TikTokが保存し損ねた動画を発見しやすくする「視聴履歴」機能をテスト中

TikTok(ティックトック)は「For You(おすすめ)」ページに表示された動画のうち、保存する機会が逃してしまったものを見つけることができる新しい「Watch history(視聴履歴)」機能を、一部のユーザーを対象にテストしている。

TikTokではコンテンツが常に流れているため、誤って「For You」ページを更新してしまい「いいね」を押す前に動画が消えてしまうことは、ユーザーにとってよくある問題だ。TikTokはこの問題を解決する機能の追加を検討しているようだ。

同社は、テストを拡大してより多くのユーザーにこの機能を展開する計画があるかという質問に対し、現時点ではテストについてこれ以上発表できることはないと、TechCrunchにメールで回答した。

「私たちのコミュニティに価値をもたらし、TikTok経験を豊かにするための新しい方法を、私たちは常に考えています」と、コメントを求められたTikTokの広報担当者はTechCrunchに語った。

この機能は、ソーシャルメディアプラットフォームで現在テスト中の機能を発見することが多いTwitter(ツイッター)ユーザーのHammod Oh(ハモッド・オー)氏が最初に発見し、ソーシャルメディアコンサルタントのMatt Navarra(マット・ナバラ)氏がこれに注目した。ハモッド・オー氏や他のユーザーが投稿したスクリーンショットによると、TikTokユーザーの「Watch history」は、アプリの設定にある「コンテンツとアクティビティ」のセクションからアクセスできるようになるとのこと。

今回のテストが実施される前に、TikTokのユーザーの中には、この失われた動画を見つける回避策を見つけた人もいる。2022年1月、TikTokユーザーの「rachforaday」氏は、同プラットフォーム上で失われたビデオを発見するプロセスをユーザーに説明する動画を投稿した。この動画では、ユーザーに「Discover(トレンド)」ページから検索をクリックし、アスタリスクを入力して、検索フィルタータブで「視聴済み動画」ボタンを切り替えるように指示している。適用をクリックすると、過去7日間に見た動画のリストが表示される。この動画は絶大な支持を集め、3200万回以上再生され、550万以上の「いいね」を獲得している。

ユーザーが見失ったTikTok動画を発掘する方法は、これだけではない。別の回避策では、アプリからデータ全体をダウンロードするプロセスを通して「動画の閲覧履歴」を見ることができるZipファイルにアクセスするように指示している。

TikTokの視聴履歴機能が正式導入されれば、ユーザーが見失った動画を見つけるプロセスがずっと簡単になり、上記のような回避策の必要性はなくなるはずだ。

画像クレジット:TOLGA AKMEN / Contributor / Getty Images

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(文:Aisha Malik、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Pinterestがクリエイター向けファンドへの投資を大幅に追加

競合各社がクリエイターに熱を上げる中、Pinterest(ピンタレスト)は米国時間3月28日、Creator Fundへの当初の投資を大幅に増やし、まだ評価を得ていないクリエイター層に対し現金での支援、広告のクレジット、その他のリソースとして追加で120万ドル(約1億4800万円)を投じると発表した。同社は2021年に50万ドル(約6200万円)のCreator Fundを開始すること、および新しいコンテンツポリシーとクリエイター向けツールを発表していた。ただ、Pinterestが投資を増やしクリエイターとの関わりを強化するものの、Meta(メタ)やYouTube(ユーチューブ)、TikTok(ティックトック)、Snap(スナップ)といったソーシャル大手の大がかりな取り組みに比べると、その規模はまだ小さい。

Pinterestは2021年4月にCreator Fundを発表し、同年秋には米国でクリエイターの報酬としてさらに2000万ドル(約24億6000万円)を投じると発表した。この報酬は「チャレンジ」への参加に対してクリエイターに直接支払われる。ただしこの取り組みはCreator Fundの一環ではないとされている。同社は、Creator Fundは資金と教育の両方のリソースを提供して、まだ評価を得ていない層のクリエイターを支援することに特化していると説明している(TechCrunchの問い合わせに対し、同社は新たに投資する120万ドル[約1億4800万円]のうちどの程度を現金で支援するのかについて明らかにしなかった)。

PinterestはCreator Fundの拡張にともない、四半期ごとに5週間のサイクルをコンテンツのテーマを変えてクリエイターに提供する。テーマはファッションとビューティー、ウェルネス、ライフスタイルとホーム、フードが予定されている。2022年の4サイクルのうち最初のサイクルではファッションとビューティーを取り上げ、このサイクルでは初のブランドパートナーとしてL’Oréal USA(ロレアルUSA)の後援を受ける。Creator Fundの参加者はPinterestが提供するトレーニングを受けられる他、L’Oréal USAから美容業界のインサイトとこの分野における専門家のサポートも提供される。参加するクリエイターは現在募集中だ。

Creator Fundの参加者は、現金での支援と広告クレジット、機材の提供を受け、さらにブランドパートナーになるチャンスやクリエイター向けカンファレンスへの参加、さらにPinterestのプロダクトをいち早く目にする機会もあると同社は述べている。

当初のファンド、そして以前に発表された2000万ドル(約24億6000万円)の報酬よりも大幅に増額されたが、それでもクリエイターに対するPinterestの取り組みは競合に遅れをとっている。

比較のために挙げると、TikTokは2020年に独自のクリエイターファンドを2億ドル(約246億円)で立ち上げたが、向こう3年間で10億ドル(約1230億円)以上にまで拡大するとしている。Metaも10億ドル(約1230億円)のクリエイター向けボーナスプログラムを発表した。YouTubeはTikTokへの対抗策としてYouTubeショートのクリエイター向けとして2021年に1億ドル(約123億円)のファンドを発表したが、過去3年間で合計300億ドル(約3兆6900億円)を超えるクリエイターへの幅広い投資を喧伝している。そしてSnapも最近、TikTokに似たSpotlightのクリエイターに対し、2021年に2億5000万ドル(約307億5000万円)を支払ったと述べた。

これらに対し、Pinterestはクリエイターに対する取り組みを始めたばかりだ。この1年間ほど、同社はそのプラットフォームをインスピレーションやアイデア、販売のための画像のピンボードから、動画や動画に関連する収益化の取り組みを通じてクリエイターのコミュニティに資するものにシフトしようと試みている。2021年5月にはクリエイター向け動画ファースト機能でTikTokとストーリーをミックスしたような「アイデアピン」を正式に発表した。Pinterestユーザーは、BGMやトランジション、さまざまなインタラクティブ要素など他のソーシャルプラットフォームと似たツールでクリエイティブなコンテンツを録画し、編集できる。しかしTikTokの動画とは異なり、Pinterestのアイデアピンは、例えばクリエイターがレシピやDIYの製作過程などを共有するページといった動画以外のコンテンツも組み合わせられるようになっている。

2021年秋にPinterestは、ビデオのピンを簡単にスクロールできる「Watch」タブをアプリに追加した。この取り組みがどの程度効果を上げているかは、今のところ明らかにされていない。The Informationは最近、PinterestはオンラインショッピングプラットフォームのVerishopを買収しようとしたが、Pinterestが買収されると取り沙汰される中で決断は先延ばしになったと報じた。Verishopは買収に乗り気ではなかった。

Pinterestによれば、同社Creator Fundプログラムを修了した参加者は平均で60%フォロワーが増えたという。しかし比較の基準がないので、クリエイターの実際の成果やもっと広い意味でのPinterestへの影響はなかなか理解できない。

Pinterestは、2022年後半には米国以外にもCreator Fundを拡大する計画であるとしている。

画像クレジット:Pinterest

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(文:Sarah Perez、翻訳:Kaori Koyama)

ツイッターがTweetDeckを有料化か

Twitter(ツイッター)は、TweetDeck(ツイートデック)を同社のサブスクリプションサービスであるTwitter Blue(ツイッター・ブルー)のプレミアム機能にしようとしているらしい。モバイルアプリのコードを探索して開発中の新機能や変更を見つけているリバース・アプリ・エンジニアのJane Manchun Wong(ジェーン・マンチュン・ウォン)氏によると、現在、ソーシャルメディア巨人はTwitterのプレミアム商品を開発中で、同社のAndroid(アンドロイド)アプリでTwitter Blueに追加しようとしている。

最近ウォン氏は、Twitterが同社のAndroidアプリのTwitter Blue機能リストに、TweetDeckへの参照を追加していることを発見した。先週ウォン氏は、アプリのコードに、TweetDeckのアクセスをTwitter Blueのサブスクリプション・ユーザーに限定し、購読していない人を登録画面に誘導する部分を見つけた。

彼女はまた、もしTwitterがTweetDeckをTwitter Blueの有料機能にする計画を進めれば、サブスクリプションを利用できない地域にいる数百万人のユーザーを締め出すことなると指摘した。Twitter Blueは米国、カナダ、オーストラリア、およびニュージーランドでしか提供されていない。現在TweetDeckは無料で広告も入っていないため、Twitterのウェブインターフェースを使いたくない人にとって人気のサービスになっている。

この変更の可能性についてTwitter広報担当者に尋ねたところ、現時点で公表できることはない、とTechCrunchに話した。

2021年Twitter Blueが正式公開されたとき、Bloomberg(ブルームバーグ)は、Twitterが今後のサブスクリプション機能でTweetDeckの利用者に課金する可能性を報じた。しかし、実際にTwitter Blueが公開された時、TweetDeckへの言及はなく、ブックマークの整理やスレッドをすっきりした形で読んだり、「Undo Tweet(ツイート取り消し)」機能などのツールがあるだけだった。

TwitterがTweetDeckを有料にすることを考えたのはこれが初めてではなく、同社は今を遡る2017年にアプリを有料化する方法を模索していた。当時一部のTwitterユーザーは、TweetDeckにどんな機能が欲しいか、上位バージョンにお金を払うつもりがあるかなどを尋ねるアンケートに答えるよう求められたが、そのコンセプトが実際にテストされることはなかった。

Twitter Blueはオーストラリアとカナダで2021年6月にまず公開され、11月に米国とニュージーランドが続いた。提供地域の拡大とともに、Twitter Blueは最近公開されたTwitter Labs(ラボ)を通じて新機能をいち早くアクセスできる仕組みを追加したほか、Twitterが2021年春に買収したScroll(スクロール)経由で、数百種類のパブリッシャーのニュース記事を広告なしで提供開始した。米国でのサブスクリプションサービス料金は月額2.99ドル(約362円)。

TweetDeckは、サードパーティーアプリとして出発したが、2011年にTwitterが4000万ドル(約48億5000万円)で買収した。このサービスは、Twitterの投稿やアカウント管理を容易にし、複数のタイムラインとフィードを1カ所で見る便利な手段を提供している。

関連記事:さまざまな便利機能が使えるツイッターの有料サブスク「Blue」が米国とニュージーランドでも提供開始

画像クレジット:David Paul Morris / Getty Images

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(文:Aisha Malik、翻訳:Nob Takahashi / facebook

Flickr、性的な写真のアップロードを有料ユーザーに限定

Flickrは金儲けが得意ではないが、古い格言にあるように、セックスは金になる。そこでFlickrは、より多くの有料会員を引き込むため、Flickr Proユーザーのみが「restricted(制限付き)」または「moderate(適度)」のコンテンツを投稿できるように、コンテンツのガイドラインを変更した。「moderate」とは「胸や下半身を露出するような部分的なヌード」写真のことで「restricted」には「正面からの全裸や性的行為」の写真が含まれる。

正直に言って、これは悪い動きではない。有料会員に「Flickrにお金を払うように友人を勧誘してくれ」と頼むよりは効果的かもしれない。

2018年にSmugMug(スマグマグ)がこの写真ホスティングサービスを買収したとき、CEOのDon MacAskill(ドン・マカスキル)氏は、このサービスを「インターネットの構造全体の中核」と呼び、利益を生めるようにしたいと望んだ。これは単なるCEOの大げさな表現ではなく、マカスキル氏の言葉にも一理ある。Flickrは歴史のアーカイブだ。1つには、実際に歴史的な画像が展示されていること。それだけでなく、2004年以来、何百万人もの人々のレンズを通して、世界の視覚的な歴史が記録されてきたということもある。それがすべて消えてしまうのは残念だ。

しかし、Flickrはインターネット上に膨大なデータをホストしているため、運営に非常にお金がかかる。しばらくの間、Flickrにお金を払う理由はあまりなかった。すべてのユーザーには、写真のために無料で1テラバイトのストレージが与えられていたからだ。しかし、SmugMugの管理下となってから、Flickrは無料ユーザーが保存できる写真の枚数に制限を設けた。1テラバイトのデータを、わずか1000枚にまで減らしたのだ。さらに、一定期間を過ぎると写真が削除される可能性もあると、ユーザーに警告した。これらの大きな変更は、有料プランにアップグレードして個人的なアーカイブを保存するよう、ユーザーを促すために実施されたものだ。

これまでのところ、Flickrは実際にアップロードされた画像を一切削除していないと言っている(Flickrよ、ありがとう。しかしそれは、私がこれまでに投稿したすべての写真のZIPファイルをダウンロードするために、2019年のある日の午後を無駄にしたということでもある)。しかし、依然としてFlickrはまだ儲かってはいない。それゆえ、NSFW(いわゆる職場閲覧注意)な写真のアップロードに誘うように戦略を転換したのだ。

Flickrの責任者を務めるAlex Seville(アレックス・セヴィル)氏はブログ記事で「一部の人から際どいと思われるような作品を制作している写真家たちは、互いに交流し、興味を共有し、そして自分のアートを世界に発信することができる、オンラインの安全な場所を手に入れることができ、それが削除されたり、自分の愛するコミュニティから完全に追放される心配がありません」と書いている。「しかし、私たちは、このような写真家のためのスペースを、きちんと定義することに甘かったのです、今までは」。

あまりセクシーではないニュースもある。Flickrは引き続き、ユーザーが無料アカウントでできることを制限しようとしており、今回の発表では、無料ユーザーは非公開の写真を50枚までしか投稿できないようになると述べている。

「私たちは、あなたの写真を預かることが大好きです。しかし、私たちは、それらの写真が、発見され、グループに追加され、写真コンテストに提出されるのを見ることの方が、もっと好きなのです」と、セヴィル氏は説明する。「一生分の画像を保存する安全な場所をお探しなら、私たちは決してあなたを追い出しません。プロ会員になるだけでいいのです」。

これらのアップデートがいつ、どのように無料アカウントに影響を与えるようになるのかについて、Flickrは今後、無料ユーザーに最新情報の提供を続けていくと述べている。しかし、Flickrがサブスクリプションによる収入を増やすために狙っているこの市場は、非常に特殊なものだ。それはプライベートな写真(ただし、1000枚以下)をアップロードしたい人々や、NSFW写真家たちである。ヌード写真によってインターネットにおけるこの一角が救われることを祈りたい。

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ロシアの検索大手Yandex、メディア事業からの撤退を検討中と投資家に説明

ロシアのインターネット大手Yandex(ヤンデックス)は、同社のメディア製品について「戦略的オプション」を模索していると投資家に語った。その中には、ニュースアグリゲーターのYandex Newsや、ユーザー生成コンテンツの推薦とブログの「インフォテインメント」プラットフォームであるZenの売却の可能性も含まれている。

このディスクロージャーは、米国時間3月16日に報じた、YandexがYandex NewsとZenの売却に向けて協議中であるという情報筋の話を裏付けるものだ。

この動きは、ウクライナ侵攻開始以来、ロシア国家による表現の自由に対する規制が強化されていることによるリスクと関連していると、情報筋は指摘する。この中には、ロシア軍に関する「偽」情報(クレムリンが好む「特別軍事作戦」という表現ではなく、ウクライナでの「戦争」に言及するなど)を流した者に長期の禁錮刑を科す恐れがある新しい法律が含まれている。

Yandexは中央ヨーロッパ時間3月18日、投資家向けの声明の中で、「ニュースアグリゲーションサービスとインフォテインメントプラットフォームのZenについて、売却を含むさまざまな戦略的オプションを検討します」と記している。

「当社は、その他のテクノロジー関連事業および製品(検索、広告、自動運転、クラウドなど)、トランザクションサービス(ライドヘイリング、eコマース、ビデオ / オーディオ、ストリーミングなど)の開発に注力する意向です」と同社は付け加えた。

Yandexの広報担当者は、Yandex NewsとZenの売却について協議中であることを確認した。

「ニュースアグリゲーションサービスとインフォテインメントプラットフォームのZenについて、売却を含むさまざまな戦略的オプションを検討していることを確認します」と同担当者は述べた。

同社はメディア製品の買い手候補について公のコメントを出していないが、内情に詳しい情報筋は先に、ロシアのソーシャルメディア大手VKが有力候補だと話していた。

Yandexは投資家向けの将来予測に関する声明で、売却プロセスが「初期段階にある」ことを示唆し「買い手の特定、許容できる条件の交渉、取引の締結に成功する保証はない」とも投資家に警告している。

オランダに籍を置くロシア企業である同社は、時価総額が68億ドル(約8106億円)だった2月25日に取引を停止している。

画像クレジット:Alexander RyuminTASS / Getty Images(Image has been modified)

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Den Nakano)

ロシアの「グーグル」Yandex、メディア事業から撤退か

プーチン政権はウクライナでの戦争に関するロシア国内の情報共有について締め付けを続けており、その影響でFacebook(フェイスブック)、Google(グーグル)、Twitter(ツイッター)と同じくメディア分野の主要プレイヤーでもあるロシア国内のハイテク大手がメディア資産の再編に着手している。

現地時間3月15日のロシアの報道では、往々にして「ロシアのGoogle」と呼ばれる同国の大企業Yandex(ヤンデックス)がメディア部門の売却交渉に入っており、ロシアのソーシャルネットワーキング大手VKが買い手候補に挙がっていると報じている。

この件に詳しい情報筋はTechCrunch に、ニュースアグリゲータのYandex Newsと、レコメンダーエンジンと連携したブログプラットフォームのYandex Zenを含むメディア部門の売却交渉が「最終段階」にあることを認めている。今後あり得る売却の時期については確認できなかった。Yandexは報道についてのコメントを拒否した。

この噂は、欧州連合(EU)内部でYandexに制裁を加えるよう圧力がかかっている中でのものだ。ニュース部門はすでに、Yandexの主要幹部(現在は元)Tigran Khudaverdyan(ティグラン・フダヴェルディヤン)氏に関連した制裁を通じて、EU規制当局から目をつけられている。

フダヴェルディヤン氏は3月15日、ロシアのウクライナへの正当な理由なき侵攻に関してEUの制裁を受ける個人リストに加えられた。EUは、Yandexのニュース事業の元責任者であるLev Gershenzon(レフ・ゲルセンゾン)氏の告発を引用し、Yandex Newsがプーチン政権のプロパガンダを広める役割を担っていることを強調した(ゲルセンゾン氏は現在ベルリンを拠点としていて、LinkedInのプロフィールによると2013年にYandexを退社している)。

この発表に続いて、今度はYandexから別の発表があった。フダヴェルディヤン氏は、Yandex NV(オランダに本拠を置き、NASDAQで株式公開しているYandexの親会社)の副CEOおよび取締役を退任する(取締役会は、同氏がEUの制裁対象者となったことを知り「ショックを受け、驚いている」と述べている)。

EUは「我々は、政権に実質的な収入源を提供している経済部門に関与しているオリガルヒ(新興財閥)や政権所属のエリート、その家族、著名なビジネスパーソンをさらに制裁リストに追加している」と述べた。「この制裁は、プーチン大統領のウクライナ人に対する戦争にともなう誤情報やプロパガンダにおいて主導的な役割を担っている人々も対象としている。我々のメッセージは明確だ。ウクライナへの侵攻を可能にした者は、その行動の代償を払うことになる」。制裁対象者への罰則は、資産の凍結や欧州への渡航禁止などだ。

フダヴェルディヤン氏が制裁対象個人リストに加えられた理由は2つある。1つは、プーチン政権とその対ウクライナの戦争をほう助したと考えられるYandexと、そのニュース部門の経営監督を行ったこと。もう1つは、2月24日にクレムリンで行われたオリガルヒとロシア高官の会合にフダヴェルディヤン氏が出席し、差し迫った制裁の影響について話し合ったことだ。

Yandex NVは2月25日に取引を停止したが、その時の時価総額は68億ドル(約8110億円)だった。

「ティグラン・フダヴェルディヤンは、機械学習によるインテリジェントな製品とサービスを専門とする、ロシアを代表するテクノロジー企業であるYandexの執行役員だ」と、EUは公式通知で述べている。「Yandexの元ニュース部門責任者は、同社がウクライナでの戦争についてロシア人から『情報を隠すための主要な役割』を担っていると非難した」とある。

EUはまた、Yandexの検索エンジンのユーザーが検索結果に基づいてウクライナに関するより広範なニュースを読むことを抑止しているとほのめかす製品決定にも言及し、こう書いている。「さらに同社は、ロシア政府がロシアメディアの掲載内容に関して脅迫した後、同社の検索エンジンでウクライナに関するニュースを探しているロシア人ユーザーに対して、インターネット上の信頼できない情報について警告している」。

さらに、2月24日に西側制裁の影響について話し合う会議にフダヴェルディヤン氏が出席したという事実そのものが「同氏がウラジーミル・プーチンに近いオリガルヒの内輪メンバーの1人であり、ウクライナの領土保全、主権、独立、またウクライナの安定と安全を損ねたり脅かす行動や政策を支持または実行している」ことを示していると指摘した。

これに加え、Yandexの幹部として、フダヴェルディヤン氏はロシアのテック分野でトップ幹部の1人であり、EUは「クリミア併合とウクライナの不安定化に責任を負うロシア連邦政府にかなりの収入源を提供している経済部門」の1人だと説明している。

フダヴェルディヤン氏が役職から離れることが現実的な動きなのかは明らかではない。同氏はもう国際的に活動できないのか、あるいはYandexがEUの直近の非難から経営陣を遠ざけようとするためにこれを行ったのか。

同社に関してはここ数週間、国際的にさらに孤立するような動きがいくつもある。NASDAQ市場での取引停止に加え、投資家のEsther Dyson(エスター・ダイソン)氏とスタンフォード大学の経済学者Ilya Strebulaev(イリヤ・ストレブラエフ)氏という、国際的に知名度の高い長年にわたる2人の取締役が3月初めに取締役を辞任した。Yandexは、財務的にも制裁の範囲に関しても同社は安全な状態にあると主張している。

いずれにせよ、ニュース事業を完全に切り離すことは、Yandexをすべてのドラマから遠ざける1つの方法といえるかもしれない。

その点では、VKは興味深い買い手となるだろう。VKの創業者 Pavel Durov(パーヴェル・ドゥロフ)氏が会社のトップから追い出されようとしていたときのことを思い出して欲しい。クレムリンにつながる企業が支配するMail.ruがソーシャルメディアのプラットフォームを支配下に置いた後(現在はVKを所有している)、政府がすでにビジネスにおいて強い役割を果たしているとドゥロフ氏が考えたことが内部紛争の一因だった。当時クリミア半島に集中していたウクライナでの紛争勃発が転機となった、とドゥロフ氏は当時述べた。

Yandexは長年にわたり、国際的な事業展開に意欲を燃やしてきた。実際には、ロシア語圏の国々への進出や、トルコでの事業展開が主なものだった。同社は、法律に則って事業を行わなければならないと主張しているプーチンのロシア内で開発されている「中立的」なプラットフォームであるという姿勢を維持しようとしてきた。

しかし、現在のロシアの体制下で、Yandexあるいはどの企業も中立であり続けることができるかどうかは疑問だ。

中立の幻想

オンラインに適用される法的規制には、大規模なニュースアグリゲーターに適用されるメディアライセンス規則が含まれる。つまり、Yandex Newsは国のメディア規制当局が監督する公式登録に記載されたニュースソースしか表示できないため、本質的に「中立」はまだ政府の公式監査人によって認定されたものだ。独立系メディアも、その過程で締め出される。その最新例が、調査報道サイト「Bellingcat」(ウクライナに対する戦争について報道し、プーチンのプロパガンダに長年苦しめられてきた)の国内での禁止だ。

Yandex NewsとZenの売却計画に詳しい情報筋はTechCrunchに、Yandexは5年も前にメディア部門の売却を検討していたと語った。しかし、これらの製品と他のYandexの資産との統合をほどくことの複雑さが、メディア部門からの撤退に向けた動きを先送りした可能性が高いという。

それ以来、プーチン政権はロシアのメディアに対する規制を強化し、2021年はニュースアグリゲーターに外国のメディアソースを「外国のエージェント」とラベル付けすることを要件とするなど、規制強化の動きは明らかだ。

TechCrunchの情報筋によると、ウクライナに関する言論を制限する新しい規制が導入された後、Yandexのこの分野からの撤退の決定が最終的に加速したという。ロシア議会は2022年3月初め、ロシア軍に関する「虚偽」情報を広めたとみなされた人に最高で15年の懲役刑を科すという新しい法律を承認した。

この法律は、Yandex Zenのようなプラットフォームのブロガーに明白なリスクをもたらすだけでなく、テックプラットフォーム自体にも、そのアルゴリズムが制裁対象コンテンツを拡散させていると見なされた場合リスクをもたらす。

RTBが報じたように、Yandexは近年、ニュースの選別アルゴリズムについてロシアの政治家たちから注目されていて、トップニュースの結果に影響を与えたと非難されている(同社は繰り返し否定している)。

Yandexは最近、Zenプラットフォームにいくつかの変更を加えた。おそらく、そうした政治的リスク、そしていまや法的リスクを少なくするための措置で、開かれたオープンインターネットからコンテンツを取り込んでいたオープンレコメンデーションモデルから、購読ベースのコンテンツのみを推薦するように変更したが、これはレコメンデーションによる収入に依存しているブロガーの怒りを買った。

しかし、TechCrunchの情報筋は、Yandexが中立性を主張しながらメディア領域で事業を継続することが実行可能だとはもはや考えておらず、代わりに、メディアの影響をそれほど大きく受けない検索やその他のテックに焦点を当てたサービスに力を注ぐことを示唆した。

「このような規制への対処は、技術的なものだけでなく非常に難しい仕事です」と売却計画に詳しい情報筋は付け加えた。

検索大手の同社は、広告収入からの多角化を図るため、他にもさまざまなサービスや事業を行っている。クラウドやeコマースサービス、翻訳技術、自動運転車技術、さらに配車やフードデリバリーサービスなどだ。

ある人は、Yandexがテックにもっと集中するためにメディアをあきらめ「事業を再構築する方法を再調査」する必要があり、クレムリンの管理強化や対ロ制裁が強まる国際情勢に適応しようとしていると語った。

VKの参入

ロシアのソーシャルメディア大手VKが、Yandexのメディア資産を購入する可能性があると言われている

TechCrunchの情報筋3人はVKがYandexのメディア事業買収を交渉している企業の1社であることを認め、VK内部の情報筋によると、同社は2021年もYandexと取引の可能性を議論していたという。

「2021年、Yandex NewsとZenの買収について議論しました。しかし、Yandexが売却を望んでいるため、今が買収する良い機会です」とこの情報筋は匿名を条件に話した。

別の情報筋は、VKを現時点でのYandex NewsとZenの「最も近い」買い手候補とし「Yandexにとって時間が重要だ」と述べ「数カ月以内に」取引が行われる可能性も示唆した。

TechCrunchは、VKがYandex NewsとZenの買収を交渉しているという噂についてVKに公式コメントを求めたが、本稿執筆時点で回答はない。

VKはすでに、同社の消費者向けソフトウェア製品群の中にニュース製品を持っており、インターネットポータル「Mail.ru」を通じてニュースコンテンツを表示している。

VKの関係者は、Instagram(インスタグラム)がロシア市場から締め出されたことで生じたソーシャル分野の空白でYandex Zenが成長する可能性を指摘し、ビジネスの観点からすれば、欧米の大手ソーシャルメディアへの規制は、トラフィックを獲得できるため喜ばしいことだと述べている。

「我々はロシア、ベラルーシ、および他のロシア語圏の国々で唯一のメディアかつソーシャル(プレイヤー)になりたいのです」と情報筋は付け加えた。

Yandexとは異なり、VKは国際的な事業を拡大する野心を表明しておらず、成長努力を地元市場に集中している(ただし、Yandexが国際的に大きく成長する見込みは、欧米のロシアに対する制裁が強化されるにつれて低くなる可能性がある)。

一方、Yandex検索は、プーチン政権が好まないウェブサイトやアプリをすべてブロックし、ユーザーに提供できるコンテンツを制限できるインターネット規制の下で運営しなければならない(実際、そうなっている)。

例えば2021年9月、Yandexは政府の禁止措置に従うため、獄中のクレムリン批判者Alexei Navalny(アレクセイ・ナヴァルニー)氏が作成した戦術的投票アプリを検索結果から排除することを余儀なくされた。

また、ロシアの裁判所は、Yandexがキーワード検索システムで「スマート投票」というフレーズを使用することを禁止した。つまり、そのフレーズに関連するコンテンツを提案することはできない。だが、Yandexは判決を不服として控訴した。

クレムリンの規制と欧米の制裁がロシア経済に打撃を与え続ければ、技術系人材の流出につながる可能性がある。ITコミュニティは、数千人のテックワーカーが個人的なリスクを冒して最近の公開嘆願書で戦争反対の意志を公にしたように、最も外向きでグローバルなつながりを持つプロフェッショナルの 1 つであることを考えると特にそうだ。

そのため、クレムリンが自国のテック企業に対する業務上の制限をどこまで強化するかという問題がある。強化すれば、企業全体が海外に移ることもあるかもしれない(Telegramの創業者ドゥロフ氏が自身の会社だったVKをロシアに残したように)。

クローンの攻撃

国際的な事業展開を目指すロシアのハイテク企業は、ロシアが世界からますます孤立していく中で、選択肢を考えているに違いない。すでにクレムリンの勢力圏に完全に組み込まれている企業もあれば、制裁によって外国人が残した空白にローカル成長の新たな機会を見出そうとしている企業もある。

1つだけはっきりしていることは、ウクライナでのロシアの戦争が、ロシア国内のデジタル経済のあり方に大きな影響を及ぼしているということだ。

西側諸国は、ウクライナ侵攻を受けてプーチン政権に圧力をかけるための重要な手段として、テクノロジーをターゲットにしている。ウクライナのハッカー集団「IT Army」のような草の根活動が、ロシアの多くの機関や企業のウェブサイトやインターネット事業を組織的に狙ってダウンさせる一方で、米国とEUはロシアの銀行や企業幹部、その他Internet Research Agencyとして知られる悪名高い企業などの団体に制限を加えている。

欧米の制裁ではロシアの決済が崩壊し、サービス撤退を求めるかなりの圧力が強まったため、多くの外国のハイテク大手がロシアから撤退した。

活動の変化の一部は、ロシア自身によって起こった。Facebook、Instagram、Twitterなどの主要ソーシャルメディアプラットフォームは、ロシアのインターネットおよびメディア検閲機関であるRoskomnadzorによってブロックまたは制限されており、プーチン政権はデジタル情報領域に対する支配を強めている。

欧米の大手ハイテク企業に対する制限の必然的な帰結として、そのギャップを埋めるためにロシア企業が参入する機会が生まれるということがある。

例えば、ロイターは3月16日、InstagramのクローンであるRossgram(ロスグラム)が地元の起業家によって立ち上げられ、3月28日に開始予定だと報じた。ロイターは、この構想のPRディレクターがソーシャルネットワークVKontakteに投稿した文章を引用ている。「我々の開発者グループはすでに準備ができており、我々の同胞に愛される人気のソーシャルネットワークのロシア版アナログを作成する機会を逃さないことにした」。

一方、戦略イニシアチブ機関(これ自体はロシア政府が設立した非営利団体)が設立したベンチャーファンドのIIDFは、ロシアから撤退したり、事業を禁止されたりしているサービスを代替したり、真似したりする、すでに存在するか構築されているテックサービスの登録を開始した。この登録は、IIDFのアクセラレータという形で行われているため、そのギャップを埋めるために、新しいスタートアップに資金を提供するプログラムも展開していることが想像できる。

画像クレジット:Lilyana Vynogradova / Shutterstock

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(文:Natasha Lomas、Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

フェイスブックがグループ管理者向けにコミュニティを管理し誤報を減らすための新ツールを展開

Facebook(フェイスブック)は米国時間3月9日、Facebookグループの管理者がコミュニティを安全に保ち、交流を管理し、誤った情報を減らすための新機能を展開することを発表した。特に注目すべきは、サードパーティチェッカーによって虚偽の情報が含まれていることが確認された投稿を、管理者が自動的に拒否できるオプションが追加されたことだ。Facebookは、この新しいツールにより、管理者がグループ内での偽情報の拡散を防ぐことができるとしている。

同社はまた「ミュート」機能を拡張して「サスペンド(一時停止)」に更新し、管理者が参加者の投稿、コメント、リアクション、グループチャットへの参加などを一時的に停止できるようにする。この新機能は、管理者がグループ内の交流を管理しやすくし、悪質な参加者を制限することを目的としている。

画像クレジット:Meta

さらに、メンバーへの質問に回答したかどうかなど、管理者が設定した特定の条件に基づいて、メンバーのグループ参加リクエストを自動的に承認または拒否することができるようになった。グループの「管理者ホーム」ページも更新され、デスクトップでは、デスクトップ版では管理者が注意すべき点をすぐに確認しやすいよう、概要セクションが設けられた。モバイル版では、管理者がグループの成長とエンゲージメントを理解するのに役立つ、新しいインサイトサマリーが追加された。

また、Facebookは、グループを成長させ、コミュニティに参加する適切な人々を見つけたい管理者を支援する新しいツールを導入した。

同社は、グループへの参加を呼びかけるために、管理者がメールで招待状を送信するオプションを追加した。また、管理者がダウンロードして、オフラインも含め好きな方法で共有できるQRコードも追加された。QRコードを読み取ると、そのグループの「情報」ページが表示され、参加したり、参加を申し込んだりすることができる。

この新しい変更は、全世界のすべてのユーザーに展開された。

画像クレジット:Meta

9日の発表は、過去数年にわたり、有害なコンテンツや誤った情報を広めようとする人々によるFacebookグループの利用が拡大していることがニュースになったのを受けたものだ。Facebookグループは、そのプライベートな性質から、健康に関するデマ、反科学的な運動、陰謀論など、さまざまな危険なコンテンツの温床になっている。今回発表された新機能は、こうした問題のいくつかに対処し、管理者がコミュニティをよりコントロールできるようにすることに主眼を置いているが、ネット上の偽情報との戦いには数年遅れの到着となる。

Facebookが管理者のグループ管理権限を強化するのは、今回が初めてではない。

2021年6月、同社はFacebookグループの管理者がオンラインコミュニティをよりよく管理できるようにすることを目的とした新しいツール群を発表した。その中でも興味深かったのは、機械学習(ML)を利用した機能で、グループ内で行われている不健全と思われる会話に対して管理者にアラートを発するというものだ。また、グループメンバーの投稿頻度を制限することで、管理者が白熱した会話のペースを落とすことができる機能もある。当時Facebookは、世界中で7000万人以上の管理者やモデレーターによって管理されているグループが「数千万」存在すると発表していた。

Facebookは、管理者がグループを管理するために必要なツールを確保すると同時に、グループ製品全体の強化にも注力している。2021年11月のFacebook Communities Summitで、ソーシャルネットワーキングの巨人である同社は、管理者がグループの文化をよりよく発展させるために設計されたツール、およびサブグループやサブスクリプションベースの有料サブグループ、モデレーターのためのリアルタイムチャット、コミュニティの募金活動のサポートなど、新しい追加機能を含むFacebookグループの一連のアップデートを発表した。同社は、これらの変更は、親会社であるMeta(メタ)が今後計画している「メタバース」構築において、Facebookグループがどのような役割を果たすかを見越したものであると述べていた。

画像クレジット:Meta

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(文:Aisha Malik、翻訳:Den Nakano)

Instagram、投稿に貢献したクリエイターのクレジットを表示できる拡張タグを導入

Instagram(インスタグラム)は、クリエイターが自分の作品に対する評価を受けやすくするために、新たな拡張タグを導入する。同社によると、この拡張タグによって、ユーザーは閲覧した写真や動画の投稿の中で、クリエイターによる特定の貢献を認知・共有できるようになるという。このタグの中には、クリエイターが自ら指定した役割を示すプロフィールカテゴリーが表示される。クリエイターは自分の投稿に、他のクリエイターのタグを付けることが可能になり、より多くの人に各自の作品を知ってもらうことができる。

この新しい拡張タグを使用するには、投稿を作成する際に「Tag People」をタップし、そこから「Select Add Tag(追加するタグを選択)」をタップして、作品に寄与したクリエイターを検索・選択する。そして「Show Profile Category(プロフィールカテゴリを表示)」をタップすると「スタイリスト」や「フォトグラファー」などのクリエイターカテゴリが表示されるので、そこから相応しいものを選べばよい。

「創作に対する適切な評価と認識は、発見、新たな機会、そして経済的エンパワーメントの出発点です」と、Instagramはこの発表に関するブログ記事で述べている。「多くの黒人や過小評価されたクリエイターにとって、クレジット表記はクリエイターとして持続可能なキャリアを築くための入り口であると同時に、文化的盗用を防止し、誰が文化を牽引しているかを世界に確実に伝えるものです。簡単にいうと、もしあなたが、メイクアップアーティストやソングライターなど、その作品における重要な協力者であるなら、投稿の中であなたの貢献が、よりはっきりと目で見てわかるようになるということです」。

この新しい拡張タグは、オンライン上で自分の作品に対する評価を受け取っていないという黒人クリエイターたちによるコンテンツストライキを受けて、導入されたものだ。Instagramは、この新しいタグについてのブログ記事で、適切なクレジット表記が「裏方として貢献することが多い、主流から追いやられた、過小評価されたクリエイターや協力者にとって、特に重要である」と認めている。Instagramは、新しいタグを通じてこのような懸念に対処し、より多くのクリエイターが自分の作品に対する評価を受け取れるようになることを期待している。

今回の新しいタグの導入は、Instagramが2つの古いアプリをアプリストアから削除したことを認めたのと同じ日に行われた。この2つのアプリとは、2014年に初めて登場したタイムラプス動画アプリ「Hyperlapse(ハイパーラプス)」と、2015年にリリースされたループ動画アプリ「Boomerang(ブーメラン)」だ。とはいえ、Instagramがこれらのアプリを廃止したことに驚きはない。どちらも元々は、Instagramの旗艦アプリを停頓させることなく、Instagramユーザーに新たなクリエイティブツールを提供するためのものだった。しかし、そのメインアプリに、あまりにも多くの機能を詰め込みすぎることに対する同社の懸念は、すでに過去のものとなっており、現在のInstagramは、メインアプリ本体で、短い動画コンテンツの「Reels(リール)」、オンラインショッピング、ライブ動画など、数多くのツールや機能を提供している。

この2つのアプリの削除が確認される数日前には、Instagramは独立した動画アプリ「IGTV」のサポート終了を発表している。同社は今後、すべての動画をInstagramのメインアプリに統合することに注力し、これから数カ月かけてメインアプリ内における動画の平易化と改善を続けていくとしている。

画像クレジット:Instagram

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(文:Aisha Malik、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Instagramのアプリ「Boomerang」と「Hyperlapse」がアプリストアから姿を消す

Instagram(インスタグラム)が「Reels(リール)」などの新しい取り組みに注力するため、独立した動画アプリ「IGTV」を終了する計画を明らかにしてから1週間後、同社がさらに2つの古いアプリをアプリストアから引き上げたことが確認された。2014年に初めて登場したタイムラプス動画アプリ「Hyperlapse(ハイパーラプス)」と、2015年にリリースされたループ動画アプリ「Boomerang(ブーメラン)」だ。

Apptopia(アップトピア)からTechCrunchに提供されたデータによると、HyperlapseとBoomerangが削除される前のアプリストアにおける最後の日付は、2022年3月1日だったという。

この2本のアプリのうち、インストール数が多かったのはBoomerangの方だ。Apptopiaのデータによると、Boomerangの通算グローバルダウンロード数が3億100万であるのに対し、Hyperlapseはわずか2300万に留まっている。さらに、Boomerangは削除された時点においても1日平均2万6000件のダウンロードがあったと、Apptopiaは言及している。しかし、BoomerangはApple(アップル)のApp Store(アップ・ストア)とGoogle Play(グーグル・プレイ)の両方で提供されていたが、HyperlapseはiOSでのみ利用可能だった。

Instagramはブログで削除を正式に発表してはいないものの、ソーシャルメディアコンサルタントのMatt Navarra(マット・ナヴァラ)氏や、Twitter(ツイッター)ユーザーの@KenSchillinger氏、@WFBrother氏など数名が、アプリが削除されたことについてツイートしている。

この2つのアプリが廃止されても驚きはない。どちらも元々は、Instagramの旗艦アプリを停頓させることなく、Instagramユーザーに新たなクリエイティブツールを提供するためのものだった。しかし、そのメインアプリに、あまりにも多くの機能を詰め込みすぎることに対する同社の懸念は、すでに過去のものとなっている。現在、Instagramでは、写真や動画の投稿、Stories(ストーリーズ)、TikTokのような短い動画コンテンツ(Reelsのことだ)、ライブ動画オンラインショッピング限定商品を紹介するDrops(ドロップ)などさまざまな機能が提供されている。実際、現在はInstagram内で多くのことが行われており、同社がメインの投稿作成ツールである「コンポーズ」ボタンを、画面中央下から右上の届きにくい場所に移設したほどだ。

一方、Instagramにとって、クリエイティブエフェクト用アプリの必要性も、もはや意味がない。もうかなり前に、クリエイティブツール一式がInstagramカメラに統合されてしまっているからだ。例えば、Instagramが数年前にBoomerangに新しいエフェクトを追加した際には、SloMo(スローモ)やEcho(エコー)、Duo(デュオ)のように、直接Instagram自体に導入された。そして今、Instagramがユーザーにクリエイティブな動画作成を望む場合、同社はそのような機能をReelsに追加する。

さらに、IGTVの停止を確認した際にInstagramが言ったように、今はメインアプリの中から、できるだけシンプルに、動画を発見したり作成したりできるようにしたいと、同社では考えているのだ。

また、「Phhhoto(フォート)」というアプリで知られるかつてのInstagramのライバルが、2021年11月にMeta(メタ)を訴えたことも注目に値するだろう。Phhhotoは、当時のFacebook(フェイスブック、現在のMeta)が、PhhhotoをInstagramのソーシャルグラフから切り離し、その上、Phhhotoの中核機能であるループ動画をコピーしてBoomerangを展開したとして、反トラスト法違反の疑いで訴えている。

HyperlapseとBoomerangがアプリストアから消された一方で、写真からコラージュを作成できるInstagramの「Layout(レイアウト)」アプリは、当分の間、利用可能のままになるようだ。InstagramはLayoutを削除しないことを認め、Boomerangの機能は引き続きアプリでサポートするとしている。

「私たちはメインアプリにより力を注ぐため、スタンドアロンのBoomerangとHyperlapseアプリのサポートを廃止しました」と、広報担当者は述べている。「私たちは、Instagramで人々が創造的になり、楽しむことができる新しい方法に、引き続き取り組んで参ります」と、彼らは続けた。

画像クレジット:Jaap Arriens/NurPhoto / Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ツイッター、ロシアでのサービス完全復旧を目指す

Twitter(ツイッター)のサービスは引き続きロシアで部分的にアクセス可能だが、同社は米国時間3月7日、同国のユーザーが同社のサービスに「ますますアクセスしにくくなっている」という報道を認識していることを認め、現在調査中で完全なアクセス回復に取り組んでいると明らかにした。

「ロシアでTwitterにアクセスしにくくなっているという報道を承知しています。調査を行っており、サービスへのアクセスを完全に回復するために取り組んでいます」とTwitterの広報担当者はTechCrunchに語った。

ロシア国内のある情報筋は、3月5日からTwitterのウェブサイトにアクセスできなくなったと語ったが、モバイルアプリはまだ使えるとも述べた。

プーチン政権がウクライナ侵攻をきっかけに情報の自由な流れを締め付け続けていて、Twitterのサービスがロシアの通信規制当局Roskomnadzorによってブロックされたとの報道が3月4日にあった。

しかしTwitterはその際、ウクライナ侵攻が始まって以来、そして一部のロシア人が街頭で戦争に抗議した後、同社のサービスに影響を与えているスロットルに対する大きな変化は見られないと述べた

Twitterのラインは現在、部分的なブロックの暗黙の確認に発展している。

ロシアがウクライナでの戦争に関して情報空間の掌握を強化しようとしているのは間違いない。

また3月4日にはロシア議会が、軍に関する「フェイク」情報を報道すると最高で15年の禁固刑に処するという、フリーのジャーナリストを標的にした強硬な新法を可決した

同日、ロシア政府はFacebook(フェイスブック)へのアクセスを遮断すると発表した。これに対しFacebook / Metaの社長であるNick Clegg(ニック・クレッグ)氏は、自社のソーシャルネットワークはむしろ「信頼できる情報」のプロバイダーだという考えを示した。

しかし、クレッグ氏の皮肉な主張は、Metaがプラットフォーム上で広がるロシアのプロパガンダを発見したと発表してわずか数日後に行われた。同社は2月28日、偽情報でウクライナの人々を狙うロシアから操作されるFacebookとInstagramの約40のアカウントページグループのネットワークを取り締まったと発表したが、まさに国家が支援する「協調的な不正な行動」(別名:偽情報)がFacebookでホストされた最新の事例だった。もちろん、白黒はっきりさせることはできない。

(特に悪名高い例として、2016年の米国の選挙を標的としたロシア政府による選挙干渉の大規模な拡散を可能にしたFacebookの広告ターゲットプラットフォームの役割も参照して欲しい)

ウクライナ侵攻後、Facebookはロシア国内で平和を求める人々の声を増幅するためにも利用されてきた。例えば、地元のITワーカーがFacebookを使って反戦の請願書を広め、同国のテックコミュニティから数千の署名を集めることに成功した。

ロシア国内の情報筋によると、ロシアでは3月7日現在、Facebookにまだアクセスすることができる。しかし、Facebookアプリ経由ではアクセスできるが、ウェブではできない。

ロシアのインターネットを世界のインターネットから技術的に切り離し、VPNなどへのアクセスをブロックする(あるいは、ロシア人が.ruドメイン以外にアクセスすることを違法とする)など、より思い切った措置を取らない限り、ロシアが欧米のソーシャルメディアへのアクセスを完全にブロックするというのは疑わしいように思われる。モバイルアプリやVPN、あるいはTorを使用するなど、ウェブドメイン上のブロックに対する回避策があるからだ。

数年前、ロシアのTelegram(テレグラム)アプリをブロックする試みはほとんど失敗に終わったが、これは、モバイルアプリをブロックすることの技術的な難しさの一端を示すものだ。

しかし、ロシア人が外部の情報源に容易にアクセスできる能力を低下させ、一方で電波を国家統制のプロパガンダで溢れさせることは、あまりにも多くの市民に同じような効果をもたらすかもしれない。

ロシア議会が3月4日に採択した強硬なコンテンツ法案は、別のソーシャルネットワークTikTok(ティクトック)が従業員とユーザーに対する懸念を理由に、同国のユーザーが新しいコンテンツを投稿する機能を迅速に停止させるきっかけにもなった。つまり、プーチン政権は、ネット上の物語をよりコントロールするために、複数の手段を用いている。

また、2015年以降、ロシアは国家的なインターネットを構築するプロジェクトに取り組んでいて、まだそれを実現できていないとしても、デジタル情報空間を完全にコントロールできるようにしたいという野心を持っていることがうかがえる。

ウクライナでの戦争は、ロシアが自立したデジタル「セグメント」を作る取り組みを強力に推し進める可能性がある。2019年にプーチン大統領が示したように、西側がロシアのグローバルインターネットへのアクセスを否定するリスクを議論している(ただし、内部の技術開発も西側の制裁で大きな打撃を受ける可能性がある)。

2022年になってプーチン大統領は、ロシア人が完全にコントロールできない西側のウェブセグメントにアクセスすることを否定しようとし、検閲の取り組みが強化され、戦争態勢に入った。

ここ数日、欧州もプーチン大統領のウクライナでの侵略戦争を受け、ロシアのプロパガンダに対する独自の対応策を強化している。EUの議員たちは、ロシア政府の支援を受けた国営メディア、Russia Today (RT)とSputnikを前例のない禁止措置とすることに同意した

この禁止令は、TwitterやFacebookなどのオンラインプラットフォームと、従来の放送メディア(衛星放送など)を対象としている。

EUは、RTとSputnikの禁止令はロシアがウクライナ戦争を続ける限り続くとし、プーチン大統領がEUとその加盟国に対するプロパガンダをやめるまで解除しないとも明記している。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

TikTokが10代に与える悪影響について米国各州の司法長官団が調査を行うと発表

米国各州の司法長官は、現地時間3月3日、TikTok(ティックトック)が、子どもたちや10代の若者たちの心身の健康状態に与える悪影響について調査を行うと発表した

この調査では、TikTokがどのように若いユーザーに悪影響を及ぼすか、またTikTokがその悪影響について事前に知っていたかどうかを分析する。この党派を超えた司法長官のグループは、TikTokが若年ユーザーのエンゲージメントを高める方法や、TikTokがユーザーに同プラットフォームでより多くの時間を過ごすように仕向ける誘因を調査する。この調査は、TikTokが州の消費者保護法に違反し、一般市民に害を与えているかどうかを弁護士団が判断するために役立つことになる。

「子どもや10代の若者が、すでに不安や社会的圧力、抑鬱などの問題と格闘している中で、ソーシャルメディアが彼らの身体や心の健康を、さらに害することは許容できません」と、マサチューセッツ州司法長官のMaura Healey(マウラ・ヒーリー)氏は、プレスリリースで述べている。「各州の司法長官にとって、若者を保護し、TikTokのような企業が彼らの日常生活にどのような影響を与えているかについて、より多くの情報を得ることは急務です」。

このような行動が起こることは珍しくないが、それが大手テック企業に大きな変化をもたらすことは滅多にない。それでも2021年には、44人の弁護士から成る同じような団体が、同じくヒーリー司法長官を共同代表として、Meta(メタ)にInstagram Kids(インスタグラム・キッズ)の立ち上げ計画を一時停止させることに成功した。しかし、この決定はおそらく、元Facebook(フェイスブック)の幹部だったFrances Haugen(フランシス・ホーゲン)氏の内部告発があったことが深く関係している。

ソーシャルメディアが子どもの精神衛生に与える影響は、政府も気にかけている。Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領が、米国時間3月1日夜の一般教書演説で、ソーシャルメディアに言及したほどだ。

「私たちは、ソーシャルメディアプラットフォームが利益のために、我が国の子どもたちに対して行っている国民的実験に対して、責任を持たなければなりません」と、大統領は全国的な演説の中で語った。「今こそ、プライバシー保護を強化し、子どもへのターゲティング広告を禁止し、テック企業に子どもの個人データ収集を止めるよう要求する時です」。フランシス・ホーゲン氏は、ファーストレディであるJill Biden(ジル・バイデン)博士の貴賓として出席し、バイデン大統領の演説の中で個人的な謝辞さえ送られていた。

TikTokに対する調査は、カリフォルニア、フロリダ、ケンタッキー、マサチューセッツ、ネブラスカ、ニュージャージー、テネシー、バーモントの司法長官をはじめ、全米の弁護士からなる超党派の連合団体が主導して行っていく。

画像クレジット:Bryce durbin / TechCrunch

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

バイデン大統領がソーシャルメディアのメンタルヘルスへの影響について訴え、一般教書演説で

ホワイトハウスは、バイデン大統領による初の一般教書演説に先立ち、米国におけるメンタルヘルスの危機に取り組む計画を発表し、特にソーシャルメディアが子どもや10代の若者に与える影響について強調した。この問題は、一部の議員の間で重要視されている。特に、内部告発者のFrances Haugen(フランシス・ホーゲン)氏がFacebook(フェイスブック、現在はMeta)に不利な内部文書を大量にリークした後はそうだ。内部文書には、10代の若者への悪影響を同社が認識している証拠も含まれていた。

ホワイトハウスによると、バイデン大統領は議会に対し、プライバシー保護の強化、子どもへのターゲット広告の禁止、テック企業による子どもの個人情報収集の停止を要請する。

一般的に、一般教書演説でテック企業が重要な役割を果たすことはない。バイデン大統領が米国3月1日夜、ロシアのウクライナ侵攻に関するより差し迫った危機を考慮し、言及さえしない可能性もある。とはいえ、大統領はソーシャルメディアのプラットフォームに対し、若いユーザーの安全を守るよう呼びかけている。ファーストレディのJill Biden(ジル・バイデン)博士がホーゲン氏を特別ゲストとしてこのイベントに招待したことは、ソーシャルメディア幹部に対する5回にわたる上院公聴会のきっかけとなったホーゲン氏の主張に、大統領が注目していることを示している。

「大統領は、子どものデータとプライバシーの保護をはるかに強化すべきと考えているだけでなく、プラットフォームやその他の双方向デジタルサービス提供者は、製品やサービスの設計において、利益や収益よりも、子どもや若者の健康、安全、幸福を優先させ確保すべきだと考えています」。ホワイトハウスのブリーフィングには、こう書かれている。

この文言は、ホーゲン氏が議会に登場した際に使っていた言い回しを彷彿とさせる。同氏は「60 Minutes」のインタビュー以来、元社員としての立場から、Facebookは安全性よりも利益を優先していると繰り返してきた。

大統領はまた、ソーシャルメディアが私たちにどのような害を及ぼすのか、およびその害に対処するためにどのような臨床的・社会的介入が可能かについての研究に、少なくとも500万ドル(5億7500万円)を投資する計画の概要を示した。また、米保健福祉省は「ソーシャルメディアとメンタルウェルネスに関する全米センター」を立ち上げ、10代のソーシャルメディア利用がもたらす影響について一般市民に啓蒙していく予定だ。

バイデン大統領はまた、子どもたちを対象とした過剰なターゲット広告やデータ収集を禁止するよう議会に要求する見通しだ。2000年に施行された児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)は、13歳未満のユーザーの追跡やターゲティングを制限することを目的としているが、プラットフォームがユーザーの年齢を認識していることが証明されない限り、この法律を適用することはできない。つまり、子どもが「はい、私は13歳です」というボックスをクリックするだけで、子ども向けではないコンテンツにアクセスできてしまうため、COPPAは簡単に適用できないことが多い。

すでに一部の議員は、COPPAをより効果的なものにするためにアップデートを試みている。Ed Markey(エド・マーキー)上院議員(民主党、マサチューセッツ州)とBill Cassidy(ビル・キャシディ)上院議員(共和党、ルイジアナ州)は2021年、インターネット企業が13〜15歳のユーザーの個人データを本人の同意なく収集することを違法とする法案を提出した。この法案はまた「消去ボタン」を設け、ユーザー(またはその親)が、企業が収集した自らに関するデータを手動で消去できるようにするものだ。

「消去ボタン」のコンセプトは、Richard Blumenthal(リチャード・ブルメンタール)上院議員(民主党、コネチカット州)とMarsha Blackburn(マーシャ・ブラックバーン)上院議員(共和党、テネシー州)が最近提出した「Kids Online Safety Act(KOSA)」にも登場する。2021年10月には、YouTube(ユーチューブ)、TikTok(ティクトック)、Snap(スナップ)の代表者が上院の公聴会で、親が自分の子どもや10代の若者のオンラインデータを消去できるようにすべきだという意見に同意した。

ホワイトハウスのブリーフィングでは、アルゴリズムが選ぶコンテンツが、特に若い有色人種の女性の間で、メンタルヘルスに悪影響を与える可能性があることも取り上げている。

「『黒人の女の子』、『アジア人の女の子』、『ラテン系の女の子』と検索すると、ロールモデルやおもちゃ、アクティビティではなく、ポルノなどの有害なコンテンツが並ぶことがあまりにも多い。プラットフォームは、子どもたちが何が可能かを理解し、アクセスする機会に方向性を与えます」と報告書は述べている。「私たちは、プラットフォームやその他のアルゴリズムによって強化されたシステムが、差別的に子どもたちを標的にすることがないようにしなければなりません」。

ここ数年、ホワイトハウスがこのブリーフィングで説明したような問題を解決することを目指す法案がいくつか議会を通過したが、ほとんどは可決されるに至っていない。法案が成立するほどの勢いになっても、意図したことが達成されないこともある。トランプ前大統領は2018年「オンライン性的人身売買対策法(FOSTA)」に署名し、法制化した。その名の通り、人身売買を抑制するための法律だったが、かえって合意の上で働くセックスワーカーにとって、より危険な状況を作り出しただけだった。

バイデン大統領は、研究に500万ドル(約5億7500万円)を投じ、ソーシャルメディアとメンタルウェルネスに関する全米センターを設立したが、ソーシャルメディアとメンタルヘルスに関するコメントは、長年にわたって議会で議論されてきたことを繰り返したに過ぎない。しかし、これらのメッセージから、大統領が少なくとも、米国人のオンラインでの生活にいくらか注意を払っていることがわかる。

バイデン大統領は一般教書演説で、ソーシャルメディアの巨人に関する計画を示唆した。

「パンデミック以前にも、子どもたちは苦労していました。いじめ、暴力、トラウマ、そしてソーシャルメディアの害。今夜ここにいるフランシス・ホーゲン氏が示したように、我々はソーシャルメディアプラットフォームが利益のために子どもたちに対して行っている国家的な試みに対して責任を負わせなければならないのです。今こそ、プライバシー保護を強化し、子どもへのターゲット広告を禁止し、テック企業に子どもの個人情報収集をやめるよう要求するときです」。

また、ホーゲン氏は演説後、バイデン大統領の発言についてコメントした。

「バイデン大統領が一般教書演説でこの問題を提起し、これにより我々がソーシャルメディアが子どもたちの精神衛生に与えている真実の暴露を続け、この恐ろしい現実を変えるためにすべての関係者に力を与えられることに感謝しています」とホーゲン氏は報道機関にメールで送った声明で述べた。声明はTwitter(ツイッター)にも投稿された。「FacebookとInstagram(インスタグラム)は、私たちを中毒にし、また子どもと私たち自身の最悪の事態を増幅させるために設計された欠陥商品です。彼らは私たちの子どものメンタルヘルスを犠牲にして利益をあげているのです」。

【更新】3月2日米国東部時間午前9時20分、バイデン大統領とフランシス・ホーゲン氏の言葉を盛り込んだ。

画像クレジット:Al Drago/Bloomberg via Getty Images / Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

中国大手ソーシャルメディアが「不適切」なウクライナ関連コンテンツを削除

中国政府は、ロシアのウクライナに対する軍事行動を「侵攻」と呼ぶことやロシア政府を非難することを拒否する立場を固持しているが、人々はソーシャルメディアでこの戦争に関するそれぞれの思いを表現している。

ここ数日、ウクライナ関連のトピックがWeibo(ウェイボ)のトップトレンディングハッシュタグに入ってきている。中国インターネットにおける公開討論の傾向を示す指標だ。同時に中国のソーシャルメディア巨人は、ウクライナに関連する「不適切」あるいは「誤解を招く」情報を、ウクライナに対するロシアの攻撃が開始された数日後から取り締まり始めた。

中国版Twitter(ツイッター)のWeiboは、4000件以上の「戦争を誘発、戦争を茶化す、あるいは俗悪なコンテンツを拡散した」と見なされる投稿を削除したと週末の発表で語った。中国版TikTok(ティックトック)のDouyin(ドウイン)は「俗悪性、戦争を矮小化するコンテンツ、先導的情報、あるいは敵対的コメント」を含む動画3500本以上を削除した。

Weiboでは「ウクライナの美しい女性たち」に中国へ来るよう呼びかける投稿が数十件見られた。中には、ウクライナでの戦争に志願すれば「単位を取得できる」という偽情報をでっち上げたユーザーもいる、とWeChatの警告文に書かれている。Douyinには「ウクライナ」とタイプすると同アプリで「爆発エフェクト」が起きるとユーザーをだますクリック稼ぎ記事が数百件投稿された。

他のユーザーは、こうした無意味なコンテンツに惑わされず、ウクライナ戦争への思いの共感を訴えている。

「平和は容易には訪れません。私たちは命を尊重しその価値を重んじる必要があります」とWeChatは声明で語った。「私たちはすべてのオンラインユーザーに向けて、重大な国際問題に対する客観的で理性的な態度を保ち、議論に参加するときには分別をわきまえ、みんなが一体となって汚れのない明るいサイバー環境を維持していくよう呼びかけます」。

画像クレジット:Bloomberg / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】ソーシャルメディアは科学と「根本的に対立」している可能性がある

米国時間2月11日に発行されたScience(サイエンス)に掲載された特別論説が、現在の形式のソーシャルメディアは、事実や道理を提示したり広めたりする目的には根本的に適していないのではないかと論じている。論説は、現在はアルゴリズムが主導権を握っており、システムの優先順位は残念ながら逆になっていると主張している。

ウィスコンシン大学マディソン校のDominique Brossard(ドミニク・ブロサール)氏とDietram Scheufele(ディートラム・ショイフル)氏は、その鋭い(そして無料で読むことができる)意見の中で、科学者が必要とするものとソーシャルメディアプラットフォームが提供するものとの間の基本的な断絶について説得力のある説明を行っている。

彼らは「科学的な議論のルールや、証拠の体系的、客観的、透明な評価は、ほとんどのオンライン空間における議論の実態と根本的に対立している」と述べる。「ユーザーの怒りや意見の相違を収益化するように設計されたソーシャルメディアプラットフォームを、懐疑的な人々を説得するために用いる(たとえば気候変動やワクチンは確立した科学領域では議論の余地はないということ)ことが、生産的な手段であるかどうかには疑問が残る」。

科学者によるコミュニケーションの効果を減少させるソーシャルメディアの最も基本的な特性は、広汎な分類ならびに推奨エンジンの存在だ。これにより、ブロサール氏とショイフル氏が「homophilic self-sorting(同一傾向自己分類)」と呼ぶものが生みだされる。つまり、あるコンテンツを見せられる人は、すでにそのコンテンツに馴染んでいる人なのだ。言い換えるなら、彼らは聖歌隊に向かって説教しているのだ。

「科学に好意的で好奇心旺盛なフォロワーを、科学者のTwitter(ツイッター)フィードやYouTube(ユーチューブ)チャンネルに連れてくるのと同じ営利目的のアルゴリズムツールが、一方では最も緊急に科学を必要としている人たちから、科学者をますます遠ざけることになるだろう」と彼らは書いている。ここには、明らかな解決策は存在しない「その原因は、科学情報のエコロジーにおけるパワーバランスの地殻変動にある。ソーシャルメディアプラットフォームとその基盤となるアルゴリズムは、急速に拡大する情報の流れをふるいにかけようとする受け手の能力を上回り、その過程で感情的・認知的な弱点を利用するようにデザインされている。このような事態になっても不思議はない」。

Scienceの編集長であるH. Holden Thorp(H・ホールデン・ソープ)氏はいう「だがそれはFacebook(フェイスブック)にとって収益化の良い手段なのです」。

このテーマで論説も書いているソープ氏は、私に対して、最近の科学者とソーシャルメディアの関わり方には、少なくとも2つの明確な問題があると話してくれた。

「その1つは、特にTwitterでは、科学者たちがそれを使って、詳しく議論したり、アイデアを公然と広めたり、支持したり、撃墜したりするのが好きだということです。これらはかつて、科学者たちが黒板を囲んだり、会議をしている時にやっていたことです」と彼はいう。「こうしたことはパンデミック以前から行われていましたが、今ではそのようなやりとりが行われる主要な手段となっています。その問題点は、もちろん、今や永久的な記録が残るようになっているということです。そして、通常の科学の検討過程では当然破棄されるような、一度は提出されたものの間違っていることが判明した仮説のいくつかが、私たちのやっていることを台無しにしようとしている人々によって選ばれてしまうのです」。

そして「2つ目は、素朴すぎるアルゴリズムです。特にFacebookのアルゴリズムは、意見の相違や意見の相違を広める非公式な投稿に非常に高い評価を与えています。たとえば『私の叔父はマスクをして教会に行ったが、新型コロナウイルスに感染した』というような情報も、拡散すれば権威ある情報に勝るものとして扱われることになるでしょう」と彼は続けた。

ブロサール氏とショイフル氏が指摘するように、このような状況が重なると、科学者は「明らかに不利な立場に置かれる【略】わかりやすい結論よりも、専門的な規範や倫理的立場から信頼性のある累積的な証拠を優先する、公開討論における少数派のようなものだ」。

関連記事:ソーシャルメディアCEO3人が米下院公聴会で反ワクチン誤情報アカウントを削除するか聞かれ言葉を濁す

残念ながら、科学的な面では誰もができることではない。間違いなく、システムに参加すればするほど、自分の周りのサイロを強化することになる。私たちはあきらめるべきだと主張する者はいないものの、問題は科学コミュニティが、ソーシャルメディア上で偽情報の行商人たちよりも発信力が弱いことだけではないということを認識する必要がある。

ソープ氏は、これは数十年前から続く反事実主義的な傾向と政治化の最新局面に過ぎないと認めていいる。

「人々は、これが非常に単純なことであることを認識せずに、少し感情的になっている傾向があると思います。たとえば政党は同じ立場を取ることはないでしょう、すると片方が科学的に厳格な場合、もう1つは科学に反する立場をとることになります」と彼は説明する。彼は、民主党が科学の側に立つことが多いのは確かだが、遺伝子組み換え作物や原子力では反対側に立ったこともあると指摘した。重要なのは、誰が何に賛成しているかではなく、2つの政党が反対の意見を唱えることで自らを定義していることだ。

「これは、科学に賛成するよりも、科学に反対する方が政治的に有利だということに気づいた政党の振る舞いなのです」と彼はいう。「なので科学者がただ『メッセージが伝わらない』と言っているのは呑気な態度なのです、彼らが直面しているのは、今やFacebookの力を背景にした政治マシーンなのですから」。

ブロサール氏とショイフル氏は、最後の論点として、Deep Blue(ディープ・ブルー)によるGarry Kasparov(ガルリ・カスパロフ)氏の敗北を示した。その敗北後、スーパーコンピュータを出し抜くための特別なトレーニングを追求するひとはおらず、カスパロフ氏のプレイが不十分だと非難するひともいなかった。そのショックが去った後、我々はチェスだけでなく、コンピューティングとアルゴリズムの可能性においても新しい局面を迎えたことは誰の目にも明らかだった(少し前に、カスパロフ氏自身も私に対して、その見解が進化したことを語ってくれた)。

「科学者にも同じ理解が求められている」と彼らは書いている。「公共の場における議論に、事実と証拠を用いた情報を持ち込む新しい時代であり、良い方向に変化しているものもあるのだ」。

画像クレジット:erhui1979 / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:sako)

「クリエイターファンド」はそれほど褒められたものじゃない

2020年の夏、TikTok(ティックトック)は「クリエイターファンド」と称して、米国内のクリエイターに贈与するための2億ドル(約229億3500万円)を用意した。これは当時としてはまだ珍しい手法である。より成熟したプラットフォームのYouTube(ユーチューブ)は、クリエイターの投稿動画で再生される広告の収益をシェアできるようにする、2007年に設立されたパートナープログラムを通じて資金を分配することでクリエイターに報酬を支払ってきた。しかしここ数年、TikTokの人気上昇に対抗するため、各ソーシャルメディア企業が独自のクリエイタープログラムを立ち上げている。YouTubeはショートのために1億ドル(約114億6500万円)のクリエイターファンドを設立し、Snapchat(スナップチャット)はSpotlight(スポットライト)チャレンジへの投稿に賞金を提供、Instagram(インスタグラム)はReels(リール)のクリエイターにゲーム化されたキャッシュボーナスを配布している。

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客観的に見て、大手テック企業が大金を放出しているというのはクリエイターにとって良いことのはずだ。しかし、長年ユーチューバーとして活躍し、最近ではTikTokのスターとなったVidCon(ビッドコン)の創設者であるHank Green(ハンク・グリーン)氏が最近のビデオエッセイで指摘しているように、クリエイターファンドは特段称賛されるべきものではないのかもしれない。こういったファンドはクリエイターの収益を配慮してのものではなく、「独立系アーティストにお金を払っています!」という企業のアピールに過ぎないという可能性もある。

TikTokのようなクリエイターファンドでは決まった一定の資金から支払いが行われているのに対し、YouTubeパートナープログラムでは広告収入のパーセンテージがクリエイターに分配される仕組みとなっている。つまりYouTubeが成長すればするほど、クリエイターに支払われるお金の総額も増えていくということになり、過去3年間でYouTubeはクリエイターに300億ドル(約3兆4374億円)を支払っている(YouTubeのパートナープログラムを通じて、クリエイターは自分の動画に掲載された広告から得られる収益の55%を得ることができる)。一方で、TikTokが成長してもクリエイターファンドの規模が変わることはない。

TikTokのプラットフォームは急速に成長しているのにも関わらず、その結果としてTikTokのクリエイターの収入はむしろ減っているとグリーン氏は主張している。ユーザーが良いコンテンツを投稿しているからこそ、このプラットフォームは成長できているのだという人もいるだろう。こういった巨大なテック企業にユーザーがもたらした価値に対して、これらのユーザーは適切な報酬を得ていないのである。

TikTokの広報担当者はTechCrunchの取材に対し「クリエイターファンドは、クリエイターがTikTokでお金を稼ぐための方法の1つに過ぎません」と答えている。

ブランドとコンテンツ制作者が簡単につながることができる「TikTok Creator Marketplace」(ティックトック・クリエイター・マーケットプレイス)や、ライブ配信中だけでなくいつでもクリエイターがチップを受け取れるようにした機能が2021年1月から開始するなど、新たな取り組みを数多く進めていると同社は主張しているが、当然このようなマネタイズ機能はYouTubeにもある。

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「クリエイターコミュニティの声に耳を傾け、フィードバックを得て、プログラムに参加している方々の体験を向上させるために機能を進化させ続けていきます」と同社はTechCrunchの取材に対して答えている。

TikTokの収益を1年以上にわたって綿密に追跡してきたグリーン氏によると、以前は1000回の再生で5セント(約5.7円)を稼いでいたものの、ここ数カ月は1000回の再生で2セント(約2.3円)になっているという。これはTikTokが成長しているために再生回数が増え、それにともないクリエイターへの報酬が減っているからだと同氏は主張している。

確かにTikTokは、フルタイムのクリエイタービジネス全体に資金を提供するためにこれらのプログラムを作ったわけではない。しかしこの支払い額は、ソーシャルプラットフォームへのクリエイターの貢献度を過小評価しすぎているのではないだろうか。クリエイターファンドがTikTokの長期的なクリエイター向け収益化計画であるかどうかは不明であり、またInstagram、YouTube、Snapchatの場合、これらの報酬はクリエイターに自分たちのプラットフォームを使ってもらうためのインセンティブに過ぎないが、クリエイターは短編動画をめぐる競争において少々疲弊気味のようだ。

他のフルタイムクリエイターもグリーン氏の意見に同意している。英国のテック系ユーチューバーであるSafwan AhmedMia(サフワン・アメッドミア)氏は、2021年4月からTikTokで2500万回以上の再生回数を集めたにも関わらず、112.04ポンド(約1万7000円)しか稼げなかったとツイートしている。YouTubeの米国トップクリエイターであるMrBeast(ミスター・ビースト)もこのツイートに返答し「10億回以上の再生回数」で1万4910.92ドル(約171万円)稼いだと答えている。TikTokは総再生回数を表示しないため、手動で数えない限りわからないようになっており、彼らの計算はグリーン氏の計算よりも正確ではないが、それでも彼らの試算によると、ミスター・ビーストとアメッドミア氏の2人は、再生回数1000回につき2セント(約2.3円)以下の収入しか得ていないことになる。

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クリエイターにとっては一般的に、YouTube、TikTok、Snapchatなどの動画のインプレッション数よりも、ブランドとの契約による収益の方が大きいといわれているが、それでもクリエイターは自分がプラットフォームにもたらす価値に見合った対価を支払って欲しいと願っている。

「TikTokの収益が上がれば、クリエイターの収益は下がる、というスローガンが作れるほどです。あらかじめ決まった額からの捻出ではなく、収益の一定割合を報酬として支払うというのはTikTokにとっては非常に悪いことですが、クリエイターにとっては非常に良いことです。TikTokはPRNewswireなんかで『今後3年間で10億ドル(約1155億円)をクリエイターに支払います』などと発表し、あたかもこれが莫大な金額かのようにして話していますが、実際のところ支払い額は完全にコントロールされており、参加するクリエイターが増えてアプリが成功すればするほどクリエイターの1ビューあたりの収入は減っていくのです」。

TikTokアプリ自体がどれだけの収益を上げているのかは不明だが、親会社のByteDance(バイトダンス)は2021年580億ドル(約6兆6500億円)の収益を上げており、この数字を見ると約2年前に開始した2億ドル(約229億3500万円)のクリエイターファンドがあまりにも小さな数字に感じてしまう。

それでもTikTokとYouTubeを比較するというのは、リンゴとオレンジを比較するようなものである。30秒のTikTokが、20分のYouTube動画の支払い額よりも少ないのは当然だ。YouTubeにはプレロール、ミッドロール、エンドロール広告があるが、TikTokの広告は動画と動画の間に表示される(広告主も日に日に賢くなっており、人気トレンドをみんなと同じように繰り返して普通のTikTok動画のように見せてくるため、ユーザーはしばらくして突然動画が洗顔料か何かを売ろうとしていることに気づくのである)。TikTokの途中で広告が再生されることはなく、あまり煩わしくないユーザー体験を提供している。これに対してYouTubeは広告なしのYouTube Premiumプランを月額11.99ドル(1180円)で提供している。

TikTokもYouTubeに倣ってより多くの広告を挿入して収益を上げ、クリエイターへの報酬を増やすことができるだろう。しかしそれはかなり迷惑な話であり、またTikTokがお金に困っているとも思えない。もう一度いうが、ByteDanceは2021年に580億ドル(約6兆6500億円)を稼いだのである。TikTokのクリエイターファンドは2億ドル。これはTikTokの親会社の収益の0.3%にあたり、その0.3%が複数年にまたがってクリエイターファンドに費やされているのである。

TikTokがクリエイター経済に革命を起こしているというが、実際はクリエイターたちがプラットフォーム上で寄せ集めたオーディエンスを構築し、活用しているというところが正確だ。ただし数字を見ると、TikTokは実際にクリエイターを支援するために十分な資金を一切投入していないのである。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)

TikTokはホロコーストに関する誤情報に立ち向かっているが、反ユダヤ主義は根強い

国際ホロコースト記念日の1月27日、TikTokは歴史的な大惨事と現在も続いている反ユダヤ主義の脅威についてユーザーを教育するためのポータルをDiscover(ディスカバー)ページに開設した。TikTokは、2021年も同様のポータルを設けている。

TikTokのモバイルアプリにあるDiscoverページに移動すると、国際ホロコースト記念日を示すクリック可能なバナーが表示される。このバナーは、ユダヤ人クリエイターによる3つの教育的なTikTokが集められたページに誘導する。クリエイターには、ひ孫の助けを借りてTikTokを制作した98歳のホロコースト(ナチスによるユダヤ人大虐殺)生存者が含まれる。さらに今後は、ユーザーがTikTokで「ホロコースト」や「ホロコースト生存者」などの言葉を検索すると「憎悪や誤った情報の拡散を防ぐために、信頼できる情報源を参照する」よう促すバナーが表示され、ホロコーストに関する多言語ウェブサイトへと誘導される。数カ月以内に、TikTokはホロコーストに関する動画に同様の告知を常設バナーとして追加する予定だ。TikTokは、2020年から連携しているユネスコ(国連教育科学文化機関)および世界ユダヤ人会議と協力して、こうした変更を行った。

この取り組みは、ホロコーストは起こらなかったという誤った陰謀論であるホロコースト否定に直接対処している。しかし、ユダヤ人のTikTokユーザーの中には、プラットフォーム上の反ユダヤ主義は、ホロコーストのコンテンツに関するいくつかのポップアップでは解決できない、より大きく複雑な問題だと考える人もいる。

@livschreiber

Let’s see if this gets taken down. #jewishtok #tiktokantisemitism #antisemites #greenscreenvideo

♬ Monkeys Spinning Monkeys – Kevin MacLeod & Kevin The Monkey

7万4000人のフォロワーを持つスタイリストのLiv Schreiber(リヴ・シュライバー)氏は、2021年11月にユダヤ人デートアプリ「The Lox Club」と提携して広告を出した。その1週間後、同氏は動画を投稿してから毎日、反ユダヤ的なコメントが波のように寄せられていることを紹介する動画を投稿している。

「なぜ反ユダヤ主義が許されるのか理解できません」とシュライバー氏は動画の中で語っている。「なぜ削除されないのか理解できません。TikTok、これは譲れません」。

TikTokでの反ユダヤ主義に関する会話は2021年4月に、ユーザーが鼻などを細長くするフィルターを使いながら、ユダヤ教徒の暮らしを描いたミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」の「If I Were a Rich Man」を歌うというトレンドが流行したときに急増した。こうした動きは、TikTokを利用するユダヤ人にとって、ユダヤ人の鼻を誇張した風刺画やその他の有害な反ユダヤ的イメージなど、これまでの固定概念を呼び起こすものだった。

そうしたトレンドがプラットフォームに浸透する中、TikTokは2021年5月のJewish Heritage Month(ユダヤ人遺産月間)を記念するために作成した「#MyJewishHeritage」というタグを通じて、ユダヤ人クリエイターにポジティブな光を当てようと試みた。TikTokはDiscoverページでユダヤ教に関するいくつかの投稿を取り上げたが、自分のコンテンツが宣伝されたクリエイターはTikTokから何の警告も受けなかった。その結果、一部のユダヤ系クリエイターには、突然、反ユダヤ主義的なコメントが殺到した。

TikTokは、2022年の国際ホロコースト記念日ポータルに掲載されたクリエイターには報酬が支払われたと述べている。

@ezzy4prezzy

Reply to @hehehehhehe2

♬ original sound – Ezra811

「TikTokの反ユダヤ主義に関する問題は、あらゆる方面から嫌がらせを受ける羽目になることです」と、3万7000人以上のフォロワーを持ち、政治的な主張を行うTikTokユーザーのEzraはTechCrunchに語った。「極右のアカウント、荒らし者のアカウント、よくわかっておらず意図せず反ユダヤ主義のアカウント、ユダヤ人とイスラエル人を区別できない左翼のアカウントなどがあります。ですので、反ユダヤ主義の取り締まりは、多方面にわたる問題なのです」。

TikTokはプラットフォーム上の反ユダヤ主義を公に非難しているが、新しいポータルの立ち上げのような一般向けの連帯のジェスチャーは、プラットフォーム上で嫌がらせを経験したユーザーにとっては空しく響くかもしれない。また、TikTokがこの取り組みにどれくらいの時間を費やしたかも不明だ。というのも、TechCrunchがホロコースト記念日ポータルに最初にアクセスしたとき(米国東部時間午前3時のリリースから数時間後)、反ユダヤ主義的事案を名誉毀損防止同盟に報告するリンクが機能しなかったからだ。数時間後、この問題は修正されたようだ。TikTokは、リンクが機能しないままポータルを公開した理由についての問い合わせにはまだ回答していない。

TikTokで反ユダヤ主義について投稿している大学院生のStephanie Gurewitz(ステファニー・グレヴィッツ、@shachar.mg)氏は、国際ホロコースト記念日のポータルがユダヤ人に対するホロコーストの影響しか扱っていないことに驚いた。別の記念日であるYom HaShoah(ヨム・ハショア)は、ホロコーストでの600万人のユダヤ人の死を追悼する日だ。しかし、ナチスは障害者、同性愛者、ロマ民族など、社会から疎外された人々も迫害していた

グレヴィッツ氏はTechCrunchに対し「この日は、ユダヤ人のための特別な追悼の日ではなく、国際ホロコースト記念日です」と話した。「今日はホロコーストのすべての犠牲者を悼む日であり、ロマ民族については何も触れられていません。そこに欠けているものがあり、それが問題なのです」。

ユダヤ人クリエイターらは、今日も自分たちの動画に反ユダヤ的なコメントが寄せられていることに触れている。

「TikTokには偏見を持ってやってくる人がいて、それを止めるにはバナーだけでは不十分だと思う」と彼らは語った。

@shachar.mg

Ways that #antisemitism spreads undetected on TikTok #tiktokantisemitism #tiktokalgorithm #jewishtiktok Thank you @criticallens for the screenshots!

♬ Monkeys Spinning Monkeys – Kevin MacLeod & Kevin The Monkey

月間アクティブユーザー10億人のプラットフォームで、コンテンツのモデレーションを行うのは容易なことではない。しかし、ユーザーは往々にして普通のユーザに明白な手段で検知メカニズムを回避している。例えば、セクシュアリティについて話す場合でも、ガイドライン違反のフラグを立てられないように「s3xuality」と書くこともあるだろう(アダルトコンテンツは違反だが、例えば同性愛について話すのは違反ではない)。これと同じ手口は、悪意のあるユーザーが反ユダヤ的なメッセージを送るために度々使っており、TikTokはこれを検出することができない。

「私は、TikTokや他のソーシャルメディアプラットフォームが、重要な原因に注意を集めるためにできることをすることについては、本当にすべて賛成です。あの(ホロコースト記念日)ポータルを見ると、彼らが社内でそれについて行ったすべての会議のことを思い、そのことを私は感謝しています」とシュライバー氏はTechCrunchに語った。

画像クレジット:Nur Photo / Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

米消費者の2021年ソーシャルメディア詐欺被害額は約888億円、2017年の18倍に増加

米連邦取引委員会(FTC)の新しい報告書によると、ソーシャルメディアで詐欺に遭う米国の消費者が増えており、2021年に消費者は7億7000万ドル(約888億円)をソーシャルメディア詐欺で失い、同年の詐欺被害総額の約4分の1を占めていることが明らかになった。また、この数字は2017年に報告されたソーシャルメディア詐欺被害額4200万ドル(約48億円)から18倍に増えており、暗号資産やオンラインショッピングが関係する新しいタイプの詐欺が流行したためだと、FTCは指摘している。これにより、多くの若い消費者が詐欺に遭うようになり、現在、18〜39歳の成人は、40歳以上の成人に比べて2.4倍多く詐欺に遭っている。

スキャマー(詐欺師)たちは、ソーシャルメディアが詐欺を行うのに最も収益性の高い場所の1つであることを明確に認識している。9万5000人超の詐欺被害者が、最初にソーシャルメディアでコンタクトがあったと答えており、この数は2020年の2倍超、2017年の19倍にのぼる。

画像クレジット:FTC

2021年に詐欺でお金を失ったとFTCに報告した人の4人に1人以上が、詐欺のきっかけとなった投稿、メッセージ、広告を最初に見たのはソーシャルメディア上だったと回答した。連絡方法が明記されていない報告を除くと、2021年の詐欺による損失の26%をソーシャルメディアでの詐欺が占め(7億7000万ドル、約888億円)、次いでウェブサイトやアプリが19%(5億5400万ドル、約639億円)、そして電話が18%(5億4600万ドル、約629億円)だった。しかし、個人の損失額の中央値は、ソーシャルメディア詐欺の468ドル(約5万4000円)に対し、電話詐欺が1110ドル(約12万8000円)と最も多い。

ソーシャルメディア詐欺が最も多く発生しているのは、Facebook(フェイスブック)とInstagram(インスタグラム)であることがデータから読み取れる。

オンラインロマンス詐欺の場合、ユーザーの3分の1以上が、スキャマーからの最初の働きかけがFacebookまたはInstagram上でのものだったと報告している。具体的には、Facebookが23%、Instagramが13%だ。これらの詐欺は、一見無邪気な友達申請から始まり、甘い言葉、そして金銭の要求へと続くと報告書にはある。

一方、2021年の投資詐欺の半数以上(54%)は、ソーシャルメディアプラットフォームから始まっていて、スキャマーは偽の投資機会を宣伝したり、人々と直接つながって投資を促したりしている。ここではInstagramがスキャマーに人気で、投資詐欺の36%を占め、次いでFacebookが28%、そしてメッセージングアプリのWhatsApp(ワッツアップ)とTelegram(テレグラム)がそれぞれ9%と7%だった。

そしていまでは投資詐欺の大部分に暗号資産が関わっていることも明らかになった。2021年、FTCに報告されたソーシャルメディア投資詐欺の64%で暗号資産が支払い方法となっている。決済のアプリやサービスが使われたのは13%、次いで銀行振り込みや銀行決済が9%だった。

画像クレジット:FTC

ロマンス詐欺と投資詐欺が引き続き金額ベースで最大の被害で、過去最高を記録してもいるが、FTCへの報告数が最も多い詐欺は、消費者がソーシャルメディアで初めて見たものを購入しようとするものだ。ほとんどの場合、被害者はFacebookやInstagramで販売されているものを見て、購入しようとしていた。

2021年にソーシャルメディア詐欺で失ったお金についてFTCに届けのあった報告の45%は、オンラインショッピングに関連するものだった。そのうちの70%近くは、ソーシャルメディア上の広告を見て注文したものの、その後商品が届かなかったというものだった。また、広告から「そっくり」ウェブサイトに誘導され、本物のオンライン小売業者から購入したかのように騙されるというケースもあった。このような詐欺のうち、10件中9件はFacebookとInstagramがプラットフォームとして使われている、とレポートにはある。

オンラインショッピング詐欺の増加は、消費者がお金を失うというだけでなく、eコマースのエコシステム全体とソーシャルメディア企業のビジネスにとっても決定的な意味を持つ。近年、FacebookとInstagramは、オンラインショッピングをサービスの中核とするために多額の投資を行っており、広告主とターゲットとなる顧客を結びつけることを約束している。Meta(メタ)が所有するアプリには独自の「ショップ」セクションがあり、消費者は商品を閲覧して、外部のウェブサイトに移動することなく直接精算することができる。しかし、これらのプラットフォームで紹介されているオンライン小売業者の正当性に消費者が警戒心を抱くようになれば、将来的にソーシャルメディアからの買い物を躊躇するようになるかもしれない。

Metaにとって、消費者の購買行動の変化は、過去数年よりも現在の方が大きな問題となっている。というのも、同社の大規模な広告ビジネスは、消費者が追跡を拒否できるようにしたApple(アップル)のiOSのプライバシー変更によって影響を受けているからだ。広告のパーソナライズ機能の低下による市場の変化を予測して、Metaは自社のプラットフォーム内で消費者のショッピングに基づくより多くのファーストパーティデータを取得できるアプリ内ショップを作成し、収益の多様化を進めている。また、サブスクリプションやチップなど、クリエイターエコノミーからの新しい収入も開拓している。

FTCは、2021年のソーシャルメディア詐欺のうち、投資、ロマンス、eコマースで70%を占めているが、それ以外にもソーシャルプラットフォームに関連した詐欺の種類があると述べている。ただし、報告書ではこれらをカテゴリー別に分けてはいない。

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】ソーシャルメディアとマッチングアプリが抱える深刻な身元確認問題

ソーシャルメディアとマッチングアプリはそろそろ、自分たちが蒔いてきた種を刈り取り、各プラットフォームから詐欺、偽装、デマ情報を一掃すべきだ。

その誕生当初、ソーシャルメディアやマッチングアプリは、インターネットの世界の小さな一角を占めるにすぎず、ユーザーはわずかひと握りだった。それが今では、Facebook(フェイスブック)やTwitter(ツイッター)が、選挙に影響を及ぼしたり、ワクチン接種の促進を後押しまたは阻害したり、市場を動かしたりするほどに巨大な存在になっている。

また、何百万もの人々が「生涯の」伴侶と出会うためにTinder(ティンダー)やBumble(バンブル)などのマッチングアプリを利用しており、そのユーザー数はFacebookやTwitterに迫る勢いだ。

しかし、お祭り騒ぎはここまでだ。信用や安全よりも利益が優先されてきた結果、なりすまし犯罪やオンライン詐欺が入り込む隙が作り出されてしまった。

今や、BumbleやTinderで友達が「キャットフィッシング(なりすましロマンス詐欺)」に遭ったという話も、家族の誰かがTwitterやFacebookでオンライン詐欺の被害を受けたという話も、日常茶飯事である。悪意のあるネット犯罪者が個人情報を盗んで、あるいはなりすましの個人情報を新たに作って、詐欺を行ったり、政治的または商業的な利益のために偽情報を拡散したり、ヘイトスピーチを広めたりした、というニュースは毎日、耳に入ってくる。

ほとんどの業界では、ユーザーによるなりすまし詐欺の実害を被るのは当事者である企業だけで済む。しかし、マッチングアプリやソーシャルメディアのプラットフォームで信用が崩壊すると、その被害はユーザーと社会全体に及ぶ。そして、個人に及ぶ金銭的、心理的、時には身体的な被害は「リアルな」ものだ。

このような詐欺事件の増加を食い止める、あるいは撲滅する責任を果たしてきたのは誰だろうか。何らかの措置を講じてきたと主張するプラットフォームもあるが、各プラットフォームがその責任を果たしてこなかったことは明白だ。

Facebookは、2020年10月から12月の期間に、13億件の偽アカウントを摘発したが、これは十分というには程遠い数だ。実際のところ、ソーシャルメディアやマッチングアプリは現在、最低限の詐欺防止策しか講じていない。簡単なAIと人間のモデレーターは確かに有用だが、膨大な数のユーザーには到底追い付かない。

Facebookによると、3万5000人のモデレーターが同プラットフォームのコンテンツをチェックしているという。確かに大勢だ。しかし、概算すると1人のモデレーターが8万2000件のアカウントを担当していることになる。さらに、ディープフェイクの使用や合成ID詐欺犯罪の手法の巧妙化など、悪意のあるネット犯罪者は手口を日ごとに進化させているだけではなく、その規模も広げつづけている。経験豊富なユーザーでさえもそのような詐欺行為に引っかかってしまうほどだ。

ソーシャルメディアやマッチングアプリのプラットフォームは、この問題と闘う点で腰が思いと批判されてきた。しかし、実際のところどのように闘えるのだろうか。

なりすましロマンス詐欺の被害は深刻

次のような場面を想像するのは難しくない。マッチングアプリで誰かと出会って連絡を取り始める。その相手がいう内容や質問してくる内容に、怪しさは感じられない。その関係が「リアル」だと感じ始め、親しみを覚え始める。その感情は気づかないうちにエスカレートして、警戒心は完全に解け、危険信号に対して鈍感になり、やがて恋愛感情に発展する。

このようにして新たに出会った特別な人とあなたは、ついに直接会う計画を立てる。するとその相手は、会うために旅行するお金がないという。そこであなたはその人を信じて、愛情を込めて送金するのだが、間もなくその人からの連絡が一切途絶えてしまう。

なりすましロマンス詐欺事件の中には、被害が最小限にとどまり自然に解決するものもあるが、上記のように金銭の搾取や犯罪行為につながる事例もある。米国連邦取引委員会によると、ロマンス詐欺の被害額は2020年に過去最高の3億400万ドル(約348億8000万円)を記録したという。

しかし、これは過少に報告されている結果の数字であり、実際の被害額はこれよりはるかに大きい可能性が高く「グレーゾーン」やネット物乞いを含めるとさらに膨れ上がるだろう。それなのに、ほとんどのマッチングアプリは身元を確認する術を提供していない。Tinderなど一部の人気マッチングアプリは、身元確認機能をオプションとして提供しているが、他のマッチングアプリはその類いのものを一切提供していない。ユーザー獲得の妨げになるようなことはしたくないのだろう。

しかし、オプションとして身元確認機能を追加しても、単に上っ面をなでるような効果しかない。マッチングアプリ各社は、匿名IDや偽IDを使ったユーザーの加入を防ぐために、もっと対策を講じる必要がある。また、そのようなユーザーが社会と他ユーザーに及ぼす被害の重大さを考えると、マッチングアプリ各社が防止策を講じることを、私たちが社会として要求すべきだ。

身元確認はソーシャルメディアにおいて両刃の剣

ロマンス詐欺はなにもマッチングアプリに限ったことではない。実際のところ、ロマンス詐欺の3分の1はソーシャルメディアから始まる。しかし、ソーシャルネットワークサービスにおいて身元確認を行うべき理由は他にもたくさんある。ユーザーは、自分が本物のOprah Winfrey(オプラ・ウィンフリー)やAriana Grande(アリアナ・グランデ)のアカウントを見ているのか、それともパロディアカウントを見ているのかを知りたいと思うかもしれない。オプラ・ウィンフリーやアリアナ・グランデ本人たちも、本物のアカウントとパロディアカウントとの違いがはっきり分かるようにして欲しいと思うだろう。

別の重要な点は、ソーシャルネットワーク各社は身元確認を行うことによってネット荒らしの加害者を抑制すべきだという世論が高まっていることだ。英国では、同国のリアリティー番組人気タレントKatie Price(ケイティー・プライス)が主導して始まった「#TrackaTroll(#トロール行為を取り締まる)」運動が勢いを増している。プライスがHarvey’s Law(ハーヴェイ法)の制定を求めて英国議会に提出した嘆願書には、およそ70万人が署名した。ハーヴェイとは、匿名の加害者からひどいネット荒らしの被害を受けてきた、彼女の息子の名前だ。

しかし、ソーシャルネットワークを利用する際の身元確認を義務化することについては、強く反対する意見も多い。身元確認を行うと、家庭内暴力から逃げている人や、政治的な反対勢力を見つけ出して危害を加えようとする抑圧的な政権下の国にいる反体制派の身を危険にさらすことになる、というのが主な反対理由だ。さらに、政治やワクチンに関する偽情報を拡散しようとする多くの人々は、自身の存在を顕示して、自分の意見に耳を傾ける人を集め、自分が何者なのかを世の中に認知させたいと考えているため、身元確認を行っても彼らを抑止することはできないだろう。

現在、FacebookとTwitterは、正規アカウントに青い認証済みバッジを表示させる制度に「認証申請」プロセスを導入しているが、確実な措置というには程遠い。Twitterは最近、「認証申請」プログラムを一時的に停止させた。いくつもの偽アカウントを正規アカウントとして誤認証してしまったためだ

Facebookはもっと進んだ措置を講じてきた。かなり前から、特定の場合、例えばユーザーが自分のアカウントからロックアウトされたときなどに、身元確認を行ってきた。また、投稿されたコンテンツの性質、言葉遣い、画像に応じて、投稿者のブロック、認証の一時停止、人間のモデレーターによるレビューを行っている。

身元確認とプライバシー保護を両立させることの難しさ

悪意のあるネット犯罪者がマッチングアプリやソーシャルメディアで偽のIDを作って詐欺行為を働いたり、他の人に危害を加えたりすると、それらのプラットフォームに対する社会の信頼は損なわれ、プラットフォームの収益にも悪影響が及ぶ。ソーシャルメディアのプラットフォーム各社は今、ユーザー数を最大限まで伸ばすことと、ユーザーのプライバシーを保護することを両立させるために、あるいは、より厳しくなる規制とユーザーからの信頼失墜に直面して、日々格闘している。

盗難やハッキングによる個人情報の悪用を防ぐことは非常に重要である。もしTwitterやFacebookで誰かが自分になりすましてヘイトスピーチを拡散させたらどうなるだろう。自分はまったく関与していないのに、職を失うかもしれないし、もっと深刻な被害を受ける可能性もある。

ソーシャルメディアプラットフォーム各社は、ユーザーと自社のブランドを守るためにどのような選択をするのだろうか。これまで、プラットフォーム各社の決断は、テクノロジーよりも、ポリシーや利益の保護を中心として下されてきた。プライバシーに関する懸念に向き合って信頼を築くための対策と、利益確保の必要性とのバランスを取ることは、彼らが解決すべき戦略上の大きなジレンマだ。いずれにしても、ユーザーにとって安全な場所を作り出す義務はプラットフォーム各社にある。

ソーシャルメディアやマッチングアプリのプラットフォームは、ユーザーを詐欺や悪意のあるネット犯罪者から守るために、もっと大きな責任を担うべきだ。

編集部注:本稿の執筆者Rick Song(リック・ソング)氏はPersonaの共同設立者兼CEO。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Rick Song、翻訳:Dragonfly)

ミレニアル世代やZ世代を惹きつけたいインスタ風アプリSupernovaはSNS大手の「倫理的オルタナティブ」になれるか

Supernova(スーパーノヴァ)は新しいアプリで、Apple(アップル)とAndroid(アンドロイド)のアプリストアで公開されており、広告収入の大部分を慈善事業に寄付している。Instagram(インスタグラム)とFacebook(フェイスブック)の新しい「倫理的オルタナティブ」と謳う同アプリに、チャンスはあるだろうか?

Facebookがパノプティコン(一望監視施設)のような刑務所になり、米国政府の権力を覆そうとするプライベートグループに参加することを軽々しく提案するのを何年も見てきたか、あるいはInstagramをドゥームスクローリング(ネット上で悲観的なニュースや情報を読み続けること)して、自身や10代の子どもたちのメンタルヘルスが徐々に損なわれていくのを経験した後であれば、多くの人々は、より高潔な原則を持つ代替のソーシャルメディアプラットフォームに大きな満足を覚えるだろう。こうした代替のいくつかは何年にもわたって現れたり消えたり(RIP Path)しているが、Zuckerberg(ザッカーバーグ)氏の悪徳のような支配から大衆を遠ざけることに成功した者はいない。

おそらく人々は忘れてしまっているかもしれない。Facebook(その延長線上でInstagram)がこれほど大きい唯一の理由は、広告収入がこうした無料サービスを支えているからだということを。もし広告主が、十分に魅力的なアプリでソーシャルメディアの群衆を取り込むことができる他の場所を持っていれば、FacebookとInstagramはある程度プレッシャーを感じ始めるだろう。少なくとも、理論上はそうなっている。

広告業界を知り尽くしている英国の起業家が、ミレニアル世代やZ世代にアピールするために設計された独自のソリューションを使って、これらの大手企業に対抗しようと計画している。これらの世代は一般的に、前世代よりもはるかに大義を支援したいという欲求に導かれている。

Supernovaの創業者でCEOのDominic O’Meara(ドミニク・オメーラ)氏(画像クレジット:Supernova)

Supernovaの創業者でCEOのDominic O’Meara(ドミニク・オメーラ)氏は、かつてSaatchi(サーチ)に在籍した広告の第1人者で、英国アカデミー賞の受賞歴もあり、同スタートアップを主に自己資金で運営している。同氏は次のように語っている。「ASICS(アシックス)のようなスポンサーやMQのような慈善団体は、このアプリに備わる、ユーザーの安全を中心に据えた包括的なソーシャルネットワークという要素を評価して、今回のローンチに参加することを選んでいます。Supernovaが補完するのはまさにそこに存在するギャップであり、私たちは今後数カ月から数年のうちにこのギャップを縮小し、社会に成果を還元するソーシャルネットワークとなることを目指しています」。

「私たちの技術とアクセシビリティは、ソーシャルメディアと広告の力を使って世界がお互いに心から助け合うこと、そしてそれらの行動がどこでどのように役に立っているのかを常に透過的かつ正確に見ることを可能にします」と同氏は付け加えた。

Supernovaはこれを、同社のプラットフォーム上で有害性を防止することにより実現しようとしており(その方法については後述)、ユーザーが「安全かつセキュアであり、友人たちとの前向きで、刺激的で、人生を肯定するようなインタラクションを持つことを推奨されていると感じることができ【略】ヘイト、人種差別、ホモフォビア(同性愛嫌悪)、極端な政治思想などを目の当たりにすることのない場所を作ろうとしている」。

ビジネスモデルはシンプルである。同社は広告収入の60%を世界の慈善事業に寄付し、寄付金は気候変動、動物福祉、緊急事態の対応、健康と福祉、ホームレス支援、人権、メンタルヘルス、海洋清掃の各項目について、会員の希望に応じて配分される。どの要因が最も多くの資金を得るかは、ユーザーによって決定される。

Supernovaによると、世界のソーシャルメディア広告市場の1%以上を獲得できれば、年間6億ポンド(約925億円)を慈善団体に寄付することになるという。対照的に、FacebookとInstagramからの相当額は510億ポンド(約7兆9000億円)となる。しかし当然ながら、その現金は現在すべてザック氏の金庫に入っている。

FacebookやInstagramがヘイトスピーチを禁止していることはよく知られているが、もちろん、実際に行われることはほとんどないことも私たちはわかっている。Supernovaはまず最初に、自社のコミュニティ基準に基づいて「100%人間によるモデレーション」を行うとしており、さらにはユーザー向けに完全な憲章を約束している。

Supernovaアプリ(画像クレジット:Supernova)

どのようなアプリなのだろうか?

Instagramとの類似点はすぐにわかるだろう。ユーザーはコメントやメッセージングとともに写真やビデオを共有できる。ユーザーはフォローすることもフォローされることも可能である(1つか2つのバグが残っており、筆者のプロフィールは選択していないユーザーを自動的にフォローしているようだ)。

ユーザーはアカウントに対して、非公開、検索、フォロー、不要なユーザーのブロックなど、私たちが慣れ親しんできたソーシャルメディアツールのほとんどを設定することもできる。

ここで異なるのは、基礎となる仕組みである。

まず、ユーザーは自身のプロフィールで、Supernovaが広告パートナーから調達した資金を使って支援したい慈善分野を指定できる。

次に、ユーザーにナルシシズムを誘発することなく「Like」が慈善事業の広告収入の一部を得るための票のような働きをする。ユーザーの投稿に「Like」がついた場合、彼らが選んだ慈善団体は寄付として「Supernova Action Fund(Supernova活動基金)」のより大きな部分を得ることになる。

Superlikeや「Supernova」を獲得した投稿は、通常の「Like」の10倍の票を獲得する。ただし1つ難点がある。Supernovaを提供するには、まずユーザーが十分な「Karma Point」を獲得しなければならない。おそらくこれは、エンゲージメントを促進するためであろう。

今のところ、世界的なスポーツブランドであるASICSがSupernovaのスポンサーとなり、メンタルヘルスの慈善団体MQ Mental Health(MQメンタルヘルス)が最初に選ばれた慈善事業となっている。

また、Instagram(というよりFacebookのようなもの)とは異なり、Supernovaにはユーザーがグループに集まることのできる「グループ」機能がある。

オメーラ氏によると、Supernovaへの投資は「友人、家族」による資金調達ラウンドで100万ポンド(約1億5000万円)を超えており、2022年前半には機関投資家からのさらなる資金調達を予定しているという。

人間によるモデレーションについてオメーラ氏に尋ねたところ、次のように回答してくれた。「英国に拠点を置く訓練を受けたチームで、24時間体制で私たちが管理するシフト制を採用しています。彼らは若くて聡明な人材であり、主にコンピュータサイエンスの大学院や学部出身者です。会社の成長に合わせて社内で育成することで、チームが最初からコミュニティに親近感と共感を持てるようにしています」。ただし、同社の規模拡大に伴い、機械学習の支援を受けることになるだろうと同氏は言い添えた。

「Supernovaは、AIによって他のプラットフォーム上で活発に宣伝されている、有害で急進的なコンテンツから解放されます。その結果、Supernovaが万人向けではなく、熟慮される存在になることは間違いありません」とオメーラ氏は語っている。

Instagramでは禁止されていることで知られる乳首は同プラットフォーム上で許可されるのだろうか。

「すべては、投稿の内容や性質、投稿内のテーマによって異なりますが、コミュニティ基準に準拠しているかどうかは確実にチェックされます。違反した場合は削除されます」と同氏。

もし女性が母乳育児について説明しているのなら、それは許されるだろうかと筆者は尋ねた。

「その意図が明らかに有益であり、主題の真の側面を扱っている限りは、おそらくそうなるでしょう。もしその意図や内容が、その主題や私たちのコミュニティに対して、私たちの考えでは失礼であるか、有害であるか、あるいは否定的であるならば、コミュニティ基準や憲章を侵害することになり、削除されるでしょう」と同氏は回答した。

広告主にとってのメリットは何であろうか?

オメーラ氏は次のように語っている。「正しいことをしている『新時代』のソーシャルメディアの一部であることは、ブランドに害を与える可能性のある古い有害な秩序の一部であることとは対照的に、彼らのブランド(PR)にとってすばらしい価値があります。Deloitte(デロイト)によると、ミレニアル世代の80%は、他人の利益を自分の利益よりも優先するブランドからのみ購入したいと考えています。大手広告主は、ソーシャルメディアの現状に辟易しているようです。私は昨日、100億ドル(約1兆円)を超えるグローバル予算を投じている広告主に会い、そのことを明確に伝えられました」。

「当社のプロダクトは完全にスケーラブルで、ミレニアル世代のわずか1%にリーチすれば、毎日4000万人にスポンサー広告を届けられるでしょう。広告主たちが『量より質』を求めている今、これで十分です。1000社以上の広告主による42億ドル(約4822億円)規模のFacebookのボイコットは、その初期の兆候であり、今も消え去ってはいません。代替のオファーは今のところ提供されていません。そこにSupernovaが登場したのです」と同氏は付け加えた。

Supernovaが生き残れるのか、それともDavid Beckham(デイビッド・ベッカム)氏がローンチし、痕跡を残さず沈んだストリーミングソーシャルメディアアプリ、MyEyeになるのかはまだわからない。

タフで物議を醸す話題がこれまでほとんど登場してこなかった、一種の「バニラ(ありきたりな)」ソーシャルネットワークであるだけで、ユーザーを惹きつけるのに十分かどうかという疑問が残る。そして、潜在的に偏った人間によってコンテンツがモデレートされた場合、Supernovaはその決定を好まない人々から訴えられることになるのだろうか?

しかし、少なくとも今回の初公開からは、Supernovaは好調なスタートを切ったようだ。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Dragonfly)

友人グループみんなで36枚撮りのロールを撮影、24時間後に現像されるアプリ「Lapse」が12.6億円調達

ソーシャルメディアアプリでは、アルゴリズムによる広告表示、インフルエンサーを活用したソーシャルグラフ、際限なくスクロールするよう促すUXなどが執拗に行った結果、大手ソーシャルメディア企業のバイラル的な成功と大衆市場でのエンゲージメントにつながっている。しかし、この市場には依然として入り込むすき間が残されており、写真を撮影して自分が選んだ友人と共有できるアプリには、従来のソーシャル的な一連の機能を排除したものが登場している。そうしたアプリの1つLapse(ラプス)が、リリース早々に投資家たちの強い関心を呼び、このたび大規模なシードラウンドを発表した。

Lapseでは、ユーザーがグループを形成し、グループの存在場所に関係なくグループ間で協力して、36枚ショットの「ロール」に即興で(アドリブで)写真を撮る。写真は現像され、撮影開始後24時間でグループにのみ公開される。そのLapseがシードラウンドで1100万ドル(約12億6000万円)を調達した。

今回のLapse(会社名もアプリ名と同じ)のラウンドを率いたのはOctopus Ventures(オクトパスベンチャーズ)とGV(旧称Google Ventures)で、他にもSpeedinvest(スピードインベスト)や個人投資家たちが参加した。個人投資家の中には、初期のFacebookのデザイナーSoleio Cuervo(ソレイオ・クエルボ)氏もいる。クエルボ氏はソーシャルエンゲージメントという点では実績がある。彼はFacebookの「いいね」ボタンをデザインしたチームの一員だった。

今回のラウンドでLapseの総調達額は1240万ドル(約14億2300万円)に達する。これには、同社が創業前の9月にプレシードで調達した140万ドル(約1億6000万円)が含まれる。このプレシードはスピードインベストが率い、Claire Nooriala(クレア・ノーリアラ)氏(Snap Inc.ヨーロッパ・中東・アフリカ担当副社長)、Matt Robinson(マット・ロビンソン)氏(NestedとGoCardlessの創業者)、Ian Hogarth(イーアン・ホガース)氏も参加した。

9月の創業後、Lapseは1万人のベータテスターを獲得した。その後短期間で、Appleのダウンロード件数トップの座に躍り出て、15万人がキャンセル待ちの状態になっている。ほんの数カ月で大規模なシードラウンドを実施してそうそうたる投資家たちを集めることができたのは、15万人という大量のユーザーを獲得できたからだ。

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Lapseは、ソーシャルメディア特有の仕組みを一新しようとしているため、ユーザーや投資家の間で注目を集めている一連のアプリに属する。

Instagram(インスタグラム)、TikTok(ティックトック)などが数百万人のユーザーを獲得しているが、そうしたユーザーはアプリの常用者だ。その一方で、こうしたソーシャルメディア企業とその策略を警戒しているユーザー層(とその親たち)が確かに存在している。これらの企業は大量の有害なコンテンツを配信していることがわかっているが、その使い方(および悪用方法)をコントロールするのは極めて難しいため、解決策はこれらの企業を廃業させるしかないと信じている人たちもいる。

そこまで厳しい話でなくとも、こうした大衆市場向けのソーシャルメディアアプリを大いに楽しんでいる、あるいはビジネスに活用している人たちでさえ、執拗にエンゲージメントとエクポージャーを求めてくる彼らのやり方にうんざりしており「ソーシャル」を実現するもっとプライバシーに配慮した、あるいはインパクトの強い方法を求めている。

同じカテゴリーに属するアプリは他にもある。IRLは、創業者によると、互いにメディアを共有したり、知らない人が投稿したメディアを延々とスクロールしながら観る代わりに、ユーザーたちがもっと有意義なソーシャルインタラクションを生み出すという前提で創業された。

IRLは、現実のイベントを重視するよう設計されたものの、パンデミックが発生しダラダラと続く中、皮肉にもバーチャル(つまりIRLではない)イベントにも拡張することで何とかユーザーを確保してきた。2022年始めに10億ドルを超える評価額で大規模な資金調達ラウンドを実施したIRLは「Digital Nutrition」アプリを2021年12月初めに買収した。このアプリによって、よりエシカルを重視したレコメンデーションを開発できるようになるという。

Lapseに近いコンセプトのアプリとしてDispo(ディスポ)がある。Dispoも使い捨てカメラロールという方向性を認識しており、体験を重視するといいつつ単に何かを体験した写真を共有するだけという方向性からは距離を置いている。Dispoでは、撮影した写真は翌日にならないと見ることができない。

Dispoも2021年初めに資金調達を行った。しかし、口コミでどんどん広がる状態にまで推進した(Dispoの共同創業者は人気のユーチューバーDavid Dobrik[デビッド・ドブリック]氏)原動力が悪い方向に転じて(ドブリック氏のチームが性的暴行で告発された)、多くの人たちが後味の悪い思いをした(初期の投資家たちは手を引き利益を断念した上、ドブリック氏もこの件に関わったとして辞任に追い込まれた)。とはいえ、Dispoは流行りのソーシャルメディアトレンドから外れたわけではない。9月に同社は、写真をNFTとして販売することに対するユーザーの関心を判断するためのテストを始めた。

LapseはDan Silvertown(ダン・シルバートン)とBen Silvertown(ベン・シルバートン)の兄弟によって創業された。シルバートン兄弟はベトナムを一緒に旅行した際に、ネットから離れてゆっくり過ごすために全自動カメラを使った。この体験からインスピレーションを得た2人は、写真を撮影して友人たちと共有するという機能はそのままで、あまりやきもきせずにソーシャル投稿するというアイデアを再現するアプリを構築できないかと考えた。

Lapseは、撮影した写真をすぐには見れなくするという点ではDispoと同じだが、撮影した写真を本当に親しい仲間以外の誰とも共有しないという点が異なる。

(今は廃業してしまったが、初期のFacebookの社員David Morin[デビッド・モリン]氏が、Facebookによって撮影された広角ビューとバランスをとる方法として小グループ内で共有する方法を提供するために創業したPath[パス]は、非常に先見の明があったということになる。少し時代の先を行き過ぎてしまったのかもしれない)

Lapseはまだアーリーステージの初期なので、これから発展する余地が大いにある。Lapseにはカメラの背面からスチール写真を撮るためのレンズしか用意されていない。しかし、創業者によると、このレンズは多くの試行錯誤の末に生まれたものだという。

画像クレジット:Ingrid

「30人のプロの写真家と協力して当社独自の画像処理エージェントを開発しました」とベン氏はインタビューで語ってくれた。「しかし、これは、当社が20段階の処理と考えているアナログフィルムを再現する取り組みの第1段階に過ぎません」。

このフィルターの効果は、昔ながらの全自動カメラで撮影したスナップ写真の画質という説明が一番近いだろう。古風に聞こえるが、平均的なスマートフォンで実現されるようになった極めてパワフルなカメラ体験を意図的に制限して、それを即興的な味で置き換えるおもしろい方法だ。もちろん、たくさんの失敗作も生まれることになるが。

人はどこかへクルマで行く代わりに積極的に歩く選択をしたり、どこかで出来合いの料理を買う代わりに意図的に複雑な料理の多くの手順を体験するほうを選ぶことがある。Lapseはさしずめ、これのカメラ版といったところだろう。不便で面倒くさいと感じるかもしれないが、おかげで従来とは異なる結果が得られるかもしれない。

個人的には、Lapseフィルターを使うことによって予期せぬ、また管理が難しい副作用が生じることがあるものの、それは救いようのないものではなく、むしろおもしろいものだ。

例えば焦点を合わせられないためひどいピンぼけになることがあるし、前向きレンズがないため不正確なセルフィーしか撮れない(あるいは私は結局そうしたのだが、鏡に映った自分を撮るくらいしかできない)。ビデオ機能はないし、画像にいたずらする「フィルター」もない。スナップを撮る機能は驚くほど簡単だ。自分でも気づかないうちに写真を撮っている。撮り直しはできない。

筆者の息子アベルは3枚構成の写真を撮る方法を見つけてしまった。筆者もやってみようとしたがどうしても方法が分からなかった。

こうして撮影された写真は現像されてグループチャットに配信される。チャットでは超高速スライドショーが再生される。スピードを落としてもう少しじっくりと見ることもできる。もちろん、カメラロールの写真を保存して別の場所で共有するといった従来のソーシャルメディアと同じ仕かけも用意されている。

ダン氏によると、この機能は当初、Lapseのうわさを広めてもらうために用意したのだという。ティックトックは他のプラットフォームとビデオを簡単に共有できるようにすることでユーザーを引き寄せ成長したが、これを真似たものだ。まだ初期段階なので、この機能を維持するのか、最終的にオフにしてしまうのかはまだ決めていないという。

収益化に関する具体的な内容もまだ決まっていない。ただ、広告から収益を上げる方法は避けたいとしている。

「収益化についてはざっくりと考えてはいますが、具体的なことはまだです」とダン氏はいう。「ただ、おそらく広告ベースの収益モデルは使わないと思います。というのは、広告ベースのモデルは、可能なかぎり多くのユーザーに動機を与え、現在の画面を表示するために費やされる時間を最適化しますが、これは有害な行動が生じる原因の1つだからです。我々は量ではなく質を重視したいと考えています」。1つのアイデアとしてフリーミアムモデルがある。「あるレベルでユーザー向けにアプリを構築し、ユーザーが大変気に入って、追加機能に対して料金を支払うようにする方法です」。例えば共有された写真に表示される商標を消去する機能がある。現在、共有された写真のフレームにはLapseという商標が表示されるようになっている。

何より、Lapseは誇大広告なしでゆっくりと成長していくという考え方を受け入れているようだ。

Lapseはアクティブなユーザー数を公開していないが、キャンセル待ち15万人という数字は現在のLapseのアクティブな全ユーザー数ではないと思われる。GVのような投資家が支援しているということは、数字は良いという1つの証だ。複数の招待を受けることを許可されているユーザーがそのうちの1人から招待を受けるとキャンセル待ちリストをスキップできる。エンゲージメントはかなり高く、Lapseをダウンロードしたユーザーの15%がアプリを使い続けている、とベン氏は説明する。現在のところ、ユーザーの大半はZ世代の女性であり、ユーザーの実に79%が女性、71%が24歳以下である。現在のところ、ユーザーの約80%が米国居住者だ。

こうしたすべての数字は、アプリが成熟するにつれて変わってくるだろう。ソーシャルアプリに対するさまざまなアプローチの中から現実的な選択をするという流れの中で、そう願いたいものだ。

「Lapseは、ユーザーが従来の大手ソーシャルメディア企業との関係を根本的に考え直している時期に登場した次世代のプライベート型ソーシャルネットワークです」とオクトパスベンチャーズの投資マネージャーMatthew Chandler(マシュー・チャンドラー)氏は語った。「Lapseでは、ユーザーはもう製品ではなくなります。このメンタル面での劇的な変化により、ユーザーはプライベートなグループ内で自由にやり取りし、生活の中の今この瞬間を撮ることができます。また、Lapseの製品設計では、ユーザーは自分を特定の方法で演じるというプレッシャーから開放され、本当の自分であるように促されます。これは私達のコミュニケーション方法に重大な影響を与えます。ダン氏とベン氏は、画像ベースの記憶のための新しいプラットフォームの構築に取り組んでいます。当社は彼らとパートナー関係を結ぶことができたことに大きな期待を寄せています」。

画像クレジット:Lapse

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)