インフラの保守を助けるGeckoのロボットとソフトウェア

Gecko Robotics(ゲッコー・ロボティクス)のミッションステートメントは「今日の重要インフラを守り、明日のインフラをカタチにする」ことだ。スタートアップの本拠地ピッツバーグでは、1月下旬にバイデン大統領がインフラについて話をするために訪れた日に、ファーン・ホロー橋が5台のクルマの重さで崩壊した。

Geckoが提供するロボットとソフトウェアソリューションは、ひび割れやその他の問題がもっと大きな問題になる前に発見できるように設計されている。具体的には、石油・ガス、電力、製造、防衛などの産業構造物を検査するための技術だ。これにはパイプラインから船舶、タンクに至るまで、あらゆるものが含まれている。

今週同社は、技術開発と展開を加速させるために、7300万ドル(約83億8000万円)の資金調達を発表した。このラウンドはXN LPが主導し、Founders Fund、Drive Capital、Snowpoint Ventures、Joe Lonsdale、Mark Cuban、Gokul Rajaramが参加している。2019年に行われた4000万ドル(約46億円)のラウンドに加えて、今回の調達で同社の総資金調達額は約1億2200万ドル(約140億円)に達した。

XNのパートナーであるTim Brown(ティム・ブラウン)氏はリリースの中で「Geckoのロボット、ソフトウェア、AIのユニークな組み合わせは、重要インフラの検査、保護、効率的なメンテナンス能力を根本的に改善します」と語る。「Geckoと提携することで、その強力なテクノロジーを新しい地域や業界に拡大し、顧客のみなさまが物理データを収集して解析し、資産の安全性とパフォーマンスを最適化できるよう支援できるお手伝いができることをうれしく思っています」。

この技術は、オートメーションの中でも特にダーティで危険な部類として知られている。極めて過酷で困難な環境下で、構造物の規模に対応できるように設計されているのだ。人間の目では確認できないような微細な損傷も、ロボットが発見し、Geckoのソフトウェアが潜在的な問題カ所を特定する手助けをする。

画像クレジット:Gecko Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:sako)

FBI、BlackByteランサムウェアが米国の重要インフラを狙っていると警告

米国連邦捜査局(FBI)とシークレットサービス(Secret Service)のアドバイザリーによると、BlackByteランサムウェアギャングが少なくとも3つの米国の重要インフラセクターを標的にし、カムバックを遂げたようだ。

BlackByteはRaaS(Ransomware as a Service、ランサムウェア・アズ・ア・サービス)事業者で、ランサムウェアのインフラを他者にリースし、身代金の収益の一定割合を得ることを目的としている。このギャングは、2021年7月にソフトウェアの脆弱性を悪用して世界中の企業の被害者をターゲットにして出現した。BlackByteは米国、欧州、オーストラリアの製造業、医療、建設業に対する攻撃をセキュリティ研究者が確認するなど、当初は一定の成功を収めた。しかし数カ月後に、サイバーセキュリティ企業のTrustwaveがBlackByteの被害者がファイルを無料で復元できる復号化ツールを公開したことで、ギャングは苦境に立たされた。このグループの単純な暗号化技術により、このランサムウェアがアマチュアの仕業であると考える人もいた。ランサムウェアは、AESでファイルを暗号化する際に、セッションごとに固有の鍵ではなく、同じ鍵をダウンロードして実行していた。

しかし、このような挫折にもかかわらず、BlackByteの活動は再び活発化しているようだ。FBIと米国シークレットサービス(USSS)は、米国時間2月11日に発行されたアラートの中で、同ランサムウェアが米国内外の複数の企業を危険にさらしており、その中には政府機関、金融サービス、食品・農業関連など、米国の重要インフラに対する「少なくとも」3つの攻撃が含まれていると警告している。

このアドバイザリーは、ネットワーク防御者がBlackByteの侵入を識別するためのセキュリティ侵害インジケータを提供するもので、ランサムウェアギャングがSan Francisco 49ers(サンフランシスコ・フォーティナイナーズ)のネットワークを暗号化したと主張する数日前に公開された。BlackByteは、13日に行われたスーパーボウルの前日に、盗まれたとする少数のファイルを流出させることで、攻撃を公表した。

Emsisoft(エムシソフト)のランサムウェア専門家で脅威アナリストであるBrett Callow(ブレット・キャロウ)氏は、TechCrunchに対し、BlackByteは最も活発なRaaS事業者ではないものの、過去数カ月の間に着実に被害者を増やしてきたと述べている。だが最近、米国政府がランサムウェア業者に対して行っている措置を受けて、BlackByteは慎重なアプローチを取っているのではないかという。

関連記事:ランサムウェアの潮目が変わった、米国当局が勝ち目のないと思われた戦いにわずかながら勝利を収めた

「FBIとUSSSのアドバイザリによると、BlackByteは政府を含む少なくとも3つの米国の重要インフラセクターへの攻撃に投入されています。興味深いことに、ギャングのリークサイトにはそのような組織は掲載されていません。これは、それらの組織が(身代金を)支払ったか、データが漏洩しなかったか、あるいはBlackByteが漏洩したデータを公開しないことを選択したことを示しているのかもしれません」と述べています。「REvilのメンバーが逮捕されて以来、ギャングはデータを公開することにより慎重になっているようで、特に米国の組織の場合はそうした傾向が見られます」。

このランサムウェアはREvilと同様に、ロシア語やCIS言語を使用しているシステムのデータを暗号化しないようにコーディングされているため、BlackByteがロシアを拠点としていることを示す兆候はあるものの、だからといって「ロシアやCISを拠点とする人物によって攻撃が行われたと考えるべきではない」とキャロウ氏は述べている。

また「ギャングに属する関係者は、RaaSを運営する人物らと同じ国にいるとは限りません」と同氏は付け加えた。「彼らは、米国を含むどこにでも存在し得ます」。

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画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Carly Page、翻訳:Aya Nakazato)

輸送ネットワークをサイバー攻撃から守るShift5が57.7億円を調達

普段はあまり意識することはないかもしれないが、移動に使う電車や飛行機などの交通機関の背後には、電子機器やデバイス、データなどの広大なネットワークが張り巡らされており、そのおかげで電車は線路を走り、飛行機は空を飛ぶことができる。

たとえば米国時間2月8日に、5000万ドル(約57億7000万円)のシリーズB資金調達を発表したShift5(シフトファイブ)のような企業が、今日の交通ネットワークに不可欠なシステムを守ろうとしているのだ。Shift5によると、この分野は十分な支援を受けてはいないものの、急速に成長しているという。

輸送ネットワークは、列車や航空機、さらには戦車などの軍事機器の運行に不可欠な車載部品などの運用技術(OT)システムに依存しているが、かつては他と隔離されていたこれらのシステムがインターネットと接点を持つネットワークに徐々に加えられるケースが増えているため、サイバー攻撃を受けやすくなっている。

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OTネットワークへの攻撃は稀だが、OTシステムの障害は、数百万ドル(数億円)の損失やダウンタイムにつながり、また、事態が悪化した場合には安全上のリスクも生じる。米国政府のサイバーセキュリティ機関であるCISAは、重要インフラに対する脅威が高まっていると警告している。

しかし、OTシステムはその用途に応じて固有のものであることが多く、例えば戦車から部品を取り外してセキュリティの脆弱性をテストすることは現実的ではなく、また戦車を容易に入手することもできない。

Shift5はこの問題を解決するために、交通機関の企業やリーダーたちのOTネットワークに監視機能を提供し、全体的な攻撃対象を減らそうとしている。この監視機能は、脅威を検知し、インターネットベースの攻撃からシステムを守ることを目的としている。

その努力が実を結んでいるようだ。今回の資金調達は、前回の2000万ドル(約23億1000万円)のシリーズA資金調達からわずか数カ月後に行われた。2021年数百万ドル(数億円)規模の取引を行い、従業員数を倍増させたこともそれを後押ししたのだ。今回のシリーズBラウンドはInsight Partnersが主導し、シニアアドバイザーのNick Sinai(ニック・シナイ)氏がShift5の取締役に就任した。

Shift5は、今回のラウンドで調達した資金を、需要に対応するための人材への投資や、製品開発の強化に充てるとしている。

Shift5の社長であるJoe Lea(ジョー・リー)氏は「このいたちごっこは重要なインフラにも影響が及んでいて、防御側はその守備範囲を運用技術にまで広げなければなりません。この1年で証明されたことは、鉄道、航空、国防の各分野の主要な防御者たちが、先見性のあるリスクを認識し、コストを強いられる損害を未然に防ぐために動いているということです」と語っている。

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画像クレジット:Shift5

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(文:Zack Whittaker、翻訳:sako)

米国土安全保障省、過去のサイバー事件から学ぶ「サイバー安全審査委員会」を設置

米国土安全保障省(DHS)は、国家のサイバーレジリエンスを「有意義に向上」させるため、サイバーセキュリティ重大事件の調査を担当する審査委員会を設置した。

DHSによると、Cyber Safety Review Board(CSRB、サイバー安全性調査委員会)は、SolarWinds(ソーラーウィンズ)の攻撃を受けてバイデン大統領が署名した2020年5月の大統領令によって設置が決まったもので、政府、産業界、セキュリティ機関が国のネットワークとインフラをこれまで以上に保護できるよう、大規模なハッキングの原因と影響について検討する役割を担う。同委員会は、航空事故や列車の脱線事故などの交通事故を調査する国家運輸安全委員会(NTSB)を大まかにモデルとしている。

CSRBの最初の調査は、広く使われているソフトウェアライブラリLog4jに12月に発見された脆弱性に焦点を当て、今夏に報告書が出される予定だ。脆弱性の詳細が公表されて以来、増えつつあるハッカーに悪用されているこれらの脆弱性を検証することは「サイバーセキュリティコミュニティにとって多くの教訓を生む」とDHSは述べ、CSRBの助言、情報、勧告は「可能な限り」公開される予定だと付け加えた。

委員会は連邦政府と民間部門のサイバーセキュリティのリーダーで構成され、メンバーはNTSBの3倍にあたる15人だ。国土安全保障省の政策担当次官Robert Silvers(ロバート・シルバーズ)氏が委員長を務め、Google(グーグル)のセキュリティエンジニアリング主任Heather Adkins(ヘザー・アドキンス)氏が副委員長を務める予定だ。

この他、国家安全保障局のサイバーセキュリティ担当ディレクターであるRob Joyce(ロブ・ジョイス)氏、Silverado Policy Accelerator(シルバラード・ポリシー・アクセラレーター)の共同創業者で会長、そしてCrowdStrike(クラウドストライク)の元最高技術責任者であるDmitri Alperovitch(ドミトリ・アルペロヴィッチ)氏、脆弱性報奨金制度のパイオニアでありLuta Security(ルタ・セキュリティ)を設立して率いているKaty Moussouris(ケイティ・ムスリス)氏が委員に名を連ねている。

ムスリス氏はTechCrunchに対し、CSRBはこれ以上ないほど良いタイミングで誕生したと語った。「公共部門や民間部門に影響を与える頻度が高まっているサイバー事件を前に、我々のレジリエンスを強化するのに役立ちます」と同氏は述べた。「Log4jをはじめとするこれらの事件の調査から学んだことや推奨事項を共有することを楽しみにしています」。

上院情報委員会の委員長Mark Warner(マーク・ワーナー)上院議員(民主、バージニア州選出)もCSRBの設置を歓迎し「国家安全保障を脅かす広範囲なサイバー侵害にまた直面するかどうかではなく、いつ直面するかの問題です」と警告した。

「サイバーセキュリティに関する2020年5月の大統領令に、NTSBのような機能が盛り込まれたことは喜ばしいことであり、そのような能力を確立するための良い第一歩となります」とも述べた。「今後数カ月間、この委員会がどのように発展していくかを見守るのが楽しみです」。

画像クレジット:Scott Olson / Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Nariko Mizoguchi

ウクライナ紛争が米国のサイバーセキュリティを脅かす理由

TechCrunch Global Affairs Project(テッククランチ・グローバル・アフェアーズ・プロジェクト)は、ますます関係が深まるテック業界と国際政治との関係を検証する。

ロシア軍が再びウクライナ侵攻の構えを見せる中、ここ数日どうすれば紛争の拡大を避けられるかに注目が集まっている。最近の(おそらく今後も)ウクライナにおけるサイバー攻撃の激化は、残念ながら最終的にこの衝突がデジタル領域に深刻な影響を与えることを示唆している。そして地上侵攻と異なり、デジタル紛争地域は米国まで拡大する可能性がある、と米国政府は警告した。長年にわたるロシアによるサイバー監視と「環境の準備」は、今後数週間数カ月のうちに、米国民間セクターに対する重大かつ破壊的ともいえる攻撃に発展するおそれがある。

このレベルの脆弱性を容認できないと感じるなら、それは正しい。しかし、どうしてこうなってしまったのか? また、大惨事を回避するために必要な行動は何なのか?まず、ウラジミール・プーチン大統領が、彼の長年にわたるロシアのビジョン達成のために、21世紀の技術的手法をどのように実験してきたかを理解することが重要だ。

サイバープロローグとしての過去

ロシアの動機は実に平凡だ。2005年4月、プーチン氏はソビエト連邦の崩壊を「世紀最大の地政学的大惨事」であり「ロシア国民にとって【略】紛れもない悲劇」であると評した。以来、この核となる信念が多くのロシアの行動の指針となった。残念なことに、現在。ヨーロッパでは戦場の太鼓が高らかに鳴り響き、プーチン氏はロシアの周辺地域を正式な支配下へと力で取り戻し、想定する西側の侵攻に対抗しようとしている。

ロシアがウクライナに対する攻撃を強め(ヨーロッパにおける存在感を高める)時期に今を選んだ理由はいくつも考えられるが、サイバーのような分野における能力の非対称性が、自分たちに有利な結果をもたらすさまざまな手段を彼らに与えることは間違いない。

ロシアの地政学的位置は、人口基盤の弱体化と悲惨な経済的状況と相まって、国際舞台で再び存在を示す方法を探そうとする彼らの統率力を後押しする。ロシアの指導者たちは、まともな方法で競争できないことを知っている。そのため、より容易な手段に目を向け、その結果、恐ろしく強力で効果的な非対称的ツールを手に入れた。彼らの誤情報作戦は、ここ米国で以前から存在していた社会的亀裂を大いに助長し、ロシアの通常の諜報活動への対応におけるこの国の政治分断を悪化させた。実際、ロシア政府は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとときとしてそれにともなう内乱に気をそらされている西側に、つけ入る機会を見出している可能性が高い。

しかしプーチン氏の長年にわたる非対称的手段の採用は、ロシアが何年にもわたりこの瞬間のために準備してきたことを意味している。こうした行動には馴染みがある。ソビエト時代の古い手段と道具は、21世紀のデジタル・ツールと脆弱性の操作によって新たな姿へと変わった。そして近年、この国はウクライナ、リビア、中央アフリカ共和国、シリア、その他の紛争地域を、自らの情報活動とサイバー機能破壊の実験台として利用している。

神経質になったロシア

今日ロシア当局は、さまざまな技術を駆使した「積極的対策」を施して、基本的民主主義機構を混乱させ、デマを流布し、非合法化しようとしている。ロシアがウクライナに送り込んでいる傭兵や秘密諜報員は、海外のハイブリッド戦場で技を磨き、否定可能な誘導工作と攻撃的サイバー活動を巧みにおりまぜた策略と物理的行動の組み合わせを用いている。

サイバースペースにおいて、ロシアは当時前例のなかった2007年のエストニアに対するサイバー攻撃や、その後のウクライナのライフラインや官庁、銀行、ジャーナリストらを標的とし、今も市場最も犠牲の大きいサーバー攻撃へと発展した、 NotPetya(ノットペトヤ)型サイバー攻撃を実行してきた。ロシアの諜報機関が米国の重要インフラストラクチャーシステムをハッキングした事例もこれまでに何度かあるが、これまでのところ重大な物理的あるい有害な影響や行動は見られていない(ウクライナやAndy Greenberg[アンディ・グリーンバーグ]氏の著書「Sandworm」に出てくるような事例とは異なる)。彼らは米国と同盟国の反応を試し、逃げ切れることを確認したのち、ウクライナをどうするかを議論するNATO諸国に対してさらに圧をかけている。

要するに、ロシアは偵察を終え、いざというとき米国などの国々に対して使いたくなるツール群を事前配備した可能性が高い。その日は近々やってくるかもしれない

ヨーロッパの戦争が米国ネットワークに命中するとき

ロシアがウクライナ侵攻を強めるにつれ、米国は「壊滅的」経済報復を行うと脅している。これは、ますます危険で暴力的になる解決方法に対する「escalatory ladder(エスカレーションラダー、国が敵国を抑制するために系統的に体制を強化する方法)」の一環だ。あまり口にされないことだが、ロシアのサイバー能力は、彼らなりの抑止政策の試みだとも言える。ロシアがここ数年行っているこうした予備的活動は、さまざまなサイバーエッグが孵化し、ここ米国で親鳥になることを可能にする。

米国政府は、ロシアが米国による厳格になりうる制裁措置に対抗して、この国の民間産業を攻撃する可能性があることを、明確かつ広く警告している。ロシア当事者のこの分野における巧妙さを踏まえると、そうした大胆な攻撃をすぐに実行する可能性は極めて低い。ときとしてずさんで不正確(NotPetyaのように)であるにせよ、彼らの能力をもってすれば、サプライチェーン攻撃やその他の間接的で追究困難な方法によってこの国の重要インフラストラクチャーや民間産業に介入することは十分考えられる。それまでの間にも、企業やサービス提供者は、深刻な被害やシステムダウンに直面する恐れがある。過去の事例は厄介な程度だったかもしれないが、プーチン氏と彼のとりまきが長年の計画を追求し続ければ、近いうちに経済にずっと大きな悪影響を及ぼす可能性がある。

ロシアが侵攻の強化を続けるのをやめ、出口を見つけて一連のシナリオが回避される、という希望も残っている。我々はどの事象も決して起きないことを望むべきだ。ただし、実際これは現時点ですでに期限を過ぎていることだが、産業界は自らを守るための適切な手順を踏み、今まさに起きるであろう攻撃に備える、多要素認証、ネットワークのセグメント化、バックアップの維持、危機対応計画、そして真に必要とする人々以外によるアクセスの拒否をさらに強化すべきだ。

編集部注:本稿の執筆者Philip Reiner(フィリップ・レイナー)氏は、技術者と国家安全保障立法者の橋渡しを担う国際的非営利団体、Institute for Security and Technology(IST)の共同ファウンダー。同氏は以前、国家安全保障会議でオバマ大統領政権に従事し、国防総省の政策担当国防次官室の文官を務めた。

画像クレジット:Mikhail Metzel / Getty Images

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(文:Philip Reiner、翻訳:Nob Takahashi / facebook

次のランサムウェアのターゲットは組み込み機器か?

2021年は、ランサムウェアギャングが重要インフラに目を向け、製造業、エネルギー流通、食品生産を中心とした企業をターゲットにした年として記憶されるだろう。

Colonial Pipeline(コロニアル・パイプライン)のランサムウェア攻撃は、ITネットワークへのランサムウェア攻撃が燃料を分配するパイプラインを制御する運用ネットワークへ広がる懸念から、結果として5500マイル(約8850km)のパイプラインを停止させる事態となった。

運用・制御技術(OT)ネットワークは、生産ライン、発電所、エネルギー供給を継続的に行うために重要な機器を制御するもので、重要なハードウェアをサイバー攻撃からより適切に隔離することができるよう、通常、企業のインターネット向けITネットワークからセグメント化されている。OTネットワークに対する攻撃が成功することはだが、Colonialへのランサムウェア攻撃をきっかけに、CISA(米国土安全保障省サイバーセキュリティー・インフラセキュリティー庁)は重要インフラ所有者にとって脅威が増大していると警告している。

セキュリティ研究者は現在、これらのOTネットワーク上にある組み込み機器がもたらすリスクについて警鐘を鳴らしている。組み込み機器向けのセキュリティプロバイダーRed Balloon Security(レッドバルーンセキュリティ)は、実際のネットワークで使用されている組み込みシステムでランサムウェアを展開することが可能であることを、新たな調査で明らかにした。

同社によると、Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)のEasergy P5保護リレーに脆弱性が発見された。この装置は、障害が発見されるとサーキットブレーカーを作動させ、現代の電力網の運用と安定性に重要な役割を果たすものだ。

この脆弱性を悪用してランサムウェアのペイロードを展開することが可能で、Red Balloonはこのプロセスを「高度だが再現可能」だと述べている。Schneider Electricの広報担当者はTechCrunchに対し「サイバー脅威には非常に警戒している」とし「Schneider ElectricのEasergy P5保護リレーの脆弱性を知り、直ちにその解決に取り組みました」と述べた。

Red Balloonの創業者で共同CEOのAng Cui(アング・ツイ)氏は、ランサムウェア攻撃は重要インフラプロバイダーのITネットワークを攻撃しているが、OT組み込み機器の攻撃に成功した場合は「はるかに大きな損害」になるとTechCrunchに語った。

「企業は、組み込み機器そのものへの攻撃から回復することに慣れていませんし、経験もありません」とツイ氏は話す。「デバイスが破壊されたり、回復不可能になった場合、代替デバイスを調達する必要がありますが、供給量に限りがあるため、数週間かかることもあります」。

2021年にIoTメーカーがソフトウェアアップデートを確実かつ安全にデバイスに配信できるようサポートするスタートアップを立ち上げたセキュリティのベテランであるWindow Snyder(ウィンドウ・スナイダー)氏は、特に他の侵入ポイントがより回復力を持つようになると、組み込み機器は簡単にターゲットになる可能性があると話す。

組込み機器に関して、スナイダー氏はTechCrunchに対し「その多くは特権分離がなされておらず、コードとデータの分離もなされておらず、多くはエアギャップ・ネットワーク上に置かれることを想定して開発されたもので、それでは不十分です」と述べた。

Red Balloonの調査によれば、数十年前に製造されたものが多いこれらの機器に組み込まれているセキュリティは改善される必要があり、政府や商業部門のエンドユーザーに対して、これらの機器を製造しているベンダーに対してより高い基準を求めるよう呼びかけている。

「ファームウェアの修正版を発行することは、最もミッションクリティカルな産業やサービスにおける全体的なセキュリティの低さに対処できない、消極的で非効率的なアプローチです」とツイ氏は指摘する。「ベンダーは、組み込み機器のレベルまでセキュリティを高める必要があります」。同氏はまた、米政府が規制レベルでより多くの取り組みを行う必要があり、現在、デバイスレベルでより多くのセキュリティを組み込むインセンティブがないデバイスメーカーに、さらなる圧力をかける必要があると考えている。

しかし、スナイダー氏は、規制主導のアプローチは役に立たないと考えている。「最も有効なのは、攻撃対象領域を減らし、区画化を進めることだと思います。より安全なデバイスを作るために規制をかけることはできないでしょう。誰かが、デバイスに回復力を持たせなければならないのです」と述べた。

画像クレジット:Sean Gallup / Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Nariko Mizoguchi

ランサムウェアの潮目が変わった、米国当局が勝ち目のないと思われた戦いにわずかながら勝利を収めた

2021年はランサムウェアが蔓延した。2021年には、ITソフトウェア企業Kaseyaへの攻撃で1500社がオフラインにされ、CD Projekt Redのハックでは、Cyberpunk 2077やThe Witcher 3などのゲームのソースコードがやられた。大手有名企業も被害を受け、その中にはオリンパス富士フイルム、そしてパナソニックが含まれている。

また2021年は、ハッカーが重要なインフラストラクチャを攻撃して世界的な注目を集め、被害者の中には米国の石油パイプラインColonial Pipelineや、食肉加工大手JBS、農家がコーンや大豆などを売るための協同組合Iowa New Cooperativeなども含まれる。

これらの犯行でプラットフォームの閉鎖が長引き、石油価格が高騰し、食糧不足の危険も生じたため、数年間何もしなかった米国政府もやっと腰を上げ、かつては勝てないと思われていたランサムウェアという疫病に対する戦いで、わずかながらも勝利を収めた。

最初は4月に米司法省が、Ransomware and Digital Extortion Task Force(ランサムウェアとデジタル強奪対策本部)を立ち上げた。司法省によると、ランサムウェア犯行の最悪の年と呼ぶ事態に同省が対応した動きで「ランサムウェアとデジタル強盗の壊滅と捜査と訴追」を最大の目的としている。そしてそれから2カ月後に司法省は、ラトビア国籍で55歳のAlla Witte(アラ・ウィッテ)を逮捕し、国際的サイバー犯罪組織で演じた役割で彼女を告訴した。銀行を狙った、よく知られ広く使われているトロイの木馬とランサムウェアツールTrickBotの背後にいるのが、その犯罪組織だ。

その数日後にはもっと大きな勝利がやってきて、司法省は、Colonial PipelineがランサムウェアギャングのDarkSideにビットコインで払った230万ドル(約2億7000万円)を押収し、データを取り戻したと発表した。その後、米国政府はその悪名高いランサムウェアグループのリーダーたちの発見や追跡の役に立つ情報の提供者に対する、最大で1000万ドル(約11億5000万円)の賞金を提示した。

同じころ米財務省は、暗号資産の取引所Chatexに対し、身代金の取引に便宜を図ったとして制裁を発表した。その数週間前にも財務省は、暗号資産取引所Suexに対して同様の措置を講じている。

司法省対策本部の最大の勝利は10月に訪れ、悪名高いランサムウェアギャングREvilを壊滅させた。検察の発表では、22歳のウクライナ人が、7月にKaseyaに対するランサムウェア攻撃を仕かけたギャングと関係があるとして訴追されている。司法省は、その悪名高いランサムウェアグループのもう1人のメンバーに結びついている600万ドル(約6億9000万円)の身代金を押収したという。

ランサムウェアグループを追う米国政府の2021年の取り組みは、多方面から称賛されている。特に評価が高いのは、金の行方を追うというその戦術だ。ブロックチェーンの取引を分析するソフトウェアを提供しているChainalysisは、司法省の対Suex作戦を、ランサムウェアの犯人たちに対する「大きな勝利」と称賛し、TechCrunchの取材に対して、ランサムウェアのグループが彼らの暗号資産を現金化する仕組みを解明して無効化すれば、彼らを弱体化する特効薬になるという。SentinelOneのチーフセキュリティアドバイザーであるMorgan Wright(モーガン・ライト)氏は、金という彼らのメインの動機がなくならないかぎり、ランサムウェアギャングたちの犯行と拡大は続くと述べている。

「規則や法律に従わないため、犯人たちの方は常に有利な状況にあります。しかし、現金を手に入れるという最終的な目標を達成する前にランサムウェアギャングの力を削ぐ、強力なアプローチが2つあります。身代金として暗号資産を使う能力を奪い、マシンスピードの犯行に対してはマシンスピードで応ずることだ」とライト氏はいう。

米国政府はまた、DarkSideの1000万ドルの賞金やREvilに関する情報への賞金にも見られたように、ランサムウェアの犯行手口に関する情報に報奨金を提供している。BreachQuestのCTOであるJake Williams(ジェイク・ウィリアムズ)氏は「賞金額がこれだけ大きければ、犯人たちの寝返りが続くことも考えられます。ランサムウェア・アズ・ア・サービス(RaaS)のアフィリエイトモデルへの信頼が損なわれる」と述べている。

しかし一部の人たちは、政府の行動で弱気になる者もいるかもしれないが、相変わらず金銭的な利益を追い続けているランサムウェアギャングたちのやる気を抑えることはできないと信じている。

ITセキュリティ企業QualysのJonathan Trull(ジョナサン・トラル)氏は「ランサムウェアの犯人たちに正義の鉄槌を下そうとする司法省の努力は称賛するが、逮捕拘禁されない可能性と、これらの犯行グループが作り出す巨額の金を比べると、断然後者は魅力的なものだ。残念ながらランサムウェアに対する戦いは非対称であり、膨大で複雑な捜査を扱うためにグローバルに必要となるリソースの量に、法執行機関の現状はまだ達していない」という。

ライト氏は同意し、これまでの米国政府の活動にあまり満足していないのは、次のような点となる。「これまで2人を逮捕して数百万ドル(数億円)を取り戻したが、それはランサムウェアに対する勝利ではない。それはむしろ、ランサムウェアに対して何かやったぞと誇示するための、政治的な声明だ。すでに失われた数十億ドル(数千億円)に対して、230万ドルは誤差にもならない」。

同様に、多くの人が、これらの戦術は新年以降におけるランサムウェアの脅威の成長を抑えるほど強力ではない思っている。特に悪者たちは、適応力がある。エキスパートたちによると、ランサムウェア・アズ・ア・サービスのモデルは、首謀者が自分のランサムウェアのインフラストラクチャを他人に貸して、得られた身代金の分け前をもらう。このモデルは2022年にも盛り上がり、法執行機関が首謀者を追うのもより困難になる。

何段階にも及ぶ犯行連鎖を予想する人たちもいる。フィッシングからスタートしたデータ侵犯がデータ窃盗になり、最後にランサムウェアになる。並行してそれは、ますます多くの犯人が手がける、流行のようなものになる。それによって、防護の厳しいネットワークインフラストラクチャでも、ハッカーは侵入できるようになる。

上記の後者の問題により、米国政府は2022年に民間部門との協力を密接にせざるをえなくなる、とトラル氏はいう。「法執行機関だけでは、潮流を逆転するのは無理だろうと私は思います。必要なのは法執行の複数のアクションがセットになって専門家と協力し、システムを強化し、重要なデータとシステムのバックアップを開発してその運用可能状態を常時維持し、さらにまた民間部門からの有効な反応も得られるようにしておくことです」とトラル氏はいう。

もっと多くのアクションが必要なことは明らかだが、米国政府は進歩している。ほんのひと握りの立件を軽視する人たちもいるが、しかしそれはインパクトを与えた。特に、ランサムウェアのグループがパートナーを獲得するための広告活動が被害を受けた。いろいろなところが注意するようになったため、一部の人気の高いハッキングのフォーラムではランサムウェアが禁じられ、あるハッキンググループは偽の会社を作って何も知らないITスペシャリストたちに訴求し、お金になる産業であるランサムウェア産業の継続的拡大に寄与させようとしている。

ランサムウェアのエキスパートでEmsisoftの脅威アナリストであるBrett Callow(ブレット・キャロウ)氏は「一部のサイバー犯罪フォーラムではランサムウェアグループが以前ほど歓迎されなくなっている」という。

関連記事:2021年に知ることになったサイバーセキュリティの6つのポイント

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Carly Page、翻訳:Hiroshi Iwatani)

【コラム】屋上レンタル、米国の不動産所有者は5Gキャリアと手を結ぶべきだ

5Gインフラを敷設する動きが活発になり各社の競争が激しくなるに連れ、レストラン、ホテル、住居用建物、さらには病院や教会の屋上までもがインフラ敷設場所として注目されている。5Gテクノロジーを人口密度の高い地域に確立したいと考えるテレコミュニケーション会社にとって、こうした屋上は急速に重要な不動産ターゲットとなりつつある。

事実、次世代のワイヤレス展開から得られるリース収入は、今後5年間で、米国内のリース収入の大きな部分を占めると考えられており、不動産所有者や事業主にとって大きなチャンスとなる。

バイデン政権は、5Gインフラの拡大を国の主要課題として位置付けている。1.2兆ドル(約137兆円)のインフラ投資法では、農村部やサービスが十分行き届いていない地域でも高速回線を利用できるようにするための財源として650億ドル(約7兆4000億円) が確保されている。5Gは他のワイヤレステクノロジーと比べて高速で大容量のデータを処理できるが、カバーできる範囲は最大で 約1500フィート(約457メートル)と、ぐっと狭い。

5G テクノロジーは、次世代ワイヤレスネットワークとしてはアンテナが短いため、既存の建物の屋上に敷設するのに非常に適している。

大手ワイヤレス通信プロバイダーに加え、5Gの展開競争には新たにケーブル会社やビックテック企業も含まれている。これらの企業は、5Gマクロおよびスモールセルサイトを配備するために、合わせて2750億ドル(約31兆円)を投資すると予測されている。必要な量の配備を効果的かつ効率的に行う唯一の方法は、既存の建物を利用することである。言い換えれば、5G競争を乗り切るには、屋上配備戦略の採用が鍵になるのだ。

歴史的に言って、ワイヤレス通信市場は不動産所有者やその他の事業主にとっては厳しい市場だった。ワイヤレスキャリアとタワー企業が長期契約を結んでおり、不動産所有者にとって有利とはいえない状況になっていたのだ。

多くの地域では、新しいタワーを立てることに強い反対の声があり、さらに建設、ゾーニング、許可プロセスには時間がかかる。しかし、5G テクノロジーは、次世代ワイヤレスネットワークとしてはアンテナが短く、既存の建物の屋上に敷設するのに非常に適している。現在5Gキャリアにとって、ワイヤレスに関する不動産要件を満たすには、タワー企業より大手不動産業者のほうが、迅速に効率よくソリューションを提供してくれる相手となっている。

屋上配備戦略は、5Gキャリアにとっても不動産所有者にとっても互いにメリットがある。キャリアは使用量の多い地域でできる限り迅速にインフラを配備するという目的を達成することが可能であり、一方不動産所有者は、屋上からリース料を得、すでに所有する不動産を新たな方法で収益化するという経済的利益を得ることができる。

不動産所有者の経常利益に与える影響と、30年リースで生み出されるであろう利益は相当なものであり、不動産所有者は資本へアクセスしやすくなる。さらに不動産所有者は、5Gキャリアに屋上を貸すことで使用料を得ることができるだけでなく、高速回線への接続という意味で、テナントにより質の高いサービスを提供することもできる。

5G展開競争で問題になっている事柄

米国にとって、競争に遅れを取らず国際的な競争力を保つためにも5Gインフラの展開は非常に重要である。5Gは高速での接続、キャパシティの増加、ゼロ遅延をもたらすが、5Gにより期待されるのは、自動運転車や遠隔医療の拡大、製造や農業の効率化、サプライチェーン管理の改善まで、さまざまな事業サービスを可能にするイノベーションの推進である。

これらのイノベーションから生み出される利益すべてを考慮すると、5Gは2025年までに米国のGDPのうち、1兆5000億ドル(約170兆円)以上をもたらすと予測される。

またバイデン政権は、5Gテクノロジーとユニバーサルブロードバンドを、地方に暮らす人々に経済的な平等もたらす手段と考えている。政策声明によると、農村部では都市部と比較して信頼のおけるインターネットの利用が10分の1に限られているとのことである。

最近バイデン大統領が署名したインフラ投資法においては、大統領も国会も農村部におけるブロードバンドインフラへの投資を優先し、十分サービスが提供されていない地域でのインターネットへのアクセスを拡大し、デジタル上の分断を是正したい考えだ。このため、農村部の不動産所有者は5Gインフラの展開からより多くの利益を得ることができるだろう。

強力な5Gネットワークを米国内に確立するには時間がかかるだろう。5Gプロバイダーやワイヤレスキャリアと手を結ぶ不動産所有者は、5Gテクノロジーのサイバーセキュリティにまつわる考慮事項について、しっかり情報提供を受け、それを理解しなければならない(これらの考慮事項が、提携の足かせになると考える必要はない)。というのも不動産所有者は5Gインフラを自身の不動産に配備し、そこからのワイヤレスネットワークを入居者に提供することになるからである。

最近2,300人以上のリスク管理者および他の責任者を対象にAonが行った調査では、サイバーリスクは現在のそして将来予想される世界的リスクの第一位として位置付けられた。5Gが普及し接続性が高まることは確実である。つまり、サイバーセキュリティ業界は機械学習や人工知能を改善しそれを広く活用し防御を強化する必要があるのである。

また最近では、不動産業界におけるサイバーセキュリティ強化を促進するためのガイダンスやフレームワークを提供する Building Cyber Securityといった組織も立ち上げられている。

不動産所有者が効率よく屋上を収益化し5G競争に参画するには、政府や民間企業が5G敷設要件の審査をタイムリーに行うことも含め、引き続き迅速な5Gインフラの配備に向け協力して作業を進めていく必要がある。

これに加えて、州や地域レベルでも、5Gアンテナの敷設に関するゾーニングや認可プロセスを改善する作業をもっと進める必要がある。多くの州議会がすでに州民の利益になる5G戦略を策定するための法案を検討中であり、これにより、不動産所有者にも新たな機会が提供されることが見込まれる。

5Gの競争を促進するためは、より多くの政策や技術的な作業が必要だが、不動産所有者が利益を手にする機会は、目の前に手に取れる形で存在している。新型コロナウイルス感染症によって経済的打撃を受けたレストラン経営者やホテル業者が立ち直ろうとする中、屋上の収益化は、店を閉じるしか選択肢がなかった状態との違いを生み出すことになるだろう。

編集部注:本稿の執筆者James Trainor(ジェームズ・トレーナー)氏は、FBIのサイバー部門の元アシスタントディレクターで、Aonのシニアバイスプレジデント。Rick Varnell(リック・ヴァーネル)氏とMatt Davis(マット・デイビス)氏は、いずれも5G LLCの創設者であり、プリンシパル・パートナー。

画像クレジット:skaman306 / Getty Images

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(文:James Trainor、Rick Varnell、Matt Davis、翻訳:Dragonfly)

東芝、ズームレンズと単眼カメラで撮影した複数写真のみで遠隔地にある対象物のサイズ計測が可能なAIを開発

東芝、ズームレンズと単眼カメラで撮影した写真のみで遠隔地にある対象物のサイズ計測が可能なAIを開発

東芝は11月22日、ズームレンズと一般的な単眼カメラ(一眼レフカメラ)で撮影位置などの条件を変えて撮影した写真のみから、遠隔地にある対象物のサイズを3次元計測できる技術を世界で初めて開発したことを発表した。インフラ点検などにおいて、高所や傾斜地など危険な場所に近づくことなく計測が可能になる。

国内のインフラ設備の平均年齢が35年を超えるなど、道路・橋・トンネルといったインフラの老朽化が問題となり、早急な対応が求められているが、効率的な工事を行うには、補修箇所の正確なサイズ計測が重要となる。だが、高所や斜面など危険な場所では目視による計測が難しい。そこで東芝は、危険な箇所に近づくことなく、遠くからズームレンズで撮影した写真から簡単にサイズ計測ができるAI技術を開発した。異なる位置から撮影された複数の写真(多視点画像)から割り出された相対的な奥行き情報と、画像のボケ情報を組み合わせ、スケール情報と焦点距離を未知パラメータとする最適化問題を解くことで、撮影画像のみでサイズの絶対値がわかるというものだ。

カメラの画像でサイズが計測できるアプリはスマートフォンにも搭載されている。これには、多視点画像から得られた相対値に絶対値を与えるジャイロセンサーと、あらかじめ学習されたAIモデルが必要となる。そのため、学習の範囲を超える遠距離となると精度が落ちてしまう。

東芝が開発したシステムでは、7m離れたひび割れのサイズを高精度に計測できた。屋外の11カ所で、5〜7m離れた対象物のサイズを計測したところ、サイズ誤差は3.8%に抑えられた。この精度は、公益社団法人日本コンクリート工学会が定めるコンクリートのひび割れ補修指針に基づく数値シミュレーションで「高精度の補修の必要性を判別できる」と確認された。さらに、2mm以下のひびのサイズの絶対値の計測も行えた。

この技術は、インフラ点検のみならず、製造、物流、医療など、カメラによるサイズ計測が行われる分野に応用ができると東芝では話している。今後も様々なカメラやレンズを使った実証実験を進め、早期の実用化を目指すということだ。東芝、ズームレンズと単眼カメラで撮影した写真のみで遠隔地にある対象物のサイズ計測が可能なAIを開発

インフラ危機をゲームで解決!? マンホール蓋をスマホで撮影・投稿しポイントを稼ぐ#マンホール聖戦 〜東京23区コンプ祭り

日本のインフラ危機をゲームで解決!? マンホール蓋をスマホで撮影・投稿しポイントを稼ぐ#マンホール聖戦 〜東京23区コンプ祭り

市民参画型インフラ情報プラットフォームの構築・提供・運営を行うWhole Earth Foundation(WEF。ホール・アース・ファウンデーション)は10月22日、日本鋳鉄管と共同で開発し提供するゲーム「鉄とコンクリートの守り人」において、東京23区を対象に「#マンホール聖戦 〜東京23区コンプ祭り〜」を期間限定で開催すると発表した。開催期間は、2021年10月31日まで。対象は17歳以上。全国の方もサポート役で参加できるほか、様々な条件達成により獲得可能な計100万円以上相当分の金券を賞品として用意しており、お祭り要素のあるイベントとしている。

鉄とコンクリートの守り人は、国内のインフラ老朽化の課題に対し、日本にあるすべてのマンホール蓋を守り人(プレイヤー)が力をあわせて撮影・投稿しポイントや特典を得ながら、インフラの安全を確保することを目的とした「社会貢献型位置情報ゲーム」。マンホールコンプというゲーム性を採用し、写真の投稿やレビューによって日本全国のマンホール地図を力を合わせて完成させることを目指す。

日本のインフラ危機をゲームで解決!? マンホール蓋をスマホで撮影・投稿しポイントを稼ぐ#マンホール聖戦 〜東京23区コンプ祭り

2021年8月開催の第1回「マンホール聖戦IN渋谷」では約700人の参加者が集まり、渋谷区にある1万個のマンホールを3日間でコンプリートした。第3回目となる今回の「#マンホール聖戦」は、ゲームの参加者が協力しながら、過去最大規模の23区のマンホールのコンプリートする。

イベントに参加するには、「公式LINEに登録&詳細確認」を行い、LINE内にあるURLからウェブアプリに登録する。遊び方は、「東京23区 現在位置登録&投稿」「全国マンホール探索」「全国写真レビュー」の3種類。日本のインフラ危機をゲームで解決!? マンホール蓋をスマホで撮影・投稿しポイントを稼ぐ#マンホール聖戦 〜東京23区コンプ祭り

  • 東京23区 現在位置登録&投稿:近くのマンホールまで行き位置録後、「場所と状況がわかる写真」と「マンホールの蓋の写真」の2つをセットでアップロードする。プレイ時間は午前6時~午後6時まで
  • 全国マンホール探索:アプリ内で衛星写真を使ったマンホール探索を行い位置登録を行う
  • 全国写真レビュー:マンホール現場から投稿された写真をアプリ上でレビューする

WEFは「We Democratize Infrastructure Management」(インフラマネジメントを民主化する)というビジョンのもと、市民参画型のインフラ情報プラットフォームの構築・提供・運営を行うNPO。

人口が減少している日本において、老朽化が進むインフラにかかるメンテナンスコストの大きな負担が未来世代に転嫁されるのは、構造的に避けられない。この現状を打開すべく、WEFはゲーミフィケーションとデータサイエンス技術を活用し、インフラを利用する市民が主体的に参画する形でインフラ産業の革新を進めることに挑戦しているという。

WEFは、日々当たり前のように各種インフラを利用しているのにもかかわらず、その管理・運営体制がどうなっているのかを知るのは困難と指摘。そこで、インフラの実態を可視化することによって、情報の非対称性解消に寄与するとしている。またWEFは、公共の利益に資する情報を提供した市民ユーザーに対してインセンティブを付与し、高効率かつ低コストのインフラ維持管理プラットフォームを構築し、その普及推進に取り組むとしている。日本のインフラ危機をゲームで解決!? マンホール蓋をスマホで撮影・投稿しポイントを稼ぐ#マンホール聖戦 〜東京23区コンプ祭り

日本のインフラ危機をゲームで解決!? マンホール蓋をスマホで撮影・投稿しポイントを稼ぐ#マンホール聖戦 〜東京23区コンプ祭り

農村部や遠隔地の何十億人たちにラストワンマイルのインターネット接続を提供するMesh++が約5.6億円調達

もしあなたがサンフランシスコ湾の水際に立って眺めたとしたら、おそらく6つほどの高速インターネットプロバイダーがあなたにギガビットのインターネットを提供しようと躍起になっていることを知ることになる。しかし、世界の農村地域に住む何十億もの人たちは、もしあるとしても、それ以下のサービスしか受けられないことが多い。その市場こそがMesh++(メッシュプラスプラス)が狙う場所で、同社はこのたびその構想を実現するための資金を獲得した。シカゴとナイロビに本拠地を置くこのチームは、農村や十分なサービスを受けていないコミュニティにインターネット接続を提供することに注力している。

計画されているソリューションはエレガントだ。利用者が無線LANルーターを電源に接続すると、そのルーターは近くにある他のMesh++ルーターを探す。そしてメッシュネットワーク上で利用可能なインターネット接続が共有されるのだ。それぞれのルーターがノードとなって、Wi-Fiの恵みをその土地に広げていくということだ。同社は、1つのノードで10エーカー(約4万500平方メートル)の広さのWi-Fi接続を実現し、最大100人をサポートできるとしている。接続性の問題や停電などで局所的にインターネット接続がダウンしても、ネットワークの他の部分がそれを補うことができる。また、インターネット接続が完全にダウンした場合でも、ネットワーク内のメッセージングやニュースのアラートなどを使った内部のコミュニケーションに利用することができる。

インターネットへの接続は、イーサネット、携帯電話モデム、複数のポイントなど、さまざまな場所を経由して行うことができる。イーサネットや携帯電話モデムのセットをネットワークに配置し、すべてのソースからの帯域を集約することができる。そのため、そのうち1つが故障しても他が補うことができる冗長なネットワークを構成することになる。このやり方が、別途接続を確保する分離したネットワークに比べて賢いのは、とても信頼性の高いネットワークを構成できることだ。例えばファイバーのインフラがすでに故障し始めているような古い街にファイバーネットワークを敷設する場合などにも使うことができる。また、ソースを集約できるこのようなネットワークを持つことで、通常は信頼できないようなソースでも、失敗しても大ごとにはならないので、信頼して使うことができる。このようにして、非常に弾力性のあるネットワークを作ることができるのだ。

すべてが計画どおりに動いている日常的な接続性はもちろん、ネットワークは災害時にも耐えられるものでなければならない。これは2年前に実証されることになった、当時ハリケーン・アイダによってニューオリンズの広大な範囲で接続性が失われた事象が発生したが、同社のネットワークはダウンタイムなしに継続したと主張されている。

もちろん、農村部や遠隔地でのインターネット接続にはさまざまな課題があるが、Mesh++のソリューションは、アクセスと平等の観点から課題に取り組んでいる点が印象的だ。Elon Musk(イーロン・マスク)氏のStarlink(スターリンク)に比べれば、こちらの方がより平等性が高いのは確かだが、同時にインターネットのゲートウェイとして宇宙とつなぐStarlinkと、農村部のインターネット接続のローカル配信のためのMesh++の組み合わせも容易に想像することができる。

Mesh++のCEOであるDanny Gardner(ダニー・ガードナー)氏は「世界中のどこでもギガビットのインターネット接続を提供できる企業はいくつもあります」と語り、Starlinkが実際良い組み合わせであることを示唆している。「そうなれば理想的なパートナーシップですね。そうした企業の多くが直面している課題は、理論上は衛星1基につき数百人の人々にサービスを提供することができるものの、ラストマイルのインターネット接続が課題となっているのです。彼らにとっては、どこへでも接続できる私たちのような技術とパートナーを組むことで、世界に残る30億人の人びとをつなぐことができるでしょう」。

Mesh++は、大手携帯電話事業者さえ凌駕することができると考えていて、LTEや5Gネットワークとの競争にもまったく臆することがない。

「いいですか、T-Mobile(Tモバイル)は6GHz以下の5G接続で米国の大半をカバーすると約束したのです。しかし実際には、4Gでも経済的に見合わないまだカバーが終わっていないとすれば、当然5Gでもそうはならないでしょう」とガードナー氏はいう。

同社は米国の数多くの都市にテストネットワークを構築している他、ナイロビにも5人の子会社を設立している。

「最初に会社を設立したときは、主にインターネットへのアクセスを必要としている新興市場を対象としていました」とガードナー氏はいう。「最初のころ、この問題が米国内でどれほど大きな問題であるかを認識していませんでした。しかし時間の経過とともに、私たちは自分の家の周辺の接続性の問題を解決することにシフトして行ったのです」。

Mesh++は、インパクトインベスターであるWorld Withinが主導する490万ドル(約5億6000万円)の資金調達を行い、新規投資家であるLateral Capital、Anorak Ventures、First Leaf Capital、既存投資家であるSOSV、GAN Ventures、TechNexus、Illinois Venturesが参加した。

「今回の資金調達は、過去数年間の純粋な研究開発主導型の会社から、より販売に注力し、より成熟した組織に変えるという、会社の大きな転換を意味します」とガードナー氏はいう。「資金調達により、お客様や販売店と提携して、できるだけ多くの人とつながり、製品を世に送り出すことができるようになりました」。

同社は、米国のすべての家庭をインターネット接続でカバーできるようにするという、大きな経済の流れに乗っている。特に米国では、ラストマイルネットワークに多くの資金が投入されており、ここ数年では800億ドル(約9兆1000億円)を超えている。しかしそれでもすべての家庭に光ファイバーを届けるには十分ではない。そうしたやりかたは経済的にも物流的にも、人口密度の高い地域でなければうまくいかないのだ。そこで、鍵を握るのはメッシュネットワークになるかもしれない。Mesh++は、同社の技術によって、1世帯あたり400ドル以上かかっていたインフラ設置コストを29ドル程度に削減できるとしている。節約されるのは、オンサイトに設置する必要のあるハードウェアのコストではなく、主に設置のしやすさによる人件費だ。

画像クレジット:Mesh++

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)

【コラム】EVの充電ソリューションは電力網の資産になる

編集部注:本稿の執筆者Oren Ezer(オレン・イーザー)氏は、電気自動車にワイヤレス充電を提供する共有エネルギープラットフォーム「ElectReon」のCEO兼共同設立者。

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2030年までに米国の販売台数の約半分を電気自動車(EV)にするというJoe Biden(ジョー・バイデン)大統領の計画は、現在、米国の総排出量の約半分を占める交通システムの脱炭素化を進めようとしていることを意味している。

電気自動車の大量導入を促進するためには米国政府の支援が不可欠だが、一方で、何百万、何千万もの人々が頼りにしている劣化した電気インフラ、すなわち電力網を修復する必要にも迫られている。

社会がオール電化に移行し、EVの需要が高まる中、現代社会が直面する課題は、どうすれば電力網に負荷をかけ過ぎずに、増え続けるEVに充電できるかということである。EVは電力網に対して過負荷となるという予測がある一方で、ワイヤレス充電、V2G(Vehicle to Grid、自動車と地域電力網の間で電力を相互供給する技術やシステム)、再生可能エネルギーのより効率的な利用など、エネルギーインフラをバックアップする方法も研究されている。

不安定な電力網に対して信頼性の懸念が高まる現在、この重要なインフラを強化し、電力網の限界を超えないようにするためのソリューションを見つけることは急務となっている。

現在、電力網が直面している課題

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の気候変動報告書は、地球温暖化や人類が排出した二酸化炭素の影響により、以前は50年に1度だった激しい熱波が、今後は10年に1度あるいはそれ以上の頻度で起こると予想している。このことは、すでに2020年も太平洋岸北西部における記録的な熱波や大火災で確認されているが、電力会社や事業者、業界の専門家たちは、現在のエネルギーシステムが気候変動による温度上昇に耐えられるか懸念を示している。

熱波だけではない。2月にテキサス州で発生した寒波は、エネルギーインフラを麻痺させ、何百万もの住宅で停電が発生した。温暖化が進み、電力需要を満たすために電力網が過負荷になればなるほど、このようなことは増加し続けるだろう。

気温の変動に加え、今後数年のうちに市場に出回ると予想されるEVの増加をサポートできるかどうかについても多くの人が懸念している。交通機関の電化にともない、2050年までに米国の発電容量を2倍にする必要があるとの報告もあり、充電のピーク時に柔軟性を向上させ、稼働率を上げられるEV充電の技術が求められている。しかし、現状では、米国の電力網の能力は2028年までに2400万台のEVをサポートできるにとどまり、道路輸送による二酸化炭素排出量を抑制するために必要なEVの数を大幅に下回っている。

このような課題にもかかわらず、業界の専門家は、EVが電力需要管理に大きな役割を果たし、必要に応じて電力網の安定化に貢献する潜在能力があることを指摘している。しかし、全米でEVの普及が進めば、電力会社は、人々がいつEVを充電するのか、何人のユーザーがいつEVを充電し、どのような種類の充電器が使用されてどのような車両(乗用車や中型・大型トラックなど)が充電されているのかといった重要な問題を調査し、電力需要の増加と電力網のアップグレードを決定する必要がある。

EV充電ソリューションは負債ではなく資産になる

電力網インフラのアップグレードには長い時間がかかる上、自動車の電動化を希望する個人や企業が増加しているので、全米の自治体は、EVの増加に先んじて、電力網の安定性を確保しながら必要な充電インフラを展開する方法を必死に模索している。しかし、国際クリーン交通委員会(ICCT)の最近の分析では、米国のEV充電器の数は現在21万6000台で、EVの普及目標を達成するためには2030年までに240万台の公的および民間の充電システムが必要になると推定されている。

各都市は充電インフラの不足を解消するために、必要な充電インフラの導入を早め、電力網を保護するための従来の据え置き型充電器以外の充電オプションを検討し始めている。その1つがワイヤレス充電や走行中充電といったダイナミックチャージング(大電力充電)である。

ワイヤレスのEV充電は、充電レーンの配置や交通量によって充電時間が断片化され、需要の変動が大きくなり、既存の電力網インフラにさらなる負担をかけるという意見がある一方、ワイヤレス充電では、14~19時に多く発生するエネルギー需要をまかなうためにEVを固定式充電器に接続しておく必要がなく、24時間さまざまな場所に分散して充電できるため、実際には電力網の需要を減少させ、グリッド接続の増設やアップグレードの必要性を減らすことができるという主張も多くある。

また、ワイヤレス充電は、道路、商業施設の搬入口の真下、施設の出入り口、タクシーの行列、バスの駅やターミナルなど、導電式(プラグイン)充電ソリューションでは対応できない場所にも設置することができるので、1日のうちに一定の間隔でEVに「上乗せ」充電を行うことができる。

導電式のEV充電ステーションは主に夕方や夜間にのみ使用され、蓄電装置が必要だが、ワイヤレス充電では、主に日中に生産・利用される再生可能な太陽エネルギーをより効率的に利用することができるので、必要な蓄電装置の台数を減らすことができる。

これには、都市や電力会社がワイヤレス充電のような効率的なエネルギー利用戦略を活用することで、エネルギー需要を時間的・空間的に分散させ、電力網に柔軟性をもたせて保護することができるというメリットがある。このエネルギー利用戦略を、自家用車やタクシーだけでなく、中型・大型トラックに適用すれば、EV化が難しいトラック分野でもEVへの移行をより迅速化できるようになる。

電気自動車の普及を支える電力網にプラスとなるワイヤレス充電

電力網にとっては乗用EVだけでも課題を抱えているが、大規模なトラック充電は、電力会社が積極的に移行を準備しなければ、非常に困難な課題となる。2030年には商用や乗用の全車両の10〜15%をEVにすることが計画されている現在、EVへの移行で二酸化炭素排出量の削減目標を達成しようとしている事業者にとって、ワイヤレス充電は費用対効果の高いソリューションになる。大型車のプラグイン充電とワイヤレス充電の比較と、両者が電力網に与える影響は次のようになる。

  • プラグインの導電式充電:240kWhのバッテリーを搭載した100台のEVバスをバス停留所で夜間導電充電する場合、全車両が毎日の運行終了時に同時に充電するために、最低でも6メガワット(MW)のグリッド接続が必要となる。
  • 電磁誘導方式のワイヤレス充電:都心部のバスターミナル、駐車場、ステーションに設置したワイヤレス充電の定置充電技術を使用して、100台のEVバスを、1日を通して運行の合間に「上乗せ」充電することができる。この充電戦略では、蓄電容量を大幅に削減でき(正確な削減量は車両と車両のエネルギー需要によって異なる)、1日を通して充電が行われるので、必要なグリッド接続は(プラグイン充電と比べて)66%減の2MWになる。

道路に隣接するソーラーパネルフェンスを備えたワイヤレス電気道路システムは、発電を分散させ、電力網への負荷を減らすための究極のソリューションになるかもしれない。業界が行った計算によると、約1kmの電気フェンスは、1.3〜3.3MWの電力を供給することができる。太陽光発電と道路に埋め込まれたワイヤレス充電インフラを組み合わせることで、1日あたり1300台から3300台のバスを電力網に接続せずに走らせることができる(平均時速80km、日射量の季節変動を考慮)。

さらに、ワイヤレス電気道路システムはすべてのEVに共通で使用できる。同じ電気道路でトラックやバン、乗用車に充電でき、電力網に新たな負荷をかけることもない。

電力網の近代化に向けて重要な役割をもつ革新的な充電技術

ワイヤレス充電はまだ市場に出てきて間もない技術だが、そのメリットは次第に明らかになっている。交通機関の電化の促進、気温の上昇、異常気象などに直面する電力網の老朽化が懸念される中、革新的な充電技術は最適なソリューションだ。

1日を通してEVの充電を分散させて過負荷を回避し、乗用車と大規模なトラック輸送両方のエネルギー需要を同時にサポートするワイヤレス充電などの技術は、将来の全電化脱炭素社会に向かうための重要なリソースとなる。

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画像クレジット:Bloomberg Creative / Getty Images

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(文:Oren Ezer、翻訳:Dragonfly)

産業用サイバーセキュリティのNozomi NetworksがIPO前に約110億円調達

重要なインフラをサイバー攻撃から守る産業用サイバーセキュリティのNozomi Networks(ノゾミネットワークス)がIPO直前のラウンドで1億ドル(約110億円)を調達した。

このシリーズDラウンドはTriangle Peak Partnersがリードし、Honeywell VenturesやKeysight Technologies、Porsche Digitalなど数多くの設備、セキュリティ、サービスプロバイダーやGTM戦略会社も参加した。

Nozomi Networksにとって重要な時期での資金調達となる。発電所や水供給設備、その他の重要なインフラを稼働させ続けるのに必要なデバイスである産業用制御システム(ICS)に対するサイバー攻撃は、パンデミック中に頻度や激しさが増した。5月と6月だけみても、Colonial Pipelineや食肉加工大手JBSのITネットワークを狙ったランサムウェア攻撃で両社は操業停止を余儀なくされた。

DragosClarotyと競合するNozomi Networksは、同社の産業用サイバーセキュリティのソリューションは攻撃される前に脅威を感知することでICSデバイスを守るよう機能し、発生当初から攻撃を防ぐと主張する。組織がサイバーリスクを管理し、産業オペレーションのためにレジリエンスを改善することをサポートすべくリアルタイムの視認性を提供する。

同社のテックは現在、重要なインフラ、エネルギー、製造、鉱業、輸送、電気などの部門の25万超のデバイスをサポートしている。同社は2020年に顧客ベースを倍増させ、同社のソリューションがモニターしているデバイスの数は5000%増加した。

Nozomi Networksは、3000万ドル(約33億円)のシリーズCから2年も経たずして調達した今回の資金を、製品開発の取り組みの拡大と、GTM戦略のアプローチをグローバル展開するのに使う。

具体的には、販売、そしてマーケティングとセールス・イネーブルメントの取り組みを拡大し、OTとIoTの視認性、そしてセキュリティマーケットにおける新たな課題を解決するための製品をアップグレードする。

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カテゴリー:セキュリティ
タグ:Nozomi Networks資金調達サイバー攻撃インフラ

画像クレジット:Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Nariko Mizoguchi

中国が「冷却水いらず」な実験用原子炉による9月実験開始を計画、2030年に商業用原子炉の建設を予定

中国が「冷却水いらず」な実験用原子炉による9月実験開始を計画、2030年に商業用原子炉の建設を予定

Thorium pellets. Pallava Bagla/Corbis via Getty Images

中国政府の科学者は、世界初をうたう、冷却のための水を必要としない実験用原子炉の計画を発表しました。来月にも原子炉は完成し、9月から最初の実験が開始される予定です。中国はこの実験炉での実験がうまくいくならば、早ければ2030年に最初の商業用原子炉を建設する予定。そしてその後は水が必要ない利点を活かして砂漠や平原地域にこの原子炉を置き、さらには「一帯一路」構想に参加する国にも最大30基を建設する予定だとしました。

中国人民政治協商会議(CPPCC)の常任委員、王守軍氏は、CPPCCのウェブサイトに掲載された報告書で「原子力での『進出』はすでに国家戦略であり、原子力の輸出は輸出貿易の最適化と、国内のハイエンドな製造能力を解放するのに役立つ」と述べています。

この構想の原子炉が大量の水を必要としないのは、燃料にウランではなく液体トリウムを使う溶融塩原子炉だからです。この原子炉ではトリウムを液体のフッ化物塩に溶かし込み、600℃以上の温度で原子炉に送り込みます。原子炉の中で高エネルギーの中性子が衝突することでトリウムがウラン233に変化し、核分裂の連鎖反応を開始します。こうしてトリウムと溶融塩の混合物が加熱され、それを2つめの炉室に贈ることで大きなエネルギーを抽出、発電に利用します。

溶融塩は空気に触れれば冷えて固まります。そのため、万が一漏洩があったとしても、核反応は自然におさまり、トリウムが外界に漏れ出ることもほとんどないとのこと。またトリウムはウランに比べて核兵器への転用が難しく、また安価で入手しやすいという点もメリットとされます。

この溶融塩原子炉の試作機を開発した上海応用物理研究所によれば、計画は中国が2060年までにカーボンニュートラルを実現するという目標の一環とのこと。2019年の米調査会社の報告によると、世界の炭素排出量の27%が中国が占めています。これは他の先進国全体を合計しても届かない数値であり、世界からの厳しい目が中国に向けられています。

溶融塩原子炉のアイデアは新しいものではなく、1946年に米空軍の前進組織が超音速ジェット機を開発するときに考えられました。しかし、その後の開発においては溶融塩のあまりの温度に配管が耐えられなかったり、トリウムの反応がウランに比べて弱いことから、結局ウランを添加しないと核分裂反応が持続させられないといった技術的なハードルを解決できず、研究は中止されました。

ちなみに、米国では6月に資産家のビル・ゲイツ氏とウォーレン・バフェット氏が出資する企業が「ナトリウム高速原子炉(SFR)」という新しい原子力発電方式の実証炉をワイオミング州の石炭火力発電所に建設することを発表しています。こちらは仕組み的には日本がかつて研究開発していた高速増殖炉「もんじゅ」の方式を発展させた方式のものとされます。

原子力発電というと、われわれ日本人はどうしても福島の原発事故や、広島・長崎の原爆投下を思い出し、放射能流出が心配になりがちです。化石燃料を使った発電から再エネへの積極的な転換を目指す大きな流れもあるなか、米中という大国が従来より安全とはいえ新たな原子力を開発し、これを推進するなら、その先の世界がどうなっていくのかは気になるところです。

(Source:LIve ScienceEngadget日本版より転載)

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スタートアップにはバイデン大統領のインフラ計画を支持する110兆円分の理由がある

Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領が2021年3月末に提案した膨大なインフラ投資計画概算で2兆ドル(約220兆円)の規模となり、大幅な増税もともなう。スタートアップとテクノロジー業界全体にとって、この計画の価値は実に1兆ドル(約110兆円)ほどになる。

テクノロジー企業は過去10年以上、農業、建設、エネルギー、教育、製造、運輸、流通といった昔からの業界に適用できるイノベーションの開発に取り組んできた。こうした業界は、非常に強力なモバイルデバイスの出現により、ようやく最近テクノロジー適応における構造的な障害が取り除かれた業界だ。

これらの業界は現在、より強固な経済再建を目指す大統領の計画の核となっている。バイデン政権が期待する取り組みの大半を実現するのは、スタートアップや大手のテクノロジー企業が提供するハードウェアサービスやソフトウェアサービスだ。米国を再び偉大にすべく費やされる何千億ドルもの資金は、直接的であれ間接的であれ、こうした企業にとって大きな後押しとなるだろう。

投資会社Energy Impact Partners(エナジーインパクトパートナーズ)のパートナーを務めるShayle Kann(シェイル・カン)氏は「バイデン氏の新計画に織り込まれている環境重視の投資は、ARRA(American Recovery and Reinvestment Act、米国復興・再投資法)における投資額のおよそ10倍の規模となる。これは、クリーンな電気や炭素管理、車両の電気化など、環境テクノロジーを扱う幅広い部門にとって大きな機会となるはずだ」と話している。

この計画の感触は多くの面でグリーンニューディールに似ているが、目玉は米国が切実に必要とするインフラの最新化、そしてサービスの改善だ。事実、エネルギー効率化はもはや新時代の建設の一部となっているため、グリーンニューディールの核であるエネルギー効率や再生可能エネルギーの開発計画を無視してインフラに投資することは難しい。

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予算案のうち7000億ドル(約77兆円)以上は自然災害への耐性強化に用いられる。例えば、水道、電気、インターネットといった重大なインフラの改修や、公営住宅、連邦ビル、老朽化した商業不動産や住宅不動産などの復旧・改善だ。

また、別途4000億ドル(約44兆円)ほどの資金が、半導体など国内の重要な製造業の強化、将来のパンデミック対応、そして地域のイノベーションハブの立ち上げに投じられる。地域ごとのイノベーションハブは、ベンチャー投資とスタートアップ育成の促進を目指したもので「有色人種のコミュニティやサービスが行き届いていないコミュニティにおける起業家精神の向上を後押しする」ものとなる。

気候への耐性

2020年に米国を襲った数々の災害(および合計で推定1000億ドル、約11兆円ほどの被害額)を鑑みると、バイデン計画の焦点がまず災害対策に向けられていることにも納得できる。

バイデン計画の概要としては、まず500億ドル(約5兆5000億円)を融資に投じ、Federal Emergency Management Agency(連邦緊急事態管理庁)とDepartment of Housing and Urban Development(住宅都市開発省)のプログラム、またDepartment of Transportation(運輸省)の新たな取り組みを通じて、サービスが不十分で災害リスクが最も高いコミュニティにおける強化・保護・投資を行う算段だ。スタートアップに最も関係する点として、大規模な山火事や海水位の上昇、ハリケーンなどを阻止してこれらに備え、農業の新たなリソース管理を実現し「気候に強い」テクノロジーの開発を促進するための取り組みやテクノロジーには、積極的に資金が提供される。

バイデン氏の大がかりなインフラ戦略の大部分と同様、これらの問題にも解決に向けて取り組んでいるスタートアップが存在する。例えば、Cornea(コルネア)Emergency Reporting(エマージェンシーレポーティング)Zonehaven(ゾーンハーヴェン)などの企業が山火事におけるさまざまな側面の解決に取り組んでいる他、洪水予測や気候監視を行うスタートアップもサービスを展開し始めている。また、ビッグデータ分析、監視・感知ツール、ロボティクスといった分野も農場に欠かせない存在となりつつある。大統領がてがける節水プログラムやリサイクルプログラムについては、Epic CleanTec(エピッククリーンテック)をはじめとする企業が住宅ビルや商業ビル向けに廃水のリサイクル技術を開発したところだ。

米国再建物語

バイデン氏のインフラ投資計画で圧倒的な額を占めているのが、エネルギー効率の向上と建物の改修だ。実に4000億ドル(約44兆円)もの資金が、丸ごと住宅やオフィス、学校、退役軍人病院や連邦ビルの改修に充てられる。

Greensoil Proptech Ventures(グリーンソイルプロップテックベンチャーズ)Fifth Wall Ventures(フィフスウォールベンチャーズ)が立ち上げた新たな気候重視の基金は、バイデン氏の計画によってさらにその理論の信頼度を高めることとなる。2億ドル(約220億円)の投資手段を確立し、エネルギー効率と気候テックのソリューション事業に力を入れている基金だ。

フィフスウォールに最近参加したパートナーであるGreg Smithies(グレッグ・スミシーズ)氏は2020年、エネルギー効率の分野で建物の改造とスタートアップのテクノロジーに大きなビジネスチャンスが広がっていると述べている。

「この分野では、実入りが良く、すぐに着手できる案件が数多くある。これらの建物の価値は260兆ドル(約2京9000兆円)にも上るが、ほとんど近代化されていない。こうした老朽化物件に注力すれば、ビジネスチャンスは格段に広がるだろう」。

不動産の脱炭素化もまた、住民の暮らしの質と満足度を高められるだけでなく、世界的な気候変動への取り組みを大きく変える分野だ。フィフスウォールの共同設立者、Brendan Wallace(ブレンダン・ワランス)氏は、声明の中で「エネルギー全体の40%を不動産が消費している。世界経済は屋内で動いているのだ。不動産は炭素問題に大きく関与しているため、気候関連のテクノロジーへの出資が特に多い分野となるだろう」と述べている。

手頃な価格での住宅建設が難しい現状を鑑み、バイデン計画では、この障壁を取り除くための具体的な方策を講じる地域に報酬として柔軟な財政支援を行うよう、新しい補助金計画の議会成立を求めている。その一部に含まれるのは、米国の公営住宅のインフラ改修に使われる400億ドル(約4兆4000億円)の資金だ。

このプロジェクトには、すでにBlocPower(ブロックパワー)などのスタートアップが深く関わっている。

ブロックパワーの最高責任者兼設立者、Donnel Baird(ドネル・ベールド)氏は次のように述べている。「まさにヒーローの登場だ。バイデン・ハリス政権が発表した気候対策は、まさに米国の経済と地球を救うプランで、 「Avengers: Endgame(アベンジャーズ / エンドゲーム)」の現実版を見ている気分だ。過去5年間はやり直せなくても、スマートで大がかりな投資をして未来の気候インフラを整備することならできる。200万軒もの米国の建物を電気化し、化石燃料から完全に切り離す取り組みは、まさに米国への投資だ。新しい業界を生み出し、外国に流出しない雇用を米国人のために創出し、将来的には建物が排出する温室効果ガスを30%削減することにもなるのだ」。

連邦政府によると、スタートアップに直接影響する投資計画の中には、Clean Energy and Sustainability Accelerator(クリーンエネルギーおよび持続可能性促進法)の取り組みとして、270億ドル(約3.0兆円)を投じて個人投資を集める提案書が含まれている。この取り組みで重視されるのは、分散型エネルギー資源、住宅・商業ビル・庁舎の改造、そしてクリーンな運輸だ。サービスが行き届いておらず、クリーンエネルギーへの投資機会がなかったコミュニティに重点が置かれる。

未来のスタートアップ国家への資金提供

連邦政府は次のように発表している。「半導体の発明からインターネットの誕生まで、経済成長の新たな原動力となっている分野は、研究や商品化、強力なサプライチェーンなどを支える公共投資によって成長してきた。バイデン大統領は議会に対し、研究開発、製造、地域単位での経済成長、さらにはグローバル市場での競争に勝つためのツールやトレーニングを従業員と企業に提供する人材育成といった分野について、スマートな投資を行うよう呼びかけている」。

これを実現すべく、バイデン氏は別途4800億ドル(約53兆円)を費やして研究開発を促進する予定だ。このうち500億ドル(約5兆5000億円)は半導体、高度通信技術、エネルギー技術、およびバイオ技術への投資として国立科学財団へ、300億ドル(約3兆3000億円)は農村開発、さらに400億ドル(約4兆4000億円)は研究基盤の強化に充てられる。

また、インターネットを生み出したDARPAプログラムをモデルに、Advanced Research Projects Agency(国防高等研究計画局)の一機関として、気候問題に主眼を置いたARPA-Cの設立を目指す動きもある。気候専門の研究・実証プロジェクトに対する資金としては、200億ドル(約2兆2000億円)が投じられる。こうしたプロジェクトに該当する分野は、エネルギー貯蔵をはじめ、炭素の回収・貯留、水素、高度な核燃料、および希土類元素の分離、浮体式洋上風力発電、バイオ燃料・バイオ製品、量子計算、電気自動車などである。

製造業に資金投入するバイデン氏の取り組みでは、さらに3000億ドル(約33兆円)の政府財政援助を行う用意がある。このうち300億ドル(約3兆3000億円)はバイオプリペアドネスとパンデミックへの準備、500億ドル(約5兆5000億円)は半導体の製造・研究、460億ドル(約5.0兆円)は連邦政府による新たな高度原子炉、核燃料、自動車、ポート、ポンプ、クリーン物質の購買力向上に使われる。

これらすべてで強調されているのは、国内全体で公平かつ均等に経済を発展させるという点だ。そこで、地域のイノベーションハブに加え、刷新的なコミュニティ主導の再開発事業を後押しするCommunity Revitalization Fund(コミュニティ再生基金)に200億ドル(約2兆2000億円)が割り当てられ、農村部の製造業およびクリーンエネルギーの促進を目標にして、国内の製造業投資に520億ドル(約5兆7000億円)が割り当てられる。

さらに、スタートアップ関連では、スモールビジネスがクレジットやベンチャーキャピタル、研究開発費用を獲得できるよう支援するプログラムに310億ドル(約3兆4000億円)が投じられる。予算案では特に、有色人種のコミュニティやサービスが行き届いていないコミュニティの発展を後押しすべく、コミュニティベースのスモールビジネスインキュベーターやイノベーションハブへの資金提供を呼びかけている。

水道と電力のインフラ

米国のC評価のインフラが抱える問題は国内のいたるところで見受けられ、その内容も、道路や橋の崩壊、きれいな飲料水の不足、下水設備の欠陥、不十分なリサイクル施設、発電・送配電設備の増加し続ける需要に対応しきれない送電網などさまざまだ。

連邦政府の声明によると「配管や処理施設が全国で老朽化しており、汚染された飲料水が公衆衛生を脅かしている。推定では、600~1000万軒の住宅への飲料水配給でいまだに鉛製給水管が使われている」とのことである。

この問題に対処するため、バイデン氏は450億ドル(約4兆9000億円)をEnvironmental Protection Agency’s Drinking Water State Revolving Fund(環境保護庁州水道整備基金)とWater Infrastructure Improvements for the Nation Act(水道インフラ改善法)を通じた助成に充てる計画だ。こうしたインフラ交換のプログラムはスタートアップに直接影響することはないかもしれないが、飲料水・廃水・雨水の処理設備や水に含まれる汚染物質の監視・管理システムの改善にさらに660億ドル(約7兆2000億円)が費やされれば、水質検査やフィルタリングなどを扱うさまざまなスタートアップがここ10年以上市場にあふれていることを考えると、恩恵は大きい(事実、水道技術に特化したインキュベーターもあるほどだ)。

悲しい事実ではあるが、米国内の水道インフラの大部分は維持が追いついておらず、こうした大規模な資金投入が必要となっているのである。

また、水道に関して言えることは、近年電力に関しても言えるようになってきている。連邦政府によると、停電による米国の経済損失は年間700億ドル(約7兆7000億円)以上にも上る。この経済損失と1000億ドル(約11兆円)の出費を比較すれば、どちらがいいかは一目瞭然だろう。スタートアップにとって、この計算式で浮く金額はそのまま会社の利益につながる。

より耐久性のある送電システムを構築することは、Veir(ヴェイル)をはじめとする企業にとっては実にうれしい話だろう。ヴェイルは、送電線容量の増加に向けた新しい技術の開発に取り組んでいる企業だ(このプロジェクトは、バイデン政権も計画内で明確に言及している)。

バイデン計画には資金提供だけでなく、Department of Energy(エネルギー省)内部に新しくGrid Deployment Authority(送電網配備局)を設置する案も盛り込まれている。連邦政府はこれを、同局の設置について、道路や鉄道沿線の敷設用地をより有意義に活用し、資金提供手段を通じて新たな高圧送電線を開発するためとしている。

同政権の取り組みはこれだけにとどまらない。エネルギー貯蔵技術と再生可能技術を後押しするため、これらの開発には税額控除が適用される。つまり、直接払いの投資税額控除と生産税控除が10年延長され、その後、徐々に控除が減額されるというわけだ。この計画では、クリーンエネルギーの包括的補助金を捻出する他、政府の連邦ビルについては再生可能エネルギーのみを購入することが盛り込まれている。

バイデン政権下では、クリーンエネルギーとエネルギー貯蔵に対するこの支援に加え、廃棄物の浄化と汚染除去の分野で予算を大きく拡大し、210億ドル(約2兆3000億円)が投じられる予定だ。

Renewell Energy(レネウェルエナジー)をはじめとする企業や、放置された油井を塞ぐ取り組むを続けるさまざまな非営利団体は、この分野に携わることができるはずだ。また、その他の鉱床の回復や、こうした油井から出る排水の再利用といった取り組みの可能性も考えられる他、ここでも投資家はビジネスチャンスを狙うアーリーステージの企業を見出だせるだろう。バイデン計画から出される資金の一部は、汚染されて利用できなくなった工業用地を再開発し、より持続可能なビジネスに変えるために用いられる。

屋内での農業をてがけるPlenty(プレンティ)、Bowery Farms(バワリーファームズ)、AppHarvest(アップハーヴェスト)などの企業は、利用されていない工場や倉庫を農場として再利用することで、大きな利益を上げられるかもしれない。送電網に関する需要を考えれば、閉鎖された工場をエネルギー貯蔵やコミュニティベースの発電に使うハブ、あるいは送電設備に生まれ変わらせることもできる。

連邦政府の声明によると「バイデン大統領の計画は、Appalachian Regional Commission(アパラチア地域委員会)のPOWER補助金プログラム、エネルギー省による(セクション132プログラムを通じた)閉鎖工場の改革プログラム、さらにはコミュニティ主導の環境正義活動を後押しする専用の資金を通して行われる、持続可能な経済開発の取り組みを促進するものである。コミュニティ向けの支援としては、旧世代の環境汚染や蓄積された環境への影響を最前線や工場に隣接する地域で経験してきたコミュニティがこうした問題に対応できるよう、能力構築助成金やプロジェクト助成金が給付される」。

こうした再開発事業の鍵は、スチール、セメント、および化学製品の大規模な製造施設向けに炭素の回収・修復の実証実験を行うパイオニア施設の設立だ。とはいえ、バイデン政権が望めば、さらに一歩先へ進んで低排出の製造技術開発に取り組む企業を支援することもできるだろう。例えば、Heliogen(ヘリオゲン)は大規模な採掘作業用に必要な電力を太陽光発電でまかなっている他、BMWと提携しているBoston Metal(ボストンメタル)は炭素排出量がより少ないスチール製造プロセスの開発を進めている。

関連記事:持続可能な自動車製造を目指すBMWが二酸化炭素を排出しない製鉄技術を開発したBoston Metalに投資

また、これらの資金を使うために不可欠な前提条件として、開発前の段階にある事業に投資する必要がある。これには250億ドル(約2兆7000億円)が割り当てられており、Forbes(フォーブス)誌のRob Day(ロブ・デイ)はこの資金について、比較的小規模のプロジェクトデベロッパーを後押しするだろうと述べている。

デイ氏は次のように述べている。「他の記事でも書いたように、持続可能性に関するプロジェクトを最も有意義な形で、つまり現地の環境汚染や気候変動による打撃を最も受けたコミュニティで実施するには、地元のプロジェクトデベロッパーが鍵となる。比較的小規模のプロジェクトデベロッパーは、単に民間企業のインフラ整備投資を受けるだけでも、多額の出費が必要となる。持続可能性政策に携わる人は皆、起業家の支援について話すが、現状の支援対象の大半は技術開発者で、実際にこうした技術革新を展開する小規模のプロジェクトデベロッパーには支援が向けられていない。インフラの投資家も通常、プロジェクトの建設準備が整ってからでないと資金を提供したがらないものだ」。

より良いインターネットの構築

連邦政府は次のような声明を出している。「広帯域インターネットは、新時代の電気のようなものだ。米国人が仕事をして、平等に学校で学び、医療サービスを受け、人とつながるには広帯域インターネットが欠かせない。それにもかかわらず、ある調査によると、3000万人以上の米国人は最小限必要な速度の広帯域インフラがない場所で生活している。また、農村部や部族の所有地で暮らす米国人のインターネット環境はとりわけ貧弱だ。さらに、OECD諸国の中で米国の広帯域インターネット料金が特に高いこともあり、インフラが整っている地域に暮らしていながら実際には広帯域インターネットを利用できない人も多く存在する」。

バイデン政権は、広帯域インターネットのインフラ整備のために1000億ドル(約11兆円)を支出するにあたり、高速の広帯域インターネットのカバレッジを100%に引き上げる他、地方自治体、非営利団体、および共同組合が所有・運営・提携するネットワークを優先することを目標としている。

新たな資金投入にともない、規制政策にも変化が生じる。これにより、地方自治体が所有または提携するプロバイダーや農村部の電気協同組合が民間のプロバイダーと競合することになり、インターネットプロバイダーは料金形態をさらに透明化する必要が生じる。競争の激化はハードウェアベンダーにとってもメリットとなり、最終的には独自のISP立ち上げを目指す起業家の新事業も生まれる可能性がある。

そうしたサービスの1つが、ロサンゼルスで高速のワイヤレスインターネットを提供するWander(ワンダー)だ。

連邦政府の声明によると「米国人は他の国の人と比べてもインターネット料金を払いすぎている。そこで、大統領は議会に呼びかけて米国人全員のインターネット料金を引き下げ、農村部と都会の両方のインフラを強化し、プロバイダーに説明責任を課し、納税者のお金を守るためのソリューションを全力で探している」とのことだ。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
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画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)