「スタートレック」のカーク船長が10月12日にBlue Originの宇宙飛行に参加、史上最高齢90歳で

Blue Origin(ブルーオリジン)の次の搭乗者リストには、テレビや映画の中での宇宙探検のベテラン、William Shatner(ウィリアム・シャトナー)氏と、Blue OriginのNew Shepard(ニューシェパード)ミッション&フライトオペレーション担当副社長を務めるAudrey Powers(オードリー・パワーズ)氏が含まれる。すでに発表されていたChris Boshuizen(クリス・ボシュイゼン)博士とGlen de Vries(グレン・デフリース)氏にこの2人が加わることで、10月12日に予定されている打ち上げの4人のクルーが出そろった。

「スタートレック」でジェームズ・T・カーク船長を演じたことで知られるシャトナー氏は、このミッションが実現すれば、7月20日に行われたBlue Originの初の有人宇宙飛行にJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏とともに搭乗した、航空宇宙のパイオニアである現在の記録保持者Wally Funk(ウォーリー・ファンク)氏を僅差で追い抜き、史上最高齢の宇宙飛行経験者となる。シャトナー氏は90歳、一方のファンク氏は82歳だ。

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ベゾス氏自身を除けば、オードリー・パワーズ氏は、Blue Originの社員としては初めて同社の宇宙船でサブオービタル飛行の旅をすることになる。彼女は2013年からBlue Originのチームに参加しており、New Shepardミッション&フライトオペレーションチームを率いる前は、同社の副顧問兼法務・コンプライアンス担当副社長を務めていた。

すでに明らかになっていた他の搭乗者であるボシュイゼン博士とデフリース氏は、先週発表された。ボシュイゼン博士はPlanet Labs(プラネット・ラボ)の共同設立者で、現在はVCであるDCVCのパートナーを務めている。デフリース氏は、Dassault Systemsに買収された医療用ソフトウェアのスタートアップMedidata Solutions(メディデータ・ソリューションズ)の共同設立者だ。

Blue Originは、元社員のAlexandra Abrams(アレクサンドラ・エイブラムス)氏が他の現役・元社員20名と共著で、安全性への懸念やセクシャルハラスメントの歴史を告発する文書を公開したことで、現在、追及と批判にさらされている。この件による同社の打ち上げスケジュールへの影響はないようだが、FAA(連邦航空局)はエイブラムス氏の手紙で明らかになった安全上の懸念を検討していると言われている。

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画像クレジット:SOPA Images / Contributor / Getty Images

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Aya Nakazato)

第4世代の宇宙推進システム「TILE」開発のスピードアップに向けてAccion Systemsが約46.3億円調達

宇宙推進装置を開発するAccion Systemsは、これまでで最も重要な資金調達ラウンドを終了した。同社は、Tracker Capitalが主導するシリーズCで4200万ドル(約46億2800万円)を調達し、評価額は8350万ドル(約92億100万円)に達した。

今回の投資にともない、Tracker CapitalはAccion Systemsの株式の過半数を取得した。今回の資本注入により、同社の第4世代推進システム(TILE[Tiled Ionic Liquid Electrospray]システム)の開発・製造が促進される。

TILEシステムは、電気エネルギーを使って電荷を帯びた粒子(イオン)をシステムの背面から押し出して推進力を得る。イオンエンジンは何十年も前から開発されているが、Accion ではガスではなくイオン液体(塩)という液体を推進剤として使用している。この液体は、不活性で非加圧であるため、爆発の危険性がない。また、イオンチャンバーのような大掛かりな部品を必要とせず、システム全体の小型化・軽量化を実現している。これは、ペイロードが1グラムでも多くなるとコストが高くなる宇宙では重要なポイントだ。

Accionの共同設立者であるNatalya Bailey(ナタリア・ベイリー)は、TechCrunchに次のように説明している。「既存のイオンエンジンをプリウスの大きさに縮小しようと頑張る代わりに、この推進剤を使えば、非常に小さなシステムから始めることができます」。小さいというのは本当で、スラスターのタイルの大きさは切手と同じくらいだ。

TechCrunchの最近のインタビューの中で語ったAccionのCEOであるPeter Kant(ピーター・カント)によれば、TILEシステムは拡張性とモジュール性を備えているため、キューブサットから恒星間航行用宇宙船の推進力まで、あらゆるものに使用することが可能だ。彼曰く「これは、獲得可能な最大の市場規模(TAM)と、当社が貢献できる実際の獲得可能な市場がほぼ一致している数少ない場合の1つです」。

最新世代のTILEシステムでは、サイズは従来のものと同じだが、Accionは1つのチップに搭載するエミッターの数を約10倍に増やしている(エミッターとは、実際にイオンを発射して運動量を生み出す技術のこと)。「面積あたりのイオンの数が増えることで、同じ空間からより大きな推進力を得ることができるのです」とカントはいう。

Accionは、第4世代のスラスターシステムの最初の製品を2022年の中・晩夏に出荷することを目指している。

TILEシステムは、アクシオンの共同創業者であるナタリア・ベイリーとLouis Perna(ルイス・ペルナ)が、マサチューセッツ工科大学在学中に開発したものだ。この技術は大手航空宇宙企業から大きな関心を集めたが、彼らは売却ではなく2014年にAccionを設立することを決めた。同社は、マサチューセッツ州チャールストンにある施設で、製品の製造と組み立てを行っている。

TILEシステムは、6月末にスペースXのTransporter-2の打ち上げで上がった商業宇宙船(Astra Digital製とNanoAvionics製)に搭載されていた。Accionはまず、キューブサットのような小型の宇宙船に対してサービスを提供することに注力したが、ベイリーはそれは始まりに過ぎないと述べている。

「最初はこの分野を追求し、その後、学んだことを再投資してより大型のシステムを構築し、最終的には大型の静止衛星や恒星間ミッションなどを実現したいと考えています。最近のロケットに搭載されたシステムは、おそらく50kg程度までの衛星に適していると思いますが、私たちが目指す分野の中では小さい方です」。

画像クレジット:Accion Systems

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Dragonfly)

SPACE WALKERがLNGエンジンのスペースプレーン実証機を2024年にスウェーデンで打ち上げへ

スペースプレーン(有翼式宇宙船)のイメージCG 出典:SPACE WALKER

スペースプレーン(有翼式宇宙船)のイメージCG 出典:SPACE WALKER

スペースプレーン(有翼式宇宙船)を開発するSPACE WALKERは9月27日、第4期定時株主総会・事業報告会を開催、その一部を報道向けに公開した。これは本来、株主・投資家向けに開催しているもので、通常公開はしないが、事業の社会的なインパクトを考慮し、経営の透明性を強化するため、公開することを決めたという。

事業報告会では、同社の様々な取り組みが紹介されたのだが、ここではスペースプレーンの開発状況を中心に、その内容をまとめたい。

有翼式宇宙船というと、米国のスペースシャトルが代表的だが、同社の機体が大きく異なるのは、サブオービタル飛行であることだ。地球周回より打ち上げに必要なエネルギーが格段に少なく、固体ロケットブースタや外部燃料タンクなど、スペースシャトルのような複雑なシステムは必要ない。単体で上がり、単体で帰還する。

宇宙空間にタッチしてすぐ地球に戻るようなものだが、微小重力環境を利用した実験、高高度での科学観測、広告やエンターテインメント、有人宇宙旅行など、様々な用途が考えられる。再使用可能な機体として開発が進められており、有翼式のため、飛行機のように滑走路に帰還することができる。

同社の現在の計画では、2025年に科学実験を行う「FuJin」(風神)、2027年に小型衛星の軌道投入を行う「RaiJin」(雷神)、2030年に有人宇宙旅行を行う「NagaTomo」(長友)と、機体を大型化していく予定。当面は同一地点からの離着陸となるが、将来的には、地上の2つの地点間を結ぶP2P輸送も視野に入れる。

SPACE WALKERによる、スペースプレーンの開発ロードマップ 出典:SPACE WALKER

SPACE WALKERによる、スペースプレーンの開発ロードマップ 出典:SPACE WALKER

同社のスペースプレーンの特徴の1つは、LNGを燃料とするエンジンを搭載することだ。LNGは現在、ロケットの新しい燃料として注目されており、SpaceXの「StarShip」、Blue Originの「New Glenn」などでも採用が決まっている。性能はケロシンと同等だが、ススが出ないので、再使用エンジンには最適とされる。

SPACE WALKERには、様々な企業が協力している。このLNGのエンジンは、IHIが担当。ベースとなるのは、「GX」ロケットの第2段エンジンとして開発された「LE-8」の技術だ。GXロケットは開発中止となり、LE-8は1回も打ち上げられることはなかったものの、IHIはその後も研究開発を続けてきた。

IHIのLNGエンジンへの取り組み 出典:IHI

IHIのLNGエンジンへの取り組み 出典:IHI

GXロケットは使い捨て型だったため、エンジンの燃焼室はアブレータ冷却方式を採用していたものの、SPACE WALKERのスペースプレーンは再使用が前提のため、再生冷却方式に変更している。ただ、日本にはまだ、実用化された再使用エンジンはなく、ノウハウが十分あるとは言い難い。

ゲストとして登壇したIHIの志佐陽氏(航空・宇宙・防衛事業領域 宇宙開発事業推進部 事業企画グループ長)は、「どういう状態なら再使用できるのか、飛ぶ前の安全性の評価が難しい」と指摘。「十分な安全率を持つだけでなく、故障予知などにも取り組んでいくことが必要ではないか」という考え方を示した。

エンジンの開発は、ロケットにおいて、最も難易度が高い技術の1つだ。ロケット開発の遅れや失敗に直結しやすく、それだけ注目する必要がある。同社が開発中のLNGエンジンは、まだ数分間の燃焼試験しかやっておらず、「再使用といえるほどの繰り返しはできていないので、これから確認していきたい」とした。

なお、燃料となるLNGの調達は、エア・ウォーターが担当する。面白いのは、家畜の糞尿より取り出したバイオガスから液化バイオメタン(LBM)を製造し、それをロケットで使おうとしていることだ。同社はLBMの地産地消型サプライチェーンを構築しようとしており、北海道・十勝地方で実証事業を行ってきた。

エア・ウォーターが目指すLBMのサプライチェーン 出典:エア・ウォーター

エア・ウォーターが目指すLBMのサプライチェーン 出典:エア・ウォーター

SPACE WALKERは、大樹町の北海道スペースポート(HOSPO)を射場として利用する計画だ。大樹町のある十勝地方は、人間よりも牛の方が多いほど。北海道には、年間30万トンのLBMを製造できるポテンシャルがあるそうで、これは、道内の工業用LNGの消費量の半分程度に相当するという。

HOSPOでは、インターステラテクノロジズの超小型衛星用ロケット「ZERO」もLNGエンジンを搭載することになっている。エア・ウォーターの高橋宏史氏(北海道地域連携室リーダー)は、「LBMのロケットが日常的に上がって、それを温泉に入りながら眺められる日が訪れることを願っている」と、期待を述べた。

スペースプレーンの最初の実用機となるFuJinは現在、基本設計のフェーズ。2022年にも完了し、次は詳細設計へ移行する予定だ。100kgのペイロードを搭載し、垂直に離陸。高度120kmまで到達してから、滑走路に水平着陸する。機体は、年間50回の打ち上げを想定し、設計寿命は20年。エンジンは100回以上の使用が目標だ。

実用1号機となる「FuJin」の概要 出典:SPACE WALKER

実用1号機となる「FuJin」の概要 出典:SPACE WALKER

このFuJinであるが、基本設計の段階で、形状と規模が大きく変わった。2年前の「モデルB」は、全長10.0m、重量8.7トン、エンジンは推力20kNが6基という構成だったのに対し、最新の「モデルX-5」では、全長13.4m、重量18.6トン、エンジンは77kNが3基と、かなり大きくなった。

掲載画像左が「モデルB」、右が「モデルX-5」の設計 出典:SPACE WALKER

掲載画像左が「モデルB」、右が「モデルX-5」の設計 出典:SPACE WALKER

FuJinに先立ち、2024年には、サブスケールの実証機である「WIRES」15号機を打ち上げる予定だ。同機は、全長4.6m、重量1トンで、初めてLNGエンジンを搭載、飛行時の性能を確認する。機体構造は複合材製。アビオニクスも通信系も、FuJinを想定したものが搭載されるという。

15号機は当初、13号機とともに米国での打ち上げ試験を計画していたが、13号機にエンジンを提供する予定だった南カリフォルニア大学が地上燃焼試験に失敗。これで13号機の打ち上げは中止となり、15号機を打ち上げるためには新たな提携先を探す必要があったが、結局米国内では見つからず、米国外で探すことになった。

「WIRES」15号機の概要 出典:SPACE WALKER

「WIRES」15号機の概要 出典:SPACE WALKER

そして、ドイツ航空宇宙センター(DLR)との協力により、スウェーデンのエスレンジ実験場で飛行実証できることが決まった。米国から欧州への変更により、設計の一部も変更する必要が生じたほか、このコロナ禍の影響などもあり、打ち上げが大幅に遅れたそうだ。2023年には、北海道でヘリコプターを使った予備実験も行う予定とのこと。

SPACE WALKERは、再使用型でクリーン燃料のロケットを「エコロケット」と定義する。この2つの要件を満たすロケットは世界でも限られ、同社のスペースプレーンはその1つだ。再使用型なので、海洋には何も投棄しない。特に同社はLBMまで活用するなど、カーボンニュートラルへの取り組みは先進的といえる。

SPACE WALKERが提唱する「エコロケット」 出典:SPACE WALKER

SPACE WALKERが提唱する「エコロケット」 出典:SPACE WALKER

有翼式なので、広い範囲を飛行する能力があり、帰還時の燃料も節約できる。また自律航行システムを搭載するため、パイロットの育成コストが不要という特徴もある。同社代表取締役CEOの眞鍋顕秀氏は、「エコといえばエコロジーのイメージだが、エコノミーも重要。環境にも経済にも優しいロケットと考えている」とアピールする。

眞鍋氏は最後に、大航海時代→産業革命→ゴールドラッシュという過去の流れを振り返り、「歴史に学ぶべきところは多い」と指摘。「いま思えば、産業革命での蒸気機関の発達が、化石燃料が中心となった最初のきっかけだった。今の宇宙開発が大航海時代の入口に相当すると考えると、今後、同じように産業革命とゴールドラッシュが来る」と見る。

宇宙の大航海時代が始まり、ゴールドラッシュが来るか 出典:SPACE WALKER

宇宙の大航海時代が始まり、ゴールドラッシュが来るか 出典:SPACE WALKER

「脱炭素化の問題を、この二の舞にしてはいけない。宇宙の大航海時代をスタートするにあたっては、今後の持続可能性を考えながら、モビリティ革命を起こしていく必要がある。世界全体のロケットの状況を見ても、これは急務であると考えている」と述べ、SPACE WALKERへの支援を改めて訴えた。

SPACE WALKER代表取締役CEOの眞鍋顕秀氏 出典:SPACE WALKER

SPACE WALKER代表取締役CEOの眞鍋顕秀氏 出典:SPACE WALKER

Blue Originの安全性に関わる重大な懸念とセクハラ文化を現役ならびに元社員が提起

Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏は、労働問題から逃れることができない。悩める億万長者のベゾス氏は、かつて率いていたAmazon(アマゾン)では、過剰労働環境をめぐり度重なる根強い批判にさらされていたが、今度は自身が経営する宇宙開発企業Blue Origin(ブルーオリジン)での敵対的な労働環境への申し立てに直面している。

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明らかになった21人の現役ならびに元社員が共同で綴ったエッセイには、Blue Originの職場環境でセクハラが横行していることや、専門家としての意見の相違が封じられ、環境問題が放置され、人間の安全よりも素早い実行が優先されるものであることが、鮮明に描かれている。

このエッセイで唯一名前を明かしている著者は、Alexandra Abrams(アレクサンドラ・エイブラムス)氏で、彼女のLinkedIn(リンクトイン)のプロフィールによると、Blue Originでは2年6カ月の間働いていたという。エイブラムス氏は、同社在職中に従業員コミュニケーションの責任者となった。彼女は米国時間9月30日のCBSモーニングのインタビューで「私がジェフに言いたいのは、本当に願っていたのは、彼が私たちが思っていたような人物であればよかった、そしてBlue Originが私たちが思っていたような会社になればよかったということなのです」と語った。

Blue Originの元従業員コミュニケーション責任者だったアレクサンドラ・エイブラムス氏が、@LaurieSegallに会社に対する苦言を呈している。

「安全の文化と恐怖の文化を同時に生み出すことはできません。それらは相容れないものです」

Blue Originの広報担当者は、TechCrunchへの声明の中で、エイブラムス氏は「連邦輸出管理規制に関わる問題で繰り返し警告を受け、2年前にそれが理由で解雇された」と述べている。

さらに広報担当者は「Blue Originは、いかなる種類の差別やハラスメントも容認しない」と付け加えている。「当社は、24時間365日の匿名ホットラインを含む多くのチャネルを従業員に提供しており、新たな不正行為の申し立てがあった場合には、速やかに調査を行う」。

連邦輸出管理規制により、特定の商品や技術の米国外への輸出が制限されているが、Blue Originは本稿執筆時点で、エイブラムス氏の退社に関する詳細を明らかにしていない。

現在Blue Originは、NASAがSpaceX(スペースエックス)に月着陸船を単独で発注したことをめぐって、NASAとの間の訴訟に巻き込まれているため、今回のエッセイはBlue Originにとって最悪のタイミングで公表されたものといえるだろう。自身も入札を行っていたBlue Originは、入札以降、ソーシャルメディア上で契約について異議を唱え、米国会計検査院(GAO)に対して強い抗議を行ってきたが、会計検査院はBlue Originの訴えを退けている

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このエッセイは、この夏にVirgin Galactic(ヴァージン・ギャラクティック)のRichard Branson(リチャード・ブランソン)氏とベゾス氏自身が軌道に乗ったことで注目を集めた、いわゆる「億万長者宇宙競争」のために、安全性が後回しにされたと主張している。さらにこのエッセイでは、会社の幹部たちがBO(Blue Origin)のNew Shepard(ニュー・シェパード)宇宙船を年間40回以上打ち上げるという目標を表明していたが、それは危険極まりないペースであり、利用可能なスタッフやリソースがまったく足りていなかったと述べている。

「このエッセイに参加してくれたあるエンジニアは『Blue Originがこれまで何も起こさなかったことは幸運だった』という意見です」とエッセイの中には書かれている。「このエッセイの著者の多くが、Blue Originの宇宙船には乗らないと言っています」。

また、このエッセイに記載されている一連の告発の中には、多くの上級管理職の間に性差別の文化があったことも主張されている。その中には、Bob Smith(ボブ・スミス)CEOの「忠実な側近」と呼ばれる人物も含まれていて、この人物はセクシャル・ハラスメントで何度も人事部に報告されたことが書かれている。

このエッセイによると、女性社員の交際相手を詮索したり、女性社員を「sweetheart(スイートハート)」とか「baby girl(ベイビーガール)」などの表現で呼ぶといった、また別の上級管理職の不適切な行動について、会社の女性たちが新入社員の女性に警告していたという。

「彼はベゾス氏との親密な個人的関係によって守られているように見えましたが、女性の部下の体を実際に触ったことで、ようやく追放されたのです」とエッセイには書かれている。

このエッセイがBlue Originの業績に影響を与えないとは考えられない。8月にベゾス氏ら3人が、11分間のフライトで宇宙に行ったNew Shepardの打ち上げを成功させた後、同社はより多くの有料乗客を迎えることを計画している。

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エッセイの書き手の大半が匿名を選んだのは、2019年に従業員が署名を求められた「非誹謗中傷条項」を含む息苦しい新しい契約書によって、少なくとも部分的には説明できるとこのエッセイには書かれている。

この手紙は米連邦航空局(FAA)の目に留まったようで、同局はTechCrunchに対して「FAAはすべての安全性に関する申し立てを真剣に受け止めており、同局は情報を検討しています」と述べている。

TechCrunchは、手紙に書かれた他の疑惑についてBlue Originに問い合わせを行っており、回答があれば記事を更新する。

画像クレジット:MANDEL NGAN / AFP / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:sako)

Terran Orbitalが世界最大の衛星製造、部品工場をフロリダ州スペースコーストに建設

人工衛星製造会社のTerran Orbital(テラン・オービタル)は米国時間9月27日、3億ドル(約334億円)を投じてフロリダ州スペースコーストに世界最大の宇宙機製造施設を開設すると発表した。

この約6万1000平方メートルの工場では、年間1000基の人工衛星と100万個以上の衛星部品を含む「年間数千種類の宇宙機」を製造することができると、同社は声明で述べている。

2013年に設立されたTerran Orbitalは、同年に超小型衛星開発企業のTyvak(タイヴァック)を買収したものの、その後は目立たない存在だった。2017年には、Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)が同社に少額出資している。Terranは現在、カリフォルニア州アーバインで約1万2000平方メートルの施設を運営しているが、CEOで共同創業者のMarc Bell(マーク・ベル)氏は、現在の製造能力やこれまで製造した衛星の数については公表していないと、最近のインタビューでTechCrunchに語っていた。

Terran Orbitalは、主に米国政府向けに人工衛星の設計、製造、エンジニアリングを行う受託製造会社である。ベル氏によると、Terranの仕事の約95%はNASAと米国防総省に関連するとのことだが、同社の商業顧客については明言を避けた。

同社は独自の衛星コンステレーションも開発する予定だと、ベル氏は付け加えた。これらの衛星は、合成開口レーダーの一種を使用し、雲や雷雨などの視界に影響を与える気象現象があっても、画像を撮影することができるようになる。Terranによると、これらの衛星の打ち上げは2022年末に開始する予定だという。

新たな施設は2025年に完成する予定で、約2100人の雇用を生み出すことが期待され、平均賃金は8万4000ドル(約935万円)になる見込みだという。この施設は、同州の航空宇宙開発局であるSpace Florida(スペース・フロリダ)とのパートナーシップのもとで建造され、同局がコンジットファイナンスを提供する。

フロリダ州のスペースコーストには、すでにSpaceX(スペースX)、Blue Origin(ブルー・オリジン)、Redwire(レッドワイア)などが施設を構えている。今回の発表によって、同地の発展はさらに進みそうだ。2020年は1200個以上の衛星が宇宙に打ち上げられ、前年の2倍以上の数が軌道に乗った。

画像クレジット:Terran Orbital

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米宇宙軍からBlue Origin、ULA、Rocket Lab、SpaceXの4社が次世代ロケット開発に関わる契約を獲得

2019年12月に空軍から軍種としてスピンアウトした米国宇宙軍は、次世代ロケットエンジンの試験や上段の改良に関するプロジェクトに向けて、次の契約を勝ち取った企業を発表した。

この契約は、宇宙軍の宇宙システム司令部が管理する「Space Enterprise Consortium(SpEC、スペース・エンタープライズ・コンソーシアム)」プログラムによって選定された企業に付与されるものだ。SpECは、米国防総省と宇宙産業の連携を促進し、約600社の参加企業が契約を競い合っている。今回の契約は総額8750万ドル(約97億5000万円)で、以下の4社のロケット打ち上げ企業が獲得した。

  • Blue Origin(ブルーオリジン)は、大型ロケット「New Glenn(ニューグレン)」上段用の極低温流体管理技術開発のために2430万ドル(約27億円)を獲得
  • United Launch Alliance(ユナイテッド・ローンチ・アライアンス)は、新型「Vulcan Centaur(バルカン・ケンタウルス)」2段式大型ロケットのアップリンク・コマンド&コントロールのために2430万ドルを獲得
  • Rocket Lab(ロケットラボ)は、同社史上最高額となる2430万ドルの契約を獲得。この資金は、同社の次期中型ロケット「Neutron(ニュートロン)」の上段の開発に充てられる
  • SpaceX(スペースX)は「Raptor(ラプター)」ロケットエンジンの燃焼安定性分析および試験のために1440万ドル(約16億円)を獲得

SpaceXとULAは、宇宙軍の国家安全保障宇宙打ち上げプログラムのもと、米国政府のための打ち上げ業者としてすでに選定されている。Rocket LabとBlue Originの両社は、2024年に次回の打ち上げ契約を競うことになるだろう。今回の契約は、両社が入札に向けて準備を進めていることを窺わせるものだ。なお、Blue OriginとNorthrop Grumman(ノースロップ・グラマン)は、2020年にSpaceXとULAに敗れている。

今回の契約獲得について、Rocket LabのPeter Beck(ピーター・ベック)CEOは、Neutronロケットに対する「信頼の証」であると声明で述べている。「私たちはElectron(エレクトロン)で信頼のおける打ち上げシステムを構築してきましたが、ニュートロンでも同じことを行い、より打ち上げ能力の大きな新型ロケットで、引き続き自由な宇宙へのアクセスを提供して参ります」。

画像クレジット:Aubrey Gemignani/NASA

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Planet Labs共同創業者が10月打ち上げのBlue Origin2回目の有人宇宙飛行に搭乗へ

Blue Origin(ブルーオリジン)の2回目の有人宇宙飛行は宇宙産業ベテランで同産業を専門とする投資家が搭乗することになりそうだ。その人物とは、Planet Labs(プラネット・ラボ)の共同創業者で現在はベンチャーキャピタル会社DCVCでパートナーを務めているChris Boshuizen(クリス・ボシュイゼン)博士だ。ボシュイゼン氏は、完全再利用可能な準軌道宇宙船New Shepardを使うBlue Originの次の打ち上げで、提供される4座席のうちの1つに乗り込む。7月の第1回目の有人飛行にはJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏が搭乗した

関連記事:Blue Origin初の有人飛行成功、ベゾス氏ら4人が宇宙を体験

更新:Blue Originはまた、臨床試験ソフトウェア会社Medidata Solutions(メディアデータ・ソリューションズ)の共同創業者であるGlen de Vries(グレン・デ・フリーズ)氏も搭乗すると発表した。フリーズ氏は2019年にMedidataを買収したフランスのソフトウェア会社Dassault Systèmes(ダッソー・システムズ)のライフサイエンス・ヘルスケア部門副会長も務めている。

ボシュイゼン氏はシドニー大学で物理学の博士号を取得し、Planet Labsに入社して最初の5年間CTO職を担う前に、カリフォルニアにあるエイムズ研究センターで4年にわたってNASAスペースミッション建築家を務めた。同氏は元々、客員起業家としてDCVCに加わり、その後オペレーションパートナーに、そして2021年初めフルタイムのパートナーになった。

ボシュイゼン氏は宇宙産業で全キャリアを築いたが、宇宙に行くという野心はキャリア以前から持っていた、と話す。弱冠17歳のときにオーストラリア国防大学のパイロット養成校に申し込んだが、テストで部分的な色覚異常がわかり、失格となった。

現在の小型衛星とキューブ衛星のブームの多くは、実際のところボシュイゼン氏の貢献も大きい。NASA時代には、スマートフォンを改造して軌道衛星を作った「Phonesat」の開発にも携わっている。超小型衛星がこれほど多く存在するのは、スマートフォンの登場によってハイテク部品が小型化し、小型で高性能な衛星を比較的安価に製造・打ち上げられるようになったことが大きい。

フライトは米国東部時間10月12日火曜日午前9時半にテキサス州バン・ホーン郊外にあるBlue Originの広大なサイトから打ち上げられる予定だ。同社は残りのクルー2人の詳細は明らかにしていない。

ボシュイゼン氏は2020年のTCセッション宇宙部門に参加した。次のイベントは12月に開催され、まだチケットを入手する時間はたっぷりある。

画像クレジット:Blue Origin

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(文:Darrell Etherington、Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】宇宙探査には助成金の支給と規制が必要だ

1989年、Tim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏は今日のインターネットが普及を促進したWorld Wide Webを発明した。しかし彼は、多くの人々がこの技術によるメリットを享受することを望んだために、この技術を保護することをよしとしなかった。30年後、インターネットのほとんどの力と多大な利益は、少数のテックビリオネアに独占され、インターネットが生まれた当初約束されていたことのほとんどは実現されていない。

宇宙に関して同じ轍を踏まないためにも、私たちは競争を生み出し、コストの削減を実現するために新規参入者に助成金を支給すべきである。また、宇宙への旅を安全なものにするための規制も必要である。

宇宙は重要である。宇宙は数え切れないほどの仕事と燃料経済を生み出し、また気候変動に対する解決策をもたらす可能性さえある。投資家たちはすでにこの可能性に目を付けている。宇宙産業は、2030年までに 1.4兆ドル(約154兆円)の市場価値を生み出す可能性があるとされているが、彼らはこの宇宙業界の企業に何億ドルもの資金を注ぎ込んでいるのだ。

宇宙は広大で、とても少数のテックビリオネアに独占されるとは思えない。しかし、1989年にはインターネットもそのように考えられていたのだ。私たちはこれをしっかり理解する必要がある。宇宙産業は機械工から宇宙航空エンジニア、マーケティング、情報、物流の労働者まで、世界規模で雇用を生み出し、経済成長を促進する可能性があるためだ。

そのためには競争が必要である。しかし現在は、少数の企業が、世界のためというよりは、その企業の創設者の利益のために事業活動しているという状況だ。

私たちはインターネットで犯した過ちを繰り返してはならないし、介入が必要なほどテクノロジーが乱用されるようになるのを座して待っていてはならない。例えば、ケンブリッジアナリティカのスキャンダルでは、民間のテクノロジー企業が、社会に害を与えること(これは規制当局が保護すべき分野である)をいとわずに自らの利益(これは彼らの株主に対する義務である)のために、非常に危険なソーシャルメディア操作を行った。

宇宙では利害はさらに大きくなるだろう。またそれらは少数の国というのではなく、人類全体に影響を及ぼす。環境に関わる危険があるし(私たちが徹底的な調査を行っているのは「地球」での飛行による二酸化炭素の負荷であって、宇宙飛行ではない)、また宇宙での事故は人命が奪われると同時に、危険な破片が地上に降ってくることにもつながる。

これらの危険は予期できないものではない。Virgin Galacticが初めて死者を出したのは2014年のことだった。Space X の発射は約300人の乗客を乗せた飛行機が 大西洋を横断するのに相当する 二酸化炭素を排出しる。また、2021年始め、中国のロケットからのスペースデブリが無制御の状態でモルジブに 落下したこともあった。

私たちは、こうした事故が、より大規模な形で再び引き起こされる前に行動を開始しなければならない。

宇宙旅行は、1%のごく限られた人々にインスタ映えする瞬間を与えたり、サービスを提供するビリオネアの富を増やす以上のものであることが可能であるし、またそうでなければなるまい。

宇宙産業は、最良のものを最大限の人々に届けられるよう運営されるべきである。これは助成金の支給から始まる。

つまり、私たちは宇宙旅行を他の交通手段と同じように取り扱うべきなのだ。宇宙旅行を経済的に持続可能なものにするには、政府によるある種の介入がほぼ絶対的に必要である。

こうした状況は以前にもあった。飛行機による旅行や高速道路の発達、人件費の上昇で米国の2大鉄道会社が破産に至った時、ニクソン政権が介入しアムトラックを発足させたのだ。

これは、思想的な側面から推進されたものではなく(それとは正反対である)、米国が州間移動による経済的恩恵を得るための決定だった。創設から50年たってもアムトラックは採算が取れていない状態が続くが、それでも他の多くの産業や何百万もの個人や家族が依存する重要な経済的インフラの一部である。

これと同様のやり方を宇宙旅行にも適用する必要がある。Virgin Galacticのチケットは25万ドル(約2750万円)と予測されており、このような超豪華な旅行市場から恩恵を得る個人はほとんどいないだろう(これはごく初歩的な宇宙旅行商品の値段で、Virginの競合他社はこの額の数倍の値段を付けている)。

今宇宙産業に助成金を支給したなら、宇宙産業における競争を促進しながら、宇宙産業の広範な利益をすべて実現することのできるクリティカルマスに到達することができるだろう。

今のうちにこの問題に取り組めば、寡占企業が出現してからなんとかしようと戦うより(これは今米国連邦取引委員会が何十年も遅れてビックテックに行おうとしていることである)ずっと楽に物事が進むだろう

宇宙旅行はビリオネアだけの興奮剤やおもちゃではない。これは物理的にも経済的にも私たちにとって最後のフロンティアなのだ。

これを成功させたいなら、地球上での成功や失敗から学び、それらを宇宙に適用しなければならない。

それは、助成金、支援、規制と安全を意味する。これらは地球上でも重要だが、宇宙では絶対に不可欠なものなのである。

編集部注:執筆者のJoshua Jahani(ジョシュア・ジャハニ)氏は、コーネル大学およびニューヨーク大学の講師。中東・アフリカを専門とする投資銀行ahani and Associatesのボードアドバイザー。

画像クレジット:Vertigo3d / Getty Images

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(文:Joshua Jahani、翻訳:Dragonfly)

NASAが女性初の月面歩行を実現する宇宙飛行士を描くARコミック公開、次世代人材の獲得に向けた取り組み

NASAが女性初の月面歩行を実現する宇宙飛行士を描くARコミックを公開、次世代人材の獲得に向けた取り組み
米国では9月25日をコミック本を祝う日”Nationlal Comic Book Day”としてイベントなどが行われていましたが、これに合わせてNASAは、デジタル・インタラクティブ・ノベル「First Woman: NASA’s Promise for Humanity」を公開しました。これは月面探査をする女性宇宙飛行士キャリー・ロドリゲスを描いた架空の物語で、アルテミス計画において、女性で、なおかつ有色人種として、初の月面歩行を実現するという歴史的偉業を達成するというあらすじ。

作品は40ページのコミック版では月への宇宙旅行、着陸、月面探査に使われるNASAの技術が紹介されていて、ブラウザーで読んだり、PDFでダウンロードもできます。また音声バージョンもSoundCloudなどで聴くことが可能です。

そしてモバイルアプリで提供されるデジタル版(Android版iOS版)では、拡張現実(AR)要素を盛り込んだインタラクティブな体験が提供され、読者は実物大であったり3DでOrion宇宙船や月面探索などができるようになります。そのほかにもゲームや動画をプレイまたは視聴したり条件を満たしてバッジを取得したりして楽しめるようになっています。

作品は次の飛行士になる世代に宇宙への興味を持ってもらうことを目的としたもので、NASA宇宙技術ミッション部門のコミュニケーション・ディレクター、デレク・ワン氏は「このグラフィック・ノベルとデジタル・エコシステムは、これまでにない刺激的な方法でNASAの仕事を知っていただくために制作しました。魅力的で親しみやすいコンテンツは幅広い年齢層の宇宙ファンから、STEM教育の新しい方法を探している熱心な教育者まで、誰にでも楽しんでいただける内容になっています」と述べています。

子供向け、と言ってしまえばそれまでかもしれませんが、コンテンツにはNASAの長期的な計画もわかりやすく記されているとのことなので、興味があれば見てみるのも良さそうです(ただしすべて英語です)。なお、NASAはこのコンテンツのスペイン語版も提供する予定とのこと。スペイン語のほうが得意ならそちらをお待ち下さい。

(Source:NASA(1)(2)Engadget日本版より転載)

初の民間人だけの宇宙ミッション成功、Inspiration4の着水はSpaceXにとって始まりにすぎない

いとも簡単に彼らは帰還した。

Inspiration4のクルーが米国時間9月18日夜にフロリダの東海岸に着水し、晴々しく帰還した。ほぼ完全に民間人だけの初の宇宙ミッションとなった。着水から1時間弱してSpaceX(スペースエックス)のGo Searcher回収船がResilienceと命名されたCrew Dragonカプセルを曳航した。その後クルーはヘリコプターでNASA(米航空宇宙局)のケネディ宇宙センターに移送され、そこで標準的なメディカルチェックを受けた。

ミッションの成功はElon Musk(イーロン・マスク)氏、全ミッションを遂行したSpaceX(そして広範にとらえると技術開発の資金を提供したNASA)にとって重要な勝利だ。そしておそらく、はっきりと宇宙旅行時代の幕開けを告げるものだ。

SpaceXの有人宇宙プログラム担当シニアディレクター、Benji Reed(ベンジ・リード)氏は、潜在顧客からのプライベートミッションについての問い合わせが増えている、と報道陣に語った。「年に少なくとも3〜6回ミッションを実施できる」とも述べた。

もちろん、今回のミッション司令官のJared Isaacman(ジャレッド・アイザックマン)氏は宇宙に行った初の富豪ではない。2021年夏、 Richard Branson(リチャード・ブランソン)氏とJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏もそれぞれが所有するVirgin Galactic(ヴァージン・ギャラクティック)とBlue Origin(ブルーオリジン)が開発した宇宙船で宇宙飛行を楽しんだ。しかしその宇宙飛行はかなり短いものだった。ベゾス氏と同乗者3人は宇宙に行き、15分もせずに地球に帰還した。必然的に放射線アーチを描く移動だった。

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それとは対照的に、Inspiration4のクルーは最高高度590キロメートルで地球を周回しながら3日間を過ごした。この高度は国際宇宙ステーションよりも高く、宇宙にいる人間の中で最も「外側」にいたことを意味する。ミッションの間、クルーは1日あたり平均15回地球を周った。

軌道にいる間、クルーはいくつかの科学実験を行った。その大半は宇宙旅行が人体に及ぼす影響を理解することを目的とする自身のデータ収集だ。クルーはまた、SpaceXが「キューポラ」と呼ぶ大きなドーム型の窓で宇宙の写真を撮ったりして過ごした。

決済処理会社Shift4 paymentsで財を成したアイザックマン氏以外のクルーは、医師助手で子どもの頃にがんを患って克服したHayley Arceneaux(ヘイリー・アルセノー)氏、地球科学者のSian Proctor(シアン・プロクター)氏、ロッキード・マーティンのエンジニアであるChris Sembroski(クリス・センブロスキー)氏だ。クルーの中でアルセノー氏が宇宙に行った最も若い米国人で、かつ義足をつけて宇宙に行った初の人間であり、プロクター氏は宇宙ミッションを行った初の黒人女性だ。

この歴史的なミッションの費用はすべてアイザックマン氏によるものだが、同氏とSpaceXはどちらも費用が合計でいくらだったのかについては口を閉ざしている。このミッションはセント・ジュード研究病院のための2億ドル(約218億円)の募金活動として行われ、ここにアイザックマン氏が1億ドル(約109億円)、マスク氏が5000万ドル(約55億円)を寄付した。さらに募金活動には市民から6020万ドル(約65億円)が寄せられた。

Resilienceが安全に人を宇宙に運び、そして連れ帰ってきたのは今回が2回目だ。2021年5月の最初のミッションCrew-1では宇宙飛行士4人(NASAの3人、日本の宇宙航空研究開発機構の1人)を国際宇宙ステーションへと運び、そして宇宙飛行士を地球に連れて帰った。SpaceXは今後6カ月でいくつかの有人ミッションを実施する予定で、ここにはNASAと欧州宇宙機関の代わりに行う国際宇宙ステーションへのミッション、Axiom Spaceの依頼で行うプライベートAX-1ミッションが含まれる。

関連記事:NASAとAxiom Spaceが初の民間人のみによる国際宇宙ステーションへの宇宙飛行について発表

「SpaceXにとても感謝しています。すばらしいフライトでした」とアイザックマン氏はカプセルが帰還した後に述べた。「まだ始まったばかりです」。

着水の一部始終は下の動画で閲覧できる。

画像クレジット:SpaceX

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

宇宙船や人工衛星の制御と離脱技術を開発するAurora Propulsion Technologies、惑星間移動手段としても期待

2021年は、人類史上かつてないほど多くの宇宙船が軌道に投入され、今後10年間はさらに衛星の打ち上げ数が増加すると予想されている。これほど混雑した状況では、衛星を宇宙空間で制御し、寿命が尽きたときに軌道から外すことができるかどうかが鍵となる。

Aurora Propulsion Technologies(オーロラ・プロパルジョン・テクノロジーズ)という企業がある。宇宙船の推進力の問題を単純化することを目指す、ここ数年で登場したスタートアップの1つだ。2018年の創業以来、フィンランド企業の同社は、小型のスラスターエンジンとプラズマブレーキシステムという2つの製品を開発し、2021年の第4四半期には軌道上での実証実験を行う予定だ。同社の活動は投資家の目にも留まり、同社の技術を市場に投入するため、170万ユーロ(約2億2100万円)のシードラウンドを完了したばかりだ。

このラウンドは、リトアニアのベンチャーキャピタルであるPractica Capitalがリードし、国有のプライベートエクイティ企業であるTESI(Finnish Industry Investment Ltd.)と、Kluz VenturesのファンドであるThe Flying Objectが参加した。個人投資家も参加した。

Auroraの最初の軌道上での実証実験となる「Aurora Sat-1」は、Rocket Lab(ロケットラボ)のライドシェアミッションで宇宙に向かうことが先月発表された。この衛星には2つのモジュールが搭載される。1つ目のモジュールには、6つのオーロラ「レジストジェット」エンジンが搭載される。このエンジンは、小型宇宙船の姿勢(衛星の態度ではなく方向)を調整したり、回転を停止したりするのに役立つ。また、同社は、人工衛星の軌道離脱や深宇宙でのミッションに利用できる「プラズマブレーキ」技術のテストも行う。

関連記事:Aurora Propulsion Technologiesの宇宙ゴミ除去技術が2021年第4四半期に宇宙へ

レジストジェットスラスターの長さはわずか1センチメートルほどで、数マイクロリットル(1マイクロリットルは1立方ミリメートル)の水と推進剤を使って宇宙船を動す。6つのスラスターは、ほぼすべての方向に移動できるよう衛星の周囲に配置されており、水温と、移動のために放出する蒸気の強さを調整することもできる。

画像クレジット:Aurora Propulsion Technologies

AuroraのRoope Takala(ルーペ・タカラ)CEOは、Nokia(ノキア)に勤務していたこともあり、レジストジェットに見られるような宇宙産業における重量やサイズの革新を20年前に携帯電話やコンピューターに起こったことに例えている。「この業界の動きは非常にゆっくりとしています」と同氏はTechCrunchに話した。「旧宇宙時代には、ロケットエンジンの開発に4分の1、1世紀の4分の1の時間がかかっていました。今はそれが、1年の4分の1が2つ分になりました。それが私たちが実現したことです」。

プラズマブレーキは、電荷を帯びたマイクロテザーを使ってプロトンの塊を発生させ、抗力を発生させる。これは宇宙船の軌道離脱には理想的だが、おもしろいことに(そして直感に反して)、プラズマブレーキは地球から離れた場所への移動にも使えるとタカラ氏はいう。地球の磁気圏外に出ると、プラズマブレーキは不安定になり、太陽風(プラズマでもある)と一緒に移動するからだ。「同じ製品が、太陽からのプラズマの流れに飛び乗り、そこからエネルギーを取り出すことができるのです」とタカラ氏は説明する。「その意味では、惑星間の移動手段としても使えます」。

理論的には、宇宙船から異なる方向に伸びる複数のテザーを装備すれば、ヨットのように宇宙船を回転させたり誘導したりできるという。だが、この技術はある程度までしか拡張できないため、すぐに人間を乗せた宇宙船を深宇宙に送り出すことはできない。プラズマブレーキテザーの材料強度に限界があることが主な理由だ。この技術は約1000キログラムまでの衛星に使用できる。

「それが私たちの未来です。それが私たちが目指しているところです」とタカラ氏はいう。「今は短期的に、プラズマブレーキと姿勢制御(レジストジェット)を利用して、地球低軌道に注力していますが、将来的に月面ビジネスが徐々に軌道に乗り始めたら、そちらにも目を向けることになると思います」。

プラズマブレーキとレジストジェットは、軌道上に打ち上げられる前に宇宙船に搭載する必要がある。だが、Auroraは、すでに存在する宇宙のゴミに、軌道上でプラズマブレーキを載せる可能性について、他社と検討している。短期的には、地球低軌道用の技術を製品化し、その製造を重ね、CubeSat(キューブサット)より大きいサイズの衛星に対応する機能を製品に追加していく予定だ。

さらに長期的には、深宇宙でのミッションも視野に入れている。「私たちは、非常に小さな宇宙船に適合する技術を作りたいという考えからスタートしました。宇宙船を早く移動させることができれば、ボイジャー探査機に追いつけます」とタカラ氏はいう。

「最初は月、次に火星、金星、そしていつの日かボイジャーに追いつき、大旅行ができるかもしれません」。

画像クレジット:Aurora Propulsion Technologies

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

月軌道へのペイロード輸送を2022年第4四半期に行うとSpaceflightが発表

衛星ライドシェアサービスを提供するSpaceflight Inc.(スペースフライト)は、企業が月軌道やそれ以上の軌道に簡単にアクセスできるようにするという長期的なビジョンの一環として、2022年に月フライバイ・ミッションで顧客の荷物を送り届ける。

シアトルに本社を置くSpaceflightは、過去数年間にわたってテストを行ってきた軌道遷移機(OTV)「Sherpa(シェルパ)」の最新版である推進型OTV「Sherpa EScape(シェルパ・エスケープ、略称Sherpa ES)」を使用してペイロードを輸送する予定だ。このSherpaは、ロケットで宇宙空間に到達した後、顧客の希望する軌道にペイロードを展開するための、宇宙におけるラストマイル輸送を担当する役割を果たす。

Spaceflightの電気推進型OTV「Sherpa-LTE」は、2021年6月にSpaceX(スペースX)のTransporter-2(トランスポーター2)ミッションで打ち上げられ、その電気推進器の稼働に成功している。さらに2021年12月には、化学推進型の「Sherpa-LTC」が、SpaceXのTransporter-3で打ち上げられる予定だ。同社はこれまでにSherpa OTVで50基の顧客の宇宙機を展開することに成功している。

関連記事:SpaceXが88機の衛星を軌道に乗せ、2021年初めて1段目の地上着陸に成功

Sherpa-ESは、2つの主要な航空宇宙プライムから1000万ドル(約11億円)の資金調達を終えたばかりの軌道上給油会社Orbit Fabと(オービット・ファブ)と、新会社GeoJump(ジオジャンプ)のペイロードを運ぶ予定だ。GeoJumpもライドシェアリング事業に参入しようとしている会社らしく、同社のウェブサイトでは、小型衛星に「静止軌道への新しいルート」を提供すると謳っている。このミッションでは、SpaceXの「Falcon 9(ファルコン9)」ロケットによる打ち上げが予定されている。

画像クレジット:Spaceflight

このライドシェアは、NASAのCommercial Lunar Payload Services(商業月面輸送サービス)プログラムに選ばれた数少ない企業の1つであるIntuitive Machines(インテュイティブ・マシーンズ)が実施するロボットによる月面着陸ミッションの一部だ。Intuitive Machinesは、まずは2022年前半に予定されている14日間のミッションで、重量約2000キログラムの「Nova-C(ノヴァC)」着陸機を月面に送ることになっている。この着陸機は約130kgのペイロードを輸送する。

Intuitive Machinesは、2022年第4四半期に予定されているこの着陸機の2回目のミッションもSpaceXに依頼した。この着陸機は月の南極に着陸する最初の物体で、月の氷を掘削する最初の物体になると、同社は述べている。

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画像クレジット:Spaceflight

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NASAがアルテミス計画の月着陸機コンセプト開発でSpaceXやBlue Originなど5社と契約

NASAは、Artemis(アルテミス)計画の一環として、着陸機のコンセプトを開発する総額1億4600万ドル(約160億円)の契約を、SpaceX(スペースX)、Blue Origin(ブルーオリジン)、(ダイネティックス)を含む5社と締結した。

その内訳は、Blue Originに2650万ドル(約29億円)、Dyneticsに4080万ドル(44億6000万円)、Lockheed Martin(ロッキード・マーチン)に3520万ドル(約38億5000万円)、Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)に3480万ドル(約38億円)、SpaceXに940万ドル(約10億3000万円)となっている。提案書を提出したBlue Ridge Nebula Starlines(ブルー・リッジ・ネビュラ・スターライン)とCook & Chevalier Enterprises(クック・アンド・シュヴァリエ・エンタープライゼス)の2社のみが契約を獲得できなかった。

契約は、NextSTEP-2(Next Space Technologies for Exploration Partnerships、次世代宇宙探査技術パートナーシップ)のAppendix N(Sustainable Human Landing System Studies and Risk Reduction、持続可能な有人着陸システムの研究とリスク低減)に基づいて締結されたものだ。2021年7月初旬に発表された募集要項によると、この契約の目的は「コンセプトの研究、持続可能な有人着陸システムの運用コンセプト(地上および飛行)の開発、およびリスク低減活動のために、潜在的な商業パートナーと協働する」となっている。

これは実際には、選定された企業が着陸機の設計コンセプトを開発し、部品の試験を行い、性能や安全性などを評価することを意味する。

この契約は、2021年4月にNASAがSpaceXのみに与えた有人着陸システムの契約とは別のものだ。そちらの契約については、Blue OriginとDyneticsの両社が政府の監視機関に異議を唱え、後にBlue OriginはNASAを相手取った訴訟で反論しており、それは現在も継続中だ。

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しかし、今回の選定結果は、今後10年間の着陸機開発契約に影響を与えることになるだろう。NASAは声明で「これらの企業が行う仕事は、将来的にNASAが求める月周回軌道から月面までの定期的な宇宙飛行士の移動手段を提供するための戦略と要件の形成に、最終的に役立つことになるでしょう」と述べている。

Blue Originの提案は、Lockheed MartinとNorthrop Grumman、そしてDraper(ドレイパー)を含む、Blue Originが「ナショナルチーム」と呼ぶグループからのものだ(Lockheed社とNorthrop社は、Appendix Nの下で個別にも契約を獲得している)。

「この契約において、我らがナショナルチームは将来の持続可能な着陸機のコンセプトに貢献する重要な研究とリスク低減活動を行います」と、Blue Originの広報担当者はTechCrunchに説明している。「また、私たちはこの取り組みにおいて、他の複数の企業や全国のNASAフィールドセンターと密接に連携していきます」。

2020年に承認されたアルテミス計画は、アポロの時代以来となる人類の月面再訪だけでなく、2020年代後半までにそのような旅を定期的に行えるようにするという多くの目的がある。さらにNASAは、月に留まらず、火星にも人類を送り込む惑星間探査にまで拡げることを目指している。

「NASAの重要なパートナーとして、また商業的パートナーシップがいかに効果的に機能するかを示す好例として、Northrop Grummanは有人宇宙探査における実績を築き上げていきます」と、Northrop Grummanの民間商業衛星担当VPを務めるSteve Krein(スティーブ・クライン)氏は声明の中で述べている。「当社は、月への再訪と火星に人類を送るというNASAの野心的な目標を達成するために、Blue Originとナショナルチームとのパートナーシップを継続していきます」。

画像クレジット:Getty/Walter Myers/Stocktrek Images / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Inspiration4の民間人クルー、宇宙へ。スペースXの初となる民間人だけの打ち上げミッション成功

史上初、民間人だけのクルーで宇宙にたどり着いた。

Inspiration4クルーは、米国東部標準時午後8時4分(日本時間9月17日午前10時4分)にフロリダ州のNASAケネディ宇宙センターを離陸し、訓練を受けた宇宙飛行士がゼロという人類史上初の宇宙ミッションをスタートした。

再利用可能なFalcon9ロケットの第1段は、地球に帰還するまでに燃焼を2回行い、打ち上げ後9分半ほどでスペースXの無人機「Just Read the Instructions」に垂直着陸した。Dragonは、米国東部時間午後8時16分(日本時間9月17日午前10時16分)に第2段から分離した。

2段目の分離(画像クレジット:SpaceX

4人の乗組員は、Falcon9ロケットに取り付けられたスペースXのCrew Dragon Capsuleに乗って軌道上で過ごすことになる(このDragonは2回目、Falcon9の第1段は3回目の利用となる)。この高度は、2009年にハッブル望遠鏡の修理を行ったとき以来、人類が到達した最高高度となる。現在のハッブルや国際宇宙ステーションの軌道よりも高いため、宇宙にいるすべての人間の上を飛ぶことになる。

乗組員は、宇宙にいる間に地球を15周する。宇宙空間にいる間、Crew Dragonのノーズコーンに取り付けられた透明な観測ドーム「キューポラ」から宇宙空間を見ることができる。これは、宇宙にある連続した窓としては最大のものだ。Inspiration4は、宇宙飛行が人体に与える影響を解明するための研究をはじめ、さまざまな科学実験を軌道上で行う。また、宇宙飛行が人体に与える影響を知るための研究も含まれている。研究対象となるのは自分自身で、乗組員は飛行前、飛行中、飛行後に自分自身の生物医学的データや生物学的サンプルを収集する。

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現在のところ、億万長者がいなければ民間宇宙飛行は行えない。Inspiration4にもその1人がいる。ミッションの司令官であり、資金提供者でもあるJared Isaacman(ジャレッド・アイザックマン)氏は、決済処理会社Shift4 Paymentsで財を成した。残りのクルーである医師助手のHayley Arceneaux(ヘイリー・アルセノー)氏、地球科学者で科学教育の博士号を持つSian Proctor(シアン・プロクター)氏、ロッキード・マーティンのエンジニアであるChris Sembroski(クリス・センブロスキー)氏たちは才能豊かで、並外れた勇気を持っていることは明らかだが、普通の人たちだ。

発射台39AでFalcon 99ロケットを見るInspiration4のクルー(画像クレジット:SpaceX

このミッションはセント・ジュード研究病院のための募金活動だ(セント・ジュードの募金キャンペーンに寄せられた約7万2000件の寄付の中からセンブロースキーしは選ばれた)。クルーは総額2億ドル(約220億円)の募金を目指した。アイザックマン氏は1億ドル(約110億円)を寄付し、ミッションは目標を大きく上回り、打ち上げ時には3億ドル(約330億円)近くに達している。

民間人による最近の宇宙飛行と比べてはるかに長いミッションに向けて、乗組員たちは、レプリカのDragon Capsuleで12時間、さらに30時間のフライトシミュレーションを行い、2021年5月にはワシントン州のレーニア山に登るなど、何百時間ものトレーニングを行ってきた。

スペースXのCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏は、ケネディ宇宙センターでクルーを見送った。また、スペースXのカスタム宇宙服を着た2台のModel Xで発射塔に向かうなど、スペースXらしいスタイルを貫いた。今回のミッションにおけるNASAの関与は、100万ドル(約1億1000万円)相当のサービスや機材を提供した程度のものだったが、スペースXを現在のような高い地位にまで押し上げる上で、NASAは重要な役割を果たした。スペースXは、2014年にNASAから26億ドル(約2841億円)を獲得し、商用クループログラムのもと、Crew Dragonを開発した。

世界最大かつ最も収益性の高い打ち上げ会社であるスペースXにとって、大きな節目となった。今回の打ち上げは、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏やRichard Branson(リチャード・ブランソン)氏がここ数カ月で行ったものとは大きく異なるものだ。類似点もあるにはあるが、Blue OriginやVirgin Galacticのミッションよりも、クルーはより高く、より長く飛行することになるからだ。しかし、スペースXの有人宇宙飛行担当シニアディレクターであるBenji Reed(ベンジー・リード)氏が先に述べたように、3社とも宇宙飛行を「航空会社のようなモデルに進化させる」という目標を持っている。

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リード氏は「究極的に私たちは、多くの惑星を生命のあるものにしたいと考えています。つまりそれは、何百万人もの人々を宇宙に送り出すことを意味します。長期的なビジョンは、宇宙飛行が航空券を買って行くようなものになることです」という。

2021年も、スペースXはより多くの有人ミッションを実施する予定だ(ただし、全員が民間人のクルーということはない)。2021年末にはFalcon9によるISSへの宇宙飛行士輸送が予定されており、2022年初めには初の商用Axiomミッションが実施され、同じく宇宙ステーションへの輸送が予定されている。「Dragonのマニフェストは、刻々と忙しくなっています」と付け加えた。

すべてが計画どおりに進めば、3日後にはInspiration4のクルーがフロリダ沖のメキシコ湾または大西洋に着水、地球に戻ってくる姿を見ることがでる。天候も重要だ。「打ち上げ時の天候だけでなく、3~4日後の帰還時の天候も考慮しなければなりません」とリードは米国時間9月14日の記者会見で説明した。

クルーが軌道上にいる間は、Inspiration4のメンバーであるセンブロスキー氏(宇宙でウクレレを演奏する予定)が監修したプレイリストを聴くことができる。

画像クレジット:SpaceX

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画像クレジット:SpaceX

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Katsuyuki Yasui)

Solafuneと日本マイクロソフトが衛星画像データを超解像度化する技術コンテスト実施、英語版公開しグローバル展開も開始

Solafuneと日本マイクロソフトが衛星画像データを超解像度化する技術コンテスト実施、英語版リリースしグローバル展開も開始

衛星データ解析コンテストプラットフォームを運営するSolafune(ソラフネ)は9月14日、日本マイクロソフトと共同で衛星データの実用化に向けた「超解像技術」を開発するデータ解析コンテストの開催を発表した。

これは、「市街地の高解像度画像を活用した超解像度画像の生成」を競うもの。衛星などから撮影された地理空間データは解像度が低いために実用化が遅れている。また、高解像度の衛星写真は高額で、なかなか利用が難しい。そこで、Solafuneと日本マイクロソフトは今回のコンテストを実施して超解像技術を募り、そうした課題に取り組むという。

参加者は、Solafuneから提供される1m程度の評価用データを25cm解像度の超解像度画像に向上させ、所定のサイトから投稿する。すると画像評価指標SSIMによって評価され、スコアが比較される。コンテスト開催中は、その暫定スコアがリーダーボードで公開される。上位入賞者は、後に超解像度化に使われたソースコードを提出することになっている(実装の環境や言語に制限はない)。

解像度化の例。左が解像度1m、右が25cm

このコンテストを通して、「衛星データや航空写真などの地理空間データの社会実装が加速することを期待しています」とSolafuneは話している。

コンテスト概要

  • 開催期間:2021年9月14日午前9時〜12月23日午前9時(日本時間)
  • データの提出期限:2021年12月23日午前8時59分(日本時間)
  • 賞金:1位は3000米ドル(約33万円。総額は5000米ドル以上)と日本マイクロソフトからの特典
  • 開催場所および詳細https://solafune.com/competitions/3c7a473f-61f4-472f-a812-92eb07cc4541
  • ハッシュタグ:#MScup

Solafuneは、2020年10月のサービスリリース以降、衛星データや地理空間データの活用をテーマにしたデータ解析コンテストの運営を通して、アルゴリズムライセンス事業を展開。2021年8月には日本マイクロソフトと衛星データのビジネス利用の促進を目的とした協業を発表した。また同社は、今回のコンテスト開催に合わせて英語版をリリース。早期のグローバル展開を見据え、世界中のエンジニアが利用する体制を整えるとしている。

スーパーコンピューター「富岳」超高解像度計算により太陽の自転を正確に再現、長年の謎だった「対流の難問」が解決

  1. スーパーコンピューター「富岳」超高解像度計算により太陽の自転を正確に再現、長年の謎だった「対流の難問」が解決

    「富岳」で再現された太陽内部熱対流の様子。熱対流を表現するのに適したエントロピーという量を示しています。橙、青の部分はそれぞれ暖かい・冷たい領域に対応

千葉大学大学院理学研究院の堀田英之准教授と名古屋大学宇宙地球環境研究所所長の草野完也教授は9月14日、スーパーコンピューター「富岳」を使った超高解像度計算により、太陽内部の熱対流と磁場の再現に成功したと発表した。これにより、太陽の基本自転構造が再現でき、長年の謎だった「対流の難問」が解決された。

太陽は、地球と異なり赤道付近のほうが極地方よりも速く自転するという「差動回転」をしていることが、1630年ごろから知られている。これまでにも、スーパーコンピューター「京」を使った数値シミュレーションなどが行われたものの、極地方が赤道よりも速く回転するという、実際とは逆の結果が出てしまっていた。これは計算可能な解像度(京の場合は約1億点)の制限により、太陽内部の「乱流的な熱対流」を正確に計算できないためだとされている。こうした、熱対流の数値シミュレーションの結果が観測や理論モデルの結果と違ってしまう現象は、「熱対流の難問」として長年の謎とされてきた。

今回の研究では、「富岳」を使って世界最高の解像度である54億点で計算を行ったところ、実際と同じく、赤道が極地域よりも速く回転する結果が得られた。「太陽と同じ状況をコンピューター上に再現」できたとのことで、「熱対流の難問」が解決されたことになる。

太陽の差動回転の各速度を色で表した図。紫は遅く黄色は速い。

これまでは、太陽内部の磁場エネルギーは乱流のエネルギーよりも小さいと考えられてきたが、今回の計算では、磁場エネルギーは乱流エネルギーの最大で2倍あることがわかり、太陽の常識が覆った。

太陽の差動回転を理解することは、太陽物理学最大の謎である「太陽活動11年周期」(太陽黒点数が約11年の周期で変動する現象)の解明にもつながるという。今回は「富岳のすべての力を使ったわけではない」という。そのパワーをさらに引き出し高解像度計算を行うことで、この謎の解明にも挑戦したいと、堀田英之准教授らは話している。

この研究の論文は、『Nature Astronomy』に掲載された。論文タイトルは「Solar differential rotation reproduced with high-resolution simulation

なお同研究は、文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム「宇宙の構造形成と進化から惑星表層環境変動までの統一的描像の構築」および計算基礎科学連携拠点(JICFuS)の一環として実施されたもの。また、理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」、名古屋大学のスーパーコンピューター「不老」、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトのスーパーコンピューター「アテルイII」の計算資源の提供を受け、実施した。加えて、日本学術振興会の科学研究費の支援を受けている。

画像クレジット:千葉大学

米国防総省が小型宇宙船向け原子力推進システムを模索

米国防総省(DoD)の地球外への野望が少し見えてきた。SpaceNews(スペースニューズ)によると、同省は中小規模の宇宙船を想定した民間による原子力推進システムの募集を開始した。DoDは地球軌道外探査ミッションの遂行を目指しており、既存の電動あるいは太陽光宇宙船はこの役割にも小型の船体にも向いていない、と同省の国防イノベーションユニットは語っている。

原子力推進システムは、理想的な「高デルタV」(約10 m/秒)を実現しながら、乾燥重量2000 kg以下の小型化が可能だ。ペイロードに電力を供給するだけでなく、影になっているときに宇宙船を温かく保ち、地上や他の部品への放射線を最小限に抑えることを期待されている。応募の締め切りは9月23日で、契約は最短で60~90日以内に行われる予定だ。

当局はこの要請が便宜的なものであることを認めている。NASAをはじめとする各機関はすでに原子力宇宙船の開発や支援を行っているが、完成はかなり先だ。DoDはプロトタイプを3~5年以内に欲しがっている。このテクノロジーは、短期プロジェクトのために比較的速く原子力推進を実現する暫定策としての意味をもっている。

今回の募集はどんな宇宙船が進行中なのか何もヒントを与えていないが、小型宇宙船に焦点を絞っていることは、控えめな目標の探査機や人工衛星が関与する可能性を示唆している。この強力な有人宇宙旅行で火星に行くことはないだろう。それでも、DoDが現存の宇宙船エンジンの制限に不満で、より強力な設計への早道を求めていることは明らかだ。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Jon Fingas(ジョン・フィンガス)氏はEngadgetのウィークエンドエディター。

画像クレジット:NASA

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(文:Jon Fingas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

千葉大学と国立天文台が世界最大規模のダークマター構造形状シミュレーションに成功しデータを公開

千葉大学と国立天文台が世界最大規模のダークマター構造形状シミュレーションに成功しデータを公開

千葉大学の石山智明准教授を中心とする国際研究グループは9月10日、国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」を使った世界最大規模のダークマター構造形成シミュレーションに成功し、おおそ100TB(テラバイト)のシミュレーションデータを公開した

国立天文台では、すばる望遠鏡などを用いた大規模な天体サーベイ観察(特定の天体ではなく宇宙の広い範囲を観測するもの)を行っているが、その観測結果から情報を引き出して検証するためには、銀河や活動銀河核の巨大な模擬カタログが必要になるという。模擬カタログとは、理論的な枠組みで構築された銀河や活動銀河核などの天体のさまざまな計算上の情報を含むデータセットで、実際の観測データと比較することで、観測結果から数多くの情報を引き出すことができるというもの。今回公開されたデータは、その基礎データとなるもので、宇宙の大規模構造と銀河形成の解明に向けた研究に役立てられるとのこと。

この研究の目的は、宇宙の大規模構造の形成という天文学上の大きな謎の解明に関わるもの。そのためには、大規模天体サーベイ観測から情報を引き出すのに必要な巨大な模擬カタログの構築と、その土台となる大規模の構造形成シミュレーションを実現する必要がある。宇宙の構造形成には、ダークマターと呼ばれる目に見えない物質が大きく関わっており、その働きをシミュレートするには、宇宙初期の微小なダークマターの密度の揺らぎ(ムラ)を粒子で表現し、粒子間で働く重力を計算することによりハロー(銀河を球状に包み込む希薄な星間物質などの星の成分)や大規模構造がどのように形成され進化してきたかを見るという方法が用いられている。

  1. 「Uchuu」シミュレーションで得られた現在の宇宙でのダークマター分布。図中の囲みは、このシミュレーションで形成した最も大きな銀河団サイズのハローを中心とする領域を、順々に拡大しており、最後の図は一辺約0.5億光年に相当する(クレジット:石山智明)

    「Uchuu」シミュレーションで得られた現在の宇宙でのダークマター分布。図中の囲みは、このシミュレーションで形成した最も大きな銀河団サイズのハローを中心とする領域を、順々に拡大しており、最後の図は一辺約0.5億光年に相当する(クレジット:石山智明)

動画は、シミュレーションで形成した、最も大きな銀河団サイズのハローを中心とする領域の、ダークマター分布を可視化したもの。初期密度揺らぎが重力で成長し、無数のダークマターハローが形成する様子と(47秒まで)、現在時刻におけるそのハロー周辺の様子(47秒以降)(クレジット:石山智明、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

そこでは、ダークマターを示す粒子の数が多いほど広い空間を表現でき、粒子の質量を小さくするほど高い分解能が得られるのだが、これまで世界中で行われてきたシミュレーションでは、コンピューターやプログラムの制約により、そのどちらかが不足していたため、観測結果と直接比較することが難しかった。そこで千葉大学とスペインのアンダルシア天文物理学研究所を中心とする国際研究チームは、国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」の全システム(4万200の CPUコア)を投入し、世界最大規模のシミュレーションを行った。

このシミュレーションは「Uchuu」(宇宙)と名付けられ、一辺96億光年という広大な空間で、粒子2兆1000億体という高精度模擬カタログに必要な質量分解能を両立させた。このシミュレーションのデータ量は3PB(ペタバイト)にのぼるが、これを100TBまで大幅に圧縮し、クラウド上で公開。これにより、有用な模擬カタログの整備が加速されるという。

アテルイIIは、Cray製のXC50スーパーコンピューター。論理演算性能は3.087ペタフロップスを誇る(1ペタフロップスは毎秒1000兆回演算を行えることを指す)。岩手県奥州市水沢星ガ丘町の国立天文台水沢キャンパスに設置されている。

天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」(クレジット:国立天文台)

天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」。CPUはIntel Xeon Gold 6148 Processor(20コア、2.4GHz)で、システム全体のコア数は4万200(クレジット:国立天文台)

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が12月18日に打上げ決定、ビッグバンから約2億年後に輝き始めた宇宙の「一番星」発見へ

NASAがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を12月18日に打上げ、ビッグバンから約2億年後に輝き始めた宇宙の「一番星」発見へ

alex-mit via Getty Images (elements furnished by NASA)

NASAが、長らく延期を繰り返してきジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)をいよいよ、2021年12月18日に打ち上げます。打ち上げに先駆けて、NASAは8月下旬にこの宇宙望遠鏡の試験を完了しました。

JWSTは、もともとはいまから10年以上前に打ち上げられているはずでした。しかし、開発の遅れやトラブルなどのため2015年以降、2018年以降、2019年、2020年へと延期を繰り返し、ようやく2021年の打ち上げで決まりかと思ったところで、さらに延期を刻む逃げ水のようなプロジェクトとなってしまっています。

一般的にはハッブル宇宙望遠鏡の後継として知られているものの、仕様的には低周波観測、特に中間赤外線での観測に重点をおいたことで、ハッブルでは発見できなかった宇宙のごく初期の銀河まで発見できる能力を持つとされます。この仕様がJWST開発の技術的な遅れの原因のひとつでもありました。

  1. NASAがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を12月18日に打上げ、ビッグバンから約2億年後に輝き始めた宇宙の「一番星」発見へ

    NASA / Chris Gunn

非常に複雑な構造を持つこの宇宙望遠鏡は、現在カリフォルニア州レドンドビーチにあるノースロップ・グラマンの施設で、打ち上げ予定地であるフランス領ギアナへ向かう準備が進められ、その荷造りの最終段階にあるとのこと。打ち上げにはESAが用意するアリアン5ロケットが使用され、宇宙望遠鏡を太陽と地球の間のラグランジュポイント付近へと送り届けます。

打ち上げ後、JWSTの予定されたミッションは5年という比較的短期間で終了します。JWSTは軌道を維持するために推進剤を必要とするため、地球を周回する他の宇宙望遠鏡のように、壊れさえしなければいくらでも使いづけられる…というものではありません。そのためNASAはJWTの運用期間を5年間と公称しています。ただ、これは保証期間のようなもので、実際には推進剤は余裕をみて10年間は軌道を維持できるだけの量を搭載します。もちろん何らかの事態で推進剤を余分に消費してしまったときのリカバリー用でもありますが、当初の計画から10年以上遅れて(それだけ多大なコストもかけて)ようやく打ち上げになるJWSTだけに、予定期間だけで運用を終了する考えはNASA、少なくとも運用チームにはないはずです。

紆余曲折を経てやっとの打ち上げだけに、これまでの努力がトラブルなく報われるのを祈りたいところ。そして無事に運用に移行できれば、初期の宇宙に関する調査、特に赤外線を使った観測で「ファーストスター」と呼ばれる、ビッグバンから約2億年後に輝き始めたとされる宇宙第1世代の恒星の光をキャッチすることが期待されます。

(Source:NASAEngadget日本版より転載)

軌道上の燃料補給サービスを目指すOrbit Fabの資金調達に航空宇宙分野大手ノースロップとロッキード参加

サンフランシスコを拠点とするスタートアップ企業のOrbit Fab(オービット・ファブ)は、軌道上における燃料補給サービスの第1人者になることを目指しており、その実現に向けて1000万ドル(約11億円)以上の資金を調達した。この資金は、早ければ2022年末に開始を予定している燃料補給実験に使われる。同社はこの実験で、2機の燃料補給シャトルを宇宙に送り、ドッキング、燃料の移送、ドッキング解除の3つのステップを繰り返し行う予定だ。

今回の投資ラウンドは、Asymmetry Ventures(アシンメトリー・ベンチャーズ)が主導し、既存投資家のSpaceFund(スペースファンド)と、新たな投資家として丸紅ベンチャーズおよびAudacious Venture Partners(オーデイシャス・ベンチャー・パートナーズ)が参加した。中でも注目すべきは、Northrop Grumman Corporation(ノースロップ・グラマン・コーポレーション)とLockheed Martin Ventures(ロッキード・マーチン・ベンチャーズ)の両社も出資に参加したことである。請負業者として競合する2社が一緒に投資を行うのは初めてのことだと、Orbit Fabの共同設立者であるJeremy Schiel(ジェレミー・シエル)氏はTechCrunchに語った。

「私たちはすべての船を引き上げる潮目のようなものです」と、シエル氏はいう。「どちらかの企業に競争力を与えるのではなく、宇宙における持続可能性のために、全体としてより良い選択肢を採ることができるのです」。

同氏のいう「2つの大手企業を仲良くさせること」は、宇宙空間での燃料補給という事業を有利に進めたい同社にとって、重要な鍵となる。2019年のTechCrunch Disrupt Battlefield(テッククランチ・ディスラプト・バトルフィールド)で最終選考に残ったOrbit Fabは、RAFTI(Rapid Attachable Fluid Transfer Interface、高速取付可能流体移送インターフェース)と呼ばれる給油バルブを開発しているが、この部品は宇宙機が地球を離れる前に設置する必要がある。つまり航空宇宙関連業者など大手顧客から、購買契約は衛星が軌道に乗る前に獲得しなけれはならないのだ。

関連記事:軌道上の人工衛星に燃料補給するスタートアップOrbit Fabが約3億2000万円を調達

RAFTIを搭載した宇宙機は、地球低軌道や静止軌道、そして最終的にはシスルナ空間(地球と月の間)に配置されたOrbit Fabの燃料補給シャトルとドッキングできるようになる。2025年までには、すべての宇宙機にRAFTIが搭載されるようになることを期待していると、シエル氏は語っている。さらに長期的には、小惑星から採掘した材料を使って宇宙空間で燃料を製造するという、より大きな目標を同社は掲げている。

「私たちは宇宙のDow Chemical(ダウ・ケミカル)になりたいのです」と、シエル氏はいう。「月面採掘業者や小惑星採掘業者の最初の顧客となって、彼らが採掘した材料を買い取り、それを使って実用的な推進剤を軌道上で製造できるようにしたいと考えています」。

Orbit Fabによると、軌道上での燃料補給は急成長する新しい宇宙経済の基盤となるもので、物品や宇宙機をある軌道から別の軌道に移動させる必要が生じたり(これには非常に多くの燃料が必要だ)、資源を地球に戻すためのサプライチェーンを構築する際に不可欠となる。

「私たちは、宇宙で製造する推進剤のサプライチェーンになりたいのです」と、シエル氏は付け加えた。

画像クレジット:NicoElNino / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)