Wunderlist創業者のスタートアップがPowerPointに挑むために32億円を調達

ソフトウェア産業はもはや幼年期ではない、そしてそのことが私たちを技術的に興味深い瞬間にも引き合わせてくれるのだ。広く普及した最大級のレガシーアプリの中には、小規模で動きの速いスタートアップたちの挑戦を受け続けているものがある。スタートアップたちは新しいアプリケーションを開発して、巨人たちを打ち負かすことを夢見ている。その最新の動きとして、ベルリンのあるスタートアップが、米国時間10月1日に新しいプレゼンテーションソフトPitchのクローズドベータ開始を発表した。

これは特にMicrosoft(マイクロソフト)のPowerPointに対して挑戦しようとするものだ。なお、スタートアップの創業者たちはかつてMicrosoftに自分の会社を売却した経験を持つ者たちである。

同時に、Pitchは追加の3000万ドル(約32億円)を調達したことも発表した。このファンディングはThrive Capitalによって主導され、Instagramの共同創業者たちであるKevin Systrom(ケビン・シストローム)氏とMike Krieger(マイク・クリーガー)氏、そしてSuperhumanの創業者であるRahul Vohra(ラーフル・ヴォーラ)氏も参加している。

この資金は1年前に行われた、Index Ventures、BlueYard、Slack、その他ソフトウェアディスラプションに精通した他の多くのエンジェルたち(ZoomのCEO、DataDogのCEO、 Elasticの共同創業者が含まれる)が参加したラウンドで、Pitchが調達した1900万ドル(約20億円)にさらに追加されることになる。

Pitchは、Wunderlistを開発した人たちと同じメンバーによって創業された。Wunderlistは人気のToDoアプリで(多くの今回と同じ投資家たちから支援されていた)、Microsoftが2015年に買収し、その後独自のサービスTo Doの開発に伴ってその終了が発表されたばかりだ。昨年10月以来、Pitchはずっと密かにそのサービスの最初のバージョンを開発していた。創業者には、CEOのChristian Reber(クリスチャン・レーバー)氏のほかに、Vanessa Stock(ヴァネッサ・ストック)氏、Marvin Labod(マービン・ラボッド)氏、Adam Renklint(アダム・レンクリント)氏、Charlette Prevot(シャーレット・プレボット)氏、Jan Martin(ヤン・マーティン)氏、Eric Labod(エリック・ラボド)氏、そしてMisha Karpenko(ミシャ・カルペンコ)氏が名を連ねている。

現在行われている招待者限定フェーズは、開発のゆっくりとした進歩の1つだ。レーバー氏がインタビューで述べたようにベータ版の目的は、使用方法の情報とフィードバックをベータテスターから集めて、将来のフルバージョンに備えてアプリケーションを洗練する方法を見出すことだ。

言い換えれば、すぐにテストできる製品は実際にはまだないことを意味している。私が尋ねると、レーバー氏は試せるようになるには少なくともあと数週間は必要だと語った。とはいえ開発は着実に進行しており、十分な量な資金を調達することもできた。

Pitchの開発の背後にある主な動機は、長い間存在してきたゆえに、非常に強固に固まったプロセスを再検討しようというものだ。その長く使われてきたプロセスはそれほどうまくは機能しておらず、テクノロジーのすべての進化を念頭に置いて再検討を受けてもいいものだ。

闘いの相手の第一候補はPowerPointだ。その登場はなんと1987年に遡る。10億以上インストールされ、5億人以上のユーザーがおり、広大なプレゼンテーションツールの世界で最大かつ強大な存在となっているが、おそらくその賞味期限を多少過ぎてもいるツールだ。

「私たちはピッチ(発表)そのものを製品として構築していくというアイデアが気に入っていました」と彼は言う。「ここ数年、Figmaのような企業のことをみてもわかるように、デザインに多くのイノベーションが起きてきました。それが私たちに1つの疑問を投げかけたののです。どうしてプレゼンテーションツールは停滞したままなのかと。PowerPointの改良版を開発するというアイデアも気に入りましたが、私のビジネス脳がそれは酷いアイデアだと叫びました。なぜ、KeynoteやPowerPointに似た製品で市場に参入する必要があるのでしょう?」。

友人たちからフィードバックを得るためにチームがプロトタイプをいじり始めたときに、その質問への答えを得ることになった。レーバー氏によればそのことによって、チームは本質的に停滞しているフォーマットを動的なものに変えるための、ビジネスチャンスを理解したのだという。Pitchが開発フェーズからクローズドベータに移行する前に、テストとフィードバックを拡張し続けている大きな理由は、ユーザーとの対話を通じて前向きな進展が得られているからだろうと私は想像している。

レーバー氏によれば、Pitchを開発する決断は、彼の投資家としての経験からも裏打ちされているのだという。これまでにも彼は、既に確立されたソフトウェアが支配的だったサービスの再構築を狙う、多くのアプリケーションに焦点を当ててきた。彼の投資ポートフォリオには、仮想ワークスペースを構築するNotionが含まれている。その創業者もまたPitchへの投資を行っている。

レーバー氏の作業時間を占めている他の案件のことを考えると、Pitchの立ち上げの中には学ぶべき興味深い教訓がある。実は彼は現在Wunderlistを買い戻そうと多忙なのだ。Microsoftによる終了の発表にもかかわらず、このツールはいまでも動作しているし、数百万人のアクティブユーザーを抱えているのである。

レーバー氏は、かつてWunderlistを売却したことについては後悔はしていないと語る。当時も会社は成長していたが、最終的には自分たちの力では構築できない、より大きなプラットフォームが必要だと感じていた。そしてEvernote(これはレーバー氏と彼のチームにとって大いなる刺激だった)の運命と没落を見つめるなかで、彼はMicrosoftへの売却が正しい選択だったということを知っていたのだ。

しかし、そうだとしても、現在の大きな所有者のもとで、製品がだんだん衰えて無視されて行くのを見るのは辛かったのだろう。

「Microsoftのリーダーシップチームに何度もメールを送り、ツールを買い戻すことができるかどうかを尋ねました。なぜならMicrosoftがユーザーを混乱させることなく、それをシャットダウンするのに苦労していることがわかったからです」と彼は言う。そこで彼はMicrosoftに対して「私に買い戻させてほしい。もしお望みならチームとその他すべてをそのまま維持してもいいですよ。皆が幸せになれます」という提案を行ったのだ。しかし、それは先に進まず簡単でもなかった。1年後、彼はTwitter上で改めてピッチを行った。そして「彼らは音信不通になりました」と彼は語った。

Wunderlistは、しっかり動作するプラットフォームなしにはアプリを構築する方法を考え出すことが難しい時代に出現したものだったが、この原則はもはやそのような単純なものではなくなったように思える。これがレーバー氏がWunderlistを買い戻して運用できると考えた理由だ。

「新しいソフトウェア会社にとって最も難しい問題は、特にSlackの例を考えるとプラットフォームの問題なのです」とレーバー氏は言う。「MicrosoftはTeamsを構築してWindowsにプリインストールして、少なくともユーザーに対して、試してみるようにと圧力をかけています。私に言わせれば、それは極めて不公平な彼らの利点であり、スタートアップならば継続的に闘って行かなければならないものなのです」。

「しかし同時に、新しいものを開発しているするこれらすべての企業は、互いに深く結び付くものを開発していると思います。Slack、Zoom、そしてAirtableはすべて緊密に統合されています。つまり、製品のスイート一式を用意しなくても、本当に大きな企業を作ることができるのです」。確かに、これらのように、Pitchのアイデアは、インストールすることを選べば使える他の軽いアプリケーションとともに、ウェブベースのバージョンを提供するというものだ。Pitchで作成されたドキュメントを読んだり操作したりするためにはソフトウェアライセンスは必要ない。その代わり自身でドキュメントを作成したい者に対しては最初から有料プランを提供するというのが、彼らのビジネスモデルのコアだ。

すなわち、収益の確保に対して、Wunderlistが十分に早い段階では焦点を合わせていなかったことが1つの反省点だったとレーバー氏は述べた。初期のEvernoteやその他の多くのアプリケーションのように、その主目的は注目を集めることだったからだ。これもまた学んだ教訓である)

長期的にはスタートアップは、独立性を維持するか、自身がプラットフォームとなるか、それとも別のプラットフォームに乗るかという、どの方向に進むかについての選択を行う必要がある。しかし今のところ、それらはPitchが行わなければならない選択ではない。

「私たちは、大きな市場の可能性を秘めた急成長企業に投資しています。Pitchは、変化の機が熟している市場で、優れた製品を開発できる強力な立場にあります。Pitchへの期待は、プレビューに対して期待を寄せた何千社もの企業の存在によって、既に明らかなのです」とThrive CapitalのJoshua Kusher(ジョシュア・クーシャー)氏は声明の中で述べている。「私たちは製品のビジョンだけでなく、そのチームも含めた両者によって、Pitchを信じています。Wunderlistへの投資を通じて、私たちは創業者たちと強力な関係を築きました。Pitchで再び彼らと協力できることを楽しみにしています」。

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(翻訳:sako)

高度なAPIやJSライブラリを使う現代的なウェブサイト作りを助けるGatsby

ReactやGraphQLのような現代的なウェブの技術を使ってよりよいサイトをより速く作れるプラットホームであるGatsbyは(ギャッツビー)米国時間9月26日、CRVがリードするシリーズAラウンドで1500万ドル(1億6200万円)を調達したことを発表した。これまでの投資家のTrinity Ventures、Mango Capital、Fathom Capital、Dig Venturesに加え、KongのCEOであるAugusto Marietti(アウグスト・マリエッティ)氏とAdobeのCPO Scott Belsky(スコット・ベルスキー)氏も参加した。同社のこの前の資金調達は380万ドルのシードラウンドだった。

Gatsbyは広く知られている名前ではないが、2015年のローンチ以来急速に成長した。今やIBM、PayPal、Braun、Airbnb、Impossible Foodsなどもユーザーだ。同社によると。上位1万のウェブサイトの約1%は、このプラットホームを使って作られている。同社を使うことのアドバンテージは、古臭いLAMPスタックを使わずにすみ、現代的なオープンソースのツールと実践的技術をベースとする、より現代的なスタックを使えることだ。Gatsbyはまた、 一枚岩的なCMSシステムを避け、もっと多様なツールを使うが、それでもなおWordPressやDrupalのようなプラットホームを使って、基本的にヘッドレスなCMSシステムを作れる。その場合Gatsbyは、そのCMSのためのプレゼンテーションレイヤになる。

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Gatsbyの創業者でCEOのKyle Matthews(カイル・マシューズ)氏は「私たちは4年という年月を費やしてGatsbyを、現代的なウェブサイトを作るための最も総合的なプラットホームに育てた。これまで企業が実装に何か月も何年もかけて、最先端のウェブスタックを使って作っていたようなものが、Gatsbyなら簡単に作ってデプロイできる」とコメントしている。

Gatsbyそのものは、オープンソースのプロジェクトGatsbyJSがベースとなっている。同社によると、このプロジェクトには開始以来2500名以上の人びとがコントリビュートしている。マシューズ氏によると、今ではGatsbyは各種のオープンソースプロジェクトに年間約300万ドルをコントリビュートしている。その中にはGatsbyのコアツールや、プラグインのエコシステムもある。

類似のオープンソースプロジェクトがそうであるように、Gatsbyも収益源は企業向けの有料お助けサービスだ。それにより企業のデベロッパーチームは、新しいサイトを迅速に立ち上げることができる。料金は1つのサイトにつき月額50ドルからだ。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

DARPAがFastNICでネットワークの100倍高速化を狙う

接続速度が遅いことは常に欲求不満の源だが、ここでスーパーコンピューターの立場からはどのように感じるかを想像してみてほしい。これらの実行コアはすべてあらゆる種類の処理を超高速で実行するが、最終的には同期を保つために古いネットワークインターフェイスの応答を待っている。DARPA(米国防高等研究計画局)はそれを好ましいと思っていない。そこでDARPAは、特に新しいネットワークインターフェイスを100倍高速化することによって、その状況を変えようとしている。

問題はこのようなものだ。DARPAが概算しているように、コンピューターまたはサーバー上のプロセッサーやメモリーは、一般的には1秒あたり約10^14ビットの速度で処理を行う、これは余裕でテラビット処理を行える。そしてスイッチや光ファイバーなどのネットワークハードウェアもほぼ同じ能力を持っている。

「プロセッサスループットの真のボトルネックは、イーサネットなどの外部ネットワークに、マシンを接続するために使用されているネットワークインターフェイスです。このために、プロセッサのデータ取り込み能力が大幅に制限されています」とプロジェクトに関するニュース投稿で説明するのは、DARPAのJonathan Smith(ジョナサン・スミス)氏だ。

そうしたネットワークインターフェイスは通常、NICと呼ばれるカード形式になっており、ネットワークからデータを受信してコンピューター自身に送り込んだり、その逆を行う。残念ながら、その性能は、通常ギガビットクラスだ。

NICとネットワークの他のコンポーネント間の能力差は、スーパーコンピューターやデータセンターを構成する数百または数千のサーバーやGPUなどの、異なるコンピューティングユニット間で、情報を共有できる速さに対する根本的な限界を意味している。1つのユニットが他のユニットと情報を共有できる速度が速ければ速いほど、次のタスクに素早く進むことができる。

次のように考えてみよう。あなたはリンゴ農場を経営しており、すべてのリンゴを検査して磨く必要がある。リンゴを検査する人とリンゴを磨く人がいて。どちらも1分間に14個のリンゴを処理することができる。しかし、両部門間のベルトコンベアーは、1分あたり10個のリンゴしか運べない。このとき仕事がどんなに溜まっていくか、そして関係者にとってそれがどれほどイライラするものかは理解できるだろう。

FastNIC計画によって、DARPAは「ネットワークスタックを再発明」し、スループットを100倍単位で改善したいと考えている。そして、もし彼らがこの問題を解決することができたなら、彼らのスーパーコンピューターは、世界中の他の国々、特に高性能コンピューティングの分野で米国と長年争ってきた中国のスーパーコンピューターよりも非常に有利なものとなるだろう。しかし、それは簡単なことではない。

「ネットワークスタックの構築には多額の費用と複雑さが伴います」とスミス氏は語る。最初に手がつけられるのはインターフェイスの物理的再設計だ。「まずハードウェアから始まります。もしそこを上手くやることができなければ手詰まりとなってしまいます。ソフトウェアは物理層が許すものよりも、物事を速くすることはできません。なのでまず最初に物理層を変える必要があるのです」。

残りの主要な仕事は当然、ソフトウェア側を再構築して、インターフェースが処理しなければならないデータ規模の大幅な拡大に対処することだ。たとえ2倍または4倍を目指す変更でも、体系的な改善が必要になる。まして100倍にするためには、真にゼロからのシステム再構築となるだろう。

DARPAの研究者たち(もちろん、ちょっとでも関わりを持ちたい民間企業の人材で強化されている)は、10テラビット接続の実証を目指している。ただし現時点ではまだタイムラインは設定されていない。ともあれ、現時点での良い知らせは、FastNICによって作成されるすべてのソフトウェアライブラリはオープンソースになるため、この標準は国防総省専用のシステムには限定されないということだ。

FastNICはまだ始まったばかりであるため、暫くの間は忘れていても大丈夫だ、1〜3年のうちに、DARPAがコードをなんとか生み出せたときに、改めてお知らせする。

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(翻訳:sako)

日本発の強いSaaSビジネスを作るには?SaaSビジネスモデルを7年の経験から徹底解剖

編集部注:この記事はfreeeのCEO、佐々木大輔氏による寄稿だ。佐々木氏はGoogleで日本およびアジア・パシフィック地域での中小企業向けのマーケティングチームを統括を経験した後、20127freeeを設立。Google以前は博報堂、投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズにて投資アナリストを経て、レコメンドエンジンのスタートアップALBERTにてCFOならびに新規レコメンドエンジンの開発を兼任した。freeeは「スモールビジネスが強くかっこよく活躍する社会」を目指し、「クラウド会計ソフト freee」などを提供する。

日本でもビジネスとして関心が高まるSaaS

freeeを創業してから7年以上が経った。創業当時はまだSaaSビジネスをどう評価すべきか、何を指標として伸ばすのか、そのノウハウはまだ日本にはなかっただろう。僕自身は、Googleの頃にSaaSビジネスについては少しだけ馴染みはあったものの実際に事業として運営をするのは、ほぼほぼ、初めてであった。よって、多大なる試行錯誤、海外VCとのディスカッション、海外の記事の読み漁りなどを重ね、SaaSビジネスについて理解を深めてきた。

海外では、SaaSの草分けとも言えるSalesforceは2004年より上場しており、SaaSビジネスモデルについての世の中への理解促進の活動を繰り返してきた。そして今や米国に上場する主要SaaS企業のリストだけでもこれくらいの大きなリストになっており、ビジネスが理解されることで、ビジネスモデルへの大きな期待が集まっていることが良くわかる。

SaaSのビジネスノウハウにおいても海外が先行している。最近では日本のSaaS業界の人も多く訪れるようになったSaaStr Annualというイベント(以前はサンフランシスコ、今はサンノゼで開催されている)に僕も数年前に訪れたが、SaaSの主にビジネス面をテーマとしてこれほど大規模なカンファレンスが行われているということ自体に、この業界に対する日本と海外での注目度に圧倒的な差を感じた。

そして、ついにここ数年、日本においてもSaaSが大きく注目を集める領域となってきた。SaaS企業への投資は圧倒的に増えているし、今年は、Sansan、スマレジ、Chatwork、カオナビなどSaaS企業の上場などがあり、日本にもSaaS分野の上場企業が増えている。

SaaSはテクノロジー業界における総合格闘技

SaaSは「テクノロジー業界の総合格闘技」とも言える産業であると、僕は日々思っている。技術、プロダクト戦略、営業やマーケティング、カスタマーサクセス、事業計画やシミュレーション、組織づくり、ファイナンス、など、あらゆる力を駆使して初めて顧客への価値とビジネスに結びつくのだ。

技術やプロダクト戦略は当然ながら最も重要なピースだ。「クラウドでソフトウエアを提供すること」自体が価値になるわけではない。例えば、会計ソフトの文脈で言えば、クラウド型の会計ソフト自体はfreee以前からも存在していた。しかし、freeeの登場によって市場が大きく変わったのは、単に「会計ソフトをクラウド化する」というコンセプトで参入したのではなく、「会計帳簿づけを自動化する、会計だけでなく、業務全体を効率化する」というこれまでの会計ソフトで焦点があたっていなかった価値を提供することができたからだ。

営業、マーケティング、カスタマーサクセスも当然重要だ。後述するように、LTV(生涯価値)ベースで従来とは異なる管理が求められるし、販売する製品は日々進化していくものであるので、個別の機能をアピールして販売するのではなく、コンセプトを理解いただき販売することが重要である。そして、販売後も、実際に使われていないと解約となってしまいビジネス上の価値がないことも当然ながら課題である。自然と強い顧客目線が求められるのが、SaaSビジネスの面白い部分だ。

また、後述する通り、SaaSビジネスには成長投資が求められ、中長期的に価値を生み出し投資を回収していく。故に、まとまった資金を確保できないとビジネスは成立しづらい。資金調達力や資金余力がなければ、ビジネスを支えられない。実は、この点は日本においてSaaS産業の立ち上がりが遅れた大きな理由の一つでもあると僕は考えている。最近、SaaSに対するVC投資が活発であることは大きな追い風だ。

SaaSビジネスは、しっかりシミュレーションすれば、将来が非常に読みやすいという大きな特徴があるため事業計画も非常に重要だ。個人的には若いころにPEファンドで、キャッシュフローモデルなどをつくりまくる仕事などをした経験などは大きく活きたし、計画や分析をしっかりできる状態になっていないと、将来の読みやすさを武器にできない。

このように、技術やプロダクト戦略を中心として、ビジネスのあらゆる部分がこれまで以上にチャレンジングな側面を持ち、それらを持ち寄って噛み合っていないと成功しない、強い組織力と総合力の求められる面白い分野だと思う。

SaaSがつくるソフトウエアの未来と「評価できない」というボトルネック

「あらゆる人々がパソコンやスマホに限らず、さまざまなデバイスからソフトウェアを操作し、自分や自分のビジネスに関するデータを見る、AIがインサイトを届ける」ということは今後、ますます当たり前になっていくであろうし、その際に「クラウド化」や「SaaS化」は重要な前提条件だ。

ここ20年くらいの間は、いわゆるホワイトカラーと呼ばれる人たちの中では、エクセルなどのスプレッドシートをいかに使いこなせるかは一つの重要なスキルであったが、ある程度の分析はスプレッドシートと格闘しなくとも、それこそスマートスピーカーに聞くだけで結果がでてくるようになっていくだろう。

SaaSはこのようなソフトウェアのパラダイム・シフトを牽引する産業であり、この産業が強いことは、そのマーケットのソフトウエア産業の実力値であるとも言える。SaaSビジネスが成長していくには、サービス提供とイノベーションをおこすために求められる様々な技術はもちろんのこと、ソフトウェアを育てる上で求められるビジネススキルや、それを取り巻く資本市場などのエコシステムが、そのマーケットにおいていかに充実しているか強く求められるためだ。

そういったエコシステムの形成において特に妨げとなる重要な事実は、会計ソフトの会社を経営する僕が言うのもおかしな話ではあるが、SaaSビジネスは、伝統的な決算書(すなわち会計上のP/Lやキャッシュフロー)からはなかなか正しくビジネスを評価できないこと、そして一般的に成長投資のための資金が必要という部分にある。

freeeは、会計や人事という、あまり業界を選ばないソフトウエアの領域で、個人事業主や小規模法人をターゲットとしたビジネスから急速に成長し、多額の資金調達も行い、今日では中堅規模の企業もターゲットとして販売活動に力を入れ、広い顧客セグメントを対象に急成長をしてきた。こんな経験を踏まえ、SaaSビジネスにおけるKPIを対象となる顧客セグメントの特性や僕たちの学びを交えながら解説していきたい。

SaaSで短期に会計上黒字化するには顧客を獲得しないのがベスト?!

SaaSでは、決算書にある期間損益ではなく、ユニットエコノミクス(顧客1件あたりの経済性)を見ながら投資判断することが非常に重要である。なぜそれが重要なのかをまずは見てみよう。

サブスクリプションビジネスであるSaaSにおけるキャッシュインとキャッシュアウトは次のようになる。

青で表されるキャッシュインはすなわち、毎月SaaSビジネスが頂けるソフトウェア利用料から原価を引いたものである。SaaSの原価としては、一般的にサービス運用のための原価(サーバー運用やカスタマーサポート)などが含まれる。

赤で表されるキャッシュアウトは、顧客獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)である。CACは顧客1件を獲得するためにかかるマーケティングおよび営業コスト。マーケティング費用と営業およびマーケティングに関連する当月の人件費を当月の新規顧客獲得件数で割ったものである。

つまり、サブスクリプション型であるSaaSモデルの特徴は、このようにCACを何ヵ月もかけて取り返すというところにあり、新規顧客獲得は先行投資的な性質を持つのだ。

(簡便のため、キャッシュインとキャッシュアウトという言葉を使っているが、会計上の粗利と販管費の関係と基本的には同じ構造である。キャッシュ・フローに関しては、1年分などの利用料を前受する場合などもあり、さまざまなテクニックがあるが、会計上の収益構造は原則にこのような構造となる)。

では、顧客1件あたりのキャッシュフローが上記のようになっていたとして、毎月1件ずつ顧客を獲得するとどうなるか、それが次の図だ。

青のキャッシュインは、毎月顧客が増えるにつれ増えていく。オレンジのキャッシュアウトは、毎月1件の新規の顧客獲得なので固定で毎月80かかる。このとき、既存の顧客からのキャッシュインが新規顧客獲得のためのキャッシュインを超える8ヵ月目で、このビジネスは会計上(もしくはキャッシュフロー上)黒字化することになる。新規顧客獲得コストを既存顧客からの売上でまかなえるかどうか、これがSaaSにおける会計上の黒字化の意味するところである。

ここには一つの面白い示唆がある。つまり、SaaSにおいて会計上黒字化を達成する最短の方法は顧客獲得をしない、ということになる。それではどのように投資判断をするべきなのか、次のセクションにて考えていきたい。

その時点でのサブスクリプションの実力値を評価するARR

サブスクリプションビジネスにおいて、いわゆる会計上の売上はトップラインを示す指標としては遅行指標である。オンプレのソフトウエアのようにライセンス販売の場合、販売時点で数年分の利用にかかる売上が会計上の売上として一括計上されるが、サブスクリプションの場合には利用月毎に売上が案分される。例えば、会計年度の最後の月に始まるサブスクリプション契約については、1か月分のSaaS利用料しか反映されないため、売上は期末時点でのSaaS企業の実力値を正しく評価できない遅行指標となる。

そのため、SaaSビジネスでは、その月の契約におけるその月のSaaS利用料の合計を年換算(12倍)した数値であるARR(Annual Recuring Revenue)をトップラインのKPIとしておき、その時点でのサブスクリプション契約の価値を評価する。

次のグラフは毎月ARRが5%成長する際のARRと会計上の売上の比較となる。

ARR成長のための3つの要素

ある期間におけるARRの成長は大きく3つに分けることができ、SaaSの事業計画を考えていく上では、大まかにはこの分解に則って考えるのが通常である。以下、それぞれについて解説するが、海外記事としてはこの SaaS Metrics 2.0がバイブルとも言える。

    • ①既存顧客の解約(Churn)によるARRの減少
    • ②新規顧客獲得によるARRの増加
    • ③既存顧客へのアップセルによるARRの増加

①顧客に価値を届けられているのか:Churn Rate(解約率)

SaaS企業は、顧客企業に見合った価値を提供できていないと容赦なく解約されてしまう。自分たちがしっかり顧客に価値を届けているかを白黒つけてモニタリングする指標として、Churn Rate(解約率)は重要な指標だ。

Churn Rate=当月の解約顧客数 / 前月末の顧客数

Month 0において、1000社の顧客がいたとして、月次のChurn Rateに応じてどれほど顧客が自然減してしまうかが次のグラフである。

このChurn Rateは通常は対象とする顧客が大きな企業であるほど低く、小さな企業や消費者であるほど高くなる傾向にある。

大きな企業がSaaS製品を利用する場合、適切な評価プロセスを通り、その企業のニーズにフィットするのかはしっかり検証されるし、導入に伴うデータ移行や各種設定、社内での運用ルール徹底などにコストがかかることもあり、大きな組織において頻繁にソフトウエアを変えることは得策ではない面がある。

一方、小さな会社では、SaaS導入自体のコストが低かったり、導入に際する評価プロセスが整っていないことも多く、導入後にフィットしない要因が見つかりやすい傾向にある。また、当然廃業の率も高まるため、一般的にChurn Rateは高めになる。

freeeでは、リリース後1年ほどは、このChurn Rateを一切見ていなかった。当時持っていたダッシュボードと言えば、課金の度に来るメール。解約の度にも来るようになっていたが、圧倒的に頻度は低かった。一年ほどすると、それなりに顧客基盤もできたので解約の絶対数が気になるようになった。そこで初めてChurn Rateを見るようになった。既存顧客基盤がまだ小さいときは解約数も絶対数では気になりにくいということだ。もちろん、もっと早く気づいておくべきだった。見るべきものは率だ。

新規顧客の獲得を一定とした場合、顧客ベースの増え方はChurn Rateによって大きく影響を受ける。Churn Rateが高いほど、顧客ベースの成長は当然スローダウンしていく。そのため、Churn Rateが高い場合、全体としてのARRの成長をするためには、より新規顧客の獲得を増加させたり、既存顧客からの売上拡大を増加させるなどの対応が必要となる。

コーホート別のChurn Rate

Churn Rateを改善するために、アクショナブルな示唆を得るための最も一般的な分析は、コーホート別のChurn Rate、もしくは生存率の分析である。顧客の獲得月毎のコーホートに分けて、獲得時から時間が経つにつれどのような生存曲線を描いているかを見るものだ。

例えば、営業手法が悪ければChurn Rateは増加する。値引きなどのインセンティブを武器にアグレッシブな営業をした月のコーホートの生存率が低いというようなことから検出できる。

一般的に、Churn Rateは、最初の更新時などのマイルストンまでの間で最も高く、その後はそれよりも低い水準に落ち着く。最初の更新時までのChurnは、販売の仕方やコミュニケーションあるいは、導入における課題が原因である可能性が高い。一方で最初の更新時以降のChurnはプロダクトやサポート体制の実力値が数値に表れる。

Revenue churnという考え方

ここでまとめてきたように、Churn Rateを顧客ベースではなく、金額ベースで見る見方もある。顧客ベースのChurnがCustomer churnやLogo Churnと言われるのに対して、こちらはRevenue Churnと呼ばれる。顧客ベースも金額ベースもどちらも見るべき重要な指標であるが、Revenue Churnは複数の料金プランを持っていたり、顧客企業のなかで何ユーザーがIDを持っているかで料金が大きく変わるSaaS企業において、より重要性が高い。

②新規顧客の獲得

一般的に急成長フェーズのSaaSにおける最も大きな成長ドライバーは新規顧客獲得からのARR増加である。前に触れている通り、新規顧客獲得は、会計上のP/Lには短期的にネガティブなインパクトがある。そのため新規顧客獲得に投資する判断のため、ユニットエコノミクス(顧客一件あたりの経済性)に着目するのが一般的である。このユニットエコノミクスを表す指標として、LTV/CAC(エルティーヴィートゥキャックとか呼ばれる)が非常に重要である。

顧客のLTV(生涯価値)

顧客1社あたりの生涯価値。(顧客の平均月額単価x粗利率)x平均ライフタイムで求められる。粗利率をかける、すなわち売上から原価分を除いて評価すべきである。ライフタイムは通常、平均ライフタイム(月)=1/(月次Churn Rate)で算出される。これは、同じChurn Rateが今のまま続いたら、この値に収束するという理論値である。

この計算手法は一般的には、LTVを過小評価する傾向にはある。なぜならば、コーホート別Churnの箇所で触れた通り、Churn Rateは契約の1年目などの初期段階でもっとも高い傾向にありがちであるからだ。つまり、製品利用後になんらかのミスフィット要因が見つかり、利用継続できないというケースが多く、一定期間安定利用が続いた顧客のみで見るとChurn Rateは相対的に低くなる傾向にある。一定期間利用した顧客の割合が高くなる(つまり、全顧客の中での新規顧客の割合が減る)につれ、Churn Rateは通常下がっていく傾向にあり、この傾向からのアップサイドは上記の計算式では捉えることができない。

SaaSの原価としては、一般的にサービス運用のための原価(サーバー運用やカスタマーサポート)などが含まれる。原価を抑えられればLTVはあがる。

グローバルレベルで見るとSaaSの上場企業の原価率は急成長フェーズで少しずつ原価率が下がってきて20〜30%程度に落ち着くことが多い。

freeeでは、当初原価率はあまり気にしていなかったし、それが正しいと今でも思っている。明確な指針として、AWSのサーバー代の節約のためのアクションをとる暇があったらユーザーのための開発をする、カスタマーサポートの原価を気にするよりは神対応をして一社でもハッピーカスタマーを増やすことの方が大事、としていた。原価率については、改善余地だけは大まかに認識しておいて、大きく資金調達をしてバーンレート(毎月失ってしまうキャッシュ額)が億単位になってから、向き合うでよいだろう。

LTV/CACへ着目した成長投資

このLTVがCACを上回るようであれば、顧客を獲得すればそのSaaS企業にとっては中長期的にプラスといえるので、可能な限り多くの新規顧客を獲得のための成長投資をすればよいというのがユニットエコノミクスの考え方だ。

ただし、実際にはSaaS企業は顧客獲得コスト(CAC)以外にも、プロダクト開発のための開発コスト(R&D)や、企業全般の管理コスト(G&A)を支払っている。そして、安定期には利益率を確保するという観点からも一般的には、LTV/CACが3以上で成長投資をすること望ましいとされている。

実際には、プロダクトマーケットフィットとGo-to-Marketがある程度確立するまでは、様々な試行錯誤が行われる。なので、新規プロダクトの投入時や新規セグメント参入時は、LTV/CACが低い状態でプロダクトの精緻化や販売手法の確立のための試行錯誤を続けることになる。この低LTV/CAC状態での投資が、ある意味SaaS業界における本来の先行投資とも言える。健全なLTV/CACにおける投資は健全なリターンの実現が見込める投資であり、成長投資である。

freeeの場合は、このLTV/CACは、Series Aの資金調達後、積極的にマーケティング投資をする中ですぐに見始めたメトリクスだった。Googleにて広告製品の中小企業向けのマーケティングをする中でも似たようなアプローチで投資判断をしていたことがきっかけであったが、当時はここまで広く使われている指標だと想像していなかった。LTVは原価を引いて算出するべき、といったことは、その後グローバル・スタンダードを学ぶ中で取り入れたことであった。

回収期間(Payback period)

LTV/CACは、さらにライフタイムと回収期間(Payback Period)に分解することができる。

回収期間はCACを「平均月額単価から原価を引いたもの」で割ったものであり、月額利用料の何ヵ月分でCAC(顧客獲得費用)を取り返すかを表すものである。

この回収期間はダイレクトに成長に必要な資金に関連する指標で、短ければ短いほど、同じ成長をしたときに短い期間で会計上orキャッシュフロー上の黒字化を達成できる。回収期間によるキャッシュフローへのインパクト(R&D投資やG&A費用は考慮していない)は下記の図でわかりやすいだろう。

freeeでは、この回収期間の重要性については、すでに頭で理解したり海外の様々な記事などや投資家との議論を中心に見聞きしていたものの、実際に強く意識し始めたり、重要性を体感するようになったのは、はじめて上位のプランを追加してからであった。違う単価のプロダクトがあることにより、回収期間に差が出てくることから、そのインパクトを実感したものであった。

③既存顧客へのアップセル(Revenue Expansion)とNet Revenue Retentionについて

既存顧客のアップグレードや、自社が提供する他のSaaS製品からの売上がRevenue Expansionの部分に該当する。一般的には顧客のエンゲージメントが取れた状態で営業やマーケティングができるため、この部分のARR獲得コストは新規顧客からのARR獲得コストに比べて低い構造にある。これがビジネス上のRevenue Expansionの魅力といえる。

大企業向けのSaaSなどの場合で既存顧客からの新規ARRの割合が高くない場合には、上記の新規顧客獲得のROIとしてLTV/CACを見るよりも、新規顧客も既存顧客も関係なく、売上1円あたりの獲得コストを見ていく方が実用性が高い場合もあるだろう。

Net Revenue Retention

近年注目される指標として、Net Revenue Retentionという指標がある。これは、あるコーホートからのある期間の売上が、その前期の売上の何%であったかという指標だ。同じコーホートだけを見るので、新規獲得は見ずに、Revenue ChurnとRevenue Expansionではどちらが大きいかを表すことになる。100%を超えていれば、Revenue ExpansionがRevenue Churnを上回り、100%以下であれば、Revenue ChurnがRevenue Expansionを上回るという構図だ。言い換えると、Net Revenue Retention が100%を上回れば、理論的には獲得した顧客からの売上が増え続けるということになる。

大企業向けで、組織の一部から使い初めて、その組織の中でどんどん広まっていくと売上が上がるという性質を持つようなSaaSの場合、特に Net Revenue Retention はよい数字になる(Atlassian、Zoom、SlackなどはNet Revenue Retentionの高い企業としてよく知られている)。

中小企業向けSaaSの場合には、アップセル余地がある程度限られるので、Net Revenue Retention が 100%を超えることは容易でないと言われるが、一方で、中小企業向けSaaSでは通常新規獲得の余地が非常に大きいという特性もある。

ユニットエコノミクスの代替指標

SaaSのユニットエコノミクスに関する指標は、上場企業であっても詳細に開示されていない場合も多い。その際に代替案として、Sales Efficiency という指標が多く用いられる。これは、(ある期間から翌期の間のネットでの売上成長額)/(その期間のセールス&マーケティングコスト)で表される。この指標のよいところは、成長において新規顧客獲得を重視するタイプのSaaSであっても既存顧客の売上拡大を重視するタイプのSaaSであっても、共通の尺度で図れるという簡便性がひとつである。もうひとつの利点として、現時点で日本のSaaS企業において、セールス&マーケティングコストとして切り出して開示しているケースはレアである(広告宣伝費だけが区分開示されていて、セールス&マーケティングに係る人件費等が含まれない)が、海外のSaaS企業であれば必ず開示している項目であるため、上場企業であればほぼ必ず比較可能な指標となっているという点だ。分子の売上成長額はサブスクリプション売上のみを利用するべきであろう。

R&D投資とG&Aコスト

ここまでのLTV/CACというフレームでは、獲得コストの回収という観点で考えられているものの、実際にはSaaS企業は顧客獲得コスト(新規顧客獲得が中心の会社では、セールス&マーケティングコスト)に加えて、R&D投資やG&Aコストなどの費用をかけていることを加味していなかったが、事業計画という観点ではR&DやG&Aについても当然加味するべきである。これらを加味することで、顧客獲得コストの回収という意味で考えてきたキャッシュフロー上や会計上の黒字化はさらに時間がかかる傾向にあることに注意が必要である。

R&D投資

シード~アーリー期のスタートアップにおいては、R&D投資はボトムアップだけで決める(何を開発したくて、そのためにどれだけの投資が必要かで考える)ことが多い。財務面をしっかりと管理するようになると、売上のx%程度という基準を持っておくというのが一つの考え方になる。

海外SaaS企業で、ある程度成熟期にはいると売上の15%-40%くらいにおいている会社が多い。売上の成長率が高い段階では高めで、成長率が下がるにつれて開発投資の売上に対する比率も下がってくるというのが一般的だ。

freeeでも、開発投資の計画はどのようにつくるべきか非常になやんだ。常にやりたいことにはきりがないというのがスタートアップの本音であるが、かといって無限の投資をする訳にもいかない。そこで数年スパンで開発投資の対売上比率のゴールを決め、それをひとつの基準として考え始めるようにしたところ考えやすくなった。もちろん、そのようなターゲットに制約されずに考えるべきタイミングもあるだろう。

G&Aコスト

G&Aコストは海外の上場SaaS企業の場合、売上の10%〜20%くらいの範囲となっている。こちらは主にコーポレート部門の人件費や経費だ。

成長投資のインパクト、どれだけの成長率を支えられるのか

ここまで、ARRが増えるメカニズムとユニットエコノミクスについて議論をしてきたが、ユニットエコノミクスに加えて、キャッシュフローに大きなインパクトを与えるのは、冒頭でも振れている通り、売上成長率(特に新規顧客の成長率)である。

 

次のグラフは、次の3つのシナリオにおいて、どのような売上と営業利益をもたらすかを図示している。

      • シナリオ1:新規顧客からの売上が毎年200
      • シナリオ2:新規顧客からの売上が初年度300で毎年100ずつ増える
      • シナリオ3:新規顧客からの売上が初年度300で毎年300ずつ増える
      • すべてのシナリオにおいて、顧客獲得コストだけでなく、R&Dコスト、G&Aコストを売上に対して固定の割合で想定

ここから明らかになるのは、成長率が高ければ高いほど、赤字の期間が長くなるが長期的な売上や利益は圧倒的に大きくなるという構図である。だからこそ、SaaSで大成するには、ユニットメトリクスにより成長投資の質を担保した上で、将来の成長のために大きな投資をしていく必要があり、そのための資金調達環境があることが非常に重要なのだ。

salesforce.comは現在でもP/Lの利益よりは、成長率を中心においた戦略をとっており、継続的な成長を実現しているが、このように科学的に成長を管理し、そのような管理に基づき、積極投資を続けていくという考え方が根付いていくことは、今後の日本のソフトウエア産業の進化において、非常に重要なカギになっていくと考えられる。

最後に

以上、本稿ではSaaSビジネスモデルの特性、SaaSビジネスにおける主要KPI、SaaSビジネスにおける投資の考え方について、freeeの経験を踏まえつつ紹介してきた。今後、日本国内においてもSaaSビジネスはさらに活況を呈し、ソフトウェア産業の進化を担っていく上で、このビジネスモデルについての本質がより広く理解されていくことは非常に重要だと考えられる。本稿がその中での一助となれば、非常に嬉しく思う。

テスラがソフトウェアアップデートでSpotifyやYouTube、Netflixに対応

Tesla(テスラ)が、多くの新機能が使えるようになるソフトウェアアップデートの配信を始めた(バージョン10.0)。これらの新機能の中には、5000ドルする完全自動運転オプション付きの車であれば駐車スポットから駐車場内にいる自分のところまで車を自動運転で呼び出せる「Smart Summon」が含まれる。

これは、Teslaが一般向けに提供しているものの中で最も高度な半自動運転機能のひとつだ。同社はまだ、この機能は駐車場でだけ、そして車がはっきりと目で確認できる時にだけ使うこととしている。また、最終的にはユーザーが車両の責任を負うことも同社は指摘していて、この機能を使うときには車やその周囲に注意を払わなければならない。もし、必要なら車をリモート操作で止めることもできる。Smart Summonは一部の顧客にのみベータ公開されてきたが、ようやく完全自動運転オプションを購入した全車両で使用できるようになる。

今回のアップデートで導入された他の機能には、リクエストの多かったSpotifyのサポートが含まれる。これはSpotifyに対応するマーケットでプレミアムのアカウントを持っているユーザーなら誰でも利用できる。この新機能は、かなり人気のストリーミングサービスのオーディオをBluetoothで流すのを不満に思っていたTesla車オーナーを満足させるのに大いに役立つはずだ。Teslaはまた、中国ではXimalayaというポッドキャストとオーディオブックのストリーミングサービスを提供する。

バージョン10.0で加わったTesla Theater Modeは車内イフォテイメント(車内エンターテインメント)システムをユーザーのNetflix、YouTube、Hulu/Hulu+(もし購読しているならLive TVも含む)のアカウントにつなげる。これにより、車が安全に停められている間、こうしたプラットフォームのストリーミングビデオにアクセスできるようになる。中国ではIQiyiとTencent Videoも利用できるようになる。さらには今後もグローバルでさらにオプションを増やすとしている。新しいTesla Theater Modeではまた、Tesla車両オーナー向けに車両の取扱説明も提供する(繰り返しになるが駐車している間のみだ)。

今回のアップデートの多くは「Car-aoke」モードをはじめとするエンターテインメント機能にフォーカスしている。聞いて想像がつくかと思うが、Car-aokeモードとは車内カラオケが体験できる機能。膨大な曲と歌詞のライブラリが用意されており、Teslaによると複数の言語もサポートするそうだ。車で移動しながら車内で歌うというのは、これまでローテクなオプションのみだったが、新機能はアマチュアのJames Cordens(ジェームズ・コーデン)をサポートするものになりそうだ。

【編集部注】ジェームズ・コーデンは、自動車を運転しながら、ゲストの歌手と一緒に車内でカラオケで歌を歌ったり、インタビューしたりする「Carpool Karaoke」(カープール・カラオケ)という人気番組を担当している。

新しいエンターテイメント機能で大事なことをひとつ言い残した。Teslaが今年初めに立ち上げた車内ゲーミングソフトウェアのTesla ArcadeでCupheadの提供が始まる。Cupheadは大ヒットしたインディゲームで、初期のディズニーアニメーションを思わせるアートスタイルが特徴だ。これはTeslaのコアなギーク視聴者を絶対に虜にするだろう(おそらくマスク氏自身にとってもご褒美のようなものになる)。不注意運転になることを心配する人もいるかもしれないので再び繰り返すが、この機能が使えるのは駐車しているときだけだ。

Teslaはまた、ドライブルート上にある良さそうなレストランや観光スポットを提案する、いくつかの新たなナビゲーション機能も加えた。加えて、車載カメラを使ってドライブレコーダーモードとSentryモードそれぞれでとらえたものをユーザーが見つけやすくなるよう、ビデオを分ける新たなファイルシステムも搭載される。ストレージが必要なときは自動で削除される。

目を引く新しい機能がたくさん詰まったこのアップデートは今週から、ネットワークを介した配信で展開される。前述したように、地域によっては若干の違いは見られるが、もしプレビューが見たければショールームでアップデートをチェックできるとのことだ。

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(翻訳:Mizoguchi)

Alexaの音声が改善され、サミュエル・L・ジャクソン風に喋ることも可能に

シアトルで開催中のイベントにてAmazon(アマゾン)は米国時間9月25日、パーソナルアシスタントのAlexaの新しいニューラルテキストのスピーチモデルを発表した。この新しいモデルは、AmazonのライバルことGoogle(グーグル)やMicrosoft(マイクロソフト)が過去にローンチしたものとは似ていないが、最新のマシンラーニング技術を利用して「より感情的で表現力豊か」な新しいモデルを構築している。

さらにAmazonは、Echoがまもなく俳優のSamuel L. Jackson(サミュエル・L・ジャクソン)のように喋るようになると発表した。また同じ技術(あらかじめ録音されたフレーズではなく)を利用し、Alexaは有名人の声を真似ることもできる。サミュエル・L・ジャクソンモードには、エクスプリシット(ありのまま)版も用意される。

追加音声は来年公開される予定だが無料ではない。価格はそれぞれ0.99ドルだ(少なくとも最初は)。これは面白いギミックだが、実際にはそれ以上のものではない。まるで有名人の声でしゃべるカーナビのようだ。

「革新のペースは信じられないほどで、マシンラーニングにできることにはいつも驚かされる」と、AmazonのDave Limp(デイブ・リンプ)氏はキーノートで語った。「しかし、このニューラルネットワーク技術はさらなる柔軟性と、Alexaの音声の可能性を与えてくれる」。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

OculusのVRコンテンツの売り上げが約110億円を超える

Facebook(フェイスブック)は何十億ドルもの資金をVR(仮想現実)事業に投資しており、資金を回収する道のりは長いかもしれないが、少なくとも利益を上げている。

Oculus Connectの壇上でMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏は、Oculus Storeの売上が1億ドル(約110億円)を超えたと発表した。この数字は複数のVRヘッドセットを合算したものだが、ザッカーバーグ氏によると、売り上げの20%が過去4カ月間に販売されたOculus Questのタイトルからのものであり、新型ヘッドセットのユーザーがコンテンツに多くの資金を費やしていることを示唆している。

同社はスタンドアロン型ヘッドセットのOculus Questを売り出しており、ケーブルレスなこの製品が一般消費者への普及のための最良の方法だと考えていることは明らかだ。今回のマイルストーンは、コンテンツへの数億ドルの投資には及ばないが、Facebookは今後も投資を継続する見通しだ。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

アマゾンがAlexaを同時に多言語で使うためのマルチリンガルモードをローンチ

Amazon(アマゾン)はシアトルで開催中のDevicesイベントにて、Alexa対応デバイス向けに多言語モードをローンチすると発表した。新しい多言語モードはまず米国向けに導入され、英語とスペイン語に対応する。カナダではフランス語と英語、インドではヒンディー語と英語がサポートされる。

これらのマルチリンガルモードでは、家族が両方の言語でAlexa対応機器を同時に使用でき、複数の言語を話す家庭にとって非常に便利な機能だ。Alexaは言語を切り替え、よりリアルで表現豊かな返答をするために、ニューラルネットワーク処理によってモデル化された新しい自然音声を利用する。

Amazonのデバイス担当シニアバイスプレジデントのDave Limp(デイ・ブリンプ)氏はイベントにて「マルチリンガルモードは始まりにすぎない。世界中の何十億という家庭で、2つや3つの言語が話されている」と述べた。そのようなケースで、マルチリンガルオプションは役立つことだろう。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

Windows 10の稼働デバイスが9億台を突破

さて、みなさんがMicrosoft(マイクロソフト)から最新の緊急アップデートを受け取ったWindows 10デバイスが8億台だと思っていたなら、それは違うようだ。米国時間9月24日、マイクロソフトはWindows 10が9億台以上のデバイスで動作していることをTwitterで発表した。

タイミングは少々悪かったが、現在起きているセキュリティー問題を別にして、Windows 10の勢いが相変わらず安定していることは間違いない。昨年9月、マイクロソフトはWindows 10が7億台のデバイスで動いていると発表し、今年3月にその数字は8億へと増えた。この中には通常のWindows 10デスクトップとノートパソコンのほかに、XboxやSurface Hub、HoloLensなどのニッチ製品も含まれている。

同社のモダンライフ・検索・デバイスグループ担当コーポレートバイスプレジデントのYusuf Mehdi(ユスフ・メディ)氏は、過去12ヶ月間に増えたWindows 10デバイスの数はこれまでで最多だと語った。

来る2020年1月に、Windows 7は(維持されてきた)生命を終える。少なくとも一定数のユーザーを、もっと新しい(サポートされている)オペレーティングシステムに移行させることなるのは間違いない。

Windows 10の数字は着実に伸びているが、マイクロソフト自身は、Windows 10が2018年半ばに10億台を超えると言っていたことはよく知られている。現在のペースだと、Windows 10は2020年のどこかで10億台を突破するだろう。

関連記事:MicrosoftがWindowsの脆弱性パッチを緊急リリース、ユーザーは即刻適用を

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

iOS、iPadOS、tvOSの13.1アップデートが公開

つい先ほどApple(アップル)はiOS 13.1を公開した。このアップデートには、(もしまだインストールしていないなら) iOS 13の新機能すべてに加えてたくさんのバグ修正が入っている。安定した状態にするために、iOS 13.1にアップデートすることを推奨する。

ただしそれだけではない。iPadOSとtvOSもようやくバージョン13になり、iPadOS 13.1とtvOS 13.1が本日公開された。

アップデートは現在順次公開中で、「設定」アプリからインストールできる。iOS 13.1の対象機種はiPhone 6s以降、iPhone SE、 および第7世代のiPod touch。iPadOS 13.1は、2014年以降に発売されたiPad、iPad mini、iPad Pro全機種。tvOS 13.1はtvOS 12が動作しているApple TVに対応している。

もうひとつ注目すべきなのは、今回のiPadOSとtvOSの公開に伴い、iPadとApple TVで Apple Arcadeが使えるようになることだ。月額4.99ドル(600円)で、数十種類のゲームをAppleの各種デバイス共通でプレイできるようになる。PlayStation 4やXbox OneのコントロールをAppleデバイスとペアリングしてゲームをプレイすることもできる。

ただし、まずバックアップを取ること。iCloudのバックアップが最新状態になっているかどうかは「設定」アプリのアカウント情報から確認できる。iOSデバイスをパソコンに接続してiTunes経由で手動バックアップすることもできる(もちろん両方やってもいい)。

iTunesのバックアップは暗号化するのを忘れずに。誰かがパソコンに侵入したときの安全性を高められる。暗号化されたバックアップには保存されたパスワードや「ヘルスケア」アプリで記録されたデータも入っている。このためオンラインのアカウントにログインし直さなくてすむ。

バックアップができたら、設定アプリで「一般」→「ソフトウェアアップデート」に行って指示に従えばサーバーの準備が整い次第、自動的にダウンロードが始まる。

関連記事:iOS 13を早速使ってみた、ダークモードやBTスキャニングオフなど多数の新機能

iOS 13の新機能を簡単に紹介しておく。今年はダークモードが加わったほか、あらゆるアプリに何らかの「生活の質」向上のためのアップデートが施されている。写真アプリにはギャラリービュー、Live Photosとビデオの自動再生、スマートキュレーションや没頭的なデザインが採用された。

このバージョンでは新しいサインイン方法の「Sign in with Apple」(Appleでサインイン)、BluetoothとWi-Fiの確認画面やバックグラウンド位置情報追跡など知らせるポップアップ通知など、プライバシー面がかなり強調されている。純正の「マップ」アプリにはGoogleストリートビュー風のLook Around機能が入った。まだ、ごく一部の都市でしか利用できないが、周囲を見回してみることをお勧めする。すべてが3Dで表示される。

そのほか多くのアプリがアップデートされた。「リマインダー」アプリは全面改訂され、「メッセージ」アプリでは「連絡先」アプリに登録された人とプロフィール写真を共有できるようになった。「メール」アプリの書式設定が改善され、「ヘルスケア」アプリでは月経周期を追跡できる。「ファイル」アプリにはデスクトップ風の機能が追加され、Safariには新しいウェブサイト設定メニューが付いた。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

コーディング不要の製造業向けアプリプラットフォーム開発のTulipが約42億円調達

2017年にTulipはシリーズAで1300万ドル(約14億円)を調達した。そのラウンドはNEAやPitango Venture Capital、そしてシードラウンド時の投資家などによるものだった。そして、マサチューセッツ州サマービルに拠点を置くこのスタートアップは今回3度目の資金調達を行う。

3950万ドル(約42億円)を調達するラウンドには、上記の投資家やVertex VenturesにドイツのツールメーカーDMG MORIも加わった。この資金調達でTulipは、欧州、中東、アフリカ、アジアの中小企業向けの事業展開を模索する。

Tulipは近年、コーディング不要の製造業向けアプリプラットフォームとして知名度を高めている。今回のラウンドではまたDMG MORIがTulipと提携し、自動組立やトレーニング、品質管理にTulipのアプリを役立てる。

「新たな提携をうれしく思う。結局、デジタル化では人間が中心となる。コード不要のプラットフォームで、従業員は自律的に製造用のアプリをつくることができる」とDMG MORI会長のChristian Thönes氏はこのニュースに関する発表文で語った。「我々の中規模の顧客がデジタル化を進めるにあたって、Tulipは理想的な取っ掛かりとなる」。

この提携により、Tulipは欧州の成長をサポートするためにミュンヘンにオフィスを開所する。

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(翻訳:Mizoguchi)

アップルがサードパーティー製キーボードがフルアクセスを得るバグについて警告

Apple(アップル)はサードパーティー製のキーボードに関する iOS のバグについて、ユーザーに警告している。

アップルが米国時間9月24日に公開した短い文書では、このバグはフルアクセスの許可を要求できるサードパーティ製キーボードに影響すると明かした。

サードパーティ製キーボードはスタンドアロンで動作することも、あるいはフルアクセスにより他のアプリケーションと通信したり、スペルチェックなどの追加機能のためにインターネットにアクセスしたりすることもできる。一方で、フルアクセスでは開発者がキーストロークやユーザーが入力した電子メール、メッセージ、パスワードなどのデータを自分のサーバーに取り込むこともできる。

そして今回のバグにより、たとえ承認されていなくてもサードパーティ製キーボードがフルアクセスを取得する可能性がある。

アップルはこの問題について、これ以上は明かしていない。また、スポークスパーソンは追加のコメントを控えている。なお警告によると、このバグはiOSの内蔵キーボードには影響しないという。このバグは、今後のソフトウェアアップデートで修正される予定だ。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

アドビのドロー&ペイントアプリのFrescoがiPad向けにローンチ

Adobe(アドビ)は米国時間9月24日、待望の次世代ドロー&ペイントアプリことFresco(以前は「Project Gemini」という開発コード名で知られていた)が、iPadで利用できるようになったと発表した。Creative Cloudの契約者ならすぐにダウンロードできるが、いくつかの他のアドビ製品とは異なり、Frescoは無料バージョンも提供される。いくつかの制限はあるが、アプリの全体的な感触はつかめるはずだ。また、Frescoはスタンドアローンアプリとして購入することもできる。

アドビのKyle Webster(カイル・ウェブスター)氏が指摘しているように、同社のチームが特に力を入れた分野の1つは、すべてのPhotoshopブラシを含む、さまざまなブラシだ。ウェブスター氏が2017年に自身の会社のKylesBrushes(カイルズブラッシーズ)をアドビに売却したことを考えれば、驚くようなことではない。同じく、FrescoでのApple Pencilの使用感も大いに期待できる。

Frescoの目玉機能はLive Brushesで、油絵や水彩画の画材で絵を描く感覚が再現されている。これらのブラシやバーチャルペーパーでの描写は、同社のAI(人工知能)技術ことSenseiプラットフォーム利用している。

Frescoには油絵や水彩画の画材のほかに、ベクターブラシも用意されている。アドビにはすでにベクター描写アプリのAdobe Illustratorがあるので、Frescoで最初のドラフトを作成し、Illustratorで完成させることもできる。

iPadアプリはすでに公開されているが、AndroidとWindowsのユーザーはもう少し待たなければならない。

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(翻訳:塚本直樹Twitter

iOS 13の細かすぎる便利機能、テザリングしながらAirDrop可能に

共感する人は少ないかもしれないが聞いてほしい。iOS 13にアップデートすると、テザリング中でもAirDropで写真や画像をテザリング先のMacやiPadなどに送れるようになるのだ。

一体何のことを言っているのかわからない人も多いかもしれない。詳しく説明すると、テザリングとはiPhoneなどのスマートフォンが利用しているモバイル回線をタブレット端末やノートPCなどのデバイスで共有して、インターネット接続を可能にする機能だ。iOSでは「インターネット共有」と呼ばれており、同じApple IDを使っているMacやiPadでは通常のWi-Fiアクセスポイントを選ぶ感覚でパスワード入力なしで利用できる。

同じApple ID同士の機器間のデザリングは利便性が高いので取材時によく利用しているのだが、これまではAirDropと併用できなかった。AirDropとは、Wi-FiとBluetoothを利用して近くのiPhoneやiPad、Macに画像や写真、各種ファイルなどを手早く送信できる機能だ。

iOS 13では排他仕様だったテザリングとAirDropが一緒に使える。一体何が便利なのかというと、取材先などでMacをiPhoneのテザリング経由でネット接続しながら、そのiPhoneで撮影した写真をAirDropを使って素早くMacに送信できる点。テザリング中のiPhoneからテザリング先のMacに画像などのデータを送る方法としては、Gmailの下書きに添付ファイルとして保存する、Dropboxなどのファイル共有サービスを使うという方法がある。しかし、複数の画像の一括送信やビデオの送信には時間がかかるため、これまではテザリングを一時解除してAirDropで送っていた。

これがiOS 13では、iPhoneでテザリングしたまま複数の画像をテザリング先のMacに送り込める。テザリングを一時解除する必要がないのは、1秒でも時間が惜しい速報記事の執筆時にかなり重宝する。

一般的な利用方法としては、iPhoneとテザリングしているiPadから写真を、そのiPhoneに素早く送りたいときなどに便利するかもしれないが、正直いまいち適した使用方法を思いつかない。注目機能というほどではないが、覚えておいて損はないだろう。

なお今回は、iOS 13を搭載したiPhone 11 ProとiPhone XSで試しただけなので、ほかの機種では使えない可能性があることに留意してほしい。

Canopyがユーザーのプライバシーに配慮したニュースアプリを公開

パーソナライズのテクノロジーにより、一人ひとりのユーザーに応じてアプリのコンテンツがカスタマイズされ、アプリの体験が向上する。しかし同時に、ユーザーのプライバシーは徐々に失われかねない。Canopyという企業はこの状況を変えようとしている。同社は、ユーザーのログインもメールアドレスの提供も求めないパーソナライズのエンジンを開発した。デバイス上の機械学習と差分プライバシーを組み合わせて、アプリのユーザーにパーソナライズされた体験を提供する。この技術の実例として、同社はニュースリーダーアプリの「Tonic」を公開した。

この新しいアプリは、完全にプライベートでありつつ、体験をカスタマイズするためにユーザーの好みを学習し続けていく。しかし、ほかのパーソナライズのエンジンとは異なり、操作や行動の生データはデバイスから出ていかない。したがってCanopyも、コンテンツプロバイダやパートナー企業も、生データを一切見ることができない。

Canopyは次のように説明している。

(生データの代わりに)個人の操作と行動のモデルを差分プライバシー技術で処理して、当社サーバに暗号化通信で送信する。Canopyに送信されるあなたのローカルモデルは、あなたの操作と直接結びつくことは一切なく、代わりにあなたと似た人々の好みの集合を表す。これがほかとは異なる、我々のアプローチのきわめて重大な特徴だ。暗号化のエラーがあった、あるいはサーバがハッキングされたといった最悪の事態が起きた場合でも、このプライベートなモデルは個人を表していないので、誰も、何もすることができない。

もうひとつの大きな特徴は、Tonicはパーソナライズの設定をユーザーが制御できるようにしているということだ。これは、ほかにはあまりない。パーソナライズのテクノロジーを利用したアプリを使ったことがある人なら、おそらく曲、ビデオ、ニュース記事などのおすすめが表示されたが自分の好みとはまったく違うし、自分が本当に好きなものを表してはいないという経験があるだろう。ほとんどのアプリはこのような情報を詳しく説明していないため、なぜそれがおすすめになったのかわからない。

一方、Tonicではユーザーがパーソナライズの設定をいつでも見ることができ、変更やリセットをすることもできる。

Canopyの目標はTonicの公開ではなく、テクノロジーのライセンス供与だ。Tonicの主な目的はパーソナライズのエンジンがどのように動作するかをデモンストレーションすることだが、このアプリにはほかにも注目すべき特徴がある。

Canopyは人間の編集チームを雇用して、ニュースコンテンツを選んでいる。クリックべイトやヘイト記事といったノイズの山を提供しないようにするためだ。ニュース速報や、裏が取れていないような速報記事も提供しない。同社は、緊急性を求めて最新のニュースを追いかけるアプリを作ったのではないという。

Tonicは、情報を知り発想を得るために毎日読むべき記事を幅広い情報源から厳選し、パーソナライズして届けることに力を入れている。デジタルウェルビーイングという観点では、無限のニュースフィードではなく、記事の数は有限であることが重要と考えられる。

CanopyはTonicの公開にあたり、「おすすめを知るためにデジタルの自分を犠牲にするのは、もううんざりだ。それに、エンゲージメントを最大にすることを目的に最適化された無限のニュースフィードや速報、乱暴な記事に代わるものを作りたかった。そこで我々はTonicを開発した」と説明している。

テック企業大手がユーザーデータの不注意な扱いについて調査を受け、ユーザーのプライバシーへの関心が一般に高まっているこの時期に、こうした技術が公開された。例えばアップルは、同社のハードウェアやソフトウェアがユーザーのプライバシーを尊重していることをセールスポイントとして強く打ち出している。

ニューヨークを拠点とするCanopyは、Brian Whitman(ブライアン・ウィットマン)氏が創業した。同氏はEcho Nestの創業者であり、Spotifyの主任サイエンティストだった。CanopyにはSpotify、Instagram、Google、ニューヨーク・タイムズの幹部だった人々もいる。CanopyのシードファンドはMatrix Partnersが主導し、Spotify、WeWork、Splice、MIT Media Lab、Keybaseなどからも投資家が参加して、450万ドル(約4億8000万円)を調達した。

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(翻訳:Kaori Koyama)

FacebookはユーザーがゲームやARで遊べる広告フォーマットを拡充

Advertising Weekに先立ち、Facebookは3種類のインタラクティブな広告フォーマットの追加を発表した

まず1番目として、アンケート型の広告が、Facebookモバイルアプリのメインのフィードにも登場する。これは、すでにInstagram(インスタグラム)のストーリーで使われているものだ。2番目は、これまでFacebookとしてテスト中だったAR(拡張現実)広告が、この秋にもオープンベータとなる予定だ。そして3番目は、ゲーム会社に限らず、すべての広告主が、プレイ可能な広告を利用できるようになる。

Facebookは、米国時間9月18日にニューヨーク市で開かれた記者会見で、各フォーマットを披露した。

例えばE!は、あるテレビ番組を宣伝するために、インタラクティブなアンケート型の広告を掲載したところ、ブランドの認知度を1.6倍にすることができた。またVansでは、スケートボーダーのSteve Van Doren(スティーブ・ヴァン・ドーレン)氏を山から滑り下ろすゲーム型の広告を作成したところ、広告の想起率が4.4%上昇した。そしてWeMakeUpは、ユーザーがメークの色調をいろいろ試せるようなAR広告のキャンペーンを実施したところ、商品の購入が27.6%増加した。

Facebookの最高クリエイティブ責任者兼グローバル・ビジネス・マーケティング担当副社長のMark D’Arcy(マーク・ダーシー)氏は、プレイ可能な広告の当初の例は「まさに文字通りのゲームの仕組みが組み込まれ、ゲームによってブランドを拡める」ものに過ぎないが、時間が経つにつれて「あらゆる種類の」さまざまな相互作用が生み出されるだろうと述べた。

またダーシー氏は、アンケート、ゲーム、ARを広告に組み込むことは、新しいアイデアというわけではないと認めつつ、これまでは通常「重い」ユーザー体験であり、実現するには独立したマイクロサイトを用意したりする必要があったことにも触れた。そうしたものをFacebookの真正面に配置することで、同社はそれらを「超軽量で、楽しく、超スケーラブル」なものにしていくのだという。

その結果、より多くの広告主があれこれ試せるようになり、それにつれて、それらのフォーマット自体も進化するのだという。「12カ月後には、もしかすると6カ月くらい後でも、そうした広告を見てみれば、今とはまったく違ったものになっているはずです」。

こうした新しいフォーマットが、ユーザーのデータをどのように扱うのか、心配する人もいるだろう。Facebookチームによれば、アンケートを集計した結果のみが、広告主と共有されるという。個々のユーザーのデータは共有されない。同様に、AR広告を使ってユーザーが作成した画像は、デバイスのカメラロールに保存されるだけで、広告主と共有されることはないとしている。

画像クレジット:Facebook

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

iOS 13のオーディオ共有機能がBeatsヘッドフォンでも来週から使える

オーディオ共有機能は、iOS 13アップデートで使えるようになるうれしい機能の1つだ。この機能により、複数のユーザーが近くにあるデバイスから流れる音楽を共有できるようになる。ヘッドフォンスプリッターを買ったり、あなたのイヤホンの片側を誰かに貸したりといったことの、2019年版のようなものだ。

AirPodsに加えてその他の比較的新しいヘッドフォンでもこの新機能が使えるようになると、Beatsが米国時間9月20日にTechCrunchに教えてくれた。これは、Beatsが数年前にAppleに買収されたことを考えればさほど驚きではない。私が最近愛用しているPowerbeats Proのほか、Studio3 Wireless、BeatsX、Powerbeats3 Wireless、Solo3 Wirelessなど、H1またはW1のチップを搭載するモデルを使用している人にはちょっとしたボーナスだろう。

この機能の使い方は2つある。1つは、ユーザーが2台のiOSデバイスを近くに置き、それぞれに音楽を流す。すると、最初のペアリングプロセスで見られるようなShare Audioのダイアログボックスが現れる。あとはShare Audioをタップするだけでいい。

もう1つは、2つのヘッドフォンを1台のデバイスにペアリングする方法。もしデバイス2台にアクセスしないのであれば、こちらのほうがいいだろう。しかしApple(アップル)の技術を持ってしてもプロダクト間で切り替えるのはちょっとした手間だ。いずれにしろ、長い通勤時にプレイリストをシェアできるというのは素敵なオプションとなる。

この機能は9月23日から利用できる。

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(翻訳:Mizoguchi)

iOS 13を早速使ってみた、ダークモードやBTスキャニングオフなど多数の新機能

Apple(アップル)は、iOSの主要アップデートiOS 13を公開した。これはiPhoneの使い方が変わるような大改革ではない。しかし、Appleは多大な努力を払ってさまざまな細部にわたる機能を改善した。

多くの面でiOS 13は「生活の質」アップデートだと私は感じている。デベロッパー用語で「生活の質」アップデートとは、すでに動いている機能に磨きをかけることを言う。何かを1秒早くしたり、今より簡単にできるようにすることだ。

これからその細かい改善について詳しく書いていくが、まず、中でも重要だと思われる2つに焦点を絞る。ダークモード、そしてプライバシーに対するAppleの取り組みだ。

ダークモードがやってきた

ある時から、スマートフォンメーカーは大画面のスマホを作り始めた。そして、夜目がくらまないためにはダークモードが必須となった。少々時間はかかったが素晴らしい出来栄えだ。

iOS 13のダークモードはシステム全体に適用される。「設定」アプリに行くか、コントロールセンターを開いて明るさ調節アイコンを長押しすれば有効にできる。これでiPhoneのルック&フィールは一変する。

一部のサードパーティーはすでにアップデートされているが、多くのデベロッパーはこの新しい設定に対応するためのアップデートを提供する必要がある。願わくば6カ月以内には、ダークモードをオンにしてアプリからアプリに移動しても、白い画面を見なくても済むようになるだろう。

設定で「自動」モードにしておくのがお勧めだ。現在地と時刻を使って日の入りと日の出にあわせてシステムが変えてくれる。あなたのiPhoneは夜になると暗くなり、朝になると明るくなる。

ダークモードで変わるのはアプリだけではない。ウィジェット、通知、その他のユーザーインターフェースのボタンも暗くなる。Appleは純粋な黒を使用しており、OLEDディスプレイで素晴らしく見える。カスタム壁紙を夜暗くすることもできる。

プライバシー

この夏に多くのギークたちがiOSを試した。しかし、この秋に何千万人もの人たちがダウンロードするのはまったく別の話だ。iOS 13には待望されていたプライバシー関連の変更が加えられたため、一部のデベロッパーにとっては厄介なことになりそうだ。

Appleはユーザーが個人情報をコントロールする方法を追加した。アプリが何らかの理由で位置情報を必要としたとき、ユーザーは位置情報を一度だけアクセスさせることができる。次回はまた許可を得る必要がある。

同じように、iOS 13はアプリがこっそりとユーザーの位置を追跡しようとした時、そのことをユーザーに教えられるようになった。

まるでデベロッパーを辱めるかのように、Appleは「このアプリは過去2日間にバックグラウンドで40カ所の位置情報を利用しました」と言って地図を表示する。そのポップアップから位置情報アクセスを無効にすることができる。Facebookはすでにうろたえて、先週ブログ記事でユーザーのプライバシーを尊重していることを伝えようとした。

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さらにiOS 13は、全アプリでBluetoothのスキャニングをデフォルトで無効にした。多くのアプリが近くのBluetoothアクセサリーを検索し、世界中のBluetoothデバイスのデータベースと比較している。言い換えればそれは、ユーザーから位置情報の利用を許可されていないアプリが位置を知るための方法だ。

これからは本当にBluetoothデバイスを探す必要のあるアプリのために標準の許可ポップアップが表示される。デバイスとつながるため、あるいは近くのユーザーとの個人間支払いを行うためにBluetoothを必要とするアプリもある。

しかし、その他ほとんどのアプリはBluetoothスキャニングを乱用している。念の為に書いておくと、Bluetoothスキャニングを禁止しても、Bluetoothヘッドホンは使える。オーディオは今までどおりちゃんとヘッドホンに送られる。

アプリ開発者においては、今使っているサードパーティー製SDKを見直してほしい。多くの広告支援型アプリはアドテク会社のコードを埋め込んでいる。しかし、そのSDKがユーザーのプライバシーを脅かすことは必ずしも明記されていない。

そしてAppleはついに「Appleでサインイン」(Sign in with Apple)を導入した。これは「Googleでサインイン」や「Facebookでサインイン」に代わるものだ。ユーザーは、メールアドレスをシェアしたり、デベロッパーがちょっとした個人情報を取得できるかどうかを決められる。これが普及するかどうか、興味深い。

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基本機能の改善

オペレーティングシステムレベルでいくつか変更があった。まず、アニメーションが最適化され、わずかにスピードが速くなった。スワイプ、アプリの開始と終了が早く感じる。

次に、(英語)キーボードで「なぞり入力」が可能になった。Android端末やサードパーティー製キーボードを使ったことのある人なら、どうやって使うかはわかるだろう。文字から文字へ指を離さずになぞって入力できる。まるで魔法のようだ

そして、写真やリンクをシェアする画面が改定された。3つの部分に分かれていて、一番上の行には、写真などを送る相手の候補が重要度に応じて表示される。

その下には別のアプリを使って開くためのアプリのアイコンが並んでいる。

さらにスクロールするとアプリごとに異なるさまざまなアクションのリストがある。

自動化に関しては、iOS 13ではショートカットアプリが標準装備になった。多くのユーザーはアプリを開いて初めてショートカットを見ることになるだろう。音声起動のSiriショートカットもショートカットアプリから利用できる。

ショートカットの起動も自動化できるようになったのは興味深い。たとえば、CarPlayや位置情報、さらには小さなNFCタグに関するシナリオも作ることができる。

  • iPhoneをCarPlayに接続したり、Bluetoothを使って車に接続した時、ミュージックのプレイリストを開く。
  • 機内モードをオンにした時、画面を暗くして低電力モードに切り替える。
  • ナイトスタンドのNFCステッカーの上にiPhoneを置いたら、フィリップスのHueライトを消す。

アプリの新機能

Apple製アプリの大きな変更をいくつか紹介する。

「Apple Arcade」がやってきた。使うためにはiOS 13にアップデートする必要がある。ファーストインプレッションは別の記事で読むことができる。

iOS 13 5

「写真」アプリが最も大きく変わったかもしれない。メインタブのデザインが全面変更された。4つのサブタブからさまざまなビューでフォトライブラリーを見られる。

「すべての写真」に加えて「年別」をタップして年を指定したり、「月別」で日付ごとにまとめたスマートアルバムを見たりできる。そこでイベントを開くと「日付」タブに移ってベストショットが表示される。

(月別表示で月別にまとめてではなく日付ごとに並ぶなど)ボタンの名称には少々疑問があるが、数年前の写真を見つけるのに便利なことは間違いない。写真編集が大きく改善された。サードパーティーアプリで行っていたような基本的な編集はだいたいできそうだ。

「マップ」は興味深いアプリになった。Appleは地図データの改善に努めてきたが、カリフォルニア州に住んでいる人以外は気づきにくい。しかしGoogleストリートビューによく似たLook Aroundはかなり魅力的だ。これは単なる360度写真ではなく、前景と背景かからなる街路の3D表現になっている。サンフランシスコの地図を見てLook Aroundを試してみることをお勧めする。

「メッセージ」アプリはWhatsAppに似てきた。プロフィール名と写真を選んで友達や家族とシェアできる、という意味だ。AppleばMemoji「ミー文字」を使えと言っているが、好きな写真を選ぶことができる。メッセージの検索機能もずっと良くなった。

「ヘルスケア」アプリは少しデザインが変わった。しかし、最大の機能追加は同アプリ内で月経周期を追跡できるようになったことだ。サードパーティーアプリをインストールする必要はない。


「リマインダー」アプリにもいくつか新機能が入った。クイックツールバーから時刻、日付、位置を追加できる。項目のインデント、スマートリストの作成なども可能になった。To Doアプリは好みの違いが大きいが気にいる人もいると思う。

「探す」(Find My)は「iPhoneを探す」と「友達を探す」の各アプリが統合された新しい名前だ。もうすぐAppleがTile風の忘れ物防止タグを発表したら、いろんなものを探せるようになるかもしれない。

「メール」「メモ」「Safari」などのアプリも少し改善された。メールのリッチテキスト編集、メモのギャラリービュー、Safariでデスクトップサイトの表示やコンテンツブロッカーの無効化、リーダービューへの切り替えなどを行うサイト設定ポップアップなどが加わっている。

「ファイル」アプリがSambaファイルサーバーにも使えるようになり、
ファイルのZIP/UNZIPがアプリで直接できるようになりショートカットは必要ない。カスタムフォントのインストールもできるようになった。

ご覧のとおり、iOS 13には全般にわたって大きな変更小さな改善がたくさんある。たしかに少々バグがある印象もある。しかしこれは意欲的なアップデートであり、AppleはiOSリリースのペースを遅くするつもりはないとみんなに言っている。そしてAppleはプライバシー面でいい進展を見せている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

iOS 13が正式公開されダウンロード可能に、iPadOS 13は9月24日

Apple(アップル)はつい先ほどiOS 13の最終バージョンを公開した。このアップデートには、切望されていた数多くの生活の質向上をもたらす改良のほか、新機能もたくさんある。

こうした主要アップデートは多くの人たちが同時にダウンロードしようとする。通常Appleは待ち行列を設定して、順番が回ってきた人は迅速にダウンロードできるように工夫している。

iOS 13はiPhone 6s以降、iPhone SEおよび第7世代のiPod Touchに対応している。iPadを持っていてiPadOS 13を待っている人は9月24日にiOS 13.1とiPadOS 13.1がリリースされる予定だ。

ただし、まずバックアップを取ること。iCloudのバックアップが最新状態になっているかどうかは設定アプリのアカウント情報から確認できる。iOSデバイスをパソコンに接続してiTunes経由で手動バックアップすることもできる(もちろん両方やってもいい)。

iTunesのバックアップは暗号化するのを忘れずに。誰かがパソコンに侵入したときの安全性を高められる。暗号化されたバックアップには保存されたパスワードやヘルスデータも入っていに。このためオンラインのアカウントにログインし直さなくてすむ。

バックアップができたら、設定アプリで「一般」→「ソフトウェアアップデート」に行って指示に従えば、サーバーの準備が整い次第自動的にダウンロードが始まる。

iOS 13の新機能を簡単に紹介する。今年は、ダークモードに加えてどのアプリもなんらかの生活の質向上アップデートによって改善されていると感じる。写真アプリには新しくギャラリービューが出来て、Live Photosとビデオの自動再生、スマートキュレーションなどが加わりより没入的なデザインになった。

このバージョンでは新しいサインイン方法の「Sign in with Apple」(Appleでサインイン)、BluetoothとWi-Fiの確認画面やバックグラウンド位置情報追跡などのプライバシーポップアップなど、プライバシー面がかなり強調されている。AppleマップにはGoogleストリートビュー風のLook Around機能が入った。まだ、ごく一部の都市でしか利用できないが、周囲を見回してみることをお勧めする。すべてが3Dで表示される。

多くのアプリがアップデートされた。「リマインダー」アプリは全面改訂され、「メッセージ」アプリでは「連絡先」アプリに登録された人とプロフィール写真を共有できるようになった。「メール」アプリの書式設定が改善され、「ヘルスケア」アプリでは月経周期を追跡できる。「ファイル」アプリにはデスクトップ風の機能が追加され、Safariには新しいウェブサイト設定メニューが付いた。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

量子コンピューティングの「民主化」を目指すAliroが2億9000万円を調達

量子コンピューティングはまだ黎明期だが、それにもかかわらず世界が新しいテクノロジーを活用できるように支援することを目指す、興味深いスタートアップ企業群が出現しつつある。Aliro Technologies(アリロ・テクノロジー)は、量子環境向けに開発者がより簡単にプログラムを書くことができるようにするプラットフォームを構築した、ハーバードのスタートアップである。「Write Once, Run Anywhere」(一度書けばどこでも実行できる)というのがスタートアップのモットーの1つだ。本日同スタートアップはステルス状態を抜け出し、事業を軌道に乗せるために、270万ドル(約2億9000万円)の初の資金調達を発表した。

このシードラウンドはFlybridge Capital Partnersが主導し、Crosslink VenturesおよびSamsung NEXT’s Q Fund(昨年サムスンが設立したファンド、量子コンピューティングやAIなどの新興分野を専門とする)も参加している。

Aliroは、量子コンピューティングの発展におけるまさに重要な瞬間に、市場に参入してようとしているのだ。

ベンダーたちは現在のバイナリベースのマシンでは処理できない種類の複雑な計算、例えば創薬や多変数予測などに対処できるような新しい量子ハードウェアの開発を続けている。同日(9月18日)にIBMが53量子ビットデバイスの計画を発表したばかりだ。しかしそうした動きの一方で、これまでに構築されてきたコンピューターたちは、広範な適用を阻む多くの重大な問題に直面していることが広く認識されている。

最近の興味深い進展は、ハードウェアの開発に歩調を合わせて出現した、そうした特定の問題に取り組むスタートアップである。これまでの量子マシンは、長時間使用するとエラーが起きやすいという事実を考えてほしい。先週私はQ-CTRLという名のスタートアップについて書いたが、同社はマシンに対してエラーが迫っていることを検知しクラッシュを回避するファームウェアを開発している。

Aliroが取り組んでいる特定の領域は、量子ハードウェアが依然として非常に断片化されているという事実に対処するものだ。各マシンには専用の言語と操作手法があり、中には最適化された目的を持つものもある。これは、より広い開発者の世界にとっては言うまでもなく、たとえスペシャリストが従事しようとしても困難な状況だ。

「私たちはハードウェアの黎明期にいて、量子コンピューターには標準化されたものがありません。たとえ同じテクノロジーに基くものでも、異なる量子ビット(量子活動の基本的な構成要素)と接続性を備えています。ちょうど1940年代のデジタルコンピューティングのような状況です」とCEOでチェアマンのJim Ricotta(ジム・リコッタ)氏は語る。ちなみにAliroは、ハーバード大学の計算材料科学の教授であるPrineha Narang(プリネハ・ナラン)氏と、まだ学部の学生であるMichael Cubeddu(マイケル・クベドゥ)氏とWill Finegan(ウィル・フィネガン)氏が共同で創業した。

「それはこれまでとは異なるスタイルのコンピューティングであるため、ソフトウェア開発者は量子回路に慣れていません」、そして量子回路にふさわしいのは「手続き型言語を使うものと同じやり方ではありません。従来の高性能コンピューティングから量子コンピューティングに至る道には、急勾配の坂があるのです」。

Aliroはステルスから抜け出したものの、同社のプラットフォームが実際にどのように機能するかについての詳細は具体的には示していないようだ。しかし基本的な考え方は、Aliroのプラットフォームが本質的には開発者が自分の知っている言語で作業して、解決したい問題を特定できるエンジンになるということだ。そして書かれたコードを評価し、コードをどの様に最適化して量子対応言語へと変換すればいいかの道筋を示す。さらにはそのタスクを処理するのに最適なマシンを提案するのだ。

この開発は、(少なくとも初期段階の)量子コンピューティングの開発で見られるであろう、興味深いやり方を示している。現在、量子コンピューターに取り組み開発しているいくつかの企業があるが、この種のマシンがやがて幅広く導入されるようになるのか、それともクラウドコンピューティングのように、必要に応じてアクセスを提供するSaaSスタイルの少数プロバイダーに留まるのかどうかには疑問の余地が残されている。そのようなモデルは、どれくらいのコンピューティングを個別のマシンの形で売り、どれくらいの量を大規模なクラウド業者へと扉を開くのか(Amazon、Google、そしてMicrosoftが普及には大きな役割を果たすことだろう)という状況とよく似たものになるだろう。

もちろんそうした疑問は、これから解決しなければならない問題を考えると、まだ理屈の上のものに過ぎない。しかし2025年までには量子コンピューティングは22億ドル(約2375億円)になるという予想もあり、進化は止まりそうにない。そしてそのような道筋が辿られるとするならば、Aliroのような中間業者が重要な役割を果たすことになるだろう。

「私はこの1年、Aliroチームと仕事をしてきましたが、量子コンピューティングソフトウェアにおける基盤的な会社を設立することを手伝える機会はこれ以上ない興奮でした」と発表の中で語るのは、Flybridgeのゼネラル・パートナーであるDavid Aronoff(デビッド・アロノフ)氏である。「革新的なアプローチと、一流の量子研究者、そして世界クラスの実績のあるエグゼクティブチームのユニークな組み合わせによって、Aliroはこのエキサイティングな新しい分野の手ごわいプレーヤーになりました」。

「Samsung NEXTは、世界が将来どのようなものになっていくかに着目し、それが実現できるように支援します」と発表の中で語るのは、Samsung NEXTのQ FundのAjay Singh(アジェイ・シン)氏だ。「私たちは、プリネハと彼女のチームによる、堂々たるバックグラウンドと量子コンピューティングの研究の広さに引きつけられました。私たちは、量子コンピューティングが古典的なコンピューティングと同じくらいアクセスしやすくなる変曲点の到来を、Aliroのユニークなソフトウェア製品がスピードアップすることによって、カテゴリー全体に革命がもたらされると信じています。これは、創薬、材料開発、または化学といったあらゆるものに影響を与える可能性があります。効率的な方法で量子回路を多様なハードウェアにマッピングするAliroの能力は、本当に斬新なもので、私たちは彼らと一緒にこの旅をできることに興奮しています」。

【訳注】「Write Once, Run Anywhere」(一度書けばどこでも実行できる)というのは、プログラミング言語Javaが登場したときにも使われたフレーズだ。

画像クレジット:Jon Simon/Feature Photo Service for IBM

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(翻訳:sako)