus Braun(マークス・ブラウン)氏が詐欺容疑で逮捕されるなど、かなり激動の週となっている。

先週以前から同社に注意を払っていた人なら、ここ数カ月の動きも思い出すかもしれない。KPMGが主導し、4月に公開された別の調査(Wirecardリリース)では「バランスシートを操作したという告発を裏付ける証拠は見つからなかった」と結論づけている。

Wirecardは、大損となっているソフトバンクの数多くの投資案件の1つだ。テックと投資の日本の大企業ソフトバンクは2019年4月にWirecardに10億ドルを投じた(未訳記事)。

トラブル続きのWeWorkやUberを含め、うまくいっていない他の案件と異なり、Wirecardへの投資はビジョンファンドではなく、ソフトバンクグループからのものだった。Uberは、未公開企業だったときにソフトバンクや他の企業から期待されたバリュエーションを上場後も達成できていない。

Wirecardは損失や経営状況をオフセットすることができず、破綻することとなった。同社は数多くの顧客を抱えており、Olympus(オリンパス)、Getty Images(ゲッティ・イメージズ)、 Orange(オレンジ)、KLM(オランダ航空)などが含まれている。

画像クレジット: Christof STACHE/AFP / Getty Images

関連記事:独フィンテック企業Wirecardの前CEOが詐欺容疑で逮捕、約2240億円が不明に

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(翻訳:Mizoguchi

AWSのノーコードツール「Amazon Honeycode」はなぜ生まれたのか?

米国時間6月24日、AWSはAmazon Honeycode(アマゾン・ハニーコード)を リリースした。これはAmazon(アマゾン)クラウドサービスへのちょっとした迂回路を提供する、スプレッドシートのようなインターフェースを中心に構築されたノーコード環境だ。

結局のところAWSの目的は、開発者にアプリケーションを構築するために必要なすべてのツールを提供することだが、最終的には開発者がすべての要素を組み合わせなければならない。

一方でHoneycodeは、基本的な業務アプリケーションを開発したい非プログラマーにアピールすることを目的としている。もしスプレッドシートの操作方法を知っていて、それをアプリにしたい場合には、Honeycodeが要求に応えてくれるだろう。

このサービスの背後にあるAWSの動機を理解するために、AWSのVPであるLarry Augustin(ラリー・オーガスティン)氏とAWSのゼネラルマネージャーであるMeera Vaidyanathan(ミラ・ベイディアネイサン)氏に話を聞いた

「私たちにとって、これはAWSのパワーをお客さまの中のより多くのユーザー方々に拡大することなのです」とオーガスティン氏は説明する。「私たちはお客様から、常に解決したい課題があるのだという声を聞いています。そうしたお客様は、ご自身のITチームや、アウトソーシングを含む他のチームに対して、その課題を解決するアプリケーションの開発を任せたいとお考えです。しかし、問題はそれを解決できる開発者の数よりも、カスタムアプリケーションへの要求数の方が、とにかく上回っているということなのです」と続ける。

画像クレジット:Amazon

そうした点ではHoneycodeの背後にある動機は、Microsoft(マイクロソフト)がPowerAppsローコードツールで行っていることとそれほど異なっているわけではない。PowerAppsも結局のところ、Azureプラットフォームを必ずしもフルタイムの開発者ではないユーザーに開放するものなのだ。しかし、AWSはここでは少しだけ異なるアプローチをとっていてHoneycodeのノーコードの部分を強調している。

「Honeycodeに対する私たちの目標は、ビジネスの中心で基幹業務に関わる人、ビジネスアナリスト、プロジェクトマネージャー、プログラムマネージャーといった人たちが、自分たちの問題を解決できるカスタムアプリケーションを、コードを書く必要なく、簡単に作成できるようにすることでした」とオーガスティン氏は語る。「それが重要な要素でした。コーディングは必要とされていないのです。そこで私たちは、出発点として多くの人々がなじみのあるスプレッドシートのようなインターフェースを提供することで、それを実現することを選択しました」。

多くのローコード、ノーコードツールたちは、開発者に「コードに逃げ込む」(オーガスティンの言葉)ことも許すが、それはここでは意図されていない、例えばHoneycodeからコードをエクスポートして他の場所に移動するためのメカニズムは存在していない。

「Honeycodeを開発しているときに、私たちの心をよぎったのは、ああ、もし人々にやりたいことがあって、私たちが彼らにコードに逃げ込むことを許すことでそれ実現できるようになるのならという考えでした。私たちは何度も振り出しに戻って『うーん、じゃあどうやってコードに逃げ込むことを強制せずにそれを可能にできるのだろう』という問に答えようと努力し続けたのです。そこで私たちは、コードに逃げ込むことなく、大きな力を人びとに与えたいというマインドセットへと、自分たちを真剣に追い込んだのです」と彼は述べた。

画像クレジット:Amazon

とはいえ、経験豊富な開発者が他の場所からデータを取り込むためのAPIは用意されている。オーガスティン氏とベイディアネイサン氏は、企業たちがプラットフォーム上のユーザーのためにこれを行うか、AWSパートナーがこれらのインテグレーションを作成することも期待している。

ただし、こうした制限があったとしても、かなり複雑なアプリケーションを作成できるとチームは主張している。

「私たちはAmazon内で、さまざまなアプリを構築している多くの人々と話し合ってきました。そして私たちのチームの中でさえ、私は正直に言えば、まだ不可能だと思える事例に出会ったことはありません」とベイディアネイサン氏は言う。

「複雑さのレベルは、あなたがビルダー(構築者)としてどれくらいの専門家であるかどうかに本当に依存していると思います。アプリの中でデータを特定の形式で表示しようとすると、(スプレッドシートの中に)非常に複雑な式が現れることがあります。そして、決して作り話ではありませんが、入れ子に入れ子がひたすら重なって30行にも及ぶ複雑な式を書く人を見たこともあります。ですから、それはビルダーのスキルに依存していると私は本当に思っています。また、一度Honeycodeでビルドを開始すると、私自身もそうですが、単純なものから始めてだんだんと野心的になって、このレイヤーを追加したい、そしてあんなこともしたい、という具合になることに気が付きました。それは本当に私が目にしてきた、ビルダーたちの進歩の旅なのです。たった1つのテーブルと2、3の画面から始めて、意識しないうちに、ニーズに合わせて進化し続けるはるかに堅牢なアプリが得られるのです」。

Honeycodeを際立たせるもう1つの機能は、スプレッドシートがユーザーインターフェイスの中央に配置されることだ。そうした点からは、このサービスはAirtableのように見えるかも知れないが、その先それぞれのスプレッドシートがまったく異なる方向へ向かっていくことを考えると、見かけ上の比較は意味がないと思う。Retoolも比較の観点からも眺めてみた。こちらの方がより意味のある比較だと思う。しかしRetoolが相手にしているのはもっと高度な開発者であり、コードを隠すこともしない。とはいえ、これらのサービスがスプレッドシートを中心に構築されたのには理由がある。それは、誰もがそれらの使用方法に精通しているからだ。

「人びとは何十年もの間スプレッドシートを使用してきました」とオーガスティン氏は語る。「誰でも良く知っています。また、非常に複雑で、深く、非常に強力な式を記述して、とても強力なスプレッドシートを作成することができます。Honeycodeでも同じことができるのです。人びとがその比喩に十分に精通していることを私たちは感じたので、それをアプリに変える能力とともに、そのフルパワーを彼らに与えることができたのです」。

チーム自身もHoneycodeのリリースを管理するために、そのサービスを利用しているということを、ベイディアネイサン氏は強調した。そして製品名を投票するためにも用いたことも(ベイディアネイサン氏とオーガスティン氏は他にどんな候補があったのかは明かしてくれなかったが)。

「AWSの力を引き出し、それをプログラマーではない人びとの手に渡せるという点で、私たちはある意味、本当に革新的な製品を手に入れたのだと思います」とオーガスティン氏は語った。

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(翻訳:sako)

孫正義氏がアリババの取締役会を去りソフトバンクグループの投資戦略を擁護

ソフトバンクグループの創業者である孫 正義氏は6月25日、Jack Ma(ジャック・マー、馬雲)氏率いる中国のeコマース大手のAlibaba Group(アリババグループ)の取締役会を去ると声明した。これは、マー氏がソフトバンクの取締役会を去ってから1カ月後の出来事になる。

孫氏は今回の動きを、これまでで最も成功した投資先であるアリババグループの取締役会からの「卒業」だと捉えていると説明した。またここ数週間、世間からの批判や嘲笑の対象となっていた日本グループの投資戦略を擁護するために迅速に動いたと言える。

孫氏によると、ソフトバンクグールプの株価は新型コロナウイルスの感染拡大前のレベルに回復している。同社は、アリババグループやT-Mobileと合併後のSprintの株価上昇から利益を得ており、同氏によるとソフトバングールプは25%の内部収益率(Internalrate ofReturn、IRR)があるとのこと。内部収益率とは、VCが用いる投資効率判定測度のひとつだ。

本日行われた株主総会で孫氏は「ソフトバンクは『終わった』と考えている人が多く、いまや『ソフトパンク』と呼ばれていることに困惑している」と語った。日本語のパンクは、壊れている、敗れているという意味だ。しかし彼によると、すべてを合わせるとソフトバンクの株主が保有している価値は2180億ドル(約23兆3870億円)に相当する。

孫氏の主張によると、彼は2005年以来その席にあったアリババグループの取締役会を友好的に去るのであり、同氏とマー氏との間にはいかなる意見の相違もない。

今回の孫氏の決定の前月には、アリババグループの共同創業者であるマー氏が13年在籍したソフトバンクの取締役会を去っている。20年前に孫氏がアリババに2000万ドル(21億4560万円)を投資したことは有名な出来事だ。今年初めにソフトバンクは1000億ドル(約10兆7280億円)相当のアリババの株を保有していた。

ソフトバンクの最近の投資は、その対象が絞りきれていないことが投資の世界を不安がらせた。巨額な小切手を書くことで知られている同社は、ライドシェア大手のUberやオフィススペースを管理するWeWork、およびそのほかの多様なスタートアップへの投資が同社が望んだリターンを提供していないことを公言していた。

しかも、インドの低価格ホテルOyoなどいくつかの投資先企業はパンデミックの被害が大きかった。T-Mobileの株を売って200億ドル(約2兆1450万円)を調達した孫氏は「最近のそのほかの取引も合わせるとソフトバンクは350億ドル(約3兆7500億円)を積み上げており、それは投資売却計画額の80%に相当する」と語った。

画像クレジット: Kiyoshi Ota/Bloomberg/Getty Images

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

アップルが自社デバイスのリモート管理を支援するFleetsmithを買収

IT部門が従業員のデバイスの設定や管理をリモートで支援しなければならない時代には、プロセスを簡素化するサービスが役立つことは間違いない。Apple(アップル)はそれを認識しており、米国時間6月24日に企業がアップル製デバイスの設定や管理を支援するスタートアップであるFleetsmith(フリートスミス)を買収した。

アップルは買収を公表していなかったが、TechCrunchが取引を確認し、またFleetsmithも会社のブログ記事で取引を発表した。なお、どちらの企業も買収価格を公表していない。

このスタートアップは、アップルのDevice Enrollment Programを活用した技術を構築しており、従業員がデバイスを箱から出して電源を入れると、すぐにIT部門がオンラインで確認できるようにしている。

昨年の3000万ドル(約32億円)のシリーズB資金調達時に、CEOのZack Blum(ザック・ブラム)氏は同社の中核的な価値について「顧客は従業員に直接デバイスを配給できる。箱を開封してWi-Fiに接続すると、デバイスは自動的にFleetsmithに登録される」と説明していた。

Fleetsmithはデバイス登録の自動化以外にも、OSやセキュリティアップデートでデバイスを自動的に更新したり、IT部門が管理下にあるすべてのデバイスのステータスをダッシュボードで見られるようにしたりするなど、便利な機能を洗練されたインターフェイスとともに追加してきた。

アップルはおそらく、同社のデバイス管理部門をリードするJamfと協力を続けるだろうが、多くの従業員が自宅で仕事をしなければならない今、今回の買収はアップルにリモート管理の選択肢を与えることになる。

ブログ記事によるとFleetsmithは、Menlo Ventures、Tiger Global Management、Upfront Ventures、Harrison Metalなどの投資家から4000万ドル(約43億円)以上の資金を調達しており、今後も同社のウェブサイトを通じて製品を販売していくという。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

AWSがコードを書かずにウェブとモバイルのアプリが作れるAmazon Honeycodeを発表

米国時間6月24日、AWSはAmazon Honeycodeのベータ版をリリースしたことを発表した。これはコードをほんのわずか、もしくはまったく書かかずにアプリを作れるオンラインマネージド開発環境で、企業内で専用アプリを必要とするが自分で開発するリソースやスキルを持っていない人々の要望に答えるものだ。これを可能にしたのは自身の巨大データベースを誰でもドラッグ&ドロップで利用できるようにしたAWSのインターフェイス作成ノウハウの蓄積だという。

デベロッパーは、ユーザー20人までのアプリなら無料で開発できる。これを超えるときはユーザーの人数とアプリ使用するストレージに応じて課金される仕組みだ。

 AWSのバイスプレジデントを務めるLarry Augutin(ラリー・オーガスティン)氏は発表の際に「開発者のキャパシティはカスタムアプリのニーズにまったく追いつけないとカスタマーから言われている。そこでAmazon Honeycodeを使えば、ほとんどの人がコードを書く必要なしに強力なカスタム・モバイルアプリやウェブアプリを開発できる」と述べている。

この種のツールの常としてHoneycodeはTo-Doリスト、顧客追跡、調査、スケジュール、在庫管理などの一般的な業務のテンプレートを提供する。AWSによれば、従来多くの企業はスプレッドシートの共有でこうした業務を実行してきたという。

AWSは次のように指摘している。「スプレッドシートは本質的に固定的な表現力しかできないので、カスタマーはメールのやり取りでこの点を補おうとしてきた。しかしメールはスピードが遅く、メンバーが増えると加速度的に非効率化する。またバージョン管理やデータ同期で頻繁に誤りが起きる。このためメールの利用はかえって効率を低下させる場合が多かった。こういう場合、専用アプリケーションが必要となるが、特定業務のためのプログラミングのニーズは担当部署のエンジニアのキャパシティを上回ることが多かった。そこでIT部門が開発に取りかかれるようになるのを待つか、高価な料金を支払って外部の専門家にアプリケーションを開発させるか選ばねばならなかった」。

AWSは当然ながらHoneycodeによるアプリケーションのコアインターフェイスにスプレッドシートを選んでいる。これはカスタマーや実際にアプリを使うユーザーのほとんどがスプレッドシートの概念に馴染んでいるためだ。

ユーザーはデータを操作するためにカスタムプログラミングで制作されるアプリに最も近いと思われるスプレッドシートスタイルのテンプレートを使ったソフトウェアを選ぶ。ビルダー(HoneycodeのユーザーをAWSはビルダーと呼んでいる)ははサービスの所定の位置に通知、リマインダー、承認などのワークフローを設定できる。

 

AWSによればこうしたスプレッドシートタイプのアプリはワークブックごとに10万行まで簡単に拡張できるという。スプレッドシートはAWSのサーバーで作動するためビルダーはインフラの能力を考える必要がなく、アプリケーションの構築に集中できるという。

今のところHoneycodeに外部のデータソースをインポートすることはできないように思える。しかしインポート機能の追加もAWSのロードマップにあるかもしれない。逆に、外部サービスとの統合はアプリ構築を複雑化するので、AWSは今のところHoneycodeをできるかぎりシンプルなものにしようとしているとも考えられる。

Honeycodeはオレゴン州取材のAWS US Westリージョンでのみ作動するが、サポートは他のリージョンにも拡大されるはずだ。

Honeycodeの最初のカスタマーはSmugMugとSlackだという。Slackのビジネス及びコーポレート事業開発担当バイスプレジデントのBrad Armstrong(ブラッド・アームストロング)氏はプレスリリースで以下のように述べている。

「現在の常に変化するビジネス環境にあって、Slackのメンバーがその先頭に立ち適応していくためのアプリを構築する機会をAmazon Honeycodeが提供してくれると考えて大いに期待している。Amazon HoneycodeはSlackの事情に補完し拡張するための優れた手段と考えている。我々はこれまで以上にデータの活用を進め、業務をさらに効率化するための方法をカスタマーとともに構築していけるものと考えている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

米国家幹線道路交通安全局がテスラ車のタッチスクリーンの不具合を調査、NANDフラッシュメモリが原因か

米国家幹線道路交通安全局(NHTSA)が、テスラの古いModel Sにおけるタッチスクリーンの故障の申し立てについて、予備調査を開始した。

同連邦機関が調査を開始したのは、2013年から2015年までのModel S車両に搭載された、タッチスクリーンの故障に対する苦情を、テスラの所有者から13カ月の間に11件受け取ったことによる。この問題は、問題のあるフラッシュメモリデバイスが原因となって発生し、タッチスクリーンが黒くなってしまうというもので、バックギアを選択すると背面カメラの画像が表示されなくなる現象も含まれている。

NHTSAの予備評価の焦点は、8GB eMMC NANDフラッシュメモリデバイスを内蔵したNVIDIA(エヌビディア)のTegra 3プロセッサだ。フラッシュデバイスには、書き込みと消去のサイクル数に基づく有限の寿命がある。中央ディスプレイ、すなわちメディアコントロールユニットに、時期尚早に障害が起きるのは、eMMC NANDフラッシュ内のメモリが故障するためだと言われている。

NHTSAは当初、このフラッシュメモリデバイスを使用する6万3000台のModel S車両が影響を受ける可能性があると推定した。だが同機関は、その数は最大15万9000台におよぶ可能性があるとも指摘している。Tegra 3プロセッサーは、2012年から2018年にかけてModel Sのセダン、および2016年から2018年にかけてModel XのSUVで使用された。

インフォテインメント、ナビゲーション、ウェブブラウジングなどを提供するテスラのタッチスクリーンは、そのデザインが高く評価されている一方で、特にフラッシュメモリデバイスを中心とした故障しやすさが批判されている。

NHTSAによると、このeMMCメモリは、パフォーマンスが次第に低下する期間が過ぎると故障する。最終的な障害は、音声ならびに視覚的機能の喪失を引き起こす。その中にはバックギアを選択した際にリアカメラの画像表示が失われる現象も含まれている。

MCU障害のその他の影響としては、エアコンの温度制御がデフォルトで自動モードになってしまったり、バッテリー充電電流や再充電時の最大状態に制限がかかったりする。なおこの故障は、ブレーキ、速度制御、ハンドルなどの車両制御システムには影響しない。

画像クレジット:Christopher Goodney/Bloomberg / Getty Images

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(翻訳:sako)

スマートスピーカーのSonosが12%の人員削減とニューヨーク店舗の閉店を決定

今週、SEC(証券取引委員会)に提出された書類によると、スマートスピーカーメーカーのSonosはいくつかの小規模オフィスとマンハッタンSOHO地区の象徴であるショールームの閉鎖に加えて、12%の人員削減を計画していると発表した。

同社は先月株主に送った書簡で、小売店舗の閉鎖と、高級オーディオ製品全般の需要低下による苦闘を認めていた。

「第2四半期は売上が前年同期比17%減と苦しんだ」と同社は書いた。「好調な第1四半期のあと、第2四半期は減速を経験し、米国の大型小売パートナーの在庫再調整、当社卸業者の在庫再調整によるドイツ市場の不調などに起因する課題に直面した。去る3月、総売上は前年比23%減となり、主要な小売市場での補充オーダーの通常サイクルが、世界需要の落ち込みと新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックによる広範囲な実店舗の閉店によって崩壊したのが原因だった」。

CEOのPatrick Spence(パトリック・スペンス)氏はTechCrunch宛ての声明で、原因の大部分は現在進行中の新型コロナパンデミックにあると語った。

「パンデミックが起きたとき、我々は直ちに過去数年の投資を見直し、営業経費の圧縮と流動資産の保持を行った」とスペンス氏は書いた。「パンデミックとその経済への影響によって、我々は難しい選択を迫られ、人員の削減、小規模事業所とニューヨーク市の店舗の閉店という困難な選択を強いられた。こうした変化は将来のチャンスを活かすための準備として必要だ」。

同氏は、社員には複数回にわたる全社会議で通知をしたと語り、影響を受けた社員には退職手当、健康保険、就職支援などを行う予定であることを付け加えた。

取締役会は、スペンス氏の基本給を7月1日から9月末まで20%削減することにも同意した。

画像クレジット:Sonos

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

テック業界におけるダイバーシティの未来(5)ーートンネルの出口に見える光

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トンネルの出口に見える光

大手テック企業が抱える問題はあまりにも根が深いが、スタートアップにはまだ望みがある。社員数がある一定数に達すると、根本的な変化を起こすことは難しい。しかし、創業初日から始めれば、首尾よく遂行できる可能性は十分にある。

パオ氏、クライン氏、Baker(ベイカー)氏、Tracy Chou(トレイシー・チョウ)氏が中心となって設立したプロジェクト・インクルードは、一度に数社と連携して、インクルーシブで包括的、かつ説明責任を果たせる方法でダイバーシティを推進する支援を提供している。

「より進歩的で成功を収める人が十分な数に達すれば、テック業界の本質が変わる可能性がある」とパオ氏は言う。

非営利団体であるプロジェクト・インクルードは、テック業界でダイバーシティとインクルージョンを実現しようとする人たちにとって頼りになる存在だ。このプロジェクトは小~中規模のスタートアップを対象としている。社員数にして25~1000人の規模だ。

「プロジェクト・インクルードを通して、本当に変わろうとしているスタートアップを何社か見てきたが、この新しい世代のスタートアップには、会社をインクルーシブにすることに全力を注いでいるCEOが何人もいると思う。彼らは、将来のことを真剣に考えていて、世界が変わりつつあり、従業員も本当に多種多様であることに気づいている。白人男性社員だけに目を向けていると、残りの4分の3の社員を失うこともわかっており、それが持続可能ではないこと、そのような状況を許せば自分が極めて不利な立場に置かれることを理解していると思う」とパオ氏は語る。

「Asana(アサナ)のDustin Moskovitz(ダスティン・モスコビツ)CEOやTwilio(トゥイリオ)のJeff Lawson(ジェフ・ローソン)CEOなど、ダイバーシティとインクルージョンを会社にとって必須の課題として扱おうとしている人たちを見ると安心する」とパオ氏は言う。

「彼らがこの問題に全力で時間とエネルギーを注いでいるのを見ると心強い。偏見のないインクルーシブな文化を持つ企業は業績も良好であることが数字にも表れている。変化は確かに起きている。ゼロから始める人たちは変わることができる」」とパオ氏は語る。

米国では今、白人多数の時代が終わりつつある。

ケイパー・クライン氏によると、「人口動態の変化は止まらない」という。

アメリカ国勢調査によると、米国では、2044年までには白人が全人口の半分を下回り、マイノリティーの合計が過半数を占める国になると思われる。

こうして人口動態がシフトしてクリティカルマスに達すれば、労働力の多様化は避けて通れない。

「クリティカルマスは社会科学では昔からある概念だが、最近その真実さを身にしみて感じるようになってきた。我々は皆、クリティカルマスを感じたことがある。自分と同じ意見を持つ人が部屋の中に誰もいない場合、自分ひとりだけで意見を言うことには不安を感じる。しかし、自分と同じ考えの人が(それが誰であれ)十分にいれば随分と楽に声を上げることができる、ということは誰もが理解できると思う」ケイパー・クライン氏は語る。

クリティカルマスは、人によって解釈が異なるが、おおむね10~30%の範囲だと思われる。これをテック業界に当てはめると、ダイバーシティとインクルージョンが自律的に実践されるようになるには、業界の30%が多様化している必要があるということになる。

「クリティカルマスに達すると、それが部門内のチームであれ、特に会社内あるいはエコシステム内のチームであれ、文化のシフトが急速に進む。そこに達成するまでの長い道のりを、一歩ずつ前に進んでいると信じたい。ときに希望に満ち、ときに失望させられることもあるが、クリティカルマスに至るまで確実に前進し続けたいと思う」とケイパー・クライン氏は語る。

目の前の課題

クリティカルマスへと歩みを進める一方で、緊急に取り組むべき課題もある。具体的には次のとおりだ。

  • 多様性を反映させたレプリゼンテーションとインクルージョンに関する明確な目標を設定し、それを実現するための包括的なアプローチを実施する
  • 有色人種および女性の創業者への出資を増やす
  • 従業員はテック企業による差別に対し、組織的な方法で非難の声を上げ続ける
  • 会社を超えて経営陣が協力し合う

極めて明解な課題だが、取り組むには意思、組織的な取り組み、実務的な努力が必要だ。

「簡単に実現できることはすべてやり切ってしまい、ここからはすべてが困難な作業になるのではないかと思う。なぜかというと、特定のプログラムを支援するとか、実習プログラムを用意するとか、パイプラインの対象とする人のタイプを増やすとかいう問題ではないからだ。これは、他人が提示する価値が自分の意向と一致しない場合もあることを理解できるよう従業員を変革するという、難しい仕事だからだ。ハードルを下げるとか、文化を保持したいとか、従業員が思い込みで発する言葉にじっくり耳を傾けて検討する必要がある。彼らは便秘でもしているかのように古いものにしがみついている。私には理解できない」とマイリー氏は語った。

(完)

日本版編集部注:本稿は米国版TechCrunchが2019年6月に公開した記事を翻訳・再構成したものです。

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(翻訳:Dragonfly)

テック業界におけるダイバーシティの未来(4)ーー1歩進んで、2歩下がる

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1歩進んで、2歩下がる

テック業界におけるD&Iの問題は、多少改善されてきてはいるが、後退した部分もあることは否めない。改善された点として、人々は何が起きているのかをよく理解するようになり、進んで発言するようにもなった。また、人口動態から見たレプリゼンテーションという点でもいくらか進展はあった。

「こうした変化のペースは本当にゆっくりだが、性別、人種、民族性の点で改善が見られている組織があることは確かだ」とParadigm(パラダイム)のJoelle Emerson(ジョエル・エマーソン)CEOは言う。

「もう1つ変わったのは、ある種のニュアンスが会話に加味されるようになったことだ。単に前年と比較するのではなく、従業員のライフサイクルの段階ごとに明確な目標を設定する企業が増えている。こうした企業は、給与、採用、昇進、社員の感情について、より具体的な細かい質問をしている」とエマーソン氏は語る。

ここ数年、スラックやピンタレストなどのテック企業で、ダイバーシティ・インクルージョン関連の職に就いていたエマーソン氏は、こんなことは4年前には見られなかった、と話す。同氏によると、4年前は、エンゲージメント、帰属意識、意見の表明、リソースの利用などについて従業員が実際にどう感じているかを比較検討することはなかったという。

「今ここにいるのはどんな人間なのかという点ばかりに注目して、そこに至るまでの過程について考えることはなかった。社員の内面を見ていなかった」とエマーソン氏は語る。

「3つ目は、ダイバーシティとインクルージョンのニュアンスを加味した会話が行われるようになった点だ。注目すべきグループ、交差性、年齢、障害、経済状態などに関する会話が行われるようになった。非常に率直で遠慮のない会話さえ行われている。そうしたことの多くを推進しているのは、従業員アクティビズムだ」とエマーソン氏はいう。

Photo by AP Photo/Bebeto Matthews

従業員アクティビズムは、会社が間違った方向に歩を進めることでさらに活発化する。2019年11月、セクハラ疑惑で告発されていた2人の幹部に会社が1億500万ドル(約112億2000万円)を支払ったことに抗議するために2万人のグーグル社員がストライキを行った。社員たちは5つの要求を出したが、グーグルが対応したのはそのうち1つだけだった。

2019年2月、グーグルは、差別に関するいかなる事案についても社員に仲裁を強制することをやめるという決定を下した。これで厳密には社員側が勝利したのだが、この取り決めはグーグルの一時契約社員には適用されなかった。一方、グーグルは他の4つの要求には応じなかった。具体的には、給与や機会の不平等の撤廃の確約、セクシャルハラスメントに関する事実に即したレポートの公開、匿名で性的不品行を報告するためのプロセスの策定、ダイバーシティ最高責任者をCEO直属とすることの4つだ。

しかしその後、事態は悪化する一方だった。グーグルの社員は5月に再び決起せざを得なかった。今度は、社員が上司から受けたとされる職場報復に座り込みで抗議した。

2019年5月、ストライキを計画したために職場で報復を受けたとして2人のグーグル社員が会社を告訴した。グーグルのオープンリサーチ部門のリーダーでストライキ主催者の1人であるMeredith Whittaker(メレディス・ウィテカー)氏は、自分の役職が大きく変わったと話している。同じくストライキ主催者であるClaire Stapleton(クレア・ステープルトン)氏は上司から、降格処分と、部下を半分に減らすことを言い渡されたという。

当時、グーグルの広報担当者は次のように語った。

「グーグルは職場での報復を禁止し、明確なポリシーを公開する。申し立てられた苦情が無視されることのないよう、匿名で行う場合も含め、社員が懸念事項を会社に報告する経路を複数用意し、報復があったというすべての申し立てを調査する。」

その後、グーグルの社員はAlphabet(アルファベット)のLarry Page(ラリー・ペイジ)CEOの介入と、グーグル側が社員の要求に応じることを強く要請した。

しかしマイリー氏は、グーグルが当時からほとんど変わっていないことに驚いていない。社員の約20%がストライキに参加したが、もし50~60%の社員が参加していたらもっと強いインパクトがあっただろうとマイリー氏は考えている。

「ストライキとその目的には賛同する。社員たちが提示した問題と彼らの要求も支持する。ただ、やり方が間違っていたと思う」とマイリー氏はいう。

マイリー氏が言っているのは、ストライキ主催者がストライキの計画を事前に公表してしまったことだ。

「私だったら、ただストライキを決行し、会社に戻ってこちらの要求を突きつける。グーグルが正しいことをしたいと思っていると信じたいのだろうが、そうはいかない。グーグルも企業だ。企業は社員の力を制限する方法を知っている」とマイリー氏は語る。

ハラスメントが報告された後に社内で混乱が発生したのは何もグーグルだけではない。Riot Games(ライアットゲームズ)でも2019年5月に、やはりハラスメント問題をめぐって社員がストライキを起こしている

ハラスメントで問題なのは、残念なことだが、告発された側には、非を認めた後でも復帰する道があるという点だ。さらに、数百万ドルもの退職金が支払われることもある。こうしたことはすべてオールド・ボーイズ・クラブと関係している。

オールド・ボーイズ・クラブに属する多くの人たちは、自分が犯した過ちの報いを受けるということがほとんどない、とパオ氏は言う。Dave McClure(デイブ・マクルーア)氏は、後に自身でも認めた性的不品行の後、500 Startups(500スタートアップス)の経営から身を引いたものの、のちに新しいファンドの設立に向けて資金を集めている。本記事の執筆にあたりマクルーア氏にコメントを求めたが回答はなかった。

「我々は、こうした人たちが問題を起こしたコミュニティに復帰するのを許している。そのまま居続けるのを許すことさえあり、復帰するためにいったん身を引く必要すらない」とパオ氏はいう。

SoFi(ソーフィ)の前CEO、Mike Cagney(マイク・キャグニー)氏は、性的不祥事のために会社を追われたが、新たに会社を設立しようと動き始め、2018年にはそのために5000万ドル(約53億4000万円)を調達した。キャグニー氏は2019年初めに、さらに6500万ドル(約69億5000万円)を集めている。

「ハリウッドでMe Tooハッシュタグ問題が起き、ベンチャーキャピタルやテック企業でも同様の事件が起きたのに、ハラスメント事件は相変わらず後を絶たない。ハラスメント加害者は、被害者よりも簡単に窮地を脱してしまう。それが大きな問題だ」とケイパー・クライン氏はいう。

ケイパー・クライン氏は例として、Chris Sacca(クリス・サッカ)氏、Steve Jurvetson(スティーブ・ジャーベンソン)氏、Justin Caldbeck(ジャスティン・カルドベック)氏といった投資家の名前を挙げた。

「いくらでも白人の名前を挙げることができる」と同氏は言う。

ジャーベンソン氏とカルドベック氏は、本記事へのコメントを拒否した。サッカ氏にもコメントを求めたが回答はなかった。

このようなセクシャルハラスメント事件と、その後に加害者が復帰するという現状について考えると、人が本当に変化して名誉を回復することは可能なのか、という疑問にぶち当たる。最も大きな疑問は、こうした人たちがテック業界に残ることを許すべきなのか、それとも永久にブラックリストに載せるべきなのかという点だ。

「私は、人は変わることができると信じている。ただし、半年とか1年半で変わるとは思えない。彼らの新しい雇用契約にそうした条項が記載されたという話を聞いたことがない。ぜひそうすべきだと思う」とケイパー・クライン氏は語る。

2018年以降はっきりしてきたのは、労働者はもうだまっていないということだ。多くの労働者が、自分たちの力で会社は収益を出すことができるのだから、自分たちは会社に対して大きな影響力を行使できることに気づいている。ただし、本当の変化を起こすにはもっと組織的な取り組みが必要だとマイリー氏は指摘する。

「ごくわずかな人が握る並外れた影響力に対抗できるだけの組織的な構造、支持体制および機動力がなければ、変化は起こらないと思う。従業員が一致団結することが必要になるだろう。現行の体制から恩恵を受けている人たちが、それを変えようとするはずがないことは明らかなのだから」とマイリー氏は語る。

>>「最終部:トンネルの出口に見える光」を読む

日本版編集部注:本稿は米国版TechCrunchが2019年6月に公開した記事を翻訳・再構成したものです。

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(翻訳:Dragonfly)

テック業界におけるダイバーシティの未来(3)ーー多様な人材に投資する

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多様な人材に投資する

テック業界全般でダイバーシティが欠如しているもう1つの原因として、レプリゼンテーションが不足している創業者に提供される資金の不足という問題がある。2018年、米国のベンチャーキャピタル資金のうち女性の創業者に提供されたのはわずか2.2%にすぎない。米国のVC企業の意思決定者のうち女性が占める割合は10%に満たないことは、何の説明にもならない。

「資金が不足しているだけではない。女性は扱いが異なることも問題なのだという点も指摘しておきたい」とWomen Who Tech(ウィメン・フー・テック)の創業者Allyson Kapin(アリソン・カピン)氏はTechCrunchに語っている。

カピン氏は、ウィメン・フー・テックが2017年に実施したアンケート調査で、嫌がらせを受けたと報告した44%の女性のうち、77%が創業者としてセクシャルハラスメントを経験したと答えた、という事実を指摘する。さらに、そのうちの65%が出資の見返りとして性的な誘いを受けたと回答したという。

「公平な競争の場は存在すらしていない。他の創業者は驚くほどの注目を集められるかもしれないが、女性創業者によるスタートアップは、さまざまな批判を受けるという点で障害に直面している。そして今は、まったく別次元の性差別、性的嫌がらせ、出資の見返りとしてのあからさまな性的誘いにも直面している」とカピン氏は言う。

残念なことに、黒人女性創業者にとって、現実はさらに厳しい。100万ドル(約1億734万円)を超える資金調達を達成した黒人女性の数は、増えているとはいえ依然として少ない。digitalundivided(デジタルアンディバイディッド)の新しいProjectDianeレポートによると、2015年に100万ドルを超える資金を集めた黒人女性はわずか12人だったという。ちなみに2017年は34人だった。

それでも、黒人女性が調達した資金の平均額は0ドルだと言える。なぜなら、黒人女性によって創業されたスタートアップの大半はまったく資金を調達できていないからだ。ファンドから調達した資金が100万ドル(約1億734万円)未満だった黒人女性の平均調達額は4万2000ドル(約450万円)である。デジタルアンディバイディッドによると、2009年に黒人女性が調達した出資額は、同年にテック企業が調達したベンチャー出資合計額のうち、わずか0.0006%にすぎなかった。

「黒人創業者はVCに見切りをつけ始めている。何度もトライし、頼み込み、丁重に出資をお願いしたのにVCは乗ってこない。私はまだやる気が残っていて、このような機関投資家やLPの扉を叩き続ける気持ちがあるが、まもなく彼らに見切りをつけるだろう。そうしたら彼らは天を仰いで『なぜこの投資話に入れてくれなかったんだ』などというのだろう。私は4年前も、『黒人も起業するんですよ』と叫んでいたが、今も同じことをすることになるだろう。もうたくさんだ」と、Backstage Capital Founding(バックステージ・キャピタル・ファンディング)のパートナーArlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏はTechCrunchに語る。

(カリフォルニア州サンフランシスコ-2018年9月5日、カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたTechCrunch Disrupt SF 2018の初日に登壇したBackstage Capital(バックステージ・キャピタル)の創業者でマネージングパートナーのArlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏。(画像クレジット:Kimberly White/Getty Images for TechCrunch))

黒人創業者限定で出資するために設立されたバックステージ・キャピタルは、2016年末頃に500万ドル(約5億3000万円)の初回資金調達を完了した。ハミルトン氏は現在、有色人種への投資を続けるために3600万ドル(約38億5000万円)の第2回資金調達を完了しようとしている。同氏は有色人種への投資をあきらめたという報道もあったが、それは誤報だったようだ。

「資金の調達を止めたことは一度もない。止めようと考えたことも一度もない。今でも資金を募っている真っ最中だ。思ったよりも時間がかかっている。問題は、大海の一滴のようなわずかな資金を調達するのになぜこんなに時間がかかるのかという点だ。なぜ皆、あきらめてしまうのか。なぜ進歩しようとしないのか」とハミルトン氏は言う。

バックステージ・キャピタルは創業当時から、過小評価されている創業者が率いるスタートアップに投資してきた。その数は60社を超える。同氏を最初に駆り立てたのは、「ばかげた理由で見過ごされている人たちがいる。他の人が見過ごしているところにこそビジネスチャンスがある」という事実だった。

「何か破壊的な力がなくては、このようなやり方を続けていくことはできなかったと思う。そして実際に破壊が起きた。良い意味での破壊、いわば良き破壊だ。黒や茶色の肌の創業者や性的マイノリティーの人たちがこれまでの通例を覆したというニュースを毎日のように目にする」と同氏は言う。

ハミルトン氏は例として、自分の会社Partpic(パートピック)アマゾンに売却したJewel Burks(ジュエル・バークス)氏や、客観的に見ても非常に成功しているメディア企業Blavity(ブラビティ)の創業者Morgan DeBaun(モーガン・デボーン)氏などのサクセスストーリーを挙げる。

「まさに論より証拠で、こうした事例は私の直感が正しいこと、私の言ったことが現実になっていることを示している。ここ数年の出来事を見れば、私が今言っていることが今後もある程度は現実になると信じざるを得ないだろう」とハミルトン氏と語る。

ハミルトン氏は、バックステージ・キャピタルのポートフォリオの中から、今後18か月ほどの間に驚くべき収益を達成し、巨額の資金調達に成功する創業者が出てくるだろう、と予測する。機関投資家からの支援がなくても、ハミルトン氏が成功を大いに期待できる理由はたくさんある。

National Venture Capital Association(全米ベンチャーキャピタル協会)によると、黒人とラテン系の投資家は非常に少ない。VC企業の投資チームのメンバーのうち、黒人はわずか2%、ラテン系は1%にすぎない。

しかし、黒人や有色人種の女性が運営するファンドがいくつか登場している、とハミルトン氏は言う。また、GVでパートナーだったことがあるLo Toney(ロー・トニー)氏は最近、Plexo Capital(プレクソ・キャピタル)を介して多様な投資家に出資するために3500万ドル(約37億4000万円)を調達した

それでも、業界には多様なバックグランドを持つ人たちに必ず出資する投資家がまだまだ不足している。

「機関投資家(VC)がこの点で迅速に行動するとは思えない」とハミルトン氏は言う。

また、これには生まれつき持つ経済的特権も関わっている。民族間の貧富の格差は巨大で、それが起業を目指す有色人種の創業者に確実に影響を与えている。Institute for Policy Studies(政策研究所)によると、米国の白人中流世帯が持つ財産は、黒人中流世帯の41倍、ラテン系中流世帯の22倍にもなる。

白人の創業者は、創業初期に裕福な両親や祖父母から支援を受けることが可能だが、有色人種の創業者は同じ方法で親を当てにできるとは限らない。それでも、望みはある。米大統領選の民主党候補指名争いに名を連ねるElizabeth Warren(エリザベス・ウォーレン)上院議員だ。ウォーレン氏は2019年6月、多様な人種の創業者を破綻させたとしてベンチャーキャピタルを非難し、有色人種の創業者を支援する計画を発表した。

この計画は、白人の創業者のように親や祖父母の財産を当てにできない有色人種の創業者に資金を提供するというものだ。

>>「第四部:1歩進んで、2歩下がる」を読む

日本版編集部注:本稿は米国版TechCrunchが2019年6月に公開した記事を翻訳・再構成したものです。

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(翻訳:Dragonfly)

テック業界におけるダイバーシティの未来(2)ーー口先だけのリップサービス

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口先だけのリップサービス

Google(グーグル)が2014年、業界初のダイバーシティレポートを発表したとき、テック業界におけるダイバーシティ・インクルージョン戦略が勢いよく始まったが、それが実践をともなって定着することはなかった。現在、多くの人が、あの現象はリップサービスだったと考えている。話しはするが実行がともなわないからだ。

2014年のグーグルのレポートでは、同社の従業員に占める白人の割合は61.3%、男性は69.4%だった。記事執筆現在の割合は、白人54.4%、男性68.4%だ。数年たっても数字はほとんど変わっていない。FAANG(Facebook(フェイスブック)、Amazon(アマゾン)、Apple(アップル)、Netflix(ネットフリックス)、Google(グーグル))とA-PLUS(Airbnb(エアービーアンドビー)、Pinterest(ピンタレスト)、Lyft(リフト)、Uber(ウーバー)、Slack(スラック))の各社でも、テック系社員は依然として白人とアジア系が圧倒的多数を占めている。

フェイスブック全体の社員構成を見ると、少数派人種が占める割合はほとんど変わっていない。これに対し、フェイスブックのCDO(チーフ・ダイバーシティ・オフィサー)Maxine Williams(マクシン・ウィリアムズ)氏は、個々のグループ内では大きな変化があったと指摘する。例えば、この5年間で、黒人女性の数は25倍、黒人男性の数は10倍になっていると同氏はいう。

「大きな変化があった。ただ、望みどおりの十分な変化だったかといえば、決してそうではない。当社はD&Iの問題に本格的に取り組み始めた時期が遅く、慎重になりすぎて取り組みのスピードも遅かったことは私も認識している。当社は当時すでに創業9年で、数千人の社員が働いていた。この経験から学んだ最大の教訓は、取り組みを始めるのが遅くなるほど実行が難しくなるということだ」とウィリアムズ氏はいう。

これはテック業界全体に当てはまる。前述のテック企業の社員構成は多少改善されてきているものの、十分というにはほど遠い。

「ダイバーシティレポートがあることでテック企業がある程度の説明責任を意識するようになっていると思う。前回のレポートから後退すれば会社のイメージダウンになるからだ。それを避けるために、テック企業はダイバーシティに関する数字を社内で検討するようになる。その意味で、レポートは重要な役割を果たしている。しかし残念なのは、社内に目を向けるのではなく、マスコミの反応に目を向けて自社の戦略や課題吟味のかじ取りをしている点だ」とパオ氏は指摘する。

パオ氏によると、米国の人種構成を考えると、テック企業の人種構成は本来、黒人社員が13%、ラテン系社員が17%になるべきだという

パオ氏は、プロジェクト・インクルードでスタートアップを支援する際には「10-10-5-45」という構成を目標にするようアドバイスするという。最初の2つの数字は、黒人社員10%、ラテン系社員10%を目指すという意味だ。それを達成した後、最終的に黒人社員13%、ラテン系社員17%を目標とする。

「この目標に近い数字を達成している企業は存在しない。つまり、あるべき姿を実現しているスタートアップは存在せず、すべてのスタートアップはダイバーシティの問題を抱えているということだ」とパオ氏は指摘する。

アップルとアマゾンの数字は、小売店舗と倉庫の社員数も含まれているため実際より多くカウントされており、割り引いて考える必要がある(この点について両社にコメントを求めたが回答はなかった)。そうなると、黒人社員とラテン系社員の構成割合の最終目標に最も近いのはリフトだ。リフトのダイバーシティレポート2018年版によると、ラテン系社員が9%、黒人社員が10.2%となっている。

性別は男女どちらかの二択ではないので、少なくとも全社員の5%がノンバイナリーで、残りの45%を女性としてカウントする必要がある、とパオ氏はいう。

ダイバーシティに関するスキャンダルが次々に発覚しているという事実は、いくつかのことを証明している。1つは、レプリゼンテーション(自分が社会の構成員として認識されている状態や感覚)が依然として十分に得られていないということ。2つ目は、構造的な問題が残っており、そのためにインクルーシブではない職場環境が構築され、それがインポスター症候群を増やす原因となっているという点だ。このような構造的な問題の結果として、一貫性のない業績評価プロセス、不明確で恣意的な昇進、不正行為を報告するための不明瞭なプロセス、バックチャネリングとして知られる秘密の会話などが生じている。こうしたプライベートなバックチャネルによって排他的な環境が作られ、オープンで生産的な会話が阻害される。

このような状況で役に立つのがインクルージョンの取り組みだ。CEOの支持を得て行うのが理想的である。本当の意味でインクルージョンが実現されていなければ、ダイバーシティを目指すどんな取り組みも長続きしない。

「ダイバーシティを目指して多様な人材を採用したとしても、インクルージョンと文化の問題を是正しなければ何の進歩も遂げることはできない」とケイパー・クライン氏はいう。

一部の企業では無意識の偏見をなくすトレーニングを実施しているが、こうした活動だけで、偏見や不公正の発生率の減少や定着率の増加などの点で統計的に顕著な改善を実現することはできないとケイパー・クライン氏はいう。

(ミネソタ州デトロイト-5月5日:2015年5月5日にミシガン州デトロイトの Max Fischer Music Centerで開催された第17回Annual Ford Freedom Awardsでスピーチする、Lotus 1-2-3の開発者で受賞者のMitchell Kapor(ミッチェル・ケイパー)氏と、同氏の妻でCenter for Social Impact(センター・フォー・ソーシャル・インパクト)の創業者およびKapor Capital(ケイパー・キャピタル)のパートナーでもあるFreada Kapor Klein(フリーダ・ケイパー・クライン)氏。(画像クレジット: Monica Morgan/WireImage))

「最近増えてきた本格的な研究では、無意識の偏見をなくすトレーニング、とりわけ1回限りのトレーニングは、効果がないだけでなく、逆効果であることが指摘されている。そのようなトレーニングを受講した人は『トレーニング内容は理解した。無意識の偏見をなくす1時間のトレーニングを修了したから、これまで29年間毎日見聞きしてきた偏見を自分の中から取り除くことができたはずだ』と考える。何が非効果的かという点だけでなく、どんな反動が生じたり、何が逆効果になったりするのか、といった点も考慮する必要があると思う」とケイパー・クライン氏は語る。

理論上はここでダイバーシティとインクルージョン(D&I)責任者が登場する。しかし、このような役職がうまく機能できるような環境が組織内で必ずしも整えられているわけではなく、企業のリップサービスのための手段に終わることもある。

「D&I責任者としてCEO直下に配置され、他の幹部がダイバーシティとインクルージョンに関してひどい決定を下すのを阻止する権限を与えられて、本当に影響力のあるやり方でD&I責任者の職を全うできた人の話を聞いたことがない。D&I責任者は人事部または法務部の直属となることが多い。D&I責任者には強い権限はなく、チームも決裁権も与えられない。また、D&Iに取り組むよう社員を促したり、社員に説明責任を負わせたりするための基準もない。D&I責任者と呼ばれるこの奇妙な役職の大半はお飾りにすぎない」とパオ氏は指摘する。

例えばグーグルでは、今のダイバーシティ責任者は2016年から数えて3人目になるが、グーグルの文化にうんざりして率直にモノをいう社員が増えている。

ツイッター、グーグル、アップルで技術管理者を務めたことがあるLeslie Miley(レスリー・マイリー)氏は「ズバリ言おう。グーグルでD&I責任者を長く続けることは不可能だ」とTechCrunchに語った。

2019年4月にグーグルのチーフ・ダイバーシティ・オフィサーDanielle Brown(ダニエル・ブラウン)氏が辞職し、給与・福利厚生スタートアップのGusto(ガスト)に移った。グーグルは、2016年に辞職したNancy Lee(ナンシー・リー)氏の後任者としてブラウン氏を迎え入れた。当時、リー氏は退職するものと思われていたが、その後、電気スクータースタートアップLime(ライム)に最高人事責任者として入社した。「当時、本当に退職するかどうかは自分でも決めていなかった」とリー氏は話している。

「割に合わない仕事だよ。どの会社でもそうだと思う。ダニエル・ブラウン氏が良い例だ。十分に取り組んでいないと非難されたかと思うと、今度はやり過ぎだと非難される。人事と説明責任をめぐる争いに常にさらされる。性別、民族性、性的指向のぶつかる場所にいると、ほとんどの人は心底、不快な気分になる。精神的に消耗していく仕事なんだ」とマイリー氏は語る。

D&I責任者のもう1つの問題は、CEOの直属ではなく、人事部直属になることが多い点だ。人事部は、会社が負う法的責任を制限することがD&I責任者の役目だと考えている、とマイリー氏はいう。D&I責任者がそのような部門の直下で働くのであれば、社員の利益に資するような変化をもたらすのは困難だ。

現在、人事部で働くリー氏は、「人事部直属のダイバーシティ責任者が効果的に機能するかどうかは、人事部と他の経営陣との関係によって決まる」という。

「ただし、ダイバーシティが大きく欠如している会社では、CEO直属のD&I責任者が必要になるだろう」とリー氏は付け加える。

リフトのダイバーシティ・インクルージョン責任者に新しく任命されたMonica Poindexter(モニカ・ポインデクスター)氏は、人材・インクルージョン担当副社長の直属だが、リフトの共同創業者John Zimmer(ジョン・ジマー)氏とLogan Green(ローガン・グリーン)氏からも全面的なサポートが得られているという。ポインデクスター氏は、リフトや他のいくつかの企業によるダイバーシティとインクルージョン問題への取り組み方は正しいものだと確信してるが、各社がさまざまな異なる方法でこの問題に取り組もうとしているという事実には首をかしげる。

「1つか2つの優れた取り組みをテック業界全体で一斉に実行できれば、業界全体に大きな影響を及ぼすことができるだろう。テック企業の面接プロセスを改革し、採用プロセスを吟味するにはそのような取り組みが必要だ。そうすれば、多様な人種に対してより良い進路を創り出す方法と、それを実行するより的確なタイミングを見きわめることができる」とポインデクスター氏はTechCrunchに語った。

ここ数年の間にD&I責任者の団体が結成されたが、どれも長続きしていない。

「正直にいうと、D&I責任者を取り巻く環境は頻繁に変化する。ある時点でいくらかの推進力を得るかもしれないが、それもそのD&I責任者がどれだけのサポートを得られるかにかかっている。各社のD&I責任者が集まって互いに協力するというアイデアはすでに実行に移されている。しかし、本当に大きな影響を及ぼしたいなら、テック企業のトップが集まってこの難題について話し合うべきだ」とポインデクスター氏はいう。

ピンタレストのD&I責任者Candice Morgan(キャンディス・モーガン)氏は、すべてのテック企業の中でD&I部門の在職期間が最も長い人物の1人だ。同氏は、2016年1月から現職に就いている。「テック業界の在職期間としても、D&I部門の在職期間としてもかなり長いほうだろう」とモーガン氏はTechCrunchに語った。

「ここ3年間で、テック業界の中でもより広い範囲でいくつか大きな変化があり、当社のアプローチにも同じように大きな変化があった」とモーガン氏はいう。

2016年はピンタレストが最初に公式採用者数を設定した年であり、当時は採用活動に力を入れていた、とモーガン氏は語る。翌年、同社はインクルージョンにさらに注力し、インクルージョン専門職を採用した。また、従業員リソースグループの数も増やし、従業員エンゲージメントスコアに基づいてマネージャを評価するようになった。

「インクルーシブ(包含的)な考え方が特に強いマネージャに注目した。その一方で、インクルージョンに関して平均的なスコアを出しているマネージャにも目を向けた。そして、インクルーシブな考え方のマネージャが他のマネージャとどう違うのかを観察してみた。インクルーシブな考え方を持つマネージャは、成長へのポテンシャルに注目するマインドセットを持ち、どちらかといえば謙虚で、ためらいなくミスを認め、失敗を成長の機会と捉えていたことがわかった」とモーガン氏はいう。

この観察結果を基に、ピンタレストはインクルーシブ型マネジメントハンドブックを作成し、トレーニングを開発した。そして2017年には、無意識な偏見をなくすトレーニングを自社のオリエンテーションに組み込んだ。

一般に、D&I責任者は主体性に乏しいと言われるが、モーガン氏は他のD&I責任者に比べて強い影響力を持っているように見える。モーガン氏によると、それは彼女がピンタレストでの在職中に構築した人間関係のおかげだという。例えば、ピンタレストは2019年1月、同社のプラットフォームのビューティー関連検索に、よりインクルーシブな機能を追加した。公開時のピンタレストの説明によると、この機能は同社の技術チームとD&Iチームのコラボレーションの結果であるという。

「社員全員がD&Iの仕事に携わっている。「当社のD&I部門はさまざまな方法で影響力を獲得している。リーダーのコーチングを常に行っているので、彼らとの関係が構築できるようになると、まさにビジネスパートナーとして彼らに影響を与えることができる。インクルーシブなビューティー検索のスキントーン(肌の色合い)に関する仕事も、会合を重ねることが必要だった別の案件が発端になって実現したものだ」とモーガン氏はいう。

モーガン氏によると、今年はマイクロアグレッション、すなわち、排除されていると感じさせる何気ない言動に特に注目しているという。マイクロアグレッションは、黒人の髪型への言及から性差別的言語の使用まで多岐にわたる。また、ウーバーのエンジニアだったSusan Fowler Rigetti(スーザン・ファウラー・リゲッティ)氏がウーバーに関する彼女の投稿で指摘したように、展示会などで配布する景品を男性サイズでしか準備しないことも、マイクロアグレッションの一例だという。

モーガン氏はこのテーマに取り組む中で、「途中で阻止してマイクロアファメーションを作り出すことができる行為」を発見している。マイクロアファメーションとはちょっとしたインクルーシブな行為で、「励まされた、理解してもらえた」という感情を相手に与えるものだ。

「私はインクルージョン・プログラム・スペシャリストのクラスで教える際、マイクロアグレッションに注目し、何気ない行為が人の気持ちに与える影響に対する意識を高めることを心がけている。会社でも個人でも自画自賛する傾向があるが、実はそうすることで、誰かが微妙に疎外感を持ったり仲間意識を感じたりする。私はリーダーたちが集まってこのようなことを考える機会を作るのに多くの時間を費やしてきた」とモーガン氏は語る。

例えば、モーガン氏はピンタレストの技術部長および軽視されていると感じているエンジニアと話し合い、技術チームにおける帰属意識とはどのようなものかについて議論した。すべての上級エンジニアに、こうしたセッションを経験してもらっている、と同氏はいう。

もちろん、D&I責任者を設置することで効果が得られる場合もある。D&I責任者に変化をもたらす能力があり、なおかつ上級職(できればCEO)と直接協力できる場合は、最も高い効果が期待できるだろう。しかし、単独で変化をもたらすことができるD&Iイニシアチブは2つだけだとケイパー・クライン氏はいう。すなわち、ダイバーシティに関する具体的な目標を設定すること、および多様な人材の縁故紹介に対する特別ボーナスの支給だ。

「私が素晴らしいと思うのは、この2つのイシニアチブにはCEOのサポートと事情に通じた上級管理職のサポートが必要だということだ。どちらのイニシアチブも反感を買うのは必至だからだ。

どちらのイニシアチブも、成果を出すには問題のニュアンスを理解していて、エンジニアリング担当のCTOやVPが『ちょっと待ってくれ。それは逆差別だ』とか『フェアじゃない』とか言ってきたときに反論できる賢明な上級管理チームが必要である。公平な競争の場を作り上げることの意味について話をするには、ある程度の知識を備え、問題のニュアンスを理解しているCEOが必要だ」とケイパー・クライン氏はいう。

「どれだけいろいろな仕組みを用意周到に導入したとしても、トップの明確なコミットメントに代わるものはない。話し合いの席についた者は誰であれ、ビジネス上の問題について話すときはダイバーシティというレンズを通して物事を見る必要がある」とケイパー・クライン氏は続けた。

それでも、主要なイニシアチブを5つ導入すれば、大きな変化が生まれる可能性がある、とケイパー・クライン氏は言う。そのため、ケイパー・クライン氏は、10年以上前に自身が「Giving Notice」で初めて概説した包括的なアプローチを採用するようになった。

>>「第三部:多様な人材に投資する」を読む

日本版編集部注:本稿は米国版TechCrunchが2019年6月に公開した記事を翻訳・再構成したものです。

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(翻訳:Dragonfly)

テック業界におけるダイバーシティの未来(1)ーー白人版オールド・ボーイズ・クラブ

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シリコンバレーでは、テック業界におけるダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包含性)を推進する活動が新たな局面を迎えている。Code2040(コード2040)のKarla Monterroso(カーラ・モンテローソ)CEOがTechCrunchに語ったところによると、この活動の支持者の中には、この局面を「初期段階の終わり」と呼んでいる人もいるという。

支持者たちは当初、テック系コンファレンスでダイバーシティの欠如を声高に非難することや、ダイバーシティ関連のデータを公開するよう企業に要求すること、また、パイプライン問題が偽りであることを暴くことに集中していた。その後、ダイバーシティ担当職の設置や無意識の偏見をなくすトレーニングの実施へと論点がシフトしていった(これについてはTechCrunchの「Diversityand inclusion playbook(未訳:ダイバーシティとインクルージョンに関する戦略)」を参照していただきたい。ただし、こうした戦略だけで結果が出るわけではないことは指摘しておきたい)。

「うわべだけを飾る段階は過ぎ、今は、説明責任、結果、昇進、定着率について議論すべきときだ。つまり、テック業界から反感や敵意を排除するためにどのアクションから実行すべきか、その優先順位を決めるべきときである」モンテローソ氏はいう。

ダイバーシティとインクルージョンを推進する動きは、ここ数年である程度の成果を上げてきたが、同時に著しく後退した部分もある。テック系社員は、自分たちが声を上げて組織的に何かに取り組むことが非常に大きな影響力を持つことを知っているが、セクシャルハラスメントや不適切な行為の加害者になっても相応の責任を取らされることはほとんどない。一方、有色人種や女性がベンチャーキャピタルから出資を受けられるケースは今でも非常に少なく、テック業界におけるダイバーシティとインクルージョンの推進は、まるで氷河のように、遅々として進んでいない。

Kapor Capital(ケイパー・キャピタル)とKapor Center for Social Impact(ケイパー・センター・フォー・ソーシャル・インパクト)の共同創業者Freada Kapor Klein(フリーダ・ケイパー・クライン)氏は「現在の状態に至るまでの10年間で、大きく前進したこともあれば、少し遠回りしたり、後退したりした部分もある。ポジティブな方向に進んだかと思うと、必ずネガティブな方向への反動がある。同様に、非難の声を上げるようなときでも必ず、誰かが望みはあると唱える」とTechCrunchに語った。

テック業界におけるダイバーシティとインクルージョン(D&I)に関する問題についてはこれまで多くの記事が執筆されてきた。D&Iの問題を是正しようと数々の誠実な取り組みが行われているが、この問題が全面的に是正されることは決してないだろう。なぜならテック業界というのは、社会と、社会が抱える人種、性別、階層、能力、年齢、性的指向に関するすべての問題を反映する鏡だからだ。

だからといって、希望がないわけではない。テック業界の未来は、そこで日々働くテック系社員、新しくスタートアップを始める創業者や新鮮な視点を持つ投資家の手にかかっている。そして、痛切に思い知らされたのは、経営幹部がこの問題に真剣に取り組む以外に方法はないということだ。

トンネルの出口に見える光にたどり着くには、今日のような状況に至った経緯をテック業界が理解して受け入れる必要がある。そして、D&I責任者を置く、無意識な偏見をなくす単発のトレーニングを取り入れるといった一時的な方法がいかに非効率であるか、また、本来の目的を達成するには何が必要なのかを認識する必要がある。

白人版オールド・ボーイズ・クラブ

シリコンバレーは圧倒的に白人男性優位の世界であり、さまざまな背景を持つ人たちを歓迎することが本当に不得手な業界であることはよく知られている。このオールド・ボーイズ・クラブは、業界の初期の頃から有色人種や女性を不利な立場に置いてきたし、それは今でも変わっていない。

ダイバーシティとインクルージョンを求める現在の動きが始まったのは10年以上前だ。当時、テック系のコンファレンスやオールド・ボーイズ・クラブでも女性の発言権の弱さについて議論されることはあった。

現在はGlitch(グリッチ)のCEOで、当時はThinkUp(シンクアップ)の共同創業者だったAnil Dash(アニール・ダッシュ) 氏は、2007年に発表したエッセイ「The Old Boys Club is for Losers(仮訳:敗者たちのオールド・ボーイズ・クラブ)」で、テック業界で白人男性優位の現状を擁護している人たちは、実は失敗の文化を擁護している、と書いた。「自分のコミュニティ内のすべてのメンバーに手を差し伸べて平等な機会を与え、新しいアイデアや声に耳を傾ける人たちは、単に勝利するだけでなく、勝利し続ける。白人男性以外お断り、という文化を擁護して成功できるかもしれない。しかしそれは、自分自身をお払い箱にしてしまうことと同じだ」とダッシュ氏はいう。

2019年なら多くの人がダッシュ氏の考えを歓迎しただろう。だが、2007年当時のテック業界人の大半はダイバーシティについて今とはまったく異なる考えを持っていた。そのあまりの違いにダッシュ氏は、「記事を公開したらもうテック業界にはいられなくなると確信していた」とTechCrunchに語った。

「私には幸運にもプラットフォームがあり、自分の主張を発表できるだけの経歴もあった。しかし私は、あのエッセイで自分のキャリアが終わったと確信した。『もうどうでもいい、これで終わりだ。どうせサンフランシスコを離れるんだから、この業界に戻れなくてもかまわないさ』と思っていた。今考えると笑える話だ。シリコンバレーにはオールド・ボーイズ・クラブがあるんだと誰もが言ったと思う。それは非常に排他的なものであり、それこそまさに我々が取り組むべき問題だ」とダッシュ氏はいう。

ダッシュ氏は、上記のエッセイを投稿したときに自分がどこに座っていたかをはっきりと覚えているという。なぜなら、もう誰も自分が業界に戻ることを許してはくれないと思ったからだ。

「幸運にも、そうはならなかった。オーバートンの窓が興味深く有意義な方向に少しシフトしていたのだと思う。しかし、問題はそのままだった。問題について話せるようにはなったものの、問題を解決しているわけではなかった」とダッシュ氏は指摘する。

Project Include(プロジェクト・インクルード)の共同創業者でKleiner Perkins Caufield & Byer(クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤー)に対する訴訟で注目を浴びたEllen Pao(エレン・パオ)氏も、ダッシュ氏の言葉に同意する。2012年、パオ氏は、職場で性差別と報復があったとして、当時の雇用主を訴えた。2015年、陪審は、差別があったというパオ氏の主張を退けた。

「私が訴訟を起こした当時、まったく正気じゃないと言われ、嘘つきのような扱いを受けた。あの訴訟は、こうした差別が明るみに出た最初のケースだったので、人々もどう反応してよいかわからなかったのだと思う。今は、多くの人たちが自らの差別体験を語り、この問題に関心を持つよう呼び掛けているので、人々も差別が問題であることを認めるようになっている」とパオ氏はTechCrunchに話してくれた。

今と当時の違いは、問題に対する態度が「見ぬふりをしよう」ではなく「どうにかしよう」に変わったことだ、パオ氏はいう。

(マサチューセッツ州ボストン-12月10日:起業家、投資家で作家でもあるエレン・パオ氏が、2015年12月10日、マサチューセッツ州ボストンのBoston Convention & Exhibition Centerで開催されたMassachusetts Conference For Womenで登壇している。(画像クレジット:Marla Aufmuth/Getty Images for Massachusetts Conference for Women))

パオ氏はまた、「問題は、ほとんど何も対応策がとられなかったことだ。企業はこの問題を、会社イメージの低下とそれに対応するための広報戦略という観点で捉えている。経営上の死活問題だと考えてはいないため、大きな変化が生まれることはない。だから何度でも同じ問題が起きる」と語る。

Uber(ウーバー)では、エンジニアのSusan Fowler(スーザン・ファウラー)氏が同社のセクシャルハラスメント疑惑について同社に極めて不利な主張をした後、共同創業者のTravis Kalanick(トラヴィス・カラニック)氏がCEOの座を追われたが、パオ氏はこの件に関して、新しいCEO(Dara Khosrowshahi(ダラ・コスロシャヒ)氏)に変わったところで大きな変化は望めないと考えている。

「前と同じようなひどい問題は起こらないとしても、ダイバーシティが同社で全面的に実践されているわけではない」とパオ氏は語った。

そしてTesla(テスラ)問題である。パオ氏はこの問題を「ごみ箱の火事」と呼んでいる。

2018年、テスラの黒人工場労働者が、同社のカリフォルニア州Fremont(フレモント)工場における人種的偏見と差別の文化について口を開いたのだ。

「やるべきことはまだ山ほどあると思う。人々の態度が変わったこと、差別の経験談に人々が反応するようになったことは確かに大きな変化だが、十分というにはほど遠い」とパオ氏はいう。

>>「第二部:口先だけのリップサービス」を読む

日本版編集部注:本稿は米国版TechCrunchが2019年6月に公開した記事を翻訳・再構成したものです。

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(翻訳:Dragonfly)

InstagramがTikTokクローン「Reels」を新市場へと拡大

Instagram(インスタグラム)は、昨年のブラジルでの開始に続き、「Reels」(リール)として知られるTikTok(ティクトック)のライバル(未訳記事)を、新しい市場へと拡大している。米国時間6月24日から、InstagramはフランスとドイツでのReelsの提供を始めた、これによってユーザーは15秒の短いビデオを録画し、音楽やその他の音を添えて、Instagramプラットフォーム上で共有してバイラルを狙うことができる。

Reelsの機能はTikTokに似ていて、クリエイティブなビデオを撮影することを容易にする編集ツールを各種提供している。たとえば、提供開始時にReelsは、カウントダウンタイマー、ビデオ速度を調整する機能、その他の効果を提供していた。

同社はブラジルで行った初期のテストから学び、それ以来Reels体験のキーとなる側面を再考してきた。

以前は、ReelsはInstagramのストーリー内のみで共有されることが意図されていた。しかし、Instagramコミュニティからは、より永続的な方法でReelsをフォロワーや友人と共有する機能が必要であり、必要に応じてその配布をより広く行なう機会も必要だとする反応が返された。

さらには、コミュニティからは簡単にReelsを編集たり他の人のReelsを見ることができたりする専用スペースが必要だという希望も寄せられている。

同社の広報担当者がTechCrunchに語ったところでは、ドイツとフランスでの拡大に伴い、InstagramはReelsをユーザープロフィールや検索ページ(後者は公開アカウント用)の専用スペースへと移動し たので、ユーザーは新しい視聴者と共有したり、Instagramフィード上で共有したりすることができる。

これらの変更により、Reelsがアプリの目的地の1つになるにつれて、Reelsとそのクリエイターたちにさらに多くの露出のチャンスが生み出されるだろう。例えば、現在のストーリーのように。

ところでReelsは、TikTokの人気の高まりに挑戦したFacebook(フェイスブック)の最初の試みではない。

Instagramの親会社であるFacebookは、以前に短い形式のビデオアプリLasso(ラッソー)を立ち上げていたが、これまでのところ大きな牽引力を発揮できていない。これに対して、Reelsでは、Instagramは既存のクリエイターベースを利用し、ユーザーのビデオ編集ツールへの慣れを活用することができる。

Reelsの課題は、Instagramユーザーが現在フィードへの投稿やストーリーで現在行っているものとは異なるタイプのコンテンツを、作成してもらうようにすることだ。そうしたビデオは、例えば誰かの日常のクリップやVlogのように、どうしてもより個人的なものになる傾向がある。その一方で、より専門的なクリエーターコンテンツはIGTVへと移動されてきた。

これに対してTikTokビデオでは、リハーサルや振り付けが行われる傾向がある。ユーザーたちはダンスを学び、トリックを実行し、ジョークを語り、曲やオーディオにリップシンクしたり、人気のミームを独自の方法で再現したりしている。こうしたビデオは通常、Instagramで見られるような即興的なものではない。こうしたコンテンツの作成を奨励するには、Reelsが現在提供しているものとは別の種類の編集ツールセットとワークフローが必要だ。

Instagramは、Reelsをグローバルに展開する予定の時期や、米国に持ち込む予定の時期は明らかにしなかったが、さらなる拡大によって、同社は既存の経験を基に引き続き製品を進化させることができると語っている。

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(翻訳:sako)

SuseがCloud FoundryベースのCloud Application Platform v2をリリース

ドイツの有名なオープンソース企業であるSuseは、数え切れないほど何度もオーナー企業が変わったが、2019年に再度独立企業になった。同社は、オープンソースのPaaSプロジェクト「Cloud Foundry」の長年の擁護者だ。SuseというとLinuxのディストリビューションを思い浮かべる人が多い思われるが、現在の同社はさまざまなサービスを提供している。コンテナプラットホーム、DevOpsツール、そしてCloud FoundryをベースとするSuse Cloud Application Platformなどだ。米国時間6月24日にSuseは、2年に一度の、そしていまやバーチャルのCloud Foundry Summitにおいて、Cloud Application Platformのバージョン2のローンチを発表した。

Application Platform、むしろCloud Foundryのメリットは、アプリケーションのワンステップデプロイと、それらサービスをホストするエンタープライズ級のプラットホームにある。

バージョン2の目玉機能は、Kubernetes Operatorだ。コンテナベースのアプリケーションをパッケージし、デプロイし、管理していくための標準的な方法で、これにより、Kubernetesのインフラ上でCloud Foundryをデプロイし、管理することが容易になる。

Suseのエンジニアリングとイノベーション担当プレジデントを務めるThomas Di Giacomo(トーマス・ディ・ジャコモ)氏によると、オンプレミスでもパブリッククラウドでも、Kubernetesのプラットホームがどこにあっても、その上でのインストール、運用、そしてメンテナンスが容易になり、既存のCloud Foundryユーザーにとっては、コンテナベースのモダンなアーキテクチャへの移行の道が開ける。というより、ここ数年はCloud FoundryにKubernetesのサポートを導入し、またCloud FoundryをKubernetesに持ち込むことの両方においてSuseは欠かせない存在だ。

なおCloud Foundryは長年、まだ誰もKubernetesの名前を聞いたことがないころから、コミュニティが開発した自社製のコンテナオーケストレーションツールを使っていた。しかし最近では、Kubernetesがコンテナ管理のデファクトスタンダードになり、そして現在では、Cloud Foundryは自社のDiegoツールとKubernetesの両方をサポートしている。

同氏は「Suse Cloud Application Platform 2.0は、これらの努力の上に構築され、それをさらに前進させる。そして最近SuseがCloud Foundry Communityに寄贈したいくつかのアップストリームの技術も取り入れている。例えば、KubeCFは、Cloud Foundry Application Runtimeのコンテナ化バージョンであり、Kubernetesの上で動く。またProject Quarksは、Kubernetes上のCloud Foundryのデプロイと管理を自動化するKubernetesオペレーターだ」と語る。

関連記事:SUSEがエンタープライズサービス好調で再び独立企業に

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(翻訳:iwatani、a.k.a.hiwa

Wyzeが約5300円のワイヤレス屋外カメラを発売

シアトルに拠点を置くWyzeは近年、数多くのスマートホームガジェットを手頃な価格で発表したことにより、その名を馳せるようになった。同社は今やスマートプラグやロック、体重計やフィットネスバンドなどあらゆる製品を販売しているが、すべての始まりは20ドル(約2100円)のWyze屋内防犯カメラであった。それに続き同社は最新カメラであるWyze Cam Outdoorを発表し、今日から早期リリースで購入できるようになった。

スターターキットとベースステーションの価格は50ドル(約5300円)となっており、早期リリース期間後は追加カメラが1つ40ドル(約4260円)で購入できるようになる。これまでと同様、基本的な屋外防犯カメラ分野における競合他社の多くが打ち出している価格と比べ、Wyzeは同製品の価格の引き下げに成功している。

名前がほぼ全てを語っている。Wyze Cam Outdoorはライブストリーミングと録画用の20 fps 1080pカメラにIP65の防水性を備えており、オリジナルのWyzeカメラで見られたキューブ状のデザインを維持している。さらに、Wyzeアプリを介した暗視モードと双方向オーディオを搭載。オンデバイスストレージに加え、14日間分の無料クラウドストレージも提供している。そしてもちろん、標準のPIRセンサーを使用してモーション検出を行うための能力を備えている。

同類の製品と同様に本製品はバッテリーで動作するため、庭にケーブルを敷設する必要はない。同社によるとバッテリーは3〜6か月持続すると言う。

カメラは磁石で土台に取り付けることできる。しかしまずその土台を壁や天井、または庭のフェンスにネジで留めなくてはならないため、多少のDIYを行う必要がある。

ベースステーション自体は当然ケーブル接続されている(これにはWi-Fiサポートに加えて、イーサネットケーブルを接続するオプションが含まれる)。特筆すべき優れた機能として、ベースステーションにもSDカードスロットがあるため、そこにもビデオを保存するこができる。

2.3×2.3×2.8インチというかなり小さめのサイズであることから、同社はオフラインのトラベルモードという小粋な機能をソフトウェアに組み込んだ。同社によると、これにより旅行先でもホテルの部屋やキャンプ場などの滞在先を監視することができる。

サンプルを見る限り、同製品はかなり有能な屋外カメラと言えるが、ハードウェアに関しては大きな疑問が残る。アプリとカメラ上のモーション検出がどれだけうまく機能するかにも大きく依存している。今後2週間ほどでレビューサンプルを入手したら、また詳しく掘り下げてみようと思う。

それまで待てないという場合は、Wyzeのショップとアプリからスターターキットをご購入いただける。

関連記事:たった5分で普通のカメラを高画質のウェブカメラとして設定する方法

カテゴリー:ハードウェア

タグ:ガジェット カメラ

Image Credits: Wyze

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(翻訳:Dragonfly)

エンジニアなど技術系の給与はリモートワークの普及でどう変わるか

採用プラットフォームのHired(ハイヤード)は毎年、何十万件もの面接依頼やジョブオファーからのデータに基づいて技術系の給与を調査している。今年も過去と同様に、世界中のソフトウェアエンジニア、プロダクトマネージャー、DevOpsエンジニア、デザイナー、データサイエンティストの給与が同社によって調査された。

言うまでもなく今年は特殊な年である。パンデミックが起きたことでリモートワークへのシフトが加速していることもあり、Hiredは今年、新型コロナウイルスの前後で調査結果を2つのパーツに分割して調査を実施することにした。2019年に誰に幾らの給与が支払われたかに関するデータが公開されると共に、Facebookが同社の従業員に対して行うと述べているように、より多くの企業が地域ごとにローカライズされた給与を採用した場合、この数字が今後どう変化していくのかについても公開された。

初めに、新型コロナウイルスが世界に強烈な影響を与える前の数字を見ていただきたい。

Hiredによると、サンフランシスコからロンドンに至るまで、テクノロジーに携わるすべての人々の給与は2020年に向けて着実な増加傾向にあった。サンフランシスコの給与は昨年7%上昇し、平均的な技術系労働者の年収は15万5000ドル(約1650万円)となっていた。その後に僅差で続くニューヨークの平均的な技術系労働者の給与は14万3000ドル(約1520万円)となる(2018年から8%増加)。シアトルは3%増で14万2000ドル(約1510万円)、ロサンゼルスとオースティンの平均は13万7000ドル(約1460万円)となっている(ロサンゼルスは2018年から8%増、オースティンは10%増)。

米国ではプロジェクトマネージャーに最も高額の給与が支払われており、平均して15万4000ドル(約1640万円)となっている。一方でソフトウェアエンジニアの給与は平均14万6000ドル(約1560万円)、データサイエンティストの給与は13万9000ドル(約1480万円)、デザイナーの給与は13万4000ドル(約1430万円)となっている。

2020年にますます問われるようになった質問としては、こういった労働者がサンフランシスコのような物価が高い都市から、より物価の安い地域に移住した場合、前述の数字はどのように変化していくかである。Hiredはベイエリア特有のこの質問に答えることができたようだ。そして驚くことではないが、現地で稼いでいた賃金が移住後もそのまま変わらないと仮定すると、他の地域ではその金額は全く違う意味を持つことになると言う事実も発覚した。

例えばベイエリアでの年収15万5000ドル(約1430万円)は、物価の安さが幸いしオースティンでは22万4000ドル(約2400万円)、デンバーでは20万2000ドル(約2150万円)の年収に相当に値する。

しかし優秀な人材を求めている企業にとって計算は単純なものではない。Hiredが2300人の技術系労働者を対象に実施したアンケートによると、回答者のほぼ3分の1が、リモートワークが恒久的になった場合、給与の減額を受け入れることをいとわないと述べている(一方で半数以上は受け入れないと述べている)おり、リモートワークが恒久的になった場合、53%が「高確率で」または「ほぼ確実に」物価の安い地域に移住すると述べている。また半数が最低でもコロナ後も週に1度はオフィスに戻りたいと述べている。

悩ましい問題である。唯一明確になったことと言えば、月曜日から金曜日まで毎日出勤する日常には、ほとんど誰も戻りたいと思っていないということだ。具体的には、毎日仕事に行きたいと答えているのは全回答者のわずか7%である。

当然のことながら、技術系労働者が住む場所や給与に関して実際にどの程度柔軟でいられるかは、仕事の安定性やそれをどう認識するかによって大きく異なる。おそらく時代の動向もあり、Hiredのアンケートによると意見の一致はほとんど見られない。

調査した数千人の技術系労働者のうち、42%が今後6か月間の解雇を懸念していると述べ、39%が「現在の仕事を辞めたいと思っているが、仕事が見つかるか不安なため辞められずにいる」という発言に同意している。

どちらのケースにしても、解雇されることや他の仕事を見つけることに不安を感じていないという人の割合の方が多くなっている。

HiredのCEOであるMehul Patel(メフール・パテル)氏は今後、リモートワークの増加が給与などに関する全体的な期待値にどのように影響するかを綿密に追跡していくと我々に語ってくれた。

現時点では、ローカライズされた給与の計算方法に関するメトリックを公開することにより、このような混乱した時期において求職者や雇用側が少しでも安心できるようになればと同氏は言う。「それこそが、こういった研究を行いレポートを公開する大きな理由だからです」。

関連記事:Facebookが社員半数をリモートワークに、シリコンバレー外に複数の拠点開設へ

カテゴリー:その他

タグ:リモートワーク   コラム エンジニア

Image Credits: PayPau / Getty Images

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(翻訳:Dragonfly)

ニュース媒体向けGoogleアナリティクスツールに読者を増やすためのリコメンデーション機能などが加わる

Google(グーグル)が、ネット上の読者をもっとよく理解し、なんとか自分のビジネスに組み入れたいと思っているニュース制作部門のための新しいツールを発表(Google News Initiative Training Centerリリース)した。

これらは、2018年に始まったGoogle News Initiativeに含まれるもので、上質なジャーナリズムを育て、ニュースを産業として支援するためのものだ。同社はGoogle Analyticsを利用するジャーナリズムにフォーカスした2つのプロダクトを導入。1つはパブリッシャーが読者を増やして利益を上げるためのツール「News Consumer Insights」、もう1つはニュースルームのユーザーがさまざま時点のトレンドを知るための「Realtime Content Insights」ツールだ。

グーグルでニュースと出版のためのアナリティクスと収益最適化部門を担当しているディレクターを務めるAmy Adams Harding(エイミー・アダムス・ハーディング)氏によると、「『ニュースの世界の人たちは膨大な量のデータに溺れそうになっている』という話を何度も聞いている。彼らは数の津波の中で具体的なアクションに結びつく情報を選り分けることが困難と感じている」とのこと。

同氏は「Google Analyticsを使っている人なら誰でもアクセスできることが、チームにとって 『重要』だった」と付け加えた。

米国時間6月24日に同社は、News Consumer InsightsとRealtime Content Insightsのバージョン2をリリースし、さらに、News Tagging Guide(NTG)と呼ばれる新たな機能を加えた。

画像クレジット: Google

NTGは、パブリッシャーが必要なデータを容易に集められるようにする。そのためにまず、データを3つのカテゴリー、ビデオのアナリティクスとユーザーのエンゲージメント、そして購読売上に分類する。パブリッシャーがカテゴリーと必要なデータタイプを指定すると、グーグルがJavaScriptのコードを発行する。パブリッシャーがそのコードを自分のウェブサイトにコピーすると、Google Analyticsに関連のデータが入ってくるという流れだ。

一方のNews Consumer Insights(NCI)は、パブリッシャーのためのパーソナライズされたリコメンデーションが加わった。例えば、パブリッシャーのニュースレターの申し込みが増えてないと指摘し、読者を増やすさまざまな方法を提案する。ハーディング氏は「NCIのリコメンデーション機能は前からあったが、パブリッシャーがたえず一般的なプレーブックに戻らないと見つからないし、単純にデータを見ているときにもっとも適切なリコメンデーションが高輝度表示されるのではなかった」と語る。。

そしてRealtime Content Insightsは、ビデオコンテンツの場合と同じようなデータが含まれるようになるほか、パフォーマンスの履歴も見られるので各記事の一定期間の人気、そしてその順位がわかる。基になるデータはページビューだけでなく、ソーシャルな共有とエンゲージメントなども含まれ、記事の人気を通りすがりの読者と定着読者(1カ月に複数回訪問)、および愛着読者(月に15回以上)に分けて判断できる。

グーグルでNews Consumer InsightsとRealtime Content InsightsとGoogle Surveys for Publishersを担当しているAnntao Diaz(アンタオ・ディアス)氏は「記事に優劣をつける気はない」と語る。同氏によると「むしろ重要なのは、どの記事がどんな読者を引き付け、どんな目的に役立っているかだ。そういった記事は全体的な読者増に貢献し、今後のサブスクリプションにもつながる固定客(定着読者や愛着読者)を増やすだろう」と語る。

グーグルはすでに、TIME誌や、地方紙を発行しているLee Enterprisesなどとともに、これらの機能をテストしてきた。Lee Enterprisesのアナリティクス担当ディレクターであるKyle Rickhoff(カイル・リッホフ)氏は、声明で「Lee Enterprisesは新聞業界の中でも読者層が増え続けているほうだ。そんな中でGoogle News Initiativeとのパートナーシップは、我々の成績を定量化して判断するための優れたインサイトを提供してくれる。News Tagging Guide機能が加わったNews Consumer Insightsのニューバージョンは、読者のエンゲージメントに関する理解をより正しくし、ビデオやエンゲージメントのコンバージョン、よりよいデータによるオンサイトのサブスクリプションなど、さまざまなビジネス機会の優先順位をより正しく付けられるようにしてくれた」と語る。

関連記事:Googleはジャーナリスト向けの新たなリアルタイムデータ製品を発表

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

中国のGPS代替システム「北斗」が最後の測位衛星を打ち上げ

数十年にわたり米国は位置情報、ナビゲーション、時間測定などで独占的地位を維持してきた。軍が運用する通信衛星群を利用した全地球測位システム(GPS)は、全世界で数十億台のデバイスに位置情報を提供する基幹システムである。

このテクノロジーが軍事目的だけでなく、近代経済の根幹をなすようになるにつれ、世界中の政府が米国中心システムから脱皮する方法を探ってきた。ロシア、日本、インド、英国、EUのいずれもが、GPSの代替手段の開発に手を染め、カバー範囲を広げるために追加の衛星を打ち上げてGPSシステムを強化しようとしている。

しかし、GPS代替システムとしてBeidou(ベイドゥ、北斗)ほどの投資をした国は中国以外にまずいない。過去20年間に同国は数十億ドルを費やし、30基近い衛星を打ち上げてまったく新しい位置情報システムを作ろうとしてきた。中国国営メディアによると、中国の端末の70%近くがBeidou衛星からの信号を処理できるという。

そしてパズルの最後のピース、Beidou星座最後の衛星が6月23日午前、軌道に向けて打ち上げられたことをPeople’s Daily(人民日報)が伝えた。

これは,市場参入や人権に対する考えの相違を巡って関係の悪化している米国、中国に続いている数々の分離の一環に過ぎない。2国間の貿易交渉は行き詰まり、トランプ政権の上級顧問の1人は全面中止を主張(NewYork Times記事)している。H-1Bビサの新規発給一時停止の発表もそのひとつで、米国移民局(USCIS)によると中国はH-1Bビザ申請数世界第2位である。

Beidouの現行計画の完了は、この基幹技術の新たな柔軟性と回復力を中国政府にもたらすが、究極的測位テクノロジーというのは本来敵対関係を生むものではない。衛星が増えれば全ユーザーにとって冗長度が上がり、この種の技術の多くは相互に協力することで端末メーカーの柔軟性を高める可能性を持っている。

とはいえ、GPSのなりすましや測位技術のハッキング全般が深刻な脅威(MIT Technology Review記事)であることに変わりはない。今年トランプ政権は、GPS信号をハッキングから守るためのより強固なツールの開発を政府機関に強制する大統領令を発出した。

世界の物流と日々の我々の生活がどれほどこの技術に支配されているかを踏まえると、この最重要な資産を守るために国際協力を強化する必要がある。中国が完全に稼働するシステムを手に入れた今、米国がGPSと測位システムをさらに広く提供し最大限の信頼性を追求するのと同じくらい、中国には自らの基盤を保護する動機がある。

画像クレジット:STR / Getty Images

関連記事
GPS戦争勃発
トランプ大統領がITエンジニアも多く利用するH-1Bビザの新規発給を一時停止する大統領令に署名
トランプ政権が新大統領令でGPSの防衛目指す

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

マイクロソフトがセキュリティスタートアップのCyber​​Xを買収、Azure IoT事業のセキュリティ強化に超本腰

米国時間6月22日、また新たな大型買収がイスラエルで発生した。この買収は、経済が減速する中、大手ハイテク企業が長期的戦略に集中し、それを支える資産をどう補強しようとしているのかを示している。Microsoft(マイクロソフト)が、CyberX(サイバーエックス)を買収すると発表(Microsoft Blog記事)したのだ。Cyber​​Xは、IoTネットワークや大企業のネットワークにおけるセキュリティ侵害の検知、対応、予測に特化するセキュリティスタートアップだ。契約条件は未公開で現在問い合わせ中だが、情報筋によると約1億6500万ドル(約180億円)だ。

「Cyber​​Xは既存のAzure IoT セキュリティの機能を補完し、産業用IoT、OT(運用・制御技術)、各種インフラなどの既存の機器に拡張される」と、Cloud & AI Security部門のCVPとCTOを務めるMichal Braverman-Blumenstyk(ミハル・ブラバマン・ブルーメンスティク)氏とSam George(サム・ジョージ)氏は述べた。「顧客はCyber​​Xにより既存のIoT資産を可視化し、機器のセキュリティ体制を管理・改善できる」。

この数カ月聞かれたマイクロソフトがCyberXを買収するとの憶測は、今回の買収により終息する。報道は2月に始まり(The Maker記事)、しばらく音沙汰がなかったが、5月に再び現れ始めた(Geektime記事)。その間、噂された買収価格は1億5000万ドル(約160億円)から1億6500万ドル(約180億円)に上昇した。クロージングが遅れた原因はバリュエーションだった可能性がある。あるいは値上がりしたのは単に他社も買収の検討を始めたせいかもしれない。

マイクロソフトが関心を寄せたのは、過去数年間CyberXが取り組んできた2つの主要な領域、すなわち大企業向けのITサービスとサイバーセキュリティだ。後者では、特にAIを活用して次世代の課題に取り組んでいる。

この2つはCyber​​Xの中で大きく重なっている。同社が協業する主な電力会社、通信事業者、化学メーカーなどの民間企業は、事業の基盤となる広大なネットワーク全体で「無人」マシンを利用している。CyberXは行動分析や他のAIベースの手法を使い、ネットワーク活動を継続的に監視し、侵害の兆候となる異常を検出する。

マイクロソフトはIoTにも大きく賭けている。法人向けに力を入れており、過去2〜3年の間に50億ドル(約5400億円)をIoTソリューションの開発やAzureオペレーションに必要なプラットフォームに投資した。セキュリティがその主要な基盤となる必要がある。中途半端な開発や保守のためにシステムの欠陥が多発する例が後を絶たず、それがネットワーク全体に関わるより大きな脆弱性の原因となっているからだ。

今回の買収で、創業者を含む会社全体がマイクロソフトに加わるようだ。「二ールと私は、世界中の企業に向け、リスク軽減と利用開始が容易でスケーラブルなソリューションを提供するためにCyber​​Xを立ち上げた」と、Cyber​​Xの共同創業者兼CEOであるOmer Schneider(オマール・シュナイダー)氏は、買収取引を発表したブログ投稿で述べた。「当社は大切な顧客とパートナー、イノベーションと努力によってこの重要なマイルストーンに到達することを可能にしてくれた献身的な従業員、そして継続的に支援してくれた投資家に感謝している」

「マイクロソフトと力を合わせることで当社のビジネスとテクノロジーを迅速に成長させ、より多くの企業がデジタルトランスフォーメーションを安全に実現できるようになる」と、Cyber​​Xの共同創業者で、GM International兼CTOのNir Giller(ニール・ジラー)氏は付け加えた。「Cyber​​Xとマイクロソフトは共同で、企業内のすべてのIoTおよびOT機器のリスクを可視化し包括的に理解するための比類のないソリューションを提供する」。

Cyber​​Xは自社のIoTネットワーク(特に産業用IoTネットワーク)を適切に管理するためのさまざまなツール、特に「デジタルトランスフォーメーション」のコンセプトに関わるものを顧客に提供する。単にシステムをアップグレードするだけでなく、システムをよく理解したい顧客が対象だ。

エンドユーザーが工場のフロアのような広い場所で既存のIoT資産を検出・接続できる機能もある。そして、現場でセキュリティの問題を発見・修正する。

これは、他のマイクロソフトのサービスにアップセルするための踏み台として使うこともできる。例えばAzure Sentinelは、IoTシステムが会社の広範なITネットワークとどこでどう相互接続しているかを広い範囲で把握することができる。脆弱性とその影響を特定する上で可視性が重要だ。

Intel(インテル)が、5月にイスラエルのマッピングスタートアップMoovitを9億ドル(約960億円)で買収したのと同様に、マイクロソフトもすでにCyber​​Xと関係を構築していた。両者は最近、マイクロソフトのAzureクラウドプラットフォームを今年3月に統合する契約を発表した。Azureを使用するCyber​​Xの顧客は、Cyber​​Xのセキュリティシステムやその他のオンプレミスネットワークアクティビティでAzureのサービスを引き続き利用できる。

インテルの戦略的関係とは異なり、マイクロソフトはCyber​​Xの投資家ではなかったようだ。CyberXは、Norwest Venture Partners、Qualcomm Ventures、Flint Capital、イスラエルのVC GlilotやOurCrowdなどの大規模VC、FacebookのStan Chudnovsky (スタン・チュドノフスキー)氏やGigi Levy-Weiss(ジジ・レヴィ・バイス)氏などの個人を含む投資家から4800万ドル(約51億円)弱(Pitch Bookデータ)を調達した。

より一般的には、マイクロソフトはイスラエルで大口の投資家および買収者であり、最近のサイバーセキュリティ関連のM&Aには、AoratoAdallomSecure IslandsHexaditeの買収が含まれている。

法人向け分野でも買収は大小を問わず進められているが、最近ではさまざまな業界、全部で約75業界の広範なデータモデリングマップを構築したADRMという米国の小規模な企業を買収(Microsoft Blog記事)した。企業がデータを移動する方法と場所、また組織内で技術や人的投資が必要になる可能性がある場所を視覚化するのに役立つ。それも、Azureの一部になりつつある。

画像クレジット: Alex Tai/SOPA Images/LightRocket / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi