分析や開発にも使えるリアルさを持つ合成データをAIで作り出すMOSTLY AIが約28.6億円調達

オーストリアの合成データデータスタートアップであるMOSTLY AI(モーストリー・エーアイ)は米国時間1月11日、シリーズBラウンドで2500万ドル(約28億6000万円)を調達したことを発表した。英国のVCファームMolten Ventures(モルテン・ベンチャーズ)がこのオペレーションを主導し、新たな投資家であるCiti Ventures(シティ・ベンチャーズ)が参加した。既存の投資家には、ミュンヘンの42CAP(42キャップ)と、MOSTLY AIの2020年の500万ドル(約5億2700万円)のシリーズAラウンドを主導したベルリンのEarlybird(アーリーバード)が名を連ねている。

合成データ(シンセティックデータ)はフェイクデータであるが、ランダムではない。MOSTLY AIは人工知能を利用して、顧客のデータベースに対する高い忠実度を達成する。同社によると、そのデータセットは「企業の元の顧客データと同じくらいリアルに見え、そこには多くの詳細情報が含まれているが、元の個人データポイントは存在しない」という。

MOSTLY AIのCEOであるTobias Hann(トビアス・ハン)氏はTechCrunchに対して、調達した資金について、プロダクトの限界の拡張、チームの成長、そして欧州と米国での顧客獲得に活用する計画であると語った。米国ではすでにニューヨーク市にオフィスを構えている。

MOSTLY AIは2017年にウィーンで設立され、その1年後にEU全域で一般データ保護規則(GDPR)が施行された。プライバシー保護ソリューションに対するこうした需要と、それに付随する機械学習の台頭は、合成データに向けて大きな勢いを生み出している。Gartner(ガートナー)の予測では、2024年までに、AIおよびアナリティクスプロジェクトの開発に使用されるデータの60%が合成的に生成されるようになるという。

MOSTLY AIの主な顧客は、Fortune 100(フォーチュン100)に名を連ねる銀行や保険会社、通信事業者などである。これら3つの高度に規制されたセクターは、ヘルスケアと並んで、シンセティック表形式データに対する需要の大部分を牽引している。

競合他社とは異なり、MOSTLY AIはこれまでヘルスケアに主力を置いていなかったが、それも変わる可能性がある。「ヘルスケアは確かに私たちが注視しているものです。実際、2022年はいくつかのパイロットプロジェクトの開始を予定しています」とCEOは話す。

AIの民主化は、合成データがいずれはFortune 100企業の枠を超えて使われるようになることを意味する、とハン氏はTechCrunchに語っている。したがって、同氏の会社は今後、より小規模な組織や、さらに幅広いセクターに向けてサービスを提供する計画である。だがこれまでの取り組みにおいて、MOSTLY AIがエンタープライズレベルのクライアントに注力することは理にかなうものであった。

現在のところ、合成データを扱うための予算、ニーズ、高度な技術を有しているのはエンタープライズ企業であるとハン氏は語る。その期待に適合するために、MOSTLY AIはISO認証を取得した。

ハン氏と話をする中で、明確になったことが1つある。同スタートアップは確かな技術的基盤を備える一方で、その技術の商業化と、自社がクライアントに提供し得る付加的なビジネス価値にも等しく労力を注ぎ込んでいる。「MOSTLY AIは、顧客デプロイメントと専門知識の両面で、この新興の急成長領域をリードしています」とMolten Venturesの投資ディレクターであるChristoph Hornung(クリストフ・ホルヌング)氏は述べている。

GDPRやCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などのプライバシー法を遵守する必要性は、明らかに合成データに対する需要を促進するが、それだけが効果を現す要因ではない。例えば、欧州の需要は、より広い文化的コンテクストによっても牽引される。一方、米国では、それはイノベーションの追求からも生じる。そのユースケースとして、アドバンストアナリティクス、予測アルゴリズム、不正検出、プライシングモデルなどが挙げられるが、そこには特定のユーザーに遡ることのできるデータを含まない、という要素が求められる。

「多くの企業がこの領域に積極的にアプローチしているのは、顧客のプライバシー重視を理解しているからです」とハン氏。「これらの企業は、プライバシーを保護する方法でデータの処理と取り扱いを行う場合、競争上の優位性も得られることを認識しています」。

より多くの米国企業が革新的な手法における合成データの採用を求めている様相は、MOSTLY AIが米国でのチームの成長を目指す主要な理由となっている。一方で、同社はウィーン勤務とリモート採用の両方でより一般的な人材開拓も進めている。年末までに人員を35人から65人に増やす計画である。

ハン氏は、2022年は「合成データが軌道に乗る年」であり、その先は「合成データにとって実に堅調な10年」になると予想している。これは、AIの公平性や説明可能性といった重要な概念を中心に、責任あるAIに対する需要が高まっていることに支えられるであろう。合成データはこれらの課題の解決に貢献する。「合成データは、エンタープライズが自らのデータセットを増強し、バイアスを取り除くことを可能にします」とハン氏は語る。

機械学習を別にして、合成データはソフトウェアテストに活用されるポテンシャルが十分にあるとMOSTLY AIは考えている。これらのユースケースのサポートには、データサイエンティストだけではなく、ソフトウェアエンジニアや品質テスターも合成データにアクセスできるようにする必要がある。MOSTLY AIが数カ月前に同社のプラットフォームのバージョン2.0をリリースしたことは、彼らのことを考慮したものである。「MOSTLY AI 2.0はオンプレミスでもプライベートクラウドでも実装でき、それを使用する企業のさまざまなデータ構造に適応できる」と同社は当時記している

「当社は明らかにB2Bソフトウェアインフラ企業です」とハン氏は語る。シリーズAとBの両ラウンドで、同社はそのアプローチを理解する投資家を探し求めた。

筆者の質問に対してハン氏は、Molten Venturesは上場しているVCであり、通常の資金調達サイクルに縛られないこともかなりの重みがあることを認めている。「パートナーからこのような長期的なコミットメントを得られることは、私たちにとって非常に魅力的でした」。

Citi VenturesはCitigroup(シティグループ)のベンチャー部門であり、米国に本部を置いている。「当社は米国内のチームを大幅に拡大しており、米国内のネットワークや関係を支援可能な米国拠点の投資家を持つことは、あらゆる側面で大きな意義があります」とハン氏は語っている。

新たに2500万ドルの資金を調達し、米国でのプレゼンスを強化することで、MOSTLY AIは今後、合成データ領域の自社のセグメントで他の企業と競争するためのより多くのリソースを手にすることになる。そうした企業には、2021年9月にシリーズBで3500万ドル(約40億1000万円)を調達したTonic.ai(トニック・エーアイ)、同年10月にシリーズBで5000万ドル(約57億3000万円)を集めたGretel AI(グレテル・エーアイ)、シードラウンドを行った英国のスタートアップHazy(ヘイジー)の他、特定の垂直市場に特化したプレイヤーたちが含まれている。

「私たちはこの領域、そして市場全般でますます多くのプレイヤーが出現しているのを目にしており、そこに多くの関心があることが確実に示されています」とハン氏は語った。

画像クレジット:yucelyilmaz / Getty Images

原文へ

(文:Anna Heim、翻訳:Dragonfly)

【コラム】10代によるテスラ車のハックを教訓にするべきだ

Tesla(テスラ)をハックした19歳のDavid Colombo(デビッド・コロンボ)が騒がれるのは、当然といえば当然の話だ。彼はサードパーティソフトウェアの欠陥を利用して、13カ国にわたる世界的EVメーカーの車両25台にリモートアクセスした。ハッカーは、遠隔操作でドアのロックを解除し、窓を開け、音楽を流し、それぞれの車両を始動させることができたと話している。

関連記事:100台を超えるテスラ車が遠隔操作の危険性にさらされる、サードパーティ製ツールに脆弱性

コロンボ氏が悪用した脆弱性はTeslaのソフトウェアのものではなく、サードパーティのアプリに存在するもので、そのためできることに限界があり、ハンドルやアクセルそして加速も減速もできなかった。しかし彼はドアを開け、クラクションを鳴らし、ライトを制御し、ハッキングした車両から個人情報を収集した。

サイバーセキュリティのプロにとって、このようなリモートでのコードの実行や、アプリキーを盗むのは日常茶飯事だが、私が恐れるのは、情報漏洩の開示に慣れてしまい、今回の件がコネクテッドカーのエコシステム全体の関係者にとって貴重な学習の機会であることが見逃されてしまうことだ。

今回のハッキングは、サイバーセキュリティの初歩的な問題であり、率直にいって起きてはならない過ちだ。コロンボ氏がTwitterのスレッドを投稿して通知した翌日に、Teslaが突然数千の認証トークンを非推奨にしたことから、問題のサードパーティ製ソフトウェアは、セルフホスティングのデータロガーだった可能性があるのだという。一部のTwitterユーザーの中にはこの説を支持する人もおり、アプリの初期設定によって、誰でも車両にリモートアクセスできる可能性が残されていることを指摘している。これは、コロンボ氏による最初のツイートで、脆弱性は「Teslaではなく、所有者の責任」と主張したこととも符合する。

最近の自動車サイバーセキュリティ規格SAE/ISO-21434と国連規則155は、自動車メーカー(通称、OEM)に車両アーキテクチャ全体に対する脅威分析とリスク評価(threat analysis and risk assessment、TARA)の実施を義務化している。これらの規制により、OEMは車両のサイバーリスクと暴露の責任を負う。つまり、そこが最終責任になる。

Teslaのような洗練されたOEM企業が、サードパーティのアプリケーションにAPIを開放するリスクを看過していたのは、少々らしくないような気もする。しかし低品質のアプリは十分に保護されていない可能性があり、今回のケースのように、ハッカーがその弱点を突いてアプリを車内への橋渡しとして使用することが可能になる。サードパーティ製アプリの信頼性は、自動車メーカーに委ねられている。自動車メーカーの責任として、アプリを審査するか、少なくとも認証されていないサードパーティアプリプロバイダーとのAPIのインターフェイスをブロックする必要がある。

たしかに、OEMが検査し承認したアプリストアからアプリをダウンロードし、アップデートすることは消費者の責任でもある。しかしOEMの責任の一部は、そのTARAプロセスでそうしたリスクを特定し、未承認アプリの車両へのアクセスをブロックすることにある。

私たちKaramba Securityは、2021年に数十件のTARAプロジェクトを実施したが、OEMのセキュリティ対策には大きなばらつきが散見された。しかながらOEMは、顧客の安全性を維持し、新しい規格や規制に対応するためにできるだけ多くのリスクを特定し、生産前に対処することを最重要視している点で共通している。

ここでは、私たちが推奨するOEMメーカーが採用すべきベストプラクティスを紹介する。

  1. 秘密と証明書を保護する – 広義のなりすましや身分詐称を確実に失敗させる(ファームウェアを置き換える、認証情報を詐称するなど)
  2. アクセスや機能をセグメント化する(ユーザーに対して透過的な方法で) – たとえ1つのポイントが失敗しても、被害は限定的になる
  3. 自分自身で継続的にテストする(あるいは他の人にやってもらうために報奨金プログラムを立ち上げる) – 見つけたものはすぐに修正する
  4. インフォテインメント、テレマティクス、車載充電器などの外部接続システムを堅牢化し、リモートコード実行攻撃から保護する
  5. APIをクローズアップする。未許可の第三者には使用させないこと。このような習慣があれば、今回の攻撃は免れたはずだ

消費者に対しては、OEMのストア以外からアプリを絶対にダウンロードしないことをアドバイスしている。どんなに魅力的に見えても、非公認アプリは運転者や乗客のプライバシーを危険にさらしていることがある。

EVは楽しいものだ。高度な接続性を有し、常に更新されすばらしいユーザー体験を提供しれくれる。しかし、EVは自動車であり、スマートフォンではない。自動車がハッキングされると、ドライバーの安全とプライバシーを危険にさらすことになる。

編集部注:本稿の執筆者Assaf Harel(アサフ・アレル)氏は、Karamba Securityで研究とイノベーション活動を指揮し、革新的な製品とサービスの広範なIPポートフォリオを監督している。

画像クレジット:SOPA Images/Getty Images

原文へ

(文:Assaf Harel、翻訳:Hiroshi Iwatani)

AIが自動で動画内の顔やナンバープレートにぼかし加工し匿名化、プライバシーを保護するビデオツールのPimlocが約8.7億円調達

英国のコンピュータービジョン関連のスタートアップであるPimloc(ピムロク)は、動画の匿名化を迅速に行うAIサービスを販売するために、顔やナンバープレートのぼかしを自動化したり、その他の一連のビジュアル検索サービスを提供したりするなど、事業内容を強化してきた。同社は今回、新たに750万ドル(約8億7000万円)のシード資金を調達したと発表。このラウンドはZetta Venture Partners(ゼッタ・ベンチャー・パートナーズ)が主導し、既存投資家のAmadeus Capital Partners(アマデウス・キャピタル・パートナーズ)とSpeedinvest(スピードインベスト)が参加した。

このスタートアップ企業は、2020年10月にも180万ドル(約2億1000万円)のシード資金を調達しているが、今回の資金は欧州と米国での事業拡大と、データ法制の広がりや生体認証のプライバシーリスクに関する世論の高まりへの対応に使用されるという。後者に関しては、一例として顔認識技術のClearview AI(クリアビューAI)に対するプライバシー面からの反発などを挙げている。

Pimlocは営業、マーケティング、研究開発チームを強化するとともに、動画のプライバシーとコンプライアンスに焦点を当てた製品ロードマップの拡大のために、この資金を投じると述べている。

同社が狙うビジネスニーズは、小売業、倉庫業、工場などの業界で、安全性や効率性を高めるためにビジュアルAIの利用が拡大していることに焦点を当てている。

しかし、AIを活用した職場の監視ツールの増加は、労働者のプライバシーリスクを生み、リモートでの生体認証を導入する企業にとっては、これが法的リスクや風評被害の原因となる可能性がある。

そこでPimlocは、AIがプライバシーのために機能する第三の方法を提案している。それは「生産効率を高めるために使われるビジュアルデータを匿名化し、労働者のプライバシーを優先するために役立てる」というものだ。これについて、企業と協議しているという。

Pimlocによると、同社の「Secure Redact(セキュア・リダクト)」は、SaaSとしてまたはAPIやコンテナを介して販売されており、現地のビデオワークフローやシステムに統合することができる。この製品は、データプライバシー規制(欧州の一般データ保護規則やカリフォルニア州の消費者プライバシー法など)に準拠したビデオ証拠を提供しなければならない団体で、すでに使用されているという。

Pimlocは、顧客数を明らかにしなかったものの、CEOのSimon Randall(サイモン・ランドール)氏はTechCrunchに次のように語った。「欧州と米国を中心に輸送、製造、教育、健康、自動走行車、施設管理、法執行機関など、さまざまな分野で多くのユーザーにご利用いただいています。興味深いのは、そのすべてが同じニーズを持っているということです。つまり、CCTVでも、ダッシュボードでも、装着式カメラの映像でも、いずれもデータプライバシーやコンプライアンスのために映像の匿名化を必要としているのです」。

画像クレジット:Pimloc

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

アップルがAirTagストーカー問題に対応、「Personal Safety User Guide」を改定

AppleのAirTagsがストーカー目的使われていることを伝える報道が最近数多くあったことを受け、米国時間1月25日同社は、現行の「Personal Safety User Guide」を改定し、近くにある未知のAirTagを発見したり、AirTagが音を発しているのに気づいた際に消費者が何をすべきかに関する新たな情報を追加した。同ガイドはAirTagのアラートの意味や、AirTagあるいはその他の「Find My(探す)」のネットワークアクセサリーが自分を追跡しているとき何をすべきかを具体的に説明している。Androidユーザー向けの説明も書かれている。

ガイドの改定を最初に見つけたのは、9to5MacAppleInsiderの両サイトだ。AppleはTechCrunchに対し、米国時間1月25日にユーザーガイドを改定し、AirTag関連の情報を追加したことを正式に認めた。

しかし、ガイド自体は新しいものではない。同じマニュアルは以前、個人の安全が脅かされていることを心配する人たちや、Apple製品を通じて何らかの方法でストーカー行為を受けたり追跡されたりする可能性を懸念する人たちに向けた情報を提供していた。総じてこのマニュアルは、以前パートナーと情報を共有していたが、今後は自分のアカウントやデータ、位置情報などを相手がアクセスできないことを確実にしたい人たちを手助けすることが主な目的だった。

しかしAirTagの場合、ストーカーに発つながるのはパートナーによる虐待行為に限らない。たとえばThe New York Times(ニューヨーク・タイムズ紙)のある記事は、自動車泥棒が盗もうとしている高価な車の位置を突き止めるためにAirTagデバイスを使う様子を報じている。他にも、地元のスポーツジムなどの公共施設を離れたあと、AirTagに追跡されていることを示すアラートを受けたと言っている人がいた。ティーンエージャーの子どもを追跡するために本人に伝えることなくAirTagを使う親もいると記事は伝えている。

Appleは、紛失物トラッカー業界の中で、近くにある未知のBluetooth追跡デバイスに関する事前警告を実装した最初の主要テック企業であることから、こうしたストーカー状況が白日に晒らされることになった。NYTが指摘するように、研究者の中には、AppleのAirTagは、テクノロジー由来のストーカー問題を必ずしも生み出していないと主張する人もいる。むしろ、AirTag固有のアラート・システムによって、すでにまん延していた問題が暴露されたとも考えられる。しかしAppleにとって不幸なことに、ユーザーの安全とプライバシーに焦点を当てていることを会社として強く宣伝してきたことから、状況は対外的責任問題になっている。

AirTagストーカー問題について、何人ものApple広報担当者が声明を発表しているが、新しいガイドは本件に関するより公式な書類だと考えられる。

同ガイドはユーザーに対し、どんな時にアラートを受けるのか、なぜAirTagが音を鳴らすのが聞こえることがあるのか、新しいAndroid用Tracker Detect(トラッカー検出)アプリをどうやって使うかなどを説明している。中でも重要なのは、未知のAirTagに追跡された時にどうすればよいか、見つけられないときに音を鳴らす方法などが書かれたAppleのサポートページが紹介されていることだ。

関連記事:アップル、正体不明のAirTagを発見するAndroidアプリ「Tracker Detect」をリリース

今回の改定にともない、ユーザーガイドはPDFではなく検索可能なウェブサイトで公開されている。これによってGoogle(グーグル)などの検索エンジンによるコンテンツのインデック化が改善され、検索クエリにもとづいてユーザーが目的のページに到達しやすくなる。また、新しい個人の安全に関する文書やガイダンスが発行された際のガイド改定も容易になる。

AirTag情報以外にも、改定されたガイドには、当初発行された時にはなかったAppleの新しい機能に関する情報が入っている。AppleのApp Privacy Report(アプリ・プライバシー・レポート)や復旧用連絡先の設定方法などだ。他にもHome KitとHome App、プライベート・ブラウジング・モード、メッセージや電話、FaceTime、メールなどで相手をブロックする方法、不審な活動の証拠を記録するためにスクリーンショットを撮る方法、アカウント復旧用連絡先を設定する方法などを扱うセクションが追加された。

アカウントのセキュリティとプライバシーの管理に関する既存の情報と合わせることで、今回改定されたガイドは、従来バージョンよりも包括的な文書になっている。

しかし、AirTagをめぐる問題は、情報の不足や消費者が取るべき行動に関する混乱ではなく、AirTag自身が簡単にストーカー目的に使えてしまうことだ。安価で入手しやすいことに加えて、警告音の大きさは気づくのに十分なほどではなく、クルマの下やナンバープレートの裏などに仕かけられた時はなおさらだ。そして、未知のAirTagに関するアラートが発信される頻度はあまりにも少ない、とプライバシー擁護派は指摘する。

Appleは上記やその他の不満に対して、AirTagの機能を変更することによる対応はしていないが、今回のガイドの公開は、同社が少なくとも問題を認識し、消費者に何らかの情報を提供しようとしていることを示している。

画像クレジット:James D. Morgan / Contributor / Getty Images

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Nob Takahashi / facebook

グーグルの「欺瞞的」なユーザー位置情報追跡をめぐりワシントンD.C.などが提訴

米国時間1月24日、ワシントンD.C.、テキサス州、ワシントン州、インディアナ州は、ビッグテックに対する最新の訴訟を発表した。この訴訟は、ユーザーがその種のトラッキングが無効になっていると信じていた場合でも、Google(グーグル)は位置情報を収集してユーザーを欺いたと主張している。

ワシントンD.C.の検事総長Karl Racine(カール・ラシーン)氏は「Googleは、アカウントやデバイスの設定を変更することで、顧客が自分のプライバシーを保護し、同社がアクセスできる個人データをコントロールできると、消費者に誤って信じ込ませました」と述べている。「実際にはGoogleの説明に反して、同社は組織的に顧客を監視し、顧客データから利益を得続けています」。

ラシーン氏は、Googleのプライバシー慣行を、消費者のプライバシーを損なう「大胆な虚偽表示」と表現した。同氏の検事局は2018年、ユーザーが位置情報を保存しないと明示されたプライバシーオプションを選択している場合でも、iOSおよびAndroidの多くのGoogleアプリが位置情報を記録していることが判明したとAP通信が報じたのを受けて、Googleがユーザーの位置情報をどのように扱っているかを調査し始めた。AP通信は、プリンストン大学のコンピュータサイエンス研究者と連携して、その調査結果を検証した。

「この件に関するGoogleのサポートページには、次のように書かれている。『ロケーション履歴はいつでもオフにできます。ロケーション履歴をオフにすると、あなたが行った場所は自動的に保存されません』」とAPは報じた。「しかし、それは事実ではない。ロケーション履歴を停止した状態でも、一部のGoogleアプリでは、タイムスタンプ付きの位置情報が許可なく自動的に保存されている」。

この訴訟では、Googleが、ユーザーがオプトアウトすることが不可能な位置情報追跡システムを構築したこと、Androidのアプリ内およびデバイスレベルでのプライバシー設定によるデータの保護方法についてユーザーに誤解を与えたことを主張している。また、Googleは、ユーザーの利益に反する選択をさせるために、欺瞞的なダークパターンデザインを用いたとしている。

このような行為は、消費者を保護する州法に違反している可能性がある。ワシントンD.C.では、消費者保護手続法(Consumer Protection Procedures Act、CPPA)により「広範囲にわたる欺瞞的で非良心的なビジネス慣行」が禁止されており、検事総長が執行している。

ラシーン氏のD.C.検事局は、Googleに対する差止命令を求めるとともに、プライバシーに関して消費者を欺いて収集したユーザーデータから得た利益の支払いを同社に求めている。

関連記事:グーグル、広告ビジネスをめぐるテキサス州の反トラスト法訴訟で棄却を要請

画像クレジット:Alex Tai/SOPA Images/LightRocket / Getty Images

原文へ

(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Aya Nakazato)

ケニア政府、デジタル金融機関のデータプライバシー問題で厳重な取り締まり

2021年10月下旬、ケニアの国会で新しい法律が可決された。同法は、顧客の守秘義務に違反した事業者の許可を取り消す権限を金融規制当局に与える条項を追加している。これにともない、デジタル金融機関は、融資不履行者の個人データを第三者と共有することで、同国において免許取り消しのリスクを負うことになる。

典型的に融資アプリは、連絡先を含む借り手の電話データを収集し、メッセージへのアクセスを要求してモバイルマネー取引の履歴をチェックする。クレジットスコアリングやローン支払いの要件として参照されるものだ。悪質な金融機関はその後、借り手が債務不履行に陥った際に、実行された融資を回収する目的で、収集された連絡先情報の一部を使用する。複数の報道によると、デジタル金融機関は、友人や家族に電話をするなどして借り手に借金の返済を強要するような、デット・シェイミング(debt-shaming、債務の状態をさらしあげることによって、はずかしめたり、非難するような行為)手法に訴えているという。

今回の法改正は、高額の無担保ローンを提供する悪質なデジタル金融機関から市民を保護するためにケニアの議員が講じている多数の対策に追加されることになる。これにより、規制当局であるCentral Bank of Kenya(ケニア中央銀行)は、一定の自主規制期間の後、独立したデジタル金融機関(銀行と提携していない)の業務を監督する権限が付与される。今後は、ケニアで事業を行うにはライセンスを取得する必要が出てくる。これまでは登録するだけだったが、それが悪質なアプリの急増を招くことになった。

このケニア中央銀行に関する2021年改正法案では、規制当局に対し、金利に上限を設けたり「データ保護法または消費者保護法の条件」に違反したデジタル金融機関のライセンスを一時停止または取り消す権限も与えている。

ケニアのデータ保護法では、企業はデータを収集する理由を顧客に開示するよう義務付けられている。また、借り手の機密情報が不正な第三者によって侵害されないよう保証する。この動きの背景には、消費者向けロビー活動が、顧客情報をデータやマーケティング企業と共有しているとしてローンアプリを非難していることがある。

デジタル金融機関はまた、プロダクトに関するすべての情報を開示することが求められ、これには価格設定の詳細、債務不履行者に対する罰則、債務回復の手段などが含まれる。これは、プロダクトやサービスの購入に関するすべての条件を消費者に開示することを販売者に義務付けている消費者保護法に沿ったものだ。ほぼすべての融資アプリが、ケニアでの借金を回収するためにデット・シェイミング手法を用いていることが明らかになっている。

ケニアにはおよそ100ものモバイル融資アプリがあり、その中には中国の大手ブラウジング企業Opera(オペラ)が所有するOkashやOpesaも含まれている。両社ともケニアで略奪的な融資戦術を用いているとの主張に直面している。OkashやOpesaをはじめとする数十のローンアプリが、法外な金利と搾取的な条件を設定していたことが判明した。例えば、Google Play Storeのポリシーでは60日ローンと規定されていながら、OkashやOpesaは30日ローンとなっていた。中国の2つのローンアプリの金利は法外で、年間876%に達している。銀行の年間金利にしても20%は滅多に超えない。サンフランシスコに拠点を置くBranch International Ltd.(ブランチ・インターナショナル)やPayPal(ペイパル)が支援するTalaなどの他のアプリでも、年利がそれぞれ156~348%、84~152.4%と、恐喝的なレートが使われていることが判明した。

月額約4000万ドル(約45億円)を支出する25のデジタル金融機関を代表する金融機関ロビー団体がTechCrunchに語ったところによると、メンバーは金利の上限設定について懸念を表明したが、特に彼らのフィードバックが受け入れられたことを受けて、新しい法律には満足しているという。同団体は、最低資本金規制や預金割り当ての撤廃、新技術や新プロダクトの規制権限の委譲を求めてロビー活動を行ってきた。

Digital Lenders Association of Kenya(ケニアデジタル金融業協会)の会長であるKevin Mutiso(ケビン・ムティソ)氏は次のように述べている。「この分野が規制され、中央銀行(規制当局)へのアクセスが可能になり、紛争規制の仕組みも導入されることを喜ばしく思っています。しかし、私たちが懸念しているのは価格統制であり、これにはあまり感心していません。金利の上限を設定した瞬間に融資は行われなくなります。私たちは神経質になっていますが、それは公正なことです」。

しかしムティソ氏によると、規制が整備されれば、金融機関は規制当局をはじめとするパートナーと協力して融資をより強固なものにすることができ、同国の融資市場の拡大に役立つという。

「規制の欠如は市場を予測不能にしていました。今なら私たちに何ができ、何ができないかがわかります。また、私たちはより良い債務回収慣行を持つことになります」とムティソ氏は語る。

「この法律により、ケニアは世界でナンバーワンのフィンテック市場になると私たちは考えています。なぜなら金融機関や借入者から期待されることなど、今はすべてが明らかだからです。私たちはまた、顧客、特にMSME(零細・中小企業)にとってより良いプロダクトを目にすることになるでしょう」と同氏は続けた。

これらのアプリは無担保ローンを提供しているため、当座の現金を求めている借り手や、口座履歴などの前提条件により銀行から締め出されることが多い借り手にとって魅力的なものとなっている。

デジタルクレジットは簡単に利用できるが、保有期間が短いために高額である。また、アクセスが容易なために複数のアプリからの借り入れが発生し、債務の逼迫やクレジットスコアの低下につながり、将来的に銀行からクレジットを取得する借り手の能力に影響を与える。

Kenya Bankers Association(ケニア銀行協会)の調査によると、利便性とアクセスの容易さが、クレジットにアクセスするプラットフォームを決定する際に顧客が考慮する主な理由であることが示されている。

この調査では、自営業者は通常のクレジットよりもデジタルを好むことが明らかになった。これは、彼らが業務を行っている間に経験する流動性の変化に起因するものであり、緊急時にもローンアプリが好まれることが指摘されている。

新しい法律では、規制当局に対し、クレジットコストを設定する際にデジタル金融機関が準拠する価格パラメータを決定する権限が与えられている。

法外な金利はケニアに限ったことではない。インドでは、融資アプリに週当たり60%もの高い金利が設定されていることが判明した。南アジアの国では、融資回収業者による嫌がらせの後に自殺した人々の報告があった。

西アフリカ諸国でも、地域最大の市場の1つであるナイジェリアを含め、融資アプリが急増している。

調査と政策提言を行うConsultative Group to Assist the Poor(CGAP、貧困層支援協議グループ)の報告書でも、タンザニアの2000万人もの借り手のデジタルローンのデフォルト率と延滞率が高いことが明らかになった。ほとんどの借り手は緊急事態や投資のためではなく、日々の必要性のために融資を利用している、と同報告書には記されている。

「これらの数字を減らすために規制当局ができる最も重要なことの1つは、融資条件の透明性を向上させ、顧客が情報に基づいた意思決定をしやすくすることです」とCGAPは述べている

同組織は、融資アプリを管理するためのより厳格な規則について勧告し、金融機関に融資条件の透明性を呼びかけた。

画像クレジット:Tala

原文へ

(文:Annie Njanja、翻訳:Dragonfly)

【コラム】暗号資産の規制が米国でスーパーアプリが生まれるきっかけになるかもしれない

今や、中国社会の大部分が「スーパーアプリ」と呼ばれるものに依存するようになった。診察の予約からタクシーの配車、ローンの申し込みに至るまで、さまざまなタスクを1つのプラットフォームでこなすWeChat(ウィーチャット)などのアプリのことだ。

米国ではこのようなワンストップショップが勢いに乗ることはなかったが、ついに米国でもそのときが来たのかもしれない。フィンテック業界、とりわけ暗号資産を専門とするプラットフォームからスーパーアプリが誕生する可能性が高いのだ。

株価の高騰と金利の記録的な低下、近い将来に起きるインフレへの不安などが重なり、暗号資産は急速に人気を集めている。米国政府が暗号資産を全面的に規制することを決定した場合(現在、米国議会はこの議題を検討している)、暗号資産の正当性はさらに高まるかもしれない。

今後、暗号資産の発行体が規制当局と連携し、消費者を保護しながら金融および投資に関する新たなオポチュニティを生み出すための妥協案を見いだせた場合、Coinbase(コインベース)などの暗号資産専用プラットフォームの他、PayPal(ペイパル)、Venmo(ヴェンモ)、Stripe(ストライプ)など、最近になって暗号資産による決済機能を追加したサービスが米国版のスーパーアプリに進化する可能性がある。消費者が暗号資産を安全かつ正当なもの、そして使いやすいものとして見ることができれば、これがスーパーアプリの基盤となり得るだろう。

関連記事:オンライン決済の巨人「Stripe」が暗号資産市場に再参入

これらの暗号資産アプリや決済アプリを拡大し、他のアプリやサービスと統合すれば、さまざまなタスクが便利になるはずだ。結局のところ、人は銀行に行くときにだけ資金管理のことを考えているわけではない。そもそも銀行口座を持っていない人も存在する。人は、買い物や旅行をするとき、診察料を払うときにも資金管理について考えており、こうしたアプリはそれぞれの人に必要な金融サービスを各個人に合わせて提供する助けとなるだろう。

暗号資産による決済を他のタスクと統合することは、金融業界を一般に広く行き渡るものに変えるという面でも大きなカギとなるだろう。暗号資産を普及させることで、十分なサービスを受けていないコミュニティの他、信用履歴がなくクレジットカードやローンの申し込みが困難な人に対し、より幅広い金融サービスを提供できるようになるからだ。

スーパーアプリの台頭

WeChatは2011年に中国国内のメッセージングアプリとしてサービスを開始したが、2013年には決済プラットフォームとしての機能を果たし、その後まもなく買い物や食料配達、タクシーの配車といったさまざまなサービスを展開するようになった。

今や、WeChatは何百万もの種類のサービスを提供しており、その大部分は、各企業がWeChat内で動作するミニアプリを開発し、そのミニアプリを通してサービスを提供する形となっている。10億人以上のユーザー数を誇るAliPay(アリペイ)の仕組みも同様だ。これら2つのアプリは、過去10年間で中国を現金主義経済からデジタル決済に大いに依存する経済へと変換したとして評価されている。デビットカードやクレジットカードが普及する中間段階を飛び越えた形での進化だ。

この仕組みはインドネシアをはじめ、同地域の他の国でも普及が進んでいる。ここでカギとなるのは、スーパーアプリのサービスの多くに、決済手段を含む金融サービスが搭載されているという点だ。

米国と欧州でも、こうしたアプリの使用は急増している。Apple(アップル)やFacebook(フェイスブック)、Google(グーグル)などの大手テック企業が決済サービスを追加し、VenmoやSquare(スクエア)といった複数の決済アプリがさらに普及するようになった一方で、スーパーアプリの出現はいまだに見られていない

その理由の1つは、データプライバシーに関する規制だ。米国、そして特に欧州におけるプライバシー規制によってアプリ間のデータ共有が制限されているため、アリペイなどのスーパーアプリにミニアプリを自動統合するようなエコシステムの構築が困難となっている。

また、以前から米国に充実したインターネットエコシステムがあることも理由の1つだ。フェイスブックなどの人気ソーシャルメディアやペイパルなどの決済サイトがスマートフォンの誕生以前から存在したため、1つのアプリが複数のサービスを提供する代わりに、これらのプラットフォームがそれぞれ別のアプリを展開する結果となっている。一方中国では、インターネットの大半がモバイルファーストで、スマートフォンの出現以降に進化している。米国市場は長きにわたり、各タスクについて別個のプラットフォームを使用する形態に慣れていたというわけだ。

しかし、アナリストの多くは、さまざまなアプリやテック企業がサービスの種類を拡大している点(例えばTikTok(ティックトック)はショッピング機能を追加し、Snapchat(スナップチャット)はゲーム用のミニアプリを統合し、Appleは決済業界に参入)を指摘し、米国でもいずれスーパーアプリが台頭するか、たとえそうでなくても今より多機能の大型アプリが出現するだろうと述べている。1つのアプリにサービスを追加し、ユーザーのリテンションを維持する方法を見いだすことができれば、あるアプリでのユーザーの挙動を別のアプリと共有せずに済むため、プライバシー規制を回避することにもなる。

米国では、アジア市場のように1つまたは2つのアプリが群を抜いて市場を支配することは考えにくいものの、アプリの巨大化、そして包括的なものへの変化が進んでいることは明らかだ。

DeFiの進化

一方、過去10年間で暗号資産が生み出したものは決済アプリとスーパーアプリだけではない。ビットコインという1つの製品から誕生した暗号資産は、今や総合的なピア・ツー・ピアの金融システム、いわゆるDeFi(ディーファイ、分散型金融)へと進化した。これには、Ethereum(イーサリアム)やDogecoin(ドージコイン)など複数の通貨が含まれ、システム上でユーザーによるお金の投資、売買、消費、貸し出しが可能となっている。

新型コロナウイルス感染症の拡大によって経済の先行きが不透明になり、また従来の金融機関のなかにも暗号資産関連のサービスを一部提供する機関が増えたことで暗号資産の人気がさらに上昇している反面、暗号資産はいまだに主要の金融システムや金融セクターから除外されており、高い危険性があることを多くの専門家から指摘されている。暗号資産の発行体もまた、分散型の金融製品を生み出すという目標から外れるとして、規制に長らく抵抗してきた。

しかし、この状況には変化が生じ始めており、一部の暗号資産プラットフォームが規制の遵守に関心を示すようになっている。

例えば、Coinbaseはユーザーがコインを他人に預け入れた場合に利子を獲得できるという製品の提供を計画していた。ところが、米国証券取引委員会によるガイダンスの提供がなかったにもかかわらず、同委員会から「Coinbaseが製品をリリースした場合は同社を提訴する」との警告が発せられ、この計画を断念するに至った。事実、暗号資産の発行体は、一部の規制に従うことで自社の製品の正当性が高まり、より多くの人に幅広い目的で使用してもらうことができると認め始めているのだ。この流れには、最近、Stablecoin(ステーブルコイン)をはじめとする新たな暗号資産製品が市場に現れたことで、従来の通貨の価値が議論されていることも関係している。

暗号資産の規制については、米国証券取引委員会の委員長Gary Gensler(ゲーリー・ゲンスラー)氏をはじめ、一部の議員や暗号資産業界の人物が賛成の立場を表明しており、規制の実現は近づいていると考えられる。

暗号資産が米国初のスーパーアプリを後押しする存在に

暗号資産の発行体が政府関係者と連携し、イノベーションを制限することなく消費者を保護するような規制を定めることができた場合、暗号資産は長年動きのなかった米国のスーパーアプリの開発を促す要素となる可能性が高い。

Coinbaseが米国証券取引委員会と連携し、互いに調整しながら質の高い規制を定めることができたならどうだろうか。法令をもとにCoinbaseが、ユーザーが暗号資産として信頼できる、存続可能かつ認定された金融手段であることを立証し、魅力的な収益創出のオポチュニティとなる新規の金融製品のみならず、日常シーンでも使用できるツールとして成長させることができる。規制によって通貨に安定性が生まれれば、隠れた価値を持つ資産としてだけでなく、買い物に便利なツールとして変化させることができるだろう。現時点では日常生活で暗号資産を使おうとした場合、トランザクション時間の長さや手数料の高さ通貨価値の変動の大きさなどがユーザーエクスペリエンスに摩擦を生むことになるが、こうした規制により、面倒な一部の手順を排除することも可能だ。

規制のフレームワークを作成することで暗号資産の需要は圧倒的に増加し、飲食業から小売業に至るまで、暗号資産を使った決済処理への対応を希望する企業が突如として増えるだろう。そうなれば、既存の暗号資産決済アプリへの統合が加速し、それらがスーパーアプリに進化していくと考えられる。従来の通貨を銀行に預金する代わりに、これらのアプリで暗号資産の預金をする人も増え、経済、そして金融のエコシステム全体が根元から覆るだろう。

銀行はいつでも大衆が望む製品を生み出してきたが、暗号資産および分散型金融の業界はまぎれもなく、人が必要とする製品とサービスを提供してきた。現に、規制や法的な環境がはっきりしない今でさえ、何百万もの人が暗号資産を使用しているのだ。

中国では、クレジットカードのサービスを十分に受けられない市場で現金の代替手段が必要となり、そのニーズを満たすべく、ユビキタスかつ統合型のデジタル決済が急速に進化した。同じように、暗号資産ベースのスーパーアプリは従来の決済手段に代わって、あるいはそれに加えて、暗号資産を安全かつ効率的に使用することを望む消費者や企業のニーズを満たすものとなるだろう。

暗号資産が無規制のグレーゾーンにとどまる限り、そのプラットフォームもスーパーアプリに進化することなく、業界外の経済や日常生活から除外されたままとなってしまう。そうなれば、米国はモバイルファーストかつデジタルファーストな、革新的で新しい金融エコシステムを構築するチャンスを逃すことになるのである。

編集部注:本稿の執筆者David Donovan(デビッド・ドノヴァン)氏は、デジタルコンサルタント会社Publicis Sapientの米大陸におけるグローバル金融サービスプラクティスを率いており、元Fidelity Investmentsの幹部。

画像クレジット:loveshiba / Getty Images

原文へ

(文:David Donovan、翻訳:Dragonfly)

【コラム】注意、会社はあなたを見張っている

新しい1年の始まりに、みんなに役立つことを教えよう。

ITが十分に確立されておらず、会社の構築とともに方針が急速に進化しているスタートアップで働く場合、雇用主が迅速に動いて物事を実行し、後から許可を取ろうとしてしまうリスクが普段よりも高くなる。これはほぼ直感的に理解できるだろう。通常、創業初期のスタートアップは落ち着きなく、猛烈なスピードで動いているものだ。これは合法か?もちろんそうではないが、スタートアップ業界には、会社が成功しなければ許可など無意味なことだという考えも多く存在するようだ。また、会社が一流の急成長企業のスピードで成長しているなら、十分な資金があり弁護士もいるので、後で解決することもできるだろう。

この記事は、スタートアップの従業員数人(みんなが知っているであろう企業だが、名前を明かさないことを希望した)との会話がきっかけで生まれた。会社名を特定するのに十分な裏付け情報を得ることはできなかった(がんばって聞き出すので、ご心配なく)。ここでは、やる気満々で2022年を迎えたみなさんに、いくつか毎年恒例のお知らせを。

会社でのSlack(スラック)では、話の内容に気をつけよう。DMはプライベートなものだと思っているかもしれないが、企業の管理者がSlackインスタンスで送信されたすべてのDMをエクスポートできることをご存じだろうか?もちろん、データのエクスポートについては法律があるが、DMで違法なことや非道徳的なことを話すと、上司がDMのコピーを見せてそれについて説明する羽目になるだろう。過ちを重ねても意味がない。疑った仕事熱心なIT部長が細かく調べることを決めると、雇用主を訴える場合もあるかもしれない。しかし個人的なトークは個人的なチャンネルに、仕事のトークは仕事のチャンネルと区別すれば簡単に避けられる。もちろん、あなたのテキストはプライベートにできかもしれないが、少なくともそれらにアクセスすることは難しくなる。そして、特にこだわりがあるなら、メッセージが一定時間を過ぎると消えるSignal(シグナル)Telegram(テレグラム)もある。

上司は会社の機器を監視することができる。契約書には、会社が提供する備品の使用や使用不可について条項があることが多い。その一部は明確だが(「違法なことをしてはならない」)、一部はもっと曖昧だ。それは仕方がない。契約書をよく読むこと。あなたの会社が、あなたがコンピュータ上で何をしているか監視することが許可されると謳っているかもしれない。法に認められているようには思えないが、多くの労働契約に遠回しに記載されている。AIツールがますます強力になり、追跡されても全然構わないという契約書に署名する世界では、ソフトウェアを作成する多数の企業(AktivTrakActiveOpsVeratio他多数)があなたを監視し、雇用主はこれらをあなたのコンピュータにインストールしてさまざまなレベルのステルス行為を行い、あなたの許可を得ることができる。

AktivTrakは9000を超える組織で使用されており、そのツールは「いつ、誰により、何がやりとりされたかについて理解を深め、同時にコンプライアンスの確保を助けるための知見を提供するための、ユーザーアクティビティおよびセキュリティイベント詳細ログの参照」のために使用できると主張している。みなさんはどうだか知らないが、私はもう安全に感じている(スクリーンショット:AktivTrak website)

人事部はあなたの味方ではない。あなたの会社の人事部門はフレンドリーで、よく手を貸してくれて、親切かもしれない。全力で職場の問題解決を手伝ってくれるかもしれない。しかし彼らはあなたの味方ではない。人事部は会社のために働いているのだ。会社の利益を守るためにそこにいる。あなたの利益と会社の利益が対立すれば、人事部門で働く人は、いくらフレンドリーでも、生活費を稼ぐ必要があるし、あなたが辞めた後、解雇された後、異動した後も彼らの上司と良好な労働関係を維持する必要がある。James Altucher(ジェームズ・オルタッハー)氏が自身のコラム「いずれ、あなたは解雇される」で指摘している通り。

会社への忠誠の義務はない。特に米国では、多くが「随意」雇用であり、すなわちいつでも、いかなる理由でも一時解雇される可能性があり、会社が機会を与える限り雇用されたままになり、最終収益に貢献する。特にスタートアップでは、これは変わりやすい分野である。なぜなら目的と目標は取締役会ごとに代わる可能性があるからだ。ある月は、エンジニアリング部門は会社にとって最も必要不可欠な存在である。しかし銀行口座の金額と資金調達環境はすぐに変わり、翌月にはすべてが変わってしまう可能性がある。特に状況が困難になると、指導的立場にある人にとってKPIを基に運営し、成長と顧客獲得のみに焦点を置くことが魅力的になるかもしれない。その場合、エンジニアリングは短期的にみると重要性が低く、突然広告費と販売活動が最優先事項になる。しっかりした長期的ビジョンを持った偉大なるリーダーたちが急な変化を起こさざるを得なくなる可能性がある。プロの世界の忠誠心は、雇用主のみに恩恵を与える神話である。あなたをやめさせる必要があればそうする。リクルーターが声をかけてきたら、電話をとってその市場でのあなたの値段を確認しよう。

辞めてはならない。マネージャーや人事部門の誰かが経験則であなたに自らの意思でやめさせようとしても、抵抗するのが最善策だ。やめてはいけない!多くのメカニズムが(一部の州では、失業手当を含めて)、あなたが一時解雇された場合にのみ適用される。もし辞めたら、特に会社を訴えないと約束した合意書に同意した場合は、将来的に選択肢を大きく弱めることになる。

人事部はあなたのSlack DMメッセージまたはEメールを、あなたに対して使用しただろうか?現在私は数社のスタートアップの多数の従業員とお話ししている。みなさんのご意見もお聞かせいただきたい。お問い合わせ先:tc@kamps.org

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

【コラム】いずれメタバースは、あなたをモニターし行動を操作する世話役AI「ELF」で埋め尽くされる

メタバースはマーケティング上の誇大広告に過ぎないという人もいれば、社会を一変させると主張する人もいる。私は後者に属するが、多くの人が提唱しているようなアバターで埋め尽くされたアニメの世界について言っているのではない。

むしろ、社会を変えるような真のメタバースは、現実世界上の拡張レイヤーであり、10年以内にショッピングや社交からビジネスや教育まで、あらゆるものに影響を与え、私たちの生活の基盤になると考えている。

関連記事:【コラム】Web3の根拠なき熱狂

また、企業が管理するメタバースは社会にとって危険であり、積極的な規制が必要だと考えている。なぜなら、プラットフォームのプロバイダーは、SNSが古いと感じるようなやり方で消費者の操作が可能になるからだ。多くの人は、データ収集やプライバシーに関する懸念に共感しているが、メタバースで最も危険なテクノロジーであろう人工知能を見落としているのではないか。

実際、メタバースのコアテクノロジーを挙げろといわれれば、たいてい人はアイウェアを中心に、グラフィックエンジンや5G、あるいはブロックチェーンなどを挙げるだろう。しかし、それらは私たちの没入型未来の仕組みに過ぎない。メタバースにおいて糸を操り、私たちの体験を創造(操作)するテクノロジーはAIなのだ。

人工知能は、私たちのバーチャルな未来にとって、注目を集めるヘッドセットと同じくらい重要な存在になるだろう。そしてメタバースの最も危険な部分は、他のユーザーと同じような見た目で、他のユーザーと同じように行動するが、実はAIによって制御された模擬人格である課題志向の人工主体だ。彼らは私たちに「会話的操作」を行い、人工主体が本物の人間でないことに気づかないうちに、広告主に代わって私たちをターゲットにするだろう。

特に、AIアルゴリズムが表情や声の抑揚を読み取って私たちの感情状態を監視しながら、私たちの個人的な興味や信念、習慣や気質に関するデータにアクセスするようになると危険だ。

SNSにおけるターゲット広告が操作的だと思うかもしれないが、これはメタバースで私たちに関わる会話型エージェントの比ではない。彼らは人間のどんな販売員よりも巧みに私たちに売り込み、単にガジェットを売るだけでなく、最も資金を支払った人のために政治的プロパガンダやターゲットとなる誤報を押し付けてくるだろう。

そして、これらのAIエージェントは、メタバースにおける他の人と同じように見え、同じように話すので、広告に対する私たちの自然な懐疑心は働いてくれない。これらの理由から、私たちはAIによる会話エージェントを規制する必要がある。特に、AIが私たちの顔や声の情緒にアクセスでき、私たちの感情をリアルタイムで私たちに対して利用することが可能になる場合だ。

これを規制しないと、AIドリブンのアバターの形をした広告は、あなたが疑っているのを察知して、文章の途中で戦術を変え、あなた個人にインパクトを与える言葉や画像にすばやく照準を合わせてくるだろう。2016年に書いたように、AIが学習して世界最高のチェスプレイヤーや囲碁の棋士に勝てるなら、消費者を揺さぶることを学習して私たちの利益にならないものを買わせる(そして信じさせる)のは朝飯前だ。

しかし、私たちに向かってくるすべてのテクノロジーの中で、メタバースにおいて最も強力かつ精緻な強制力を持つことになるのは、私が「エルフ」と呼ぶものだ。この「デジタル生活促進者(electronic life facilitators、ELF)」は、SiriやAlexaのようなデジタルアシスタントの自然な進化形だが、メタバースでは姿なき声にはならない。消費者ごとにカスタマイズされた擬人化された人格になるだろう。

プラットフォームのプロバイダーは、これらのAIエージェントを仮想ライフのコーチとして販売し、あなたがメタバースを探索している間、1日中しつこく付きまとう。そして、メタバースは最終的に現実世界の拡張レイヤーとなるので、デジタルエルフは、あなたが買い物をしていても、仕事をしていても、ただぶらぶらしているだけでも、どこにいてもあなたと一緒にいることになる。

そして上記のマーケティングエージェントのように、これらのエルフたちは、あなたの顔の表情や声の抑揚、そしてあなたの生活の詳細なデータ履歴にアクセスし、あなたに行動や活動、製品やサービス、さらには政治的見解に至るまでをそっと促すようになる。

そして彼らは、今日のような粗雑なチャットボットではなく、身近な友人、親切なアドバイザー、気遣いのできるセラピストのような、人生において信頼できる人物として認識されるようになるキャラクターとして具現化される。しかも、友人にはできないような方法で自分のことを知り、血圧や呼吸速度に至るまで、自分の生活のあらゆる面を(信頼できるスマートウォッチを通じて)モニタリングする。

そう、これは不気味だ。だからこそプラットフォームのプロバイダーは、付きまとってくる人間サイズのアシスタントというよりも、あなた自身の「人生の冒険」の魔法のキャラクターのように見える、無邪気な特徴と物腰を持つ、かわいくて脅威を感じさせないエルフを作るのだろう。これが私が「エルフ」という言葉を使って表現した理由だ。エルフは、あなたの肩越しにいる妖精、あるいはグレムリンやエイリアンのような見た目かもしれないからだ。こうした小さな擬人化したキャラクターは、耳にささやいてきたり、私たちの前に飛び出して、こちらに注目して欲しい拡張世界のものに注意を引かせたりすることができる。

これが特に危険な点だ。規制がなければ、こうした「人生のお世話役」はお金を払った広告主に乗っ取られ、現在のSNSのどんなものよりも優れた技術と精度であなたをターゲットにすることになるだろう。そして、今日の広告とは異なり、これらの頭の良いエージェントは、かわいい笑顔やくすくすした笑いとともにあなたの周りを付きまとい、一日をガイドすることになるのだ。

このようなことが実際にどのように起こるのか、ポジティブな面もネガティブな面も伝えるために、2030年以降にAIが私たちの没入型ライフをどのように導いていくのかを描いた短いストーリー、「Metaverse 2030」を書いた。

最終的に、VR、AR、AIの技術は、私たちの生活を豊かにし、向上させる可能性がある。しかしこれらが組み合わさると、イノベーションは特に危険なものになる。これはこのような技術に共通する強力な特性、つまりコンピュータで作られたコンテンツがたとえ意図的に作られた捏造であっても、本物であると信じさせることができるという特性が理由だ。この強力なデジタル欺瞞能力こそが私たちがAIを活用したメタバースを恐れるべき理由であり、それが宣伝目的でユーザーにサードパーティアクセスを販売する強力な企業によって管理されている場合には特にそうなのだ。

メタバースの技術に問題が根付いてしまって元に戻せなくなる前に、消費者や産業のリーダーが意義のある規制を推進してくれることを期待して、私はこれらの懸念を提起したいと思う。

編集部注:本稿の執筆者Louis Rosenberg(ルイス・ローゼンバーグ)氏は、仮想現実と拡張現実のパイオニアであり、Unanimous AIのCEO。

画像クレジット:TechCrunch/Bryce Durbin

原文へ

(文:Louis Rosenberg、翻訳:Dragonfly)

【コラム】生体情報収集への道は善意で舗装されている

ここ数カ月、計画的な生体情報の収集がかなり熱を帯びて加速している。これについて心配していないのなら、した方がいい。

実際、バカバカしいと思うかもしれないが、普通以上に心配してみて欲しい。営利目的の生体情報収集は、この10年間で驚くほど正規化した。Appleが日常的にユーザーの指紋をスキャンするというアイデアは、かつては驚くべきものだった。今では銀行アプリやノートPCのロックを解除する方法として―もちろん顔認証で解除しない場合だが指紋が使われている。生体情報収集が主流になったのだ。

FaceIDや指紋認証などの機能が採用されてきたのは、それらが特に便利だからだ。パスコードがなくても問題がない。

企業やビジネスがこれを理解し、今では生体情報収集を採用する2大理由の1つが利便性となっている(もう1つは公共の安全のためだが、これについては後ほど説明する)。迅速な生体情報のスキャンによって、物事が迅速で容易になると言われている。

英国では最近、給食費の支払いに顔認証を導入し、時間短縮を図っている。しかし、データプライバシーの専門家や保護者の反発を受け、結局いくつかの学校はこのプログラムを中止することになった。彼らの主張によれば、どこかのサーバーに蓄積された幼い子どもたちの顔のデータベースを丸ごと利用することに対し、利便性はまったく見合わない。そして、彼らはまったく正しい。

音楽は耳に、チケットは手のひらプリントに

2022年9月、米国のチケット販売会社AXSは、印刷物や携帯電話上のコンサートチケットに代わるオプションとして、レッドロック野外劇場でAmazon Oneの手のひら認証システムを使用するプログラムを発表した(その後数カ月で他の会場にも拡大する予定だった)。この決定は、プライバシーの専門家とミュージシャンの両方から直ちに抵抗を受けたが、これはライブ音楽業界における生体情報収集をめぐる最初の火種ではまったくない。

2019年、大手プロモーターのLiveNationとAEG(コーチェラ・フェイスティバルなどの大型フェスティバルをコーディネート)は、ファンやアーティストからの世論の反発を受け、コンサートでの顔認証技術への投資・導入計画から手を引いた

しかし、ライブエンターテインメントにおける生体認証の利用をめぐる争いは、まだ決着がついていない。コロナウイルスの大流行によって、満員のスタジアムに依存するプロスポーツの経営者たちは振出しに戻り、新しい計画に大量の顔認証を取り入れることが多くなった。顔がチケットの代わりになり、表向きは誰もがウイルスから安全に守られることになる。

このような経営者たちの決意は固い。オランダのサッカーチーム、アヤックス・アムステルダムは、当初データ保護規制当局によって中止された試験的な顔認識プログラムの再導入を目指している。アヤックスの本拠地アムステルダム・アレナで最高イノベーション責任者を務めるHenk van Raan(ヘンク・ヴァン・ラーン)氏)は、ウォールストリートジャーナルの記事に引用によると「このコロナウイルスの大流行を利用して、ルールを変えることができればいい。コロナウイルスは、プライバシー(に対するどんな脅威)よりも大きな敵だ」と語っている。

これはひどい理由だ。プライバシーに降りかかるリスクは、ウイルスに対するリスクによって軽減されるものでは決してない。

同じ記事の中で、顔認識技術のTruefaceのCEO、Shaun Moore(ショーン・ムーア)氏は、プロスポーツの経営者との会話について、識別情報の受け渡しについてははぐらかし、チケットのバーコードをスキャンする際にウイルス感染の危険性があることを理由にタッチポイントに強くこだわっていると述べる。

チケットをスキャンする際の危険性については強引な主張であり、伝染病学者でなくとも言えることだ。大勢の人が叫び合い、歓声を上げることが主なイベントであるなら、担当者がチケットをスキャンするときの一瞬のマスク付きの交流など、心配するほどのことではないだろう。安全性の主張が崩れれば、利便性の主張も崩れる。単純な事実として、モバイルチケットを手のひらに置き換えたからといって、私たちの生活が飛躍的に、そして有意義に良くなるわけではない。認証にかかる+5秒は無意味なのだ。

ヴァン・ラーン氏がパンデミックを利用してプライバシー保護や懸念を覆すことを直接的に語っているのは興味深い。しかし、彼の理論は恐ろしく、欠陥がある。

確かにコロナウイルスは現実の脅威ではあるが、それは「敵」ではない。具現化しているわけでもなく、動機があるわけでもない。ウイルスなのだ。人間の手には負えない。保険用語でいうところの「天災」だ。そして、それが人間のコントロール下にあるものを正当化するために使われている。公共の安全や利便性のためと称して生体情報収集が大幅に増加している。

公共の安全と自由な社会

公共の安全は、しばしば生体認証による監視の強化が強要される原因となっている。8月、米国の議員たちは、飲酒状態での車の発進を防ぐために、新車にパッシブ技術を搭載することを自動車メーカーに義務付ける法案を提出した。この「パッシブ」技術は、眼球スキャン装置や飲酒検知器から、皮膚を通して血中アルコール濃度を検査する赤外線センサーに至るまで、あらゆるものを網羅する。

確かに、これは一見すると立派な動機のある大義名分である。米国運輸省道路交通安全局は、飲酒運転による死者は年間1万人近くに上ると推定しており、欧州委員会もEUについて同様の数字を挙げている

しかし、そのデータはどこに行くのだろうか?どこに保存されているのだろうか?誰に売られ、何をするつもりなのだろうか?プライバシーのリスクはあまりにも大きい。

パンデミックは、大量の生体データ収集の導入に立ちはだかる多くの障害を消し去った。このやり方を続けることが許されていると、結果は市民の自由にとって悲惨なものとなるだろう。監視の強度は記録的な速さで高まっており、政府や営利企業は私たちの生活や身体に関する最もプライベートな些細なことにまで口を挟むようになっている。

モバイルチケットは十分な監視だ。何しろ会場に入ったことを正確な時刻とともにシステムに知らせるのだから。壊れていないのなら、直さなくていい。そして、病原菌を撒き散らさないためという危うい口実で、生体情報収集を追加するのはやめるべきだ。

生体情報はできるだけ渡さないに限る。GoogleやAmazonが基本的人権や市民的自由に関してひどい記録を持っていることを考えると、これらの企業に生体情報データを渡さないことだけでは十分ではない。

典型的な巨大ハイテク企業と関係のない小さな会社は、それほど脅威ではないように感じるかもしれないが、騙されてはいけない。AmazonやGoogleがその企業を買収した瞬間、彼らはあなたと他のすべての人の生体認証データを一緒に手に入れることになる。そして、私たちは振り出しに戻ることになる。

安全な社会は、監視の厳しい社会である必要はない。私たちは何世紀もの間、ビデオカメラを一台も使わずに、ますます安全で健康的な社会を築いてきた。安全性以上に、これほど詳細で個別化された厳重な監視は、市民の自由を重んじる社会にとって脅威となる。

結局のところ、これが行き着く所なのかもしれない。自由で開かれた社会にはリスクがつきものだ。これは間違いなく、啓蒙主義以降の西洋政治思想の主要な信条の1つである。しかし、そのリスクは、厳重に監視された社会で生活するよりもはるかにましだ。

言い換えれば、私たちが向かっている生体情報の格子から逃れることはできない。今こそ、不必要な生体情報収集、特に営利企業が関与する生体情報収集を規制し、排除することによって、この流れを止めるべき時なのだ。

編集部注:本稿の執筆者Leif-Nissen Lundbæk(ライプニッセン・ルンドベック)氏はXaynの共同創設者兼CEO。専門はプライバシー保護AI。

画像クレジット:SERGII IAREMENKO/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

原文へ

(文:Leif-Nissen Lundbæk、翻訳:Dragonfly)

消費者が自分のプライバシーデータを企業と共有、その見返りが得られるプラットフォームCadenが3.9億円調達

起業家のJohn Roa(ジョン・ロア)氏は、プライバシーの価値を信じている。2015年にデザインコンサルタント会社ÄKTAをSalesforceに売却した後、ロア氏はヨーロッパの島で数年間「世間から離れる」ことにした。

そして今、同氏はニューヨークに戻り、消費者が自分のデータを企業と共有し、その見返りとして報酬を得ることができるようにするスタートアップCaden(カデン)を立ち上げた。同氏はSalesforceで働いていたとき、長期休暇を始める直前に、データプライバシーの未来に関する論文の形で事業計画を書いたとTechCrunchに語っている。

事業計画を書いたときは「純粋に推論的なもの」だったとロア氏はいう。同氏は、サードパーティのデータ、つまり受動的に収集されたデータを保存する際に、規制によって企業に問題が生じると予想した。そして、ユーザーが自分の個人データを所有し、その使用について完全にコントロールして同意する「プライバシーファースト」の世界へ長期的には移行することを想定していた。

340万ドル(約3億9000万円)のプレシードラウンドでステルスモードから抜け出したばかりのCadenは、そうした世界を構築するためのロア氏の試みだ。このラウンドには、TechCrunchの親会社であるYahoo!の共同創業者Jerry Yang(ジェリー・ヤン)氏が、Starwood CapitalのBarry Sternlicht(バリー・スターンリヒト)氏、Citigroupの元CTO、Don Callahan(ドン・キャラハン)氏、その他のエンジェル投資家とともに参加した。

Cadenの創業者ジョン・ロア氏(画像クレジット:Caden)

同社は自らを「ゼロパーティ」データプラットフォームと呼んでいる。これは、ユーザーが自発的にのみブランドとデータを共有することを意味する。同社の主力製品の1つは、ユーザーが個人データを保存し、そこから導き出される洞察を見ることができる暗号化された「デバイス上の金庫」だ。この機能をロア氏は、Spotifyの「Year in Review」になぞらえたが、より広範な嗜好や行動パターンを網羅している。

Cadenの2つ目の主力製品はLinkと呼ばれるAPIで、ユーザーは自分のメールや銀行などのアカウントに接続し、データを抽出して金庫に保存することができる。ひとたび金庫に保存されると、ユーザーはCadenに保存されたデータの最終的な所有者であるため、いつでも信用する特定の企業にデータ使用の許可を与えたり、あるいは許可を取り消したり変更したりすることができる、とロア氏は話す。

同氏のチームは9カ月前にこの技術に取り組み始め、今後6カ月以内にベータ版のモバイルアプリを市場投入する予定だ。同氏はこのアプリを預金口座に例え「ユーザーは自分のデータに対する報酬をすぐに受け取り始めることができるようになる」と述べた。

米国の大多数の州では、2018年に制定されたカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)と同様の法案が成立、または検討されている。この法律では、消費者は企業による自身の個人情報販売をオプトアウトする権利が与えられている。企業は長年にわたってユーザーに関するサードパーティデータを収集してきたが、監査やコンプライアンスの要件が厳しいため、企業にとってサードパーティデータ収集は「資産というより負債」になっているとロア氏は話す。「ゼロパーティ」のデータは、ユーザーから直接取得するため、より正確で堅牢だと付け加えた。

Cadenは、まず消費者ブランドを引き付けたいと考えている。なぜなら、データへのより良いアクセスによって得られるものが最も大きいからだと、投資家のジェリー・ヤン氏はTechCrunchに電子メールで語った。

「データの収集と保存、洞察の推測、保護、サードパーティデータの購入、そしてそれらをすべて最新に保つためにどれだけの努力とリソースが必要でしょう。Cadenは多くの企業が自分たちでそれをせずに利用できるようなプラットフォームソリューションを作り出しているのです。最初の段階を超え、Cadenは消費者向け企業をしのぐことができると確信しています」とヤン氏はいう。

この分野に進出した企業は、Cadenが初めてではない。Datacoup(データクープ)は2012年に、ユーザーが自分のデータを企業に直接販売できるプラットフォームとして挑んだ。しかしユーザーがわずかな金額しか稼げなかったため、2019年に閉鎖に至った。消費者データは価値を評価するのが難しく、企業はその対価をできるだけ少なくする方法を探そうとする。

ロア氏は、Cadenが優れたユーザー体験を提供することでこうした課題を克服できると考えている。

一般にブランドは、ユーザーにデータを返したがらないが「今は、法律的には返さなければなりません。しかし、その手間を省く必要はありません」とロア氏は述べた。

「Cadenや他社がやっているのは、完全にユーザー主導のプロセスをより合理的なものにする方法を考案することです。ですので、サードパーティにデータを返すよう促す必要はないのです」と付け加えた。

また、直接的な支払いだけでなく、より良いブランド体験を通じて、消費者のために無形の価値を引き出したいと同氏は考えている。

「Cadenを使うことで、あなたの生活が少し楽しくなったり、あなたのためになることがあったり、話しかけられたりする。当社が注力している価値のポイントです。そしてこの点は、同業他社の多くが苦労しているところです」とロア氏は述べた。

画像クレジット:Caden

原文へ

(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Nariko Mizoguchi

米民主党議員、ターゲティング広告を大幅に制限する新プライバシー法案を提出

米連邦議会の民主党議員3人が米国時間1月18日、Facebook(フェイスブック)やGoogle(グーグル)、大量に蓄積した個人情報を活用しターゲティング広告で収益を上げているその他のデータブローカー企業に不利益をもたらし、オンライン広告のあり方を劇的に変えようとする新しい法案を提出した。

この法案「Banning Surveillance Advertising Act(監視広告禁止法)」は、カリフォルニア州のAnna Esho(アンナ・エシュー)議員とイリノイ州のJan Schakowsky(ジャン・シャコウスキー)議員によって下院に、ニュージャージー州のCory Booker(コリー・ブッカー)議員によって上院に提出された。テック企業がユーザーに広告を提供する方法を大幅に制限し、個人情報の使用を全面的に禁止するものだ。

この法案が可決された場合「人種、性別、宗教などの保護された区分情報、およびデータブローカーから購入した個人データ」に基づくターゲティングはすべて禁止される。ただしプラットフォームは、都市や州レベルの一般的な位置情報に基づいて広告を表示することができ、また、ユーザーが利用しているコンテンツに基づく「コンテキスト広告」も認められる。

この法律が施行されれば、米連邦取引委員会(FTC)と州検事総長が違反行為を取り締まる権限を有することになり、故意に違反した場合には1件につき最高5000ドル(約57万円)の罰金が科される。

エシュー議員はこう述べている。「『監視広告』のビジネスモデルは、広告ターゲティングを可能にするために個人情報を収集し囲い込むという不適切な行為を前提としています。この悪質な慣行は、オンラインプラットフォームが社会に多大なコストをかけてユーザーのエンゲージメントを追い求めることを可能にし、誤った情報、差別、ライバル陣営を支持する有権者の弾圧、プライバシーの侵害など、多くの害悪を助長しています」。

本日、私は「監視広告禁止法」を@RepAnnaEshooと@RepSchakowskyとともに提出しました。この法律により、広告主は個人のオンライン行動を利用して利益を得ることを止めざるを得なくなり、その結果、私たちのコミュニティはより安全になります。

ブッカー上院議員は、ターゲット広告モデルを「略奪的で侵略的」と呼び、ソーシャルメディアプラットフォーム上で偽情報や過激主義を悪化させる慣行であると強調した。

また、検索エンジンのDuckDuckGo(ダックダックゴー)や、ProtonMailを開発したProton(プロトン)など、プライバシーに配慮した企業が、Electronic Privacy Information Center(EPIC、電子プライバシー情報センター)、Anti-Defamation League(名誉毀損防止同盟)、Accountable Tech、Common Sense Media(コモン・センス・メディア)などの団体とともにこの法案を支持した。

View this document on Scribd

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

原文へ

(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Aya Nakazato)

英内務省、エンドツーエンド暗号化反対に世論を誘導するためのネガティブキャン広告キャンペーンを計画

Stephen Hird / reuters

Stephen Hird / reuters

英内務省が、エンドツーエンド暗号化反対に世論を誘導するための広告キャンペーンを計画していると伝えられています。

Metaは2021年11月、InstagramとMessengerのエンドツーエンド暗号化を2023年まで延期すると発表しました。プライバシー保護の観点からみれば実装が待ち遠しい機能ですが、一部政府や法執行機関にとっては、通信の内容を確認できなくなり、児童虐待などの犯罪の傾向を把握できなくなるとの指摘も出ています。

英内務省は、まさにこの指摘の立場をとっており、内務書の広報担当者は米メディアRolling Stoneに「エンドツーエンドの暗号化が子どもたちの安全を守る能力に影響を与えるという懸念を共有する多くの団体をまとめるために、(広告代理店の)M&C Saatchi社と契約しました」と語っています。政府はこのキャンペーンのために53万4000ポンド(約8400万円)を割り当てているとのことです。

Rolling Stoneが入手したという資料によると、このキャンペーンには一般市民の不安を煽るような要素が含まれる可能性があるとのこと。たとえば、ガラスの箱の中に大人と子どもが入り、ガラスが徐々に黒くなっていくという演出も含まれています。また、SNSを活用し、両親にFacebookなどの企業に連絡するよう呼びかけるような内容になっているとのことです。

プライバシーの擁護派はこのキャンペーンを「脅迫」と呼び、すでに対抗キャンペーンを計画しているとも伝えられています。国際的非営利組織Internet SocietyのRobin Wilton氏は、「強力な暗号化がなければ、子どもたちはこれまで以上にオンラインで無防備になります。暗号化は個人の安全と国家の安全を守るものであり、政府が提案しているものはすべての人を危険にさらすものです」と語っています。

(Source:Rolling StoneEngadget日本版より転載)

【コラム】ソーシャルメディアとマッチングアプリが抱える深刻な身元確認問題

ソーシャルメディアとマッチングアプリはそろそろ、自分たちが蒔いてきた種を刈り取り、各プラットフォームから詐欺、偽装、デマ情報を一掃すべきだ。

その誕生当初、ソーシャルメディアやマッチングアプリは、インターネットの世界の小さな一角を占めるにすぎず、ユーザーはわずかひと握りだった。それが今では、Facebook(フェイスブック)やTwitter(ツイッター)が、選挙に影響を及ぼしたり、ワクチン接種の促進を後押しまたは阻害したり、市場を動かしたりするほどに巨大な存在になっている。

また、何百万もの人々が「生涯の」伴侶と出会うためにTinder(ティンダー)やBumble(バンブル)などのマッチングアプリを利用しており、そのユーザー数はFacebookやTwitterに迫る勢いだ。

しかし、お祭り騒ぎはここまでだ。信用や安全よりも利益が優先されてきた結果、なりすまし犯罪やオンライン詐欺が入り込む隙が作り出されてしまった。

今や、BumbleやTinderで友達が「キャットフィッシング(なりすましロマンス詐欺)」に遭ったという話も、家族の誰かがTwitterやFacebookでオンライン詐欺の被害を受けたという話も、日常茶飯事である。悪意のあるネット犯罪者が個人情報を盗んで、あるいはなりすましの個人情報を新たに作って、詐欺を行ったり、政治的または商業的な利益のために偽情報を拡散したり、ヘイトスピーチを広めたりした、というニュースは毎日、耳に入ってくる。

ほとんどの業界では、ユーザーによるなりすまし詐欺の実害を被るのは当事者である企業だけで済む。しかし、マッチングアプリやソーシャルメディアのプラットフォームで信用が崩壊すると、その被害はユーザーと社会全体に及ぶ。そして、個人に及ぶ金銭的、心理的、時には身体的な被害は「リアルな」ものだ。

このような詐欺事件の増加を食い止める、あるいは撲滅する責任を果たしてきたのは誰だろうか。何らかの措置を講じてきたと主張するプラットフォームもあるが、各プラットフォームがその責任を果たしてこなかったことは明白だ。

Facebookは、2020年10月から12月の期間に、13億件の偽アカウントを摘発したが、これは十分というには程遠い数だ。実際のところ、ソーシャルメディアやマッチングアプリは現在、最低限の詐欺防止策しか講じていない。簡単なAIと人間のモデレーターは確かに有用だが、膨大な数のユーザーには到底追い付かない。

Facebookによると、3万5000人のモデレーターが同プラットフォームのコンテンツをチェックしているという。確かに大勢だ。しかし、概算すると1人のモデレーターが8万2000件のアカウントを担当していることになる。さらに、ディープフェイクの使用や合成ID詐欺犯罪の手法の巧妙化など、悪意のあるネット犯罪者は手口を日ごとに進化させているだけではなく、その規模も広げつづけている。経験豊富なユーザーでさえもそのような詐欺行為に引っかかってしまうほどだ。

ソーシャルメディアやマッチングアプリのプラットフォームは、この問題と闘う点で腰が思いと批判されてきた。しかし、実際のところどのように闘えるのだろうか。

なりすましロマンス詐欺の被害は深刻

次のような場面を想像するのは難しくない。マッチングアプリで誰かと出会って連絡を取り始める。その相手がいう内容や質問してくる内容に、怪しさは感じられない。その関係が「リアル」だと感じ始め、親しみを覚え始める。その感情は気づかないうちにエスカレートして、警戒心は完全に解け、危険信号に対して鈍感になり、やがて恋愛感情に発展する。

このようにして新たに出会った特別な人とあなたは、ついに直接会う計画を立てる。するとその相手は、会うために旅行するお金がないという。そこであなたはその人を信じて、愛情を込めて送金するのだが、間もなくその人からの連絡が一切途絶えてしまう。

なりすましロマンス詐欺事件の中には、被害が最小限にとどまり自然に解決するものもあるが、上記のように金銭の搾取や犯罪行為につながる事例もある。米国連邦取引委員会によると、ロマンス詐欺の被害額は2020年に過去最高の3億400万ドル(約348億8000万円)を記録したという。

しかし、これは過少に報告されている結果の数字であり、実際の被害額はこれよりはるかに大きい可能性が高く「グレーゾーン」やネット物乞いを含めるとさらに膨れ上がるだろう。それなのに、ほとんどのマッチングアプリは身元を確認する術を提供していない。Tinderなど一部の人気マッチングアプリは、身元確認機能をオプションとして提供しているが、他のマッチングアプリはその類いのものを一切提供していない。ユーザー獲得の妨げになるようなことはしたくないのだろう。

しかし、オプションとして身元確認機能を追加しても、単に上っ面をなでるような効果しかない。マッチングアプリ各社は、匿名IDや偽IDを使ったユーザーの加入を防ぐために、もっと対策を講じる必要がある。また、そのようなユーザーが社会と他ユーザーに及ぼす被害の重大さを考えると、マッチングアプリ各社が防止策を講じることを、私たちが社会として要求すべきだ。

身元確認はソーシャルメディアにおいて両刃の剣

ロマンス詐欺はなにもマッチングアプリに限ったことではない。実際のところ、ロマンス詐欺の3分の1はソーシャルメディアから始まる。しかし、ソーシャルネットワークサービスにおいて身元確認を行うべき理由は他にもたくさんある。ユーザーは、自分が本物のOprah Winfrey(オプラ・ウィンフリー)やAriana Grande(アリアナ・グランデ)のアカウントを見ているのか、それともパロディアカウントを見ているのかを知りたいと思うかもしれない。オプラ・ウィンフリーやアリアナ・グランデ本人たちも、本物のアカウントとパロディアカウントとの違いがはっきり分かるようにして欲しいと思うだろう。

別の重要な点は、ソーシャルネットワーク各社は身元確認を行うことによってネット荒らしの加害者を抑制すべきだという世論が高まっていることだ。英国では、同国のリアリティー番組人気タレントKatie Price(ケイティー・プライス)が主導して始まった「#TrackaTroll(#トロール行為を取り締まる)」運動が勢いを増している。プライスがHarvey’s Law(ハーヴェイ法)の制定を求めて英国議会に提出した嘆願書には、およそ70万人が署名した。ハーヴェイとは、匿名の加害者からひどいネット荒らしの被害を受けてきた、彼女の息子の名前だ。

しかし、ソーシャルネットワークを利用する際の身元確認を義務化することについては、強く反対する意見も多い。身元確認を行うと、家庭内暴力から逃げている人や、政治的な反対勢力を見つけ出して危害を加えようとする抑圧的な政権下の国にいる反体制派の身を危険にさらすことになる、というのが主な反対理由だ。さらに、政治やワクチンに関する偽情報を拡散しようとする多くの人々は、自身の存在を顕示して、自分の意見に耳を傾ける人を集め、自分が何者なのかを世の中に認知させたいと考えているため、身元確認を行っても彼らを抑止することはできないだろう。

現在、FacebookとTwitterは、正規アカウントに青い認証済みバッジを表示させる制度に「認証申請」プロセスを導入しているが、確実な措置というには程遠い。Twitterは最近、「認証申請」プログラムを一時的に停止させた。いくつもの偽アカウントを正規アカウントとして誤認証してしまったためだ

Facebookはもっと進んだ措置を講じてきた。かなり前から、特定の場合、例えばユーザーが自分のアカウントからロックアウトされたときなどに、身元確認を行ってきた。また、投稿されたコンテンツの性質、言葉遣い、画像に応じて、投稿者のブロック、認証の一時停止、人間のモデレーターによるレビューを行っている。

身元確認とプライバシー保護を両立させることの難しさ

悪意のあるネット犯罪者がマッチングアプリやソーシャルメディアで偽のIDを作って詐欺行為を働いたり、他の人に危害を加えたりすると、それらのプラットフォームに対する社会の信頼は損なわれ、プラットフォームの収益にも悪影響が及ぶ。ソーシャルメディアのプラットフォーム各社は今、ユーザー数を最大限まで伸ばすことと、ユーザーのプライバシーを保護することを両立させるために、あるいは、より厳しくなる規制とユーザーからの信頼失墜に直面して、日々格闘している。

盗難やハッキングによる個人情報の悪用を防ぐことは非常に重要である。もしTwitterやFacebookで誰かが自分になりすましてヘイトスピーチを拡散させたらどうなるだろう。自分はまったく関与していないのに、職を失うかもしれないし、もっと深刻な被害を受ける可能性もある。

ソーシャルメディアプラットフォーム各社は、ユーザーと自社のブランドを守るためにどのような選択をするのだろうか。これまで、プラットフォーム各社の決断は、テクノロジーよりも、ポリシーや利益の保護を中心として下されてきた。プライバシーに関する懸念に向き合って信頼を築くための対策と、利益確保の必要性とのバランスを取ることは、彼らが解決すべき戦略上の大きなジレンマだ。いずれにしても、ユーザーにとって安全な場所を作り出す義務はプラットフォーム各社にある。

ソーシャルメディアやマッチングアプリのプラットフォームは、ユーザーを詐欺や悪意のあるネット犯罪者から守るために、もっと大きな責任を担うべきだ。

編集部注:本稿の執筆者Rick Song(リック・ソング)氏はPersonaの共同設立者兼CEO。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

原文へ

(文:Rick Song、翻訳:Dragonfly)

ニューヨークでジオフェンス令状とキーワード検索令状を禁止する法案の支持が高まる

ニューヨークで、州の法執行機関が論争の的になっている令状を使って、テクノロジー企業から住民の個人的なユーザーデータを入手することを禁止する法案が、最初に提出されてから2年後、再びチャンスを得ることになった。

この「Reverse Location Search Prohibition Act(逆位置検索禁止法案)」は2021年、ニューヨーク州議会と上院に民主党議員のグループによって再提出された。2年前に通過しなかったこの法案は、先日まず委員会に付託された。これは議場での投票が検討される前の最初の大きなハードルとなる。

この法案が可決されれば、米国の州法としては初めて、ジオフェンス令状やキーワード検索令状を禁ずることになる。これらの令状は、特定の時点に犯罪現場の近くにいたユーザーの位置情報データや、特定のキーワードを検索したユーザーの情報を、法執行機関がGoogle(グーグル)などのテクノロジー企業に提出するよう求めることができるというものだ。

ジオフェンス令状は「逆位置」令状とも呼ばれるもので、法執行機関が容疑者の特定に役立てるために、ユーザーの携帯電話やアプリから何十億もの位置情報を収集・保存しているGoogleに対し、犯罪が起きた際に一定の地理的範囲内にいた携帯電話の記録を引き渡すように、裁判官に令状を求めることができる。

ジオフェンス令状は、Google特有の問題である。法執行機関は、Googleの位置情報データベースが利用できることを知っており、Googleはそのデータベースを広告事業の推進に利用し、2021年は1500億ドル(約17兆円)近い収益を上げている。

Googleの検索についても同様だ。法執行機関は裁判官に令状を請求し、特定の時間帯に特定のキーワードを検索した個人の情報を、Googleに提供するよう求めることができる。あまり知られていないが、キーワード検索令状は広く使われており、Googleに限らず、Microsoft(マイクロソフト)やYahoo(ヤフー)からも、この種の法的手続きを用いてユーザーデータが収集されている

このような令状の使用は、電子フロンティア財団のようなインターネット人権団体から「漁猟」と呼ばれており、同財団はアメリカ自由人権協会(ACLU)とともにニューヨークの法案を支持している。この種の令状は、犯罪とは無関係の近くにいる無実の人々のデータも必ず収集するため、憲法違反と人権侵害であるとの批判がある。

TechCrunchは2021年、ミネアポリス警察がジオフェンス令状を使って、2020年に起きた警察官によるGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏の殺害事件をきっかけに暴力行為に及んだとされる抗議者を特定したと報じた。その際、NBC News(NBCニュース)やThe Guardian(ガーディアン紙)の報道では、まったく無実の人々が、犯罪現場に近かったというだけで、暗黙のうちに犯罪の嫌疑をかけられていたことを明らかにした。

関連記事:ミネアポリス警察がGoogleにジョージ・フロイド氏抗議行動者特定のため個人データを要求

Googleが公表しているデータによると、ジオフェンス令状は、同社が受け取る米国内の法的要求の約4分の1を占めているという。位置情報や検索語を現実の容疑者に結びつける情報源として、Googleが法執行機関の間で広く知られるようになってから、同社は2020年に1万1500件以上のジオフェンス令状を処理したが、この慣行がまだ比較的初期の段階にあった2018年には1000件に満たなかった。

ニューヨーク州は、ジオフェンス令状全体の約2~3%を占めており、その数は数百件にのぼる。

関連記事:米国政府がグーグルに要求した令状の4分の1がジオフェンスに関するもの

ブルックリン中心部を代表するニューヨーク州の上院議員で、上院の法案を後援したZellnor Myrie(ゼルナー・マイリー)氏は、TechCrunchに次のように語っている。「私が代表を務めるブルックリンのような密集した都市コミュニティでは、単に犯罪現場の近くに住んでいたり歩いていたりするだけの何百人、何千人もの無実の人々が、個人の位置情報を引き渡すジオフェンス令状に巻き込まれる可能性があります。また、キーワード検索令状では、特定の言葉、名前、場所を検索したユーザーが特定されます。私たちの法案は、このような令状を禁止し、ニューヨーカーのプライバシーを守るものです」。

画像クレジット:TechCrunch

原文へ

(文:Zack Whittaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Essentialの崩壊後、後継者OSOMはプライバシーを重視した新端末を計画する

2020年のEssential(エッセンシャル)の崩壊は、これほど高い注目を集めた家電スタートアップの敗退としては近年稀に見るものだった。2017年、泣く子も黙る人物が壮大な野心と3億3000万ドル(約377億7700万円)を投じて立ち上げたEssentialは、業界の問題やそれにまつわる失望、創業者Andy Rubin(アンディ・ルービン)氏に対する疑惑などが重なり業務停止に追いやられた。

最終的にはCarl Pei(カール・ペイ)氏が自身の新会社のために同ブランドを購入。ペイ氏は同社名を「Nothing(ナッシング)」と名づけているが「『Essential』は、同社が『Nothing』になる以前に社内で候補としていた名前の1つでした。そのために商標権を取得したのです。Essentialで何かをする予定はありません」と同氏は2022年初めに話している。

より精神的な後継者に近い存在がOSOMという形で登場した。元Essentialの社員らが設立した同社は、ここ数カ月の間にわずかに報道がなされたもののほとんど公になることはなかった。しかし米国時間12月21日、カリフォルニア州クパチーノに拠点を置く同社は、多くの人が予想していたことを正式に発表した。OSOM(「awesome」と同音)は携帯電話を開発しているのだ。

同社が開発中のOV1デバイスを見ると、少なくとも外観的にはEssential PH1を世に送り出したのと同じチームが手がけた作品であることがよくわかる。しかし同製品はモジュール関連の機能ではなく、中核として「プライバシー」を念頭に置いて設計されている。つまりユーザーがデータのプライバシーを確実にコントロールできるように設計されているのである。

MWC 2022を目前にして、それ以外の詳細はまだ明らかになっていない。そこで私は、2021年中旬に共同設立者でありCEOのJason Keats(ジェイソン・キーツ)氏にOSOMとその携帯電話の詳細について聞いてみることにした。

TC:発表は約2カ月後ですね?

JK:そうですね、詳細をお伝えするのは2カ月先になります。MWCで発表を行い、2022年の夏に出荷する予定です。今できるのは、私たちが携帯電話を作っているということの発表だけです。みなさんにはとても期待していただいており、2022年はファンのみなさんに何かをお届けしたいと思っていたので、辛うじて間に合うことができました。

TC:御社はまだ謎めいた存在であるため、どういった人のことをファンと考えたら良いのでしょうか。

JK:驚いたことに、Essentialのファンは初期の頃からとても支援してくださっており、将来に向けて今私たちが作っているものに対しても大きな期待を寄せてくれています。それから今後、根強いAndroidファンのみなさんも多く獲得することができると思います。現在、Pixel以外ではフラッグシップ的なAndroidフォンが存在しません。そこを改善し、またプライバシーを重視したソフトウェアをすでに開発していますし、さらなる改良を続けています。

TC:既存のチームの中で、Essentialから移ってきた人は何人いますか?

JK:EssentialでPH1を作ったときは総勢30人くらいだったと思います。そのチームから15人ほどが参加しています。デザイン、エンジニア、プロダクトデザイン、ソフトウェアエンジニアリングなど、本当にコアなメンバーが揃っています。

TC:チーム全体の規模はどうですか?

JK:約30人です……3分の2以上がエンジニアです。

TC:事実上、ゼロになってしまった会社をどのように再建したのですか?

JK:Essentialで起こったすべての欠陥や出来事の中で、私が(ルービン氏を)永遠に称賛することができるのは彼のリクルート能力です。彼は信じられないような才能を持った人材を採用してきました。彼から会社が潰れると聞いたとき、私は次の行き先を模索しました。Google(グーグル)やApple(アップル)では働きたくないし、Amazon(アマゾン)に行きたいわけでもありません。ここには密接に協力し、一緒に苦難の道を歩んできたすばらしいチームがあります……。

私たちは(Essentialの)最大の問題が、おそらく焦点の欠如であることに気づきました。私たちは目的を持つ必要があると考えました。何のために解決しようとしているのか。特に2020年の時点では、プライバシーに関する一貫した取り組みが行われていないことに気づいたのです。

TC:世間はこれ以上新しい携帯電話ブランドを必要としているでしょうか。

JK:はい、確実に必要だと思います。プライバシーの保護に重点を置いているものが必要であり、それには大きな理由があります。仮に当社がプライバシー保護のためのソフトウェアを開発しているソフトウェア会社だったら、Play Storeで公開して、人々にインストールしてもらえば良いことです。しかし、携帯電話に入れたアプリだけでは、システムに組み込まれていないため簡単に無視したり、オフにしたりすることができます。デバイスに組み込まれていないからです。それが我々のやるべき仕事です。当社はOEMメーカーであり、Qualcomm(クアルコム)のTrustZoneにアクセスでき、そのシステムソフトウェアにアクセスできるため、ユーザーが使用を選択できる真のプライバシー重視のソフトウェアを構築することができます。どちらにしても、ユーザーに選択肢を与えることが重要なのです。

TC:プライバシーを主なセールスポイントとするこの携帯電話に飛びついてもらうというのは、難しいことだとは思いませんか?

JK:米国においては、AppleユーザーではなくAndroidユーザーをターゲットとしています。その場合、Androidユーザーにはブランドロイヤリティがあまりなく、ユーザーはいろいろと試してみたいと考えています。プライバシーに関してはすでに複数のパートナーと提携し、プライバシーのために彼らのソフトウェアやハードウェアを使用している人についての高度な統計データを共有してもらっていますが、そこから見えた数字は驚くべきものでした。プライバシーへの大きな需要があり、人々がプライバシーのためにお金を費やしていることがわかったのです。

TC:現実的にはどのくらいの台数を想定していますか?(米国、カナダ、そしてヨーロッパ全体に)幅広く見据えているようですが、Essentialの数字は予想されていたものとは違っていたようですね。

JK:おもしろいことに、Essentialが開始した時の初年度の目標は10万台でした。結果、初年度のエンドユーザーへの販売台数は30万台弱でした。最大の問題は、(ルービンが)多額の資金を調達していたため200万台の出荷が期待されていたということです。10万台を想定してスタートし、30万台売れたとしたらそれは大成功と言えるでしょう。要はどのような指標を使うかということなのです。OSOMの場合、初年度に20万台売れたら大喜びでしょう。私たちはこれから長い間ここにいる予定ですから。

TC:(Essentialでは)外部からの期待が大きすぎたために物事が崩れてしまったのでしょうか?

JK:何が悪かったのか話し始めれば本が一冊できてしまうほどです。些細なこともたくさんありました。

TC:ひと言でまとめると?

JK:トップが下した多くの決断は、我々が成功するためには直感に反するものでした。

TC:御社の資本金については560万ドル(約6億4000万円)を調達したことが報告されています。これまでの資金調達はどのようなものでしたか。

JK:2000万ドル(約22億9000万円)を確保しました。そのうちのいくらかは投資家によるもので、一部はチャネルパートナーからの予約注文でした。初年度にサポートできるだけの最大数に近い注文数をすでに受けています。投資家の大部分は私と共同設立者のWolfgang(ウォルフギャング)から来るものが多く、外部のVCはすべて主にカナダの企業でした。

TC:最初のシード資金に加えて、シリーズAはありましたか?

JK:現在、シリーズAの真っ最中です。

TC:Playground(プレイグラウンド)は関わっていますか?

JK:いえ、彼らとはじっくりと話をしました。ブルース、マット、ピーターといった同社のチームとは今でもとても良い友人です。今でもアイデアの相談相手として頼っています。

TC:会社が正式に設立されたのはいつですか?

定款は2020年4月20日に提出されました。

TC:社名を「Awesome(すごい)」という単語と同音にした理由は?また名前と文字とどちらを先に思いついたのですか?

JK:(ルービン氏)からEssentialが潰れると聞いた20分後には「よし、自分のことは自分でやろう」と決意していました。私は分かりやす過ぎるものが好きではありません。家中に配線やプラグなどあれこれあって気が狂いそうになりますよね。それで別の製品のアイデアを思いついたのですが、これはいずれ作るかもしれませんし、作らないかもしれません。携帯電話とは何の関係もない、ただクレイジーなアイデアです。でもそのアイデアは目に見えないし、頭にも残っていない。スタートレックで未来のテクノロジーの話をするときに、人々や一般の消費者が本当にイメージするものは何かというと、何かがエーテルの中から答えてくれるという感覚だと思うんです。壁から20cm離れたところの机の上の置いてある、長さ3メートルのケーブルがついた物ではありません。アイデアはエーテルから出てくる「Out of Sight Out of Mind(目に見えず気づかない)」というものでした。ああ、OSOMか。じゃあ「Awesome」と呼ぼうと思い、香港のホテルから登録しました。

TC:そのような初期のアイデアを今応用しているものはありますか?プライバシーは当然その1つでしょうか。

JK:当社のソフトウェアを構築する方法として、まったくその通りの考えを応用しています。目に見えず、気づかないというのが我々の発想ですから、安全を確保したいときには、自分のデバイスが安全を確保してくれているということをただ信じればいいのです。

TC:現在は米国の会社なのでしょうか?

JK:はい。当社はデラウェア州のCコーポレーションです。他のハイテク企業と同じように、おそらくすべてがまったく同じ住所で登録されています。

TC:カナダ政府に対してインセンティブについて話をしているようですが……今後もクパチーノに本社を置き続けるつもりですか?

JK:今のところは宙に浮いた状態です。米国法人であるOSOM Productsは存続し続けますが、いずれ本社はカナダに移すかもしれません。

TC:EssentialとOSOMの共通点は何ですか?哲学、または美的感覚など。

JK:美的感覚は100%共通しています。同じデザイナーDave Evans(デイヴ・エヴァンス)と私がインダストリアルデザインを担当していて、PH1の後継機とは考えていませんでしたが、最初のプロトタイプを見たら「明らかに同じチームがデザインしたものだね」と気づきました。素材の面でも外観の面でも、同じスタッフが引き継いでいます。ソフトウェアチーム、特にAndroidとセキュリティアップデートに関しては、Essentialの超高速アップデートを担当したチームがここOSOMにいます。

TC:広告については、世に溢れる800社の携帯電話メーカーとの差別化をどのように図る計画ですか。

JK:とても楽しみにしているのでまだ何も教えたくありません。でも、こうとだけ言っておきましょう。当社の幅広いチームに同キャンペーンのアイデアやドラフトを見せると、当初からEssentialにいた人たちはみんな「なんでこれを今までやらなかったんだろうと」と言います。差別化のためには、マーケティングに費用をかけなければなりません。調達した資金の大部分がマーケティングに使われています。

TC:スペック面では何を期待したら良いですか?

JK:ハード面でもソフト面でも、フラッグシップモデルといえるでしょう。

TC:最初のハードとして価格を抑えるのは難しいですか?

JK:そんなことはありません。私がEssentialから引き継いだチームは、サプライチェーンに関しては世界でも最高レベルです。パートナーも驚くほど協力的で、驚くようなレートを手に入れることができました。「AppleやGoogleと同じ価格で提供して欲しい」という内容のミーティングを何度か行ったことがあります。

TC:では他のフラッグシップモデルと似たような価格となっているのですね。

JK:1000ドル(約11万円)を大きく下回ることになるでしょう。

画像クレジット:OSOM

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

Meta、複数のアプリを対象に新プライバシーセンターをテスト中

Meta(旧Facebook)は、プライバシーオプションに関するユーザーへの説明方法を変更している。これまで同社は何度も、プライバシーに関する情報の掲載場所や説明方法を変更してきたが、今回、アプリ群全体のプライバシーに関するFAQやコントロールを1カ所に集約するようだ。

新たなプライバシーセンターは、現在のところ米国の一部のFacebookデスクトップユーザーを対象にしたテスト版だが「今後、数カ月でより多くの人々とアプリ」にロールアウトされる予定だ。限定テストに参加している場合「設定」メニューの「プライバシーセクション」に新しいプライバシーセンターがある。現状、プライバシー設定は「プライバシーセンター」と「プライバシー設定の確認」に分かれており、これは理想とはほど遠いものだが、それでもプラットフォームはこれらの設定方法を改善している。

新たなプライバシーセンターは「セキュリティ」「共有」「収集」「利用」「広告」の5つのカテゴリーに分類されている。Metaは今でも、この変更で「プライバシー教育」という考えを推し進めている。これは、もしあなたがこのようなものをすべて整理しなければ、会社があなたの個人データを有効に利用したときの責任はあなたにある、と教えてくれるものだ。

Facebookはこれまで、ユーザーに複雑で操作しにくいプライバシーコントロールを提供してきた。多くの場合、最も重要な設定がメニューに埋もれている。多少改善されてきているが、Metaがユーザーができるだけ多くのデータを共有し続けるという既得権益を持っていることに変わりはない。その姿勢は、AppleのiOS広告トラッキングの変更に明確な異議を唱えたことで明らかになった。アプリがユーザーの行動を追跡する機能を制限したことは、消費者のプライバシーにとって明らかな勝利だ。

ほとんどの人がこの情報を体系的に調べると仮定するのは現実的ではないが、念のため、すべての情報がどこに保存されているのかを知っておく価値はあるだろう。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

原文へ

(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Katsuyuki Yasui)

ごちゃごちゃしがちなスマートホーム機器を統合・連携、ユーザーにプライバシーのベールをもたらすHomey

ほぼすべてのスマートホームデバイスに接続することができて、さまざまなスマートルールを設定でき、多くのセキュリティ機能を追加することできると聞けば、おそらくHomey(ホーミー)が何を提供しようとしているのか、あなたはきっとある程度想像することができるだろう。Homeyは、スマートホームプロバイダーにデータを転送する代わりに、広告主にデータを盗まれないよう安全にデータを管理してくれることを約束している。

Homeyは、2014年からヨーロッパで事業を展開しており、米国時間1月5日のCESで米国での事業展開を発表した。この会社が解決する重要な問題は、多くのスマートホームソリューションが非常に継ぎ接ぎな状態で繋がっており、その過程で、それらが悪意のある目的にも使用できる巨大なデータコレクターになってしまっているということだ。これまで顧客は、それがスマートホームを持つためのコストであると受け入れさせられてきたが、ここに別の方法があると同社は考えている。同社は、顧客データを盗聴したり販売したりすることはなく、個人情報を使ってユーザープロファイルやターゲット広告を作成することもないと主張している。

スマートホームプロバイダー同士の目隠しに加えて、同社のスマートホームハブ「Homey Pro」は、楽しい新機能をいくつか携えてきている。IFTTT(If This Then That )で遊んだことがある人なら、きっと賢い自動化を思いついたことがあるはずだ。誰かがドアベルを鳴らすと電気をつける、夜10時以降はスピーカーの音量を下げる、などだ。Homeyのアプリは、このような機能をアプリのコアアーキテクチャに大量に組み込んでいる。同社はこうした自動化を「フロー」と呼び「カーテンを閉めたら寝室の照明を常に暗くする」「玄関の鍵をかけたらサーモスタットを自動的に下げ、照明を落とし、アラームを有効にする」など、さまざまな例を挙げている。

もちろん、フローはGoogle、Alexa、Siriショートカットなどの音声アシスタントを使って起動することも可能だ。また、モバイルやApple Watch用のウィジェットも提供されている。

音声コントロールやフローなど、あって当たり前の機能に加え、アプリはエネルギー使用をリアルタイムで分析するツールを提供し、さらなる節電方法を提案してくれる。例えば、洗濯機の「温水」サイクルと「冷水」サイクルのエネルギー消費を比較したり、最もエネルギー効率の良い(そして最も悪い)部屋がどれかを教えてくれたりする。

Homeyは、そのスマートハブが1000以上のブランドの5万以上のスマートホームデバイスと接続ができ、iOS、Android、ウェブアプリで全体のコントロールや設定を行うことができると謳っている。ハブは、Zigbee、Z-Wave Plus、Wi-Fi、Bluetooth、433MHz無線に加え、家中にコマンドを送信するための赤外線通信LEDを備えており、豊富な接続性を兼ね備えている。

Homeyアプリは、69ドル(約7980円)のHomey Bridgeを介して、またはHomeyハードウェアを必要としないアプリのみのソリューションとして、スマートホーム機器のコントロールに使用することができる。無料版のHomeyアプリでは最大5台のデバイスをコントロールできるが、プレミアム版では家庭全体で無制限にスマートデバイスを接続することができる。プレミアム版のアプリは、月額2.99ドル(約340円)で利用できる。

「家庭にはそれぞれ個性があり、一律に対応できるものではありません。今日のスマートホームシステムのほとんどは、単一のブランド、技術、またはユースケースが中心となっています。例えば、Philips Hueは照明には最適ですが、ただそれだけです」とHomeyのメーカーであるAthom(アトム)の共同創業者兼クリエイティブディレクターのEmile Nijssen(エミール・ナイセン)氏は語る。「その結果、スマートホームはあらゆる種類のアプリですぐに複雑になり、ごちゃごちゃしてしまいます。私たちがHomeyで目指しているのは、現状を変え、すべてのスマートデバイスを統一し、同時に消費者のプライバシーを確保する、オープンで手頃な価格のユーザーフレンドリーなシステムを作ることです」。

画像クレジット:Homey

原文

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Akihito Mizukoshi)

いつでも家族の思い出を整理・共有できる、プライベートソーシャルアプリ「Honeycomb」

Honeycombの共同創業者Amelia Lin(アメリア・リン)氏とNicole Wee(ニコル・ウィー)氏(画像クレジット:Honeycomb)

Honeycomb(ハニカム)という女性主導のスタートアップが、Stellation Capital(ステレーション・キャピタル)のPeter Boyce(ピーター・ボイス)氏主導によるシード資金400万ドル(約4億5200万円)の支援を受け、家族向けのプライベートソーシャルアプリをローンチする。今回プライベートベータが終了した同アプリは、Facebook(フェイスブック)やグループメッセージといった、写真や動画を見失いやすい、よりパブリックなソーシャルメディアプラットフォームを利用する代わりに、スマートフォンを介してお気に入りの瞬間や思い出を収集し共有する手段を家族に提供する。

注目すべきは、ボイス氏がGeneral Catalyst(ジェネラル・キャタリスト)を去った後に2021年設立した新しい会社Stellation Capitalが支援する最初のスタートアップがHoneycombであることだ。今回のラウンドには、Kyle Lui(カイル・ルイ)氏のDCM、Ben Ling(ベン・リン)氏のBling Capital(ブリング・キャピタル)、Charles Hudson(チャールズ・ハドソン)氏のPrecursor Ventures(プレカーサー・ベンチャーズ)、そしてAncestry(アンセストリー)のCEOであるDeborah Liu(デボラ・リュー)氏、Giphy(ジフィー)の創業者であるAlex Chung(アレックス・チャン)氏、Twitter(ツイッター)のエンジニアリングVPで以前はReddit(レディット)で同職務を務めていたNick Caldwell氏(ニック・コールドウェル)などのエンジェル投資家も参加した。

Honeycomb自身は、Udacity(ユダシティ)とOptimizely(オプティマイズリー)の元CEOであるAmelia Lin(アメリア・リン)氏と、Instagram(インスタグラム)の元プロダクトマネージャーNicole Wee(ニコル・ウィー)氏によって共同設立された。共同創業者たちは、プライベートなソーシャルネットワークを通じて家族をつなぐアプリを作ることに着想を得ていたが、当初はSagaという別のプロダクトでアプローチしていた。この最初のアプリは、家族が自分たちの人生のストーリーを記録できるソーシャルオーディオ体験だった。例えば、祖父母が最初に出会ったときの話や、子どもの誕生日の願い事を後で聞くことができるオーディオ日記のようなものだ。

しかし、このアプリは初期多くメディアに取り上げられたものの、必ずしも家族が望んだものではなかった。その代わりにチームは、アーリーアダプターたちから、音声だけではなく写真やビデオも保存したいという要望を聞いていた。そこでチームはこの秋、アプリの方向性を転換し名称をHoneycombに変更した。

画像クレジット:Honeycomb

この新しい体験は、9月にプライベートベータテストがローンチされたところで、家族がお気に入りの写真やビデオを保存し、それをテキストと組み合わせ、一種のデジタルストーリーに仕立て上げる方法を提供する。現時点用意されている体験は必ずしも、例えばiMessage上のグループチャットと比べてはるかに堅牢だとは言い切れないが、テキストメッセージングを使用するときには難しいような、古いシェアに立ち戻るための簡単な方法を提示している。ユーザーはリマインダーを設定して、その日のお気に入りの思い出のキュレーションを忘れないようにすることもできる。この機能は、赤ちゃんが新しいマイルストーンに達するのを見守りながら、毎日何十枚もの新たな写真をスマートフォンに次々とアップしていくような新米の親たちには最適かもしれない。

画像クレジット:Honeycomb

「その日の最高の思い出を整理していく、とても簡単な日課となるように手助けしています」とリン氏は説明する。「お気に入りを選択すると、自動的にこのストーリーに編集され、家族と共有されるだけではなく、このコレクションに永久に保存されます」。ただし、この体験はGoogle(グーグル)フォトやApple(アップル)の写真アプリ、あるいはDropbox(ドロップボックス)のようなユーザーの既存の写真サービスを置き換えるものではない、と同氏は指摘する。

「私はそれを、家族と交流するような、キュレーションされた美しい場所だとは思いません」とリン氏。「そしてFacebookやInstagram(を持つユーザーもいるかもしれませんが)、それは自分の赤ちゃんの写真をまさに公にさらしているように感じられます」。一方、Honeycombはデフォルトでプライベートだ。

「家族だけがここにいる人を選ぶことができる、それはかなり異なる哲学的アプローチだと思います」とリン氏は語り、次のように言い添えた。「ユーザーの写真やデータをサードパーティに販売するようなことはしていません」。

画像クレジット:Honeycomb

Honeycombは、広告で収益化するのではなく、サブスクリプションベースのサービスになるという点でも、主流のソーシャルアプリとは異なる。ただし同スタートアップは今のところ、新しいアプリを軌道に乗せるという観点から無料提供を行っている。

同社は、家族の年配ユーザーをどのようにプラットフォームに取り込むかについて検討を進めている。コンテンツをエクスポートして他の場所で共有できるようにすることも考えられるだろう。一方でチームは、赤ちゃんや子どもの新しい写真という魅力的な要素が、祖父母たちに対して、テクノロジーに詳しくなくても、スマートフォンにアプリをインストールする方法を理解する必要性を促すだろうと考えている。

ユーザーはHoneycombをダウンロードすると、まず基本的な機能セットへのアクセスを得る。しかしそう遠くない時点で、家族や友人と思い出を共有するためのより魅力的なストーリー形式を含む新しいベータ版へのオプトインを促される。(このオプトインは即時には行われないが、すでに展開されていることを同社は明らかにしている。)

AIではなく人間のキュレーションに立ち返り、ユーザーが最高の写真やビデオを見つけられるようにするという発想は、最近では確かに違いのあるアイデアだ。しかし、人々が日々のスナップ写真を整理したいのかどうか、特に「赤ちゃんが生まれた」という話題が消えた後にそうするのかは、依然として未知数である。

画像クレジット:Honeycomb

さらに、AIが役に立つこともある(おそらくスマートAIなら、筆者がアプリで誕生日の写真アルバムを作成した後、カバー写真としておもちゃの写真ではなく人物の写真をフィーチャーすることを知っていただろう)。AIはまた、照明の弱い写真や露光量が低い写真を廃棄することで、ユーザーが写真を自動的に分類することにも貢献する。

一般的にユーザーが望まないことは、自分の「最高の」写真についての最終決定権をAIに持たせたり、自らの生活や自身が重要だと考えていることに関するコンテキストなしにAIがアルバムを作成したりすることだ。そして自動化された「記憶」を通じて、自分たちが忘れたいと思う時間をAIに思い出させたくはないのである。

だが最良の解決策は、AIと手動キュレーションとのバランスを取ることかもしれない。ただしプライベートな社会的環境で行われるものとなろう。

Honeycombは事実上新しいアプリであるため、同スタートアップはユーザー数を公開していない。ただリン氏によると、Sagaから方向転換して以来、エンゲージメントは3倍になったという。

「Honeycombは、私たちの最も基本的かつ長期的な人間の欲求の1つ、家族の思い出をアーカイブし共有したいという願いを実現するためにテクノロジーを利用する、真にミッション駆動型の企業です」と、Stellationのピーター・ボイス氏はこのスタートアップへの投資について語った。「Honeycombはファミリーアルバムを21世紀にもたらす可能性を秘めています。イノベーションの段階的な機能変更の機に熟している、これほど大きな問題空間を見出すことは希少です。家族は、個人に向けた、親密になることを意図したソーシャルアプリの次の進化への準備が整っています。そしてこのチームはそれを構築しているのです」と同氏は付け加えた。

Honeycombは現在7人で構成されているが、この新たな資金を、同社のサンマテオオフィスで直接働くエンジニアを含む雇用に充てる計画だ。約10人の増員を見込んでいる。

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

【コラム】バイデン大統領は本当に技術独占を取り締まることができるだろうか?

ジョー・バイデン大統領は2021年7月、米国経済における「競争促進」の行政命令を出した。この命令の中で、大統領は特に大手テクノロジー企業に対して「現在、少数の有力なインターネットプラットフォームがその力を利用して、市場新規参入者を排除し、独占的利益を引き出し、自分たちの利益のために利用できる個人の秘密情報を収集している」と述べている。

米上院は11月、ハイテク企業の反競争的買収を規制する法案を提出した。米国ではこの20年間、重大な独占禁止法事案はなかったが、最近の勢いは、現政権が運用の透明化を望んでいることを示唆している。

これまでのところ、独占禁止法違反を適用するためには、ルールや市民の間に曖昧な領域があまりにも多かったが、アプローチへのいくつかの変更で、大衆の意見が、新しい政策、罰則、さらには起訴につながる可能性がある。

この1世紀の間に、独占禁止法はその効力を失い「消費者福祉」という曖昧な基準の下に、より大きな目標は放棄されてきた。1980年代に確立された独占禁止法適用の判断基準はすべて、疑惑の独占行為が消費者物価の上昇をもたらしたかどうかだけに還元されていた。

だが独占禁止法の運用を、こうした1つの経済的影響テストに帰すこの手法は、過度に単純化されていることが証明されている。独占禁止法に対するこの特異な消費者価格ベースのアプローチの擁護者たちは、現在の技術の価格低下が公正な競争が支配的であることの明白な証拠だと主張している。

技術独占の解体は容易ではないが、それは以下の3つのアプローチで実現できる。すなわち、反競争的なM&Aを阻止すること、政策を書き換えてデータを市場の力として位置付けること、そして市民が独占禁止政策に関心のある政治家を選ぶことができるようにこのトピックへの公共の関心を駆り立てることだ。

キラーM&A

非常に緩い金融政策が長期化し、株価が非常に高騰しているこの金融緩和の時代にあっては、将来の競争相手を高値で買い取ることが現在のビジネス戦略の一部となっている。

テクノロジーの世界には例がたくさんあるが、たとえばFacebook(フェイスブック)によるInstagram(インスタグラム)とWhatsApp(ワッツアップ)の買収は議論の余地のない例だ。過度の規制はイノベーションを殺すが、自由市場が公正で自由なままでいるためには規制が必要だ。

現行法では、9200万ドル(約104億4000万円)以上の取引は、ほとんど例外なく、審査のために米連邦取引委員会(FTC)と司法省(DOJ)に報告しなければならないと定められている。

バイデン命令の意図の1つが、M&Aに対する監視の強化であることを考えると、この先消費者は「競争を大幅に減少させる」取引を阻止するための法的措置を目にすることになるかもしれない。

提案された、特定の買収を阻止する法案は、これまでその濫用があったことを両陣営が認識している証拠だが、データの独占が反競争的だと広く考えられていない場合は特に、違反認定の基準は依然として高いままだ。FTCとDOJは、ビッグテックに対して独占禁止法を適用する能力を発揮できるようになる必要があるが、これは、今回の新しい法律でより適切に行うことができるだろう。

データ=お金=市場支配力

一部のテック大企業にとって、無料の製品を提供することは、その他の資産を蓄積するための秘密裏の戦略であることが判明している。特にその中には、無意識のうちに「無料」で使う顧客の個人情報が含まれていて、それらの資産は数十億ドル(数千億円)規模の莫大な利益をもたらしただけでなく、そうした資産の独占も行われている。検索エンジンマーケティングとソーシャルメディア広告はまさにこの方法で構築された。このようなデジタル資産は現在、他のすべての企業にマーケティング予算に対する税金として貸し出されている。これは市場支配力の明白な例である。

私たちはほとんどの産業で前例のない集中に出会っている。集中が高まっている産業の企業は、市場支配力をより容易に行使できるため、実際には投資を減らしてさえいるのだ。

しかし、少し天候が悪くなると、自分で規則を変える都合の良いときだけの友たちはチームをすぐに変えて、連邦準備制度がパンデミックの最中に市場を支えるために臆面もなく行った、複数の異常な市場介入を支持するだろう。

バイデンの大統領命令で歓迎されたのは、オンライン監視とユーザーのデータの蓄積に関する新しい規則を確立するようFTCに促したことだ。独占的なテクノロジーの巨人たちは、このゲームのルールをあまりにも長い間作り続けていて、騙されやすい議員たちの目を、笑えるような自己規制の誓いでくらましている。

データの大量収集と管理が市場支配力として適切に分類されるまで、正義の手段は消費者ではなくビッグテックの手に握られ続ける。この場合、新しい政策と法律は、国民の抗議の声が立法者を動かしたときのみ実現するだろう。

大衆意識の変化を

緩い独占禁止法の執行と緩い政策の影響を最も受けているのは、消費者と市民だ。個人情報が取り込まれたり、サービス料を払い過ぎることになったり、商品を選択できなかったりするという形で、独占は消費者の福祉を侵害する。しかし、消費者にできることはあるだろうか?

バイデンの大統領命令は、米国内の独占禁止法をめぐる世論の圧力の高まりを直接反映したものだ。同じことが新しい上院法案にも当てはまる。ますます民間企業たちは、選出された公務員が多くいる州裁判所で、独占に対して訴訟を起こすようになっている。

今はバカげているように聞こえるかもしれないが、独占禁止法は、政治家が挑戦しなければならない主要なトピックになる可能性がある。有意義な独占禁止政策改革は、政治団体によって選出された改革派によってもたらされる。そのため、独占禁止法の執行に対する意見に基づいて候補者を選出することは、現状を変えるために極めて重要である。

私たちは今、より強力な独占禁止法とプライバシー規制を必要としている。私たち市民のプライバシーと幸福が危機に瀕しているからだ。チャリティーのように、独占禁止法への取り組みは身近なところから始めなければならない(訳注「チャリティはまず身近なところから始めよ」という諺のもじり)。

関連記事:サードパーティーがユーザーデータを知らぬ間に収集する副次的監視の時代を終わらせよう

編集部注:著者のVijay Sundaram(ビジェイ・サンダラム)氏は、大手テクノロジー企業と競合しつつ、消費者のプライバシーをポリシーの最優先事項としているビジネスソフトウェア企業Zoho Corporation(ゾーホー・コーポレーション)の最高戦略責任者。

画像クレジット:Glowimages / Getty Images

原文へ

(文:Vijay Sundaram、翻訳:sako)