養子縁組をする、あるいは養親を探すという選択は、法的に複雑で、感情的な負担が大きく、費用も時間もかかるプロセスである。PairTree(ペアツリー)は、エージェントなどの組織が仲介せずに、妊娠中の母親と養子縁組を希望する人がお互いを検索できるオンラインのマッチングプラットフォームを展開。難しい養子縁組プロセスを少しでも簡単かつ迅速にすることを目指している。同社は先日225万ドル(約2億5000万円)のシードラウンドで資金調達を完了したが、この業界では珍しい。
養子縁組プロセスは人により異なるが、手続きを開始してからマッチングを成立させるまでに、5万ドル(約560万円)以上の費用と1年半を超える時間がかかることはどのケースでも共通している。養子縁組にともなう法律上のハードルもあるが、養子縁組の機会が限られることや、お互いの相性が保証されていないことも大きな要因だ。不妊治療がうまくいかずに養子縁組を検討している多くの人にとって、養子縁組プロセスは負担が大きく、気が滅入るほど長期間待たされることにもなる。
PairTreeはCEOのErin Quick(エリン・クイック)氏とCTOのJustin Friberg(ジャスティン・フリーバーグ)氏が共同で設立した。クイック氏によると、現代の養子縁組は95%近くがオープン、すなわち生物学的母親と養子縁組先の家族の間で継続的な接触があることが特徴だという。
自身も円満な養子縁組をしているクイック氏は、TechCrunchのインタビューに応じ「生物学的母親と養子縁組先の家族は生涯関係を持ち続けることになるので、相性の良い相手を見つけることが重要になる」と語る。しかし、一般的な養子縁組は、州の認可を受けたエージェントを通じて行われ、関係者が連絡を取れる範囲は制限される。
クイック氏は次のように話す。「地理的な縛りが強いのです」「養子縁組は州レベルで規制され、州レベルで進められています。州の法律のせいではない、つまり、州外で養子縁組をしてはいけないという規則はないのですが、エージェントが小さな非営利団体であるのが原因です。彼らは、自分たちが提供できるサービスがその地域にあるという理由で、その地域に囚われています。私たちは、養子縁組プロセスをもっと簡単に、より効率的にするためのプラットフォームを構築しています」。
PairTreeのプラットフォームは、出会い系アプリに非常に似ている点が多い(もちろん、この比喩は正確ではなく、養子縁組を選択することの重大性を反映したものではない)。しかし、交際相手との出会いと同じように、養子縁組においても、人格や個々のニーズを反映できる「場」を介して、つながりを求める人々がいる。
妊娠中の母親が相性の良い養子縁組先の家族をフィルタリングして検索する方法を示すスクリーンショット
PairTreeでは、妊娠中の母親と養子縁組先の両方の性格診断を行う。この性格診断は、OkCupid(出会い系アプリ)のような簡単なものではなく、その人の人生における大まかな優先順位を示す、もっと広範で重要なユングの元型(ユング心理学における概念、人が産まれながらに持つイメージの源)を使用する。例えば「旅をして学びたい」と「何かを与え、育てたい」という思いは、必ずしも両立しないわけではないが、チェックボックスで簡単に答えられない、その人の指向性を示す重要な指標となる。もちろん、これは複数ある基準の1つで、その他の人口統計学的や個人的な情報も収集する。
養子縁組を希望する人は待機リストに追加され、妊娠中の母親はその中から選んで、連絡を取ることができる(この点で、PairTreeは、女性からメッセージを送るという女性優先の出会い系アプリであるBumbleのシステムと同じだとクイック氏はいう)。PairTreeでは、身元確認や学習状況等の重要なステップの確認などの基本的なデューデリジェンスも行う。
マッチしそうな相手が見つかると、関連情報がすべて養子縁組のエージェントに送られ、エージェントがその他の法的・経済的な手続きを調整する。PairTreeは、これらのエージェントの代替機関となろうとしているのではない。(クイック氏によると、)PairTreeは待機時間を短縮し、良い結果に結びつけることができるので、エージェントに強く支持されているという。これまでの成功した養子縁組のデータでは、待ち時間を半分~3分の2に減らすことができ、結果として、コスト(エージェントに検索や法的作業を行ってもらうための定期的な支払いを含む)も同程度に削減できたとのことだ。
クイック氏は「これらのエージェントは小さな非営利団体で、技術的な能力はあまりありません。立ち上げ当初は弁護士に依頼していましたが、エージェントから連絡が来て驚きました」と説明する。
エージェントが養子縁組を希望する家族にPairTreeを紹介してくれたことが、PairTreeの初期の原動力になった、とクイック氏はいう。重要なのは、当初成功した養子縁組には大きな多様性があった、という点だ。
養子縁組は歴史的に、信仰に基づく制度によって否定され、LGBTQの家族や独身女性は差別の対象となっていた、とクイック氏は指摘する。実際、米国時間6月17日、米国最高裁判決は、宗教を重視する養子縁組エージェントに同性カップルへのサービスを拒否する権利を認めた。クイック氏は、PairTreeが提供する同性カップルや独身者の養子縁組の支援に誇りを持っている、と話す。
また、PairTreeは純利益の5%(それなりの額になると期待される)を、養子縁組の手続きを行った生物学的母親にカウンセリングとサポートを提供する「Lifetime Healing Foundation(ライフタイムヒーリング財団)」に寄付する予定だ。
225万ドルのシードラウンドは、Urban Innovation Fund(アーバンイノベーションファンド)が主導し、Founder Collective(ファウンダーコレクティブ)、Female Founders Alliance(フィーメールファウンダーアライアンス)、Techstars(テックスターズ)が参加した。養子縁組がベンチャーキャピタルにとって特に重要視する産業ではないと聞いて驚く人はほとんどいないと思われるが、不妊治療テクノロジーへの関心と投資が増加することで、隣接分野でのビジネスチャンスが注目されるようになったのかもしれない。養子縁組は、テクノロジーを活用した大幅な改善が可能な分野であり、これはスタートアップ企業がポジティブな結果を出して急成長できることを意味している。
同社は今回の資金調達により、サービスのポートフォリオの拡充、さらなるパートナーシップ、ネイティブなモバイルアプリの構築を計画している(同サービスのユーザーの90%がモバイルを使用していることから、この点はユーザーにとって最も重要だろう)。
今回の資金調達の発表で、クイック氏は次のように述べた。「養子縁組はもっと多くの人が親になれる現実的な手段であるべきだと、いう私たちのビジョンを共有する、専門家やさまざまな投資家の方々に感謝しています」「私たちと同じように、投資家の方々は、養子縁組と生物学的母親および養子縁組先の家族を支援することの重要性を確信しています。養子縁組は1回限りの取引ではなく、生涯にわたって彼らがたどる道すじなのです」。
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画像クレジット:Pairtree
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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)