我々を殺すのはAIではなく「何もしないこと」、シリコンバレーは災害やパンデミックといった現実の問題を解決する努力をすべきだ

この1年間、私たちの多くは存亡の危機について考えながら過ごしてきた。非常食セットから核バンカーまで、サバイバル用品の売り上げは増加しており、Twitterで1日中ドゥームスクローリング(ネットで悲観的な情報を読み続けること)をしていると、少なくとも文明崩壊の可能性が話題にならない週はないように感じる。

しかし、テック業界に長くいると、存亡の危機に関する「現実の問題」と「憶測に基づくシナリオ」との間に驚くほどのずれがあることに気づく。

シリコンバレーでは「実は今、偏屈な生物学博士が小さな実験室にこもって、個人あるいは全人類を暗殺できる特別な病原菌を作っているのだ」というようなシナリオが話のネタとしておもしろおかしく話題にのぼっている(ゲノム編集技術の略称「CRISPR」を使って話せば、よりそれっぽく聞こえる)。他にも、コロナガスの噴出や電磁爆弾のようなものが頻繁に発生して、すべての電力供給を停止させる可能性があるというシナリオや、世界中のすべてのCPUが同じコード行に対して脆弱であるという(おそらくMeltdownやSpectreから発想を得た)ある種のハッキングシナリオもよく耳にする。

しかし、ここ1年を振り返ってみると、私たちには、問題を認知する際に偏った思い込みをしてしまう傾向があることに気づく。つまり、憶測にすぎないリスクについては考え過ぎるのに、文明的な生活を脅かしかねないありふれたリスクについてはあまり考えていないのだ。

確かに、先ほどのようなシナリオはおもしろく想像力に富んでいて「仕事は何をしているの?」なんていう話を続けるよりもずっとZoom飲み会を盛り上げてくれる。

しかし、ここ1年を振り返ってみると、私たちには、問題を認知する際に偏った思い込みをしてしまう傾向があることに気づく。つまり、憶測にすぎないリスクについては考え過ぎるのに、文明的な生活を脅かしかねないありふれたリスクについてはあまり考えていないのだ。

新型コロナウイルス感染症は、文字どおり何十年も前から何らかのかたちで予測されてきた、あまりにも明白なパンデミックの例である。しかし「想定済み」だったはずの災害に遭遇した例は他にもある。2021年2月、テキサス州のエネルギー供給網の多くが故障したために数日間にわたって停電し、数百万人の人々が、それまで地元で経験したことのない寒さに耐えなければならなかった。電磁爆弾が落とされたわけではないのに、これだけの被害が生じたのだ。またカリフォルニアの山火事シーズンが拡大し、人命が失われ、大規模な停電や何十億ドル(何千億円)もの損害が発生した。空を象徴的なオレンジ色に染めたのはハリウッドの特殊効果ではない。2021年1月には「ソフトウェアの問題」により東海岸のあちこちでインターネットが使えなくなったし、クリスマス休暇中にはナッシュビルで単独犯による自爆テロのせいで通信施設が破壊され、都市部の通信回線の大部分がダウンした。

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ここで問題の認知にずれが生じる。私たちはすでに文明的な生活を脅かされたことがあるのだ。ただ、これまではその期間や範囲が限定されていた。2月はテキサス州、2020年はカリフォルニア州で大規模な停電が発生したが、全土で停電したことはない。同じく、東海岸とナッシュビルでインターネットが使えなくなったが、時間差があったし、全土で同時にインターネットが使えなくなったことはない。パンデミックが発生し、ウイルスの拡散を抑えるために世界の大部分で学校や店舗を定期的に閉鎖しなければならなくなったが、文明的な生活が消滅してしまったわけではない。人口の10%がNetflix(ネットフリックス)を使えている限り、このパンデミックでさえも大した災害ではないと思えるくらいだ。

汎用人工知能や、AIの能力が人類を超えるというシンギュラリティ(特異点)の概念、火星への避難について話している人たちがいるが、目の前の現実では、何千カ所ものダムに信じられないほど大きな負担がかかっており、これらのダムのいくつかが決壊すれば、今後数年間で何百万人もの人々が命を落とす可能性がある。これは仮定の話ではない。ダムの構造物が耐用年数に達し、次第に崩れやすくなると、ダムは予測に違わず決壊する。

私たちはなぜか、このような身近に迫る深刻な事態をリスクとして認識することを避けるようになってしまった。数年前は極度の非難を受けていたAWSの障害が、今ではZoom会議から私たちを解放してくれるものになった。停電は新たな日常にすぎない。パンデミックについては、私たちすべてが期待している回復を変異ウイルスが脅かし始めているとしても、現段階でわざわざマスクをする意味はないと考える人もいる。ある同僚が私に言ったように、電池式のラジオを買うべきだ。すぐに必要になるだろう。インターネット通信が突然使えなくなる可能性を想定すべきである。

シリコンバレーを起業家精神あふれる場所にしているソリューショニズムは、存亡にかかわる非常に日常的な脅威を解決するという方向に向かうことはないようだ。送電網の故障は防ぐことができる。インターネットは、障害を迂回し、わずか数カ所の中央データセンターや電話局のみを拠点することはないように設計されているはずだ。これにより不正なパッチや妨害者が世界のGDPが低下させることはない。医療システムはアウトブレークを制御することができる。私たちはどんな戦略を取るべきかを知っている。ただその戦略を実行できさえすればいいはずだ。

回復力と計画性には、シリコンバレーが得意とする分析力が役に立つ。それなのに、シリコンバレーにはその回復力と計画性が欠如している。そして、それ以上にいら立たしいのは、このような大惨事にあっても行動をまったく起こさないことだ。この1年でわかったことは、政府も会社も一般市民もすべてが完全に無気力状態にあり、災害が起きた場合の備えを明らかにまったくしていないことだ。

私は、人々を病院に案内したり、データを追跡したり、ワクチンを見つけるように人々を指導したり、初期の慌ただしい時期にマスクを探したりする、新型コロナウイルス感染症から生まれたクラウドソーシングのプロジェクトを非難したいわけではない。このようなプロジェクトは、たとえうまくいかなくても重要であり、豊かで新しい市民生活を象徴している。しかし重要なのは、現場での行動の欠如をキーボードで完全に補えると考えないことだ。テック業界では、あらゆる問題を解決するためにウェブアプリを開発することを好むが、Pythonコードだけで対応できる災害などないに等しい。

テックコミュニティで私が見つけた唯一の例外は、Googleの共同創設者であるSergey Brin(セルゲイ・ブリン)氏だ。彼はGlobal Support and Development(GSD)という災害救援チームとともに世界規模の災害対応能力を築くことに時間とリソースを費やしたようだ。Mark Harris(マーク・ハリス)氏は2020年、この取り組みに関して詳細な記事を書いている

GSDはこの5年間、新型コロナウイルス感染症のパンデミックをはじめ、注目を集めたさまざまな災害が発生した際、ひそかにハイテクシステムを使い、迅速な人道支援を行ってきた。ドローンやスーパーヨットから、巨大な新しい飛行船まで、チームが期待する幅広いハイテクシステムを使えば、支援物資を被災地に簡単に輸送できるようなる。

このような取り組みをもっと増やすべきだ、しかも、今すぐに。

存亡リスクは常にハイテク業界の中心にある。ラジオ放送の「宇宙戦争」、マンハッタン計画から、1960年代のAIや人工頭脳工学、80年代のサイバーパンクや気候パンクなどのあらゆるパンク、そして今日の汎用人工知能やシンギュラリティ(特異点)に至るまで、自分たちが作る技術の進歩が、現代の世界に大きな影響を与える可能性があることを私たちは知っている。

今こそ、現在利用できるツールを使って、クレイジーな憶測に基づく未来ではなく、現在の世界が直面している大混乱と課題に目を向けるときである。私たちの主要な課題のほとんどは、単に解決可能であるだけでなく、時間をかければ事態を大幅に改善できるものである。しかしそのためには、恐怖をあおる憶測に対してばかり危機感を感じるのではなく、ありふれた日常的な問題(でも最終的には確実に私たちを苦しめる予測可能な問題)をリスクとして認知するよう、意識的に努力することが必要だ。

カテゴリー:その他
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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

スタートアップを経済の推進役に据えるスペインの10年計画

スペインはスタートアップを支援する法案の成立を目指して準備を進めている。最近ベールを脱いだこの大規模かつ大胆な改革計画は、2030年までに同国を「スペイン起業国家」(若干ぎこちない西和翻訳だが)に作り変えるという、実に壮大な目標を掲げている。

ペドロ・サンチェス首相は2020年12月、ウェブサミットの壇上で、間近に迫ったスタートアップ法の導入を発表し「高等長官」という役職を新たに設置することを発表した。高等長官の任務は、関連するすべての政府省庁と協力して全国規模の企業経済変革を成し遂げることだ。

この戦略は主に、スタートアップ投資を増やし、人材を惹きつけて確保すること、さらに、スケーラビリティを促進し、公共部門のイノベーションを進めてスペインのデジタル開発を支援できるようにすることを目指している。

上記のスタートアップ法は、スタートアップ分野に特化した同国初の法律である。スペインでの起業を簡便化することを目的とし、税の軽減や、海外からの投資に対する奨励金も導入するこの法律は、画期的なものになるだろう。

スペインの創業者と話してみると、行政、税金、資金調達など、彼らが不満を感じている問題が嫌になるほどたくさん出てくる。さらに、より大きな問題には文化が関係している。例えば、スタートアップが大きな視野で考えていない、リスクを冒して投資する貪欲さが投資家に欠けている、さらには、起業家に対する嫌疑心のようなものが投資業界に限らず社会全体に存在している、といった問題だ。一方で、スペインを本拠地とする投資家たちは、行政面での改革およびストックオプションの改正を待ちきれずにウズウズしている。こうした問題すべてを改善することが、スペイン政府が自ら決めた当面の使命だ。

TechCrunchは、スペインの起業国家戦略を監督する高等長官に任命されたFrancisco Polo(フランシスコ・ポロ)氏に、スタートアップエコシステムの成長計画に関する詳細と、起業家が最初に目にすることになる変化について話を聞いた。

「スペイン起業国家機関は首相直下の新設機関だ。つまり、国家使命を果たすという1つの目的のために各省庁間の調整を図ることができる首相権限の機関がスペインで初めて設置されたことになる。今回の国家使命の目標は、スペインを起業国家に作り変え、歴史上最大の社会的インパクトを生み出すことだ」とポロ氏はいう。

「我々の仕事はすべての省庁間の連携を図ることだ。機関として目指す一連の目的がある。第一に社会的インパクト、つまりスペイン起業国家戦略に含まれるさまざまな対策だ。第二に、この国家ミッションを軸として全員を一致団結させ、さまざまな派閥政党間の調整を図るという仕事もある」。

「最後に、『2030年までに、誰も置き去りにすることのない起業国家になる』というスペイン政府の決断を国民に周知することも注力している。以上が我々の仕事だ」。

大手企業の肩に乗ってスケールアップ

南ヨーロッパ諸国は、英国、フランス、ドイツなどの近隣諸国と比較して、スタートアップ投資を惹きつける力が弱い。その中でスペインは、そうした地理的に優位な国々となんとか渡り合っている。バルセロナ、マドリードなどの主要都市は、創業者たちにとって魅力的な場所として常に上位にランクインしている。これには、コストが比較的安いことや、地中海的ライフスタイルの人気が高いことが大きく貢献していると思われる。

スペインは、各都市の密集性、若者の失業率の高さ、オンラインでのコミュニケーションを喜んで受け入れる社交的な文化などが相まって、消費者向けのアプリを利用したビジネスにとって魅力的なテスト市場となっている。実際、スペイン市場は、2008年の金融危機で大打撃を受けた後、十数年にわたり、潜在的なディスラプト(創造的破壊)能力を実証してきた。

この期間に、(少なくとも成長速度と展望の大胆さという点で)世界的に注目を集めたスペインのスタートアップとしては、 Badi(バディ)、Cabify(キャビファイ)、Glovo(グロボ)、Jobandtalent(ジョブアンドタレント)、Red Points(レッド・ポインツ)、Sherpa.ai(シェルパ)、TravelPerk(トラベルパーク)、Typeform(タイプフォーム)、Wallapop(ワラポップ)などが挙げられる。

スペインの中道左派の連立政権は今、スタートアップ分野の指揮に本腰を入れることにより、経済と生産基盤における広範なデジタル化を推進しようとしている。ただし、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を織り込んだ形で、という条件付きだ。このデジタル化は「誰も置き去りにしないという断固とした原則」に基づいたものになる、とサンチェス首相は2020年12月に語った。

このため、サンチェス政権が長期間にわたって民間および公共部門の関係者に相談して絞り込んだ、エコシステムの支援と成長に必要とされる一連の政策措置は、社会的インパクトに細心の注意を払ったものになっている。つまり、デジタルセクターの規模拡大のみを大急ぎで推し進めてしまうと、同時に達成すべき目標であるさまざまなギャップの解消(地域格差、性別格差、社会経済的格差、世代間格差など)が実現されず、これらの格差がかえって開いてしまうのではという懸念を抱いているのだ。

「我々は政権内でも若い世代だ。我々の世代では、新しい革新的なシステムまたは産業経済システムを構築する際に社会的な影響を考慮しないということは考えられない。戦略モデルの根幹にインクルージョン政策も組み込んでいるのはそのためだ。つまり、この戦略全体は、男女間格差、地域格差、社会経済的格差、世代間格差を埋めることも目標にしている。歴史上最大の社会的インパクトを生み出せる起業国家を2030年までに構築することが最終目標だ」とポロ氏は説明する。

財源も確保されている。スペインは、EU全体の財源から受け取った「Next Generation EU」コロナ復興基金の一部をこの「起業国家」戦略に注ぎ込むつもりでいるからだ。

「具体的にいうと、2021年度には、戦略のさまざまな目的に予算が割り当てられる。策定を始めようと考えている主要な対策に15億ユーロ(約1950億円)以上を確保している。その後、2023年までに、45億ユーロ(約5860億円)以上が残りの対策に割り当てられる。つまり、基本的には、2021年から2023年までの期間でスペイン起業国家の基盤が形成されるということだ」とポロ氏はいう。

戦略の実施は関連省庁(必要に応じてプロジェクトの策定、法案の通過などを行う)に委ねられるが、そこでポロ氏の機関が政府のさまざまな部署や部門に「働きかけ」を行う。つまり、スタートアップと同じ立場に身を置いて「戦略が具体的に実施されるように支援する」わけだ。

この国家戦略では、起業家精神とスタートアップのイノベーションを、スペイン経済の既存セクターを形成するピラミッドの頂上で推進力となり「スペインが目指す革新的システムで陣頭指揮を執る」存在として位置づけている。「革新的な起業にのみ注力するつもりはない。スタートアップエコシステムと、実際にスペイン経済の推進力となっているセクターとの間で好循環を生み出す方法についても考えている。スペインのGDPの60%以上に相当する部分を動かしている10のセクターを挙げた理由もそこにある。これは最も重要な点だ」とポロ氏はいう。

リストに挙げられたセクターは、政府が支援を集中させて育てたいと考えているセクターだ。つまり、デジタル改革に熱心に取り組むことでより多くの利益を得られるセクターでもある。具体的には、観光と文化、モビリティ、ヘルス、建設と材料、エネルギーと環境保護、バンキングと金融、デジタル化と通信、農業・食品、バイオテクノロジーの各セクターだ。

「対象とするセクターをどこかの時点で絞り込む必要があると判断し、スペインのGDPの60%に相当するセクターを挙げることで、我々が求めている変化を加速するための明確な方向性を示すことができると考えた。基本的に、このモデルで実現したい変化とは、これまで封じ込められていた革新的な起業家精神が、原動力となるセクターで機能し始め、これらのセクターが互いに助け合うことでさまざまな問題を解決できるようになる状況のことだ」とポロ氏は説明する。

「例えば、投資の場合、大手企業が現在よりも投資を大幅に増やし始めたら、これも革新的スタートアップシステムへの道筋として加速していく。あるいは、スペインのスタートアップ企業とスケールアップ企業が、人材を惹きつけて維持するために海外企業と協力するようになったらどうだろうか。国として、より有利なポジションに立てるようになるだろう」。

「私が考える最高の例はスケールアップだ。大手企業の肩に乗っかってスケールアップするのが一番ではないだろうか。スペインにはさまざまな市場で世界クラスの国際的な企業が多数存在している。すでに市場に存在していて、ノウハウを持っており、短期間でスケールアップとして成熟するのを支援してくれる企業と一緒にスケールアップできるなら、それが一番ではないだろうか。このように、生み出すことができる好循環は多数存在している。推進力となるさまざまなセクターに広くアピールしていきたいと考えているのはそのためだ。これを実現するためにすべての国民の力が必要であることを国全体に知ってもらいたいと考えている」。

マドリードのEl Retiro Park公園の外に置かれたLimeのシェア用電動スクーター(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

デジタルデバイド

もちろん、デジタル化自体も格差を作り出す。これは、世界的なパンデミックではっきりと示されたことだ。このような状況では、学校に行けなくなった子どもたちの成長は、インターネットアクセス環境があるかどうか、コンピュターが使えるかどうかに大きく左右される。

すべての年齢層の働き手にデジタル化という同じ道を進んでもらうためにはある程度の再教育とスキルの向上が必要となるが、そのような大規模な産業転換を成功させるのはもちろん簡単なことではない。だが、たとえそうだとしても、ソーシャルインクルージョンを前提として起業家の育成を進めるという原則は重要なことのように思える。

「スペイン起業国家」を10年計画にしたということは、インクルージョンには時間が必要だという事実を政府も認識しているということなのだろう。

ポロ氏によると、このような長期の計画を策定することには、スペインの政策は短期的なものばかりだというよくある批判に対応する意図もあるという。同氏は「特にスペイン国内では、政策がいつも短期的な視野でしか考えられていないという批判が絶えなかった。この国家戦略は、現政権が短期的視野の問題に対応するだけでなく、スペインの将来にも備えようとしている証拠だ」と指摘し「長期的なビジョンを提示することは良いことだと確信しているし、それが社会の要求に応えることだと思っている」と付け加えた。

スペインには別の側面もある。この10年ほどで、デジタル技術の進歩が明確な社会的影響を与えたという申し立てを欧州の法廷に持ち込んで勝訴した国というイメージが定着したのだ。例えば、2010年には、あるスペイン人が自分に関する古い情報をインデックスから削除するようGoogle(グーグル)に要求したが拒否されたため、訴訟を起こした。その後、2014年に、欧州最高裁判所は俗に「忘れられる権利」と呼ばれる権利を支持し、原告勝訴を言い渡した。

Uber(ウーバー)の規制回避行為に対して訴えを起こし、勝訴したのもスペインのタクシー業界だった。このケースでも、2017年、欧州の最高裁は、ウーバーは同社が主張してきたような単なるテクノロジープラットフォームではなく輸送サービスであり、地元の都市の輸送規則に従う義務があるという判決を下した。

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それからしばらくの間、反ウーバー(および反キャビファイ)を主張するストライキが、スペインの路上でたびたび行われるようになった(ときには暴力沙汰になったこともある)。不正な競争を行っているアプリベースの同業者2社に対して法が適正に執行されていないと思われる、というのがタクシー業界の主張だった。

ギグプラットフォームは(欧州発のプラットフォームでさえ)こうした抗議行動を保護主義(または反イノベーション的)であるとして一笑に付す傾向があるが、彼らは自社のビジネスモデルの合法性に異議を申し立てる訴訟で頻繁に敗訴してきた(最近では英国最高裁で、ドライバー / ライダーは自営業者であるとするウーバーの分類を却下する判断が下された。これによりウーバーは多額の福利厚生費を支払う責任を負うことになる)。

これらすべての事例から言えるのは、スペイン社会には不公正に断固として抗議する気持ちが強い部分があり、華々しい最新のテックツールであっても、それが不公平な扱いの源泉になっているなら許すべきではないと感じると、積極的に、ときには本能的にこうした示威行動に出るということだ。つまり、スペイン人は自分にとって本当に重要なものとは何かを正確に把握しているようだ。

スペイン政府がスタートアップにやさしい政策を推進する国家戦略を発表した際に、誰も置き去りにしないこと(ソーシャルインクルージョン)をわざわざ強調した理由も、これで説明がつくかもしれない。

起業国家戦略に含まれる約50の支援政策の中では「スマートな規制」という考え方が言及され、(まずは規制準拠について頭を悩ませずに)製品を公にテストできるサンドボックス環境というアイデアが提案されている。

サンドボックス環境を公開するというアイデアは地元のギグプラットフォームGlovo(グロボ)から高い評価を得ている。グロボの共同創業者であるSacha Michaud(サーシャ・ミショー)氏は次のように述べている。「この考え方はとても重要だと思う。テスト段階で規制の悪夢に悩まされることなく製品やサービスをテストできる革新的なアイデアだ。これにより、イノベーションが大幅に促進される。この方法は金融サービスで効果的に機能するだけでなく、広範なテック領域にも適用できる可能性がある」。

ミショー氏によると、より多くの投資をスペインに惹きつけ、ストックオプションを改正し、地元企業の競争力を高めて人材を惹きつけられるようにすることも重要な優先課題だ。

同氏は、政府の起業国家戦略とスタートアップ法については全面的に支持するが、立法化には時間がかかると予想されるため、すぐに結果が出るとは思っていないという。

一方で、ミショー氏は、ギグプラットフォームを規制するために政府がすでに策定した計画には不満を持っている。そこでは、宅配業務がやり玉に挙げられていて不公平だと同氏はいう。労働省が取り組んできたこの改革は、ギグワーカーを自営業者として分類するギグプラットフォーム側に対して近年起こされた多くの訴訟を考慮に入れて策定されたものだ。それには、2020年スペインの最高裁でグロボが敗訴したケースも含まれる。

「グロボのケースでは、政府はライダーと宅配プラットフォームを規制することにのみ目を向け、その一方で、物流、サービス、搬入といった約50万人の自営労働者については現状維持を許している」とミショー氏は指摘し、このような扱いは「極めて差別的だ。ひと握りのテック企業のみを規制対象とし、IBEX35に含まれる従来のスペイン企業については現状維持を認めている」と語る。

労働法の改革の進捗状況について聞かれたポロ氏は、作業は進行中であるとだけ答えた。「彼らが行っている作業をすべて把握しているわけではない。私が知っているのは、おそらく君たちマスコミが知っているのと同程度のことだ。さまざまな企業に話を聞いているし、ギグプラットフォーム企業ともオープンな対話を続けている」と同氏はいう。

しかし、テック主導による働き方の変化を考慮に入れて規制改革を進めることが、より広範な意味での起業国家戦略における重要な要素ではないのか、と問われると、同氏は、この国家転換計画の「最終目標」は「雇用の量と質を上げることだ」という点も強調した。

「我々は常に、そのような質の高い雇用を継続して創出できる企業を育むよう努めている。スペインのさまざまなギグプラットフォーム企業が、この最終目標を理解していると認識している。彼らは、この目標の実現に向けて進むことで、企業も国も利益を享受することができることも理解している。そして、彼らが積極的に変革を行い、進化すれば、国も進化することになる」とポロ氏は語る。

本記事の執筆中、バルセロナの通りは、ラッパーのPablo Hasél(パブロ・ハーゼル)氏が自身のソーシャルメディアへの投稿(警察による暴行を非難するツイートなど)が原因で収監されたことに抗議するデモで大変な騒ぎになっている。スペインの裁判所は、ハーゼル氏の行為がテロリズムを美化するもので、刑法に違反していると判断した。

スペインの法律は長い間、テロリスト関連の領域において不当に厳しすぎると非難されてきた。例えば、Amnesty International(アムネスティ・インターナショナル)は、ハーゼル氏の収監を「表現の自由に対する過度かつ不当な制限」であると非難している。近代化を進める起業支援国家に変わろうとする一方で、裁判所がツイートの発言内容を根拠に容疑者を収監するというのは矛盾しているように思えるが、ポロ氏はその点を一蹴する(この法律に違反したアーティストや市民はハーゼル氏だけではない。いずれも、不面目なことに、ソーシャルメディアで発したジョークから始まっている)。

ポロ氏は次のように反論する。「矛盾するところは何もない。スペインは世界でも最も堅牢な民主主義国家の1つだ。これは何も我々自身が言っているのではなく世界的なランキングがそれを示している。さらに、スペインでは法の支配が機能している。このケースの場合、被疑者が法律で定められている一線を越えたことは明らかだ。言論の自由は無制限に認められるわけではない。他の人の権利を侵害しない範囲で、という条件がある。つまり、このケースは言論の自由とは残念ながら何の関係もない。パブロ・ハーゼル氏が収監されたのは、同氏がテロリズムを助長する発言をしたからだ」。

「ツイートでの発言が原因で収監」と聞いて国際社会はどう反応すると思うかと問われると、ポロ氏は、刑法を修正したいと考えているという最近の政府の発言を繰り返し「修正したい条項は確かにある。時代は進んでいるからだ。現在の我が国は1980年当時よりもはるかに成熟している。刑法にも修正すべき条項はある。しかし、そのことと、最近の事例とは何の関係もない」と付け加えた。

ラッパーのパブロ・ハーゼル氏の収監は言論の自由に反するとして抗議する、バルセロナ市内の街角の落書き(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

マインドセットを変えるための手段

より広範な文化的な課題、つまり、国家的なマインドセットをより起業家精神にあふれたものに変革する方法について、ポロ氏は、同氏に課せられたミッションの実現に自信を見せる。問題の全体像と国が提示している未来のビジョンにおける国民の位置づけの両方を国民自身が理解していること、そして政府が誰も置き去りにしないよう積極的に取り組んでいることを国民に分かってらもうことが重要だと同氏はいう。

ポロ氏は次のように説明する。「この点については自信がある。私が政界に入る前に従事していた職で蓄えた知識を活かせるからだ。マインドセットを変えるのに役立つと思う。私は以前、自分では到底できないと思っていたことが実はできることを理解する、つまり、マインドセットを変える方法を大勢の人に教えることを仕事にしていた。私の理解では、そのような文化的な変化を起こすためにまずやらなければならないことがある。それは、未来のビジョンを描くことだ」。

2030年までにスペインは起業国家になると同時に、歴史上最大の社会的インパクトを与えること、そしてそのための計画があることを我々が強く主張するのは、そのためだ。その計画では、起業に注目し、この新しい革新的モデルを引っ張ってもらう役目を果たしてもらう。経済の原動力となっているあらゆるセクターの力を活用して、世界的な経済国家としての成功を積み上げながらこの計画を実現していく。男女間格差、地域格差、社会経済的格差、世代格差をなくすために、この国家的戦略の基本部分にインクルージョン政策を含める理由もそこにある。

「文化的な側面を変えるには、国民を今の自分たちよりも優れた何かの構築に向けて団結させる必要がある。スペイン起業国家戦略によって、そのための最初の一歩を踏み出したと思っている。スタートアップ法がこの戦略と同じくらい重要だと言っているのは、そのためだ」とポロ氏はいう。

まもなく、スタートアップ法(別称anteproyecto de ley)の草案が提出される。この草案が閣僚会議で承認されると、国会での広範な審議を経て、必要に応じて修正が行われ、起業国家戦略と足並みをそろえて策定される最初の法律となる。これが、同戦略の最初の成果物となりそうだ。

ただし、この新しいスタートアップ法が成立するまでに、あとどのくらい時間がかかるのかは、まだわからない(スペインの政治には長い間、合意が欠如してきた。サンチェス首相の「革新連立政権」も、与党であるスペイン社会労働党による過半数の確保に2回続けて失敗した後にやっと確立された)。

法案可決に要する時間についてポロ氏は「それについてはまだ何とも言えない。承認までに要する期間は法案によって異なるからだ。ここで重要なのは、スタートアップ法にはすべてのプロセスが含まれているという点だ。つまり、承認に至るまでのすべての過程で完全に同意が得られるようにすることで、今後も堅牢な安定した法律になる」と説明する。

ポロ氏によると、エコシステムが「長年」求めてきたこの待望の法律が成立すれば、スタートアップの法的定義(他のタイプの企業との相違点を明確にするもの)から、スタートアップが人材を惹きつけて維持するための手段まで、多くの問題が解決されるという。

「ストックオプションを改正して、世界市場での人材確保競争で勝ち抜くための道具として使えるようにする必要がある」と同氏は言い、要するにスペインが、英国、フランス、ドイツなどの他の欧州諸国にはすでに存在している体制と競争できるようにすることが目標だと付け加えた。

「ビザも改正してそうした人材を再度、惹きつけ維持する必要がある。首相は投資の奨励、ある程度の減税についても話していた。エンジェル投資家にはより大きなインセンティブが必要であることは我々も理解している。プレシードおよびシードステージの投資については、法律で規定されたロジカルなシステムの導入が必要だ。他にもやるべきことはたくさんある。最終的な法案は経済産業省で作成され、その後閣僚会議に回される」と同氏は続ける。

ポロ氏は、スタートアップ法によって、スペインの創業者と投資家が持つあらゆる不満が即座に解消されるわけではないと警告する。当然だが、そこに至るまでには相当な時間がかかる。

「我々が戦略を立てるのもそのためだ」と同氏は強調する。「スタートアップ法への関心が高まっていることはわかっているが、私は常に、スタートアップ法と同じくらい重要なのがスペイン起業国家戦略であると言い続けている。スペインのエコシステムが抱える大きな問題を解決してくれるのは、まさにこの戦略だからだ。この戦略は、スペインが抱える4つの大きな課題に挑むものだ」。

「第一の課題は投資だ。我々はスペインでの投資の成熟速度を加速させる必要がある。投資件数は年々増えているし、状況は悪くない。今必要なことは、投資件数を加速度的に増やして、より早く成長し、近隣国(基本的にはドイツとフランス)との差を埋めることだ。この両国の投資件数はスペインの4~5倍にもなる。10年後には、スペインが欧州本土での革新的な起業家に対する投資をリードする存在になっていたいと思う」。

「第二の課題は人材だ。起業国家を構築するには、持てる人材をすべて注ぎ込む必要がある。そのため、国内の人材を育成することはもちろん、海外の人材も惹きつけて、その人材を維持する必要がある。さまざまなツール(仕組み)をスタートアップ法に含めることを検討してきた理由もそこにある」。

「第三の課題はスケールアップだ。スペインには、成功とはすなわち自社を売却することであると考えている企業がたくさんある。それはそれでまったく問題ない。だが、スペインが国として求めているのは、会社の売却を成功と同じ意味とは考えずに、世界中の他のスタートアップを買収することを考える企業が今後どんどん増えていくことだ。つまり、成長する企業、スケールアップする企業が増えていくことだ。今、大企業の構築を始めれば、2030年までには、スペインで質の高い数千の雇用が創出される。これが起業国家戦略の最終目標であり、最も重要な点だ」。

「第四の課題は、政権を起業家精神を持つ政権に変える、つまり、政権内において敏捷性を向上させ、ポジティブなベンチマークを打ち立てていくということだ。さらには、高リスクを厭わないベンチャーキャピタルファンドでさえできない投資をときには公的部門が行うことも意味する。こうしたビジョンを提示し、そのビジョンを達成するための手段を用意することこそ公的部門の役割だからだ。スペインのエコシステムが抱えるすべての課題のうち、この課題は戦略の中で組み立てる必要がある。スタートアップ法という1つの法律だけでなく、スペイン起業国家戦略に含まれる50の対策すべてを使って対処すべき課題だ」。

より包括的な起業国家戦略では、特定のプロジェクトによって今後2年間で策定すべき9つの優先アクションについて説明されている。ポロ氏は、このプロジェクトは、EUのコロナ復興基金によって近々に加速化されると見ている。

同氏は2つの優先プロジェクトを目玉として挙げている。1つは、起業家と政策立案者を広範なエコシステムに結びつけるネットワークを作ること。もう1つは、インキュベーターとアクセラレーターをつなげて創業者向けの国家支援ネットワークを構築することだ。どちらも、他の欧州諸国で採用されているアプローチから着想を得たものだ。

これらのプロジェクトの中にOficina Nacional de Emprendimientoというプロジェクトがある。これはフランスのLa French Techに強く触発されて立案したもので、起業家、投資家、およびエコシステムの他の構成要因が、中央政府、地域、CP評議会のあらゆるコラボレーション機会に参加するためのワンストップショップを作ることにより、それぞれの領域での起業家精神を向上させることを目的とする。

「また、Renace(Red Nacional de Centros de Emprendimientoの略)のようなプロジェクトもある。これもやはり、とても興味深い取り組みを行っているポルトガルのネットワークから着想を得たものだ。目的は、スペインのさまざまなインキュベーター、アクセラレーター、ベンチャービルダーをつなげることだ。まずはつなげて、そこから価値を付加していくのだが、その際にさまざまな格差に焦点を当てる」。

「Renaceでは、特に、地域間格差の解消に焦点を当てている。例えば、バルセロナに本社を置く企業に所属するカセレス在住のエンジニアと仕事をするとか、マラガで創業した会社に所属するバスク自治州在住のデザイナーのチームと仕事をするといったことができたら非常におもしろい。Renaceでは、国レベルで一体化することを目的としており、単に個々の都市だけでなく、起業国家になることを見据えている。スペインにはこうした仕組みを構築するポテンシャルがある。それと同時に、他にも多くの問題がある」。

フランスだけでもR&Dとデジタル分野の直接支援に年間数十億ドル(数千億円)を費やしている。スペインは、EUからの調達資金を加えても、財政的に豊かな北ヨーロッパ諸国の「エコシステム」の支出レベルにはおよびそうもない。しかし、ポロ氏によると、スペインの計画では、現在の予算と、集めることができるリソースを最大限に活用するという。したがって、Renaceプロジェクトでは既存のインキュベーターとアクセラレーターをつなげること(そして官民パートナーシップの形成などによって「新しい価値」を追加すること)が重要となる。

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「スペインの起業国家戦略を読めば気づくと思うが、この計画は、起業国家の構築を開始するために億万長者がテーブルの上に用意した資金で始めるといった安易なものではない。そうではなく、ビジョンを作成し、手持ちのさまざまなピースを組み合わせて堅実に築いていくものだ。スペインという国が持っているさまざまな資産をうまく連携させて、今手元にあるすべてのものを最大限に活用できるようにする、そんな計画だ」。

スペインはすでにスタートアップクラスターの最前線でよく健闘している、とポロ氏は主張する。欧州で「起業に最も適した都市」といった類のリストで同一国内の都市がいくつも上位10位にランクインしているのは、ドイツ以外ではスペインだけだ。「イノベーションを起こす起業家を求める世界的な競争」に参戦するスペインの都市が増えているため、こうしたリストにおけるスペインの順位はさらに上がっている、と同氏はいう。

同氏はまた「スペインのあちこちに、起業家がこの種の経済を形成するのを支援する場所になりたいと渇望している都市や地域が多数存在している。これからもっと増えるだろう」と指摘し、Renaceのソーシャルインクルージョンがもたらす価値に期待を寄せている。

「Renaceを通じて、前述の国家支援ネットワークを形成し、付加価値を生み出したい。ここでいう付加価値とは、サービスを提供し、公共部門と民間部門のパートナーシーップを形成して、国内に存在するさまざまな場所の価値を高めることだ。例えば、バルセロナにある会社が、カセレスなどの都市でたくさんのエンジニアを見つけることができたらどうだろう。カセレスは給与が安いためバルセロナの会社の競争力が高まる。カセレスで最高水準の給与を支払ったとしてもバルセロナで支払う給与の3分の2ほどで済む。こうしてバルセロナの会社は競争力を高めることができるが、効果はそれだけではない。カセレスの都市に住んでいて、ずっとカセレスにいたい、家族と一緒に暮らしたい、カセレスで一生かけてやりたいことがある、と思っているエンジニアはカセレスに残ることができる。これが、地域間格差を解消して、真の意味で統合されたスタートアップ国家として歩み続けていく方法の一例だ」。

「スペイン起業国家戦略の最終目標は、スペインをさまざまな危機の影響を回避できる国家に作り変えることだ。例えば、2008年のリーマンショックでは大半の脆弱な雇用が一夜にして失われた。失業者数が数万人単位で増えたほどだった。若者は特に大きな打撃を受け、失業率は55%を超えた。移民や50歳以上の人たちも同じだった。あのような事態は二度と起こしたくない。そのためにスペインには何が必要か、という点について深い議論が行われ、国の生産基盤を変える必要がある、という結論に達した」と同氏は続ける。

「革新的な起業セクターが先頭に立ってスペインの新しい経済モデルを推進する戦略を組み立てる理由もそこにある。このモデルでは推進役となるさまざまな経済セクターを活用することになる。つまり、この戦略に記載されている10のセクターだ。どのセクターも21世紀の戦略には欠かせないものである。これが、新世代の政治家によって立案された、新世代の野望に応えようとする戦略であることを考えるとなおさらだ。しかし、その戦略ではこの現象の社会的影響が考慮されていない。我々がインクルージョン政策の策定にも注力しているのはそのためだ」。

ポロ氏はスペインを旅して回ったときに出会った特に有望なスタートアップについて、具体名を挙げることはせず、その代わりに、近い将来必ずスペイン国内および(政府が望むように)海外でビジネスをディスラプトすると同氏が信じている「多数の超革新的企業」(バッテリー充電会社から、衣類の新しい製造方法に取り組んでいる小売りディスラプタまで、広範囲に及ぶ)に言及した(同氏は簡潔に「想像が追い付かないほどの多様なイノベーション」と表現した)。

ポロ氏は、自分の最重要使命は「世界中にスペインの存在を知らしめること」だと認め、次のように付け加えた。「我々があらゆる機会をとらえて取り組んでいるのは、これらの企業の認知度を高めることだ。スペインには、国として成功するために、そして、歴史上最大の社会的インパクトを生み出す起業国家になるために必要なものがすべてそろっていることを、スペイン人だけでなく世界中の人たちに知らせることが我々の使命だ」。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

【コラム】都市のモビリティを改革する可能性を秘めたコンピュータービジョンソフトウェア

本稿の著者Harris Lummis(ハリス・ルミス)氏はAutomotusの協同ダウンダーでCTO。

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2019年10月、ニューヨーク・タイムズは、ニューヨーク市内では毎日150万個の荷物が配達されていると報じた。顧客にとっては便利で、世界のAmazon(アマゾン)にとっては利益になるが、これほど多くの箱を倉庫から顧客に届けることは、都市にとってかなりの外部不経済を生み出す。

タイムズは「利便性の追求は、ニューヨークをはじめとする世界中の都市部の交通渋滞、道路の安全性、汚染に大きな影響を与えている」と報じた。

この記事が発表されて以降、新型コロナウイルスの世界的流行により電子商取引は興隆を極めており、専門家はこの上昇傾向がすぐに弱まることはないと考える。戦略的な介入がなければ、私たちの都市はますます深刻な交通問題、安全問題、汚染物質の排出に直面することになるだろう。

都市部の道路には、何十年もの間、同じような問題がつきまとっている。しかし、テクノロジーがようやく追いついてきて、密集した都市の道路における混雑、汚染、駐車違反の取り締まりなどの課題に対処する新しい手段を提供できるようになってきた。

常にそうなのであるが、効果的な解決策は、まず問題を引き起こしている詳細な状況を理解することから始まる。今回のケースでは、問題に対処する方法は、街灯カメラを使って路上駐車や道路交通を観察することで、問題点を簡単に把握することである。

公共の場を監視するためにカメラを設置すると、すぐに熱狂的なプライバシー擁護派(私もその1人だ)の怒りを買うかもしれない。だからこそ、私の会社と同類の企業は、プライバシー・バイ・デザインのアプローチで製品開発を行っている。当社の技術は、映像をリアルタイムで処理し、顔やナンバープレートを認識できない程度までぼかしてから、社内や公的機関に画像データを提供することで、監視目的での悪用に対する懸念を払拭する。

これらのカメラの目的は、監視することではなく、実際の都市の道路から得られる具体的なデータを活用して、重要な洞察をもたらし、路上の駐車スペースにおける自動化を促進することだ。Automotusのコンピュータービジョンソフトウェアは、すでにこのモデルを使って、前述のような路上に氾濫する商用車の管理手段を都市に提供している。

この技術は、駐車場の回転率を最適化したり、インセンティブを与えたりするためにも利用できる。ある調査によると、ニューヨーク市のドライバーは、駐車スペースを探すために年間平均107時間を費やしている。ドライバー1人当たりの無駄な時間、燃料、排出ガスのコストは2243ドル(約24万円)に上り、ニューヨーク市全体では43億ドル(約4400億円)にもなる。このような無駄な動きは、米国国内だけでなく、世界中で起こっている。駐車スペースの需要に関する包括的なデータを収集することで、都市は、駐車スペースの供給と車両の実際の使用が適切に合致するような駐車政策を策定することができる。

ロヨラ・メリーマウント大学のキャンパスで実施したAutomotusの実験では、データを利用して駐車ポリシーを調整したところ、駐車場を探すドライバーによる交通量が20%以上減少した。データを利用して駐車スペースを最適化することで、駐車場の利用効率が上がり、駐車場を探す時間が短縮され、交通渋滞の解消につながる。また、駐車スペースの空き状況をリアルタイムに把握できれば、アプリやAPIを介してドライバーに空き駐車場を案内することも可能だ。

当社は、路上の駐車スペースにおけるあらゆる形態の活動に関する正確な最新情報を提供することで、都市プランナーがその都市の駐車スペースの時間的・空間的パターンを完全に理解できるようにしている。これによりプランナーは、その都市の特性に合わせた駐車スペース政策について、十分な情報を得た上で決定することができる。

おかげで「ここでどれくらいのタクシーからの降車が起きているか?」「火曜日の朝、どこの配送トラックが二重駐車(路肩に止めてあるクルマの横にさらに止めること)をしているのか?」といった質問に簡単に解答できるようになった。漠然とした試行錯誤的手法で政策を策定する時代は終わったのだ。乗客用駐車場、配送車専用ゾーン、タクシーエリアの位置、駐車料金の最適な設定、違反時の適切な罰則などについて、豊富な情報を基にした的確で影響力のある判断が可能になる。

この技術は、配送業者にとってもメリットがある。駐車スペースの空き状況をリアルタイムで把握し、予測することができれば、ルートの効率が向上し、コスト削減につながる。配送業者は罰金を払って路上駐車するのではなく、駐車スペースでの利用時間に応じて駐車料金を払えばよい(米国では税金控除の対象となる)。

オハイオ州コロンバスで行われた調査では、指定搬入ゾーンを設けることで二重駐車の違反が50%減少し、商用車が路上の駐車スペースに停車する時間が28%短縮された。FedExやAmazonのような企業にとっては、配送の効率が飛躍的に向上することでコスト削減につながり、その結果、駐車スペースの利用に適正な料金を支払い、浮いた資金を消費者に還元することができる。

現在は、いくつかのトレンドが相互に関連しあっており、新しい技術を道路や路上の駐車スペースに適用するには、特に好都合な時期だと言える。新型コロナの流行前、多くの都市は、人々が相乗りを利用するようになったことで、駐車場からの収入の減少に直面していた。現在、米国の何千もの自治体が、新型コロナの影響で大幅な予算不足に陥ることが予想されている。また、世界経済フォーラムの報告書によると、2030年までに都心部では商業用配送車両の数が36%増加すると予測されている。当社の調査によると、駐車違反の50%以上が商用車による違反であり、取締りを受けていないことが分かっている。

コロンバス市が2016年の米国政府の「Smart City Challenge」で優勝したのは偶然ではない。バラク・オバマ前大統領が2015年に「スマートシティ」構想の一環として1億6000万ドル(約176億4500万円)以上を拠出した際、プログラムの主要な目標の1つとして渋滞と汚染の削減が掲げられた。これらの目標を達成するためには、駐車場や路上の駐車スペースの管理を改善することが重要だ。ドナルド・トランプ前大統領は、大規模なインフラ計画を掲げて選挙戦に臨んだが、この分野での彼の公約の実現は不十分なものだった。米国政府の支援がないにも関わらず、サンタモニカなどの都市では、ダウンタウンの中心部にゼロエミッションの配送ゾーンを実験的に設置するなど、有望な取り組みが行われている。

ジョー・バイデン大統領は、米国が気候変動対策と都市交通の近代化の両方にとって必要なインフラを構築する計画の概要を発表した。この計画には、電気自動車用の公共充電ステーションを50万台分用意すること、ドライバー、歩行者、自転車などが安全に道路を共有できるように都市を変革すること、重要なクリーンエネルギーソリューションに投資することなどが含まれている。

路上の駐車スペースの管理技術は、米国政府や地方自治体が都市の汚染を減らし、生活の質を向上させるために活用できる選択肢の1つだ。次期政権が、都市のモビリティの課題を解決するためのこの斬新なアプローチを支持してくれれば、米国のインフラは単に近代化されるだけでなく、未来への準備が整うことになる。

私個人としては、この改革が実現することを願っている。私たちの国の健康、安全、そして繁栄の共有は、これにかかっているのだ。

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(文:Harris Lummis、翻訳:Dragonfly)

【コラム】投資家とビジネスリーダーが今こそ導入すべきもの、それはコーチング

本稿の著者Ariane de Bonvoisin(アリアンヌ・ドゥ・ボンヴォワザン)氏は、最高経営責任者やスタートアップの創業者でVCのエグゼクティブコーチを務めている。彼女はOprahカンファレンスで基調講演を行い、TEDで講演した後、Google、Amazon、世界銀行、Union Square Ventures、Red Bullに招かれ、変化と創業者、スタートアップのウェルネスについて教えている。

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ビジネスの世界は、コーチングとは愛憎相半ばする関係のようだ。創業者たちはビジョナリーだ。彼らはアイデアと才能と夢は最初から持っているが、ビジネスのノウハウは必ずしも備えていない。起業家になるのにライセンスやトレーニングは必要ないからだ。Jeff Bezos(ジェフ・ベゾフ)氏はエンジニアでコンピューター科学者、Elon Musk(イーロン・マスク)氏は経済学者で物理学者という具合に、特定の資格が必要なわけではない。

他の業界では、すばらしい才能を持つ人物(アスリート、歌手、俳優など)がキャリアアップするために最初にやるのは、コーチを雇うことだ。そういう人物は、オリンピックで金メダルを獲っても、グラミー賞を獲っても、コーチングを受け続ける。

コーチのほうも、コーチングを受ける人のキャリアの最後までコーチングを提供する。タイガー・ウッズは、戦術を変え、パフォーマンスで他者に抜きん出るために多くのコーチを雇ったことで有名だ。

この国の文化は、自分の会社を築く創業者たちを、精神的にも肉体的にも個人的にも限界まで追い込む。創業者は単独でビジネスを行うものだという考えも根強くある。創業者たちは、助けを求めるのは弱さの象徴であると信じるようになっている。

この不名誉な社会的烙印を押されることに問題の多くの部分がある。我々がビジネス界の大物を尊敬しているのは、大学を卒業してから経営幹部レベルにまで難なく登りつめた人だと信じているからだ。しかし、水面下での苦労や努力は我々には見えない。私のクライアントが以前、こんなことを言っていた。最高と言われるリーダーたちでも、少なくとも生涯の3割の時間は自己破壊的な行いをしているという。シリコンバレーのトップクラスの億万長者たちは、栄養、子育て、瞑想、生活習慣などのコーチングを受けているが、私のクライアントの半分がそうであるように、彼らはその事実を表に出すのを嫌がる。

VCは、ビジネスに投資するのではなく、人に投資するのだということを分かっている。今、大量の資金がメンタルウェルネス関連スタートアップに流れているが、投資家たちは創業者自身のメンタルにも意識を向ける必要がある。投資先企業のすべての創業者たちがコーチングを利用できるようにすることで、ビジネスにエネルギーを注ぎ込むのを妨げている本当の問題に取り組むことになり、間違いなくVCとしての利益も向上するだろう。

1. 創業者が抱えているのはビジネスの問題だけではない

私はスタートアップの創業者やCEOをコーチングしているが、彼らの人生の難題の半分以上は仕事以外のことだ。彼らは実にさまざまな問題を抱えている。癌を患っている者もいれば、浮気をしている者もいる。IVF(特発性心室細動)に苦しんでいる者もいれば、過去の苦悩やトラウマに悩んでいる者もいる。

仕事関連では、コミュニケーションや心理的な問題を抱えていることが多い。「失敗の恐怖にどう立ち向かえばよいか?」「50人のチームを率いることになったが、これまでそうした経験もないのにどうすればよいのか?」「自分の直感を信じるべきかどうか?」といった問題だ。

こうした問題は、シリーズAの資金調達の最中に起こる。従業員の雇用と解雇、買収、ブリッジ資金を調達するか廃業にするかの決断といったことを行う必要があるからだ。こうした本質的な問題に1つ1つ対応しながら投資家の前や取締役会では平気を装うのに、創業者たちが(いや、誰でもそうだと思うが)どれほどの精神的エネルギーと時間を費やすのかを想像してみて欲しい。

創業者が私に話してくれる心配事の中で最も多いのは、彼らは孤独を感じているというものだ。

VCが誰かに資金を調達するということは、その人の過去、家族、個人的問題をすべて受け入れるということでもある。すべて込みである。次のように自問してみて欲しい。「現在、投資先企業の創業者たちすべての人生においてビジネスの妨げになっている主要な懸念事項を把握しているだろうか」と。もし把握していない場合は、彼らの人生に何か仕事以外の問題が起こっていると仮定してみることから始めてみよう。そして彼らがいつでもコーチングを利用できるようにしてみよう。

創業者たちに対して、自身の恐怖、自信の減退、盲点に対処するためのサポートを提供することは、会社または業界のリーダーとしての彼らの潜在能力を引き出すことにつながる。健全な企業は健全なリーダーシップがあってこそ成立するのだから。

2. コーチングの効果(ROC)

一流サッカー選手のコーチと同様、ビジネスコーチングの利点は明白である。しかも億単位の経費がかかることもない。創業者はコーチングを受けると、最初から意思決定の質が向上し始める。従業員を採用して研修したものの1カ月以内に解雇してしまうようなことがなくなり、適切な人材を雇用するようになる。

利害関係者とも誠実に会話するようになり、争い事を避け、多くの人たちがビジネスの成長に有意義に貢献できる環境を築けるようになる。資金調達についても正しい考え方をするようになり、そうした姿勢によって目標調達金額を達成できる。

さらには身体面でも改善が見られるようになる。私のコーチングを受けた創業者たちは、減量に成功し、飲酒喫煙もやめ、ビジネスの構築により多くのエネルギーを注ぐようになった。多くの創業者たちがそうだが、慢性疲労状態で働き続けると、すぐに体が悲鳴をあげる。私のところにも、大きな会議の前にパニック発作を起こしてしまい、ピリピリしている神経を何とか落ち着かせようとしているクライアントから電話がかかってくることがある。

創業者の健康に資金を出す方法はいろいろだ。投資先企業にマーケティングやPRサービスを提供するのと同様に、コーチングもサービスの一部として提供すべきだ。従業員のために管理職向けコーチを設置することもできる。必要なときにいつでも利用できるフルタイムの常駐コーチを選択するのもよいだろう。

VCは、少なくとも、推奨するコーチの一覧を用意する必要がある。リーダーシップのコーチング専任のコーチもいれば、女性創業者や健康面専門のコーチもいる。さまざまな個人スキルや職業スキルに対応しているコーチもいる。

中には、創業者にいくつかの無料セッションを提供し、創業者が継続を希望すれば、創業者個人の健康とビジネスの健全性のどちらについてコーチングを受けるか選択してもらう投資家もいる。そのビジネスには、他の投資家たち(読者のみなさんのVCも含め)も億単位の資金を投資しているだろう。しかしこれは、創業者個人の健康かビジネスの健全性か、どちらか一方だけサポートすればよいという話では決してない。

私の望みは、将来、VCが資金の一部を創業者と経営幹部のメンタルヘルス用に確保するようになることだ。

そうした目的に1%を確保することを誓約しているVCも数社存在するが、この領域で先頭に立っているのは欧州だ。エストニアやアイルランドのファンドは、すべての創業者のコーチング料とその他のサポートプログラム費用を出すという太っ腹ぶりだ。私の知っているプログラムでは、資金を枯渇させることなく10倍の成長を達成する方法について教えている。

3. 社会的汚点を打ち砕き創業者がコーチングを最大限に活用できるようにする

創業者たちは、投資家や取締役たちにどう思われるかを気にして自分でコーチを雇いたがらない。「自分が正常で優秀なら、コーチなどいらない」と自らに言い聞かせているのだ。

そう思っているのは何も彼らの内なる声だけではない。私のクライアントの1人は、シリコンバレーのスタートアップに入社したとき、コーチングを彼の報酬パッケージに含められるかどうか上司に聞いたところ、なぜコーチなど必要なのか不思議に思われたという。

他の業界では、誰かにコーチを付けることはその従業員の価値を認めていることの証である。投資家も次のような会話を持つべきだ。「君にはお金を出す価値があると思う。だから、今後の君のキャリアを支援するコーチを付けることにする。自分はできるなどと無理をしないでいつでも相談して欲しい」。

「メンタルヘルス」という言葉には否定的なニュアンスもあるため、この用語も考え直す必要がある。メンタルとヘルスという2つの単語は、うつ病、自殺思考、中毒といったことを連想させる傾向がある。つまり、精神的に不健康な状態だ。メンタル面の健康と創業者の健康についてもっと話そう。そうすれば、我々が掲げる目標の達成により注力できるようになる。

不名誉な社会的烙印を排除するには、まず、投資家と経営幹部の間で健康についてオープンに話し合うことから始めるとよい。そこにコーチも招き、こうした話し合いの意味について、また関係者全員の利益になる理由についても創業者に話してもらうようにする。タブーを打ち砕くことで、創業者は、その経験を最大限に活かすことができ、体裁を取り繕う状態に戻ることはなくなる。

今後コーチングを導入する企業が増えていけば、最終的には、すべての創業者がコーチングを必須と考えるようになるだろう。

4. 模範を示す

最後に、ビジネスリーダーと投資家はスタートアップコミュニティ、とりわけ起業したばかりのスタートアップに向けて、自身を高めるためにコーチのサポートを求めることは何も恥ずかしいことではないという先例を作る必要がある。

多くのVCは、トップクラスのCEOと同様、コーチを雇っている。VCがもっと手軽にコーチを雇うようになれば、コーチングの導入が当たり前となり、#IHaveACoachなどというハッシュタグがおしゃれにさえなるだろう。結局、我々は、瞑想ルームを流行させたり、kombuchaをオフィスに用意したりするメンタルヘルス系スタートアップたちと同じ業界の話をしているのだから。

今後の投資家会議でコーチングを主題にしたり、VC企業として、コーチングプログラムを受けた投資先創業者たちがビジネスで大きな成功を収めたケースについて調査を公開したりするのもよいだろう。

例えばUnion Square Ventures(ユニオン・スクウェア・ベンチャーズ)は創業者に価値を提供することに投資し、リーダーシップのトレーニング開発、メンターシップサークルの育成、創業者へのコーチの紹介といった業務を担当するチームを構築してきた。創業者にVC自体が人の心のケアに投資していることを示せば、創業者たちも人間的であることが弱いことだとは思わなくなるだろう。

こうしたアプローチは、VCが自身を次世代のエシカル投資家として位置づけるためにも重要だ。さまざまな資金調達方法が利用できる今、創業者は、単に資金を提供してくれるだけでなく、健康、ダイバーシティ、インクルージョンを成功に欠かせないものと見なすVCを探している。

創業者の健康とスタートアップの健全性は切り離すことができない。すべての投資家たちはこの点についてある程度気づいている。未来を形成する人たちの身になって考えてコーチングを導入することにより、創業者たちにストレスなく働き、すばらしい結果と信じられないリターンを達成するチームを率いる優れた技量を身につけてもらうようにしよう。

カテゴリー:VC / エンジェル
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画像クレジット:Klaus Vedfelt / Getty Images

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(文:Ariane de Bonvoisin、翻訳:Dragonfly)

【コラム】WeWorkはサービスをバラ売りすることで立て直しを図っているがその戦略はうまくいくのか

長年にわたり、WeWork(ウィーワーク)はテック企業と不動産企業のどちらに分類されるかという議論があった。WeWorkについて大部分の人々は当初、テック系スタートアップを装った不動産系スタートアップだと考えていた。

WeWorkが多くの不動産を手に入れることで、その分類は曖昧になっていった。そしてご存じのとおり会社の評価額が急落したため、IPO計画が白紙となった。現在、SPAC株式を公開することがうわさされているWeWorkの評価額は100億ドル(約1兆894億円)だが、2019年1月にSoftBank(ソフトバンク)によるシリーズHラウンドで10億ドル(約1089億円)を調達後の470億ドル(約5兆1204億円)という評価額と比べると、評価が大幅に下がっている。

Adam Neumann(アダム・ニューマン)氏は、傲慢でお粗末な経営について批判を受けた共同創業者で当時のCEOだったが、その年の後半に辞任したことで有名だ。それ以来、WeWorkは名誉を挽回し、投資家や一般の人々の印象を良くしようと努力してきたことはよく知られている。

Marcelo Claure(マルセロ・クラウレ)会長は、5年にわたる戦略的再建計画を2020年2月に作成した。窮地に立つ同社は同じ月に、新しいCEOにテック系ではなく不動産を担当する幹部を指名したことで話題になっている。

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WeWorkはその後、評価額の引き上げと投資家の信頼回復を目指した計画の一環として、2022年までにフリーキャッシュフローの黒字化という目標を再設定した。

ライバルのKnotel(ノテル)が経営が悪化したため破産申請し、投資家に資産を売却するのを目の当たりにし、ノテルの失敗から教訓を得るべきだとWeWorkは気づいたようだ。

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ここでふと、WeWorkは本当に危機を脱したのかという疑問がよぎる。

オープンしていないロケーションや採算がとれないロケーションからWeWorkが撤退した件数は、再建計画の策定以降で100件を超えるという(同社のウェブサイトによると、世界中に800件以上のロケーションが残っている)。さらに、WeWorkの純損失は、2019年第3四半期の12億ドル(約1308億円)から2020年第3四半期には5億1700万ドル(約563億円)に減少した。

一方で収益が悪化した原因は、新型コロナウイルス感染症の影響と思われる。2019年第3四半期に9億3400万ドル(約1018億円)だった収益が、2020年第3四半期には8億1100万ドル(約884億円)に減少した。

WeWorkはパンデミックで苦戦を強いられているが、これはチャンスであるという意見もある。

テレワークでの業務により、人との距離を保たなければならないため、ほとんどのオフィススペースは苦戦している。WeWorkもこの状況を乗り切らなければ、評価額や収益に大きな打撃を受ける可能性が高い。

世界中の不動産会社と同じように、WeWorkも頭を抱えている。テレワークが一時的なものではなく、多くの企業が今後も継続していく方向性を検討している状況であるため、物件の所有者も対応しなければならない。

たとえばMcKinsey(マッキンゼー)が最近指摘したように、物件の所有者には柔軟性がさらに求められ、テナントのリース契約を考え直すことを余儀なくされている。つまり、商業不動産スペースの経営者には、WeWorkのような柔軟性が必要であるということだ。

状況に適応しようとすでに動き出しているWeWorkは、同社の会員専用プランがうまくいっていなかったことに気づいた。会員数が減少していることからそれは明らかだ。そのため同社は、On Demand(オンデマンド)オプションとAll Access(オールアクセス)オプションを新設することで、多くのユーザーに建物を開放することにした。例えばテレワークにうんざりしている人に対して週に1回、仕事をする場所を提供することが目的だ。さらにWeWorkは企業や大学と協力し、オールアクセスの特典としてオフィススペースを提供するチャンスや、学生に学習場所を提供するチャンスを見いだした。

たとえばジョージタウン大学は、WeWorkとかなりユニークなパートナーシップを結んだ。WeWorkのロケーションの1つを「ジョージタウン大学の代替図書館および共用スペース」として提供している。Brandwatch(ブランドウォッチ)などの企業も最近、これまで使用してきたWeWorkのスペースの代わりにオールアクセスのパスを従業員に渡して、世界中にあるWeWorkのロケーションを利用するようにしている。

WeWorkは2021年初めに、週末と営業時間外にスペースを使用する予約サービスも新たに始めた。

スペースのバラ売り

筆者はWeWorkの新戦略について、Prabhdeep Singh(プラッブディープ・シン)氏から話を聞いた。同氏はWeWorkのマーケットプレイスグローバル責任者で、新しいサービスを統括し、WeWorkのオンライン化に向けて指揮をとっている。

「私たちが取り組んでいるのは、スペースをバラ売りにすることです。これまで当社のスペースを利用するには、サービスがまとめられたサブスクリプションと、月額制の会員サービスしかありませんでした。新型コロナウイルス感染症によって世界が変わりつつあるため、当社のプラットフォームをより多くの人々に開放し、できる限り柔軟に利用できるようにしました。例えば、部屋を30分だけ予約したり、1日利用券を購入したりできます。いろんなユースケースが可能です」と彼は述べた。

シン氏によると、2020年8月にニューヨーク市でオンデマンドサービスが試験的に開始されて以来、サービスの需要が着実に伸びており、2020年第4四半期と比べて予約数は65%、売上は70%増加している。ただし、これはまだ初期段階で、サービスは小規模に開始されたにすぎない。オンデマンドサービスの予約のほぼ3分の2はリピーターによるものだと、シン氏は付け加えた。

「私たちは1年半をかけて、注力するべきものとそうでないものを真剣に考えてきました。スペースを柔軟に提供する企業として、今後の状況を注視しています。商業オフィススペース業界で当社は小さな存在にすぎませんが、テクノロジーを駆使しつつアプリを改善しながらスペースのデジタル化を進め、柔軟にワークスペースを提供できるように取り組んでいます」とシン氏はいう。

今のところ、わずかながら状況はよくなっているようだ。WeWorkによると、2月のアクティブユーザー数は1月の約2倍になった。勤務時間外に利用することを希望するユーザーが多いようで、週末の予約数が予約全体のおよそ14.5%を占める。

WeWorkによると、既存メンバーがパンデミック期間中に、すでに利用しているプライベートオフィススペースに加えて、2020年2月にオールアクセスパスを購入した件数は1月の2倍になった。

新型コロナウイルス感染症の流行が始まった頃、WeWorkの利用を中止する数が多かったのは大企業の会員よりも、中小企業(SMB)会員だった。SMBはその事業の性質上、キャッシュフローを迅速に管理することが必要であるというのが一因だが、2020年第3四半期には、SMB向けの売上高が第2四半期に比べ50%増加した。

WeWorkを使用する大企業の割合は、パンデミックの期間中にSMBの2倍近くになり、現在ではWeWorkの会員数の半分以上を大企業の会員が占めているのは興味深い。

WeWorkは特定の市場で不動産に新たに投資する速度を緩めるのと同時に、物件を売却することで規模の「適正化」に取り組んでいる。

WeWorkの財務状況に関して言えば、3月2日時点で、同社の債権は株式公開に失敗した2019年夏以来の高値で取引されているという。これは、下落率が約28%の52週安値から大幅に上昇している。

「利回り約10%に対して約92%となっており、債権者は明らかに肯定的に反応しています。ワークスペースを提供するWeWorkの柔軟なサービスが、不動産の将来において有望な役割を果たすという市場全体の信念を、債権者の反応が証明しています」とスポークスマンはTechCrunchに語った。

2020年の3月、WeWorkの債権1ドル(約110円)に対して43セント(約50円)で取引されており、S&P Global(S&Pグローバル)はWeWorkの信用格付けを「投資不適格」に引き下げ、さらなる格下げを警戒して同社に目を光らせている、とForbes(フォーブス)誌は報じた。

この状況にWeWorkは適応しきれていない。シン氏がTechCrunchに語ったところによると、WeWorkの価値提案をさらに拡充するために「Business in a Box(ビジネス・イン・ア・ボックス)」の提供に取り組んでいるという。2020年末、WeWorkは複数の企業と提携し、SMBやスタートアップに給与計算、ヘルスケア、ビジネス保険などのサービス提供を開始した。

「WeWorkを利用するユーザーの多くがビジネスを拡大させています。当社はビジネス面での主要サービスを提供し続けています。その一方で、中小企業で管理が煩雑になりやすく、コストがかかる人事などの重要な分野でも、サービスをさらに提供できるように取り組んでいます」とシン氏はいう。

さらにWeWorkは、オンデマンドのサービスをグローバルに提供することで、世界中のWeWorkのスペースでユーザーが仕事を進められるように尽力している。

「現在、テレワークの実験が最大規模で進められています。今後、職場に復帰する実験が最大規模で始まるでしょう。当社は非常に有利な位置にいると言えます」とシン氏は述べた。

WeWorkは、一歩先を行く不動産会社になろうとしているようだ。アダム・ニューマン氏が同社を率いていた頃ほどの派手さはないかもしれないが、需要がある安定した会社になりつつある。ただ、多くのことをあまりにも短い期間で進めようとしているのではないか?

今後の展開が楽しみだ。

カテゴリー:その他
タグ:WeWork不動産コワーキングスペースコラム

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

黒人創設者に投資せずにチャンスを逃す投資家たち

本稿の著者Craig Lewis(ジョセフ・ヘラー)氏は契約社員向けに開発されたシンプルなフィンテック給与計算プラットフォームであるGig Wageの創設者兼CEO。

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黒人である私は、米国でとても苦労している。テクノロジー業界では特に珍しい黒人創設者として、まったく勝ち目のない戦いを強いられている。

ベンチャーキャピタルからの資金が1%に満たない投資先には、制度化されたシステムの影響が重くのしかかる。私は起業家として活動してきたこれまでの約10年間で、成功した分だけ挫折や失敗を経験してきた。

黒人の起業家コミュニティを苦しめている格差にも耐えながらも、私は前進してきた。資金を調達しにくい中で最小限の資本とチャンスを確保しながら、黒人は存在感を示し、力強く前進している。

ハンデを負いながらも、自分のベンチャー事業に1300万ドル(約14億円)近くの資金を意欲的に調達したCEOとして思うことは、黒人の創設者が損をしているわけではないということだ。むしろ、力強く前進する黒人創設者を過小評価していることに気づかず、儲け損なっている投資家が損をしているのだ。

ベンチャーキャピタルとテクノロジーの融合(つまりこの2つをどのように機能させるか)をエンジニアリングの視点から考えると、答えにたどり着く。開発者やプログラマーになりたい人は通常、特定の学校やカレッジに進学することで、成功への階段を上り始める。

多くの黒人学生(特に男子学生)は以前から、高等教育を受けるためにスポーツに打ち込んでいる。テクノロジーに関する能力を教育機関に認めてもらう必要はあまりない。

黒人学生の両親やコミュニティは、スポーツに打ち込むことを後押しする。これまでの歴史で作り上げられた固定観念があるため、成功への道がそれしかないと思い込んでいる。学生がテクノロジーの世界へつながるレールに乗らなければ、つまり、多くのテクノロジー企業の創設者を輩出しているCal Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)、Stanford(スタンフォード大学)、Harvard(ハーバード大学)などに進学できなければ、すぐに「輪」の外に追いやられてしまう。これが、テクノロジー業界の黒人創設者にとって第一関門となり、その後もさまざまな障害を乗り越えなくてはいけない。

しかし私は、このような「障害」が黒人創設者の行く手を阻む壁ではなく、非常に大きな力を発揮するための重要なきっかけであると言いたい。

私の家族に起業家がおらず、一流大学についての情報を得る方法もなかったのは事実だ。良い成績を収め、特待生として卒業したにもかかわらず、Ivy League(アイビーリーグ)の教育が非常に価値のあるものであるということをまったく知らなかった。

私のスキルと成績があれば、全額支給奨学金のオファーがあったYale(エール大学)、Brown(ブラウン大学)、Columbia(コロンビア大学)、Southern Methodist(サザン・メソジスト大学)のような大学で、バスケットボールのスター選手としてプレーし、卒業することもできたかもしれない。しかし、それが可能であることも知らず、アイビーリーグの「輪」の中にいるメリットに関する知識もなかったため、私はそうしなかった。

私が大学で過ごした2000年から2004年の間に、多くのすばらしい企業がエリート校で創立された。私を含む多くの黒人学生に対して情報が遮断されるという傾向により、黒人学生の全体的な視野が形成され、それが見えない障壁となった。

その見えない障壁を突き破り、ぶれることなくハンデを克服し粘り強く前に進みつつ、私が対峙してきたような投資家や、私が創立したのと同じような会社と対話を続けるためには、黒人としての経験でのみ培える異次元の存在感が必要だ。黒人創設者は2021年以降、資金調達やテクノロジー企業を成功に導くためにその力を認識するだけでなく、解き放つ必要がある。投資家、ベンチャーキャピタリスト、起業家のエコシステム全体がそうしたことに留意することは賢明なことであり、非常に有益なことだ。

黒人創設者は発想を転換し続けることが必要だが、以下の5つの方法を実践しなければそれを実現することはできない。

黒人創設者のみなさん、資金調達の効果は忘れよう

黒人創設者(特にテクノロジー業界)には、資金不足を強調する屈辱的な統計が引き合いに出され「適切な方法で」資金を調達するためにワンパターンの台本が準備されている。ほぼ自動的にそのようなアプローチが採用されるようだ。そして、投資家のプレイブックとルールに従って投資家から資金を調達することを意図した、型にはまった起業家になろうとしている。

黒人創設者はこれに見合った資金調達策として、社会が押し付けることを黙って受け入れている。自分が交渉権を握っていることに多くの場合気づかず、自分のスタートアップの命運を投資家に委ね、媚びている。投資家が用意したこのようなプレイブックでは、黒人創設者になんの利益もない。今日からは自分自身の力を引き出すべきだ。

圧倒的な力を身につけ、専門知識を生かす

プレイブックは脇に置き、自分の専門性と独自性をもっと信じなければならない。

数年前、Mark Cuban(マーク・キューバン)氏がDallas Startup Week(ダラス・スタートアップウィーク)で基調講演を行い、成功への道のりを語った。同氏の主な主張の1つは「自分のビジネスを知り、自分のビジネスの短所に気づく」ことだった。とてもシンプルながらも、非常にインパクトのある内容だった。

私はキャリアを歩み始めて間もなく、スタートアップ企業で働いていた経験からベンチャーキャピタルについて学んだ。この分野を知り尽くしていたわけではなかったが、数年後に自分の会社のために資金を調達する際に、そこで得た若干の知識を参考にした。ベンチャーキャピタルとの取引には制限があったが、自分の経歴と専門知識(当時は給与計算テクノロジーの営業職)には自信があったので、自分の権利を堂々と主張するために交渉の席についた。

ベンチャーキャピタルは70億ドル(約7500億円)で会社を売却したり、350億ドル(約3兆7000億円)のAUM(運用資産)を持っていたりするかもしれないが、給与計算や給与計算テクノロジーには私ほど精通していないことを知っていた。このような強いマインドセットがあったからこそ、投資家に媚びるのではなく、投資家に向き合うようになり、対等な立場で交渉することができた。

すばらしい目標を共有する

人とのつながりや、ビジネスに必要な資金調達に至るすべての過程で、私はテクノロジー業界の黒人創設者として不当な扱いを何度も受けてきた。同じテーブルにつく人たちの中でも、世界観、政治的志向、宗教観など、不和の種となるものは数多くあるが、目の前のすばらしいビジネスチャンスに関与するという共通の目標を、関係する全員で共有することが何よりも大切だ。

そうすることで、ベンチャーキャピタリストが私個人や多様性を歓迎しているかを過剰に意識しないようにすることができた。起業家としての意欲的な気概を見せ、私の長所である黒人としての輝きに意識を向けることで、投資したいと投資家に思わせることができた。一言で言えば、情熱をもって意欲的に利益を上げようとする創設者に資金を提供したいと、投資家は思っている。あなたをあるがままに評価してくれる投資家を見つけよう。

できるだけ多くの投資家と会う

黒人創設者は、投資家と十分に向き合っていない。ベンチャーキャピタル界は総じて、黒人創設者のコミュニティを軽んじており、包括的なネットワークを拡大することができていない。現在マイノリティは、ベンチャーキャピタル業界にほとんど進出できていない。投資パートナーの80%は白人が占め、黒人(アフリカ系米国人)の割合はわずか3%に過ぎない。

黒人起業家はそれでも前に進み、表舞台に上がらなければならない。起業家が資金を調達する段階で顔を合わせる投資家は非常に多いため、機会を逸するたびに振り回されていてはならない。

現実的なことを言えば、資金調達には時間がかかる。見込みがある多くの投資家と話をすることで、私は現在の会社のために1300万ドル(約14億円)近くを調達できた。黒人創設者であれば資金調達にはさらに時間がかかり、もっと多くの人と会わなければならないだろう。ここで私は「障壁を乗り越え、ベンチャーキャピタルの関心を集めるのに十分な期間持ちこたえるための持久力があるか」と問いたい。貧富の格差を考えると、答えは「ノー」だろう。

Gig Wage(ギグウェイジ)の起業に乗り出した当初、投資家からの質問で一番多かったのは「どのくらい準備が整っているか?」だった。私は「目的を達成するまでの準備が整っている」と答える。そうすると投資家はもっと具体的に「銀行にはどのくらいの資金があるのか?あなたの奥さんは、このプロジェクトをいつまで続けさせてくれるのか?」と聞き直す。そして私は「銀行の残高がいくらかは関係ない、目的を達成するまで続けるつもりだ」と答える。

投資家は口には出さないが、資金調達のプロセスを持ちこたえるだけの経済的な能力と体力が私にはないだろうということを差別的に予想しており、このことに私は何度も大きく落胆した。銀行口座を見せれば、おおよそ9カ月から12カ月分程度の準備資金があったからだ。

黒人がベンチャーキャピタルから調達できる資金が1%にも満たないのは、米国社会の根強い人種差別が起業家のエコシステムにも影響しているからだ。それでも私は、これまで多くの投資家と面会を重ねてきた。絶対に成功するという意欲的な信念を持って耐えてきた。もう一度いうが、これが黒人の強さだ。

強靱さを備え、自分自身の力を発揮する

私は黒人男性として、米国の他の黒人男性と同じように、困難に耐えることで強靱さを培ってきた。警察への対応であろうと、麻薬、暴力、貧困で家族が苦しむ様子を目の当たりにすることであろうと耐えてきた。「投資家の会議や条件規定書を怖がる必要があるものか」とよく考える。私はもっとひどい仕打ちを米国の社会で受けてきた。

黒人創設者は強靱さを備え、自分の経験から得た力を活用する必要がある。そこから生まれる勝利を得るためのメンタリティは、ベンチャーキャピタリストに投資したいと思わせる類のメンタリティである。投資をしないで損をするのは、間違いなくベンチャーキャピタリストだ。

投資に値するのは「私はこの世界で不利な状況ではあるが、やめるつもりはない。柔軟に対応していくつもりだ。たとえ大変な状況でもそうする方法を考え出すのだ」という不屈の集中力を備えた人物だ。そのような人が画期的なビジネスアイデアを持っているとは限らないが、一般的に黒人には情熱があり、他の人が持っていない視点で物事を見ることができる。これは、ベンチャーキャピタリストが見落としている無限の可能性だ。

だからこそ2021年以降、特にテクノロジー業界の黒人創設者は、パラダイムを転換し、起業家のコミュニティで存在感を発揮し、力を取り戻し、黒人として最大限に輝くことで活動し続ける必要がある。チャンスを逃しているのは投資家であって、創設者ではない。遠慮する必要はない。勇気を持って大胆に行こう。

私自身が今できる一番良いことは、話題を提供し続け、格差を浮き彫りにし、黒人の起業家や専門家として成功して、世界全体のために貢献し続けることだ。力を保ち続け、先駆者として黒人の存在感を引き出していくことに尽力していきたい。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:アメリカGig Wageコラム

画像クレジット:Nuthawut Somsuk / Getty Images

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(文:Craig Lewis、翻訳:Dragonfly)

親しみ感ある短い音声メッセージを友達と共有するCappuccino、オーディオSNSが次のフロンティアか

CappuccinoはアンチClubhouseと言えるかもしれないが、同社はここ数年間でアプリの独自のコンセプトを練り上げてきており、CEOはClubhouseに対して競合だとは考えていない。Cappuccino自体が興味深いソーシャルアプリであることは確かだ。忠実なユーザーベースを引きつけており、TikTokの動画がバズってから特に顕著になっている。

同スタートアップは、友達とポッドキャストを録音できるアプリを構築中であることを明らかにした。ここ数年、ポッドキャストの存在が多くの人に認知されつつある。ポッドキャストでは、オーディオ番組をサブスクライブしたり、オンデマンドでエピソードを視聴したりできる。

まず、人々は彼らなりの興味を持ってポッドキャストの視聴を開始する。しかし、友達同士でポッドキャストの話題になったときには、ホストのパーソナリティの魅力からその番組を気に入っているという話になるだろう。

ポッドキャストを聞くことは、他に類を見ないコンテンツ消費体験だ。YouTubeで特定のユーチューバーが公開した動画をすべて見たり、Instagramで誰かをフォローしてその人の個人的な生活をよく知って親しみを覚えたりすることもあるだろう。

しかし、イヤフォンを耳に入れたまま何時間も人の話を聞くのはかなり親密な体験だ。ポッドキャストでは、何人かの友人と部屋に座って彼らの話を聞いているような感じがする。

ただし、お気に入りのポッドキャストのホストは友達ではない可能性が高い。

そこにCappuccinoの特性が活かされるニーズがある。同アプリでは、友達や家族とグループを作ることが可能だ。グループのメンバーは、Beanというショートオーディオメッセージを録音できる。自分が考えていることについて数分間語るものだ。翌朝、グループのメンバーに「朝のカプチーノが入りました」というお知らせが届く。

「再生」をクリックすると、クールなイントロ音楽が流れ始め、友人からの音声メッセージが聞こえてくる。これは単なるボイスメモの連なりではなく、友達からのハッピーなメッセージ、楽しいメッセージ、思いやりのあるメッセージがミックスされたリラックスした雰囲気が感じられるものだ。

Cappuccinoはソーシャルアプリでありながら、親しい友人や家族に焦点を当てている。フォロワーを増やそうとするものではなく、公開投稿を共有するものでもない。すべては個人仕様に設計されており、実生活の友達のグループにフォーカスされている。

いろいろな意味で、Snapchatのグループストーリーを彷彿とさせる。しかしCappuccinoの主たるインスピレーションの源は、Snapchatではなくポッドキャスティングであった。

画像クレジット:Cappuccino

プロトタイプを早期に作成し、頻繁にイテレーションを行う

同社の共同創設者兼CEOのGilles Poupardin(ジル・プパルダン)氏にアプリの起源について話を聞いたところ、Cappuccinoはプパルダン氏の最初のスタートアップではないようだ。同氏はWhydで数年間、スタートアップとしてのあらゆる経験を積んでいる。資金調達ラウンドを行い、事業の方向転換を決め、ベイエリアのY Combinatorに参加した後、自社のCTOと道を分け、同スタートアップの閉鎖を決断した。

Whydは、AmazonのEchoやGoogleのNestが本格的に登場する前に、ボイスコントロール機能を備えたコネクテッドスピーカーの開発に取り組んでいた。しかし大手テクノロジー企業と競合するのは厳しく、ハードウェアの分野で競争することはさらに困難を極める。

その後Whydのチームは、ユーザーが独自の音声アシスタントを作成できるサービスに取り組んだが、それも期待どおりにはいかなかった。

2019年の夏、Olivier Desmoulin(オリヴィエ・デスモラン)氏はプパルダン氏に連絡を取った。当時デスモラン氏は、オンラインのプライバシーを守るためのアプリであるJumboの設計に取り組んでいた。

「当時、私は会社を再び始めたいかどうか迷っていました。私が(Whydで)行った方向転換は15回にも上りました」とプパルダン氏は語った。

しかし、両氏はソーシャルアプリの次のフロンティアとして、ポッドキャストとAirPods、そしてオーディオ全般について議論し始めた。基本的な前提はシンプルだった。ポッドキャストを聞いている人はたくさんいるが、自分でポッドキャストを作っている人はほとんどいない。

あなたの親しい人が自分のポッドキャストは持っていなくても、InstagramやSnapchatには時々投稿する理由は3つある。

ポッドキャストは長い形式のコンテンツである。

ポッドキャストを録音して公開するのは技術的に難しい。

自分を知らない人たちをオーディエンスとして引きつけようとしている。

Cappuccinoでは、短いコンテンツ、録音しやすい、パーソナルなものという3つの点で従来とは逆のスタンスを目指している。音声を録音する人にとっても、音声を聞く人にとっても、より良い体験になるはずだ。

Cappuccinoの最初のバージョンはアプリではなく、サイドプロジェクトとなっている。「WhatsAppでグループを作って10人から15人を招待し、彼らが録音したボイスメモをオリヴィエへ送ってもらいました」とプパルダン氏は説明する。

オリヴィエ・デスモラン氏が毎晩、GarageBandを使ってすべてのボイスメモをミックスしたものを作成する。朝、同氏はWhatsAppのグループ会話に「カプチーノができました」とメッセージを送る。

画像クレジット:Cappuccino

グループメンバーから肯定的なフィードバックを得た後、プパルダン氏とデスモラン氏はさらに前進してアプリの構築を目指すようになったが、ユーザーを引きつけるソーシャルアプリの作成が非常に難しいことを知っていた。誰も使わないようなものを開発することに時間を浪費しないように留意しながら、迅速に開発を進めた。

「私たちは試しにアプリの最初のバージョンを4日で構築しました。バックエンドサービスとしてAirtableを採用しています」とプパルダン氏は続けた。

またしても、ベータ版ユーザーからのフィードバックはかなり良いものだった。両氏はこのアプリを一部の投資家に披露し、最終的にAlexia Bonatsos(アレクシア・ボナツォス)氏(Dream Machine、元TechCrunch編集者)、SV Angel、Kevin Carter(ケビン・カーター)氏(Night Capital)、Niv Shrug Capital、Jean de La Rochebrochard(ジャン・ド・ラ・ロシュブロシャード)氏(Kima Ventures)、Kevin Kuipers(ケビン・クイパース)氏、Willy Braun(ウィリー・ブラウン)氏、Marie Ekeland(マリー・エケランド)氏、Solomon Hykes(ソロモン・ハイクス)氏(Dockerの創設者)、Pierre Valade(ピエール・ヴァラード )氏(SunriseおよびJumbo Privacyの創設者)、Moshe Lifschitz(モシェ・リフシッツ)氏(Basement Fund)、Anthony Marnell(アンソニー・マーネル氏)、Bryan Kim(ブライアン・キム)氏、Uncommon Projectsなどから120万ドル(約1億3000万円)を調達した。

WhydでかつてCTOを務めていたGawen Arab(ガウエン・アラブ)氏は、再びプパルダン氏とチームを組み、時間の循環がフラットであることを証明した。同氏は現在、Cappuccinoの共同創設者兼CTOとなっている。

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人にあなたについて話してもらうこと

Cappuccinoのチームは、プレス関係や広告に関しては積極的ではないものの、興味深い急上昇を見せながら徐々に成長している。

2020年の夏、Product HuntのスーパーユーザーであるChris Messina(クリス・メッシーナ)氏がCappuccinoについての記事を書いたが、同スタートアップがProduct Huntでの特集を目指していなかったことは少々驚きだった。それでも、共同創設者たちはProduct Huntコミュニティからの質問に熱心に答えた。

翌日、Product Huntのニュースレターに「次に来るビッグオーディオソーシャルネットワークか?」というタイトルでCappuccinoの特集が掲載され、一部の新規ユーザーを呼び込むことになった。

画像クレジット:Cappuccino

しかし、数週間前にBrittany Kay Collier(ブリタニー・ケイ・コリアー)氏がTikTokでCappuccinoについての動画を公開したことで、事態は本格的に進展し始めていた。同氏はInstagramでプパルダン氏に直接メッセージを送り、多くの再生回数を獲得していることを伝えた。最終的にこの動画は380万の再生回数と85万のいいねを集めている。

プパルダン氏はその2日後、チームへの参加をコリアー氏にオファーした。プパルダン氏はコリアー氏がイエスということをひそかに期待していたし、コリアー氏自身もCappuccinoのような会社で働くことを内心夢見ていた。

ここ数週間で、Cappuccinoは22万5千人に上る新規ユーザーを獲得した。13万のグループが生まれ、約100万件のオーディオストーリーが配信されている。

チームはTwitterでCappuccinoに関する公開記事を読むと、アプリがコアユーザーベースを得ているように感じるという。最も忠実なユーザーは20代の若い女性のようだ。彼女たちは長距離の親友と連絡を取り続けたいと思っている。

大学を卒業後に、それぞれ別の地域へ移っていくこともあるだろう。あるいは現在のパンデミックの影響で、自宅で足止めされているかもしれない。

新規ユーザーは、録音ボタンを押してストーリーを語ることに何の支障も感じないようだ。WhatsAppやiMessageのボイスメッセージに慣れているのだろう。

「オーディオメッセージを媒体とすることが魅力的なのは、Instagramで写真を撮ったり、Snapで写真を送ったり、TikTokでビデオを作ったりしたりするときとは違うストーリーを伝えられることです」とプパルダン氏は語っている。

同社が目指す領域はどこだろうか。Clubhouseはすでに800万ダウンロードを突破している。プパルダン氏は、ソーシャルグラフ、オーディオフォーマット、ユーザーベースにおける差異を挙げた。同氏によると、複数のオーディオアプリに十分な参入の余地があるという。

「動画にはYouTube、Twitch、TikTokなどがありますが、これらはすべて異なるフォーマットになっています。オーディオも同じトレンドに追随する可能性があります」とプパルダン氏はいう。また、ソーシャルアプリがスマートフォンのカメラを取り入れたのは、カメラが自社で開発するには厳しいハードウェア機能だったからであるが、オーディオも自然にそのステップを踏むことになりそうだ。

プパルダン氏は今のところ、他のオーディオスタートアップとは競合していないと感じている。同氏は、人々が目を覚ましたとき、Spotify上のランダムな音楽の代わりにCappuccinoを聞くことを期待している。「孤独を感じる人たちに手を差し伸べるようなものとなるでしょう」と同氏は語った。

関連記事:ソーシャルオーディオアプリClubhouseが800万ダウンロード超え、2021年2月前半に急増

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Cappuccinoポッドキャスト音声ソーシャルネットワークコラム

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(文:Romain Dillet、翻訳:Dragonfly)

女性が率いるベンチャー企業への投資はポートフォリオのパフォーマンスを向上させる

本稿の著者はMichaela Villaroman(ミカエラ・ビジャロマン)氏とAlisee de Tonnac(アリゼ・ドゥ・トナック)氏。ビジャロマン氏は、Seedstarsのメディアリレーションコーディネーター。トナック氏は、テクノロジーと起業家精神を通じて新興市場の人々の生活にインパクトを与えることを使命とするスイスのグループSeedstarsの共同創設者であり共同CEO。Seedstarsグループは、90カ国以上で活動、、新興市場で最大の起業家コンテストなどを行っている。

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我々は投資ポートフォリオにおけるジェンダーの多様性の状況を考察しているが、これは女性が起業分野で過小評価されているためである。いくつかの数字を示しながら、なぜあなたの取引に多様性が欠けているのかを詳しく述べていきたい。

女性起業家と資金調達

国際金融公社が2013年に実施した調査によると、女性が所有する企業の資金調達において、2600億ドル(約28兆2100億円)から3200億ドル(約34兆7200億円)のニーズが満たされていない状態であるという。テック系スタートアップ350社の女性を対象にした調査では、この傾向がさらに強かった。女性回答者の72%が、起業時に金融資本を獲得するのが難しく、80%近くが個人的な資金調達に頼らざるを得なかったと答えている。さらに、VCの全資金のうち、女性創業者が獲得するのは3%にも満たない

男性による資金調達のしやすさと女性のそれとの間には明らかな違いがある。データによると、男性は女性の4倍もエンジェル投資家やVCからのエクイティ・ファイナンスを利用している(14.4%対3.6%)。男性が複数の資金源を簡単に利用できることから、平均で女性創業者の約2倍の資金で会社を設立するのもうなずける。

女性が所有する企業の資金調達では、2600億ドルから3200億ドルというニーズが満たされていないのが現状である

なぜ女性が率いるスタートアップの資金調達が難しいのだろうか?

女性が資本獲得に苦戦している事実は、ファンド運用会社における多様性を見ることで説明できるだろう。ファンドマネジャーの多様性の欠如は、結果としてポートフォリオに関して資金調達の不平等をもたらす。Women in VCのデータによると、米国において、女性が率いるVC企業の割合はわずか5.6%であり、VCパートナーのうち女性が占める割合はわずか4.9%に過ぎない。

「女性や有色系の人々がベンチャーキャピタルの投資戦略を推進できるようにすることは、最も迅速かつ効果的なコース修正である」とWomen in VCのレポートは伝えている。「ベンチャー投資家は、より広い社会規範に影響を与える並外れた力を持っている。彼らはどの創業者が資金を調達し、どの企業が成功のチャンスを得て、どの製品を市場に出すかを決める。これらのことは我々の文化に決定的な影響を与える」。

投資家たちはまず、自らの多様性の問題に取り組まなければならない。女性主導のスタートアップを積極的に調達し、投資しようとする取り組みの強化に向けて、潜在的な偏見を自覚するとともに、発展的な行動を起こしていく必要がある。

多様性のある取引が重要な理由

女性主導のベンチャーを増やして投資ポートフォリオを多様化することは、女性のリーダーシップを信頼することを意味する。企業業績に関する2012年の調査では、ドイツの上場企業のうち150社以上で、取締役会に30%以上の女性が名を連ねていた時期に優れた業績を上げていたことが示された。

さらに興味深いことに、別の調査では、女性の取締役は男性よりも優れていると論じている。研究結果によると、女性は複数の競合する利益に対処し、創造的に問題を解決し、合意を築くことにより効果的であることが明らかになった。対照的に、男性取締役はしばしば規則、規制、伝統に基づいて決定を行うという。

紛れもなく、有能な女性リーダーによって経営されている企業は、収益性の高いROIを提供する準備ができていると言えるだろう。フルブライト研究員で、ペパーダイン大学でマーケティングを教えるRoy Adler(ロイ・アドラー)教授が19年間にわたって実施した研究によると、女性を上級職に昇進させた実績が最も高い企業と、収益性の高い企業との間に相関関係があることが明らかになった。この相関関係は、それぞれの業界のフォーチュン500企業の中央値よりも18~69%上回っている。

これらの数字は、女性の登用が経済的利益となって返ってくることを期待できることを示しているが、ジェンダーの多様性への投資がもたらすより大きな影響と重要性は、その後の全体的な経済成長と繁栄にある。女性起業家のチャンスを高めることで、地域や世界の市場が恩恵を受けるドミノ効果を生み出すことができるのだ。

マッキンゼーは、ジェンダーの完全な平等が達成されれば、世界の国内総生産(GDP)は2025年までに世界全体で最大28兆ドル(約3040兆円)増加する可能性があると予測している。実際、女性に投資しないことによるマイナス面は極めて大きいことが判明している。国連の調査によると、中国や米国を含むアジア太平洋地域では、女性の経済参加が十分に行われていないため、GDPが少なくとも年間420億ドル(約4兆5600億円)減少しているという。

Seedstarsはスイスの投資持ち株会社で、新興市場の高成長テクノロジー企業への投資に注力しており、特に発展途上国において女性起業家がチャンスを与えられることでもたらされる恩恵についてより詳細な見解を提供している。

これらの数字は、ジェンダーの平等が十分に実現できていないが、その価値は非常に高いものであることを明確に示している。Melanne Verveer(メランヌ・ヴェルヴェール)氏とKim K. Azzarelli(キム・K・アザレッリ)氏の著書「Fast Forward」の中で、専門家たちがジェンダーの多様性について論じている。

「富の創造を破壊する最大の要因は家父長制です」とPax World FundsのCEO、Joseph Keefe(ジョセフ・キーフ)氏は語っている。「『身を乗り出す』べきなのは女性たちだけではありません。より良い利益を求める株主は、より多くの女性を雇用し、昇進の機会を与えている企業に力を注ぐべきです」。

バーナード大学のDebora Spar(デボラ・スパー)学長は「この国のあらゆる分野で、女性が権力の座に就く機会は非常に少なくなっています」と指摘する。「私たちはいわゆる『16%ゲットー』に陥っています。航空宇宙工学、ハリウッド映画、高等教育、フォーチュン500の主要ポジション、いずれにおいても女性の割合は最高でも16%程度にとどまっています。これは罪なことで、すばらしい人材を無駄にしていることになります」。

ジェンダーの平等を前進させる

インパクトを生み出すには、女性を十分に取り込むための積極的な対策が必要である。Seedstarsは2018年から、投資先探し、能力開発プログラム、投資活動など、グループ変革の理論で強調されている中核的な活動の中でジェンダーの平等に積極的に取り組んできた。

これまでSeedstarsは600以上の女性主導企業を支援し、女性が共同設立した14の企業に投資してきた。さらにSeedstarsは、メンター、審査員、デリバリー専門家の養成に関してもジェンダーの平等に力を入れている。最近の統計によると、Seedstarsプログラムの全参加者の約30%が女性で、過去数年間で増加(2018年の数字は地域によるが、20%前後となっている)したことを誇りに思っており、今後数年間でその数字をさらに引き上げることを目標としている。

我々自身のイニシアティブと、ジェンダーの多様性を促進する役割を果たす投資家の努力を組み合わせることによって、世界は、未だ完全には受け入れられていない、最も強力な集団の1つとして証明されている層への投資から、恩恵を受けることができるだろう。

あらゆる課題を解決するための第一歩は、問題を認識することにある。意識の向上と対策によって、女性起業家の未来を明るくする重要な発展がもたらされるに違いない。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラム女性投資Seedstars

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(文:Michaela Villaroman、Alisee de Tonnac、翻訳:Dragonfly)

NFT(非代替性トークン)がアート界にもたらす劇的な変革とインクルーシブな未来

デジタルコレクティブル(デジタル版のコレクターズアイテム)は今、大きな変化のときを迎えている。2021年2月、Beeple(ビープル)というアーティストのデジタルアート作品が、デジタルアート専門のオンラインマーケットプレイスNifty Gateway(ニフティ・ゲートウェイ)に出品され、660万ドル(約7億2000万円)で売れた。また、米ロックバンドLinkin Park(リンキン・パーク)のMike Shinoda(マイク・シノダ)氏は最近、オンラインマーケットプレイスのZora(ゾラ)で楽曲クリップを発売した。さらに、Dapper Labs(ダッパー・ラブズ)が運営するNBA Top Shot(NBAトップ・ショット)では、試合中のNBA選手の写真や動画1万631点のうちのたった1点を購入するために、20万人以上が何時間も順番待ちをした。

これらは、ブロックチェーンを利用したデジタル資産、別名「NFT(非代替性トークン)」を売買できるマーケットプレイスの例である。数週間前にNBA Top Shotを始めたばかりの筆者にとって、NFTはまったく未知の世界だ。そこで筆者は、NFTクリエイター数人に連絡を取って、NFTについて詳しく教えてもらった。またその際に、この分野の展望や全体的なポテンシャルに関する意見も語ってもらった。

「NFTとは『真の所有者と来歴が確認できるデジタル資産』のことだ、と説明できると思う。NFTは、その出どころを追跡でき、一度に1人しか所有できない資産だ」。そう語ったのはRonin the Collector(ローニン・ザ・コレクター)だ。

例えばNBAのStephen Curry(ステファン・カリー)選手が3点シュートを決めた瞬間を収めた動画など、自分のコンピューターに無料でダウンロードできる短い動画ファイルになぜお金を払う人がいるのか、疑問に思ったことがある人は、筆者の他にもたくさんいると思う。

ローニンは次のように説明する。「それを進んで認めるかどうかは別として、人間は本質的に『モノを所有したい』という欲求を持っているものだ。モノを所有することは人間として生きていくうえで欠かせないことだと思う。何かを所有するということは、何かとつながるということであり、それが生きる理由につながる。物を所有することには独特のの意義があるんだ。それに、所有していれば、例えばそれが動画なら、好きなだけ何度も視聴できる。でも、それを売れるかどうかはまた別の問題だ」。

その動画がNFTであるなら、売ることができる。例えば、CryptoSlam(クリプトスラム)を見ると2021年2月にLeBron James(レブロン・ジェームズ)選手のダンクシュート動画を20万8000ドル(約2270万円)で購入したユーザーがいたことがわかる。Top Shotのマーケットプレイス取引高は先月、約5000万ドル(約54億4600万円)に達した。さらに先週は、24時間の間に3700万ドル(約40億3000万円)以上を売り上げた日があった。これもCryptoSlamの情報だ。

これほど爆発的な人気を集めている理由は、パンデミックのせいでコンピューターを使用する時間が否応なく増えたことと、使い始めるのが簡単であることだとローニンはいう。例えばTop Shotの場合、筆者のような「超」初心者でも非常に簡単に登録できるようになっており、仮想通貨ウォレットを持つ必要はなく、クレジットカードが使える。これはNifty Gatewayも同じだ。

しかし、ローニンによると、Top ShotとNifty Gatewayは例外らしい。大抵のNFTプラットフォームは、Ethereum(イーサリアム、ETH)と呼ばれる仮想通貨のウォレットを持っていないと利用できない。Audius(オーディウス)でクリプト戦略を統括しているCooper Turley(クーパー・ターリー)氏は、TechCrunchへの寄稿記事の中で「つまりコレクターは、Coinbase(コインベース)などの仮想通貨取引所を通じてETHを購入し、それを、長い文字列と数字からなる自己管理ウォレット用アドレスに送信しないと、NFTプラットフォームを利用できない」と書いている。

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それこそまさに、筆者が(少なくとも個人としては)NFTの世界に飛び込めない理由だ。大抵のプラットフォームにおいて使い始めるまでのハードルが高いことは、以前からNFT業界の課題だった、とローニンはいう。

ローニンは次のように説明する。「どのNFTプロジェクトも、今やっと『使いやすさ』に注目し始めたばかりだ。これはまさにぎりぎりのタイミングだったと思う。Clubhouse(クラブハウス)で最近一番興味深いと感じたルームは、世界中の注目を集めているNFTプラットフォームをどうやってうまく発展させていくか、というトピックについて話し合っているものだった。Top Shotのように、使い始めるのも登録も簡単で、気軽にアイテムを購入できるサービスが出てきている。クレジットカードは必要だが、仮想通貨は不要で、誰もがオンラインで利用できる環境になり、まさにそのタイミングで、Beepleのデジタルアート作品が300万ドル(約3億2700万円)で売れた。これがきっかけで、全世界が突然、NFTに注目し始めた」。

しかし、NFTの領域においてTop Shotよりもさらに大きくて興味深いのは、NFTアートの世界だ。Sirsu(サースー)というアーティスト名で活動するAmeer Carter(アミール・カーター)氏は、2020年の夏に友人のすすめでNFTの世界に足を踏み入れたという。同氏は、始めてすぐに、このテクノロジーには大変革を引き起こす可能性があると感じたそうだ。

「文字どおり不朽のクリエイティブ作品を生み出せるようになったと感じた」と同氏はTechCrunchに語った。

とはいえ、アート界には昔から黒人や有色人種のアーティストを歓迎しない傾向があり、NFTの世界ではその傾向が特に顕著だ、とカーター氏は語る。旧来のアート界はエリート主義で、カーター氏自身も正統派のアートを学んだ経歴を持っているにも関わらず、旧来のアート界に参入することはできなかったという。

「努力が足りなかったわけではないんだ」とカーター氏はいう。

何人ものアートキュレーターが作品を気に入ってくれたが、どのキュレーターも「(カーター氏の)作品は、系統化して学術的に確立させられるものではない」と話した、とカーター氏は語る。NFTは、カーター氏のようなアーティストが、これまでは手が届かなかった方法で自分のアート作品を創作、共有することを可能にするテクノロジーだ。

カーター氏はこう続ける。「NFTは、アート作品を創作、共有できる環境を提供してくれる、非常にオープンで利用しやすいプラットフォームだ。私が目指すのは、アーティストが作品を発表できるそのような環境を整え、彼らの創作能力を強化することだ。売れない芸術家が経験する苦悩を取り除くのが私の使命である。私は、アートは安っぽいものではない。アートとは豊かなものだ。生活を豊かにして、生きがいを与えてくれるものだと思う」。

しかし、黒人のアーティストがすでに行ったことを、白人のアーティストがまるで自分が初めて試みたかのように見せて手柄を横取りしていく事例を目にするようになった、とカーター氏は語る。

ブロックチェーンを使った作品を初めて生み出したアーティストたちと、そのようなアーティストたちより著名であることを利用して「初めてブロックチェーンを使ってアート作品を生み出したのは自分たちだ」と周りに思い込ませようとしているアーティスト達がおり、この2つのグループの間で攻防が続いている、とカーター氏は説明する。

例えば、Connie Digital(コニー・デジタル)やHarrison First(ハリソン・ファースト)などの黒人アーティストは、ブロックチェーンを使ったファン向けのソーシャルトークンを初めて導入したアーティストたちの例だ。

「彼らこそアルバム、EP、シングル曲をNFTとして初めて売り出したアーティストたちだ。しかし、最近になってBlau(ブラウ)がNFTのアルバムを発表すると、人々はBlauこそがNFTでアルバムを売り出した最初のアーティストだと言い出した。本当は違うのに。しかし、『誰が初めて行ったか』という評判は、大きな話題として取り上げられるかどうか、大きな売り上げを達成するかどうかに左右される。それは今も昔も変わらない。より大きな注目を集めた方が『初めて試みた』というタイトルを手にする。私が興味深いと思うのは、NFTの場合はその来歴を文字通り追跡できて、Blauが最初ではないことを示す動かぬ証拠がある、ということだ」。

カーター氏はこのような現象を見て、自分がNFTのアーキビスト(保存価値のある情報を査定、整理、管理し、閲覧できるよう整える専門職)にならなければと思ったという。

カーター氏は次のように述べる。「私は必ずしも歴史家ではないが、NFTの分野に深く関われば関わるほど、私がNFT専門のアーキビストとしての役割を果たすことが緊急に必要だと感じるようになった。分散型で誰もが使える仕組みの中であっても、私たちのようなアーティストの存在が文化的な意味で消し去られないようにするためだ」。

カーター氏がBlacksneakers(ブラックスニーカーズ)のような黒人アーティストの作品をアーカイブするためにThe Well(ザ・ウェル)を立ち上げている理由の1つはそこにある。The Wellは、黒人アーティストが安全だと感じ、サポートを得られ、不当に搾取されない環境で自分のNFTをミント(創出)できるプラットフォームとしても機能する予定だ。

画像クレジット:Black Sneakers via SuperRare

現在利用されているさまざまなプラットフォームでは、ウェブサイトやソーシャルメディアにおけるプロモーションの面で、全体的に白人アーティストの方が黒人アーティストよりも優遇されているように感じる、とカーター氏はいう。

「黒人アーティストにも、アーティストとして成長し、進歩するそのようなチャンスを得る権利がある。それなのに、チャンスを手にしているのは、多くの自称アーティストばかりだ」と同氏は述べる。

カーター氏は、黒人アーティストにチャンスを提供することはNifty GatewayやSuperRare(スーパーレア)をはじめとするプラットフォームの義務だと言っているわけではない。同氏が指摘したいのは、そのようなプラットフォームには、黒人アーティストがよりよいチャンスをつかめる環境を整える力がある、という点だ。

それは、カーター氏がThe Well Protocol(ザ・ウェル・プロトコル)で目指している目標の1つでもある。同氏は、6月19日の奴隷解放記念日にローンチ予定のThe Wellを通じて、NFT作品のアーティスト、コレクター、キュレーター向けのインクルーシブなエコシステムを築きたいと考えている。作品を発表するにはいつもTwitterを使うしかないと感じているアーティストに、彼らを全面的にサポートして作品を増やしていくためのエコシステムを提供したい、と同氏は語る。

「どこを見ても、黒人ではないアーティストはメディアで好意的に評価されたり、ニュース番組で取り上げられたりしている。一方、黒人アーティストは彼らほど頻繁に注目されることはなく、同じ土俵に上がって競争する機会が少ない。私は、真の意味で公平な環境を築こうとしている。つまり、私たちが躍進していけるツールとエコシステムを作り上げていく」。

「アートは富裕層だけのもの、と考える時代は終わりにしたい」とカーター氏はいう。

同氏はこう続ける。「私たちには、そのような考え方を完全に覆せるだけの力がある。私たちの取り組みを機能させるには、検討を何度も、何度も、そう何度も重ね、協力して動く必要がある。しかし、すでにNFTを使っているアーティストを、金に物を言わせて排除しようとする者がNFTの世界に入ってきたら、私たちの目的は達成できない。アーティストが成長できる環境を整えるためのプラットフォームに、そのような輩を参入させてはならないんだ。概して不安をあおり、一部のアーティストをプラットフォームから排除しようとするような人を私たちの取り組みに関わらせることはできない」。

NFTを単に投資目的のコレクティブルだとみなさないことも重要だ、とカーター氏は述べる。

「一獲千金を狙ってNFTの売買を始める人ばかりだが、それは間違っている。NFTの取引にはアーティストの人生とキャリアがかかっているのだ」とカーター氏はいう。

ローニンによると、大きな注目を集め始めたNFTだが、今はまだアーリーアダプション(初期採用)の段階であるため、まだNFTの売買を始めていない人も焦る必要はない、とのことだ。

ローニンは次のように説明する。「正直なところ、そのアーリーアダプション期でさえ本格的に始まったとは言えないと思う。安定した取引が全体的に行われるようになってはじめて、アーリーアダプション期を過ぎたと言える。今はまだアルファ版のような段階だ」。

ローニンがこのようにいうのは、これから5年後、あるいは10年後には、NFTの可能性が今とは比べものにならないほど広がっていると考えているからだ。例えば、ローニンは将来的にVR、AR、XRを超えるNFTエクスペリエンスを実現しようとしているアーティストに会ったことあるという。

「そのアーティストが私と組んで仕事をしようと言ってくれて、とてもワクワクしたよ。アドバイザーの役目を仰せつかった。彼女はこのテクノロジーで世界を変えることができると思う」とローニンはいう。

それこそまさに、ローニンがNFTに大きな魅力を感じている理由だ。このテクノロジーには、人々の生活を変え、世界を変える力がある、とローニンは語る。

「NFTは誰もが自由に使い始めることができ、大きな夢を描くことや、その夢を実現させる方法を見つけることを可能にするテクノロジーだと思う。AR、VR、モバイル、インターネット、何でもアリだ。あらゆるものを使って、空間、時間、生活の中に存在する壁を越えるNFTエクスペリエンスを創造できる。NFTはそれほど強力なテクノロジーだ。人々はNFTにもっと注目すべきだと思う」とローニンはいう。

今後はブロックチェーンをつなげて「NFTをビットコイン、イーサリアム、WAXFlowなどで実現できるようにすることがかなり重要になってくる」とローニンは予想している。

カーター氏は、The Wellの取り組みにより、インクルーシブな前例を確立して、NFTへの門戸を広げたいと考えている。また、カーター氏が、初めてでもスムーズにNFTを作り始められるようアーティストをサポートするMint Fund(ミント・ファンド)を立ち上げようとしてることも注目に値する。NFTを制作するには、Ethereumネットワークの混雑具合に応じて50ドル~250ドル(約5400円~2万7000円)の費用がかかるのだが、NFT初心者のアーティストの場合はMind Fundがこの費用を負担して、NFTという新しい世界に踏み込む手助けをする仕組みだ。

「すぐに行動を起こし、適切なタイプのコミュニティ主導型アプローチでMind Fundを実現しなければ、機を逃してしまう。そうなると、単に『うまくいかなかった』では済まない、悲惨な結果になってしまう。持つ者がさらに富を得る一方で持たざる者はさらに貧しくなるという悪循環に再び陥って抜け出せなくなる。現在の経済とシステムにおいて常に最善の方法で富を再分配する方法を見つけなければならない。それを見つけられなければ終わりだ。少なくとも私はそう考えている」とカーター氏は語る。

NFTを制作するにはかなりのエネルギーが必要とされるため、それが生態系に与える影響についても議論が行われている。カーター氏によると、この点については現在、2つの意見があるという。1つは、NFTの創出は生態系に大きなダメージを与えるという意見、もう1つは、生態系への悪影響はミンターの責任ではなく「ミントだけでなく(ブロックチェーンに関わる)他のさまざまな処理を行うためにすでに構築されたシステム上でミントする」ことについて、ミンターが責めを負うべきではない、という意見だ。

カーター氏は、前者の意見が正しいかもしれないとは思うが、現時点では単に批判が飛び交っているだけの状態だ、という。

「私たちミンターは、このような批判によって全体的に困惑させられて『これ以上は身動きが取れない』と考えてはならない」とカーター氏は述べる。

カーター氏はまた、作品をまとめて印刷、出荷することにもエネルギーが必要であると指摘する。

カーター氏は次のように説明する。「私がミントした作品1点を販売する場合と、例えば印刷版1000部を20ドル(約2200円)で販売するのにかかる場合の、エネルギーコストと排出量を比べる必要がある。後者の場合、1000部をそれぞれ別の場所に販売し、それらを1000件の異なる住所に配送することになる。これが正しい比較方法かどうかはわからない。現時点でこのような計算をすることにあまり興味はない」。

最終的にはこの分野における再生可能エネルギー源の利用量を増やし、より革新的なハードウェアを使用することが必要だとカーター氏は考えている。

「そのような革新的なハードウェアの開発、生産にも再生可能エネルギーを使う必要がある。つまり、フレームワーク全体としてカーボンネガティブになることを目指すべきだ。ミンティングだけでなくマイニングや製作に至るまで、可能な限りカーボンニュートラルまたはカーボンネガティブにする必要がある。これはサイクル全体として取り組むべき課題だ」とカーター氏は付け加えた。

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カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:NFTコラムアートcrypto art

画像クレジット:TechCrunch/Bryce Durbin

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(文:Megan Rose Dickey、翻訳:Dragonfly)

製造業を立て直すために米国は中小企業技術革新研究プログラムを強化せよ

本稿の著者Sean O’Sullivan(ショーン・オサリバン)氏はMapInfo(マップインフォ)の共同創設者であり、現在はHAX(ハックス)、IndeBio(インディーバイオ)、Chinaccelerator(チャイナクセラレーター)、 MOX(モックス)、dlab(ディーラボ)といったスタートアップ・アクセラレーターを運営するベンチャー投資企業SOSVの創設者にして業務執行ジェネラルパートナー。

ーーー

私はニューヨーク州北部の貧しい地域で育ったが、幸運なことにレンセラー工科大学に進むことができた。私は会社を立ち上げ、28歳のときに上場し、そこで得た富をスタートアップに投資してきた。

企業創設者が次々と成功する姿を見るのは爽快だったが、ニューヨーク州北部に帰り、ずっと閉鎖されたままの工場を見るにつけ、テクノロジー改革が決して届かない場所があることを思い知らされる。

そうした空虚な建物の背後にある数字を見ると、これ以上悲惨なものはないと感じる。2019年後半、新型コロナウイルスに襲われる以前、すでに米国の製造業はGDPの11%にまで落ち込んでいた。この72年間で最低の数値だ。私たちはその基盤のほとんどを低コストなライバルであった中国に譲ってしまったことで、2011年には中国は世界最大の製造王国となった。米国の繁栄の基盤として製造業を復活させるための時間は、もうあまり残されていない。そこで大きな役割を果たすのが、優秀でありながら、あまり注目されていない米連邦政府の取り組みだ。

私の会社SOSVでは、技術的に実現が難しいアイデアを持つ企業創設者を対象に、研究から製品化までサポートするプログラムを実施している。その多くの企業が、特に工業の自動化や脱炭素といった国家的な優先分野において、米国の未来を代表している。

こうしたスタートアップには、今すぐにでもベンチャー投資家から資金投入されるものと思われるだろうが、現実には、彼らに流れるベンチャー投資金はほんのわずかしかない。それは単に、SaaSや消費者向け分野に比べてリスクが大きいという理由からだ。

だからこそ、1982年、米国連邦議会はSmall Business Innovation Research(SBIR、中小企業技術革新研究)プログラムを設立した。その発起人であるRoland Tibbetts(ローランド・チベッツ)氏の言葉によれば「初期段階の優れた革新的アイデア、つまり有望でありながらベンチャー投資企業などの民間投資家にはリスクが高すぎるアイデアに資金を提供する」ことを主眼としている。

年間30億ドル(約3270億円)をわずかに超える契約や助成金が連邦政府機関によって分配された結果、SBIRは7万件の特許認定、ベンチャー投資企業による410億ドル(約4兆4600億円)の追加投資、700の企業の上場が達成された。

見事にデザインされたSBIRによって、何千というテクノロジー志向の起業家たちは、研究段階と製品化、新規市場とベンチャー投資の間に横たわる谷を渡ることができた。この先の10年間をかたちづくるためには、さらに才気溢れる科学者、技術者、起業家が何千人も必要となる。自宅のガレージで研究を開始することはできても、元手がなければ続かない。連邦議会は、現在SBIRに求められている極めて重要な3つの改良点を盛り込んだ「SBIR 2.0」の策定に今すぐ取りかかる必要がある。

第1に、SBIRが提供する資金を少なくとも10倍に増やして欲しい。300億ドル(約3兆2700億円)にしたところで、高々ワシントンの予算の丸め誤算の範囲内だ。例えば2020年の防衛予算は6930億ドル(約75兆4500億円)。また、2020年に1560億ドル(約17兆円)に到達した米国のベンチャー投資額のほんの数分の1に過ぎない。それでも、米国の産業を救うためには、間違いなく最も有効な対策だ。

第2に、SBIRの投資先を脱炭素や先進的製造技術などの決定的に重要な戦略的分野に集中することだ。脱炭素は、地球上の人類の未来を救うものだ。先進的製造技術は、ロボティクス、バッテリー技術、人工知能デバイス、積層造形といった重要分野の主導権を確立し、製造業投資における失われた世代を跳び越える力を与えてくれる。これ以上に注目すべき市場はあるだろうか?

そして最後に、審査と報酬のプロセスを高速化すること。良い例を1つ挙げるならば、米国空軍が2019年と2020年に実施した画期的な「ピッチデー」プログラムだ。わずか1分間で、最も優れたプレゼンを行った企業創設者(厳しい事前審査があるが)に助成金を贈るというものだ。物事がほぼ支障なく流れるこの才能の市場では、審査や資金の供給に時間をかけていては勝利は望めない。

バイデン政権が2021年2月末に発行した米国のサプライチェーンに関する大統領令から、ホワイトハウスがすでに精力的に政策づくりを行っていることが見てとれる。この政権の取り組みは、間違いなく数多くのアプローチにつながるはずだが、成功の鍵は、米国で使われずにいる大切な燃料、つまり創意工夫と国民の意欲に、絶え間なく焦点を当て続けることにある。

とにかく、この国の不景気にあえぐ地域を貧困から救い出すためには、当事者たちが起業家精神を持ち、自らの手で米国の製造業を再建できる手段を与えることだ。

【米TechCrunch注】TechCrunchの元CEOであるNed Desmond(ネッド・デスモンド)氏は、現在SOSVの上級業務執行ジェネラルパートナーを務めている。

カテゴリー:その他
タグ:コラム製造業アメリカ

画像クレジット:elenabs / Getty Images

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(文:Sean O’Sullivan、翻訳:金井哲夫)

つぎはぎされた「フランケンクラウド」モデルは最大のセキュリティーリスクなのか

本稿の著者Howard Boville(ハワード・ボビル)氏は、IBM Hybrid Cloud(ハイブリッド・クラウド)の上級副社長。19カ国および6地域18対応ゾーンにまたがる60以上のデータセンターによるIBMのグローバルネットワークを統括している。

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先日、米国上院議会で行われたSolarWinds(ソーラーウィンズ)への大規模な攻撃に関する証言に、目が覚める思いをした人が大勢いた。この証言から、公共のクラウドはハイブリッドクラウドのアプローチよりも安全なのかという議論が浮上してきたように私は感じた。

だがそこでは、どちらのクラウドアプローチがより安全かではなく、セキュリティをデザインすべきはどちらかを中心に話し合うのが肝心だ。企業向け技術のプロバイダーである私たちは、現代のシステムの使われ方に合わせてセキュリティをデザインする必要がある。コンピューティングモデルごとに決められた安全対策に顧客のほうを押し込めるようであってはならない。

SolarWindsへの攻撃を許したのは、多くの技術ベンダーが依存する広範で複雑に入り乱れたサプライチェーンが原因だった。それは、コードのサプライチェーンをいかにして守るかという基本的な教訓をもたらしたが、とりわけ重要なのは複雑性こそセキュリティの敵という教訓だ。

フランケンクラウド・モデル

私たちの情報技術環境は、私が「フランケンシュタイン」アプローチと呼ぶかたちに進化してきている。企業は、SoRを維持しながらクラウドの利便性にありつこうと飛びついた。フランケンシュタインが作り出されたときと似て、極めて複雑で、スタンドアローンの部分もつぎはぎされている。

各社のセキュリティ部門は、この複雑性を最大の課題の1つと考えている。何十もの技術ベンダーやスタンドアローンのセキュリティソフトに依頼するよう強いられている平均的なセキュリティ部門は、平均して最大10社のベンダーから供給される25〜49のツールを使わされている。このスタンドアローンの部分は、もはやどうしても避けられない死角になっている。セキュリティシステムは断片の寄せ集めであってはならない。企業向けのセキュリティは、脅威への総合的視野を持ち複雑性を軽減するたった1つの管理点に立って、デザインする必要がある。

ハイブリッドクラウドによる改革

政府機関の他、公共団体および民間企業において、ハイブリッドクラウド環境が有力な技術設計点として浮上し始めている。事実、Forrester Research(フォレスター・リサーチ)の最近の調査では、技術的な意思決定を行う人の85パーセントが、それぞれのハイブリッドクラウド戦略にはオンプレミス(内部設置)インフラが欠かせないと答えていることがわかった。

ハイブリッドクラウドモデルとは、企業に今ある内部システムの一部を、公共のクラウド資源とサービスとしての資源とを混合したものに結合させ、1つのシステムとして扱うというものだ。

これが、セキュリティにどれほど貢献するか?スタンドアローン環境では、クラウド環境への浸入口としてサイバー犯罪者が最もよく使うのが、クラウドベースのアプリケーションだ。我々のIBM X-Force(エックスフォース)チームの分析によれば、クラウド関連事件の45パーセントがそれだった。

例えば会社のクラウドベースのシステムが、権限のある人間によるシステムへのアクセスの認証を管理していたとしよう。深夜、ある従業員のデバイスからのログインが検知される。同時に、同じデバイスから、おそらく異なる時間帯に、社内の業務データセンターにある機密情報へのアクセスが試みられたことが判明する。統合されたセキュリティシステムなら、この行動パターンに危険を感じて監視すべきだと判断し、自動的にこの2つの行為に歯止めをかける。もしこの事件が2つの別々のシステムで検知されていたなら、予防措置がとられることはなく、データは盗まれてしまう。

こうした事件の多くは、クラウドでのデータ保管の不備によって引き起こされている。このギャップから生まれる問題に対処する革新的な考え方として急速に注目を集めているのが、Confidential Computing(機密コンピューティング)だ。現在、ほとんどのクラウドプロバイダーは、利用者のデータにはアクセスしないことを約束している(もちろん、裁判所命令に逆らえない場合など、アクセスしようとすればできてしまう)。反対にこれは、悪辣な人間も同じ方法で、自らの不届きな目的のために不正アクセスができてしまうことを意味する。しかし機密コンピューティングの場合、クラウド技術のプロバイダーでも、技術的にデータアクセスができない仕組みになっている。サイバー犯罪者も同様に、アクセスは困難だ。

さらに安全な未来を創る

クラウドコンピューティングは、労働力の分散から業務の迅速化に至るまで、世界に決定的なイノベーションをもたらした。そして同時に、ITを誠実なかたちで届けるために絶対に欠かせない要素に光を当てることにもなった。

だがスピードを要求されるあまり、クラウドは、伝統的にテック企業が顧客に約束してきたコンプライアンスと管理責任を脇に押しやってしまった。今や、そうした重要事項が顧客の手に押しつけられることが多い。

私は、クラウド戦略では安全を最優先、最重要に考えるべきであり、会社の安全な発展のために信頼できるパートナーを1社だけ選ぶべきだと訴えてきた。

あまりにも多くの政府機関や企業が運用している「フランケンクラウド」環境に、セキュリティとプライバシーを後付けするのは、もう止めなければならない。SolarWindsは、雑多なテクノロジーへの依存は弱点になると教えてくれている。

幸い、これは私たちの最大の強みにもなり得る。ただしそれは、セキュリティとプライバシーが、多様な技術の繊維の中にしっかりとデザインされる未来を受け入れた場合に限るが。

カテゴリー:セキュリティ
タグ:SolarWindsコラムハイブリッドクラウド

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(文:Howard Boville、翻訳:金井哲夫)

急成長する民間企業の取締役会で今、起きている5つのトレンド

本稿の著者はAnn Shepherd(アン・シェパード)氏とJocelyn Mangan(ジョセリン・マンガン)氏。シェパード氏はソーシャル・インパクト・ベンチャーであるHim For Herの共同ファウンダーであり、フィンテック・スタートアップのHoneyBook取締役。マンガン氏はソーシャル・インパクト・ベンチャー、Him For Herの共同ファウンダーでChowNowおよびPapa John’sの取締役だ。

ーーー

「取締役会は大きく変わります」。

Dunkin’とPapa John’sの取締役、元CEOのNigel Travis(ナイジェル・トラヴィス)氏は、CEOと意欲的な取締役会メンバーによるコーポレートガバナンス の将来に関する議論を、こう切り出した。

2020年、無数の企業の生き様が大きく変わったのと同じく、取締役会は重大かつ長期的な変革に直面している。2020年我々は500人以上のビジネスリーダーから話を聞き、300近い企業の取締役会を調べた。それに最近行った取締役会ベンチマーキング結果を加えて検討した結果、我々は米国で急成長中の非上場企業の取締役会に5つのトレンドがあることを発見した。

1.取締役会の多様化は不可欠

歴史的にみて、役員はすでに取締役会にいる人々の個人的ネットワークを通じて選ばれることが多い。このアプローチは信頼と利便性に最適化することで多様性を犠牲にしている。

取締役会の多様性に対する圧力が高まり、男性のみの取締役会のリスクが社会的問題として取り上げられる中、企業は役員構成に対するより包括的なアプローチを取り始めている。ネットワーク外に目を向けて女性や有色人種を指名するようになり、これがいわゆる「パイプライン問題」ではなくネットワークの問題であることを発見した。過去1年の間に、レイトステージ非上場企業で取締役会が男性のみの割合は60%から49%に減少した。

これは進歩ではあるが、豊富の資金を得ているベンチャーキャピタル支援企業の半数近くで取締役会に女性がいないという事実は、これから成すべき仕事の膨大さを物語っている。現在、高成長民間企業の取締役会に占める女性の割合はわずか11%であり、有色人種女性はわずか3%である。

しかし、人種・民族の多様性については、この先改善が進んでいくことが期待される。Him For Her(ヒム・フォー・ハー)への女性取締役候補紹介の要請は2020年第4四半期に前年同期比4倍に増え、指名された新取締役の4分の1は黒人・アフリカ系米国人だった。

2.候補者をCEO以外の経営幹部に広げる

社外取締役を探す時、取締役会はCEO経験者を優先する傾向がある。現在のCEOの性別不均衡を踏まえると、その選択志向は直ちに男性候補者に傾く。

女性登用を検討する中で、多くの取締役会は次期取締役の選考基準に戦略的アプローチを取ることの価値に気づいた。求めている資質の代用としてCEOの肩書に頼るするのではなく、取締役会はギャップ分析を行い、最も重要なコンピテンシーの組み合わせを考えるようになった。

その結果、戦略的展望と最先端のベストプラクティスを合わせ持つ経営幹部の太いパイプラインができあがる。今すぐ監査委員会を開けるCFOだけでなく、市場開拓能力のある幹部、イノベーションを進めることで知られたプロダクトリーダー、および企業カルチャーを構築する方法を知っている人材活用責任者を求めるリクエストが我々のもとに届いている。他に、顧客の声を取締役会に届けるために、ビジネスに強い医師や看護師、警察官などを探している企業を手助けしたこともある。

3.社外取締役は早期に

CEOが取締役会に多様性と経営経験をもたらそうとする際、その多くが早い段階で社外取締役を迎えている。どのくらい早く?「社外取締役を迎えるのに早すぎることはない」とRippleのCEOであるBrad Garlinghouse(ブラッドガーリングハウス)氏はいう。同社の最初の社外取締役は会社設立後わずか1年で任命された。

2020年、潤沢な資金を得ている民間企業で、社外取締役が少なくとも1人いる割合は71%から84%に増え、取締役会に社外取締役の占める割合は20%から25%へと増えた。2020 Study of Gender Diversity on Private Company Boardsによる。我々が取締役会調査を実施した非上場企業のうち40%以上がシリーズBまたはそれ以前だった。

4.Zoom取締役会の活用

パンデミックは取締役会を画面へと向かわせたが、多くの会社では、リスクが軽減された後も少なくとも一部でバーチャル会議は続けられるだろう。2020年、企業は物理的オフィスの役割を考え直し、物理的役員会議室の重要性は新たな監視の目に晒された。多くのCEOや役員は、正式な取締役会の対面参加を好むだろうが、リモート出席の新たな流れや臨時バーチャル会議の増加が予想される。

移動の減少とスケジューリングの容易さ以外にも、バーチャル会議には幹部らが活用すべき隠れた恩恵がある。出席者増による機会費用の減少である。「役員室に人が増える」ことによる影響は、長年にわたり幹部の取締役会参加に反対する理由の1つだった。バーチャル形式によって、CEOはより多くのリーダーが取締役会の議論に参加する機会を活用するだろうと我々は予想している。

その一方で、バーチャル会議では人間関係構築に意識的な努力が必要となる。取締役会はバーチャル会議の利便性と対面による親密な関係構築の価値の均衡をとって協調的意思決定を推進していく必要がある。

5.ステークホルダー資本主義の定着

公開市場における圧力の高まりと価値に基づく購入決定を行う消費者の増加に後押しされて、民間企業の取締役会は意思決定における持続可能性をあからさまに重視するようになった。BlackRockのCEO Larry Fink(ラリー・フィンク)氏は毎年恒例のレターで、業界のライバルをESG指数で上回る企業が「持続可能性特典」を得ている証拠を指摘した。上場企業がESG実績に関する指数を標準化、公表したことで、その規律は国際市場での競争を目論む企業の役員室へも拡大している。

民間企業は経済のほぼすべての分野でイノベーションを推進してきたが、取締役会は過去数十年間驚くほど変わっていない。2020年は会社の取締役会にとって転換点になると予想している。この時期の取締役会転換は、多様性・包括性の拡大および持続可能な価値創造のますますの重視によって定義されるだろう。こうした取り組みが定着すれば、恩恵を受けるのは企業と投資家だけでなく、従業員、顧客、サプライヤー、そして社会全体である。

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画像クレジット:Luis Alvarez / Getty Images

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(文:Ann Shepherd、Jocelyn Mangan、翻訳:Nob Takahashi / facebook

チーフコミュニティオフィサーは、いまやCMOとも言えるだろう

コミュニティは単体のSlackグループや、イベント、ニュースレターではない。コミュニティとはこれらのタッチポイント全ての寄せ集めであり、顧客、最終的に顧客になる人、一度限りのユーザーを含んでいる。あまりにも漠然とした状況にある現状だが、リモートワークやデジタルコミュニケーションが私達の生活を支える中、企業はさまざまなチャネルにさらに目を向けている。著者の最近のツイートでは、細分化した顧客ベースを対象にすることが多いエドテックのような分野でも、いかにコミュニティが調和をもたらすかという点を強調している。

著者は2021年2月、スタートアップが実際にコミュニティのために予算を確保し始めており、セールスやマーケティングチームに費用をかけるのではなく、有意義な方法でコミュニティに投資しているという話をする機会があった。

「チーフコミュニティオフィサーは、いまやCMOである」とある創設者が私に言った。FelicisとSeven Seven Sixが率いたCommsorの最近の資金調達、シリーズAの1600万ドル(約17億円)について、同社の創設者であるMac Reddin(マック・レディン)氏と話をしたばかりだったため、私はその言葉に特に興味をそそられた。

コミュニティのアイデアには驚かされ続けているが、Commsorはコミュニティマネージャー達がそういったものへの予算、そして成果を無駄にしていないということを示すのに役立つ解決策を提供している。同氏によると、Commsorはコミュニティのオペレーティングシステムであり、それぞれのコミュニティがどのように見え、感じるかを企業が抽出するための支援をし、最終的には企業のセールスリードや収益へとつなげていくという。Commsorは例えば「Googleにあなた方のプラットフォームを使用しているエンジニアが3人います。Googleにかけあってエンタープライズ契約を結ぶか聞いてみましょう」というような提案ができるわけだ。このようなスイートスポットや、ボトムアップのコミュニティ採用者を見つけることが、Commsorの仕事なのである。

Commsorはまだプライベート・ベータであるが、昨年はコミュニティ予算を持つスタートアップ企業が「大幅に増加」したか、コミュニティ予算が増加したという。まだ曖昧な分野の急発展を目指すスタートアップには独自の課題が伴うのも事実だ。

Commsorは取引を学びたいと熱意あるコミュニティマネージャーを支援するためのC Schoolと、当該分野の企業を支援するファンドを立ち上げた。 また、 コミュニティスペースを定義することへのコミットメントを示すため、Hopin、Lattice、Notionなどの会社からの署名を載せたメモを投稿している。

「10年前のカスタマーサクセスや、300年前の収益業務を行っているようなものです」とレディン氏は言う。「人々はそれを気にしており、そこには役割があるものの、定義すべきことや成長すべき点はまだたくさんあります」。

コミュニティツールの市場マップ。画像クレジット:Commsor

投資家は競合他社にお金を投じるか?

CBDグミ、金融の配管、P2Pカーシェアリングなどなんであれ、投資家がスタートアップを支援するとき、投資家はその企業がその分野での勝者となることを理想として考えている。そのため投資家が競合するスタートアップにも投資した場合、それは良からぬ兆候であり評判を落とすことにもなりかねない。

Alex Wilhelm(アレックス・ウィルヘルム)氏からの情報:ソフトウェア市場が成熟するにつれ、投資の場が競合他社への投資に開いていくかもしれない。これを便利な補完的投資と呼ぼう。

スタートアップのOliveがAmazonと競合

野心的な創設者であれば、設立初期段階に投資家やジャーナリストから頻繁に聞かれる質問がある。Facebook、Apple、Amazon、Netflix、Googleがあなたのスタートアップを作ったらどうなるか?この質問の裏にあるのは、たとえ巨大企業が何百万ドルもの資金とエンジニアチームを投入したとしても打ち勝つことのできない、創業者独自のユニークな解決能力を見極めたいという考えだ。

Jetの共同創設者であるNate Faust(ネイト・ファウスト)氏からの情報:2016年に同氏は事業をWalmartに30億ドル(約3187億円)で売却し、現在は持続可能なEコマース事業でAmazonと競合している。Oliveは買い物客が購入した物を再利用可能なパッケージにまとめて、1週間に一度配送するというサービスを提供している。

ファウスト氏は、できるだけ早く商品を届けようと努めるAmazonや他のEコマースサービスの逆を同社が行っているという事実を認識しているものの、同スタートアップの消費者調査によると、買い物客は別のメリットを得るために少し長く待ってもかまわないと考えていることが判明したという。

パイプライン問題の俗説を打ち砕く

有力者から従業員まで、シリコンバレーにおける多様性の欠如がパイプラインの問題の原因だとされてきた。つまり役割を満たすのに十分な資格を持った多様性のある人材がいないという考えだ。しかし最近の研究が、このマインドセットがいかに古くて間違ったものであるかということを浮き彫りにしている。レポーターのMegan Rose Dickey(メーガン・ローズ・ディッキー)氏が、AI Now Instituteで人工知能におけるジェンダー、人種、権力の研究を主導するJoy Lisi Rankin(ジョイ・リージ・ランキン)博士をインタビューした。

ランキン博士からの情報

パイプラインはすべてをサイロ化してしまっており、「私達はもっと多くの黒人女性をテック分野に迎える必要がある」とは言うものの、「これらの企業は人種差別主義者、白人至上主義者、女性差別者であり、こういった組織や大規模な社会および世界的資本主義構造が根本から変わる必要がある」とは言うことがない。

ランキン氏は、雇用や人事採用の透明性を向上させることが偏見を減らし、大切な情報を人材に伝える助けになり得ると付け加えた。

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カテゴリー:その他
タグ:コミュニティ コラム

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

すでにある技術を利用して、「お金になる方法」で気候変動の危機に対処しよう

著者紹介:本稿を執筆したBertrand Piccard氏は、Solar Impulse Foundationの創始者であり、 ソーラー駆動の飛行機で歴史上初の世界一周飛行を成し遂げた人物だ。

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5年前、私は航空史上初となる太陽光エネルギーのみを動力とした世界一周飛行を終えて、Solar Impulse 2をアブダビに着陸させた。

エネルギーとテクノロジーの歴史的なマイルストーンでもあった。 Solar Impulseは実験用飛行機で、重量は自家用車と同程度であり1万7248個の太陽電池を使用していた。それは空飛ぶ実験室のようなもので、創成期のテクノロジーが満載で、再生可能エネルギーを作り出し、保管し、必要なときに最も効率のよいやり方で使用できた。

再びテクノロジーを利用するときが来た。私たちの誰もが影響を受ける気候変動の危機に対処するためだ。気候変動に関するアクションにとって最も重要な10年間、そして地球温暖化を1.5℃に制限するおそらく最後のチャンスを、私たちは迎えている。クリーンな技術が唯一の受け入れ可能な規範であることを、ここで確実にしておく必要がある。こうしたテクノロジーはすでに存在するし、今この重大な時期に、収益を上げるやり方で実装することができる。

ここで説明する4つのイノベーションは私たちの太陽光発電飛行機が生み出したもので、市場は今すぐこれらを利用し始めればよい。手遅れにならずに済むようにだ。

操縦室の断熱から住宅の断熱へ

建築セクターは世界中で最も大きなエネルギー消費者のひとつだ。冷暖房を二酸化炭素排出量の多い燃料に依存していることに次いで、断熱性能の低さとそれにまつわるエネルギー損失が主な理由に挙げられる。

Solar Impulseのコックピットの内側の断熱は、飛行機が非常に高い高度を飛行するために決定的に重要だった。オフィシャルパートナーのCovestroが超軽量の断熱素材を開発してくれた。コックピットの断熱性能は当時の標準よりも10%も向上した。断熱フォームの孔の大きさを40%小さく、マイクロメーターでなければ計測できないほどのサイズにまでしたからだ。密度は40kg/立法メートルと非常に低く、おかげでコックピットは超軽量になった。

この他にも多くのテクノロジーが存在する。市場のあらゆる参加者が自ら進んで、極めて効率の高い建物断熱を標準的な作業手順に組み込むことを、ここで確実にしておく必要がある。

電気航空機の推進からクリーン・モビリティの推進へ

Solar Impulseは最初にして最高の電気航空機だった。4 万3000キロメートルを一度も燃料不足を起こさず飛行した。4つの電気モーターの効率は記録的な97%、標準的な熱エンジンの27%という残念な数字に比べはるかに高い。これはつまり、使用したエネルギーのわずか3%しか失われなかったのに比べ、燃焼による推進では73%が失われたということだ。現在、電気自動車の売り上げが上昇している。国際エネルギー機関によれば、Solar Impulseが2016年に着陸したとき、路上を走行する電気自動車の数はおよそ120万台だった。この数字は現在では500万台を越えている。

しかしながら、このような加速で十分とはまったく言えない。電源ソケットが給油ポンプに取って代わるには今もってほど遠い。運輸セクターは依然として世界中のエネルギーに関連する二酸化炭素排出の4分の1を占めている。電化をもっと迅速に引き起こして、排気管からの二酸化炭素の排量を削減しなければならない。それには、政府が明確な税制上のインセンティブを与え、ディーゼル車とガソリンエンジンを禁止し、大規模なインフラストラクチャー投資を行うことで、電気自動車の採用を押し上げる必要がある。2021年は私たちがゼロエミッション車へと向かう一方通行に入り、熱エンジンを行き止まりに追いやる年であるべきだ。

航空機マイクログリッドはオフグリッドコミュニティにも使える

何日間か昼も夜もなく飛行し、理論上の無限の飛行能力に達すると、Solar Impulseは日中に集めて貯蔵しておき夜間のエンジン駆動に使用していたエネルギーに依存していた。

Si2で小規模ながら利用可能になったものが、将来にわたって有効な、完全に再生可能エネルギーだけの発電システムへの道を開くはずだ。それまでの間は、Si2で使われたようなマイクログリッドが地方のコミュニティのオフグリッドシステムに役立てたり、あるいはエネルギーアイランドによってディーゼルなどの二酸化炭素を多く排出する燃料を今日からでも廃止できたりする。

大規模には、スマートグリッドを模索している。すべての「愚かなグリッド」がスマートグリッドに置き換えられたら、たとえば街は、エネルギーの生産、保管、配送、消費を管理できるようになり、エネルギー需要のビークを下げることで、二酸化炭素の排出量は劇的に減少するだろう。

空中と陸上のエネルギー効率

Solar Impulseの理念は、エネルギーを増産しようとせず、エネルギーを削減することだった。だからこそ、比較的少量の太陽光エネルギーを収集しただけで昼夜の飛行に十分だったのだ。したがって、航空機のあらゆるパラメーター、たとえば翼長、空力、スピード、飛行プロファイルとエネルギーシステムなどは、エネルギー損失を最小化するように設計されていた。

残念ながら、今日のエネルギー使用の大半にある非効率を見ても、このアプローチは未だに際立っている。国際エネルギー機関(IEA)は2000年から2017年にかけてエネルギー効率が推定13%向上したことを明らかにしたが、これは十分とは言えない。投資家を勇気づけるには、政治家の勇気ある行動が必要だ。そのための最も優れた方法のひとつは、エネルギー効率の厳格な基準を導入することだ。

たとえば、カリフォルニア州は建物とコンシューマーエレクトロニクスや家電製品などの機器について、エネルギー効率の基準を定めており、これによって消費者は公共料金の支払額を100ドル(約1万500円)以上節約したと推定されている。環境にも家計にもやさしい対策だ。

Si2は未来だったが、今こそ現在を定義する

こうしたさまざまなイノベーションを使用して制作した当時は、Solar Impulseは先駆的で未来的だった。今、これらは現在を定義するものであって、これらを規範としなければならない。上述のテクノロジーに続く何百ものクリーン技術ソリューションが存在し、お金を生む方法で環境を保護している。そのような技術の多くが「Solar Impulse 高エネルギー効率ソリューションラベル」を保有している。

Si2テクノロジーと同じように、こうした技術がメインストリーム市場に参入することを、ここで確実にしておかなければならない。その規模拡大が迅速であるほど、パリ協定の目標達成と持続可能な経済成長の実現に向けて、より迅速に経済を軌道修正できるだろう。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:再生可能エネルギー 環境問題 コラム

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(文:Bertrand Piccard、翻訳:Dragonfly)

テキサス大寒波から学ぶ3つのエネルギー革新

本稿の著者Micah Kotch(ミカ・コッチ)氏はURBAN-Xのマネージング・ディレクターだ。

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気候変動の総合的危機に対する個別なソリューションがいくつも登場している。非常用ディーゼル発電機、Tesla(テスラ)のPowerwall、地下シェルターの「Prepper」などがある。しかし、現代文明が依存しているインフラストラクチャーは相互につながり、相互に依存している。エネルギー、輸送、食料、水、ごみのシステムは、気候による緊急時に対していずれも脆弱だ。私たちのエネルギーインフラ危機を救う唯一の孤立したソリューションは存在しない。

2005年のHurricane Catarina(ハリケーン・カタリナ)、2012年の巨大暴風雨SANDY(サンディ)、2020年のカリフォルニアの山火事、そして最近のテキサス大寒波以来、大多数の米国市民はいかにインフラが脆弱であるかを認識しただけでなく、それを適切に規制しその復旧に投資することがいかに重要であるかを思い知らされた。

今必要なのは、インフラを考える際の発想の転換だ。具体的には、リスクをどう評価するか、維持をどう考えるか、気候の現実に沿った政策をどう作るかだ。テキサスの大寒波は、異例の寒波に備えていなかった電気・ガスインフラを壊滅状態にした。もし私たちがインフラへの緊急な(超党派?)投資を、特に異常気象が当たり前になりつつある今行わなければ、この惨劇は今後も続くばかりだ(そして最前線の人たちは特に重荷を背負う)。

テキサスの記録的暴風から1カ月が過ぎ、焦点は生活を取り戻そうとしている数百万の住民を助けることに正しく向けられている。しかし、短期的未来に目を向けには電気自動車への転換点の兆しが見える現在、この国のエネルギーインフラと公共事業の大転換というツケを払うことを優先しなくてはならない。

エネルギー貯蔵の重要性

テキサス州の電気の75%が化石燃料とウランから生まれており、州内で起きた停電の約80%がこれらのシステムに起因していた。同州と国は、時代遅れの発電、通信、および配送技術に依存しすぎている。2030年までにエネルギー貯蔵のコストが75ドル/kWhまで下がると期待されていることから「需要管理」およびグリッドを「(排除しようとするのではなく)支える」分散エネルギー源に今以上に重点を置くことが必要だ。小規模なクリーンエネルギー発電と家庭内貯蔵電力を蓄積、集約することで、2021年は「バーチャル発電所」が全潜在能力を発揮する年になるかもしれない。政策立案者は、家庭のメーターの内側に設置する新たな分散エネルギーリソースを普及させるための刺激策と報奨金制度を施行させるべきであり、カリフォルニア州の自家発電奨励プログラムはその一例となる。

労働力開発への投資

エネルギー大転換が成功するためには、労働力開発が中心的要素になる必要がある。石炭、石油、ガスからクリーンエネルギー源へと移行するためには、企業と政府(国から市レベルまで)は、労働者がソーラー、電気自動車、バッテリーストレージなどの新興分野の高賃金職に就くための再教育に投資すべきだ。エネルギー効率(エネルギー大転換で最も手をつけやすいところ)に関して、都市は株価に基づく労働力開発プログラムを建物エネルギーベンチマーキング条件と結びつける機会を利用するべきだ。

これらのポリシーは、この国のエネルギーシステムの効率と老朽化する建物の利用率を高めてより生産的な経済を作るだけでなく、 21世紀の成長産業における雇用の拡大と労働の専門化にもつながる。 Rewiring Americaの分析によると、国の野心的な脱炭素宣言によって、今後15年の間に2500万の高賃金職が生まれるという。

信頼性のためにマイクログリッドをつくる

マイクログリッド(小規模発電網)は、主要グリッドと繋ぐことも切り離すこともできる。非常時だけでなく、日常の「青空」運用の日々にも運用することで、マイクログリッドは主要グリッドが停止した際に途切れなく電力を供給できる。そして、主要グリッドにつなげた場合、グリッドの制約とエネルギーコストを減らす。かつては軍事基地と大学だけの領域だったマイクログリッドは年間15%成長し2022年の米国市場は180億ドルに達する

グリッドの回復力と信頼性の高い電力源を確保のためには、重要インフラ施設を近隣の住宅と商業負荷と結びつけるコミュニティ規模のマイクログリッドに勝るソリューションはない。実現性調査と高度な設計に資金提供し、コミュニティがゼロコストで高品質な建設プロジェクト実施できるようにすることは、ニューヨーク州が NYプライズ・イニシアティブでやったように、コミュニティをエネルギー計画に参加させ、民間セクターを低炭素の回復力あるエネルギーシステムの構築に携わらせる有効な方法であることが実証されている。

予測不能性と複雑さが急速に高まり、テクノロジーは居場所を見つけたが、それは単なる個別の安全策や偽りの安心感としてではない。テクノロジーは、リスクを高精度で計算し、システムの回復力を高め、インフラの耐久性を改善し、コミュニティの人々同士のつながりを深めるために使われるべきだ。緊急時もそうでない時も。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:コラムテキサス自然災害電力網エネルギー貯蔵エネルギー

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(文:Micah Kotch、翻訳:Nob Takahashi / facebook

Apple Watchで心不全の悪化を検知できるか、トロントの研究病院グループが調査開始

トロント市にある研究病院グループUniversity Health Network(UHN)で実施している新しい研究により、ますます関心が高まっている健康分野の治療方法が変わる可能性がある。Heather Ross(ヘザー・ロス)博士が主導するこの研究では、心不全を発症した患者の健康状態が悪化する可能性をApple Watchで早期に警告できるかどうかを調査する。

この研究では、最終的に約200人の患者を対象に調査することを目指しており、すでに25歳から90歳という幅広い年齢層の参加者が多数登録している。研究では、Apple Watch Series 6とその内蔵センサーを使って、心拍数、血中酸素濃度、一般的な活動レベル、6分間歩行試験時の全体的なパフォーマンスといった信号を監視する。ロス博士率いる研究者たちは、このデータを、より正式な臨床試験から得られた測定値と比較する。この測定値は、通常の定期健診時に心不全患者の回復状況を観察するために医師が現在使用しているものだ。

ロス博士とそのチームが期待しているのは、Apple Watchのデータから見える兆候と、実証済みの医療診断および監視装置から収集された情報の相関関係を特定できることだ。Apple Watchが心不全患者の健康状態を正確に検知できることを検証できれば、Apple Watchは治療とケアの面で大きな可能性を秘めていることになる。

「米国には心不全を抱える成人がおよそ650万人います」とロス博士はインタビューの中で話した。「北米では40歳以上の5人に1人が心不全を発症します。そして心不全発症後の平均余命は2.1年ほどで、生活の質にも大きな影響が出ます」。

この統計は心不全が「蔓延しつつある疫病」であることを示しており、ロス博士がいうには、医療制度に「米国では現在1年間に約300億ドル(約3兆1877億円)」の費用がかかっているとのことだ。その大部分は、予防可能な原因によって生じる健康状態の悪化により、必要となる治療費用だ。こうした原因は、適切なタイミングで患者の行動を変えさえすれば回避できる。ロス博士によると、現在、心不全患者の治療法は「断続的」なものである。つまり患者は、3カ月から6カ月おきに通院し、診断看護師のような訓練を受けた専門家の監視下で、高額な機器を使用してさまざまなテストを受ける必要がある。

「治療法についてある程度考えてみると、私たちはそれを逆向きに捉えていました」とロス博士はいう。「私たちは、比較的自然な方法で患者を継続的に監視するにはどうすれば良いかということを考えています。継続的に監視すれば、患者が実際に入院する前に患者の状態変化を検知できます。これはApple(アップル)にとって大きなチャンスです」。

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ロス博士によると、現在の推定では、処方された薬の正しい服用、症状の正確な監視、食事摂取の監視といった適切なセルフケアを含め、患者が取る対策によって入院の半数近くを完全に回避できるということだ。アップルのヘルスケア担当副社長であるSumbul Desai(サンブル・デサイ)博士は、治療の水準を高め、良好な長期の治療成績を得るための重要な要素の1つは先を見越した行動である、という見方に同意している。

「医療の世界において、多くの治療では、状態に対する事後対応に焦点が当てられていました」と同氏はインタビューの中で語っている。「自分の健康にもう少し積極的に取り組むべきだという考えは、私たちを本当に力づけますし、その考えから生まれる成果を想像するとワクワクします。私たちは、まず、こうした研究から科学の基礎を身に付けることが非常に重要だと考えていますが、その可能性に取り組むことを心から楽しみにしています」。

デサイ博士は、約4年の間、アップルのヘルスイニシアティブを率い、それ以前もキャリアの大部分を、スタンフォード大学(現在も准教授として在籍)で学術的な取り組みと臨床的な取り組みの両方に費やした。継続的な治療の価値を直接知っている同氏は「この研究は、個人の日常的な健康管理においてApple Watchが果たす役割の中に可能性が見いだされたことを示している」と述べた。

「日常生活を送っている個人のある時点の記録を得ることができるのは非常に便利です」と同氏はいう。「医師であれば、診察の際に『日常生活でお変わりありませんでしたか?』と聞くこともあるでしょう。日常のデータが手元にあり、それを会話に盛り込むことができれば、患者との関わりが非常に強くなります。私たちはこれまでにない方法でインサイトを提供できると信じており、この特定分野でさらにどんな情報が得られるかを考えると本当にワクワクします。私たちはユーザーである患者と医師の両方から、そのようなデータがどれほど価値のあるものかをすでに聞いて知っています」。

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ロス博士とデサイ博士の両氏は、Apple Watchについて、設定と学習が簡単で、健康とフィットネス以外のさまざまな目的に適うことや、継続的な治療法における主要な要素であることに触れ、消費者が手軽に使えるデバイスとしての価値を強調している。

「私たちは、人々が自分の健康管理において、より積極的な役割を担うべきであると強く信じています。そして、Apple Watchは強力なヘルスケアツールであると自信を持って言えます。大切な人とつながったり、メッセージをチェックしたりできるデバイスで、安全をサポートしたり、もっと体を動かして健康を維持することを促したり、全般的な健康に関する重要な情報を提供したりできるからです」とデサイ氏はいう。

「Apple Watchは、デサイ博士が述べたようなすべての機能を必要とする人のための、デバイスに組み込まれた強力なヘルスケアツールです」とロス博士は付け加えた。「しかし、これは強力な診断ツールでもあります。このヘルスケアツールを正しく評価できれば、Apple Watchは無限の可能性を秘めたツールになります。このパートナーシップでは、まさにその評価を行っています」。

この研究では、前述のように200人の参加者を対象としているが、登録者数は毎日増えている。3カ月にわたり積極的なモニタリングを実施した後、患者の転帰に関連して収集されるデータを2年間継続して調査する予定である。収集されたデータはすべて完全に暗号化された形式で格納される(ロス博士は、アップルをパートナーにするもう1つの利点として、アップルのプライバシーに関する実績を挙げた)。そして登録者は参加後でも、調査の途中でいつでもやめることができる。

結果が出たとしても、それは大規模な検証プロセスの第一歩にすぎない。しかしロス博士は、心不全と治療についての基本的な考え方を変えることによって、最終的には「治療法が改善され、公平なケアを受けられるようになる」ことを期待していると述べた。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:医療AppleApple Watchコラム

画像クレジット:Apple

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Dragonfly)

「パッシブコラボ(受動的協業)」がリモートワークの長期的成功の鍵となる

本稿の著者Mohak Shroff(モハック・シュロフ)氏はLinkedIn(リンクトイン)のエンジニアリング責任者。LinkedInの構築、規模拡大、保護を行うエンジニアリングチームを指揮している。

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1998年、Sun Microsystems(サン・マイクロシステムズ)は「オープンワーク」プログラムを試験導入した。従業員のおよそ半数を、どこでも好きな場所で勤務できるようにするものだ。このプロジェクトには、新しいハードウェア、ソフトウェア、通信ソリューションが必要であり、準備に約24カ月間を費やした。

結果は大変に良好で、経費も企業としての炭素排出量も減らすことができた。だがこうした結果とは裏腹に、長期的なリモートワークがこれ以上広がることは決してなかった。それどころか、2010年代には人と人の対面によるコミュニティがイノベーションには欠かせないという理念のもと、オープンオフィス、出勤手当て、協業スペースなどの考え方が登場し、別の方向性が注目されるようになっていった。

2020年、規模の大小に関わらず、世界中のあらゆる企業は、新型コロナウイルスの蔓延にともないリモートワークへの転換を余儀なくされた。中にはすでに従業員を分散していたり、クラウドアプリやサービスを軸にすえていたり、以前から就業方針として柔軟な働き方を採り入れるなどして他社よりもうまくやれた企業もあるが、完全にリモートに移行するための調整は、誰にとっても大変に厄介な問題だ。最大手企業であっても、この時期を耐え抜くためには、自らを犠牲にして数々の難題に挑む、社員の英雄的な行動に依存しなければならないのが現実だ。

高画質のビデオ会議やクラウドなどのテクノロジーは、リモートワークの実現には欠かせない。しかし私たちはまだ、人が現場で行う仕事を完全に置き換えられる代替手段を手に入れていない。なぜなら、極めて重要なある分野に対処できるツールがないからだ。その分野とは、パッシブコラボ(受動的協業)だ。これに対して、仕事の大部分を占めるアクティブコラボ(積極的協業)は、バーチャル会議や電子メールでも行えるが、しばしば最大のイノベーションを生み出す原動力となり、パッシブコラボの基礎となる、思いがけない閃きを呼び起こす会話や偶然の出会いなどを可能にする手段は、まだ完全にはでき上がっていない。

コラボのアクティブとパッシブ

テック産業を知らない人たちは、ソフトウェア開発者はコンピューターと安全なインターネット接続環境さえあれば仕事ができると考えるだろう。しかし、1人で黙々とコーディングを行うエンジニアというステレオタイプは、とっくの昔に崩壊している。理想の開発作業は、1人ではできない。チームで話し合い、議論を戦わせ、ブレインストーミングを重ねるコラボレーションで可能になるものだ。ビデオ会議プラットフォームやチャットアプリは、アクティブコラボを可能にしてくれる。MicrosoftのVisual Studio CodeやGoogle Docsなどのツールは、専門的な非同期のコラボを可能にしてくれる。

しかし、現在の私たちに欠けているものは、何の気なしに出会って交わされるおしゃべりだ。それは私たちに活力を与え、そうした会話でなければ生まれ得ない新しいアイデアを思いつかせてくれる。パッシブコラボは創造性の醸成には不可欠であるため、このような人と人の関わりを長期間欠いた場合、イノベーションが被る負利益は計り知れない。

ホワイトボード

パッシブコラボとアクティブコラボの違いは、ホワイトボードを見ればよくわかる。私は先日、ある人から「テック業界の人とホワイトボードとの関係とは?なぜ、そんなに重要なのか?」と聞かれた。ホワイトボードはシンプルで「ローテク」な道具だが、私たちの業界の真髄とも呼べるものだ。だからこそ、それがエンジニアリングのためのマルチモーダルなコラボの源になっている。新型コロナ以前のことを思い返してみよう。エンジニアたちがホワイトボードを囲んでスクラムミーティングを行う様子をどれだけ見たり、または参加したことだろうか。

たまたま聞こえてきた話の断片が気になって、深く知りたくなったり意見を言いたくなったりして、ミーティングの場で足を止めたことがおありだろうか?または、ホワイトボードに書かれていた内容が目に留まり、それについて別の同僚と語り合い、それが問題解決につながっがりしたことはないだろうか?これはみな、パッシブコラボの瞬間だ。これはリアルタイムのアクティブコラボ用ツールでもあるホワイトボードによって、見事に導き出されたものだ。ホワイトボードは、新しいアイデアや観点を、抵抗なく会話に招き入れる手段となっている。これ以外の方法では、そうはいかない。

ホワイトボードは、パッシブコラボを促進する手段の1つだが、他にもある。休憩室で偶然に始まるおしゃべり、パーテション越しに聞こえてくる隣の会話、部屋の向こうで暇そうにしている人間に意見を聞くことなども、パッシブコラボの実例だ。こうしたやりとりが、みんなで一緒に働く場において極めて重要でありながら、リモートワーク環境での再現が最も難しいものでもある。自己中心的なソフトウェア開発工程がソフトウェアの品質に害を及ぼすように、パッシブコラボの欠如もまた有害だ。

そのためには、他の人たちが何をしているのかを、公式な会議や社内報のような肩ひじ張ったかたちではなく、ちょっと覗き見できるツールが必要だ。自由にオープンに交わされるアイデアからイノベーションは生まれる。しかし私たちはまだ、そのための最適なバーチャル空間を作る方法を知らない。

今後を見据えて

未来の仕事は、これまでになくチームが分散されたかたちで行われるようになる。つまり、2021年だけでなく、この先もパッシブコラボのための新しいツールが必要とされる。私たちが行った内部調査では、パンデミックが迫ってきたときは完全にリモートで仕事したいと望む社員もいたが、大半は、将来的にもっと柔軟なソリューションが欲しいと考えていることがわかった。

その答えは、会議やメールのスレッドをもっと増やすことでは決してない。昔ながらのホワイトボードのように機能し、協業による偶発的な閃きが起こり得るバーチャル空間を再考することだ。私たちはまだ、この課題を解決する鍵を探っている最中だが、LinkedInでは、手始めにチームの垣根を越えた会話やオープンなQ&Aで資源を共有する方法を模索している。

この数十年間、テック業界は、協業と生産性の摩擦をなくすための空間やメリットを創造し、従業員がイノベーションを生み出しやすくなる道を踏み固めてきた。今、私たちは、将来のハイブリッドな仕事環境を見据え、従業員の生産性と創造性のサポートを維持するための新しい方法を見つけ出さなければならない。パッシブ・コラボがバーチャルで完全に実現して初めて、リモートとハイブリッドの仕事環境の可能性がフルに引き出されるようになるのだ。

カテゴリー:その他
タグ:リモートワークコラボレーションツールコラム

画像クレジット:Alistair Berg / Getty Images

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(文:Mohak Shroff、翻訳:金井哲夫)

バイデン大統領の多様性への取り組みが、ビジネスリーダーの方向性を導く

本稿の著者Elias Torres(エリアス・トーレス)氏は、会話型マーケティング・販売プラットフォームDriftの創設者兼CTOだ。

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2021年の我が社の目標は44%が女性、14%が過小評価グループで労働力を構成することだった。多少の進展はあったものの、現在のそれぞれの数値は、43%と13%にとどまっている。

この目標がなぜそこまで重要であるかを説明すると、筆者には、17歳の時に母と兄弟とともにニカラグアから米国へ移住した経歴があるからだ。その際、知識があり努力さえすればなんでも達成できる場所が約束されたのだ。しかし、成長の過程を振り返っても、筆者のような立場にあるビジネスリーダー、政治家、校長先生などを見た記憶はない。Marc Benioff(マーク・ベニオフ)のような立場にある黒人やSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)のような立場にあるラテン系の人物が報道されることが一切なかったため、少数グループが活躍できる未来が見えなかったのだ。

だが、2008年のオバマ大統領の選出を機に、社会の認識が非常に速い速度で変わったのだ。これによる有色人種への影響が大きかったことは言うまでもない。新しい政権に切り替わった今、バイデン大統領は「我が国の多様性を反映する」内閣の人選に非常に力を入れている。

彼の政権には、国連大使候補者であるLinda Thomas-Greenfield(リンダ・トーマス・グリーンフィールド)大使や国土安全保障長官候補者のAlejandro Mayorkas(アレハンドロ・マヨルカス)など、黒人およびラテン系コミュニティを代弁する人材が含まれている。

17歳のときの筆者が、元難民が米国の未来の舵を取っているのを見たとしたらどのように感じ、世界観がどのように変わり、成長しただろうと考えたら、多様性へ献身しようという意欲が倍増した。結局は、公的機関が多様性に対してこのように積極的に取り組んでくれたら、確実に企業もそれに続くと言えるのではないか。

各企業には、2021年のDEI計画があるはずだ。我が社の計画は次のとおりである。

アイデアを得るために役員ではなく従業員を活用する

役員室は、より多様な人員で構成されるようにはなってきているものの、最終的に大きな進歩が見られる期待は少ない。進歩とはむしろ、従業員が自身のスキルとやる気がうまく重なり合ったときに見られるのだ。

今年、これを説明するようなことが我が社で起こった。

黒人が主導するビジネスへの新型コロナウイルスによる桁外れな影響を目にして、数名の従業員がアイデアを持って私の元に訪れたのだ。彼らは、我が社の製品を使い長期にわたるシャットダウンの影響を受ける黒人主導のビジネスを救済する方法を見つけたいと考えていた。彼らは、BlackBoston.comの所有者であるWilliam Murrell(ウィリアム・マレル)と協働し、ニーズを把握することから始め、彼と同ウェブサイトのビジターをどのようにつなげるかを考え始めた。Williamのネットワークで作業をすることで我々は、黒人が経営するビジネスにおいてテクノロジーの導入の妨げになっている障壁が何であるか深く理解し、ギャップを埋める反復可能なプロセスを作り出した。

このような判断とその結果としての取り組みは、収益性向上の方法を考えるために多大な時間を費やす役員室で行われたのではない。むしろ、自身のコミュニティを改善したいと願う従業員がアイデアを練り、その方法を生み出したのだ。

こうした取り組みをより一般的なものにするため、我が社は多様性に明るい採用担当者を採用し、チームがコミュニティをより適切に反映できるように尽力した。また、少数グループを面接へ導き、採用判断時の偏見を軽減できるように均衡のとれた採用プロセスを策定した。一方で、退職者から学ぶ姿勢も重要だ。彼らから我が社の改善すべき領域を学び、会社を超えて彼らが成長できるよう促すためだ。

在宅勤務が表現や相互信頼の妨げにならないようにする

現在、人々は通常の営業時間内で勤務していない。育児をこなしながら在宅で仕事をしていたりする。リーダーがその大変さを理解し、自分に引き寄せて考えることが必須である。我が社は、会計年度末を1月に変更したため、営業チームと市場参入チームは年度末に目標を達成するために慌てて仕事をせず、休日を家族と楽しみリフレッシュすることができた。

さらに、社員主導の採用リソースグループ(ERG)の役割を強化・拡大し、同僚同士が表現できる安全なスペースを確保している。相互信頼もビジネスにおいては不可欠である。自身を役員室における象徴と認識する創設者としては、社員が自らを表現でき、個々の成功や失敗から学んだことを共有する場所を用意することの価値を認識しているつもりだ。

こういったことだけでは多様性の直接的な改善にはつながらないが、信頼の構築に大いに役立つのは確かである。

人種や性別だけではなく、多様な視点を受け入れる

我が社が取り組んでいる最後の事項は、外見だけが多様性ではないということを認識することだ。むしろ、考え方やその人の抱えているものの多様性の方が、チームが共通の目標を達成するためにどのように協力するかにとって重要である。

結局のところ、違いを尊重できない文化の構築を進めると、マイノリティを組織の外へますます追いやってしまうことになる。我が社では、多様性、平等、インクリュージョンに焦点を当てることの一環として、民族の多様性と同様に考え方の多様性を認め合うことを推奨し、そして重要な時に問題を提起する社員に対する説明責任を我々自身に課している。

2020年はトラウマの年であり、すべての人が同じ恐怖と不安を共有した。ありがたいことに、このトンネルの終わりには、2つの有望なワクチンと性別や民族の境界線を越えた平等な表現を尊重する価値を知っている新しい政権がある。

このような前向きな発展に関わらず、多様なコミュニティに力を与える取り組みは、確実に維持していかなければならない。つまりは、テック業界に少数グループが十分に進出していないという体系的な問題は、このような取り組みだけでは解決しないだろうが、問題への対処と日々の学びに対し持続的に注意を払うことで解決できると信じている。2020年に目標を達成できなかったとはいえ、2021年は、大統領のリーダーシップの下、オフィスでの平等性を維持できるよう尽力する次第だ(オフィスがどこにあろうとも)。

すべてのビジネスオーナーがこれと同じ取り組みを行ってくれることを期待したい。

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タグ:コラムDEI

画像クレジット:Andrii Yalanskyi / Getty Images

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(文:ゲストライター、翻訳:Dragonfly)

今、その役割が注目されている活動家的なデベロッパーの台頭

本稿の著者はBob Lord(ボブ・ロード)氏は、IBMでWorldwide Ecosystems and Blockchainを担当するSVP。IBMのブロックチェーンビジネスを監督し、開発者、グローバルシステムインテグレータ、独立系ソフトウェアベンダーにまたがる同社の主要なエコシステムを推進するなど、ビジネス全体に新しいオープンテクノロジーを浸透させている。

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この数カ月間、特に米国において、テクノロジーと社会におけるその役割が注目を集めている。

私たちは、テクノロジーの公正かつ倫理的な利用方法や虚偽情報の拡散を阻止するためにできることなどについて、真剣に話し合う必要がある。だが、こうした問題の解決に尽力する際、この話し合いによって、善行のためにテクノロジーを利用する活動家的なデベロッパーの台頭という、2020年現れた希望の兆しを曇らせることがないことを願う。

活動家的なデベロッパーはこれまでにないほどさまざまなグローバル問題に対応し、信じられないほどに困難な問題を解決するのを好むことだけでなく、そうした問題を大規模に、そして見事に解決できることを証明した。

彼らの起業家精神にあふれる成長型マインドセットをこのコミュニティで解き放ち、より多くの人々が、あらゆる人のために持続可能な未来を築く機会があるようにする責任は、私たち全員にある。私は、同僚や業界、政府などに、デベロッパーが主導するアクティビズムの新たな波をサポートし、今、存在しているスキルギャップを協力して埋めていくよう呼びかけている。

新型コロナウイルスのパンデミックから、気候変動や人種問題まで、デベロッパーは、人々が不安定な今の世界をうまく切り抜けることができるように新しいテクノロジーを作る重要な役割を担っている。こうしたデベロッパーの多くは、労働時間外に世界中で共有できるオープンソースのソフトウェアを使用して社会問題に取り組んでいる。この取り組みにより多くの命が救われている。ゆくゆくは何百万人もの命を助けることになるだろう。

国際的な研究者コミュニティは、いち早くオープンソースのプロジェクトによってデータと遺伝子配列を共有し合い、新型コロナウイルスの早期理解と感染を阻止する取り組みにおいて協力することに役立てた。研究者がほぼリアルタイムで世界中の遺伝子コードを追跡できることは、私たちの対応において極めて重要であった。

St. Jude Children’s Research Hospital(セントジュード小児研究病院)では、この重要な時期に、たった10日間で同意署名プロセスのデジタル化を成し遂げた。台湾、ブラジル、モンゴル、インドから集まった4名のデベロッパーチームは、気象データを使用して天候の変化を察知し、より情報に基づいた作物管理の意思決定ができるよう農業経営者を支援した

1950年代から1960年代の公民権運動と反戦運動から最近のブラックライブズマター運動を支持する集会まで、人々は情熱と抗議心を持って、より良い未来へと導く話し合いの場をかたち作ってきた。そして今、人々による活動の豊かな歴史に、新しく重要なツールが加わった。最大級の課題に世界的および地域的に協力して対応するために必要なデータ、ソフトウェア、テクノロジーのノウハウだ。

現代のソフトウェアデベロッパーは、1940年代や1950年代に橋や道路を設計し、非常に広範な進歩への道を開いたインフラストラクチャを作った土木技師に似ている。

オープンソースコードのコミュニティは、すでに協力・共有している。あらゆる人が共有できるイノベーションを生み出し、完璧ではなく完成を目指すことに焦点を当てているのだ。ハリケーンによってコミュニティが大きな被害を受けそうなとき、ただ土嚢を準備するだけではなく、オープンソースのテクノロジーを使用してコミュニティを支援し、ソリューションを拡張して他者を助けることができる。例えばDroneAID(ドローンエイド)は、視覚認識を利用して頭上を飛ぶドローンから地上のSOSの印を検知して数え、緊急救援のために地図上に救急ニーズを自動的にプロットするオープンソースのツールだ。

GitHub(ギットハブ)による最近の調査では、オープンソースプロジェクトの作成は2020年4月より25%増えている。デベロッパーは空き時間を利用してオープンソースコミュニティやバーチャルハッカソンに貢献し、より持続可能な世界を作ることに自らのスキルを活用している。

2018年、私はIBM、David Clark Cause(デビッド・クラーク・コーズ)、United Nations Human Rights(国連人権理事会)によるCall for Code(コール・フォー・コード)の立ち上げを手伝った。グローバルなデベロッパーのコミュニティを支援する取り組みだ。そのミッションの大部分を占めるのは、野心的な構想を実世界に取り入れるために必要なインフラストラクチャを作ること。IBMでは、エンタープライズクライアントによって使用されるものと同じテクノロジーへの2400万人のデベロッパーコミュニティアクセスを提供しており、これにはオープンハイブリッドクラウドプラットフォーム、AI、ブロックチェーン、量子計算などが含まれている。

Prometeo(プロメテオ)は消防士、看護師、デベロッパーのチームで、AIとモノのインターネット(IoT)を利用したシステムを開発した勝者であろう。これは消防士が火災に立ち向かう際に消防士を保護するシステムで、スペインの複数の地域ですでにテスト済みである。私たちはこれまで、自宅学習用に教師が仮想情報を共有できるようにしたデベロッパー、消費者の購入における二酸化炭素排出量の影響を計測できるようにしたデベロッパー、スモールビジネスに新型コロナウイルスに関するポリシーの最新情報を提供できるようにしたデベロッパー、農場経営者が天候の変化に対応できるようにしたデベロッパー、パンデミックの中でビジネスの生産ラインの管理方法を向上できるようにしたデベロッパーなどを見てきた。

2020年、Devpost(デブポスト)は世界保健機構(WHO)と連携し、健康、被害を受けやすい人口、教育などのカテゴリーで新型コロナウイルス感染症の緩和ソリューションを作成するという課題をデベロッパーに出した。Ford Foundation(フォード財団)とMozilla(モジラ)は技術者、活動家、ジャーナリスト、科学者をつなげて、技術と社会正義に取り組む組織を強化するためのフェローシッププログラムを先導した。U.S. Digital Response(米国デジタルレスポンス、USDR)では、無料奉仕する技術者を、危機に対応する政府や組織と結び付けた。

最も複雑な世界的かつ社会的な問題は、より小さく解決可能なテクノロジーの課題に分解できる。だが最も複雑な問題を解決するには、あらゆる国、あらゆる階級、あらゆる性別の頭脳が必要になる。スキルギャップの危機は世界的な現象であり、次世代の問題解決者に、すばらしいアイデアを影響力の高いソリューションに変えるために必要なトレーニングとリソースを準備することが重要だ。

2021年は、企業や州、国の境界を越えて連携し、世界で最も大きな問題のいくつかに取りかかる新しく活気に満ちたデベロッパーコミュニティが表れると期待できるだろう。

だが彼らは自分たちだけでは問題を解決できない。こうした活動家的なデベロッパーには私たちからの支援や励まし、対処すべき最も重要な問題を指摘する手伝いが必要だ。そしてソリューションを世界中すみずみまで提供するツールも必要になる。

テクノロジーの真の力は、この世界をより良いものに変えたいと考える人々のためにある。変化を生みたい人々がそれを成し遂げるためのツール、リソース、スキルセットを確保できるように、私たちはスキルギャップを埋め、社会の根深い格差を解消することを、改めて重要視する必要がある。

私たちの未来は、これを正しく理解できるかどうかにかかっている。

関連記事:誰もが資本を獲得し起業家精神を持てる社会を目指すことが最後の公民権運動

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タグ:コラムアメリカ

画像クレジット:Klaus Vedfelt / Getty Images

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(文:ゲストライター、翻訳:Dragonfly)

850万人の大規模検査後、インドの州政府サイトが新型コロナ検査結果を外部閲覧可能な状態に

インドの西ベンガル州政府が運営するウェブサイトのセキュリティ上の欠陥により、新型コロナウイルス感染症検査を受けた少なくとも数十万人の住民の検査結果が誤って公開された。影響を受けた人数はおそらく数百万人にのぼると思われる。

このサイトは、西ベンガル州政府の大規模新型コロナウイルス検査プログラムの一部として運営されていた。新型コロナウイルス感染症の検査結果が出ると、州政府は患者に検査結果が記載された同サイトへのリンクをテキストメッセージで送る。

しかし、セキュリティ研究者のSourajeet Majumder(ソウラジート・マジュムダー)氏は、患者の固有の検査ID番号を含むリンクが、オンラインツールを使って簡単に変換できるbase64エンコード方式でスクランブルされていることを発見した。ID番号は増加していく連続番号だったため、このウェブサイトのバグにより、誰でもブラウザのアドレスバーでその番号を変更して、他の患者の検査結果を閲覧できるようになっていた。

検査結果には患者の名前、性別、年齢、住所、そして患者の新型コロナ検査結果が陽性、陰性、または決定的ではなかったかどうかが含まれている。

マジュムダー氏はTechCrunchに、悪意のある攻撃者がサイトをスクレイピングしてデータを販売することを懸念していると語った。「誰かが私の個人情報にアクセスした場合、これはプライバシーの侵害になります」。

西ベンガル州政府のウェブサイトにセキュリティ上の脆弱性があったことにより、新型コロナ検査の結果が露出された2件の例(スクリーンショット:TechCrunch)

マジュムダー氏がインドのサイバーセキュリティ緊急対応チーム(Indian Computer Emergency Response Team、CERT-In)に脆弱性を報告したところ、CERTはメールで問題を認めたという。同氏は西ベンガル州政府のウェブサイト管理者にも連絡したが、返答は得られなかった。TechCrunchは独自に脆弱性を確認し、ウェブサイトをオフラインにした西ベンガル政府にも連絡を試みたが、同州政府はコメントを差し控えた。

TechCrunchは脆弱性が修正されるか、リスクがなくなるまで報道を控えた。この記事の公開時点では、影響を受けたウェブサイトはオフライン状態が続いている。

このセキュリティ過失により、いったい何人の新型コロナ検査結果が公開されたのか、またマジュムダー氏以外の人物が脆弱性を発見したのかは不明だ。2021年2月末にウェブサイトがオフラインになった時点で、州政府は850万人以上の住民を対象に検査を実施していた。

西ベンガル州はインドで最も人口の多い州の1つで、約9000万人が同州に住んでいる。パンデミックが始まって以来、州政府は1万人以上の新型コロナウイルスによる死者を記録している。

今回のニュースは、ここ数カ月の間にインドと同国政府のパンデミック対策を襲ったいくつかのセキュリティ事件の最新のものだ。

2020年5月、インド最大の携帯電話ネットワークであるJioは、数カ月前に同社が立ち上げた新型コロナウイルス症状チェッカーを含むデータベースをセキュリティ研究者が発見したことを受け、セキュリティ過失を認めた

関連記事:Facebookも巨額出資するJio、新型コロナ症状チェッカーの結果を漏洩

2020年10月には、臨床検査会社のDr Lal PathLabsが、新型コロナウイルス検査を含む数百万件の患者の予約記録を含む数百枚のスプレッドシートを、パスワードで保護されていない公開ストレージサーバーに放置していたことをセキュリティ研究者が発見し、誰でも機密性の高い患者データにアクセスできるようになっていたことが判明した。

カテゴリー:セキュリティ
タグ:インドデータ漏洩コラム

画像クレジット:Diptendu Dutta / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Aya Nakazato)