元WeWork中国幹部が不動産業界向け「スタートアップスタジオ」REinventを立ち上げ

Switchオンデマンドワーキングブース(画像クレジット:REinvent)

不動産業界は、他の多くの分野に比べて、テクノロジーの採用が遅れている。そこで、2020年春WeWork中国のイノベーションならびにテクノロジー責任者の職を離れたDominic Penaloza(ドミニク・ペナロザ)氏は、アジアの不動産業テックに注力することを決心した。

ペナロザ氏はスタートアップを自分で創業したり、投資するのではなく、その両方の目的を合わせ持つ「スタートアップスタジオ」を開設した。スタジオの名前はREinvent(リインベント)だ(REは「real estate」(不動産)の略。英単語の「reinvent」は「再発明」という意味)。この用語は、社内チームでスタートアップを生み出す組織を指していて、「スタートアップファクトリー」または「ベンチャービルダー」とも呼ばれている。有名な例は、東南アジアのLazada(ラザダ)、アフリカのJumia(ジュミア)の立ち上げで知られるRocket Internet(ロケットインターネット)である。

2018年に自分自身のコワーキングスタートアップであるNaked Hub(ネイキッド・ハブ)をWeWork中国に売却した(未訳記事)連続起業家のペナロザ氏は 、現在、上海、台北、シンガポールで45名のチームを率いている。そのほとんどがWeWorkとNaked Hubで一緒に働いていたメンバーだ。同スタジオは、CEOのペナロザ氏が「squads(分隊)」と呼ぶ単位に組織化されていて、各分隊はプロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニア、AI専門家などで構成されている。また各分隊は同時に4つのプロジェクトに取り組む能力を持っている。

創業者はまた、既存の業者で深く凝り固まった分野に、自身のスタートアップスタジオが取り組めるように、重量級の投資家も招き入れた。REinventの支援者として並んでいるのは、アジア太平洋の大手コワーキング企業であるJustCo (同社はアジア最大の不動産オーナー、例えばシンガポールのソブリンウェルスファンドであるGIC に支援されている)、 多国籍不動産開発業者Frasers Property(フレイザーズ・プロパティ)、日本有数の不動産会社大東建託だ。

REinventは、それが立ち上げる各ベンチャーの完全な所有権を持っているが、投資家3社はそれぞれREinventの株式を所有している。同社は、これまで投資家たちからどれくらいの額を調達額を明らかにするのを拒んでいる。

投資家たちはまた、重要な戦略的リソースに対して貢献してくれていると、ペナロザ氏はTechCrunchとのインタビューで答えている。5月にスタートしたREinventは、すでに2つのベンチャーを立ち上げている。その1つが、自転車シェアと同等の仕組みを使って、個人や企業はワークスペースを予約し、分単位で仕払うことができるSwitch(スイッチ)というベンチャーだ。自転車シェアとの違いは、SwitchがJustCoやFrasersのような第三者の地主と協力する市場であるのに対して、自転車シェア企業はしばしば自転車を自社で供給し運営しているということだ。

Switchアプリのスクリーンショット

現在、その市場はシンガポールの20カ所以上に、2500個以上のデスクネットワークを拡大している。その中には、たくさんのショッピングモールに散在する小規模なオフィスブースも含まれている。新型コロナウイルスのパンデミックによって全世界が物理的に働く場所を再考するように強制されている現在、同社はオンデマンドワークスペースを提案している。

「不動産会社はみな、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)にどのように対応すべきか、各組織が新型コロナを生き延びるにはどうすればよいのか、そして今回のような大きなインパクトを受けなくてもよいようにどのように次のパンデミックに備えれば良いかを検討しています」とペナロザ氏は語る。

一方、設置に柔軟性のあるワークブース(トップ写真)は、モールの所有者、特にeコマースによるオフライン小売が広がる中で、新しいテナントを探している中国のモール所有者たちには魅力的な提案だ。

「eコマースは、新型コロナ以前の段階でも、伝統的な小売モデルを食い尽くしつつありました。中国の不動産開発業者は、ショッピングモールの一部を別目的で再利用しようとしています。【略】 いまではモールの中に、多くの飲食店、体験型店舗、カフェ、コワーキングスペースさえあります」とペナロザ氏はいう。

ペナロザ氏は、自身のオンデマンドワークスペース構想に関する早期バージョンの実験を、WeWork中国で行っていた。店舗のパブリックスペースをメンバーショップなしで使えるようにして、ミーティングやリモートワークにスターバックスを使用するプロフェッショナルたちに、より静かな環境とより良いWi-Fiを提供して、その心を掴んだのだ。

REinventがローンチしたもう1つのプロダクトは、空間分析とソーシャルディスタンス検出のためのソフトウェアであるSixSense(シックスセンス)だ。

「不動産は多くの人が考えているものではありませんが、それは地球上で最大の産業の1つです」とペナロザ氏は語る。「アジアと中国の不動産テックはきわめて初期段階ですが、それは成長しています」。

関連記事:WeWorkが中国国内で提供する新しいサービスは、スターバックスの良きライバル?

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:REinvent不動産テック

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(翻訳:sako)

不動産管理会社・不動産投資家向け資産運用・管理のWealthParkが9億700万円を調達

不動産管理会社・不動産投資家向け資産運用・管理のWealthParkが9億700万円を調達

WealthParkは8月5日、シリーズBラウンドとして総額9億700万円の資金調達を完了したと発表した。累計調達額は計18億9800万円となる。引受先は、SBIインベストメント(SBI AI&Blockchain 投資事業有限責任組合)、みずほキャピタル(みずほ成長支援第3号投資事業有限責任組合)、あおぞら銀行、日本政策金融公庫、国内外複数の個人投資家。

WealthParkは、主力事業として、不動産領域における資産運用・管理プラットフォームを不動産管理会社向けを中心として展開。2020年7月末現在、70社超の不動産管理会社、1万3000名以上の不動産投資家がサービスを利用しているという。また複数の海外管理会社にもサービスを提供しており、不動産投資家のニーズに対応したクロスボーダー展開も進めている。

不動産管理会社・不動産投資家向け資産運用・管理のWealthParkが9億700万円を調達

今後は、金融機関との連携による電子取引利便性の向上や各種手続きのオンライン化を計画しており、不動産管理会社、不動産投資家により多くの機能をオンラインでデジタルに提供することを計画。また同社提供のプラットフォームは「不動産」の領域にとどまらず、「テクノロジー」をキーワードに、不動産管理会社とともに、「ウェルスマネジメント」の領域へと事業領域を拡大していくという。

WealthParkは、不動産管理会社向けに、業務効率化・管理支援ツールを提供。また不動産管理会社と、その顧客である不動産オーナー間のコミュニケーションツールとして、4言語(日本語・英語・繁体字・簡体字)対応のモバイルアプリ(iOS版Android版)を用意。6ヵ国・地域でサービスを展開している。

静岡銀行が国内地銀で初めて融資審査をAIで高度化、不動産テックのリーウェイズと共同開発

リーウェイズ 静岡銀行 Shizugin Investment Planner

不動産テック開発・運営のリーウェイズは7月13日、融資を求める顧客に対する情報提供や融資審査の高度化を目指し、賃貸不動産の将来の賃料・価格・空室率などを予測する、投資用不動産AIシミュレーション「Shizugin Investment Planner」(SIP)を静岡銀行と共同開発したと発表した。また静岡銀行は、資産形成サポートの現場でSIPの本運用を開始した。

リーウェイズは、不動産価値分析AIクラウドサービス「Gate. Investment Planner」(ゲイト・インベストメント・プランナー)のシステム基盤を静岡銀行に提供。Gate. Investment Plannerは、過去10年間で蓄積された1億件以上の物件データから、全期間利回り・賃料査定・物件価格査定・空室率の推移・賃料下落の推移・50年先まで分析したキャッシュフロー・LTV(Loan to Value。資産価値に対する負債比率)などの詳細な不動産分析が可能という。

SIPは、リーウェイズ保有の不動産ビッグデータを学習したAIによる将来価値の査定モデルと、静岡銀行独自のロジックとを活用する形で開発。SIPは、収益不動産の将来的な稼働率・賃料の下落など、物件所有者にとっての運用リスク、返済の安定性を可視化した資料の提供が可能なため、収益不動産のパフォーマンスに関する客観指標を基にしたアドバイスを行えるという。また、融資審査において市場データに基づく客観的な参考値を取り入れることで、無理のある投資計画から顧客を保護する。

今後さらなるAI査定の精度向上、蓄積情報の活用、顧客への提示情報の拡充を予定しており、国内の資産家をリスクから保護し、より計画的で堅実な資産形成のサポートを行う。

リーウェイズ保有の不動産ビッグデータとAI技術、静岡銀行が保有する独自の融資審査ノウハウを活用し、全国の不動産取引および融資業務の効率化・高度化・標準化を推進するとした。

リーウェイズと静岡銀行は、2019年6月締結の資本業務提携を皮切りに、AI技術などのテクノロジーを取り入れた、不動産関連融資における顧客保護体制の強化と融資審査の厳格化を通じた新たなビジネスモデルの構築に取り組んできた。

リーウェイズは、過去10年以上に渡って蓄積した全国1億件超の不動産物件データをはじめとする不動産取引情報や、人口動態・地価情報などのビッグデータを基に、不動産の将来価値を予測する不動産価値分析AIクラウドサービス「Gate.」(ゲイト)を開発。不動産関連企業や金融機関に提供している。

静岡銀行では、「事業領域の開拓・収益化による地方銀行の新たなビジネスモデルの構築」を推進。異業種との連携を通じ、従来の枠組みや発想にとらわれない新たな収益基盤となるビジネスを創造し、持続可能なビジネスモデルの構築に取り組んでいる。

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新築物件のオンライン接客を支援、VR内覧システム「ROOV」が数億円規模の資金調達

クラウド型のVR内覧システム「ROOV」を開発するスタイルポートは4月28日、マーキュリアインベストメントとヒノキヤグループを引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。

今回の調達は同社にとってシリーズBラウンドに該当するもの。具体的な金額は公開されていないが、関係者によると数億円規模とみられる。スタイルポートでは調達資金を活用してセールスや開発体制を強化し、新築分譲マンションやオフィス物件に加えて、戸建て住宅などにもROOVの対象領域を広げていく計画だ。

現場で内覧しているような体験をオンライン上で実現

ROOVはCADデータから室内空間を3DCG化することで、実際に現場を歩き回りながら内覧しているような体験をオンライン上で実現する。独自開発したエンジンにより、部屋の採寸や家具のシミュレーション、カラーセレクトなどの豊富な機能を「一般的なPCやタブレット、スマホ端末のブラウザ上で動かせる」のが大きな特徴だ。

不動産VR系のプロダクトでは360度カメラなどで撮影した画像からVRコンテンツを制作するタイプのものも多いが、ROOVでは図面データを3DCGに変換するアプローチを採用。そうすることで建設中の建物など、室内の画像が取得できないような場合にも対応する。

ビジネスモデルは月額10万円からのSaaS型(VRデータ制作料は別途必要で40万円から)。現在は新築のマンション販売やオフィス案件で活用が進み、三菱地所レジデンス、三井不動産レジデンシャル、大和ハウス工業、伊藤忠都市開発など大手デベロッパーを中心に累計45社、100プロジェクトで導入されているという。

ROOVは販売担当者が対面接客時に使う補助ツールとしてはもちろん、オンライン上で顧客にプレゼン資料や3DCGデータなど役に立つ情報を丸っと共有することにより、自宅で検討してもらう際の参考資料にもなる。

同サービスの役割は図面だけではイメージが掴みづらい部分を3DCGコンテンツなどを用いて補完することだ。顧客はURLをクリックするだけで“オンラインマンションギャラリー”に入室し、気になる部屋の様子をいつでもチェックすることが可能。高価なデバイスや専用アプリを用意する必要もない。

また顧客がROOV上でアクティブに物件をチェックすることは販売担当者にとっても大きな価値がある。同サービスでは顧客ごとに個別のURLが発行され、各顧客のオンライン上での検討状況が可視化される仕組みになっているからだ。

「ベテラン営業マンでなくても、ROOVを使いながら説明をすることでコミュニケーションの質が良くなって(契約までの)商談回数が減ったり、モデルルームへの再来率が上がったりといった効果が出ている。対面販売の効率が上がるというのがわかりやすいメリット。またモデルルームがないタイプの部屋を紹介する際にROOVで代替するという使い方もされている」

「また行動ログを解析することで、顧客がどんな部屋に興味を持っているのかを把握できるのもポイントだ。たとえば商談の際は2LDKの物件の説明をしていた顧客が、実際は自宅で3LDKの物件を見ていたので、次の商談で予算に合うコンパクト3LDKを提案して制約に至った例もある」(スタイルポート代表取締役の間所暁彦氏)

間所氏によるとこれまでは対面接客の質をあげるコミュニケーションツールとして訴求することが多かったが、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で前提や現場のニーズが大きく変わったという。そもそもモデルルームでの対面販売が当面難しくなり、オンライン化の流れが加速。その選択肢としてROOVにも問い合わせが急増し、4月については1〜3月の月間平均受注量を1週間で獲得するほどのペースで推移しているそうだ。

「これまで新築のマンション販売は対面が主流だったのが、対面の機会を作れなくなることで『メインの説明はオンライン、対面は最後のクロージングだけ』という流れに変わってきている。オンライン商談に使えるサービスとして認知されることで受注も増え、以前は何回プレゼンをしても響かなかったような企業からも問い合わせが来るようになった」(間所氏)

新築戸建て住宅市場など、ROOVの活用領域の拡張目指す

スタイルポートは2017年10月の設立。不動産業界一筋で分譲マンションの開発や不動産投資ファンドの組成などに携わってきた間所氏と、リクルートやエムスリーを経てべンチャー支援などを行なっていた中條宰氏が共同で立ち上げた。

事業アイデアについては「不動産の世界をアップデートする」ことをテーマに、海外の不動産テック事例などもリサーチしながら時間をかけて検討したそう。その中でピンときたのが3Dカメラを用いたバーチャル内覧サービス「Matterport」であり(同社は昨年4800万ドルを調達)、ROOVの原型も同サービスをベンチマークにしながら、日本の業界慣習や生活習慣に合うような形で作ったという。

現在スタイルポートでは30名強のメンバーのうち、約7割をエンジニアが占める。3DCGデータを標準的なデバイスのブラウザ上でサクサク動かすための独自エンジンや、制作工程を徹底的に自動化・効率化するための仕組みはすべて社内で開発。一部屋あたりの制作時間は「平均的なものと比べて1/6ほどの時間でできる」そうで、これらが同社にとっての強みにもなっている。

今後はこれまで培ってきた技術と知見をもとに、まずは新築マンションやオフィス領域のニーズをしっかりと取りきるのが目標。その上で新築戸建て市場などROOVの活用領域を拡大するべく、開発体制や営業体制を強化する計画だ。

なお投資家の2社とは事業面でも連携する予定とのこと。ハウスメーカーのヒノキヤグループとは戸建て領域へのサービス展開に関して、伊藤忠商事を中心にサンケイビルや日本土地建物建物など不動産・物流業界の事業会社とパートナーシップを組むマーキュリアインベストメント(マーキュリア・ビズテック投資事業有限責任組合)とはLPとのさまざまな事業連携に関して今後具体的な取り組みを検討していくという。

消費者向けテクノロジーの新時代

世間はパンデミック一色だが、TechCrunchはスタートアップ世界の明るい話題を探し回っている。特にいろいろな状況にも関わらず実際に資金が流れている事柄に着目している。

D2Cの将来

先週の初めに、私たちはトップD2C投資家へのサーベイを行った。苦労しているセクターリーダーはいるものの、彼らは極めて楽観的であるように見えた。例えば、以下のものはLightspeed Venture PartnersのNicole Quinn(ニコール・クイン)氏が、投資家の活動と現在の投資状況を比較して述べたものだ。

私が主張しているのは、投資家たちが最近のいくつかのIPOのユニットエコノミクスを見て、それが全てのD2Cにも当てはまると考えるのは弱気過ぎるということです。実際には、美容のように製品マージンが90%を超える企業が多い分野や、Rothy’s(ロシーズ)のように口コミ効果の高い真のブランドがある分野があり、そうした分野では平均よりもはるかに優れたユニットエコノミクスが、不公平なほどの優位性を企業に与えています。

サーベイへのその他の回答者としては、Lerer HippeauのBen Lerer(ベン・ラーラー)氏とCaitlin Strandberg(ケイトリン・ストランドバーグ)氏、NorthzoneのGareth Jefferies(ガレス・ジェフリーズ)氏、Betaworks VenturesのMatthew Hartman(マシュー・ハルトマン)氏、Initialized CapitalのAlexis Ohanian(アレクシス・オハニアン)氏、AccelのLuca Bocchio(ルカ・ボッキオ)氏などが含まれる。

またサーベイとは別に、TechCrunchのConnie Loizos(コニー・ロイゾス)はAlexsis Ohanian(アレクシス・オハニアン)氏への個別インタビューを行っている。

不動産テックは(さらに)リモートになる

TechCrunchのArman Tabatabai(アルマン・タバタバイ)は、数カ月前に不動産ならびに不動産テック分野の投資家サーベイを実施したが、物理空間の将来が現在直面している問題を考慮すると、今回のウイルス問題を取り込んだ更新版が必要とされている。Dreamit VenturesのAndrew Ackerman(アンドリュー・アッカーマン)氏による明快な説明は次のとおりだ。

住宅の家主や不動産管理者をターゲットにしたスタートアップが、大いなる勝ち組になる可能性があります。テナントをより快適な場所にする住宅用のテナントアメニティプラットフォーム(例:Amenify)や、メンテナンス依頼の自動化(例:TravtusAptly)、メンテナンス自体の簡素化(例:NestEgg)、あるいは荷物の受け取りなどのオペレーションを楽にしてくれるビジネス(例:LUXER ONE)などが、突如上位に意識されるようになりました。

VCの投資家たちは「私に考えさせるな」とよく口にしますが、現在私たちは新型コロナウィルス(COVID-19)が私たちのポートフォリオにとって何を意味しているかを真剣に考えている最中です。なのでもし私たちが通常よりも投資の決断をすることが遅くなっても仕方がないと思って下さい。とはいえ、私たちの最高のリターンの中には、困難な時期に行われた投資からもたらされたものもあるという事実は強く認識しています。幸い、私たちはどんどん考えを進めています。

消費者向けテクノロジーの新時代

大勢の人間が自宅に留まっていることに、SaaS企業が新たな成長の機会をみているのは当然のことだ。しかし、仕事以外には何が行われているのだろうか?TechCrunch記者のJosh Constine(ジョシュ・コンスティン)は、自宅パーティーの復活、人気のソーシャルネットワークへのZoomの統合、およびその他のトレンドをまとめて、全体像をエレガントに説明している。ソーシャルツールがこれまで皆が期待していたようなやり方で本当に使われているのだ!

自慢することが何もないときのソーシャルメディアとは何だろう?私たちの多くが、それがはるかに楽しいことに気が付きつつある。私たちは、ソーシャルメディアを競争の場にしてしまっていたが、プレーの喜びを全身で受けとるのではなく、ずっとスコアボードを見つめていたのだ。しかし、ありがたいことに、Zoomには「いいね!」の数はない。永続的なものは残されない。これにより、私たち意思決定を頻繁に支配する、外部からの批評から解放されるのだ。どのように見られるかを気にするものではなく、どのように感じられるものかになり始めたのだ。それは私を安らかな気持ちにさせるだろうか、笑わせるだろうか、あるいは私の孤独を和らげてくれるのだろうか?やってみればよい。読書したり、入浴したり、あるいはボードゲームをプレイしたりするために家にいても見逃すものはないので、もうFOMO(fear of missing out、なにかを見逃すのではないかという脅迫観念から繰り返しSNSなどをチェックしてしまうこと)に怯える必要はない。自分の好きなことをしよう。

詳細な内容はTechCrunchのこの記事で確認してほしい。そして次に、これが向かっている場所、つまり仮想世界!?に関して私たちがまとめている記事を読んでほしい。TechCrunchのコラムニストであるEric Peckham(エリック・ペッカム)は先月の8部構成のシリーズでこの広大なトピックを分析し、先週にはTechCrunchの社内インタビューに応じて、今回のパンデミックが現在のトレンド与える影響をどのように見ているのかを説明した。

1年間で20億人以上の人々がビデオゲームをプレイしている。その意味で、市場への浸透度には驚くべきものがある。しかし、少なくとも私が米国のデータを見る限りでは、特定の日にゲームをプレイする人口の割合は、特定の日にソーシャルメディアを使用する人口の割合よりもはるかに低いままだ。

ゲームがソーシャル化し、ゲームプレイの目的を超えて人がたむろするための仮想世界になればなるほど、携帯電話で何かをできる5分の空き時間を、ソーシャルおよびエンターテインメントへの接点としての仮想世界に目を向ける人間は増えるだろう。ソーシャルメディアが、こうした人生のちょっとした空き時間を埋めてくれるのだ。MMOゲームは今のところそのような存在ではない。現在のゲームはゲームプレイに集中するようにデザインされているため、時間がかかるし、途切れずに集中する必要があるからだ。友達とたむろしながら探検を行うことができるRobloxのような仮想世界は、ユーザーの時間をInstagramと直接奪い合うことになる。

パンデミックにより一部のSEM価格が下落

TechCrunch記者のDanny Crichton(ダニー・クライトン)は、データサイエンティストとして、テクノロジーセクター全体で100を超えるユニコーンを分析し、パンデミック/景気後退によってそのキーワードの広告価格がどのように変化したかを調べた。

驚くべきことではないが、ほとんどすべての広告の価格が落ち込んでいる(いくつかの非常に興味深い例外を除く)。しかし、オンライン広告のパフォーマンスにおけるスタートアップ企業間のばらつきは、フードデリバリーやエンタープライズソフトウェア業界、そしてGoogle、Facebook、その他のデジタル広告ネットワークの長期的な収益パフォーマンスについて多くを語っている。

クラウドアイスクリームコーン画像

大規模テック企業は、スタートアップを支援するためにもっと多くのことをすべき

私が言いたいのは、強力な開発者向けプラットフォームを提供することに加えて、ということだ。TechCrunchのJosh Constine記者は、圧倒的優位な企業の課すホスティングとそれに関連する費用は、社会貢献として、あるいは自分自身のエコシステムを潰してしまわないように、徴収を見送られるか支払いを猶予されるべきだと訴えた

Google、AmazonそしてMicrosoftたちは家主なのだ。コロナウィルスによる経済危機の中で、スタートアップは家賃の支払いを猶予される必要がある。彼らは現金不足に陥っている。収益の流入が止まり、ベンチャー融資のような資本市場にはためらいがあるために、スタートアップや中小企業は、膨大な数の従業員を解雇したり、事業停止を行うリスクに直面している。一方、ハイテク大手は十分な現金を所有している。この10年間の成功が意味しているのは、嵐を数か月は乗り切ることができるということだ。だが彼らの顧客にはそれはできない。

その一方で、スタートアップ世界に対して友好に振る舞わない既存勢力から、マーケットシェアを奪おうと狙う中規模のスタートアップにとっては、今こそ良いチャンスなのだ。

その他もろもろ

  1. さまざまな人気SF小説を書き、たまにTechCrunchへの寄稿も行うEliot Peperは、「Uncommon Stock:Version 1.0」というタイトルの新刊を出版した。これは偶然麻薬カルテルと遭遇してしまったちいさなスタートアップの話だ。このニュースレターの現在の購読者は、上のリンクをクリックすると無料でダウンロードすることができる(米国時間の日曜日に終了する)。
  2. 私はSXSWでリモートワークについてのパネルをモデレートすることを計画していたが、他のイベントによってそれはとって代わられた。そのパネルは、Hiredのマーケティング担当副社長であるKatrina Wong(カトリーナ・ウォン)氏、Gitlabのリモート責任者のDarren Murph(ダレン・マーフ)氏、そしてBuildstackの創業者であるNate McGuire(ネイト・マクグワイヤ)氏らが参加したパネルとして、Zoomで行われた。そのビデオは現在ここから視聴することができる。リモートファーストになるためのコツを専門家たちの口から学んでほしい。

#EquityPod ポッドキャストより

Alexから、

NatashaDanny、そしてAlexの3人は、スタートアップに焦点を当てたトピックのために集まった。もちろん世界はCOVID-19のニュースで溢れている。実際関連のニュースもいくつか取り上げた。だがEquityはその原点に戻り、スタートアップとアクセラレータについて話そうと思う。今週は以下のような話題を取り上げた。

  • 500 Startupsからのビッグニュース、および アクセラレータの最新デモデーのお気に入りの企業について。Y Combinatorだけが唯一のアクセラレーターではないので、TechCrunchは500とその最新参加企業にも目配りを行っている。私たちは、インフルエンサー市場、ゴミ処理、eスポーツ問題に取り組む、目立ったスタートアップをいくつか取材した。
  • Plastiqは7500万ドル(約81億円)を調達して、人びとや企業がどこでも自分のクレジットカードを使えるように支援しようとしていた。だが、パンデミックのためにそれはクローズできなかった。
  • Stripeが主導するFastの最新の2000万ドル(約22億円)のラウンドについても話題にした。誰もが覚えているように、Stripeは最近では、SequoiaがFinixへ投資した資金を(Stripeと直接競合するという理由で)諦めたことで話題になった。1。しかし、それは過ぎた話だ。Fastが開発しているのは、高速で独立していると考えられているインターネット用の新しいログインならびにチェックアウトサービスである。
  • こうしたStripeの話題は、それに対抗できるスタートアップの1つであるBrexを思い出させる。これまでに知られているだけで3億ドル(約324億円)を超えるベンチャーキャピタル資金を集めているこのスタートアップは、最近3社を買収した
  • 私たちは、D2Cベンチャー調査のハイライトから、特定のチャネルでの顧客獲得コストの上昇、総利益率の重要性、および寝具通販のCasperが、業界の真の先駆者ではなかった理由に焦点を当てて話し合った。

ポッドキャストはここから聞くことができる

原文へ

(翻訳:sako)

ビジネスでリアルに使えるスペースを時間単位で簡単予約できるPit inが資金調達

写真右端:Pit in代表取締役CEO・中村知良氏

空間を時間単位で提供するサービスといえば、古くからある貸し会議室から「スペースマーケット」のようなマッチングプラットフォームまで、今や、さまざまな選択肢が選べるようになっている。2019年4月に創業したPit in(ピットイン)が提供するのも、時間・分単位で多目的に使えるスペースのサービスだ。

「あらゆる空間をレスポンシブにする」をビジョンに掲げるPit inは、ソフトバンク出身の代表取締役CEO・中村知良氏が、不動産系スタートアップのイタンジ創業者である伊藤嘉盛氏と共同創業した会社。彼らの「レスポンシブスペース」とは、不動産の非稼働在庫を「年契約」ではなく「時・分単位」で利用可能にする“フラグメント化”と、単一の事業所によるシングルユースから複数業態で利用できる“マルチユース化”により、ユーザーの多目的なニーズに応えようというものだ。

2020年2月現在、渋谷、六本木、新橋で計7拠点を自社で開発・運営するPit in。テナントが決まりづらい、築年数が古いビルでサービスを展開しており、オープンから累計で、延べ1万3000名超のユーザーに利用されているという。

冒頭に挙げたように、コワーキングスペースや貸し会議室、あるいはスペースシェアのプラットフォームなど、「時間単位でスペースを借りる」というニーズに対しては、既に対応するサービスがいくつもある。そうした中でPit inが特徴とする点について、中村氏は「内装デザインから清掃・管理などのオペレーション、予約まで、顧客体験を一気通貫で提供できるところだ」と説明する。

「スペースマーケットなどのマッチングプラットフォームは、物件を持たない“メディア”だと捉えている。我々は物件を借り上げて開発し、オペレーターとして運営する。また、格安のレンタルスペースでは、Wi-Fiの速度などが、ビジネスで利用する際に必要なレベルになかったり、無人で運営する前提となっていて、清掃やメンテナンスが行き届いていなかったりすることも多い。Pit inでは、社外でも安心してビジネスユースで使えるスペースの提供を行っている」(中村氏)

また、予約の簡単さも特徴だというPit in。コワーキングスペースはファシリティや環境面では安心できるが、予約が完了するまでに事前契約や見積もりなど、手間がかかることも多い。Pit inでは、オプションや清掃料などの複雑な料金体系を排除し、5分ほどで予約完了できるサイトを自社で開発。ユーザー予約体験にも自信があるという。

創業のきっかけについて中村氏は「自分たちが手軽に使える打ち合わせ場所がなくて、自分たちが欲しかったサービスを作った」と話している。「世の中にはまだ、ビジネスで安心して使えるスペースが不足している。自分たちのオフィスとして使える場を、もっと増やしたい」(中村氏)

Pit inは2月28日、伊藤氏が代表を務めるトグルのグループ企業・社員と不動産テックVCのデジタルベースキャピタルを引受先として、総額約3000万円の資金調達を実施したことを明らかにしている。

調達資金は新規拠点の開発、予約サービスの開発に充てるというPit in。中村氏は「都内のほかの地域にまずは拠点を展開し、その後大阪など各都市部にも進出したい」と話しており、2020年内に全国50拠点の開発・運営を目指すとしている。

AI活用で最短2日のマンション売却、不動産テックのすむたすが4億円調達

すむたすは2月4日、4億円の資金調達を発表した。第三者割当増資による調達で引受先はベンチャーキャピタルのWiL。シリーズAラウンド全体での調達額は約5億円となる。

写真に向かって左から、すむたす代表の角 高広氏、WiLの難波俊充氏

同社は、AIを活用して首都圏の中古マンションの価格を査定し、最短2日での売却(買い取り)を実現する「すむたす買取」などのサービスを開発・運営する、2018年1月設立のスタートアップ。すむたす買取での累計査定金額700億円、累計査定件数2500件を突破しているという。また、2019年3月開始した不動産仲介会社向け無料SaaSである「すむたす買取エージェント」については、参画企業社数の合計が100社を超えたそうだ。

今回調達した資金は、物件購入のほか、すむたす買取エージェントの参画企業拡大のために利用するとのこと。また現在、税理士や弁護士などが利用できる士業向けの「すむたす買取プロ」の今春リリースに向けて開発を進めており、2020年の年間売買件数100件、すむたす買取エージェントとすむたす買取プロの参画企業数計500社を目指すという。

中古住宅プラットフォーム事業のWAKUWAKUが4.1億円の資金調達

中古住宅とリノベーションを主軸とした不動産テック企業のWAKUWAKUは2月4日、総額4.1億円の資金調達を実施したことを発表した。オプトベンチャーズ、ナック、iSGSインベストワークスを引受先とする第三者割当増資、ならびにデットファイナンスによる調達だ。

WAKUWAKUは、リノベーションブランド「リノベ不動産」、ならびに“オシャレ建材ECサイト”「HAGS」を運営。そして、不動産、建築業界向けSaaS事業として、業界特化型のマーケティングオートメーションのツール「Customer now!」を開発する。

リノベ不動産では、エンドユーザーに対し中古マンション探しからリノベーションのデザインや施工までのサポートをワンストップで提供。加えて、物件購入費用とリノベーションの費用をまとめて住宅ローンとして組むことのできる特別ローンも案内する。

WAKUWAKUはリノベ不動産をB2Bのサービスとして提供。不動産会社や建築事業者は、リノベ不動産に加盟し会費を負担することで、ホームページの作成、ウェブマーケティング、手に入りにくい建材の供給、設計士の派遣、など、包括的な支援を受けることが可能だ。現在は国内230拠点で展開している。

会員数6500以上の“オシャレ建材ECサイト”「HAGS」では、床材からインテリア、エクステリアまでを揃えている。WAKUWAKU代表取締役の鎌田友和氏いわく、顧客のデザインに対するリテラシーと比例してユニークな建材のニーズが凄く高まってきている。

「『こんな暮らしを実現したい』という希望を持つユーザーが増えている一方、業界は対応できるだけのノウハウを持っていない。当たり前にどこでも使っているような建材では、顧客が求める共感は叶えることができない。新たなルートを開拓しなければならないと言った時に、なかなかこだわった建材の調達ルートがない上、ルートを開拓するのは大変だ。僕たちはこれまでに何千というリノベーションの事例を作ってきたので、建材をサイトに集め、これまでの施工事例と紐付けた。建材の調達はこのサイトが一発で解決できる」(鎌田氏)

Customer now!は2019年12月にリリースされたばかりの、不動産、建築業界向けのマーケティングオートメーションツール。スコアリング機能や、過去データを基に購買意欲の強い顧客を察知し、ポップアップやメールによる対応を自動的に行う、などといったことが可能だ。

調達した資金は、主にHAGSとCustomer now!の開発に使われる予定。リノベ不動産が現在230拠点で展開していることからもわかるとおり、これまでのWAKUWAKUはリアルな拠点の開発に注力してきた。今回調達した資金でIT周りの開発に投資し、エンドユーザーの獲得を更に加速させていく方針だ。

鎌田氏は、「リノベ不動産、HAGS、Customer now!。これらにより、業界の繁雑な業務を効率化し、多様化する(顧客の)ニーズに対応することができるよう変革し、(顧客が)ワクワクする、自分らしい生活が当たり前のようにできる社会を目指したい」と話した。

担当者にかわってAIが自動でオススメ物件提案、不動産テックのハウスマートが約3億円調達

個人向けの中古マンション提案アプリ「カウル」や不動産仲介会社向けSaaS「プロポクラウド」を展開するハウスマートは1月22日、日本郵政キャピタルとアコード・ベンチャーズを引受先とする第三者割当増資により約3億円を調達したことを明らかにした。

今後は組織体制を強化し、引き続き2つの事業の機能拡充や対応エリアの拡大を進めていく計画。なお同社は2018年9月にアコード・ベンチャーズなどから3億円を調達するなど、これまで複数回の資金調達を実施している。

ハウスマートは代表取締役の針山昌幸氏が、不動産会社や楽天を経て2014年10月に創業した不動産テック領域のスタートアップだ。

2016年から運営しているカウルはAIやビッグデータを用いて、ユーザーの中古マンション選びをサポートするアプリ。アプリ上で各物件に“お気に入り”や“興味なし”などのリアクションをしていけば、AIが個々の希望条件と趣味嗜好を学習しておすすめのマンションを提案する。部屋探しから見学までの担当者とのコミュニケーションもメッセージ機能を使えばスムーズだ。

特徴的なのは売買事例や賃貸事例、築年数、間取り、最寄駅などの関連データを分析した上で、現在の適正価格や35年後までの価格推移を「カウル推定価格」として算出できること。気になる中古マンションが今後どういった価格を推移していくのかはもちろん、「購入した場合と、同等の条件の中古マンションに賃貸で住み続けた場合ではどちらがお得か」なんてこともチェック可能だ。

気になるマンションの価格変動を教えてくれる機能や学区からマンションを見つけられる機能なども搭載。昨年末には千葉県と埼玉県にも対象を広げ、現在は1都3県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)の主要エリアにてサービスを展開する。会員数も5万人を突破した。

カウルはユーザーにとってだけではなく、事業者側にとっても大きな価値がある。これまで人力のみでは限界があった膨大な物件情報のキャッチアップや各ユーザーへの継続的な物件提案を、テクノロジーによって大幅に効率化・自動化してくれるからだ。

このシステムによってハウスマートでは1人の営業パーソンが通常の約30倍に当たる600人以上の顧客を担当できたという話は前回調達時に紹介した通り。そしてカウルの仕組みを他の不動産仲介会社でも使えるようにSaaS化したのが、昨年3月にリリースしたプロポクラウドだ。

同サービスの特徴は「テクノロジーによって、仲介会社と顧客が継続的に繋がり続けるのをサポートできること」(針山氏)。従来は物件探しから実際に提案するまで1人の顧客に対して45分〜50分ほどの時間がかかっていたが、プロポクラウドでは最初に約1分ほどで顧客の情報や希望条件を入力しておくだけでいい。

そうすると条件にあった中古マンションがメールにて自動で提案され、顧客のリアクション(詳細閲覧、いいね、興味なし、問い合わせなど)を見ながら必要に応じてフォローすることもできる。

プロポクラウドでメールにて物件提案をしている様子

「1番のペインはお客さんとの関係性構築が大変だということ。不動産は人生でも1番高い買い物であり、初回の問い合わせから数ヶ月、数年にわたって1人のお客さんと関係性を維持していく必要がある。ただし人力だけでは継続的に情報提供することが難しかった。プロポクラウドはそこをサポートできるサービスとして、活用してもらえている」(針山氏)

料金は月額5万円からの定額制で登録する顧客数に応じて変動するモデルだ。針山氏の話では現在60店舗以上が導入済み。特にエンタープライズ企業と相性が良く、不動産仲介会社の2018年度売買仲介実績上位20社のうち6社がすでにプロポクラウドを活用している。

実は昨年3月にスタートしてからしばらくは顧客獲得が想定以上に難航していたそう。新しいものに対してそこまで興味がある企業も少なく、話を聞いても「自社サーバー以外は考えられない、クラウドなんてとんでもない」と言われることもあったという。

少しずつ状況が好転し始めたのは秋口頃からだ。そもそもマーケットを啓蒙する目的で不動産テックや不動産業界のトレンドを解説するセミナーを開始。日本でもメディアで不動産テック関連のトピックが取り上げられることが増え、その領域に特化したイベントなども開催されたことで徐々に潮目が変わってきた。

またヒアリングを重ねた結果、顧客の事業規模によっても課題感が異なり、プロポクラウドはエンタープライズ企業のニーズに合致していることを発見。直近はそこにフォーカスして機能改善を進めている。

「エンタープライズ企業は広告周りのノウハウがあるため集客は得意。集客ができているからこそ、その後の顧客と繋がる部分により大きな課題感を持っている。一方でSMBのお客さんは集客部分に悩まれている方も多く、それぞれで1番課題だと感じている部分が異なる」(針山氏)

プロポクラウドでは自動提案された物件に対する顧客のリアクションが一覧で把握できる

ハウスマートでは今後も引き続きカウルとプロポクラウドの2事業を伸ばしていく計画。今回調達した資金で開発体制・組織体制の強化を進め、機能追加のほか戸建てへの対応、関西エリアへの拡大などにも取り組む。

また少し先の話にはなるとのことだったけれど、プロポクラウドにおいては今後マンションを売却したいユーザーと営業マンをつなぐ「売却側」の機能も提供していく方針。それに向けた開発も進めていくという。

“出店ニーズDB”でテナントと店舗物件の最適なマッチングを実現する「テナンタ」が6000万円を調達

店舗物件を探しているテナントと物件を保有する不動産会社をマッチングする「テナンタ」開発元のテナンタは11月13日、Coral Capitalなどを引受先としたコンバーティブルエクイティにより総額6000万円を調達したことを明らかにした。

テナンタはテクノロジーの活用によって「店舗物件探し」に関する課題の解決を目指すBtoBの不動産プラットフォームだ。

特徴は物件を探しているユーザー(テナント)が希望条件をテナンタ上に登録しておけば、該当する物件を提案してもらえること。既存のポータルサイトなどは多くの場合「サイト上に掲載されている店舗物件の中から、テナントが自社にあったものを自分で探す仕組み」になっているが、テナンタではこの構造を変えることでテナントと不動産会社双方に新しい価値を提供する。

テナンタ代表取締役の小原憲太郎氏によると、店舗物件探しにおいては「良い物件ほど表に流通する前に決まってしまう」ことが多く、ほとんどのテナントが良い物件になかなか巡り会えないという課題を抱えているそう。募集中の店舗物件をまとめたサイトなどはあるものの、質の高い物件は人づてで決まるため、最終的には不動産会社とネットワークがあるかどうか次第になるのだという。

特に中小企業や創業間もないベンチャーであれば、不動産会社から認知されていなければ良い物件にアプローチすることはかなり難しい。とはいえ、どの不動産会社にどんな物件が入るかはわからないため、ネットワークを作るにしてもどうやってアプローチすべきか頭を悩ませてしまうのが現状だ。

一方で不動産会社側もまた、物件に合ったテナントがどこにいるかわからずその相手を探すのに苦労している。上述したように従来のサイトなどでは「不動産会社側が物件を登録してからテナントのアプローチを待つ」というのが基本で、誰がどんな物件を探しているのかがほとんど可視化されていなかった。

自社と繋がりのある顧客の中で物件にマッチする企業があれば問題ないが、該当者がいなければ自分たちの経験や勘を頼りに目ぼしい会社のサイトなどから出店状況や募集情報などを調べ、地道に顧客リストを作っていかなければならない。

テナンタの場合は「最初にテナント側が探している物件の情報を登録する」という従来とは逆のアプローチをとることで、「テナントの出店ニーズ」をデータベースをして可視化している点がポイント。不動産会社は物件の条件に合いそうな顧客を検索して自分たちから提案できるようになり、テナントも上手くいけばネットワークに頼らずとも良質な物件を獲得するチャンスを得られるようになる。

テナント側が入力する希望条件例

流れとしては、テナント側のユーザーが出店したいエリア、坪数、坪単価、出店希望時期などの条件をテナンタ上に登録。不動産会社はこれらの項目をベースにテナントを絞り込むことができ、マッチしそうな相手に対しては個別に物件を提案していく。

不動産会社の視点では「営業支援ツール」的な側面をもっていて、小原氏の話ではリーシング(物件に借り手がつくようにサポートする業務)がすごく楽になったという声が多いとのこと。膨大な時間がかかっていたリーシングを効率化できることに加え、これまで見逃していた“実は筋の良い顧客”の存在に気づけるようになるのがメリットだ。

「『自力でやった場合には2件しか候補が見つからなかったのに、テナンタを使うことで候補が8件まで増えた』といったような例があるように、リーシングの部分で価値を感じてもらえている。この業務は頭の中にデータを叩き込んでいないとできないので住宅などに比べても新卒が活躍しづらい領域だったが、テナンタを活用することで『新卒がリーシングの戦力になった』という声も頂いている」(小原氏)

不動産会社の視点ではテナントのニーズを集めたデータベースという位置付け。細かい条件に合わせてテナントを簡単に検索・絞り込むことが可能だ

テナンタは今年6月から東京・神奈川エリア限定のベータ版として運営。現在は約5000件のブランドが掲載されている状況だ(主体的に登録している正会員のテナントのほか、web上の情報を基にテナンタ側でリストアップしている企業も含む)。

今の所は無料で提供しているが、ゆくゆくは不動産会社側に対して営業支援SaaSのような形で定額制のサービスとしてマネタイズすることを考えているそう。そのほかテナント側の有料オプションなども検討していくようだ。

まずは今回調達した資金を活用して人材採用とプロダクトのアップデートを進める方針。不動産会社向けに物件と相性が良いテナントをレコメンドする機能などを取り入れていくほか、スマホ対応の強化やアプリ化も視野に入れつつプロダクト開発に力を入れていくという。

テナンタのメンバーと投資家陣

テクノロジーで“オフィス探し”をラクにする「estie」公開、UTECからの資金調達も

個人向けの賃貸住宅市場に比べると、オフィス賃貸市場は情報の非対称性が多く借り手にとっては難解な領域だ。

「SUUMO」や「LIFULL HOME’S」のように様々な物件情報を集約して1箇所で比較できるようなプラットフォームもなければ、そもそもWeb上で可視化されている情報自体が少ない。そのため基本的に借り手は各不動産仲介会社(エージェント)のサイトを目視でチェックしながら、個別に具体的な条件を問い合わせる必要があった。

本日9月20日に正式公開された「estie」はテクノロジーやデータを活用することで、企業のオフィス探しをラクにすると同時に、少しでもいい物件を見つけられるようにアシストするサービスだ。

希望条件に合わせて複数エージェントからオファーが届く

estieについては2018年12月のβ版ローンチ時に「オフィス版のSUUMO」のようなサービスとして一度紹介したけれど、そこから現在に至るまでいくつかのアップデートが行われている。

もっとも大きな変更点としては、Web上に散らばる物件情報を整理してユーザー企業に提示するスタイルから、エージェントとマッチングする仕組みへ軸を移行したこと。現在のestieではユーザー企業が登録時に利用人数や賃料の予算など希望条件を記載すると、複数のエージェントから条件に合いそうなオファーが届く。

ユーザーは各オファーに対して「お気に入り」か「興味なし」を選択するだけ。お気に入りを選んだ場合に初めてエージェントとのチャットが開設されるため、従来のように興味のない営業メッセージや電話に毎回対応する必要もない。

エージェントと繋がった後はメッセージ機能を通じてテキストでのコミュニケーションのほか、カレンダーを使った内覧日の調整や必要書類の共有が可能。複数エージェントとのやり取りをestie上に集約できるのも大きなメリットだ。

「もともとユーザーがオフィス探しにおいて『十分な情報にアクセスできないこと』に課題を感じ(Web上のオフィス情報を)リストにすることで解決しようと思っていたが、マーケットにでてきた直後のホットな情報を即座に反映することが難しく別のアプローチも必要だと考えた。また多くの人にとってオフィスは住宅と比べ、十分な情報に触れても『何が自分にとっていい物件なのか』を判断しにくい。優秀なエージェントがサポートすることで、よりいい提案ができる」

「一方でユーザーに話を聞いていて、オフィス探しで1番面倒に感じているのはコミュニケーションの部分だと気づいた。特にエージェントと付き合っていく過程での営業電話やアポなし訪問を負担に感じるという声は多い。ユーザーが良いと思ったエージェントとだけメッセージをやり取りすることで、精度の高い提案を受けられるようにしつつも、コミュニケーションの負担を極力無くしていく」(estie代表取締役CEOの平井瑛氏)

エージェントに関してはすでに大手オフィス仲介会社の過半数がestieに参画。市場の大部分の物件情報にアクセスできる状態であり、実績のある企業と一緒にやっているため提案の精度も担保できると考えているそうだ。

プロダクトをフルリニューアルした2019年7月からの直近3ヶ月ほどで約50社のユーザー企業が活用(ユーザー登録をして実際にオファーを受けた企業の数)。この業界はオーナーとの関係性や交渉力が募集条件にも影響を与えるため、実際にユーザー企業の中には「全く同じ物件を自分で探していた時より好条件で提案してもらえた」ケースも出てきているという。

「『これまで関係性が築けてなかったような企業とも接点が持てる』という点でestieに期待し、参画してもらっているエージェントも多い。特に相手がスタートアップなどの場合、ベテランの営業マンが常につきっきりでサポートするというのはコスト面でも難しい。一方で業界でもネット上でオフィスを探す流れはきていて、そこに乗り遅れられないという危機感はどこも持っている」(平井氏)

estieはユーザーが提案内容に反応を示すほど、ユーザーごとの趣向が伝わるのでエージェントからの提案精度があがる。またエージェントの視点では「このユーザーにはどんな物件を提案すると良さそうなのか」がデータを基に判断できるようになれば、従来よりも効果的な提案ができ、成約に至るまでの期間短縮や成約率の向上も見込めるかもしれない。

「レコメンドの質が上がればユーザーだけでなく、エージェントがestieを使い続ける大きな理由になる」からこそ、平井氏も今後の注力ポイントにレコメンドエンジンを中心としたプロダクト基盤や各種機能周りの強化を挙げていた。

業界の知見とテクノロジーで「事業用不動産」領域のアップデートへ

ここまで紹介してきた通り「物件探しのプロであるエージェントとのマッチングによって企業のオフィス探しをサポートする」のが現在のestieの軸ではあるが、リニューアル前の仕様に近い「e-Map」機能も残している。

この機能では各ユーザーの条件に合わせて、公開されている募集情報の中から最大100件の物件情報が地図上にマッピングされる。物件は登録時の内容やそれまでのアクション(各物件に対してもお気に入りや興味なしといったアクションができる)を基に、estieのレコメンドAIが自動で抽出したものだ。

必ずしも最新の情報ではない可能性はあるそうだが、現在どんな物件情報が世に出ているのか、エージェントの提案とは別の視点から俯瞰的に捉えたい場合には役に立つ仕組みと言えるだろう。

estieでは今月3日にデベロッパーや不動産機関投資家をサポートする「estie pro」もリリースしたばかりで、今後はこの2つのサービスを軸に事業用不動産の領域における課題解決を進めていく計画。そのための資金として東京大学エッジキャピタル(UTEC)から約1.5億円の資金調達を実施したことも明かしている(調達は3月に実施)。

estieのメンバー。前列中央が代表取締役CEOの平井瑛氏

同社は平井氏を含む3人の共同創業者が2018年12月に立ち上げた。3人は全員が東京大学の出身で学生時代からの付き合い。平井氏と取締役の藤田岳氏は大手デベロッパーの三菱地所、取締役CTOの宮野恵太氏はNTTドコモを経て起業しているため「事業用不動産の知見とテクノロジーのバックグラウンドをどちらも持っているのがチームの特徴」(平井氏)だ。

「事業用不動産の領域はテクノロジーやデータの活用が進んでおらず、アメリカやイギリスなど海外に比べて少なくとも5年は遅れているという感覚を持っている。まずは2つのサービスでこの領域をシンプルにして、ユーザーとエージェント双方に新しい価値を提供していきたい」(平井氏)

不動産プロ投資家の投資運用業務をテクノロジーで効率化する「estie pro」がリリース

不動産テックスタートアップのestieは9月3日、デベロッパーや不動産機関投資家の投資・運用業務をサポートする新サービス「estie pro(エスティプロ)」を正式リリースした。

estie proが解決するのは不動産ファンドやデペロッパーといったプロの不動産投資家が行なっている物件の調査や分析に関する課題だ。

通常プロ投資家が担う商用不動産への投資はワンショットあたり数十億〜数百億円規模、時には数千億円に上るため綿密な分析が求められる。全く同じ物件は存在しないので、周辺物件やスペックの近い他エリアの物件を選定して地道に賃貸取引事例や売買取引事例を調査するのだけれど、そもそもこの選定作業だけでも骨の折れる仕事なのだという。

estie代表取締役の平井瑛氏によると現状は不動産ブローカーにヒアリングして「ブローカーズオピニオン」を取得する手法がよく使われているのだそう。ただし有益な情報を得るには事前に基礎情報を押さえておくことが必須な上に、各ブローカーは自らの体験ベースで話をするため、担当者によっては見込み賃料などに30%近く差が生じることもある。

苦労して取得したデータもフォーマットがばらばらだから、組織として時系列で構造化するところまでに至っていないケースも多いとのこと。情報を集めるまでにアナログな要素が多く、本来重要な分析業務までスムーズに行えていないことが大きなペインになっているという。

これに対してestie proでは独自のデータベースと適正賃料を推定するAIアルゴリズムを軸に、データドリブンでスピーディーに意思決定できる基盤を提供する。

同サービスでは都心5区オフィスの約6割、他エリアを含めると合計8000件以上の物件情報を完備。独自開発の非整形データパースシステムにより、各社が異なるフォーマットで開示する資料(PDF)から必要なデータを自動で取り込みデータベースに反映する。

J-REITのデータとそれ以外の企業保有不動産の情報を構造化した上で、フォーマットが違っても瞬時に正しい情報をPDFから取得できることが強み。「他のデータプロバイダよりもデータ量が多いことはもちろん、欠損や誤りが少ないという評価を受けている」(平井氏)という。

従来これらの作業は「Web スクレイピングでは高度な分析に足るデータは取得できず、バラバラのフォーマットに人手で対応せざるを得なかった」ため、手間や時間がかかるほかヒューマンエラーが発生する原因にもなっていた。estie proの場合は人の目で確認するまでのフローを半自動化し、正確なデータを素早く更新できるので、ここにかかる人的なリソースが少なくて済む。

加えて都心における主要オフィスビルの新規成約賃料を推定するAIアルゴリズムを搭載。2種類の公開情報と49種類の独自特徴量を使用し、2019年8月末時点での誤差率(中央値)は2.79%と精度には自信を持っているという。

これらのデータをマップ型のUIに落とし込み、エリアや延床面積、駅徒歩分数などさまざまな条件に合わせて該当する物件を簡単に絞り込めるのがestie proの特徴。上述した機能を備える基本プランに加えて、自社物件の情報を一元的に管理しオリジナルの機械学習モデルを構築できるカスタマイズサービスも提供する。

物件を情報プロットした一枚マップUIイメージ

新規成約賃料の推定値を可視化したイメージ

たとえば投資業務の場合、従来は丸1日以上を使って分析対象物件を選定した後、ブローカーのアポイントを取り面談を行っていた。平井氏によるとそこまでで約1週間、レポートを取得するのに追加で1週間のリードタイムがかかっていたが「estie proを活用すれば分析対象の選定とその基本情報が整理されたCSVファイル取得までが1分で完了する」そうだ。

「それを元に好きな分析をしたりブローカーとコミュニケーションをとったりできるので、初動が早くなるほか、投資の検討をするかしないかのスクリーニングが瞬時に完了することもある」(平井氏)

7月にクローズドベータ版をリリースし、すでに世界最大級の投資ファンドの不動産部門が導入済み。現在は業界最大手級デベロッパー複数社やグローバルな不動産ファンドにて導入の検討が進んでいる状況だという。

将来的には日本以上に不動産情報が整備されていない新興国マーケットにおける展開も計画。インド最大級の不動産データ提供・分析会社であるPROPSTACKと協力し、インド主要都市における賃貸成約データの分析やAIアルゴリズム開発を始めとした取り組みも開始している。

estieは2018年12月設立の不動産テックスタートアップ。前職で三菱地所に勤めていた平井氏を始めとした不動産業界出身メンバーと、ヤフーなどIT業界出身のメンバーらが集まる。以前「オフィス版のSUUMO」として紹介したオフィス用賃貸物件の検索エンジン「estie」などを展開中だ。

オフィス探しをシンプルにする「estie」に関しても9月中に正式版のリリースを予定している

スマートロック×不動産サービスのライナフが東急不動産HDから資金調達

ライナフ代表取締役 滝沢潔氏

スマートロックなどのIoT製品「NinjaLock(ニンジャロック)シリーズ」や不動産事業者向けサービスを提供するライナフは、8月30日、東急不動産ホールディングスが運営するスタートアップ支援プログラム「TFHD Open Innovation Program」から資金調達を実施したことを明らかにした。調達額は非公開だが、1億円以上とみられる。

ライナフは2014年の創業。これまでに、三井住友海上キャピタルおよび三菱地所による2016年2月の調達、三菱地所などが参加した2016年11月の調達、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、長谷工アネシス、住友商事などを株主とする2018年1月の調達を実施しており、今回で累積調達額は10億円以上になる。

老舗メーカーと共同開発したスマートロックがヒット

ライナフでは、スマートロック「NinjaLock」などのIoTハードウェアを提供する一方で、これらを活用した無人内覧サービス「スマート内覧」や、AIを利用した物件確認電話システム「スマート物確」など、不動産事業者向けの業務効率化サービスを展開している。

2019年4月には鍵・錠前メーカーの老舗企業、美和ロックと共同で、住宅向けに完全固定式のスマートロック「NinjaLockM」を開発し、発売した。スマートロックとしては従来製品のNinjaLockと同様、暗証番号やカード(NFC対応ICカードやスマホなどの端末)、アプリでの解錠が可能。賃貸物件をターゲットとしたNinjaLockMでは、このスマートロックとしての基本機能に加えて、「空室モード」「入居モード」の運用モード切り替えができる点が特徴だ。

  1. NinjaLockM_top

  2. NinjaLockM_app

  3. NinjaLockM_keypad

空室モードでは、管理会社や仲介業者が解錠できるように設定され、入居者が決まれば入居モードに切り替え。入居者以外の解錠権限が一括で停止される。賃貸物件での業者間の鍵の受け渡し、管理のコスト削減や、内覧管理業務の効率化を実現でき、発売時から先行して導入を表明していた三井不動産レジデンシャルリース、三菱地所ハウスネットをはじめ、不動産企業や仲介会社からも好評を得ているという。

ライナフ代表取締役の滝沢潔氏は「大手建設業者、不動産業者は、賃貸住宅のスマートロックに高い信頼性を求めている。NinjaLockMは固定式で、美和ロックが定める品質検査をクリアした高品質の住居用スマートロックということで、多くの問い合わせがあった。今後の新築マンション全棟に標準で導入すると決まったところもある」と話している。

当初1万台程度を予定していた来年1年間の販売予測は、引き合いの多さから目標10万台に変わった、と滝沢氏。新築への導入だけでなく、既存の賃貸マンションでも、退去時の鍵交換の際にNinjaLockMへの入れ替えが進んでいるということだ。

滝沢氏によれば、老舗メーカーとテクノロジーベンチャーが手を組む動きは、錠・鍵の領域でも世界的な潮流だという。2017年12月にはスウェーデンの老舗メーカーAssa Abloyが、米国のスマートロックスタートアップAugust Homeを買収している。「品質のよいものをつくる老舗と、サーバー運用やUI/UXに明るいベンチャーが組むことで、よりよいものができる」と滝沢氏は語る。

「賃貸物件は固定式スマートロックにシフトするだろう」

ライナフではこれまで、スマートロック単体ではなく、不動産管理に注目したサービスとの組み合わせにより事業を展開してきた。物件管理のためのWebサービスと鍵が連動している点が評価されたことで、「住居、賃貸物件に主戦場が絞られてきた」(滝沢氏)という。こうした動きに伴って、ライナフは8月23日付で会議室の空室管理サービス「スマート会議室」を、遊休不動産活用事業を展開するアズームへ事業譲渡している。

スマートロックには、家電量販店などで販売され、個人が中心ターゲットのQrio(キュリオ)や、同じく一般家庭向けで月額360円のサブスクリプション型で利用できるBitkey(ビットキー)の製品、入退室管理システムと連携し、オフィス向けに導入が進むAkerun(アケルン)などがある。

滝沢氏は、賃貸物件市場に焦点を当てたことで、これらのスマートロックとライナフ製品とは「全くバッティングしなくなった」と述べている。「後付け型のスマートロックは、賃貸物件で入居中もそのまま使うには、やや心許ない。今後、後付け型ロックは管理のために空室の間だけ付けるものとなり、入居中も使えるものとしては固定式のスマートロックへとシフトしていくだろう」(滝沢氏)

ライナフでは今回の調達発表と同時に、東急住宅リースと資本業務提携を締結したことも明らかにした。今後、賃貸物件管理やマンション管理業務で連携していくとしている。

今回の東急不動産HDからの出資により、ライナフの株主には日本の大手不動産プレイヤーが、ほぼそろった形となる。これは以前から「1社に限らず、不動産業界全体からの応援を受けたい」とする滝沢氏の意向にも合致するものだ。

ライナフには、将来的にはスマートロックを活用したサービスを通じて、住居のセキュリティを保ちながら、買い物代行や家事代行などのサービスを安全に家に取り入れる、という構想もある。

8月2日には、置き配バッグ「OKIPPA」を提供するYperと連携し、宅配伝票番号だけでオートロックマンションのエントランスを解錠、自宅のドア前まで置き配配達を可能にする取り組みを始めた。「ライナフが自社だけでこうしたサービス開発を行うのではなく、宅配に特化したYperと連携して、オープンイノベーションとして取り組む方が、より効率よく課題を解決できる」と滝沢氏は話していた。

Fintech協会事務局長・桜井氏が不動産テック特化ファンドを設立

日本でも盛り上がりを見せる不動産テック。2018年9月には不動産テック協会が設立され、スタートアップへの出資もよく目にするようになっている。

そんな中、7月5日には不動産テック特化型のファンド設立が発表された。2月に創業したデジタルベースキャピタルが運用する「デジタルベースキャピタル1号投資事業有限責任組合」は、平和不動産やイタンジ創業者の伊藤嘉盛氏ら、複数からのLP出資を受け、6月末にファーストクローズを迎えた。

規制や業界慣習の強い業界で起業家をサポート

デジタルベースキャピタルを創業したのは、代表パートナーの桜井駿氏だ。みずほ証券での営業、NTTデータ経営研究所でのコンサルティング業務を経て、不動産テックのハブとなる場を提供したいとの思いから起業した。

デジタルベースキャピタル代表パートナー 桜井駿氏

「もともと、みずほ証券時代からSkyland Venturesのイベントを手伝うなど、スタートアップ界隈には興味があった。スタートアップとは対極の大手企業で仕事をしていたけれども、スタートアップの世界をより良くしたいと考え、コンサルティングも経験しようと考えた」と桜井氏は経緯を説明する。

コンサルタントとしての業務のかたわら、桜井氏は2017年1月からFintech協会の事務局長としても活動。同年12月には不動産/建設スタートアップのコミュニティとしては日本最大級の「PropTech JAPAN」も創設し、運営を続けている。また、LIFULLやゼンリンといった不動産にまつわる各業界のプレーヤーが参加する「不動産情報コンソーシアム(Aggregate Data Ledger for Real Estate:ADRE)」の立ち上げにも関わり、事務局長を務める。

「金融業界、そしてコンサルタントとして不動産業界にも関わり、またFintech協会の事務局長としてスタートアップとの接点も持つ中で、規制産業におけるスタートアップ支援は大変重要で、自分が手がけるべきだという認識に至った」と桜井氏はいう。

「不動産業界は、Fintechに比べても参入ハードルが高い分野で、独特の慣習や業界構造が特徴だ。新規参入するスタートアップに必要なものはすべて、デジタルベースキャピタルで提供していきたい」(桜井氏)

デジタルベースキャピタルでは、ベンチャーキャピタルとしての投資をメインの事業としながら、大手企業向けには不動産テックに関わるイノベーション実現を支援する事業も手がけている。また収益事業ではないが、スタートアップ向けコミュニティのPropTech JAPAN運営を、引き続き実施していく。

PropTech Japanでの活動は、大きく3通りに分けられる。1つはミートアップで、不動産テックやFintech、建設テックのスタートアップの交流の場として、ほぼ毎月、平均100名規模で実施してきている。2つ目は国土交通省を中心とした政府との連絡会議。コミュニケーションを図ることで、スタートアップの新しいアイデアや事業に理解を得ることが目的だという。そして3つ目として、海外にある同じようなコミュニティとの連携も行っている。

桜井氏は「コミュニティ運営については、不動産テックスタートアップのエコシステムをつくる目的がある。行政当局、大手企業、そしてスタートアップの三者の連携が重要だ」と述べている。これは先だって関わってきたFintech領域でも同じだったという。

桜井氏には、2018年度、経済産業省新公共サービス検討会の委員を勤めた経歴もある。「金融、不動産ともに、規制対応や業界慣習への対応があり、ディスラプトが難しい分野。とはいえ事業者は使う人の生命・財産を守る必要があるため、利用者保護は重要」として、これまでの知見・経験を生かし、スタートアップが手がける事業の適法性確認や、そのままでは事業化できない場合は実現のためのサポートなども、同社で行っていく予定だ。

「PropTech JAPAN運営を2年ほど続けてきた中で、大手企業もアクセラレーションプログラムの実施など、アクションを起こすようになってきた。Fintech協会事務局に参加してきた感覚からも、自分でもサポーターは向いていると思う」(桜井氏)

不動産テックはデジタル化からLaaSへ

海外の不動産テック事情について桜井氏は「Fintechと比較すれば、海外が日本よりすごく進んでいるというわけではない」と分析する。コミュニティについても、不動産テックでは「世界同時的に立ち上がり、対等な関係で連携が進んでいる感触」ということだ。コミュニティの属性が近いためか、金融業界から不動産テックの分野へ移ってきている人も多いそうだ。

桜井氏によれば、この分野では世界的に「LaaS(Life as a Service)」、すなわち生活に必要なサービスを継続的に提供する事業が注目を集めているという。「不動産テックへの投資は2つの段階を踏んで進んできた。1.0では、業規制の中にある事業をデジタライゼーションすることによる、効率化が対象だった。そして2.0がLaaSだ」(桜井氏)

桜井氏が例に挙げたのは、今年3月に日本にも進出したインド発のホテル/賃貸アパートメントサービスのOYOだ。「もともと一括借り上げによるサブリースがOYOのサービスの核。自社物件確保により、仲介を必要とせず、オンライン契約を可能にしている。その先で、住人の家具・家電のレンタルや水の宅配などのサブスクリプションサービスを横に連携することで、豊かに暮らせる世界の実現につなげられる」(桜井氏)

桜井氏はさらに、不動産情報コンソーシアム(ADRE)が手がける不動産にまつわるデータの収集により、新たな不動産テック事業の創出も期待できると考えている。

「例えばコワーキングスペースで、WeWorkの料金は同じWeWork同士であればサービスサイトで比較して選べるが、リージャスなど他のサービスと横並びで比較はできない。これは個人のコリビングスペースでも同じこと。中国では「Ziroom(自如)」といった不動産賃貸プラットフォームのサービスが既に始まっており、こうしたサービスでは情報が申し込み時点で収集できるしくみが確立している」(桜井氏)

桜井氏は「ファンドでは、サブリースのように不動産取引と金融とが混じり合うエリアの事業や、家具レンタル、不用品の収納サービスといった住居に関連したサブスクリプションサービスなどにも出資していきたい」と話している。

また転居などの人の動きに合わせて発生する手続きにも注目しているという。「家賃保証会社など、現状ではユーザーが選択することはできず、オーナーや不動産会社の指定に合わせることになるが、これは『あるべき姿』ではない。本来はユーザーが自分で選べるようにするべき。こうした保証などの領域に関しても、IT化やサービス間の横連携でデータが取得でき、サービスにつなげられると考えている」(桜井氏)

桜井氏の調査では、日本の不動産スタートアップは約80社、建設スタートアップの20社を加えても100社規模で、約4000億円市場だという。一方、Fintechスタートアップ市場は200社、1兆円規模とほぼ倍の域にある。桜井氏は「ファンド設立により、不動産テックでもその規模を目標にしたい」という。

デジタルベースキャピタルのファンドでは、シード期のファイナンスをサポート。1号ファンドは総額10億円規模で、2020年春のファイナルクローズを目指す。

目標値に比べるとファンド規模が小さいようにも思えるが、桜井氏によれば「実は前職を退いてから間がなく、営業がこれから」とのこと。創業とファンド立ち上げのきっかけは、2018年秋、PropTech Japanで懇意にしていたイタンジ創業者の伊藤氏が、不動産テック業界への思いを語る桜井氏に「桜井さん、それほどスタートアップを支えたいのなら、ファンドを立ち上げたらどうか」と話したことだったというから、かなり急ピッチでの会社設立・ファンド組成と言えるだろう。

桜井氏は「今後、大手企業にも投資参加を呼びかけていく。はじめは小さくファンドをつくって、数千万円から5000万円規模の出資を10〜20社のスタートアップ対象に行っていく」と述べている。対象となるスタートアップも何件か検討が進んでいるそうだ。

金融・コンサル時代から「いつかはやりたかった」というファンド設立。「スタートアップが好きで(コミュニティなど)いろいろやっていたら、こうなった」という桜井氏は「まずはスタートアップを成長させることが大事」と語っていた。9月には不動産テックに特化したスタートアップのピッチカンファレンス「PropTech Startup Conference 2019」の初開催も予定しているという。

希望日時で即内見、部屋探しの無駄や不便をなくす「カナリー」が正式リリース

「賃貸物件を探す際のプロセスにはまだまだ無駄が多く改善できる余地がある。大手ポータルサイトで気になった物件に問い合わせをすると複数の不動産業者から連絡がきて、同じように来店や内見日時の調整をしなければ内見できない。悪質な業者だとおとり物件で店舗に呼ばれることもある」

そう話すのはBluAge創業者でCEOの佐々木拓輝氏。同社では賃貸の部屋探しにおけるプロセスを圧縮し、無駄をなくすことをコンセプトとした自社アプリ「カナリー」を開発する。

2018年10月にリリースしたプレビュー版は現段階でダウンロード数が1万件を超え、内見依頼も1000件を突破。プロダクトの基盤も整ってきた中で本日6月26日に正式リリースを迎えた。

またBluAgeではカナリーのリリースと合わせて、昨年12月にCoral Capitalの創業メンバーが運営する500 Startups Japanなどから約7000万円の資金調達を実施したことも明かしている。

希望日時で即内見、複数業者との面倒なやりとりを排除

カナリーはユーザーがアプリから内見したい物件と日時を選択するだけで、すぐに個人のエージェントと繋がり余計な手間なく内見や契約を進めることができる部屋探しサービスだ。

アプリから気になる物件を探す工程までは従来と大きな変わりはないが、違うのは内見日時を申請してから。エリアと日時に合ったエージェント1人とマッチングされる仕組みのため、細かい日時調整や店舗へ足を運ぶ手間もなく、現地で待ち合わせて即内見ができる。

冒頭でも触れたように、通常であれば問い合わせ後に知らない仲介会社から複数件の連絡が届き、各社とメールで物件や日程の調整をしたり店頭に一度足を運んで手続きをする必要があった。要は内見をするためにはいくつかのステップを乗り越えなければならなかったわけだ。

物件を契約する際にもテレビ電話を通じて重要事項の説明を受けられる機能をプラットフォーム側で提供(テレビ電話などによる「IT重説」は2017年10月より本格運用されている)。ユーザーはわざわざ契約のためだけに店舗へ行かずとも、好きな時間に好きな場所からスマホで手続きできる。

カナリーでは一連のプロセスにおける無駄を排除することで、仲介手数料を一般的な「賃料1ヵ月分」から下げることも実現。プレビュー版のリリースからは約8ヶ月ほど経つが、これまで利用したユーザーからは「手間なく内見できる点や仲介手数料の安さ」などが好評だったそう。

「忙しくてすぐ内見したいという人や、これまで何度か引っ越しをしている人の反応が良い。特に過去の経験から部屋探しのプロセスが面倒だと感じていた人には、コンセプトにも共感してもらえている」(佐々木氏)

現在は都内23区に対応。一般の仲介会社が活用しているデータベース(レインズ)を軸としているため、物件数が極端に少ないということもない。一方でAIを活用したおとり物件を検知するシステムを開発し「だいたい半分くらいは削減できている」とのことだ。

仲介会社から「個人エージェント」主体の部屋探しへ

ここまで従来のプロセスにおける“ユーザー視点”での無駄と、それに対するカナリーの解決策を紹介してきたが、当然ながら不動産エージェントとしても負担となっていた部分があった。

仲介会社の営業パーソンにとって物件を「SUUMO」や「LIFULL HOME’S」などの大手ポータルサイトに掲載することは重要な仕事の1つ。この作業に毎日数時間を費やすことも珍しくなく、膨大な時間と手間を要する。

多数の業者が1人の顧客を取り合う構造になるため問い合わせに対する反応もスピーディーにしなければならず、メールや電話で細かい日程調整をするにも一定の時間が必要だ。そこまでしても顧客が他の業者に流れてしまうことも多く「結果的にコンバージョン(成約率)が高くなかった」(佐々木氏)という。

カナリーではこうした課題を解決しつつ、「仲介会社ではなく個人のエージェントを主体とした」モデルへと変えようとしている点が特徴だ。

佐々木氏によると個人エージェント自体はこれまでも存在したが(エージェントが複数人でチームを作って運営している会社も含めて)、集客の部分が1つのネックとなりなかなか浸透してこなかったという。

カナリーの場合は個人では難しい部分をプラットフォーム側でサポート。アプリを通じた集客基盤の提供に加えて、エリアや日時を元にベストなエージェントをマッチングする。IT重説の仕組みなども提供するため、各エージェントはオフィスに出社する必要なく、従来よりもフレキシブルに働きながらユーザーとのコミュニケーションにより多くの時間を使うことができる。

「仲介会社の担当者は朝早くから夜遅くまで店舗に行って働いているケースも多い。お客さんとのやりとりがメインなのであればわざわざ店舗にいる必然性もなく、カナリーではアプリを通して場所を問わず柔軟に働けるので、主婦の方や副業的に働きたい人などもチャレンジしやすい」(佐々木氏)

エージェントに関しては正社員としてBluAgeと契約しているメンバーが7名、業務委託で関わっているメンバーが3名ほどいるそうだ。今後は「Uber」のようにエージェントごとのレビュー機能を本格的に導入していく計画。ユーザーへの透明性を担保するとともに、質の高いエージェントがきちんと評価され、より多くの機会を掴めるような環境を整備していきたいという。

「エージェントが主体となれば、駅前の好立地な店舗を持たなくてもいいので間接的な固定費も削減できる。また仲介業は基本的に同じお客さんが再度使ってくれたとしても数年後などになるので、ショットのビジネスになりやすい。結果的に申し込み後のアフターケアがずさんになる場合も多いが、その点もエージェントごとのレビューを通じてきちんと透明化できると考えている」(佐々木氏)

BluAgeの経営陣と投資家メンバー。左から4人目がCEOの佐々木拓輝氏

今夏を目処にエリア拡大、レコメンド機能の強化などにも着手

個人エージェントを軸としたモデルは、日本に比べてアメリカなど海外でより広がっている。スタートアップではソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから累計で約12億ドルを調達しているCompassが有名。日本でもエージェント探しから不動産取引を始められる「EGENT」のようなサービスが登場している。

Compassに関しては不動産売買を対象としているのでカナリーとは少し異なるものの、佐々木氏は日本でも個人を主体としたモデルが浸透する余地があるという。

「最終的には『カナリーに行けば内見までの手間もないし、良いエージェントの人に対応してもらえる』というブランディングができるところまでを目指していきたい。そうなればユーザーも安心して部屋探しをすることができ、一部の悪質な業者につかまるリスクもない」(佐々木氏)

今後は夏頃を目処に1都3県までエリアを拡大する予定のほか、それと合わせてエージェントの採用も進めていく方針。機能面ではデータを活用したレコメンド機能やおすすめ物件の紹介などを中心にアップデートを進めていく。

なおBluAgeは2018年4月の設立。代表の佐々木氏はメリルリンチ日本証券やボストンコンサルティンググループを経て、東京大学在学時からの友人でもある穐元太一氏(CTO)とともに同社を創業している。

不動産テックのEQONが3000万円を調達、査定+エージェント検索で「仲介2.0」に備え

不動産取引をエージェント探しから始められるサービス「EGENT(イージェント)」を提供する、不動産テックのスタートアップEQONは6月10日、サイバーエージェント・キャピタルが運用する2号ファンド(CA Startups Internet Fund2号投資事業有限責任組合)を引受先として、J-KISS方式で3000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

不動産エージェントを厳選する「EGENT」

EGENTは、不動産エージェントとユーザーをつなぐプラットフォームだ。ユーザーは物件やエリアを入力することで、その地域の相場に詳しく、売買実績や専門知識が豊富な担当者に不動産取引について相談することができる。売買・賃貸の取引形態やマンション・戸建てなど物件の形態は問わない。

2019年1月にベータ版を正式公開したEGENTは、その後フルリニューアルを実施。ユーザーがエージェントの選別をするステップを省き、フォーム入力後、EGENTのカスタマーサクセスチームから連絡する方式に変更された。

加盟する不動産会社は東京23区で約150社、登録エージェントは170名ほどになっている。EQON代表取締役の三井將義氏によると、リニューアル前と同様「担当者はかなり厳選している」とのこと。「実務経験で平均15年、年間の売買件数は担当者全体で延べ4000件ほどと、実績のあるエージェントがそろっている。担当者のハズレはない、という水準が維持できている」(三井氏)

EGENTのカスタマーサクセスでは、ユーザーの“相場理解”をサポートする取り組みとして、EGENTが収集するエリアの売買事例や売出事例をExcelシートにまとめて提供している。23区内であれば各地域(町丁目の周辺単位)ごとに平均100〜200件の事例をファイルで渡し、利用者が自分でExcelを操作しながら売出価格や購入価格を決められるようにしている。

賃貸物件と異なり、中古住宅やマンションの売買では地域の相場が分かりにくい。「不動産屋では、購入するときには相場より高い物件を紹介され、販売するときには早く取引を完了させたいと安い売出価格を付けられがち」と三井氏。Excelシートは「すでに不動産屋から査定書を入手している場合には、それが適正価格かどうかの判断材料としても活用してもらっている」という。

カスタマーサクセスでは、ユーザーが紹介したエージェントとスタンスが合わないと感じれば、変更にも随時応じているという。EGENTに要望に合うエージェントが登録されていない場合でも「どの不動産業者がどのエリアで優秀か把握している」(三井氏)ということで、登録されていない他社の担当者を推薦することもあるそうだ。

「ググれば家の価格が分かる」仲介2.0時代

今回の調達資金について三井氏は、「EGENTのサイトフルリニューアルも完了し、本格的にマーケティングを行う段階に入った。ユーザー向けのマーケティングと、カスタマーサクセスの強化に投資していく」と話している。また新プロダクトとして、AIによる不動産の査定サービス「HomeEstimate(ホームエスティメート)」のリリースも予定しているそうだ。

三井氏によれば、AI査定サービスは2015年以降、日本で20弱ほど存在しているとのこと。最近では5月に、GA technologiesが運営する「RENOSY」でAI価格査定などを提供する中古マンション売却サービス「RENOSY SELL」がリリースされたばかりだ。そのAI査定精度は、MER(誤差率中央値)3.32%と発表されている。

「東京23区での売出価格と成約価格の差は約7%であることを考えると、街の不動産屋の値付けよりはAI査定の方が正確と言ってよいレベルまで来ている」(三井氏)

三井氏は「遅かれ早かれ、ここ数年で『ググれば家の価格が分かる』世界が来る」と予測。「EQONとしてもAI査定サービスは参入したい領域」として開発を進めている。「この領域のブレイクスルーには、エンドユーザーの納得感が必要だと思っている。UI/UXに向き合ったプロダクトを作りたい」(三井氏)

不動産屋へ通い、エージェントに会わなくても相場が分かる時代になれば「生き残るのは相場より、より高く売れる、より安く買える担当者だ」と三井氏はいう。「そうした腕利きのエージェントを見つけるためのサービスがEGENT。査定サービスとの相乗効果も期待できると考えている」(三井氏)

新サービスのローンチは9月末ごろを予定しているという三井氏。「これまで物件価格を知るためには不動産屋に足を運ぶ必要があったが、検索で価格が分かるようになれば、エージェントの価値が『価格を知っている』というところから別の価値へ移っていく。情報の非対称性だけで仕事をしていた不動産屋は淘汰される可能性もあるだろう」と述べている。

「いよいよ『仲介2.0』が始まろうとしている時代。『価格が知りたい』と査定サービスを入口として利用したユーザーが、自然に『次はよいエージェントが知りたい』と流れてくるような、一気通貫のサービスを展開したい。また、反響(ユーザーの問い合わせ)の数が増えてくれば、自社買取も実施できるのではないかと検討している」(三井氏)

不動産取引をエージェント選びから始められる「EGENT」ベータ版正式公開

不動産×IT領域の「不動産テック」は、日本でも本格的に市場へ浸透しようとしている。2018年夏には不動産テック事業振興と社会貢献を目的とした不動産テック協会が設立され、また従来の不動産業界に新しい風を吹かせようと、業界向け、消費者向けのさまざまなサービスが日々登場している。

1月30日に正式公開された不動産エージェント検索サービス「EGENT(イージェント)」ベータ版も、そうした不動産テックの新サービスのひとつだ(ティザー版は2018年11月に公開)。

EGENTは不動産を買いたい・借りたい、あるいは売りたい・貸したいという人が、エリアや専門性から不動産エージェントを検索して比較し、問い合わせができるプラットフォーム。取引の種類や物件の形態は問わず、エージェント選びを核とするサービスである。

EGENTを運営するEQON創業者で代表取締役の三井將義氏は、不動産会社や物件ではなく「担当者」を重視したサービスを作った理由について、こう説明する。

「日本で不動産を“買う”場合を例に取ると、購入希望者は平均して3業者に当たり、10件の物件を内見している。担当者が合わないと感じた場合は、業者を切り替える人も多い。一方エージェントの方は、要望を整理するだけでも1時間ぐらいは費やさなければならないのに、最終的に成約せずに客が去ってしまうと何も残らない。そうなるのは、顧客とエージェントとの間でミスマッチが起きているからだ。そのミスマッチがあらかじめ起きないようなサービスを提供したいと考え、エージェントを選べるスタイルにした」(三井氏)

ミスマッチが起こる原因として三井氏は「日本では宅地建物取引士(宅建士)の資格取得が簡単であることと、成約データが蓄積されていないこと」を挙げる。

「日本で不動産仲介業に従事する宅建士の数は32万人。世帯数が3倍ある米国でも44万人であることを考えると、多い数だ。しかも宅建士は従業者5人につき1人以上いればよいことになっているため、窓口となる担当者に必要な知識が不足していることも多い。また不動産取引では属人的・局所的な情報の偏りがある。有資格者で経験のあるエージェントであっても、実際の取引価額の相場などを他の地域や担当外のエージェントが知ることが難しい。その情報の偏在によって稼いでいる零細業者も数多くある」(三井氏)

日本の不動産仲介業者数は12万社で、これはコンビニエンスストアや歯医者よりも多い数だ。そのため「その質は玉石混交で、いい業者になかなか当たらないという不満にもつながる」と三井氏。情報を並べて比較できるようにすることの意義を語る。

三井氏が、不動産エージェント支援のためにEQONを設立したのは2018年7月のことだ。丸紅で米国不動産ファンドのアセットマネジメント業務に従事していた三井氏は、2018年4月からは日本の不動産ファンドのアクイジションマネジメントに携わりながら、不動産エージェントへの聞き取り調査を進めた。その数は累計1000人以上。共同創業者でリクルート・SUUMO営業出身の澤井慎二氏とともに、東京23区内の300業者を対象にインタビューを重ね、またカスタマーにもヒアリングを行った。

インタビューの結果、浮かび上がった課題が、先に挙げた「カスタマーとエージェントのミスマッチ」だ。また不動産を買う場合にも増して、「売りたい」シチュエーションでも課題が見えてきたという。

「日本でもオンライン化が進んできた“買い”領域に比べて、不動産を“売りたい”ニーズに対するオンラインソリューションがない。これは米国でも同様で、購入では約60%をオンライン経由が占めるが、売却では4%未満だ。サービスとして売却査定は日米とも存在しているが、アルゴリズムを使ったオンライン査定サービスは、アメリカでもOpendoorなどがようやく出てきたところだ」(三井氏)

エージェントにとっても、物件の売れ残りは問題となる。「中小エージェントは地域に買い手を抱え、相場観もあるため、大手より早く高く売れる自信があるが、売却査定サービスでカスタマーが選ぶのは名前の知られた大手ブランドになりがちだ。ところが選ばれた大手企業に所属するエージェントが実際に物件を売ろうとしても、そのエリアでの需要を見誤ると売れ残ることになる。そうしてなかなか売れずに販売価格をズルズルと下げた結果、売却が完了してもカスタマーの満足度は低くなってしまう。ここでもミスマッチが起きている」(三井氏)

これらの課題を解決するためにEGENTが取り入れたのが、エージェントの過去事例、顧客の口コミ掲載という方法だ。

米国では不動産取引を行うときには、取引内容や物件・エリアによって、強みを持つエージェントを選ぶという。従来型の大手仲介会社でもホームページにエージェントの情報を掲載し、紹介している。またHomelightUpnestといったエージェント検索に特化したポータルもある。

EGENTでも、仲介に入るエージェントの過去の取引事例、実績を調べて掲載している。また利用者はエージェントに対する口コミを投稿することができる。「エージェントの一番の資産は“信頼”だ。EGENTを使うことで、信頼を無形資産化してください、とエージェントには伝えている」と三井氏はいう。

「日本では仲介業者のホームページなどを見ても、エージェントに関する情報は掲載されていたとしても、せいぜい出身地や趣味などの自己紹介程度。米国ではエージェントがブランディングされている。エージェントを選ぶことで、ミスマッチにより交渉途中で担当を変えることがなくなり、取引が1人のエージェントで完結するようになる」(三井氏)

EQON代表取締役 三井將義氏

三井氏は「最後は物件ではなく、担当者の魅力で決まるのが不動産取引の特徴」と話す。「日本では不動産会社のブランドで取引先が選ばれることが多いが、顧客満足度は会社のブランド力とは関係がない。本質はエージェントの力量だ」(三井氏)

EGENTでは、ユーザーの満足度を達成できるエージェントを登録するために、「宅地建物取引士として5年以上の実務経験を持つこと」「地域情報や不動産に関する高度な専門性を持つこと」をエージェント選定基準として設けている。

さらにエージェントにはインタビューを実施。地域の相場情報を聞いたり、リノベーションで専門性を持つというエージェントなら、具体的なリノベーションプランについて聞いたりして、エージェントの専門性を確認している。こうして厳選されたエージェントを現在約120名掲載。掲載倍率は約10倍、大手仲介企業なら店舗マネジャー、中堅企業ならトップ級のエージェントがそろっている。

管理職クラスのエージェントがそろっていることで、「窓口から問い合わせても、なかなか決定につながる担当者が出てこない」という課題も解消できる、と三井氏は話す。専門性を詳しく問うことで、ミスマッチがないよう、すり合わせもできるという。

EQONでは、現在口コミ紹介が中心の「人」を起点にした反響(顧客からの問い合わせ)から生まれる不動産取引の市場を600億円として、そのうち450億円が今後開拓の余地があるEGENTの初期ターゲットと見ている。

EGENTは広告媒体のような「掲載枠」という考え方は取っていない。エージェントは初期登録料1万円を払った後は、成約報酬として10%を支払う形だ。ユーザーがEGENT経由でエージェントへ直接問い合わせるほか、EGENTでは媒体へ掲載料金を支払って反響を獲得し、反響をスクリーニングした上で適切なエージェントへ割り振る、という施策も進めているという。

日本でもエージェント検索ポータルとしては「fudopa」や「イイタンコンシェルジュ」といったサイトが出てきているが、競合はまだ多くない。また、これらのポータルは不動産会社の依頼で担当者紹介ページを作成するビジネスとして誕生しているが、EGENTではマッチングと情報の蓄積で勝負をかけようとしている。

EGENTでは、エージェントが所属する会社の承諾は得ながらも、エージェント個人との個別契約で情報を掲載している。成約報告などの義務もエージェント本人が負う。このため「エージェントとの距離が近い」と三井氏は述べる。

データ蓄積に関して言えば、日本でも、不動産業者が業者間で情報を流通させるためのシステムとして「レインズ(REINS)」がある。だがアメリカで同様のシステムとして物件情報を集約する「MLS」では、取り扱う物件データを入力しなければ不動産エージェントのライセンスが剥奪されることもあって、情報の網羅性が高いのに対して、レインズでは「データが貯まっていない」と三井氏はいう。

AIを使って物件情報を収集する、といった試みは出ているものの、その場合に収集されるのは「募集」価格で、実際にいくらで成約したのかをつかむことはできない。EGENTではこれをエージェントにひも付いた「成約データで蓄積していく」としている。

「不動産は横の人もライバル、という業界で情報を互いにやり取りしないため、取引情報が可視化できない。そこで担当者の実績集めと過去の口コミ収集を通して、情報の見える化を進めたい」(三井氏)

三井氏は「過去データを蓄積することで、これまでは地場のエージェントが属人的に知っていたような情報を、よりイメージしやすくしたい」とも話している。「不動産仲介業は情報の非対称性で成り立ってきたようなところがある。これはつまり『都合の悪い情報は隠す』ということ。そのために不動産業界は信頼がない、ということになっている。失われた信頼をエージェントに取り戻したい」(三井氏)

「いい物件」ではなく「優秀なエージェント」にフォーカスすることで「おとり物件もなくなる」と語る三井氏。EGENTに登録するエージェントは、自分がEGENTを通じて獲得した反響を他のエージェントへ紹介することは禁止されているのだが、三井氏は「自分の与信でエージェントが仕事をすることの重要性」を強調する。「カスタマーの満足度で至らなかったところを変えていきたい」(三井氏)

楽天トラベル元代表が創業したCocoliveが1億円を調達、不動産会社向けMAツールでデジタルマーケを支援

不動産会社向けのマーケティングオートメーション(MA)サービス「KASIKA」を開発するCocoliveは11月1日、XTech Ventures、みずほキャピタルおよび自社の役員や従業員を引受先とした第三者割当増資により総額1億円を調達したことを明らかにした。

Cocoliveの代表取締役である山本考伸氏は楽天トラベルの元代表取締役。それ以前にもエクスペディア在籍時にプロダクト責任者として、トリップアドバイザー在籍時に代表取締役としてそれぞれの会社で日本語サービスの立ち上げに携わるなど、IT業界での事業経験が豊富な人物だ。

そんな山本氏が2017年に創業したのがCocolive。同社では不動産会社に特化したMAツールという切り口から、工務店や不動産デベロッパーをサポートする。

KASIKAのひとつの特徴が、自社のサイトを閲覧している顧客の行動履歴を基に興味の度合いを“色”で判断できること。これによって営業経験が浅い担当者でも「どの顧客に営業をすればいいのか」の判断がスピーディーにできるようになり、確度の低い不要な営業電話を削減することにも繋がる。

同サービスでは顧客ごとに自動で「顧客カルテ」が作成。そこに各顧客がいつ、どんなメールを読んだ・クリックしたのか、サイト上のどんな情報に関心を持っているのかといったデータが蓄積される。

担当者はその情報を基に顧客にあった提案をすることで、アポ数や来場数のアップが見込めるという。同社によると導入企業の営業担当者1人あたりのアポ数平均増加率は、15~25%を記録しているそうだ。

その他KASIKAでは顧客育成のためのステップメール機能やポップアップを手軽に実装できる機能などを通じて、マーケティングや営業に関する業務をサポート。ツールの提供に加えて読まれやすいメルマガの内容やデザインに関するアドバイスなども提供している。

Cocoliveでは今回の資金調達を踏まえ、KASIKAの改良を図りつつ、工務店や戸建て分譲会社、不動産仲介会社、新築分譲マンション販売会社へのサービス提供を加速させる計画だ。

なお同社は2017年5月にもエボラブルアジア、ベンチャーリパブリック、その他個人投資家から総額5100万円を調達している。

マンション売却2日後に即入金、すむたすが開発した驚速買取スキーム

services_thumb_01.png東京都内を中心に中古マンションの買い取り、販売を手がける「すむたす」は10月9日、500 Startups Japanから5000万円の資金調達を発表し、「すむたす買取」というサービスを同日に正式ローンチした。調達額は驚く額ではないが、注目したいのは同社が開発した最短2日での売却を実現するという買い取りスキーム。

一般的に中古マンションは、売り主が仲介会社に売却を委託して買い主を探してもらう媒介契約を結ぶ。そして売り主は、仲介会社が査定した売却金額を基に実際の売値を決めて売り出す。

物件や仲介会社にもよるが、短期間で売れる確率が高い最安値と売却可能と考えられる最高値の推定価格を提示してくれることが多い。実際に中古マンションの売却を経験したことがあるのだが、仲介会社が提示した最安値と最高値の差額は500万~600万円程度。このとき仲介会社は「REINS」と呼ばれる不動産の取引情報データベースや自社の売買実績、自社に登録している顧客(買い主)のステータスなどを勘案して推定価格を割り出す。

売り主が売却を依頼→仲介業者が査定額を提示→売り主が売却(販売価格)を決定→仲介業者が売り出す——という流れとなるため、売却を決意してから実際の売り出しまでは最短でも1週間程度かかってしまうのが通常だ。

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自らが買い主となって売主からマンションを買い取る仲介会社や専門の買い取り業者もある。すむたすも専門の買い取り業者の1社となるが、査定と支払いのスピード感がまったく異なるのだ。

一般的な仲介会社や買い取り会社であっても、2日もあれば査定を済ませて詳細な資料を渡してくれるところが多い。一方すむたすは、REINS上の売買情報に加えて独自のアルゴリズムを駆使して査定金額を最短1時間で算出。そして実際に売却を依頼されると、最短で2日後には指定した銀行口座に現金が振り込まれる。

スマホなどの買い取りとは異なり、マンションは多くの場合で住宅ローンが組まれており、銀行が抵当権を設定している。また、不動産は登記することで所有権を主張できる。そのため、すむたすと売り主の間で現金を受け渡すだけでは買い取りは完了しない。売却の意思が決まると、司法書士による抵当権の抹消や不動産登記の手続きが必要。さらに売り主が依頼したとおりの物件がどうかを現地で確認することも欠かせない。そのあとにようやく現金の受け渡しなどの買取契約が可能になる。すむたすはこれらの作業をたった2日でやってのけるのだ。

sumutasu04すむたす代表取締役を務める角 高広氏(写真左)によると「売却査定を受けた時点から、司法書士が必要な書類の作成などを同時並行で進めるため最短2日間というスピードでの売却を実現できた」とのこと。司法書士事務所とは特別な契約を結んでおり、実際に売却に至らなかった場合は全額ではなく進捗度合いによる歩合で事務所に作業料が支払われるという。

気になる売却価格については、買い主が見つかっていない時点で買い取るため、リスクをとって市場価格よりも数百万円低くなる。しかし、仲介会社ではないので通常は売却価格の3%程度に設定されている仲介手数料の支払いは不要。つまり、売却価格が高いマンションほど仲介手数料の額も上がるので、すむたすのスキームが生きてくる。

すむたす買取は、2018年7月にプレビュー版をリリースしてサービス事前登録を開始したところ、オンラインでの査定申し込みは150件、そのうちすでに買い取りの申し込みが5件来たことで手応えを感じていたそうだ。ターゲットとなるユーザー層は、海外転勤や離婚などでマンションを早急に手放したい人だが、実際には中古マンションを買い替える際にすむたす買取を利用した人もいたという。

今回の資金調達で「買い取り物件数の拡大と査定額算出のアルゴリズムにさらに磨きをかけたい」と角氏。また今後の展望としては、買い手側のニーズを汲み取れるシステムも開発したいとのこと。買い主を早急に見つけることができれば買い取りリスクは低下し、売り主はより高い価格でマンションを即売却できるようになる。

米国では、すむたすと同様のスキームで不動産を買い取る「Opendoor」(オープンドア)が未上場ながら時価総額が1000億円を超えたユニコーン企業に成長している。最近は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドから約450億円(4億ドル)の出資を受けるなど注目だ。日本でこのような不動産買い取りが根付くかどうか、すむたすの今後に期待したい。

AI活用でマンション売買をスマートにするHousmartが3億円を調達、事業者向けSaaSの開発も

中古マンションをスマートに購入できるアプリ「カウル」を運営するHousmart(ハウスマート)。同社は9月25日、アコード・ベンチャーズ、SXキャピタル、大和企業投資、CAC CAPITAL、フリービットインベストメントを引受先とする第三者割当増資により約3億円を調達したことを明らかにした。

ハウスマートでは調達した資金を活用して、他の不動産会社がカウルの仕組みを活用できるような事業者向けのバーティカルSaaSの開発・提供を進める方針。合わせて新機能の開発や人材採用、マーケティングの強化にも取り組む。

なお同社では2016年11月にもオプトベンチャーズ、BEENEXT、大和企業投資から1億円を調達している。

データから物件の将来価格を推定、おすすめ物件の提案も

カウルは機械学習を含むテクノロジーの活用によって、これまでアナログで人力の要素が多かった中古マンションを購入する仕組みを変えようとしているプロダクトだ。

中古マンションは近年ニーズが高まっている一方で、過去の売買データの整備が進んでおらず、物件の訂正価格など十分な情報を購入検討者が取得しづらいことが課題とされてきた。

この問題の解決策としてカウルでは独自の価格推定機能を搭載。新築時の分譲価格や約1000万件に及ぶ過去の売買・賃貸事例、築年数、物件の広さ、間取り、最寄り駅情報などのビッグデータをAIで分析し、現在から35年後までの推定価格を算出する。

1月にはこの仕組みをベースに“賃貸と購入のどちらがお得か”を瞬時に鑑定する「カウル鑑定」をリリース。同機能の背景や概要については以前TechCrunchでも詳しく紹介した。またユーザーのアプリ内での行動を学習した上で、希望条件と趣味嗜好を基に最適な物件をレコメンドする物件提案機能も搭載している。

とはいえ、ハウスマート代表取締役の針山昌幸氏によるとアルゴリズムにはまだ改善の余地があるそう。特に今はざっくりした要望の顧客に対しては精度の高いレコメンドが実現できていないそうで、今後はアルゴリズムの改良と共により多くのデータを集めることで同機能の強化を図っていくという。

現在は学区からマンションを見つけられるなど細かい条件を指定できる点や、気になる物件が売りに出された際にタイムリーに教えてくれる機能、値下がりした物件を自動で通知してくれる機能などに対するユーザーの反応が良いそう。

これらの作業をリアルタイムに営業マンが人力でやるのは困難で、特に物件の値下がり情報については「(他社物件の値下がりを)営業マンが正確に知る術はなく、毎日レインズ(不動産流通標準情報システム)を見ながら直感的に判断するしかなかった」(針山氏)という。

カウルの場合は裏側でデータベースを構築しているためこれらの作業を自動化できる点が特徴。継続的に会員数を伸ばし、8月には2万人を突破している。

不動産業者向けのバーティカルSaaSの展開も

これまでハウスマートでは社内に営業人材を抱え、直営で顧客のサポートを行ってきた。

ただ春先ごろより他の不動産会社から「カウルの仕組みを使いたい」という旨の問い合わせが増加。新たなニーズに気づくと共に、他業者へカウルを提供することで「もともと創業時から実現したかった『不動産の正解がわかるような世の中』をもっと早く実現できるのではないかと考えた」(針山氏)のだという。

それを機に開発を進めてきたのが、不動産業者がカウルを活用し顧客とのコミュニケーションを改善できるような仕組みだ。

前回も紹介したように、1社の不動産会社が売り主と買い主の双方を担当するのが一般的な不動産売買の構造であり、多くの事業者では売却(売り主側の支援)により多くの時間を使っている。結果的に購入(買い主側の支援)に使える時間が限られるため、ここに機会損失が発生しているのだという。

針山氏が約200社にヒアリングしてみたところ、売買に力を入れている事業者ではだいたい1営業マンあたり月10件くらいの購入問い合わせがあるものの、実際に契約に至るのは1件あるかないかなのだそう。

「本来であれば決まらなかった9人に対して他の物件を丁寧に紹介することができれば、顧客も喜ぶし営業マンも取引のチャンスが増えるはず。ただ売却の方で手一杯のために、そこまでやりきることができない」(針山氏)

写真中央がハウスマート代表取締役の針山昌幸氏

そのような事業者に対してカウルの仕組みを提供することで、営業マンに変わって自動で物件を提案するような環境を構築する。これが現在ハウスマートで開発を進めているプロダクトの特徴だ。

「1営業マンあたりで持てる顧客の数はだいたい20人ほど。この人数をしっかりフォローアップできればいい営業だと言われるが、物件の提案だけでも月に1人あたり5時間ほど、トータルでだいたい100時間はかかる。カウルの仕組みを使えば、この時間をほぼ0にすることができる」(針山氏)

上述したように、カウルでは物件提案を始め毎月のランニングコストの計算や将来のライフシミュレーションなど、従来営業パーソンが人力で行ってきた業務を自動化する。実際にハウスマートでは1人の営業パーソンが通常の約30倍に当たる600人以上の顧客をサポートしているそうだ。

事業者向けのプロダクトはバーティカルSaaSのような形で提供していく方針。現在は数社でトライアル的に導入をしている段階で、正式なリリースは年明けを予定しているという。